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VOL.
41
Nature of Kagoshima
Formerly Shizen-aigo
An annual Magazine for Naturalists
鹿児島県北部とその周辺域におけるヤマネの生息確認と分布
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策
鹿児島県薩摩半島沖から得られたミナミミゾレウツボ
宇治群島と奄美群島から得られたウミヘビ科魚類モヨウモンガラドオシ
鹿児島県内之浦湾から得られたユキフリソデウオ
屋久島から得られたヨウジウオ科魚類ヒメトゲウミヤッコ
屋久島から得られたウスメバルの南限記録
種子島とトカラ列島から得られたハナハタの北限記録
徳之島および沖縄島から得られたハタ科魚類ジャノメヌノサラシ
屋久島で採集された3種のテンジクダイ科魚類
奄美大島から得られたシロヘリテンジクダイ
奄美群島与論島から得られたテンジクダイ科魚類2種
トカラ列島から得られたアジ科魚類カッポレ
標本に基づく鹿児島県のシマガツオ科魚類相
トカラ列島から得られたフエダイ科魚類オオクチハマダイ
キビレフエダイの標本に基づく鹿児島県島嶼域からの記録
チカメタカサゴの日本における成魚2個体目の記録
奄美大島から得られたシマチビキ
鹿児島県本土初記録のイサキ科魚類ホシミゾイサキ
鹿児島県北部から得られたタイ科魚類タイワンダイ
奄美大島から得られたフエフキダイ科魚類ミンサーフエフキ
鹿児島県初記録のミナベヒメジおよびホウライヒメジとの形態学的比較
鹿児島県本土と薩南諸島3島から得られたリュウキュウハタンポの記録と生物学的知見
ユウダチスダレダイの日本からの確かな記録
琉球列島から得られたニザダイ科魚類シノビテングハギ
標本に基づくフウライカジキの琉球列島からの記録
鹿児島湾から得られたタチウオ科魚類ユメタチモドキ
鹿児島県北部から得られたサバ科魚類グルクマ
サバ科魚類ヒラサワラの日本沿岸からの2番目の記録
薩南諸島広域から得られたヒシダイ
鹿児島県黒島沖の大陸斜面域から得られた底生魚類
シモフリシオマネキの奄美大島における初記録
テナガエビ科スジエビの奄美大島における初記録
奄美群島請島のアリ
奄美群島のアリ
加計呂麻島の海岸湿地に生息する甲殻類と貝類の記録
鹿児島県北薩地方における陸産貝類の分布
鹿児島市街地域における陸産貝類の分布
鹿児島県薩摩半島南部における陸産貝類の分布
奄美大島に分布する陸産貝類の生息現況に関する予備調査
鹿児島湾喜入干潟での防災道路整備事業における巻貝類の生態回復
奄美大島と九州南部の干潟底生生物群集
薩摩硫黄島温泉の化学成分の研究
ヘビギンポ科Helcogramma ishigakiensisに適用すべき標準和名
鹿児島湾で初めて記録された造礁サンゴ類4種の産卵
県指定天然記念物「溝ノ口洞穴」の地質学的特徴
鹿児島県自然環境保全協会
カゴシマネイチャー
2015.3.31
Nature of Kagoshima Vol.41 2015
目 次
目 次(表紙 2 からの続き)
Research Articles
鹿児島県北部とその周辺域におけるヤマネ Glirulus japonicus の生息確認と分布
船越公威・小野明日香・港 眞美
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策
鮫島正道・宅間友則・角 成生・今吉 努・下沖洋人・東郷純一・中村麻理子
鹿児島県薩摩半島沖から得られたウツボ科ミナミミゾレウツボの記録
松沼瑞樹・伊東正英・本村浩之
宇治群島宇治島と奄美群島喜界島から得られたウミヘビ科魚類モヨウモンガラドオシ Myrichthys maculosus
畑 晴陵・日比野友亮・伊東正英・本村浩之
鹿児島県内之浦湾から得られたユキフリソデウオ Zu cristatus
小枝圭太・畑 晴陵・本村浩之
屋久島から得られたヨウジウオ科魚類ヒメトゲウミヤッコ Halicampus spinirostris の記録
田代郷国・本村浩之
屋久島から得られたウスメバル Sebastes thompsoni の南限記録
岩坪洸樹・山口 実・畑 晴陵・本村浩之
種子島とトカラ列島から得られたハナハタ Cephalopholis aurantia の北限記録
小枝圭太・本村浩之
徳之島および沖縄島から得られたハタ科魚類ジャノメヌノサラシ Grammistops ocellatus Schultz, 1953
吉田朋弘・本村浩之
屋久島で採集された 3 種のテンジクダイ科魚類
吉田朋弘・本村浩之
奄美大島から得られたシロヘリテンジクダイ Jaydia albomarginatus
吉田朋弘・萩原清司・本村浩之
奄美群島与論島から得られたテンジクダイ科魚類 2 種
吉田朋弘・本村浩之
トカラ列島から得られたアジ科魚類カッポレ Caranx lugubris
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
標本に基づく鹿児島県のシマガツオ科魚類相
畑 晴陵・伊東正英・山田守彦・高山真由美・本村浩之
トカラ列島から得られたフエダイ科魚類オオクチハマダイ Etelis radiosus
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
フエダイ科魚類キビレフエダイ Lipocheilus carnolabrum の標本に基づく鹿児島県島嶼域からの記録
ジョン ビョル・Rangsiwut Keawsang・本村浩之
チカメタカサゴ Pinjalo pinjalo の日本における成魚 2 個体目の記録
小枝圭太・本村浩之
奄美大島から得られたシマチビキ Pristipomoides zonatus
小枝圭太・前川隆則・本村浩之
鹿児島県本土初記録のイサキ科魚類ホシミゾイサキ Pomadasys argenteus
畑 晴陵・伊東正英・本村浩之
鹿児島県北部から得られたタイ科魚類タイワンダイ Argyrops bleekeri の記録
畑 晴陵・伊東正英・高山真由美・本村浩之
奄美大島から得られたフエフキダイ科魚類ミンサーフエフキ Lethrinus ravus
畑 晴陵・小枝圭太・本村浩之
鹿児島県初記録のヒメジ科魚類ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatus およびホウライヒメジ Parupeneus ciliatus との形態学的比較
田代郷国・本村浩之
鹿児島県本土と薩南諸島 3 島から得られたリュウキュウハタンポ Pempheris adusta の記録と生物学的知見
小枝圭太・本村浩之
スダレダイ科ユウダチスダレダイ Drepane punctata の日本からの確かな記録
上城拓也・伊東正英・本村浩之
琉球列島から得られたニザダイ科魚類シノビテングハギ Naso tergus の記録
松沼瑞樹・桜井 雄・本村浩之
標本に基づくマカジキ科魚類フウライカジキ Tetrapturus angustirostris の琉球列島からの記録
畑 晴陵・本村浩之
鹿児島湾から得られたタチウオ科魚類ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatum
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
鹿児島県北部から得られたサバ科魚類グルクマ Rastrelliger kanagurta の記録
畑 晴陵・伊東正英・鏑木絋一・本村浩之
サバ科魚類ヒラサワラ Scomberomorus koreanus の日本沿岸からの 2 番目の記録
畑 晴陵・岩坪洸樹・本村浩之
薩南諸島広域から得られたヒシダイ科魚類ヒシダイ Antigonia capros
畑 晴陵・高山真由美・本村浩之
鹿児島県黒島沖の大陸斜面域から得られた底生魚類およびギンザメ科アカギンザメ Hydrolagus mitsukurii の記録
福井美乃・松沼瑞樹・本村浩之
シモフリシオマネキの奄美大島における初記録
鈴木廣志・勝 廣光・常田 守
テナガエビ科スジエビの奄美大島における初記録
鈴木廣志・大元一樹・光木愛理
奄美群島請島のアリ
福元しげ子・山根正気
奄美群島のアリ
原田 豊・榎本茉莉亜・西牟田佳那・水俣日菜子
加計呂麻島の海岸湿地に生息する甲殻類と貝類の記録
三浦知之・三浦 要
鹿児島県北薩地方における陸産貝類の分布
今村隼人・坂井礼子・竹平志穂・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
鹿児島市街地域における陸産貝類の分布
鮒田理人・今村隼人・竹平志穂・中山弘章・坂井礼子・冨山清升
鹿児島県薩摩半島南部における陸産貝類の分布
竹平志穂・今村隼人・坂井礼子・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
奄美大島に分布する陸産貝類の生息現況に関する予備調査
坂井礼子・重田弘雄・竹平志穂・今村隼人・鮒田理人・中山弘幸・冨山清升
鹿児島湾喜入干潟での防災道路整備事業における巻貝類の生態回復
前川菜々・春田拓志・冨山清升
奄美大島と九州南部の干潟底生生物群集
上野綾子・緒方沙帆・佐藤正典・山本智子
薩摩硫黄島温泉の化学成分の研究
坂元隼雄
(表紙 3 に続く)
1
7
17
23
31
37
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47
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57
61
65
69
73
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101
107
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209
223
239
251
267
271
287
295
Research Reports
ヘビギンポ科クロマスク属 Helcogramma ishigakiensis (Aoyagi, 1954) に適用すべき標準和名
田代郷国・本村浩之
鹿児島湾で初めて記録された造礁サンゴ類 4 種の産卵
出羽尚子・土田洋之・西田和記・山田守彦・広瀬 純・八巻鮎太・築地新光子・東峯万葉
県指定天然記念物「溝ノ口洞穴」の地質学的特徴
大木公彦・前田利久
307
311
315
Photography
藤田宏之・中村麻理子
319
Information
鹿児島昆虫同好会(金井賢一)
鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子)
Business Reports
鹿児島県自然環境保全協会 2014 年度会記(本村浩之)
326
111
115
123
129
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139
145
149
153
157
161
167
171
177
187
【表紙写真】
ミカドウミウシ Hexabranchus sanguineus と共生するウミウシカクレエビ Periclimenes imperator(2012 年 4 月 24 日,鹿児島県熊
毛郡屋久島町一湊)
テナガエビ科ホンカクレエビ属のウミウシカクレエビは,和名からも分かるようにウミウシ類と共生するエビなのだが,屋久
島ではどちらかというとバイカナマコやジャノメナマコなどナマコ類に着いている事のほうが圧倒的に多く,ウミウシに着くこ
とは本当に稀だ.ダイビングのガイド中,ゲストにウミウシカクレエビを紹介する際にも高い確率でこのエビが着いているバイ
カナマコを「これはウミウシではなくナマコですが・・・」とわざわざ補足説明しなければならない事もしばしば.そんな中で
もたまに見かける大型のウミウシ,ミカドウミウシにはかなりの確率で着いているのを見かける.このウミウシは「スパニッシュ
ダンサー」などと呼ばれクネクネ,ヒラヒラと中層を泳ぐウミウシとしても有名なのだが,激しく泳いでいる最中もこのウミウ
シカクレエビは振り落とされまいと必死でしがみつく.きっと彼らはほとんど動きのないナマコ類に共生すれば良かった・・・
と後悔しているに違いない.
(写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「もりとうみ」代表)
【裏表紙写真】
Nature of Kagoshima Vol. 41 で報告された生き物たち
シマチビキ
(奄美大島)
クダリボウズギスモドキ
(屋久島)
オオクチハマダイ
(トカラ列島)
シモフリシオマネキ
(奄美大島)
ウスメバル
(屋久島)
トゲキクメイシ属の一種
(鹿児島市)
ヤミテンジクダイ
(屋久島)
チカメエチオピア
(喜界島)
アナグマ
(薩摩川内市)
フウセンキンメ
(黒島)
グルクマ
(種子島)
キビレフエダイ
(奄美大島)
ミンサーフエフキ
(奄美大島)
ウスジマイシモチ
(屋久島)
シロヘリテンジクダイ
(奄美大島)
チカメタカサゴ
(指宿市)
191
195
【背表紙写真】
ヒシダイ Antigonia capros(トカラ列島産)
ユメカサゴ
(黒島)
ジャノメヌノサラシ
(徳之島)
ヒラサワラ
(日置市)
シノビテングハギ
(琉球列島)
タイワンダイ
(種子島)
ユキフリソデウオ
(肝付町)
ザラガレイ
(黒島)
ホシミゾイサキ
(南さつま市)
コモンサンゴ
(鹿児島市)
ヤミテンジクダイ
(与論島)
カッポレ
(トカラ列島)
ヒメトゲウミヤッコ
(屋久島)
ミナミミゾレウツボ
(南さつま)
スジエビ
(奄美大島)
フウライカジキ
(奄美大島)
パリカメノコキクメイシ
(鹿児島市)
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県北部とその周辺域におけるヤマネ
Glirulus japonicus の生息確認と分布
船越公威・小野 明日香・港 眞美
〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8 丁目 34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室
はじめに
ヤマネ Glirulus japonicus は,本州,四国,九州
に分布する 1 属 1 種の日本固有種で,1975 年に
国の天然記念物に指定されている(金子,2005;
Iwasa, 2009).生息域は低山帯から亜高山帯の森
林で,主に夜間・樹上活動をするが,食物を貯蔵
する習性はなく食物が欠乏する寒冷時期に冬眠す
る(湊,1986;中島,1996;芝田,2000).九州
におけるヤマネの生息状況や分布に関しては,こ
れまでの文献資料で福岡,長崎,佐賀,熊本,大
分,宮崎の各県で生息の再確認や新産地が報告さ
れ て い る( 湊 ほ か,1998; 佐 藤,1998; 馬 場,
2003;鶴田ほか,2001;木場ほか,2008;安田・
栗原,2009;松尾,2010;坂田ほか,2010;安田
ほか,2012).また,これらの文献資料等を基に,
九州のヤマネにおける生態や保全上の課題も含め
た(船越ほか,2014).そこで,今回はかつて生
息していたとされる霧島山や伊佐市(旧大口市)
を含む鹿児島県北部とその周辺域および薩摩半島
の一部地域で生息実態調査を行い,これらの地域
における本種の生息を確定するとともに,地域個
体群としての位置づけと今後の課題を検討した.
調査地と調査方法
調査地は,大隅半島の生息状況(船越ほか,
2014)を考慮して,樹齢 50 年以上の巨木が点在
する自然林を選定した.また,紫尾山の山頂付近
で 2003 年 6 月,さつま町永野の山林で 2002 年
10 月にヤマネの目撃情報(松尾氏,私信)が得
られたので,これらも参考にして鹿児島県北部と
その周辺域および薩摩半島中部域の計 8 ヶ所を調
査地域に決定した(図 1).それらの地点は,紫
て総説としてまとめられている(安田・坂田,
2011).
鹿児島県では,霧島山(日野・森田,1964),
旧大口市(日野・森田,1964;森田,1974),稲
尾岳(森田,1986)での報告があるが,これらの
生息確認記録は 1967 年以前で約 50 年前のもので
あり,現状は不明であった.しかし,最近の大隅
半島におけるヤマネの本格的な生息調査で,高隅
山系,肝付山系および稲尾岳山系の一部地域にお
いてヤマネが撮影され,本種の生息が再確認され
Funakoshi, K., A. Ono and M. Minato. 2015. Distribution of
the Japanese dormouse, Glirulus japonicas, in and
around the northern part of Kagoshima Prefecture, Japan.
Nature of Kagoshima 41: 1–6.
KF: Biological Laboratory, Faculty of International
University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima
891–0197, Japan (e-mail: funakoshi@int.iuk.ac.jp).
図 1.鹿児島県北部とその周辺域および薩摩半島における調
査地とヤマネの生息確認地点.A,紫尾山周辺の中標高域;
B,紫尾山周辺の高標高域;C,奥十曽渓流域;D,宮崎
県御池・小池周辺域;E,霧島神宮周辺域;F,さつま町
永野の山林;G,金峰山周辺域;H,烏帽子岳周辺域.●,
生息確認地;○,生息未確認地.
1
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
尾山周辺域(A,B 地域,標高 440–950 m),奥十
影装置を各地点に設置し,12 月 14 日に巣箱と自
曽渓流域(C 地域,標高 400 m),宮崎県御池・
動撮影装置をすべて回収した.
小池周辺域(D 地域,標高 430–480 m),霧島神
伊佐市(旧大口市)奥十曽渓流域の C 地域に
宮周辺域(E 地域,770 m),さつま町永野の山林
おいて,2014 年 9 月 14 日に 4 地点に巣箱と自動
(F 地域,標高 360–410 m),金峰山周辺域(G 地域,
撮影装置を設置し,10 月 11 日に巣箱と自動撮影
標 高 610 m) お よ び 烏 帽 子 岳 周 辺 域(H 地 域,
装置を全て回収した.南さつま市金峰山周辺域と
580 m)である.各調査地において,ヤマネ用巣
鹿児島市烏帽子岳周辺域の G,H 地域において,
箱(玉木ほか(2012)
:ヤマネのお宿 [ 塩ビ管巣箱,
11 月 5 日に G では 3 地点,H では 4 地点に各巣
3
容積 200~500 cm ],(株)一成,加古川市)とその
箱 1 個と自動撮影装置 1 機を設置し,12 月 19 日
付近に自動撮影装置(赤外線センサーカメラ内蔵;
に巣箱と自動撮影装置をすべて回収した.さつま
Fieldnote I, II, DUO(有)麻里府商事,岩国市)
町永野の山林の F 地域において,12 月 23 日に 6
を各 1 個ずつ設置した.また,各調査地点にボタ
地点に各巣箱 2 個と自動撮影装置 1 機および任意
ン型温度データロガー(サーモクロン G タイプ,
の巣箱 2 個に温度データロガーを設置し,2015
(株)KN ラボラトリーズ,大阪府茨木市)を特
定の巣箱の底に固定した.温度データロガーの記
年 2 月 10 日に,それらすべてを回収した.
なお,本研究は鹿児島森林管理署の国有林野
録は解析ソフト「ThermoManager」を利用して解
の入林許可証(26 鹿管大隅管 148 号,26 北薩管
析した.
第 153, 200, 243 号),宮崎森林管理署の入林許可
調査の詳細は以下の通りである.出水市・さ
証(26 都支第 261 号),国指定天然記念物「ヤマネ」
つま町境界域の紫尾山周辺域の A,B 地域におい
の現状変更について鹿児島県教育庁文化財課の許
て,2014 年 6 月 7 日に中標高 A1 地域(標高 445 m)
可(鹿教文第 254 号,鹿教委指令第 82 号,文財
の 3 地点に上記の巣箱,自動撮影装置および温度
第 117 号)を得て実施した.
ロガーを設置した.A2 地域(標高 516 m)でも 2
地点に設置した.高標高の B1 地域(標高 945 m)
の 4 地点に設置した.B2 地域(標高 921 m)の 4
結果
各地域におけるヤマネの生息や巣箱内の巣材
地点に設置した.6 月 14 日に巣箱の利用の有無,
の有無について,以下に述べる.紫尾山周辺の中
7 月 5 日に巣箱をチェックし,自動撮影装置を全
標高 A1 地域における 2014 年 7 月 5 日の巣箱と
て回収した.その後,7 月 19 日に中標高の林道
自動撮影装置の回収で,巣箱 No. 1–3 にヤマネの
地域(A3:標高 690 m)の 2 地点にも設置した.
巣箱の利用が見られず,ネズミ類が利用していた
また,隣接する中標高の林道地域(A4:標高 695
痕跡であるドングリや木の実の殻が入っていた.
m)の 2 地点にも設置した.8 月 7 日に巣箱の利
一方,A2 地域では,巣箱 No. 4 付近にいるヤマ
用の有無をチェックし,8 月 20 日に全ての自動
ネが 2014 年 6 月 8 日に撮影された(図 2A).高
撮影装置を回収した後,11 月 15 日に巣箱を全て
標高の B1,B2 地域では,巣箱 No. 6–17 におい
回収した.
てヤマネの巣箱の利用は見られず,一部の巣箱に
宮崎県都城市御池・小池と霧島市霧島神宮域
の D,E 地域において,2014 年 7 月 26 日に中標
ネズミ類が利用している痕跡であるドングリや木
の実の殻が入っていた.
高の御池周辺域の 3 地点と小池周辺域 2 地点に巣
同地域の 2014 年 11 月 15 日の巣箱と自動撮影
箱と自動撮影装置を設置した.その後,8 月 17
装置の回収で,A2 地域の巣箱 No. 3 にコケ等の
日に巣箱と自動撮影装置をすべて回収した.霧島
巣材が入っていた(図 2B)が,A1,A2 地域の
では 8 月 23 日に 6 地点に巣箱と自動撮影装置を
他の巣箱の一部にはドングリや木の実の殻が入っ
設置した後,9 月 27 日に巣箱と自動撮影装置を
ていた.紫尾山周辺の高標高 B1 地域において,
全て回収した.再度,10 月 16 日に巣箱と自動撮
巣箱 No. 11 の中にコケ類の巣材が入っていた(図
2
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 3.小池周辺域に設置した巣箱 No. 34 付近のヤマネ(A:
2014 年 8 月 7 日撮影)と奥十曽渓流域に設置した巣箱
No. 24 付近のヤマネ(B:2014 年 10 月 6 日撮影).
まで 3 回にわたって調査を実施したにもかかわら
ず,数か所の巣箱に木の実やドングリの殻などが
入っていること以外,ヤマネの痕跡がみられず撮
影されなかった.その間に撮影された動物として
ヒメネズミ,ニホンテン,ムササビおよびテング
コウモリであった.御池・小池周辺の D 地域に
図 2.紫尾山周辺域において中標高に設置した巣箱 No. 4 付
近のヤマネ(A:2014 年 6 月 18 日撮影),巣箱 No. 3 内
のヤマネの巣材(B:2014 年 11 月 15 日撮影)および高
標高に設置した巣箱 No. 11 のヤマネの巣材(C:2014 年
11 月 15 日撮影).
おいて,御池では木の実の殻が入った巣箱がみら
れたが,ヤマネの痕跡や写真は得られなかった.
小池周辺域では,巣箱 No. 34 内に巣材はなかっ
たがその付近において 2014 年 8 月7日にヤマネ
が撮影された(図 3A).奥十曽渓流域では,2014
2C)が,B1,B2 地域の他の巣箱の一部にはドン
年 10 月 6 日に巣箱 No. 24 の上にいるヤマネが撮
グリや木の実の殻が入っていた.また,巣箱の付
影された(図 3B).金峰山と烏帽子岳周辺の G,
近でニホンテンが撮影された.林道沿いに設置し
H 地域では,ヤマネの痕跡や写真が得られず,イ
た A3,A4 地域では,ヤマネの痕跡や写真が得ら
ノシシやヒメネズミの写真が撮影された.
れず,一部の巣箱にドングリや木の実の殻が入っ
ていた.
霧島神宮周辺域の E 地域では,7 月から 12 月
紫尾山周辺域での気温変化について,温度デー
タロガーの記録の解析結果,夏季の高標高 B 1
地域における平均気温は 19.6℃,中標高 A1 地域
3
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
では平均気温 21.8℃であった.また,冬季の永野
認されなかった低標高域では森林が少なく,木々
の山林では平均気温 5.1℃で,10℃を超える時期
が密集していた.またこうした地域では人工林で
は 1 月の上・中・下旬の各数日だけであった.
あるスギ林が点在していた.したがって,鹿児島
考察
鹿児島県北部と周辺域における生息確認と分布
県北部や薩摩半島の低標高域の多くはヤマネに
とって不適な環境であるかもしれない.また,ヤ
マネが確認された地域は広域的にみればそれぞれ
今回の調査結果から,紫尾山周辺域の中標高
分断しているため,各地域間での交流はみられず
と奥十曽渓流域,御池(小池)の一部地域におい
孤立した個体群である可能性が高い.霧島神宮周
てヤマネが撮影され,また巣箱の中に本種の巣材
辺域では森林の伐採や開発が進行していて,これ
が紫尾山周辺域の中標高と高標高で認められた.
も生息が確認できなかった要因の一つと考えられ
これらの地域においてヤマネが生息していること
る.薩摩半島では 2 地点だけの調査であったため,
が確認された.紫尾山周辺域では,2003 年の生
今後は薩摩半島中・南部においても生息調査を進
息情報が得られたことから,この地域では長年定
めていきたい.
着して棲みついていると考えられる.奥十曽渓流
域の生息確認に関連して,そこから北東へ約 5
km 離れた旧大口市布計で 1964 年 1 月に捕獲され
生態的特性
ヤマネは冬眠する哺乳類として知られている.
ている(日野・森田,1964).それからすでに約
冬の低温と食物が少ない条件で生き抜くための手
50 年を経過しているが,布計を含めた熊本県国
段として冬眠する(川道,2000;船越,2000;近
見山南部地域から十曽地域を含む広域にヤマネが
藤,2010).ヤマネにおける冬眠開始や冬眠期間
点在して生き続けていると思われる.
中の覚醒は,気温,食物条件,脂肪蓄積が関係し
霧島山系においては 1951 年 2 月に未冬眠中の
て い る と さ れ て い る(Shimoizumi, 1940; 下 泉,
個体が捕獲さている(日野・森田,1964).しかし,
1943a,b; 大 津,1991; 芝 田,2000, 2008). 日 本
今回の霧島神宮周辺域での調査でヤマネが撮影さ
産のヤマネが,冬眠開始と終了する目安として,
れなかった.一方,小池で生息が確認されたこと
平均気温 8.8℃である(Shimoizumi, 1940).今回,
から,霧島山系一帯に生息しているのではなく,
2002 年 10 月にヤマネの目撃情報があった永野の
パッチ状に分布していると考えられる.金峰山・
山林の調査結果で,冬季の平均気温は 5.1℃で低
烏帽子岳周辺域や永野の山林において,樹齢 50
温が続いており,10℃を超える時期は 1 月の上・
年を超える樹木を保有する林であるが,いずれも
中・下旬の各数日だけであった.この気温条件で
ヤマネの生息を確認できなかった.これらの地域
は,生息していたとしても冬季の活動がほとんど
は比較的狭い孤立した自然林とみられ,ヤマネに
なかったと推測される.高標高の紫尾山では,秋
とって生息しにくい環境であるかもしれない.以
季に放棄された巣箱内でヤマネの巣材が見つかっ
上の結果から,鹿児島県北部とその周辺域で約
たことから,夏季の平均気温 19.6℃の条件下で活
50 年ぶりにヤマネの生息が再確認されたことに
動していたといえる.
なる.
ヤマネが撮影された時期について,紫尾山周
九州地方のヤマネの分布的特徴として,低標
辺域では 6 月 8 日にヤマネが撮影され,小池周辺
高から高標高まで広く分布している(安田・坂田,
域では 8 月 7 日,奥十曽渓流域では 10 月 6 日に
2011)と思われ,今回得られた結果からヤマネが
撮影された.これらの撮影時期はちょうど本種の
生息している中標高から高標高域は共通して樹齢
繁 殖 時 期( 芝 田,2000;Iwasa, 2009; 金 子,
や樹高ともに高い成熟した森林を保有し,ほどよ
2005)に相当しており,巣箱に入っていたコケ類
く日光が入り,森林の低層部では木々が密集せず
は主に繁殖用に利用している巣材と考えられる.
比較的に開けていた.しかし,ヤマネの生息が確
しかし,晩秋には巣材が入っている巣箱が放棄さ
4
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
れていることから,この時期には繁殖しないと思
諸氏にお礼申し上げる.なお,本調査は鹿児島県
われる.九州産のヤマネにおける繁殖期間は秋か
希少野生動植物保護対策検討委員会における哺乳
ら冬とされ(安田・坂田,2011),本州中部以北
類ワーキンググループへの助成と平成 26 年度鹿
のそれ(春から秋:湊,2000;芝田,2000)と異
児島県自然環境保全協会研究助成により実施され
なることが指摘されている.鹿児島県産のヤマネ
た.
は各地域で分断され孤立している(舩越ほか,
2014)ので,食性や繁殖時期などで地域差がある
と考えられ,こうした個体群間の差の有無につい
ても注目する必要があろう.
保全にむけた取り組み
日本の固有種であるヤマネが生息できる環境
について,森林の伐採や道路開発により生息地が
分断されたり,餌資源や休息場所が奪われたりし
てきた.鹿児島県では,この現状を解決するため
の具体的な政策があまり実行されていない.しか
し,山梨県では「ヤマネブリッジ」の設置によっ
て森林が分断されたところが連結され,再びヤマ
ネが往来できるようになっている(湊,2002).
他県でも野生動物の保全に関わる施設としてアニ
マルパスウェイなどができているが,鹿児島では
森林の伐採や道路開発の後にこうした野生動物や
自然を保全するための工夫がなされていない.今
後,本県においてもヤマネの保全を含めた野生動
物保護への啓発や上記の具体的な取組が急がれ
る.
謝辞
本 調 査 に ご 協 力 い た だ い た カ エ ル PROJECT
(NPO)の山下 啓氏,鹿児島大学農学部学生の
福田亮司氏,鹿児島国際大学国際文化学部学生の
南沙智子,野元勇作,大澤達也の各氏,ヤマネの
情報を提供していただき,現地まで案内していた
だいた松尾清信氏,ヤマネの生息可能地域につい
て助言をいただいた森林総合研究所九州支所森林
動物研究グループの安田雅俊氏に厚くお礼申し上
げる.また,国有林野入林許可をいただいた鹿児
島森林管理署,国指定天然記念物ヤマネの現状変
更について許可をいただいた鹿児島県教育庁文化
財課,霧島神宮周辺林での入林と巣箱等の設置許
引用文献
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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6
RESEARCH ARTICLES
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誌,5: 31–35.
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物研究会誌,7: 25–24.
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上の課題 ―.哺乳類科学,51: 287–296.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策
1
2
2
2
鮫島正道 ・宅間友則 ・角 成生 ・今吉 努 ・
2
3
1
下沖洋人 ・東郷純一 ・中村麻理子
1
〒 899–4396 霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学鹿児島県野生生物研究会本部
2
3
〒 895–0012 薩摩川内市平佐町 2416 新和技術コンサルタント(株)
〒 895–0075 薩摩川内市東大小路町 20–2 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所
はじめに
アナグマ Meles meles は,ヨーロッパから極東
までのユーラシア北部に広く分布し,日本では,
そ の 亜 種 で あ る ニ ホ ン ア ナ グ マ Meles meles
anakuma が本州,四国および九州に分布している.
鹿児島県内の分布は,県本土全域だとする阿部ほ
か(1994)と小宮(2002)の記載と,大隅地域の
一部を空白とする安間(1995)と環境省(2002)
の二説がある.本報告では,鹿児島県内のアナグ
マの分布について,筆者らの既存の調査結果から
見解を示した.
形態は全体にくすんだ褐色で,四肢と胸部はや
や濃い褐色をしており,両眼部は黒っぽい褐色,
その間の鼻鏡部中央は白く目立つ顔模様となって
いる.ずんぐりした体形で耳は短く,四肢の爪は
長く湾曲している.頭胴長は 44–68 cm,尾長は
12–18 cm,体重は 4–12 kg である(図 1).
ニホンアナグマは平地から低山帯に多く,主に
や小動物などとともに,落下した果実やドングリ
などの植物も食するため雑食性といえる.
野生動物の中で穴掘りの特性をもつ動物は,モ
グラ,キツネおよびアナグマがある.特にアナグ
マは大規模で多様な構造の穴を掘ることが知ら
れ,名前の由来にもなっている.鹿児島県内では,
人里の住居環境や道路斜面において,土砂災害等
に結び付くようなアナグマ被害は聞かないが,河
川堤防の決壊誘発に伴う重大な被害が想定され
る.
河川堤防は地域住民の人命や財産を守るために
欠かせないものである.河川管理の中心となる法
律は 1964 年に制定された河川法であり,その後
環境基本法の成立を受けて,1997 年に「環境」
が加わった.河川法の目的は,洪水や高潮等の災
害防止(治水),河川の適正利用や流水の正常な
機能維持(利水),河川環境の整備と保全(環境)
が達成できるように総合的な管理を行い,公共の
森林に棲み,谷に面した斜面を特に好み,複数の
穴を掘って生活する.夜行性で主に夜に活動する
が,筆者らは昼間でも採餌行動や移動個体をたび
たび観察している.ミミズや昆虫などの土壌動物
Sameshima, M., T. Takuma, N. Sumi, T. Imayoshi, H.
Shimooki, J. Tougou and M. Nakamura. 2015. The
solution of river levee maintenance against burrows by
Meles meles anakuma. Nature of Kagoshima 41: 7–15.
MN: Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi
Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou,
Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (email: naka_tatsu@
po3.synapse.ne.jp).
図 1.アナグマ.
7
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 2.調査地(肝属川).
材料と方法
鹿児島県内のアナグマ分布の空白地の現状
鹿児島県内のアナグマ分布の空白地について
は,一級河川の肝属川で行われている国土交通省
の「河川水辺の国勢調査」で,1994 年,1999 年,
2005 年,2014 年(各年の春・夏・秋・冬)の小
動物(両生類・爬虫類・哺乳類)調査の結果を使
用する.調査地は大隅地域の肝属川である(図 2).
アナグマ被害対策の研究
図 3.調査地(川内川本線から分岐した支川).
調査地は,川内川本川から分岐した支川「羽
月川 4k000 地点右岸」である(図 3).この地は
2006 年 7 月の記録的な豪雨災害を受けて,激甚
災害対策特別緊急事業の一環として事業化が図ら
安全や福祉を増進すること等(第 1 条)とある.
れた堤防である.2013 年にアナグマによる被害
アナグマは河川環境の生態系の一構成員であり,
が発生し,筆者らはアナグマ被害に対する保全対
アナグマの存在を否定することはできない.野生
策の内容を協議した.国土交通省九州地方整備局
生物の保全と堤防保全とのジレンマに陥るのがこ
川内川河川事務所が被害状況を把握するため,巣
こにある.
穴の構造を調査し,被害防止を目的とした保全対
本報告の骨子は,アナグマの存在を否定せず,
策工事の施工を実施した.その後,工事完了後の
効果的に堤防の保全を進め,工事後の状況把握の
モニタリング調査を実施した.
ための生態調査(モニタリング調査)を実施し,
さらに順応的管理(アダプティブマネージメント)
のヒントを得ることである.
8
RESEARCH ARTICLES
結果
鹿児島県内のアナグマ分布の空白地の現状
肝属川における小動物(両生類・爬虫類・哺乳
類)調査の結果を表 1 に示した.ここ 20 年近く
の間,当地はアナグマが確認されず,アナグマの
分布の空白地であった.
アナグマ被害対策の研究
巣穴の構造 川内川における巣穴の構造につい
て,巣穴の深さと形状を調査し,巣穴周辺の砂を
取り除き,奥行きや枝分れなどの構造を記録した
(図 4).調査地は重機で掘りやすく,巣穴の内部
構造の正確な記録が取れた(図 5).結果は,出
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
入口が 10 個でいずれも密集していた.個々の特
徴は,直進の縦穴(8 個),途中で方向を変えて
進む穴(1 個),直進の縦穴の途中で分岐し 2 箇
所で枝分れした穴(1 個)であった.浅い穴で 1.3
m,一番奥の深い穴は 5.5 m であった(図 6).
被害防止を目的とした保全対策
藪化した植物の排除(除草)
河川堤防は,地
域住民の散策や憩いの場として利用されている.
また,生物多様性の保全から,草をあまり刈りこ
まず,近年は草地環境として昆虫の生息や植物の
生育を許容するようになっている.しかし,被害
防止を目的とした対策として,被害地に限り藪化
した植物の排除を実施した(図 7).その結果,
表 1.肝属川における小動物(両生類・爬虫類・哺乳類)調査の結果.
目名
科名
種名
両生類
サンショウウオ
イモリ
イモリ
カエル
ヒキガエル
ニホンヒキガエル
アマガエル
アマガエル
アカガエル
タゴガエル
ニホンアカガエル
ヤマアカガエル
トノサマガエル
ヌマガエル
ツチガエル
アオガエル
シュレーゲルアオガエル
カジカガエル
爬虫類
カメ
イシガメ
イシガメ
スッポン
スッポン
トカゲ
ヤモリ
ミナミヤモリ
トカゲ
トカゲ
カナヘビ
カナヘビ
ヘビ
シマヘビ
ジムグリ
アオダイショウ
ヒバカリ
ヤマカガシ
哺乳類
モグラ
トガリネズミ
ジネズミ
モグラ
ヒミズ
コウベモグラ
コウモリ
キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリ
ヒナコウモリ
コキクガシラコウモリ
ニホンコテングコウモリ
ウサギ
ウサギ
ノウサギ
ネズミ
ネズミ
ハタネズミ
アカネズミ
カヤネズミ
ハツカネズミ
ドブネズミ
クマネズミ
ネコ
イヌ
タヌキ
イタチ
テン
イタチ
ウシ
イノシシ
ニホンイノシシ
3綱
10 目
20 科
38 種
1994 年
1999 年
2005 年
2014 年
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29 種
24 種
23 種
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32 種
9
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 4.アナグマ被害地の巣穴の位置図(国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所資料).
合,掘りにくい堤防にすることが重要であるが,
調査地の堤防は掘りやすい砂質層やシルト層であ
るため,整備個所の法面に,浸食防止シート(網
目様の構造物)で穴掘り行動を阻止するための応
急処置を試みた(図 8).
工事完了後のモニタリング調査
野生生物調査の目的は,調査区分として①現状
把握調査,②環境保全対策調査,③モニタリング
調査が挙げられる.モニタリング調査の目的は,
図 5.重機による巣穴の内部構造の確認.
事業が生物環境に及ぼす影響を,事業実施時およ
び完成後も継続的に監視することである.整備個
所を中心として,哺乳類の生息状況調査をフィー
除草によってアナグマが人目につきやすい開けた
ルドサイン法により実施し,現状の把握を行った
環境となった.また河川管理者が,被害の早期発
(図 9).また,当地の餌環境や生態系を観察でき
見ができるように除草を行うようにした.
るように植生断面図(図 10)や植生図(図 11)
浸食防止シートの施工 生態学的要因として
をつくり,対象地の生態環境を俯瞰した.対象地
は,アナグマによる穴のつくりやすさが考えられ
はアナグマの生息に適した里山環境であり,特に
る.アナグマは内部構造の複雑な深い穴をつくる
河川敷がアナグマの主な行動域であった.
ために,掘りやすい土壌が必要となる.堤防の場
10
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 6.巣穴の構造(国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所資料).
11
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
象として分布地を塗りつぶす方式の表示であり,
大まかなものともいえる.対象地の狭い範囲を詳
細に判断すると,市街地の中心地で,更に緑地や
草地の連続性のない地域はアナグマ生息の空白地
となることは必然的と考える.
鹿児島県の場合,鹿児島市,霧島市および川
内市の市街地の中心部などでは生息できないと思
えるが,自然度の高い河川や緑地による連続性が
ある所は,市街地であっても周辺域からの入り込
図 7.藪化した植物の排除.
みで生息地となっている.一方,大隅半島の中心
を流れる一級河川の肝属川(上流・中流・下流・
河口域)では,アナグマの生息がみられない.こ
のことから,大隅半島の一部を空白とする安間
(1995)と環境省(2002)の説が筆者らの調査結
果からみて妥当であると考える.
アナグマ被害対策地の研究
巣穴の構造 行動圏内のアナグマの巣の数,利
用,配置については金子(2002)が詳しいが,巣
穴の構造には触れていない.巣穴の構造について
は,今泉(1984)が「強大な爪を備えた前足の威
力はものすごく,複雑なトンネルを掘る.出入口
は斜面や土手にあり,水辺が近い所に多く大きな
巣穴だと 50 個以上もある.はじめは 1–2 個だっ
たものが,毎年のように巣穴が改良,拡大され,
沢山の出入口を持った大きな巣穴になる」と記述
している.
調査の結果から判断すると,当初は小規模で
単純な巣穴群も毎年同じ巣を掘り進み,意図的(複
雑な穴にする)ではなく,非意図的に穴掘りを繰
り返すうちに,結果として隣接する巣穴同士が奥
図 8.浸食防止シート(上)と法面張付け工事(下).
域で合流する形で,複雑な巣穴になるものと推察
された.
被害防止を目的とした保全対策と工事完了後
考察
鹿児島県内のアナグマ分布の空白地の現状
鹿児島県内の分布は県本土全域だとする阿部
ほか(1994)と小宮(2002)の記載と,大隅地域
の一部を空白とする安間(1995)と環境省(2002)
の二説があるが,これらの記載は,日本全域を対
12
のモニタリング調査 生物多様性の保全から,草
をあまり刈りこまず,近年は草地環境として昆虫
の生息や植物の生育を許容するようになっている
が,河川堤防は破堤の危険性を防止する必要があ
り,河川法の目的である「治水」,「利水」および
「環境」の中でも特に「治水」を最重要事項と考
えるべきである.草刈り機による除草の目的は,
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 9.哺乳類の生息状況.
図 10.植生断面図.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 11.植生図.
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RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
能や習性である「穴を掘る」ことを取り去ること
はできない.ここで野生生物との共生を求めるな
ら,河川敷内に河川管理に障害にならない程度の
小規模な盛り土の小山を造ることで,アナグマの
ストレス解消となり,適正な生息環境が創出でき,
アナグマの棲む豊かな環境である河川敷になるの
ではないかと思われる.
謝辞
図 12.河川敷内の小規模段差地に掘られた巣穴.
本報告の研究をすすめるに当たり、調査員の
本報告の研究をすすめるにあたり,調査員の派遣
を快諾いただいた(株)新和技術コンサルタント
に対し御礼申し上げる.また,本報告を公表する
アナグマの姿を露出させる(隠れた状態で巣穴に
機会を与えてくださった国土交通省九州整備局川
近づけない)ことにより,アナグマの不安感を起
内川事務所長をはじめ,調査課ならびに工務課の
こさせる効果と,河川管理者が堤防の保全状況を
方々に深く御礼申し上げる.
監視しやすくするための効果が発揮できる.
アナグマは整備後も同じように生息し,複数
のフィールド・サイン(生活痕跡)を残している.
アナグマの掘り返しは整備個所でもみられ,その
場所への執着の強さが窺える.また,目的達成が
不可能としてあきらめたと思える痕跡を確認し
た.穴掘り行動を阻止するための浸食防止シート
による応急処置は,一応成功したと評価したい.
その他に巣穴は,整備個所に近い河川敷内の
小規模な段差のある場所で 1 箇所(図 9:3 アナ
グマ掘り返し)みられた(図 12).アナグマの本
引用文献
阿部 永・石井信夫・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・
米田政明.1994.日本の哺乳類.東海大学出版会,東京.
126 pp.
今泉忠明.1984.アニマルトラック.自由国民社,東京.
136 pp.
金子弥生.2002.日の出町のアナグマの行動圏の内部構造.
日本生態学会誌,52: 243–252.
環境省.2002 年.生物多様性調査 動物分布調査(哺乳類)
報告書.自然環境研究センター,東京.241 pp.
小宮輝之.2002.日本の哺乳類.学習研究社,東京.136
pp.
安間茂樹.1995.アニマル・ウォッチング.昌文社,東京.
214 pp.
15
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
16
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県薩摩半島沖から得られたウツボ科ミナミミゾレウツボの記録
1
2
松沼瑞樹 ・伊東正英 ・本村浩之
1
3
〒 851–2213 長崎市多以良町 1551–8 水産総合研究センター西海区水産研究所
2
3
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
2014 年 9 月に薩摩半島南部に位置する鹿児島
県南さつま市の野間池沖で 1 個体のミナミミゾレ
ウツボ Gymnothorax intesi (Fourmanoir and Rivaton,
1979)(ウツボ科)が採集された.本種は,オー
ストラリア北東部,ニューカレドニア,フェニッ
クス諸島,台湾および日本など西太平洋に分布し
(Böhlke and McCosker, 2001;Fourmanoir and
Rivaton, 1979; 波 戸 岡,2014;Loh et al., 2014),
日本国内では和歌山県の紀伊半島,奄美群島の与
論島および沖縄諸島沖の東シナ海から記録されて
いた(波戸岡,2014;日比野,2014;池田・中坊,
2015;Shinohara et al., 2005).ミナミミゾレウツ
ボは水深 200–400 m ほどの深所に生息するため分
布記録が少ないと考えられるため,分布情報の蓄
積のため野間池沖から得られたミナミミゾレウツ
ボの標本を記載し,同海域から初めての本種の記
録として報告する.
材料と方法
計測は Böhlke (1989) と Böhlke and Randall (2000)
にしたがった.標本の作製方法は本村(2009)に
したがった.体色の記載はホルマリンン固定前に
Matsunuma, M., M. Itou, and H. Motomura. 2015. First
record of Gymnothorax intesi (Anguilliformes:
Muraenidae) from off the Satsuma Peninsula, Kagoshima
Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 41: 17–
21.
MM: Seikai National Fisheries Research Institute, 1551–8
Taira, Nagasaki 851–2213, Japan (e-mail: k1139853@kadai.
jp).
う撮影されたカラー写真(Figs. 1–2)に基づく.
本報告で用いた標本は鹿児島大学総合研究博物館
(KAUM)に登録された.本報告で参照したミゾ
レウツボ Gymnothorax neglectus Tanaka, 1911 の生
態写真(KPM-NR 95852)は神奈川県立生命の星・
地球博物館の魚類写真資料データベースに登録さ
れている.
結果と考察
Gymnothorax intesi (Fourmanoir and Rivaton, 1979)
ミナミミゾレウツボ (Figs. 1–3; Table 1)
標 本 KAUM–I. 66960, 全 長 422+ mm, 鹿 児
島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 野 間 池 沖(31°30′N,
130°06′E), 水 深 180 m, 宮 下 透, 釣 り,2014
年 9 月 29 日.
記載 体各部の計測値(一部は頭長に対する
割合として)は Table 1 に示した.体はやや太く
円筒形で長い(Figs. 1–2).尾部先端は欠損して
いるが,肛門は体の中央のやや後方にある.吻は
短く眼径の約 2 倍,吻端は鈍くやや角張る.眼は
比較的小さく,口裂の前方から約 1/3 の位置にあ
る.前鼻孔は吻端近くにあり,短い管の先端に開
口する.後鼻孔は前鼻孔より小さく,眼の前縁上
方にあり,前鼻孔よりはるかに短い管の先端に開
口する.口は大きく,両顎は湾曲せず,上顎は下
顎よりわずかに突出する.前顎骨歯,主上顎骨歯
および下顎歯は扁平でやや後方に湾曲する犬歯状
歯で,明瞭な鋸歯状縁をもつ.前顎骨歯は 10 本
で 1 列にならぶ(Fig. 3).前上顎骨板中央に歯は
ない.主上顎骨歯は 13 本(左 7 本,右 6 本),下
17
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Gymnothorax intesi from Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 66960, 422+ mm TL. Tail tip absent. Photo: M.
Itou.
顎歯は 29 本(左 14 本,右 15 本)で,ともに 1
られる.
列にならび,後方のものほど小さくなる.鋤骨に
解凍後の色彩(Fig. 2)は,全身が茶色で,斑
小さく鈍い歯が 13 本あり,前方ではやや乱れた
紋および背鰭と臀鰭の縁辺は白色.口腔内も体と
2 列,後方では 1 列をなす.頭部側線管孔は明瞭
同じ色彩と模様.ホルマリン固定後アルコール保
で Gymnothorax の典型的な配置.両体側ともに眼
存下の色彩は解凍後の色彩とほぼ同様.
窩下側側線管孔は 4,眼窩上側側線管孔は 3,下
備考 調査標本は,その特徴的な色彩や歯列
顎側線管孔は 6.鰓孔の前方に 2 個の側線管孔が
が Fourmanoir and Rivaton (1979) や Loh et al. (2014)
ある.
が記載したミナミミゾレウツボ G. intesi の特徴と
色彩 死亡直後の生鮮時の色彩(Fig. 1)は,
よく一致したため,本種に同定された.調査標本
全身が茶色で,緑色がかった明るい黄色の輪郭が
は,Loh et al. (2014) が報告した台湾産の G. intesi
不明瞭な小さな点状あるいは短い線状の斑紋が散
と比べて,頭長に対する眼径の割合が小さいが
在する.斑紋の密度は頭部でもっとも高い.背鰭
と臀鰭の縁辺は,斑紋と同様の明るい黄色で縁取
(Table 1),この差異は個体変異とみなした.
ミナミミゾレウツボは,オーストラリア北西
Table 1. Morphometrics of Gymnothorax intesi from Kagoshima Prefecture, southern Japan and Taiwan.
KAUM–I. 66960
Kagoshima Prefecture, Japan
Total length (mm)
422+
Head length (HL)
59.6
Trunk length
184.7
Preanal length
250
Tail length
171+
Pre-dorsal-fin length
49.7
Body depth at gill opening
28.5
Body depth at anus
23.0
% of HL
Snout length
18.3
Eye diameter
7.6
Upper jaw length
42.6
Lower jaw length
40.1
Interorbital width
13.1
18
Loh et al. (2014)
Taiwan (n = 7)
343–652
—
—
—
—
—
—
—
15.5–20.2
9.4–10.8
39.2–43.2
38.2–57.4
11.2–17.4
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 2. Overall body (A) and head (B) of defrosted specimen of Gymnothorax intesi from Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 66960,
422+ mm TL. Coloration somewhat faded; tail tip absent.
部(Böhlke and McCosker, 2001),ニューカレドニ
は,同海域からの本種の初めての記録となる.な
アとフェニックス諸島(Fourmanoir and Rivaton,
お,波戸岡(2014)はミナミミゾレウツボの日本
1979),台湾(Loh et al., 2014),および南日本[日
国内での分布を「沖縄県伊江島」としたが,後に
比野(2014)や池田・中坊(2015)など]を含む
公表された正誤表により「和歌山県すさみ・白浜,
西太平洋に分布する.前述のとおり,日本国内で
沖縄諸島東シナ海沖」に訂正された.このうち,
はこれまでに和歌山県の紀伊半島,琉球列島の与
和歌山県からの記録は池田・中坊(2015),沖縄
論島および沖縄諸島沖の東シナ海から記録されて
諸島沖からの記録は Shinohara et al. (2005) に基づ
いた.したがって,薩摩半島沖から得られた標本
くと考えられる.
19
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
在することで異なる(Böhlke et al., 1999;波戸岡,
2014).また,2 種は脊椎骨数で区別されるほか,
体高と吻長にも差異がある(Loh et al., 2014).な
お,本報告の調査標本が採集された薩摩半島南部
沖からミゾレウツボが生態写真で記録されており
(KPM-NR 95852,鹿児島県の野間岬沖,水深 217
m,藤原義弘氏撮影),同海域には 2 種がともに
生息することが分かった.
謝辞
鹿児島県南さつま市の宮下 透氏には貴重な
標本を寄贈していただいた.国立科学博物館の大
橋慎平氏には文献の入手にご協力をいただいた.
鹿児島大学大学院水産学研究科の田代郷国氏には
標本の計測にご協力をいただいた.鹿児島大学総
合研究博物館の魚類分類学研究室の小枝圭太氏,
吉田朋弘氏,田代郷国氏,ジョン・ビョル氏,福
井美乃氏,畑 晴陵氏,江口慶輔氏,金出侑佳氏,
ならびに原口百合子氏をはじめとする同博物館ボ
ランティアの皆様には標本の作製・登録作業のご
協力をいただいた.以上の諸氏に心よりお礼を申
し上げる.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館
の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」
Fig. 3. Schematic drawing of dentition of Gymnothorax intesi
from Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 66960, 422+ mm
TL.
の一環として行われた.また,本研究の一部は
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ミナミミゾレウツボの世界での分布について,
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
Böhlke and McCosker (2001) と Loh et al. (2014) な
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
どはインド・西太平洋とし,Smith (2012) などは
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
西太平洋のみをあげている.Böhlke and McCosker
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
(2001) の記載は検索表で述べられたもので根拠は
ロジェクト」,および文部科学省特別経費-地域
示されていない.また,Loh et al. (2014) の記載も
貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその
典拠を伴っていないが前者を引用した可能性があ
保全に関する教育研究拠点形成」の援助を受けた.
る.本研究ではインド洋からの本種の標本に基づ
く記録を確認することができなかった.
ミ ナ ミ ミ ゾ レ ウ ツ ボ は ミ ゾ レ ウ ツ ボ Gymnothorax neglectus Tanaka, 1911 とよく似るが,前
者では全身に小さな不定形の斑紋が散在し,大型
個体ではときに隣接した斑紋がつながるのに対し
て,後者では全身に輪郭が明瞭な小さな斑点が散
20
引用文献
Böhlke, E. B. 1989. Methods and terminology, pp. 1–7. In E. B.
Böhlke (ed.). Fishes of the western north Atlantic. Part 9. Vol.
1: Anguilliformes and Saccopharyngiformes. Sears Foundation for Marine Research, Yael University, New Haven.
RESEARCH ARTICLES
Böhlke, E. B. and J. E. McCosker. 2001. The moray eels of Australia and New Zealand, with the description of two new species (Anguilliformes: Muraenidae). Records of the Australian
Museum, 53: 71–102.
Böhlke, E. B. and J. E. Randall. 2000. A review of the moray eels
(Angulliformes: Muraenidae) of the Hawaiian Islands, with
descriptions of two new species. Proceedings of the Academy
of Natural Sciences of Philadelphia, 150: 203–278.
Fourmanoir, P. and J. Rivaton. 1979. Poissons de la pente récifale
externe de Nouvelle-Calédonie et des Nouvelles-Hébrides.
Cahiers de l’Indo-Pacifique, 1: 405–443.
波戸岡清峰.2014.ウツボ科.Pp. 244–261, 1786–1792.中
坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定 第三版.
東海大学出版会,秦野市.
日比野友亮.2014.ミナミミゾレウツボ.Pp. 31–32.本村浩之・
松浦啓一(編).奄美群島最南端の島 ― 与論島の魚類.
鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市・国立科学博物館,
つくば市.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Loh, K.-H., K.-T. Shao, V.-C. Chong, and H.-M. Chen. 2014.
Additions to the Taiwan eel fauna with five newly recorded
species of moray eels (Anguilliformes: Muraenidae), and
redescription of a rare species Gymnothorax sagmacephalus.
Journal of Marine Science and Technology, doi: 10.6119/
JMST-013-1227-1.
本村浩之(編).2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.
鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市.70 pp.(http://
www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
Shinohara, G., T. Sato, Y. Aonuma, H. Horikawa, K. Matsuura,
T. Nakabo, and K. Sato. 2005. Annotated checklist of deepsea fishes from the waters around the Ryukyu Islands,
Japan. Deep-sea fauna and pollutants in the Nansei Islands.
Monographs of the National Science Museum Tokyo, (29):
385–452.
Smith, D. G. 2012. A checklist of the moray eels of the world
(Teleostei: Anguilliformes: Muraenidae). Zootaxa, 3474:
1–64.
池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東
海大学出版部,秦野市.xxii + 597 pp.
21
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
22
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
宇治群島宇治島と奄美群島喜界島から得られたウミヘビ科魚類
モヨウモンガラドオシ Myrichthys maculosus
1
2
3
畑 晴陵 ・日比野友亮 ・伊東正英 ・本村浩之
1
4
〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 517–0703 三重県志摩市志摩町和具 4190–172 三重大学大学院附属水産実験所
3
4
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
材料と方法
ゴイシウミヘビ属 Myrichthys は臼歯状の歯を
計数・計測方法は Hibino et al. (2012) にしたがっ
もち,両顎と鋤骨に複数歯列を有すること,胸鰭
た.体各部の計測はデジタルノギスを用いて 0.1
が短く,基底部が幅広いこと,背鰭起部が鰓孔直
mm までおこなった.生鮮時の体色の記載は,固
上よりもはるかに前方に位置することなどの特徴
定前に撮影された鹿児島県産の 1 標本(KAUM–I.
をもち(McCosker and Rosenblatt, 1993; Smith and
54644)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,
McCosker, 1999), 日 本 か ら は シ マ ウ ミ ヘ ビ M.
撮影および固定方法は本村(2009)に準拠した.
colubrinus (Boddaert, 1781) とモヨウモンガラドオ
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
シ M. maculosus (Cuvier, 1816) の 2 種が知られて
館に保管されており,上記の生鮮時の写真は同館
いる(波戸岡,2013).
のデータベースに登録されている.本報告中で用
鹿児島県内におけるモヨウモンガラドオシの
いられている研究機関略号は以下の通り:BPBM
標本に基づく記録としては,これまでに奄美大島
-ビショップ博物館;KAUM -鹿児島大学総合
から 1 個体の報告があるのみであった(Tanaka,
研究博物館;NSMT -国立科学博物館;MTUF -
1913).2013 年 5 月 5 日に宇治群島宇治島から 1
東京海洋大学水産資料館;TUFO -東京水産大学
個体のモヨウモンガラドオシが採集され,また鹿
水産資料館;USNM -スミソニアン自然史博物
児島大学総合研究博物館所蔵の標本を調査する過
館;WMNH-PIS-WW -和歌山県立自然博物館池
程で奄美群島喜界島産の 1 個体が見つかった.こ
田魚類コレクション;ZUMT -東京大学総合研
れら 2 標本は宇治群島ならびに喜界島における本
究博物館.
種の標本に基づく初めての記録となるため,ここ
に報告する.
結果と考察
Myrichthys maculosus Cuvier, 1816
モヨウモンガラドオシ (Fig. 1; Table 1)
Hata, H., Y. Hibino, M. Itou and H. Motomura. 2015. First
records of Myrichthys maculosus (Anguilliformes:
Ophichthidae) from the Uji Islands and Kikai-jima island
in the Amami Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
Nature of Kagoshima 41: 23–29.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
標本 2 個体(全長 169.8–1244.0 mm)
:KAUM–I.
1982,全長 169.8 mm,鹿児島県奄美群島喜界島
近海;KAUM–I. 54644,全長 1244.0 mm,鹿児島
県 宇 治 群 島 宇 治 島 宇 治 漁 港(31°12′07″N,
129°28′26″E),水深 15 m,2013 年 5 月 5 日,釣り,
宮下 透.
23
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Myrichthys maculosus. KAUM–I. 54644, 1244.0 mm total length, Uji Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
記載 計数および計数形質は Table 1 に示した.
をもつ.後鼻孔は口の内側に開口し,外側を分厚
体は細長い円筒形で,ほとんど側扁しない.尾部
い肉質皮弁で覆われる.眼は小さく,表面を半透
は長く,肛門は体中央よりはるかに前方に位置す
明の膜で覆われており,口裂の中央付近に位置す
る.尾部後端は硬く尖る.頭部は小さく,全体に
る.口は小さく,口裂長は吻長の 2 倍に満たない.
深い皺をもつ.吻は短く,寸詰まりでその長さは
両唇内側では絨毛状皮弁が密生し,この皮弁は大
眼径の 1.5–2.6 倍.吻端はやや鈍く下顎前端より
型個体(KAUM–I. 54644,全長 1244.0 mm)では
も明瞭に突出する.吻腹面は明瞭に切れ込む.前
吻 と 下 顎 に も 散 在 す る が 小 型 個 体(KAUM–I.
鼻孔は短い筒状を呈し,開口部内側に 1 対の皮弁
1982,全長 169.8 mm)では両唇以外には発達せず,
24
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
両唇でも密度は低い.頭部感覚管孔はきわめて小
が 1 列をなす.臀鰭の円斑は他の部位のものと比
さく,視認し難い.眼上感覚管孔は 1 + 3 個,眼
べ輪郭がはっきりしない.小型の個体(KAUM–I.
下感覚管孔は 3 + 3 個,下顎-前鰓蓋感覚管孔は
1982)では円斑の数が大型の個体に比べ明らかに
6 + 2 個,上側頭感覚管孔は 1 個.眼隔域および
少なく,体側には 2 列の円斑列がある.背側列の
上側頭中央部に感覚管孔をもつ.前鼻孔基部付近,
円斑は眼径より大きく,背鰭にわずかにまたがっ
眼の前縁,頬および頭部背面の上側頭感覚管の前
て分布し,腹側列の円斑はきわめて小さくその直
方に微小孔器列をもつ.体の側線はほぼ完全で体
径は眼径と同程度かわずかに超える程度で,色彩
側中央を直走し尾部後端付近に達する.歯はすべ
は淡い.臀鰭は円斑を欠く.
て先のやや鈍い臼歯状を呈するが,上顎間歯を除
分布 アフリカ東岸と紅海からピトケアン諸
いてやや間隔を空けて配置し,密集した歯帯状に
島 に か け て の イ ン ド・ 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る
はならない.大型の標本(KAUM–I. 54644)では
(Zhang, 1979; McCosker and Rosenblatt, 1993; Shen,
主上顎骨歯は完全な 2 列をなし,外列と内列はあ
1993;波戸岡,2013).日本国内では三宅島(Allen
まり接近しない.鋤骨歯および下顎歯は前方では
and Erdmann, 2012), 八 丈 島(McCosker and
3 列で後方では 2 列をなす.小型の標本(KAUM–
Rosenblatt, 1993;浅野,2002a;加藤,2014),小
I. 1982)では両顎歯および鋤骨歯は前方で 2 列を
笠 原 諸 島( 座 間・ 藤 田,1977; Kuwamura et al.,
なし後方では 1 列をなす.上顎間歯は数本が密生
1983; Randall et al., 1997), 伊 豆 半 島( 浅 野,
して塊状をなし,鋤骨歯と連続する.眼隔域中央
2002c),和歌山県(宇井,1924;蒲原,1950;池
は溝状に凹む.鰓孔は大きく,体側中央よりやや
田・中坊,2015),高知県(Tanaka, 1917;蒲原,
下方で大きく開口する.背鰭の高さは臀鰭よりも
1950; 浅 野,2002a, b), 屋 久 島( 市 川 ほ か,
わずかに低い.背鰭起部は鰓孔直上よりはるかに
前方の,上側頭中央感覚管孔の直後に位置する.
尾鰭を欠き,背鰭および臀鰭は尾部で連続しない.
胸鰭は小さく,胸鰭長は胸鰭基部長の 2 分の 1 程
度.
色彩 生鮮時の体色はくすんだ淡黄色の地色
に暗褐色の円形斑または楕円形斑が多数ある.背
鰭と臀鰭も同様であるが白色の縁取りがある.胸
鰭は白色半透明の地色で,基部付近と中央に小褐
色斑がある.前鼻孔は地肌と同色で,虹彩には模
様がない.固定後には淡褐色からクリーム色の地
色に暗褐色または茶褐色の円形斑または楕円形斑
が あ る( 以 下 円 斑 ): 大 型 の 個 体(KAUM–I.
54644)では体の斑がすべて眼径より大きく,背
鰭の基部付近から背鰭に連続するものを除いて体
側に最大 3 列の円斑列をもち,特に躯幹部の体側
中央のものは楕円形を呈する.円斑列数は尾部後
方に向かうとともに減少する.背面の斑は背鰭基
部に沿って分布し半月形を呈する.背鰭では円斑
が 1 列をなす.臀鰭では基部付近に腹面にまたが
る 1 列の眼径と同程度の直径の円斑があり,さら
にその下方に眼径の 2 分の 1 程度の直径の小円斑
Table 1.Counts and measurements, expressed as percentages of
total and head lengths, of specimens of Myrichthys maculosus
from Kikai-jima island and Uji Islands, Kagoshima Prefecture,
Japan.
KAUM–I.
KAUM–I.
1982
54644
Kikai-jima
Uji Islands
island
Total length (mm)
169.8
1244.0
Counts
Head pores
10
10
Predorsal pore
0
0
Preanal pores
75
76
Total pores
152
177
Measurements as % of total length
Head length
8.0
6.0
Pre-anal-fin length
41.8
39.2
Trunk length
33.9
33.2
Tail length
58.4
60.6
Pre-dorsal-fin length
4.5
2.8
Pectoral-fin length
0.7
1.0
Body depth at gill opening
2.7
2.4
Body depth at mid-anus
2.5
2.7
Body width at gill opening
1.8
2.0
Body width at mid-anus
1.9
2.5
Measurements as % of head length
Snout length
15.1
19.0
Eye diameter
10.2
7.2
Upper-jaw length
42.4
34.7
Postorbital length
73.9
78.7
Gill opening length
8.2
15.1
Interorbital width
8.7
17.3
25
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
1992), 奄 美 大 島(Tanaka, 1913), 沖 縄 諸 島
ら報告され,図鑑等にも採録されている.現在で
(McCosker and Rosenblatt, 1993; 波 戸 岡,2013),
は 5 名義種が M. maculosus の新参異名として扱
南鳥島(McCosker and Rosenblatt, 1993),鹿児島
わ れ て い る が(McCosker and Rosenblatt, 1993),
県宇治群島および奄美群島喜界島(本研究)から
このうち 3 名義種は日本産の標本に基づくもので
報告がある.
あり,現在までに国内における学名と和名の扱い
備考 鹿児島県産の 2 標本は両顎歯と鋤骨歯
には若干の混乱がみられた.
が臼歯状で,複数列をなすこと,胸鰭が小さく,
Myrichthys maculosus を日本から初めて報告し
胸鰭長が胸鰭基部長の 2 分の 1 程度であること,
たのは Snyder (1912) である.彼は沖縄島から得
および背鰭起部が鰓孔直上よりはるかに前方に位
られた 1 標本(USNM 74048,全長 415 mm)に
置することなどの特徴が McCosker and Rosenblatt
基づき,本種を M. rupestris として新種記載した
(1993) と Smith and McCosker (1999)によって定
(McCosker and Rosenblatt, 1993).その後,Tanaka
義された Myrichthys 属の特徴と一致した.さらに
(1913) は奄美大島から得られた全長 190 mm の 1
鰓孔部と肛門中央部での体高がそれぞれ全長の
個体に基づき,本種を M. miyamotonis として新種
2.4–2.7% と 2.5–2.7% であること,頭長と肛門前
記載し,同時に和名モヨウウツボを提唱した.
長がそれぞれ全長の 6.0–8.0% と 39.2–41.8% であ
Tanaka (1917) は高知県安芸市から得られた全長
ること,吻が鈍く,頭長の 15.1–19.0% であること,
945 mm の 1 個体に基づき本種を M. aki として新
胸鰭長が同基底長よりも短いこと,および背鰭起
種記載し,和名アキヘビウナギを提唱した.その
部が胸鰭基底よりもはるかに前方に位置するこ
後,宇井(1924)は M. aki を和歌山県から報告し,
と, 体 に 多 数 の 円 形 斑 を も つ こ と な ど が
和名をゴイシウミヘビ(アキヘビウナギ)とした.
McCosker and Rosenblatt (1993) や 波 戸 岡(2013)
し か し, 岡 田・ 松 原(1938) は M. aki が M.
の報告した M. maculosus の標徴とよく一致した
maculosus の新参異名である可能性を示唆しつつ
ため,本種と同定された.本報告における記載標
も,M. aki を有効とし,その和名をゴイシウミヘ
本 の う ち, 宇 治 群 島 産 の 標 本 は McCosker and
ビ(アキウミヘビ)とし,さらに M. miyamotonis
Rosenblatt (1993) がインド・太平洋産の 30 個体の
の和名をモヤウモンガラドホシとして採録した.
測定標本に基づき示した値と比較して,頭長の全
蒲 原(1950) は M. maculosus を M. aki の 古 参 異
長に占める割合がやや小さく,尾部長の割合がや
名とし,高知県と和歌山県から報告すると同時に,
や大きい.しかしながら,ウミヘビ科のいくつか
和名をゴイシウミヘビとした.松原(1955)は M.
の種では成長にともない頭長が相対的に小さくな
maculosus の和名をモヨウモンガラドオシとし,M.
る一方で,尾部長が長くなる傾向が知られており
aki の和名をゴイシウミヘビ(アキウミヘビ)と
(Hibino et al., 2014;日比野,未発表),また宇治
し た.Kamohara (1958) は M. maculosus を M. aki
群島産の標本は全長 1244 mm と非常に大きいこ
の古参異名とし,和名ゴイシウミヘビ(アキウミ
と[McCosker and Rosenblatt (1993) では最大測定
ヘビ)として高知県から報告した.吉野ほか(1975)
全長を 990 mm としている]から,本報告ではこ
は M. maculosus を琉球列島から報告し,和名を
れらの差異を成長に伴う変化によるものと判断し
モヨウモンガラドオシとしたが,詳細な産地など
た.これまで報告されたモヨウモンガラドオシの
の記載はなく,また標本に基づくものであるかは
最大個体は和歌山県西牟婁郡白浜町瀬戸ヶ瀬産の
不明である.益田ほか(1975)は M. aki は体側
全 長 107 cm[WMNH-PIS-WW 3012 (1)] の 個 体
に 5 縦列の褐色斑があり,M. maculosus は 3 縦列
であり(池田・中坊,2015),本報告で用いた宇
の褐色斑があることで互いに識別できるとし,前
治群島産の標本は本種の最大サイズを大幅に更新
者の和名をゴイシウミヘビ(アキウミヘビ),後
した.
者のそれをモヨウモンガラドオシとした.座間・
本種は以下に詳述するとおり度々日本国内か
26
藤田(1977)は M. maculosus を和名モヨウモン
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ガラドオシとして,小笠原諸島兄島滝之浦湾から
は M. maculosus の新参異名であるとしたが,M.
1 個体(TUFO 144,全長 912 mm)を報告した.
maculosus の 和 名 を ゴ イ シ ウ ミ ヘ ビ と し た. 揖
Kuwamura et al. (1983) は M. maculosus を和名モヨ
(2011)は和歌山県産ウナギ目のリストを公表し,
ウモンガラドオシとして,小笠原諸島父島北岸か
標本に基づく記録として M. maculosus と M. aki
ら報告した.浅野(1984a)は M. maculosus の和
をそれぞれモヨウモンガラドオシとゴイシウミヘ
名をモヨウモンガラドオシ,浅野(1984b)は M.
ビとして含めた.加藤(2011)は M. aki の和名を
aki の和名をゴイシウミヘビ(アキウミヘビ)と
ゴイシウミヘビとし,八丈島近海の水深 12 m か
した.望月(1985)は M. aki の和名をゴイシウ
ら水中写真に基づき報告した.その後,Allen and
ミヘビとし,和歌山県西牟婁郡白浜町から報告し
Erdmann (2012) は三宅島から M. maculosus を水中
た.市川ほか(1992)は M. aki の和名をゴイシ
写真に基づき報告した.波戸岡(2013)は,M.
ウミヘビとし,屋久島から報告したが標本は残さ
aki を M. maculosus の 新 参 異 名 で あ る と し た
れ て い な い(Motomura et al., 2010).McCosker
McCosker and Rosenblatt (1993) による見解を支持
and Rosenblatt (1993) は Myrichthys 属 全 種 の 分 類
するとともに,M. maculosus の和名をモヨウモン
学 的 再 検 討 を お こ な い,M. rupestris,M.
ガラドオシとした.加藤(2014)は M. aki は M.
miyamotonis および M. aki を M. maculosus の新参
maculosus の新参異名であるとし,M. maculosus
異名とした上で M. maculosus を八丈島,沖縄お
の 和 名 を モ ヨ ウ モ ン ガ ラ ド オ シ と し て, 加 藤
よび南鳥島からそれぞれ ZUMT 54.141(全長 840
(2011)で報告したものと同じ写真に基づき八丈
mm),USNM 74048(415 mm) お よ び BPBM
島近海の水深 12 m から報告した.池田・中坊
7006(226 mm)に基づいて報告したが,本種の
(2015)はモヨウモンガラドオシ M. maculosus を
和名に関しては言及していない.益田・小林(1994)
和歌山県田辺湾から得られた 1 個体[WMNH-PIS-
は M. maculosus の和名をモヨウモンガラドオシ,
WW 3011 (1),全長 72 cm]と西牟婁郡白浜町か
M. aki の和名をゴイシウミヘビとし,それぞれ四
ら 得 ら れ た 1 個 体[WMNH-PIS-WW 3012 (1),
国近海の水深 10 m と水深 3 m から水中写真に基
107 cm]を報告した.
づき報告した.Randall et al. (1997) は M. maculosus
したがって,これまで奄美大島を除く鹿児島
を 2 個 体(MTUF 144, 全 長 912 mm,NSMT-P
県内から標本に基づくモヨウモンガラドオシは報
35226,全長 443 mm)の標本に基づいて小笠原
告されておらず(Tanaka, 1913),本報告で記載し
諸 島 か ら 報 告 し た. 波 戸 岡(2000) は M.
た標本は宇治群島ならびに喜界島における本種の
maculosus の和名をモヨウモンガラドオシ,M. aki
標本に基づく初めての記録となる.モヨウモンガ
の和名をゴイシウミヘビ(アキウミヘビとも呼ば
ラドオシの鹿児島県での採集記録は国内における
れる)とした.浅野(2002a, b)はそれぞれモヨ
本種の分布の空白域を埋めるものであり,本種が
ウモンガラドオシ M. maculosus を八丈島の水深
沖縄県から伊豆半島にかけて広く分布することを
10 m と高知県沖ノ島の水深 20 m,ゴイシウミヘ
示唆する.
ビ(アキウミヘビ)M. aki を高知県沖ノ島の水深
なお,本研究では,日本魚類学会標準和名検
20 m から報告しつつも,2 名義種の色彩の変異は
討委員会(2005)の答申にしたがい,波戸岡(2000)
大きく,両名義種を同種とする見解が有力である
が M. maculosus として記載した種の標準和名を
とした.浅野(2002c)はモヨウモンガラドオシが,
モヨウモンガラドオシとして扱った.
モンガラドオシ Ophichthus. erabo (Jordan and Snyder,
1901) と併泳する姿を伊豆半島近海の水深 12 m
謝辞
から水中写真に基づき報告した.Motomura et al.
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
(2010) は 市 川 ほ か(1992) を 引 用 し,M.
に際しては,笠沙町漁業協同組合の皆さまに多大
maculosus を屋久島から報告すると同時に,M. aki
なご協力をいただいた.また,原口百合子氏をは
27
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
じめとする鹿児島大学総合研究博物館ボランティ
アの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の小枝圭
太氏,吉田朋弘氏をはじめとする皆さまには標本
の作成・登録作業などを手伝って頂いたことに加
え,第二著者の博物館滞在に際し大変な便宜を
図っていただいた.三重大学大学院附属水産実験
所の木村清志博士には第二著者の鹿児島大学総合
研究博物館滞在に際し大変な便宜を図っていただ
いた上,重要な文献の入手にご協力いただいた.
鹿児島大学博物館魚類分類学研究室の田代郷国
氏,三重大学大学院附属水産実験所の松尾 怜氏,
日本大学医学部付属板橋病院の畑 博明氏ならび
に鹿児島大学附属図書館水産学部分館の皆さまに
は文献の入手にご協力いただいた.これらの方々
に謹んで感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大
学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調
査プロジェクト」の一環として行われた.本研究
の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067, 23580259,
24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究
教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の
研究教育ネットワーク構築」,JSPS 若手研究者イ
ンターナショナル・トレーニング・プログラム「熱
帯域における生物資源の多様性保全のための国際
教育プログラム」
,JSPS 特別研究員研究奨励費
(DC2:15J02820),総合地球環境学研究所「東南
アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティーの
向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の生
物多様性ホットスポットの構造に関する研究プロ
ジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能
の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関
する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点
領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁
量経費「奄美群島における生態系保全研究の推進」
の援助を受けた.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県内之浦湾から得られたユキフリソデウオ Zu cristatus
1
2
小枝圭太 ・畑 晴陵 ・本村浩之
1
2
1
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
はじめに
材料と方法
フリソデウオ科魚類 Trachipteridae は世界でフ
計数・計測部位は崎山・瀬能(2012)にしたがっ
リ ソ デ ウ オ 属 Desmodema, サ ケ ガ シ ラ 属
た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを
Trachipterus,ユキフリソデウオ属 Zu の 3 属が知
用いて 0.1 mm までおこなった.ユキフリソデウ
られており,約 10 種が有効とされている(池田・
オの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された
中坊,2015).日本近海にはオキフリソデウオ D.
鹿児島県内之浦湾産の 1 標本(KAUM–I. 38857)
lorum Rosenblatt and Butler, 1977,フリソデウオ D.
のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,
polystictum (Ogilby, 1898),サケガシラ Trachipterus
固定方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用
ishikawae Jordan and Snyder, 1901,テンガイハタ
いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管さ
Trachipterus trachypterus (Gmelin, 1789),およびユ
れており,上記の生鮮時の写真は同館のデータ
キフリソデウオ Zu cristatus (Bonelli, 1819) の 5 種
ベースに登録されている.本報告中で用いられて
が分布する(藤井,1984;林・瀬能,2013).
いる研究機関略号は以下の通り:KAUM -鹿児
これまでユキフリソデウオは,北海道の日本
島大学総合研究博物館;KPM-NR -神奈川県立
海および太平洋沿岸,青森県津軽海峡から山口県
生命の星・地球博物館 写真資料データベース;
萩市の日本海沿岸,神奈川県三崎から紀伊半島の
WMNH-PIS-WW -和歌山県立自然博物館池田魚
太平洋沿岸,大阪府岸和田市,大分県別府湾,小
類コレクション.
笠原諸島,東シナ海,九州 ― パラオ海嶺,沖縄
諸島から記録されていた(藤井,1984;林・瀬能,
結果と考察
2013).2011 年 5 月 8 日にユキフリソデウオと同
Zu cristatus (Bonelli, 1819)
定される 1 個体が鹿児島県大隅半島東岸の内之浦
ユキフリソデウオ (Fig. 1)
湾で採集された.本標本は鹿児島県におけるユキ
フリソデウオの標本に基づく初めての記録となる
ため,ここに報告する.
標 本 KAUM–I. 38857, 体 長 471.2 mm, 肛 門
前長 203.7 mm,鹿児島県肝属郡肝付町内之浦湾
(31°17′N, 131°05′E;肝付町内之浦漁港の水揚げ
場にて採集),2011 年 5 月 18 日,定置網,水深
Koeda, K., H. Hata and H. Motomura. 2015. First specimenbased record of Zu cristatus (Lampridiformes:
Trachipteridae) from Kagoshima Prefecture, southern
Japan. Nature of Kagoshima 41: 31–35.
KK: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: hatampo@
gmail.com).
0–40 m,山田守彦.
記載 背鰭前部軟条は破損しており,軟条数
および各軟条長は不明.背鰭後部軟条数 134;胸
鰭軟条数 11;腹鰭軟条数 5;尾鰭上葉軟条数 9;
尾鰭下葉軟条数 3;側線上の板状体数 103;上枝
鰓耙数 3;下枝鰓耙数 8.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Zu Cristatus. KAUM–I. 38857, 471.2 mm standard length, Uchinoura Bay, east coast of Osumi Peninsula,
Kagoshima Prefecture, Japan.
体各部測定値の体長に対する割合(%):体高
凹んだのち,再び体軸と平行となる.肛門から尾
20.5;頭部での体高 17.7;肛門での体高 10.3;腹
柄部までの体腹縁はほぼ直線的.鼻孔は 2 対で上
鰭前長 17.1;背鰭前長 13.0;頭長 15.3.体各部測
下に位置する.鼻孔には皮弁がなく,両鼻孔とも
定値の頭長に対する割合(%):体高 134.0;頭部
に円形.口は端位で傾き,上顎後端は眼の前縁を
での体高 151.9;肛門での体高 67.0;吻長 30.0;
越える.下顎は上顎のやや前方に突出する.眼は
眼径 36.1;上顎長 43.2;眼窩後縁から主鰓蓋骨後
大きく,眼径は肛門前長の 12.7%.両眼間隔は膨
縁までの長さ 44.7;両眼間隔 22.1;肛門直上での
らむ.両顎の前部には小さく尖った歯が約 10 個,
側線から背縁までの長さ 52.1;肛門直上での側線
列をなし,後方のものほど長い.鋤骨,口蓋骨お
から腹縁までの長さ 16.2;背鰭後部第 1 軟条長
よび舌骨には歯がない.
12.0;背鰭後部第 2 軟条長 12.8;背鰭後部第 3 軟
側線は背鰭起部直下から始まり,眼の直上ま
条長 13.7;背鰭後部第 4 軟条長 15.7;背鰭後部第
で垂直に下降したのち,ほぼ直角に折れ曲がり,
5 軟条長 20.5;背鰭後部第 17 軟条長 38.3;背鰭
体軸に対し平行となる.主鰓蓋骨上端直上を通り,
後 部 第 38 軟 条 長 45.7; 背 鰭 後 部 第 48 軟 条 長
胸鰭上方から尾部に向かってなだらかに下降した
44.4;背鰭後部第 67 軟条長 41.2;背鰭後部第 110
のち,肛門の後方で腹縁と重なる.腹部より後方
軟条長 25.4;胸鰭基底長 10.0;胸鰭長 4.5;腹鰭
の側線上には骨質の六角形に近い板状体が連続し
長 189.1.
て配列し,その中央部には鋭い 1 棘を有する.こ
体は著しく長く,側扁してリボン状.体高は
の板状体は,後ろにいくにつれて硬く,大きくな
頭部から肛門にかけて高く,背鰭第 12 軟条起部
る.隣り合った板状体は,斜め上後方と斜め下後
付近で最大となり,肛門前長の 47.5%.体背縁は
方に交互に位置し,ジグザグの配列を形成する.
吻端から背鰭起部にかけての傾斜が急で,背鰭起
腹縁上の側線は,板状体の棘を結ぶように波状に
部で折れ曲がり,なだらかに下降する.体腹縁は
走り,尾鰭基底に達する.
下顎から腹鰭起部まで緩やかに湾曲したのち,波
背鰭起部は眼の直上で基部後端は尾鰭基底の
打ちながら体軸とほぼ平行となるが,肛門直前で
やや前方.背鰭前部の 4 軟条は著しく伸長し(第
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
5–6 軟条は先端が欠損),基部付近で互いに鰭膜
瀬 能,2013;Shinohara et al., 2014; 池 田・ 中 坊,
によって連結する.背鰭の前部 6 軟条は後方軟条
2015),鹿児島県内之浦(本研究)からの報告が
と接続しない.胸鰭起部は主鰓蓋骨後端の直下に
あ る. ま た, 水 中 写 真 に よ り 鹿 児 島 県 屋 久 島
位置し,小さく,後端は尖る.腹鰭は帯状で著し
(KPM-NR 94198), 沖 縄 県 沖 縄 島(KPM-NR
く伸長するが,肛門および腹縁の切れ込みに達し
28242),阿嘉島(KPM-NR 80335)の浅海域から
ない.腹鰭起部は胸鰭基部後端の直下に位置する.
記録されている.
臀鰭はない.尾鰭上葉は著しく発達して大きく,
備考 本標本は,尾鰭が上葉と下葉で分離す
扇状で,体軸に対して上方を向く.尾鰭上葉の第
ること,尾部の腹縁と重なった側線が板状体の棘
1 軟条は後部で遊離し,著しく伸長する.尾鰭下
を結ぶように走り,波状となること,腹鰭軟条数
葉は小さく,後方を向く.肛門は背鰭後部第 53
が 5 であること,側線が尾部の腹縁に沿って波状
軟条起部直下付近に位置する.
であり,ジグザグに長い棘が配列すること,体腹
鰓蓋部は無鱗.前鰓蓋骨を除く頬部には小鱗
縁が波状であること,肛門前長に対する体高が
が敷石状に配列する.上顎,涙骨,軟骨状の眼隔
47.5% で あ る こ と な ど に よ り,Walters and Fitch
域から眼前部にかけては無鱗.体側の被鱗域は眼
(1960) と Heemstra and Kannemeyer (1984) の 定 義
上部から始まり,躯幹と尾部の全域に及ぶが,非
し た Zu 属 と 同 定 さ れ た. ま た, 本 属 に は Zu
常に剥がれやすい円鱗であるため,そのほとんど
cristatus と Zu elongatus Heemstra and Kannemeyer,
が脱落している.
1984 の 2 種 が 知 ら れ る(Heemstra and
色彩 体の地色は銀白色.体側上部の背鰭後
Kannemeyer, 1984) が, 本 標 本 は 体 高 が 体 長 の
部第 23–28 軟条起部の下方と肛門付近の体側下方
20.5% であること,眼径は肛門前長の 12.7% であ
に眼と同大で円形の暗色斑,背鰭後部第 39–46 軟
ること,体高が肛門直前で急激に低くなること,
条起部の下方に主上顎骨と同大で鞍状の暗色斑,
背鰭軟条数が 134 であること,鱗が剥がれやすい
その下方の体側下部にこれとほぼ同大で円形の暗
円鱗であること,側線上の板状体数が 103 である
色斑をそれぞれもつ.また,肛門より後方の尾部
こと,体側に鞍状か帯状の暗色域をもつことによ
には,6 本の幅の広い暗色横帯を有する.背鰭前
り Heemstra and Kannemeyer (1984) や Olney (1999)
部軟条域は軟条,鰭膜ともに灰白色とえんじ色に
が記載した Zu cristatus の標徴と一致したため,
よる幅の広い縞模様で,先端付近では灰白色.背
本種と同定された.Zu cristatus は Zu elongatus と
鰭後部軟条域,胸鰭,腹鰭および尾鰭下葉の軟条
比較して体高が高いこと 20–26%(後者では 12–
は灰白色で,鰭膜は半透明.尾鰭上葉の軟条は灰
16%),稚魚前期の体高が肛門後方で著しく低く
白色で,鰭膜部はまだらにえんじ色だが先端付近
なること(体高は急には低くならない),眼径は
では黒色.
肛門前長の 13–16% であること(vs. 9–10%),側
分布 世界中の暖海域に分布する(Heemstra
線上の板状体数が 99–106 であること(vs. 126–
and Kannemeyer, 1984; 尼 岡,1997; 林・ 瀬 能,
130) に よ り 識 別 さ れ る(Heemstra and
2013).日本国内では,北海道の日本海および太
Kannemeyer, 1984).
平洋沿岸,青森県津軽海峡から山口県萩市にかけ
Zu cristatus を 日 本 か ら 初 め て 報 告 し た の は
ての日本海沿岸,神奈川県三崎から紀伊半島にか
Jordan and Snyder (1901) で あ る. 彼 ら は Zu
けての太平洋沿岸,大阪府岸和田市,大分県別府
cristatus を Trachypterus iijimae として東京湾口部
湾,小笠原諸島,東シナ海,沖縄諸島,九州 ―
から得られた標本に基づき新種記載するととも
パ ラ オ 海 嶺( 田 中,1915; 蒲 原,1950; 松 原,
に, 固 定 後 の 標 本 写 真 を 図 示 し た. そ の 後,
1955;塩垣,1982;山川,1982;藤井,1984;益
Jordan et al. (1913) は,Trachypterus iijimae に対し
田・小林,1994;山田・入江,1994;魚津水族館,
て和名ユキフリソデウオを提唱し,さらに田中
1997;前田・筒井,2003;河野ほか,2011;林・
(1915) は, 大 阪 府 岸 和 田 市 よ り Trachypterus
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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iijimae を報告して初めて本種の幼魚の詳細なス
物,動物であるとしている.しかし,本属を記載
ケッチと形態に関する記載をおこなった.その後,
した Walters and Fitch (1960) は,本属名 Zu の語源
蒲原(1950)は Trachypterus iijimae を和歌山県か
がバビロニア神話に登場する暴風の悪魔 “ ズウ
ら,松原(1955)は Trachipterus [sic] iijimai [sic]
鳥 ”(村松・中島,1979)に因むと記述している.
2 個体を兵庫県美方郡香美町香住から報告した.
これは当時のフリソデウオ科魚類が,嵐の後の海
Okada and Suzuki (1956) は三重県鳥羽市桃取町か
岸で打ち上げられた状態で発見されることが多
ら 得 ら れ た 体 長 483 mm の 個 体 を Trachypterus
かったことから与えられた属名である.したがっ
iijimai [sic] と し て 報 告 し た. こ れ ら の
て,中坊・平嶋(2015)の示した属名 Zu の語源
Trachypterus iijimae は,現在 Zu cristatus の新参異
は誤りである.本属のようにアルファベット 2 文
名 と さ れ て い る(Fitch, 1964; Heemstra and
字のみで形成される属名は,日本産魚類において
Kannemeyer, 1984).
他に類をみない最短のものであり,非常に稀であ
塩垣(1982)は青森県西津軽郡深浦町北金ヶ
沢からユキフリソデウオを報告し,山川(1982)
と尼岡(1997)は体長 344 mm の本種成魚を九州
る(中坊,2013;中坊・平嶋,2015).
謝辞
― パラオ海嶺から報告した.藤井(1984)は小
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
笠原諸島北東沖において中層トロールで採集され
に関して,山田守彦氏(いおワールドかごしま水
た本種の成魚を鮮時の写真とともに報告した.こ
族館)および内之浦漁業協同組合の皆さまに多大
れは太平洋におけるユキフリソデウオ成魚の初め
なるご協力をいただいた.これらの方々に謹んで
ての記録となった.益田・小林(1994)は本種稚
感謝の意を表する.また,標本の作成・登録作業
魚の水中写真を沖縄県伊江島から報告した.山田・
などを手伝ってくださった原口百合子氏をはじめ
入江(1994)は東シナ海の水深 159 m において底
とする鹿児島大学総合研究博物館ボランティアの
引き網で採集された雌 2 個体を報告し,本種が多
皆さまと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに厚
回 産 卵 で あ る 可 能 性 を 示 唆 し た. 魚 津 水 族 館
く御礼を申し上げる.本研究は,鹿児島大学総合
(1997)は定置網と漂着によって富山県魚津市か
研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ
ら採集されたユキフリソデウオ 2 個体(それぞれ
ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部
体長 880 mm と 550 mm)を鮮時の写真とともに
は JSPS 研究奨励費(PD:26-477),JSPS 科研費
報告し,前田・筒井(2003)は北海道の日本海お
(19770067,23580259,24370041, 26241027,
よび太平洋から報告した.さらに,河野ほか(2011)
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
は本種を山口県日本海岸から報告し,池田・中坊
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
(2015)は和歌山県西牟婁郡白浜町沖から巻き網
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
によって得られた本種の幼魚 1 個体(WNHN-PIS-
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
WW 11405,体長 323 mm)を報告した.したがっ
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
て,これまで鹿児島県においては標本に基づく記
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
録はなく,また,水中写真による記録も県内では
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
屋久島の水深 1 m で撮影された一例に限られる
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
(KPM-NR94198).このことから,本報告の鹿児
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
島県内之浦湾から得られた調査標本は,鹿児島県
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
におけるユキフリソデウオの標本に基づく初めて
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
の記録となる.
中坊・平嶋(2015)は,本種の属名である Zu
の語源を zō 生きる,生活する,または zōon 生き
34
助を受けた.
RESEARCH ARTICLES
引用文献
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
屋久島から得られたヨウジウオ科魚類ヒメトゲウミヤッコ
Halicampus spinirostris の記録
1
田代郷国 ・本村浩之
1
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(大学院連合農学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
2014 年 12 月 27 日に鹿児島県屋久島永田沖か
ら Halicampus spinirostris (Dawson and Allen, 1981)
と同定されるヨウジウオ科 Syngnathidae ウミヤッ
コ属魚類 1 個体が採集された.本種は東インド洋
と西太平洋から散発的に記録されている
(Dawson,
1985; Randall, 2005).日本からは近年,松沼ほか
(2013)によって鹿児島県与論島と沖縄県慶留間
島から得られた 2 標本および石垣島で撮影された
生態写真に基づき日本初記録として報告され,同
時に新標準和名ヒメトゲウミヤッコが提唱され
た.これら 2 標本はいずれも H. spinirostris の特
徴である頭部の棘や隆起線の状態が一部未発達な
未成魚であった(松沼ほか,2013).
屋久島産の標本は日本におけるヒメトゲウミ
ヤッコの 2 例目(3 個体目)の記録であるとともに,
本種の分布北限を更新する.さらに,本標本は頭
部の棘がひじょうによく発達していることから成
魚と判断され,日本における H. spinirostris の成
魚のはじめての記録となるためここに報告する.
材料と方法
計 数・ 計 測 方 法 は Dawson and Allen(1981),
Tashiro, S. and H. Motomura. 2015. First record of
Halicampus spinirostris (Gasterosteiformes: Syngnathidae) from Yaku-shima island in the Osumi Islands,
Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 41: 37–39.
ST: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k0587888@kadai.jp).
Dawson(1985) お よ び Allen and Kuiter(2004)
に従った.体各部の名称は荒賀(1988)に従った.
計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm の精度で
行った.標準体長は体長または SL で表記した.
標本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)
に準拠した.本報告に用いた標本は鹿児島大学総
合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University
Museum)に保管されている.体色の記載に用い
た生鮮時のカラー写真は同館の画像データベース
に登録されている.
結果と考察
Halicampus spinirostris (Dawson and Allen, 1981)
ヒメトゲウミヤッコ (Figs. 1–2)
標 本 KAUM–I. 68013, 体 長 119.7 mm, 鹿 児
島 県 大 隅 諸 島 屋 久 島 永 田 沖(30°23′35″N,
130°22′47″E),水深 7 m,手網,田代郷国,2014
年 12 月 27 日.
記載 背鰭軟条数 19;臀鰭軟条数 3;胸鰭軟
条数 13;尾鰭軟条数 10;体輪数 14 + 34 = 48;背
鰭基底下の体輪数 0.75 + 3.5 = 4.25.体各部の体
長に対する百分率(%)は以下の通り:躯幹長
36.9;尾部長 63.0;頭長 8.9;頭幅 3.7;吻長 2.5;
吻高 1.3;眼窩径 1.7;両眼間隔幅 1.0;躯幹部で
の最大体輪高(第 6 躯幹輪)3.7;体幅 3.7;尾部
での最大体輪高(第 1 尾輪)3.3;背鰭基底長 7.8;
胸鰭長 2.3;胸鰭基底長 1.4;尾鰭長 1.3.
吻は比較的短く,頭長は吻長の 3.5 倍.吻背面
の中央隆起線は不連続で,3 つの独立した棘をも
つ;最前方のものは小さく,最後方のものは三叉
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Fig. 1. Dorsal (upper) and lateral (lower) views of fresh specimen of Halicampus spinirostris. KAUM–I. 68013, 119.7 mm SL, Yaku-shima
island, Kagoshima, Japan.
は盛り上がらない.各体輪の隆起はよく発達し,
尾輪上隆起線のものはその後縁が鎌状になる.胸
鰭の後縁は円形で,第 2 体輪の前縁に達する.尾
鰭は円形で小さい.躯幹輪と尾輪の隆起線に分岐
した小さな皮質突起をもつ.
生鮮時の色彩(Figs. 1–2) 体色は乳白色から
薄い黄色.体側に不明瞭な細い白色横帯が 8 本あ
る.吻部腹面から眼後方にかけて不規則な濃褐色
Fig. 2. Lateral view of head of Halicampus spinirostris. KAUM–I.
68013, 119.7 mm SL, Yaku-shima island, Kagoshima, Japan.
の横帯がはいる.後頭部,鰓蓋部および胸鰭基底
部は茶色がかる.眼に赤褐色帯が放射状にはいる.
分布 本種はスリランカからアメリカ領サモ
アとマーシャル諸島にかけて,およびオーストラ
する.吻側面に 3 つの棘をもつ;最前方のものは
リアとニューカレドニアから琉球列島南部にかけ
吻側面上方に位置し,中央のものは吻側面中央,
ての東インド洋と西太平洋に分布する(Dawson,
最後方のものは吻側面中央よりやや上方にある.
1985;Fricke, 2004;Kuiter, 2009; 松 沼 ほ か,
眼窩縁は隆起し,棘状をなす;特に背縁は大きく
2013).日本国内では沖縄県石垣島と慶留間島,
はりだし,先端は斜め後方を向く.眼縁付近に小
鹿児島県与論島(松沼ほか,2013)および屋久島
さな皮弁が散在する.眼窩上後方に斜め後方を向
(本研究)から記録されている.
く強い 1 棘があり,さらにその後方に小さな 1 棘
備考 調査標本は体輪数が 14 + 34 = 48,躯幹
をもつ.頭頂部の中央隆起線はよく発達し,不連
部と尾部の上隆起線が不連続,躯幹部下隆起線が
続で 3 つに分かれる;最後部は第 2 躯幹輪に達し
第 1 尾輪で終わる,躯幹部中央隆起線が尾部下方
ない.主鰓蓋骨隆起線は良く発達し,その始部前
隆起線と連続する,頭長が吻長の 3.5 倍,吻背面
方に 1 棘をもつ.眼窩上方と頭頂部の隆起線,吻
の中央隆起線に 3 つの独立した棘をもつ,吻側面
部から主鰓蓋骨前方にかけての腹面,および主鰓
に 3 つの棘をもつ,眼窩上後縁付近の後頭部と主
蓋骨の前方から中央にかけての頭部側面に分枝し
鰓蓋骨隆起線始部の前方に棘をもつ,頭部に多数
た多数の皮弁をもつ;背部のものは特によく発達
の分枝した皮弁をもつなどの特徴が Dawson and
する.胸鰭基底部に縦走する発達した隆起線があ
Allen(1981)や Dawson(1985)による H. spini-
る.鰓蓋上後縁から胸鰭基部にかけては棘状に隆
rostris の記載や図とよく一致したため,本種に同
起する.躯幹部と尾部の上隆起線は不連続.躯幹
定された.
部下隆起線は第 1 尾輪で上方へ曲がり終わる.躯
Dawson and Allen(1981)は H. spinirostris の記
幹部中央隆起線は第 13–14 躯幹輪で下方に向か
載において,眼窩縁上方が張り出す隆起をなすと
い,尾部下隆起線に連続する.背鰭基底下の体輪
した.しかし,松沼ほか(2013)が記載した未成
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
魚と思われる 2 標本(体長 30.0–35.4 mm)には
における自律的発展に寄与する研究の推進-「環
この形質がみられなかった.眼窩背側の隆起の有
境変動に対する適応策の構築-地域・学際比較研
無について,松沼ほか(2013)は成長に伴って発
究による提言-」の一環として行われた.本研究
現する形質であるか,あるいは地理的な変異であ
の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,23580259,
ると考えた.調査標本は体長 119.7 mm と大きく,
24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究
眼窩背側の隆起が顕著に見られたことから,この
教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の
形質は成長に伴って発達すると考えられる.
研究教育ネットワーク構築」,総合地球環境学研
Halicampus spinirostris は,松沼ほか(2013)に
究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビ
よって鹿児島県与論島と沖縄県慶留間島から得ら
リティーの向上プロジェクト」,国立科学博物館
れた 2 標本および石垣島で撮影された本種の生態
「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関す
写真に基づき日本初記録として報告され,新標準
る研究プロジェクト」,文部科学省特別経費-地
和名ヒメトゲウミヤッコが提唱されて以降,日本
域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とそ
から記録されていなかった.よって,屋久島から
の保全に関する教育研究拠点形成」,および鹿児
得られたヒメトゲウミヤッコの記録は,本種の分
島大学重点領域研究環境(生物多様性プロジェク
布北限を更新するものであり,本種が琉球列島に
ト)学長裁量経費「奄美群島における生態系保全
広く分布することを示唆する.また,H. spiniro-
研究の推進」の援助を受けた.
stris は体長 115–120 mm まで成長すると考えられ
ており(Dawson, 1985),Randall(2005)や Allen
and Erdmann(2012)は,標本に基づき本種の最
大全長を 11.2 cm と報告している.本研究の調査
標本は全長 121.4 mm であることから,これまで
に知られる H. spinirostris の最大個体であると思
われる.
屋久島産の標本は水深 7 m の岩礁帯の転石下
に単独で潜んでいたところを採集された.
謝辞
標本採集において屋久島ダイビングサービス
「もりとうみ」の原崎 森氏,レグルスダイビン
グの加藤昌一氏,および鹿児島大学魚類分類学研
究室の吉田朋弘氏と金出侑佳氏に多大なご協力を
いただいた.文献収集に関して西海区水産研究所
の松沼瑞樹氏にご協力いただいた.鹿児島大学総
合研究博物館ボランティアの原口百合子氏,内村
公大氏,および同大学魚類分類学研究室のみなさ
まには標本の登録と管理にご協力いただいた.以
上の方々に深く感謝の意を表する.本研究は,鹿
児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多
様性調査プロジェクト」と同大学学長裁量経費・
研究コアプロジェクト(島嶼)-国内外島嶼地域
引用文献
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39
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
40
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
屋久島から得られたウスメバル Sebastes thompsoni の南限記録
1
2
3
岩坪洸樹 ・山口 実 ・畑 晴陵 ・本村浩之
1
4
〒 898–0001 鹿児島県枕崎市松之尾町 33–1 枕崎お魚センター 1F 鹿児島水族博物館
2
3
〒 890–0063 鹿児島市鴨池 1–36–12 山実水産
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
4
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ウスメバル Sebastes thompsoni (Jordan and Hubbs,
1925) は,岩手県から得られた 1 標本と大阪府か
ら得られた 2 標本に基づき新種記載された.ウス
メバルは日本と朝鮮半島東岸から南岸にかけて分
布し,日本国内ではこれまでに,北海道から高知
県土佐湾にかけての太平洋沿岸,北海道から対馬
にかけての日本海沿岸,および大阪府沿岸から記
録 さ れ て い る( 中 坊・ 甲 斐,2013 な ど ).
Motomura et al. (2010) は,2008 年 か ら 2009 年 に
かけて大隅諸島屋久島でほぼ網羅的な魚類相調査
を行い,標本採集や水中写真の収集をするととも
に,それ以前の屋久島産の標本や屋久島産の魚類
を報告した文献も調査し,112 科 382 属 951 種の
海 産 魚 類 を 記 録 し た. そ の 後 Motomura and
Aizawa (2011) などによって追加報告がなされた
が,屋久島から採集されたメバル科魚類の報告は
ア ヤ メ カ サ ゴ Sebastiscus albofasciatus (Lacepède,
1802) のみである (Motomura et al., 2010).
2015 年 4 月 7 日に屋久島南方沖で 1 個体のウ
スメバルが採集された.本標本は,鹿児島県にお
ける初めての記録であり,屋久島の魚類相の追加
Iwatsubo, H., M. Yamaguchi, H. Hata and H. Motomura.
2015. Occurrence of Goldeye Rockfish, Sebastes
thompsoni (Perciformes: Sebastidae), from Yaku-shima
island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture,
southern Japan. Nature of Kagoshima 41: 41–45.
HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto,
Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum.
kagoshima-u.ac.jp).
種となると同時に,ウスメバルの南限記録となる
ため,ここに記載し報告する.また,本報告では
ウスメバルの分布について若干の考察をおこなっ
た.
材料と方法
標本の計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947)
にしたがった.標本の作製法は本村(2009)にし
たがった.標準体長(standard length)は体長(SL)
と表記した.計測はデジタルノギスを用いて 0.1
mm 単位までおこない,計測値は体長に対する百
分率で示した.胸鰭軟条数は左体側のものを計数
し た. 生 鮮 時 の ウ ス メ バ ル の 体 色 の 記 載 は,
KAUM–I. 71407 の生鮮時のカラー写真に基づく.
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
館に保管されており,標本のカラー写真は同館の
画像データベースに登録されている.本報告で用
いられている研究機関略号は,以下のとおり:
KAUM— 鹿児島大学総合研究博物館;WMNHPIS-WW -和歌山県立自然博物館池田魚類コレク
ション.
結果と考察
Sebastes thompsoni (Jordan and Hubbs, 1925)
ウスメバル (Fig. 1; Table 1)
標 本 KAUM–I. 71407, 体 長 223.3 mm, 鹿 児
島県屋久島南方沖(鹿児島市中央卸売市場魚類市
場にて購入),2015 年 4 月 7 日,水深約 80 m,釣
り,山口 実・岩坪洸樹.
41
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Sebastes thompsoni from Yaku-shima island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan (KAUM–I.
71407, 223.3 mm standard length).
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
分に,不定形の濃褐色帯が合計 5 本ある.眼の外
を Table 1 に示した.体は楕円形で,よく側扁する.
縁は黄色.光彩は黒色がかった金色.背鰭棘部は
頭部と体は櫛鱗で被われる.口は端位かつ斜位.
淡い褐色.各鰭の軟条部は桃色だが,腹鰭と臀鰭
主上顎骨後端は眼の中央を通る垂線に達する.下
は淡い.
顎は上顎よりやや突出する.鼻孔は 2 対あり,前
分布 日本と朝鮮半島東岸から南岸にかけて
鼻孔と後鼻孔はほぼ同大.前鼻孔に 1 皮弁を有す
分布する(Mori, 1952; Kim et al., 2005;中坊・甲斐,
る.眼窩下縁は滑らかである.涙骨に顕著な棘が
2013).国内では,北海道から高知県土佐湾にか
2 本ある.頭頂棘は鈍く,一部は小さい鱗に被わ
けての太平洋沿岸,北海道から対馬にかけての日
れている.頬部は滑らかで隆起線や棘がない.前
本海沿岸,大阪府沿岸,および鹿児島県屋久島に
鰓蓋骨後縁に棘が 5 本あり,第 2 棘が最も大きく,
分 布 す る(Jordan and Hubbs, 1925; 岡 田 ほ か,
続いて第 3 棘,第 1 棘の順に小さい.前鰓蓋骨後
1935;Matsubara, 1943;Lindberg and Krasyukova,
縁の第 4・5 棘は痕跡的.主鰓蓋骨上に顕著な棘
1987;Nagasawa and Kobayashi, 1995;中坊・甲斐,
が 2 本あり,第 1 棘が第 2 棘より大きい.主鰓蓋
2013;池田・中坊,2015;本報告).
骨の上方に棘が 2 本あり,それぞれほぼ同大で,
備考 記載標本は,眼窩下縁が滑らかである
主鰓蓋骨上の第 1 棘よりやや小さい.側線は主上
こと,頬部は滑らかで隆起線や棘がないこと,涙
顎骨上端の上方から始まり尾鰭基底まで達する.
骨に顕著な棘が 2 本あること,頭頂棘は鈍く,一
背鰭棘は第 1 棘が最も小さく,第 3 棘の 1/2 以下
部が小さい鱗に被われていること,側線有孔鱗数
の長さである.臀鰭棘は第 2・3 棘がよく発達し,
が 55 であること,体側の上半分に不定形の濃褐
それぞれ第 1 棘の 2 倍以上の長さである.尾鰭は
色帯が合計 5 本あることなどの特徴を有する.こ
截形.
れらの特徴は中坊・甲斐(2013)で示されたウス
色彩 生鮮時の色彩 — 頭部と体側の地色は桃
メバル Sebastes thompsoni (Jordan and Hubbs, 1925)
色で,上部でやや濃く,下部で淡い.体側の上半
の特徴と一致するため,記載標本をウスメバルと
42
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
同定した.また,記載標本は本報告で用いた比較
あ る. 中 坊・ 甲 斐(2013) は, 大 阪 府(Jordan
標本(日本海産)とも計数・計測値が近似した
and Hubbs, 1925; Matsubara, 1943),高知県(Lindberg
(Table 1).
and Krasyukova, 1987)
,および黄海(金,2006)か
ウスメバルは日本国内ではこれまでに,北海
らの記録を,ウスメバルの分布域としては特異的
道(益田・小林,1994;前田・筒井,2003;石田,
なもので,検討が必要であるとして分布に含めな
2009), 山 形 県( 望 月,1985), 新 潟 県( 本 間,
かった.しかし,その後の報告で和歌山県から得
1952; Nagasawa and Kobayashi, 1995), 京 都 府
られたウスメバル 2 標本[WMNH-PIS-WW 29706
(Nagasawa and Kobayashi, 1995;田中,1998),兵
(1),体長 205 mm, 29706 (2), 259 mm]が記録され
庫県日本海側(鈴木・宇野,1993; Nagasawa and
た(池田・中坊,2015).和歌山県からの記録は,
Kobayashi, 1995), 岩 手 県(Jordan and Hubbs,
中坊・甲斐(2013)が分布の太平洋側の南限とし
1925),相模灘(Senou et al., 2006),和歌山県(池
た相模湾から大阪府と高知県までの分布の空白域
田・ 中 坊,2015), 大 阪 府(Jordan and Hubbs,
を埋めるものである.よって,北海道から高知県
1925; Matsubara, 1943),および高知県(Lindberg
までの太平洋沿岸と大阪府沿岸をウスメバルの分
and Krasyukova, 1987)などから記録がある.した
布域として扱うのが妥当である.
がって,記載標本は,ウスメバルの鹿児島県初記
屋久島産のウスメバルも,従来の分布域から
録となるとともに,分布の南限を更新するもので
考えると極めて特異的なものである.これまでに
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Sebastes thompsoni.
KAUM–I.
Locality
Standard length (SL; mm)
Counts
Dorsal-fin rays
Anal-fin rays
Pectoral-fin rays
Pectoral-fin rays (unbranched)
Pelvic-fin rays
Gill rakers on first gill arch
Tubed lateral-line scales
Measurements (% SL)
Head length
Snout length
Orbit diameter
Interorbital width
Maximum body depth
Maximum body width
Caudal-peduncle depth
Upper-jaw length
Mandible length
Pre-dorsal-fin length
Pectoral-fin length
Pelvic-fin length
Pelvic-fin spine length
1st dorsal-fin spine length
2nd dorsal-fin spine length
3rd dorsal-fin spine length
4th dorsal-fin spine length
5th dorsal-fin spine length
12th dorsal-fin spine length
13th dorsal-fin spine length
1st anal-fin spine length
2nd anal-fin spine length
3rd anal-fin spine length
71407
Kagoshima
223.3
9819
Yamagata
162.9
39640
Kyoto
45.7
39641
Kyoto
43.4
XIII, 14
II, 7
16
8
I, 5
38
55
XIII, 14
III, 7
16
8
I, 5
41
53
XIII, 14
III, 7
17
9
I, 5
39
53
XIII, 13
II, 7
16
8
I, 5
39
55
35.0
5.4
9.8
8.6
36.5
17.1
11.2
16.0
12.4
32.7
28.9
21.4
13.4
6.4
9.5
13.2
13.9
13.8
6.9
11.4
5.9
12.5
13.8
34.1
4.8
10.0
8.6
39.7
20.9
11.2
14.2
11.8
33.3
27.4
20.3
13.6
6.1
9.9
13.6
14.4
14.2
8.5
—
6.0
13.3
15.7
35.4
5.0
11.4
8.8
34.8
14.4
9.6
14.0
11.4
35.0
29.3
20.1
14.9
6.8
11.8
14.2
14.9
15.1
9.8
12.0
6.8
17.3
17.1
35.7
4.8
12.4
9.4
32.7
14.7
9.9
14.1
10.4
34.6
29.0
19.6
14.7
7.1
11.5
14.5
15.4
15.7
9.2
12.2
7.4
18.0
17.1
43
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
鹿児島県周辺海域から採集されて分布の南限記録
学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調
として報告された魚類で,薩摩半島西岸沖を流れ
査プロジェクト」の一環として行われた.また,
る南下流によって運ばれてきたものと考えられる
本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
例 が あ る. ム ラ ソ イ Sebastes pachycephalus
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
pachycephalus Temminck and Schlegel, 1843 は鹿児
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
島県北西部では普通にみられるが,薩摩半島西岸
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
からの記録はなく,2007 年に鹿児島湾から幼魚
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
が 1 個体採集された(本村,2007).鹿児島湾で
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
はムラソイの成魚の記録もないことから,採集さ
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
れた幼魚は薩摩半島西岸を流れる南下流によって
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
八代海方面から運ばれてきたと考えられている
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
(本村,2012).さらに,2012 年には屋久島北部
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
一湊沖で 1 個体のクジメ Hexagrammos agrammus
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
(Temminck and Schlegel, 1844) が撮影された(本村,
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
2015).クジメの分布は長崎県が南限であること
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
と,屋久島からは 1 個体のみしか確認されていな
いことから,屋久島で確認されたクジメも南下流
によって運ばれてきたと考えられている(本村,
2015).したがって,本報告での屋久島産のウス
メバルも,薩摩半島西岸沖を流れる南下流によっ
て運ばれてきた可能性が高い.
本報告で用いたウスメバルの標本(KAUM–I.
71407)は,選別の際に市場で用いられる手鉤に
よって開けられた穴が,左側の主鰓蓋骨と胸鰭下
方のそれぞれにある.
比較標本 KAUM–I. 9819,体長 162.9 mm,山
形 県 飛 島 沖,1996 年, 本 村 浩 之.KAUM–I.
39640, 体 長 45.7 mm,KAUM–I. 39641, 体 長
43.4 mm, 京 都 府 舞 鶴 市 瀬 崎 地 崎(35°32ʹ32ʺN,
135°20ʹ30ʺE),2011 年 7 月 4 日,定置網,荻原豪
太・甲斐嘉晃.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島県漁
業協同組合連合会の宮内浩三氏には屋久島産ウス
メバル(KAUM–I. 71407)の採集情報を提供して
いただいた.また,鹿児島大学総合研究博物館ボ
ランティアの皆さまには標本整理などのご協力を
いただいた.以上の諸氏に対して深く感謝の意を
表する.なお本研究は,鹿児島水族博物館の「か
ごしま 市場の魚図鑑プロジェクト」と鹿児島大
44
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
種子島とトカラ列島から得られたハナハタ
Cephalopholis aurantia の北限記録
小枝圭太・本村浩之
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ハタ科ユカタハタ属 Cephalopholis は頭長が体
長の 37.0–45.5% であること,前鰓蓋骨下縁に前
向棘がないこと,背鰭棘条数が 9 棘 13–17 軟条で
あること,臀鰭棘条数が 3 棘 8–9 軟条であること,
胸鰭中央部の鰭条が最長であること,尾鰭が湾入
せ ず 円 形 で あ る こ と[ ミ ナ ミ ハ タ C. polleni
(Bleeker, 1868) を除く]などの特徴をもち(Randall
and Heemstra, 1991;Heemstra and Randall, 1993;
瀬能,2013),日本からはアオノメハタ C. argus
Bloch and Schneider, 1801, ハ ナ ハ タ C. aurantia
(Valenciennes, 1828), ヤ ミ ハ タ C. boenak (Bloch,
1790),アオスジハタ C. formosa (Shaw, 1812),シ
マハタ C. igarashiensis Katayama, 1957,ミナミイ
ソハタ C. leopardus (Lacepède, 1801),
ユカタハタ C.
miniata (Forsskål, 1775),ミナミハタ,コクハンハ
タ C. sexmaculata (Rüppell, 1830), ア ザ ハ タ C.
sonnerati (Valenciennes, 1828), ア カ ハ ナ C.
spiloparaea (Valenciennes, 1828),
およびニジハタ C.
urodeta (Forster, 1801) の 12 種が知られている(瀬
能,2013).
ハナハタは,これまで国内では沖縄諸島のみ
から記録されていた(瀬能,2013).2012 年 12
月 21 日に種子島で,2015 年 3 月 21 日にトカラ
列島南方沖でそれぞれ 1 個体のハナハタが採集さ
れた.これらの標本は,鹿児島県ならびに薩南諸
島における本種の標本に基づく初めての記録とな
るとともに,種子島から得られた個体は本種の分
布北限を更新する記録となるため,ここに報告す
る.
材料と方法
計 数・ 計 測 方 法 は Randall and Heemstra (1991)
にしたがった.標準体長は体長と表記し,デジタ
ルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.ハナ
ハタの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影され
た鹿児島県産の 2 標本(KAUM–I. 52537,70640)
のカラー写真に,固定後の体色の記載は,種子島
産の 1 標本(KAUM–I. 52537)にそれぞれ基づく.
標本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)
に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学
総 合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University
Museum)に保管されており,上記の生鮮時の写
真は同館のデータベースに登録されている.なお,
ハナハタの比較標本として,次の 6 個体を用いた.
KAUM–I. 49814,体長 171.1 mm,沖縄島読谷村
渡具知,桜井 雄,漂着個体;KAUM–I. 57256,
58724, 61567, 61568, 63707, 69732,6 個 体, 体 長
176.3–231.6 mm,沖縄島那覇市泊いゆまちにて購
入,桜井 雄.
結果と考察
Koeda, K. and H. Motomura. 2015. First record of Cephalopholis
aurantia (Perciformes: Serranidae) from Tanega-shima
island and the Tokara Islands, Kagoshima, Japan. Nature
of Kagoshima 41: 47–52.
KK: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: hatampo@
gmail.com).
Cephalopholis aurantia (Valenciennes, 1828)
ハナハタ (Figs. 1–2; Table 1)
標 本 KAUM–I. 52537, 体 長 246.2 mm, 鹿 児
島 県 種 子 島 西 之 表 市 伊 関 庄 司 浦 沖(30°47′N,
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Fig. 1. Fresh specimens of Cephalopholis aurantia. A: KAUM–I. 52537, 246.2 mm standard length (SL), off Nishinoomote, Tanega-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan; B: KAUM–I. 70640, 223.4 mm SL, south of Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
131°05′E; 西 之 表 市 漁 業 協 同 組 合 に て 購 入 ),
吻端から眼前域までの背縁は直線状で,眼の後方
2012 年 12 月 21 日,釣り,高山真由美;KAUM–I.
で膨らんだのち,背鰭起部まで湾曲する.両眼間
70640,体長 223.4 mm,鹿児島県トカラ列島南方
隔はわずかに凹む.口裂は大きく,主上顎骨後端
沖(29°00′N, 129°00′E;鹿児島市中央卸売市場魚
は眼の中央直下よりも後方に達するが,眼の後縁
類市場にて購入),2015 年 3 月 19 日,釣り,小
を越えない.両顎,鋤骨および口蓋骨に歯がある.
枝圭太.
舌骨上に歯はない.両顎の歯は繊毛状で,複数列
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
の歯帯が後方に向かって細長く延び,下顎前部に
を Table 1 に示した.体は楕円形で,強く側扁し
鋭い牙状の円錐歯がみられる.前鰓蓋骨および主
ない.頭は小さくなく,体高は背鰭起部で最大.
鰓蓋骨の外縁は円滑で,前鰓蓋骨下縁に前向棘が
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ない.主鰓蓋骨は 3 本の棘をもつ.主鰓蓋骨上縁
は眼を大きく超え,前鰓蓋骨上縁が眼の上縁に達
する.側線は完全で,主鰓蓋骨上方から始まり,
背鰭第 6 棘起部直下から背鰭基部後端直下まで下
降したのち,尾柄部で水平となる.
胸鰭基部は背鰭起部の直下で腹鰭起部の直上.
胸鰭は長く,後端は総排泄孔直上を超えて背鰭第
2 軟条起部直下および臀鰭起部直上に達する.胸
鰭は丸く,中央の鰭条が最長.たたんだ腹鰭の後
端は背鰭第 8 棘起部直下で,総排泄孔に達するか,
わずかに達しない.腹鰭第 5 軟条と腹部の間に鰭
膜がある.背鰭棘間の鰭膜は欠刻する.背鰭と臀
鰭の基底部に鱗域がある.臀鰭基部後端は背鰭基
部後端直下よりやや前方に位置する.尾鰭は円形.
色彩 生鮮時の色彩 ― 体側の地色は赤橙色で,
背側はやや黒味を帯びる.頭部は赤色で眼前域,
両眼間隔,前鰓蓋骨,主鰓蓋骨,上顎骨上部には
柿色の斑点が点在する.胸部,腹部,臀鰭基部上
方に瞳孔大の極めて薄い赤色班がまばらに点在す
る.下顎歯は白色がかった透明.背鰭と臀鰭,尾
Fig. 2. Color photographs of anteroposterior margin of caudal fin
of Cephalopholis aurantia. A: KAUM–I. 52537, 246.2 mm SL,
off Tanega-shima island; B: KAUM–I. 70640, 223.4 mm SL,
off Tokara Islands.
鰭は体側と同じ赤橙色で,KAUM–I. 52537 では
背鰭と尾鰭の鰭膜に柿色の斑点が点在するが,
KAUM–I. 70640 では斑点をもたない.背鰭棘部
無鱗域の鰭膜は黄色で鰭膜縁辺は赤色.背鰭およ
300 m の深場から採集される.しかし,ニューギ
び臀鰭の外縁は黒くない.胸鰭は一様に濃い赤橙
ニア南岸,オーストラリア西岸と北岸からの記録
色.腹鰭の軟条は山吹色で,前縁および鰭膜の先
はない(Randall and Heemstra, 1991;Heemstra and
端半分は赤色.KAUM–I. 52537 では,後縁が半
Randall, 1993). 国 内 で は, 沖 縄 島(Randall and
透明で縁どられ,その内側に淡い暗色帯があるが
Heemstra, 1991;Heemstra and Randall, 1993;片岡,
(Fig. 3A),KAUM–I. 70640 では,尾鰭は非常に
1984)およびトカラ列島と種子島(本研究)から
狭い幅の半透明帯で縁どられ,その内側に後縁に
並走した細い青白色帯がある(Fig. 3B).
記録されている.
備考 本報告で鹿児島県から得られた 2 標本
固定時の色彩 ― 体側および頭部,各鰭は一様
は,頭長が体長の 37.0–40.0% であること,前鰓
に淡黄色で,背側はやや黒味を帯びる.眼の前方
蓋骨下縁に前向棘がないこと,背鰭が 9 棘 15 軟
域,両眼間隔は淡褐色で,淡黄色の斑点が残るが,
条であること,胸鰭中央部の鰭条が最長であるこ
前鰓蓋骨,主鰓蓋骨,上顎骨上の斑点は消失する.
と,尾鰭が湾入せず,円形であることなどの特徴
胸部,腹部,臀鰭基部上方の赤色班も消失する.
から,Randall and Heemstra (1991) および Heemstra
背鰭と尾鰭の斑点は消失するが,背鰭,臀鰭,尾
and Randall (1993) に よ っ て 定 義 さ れ た Cepha-
鰭の軟条域外縁に非常に狭い幅の淡い暗色域をも
lopholis 属と同定された.また,頭部輪郭が眼の
つ.
後方で膨らみやや丸みを帯びること,胸鰭後縁が
分布 アフリカ東岸からソシエテ諸島にかけ
てのインド・西太平洋に広く分布し,水深 100–
総排泄孔を超え,胸鰭長が頭長の 76.3–76.9% で
あること,たたんだ腹鰭が総排泄孔に達するか,
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わずかに達せず,頭長の 55.9–59.1% であること,
Randall (1993) が示した体側背側および背鰭基部
体側と頭部,頬部は赤色から赤橙色で頭部に黄色
の斑点をもつという特徴は,KAUM–I. 70640 の
から赤橙色の斑点が点在すること,臀鰭外縁は黒
特徴と一致せず,また KAUM–I. 52537 では尾鰭
くないこと(固定後は淡い暗色域をもつ)
,尾鰭
にも斑点をもつという点で一致しない.さらに,
後縁付近に細い青白色帯をもつこと,尾鰭上下端
沖縄諸島から採集され,本研究で比較をおこなっ
に赤色部がないことなどが,Randall and Heemstra
た 5 標 本 で は, 背 鰭 と 尾 鰭 に 斑 点 を も つ 個 体
(1991) や Heemstra and Randall (1993),瀬能(2013),
(KAUM–I. 58724),背鰭にのみ斑点をもつ個体
桜井(2013)の報告した Cephalopholis aurantia の
(KAUM–I. 61568),背鰭と尾鰭に斑点をもたない
標徴と一致したため,本種と同定された.ただし,
個体(KAUM–I. 57256, 61567, 63707)がみられた.
Randall and Heemstra (1991) や Heemstra and
Randall and Heemstra (1991) は,ハタ科魚類の体
Table 1. Measurements and counts of Cephalopholis aurantia. Means in parentheses.
Kagoshima, Japan
Standard length (SL; mm)
Counts
Dorsal fin rays
Anal fin rays
Pectoral fin rays
Pelvic fin rays
Principal caudal fin rays
Pored lateral-line scales
Longitudinal scale series
Scale rows above lateral line
Scale rows below lateral line
Circumpeduncular scales
Gill rakers on upper limb
Gill rakers on lower limb
Measurements (%SL)
Body depth
Body width
Head length
Snout length
Orbit diameter
Interorbital width
Suborbital depth
Upper jaw length
Caudal peduncle depth
Caudal peduncle length
Pre-dorsal-fin length
Pre-anal-fin length
Pre-pelvic-fin length
Dorsal fin base
1st dorsal spine length
2nd dorsal spine length
3rd dorsal spine length
9th dorsal spine length
Longest dorsal ray length
Anal fin base
1st anal spine length
2nd anal spine length
3rd anal spine length
Longest anal ray length
Caudal fin length
Pectoral fin length
Pelvic spine length
Pelvic fin length
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Okinawa-jima island
Tanega-shima island
Tokara Islands
KAUM–I. 52537
KAUM–I. 70640
n=7
239.3
223.4
171.3–231.6
IX, 15
III, 9
17
I, 5
17
50
97
19
38
50
8 (8)
14 (6)
IX, 15
III, 9
16
I, 5
17
54
97
19
39
48
8 (7)
14 (6)
IX, 15
III, 9
16
I, 5
16–18
49–53
95–99
19–20
37–40
47–51
7–8 (5–7)
14–15 (5–6)
40.1
16.9
40.6
10.9
7.4
5.9
4.3
19.1
14.7
14.7
42.1
71.8
44.0
53.3
5.6
10.6
11.0
12.0
17.3
18.8
7.9
13.4
13.5
19.6
23.9
30.8
13.2
24.0
36.1
15.1
37.2
10.1
6.8
4.8
5.4
18.6
13.0
11.9
38.1
67.0
40.2
51.5
4.5
7.8
8.6
10.2
16.5
18.3
6.4
11.4
11.6
17.7
21.0
28.4
11.2
20.8
27.3–37.2 (31.9)
13.7–17.1 (14.8)
29.0–37.8 (33.5)
6.7–10.5 (8.7)
5.9–7.1 (6.6)
4.2–5.1 (4.6)
3.0–5.7 (4.4)
15.0–19.0 (16.8)
9.7–13.5 (11.8)
9.2–13.0 (11.3)
29.9–39.2 (34.4)
52.0–67.6 (60.2)
29.3–39.8 (35.3)
40.3–50.5 (45.6)
4.7–6.3 (5.3)
8.0–9.8 (8.9)
9.7–11.6 (10.6)
9.3–12.4 (10.4)
13.2–16.4 (14.1)
14.9–18.4 (17.1)
6.0–7.7 (6.7)
11.3–12.4 (11.7)
11.3–12.5 (11.9)
14.9–17.7 (16.2)
16.9–22.2 (19.5)
22.6–28.7 (25.7)
9.7–12.1 (10.7)
17.1–21.2 (19.3)
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
色が成長にともない変化することを指摘してお
(2013)にみられた見解の相違については,日本
り,斑点をもつ種ではそれが特に顕著であるとし
産だけでなくインド・太平洋産のアカハナの標本
ている.本研究において比較をおこなった標本は,
を含めた慎重な検討が必要であるが,本稿はそれ
体長の差異も少なく成長に伴う変化とは考えられ
を目的とするものではないこと,今回報告した鹿
ないものの,そもそもハタ科魚類の色彩に関する
児島県産の標本は 2 個体とも臀鰭外縁に黒色帯が
特徴には,多くの種で変異が認められていること
なかったことから(固定後は淡い暗色域がみられ
か ら(Randall and Heemstra, 1991;Heemstra and
た),これら 2 個体をハナハタとして扱った.
Randall, 1993),本報告で扱った標本にみられた
今後,両種の形態や遺伝子を用いた包括的な
背鰭と尾鰭における斑点の有無については種内で
研究により,ハナハタとアカハナの識別的特徴を
の個体変異とみなした.
明確にするとともに,ハナハタにみられる色彩の
ま た,Randall and Heemstra (1991) は, イ ン ド
洋から得られた本種の尾鰭が青白色帯で縁どら
パタンが種内の個体変異あるいは地域変異である
ことを検証する必要がある.
れ,その内側に後縁に並走した黒色帯があるとす
日本国内における本種に関する報告は,沖縄
る一方,太平洋産の標本では淡い青色か薄い黒色
諸島のものに限られている(Randall and Heemstra,
体で縁どられると報告した.本研究において種子
1991;Heemstra and Randall, 1993; 瀬 能,2013).
島から得られた標本(KAUM–I. 52537)は,尾鰭
益田ほか(1975)と片岡(1984)は本種を琉球列
の色彩の特徴が Randall and Heemstra (1991) の太
島から報告したが,産地などの記載がないため不
平洋産の特徴と一致したが,トカラ列島から得ら
明であるものの,沖縄諸島産あるいは八重山諸島
れた標本(KAUM–I. 70640)では,どちらの特徴
産である可能性が高い(吉野哲夫氏,私信).し
とも一致しなかった.ただし,沖縄島産の 5 標本
たがって,本報告の調査標本は,鹿児島県ならび
では,後縁が半透明で内側に青白色帯をもつ個体
に薩南諸島からの本種の標本に基づく初めての記
(KAUM–I. 57256, 61568),後縁が青白く内側に黒
録となる.また,種子島から採集されたハナハタ
色帯をもつ個体(KAUM–I. 58724),後縁が半透
明で内側にごく薄い黒色体をもつ個体(KAUM–I.
61567),後縁が半透明で内側に他の色の帯をもた
の標本は,本種の分布の北限記録となる.
謝辞
ない個体(KAUM–I. 63707)と多様な色彩パタン
本報告を取りまとめるにあたり,吉野哲夫氏
がみられた.このことから,Randall and Heemstra
(元琉球大学)に過去の採集標本に関する有益な
(1991) が報告したインド洋産の個体と太平洋産の
情報をいただいた.また,種子島産の標本の採集
個体の間にみられる尾鰭色彩の変異は,海域間の
に際しては,高山真由美氏(鹿児島大学総合研究
違いではなく,個体間の違いである可能性がある .
博物館ボランティア)および種子島漁業協同組合
比較をおこなった沖縄島産の 5 標本のうち 3
の皆様,田中 積氏(田中水産)および鹿児島市
標本は,背鰭と臀鰭の軟条部外縁が非常に狭く淡
中央卸売市場魚類市場,鹿児島県漁業協同組合連
い黒色帯で縁どられていた.Randall and Heemstra
合会の皆様,沖縄諸島産の標本の収集に際しては
(1991) お よ び Heemstra and Randall (1993) は, 多
桜井 雄氏(沖縄環境調査株式会社)に多大なご
くの個体がこの特徴をもつとしているが,瀬能
協力を頂いた.桜井 雄氏ならびに鹿児島大学博
(2013)は臀鰭外縁に黒色帯がないことをアカハ
物館魚類分類学研究室の畑 晴陵氏・吉田朋弘氏
ナとの識別的特徴としている.本研究においては,
には,本原稿に対し適切な助言を数多く頂いた.
鮮時にはみられなかった背鰭と臀鰭の暗色域が固
これらの方々に謹んで感謝の意を表する.標本の
定後にみられるなど,標本の状態によっても有無
作成・登録作業などを手伝ってくださった原口百
が異なることが示された.Randall and Heemstra
合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館
(1991) お よ び Heemstra and Randall (1993) と 瀬 能
ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
室の皆さまに厚く御礼を申し上げる.本研究は,
鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の
多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.
本研究の一部は JSPS 研究奨励費(PD:26-477),
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
進」の援助を受けた.
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RESEARCH ARTICLES
引用文献
Heemstra, P. C. and Randall, J. E. 1993. FAO species catalogue.
Vol. 16. Groupers of the world. An annotated and illustrated
catalogue of the grouper, rockcod, hind, coral grouper, and
lyretail species known to date. FAO Fisheries Synopsis, No.
125 (16): 1‒382, pls. i‒xxxi.
片岡正夫.1984.ハナハタ.P. 125,pl. 113.益田 一・尼
岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本産
魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本
の海水魚.東海大学出版会,東京.382 pp.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp.
Randall, J. E. and Heemstra, P. C. 1991. Revision of Indo-Pacific
groupers (percformes: Serranidae: Ephinephelinae), with description of five new species. Indo-Pacific Fishes, 20: 1–322.
桜井 雄.2013.アカハナ.Pp. 145–146.本村浩之・松浦
啓一(編).奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児
島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館,つ
くば.
瀬能 宏.2013.ハタ科.Pp. 757–802,1960–1971.中坊徹
次(編)
.日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海
大学出版会,秦野.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
徳之島および沖縄島から得られたハタ科魚類
ジャノメヌノサラシ Grammistops ocellatus Schultz, 1953
1
吉田朋弘 ・本村浩之
1
2
2
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ハタ科 Serranidae は日本近海に 34 属 136 種が
分布する(岡本ほか,2012;Endo and Kenmotsu,
2013;瀬能,2013, 2014).そのうち,ジャノメヌ
ノサラシ属 Grammistops はジャノメヌノサラシ G.
ocellatus Schultz, 1953 のみで構成されており,国
内では奄美大島と瀬底島からのみ記録されている
(瀬能,2013;萩原,2015).
2014 年 7 月 9 日に沖縄島の中城村浜漁港,同
年 10 月 1 日に徳之島の西阿木名漁港沖において,
ジャノメヌノサラシが各 1 個体採集された.本標
本は徳之島と沖縄島における本種の標本に基づく
初めての記録ならびに国内 3 例目となるため,こ
こに報告する.
材料と方法
計数・計測方法はおおむね Randall and Baldwin
(1997) にしたがった.標準体長は体長と表記し,
デジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行った.ジャ
ノメヌノサラシの記載は KAUM–I. 65901 に基づ
く.また,本種の生鮮時の体色の記載は,固定前
に 撮 影 さ れ た 徳 之 島 産 の 1 標 本(KAUM–I.
65901)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,
撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報
Yoshida, T. and H. Motomura. 2015. Records of Grammistops
ocellatus Schultz, 1953 from Tokuno-shima and
Okinawa-jima islands in the Ryukyu Islands, Japan.
Nature of Kagoshima 41: 53–55.
TY: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k5299534@kadai.jp).
告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館
(KAUM)に保管されており,上記の生鮮時の写
真は同館のデータベースに登録されている.
結果と考察
Grammistops ocellatus Schultz, 1953
ジャノメヌノサラシ (Figs. 1–2)
標本 2 個体:体長 22.8–81.0+ mm.KAUM–I.
65271,体長 81.0+ mm,沖縄県中頭郡中城村浜漁
港(台風による打ち上げ個体),2014 年 7 月 9 日,
桜井 雄;KAUM–I. 65901,体長 22.8 mm,鹿児
島県大島郡天城町西阿木名西阿木名漁港沖
(27°45′33″N, 128°54′22″E), タ モ 網, 水 深 16 m,
2014 年 10 月 1 日,田代郷国.
記載 背鰭棘数 7;背鰭軟条数 12;臀鰭棘数 3;
臀鰭軟条数 8;胸鰭軟条数 14;腹鰭棘数 1;腹鰭
軟条数 5;側線有孔鱗数 65;総鰓耙数 5 + 12 =
17;櫛歯状に発達した鰓耙数 2 + 9 = 11.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
体高 26.8;体幅 14.5;頭長 39.9;眼径 9.2;吻長 7.0;
両眼間隔(骨質部で測定)3.5;上顎長 17.1;尾
柄長 11.4;尾柄高 15.4;背鰭前長 43.0;背鰭第 1
棘条長 7.9;背鰭第 2 棘条長 11.0;背鰭第 3 棘条
長 10.1; 背 鰭 第 4 棘 条 長 9.2; 背 鰭 最 長 軟 条 長
20.2;臀鰭前長 65.8;臀鰭第 1 棘条長 3.9;臀鰭
第 2 棘条長 7.9;臀鰭第 3 棘条長 4.8;臀鰭最長軟
条長 20.6;尾鰭長 29.4;胸鰭長 26.8;腹鰭前長
36.4;腹鰭棘条長 11.8;腹鰭最長軟条長 19.3.
体は細長く,やや側扁する.吻端から背鰭起部
にかけての背面は緩やかに曲がる.口は大きく斜
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Grammistops ocellatus. KAUM–I. 65901, 22.8 mm standard length, Amagi, Tokuno-shima island, Kagoshima,
southern Japan.
鶯色.体側下部は緑がかった暗灰色.鰓蓋上縁に
黒色斑がある.各鰭の棘および軟条は暗い鶯色で,
鰭膜は透明である.頭部は赤みを帯びた鶯色で,
体側後半は一様に暗い鶯色を呈する.主鰓蓋骨後
縁に 1 黒色斑を有し,その外縁は白色で縁取られ
る.
Fig. 2. Fresh specimen of Grammistops ocellatus. KAUM–I.
65271, 81.0+ mm standard length, Nakagusuku, Okinawa-jima
island, Okinawa, southern Japan.
備考 徳之島と沖縄島から採集された両標本
は,主鰓蓋骨上に 1 黒色斑があること,側線が 1
本であること,下顎に皮弁がないことから,瀬能
(2013)と萩原(2015)が記載したジャノメヌノ
位で,口裂はわずかに斜行し,主上顎骨後縁は眼
サラシ Grammistops ocellatus の標徴とよく一致し
後縁に達しない.瞳孔は洋梨型で前方に尖る.両
た.本種は通常 1 個の黒色斑が主鰓蓋骨上にある
顎は円錐歯が歯帯を形成し,歯帯の幅は前方が広
が,稀に 3 個もつ個体が確認されている(Randall,
く,後方は狭い.鋤骨と口蓋骨にも同様に円錐歯
2005).主鰓蓋骨上の黒色斑数の変異は,同じハ
の歯帯がある.前鼻孔は短い管を有し,その先端
タ科ヤマトトゲメギス属のヤマトトゲメギス
が開孔する.後鼻孔は孔状で,眼前縁近くに開孔
Aporops bilinearis Schultz, 1943 でも確認されてい
する.前鰓蓋骨の縁辺は円滑.前鰓蓋骨後縁に 2
る(吉田・本村,2014).また,ジャノメヌノサ
本の太い棘がある.主鰓蓋骨に 3 本の棘を有する.
ラシは前鰓蓋骨後縁に 0–1 棘をもつとされている
側線は 1 本で,鰓蓋上方から背鰭第 3 棘基底直下
(Schultz, 1953;萩原,2015)が,徳之島から得ら
にかけて曲線をなすように上昇し,背鰭第 10 軟
れた小型標本(KAUM–I. 65901; Fig. 1)は左体側
条基底部下にかけて緩やかに下降する.背鰭起部
の前鰓蓋骨後縁に 2 本の棘(右体側では 1 本)を
は第 9 側線鱗直上に位置する.胸鰭始部は背鰭第
有することが確認された(本研究).本種の前鰓
2 棘基底直下に位置する.胸鰭先端は背鰭第 6 棘
蓋骨後縁における棘の変異(0–2)は Randall (2005)
基底直下に位置する.臀鰭起部は背鰭第 1 軟条基
でも確認されている.本種の前鰓蓋骨後縁の棘数
底直下に位置する.腹鰭は短く,その先端は背鰭
は,成長に伴い変化するものかどうかは追加標本
第 5 棘基底直下に位置する.尾鰭は円形.
の観察が必要である.
色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は一様に暗い
沖縄島産の個体(KAUM–I. 65271; Fig. 2)は,
54
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
台風によって浜に打ち上げられた状態で発見され
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
たため,損傷が激しく計数・計測が困難な状態で
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
あったため,記載から除外した.計数可能な項目
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
は以下の通り.胸鰭条数 14,腹鰭条数 I, 5,総鰓
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
耙数 17,発達した鰓耙数 11.これらの計数値は
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
徳之島産の標本と同じ値を示した.
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
Grammistops ocellatus はビキニ環礁から得られ
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
た標本 1 個体に基づき新種記載された(Schultz,
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
1953).本種はインド・西太平洋に広く分布する
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
(Randall, 2005)が,国内からの標本に基づく記
録は極めて少ない.Yoshino and Nishijima (1981)
は G. ocellatus を沖縄県瀬底島から得られた 3 個
進」の援助を受けた.
引用文献
体(体長 76.1–98.0 mm)に基づき,日本初記録
Endo, H. and K. Kenmotsu. 2013. Suttonia coccinea, a new gram-
として報告するとともに,標準和名ジャノメヌノ
mistin fish from Japan (Acanthopterygii: Serranidae). Bul-
サラシを提唱した.その後,萩原(2015)は鹿児
島 県 奄 美 大 島 か ら 得 ら れ た 2 個 体( 体 長 77.4–
87.6 mm)に基づき,本種の北限更新記録を報告
した.萩原(2015)は「国内では瀬底島から採集
された 1 個体のみ知られる」と表記したが,3 個
体の誤りである.徳之島と沖縄島から採集された
ジャノメヌノサラシは,両島からの標本に基づく
初めての記録ならびに国内 3 例目(6–7 個体目)
の報告となる.また,本報告はこれまでの国内に
おける本種の分布の空白域を埋めるものであり,
本種が奄美大島から沖縄島にかけて連続的にする
ことを示唆する.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類
学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本
の採集に際しては,沖縄環境調査株式会社の桜井
雄氏,鹿児島大学大学院連合農学研究科の田代郷
letin of the National Museum of Nature and Science, Series A
(Zoology), Supplement, 7: 11–18.
萩原清司.2015.奄美大島で採集されたジャノメヌノサラ
シ(スズキ目:ハタ科).横須賀市博物館研究報告(自
然),(62): 27–30.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿
児島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp,(http://www.
museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
岡本 誠・星野浩一・木暮陽一.2012.東シナ海から採集
された日本初記録のハナダイ亜科魚類ミズホハナダ
イ(新称)Plectranthias elongatus.魚類学雑誌,59 (1):
55–60.
Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific.
New Caledonia to Tahiti and Pitcairn Islands. University of
Hawaiʻi Press, Honolulu. xii + 707 pp.
Randall, J. E. and C. C. Baldwin. 1997. Revision of the serranid
fishes of the subtribe Pseudogrammina, with descriptions of
five new species. Indo-Pacific Fishes, 26: 1–56, pl. 1.
Schultz, L. P. and collaborators. 1953. Fishes of the Marshall and
Marianas islands. Vol. 1. Families from Asymmetrontidae
through Siganidae. Bulletin of the United States National
Museum, 202: i–xxxii + 1–685.
瀬能 宏.2013.ハタ科.Pp. 757–802, 1960–1971.中坊徹
次(編)
.日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海
大学出版会,秦野.
国氏ならびにマリンサービス海夢居の鈴木竜爾氏
瀬能 宏.2014.フジナハナダイ.Pp. 160–161.本村浩之・
に多大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで感
松浦啓一(編).奄美群島最南端の島 与論島の魚類.
謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究
博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ
クト」の一環として行われた.本研究の一部は
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館,
つくば.
吉田朋弘・本村浩之.2014.屋久島から得られたハタ科魚
類ヤマトトゲメギス Aporops bilinearis の分類学的再検
討.Nature of Kagoshima,40: 35–41.
Yoshino, T. and Nishijima, S. 1981. A list of fishes found around
Sesoko Island, Okinawa. University of the Ryukyus Sesoko
Marine Science Laboratory Technical Report, 8: 19–87.
55
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
屋久島で採集された 3 種のテンジクダイ科魚類
1
吉田朋弘 ・本村浩之
1
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
近年の屋久島におけるテンジクダイ科魚類相
の報告は著者らによって行われている.吉田・本
村(2009)は分布の北限記録を更新したアマミイ
シモチ Fibramia amboinensis (Bleeker, 1853) を同島
から報告し,Yoshida et al. (2010) は過去の報告を
まとめ,屋久島周辺海域には本科魚類 45 種が分
布するとした.その内訳は 28 種が標本に基づく
記録,14 種が水中写真に基づく記録,3 種が過去
の文献のみの報告である.吉田ほか(2011)では
標本に基づく屋久島初記録として 7 種の追加報告
を 行 っ た. そ の う ち ヒ ト ス ジ イ シ モ チ Pristiapogon fraenatus (Valenciennes, 1832) とカスリイ
シモチ P. kallopterus (Bleeker, 1856) は水中写真に
のみ基づく記録であった(吉田ほか,2011).
2014 年 12 月 25 日から 28 日にかけて屋久島で
行った魚類相調査で,屋久島初記録のテンジクダ
イ科魚類が 3 種採集されたため,ここに報告する.
そのうちウスジマイシモチ Ostorhinchus angustatus
(Smith & Radcliffe, 1911) と ヤ ミ テ ン ジ ク ダ イ
Apogon semiornatus Peters, 1876 は水中写真に基づ
く報告のみ(Yoshida et al., 2010)であったが,本
報告はこれら 2 種の標本に基づく屋久島初記録と
なる.
本研究により屋久島周辺海域には 51 種が分布
Yoshida, T. and H. Motomura. 2015. Three apogonid fishes
from Yaku-shima island, Kagoshima Prefecture, southern
Japan. Nature of Kagoshima 41: 57–60.
TY: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k5299534@kadai.jp).
することが判明した.その内訳は,標本に基づく
39 種,水中写真に基づく 9 種,過去の報告のみ(市
川ほか,1992;国安,1999)で水中観察によって
確認された 3 種である.
材料と方法
計数は Fraser(2005)にしたがった.計測は顕
微鏡下でデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位ま
で行った.標準体長(standard length)は体長と
表 記 し た. 各 種 の 属 名 の 表 記 は Mabuchi et al.
(2014) にしたがった.各種のシノニムリストは原
記載と屋久島からの記録のみを示した.標本の作
製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠
した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研
究博物館(KAUM)に保管されており,上記の
生鮮時の写真は同館のデータベースに登録されて
いる.
屋久島産追加テンジクダイ科魚類リスト
Apogon semiornatus Peters, 1876
ヤミテンジクダイ (Fig. 1)
Apogon semiornatus Peters, 1876: 436 (type locality:
Mauritus); Yoshida et al., 2010: 45, fig. 24 (Isso,
Yaku-shima island).
標本 KAUM–I. 68017,体長 47.4 mm,鹿児島
県 熊 毛 郡 屋 久 島 町 永 田 沖 観 音(30°23′35″N,
130°22′47″E),タモ網,水深 5–13 m,2014 年 12
月 27 日,吉田朋弘・田代郷国・金出侑佳.
記載 背鰭条数 VI-I, 9;臀鰭条数 II, 8;胸鰭条
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
数 12;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 24;側線上
Ostorhinchus angustatus (Smith & Radcliffe, 1911)
方の横列鱗数 2;側線下方の横列鱗数 6;背鰭前
ウスジマイシモチ (Fig. 2)
方鱗数 7;尾柄周鱗数 12;総鰓耙数 4 + 12 = 16;
櫛歯状に発達した鰓耙数 1 + 6 = 7.
生鮮時の色彩 体全体は赤色を呈する.眼後
端から臀鰭にかけて黒色線がある.さらに第 2 背
鰭直下の体側中央から尾鰭中央後端にかけて黒色
線がはしる.各鰭は透明である.
Amia angustata Smith and Radcliffe in Radcliffe,
1911: 253, fig. 1 (type locality: Malanipa Island,
east of Zmboanga in Mindanao, Philippines).
Apogon angustatus; Yoshida et al., 2010: 29, fig. 2
(Isso, Yaku-shima island).
備考 林(2013)はヤミテンジクダイの胸鰭
条 数 を 13 と し て い る が, 正 し く は 12 で あ る
(Randall, 2005;本研究).
本種はインド・太平洋に広く分布する(Randall,
2005;Allen and Erdmann, 2012).日本では,三宅
標本 KAUM–I. 68014,体長 44.4 mm,鹿児島
県 熊 毛 郡 屋 久 島 町 永 田 沖 観 音(30°23′35″N,
130°22′47″E),タモ網,水深 5–13 m,2014 年 12
月 27 日,吉田朋弘・田代郷国・金出侑佳.
島( 林,2013), 八 丈 島(Senou et al., 2002; 林,
記載 背鰭条数 VII-I, 9;臀鰭条数 II, 8;胸鰭
2013),千葉県小湊(林,2013),館山湾(萩原・
条数 14;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 24;側線
木村,2005),相模湾(Senou et al., 2006b),静岡
上方の横列鱗数 2;側線下方の横列鱗数 6;背鰭
県下田(林,2013),静岡県大瀬崎(林,2013),
前方鱗数 3;尾柄周鱗数 12;総鰓耙数 5 + 13 =
和歌山県串本(林,2013)
,和歌山県白浜(林,
18;櫛歯状に発達した鰓耙数 2 + 11 = 13.
2013), 愛 媛 県 室 手( 高 木 ほ か,2010; 林,
生鮮時の色彩 体色は白色で,体側に金色で
2013),柏島(平田ほか,1996;林,2013),薩摩
縁取られた赤みを帯びた黒色縦線が 5 本走る.尾
硫 黄 島( 本 村 ほ か,2013), 屋 久 島(Yoshida et
柄中央に黒色斑がある.背鰭は透明であるが,第
al., 2010;Motomura et al., 2010;林,2013;本研究),
1 背鰭第 3 棘基底から第 5 棘の先端にかけての鰭
奄 美 大 島( 林,1996; 林,2013), 沖 縄 島( 林,
膜は黄色を呈する.第 2 背鰭の基底付近の鰭膜に
2013),伊江島(Senou et al., 2006a)および慶良
金色の帯があり,黒色素胞が分布する.胸鰭は透
間諸島(林,2013)から報告されている.
明である.腹鰭は透明であるが,鰭膜は黄色を呈
ヤミテンジクダイの屋久島における記録は水
する.臀鰭は透明であるが,基底付近の鰭膜に金
中写真に基づくもののみ(Yoshida et al., 2010: fig.
色の帯があり,黒色素胞が分布する.尾鰭は透明
24)であったため,本報告は標本に基づく本種の
であるが,鰭膜は黄色がかった赤色である.
屋久島初記録である.
備考 本種はインド・太平洋に広く分布する
(Randall, 2005;Allen and Erdmann, 2012).日本で
は八丈島(Senou et al., 2002),薩摩硫黄島(本村
ほ か,2013), 竹 島( 本 村 ほ か,2013), 屋 久 島
(Yoshida et al., 2010;Motomura et al., 2010;本研
究),奄美大島(林,1996),沖永良部島(吉郷ほ
か,2005),沖縄島(吉郷ほか,2005),伊江島(Senou
et al., 2006a),渡嘉敷島(渡井ほか,2009),宮古
Fig. 1. Fresh specimen of Apogon semiornatus. KAUM–I.
68017, 47.4 mm standard length, Nagata, Yaku-shima island,
Kagoshima Prefecture, Japan.
諸島(Senou et al., 2007)および西表島(吉郷ほか,
2001; 吉郷・中村,2002)から報告されている.
ウスジマイシモチの屋久島における記録は水
中写真に基づくもののみ(Yoshida et al., 2010: fig.
2)であったため,本報告は標本に基づく本種の
58
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
屋久島初記録である.
Fig. 3. Fresh specimen of Pseudamiops gracilicauda. KAUM–
I. 67997, 37.0 mm standard length, Isso, Yaku-shima island,
Kagoshima Prefecture, Japan.
Fig. 2. Fresh specimen of Ostorhinchus angustatus. KAUM–I.
68014, 44.4 mm standard length, Nagata, Yaku-shima island,
Kagoshima Prefecture, Japan.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類
Pseudamiops gracilicauda (Lachner, 1953)
学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本
クダリボウズギスモドキ (Fig. 3)
の採集に際しては,森と海の原崎 森氏ならびに
レグルスダイビングの加藤昌一氏に多大なご協力
Gymnapogon gracilicauda Lachner, 1953: 497, fig. 84
を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表する.
(type locality: Bikini Atoll, northern Marshall
本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島
Islands).
県産魚類の多様性調査プロジェクト」と同大学学
長裁量経費・研究コアプロジェクト(島嶼)-国
標本 KAUM–I. 67997,体長 37.0 mm,鹿児島
内外島嶼地域における自律的発展に寄与する研究
県 熊 毛 郡 屋 久 島 町 一 湊 お 宮 前(30°27′45″N,
の推進-「環境変動に対する適応策の構築-地域・
130°29′40″E),タモ網,水深 10–15 m,2014 年 12
学際比較研究による提言-」の一環として行われ
月 26 日,吉田朋弘・田代郷国・金出侑佳.
た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
記載 背鰭条数 VI-I, 9;臀鰭条数 II, 8;胸鰭条
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
数 14;腹鰭条数 I, 5;総鰓耙数 4 + 13 = 17;櫛歯
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
状に発達した鰓耙数 1 + 7 = 8.
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
生鮮時の色彩 体全体が乳白色を呈する.各
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
鰭は透明.吻端に黒色素胞が分布する.鰓蓋に X
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
字状の金色斑を有する.赤色素胞が頭部と体側に
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
散在し,下顎と各鰭基部にやや密に分布する.
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
備考 本種は西太平洋に広く分布する(Randall,
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
2005).日本国内では,屋久島(本研究),奄美大
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
島(林,2013),沖縄島(吉郷・中村,2003;林,
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
2013),伊江島(Senou et al., 2006a),慶良間諸島
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
( 林,2013), 宮 古 諸 島(Senou et al., 2007; 林,
2013),黒島(林,2013)および西表島(吉郷ほか,
2001)から報告されている.したがって,本標本
は屋久島からのはじめての記録となるとともに,
従来の報告より約 230 km 分布の北限を更新した.
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
引用文献
Allen, G. R. and Erdmann, M. V. 2012. Reef fishes of the East Indies. Vols. 1–3. Tropical Reef Research, Perth. xiv + 1294 pp.
59
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fraser , T. H. 2005. A review of the species in the Apogon fasciatus group with a description of a new species of cardinalfish
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萩原清司・木村喜芳.2005.横須賀市自然・人文博物館所
蔵魚類資料目録 (IV)― 相模湾海洋生物研究所収集館
山湾左間産魚類目録 ―.横須賀市博物館資料集,(29):
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林 公義.1996.日本産テンジクダイ科魚類の動物地理学
的研究 ― 奄美諸島における特性 ―.横浜国立大学環境
科学研究センター紀要,22 (1): 113–122.
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平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大
西信弘.1996.高知県柏島の魚類相 — 行動と生態に関
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市川 聡・砂川 聡・松本 毅.1992.屋久島産魚類の概観.
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Lachner, E. A. 1953. Family Apogonidae: cardinal fishes. Pp.
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Mabuchi, K., Fraser, T. H., Song, H., Azuma, Y., and Nishida
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Zootaxa, 3846: 151–203.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
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museum.kagoshimau.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
Motomura, H., Kuriiwa, K., Katayama, E., Senou, H., Ogihara,
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Y., Sakurai, Y., Harazaki, S., Hidaka, K., Izumi H., and Matsuura, K. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine
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吉田朋弘・藍澤正宏・本村浩之.2011.テンジクダイ科魚
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吉田朋弘・本村浩之.2009.屋久島から得られたテンジク
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吉郷英範・内藤順一・中村慎吾.2001.比和町立自然科学
博物館魚類収蔵標本目録.比和町立自然科学博物館標
本資料報告,(2): 119–168.
吉郷英範・中村慎吾.2002.比和町立自然科学博物館魚類
収蔵標本目録(II).比和町立自然科学博物館標本資料
報告,(3): 85–136,pl. 1.
吉郷英範・中村慎吾.2003.比和町立自然科学博物館魚類
収蔵標本目録(III).比和町立自然科学博物館標本資料
報告,(4): 31–75,pl. 1.
吉郷英範・市川真幸・中村慎吾.2005.比和町立自然科学
博物館魚類収蔵標本目録(IV).比和町立自然科学博物
館標本資料報告,(5): 1–51,pl. 1.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美大島から得られたシロヘリテンジクダイ Jaydia albomarginatus
1
2
吉田朋弘 ・萩原清司 ・本村浩之
1
3
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科
2
3
〒 238–0016 神奈川県横須賀市深田台 95 横須賀市自然・人文博物館
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
テンジクダイ科 Jaydia 属は背鰭条数が VII-I, 9
であること,臀鰭条数が II, 8 であること,前鰓
蓋骨後縁は弱い鋸歯状であること,側線は完全で
あること,両顎に大きな犬歯状歯がないこと,腸
に発光器官を有すること,尾鰭は円形もしくは截
形であることなどの特徴をもつ(Gon, 1996;林,
2004, 2013;Mabuchi et al., 2014).日本からはシ
ロヘリテンジクダイ Jaydia albomarginatus (Smith
and Radcliffe, 1912), マ ト イ シ モ チ J. carinatus
(Cuvier, 1828),テンジクダイ J. lineatus (Temminck
and Schlegel, 1843) お よ び ツ マ グ ロ イ シ モ チ J.
truncata (Bleeker, 1854) の 4 種 が 知 ら れ る(Gon,
1996;林,2013).シロヘリテンジクダイは,こ
れまで国内において,沖縄県西表島からのみ記録
されていた(林,2004, 2013).
2004 年 10 月 19 日に鹿児島県奄美大島の瀬戸
内町阿鉄でシロヘリテンジクダイが 1 個体採集さ
れた.本標本は鹿児島県ならびに奄美群島におけ
る本種の標本に基づく初めての記録であるととも
に,分布の北限更新となるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Randall et al. (1990) にしたがっ
Yoshida, T., K. Hagiwara and H. Motomura. 2015.
Northernmost record of Jaydia albomarginatus(Perciformes:
Apogonidae) from Amami-oshima island, Kagoshima,
Japan. Nature of Kagoshima 41: 61–64.
TY: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k5299534@kadai.jp).
た.標準体長は本文中では体長と表記した.計測
はデジタルノギスを用いて 0.1 mm の精度で行い,
計測値は体長に対する百分率で示した.鰓耙数は
左体側の第 1 鰓弓の鰓耙を計数した.ツマグロイ
シモチの学名は Gon (1996) にしたがった.本報
告に用いた標本は横須賀市自然・人文博物館に保
管されている.本報告中で用いられている研究機
関略号は以下の通り:KPM(神奈川県立生命の星・
地球博物館)
;YCM(横須賀市自然・人文博物館)
;
ZUMT(東京大学総合研究博物館).
結果と考察
Jaydia albomarginatus (Smith and Radcliffe, 1912)
シロヘリテンジクダイ (Figs. 1–2)
標本 1 個体:YCM-P 42468, 体長 52.3 mm,鹿
児 島 県 大 島 郡 瀬 戸 内 町 阿 鉄(28°11′18″N,
129°17′17″E),タモ網,水深 15 m,2004 年 10 月
19 日,萩原清司.
記載 背鰭条数 VII-I, 9;臀鰭条数 II, 8;胸鰭
条数 16;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 24;側線
上方の横列鱗数 2;側線下方の横列鱗数 6;背鰭
前方鱗数 5;尾柄周鱗数 12;総鰓耙数 4 + 11 =
15;櫛歯状に発達した鰓耙数 2 + 9 = 11.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
体高 36.5;体幅 16.3;頭長 42.8;眼径 11.9;吻長
9.9; 両 眼 間 隔( 骨 質 部 で 測 定 )8.8; 上 顎 長
20.5;尾柄長 22.4;尾柄高 17.4;背鰭前長 43.4;
第 1 背鰭第 1 棘条長 2.3;第 1 背鰭第 2 棘条長 6.9;
第 1 背鰭第 3 棘条長 14.7;第 1 背鰭第 4 棘条長
16.3;第 2 背鰭棘条長 14.0;第 2 背鰭最長軟条長
61
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Jaydia albomarginatus. YCM-P 42468, 52.3 mm SL, Atetsu, Amami-oshima island, Kagoshima, southern Japan.
Photo by K. Hagiwara.
Fig. 2. Preserved specimen of Jaydia albomarginatus. YCM-P 42468, 52.3 mm SL, Atetsu, Amami-oshima island, Kagoshima, southern
Japan.
25.6;臀鰭前長 64.6;臀鰭第 1 棘条長 2.5;臀鰭
め上後方,眼窩付近に位置する.上顎骨歯は微小
第 2 棘条長 12.8;臀鰭最長軟条長 23.9;尾鰭長
な円錐歯が不規則に並び歯帯を形成する.下顎前
27.7; 胸鰭長 26.6;腹鰭前長 41.5;腹鰭棘条長
方では 5–7 列の小円錐歯が歯帯を形成する.鋤骨
14.3;腹鰭最長軟条長 22.6.
は 1–3 列の円錐歯を有する.口蓋骨には 3 列の小
体は長楕円形で側扁する.第 1 背鰭起部で体
円錐歯がある.前鰓蓋骨後縁は鋸歯状である.第
高が最も高い.吻は突出する.口はやや大きく,
1 背鰭起部は第 3 側線鱗の直上にある.第 2 背鰭
口裂はわずかに斜位.主上顎骨後縁は瞳孔後端を
起部は第 9 側線鱗の直上にある.臀鰭起部は第
越える.前鼻孔は短い鼻管を形成し,吻端近くに
10 側線鱗の直下にある.胸鰭起部は第 2 側線鱗
位置する.後鼻孔は鼻管を形成せず,前鼻孔の斜
の直下にあり,その先端は臀鰭起部上を越える.
62
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
腹鰭起部は第 1 側線鱗の直下にあり,その先端は
島のみとした.したがって,奄美大島から採集さ
臀鰭基底の始部に達しない.尾鰭は截形で,中央
れたシロヘリテンジクダイは,鹿児島県ならびに
がわずかに湾入する.側線鱗列は完全で,鰓孔上
奄美群島からの本種の標本に基づく初めての記録
端直上部から尾鰭基部まで連続する.
となると同時に本種の分布の北限記録となる.
色彩 生鮮時の色彩 ― 体全体は暗柴色で,鰓
生息環境 奄美大島産シロヘリテンジクダイ
蓋から腹部の体側下方にかけては銀白色を呈す
が採集された環境は,シルト質の泥が堆積する内
る.背鰭および尾鰭は黒みを帯びる.第 1 背鰭第
湾である.これは林(2004)が報告した本種の生
3 棘から第 5 棘間の鰭膜に黒色素胞が密に分布す
息環境と似ている.奄美大島産の標本は,オナガ
る.第 2 背鰭の基底上方に黒色素胞がやや密に分
ウツボ Evenchelys macrurus (Bleeker, 1854) によっ
布し,線のようにみえる.胸鰭,腹鰭および臀鰭
てつくられたと思われる直径約 18 cm の巣穴(長
は透明.腹鰭棘から腹鰭第 1 軟条,臀鰭第 1 棘か
さ推定 2 m で一方から水を送るともう一方から泥
ら第 2 棘は白色を呈する.尾鰭下葉縁辺は白色を
が舞い上がる)から採集された.さらに,同時に
呈する.
ツマグロイシモチ 1 個体が採集された.巣穴の周
固定標本の色彩 ― 体全体は淡黄色.吻端と下
辺環境にはオナガウツボとオニサルハゼ
顎に黒色素胞がやや密に分布する.背鰭は透明で
Oxyurichthys papuensis (Valenciennes, 1837) が 生 息
あるが,第 1 背鰭第 1 棘の鰭膜基部から第 1 背鰭
していた.
第 5 棘の鰭膜先端にかけて黒色を帯びる.第 2 背
鰭は基底付近の鰭膜に黒色素胞が分布する。胸鰭
と臀鰭と腹鰭は透明である.尾鰭は淡黄褐色であ
るが,下縁は白色を呈する.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類
分布 本種は日本,海南島,フィリピンのル
学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本
ソン島,セブ島およびルバング島,インドネシア
の採集に際しては,ダイバー民宿おれんちの横山
のロンボク島とフロレス島から報告されている
貞夫氏ならびに相模湾海洋生物研究会の皆様に多
(林,2004, 2013).国内では,奄美大島(本研究)
大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の
および西表島(林,2004, 2013)から記録がある.
意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究博物
備考 Jaydia 属はテンジクダイ科テンジクダイ
館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」
属 Apogon の 亜 属 と し て 扱 わ れ て い た(Gon,
の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科
1996)が,近年の研究により属として使用されて
研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027,
いる(Allen and Erdmann, 2012; Mabuchi et al., 2014)
.
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
本研究は Mabuchi et al. (2014) にしたがい本種の
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
属を Jaydia として扱った.
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
奄美大島から得られた本標本は,体側に横帯
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
がないこと,第 2 背鰭に 1 黒色斑がないこと,尾
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
鰭は截形でその下縁部は白色であることなどが林
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
(2004, 2013)の報告した Jaydia albomarginatus の
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
標徴とよく一致したため,本種と同定された.
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
林(2004)は西表島から得られた 2 個体(KPM-
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
NI 5561, ZUMT 58446)に基づき,本種を日本初
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
記録として報告するとともに,標準和名シロヘリ
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
テンジクダイを提唱した.その後,本種に関する
助を受けた.
追加報告はなく,林(2013)は国内の分布を西表
63
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
引用文献
Allen, G. R. and Erdmann, M. V. 2012. Reef fishes of the East Indies. Vols. 1–3. xiv + 1294 pp. Tropical Reef Research, Perth.
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64
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Mabuchi, K., Fraser, T. H., Song, H., Azuma, Y. and Nishida M.
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Randall, J. E., T. H. Fraser and E. A. Lachner. 1990. On the validity of the Indo-Pacific cardinalfishes Apogon aureus (Lacepède) and A. fleurieu (Lacepède), with description of a related
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Society of Washington, 103: 39–62.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美群島与論島から得られたテンジクダイ科魚類 2 種
1
吉田朋弘 ・本村浩之
1
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
かつて与論島において魚類相調査は行われて
いなかったが,2011 年から 2014 年にかけて約 80
結果と考察
Apogon semiornatus Peters, 1876
ヤミテンジクダイ (Fig. 1)
日間,延べ 70 名による包括的な魚類相調査が行
われた(本村・松浦,2014; Motomura, 2015).同
標本 KAUM–I. 70911,体長 36.1 mm,鹿児島
島におけるテンジクダイ科魚類は,標本に基づき
県 大 島 郡 与 論 町 茶 花 与 論 港 西 側(27°03′07″N,
36 種が報告された(吉田,2014).
128°24′02″E), タ モ 網, 水 深 10 m,2015 年 3 月
2015 年 3 月 13 日から 19 日にかけて第 8 次与
論島魚類相調査が行われ,与論島初記録のテンジ
14 日,田代郷国.
記載 背鰭条数 VI-I, 9;胸鰭条数 12;腹鰭条
クダイ科魚類が 2 種採集されたため,ここに報告
数 I, 5;側線有孔鱗数 24;側線上方の横列鱗数 2;
する.本研究により与論島周辺海域には 38 種が
側線下方の横列鱗数 6;背鰭前方鱗数 6;尾柄周
分布することが判明した(吉田,2014;本研究).
鱗数 12;総鰓耙数 3 + 12 = 15;櫛歯状に発達し
材料と方法
た鰓耙数 1 + 8 = 9.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
計数・計測方法は Randall et al. (1990) にしたがっ
体高 36.0;体幅 21.1;頭長 41.3;眼径 13.3;吻長
た.標準体長は本文中では体長と表記した.計測
8.6; 両 眼 間 隔( 骨 質 部 で 測 定 )8.3; 上 顎 長
はデジタルノギスを用いて 0.1 mm の精度で行い,
23.3;尾柄高 14.4;背鰭前長 46.0;第 1 背鰭第 1
計測値は体長に対する百分率で示した.鰓耙数は
棘条長 4.2;第 1 背鰭第 2 棘条長 18.3;第 1 背鰭
左体側の第 1 鰓弓の鰓耙を計数した.標本の作製,
第 3 棘条長 16.6;第 1 背鰭第 4 棘条長 14.4;第 2
登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.
背鰭棘条長 12.5;第 2 背鰭最長軟条長 22.4;尾鰭
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
長 38.0;胸鰭長 26.0;腹鰭前長 39.9;腹鰭棘条長
館(KAUM)に保管されており,上記の生鮮時
13.3;腹鰭最長軟条長 21.6.
の写真は同館のデータベースに登録されている.
体は長楕円形で側扁する.第 1 背鰭起部で体
高が最も高い.上顎は下顎より突出する.口はや
や大きく,口裂は斜位.主上顎骨後縁は瞳孔後端
Yoshida, T. and H. Motomura. 2015. Two apogonid fishes
from Yoron-jima island in the Amami Islands,
Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of
Kagoshima 41: 65–68.
TY: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k5299534@kadai.jp).
を越えない.前鼻孔は短い鼻管を形成し,吻端近
くに位置する.後鼻孔は鼻管を形成せず,前鼻孔
の斜め上後方,眼窩付近に位置する.上顎骨歯は
微小な円錐歯が不規則に並び歯帯を形成する.下
顎は 5–7 列の小円錐歯が歯帯を形成する.鋤骨は
1–3 列の円錐歯が不規則に並ぶ.口蓋骨には 2–4
65
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
列の小円錐歯がある.前鰓蓋骨後縁上方は鋸歯状
53.0 mm)に基づき,日本初記録として報告する
である.第 1 背鰭起部は第 2 側線鱗の直上にある.
とともに,標準和名ヤミテンジクダイを提唱した.
第 2 背鰭起部は第 9 側線鱗の直上にある.胸鰭起
その後,日本各地域からヤミテンジクダイは得ら
部は第 2 側線鱗の直下にあり,その先端は第 2 背
れていたが,与論島から標本は得られていなかっ
鰭第 4 軟条直下に達する.腹鰭起部は第 1 側線鱗
た(本報告の分布を参照).したがって本報告は,
の直下にあり,その先端は第 8 側線鱗の直下.尾
これまでの国内における本種の分布の空白域を埋
鰭は二叉し,中央部が湾入する.側線鱗列は完全
めるものである.
で,鰓孔上端直上部から尾鰭基部まで連続する.
色彩 生鮮時の色彩 — 頭部と体側背面は赤色
を呈し,体側腹面は赤みをおびた白色.眼後端か
ら胸鰭基部にかけて黒色線がある.第 2 背鰭直下
の体側中央から尾鰭中央後端にかけて黒色線がは
しる.尾鰭を除く各鰭は透明である.
固定後の色彩 — 体全体の地色は乳白色を呈す
る.眼後端から胸鰭基部,第 2 背鰭直下の体側中
央から尾鰭中央後端,頭頂部から尾鰭背側にかけ
Fig. 1. Fresh specimen of Apogon semiornatus. KAUM–I.
70911, 36.1 mm standard length, Chabana, Yoron-jima island,
Kagoshima Prefecture, Japan.
てはやや密に黒色素胞が分布する.
分 布 イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る
(Randall, 2005; Allen and Erdmann, 2012).日本で
は,三宅島(Ida and Moyer, 1974;林,2013),八
Fowleria marmorata (Alleyne and Macleay, 1877)
オビシボリ (Fig. 2)
丈島(Senou et al., 2002;林,2013),千葉県小湊(林,
2013),館山湾(萩原・木村,2005),相模湾(Senou
標本 KAUM–I. 71202,体長 31.5 mm,鹿児島
et al., 2006b),静岡県下田(林,2013),静岡県大
県 大 島 郡 与 論 町 茶 花 茶 花 港 西 側(27°03′07″N,
瀬崎(林,2013),和歌山県串本(林,2013),和
128°24′02″E),タモ網,水深 10–12 m,2015 年 3
歌山県白浜(林,2013),愛媛県室手(高木ほか,
月 19 日,吉田朋弘・田代郷国.
2010; 林,2013), 高 知 県 柏 島( 平 田 ほ か,
記載 背鰭条数 VII-I, 9;臀鰭条数 II, 8;胸鰭
1996;林,2013),薩摩硫黄島(吉田,2013),屋
条数 14;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 11(前方 6
久島(Yoshida et al., 2010; Motomura et al., 2010;林,
枚は粘液管をもつ);背鰭前方鱗数 6;尾柄周鱗
2013; 吉 田・ 本 村,2015), 奄 美 大 島( 林,
数 12;総鰓耙数 3 + 12 = 15;櫛歯状に発達した
1996;林,2013),与論島(本研究),沖縄島(林,
鰓耙数 1 + 5 = 6.
2013),伊江島(Senou et al., 2006a)および慶良
間諸島(林,2013)から報告されている.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
体高 33.3;体幅 17.5;頭長 41.0;眼径 12.1;吻長
備考 与論島から得られた本標本は,第 1 背
7.6; 両 眼 間 隔( 骨 質 部 で 測 定 )5.1; 上 顎 長
鰭棘数が 6 であること,体に黒色の染め分け状の
19.4;尾柄長 19.7;尾柄高 15.6;背鰭前長 45.7;
模 様 を も つ こ と な ど が 林(2013) の 報 告 し た
第 1 背鰭第 1 棘条長 2.2;第 1 背鰭第 2 棘条長 8.9;
Apogon semiornatus の標徴とよく一致したため,
第 1 背鰭第 3 棘条長 20.6;第 1 背鰭第 4 棘条長
本種と同定された.
17.1;第 2 背鰭最長軟条長 19.7;臀鰭前長 65.4;
Apogon semiornatus はモーリシャスから得られ
臀鰭第 1 棘条長 1.9;臀鰭第 2 棘条長 12.1;臀鰭
た標本 1 個体に基づき新種記載された(Peters,
最長軟条長 20.0;胸鰭長 28.3;腹鰭前長 38.7;腹
1876).Ida and Moyer (1974) は A. semiornatus を
鰭棘条長 14.6;腹鰭最長軟条長 28.3.
東 京 都 三 宅 島 か ら 得 ら れ た 4 個 体( 体 長 23.5–
66
体は長楕円形で側扁する.第 1 背鰭起部で体
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
高が最も高い.吻は突出する.口はやや大きく,
れた標本 2 個体に基づき新種記載された(Alleyne
口裂はわずかに斜位.主上顎骨後縁は瞳孔後端を
and Macleay, 1877).Yoshino and Nishijima (1981)
越えない.前鼻孔は短い鼻管を形成し,吻端近く
は F. marmorata を沖縄県瀬底島から得られた 1 個
に位置する.後鼻孔は鼻管を形成せず,前鼻孔の
体(体長 38.4 mm)に基づき,日本初記録として
斜め上後方,眼窩付近に位置する.上顎骨歯は微
報告するとともに,標準和名オビシボリを提唱し
小な円錐歯が不規則に並び歯帯を形成する.下顎
た.平田(1996)は柏島から得られた 1 個体に基
前方では 5–7 列の小円錐歯が歯帯を形成する.鋤
づき北限記録として報告した.また Yoshida et al.
骨は 3–5 列の円錐歯を有する.口蓋骨には歯がな
(2010) は屋久島から得られたオビシボリを報告し
い.前鰓蓋骨後縁は円滑である.第 1 背鰭起部は
たが,その個体の側線有孔鱗数を 6 とした.今回,
第 3 側線鱗の直上にある.第 2 背鰭起部は胸鰭第
彼らが論文で使用した屋久島産の標本(KAUM–I.
3 軟条先端直下に位置する.臀鰭起部は第 2 背鰭
21784,体長 39.8 mm)を再度計数してみたところ,
第 2 軟条直下にある.胸鰭起部は第 2 側線鱗の直
粘液管を有する側線鱗は 6 枚で,孔のみの側線鱗
下にあり,その先端は臀鰭起部上を越える.腹鰭
は 4 枚であり,合計の側線鱗は 10 枚であること
起部は第 1 側線鱗の直下にあり,その先端は臀鰭
がわかった.彼らは粘液管をもつ鱗のみを計数し
基底の始部に達しない.側線鱗列は不完全.
ていた.屋久島産と与論島産のオビシボリの側線
色彩 生鮮時の色彩 — 体側背面は赤みがかっ
有 孔 鱗 数 は, そ れ ぞ れ 10 と 11 で あ り,Randal
た暗弁柄色,体側腹面は赤みを帯びた刈安色を呈
(2005) が示した本種の側線有孔鱗数 10–13 の範囲
する.第 1 背鰭第 3 棘直下から第 2 背鰭基底後端
内に含まれることが明らかとなった.
直下にかけて等間隔に 6 本の褐色横帯がある.主
鰓蓋骨上方に周囲を金色で縁取られた 1 黒色円斑
がある.その黒色斑のわずか上方に黒色縦帯があ
る.眼後端に 3 本の黒色線がある.第 1 背鰭は第
1 棘基部から第 5 棘先端にかけての鰭膜は紅緋を
呈する.第 2 背鰭と臀鰭の各鰭基底付近は半透明
で,その上方は赤色を呈し,縁辺は白色である.
腹鰭は赤色で,小白色斑が散在する.
固定後の色彩 — 体全体の地色は暗褐色を呈す
る.体側の横帯は明瞭に残る.
Fig. 2. Fresh specimen of Fowleria marmorata. KAUM–I.
71202, 31.5 mm standard length, Chabana, Yoron-jima island,
Kagoshima Prefecture, Japan.
分 布 イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 広 く 分 布 す る
(Randall, 2005; Allen and Erdmann, 2012).国内で
は高知県柏島(平田ほか,1996;林,2013),大
隅 諸 島 屋 久 島(Yoshida et al., 2010; Motomura et
al., 2010;林,2013),琉球列島(林,2013),与
論 島( 本 研 究 ) お よ び 瀬 底 島(Yoshino and
Nishijima, 1981)から報告されている.
備考 与論島から得られた本標本は,体側に 6
本の褐色横帯をもつこと,主鰓蓋骨上方に 1 黒色
円斑を有すること,口蓋骨に歯がないことなどが
林(2013)の報告した Fowleria marmorata の標徴
とよく一致したため,本種と同定された.
Fowleria marmorata はオーストラリアから得ら
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類
学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本
の採集に際しては,ヨロンダイビングサービスの
竹下敏夫氏に多大なご協力を頂いた.以上の方々
に謹んで感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大
学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調
査プロジェクト」と鹿児島大学 COC 事業「島嶼
と火山を有する鹿児島の地域再生プログラム」平
67
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
成 26 年度地域志向教育研究経費「与論島におけ
る冬季出現魚類の多様性の解明」の一環として行
われた.本研究の一部は JSPS 科研費(19770067,
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
引用文献
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
トカラ列島から得られたアジ科魚類カッポレ Caranx lugubris
1
2
畑 晴陵 ・原口百合子 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
アジ科ギンガメアジ属 Caranx は側線直走部に
稜鱗を有すること,第 1 鰓弓上の鰓耙数が 20–31
であること,背鰭および臀鰭が糸状に伸長しない
こと,背鰭および臀鰭に付随した小離鰭がないこ
と,脂瞼の前半部は薄く,半月形に開口すること,
肩帯下部に突起がなく,滑らかであること,上顎
の外側に牙状の円錐歯が 1 列に並び,内側に小円
錐歯が帯状に密生すること,下顎に牙状の円錐歯
が 1 列に並ぶこと,鋤骨および口蓋骨に歯を有す
るなどの特徴をもち(Gushiken, 1983; Smith-Vaniz,
1999; Lin and Shao, 1999),日本からはイトウオニ
ヒラアジ C. heberi (Bennett, 1830),ロウニンアジ C.
ignobilis (Forsskål, 1775), カ ッ ポ レ C. lugubris
Poey, 1860, カ ス ミ ア ジ C. melampygus Cuvier,
1833, オ ニ ヒ ラ ア ジ C. papuensis Alleyne and
Macleay, 1877,ギンガメアジ C. sexfasciatus Quoy
and Gaimard, 1825,およびミナミギンガメアジ C.
tille Cuvier, 1833 の 7 種 が 知 ら れ て い る( 瀬 能,
2013).
カッポレはこれまで国内において,小笠原諸
島,駿河湾,三重県,宮崎県および沖縄県から記
録されていた(瀬能,2013).2015 年 2 月 24 日
にトカラ列島北方沖で 1 個体のカッポレが採集さ
Hata, H., Y. Haraguchi and H. Motomura. 2015. First record
of Caranx lugubris (Perciformes: Carangidae) from the
Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan.
Nature of Kagoshima 41: 69–72.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
れた.本標本は鹿児島県ならびに薩南諸島におけ
る本種の標本に基づく初めての記録となるため,
ここに報告する.
材料と方法
計 数・ 計 測 方 法 は Smith-Vaniz and Carpenter
(2007) にしたがった.標準体長は体長と表記し,
デジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行った.カッ
ポレの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影され
た鹿児島県産の 1 標本(KAUM–I. 69396)のカラー
写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,固定方
法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標
本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されてお
り,上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに
登録されている.本報告で使用した研究機関略号
は KAUM( 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 ) と
MUFS(宮崎大学農学部海洋生物環境学科).
結果と考察
Caranx lugubris Poey, 1860
カッポレ (Fig. 1; Table 1)
標本 1 個体:KAUM–I. 69396, 体長 440.0 mm,
尾 叉 長 468.0 mm, 鹿 児 島 県 ト カ ラ 列 島 北 方 沖
(30°01′N, 130°11′E;鹿児島市中央卸売市場魚類市
場にて購入),2015 年 2 月 24 日,釣り,畑 晴陵.
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
を Table 1 に示した.体は卵型で強く側扁し,体
高は第 2 背鰭起部で最大.吻の背縁は凹む.胸鰭
起部は鰓蓋後縁よりも後方に位置する.胸鰭起部
下端は第 1 背鰭起部よりも前方,腹鰭第 4 軟条起
69
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Caranx lugubris. KAUM–I. 69396, 440.0 mm standard length, north of the Tokara Islands, Kagoshima Prefecture,
Japan.
部直上に位置し,胸鰭後端は第 2 背鰭第 10 軟条
体高の 60.0%.背鰭および臀鰭の後方に小離鰭を
起部直下,臀鰭第 8 軟条起部直上に達する.腹鰭
持たない.尾鰭は二叉型で湾入する.総排泄孔は
起部は胸鰭第 2 軟条起部直下に位置し,たたんだ
正円形で,臀鰭遊離棘の前方,たたんだ腹鰭の間
腹鰭の後端は総排出孔を越えるが,臀鰭起部には
に位置する.鰓蓋および前鰓蓋骨の後縁は円滑.
達せず,第 1 背鰭第 7 棘条起部直下に達する.第
口裂は大きく,上顎後端は瞳孔前縁よりも後方に
1 背鰭起部は腹鰭基底後端よりも後方に位置す
達する.体は細かい円鱗に被われるが,吻部,下
る.第 1 背鰭基底後端は臀鰭第 2 遊離棘条起部直
顎,主上顎骨,峡部および胸鰭基底部の内側は被
上と臀鰭起部直上の間に位置する.背鰭棘条は第
鱗しない.胸部は完全に被鱗する.背鰭前方鱗被
3 棘 条 が 最 長 で, 第 3 棘 条 長 は 第 4 棘 条 長 の
鱗域の前縁は瞳孔の後縁をわずかに越え,前縁は
107.6%.第 2 背鰭起部は臀鰭起部よりもわずか
平坦.眼および瞳孔はともに円形.眼は厚い脂瞼
に前方に位置する.第 2 背鰭基底後端は臀鰭基底
に被われ,脂瞼の開口部は半月形.鼻孔は 2 対で
後端直上に位置する.臀鰭起部は第 2 背鰭第 4 軟
前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方に
条起部直下に位置する,第 2 背鰭および臀鰭は鎌
位置する.前鼻孔および後鼻孔はともに前後方向
状.第 2 背鰭前部は著しく伸長し,第 2 背鰭第 1
に細長く,スリット状.前鼻孔の後縁に皮弁を有
軟条長は体高の 116.8%,第 1 背鰭第 3 棘条長の
する.鰓耙は細長く棒状で,先端は丸い.第 1 鰓
550.8%.臀鰭前部は伸長し,臀鰭第 1 軟条長は
弓上枝鰓耙の前方 3 本と下枝鰓耙の前方 2 本は痕
70
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
跡的.擬鰓を有する.上顎骨の外側には鋭い円錐
Caranx lugubris の標徴とよく一致したため,本種
歯が 1 列に等間隔に並び,その内側には小円錐歯
と同定された.
が密生する.下顎には鋭い円錐歯が 1 列に並ぶ.
Caranx lugubris を日本から初めて報告したのは
鋤骨および口蓋骨には細かい粒子状歯が密生す
Wakiya (1924) である.彼は小笠原諸島から得ら
る.舌の前部に歯帯がある.鰓条骨は 5 本.側線
れた 1 個体に基づき,新種 C. ishikawai として本
は完全で,鰓蓋上方から始まり,第 2 背鰭起部直
種を記載した(Ibarra and Stewart, 1987).その後,
下で急に下降し,その後尾柄にかけて直走する.
Suzuki (1962) は C. ishikawai を 1958 年 3 月に得ら
側線の直走部には固く鋭い稜鱗が発達し,尾柄部
れた 1 個体(全長 377.0 mm)に基づき,三重県
では隆起する.尾柄部に小さい 2 本の隆起線があ
尾鷲市九鬼浦から報告した.現在,C. ishikawai
る.
は C. lugubris の 新 参 異 名 と さ れ て い る(Smith-
色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は一様に暗い
Vaniz 1999).
鶯色.体側下部は緑がかった暗灰色.鰓蓋上縁に
そ の 後,Gushiken (1983) は 本 種 4 個 体( 体 長
黒色斑がある.第 1 背鰭棘条,第 2 背鰭軟条,臀
223–317 mm)を沖縄県から報告し,Iwatsuki et al.
鰭軟条は黒色.第 1 背鰭の鰭膜はこげ茶色.第 2
(1992) は宮崎県日向灘から 1972 年に漁獲された
背鰭前部の鰭膜は暗緑色で,後部の鰭膜は明るい
本種 1 個体(MUFS 2085,体長 225.0 mm)を報
オリーブ色.第 2 背鰭の伸長部は白色に縁どられ
告した.木村(2002)は小笠原諸島と西表島から
る.臀鰭前部の鰭膜は黒色で,後部の鰭膜は黒み
水中写真に基づき本種を報告し,瀬能(2013)は
がかった緑褐色.臀鰭の縁辺は白色.尾鰭前部は
本種を駿河湾から報告した.
白色で,後縁は黒色.腹鰭は緑がかった茶褐色で,
したがって,カッポレは国内では小笠原諸島,
白色に縁どられる.胸鰭上部は明るい抹茶色で,
下部は暗い灰色.側線直走部の稜鱗は黒色で,中
央部は灰色.光彩は真鍮色で,瞳孔は青みがかっ
た黒色.両唇は黒みがかったオリーブ色.
分布 全世界の熱帯海域に広く分布する(久
新 ほ か,1977, 1982;Smith-Vaniz, 1999; Lin and
Shao, 1999; Randall, 2005; 瀬 能,2013). 日 本 国
内では小笠原諸島,駿河湾,三重県尾鷲市,宮崎
県,沖縄県(Randall et al., 1997;瀬能,2013)お
よび鹿児島県トカラ列島(本研究)から報告があ
る.
備考 トカラ列島産の標本は,背鰭および臀
鰭の後方に小離鰭をもたないこと,側線の曲走部
に稜鱗が発達すること,第 1 背鰭は第 2 背鰭より
も低いこと,上顎骨の外側には鋭い円錐歯が 1 列
に等間隔に並び,その内側には小円錐歯が密生す
ること,下顎には鋭い円錐歯が 1 列に並ぶことな
ど が Gushiken (1983) や Smith-Vaniz (1999),Lin
and Shao (1999) によって定義された Caranx 属の
標徴と一致した.また胸部は完全に被鱗すること,
稜鱗が黒色であること,吻部背縁が凹むことなど
が Smith-Vaniz (1999) や瀬能(2013)の報告した
Table 1.Counts and measurements, expressed as percentages of
standard length, of Caranx lugubris.
Standard length (SL;mm)
Counts
Dorsal fin
Anal fin
Pectoral fin
Pelvic fin
Gill rakers
Scutes on the straight part
Measurement (% SL)
Pre-dorsal-fin length
First dorsal-fin base length
Second dorsal-fin base length
Anal-fin base length
Snout to pectoral-fin insertion
Snout to pelvic-fin insertion
Snout to anal-fin origin
Pelvic-fin insertion to anal-fin origin
Snout to anus
Caudal peduncle length
Body depth
Pectoral-fin length
Pelvic-fin length
Length of second spine of first dorsal fin
First anal-fin spine length
Snout length
Upper jaw length
Postorbital head length
Interorbital width
KAUM–I.
69396
440.0
VIII-I, 21
II-I, 18
20
I, 5
6 + 21
27
42.9
17.3
39.3
34.3
30.8
33.1
58.0
26.1
43.7
13.2
39.7
37.1
14.1
5.7
4.6
10.7
12.8
14.8
8.0
71
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
駿河湾,三重県尾鷲市九鬼浦,宮崎県,および沖
縄県からのみ記録されていた(瀬能,2013).ト
カラ列島沖から採集されたカッポレは,鹿児島県
ならびに薩南諸島からの本種の標本に基づく初め
ての記録となる.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
総合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類
学研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本
の採集に際しては,田中水産の田中 積氏ならび
に鹿児島市中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様
に多大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで感
謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究
博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ
クト」の一環として行われた.本研究の一部は
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
進」の援助を受けた.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
標本に基づく鹿児島県のシマガツオ科魚類相
1
2
3
4
畑 晴陵 ・伊東正英 ・山田守彦 ・高山真由美 ・本村浩之
1
4
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
3
〒 892–0814 鹿児島県鹿児島市港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館
4
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
シマガツオ科 Bramidae は日本近海には 6 属 10
種が分布している(波戸岡・甲斐,2013; Hibino
et al., 2014).シマガツオ科魚類の多くは外洋性で
(谷津・中村,1988),ひじょうに広域に分布する
種も少なくない(Mead, 1972)にも関わらず,過
去に行われた鹿児島県内における魚類相調査(た
とえば今井・中原,1969;財団法人鹿児島市水族
館公社,2008;Motomura et al., 2010)においても
シマガツオ科魚類の報告は少ない.
そこで,本研究では鹿児島県におけるシマガ
ツオ科魚類相を明らかにするため,鹿児島大学総
合研究博物館に所蔵されている鹿児島県産シマガ
ツオ科魚類標本の調査を行った.その結果,6 属
9 種を確認したため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Moteki et al. (1995) にしたがっ
た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを
用いて 0.1 mm まで行った.各種の生鮮時の体色
の記載は,固定前に撮影された鹿児島県産標本の
カラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,
Hata, H., M. Itou, M. Yamada, M. Takayama and H.
Motomura. 2015. Bramid fishes of Kagoshima
Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 41: 73–
93.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
固定方法は本村(2009)に準拠した.種の標準和
名と学名は波戸岡・甲斐(2013)にしたがった.
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
館に保管されており,上記の生鮮時の写真は同館
のデータベースに登録されている.本報告中で用
いられている研究機関略号は以下の通り.BSKU–
高知大学理学部海洋生物学研究室;FAKU– 京都
大学;FRLM– 三重大学大学院生物資源学研究科
附属水産実験所;KAUM– 鹿児島大学総合研究博
物館;MSM– 東海大学海洋学部博物館;OCA -
沖縄美ら海水族館;OMNH -大阪市立自然史博
物館;WMNH-PIS-WW -和歌山県立自然博物館
池田魚類コレクション.
結果と考察
鹿児島県で採集されたシマガツオ科魚類 6 属 9
種を以下に示す.
Brama dussumieri Cuvier, 1831
ヒメシマガツオ (Fig. 1)
標本 5 個体(体長 46.6–85.9 mm):KAUM–I.
9917, 体長 85.9 mm,南さつま市笠沙町片浦高崎
山 地 先(31°26′00″N, 130°10′05″E), 水 深 36 m,
2008 年 5 月 1 日,定置網,寺田正俊;KAUM–I.
24553,体長 52.7 mm,南さつま市笠沙町片浦高
崎山地先(31°26′00″N, 130°10′05″E),水深 36 m,
2009 年 4 月 6 日,定置網,伊東正英;KAUM–I.
30444, 体長 46.6 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町
73
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深
9–10 軟条起部直下に達する.腹鰭は腋鱗を有す
27 m,2010 年 5 月 6 日, 定 置 網, 伊 東 正 英;
る.左右の腹鰭は近接する.背鰭起部は鰓蓋上端
KAUM–I. 55366,尾部欠損のため体長計測不可,
および腹鰭基底後端より後方に位置する.背鰭基
鹿児島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側
底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.背鰭は後
(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2013 年 4
方にいくにしたがって低くなる.背鰭基底部は被
月 4 日,定置網,伊東正英;KAUM–I. 62399, 体
鱗する.臀鰭起部は胸鰭起部よりも後方,背鰭第
長 78.1 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町野間岬南
10–11 軟条直下に位置する.背鰭と臀鰭は折りた
側(31°24′49″N, 130°07′00″E), 水 深 27 m,2014
たむことができない.尾鰭は深く湾入し,上葉は
年 5 月 10 日,定置網,伊東正英.
下葉よりも長い.体側鱗は縦長の円鱗で硬く,剥
記載 背鰭軟条数 33–35;臀鰭軟条数 27;胸
がれにくい.頭部,主上顎骨,鰓蓋,背鰭および
鰭軟条数 19–20;縦列鱗数 57–60;第 1 鰓弓上枝
臀鰭は被鱗するが,下顎と吻部は無鱗.尾柄から
上の鰓耙数 3–4;第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 9–11;
尾鰭基底の鱗は後方にいくにしたがって徐々に小
第 1 鰓弓総鰓耙数 12–14.
さくなる.鰓耙は細長く鰓弁より短い.鰓耙の先
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
端は丸い.擬鰓を有する.口は大きく,上顎後端
尾 叉 長 113.6–119.7; 体 高 55.4–58.8; 体 幅 11.4–
は眼の前縁を越え,下顎先端は上顎先端よりも突
12.3;頭幅 11.9–12.3;背鰭前長 40.5–44.3;臀鰭
出する.主上顎骨後端は露出し,丸みを帯びる.
前 長 57.4–58.9; 腹 鰭 前 長 40.3–43.2; 胸 鰭 前 長
上顎には鋭い円錐形の歯が 1 列に並ぶ.下顎には
27.5–30.2; 背 鰭 基 底 長 54.2–58.5; 臀 鰭 基 底 長
鋭い円錐形の歯が 2 列に並び,下顎先端には倒す
46.4–49.1; 背 鰭 起 部 か ら 胸 鰭 起 部 ま で の 長 さ
ことのできない 2 対の大きい牙状の歯がある.側
36.8–38.6; 胸 鰭 長 31.7–35.9; 腹 鰭 長 12.8–20.7;
線は不明瞭であるが完全で,鰓蓋後縁上方から尾
背鰭第 5 軟条長 19.0–28.7;臀鰭第 5 軟条長 10.3–
柄にかけて,体背縁に並走する.
16.5; 尾 鰭 上 葉 長 60.0–68.0; 尾 鰭 下 葉 長 35.1–
色彩 体背面は一様に藍色がかった黒色.体
50.7; 尾 鰭 中 央 軟 条 長 13.3–18.1; 尾 柄 長 12.0–
側および体腹面は一様に銀白色.背鰭軟条は水色
13.8;尾柄高 7.1–7.9;頭長 27.9–29.4.
がかった透明.背鰭鰭膜は淡い黒色.胸鰭は一様
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
に白色透明で,鰭条外縁は黒色に縁どられる.腹
18.9–23.9; 眼 径 27.8–40.5; 眼 隔 域 幅 24.9–27.8;
鰭は一様に白色.臀鰭の地色は一様に白色で,臀
上顎長 52.2–56.2.
鰭基底部付近に淡い黒色縦帯が入り,臀鰭後部外
体は前後方向に長い楕円形で,強く側扁する.
縁は黒色に縁どられる.尾鰭は一様に黒色である
頭部背縁は凸出し,眼隔域は著しく突出する.体
が,上下両葉の後端部は黒色が濃く,基底部付近
の輪郭は背腹が同程度に膨らむが,腹縁は臀鰭起
は黄色を帯びる.虹彩は銀白色で,瞳孔は黒みが
部で折れ曲がる.体高は頭長の 192.7–208.2% と
かった藍色.
高く,背鰭起部で最大.眼窩は背腹方向に長い楕
分布 北緯 35° から南緯 40° にかけてのインド・
円形.瞳孔は円形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置
太平洋および北緯 40° から南緯 25° にかけての大
する.前鼻孔は円形,後鼻孔は背腹方向に長い長
西洋に広く分布する(Mead, 1972; Last and Moteki,
楕円形をそれぞれ呈し,互いに近接する.胸鰭は
2001;波戸岡・甲斐,2013).国内では,相模湾
腹鰭起部および背鰭起部よりも前方に位置し,胸
から九州南方にかけての黒潮流域,京都府舞鶴か
鰭後端は背鰭第 16–17 軟条起部直下,臀鰭第 7–8
ら長崎県五島列島にかけての対馬暖流域,東シナ
軟条起部直上に達する.胸鰭基部下端と腹鰭起部
海,八重山諸島,九州 ― パラオ海嶺(鈴木・細川,
の間隔は体長の 10.1–11.6%,頭長の 35.0–41.7%.
1994; Omori et al., 1997;谷津,1997e;河野ほか,
腹鰭起部は背鰭起部より前方に位置し,胸鰭起部
2011;三浦,2012;波戸岡・甲斐,2013),およ
直下に位置する.たたんだ腹鰭の後端は背鰭第
び鹿児島県薩摩半島南西岸(本研究)から報告が
74
RESEARCH ARTICLES
ある.
備考 鹿児島県産の標本は,胸鰭基部下端と
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
(2012)は本種が稀に沖縄島近海で釣獲され,エ
チオピアと称されることを報告した.波戸岡・甲
腹 鰭 起 部 の 間 隔 が 体 長 の 10.1–11.6%, 頭 長 の
斐(2013)は B. myersi は日本から記録がないとし,
35.0–41.7% であること,胸鰭軟条数が 19–20 で
B. dussumieri の標準和名をヒメシマガツオとし
あること,縦列鱗数が 57–60 であること,および
た.
尾鰭上葉長が体長の 60.0–68.0% であるなどの特
これまで知られていたヒメシマガツオの国内
徴が Mead (1972) や Last and Moteki (2001),
波戸岡・
における分布は上述の「分布」の項のとおりであ
甲斐(2013)の報告した Brama dussumieri の標徴
り,本調査標本は鹿児島県における本種の標本に
とよく一致した.本種は同属他種と比較して,胸
基づく初めての記録である.
鰭基底下端と腹鰭起部の間隔が体長の 12% 以下,
頭長の 42% 以下であること,縦列鱗数が 57–65
であること,および尾鰭上葉長が体長の 50% 以
上であることなどから識別される(Mead, 1972;
Moteki et al., 1995;波戸岡・甲斐,2013).
Brama dussumieri を日本から初めて報告したの
は望月(1984a)と思われる.彼は B. dussumieri
を B. myersi として小笠原諸島から報告すると同
時に本種に対して和名オナガシマガツオを提唱し
た.また,望月(1984c)は本種を B. dussumieri
として相模湾と駿河湾から報告した.山田(1986a)
はオナガシマガツオ B. myersi を東シナ海から報
告している.これらの記録に基づき波戸岡(2000)
は B. myersi の国内における分布を小笠原諸島お
よび東シナ海とし,和名をオナガシマガツオとし
た.しかし,現在,望月(1984a)と山田(1986a)
の B. myersi は Mead (1972) の B. dussumieri である
とされており,日本から B. myersi は記録されて
いないと考えられている(山田ほか,2007;波戸
岡・ 甲 斐,2013). そ の 後, 谷 津・ 中 村(1988)
は B. dussumieri に対し,和名ヒメシマガツオを提
唱した.鈴木・細川(1994)はヒメシマガツオ 5
個 体(OMNH-P 2402, 2407, 2732, 2733, 3059) を
兵庫県美方郡新温泉町浜坂から報告し,Omori et
al. (1997) は奄美諸島東方沖から四国南方沖にか
けての黒潮流域東縁辺部における本種の成熟と産
卵 生 態 を 報 告 し た. 鈴 木 ほ か(2000) と
Shinohara et al. (2011) は鈴木・細川(1994)が報
告 し た 個 体 に 浜 坂 産 の 1 個 体(OMNH-P 6249)
を加え,計 6 個体のヒメシマガツオを報告した.
高木ほか(2010)は愛媛県南宇和郡愛南町から得
Fig. 1. Fresh specimens of Brama dussumieri. A, KAUM–
I. 30444, 46.6 mm SL; B, KAUM–I. 24553, 52.7 mm SL;
C, KAUM–I. 62399, 78.1 mm SL; D, KAUM–I. 9917, 85.9
mm SL. All specimens were collected from Minami-satsuma,
Kagoshima Prefecture, Japan.
ら れ た ヒ メ シ マ ガ ツ オ 1 個 体 を 報 告 し, 三 浦
75
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Brama japonica Hilgendorf, 1878
吻部は無鱗.尾柄から尾鰭基底の鱗は後方にゆく
シマガツオ (Fig. 2)
に従って徐々に小さくなる.鰓耙は細長く,先端
は丸い.擬鰓を有する.鰓蓋および前鰓蓋骨の後
標 本 KAUM–I. 68642, 体 長 391.0 mm, 鹿 児
縁は円滑.眼および瞳孔は背腹方向に長い楕円形.
島 県 熊 毛 郡 中 種 子 町 坂 井 熊 野 漁 港 東 方 24 km
鼻孔は 2 対で眼の前方に位置する.前鼻孔は円形,
(30°27′N, 130°58′E),水深 200 m,2015 年 2 月 2 日,
後鼻孔は背腹方向に長い長楕円形を呈し,互いに
釣り,川南 進.
記載 背鰭軟条数 35;臀鰭軟条数 29;胸鰭軟
条数 19;縦列鱗数 75;第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 5;
第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 10;第 1 鰓弓総鰓耙数
15.
近接する.上顎には鋭い円錐歯が 1 列に並ぶ.下
顎の外側には鋭い円錐歯が 1 列に等間隔に並び,
その内側には小円錐歯が 1 列に並ぶ.
色彩 体背面は黒色.体側上部は暗い錆色で,
体側下部および体腹面は鉄黒色.背鰭は一様に焦
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
げ茶色で,後縁は白色に縁どられる.臀鰭は黒み
尾叉長 111.3;体高 43.7;体幅 12.0;頭幅 12.5;
を帯びた焦げ茶色.胸鰭は半透明の淡い白色をし
背鰭前長 38.1;臀鰭前長 52.6;腹鰭前長 37.9;胸
ており,後端は白い.腹鰭は乳白色透明で,基底
鰭前長 28.1;背鰭基底長 57.6;臀鰭基底長 45.6;
部は暗褐色を呈する.尾鰭は一様に黒みを帯びた
背鰭起部から胸鰭起部までの長さ 29.6;胸鰭長
焦げ茶色であるが,下縁は白色.虹彩は鉄黒色.
38.9;腹鰭長 8.1;背鰭第 5 軟条長 18.8;尾鰭上
分布 北太平洋の亜熱帯から亜寒帯域にかけ
葉 長 28.9; 尾 鰭 下 葉 長 30.9; 尾 鰭 中 央 軟 条 長
て広く分布する(Mead, 1972;谷津,1997a; Seki
11.9;尾柄長 12.8;尾柄高 5.7;頭長 26.2.
and Mundy, 1991; Kim et al., 2005;波戸岡・甲斐,
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
29.7;眼径 23.5;眼隔域幅 29.5;上顎長 46.8.
2013).国内では,北海道から土佐湾にかけての
太平洋,北海道から九州北岸にかけての日本海,
体は前後方向に長い卵形で,強く側扁する.頭
伊豆諸島,小笠原諸島,東シナ海大陸斜面上部域,
部背縁は凸出し,眼隔域は著しく突出する.体の
九 州 ― パ ラ オ 海 嶺( 赤 崎,1982a; 尼 岡 ほ か,
輪郭は背腹が同程度に膨らむが,腹縁は臀鰭起部
1995;魚津水族博物館,1997;谷津,1997a;前田・
で折れ曲がる.体高は頭長の 166.6% と高く,背
筒井,2003;岡,2004;山田ほか,2007;河野ほ
鰭起部で最大.胸鰭起部は鰓蓋後縁よりも後方に
か,2011;波戸岡・甲斐,2013),および鹿児島
位置し,基底下端は腹鰭第 5 軟条起部直上に位置
県大隅諸島種子島(本研究)から報告がある.
する.胸鰭後端は尖り,背鰭第 20 軟条起部と第
備考 鹿児島県産の標本は,胸鰭基部下端と
21 軟条起部直下の間,臀鰭第 14 軟条起部直上に
腹鰭起部の間隔が体長の 9.4%,頭長の 35.8% で
達する.腹鰭起部は胸鰭第 8 軟条起部直下に位置
あること,臀鰭軟条数が 28 であること,および
し,基底後端は背鰭第 3 軟条起部直下に位置する.
縦 列 鱗 数 が 75 で あ る こ と な ど の 特 徴 が Mead
たたんだ腹鰭の後端は背鰭第 9 軟条起部直下に達
(1972) や谷津・中村(1988),波戸岡・甲斐(2013)
する.腹鰭は腋鱗を有し,左右の腹鰭は近接する.
の報告した Brama japonica の標徴とよく一致し
背鰭起部は胸鰭第 19 軟条起部直上に位置し,背
た.本種は日本産の同属他種と比較して,胸鰭基
鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.臀鰭
底下端と腹鰭起部の間隔が体長の 12% 以上,頭
起部は背鰭第 12 軟条起部直下よりもわずかに後
長の 42% 以上であること,縦列鱗数が 65–75 で
方に位置し,臀鰭基底後端は背鰭基底後端直下に
あること,背鰭軟条数が 33–36,臀鰭軟条数が
位置する.尾鰭は二叉型で,深く湾入する.尾柄
27–30 で あ る こ と な ど か ら 識 別 さ れ る(Mead,
から尾鰭基底の鱗は徐々に小さくなる.体側鱗は
1972; 谷 津・ 中 村,1988;Moteki et al., 1995; 波
縦長の円鱗で硬く,剥がれにくい.頭部,主上顎
戸岡・甲斐,2013).記載標本の鮮時の色彩は上
骨,鰓蓋,背鰭および臀鰭は被鱗するが,下顎,
述の通りであるが,本種は生きているときは体側
76
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
が銀白色を呈しており,死後急速に黒褐色に変化
ら報告し,望月(1985)は本種を静岡県伊豆から
することが知られている(望月,1984b,1985;
報告した.魚津水族博物館(1997)はシマガツオ
尼岡ほか,1995;谷津,1997a;岡,2004).
17 個体(体長 25.5–55 cm)を富山県魚津市,滑
Brama japonica は日本近海から得られた個体に
川 市 お よ び 下 荒 川 郡 朝 日 町 か ら 報 告 し, 谷 津
基づき,Hilgendorf(1878)によって記載された.
(1997a)は本種を相模湾から報告した.また,波
Steindachner and Döderlein (1884) は日本近海から
戸岡(2000)は本種を日本近海に広く分布すると
本種を B. rayi として報告した.Jordan et al. (1913)
し,本種の和名をシマガツオとした.鈴木ほか
は B. japonica と B. raii に対しそれぞれ和名ハマ
(2000)と Shinohara et al. (2011) は,シマガツオ 1
シマガツオとシマガツオを提唱した.岡田・松原
個体(OMNH-P 8141)を兵庫県美方郡新温泉町
(1938) は B. japonica の 和 名 を シ マ ガ ツ ヲ,B.
浜坂から報告し,前田・筒井(2003)は本種を北
raii の和名をハマシマガツヲとし,前者を後者の
海道日本海沿岸,太平洋沿岸及びオホーツク海沿
新参異名とみなし,東京市場でエチオピアと呼称
岸から報告した.岡(2004)は駿河湾からシマガ
されることを報告した.Abe (1952) は本種を B.
ツオを報告するとともに,飼育下における本種の
raii とし,和名をハマシマガツオとしてカムチャ
遊泳の様子を報告した.山田ほか(2007)はシマ
ツカ半島東岸から報告した.また彼は,1933 年
ガツオを東シナ海,トカラ列島西方,山口県と対
当時,市場関係者間において,本種がクロマナと
馬間の海域,長崎県対馬市および台湾北東沖の海
呼称されていたが,エチオピア連邦民主共和国と
域から報告し,河野ほか(2011)は本種を山口県
日本の国交が盛んとなった 1935 年から 1937 年に
萩市沖と長門市沖から報告した.池田・中坊(2015)
かけて本種が日本太平洋岸において大量に漁獲さ
はシマガツオ 1 個体[WMNH-PIS-WW 15501 (1),
れ,東京の鮮魚店に多数陳列されたことから,
体長 421 mm]を和歌山県紀伊水道から報告した.
1935 年以降本種が,エチオピアと呼称されるよ
本調査標本は鹿児島県沿岸ならびに大隅諸島
う に な っ た こ と を 報 告 し て い る. そ の 後,
における本種の標本に基づく初めての記録であ
Kamohara (1952) は B. japonica を B. raii として高
る.
知県から報告し,松原(1955)は B. japonica を
Lepidotus brama,和名をシマガツオ(エチオピア)
とし,B. japonicus と B. raii を L. brama の新参異
名 で あ る と 考 え た. そ の 後,Mead (1972) は L.
brama と B. japonica が そ れ ぞ れ 別 種 で あ り,B.
raii は L. brama の新参異名であることを示し,日
本近海に現れるのは B. japonica のみであるとし
たが,本種の和名に関しては言及していない.益
田ほか(1975)は B. japonica の和名をシマガツ
オとし,エチオピアは俗称とし,本種が日本各地
に分布すると報告した.赤崎(1982a)は本種の
Fig. 2. Fresh specimen of Brama japonica. KAUM–I. 68642,
391.0 mm SL, Tanega-shima island, Kagoshima Prefecture,
Japan.
和名をシマガツオとし,九州 ― パラオ海嶺南部
の 水 深 340–620 m か ら 得 ら れ た 2 個 体( 体 長
214–329 mm) の B. japonica を 報 告 し た. 望 月
(1984b)はシマガツオが日本近海の水深 150–300
Brama orcini Cuvier, 1831
マルバラシマガツオ (Fig. 3)
m に 生 息 す る と し た. 岡 村(1985b) は 体 長
214–340 mm のシマガツオ 2 個体(BSKU 26017,
無番号個体)を沖縄舟状海盆の水深 137–260 m か
標本 6 個体(体長 58.5–265.7 mm)
:KAUM–I.
6651, 体長 163.4 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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片 浦 漁 港 沖(31°25′N, 130°10′E), 水 深 140 m,
基部下端と腹鰭起部の間隔は体長の 13.3–16.3%,
2007 年 9 月 27 日, 刺 網, 宮 下 清 和,KAUM–I.
頭長の 48.4–54.8%.腹鰭起部は背鰭起部より前
11844, 体 長 182.7 mm,KAUM–I. 11845, 体 長
方に位置し,胸鰭第 2–5 軟条起部直下に位置する.
139.1 mm, 鹿 児 島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 沖
腹鰭は腋鱗を有する.左右の腹鰭は近接する.背
(31°33′82″N, 129°52′64″E),水深 10 m,2007 年 9
鰭起部は鰓蓋上端より後方,胸鰭第 8–10 軟条起
月 28 日,釣り,宮下清和;KAUM–I. 24605,体
部 直 上 に 位 置 す る が, 体 長 265.7 mm の 個 体
長 58.5 mm, 鹿 児 島 県 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾
(KAUM–I. 70696)では胸鰭基底後端よりも後方
(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2009 年 5 月 12 日,
に位置する.背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に
定置網,山田守彦;KAUM–I. 70696,体長 265.7
位置する.背鰭は後方にゆくに従って低くなる.
mm, 西 之 表 市 住 吉 港 沖( 種 子 島,30°39′N,
背鰭基底部は被鱗する.臀鰭起部は胸鰭起部より
130°53′E),2015 年 3 月 18 日,流し網,押川重信;
も後方,背鰭第 7–14 軟条直下に位置する.背鰭
KAUM–I. 71521,体長 233.7 mm,奄美大島近海,
および臀鰭は折りたたむことができない.尾鰭は
(28°28′N, 129°28′E),前川隆則.
記載 背鰭軟条数 33–35;臀鰭軟条数 28–29;
胸鰭軟条数 19–20;縦列鱗数 50–53;
第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 3–5;第 1 鰓弓下枝上
の鰓耙数 9–11;第 1 鰓弓総鰓耙数 12–15.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
深く湾入し,上葉は下葉よりも長い.体側鱗は縦
長の円鱗で硬く,剥がれにくい.頭部,主上顎骨,
鰓蓋,背鰭と臀鰭は被鱗するが,下顎,吻部は無
鱗.尾柄から尾鰭基底の鱗は後方にゆくに従って
徐々に小さくなる.鰓耙は細長く鰓弁より短い.
鰓耙の先端は丸い.擬鰓を有する.口は大きく,
尾 叉 長 110.8–117.3; 体 高 50.6–59.4; 体 幅 10.0–
上顎後端は眼の前縁を越え,下顎先端は上顎先端
13.5;頭幅 11.8–14.8;背鰭前長 40.6–43.9;臀鰭
よりも突出する.主上顎骨後端は露出し,丸みを
前 長 54.4–61.3; 腹 鰭 前 長 39.9–45.7; 胸 鰭 前 長
帯びる.上顎には鋭い円錐形の歯が 1 列に並ぶ.
28.1–32.8; 背 鰭 基 底 長 55.4–58.7; 臀 鰭 基 底 長
下顎には鋭い円錐形の歯が 2 列に並び,下顎先端
43.6–50.5; 背 鰭 起 部 か ら 胸 鰭 起 部 ま で の 長 さ
には倒すことのできない 2 対の牙状の大きい歯が
32.1–36.9;胸鰭長 28.6–36.9;腹鰭長 9.0–10.9;背
ある.側線は不明瞭であるが完全で,鰓蓋後縁上
鰭第 5 軟条長 13.6–19.8;臀鰭第 5 軟条長 5.6–5.8;
方から尾柄にかけて,体背縁に並走する.
尾鰭上葉長 39.4–48.9;尾鰭下葉長 29.7–36.2;尾
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は一様に暗青色.
鰭中央軟条長 11.0–18.7;尾柄長 10.3–14.5;尾柄
体側上部は青みがかった淡い紫色.体側下部およ
高 6.6–7.3;頭長 26.9–29.7.
び体腹面は一様に銀色.下顎先端は暗色.背鰭は
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
一様に黒色.臀鰭基底部は銀灰色で縁辺は黒色.
22.3–26.2; 眼 径 22.8–32.6; 眼 隔 域 幅 23.6–30.8;
腹鰭は一様に白色.胸鰭は無色透明.尾鰭は黒色
上顎長 50.4–54.6.
で,後縁は白色.
体は前後方向に長い卵形で,強く側扁する.頭
部背縁は凸出し,眼隔域は著しく突出する.体の
固定後の色彩 ― 体背面は暗い褐色となり,体
側および体腹面は.一様に暗い茶褐色となる.
輪郭は背腹が同程度に膨らむが,腹縁は臀鰭起部
分布 北緯 30° から南緯 30° にかけてのインド・
で折れ曲がる.体高は頭長の 174.2–204.2% と高
太 平 洋( 谷 津・ 中 村,1988;Last and Moteki,
く,背鰭起部で最大.眼窩は背腹方向に長い楕円
2001; 谷 津,1997f; 波 戸 岡・ 甲 斐,2013; Bos
形.瞳孔は円形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置す
and Gumanao, 2013)およびカリフォルニア(Mead,
る.前鼻孔は円形,後鼻孔は背腹方向に長い長楕
1972)に広く分布する.国内では,相模湾(波戸
円形をそれぞれ呈し,互いに近接する.胸鰭は腹
岡・ 甲 斐,2013), 三 重 県 南 部(Hibino et al.,
鰭起部および背鰭起部よりも前方に位置し,胸鰭
2014),小笠原諸島,八重山諸島(望月,1984d;
後端は背鰭第 14–19 軟条起部直下に達する.胸鰭
波戸岡・甲斐,2013)および鹿児島県本土,種子
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
島,奄美大島(本研究)から報告がある.
備考 鹿児島県産の標本は,胸鰭基部下端と
腹 鰭 起 部 の 間 隔 が 体 長 の 13.3–16.3%, 頭 長 の
48.4–54.8% であること,および縦列鱗数が 50–53
であることなどの特徴が Mead (1972) や谷津・中
村(1988),Last and Moteki (2001),波戸岡・甲斐
(2013),Bos and Gumanao(2013) の 報 告 し た
Brama orcini の標徴とよく一致した.また鹿児島
産の標本の計数・計測値は Mead (1972) の示した
Brama orcini のそれらとよく一致した.本種は日
本産の同属他種と比較して,胸鰭基底下端と腹鰭
起部の間隔が体長の 12% 以上,頭長の 42% 以上
であること,縦列鱗数が 48–55 であること,背鰭
軟条数が 32–36,臀鰭軟条数が 28–30 であること
な ど か ら 識 別 さ れ る(Mead, 1972; Moteki et al.,
1995;波戸岡・甲斐,2013).
Brama orcini を日本から初めて記録したのは望
月(1984d)と思われる.彼は本種を小笠原諸島
と八重山諸島から報告した.その後,谷津・中村
(1988)は本種に対し,和名マルバラシマガツオ
を提唱した.波戸岡・甲斐(2013)は相模湾から
マルバラシマガツオ 1 個体(FAKU 132170)を報
告し,Hibino et al. (2014) は三重県南部から体長
50.2–171.0 mm の 本 種 6 個 体(FRLM 41947,
41948, 41952, 42115, 44438, 45351) を 報 告 し た.
Fig. 3. Fresh specimens of Brama orchini. A, KAUM–I. 24605,
58.5 mm SL, Uchinoura Bay, Kagoshima Prefecture, Japan; B,
KAUM–I. 6651, 163.4 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima
Prefecture, Japan; C, KAUM–I. 70696, 265.7 mm SL, Tanegashima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
したがって,これまでマルバラシマガツオの国内
における分布は小笠原諸島,相模湾,三重県南部
および八重山諸島とされており(望月,1984d;
波戸岡・甲斐,2013; Hibino et al., 2014),本調査
標本は鹿児島県(本土,大隅諸島種子島,および
奄美群島奄美大島)における本種の標本に基づく
130°10′05″E), 水 深 36 m,2008 年 5 月 1 日, 定
初めての記録である.これは従来知られていた本
置網,寺田正俊.
種の国内における分布の空白域を埋めるものであ
記載 背鰭軟条数 31;臀鰭軟条数 24;胸鰭軟
ると同時に,本種が八重山諸島から相模湾にかけ
条数 20;縦列鱗数 53;第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 4;
て広く分布することを示唆する.
第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 10;第 1 鰓弓総鰓耙数
14.
Brama pauciradiata Moteki, Fujita and Last, 1995
オオバンシマガツオ (Fig. 4)
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
尾叉長 111.9;体高 49.1;体幅 11.5;頭幅 12.4;
背鰭前長 39.0;臀鰭前長 58.7;腹鰭前長 39.7;胸
標本 KAUM–I. 9916,体長 49.3 mm,鹿児島
鰭前長 27.9;背鰭基底長 55.3;臀鰭基底長 41.4;
県南さつま市笠沙町片浦高崎山地先(31°26′00″N,
背鰭起部から胸鰭起部までの長さ 32.7;胸鰭長
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
27.6;腹鰭長 13.6;尾鰭上葉長 27.2;尾鰭下葉長
白色がかった透明で,上部には黒色色素が散在す
26.6;尾鰭中央軟条長 13.7;尾柄長 13.2;尾柄高
る.虹彩は黄色がかった白色.
6.4;頭長 27.4.
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
22.0;眼径 34.1;眼隔域幅 26.4;上顎長 49.9.
固定後の色彩 ― 体背面は一様に暗い褐色とな
る.
分布 オーストラリア北西部と北東部,フィ
体は前後方向に長い卵形で,強く側扁する.体
リピン・ミンダナオ島,日本,およびハワイから
の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.体高は頭長の
記 録 が あ る(Moteki et al., 1995; Last and Moteki,
181.6% と高く,背鰭起部で最大.胸鰭起部は鰓
2001; Hibino et al., 2014). 国 内 で は, 三 重 県 沖
蓋後縁よりも前方に位置し,胸鰭基底下端は腹鰭
(Hibino et al., 2014)と鹿児島県薩摩半島西岸(本
第 4 軟条起部直上に位置する.胸鰭の後端は尖り,
研究)から報告がある.
背鰭第 13 軟条起部直下および臀鰭第 3 軟条起部
備考 鹿児島産の標本は,背鰭軟条が 31 本で
直上をわずかに越える.腹鰭起部は胸鰭第 2 軟条
あること,臀鰭軟条が 24 本であること縦列鱗が
起部直下に位置し.腹鰭基底後端は背鰭第 2 軟条
53 枚であること,背鰭前方鱗が 25 枚であること,
起部直下に位置する.たたんだ腹鰭の後端は背鰭
尾柄部腹面が淡褐色を呈することなどの特徴が
第 6 軟条起部直下に達するが,総排泄孔および臀
Moteki et al. (1995) や Last and Moteki (2001),
鰭起部には達しない.背鰭起部は腹鰭基底後端よ
Hibino et al (2014) の報告した Brama pauciradiata
りも後方に位置し,背鰭基底後端は臀鰭基底後端
の標徴とよく一致した.また鹿児島産の標本の計
直上に位置する.臀鰭起部は背鰭第 10 軟条起部
数・ 計 測 値 は Hibino et al. (2014) の 示 し た B.
直下に位置する.背鰭および臀鰭は後方に行くほ
pauciradiata のそれとよく一致した.
ど低くなる.尾鰭は二叉型で,湾入する.総排泄
本 種 は 同 属 他 種 と 比 較 し て, 背 鰭 軟 条 数 が
孔は腹鰭基底後端と臀鰭基底の間に位置する.眼
30–32 であること,臀鰭軟条数が 22–25 であるこ
窩,眼および瞳孔は円形.鼻孔は 2 対で眼の前方
と,縦列鱗数が 49–59 であること,背鰭前方鱗数
に位置する.前鼻孔は円形,後鼻孔は背腹方向に
が 23–28 であること,および尾柄部腹面は淡褐色
長い長楕円形をそれぞれ呈し,互いに近接する.
を呈することなどから識別される(Moteki et al.,
鰓耙は細長く鰓弁より短い.鰓耙の先端は丸い.
1995; Last and Moteki, 2001; Hibino et al., 2014).
擬鰓を有する.口は大きく,斜めで上向き.上顎
Brama pauciradiata はオーストラリア北西部と
後端は瞳孔前縁直下をわずかに越える.下顎先端
北東部およびハワイから得られた 23 個体に基づ
は上顎先端よりも突出する.主上顎骨後端は露出
き Moteki et al. (1995) により記載された.記載個
し,丸みを帯びる.上顎および下顎には鋭い円錐
体 の う ち 16 個 体 は ミ ズ ウ オ Alepisaurus ferox
形の歯が 1 列に並ぶ.下顎先端には倒すことので
Lowe, 1833 の胃から得られている.
きない牙状の 2 対の大きい歯がある.体は,大き
Hibino et al. (2014) は B. pauciradiata を日本から
く剥がれにくい円鱗に被われるが,吻部,下顎,
初めて報告した.彼らは三重県南方から得られた
背鰭,臀鰭,腹鰭は無鱗.胸鰭基底部は細かい鱗
6 個 体(FRLM 41953, 42111, 44446, 44447, 44452,
を被る.背鰭前方鱗被鱗域の前縁は中央部が突出
45335,体長 57.6–160.1 mm)に基づき本種を記
し,先端は瞳孔後縁間に達する.
載するとともに,標準和名オオバンシマガツオを
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は黒色.体側上
提唱した.その後,本種の日本沿岸からの標本に
部は青みがかった銀白色.頭部側面,体側下部お
基づく報告はなく,本報告が鹿児島県におけるオ
よび体腹面は一様に銀白色.下顎先端は黒色.尾
オバンシマガツオの標本に基づく初めての記録な
柄部腹面は淡褐色を呈する.背鰭軟条は黒色で,
らびに日本沿岸からの 2 例目の記録となる.
基底部付近は白色.尾鰭は黒色で,中央部は白色
を呈する.腹鰭および臀鰭は一様に白色.胸鰭は
80
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
び尾柄部は強く側扁する.眼隔域は強く張り出す.
体の輪郭は背腹が同程度に膨らむが,背縁は背鰭
起部で,腹縁は臀鰭起部でそれぞれ折れ曲がる.
体高は頭長の 164.8–171.7% と高く,背鰭起部で
最大.腹縁は隆起する.胸鰭起部は鰓蓋後縁より
も前に位置し,胸鰭基底下端は腹鰭起部直下また
は腹鰭第 1 軟条起部直上に位置する.胸鰭後端は
Fig. 4. Fresh specimen of Brama pauciradiata. KAUM–I. 9916,
49.3 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.
尖り,背鰭第 17–20 軟条起部直下に達する.腹鰭
起部は胸鰭基底下端直下または胸鰭第 2 軟条起部
直下に位置し,基底後端は背鰭起部直下よりもわ
ずかに前方に位置する.たたんだ腹鰭の後端は背
鰭第 7–9 軟条起部直下に達する,腹鰭は腋鱗をそ
Eumegistus illustris Jordan and Jordan, 1922
なえており,左右の腹鰭は離れている.背鰭起部
チカメエチオピア (Fig. 5)
は腹鰭基底後端直上よりもわずかに後方に位置
し,背鰭基底後は端臀鰭第 24 軟条起部直上また
標本 2 個体(体長 476.0–549.0 mm):KAUM–
は臀鰭基底後端直上に位置する.臀鰭起部は背鰭
I. 47904,体長 476.0 mm,与論島沖,2012 年 8 月
第 16–18 軟条起部直下に位置し,基底後端は背鰭
14 日,KAUM 魚類チーム(茶花漁港で購入);
基底後端直下よりも後方に位置する,背鰭および
KAUM–I. 68443, 体 長 549.0 mm, 喜 界 島 近 海
臀鰭は僅かに鎌状で,被鱗する.尾鰭は二重湾入
(28°18′N, 129°58′E),100 m 以浅,釣り,2015 年
型で,上下両端は伸長し,中央部が膨出する.尾
1 月 18 日,畑 晴陵(鹿児島市中央卸売市場で
柄の背面に溝がない.尾柄から尾鰭基底にかけて
購入).
の鱗は急に小さくなる.体は,大きく剥がれにく
記載 背鰭軟条数 33;臀鰭軟条数 24–25;胸
い円鱗で被われるが,前鰓蓋骨後部,鰓蓋後部,
鰭軟条数 19–20;縦列鱗数 46–48; 第 1 鰓弓上枝上
吻部および下顎は無鱗.背鰭前方鱗被鱗域の先端
の鰓耙数 3–6;第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 9–12;第
は瞳孔中央の間に達する.鰓耙は細長く,先端は
1 鰓弓総鰓耙数 12–18.
丸い.擬鰓を有する.鰓蓋と前鰓蓋骨の後縁は円
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
滑.鰓蓋後部上の鱗は鰓蓋後縁よりも後方に張り
尾 叉 長 112.9–113.5; 体 高 46.5–47.5; 体 幅 15.3–
出す.眼と瞳孔は背腹方向に長い楕円形.鼻孔は
17.3;頭幅 14.5–18.6;背鰭前長 39.7–42.0;臀鰭
2 対で眼の前方に位置する.前鼻孔は円形,後鼻
前 長 57.1–63.0; 腹 鰭 前 長 35.3–39.1; 胸 鰭 前 長
孔は背腹方向に長いスリット状をそれぞれ呈し,
28.2–30.0; 背 鰭 基 底 長 52.0–52.5; 臀 鰭 基 底 長
互いに近接する.上顎前部および下顎前部には鋭
33.3–36.1; 背 鰭 起 部 か ら 胸 鰭 起 部 ま で の 長 さ
い円錐形の歯が 3–4 列に並び,後部では 1–2 列に
31.9–35.0; 胸 鰭 長 34.7–36.1; 腹 鰭 長 14.0–15.1;
なる.口蓋骨および鋤骨には鋭い円錐歯が密生す
背 鰭 第 5 軟 条 長 5.8–6.3; 臀 鰭 第 5 軟 条 長 10.9–
る.
12.2;尾鰭上葉長 27.8–33.8;尾鰭下葉長 28.2;尾
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は黒色.体側は
鰭中央軟条長 12.5–13.0;尾柄長 15.5–16.2;尾柄
青みがかった暗灰色か,茶色がかった黒褐色で,
高 6.9–7.2;頭長 27.6–28.2.
個体によって変異がみられる.体側鱗の後縁は銀
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
白色で,網目模様を形成する.背鰭と臀鰭は一様
32.0–32.3; 眼 径 26.1–27.6; 眼 隔 域 幅 35.5–37.6;
に銀色で,それぞれの上縁と下縁は黒色.胸鰭上
上顎長 51.3–52.4.
部は黒色で,下部は白色透明.腹鰭前部は暗褐色
体は前後方向に長い卵形で側扁し,頭部およ
で,後半部は灰色がかった白色.尾鰭は黒色で,
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
後縁は白色.虹彩は黄色がかった暗褐色または銅
島から報告し,Shinohara et al. (2014) は本種を沖
色で,瞳孔は青みを帯びた暗灰色.
縄諸島北方沖から報告した.池田・中坊(2015)
固定後の色彩 ― 体は一様に暗い褐色となる.
各鰭は一様に茶色がかった黒褐色となる.
は本種 1 個体[WMNH-PIS-WW 15506 (1),体長
343 mm]を和歌山県紀伊水道から報告した.調
分布 日本,フィリピン諸島東方,インドネ
査標本のうち,KAUM–I. 68443 は喜界島におけ
シア・小スンダ列島南方,ニューギニア北岸,オー
るチカメエチオピアの標本に基づく初めての記録
ストラリア南東岸・北東岸,ジョンストン環礁,
である.
ハワイ諸島,トンガ諸島,およびツアモツ諸島か
ら記録がある(Mead, 1972; Last and Moteki, 2001;
波戸岡・甲斐,2013).国内では,小笠原諸島,
相模湾,紀伊水道,土佐湾,与論島,沖縄島,沖
縄舟状海盆北東部,九州 ― パラオ海嶺(赤崎,
1982b; 青 木,1984; 谷 津,1997b;Senou et al.,
2006; 三浦,2012;波戸岡・甲斐,2013;岡本,
2014a; Shinohara et al., 2014;池田・中坊,2015;
本研究)
,および奄美群島喜界島沖(本研究)か
ら報告がある
備考 記載標本は,背鰭と臀鰭が被鱗するこ
Fig. 5. Fresh specimen of Eumegistus illustris. KAUM–I. 68443,
549.0 mm SL, Kikai-jima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
と,両眼間隔が突出すること,左右の腹鰭が離れ
ていること,および尾柄から尾鰭基底にかけての
鱗 は 急 に 小 さ く な る こ と な ど の 特 徴 が Mead
(1972) や Last and Moteki (2001), 波 戸 岡・ 甲 斐
(2013)の報告した Eumegistus illustris の標徴とよ
く一致した.
Pteraclis aesticola (Jordan and Snyder, 1901)
ベンテンウオ (Fig. 6)
Eumegistus illustris を日本から初めて報告した
のは Abe (1961) である.彼は神奈川県下足柄郡
標 本 KAUM–I. 55739, 体 長 518.0 mm, 与 論
真鶴町沖から得られた全長 158 mm の本種 1 個体
島北東沖 5.8 km(27°08′N, 128°30′E),620 m,釣り,
を Pseudotaractes saussuri として報告し,和名チ
2013 年 7 月 16 日,町 英八郎.
カ メ エ チ オ ピ ア を 提 唱 し た. 現 在, 彼 の P.
記載 背鰭軟条数 49;臀鰭軟条数 44;胸鰭軟
saussuri は E. illustris であるとされている(Mead,
条数 19;縦列鱗数 50;第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 3;
1972;益田ほか,1975).その後,赤崎(1982b)
第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 7;第 1 鰓弓総鰓耙数
は九州 ― パラオ海嶺南部の水深 381 m と 620 m
10.
か ら 得 ら れ た チ カ メ エ チ オ ピ ア 4 個 体( 体 長
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
361.0–453.0 mm)を報告した.青木(1984)はチ
尾叉長 108.1;体高 23.2;体幅 6.5;頭幅 6.1;背
カメエチオピア 20 個体を小笠原諸島から報告し,
鰭前長 3.3;臀鰭前長 18.5;腹鰭前長 15.5;胸鰭
望月(1984f)は本種を沖縄島から報告した.谷
前長 24.0;背鰭基底長 95.0;臀鰭基底長 84.2;背
津(1997b)は高知県御畳瀬市場に水揚げされた
鰭 起 部 か ら 胸 鰭 起 部 ま で の 長 さ 24.4; 胸 鰭 長
チカメエチオピア 1 個体を報告し,三浦(2012)
20.4;腹鰭長 1.3;背鰭第 5 軟条長 33.0;尾鰭上
は本種が稀に沖縄島近海で釣獲され,エチオピア
葉長 15.2;尾鰭下葉長 14.6;尾鰭中央軟条長 6.5;
と称されることを報告した.岡本(2014a)はチ
尾柄長 5.2;尾柄高 2.6;頭長 20.8.
カメエチオピア 1 個体(KAUM–I. 47904)を与論
82
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
RESEARCH ARTICLES
28.3;眼径 21.0;眼隔域幅 17.9;上顎長 44.3.
体は前後方向に長い長楕円形で,強く側扁す
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
にかけての東太平洋,韓国浦項(Mead, 1972; Seki
and Mundy, 1991; Kim et al., 2005;波戸岡・甲斐,
る.体の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.吻端は突
2013) お よ び 大 西 洋 西 部(Carvalho-Filho et al.,
出する.体高は頭長の 111.7% と低く,背鰭第 20
2009;岡本,2014b)に広く分布する.国内では,
軟条起部で最大.背鰭起部は吻部中央に位置し,
岩手県から琉球列島にかけての太平洋,新潟県佐
背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.背
渡ヶ島,兵庫県,鳥取県,山口県の日本海,大隅
鰭第 4 軟条は隣接する背鰭軟条と比較してかなり
諸島屋久島,および奄美群島与論島から報告があ
太い.胸鰭起部は背鰭第 17 軟条起部直下,臀鰭
る(Motomura et al., 2010;河野ほか,2011;波戸
第 10 軟条起部直上に位置し,胸鰭基底下端は基
岡・甲斐,2013;岡本,2014b;本研究)
底上端の直下に位置する.胸鰭後端は尖り,背鰭
備考 本標本は,背鰭と臀鰭がひじょうに幅
第 26 軟条起部直下,臀鰭 19 軟条起部直上に位置
広く,鰭上は無鱗で,基底部は前後方向に細長い
する.腹鰭起部は眼の中央直下,背鰭第 6 軟条起
鱗鞘で被われ,折りたたむことができること,背
部直下に位置し,たたんだ腹鰭の後端は背鰭第 7
鰭起部が吻部中央に位置すること,および背鰭第
軟条起部直下に達する.尾鰭は二叉型で湾入する.
4 軟条が隣接する背鰭軟条と比較してかなり太い
背鰭と臀鰭はひじょうに幅広く,鰭上は無鱗で,
ことなどの特徴が Mead (1972) や Last and Moteki
基底部は前後方向に細長い鱗鞘で被われ,折りた
(2001) などによって定義された Pteraclis 属の標徴
たむことができる.体は,大きく剥がれにくい円
と一致した.また鰓条骨が 7 本であること,背鰭
鱗で被われるが,前鰓蓋骨後部,吻部および下顎
軟条数が 49 であること,および臀鰭軟条数が 44
は無鱗.体側後部の鱗は中央部が後ろ向きの棘状
であることなどの特徴が Mead (1972) や Last and
に隆起する.胸鰭基底内側は無鱗で,基部外側の
Moteki (2001),波戸岡・甲斐(2013)の報告した P.
鱗は細かい.鰓耙は短く,鰓弁より短い.鰓耙の
aesticola の標徴とよく一致した.本種は同属他種
先端は丸い.擬鰓を有する.鰓蓋および前鰓蓋骨
と比較して,鰓条骨が 7 本であること,背鰭軟条
の後縁は円滑.鰓蓋後部上の鱗は鰓蓋後縁よりも
数 が 46–55 で あ る こ と, お よ び 臀 鰭 軟 条 数 が
後方に張り出す.眼と瞳孔は背腹方向に長い楕円
40–44 で あ る こ と な ど か ら 識 別 さ れ る(Mead,
形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置する.前鼻孔と
1972; Last and Moteki, 2001).
後鼻孔は円形で,互いに近接する.上顎には鋭い
Pteraclis aesticola は茨城県鹿嶋市沖から得られ
円錐形の歯が 2 列に並ぶが,前部で約 3 列となる.
た 1 個体に基づき Jordan and Snyder (1901) によっ
口蓋骨と鋤骨には鋭い歯が密生する.下顎には 2
て記載された.Jordan et al. (1913) は本種に対し和
列の鋭い円錐歯が並ぶ.舌上は無歯.鰓条骨は 7
名ベンテンウオを提唱した(Mead, 1972).その後,
本.
蒲原(1950)はベンテンウオを高知県から報告し,
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は一様に暗い銀
Kamohara (1952) は体長 450 mm の本種 1 個体を
色.体側および体腹面は一様に銀白色.背鰭と臀
高知県須崎市から報告した.瀬能・菅野(2004)
鰭は一様に漆黒で,基底部は青みを帯びる.尾鰭
はベンテンウオを屋久島元浦の水深 3 m から水中
は黒色で,後縁は白色.胸鰭は淡褐色を呈する.
写 真 に 基 づ き 報 告 し(Motomura et al., 2010),
腹鰭は白色がかった半透明.虹彩はやや黄色が
Shinohara et al. (2011) は 本 種 1 個 体(OMNH-P
かった銀色で,瞳孔は青みがかった黒色.
65832)を兵庫県日本海沿岸から報告した.河野
固定後の色彩 ― 体側は一様に銀色がかった淡
ほか(2011)は山口県萩市三見沖から体長 47.0
褐色となる.胸鰭を除く各鰭は一様に黒色となる.
cm,体重 460 g のベンテンウオ 1 個体を報告し,
分布 ハンコック海山からハワイ諸島東方に
岡 本(2014b) は 本 種 1 個 体(KAUM–I. 55739)
かけての中央太平洋,オーストラリア南東岸,日
を与論島から報告した.池田・中坊(2015)は和
本,カリフォルニア州からカリフォルニア半島沖
歌山県日高郡みなべ町から巻き網によって得られ
83
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
た ベ ン テ ン ウ オ 1 個 体[WMNH-PIS-WW 15508
82.2;臀鰭基底長 69.6–71.1;背鰭起部から胸鰭起
(1),体長 114 mm]を報告した.
部までの長さ 22.6;胸鰭長 23.7;腹鰭長 9.2;背
鰭第 5 軟条長 5.1;尾鰭上葉長 24.5;尾鰭下葉長
24.8;尾鰭中央軟条長 12.8;尾柄長 11.2–12.3;尾
柄高 5.5–5.7;頭長 23.2–24.2.
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
18.0–19.6; 眼 径 31.6–33.8; 眼 隔 域 幅 23.2–23.5;
上顎長 54.2–54.7.
体は前後方向に長い長楕円形で,著しく側扁
する.体の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.吻端は
丸い.下顎は突出する.体高は頭長の 151.1% と
高く,背鰭第 15 軟条起部で最大.背鰭起部は瞳
孔後縁直上に位置し,背鰭基底後端は臀鰭基底後
端直上に位置する.胸鰭起部は背鰭第 9–10 軟条
起部直下,臀鰭第 3 軟条起部直上に位置し,胸鰭
基底下端は基底上端の直下に位置する.胸鰭後端
は尖り,背鰭第 25 軟条起部直下,臀鰭 16 軟条起
部直上に位置する.腹鰭起部は背鰭第 5 軟条起部
Fig. 6. Fresh specimen of Pteraclis aesticola. KAUM–I. 55739,
518.0 mm SL, Yoron-jima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
直下,眼の後縁よりも後方に位置し,たたんだ腹
鰭の後端は背鰭第 13–15 軟条起部直下,臀鰭第
4–5 軟条起部直上に達する.腹鰭は腋鱗を有する.
臀鰭起部は背鰭第 8–11 軟条起部直下に位置し,
臀鰭基底後端は背鰭基底後端直下に位置する.尾
Pterycombus petersii (Hilgendorf, 1878)
鰭は二叉型で湾入する.背鰭と臀鰭はひじょうに
リュウグウノヒメ (Fig. 7)
幅広く,鰭上は無鱗で,基底部は前後方向に細長
い鱗鞘で被われ,折りたたむことができる.体は,
標本 2 個体(体長 132.1–168.0 mm):KAUM–
大きく剥がれにくい円鱗で被われるが,吻部,前
I. 12001,体長 168.0 mm,南さつま市坊津町沖秋
鰓蓋骨後縁および下顎は無鱗.体側中央の鱗は中
目 島 北 側(31°21′N, 130°10′E),40 m, 定 置 網,
央部が後ろ向きの棘状に隆起する.胸鰭基底内側
2006 年 6 月 24 日, 宮 内 一 郎;KAUM–I. 30506,
は無鱗で,基部外側の鱗は細かい.鰓耙は短く,
体長 132.1 mm,南さつま市笠沙町片浦高崎山地
鰓弁より短い.鰓耙の先端は丸い.擬鰓を有する.
先(31°26′00″N, 130°10′05″E),36 m, 定 置 網,
鰓蓋と前鰓蓋骨の後縁は円滑.眼と瞳孔は背腹方
2010 年 6 月 7 日,伊東正英.
向に長い楕円形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置す
記載 背鰭軟条数 48–50;臀鰭軟条数 37–38;
る.前鼻孔は円形で,後鼻孔は背腹方向に長いス
胸鰭軟条数 20;縦列鱗数 47–49;第 1 鰓弓上枝上
リット状を呈し,互いに近接する.上顎には鋭い
の鰓耙数 1;第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 7;第 1 鰓
円錐形の歯が並び,後部で 1 列であるが,前方に
弓総鰓耙数 8.
行くに従い増加し,前縁では 4 列となる.下顎に
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
尾 叉 長 112.1; 体 高 36.7; 体 幅 8.0–10.3; 頭 幅
は鋭い円錐歯が後部で 1 列,前方で 3 列に並ぶ.
色彩 体側は一様に銀白色.背鰭,臀鰭,腹鰭,
10.1–11.4; 背 鰭 前 長 13.1–15.2; 臀 鰭 前 長 29.0;
および胸鰭腋部は漆黒.胸鰭はやや赤みを帯びた
腹鰭前長 22.6;胸鰭前長 23.6;背鰭基底長 79.1–
透明.尾鰭は黄色がかった黒色.虹彩は淡い檸檬
84
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色で,瞳孔は青みがかった黒色.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
れた体長約 20 cm の本種 1 個体を報告した.魚津
固定後の色彩 ― 体側は一様に銀色がかった淡
水族博物館(1997)は定置網で得られた全長 23
褐色となる.胸鰭を除く各鰭は一様に黒色となる.
cm のリュウグウノヒメ 1 個体を富山県滑川市吉
分布 南アフリカ大西洋沿岸,アフリカ東岸
浦沖から報告し,瀬能ほか(1997)は沖縄県慶良
から日本,ニュージーランド北方沖,キリバスに
間諸島渡嘉敷島の水深 5 m 付近から本種を水中写
かけてのインド・太平洋に広く分布する(Mead,
真に基づき報告した.谷津(1997c)はリュウグ
1972; Paulin, 1981; Seki and Mundy, 1991; Last and
ウノヒメを九州 ― パラオ海嶺から報告し,鈴木
Moteki, 2001;波戸岡・甲斐,2013).国内では東
ほか(2000)は本種 1 個体(OMNH-P 12734)を
北地方から琉球列島にかけての太平洋,北海道,
兵庫県浜坂町から報告した.前田・筒井(2003)
青森県,新潟県,富山湾,兵庫県,島根県,山口
はリュウグウノヒメを北海道日本海側から報告
県の日本海,慶良間諸島,九州 ― パラオ海嶺,
し,Shinohara et al. (2011) は本種 1 個体(OMNH-P
東 シ ナ 海( 赤 崎,1982c; 魚 津 水 族 博 物 館,
93916)を兵庫県日本海沿岸から報告した.河野
1997;瀬能ほか,1997;谷津,1997c;鈴木ほか,
ほか(2011)はリュウグウノヒメが山口県下関市
2000;山田ほか,2007;河野ほか,2011;冨山,
日本海沿岸および萩市鯖島東方沖から得られたこ
2013;波戸岡・甲斐,2013;),および鹿児島県
とを報告した.また,波戸岡・甲斐(2013)は兵
薩摩半島西岸から報告がある(本研究).
庫県美方郡香美町香住から本種 1 個体(FAKU
備考 記載標本は背鰭起部が瞳孔後縁直上に
130213)を報告した.冨山(2013)は全長約 30
位置すること,背鰭と臀鰭が被鱗しないなどの特
cm のリュウグウノヒメ 1 個体(MSM-12-49)を
徴が Mead (1972) や Last and Moteki (2001),
波戸岡・
静岡県静岡市興津沖から報告すると同時に,本種
甲斐(2013)の報告した Pterycombus petersii の標
の飼育下における遊泳の様子を報告した.した
徴とよく一致した.
がって,記載標本は鹿児島県沿岸における本種の
Pterycombus petersii は Hilgendorf (1878) によっ
標本に基づく初めての記録である.
て,神奈川県江の島から得られた個体に基づき
Centropholis petersii として記載された.Jordan et
al. (1913) は本種に対し和名リュウグウノツカイ
を 提 唱 し た. し か し,Regalecus russelii (Cuvier,
1816)(アカマンボウ目リュウグウノツカイ科)
と混同するとの理由から,岡田・松原(1938)は,
Pterycombus petersii に対し新たな和名リュウグウ
ノヒメを提唱した.その後,片山(1943)はリュ
ウグウノヒメ 1 個体(体長 223 mm)を兵庫県豊
岡市津居山沖から報告し,田中(1952)は尾叉長
340 mm の本種 1 個体および全長 430 mm の 1 個
体をそれぞれ北海道室蘭市および神奈川県小田原
市付近から報告した.水沢(1964)は新潟県親不
知沖から体長 192 mm のリュウグウノヒメ 1 個体
を報告し,本間・杉原(1964)は山形県鶴岡市温
海町沖から得られた本種 1 個体を報告した.赤崎
(1982c) は 九 州 ― パ ラ オ 海 嶺 南 部 の 水 深 332–
Fig. 7. Fresh specimen of Pterycombus petersii. KAUM–I. 30506,
132.1 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.
340 m から得られた体長 175 mm のリュウグウノ
ヒメ 1 個体および三重県南牟婁郡御浜町から得ら
85
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Taractes asper Lowe, 1843
後端よりも後方に位置する.臀鰭は鎌状で,第 4
マンザイウオ (Fig. 8)
軟条が最長.体側鱗は縦長の円鱗で硬く,剥がれ
にくい.頭部,主上顎骨,鰓蓋,峡部,背鰭およ
標 本 KAUM–I. 10567, 体 長 549.0 mm, 鹿 児
島県(詳細な産地は不明).
び臀鰭は被鱗するが,下顎,吻部は無鱗.頭部被
鱗域前縁は眼の中央間に達する.体側中央から後
記載 背鰭軟条数 31;臀鰭軟条数 23;胸鰭軟
部にかけての鱗は中央が棘状に隆起する.尾柄中
条数 18;縦列鱗数 42;第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 5;
央部の鱗は周囲の鱗とほぼ同大.鰓耙は細長く鰓
第 1 鰓弓下枝上の鰓耙数 8;第 1 鰓弓総鰓耙数
弁より短い.鰓耙の先端は丸い.擬鰓を有する.
13.
鰓蓋と前鰓蓋骨の後縁は円滑.眼と瞳孔は背腹方
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
向に長い楕円形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置す
尾叉長 115.6;体高 43.4;体幅 14.6;頭幅 17.3;
る.前鼻孔は円形,後鼻孔は背腹方向に長いスリッ
背鰭前長 39.9;臀鰭前長 63.7;腹鰭前長 36.2;胸
ト状を呈し,互いに近接する.総排泄孔は臀鰭起
鰭前長 32.0;背鰭基底長 52.8;臀鰭基底長 34.4;
部前方に開孔する.上顎には鋭い円錐形の歯が 2
背鰭起部から胸鰭起部までの長さ 28.9;胸鰭長
列に並ぶが,前縁で 2–3 列となる.口蓋骨には鋭
32.9;腹鰭長 14.4;背鰭第 5 軟条長 34.2;尾鰭上
い歯が 1 列に並び,鋤骨には数本の歯が密生する.
葉 長 37.7; 尾 鰭 下 葉 長 28.9; 尾 鰭 中 央 軟 条 長
下顎後部には鋭い歯が並び,後部は 1 列であるが
13.9;尾柄長 13.7;尾柄高 7.0;頭長 30.4.
前方に行くほど列が増加し,下顎前縁では約 3 列
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
29.3;眼径 29.4;眼隔域幅 27.1;上顎長 53.8.
の歯帯を形成する.
色彩 体背面,背鰭および腹鰭は一様に墨色.
体はやや側扁し,後ろに行くほど側扁する.体
体側および体腹面は一様に鈍い銀白色.臀鰭を覆
の背縁は吻端から背鰭起部にかけて僅かに膨ら
う鱗は銀白色で,各軟条は黒色.胸鰭は青みがかっ
み,そこから尾鰭基底にかけて緩やかに下降する.
た白色.尾鰭は一様に青みがかった黒色であるが,
腹縁は下顎先端から鰓蓋後縁直下にかけて緩やか
後縁は白色.
に膨らみ,そこから直線状となったのち,臀鰭起
部で,折れ曲がる.臀鰭基底部体腹縁は直線状で,
固定後の色彩 ― 体背面は一様に黒褐色,体側
面および体腹面は一様に暗い茶褐色となる.
臀鰭基底後端で再び折れ曲がり,尾鰭基底まで直
分布 北緯 25° 以北の北太平洋,チリ沖,オー
線状となる.眼隔域は平坦.吻は尖り,下顎は突
ストラリア南東岸・南岸,マダガスカル南部,南
出する.体高は頭長の 142.7% と高く,背鰭起部
アフリカのインド洋・大西洋沿岸,北緯 25° 以北
で最大.胸鰭起部は鰓蓋後縁よりも後方,腹鰭起
の 大 西 洋 に 広 く 分 布 す る(Mead, 1972; Paulin,
部直上に位置し,胸鰭基底下端は腹鰭基底後端よ
1981; Seki and Mundy, 1991; 尼 岡 ほ か,1995;
りも後方に位置する.胸鰭の後端は尖り,背鰭第
Moteki and Nagasawa, 1998; Last and Moteki, 2001;
20 軟条起部直下をわずかに超え,臀鰭第 2 軟条
波戸岡・甲斐,2013).国内では,北海道日本海・
起部直上に達する.腹鰭起部は胸鰭起部直下に位
太平洋沿岸,青森県,新潟県,相模湾,駿河湾,
置し,腹鰭基底後端は胸鰭第 4 軟条起部直下に位
土佐湾(波戸岡・甲斐,2013),および鹿児島県(本
置する.たたんだ腹鰭は背鰭第 12 軟条起部直下
研究)から報告がある.
に達するが,総排泄孔には達しない.腹鰭は腋鱗
備考 本標本は,吻端がとがり,下顎が突出
を有する.背鰭起部は胸鰭第 5 軟条起部および腹
すること,眼隔域が平坦であること,および背鰭
鰭第 4 軟条起部直上に位置し,背鰭基底後端は臀
と臀鰭が被鱗することなどが Mead (1972) や Last
鰭第 21 軟条起部直上に位置する.背鰭は鎌状を
and Moteki (2001) な ど に よ っ て 定 義 さ れ た
呈し,第 5 軟条が最長.臀鰭起部は背鰭第 18 軟
Taractes 属の標徴と一致した.また尾柄中央部の
条起部直下に位置する.臀鰭基底後端は背鰭基底
鱗は周囲の鱗とほぼ同大であること,胸鰭長が体
86
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
長の 32% であることなどの特徴が Mead (1972) や
(Döderlein, 1883) に対して用いられた和名であり,
Last and Moteki (2001),波戸岡・甲斐(2013)の
望月(1984e)がマンザイウオの名称を Taractes
報告した Taractes asper の標徴とよく一致した.
asper の和名にあてた理由は不明であるが,波戸
本属は世界で本種マンザイウオとツルギエチオピ
岡(2000)も T. asper の標準和名をマンザイウオ
ア Taractes rubescens (Jordan and Evermann, 1887)
とした.前田・筒井(2003)はマンザイウオを北
の 2 種のみが知られる(Mead, 1972)が,マンザ
海道太平洋沿岸と日本海沿岸から報告し,瀬能・
イウオは尾柄中央部の鱗が周囲の鱗とほぼ同大で
北 村(2003) は 本 種 の 幼 魚 が ユ ウ レ イ ク ラ ゲ
あること(ツルギエチオピアでは尾柄中央部の鱗
Cyanea nozakii Kishinouye, 1891 に付随し遊泳する
は大きく,隆起する),胸鰭長が体長の 36% 未満
姿を伊豆大島秋の浜の水深 6 m から水中写真に基
であること(36% 以上),および臀鰭軟条数が
づき報告した.記載標本は詳細な産地が不明であ
23–26 であること(21–23)などから識別される
るが,鹿児島県におけるマンザイウオの標本に基
(Mead, 1972; Last and Moteki, 2001;波戸岡・甲斐,
づく初めての記録である.
2013).
Taractes asper を日本から初めて報告したのは
Matsubara (1936) である.彼は相模湾から得られ
た 全 長 230 mm の T. asper 1 個 体 に 基 づ き,
Taractes platycephalus を 新 種 記 載 し た. そ の 後,
片山(1943)は体長 170 mm の T. platycephalus 1
個体を兵庫県豊岡市津居山沖から報告すると同時
に,T. platycephalus に対し和名ヒラマンザイウオ
を 提 唱 し た. し か し, 松 原(1955) は T.
platycephalus に対して,和名サガミマンザイウオ
を提唱した.その後 Abe (1961) は東京魚市場に
Fig. 8. Fresh specimen of Taractes asper. KAUM–I. 10567, 549.0
mm SL, Kagoshima Prefecture, Japan.
水揚げされた全長 560 mm の T. asper を T. raschi
として報告するとともに,和名ラッシュエチオピ
アを提唱した.本間(1962)は定置網で得られた
体長 280 mm の T. asper を T. platycephalus として,
Taractichthys steindachneri (Döderlein, 1883)
和名をサガミマンザイウオとして新潟県佐渡ヶ島
ヒレジロマンザイウオ (Fig. 9)
両津湾から報告した.また Ueno (1970) は T. asper
を T. raschi として北海道利尻島本泊と増毛郡増毛
標本 3 個体(体長 207.5–340.0 mm):KAUM–
町沖から報告した.Mead (1972) は,日本から報
I. 41046, 体 長 340.0 mm, 鹿 児 島 県 与 論 島 沖,
告された T. platycephalus と T. raschii は T. asper で
2011 年 8 月 22 日, 釣 り( 茶 花 漁 港 に て 購 入 ),
あるとしたが,本種の和名に関しては言及してい
KAUM 魚類チーム;KAUM–I. 62427,体長 207.5
ない.また,益田ほか(1975)は日本から報告さ
mm,指宿市開聞岳沖(31°02′39″N, 130°15′59″E),
れ た T. platycephalus と T. rashi の 扱 い に 関 し て
250 m,2014 年 6 月 17 日, 延 縄, 不 破 茂;
Mead (1972) の見解を支持したうえで T. asper の
KAUM–I. 63214,体長 228.4 mm,大隅海峡(佐
和名をサガミマンザイウオとした.望月(1984e)
多 岬 と 種 子 島 の 間;30°53′N, 130°47′E),110 m,
は T. asper の和名をマンザイウオとし,サガミマ
2014 年 9 月 1 日,釣り(種子島漁協市場で購入),
ンザイウオとラッシュエチオピアをマンザイウオ
高山真由美.
の異名とした.なお,“ マンザイウオ ” は,益田
記載 背鰭軟条数 33–36;臀鰭軟条数 26–28;
ほ か(1975) で は Taractichthys steindachneri
胸鰭軟条数 19–21;縦列鱗数 36–38;背鰭前方鱗
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数 29–30;第 1 鰓弓上枝上の鰓耙数 2–4;第 1 鰓
になる.胸鰭基底部および尾鰭は細かい鱗に被わ
弓下枝上の鰓耙数 10–11;第 1 鰓弓総鰓耙数 13–
れる.尾鰭は二重湾入型で,上下両端は伸長し,
14.
中央部が膨出する.体側鱗は縦長の円鱗で硬く,
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
剥がれにくい.頭部,主上顎骨,鰓蓋,峡部,背
尾 叉 長 112.9–117.1; 体 高 49.7–55.0; 体 幅 14.5–
鰭および臀鰭は被鱗するが,下顎,吻部および前
17.3;頭幅 14.6–16.2;背鰭前長 41.7–42.6;臀鰭
鰓蓋骨後縁は無鱗.頭部被鱗域の前縁は眼の中央
前 長 53.8–55.3; 腹 鰭 前 長 29.0–32.6; 胸 鰭 前 長
間に達する.体側中央から後部にかけての鱗は中
29.5–33.4; 背 鰭 基 底 長 54.9–57.2; 臀 鰭 基 底 長
央が棘状に隆起する.前鰓蓋骨後縁は鋸歯状であ
46.1–47.5; 背 鰭 起 部 か ら 胸 鰭 起 部 ま で の 長 さ
るが,主鰓蓋骨後縁は円滑.鰓耙は細長く鰓弁よ
35.0–37.9;胸鰭長 31.2–36.6;腹鰭長 8.5–9.8;背
り短い.鰓耙の先端は丸い.擬鰓を有する.眼お
鰭第 5 軟条長 43.1–48.2;臀鰭第 5 軟条長 7.0–7.8;
よび瞳孔は背腹方向に長い楕円形.鼻孔は 2 対で
尾鰭上葉長 28.2–30.2;尾鰭下葉長 30.0–30.3;尾
眼の前方に位置する.前鼻孔は円形,後鼻孔は背
鰭中央軟条長 13.0–16.0;尾柄長 13.6–15.2;尾柄
腹方向に長いスリット状を呈し,互いに近接する.
高 6.0–6.2;頭長 28.9–29.3.
総排泄孔は臀鰭起部前方に開孔する.上顎後部に
体各部測定値の頭長に対する割合(%):吻長
は鋭い円錐形の歯が 1 列に並ぶが,前方に行くに
23.9–28.6; 眼 径 18.7–25.4; 眼 隔 域 幅 33.9–36.7;
したがって複数列になり,前縁で 3 列となる.口
上顎長 49.3–53.5.
蓋骨には鋭い歯が 1 列に並び,鋤骨には数本の歯
体はやや側扁し,後ろに行くほど側扁する.体
が密生する.下顎には 2 列の鋭い歯が並ぶ.口裂
の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.体背縁は吻端か
は大きく斜位.主上顎骨後縁は丸みを帯び,瞳孔
ら背鰭起部にかけて緩やかに膨らみ,そこから背
後縁直下より僅かに前方に位置する.
鰭基底後端にかけて緩やかに下降する.体の腹縁
色 彩 体 背 面 お よ び 体 側 面 は 一 様 に 青 み が
は下顎先端から緩やかに膨らみ,臀鰭起部で折れ
かった黒色.体腹面は一様に鈍い銀白色.背鰭を
曲がる.尾柄部の体背縁および体腹縁は体軸と平
覆う鱗は鉛色を呈し,各軟条は灰白色で鰭膜は淡
行で直線状.両眼間隔は突出する.胸鰭起部は背
い墨色.臀鰭を覆う鱗は銀白色で,各軟条は黒み
鰭起部よりも前方,鰓蓋後縁直下付近に位置する.
がかった灰色.尾鰭は黄色がかった鉛色で,後縁
胸鰭基底下端は背鰭第 2 軟条起部直下に位置する
および中央部は灰白色.腹鰭は淡い鉛色.胸鰭は
が,体長 340.0 mm の個体(KAUM–I. 41046)で
淡い緑黄色.虹彩は金色で,瞳孔は青みを帯びた
は背鰭起部よりも前方に位置する.胸鰭後端は尖
黒色.
り,背鰭第 18–23 軟条起部直下,臀鰭第 12–13 軟
分布 南アフリカからアメリカ・カリフォル
条起部直上に達する.胸鰭基底部内側に前後方向
ニアにかけて,北緯 40° から南緯 40° の間のイン
に細長い鱗が 4 枚ある.腹鰭起部は鰓蓋後縁より
ド・太平洋に広く分布する(Mead, 1972; Last and
も前に位置し,基底後端は胸鰭第 2 軟条起部直下
Moteki, 2001;波戸岡・甲斐,2013).国内では宮
に位置する.たたんだ腹鰭の後端は背鰭第 3–6 軟
城県から土佐湾にかけての太平洋,北海道,青森
条起部直下に達する.体長 340.0 mm の個体では
県,新潟県,山口県の日本海,沖縄舟状海盆,九
背鰭起部直下に達しない.腹鰭は腋鱗を有する.
州 ― パ ラ オ 海 嶺, 与 論 島, 沖 縄 島( 蒲 原,
背鰭起部は胸鰭基底後端と臀鰭起部との間に位置
1937; 本 間・ 水 沢,1966;Mead, 1972; 谷 津,
し,背鰭基底後端は臀鰭第 25 軟条起部直上から
1997d;山田ほか,2007;河野ほか,2011;三浦,
臀鰭基底後端直下の間に位置する.臀鰭起部は背
2012; 波 戸 岡・ 甲 斐,2013; 岡 本,2014c;
鰭第 9–17 軟条起部直下に位置する.臀鰭基底後
Shinohara et al. 2014;本研究),鹿児島県薩摩半島
端は背鰭基底後端直上か,僅かに後ろに位置する.
南岸,種子島,および奄美大島(本研究)から報
背鰭と臀鰭の前部はそれぞれ著しく伸長し,鎌状
告がある.
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備考 記載標本は,胸鰭後端は臀鰭起部を越
て,和名をマンザイウオとして報告した.Abe
えて伸長し,臀鰭第 12–13 軟条基部直上に達する
(1961) は神奈川県足柄下郡真鶴町の沖から得られ
こと,臀鰭軟条数が 26–28 であること,および背
た 体 長 132 mm の Taractichthys steindachneri 1 個
鰭と臀鰭が被鱗することなどが Mead (1972) や
体を Taractichthys longipinnis として,和名マンザ
Last and Moteki (2001) な ど に よ っ て 定 義 さ れ た
イウオまたはヒレジロマンザイウオとして報告し
Taractichthys 属の標徴と一致した.また,縦列鱗
た.本間・水沢(1964)と本間・水沢(1966)は
数が 36–38 であること,背鰭前方鱗数が 29–30 で
それぞれ新潟県佐渡ヶ島と新潟県糸魚川市能生町か
あ る こ と な ど の 特 徴 が Mead (1972) や Last and
ら Taractichthys steindachneri を Taractichthys longipinnis
Moteki (2001),波戸岡・甲斐(2013)の報告した
として,また和名をヒレジロマンザイウオまたは
Taractichthys steindachneri の標徴とよく一致した.
マンザイウオとして報告した.Mead (1972) は東
本 属 は 世 界 で 本 種 と Taractichthys longipinnis
京 魚 市 場 に 水 揚 げ さ れ た Taractichthys
(Lowe, 1843) の 2 種のみが知られる(Mead, 1972)
steindachneri 2 個体,神奈川県足柄下郡真鶴町の
が,T. steindachneri は縦列鱗数 38 以下であるこ
沖から得られた 1 個体を報告するとともに
と(T. longipinnis では 39 以上),背鰭前方鱗数が
Taractichthys steindachneri と Taractichthys
31 未満であること(32 以上)から識別される
longipinnis がそれぞれ別種であることを示し,日
(Mead, 1972; Last and Moteki, 2001;
岡
本,
2014c).
本近海に出現するのは Taractichthys steindachneri
のみであるとしたが,本種の和名に関しては言及
Taractichthys steindachneri は東京魚市場で水揚
していない.益田ほか(1975)は,Taractichthys
げされた個体に基づき,Döderlein in Steindachner
steindachneri の国内における分布を相模湾および
and Döderlein (1883) によって Argo steindachneri と
新潟県以南とし,その和名をマンザイウオとした.
し て 記 載 さ れ た. そ の 後,Steindachner and
望 月(1984g) は 国 内 に お け る Taractichthys
Döderlein (1884) は Argo steindachneri を Brama
steindachneri の分布を相模湾および新潟とし,そ
longipinnis の新参異名とし,本種の和名をエボシ
の 和 名 を ヒ レ ジ ロ マ ン ザ イ ウ オ と し た. 岡 村
ダイとした.Jordan et al. (1913) は本種の和名をマ
(1985a)および谷津(1997d)はともに和名をヒ
ンザイウオまたはエボシダイとした.宇井(1924)
レジロマンザイウオとして,それぞれ沖縄舟状海
は 和 名 を ツ ボ ダ ヒ と し て, 和 歌 山 県 か ら
盆 の 水 深 320–360 m か ら 得 ら れ た Taractichthys
Quinquarius japonicus を 報 告 し た が, 図( 第
steindachneri 1 個体(BSKU 29816,体長 302 mm)
三十六圖)から判断すると,これは Taractichthys
および高知市中央市場に水揚げされた 1 個体を報
steindachneri であると考えられる.蒲原(1937)
告した.山田(1986b)は Taractichthys steindachneri
は高知県から得られた全長 700 mm の個体に基づ
を 東 シ ナ 海 か ら 報 告 し た. 波 戸 岡(2000) は,
き Taractes princeps として Taractichthys steindachneri
Taractichthys steindachneri の国内における分布域
の記載を行い,同時に和名ヒレジロバンザイウオ
を相模湾以南,新潟県および東シナ海とし,その
を 提 唱 し た. ま た, 蒲 原(1950) は Taractes
和名をヒレジロマンザイウオとした.山田ほか
princeps を 高 知 県 と 和 歌 山 県 か ら,Taractes
(2007)はヒレジロマンザイウオの東シナ海にお
steindachneri を東京と高知から報告し,それぞれ
ける漁獲状況を報告し,河野ほか(2011)は本種
和名をヒレジロマンザイウオ,マンザイウオとし
を山口県深川湾から報告した.また,三浦(2012)
たが,これら 2 種の違いは記述されておらず,こ
はヒレジロマンザイウオが稀に沖縄島近海で釣獲
れらの何れも Taractichthys steindachneri と思われ
され,クロマンタイまたはハタギーラと称される
る.Okada and Suzuki (1956) は三重県尾鷲市沖か
ことを報告し,岡本(2014c)は本種 1 個体(KAUM–
ら 得 ら れ た 体 長 70.5 mm の Taractichthys
I. 41046)を与論島から報告した.Shinohara et al.
steindachneri 1 個 体 を Taractes steindachneri と し
(2014) はヒレジロマンザイウオを沖縄諸島北方沖
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
から報告し,池田・中坊(2015)は紀伊半島沖か
や国内外の研究機関に保管されている標本を含ん
ら 得 ら れ た 本 種 2 個 体[WMNH-PIS-WW 15507
でいない.本研究で確認されなかったツルギエチ
(1),体長 582 mm;15507 (2),357 mm]を報告し
オピア Taractes rubescens であるが,日本国内で
た.したがって,これまでヒレジロマンザイウオ
は青森県,新潟県,富山湾,若狭湾,東シナ海,
の国内における分布は上述の「分布」の項のとお
駿河湾,沖縄島に分布するとされており(波戸岡・
りであり,本報告は本種の鹿児島県本土と大隅諸
甲斐,2013),分布の空白域である鹿児島県から
島からの標本に基づく初めての記録である.
も標本が得られる可能性は高いと考えられる.
なお,現在マンザイウオとエボシダイの名称
はそれぞれ Taractes asper Lowe, 1843(シマガツ
謝辞
オ科)と Nomeus gronovii (Gmelin, 1789)(エボシ
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
ダイ科)の標準和名として使用されている(波戸
に際しては,内之浦漁業協同組合,笠沙町漁業協
岡・甲斐,2013;中坊・土居内,2013).
同組合,種子島漁業協同組合,与論町漁業協同組
合,および鹿児島市中央卸売市場魚類市場の関係
者の皆様,田中水産の田中 積氏,前川水産の前
川隆則氏,鹿児島大学水産学部の不破 茂氏なら
びに増田育司氏には多大なご協力をいただいた.
鹿児島大学博物館魚類分類学研究室の吉田朋弘氏
には,本稿に対し適切な助言を数多く頂いた.こ
れらの方々に謹んで感謝の意を表する.標本の作
成・登録作業などを手伝ってくださった原口百合
子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボ
ランティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室
の皆さまに厚く御礼を申し上げる.本研究は,鹿
児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多
様性調査プロジェクト」の一環として行われた.
本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
Fig. 9. Fresh specimen of Taractichthys steindachneri. KAUM–I.
62427, 207.5 mm SL, Ibusuki, Kagoshima Prefecture, Japan.
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
まとめ
日本から記録されているシマガツオ科魚類 6
属 10 種(波戸岡・甲斐,2013; Hibino et al., 2014)
のうち,本研究では鹿児島県から 6 属 9 種が確認
された.これらは鹿児島大学総合研究博物館に保
管されている標本に基づく記録であり,水中写真
90
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
RESEARCH ARTICLES
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93
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
94
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
トカラ列島から得られたフエダイ科魚類
オオクチハマダイ Etelis radiosus
1
2
畑 晴陵 ・原口百合子 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ハマダイ属 Etelis は世界に 4 種が知られており
(Anderson, 1981),このうちハチジョウアカムツ E.
carbunculus Cuvier, 1828, ハ マ ダ イ E. coruscans
Valenciennes, 1862,オオクチハマダイ E. radiosus
Anderson, 1981 の 3 種が日本から知られている(島
田,2013).オオクチハマダイはこれまで,国内
において,伊豆諸島と沖縄諸島以南の琉球列島に
分布するとされてきた(島田,2013).
2015 年 2 月 13 日にトカラ列島北方沖で 1 個体
のオオクチハマダイが採集された.本標本は鹿児
島県における本種の標本に基づく初めての記録と
なるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Anderson (1981) にしたがっ
た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを
用いて 0.1 mm まで行った.オオクチハマダイの
生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児
島県産の 1 標本(KAUM–I. 68890)のカラー写真
に基づく.標本の作製,登録,撮影,固定方法は
本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標本は,
鹿児島大学総合研究博物館(KAUM: Kagoshima
University Museum)に保管されており,上記の生
Hata, H., Y. Haraguchi and H. Motomura. 2015. First record
of Etelis radiosus (Perciformes: Lutjanidae) from the
Tokara Islands in the Ryukyu Islands, southern Japan.
Nature of Kagoshima 41: 95–99.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
鮮時の写真は同館のデータベースに登録されてい
る.
結果と考察
Etelis radiosus Anderson, 1981
オオクチハマダイ (Figs. 1–2; Table 1)
Etelis radiosus Anderson, 1981: 821, fig. 1 (type
locality, off Galle, Sri Lanka).
標本 1 個体:KAUM–I. 68890, 体長 517.0 mm,
鹿児島県トカラ列島北方沖(30°01′N, 130°11′E;
鹿児島市中央卸売市場魚類市場にて購入),2015
年 2 月 13 日,釣り,畑 晴陵.
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
を Table 1 に示した.体は細長い円筒形で,やや
側 扁 す る. 胸 鰭 は 長 く, 胸 鰭 長 は 腹 鰭 長 の
152.3%.胸鰭起部は鰓蓋後縁と背鰭起部の間に
位置する.胸鰭後端は背鰭第 9 棘条起部直下に達
し,第 5 軟条が最長.胸鰭基底下端は背鰭起部直
下よりも前方,腹鰭第 1 軟条起部直上に位置する.
胸鰭基底内側は無鱗で,基部外側の鱗は細かい.
吻端から胸鰭起部にかけての距離は体長の
30.1%.腹鰭起部は背鰭起部よりも前方,胸鰭第
3 軟条起部直下に位置し,腹鰭基底後端は背鰭第
2 棘条起部直下に位置する.たたんだ腹鰭の後端
は背鰭第 8 棘条起部直下を越えるが,肛門には達
しない.吻端から腹鰭起部までの距離は体長の
34.2%.背鰭起部は腹鰭第 2 軟条起部直上に位置
し,背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.
背鰭は第 2 棘条が最長で,第 2 棘条長は第 1 棘条
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Fig. 1. Fresh specimens of Etelis radiosus. KAUM–I. 68890, 517.0 mm SL, off Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
Fig. 2. Lateral view of head of Etelis radiosus. KAUM–I. 68890, 517.0 mm SL, off Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
長の 381.3%.背鰭棘条部は後方にゆくに従い,
糸状に伸長する.吻端から臀鰭起部までの距離は
低くなる.背鰭に深い欠刻があり,最後の背鰭棘
体長の 67.1%.尾鰭は二叉型で深く湾入し,中央
条よりも最前の背鰭軟条の方が長い.背鰭軟条は
部に深い欠刻がある.尾鰭上葉は下葉よりも長く,
最前のもののみが不分枝で,残りは全て分枝する.
その長さは下葉長の 110.3%.総排泄孔は前後方
背鰭軟条部はほぼ同じ高さであるが,最後軟条の
向に長い楕円形で,臀鰭起部前方に開孔する.眼,
み糸状に伸長する.吻端から背鰭起部までの距離
瞳孔はともに前後方向に長い楕円形.鼻孔は 2 対
は体長の 36.3%.臀鰭起部は背鰭第 5 棘条起部直
で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方
下に位置し,臀鰭軟条は全て分枝し,最後軟条は
に位置する.前鼻孔は前後方向に細長い三角形で,
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Etelis radiosus.
Standard length (mm)
Counts
Dorsal-fin spines
Dorsal-fin rays
Anal-fin spines
Anal-fin rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin spines
Pelvic-fin rays
Gill rakers-upper limb
Gill rakers-lower limb
Gill rakers-toral
Tubed lateral-line scales
Pre-dorsal-fin scales
Cheek scale rows
Caudal peduncle scales
Scales above lateral line
Scales below lateral line
Scales below lateral line between middle of dorsal fin
Branchiostegal rays
Measurements
Total length
Length of head
Length of snout
Horizontal diameter of fleshy orbit
Postorbital length of head
Least width of bony interorbital
Least suborbital width
Length of upper jaw
Length of lower jaw
Length of cheek
Height of cheek
Snout to angle of preopercle
Orbit to angle of preopercle
Lower jaw to junction of branchiostegal
Depth of body at first dorsal-fin spine
Length of ultimate dorsal-fin soft ray
Length of base of anal fin
Length of depressed anal fin
Length of third anal-fin spine
Length of ultimate anal-fin soft ray
Length of pectoral fin
Length of pelvic fin
Length of upper lobe of caudal fin
Length of lower lobe of caudal fin
Tokara Islands,
Kagoshima Prefecture,
Japan
KAUM–I. 68890
Malaysia and Taiwan
n=2
517.0
174.0–346.0
10
11
3
8
16
1
5
11
21
33
50
18
8
25
7
13
4.5
7
10
11
3
8
16
1
5
11
19–21
30–33
48–50 (48)
7–8 (8)
8–9
25
6–7
13
4.5
7
125.5
28.4
8.7
6.4
14.6
8.6
3.3
14.1
17.5
12.4
9.9
24.2
13.2
7.8
25.9
12.6
11.5
22.3
6.4
11.3
24.9
16.3
30.8
28.0
126.0
30.4–32.5
8.7–8.9
8.0–9.6
14.6–14.8
8.1–8.3
2.6–3.3
15.3–16.2
19.0–19.5
9.8–12.8
8.7–10.3
25.9–26.2
11.7–12.9
7.1–7.9
27.5–30.1
11.3–12.8
11.6–12.2
22.8–24.6
broken
11.3–12.9
25.7–26.7
16.5–17.8
30.3
28.6
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
後鼻孔は円形.前鼻孔の後縁に皮弁を有する.体
た Etelis radiosus の標徴とよく一致したため,本
ははがれにくい櫛鱗に被われ,峡部,前鰓蓋骨を
種と同定された.また鹿児島県産の計数値および
除く鰓蓋,主上顎骨は被鱗するが,吻部,前鰓蓋
計測値は,マレーシアおよび台湾から採集され,
骨,下顎,眼下骨は被鱗しない.背鰭前方鱗被鱗
本研究で比較を行った標本の値と近似し(Table
域の前縁は眼の後縁をわずかに越え,前縁中央は
1),また Anderson (1981) の示した E. radiosus の
わずかに凹む.背鰭,腹鰭および臀鰭基底部は被
計数・計測値ともよく近似した.本種は同属他種
鱗しない.各鰓蓋骨後縁は円滑.鰓耙は細長い棒
とは第 1 鰓弓上総鰓耙数,背鰭前方鱗数,尾柄周
状で,先端は丸い.擬鰓を有する.吻端は尖り,
列 鱗 数 お よ び 有 孔 側 線 鱗 数 が そ れ ぞ れ 33–36,
下顎は上顎よりも突出する.口裂は大きく,主上
17–19,25 および 50–51 であること,主上顎骨後
顎骨後端は眼の中央下よりも後方に位置し,瞳孔
端が目の中央下またはそれより後方に位置するこ
後縁下を越える.上顎骨および下顎骨の外側には
と,鋤骨の歯帯の幅は狭く,V 字型であることな
鋭い円錐歯が 1 列に等間隔に並び,内側には小円
ど で 識 別 さ れ る(Anderson, 1981; Allen, 1985;
錐歯が密生する.鋤骨の歯帯の幅は狭く,V 字型.
Anderson and Allen, 2001;島田,2013).
口蓋骨および舌骨に歯はない.側線は完全で,鰓
蓋上方から尾柄にかけてはいる.
色彩 生鮮時の色彩 ― 側線よりも上方の体側,
Etelis radiosus は ス リ ラ ン カ お よ び パ プ ア・
ニューギニアから得られた体長 55–427 mm の 3
個体に基づき Anderson (1981) によって記載され
両唇,前鰓蓋骨後縁,胸鰭,腹鰭の鰭膜および臀
た.吉野(1984)は琉球列島から,日本における
鰭軟条は赤色.体側は赤みがかった銀色で,体側
本種の標本に基づく初めての記録を報告し,同時
下部および体腹面は一様に青緑がかった銀色.背
に本種に対して標準和名オオクチハマダイを提唱
鰭および尾鰭はオレンジがかった赤色.腹鰭鰭条
した.その後,三浦(2012)は本種が沖縄島近海
および臀鰭鰭膜は無色透明.虹彩は黄色がかった
で深海釣りによってまれに漁獲され,アイノコマ
赤色で,瞳孔は青みがかった黒色.
チと称されることを報告した.島田(2013)は本
分布 スリランカからサモアにかけてのイン
種を伊豆諸島から報告した.また,本種と考えら
ド・西太平洋に分布する(Anderson, 1981; Allen,
れる個体の写真は奄美大島やトカラ列島,高知県
1985; Anderson and Allen, 2001).国内では伊豆諸
室戸岬などからインターネット上で報告されてい
島と沖縄諸島以南の琉球列島(吉野,1984;島田,
るが,標本として保管されていない.本報告が本
2013)および鹿児島県トカラ列島(本研究)から
種の標本に基づく鹿児島県における初めての記録
記録されている.
となる.
備考 トカラ列島産の標本は,鋤骨の歯帯の
比較標本 オオクチハマダイ Etelis radiosus 2
幅が狭く,V 字型であること,背鰭に深い欠刻が
個 体:KAUM–I. 22065, 体 長 346.0 mm, マ レ ー
あること,背鰭棘条数および背鰭軟条数がそれぞ
シア・サバ州・コタキナバル沖(コタキナバルの
れ 10,11 であること,上顎骨が被鱗すること,
市場で購入);KAUM–I. 39196,体長 174.0 mm,
背鰭および臀鰭基底部が被鱗しないことなどが
台湾高雄沖,釣り(高雄の市場で購入).
Allen (1985) や Anderson and Allen (2001) によって
定義された Etelis 属の標徴と一致した.また,総
謝辞
鰓耙数が 33 であること,背鰭前方鱗数が 18 であ
本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学
ること,尾柄周列鱗数が 25 であること,有孔側
総合研究博物館ボランティアの皆さまと同博物館
線鱗数が 50 であること,主上顎骨後端が眼の中
魚類分類学研究室の皆さまには適切な助言を頂い
央下よりも後方に位置し,瞳孔後縁下を越えるこ
た.標本の採集に際しては,田中水産の田中 積
となどの特徴が Anderson (1981) や Allen (1985),
氏ならびに鹿児島市中央卸売市場魚類市場の関係
Anderson and Allen (2001),島田(2013)の報告し
者の皆様に多大なご協力を頂いた.以上の方々に
98
RESEARCH ARTICLES
謹んで感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学
総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査
プロジェクト」の一環として行われた.本研究の
一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,23580259,
24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究
教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の
研究教育ネットワーク構築」,総合地球環境学研
究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビ
リティーの向上プロジェクト」,国立科学博物館
「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関す
る研究プロジェクト」,文部科学省特別経費-地
域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とそ
の保全に関する教育研究拠点形成」,および鹿児
島大学重点領域研究環境(生物多様性プロジェク
ト)学長裁量経費「奄美群島における生態系保全
研究の推進」の援助を受けた.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
フエダイ科魚類キビレフエダイ Lipocheilus carnolabrum の
標本に基づく鹿児島県島嶼域からの記録
1
2
ジョン ビョル ・Rangsiwut Keawsang ・本村浩之
1
3
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(大学院連合農学研究科)
2
Department of Marine Science, Faculty of Fisheries, Kasetsart University, Chatuchak, Bangkok 10900, Thailand
3
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館館
はじめに
フエダイ科 Lutjanidae は日本近海において,こ
れまで 12 属 51 種が記録されており,キビレフエ
ダ イ 属 Lipocheilus は キ ビ レ フ エ ダ イ L.
carnolabrum (Chan, 1970) の 1 種のみで構成されて
いる(島田,2013).キビレフエダイはインド・
西太平洋に広く分布し(Allen, 1985),東アジア
では南日本,東シナ海中部,台湾南部,および東
沙群島から記録されている(島田,2013).国内
では,標本に基づき沖縄県宮古島近海(Yoshino
and Sata, 1981) と 東 シ ナ 海 南 部( 堀 川 ほ か,
2000)からのみ報告されている.
2012 年 12 月 25 日に奄美大島,2014 年 6 月 3
日に宇治群島,2015 年 3 月 19 日大隅諸島口永良
部島にて,キビレフエダイが各 1 個体採集された.
これらは鹿児島県におけるキビレフエダイの標本
に基づく初めての記録であるため,ここに記載し,
報告する.
材料と方法
標本の計数・計測は Chan (1970) にしたがった.
計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで
行い,計測値は体長と頭長に対する百分率で示し
Jeong, B., R. Keawsang and H. Motomura. 2015. First
specimen-based records of Lipocheilus carnolabrum
(Perciformes: Lutjanidae) from Kagoshima Prefecture,
Japan. Nature of Kagoshima 41: 101–105.
BJ: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: reddragon_
hp@hotmail.com).
た.標準体長(standard length)は体長(SL),頭
長(Head length)は(HL)と表記した.生鮮時
の 色 彩 の 記 載 は,KAUM–I. 52076, 61658, 70642
の生鮮時のカラー写真に基づく.比較で用いた計
数・計測値は Chan (1970) に基づく.標本の作製,
登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.
本報告で用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
館(KAUM: Kagoshima University Museum) に 保
管されており,上記の生鮮時の写真は同館の画像
データベースに登録されている.
結果と考察
Lipocheilus carnolabrum (Chan, 1970)
キビレフエダイ (Figs. 1–3; Table 1)
標本 3 個体(すべて鹿児島県産):KAUM–I.
52076, 体 長 398.5 mm, 奄 美 群 島 奄 美 大 島 沖
(28°15′00″N, 129°25′00″E; 鹿 児 島 中 央 市 場 で 購
入),2012 年 12 月 25 日,一本釣り,松沼瑞樹;
KAUM–I. 61658,体長 539.5 mm,宇治群島宇治
島と津倉瀬の中間地点(31°15′44″N, 129°36′99″E)
,
2014 年 6 月 3 日,一本釣り,水深 126 m,宮下 透;KAUM–I. 70642, 体 長 563.0 mm, 大 隅 諸 島
口永良部島沖(30°27′00″N, 130°13′00″E;鹿児島
中央市場で購入),2015 年 3 月 19 日,一本釣り,
小枝圭太.
記載 計数値を体各部の体長と頭長に対する
割合を Table 1 に示した.体は楕円形で,側扁する.
上顎は下顎より突出する.上顎の後端は眼の前縁
下に達する.唇は肥厚しており,上唇の前端部は
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Fig. 1. Fresh specimen of Lipocheilus carnolabrum. KAUM–I. 52076, 398.5 mm SL, Amami-oshima island, Kagoshima, Japan.
Fig. 2. Fresh specimen of Lipocheilus carnolabrum. KAUM–I. 61658, 539.5 mm SL, Uji Islands, Kagoshima, Japan.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 3. Fresh specimen of Lipocheilus carnolabrum. KAUM–I. 70642, 563.0 mm SL, south of Kuchinoerabu island, Kagoshima, Japan.
上方に突出する.両顎は広い歯帯を形成し,各歯
帯の前部には犬歯をそなえ,内列の歯に比べて大
きい.鋤骨に歯帯がある.舌はよく発達する.前
鰓蓋骨の後縁は微細な鋸歯を有する.頬と主鰓蓋
骨は鱗で覆われる.背鰭,臀鰭および胸鰭基部は
無鱗であるが,尾鰭の基部は被鱗する.胸鰭は比
較的長く,その後端は臀鰭第 3 棘の上方に達する.
背鰭棘は第 5 棘が最長で,第 6 棘から徐々に短く
なる.背鰭の軟条部は広く,後縁は円い.背鰭の
棘条部と軟条部の間には欠刻がない.腹鰭は胸位
で,鰭を閉じた際の後端は肛門に達しない.尾鰭
は浅く二叉する.頭部背面の被鱗域は両眼の間よ
りわずかに後ろから始まる.
色彩 体背部は緑褐色で,腹側と各鰭は薄い
黄色や濃い黄色.頭部背面の後端と眼の後半部上
方及び背鰭第 1–3 棘基部は紫紅色を帯びる(Figs.
Fig. 4. Distributional records of Lipocheilus carnolabrum in
Japanese waters based on voucher specimens (closed star: this
study; open star: previous records).
1–3).
分布 本種はインド・西太平洋に広く分布し
ており(Allen, 1985),東アジアでは南日本,東
大隅諸島口永良部島,宇治群島(本研究)から記
シナ海中部,台湾南部,および東沙群島から記録
録されている.高知県と山口県に水揚げされた本
がある(島田,2013).国内では標本に基づき宮
種の写真がインターネット上で公表されている.
古諸島宮古島近海(Yoshino and Sata, 1981),東シ
ナ海南部(堀川ほか,2000),奄美群島奄美大島,
備考 Lipocheilus carnolabrum は Chan (1970) に
よって新種として記載された(タイプ産地は香港
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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から東南方に 145 km の南シナ海,水深 110–140
顕著な溝がない;背鰭の棘条と軟条部間に欠刻が
m).本研究で用いた標本は,背鰭が 10 棘 10 軟条;
ない;背鰭軟条の基部が鱗に被われない;胸鰭が
臀鰭が 3 棘 8 軟条;胸鰭鰭条式が ii, 13, i;鰓耙
長く,その後端は臀鰭第 3 棘上方に達することな
が 6 + 12–13 本;側線下方鱗が 17–18 枚;吻が肥
ど か ら,L. carnolabrum の 原 記 載 や 島 田(2013)
厚し,上顎は下顎より前に突出する;両顎前部に
に記載された特徴と一致した.また,本研究で用
犬歯を有する;鋤骨に 1–2 歯列がある;眼前部に
いた標本は体長 398.5–563.0 mm の成魚であった
Table 1. Counts and proportional measurements, expressed as percentages of head and standard lengths, of Lipocheilus carnolabrum.
This study
Standard length (mm)
Dorsal-fin rays
Anal-fin rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin rays
Gill rakers on 1st gill arch
Pored lateral-line scales
Scale rows above lateral line
Scale rows below lateral line
Measurements (% SL)
Pre-dorsal-fin length
Pre-anal-fin length
Pre-pectoral-fin length
Pre-pelvic-fin length
Head length
Depth between dorsal- and pelvic-fin origins
Least depth of caudal peduncle
Caudal-peduncle length
Measurements (% HL)
Snout length
Orbit diameter
Postorbital distance
Interorbital width
Suborbital depth
Distance between 1st and 2nd nostrils
Distance between 2nd nostril and orbit
1st dorsal-fin spine length
2nd dorsal-fin spine length
3rd dorsal-fin spine length
4th dorsal-fin spine length
5th dorsal-fin spine length
6th dorsal-fin spine length
7th dorsal-fin spine length
8th dorsal-fin spine length
9th dorsal-fin spine length
10th dorsal-fin spine length
Longest dorsal-fin spine length
Longest dorsal-fin soft ray length
Pectoral-fin length
Pelvic-fin length
Pelvic-fin spine length
1st anal-fin spine length
2nd anal-fin spine length
3rd anal-fin spine length
1st anal-fin soft ray length
Lower caudal-fin lobe length
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Chan (1970)
Amami-oshima
island
Uji Islands
Kuchinoerabu
island
KAUM–I.
52076
KAUM–I.
61658
KAUM–I.
70642
Holotype
BMNH
1969.3.24.76
Pratypes
n=7
398.5
X, 10
III, 8
ii, 13, i
I, 5
6+13
51
7
18
539.5
X, 10
III, 8
ii, 13, i
I, 5
6+13
52
7
18
563.0
X, 10
III, 8
ii, 13, i
I, 5
6+12
50
8
17
378.0
X, 10
III, 8
ii, 13, i
I, 5
5+13
53
7
18
352.0–473.0
X, 10
III, 8
ii, 12–13, i
I, 5
6–7+12–13
51–53
7
17–18
41.3
66.9
36.7
41.8
37.8
39.7
11.9
22.1
40.1
67.5
41.1
35.7
36.6
39.4
11.6
23.4
41.0
70.3
38.2
44.0
38.2
38.5
10.9
20.4
41.8
67.5
37.0
43.4
37.0
39.7
12.4
19.8
40.3–42.7 (41.3)
66.5–68.4 (67.4)
34.2–37.5 (35.4)
39.6–42.9 (41.1)
34.9–37.5 (36.4)
36.3–39.9 (38.7)
11.2–12.5 (11.8)
17.9–20.2 (19.1)
42.4
18.2
43.0
26.7
15.6
1.9
5.0
14.1
27.0
37.6
39.8
39.9
38.9
37.5
32.6
32.1
29.4
39.9
39.5
87.8
59.5
37.5
14.7
25.2
30.2
33.7
72.9
42.5
18.7
43.8
30.9
16.3
1.6
5.2
15.5
27.5
37.4
37.9
38.7
38.2
34.1
33.8
33.8
31.1
38.7
40.3
86.1
56.3
37.4
14.6
23.2
28.6
31.7
70.1
41.3
19.7
41.9
27.6
17.3
1.3
3.9
15.6
25.9
broken
37.4
39.4
38.3
35.9
34.3
31.9
30.6
39.4
36.9
80.3
55.1
35.4
15.3
24.5
28.5
32.1
72.5
42.1
19.3
42.9
30.0
15.0
1.1
6.4
—
—
—
—
—
—
—
—
—
—
41.4
39.3
90.0
61.4
39.3
17.1
25.0
—
34.3
70.0
37.7–43.2 (40.9)
18.5–23.3 (21.5)
42.9–45.1 (43.9)
26.0–29.6 (27.5)
13.7–17.5 (15.8)
0. 9–1.2 (1.1)
2.7–5.6 (3.8)
—
—
—
—
—
—
—
—
—
—
40.6–45.5 (42.8)
38.3–41.2 (39.8)
82.2–94.6 (89.4)
59.4–67.9 (64.4)
29.1–42.0 (37.9)
15.1–20.6 (17.4)
25.1–29.0 (26.7)
—
32.8–35.8 (34.4)
48.4–76.5 (68.6)
South China Sea
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ため確認することができなかったが,体長 250
魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行
mm 程度の若魚では眼の後半部上方から尾鰭基底
われた.本研究の一部は JSPS 科研費(19770067,
背部間に 6 本の明瞭な暗緑色横帯をもつことが知
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
られている(堀川ほか,2000).
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
キビレフエダイは日本周辺海域では沖縄県宮
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
古島近海の水深 120–220 m(体長 278–500 mm;
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
Yoshino and Sata, 1981)と沖縄諸島以南の琉球列
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
島隣接の東シナ海南部(26°30′00″N, 124°45′00″E
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
付近)の水深約 150 m の貝殻・泥まじり砂底域(体
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
長 215–532 mm;堀川ほか,2000)からのみ標本
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
に基づいて記録されている.したがって,本研究
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
で記載した 3 標本は,鹿児島県におけるキビレフ
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
エダイの標本に基づく初めての記録となると同時
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
に,宇治群島から採集された個体は本種の分布北
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
限記録となる.一方,大富(2013)は大隅諸島の
屋久島・種子島近海から得られたキビレフエダイ
の調理方法や味を報告したが,再調査可能な標本
は残されていない.さらに,インターネット上で
山口県下関漁港と高知県で水揚げされた 2 個体の
キビレフエダイが報告されているが,産地情報(水
揚げ漁港ではなく,採集場所の情報)や標本とし
ての登録・保管の有無は不明である.
謝辞
本報告を取りまとめるあたり,鹿児島大学総
合研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類学
研究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本の
入手,作製や処理などについて伊東正英氏,宮下
透氏,田中水産の田中 積氏,鹿児島中央市場の
職員諸氏,松沼瑞樹氏,小枝圭太氏,および田代
郷国氏にご協力を頂いた.以上の方々に感謝の意
を表する.第 2 著者は 2014 年 5–6 月に短期留学
生として鹿児島大学で魚類の研究を行った.本研
究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産
引用文献
Allen, G. R. 1985. FAO species catalogue. Vol. 6. Snappers of the
world. An annotated and illustrated catalogue of lutjanid species known to date. FAO Fish. Synopsis, 125 (6): 1–208.
Chan, W. L. 1970. A new genus and two new species of commercial snappers from Hong Kong. Hong Kong Fisheries Bulletin, (1): 19–38.
堀川博史・山下秀幸・山田梅芳.2000.キビレフエダイ
Lipocheilus carnolabrum (Chan).西海水研ニュース,(101):
1.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
島大学総合研究博物館,鹿児島市.70 pp.(http://www.
museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
大富 潤.2013.魚食ファイル 旬を味わう.南方新社,
鹿児島.202 pp.
島田和彦.2013.フエダイ科.Pp. 913–930, 2001–2002.中
坊徹次(編)日本魚類検索 全種の同定 第 3 版.東
海大学出版会,秦野.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・
黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.lxxiv + 1262 pp.
Yoshino, T. and T. Sata. 1981. Records of a rare snapper, Lipocheilus carnolabrum (Chan), from the Ryukyu Islands. Bulletin
of the College of Science, University of the Ryukyus, 31:
71–74.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
チカメタカサゴ Pinjalo pinjalo の日本における
成魚 2 個体目の記録
小枝圭太・本村浩之
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
材料と方法
フエダイ科セダカタカサゴ属 Pinjalo は背鰭基
計数・計測部位は Randall et al. (1987) にしたがっ
底部に鱗に覆われる部分があること,鋤骨に歯帯
た.標準体長は体長と表記し,デジタルノギスを
があること,第 1 鰓弓の下枝鰓耙数が 20 以下で
用いて 0.1 mm までおこなった.チカメタカサゴ
あること,背鰭が 11–12 棘かつ 13–15 軟条である
の生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された薩
こと,目の中心がほぼ体軸上にあること,側線下
摩半島産の 1 標本(KAUM–I. 70693)のカラー写
方の鱗列が斜め上後方へ向かうこと,および牙状
真に基づく.標本の作製,登録,撮影,固定方法
の歯をもたないことなどの特徴をもつ(Allen,
は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標本
1985).インド・太平洋のセダカタカサゴ属は,
は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されており,
Randall et al. (1987) に よ り, セ ダ カ タ カ サ ゴ P.
上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに登録
lewisi Randall, Allen and Anderson, 1987 とチカメタ
されている.本報告中で用いられている研究機関
カサゴ P. pinjalo (Bleeker, 1845) の 2 種に整理され,
略号は,KAUM -鹿児島大学総合研究博物館と
日 本 か ら も こ の 2 種 が 知 ら れ て い る( 島 田,
MUFS -宮崎大学農学部海洋生物環境学科.
2013).
チカメタカサゴはこれまで国内において,石
結果と考察
垣島から得られた稚魚と鹿児島県佐多岬沖から得
Pinjalo pinjalo (Bleeker, 1845)
られた成魚 1 個体のみが報告されている(金城・
チカメタカサゴ (Fig. 1)
仲 本,1995; 岩 槻 ほ か,2004; 島 田,2013).
2015 年 3 月 28 日に鹿児島県薩摩半島の開聞川尻
標本 KAUM–I. 70693, 体長 339.9 mm,尾叉長
沖で 1 個体のチカメタカサゴが採集された.本標
400.0 mm,鹿児島県指宿市開聞川尻沖(31°10′N,
本は鹿児島県ならびに日本における本種成魚の標
130°32′E;鹿児島市中央卸売市場魚類市場にて購
本に基づく 2 例目の記録であり,薩摩半島からの
入 ),2015 年 3 月 28 日, 定 置 網, 水 深 0–40 m,
初めての記録となるため,ここに報告する.
牛嶋洋介.
記載 背鰭棘数 11;背鰭軟条数 14;臀鰭棘数 3;
臀鰭軟条数 10;胸鰭軟条数 18;側線有孔鱗数
Koeda, K. and H. Motomura. 2015. Second Japanese record
of adult Pinjalo pinjalo (Perciformes: Lutjanidae) from
the Satsuma Peninsula, Kagoshima, Japan. Nature of
Kagoshima 41: 107–110.
KK: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: hatampo@
gmail.com).
48;背鰭起部下における側線上方鱗数 9;側線下
方鱗数 19;背鰭前方鱗数 17;尾柄鱗数 26;上枝
鰓耙数 7;下枝鰓耙数 16.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
体高 41.9;体幅 17.7;頭長 28.6;吻長 8.8;眼窩
径 6.8;両眼間隔 9.9;上顎長 9.3;眼窩下縁から
107
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Fig. 1. Fresh specimen of Pinjalo pinjalo. KAUM–I. 70693, 339.9 mm standard length, off Kaimonkawajiri, Satsuma Peninsula, Kagoshima
Prefecture, Japan.
眼窩骨下縁までの長さ 2.6;尾柄高 11.7;尾柄長
胸鰭起部は主上顎骨下端のほぼ真横で,胸鰭基
16.8; 背鰭前長 36.7;臀鰭前長 69.2;腹鰭前長
底後端は背鰭起部直下に位置する.胸鰭後端は尖
37.3;背鰭基底長 57.4;背鰭第 1 棘長 7.4;背鰭
り,背鰭第 8 棘起部直下に達するが,総排泄孔直
第 2 棘長 11.4;背鰭最長棘長 16.3;背鰭最後棘長
上には達しない.背鰭起部は腹鰭起部直上のわず
10.1;背鰭最長軟条長 10.7;臀鰭基底長 18.5;臀
か前方に位置し,背鰭第 11 棘(最後棘)起部は
鰭第 1 棘長 2.6;臀鰭第 2 棘長 11.6;臀鰭第 3 棘
総排泄孔の直上に位置する.背鰭基底部後端は臀
長 11.3;臀鰭最長軟条長 12.5;尾鰭長 25.2;胸鰭
鰭基底部後端直上より後方に位置する.背鰭棘は
長 25.1;腹鰭棘長 12.8;腹鰭長 17.6.
第 3 棘が最長.腹鰭起部は胸鰭基底部後端および
体はやや長い楕円形でよく側扁する.体高は背
背鰭起部直下よりやや後方に位置し,基底後端は
鰭第 5 棘起部で最大となり体長は体高の約 2.4 倍.
背鰭第 4 棘起部直下に位置する.たたんだ腹鰭は
吻端から背鰭起部までの背縁はゆるやかに湾曲
胸鰭後端のほぼ直下で,総排泄孔には達しない.
し,両眼間隔は突出する.背縁と腹縁の膨らみは
臀鰭起部は背鰭第 3 軟条起部直下に位置し,後端
正中線に対してほぼ同じで,背縁腹縁ともに尾柄
は背鰭第 13 軟条起部直下に位置する.背鰭,腹
までゆるやかに湾曲する.目は小さく,中心はほ
鰭および臀鰭の軟条のうち,背鰭第 1 軟条のみ不
ぼ体軸上にある.鼻孔には皮弁はなく,前後鼻孔
分枝.尾鰭は二叉型で湾入し,上下葉ともに尖る.
ともに開孔部がやや側扁する.口裂は小さく,唇
上葉より下葉が長いが,上葉の後端には欠損と考
は薄い.主上顎骨後端は眼の前縁の直下に位置す
えられる欠刻がみられる.
る.両顎に微細な円錐歯を 1 列もつが,牙状の歯
頬部および鰓蓋上に鱗を有するが,前鰓蓋骨下
をもたない.鋤骨に歯はあるが,舌骨上にはない.
部,眼前域,眼上域は広く無鱗.側線上方の鱗列
鰓蓋後縁は胸鰭起部の直上.鰓蓋および前鰓蓋骨
は斜め上後方へ直線的に向かう.側線下方の鱗列
の後縁は円滑で,鰓蓋上端は眼を大きく超え,前
は斜め上後方へ波打ちながら向かう.背鰭基底部
鰓蓋骨上端が目の上縁の真横に達する.側線は鰓
の 1/3 および臀鰭基底部の 1/2 は微小な鱗に覆わ
蓋上方から始まり,背縁と並行にゆるやかに湾曲
れる.
して尾柄に達する.
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部と体側の地色は桃
108
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
色で,上部で濃く,下部で淡い.体側の中央から
島田,2013).
上部には,鱗列の中央を走る淡黄色の斜走線があ
本種は,久新ほか(1982)により,日本水域外
り,これらは鱗列に沿って斜め上後方へ向かう.
の南シナ海で採集された標本に基づき和名チカメ
背鰭基底部および棘部の縁辺は山吹色で,棘部の
タカサゴが与えられている.金城・仲本(1995)は,
中央部および軟状部の基底部以外は桃色.臀鰭の
石垣島から得られた本種の稚魚に関する口頭発表
棘部は黄色で,軟状部に向かって徐々に淡い桃色
をおこなった(1995 年度日本魚類学会講演要旨:
を呈する.胸鰭は一様に半透明な赤色.腹鰭の軟
39 頁).その後,岩槻ほか(2004)は佐多岬から
条は黄色で,鰭膜は山吹色.尾鰭は一様に赤色で,
得られた本種個体(MUFS 22234,体長 420 mm)を,
後縁中央部のみ淡い黒色.尾柄部後部に鞍状の非
成魚の標本に基づく初めての記録とした.また,
常に淡い黒色斑を有する.光彩は鮮紅色で,上縁
彼らは沖縄県石垣島川平湾石崎沖の水深 60–70 m
は黄色.
で採集された個体を沖縄県本部町の沖縄美ら海水
分布 オマーン湾以東のインド洋および西太平
族館が飼育していたことに触れているが,この個
洋に広く分布し,太平洋ではパプアニューギニア,
体の現在の所在については不明である.したがっ
インドネシア,シンガポール,マレーシア,フィ
て,本報告の薩摩半島から得られた調査標本は,
リ ピ ン, 香 港, 台 湾, お よ び 日 本 に 分 布 す る
日本における本種成魚の標本に基づく 2 例目の記
(Randall et al., 1987;Randall and Lim, 2000;岩槻
録となると同時に,薩摩半島からの初めての記録
ほか,2004;島田,2013).日本国内では,沖縄
となる.
県 石 垣 島 と 鹿 児 島 県 大 隅 半 島( 金 城・ 仲 本,
生態学的知見 Allen (1985) は,チカメタカサ
1995;岩槻ほか,2004;島田,2013),および鹿
ゴとセダカタカサゴの生息域をともに水深約 60
児島県薩摩半島(本研究)から記録されている.
m の岩礁域とし,インド洋から西太平洋にわたる
備考 鹿児島県薩摩半島産の標本は,背鰭基底
両種の分布域にはほとんど違いがみられないこと
部の 1/3 が小鱗に覆われること,鋤骨に歯帯があ
を示した.しかし,沖縄県においては,セダカタ
ること,第 1 鰓弓の下枝鰓耙数が 17 であること,
カサゴが “ アカシチュー ” の地方名で呼称される
目の中心がほぼ体軸上にあること,側線下方の鱗
ことが知られているほど少量ながらも漁獲される
列が斜め上後方へ向かうこと,牙状の歯をもたな
種である(具志堅,1972;赤崎,1984;新垣・吉
いことなどの特徴から,Allen (1985) が定義した
野,1984).一方でチカメタカサゴの報告例は,
Pinjalo 属と同定された.また,背鰭が 11 棘 15
金城・仲本(1995)が口頭発表した石垣島で採集
軟条であること,臀鰭が 3 棘 10 軟条であること,
された稚魚に限られる.具志堅(1972)と新垣・
尾鰭の湾入が浅いこと,鮮時に腹鰭と臀鰭が黄色
吉野(1984)は,沖縄県で漁獲されるセダカタカ
を呈すること,および側線の上方に鱗列に沿う右
サゴをマチ漁(深海に生息するハマダイ属を対象
上 が り の 斜 走 線 が あ る こ と は,Allen (1985),
とした深海一本釣り漁業)で漁獲される種として
Randall et al. (1987) および島田(2013)が報告し
扱い,その漁獲水深を 100–200 m としている.し
た P. pinjalo の標徴とよく一致した.
かし,本研究と岩槻ほか(2004)においてチカメ
チカメタカサゴ P. pinjalo は,同属の有効種で
タカサゴが採集された定置網は,それぞれ水深
あるセダカタカサゴ P. lewisi と比較して,背鰭が
40 m 以浅と水深 31 m 以浅と浅く,海岸から沖へ
11 棘 14–15 軟条であること(セダカタカサゴで
1 km 未満の沿岸浅海域であった.このことは,
は 12 棘 13 軟条),臀鰭軟条数が 9–10 であること
セダカタカサゴ属を構成する 2 種のうちセダカタ
(8–9),尾鰭が強く湾入すること(弱く湾入する),
カサゴが深めの水深帯,チカメタカサゴが浅めの
および体側中央から背部に鱗列に沿う右上がりの
水深帯とやや異なる環境に生息している可能性を
斜走線があること(斜走線がない)から容易に識
示唆している.久新ほか(1982)は,セダカタカ
別される(Randall et al., 1987;岩槻ほか,2004;
サゴが南シナ海の海洋島周辺や沖合でのみ釣獲さ
109
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
れ,チカメタカサゴはトロールで漁獲されるとし
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
ている.これに対し Randall et al. (1987) は,オマー
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
ン近海の大陸棚上においてもセダカタカサゴが採
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
集されていることを指摘し,海洋島周辺にのみ分
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
布する可能性については否定している.ただし,
進」の援助を受けた.
これら 2 種が異なる漁法で採集されたことは,両
種の生息環境が異なる可能性を支持する結果とい
える.今後,これら 2 種が採集された場所や手法,
水深などの知見を集積し,生息場所の違いについ
て検討する必要がある.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
に関して,牛嶋洋介氏(合同会社 生鮮調達)に
多大なるご協力をいただいた.鹿児島大学博物館
魚類分類学研究室の吉田朋弘氏には,本原稿に対
し適切な助言を数多く頂いた.また,標本の作成・
登録作業などを手伝ってくださった原口百合子氏
をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン
ティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の皆
さまに厚く御礼を申し上げる.本研究は,鹿児島
大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性
調査プロジェクト」の一環として行われた.本研
究 の 一 部 は JSPS 研 究 奨 励 費(PD:26-477),
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265)
,JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
110
引用文献
赤崎正人.1984.セダカタカサゴ.Pp. 163‒164, pl. 155. 益
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美大島から得られたシマチビキ Pristipomoides zonatus
1
2
小枝圭太 ・前川隆則 ・本村浩之
1
1
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
2
〒 894–0026 鹿児島県奄美市名瀬港町 6–16 株式会社前川水産
はじめに
材料と方法
フエダイ科ヒメダイ属は背鰭条数が 10 棘 11 軟
計数・計測部位は Shinohara (1963) に,方法は
条であること,臀鰭条数が 3 棘 8 軟条であること,
Hubbs and Lagler (1958) にしたがった.標準体長
背鰭・臀鰭最後軟条が伸長すること,主上顎骨に
は体長と表記し,デジタルノギスを用いて 0.1
鱗がないこと,背鰭に欠刻がないこと,胸鰭が長
mm までおこなった.シマチビキの生鮮時の体色
いこと,鋤骨および両顎に歯帯があること,側頭
の記載は,固定前に撮影された奄美大島産の 1 標
部の鱗域が,頬部・背鰭前方部・鰓蓋の鱗域と連
本(KAUM–I. 69723)のカラー写真に基づく.標
続 し な い こ と な ど の 特 徴 を も つ (Allen, 1985;
本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)
Akazaki and Iwatsuki, 1987).本属には,日本から
に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学
ハ ナ フ エ ダ イ P. argyrogrammicus (Valenciennes,
総合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時
1832),キマダラヒメダイ P. auricilla (Jordan, Evermann
の写真は同館のデータベースに登録されている.
and Tanaka, 1927), オ オ ヒ メ P. filamentosus
本報告中で用いられている研究機関略号は以下の
(Valenciennes, 1830), キ ン メ ヒ メ ダ イ P. flavipinnis
通 り.KAUM - 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館;
Shinohara, 1963, ナ ガ サ キ フ エ ダ イ P. multidens
MUDF(現在は MUFS)-宮崎大学農学部水産増
(Day, 1871),ヒメダイ P. sieboldii (Bleeker, 1854),
殖学科.
バラヒメダイ P. typus Bleeker, 1852,およびシマ
チ ビ キ P. zonatus (Valenciennes, 1830) の 8 種 が 知
られている(島田,2013).
シマチビキはこれまで国内において,小笠原
結果と考察
Pristipomoides zonatus (Valenciennes, 1830)
シマチビキ (Fig. 1)
諸島,北硫黄島,土佐湾,沖縄諸島以南の琉球列
島,南大東島に生息するとされてきた(島田,
標本 KAUM–I. 669723,体長 349.5 mm,尾叉
2013).2015 年 2 月 17 日に奄美大島沖で 1 個体
長 384.5 mm, 鹿 児 島 県 奄 美 大 島 沖(28°28′N,
のシマチビキが採集された.本標本は鹿児島県な
129°28′E;奄美市名瀬漁業協同組合にて購入),
らびに奄美群島における本種の標本に基づく初め
2015 年 2 月 17 日,釣り,前川隆則.
ての記録となるため,ここに報告する.
Koeda, K., T. Maekawa and H. Motomura. 2015. First record
of Pristipomoides zonatus (Perciformes: Lutjanidae)
from Amami-oshima island, Kagoshima, Japan. Nature
of Kagoshima 41: 111–114.
KK: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: hatampo@
gmail.com).
記載 背鰭棘数 10;背鰭軟条数 11;臀鰭棘条
数 3;臀鰭軟条数 8;胸鰭軟条数 16;左体側の有
孔側線鱗数 64;右体側の有孔側線鱗数 63;背鰭
起部下における側線上方鱗数 7;側線下方鱗数
18;背鰭前方鱗数 14;側頭部鱗数:6;尾柄鱗数
28;上枝鰓耙数 4(3 が痕跡的)
;下枝鰓耙数 14(3
が痕跡的).
111
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Pristipomoides zonatus. KAUM–I. 69723, 349.5 mm standard length, off Amami-oshima island, Kagoshima
Prefecture, Japan.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
ら始まり,背縁と並行にゆるやかに湾曲したのち,
体高 37.1;頭長 34.7;吻長 12.9;上顎長 14.7;両
背鰭第 9 棘起部直下から尾柄にかけて直走する.
眼間隔 9.3;眼径 7.4;尾柄高 11.6;胸鰭長 32.7;
胸鰭軟条は第 5 軟条が最長.胸鰭後端は背鰭
腹鰭長 23.6;眼窩前縁から眼窩骨前縁までの長さ
第 3 軟条起部直下および総排泄孔直上に達する
8.5;背鰭最後軟条長 14.4;臀鰭第 3 棘長 9.7;背
が,臀鰭起部には達しない.たたんだ腹鰭の後端
鰭最後軟条長 16.3.
は背鰭第 2 軟条起部直下に達するが,総排泄孔に
体はやや長い楕円形でよく側扁し,体高は背
は達しない.背鰭軟条は最後軟条が伸長して最長.
鰭起部で最大.眼隔域はやや膨出し,眼前部はか
背鰭に欠刻がない.背鰭基部後端は臀鰭基部後端
なり膨出している.頭部背縁はゆるく丸くなって
の直上に位置する.臀鰭起部は背鰭第 3 軟条起部
いる.両鼻孔は大いに接近する.前鼻孔は皮弁を
直下に位置し,最後軟条は伸長する.側線より上
有し,後鼻孔は丸く開孔する.口裂は大きく,上
方・下方の鱗列は側線とほぼ平行に走る.側頭部
顎後端は目の前縁直下を越える.両顎・鋤骨およ
に鱗をもち,その鱗域は頬部・背鰭前方部・鰓蓋
び口蓋骨に歯があるが,舌骨上にはない.両顎と
の鱗域と連続しない.主上顎骨に鱗がない.
もに,外側の 1 列の歯は犬歯状で大きく,上顎の
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部と体側は緋色.体
前方には 1 対のやや大きな歯がある.内側の歯は
側には背部から体側中央やや下まで延びる黄色の
絨毛状で,上顎では歯帯が後方に向かって細長く
横帯が 5 本斜めに走り,体色の緋色と縞模様を形
延びるが,下顎では前部の内側のみに歯帯を有す
成する.黄色横帯のうち 1,4,5 本目は,背部お
る.鰓耙は細長く,第 1 鰓弓上枝上の前方 3 本お
よび尾柄部で左右体側のものが連続するが,2,3
よび下枝上の前方 3 本は痕跡的.鰓蓋後縁は胸鰭
本目は側線上方の最上鱗列部で途切れるため,背
起部より後方で,背鰭起部直下および腹鰭起部直
鰭の黄色域と連続しない(4 本目のみ背鰭の黄色
上に位置する.前鰓蓋骨の後縁は微細な鋸歯状で,
域と連続する).各黄色横帯の幅はほぼ均一で,
鰓蓋上縁は目の上縁に達する.側線は鰓蓋上方か
横帯同士の間隔は体側後部にいくにしたがい幅が
112
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
狭くなる.体側の緋色は腹側ほど淡くなる.上顎
され,その分布を高知と小笠原とした.琉球列島
全体と下顎前部はオレンジ色.背鰭は黄色で,軟
のフエダイ科魚類を整理した篠原(1960)は,富
条部の軟条および鰭膜は先端から背鰭基底部の
山ほか(1958)の絵を転写するとともに,本種の
1/2–1/4 の位置までが半透明の緋色を呈するが,
形態的特徴を記載している.その後,篠原(1966)
最後軟条は黄色.臀鰭は一様に薄緋色で,基底部
は琉球列島産のフエダイ科魚類について分類学的
がやや白い.胸鰭の鰭膜は半透明な緋色で,鰭条
な整理を行い,沖縄島糸満市で水揚げされた本種
は半透明な黄色.胸鰭基部直上の無鱗域は黄色と
の写真とともに,2 標本(体長 290–310 mm)に
オレンジ色.腹鰭は一様に淡い緋色.尾鰭は上葉
基づくより詳細な形態に関する特徴を記載した.
下葉ともに黄色で上下縁は緋色.上葉の後端から
益田ほか(1975)と吉野(1984)は,本種のカラー
後縁の中央やや上方までは白色.後縁の中央部は
写真を図示し,その分布を伊豆諸島以南または南
淡い緋色.5 本目の黄色横帯と尾鰭上葉の黄色域
日本とそれぞれしているが,写真の基となった標
は連続するが,下葉の黄色域とは緋色で隔てられ
本は同一で沖縄島産である(吉野哲夫氏,私信).
る.
その後,Akazaki and Iwatsuki (1987) は,沖縄島産
分布 インド・太平洋に広く分布し,太平洋
の 1 個体(MUDF 1845,276.0 mm)を報告した.
ではニューギニア南岸,オーストラリア西岸と北
また,倉田ほか(1971)や Randall et al. (1997) は,
岸,およびツアモツ諸島以東を除く海域と日本,
小笠原諸島から本種を報告しているが,標本に基
台湾,ハワイ,ガラパゴス諸島に分布する(篠原,
づくものか不明である.島田(2013)は南大東島
1966;Allen, 1985;島田,2013).日本国内では,
を本種の分布域としているが,これは南大東村誌
小笠原諸島,北硫黄島,土佐湾,沖縄諸島以南の
編集委員会(1990)で本種が漁業者への聞き込み
琉球列島,南大東島(篠原,1966;島田,2013)
調査により報告されたものに基づく.したがって,
および鹿児島県奄美大島(本研究)から記録され
本報告の調査標本は,鹿児島県ならびに薩南諸島
ている.
からの本種の標本に基づく初めての記録となる.
備考 奄美大島の標本は,背鰭棘条数が 10 棘
11 軟条であること,臀鰭棘条数が 3 棘 8 軟条で
あること,背鰭・臀鰭最後軟条が伸長すること,
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,吉野哲夫氏
主上顎骨に鱗がないこと,背鰭に欠刻がないこと,
(元琉球大学),島田和彦氏(元沖縄県農林水産部),
鋤骨および両顎に歯帯があること,側頭部の鱗域
岩槻幸雄氏および三木涼平氏(宮崎大学)には文
が頬部・背鰭前方部・鰓蓋の鱗域と連続しないこ
献の提供および過去の採集標本に関する有益な情
となどから,Allen (1985) や Akazaki and Iwatsuki
報をいただいた.また,鹿児島大学博物館魚類分
(1987) によって定義された Pristipomoides 属と同
類学研究室の畑 晴陵氏には,文献の収集をはじ
定された.また,体側上半部に 5 本の黄色横帯が
め,本原稿に対し適切な助言を数多く頂いた.こ
斜めに走っていること,体長は体高の約 2.7 倍で
れらの方々に謹んで感謝の意を表する.また,標
あること,胸鰭後端が総排泄孔直上に達すること
本の作成・登録作業などを手伝ってくださった原
などが,篠原(1966)および Allen (1985),島田
口百合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博
(2013)が報告した P. zonatus の標徴とよく一致し
物館ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類学
た.
研究室の皆さまに厚く御礼を申し上げる.本研究
Pristipomoides zonatus を日本から初めて報告し
は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚
たのは富山ほか(1958)であると考えられ,和名
類の多様性調査プロジェクト」の一環として行わ
シマチビキが用いられている.彼らの報告は,標
れ た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 研 究 奨 励 費(PD:
本には基づいておらず,新称とも記されていない
26-477),JSPS 科 研 費(19770067,23580259,
ものの,本種であると明確に判断できる絵が図示
24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究
113
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の
研究教育ネットワーク構築」,総合地球環境学研
究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビ
リティーの向上プロジェクト」,国立科学博物館
「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関す
る研究プロジェクト」,文部科学省特別経費-地
域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とそ
の保全に関する教育研究拠点形成」,および鹿児
島大学重点領域研究環境(生物多様性プロジェク
ト)学長裁量経費「奄美群島における生態系保全
研究の推進」の援助を受けた.
引用文献
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Hubbs, C. L. and Lagler, K. F. 1958. Fishes of the Great Lakes region. University of Michigan Press, Ann Arbor. xv + 213 pp.,
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県本土初記録のイサキ科魚類
ホシミゾイサキ Pomadasys argenteus
1
2
畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之
1
3
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
3
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
イサキ科 Haemulidae は日本近海には 5 属 20 種
が分布しており(島田,2013),このうちホシミ
ゾイサキ Pomadasys argenteus (Forsskål, 1775),マ
ダラミゾイサキ P. maculates (Bloch, 1793),およ
び ス ジ ミ ゾ イ サ キ P. quadrilineatus Shen and Lin,
1984 の 3 種がミゾイサキ属 Pomadasys に含まれ
る(島田,2013).これまで,ホシミゾイサキは
国内において琉球列島からのみ記録されていた
(島田,2013).2014 年 12 月 19 日と 2015 年 3 月
9 日にそれぞれ 1 個体ずつ,鹿児島県南さつま市
笠沙町沖で,ホシミゾイサキが採集された.これ
らの標本は鹿児島県本土におけるホシミゾイサキ
の標本に基づく初めての記録となるため,ここに
報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1958) およ
び Satapoomin and Randall (2000) に し た が っ た.
標準体長は体長と表記した.計測はデジタルノギ
スを用いて 0.1 mm まで行った.ホシミゾイサキ
の生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿
児島県産の 2 標本(KAUM–I. 67817, 70596)のカ
Hata, H., M. Itou and H. Motomura. 2015. First records of
Pomadasys argenteus (Perciformes: Haemulidae) from
the mainland of Kagoshima, southern Japan. Nature of
Kagoshima 41: 115–121.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890-0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
ラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,固
定方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用い
た標本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管され
ており,上記の生鮮時の写真は同館のデータベー
スに登録されている.本報告中で用いられている
研究機関略号は以下の通り:KAUM(鹿児島大
学総合研究博物館);NSMT(国立科学博物館);
USNM(スミソニアン自然史博物館).
結果と考察
Pomadasys argenteus (Forsskål, 1775)
ホシミゾイサキ (Figs. 1–2; Table 1)
Sciaena argentea Forsskål, 1775: 51 [type locality:
Djiddae (currently Jeddah), Saudi Arabia, Red Sea].
Pomadasys argenteus: Fowler, 1931: 312 [Red Sea;
Arabia; India; Siam (currently Thailand); Pinang,
(currently Penang), Malaysia; Singapore;
Philippines; China]; Klausewitz and Nielsen, 1965:
20 [Djiddae (currently Jeddah), Saudi Arabia, Red
Sea]; Nielsen, 1974: 65 (Red Sea); Gloerfelt-Tarp
and Kailola 1984: 198, unnumbered fig. (08°30′S,
116°42′E, east off Lombok, Indonesia); McKay,
1984: HAEM Pomad 9, unnumbered fig. (Red Sea
to Philippines); Bianchi, 1985: 70, unnumbered fig.
(Pakistan); Shen 1993: 363, figs. 104-2 (Donggang,
Kaohsiung, Taiwan); De Bruin et al. 1995: 210, (Sri
Lanka); Sommer et al. 1996: 243 (Somalia); Mohsin
and Ambak 1996: 356 (Red Sea to Philippines and
South China Sea); Carpenter et al. 1997: 178
115
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Pomadasys argenteus. KAUM–I. 67817, 280.0 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.
(Persian Gulf); McKay, 2001: 2983 (Red Sea to
Pomadasys hasta: Fowler, 1931: 313 [Red Sea;
southern Japan, northern Australia); Sakai et al.,
Arabia; East Africa; Natal, South Africa;
2001: 100 (Ryukyu Islands, Japan); Akazaki, 2002:
Madagascar; Seychelles; Andamans, India; Ceylon
353, unnumbered fig. (Iriomote-jima island, Japan);
(currently Sri Lanka); Malacca, Pinang (currently
Peristiwady et al., 2003: 98, unnumbered fig.
Penang), Malaysia; Singapore; East Indies;
(Bitung, Sulawesi, Indonesia); Kim et al., 2005:
Philippines; Formosa (currently Taiwan); China;
328, unnumbered fig. (Korea); Ikeguchi, 2005: 84,
Japan; Queensland, Western Australia, New South
table 2 (Haneji, Okinawa-jima island, Japan);
Wales, Australia; in part]; Masuda et al., 1975: 241,
Maeda and Tachihara, 2006: 12, table 1 (estuary of
pl. 67-A (Ryukyu Islands, Taiwan, Southeast Asia
Teima Stream, Okinawa-jima island, Japan); Ota,
and Indian Ocean); Talwar and Kacker, 1984: 596,
2007: 192, table 2 (Yaeyama Islands, Japan); Ota,
fig. 233 (India); Akazaki, 1984: 167, pl. 162-B
2008: 101, table 2 (Yaeyama Islands, Japan); Ota et
(southern Japan); Shinomiya and Ike, 1992: 80
al., 2008: 187, table 1 (Yaeyama Islands, Japan);
(Amami-oshima island, Japan); Mohsin and Ambak,
Ambak et al., 2010: 141, unnumbered fig.
1996: 356 (Malaysia); Chin, 1998: 178, fig. 137
(Malaysia); Matsunuma, 2011: 125, unnumbered
(Sandakan, Beluran, Kota Kinabalu and Tawau,
fig. (off Terengganu, Malaysia); Miura, 2012: 51,
Sabah, Malaysia); Paepke, 1999: 85, pl. 15, fig. 2
unnumbered figs. (Okinawa-jima island, Japan);
Hata et al., 2012: 27, fig.12 (Amami-oshima island,
Japan); Shimada, 2013: 940, unnumbered fig.
(Ryukyu Islands, Korea, Taiwan, Indo-West Pacific).
Lutjanus hasta Bloch, 1790: 109, pl. 246, fig. 1 (type
locality: Japan).
116
(Japan).
Pomadasys kaakan (not of Cuvier): Masuda and Allen,
1987: 211, fig. J (Indo-West Pacific).
Pomadasys sp.: Aragaki and Yoshino, 1984: 81
(Okinawa Prefecture, Japan).
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 2. Fresh specimen of Pomadasys argenteus. KAUM–I. 70596, 304.0 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.
標 本 KAUM–I. 67817, 体 長 280.0 mm, 鹿 児
は下鰓蓋骨後縁より後方,胸鰭第 4 軟条起部直上
島県南さつま市笠沙町片浦高崎山地先
に位置する.背鰭基底後端は臀鰭基底後端よりも
(31°26′00″N, 130°10′05″E), 水 深 36 m,2014 年
後方に位置する.背鰭棘条部基底後端は総排泄孔
12 月 19 日,定置網,寺床尚也;KAUM–I. 70596,
前縁の直上に位置する.背鰭後縁は丸みを帯びる.
体長 304.0 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片浦
胸鰭起部は下鰓蓋骨後縁よりも前方に位置し,胸
崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,
鰭基底下端は腹鰭起部直上に位置する.胸鰭第 1
2015 年 3 月 9 日,定置網,伊東正英.
軟条は痕跡的で,その後端は背鰭第 5 棘条起部直
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
下に達する.胸鰭後端は背鰭第 10–11 棘条起部直
を Table 1 に示した.体は前後方向に長い楕円形
下に達するが,総排泄孔には達しない.腹鰭起部
で側扁し,体の腹縁は臀鰭起部で折れ曲がる.体
は胸鰭基底下端直下,背鰭第 3 棘条起部直下に位
高は頭長の 114.8–118.0% と高く,背鰭第 4 棘条
置する.腹鰭は腋鱗を備える.腹鰭棘条はたたむ
起部で最大.吻端は尖り,唇は厚い.口裂は小さ
と,後端は背鰭第 6–7 棘条起部直下に達する.腹
く,主上顎骨後端は眼窩前縁に僅かに達しない.
鰭後端はやや糸状に伸長し,たたむと後端は背鰭
下顎腹面には感覚孔を 2 つ有する.下顎腹面の正
第 10 棘条起部直下に達する.臀鰭起部は背鰭第
中線に縦長の溝がある.眼の下縁は吻端よりも上
3–4 軟条起部直下に位置する.臀鰭は第 2 棘条が
方に位置する.眼および瞳孔はそれぞれ円形.鼻
最も太い.臀鰭基底後端は背鰭第 11 軟条起部直
孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の
下に位置する.尾鰭は截形.側線は胸鰭起部上方
前縁前方に位置する.前後の鼻孔はともに背腹方
から始まり,背鰭第 7 棘条起部直下付近で緩やか
向に細長いスリット状.前鼻孔の後縁に前鼻孔よ
に下降し,尾柄部で直走し,尾鰭基底を越えたと
り小さい皮弁を有する.総排泄孔は体の中央より
ころで終わる.前鰓蓋骨後縁は鋸歯状で,体軸に
後方に位置し,臀鰭起部直前に開孔する.背鰭,
対しほぼ垂直であるが,下部はやや後方に張り出
臀鰭および腹鰭の軟条は全て分枝する.背鰭起部
す.下鰓蓋骨後縁は円滑で,上部は後方に張り出
117
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
すが,胸鰭起部付近で凹む.
よび臀鰭の基底部は鞘鱗で被われる.両顎歯は細
体は櫛鱗で被われる.頭部,胸甲部,胸鰭基
かく,絨毛状.
底部および尾鰭軟条は被鱗する.頭頂部の鱗域は
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面および体側上部
前鼻孔間に達し,吻部および両顎は無鱗.背鰭お
の地色は緑がかった銀白色で,各鱗に黒褐色斑が
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Pomadasys argenteus.
Malaysia, Okinawa, and
Amami-oshima island,
Kagoshima
Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan
Standard length (mm)
Counts
Dorsal-fin spines
Dorsal-fin rays
Anal-fin spines
Anal-fin rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin spines
Pelvic-fin rays
Lateral-line scales
Caudal-peduncle scales
Gill rakers (upper)
Gill rakers (lower)
Gill rakers (total)
Measurements (%SL)
Greatest body depth
Body width
Head length
Snout length
Orbit diameter
Pupil diameter
Interorbital width
Suborbital depth
Preorbital width
Caudal-peduncle depth
Caudal-peduncle length
Pre-dorsal-fin length
Pre-anal-fin length
Pre-pelvic-fin length
Upper-jaw length
First dorsal-fin spine length
Second dorsal-fin spine length
Third dorsal-fin spine length
Fourth dorsal-fin spine length
Fifth dorsal-fin spine length
Eleventh dorsal-fin spine length
Twelfth dorsal-fin spine length
Longest dorsal-fin ray length
Spinous dorsal-fin base length
Soft dorsal-fin base length
First anal-fin spine length
Second anal-fin spine length
Third anal-fin spine length
Longest anal-fin ray length
Anal-fin base length
Caudal-fin length
Pectoral-fin length
Longest pectoral-fin ray length
Pelvic-fin length
Pelvic-fin spine length
118
KAUM–I. 67817
KAUM–I. 70596
n=6
280.0
304.4
104.0–227.5
12
14
3
7
16
1
5
47
21
4
12
16
12
14
3
8
16
1
5
47
21
5
12
17
12
14
3
7–8 (7)
15–17 (16)
1
5
45–50 (47)
21–22 (22)
4–5 (5)
12
16–17 (17)
38.6
17.5
32.7
12.6
6.2
3.2
8.6
7.0
9.6
11.2
19.0
40.4
70.6
35.1
9.1
3.3
6.8
13.9
15.8
13.9
8.6
8.5
13.5
34.2
22.8
4.2
17.8
13.4
14.2
13.8
18.2
31.9
29.6
21.7
13.4
36.2
15.4
31.6
10.9
5.9
3.0
7.8
7.1
8.2
10.0
17.3
40.2
71.4
35.1
9.4
4.1
7.3
13.9
13.2
13.0
8.0
6.0
12.2
33.3
21.3
3.4
14.9
11.4
13.0
14.4
16.8
29.5
28.5
21.0
11.4
37.3–41.0 (38.4)
14.2–16.8 (15.7)
33.8–37.3 (35/2)
11.1–12.3 (11.6)
6.9–9.4 (8.4)
3.6–5.4 (4.4)
7.3–8.1 (7.8)
6.4–7.3 (6.9)
7.7–10.1 (8.7)
10.6–11.7 (11.1)
17.4–20.5 (18.6)
41.2–44.9 (42.9)
69.8–72.8 (71.3)
37.4–38.5 (37.9)
10.1–10.8 (10.5)
2.9–6.6 (5.0)
7.7–13.1 (10.0)
15.8–20.5 (18.3)
15.3–19.8 (17.9)
14.1–18.1 (16.2)
10.1–11.2 (10.6)
11.1–12.9 (11.7)
14.4–17.9 (16.4)
32.6–37.4 (34.5)
20.4–22.1 (21.1)
3.8–6.3 (5.2)
15.9–22.0 (19.8)
12.0–17.5 (14.1)
13.9–18.7 (16.6)
13.4–15.2 (14.2)
19.5–23.4 (21.7)
29.7–33.7 (31.9)
28.8–32.8 (30.7)
14.1–28.4 (22.5)
14.5–24.4 (18.5)
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入る.尾柄部背面は暗緑色.体側および腹面は一
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
であると考えられる.
様に銀白色.腹鰭棘条および臀鰭第 1 棘条を除く
Pomadasys argenteus はサウジアラビアのジッダ
各鰭条および背鰭基底部の鞘鱗はオリーブ色.腹
から得られた標本に基づき,Forsskål (1775) によっ
鰭棘条および臀鰭第 1 棘条は白色.背鰭鰭膜には
て,Sciaena argentea と し て 新 種 記 載 さ れ た
茶色がかった黒色斑が散在する.臀鰭鰭膜は淡い
(Klausewitz and Nielsen, 1965; Nielsen, 1974).
黒色.尾鰭後縁は暗色.上唇は緑がかった黒色.
Bloch (1790) は日本から得られた個体に基づき P.
下唇は一様に白色.虹彩は黄色がかった鶯色で,
argenteus を Lutjanus hasta として新種記載したが,
瞳孔は青みがかった黒色.
この標本の産地はおそらく日本ではないと考えら
固定後の色彩 ― 体背面は一様に暗い褐色とな
る.各鰭の地色は一様に淡褐色となる.
れ て い る(Paepke, 1999). 現 在,P. hasta は P.
argenteus の新参異名とされている(McKay, 1984,
分布 紅海からバヌアツ,オーストラリア北
2001).Fowler (1931) は沖縄県那覇から得られた
岸にかけてのインド・西太平洋(Shen, 1993; De
2 標本(USNM 71911, 71912;USNM 標本データ
Bruin, 1995; Sommer et al., 1996; Carpenter et al.,
ベースに基づく)を P. hasta として日本から報告
1997; McKay, 2001; Matsunuma, 2011),台湾(Shen,
したが,彼の標本の記載は中断部のある縦帯を形
1993),韓国(Kim et al., 2005;島田,2013),お
成する多数の黒色斑を有することから,P. kaakan
よび日本に分布する.国内では琉球列島(畑ほか,
(Cuvier, 1830) と思われる.しかし,本研究にお
2012;島田,2013)および鹿児島県薩摩半島西岸
い て 記 載 標 本 を 精 査 し た 結 果,2 標 本 は P.
(本研究)から記録されている.
argenteus であることが明らかとなった.岡田・
備考 鹿児島県本土から得られた標本は,下
松原(1938)と松原(1955)はホシミゾイサキを
顎腹面に感覚孔を 2 つ有すること,下顎腹面の正
Pomadasys hasta として沖縄などに分布するとし
中線に縦長の溝があることなどが Shen (1993) や
た.しかし,岡田・松原(1938)と松原(1955)
McKay (2001) の報告した Pomadasys の標徴と一
のホシミゾイサキは体側に 4–6 条の所々中断する
致した.また体側上部に多数の小暗色点があるこ
暗色横帯のあることから P. kaakan と思われ,P.
と,背鰭軟条数が 14 であること,尾柄周囲鱗列
argenteus とは別種である.さらに,岡田・松原
数 が 21 で あ る こ と な ど の 特 徴 が Shen (1993),
(1938)と松原(1955)はミゾイサキ P. argenteus
McKay(2001) や 島 田(2013) の 報 告 し た P.
を沖縄以南に分布するとしたが,これらは体色が
argenteus の標徴と一致した.またこれらの標本
一 様 で 背 鰭 に 黒 斑 が な い こ と か ら P. argyreus
の計数形質は,奄美大島,沖縄およびマレーシア
(Valenciennes, 1833) と思われ,P. argenteus とは別
から採集され,本研究で比較を行った標本の値の
種と考えられる.その後,P. argenteus は益田ほ
範囲内にあり,よく一致している(Table 1).記
か(1975)によって琉球列島からホシミゾイサキ
載標本は比較標本と比較して,体幅,眼隔幅,背
P. hasta として報告された.また,新垣・吉野(1984)
鰭軟条部基底長の体長に占める割合がわずかに大
はホシミゾイサキを Pomadasys sp. として,和名
きく,体高,頭長,吻長,眼窩径,虹彩径,尾柄
をミゾイサキとし,沖縄県で多数が釣獲され,ガ
高,尾柄長,背鰭前長,腹鰭前長,上顎長,背鰭
ク ガ ク と 称 さ れ る こ と を 報 告 し た. そ の 後,
第 2–5, 11–12 棘条長,最長背鰭軟条長,臀鰭第
Sakai et al. (2001) は ホ シ ミ ゾ イ サ キ 1 個 体
1–3 棘条長,最長臀鰭軟条長,尾鰭長,胸鰭長,
(NSMT-P 28324)を琉球列島から報告した.赤崎
最長胸鰭軟条長,腹鰭棘条長が若干小さい(Table
(2002)は西表島から水中写真に基づき本種を報
1). こ れ ら 若 干 の 相 違 は, 比 較 標 本 の 体 長 が
告した.池口(2005)は沖縄島羽地内海において
103.6–227.5 mm であるのに対し,鹿児島県本土
本種が水揚げ・利用されることを報告した.前田・
産の標本の体長が 280.0–304.0 mm と大きいこと
立原(2006)は本種が沖縄島汀間川の河口域に出
から,成長に伴う体各部の相対値変化によるもの
現することを報告した.太田(2007, 2008)は八
119
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
重山海域にける本種の水揚げ量の推定を行い,太
上の方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は,
田ほか(2008)は八重山海域における本種の体長
鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の
と体重の関係を示した.三浦(2012)は本種が沖
多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.
縄島中城湾で定置網や刺し網,延縄によって多数
本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
漁獲され,ンチューと称されることを報告した.
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
ま た, 四 宮・ 池(1992) は 本 種 3 個 体( 全 長
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
131.1–192.5 mm)を,畑ほか(2012)は本種 1 個
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
体(KAUM–I. 1783, 体長 103.6 mm)をそれぞれ
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
奄美大島から報告した.
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
したがって,現在ホシミゾイサキの国内にお
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
ける分布は琉球列島とされており(島田,2013),
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
本報告が鹿児島県本土におけるホシミゾイサキの
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
標本に基づく初めての記録となる.ホシミゾイサ
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
キの鹿児島県本土での採集記録は,本種が沖縄県
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
から鹿児島県にかけて広く分布することを示唆す
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
る.
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
比較標本 ホシミゾイサキ P. argenteus:(11 個
体,体長 79.0–227.5 mm):KAUM–I. 1783,体長
103.6 mm,鹿児島県奄美市住用町内海,1991 年
8 月 1 日;KAUM–I. 12228,体長 152.2 mm,マレー
シ ア・ サ バ 州 コ タ キ ナ バ ル 沖(06°00′N,
116°07′E)
;KAUM–I. 17252,体長 121.9 mm,マレー
シ ア・ ト レ ン ガ ヌ 州 ク ア ラ ト レ ン ガ ヌ 沖
(05°22′N, 103°15′E);KAUM–I. 49231,体長 109.5
mm, マ レ ー シ ア・ サ バ 州 コ タ キ ナ バ ル 沖
(06°00′N, 116°07′E);KAUM–I. 55321,体長 201.2
mm,KAUM–I. 55322,体長 200.0 mm,沖縄県糸
満 市 沖(26°07′N, 127°37′E),2013 年 6 月 28 日,
KAUM 魚類チーム;KAUM–I. 60821,体長 208.0
mm,KAUM–I. 60822,体長 227.5 mm,沖縄県八
重 山 郡 竹 富 町 西 表 島 浦 内 川(24°22′45″N,
123°46′55″E);USNM 71911,
体 長 208.0 mm,
USNM 71912, 体長 185.0 mm, USNM 71913, 体長
79.0 mm,沖縄県那覇市.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子
氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ
ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに
は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては,
笠沙町漁協の皆様には多大なご協力を頂いた.以
120
引用文献
赤崎正人.1984.ホシミゾイサキ.P. 167, pl. 162-B.益田 一・
尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本
産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
赤崎正人.2002.ホシミゾイサキ Pomadasys argenteus.P.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
122
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県北部から得られたタイ科魚類
タイワンダイ Argyrops bleekeri の記録
1
2
3
畑 晴陵 ・伊東正英 ・高山真由美 ・本村浩之
1
3
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
3
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
タイ科 Sparidae は日本近海には 7 属 13 種が分
布 し て い る( 林・ 萩 原,2013). タ イ ワ ン ダ イ
Argyrops bleekeri Oshima, 1927 は台湾から採集さ
れ た 1 個 体 に 基 づ い て 記 載 さ れ(Ho and Shao,
2011),日本国内においては.遠州灘,土佐湾,
琉球列島に分布するとされていた(赤崎,1962;
吉野ほか,1975;岡本,1998;赤崎,2002;林・
萩原,2013).
2008 年 11 月 1 日に鹿児島県南さつま市笠沙町
沖で,また 2013 年 2 月 26 日に種子島沖でそれぞ
れ 1 個体のタイワンダイが採集された.これらの
標本は鹿児島県本土および大隅諸島における本種
の標本に基づく初めての記録となるため,ここに
報告する.
材料と方法
計数・計測方法は赤崎(1962)および Iwatsuki
et al. (2007) にしたがった.標準体長は体長と表
記し,デジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行っ
た.タイワンダイの生鮮時の体色の記載は,固定
前に撮影された鹿児島県産の 2 標本(KAUM–I.
13609, 53300)のカラー写真に基づく.標本の作製,
Hata, H., M. Itou, M. Takayama and H. Motomura. 2015.
First records of Argyrops bleekeri (Perciformes:
Sparidae) from Tanegashima island and Kagoshima
mainland, southern Japan. Nature of Kagoshima 41:
123–127.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890-0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
館に保管されており,上記の生鮮時の写真は同館
のデータベースに登録されている.本報告中で用
いられている研究機関略号は以下の通り.KAUM
-鹿児島大学総合研究博物館;LSKU -高知大学
文理学部生物学教室.
結果と考察
Argyrops bleekeri Oshima, 1927
タイワンダイ (Figs. 1–2; Table 1)
標本 2 個体(体長 257.9–286.8 mm)
:KAUM–I.
13609, 体長 257.9 mm,鹿児島県南さつま市笠沙
町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水
深 27 m,2008 年 11 月 1 日,定置網,伊東正英,
KAUM–I. 53300,体長 286.8 mm,鹿児島県熊毛
郡中種子町東岸沖(30°30′N, 130°03′E),2013 年
2 月 26 日,釣り,高山真由美.
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
を Table 1 に示した.体は卵形で,側扁する.体
高は頭長の 183.5–188.2% と高く,背鰭第 3 棘条
起部で最大.眼隔域は膨出する.眼および瞳孔は
それぞれ円形.鼻孔は 2 対で,前鼻孔と後鼻孔は
互いに近接し,眼の前縁前方に位置する.前鼻孔
は小さく円形で,後鼻孔は大きく背腹方向に細長
いスリット状.背鰭第 2 棘条以下の 4–5 棘条は軟
らかく,糸状に伸長する.背鰭軟条は全て分枝す
る.背鰭起部は鰓蓋後縁より前方に位置する.背
鰭基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.腹鰭
起部は胸鰭基底下端直下に位置する.腹鰭起部に
123
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Fig. 1. Fresh specimen of Argyrops bleekeri.KAUM–I. 53300, 286.8 mm SL, Tanega-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
腋鱗を備える.腹鰭後端はやや糸状で肛門を越え
5 本の臼歯が並んでいる.両顎側部にある 2 列の
て伸長し,背鰭第 8 棘条起部直下に達するが,臀
臼歯は強大.
鰭起部には達しない.胸鰭起部は背鰭第 2–3 棘条
色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は桃色を帯び
起部直下に位置する.胸鰭後端は背鰭第 2 軟条起
た銀色.体側面の地色は一様に銀色で,側線より
部直下に達する.臀鰭起部は背鰭第 10–11 棘条起
下方に数本の黄色縦帯が尾柄にかけて入る.背鰭
部直下に位置する.臀鰭軟条は全て分枝する.尾
棘条,胸鰭軟条,腹鰭棘条および尾鰭軟条は赤み
鰭は若干湾入し,上下両葉先端は尖る.前鰓蓋骨
を帯びる.背鰭棘条部の鰭膜の基底付近,腹鰭第
後縁は円滑.体は櫛鱗に被われる.背鰭前方鱗域
1–4 軟条および臀鰭軟条部の鰭膜の基底付近は黄
は眼隔域まで達し,吻端は無鱗.前鰓蓋骨の後半
色がかる.背鰭棘条部の鰭膜の縁辺,背鰭軟条部
部は被鱗しない.側線は鰓蓋後方から尾柄にかけ
の鰭膜,腹鰭第 5 軟条,腹鰭の鰭膜および臀鰭軟
てはいる.鰓耙は瘤状.上顎左側の犬歯は 2 本で,
条部の鰭膜の縁辺は白色.胸鰭腋部は赤色.頭部
側歯は 2 列で外側列は前方から 4 本の円錐歯,3
側面の地色は一様に銀色であるが,鰓蓋には短い
本の臼歯が順に並んでおり,内側列は前方から 4
黄色縦帯が多数入る.鰓膜の後縁は黄色で,上部
本の円錐歯,4 本の臼歯が並んでいる.鋤骨には
は黄色.吻部および上顎は淡い桃色.虹彩の地色
歯がない.下顎左側の犬歯は 2 本で,側歯は 2 列
は銀色で,中央に赤みがかった黄色の横帯が入る.
で外側列は前方から 3 本の円錐歯,4 本の臼歯が
瞳孔は青みがかった黒色.固定後の色彩 ― 体側
順に並んでおり,内側列は前方から 4 本の円錐歯,
は一様に黄褐色となる.
124
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 2. Fresh specimen of Argyrops bleekeri. KAUM–I. 13609, 257.9 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.
分布 本種は韓国(Kim et al., 2005;林・萩原,
背鰭第 1 棘が極めて短いこと,背鰭第 2 棘条以下
2013), 台 湾(Oshima, 1927; Shen, 1993; Ho and
の 4–5 棘条は軟らかく,糸状に伸長することなど
Shao, 2011;林・萩原,2013),中国・浙江省,海
が Oshima (1927) や 赤 崎(1962),Shen (1993),
南島,トンキン湾(林・萩原,2013),ベトナム(赤
Iwatsuki (2009) が 報 告 し た Argyrops bleekeri の 標
崎,1962),南シナ海(久新ほか,1982),インド
徴とよく一致したため,本種と同定された.また
ネシア・ロンボク島(Iwatsuki, 2009),および日
種子島と鹿児島県本土産標本の計数形質は沖縄お
本から報告されている.国内では遠州灘(岡本,
よびマレーシアから採集され,本研究で比較を
1998), 高 知 県( 赤 崎,1962; Shinohara et al.,
行った標本の値の範囲内にあり,よく一致した
2001), 奄 美 大 島 以 南 の 琉 球 列 島( 吉 野 ほ か,
(Table 1).鹿児島県産の標本は沖縄およびマレー
1975;赤崎,2002;林・萩原,2013;上原ほか,
シア産の標本と比べて頭長,眼窩径,眼径,上顎
2013),および種子島と鹿児島県本土(本研究)
長,背鰭前長,腹鰭前長,臀鰭基底長,腹鰭棘条
から記録されている.
長,腹鰭第 1 軟条長,背鰭第 1 棘条長,臀鰭第 1
備考 種子島と鹿児島県本土産の標本は,上
棘条長の体長に占める割合がわずかに小さく,体
顎側部に臼歯が 2 列並ぶこと,鋤骨に歯を欠くこ
幅,眼隔域幅の割合はやや大きい(Table 1).こ
と,頬部に 8–9 列の鱗が並ぶこと,前鰓蓋骨後縁
れら若干の相違は,沖縄およびマレーシア産の標
部が被鱗しないこと,背鰭第 2 棘条以下の 4–5 棘
本の体長が 30.0–130.7 mm であるのに対し,鹿児
条 は 軟 ら か く, 糸 状 に 伸 長 す る こ と な ど が
島県産の標本の体長が 257.9–286.8 mm と大きい
Oshima (1927) や Shen (1993) によって定義された
ことから,成長に伴う体各部の相対値変化による
Argyrps 属の特徴と一致した.また,背鰭棘条数
ものと考えられる.
が 11 であること,腹鰭後端はやや糸状で肛門を
越えて伸長するが,臀鰭起部には達しないこと,
Argyrops bleekeri は Oshima (1927) により,1920
年 12 月 20 日に台湾屏東県東港から採集された 1
125
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
個体(全長 238 mm)に基づいて記載された(Ho
漁獲され,マチクまたはヨナバルマジクと呼称さ
and Shao, 2011)
.その後,赤崎(1962)は本種 1
れることを報告した.林・萩原(2013)は本種を
個体(LSKU 4642, 体長 7.7 cm)を高知県須崎か
奄美大島から報告し,上原ほか(2013)は沖縄島
ら報告し,新垣・吉野(1984)は本種を沖縄島の
近海から本種 67 個体(尾叉長 20.4–49.4 cm)を
中城湾,金武湾および大宜味沖で釣獲されること
報告した.したがって,これまでタイワンダイは
を報告した.岡本(1998)は体長 20.5 cm の本種
国内において遠州灘,土佐湾,琉球列島に分布す
1 個体を静岡県遠州灘から報告し,赤崎(2002)
るとされており(赤崎,1962;吉野ほか,1975;
は沖縄島の佐敷から本種を報告した.三浦(2012)
岡本,1998;赤崎,2002;林・萩原,2013),タ
は本種が沖縄島中城湾で刺し網または釣りで多数
イワンダイの種子島と鹿児島県本土からの記録
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Argyrops bleekeri.
Minami-satsuma,
off Tanega-shima island,
Kagoshima, Japan
Kagoshima, Japan
KAUM–I. 13609
KAUM–I. 53300
Standard length (mm)
257.9
286.8
Counts
Dorsal-fin spines
11
11
Dorsal-fin rays
10
10
Anal-fin spines
3
3
Anal-fin rays
8
8
Pectoral-fin rays
15
15
Pelvic-fin spines
1
1
Pelvic-fin rays
5
5
Pored lateral-line scales
50
51
Scales above lateral line
7
7
Scales below lateral line
17
16
Scale rows on cheek
3
3
Scale rows on opercle
5
6
Gill rakers (upper)
6
6
Gill rakers (lower)
11
11
Gill rakers (total)
17
17
Measurements (%SL)
Fork length
118.1
120.4
Body depth
57.1
55.2
Head length
31.1
31.2
Body width at pectoral-fin base
18.2
16.6
Snout length
17.8
17.9
Orbit diameter
9.1
7.9
Dermal eye opening
8.2
7.4
Suborbital depth
13.9
13.8
Interorbital width
10.6
10.3
Upper-jaw length
12.7
12.1
Caudal-peduncle depth
13.4
13.0
Caudal-peduncle length
17.2
16.9
Pre-dorsal-fin length
47.6
47.6
Pre-anal-fin length
67.0
67.5
Pre-pelvic-fin length
31.7
35.0
Dorsal-fin base
62.1
62.5
Anal-fin base
23.0
16.9
Pelvic-fin spine length
18.1
21.6
First pelvic-fin soft ray length
broken
30.3
Pectoral-fin length
broken
41.6
1st dorsal-fin spine length
1.9
2.0
2nd dorsal-fin spine length
broken
53.9
3rd dorsal-fin spine length
broken
45.3
4th dorsal-fin spine length
broken
37.7
5th dorsal-fin spine length
23.3
27.9
1st anal-fin spine length
4.0
3.4
2nd anal-fin spine length
11.8
broken
3rd anal-fin spine length
10.1
broken
1st anal-fin soft ray length
10.3
9.8
126
Malaysia and Okinawa,
Japan
n=7
30.0–130.7
11
10
3
8
15
1
5
50–53
7
16
3
5
6
10–11
16–17
117.2–124.2 (121.3)
47.6–59.0 (53.1)
32.2–36.8 (34.5)
7.9–15.2 (11.7)
11.8–18.1 (14.9)
10.4–16.5 (13.6)
10.2–15.4 (12.7)
7.2–13.9 (10.8)
9.2–9.9 (9.6)
12.6–13.9 (13.1)
10.9–13.5 (12.3)
15.0–19.6 (17.1)
48.3–51.0 (49.5)
65.1–73.2 (67.2)
35.6–39.9 (37.1)
51.9–64.1 (59.6)
19.4–23.4 (21.5)
21.8–24.9 (23.8)
37.2–41.6 (39.4)
30.3–45.1 (39.3)
3.2–5.0 (3.9)
78.4–115.9 (95.2)
21.1–69.3 (50.1)
14.9–61.2 (35.7)
13.4–56.8 (26.7)
4.5–11.3 (6.5)
7.6–16.1 (13.4)
11.2–15.5 (13.1)
10.2–13.0 (11.8)
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は,これまでの国内の本種の分布の空白域を埋め
るものであると同時に,本種が遠州灘から琉球列
島にかけて広く分布することを示唆する.
比較標本 タイワンダイ Argyrops bleekeri 7 個
体(体長 30.0–130.7 mm):KAUM–I. 12097,体長
130.7 mm,KAUM–I. 12098,体長 124.9 mm,マレー
シ ア・ サ バ 州・ コ タ キ ナ バ ル 沖(06°00′N,
116°07′E;コタキナバルの市場で購入)
;KAUM–I.
49220,体長 123.4 mm,マレーシア・サバ州・コ
タキナバル沖(06°00′N, 116°07′E;コタキナバル
の市場で購入);KAUM–I. 54804,体長 40.2 mm,
KAUM–I. 54805,体長 39.2 mm,KAUM–I. 54806,
体 長 35.0 mm,KAUM–I. 54807, 体 長 30.0 mm,
沖縄県中頭郡中城村沖中城湾(26°15′N, 127°49′E)
水深 17–41 m,底曳網,1970–1971 年,沖縄県水
産海洋技術センター.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
引用文献
赤崎正人.1962.タイ型魚類の研究 形態・系統・分類お
よび生態.京大みさき臨海研究所特別報告,(1): 1–368.
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species of the genus Dentex (Perciformes: Sparidae) in the
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the description of a new species, Dentex abei and a
redescription of Evynnis tumifrons. Bulletin of the National
Museum of Nature and Science (Series. A) Supplement, No.
1: 29–49.
氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ
Kim, I. S., Choi, Y., Lee, C. L., Lee, Y. J., Kim, B. J. and Kim, J.
ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに
H. 2005. Illustrated book of Korean fishes. Kyhaku
は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては,
種子島漁業協同組合の皆様に多大なご協力を頂い
た.沖縄環境調査株式会社の桜井 雄氏には比較
標本の採集に御尽力頂いた.以上の方々に謹んで
感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研
究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ
ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部
は JSPS 科研費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
Publishing, Seoul. 615 pp.
久新 健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉・谷野保夫・
千田哲資.1982.南シナ海の魚類.海洋水産資源開発
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Shinohara, G., Endo, H., Matsuura, K., Machida, Y. and Honda, H.
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
2001. Annotated checklist of the deepwater fishes from fishes
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
from Tosa Bay. Monographs of the National Science Museum
Tokyo, 20: 283–343.
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
上原匡人・岩本健輔・太田 格・海老沢明彦.2013.沖縄
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
沿岸域の総合的な利用活用推進事業(内湾性魚類の生
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
態特性の解明).沖縄水産海洋研究センター事業報告書,
74: 11.
吉野哲夫・西島信昇・篠原士郎.1975.琉球列島産魚類目録.
琉球大学理工学部紀要,理学編,20: 61–118.
進」の援助を受けた.
127
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
128
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美大島から得られたフエフキダイ科魚類
ミンサーフエフキ Lethrinus ravus
1
2
畑 晴陵 ・小枝圭太 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
フエフキダイ科フエフキダイ属 Lethrinus は頬
部が無鱗であること,胸鰭軟条数が 13 であるこ
と,背鰭軟条数が 8 であること,臀鰭軟条数が 9
で あ る こ と な ど の 特 徴 を も ち(Carpenter and
Allen, 1989; Carpenter, 2001),日本からはミンサー
フ エ フ キ Lethrinus ravus Carpenter and Randall,
2003 を含む 19 種が知られる(島田,2013).ミ
ンサーフエフキは,これまで国内において沖縄諸
島以南の琉球列島からのみ記録されていた(島田,
2013).2014 年 11 月 24 日に奄美大島近海から 1
個体のミンサーフエフキが採集された.本標本は
鹿児島県ならびに奄美群島における本種の標本に
基づく初めての記録であるとともに,分布の北限
更新となるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Carpenter and Allen (1989) に
したがった.標準体長は体長と表記し,デジタル
ノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.上顎と
吻部背縁の角度は透明な分度器を用いて 1° まで
計測した.ミンサーフエフキの生鮮時の体色の記
載は,固定前に撮影された奄美大島産の 1 標本
(KAUM–I. 66930)のカラー写真に基づく.標本
Hata, H., K. Koeda and H. Motomura. 2015. Northernmost
record of Lethrinus ravus (Perciformes: Lethrinidae)
from Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture,
southern Japan. Nature of Kagoshima 41: 129–132.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890-0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)に
準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総
合研究博物館に保管されており,上記の生鮮時の
写真は同館のデータベースに登録されている.本
報告中で用いられている研究機関略号は以下の通
り:KAUM( 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館 );
NSMT(国立科学博物館).
結果と考察
Lethrinus ravus Carpenter and Randall, 2003
ミンサーフエフキ (Fig. 1)
標 本 KAUM–I. 66930, 体 長 229.6 mm, 鹿 児
島県奄美大島近海(名瀬漁港で購入),2014 年 11
月 24 日,釣り,小枝圭太.
記載 背鰭棘条数 10;背鰭軟条数 9;臀鰭棘
条数 3;臀鰭軟条数 8;胸鰭軟条数 13;腹鰭棘条
数 1;腹鰭軟条数 5;有孔側線鱗数 46;背鰭棘条
中央下における側線上方鱗数 5;側線下方鱗数
15.
体各部測定値の標準体長に対する割合(%):
体高 32.0;頭長 36.6;口唇部を除く吻長 17.2;眼
の下縁から前鰓蓋骨後角までの長さ 15.2;眼径
9.4;胸鰭長 27.8;腹鰭長 22.4;尾柄長 18.9;背
鰭基底長 46.6;背鰭棘条部基底長 27.3;背鰭軟条
部基底長 17.7;臀鰭基底長 16.7;臀鰭棘条部基底
長 3.4;臀鰭軟条部基底長 12.4;眼窩前縁から眼
窩骨前縁までの長さ 15.8.
体は前後方向に長い長楕円形でやや側扁し,尾
柄部は強く側偏する.吻部背縁はやや膨らむ.体
高はやや低く,頭長の 88.1% で,背鰭起部で最大.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Lethrinus ravus. KAUM–I. 66930, 229.6 mm standard length, off Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture,
Japan.
胸鰭起部は鰓蓋後縁よりも後方に位置し,胸鰭基
は滑らか.主上顎骨は皮下に埋没し,外部からは
底後端は基底上端直下に位置する.胸鰭後端は尖
見えない.前鰓蓋骨および主鰓蓋骨の後縁はとも
り,背鰭第 10 棘条起部直下に達するが,臀鰭起
に円滑.鰓耙は細長い.体は剥がれにくい円鱗に
部には達しない.背鰭起部は腹鰭起部直上に位置
被われるが,前鰓蓋骨後縁よりも前方の頭部は,
し,背鰭第 10 棘条起部は総排泄孔前縁よりも前
側頭部上方部に左右にそれぞれ 6 枚の鱗があるの
方に位置する.背鰭基底後端は臀鰭基底後端直上
を除いて無鱗.背鰭前方鱗被鱗域の前縁は眼窩後
に位置する.背鰭棘条は第 3 棘条が最長.腹鰭起
縁に達せず,前縁は中央部が.凹む.背鰭,臀鰭,
部は背鰭起部直下に位置し,基底後端は背鰭第 4
腹鰭および胸鰭基底部内側は無鱗.胸鰭基底部お
棘条起部直下に位置する.たたんだ腹鰭第 1 棘条
よび尾鰭基底部は小鱗に被われる.主鰓蓋骨後縁
後端は背鰭第 7 棘条起部直下に達し,腹鰭後端は
部の無鱗域は非常に狭い.頭部には感覚孔が密在
背鰭第 1 軟条起部直下に達するが,総排泄孔には
する.両顎には 1 列に牙状の円錐歯が並ぶ.側線
達しない.臀鰭起部は背鰭第 2 軟条起部直下に位
は完全で,鰓蓋上部から尾柄にかけて,体背縁に
置し,臀鰭第 1 軟条起部は背鰭第 3 軟条起部より
並走する.
もわずかに後方に位置する.臀鰭基底後端は背鰭
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部および体側上部の
基底後端直下に位置する.背鰭,腹鰭および臀鰭
地色は暗い黄褐色で,体側下部から体腹面にかけ
の軟条はすべて分枝する.尾鰭は二叉型でやや湾
ての地色は銀白色.体側には背腹方向に細長い焦
入し,両葉後端は尖る.尾鰭後縁は上下両葉の中
げ茶色の斑点が散在する.背鰭第 3–5 棘条起部直
央部で折れ曲がり,後縁中央部に欠刻がある.総
下の側線下方に正円に近い円形の焦げ茶色の斑点
排泄孔は臀鰭起部前方に位置し,前後方向に長い
がある.眼の後縁から眼窩骨下縁にかけて銀白色
楕円形.眼および瞳孔は前後方向に長い楕円形.
斜帯がある.眼の下縁から眼窩骨下縁にかけて小
眼隔域は平坦.鼻孔は 2 対で後鼻孔は眼の前縁前
さな銀白色斑が散在する.両唇は淡い桃色.虹彩
方に位置し,前鼻孔は後鼻孔の前下方に離れて位
は檸檬色で,瞳孔は青みがかかった黒色.背鰭鰭
置する.前鼻孔および後鼻孔はともに正円に近い
条はウコン色で鰭膜の地色は暗い金色を呈し,不
円形で,前鼻孔の後縁に皮弁を有する.吻端は尖
規則な赤色斑が散在する.腹鰭と臀鰭の各鰭条は
り,両唇は厚い.上顎は突出する.上顎骨の表面
淡い金色で,鰭膜は白色がかった透明.尾鰭の地
130
RESEARCH ARTICLES
色は白色がかった黄色で,上縁と下縁は赤く縁ど
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
2006;島田,2013).
られる.尾鰭中央部に不規則な赤色斑が入る.胸
Sato (1978) はミンサーフエフキと思われる個体
鰭の各鰭条は黄色がかった白色で,外縁は赤色に
をアミフエフキ L. semicinctus の個体変異として
縁どられる.
琉球列島から報告した(加藤・木曾,2006).ま
固定後の色彩 ― 頭部および体側上部の地色は
た Carpenter and Allen (1989) と Carpenter (2001) は,
一様に暗い茶褐色となる.各鰭条は一様に褐色と
ともに本種を Lethrinus sp. 2 として,前者は琉球
なり,鰭膜は淡い茶褐色となる.
列島,フィリピンおよびロイヤルティ諸島から,
備考 奄美大島産の標本は,頭部が無鱗であ
後者はそれらに加えてオーストラリア北岸および
ること,背鰭軟条数が 9 であること,臀鰭軟条数
ニ ュ ー カ レ ド ニ ア か ら 報 告 し た. そ の 後,
が 8 で あ る こ と な ど か ら,Carpenter and Allen
Carpenter and Randall (2003) は,琉球列島,フィ
(1989) や Carpenter (2001) に よ っ て 定 義 さ れ た
リピン,オーストラリア北岸,ニューカレドニア
Lethrinus 属に同定された.また,背鰭棘条の第 3
およびロイヤルティ諸島から得られた標本に基づ
棘が最長であること,胸鰭基底部内側が無鱗であ
き,本種を新種 L. ravus として記載した.記載に
ること,背鰭棘条中央部下における側線上方鱗数
用いられた琉球列島産の個体は那覇市の市場で購
が 5 であること,両顎歯が円錐形であること,眼
入 さ れ た も の で, 詳 細 な 産 地 は 不 明 で あ る
隔域が平坦であること,主鰓蓋骨後縁部の無鱗域
(Carpenter and Randall, 2003).加藤・木曾(2006)
が非常に狭いこと,上顎と吻部背縁の角度が 64°
は,八重山諸島における本種の漁獲量を報告する
であること,臀鰭上方体側に黒斑がないことなど
と と も に, 石 垣 島 周 辺 か ら 得 ら れ た 1 個 体
が Carpenter and Randall (2003) や 加 藤・ 木 曾
(NSMT-P 68303)に基づき,本種に対して標準和
(2006),島田(2013)の報告した L. ravus の表徴
名 ミ ン サ ー フ エ フ キ を 提 唱 し た. そ の 後,
とよく一致したため,本種と同定された.本標本
Ebisawa (2006) は本種を Lethrinus sp. 2 として,本
から得られた値は Carpenter and Randall (2003) の
種が沖縄島近海において 4–10 月に産卵すること
示した L. ravus の値と概ね一致したが,臀鰭基底
を報告するとともに,雌から雄への性転換をおこ
長は臀鰭軟条部の基底長の 1.3 倍[Carpenter and
なうことを示唆した.さらに Ebisawa and Ozawa
Randall (2003) では 1.4–1.7 倍]と,わずかに小さ
(2009) は,沖縄島近海における本種雌の 50% が
い.しかし,その差は僅かであり,本研究ではこ
生後 1–2 年で成熟することなどを報告した.上述
の若干の差異を種内変異とみなした.
の通り,これまでミンサーフエフキは国内では沖
本種は胸鰭基部内側が無鱗であることや背鰭
縄諸島以南の琉球列島からのみ記録されていた
棘条中央下における側線上方鱗数が 5 であるこ
(島田,2013).したがって,奄美大島沖から採集
と,主鰓蓋骨後縁部の無鱗域が非常に狭いなどの
されたミンサーフエフキは,鹿児島県ならびに奄
点 に お い て ア ミ フ エ フ キ L. semicinctus
美群島からの本種の標本に基づく初めての記録と
Valenciennes, 1830 に 酷 似 す る(Carpenter and
なると同時に本種の分布の北限記録となる.
Allen, 1989; Carpenter, 2001; Carpenter and Randall,
2003;島田,2013)が,上顎と吻部背縁の角度が
61–64° であること(アミフエフキでは 57–59°),
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子
体側後半部に顕著な縦長の暗色斑がないこと(暗
氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ
色斑があるが,不明瞭な個体もいる),胸鰭基底
ンティアと同博物館魚類分類学研究室の皆さまに
直前下部に顕著な暗色点群がないこと(小暗色点
は適切な助言を頂いた.標本の採集に際しては,
群があるが,不明瞭な個体もいる),および側頭
前川水産の前川隆則氏および名瀬漁協の皆様には
上部鱗数が 6–10 であること(4–7)から識別され
多大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで感謝
る(Carpenter and Randall, 2003; 加 藤・ 木 曾,
の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究博
131
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク
ト 」 の 一 環 と し て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は
JSPS 研 究 奨 励 費(PD:26-477),JSPS 科 研 費
(19770067,23580259,24370041, 26241027,
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
助を受けた.
引用文献
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Pp. 3004–3050, in Carpenter, K. E. and Niem, V. H. eds. FAO
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132
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本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www.
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Sato, T. 1978. A synopsis of the sparoid fish genus Lethrinus, with
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中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版.
東海大学出版会,秦野.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県初記録のヒメジ科魚類ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatus
およびホウライヒメジ Parupeneus ciliatus との形態学的比較
1
田代郷国 ・本村浩之
1
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(大学院連合農学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
2006 年 7 月から 2014 年 10 月にかけて,鹿児
島 県 の 薩 摩 半 島 と 大 隅 半 島 か ら Parupeneus
biaculeatus (Richardson, 1846) と同定されるヒメジ
科 ウ ミ ヒ ゴ イ 属 魚 類 22 個 体( 標 準 体 長 79.9–
322.3 mm)が採集された.本種はこれまでにイ
ンドネシアのスンバ島沖,ベトナム,および中国
南シナ海沿岸から記録されていた(Randall and
Lim, 2001; Randall, 2004).池田・中坊(2015)は
本種を和歌山県南部(みなべ)から報告し,同時
に新標準和名ミナベヒメジを提唱した.鹿児島県
本 土 か ら 得 ら れ た 標 本 は ミ ナ ベ ヒ メ ジ P.
biaculeatus の日本における 2 例目の記録である.
本研究ではミナベヒメジの鹿児島県における分布
状況を報告し,標本に基づく形態の記載を行った.
また,ミナベヒメジはホウライヒメジ Parupeneus
ciliatus (Lacepède, 1802) に形態と色彩が酷似する
ため,両種の比較を行った.
材料と方法
計数・計測方法は Randall (2004) に従った.標
準体長は体長または SL と表記した.標本の作製,
登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.
Tashiro, S. and H. Motomura. 2015. First records of
Parupeneus biaculeatus (Perciformes: Mullidae) from
Kagoshima, Japan and comparisons with Parupeneus
ciliatus. Nature of Kagoshima 41: 133–137.
ST: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k0587888@kadai.jp).
本報告に用いた標本は鹿児島大学総合研究博物館
に保管されており,体色の記載に用いた生鮮時の
カラー写真は同館の画像データベースに登録され
ている.本報告中で用いられている研究機関略号
は以下の通り:KAUM(鹿児島大学総合研究博
物館);USNM(スミソニアン自然史博物館).
結果と考察
Parupeneus biaculeatus (Richardson, 1846)
ミナベヒメジ (Fig. 1A–C)
標本 22 個体(体長 79.9–322.3 mm):KAUM–
I. 274,体長 141.2 mm,鹿児島県南さつま市笠沙
町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水
深 27 m,定置網,伊東正英,2006 年 7 月 25 日;
KAUM–I. 9843,体長 203.2 mm,鹿児島県南さつ
ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N,
130°11′49″E), 水 深 27 m, 定 置 網, 伊 東 正 英,
2006 年 5 月 6 日;KAUM–I. 12820, 体 長 121.6
mm,KAUM–I. 12821,体長 142.3 mm,KAUM–I.
12822,体長 128.0 mm,KAUM–I. 12823,体長 123.5
mm,KAUM–I. 12824,体長 135.0 mm,KAUM–I. 12825,
体長 119.1 mm,KAUM–I. 12826,体長 116.0 mm,鹿児
島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側
(31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m, 定 置 網,
伊 東 正 英,2008 年 8 月 21 日;KAUM–I. 25466,
体長 158.4 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片浦
崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,
定置網,伊東正英,2009 年 9 月 16 日;KAUM–I.
24331,体長 79.9 mm,鹿児島県南さつま市笠沙
133
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Color photographs of fresh specimens of (A–C) Parupeneus biaculeatus and (D–F) P. ciliates from Kagoshima Prefecture, Japan. A:
KAUM–I. 65958, 322.3 mm SL, Minami-osumi; B: KAUM–I. 6683, 143.7 mm SL, Ibusuki; C: KAUM–I. 274, 141.1 mm SL, Minamisatsuma; D; KAUM–I. 52535, 220.0 mm SL, Shimokoshiki-jima island; E: KAUM–I. 30766, 120.4 mm SL, Minami-satsuma; F: KAUM–I.
11280, 94.5 mm SL, Yaku-shima island.
町大当漁港外
(31°25′19″N, 130°10′17″E)
,
水深 4 m,
2009 年 10 月 22–23 日;KAUM–I. 25478, 体 長
手 網, 伊 東 正 英,2009 年 7 月 18 日;KAUM–I.
180.6 mm,鹿児島県指宿市山川沖,水深 40–80 m,
35972, 体 長 116.0 mm,KAUM–I. 35973, 体 長
釣 り, 増 田 育 司,2009 年 10 月 24–25 日;
100.8 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ
KAUM–I. 66663,体長 253.3 mm,鹿児島県枕崎
山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,
市枕崎沖と南さつま市野間池沖の間,延縄,江口
定置網,伊東正英,2010 年 8 月 11 日;KAUM–I.
慶輔,2014 年 10 月 30 日;KAUM–I. 6683,体長
25208,体長 213.3 mm,鹿児島県指宿市開聞川尻
143.7 mm, 鹿 児 島 県 指 宿 市 知 林 ヶ 島 沖
の川尻漁港沖南西 1 km(31°10′N, 130°32′E),水
(31°16′38″N, 130°40′18″E), 水 深 25 m, 定 置 網,
深 40 m,定置網,荻原豪太,2009 年 10 月 28 日;
折 田 水 産,2007 年 10 月 3 日;KAUM–I. 55730,
KAUM–I. 24280,体長 188.6 mm,鹿児島県指宿
体 長 231.9 mm, 鹿 児 島 県 指 宿 市 知 林 ヶ 島 沖
市山川沖,水深 50–60 m,釣り,増田育司,2009
(31°16′38″N, 130°40′18″E), 水 深 25 m, 定 置 網,
年 11 月 21–29 日;KAUM–I. 25135, 体 長 175.8
福 井 美 乃・ 松 沼 瑞 樹,2013 年 7 月 17 日;
mm,KAUM–I. 25136,体長 247.8 mm,鹿児島県
KAUM–I. 65958,体長 322.3 mm,鹿児島県肝属
指宿市山川沖,水深 60–70 m,釣り,増田育司,
郡南大隅町佐多伊座敷港沖(31°05′N, 130°41′E),
134
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
定置網,江口慶介・藤原恭司,2014 年 10 月 17 日.
よび和歌山県南部(池田・中坊,2015)から報告
記載 背鰭鰭条数 XIII-9;臀鰭軟条数 7;胸鰭
されている.本研究によって鹿児島県笠沙町から
軟条数 14–16(最頻値 15;14 は稀)
;腹鰭鰭条数 I,
指宿市知林ヶ島(鹿児島湾内)にかけての薩摩半
5;有孔側線鱗数 26–28(27;26 は稀);第 1 鰓弓
島南部と大隅半島佐多伊座敷沖から確認された.
の鰓耙数 5–7 (6) + 19–21 (21;19 は 1 個体のみ ) =
琉球列島には出現しないと思われる.
25–28 (27).
備考 鹿児島県薩摩半島南部から採集された
体 は や や 細 長 く, 側 扁 す る. 体 長 は 頭 長 の
22 標 本( 体 長 79.9–322.3 mm) は, 胸 鰭 軟 条 数
2.9–3.3 倍.背縁は吻部では直線あるいはわずか
14–16(最頻値 15);第 1 鰓弓の鰓耙数 5–7 (6) +
に窪み;眼上から第 1 背鰭起部にかけては盛り上
19–21 (21) = 25–28 (27);頭長は髭長の 1.35–1.6 倍;
がる.頭長は吻長の 1.7–2.1 倍.体高は第 1 背鰭
尾柄に顕著な白色または暗色斑をもたない;吻端
起部で最大になり,体長は体高の 3.0–3.3 倍.背
から尾柄にかけての背部に 3 本の褐色縦帯が走
鰭は 2 鰭で互いによく離れる.第 1 背鰭始部は第
り,最下方のものは尾柄後端付近まで伸びる;お
3 有孔側線鱗の上方に位置する.第 2 背鰭始部は
よび頭部後方から尾柄にかけて黄みがかることな
臀鰭始部のやや前方.鱗は櫛鱗で剥がれやすい.
ど が Randall (2004) が 再 記 載 し た Parupeneus
第 1 背鰭は棘条からなり,第 3 棘が最長.第 2 背
biaculeatus の特徴と概ね一致した.鹿児島産標本
鰭は第 1 軟条のみ不分枝で,残りの軟条は分岐す
の第 1 鰓弓下枝鰓耙は 19–21 本(最頻値 21;19
る;第 2 軟条が最長.胸鰭軟条は第 1–2 軟条をの
は 1 個体のみ)で,Randall (2004) の示した 20–23
ぞき,分枝する.腹鰭は第 1 背鰭よりやや前方に
本(最頻値 21)の変異幅に含まれない個体が観
位置し,軟条はすべて分枝する.臀鰭軟条は第 1
察されたが,本研究では種内変異であると判断し
軟条のみ不分枝で,第 2 軟条が最長.尾鰭は 2 叉
た.
し,中央は深く切れ込む;両葉先端はやや尖る.
Randall (2004) は日本産とだけ記された標本 3
口は小さく下方に位置し,口裂はやや斜行する.
個 体(USNM 57690, 体 長 151–187 mm) を P.
上顎後端は眼前縁直下に達しない.鋤骨と口蓋骨
biaculeatus と同定した.しかし,当時本種の日本
に歯をもたない.両顎に大きな円錐歯が 1 列に並
産の追加標本や記録が確認できなかったことか
ぶ.1 対の髭が下顎縫合部から伸び,その後端は
ら,彼らは採集地の記録が間違いである可能性を
前鰓蓋骨後縁を超えるが,鰓蓋後縁に達しない;
指摘し,本種の分布に日本を含めなかった.その
頭長は髭長の 1.35–1.6 倍.
後,池田・中坊(2015)は和歌山県南部から P.
色彩 体色は褐色から赤色のものまで様々で
biaculeatus を報告し,日本にも本種が生息するこ
変異に富む(Fig. 1A–C)— 頭部と躯幹部の地色
とを示した.鹿児島県からの本種の記録は分布の
は白色から桃色.吻端から尾柄にかけて 3 本の褐
空白域を埋めるものであり,ミナベヒメジが鹿児
色縦帯が走り,中央の縦帯は眼を通過する.最下
島県薩摩半島から和歌山県南部の太平洋沿岸にか
方の縦帯は吻端から胸鰭上方を通り,尾柄後縁付
けて広く分布することを示唆する.
近までまっすぐ伸びる.第 2 背鰭基底後下方の尾
和歌山県南部ではミナベヒメジが年間を通じ
柄背部に不明瞭な白色または黄色がかった斑紋が
て水深 30–90 m から延縄や刺し網漁で漁獲されて
あり,さらにその後方に不明瞭な暗色斑がはいる.
おり(池田・中坊,2015),本種が日本本土沿岸
赤色個体ではこれらの縦帯や斑紋は不明瞭にな
域で再生産を行っていることは間違いない.鹿児
る.眼の後縁から尾柄部にかけての背部は黄色が
島県薩摩半島南部においては水深 25–80 m から定
かるが,不明瞭なものも多い.各鰭は黄色から赤
置網や釣りで漁獲されているほか,水深 4 m の浅
色.髭は白色.
所から若魚(KAUM–I, 24331,体長 79.9 mm)が
分布 本種はインドネシアのスンバ島沖,ベ
トナム,中国南シナ海沿岸(Randall, 2000),お
採集された.
ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus との比較 135
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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Randall (2004) によると,ミナベヒメジの第 1 鰓
県熊毛郡屋久島町湯泊漁港西側タイドプール
弓における下枝鰓耙数は 20–23(最頻値 21)[本
(30°13′58″N, 130°28′19″E), 水 深 3 m, 手 網,
研究では 19–21(21)]であるのに対し,ホウラ
KAUM 魚類チーム,2008 年 8 月 11 日;KAUM–I.
イヒメジでは 23–27(25)と異なる.また,ミナ
30766,体長 120.4 mm,鹿児島県南さつま市笠沙
ベヒメジは髭が長く,頭長が髭長の 1.3–1.6 倍(本
町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水
研究では 1.35–1.6 倍)であるのに対し,ホウライ
深 27 m,定置網,伊東正英,2010 年 9 月 14 日;
ヒメジでは頭長が髭長の 1.5–1.8 倍と短い傾向が
KAUM–I. 52535,体長 220.0 mm,鹿児島県薩摩
ある(Randall, 2004).
川 内 市 下 甑 町 青 瀬 瀬 尾 沖(31°39′N, 129°44′E),
ミナベヒメジとホウライヒメジは,吻部から
体側背部にかけて 3 本の褐色縦帯がはいる,尾柄
に白色斑と黒色斑をもつことなどの共通の色彩的
な特徴をもつことで酷似する(Fig. 1A–F).しか
水深 40–50 m,定置網,広瀬直人,2011 年 10 月
13 日.
謝辞
し,ミナベヒメジでは褐色縦帯が体側後方まで比
本報告をまとめるにあたり,貴重な標本を採
較的よく残り,最下縦帯(第 3 縦帯)は尾柄後部
集または収集していただいた鹿児島大学水産学部
にまで達する(Fig. 1B–C)のに対し,ホウライ
の増田育司先生,笠沙町漁業協同組合の伊東正英
ヒメジでは体側後方に向かうにつれ不明瞭にな
氏,鹿児島大学魚類分類学研究室の江口慶介氏に
り,体側下部の色彩と同化する(Fig. 1E–F).大
感謝の意を表する.また,標本の作製,登録およ
型個体では両種ともに全体が赤みがかり,これら
び管理にご協力いただいた鹿児島大学総合研究博
の縦帯は不明瞭になる傾向が認められた(Fig.
物館ボランティアの原口百合子氏,内村公大氏,
1A, D).また,ミナベヒメジはホウライヒメジと
および同大学魚類分類学研究室のみなさまに厚く
比較して,髭が白色であること(ホウライヒメジ
お礼申し上げる.本研究は,鹿児島大学総合研究
では黄色),第 2 背鰭と臀鰭に白色斑をもたない
博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ
こと(白色斑が散在する)(Fig. 1)でも異なる.
クト」の一環として行われた.本研究の一部は
ミナベヒメジの特徴である眼上後方から尾柄にか
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
け て の 背 部 に 走 る 黄 色 縦 帯 は,Randall(2004)
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
の示したミナベヒメジの生態写真(pl. 1D)や池田・
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
中坊(2015)の生鮮時のカラー写真の個体では顕
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
著に表れていたが,鹿児島県産の個体では不明瞭
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
なものも見られた.この特徴は死後,状況によっ
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
ては消失または不明瞭になるものと思われる.尾
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
柄部の暗色斑においても,ホウライヒメジでは顕
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
著なものからきわめて不明瞭なものまで変異があ
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
る こ と が 知 ら れ て い る( 山 川,1997; 中 坊,
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
1998;波戸岡・土居内,2013)が,ミナベヒメジ
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
ではより目立たない傾向が認められた.
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
なお,現在ホウライヒメジとされている日本
産の標本には形態的に異なる二型の存在が確認さ
れており,今後ホウライヒメジの分類学的再検討
が期待される.
比較標本 ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus,
3 個体:KAUM–I. 11280,体長 94.5 mm,鹿児島
136
進」の援助を受けた.
引用文献
池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東
海大学出版部,秦野.
中坊徹次.1998.ヒメジ科.Pp 123–124.中坊徹次・望月
賢二(編),日本動物大百科第 6 巻魚類.平凡社,東京.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
波 戸 岡 清 峰・ 土 居 内 龍.2013. ヒ メ ジ 科.Pp. 976–982,
2018–2020.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の
同定,第三版.東海大学出版会,秦野.
Randall, J. E. 2004. Revision of the goatfish genus Parupeneus
(Perciformes: Mullidae), with descriptions of two new species. Indo-Pacific Fishes, 36: 1–64, pls. 1–16.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www.
museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
Randall, J. E. 2000. Mullidae (goatfishes). Pp. 622. In: Randall,
J. E. and K. K. P. Lim. (Eds). A checklist of the fishes of the
South China Sea. Raffles Bulletin of Zoology, Supplement, 8.
山川 武.1997.ヒメジ科.Pp. 520–535.岡村 収・尼岡
邦夫(編),日本の海水魚 山と渓谷社,東京.
137
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
138
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県本土と薩南諸島 3 島から得られたリュウキュウハタンポ
Pempheris adusta の記録と生物学的知見
小枝圭太・本村浩之
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ハタンポ科ハタンポ属には世界で 52 名義種が
知られており(Eschmeyer, 2015),日本からはリュ
ウキュウハタンポ Pempheris adusta Bleeker, 1877,
ツ マ グ ロ ハ タ ン ポ P. japonica Döderlein in
Steindachner and Döderlein, 1883,ミエハタンポ P.
nyctereutes Jordan and Evermann, 1903,ユメハタン
ポ P. oualensis Cuvier in Cuvier and Valenciennes,
1831,ミナミハタンポ P. schwenkii Bleeker, 1855,
ダイトウハタンポ P. ufuagari Koeda, Yoshino and
Tachihara, 2013, お よ び キ ビ レ ハ タ ン ポ P.
vanicolensis Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1831
の 7 有効種が知られている(Koeda et al., 2010a, b,
2013a;波戸岡・柳下,2013).
リュウキュウハタンポ P. adusta は,インド・
太平洋の広域に分布する種であり,インドネシア
のアンボン島から得られた標本に基づき記載され
た.本種は小枝ほか(2013)により学名と標準和
名 と の 対 応 関 係 を 明 ら か に さ れ,Koeda et al.
(2014) によりタイプ標本を含めた標本に基づく詳
細な形態学的情報が示されるまで,他のハタンポ
属魚類と混同されていた.これまで本種は国内に
おいて,三宅島,焼津,以布利,竹島,硫黄島,
Koeda, K. and H. Motomura. 2015. First records of Pempheris
adusta (Perciformes: Pempheridae) from Kuchierabujima, Nakano-shima, and Tokuno-shima islands in the
Satsunan Islands and the Kagoshima mainland, southern
Japan with some biological comments. Nature of
Kagoshima 41: 139–144.
KK: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: hatampo@
gmail.com).
種子島,屋久島,奄美大島,沖永良部島,与論島,
南大東島,沖縄島,石垣島,および西表島から記
録 さ れ て い た( 小 枝 ほ か,2013;Koeda et al.,
2014).
2014 年 11 月 5 日に鹿児島県肝付町内之浦湾の
定置網でリュウキュウハタンポと同定される 1 個
体が採集された.この標本は九州本土沿岸におけ
る初めての記録となるため,ここに報告する.ま
た,口永良部島,中之島,徳之島からそれぞれ得
られた標本も各島における初めての記録となるた
め,併せて報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Koeda et al. (2014) に,リュ
ウキュウハタンポの学名は小枝ほか(2013)にし
たがった.計測はデジタルノギスを用いて 0.1
mm までおこなった.リュウキュウハタンポの生
鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児島
県 産 の 4 標 本(KAUM–I. 65846, 65849, 66699,
67801)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,
撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報
告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館
(KAUM)に保管されており,上記の生鮮時の写
真は同館のデータベースに登録されている.比較
に用いた太平洋産のリュウキュウハタンポの標本
は,Koeda et al. (2014: appendix 1) に目録されてい
る.なお,内之浦湾産の標本(KAUM–I. 66699)
については,右体側からの解剖を行い,標本の体
重と取り出した生殖腺の重量から成熟の指標とな
る生殖腺指数[=生殖腺重量 × 100 /(体重 ― 生
殖腺重量)]を算出した.本報告中で用いられて
139
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimens of Pempheris adusta. A: KAUM–I. 66699, 159.5 mm standard length (SL), Uchinoura Bay, Kagoshima Prefecture,
Japan; B: KAUM–I. 67801, 128.1 mm SL, off Orisaki, Kuchierabu-jima island, Kagoshima Prefecture, Japan; C: KAUM–I. 65849, 52.1
mm SL, off Senma Beach, Tokuno-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
いる研究機関略号は以下の通り:KAUM(鹿児
集 ),2014 年 11 月 5 日, 定 置 網, 水 深 0–35 m,
島大学総合研究博物館);RMNH(ライデン国立
小枝圭太;KAUM–I. 67801,体長 128.1 mm,雌,
自然史博物館);USNM(スミソニアン自然史博
鹿児島県大隅諸島口永良部島折崎沖(30°28′N,
物館).
130°12′E),2014 年 8 月 22 日,ヤス,小枝圭太;
結果と考察
KAUM–I. 63360, 63361, 体 長 122.3,127.9 mm,
鹿児島県トカラ列島中之島中之島港(29°50′N,
Pempheris adusta Bleeker, 1877
129°50′E),2014 年 8 月 31 日, 釣 り, 水 深 4 m,
リュウキュウハタンポ (Fig. 1; Table 1)
小 枝 圭 太・ 吉 田 朋 弘・ 田 代 郷 国;KAUM–I.
65846, 65847, 65848, 65849, 66550, 体 長 50.7–
標 本 1KAUM–I. 66699, 体 長 159.5 mm, 雌,
鹿 児 島 県 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾(31°17′N,
131°04′E;肝付町内之浦漁港の水揚げ場にて採
140
125.3 mm,鹿児島県奄美群島徳之島千間海岸沖
(27°47′N, 128°53′E),2014 年 9 月 29 日,タモ網,
水深 8–10 m,小枝圭太.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
やや丸い.目が大きく,両眼間隔は狭い.両鼻孔
を Table 1 に示した.体は強く側扁し,体高は背
は近接し,皮弁をもたない.口裂は大きく,傾い
鰭起部で最大.背縁は鼻孔の直上付近でやや強く
ており,上顎後端は瞳孔前縁よりも後方に達する.
湾曲した後,背鰭起部まで緩やかに湾曲し,以後,
下顎は上顎より突出する.両顎に微細な歯帯があ
背鰭基底から尾柄にかけて直線.腹縁は,臀鰭起
る.鰓蓋および前鰓蓋骨の後縁は円滑で,鰓蓋上
部まで湾曲し,以後,尾柄まで直線.吻は短く,
縁は目の上縁に達しない.側線は完全で,鰓蓋上
Table 1. Measurements and counts of Pempheris adusta. Means in parentheses.
Kagoshima, Japan
Standard length (SL; mm)
Measurements (% SL)
Head length (HL)
Head depth
Snout length
Eye diameter
Interorbital width
Upper jaw length
Pre-dorsal-fin length
Pre-pelvic-fin length
Pre-anal-fin length
Body depth
Longest dorsal fin length
Longest anal fin length
Pectoral fin length
Pelvic fin length
Dorsal fin base
Anal fin base
Caudal peduncle length
Caudal peduncle depth
Length of dorsal fin origin
to pelvic fin origin
Length of dorsal fin origin
to anal fin insertion
Length of pelvic fin origin
to anal fin origin
Body width
Measurements (% HL)
Snout length
Eye diameter
Interorbital width
Upper jaw length
Counts
Dorsal fin rays
Anal fin rays
Pectoral fin rays
Pelvic fin rays
Caudal fin rays
Pored lateral line scales
Scale above lateral line
Scale rows below lateral line
Cheek scale rows
Predorsal scales
Circumpeduncular scales
Gill rakers
Uchinoura Bay
Kuchierabu-jima,
Nakano-shima and
Tokuno-shima islands
Ambon, Indonesia
Pacific Ocean
KAUM–I. 66699
n=8
RMNH.PISC 6161
Holotype
n = 84 (measurements)
n = 526 (counts)
159.5
48.9–128.1
130.4
40.4–158.4
27.6
31.3
6.3
11.9
7.5
13.2
37.0
35.1
49.5
41.4
23.2
31.2
25.7
13.2
15.0
52.0
8.2
7.5
28.1–29.3 (28.8)
31.1–33.4 (32.3)
4.9–6.9 (6.2)
11.7–13.2 (12.4)
7.6–8.7 (8.2)
13.9–15.1 (14.6)
37.0–39.7 (38.1)
33.8–41.4 (36.6)
46.8–53.1 (49.2)
38.6–45.3 (42.1)
21.9–25.3 (23.8)
12.3–14.1 (13.1)
25.0–26.4 (25.9)
12.9–14.4 (13.4)
13.6–17.2 (15.4)
50.8–56.2 (53.9)
7.8–11.3 (9.4)
7.9–9.3 (8.6)
26.2
31.5
6.2
12.3
9.2
14.6
38.5
36.9
51.5
40.0
damaged
damaged
damaged
damaged
16.9
53.1
8.5
9.2
26.3‒31.6 (28.1)
29.8‒39.5 (32.5)
5.2‒7.9 (6.2)
10.0‒13.2 (11.7)
7.2‒9.6 (8.0)
13.1‒16.7 (14.5)
35.9‒48.2 (38.6)
34.0‒44.7 (36.5)
46.5‒53.7 (49.8)
40.2‒47.3 (43.8)
21.3‒26.4 (24.1)
10.9‒16.7 (13.8)
22.7‒27.4 (24.7)
10.4‒16.0 (13.1)
13.9‒17.6 (15.9)
50.4‒61.3 (54.9)
7.3‒11.2 (8.8)
7.2‒9.7 (8.4)
41.4
38.7–45.3 (41.5)
38.5
39.0‒55.3 (43.6)
58.9
53.3–63.2 (58.7)
59.2
56.4‒76.3 (60.3)
16.9
12.5–16.4 (14.7)
15.4
11.1‒24.6 (15.2)
11.9
10.4–14.1 (12.7)
11.5
9.4‒15.1 (12.5)
22.7
43.2
27.3
47.7
17.2–23.6 (21.5)
41.7–45.4 (43.0)
26.2–30.6 (28.5)
48.6–52.0 (50.5)
23.5
47.1
35.3
55.9
17.4‒27.3 (22.3)
36.1‒47.1 (41.5)
25.0‒32.4 (28.6)
48.1‒57.1 (51.5)
VI, 9
III, 43
I, 17
I, 5
9+8
60
4 1/2
14
6
33
16
9 + 20 = 29
VI, 9
III, 40–43
I, 16–18
I, 5
9+8
56–59
4 1/2
14–15
5–6
29–34
16
8–9 + 20–23 = 28–31
VI, 9
III, 40
I, 16
I, 5
9+8
57
4 1/2
13
damaged
29
16
8+21 = 29
VI, 8–10, usually 9
III, 37–45
I, 15–18, usually 16–17
I, 5
9+8
51–62
4 1/2–5 1/2, usually 4 1/2
11–15
5–6
26–38
14–16, usually 16
7–10 + 20–24 = 28–34
141
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
方から始まり,背縁と並走し,背鰭基底中央直下
津,高知県以布利,竹島,硫黄島,種子島,屋久
から尾鰭後縁にかけて直走する.腹部正中線上に
島,奄美大島,沖永良部島,与論島,南大東島,
弱い隆起線をもつ.
沖 縄 島, 石 垣 島, 西 表 島( 小 枝 ほ か,2013;
胸鰭起部は鰓蓋後縁の直下に位置する.胸鰭
Koeda et al., 2014)および鹿児島県内之浦,口永
起部下端は背鰭起部よりも前方,腹鰭起部より後
良部島,徳之島(本研究)から記録されている.
方に位置し,胸鰭後端は背鰭基底後端直下を超え,
備考 これらの標本は,臀鰭軟条数が 40–43
成魚では臀鰭第 3–4 軟条起部直上,小型個体では
であること,臀鰭基底長の体長に占める割合が
臀鰭第 8–10 軟条起部直上に達する.腹鰭起部は
50.8–56.2% であること,臀鰭基底部の 1/2–1/3 が
背鰭起部よりも前方に位置し,たたんだ腹鰭の後
小鱗で覆われること,側線が尾鰭後縁に達するこ
端は総排出孔を越えるが,臀鰭起部にはわずかに
となどの特徴から,Tominaga (1963) や Mooi (2001)
達せず,背鰭基底中央直下に達する.背鰭起部は
によって定義された Pempheris 属と同定された.
腹鰭基底後端よりもわずか後方に位置する.背鰭
また,側線有孔鱗数が 56‒60 であること,側線上
は第 1 軟条が最長で,背鰭基底後端は臀鰭起部よ
方横列鱗数が 4 1/2 であること,鱗は弱い櫛鱗で
り後方に位置する.臀鰭起部は背鰭基底中央直下
薄く,くびれを欠き,剥がれやすい.大きい表鱗
に位置する.尾鰭は截形で弱く湾入する.
の内側に小さな鱗をもつ,頭部は目と鼻腔の間が
鱗は弱い櫛鱗で薄く,くびれを欠き,剥がれ
無鱗,胸鰭基底部に淡い黒色斑を有することなど
やすい.大きい表鱗の内側に小さな鱗をもつ.頭
の特徴において小枝ほか(2013)と Koeda et al.
部は眼と鼻孔の間のみ無鱗.腹側の鱗は背側の鱗
(2014) が報告した P. adusta の標徴とよく一致し
より大きい.臀鰭基底部の 1/3–1/2 は小鱗で覆わ
たため,本種と同定された.
れる.側線より上の鱗はより剥がれやすい.側線
有孔鱗は剥がれにくい.
“ リュウキュウハタンポ ” は,Snyder (1912) が
リストとして記載した P. oualensis に対し,Okada
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部および体側は一様
(1938) が与えた和名である.本種は,小枝ほか
で,茶褐色,黄褐色あるいは銀灰色と個体により
(2013)が形態学的情報を示し,学名と標準和名
変異がある.背鰭は第 1–4 棘が淡い黄土色か茶褐
との対応関係を明らかにされるまで,ユメハタン
色で,第 1–4 軟条およびその鰭膜の先端部のみ黒
ポやダイトウハタンポなどの同属他種と混同され
色,それ以外の棘条および鰭膜は赤褐色か半透明
るか,Pempheris sp. として扱われてきた(益田ほ
の乳白色.臀鰭は各軟条の先端から 1/4–1/2 の間
か,1975;林,1984;益田・小林,1994;Koeda
の軟条および鰭膜が赤褐色か黄土色で,それ以外
et al., 2010a;波戸岡・柳下,
2013).小枝ほか(2013)
は乳白色.胸鰭は一様に半透明の桃色で,基部に
は,これらの文献が複数の種を混同していること
淡い黒色班がある.腹鰭は一様に半透明の乳白色
を指摘し,和名の基となった標本(USNM 75468,
か先端でやや赤みを呈し,鰭膜にはわずかに黒色
2 個体)やホロタイプ(RMNH.PISC 6161)を観
素胞が点在する.尾鰭は後縁部が茶褐色でそれ以
察して,リュウキュウハタンポを標準和名として
外は砂色か赤褐色.光彩は黄色あるいは黄土色.
P. adusta に適用すべきであると判断している.本
分布 インド・西太平洋の広域に分布し,こ
報告でも小枝ほか(2013)の見解にしたがい,本
れまで太平洋では,日本,台湾,海南島,フィリ
種をリュウキュウハタンポとして報告した.
ピン,ベトナム,タイ,マレーシア,シンガポー
小枝ほか(2013)と Koeda et al. (2014) は,琉
ル,インドネシア,マリアナ諸島,オーストラリ
球列島と南大東島,高知県,伊豆諸島から得られ
ア,パプアニューギニア,ソロモン諸島,バヌア
た本種の標本を用いているが,鹿児島県本土をは
ツ,ニューカレドニア,フィジー,トンガ,米領
じめ,九州沿岸域からの報告はない.したがって,
サモアから記録されている(小枝ほか,2013;
鹿児島県内之浦湾で採集されたリュウキュウハタ
Koeda et al., 2014).国内では,三宅島,静岡県焼
ンポは,鹿児島県本土ならびに九州沿岸域からの
142
RESEARCH ARTICLES
標本に基づく初めての記録となる.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
広島大学大学院生物圏科学研究科の木村祐貴氏,
生態学的知見 本報告も含め,日本における
佐々木司氏,京都精華大学の小枝繁昭氏,鹿児島
リュウキュウハタンポの報告例は,琉球列島,鹿
大学博物館魚類分類学研究室の吉田朋弘氏,田代
児島県南東部沿岸,高知や伊豆諸島など黒潮の流
郷国氏,金出侑佳氏に多大なご協力をいただいた.
路 に 面 し た 場 所 に 限 定 さ れ て い る. 小 枝 ほ か
鹿児島大学博物館魚類分類学研究室の畑 晴陵氏
(2013)は,琉球列島から得られている本種の個
には,本原稿に対し適切な助言を数多く頂いた.
体数に比べ,それ以外からの報告例がきわめて稀
これらの方々に謹んで感謝の意を表する.また,
であることから,九州や伊豆諸島に出現するリュ
標本の作成・登録作業などを手伝ってくださった
ウキュウハタンポは死滅回遊である可能性が高い
原口百合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究
と考えた.しかし,本報告で内之浦湾から得られ
博物館ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類
た個体は,標準体長 159.5 mm と比較に用いた太
学研究室の皆さまに厚く御礼を申し上げる.本研
平洋産の 526 個体全てより大型であったことや,
究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産
本種は沿岸性の魚類であり,成魚まで成長した後
魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として行
に琉球列島や台湾から運ばれてきた可能性が極め
われた.本研究の一部は JSPS 研究奨励費(PD:
て低いことから,本個体は鹿児島県本土で越冬し
26-477),JSPS 科 研 費(19770067,23580259,
ており,死滅回遊ではないと思われる.また,内
24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究
之浦湾から得られた個体の生殖腺指数は 6.34 で
教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の
あり,Koeda et al. (2013b) が示した吸水期の成熟
研究教育ネットワーク構築」,総合地球環境学研
卵巣と判断された.このことから内之浦湾産の標
究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビ
本は,リュウキュウハタンポが鹿児島県本土にお
リティーの向上プロジェクト」,国立科学博物館
いて再生産をおこなっている可能性を示唆する.
「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関す
Koeda et al. (2013b) は,本種が沖縄島において周
る研究プロジェクト」,文部科学省特別経費-地
年産卵であることを示しているものの,内之浦湾
域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多様性とそ
でリュウキュウハタンポが採集された 11 月を生
の保全に関する教育研究拠点形成」,および鹿児
殖腺指数が最高でも 1.66(n = 3)と低いことか
島大学重点領域研究環境(生物多様性プロジェク
ら主産卵期に含めていない.本報告において 11
ト)学長裁量経費「奄美群島における生態系保全
月に内之浦から採集された個体は,生殖腺指数が
研究の推進」の援助を受けた.
6.34 と高く,この結果と一致しない.このことか
ら内之浦湾の個体は,成熟した卵を産卵する機会
のないまま持ち続けていたため卵が過熟となり,
その結果として生殖腺指数が高くなった可能性も
考えられる.リュウキュウハタンポの鹿児島本土
における個体群が再生産しているのか,あるいは
無効分散であるのかを判断するためには,今後,
生殖腺の組織学的な観察を含めた詳細な検討が必
要である.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
に際しては,内之浦漁業協同組合の関係者の皆様,
屋久島ダイビングサービス森と海の原崎 森氏,
引用文献
Eschmeyer, W. N. 2014. Catalog of fishes. Electronic version,
updated 5 March 2015. http://research.cadaemy.org/research/
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143
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
スダレダイ科ユウダチスダレダイ Drepane punctata
の日本からの確かな記録
1
2
上城拓也 ・伊東正英 ・本村浩之
1
1
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
2
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
はじめに
スダレダイ科スダレダイ属魚類は,スダレダ
イ Drepane longimana (Bloch and Schneider, 1801)
とユウダチスダレダイ D. punctata (Linnaeus, 1758)
の 2 種から構成されている(Heemstra, 2001).ユ
ウダチスダレダイは東インド洋と西太平洋の熱帯
から亜熱帯域にかけて広く分布する(Heemstra,
2001;林,2013).国内では沖縄島以南の琉球列
島に分布するとされている(林,1984,1993).
しかし,ユウダチスダレダイが日本に生息すると
いう根拠となる情報や標本はなかった.
2011 年 11 月 18 日と 25 日に鹿児島県南さつま
市笠沙町からユウダチスダレダイと同定される 2
個体が採集された.これらの 2 標本は,ユウダチ
スダレダイ標本に基づく日本からの確かな初記録
であると同時に本種の北限記録となるため,ここ
に報告する.
材料と方法
計数・計測は体高を除き Hubbs and Lagler (1947)
に従った.体高は背鰭第 2 棘基底から臀鰭第 2 棘
基底までの距離を測定した.計測はデジタルノギ
スを用いて 0.1 mm 単位まで行い計測値は体長に
対する百分率で示した.標準体長は体長または
SL と表記した.生鮮時の体色の記載は,鹿児島
Uejo, T., M. Itou and H. Motomura. 2015. First reliable
records of Drepane punctata (Perciformes: Drepaneidae)
from Japan. Nature of Kagoshima 41: 145–147.
HM: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e–mail: motomura@
kaum.kagoshima-u.ac.jp).
県産の 2 標本(KAUM–I. 43841, 52165)のカラー
写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,固定方
法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標
本は,鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に
保管されており,上記の生鮮時の写真は同館の
データベースに登録されている.
結果と考察
Drepane punctata (Linnaeus, 1758)
ユウダチスダレダイ (Fig. 1A–B; Table 1)
標本 2 個体(体長 236.1–249.5 mm):KAUM–
I. 43841,体長 236.1 mm,鹿児島県南さつま市笠
沙町松島沖北東部(31°25′06″N, 130°12′32″E),水
深 20 m,定置網,2011 年 11 月 25 日,伊東正英;
KAUM–I. 52165,体長 249.5 mm,鹿児島県南さ
つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 貝 浜 沖(31°25′58″N,
130°12′00″E),水深 20 m,つぼ網,2011 年 11 月
18 日,坂元治二(かごしま水族館にて 2012 年 8
月 24 日まで飼育).
記載 計数形質と各部位の体長に対する百分
率を Table 1 に示した.体は強く側偏し,菱形を
呈する.体高は著しく高く,体長とほぼ等しい.
頭高は著しく高く,口は小さい.主上顎骨後端は
眼の前縁下を越える.眼窩上部は隆起する.吻端
から眼窩下にかけて,および鰓蓋骨上は無鱗.眼
窩幅は広い.背鰭と臀鰭はそれぞれ 1 基で,基底
が長く,広く被鱗する.背鰭第 1 棘は皮下に深く
埋没する.背鰭棘条部と軟条部の間は欠刻がない.
胸鰭は鎌状で,その後端は背鰭軟条部基底中央下
を遥かに越える.胸鰭最上軟条から第 6 軟条は不
145
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimens of Drepane punctata from Kasasa, Kagoshima Prefecture, Japan. A, KAUM–I. 43841, 236.1 mm standard length (SL);
B, KAUM–I. 52165, 249.5 mm SL.
分枝,第 7 軟条から分枝軟条となり最下軟条にか
色で,腋部は黒い.体側には鱗と同大の黒色点が
け短くなる.腹鰭軟条はすべて分枝し,第 2 分枝
多数あり,11 本の不規則な横破線を形成する.
軟条の第 2 枝は伸長する.尾鰭は二重截形.体側
黒色点の一部は 2–3 コが繋がり,比較的大きい黒
の鱗は円形で,付属小鱗が多く,側線前部の有孔
斑にみえる.各鰭は半透明で基部が黄緑色を帯び
鱗は付属小鱗の下に深く埋没する.側線は鰓蓋骨
る.背鰭軟条部の鰭膜には 2–3 本の不明瞭な黒色
上部後端から背鰭第 2 棘基底下部にかけて緩やか
点列がある.
に上昇する.
色彩 体色は光沢のある銀色.吻端から眼窩
下にかけてと,鰓蓋一帯は銀白色.胸鰭基部は銀
分布 インド以東のインド洋と西太平洋広域
に分布する(Heemstra, 2001).国内では鹿児島県
薩摩半島西岸からのみ記録された(本研究).
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Drepane punctata. Modes and means in parentheses.
Kagoshima, Japan
Thailand and Malaysia
n=2
n=7
Standard length (SL; mm)
236.1–249.5
82.9–173.3
Counts
Dorsal-fin rays
VIII, 21
VIII–IX, 20–21
Anal-fin rays
III, 18
III, 17–18 (18)
Pectoral-fin rays
17
16–17 (16)
Pelvic-fin rays
I, 5
I, 5
Pored lateral-line scales
47–50
45–46 (46)
Gill rakers (upper + lower)
6 + 10 = 16
2–5 (5) + 9–11 (10) = 12–16 (15)
Measurements (% of SL)
Body depth
85.7–89.8
88.9–99.0 (94.8)
Body width
10.7–11.0
10.6–11.4 (11.0)
Head length
33.4–34.7
34.1–38.0 (36.4)
Snout length
15.1–15.4
14.4–17.7 (15.7)
Orbit diameter
7.6–7.9
8.4–11.6 (10.2)
Interorbital width
11.9–12.3
10.5–12.8 (11.8)
Upper-jaw length
11.1–11.2
11.5–13.1 (12.1)
Caudal-peduncle depth
14.4–15.4
14.2–15.5 (14.9)
Pre-dorsal-fin length
68.1–72.4
69.8–77.6 (72.5)
Pre-anal-fin length
59.0–61.1
60.3–64.3 (64.1)
Pre-pelvic-fin length
31.9–33.4
34.6–39.3 (36.4)
Caudal-fin length
20.5–21.1
24.5–28.8 (26.2)
Pectoral-fin length
51.0–61.2
56.8–64.9 (54.8)
Pelvic-fin spine length
12.2–14.0
12.8–19.7 (16.6)
Pelvic-fin length
19.0–20.5
22.0–31.7 (26.8)
146
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
備考 鹿児島県産の 2 標本は,体側に複数の
謝辞
黒色点横列があることから Drepane punctata と同
定された.唯一の同属他種であるスダレダイは体
側に黒色点がなく,黒色横帯を有することから容
易に識別される(Heemstra, 2001;林,2013).
松原(1955)は本種の和名を “ ユウダチスダレ
(タマスダレ)” とし,台湾以南に分布するとした.
その後,林(1984, 1993, 2013)は本種が日本に分
布すると初めて言及し,国内での分布域を沖縄島
以南の琉球列島とするとともに和名をユウダチス
ダレダイとした.林(1984)のユウダチスダレダ
イの国内における分布記述は,琉球大学理学部
(URM)に保管されていた標本が根拠であり(林
公義氏,私信),その後の報告(例えば,林,
1993, 2013)は林(1984)を踏襲したに過ぎない.
しかし,同大学の魚類コレクションの中に国内産
のユウダチスダレダイの標本がないこと,本種は
大陸棚上に生息する魚で,過去琉球列島には出現
した記録がないこと(吉野哲夫氏,私信),およ
び同コレクションには東南アジア産のユウダチス
ダレダイ標本が複数登録されていることから,東
南アジア産の標本を日本産と誤認した可能性が高
い.したがって,本報告は産地が明らかな標本に
基づくユウダチスダレダイの日本からの初めての
確かな記録となる.
なお,鹿児島産の 1 標本(KAUM–I. 52165,体
長 249.5 mm)は,採集後ただちにかごしま水族
館に搬入され,165 日間飼育展示された.展示期
間中の 79 日間は摂餌せず,その後 2012 年 2 月 5
日に摂餌が開始されたが,同年 8 月 24 日に死亡
した(山田守彦氏,私信).
比較標本 ユウダチスダレダイ — 7 個体(体
長 82.9–173.3 mm):KAUM–I. 12050, 体 長 125.2
mm,KAUM–I. 49164,体長 111.9 mm,マレーシア・
サ バ 州・ コ タ キ ナ バ ル 沖(06°00ʹN, 116°07ʹE);
KAUM–I. 22870,
体
長 135.1 mm,KAUM–I.
32897, 体 長 128.3 mm,KAUM–I. 47381, 体 長
82.8 mm, タ イ 湾;KAUM–I. 44881, 体 長 137.6
mm,タイ・プーケット沖,;KAUM–I. 67524,体
長 173.2 mm, ベ ト ナ ム・ バ ン ド ン・ ハ ロ ン 湾
(21°05ʹN, 107°25ʹE),水深 20 m.
本報告を取りまとめるにあたり,ユウダチス
ダレダイの情報を下さった元琉球大学の吉野哲夫
氏,元横須賀市自然・人文博物館の林 公義氏,
かごしま水族館の山田守彦氏,多くの助言とご協
力をくださった鹿児島大学総合研究博物館魚類分
類学研究室の研究員,学生,およびボランティア
のみなさまと長崎西海区研究所の松沼瑞樹氏,お
よび標本を採集してくださった坂元治二氏に深く
感謝する.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館
の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」
の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科
研
費(19770067, 23580259, 24370041, 26241027,
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
助を受けた.
引用文献
林 公義.1984.ユウダチスダレダイ.P. 175, pl. 171.益田
一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝繭・吉野哲夫(編),
日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
林 公義.1993.スダレダイ科.Pp. 774, 1330.中坊徹次(編),
日本産魚類検索 全種の同定.初版.東海大学出版会,
東京.
林 公義.2013.スダレダイ科.Pp. 989, 2022,中坊徹次(編),
日本産魚類検索 全種の同定.第三版.東海大学出版会,
秦野.
Heemstra, P. C. 2001. Drepanidae. Pp. 3221–3223 in Carpenter, K.
E. and Niem, V. H., eds. FAO species identification guide for
fishery purposes. The living marine resources of the western
central Pacific, volume 5. Bony fishes part 3 (Menidae to
Pomacentridae). FAO, Rome.
松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.II.初版.石崎書店,
東京.v + 791–1605 pp.
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿
児島大学総合研究博物館,鹿児島.70 pp(http://www.
museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
147
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
148
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
琉球列島から得られたニザダイ科魚類
シノビテングハギ Naso tergus の記録
1
2
松沼瑞樹 ・桜井 雄 ・本村浩之
1
2
3
3
〒 8851–2213 長崎市多以良町 1551–8 西海区水産研究所
〒 900–0003 沖縄県那覇市安謝 2–6–19 沖縄環境調査株式会社
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館館
はじめに
ニザダイ科テングハギ属のシノビテングハギ
Naso tergus Ho, Shen and Chang, 2011 は,タイプ産
地である台湾のほか,フィリピンおよび日本のト
カラ列島中之島からのみ分布が確認されていた
(Ho et al., 2011; 松 沼・ 本 村,2013;Matsunuma
et al., 2013).2014 年 5 月に,沖縄県那覇市の鮮
魚店(泊いゆまち)で 1 個体のシノビテングハギ
が得られた.奄美群島から八重山諸島までの琉球
列島で漁獲された本標本は,日本国内におけるシ
ノビテングハギの 2 例目の記録であり,南日本を
含める東アジア周辺海域における本種の広域分布
を支持する.日本とその周辺海域における魚類の
分布とその形成要因を理解するためには証拠標本
に基づく分布情報の蓄積が重要であり,これに寄
与するためにも本標本を記載し報告する.
材料と方法
計数・計測は Ho et al.(2011)にしたがい,Ho
et al.(2011)で説明されていない項目は松沼・本
村(2013)に詳述されている.記載は琉球列島か
ら得られた 1 標本に基づく.色彩の記載は,生鮮
標本のカラー写真(Fig. 1)に基づく.色彩の表
記は財団法人日本色彩研究所(2001)の系統色名
Matsunuma, M., Y. Sakurai and H. Motomura. 2015. Record
of Naso tergus (Acanthuridae) from the Ryukyu Islands,
southern Japan. Nature of Kagoshima 41: 149–152.
MM: Seikai National Fisheries Research Institute, 1551–8
Taira, Nagasaki 851–2213, Japan (e-mail: k1139853@kadai.
jp).
に準拠した.本報告で調査した標本は鹿児島大学
総合研究博物館(KAUM)に保管されている.
結果と考察
Naso tergus Ho, Shen and Chang, 2011
シノビテングハギ (Figs. 1, 3)
標 本 KAUM–I. 61542, 標 準 体 長 360.9 mm,
琉球列島(奄美群島から八重山諸島),桜井 雄,
沖縄県那覇市の鮮魚店で購入,2014 年 5 月 23 日.
記載 背鰭 VI, 27.臀鰭 II, 26.胸鰭 16(最上
の 1 本のみが不分枝).腹鰭 I, 3.鰓耙数 4 + 12 =
16.体各部の体長に対する割合(%)は下記の通
り:頭長 23.8;体高 31.6;体幅 11.1;背鰭前長
25.3; 胸 鰭 前 長 23.2; 腹 鰭 前 長 27.3; 臀 鰭 前 長
36.6;吻長 13.0;眼径 6.1;両眼間隔幅 9.2;上顎
長 5.4;眼下幅 8.6;第 1 背鰭棘長 11.5;第 2 背鰭
棘 長 9.8; 第 3 背 鰭 棘 長 10.5; 第 4 背 鰭 棘 長
10.0;第 5 背鰭棘長 9.8;第 6 背鰭棘長 8.5;胸鰭
長 15.6;腹鰭棘長 10.6;第 1 臀鰭棘長 8.3;第 2
臀鰭棘長 6.9;尾柄長 8.0;尾柄高 4.3;尾柄幅 5.3;
尾鰭湾入長 16.1;尾鰭長 23.7.
体はやや側扁し,細長い;全身の輪郭は側面か
らみたとき横に細長い楕円形.尾柄は円筒形で,
後方に向かってよくすぼまり,後部の背側と腹側
に発達した欠刻をもつ.後頭部から吻にかけての
頭部背縁の輪郭はほぼ直線で,突出部はない.頭
部腹縁の輪郭も,背縁のそれと同様だが,やや丸
みをおびる.躯幹部から尾部にかけての背縁の輪
郭は背鰭第 2–3 軟条の基部を頂点として,ゆるや
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Naso tergus from the Ryukyu Islands, Japan (KAUM–I. 61542, 360.9 mm standard length).
かな曲線をえがく;腹縁の輪郭は臀鰭第 1 軟条の
条が最長.尾鰭は,ほぼ截形.鰭の上・下縁の鰭
基部を頂点として,背縁と同様な曲線をえがく.
条は伸長しない.
鼻孔は眼の前方に 2 つある.前鼻孔は後鼻孔より
色彩 頭と体は一様にグレイで模様がなく,背
わずかに大きく,開口部に薄い肉質の縁をもち,
部が茶色みがかる(Fig. 1).背鰭は模様がなく,
後縁にごく小さな三角形の皮弁をもつ.後鼻孔は
体と同様なグレイで,縁辺は細く灰みの白で縁ど
単純な孔で,眼と前鼻孔の間の中央よりやや前方
られる.臀鰭の色彩は背鰭と同様で目立った模様
に位置する.眼の前方に 1 本の溝があり,眼の前
がない.胸鰭は鰭条が薄い黄色みのグレイ,鰭膜
縁から斜め前下方へ向かい,斜走する部位での幅
は半透明.腹鰭は明るいグレイ.尾鰭の地色は躯
は深い.前鼻孔の下方で,向きを前方にかえ直走
幹部と同様に明るいグレイ,後方に向かうにつれ
し,前方に向かって幅は狭く,かつ浅くなる.溝
て黄みがかり,縁辺は細く灰みの白で縁取られる.
は口裂後端のレベルで終わる.口はわずかに突出
尾柄の骨質板は体と同様なグレイで,やや黒みが
し,両顎歯は 1 列で細長く,よく尖る.頭部と体
かる.
は,下唇の後方を除いて微細で粗雑な鱗に覆われ
同定 琉球列島から得られた標本は,背鰭が 6
る.各鰭の鰭条も同様な鱗で覆われるが,鰭膜と
棘 27 軟条,臀鰭が 2 棘 26 軟条,尾鰭が截形,尾
胸鰭基底の関節部は無鱗.尾柄側面に概ね円形の
柄側面に前方に湾曲し尖る骨質板が 2 つある,体
2 個の固着した骨質板があり,翼状の隆起縁が発
と鰭はほぼ一様にグレイで模様がない,などの特
達する.隆起縁の前方は鉤状に湾曲し,その先端
徴が Ho et al. (2011) や松沼・本村(2013)による N.
はよく尖る.側線はほぼ眼の後方の主鰓蓋骨上端
tergus の記載とよく一致したため,本種に同定さ
付近から始まり,尾柄前方の骨質板の直前で終わ
れた.
る.背鰭基部は主鰓蓋後端の上方にある.棘条部
なお,シノビテングハギは日本産のニザダイ科
は軟条部よりも高く,軟条部は後方に向かうにつ
を整理した島田(2013)に掲載されていないが,
れてやや低くなる.背鰭棘は,第 1 棘が最長で,
同文献の検索表にしたがい本種の標本の同定を試
第 2–5 棘はほぼ同長.臀鰭基部は背鰭第 3 棘下に
み る と テ ン グ ハ ギ モ ド キ Naso hexacanthus
ある.胸鰭は上から 3 本目の鰭条が最長で,それ
(Bleeker, 1855) に至る.シノビテングハギとテン
より下方の鰭条は徐々に短くなり,鰭の後縁は円
グハギモドキは色彩が明瞭に異なる(Ho et al.,
みをおびる.腹鰭は胸鰭基底下に位置し,第 1 軟
2011;松沼・本村,2013).前者は頭部と体がほ
150
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 2. Fresh specimens of (a) Naso hexacanthus, KAUM–
I. 46007, 233.7 mm standard length (SL), Yoron Island,
Ryukyu Islands, Japan; (b) Naso lopezi, KAUM–I. 28767,
464.8 mm SL, Koshiki Islands, Kagoshima, Japan; and (c)
Naso maculatus, KAUM–I. 29385, 394.1 mm SL, Uji Islands,
Kagoshima, Japan.
Fig. 3. Distributional map of Naso tergus. Solid line circles and
broken line circle indicate the previously known records and
approximate locality of the present specimen, respectively.
ぼ一様に灰色で(Fig. 1),後者は頭部と体が暗い
まったく模様のないシノビテングハギと一見して
茶色で腹側が黄色みがかり,さらに鰓孔周辺が黒
識別される(本研究).
色で縁取られる(Fig. 2a)
.また,前者は,背鰭
分布 本種は,台湾から得られた 13 個体の標
と臀鰭,尾鰭が体と同様の灰色で縁辺が白く縁取
本 を も と に 新 種 と し て 記 載 さ れ た(Ho et al.,
られるだけで一切の模様がないのに対して,後者
2011).その後,トカラ列島の中之島(松沼・本村,
は背鰭と臀鰭が黄色で,細い帯あるいは網目状の
2013), フ ィ リ ピ ン・ パ ナ イ 島 の イ ロ イ ロ
白色の模様があり,尾鰭は暗い青色で後縁が茶色
(Matsunuma et al., 2013),および奄美群島以南の
で縁取られる.これら 2 種は,色彩のほかにも胸
琉球列島(本研究)からそれぞれ 1 個体がいずれ
鰭鰭条数や鰓耙数,体形にも有意な差異が認めら
も市場や商店を介して得られた(Fig. 3).本種は,
れる(Ho et al., 2011;松沼・本村,2013).テン
散発的であるもののフィリピンから南日本の各地
グハギモドキ以外の日本産テングハギ属魚類のう
から記録されたことから,東アジア周辺海域に広
ち,体がやや細長い,頭部背面に突出部がない,
く分布すると考えられる.
尾柄側面の骨質板が 2 つなどの特徴をもつこと
備考 台湾やトカラ列島から得られたシノビテ
で,ナガテングハギモドキ Naso lopezi Herre, 1927
ングハギの個体は,おそらくフィリピンの個体群
とゴマテングハギモドキ Naso maculatus Randall
に由来し,黒潮にのって回遊してきた可能性が指
and Struhsaker, 1981 も シ ノ ビ テ ン グ ハ ギ と 似 る
摘されている(Matsunuma et al., 2013).また,第
(Fig. 2b, c).しかし,これら 2 種は,体と鰭に多
2 著者による琉球列島における 20 年以上にわた
数の暗色点あるいは波線状の模様があることで,
る魚類相調査等において本種が観察されていない
151
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
こと,および琉球列島における魚類相調査はこれ
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
までに比較的盛んに行われているが,これらの調
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
査で本種が記録されていないことから(Senou et
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
al., 2007;本村・松浦,2014 など),琉球列島に
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
生息する本種の個体数は著しく少ないと推測され
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
る.したがって,本研究で琉球列島から得られた
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
個体は黒潮にのって偶発的に来遊したもので,台
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
湾以南の個体群に由来すると考えるのが妥当であ
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
る.ただし,台湾産のシノビテングハギは水深
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
70–80 m から得られており(Ho et al., 2011),本
種がごく最近,新種として記載されたことも理由
であろうが,生息水深がやや深く採集しにくいこ
とも本種の記録が少ない要因のひとつと考えられ
る.
また,鹿児島県の薩摩半島西岸や相模湾など九
州・四国・本州の黒潮流路沿岸からは,黒潮によ
る輸送の結果と考えられるさまざまな熱帯性魚類
の成魚の記録が報告されており[テングハギ属の
マサカリテングハギ Naso mcdadei Johnson, 2002
( 瀬 能 ほ か,2013)
;アイゴ科のゴマアイゴ
Siganus guttatus (Bloch, 1787)(伊東ほか,2011);
ブ ダ イ 科 の カ ン ム リ ブ ダ イ Bolbometopon
muricatum (Valenciennes, 1840)(荻原ほか,2010)
など],シノビテングハギも同様に,将来,九州
以北の黒潮流路にあたる太平洋沿岸で採集される
ことが予測される.
謝辞
標本作製等にご協力をいただいた鹿児島大学
総合研究博物館・魚類分類学研究室の学生の皆様
ならびにボランティアの皆様に深く感謝する.本
研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県
産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環として
行われた.本研究の一部は JSPS 科研費(19770067,
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
152
引用文献
Ho, H.-C., K.-N. Shen, and C.-W. Chang. 2011. A new species of
the unicornfish genus Naso (Teleostei: Acanthuridae) from
Taiwan, with comments on its phylogenetic relationship.
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伊 東 正 英・ 松 沼 瑞 樹・ 岩 坪 洸 樹・ 本 村 浩 之.2011. 鹿 児
島県笠沙沿岸から得られたアイゴ科魚類ゴマアイゴ
Siganus guttatus の 北 限 記 録.Nature of Kagoshima, 37:
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松沼瑞樹・本村浩之.2013.鹿児島県トカラ列島から得ら
れた日本初記録のニザダイ科シノビテングハギ(新称)
Naso tergus.魚類学雑誌,60 (2): 103–110.
Matsunuma, M., S. Tashiro, U. B. Alama, and H. Motomura.
2013. First record of a unicornfish, Naso tergus (Perciformes:
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本村浩之・松浦啓一(編).2014.奄美群島最南端の島 ―
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荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本
村浩之.2010.鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリ
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の記録.Nature of Kagoshima, 36: 43–47
Senou, H., Kobayashi Y., and Kobayashi N. 2007. Coastal fishes
of the Miyako Group,the Ryukyu Islands, Japan. Bulletin of
The Kanagawa Prefectural Museum Natural Science, (36):
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瀬能 宏・御宿昭彦・伊東正英・本村浩之.2013.日本初
記録のニザダイ科テングハギ属の稀種マサカリテング
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島 田 和 彦.2013. ニ ザ ダ イ 科.Pp. 1619–1631, 2215–2218.
中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定 第三版.
東海大学出版会,秦野.
財団法人日本色彩研究所(監修).2001.改訂版 色名小事
典.日本色研事業株式会社,東京.92 pp.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
標本に基づくマカジキ科魚類フウライカジキ
Tetrapturus angustirostris の琉球列島からの記録
1
畑 晴陵 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
マカジキ科魚類 Istiophoridae は世界で 3 属 11
種が知られており(Nakamura, 1985),日本近海
にはシロカジキ Istiophorus indica (Cuvier, 1832),
バショウカジキ I. platypterus (Shaw, 1792),マカ
ジ キ Kajikia audax (Philippi, 1887), ク ロ カ ジ キ
Makaira mazara (Jordan and Snyder, 1901),および
フ ウ ラ イ カ ジ キ Tetrapturus angustirostris Tanaka,
1915 の 4 属 5 種 が 分 布 す る( 中 坊・ 土 居 内,
2013).
これまで,フウライカジキは国内において新
潟県,宮城県気仙沼,相模灘,和歌山県,琉球列
島から記録されていた(Ho and Nagasawa, 2001;
中坊・土居内,2013;池田・中坊,2015).
2015 年 1 月 18 日に鹿児島県奄美群島喜界島近
海でフウライカジキと同定される 1 個体が採集さ
れた.本標本は鹿児島県におけるフウライカジキ
の標本に基づく初めての記録となるため,ここに
報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Nakamura (1983) にしたがっ
た.計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm まで
Hata, H. and H. Motomura. 2015. First record of Tetrapturus
angustirostris (Perciformes: Istiophoridae) from the
Ryukyu Islands on the basis of the collected specimen.
Nature of Kagoshima 41: 153–156.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
行った.フウライカジキの生鮮時の体色の記載は,
固定前に撮影された鹿児島県産の 1 標本(KAUM–
I. 68262)のカラー写真に基づく.標本の作製,
登録,撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.
本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物
館に保管されており,上記の生鮮時の写真は同館
のデータベースに登録されている.本報告中で用
いられている研究機関略号は以下の通り.KAUM
-鹿児島大学総合研究博物館;WMNH-PIS-WW
-和歌山県立自然博物館池田魚類コレクション.
結果と考察
Tetrapturus angustirostris Tanaka, 1915
フウライカジキ (Fig. 1; Table 1)
標本 KAUM–I. 68262, 体長 1268.0 mm,鹿児
島県奄美群島喜界島近海(28°18′N, 129°58′E;鹿
児島市中央卸売市場魚類市場にて購入),2015 年
1 月 18 日,延縄,畑 晴陵.
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
を Table 1 に示した.体は細長い円筒形で側扁し,
尾柄部は側扁が著しい.背縁は吻端から後頭部,
第 1 背鰭第 11 棘条起部にかけてゆるやかに盛り
上がり,第 1 背鰭第 23 棘条起部にかけてやや下
降し,第 2 背鰭起部にかけて腹縁と並行な直線状
となり,第 2 背鰭起部から尾柄にかけて下降する.
腹縁は下顎先端から鰓蓋後縁直下にかけて膨ら
み,その後は直線状となり,第 2 臀鰭起部で折れ
曲がる.体高は頭長の 44.1% と低く,背鰭第 11
棘条起部で最大.両顎は突出する.吻は著しく長
153
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Tetrapturus angustirostris. KAUM–I. 68262, 1268.0 mm standard length, Kikai-jima island in the Amami Islands,
Kagoshima Prefecture, Japan.
く剣状.吻端はやや縦扁するが,下顎先端直上の
のかなり前方に位置し,総排泄孔前縁は第 1 背鰭
吻部断面はほぼ円形.両顎歯は細かい絨毛状で,
第 29 棘条起部直下と第 30 棘条起部直下の間に位
各顎の先端まで密生する.口裂は大きく,主上顎
置する.眼窩,眼および瞳孔はそれぞれ円形.鼻
骨後端は眼窩後縁を越える.主上顎骨後端は露出
孔は 2 対で前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の
し,丸みを帯びる.前鰓蓋骨後縁および下鰓蓋骨
前方に位置する.前鼻孔は背腹方向に細長いス
後縁は円滑.第 1 背鰭は非常に大きく,前端で最
リット状で,後鼻孔は円形.前鼻孔後縁に前鼻孔
も高く,第 12 棘条でやや低くなり,その後やや
よりも大きい皮弁を有する.尾柄の上部と下部に
高くなり,ほぼ同じ高さを保ち,第 36 棘条以後
隆起線を 1 本ずつ備える.側線は胸鰭基部上方か
は後方へゆくに従って低くなる.第 1 背鰭起部は
ら始まり,第 1 背鰭第 12 棘条直下で下方に曲がり,
前鰓蓋骨後縁よりやや後ろに位置する.第 1 背鰭
その後は体軸とほぼ平行に尾鰭基底まで直走す
基底後端は第 2 臀鰭起部直上に位置する.胸鰭は
る.胸甲部から尾鰭基底にかけては細かい鱗で被
やや下位で基底上端は第 1 背鰭第 10 棘条起部直
われる.頭部および背鰭基底部付近は無鱗.鰓蓋
下,基底下端は腹鰭起部直上にそれぞれ位置する.
の裏側に擬鰓を有する.鰓耙はない.左右の鰓膜
胸鰭後端は尖り,第 1 叉鰭第 18 棘条基底後端直
は癒合する.
下を越える.腹鰭は非常に細長い帯状で,胸鰭よ
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面から体側上部は
りも長い.たたんだ腹鰭の後端は第 1 背鰭第 25
一様に暗青色.体側面は青みがかった銀色.体側
棘条起部直下を越える.第 1 臀鰭は鎌状で,起部
下部および体側下部は一様に銀白色.第 1 背鰭,
は第 1 背鰭第 34 棘条起部直下と第 35 棘条起部直
第 2 背鰭および尾鰭上葉は一様に黒色.第 1 臀鰭
下の間に位置する.第 1 臀鰭基底後端は第 1 背鰭
および第 2 臀鰭は一様に白色.尾鰭下葉は銀白色.
第 42 棘条起部直下と第 43 棘条起部直下の間に位
胸鰭は鈍い銀色.腹鰭は白色.尾柄部の隆起線は
置する.第 2 臀鰭起部は第 1 背鰭基底後端直下に
青みがかった黒色.
位置する.第 2 臀鰭基底後端は第 2 背鰭第 6 軟条
分布 北緯 40° から南緯 35° にかけての太平洋,
起部直下に位置する.第 2 背鰭起部は第 2 臀鰭第
北 緯 20° か ら 南 緯 45° に か け て の イ ン ド 洋
2 軟条起部直下と第 3 軟条起部直下の間に位置す
(Nakamura, 1985; Nakamura, 2001),およびアフリ
る.第 2 背鰭基底後端は第 2 臀鰭基底後端直下よ
カ西岸(Nakamura, 1985)に広く分布する.国内
りも後方に位置する.尾鰭は深く湾入し,後縁中
では新潟県東部,宮城県気仙沼市沖,千葉県館山
央部は後方に膨出する.尾鰭上下両葉は細長い.
市沖,神奈川県三浦市沖,和歌山県沖(南部と東
総排泄孔は体の中央よりわずかに後方,臀鰭起部
牟婁郡),産地不明であるものの琉球列島(Ho
154
RESEARCH ARTICLES
and Nagasawa, 2001;中坊・土居内,2013;池田・
中坊,2015),およびトカラ列島北部(本研究)
から記録されている.
備考 本標本は,体が側扁すること,吻部か
ら後頭部にかけての背縁が緩やかに盛り上がるこ
となどが Nakamura (1983, 1985, 2001) によって定
義された Tetrapturus 属と同定された.また,第 2
臀鰭起部が第 2 背鰭起部よりも前方に位置するこ
と,総排泄孔が臀鰭起部のかなり前方に位置する
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子
氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ
ンティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の
皆さまには適切な助言を頂いた.標本の採集に際
しては,田中水産の田中 積氏ならびに鹿児島市
中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様に多大なご
協力を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表
こと,頭長は上顎長の 1.6 倍であること,胸鰭長
は体長の 10.6% であることなどの特徴において
中村ほか(1968)や Nakamura (1985),中坊・土
居内(2013)の報告した Tetrapturus angustirostris
の標徴とよく一致したため,本種と同定された.
本標本の計数・計測値は Nakamura (1983) の示し
た T. angustirostris の計数・計測値とおおむね一致
するが,胸鰭起部及び臀鰭起部における体幅,眼
隔域幅,第 1 臀鰭基底長の体長に占める割合がや
や小さい.しかしこれらの差異は非常にわずかで
あることから,種内変異であると判断した.
Tetrapturus angustirostris は千葉県館山市船形沖
の相模灘から得られた全長 472 mm の 1 標本に基
づき Tanaka (1915) によって新種記載され,同時
に和名フウライカジキ(風來梶木)が提唱された.
その後,本間(1952)は新潟県東部から本種を報
告し,中村(1984)は宮城県気仙沼市沖から採集
された本種 1 個体(全長 1.5 m)を,山田(1990)
は神奈川県三浦市初声町戸田沖の沖約 600 m に設
置された定置網により得られた本種 1 個体をそれ
ぞれ報告した.また Ho and Nagasawa (2001) は和
歌山県東牟婁郡那智勝浦町から得られた本種に寄
生していたカイアシ類マグロヒジキムシ Pennella
filosa (Linnaeus, 1758) の報告を行った.池田・中
坊(2015)は和歌山県南部から得られた本種 1 個
体(WMNH-PIS-WW 21508)を報告した.
吉野ほか(1975)は本種を琉球列島から報告
したが,詳細な産地などの記載はなく,また標本
に基づくものであるかは不明である.したがって,
本報告の調査標本は琉球列島におけるフウライカ
ジキの標本に基づく初めての記録となる.
Table 1.Counts and measurements, expressed as percentages of
body length, of Tetrapturus angustirostris.
Body length (BL; mm)
Counts
1st dorsal-fin spines
2nd dorsal-fin rays
1st anal-fin spines
2nd anal-fin rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin spines
Pelvic fin rays
Gill rakers
Branchiostegal rays
Measurement (% BL)
Eye-fork length
Pre-first dorsal-fin length
Pre-second dorsal-fin length
Pre-pectoral-fin length
Pre-pelvic-fin length
Pre-first anal-fin length
Pre-second anal-fin length
Tip of mandible to anus
Greatest depth of body
Depth of body at origin of first dorsal fin
Depth of body at origin of first anal fin
Least depth of caudal peduncle
Width of body at origin of pectoral fins
Width of body at origin of first anal fin
Head length
Snout length
Bill length
Maxillary length
Orbit diameter
Interobital width
Length of middle dorsal-fin spine
Anterior height of second dorsal-fin
Height of first anal-fin
Anterior height of seond anal-fin
Length of pectoral fin
Length of pelvic fin
Length of first dorsal-finbase
Length of second dorsal-fin base
Length of first anal-fin base
Length of second anal-fin base
Length of caudal spread
Length of upper caudal lobe
Length of lower caudal lobe
Length of upper caudal keel
Length of lower caudal keel
KAUM–I. 68262
1215.0
48
7
13
7
17
1
2
0
7
87.3
18.6
81.2
23.0
24.4
59.7
81.2
51.0
9.8
8.9
8.4
2.6
4.0
4.8
22.3
11.3
15.3
13.8
2.5
3.7
13.7
3.0
6.4
2.2
10.6
broken
63.5
4.4
11.5
4.4
30.3
19.0
18.9
3.1
2.9
155
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
する.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿
児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環
として行われた.本研究の一部は JSPS 科研費
(19770067,23580259,24370041, 26241027,
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
助を受けた.
引用文献
Ho, J.-S. and Nagasawa, K. 2001. New records of parasitic copepoda from the offshore pelagic fishes of Japan. Bulletin
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本 間 義 治.1952. 新 潟 縣 魚 類 目 録. 魚 類 学 雑 誌,2 (3):
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池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東
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156
RESEARCH ARTICLES
本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児
島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www.
museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)
中坊徹次・土居内 龍.2013.マカジキ科.pp. 1633–1634,
2218–2219.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の
同定,第三版.東海大学出版会,秦野.
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中村 泉.1984.フウライカジキ.p. 215, pl. 218-B.益田 一・
尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本
産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島湾から得られたタチウオ科魚類
ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatum
1
2
畑 晴陵 ・原口百合子 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
タチウオ科ユメタチモドキ属 Evoxymetopon は
両眼間隔域が隆起縁を形成し,眼は頭部側面に位
置すること,背鰭に欠刻がないこと,円盤状の腹
鰭と臀鰭第 1 棘条および二叉型の尾鰭を有するな
どの特徴をもち(Nakamura and Parin,1993; Fricke
et al. 2014), ヒ レ ナ ガ オ オ ユ メ タ チ E.
macrophthalmum Chakraborty, Yoshino and Iwatsuki,
2006, E. moricheni Fricke et al., 2014,ヒレナガユ
メタチ E. poeyi Günther, 1887,ユメタチモドキ E.
taeniatum Gill, 1863 の 4 種が有効種とされている
(Chakraborty et al., 2006; Fricke et al., 2014).
ユメタチモドキはこれまで国内において,新
潟県,千葉県,静岡県,和歌山県,および東シナ
海から記録されていた(中坊・土居内,2013;池
田・中坊,2015).2014 年 4 月 20 日に鹿児島県
指宿市沖の鹿児島湾湾口部から 2 個体のユメタチ
モドキが定置網により採集された.これらは鹿児
島県における本種の標本に基づく初めての記録と
なるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は崎山ほか(2011)にしたがっ
た.標準体長は体長と表記し,体各部の計測はデ
Hata, H., Y. Haraguchi and H. Motomura. 2015. First records
of Evoxymetopon taeniatum (Perciformes: Trichiuridae)
from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of
Kagoshima 41: 157–160.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
ジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこなった.
生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された鹿児
島県産の 2 標本(KAUM–I. 60668, 60669)のカラー
写真に基づく.ユメタチモドキの学名は中坊・土
居内(2013)にしたがった.標本の作製,登録,
撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報
告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に
保管されており,上記の生鮮時の写真は同館の
データベースに登録されている.本報告中で用い
られている研究機関略号は以下の通り.KAUM
-鹿児島大学総合研究博物館;KPM -神奈川県
立生命の星・地球博物館;WMNH-PIS-WW -和
歌山県立自然博物館池田魚類コレクション.
結果と考察
Evoxymetopon taeniatum Gill, 1863
ユメタチモドキ (Fig. 1; Table 1)
標本 2 個体(体長 691.0–705.0 mm):KAUM–
I. 60668,体長 691.0 mm,KAUM–I. 60669,体長
705.0 mm, 鹿 児 島 県 指 宿 市 開 聞 川 尻 沖
(31°09′41″N, 130°32′53″E), 水 深 80–90 m,2014
年 4 月 20 日,定置網,土田洋之.
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
を Table 1 に示した.体は著しく細長く,側扁し,
リボン状.体高は頭長の 66.8–66.9% と低く,胸
鰭基底部付近で最大.両眼間隔域は著しく突出す
るとともに隆起縁を形成し,吻端から背鰭起部に
かけての体背面の傾斜は急である.体背縁は眼の
上方から背鰭起部にかけて緩やかに折れ曲がる.
背鰭基底部の体背縁はほぼ直線上で,徐々に下降
157
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimens of Evoxymetopon taeniatus. A: KAUM–I. 60668, 691.0 mm standard length (SL); B: KAUM–I. 60669, 705.0 mm SL,
Ibusuki, Kagoshima Bay, Japan.
する.体腹縁は下顎先端から腹鰭起部にかけて緩
やかに膨らみ,腹鰭起部から臀鰭基底後端にかけ
Table 1.Counts and proportional measurements of Evoxymetopon
taeniatus from Ibusuki, Kagoshima Bay, Japan.
KAUM–I.
60668
691.0
Standard length (SL ; mm)
Counts
Dorsal-fin elements
81
Pectoral-fin rays
12
Pelvic-fin spines
1
External anal-fin rays
20
Caudal-fin rays
8+7
Gill rakers (upper + middle + lower) 8 + 1 + 16
Measurement (% SL)
Total length
103.8
Pre-anus length
48.3
Head length
14.1
Snout length
4.9
Postorbital length
6.4
Preopercular length
2.2
Upper-jaw length
4.8
Body depth at pectoral-fin base
9.4
Body width at pectoral-fin base
2.5
Body depth at anus
7.8
Body width at anus
1.6
First dorsal-spine length
broken
Pre-dorsal-fin length
8.7
Dorsal-fin base length
91.3
Orbit diameter
2.8
Suborbital width
1.3
Interorbital width
2.3
Depth above lateral-line at anus
4.4
Depth below lateral-line at anus
3.7
Pre-pectoral-fin length
15.2
Pectoral-fin base
1.3
Length of pectoral fin
8.2
Pre-pelvic-fin length
18.7
Length of pelvic fin
0.9
Pre-anal-fin length
49.9
Anal-fin base length
48.2
Depth of caudal peduncle
0.6
Length of caudal peduncle
2.2
Tail length
49.6
158
KAUM–I.
60669
705.0
てはほぼ直線状.尾柄部の体背縁および体腹縁は
体軸と平行で直線状.尾柄は細長く,尾柄高は尾
柄長の 27.8–29.1%.背鰭起部は瞳孔後縁直上に
位置し,背鰭前長は頭長の 61.9–63.3%.背鰭最
80
12
1
21
8+7
7 + 1 +17
後軟条基底部の後端は臀鰭最後軟条基底部の後端
103.7
48.2
14.9
5.2
7.0
2.4
5.0
10.0
2.4
8.5
1.9
3.1
9.4
92.2
2.6
1.3
2.3
4.8
3.9
15.8
1.5
8.3
19.6
0.9
50.6
48.2
0.7
2.4
49.8
端は胸鰭起部よりも下方,腹鰭起部よりも前方,
直上に位置する.背鰭外縁に欠刻はない.胸鰭起
部は鰓蓋後縁よりも後方,腹鰭起部よりも前方,
背鰭第 5–6 軟条起部直下に位置する.胸鰭基底後
背鰭第 7–8 軟条部起部直下に位置する.胸鰭上縁
は中央部で凹み,胸鰭前縁は後縁よりも短い.胸
鰭軟条は最前と最後のもののみ不分枝.背鰭最後
軟条の後端は体背縁に達するか,僅かに達しない.
腹鰭は薄い円盤状で,前後方向に長い楕円形を呈
し,左右の腹鰭は近接する.腹鰭起部は背鰭第 8
軟条起部直下またはそれよりもわずかに後方に位
置する.臀鰭起部は背鰭第 31 軟条起部直下に位
置する.臀鰭第 1 棘条は薄い円盤状で,前後方向
に長い楕円形.倒した臀鰭第 1 棘条の後端は背鰭
第 32 軟条起部直下に達する.臀鰭は前方に倒す
と背鰭第 30 軟条起部直下に達するが,総排泄孔
には達しない.背鰭と臀鰭の最後の軟条は鰭膜で
尾柄部とつながる.背鰭と臀鰭の軟条はすべて不
分枝.尾鰭は小さく二叉型で,湾入する.総排泄
孔は正円形で臀鰭起部直前に開孔し,前縁は背鰭
第 30 軟条起部直下に位置する.眼と瞳孔は正円
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
に近い円形.鼻孔は 1 対で,眼の前方に位置し,
枝上の鰓耙数が 16–17 であること,背鰭前長が頭
背腹方向に細長い三角形.上顎後端は眼の前縁直
長の 61.9–63.3% であることなどが Nakamura and
下に位置する.吻端は尖り,下顎は突出する.口
Parin (1993) や Chakraborty et al (2006),中坊・土
は端位で,口裂は下顎先端から上顎後端にかけて
居 内(2013),Fricke et al. (2014) の 報 告 し た E.
上方に曲がる弧を描く.前鰓蓋骨は皮下に埋没す
taeniatum の標徴とよく一致したため,本種と同
る.前鰓蓋骨と主鰓蓋骨の後縁はともに円滑.鰓
定された.本種は背鰭第 1 棘条が長く伸長しない
耙は短い針状で,先端は尖る.擬鰓を有する.上
こと,背鰭鰭条数が 90 未満であること,背鰭起
顎と下顎には 1 列の鋭い円錐歯が並ぶ.上顎先端
部が目の直上であること,臀鰭第 1 棘条起部が背
には 3 対の倒すことのできない鋭い牙状の歯をそ
鰭第 30–32 軟条起部直下に位置すること,第 1 鰓
なえる.側線は完全で,鰓蓋後縁上方から背鰭第
弓下枝鰓耙数が 15–19 であること,背鰭前長が頭
11 または 12 軟条起部直下付近まで緩やかに下降
長の 60.5–63.4% であることなどから同属他種と
し,その後尾柄にかけて直走する.
識別される(Chakraborty et al., 2006;中坊・土居内,
色彩 生鮮時の色彩 ― 体側,腹鰭および臀鰭
2013;Fricke et al., 2014).
第 1 軟条は一様に白金色.背鰭第 8 軟条よりも前
Evoxymetopon taeniatum はキューバから得られ
方の背鰭鰭膜上部は黒色で,第 8 軟条よりも後方
た 1 個体に基づき(Gill, 1863)によって記載さ
は鰭条,鰭膜ともにやや白色がかった透明.胸鰭
れた.その後,Mori (1952) は E. taeniatum を韓国
各軟条は暗い黄色がかった透明.臀鰭はやや白色
の巨済島から報告するとともに本種に対し和名ユ
がかった透明.尾鰭は白色がかった透明で,基底
メタチモドキを提唱した.また,本間ほか(1984)
部は黒色.虹彩は金色がかった白金色で,瞳孔は
は新潟県糸魚川市青海親不知沖から得られたユメ
青みがかった黒色.
タチモドキを報告し,これが日本沿岸からの初記
固定後の色彩 ― 体側は一様に鈍い銀色となる.
各鰭の棘条と軟条は乳白色となる.
録となった.また,Shinohara et al. (2005) はユメ
タチモドキ 1 個体を東シナ海の水深 194–204 m か
分布 韓国巨済島,台湾東港,および西大西
ら報告し,山田ほか(2007)はユメタチモドキが
洋から知られている(Gill, 1863; Mori, 1952;中村,
朝鮮海峡南部から東シナ海の大陸棚縁辺および大
1984; Nakamura and Parin, 1993; Kim et al., 2005;
陸 斜 面 に 分 布 す る こ と を 報 告 し た. 崎 山 ほ か
中坊・土居内,2013.).日本国内では新潟県青海
(2011)は静岡県伊東市川奈沖の定置網から得ら
(本間ほか,1984),静岡県川奈,千葉県館山沖(崎
れた体長 607.2 mm の 1 個体(KPM-NI 23809)と
山 ほ か,2011), 和 歌 山 県 白 浜( 池 田・ 中 坊,
千葉県館山市沖の水深 90 m から延縄によって得
2015),東シナ海大陸棚縁辺・大陸斜面(Shinohara
られた体長 1638.0 mm の 1 個体(KPM-NI 26176)
et al., 2005;山田ほか,2007),および鹿児島県(本
を報告した.池田・中坊(2015)は和歌山県西牟
研究)から報告がある.
婁郡白浜町沖の水深 140 m から釣獲された体長
備考 鹿児島県産の標本は二叉型の尾鰭を有
1.04 m のユメタチモドキ 1 個体(WMNH-PIS-WW
すること,円盤状の腹鰭と臀鰭棘条を有すること,
22003)を報告した.したがって,これまで鹿児
眼は頭部側面に位置すること,背鰭条数が 80–81
島県内においてユメタチモドキは報告されておら
で あ る こ と な ど の 特 徴 が Nakamura and Parin
ず,記載標本は鹿児島県における本種の標本に基
(1993) や Fricke et al. (2014) の 定 義 し た
づく初めての記録となる.ユメタチモドキの鹿児
Evoxymetopon 属の特徴と一致した.また,背鰭
島県での採集記録は,これまでの国内における本
第 1 棘条が伸長しないこと,背鰭軟条数が 80–81
種の分布の空白域を埋めるものであり,本種が千
であること,鼻孔が三角形であること,背鰭起部
葉県から東シナ海にかけて連続的に広く分布する
が瞳孔後縁直上に位置すること,臀鰭起部は背鰭
ことを示唆する.
第 31 軟条起部直下に位置すること,第 1 鰓弓下
159
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
にはいおワールドかごしま水族館の土田洋之氏に
は多大なご協力を頂いた.鹿児島大学博物館魚類
分類学研究室の小枝圭太氏には,本稿に対し適切
な助言を数多く頂いた.原口百合子氏をはじめと
する鹿児島大学総合研究博物館ボランティアの皆
さまと同博物館魚類分類学研究室の皆さまには標
本の作成・登録作業などを手伝って頂いた.これ
らの方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は,
鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の
多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.
本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿
岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
生態系保全研究の推進」の援助を受けた.
引用文献
Chakraborty, A., Yoshino, T. and Iwatsuki, Y. 2006. A new species
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RESEARCH ARTICLES
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県北部から得られたサバ科魚類
グルクマ Rastrelliger kanagurta の記録
1
2
3
畑 晴陵 ・伊東正英 ・鏑木絋一 ・本村浩之
1
3
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
3
〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
サバ科 Scombridae は世界で 15 属 49 種が知ら
れており(Collette and Nauen, 1983),日本近海に
は 11 属 21 種が分布する(中坊・土居内,2013).
グルクマ属 Rastrelliger は世界で 3 種が有効種と
し て 認 め ら れ て お り(Matsui, 1967; Collette and
Nauen, 1983), そ の う ち, 日 本 か ら は グ ル ク マ
Rastrelliger kanagurta (Cuvier, 1816) の 1 種のみが
屋久島と琉球列島から知られている(中坊・土居
内,2013).
2010 年 9 月 18 日に鹿児島県南さつま市笠沙町
沖で 2 個体,また 2014 年 9 月 8 日に種子島沖か
ら 1 個体,計 3 個体のグルクマが採集された.こ
れらは鹿児島県本土および種子島における本種の
標本に基づく初めての記録であり,同時に本種の
分布北限を更新する記録となるため,ここに報告
する.
材料と方法
計数・計測方法は Marr and Schaefer (1949) を改
変した Gibbs and Collette (1967) にしたがった.標
Hata, H., M. Itou, K. Kaburagi and H. Motomura. 2015. First
records of Rastrelliger kanagurta (Perciformes:
Scombridae) from Tanegashima island and mainland of
Kagoshima, southern Japan. Nature of Kagoshima 41:
161–166.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890-0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
準体長は体長と表記し,デジタルノギスを用いて
0.1 mm まで行った.グルクマの生鮮時の体色の
記載は,固定前に撮影された鹿児島県産の 1 標本
(KAUM–I. 63629)のカラー写真に基づく.標本
の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)に
準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総
合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University
Museum)に保管されており,上記の生鮮時の写
真は同館のデータベースに登録されている.
結果と考察
Rastrelliger kanagurta (Cuvier, 1816)
グルクマ (Figs. 1–2; Table 1)
標本 4 個体(体長 159.8–210.1 mm):KAUM–
I. 35800, 体 長 199.9 mm, 尾 叉 長 216.0 mm,
KAUM–I. 35801, 体 長 210.1 mm, 尾 叉 長 231.8
mm,鹿児島県南さつま市笠沙町松島沖北東部
(31°25′06″N, 130°12′32″E),水深 20 m,2010 年 9
月 8 日,定置網,伊東正英;KAUM–I. 63629,体
長 159.8 mm,尾叉長 170.5 mm,鹿児島県熊毛郡
中 種 子 町 野 間 中 山 漁 港 堤 防(30°31′40″N,
130°59′35″E),水深 2 m,2014 年 9 月 8 日,釣り,
鏑 木 絋 一;KAUM–I. 68458, 体 長 190.9 mm, 尾
叉長 204.7 mm,鹿児島県熊毛郡中種子町野間中
山漁港堤防(30°31′40″N, 130°59′35″E),水深 2 m,
2014 年 11 月 10 日,釣り,鏑木絋一.
記載 計数形質と体各部の尾叉長に対する割
合を Table 1 に示した.体は楕円形で,よく側扁
161
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Rastrelliger kanagurta (KAUM–I. 63629, 170.5 mm fork length, Tanega-shima island, Osumi Islands, Kagoshima
Prefecture, Japan).
Fig. 2. Preserved specimen of Rastrelliger kanagurta (KAUM–I. 35800, 216.0 mm fork length, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture,
Japan).
する.体の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.体高は
鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方に位
頭長の 86.7–98.9% と低く,第 1 背鰭第 5–6 棘条
置する.鰓耙は長く,鰓弁よりも長い.鰓耙の先
起 部 で 最 大. 鰓 蓋 後 縁 に お け る 体 高 は 尾 叉 長
端は丸い.第 1 背鰭と第 2 背鰭は大きく離れる.
19.4–22.9%.口蓋骨および鋤骨には歯がなく,下
第 1 背鰭は後方にゆくに従って低くなる.第 2 背
顎には細かい円錐形の歯が 1 列に並ぶ.吻端は尖
鰭起部は臀鰭起部より前方に位置する.第 2 背鰭
る.口裂は大きく,上顎後端は眼窩後縁直下を越
基底後端は臀鰭基底後端直上に位置する.胸鰭起
える.上顎後端は丸い.主上顎骨後端は露出する.
部は第 1 背鰭起部直下よりも前方に位置する.胸
前鰓蓋骨後縁は円滑.下顎の先端は眼の前縁直下
鰭後端は尖り,第 1 背鰭起部第 4–5 棘条起部直下
よりも前方に位置する.眼と瞳孔はそれぞれ円形
に達する.腹鰭起部は第 1 背鰭起部より前方に位
である.眼は脂瞼に被われる.鼻孔は 2 対で,前
置するが,胸鰭起部より後方.腹鰭後端は総排泄
162
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
孔に達せず,第 1 背鰭第 8 棘条起部直下に達する.
する.胸鰭は黄色で,後縁は黒く縁取られる.腹
臀鰭起部は第 2 背鰭第 2–4 軟条起部直下に位置す
鰭の各軟条は白色で,鰭膜は透明.臀鰭の各軟条
る.尾鰭は深く湾入する.側線は完全で,鰓蓋後
および鰭膜は白色.尾鰭は黄色で,後縁は黒く縁
方から始まり,尾鰭基底付近で終わる.尾柄部に
取られる.固定後の色彩 ― 体背面は暗い褐色と
小さい 2 本の隆起線がある.体は細かい円鱗に被
なる.
分布 紅海を含むインド・西太平洋,および
われる.
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は緑がかった青
地中海の熱帯・亜熱帯域に分布する(久新ほか,
色.体側上部は青みを帯びた銀色で,体腹面は一
1977, 1982;Collette and Nauen, 1983; Bianchi,
様に銀色.胸鰭基底から尾柄に黄褐色縦帯が 2 本
1985; De Bruin, 1995; Sommer et al., 1996; Carpenter
入る.第 1 背鰭,第 2 背鰭および背鰭後方の小離
et al., 1997; Collette, 2001;Kimura et al., 2003;
鰭の各鰭条は透明で,鰭膜は黄色で小黒斑が散在
Randall et al., 2004; Randall, 2005; Kimura, 2009,
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of fork length, of Rastrelliger kanagurta.
Fork length (FL;mm)
Counts
Dorsal-fin spines
Dorsal-fin soft rays
Anal-fin soft rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin spines
Pelvic-fin soft rays
Dorsal finlets
Anal finlets
Upper gill rakers
Lower gill rakers
Total gill rakers
Measurement (% FL)
Standard length
Head length
Snout to insertion first dorsal
Snout to insertion second dorsal
Snout to insertion anal
Snout to insertion of pectoral fin
Snout to insertion of ventral
Greatest body depth
Pectoral-fin length
Pelvic-fin length
Insertion pelvic fin to vent
Pectoral insertion to first dorsal
First dorsal-fin base length
Second dorsal-fin base length
Longest dorsal-fin spine length
First dorsal-fin spine length
Length second dorsal
Length anal
Longest dorsal-finlet length
Snout length
Iris diameter
Orbit diameter
Interorbital width
Maxillary length
Least caudal-peduncle depth
Maximum body width
Greatest caudal-peduncle width at keels
Minami-satsuma and Tanega-shima island,
Kagoshima, Japan
Malaysia, Thailand, and Amami-oshima,
Kagoshima, Japan
n=4
170.5–231.8
n=8
118.0–330.0
9–11
12
12–14
19–21
1
5
5
5
18–20
37–44
55–64
9–12
11–12
11–13
19–22
1
5
5
5
16–21
31–42
49–60
90.6–93.7 (92.5)
26.3–27.2 (27.1)
34.3–36.3 (35.2)
58.4–59.4 (59.0)
59.3–61.3 (60.5)
26.8–28.3 (27.6)
31.8–33.2 (32.4)
23.9–26.9 (25.1)
12.0–12.9 (12.6)
9.5–10.3 (9.9)
25.2–26.4 (25.7)
11.5–14.1 (12.9)
17.5–20.5 (19.1)
11.2–12.6 (12.1)
12.2–14.7 (13.4)
9.2–10.8 (10.2)
7.7–8.6 (8.1)
7.0–8.2 (7.5)
4.5–5.5 (4.9)
7.0–7.9 (7.5)
5.1–5.7 (5.4)
6.7–8.8 (7.9)
5.3–6.9 (6.2)
12.8–14.7 (14.0)
3.0–3.3 (3.2)
12.2–14.1 (13.5)
2.3–3.0 (2.7)
89.7–97.3 (94.2)
26.3–29.0 (27.1)
32.3–37.0 (34.6)
55.3–61.5 (58.6)
57.8–62.7 (60.3)
27.1–29.2 (27.9)
30.6–33.4 (32.2)
21.0–26.2 (23.5)
11.4–13.9 (12.7)
8.3–10.9 (10.0)
23.9–27.9 (26.0)
9.7–14.1 (11.5)
16.5–26.2 (22.0)
10.9–13.4 (12.3)
11.0–14.8 (13.3)
9.4–12.4 (10.8)
6.7–8.5 (7.6)
5.2–8.1 (7.3)
4.3–5.2 (4.7)
6.4–8.5 (7.4)
5.5–6.5 (5.9)
6.5–7.0 (6.8)
5.1–9.2 (6.2)
12.3–15.8 (13.7)
2.6–3.3 (3.0)
9.6–15.4 (11.8)
1.5–3.0 (2.3)
163
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
2011, 2013;中坊・土居内,2013).国内では鹿児
れる.彼は奄美大島近海から採集された 1 個体(全
島県本土および種子島(本研究),屋久島(市川
長 30 cm 程)に基づき本種を R. chrysozonus とし
ほか,1992;Motomura et al., 2010)および琉球列
て記載を行い,同時に本種に対して和名アギフラ
島(岸上,1915;吉野ほか,1975;中村,2002;
キヤを提唱した.しかし,Kishinouye (1923) は本
Senou et al., 2006)から報告がある.
種を R. chrysozonus (Rüppell, 1836) として中国南
備考 種子島と鹿児島県本土から得られた標
部,台湾,トラック諸島から報告するとともに,
本は,体が細かい円鱗に被われること,腹部に腹
琉球列島での本種に対する呼称を Gurukum,那
鰭を収めることのできる溝がないこと,第 1 背鰭
覇での呼称を Murehji とした.その後,岡田(1938)
と第 2 背鰭は大きく離れること,尾柄部に小さい
は本種の国内における分布を南日本とし,本種の
2 本の隆起線があること,背鰭後方および臀鰭後
和名をグルクマとした.蒲原(1965)は沖縄島近
方の小離鰭数がそれぞれ 5 であること,眼は脂瞼
海から採集された全長 350 mm の 1 個体を報告し
で被われること,鰓耙は鰓弁よりも長いこと,口
た.吉野ほか(1975)は本種を R. canagurta (Cuvier,
蓋骨および鋤骨には歯がないことなどが Matsui
1829) として琉球列島から報告し,和名をグルク
(1967) や久新ほか(1982),Collette and Nauen (1983)
マとし,本種の琉球列島における本種に対する呼
が報告した Rastrelliger の標徴と一致した.
称をグルクマーとして報告した.新垣・吉野(1984)
これらの標本は,第 1 鰓弓下枝鰓耙数が 37–38
は本種を沖縄県から報告し,本永(1991)は沖縄
であること,鰓蓋後縁における体高が尾叉長の
島の 12 漁協における本種の水揚げ状況と,月ご
19.4–22.9% であることなどの特徴が Collette and
と の 尾 叉 長 組 成 の 推 移 を 報 告 し た. 市 川 ほ か
Nauen (1983) や Collette (2001) が 報 告 し た
(1992)は本種を屋久島から報告した.三浦(2012)
Rastrelliger kanagurta の標徴とよく一致したため,
は本種が沖縄島中城湾で刺し網または定置網で多
本種と同定された.また,同標本の計数および計
数漁獲され,アジャーと称されることを報告した.
測値は,本研究で比較を行った標本の値の範囲内
また益田・アレン(1987)は沖縄から,中村(2002)
におおむね当てはまり,よく一致する.種子島と
は西表島から,Senou et al.(2006)伊江島からそ
鹿児島県本土産の標本は,比較標本と比べて,下
れぞれ水中写真に基づき本種を報告した.した
枝鰓耙数と総鰓耙数がやや多く,臀鰭軟条数がや
がって,グルクマの国内における分布は屋久島と
や少なく,胸鰭前長,第 1 背鰭第 1 棘条長および
琉球列島とされていた(中坊・土居内,2013).
虹彩径の尾叉長に対する割合がやや小さく,一方,
グルクマの鹿児島県本土からの採集記録は,本種
体幅,第 2 背鰭長,臀鰭長,最長小離鰭長および
の分布の北限記録となると同時に,本種が鹿児島
眼窩径の割合はやや大きい(Table 1).しかし,
県から沖縄県にかけて連続的に広く分布すること
それらの差は小さく,また,種子島と鹿児島県本
を示唆する.しかし,本種は群泳することが知ら
土 産 標 本 の 下 枝 鰓 耙 数 と 臀 鰭 軟 条 数 は Matsui
れているが(Collette and Nauen, 1983;新垣・吉野,
(1967) と中坊・土井内(2013)がそれぞれ示した
1984;Collette, 2001),鹿児島県北部では 2010 年
R. kanagurta の計数値の範囲内にあり,これらの
に 2 個体,2014 年に 2 個体,計 4 個体のみが漁
若干の相違は種内変異であると考えた.
獲されたにすぎない.これは上記個体が黒潮に
Rastrelliger kanagurta は第 1 鰓弓下枝鰓耙数が
よって鹿児島に偶発的に運ばれてきた可能性を強
30–48 であること,尾叉長が鰓蓋後縁における体
く示しており,本種が鹿児島県北部近海で再生産
高の 4.3–5.2 倍であることなどで同属他種から識
している可能性も低いと考えられる.
別される(Collette and Nauen, 1983; Matsui, 1967;
Collette, 2001).
比 較 標 本 グ ル ク マ Rastrelliger kanagurta(8
個体,尾叉長 118.0–330.0 mm):KAUM–I. 12261,
Rastrelliger kanagurta を標本に基づいて日本か
体長 148.7 mm,マレーシア・サバ州コタキナバ
ら初めて報告したのは岸上(1915)であると思わ
ル沖(06°00′N, 116°07′E;コタキナバルの市場で
164
RESEARCH ARTICLES
購入)
;KAUM–I. 16865,体長 159.0 mm,KAUM–
I. 17002, 体 長 138.6 mm,KAUM–I. 17065, 体 長
201.2 mm,マレーシア・トレンガヌ州クアラト
レンガヌ沖(05°22′N, 103°15′E;パラウ・カンビ
ン の 市 場 で 購 入 ); KAUM–I. 22982, 体 長 112.3
mm,KAUM–I. 22983,体長 107.2 mm,タイ湾(サ
ムットプラーカーン県マハチャイの市場で購入)
;
KAUM–I. 38422,体長 321.0 mm,鹿児島県大島
郡瀬戸内町尾崎,
(28°08′44 N, 129°18′47″E),5 m,
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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(12°36′N, 101°26′E).
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,本研究に適
切な助言をいただいた高山真由美氏および原口百
合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館
ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究
室の皆さまに謹んで感謝の意を表する.本研究は,
鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の
多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.
本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,
23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS
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岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,総合地
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球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけるエリ
アケイパビリティーの向上プロジェクト」,国立
科学博物館「日本の生物多様性ホットスポットの
構造に関する研究プロジェクト」,文部科学省特
別経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物
多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,
および鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性
プロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
サバ科魚類ヒラサワラ Scomberomorus koreanus の
日本沿岸からの 2 番目の記録
1
2
畑 晴陵 ・岩坪洸樹 ・本村浩之
1
3
〒 890–0056 鹿鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 898–0001 鹿児島県枕崎市松之尾町 33–1 枕崎お魚センター 1F 鹿児島水族博物館
3
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
サバ科サワラ属(Scombridae: Scomberomorus)
は世界で 18 種が有効種として認められており
(Collette and Nauen, 1983),そのうち,日本から
はヨコシマサワラ S. commerson (Lacepède, 1800),
タ イ ワ ン サ ワ ラ S. guttatus (Bloch and Schneider,
1801),ヒラサワラ S. koreanus (Kishinouye, 1915),
サワラ S. niphonius (Cuvier, 1831),ウシサワラ S.
sinensis (Lacepède, 1800) の 5 種が知られている(中
坊・土居内,2013).
2015 年 1 月 19 日に鹿児島県日置市東市来町沖
で 1 個体のヒラサワラが採集された.この標本は
鹿児島県における本種の標本に基づく初めての記
録となるとともに,日本沿岸における 2 番目の記
録になるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Marr and Schaefer (1949) を改
変した Gibbs and Collette (1967) にしたがった.計
測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行った.
ヒラサワラの生鮮時の体色の記載は,固定前に撮
影された鹿児島県産の 1 標本(KAUM–I. 68335)
のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,
固定方法は本村(2009)に準拠した.本報告に用
Hata, H., H. Iwatsubo and H. Motomura. 2015. Second record
of Scomberomorus koreanus (Perciformes: Scombridae)
from Japan. Nature of Kagoshima 41: 167–170.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890-0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管さ
れており,上記の生鮮時の写真は同館のデータ
ベースに登録されている.本報告中で用いられて
いる研究機関略号は以下の通り.FRSKU– 京都大
学舞鶴水産実験所;KAUM– 鹿児島大学総合研究
博物館.
結果と考察
Scomberomorus koreanus (Kishinouye, 1915)
ヒラサワラ (Figs. 1–2)
Cybium koreanum Kishinouye, 1915: 11, pl. 1-6 (type
locality: western coast of Korea).
標本 KAUM–I. 68335,鹿児島県日置市吹上浜
江口漁港沖(31°38′N, 130°15′E),2015 年 1 月 19 日,
岩坪洸樹・田中 積.
記載 本標本は吻端を損傷しており,体長お
よび尾叉長を計測することはできなかった.背鰭
16 棘 21 軟条;臀鰭 21 軟条;胸鰭 21 軟条;腹鰭
1 棘 5 軟条;第 1 鰓弓上枝鰓耙 3 本;下枝鰓耙 12
本;総鰓耙 15 本.体は細長い卵型で尾柄部はよ
く側扁する.体の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.
体高は胸鰭の 191.0% と高く,第 2 背鰭起部で最
大.胸鰭基底上端は背鰭および腹鰭起部より前方,
鰓蓋後縁よりも後方に位置し,下端は背鰭第 3 棘
条起部直下と第 4 棘条起部直下の間に位置する.
胸鰭後端は尖り,背鰭第 11 棘条起部直下に達す
る.腹鰭は短く,胸鰭の 34.9%.腹鰭起部は胸鰭
第 5 軟条起部直下に位置し,たたんだ腹鰭の後端
167
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimen of Scomberomorus koreanus (KAUM–I. 68335, Kagoshima Prefecture, Japan; ca. 842 mm standard length).
Fig. 2. Lateral view of viscera of Scomberomorus koreanus (KAUM–I. 68335, Kagoshima Prefecture, Japan). Arrows indicate bends of
intestine.
は背鰭第 6 棘条起部直下に位置する.背鰭起部は
型で,深く湾入する.肛門は臀鰭起部直前に開孔
腹鰭起部直上に位置する.背鰭第 1 棘条は短く,
し,腹鰭基底前端から肛門前縁までの距離は大き
眼窩径の 89.0%.第 1 背鰭基底は長く,第 2 背鰭
く, 胸 鰭 基 底 上 端 か ら 背 鰭 起 部 ま で の 距 離 の
基底の 137.2%.第 1 背鰭と第 2 背鰭は近接する.
435.1%.側線は完全で,胸鰭基部上方から始まり,
第 2 背鰭起部は臀鰭起部よりも前方に位置し,第
前部で上下に微小な枝脈を出し,細かく波打ちな
2 背鰭基底後端は臀鰭第 18 軟条起部直上に位置
がら第 2 背鰭起部直下付近から緩やかに下降し,
する.臀鰭起部は第 1 背鰭第 8 軟条起部直下に位
尾柄にかけて走る.眼窩および瞳孔はそれぞれ円
置する.第 2 背鰭および臀鰭は鎌状.尾鰭は二叉
形.鼻孔は 2 対で眼の前方に位置する.前鼻孔は
168
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
円形で,後鼻孔は背腹方向に長い長楕円形で,互
Scomberomorus koreanus の標徴とよく一致した.
いに近接する.鰓耙は細長く,先端は丸い.擬鰓
な お, 本 標 本 か ら 得 ら れ た 計 数 値 は Nakamura
を有する.口裂は大きく,上顎後端は眼窩後縁よ
and Nakamura (1982) や Collette and Nauen (1983),
りわずかに後ろに位置する.主上顎骨後端は露出
Collette and Russo (1984),Collette (2001), 中 坊・
する.両顎歯は強く側扁し,三角形で,それぞれ
土居内(2013)の示した S. koreanus の計数値と
1 列に並ぶ.口蓋骨歯,鋤骨歯および基舌骨歯は
一致した.本種は側線前部で上下に微小な枝脈を
歯帯をそれぞれ形成する.鰓蓋後縁は円滑.尾柄
だすこと,腸に 4 曲点があることなどで同属他種
の上下に小さい隆起線があり,中央部にひだ状の
から識別される(Collette and Russo, 1984).
隆起線がある.鰾を欠く.腸の巻き方は複雑で,
4 曲点がある.
Scomberomorus koreanus は韓国西岸から得られ
た 標 本 に 基 づ き 岸 上(1915) に よ っ て Cybium
色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は黒色.体側上
koreanum として新種記載され,同時に和名ヒラ
部は薄墨色で,体側には小黒斑が散在する.体腹
サ ハ ラ が 提 唱 さ れ た. そ の 後,Nakamura and
面は一様に銀色.第 1 背鰭は一様に淡い黒色.第
Nakamura (1982) は 1978 年 11 月に若狭湾で採集
2 背鰭,背鰭後方の小離鰭,胸鰭および尾鰭は灰
さ れ た ヒ ラ サ ワ ラ 3 標 本(FRSKU W622, 625,
色がかった黒色.腹鰭は一様に灰色.臀鰭および
650,標準体長 285–342 mm)を報告し,これが
臀鰭後方の小離鰭は白色.尾柄の隆起は一様に黒
ヒラサワラの日本沿岸からの初記録となった.そ
色.虹彩は白色で,瞳孔は青みがかった黒色.
の後,本種の日本沿岸からの標本に基づく報告は
分布 インド・ムンバイ以東のインド洋,シ
なく,本報告が鹿児島県におけるヒラサワラの標
ンガポール,インドネシア・スマトラ島から朝鮮
本に基づく初めての記録ならびに日本沿岸からの
半島南西岸にかけての西太平洋に分布する(岸上,
2 例目の記録となる.
1915;Collette and Nauen, 1983; Collette and Russo,
1984; Collette, 2001;中坊・土居内,2013).国内
では若狭湾(Nakamura and Nakamura, 1982)およ
び鹿児島県(本研究)から報告がある.
謝辞
本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子
氏,高山真由美氏をはじめとする鹿児島大学総合
備考 本標本は上顎後端が露出し,眼窩後縁
研究博物館ボランティアと同博物館魚類分類学研
よりわずかに後ろに位置すること,両顎歯は強く
究室の皆さまには適切な助言を頂いた.標本の採
側扁し,三角形であること,口蓋骨歯と鋤骨歯は
集に際しては,田中水産の田中 積氏ならびに鹿
歯帯をそれぞれ形成すること,第 1 鰓弓上枝鰓耙
児島市中央卸売市場魚類市場の関係者の皆様に多
数が 3 であること,第 1 背鰭棘数が 16 であるこ
大なご協力を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の
と な ど が Collette and Nauen (1983) や Collette and
意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究博物
Russo (1984),Collette (2001) が 報 告 し た Scom-
館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」
beromorus の標徴と一致した.さらに,背鰭軟条
の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科
が 21 本であること,臀鰭軟条が 21 本であること,
研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027,
第 1 鰓弓総鰓耙が 15 本であること,側線は完全で,
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
胸鰭基部上方から始まり,前部で上下に微小な枝
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
脈を出し,細かく波打ちながら第 2 背鰭起部直下
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
付近から緩やかに下降し,尾柄にかけて走ること,
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
腸の巻き方は複雑で,4 曲点があることなどの特
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
徴が Nakamura and Nakamura (1982) や Collette and
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
Nauen (1983),Collette and Russo (1984),Collette
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
(2001), 中 坊・ 土 居 内(2013) の 報 告 し た
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
169
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
助を受けた.
引用文献
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
薩南諸島広域から得られたヒシダイ科魚類
ヒシダイ Antigonia capros
1
2
畑 晴陵 ・高山真由美 ・本村浩之
1
2
〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
ヒシダイ科は強く側扁した円盤状の体を有す
ること,体背縁が尖り,腹縁はやや丸みを帯びる
こと,体高が頭長の 2 倍以上であること,体長が
頭長の 2.4–3.0 倍であること,背鰭と臀鰭軟条が
すべて分枝することなどの特徴をもち(Heemstra,
1999; 稲 田,2002a), 日 本 か ら は ヒ シ ダ イ
Antigonia capros Lowe, 1843, ベ ニ ヒ シ ダ イ A.
rubescens (Günther, 1860),
およびミナミヒシダイ A.
rubicunda Ogilby, 1910 の 3 種が知られている(中
坊・甲斐,2013).
ヒシダイはこれまで鹿児島県内において,大
隅諸島馬毛島沖およびトカラ列島近海から仔魚の
報告があるのみであった(中原,1962).2012 年
から 2015 年にかけて実施された鹿児島県におけ
る魚類相調査の過程で,種子島,トカラ列島,与
論島からヒシダイと同定される計 9 個体が採集さ
れた.これらの標本は鹿児島県ならびに薩南諸島
における成魚の標本に基づく本種の初めての記録
となるため,ここに報告する.
材料と方法
計数・計測方法は Parin and Boroduina (2005) に
したがった.標準体長は体長と表記し,体各部の
Hata, H., M. Takayama and H. Motomura. 2015. Records of
Antigonia capros (Perciformes: Carproidae) from the
Satsunan Islands, southern Japan. Nature of Kagoshima
41: 171–175.
HH: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k2795502@
kadai.jp).
計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm までおこ
なった.生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影さ
れ た 鹿 児 島 県 産 の 9 標 本(KAUM–I. 52224,
66321–66323, 66172–66174, 70801, 70802)のカラー
写真に基づく.標本の作製,登録,撮影,固定方
法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標
本は,鹿児島大学総合研究博物館に保管されてお
り,上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに
登録されている.本報告中で用いられている研究
機関略号は以下の通り:BSKU -高知大学理学部
海洋生物学研究室;KAUM -鹿児島大学総合研
究博物館;KPM -神奈川県立生命の星・地球博
物館;WMNH-PIS-WW -和歌山県立博物館池田
魚類コレクション;YCM -横須賀市自然・人文
博物館.
結果と考察
Antigonia capros Lowe, 1843
ヒシダイ (Fig. 1; Table 1)
標本 9 個体(体長 138.9–159.6 mm):KAUM–
I. 52274,体長 146.7 mm,大隅諸島種子島西之表
市国上沖(30°49′N, 131°01′E;種子島漁協市場で
購入),2012 年 10 月 31 日,釣り,高山真由美;
KAUM–I. 66172, 体長 150.3 mm,KAUM–I. 66173,
体長 151.4 mm,KAUM–I. 66174,体長 159.6 mm,
ト カ ラ 列 島 東 方 沖 屋 久 新 曽 根(30°49′N,
131°01′E;種子島中種子町熊野漁港で拾得),水
深 100 m,2014 年 9 月 17 日,釣り,畑 晴陵・
高 山 真 由 美;KAUM–I. 66321, 体 長 143.2 mm,
KAUM–I. 66322,体長 145.0 mm,KAUM–I. 66323,
171
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1. Fresh specimens of Antigonia capros. A: KAUM–I. 70802, 138.9 mm standard length (SL), Yoron-jima island in the Amami Islands,
Kagoshima Prefecture, Japan; B: KAUM–I. 66172, 150.3 mm SL, north of the Tokara Islands, Kagoshima Prefecture, Japan.
体長 150.7 mm,大隅諸島種子島西之表市田之脇
棘条は背鰭第 1 軟条よりも短い.背鰭第 1 軟条は
沖田之脇曽根(30°41′N, 131°05′E;種子島漁協市
総排泄孔前縁直上に位置する.背鰭基底後端は臀
場で購入),110–210 m,釣り,KAUM 魚類チーム;
鰭第 28–32 軟条起部直上に位置する.腹鰭起部は
長 140.5 mm,KAUM–I.
背鰭起部よりもわずかに前方に位置する.腹鰭基
70802,体長 138.9 mm,奄美群島与論島フンチュ
底後端は背鰭第 3–5 棘条起部直下に位置する.た
崎沖(27°00′19″N, 128°23′43″E),水深 300–500 m,
たんだ腹鰭棘条後端は臀鰭第 2–3 棘条起部に達
2015 年 3 月 13 日,釣り,阿野鉄志.
し,たたんだ腹鰭後端は臀鰭第 3 棘条から第 2 軟
KAUM–I. 70801,
体
記載 計数形質と体各部の体長に対する割合
条の起部に達する.臀鰭起部は背鰭第 3–4 軟条起
を Table 1 に示した.体は菱形に近い形状をして
部 直 下 に 位 置 し, 臀 鰭 第 1 軟 条 起 部 は 背 鰭 第
おり,強く側扁する.吻部背縁はやや凹み,眼の
7–12 軟条起部直下に位置する.臀鰭基底後端は
上方で盛り上がる.体背縁は胸鰭起部直上部で緩
背鰭基底後端よりも後方に位置する.臀鰭棘条は
やかに弧状となり,腹鰭起部直上付近から背鰭起
第 1 棘条が最長で,後方のものほど短くなる.臀
部にかけて再び盛り上がる.体腹縁は下顎先端か
鰭第 3 棘条は臀鰭第 1 棘条よりも短い.背鰭と臀
ら臀鰭基底後端にかけて腹鰭起部を頂点とした放
鰭の軟条の基底部は被鱗する.尾鰭は截形で,後
物線に近い弧を描く.尾柄部の体背縁および体腹
縁は中央部がわずかに膨らむ.各鰭の棘条の前縁
縁は体軸と平行で直線状.体高は頭長の 262.4–
には顆粒状の骨質突起が多数あるが,側面は滑ら
296.4% と非常に高く,背鰭起部で最大.胸鰭起
か.背鰭第 3 棘条及び腹鰭第 1 棘条の側面には棘
部は鰓蓋後縁直下かやや後方に位置し,胸鰭基底
条後端から基底部にかけて走る多数の骨質条線が
後端は腹鰭起部よりもわずかに前方に位置する.
ある.眼および瞳孔は円形.鼻孔は 2 対で前鼻孔
背鰭起部は腹鰭起部よりもわずかに後方に位置す
と後鼻孔は互いに近接し,眼の前縁前方に位置す
る.背鰭第 1 棘条は極めて小さい.背鰭第 3 棘条
る.前後の鼻孔はともに円形.前鼻孔の後縁に前
は背鰭棘条の中で最長で,非常に太い.背鰭第 8
鼻孔より小さい皮弁を有する.眼の上方の一点を
172
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
中心に放射状に延びる多数の骨質条線がある.総
椎名,2009;高木ほか,2010;三浦,2012;中坊・
排泄孔は前後方向に長い楕円形を呈し,腹鰭基底
甲斐,2013),種子島,トカラ列島東方沖,与論
後端と臀鰭起部のほぼ中間に位置する.前鰓蓋骨
島(本研究)からの報告がある.
および主鰓蓋骨の後縁は円滑.前鰓蓋骨および間
備考 鹿児島県産の標本は背鰭棘条数が 8 で
鰓蓋骨下縁は鋸歯状.口は体軸に対しほぼ垂直で
あること,眼の後方の背縁がやや凹むこと,吻が
小さく,主上顎骨後端は前鼻孔前縁に達しない.
短いこと,口が体軸に対しほぼ垂直であること,
吻端は尖り,短い.下顎は僅かに突出する.体は
体高が体長と等しいか体長よりも大きいこと,背
固くて剥がれにくい櫛鱗に被われる.吻部は無鱗.
鰭 軟 条 数 が 34–37 で あ る こ と, 臀 鰭 軟 条 数 が
背鰭前方鱗被鱗域前縁は瞳孔中央部の間に達す
31–34 であることなどが清水(1983)や Parin and
る.前鰓蓋骨は被鱗せず,体軸に平行な骨質条線
Boroduina (2006),金(2009),中坊・甲斐(2013)
が多数はいる.両顎に細かい円錐歯を多く有する.
の報告した Antigonia capros の標徴とよく一致し
側線は完全で,鰓蓋上方から尾鰭基底にかけて体
たため,本種と同定された.
背縁と平行に走る.
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部から背鰭起部にか
Antigonia capros を日本から初めて報告したの
は Jordan et al. (1913) であると思われる.彼らは
けての背面は紅色.背鰭起部より後方の体側上部
および尾柄部は薄紅色.腹鰭起部よりも前方の体
側下部および頭部側面は桃色がかった銀色を呈す
る.臀鰭起部よりも後方の体側は赤みを帯びた桃
色.背鰭起部から腹鰭起部にかけて幅の広い赤色
横帯がはいる.眼の上方から下方にかけて眼径よ
Table 1.Counts and measurements, expressed as percentages of
standard and head lengths, of specimens of Antigonia capros
from Tanega-shima and Yoron-jima islands and the Tokara
Islands in the Ryukyu Islands, southern Japan. Means in
parentheses.
りも幅の狭い赤色横帯がはいる.体腹縁,背鰭基
底部,臀鰭基底部および腹鰭軟条部は濃赤色.各
鰭棘条は赤みがかった白色半透明で,先端ほど半
透明になる.背鰭鰭膜は白色で,棘条部基底部は
濃赤色を呈する.背鰭軟条および臀鰭軟条は淡い
赤色.胸鰭は一様に濃い紅色.尾鰭軟条は白色が
かった橙赤色で,尾鰭鰭膜は半透明の乳白色.虹
彩は鮮やかな赤色または金色で,瞳孔は漆黒.
固定後の色彩 ― 体側は一様に淡い象牙色とな
る.各鰭の棘条及び軟条は乳白色となる.
分布 韓国,台湾,中国海南島,インドネシア・
カイ諸島,オーストラリア北岸,ハワイ島から光
孝海山にかけての太平洋,西インド洋,メキシコ
湾およびカリブ海に広く分布する(Mori, 1952;
清水,1983;Shen, 1984; Kim et al., 2005; Parin and
Boroduina, 2006;金,2009;中坊・甲斐,2013).
日本国内では福島県,房総半島東岸から豊後水道
にかけての太平洋沿岸,富山湾と島根県浜田市沖
の日本海沿岸,八丈島,小笠原諸島,大隅諸島馬
毛島沖,トカラ列島中ノ島沖,沖縄島,東シナ海,
九州 ― パラオ海嶺(中原,1962;青木,1984;
Standard length (SL; mm)
Counts
Dorsal-fin spines
Dorsa-fin soft rays
Anal-fin spines
Anal-fin soft rays
Pectoral-fin rays
Pelvic-fin spines
Pelvic-fin soft rays
Measurements (% of SL)
Body depth
Caudal-peduncle depth
Caudal-peduncle length
Head length
Bony orbit diameter (horizontal)
Snout length
Interorbital width
Upper jaw length
Pre-dorsal-fin distance
Pre-anal-fin distance
Pre-pectoral-fin distance
Pre-pelvic-fin distance
Between abdominal and anal fins
Total length of dorsal-fin base
Length of base of spiny dorsal-fin
Length of base of soft dorsal-fin
Length of anal-fin base
Measurements (% of HL)
Bony orbit diameter (horizontal)
Snout length
Interorbital width
Upper-jaw length
Antigonia capros
Ryukyu Islands
n=9
138.9–159.6
8
31–34
3
31–34
14–15
1
5
100.0–111.8 (106.1)
14.2–15.7 (14.8)
4.3–6.3 (5.4)
36.4–39.1 (38.0)
14.0–15.4 (14.9)
9.4–11.0 (10.1)
9.9–11.1 (10.4)
8.5–9.6 (9.0)
59.2–66.5 (62.8)
80.4–87.0 (84.1)
37.9–42.1 (40.0)
71.9–78.4 (74.7)
15.6–18.9 (16.8)
63.2–68.5 (65.4)
12.0–13.4 (12.7)
50.9–59.8 (56.1)
53.0–59.8 (56.1)
37.9–40.3 (39.2)
25.0–28.2 (26.5)
25.6–29.4 (27.5)
21.7–25.9 (23.8)
173
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
東京魚市場で水揚げされた個体を A. steindachneri
福島県にかけて広く分布することを示唆する.ヒ
として報告し,和名ヒシダイ,またはヨコダイを
シダイがこれまで薩南諸島からほとんど報告され
提唱した.しかし,本種に対してヨコダイの呼称
てこなかった理由は,本種が比較的深い海域に生
を用いた報告は,本研究では Jordan et al. (1913)
息 す る( 井 田,1982; 町 田,1984, 1985; 稲 田,
の他に確認できず,また中坊(2000)も本種の和
2002b)ことに加え,体幅が薄く,可食部が少な
名をヒシダイとした.なお,Jordan et al. (1913) で
いことや体が硬く調理が難しいことなどから,漁
用 い ら れ た A. steindachneri は 現 在,A. capros の
獲されても利用されることは稀であり(稲田,
新 参 異 名 と さ れ て い る( 松 原,1955;Berry,
2002b),市場に流通することがほとんどなく,標
1959).
本が得られにくかったためと考えられる.記載標
また,中原(1962)は馬毛島西方沖と中ノ島
本のうち,種子島と与論島で漁獲されたものにつ
北東沖からそれぞれ全長 4.75 mm と全長 3.20 mm
いても,漁獲後,漁業者によって自家消費あるい
のヒシダイの後期仔魚を 1 個体ずつ報告した.そ
は廃棄される予定であった.
の後,井田(1982)は本種を九州 ― パラオ海嶺
から,青木(1984)は 3 個体を小笠原諸島から報
謝辞
告 し た. 町 田(1985) は 沖 縄 舟 状 海 盆 の 水 深
本報告を取りまとめるにあたり,標本の採集
182–250 m か ら 2 個 体(BSKU 29546, 32668; 体
に際しては,種子島漁業協同組合,南種子町漁業
長 85–131 mm)のヒシダイを報告した.中坊(1995)
協同組合ならびに与論町漁業協同組合の関係者の
は和歌山県西牟婁郡白浜町日置から釣獲されたヒ
皆様,与論町の阿野鉄志氏に多大なご協力を頂い
シダイ 1 個体を,稲田(2002b)は本種を和歌山
た.鹿児島大学博物館魚類分類学研究室の小枝圭
県西牟婁郡白浜町から水中写真に基づき報告し
太氏と吉田朋弘氏には,本稿に対し適切な助言を
た.Senou et al. (2006) は伊豆大島沖の水深 150 m
数多く頂いた.これらの方々に謹んで感謝の意を
から釣獲されたヒシダイ 1 個体
(KPM-NI 8347)
を,
表する.標本の作成・登録作業などを手伝ってく
高木ほか(2010)は愛媛県南宇和郡愛南町から巻
ださった原口百合子氏をはじめとする鹿児島大学
き網で得られた体長 8 cm の本種 1 個体を報告し
総合研究博物館ボランティアの皆さまと同博物館
た.三浦(2012)は本種が稀に沖縄島近海で釣獲
魚類分類学研究室の皆さまに厚く御礼を申し上げ
され,アンダフヤナーと称されることを報告した.
る.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿
山田ほか(2013)は伊豆大島から釣獲されたヒシ
児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環
ダ イ 1 個 体(YCM-P 45050; 体 長 170 mm) を,
として行われた.本研究の一部は JSPS 科研費
池田・中坊(2015)は和歌山県新宮市および西牟
(19770067,23580259,24370041, 26241027,
婁郡白浜町から得られた本種 5 個体[WNHN-PIS-
26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南
WW 11504 (5), 11502 (1 · 2), 11504 (3 · 4), 体 長
アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー
88–169 mm]をそれぞれ報告した.なお,吉野ほ
ク構築」
,総合地球環境学研究所「東南アジア沿
か(1975)は本種を琉球列島から報告したが,詳
岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プロ
細な産地などの記載はなく,また標本に基づくも
ジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様性
のであるかは不明である.
ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
したがって,これまで鹿児島県内においてヒ
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
シダイの成魚は報告されておらず,記載標本は,
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
鹿児島県ならびに薩南諸島における本種の成魚の
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
標本に基づく初めての記録となる.ヒシダイの鹿
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
児島県での採集記録は,国内における本種の分布
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
の空白域を埋めるものであり,本種が沖縄県から
174
助を受けた.
RESEARCH ARTICLES
引用文献
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175
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
176
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県黒島沖の大陸斜面域から得られた底生魚類および
ギンザメ科アカギンザメ Hydrolagus mitsukurii の記録
1
2
福井美乃 ・松沼瑞樹 ・本村浩之
1
3
〒 890–0065 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(大学院水産学研究科)
2
〒 851–2213 長崎市以良町 1551–8 水産総合研究センター西海区水産研究所
3
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
東シナ海の魚類相に関する研究は,沖縄舟状
海盆とその周辺海域で採集された魚類を報告した
岡村・北島(1984)や琉球列島周辺の底生魚類を
報告した Shinohara et al. (2005),東シナ海全域と
黄海でみられる主に水産有用種をあつかった山田
ほか(2007)などがある.九州周辺については,
古橋ほか(2010)が長崎県南西沖の東シナ海大陸
棚斜面域から 60 科 127 種の底生魚類を記録した
ほ か, 小 沢(1983) が 鹿 児 島 県 枕 崎 沖 の 水 深
300–400 m から得られた 111 種の魚類を報告して
いる.九州周辺海域の大陸棚斜面に生息する底生
魚類の記録は少なく,とくに鹿児島県が位置する
九州南西部周辺からの記録は,前述の小沢(1983)
に限られる.
2013 年 7 月に鹿児島県上三島の黒島沖(Fig. 1),
は沖縄舟状海盆および九州西部の大陸棚斜面域か
ら記録されていた(中坊ほか,2013).鹿児島県
において,本種は小沢(1983)により枕崎沖から
報告されているものの,その標本は現存していな
い.また,鹿児島県の軟骨魚類相を網羅的に調査
した山下ほか(2012)は本種を記録していない.
そこで,分布情報の蓄積を目的として,黒島沖か
ら得られた底生魚類を報告するとともに,アカギ
ンザメを標本に基づく鹿児島県からの初記録とし
て,詳細に記載し報告する.
材料と方法
標本の計測は Didier (2002) にしたがい,デジタ
ルノギスを用いて 0.1 mm までの精度で計測した.
生鮮時の体色の記載は,ホルマリン固定前に撮影
された標本のカラー写真に基づく.色彩の表記は
水深 300–400 m からクダヒゲエビ類(たかえび)
を対象とした底曳網漁によって,18 科 23 種の底
生魚類が採集された.このうち,ギンザメ科のア
カギンザメ Hydrolagus mitsukurii (Jordan and Snyder,
1904) は東アジア周辺海域に分布し,日本では本
州沿岸と東シナ海から知られ,東シナ海において
Fukui, Y., M. Matsunuma and H. Motomura. 2015. A list of
demersal fishes collected from off Kuro-shima island in
the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan,
with record of Hydrolagus mitsukurii (Chimaeriformes:
Chimaeridae). Nature of Kagoshima 41: 177–186.
HM: the Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@
kaum.kagoshima-u.ac.jp).
Fig. 1. Sampling locality (star) in the present study.
177
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 2. Overall body (A) and head (B) of fresh specimen of Hydrolagus mitsukurii off Kuro-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan.
KAUM–I. 55544, 296.7 mm TL.
財団法人色彩研究所(2001)の系統色名に準拠し
た.標本の作製は本村(2009)にしたがった.標
準和名および学名は原則的に中坊(2013)にした
がった.リスト中の科の掲載順は中坊(2013)に
したがい,科内では各種をアルファベット順に掲
載した.体長と SL は標準体長を,TL は全長を
示す.本報告で用いた標本は,鹿児島大学総合研
究博物館(KAUM)に保管されており,その採
集データは下記のとおり.鹿児島県上三島黒島沖
(30°59′26″N,129°34′35″E),水深 300–400 m,折
田 水 産, 底 曳 網,2013 年 7 月 16 日.Fig. 1 は
Quantum GIS 2.2 (Quantum GIS Development Team
2014) を用いて作図した.
178
結果と考察
Hydrolagus mitsukurii (Jordan and Snyder, 1904)
アカギンザメ (Fig. 2;Table 1)
標本 KAUM–I. 55544,全長 296.7 mm.
記載 計測値と体長に対する割合を Table 1 に
示した.体は長く,後方へ向かって著しく側偏す
る;尾鰭の糸状部は著しく長い.体高は低く,第
一背鰭棘基部で最大.頭部は側面からみて上底の
長い台形;頭部および躯幹部は正面から見て下方
が膨らんだ楕円形.頭部感覚管はよく発達する
(Fig. 2B).体側部側線は,頭部後方から始まり,
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
胸鰭基部直上で一度上昇した後,緩やかに下降す
は躯幹長の 1.9 %.第二背鰭と背側尾鰭基底は密
る;躯幹部前方ではごくわずかに波打つ;第二背
接する.臀鰭はない.胸鰭はひじょうに大きく,
鰭基底後端直下までの側線の溝は小柔毛状突起で
起点は第一背鰭棘直下にある;胸鰭長は躯幹長の
覆われる.頭部は大きく,頭長は全長の 31.6 %;
32.7 %;たたんだ胸鰭後端は総排泄孔を超える.
頭部背面の輪郭は眼の前方から下方へ向く.吻は
腹鰭は大きく,その基部は第二背鰭基部より後方
前方にやや張り出す;吻端はひじょうに柔軟.鼻
に位置する;腹鰭後端は鋭角に尖る;腹鰭長は躯
口溝は大きく,内側の皮弁が露出する;両鼻口溝
幹長の 19.4 %.
の間隔はひじょうに狭い.鰓孔は小さく,下方に
色彩 生鮮時の色彩 ― 頭部側面は銀色(Fig.
開く.眼は大きく,横長の楕円形;眼径は頭長の
2).躯幹部体側は明るいグレイ.躯幹部後方から
46.8 %.口はひじょうに小さく下方につく;口裂
尾鰭後端にかけて灰みの白.体の背縁は薄い黒色.
の後端は眼窩前端の直下に位置する;唇皺の切れ
第一背鰭棘は半透明で前面は暗いグレイ.第一背
込みは深い;歯は両顎ともに癒合し,口を閉じた
鰭鰭膜は暗いグレイで,先端にかけて明るいグレ
とき露出する;歯の内側一面には微小な突起が密
イから半透明になる.第二背鰭は暗いグレイ,基
に並び,その突起は下方につれて小さくなる.各
部と背鰭縁辺は灰みの白.胸鰭は紫みのグレイ,
鰭の先端は柔らかく,よく尖る.第一背鰭基部は
基部と先端は灰みの白.腹鰭は胸鰭と同様.
胸鰭基部前端の直上に位置する;第一背鰭棘の後
ホルマリン固定後の色彩 ― 体は黄みの白で,
縁は鋸歯状;下方の鋸歯状の棘は比較的柔らかい;
背部は暗いブラウンみのグレイ.体側中央前方,
第一背鰭縁鰭膜の縁辺は細く切れ込む.第二背鰭
たたんだ胸鰭の縁辺に接する部分に,輪郭が不明
基部は第一背鰭基底後端とよく隣接し,その間隔
瞭な黒色縦帯がある.腹部は暗いグレイ.第一背
Table 1. Morphometrics, expressed as percentages of body length, of Hydrolagus mitsukurii collected off Kuro-shima island,
Prefecture, Japan.
KAUM–I. 55544
Codes used in Didier (2002) Measurements
(mm)
TL
Total length
296.7
BDL
Body length
127.9
PCL
Pre-caudal-fin length
158.9
SVL
Snout-vent length
75.8
TRL
Trunk length
43.5
PD2
Pre-second-dorsal-fin length
64.1
POB
Preorbital length
10.4
D2B
Second dorsal-fin base length
95.5
D2AH
Anterior second dorsal-fin height
3.3
D2PH
Posterior second dorsal-fin height
3.5
D1B
First dorsal-fin base length
26.5
DSA
Dorsal-spine length
25.4
D1H
First dorsal-fin height
21.7
CDM
Caudal dorsal margin length
2.8
CDH
Dorsal caudal-fin height
2.7
HDL
Head length
40.4
P1A
Pectoral-fin anterior margin length
42.8
P2A
Pelvic-fin anterior margin length
21.1
IDS
Interdorsal space length
11.3
PPS
Posterior base of pectoral fin to anterior base of pelvic fin
33.0
D1P1
Anterior edge of first dorsal-fin base to anterior edge of pectoral-fin base
21.6
D1P2
Anterior edge of first dorsal-fin base to anterior edge of pelvic-fin base
41.5
D2P1
Anterior edge of second dorsal-fin base to anterior edge of pectoral-fin base
35.5
D2P2
Anterior edge of second dorsal-fin base to anterior edge of pelvic-fin base
20.2
EYL
Eye length
18.9
EYH
Eye height
7.3
Kagoshima
(%BDL)
232.0
—
124.2
59.3
34.0
50.1
8.1
74.7
2.6
2.7
20.7
19.9
17.0
2.2
2.1
31.6
33.5
16.7
8.8
25.8
16.9
32.4
27.8
15.8
14.8
5.7
179
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鰭棘は半透明,その前面は暗いグレイ.第一背鰭
基部は暗いグレイ,先端は明るいグレイで縁辺へ
むかうにつれて半透明になる.第二背鰭は暗いグ
レイ,基部と先端は灰みの白.胸鰭基部は紫みの
グレイ,胸鰭基部は灰みの白,縁辺は暗いブラウ
ンみのグレイ.胸鰭内側は一様に暗いグレイ,基
底から半円状に黒色帯,半円の外側は幅狭の黄み
の白の輪郭が不明瞭な帯が広がる.腹鰭も胸鰭と
同様であるが,半円状黒色帯はない.
分布 本種は,日本,朝鮮半島南部,台湾南部,
およびフィリピン諸島ルソン島など東アジア周辺
海域に分布する(Compagno et al., 2005;中坊ほか,
2013).日本において,本種は北海道南部,新潟県,
千葉県から土佐湾までの本州・四国の太平洋沿岸,
および九州南西沖から石垣島沖に至る東シナ海の
大陸棚斜面域に分布し,水深 300–980 m から記録
されている(小沢,1983;Shinohara et al., 2005;
古橋ほか,2010;本研究).
備考 調査標本は,臀鰭を欠くこと,頭部背
縁が目の前方で下方を向くこと,側線上方に破線
状横帯がないこと,第一背鰭棘後縁が鋸歯状であ
ること,尾鰭の糸状部が著しく伸長することなど
RESEARCH ARTICLES
黒島沖陸棚斜面域から得られた魚類
本研究において,鹿児島県上三島黒島沖の水
深 300–400 m から 18 科 23 種の魚類が記録された.
本目録では,各種の備考に鹿児島県九州本土周辺
の東シナ海陸棚斜面域からの記録を示した.大陸
陸棚斜面における魚類群衆構造は水深によって明
確に区分されることが知られており(堀川・通山,
1985;後藤,2000, 2003 など)
,鹿児島県周辺海
域の底生魚類相を解明するには,様々な地域での
幅広い水深帯での調査が必要である.
CHIMAERIDAE ギンザメ科
Hydrolagus mitsukurii (Jordan and Snyder, 1904)
アカギンザメ (Fig. 2)
前項を参照.
ETMOPTERIDAE カラスザメ科
Etmopterus molleri (Whitley, 1939)
ヒレタカフジクジラ (Fig. 3)
標本 KAUM–I. 55542,全長 283.9 mm;KAUM–I.
55543,全長 180.0 mm.
の特徴をもち,Jordan and Snyder (1904) や中坊ほ
か(2013) が 示 し た ア カ ギ ン ザ メ Hydrolagus
mitsukurii の特徴とよく一致したため,本種に同
定された.
山田ほか(2013)は,本種の漁獲水深を 515–
980 m としているが,本種は古橋ほか(2010)に
より長崎南西部の水深 414–508 m から,Shinohara
et al. (2005) により九州南西部沖陸棚斜面の水深
499–500 m から記録されている.また,小沢(1983)
は枕崎沖の水深 300–400 m から本種を記録してお
り,九州沿岸の大陸棚斜面域では 400 m 以浅から
Fig. 3. Overall body (A) and head (B) of fresh specimen of
Etmopterus molleri off Kuro-shima island, Kagoshima
Prefecture, Japan. KAUM–I. 55542, 283.9 mm TL.
も漁獲されることがわかる.
本種は 50 cm ほどまで成長すると考えられてい
るが(中坊ほか,2013),本研究で得られた個体
は全長 296.7 mm と若魚であった.本種の年齢と
成長の関係,分布や生態には不明な点が多いため
(山田ほか,2007),今後も標本に基づく採集記録
を蓄積する必要があるだろう.
180
PTEROTHRISSIDAE ギス科
Pterothrissus gissu Hilgendorf, 1877
ギス (Fig. 4)
標本 KAUM–I. 55546,体長 291.7 mm;KAUM–I.
55769,体長 373.0 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
KAUM–I. 55761,
体
長 140.5 mm;KAUM–I.
55762, 体 長 147.3 mm;KAUM–I. 55770, 体 長
118.6 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Fig. 4. Fresh specimen of Pterothrissus gissu off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55546, 291.7
mm SL.
ARGENTINIDAE ニギス科
Argentina kagoshimae Jordan and Snyder, 1902
カゴシマニギス (Fig. 5)
Fig. 6. Fresh specimen of Chlorophthalmus albatrossis off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55541,
140.8 mm SL.
標本 KAUM–I. 55537,体長 167.7 mm;KAUM–
I. 55771,体長 152.3 mm;KAUM–I. 55773,体長
177.4 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
POLYMIXIIDAE ギンメダイ科
Polymixia japonica Günther, 1877
ギンメダイ (Fig. 7)
標本 KAUM–I. 55545,体長 167.0 mm;KAUM–
I. 55717,体長 165.7 mm;KAUM–I. 55718,体長
174.0 mm;KAUM–I. 55723, 体 長 149.8 mm;
KAUM–I. 55749,
体
長 167.9 mm;KAUM–I.
55767,体長 172.1 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Fig. 5. Fresh specimen of Argentina kagoshimae off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. A, KAUM–I. 55537,
167.7 mm SL; B, KAUM–I. 55773, 177.4 mm SL.
CHLOROPHTHALMIDAE アオメエソ科
Chlorophthalmus albatrossis Jordan and Starks, 1904
アオメエソ (Fig. 6)
標本 KAUM–I. 55539,体長 150.0 mm;KAUM–
I. 55540,体長 148.6 mm;KAUM–I. 55541,体長
Fig. 7. Fresh specimen of Polymixia japonica off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55545, 167.0
mm SL.
140.8 mm;KAUM–I. 55725, 体 長 140.1 mm;
KAUM–I. 55726,
体
長 135.6 mm;KAUM–I.
55727, 体 長 129.7 mm;KAUM–I. 55728, 体 長
MORIDAE チゴダラ科
156.8 mm;KAUM–I. 55729, 体 長 133.8 mm;
Physiculus japonicus Hilgendorf, 1879
KAUM–I. 55745,
体
長 136.8 mm;KAUM–I.
チゴダラ (Fig. 8)
55746, 体 長 137.2 mm;KAUM–I. 55747, 体 長
標本 KAUM–I. 55550,体長 156.4 mm.
142.4 mm;KAUM–I. 55760, 体 長 140.7 mm;
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
181
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Coelorinchus kamoharai Matsubara, 1943
イチモンジヒゲ (Fig. 11)
標本 KAUM–I. 55533,全長 270.5 mm.
Fig. 8. Preserved specimen of Physiculus japonicus off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55550,
156.4 mm SL.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
MACROURINAE ソコダラ科
Coelorinchus anatirostris Jordan and Gilbert, 1904
ネズミヒゲ (Fig. 9)
標本 KAUM–I. 55531,全長 348.1 mm;KAUM–
Fig. 11. Fresh specimen of Coelorinchus kamoharai off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55533,
270.5 mm TL.
I. 55752,全長 315.1 mm;KAUM–I. 55753,全長
281.8 mm;KAUM–I. 55775, 全 長 280.5+ mm;
Ventrifossa garmani (Jordan and Gilbert, 1904)
KAUM–I. 55779, 全 長 191.8+ mm;KAUM–I.
サガミソコダラ (Fig. 12)
55780, 全 長 200.4+ mm;KAUM–I. 55781, 全 長
標本 KAUM–I. 55535,全長 195.5+ mm;KAUM–
233.3+ mm;KAUM–I. 55782, 全 長 228.8+ mm;
I. 55536, 全 長 185.2+ mm;KAUM–I. 55763, 全
KAUM–I. 55783, 全 長 290.0+ mm;KAUM–I.
長 190.5+ mm;KAUM–I. 55764, 全 長 228.5+
55784, 全 長 331.7 mm;KAUM–I. 55785, 全 長
mm;KAUM–I. 55778,全長 215.5+ mm.
248.0 mm;KAUM–I. 55786, 全 長 296.5+ mm;
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
KAUM–I. 55787,全長 279.0+ mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Fig. 9. Fresh specimen of Coelorinchus anatirostris off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55531,
348.1 mm TL.
Fig. 12. Fresh specimen of Ventrifossa garmani off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55535, 195.5+
mm TL.
CHAUNACIDAE フサアンコウ科
Chaunax tosaensis Okamura and Oryuu, 1984
Coelorinchus hubbsi Matsubara, 1936
ハナグロフサアンコウ (Fig. 13)
モヨウヒゲ (Fig. 10)
標本 KAUM–I. 55554,体長 251.3 mm;KAUM–
標本 KAUM–I. 55532,全長 230.2+ mm;KAUM–
I. 55555,体長 148.3 mm;KAUM–I. 55754,体長
I. 55534,全長 250.0+ mm.
203.5mm;KAUM–I. 55759, 体 長 144.5 mm;
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
KAUM–I. 55788,体長 162.0 mm.
備 考 Caruso (1989) は, 根 拠 を 示 さ ず に C.
tosaensis が Chaunax penicillatus McCulloch, 1915
の新参異名である可能性を指摘した.その後,
Ho et al. (2013) は,形態・遺伝的比較の結果,両
名義種のシノニム関係を確認したと述べたが,そ
Fig. 10. Fresh specimen of Coelorinchus hubbsi off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55532, 230.2+
mm TL.
182
の詳細は未発表であり,やはり具体的根拠は示さ
れていない.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 15. Fresh specimen of Helicolenus hilgendorfi off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55547, 169.1
mm SL.
SCORPAENIDAE フサカサゴ科
Fig. 13. Lateral (A) and dorsal (B) views of fresh specimen
of Chaunax tosaensis off Kuro-shima island, Kagoshima
Prefecture, Japan. A, KAUM–I. 55754, 203.5 mm SL; B,
KAUM–I. 55554, 251.3 mm SL.
Setarches longimanus (Alcock, 1894)
アカカサゴ (Fig. 16)
標本 KAUM–I. 55548,体長 170.7 mm;KAUM–
I. 55720,体長 125.8 mm; KAUM–I. 55721,体長
BERYCIDAE キンメダイ科
Beryx mollis Abe, 1959
フウセンキンメ (Fig. 14)
標本 KAUM–I. 55559,体長 123.6 mm;KAUM–
I. 55748,体長 117.0 mm.
111.1 mm;KAUM–I. 55722, 体 長 109.8 mm;
KAUM–I. 55740,
体
長 151.7 mm;KAUM–I.
55741, 体 長 127.8 mm;KAUM–I. 55742, 体 長
94.9 mm;KAUM–I. 55755,
KAUM–I. 55756,
体
体
長 117.3 mm;
長 116.9 mm;KAUM–I.
55757, 体 長 104.0 mm;KAUM–I. 55758, 体 長
142.7 mm;KAUM–I. 55768,体長 128.0 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Fig. 14. Fresh specimen of Beryx mollis off Kuro-shima island,
Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55559, 123.6 mm SL.
Fig. 16. Fresh specimen of Setarches longimanus off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55548, 170.7
mm SL.
SEBASTIDAE メバル科
Helicolenus hilgendorfi (Döderlein, 1884)
ユメカサゴ (Fig. 15)
標本 KAUM–I. 55547,体長 169.1 mm;KAUM–
I. 55719,体長 122.4 mm;KAUM–I. 55743,体長
150.6 mm;KAUM–I. 55744,体長 148.3 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
PERISTEDIIDAE キホウボウ科
Peristedion orientale Temminck and Schlegel, 1843
キホウボウ (Fig. 17)
標本 KAUM–I. 55556,体長 115.0 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
183
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
ACROPOMATIDAE ホタルジャコ科
Malakichthys elegans Matsubara and Yamaguti, 1943
ナガオオメハタ (Fig. 20)
Fig. 17. Preserved specimen of Peristedion orientale off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55556,
115.0 mm SL.
標本 KAUM–I. 55530,体長 124.4 mm;KAUM–
I. 55750,体長 116.1 mm;KAUM–I. 55751,体長
125.3 mm;KAUM–I. 55772,体長 121.9 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Scalicus amiscus (Jordan and Starks, 1904)
ヒゲキホウボウ (Fig. 18)
標本 KAUM–I. 55551,体長 172.9 mm;KAUM–
I. 55552,体長 161.0 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Fig. 20. Fresh specimen of Malakichthys elegans off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55530, 124.4
mm SL.
Fig. 18. Preserved specimen of Scalicus amiscus off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55551, 172.9
mm SL.
Synagrops japonicus (Döderlein, 1883)
スミクイウオ (Fig. 21)
HOPLICHTHYIDAE ハリゴチ科
標本 KAUM–I. 55538,体長 161.7 mm;KAUM–
Hoplichthys gilbert Jordan and Richardson, 1908
I. 55774,体長 156.5 mm.
ソコハリゴチ (Fig. 19)
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
標本 KAUM–I. 55549,体長 275.0 mm.
備考 小沢(1983)はハリゴチ Hoplichthys regani
Jordan, 1908 を枕崎沖から記録した.Hoplichthys
regani の 分 類 学 的 再 検 討 を 行 っ た Nagano et al.
(2012) によれば,本種の標本は鹿児島湾から得ら
れ た ホ ロ タ イ プ し か 確 認 さ れ て い な い. 小 沢
(1983)が用いた標本は現存せず同定を確認する
ことはできないが,彼のハリゴチはソコハリゴチ
などハリゴチ科他種の誤同定である可能性があ
Fig. 21. Fresh specimen of Synagrops japonicus off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55538, 161.7
mm SL.
る.
NOMEIDAE エボシダイ科
Cubiceps squamiceps (Lloyd, 1909)
Fig. 19. Fresh specimen of Hoplichthys gilberti off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55549, 275.0
mm SL.
ボウズコンニャク (Fig. 22)
標本 KAUM–I. 55558,体長 174.2 mm;KAUM–
I. 55724,体長 156.0 mm;KAUM–I. 55766,体長
152.0 mm.
184
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録し
た.Last (2001) は根拠を示さずに,C. squamiceps
を Psenes whiteleggii Waite, 1894 の 新 参 異 名 と し
た.その後,Parin and Piotrovsky (2004) も同じ見
解を示したが,やはり具体的な根拠は述べられて
いない.
Fig. 24. Fresh specimen of Chascanopsetta lugubris lugubris off
Kuro-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I.
55553, 187.8 mm SL.
謝辞
標本の採集に際しては,折田水産の折田 正
Fig. 22. Fresh specimen of Cubiceps squamiceps off Kuro-shima
island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55558, 174.2
mm SL.
氏をはじめとする折田水産のみなさまに多大なご
協力を頂いた.ソコダラ科魚類の同定について,
高知大学の中山直英氏にご協力を頂いた.また,
本報告を取りまとめるにあたり,標本の作製,登
録について鹿児島大学総合研究博物館魚類分類学
PSYCHROLUTIDAE ウラナイカジカ科
Ebinania brephocephala (Jordan and Starks, 1903)
ボウズカジカ (Fig. 23)
標本 KAUM–I. 55557,体長 85.3 mm.
備考 本種は鹿児島県において,小沢(1983)
により枕崎沖,目黒・本村(2011)により南さつ
ま市野間池沖のともに水深 300–400 m から記録さ
れた.
研究室同研究室の学生諸氏,並びに原口百合子氏
をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン
ティアのみなさまにご協力いただいた.謹んで感
謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合研究
博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ
クト」の一環として行われた.本研究の一部は
JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041,
26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点
事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育
ネットワーク構築」,総合地球環境学研究所「東
南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティー
の向上プロジェクト」,国立科学博物館「日本の
生物多様性ホットスポットの構造に関する研究プ
Fig. 23. Fresh specimen of Ebinania brephocephala off Kuroshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. KAUM–I. 55557,
85.3 mm SL.
ロジェクト」,文部科学省特別経費-地域貢献機
能の充実-「薩南諸島の生物多様性とその保全に
関する教育研究拠点形成」,および鹿児島大学重
点領域研究環境(生物多様性プロジェクト)学長
BOTHIDAE ダルマガレイ科
Chascanopsetta lugubris lugubris Alcock, 1894
ザラガレイ (Fig. 24)
裁量経費「奄美群島における生態系保全研究の推
進」の援助を受けた.
引用文献
標本 KAUM–I. 55553,体長 187.8 mm.
備考 小沢(1983)は本種を枕崎沖から記録した.
Caruso, J. H. 1989. Systematics and distribution of Atlantic
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
シモフリシオマネキの奄美大島における初記録
1
2
鈴木廣志 ・勝 廣光 ・常田 守
1
3
〒 690–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部
2
3
〒 894–0506 鹿児島県奄美市笠利町手花部 311
〒 894–0036 鹿児島県奄美市名瀬長浜町 29–3
はじめに
結果
奄美大島は,南西諸島中央部の中琉球を構成
シモフリシオマネキの形態 今回生息が確認
2
する島嶼の一つで,総面積 709 km と,沖縄島に
されたシモフリシオマネキは,その学名の由来に
次いで大きな島である.沖縄島に比べ山が広く深
なっている通り,甲は強い逆三角形で,その後ろ
いため陸域や陸水域の生物多様性に富んでおり,
半分が黒色で前半分が灰白色の地に小黒点が散在
「東洋のガラパゴス」 とも呼ばれ,固有種も多い
している(図 1).雄の大きなハサミにも同様の
島である(鮫島,1995).
小黒点が散在する.また,歩脚には灰色と黒色の
十脚甲殻類に関する研究は,1963 年の上田に
縞模様や斑模様がみられる.小型個体ではこれら
よる淡水産エビ類に関する研究に始まり,その後
の模様がみられず,全体に白色を呈するものも
汽水 ― 陸水域の甲殻類相(諸喜田,1975, 1979,
あった(図 2).甲幅 16 mm 程度に達する小型種
1989; 武 田,1989a;Shokita & Nishijima, 1976)
である.
や大島海峡の海産異尾類相ならびに短尾類相
生息域 シモフリシオマネキが生息していた
(Baba, 1989; Takeda, 1989b) が 明 ら か に さ れ た.
のは,手花部の国道 58 号線の内側に位置する細
さらに,近年になるとマングローブの潮間帯や飛
流のメヒルギのマングローブがある潮間帯上部
沫転石帯において小型種や希少種の生息も報告さ
で,図 3 中手前のマングローブの根元あたりから
れるにいたった(岸野ほか,2001a, 2001b;野元
上流に向かって 200 m 位までのマングローブ林の
ほか,2002;鈴木ほか,2008).
水路側の軟泥底質の地域であった(図 3).この
このような中,勝と常田は,2005 年頃から本
マングローブは主に右岸側に多くあった.この地
島北部に位置する手花部の細流にあるマングロー
域における底質の状態及び微地形のみが本種の生
ブ 林 に お い て, シ モ フ リ シ オ マ ネ キ Uca
息環境として適していたためなのか,見た目が似
triangularis (A. Milne-Edwards, 1873) のいることを
知り,このたびその個体群の生息を確認したので,
ここに報告する次第である.
Suzuki, H., H. Katsu and M. Tsuneda. 2015. On the new
records of Uca triangularis in Amami-Ohshima Island,
Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 41: 187–
189.
HS: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20
Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: suzuki@
fish.kagoshima-u.ac.jp).
図 1.シモフリシオマネキのオス.
187
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 2.シモフリシオマネキの小型個体.
図 3.シモフリシオマネキの生息地の全景.細流の国道側か
ら上流を望む.
ていた国道より外海側の潮間帯軟泥底質の部分で
ると報告されていた.従って,今回の奄美大島で
は本種の生息は確認できなかった.
の生息確認はその北限域を大きく更新することと
生息個体のサイズをみると,新規加入個体と
なった.岸野ほか(2001b)は今回本種の生息が
思われる小型個体から成熟個体と思われる大型個
確認された地域と全く同じ地域を調査している
体まで見られ,本地域における個体群は十分維持
が,ベニシオマネキとオキナワハクセンシオマネ
されていると思われた.本地域には,本種のほか
キの記録はしているが,本種の生息に関しては全
に,ベニシオマネキ Uca crassipes (White, 1847) や
く記録していない.従って,本種の生息は 2001
オ キ ナ ワ ハ ク セ ン シ オ マ ネ キ Uca perplexa (H.
年以来起こったと考えられる.1995 年以来,本
Milne Edwards, 1852) なども生息していた.
細流は,河川改修,護岸工事等とともに随時メヒ
生息状況 詳細な本種の生息状況は不明であ
ルギの植栽なども進められ,細流の環境が本種の
るが,手花部の細流の潮間帯上部のマングローブ
生息にとって改善されたことによるのかもしれな
林(林内というよりも水路側の地域)には,概ね
い.この点は推測の域を出ないが,ただ言えるの
2
1 m に 10 個体程度が生息していた.この地域は
2
は今後もこの細流の環境を保全することが,本種
約 400 m に及ぶので,単純に見積ると総生息数
ならびに共存するシオマネキ類の保護に確実につ
は 4,000 個体と推定される.しかしながら,この
ながるということである.今後も細流環境の保全
地域にはベニシオマネキやオキナワハクセンシオ
に心がけることを期待する.
マネキなどシオマネキ類だけでも 5 種,その他チ
ゴガニやコメツキガニなども生息しているので,
おそらく本種の生息数は 4,000 個体よりもはるか
に少ないと考えられる.今後正確な生息数の調査
が必要であろう.奄美大島には,手花部以外にも
住用湾のマングローブ林など軟泥底質の潮間帯は
まだ多数存在する.本種がこれら軟泥底質の潮間
帯地域に生息する可能性は十分考えられるが,奄
美大島全域における生息状況は,残念ながら,現
時点では十分把握されていない.
本種は今まで,沖縄島,久米島,石垣島,西
表島及び沖縄諸島以南の西部太平洋地域に分布す
188
引用文献
Baba, K., 1989. Anomuran Crustaceans Obtained by Dredging
from Oshima Strait, Amami-Oshima of the Ryukyu Islands,
Memoirs of the National Science Museum, 22: 127–134.
上田常一,1963.奄美大島・屋久島・種子島の淡水エビ類.
島根大学論集(自然科学),13: 1–28.
岸 野 底・ 米 沢 俊 彦・ 野 元 彰 人・ 木 邑 聡 美・ 和 田 恵 次,
2001a.奄美大島から記録された汽水産希少カニ類 12 種.
南紀生物,43(1): 15–22.
岸 野 底・ 野 元 彰 人・ 木 邑 聡 美・ 米 沢 俊 彦・ 和 田 恵 次,
2001b. 奄 美 大 島 の 汽 水 産 カ ニ 類. 南 紀 生 物,43(2):
125–131.
RESEARCH ARTICLES
野元彰人・岸野 底・鈴木廣志,2002.トリウミアカイソ
モドキ(イワガニ科)の日本における南限記録.南紀
生物,44(1): 56–58.
鮫島正道,1995.東洋のガラパゴス ― 奄美の自然と生き物
たち ―.南日本新聞社,177 pp.
諸喜田茂充,1975.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化
について- I.琉球大学理工学部紀要,18: 115–136.
諸喜田茂充,1979.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化
について- II.琉球大学理工学部紀要,28: 193–278.
諸喜田茂充,1989.奄美大島産の陸水産エビ類相と分布,
環境庁自然保護局編,南西諸島における野生生物の種
の保存に不可欠な諸条件に関する研究.昭和 63 年度奄
美大島調査報告書:267–275.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Shokita, S. and S. Nishijima, 1976. Faunal list of inland-water
malacostraca of Amami group, the Ryukyu Islands. Ecological Studies of Nature Conservation of the Ryukyu Island, 2:
31–38.
鈴 木 廣 志・ 藤 田 喜 久・ 組 坂 遵 治・ 永 江 万 作・ 松 岡 卓 司,
2008. 希 少 カ ニ 類 3 種 の 奄 美 大 島 に お け る 初 記 録.
Cancer, 17: 5–7.
武田正倫,1989a.奄美大島産の陸水性カニ類.環境庁自然
保護局編,南西諸島における野生生物の種の保存に不
可欠な諸条件に関する研究.昭和 63 年度奄美大島調査
報告書:277–285.
Takeda, M., 1989b, Shallow-water Crabs from the Oshima Passage between Amami-Oshima and Kakeroma-jima Islands,
the Northern Ryukyu Islands, Memoirs of the National Science Museum, 22: 135–184 with Plate 4.
189
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
190
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
テナガエビ科スジエビの奄美大島における初記録
1
2
鈴木廣志 ・大元一樹 ・光木愛理
1
2
1
〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部
〒 894–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学研究科
はじめに
南西諸島は,鹿児島県種子島から沖縄県与那
国島まで連なる,南北約 1200 km わたる島嶼群で
ある.この地域には生物地理境界線の三宅線,渡
瀬線,及び蜂須賀線の 3 線が設定され,生物地理
学上興味ある地域の 1 つである.そのため陸上の
動植物を中心に多くの生物地理学的研究がなされ
てきた(安間,2001).陸水産十脚甲殻類に関し
ても基礎的調査と同時に,その保全を目的とした
調査研究がなされ,各種の地理的分布が明らかに
さ れ て き た( 鹿 児 島 県 の 自 然 を 記 録 す る 会,
2002; 上 田,1963; 諸 喜 田,1975, 1979, 1989,
1991; Shokita & Nishijima, 1976, 1977; Suzuki et al.,
1993).
その成果の 1 つとして,テナガエビ科スジエ
ビ属のスジエビ Palaemon paucidens De Haan, 1844
の分布南限域が鹿児島県種子島及び屋久島である
ことが明らかにされ,現在に至っている.近年,
沖 縄 島 で 本 種 の 生 息 が 記 録 さ れ た が( 朝 倉,
2011;林,2011;諸喜田,1991, 2003),本州産の
ウナギを放流した際に移入した,国内移入種とさ
れている.従って,自然分布における本種の分布
南限域は種子島,屋久島と言える.
一方で,奄美大島の陸水域にスジエビが生息
することは以前から知られていたが,詳細な調査
Suzuki, H., K. Oomoto, and A. Mitsuki. 2014. On the new
records of palaemonid shrimp, Palaemon paucidens De
Haan, 1844, in Amami-Ohshima Island, Kagoshima
Prefecture. Nature of Kagoshima 41: 191–193.
SH: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20
Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: suzuki@
fish.kagoshima-u.ac.jp).
及び報告はなされてこなかった.このたび奄美大
島の全域調査をする機会に恵まれ,調査した結果,
本種の個体群の生息を確認したので,ここに報告
する次第である.なお,本調査の一部は平成 26
年度科学研究費補助金(基盤研究(A)課題番号:
26241027)により実施された.
材料と方法
調査は,2014 年 8 月 19–21 日に奄美大島全域
を網羅するように 34 点で行い,同年 9 月 27–29
日では主に河川上流部の 16 点で行った(図 1).
生物の採集は,タモ網(目合い 3.0 mm)並びに
叉網(目合い 5.0 mm)を下流側に設置し,Kick
and Sweep 法で行った.採集時には網を入れた回
数を記録して,後の採集個体数の平準化に用いた.
採集した標本は,70–90% アルコールで固定,保
存し実験室に持ち帰った.
結果と考察
今回の調査において,スジエビは 50 調査地点
中 4 地点で採集された(図 2).各地点の相対的
生息数は 0.1–0.5 個体/網と少なかったが,嘉徳
川及び川内川では比較的多くの生息数(0.5 個体
/網)が確認された.嘉徳川では下流の地点(図
3)に集中して生息しているように思われたが,
その流呈分布までは明らかにできなかった.また,
奄美大島で採集されたスジエビは,その模様(図
4)から俗に言う陸封型と思われたが,残念なが
ら抱卵個体が採集されず,卵径,卵数からの推定
はできなかった.
本種は前述したように,自然分布としての報
告は,鹿児島県の種子島,屋久島以北,北海道,
191
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図1.調査地点(青□)を示す.
図 2.スジエビの奄美大島における分布状況.○の大きさは 1 網当たりの採集個体数を半径としたもの.
192
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 3.奄美大島南部,嘉徳川の下流部の様子.
エトロフ,サハリンまでの東アジアの温帯 – 寒帯
地域である.今回の奄美大島での生息確認は自然
分布における南限域を更新することとなった.更
に,その生息数が他のテナガエビ類に比べ低く早
急な保全対策を講じる必要性も分かった.ただ,
今回の調査が 8–9 月の夏期 1 回であり,かつ抱卵
個体が得られなかったため,奄美大島の個体群が
両側回遊型なのか陸封型なのかは断定できなかっ
図 4.採集されたスジエビの背面および側面.
た.今後は定期的な個体群生態学的調査により,
生息数,繁殖様式,新規加入数とその時期,並び
に成長などを明らかにし,本個体群の特性を究明
し,南限域個体群の保全に資する必要がある.
引用文献
朝倉 彰,2011.淡水産コエビ下目の生物地理.川井唯史・
中田和義編著,エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類の
保全と生物学.生物研究社,東京,74–102.
林 健一,2011.世界の淡水甲殻十脚類.川井唯史・中田
和義編著,エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類の保全
と生物学.生物研究社,東京,8–38.
鹿児島の自然を記録する会編,2002.川の生き物図鑑.南
方新社,鹿児島市,386 p.
上田常一,1963.奄美大島・屋久島・種子島の淡水エビ類,
島根大学論集(自然科学),13: 1–28.
諸喜田茂充,1975.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化
について- I.琉球大学理工学部紀要,18: 115–136.
諸喜田茂充,1979.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化
について- II.琉球大学理工学部紀要,28: 193–278.
諸喜田茂充,1989.奄美大島産の陸水産エビ類相と分布.
環境庁自然保護局編,南西諸島における野生生物の種
の保存に不可欠な諸条件に関する研究.昭和 63 年度奄
美大島調査報告書:267–275.
諸喜田茂充,1991.琉球列島の陸産・陸水産甲殻類とその
保護.環境庁自然保護局編,平成 2 年度南西諸島にお
ける野生生物の種の保存に不可欠な諸条件に関する研
究報告書:394–407.
諸喜田茂充,2003.テナガエビ科 Palaemonidae.西島信昇
監修,西田睦・鹿谷法一・諸喜田茂充編著,琉球列島
の陸水生物,255–261.
Shokita, S. and S. Nishijima, 1976. Faunal list of inland-water
malacostraca of Amami group, the Ryukyu Islands. Ecological Studies of Nature Conservation of the Ryukyu Island, 2:
31–38.
Shokita, S. and S. Nishijima, 1977. Land and inland-water crustaceans of Northeastern Ryukyus, the Ryukyu Islands. Ecological Studies of Nature Conservation of the Ryukyu Islands(III): 185–202.
Suzuki, H., N. Tanigawa, T. Nagatomo and E. Tsuda, 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atiydae
and Palaemonidae) from Southern Kyushu and adjacent
islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research,
22: 55–64.
安間繁樹,2001.琉球列島-生物の多様性と列島のおいた
ち-.東海大学出版会,東京都,195 p.
193
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
194
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美群島請島のアリ
福元しげ子・山根正気
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
アメイロアリはこれまで分布南限が大隅諸島とさ
はじめに
請島は奄美群島加計呂麻島の南方に位置し
(Fig. 1),行政上は鹿児島県大島郡瀬戸内町に属
2
する.面積は 13.34 km ,人口は 161 人(鹿児島県,
2010)の島である.
これまで奄美群島からは,喜界島 17 種,奄美
大島 81 種,加計呂麻島 23 種,徳之島 53 種,沖
永良部島 51 種,与論島 29 種の合計 88 種(山根
ほ か,1999; 下 野・ 山 根,2003; 原 田 ほ か,
2014;寺山ほか,2014)のアリが報告されている.
これまでに請島と与路島からは報告はない.今回,
請島で 18 属 30 種のアリを採集できたので報告す
る.
調査地と調査方法
れていたが(日本蟻類データベースグループ,
2001),最近徳之島までのいくつかの島で採集さ
れており,奄美大島からも採集される可能性が高
い.しかし,このグループの分類と分布は今後抜
本的に再検討の必要がある.これらのことから,
請島のアリ相は基本的には奄美大島のアリ相の部
分をなすと考えていいと思われる.請島では採れ
たが,加計呂麻島からは記録のない種がかなりあ
るが,これは加計呂麻島における調査が不十分で
あるためであろう.
今回はサンプリングに使えた時間が短く,ま
た調査できたのは島のごく一部であった.とくに
土中,石下,朽木などで多くみられるハリアリ・
ノコギリハリアリ・カギバラアリ・ウロコアリな
2014 年 10 月 9 日,請島の池地港,民宿周辺,
砂浜海岸,大山へ至る林道沿(標高 300 m まで)
において,著者らが見つけどりによるアリのサン
プリングを行った.サンプリングについやした時
間はおよそ 4 時間であった.
結果と考察
今回の調査で,請島から 4 亜科 18 属 30 種の
アリが採集された(Table 1,付録).これらすべ
てが請島初記録である.アメイロアリを除き,そ
れ以外のすべてが奄美大島でも記録されている.
Fukumoto, S. and Sk. Yamane. 2015. Records of ants from
Uke–jima, Amami Islands, Japan (Hymenoptera,
Formicidae). Nature of Kagoshima 41: 195–197.
SF: the Kagoshima University Museum, Korimoto 1–21–
30, Kagoshima 890–0065, Japan (e–mail: shigeko@kaum.
kagoshima–u.ac.jp).
Fig. 1. Location of Uke-jima in the Amami Islands.
195
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
どの仲間の種を見落としている可能性がある.こ
れを補うべく次回の調査が待たれる.
RESEARCH ARTICLES
鹿児島県 . 奄美大島・加計呂麻諸島 . 2010. http://www.pref.
kagoshima.jp/ac07/pr/shima/gaiyo/amami/amami_top.html,
(参照 2015–03–28).
謝辞
下野綾子・山根正気.2003.沖永良部島におけるアリの多
様性.離島学の構築,3: 11–29.
調査には樹木医の前田芳之さんに同行いただ
寺山 守・久保田敏・江口克之.2014.日本産アリ類図鑑.
48 pls., viii + 278 pp. 朝倉書店,東京.
き,請島の地理,動植物についてご教示いただい
た.また,サンプリングに協力された鹿児島大学
農学部の平瑞樹さんにお礼を申し上げる.なお,
今回の調査に関わる旅費はすべて,平成 26 年度
鹿児島大学学長裁量経費,環境プロジェクト「奄
美群島における生態系保全研究の推進」に依った.
山根正気・原田 豊・江口克之.2010.アリの生態と分類 —
南九州のアリの自然史 —.200 pp. 南方新社,鹿児島.
山根正気・幾留秀一・寺山 守.1999.南西諸島産有剣ハチ・
アリ類検索図説.24 pls., xii + 831 pp. 北海道大学図書刊
行会,札幌.
付録
請島で採集されたアリの標本記録
引用文献
原田 豊・山口大河・福倉大輔・水俣日菜子.2014.奄美
群島の港のアリ — 外来アリのモニタリング —.日本生
物地理学会会報,69: 83–90.
種名はすべて学名で表した.和名は表 1 を参
照のこと.標本数は個体の数を,働きアリ w,女
王アリ q,雄アリ m で示し,括弧内は点数(ピン
Table 1.Ant species recorded from Uke-jima, the Amami Islands.
Species
Remarks
Amami-Oshima
Kakeroma-jima Okinoerabu-jima
Ochetellus galber
sand beach
ルリアリ
○
Tapinoma melanocephalum アワテコヌカアリ residential area
○
Tapinoma sp.
Ohyama
コヌカアリ
○
Technomyrmex brunneus
Ohyama, 250 alt.
アシジロヒラフシアリ
○
Acropyga nipponensis
Ohyama
イツツバアリ
○
Nylanderia flavipes
Ohyama, 200 alt.
アメイロアリ
Nylanderia amia
residential area
ケブカアメイロアリ
○
Nylanderia ryukyuensis
リュウキュウアメイロアリ residential area
○
Paratrechina longicornis
harbor
ヒゲナガアメイロアリ
○
Camponotus bishamon
residential area
ホソウメマツオオアリ
○
Camponotus kaguya
residential area
ユミセオオアリ
○
Camponotus devestivus
Ohyama
アメイロオオアリ
○
Brachyponnera chinensis
Ohyama
オオハリアリ
○
Brachyponera nakasujii
Ohyama
ナカスジハリアリ
○
Strumigenys lewisi
Ohyama
ウロコアリ
○
Monomorium chinense
residential area
クロヒメアリ
○
Monomorium floricola
Ohyama
フタイロヒメアリ ○
Vollenhovia benzai
Ohyama, 300 alt.
タテナシウメマツアリ
○
Tetramorium bicarinatum
Ohyama, 200 alt.
オオシワアリ
○
Tetramorium nipponense
Ohyama
キイロオオシワアリ
○
Tetramorium simillimum
Ohyama
サザナミシワアリ
○
Aphaenogaster luteipes
Ohyama
イクビアシナガアリ
○
Pheidole fervens
residential area
ミナミオオズアリ
○
Pheidole pieli
residential area
ヒメオオズアリ
○
Crematogaster vagula
residential area
クボミシリアゲアリ
○
Cardiocondyla sp. A
residential area
トゲハダカアリ
○
Cardiocondyla minutior
residential area
ヒメハダカアリ
○
Temnothrax anira
residential area
ヒラセムネボソアリ
○
Temnothrax antera
Ohyama
フシナガムネボソアリ
○
Pristomyrmex punctatus
residential area
アミメアリ
○
Records for Amami-Oshima, Kakeroma-jima, Okinoerabu-jima are given based on the past avilable records.
196
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
の数)である.採集者名は以下のように省略され
Brachyponera nakasujii – 2w(2), Ohyama, 200 m alt.,
ている:HM, Mizuki Hira;SF, Shigeko Fukumoto;
SF; 7w(3), Ohyama, rotting wood (JP14–SKY–21);
SKY, Sk. Yamane.必要に応じて標高,細かい地名,
3w1q(2), same loc. (JP14–SKY–22).
生息環境,営巣場所などの情報も含めた.JP14–
Strumigenys lewisi – 4w(2), Ohyama, SKY.
SKY– および SF14– はコロニーコードを示す.
Vollenhovia benzai – 3w(3), Oyama, 300 m alt., SF
以下に示す標本は全て乾燥標本でアリ,これ
(SF14–03); 6w2q(4), Ohyama, rotting wood, SKY
ら以外に液浸の状態で保存されているサンプルが
(JP14–SKY–24).
多数ある.
Monomorium chinense – 1w(1), Ikeji (residential area), SF.
Monomorium floricola – 2w(2), Ohyama, SF.
Ochetellus glaber – 1w(1), Ikeji (sand beach), SKY.
Tetramorium bicarinatum – 1w(1), Ohyama, MH;
Tapinoma melanocephalum – 1w(1), Ikeji (residential
3w(3), Ohyama, 200 m alt., SF; 1w(1), Ikeji
area), SF; 1w(1), Ikeji (sand beach), SKY.
(residential area), SKY.
Tapinoma sp. – 1w(1), Ohyama, SKY.
Tetramorium nipponense – 2w(2), Ohyama, SKY.
Technomyrmex brunneus – 3w(3), Ohyama, 250 m alt.,
Tetramorium similimum – 2w(2), Ohyama, SF.
SF & SKY (SF14–02; JP14–SKY–15).
Aphaenogaster luteipes – 1w(1), Ohyama, SF.
Acropyga nipponensis – 9w1q6m(9), Ohyama, leaf
Pheidole fervens – 6w(4), Ikeji (residential area), SF & SKY.
litter/surface soil, SKY (JP14–SKY–18).
Pheidole pieli – 1w(1), Ikeji (residential area), SKY.
Nylanderia flavipes – 3w(3), Ohyama, SF; 5w2q (4),
Crematogaster vagula – 1w(1), Ikeji (residential area), SF.
Ohyama, SKY (JP14–SKY–20); 5w3m(3), Ohyama,
Cardiocondyla sp. A – 1w(1), Ikeji (residential area),
SKY (JP14–SKY–17).
SF.
Nylanderia amia – 7w(4), Ikeji (residential ar
Cardiocondyla minutior – 3w(3), Ikeji (residential
Camponotus kaguya – 1w(1), Ikeji (residential area), SF.
area), SF & SKY.
Camponotus devestivus – 2w(2), Ohyama, rotting
Temnothrax anira – 1w(1), Ikeji (residential area), SF.
wood, SF & SKY (SF14–01; JP14–SKY–16).
Temnothrax antera – 1w(1), Ohyama, SKY.
Brachyponera chinensis – 7w(7), Ohyama, rotting
Pristomyrmex punctatus – 1w(1), Ikeji (residential
wood (JP14–SKY–19).
area), SF .
197
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
198
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美群島のアリ
原田 豊・榎本茉莉亜・西牟田佳那・水俣日菜子
〒 890–0033 鹿児島市西別府町 1680 池田学園池田高等学校
Abstract
Forty seven ant species belonging to 23 genera in 5
subfamilies were collected from 7 habitat types on
Amami Islands, Kagoshima Prefecture, south western
Japan. Ants were sampled using honey or powdercheese baiting, hand collecting, litter sifting, and soil
sifting. In Yron-jima, 31 ant species were collected.
On the other hand, only 9 species were collected in
Amami-oshima.
In this present study, 16 of 47 ant species collected
(0.11) and P. longicornis (0.10). In the forest, the
dominant ant was Pheidole noda (0.90) in Kikai-jima,
Nylanderia ryukyuensis, Pristomyrmex punctatus (0.40
in each species) in Okinoerabu-jima, Monomorium
intrudens in Yoron-jima. In all of powdered cheese
baits (90), the most ant species was P. noda (0.34),
following by M. intrudens (0.30), N. ryukyuensis
(0.26), N. amia (0.24) and P. pieli (0.17).
はじめに
in Amami Islands were alien ant species. Fifteen alien
これまでに鹿児島県本土から約 110 種(山根ほ
ant species were collected in Yoron-jima. In Amami-
か,2010), 島 嶼 域 を 含 め た 鹿 児 島 県 全 体 で 約
oshima, 8 alien ant species were collected.
145 種のアリが記録されている(山根ほか,1994,
In subtropical rain forest, the most species were
collected (30), following by ports (25), housing lots
(24) and forest edges (21).
The dominant ant species was estimated by
frequency of occurrence to honey baits or powdered
1999, 2014;下野・山根,2003).また,大隅諸島,
トカラ列島,奄美群島,琉球諸島を含む南西諸島
全域から 8 亜科 54 属 190 種のアリが報告されて
いる(山根ほか,1999).これまで南日本の島嶼
cheese baits. In port, dominant ant was Pheidole parva
域において環境タイプ別に行われたアリ類の調査
(0.50) in Naze Port (Amami-oshima), Paratrechina
例は少なく,例えばトカラ列島 7 島の異なる 5 つ
longicornis and Tetramorium bicarinatum (0.37 in
の環境タイプ(港,民家周辺,林縁,林内,公園)
each species) in Wan Port (Kikai-jima), Pheidole
megacephalum in Hetono Port (Tokuno-shima) and
Wadomari Port (Okinoerabu-jima) (1.00 and 0.90 in
each port), Monomorium chinense in Kametoku Port
から 6 亜科 27 属 57 種(原田ほか,2014),大隅
諸島に属する屋久島の 4 つの環境タイプ(民家周
辺,照葉樹林,林縁,公園・草地,)から 6 亜科
(Tokuno-shima), China Port (Okinoerabu-jima) and
26 属 51 種(原田ほか,2009),種子島の 2 つの
Yoron Port (Yoron-jima) (0.50, 0.37 and 0.77 in each
環境タイプ(照葉樹二次林,砂丘の砂地)から 7
port). In all of honey baits (210) in 7 ports, the most
亜科 25 属 46 種(原田ほか,2009)の報告がある.
dominant ant was P. megacephalum(0.40), following
下野・山根(2003)は,奄美群島の沖永良部島の
by M. chinense (0.37), P. parva (0.19), T. bicarinatum
Harada, Y., M. Enomoto, K. Nishimuta and H. Mizumata.
2015. Ants of the Amami Islands, central Ryukyus,
Japan. Nature of Kagoshima 41: 199–208.
YH: Ikeda High School, 1680 Nishibeppu, Kagoshima
890–0033, Japan (e-mail: harahyo@yahoo.co.jp).
5 つの環境タイプ(照葉樹林,ソテツ林,住宅地,
商店街,海岸)から 5 亜科 24 属 41 種を報告した.
奄美群島は,鹿児島県の管轄する島嶼域で,主な
有人島として奄美大島,喜界島,徳之島,沖永良
部島,与論島からなる.亜熱帯域に位置し,木生
シダの点在する林,マングローブ林など,鹿児島
199
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調査は,各島において港と民家周辺をベースに,
林縁,林内,海岸,校庭,商店街の 7 つの環境タ
イプで実施した(図 2).
港では,代表的な環境を 3 か所選び,それぞ
れに調査区を設けた.各調査区にライントランセ
クトを設置し,2 m おきに蜂蜜希釈液(約 30%)
を脱脂綿にしみ込ませたハニーベイトを置き(1
つの調査区で 10 個,1 つの港あたり計 30 個),
すべてのベイトを設置後 60 分間,トランセクト
を往復しながら種類ごとに数個体ずつピンセット
を使って採集し,80% エタノール入りのチュー
ブに液浸した.また,ハニーベイトでの採集と同
じ 60 分の時間帯で港の敷地内において見つけ採
りも実施した.ハニーベイトでの採集は,原則 1
つのトランセクトに 1 人ずつ計 3 人で,見つけ採
りは 1–4 人で行った.
図 1.調査地.
林内では,港での調査と同様に,3 つの調査区
3m おきに粉チー
を設けてトランセクトを設置し,
ズ ( 約 0.5g) を直接地面にまき(1 つの調査区で
県本土ではほとんど目にすることのできない植生
10 個,1 つの林内あたり計 30 個),60 分間トラ
がみられる.これまでに奄美群島からは 88 種の
ンセクトを往復しながら種類ごとに数個体ずつ採
アリが記録されている(山根ほか,1999).奄美
集し,80% エタノール入りのチューブに液浸した.
群島のアリ相は,北方に位置するトカラ列島のア
また,同じ 60 分の時間帯でトランセクトの周辺
リ相が旧北区と東洋区の移行的性格を示すのに対
において見つけ採り,リターふるい,土壌ふるい
して,東洋区的要素が一層色濃くなるものと思わ
を行った.リターふるいと土壌ふるいでは,主に
れる.
リターや土壌で生活しているアリを効率よく採集
これまで奄美群島における主な有人 5 島での
するために,ステンレス製のふるい(4 mm × 4
調査はすでに行われているが,環境タイプごとの
mm メッシュ)とプラスチック製の受け皿を使用
調査が十分であったとは言えない.今回の調査は,
した.採集は,原則として 4 つの調査方法ともそ
異なる 7 つの環境タイプ(港,民家周辺,林縁,
れぞれ 1 人で行った.
林内,海岸,校庭,商店街)で,4 つの採集方法
他の 5 つの環境タイプでは,原則として 60 分
(Quadra Protocol; Yamane & Hashimoto, 2001)を組
間,それぞれ 4 名で見つけ採りのみによる採集を
み合わせることによって,特に林内においてリ
行った.
ター層や土壌中のアリの採集を重点的に行い,各
持ち帰ったアリは,各環境タイプにおいて種
島において環境タイプ別の種数,種構成,優占種
類ごとに数個体ずつ乾燥標本とし,双眼実体顕微
を,また,外来アリの種数とその割合を明らかに
鏡を使って同定を行った.アリの種の同定は,主
することを目的とした.
に日本蟻類研究会日本産アリ類の検索と解説(I)
・
調査地と方法
調査地は,奄美群島の奄美大島,喜界島,徳
之島,沖永良部島,与論島の 5 島である(図 1).
200
(II)・(III)(1989,1991,1992)を使用し,種の
配列は山根ほか(2010)に従った.
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図 2.調査地の環境.
結果
奄美群島のアリ相
今回の調査によって,奄美群島 5 島の 7 つの環
境タイプから 5 亜科 23 属 47 種のアリが確認され
た(表 1).5 島すべてでみられたアリは,アワテ
コヌカアリ Tapinoma melanocephalum,ケブカア
図 3.ライントランセクトの概念図.
メ イ ロ ア リ Nylanderia amia, ハ ダ カ ア リ
Cardiocondyla kagutsuchi, ヒ メ ハ ダ カ ア リ C.
tsukuyomi, ク ロ ヒ メ ア リ Monomorium chinense,
界 島; 林 内 ), オ キ ナ ワ ト フ シ ア リ Solenopsis
ナンヨウテンコクオオズアリ Pheidole parva,オ
tipuna(喜界島;林内),ウロコアリ Strumigenys
オシワアリ Tetramorium bicarinatum の 7 種であっ
lewisii( 喜 界 島; 林 内 ), ヒ ラ セ ム ネ ボ ソ ア リ
た.また,ユミセオオアリ Camponotus kaguya(喜
Temnothorax anira( 喜 界 島; 民 家 周 辺, 林 内 ),
界島;林縁,林内),サクラアリ Paraparatrechina
サザナミシワアリ T. simillimum(喜界島;港)タ
sakurae(徳之島;民家周辺)
,ヤマトカギバラア
テナシウメマツアリ Vollenhovia benzai(喜界島;
リ Proceratium japonicum( 沖 永 良 部 島; 林 内 ),
林内),オキナワウメマツアリ ? V. cf. okinawana
(与
イエヒメアリ M. pharaonis(与論島;民家周辺)
,
論島;林内)の 11 種は,1 つの島のみから採集
スジブトカドフシアリ Myrmecina amamiana(喜
された.
201
202
カタアリ亜科
1 ルリアリ
2 アワテコヌカアリ
3 アシジロヒラフシアリ
ヤマアリ亜科
4 ホソウメマツオオアリ
5 ユミセオオアリ
6 ナワヨツボシオオアリ
7 ヒラズオオアリ
8 アカヒラズオオアリ
9 ウメマツオオアリ
10 ケブカアメイロアリ
11 リュウキュウアメイロアリ
12 ヒゲナガアメイロアリ
13 サクラアリ
ハリアリ亜科
14 ニセハリアリの一種
15 オオハリアリ
16 ナカスジハリアリ
17 ケブカハリアリ
18 ミナミヒメハリアリ
カギバラアリ亜科
19 ヤマトカギバラアリ
フタフシアリ亜科
20 アシナガキアリ
21 ハダカアリ
22 キイロハダカアリ
23 ヒメハダカアリ
24 ウスキイロハダカアリ
25 クボミシリアゲアリ
26 クロヒメアリ
27 フタイロヒメアリ
28 ヒメアリ
29 シワヒメアリ
30 イエヒメアリ
Anoplolepis gracilipes
Cardiocondyla kagutsuchi
Cardiocondyla obscurior
Cardiocondyla tsukuyomi
Cardiocondyla yamauchii
Crematogaster vagula
Monomorium chinense
Monomorium floricola
Monomorium intrudens
Monomorium latinode
Monomorium pharaonis
Proceratium japonicum
Hypoponera sp.
Pachycondyla chinense
Pachycondyla nakasujii
Pachycondyla pilosior
Ponera tamon
Camponotus bishamon
Camponotus kaguya
Camponotus nawai
Camponotus nipponicus
Camponotus shohki
Camponotus vitiosus
Nylanderia amia
Nylanderia ryukyuensis
Paratrechina longicornis
Paraparatrechina sakurae
Ochetellus glaber
Tapinoma melanocephalum
Technomyrmex brunneus
種 名
表 1.各島から採集されたアリのリスト.
○
○
○
○
○
○
○
○
○
喜界島
民家周辺
○
○
○
港
○
○
港
奄美大島
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
林内
○
林縁
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
徳之島
平土野
港
民家周辺
○
○
○
○
○
○
○
○
○
港
○
○
○
亀 徳
民家周辺
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31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
Myrmecina amamiana
Pheidole indica
Pheidole megacephalum
Pheidole noda
Pheidole parva
Pheidole pieli
Pristomyrmex punctatus
Solenopsis japonica
Solenopsis tipuna
Strumigenys lewisii
Temnothorax anira
Tetramorium bicarinatum
Tetramorium kraepelini
Tetramorium lanuginosum
Tetramorium simillimum
Vollenhovia benzai
Vollenhovia cf. okinawana
合 計
スジブトカドフシアリ
インドオオズアリ
ツヤオオズアリ
オオズアリ
ナンヨウテンコクオオズアリ
ヒメオオズアリ
アミメアリ
トフシアリ
オキナワトフシアリ
ウロコアリ
ヒラセムネボソアリ
オオシワアリ
ケブカシワアリ
イカリゲシワアリ
サザナミシワアリ
タテナシウメマツアリ
オキナワウメマツアリ ?
9
○
○
○
○
○
図 5.各島から採集された外来アリの種数.
9
9
○
○
○
○
11
7
30
○
○
○
○
17
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2
○
18
15
11
○
○
○
○
○
4
○
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図 4.各島から採集されたアリの種数.
各島の種数
7 つの環境タイプすべてで調査を行った与論島
では 31 種と最も多くのアリが採集された(図 4).
一方,1 つの環境タイプ(港)のみで調査を行っ
た奄美大島ではわずか 9 種のみであった.1 島あ
たりの平均種数は,22.4 であった.
外来アリの種数
今回の調査で奄美群島から採集された 47 種の
うち 16 種が外来アリであった。各島で採集され
た外来アリは与論島で 15 種と最も多く,奄美大
島では 8 種と最も少なかった(図 5).
各環境タイプの種数
4 つの採集方法を組み合わせて調査を行った林
内では 31 種と最も多くのアリが採集された(図
6).次に多かったのがハニーベイトトラップと見
つけ採りの 2 つの調査方法を組み合わせて調査を
203
204
カタアリ亜科
1 ルリアリ
2 アワテコヌカアリ
3 アシジロヒラフシアリ
ヤマアリ亜科
4 ホソウメマツオオアリ
5 ユミセオオアリ
6 ナワヨツボシオオアリ
7 ヒラズオオアリ
8 アカヒラズオオアリ
9 ウメマツオオアリ
10 ケブカアメイロアリ
11 リュウキュウアメイロアリ
12 ヒゲナガアメイロアリ
13 サクラアリ
ハリアリ亜科
14 ニセハリアリの一種
15 オオハリアリ
16 ナカスジハリアリ
17 ケブカハリアリ
18 ミナミヒメハリアリ
カギバラアリ亜科
19 ヤマトカギバラアリ
フタフシアリ亜科
20 アシナガキアリ
21 ハダカアリ
22 キイロハダカアリ
23 ヒメハダカアリ
24 ウスキイロハダカアリ
25 クボミシリアゲアリ
26 クロヒメアリ
27 フタイロヒメアリ
28 ヒメアリ
29 シワヒメアリ
30 イエヒメアリ
Anoplolepis gracilipes
Cardiocondyla kagutsuchi
Cardiocondyla obscurior
Cardiocondyla tsukuyomi
Cardiocondyla yamauchii
Crematogaster vagula
Monomorium chinense
Monomorium floricola
Monomorium intrudens
Monomorium latinode
Monomorium pharaonis
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
Proceratium japonicum
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
沖永良部島
和 泊
知 名
港
民家周辺
港
林内
Hypoponera sp.
Pachycondyla chinense
Pachycondyla nakasujii
Pachycondyla pilosior
Ponera tamon
Camponotus bishamon
Camponotus kaguya
Camponotus nawai
Camponotus nipponicus
Camponotus shohki
Camponotus vitiosus
Nylanderia amia
Nylanderia ryukyuensis
Paratrechina longicornis
Paraparatrechina sakurae
Ochetellus glaber
Tapinoma melanocephalum
Technomyrmex brunneus
種 名
表 1.各島から採集されたアリのリスト(続き).
○
○
○
○
○
○
○
○
港
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
民家周辺
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
林縁
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
林内
与論島
○
○
○
○
○
○
○
○
○
海岸
○
○
○
校庭
○
○
○
○
商店街
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6
11
○
17
31
図 6.各環境タイプから採集されたアリの種数.
18
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
5
○
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25 種),林縁(23 種),海岸(11 種)と続いた.
16
○
○
○
○
○
行った港と見つけ採りのみの民家周辺(それぞれ
10
商店街から採集されたアリは,それぞれ 6 種,5
種のみであった.
優占種
10
○
○
○
○
○
○
○
一方,最も人為的影響の強いと考えられる校庭と
プ,粉チーズベイトトラップへの出現頻度によっ
19
て優占種を推定した.
7
○
○
24
○
○
○
○
○
○
港及び林内では,それぞれハニーベイトトラッ
港の最優占種は,名瀬港がナンヨウテンコクオ
オズアリ(0.50),湾港がヒゲナガアメイロアリ
泊港がツヤオオズアリ(それぞれ 1.00 と 0.90),
4
○
とオオシワアリ(それぞれ 0.37),平土野港と和
亀徳港,知名港,与論港がクロヒメアリ(それぞ
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
てのハニーベイト(210 個)について,最も出現
頻 度 が 高 か っ た 最 優 占 種 は ツ ヤ オ オ ズ ア リ P.
megacephalum(0.40)で,次がクロヒメアリ(0.37),
ナンヨウテンコクオオズアリ(0.19),オオシワ
アリ(0.11),ヒゲナガアメイロアリ Paratrechina
合 計
スジブトカドフシアリ
インドオオズアリ
ツヤオオズアリ
オオズアリ
ナンヨウテンコクオオズアリ
ヒメオオズアリ
アミメアリ
トフシアリ
オキナワトフシアリ
ウロコアリ
ヒラセムネボソアリ
オオシワアリ
ケブカシワアリ
イカリゲシワアリ
サザナミシワアリ
タテナシウメマツアリ
オキナワウメマツアリ ?
Myrmecina amamiana
Pheidole indica
Pheidole megacephalum
Pheidole noda
Pheidole parva
Pheidole pieli
Pristomyrmex punctatus
Solenopsis japonica
Solenopsis tipuna
Strumigenys lewisii
Temnothorax anira
Tetramorium bicarinatum
Tetramorium kraepelini
Tetramorium lanuginosum
Tetramorium simillimum
Vollenhovia benzai
Vollenhovia cf. okinawana
れ 0.50,0.73,0.77)であった(表 2).7 港すべ
longicornis(0.10)の順であった.優占順位 5 位
までのうち,クロヒメアリを除き他の 4 種はすべ
て外来アリであった.7 港すべてにおいてハニー
ベイトトラップで採集されたアリはみられなかっ
た.クロヒメアリは平土野港を除く 6 港でみられ
た.ホソウメマツオオアリやナワヨツボシオオア
リ C. nawai など 9 種は 1 つの港からのみ採集さ
れた.その 9 種のうち 4 種は知名港のみでみられ
た.
205
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林 内 の 最 優 占 種 は, 喜 界 島 が オ オ ズ ア リ P.
アメイロアリとケブカアメイロアリの 2 種は外来
noda(0.90),沖永良部島がリュウキュウアメイ
アリであった.これら 2 種のアリは 3 島すべての
ロアリ N. ryukyuensis とアミメアリ Pristomyrmex
林内でみられた.
punctatus(それぞれ 0.40),与論島がヒメアリ M.
考察
intrudens(0.90)であった(表 3).3 島の林内す
奄美群島 5 島(奄美大島,喜界島,徳之島,沖
べてのチーズベイト 90 個について,最も出現頻
度が高かった最優占種はオオズアリ(0.34)で,
永良部島,与論島)の異なる 7 つの環境タイプか
ヒ メ ア リ(0.30), リ ュ ウ キ ュ ウ ア メ イ ロ ア リ
ら 5 亜科 23 属 47 種のアリが採集された.この種
(0.26),ケブカアメイロアリ(0.24),ヒメオオズ
数はこれまでに奄美群島全体から記録された 88
アリ P. pieli(0.18)の順であった.リュウキュウ
表 2.ハニーベイトへの出現頻度(港).
奄美大島
名瀬港
種 名
(30)
1 アワテコヌカアリ
9(0.30)
2 アシジロヒラフシアリ
3 ホソウメマツオオアリ
4 ナワヨツボシオオアリ
5 ヒラズオオアリ
6 ケブカアメイロアリ
7 ヒゲナガアメイロアリ
1(0.03)
8 リュウキュウアメイロアリ
9 アシナガキアリ
10 キイロハダカアリ
11 ハダカアリ
12 ヒメハダカアリ
1(0.03)
13 クボミシリアゲアリ
14 クロヒメアリ
13(0.43)
15 フタイロヒメアリ
16 インドオオズアリ
2(0.07)
17 ナンヨウテンコクオオズアリ
15(0.50)
18 ツヤオオズアリ
19 オオシワアリ
5(0.17)
種(山根ほか,1999)の 52.3% に相当する.
喜界島
徳之島
湾港
平土野港
亀徳港
(30)
(30)
(30)
1(0.03)
1(0.03)
沖永良部島
和泊港
知名港
(30)
(30)
12(0.40)
4(0.13)
3(0.10)
4(0.13)
11(0.37)
10(0.33)
3(0.10)
3(0.10)
5(0.17)
13(0.43)
1(0.03)
3(0.10)
1(0.03)
2(0.07)
4(0.13)
11(0.37)
30(1.00)
15(0.50)
5(0.17)
6(0.20)
7(0.23)
27(0.90)
与論島
与論港
(30)
合 計
10(0.33)
3(0.10)
3(0.10)
1(0.03)
2(0.07)
5(0.17)
22(0.73)
23(0.77)
16(0.53)
8(0.27)
16(0.53)
(210)
10(0.05)
1(0.005)
12(0.06)
4(0.02)
3(0.01)
14(0.07)
22(0.10)
9(0.04)
5(0.02)
1(0.005)
18(0.09)
2(0.01)
5(0.02)
77(0.37)
5(0.02)
2(0.01)
39(0.19)
84(0.40)
24(0.11)
表 3.粉チーズベイトへの出現頻度(林内).
種 名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
206
アシジロヒラフシアリ
ユミセオオアリ
ホソウメマツオオアリ
ケブカアメイロアリ
リュウキュウアメイロアリ
ナカスジハリアリ
ヒメアリ
スジブトカドフシアリ
ツヤオオズアリ
オオズアリ
ナンヨウテンコクオオズアリ
ヒメオオズアリ
アミメアリ
オキナワトフシアリ
オオシワアリ
ケブカシワアリ
タテナシウメマツアリ
喜界島
(30)
3(0.10)
1(0.03)
6(0.20)
1(0.03)
1(0.03)
27(0.90)
13(0.43)
1(0.03)
2(0.06)
沖永良部島
(30)
11(0.36)
1(0.03)
1(0.03)
12(0.40)
10(0.33)
1(0.03)
12(0.40)
1(0.03)
1(0.03)
与論島
(30)
20(0.66)
6(0.20)
1(0.03)
27(0.90)
4(0.13)
4(0.13)
2(0.06)
1(0.03)
合計
(90)
11(0.12)
3(0.03)
1(0.01)
22(0.24)
24(0.26)
2(0.02)
27(0.30)
1(0.01)
10(0.11)
31(0.34)
1(0.01)
17(0.18)
12(0.13)
3(0.03)
2(0.02)
1(0.01)
2(0.02)
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
今回の調査で採集された 47 種のうち奄美群島
諏訪之瀬島,悪石島)の林内で採集されたアリは
を分布の北限とするアリは 5 種で,このうち 4 種
合計 31 種(原田ほか,2014)で,今回の調査と
(80%) が外来アリであった.ウスキイロハダカア
ほぼ同数のアリが採集された.隆起サンゴ礁に
リ C. yamautii とシワヒメアリ M. latinode の外来
よって形成された奄美群島のこれら 3 島の林内
アリ 2 種は,それぞれ沖永良部島,与論島まで分
は,亜熱帯多雨林の典型的な林内環境を呈し,林
布が確認されていた(山根ほか,1999;下野・山
床は鹿児島県本土のそれとかなり異なり,植物の
根,2003)が,今回の調査でそれぞれ徳之島,沖
根が地表近くまで張り巡らされ,岩石がところど
永良部島で採集され,外来アリの分布の北上が確
ころ露出していた.特に今回の調査で採集を行っ
認された.これら 2 種の外来アリは船舶の物資に
た地点は,岩石上の土壌層が薄いところが多くみ
紛れ込んで運ばれたのかもしれない.
られ,土壌ふるいの採集効率がきわめて悪かった.
今回の調査で奄美群島の 5 島 7 港から合計 25
また,奄美大島と徳之島にはハブ,ヒメハブが生
種のアリが採集された.一方,トカラ列島 7 島(口
息しており,特に生息密度の高いと考えられる林
之島,中之島,平島,諏訪之瀬島,悪石島,小宝
内では咬まれる危険性があるので調査を実施しな
島,宝島)の 7 港(各島 1 港ずつ)で採集された
かった.今後,林内において調査を行うことによっ
アリは,3 種少ない合計 22 種であった.
(原田ほか,
て森林性のアリを中心に若干の追加種が見込まれ
2014).奄美群島の港は,トカラ列島の港よりも
る.
かなり規模が大きく,敷地内に植え込み,立木や
これまで民家周辺での調査例は多いとは言え
近くに雑木林がみられる港もあり,単純な環境か
ない.屋久島では,宮之浦の民家周辺で 24 種の
ら多様な環境までいくつかの環境タイプを保有す
アリが採集されている(原田ほか,2009).民家
る港がみられた.よって,実際には奄美群島の港
周辺では,今回の調査における奄美群島 4 島で
にはもっと多くのアリが生息しているものと思わ
24 種, ト カ ラ 列 島 7 島 で 45 種( 原 田 ほ か,
れる。今後奄美群島の港で再調査を行うことに
2014)が採集された.奄美群島の民家周辺の環境
よって若干の追加種が見込まれる.
は,鹿児島県本土及び屋久島のそれとほとんど変
港で調査を行う場合,どのような環境を港の
わりなかった.一方,トカラ列島は,民家と林が
環境と定義し,どこまでを調査区とするかが問題
隣接あるいは林内に民家があり,45 種ものアリ
となる.これまで港で採集されたアリの中には,
が採集されたのは,本来林内及び林縁で生息する
隣接する雑木林や草地などの異なる環境タイプか
アリが民家周辺で多数採集されたためと考えられ
ら港に採餌に訪れていた種が採集された可能性が
る.
ある.例えば,屋久島の宮之浦港では 28 種もの
アリが採集された(原田ほか,2013)が,これは
謝辞
調査区が植林された立木の点在する草地であった
鹿児島大学名誉教授の山根正気氏には,種の
ことに加え,港の敷地に隣接して雑木林や民家が
同定及び調査方法について御指導をいただいた.
みられる環境であったためと考えられる.現在の
また,奄美群島のアリ相について貴重な情報提供
ところ港の調査は待合所などの建造物を含め敷地
をいただいた.心より感謝申し上げる.今回の調
全体で行っている.また,港の周りの環境も考慮
査に関わる交通費,宿泊費等の経費は,すべて平
していない.港の規模や環境はさまざまであり,
成 26 年度スーパーサイエンスハイスクール学校
今後,港で調査を実施する場合,調査区の環境条
予算に依った.
件を定義することが必要となる.
今回の調査で奄美群島 3 島(喜界島,沖永良
部島,与論島)の林内で合計 30 種のアリが採集
された.トカラ列島 5 島(口之島,中之島,平島,
引用文献
原田 豊・榎本茉莉亜・西俣菜々美・西牟田佳那,2014.
トカラ列島のアリ.Nature of Kagoshima, 40: 111–121.
207
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
原田 豊・福倉大輔・栗巣 連・山根正気,2013.港のア
リ-外来アリのモニタリング-.日本生物地理学会会
報,68: 29–40.
原 田 豊・ 松 元 勇 樹・ 前 田 詩 織・ 大 山 亜 耶・ 山 根 正 気,
2009.屋久島の異なった環境間におけるアリ相の比較.
日本生物地理学会会報,4: 125–134.
日本蟻類研究会編,1989.日本産アリ類の検索と解説(I).
ハリアリ亜科,クビレハリアリ亜科,クシフタフシア
リ亜科,サスライアリ亜科,ムカシアリ亜科.42 pp.
日本蟻類研究会編,1991.日本産アリ類の検索と解説(II).
カタアリ亜科,ヤマアリ亜科,56 pp.
日本蟻類研究会編,1992.日本産アリ類の検索と解説(III).
フタフシアリ亜科,ムカシアリ亜科.(追補).94 pp.
下野綾子・山根正気,2003.沖永良部島におけるアリの多
様性.離島学の構築(鹿児島大学),3: 11–29.
208
RESEARCH ARTICLES
山根正気・原田豊・江口克之,2010.アリの生態と分類-
南九州のアリの自然史-.200 pp.南方新社,鹿児島.
Yamane, Sk. and Hashimoto, Y., 2001. Standardized sampling
methods: the Quadra Protocol. ANeT Newsletter, 3: 16–17.
山根正気・幾留秀一・寺山 守,1999.南西諸島有剣ハチ・
アリ類検索図説,138–317.北海道大学図書館刊行会.
札幌.
Yamane, Sk., Iwai, T., Watanabe, H. and Yamanouchi, Y., 1994.
Ant fauna of the Tokara Islands, Nothern Ryukyus, Japan.
WWF Japan Science Report, 2 (2): 311–327.
山根正気・榮 和朗・藤本勝典,2014.奄美大島名瀬の攪
乱地のアリ相と活動レベルの季節変化.Nature of Kagoshima, 40: 123–126.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
加計呂麻島の海岸湿地に生息する甲殻類と貝類の記録
1
三浦知之 ・三浦 要
1
2
2
〒 889–2192 宮崎市学園木花台西 1–1 宮崎大学農学部
〒 870–0397 大分県大分市一木 1727 日本文理大学工学部
はじめに
材料と方法
奄美群島を含む南西諸島では,奄美・琉球地
加計呂麻島での汽水域生物相調査は,当初ク
域の世界自然遺産登録に向けた活動が国や県ばか
マノエミオスジガニの棲息確認を目的としたたた
りでなく,地域住民にまで広がりつつある(鹿児
め,底質を1mm あるいはそれ以上の目合いの網
島県,2014a).その中で,奄美群島では,道路網
で篩うことを基本とし,得られた生物を同定した.
の整備など奄美大島の開発が進むのに比べ,住民
このため,調査対象域は奄美大島も含めて(三浦,
が少なく,渡航にも時間のかかる加計呂麻島や喜
2012),砂泥質の海岸環境が中心であった(図1).
界島では固有の生物相が今でも残されていると考
加計呂麻島ではネットの情報や地図情報から流入
えられる.特に,陸域に比べ,研究者の少ない海
河川もしくは陸域からの小さな水路がある場所を
岸域や海洋の生物相は近年になってやっと保全の
選んで,生物採集を行った.加計呂麻島の大島海
目が向けられ始めたに過ぎず(鹿児島県,2003,
峡側には知之浦と吞之浦の奥深い入り江があり,
2014b),防災対策の護岸工事などが進展する前に
陸からの淡水の影響のある干潟を形成してると判
現状を把握しておくことが急務であろう.
断した.一方,北に位置する薩川は河川の流入も
筆者らは宮崎県の熊野江川河口干潟から記載
あり,広い汽水域を形成していると思われた.ま
報 告 さ れ た ク マ ノ エ ミ オ ス ジ ガ ニ Deiratonotus
た,南端に近い案脚場は波あたりが良く,海峡の
kaoriae Miura, Kawane et Wada, 2007 の分布を調査
出口に近い環境であり,陸域からの淡水の影響も
する目的で,九州や四国の各地で生物相調査を開
あると考えられた.加計呂麻島南岸に面した嘉入
始した(Miura et al., 2007;三浦,2008).奄美群
と諸鈍には河川があるため,これら地域の河口部
島の海岸湿地あるいは汽水域においては 2008 年
も調査した(図1).しかし,当初のクマノエミ
以来,調査を続けたが,当初の目的は達せられず,
オスジガニ探索の目的は 3 回目以降の調査では,
回を重ねる度に一般的な底生生物調査に変貌し
完全に断念され,カニ類を中心とした底生生物全
た.その一部である住用川周辺汽水域の調査結果
般の生物相調査に変わった.調査は,2008 年 3
に関しては本誌 38 号で紹介した(三浦,2012).
月 9 日,2009 年 3 月 11–12 日,2010 年 3 月
ここでは,加計呂麻島に関する底生生物の知見を
20–21 日,2014 年 3 月 18 日の 6 日間行われ,複
紹介し,奄美群島の底生生物に関する知見の充実
数の調査員が参加し,2008 年 5 名,2009 年 5 名,
を願うものである.
2010 年 3 名,2014 年 2 名の延べ 23 人・日であっ
た.第 1 著者はすべてに,第 2 著者は 2009 年以
Miura, T. and K. Miura. 2015. Note on some crustaceans and
mollusks recorded from the coastal tidal flats in
Kakeroma island, Japan. Nature of Kagoshima, 41: 209–
222.
TM: Faculty of Agriculture, University of Miyazaki, 1–1
Gakuen-Kibanadai-Nishi, Miyazaki 889–2192, Japan (e-mail:
miurat@cc.miyazaki-u.ac.jp).
外のすべての調査に参加した.
結果と考察
加計呂麻島では流入河川もしくは陸域からの
小さな水路がある場所を選んで,生物採集を行っ
209
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 1.加計呂麻島(白色部)での底生生物調査地点.2008 年 ,2009 年,
2010 年および 2014 年の 3 月に 7 地点(四角)で行った.
た.得られた生物は甲殻類(表 1),腹足類(表 2)
および二枚貝類(表 3)に分けて採集地毎にリス
トした.以下では,まず,各採集地の特徴を加計
呂麻島の南側から北側に向かって順に説明する.
加計呂麻島南東部にある諸鈍湾には干出時に
河口が閉塞する仲田川があり,2009 年 3 月 11 日
に河口域河川内を調査した(図 2A).河口前面に
広がる諸鈍湾は小石混じりの砂浜で(図 2B–C),
図 2.加計呂麻島諸鈍の採集地.A,地図上に示した採集調
査地(破線枠内)および海岸風景(B 図)の撮影方向(以下,
水域を灰色,陸を白で表示)
;B,仲田川河口から見た前浜;
C,仲田川河口の橋;D,C の橋から見た上流側の河道.
生物の採集は行わなかった.仲田川の調査域は両
岸がコンクリートで護岸され,川床は石混じりの
砂質であった(図 2D).この地点では死殻も含め
てトウガタカワニナ科の 3 種:イボアヤカワニナ
Tarebia granifera (Lamarck, 1822),トウガタカワニ
ナ Thiara scabra (Müller, 1774),アマミカワニナ
Stenomelania costellaris (Lea, 1850) が 記 録 さ れ た
(表 2).海岸で閉塞した河川のため,淡水の影響
が強く表れるものと考えられ,トウガタカワニナ
科巻き貝のみが目立っていた.
2009 年 3 月 11 日,加計呂麻島東端に近い案脚
場にあるサンゴ砂底の海岸生物を採集した(図
3A–B).特に,海岸の砂質海岸の一部がタイドプー
ル状に窪んだ場所にはヒメウミヒルモ Halophila
minor ( Zoll.) den Hartog 1957 の群落が広がってい
た(図 3C–D).その中にはカサノリ Acetabularia
図 3.加計呂麻島案脚場の採集地.A,地図上に示した採集
調査地(破線枠内)および海岸風景(B 図)の撮影方向;
B,案脚場採集地の前浜;C,ヒメウミヒルモ群落の見ら
れたプール;D,ヒメウミヒルモの生育状況.
ryukyuensis Okamura & Yamada 1932 も混在してい
た ( 図 3D).この海岸ではサンゴ礁域に特徴的な
などの小型カニ類を中心に 9 種の甲殻類(表 1)
ムラサキチリメンガニ Liomera bella (Dana, 1852)
と 8 種の貝類(表 2–3)を採集した.加計呂麻島
210
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 5.加計呂麻島西海区水産研究所(三浦)の採集地.A,
地図上に示した採集調査地(破線枠内)および海岸風景(B
図)の撮影方向;B,水産研究所前の干潟.
1965 には蔓脚類の 1 種メナガオサガニヤドリエボシ
図 4.加計呂麻島吞之浦の採集地.A,地図上に示した採集
調査地(破線枠内)および海岸風景(B–C 図)の撮影方向;
B,吞之浦採集地の海側干潟;C,道路を隔てた陸側干潟;
D,同じく,潮が満ち始めた後の様子.
Octolasmis unguisiformis Kobayashi & Kato, 2003 と
ウロコガイ科二枚貝のオサガニヤドリガイ
Pseudopythina macrophthalmensis Morton and Scott
1989 が付着していた(図 9I-1–I-2).民家の海側
には古く崩れかけた石積み護岸があり,その間隙
東部のこれら 2 カ所は本来の目的であった汽水域
には泥が蓄積し,乾燥することもなく,フジテガ
がほとんどなかったため,以後の調査は行ってい
ニ Clistocoeloma villosum (A. Milne-Edwards, 1869)
ない.
やオカミミガイ類にとって好適な生息場を形成し
加計呂麻島中央にある吞之浦地区は 3 つの谷
ていた.また,水路の出口付近にはタイドプール
津が海に面して近接し,山間部からの雨水等が流
状の淡水のたまり場があり,海水を含んだ枯葉が
れ込むような構造になった奥深い内湾である(図
底を被っているため,有機物に富んだ汽水環境を
4A).海岸側は泥分の多い砂質底で陸側に道路が
作りだし,水中にスネナガエビ Palaemon debilis
あり,一部はコンクリート護岸で仕切られる(図
Dana, 1852 が, 底 質 中 に は ア ン パ ル ク チ キ レ
4B).また,道路の陸側にも入り江が一部残され,
Colsyrnola hanzawai (Nomura, 1930) が棲息してい
礫混じりの底質からなる谷津干潟を形成する(図
た.吞之浦のこのような汽水環境は,下水道の整
4C–D).谷津の奥には民家があり,家庭排水など
備など小規模な工事や環境改変でも容易に失われ
を含む小さな水路が見られる.吞之浦では 2008
てしまう可能性があり,今後の多様性保全のあり
年 3 月 9 日,2009 年 3 月 11 日,2010 年 3 月 21 日,
方を考える上でも注意が必要である.
2014 年 3 月 18 日の 4 回の生物採集を行い,19 種
西海区水産研究所奄美庁舎のある俵の入江に
の甲殻類(表 1)と 24 種の貝類(表 2–3)を記録
は干潟が形成されるので,2009 年 3 月 12 日に庁
し た. そ の 中 で も, ミ ナ ミ メ ナ ガ オ サ ガ ニ
舎を訪問し,許可をいただいた上で,地先生物の
Macrophthalmus (Macrophthalmus) milloti Crosnier,
調査を短時間で行った(図 5A–B).研究所の対
211
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
表 1.加計呂麻島で採集された甲殻類.
科
カイカムリ科
Dromiidae
カラッパ科
Calappidae
イワオウギガニ科
Oziidae
コブシガニ科
Leucosiidae
ヤワラガニ科
Hymenosomatidae
ケアシガ二科
Majidae
ヒシガニ科
Partgebioudae
ケブカガニ科
Pilumunidae
ワタリガニ科
Portunidae
オウギガニ科
Xanthidae
イワガニ科
Grapsidae
ベンケイガニ科
Sesarmidae
モクズガニ科
Varunidae
ムツハアリアケガニ科
Camptandriidae
コメツキガニ科
Dotillidae
オサガニ科
Macrophthalmidae
スナガニ科
Ocypodidae
ヤドカリ科
Diogenidae
テナガエビ科
Palaemonidae
テッポウエビ科
Alpheidae
ヒメエボシガイ科
Poecilasmatidae
212
種
諸鈍(仲田川) 安脚場 吞之浦 俵(水研前)知之浦 嘉入川 薩川
ミゾカイカムリ
○
Cryptodromia fallax (Latreille, in Milbert, 1812)
ソデカラッパ
○
Calappa hepatica (Linnaeus, 1758)
セビロオウギガニ
○
Epixanthus frontalis (H. Milne-Edwards, 1834)
アマミマメコブシ
○
Philyra taekoae Takeda, 1972
イリオモテマメコブシ
○
Philyra iriomotensis Sakai, 1983
ツノダシヤワラガニ
○
Halicarcinus coralicola (Rathbun , 1909)
ヒメソバガラガニ
○
Elamena truncata (Stimpson, 1858)
ソバガラガニ
○
Trigonoplax unguiformis (de Haan, 1839)
コワタクズガニ
○
○
Micippa philyra (Herbst, 1803)
タイヨウヒシガニ
○
○
○
Rhinolambrus pelagicus (Rüppell, 1830)
オオケブカモドキ
○
Pilumnus scabriusculus Adams & White, 1848
チチジマハイガザミモドキ
○
Libystes lepidus Miyake & Takeda, 1970
テナガヒメガザミ
○
○
○
Portunus (Xiphonectes) longispinosus (Dana, 1852)
サメハダヒメガザミ
○
○
Cycloachelous granulatus (H. Milne Edwards, 1834)
タイワンガザミ
Portunus (Portunus) pelagicus (Linaeus, 1758)
ツノナシイボガザミ
○
Portunus (Xiphonectes) brocki (de Man, 1888)
ミナミベニツケガニ
○
Thalamita crenata Rüppell, 1830
フタハベニツケガニモドキ
○
○
Thalamita admete (Herbst, 1803)
ムラサキチリメンガニ
○
Liomera bella (Dana, 1852)
オウギガニ
○
Leptodius exaratus (H. Milne Edwards, 1834)
ハシリイワガニモドキ
○
○
Metopograpsus thukuhar (Owen, 1839)
ケブカベンケイガニ
○
Nanosesarma vestitum (Stimpson, 1858)
カクベンケイガニ ?
○
Parasesarma cf. pictum (De Haan, 1835)
フジテガニ
○
Clistocoeloma villosum (A. Milne-Edwards, 1869)
トリウミアカイソモドキ
Sestrostoma toriumii (Takeda, 1974)
タカノケフサイソガニ奄美型
○
Hemigrapsus takanoi Asakura & Watanabe, 2005
タイワンヒライソモドキ
○
○
Ptychognathus ishii Sakai, 1939
ヒメヒライソモドキ
○
○
Ptychognathus capillidigitatus Takeda, 1984
ヨウナシカワスナガニ
○
○
Moguai pyriforme Naruse, 2005
ミナミムツバアリアケガニ
○
Takedelllus ambonensis (Serène & Moosa, 1971)
ツノメチゴガニ
○
○
Tmethypocoelis choreutes Davie & Kosuge, 1995
チゴイワガニ
○
○
Ilyograpsus nodulosus Sakai, 1983
フタハオサガニ
○
Macrophthalmus (Macrophthalmus) convexus Stimpson, 1858
ミナミメナガオサガニ
○
○
○
Macrophthalmus (Macrophthalmus) milloti Crosnier, 1965
オキナワハクセンシオマネキ
○
Uca (Austruca) perplexa (H. Milne Edwards, 1837)
ベニシオマネキ
○
○
Uca (Paraleptuca) crassipes (White, 1847)
ヒメシオマネキ
○
Uca (Gelasimus) vocans (Linnaeus, 1758)
ソメンヤドカリ
○
Dardanus pedunculatus (Herbst, 1804)
コモンヤドカリ
○
Dardanus megistos (Herbst, 1804)
スベスベサンゴヤドカリ
○
Calcinus laevimanus (Randall, 1840)
スネナガエビ
○
○
Palaemon debilis Dana, 1852
カクレエビ
○
Conchodytes nipponensis (De Haan, 1844)
イソテッポウエビ
○
○
Alpheus lobidens de Haan, 1849
メナガオサガニハサミエボシ
○
○
Octolasmis unguisiformis Kobayashi & Kato, 2003
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
表 2.加計呂麻島で採集された腹足類.
科
ニシキウズガイ科
Trochidae
ワタゾコシタダミ科
Skeneidae
アマオブネガイ科
Neritidae
ユキスズメガイ科
Phenacolepadidae
フネアマガイ科
Septariidae
ウミニナ科
Batillariidae
フトヘナタリ科
Potamididae
トウガタカワニナ科
Pleuroceridae
オニツノガイ科
Cerrithiidae
タマギビガイ科
Littorinidae
ソデボラ科
Strombidae
タカラガイ科
Cypraeidae
シラタマガイ科
Triviidae
タマガイ科
Naticidae
フジツガイ科
Ranellidae
アミメケシカニモリ科
Cerithiopsidae
ミツクチキリオレガイ科
Triphoridae
ハナゴウナ科
Eulimiidae
アクキガイ科
Muricidae
ムシロガイ科
Nassariidae
フデガイ科
Mitridae
ツクシガイ科
Costellariidae
クダマキガイ科
Trurridae
トウガタガイ科
Pyramidellidae
ヘコミツララガイ科
Retusidae
オカミミガイ科
Ellobiidae
種
ウスヒメアワビ
Stomatella lintricula (A. Adams, 1850)
フルヤガイ
Stomatia phymotis Helbling, 1779
ワダチシタダミ
Munditiella ammonoceras (A. Adams, 1863)
リュウキュウアマガイ
Nerita (Heminerita) insculpta Récluz, 1842
ニセヒロクチカノコ
Neritina (Vittoida) plumbea (Gmelin, 1791)
カノコガイ
Clithon faba (Sowerby, 1836)
ヒメカノコ
Clithon (Pictoneritina) oualanienssi (Lesson, 1831)
イシマキガイ
Clithon retropictus (von Martens, 1879)
ミヤコドリ
Phenacolepas (Cinnalepeta) pulchella (Lischke, 1871)
フネアマガイ
Septaria porcellana (Linnaeus, 1758)
ホソウミニナ
Batillaria cumingi (Crosse, 1862)
イトカケヘナタリ
Cerithidea morchii Sowerby, 1855
イボアヤカワニナ
Tarebia granifera (Lamarck, 1822)
トウガタカワニナ
Thiara scabra (Müller, 1774)
アマミカワニナ
Stenomelania costellaris (Lea, 1850)
カヤノミカニモリ
Clypeomorus bifasciata (Sowerby II, 1855)
ヒメウズラタマキビ
Littoraria intermedia (Philippi, 1846)
オハグロガイ
Strombus (Canarium) urseus Linnaeus, 1758
キイロダカラ
Cypraea (Erosaria) moneta Linnaeus, 1758
ハナビラダカラ
Cypraea (Erosaria) annulus Linnaeus, 1758
シラタマガイ
Trivirostra oryza (Lamarck, 1810)
トミガイ
Polinices mammilla (Linnaeus, 1758)
シオボラ
Cymatium (Cutturnium) muricinum (Röding, 1798)
ケシカニモリ
Notoseila morishimai Habe, 1970
ムラサキハラブトキリオレ
Mastonia rubra (Hinds, 1843)
エビイロミツクチキリオレ
Mastonia undata (Kosuge, 1962)
ホソセトモノガイ
Melanella aciula (Gould, 1849)
?ハネクリムシ
Melanella inflexa (Pease, 1868)
ウネレイシダマシ
Cronia margariticola(Broderip, 1833)
コブムシロ
Pliarcularia globosus (Quoy & Gaimard, 1833)
イボヨフバイ
Nassarius coronatus (Bruguiere, 1798)
イトマキフデ
Domiporta filaris (Linnaeus, 1771)
オオミノムシ
Turris crispa (Lamarck, 1816)
クダボラ
Lophiotoma acuta (Perry, 1811)
ミスジクチキレ
Tiberia trifasciata (A. Adams, 1863)
トウガタガイ
Pyramidella dolabrata (Linnaeus, 1758)
オオクチキレ
Longchaeus sulcatus (A. Adams in A. & H. Adam, 1853)
アンパルクチキレ
Colsyrnola hanzawai (Nomura, 1930)
コヤスツララガイ
Didontoglossa cf. koyasensis (Yokoyama, 1927)
クロヒラシイノミガイ
Pythia pachyodon Pilsbry & Hirase, 1908
ヘソアキコミミガイ
Laemodonta tyupica (H. & A. Adams, 1845)
シイノミミミガイ
Cassidula plecotrematoides Möllendorff, 1901
ウスコミミガイ
Laemodonta exaratoides Kuroda, 1957
クリイロコミミガイ
Laemodonta octanflata (Jonas, 1845)
ナガオカミミガイ
Auriculastra elongata (Küster, 1852)
ホソハマシイノミガイ
Melampus taeniolatus (Hombron & Jacquinot, 1854)
? ニハタヅミハマシイノミガイ
Melampus cf. sculptus Pfeiffer, 1855
ヌノメハマシイノミガイ
Melampus granifer (Mousson, 1849)
諸鈍(仲田川) 安脚場 吞之浦 俵(水研前)知之浦 嘉入川 薩川
○
○
○
○
○
○
○
○
○
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○
○
○
213
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
岸 に メ ヒ ル ギ Kandelia obovata Sheue, H.Y.Liu et
礫を含む底質に被われ,澪筋も良く発達していた
W.H.Yong 2003 が根付いた干出域があり,海岸周
(図 6D).漁業や他の生物採集などの影響がない
辺は転石や大きな岩で縁取られていた.これらの
ものと思われ,吞之浦と同様に 4 回の調査を行っ
岩礫の間隙や下面にセビロオウギガニ Epixanthus
ており,22 種の甲殻類,24 種の巻き貝および 18
frontalis (H. Milne-Edwards, 1834),ベニシオマネ
種の二枚貝類を記録した(表 1–3).加計呂麻島
キ Uca (Paraleptuca) crassipes (White, 1847)( 図
の海岸環境の中でも最も生物多様性が高く,大型
9H)およびオカミミガイ類 3 種を記録できた(表
の貝類の生息密度も高いと感じられた.
1–3).
知之浦の入江は加計呂麻島中央に突き出た半
地図上では明らかに河川が流入していたため,
嘉入を 2008 年 3 月 9 日に調査した(図 7A–B).
島に深く入り込んでおり,波浪のない静かな環境
調査時には嘉入川河口は閉塞状態で海岸に広がる
で,養殖筏が多く見られる(図 6A–B).知之浦
砂礫の浜と河口部には大きな砂嘴が見られた(図
の集落に近い船着き場付近にイワホリイソギン
7B).満潮時は海水が入り込むと思われ,砂礫底
チャク Telmatactis clavata (Stimpson, 1856) に付着
の河口内でタイワンヒライソモドキ Ptychognathus
したイソギンチャクヤオドリガイNipponomontacuta
ishii Sakai, 1939 を採取して(表 1),以後は調査し
actinariophila Yamamoto & Habe, 1961 が見つかった
ていない.
(図 6C).入江の奥は民家もなく,いくつかの排
薩川湾は加計呂麻島北部 1/3 ほどを締める深く
水路を備えた道路の護岸に囲まれ,やや荒い砂や
入り込んだ小湾であり,波浪のない静かな環境に
表 3.加計呂麻島で採集された二枚貝類.
科
フネガイ科
Arcidae
シュモクガイ科
Malleidae
マクガイ科
Isognomonidae
ベッコウガキ科
Glyphaeidae
イタボガキ科
Ostreidae
イタヤガイ科
Pectinidae
ハボウキガイ科
Pinnidae
種
諸鈍(仲田川) 安脚場 吞之浦 俵(水研前) 知之浦 嘉入川 薩川
リュウキュウサルボウ
○
○
Anadara antiquata (Linnaeus, 1758)
ニワトリガキ
○
Malleus regula (Forskål, 1775)
シュモクアオリガイ
○
Isognomon isognomun (Linnaeus, 1758)
シャコガキ
○
Hyotissa hyotis (Linnaeus, 1785)
トサカガキ
○
Lapha cristagalli (Linnaeus, 1758)
サンゴナデシコ
○
Chalamys (Coralichlamys) madreporarum (Sowerby, 1842)
?クロタイラギ
○
Atrina cf. vexillum (Born, 1778)
スエヒロガイ
○
Pinna atropurpurea Sowerby I, 1825
ミノガイ科
ユキミノガイ
○
○
Limidae
Limaria basilanica (Adams & Reeve, 1850)
ウロコガイ科
ニッポンマメアゲマキ
○
Galeommatidae
Pseudogaleomma japonica (A. Adams, 1864)
オサガニヤドリガイ
○
○
Pseudopythina macrophthalmensis Morton and Scott 1989
イナズママメアゲマキガイ
○
Scintilla violescens Kuroda & Taki, 1961
イオウノシタタリ
○
Scintilla timorensis Deshayes, 1856
ツヤマメアゲマキ
○
Scintilla nitidella Habe, 1962
ブンブクヤドリガイ科 イソギンチャクヤドリガイ
○
Montacutidae
Nipponomontacuta actinariophila Yamamoto & Habe, 1961
ザルガイ科
カワラガイ
○
Cardiidae
Fragum unedo (Linnaeus, 1758)
ヒシガイ
○
Fragum bannoi (Otuka, 1937)
チドリマスオ科
クチバガイ
○
Mesodesmatidae
Coecella chinensis Deshayes, 1955
シオサザナミ科
リュウキュウマスオ
死殻
○
Psammobiidae
Asaphis violascens (Forskål, 1775)
マルスダレガイ科
ユウカゲハマグリ
○
Veneridae
Pitar citrinus (Lamarck, 1818)
アラスジケマンガイ
○
○
Gafrarium tumidum (Röding, 1798)
214
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 7.加加計呂麻島嘉入の採集地.A,地図上に示した採集
調査地(破線枠内)および海岸風景(B 図)の撮影方向;
B,嘉入の前浜の景観.
図 6.加計呂麻島知之浦の採集地.A,地図上に示した採集
調査地(破線枠内)および海岸風景(B 図)の撮影方向;
B,知之浦の入り江奥部の干潟;C,イソギンチャクヤド
リの生息状況;D,干潟内の澪筋.
加計呂麻島でも比較的大きな薩川大川が流入し,
広い汽水域が見られるかと予想された(図 8A–
B).河口前面は広く干出する砂礫含みの荒い底
図 8.加計呂麻島薩川の採集地.A,地図上に示した採集調
査地(破線枠内)および海岸風景(B 図)の撮影方向;B,
薩川の前浜;C,薩川大川の河道と積み石(D)の位置(矢
印);D,薩川大川の河岸積み石の内部に棲息する.
質で岩礁も見られる(図 8B).海岸部の岩礁に付
着していた未同定のカイメン類にはオオケブカモ
ド キ Pilumnus scabriusculus Adams & White, 1848
甲殻類 Crustacea
が穴を掘るように内部に棲息していた.河口から
コブシガニ科 Leucosiidae
上流にはコンクリート護岸と石積み護岸が見ら
アマミマメコブシガニ(図 9A)
れ,河床には転石が多く見られ,砂泥が堆積して
Philyra taekoae Takeda, 1972
いた(図 8C).転石や石積み護岸の間隙には細か
標本 2008 年 3 月 9 日,知之浦.干潮時の水
な泥が堆積するとともに,ヘソアキコミミガイ
面下および澪筋,やや荒い底質.雌 7,雄 30,大
Laemodonta tyupica (H. & A. Adams, 1845)( 表 2)
型 雄 の 甲 幅 7.3 mm, 甲 長 6.9 mm;2014 年 3 月
や小型のカニ類(採集できなかった)の生息場と
18 日雌 2,雄 2.
なっていた(図 8D).
本種は,加計呂麻島知之浦に棲息し,4 度の調
次に,重要な生物に関して個別に説明する.
査 の い ず れ で も 記 録 さ れ た. な お, 岸 野 ほ か
215
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
(2001a, b)により大島海峡を挟んだ対岸にある奄
くならず,前側縁にはわずかながら,波状の 4–5
美大島小名瀬の干潟や阿鉄の海岸からもすでに知
歯が確認でき,チチジマハイガザミモドキと同定
られている.このため,大島海峡に面した海岸で
さ れ た (Miyake & Takeda, 1970). ハ イ ガ ザ ミ 属
は比較的普通に見られる可能性がある.
Catoptrus では前側縁に先端が鋭い歯が見られる
が(Takeda, 2010),ハイガザミモドキ属には鋭い
イリオモテマメコブシ(図 9B)
歯はない(Rathbun, 1924; Edmondson, 1954;Vannini
Philyra iriomotensis Sakai, 1983
& Innocenti, 2000).加計呂麻島から得られた標本
標本 2008 年 3 月 9 日,知之浦.干潮時の水
の甲面は平滑ではなく,多少ざらついている.著
面下,礫混じりのやや荒い底質.雄 1,甲幅 3.6
者らが沖縄本島で入手したクメジマハイガザミモ
mm,甲長 3.4 mm.
ドキ Lybistes villosus Rathbun, 1924 では甲面が比
前種と同様に,岸野ほか(2001a, b)により奄
較的平滑で,前側縁に波状の歯は見られず,両者
美大島小名瀬および宇検村の湯湾から報告されて
には明瞭に区別された.本種はインドネシアや
いる.加計呂麻島知之浦で 1 個体だけが採集され
ニューカレドニアからの記録はあるが,奄美群島
たが,その後確認されていない.生息密度は低い
を含む南西諸島では初記録である.
ものと思われる.
テナガヒメガザミ(図 9E)
ケブカガニ科 Pilumunidae
Portunus (Xiphonectes) longispinosus (Dana, 1852)
オオケブカモドキ(図 9C)
標本 2008 年 3 月 9 日,知之浦.干潮時の水
Pilumnus scabriusculus Adams & White, 1848
面 下 お よ び 澪 筋. 抱 卵 雌 1, 雄 2, 雄 甲 幅 19.0
標本 2008 年 3 月 9 日,薩川.河口海岸の転
mm, 甲 長 8.0 mm; 同 日 薩 川. 雄 3, 幼 体 1,
石裏のカイメン類に付着.雌 1,甲幅 15.4 mm,
2010 年 3 月 21 日,吞之浦,抱卵雌 1,雄 1.
甲長 10.8 mm.
額に 4 歯あるが,中央の 2 歯は小さい.鉗脚掌
当初,オキナワケブカガニ Pilumnus purpureus
部の背面と側面の先端に 2 本の棘がある.知之浦
A Milne-Edwards, 1873 と同定していたが,Takeda
では 3 月に抱卵した雌がたくさん観察できた.大
& Miyake (1968) で報告されたオキナワケブカガ
島海峡を挟んだ対岸にある奄美大島小名瀬の干潟
ニの最大雌(甲幅 11.9 mm)より大きく,前側縁
でも普通に見られた.
の歯の先端は棘状であり,小棘を伴っていた.標
本が 1 個体だけで,同定には多少疑問も残ったが,
ベンケイガニ科 Sesarmidae
カイメン類に付着し,穴のようなくぼみに棲息し,
ケブカベンケイガニ(図 9F)
カイメン類と同じオレンジ色をしていた.オキナ
Nanosesarma vestitum (Stimpson, 1858)
ワケブカガニは奄美群島にも分布するので,今後
標本 2008 年 3 月 9 日,知之浦.干潮時の澪
新たな標本を得て,同定の見直しが必要かもしれ
筋の水面下底質中から網で採取.雌 1,甲幅 5.7
ない.
mm,甲長 5.5 mm.
ヒメベンケイガニ属の 1 種で,永井・野村(1988)
ワタリガニ科 Portunidae
ではクロシマヒメベンケイガニとされているが,
チチジマハイガザミモドキ(図 9D)
酒 井(1976) で は カ ク ベ ン ケ イ ガ ニ 亜 属
Libystes lepidus Miyake & Takeda, 1970
Parasesarma の 1 種としてケブカベンケイガニの
標本 2008 年 3 月 9 日,知之浦.干潮時の水
和名が付されている.本種は奄美大島 'Ousima' と
面 下 お よ び 澪 筋. 雄 1, 甲 幅 5.1 mm, 甲 長 2.9
喜 界 島 'Kikaisima' か ら の 記 録 が 原 記 載 に あ り
mm;2014 年 3 月 18 日幼体 1.
甲側縁と歩脚に毛が生じ,第 5 歩脚の指節は広
216
(Stimpson, 1858),奄美群島がタイプ産地である.
しかし,すでにタイプも失われているため,この
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
加計呂麻島から得られた雌は原記載地からの新し
スナガニ科 Ocypodidae
い標本として重要な意味がある.永井・野村(1988)
ベニシオマネキ(図 9H)
に記されたように,八重山列島を含む南西諸島の
Uca (Paraleptuca) crassipes (White, 1847)
汽水域の底質中に棲息していると思われる.
標本 2009 年 3 月 11 日,吞之浦.雄 1;2009
年 3 月 12 日,三浦水研前.雄 1(甲幅 13.6 mm,
ムツハアリアケガニ科 Camptandriidae
甲長 9.3 mmm),2010 年 3 月 21 日,吞之浦.雌 1.
ミナミムツバアリアケガニ
調査を行った 3 月は気温が 20℃を超えるが,
Takedelllus ambonensis (Serène & Moosa, 1971)
干出した平底ではベニシオマネキの行動が観察で
標本 2009 年 3 月 12 日,知之浦.干潮時の水
きず,シオマネキ類の巣穴が確認された場所を丹
面下.雌 1.
念に掘り返すことで標本を得ることができた.巣
本種は前報(三浦,2012)で奄美大島住用川河
穴がしっかり見られたことから,採集日あるいは
口から甲幅 3.1–4.1 mm の個体が記録されている.
時刻の気温の影響があったものと思われる.
知之浦でも同様な小型個体が採集された(表 1).
形態的な特徴や学名の変遷は前報に詳しい.
オサガニ科 Macrophthalmidae
ミナミメナガオサガニ(図 9I-1)
ヨウナシカワスナガニ(図 9G)
Macrophthalmus (Macrophthalmus) milloti Crosnier, 1965
Moguai pyriforme Naruse, 2005
標本 2008 年 3 月 9 日,吞之浦.雌 1,雄 2(甲
標本 2009 年 3 月 9 日,吞之浦.雄 2,雌 3;
幅 10.2 mm,甲長 6.3 mm);薩川.雌 1;知之浦.
3 月 9 日,知之浦.雄 6,雌 2;2014 年 3 月 18 日,
雌 1,雄 3,幼体 2;2010 年 3 月 21 日,吞之浦 1
知之浦,5 個体.干潮時の水面下.抱卵雌:甲幅 5.0
雌 1( 甲 幅 14.6 mm, 甲 長 8.7 mm), 雄 2;2014
mm,甲長 5.4 mm.
年 3 月 18 日,知之浦.5 個体.
前述のミナミムツバアリアケガニが同所的に出
本種は大島海峡では比較的普通に見られ,岸野
現することがある.奄美大島小名瀬からは岸野ほ
ほか(2001a, b)では,加計呂麻島の対岸側の奄
か(2001a, b)によりコウナガカワスナガニとし
美大島でも記録されている.類似種の形態につい
て報告されている.一方,Naruse (2005) により前
ては Nagai et al. (2006) が詳しい.
側縁に明瞭な歯のあるコウナガカワスナガニ
Moguai elongatum (Rathbun, 1931) とは異なり,比
ヒメエボシガイ科 Poecilaspidaeidae
較的平滑な輪郭の本種が記載された.岸野ほか
メナガオサガニハサミエボシ(図 9I-2)
(2001a, b)が最初に記録した奄美大島小名瀬から
Octolasmis unguisiformis Kobayashi & Kato, 2003
も雌の標本(図 9G-1)を得たが,加計呂麻島の
標本 2010 年 3 月 21 日,吞之浦.ミナミメナ
吞之浦と知之浦ではより容易に雌雄の標本が得ら
ガオサガニ雌に付着;2014 年 3 月 18 日,吞之浦 .
れた.2009 年に知之浦で採集した個体を実験室
ミナミメナガオサガニ雌に付着;2014 年 3 月 18
内で飼育したところ,交尾行動(図 9G-2)と抱
日,知之浦.ミナミメナガオサガニ 4 個体の雌に
卵している個体が確認された.さらに,採集から
付着.
1 ヶ月でプレゾエアと思われる幼生(図 9G-3)を
吞之浦の前浜では希にミナミメナガオサガニに
放出した.その後,幼生には変化がないまま,2
付着した本種が見つかる.一方,知之浦でははる
日目以降の飼育ができなかった.ヨウナシカワス
かに寄生率が高いと思われ,本種の付着したミナ
ナガニが加計呂麻島では 3–4 月頃に繁殖すること
ミメナガオサガニが比較的容易に見つかる.2014
がわかったことから,今後はより詳細な生態を検
年に知之浦で採取した 5 個体のミナミメナガオサ
討する必要があろう.
ガニのうち,原記載で指摘されているように雌の
カニに偏って付着する傾向があり(Kobayashi &
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Kato, 2003),雌 4 個体に本種が付着していた一方
アンパルクチキレ(図 9K)
で,小型の雄 1 個体には確認できなかった.また,
Colsyrnola hanzawai (Nomura, 1930)
同日,吞之浦で採集した雌にはメナガオサガニハ
標本 2009 年 3 月 11 日,吞之浦.6 個体.大
サミエボシ以外に,後述のオサガニヤドリガイの
型の個体で殻長 9.8 mm,殻幅 2.8 mm.
付着も確認できた.メナガオサガニハサミエボシ
チャイロクチキレ Colsyrnola brunnea (A. Adams
は 大 小 複 数 が カ ニ に 付 着 し て お り, 澤 田 ほ か
in H. & A. Adams, 1853) と同属であるが,殻はさ
(2014)で示された矮雄の付着したメナガオサガ
ほど厚質ではない.軸唇に 1 襞が確認され,体層
ニハサミエボシも確認できた.
周縁は角張らずに丸みを帯びる.干潟内でも淡水
の排水口がある水たまりの中に棲息していた.奄
軟体動物門 Mollusca
美群島では初記録である.
腹足綱 Gastropoda
トウガタガイ科 Pyramidellidae
オカミミガイ科 Ellobiidae
トウガタガイ(図 9J)
クロヒラシイノミガイ(図 9L)
Pyramidella dolabrata (Linnaeus, 1758)
Pythia pachyodon Pilsbry & Hirase, 1908
標本 2010 年 3 月 21 日,吞之浦.1 個体.殻
標本 2010 年 3 月 20 日,知之浦.11 個体.大
長 18.5 mm, 殻幅 7.4 mm.
型個体で殻長 26.1 mm,殻幅 18.2 mm.
本種は大西洋・太平洋の水深数十 m の砂質底
形 態 の よ く 似 た マ ダ ラ シ イ ノ ミ ガ イ Pythia
に棲息し(Petruzzi, 2015; Aartsen et al., 1998),日
pantherina (A. Adams, 1851) と は 内 唇 の 2 歯 が よ
本では希に海岸に打ち上がり,浅海に棲息すると
り幅広いことで区別できる.知之浦の干潟周辺に
されている(吉良,1959).他方,フィリピンパ
ある転石の間や裏側に見つかる.大島海峡対岸の
ラワン島の Iwahig 河口では潮間帯の河床から記
奄美大島の沿岸にも狭い範囲に高密度に棲息して
録されている(Dolorosa & Dangan-Galon, 2014).
いた.
これらはかつて,トウガタガイおよびダテトウガ
タガイ Pyramidella terebellum (Müller, 1774) として
ヘソアキコミミガイ(図 9M)
分類されていたが,Aarsten et al. (1998) や堀(2000)
Laemodonta tyupica (H. & A. Adams, 1845)
によれば,同種とされている.両者には殻表面の
標本 2009 年 3 月 11 日,吞之浦,1 個体,殻
褐色螺帯の本数や軟体部の色彩にも違いがある
長 5.8 mm, 殻 幅 3.3 mm.2009 年 3 月 12 日,知
が,軸唇の 3 襞および外唇内面に 6 歯を持つこと
之浦.9 個体.2010 年 3 月 20 日,知之浦.8 個体.
が一致するため,本研究でもトウガタガイとした.
入り江周辺の転石の間隙に棲息する.臍孔が広
図 9.加計呂麻島の海岸湿地で採集された甲殻類と貝類.A,アマミマメコブシガニ雄(写真は奄美大島小名瀬の採集個体)
;B,
イリオモテマメコブシ雄,2008 年 3 月 9 日,知之浦,甲幅 3.6 mm,甲長 3.4 mm;C,オオケブカモドキの雌,2008 年 3 月 9
日,薩川,甲幅 15.4 mm,甲長 10.8 mm;D,チチジマハイガザミモドキの雄,2008 年 3 月 9 日,知之浦,甲幅 5.1 mm,甲長
2.9 mm;E,テナガヒメガザミ雄(写真は奄美大島小名瀬の採集個体)
;F,ケブカベンケイガニ雌,2008 年 3 月 9 日,知之浦,
甲幅 5.7 mm,甲長 5.5 mm;G-1,ヨウナシカワスナガニ雄(写真は奄美大島小名瀬の採集個体);G-2,同種飼育個体の交尾,
2008 年 3 月 9 日知之浦の採集個体,撮影は 4 月 9 日;G-3,同飼育個体の幼生(プレゾエア)撮影は 4 月 9 日;H,ベニシオ
マネキ雄,2009 年 3 月 12 日,三浦水研前,甲幅 13.6 mm,甲長 9.3 mm;I-1,ミナミメナガオサガニ雄,2010 年 3 月 21 日,
吞之浦,甲幅 15.0 mm,甲長 8.8 mm,左第 3 歩脚にオサガニヤドリガイ(殻幅 1.7 mm,殻高 1.4 mm)が付着;I-2,メナガオ
サガニハサミエボシ,2010 年 3 月 21 日,吞之浦.ミナミメナガオサガニ雌に付着した個体;J,トウガタガイ,2010 年 3 月
21 日,吞之浦,殻長 18.5 mm, 殻幅 7.4 mm;K,アンパルクチキレ,2009 年 3 月 11 日,吞之浦,殻長 9.8 mm, 殻幅 2.8 mm;L,
クロヒラシイノミガイ,2010 年 3 月 20 日,知之浦,殻長 26.1 mm,殻幅 18.2 mm;M,ヘソアキコミミガイ,2009 年 3 月 12
日,知之浦,殻長 5.2 mm, 殻幅 3.0 mm;N,ヒゲマキシイノミミミガイ,2009 年 3 月 11 日,吞之浦,殻長 12.6 mm,殻幅 7.1
mm;O,ナガオカミミガイ,2009 年 3 月 11 日,知之浦,殻長 11.1 mm,殻幅 5.2 mm;P,スエヒロガイ,2010 年 3 月 20 日,
知之浦,殻幅 321.0 mm, 殻高 148.0 mm;Q,クロタイラギ,2010 年 3 月 20 日,知之浦,殻幅 174.0 mm,殻高 148.7 mm;R,
イソギンチャクヤドリガイ,2009 年 3 月 12 日,知之浦,殻幅 8.0 mm,殻高 4.7 mm,宿主はイワホリイソギンチャク.赤スケー
ル =50mm;青スケール =10mm;白スケール =1mm.
219
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
く,周辺が太い縫帯を備え,他種とは容易に区別
RESEARCH ARTICLES
も棲息は確認できた(採集していない).
できる.
?クロタイラギ(図 9Q)
ヒゲマキシイノミミミガイ(図 9N)
Atrina cf. vexillum (Born, 1778)
Cassidula plecotrematoides plecotrematoides Möllendorff, 1901
標本 2010 年 3 月 20 日,知之浦,採集個体の
標本 2009 年 3 月 11 日,吞之浦,大型個体で
殻高 174.0 mm,殻幅 148.7 mm.
殻 長 12.6 mm,殻幅 7.1 mm;2009 年 3 月 12 日,
スエヒロガイと同時に採集された知之浦の標本
知之浦.薩川.三浦水研前.
では,殻高が小さく,殻頂もやや湾曲し,スエヒ
いずれの採集地でも比較的生息数がやや多かっ
ロガイとは異なると思われ,暫定的に本種に同定
た(丹念に探せば,ほぼ確実に見つかる程度).
した.
本種は九州以北の狭義のシイノミミミガイ C. p.
japonica Möllendorff, 1901 と南西諸島以南のヒゲ
ウロコガイ科 Galeommatidae
マキシイノミミミガイ C. p. p. (Möllendorff, 1901)
オサガニヤドリガイ(図 9I-1)
に分けられるとされるが(日本ベントス学会,
Pseudopythina macrophthalmensis Morton & Scott, 1989
2012),ここでは分布にしたがった亜種としてあ
標本 2010 年 3 月 21 日,吞之浦,採集個体の
つかった.宮崎県などにはシイノミミミガイが出
殻 幅 1.7 mm, 殻 高 1.4 mm;2014 年 3 月 18 日,
現するが(三浦・実政,2010),両亜種を形態的
知之浦.
に区別することは極めて難しい.
上述したようにミナミメナガオサガニの歩脚に
付着する本種が見つかっているが,出現頻度は低
ナガオカミミガイ(図 9O)
いものと思われる.
Auriculastra elongata (Küster, 1852)
標本 2009 年 3 月 11 日,吞之浦,1 個体.知
ブンブクヤドリガイ科 Montacutidae
之浦,6 個体,大型個体の殻長 11.1 mm,殻幅 5.2
イソギンチャクヤドリガイ(図 9R)
mm.
Nipponomontacuta actinariophila Yamamoto & Habe, 1961
淡水の影響がある干潟周辺の転石の間隙に棲息
標 本 2009 年 3 月 12 日, 知 之 浦, 殻 幅 8.0
していた.加計呂麻島以外にも奄美大島のさまざ
mm,殻高 4.7 mm.
まな海岸で確認できたため,奄美群島では普通に
知之浦の干潟ではなく,集落近くにある船着き
見られるオカミミガイ類と思われる.
場に棲息していたイワホリイソギンチャク
Telmatactis clavata (Stimpson, 1856) の 体 表 に 付 着
二枚貝綱 Bivalvia
していた.岩礁域を詳しくは調べていないため,
ハボウキガイ科 Pinnidae
たまたま目についた個体を記録したに過ぎない.
スエヒロガイ(図 9P)
Pinna atropurpurea Sowerby I, 1825
標本 2010 年 3 月 20 日,知之浦,採集個体の
出現種の全体について
大島海峡ではダイビングなどが盛んになり,ア
殻高 321.0 mm,殻幅 148.0 mm.
マ ミ ホ シ ゾ ラ フ グ Torquigener albomaculosus
ハボウキガイ Pinna atropurpurea Sowerby I, 1825
Matsuura, 2015 が発見されるなど,未知の生物相
と異なり , 貝殻後端中央がやや飛び出し,底質の
が徐々に明らかにされている(Matsuura, 2015).
表面に確認できる.知之浦では,完全に干上がる
しかし,底生生物に関しては岸野ほか(2001a, b)
場所から,水面下まで見られ,外套腔にはカクレ
や加藤(2006)に代表される報告以外ほとんど知
エビ Conchodytes nipponensis (De Haan, 1844) の雌
られていないため,この海域でパイオニア的な役
雄ペアが見つかる.知之浦以外には吞之浦などで
割が果たせないかと思い,4 回の採集結果をまと
220
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
めた.加計呂麻島から甲殻類は 44 種,巻き貝類
砂質底の干潟の周辺域に転石や積み石が見られ,
は 48 種,二枚貝類 21 種,底生生物の合計として
その間隙に 9 種のオカミミガイ類が見つかったこ
113 種が記録できた.総合的な底生生物調査とし
とも加計呂麻島の自然度の高さを物語っていると
ては全く不十分で,砂質干潟に限った情報である
考える.そのうちの 5 ないし 6 種が上述のいずれ
が,初めて記録された生物も少なくない.他方,
かのレッドリストに記載されており,今後の保全
標本を採取していなかったアナジャコ類や小型の
のあり方を検討する上で重要な要素となるに違い
二枚貝類など,普通に見られて,棲息は確認しな
ない.
がら,多くの底生生物が記録されなかった.
鹿児島県は 2014 年にレッドリストを改訂し,
陸淡水産貝類 339 種,汽水・淡水産甲殻類 40 種
謝辞
を指定している(鹿児島県,2014b).また,環境
この研究は宮崎大学の第一著者の研究室に所
省は 2012 年に第 4 次レッドリストを提示し,貝
属していた学生の梅本章弘氏,中川由佳氏,大原
類 1126 種,甲殻類 75 種を掲載している(環境省,
義嗣氏,吉田彩子氏および宮崎市立大宮中学の生
2012).しかし,沿岸に棲息する底生生物に最も
徒であった第二著者が 2008 年と 2009 年のいずれ
精通している日本ベントス学会では,干潟の絶滅
かの調査に参加して始まり,2010 年の調査では
危惧種に関する検討を重ね,軟体動物(すべて貝
鹿児島大学理学部学生の三浦渚氏および第二著者
類)462 種,節足動物(カブトガニ以外はすべて
が生物採集と標本処理を行った.2014 年の調査
甲殻類)138 種をリストしている(日本ベントス
は著者らだけで実施した.2014 年には第一著者
学会,2012)
.これらリストと加計呂麻島から得
が調査途上で軽い熱射病に罹り,宿泊先と第二著
られた生物を比較すると,甲殻類では鹿児島県指
者のお世話になった.みなさまのご協力に心から
定の 2 種,環境省指定の 2 種,およびベントス学
感謝いたします.
会指定の 14 種が記録できた.また,貝類ではそ
れぞれ,12 種,16 種,20 種の指定種が記録できた.
甲殻類に関しては,干潟出現種だけであるにも関
わらず,ベントス学会の指定種が多く,本研究の
記録種とも重なったが,研究者の個人的見解の相
違や地域の特異性なども含めて,今後ともレッド
リストの作成などは検討を重ねる必要がある.と
りわけ環境省のリストは,汽水性貝類が多く含ま
れる反面,甲殻類は陸域や河川水に限られている
ため,指定種の数に偏りが感じられる.しかし,
現在海産種に関する検討も始まっており,数年後
には解消されると考える.鹿児島県のリスト作成
に関しては今後この点を十分に考慮し,分類群に
よる軽重がないようにすべきであろう.
出現種の中では,クメジマハイガザミモドキ
(ベントス学会の絶滅危惧 II 類)と同属のチチジ
マハイガザミモドキが出現したことは特筆に値す
る.これらの種は与えられた和名にも関わらず,
西太平洋域に広く分布し,生息密度が低いために
国内での記録も少ないのではないかと思う.また,
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県北薩地方における陸産貝類の分布
今村隼人・坂井礼子・竹平志穂・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科
要旨
陸産貝類は,移動性が低く,進化が限られた
ごく狭い範囲で起こるため,地域的な種分化が多
い.このような特性から,各地域における陸産貝
類相の特徴をつかむのに非常に適している.鹿児
島県北薩地方を中心に陸産貝類の分布調査を行
い,各調査域における陸産貝類相を明らかにする
ことを研究目的とした.
2014 年 4 月から 10 月まで,鹿児島県北薩地方
を中心に,13 地点においてナメクジを除く有肺
類を採集した.調査地へは JR で赴き,神社や山林,
雑木林を中心に採集を行った.採集は主に見つけ
取りで行った.そして,調査地の落葉層の土 1L
程度をビニル袋 1 袋に集め,研究室に持ち帰り,
土をふるいにかけ,小型の貝や微小貝を採集した.
生きていたサンプルは茹でて肉抜きをした後,軟
体部はエタノール中に液浸標本として保存した.
貝殻は簡単に水洗いし,乾燥機に 1 週間ほどかけ,
同定した後,チャック付きビニル袋に入れて保存
した.以上の作業終了後,多様度・類似度などの
データ分析を行った.
13 地点の調査の結果,計 8 科 13 属 14 種,288
個体の陸産貝類(ナメクジを除く有肺類)を採集
した.各調査地点において,種数をみると,出水
市野田町下名中郡では最も多い 9 種を確認した.
Imamura, H., R. Sakai, S. Takehira, H. Nakayama, M. Funada
and K. Tomiyama. 2015. The distribution of land snails in
the northern part of Satsuma Peninsula, Kagoshima,
Japan. Nature of Kagoshima 41: 223–238.
KT: Department of Earth and Environmental Sciences,
Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@
sci.Kagoshima-u.ac.jp).
最も少なかったのは鹿児島市烏帽子獄神社で 1 種
であった.種においては,出現地点数をみるとア
ズキガイ,アツブタガイ,ヤマクルマガイが最も
多く,13 地点中 8 地点で確認された.最も少なかっ
たのはトクサオカチョウジガイ,ヒゴギセル,レ
ンズガイでそれぞれ 1 地点でしか確認されなかっ
た.
全体的に草刈りなどにより,ある程度人の手
が加えられた環境で多くの陸産貝類が見つかっ
た.これは,人の手が加えられることにより,陸
産貝類が生活していく上で重要な湿度が高くなり
過ぎず,土壌の性質が適度に保たれるためだと考
えられる.また,採集地の環境から,土壌の量や
豊富な落ち葉も陸産貝類にとっては重要だとも考
えられる.生息場所によっては,人工物をある程
度利用しているものもおり,人間の作り上げた環
境への順応が見受けられた.
はじめに
陸産貝類は,移動性が低く,進化が限られた
ごく狭い範囲で起こるため,地域的な種分化が多
い.このような特性から,各地域における陸産貝
類相の特徴をつかむのに非常に適している.また,
陸産貝類は,主に土壌中に生息し,環境の影響を
受けやすいという生態的性質をもつことから,森
林環境における指標動物として利用できる.その
ため,調査域の陸産貝類相を明らかにすることで,
生息環境に評価を与えることもできる.鹿児島県
北薩地方には,いちき串木野市,薩摩川内市,出
水市,伊佐市などが位置している.この地方にお
ける陸産貝類のデータは,調査を行ってきた人が
限られるため,正確な分布データが少ない.そこ
で,鹿児島県レッドデータブックの基礎調査の一
223
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
村,1939, 1940)を使用して,陸産貝類の分布域
ごとの多様度や類似度などの分析を行い,類似度
デンドログラムを作成した.また,前述のように
生息群集の評価も行った.
材料と方法
2014 年 4 月から 10 月まで,鹿児島県北薩地方
を中心に,13 地点においてナメクジを除く有肺
類を採集した(Fig. 1, Table 1 参照).また,正確
な位置を知るため,全ての調査地点で GPS 受信
機(eTrex®20J)を用いて緯度・経度を求めた.
調査地へは JR で赴き,神社や山林,雑木林を中
心に採集を行った.採集は見つけ取りで行った.
Fig. 1.調査地点の地図.
そして,調査地の落葉層の土 1L 程度をビニル袋
1 袋に集め,研究室に持ち帰った.さらに,土を
環として,鹿児島県北薩地方を中心に陸産貝類の
ふるいにかけ,小型の貝や微小貝を採集した.生
分布調査を行った.調査は 2014 年 4 月から 10 月
きていたサンプルは茹でて肉抜きをした後,軟体
までの間,13 地点で行った.調査にあたり,山林,
部はエタノール中に液浸標本として保存した.貝
雑木林,神社を主な調査地に設定して,主に見つ
殻は簡単に水洗いし,乾燥機に1週間ほどかけ,
け取りで採集を行った.これらの場所を調査地と
同定した後,チャック付きビニル袋に入れて保存
したのは,陸産貝類の主な生息環境が保全されて
した.なお,同定には川名(2007)と東(1982)
いるからである.特に,「神社は,長年伐採が行
を参考にした.
われず自然な場所が保たれている」(川名美佐男,
調査地の環境別カテゴリー
2007)ことが多いからである.そして,採集を行
①雑木林(平地)
うことにより,各調査域における陸産貝類相を明
A) 鹿児島市烏帽子嶽神社
らかにすることを研究目的とした.今回の調査で
B) 鹿児島市吉野公園
は,単なる陸産貝類の採集だけでなく,Simpson
C) 日置市徳重神社
の多様度指数(1949),野村・シンプソン指数(野
D) いちき串木野市勘場公園
Table 1.調査地リスト.
地点
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
224
調査地
緯度・経度
日付
鹿児島市烏帽子獄神社
鹿児島市吉野公園
日置市徳重神社
いちき串木野市勘場公園
鹿児島市常盤町
鹿児島市八重山
伊佐市大口下殿
出水市上鯖渕町
出水市熊野神社
出水市野田町下名中郡
薩摩川内市新田神社
薩摩川内市東向田町
薩摩川内市八坂神社
31°26'52.1"N, 130°30'59.7"E
31°38'01.1"N, 130°35'41.1"E 31°37'56.7"N, 130°23'40.9"E
31°42'55.3"N, 130°15'58.5"E
31°35'22.5"N, 130°31'59.3"E
31°43'33.9"N, 130°28'15.2"E 32°01'04.6"N, 130°35'52.9"E
32°05'06.7"N, 130°21'53.2"E
32°04'17.0"N, 130°15'58.0"E
32°04'14.6"N, 130°16'02.7"E
31°49'39.7"N, 130°17'33.6"E
31°48'43.6"N, 130°18'34.1"E
31°49'18.1"N, 130°18'06.5"E
2014.4.14
2014.4.16
2014.4.26
2014.5.22
2014.6.1
2014.7.12
2014.9.16
2014.9.16
2014.9.16
2014.9.16
2014.10.16
2014.10.16
2014.10.16
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
G) 伊佐市大口下殿
有効であるが,主に森林環境にしか適用されない
H) 出水市上鯖渕町
という難点をもつ.それは,この計算方法が森林
I) 出水市熊野神社
環境に生息している陸産貝類を対象としたもので
J) 出水市野田町下名中郡
あるため,人家や人工物を棲家としている個体群
K) 薩摩川内市新田神社
に対しては正確に反映されないからである.しか
②山林
E) 鹿児島市常盤町
F) 鹿児島市八重山
③市街地
しここでは,あえて人家を中心とした調査域の点
数付けも行うことにする.
例)計算方法
A の森林地域における陸産貝類
L) 薩摩川内市東向田町
・ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×10 個体
M) 薩摩川内市八坂神社
・アツブタガイ(分布特性上重要)×5 個体
分析方法
採集したサンプルを基に,Simpson の多様度指
・ヒゴギセル(準絶滅危惧)×3 個体
以上の結果から,A の森林地域の環境は
数(Simpson, 1949)を用いて調査地点ごとに陸産
(0×10)+(0×5)+(4×3)= 12 点となる.
貝類の多様度を求め,比較した.多様度指数は以
標準点を 0 としているため,陸産貝類が生息
下の式を用いて導いた.
するのに適した林内環境といえる.
カテゴリー区分ついて
カテゴリー区分には鹿児島県レッドデータ
※ D =多様度指数,S =種数,Pi =相対優先度
ブック(鹿児島県,2003: 7)から一部引用してい
を指す.
る.分布特性上重要な種には,生息数が多く個体
さらに,各調査地点間の類似度を,以下の野村・
群が安定していると思われるものが含まれる(鹿
シ ン プ ソ ン 指 数( 野 村,1939, 1940; Simpson,
児島県,2003: 299).種によっては,分布特性上
1949)を用いて求め,比較した.また,この値か
重要であっても,都市近郊に生息する個体群は消
ら類似度のデンドログラムを作成した.
滅危惧Ⅰ類に指定されるものなどもいるため,そ
の場合は一律にせず,採集地に応じてカテゴリー
区分を変えている.
※ CRS =野村・シンプソン指数,a =地域 A の
種数,b= 地域 B の種数,c= 地域 A, B の共通種
数を指す.
結果と考察
13 地点の調査の結果,計 8 科 13 属 14 種,288
個体の陸産貝類(ナメクジを除く有肺類)を採集
陸産貝類は,主に土壌に生息するという生態
した.各調査地点において,種数をみると,出水
的性質から森林環境の指標動物として利用され
市野田町下名中郡では最も多い 9 種を確認し,次
る.そこで,鹿児島県レッドデータブック(鹿児
島県,2003)を基に,結果として採集できた陸産
貝類をカテゴリー分けし,さらに点数を付加する
(Table 2 を参照).そして調査地ごとの群集に評
価を与えてみる.点数が高いほど,陸産貝類が生
息できるだけの 環境が整っているとみなす.そ
して,点数が負の値になるほど悪化しているとみ
なす.なお,計算結果は 0 を標準とする.また,
この方法は単純に数値として客観的に示す分には
Table 2.カテゴリー区分とその点数.
カテゴリー区分
絶滅危惧
準絶滅危惧
絶滅のおそれのある地域個体群
移入種
絶滅危惧 I 類
絶滅危惧 II 類
準絶滅危惧
消滅危惧 I 類
消滅危惧 II 類
準消滅危惧
分布特性上重要
国内移入種
国外移入種
点数
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
225
226
2
27
40
21
3
15
288
0
1
0
0
0
4
5
32
0
0
41
12
0
3
27
47
17
0
0
1
0
0
計(個体数)
n
3
3
3
9
3
5
6
5
5
4
1
6
採集種数
RESEARCH ARTICLES
10
35
1
5
18
0
0
27
0
0
0
6
0
0
1
0
3
0
0
5
0
1
1
0
0
1
0
10
m
l
Fig. 2.採集した陸産貝類相.
4
0
0
2
1
0
0
0
3
0
0
1
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
j
k
いで鹿児島市吉野公園と鹿児島市常盤町で 6 種を
確認した.最も少なかったのは鹿児島市烏帽子獄
神社で 1 種であった.また,個体数をみると,い
0
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
i
ちき串木野市勘場公園が 47 個体と最も多く,次
いで鹿児島市常盤町が 41 個体であった.一方で
1
0
0
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
1
0
0
2
0
0
g
h
最も少なかったのも,鹿児島市烏帽子獄神社で 1
個体であった.種においては,出現地点数をみる
とアズキガイ,アツブタガイ,ヤマクルマガイが
0
13
0
0
0
5
0
0
3
0
0
5
0
0
f
最も多く,13 地点中 8 地点で確認された.次い
でタカチホマイマイが 7 地点で確認された.最も
2
0
0
82
0
0
0
1
2
0
8
11
0
0
0
1
0
0
0
21
0
0
6
31
0
3
0
0
d
e
少なかったのはトクサオカチョウジガイ,ヒゴギ
セル,レンズガイでそれぞれ 1 地点でしか確認さ
れなかった.また,個体数をみるとアズキガイが
0
34
2
0
0
2
3
10
6
1
9
0
1
0
c
最も多く,82 個体確認された.次いでヤマクル
マガイが 60 個体にのぼった.最も個体数が少な
60
0
0
20
0
1
0
0
6
9
0
13
19
0
1
1
2
7
0
0
0
10
1
0
6
4
0
0
a
b
いのはレンズガイで 1 個体しか確認されなかっ
た.詳細な採集結果は Tables 3–4 と Fig. 2 に示す.
陸産貝類の調査にあたり,神社や山林,雑木
薩摩川内市八坂神社
計(個体数)
界(川名,2007: 14)で述べられている記述と一
致する.例えば,本調査の結果より,山林帯であ
る鹿児島市常盤町のデータと鹿児島市八重山の
データを比較したとき,常盤町の方が種数も個体
数も多かった.個体数に関しては八重山の 3 倍以
上である.八重山は,常盤町と比べて草木の丈が
2014.10.16
薩摩川内市新田神社
2014.10.16
薩摩川内市東向田町
陸産貝類が見つかった.これは,かたつむりの世
2014.10.16
出水市野田町下名中郡
出水市熊野神社
2014.9.16
2014.9.16
出水市上鯖渕町
伊佐市大口下殿
2014.9.16
2014.9.16
鹿児島市八重山
鹿児島市常盤町
2014.6.1
2014.7.12
いちき串木野市勘場公園
日置市徳重神社
2014.4.26
2014.5.22
鹿児島市吉野公園
2014.4.16
鹿児島市烏帽子嶽神社
より,ある程度人の手が加えられた環境で多くの
2014.4.14
調査地 種
林などを中心に廻ったが,全体的に草刈りなどに
日付
Table 3.採集できた陸産貝類リスト.ヤマタニシ =a,ヤマクルマガイ =b,アツブタガイ =c,アズキガイ =d,ヒゴギセル =e,ギュリキギセル =f,オカチョウジガイ =g,トクサオカチョウジガイ
=h,レンズガイ =i,コベソマイマイ =j,ダコスタマイマイ =k,ウスカワマイマイ =l,タカチホマイマイ =m,コハクオナジマイマイ =n を示す.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
長く,鬱蒼としてあまり人の手が加えられていな
い環境であり,個体数も種数も乏しかった.この
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ように,同じ山林でも草刈りなどにより,ある程
することがあった.ブロック塀の穴の中で採集し
度人の手によって整備された場所の方が,より多
た個体は,殻に篭っていることが多かったため,
く見つけることができた.これは,人の手が加え
ここをねぐらに利用していると考えられる.この
られることにより,陸産貝類が生活していく上で
ように,生息場所によっては,人工物をある程度
重要な湿度が高くなり過ぎず,土壌の性質が適度
利用している陸産貝類もおり,人間の作り上げた
に保たれるためだと考えられる.しかし,人の手
環境へある程度順応していると考えられる.した
が加えられていても,場所によっては乾燥して林
がって,一部の陸産貝類には,人工物が身を守る
床の地表面が極端に堅い場所や,落葉が多すぎて
ために重要なものとして機能しているといえる.
土壌への分解が追いついていない場所もあった.
そしてこれらの場所には,陸産貝類はあまり生息
多様度指数について
していなかった.以上のことからも,適度な湿度
多様度を求める多様度指数の値(Table 5 を参
と土壌の量や性質,豊富な落ち葉が陸産貝類に
照)は,高い順に出水市野田町下名中郡(0.8238),
とっては重要だと考えられる.
鹿児島市吉野公園(0.7682)と続き,鹿児島市烏
また,林内では,多くの陸産貝類は落ち葉の
帽子獄神社(0.00)が最も低かった(※鹿児島市
下に潜んでいることがほとんどだが,樹木に付着
烏帽子獄神社では 1 個体しか採集できなかった).
している個体もいた.本調査においては,樹木の
以上から,調査地点の中では出水市野田町下名中
中でも広葉樹に付着している個体だけが確認さ
郡が最も複雑な群集,鹿児島市烏帽子獄神社が最
れ,針葉樹に付着する個体は確認されなかった.
も単純な群集という結果になった.
この理由は明確にはわからなかったが,いくつか
多様度指数が最も高かった出水市野田町下名
推測される.まず,針葉樹の樹皮と陸産貝類の軟
中郡は,畑や人家の近くであり,人の手がある程
体部との相性が物理的あるいは化学的に合わない
度加わっている場所であった.乾燥し過ぎること
ということが考えられる.また,広葉樹の葉の形
もなく,落ち葉や柔らかい土壌も豊富であったた
状が,針葉樹の葉の形状に比べて,陸産貝類の身
め,豊富な種数・個体数が確認されたと考えられ
を隠すためだけでなく,移動する際や採餌の際に
る.次いで高かった多様度指数は,鹿児島市吉野
も有効であることなども考えられる.市街地では,
公園である.ここもある程度人の手が加わった場
建物の壁やブロック塀の穴の中で陸産貝類を発見
所であったが,公園内の場所によっては,土壌・
Table 4.採集できた陸産貝類の平均,分散,標準偏差.
調査地
鹿児島市烏帽子嶽神社
鹿児島市吉野公園
日置市徳重神社
いちき串木野市勘場公園
鹿児島市常盤町
鹿児島市八重山
伊佐市大口下殿
出水市上鯖渕町
出水市熊野神社
出水市野田町下名中郡
薩摩川内市新田神社
薩摩川内市東向田町
薩摩川内市八坂神社
計
平均(1 ヶ所あたり)
分散
標準偏差
個体数
出現種数
平均個体数(1 種あたり)
1
17
27
47
41
12
5
32
27
40
21
3
15
288
22.15
227.14
15.07
1
6
5
4
6
5
3
5
3
9
3
3
2
/14
4.23
4.36
2.09
1
2.83
5.4
11.75
6.83
2.4
1.67
6.4
9
4.44
7
1
7.5
20.57
227
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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類似度について
最も高い類似度の値は 1.00 であり,鹿児島市
烏帽子獄神社と吉野公園との間などで見られた.
この他にも,複数の地点で高い類似度が示されて
いる.理由は,鹿児島市烏帽子獄神社における採
集種数が 1 種のみであったためである.野村・シ
ンプソン指数を用いた類似度の計算式上,各群集
における種数しか反映されない.そのため,鹿児
島市烏帽子獄神社とそれ以外の地域で高い類似度
を示したといえる.逆に 0.00 と最も低い類似度も,
複数の地点間で示されている.この値を示した理
由は,2 地点間で共通種が確認されなかったため
Fig. 3.各地点間の類似度デンドログラム.A= 鹿児島市烏
帽子獄神社,B= 鹿児島市吉野公園,C= 日置市徳重神社,
D= いちき串木野市勘場公園,E= 鹿児島市常盤町,F= 鹿
児島市八重山,G= 伊佐市大口下殿,H= 出水市上鯖渕町,
I= 出水市熊野神社,J= 出水市野田町下名中郡,K= 薩摩
川内市新田神社,L= 薩摩川内市東向田町,M= 薩摩川内
市八坂神社を示す.
である.類似度の値(Table 6 を参照)は高い順に,
1.00,0.80,0.67 となった.鹿児島市烏帽子獄神
社-吉野公園間などで類似度 1.00 と高い値を示
した.また,出水市上鯖渕町-鹿児島市吉野公園
間などで類似度 0.80 を示した.逆に最も低い類
似度は,日置市徳重神社-薩摩川内市八坂神社間
などでの 0.00 であった.
類似度デンドログラムについて
落ち葉ともに豊富であった.一方で最も低かった
類似度デンドログラム(Fig. 3)では,鹿児島
のは鹿児島市烏帽子獄神社である.ここは人の手
市烏帽子獄神社-鹿児島市吉野公園間や,いちき
も入り,落ち葉や土壌の豊富な場所であったが,
串木野市勘場公園-鹿児島市常盤町間などの 7 地
1 種 1 個体しか採集できなかった.この原因とし
点間で類似度 1.00 を示し,高い類似度を示した.
ては,林内の乾燥化が考えられる.この調査地は
一方,これらと最もかけ離れたのは,類似度 0.67
海側に面しており,海からの風が直接林内に入っ
を示した伊佐市大口下殿という結果になった.し
てくる.そのため,林内が乾燥化し,陸産貝類が
かし,陸産貝類の分布傾向は見出せなかった.こ
生息しにくい環境になったと考えられる.
れは,各調査地における出現種数に偏りがあった
ためだと考えられる.類似度デンドログラムを用
いるならば,もっと多くの種数を採集しなければ
Table 5.各地点の多様度指数とその点数.
調査地
鹿児島市烏帽子嶽神社
鹿児島市吉野公園
日置市徳重神社
いちき串木野市勘場公園
鹿児島市常盤町
鹿児島市八重山
伊佐市大口下殿
出水市上鯖渕町
出水市熊野神社
出水市野田町下名中郡
薩摩川内市新田神社
薩摩川内市東向田町
薩摩川内市八坂神社
228
多様度指数
0
0.7682
0.7
0.5079
0.6758
0.7222
0.56
0.5469
0.631
0.8238
0.254
0.6667
0.4444
十分なデータは得られないと考えられる.さらに,
極端に違うデータの数値は使用しないなどの工夫
も必要だと考えられる.
環境評価について
各調査域における群集の計算結果(Table 7 を
参照)は,薩摩川内市八坂神社で最も高い 20 点
を示した.続いて,出水市野田町下名中郡で 12
点を示した.逆に最も低かったのは,鹿児島市常
盤町の- 2 点だった.続いて,鹿児島市烏帽子獄
1.00
1.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
1.00
1.00
1.00
いちき串木野市勘場公園
鹿児島市常盤町
鹿児島市八重山
伊佐市大口下殿
出水市上鯖渕町
出水市熊野神社
出水市野田町下名中郡
薩摩川内市新田神社
薩摩川内市新田神社東向田町
薩摩川内市八坂神社
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
絶滅危惧 I 類
×6 点
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
鹿児島市烏帽子獄神社
鹿児島市吉野公園
日置市徳重神社
いちき串木野市勘場公園
鹿児島市常盤町
鹿児島市八重山
伊佐市大口下殿
出水市上鯖渕町
出水市熊野神社
出水市野田町下名中郡
薩摩川内市新田神社
薩摩川内市東向田町
薩摩川内市八坂神社
合計(個体数)
A
調査地 カテゴリー
Table 7.各調査地点の群集評価.
0.00
日置市徳重神社
C
0.50
0.67
1.00
0.50
1.00
0.80
0.67
0.40
0.67
0.50
1.00
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
絶滅危惧 II 類
×5 点
B
鹿児島市
鹿児島市
烏帽子獄神社 吉野公園
1.00
鹿児島市吉野公園
B
Table 6.各地点間の類似度指数.
1.00
0.67
0.33
0.75
0.33
0.25
0.33
0.25
0.75
0.50
0.67
1.00
0.67
0.67
0.60
0.33
0.40
4
0
0
0
3
0
1
0
0
0
0
0
0
0
準絶滅危惧
×4 点
C
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
消滅危惧 I 類
×3 点
D
E
F
鹿児島市
八重山
0.50
0.00
0.67
0.80
0.33
0.40
0.67
11
10
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
消滅危惧 II 類
×2 点
日置市 いちき串木野市 鹿児島市
徳重神社
勘場公園
常盤町
0.00
0.33
0.67
0.60
1.00
0.80
0.67
0.40
0.60
0.25
2
0
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0.00
0.33
0.67
0.80
1.00
H
I
出水市
熊野神社
0.00
0.33
0.33
0.67
269
5
0
21
37
27
31
5
11
40
47
27
17
1
分布特性上重要
×0 点
出水市
上鯖渕町
準消滅危惧
×1 点
G
伊佐市
大口下殿
0.50
0.00
0.33
0.67
0.33
0.33
0.50
0.33
0.50
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
国内移入種
×-1 点
J
1
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
国外移入種
×-2 点
K
20
4
0
12
0
4
0
5
-2
0
0
0
0
点数
L
出水市野田町 薩摩川内市 薩摩川内市
下名中郡
新田神社
東向田町
0.50
0.67
0.67
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
229
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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神社,鹿児島市吉野公園などの 7 つの地点で示し
・採集地:鹿児島市吉野公園(4 個体),日置市
た 0 点で,この点数を示した地点が最も多かった.
徳重神社(1 個体),伊佐市大口下殿(1 個体),
以上のことから,陸産貝類が生息するうえで最も
出水市上鯖渕町(1 個体),出水市熊野神社(13
環境が整っているのは薩摩川内市八坂神社で,最
個体)∴計 5 ヶ所,20 個体採集
も環境が悪いのは鹿児島市常盤町という結果に
・生息状況:腐敗した倒木や落ち葉の下に生息し
なった.ここでは,環境評価の計算上,標準点を
ていた.
0 点としている.前述のように,調査地域の点数
本種は分布域も幅広く個体数も多かったため,
は 0 点が最も多かったため,陸産貝類が生息して
比較的普遍的な種だといえる.一方,薩摩川内市
いく上では,全体的に標準的な環境が多いという
では確認されなかったが,これは,土壌の性質や
結果になった.
気温,湿度などが原因と考えられる.また,鹿児
以上のことから,陸産貝類が生息するうえで
島県レッドデータブック(鹿児島県,2003: 517)
薩摩川内市八坂神社の環境が最も整っており,鹿
によると,完全なセルロース食に近いとされてい
児島市常盤町の環境が最も悪いという結果になっ
るため,落ち葉の量が生息に大きく関わるとも考
た.このような結果になった理由を以下に述べる.
えられる.その一方で,単に探し方が不十分だっ
まず,薩摩川内市八坂神社は,市街地に位置する
た可能性も考えられる.
ため,ここで採集したタカチホマイマイは都市近
郊個体群とした.同個体群は,消滅危惧Ⅱ類に指
2.アツブタガイ
定されている.そのため,この地域における群集
Cyclotus (Procyclotus) campanulatus Martens, 1865
の点数が極端に高くなったのである.一方,鹿児
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
島市常盤町においては,国外外来種が確認された
郊個体群:消滅危惧 II 類)
ため,本調査域における群集の点数は最も低い結
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方に分布
果を示したのである.確認された種は,東南アジ
する.鹿児島県は本種の分布の南限地となってい
ア原産のトクサオカチョウジガイであり,土壌や
る(鹿児島県,2003: 518).
樹木などを運搬する際などに紛れ込み,分布域を
・採集地:鹿児島市吉野公園(1 個体),日置市
広げたと考えられる.また,これによって,在来
徳重神社(9 個体),鹿児島市常盤町(6 個体),
種との競争が生じ,生態系が乱れることも懸念さ
鹿児島市八重山(1 個体),伊佐市大口下殿(3 個
れる.
体),出水市上鯖渕町(10 個体),出水市野田町
以下に種別出現リストと,調査地点別出現リ
ストを示す.
下名中郡(2 個体),薩摩川内市新田神社(2 個体)
∴計 8 ヶ所,34 個体採集
・生息状況:腐敗した倒木や落ち葉の下に生息し
種別出現リスト
腹足綱 GASTROPODA
ていた.
本種は採集した陸産貝類の中で個体数,出現
盤足目 Discopoda
地点数共に多く,鹿児島市から出水市まで幅広く
ヤマタニシ科 Cyclophoridae
分布していたため,普遍的に見られる種といえる.
1.ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
また,本種はいちき串木野市の調査地では確認で
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
きなかったが,この調査地点を他の出現地点と比
郊個体群:準消滅危惧)
較しても,特に植生などの相違点はなかったため,
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方,枇榔
土壌の性質や湿度,気温などが原因と考えられる.
島,甑島列島,種子島,屋久島,草垣群島,口永
一方で単に探し方が不十分だった可能性も考えら
良部島,口之島に分布する.口之島は本種の分布
れる.
の南限地となっている(鹿児島県,2003: 517).
230
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ヤマクルマガイ科 Spirostomatidae
個体),鹿児島市常盤町(21 個体),出水市上鯖
3.ヤマクルマガイ
渕町(1 個体),出水市熊野神社(8 個体),出水
Spirostoma japonicum japonicum
市野田町下名中郡(11 個体),薩摩川内市東向田
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
町(1 個体)∴計 8 ヶ所,82 個体採集
郊個体群:準消滅危惧)
・生息状況:腐敗した倒木や落ち葉の下に多く生
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方,甑島
息し,場所によっては苔類の発生するブロック塀
列島に分布する.鹿児島県は本種の分布の南限地
などに付着していることもあった.
となっている(鹿児島県,2003: 520).
本種は個体数と出現地点数が最も多く,鹿児
・採集地:鹿児島市吉野公園(6 個体),日置市
島市から出水市まで幅広い地域に分布していたた
徳重神社(10 個体),鹿児島市常盤町(7 個体),
め,普遍的に見られる種だといえる.また,本種
鹿児島市八重山(2 個体)
,出水市上鯖渕町(19
は,伊佐市の調査地では確認できなかったが,こ
個体),出水市熊野神社(6 個体),出水市野田町
の原因としては 伊佐市の調査地が比較的乾燥し
下名中郡(9 個体),薩摩川内市新田神社(1 個体)
た環境だったためだと考えられる.その一方で,
∴計 8 ヶ所,60 個体採集
単に探し方が不十分だった可能性も考えられる.
・生息状況:腐敗した倒木や落ち葉の下に生息し
ていた.
本種は分布域が幅広く個体数も多かったため,
柄眼目 Stylommatophora
キセルガイ科 Clausliidae
普遍的な種だといえる.一方で,いちき串木野市
5.ヒゴギセル Paganizaptyx strictaluna kochiensis
では確認されなかったが,この調査地点を他の出
・鹿児島県カテゴリー:準絶滅危惧
現地点と比較しても,特に植生などの相違点はな
・鹿児島県内の分布:長島,薩摩地方に分布する.
かったため,土壌の性質や気温,湿度などが原因
鹿児島県は本種の分布の南限地となっている(鹿
と考えられる.また,鹿児島県レッドデータブッ
児島県,2003: 448).
ク(鹿児島県,2003: 520)によると,完全なセル
・採集地:出水市野田町下名中郡(2 個体)∴計 1 ヶ
ロース食に近いとされているため,落ち葉の量が
所,2 個体採集
生息に大きく関わるとも考えられる.その一方で,
・生息状況:落ち葉の下に生息していた.
単に探し方が不十分だった可能性も考えられる.
本種は,出水市の 1 ヶ所の調査地点で 2 個体
出現したが,鹿児島県レッドデータブック(鹿児
アズキガイ科 Pupinidae
島県,2003: 448)によると,分布地域は北薩地域
4.アズキガイ
に限られているようである.今回の調査結果と,
Pupinella(Pupinopsis) rufa (Sowerby, 1864)
鹿児島県レッドデータブック(同上)における採
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(離島個
集の記録の少なさから,本種は採集した陸産貝類
体群・都市近郊個体群:準消滅危惧)
の中では希少な種だといえる.
・鹿児島県内における分布:薩摩地方,大隅地方,
甑島列島,大隅諸島,十島村(口之島・中之島)
6.ギュリキギセル
に分布.奄美大島の名瀬市に本種が生息している
Stereophaedusa (Breviphaedusa)addisoni addisoni (Pilsbry, 1901)
が,大型で九州南部個体群に特徴が酷似しており,
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
人為的に持ち込まれたと推定されている.なお,
郊個体群:消滅危惧 II 類)
鹿 児 島 県 は 本 種 の 南 限 地 で あ る( 鹿 児 島 県,
・鹿児島県内の分布:甑島列島,薩摩地方,大隅
2003: 521).
地方,枇榔島,沖秋目島,屋久島に分布する(鹿
・採集地:鹿児島市吉野公園(3 個体),日置市
児島県,2003: 522).
徳重神社(6 個体),いちき串木野市勘場公園(31
・採集地:いちき串木野市勘場公園(5 個体),
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鹿児島市常盤町(3 個体),出水市野田町下名中
島県レッドデータブック(鹿児島県,2003: 622)
郡(5 個体)∴計 3 ヶ所,13 個体採集
によると,本種は東南アジア原産の国外外来種で
・生息状況:落葉層の土の中に生息していること
あるが,鹿児島県全域に定着していると記載され
が多かったが,場所によっては樹木の表面にも付
ている.移入経路に関しては,外来種(動物)の
着していた.
現状等に関する報告書(千葉県,2007: 64–65)に
本種は,比較的乾燥した場所でも確認された
よると,日本へはサトウキビに付着して移入した
陸産貝類である.特に落ち葉の多い場所には多く
と記載されている.また,農作物や家庭菜園への
生息する傾向があったが,出現地点数が少なく,
食害が懸念されるとも記載されている.本種は,
いちき串木野市,鹿児島市,出水市とまばらであっ
多くの場合,土壌や樹木などの運搬・輸送の際に
た.鹿児島県レッドデータブック(鹿児島県,
混入・付着することで分布域を拡大していると考
2003: 522)によると,鹿児島市,出水市を含めた
えられる.また,これによって在来種との競争が
広範囲な生息域が記載されているため,探し方が
生じ,生態系を乱してしまう可能性がある.
不十分で確認できなかった可能性がある.
ベッコウマイマイ科 Helicarionidae
オカチョウジガイ科 Subulinidae
9.レンズガイ
7.オカチョウジガイ
Otesiopsis japonica (Möllendorff, 1885)
Allopeas clavulinum kyotoense (Pilsbry & Hirase, 1904)
・鹿児島県カテゴリー:絶滅危惧 II 類
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要
・鹿児島県内の分布:薩摩地方に分布する.鹿児
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方,種子
島県は本種の分布の南限地となっている(鹿児島
島,屋久島に分布する.
県,2003: 377).
・採集地:鹿児島市吉野公園(2 個体),日置市
・採集地:鹿児島市八重山(1 個体)∴計 1 ヶ所,
徳重神社(1 個体)∴計 2 ヶ所,3 個体採集
1 個体採集
・生息状況:落葉層の土の中に生息していた.
・生息状況:落ち葉の下に生息していた.
本種は,基本的に土をふるいにかけた際に採
本種は 1 ヶ所で 1 個体しか採集できなかった.
集される微小貝である.その大きさのせいか,ほ
また,鹿児島県レッドデータブック(鹿児島県,
とんど確認されず,個体数・出現地点数共に少な
2003: 377)では絶滅危惧 II 類に指定されており,
かったが,単に探し方が不十分だった可能性があ
非常に希少な種である.そのため,本種の出現地
る.
点は貴重な森林環境だと考えられる.出現地点は,
湿気が多く,気温の低い場所だったため,このよ
8.トクサオカチョウジガイ
うな場所を好んで生息していると考えられる.
Allopeas javanicum (Reeve, 1849)
・鹿児島県カテゴリー:移入種
ニッポンマイマイ科 Camaenidae
・鹿児島県内の分布:東南アジア原産.鹿児島県
10.コベソマイマイ
全域に定着(鹿児島県,2003: 622).
Satsuma (Satsuma) myomphala myomphala (Martens, 1865)
・採集地:鹿児島市常盤町(1 個体)∴計 1 ヶ所,
・鹿児島県カテゴリー:準絶滅危惧
1 個体採集
・鹿児島県内の分布:甑島列島,薩摩地方,大隅
・生息状況:落葉層の土の中に生息していた.
地方,霧島地方,口永良部島に分布する.鹿児島
本種は基本的に土をふるいにかけた際に採集
県は本種の分布の南限地となっている(鹿児島県,
される微小貝である.その大きさのせいか,ほと
2003: 499).
んど確認されず,出現地点数・個体数共に少なかっ
・採集地:出水市上鯖渕町(1 個体),出水市野
たが,探し方が不十分だった可能性がある.鹿児
田町下名中郡(1 個体)∴計 2 ヶ所,2 個体採集
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・生息状況:落ち葉の下に生息していた.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
本種は,採集した陸産貝類の中では,人家に
本種は出水市でしか確認されず,採集できた
近い場所でよく観察された陸産貝である.本種は
個体数も 2 個体と少なかった.鹿児島県レッド
比較的広範囲で観察され,個体数も比較的多かっ
データブック(鹿児島県,2003: 499)によると,
た一方で,鹿児島市内の全ての調査地において採
本種の分布域は広いが生息密度が低いため,個体
集できなかった.これらの調査地点を他の出現地
数が少ないとのことである.そのため,本種の採
点と比較すると,比較的乾燥した地点であったた
集個体数は妥当な数だと考えられる.
め,主に湿度が原因と考えられる.単に探し方が
不十分だった可能性も考えられる.
オナジマイマイ科 Bradybaenidae
11.ダコスタマイマイ
13.タカチホマイマイ
Trishoplita dacostae dacostae Gude, 1900
Euhadra herklotsi nesiotica (Pilsbry, 1902)
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
郊個体群:準消滅危惧)
郊個体群:消滅危惧 II 類)
・鹿児島県内の分布:薩摩地方・大隅地方に分布
・鹿児島県内の分布:鹿児島県の川内川以南の薩
する.佐多岬は本種の分布の南限地となっている
摩・大隅地方,種子島,屋久島に分布する.鹿児
(鹿児島県,2003: 525).
島県は本亜種の分布の南限地となっている(鹿児
・採集地:出水市野田町下名中郡(3 個体),薩
島県,2003: 527).
摩川内市東向田町(1 個体)∴計 2 ヶ所,4 個体
・採集地:鹿児島市烏帽子獄神社(1 個体),鹿
採集
児島市吉野公園(1 個体),いちき串木野市勘場
・生息状況:落ち葉の下に生息していることが多
公園(1 個体),鹿児島市常盤町(3 個体),薩摩
く,場所によっては藻類の発生するブロック塀に
川内市新田神社(18 個体),薩摩川内市東向田町(1
付着していた.
個体),薩摩川内市八坂神社(10 個体)∴計 7 ヶ所,
本種は出水市,薩摩川内市の調査地点でしか
35 個体採集
確認されず,個体数も 4 個体と出現地点数・個体
・生息状況:家屋の塀やブロック塀に付着してい
数共に少なかったが,鹿児島県レッドデータブッ
ることが多かった.場所によっては樹木の表面に
ク(鹿児島県,2003: 525)によると,比較的広域
付着していることも多かった.
に生息しているとの記載がされていたため,探し
方が不十分だった可能性がある.
本種は,出水市,伊佐市,日置市の調査地点
での分布は確認されなかったが,それ以外の市の
調査地点では確認された.出水市,伊佐市,日置
12.ウスカワマイマイ
市の調査地点を他の出現地と比較すると,周囲に
Acusta despecta sieboldiana (Pfeiffer, 1850)
ほとんど人家が見られない環境だった.本種は人
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要
家近くで多く採集されたので,人家から極端に離
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方に分布
れた場所では採集できなかったと考えられる.ま
する.また,鹿児島県は本亜種の分布の南限地と
た,大型で,市街地の人工物を利用して生活して
なっている(鹿児島県,2003: 530).
いる個体が多かったため,身近で環境の変化に強
・採集地:いちき串木野市勘場公園(10 個体),
い種だといえる.一部の場所では,樹木に付着し
鹿児島市八重山(5 個体),伊佐市大口下殿(1 個
ているのを多く確認したが,鹿児島県レッドデー
体),出水市野田町下名中郡(6 個体),薩摩川内
タブック(鹿児島県,2003: 527)によると,やや
市八坂神社(5 個体)∴計 5 ヶ所,27 個体採集
樹上性の傾向があるとされている.
・生息状況:家屋の壁や,遊歩道の手すりなどに
付着していた.
14.コハクオナジマイマイ
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Bradybaena pellucida Kuroda & Habe in Habe, 1953
2.アツブタガイ(分布特性上重要)×1 個体
・鹿児島県カテゴリー:分布特性上重要(都市近
3.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×6 個体
郊個体群:準消滅危惧)
4.アズキガイ(分布特性上重要)×3 個体
・鹿児島県内の分布:薩摩地方,大隅地方,種子
5.オカチョウジガイ(分布特性上重要)×2 個体
島,屋久島,口永良部島,三島村(竹島・硫黄島・
6.タカチホマイマイ(分布特性上重要)×1 個体
黒島)に分布する.なお,鹿児島県は本種の南限
∴計 6 種,17 個体採集
地となっている(鹿児島県,2003: 528).
点数:0 点
・採集地:鹿児島市八重山(3 個体),出水市野
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
田町下名中郡(1 個体)∴計 2 ヶ所,4 個体採集
環境といえる.
・生息状況:樹木の表面に付着していることが多
本調査地は,鹿児島市吉野町に位置する都市
かった.場所によっては落ち葉の下にも生息して
公園である.公園の大部分はほとんど芝刈りなど
いた.
で定期的に整備されているが,一部には落ち葉や
本種は出水市でしか確認されなかったが,鹿
土壌が豊富な場所もあったため,採集はここで
児 島 県 レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク( 鹿 児 島 県,2003:
行った.特に気温が低く湿度の高い場所ではな
528)によると,出水市での採集記録が記載され
かったが,日陰で落ち葉と土壌が豊富だった.当
ていなかったため,分布域が拡大した可能性があ
初は手入れが行き届きすぎて生息は見られないと
る.また,本調査で採集できた個体数が少なかっ
推定していたが,調査してみると 6 種が確認され
たが,鹿児島県レッドデータブック(同上)によ
た.これは,あまり乾燥した場所ではなく,ある
ると生息数は必ずしも多くはないようである.
程度湿度が高く,豊富な落ち葉と土壌があったた
め,生息できたと考えられる.
調査地点別出現リスト
A.鹿児島市烏帽子嶽神社(31°26′52.1″N, 130°30′59.7″E)
C.日置市徳重神社(31°37′56.7″N, 130°23′40.9″E)
環境カテゴリー:雑木林(平地)
環境カテゴリー:雑木林(平地)
1.タカチホマイマイ(分布特性上重要)×1 個体
1.ヤマタニシ(分布特性上重要)×1 個体
∴計 1 種,1 個体採集
2.アツブタガイ(分布特性上重要)×9 個体
点数:0 点
3.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×10 個体
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
4.アズキガイ(分布特性上重要)×6 個体
環境といえる.
5.オカチョウジガイ(分布特性上重要)×1 個体
本調査地は鹿児島市平川町に位置する神社で
∴計 5 種,27 個体採集
あり,海辺に近い.そのため,海からの風がよく
点数:0 点
侵入していた.この神社には照葉樹・針葉樹が多
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
く生えており,落ち葉の量も多かった.しかし,
環境といえる.
本調査場所の種数・個体数は,豊富な落ち葉と土
本調査地は,日置市伊集院町に位置する神社
壌を有していたにも関わらず少なかった.これは,
である.この神社は照葉樹・針葉樹が多く生え,
本調査場所が海に面した場所であったため,海か
落ち葉が豊富な場所であった.また,林内はさほ
らの風が直接林内に侵入することによる乾燥化が
ど乾燥していなかった.土壌も豊富で柔らかく,
原因と考えられる.
落ち葉の量がある程度多い環境であった.そのた
め,個体数が多かったと考えられる.
B.鹿児島市吉野公園(31°38′01.1″N, 130°35′41.1″E)
環境カテゴリー:雑木林(平地)
D.いちき串木野市勘場公園(31°42′55.3″N, 130°15′58.5″E)
1.ヤマタニシ(分布特性上重要)×4 個体
環境カテゴリー:雑木林(平地)
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
1.アズキガイ(分布特性上重要)×31 個体
1.アツブタガイ(分布特性上重要)×1 個体
2.ギュリキギセル(分布特性上重要)×5 個体
2.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×2 個体
3.ウスカワマイマイ(分布特性上重要)×10 個体
3.レンズガイ(絶滅危惧Ⅱ類)×1 個体
4.タカチホマイマイ(分布特性上重要)×1 個体
4.ウスカワマイマイ(分布特性上重要)×5 個体
∴計 4 種,47 個体採集
5.コハクオナジマイマイ(分布特性上重要)×3 個体
点数:0 点
∴計 5 種,12 個体採集
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
点数:5 点
環境といえる.
評価:絶滅危惧Ⅱ類と,採集した陸産貝類の中で
本調査地はいちき串木野市栄町に位置する公
は最も絶滅が危ぶまれている種が確認された.そ
園である.遊歩道が設置されており,雑木林が立
のため,標準より少し点数が高い.陸産貝類の生
ち並び,落ち葉が多かった.林内は鬱蒼としたも
息に適した林内環境といえる.
のではなく,比較的明るかった.確認できた種は,
本調査地は,鹿児島市郡山町と薩摩川内市入
分布特性上重要な種ばかりであった.腐った木が
来町の堺に位置する標高 677 m の山である.主に
倒れている場所があり,ここで多くのアズキガイ
調査を行ったのは,麓から標高約 300 m 付近で
の幼体を採集できたため,特に倒木の下はアズキ
あった.雨天の影響もあり,やや林内は暗く,湿
ガイが成長するのに適した環境だと考えられる.
度が高かった.落ち葉の量は多かったが,土壌が
固かった.あまり人の手が加えられた形跡はなく,
E.鹿児島市常盤町(31°35′22.5″N, 130°31′59.3″E)
確認された種数が少なかった.ここでは,絶滅危
環境カテゴリー:山林
惧 II 類に指定されるレンズガイが確認された.
1.アツブタガイ(分布特性上重要)×6 個体
山林ということで多様な種が生息すると推定して
2.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×7 個体
いたが,あまり陸産貝類は生息していなかった.
3.アズキガイ(分布特性上重要)×21 個体 極度に湿度が高く,土壌が固すぎるのは陸産貝類
4.ギュリキギセル(分布特性上重要)×3 個体
の生息域を狭める要因となると考えられる.
5.トクサオカチョウジガイ(国外移入種)×1 個体
6.タカチホマイマイ(分布特性上重要)×3 個体
G.伊佐市大口下殿(32°01′04.6″N, 130°35′52.9″E)
∴計 6 種,41 個体採集
環境カテゴリー:雑木林(平地)
点数:- 2 点
1.アツブタガイ(分布特性上重要)×3 個体
評価:国外移入種が 1 種確認された.この種の個
2.ヤマタニシ(分布特性上重要)×1 個体
体数が少なかったため,点数もそこまで低い値に
3.ウスカワマイマイ(分布特性上重要)×1 個体
はならなかった.若干,林内環境の悪化が懸念さ
∴計 3 種,5 個体採集
れる.
点数:0 点
本調査地は鹿児島市常盤町の山林である(標
高約 40 m).照葉樹・竹が多く生えており,林内
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
環境といえる.
は比較的明るかった.また,落ち葉も土壌も多かっ
本調査地は,伊佐市大口下殿に位置する雑木
た.国外移入種であるトクサオカチョウジガイが
林である.やや乾燥しており,林床には落ち葉も
土壌中から確認されたが,植木に付着したり土壌
多かったが,土壌の量はそこまで豊富とは言い難
に混入したりして移動し,分布域が拡大したと考
かった.また,比較的乾燥した場所でもあった.
えられる.
また,土壌も固かったためか,陸産貝類はあまり
確認されなかった.確認された種も分布特性上重
F.鹿児島市八重山(31°43′33.9″N, 130°28′15.2″E)
要とされる種のみであり,採集個体数も少なかっ
環境カテゴリー:山林
たため,陸産貝類が生息するのにはあまり適さな
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
い環境だと考えられる.
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の個体数が少ないため,原因は他に植生や気温,
湿度,土壌などが考えられるが,断定はできない.
H.出水市上鯖渕町(32°05′06.7″N, 130°21′53.2″E)
環境カテゴリー:雑木林(平地)
J.出水市野田町下名中郡(32°04′14.6″N, 130°16′02.7″E)
1.ヤマタニシ(分布特性上重要)×1 個体
環境カテゴリー:雑木林(平地)
2.アツブタガイ(分布特性上重要)×10 個体
1.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×9 個体
3.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×19 個体
2.アツブタガイ(分布特性上重要)×2 個体
4.アズキガイ(分布特性上重要)×1 個体
3.アズキガイ(分布特性上重要)×11 個体
5.コベソマイマイ(準絶滅危惧)×1 個体
4.ヒゴギセル(準絶滅危惧)×2 個体
∴計 5 種,32 個体採集
5.ギュリキギセル(分布特性上重要)×5 個体
点数:4 点
6.コベソマイマイ(準絶滅危惧)×1 個体
評価:準絶滅危惧種が確認された.そのため,少
7.ダコスタマイマイ(分布特性上重要)×3 個体
し点数が高い.陸産貝類の生息に適した林内環境
8.ウスカワマイマイ(分布特性上重要)×6 個体
といえる.
9.コハクオナジマイマイ(分布特性上重要)×1 個体
本調査地は照葉樹・針葉樹が立ち並ぶ場所で
∴計 9 種,40 個体採集
あった.準絶滅危惧種であるコベソマイマイが確
点数:12 点
認された環境であるが,比較的落ち葉が多かった
評価:準絶滅危惧種が計 2 種,3 個体確認された.
ものの土壌が固かった.陸産貝類の生息数は土壌
そのため,点数が少し高い.陸産貝類の生息に適
の固さに左右することが多いが,土壌が固かった
した林内環境といえる.
にも関わらず個体数が多かったため,陸産貝類の
本調査地は人家や畑に近く,草刈りなどで手
生息に有利な要因が他にあった可能性がある.そ
入れがされている環境であった.また,土壌・落
れは植生や気温,湿度,落ち葉の量などが考えら
ち葉の量も多く,乾燥もしていなかった.ここで
れるが,以上のどれかは断定できない.
は,準絶滅危惧種が 2 種確認されており,分布特
性上重要な種も 7 種確認され,非常に多様である.
I.出水市熊野神社(32°04′17.0″N, 130°15′58.0″E)
また,個体数も全体としては多い.以上のことか
環境カテゴリー:雑木林(平地)
ら,陸産貝類にとって非常に生息しやすい環境だ
1.ヤマタニシ(分布特性上重要)×13 個体
と考えられる.
2.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×6 個
3.アズキガイ(分布特性上重要)×8 個体
K.薩摩川内市新田神社(31°49′39.7″N, 130°17′33.6″E)
∴計 3 種,27 個体採集
環境カテゴリー:雑木林(平地)
点数:0 点
1.アツブタガイ(分布特性上重要)×2 個体
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林内
2.ヤマクルマガイ(分布特性上重要)×1 個体
環境といえる.
3.タカチホマイマイ(分布特性上重要)×18 個体
本調査地は出水市野田町に位置する神社で,照
葉樹・針葉樹が立ち並ぶ雑木林がある.林内はや
や乾燥しており,明るかった.また,落ち葉の量
が多かった.採集できた種は分布特性上重要な種
∴計 3 種,21 個体採集
点数:0 点
評価:標準点を 0 としているため,標準的な林
内環境といえる.
ばかりであり,他の調査地点と比べてヤマタニシ
本調査地は薩摩川内市宮内町に位置する神社
の個体数が多かった.セルロース食のヤマタニシ
である.照葉樹を中心とした雑木林が立ち並び,
が多いのは,落ち葉の量と関係があると考えられ
林内はやや湿度が高かった.土壌はさほど多くは
るが,同じくセルロース食であるヤマクルマガイ
なかったが落ち葉は多かった.分布特性上重要な
236
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
種がいくつか確認されたが,中でもタカチホマイ
くほど環境の変化に強い種であるため,このブ
マイの個体数が多かった.種別出現リストの項目
ロック塀をねぐらとして利用していたと考えられ
でも述べたように,タカチホマイマイは樹上性の
る.これが,実際に人工物が陸産貝類の身を守る
傾向がある.そのため,樹木に付着している個体
ものとして機能している例である.
がほとんどだった.
今後の課題
L.薩摩川内市東向田町(31°48′43.6″N, 130°18′34.1″E)
以上のように,各調査域における群集に対し
環境カテゴリー:市街地
て,材料と方法の項目で示した計算方法を基に点
1.アズキガイ(都市近郊個体群:準消滅危惧)×1 個体
数を付加してみた.しかし,この計算方法には問
2.ダコスタマイマイ(都市近郊個体群:準消滅危惧)×1個体
題がある.それは,Table 2 の説明でも述べたよ
3.タカチホマイマイ(都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類)×1個体
うに,種によっては分布特性上重要に指定されて
∴計 3 種,3 個体採集
も,都市近郊に生息する個体群は準消滅危惧に指
点数:4 点
定されるものなどがいる.つまり,このカテゴリー
評価:標準点を 0 にしているので,陸産貝類が生
による計算式に基づくと,絶滅が危ぶまれるほど
息するには適した環境だといえる.
点数が高くなるため,都市近郊個体群の点数が極
本調査地は,薩摩川内市東向田町の市街地で
端に高くなってしまうのである(exp. 市街地に位
ある.周囲に雑木林や山林はなかった.主にブロッ
置する,薩摩川内市八坂神社).また,種の相対
ク塀などを中心に見て廻った.ブロックの穴など
優占度も反映されないため,純粋な環境評価とは
は陸産貝類が生息していることが多いため,念入
いい難い.そのため,単なる「陸産貝類の棲みや
りに調査した.結果としては,市街地ではブロッ
すさの指標」とした方が適切だとも考えられる.
クの穴や苔の生える塀に付着していた.確認され
以上の問題点を考慮して,この方法は都市郊外の
た種は,個体数が少なかったが都市近郊個体群と
森林環境などに限定して使用していくべきであ
して指定した.市街地においては,人工物が陸産
る.また,大まかな陸産貝類の生息環境の評価に
貝類の身を守るためのものとして機能し,また,
関しては,種数と個体数が反映される多様度指数
十分な食べ物もあるため,一部の陸産貝類は市街
を用いて考察を行う方が的確だと考えられる.多
地でも生息できていると考えられる.
様度指数を参考にした場合,陸産貝類が生息する
上で最も環境が整っているのは,最も高い多様度
M.薩摩川内市八坂神社(31°49′18.1″N, 130°18′06.5″E)
の値を示した出水市野田町下名中郡であり,最も
環境カテゴリー:市街地
環境が整っていないのは,最も低い多様度の値を
1.ウスカワマイマイ(分布特性上重要)×5 個体
示した鹿児島市烏帽子獄神社となる.
2.タカチホマイマイ(都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類)×10個体
今回の調査で,鹿児島県北薩地方における陸
∴計 2 種,15 個体採集
産貝類の分布調査を行ったが,調査域が広範囲で
点数:20 点
あるにも関わらず,採集種数・個体数が十分な量
評価:調査地の中では最も点数が高かった.標準
でなかったため,分析において,全体的に有意義
点を 0 にしているので,陸産貝類が生息するには
なデータが得られなかった.さらに,陸産貝類の
適した環境だといえる.
「森林における指標動物」という側面を活用しき
本調査地は,薩摩川内市大小路町の市街地に
れなかった面もあるので,陸産貝類を取り巻く土
位置する神社である.落ち葉や樹木は少なかった
壌や植生,気温,湿度など,多くの環境要因の綿
が,ここでもブロック塀を中心に採集を行った.
密な調査が必要だと考えられる.これらをさらに
結果としては多くのタカチホマイマイが確認され
研究していくことで,陸産貝類の分布域との相関
た.本種は,人工物を利用して人家近くに棲みつ
関係や,森林環境に対する,指標動物としての面
237
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
からのアプローチなどを,今以上に発展させてい
くことが期待できる.
謝辞
本研究を行うにあたり,適切なご助言および
ご指導をいただきました鹿児島大学理学部地球環
境科学科多様性生物学講座の研究室の先輩方,4
年生のみなさんに深く感謝申し上げます.本研究
の一部には,鹿児島県の絶滅のおそれのある野生
動植物リスト(鹿児島県レッドデータブック)第
二版の編集作業予算(鹿児島県自然保護課),日
本学術振興会科学研究費助成金 基盤 A 一般
26241027-0001,および 2014 年度鹿児島大学学長
裁量経費から助成を受けました.
238
RESEARCH ARTICLES
引用文献
安東 正雄,1982.原色日本陸産貝類図鑑.343 pp.保育社,
大阪.
千葉県外来種対策(動物)検討委員会,2007.外来種(動物)
の現状等に関する報告書.74 pp.千葉県生活環境部自
然保護課,千葉.
鹿児島県,2003.鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植
物 動物編-鹿児島県レッドデータブック.642 pp.鹿
児島県,鹿児島.
川名美佐男,2007.かたつむりの世界.332 pp.近未来社,
名古屋.
野村健一,1939.種ヶ島の蛾類について.吉田博士祝賀記
念誌,601–634.
野村健一,1940.昆虫相比較の方法 特に相関法の提唱に
ついて.九州帝国大学農学部学芸雑誌,9: 235–263.
Simpson, E. H. 1949. Measurement of diversity. Nature, 163: 688.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島市街地域における陸産貝類の分布
鮒田理人・今村隼人・竹平志穂・中山弘章・坂井礼子・冨山清升
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科
要旨
本研究の調査地とした鹿児島県鹿児島市街地
地域は,九州の南西端,東に内湾である錦江湾を
臨む地域である.市内にある多くの公園内や住宅
近くにも自然林が今なお見受けられる地域でもあ
る.しかし,県内の離島などに比べ鹿児島本土に
おける調査 ( 主にその地点に生息する生物群の種
多様度 ) はほとんどなされておらず,特に,鹿児
島市街地域の陸産貝類相の調査は詳しく行われて
いない.そこで本研究では,鹿児島県レッドデー
タブックに記載されている種も重要な調査対象の
一つとして,鹿児島市街地域の自然林で見られる
陸産貝類相の多様性を調査し,それをもとに鹿児
島市内の陸産貝類の特徴や地点間の相違点を明ら
かにすることを目的とした.
本調査は,鹿児島市内の神社・公園の自然林 9
地点にて主に土壌中,もしくは土の上に生息して
いる陸産貝類の採集を行った.採集した陸産貝類
は必要な処理を行った後に同定,種別にラベルを
つけ保存した.その後地点ごとに多様度指数と類
似度指数,群分析を行った.
鹿児島市内の自然林が見られる神社や公園 9
地点において,調査及び同定作業の結果,柄眼目
12 種,中腹足目 6 種,足襞目 1 種の合計 19 種の
Imamura, H., R. Sakai, S. Takehira, H. Nakayama, M. Funada
and K. Tomiyama. 2015. The distribution of land snails in
the urban area of Kagoshima City, Japan. Nature of
Kagoshima 41: 239–250.
KT: Department of Earth and Environmental Sciences,
Faculty of Science, Kagoshima University, Korimoto 1–21–
35, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci.
kagoshima-u.ac.jp).
陸産貝類が採集された.9 地点のうち最も種数が
多く見られたのは Pt. 7 の城山公園であり,合計
10 種が採集された.最も種数が少なかったのは
Pt. 1 の烏帽子嶽神社で,柄眼目と中腹足目がそ
れぞれ 1 種ずつしか確認できなかった.また,鹿
児島県のレッドデータブックの中の〈鹿児島県の
カテゴリー区分定義〉に基づき,発見された各種
の希少度評価を行ったところ,絶滅危惧 II 類 2 種,
準絶滅危惧 6 種,消滅危惧 II 類 4 種,準消滅危
惧 5 種,分布特性上重要 2 種が確認できた.
本調査の結果は,レッドデータブックに記載
されている種において,生息環境の比較的良好で
はない都市近郊では多く確認できないだろうとい
う予想とは異なり,多くの種が確認できた.その
要因として,都市地域内の自然林保護区の指定,
陸産貝類をエサとする野生の大型哺乳類の生息が
認められないこと等が挙げられる.しかし,この
結果の信憑性を高めるためには,本調査のみなら
ず,さらなる細かいサンプリング,情報の集積が
望まれる.
はじめに
本研究の調査地とした鹿児島県鹿児島市街地
地域は,九州の南西端,東に内湾である錦江湾を
臨む地域である.鹿児島市は鹿児島県の県庁所在
地であるが,市内にある多くの公園内や住宅近く
にも自然林が今なお見受けられる地域でもある.
鹿児島県本土以外の諸島,トカラ列島地域や桜島
においては,陸産,海産貝類において比較的多く
調査が行われており[桜島における多板綱および
腹足綱の分布と多様性:冨山ほか(2013),トカ
ラ 列 島 に お け る 陸 産 貝 類 相 の 研 究: 市 川 ほ か
239
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
材料と方法
調査地
本調査は,以下の鹿児島市内の神社・公園の自
然林 9 地点にて,2014 年 4 月から 11 月にかけて
行った.なお,Fig. 1 は鹿児島市の地図であり,
記載されている数字は下記の地点(Pt.)に対応
している.各地点の主観的な環境評価は以下のと
おりである.
Pt. 1 烏帽子嶽神社:海に隣接しており,境内
には池があったため湿度は保たれていると思われ
る.貝類のエサとなるであろう落ち葉は掃き清め
られており,あまり見受けられなかった.
Pt. 2 護国神社:境内の落ち葉は掃き清められ
Fig. 1.鹿児島市の地図と調査を行った神社や公園の位置.
Pt. 1: 平 川 町 烏 帽 子 嶽 神 社;Pt. 2: 草 牟 田 護 国 神 社;
Pt.3:草牟田鹿児島神社;Pt. 4:清水町多賀山公園;Pt. 5:
星が峰 3 丁目道路脇;Pt. 6:郡元鹿児島大学植物園;Pt.
7:城山町城山公園;Pt. 8:春山町彦山神社;Pt. 9:直木
町聖神社.
ており,脇の自然林にも個体があまり見受けられ
なかった.個体を採集したのは,主に砂の多い土
の上であった.
Pt. 3 鹿児島神社:人家に隣接していた.貝類
の住処となるような腐葉土は見受けられず,樹上
性の貝が見られた.
Pt. 4 多賀山公園:周辺から突出した小高い丘
であり,崖肌から水が染み出していた.凝結溶解
(2008)],その局所の特異性が注目されているが,
岩が公園内の所々で見られた.
それらの地域に比べ鹿児島本土における調査(主
Pt. 5 星ヶ峰 3 丁目道路脇:公道の脇であり,
にその地点に生息する生物群の種多様度等)はほ
車の往来の影響を受けていると考えられる.白化
とんどなされておらず,開発が進む都市部では極
した個体(死骸)が多く見られた.
めて少ない.特に,鹿児島市街地域の陸産貝類相
Pt. 6 鹿児島大学郡元キャンパス内植物園:落
の調査は詳しく行われていない.
ち葉は掃かれておらず,あまり人の手は加えられ
そこで本研究では,「鹿児島県の絶滅の恐れの
ていないようだった.土壌上に他の地点より多く
ある野生動物 動物編 鹿児島県レッドデータ
の個体が見られた.
ブック」(2003:財団法人鹿児島県環境技術協会
Pt. 7 城山公園:多くの自生植物がみられた.
編)に記載されている種も重要な調査対象の一
自然公園であるので遊歩道は綺麗に整備されてい
つとして,鹿児島市街地域の自然林で見られる陸
たが,それ以外のところは鬱蒼としていた.湿っ
産貝類相の多様性を調査した.陸産貝類相を調査
た腐葉土,乾燥した露出している土壌どちらから
するために,鹿児島市内 9 地点でサンプリング調
も個体が発見できた.
査を行い,貝類の生息現状を把握するとともに鹿
Pt. 8 彦山神社:すぐ隣には工場と田があった.
児島市内に生息する貝類の多様度と各調査地点間
公道と少し離れた場所に位置していた.
の類似度を算出し,それをもとに鹿児島市内の陸
Pt. 9 聖神社:沢が近くにあり,湿度は保たれ
産貝類の特徴や地点間の相違点を明らかにするこ
ているようであった.また,境内では目視により
とを目的とした.
確認できる貝類がほとんど見当たらなかった.ク
240
RESEARCH ARTICLES
ヌギの木が多く自生していた.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
回の施行で取り出した玉 2 個が同一群に属する確
2
率を ƩΠ とすると
材料と調査法
上記の期間に各調査地を巡り,主に土壌中,も
しくは土の上に生息している陸産貝類の採集を
で与えられる(Simpson, 1949).ここで,ni は第
行った.陸産貝類とは,本研究では主に陸上に生
i番目の群に属する玉の数である.この ƩΠ は
息する腹足綱のことを指す.腹足綱は,一般に巻
Simpson の 単 純 度 指 数(Simpson’s index of
貝と呼ばれている貝類のグループであり,通常は
concentration) で あ り, こ れ の 逆 数 1/ƩΠ2 が
石灰質の固いらせん状に巻いた殻をもち,その形
Simpson の 多 様 度 指 数(Simpson’s index of
は内巻や笠形など非常に多様である.軟体は通常
diversity)である.
殻の中にあり,頭と内臓嚢,足より成るが,頭に
次に,群集の計量的比較のためによく用いられ
は一対の触角と目があり口は前方腹面にある(波
る類似度指数を求めた.類似度を表現する指数に
部ほか,1994).
は単に共通指数によるもの,種類構成によるもの,
基本的には目視による見つけ取り,また,各地
構造的規則性の母数によるものなどその数は多い
点の土を約 500 ml 持ち帰り,乾燥させた後その
が,今回は共通種数による指数である,野村・シ
中に生息している微小貝を実体顕微鏡によって見
ンプソン指数を用いた.この指数は,Jaccard の
つけ取りを行った.採集したサンプルは図鑑など
共通指数やその他の共通指数を基礎とする指数で
を用いて順次同定作業を行い,標本にするため,
は,比較する群衆サイズに大きな差のある場合に
目視で採集したものは採集した日のうちに熱湯処
はこれらの指数に影響を与える点に気付いた野村
理を施し,肉抜きし,軟体部は 40% アルコール
(1939, 1940)によって提案されたものである部ほ
に保存した.殻は肉抜きしたのち洗浄し,十分に
2
か,1994)によって提案されたものである.
乾燥させて種別にラベルをつけ保存した.実体顕
微鏡によって見つけ取りしたものは,ガラス管に
入れ,調査地および種ごとに分け(東,1995),
こ の 式 は, ア メ リ カ で 有 名 な Simpson 係 数
ラベルを付けて保存した(行田,2007).現地で
[Simpson’s concentration と 同 じ で あ る( 野 村,
の見つけ取り,実験室での土の中からの見つけ取
1939, 1940; Simpson, 1949)].上記の方法で算出し
りによって採集したもののどちらも,軟体部と殻
た 各 地 点 間 の 野 村・ シ ン プ ソ ン 指 数 を 基 に,
を作業完了後に同封して保存した.
Mountford 法 を 用 い て デ ン ド ロ グ ラ ム
(Dendrogram)を作成した.
データ解析
各地点ごとに同定作業を行い,その結果を図に
結果
まとめた.その後,各地点の陸産貝類相の特徴を
種数と個体数
明らかにするため,また各地点間の類似度を調べ
鹿児島市内の自然林が見られる神社や公園 9 地
るために以下の方法で解析をおこなった.
点において,調査及び同定作業の結果,柄眼目
各地点の生物相の多様度の度合いを数値化するた
12 種,中腹足目 6 種,足襞目 1 種の合計 19 種の
めに,多様度指数(index of diversity)を算出した.
陸産貝類が採集された(Table 1).9 地点のうち
本文では,個体数を含めて多様度を評価すること
最も種数が多く見られたのは Pt. 7 の城山公園で
が可能な Simpson (1949) の多様度指数を用いた.
あった.この地点では,柄眼目が 4 種,中腹足目
今,S 群に分けられた全数 N 個の玉を箱に入れ良
が 5 種の合計 9 種が採集された.その次に種数が
く混ぜ,任意の一個を取り出して箱に戻し,再度
多く見られたのは,Pt. 4 の多賀山公園と Pt. 8 の
玉を取り出すという試行を考える.このとき,2
彦山神社であった.最も種数が少なかったのは
241
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Pt. 1 の烏帽子嶽神社で,柄眼目と中腹足目がそ
シーボルトコギセルガイ,アラナミギセル,ケハ
れぞれ 1 種ずつしか確認できなかった.その他の
ダヤマトガイ,キュウシュウゴマガイであった.
地点では 3–8 種まで幅広く確認できた.
個体数に注目してみると,最も多くの個体数が
多様度指数と類似度指数
採集できたのは,Pt. 6 の鹿児島大学郡元キャン
各地点の Simpson の多様度指数について,最も
パス内の植物林園内で,53 個体が採集できた.
高かったのは Pt. 7 の城山公園であり,その値は
次に多くの個体が採集された地点は,Pt. 4 多賀
7.12 であった.この地点は,出現種数が最も多かっ
山公園と Pt. 5 星ヶ峰 3 丁目の 23 個体であり,次
た地点でもある.二番目に多様度指数の高かった
いで Pt. 7 の城山公園と Pt. 8 の彦山神社の 22 個
地域は Pt. 4 の多賀山公園であり,その値は 5.34
体であった.
であった.多様度指数の値が最も低かったのは
種ごとの出現地点数に注目すると,最も多くの
Pt. 1 の烏帽子嶽神社であり,その値は 2.00 であっ
地点で確認できた種はタカチホマイマイとヤマク
た.烏帽子嶽神社は,出現個体数・出現種数とも
ルマガイの 2 種であり,その出現地点数はどちら
に 最 も 低 か っ た 地 点 で あ る. そ の 他 の 地 点 は
も 9 か所中 6 か所であった.1 地点でしか見られ
2.13–5.34 の範囲であった.
なかった種は,テラマチベッコウ,レンズガイ,
各地点間の共通科数による野村・シンプソン
タカキビ,ウスカワマイマイ,シメクチマイマイ,
指数についてであるが,Pt. 1 の烏帽子嶽神社は,
Table 1.発見された種と地点ごとの多様度指数.
Family
Japanese name
Cyclophoridae
ケハダヤマトガイ
ヤマタニシ
ヤマクルマガイ
アツブタガイ
アズキガイ
キュウシュウゴマガイ
アラナミギセル
ギュリキギセル
シーボルトコギセルガイ
オカチョウジガイ
タカキビ
ヒメベッコウガイ
テラマチベッコウ
レンズガイ
シメクチマイマイ
ダコスタマイマイ
ウスカワマイマイ
タカチホマイマイ
コハクオナジマイマイ
Pupinidae
Diplommatinidae
Clausiliidae
Subulinidae
Helicarionidae
Camaenidae
Bradybaenidae
Bradybaenidae
Pt. 1
Pt. 2
Pt. 3
Pt. 4
Pt. 5
Pt. 6
Pt. 7
Pt. 8
Pt. 9
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
2
2
0
2
0
1
5
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4
0
1
0
5
13
0
1
0
0
0
0
0
4
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
8
0
2
6
0
6
0
0
2
0
1
1
4
0
0
0
0
0
0
1
8
23
0
0
2
1
14
0
0
0
0
3
0
1
0
0
0
0
0
2
0
6
23
0
10
27
0
4
0
1
6
0
3
0
0
0
0
0
0
0
2
0
7
53
3
4
2
1
4
0
0
1
0
2
0
0
1
0
0
0
0
4
0
9
22
0
0
6
1
0
0
0
0
0
4
0
0
0
1
0
1
7
1
1
8
22
0
0
2
0
0
5
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
3
8
Table 2.各調査地点間ごとの類似度指数(野村・シンプソン指数).
Pt. 3
0.33
Pt. 4
0.4
0.33
Pt. 5
0.6
0
0.67
Pt. 6
0.6
0.67
0.71
0.67
Pt. 7
0.8
0.67
0.63
0.83
Pt. 8
0.6
0
0.38
0.66
Pt. 9
0
0
0.33
0.33
Pt. 2
Pt. 3
Pt. 4
Pt. 5
242
0.86
0.43
0.33
Pt. 6
0.5
0.33
Pt. 7
0.33
Pt. 8
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
採集された個体数・種数が極端に少なかったため,
この類似度の比較においては除外して計算を行っ
た(Table 2).その結果,Pt. 6–7 間の値が最も高く,
0.86 であった.最も小さかった値は,Pt. 3–5 間,
Pt. 3–8 間,Pt. 2–9 間,Pt. 3–9 間の 0 であった.
Mountford 法による群分析
野村・シンプソン指数によって計量化した 8 地
Fig. 2.調査各地点間の野村・シンプソン指数に基づいて作
成した Mountfort 法によるデンドログラム.
点の類似度を群分析法(cluster analysis)によっ
て表示された結果を基に,デンドログラムを作成
した(木村,2014;若林,2014).Pt. 6–7 間の値
が最も高かったため,まずその二つをグループ化
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
した.のちに 6, 7 と 5 をグループ化,6, 7, 5 と 4
…1 個体
をグループ化した.次に 6, 7, 5, 4 と 8 間,8 と 2
(2×1)+(2×1)… 計 4 点
間の類似度の値が 0.6 で同じであったため,図の
ような分岐となった.次に 6, 7, 5, 4, 8, 2 と 3 間の
Pt. 2 護国神社
0.33,最後に 6, 7, 5, 4, 8, 2, 3 と 9 間を結ぶ形となっ
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
た(Fig. 2).
消滅危惧 II 類 …1 個体
ダコスタマイマイ Trishoplita dacostae dacostae
各地点に出現したレッドデータブックに記載され
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
ている種について
…4 個体
本研究では,各地点における調査と同時に,鹿
アツブタガイ Allopeas clavulinum kyotoense
児島県において絶滅または消滅が危惧される種に
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
も注目した.そのような種が出現した場合,鹿児
…1 個体
島県レッドデータブックの絶滅・消滅危惧評価に
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
基づき,以下のような独自に得点を設け,各地点
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
の陸産貝類希少種の保有率を点数によってあらわ
…2 個体
した.なお,発見した種の絶滅・消滅危惧度評価
アズキガイ Pupinella rufa
は,鹿児島県(2003:鹿児島県のカテゴリー区分
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
定義)に基づいておこなった(Table 3).また,
…5 個体
本研究の調査地は都市近郊であるため,「都市近
(2×1)+(1×4)+(2×1)+(1×2)+(1×5)… 計 15 点
郊個体」に特別な評価が設けられている場合は,
そちらの評価に基づいた[例:分布特性上重要(都
市近郊個体群:消滅危惧 II 類)].各地点の得点
(Table 4)は,[1 種の評価 ]×[1 種の個体数 ] を各
種で計算したその合計である.
Pt. 1 烏帽子岳神社
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
消滅危惧 II 類 …1 個体
アツブタガイ Cyclotus campanulatus campanulatus
Table 3.希少度評価の点数表.
カテゴリー区分
絶滅危惧 I 類
絶滅危惧
絶滅危惧 II 類
準絶滅危惧
準絶滅危惧
消滅危惧 I 類
絶滅のおそれの 消滅危惧 II 類
ある地域個体群 準消滅危惧
分布特性上重要
国内移入種
移入種
国外移入種
点数
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
243
244
0
1
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:準消滅危惧 )
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:準消滅危惧 )
準絶滅危惧
ヤマクルマガイ
アズキガイ
キュウシュウゴマガイ
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:準消滅危惧 )
準絶滅危惧
ヤマタニシ
ケハダヤマトガイ
2
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:準消滅危惧 )
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類 )
コハクオナジマイマイ
アツブタガイ
2
0
4点
4
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
Pt. 1
合計得点
1
1
4
1
4
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類 )
準絶滅危惧
ギュリキギセル
2
4
アラナミギセル
分布特性上重要
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類 )
オカチョウジガイ
4
4
準絶滅危惧
準絶滅危惧
タカキビ
シメクチマイマイ
シーボルトコギセルガイ
5
準絶滅危惧
絶滅危惧Ⅱ類
ヒメベッコウガイ
レンズガイ
1
5
分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:準消滅危惧 )
絶滅危惧Ⅱ類
ダコスタマイマイ
2
0
点数
テラマチベッコウ
分布特性上重要 分布特性上重要 ( 都市近郊個体群:消滅危惧Ⅱ類 )
ウスカワマイマイ
タカチホマイマイ
希少度評価 ( 鹿児島県カテゴリー )
種名
Table 4.各地点の希少度評価の総得点と内訳.
15 点
0
5
0
0
2
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4
1
0
Pt. 2
5点
0
0
0
0
1
0
0
0
4
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
Pt. 3
39 点
0
6
6
0
2
0
1
0
2
0
1
0
1
0
4
0
0
0
0
Pt. 4
26 点
0
14
2
0
0
1
0
0
0
0
3
0
0
0
1
0
0
2
0
Pt. 5
61 点
0
4
27
0
10
0
0
1
6
0
3
0
0
0
0
0
0
2
0
Pt. 6
39 点
0
4
2
3
4
1
0
0
1
0
2
0
0
0
0
1
0
4
0
Pt. 7
17 点
0
0
6
0
0
1
1
0
0
0
4
0
0
1
0
0
1
1
7
Pt. 8
26 点
5
0
2
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
Pt. 9
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Pt. 3 鹿児島神社
準絶滅危惧 …1 個体
シーボルトコギセルガイ Phaedusa sieboldtii
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
分布特性上重要 …3 個体
…3 個体
アツブタガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ギュリキギセル Stereophaedusa addisoni addisoni
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
…1 個体
…4 個体
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…2 個体
…1 個体
アズキガイ Pupinella rufa
(2×1)+(2×1)+(1×1)… 計 5 点
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…14 個体
Pt. 4 多賀山神社
(2×2)+(4×1)+(0×3)+(2×1)+(1×2)+
ヒメベッコウガイ Discoconulus sinapidium
(1×14)… 計 26 点
準絶滅危惧 …4 個体
タカキビ Trochochlamys praealta
Pt. 6 鹿児島大学郡元キャンパス内植物園
準絶滅危惧 …1 個体
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
消滅危惧 II 類 …2 個体
分布特性上重要 …1 個体
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ギュリキギセル Stereophaedusa addisoni addisoni
分布特性上重要 …3 個体
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
ギュリキギセル Stereophaedusa addisoni addisoni
…2 個体
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
コハクオナジマイマイ Bradybaena pellucida
…6 個体
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
アラナミギセル Tyrannophaedusa oxycyma
…1 個体
準絶滅危惧 …1 個体
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…2 個体
…10 個体
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…6 個体
…27 個体
アズキガイ Pupinella rufa
アズキガイ Pupinella rufa
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…6 個体
…4 個体
(4×4)+(4×1)+(0×1)+(2×2)+(1×1)+
(2×2)+(0×3)+(2×6)+(4×1)+(1×10)+
(2×1)+(6×1)+(6×1)… 計 39 点
(1×27)+(1×4)… 計 61 点
Pt. 5 星ヶ峰 3 丁目
Pt. 7 城山公園
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
消滅危惧 II 類 …2 個体
消滅危惧 II 類 …4 個体
ヒメベッコウガイ Discoconulus sinapidium
テラマチベッコウ Bekkochlamys teramachii
245
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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絶滅危惧 II 類 …1 個体
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要 …2 個体
…6 個体
ギュリキギセル Stereophaedusa addisoni addisoni
(0×7)+(2×1)+(1×1)+(5×1)+(0×4)+
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
(1×1)+(2×1)+(1×6)… 計 17 点
…1 個体
アツブタガイ Allopeas clavulinum kyotoense
Pt. 9 聖神社
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
シメクチマイマイ Satsuma ferruginea
…1 個体
準絶滅危惧 …1 個体
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
…4 個体
…2 個体
ケハダヤマトガイ Japonia barbata
キュウシュウゴマガイ
準絶滅危惧 …3 個体
Diplommatina tanegashimae kyusyuensis
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum japonicum
準絶滅危惧 …5 個体
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
(4×1)+(1×2)+(4×5)… 計 26 点
…2 個体
アズキガイ Pupinella rufa
採集された陸産貝類のリスト
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
鹿児島市内地域で記録された陸産貝類の各種に
…4 個体
ついて,今回の調査において採集された種名,地
(2×4)+(5×1)+(0×3)+(2×1)+(2×1)+
点名を以下に記す.
(1×4)+(4×3)+(1×2)+(1×4)… 計 39 点
腹足綱 Class GASTROPODA
Pt. 8 彦山神社
中腹足目 Order Mesogastropoda
ウスカワマイマイ Acusta despecta sieboldiana
ヤマタニシ科 Family Cyclophoridae
分布特性上重要 …7 個体
1.ケハダヤマトガイ
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
Japonia barbata (Gould, 1859)
消滅危惧 II 類 …1 個体
【城山公園】落葉層の土壌に生息していた.他の
ダコスタマイマイ Trishoplita dacostae dacostae
調査地点では確認できなかった.
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
2.ヤマタニシ
…1 個体
Cyclophorus herklotsi (Martens, 1861)
レンズガイ Otesiopsis japonica
【護国神社,鹿児島神社,多賀山神社,鹿児島大
絶滅危惧 II 類 …1 個体
学郡元キャンパス植物園,城山公園】比較的明る
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
い自然林,人通りの多い地点に生息していた.比
分布特性上重要 …4 個体
較的多くの地点で確認できた.
コハクオナジマイマイ Bradybaena pellucida
3.ヤマクルマガイ
分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危惧)
Spirostoma japonicum (A. Adams, 1867)
…1 個体
【多賀山公園,星ヶ峯 3 丁目,鹿児島大学郡元キャ
アツブタガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ンパス,城山公園,彦山神社,聖神社】鹿児島大
分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅危惧 II 類)
学郡元キャンパス内植物園に最も多くの個体数が
…1 個体
生息していた.比較的多くの地点で確認できた.
246
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
4.アツブタガイ
ンパス内植物園,城山公園,彦山神社】比較的多
Cyclotus campanulatus (Martens, 1865)
くの種が確認された地点で採集された.
【烏帽子嶽神社,護国神社,星ヶ峯 3 丁目,城山
公園,彦山神社】落葉層,比較的乾燥している土
ベッコウマイマイ科 Family Helicarionidae
壌どちらにも生息していた.比較的多くの地点で
11.タカキビ Trochochlamys praealta (Pilsbry, 1902)
確認できた.
【多賀山公園】多賀山公園で 1 種を確認できた.
他の調査地点では確認できなかった.
アズキガイ科 Family Pupinidae
12.ヒメベッコウガイ
5.アズキガイ Pupinella rufa (Sowerby, 1864)
Discoconulus sinapidium (Reinhardt, 1877)
【護国神社,多賀山公園,星ヶ峯 3 丁目,鹿児島
【多賀山公園,星ヶ峯 3 丁目】比較的湿った土壌
大学郡元キャンパス,城山公園】星ヶ峯 3 丁目に
で採集できた.
多くの個体,死骸が見られた.比較的多くの地点
13.テラマチベッコウ
で確認できた.
Bekkochlamys teramachii (Kuroda & Minato, 1976)
【城山公園】城山公園にて 1 個体(死骸)採集で
ゴマガイ科 Family Diplommatinidae
きた.他の調査地点では確認できなかった.
6.キュウシュウゴマガイ
14.レンズガイ
Diplommatina tanegashimae kyusyuensis (Pilsbry & Hirase, 1904)
Otesiopsis japonica (Moellendorff, 1885)
【聖神社】聖神社の土壌のみで確認できた.他の
【彦山神社】彦山神社にて 1 個体採集できた.他
調査地点では確認できなかった.
の調査地点では確認できなかった.
柄眼目 Order Stylommatophora
ナンバンマイマイ科 Family Camaenidae
キセルガイ科 Family Clausiliidae
15.シメクチマイマイ
7.アラナミギセル
Satsuma ferruginea(Pilsbry,1900)
Tyrannophaedusa oxycyma (Pilsbry, 1902)
【鹿児島大学郡元キャンパス内植物園】鹿児島大
【聖神社】土壌ではなく落葉層から採集できた.
他の調査地点では確認できなかった.
学郡元キャンパス内植物園のみで 1 個体(死骸)
が見られた.他の調査地点では確認できなかった.
オナジマイマイ科 Family Bradybaenidae
8.ギュリキギセル
16.ダコスタマイマイ
Stereophaedusa addisoni addisoni (Pilsbry, 1901)
Trishoplita dacostae dacostae (Gude, 1900)
【鹿児島神社,多賀山神社,鹿児島大学郡元キャ
【護国神社,彦山神社】乾燥した土壌,湿った土
ンパス内植物園,城山公園】確認できたキセルガ
壌どちらからも採集できた.
イ科 3 種の中で最も多くの地点で採集できた.
17.ウスカワマイマイ
9.シーボルトコギセルガイ
Acusta despecta sieboldiana (Pfeiffer, 1850)
Phaedusa sieboldtii (Küster, 1847)
【鹿児島神社】本種は樹上性の貝であり,地上か
ら 2 m 付近の木の幹にて採集できた.
【彦山神社】彦山神社のみで採集できた.本来は
農業害虫であり,生息地が多いはずだが,何故か
1 か所でしか確認できなかった.
18.タカチホマイマイ
オカクチキレガイ科 Family Subulinidae
10.オカチョウジガイ
Euhadra herklotsi nesiotica (Pilsbry, 1902)
【烏帽子嶽神社,護国神社,星ヶ峯 3 丁目,鹿児
Allopeas clavulinum kyotoense (Pilsbry & Hirase, 1904)
島大学郡元キャンパス内植物園,城山公園,彦山
【多賀山公園,星ヶ峯 3 丁目,鹿児島大学郡元キャ
神社】最も多くの地点で確認できた.南九州を代
247
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
表する大型の陸産貝類であるが,生息地は比較的
比べ少ないことが挙げられる.それにもかかわら
多かった.
ず種数・個体数が豊富ではないということは,上
記の 2 点以外のところに貝類の生息に影響する要
足襞目 Order Soleolifera
因が存在する,もしくは,上記の 2 点の中に貝類
オナジマイマイ科 Family Bradybaenidae
の生息に不利な要因があるのであろうと考えられ
19.コハクオナジマイマイ
る.例えば,烏帽子嶽神社と聖神社の土壌につい
Bradybaena pellucida (Habe, 1953)
て,腐葉土は豊富であったが腐葉土中の葉層が非
【多賀山公園,彦山神社】2 地点で 1 個体ずつ確
認できた.
考察
常に厚く,また葉についても,散って間もない葉
の原型をしっかりと残しているものが多かった.
しかし,このように生息現況を規定している要因
を特定し述べるには本調査のみならずさらなる調
地点ごとの環境と個体群の関連性の考察
査が必要となるだろう.
本調査の結果,鹿児島市内の 9 の地点で柄眼目
次に,Pt. 5 の星ヶ峰 3 丁目,Pt. 6 の鹿児島大
12 種,中腹足目 6 種,足襞目 1 種の合計 19 種の
学郡元キャンパス植物園を比較すると,どちらも
陸産貝類が採集された.最も多くの種が採集され
多くの個体数が見つかっているが,星ヶ峯 3 丁目
たのは Pt. 7 の城山公園であり,その種数は 9 種
ではアズキガイが,植物園ではヤマクルマガイま
である.この結果から,城山自体が国の天然記念
たはヤマタニシが優占種となっている.しかし,
物に指定されるほど豊かな環境・生物相を有して
この結果に対し,Pt. 4 の多賀山公園,Pt. 7 の城
いることにも納得がいく.天然記念指定のため,
山公園,Pt. 8 の彦山神社の 3 地点については,
周辺の開発は認められているものの城山自体の開
多くの個体数が発見されたにも関わらずはっきり
発は認められておらず,その結果豊かな生物相,
とした優占種が認められなかった.おそらく,後
調査した 9 地点で唯一発見されたテラマチベッコ
者の 3 地点では,住み分けがうまく行われている
ウ(絶滅危惧 II 類)などの希少種が棲む要因となっ
と考えられる.前者の 2 地点は後者の 3 地点に比
ていると言えよう.また,最も多くの個体数が見
べ環境が均一的であり変化に乏しかったため,こ
つかったのは,Pt. 6 の鹿児島大学郡本キャンパ
のような優占種が出現する結果になったと考えら
ス内植物園であり,その数は 53 個体であった.
れる.
この要因として考えられるのは,鹿児島大学内植
物園は他の地点と異なり,周りの山などの自然か
種多様度指数・類似度についての考察
らは独立したスケールの小さい林である.陸産貝
シンプソンの多様度指数計算によって求められ
類にとって,ある意味人工の棲み処と言えるだろ
た結果において,前述の「結果」から考えると,
う.そのため,イノシシやタヌキといったカタツ
多様度指数が高まるのは,より多くの種数,そし
ムリにとって天敵となる比較的大型の哺乳類が存
てそれらの種の各個体数が同数に近い程値が大き
在しない.このことが,他の地点と比べてキャン
くなる.Pt. 3 の鹿児島神社に比べ倍の種数がと
パス内の植物園に陸産貝類が多く生息している要
れた Pt. 5 の星ヶ峯 3 丁目の方が,鹿児島神社よ
因の一つと考えられる.
りも多様度指数の値が小さかったのもこのような
Pt. 1 の烏帽子岳神社について,種・個体共に
理由からである.また Pt. 7 の城山公園,Pt. 8 の
ほとんど見つからなかった.また,Pt. 9 の聖神
彦山神社について,ほぼ同じ種数・個体数が出現
社についても,目視によって確認できる個体はほ
したにも関わらず多様度指数の値に差が見られた
とんど見つからなかった.これら 2 点間に共通す
のも,城山公園の方が種ごとの個体数に大きなば
る環境の特徴として,海や沢に隣接していること
らつきが無かったためである.
による安定した湿度,人の立ち入りが他の地点に
野村・シンプソン指数について,本調査では
248
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Pt. 2 の護国神社,Pt. 3 の鹿児島神社を調査したが,
然林内のため本来の生息環境とは異なっていたこ
この 2 地点間の距離は数 100 m しか離れておらず,
と,もしくは本研究の調査自体が不十分であった
調査前の予想段階では同じような種が発見される
ことが挙げられる.
と考えていた.しかし,実際は 5 種中 1 種のみが
そして,Pt. 4 の多賀山公園でタカキビが一個
重複して見つかる結果となり,類似度も 0.33 と
体見つかった.この種は鹿児島県本土において,
いう他の地点間に比べると低い数値が表示され
1997 年以前に佐多岬周辺で発見されて以降記録
た.この結果の要因として考えられるのは,陸産
がない(佐多岬とは,鹿児島県大隅半島の最南端
貝類の非常に低い移動能力,生息地の環境の違い
に位置する岬である).そのため,本研究におい
(護国神社は比較的腐葉土の多い環境,鹿児島神
て初めて鹿児島市で発見されたといってよい.
社は腐葉土があまり見受けられず樹上性の貝が見
本研究では以上のような結果となったが,今回
られたこと)が挙げられる.本研究では陸産貝類
の調査は全地点において十分なサンプリングが出
において,地点同士の距離が近くても必ずしも出
来ておらず,結果信憑性が極めて高いデータとは
現する種に類似性が見られるとは限らないという
言い難い.より正確かつ詳細を明らかにするため
結論を得ることが出来た.
には,さらなる細かいサンプリング(季節ごと,
人数を増やしての調査),コドラート法を用いた
希少種についての考察
以下の考察は,前述の「結果」の項(各地点に
出現した鹿児島県レッドデータブックに記載され
ている種について)を踏まえて述べる.
調査が必要と考えられる.
謝辞
調査の細かい手法,鹿児島県の貝類相などそ
まず注目したいのが,鹿児島県カテゴリーに
の他多くについて大いに参考にさせていただきま
よって[分布特性上重要(都市近郊個体群:消滅
した行田義三さん(鹿児島市),神社での採集を
危惧 II 類)]に分類されている,タカチホマイマイ,
快く許可してくださいました各神社の神主の方々
ギュリキギセル,アツブタガイの 3 種,そして分
に深く感謝申し上げます.最後に,野外調査など
布特性上重要に分類されているウスカワマイマ
において共同で作業を行った鹿児島大学理学部生
イ,分布特性上重要(都市近郊個体群:準消滅危
態学研究室の同輩の皆様,様々な意見,アドバイ
惧)に分類されているコハクオナジマイマイの 2
スをいただきました先輩方に感謝申し上げます.
種である.前者 3 種の希少度評価は,後者 2 種に
本研究の一部には,鹿児島県の絶滅のおそれのあ
比べより希少度の高いものとなっている.しかし,
る野生動植物リスト(鹿児島県レッドデータブッ
タカチホマイマイは 6 地点,ギュリキギセルは 4
ク)第二版の編集作業予算(鹿児島県自然保護課),
地点,アツブタガイは 5 地点で発見され,後者の
日本学術振興会科学研究費助成金 基盤 A 一般
2 種については,ウスカワマイマイは 1 地点,コ
26241027-0001,および 2014 年度鹿児島大学学長
ハクオナジマイマイは 2 地点でしか発見できな
裁量経費から助成を受けました.
かった.そのため,本調査のこのような結果は,
レッドデータブック記載種は,生息環境の良好な
地点で多く採集されるであろうという予想とは大
きく異なっていた.この結果に至った原因として
考えられるのは,ウスカワマイマイ,コハクオナ
ジマイマイの都市近郊個体群の減少が著しいとい
うこと,またはウスカワマイマイ,コハクオナジ
マイマイの生息環境が都市部の荒れ地や道路脇の
引用文献
東 正雄.1982.原色日本陸産貝類図鑑.保育社,東京.
223 pp.
市川志野・中島貴幸・片野田裕亮・冨山清升.2014 年.ト
カラ列島の陸産貝類相の生物地理学的研究.日本生物
地理学学会会報,69: 26–35.
鹿児島県.2003 年.鹿児島県の絶滅の恐れのある野生動物
動物編 鹿児島県レッドデータブック.鹿児島県,
鹿児島.概説 p. 8,pp. 296–546.
草むらであることに対して,本研究の調査地が自
249
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
木村喬祐.2014.桜島における多版綱および腹足綱の分布
と多様性.2013 年度鹿児島大学理学部地球環境科学科
卒業論文.
Simpson, E. H. 1949. Measurement of diversity. Nature, 163: 688.
野村健一.1939.種ヶ島の蛾類について.吉田博士祝賀記
念誌,601–634.
行田義三.2007.貝の図鑑 採集と標本の作り方.南方新社,
鹿児島.174 pp.
野村健一.1940.昆虫相比較の方法 特に相関法の提唱に
ついて . 九州帝国大学農学部学芸雑誌,9: 235–263.
250
若林佑樹.2014.桜島産後鰓類および二枚貝類の現行調査.
2013 年度鹿児島大学理学部地球環境科学科卒業論文.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島県薩摩半島南部における陸産貝類の分布
竹平志穂・今村隼人・坂井礼子・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科
要旨
日本列島の南西端に位置する鹿児島県では,こ
れまで離島の多くで陸産貝類の分布調査の研究が
行われてきたが,県本土での詳しい生物地理学的
な分布調査の研究はほとんど行われていない.そ
こで本研究は薩摩半島南部に焦点を当て,11 地
点での分布調査を行い,陸産貝類相を明らかにす
ることを目的とした.調査は見つけ取りと土をふ
るう手法を用いて行い,必要な処理を行った後,
同定,データ処理をし,まとめた.
調査の結果,鹿児島県薩摩半島南部に設置し
た 11 地点において,11 科 26 属 34 種の合計 694
個体の陸産貝類を採集した.最も多くの種がみつ
かったのは南さつま地域で 22 種,最も少なかっ
たのは坊津地域で 4 種のみだった.5 地点以上で
出現した種は 9 種であったが,1 地点でのみ出現
した種は 15 種であった.
今回の調査結果から,11 地点中 10 地点で見ら
れたアズキガイ Pupinella (Pupinopsis) rufa とタカ
チホマイマイタカチホマイマイ Euhadra herklotsi
nesiotica は南薩地域でのほとんどで生息している
広い分布様式を持つ種と考えられる.また,最も
種が見られた南さつま地域のような,ある程度人
の手が入りやすい民家付近で陸産貝類は多く見つ
かり,反対に最も種数が少なかった坊津地域のよ
Takehira, S., H. Imamura, N. Sakai, H. Nakayama, M. Hunada
and K. Tomiyama. 2015. Land Snail fauna of the southern
part of Satsuma Peninsula, Kagoshima, Japan. Nature of
Kagoshima 41: 251–266.
KT: Department of Earth and Environmental Sciences,
Faculty of Science, Kagoshima University, Korimoto 1–21–
35, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci.
kagoshima-u.ac.jp).
うな,人の手が入らない山の中や海に近い乾燥し
た土壌であるところではあまりみられない.しか
し,類似性の面では,全地点間での類似性にあま
り違いはない.また,希少性の面では,喜入北部,
南さつま,鹿児島市福元町地域の点数が高く,絶
滅危惧種の生息可能な地域と考えられる.今後は,
もっと範囲を限定し,環境や植生などにも着目し
た分布調査を行っていく必要がある.
はじめに
日本列島の南西端に位置する鹿児島県は,気
候は亜熱帯から温帯にわたり温暖多湿な海洋モン
スーン型であり,多雨地帯で台風常襲地帯でもあ
る.しかし,自然災害が多くても気候が温暖多湿
のため植生の回復もはやい.県内の大半は火山堆
積物が堆積したシラス台地に覆われ,平野部が少
なく山岳,台地が広がっている.薩摩半島では烏
帽子岳,金峰山を中心に丘陵地帯が南に向かって
縦貫し,吹上浜は砂丘海岸,坊津はリアス式海岸
からなっている.
陸産貝類は他の動物群に比べ,移動能力が著
しく劣るため狭い地域での特殊化が起こりやす
く,生物地理学上きわめて有効な情報を提供して
くれるものと期待される(冨山,1983).これまで,
トカラ列島・口永良部島,三島村などの鹿児島県
の離島の多くで陸産貝類の分布調査の研究が行わ
れてきたが(冨山,1983, 1984),県本土での詳し
い生物地理学的な分布調査の研究はほとんど行わ
れていない.
そこで本研究は薩摩半島南部に焦点を当て,南
薩地域における自然林が残る神社や山など陸産貝
類が生息すると考えられる地域を中心に,11 地
点 で の 分 布 調 査 を 行 っ た. 調 査 結 果 を も と に
251
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Simposon の多様度指数(Simpson, 1949),ファウ
ナの類似度指数である野村・シンプソン指数(野
村,1939, 1940)を算出し,レッドデータブック
における希少性の点数分けを用いて,陸産貝類相
の比較を行った.
材料と方法
査地と調査日 調査地は鹿児島県の南薩地域の神
社境内及び周辺で,11 地域 37 神社で調査を行っ
た(表 1).調査地域は図 1 に示した.以下,各
調査地,調査実施日を記載する.各地点番号(1–37)
は図 1 の地点番号に対応している.
図 1.薩摩半島南部における調査地点の地図.
表 1.各地点の調査地及び調査日.
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
252
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
竹山神社
南方神社
秋葉神社
奐玉神社
豊玉姫神社
恵比須神社
護国神社
南方神社
熊野神社
枕崎神社
天道神神社
天御中主神社
護国神社
津留神社
宮原氏神社
南方神社
山之神神社
宮坂神社
田崎神社
九玉神社
野間神社
日枝神社
多夫施神社
別府神社
竹田神社
八幡神社①
八幡神社②
竹山神社
徳光神社
霧島神社
玖玉神社
石亀神社
渡瀬神社
大汝牟遅神社
大山祇神社
西山神社
金峰山
指宿市山川
指宿市山川
指宿市湯の浜
指宿市東方
南九州市知覧町
南九州市知覧町
南九州市川辺町
南九州市川辺町
南九州市川辺町
枕崎市山手町
枕崎市栄中町
枕崎市寿町
枕崎市篭麓町
枕崎市桜山町
枕崎市桜山町
鹿児島市喜入町
鹿児島市喜入一倉町
鹿児島市喜入町
南さつま市坊津町
南さつま市坊津町
南さつま市笠沙町
南さつま市加世田地頭所町
南さつま市金峰町
南さつま市加世田
南さつま市加世田
南さつま市加世田
南さつま市加世田
指宿市山川
指宿市山川
指宿市開聞町
指宿市池田
日置市吹上町
日置市吹上町
日置市吹上町
鹿児島市福元町
鹿児島市福元町
南さつま市金峰町
2014 年 7 月 7 日
2014 年 7 月 7 日
2014 年 7 月 7 日
2014 年 7 月 7 日
2014 年 8 月 19 日
2014 年 8 月 19 日
2014 年 8 月 19 日
2014 年 8 月 19 日
2014 年 8 月 19 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 9 月 29 日
2014 年 10 月 9 日
2014 年 10 月 9 日
2014 年 10 月 9 日
2014 年 10 月 23 日
2014 年 10 月 23 日
2014 年 10 月 23 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 10 月 30 日
2014 年 11 月 7 日
2014 年 11 月 7 日
2014 年 11 月 7 日
2014 年 11 月 7 日
2014 年 11 月 20 日
2014 年 11 月 20 日
2014 年 11 月 20 日
2014 年 11 月 27 日
2014 年 11 月 27 日
2014 年 12 月 12 日
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
調査材料と方法 調査地点は鹿児島県南薩摩半島
繁類似度は野村・シンプソン指数を用いて計
の自然林が存在する神社が密集している地点,11
算した.式中の a 及び b は異なる 2 地点にそれぞ
地点を設定した.1 地点につき 2–5 か所の神社境
れ出現した科の数を示し,c は比較する 2 地点に
内内で採集を行った.採集は落ち葉の裏,土の表
共通して出現した科の数を示す.また,これによ
面に生息する陸産貝類や木の皮の裏に生息する陸
り算出した値をもとに Mountford 法を用いてデン
産貝類は見つけ取りで行い,微小貝の採集には
ドログラムを作成した.
500 ml ほど土を持ち帰り,土をふるう手法を用
いて行った.1 つの神社を二人で 20–30 分間採集
を行った.雨天時は採集を行わず晴天時のみ採集
を行った.
調査対象は有殻の陸産貝類で,主にアズキガ
イ,ヤマクルマガイ Pupinella (Pupinopsis) rufa な
どである.陸産貝類は,巻き貝類 Gastropoda の
中の原始腹足上目 Archaeogastropoda,新生腹足上
目 Caenogastropoda,裸型上目 Gymnomorpha,有
肺上目 Pulmonata などの複数分類群にまたがって
おり,単一の分類学的グループではない.日本で
は,約 800 種の陸産貝類が記録されているが,こ
れらの種の大半は,落ち葉などの腐食質,樹皮や
落ち葉に繁殖する藻類や菌類を常食としており,
生の葉を摂食する例はまれである.これは,野生
植物の生葉にはアルカロイドやアルデヒドなどの
防御物質が含まれ摂食を阻害しているためであ
る.陸産貝類の多くの種が雌雄同体である(冨山,
2003).
調査地にて採集したサンプルは研究室に持ち
帰り肉抜き処理を行った.殻は乾燥機に入れ 1 日
以上おいた後図鑑などを用いて同定作業を行っ
た.肉は 40% エタノールに保存した.土はふる
いにかけピンセットを使い目視にて微小貝を採集
した.微小貝はガラス管に保存した.
データ解析 サンプルを同定し得られたデータに
ついては,種名リストを作成した.次にこのデー
タをもとに各地点の多様度,類似度を求めた(野
村,1939, 1940; Simpson, 1949).多様度の計算に
は Simpson の多様度指数を用いた(木元,1975).
式中の S は科の数,ni は第 i 番目の科に属する種
の数,N は得られた種数の合計をそれぞれ示す.
結果
鹿児島県薩摩半島南部に設置した 11 地点にお
いて,調査及び同定の結果,11 科 26 属 34 種の
合計 694 個体の陸産貝類を採集した(表 2).最
も数が多かった種はアズキガイ 122 個体,次いで
ヤマクルマガ 104 個体でこの 2 種で全個体数の約
3 割を占めている.11 地点のうち 10 地点で確認
された種はアズキガイ,タカチホマイマイで,5
地点以上でその存在が確認できた種は 9 種で全個
体数の 7 割を占めた.種が最も多かった地点は G
地点(南さつま地域)で 22 種がみられ,多様度
指数も 12.55 と最も高かった.また,種が最も少
なかった地点は E 地点(坊津地域)で 4 種のみ
で多様度指数も 2.7 と最も低かった.次いで F 地
点(笠沙町)5 種で,多様度指数は 3.77 であった.
その他の地点では 8–13 種が採集された.一方,1
地点のみでしか見られなかった種は,サツマムシ
オイガイ Chamalycaeus vinctus,キセルガイモド
キ Mirus reinanus,ホソキセルガイモドキ Mirus
rugulosus, ス グ ヒ ダ ギ セ ル Paganizaptyx
strictaluna,ピントノミギセル Hemizaptyx pinto,
カゴシマノミギセル Zaptyx hirasei,アラナミギセ
ル Tyrannophaedusa oxycyma, カ タ ギ セ ル Vastina
interlamellaris, キ ュ ウ シ ュ ウ ナ ミ コ ギ セ ル
Euphaedusa subaculus, マ ル オ カ チ ョ ウ ジ ガ イ
Allopeas brevispira, サ ツ マ オ カ チ ョ ウ ジ ガ イ
Allopeas satsumense, マ ル シ タ ラ ガ イ Parasitala
reinhardti,シメクチマイマイ Satsuma ferruginea,
オトメマイマイ Trishoplita goodwini,オオスミウ
スカワマイマイ Acusta.d.praetenuis の 15 種であっ
た.また,F 地点及び K 地点(金峰山)は 1 地点
につき 1 神社のみの採集結果である.F 地点の多
253
254
Simpson's index of diversity
76
個体数合計
3.967032967
1
1
5
5
5.934604905
66
3
6
5
8
10
18
32
20
5
B 地点
6
8
5
1
2
1
A 地点
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum
アツブタガイ Cyclotus (Procyclotus)taivanus peraffinis
ミジンヤマタニシ Nakadaella micron
アズキガイ Pupinella(Pupinopsis)rufa
サツマムシオイガイ Chamalycaeus vinctus
キュウシュウゴマガイ Diplommatina tanegashimae kyusyuensis
キセルガイモドキ Mirus reinanus
ホソキセルガイモドキ Mirus rugulosus
スグヒダギセル Paganizaptyx strictaluna
ピントノミギセル Hemizaptyx pinto
カゴシマノミギセル Zaptyx hirasei
アラナミギセル Tyrannophaedusa oxycyma
カタギセル Vastina interlamellaris
ギュリキギセル Stereophaedusa (Breviphaedusa)addisoni
キュウシュウナミコギセル Euphaedusa subaculus
シイボルトコギセル Phaedusa sieboldtii
マルオカチョウジガイ Allopeas brevispira
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ホソオカチョウジガイ Allopeas pyrgula
サツマオカチョウジガイ Allopeas satsumense
トクサオカチョウジガイ Paropeas achatinaceum
ヒメベッコウガイ Discoconulus sinapidium
マルシタラガイ Parasitala reinhardti
レンズガイ Otesiopsis japonica
コベソマイマイ Satsuma mmyomphala
シメクチマイマイ Satsuma ferruginea
オトメマイマイ Trishoplita goodwini
ダコスタマイマイ Trishoplita dacostae
オオスミウスカワマイマイ Acusta despecta praetenuis
ウスカワマイマイ Acusta despecta sieboldiana
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
タワラガイ Sinoennea iwakawa
コハクオナジマイマイ Bradybaena pellucida
表 2.全地点間の採集一覧表と多様度指数.
5.694404591
63
19
12
2
2
2
5
1
11
1
4
4
C 地点
3.765124555
45
2
1
3
2
1
9
4
21
2
D 地点
2.777777778
10
3
1
1
5
E 地点
3.773584906
20
4
8
3
1
4
F 地点
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
10
8
191
個体数合計
Simpson's index of diversity
1
2
7
3
6
3
12.54936361
23
3
10
1
9
1
2
17
3
6.332548096
127
5
19
4
14
1
32
3
27
H 地点
14
1
12
15
7
15
30
7
3
G 地点
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum
アツブタガイ Cyclotus (Procyclotus)taivanus peraffinis
ミジンヤマタニシ Nakadaella micron
アズキガイ Pupinella(Pupinopsis)rufa
サツマムシオイガイ Chamalycaeus vinctus
キュウシュウゴマガイ Diplommatina tanegashimae kyusyuensis
キセルガイモドキ Mirus reinanus
ホソキセルガイモドキ Mirus rugulosus
スグヒダギセル Paganizaptyx strictaluna
ピントノミギセル Hemizaptyx pinto
カゴシマノミギセル Zaptyx hirasei
アラナミギセル Tyrannophaedusa oxycyma
カタギセル Vastina interlamellaris
ギュリキギセル Stereophaedusa (Breviphaedusa)addisoni
キュウシュウナミコギセル Euphaedusa subaculus
シイボルトコギセル Phaedusa sieboldtii
マルオカチョウジガイ Allopeas brevispira
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ホソオカチョウジガイ Allopeas pyrgula
サツマオカチョウジガイ Allopeas satsumense
トクサオカチョウジガイ Paropeas achatinaceum
ヒメベッコウガイ Discoconulus sinapidium
マルシタラガイ Parasitala reinhardti
レンズガイ Otesiopsis japonica
コベソマイマイ Satsuma mmyomphala
シメクチマイマイ Satsuma ferruginea
オトメマイマイ Trishoplita goodwini
ダコスタマイマイ Trishoplita dacostae
オオスミウスカワマイマイ Acusta despecta praetenuis
ウスカワマイマイ Acusta despecta sieboldiana
タカチホマイマイ Euhadra herklotsi nesiotica
タワラガイ Sinoennea iwakawa
コハクオナジマイマイ Bradybaena pellucida
表 2.全地点間の採集一覧表と多様度指数(続き).
5.68115942
28
1
1
3
1
1
7
6
6
2
I 地点
9.709219858
37
5
4
2
1
3
5
5
1
3
4
3
1
J 地点
6.121019108
31
5
2
2
2
2
3
1
1
1
2
10
K 地点
694
35
104
21
22
122
7
5
1
3
1
32
2
1
2
61
1
26
2
45
7
1
28
15
10
4
3
2
2
9
3
38
36
9
34
種の合計
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
255
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
様度指数は 3.77 と低いが,K 地点の多様度指数
1 地点 1 神社のみの採集だった.ホソギセルガ
は 6.12 と高い数値が出た.各地点の採集結果を
イモドキ 3 個体がこの場所のみで採集された.ホ
いかに示す.
ソギセルガイモドキ以外の種はどの地点でも見ら
A 地点(指宿南地域)11 種 97 個体 多様度指数
れた種であった.野間神社は野間岳の中腹にある
3.97
神社である.
他の地点と比べた時の最大の特徴はピントノ
G 地点(南さつま地域)22 種 191 個体 多様度
ミギセルがこの地点のみで採集され,採集された
指数 12.55
個体数も 32 個体と多いことだ.サツマオカチョ
6 つの神社を回り,種数,個体数ともに最も多
ウジガイもこの地点のみで 1 個体採集された.タ
かった.サツマムシオイガイ,スグヒダギセル,
ワラガイ Sinoennea iwakawa やトクサオカチョウ
オオスミウスカワマイマイはこの地点のみで見ら
ジガイ Paropeas achatinaceum など他ではあまり
れ,採集された種の中で最も珍しいレンズガイ
みられなかった種も多かった.採集場所は海に近
Otesiopsis japonica も 1 個体採集された.移入種
いところが多い.ピントノミギセルは海に近い地
であるトクサオカチョウジガイが 23 個体採集さ
点で採集された.
れた.採集場所は田んぼが広がる地点,民家の近
B 地点(知覧・川辺地域)8 種 66 個体 多様度
くがほとんどであった.
指数 8.66
どの地点でも見られた種のみが採集された.採
H 地点(指宿・山川地域)13 種 127 個体 多様
度指数 6.33
集場所は山の中が多く,周囲に田んぼが広がる地
4 つの神社は少し距離がある.どの地点でも見
点もあった.
ら れ る 種 が 多 い が, ホ ソ オ カ チ ョ ウ ジ ガ イ
C 地点(枕崎地域)11 種 63 個体 多様度指数 5.96
Allopeas pyrgula やヒメベッコウガイは,他の地
6 の神社を回ったにもかかわらず種数,個体数
点ではあまりみられていない.採集された個体数
と も に 少 な い. キ ュ ウ シ ュ ウ ゴ マ ガ イ
は 2 番目に多い.採集場所は海に近い地点や,川
Diplommatina (Sinica) t. kyushuensis やヒメベッコ
沿いの地点が多かった.
ウガイ Discoconulus sinapidium は他の地点ではあ
I 地点(吹上地域)9 種 28 個体 多様度指数 5.68
まり見られていない種である.採集場所は海に近
採集された個体数が少なかった.どの地点でも
く,川沿いの神社など,山から離れた場所が多かっ
見られる種がほとんどであった.採集場所は山の
た.
中がほとんどであった.
D 地点(指宿北地域)10 種 46 個体 多様度指数
J 地点(福元地域)12 種 37 個体 多様度指数 9.71
3.77
レンズガイ,オトメマイマイ,ヒメベッコウガ
カゴシマノミギセル,アラナミギセルはこの場
イ, ミ ジ ン ヤ マ タ ニ シ Nakadaella micron な ど,
所のみで採集されている.種数の割に個体数が少
あまりみられていない種が多く見られた.採集場
なく多様度指数も低い.山の中が多く,山より少
所は人家のある山のふもとがほとんどであった.
し海に近い地点でカゴシマノミギセル,アラナミ
K 地点(金峰山)11 種 31 個体 多様度指数 6.12
ギセルが採集された.山間部ではどの地点でも見
1 地点 1 神社のみの採集であった.カタギセル,
られた種 4 種が採集された.
キュウシュウナミコギセル,シメクチマイマイな
E 地点(坊津地域)4 種 10 個体 多様度指数 2.78
ど,この地点のみでしかみられなかった種が 3 種
海が近い.どの地点でもみられた種 4 種のみが
採集された.採集場所は金峰山の中腹,山道の入
採集された.2 つの神社を回ったが種数,個体数
り口付近に多く,山頂部ではほとんど見られな
ともに最も少なかった.
かった.
F 地点(笠沙地域 野間岳)5 種 20 個体 多様
度指数 3.77
256
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
多様度指数と類似度指数
各地点の Simpson の多様度指数は,最も高かっ
たのは G 地点(南さつま地域)で 12.55 であり,
出現種数も最も多かった地点である.次いで J 地
点(福元地域)で 9.71 であった.最も低かった
のは E 地点(坊津地域)で 2.70 であり,出現種
数も最も少なかった.A,D,E,F 地点は多様度
指数が 4 を下回り,その他の地点では 5–6 の間で
あった(表 2).海に近い地点では比較的に多様
図 2.調査地域 11 地点間の陸産貝類相に基づく類似度を示
したデンドログラム.
度指数は低く,その次に山の中の地点が低い.民
家近くや周囲に田んぼが広がるような地点が最も
多様度指数が高くなっている.
各調査地点の共通科数による野村・シンプソン
レッドデータブックによる希少性の比較
指 数 を み る と,B–G,B–H,E–G,E–I,G–H,
鹿児島県のレッドデータブックによると,準絶
G–I 間は 1.00 と最も高く,B 地点,E 地点,G 地
滅危惧 II 類が 1 種(レンズガイ),準絶滅危惧が
点はどの 2 地点間と比較しても数値が高くなって
15 種(サツマムシオイガイ,キュウシュウゴマ
いる.最も低かったのは J–D 間であり 0.2 であっ
ガイ,キセルガイモドキ,ホソギセルガイモドキ,
た.全体的には 0.2 以下の類似度指数を示す地点
スグヒダギセル,ピントノミギセル,カゴシマノ
間はない(表 3).
ミギセル,アラナミギセル,カタギセル,キュウ
シュウナミコギセル,ヒメベッコウガイ,マルシ
Mountford 法による群分析
タラガイ,コベソマイマイ Satsuma myomphala,
野村・シンプソン指数によって計算化した 11
シメクチマイマイ,タワラガイ),国外移入種が
地点間の類似度を群分析法(cluster analysis)に
1 種(トクサオカチョウジガイ)が採集された.
よって作成した結果が図 2 に示すデンドログラム
カテゴリー区分された絶滅危惧の度合いによって
である.G,J,E,I 地点と B,F,H 地点は 2 つ
点数を振り分け,地域ごとに絶滅危惧種の観点か
のクラスターに分けられたが,類似度は 0.8 以上
らの比較を行った(表 4).点数が一番高かった
を示している.その他 A 地点以外は 0.6 の数値を
地域は A 地点で 130 点.ピントノミギセル 32 個
示したが A 地点だけ 0.4 という数値になった.A
体が主な要因である.次いで G 地点と J 地点で
地点では 11 種のうち 6 種は他の地域でもあまり
55 点.どちらもレンズガイがみられていて,さ
みられない種が採集されている.これにより 3 つ
らにこの 2 か所のみでしか見られていない.G 地
のクラスターに分けられる結果となった.
点は国外移入種であるトクサオカチョウジガイが
表 3.各調査地域間の野村・シンプソン指数.
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
0.75
0.545
0.5
0.25
0.6
0.636
0.545
0.556
0.364
0.545
A
0.625
0.75
0.5
0.8
1
1
0.75
0.625
0.75
B
0.5
0.75
0.6
0.818
0.636
0.667
0.636
0.364
C
0.75
0.6
0.7
0.6
0.667
0.2
0.6
D
0.25
1
0.75
1
0.75
0.75
E
0.8
0.6
0.4
0.4
0.6
F
1
1
0.909
0.545
G
0.778
0.583
0.545
H
0.667
0.556
I
0.556
J
257
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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23 個体見られたが,準絶滅危惧種が 24 個体みら
アツブタガイ属 Genus Cyclotus Swainson, 1840
れているので,この点数になっている.0 点を示
ア ツ ブ タ ガ イ 亜 属 Subgenus Procyclotus Fischer,
したのは B,E,I 地点のみであった(表 5).
1891
3.アツブタガイ
採集された陸産貝類のリスト
Cyclotus (Procyclotus) taivanus peraffinis Pilsbry & Hirase,1905
薩摩半島南部で採集された陸産貝類の各種につ
D 地点(宮坂神社),
採集地:C 地点(天道神神社),
いて,今回の調査において採集された神社名とと
E 地点(九玉神社),G 地点(多夫施神社,竹田
もに以下に示す.
神社,八幡神社②),I 地点(石亀神社,大汝牟
遅神社),K 地点(大山祇神社,西山神社)
腹足綱 Class GASTROPODA
ミジンヤマタニシ属 Genus Nakadaella Ancey, 1904
前鰓亜綱 Subclass PROSOBRANGHIA
4.ミジンヤマタニシ
中腹足目 Order Mesogastropoda
Nakadaella micron (Pilsbry, 1900)
ヤマタニシ上科 Superfamily Cyclophoracea
採集地:C 地点(天道神神社,天御中主神社),
ヤマタニシ科 Family Cyclophoridae
G 地点(竹田神社,八幡神社②),J 地点(大山
ヤマタニシ属 Genus Cyclophorus Montfort, 1810
祇神社)
1.ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi Martens, 1861
アズキガイ科 Family Pupinidae
採集地:B 地点(豊玉姫神社,護国神社),D 地
アズキガイ属 Genus Pupinella Gray, 1850
点(南方神社,山之上神社),E 地点(田崎神社,
アズキガイ亜属
九玉神社),G 地点(多夫施神社,別府神社,竹
Subgenus Pupinopsis H. Adams, 1866
田神社),H 地点(竹山神社),I 地点(大汝牟遅
5.アズキガイ
神社),J 地点(西山神社),K 地点(金峰山)
Pupinella (Pupinopsis) rufa (Sowerby, 1864)
ヤマクルマガイ属 Genus Spirostoma Heude, 1856
採集地:A 地点(竹山神社,南方神社,秋葉神社,
2.ヤマクルマガイ
奐玉神社),B 地点(豊玉姫神社,護国神社,南
Spirostoma japonicum (A. Adams, 1867)
方神社,熊野神社),C 地点(枕崎神社,天道神
採集地:A 地点(南方神社,秋葉神社),B 地点(南
神社,天御中主神社),D 地点(南方神社,山之
方神社),C 地点(枕崎神社,天御中主神社,津
上神社,宮坂神社),F 地点(野間神社)G 地点(多
留神社),C 地点(南方神社,山之上神社,宮坂
夫施神社,別府神社,竹田神社,八幡神社②),
神社),F 地点(野間神社),G 地点(多夫施神社,
H 地点(竹山神社,徳光神社,霧島神社,玖玉神
竹田神社),H 地点(竹山神社,徳光神社,霧島
社),I 地点(石亀神社,大汝牟遅神社),J 地点(大
K 地点(金
神社,玖玉神社),J 地点(大山祇神社),
山祇神社,西山神社),K 地点(金峰山)
峰山)
ムシオイガイ科 Family Alycaeidae
ムシオイガイ属
Genus Chamalycaeus Kobelt & Moellendorff, 1897
表 4.レッドデータブックにおける希少性の点数分けの基準表.
カテゴリー区分
絶滅危惧種
準絶滅危惧種
絶滅の恐れのある地域個体群
移入種
258
点数
絶滅危惧 I 類
絶滅危惧 II 類
準絶滅危惧
消滅危惧 I 類
消滅危惧 II 類
準消滅危惧
分布特性上重要
国内移入種
国外移入種
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
6.サツマムシオイガイ
Chamalycaeus vinctus (Pilsbry, 1902)
採集地:G 地点(竹田神社)
ゴマガイ科 Family Diplommatinidae
ゴマガイ属 Genus Diplommatina Benson, 1849
ゴマガイ亜属 Subgenus Sinica Mollendorft, 1885
7.キュウシュウゴマガイ
Diplommatina tanegashimae kyusyuensis Pilsbry & Hirase,1904
各地点の合計点数
ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi
ヤマクルマガイ Spirostoma japonicum
アツブタガイ Cyclotus (Procyclotus)taivanus peraffinis
ミジンヤマタニシ Nakadaella micron
アズキガイ Pupinella(Pupinopsis)rufa
サツマムシオイガイ Chamalycaeus vinctus
キュウシュウゴマガイ D.(S.)t.kyushuensis
キセルガイモドキ Mirus reinanus
ホソキセルガイモドキ Mirus rugulosus
スグヒダギセル Paganizaptyx strictaluna
ピントノミギセル Hemizaptyx pinto
カゴシマノミギセル Zaptyx hirasei
アラナミギセル Tyrannophaedusa oxycyma
カタギセル Vastina interlamellaris
ギュリキギセル Stereophaedusa (Breviphaedusa)addisoni
キュウシュウナミコギセル Euphaedusa subaculus
シイボルトコギセル Phaedusa sieboldtii
マルオカチョウジガイ Allopeas brevispira
オカチョウジガイ Allopeas clavulinum kyotoense
ホソオカチョウジガイ Allopeas pyrgula
サツマオカチョウジガイ A.satsumense
トクサオカチョウジガイ Paropeas achatinaceum
ヒメベッコウガイ Discoconulus sinapidium
マルシタラガイ Parasitala reinhardti
レンズガイ Otesiopsis japonica
コベソマイマイ Satsuma mmyomphala
シメクチマイマイ Satsuma ferruginea
オトメマイマイ Trishoplita goodwini
ダコスタマイマイ Trishoplita dacostae
オオスミウスカワマイマイ A.d.praetenuis
ウスカワマイマイ A.d.sieboldiana
タカチホマイマイ E.h.nesiotica
タワラガイ Sinoennea iwakawa
コハクオナジマイマイ Bradybaena pellucida
0
0
0
0
0
4
4
4
4
4
4
4
4
4
0
4
0
0
0
0
0
-2
4
4
5
4
4
0
0
0
0
0
4
0
点数
表 5.レッドデータブックにおける希少性の点数分けの種ごとの一覧表.
130
5
1
2
1
1
1
5
5
0
3
6
5
8
10
18
32
20
5
B 地点
6
8
A 地点
20
19
12
2
2
2
5
1
11
1
4
4
C 地点
12
2
1
3
2
1
9
4
21
2
D 地点
0
3
1
1
5
E 地点
12
4
8
3
1
4
F 地点
55
8
7
3
6
3
23
3
10
1
1
2
17
3
14
1
12
15
7
15
30
7
3
G 地点
24
10
1
2
5
19
4
9
14
1
32
3
27
H 地点
0
1
1
3
1
1
7
6
6
2
I 地点
55
5
4
2
1
3
5
5
1
3
4
3
1
J 地点
32
5
2
2
2
2
3
1
1
1
2
10
K 地点
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
259
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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G 地点(八幡神社②),
採集地:C 地点(枕崎神社),
Genus Stereophaedusa Boettger, 1877
H 地点(竹山神社)
ヒクギセル亜属
Subgenus Breviphaedusa Kuroda & Habe in Azuma, 1982
有肺亜綱 Subclass PULMONATA
15.ギュリキギセル
柄眼目 Order Stylommatophora
Stereophaedusa (Breviphaedusa) addisoni (Pilsbry, 1901)
ポリネシアマイマイ上科 Superfamily Partulacea
採集地:A 地点(竹山神社,南方神社,秋葉神社,
キセルガイモドキ科 Family Enidae
奐玉神社),B 地点(豊玉姫神社,恵比須神社),
キセルガイモドキ属 Genus Mirus Albers, 1850
C 地点(枕崎神社,護国神社),
D 地点(宮坂神社),
8.キセルガイモドキ
G 地点(別府神社,八幡神社②),H 地点(徳光
Mirus reinanus (Kobelt, 1875)
神社,霧島神社,玖玉神社),I 地点(大汝牟遅
採集地:K 地点(金峰山)
神社),K 地点(金峰山)
9.ホソキセルガイモドキ
コギセル属 Genus Euphaedusa Boettger, 1877
Mirus rugulosus (Moellendorft, 1900)
16.キュウシュウナミコギセル
採集地:F 地点(野間神社)
Euphaedusa subaculus (Pilsbry, 1902)
中輪尿管亜目 Suborder Mesurethra
採集地:K 地点(金峰山)
キセルガイ上科 Superfamily Clausiliacea
アジアギセル属
キセルガイ科 Family Clausiliidae
Genus Phaedusa H. & A. Adams, 1855
アジアギセル亜科 Subfamily Phaedusinae
17.シイボルトコギセル
スグヒダギセル属
Phaedusa sieboldtii (Koster, 1847)
Genus Paganizapytx Kuroda & Habe in Habe, 1977
F 地点(野間神社),
採集地:B 地点(恵比須神社),
10.スグヒダギセル
G 地点(竹田神社),H 地点(霧島神社)
Paganizaptyx strictaluna (Boettger, 1877)
屈曲輸尿管亜目 Suborder Sigmurethra
採集地:G 地点(竹田神社)
オカクチキレガイ科 Family Subulinidae
ピントノミギセル属 Genus Hemizaptyx Pilsbry, 1905
オカチョウジガイ属
11.ピントノミギセル
Genus Allopeas H. B. Baker, 1935
Hemizaptyx pinto (Pilsbry, 1901)
18.マルオカチョウジガイ Allopeas brevispira
採集地:A 地点(竹山神社,南方神社,奐玉神社)
採集地:G 地点(竹田神社,八幡神社②)
ノミキセル属 Genus Zaptyx Pilsbry, 1900
19.オカチョウジガイ
12.カゴシマノミギセル
Allopeas clavulinum kyotoense (Pilsbry & Hirase, 1904)
Zaptyx hirasei (Pilsbry, 1900)
採集地:C 地点(枕崎神社),E 地点(九玉神社),
採集地:D 地点(宮坂神社)
G 地点(竹田神社,八幡神社①,八幡神社②)
,
ミカドギセル属
H 地点(竹山神社,徳光神社,霧島神社),I 地
Genus Tyrannophaedusa Pilsbry, 1900
点(大汝牟遅神社)J 地点(大山祇神社,
西山神社)
13.アラナミギセル
20.ホソオカチョウジガイ
Tyrannophaedusa oxycyma (Pilsbry, 1902)
Allopeas pyrgula (Schmacker & Boettger, 1891)
採集地:D 地点(宮坂神社)
採集地:G 地点(八幡神社②),H 地点(竹山神社,
オオギセル属 Genus Vastina Ehrmann,1929
霧島神社)
14.カタギセル
21.サツマオカチョウジガイ
Vastina interlamellaris (Martens, 1876)
Allopeas satsumense (Pilsbry, 1906)
採集地:K 地点(金峰山)
採集地:A 地点(竹山神社)
オキナワギセル属
トクサオカチョウジガイ属
260
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Genus Paropeas Pilsbry,1906
30.オオスミウスカワマイマイ
22.トクサオカチョウジガイ
Acusta despecta praetenuis Ilsbry & Hirase, 1904)
Paropeas achatinaceum (Pfeifeer, 1846)
採集地:G 地点(多夫施神社)
採集地:A 地点(奐玉神社),G 地点(八幡神社②)
31.ウスカワマイマイ
ベッコウマイマイ上科 Superfamily Helicarionoidae
Acusta despecta sieboldiana (Pfeiffer, 1850)
ベッコウマイマイ科 Family Helicarionidae
採集地:A 地点(竹山神社,秋葉神社),B 地点(護
ヒメベッコウ属 Genus Discoconulus Reinhardt, 1883
国神社,熊野神社),C 地点(枕崎神社,天御中
23.ヒメベッコウガイ
主神社,宮原氏神社),G 地点(八幡神社②),H
Discoconulus sinapidium (Reinhardt, 1877)
地点(竹山神社),I 地点(大汝牟遅神社)
採集地:C 地点(枕崎神社),G 地点(別府神社,
マイマイ属 Genus Euhadra Pilsbry, 1890
八幡神社①),H 地点(竹山神社),J 地点(大山
32.タカチホマイマイ
祇神社)
Euhadra herklotsi nesiotica (Pilsbry, 1902)
マルシタラガイ属 Genus Parasitala Thiele, 1931
B 地点(豊玉姫神社),
採集地:A 地点(秋葉神社),
24.マルシタラガイ
C 地点(枕崎神社,天道神神社,天御中主神社,
Parasitala reinhardti (Pilsbry, 1900)
護国神社,津留神社),D 地点(山之上神社),E
採集地:G 地点(八幡神社②)
地点(田崎神社,九玉神社),F 地点(野間神社),
レンズガイ属 Genus Otesiopsis Habe, 1946
G 地点(別府神社,竹田神社),H 地点(竹山神社),
25.レンズガイ
I 地点(渡瀬神社,大汝牟遅神社),K 地点(金
Otesiopsis japonica (Moellendorff, 1885)
峰山)
採集地:G 地点(竹田神社),J 地点(大山祇神社)
タワラガイ上科 Superfamily Streptaxoidea
ナンバンマイマイ上科 Superfamily Camaenacea
タワラガイ科 Family Streptaxidae
ナンバンマイマイ科 Family Camaenidae
タワラガイ属 Genus Sinoennea (Kobelt, 1904)
ニッポンマイマイ属 Genus Satsuma A. Adams, 1868
33.タワラガイ Sinoennea iwakawa (Pilsbry, 1900)
26.コベソマイマイ
採集地:A 地点(南方神社),C 地点(枕崎神社),
Satsuma mmyomphala (Martens, 1865)
J 地点(大山祇神社)
採集地:A 地点(秋葉神社),K 地点(金峰山)
足襞目 Order Soleolifera
27.シメクチマイマイ
オナジマイマイ科 Family Bradybaenidae
Satsuma ferruginea (Pilsbry, 1900)
オナジマイマイ属 Genus Bradybaena Beck, 1837
採集地:K 地点(金峰山)
34.コハクオナジマイマイ
マイマイ上科 Superfamily Helicacea
Bradybaena pellucida Kuroda & Habe in Habe, 1953
オナジマイマイ科 Family Bradybaenidae
採集地:A 地点(秋葉神社),B 地点(南方神社,
オトメマイマイ属 Genus Trishoplita Jacobi, 1898
熊野神社),D 地点(宮坂神社),G 地点(日枝神
28.オトメマイマイ
社,竹田神社,八幡神社①,八幡神社②),H 地
Trishoplita goodwini (Smith, 1876)
点(竹山神社,霧島神社),I 地点(石亀神社),J
採集地:J 地点(西山神社)
地点(大山祇神社,西山神社),K 地点(金峰山)
29.ダコスタマイマイ
Trishoplita dacostae Gude, 1900
各神社の出現状況
採集地:G 地点(多夫施神社,別府神社,八幡神
A 地点
社②),I 地点(大汝牟遅神社),J 地点(大山祇
1.竹山神社(指宿市山川)5 種 29 個体
神社)
アズキガイ 9 個体
ウスカワマイマイ属 Genus Acusta Albers, 1860
ピントノミギセル 16 個体
261
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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ギュリキギセル 1 個体
アズキガイ 5 個体
サツマオカチョウジガイ 1 個体
ウスカワマイマイ 3 個体
ウスカワマイマイ 2 個体
コハクオナジマイマイ 2 個体
南方神社(指宿市山川)5 種 28 個体
ヤマクルマガイ 4 個体
C 地点
アズキガイ 6 個体
10.枕崎神社(枕崎市山手町)9 種 20 個体
ピントノミギセル 15 個体
ヤマクルマガイ 4 個体
ギュリキギセル 1 個体
アズキガイ 3 個体
タワラガイ 2 個体
キュウシュウゴマガイ 1 個体
秋葉神社(指宿市湯の浜)7 種 10 個体
ギュリキギセル 4 個体
ヤマクルマガイ 1 個体
オカチョウジガイ 2 個体
アズキガイ 1 個体
ヒメベッコウガイ 2 個体
ギュリキギセル 2 個体
ウスカワマイマイ 1 個体
コベソマイマイ 1 個体
タカチホマイマイ 1 個体
ウスカワマイマイ 3 個体
タワラガイ 2 個体
タカチホマイマイ 1 個体
11.天道神神社(枕崎市栄中町)3 種 10 個体
コハクオナジマイマイ 1 個体
アツブタガイ 1 個体
奐玉神社(指宿市東方)4 種 9 個体
ミジンヤマタニシ 1 個体
アズキガイ 2 個体
タカチホマイマイ 8 個体
ピントノミギセル 1 個体
12.天御中主神社(枕崎市寿町)5 種 12 個体
ギュリキギセル 1 個体
ヤマクルマガイ 6 個体
トクサオカチョウジガイ 5 個体
ミジンヤマタニシ 3 個体
アズキガイ 1 個体
B 地点
ウスカワマイマイ 1 個体
豊玉姫神社(南九州市知覧町)4 種 17 個体
タカチホマイマイ 1 個体
ヤマタニシ 1 個体
13.護国神社(枕崎市篭麓町)2 種 2 個体
アズキガイ 4 個体
ギュリキギセル 1 個体
ギュリキギセル 7 個体
タカチホマイマイ 1 個体
タカチホマイマイ 5 個体
14.津留神社(枕崎市桜山町)2 種 2 個体
恵比須神社(南九州市知覧町)2 種 11 個体
ヤマクルマガイ 1 個体
ギュリキギセル 3 個体
カチホマイマイ 1 個体
シイボルトコギセル 8 個体
15.宮原氏神社(枕崎市桜山東町)1 種 17 個体
護国神社(南九州市川辺町)3 種 14 個体
ウスカワマイマイ 17 個体
ヤマタニシ 5 個体
アズキガイ 6 個体
D 地点
ウスカワマイマイ 3 個体
16.南方神社(鹿児島市喜入町)3 種 13 個体
南方神社(南九州市川辺町)3 種 14 個体
ヤマタニシ 3 個体
ヤマクルマガイ 8 個体
ヤマクルマガイ 5 個体
アズキガイ 5 個体
アズキガイ 5 個体
コハクオナジマイマイ 1 個体
17.山之神神社(鹿児島市喜入一倉町)4 種 7 個体
熊野神社(南九州市川辺町)3 種 10 個体
ヤマタニシ 1 個体
262
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ヤマクルマガイ 2 個体
ヤマタニシ 5 個体
アズキガイ 3 個体
アズキガイ 3 個体
タカチホマイマイ 1 個体
ギュリキギセル 4 個体
18.宮坂神社(鹿児島市喜入町)7 種 25 個体
ヒメベッコウガイ 2 個体
ヤマクルマガイ 14 個体
ダコスタマイマイ 5 個体
アツブタガイ 2 個体
タカチホマイマイ 2 個体
アズキガイ 1 個体
25.竹田神社(南さつま市加世田)13 種 48 個体
カゴシマノミギセル 2 個体
ヤマタニシ 2 個体
アラナミギセル 1 個体
ヤマクルマガイ 5 個体
ギュリキギセル 3 個体
アツブタガイ 2 個体
コハクオナジマイマイ 2 個体
ミジンヤマタニシ 9 個体
アズキガイ 10 個体
E 地点
サツマムシオイガイ 7 個体
19.田崎神社(南さつま市坊津町)2 種 5 個体
スグヒダギセル 1 個体
ヤマタニシ 4 個体
シイボルトコギセル 1 個体
タカチホマイマイ 1 個体
マルオカチョウジガイ 1 個体
20.九玉神社(南さつま市坊津町)4 種 5 個体
オカチョウジガイ 7 個体
ヤマタニシ 1 個体
レンズガイ 1 個体
アツブタガイ 1 個体
タカチホマイマイ 1 個体
オカチョウジガイ 1 個体
コハクオナジマイマイ 1 個体
タカチホマイマイ 2 個体
26.八幡神社①(南さつま市加世田)3 種 5 個体
オカチョウジガイ 3 個体
F 地点
ヒメベッコウガイ 1 個体
21.野間神社(南さつま市笠沙町)5 種 20 個体
コハクオナジマイマイ 1 個体
ヤマクルマガイ 4 個体
27.八幡神社②(南さつま市加世田)13 種 88 個体
アズキガイ 1 個体
アツブタガイ 3 個体
ホソギセルモドキ 3 個体
ミジンヤマタニシ 6 個体
シイボルトコギセル 8 個体
アズキガイ 14 個体
タカチホマイマイ 4 個体
キュウシュウゴマガイ 3 個体
ギュリキギセル 10 個体
G 地点
マルオカチョウジガイ 1 個体
22.日枝神社(南さつま市加世田地頭所町)1 種 5 個体
オカチョウジガイ 7 個体
コハクオナジマイマイ 5 個体
ホソオカチョウジガイ 3 個体
23.多夫施神社(南さつま市金峰町)6 種 24 個体
トクサオカチョウジガイ 23 個体
ヤマタニシ 5 個体
マルシタラガイ 10 個体
ヤマクルマガイ 10 個体
ダコスタマイマイ 1 個体
アツブタガイ 2 個体
ウスカワマイマイ 6 個体
アズキガイ 3 個体
コハクオナジマイナイ 1 個体
ダコスタマイマイ 1 個体
オオスミウスカワマイマイ 3 個体
H 地点
24.別府神社(南さつま市加世田)6 種 21 個体
28.竹山神社(指宿市山川)10 種 51 個体
263
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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ヤマタニシ 3 個体
ダコスタマイマイ 1 個体
ヤマクルマガイ 11 個体
ウスカワミマイ 1 個体
アズキガイ 14 個体
タカチホマイマイ 1 個体
キュウシュウゴマガイ 1 個体
オカチョウジガイ 11 個体
J 地点
ホソオカチョウジガイ 2 個体
35.大山祇神社(鹿児島市福元町)10 種 30 個体
ヒメベッコウガイ 5 個体
ヤマクルマガイ 3 個体
タカチホマイマイ 2 個体
アツブタガイ 2 個体
ウスカワマイマイ 1 個体
ミジンヤマタニシ 3 個体
コハクオナジマイナイ 1 個体
アズキガイ 1 個体
29.徳光神社(指宿市山川)4 種 21 個体
オカチョウジガイ 4 個体
ヤマクルマガイ 6 個体
ヒメベッコウガイ 5 個体
アズキガイ 3 個体
レンズガイ 3 個体
ギュリキギセル 8 個体
ダコスタマイマイ 1 個体
オカチョウジガイ 4 個体
タワラガイ 5 個体
30.霧島神社(指宿市開聞町)7 種 43 個体
コハクオナジマイナイ 3 個体
ヤマクルマガイ 5 個体
36.西山神社(鹿児島市福元町)5 種 7 個体
アズキガイ 9 個体
ヤマタニシ 1 個体
ギュリキギセル 5 個体
アツブタガイ 2 個体
シイボルトコギセル 9 個体
オカチョウジガイ 1 個体
オカチョウジガイ 4 個体
オトメマイマイ 2 個体
ホソオカチョウジガイ 2 個体
コハクオナジマイマイ 1 個体
コハクオナジマイナイ 9 個体
31.玖玉神社(指宿市池田)3 種 12 個体
K 地点
ヤマクルマガイ 5 個体
37.金峰山(南さつま市金峰山)11 種 31 個体
アズキガイ 6 個体
ヤマタニシ 2 個体
ギュリキギセル 1 個体
ヤマクルマガイ 10 個体
アツブタガイ 1 個体
I 地点
キセルガイモドキ 2 個体
32.石亀神社(日置市吹上町)3 種 8 個体
カタギセル 2 個体
アツブタガイ 4 個体
ギュリキギセル 3 個体
アズキガイ 3 個体
キュウシュウナミコギセル 1 個体
コハクオナジマイナイ 1 個体
コベソマイマイ 2 個体
33.渡瀬神社(日置市吹上町)1 種 2 個体
シメクチマイマイ 2 個体
タカチホマイマイ 2 個体
タカチホマイマイ 2 個体
34.大汝牟遅神社(日置市吹上町)8 種 18 個体
コハクオナジマイマイ 5 個体.
ヤマタニシ 2 個体
アツブタガイ 2 個体
アズキガイ 3 個体
考察
今回の調査で,11 科 26 属 34 種合計 694 個体
ギュリキギセル 7 個体
の陸産貝類がみられた.11 地点中 10 地点でみら
オカチョウジガイ 1 個体
れたアズキガイとタカチホマイマイは南薩地域で
264
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
のほとんどで生息している広い分布様式を持つ種
山よりは民家近くが,多様性指数が高く種数も多
と考えられる.この 2 種は山が近いほど多く,海
い傾向にある.土壌の豊富さと植生のバランスが
に近いほど少ない傾向があった.また,8–9 地点
陸産貝類の分布において重要だと考えられるが,
で見られたヤマタニシ,ヤマクルマガイ,ギュリ
土壌や植生の調査を行っていないため,今後はそ
キギセル,コハクオナジマイマイもまた,上記 2
のような視点からも調査が必要であると考える.
種と同じく広い分布様式があると考えられる.
類似度指数をみると,全地点間で 0.2 以上の類
ギュリキギセルは木の幹や木の皮の裏で見られる
似度を示した.0.2 や 0.25 を示した地点は採集さ
ことが多いが海の近くの地点でも比較的見られる
れた個体数,種数も少なく共通種もタカチホマイ
ことも多い.
マイのみだったことがこの数値の要因である.し
一方,1 地点のみでしかみられなかった種は,
かし,全体的に見ても類似度に差はなく,1 個体
キセルガイ科が圧倒的に多くこれらの種は分布域
のみ採集された種も,どの地点でも見られるので
があまり連続していないと考えられる.このうち
南薩摩半島における類似度に差はあまりないと考
G 地点で 5 種,K 地点では 4 種みられ,この 2 地
えた.1 個体のみでしか採集できなかった種が 15
点はさまざまな種が生息できる環境であると考え
種見られたが,これに関しては採集方法が不十分
られる.G 地点は,ほとんどが民家近くの神社で
であった可能性も十分にあるので,狭い範囲での
あり,落ち葉を 1 か所に集めてあり,草刈りなど
分布なのかは不明である.今後は,範囲及び採集
が行われ,ある程度手入れの行き届いた地点であ
時間を限定した調査が行われるべきである.
る.光の入りやすい自然林も近くに存在していた.
レッドデータブックの点数分けによる評価を
K 地点は金峰山の中腹で参拝目的でしか人が訪れ
みると,最も点数の高かった A 地点は分布特性
ないような山の中であった.また,A,D 地点は
上重要種以上の種が 4 種採集されている.この地
喜入の北部と南部で,この 2 地点で 4 種がみられ
点では,ピントノミギセルが 32 個体,国外移入
ている.海に近い神社も多く,山の中での採集は
種のトクサオカチョウジガイが 5 個体採集され
少なかった.これらの 1 個体のみの採取は生きて
た.ピントノミギセルはこの地点で大量に見られ
とられたものは少ない.よって新規加入の可能性
たので,この地点を生息域としていると思われる.
は低く,その種の個体数がもともと少ないまたは,
また,最も種数が多かったのは G 地点で 4 点以
減少した可能性があると考えられる.
上の種が 7 種,そのうち 1 種で絶滅危惧 II 類の
また,境内の土壌の関係で土を採集できなかっ
レンズガイも採集されている.また,国外移入種
た地点もあるが,そのような環境は粘土質や砂利
であるトクサオカチョウジガイが 23 個体と A 地
の多い場所がほとんどであり,そのような環境は
点よりも多く採集された.G 地点は珍しい陸産貝
微小貝が生息しにくいと考えられる.採集ができ
類も多く,陸産貝類において生活環境が優れてい
た土は,やわらかい土や落ち葉が適度にあり,腐
ることがわかる.K 地点も A 地点と同じく 4 種
葉土として適しているような土がほとんどで一緒
採集されている.絶滅危惧Ⅱ類のレンズガイが 3
に小さい土壌生物も一緒に採集された.微小貝は
個体採集されている J 地点は G 地点と同じ点数
主に民家の近くで採集された.山の中は腐葉土が
で,微小貝であるタワラガイ,ヒメベッコウガイ
多く土壌生物においても,生息環境が良くない状
など 3 種採集されている.K 地点は 1 種 1 個体し
況であると考えられる.
か取れなかったものが多く,山の中に入り込んで
海に近い地点 A,C,D,E,山に近い地点 B,F,
採集できたわけではないので,もっと個体数が多
H,J,K,民家に近い地点 G,I に分けて比較す
く存在するかもしれない.しかし,他の地点で採
ると,海に近い地点の多様性は 2.78–5.69,山に
集されない種も多く,狭い分布様式を示す種がい
近い地点の多様性は 3.77–9.70,民家に近い地点
るのかもしれない.また,0 点だった B 地点,E
の多様性は 5.68–12.55 となっていて,海よりは山,
地点,I 地点はどの地点でも見られた種が多く,
265
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
環境や植生に影響されやすいような種が多いまた
は,生存できない環境であると考えられる.B 地
点は,ほとんどが山の中であり,民家の近くも山
が多く,自然林の存在があまりみられなかった.
E 地点は海の近くで,土も乾いていて栄養が不足
しているような場所が多く,陸産貝類だけではな
く,土壌生物もあまり見られなかった.I 地点吹
上浜で,土が砂っぽく乾いている地点が多い.や
はり,土壌生物も見られなかった.
総合すると,鹿児島県薩摩半島南部における
陸産貝類相は,アズキガイやタカチホマイマイ,
ヤマタニシ,ヤマクルマガイ,ギュリキギセル,
コハクオナジマイマイがどの地域でも見られる種
である.ある程度人の手が入りやすい民家で陸産
貝類は多く見つかり,反対に人の手が入らない山
の中や海に近い乾燥した土であるところではあま
りみられない.また,全地点間での類似性にあま
り違いはない.希少性の面では,絶滅危惧 II 類
が 1 種,準絶滅危惧が 15 種,国外移入種が 1 種
みつかり,絶滅危惧種の生息域を確かめる事がで
きた.今後は,もっと範囲を限定し,環境や植生
などにも着目した分布調査を行っていく必要があ
ると考えられる.
266
RESEARCH ARTICLES
謝辞
本研究を行うにあたり,陸産貝類の分布調査,
また,貝類の同定を行う過程において貴重な意見
を頂きました行田義三さん(鹿児島市),調査を
手伝っていただいた冨山研究室の 4 年生の皆様,
様々な助言をしていただきました冨山研究室の先
輩方に感謝申し上げます.本研究の一部には,鹿
児島県の絶滅のおそれのある野生動植物リスト
(鹿児島県レッドデータブック)第二版の編集作
業予算(鹿児島県自然保護課),日本学術振興会
科学研究費助成金基盤 A 一般 26241027-0001,お
よび,2014 年度鹿児島大学学長裁量経費から助
成を受けました.
引用文献
野村健一,1939.種ヶ島の蛾類について.吉田博士祝賀記
念誌,601–634.
野村健一,1940.昆虫相比較の方法 特に相関法の提唱に
ついて.九州帝国大学農学部学芸雑誌,9: 235–263.
Simpson, E. H. 1949. Measurement of diversity. Nature, 163: 688.
冨山清升,1983.トカラ列島・口永良部島の陸産貝類相.
南紀生物,25 (2): 183–190.
冨山清升,1984.鹿児島県三島村の陸産貝類相と陸産貝類
の分散様式.沖縄生物学会誌,22: 23–26.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美大島に分布する陸産貝類の生息現況に関する予備調査
坂井礼子・重田弘雄・竹平志穂・今村隼人・鮒田理人・中山弘幸・冨山清升
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科
要旨
鹿児島県の南に位置する奄美大島は,生物の
多様性が高い地域である.陸産貝類は島嶼等の狭
い地域での進化や種分化が著しい動物群であり,
生物地理学においても指標生物として重要な動物
群である.奄美大島の陸産貝類の生息現況を把握
するための予備調査として,奄美大島のいくつか
の地点を抽出し,陸産貝類の分布調査を行った.
方法としては,各地点で採集した陸産貝を持ち
帰って肉抜きして液浸標本にして同定を行った.
今回調査したのは,龍郷町(用),奄美市(朝仁,
浜里,永田,和光),瀬戸内町(西古見),宇検村
(芦検)である.今回は調査地点が少なく,土壌
中に生息する微小貝の調査も行っていないため,
採集できた全体の種数は少なかった.しかし,採
集した場所から奄美大島固有の種が何種か確認で
きた.また,採集した種の多くは,鹿児島県のレッ
ドデータに記載されているものも多かった.狭い
島の中で多くの陸産貝の生存が危ぶまれているこ
とも分かった.
はじめに
鹿児島県の南に位置する奄美大島は,生物区
界の東洋区の最北部に位置するとされており,生
物地理学的に重要な地域である.陸産貝類は,島
Sakai, R., H. Shigeta, S. Takehira, H. Imamura, M. Fuhana, H.
Nakayama and K. Tomiyama. 2015. Preliminary
investigation of land snail fauna in Amami-oshima island,
Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 41: 267–270.
KT: Department of Earth and Environmental Sciences,
Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@
sci.kagoshima-u.ac.jp).
のような狭い地域で特異的な進化が見られること
が知られており,生物地理学においては重要な指
標生物として研究されてきた.奄美大島には,多
くの固有陸産貝が生息しているが,これまでの調
査記録は断片的であり,その生息現況はよく判っ
て い な い の が 現 状 で あ る( 鹿 児 島 県,1935,
2003; 黒 田,1928a,b; 重 田,1988, 1997, 1999,
2001;重田・波部,1987).奄美大島に分布する
陸産貝類には鹿児島県レッドデータに掲載される
種も多い.本研究では,奄美大島に分布する陸産
貝類の生息現況を明らかにする事を目的とし,そ
の予備的調査を行った.合わせて,鹿児島県レッ
ドデータブックの基礎調査も行うことを目的とし
て分布調査を行った.
材料と方法
調査は,表 1 と図 1 に示すように,鹿児島県
奄美大島本島の 8 ヶ所で行った.本研究の予備調
査として行われ,まだ発表されていないデータと
して以下の地点も含める.また,今回の予備調査
に加えて,過去に行った以下の地域の調査のデー
タも加えた.奄美市;小湊,瀬戸内町;勝浦,大
和村;志戸勘.
方法としては,それぞれのポイントで 30 分前
後の時間をかけて見つけ取りを行った.その後,
軟体部の肉抜きをし,液浸標本にして殻とセット
にして保存した.今回の分布調査では生息密度が
低かったこともあり,各調査地点で採集された個
体数は重要視していない.軟体部の肉抜きは,貝
を沸騰した水に数秒入れ,殻に入っていた時と同
じ状態のまま取りだす,陸産貝類の標本作成する
基本的な方法を踏襲した.
また,今回は採集した陸産貝類が鹿児島県レッ
267
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
アズキガイ科 Family Pupinidae
アズキガイ属 Genus Pupinella Gray, 1850
アズキガイ亜属 Subgenus Pupinopsis H. Adams, 1866
3.オオシマアズキガイ
Pupinella (Pupinopsis) oshimae oshimae Pilsbry, 1901
ムシオイガイ科 Family Alycaeidae
ムシオイガイ属
Genus Chamalycaeus Kobelt & Moellendorff, 1897
4.オオムシオイガイ
図 1.鹿児島県奄美大島と本研究での調査地点.●は本研究
の調査地点.○は本研究の先行調査を行った調査地点.
Chamalycaeus tokunoshimanus principialis (Pilsbry et Hirase, 1909)
ゴマガイ科 Family Diplommatinidae
ゴマガイ属 Genus Diplommatina Benson, 1849
5.トクノシマゴマガイ
ドデータの中でどのような位置づけとなっている
Diplommatina (Sinica) tokunoshimana Pilsbry & Hirase, 1904
のか調べた.奄美大島に生息する陸産貝の多くが
県のレッドデータに掲載されており,これからの
有肺亜綱 Subclass PULMONATA
存続が危ぶまれている.採集した陸産貝類の確認
柄眼目 Order Stylommatophora
と共に,生息状況についても調べた.
ポリネシアマイマイ上科 Superfamily Partulacea
キセルガイモドキ科 Family Enidae
結果
リュウキュウキセルモドキ属Genus Luchuena Habe, 1956
本研究の調査の結果,生息が確認できた種
6.オオシマキセルガイモドキ
腹足綱 Class GASTROPODA
Luchuena eucharista oshimana (Pilsbry,1902)
前鰓亜綱 Subclass PROSOBRANGHIA
中輪尿管亜目 Suborder Mesurethra
中腹足目 Order Mesogastropoda
キセルガイ上科 Superfamily Clausiliacea
ヤマタニシ上科 Superfamily Cyclophoracea
キセルガイ科 Family Clausiliidae
ヤマタニシ科 Family Cyclophoridae
アジアギセル亜科 Subfamily Phaedusinae
ヤマタニシ属 Genus Cyclophorus Montfort, 1810
ノミキセル属 Genus Zaptyx Pilsbry, 1900
1.オオシマヤマタニシ
7.キカイノミギセル Zaptyx kikaiensis (Pilsbry, 1905)
Cyclophorus hirasei oshimanus Kuroda, 1928
チビノミギセル属 Genus Oligozaptyx Pilsbry, 1905
2.オオヤマタニシ
8.チビノミギセルガイ
Cyclophorus hirasei Pilsbry, 1901
Oligozaptyx hedlyi hedlyi (Pilsbry, 1905)
表 1.奄美大島における陸産貝類生息調査の本研究における調査地点.
市町村
地区
経度
緯度
奄美市
奄美市
奄美市
奄美市
奄美市
宇検村
瀬戸内町
龍郷町
朝仁
永田町
永田町
浜里町
和光町
芦検
西古見
用
28°23′56.14″N
28°22′33.61″N
28°22′28.81″N
28°23′50.21″N
28°23′07.04″N
28°12′28.86″N
28°14′37.30″N
23°30′43.92″N
129°29′04.35″E
129°29′41.28″E
129°29′44.65″E
129°28′23.79″E
129°30′55.46″E
129°15′54.09″E
129°10′03.06″E
129°41′24.49″E
268
RESEARCH ARTICLES
アジアギセル属 Genus Phaedusa H. & A. Adams, 1855
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
(2)2014.5.3(土)8:20~8:53
9.ネニヤダマシギセル
奄美市 永田町 おがみ山山頂(28°22′28.81″N,
Phaedusa (Phaedusa) neniopsis neniopsis (Pilsbry, 1902)
129°29′44.65″E)
屈曲輸尿管亜目 Suborder Sigmurethra
オオシマケマイマイ,オオシマヤマタニシ,オカ
オカクチキレガイ科 Family Subulinidae
チョウジガイ,キカイノミギセル
オカチョウジガイ属 Genus Allopeas H. B. Baker, 1935
10.オカチョウジガイ
Allopeas clavulinum kyotoense (Pilsbry & Hirase, 1904)
ナンバンマイマイ上科 Superfamily Camaenacea
ナンバンマイマイ科 Family Camaenidae
(3)2014.5.3(土)
奄 美 市 和 光 町 和 光 ト ン ネ ル 出 口
(28°23′07.04″N, 129°30′55.46″E)
オオシママイマイ,オオシマヤマタニシ
(4)2014.5.3(土)13:10~13:50
ニッポンマイマイ属 Genus Satsuma A. Adams, 1868
龍郷町 用 ソテツ林(23°30′43.92″N, 129°41′24.49″E)
11.オオシママイマイ
オオシマケマイマイ,オオシママイマイ,オオシ
Satsuma (Satsuma) lewisii lewisii (Smith, 1878)
マヤマタニシ
マイマイ上科 Superfamily Helicacea
オナジマイマイ科 Family Bradybaenidae
オオベソマイマイ亜科 Subfamily Aegistinae
オオベソマイマイ属 Genus Aegista Albers, 1850
オオベソマイマイ亜属 Subgenus Aegista Albers, 1850
(5)2014.6.21(土)16:50~17:23
奄 美 市 浜 里 町 浜 里 ト ン ネ ル 出 口
(28°23′50.21″N, 129°28′23.79″E)
オキナワウスカワマイマイ
(6)2014.6.21(土)18:00~18:18
12.マメヒロベソマイマイ
奄 美 市 朝 仁 千 年 松 公 園(28°23′56.14″N,
Aegista (Aegista) minima (Pilsbry, 1902)
129°29′04.35″E)
ケマイマイ亜属 Subgenus Plectotropis Martens, 1860
オオシマヤマタニシ,オキナワウスカワマイマイ
13.オオシマケマイマイ
(7)2014.9.4(木)16:30~17:00
Aegista (Plectotropis) kiusiuensis oshimana (Pilsbry & Hirase, 1903)
宇 検 村 芦 検 山 の ふ も と(28°12′28.86″N,
マイマイ亜科 Subfamily Euhadrinae
129°15′54.09″E)
ウスカワマイマイ属 Genus Acusta Albers, 1860
オキナワウスカワマイマイ
14.オキナワウスカワマイマイ
Acusta despecta despecta (Sowerby, 1839)
本調査で採集した陸産貝類のうち鹿児島県レッド
チャイロマイマイ属 Genus Phaeohelix Kuroda & Habe, 1949
データブックに記載されている種
15.タメトモマイマイ
オオシマアズキガイ:絶滅危惧 II 類;奄美大島
Phaeoherix phaeogramma phaeogramma (Ancey, 1888)
固有種
オオシマキセルガイモドキ:準絶滅危惧;奄美群
以上の陸産貝を採集地点,採集した日,鹿児島
島固有種
県レッドデータブック(鹿児島県,2004)におけ
オオシママイマイ:準絶滅危惧;奄美群島準固有種
る掲載内容を下記にまとめた.
オオシマケマイマイ:絶滅危惧 II 類;奄美群島
固有種
採集した陸産貝についての詳細
(1)2014.5.3(土)6:40–7:15
オオシマヤマタニシ:準絶滅危惧;奄美群島固有種
オオムシオイガイ:絶滅危惧 I 類;奄美大島固有種
奄美市 永田町 おがみ山入り口(28°22′33.61″N,
オオヤマタニシ:準絶滅危惧;奄美群島固有種
129°29′41.28″E)
キカイノミギセル:準絶滅危惧;奄美群島準固有種
アズキガイ,オオシママイマイ,オキナワウスカ
チビノミギセルガイ:絶滅危惧 II 類;奄美群島
ワマイマイ,タメトモマイマイ
固有種
269
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
トクノシマゴマガイ:絶滅危惧 II 類;奄美群島
輩方に感謝申し上げます.本研究の一部には,鹿
固有種
児島県の絶滅のおそれのある野生動植物リスト
ネニヤダマシギセル:絶滅危惧 I 類;奄美大島固有種
(鹿児島県レッドデータブック)第二版の編集作
マメヒロベソマイマイ:絶滅危惧 I 類;奄美群島
業予算(鹿児島県自然保護課),日本学術振興会
固有種.
科学研究費助成金基盤 A 一般 26241027-0001,お
考察
調査で確認できた陸産貝類は,調査地点が少
なかったことと,採集した地点で土壌に生息する
微小貝の採集を行わなかったために,採集できた
標本は,種数,および,個体数共に少ない.しか
し,本土の同様の調査に比べると,採集地点が少
なかったにも関わらず,採集できた奄美群島固有
種の種数は比較的多かった.これは奄美大島では,
生物の多様性が高いという一端を示しているので
あろう.そのため,これからは更に調査地点を増
やし,島内の陸産貝類の分布状況を把握できるよ
うにしたい.土壌微小貝類の抽出は今後の調査を
進めるに当たっての大きな課題であろう.
今回の調査で採集できた種の多くは,鹿児島
県のレッドデータに掲載されている種であり,絶
滅危惧種に指定されている種も多かった.
奄美大島での陸産貝類の分布調査はまだ浅く,
島内の正確の生息現況がつかめていない.現在,
奄美大島では,陸域でも開発行為が継続されてお
り,陸産貝類の生息環境は悪化している.今回の
調査でも,陸産貝類の生息環境としては良好と思
われた地点でも採集種数が極めて少ない場所が存
在した.今後,奄美大島全域での陸産貝類の分布
調査を行うと同時に,陸産貝類の生息環境の調査
も併せ行っていきたい.また,微小貝を採集する
ための土壌調査や採集する個体数を増やし,より
密な分布調査になるよう生息現況調査を継続して
いく予定である.
謝辞
本研究を行うにあたり,陸産貝類の分布調査,
よび,2014 年度鹿児島大学学長裁量経費から助
成を受けました.
引用文献
Ancey, C. F., 1888. Novelles contributions malacologiques. Bulletin de la Société Malacologique de France 5: 341–376.
黒田徳米,1928a.奄美大島産貝類目録.130 pp., 46 pls. 鹿
児島県教育委員会.
黒田徳米,1928b.貝類.Pp. 29–47.鹿児島県教育調査会
(偏)
行幸記念奄美大島における博物調査報告書.
鹿児島県,1935.天覧学術研究品目録 鹿児島県編其二鹿
児島県産貝類之部.鹿児島県,鹿児島.
鹿児島県,2003.鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植
物 動物編 ― 鹿児島県レッドデータブック.642 pp.
Pilsbry, H. A, 1900. Addition to the Japanese land snail fauna, II.
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448.
Pilsbry, H. A., 1901. New land mollusca from Japan and Loo choo
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Philadelphia 53: 344–353.
Pilsbry, H. A., 1902a. New land mollusks of the Japanese Empire.
The Nautilus 16: 45–47.
Pilsbry, H. A., 1902b. New land mollusks from the Japanese Empire. The Nautilus 16: 53–57.
Pilsbry, H. A., 1902c. Additions to the Japanese snail fauna, VII.
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Pilsbry, H. A., 1905. New Clausiliidae of the Japanese Empire, X.
Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 56: 809–838.
Pilsbry, H. A. & Hirase, Y., 1903. New land shells of the Japanese
Empire. The Nautilus 16: 114–117.
Pilsbry, H. A. & Hirase, Y., 1904c. Description of new land snails
of the Japanese Empire. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 56: 616–638.
Pilsbry, H. A. & Hirase, Y., 1909b. New land mollusca of the
Japanese Empire. Proceedings of the Academy of Natural
Sciences of Philadelphia 60: 585–599.
重田弘雄,1988.奄美の貝類分布.きょらじま 1: 12-18.
重田弘雄,1997.大和村福元盆地周辺の陸産貝類.きょら
じま 9: 20-23.
重田弘雄,1999.南島雑話の動物(5)貝中心.きょらじま
11: 3-17.
また,貝類の同定を行う過程において貴重な意見
重田弘雄,2001.須子茂離島周辺における陸産貝類の分布.
きょらじま 13: 26-27.
を頂きました行田義三さん(鹿児島市),調査を
重田弘雄・波部忠重,1987. マシジミ奄美大島に分布する.
ちりぼたん 18 (3・4): 112.
手伝っていただいた冨山研究室の 4 年生の皆様,
様々な助言をしていただきました冨山研究室の先
270
Sowerby, G. B., 1832–41. The Conchological Illustrations. 22
parts, iv+116 pp., 200 pls. London.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島湾喜入干潟での防災道路整備事業における巻貝類の生態回復
前川菜々・春田拓志・冨山清升
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学部地球環境科学科専攻
はじめに
干潟は水質浄化や生物多様性の保全など重要
な役割を持った環境である.日本の干潟は,2006
年の時点で,過去 60 年の間に 40% が失われた(花
輪,2006).干潟は埋め立てや干拓の対象になり
やすく,最も多い消失原因である埋め立ては全体
の 40% を占めている.また,一度消失した干潟
が自然に回復することは難く,人工的な再生では
持続的な生態系を維持することが難しい(安達,
2012;風呂田,2000;上村・土屋,2006;森田,
1986;田代・冨山,2001;波部,1995;山本・和
田,1999).
鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川支流河口干潟
である喜入干潟では,2010 年から防災道路整備
事業が行われ,マリンピア橋が建設された.この
道路整備事業により喜入干潟の一部が破壊され,
干潟上の生物相が大きな被害を受けた.この干潟
の破壊が,どれほど干潟上の生物相へ影響を与え
ているか調査する必要を感じ,研究することとし
た.
喜入干潟の表面には巻貝類が非常に多く生息
している.喜入干潟の環境評価基準として有用で
あり,採集もしやすいことから,巻貝類を調査対
象とした.喜入干潟上の巻貝類は,ウミニナ類の
主にウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869)
Maekawa, N., T. Haruta and K. Tomiyama. 2015. The
habitation recovery of snailfauna in the disturbance of
road construction on Kiire in the tideflat in Kagoshma.
Nature of Kagoshima 41: 271–286.
KT: Department of Earth & Enviromental Scienses,
Faculty of Science, Kagoshima University, Korimoto,
Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci.
kagoshima-u.ac.jp).
が大半を占め,ヘナタリ Cerithideopsilla cingulate
(Gmelin, 1791) と カ ワ ア イ Cerithideopsilla
djadjariensis (K. Martin, 1899) が同所的に生息して
おり(春田・冨山,2000;若松・冨山,2000;大
滝 ほ か,2001; 真 木 ほ か,2002; 杉 原・ 冨 山,
2002;武内・冨山,2004;吉住・冨山,2010;田
上・冨山,2010),これら三種は環境省によって
県の準絶滅危惧種に指定されている.これらを月
に 1 度,2 年間に渡り採取し,各月ごとのサイズ
別頻度分布と個体数の季節変化を調査し,2010
年 12 月 ~ 2011 年 11 月( 春 田,2011),2011 年
12 月~ 2012 年 12 月の調査報告と今研究結果の
比較から,工事が開始されてから 4 年間の生態の
変化について考察した.
また,春田(2011)の報告から,2011 年 9 月
に両地点で研究対象種の個体群が消滅しているこ
とが分かった.2011 年 9 月は橋の建設のため,
干潟表面の掘削が行われている.工事との関連を
調査するため,その他要因として考えられる台風
などの天候の影響について,環境省のデータとか
ら考察した.加えて,その後の巻貝類への直接的
な影響であるとして,干潟の高さを計測し,過去
の報告と比較した.
材料と方法
調査地
調査地は鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川支流河
口 干 潟 で あ る 喜 入 干 潟 で 行 っ た(31°23′N,
130°33′E).愛宕川の河口は鹿児島湾の日石原油
基地の内側に位置し,河口部は八幡川河口と交
わっている(Fig. 1).干潟周辺はメヒルギなどか
ら成るマングローブ林が広がり,マングローブ林
の北限となっている.干潟上には腹足綱や二枚貝
271
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 1.調査地の位置.調査地は喜入の愛宕川河口に位置する.Station A は架橋部分の真下に設定した.Station B は本流近くの
干潟に設定した.干潟の地形断面測量は Line A と Line B で行った.
綱をはじめ多くの底生生物が生息している.中で
堆積物食の吸腔目ウミニナ科に属する腹足類.
もウミニナ科の巻貝類が最も多く生息している.
太い塔形で,成殻では殻口が張り出してずんぐり
Kojima et al. (2001) の研究では,喜入干潟に生息
しており,体層側面には低い縦張肋が現れる.殻
するウミニナ属の個体はすべてウミニナのミトコ
口後端の滑層瘤は白く顕著であり,殻表の螺肋は
ンドリア DNA を持っていることが報告されてい
低く,肋間は狭い.縦肋は不明瞭である.発生様
る.よって,調査干潟に生息しているウミニナ属
式は紐状の卵鞘を産み,ベリジャー幼生が孵化す
の一種はすべてウミニナであるとした.
るプランクトン発生の生活史をとる.北海道南部
干潟上では 2010 年から道路整備事業として干
から九州,朝鮮半島,中国大陸に分布している.
潟上に三本の柱を持つマリンピア橋の建設が行わ
かつて各地の内湾域に多産していたが,東京湾や
れている.工事内容や日程に関する細かな資料は
三浦半島では著しい減少傾向が認められる.イボ
入手できなかったが,大まかには,2009 年に橋
ウミニナと比較すると本種の生息地は多く,浜名
の両端の柱,2010 年中心の柱,2011 年に橋の上
湖以西の三河湾,伊勢湾,瀬戸内海,有明海など
部を建設する予定となっていた.2011 年には橋
に健全な個体群が残されている.しかし,生息場
自体は完成していたが,2012 年以降も橋の両端
所は埋め立て等で減少している(風呂田,2000).
の道路整備が続いており,現在も通行止めとなっ
喜入干潟では粒の粗い砂礫~砂を好み,潮間帯の
ている.
中流~下流に生息している.
この防災道路整備事業が巻貝類の生態へどれほ
ど影響するかを比較するため,2 つの調査地点
ヘナタリ
(Station)を設置した.干潟上に建設されている
Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791)
橋の真下で,工事の影響を大きく受けたと思われ
堆積物食の吸腔目キバウミニナ科に属する腹足
る場所を Station A,愛宕川の本流の傍で,工事の
類.殻は塔状円錐型で螺塔高く 10 数層を数える.
直接的な影響をあまり受けていないと思われる場
ふつうは泥水に汚染されること甚だしいが,清水
所を Station B とした.底質は Station A は泥質,
の流水する砂底に棲むものは顆粒列が白色で,縫
Station B は砂質である.
合下は黄色で肋間は黒褐色である.発生様式はプ
272
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ランクトン発生である.内湾奥部の河口汽水域,
研究材料である三種が同所的に生息できる要因
低潮帯表層に生息し,房総半島,北長門海岸~南
の一つとして潮間帯の干潟の高さが挙げられる.
西諸島,朝鮮半島,中国大陸,インド,西太平洋
今後の観測に必要であると考え,2014 年 7 月に
に分布している.西日本や南西諸島では現在も多
Station A と Station B に て 干 潟 の 高 さ を 計 測 し,
産地が少なくないが,東京湾や瀬戸内海中央部な
それぞれを Line A,Line B とした(Fig.1.).計測
ど湾奥の開発と汚染が著しい地域で激減し,岡山
は干潟の満潮線から対面する満潮線までの 50 m
県では 2000 年以降死殻は多数見られるものの,
で水平を取り,数十メートルおきに高さを計測し
生貝は見出されていない.喜入干潟では粒子の細
グラフに表した.過去に同地点で同じ距離の計測
かい泥質~砂泥質を好み,潮間帯の中流~下流に
に関する報告は無い.Station A での 10 m 区間の
生息している(行田,2003).
計測が大滝・冨山(2001)によって報告されてい
るため,短い区間ではあるが比較を行った.
カワアイ
Cerithideopsilla (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martin, 1899)
過去の気象情報との比較
堆積物食の吸腔目キバウミニナ科に属する腹足
気象庁が公開している過去の気象情報から,天
類.各層の表面には 3 条の螺状脈をめぐらし,脈
気,降水量,風力などの記録を入手し,サンプル
上には顆粒が見え,縦溝によって顆粒を整列する.
が採集された月と照合し,個体数減少などとの関
その顆粒は体層で弱まり底面で喪失する.発生様
連を調査した.
式はプランクトン発生である.内湾奥部の泥質干
潟にヘナタリと混生する場所もある.かつて各地
結果
の内湾域にごく普通に生息していたが,東京湾や
ウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化
三浦半島では著しい減少傾向が認められる.浜名
Station A[2013 (Fig. 2-1, 2)–2014 (Fig. 3-1, 2)]
2013
湖でも現在生息が確認できていない.伊勢湾以西
年 1 月は 12 mm をピークに 6–18 mm までの緩や
から南西諸島にかけては健全な個体群が確認でき
かな山型をし,21 mm にも 1 個体確認された.2
る干潟が多いが,生息場所は埋め立て等で減少し
月になると 6 mm と 18 mm サイズの個体が比較
ている(行田,2003).喜入干潟ではヘナタリと
的 多 く, 範 囲 は 6–21 mm で あ っ た.3 月 は 12
同所的に,わずかに生息している.
mm と 18 mm の 山 型 を 二 つ 作 り, 範 囲 は 9–21
mm であった.4 月個体数が少なく,は 9 mm が
サンプル採集
4 個体,18 mm が 1 個体のみ確認された.5 月も
調査は 2013 年 1 月~ 2014 年 11 月の期間に毎
個体数が少なく,9 mm をピークとし,6–21 mm
月 1 回,大潮から中潮の干潮時に行った.
の範囲で個体が僅かに確認された.6–7 月は個体
調査地点 A,B に各 2 回,ランダムにコドラート
数が急増し,共に 12 mm と 18 mm をピークとし
を設置した.コドラートは 50 cm×50 cm のものを
た大きな山型を二つ形成し,最大サイズも共に
使用し,コドラート内を 4 分割(25 cm×25 cm)
24 mm,最小は 6 月が 9 mm,7 月が 6 mm だった.
した.コドラート内の砂泥を深さ約 5 cm 採取し,
8–9 月に個体数が減少し,共に 12 mm をピーク
1 mm メッシュの篩にかけ,貝類を採取した.採
として小さな山型を示した.範囲は共に 9–21 mm
取した貝は研究室に持ち帰り,一度冷凍したのち
であった.10 月は 15 mm をピークに山型を示し,
各種ごとの出現数の記録,ノギスでの殻高の計測
範 囲 は 6–24 mm で あ っ た.11 月 の ピ ー ク は 12
(0.1 mm の精度)を行った.その後乾燥し,チャッ
mm,範囲は 6–21 mm の山型をしめし,12 月は
クつきポリ袋に入れて保管した.
18 mm をピークに,範囲は 6–21 mm であった.
2014 年 1 月は 6 mm と 18 mm をピークとして
干潟の高さ計測
双山型を示した.2 月は 3–6 mm と 18–21 mm の
273
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 2.2013 年 Station A におけるウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は採集個体数を示す.横軸は殻
高(mm)を示す.
Fig. 3.2014 年 Station A におけるウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は殻高(mm)
を表す.
274
RESEARCH ARTICLES
範囲でわずかに個体が出現した.3 月は 1 月と似
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
6–21 mm の範囲で山型を示した.
ており,6 mm と 15 mm をピークとして双山型を
作った.4 月には個体数が減少し,6 mm と 12–21
ヘナタリの仲間のサイズ別頻度分布の季節変化
mm の範囲でわずかに見られた.5–6 月は共に 18
Station A[2013 (Fig. 6-1, 2)–2014 (Fig. 7-1, 2)]
2013
mm を ピ ー ク と し, 範 囲 は そ れ ぞ れ 9–24 mm,
年 1 月は 6 mm がピークであり,6–9 mm,15–21
15–24 mm であった.7 月は 9 mm と 18 mm をピー
mm の二つのグループに分かれ,12 mm サイズは
クとした 6–21 mm の範囲の双山型をしめし,8 月
確認されなかった.2 月は 9 mm が非常に多く,
は 18 mm をピークに 3–24 mm の範囲で一つ山型
9 mm を ピ ー ク と し た 6–15 mm の グ ル ー プ と,
を示した.9–11 月は共に 18 mm をピーク,範囲
18–21 mm に僅かに確認された.3 月で個体数が
は 9–21 mm であった.
激減し,3–9 mm のグループと,18–21 mm のグルー
Station B[2013 (Fig. 4-1, 2)–2014 (Fig. 5-1, 2)]
2013
プに分かれているが,ほとんど個体数に差はない.
年 1 月は 6 mm と 18 mm をピークに山型を二つ
4 月に個体数が増加,9 mm が突出し 6–15 mm の
形成し,範囲は 6–21 mm であった.2 月も 1 月
グループと,18–21 mm に僅かに出現した.5 月
と最大,最小値は同じで,12 mm をピークに山
は個体数が少なく,出現範囲も 9–15 mm と狭かっ
型を示した.3 月はピークが 16 mm,範囲は 6–21
た.6 月も 5 月同様に個体数が少なく,サイズ範
mm の緩やかな山型を示した.4–5 月は個体数も
囲は 12–24 mm と少し広がった.7 月は個体数が
多く,一部のサイズが突出して多く,4 月は 16
さらに少なく,出現範囲は 9–24 mm と広かった.
mm が,5 月は 9 mm が多かった.4 月の範囲は
8 月のピークは 15 mm,範囲は 9–24 mm であり,
9–21 mm で,5 月 は 6–21 mm で あ っ た.6 月 は
9 月は個体数が減少し,24 mm をピークとして範
18 mm がピークだが,範囲の 9–21 mm まで個体
囲は 12–27 mm であった.10 月は 24 mm をピー
数に比較的大差はなかった.7–8 月は個体数も少
クとし,15–24 mm と範囲が狭かった.11 月は 18
なく,各サイズの個体数もほとんど差はなかった.
mm をピークに 12–24 mm の小さな山型をしめし
7 月は範囲が 9–21 mm,8 月は範囲が狭く 12–21
た.12 月は個体数も少なく,9 mm のグループと
mm であった.9 月に個体数が増加し,12 mm を
15–21 mm のグループに分かれており,それぞれ
ピークとした山型を形成し,範囲は 9–21 mm で
差異はあまり見られなかった.1–4 月にかけて 10
あった.10 月,11 月,12 月は個体数に比較的差
mm 以下の稚貝が多く,それ以降 10 mm 以上の
はなく,ピークはそれぞれ 15 mm,15 mm,21
サイズに移行していた.
mm, サ イ ズ 範 囲 は 12–24 mm,9–21 mm,6–21
2014 年 1,2 月は 21 mm をピークとして,そ
mm であり,いずれも山型であった.
れぞれ 12–30 mm,12–27 mm の範囲で,小さな
2014 年 1 月は 6 mm と 15 mm をピークとして,
山型をつくった.3 月もまた 21 mm をピークとし,
3–21 mm 範囲の双山型をつくり,2 月も 6 mm と
15–27 mm の範囲で小さな山型をつくり,6 mm
18 mm をピークとした,3–24 mm の双山型を作っ
で僅かに出現した.4 月は個体数が少なく,18–
た.3 月は 21 mm をピークとした 12–24 mm 範囲
27 mm 範囲で見られ,5 月も同様に個体数が少な
の一つ山を示し,4 月は 18 mm をピークに 12–24
く,15–27 mm 範 囲 で 見 ら れ た.6–11 月 ま で 21
mm 範囲で同様の形を示した.5 月は 12 mm をピー
mm を ピ ー ク と し, 範 囲 は 6–7 月 は 12–24 mm,
ク と し,6–15 mm の 山 形 と な り,6 月 は 18 mm
8–9 月は 12–27 mm,10–11 月は 12–24 mm で,い
をピークとした 9–24 mm 範囲で緩やかな山型を
ずれも小さな山型を示した.
示した.7 月は 12–24 mm の範囲で出現し,8 月
Station B[2013 (Fig. 8-1, 2)–2014 (Fig.9)]
2013
は 9 mm と 18 mm をピークに 6–24 mm の範囲で
年 1 月は 12–21 mm の範囲で,特に 12 mm と 18
双山型を示した.9,10,11 月はともに 18 mm を
mm に個体が集中していた.2 月は個体数が非常
ピ ー ク と し, そ れ ぞ れ 12–24 mm,9–21 mm,
に少なく,15–21 mm の狭い範囲に出現した.3
275
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 4.2013 年 Station B におけるウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は殻高(mm)
を表す.
Fig. 5.2014 年 Station B におけるウミニナのサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は殻高(mm)
を表す.
276
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 6.2013 年 Station A におけるヘナタリの仲間のサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は
殻高(mm)を表す.
Fig. 7.2014 年 Station A におけるヘナタリの仲間のサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は
殻高(mm)を表す.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 8.2013 年 Station B におけるヘナタリの仲間のサイズ別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を表す.横軸は
殻高(mm)を表す.
月は 6–12 mm の範囲と 18–21 mm の範囲に分か
れていた.5 月は 9–18 mm までの狭い範囲に集
中し,ピークは 12 mm であった.6 月は個体数
が減少し,21 mm をピークとする,12–24 mm ま
での緩やかな山型を示した.7 月も同様に,18
mm をピークとし,12–27 mm の範囲で緩やかな
山型を示した.9 月は個体数が増え,21 mm をピー
クに 18–27 mm の範囲で大きな山型を作り,12
mm にも出現個体が見られる.10 月は個体数が
大幅に減少し,9 mm,18 mm,24 mm に僅かに
出現した.4 月,8 月,12 月に関しては個体数が
4 個体未満であり,サイズ頻度分布として有用で
はないと判断したため記述していない.1 年を通
して個体サイズが 10 mm 以上でピークを示して
いた.比較的冬場のサイズが小さかった.
2014 年はいずれの月も出現範囲が狭かった.1
月は 24 mm が最も高く,範囲は 21–24 mm,2 月
は 21 mm をピークとした 15–24 mm 範囲の山型
Fig. 9.2014 年 Station B におけるヘナタリの仲間のサイズ
別頻度分布の季節変化のヒストグラム.縦軸は個体数を
表す.横軸は殻高(mm)を表す.
278
を示した.3 月は個体数が非常に少なく,9–12
mm 範囲で僅かに出現した.4–7 月は個体が採取
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 10.2011,2012 年のウミニナの Station A における総個
体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
Fig. 11.2013,2014 年の ウミニナの Station A における総個
体数季節変化 . 縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
されなかった.9–10 月はともに 21 mm をピーク
最大は 7 月の 415 個体であった.また,1 mm 以
に 18–24 mm 範囲で小さな山型を示した.
下の個体においても 7 月が最も多く 133 個体が確
認された.反対に 4 月,9 月,10 月は 10 mm 以
ウミニナの個体数の季節変化
下が 4 個体と最少であった.2012 年度結果の 10
Station A[2011–2014 (Figs. 10, 11)] 2011 年の
mm 以 下 の 個 体 数 と 比 較 す る と,383 個 体 か ら
総個体数は 4426 個体で,2010 年 12 月から 6 月
377 個体へと,新規参入個体の大きな減少は見ら
にかけて個体数が増え,7 月から減少していった.
れず,2013 年度では 10 mm 以下の個体が 10 mm
9 月に個体群が消滅し,10–11 月に少し個体数が
以上の個体を上回っていた月は 2012 年 12 月の
回復した.10 mm 以下の個体数は 342 個体であり,
64 個体,2013 年 4 月の 4 個体,5 月の 21 個体で
最も多く出現したのは 1 月であった.2012 年は 1
あり,その割合はそれぞれ約 70%,80%,95% で
月から 7 月にかけて個体数が減少し,12 月にか
あった.2014 年 1 月は 94 個体,2 月の 17 個体,
けて増加した.総個体数は 2710 個体,10 mm 以
3 月 79 個体,4 月 10 個体とそれぞれ約 4 倍の増減,
下の個体数は 764 個体であった.2012 年 12 月の
4 月から 5 月 168 個体へ 17 倍増加,5 月から 6 月
90 個体から 2013 年 4 月の 5 個体までゆるやかに
48 個体へ約 2/7 に減少,6 月から 7 月 222 個体へ
減少し,5 月の 22 個体から 7 月の 415 個体にか
5 倍に増加した.7 月から 8 月の 121 個体へ約 1/2
けて約 13 倍に急増した.8 月に再び 74 個体へと
に減少し,9 月の 139 個体から 10 月の 35 個体へ
約 1/5 に減少し,その後 9 月 97 個体,10 月 113
約 1/4 減少した.このように大きな増減が多く見
個体,11 月 121 個体,12 月 117 個体と大きな変
られた.総個体数の最大は 7 月の 222 個体,最少
動はなかった.総個体数の最少は 4 月の 5 個体,
は 4 月の 10 個体であり,10 mm 以下の個体数が
279
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 12.2011,2012 年の Station B におけるウミニナの総個
体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
Fig. 13.2013,2014 年の Station B におけるウミニナの総個
体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
10 mm 以上の個体数を上回った月は,2 月の 9 個
の 247 個体へ約 1.7 倍と増加し,7 月の 30 個体ま
体と 3 月の 43 個体で,それぞれ 53%,54% を占
で約 1/10 に減少した.7 月から 12 月の 228 個体
めていた.2013 年度の 10 mm 以下の総個体数と
にかけては約 10 倍に増加した.総個体数の最少
比較すると,377 個体から 182 個体へ約 1/2 に減
は 7 月の 30 個体,最大は 2012 年 12 月の 540 個
少した.
体であった.10 mm 以下の個体においては,5 月
Station B[2011–2014 (Figs. 12, 13)] 2011 年は
が最も多く 193 個体,最少は 8 月の 3 個体であっ
2012 年 12 月から 3 月まで総個体数が徐々に減少
た.10 mm 以下の個体が 10 mm 以上の個体を上
し,5 月まで増加,6 月で大きく減少し,7 月に
回っていた月は 5 月の 193 個体のみであり,約
再び上昇した.9 月は個体群が消滅し,10–11 月
78% を占めていた.2012 年度の 10 mm 以下の総
はわずかに個体が確認された.総個体数は 4987
個体数と比較すると,764 個体から 572 個体へ約
個体,10 mm 以下の個体数は 1608 個体であった.
3/10 減少していた.
10 mm 以下の個体は 2010 年 12 月,3 月,
8 月をピー
2014 年 1 月は 89 個,2 月の 442 個体へ約 5 倍
クとして山型を示した.2012 年は総個体数が 909
に増加後,3 月の 67 個体まで約 1/5 に減少した.
個体,10 mm 以下の個体数が 383 個体であった.3,
3 月から 4 月に再び 171 個体まで約 3 倍に増加し,
6 月は個体数が確認されず,4 月が最も多く,個
5 月の 133 個体から 6 月の 86 個体まで約 3/5 に減
体数に各月ばらつきがあった.10 mm 以下の個
少した.その後は大きな増減は見られなかった.
体に関しても同様である.2013 年は 2012 年から
総個体数の最大は 2 月の 442 個体,最少は 7 月の
総個体数が約 2/5 に減少し,1 月から 3 月の 148
32 個体であった.10 mm 以下の個体が 10 mm 以
個体にかけてゆるやかに減少した.3 月から 5 月
上の個体数を上回った月は 5 月の 94 個体で,約
280
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 15.2014 年の Station A におけるヘナタリの仲間の総個
体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
241 個体,1月の 93 個体,2 月の 335 個体,3 月
の 36 個体,4 月の 130 個体,5 月の 36 個体であり,
そ れ ぞ れ 約 94%,77%,98%,67%,92%,67%
Fig. 14.2012,2013 年の Station A におけるヘナタリの仲間
の総個体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻
高 10 mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体
を示す).横軸は採集した月を表す.
であった.2012 年度 10 mm 以下の総個体数と比
較すると,1179 個体から 888 個体へ約 1/5 減少し
た.2014 年は 1 月の 95 個体から 2 月の 44 個体
へ約 1/2 まで減少し,3 月に 63 個体まで増加する
が 4 月に 14 個体まで約 1/5 に大きく減少した.6
71% を占めていた.2013 年度の 10 mm 以下の総
に 49 個体まで増加し,8 月の 71 個体を山として
個体数と比較すると,572 個体から 240 個体まで,
前後で増減している.総個体数の最大は 1 月の
約 2/5 に減少した.
95 個体であり,最少は 5 月の 11 個体であった.
10 mm 以下の個体はほとんど確認されず,全体
ヘナタリの仲間の個体数の季節変化
で 3 個体のみであった.2014 年の同地点では 888
Station A[2012–2014 (Figs. 14, 15)] 2012 年の
個体が確認されている.よって採取された貝のほ
総個体数は 462 個体,10 mm 以下の個体数は 119
とんどが成貝であった.
個体であった.2013 年 1 月の 121 個体から,2 月
Station B[2012–2014 (Figs. 16, 17)] 採集され
に約 3 倍の 342 個体へと増加した.2 月から 3 月
た個体数が非常に少なく,2012 年度の同地点で
には 43 個体へと約 1/10 に激減し,4 月に 141 個
は総個体数が 1309 個体であったのに対し,2013
体へと 3 倍増加した.また,7 月の 27 個体から 8
年度は 249 個体であった.2 月 4 個体,4 月 2 個体,
月の 103 個体へ約 3 倍に増加し,11 月の 103 個
8 月 1 個体,10 月 4 個体,2013 年 12 月 3 個体の
体から 2013 年 12 月の 22 個体へ約 1/5 減少した.
ように個体数が 10 未満の月が多かった.その中
このように大きな増減が多く確認された.総個体
で 9 月のみ個体数が 79 個体と多く,そのほとん
数の最少は 2013 年 12 月の 22 個体,最大は 2 月
どは 10 mm 以上の成貝であった.10 mm 以下の
の 342 個体であった.10 mm 以下の個体数にお
個体においては,10 mm 以上の個体を上回った
いても 2 月が最も多い 335 個体,最少は 10 月と
のは 5 月のみで 28 個体,68% を占めていた.2 月,
11 月の 1 個体であった.10 mm の個体が 10 mm
4 月,6 月,7 月,8 月,10 月,11 月,2013 年 12
以上の個体を上回っていた月は,2012 年 12 月の
月では 10 mm 以下の個体は採集されなかった.
281
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 18.Line A と Line B における地形断面測量に基づく地
形断面図.縦軸は潮位最高地点からの鉛直方向の深さ
(cm).横軸は潮位最高地点の基準点からの水平方向の距
離(cm).
Fig. 16.2012,2013 年の Station B におけるヘナタリの仲間
の総個体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻
高 10 mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体
を示す).横軸は採集した月を表す.
6–7 月に再び個体が採取されなかった.8 月は 37
個体採取されたが,9 月に 15 個体まで減少し,
10 月は個体が採取されなかった.11 月は 2 月の
次に個体数が多く,45 個体であった.採取され
たほとんどが成貝であったが,5 月のみ 10 mm 以
下の個体が 10 mm 以上の個体数を上回った.5 月
以外は 8 月に 1 個体のみ 10 mm 以下の個体が採
取された.2013 年の同地点における 10 mm 以下
の個体数は 54 個体であり,大きく減少したこと
が分かった.
Fig. 17.2014 年の Station B におけるヘナタリの仲間の総個
体数季節変化.縦軸は個体数を表す(点描部は殻高 10
mm を越える個体,斜線部は殻高 10 mm 以下の個体を示
す).横軸は採集した月を表す.
喜入干潟の高さ計測
干潟の地形断面の測量結果を Fig. 18 に示す.
Line A 最深値は 1216 cm 地点,1451 cm 地点,
1511 cm 地 点 の - 124 cm で あ っ た. 大 滝 ほ か
2012 年度の 10 mm 以下の総個体数と比較すると,
(2001)の報告での Line A は同計測地点の 4000–
119 個体から 59 個体へとおよそ半数に減少して
5000 cm に当たる.比較すると,40000 cm 地点で
いた.
2001 年では約- 140 cm であったが,2014 年では
2014 年の総個体数は 2 月の 46 個体,採取され
約- 30 cm と 4 倍以上高くなっていた.
た中での最少は 7 個体であった.1 月の 28 個体
Line B 最深地は 360 cm 地点の- 111 cm であ
から 2 月の 46 個体へ増加し,3–4 月は個体が採
り,凹凸が激しい.こちらに関しては比較するこ
取 さ れ な か っ た.5 月 に 8 個 体 採 取 さ れ た が,
とのできる記録がなかった.
過去の気象情報
282
119.5
140.1
7.2
13.7
北
140.7
北北西
南
南
南南西
15.0
14.5
北北東
6.0
6.5
152.3
192.9
南東
北
北西
13.4
13.6
東南東
5.8
6.3
67.0
205.1
19.5
北北東
北
119.0
北
南南西
14.6
15.4
北
北
北
南
16.2
13.4
北
南南東
南西
10.4
m/s であった.15 号の発生した期間では最多降水
7.0
は 1 時間に 0.5 mm,最大瞬間風速は 9 日の 7.4
7.1
に上陸した.14 号の接近した期間の最多降水量
5.8
ずれも接近したのみで,15 号に関しては静岡県
16.8
14 号,13–22 日に発生した 15 号のみである.い
北北西
風向・風速 (m/s)
内,九州南部に接近したものは 7–9 日に発生した
7.3
生していることが気象庁のデータから分かった.
最大風速
風速
風向
7.8
北
台風に関して,2011 年 9 月に台風 13–19 号が発
最大瞬間風速
風速
風向
15.7
北
2015)より調査した(Table 1).
干潟の撹拌を引き起こす要因として考えられる
5.7
183.5
庁の過去の気象データ(気象庁ホームページ,
217.2
日照
気象の影響を受けた可能性があることから,気象
91.6
2011 年 9 月の両調査地点での個体群の消滅が
117.8
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
時間(h)
RESEARCH ARTICLES
1.4
1.0
1.0
1.4
1.4
1.5
1.1
1.2
1.5
1.2
鹿児島県の薩摩・大隅地方では,1 時間の降水
1.8
平均風速
20 日の 10.9 m/s であった.
1.1
量は 16 日の 1 時間に 16.5 mm,最大瞬間風速は
0.9
3.9
10.6
22.0
14.2
21.6
9.5
15.9
4.1
-0.9
12 m/s で強風となる.以上のことから,9 月に発
-2.3
最低
力に関しては,陸上・海上ともに,20 m/s で暴風,
-1.8
量が 40 mm で注意報,70 mm で警報となる.風
20.6
28.0
27.0
33.6
34.5
34.2
30.5
34.5
21.5
26.0
12.9
最高
値するものではなかったことがわかった.
21.9
生した台風による雨風はいずれも注意報や警報に
5.6
14.2
9.7
2.0
7.5
53.5
12
41.5
16.5
13.0
21.8
24.8
20.5
17.3
16.0
14.5
29.0
51.5
211.5
11
44.0
179.5
10
158.0
21.8
24.3
23.3
29.9
25.5
27.8
11.5
15.0
46.0
41.0
105.5
104.5
248.0
274.5
8
9
24.2
31.8
27.5
11.0
22.5
204.0
7
82.0
21.0
16.2
24.7
27.3
23.8
20.2
5.5
15.0
47.0
16.0
112.5
8.6
4.4
15.9
21.5
15.0
9.9
2.0
5.5
10.0
4.9
15.2
平均
日最高
9.0
日平均
4.9
10.0
4.0
13.0
5.0
25.0
20.0
132.0
29.7
679.5
5
貝のままで冬を越し,3 年目の 6–8 月に成熟する
6
7–8 月が繁殖期,9–10 月が幼貝として着底後,幼
47.5
があるが,喜入干潟では過去の研究報告から,
74.0
巻貝類の生活史は生息環境によって異なる場合
3
へと変化した.
4
2012 年以降は徐々に 10–18 mm 範囲のひとつ山
8.5
mm,15–20 mm の範囲で双山型を示していたが,
23.5
の 報 告 で は 2011 年 で は 春 か ら 夏 に か け て 6–9
118.5
子はほぼ一致していた.しかし,春田・冨山(2001)
1
Station B では Station A と同様に季節変動の様
2
の出現時期が逆転したことが分かった.
日最大
幼貝も見られていたが,2012 年以降サイズ頻度
合計
以上の個体頻度が高くなっており,夏季以外には
最大
1 時間 10 分間
3.0
1.0
の報告から,2011 年では年間をとおして 12 mm
降水量(mm)
およそ一致していた.しかし,春田・冨山(2011)
Table 1.2011 年の鹿児島市における毎月の気象庁発表の気象データ.
頻度の季節変動の仕方は,2013–2014 年ともにお
月
サイズ頻度分布図 Station A においてサイズ別
気温 (℃)
ウミニナ
28.5
日最低
0.7
考察
283
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
ことが分かっている(金田・冨山,2013).これ
2012–2014 年の比較を行った.
らは,Station B において,10–11 月に新規加入が
Station A において,2012 年では 1–4 月に 9 mm
起こったとした吉住・冨山(2010),9–12 月の間
以下のサイズ頻度が高くなる時期があり,その後
に幼貝が現れ,12 月に最も多くの幼貝が見られ
15–21 mm を範囲として一つ山型を作る傾向に
たとした安永・冨山(2008)の研究,4–8 月にお
あ っ た.2013–2014 年 は 共 に 1–4 月 に か け て 9
いて新規加入が起こったとした若松・冨山(2000)
mm 以下のサイズ頻度が低いが,5 月以降のサイ
とほぼ一致する.このことから,10 月以降に出
ズ 頻 度 に 関 し て は 2012 年 と 一 致 し て お り,
現した 10 mm 以下の個体は着底後の個体,1–7 月
Station A では 2012 年と 2013 年であまり変化はな
に出現した個体は冬を超えた 1 令以上の個体では
かった.
ないかと推測した.つまり,サイズ頻度分布図か
Station B においては,2012 年で冬季に 9 mm 以
ら,2011 年以降生活史の変化,または着底場所
下のサイズ頻度が高くなる時期があり,冬季以外
が変わった可能性があると考える.
は 10–20 mm の範囲でわずかに個体が確認された.
個体数の季節変化図 また,2011–2014 年の個
2013 年以降は冬季にみられていた 9 mm 以下の
体数の季節変化図から,2011 年 9 月以降 3 年間
頻度が下がり,2014 年では見られなくなった.
個体数が大きく減少していることがわかった.
生息環境によってことなるが,喜入干潟でのヘ
2011 年 9 月に干潟上の掘削がおこなわれたこと
ナ タ リ の 仲 間 の 生 活 史 は, 夏 に 産 卵( 綱 尾,
が分かっていることから,その影響が大きいと考
1963),秋ごろに着底,2 年目に成熟個体となる.
える.台風等の天候の影響調査から,2011 年 9
また,ヘナタリは世代交代が他の腹足類よりも比
月には,干潟上の底生生物に特別大きな影響を与
較的遅く,産卵も少ないという報告がある.これ
えることはなかったことが分かっており,両地点
らのことから,10 mm 以下の個体数頻度の低さ
で同時に個体群が消滅した要因は天候によるもの
からも,干潟上に着底することができなくなった,
ではなかったと考える.小島ほか(2003)の研究
もしくは繁殖を行えていない,性成熟した成貝の
によると,ウミニナはプランクトン幼生による広
減少などが考えられる
域分散過程を持つ.風呂田(2000)はこのような
総 個 体 数 の 季 節 変 動 両 地 点 で 少 な く と も
広域分散過程を持つ多くの底生動物にとって,干
2012 年以降急激に個体数が減少していた.特に
潟の着底場所の消失による局所個体群のネット
2013–2014 年にかけて幼貝の大きな減少が目立っ
ワーク消失が,種の衰退の原因であると推測して
た.よって両地点ともに個体数の減少傾向が 3 年
いる.
間 続 い て い る こ と が 分 か る. ウ ミ ニ ナ 同 様 に
ウミニナにおいては,次世代を担う 10 mm 以
2013 年では一時増加したが,10 mm 以下の個体
下の新規加入個体数から,Station A では大きな減
数は減少し続け,ほとんど確認されなくなった.
少傾向が現在も続いている.Station B においては,
要因の一つとして,ウミニナ同様に気象影響と
10 mm 以上の成貝の個体数が増加する一方で,新
生息域の移動が考えられるが,先に述べたように
規加入個体が減少していることから,現在も減少
台風などの気象による影響は考えられないと思わ
傾向が続いていると考
れる.
える.しかし,生息域,または着底地点が変化し
生息域の移動について,移動の要因として底質
た可能性も考えられるが,今研究では追及できな
の変化による移動がある.今回土質の詳しい流度
かった.
分析は行えなかったが,Station A において,目視
により砂泥質から砂礫に変化しつつあると思われ
ヘナタリの仲間
る.ヘナタリは潮間帯の比較的粒の粗い泥地を好
サイズ頻度分布図 ヘナタリの仲間に関して
む傾向にあるため(真木・冨山,2002),砂~砂
は,工事事業直後の 2011 年のデータがないので,
礫に変化したことで移動した可能性がある.その
284
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
理由として,Station A と Station B で確認されな
土質を分析・比較すること,マングローブ林内で
かった時期に,そり土壌が泥質なマングローブ内
の個体群調査,工事日程の詳しい内容の入手が必
で個体群が見られることがあるとの未発表の報告
要であると考える.
がある.
以上のことから工事による干潟の高さや,底質
謝辞
の変化によって,中流かつ粒子の細かい泥質を好
本研究を行うにあたって,調査や論文作成に
むヘナタリが移動した可能性があると考えられる
あたり多くの助言やご協力を頂きました鹿児島大
が,干潟の高さについては整備事業が開始される
学理学部地球環境科学科の先生方,研究調査を手
以前の記録が不足しているため,明確な比較は行
伝って下さった生態学研究室の皆様,他研究室の
えなかった.
友人達に深くお礼申し上げます.
喜入干潟における今後の課題
干潟上の巻貝類が同所的に生息できる要因は大
変複雑に関係しあっている.干潟の破壊はこれら
の要因の根本に大きな影響を与えることになると
考えられる.そのため,工事事業による人的破壊
が干潟上の生態に大きな影響を与えたことは否定
できないだろう.そして今研究の 4 年間の結果報
告の比較から,喜入干潟上の生態が回復している
とは言えないと考えられる.この研究は継続した
観測に意味がある.今研究では一部のみ個体数の
減少がとまりつつあるが,ほとんどは大きく減少
し続けていることから,個体群の消滅の可能性も
見えてきた.
また,個体の減少だけでなく,ウミニナ,ヘナ
タリの仲間の同所的な生息が不可能になりつつあ
ることも分かった.干潟は生物に対して,生息機
能,水質浄化機能,生物生産機能,親水機能など
の様々な役割をもっている.また,生物は干潟の
高さや底質などによって棲み分けをし,同所的生
息を可能にし,干潟上の生物多様性に繋がってい
る.干潟が埋め立て等によって破壊され,干潟上
の底生生物が姿を消しつつあり,ウミニナやヘナ
タリの仲間もそのうちの一つだ.今後,現存して
いる干潟日本の干潟が破壊を受けることのないよ
うに,破壊後の環境変化の一例として今研究を報
告する.そして継続的な研究調査として,本研究
における調査地での観察を続けるとともに,点で
はなく,干潟上を面としてとらえた調査が必要で
ある.また,干潟の高さの計測も引き続き行うこ
とも重要である.加えて,干潟を細かく区分し,
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RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
奄美大島と九州南部の干潟底生生物群集
1
2
3
上野綾子 ・緒方沙帆 ・佐藤正典 ・山本智子
1
2
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科
2
3
〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科
はじめに
干潟とは,砂泥質の海岸で干満差により干出
する地形の事であり,特に,内湾における河口域
の三角州や,波あたりの少ない海岸に形成される.
干潟に生息する生物は主に無脊椎の底生動物であ
り,その摂食様式は,底質中や表層の有機物を食
べるデトリタス食と水中の有機粒子を濾過して食
べる懸濁物食にわけられる.さらにこれらの底生
動物を食べる高次捕食者が干潟に飛来する鳥類や
大型の魚類であり,干潟生態系に流入した有機物
や栄養塩を陸や海洋などに運ぶ役割を担ってい
る.この様に,干潟ではそこに生息する生物同士
の相互関係によって有機物の除去が行われ,これ
によって陸域と海域をつなぐエコトーンとして機
能している(菊池,1993).しかし,近年,干拓
や埋め立てなどの開発行為により,日本の干潟の
約 40% が消失し,干潟のもつ機能の劣化,そこ
に住む生物の減少が懸念されている(環境省自然
保護局,1994).
鹿児島県内の干潟も例外ではなく,鹿児島湾
奥では,1977 年は 200 ha 程であった干潟が 2003
年 で は 60 ha に 減 少 し て い る( 山 本・ 小 玉,
2009).また,山本ほか(2009)の調査によると,
鹿児島湾奥の重富干潟では 1994 年から 2005 年に
Ueno R., S. Ogata M. Sato and T. Yamamoto. 2015. Benthic
animal community of mud flats in Southern Kyushu and
Amami-Oshima Island. Nature of Kagoshima 41: 287–
294.
RU: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065 (e-mail: k5230852@kadai.jp).
か け て, 干 潟 表 層 で 生 活 す る ウ ミ ニ ナ
Batillariidae multiformis などの腹足類の個体数が
増加し,底質中に生息する二枚貝類が減少してい
る傾向がみられた.また,多毛類は大幅に種組成
が変化し、小型種が増加した.このように,周辺
の環境変化により底生生物相の変化が起こり,干
潟内の底生生物による浄化機能に影響を与えてい
る可能性が考えられる.しかし,鹿児島県内の多
くの干潟では底生生物の詳しい調査が行われてい
ない.そこで本研究では,九州南部と奄美大島の
4 つの干潟において底生生物相の比較を行い,浄
化機能面での違いを明らかにした.
方法
調査地は鹿児島県内の 4 つの干潟に設定した
(Fig. 1).九州南部の 2 か所は八代海の南部に位
置する鹿児島出水市蕨島の西対岸の江内干潟と,
鹿児島湾奥部の姶良市重富海岸に隣接する干潟で
ある.また,奄美大島では,笠利湾奥の手花部干
潟と住用マングローブに隣接する住用干潟を調査
地として選定した.調査は,2012 年 6 月に重富
干潟,2013 年 6 月に江内干潟,同年 7 月に手花部・
住用干潟で,大潮の干潮時前後にそれぞれ行った.
いずれの干潟でも海岸線と垂直に 3 から 5 本のラ
インをひき,それぞれのライン上に干潟全体を網
羅するよう等間隔で,各干潟 24 か所になるよう
ステーションを設定した.底生動物の採集はそれ
ぞれのステーションで 3 回ずつおこなった.直径
17 cm のコアサンプラーを深さ 10 cm まで挿し込
み,その中の泥を全て 1 mm メッシュの篩にかけ
た.メッシュ上に残った底生動物は全て 70% エ
287
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
いた群集解析を行った.各ステーションで採集さ
れた底生動物各種の個体数(個体数/ st.)を用
いて,全ステーション間の非類似度指数(BrayCurtis Index)を以下の式によって算出し,群集解
析に使用した.
上記の式においては,S は非類似度指数,xi1 は
群集 1 の i 番目の個体数,xi2 は群集 2 の i 番目の
個体数とする.
クラスター解析では,word 法を用いて各ステー
ションの底生生物群集をいくつかのかたまり(ク
ラスター)にまとめ,階層構造を図式化した樹形
図(dendrogram)を構成した.解析には,統計解
析ソフト PRIMER Ver.6 を使用した.
結果
採集された底生生物
江内干潟で採集された底生動物は全部で 59 種
(多毛類 12 種,甲殻類 15 種,二枚貝類 12 種,腹
足類 13 種,その他 7 種)であった(Table 1).もっ
と も 優 占 し て い た 種 は ユ ウ シ オ ガ イ Moerella
rutila,ついでアサリ Rudiapes philippiarum,ウミ
ニナ Batillaria multiforms であった.全種の採集個
体数は 606 個体で,1 ステーションあたりの平均
密度は 26 個体/ st.,最も個体数が多かったステー
ションは 60 個体/ st.,最も少なかったステーショ
ンは 11 個体/ st. であった(Fig. 2).また,全個
体数に占める割合は,二枚貝類が約 43%,腹足
類が 32%,環形動物は 9%,埋在性の節足動物は
8%,表在性の節足動物は 5% であった(Fig. 3).
なお,本研究では,スナガニ科などに属する堆積
物を掘り返す種を埋在性節足動物,イワガニ科な
Fig. 1.調査地.
ど底質表層で生息している種を表在性節足動物と
した.
重富干潟では,全部で 19 種(多毛類 5 種,甲
タノールで固定し,研究室に持ち帰った後,種毎
殻類 3 種,二枚貝類 6 種,腹足類 4 種,その他 1 種)
に個体数を計数した.多毛類については可能な分
の底生動物が確認された.最も優占していたのは
類群まで同定を行った.
ウ ミ ニ ナ 属 Batillariidae spp. で, 全 個 体 数 の 約
底生生物群集の干潟間での変移を明らかにす
75% を 占 め, つ い で ヒ メ カ ノ コ Cliton
るために,多変量解析であるクラスター解析を用
oualaniensisi が多かった(Table 1).ウミニナ属に
288
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fig. 3.各干潟で採集された底生生物の分類群別割合.
ない(山本,2010)が,両種が混在している可能
性を否定できないため,本研究ではウミニナ属と
した.全個体数は 908 個体で,1 ステーションあ
たりの平均密度は 38 個体/ st.,最も個体数が多
かったステーションでは 352 個体/ st.,最も少
なかったステーションは 1 個体/ st. であった(Fig.
2).また,全個体数に占める割合は,二枚貝類が
約 9%,腹足類が 86%,環形動物は 1%,埋在性
の節足動物は 0%,表在性の節足動物は 8% であっ
た(Fig. 3).
手花部干潟では全 47 種の底生動物(多毛類 10
種,甲殻類 15 種,二枚貝類 9 種,腹足類 8 種,
その他 5 種)が確認された.優占していた種はコ
メツキガニ Scopimera globosa,ついでミドリシャ
ミセンガイ Lingula anatina,ウミニナ属であった
(Table1).奄美大島はウミニナとリュウキュウウ
ミニナ Batillariidae flectosiphonata の地理的分布範
囲であり,手花部干潟で遺伝子による判別を行っ
Fig. 2.各干潟におけるステーションごとの底生生物群集.
縦軸はステーションごとの個体数を,横軸はライン名と
基点からの距離を表す.
たところ両種が混在している可能性を否定できな
いため(Hirose et al., 2014),ここではウミニナ属
とした.全個体数は 230 個体で,1 ステーション
あたりの平均密度は 10 個体/ st.,最も個体数が
多かったステーションでは 23 個体/ st.,最も少
つ い て は, 鹿 児 島 湾 は ウ ミ ニ ナ Batillaria
ないステーションは 2 個体/ st. であった(Fig. 2).
multiforms とホソウミニナ Batillaria cumingi の地
また,全個体数に占める割合は,二枚貝類が約
理的分布範囲であり,両者を形態から判別するこ
4%,腹足類が 14%,環形動物は 17%,埋在性の
とは極めて困難とされている(籠原,2010).鹿
節足動物は 38%,表在性の節足動物は 9% であっ
児島湾内の各干潟で遺伝子による判別も含めた調
た(Fig. 3).
査を行ったところでは,ウミニナしか出現してい
住用干潟では,全部で 25 種(多毛類 3 種,甲
289
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Table 1.各干潟において採集された底生生物の種リスト.○は出現した種,●は優占種を表す.
和名
学名
Paranthus sociayus
刺胞動物門花虫綱
マキガイイソギンチャク
Haliplanella lineata
タテジマイソギンチャク
Ophiuridae sp.
棘皮動物門クモヒトデ綱 トゲクモヒトデ科の 1 種
Patinapta ooplax
ナマコ綱
ヒモイカリナマコ
Polycladida sp.
扁形動物門渦虫綱
多岐腸目の 1 種
Sipunculidae sp.
星口動物門スジホシムシ綱 スジホシムシ科の 1 種
Patyhelmlnthes sp.
扁形動物門
扁形動物門の 1 種
Anopla sp.
紐形動物門無針綱
無針綱の 1 種
Amphinomidae sp.
環形動物門多毛綱
ウミケムシ科の 1 種
Ceratonereis erythraeensis
コケゴカイ
Perinereis nuntia brevicirris
スナイソゴカイ
Nereididae sp.1
ゴカイ科の 1 種 1
Nereididae sp.2
ゴカイ科の 1 種 2
Orbiniidae sp.
ホコサキゴカイ科の 1 種
Glycera macintoshi
ヒガタチロリ
Glyceridae sp.1
チロリ科の 1 種(頭なし)1
Glyceridae sp.2
チロリ科の 1 種(頭なし)2
Goniada japonica
ヤマトキョウスチロリ
ニカイチロリ科ゴニアダ属の 1 種 Goniada sp.
Goniadidae sp.
ニカイチロリ科の 1 種
Lumbrineridae sp.1
ギボシイソメ科の 1 種 1
Lumbrineridae sp.2
ギボシイソメ科の 1 種 2
Lumbrineridae sp.3
ギボシイソメ科の 1 種 3
Lumbrineridae sp.4
ギボシイソメ科の 1 種 4
Onuphidae sp.
ナナテイソメ科の 1 種
Eunididae sp.
イソメ科の 1 種
Spionidae sp.
スピオ科の 1 種
イトゴカイ科 Heteromastus 属の 1 種 Heteromastus sp.
Capitellidae sp.
イトゴカイ科の 1 種
Mesochaetopterus japonicus
ムギワラムシ
Mesochaetopterus cf. minutus
スナタバムシ
Maldanidae sp.
タケフシゴカイ科の 1 種
Pectinariidae sp.
ウミイサゴムシ科の 1 種
Arca avellana
軟体動物門二枚貝綱
フネガイ
Septifer bilocularis
クジャクガイ
Modiolus comptus
ヒバリガイ
Modiolus flavidus
サザナミマクラ
Fragum bannoi
ヒシガイ
Veremolpa micra
ヒメカノコアサリ
Ruditapes nariegatus
ヒメアサリ
Rudiapes philippiarum
アサリ
Pitar japonicus
ウスハマグリ
Cyclina sinensis
オキシジミ
Macoma incongrua
ヒメシラトリ
Pistris capsoides
イチョウシラトリ
Psammotaea minor
ハザクラガイ
Nitidotellina hokkaidoensis
サクラガイ
Moerella jedoensis
ユウシオガイ
Moerella philippinensis
リュウキュウサラガイ
Laternula (Exolaternula) marilina
ソトオリガイ
Pillucuna pisidium
ウメノハナガイ
Musculista senhousia
ホトトギスガイ
Crassostrea sp.
マガキ属の 1 種
Solen strictus
マテガイ
Patelloida pygmaea
腹足綱
ツボミガイ
Patelloida pygmaea form conulus
シボリガイ
Umbonium monilifreum
イボキサゴ
Cerithium zenrum
ハナカニモリ
Clypeomorus subbrevicula
オオシマカニモリ
290
RESEARCH ARTICLES
江内
○
重富 手花部 住用
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
●
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Table 1.各干潟において採集された底生生物の種リスト.○は出現した種,●は優占種を表す(続き).
和名
学名
江内
Batillaria multiformis
軟体動物門腹足綱
ウミニナ
○
Batillaria zonalis
イボウミニナ
○
Batillaria cumingii
ホソウミニナ
○
Batillaria spp.
ウミニナ属の種
Cerithidea cingulata
ヘナタリ
○
Retaconassa festiva
アラムシロガイ
○
Niotha livescens
ムシロガイ
○
Zeuxis sinarus
カラムシロ
○
Rissoina (Rissolina) costulata
スジウネリチョウジガイ
Clavus (Tylotiella) obliquata
ウミクダマキ
Acteocina koyasensis
コヤスツララガイ
○
Clithon faba
カノコガイ
Cliton oualaniensisi
ヒメカノコ
Naticidae sp.
タマガイ科の 1 種
Truncatella pfeifferi
ヤマトクビキレガイ
○
Narica gualteriana
ホウシュノタマ
Euspira fragilis
サキグロタマツメタ
○
Polonices mammilla
トミガイ
Onchidium hongkongensis
ドロアワモチ
Lingula anatina
腕足動物門舌殻綱
ミドリシャミセンガイ
○
Balanus albicostatus
節足動物門甲殻綱
シロスジフジツボ
Callianassa japonica
ニホンスナモグリ
○
Upogebia major
アナジャコ
○
Penaeidae sp.
クルマエビ科の 1 種
○
Palaemon serrifer
スジエビモドキ
Alpheus brevicricristatus
テッポウエビ
○
Alpheus lobidens lobidens
イソテッポウエビ
Portuns haani
イボガザミ
Hexapus anfractus
ヒメムツアシガニ
Tritodynamia japonica
ヨコナガピンノ
Oeypode cordimana
ミナミスナガニ
Scopimera globosa
コメツキガニ
○
Ilyoplax pusilla
チゴガニ
Tmethypocoelis ceratophora
ツノメチゴガニ
Mictyris brevidactylus
ミナミコメツキガニ
Deiratonotus cristatus
アリアケモドキ
脊椎動物
条鰭綱
オサガニ
フタハオサガニ
ヤマトオサガニ
ヒメカクオサガニ
メナガオサガニ
カクレガニ科の 1 種
スナガニ科の 1 種
ハクセンシオマネキ
オキナワハクセンシオマネキ
ヒメシオマネキ
ハシリイワガニ
ヒライソガニ
ケフサイソガニ
ケフサヒライソモドキ
タイワンヒライソモドキ
マメコブシガニ
ドロカニダマシ
ヨウナシカワスナガニ
トゲトゲツノヤドカリ
ツノヤドカリ属の種
ホンヤドカリ属の種
ハゼ科の種
Macrophthalmus (Macrophthalmus) abbreviatus
重富 手花部 住用
●
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
●
○
Macrophalmus bosci
Macrophthalms verreauxi
Pinnotheridae sp.
Ocypodidae sp.
Uca (Celuca) lactea lactea
Uca (Celuca) lactea perplexa
Uca (Thalassuca) vocans
Metopograpsus messor
Gaetice depressus
Hemigrapsusu penicillatus
Ptychognathus barbatus
pthchognathus isii
Philyra pisum
Raphidopus ciliatus
Moguai pyriforme
Diogenes spinifrons
Diogenes spp.
Pagurus spp.
Gobiidae spp.
○
○
○
●
○
○
Macrophalmus convexus
Macrophthalms (Mareotis) japonicus
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
291
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
Fig. 4.各ステーションの底生生物群集を単位にしたクラスター解析の結果.江内干潟は黒色実線,手花部干潟は灰色実線,住
用干潟は破線で囲み,重富干潟は黒色実線の下線で表す.
殻類 14 種,二枚貝類 2 種,腹足類 4 種,その他
重富干潟のグループに群集が分けることができ
2 種)で,優占種はミナミコメツキガニ Mictyris
た.また,手花部干潟の一部は九州南部干潟グルー
brevidactylus, つ い で タ イ ワ ン ヒ ラ イ ソ モ ド キ
プと住用干潟グループに含まれた.
Pthchognathus isii,ヤマトオサガニ Macrophalmus
japonicus であった(Table 1).全個体数は 313 個
考察
体で,1 ステーションあたりの平均密度は 13 個
クラスター解析の結果,九州南部の群集組成
体/ st.,最も個体数が多かったステーションで
と奄美大島の群集組成は異なっており,さらに,
は 24 個体/ st.,最も少なかったステーションは
奄美大島内においても手花部干潟と住用干潟で異
1 個体/ st. であった(Fig. 2­).また,全個体数に
なっていることが示唆された.九州南部の干潟で
占める割合は,二枚貝類が約 3%,腹足類が 6%,
は腹足類や二枚貝類など軟体動物中心の底生生物
環形動物は 6%,埋在性の節足動物は 68%,表在
群集であり,奄美大島では埋在性節足動物が優占
性の節足動物は 17% であった(Fig. 3).
していた.一般的に日本本州に比べ亜熱帯域以南
に分布する節足動物(特にスナガニ類)は種数が
群集解析
多いとされており,九州南部と奄美大島の群集組
クラスター解析の結果,九州南部のグループと,
成の違いには,このような生物地理学的要因が考
手花部干潟のグループ,住用干潟のグループの 3
えられた.住用干潟はミナミコメツキやヤマトオ
つの群集型が認められた(Fig. 4).九州南部のグ
サガニ Macrophthalms (Mareotis) japonicus などの
ループにおいては,さらに江内干潟のグループ,
埋在性節足動物が全個体数の 70% 以上を占めて
292
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
いたが,手花部干潟ではコメツキガニなどの埋在
いる浄化作用を,住用干潟ではコメツキガニなど
性節足動物以外にも,ミドリシャミセンガイや
の節足動物が役割をはたしているのではないかと
リュウキュウウミニナなど様々な分類群の種が出
考えられる.
現した.このことが,両干潟間で群集組成に違い
がみられた要因と考えられる.
重富干潟では,腹足類(主にウミニナ属の種)
が全体の 75% を占めており(Fig. 3),二枚貝は
以下に,4 か所の干潟において,有機物の除去
9% と腹足類に比べ少なかった.過去のデータを
がどのような分類群によって担われているかを比
見ると,1994 年には二枚貝類と多毛類が多く生
較してみる.江内干潟は農業用水が流れ込む河川
息しており,2005 年には腹足類と小型の多毛類
の河口に位置し,多くの有機物が溜まりやすい場
が優占するようになった(山本ほか,2009).今
所だと思われる.ここでは懸濁物食者の二枚貝類
回の調査結果によると,その後更なる底生動物相
が全体の 43% を占めていた(Fig. 3).これらの
の変化が起きていると考えられる.ウミニナ属の
種は砂に潜り,水中の微細藻類や様々な有機物粒
種は底質の表面上で生活し,表層の微細藻類など
子を摂餌していることから,干潟における有機物
を摂餌している.そのため,底質中の有機物除去
除去の機能を中心的に担っていると考えられる.
や還元化の防止にはあまり貢献しないと考えられ
Sanders (1958) によると,懸濁物食者の最適生息
る.また,重富干潟におけるウミニナ属の種は打
条件は,堆積物の中央粒径値が約 0.18 mm であ
ち上げアオサも餌資源として利用していることが
ることとされている.江内干潟の中央粒径値は
解っている(北内,2011).重富干潟では春から
0.125–0.25 mm であり,他の 3 か所の干潟に比べ
初夏にかけて打ち上がるアオサ類が急増して問題
埋在性の二枚貝などにとって生息しやすい環境で
になっていることから,餌の増加がウミニナの個
あるといえる.
体数増加につながった可能性がある.また Balam
一方,奄美大島の手花部干潟では二枚貝が 4%
& Fernandes (2002) によると,打ち上げアオサな
で,スピオ科の 1 種 Spionidae sp. の 4 個体やウミ
どの堆積物の影響により堆積下の底質が還元化す
イサゴムシ科の 1 種 Pectinariidae sp. の 1 個体な
る事が明らかになっており,重富干潟においても
ど多毛類もみられたが,懸濁物食者がほとんど出
アオサの堆積により埋在性の底生生物が生息しに
現しなかった.しかし,埋在性節足動物(主にス
くい環境変化が起こっている可能性が示唆され,
ナガニ科のコメツキガニ)は Line B の 0 m 地点
他の懸濁物食者が減少しているとすると,干潟全
と Line C の 80 m,120 m を除く他のステーショ
体の有機物除去機能が低下している可能性があ
ンでは出現しており(Fig. 2),干潟全体の出現率
る.さらに,上野(2014)では,重富干潟におい
は 38% と や や 高 い 値 で あ っ た(Fig. 3). ま た,
て粒度が 1 mm 以上である砂粒の割合が 2005 年
住用においてもミナミコメツキガニなどの埋在性
から 2012 年にかけて 10–15% ほど上昇している
の節足動物が Line K の 180 m 地点以外のステー
ことがわかっており,このような様々な環境変化
ションで採集されており(Fig. 2),出現率は 68%
が重富干潟の生物相の変化に影響しているのでは
と高い結果であった(Fig. 3).コメツキガニやチ
ないかと考えられる.
ゴガニ Ilyoplax pusilla は,底質表面を掘り返しな
がら砂表面に付着している 0.063 mm 以下の微細
まとめ
粒子をそのまま餌として食べることがわかってい
今回の調査から,それぞれの干潟で異なった
る(和田,1982).つまり,これらのスナガニ類
底生生物群集組成で構成されていることが解っ
は微粒子と共にそれに付着する有機物や微小藻
た.また,江内干潟では二枚貝類,奄美大島の 2
類,細菌類などすべて摂食していると考えられる.
か所の干潟では埋在性節足動物と,それぞれの干
また,住用干潟の有機物含有量は江内干潟と近い
潟内で有機物浄化を担っている底生生物群は異
値を示しており,江内干潟では二枚貝類が担って
なっていた.しかし,重富干潟においては,表在
293
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
性腹足類であるウミニナ属が多数生息しており,
これらは底質中の有機物を分解しているとは考え
難い.また,埋在性の二枚貝類が著しく減少して
おり,底生生物相に関する調査の継続とさらに詳
しい環境調査が必要である.
謝辞
甲殻類の種同定にあたりご指導・ご助言下さっ
た,鈴木廣志教授(鹿児島大学水産学部)に厚く
御 礼 申 し 上 げ る. ま た, 野 外 調 査 で は,2012–
2013 年に鹿児島大学水産学部生物多様性研究室
に在籍した先輩や同輩・後輩の皆様に多大なるご
協力を頂いた.ご助力に深く感謝する.本研究は,
平成 26 年度かごしまネイチャー研究助成,JSPS
科学研究費補助金(26241027),文部科学省特別
経費-地域貢献機能の充実-「薩南諸島の生物多
様性とその保全に関する教育研究拠点形成」,お
よび鹿児島大学重点領域研究環境(生物多様性プ
ロジェクト)学長裁量経費「奄美群島における生
態系保全研究の推進」の援助を受けて行われた.
引用文献
Bolam, S. G. & Fernandes, T. F. 2002. The effect of macro algal
cover on the spatial distribution of macrobenthic invertebrates: the effect of macroalgal morphology. Hydrobiologia,
475/476: 437–448.
294
RESEARCH ARTICLES
Hirose, K., Takefumi, Y., Hajime, I., Tomoko, Y. & Shigeaki, K.
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DNA from two species of the genus Batillaria (B. multiformis
and B. flectosiphonate) from Amami-Oshima, Japan. Plankton and Benthos Research, 9 (1): 67–70.
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水産学研究科修士論文.17 pp.
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山本智子・小玉敬興.2009.過去 60 年間における鹿児島湾
奥の海岸線の変.Nature of Kagoshima,35: 55–57.
山本智子・桝屋藍・松下耕治・佐藤正典.2009.鹿児島湾
の重富干潟における底生動物相の変化 —1994 年と 2005
年の比較 —.ベントス学会誌,64: 32–44.
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
薩摩硫黄島温泉の化学成分の研究
坂元隼雄
〒 891–0132 鹿児島市七ツ島 1–1–10 (一財)鹿児島県環境技術協会
はじめに
硫黄島(薩摩硫黄島)は鹿児島県大島郡三島村
に所属し,薩南諸島北部に位置する島である.鬼
界カルデラの一部でその大きさは東西 5.5 km ×
南北 2.0 km の火山島である.同島は俊寛僧侶流
刑の伝説地として知られている.また,安徳天皇
の末えいと称される長浜豊彦氏(33 代)が生存
されていた島である.
鬼界カルデラの火山活動としては同カルデラの
北縁(硫黄島の東方海上約 2 km)で昭和 9 年(1934)
に海中噴火が起こり,高度約 25 m の新島(昭和
硫黄島,海底から約 320 m)が誕生した.また,
同島の硫黄岳(御岳)山頂火口には火山の噴火時
に近い高温(800℃を超える)の噴気活動が長年
に渡って継続している特異な火山である.現在,
硫黄岳の火口・山腹には噴気活動がみられ,硫黄
岳・稲村岳(噴気活動は見られない)の海岸線の
一部には大量の温泉が湧出している.その温泉が
海水中に流れ込む場所では海水中の成分と化学反
応を起こし,白・赤などの温泉沈殿物を生成する.
その沈殿物が海の潮流によって広がり,素晴らし
い景観をみせる火山島である.
図 1 は鬼界カルデラ縁から,眼下に長浜港,中
地球化学的にみた硫黄島火山の特異性は,①最
近,噴火活動があったこと,②高温(800℃を超
える)の噴気活動が現存し,その活動が長期間続
いていること,③いろいろの温度の噴気孔が分布
していること,④噴気活動と温泉活動が共存して
いること,⑤各種の火山性温泉が分布しているこ
と, ⑥ 人 が 火 口 内 に 近 づ け る 数 少 な い 研 究 の
フィールドであることである.これらのことから
硫黄島火山は多くの火山や温泉に興味を持つ国内
外の研究者が訪れ,多くの報告がある(鎌田,
1964, 1988;岩崎ほか,1968;鎌田ほか,1974;
坂 元・ 鎌 田,1975; 吉 田・ 小 沢,1981;Nogami
et al., 1993).
著者らは前報で硫黄岳の噴気孔から放出される
水銀などの揮発性元素について報告した
(Sakamoto et al., 2003).本報は 1961 年 7 月から
2000 年 10 月までに硫黄島周辺に湧出する温泉の
化学成分を分析し,その経年変化を調べた.その
結果を報告する.
試料の採取と採取地点
硫黄島の海岸線に湧出する温泉は,海の干満
の影響を受けるものが多い.このような温泉は,
央に稲村岳,その向こうには現在も火山活動を継
続している硫黄岳の姿である.同写真(カラー写
真)の海岸線には温泉沈殿物の広がりが確認でき
る.また,昭和硫黄島の浪打際から数メートル上
がった場所には温泉が湧出している.
Sakamoto, H. 2015. Study on the chemical components of hot
spring in Satsuma-Iwo-jima. Nature of Kagoshima 41:
295–306.
The Foundation of Kagoshima Environmental Research
and Service, 1–1–10 Nanatsujima, Kagoshima 891–0132,
Japan (e-mail: sakamfh@yahoo.co.jp).
図 1.火山活動を続けている薩摩硫黄島火山の硫黄岳.眼下
が長浜港,中央緑の山が稲村岳,中央奥が硫黄岳.
295
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 2.薩摩硫黄島の地形と温泉の湧出地点.
採水は干潮時とした.また,微量の重金属元素な
ら湧出している温泉で,温度は 74.0℃と北平下海
どを分析する試料の保存容器は,前もって硝酸(1:
岸温泉よりも高い.また,坂本温泉は鬼界カルデ
1)を入れて密封し,2 週間以上保管したものを
ラ縁の外の海岸に湧出する温泉で温度は 38.5–
水洗して使用した.試料の採取時には試料水で 3
55.7(幾何平均値 48.8)℃である.
回以上洗浄してから採水を行った.pH 2 以下の
北平下海岸温泉,坂本温泉,穴之浜海岸温泉,
酸性泉には保存剤としての酸は加えていない.硫
長浜海岸温泉,赤湯海岸温泉や昭和硫黄島温泉は
黄島の地形と温泉の湧出地点は図 2 に示す.
海の潮汐の影響を受け,温度は干満によって変化
分析法
試料の分析は,採水後できるだけ速やかに表 1
することが分かっている.表 2-1 に記した温度は
干潮時のものである.
pH 表 2-1 の pH は東温泉 1.6–1.8(幾何平均
に示す分析方法を用いて行った(Kamada et al.,
値 1.7),北平下海岸温泉 1.3–1.6(幾何平均値 1.4),
1979; Sakamoto et al., 1988).
坂本温泉 6.1–7.2(幾何平均値 6.5),長浜海岸温
分析結果並びに考察
温度(泉温)
表 2-1 の東温泉 31 試料による温
泉 4.4–4.6( 幾 何 平 均 値 4.5), 昭 和 硫 黄 島 温 泉
5.8–5.9(幾何平均値 5.9)とそれらの値は極めて
狭い範囲にある.
度は 47.0–55.8(幾何平均値 53.1)℃である.本
総フッ素(F)濃度 表 2-1 の総フッ素濃度は
報告では,平均値でなく幾何平均値で示す.その
東温泉 6.5–46.8(幾何平均値 19.5)mg/l,北平下
理由は自然界で起こる現象は対数正規分布である
海岸温泉 11.0–28.8(幾何平均値 19.7)mg/l である.
と言われている.したがって,平均値ではなく幾
北平温泉は硫黄岳の噴気孔に近い山腹から湧出し
何平均値の値を使用することにする.
て い る 温 泉 で あ る が,12.0 mg/l で あ る. ま た,
北平下海岸温泉の温度は 67.0–72.0(幾何平均
坂本温泉はカルデラ縁の外の海岸に湧出する温泉
値 69.3)℃である.北平温泉は北平下海岸温泉か
で,総フッ素濃度は 0.40–1.2(幾何平均値 0.67)
ら硫黄岳を臨む山腹(硫黄岳の噴気孔に近い)か
mg/l である.長浜海岸温泉,赤湯海岸温泉の総フッ
296
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
-
素濃度の幾何平均値はいずれも 1.0 mg/l,東温泉
臭化物イオン(Br )濃度 表 2-1 の臭化物イ
近くの海水の幾何平均値は 1.8 mg/l である.ちな
オン濃度は東温泉 2.1–4.5(幾何平均値 2.9)mg/l
みに海水中のフッ素濃度は 1.3 mg/l である.
である.坂本温泉は 1 検体しか分析していないが,
-
塩化物イオン(Cl )濃度 表 2-1 の塩化物イ
臭化物イオン濃度は 20.3 mg/l である.海水中の
オン濃度は東温泉 662–1,820(幾何平均値 1,090)
臭化物イオン濃度は 65 mg/l 程度であり,海水中
mg/l,北平下海岸温泉 1,730–5,620(幾何平均値
の臭化物イオン濃度の影響が大きいと考えられ
3,820)mg/l である.北平温泉は硫黄岳の噴気孔
る.
2-
に近い山腹から湧出している温泉で,塩化物イオ
硫酸イオン(SO4 )濃度 表 2-1 の硫酸イオン
ン濃度は 720 mg/l で硫酸イオン濃度に比べて少
濃 度 は 東 温 泉 2,420–6,950( 幾 何 平 均 値 4,920)
な い. ま た, 坂 本 温 泉 の 塩 化 物 イ オ ン 濃 度 は
mg/l,北平下海岸温泉 5,740–13,510(幾何平均値
4,470–13,600( 幾 何 平 均 値 6,350)mg/l で あ る.
10,600)mg/l である.北平温泉は硫黄岳の噴気孔
長浜海岸温泉,赤湯海岸温泉,昭和硫黄島温泉の
に近い山腹から湧出している温泉で,硫酸イオン
塩化物イオン濃度の幾何平均値はそれぞれ 8,070,
濃度は 14,300 mg/l であり,噴気孔ガス中の二酸
8,860,18,850 mg/l である.また,東温泉近くの
化硫黄(SO2)の寄与があると考えられる.また,
海水の塩化物イオン濃度の幾何平均値は 18,600
坂本温泉の硫酸イオン濃度は 785–1,940(幾何平
mg/l であり,昭和硫黄島温泉の塩化物イオン濃
均値 999)mg/l である.長浜海岸温泉,赤湯海岸
度にほぼ等しい.ちなみに海水中の塩化物イオン
温泉,昭和硫黄島温泉の硫酸イオン濃度の幾何平
濃度は 19,350 mg/l である.
均 値 は そ れ ぞ れ 2,080, 2,520, 2,530 mg/l で あ る.
表 1.分析方法.
物質名
水素イオン濃度指数(pH)
総フッ素(T-F)
分析法
ガラス電極法
ケイフッ化水素(酸)蒸留
-
フッ化物イオン(F )
吸光光度法(Azo-dye 法),
イオンクロマトグラフ法
-
塩化物イオン(Cl )
硝酸銀滴定法(Volhard 法,Mohr 法)
吸光光度法(チオシアン酸水銀法)
-
臭化物イオン(Br )
吸光光度法,イオンクロマトグラフ法
2-
硫酸イオン(SO4 )
重量法(硫酸バリウム)
吸光光度法(クロム酸バリウム酸懸濁法)
-
炭酸水素イオン(HCO3 )
+
ナトリウムイオン(Na )
+
カリウムイオン(K )
硫酸による滴定法
炎光光度法
炎光光度法
2+
マグネシウムイオン(Mg )
2+
カルシウムイオン(Ca )
3+
EDTA 滴定法,原子吸光光度法
EDTA 滴定法,原子吸光光度法
アルミニウムイオン(Al )
重量,ICP-MS 法
総マンガン(T-Mn)
吸光光度法,原子吸光光度法
総鉄(T-Fe)
吸光光度法(α,α’ ジピリジル法)
総ホウ素(T-B)
吸光光度法(メチレンブルー法)
比色ケイ酸(SiO2)
吸光光度法(ケイモリブデン酸法)
銅(Cu),亜鉛(Zn),
原子吸光光度法
カドミウム(Cd),鉛(Pb)
(Dithizone-CHCl3-HCl 抽出)
総水銀(T-Hg)
硫硝酸分解ー還元気化ー原子吸光光度法
ヒ素(As),アンチモン(Sb)
水素化物ー原子吸光光度法
297
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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表 2–1.薩摩硫黄島温泉等の主要な陰イオン濃度と原子比(モル比).
pH
T-F
整理
試料
採水年月日 温度
番号
A-1
A-2
A-3
A-4
A-5
A-6
A-7
A-8
A-9
A-10
A-11
A-12
A-13
A-14
A-15
A-16
A-17
A-18
A-19
A-20
A-21
A-22
A-23
A-24
A-25
A-26
A-27
A-28
A-29
A-30
A-31
A-32
A-33
A-34
A-35
A-36
A-37
A-38
A-39
A-40
A-41
A-42
A-43
A-44
A-45
A-46
A-47
A-48
A-49
A-50
A-51
A-52
A-53
A-54
A-55
A-56
A-57
℃
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
北平温泉
北平下海岸温泉 No,1
北平下海岸温泉 No.2
北平下海岸温泉
北平下海岸温泉
北平下海岸温泉 No.1
北平下海岸温泉 No.2
北平下海岸温泉 No.1
北平下海岸温泉 No.2
穴之浜海岸温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
長浜海岸温泉 No.1
長浜海岸温泉 No.2
赤湯海岸温泉
昭和硫黄島温泉 No.1
昭和硫黄島温泉 No.2
東温泉近くの海水
東温泉西の砂浜
1961.07.19
1961.07.28
1962.07.23
1962.07.28
1966.08.06
1966.08.08
1967.07.22
1971.07.24
1971.07.28
1972.08.26
1973.08.21
1974.07.26
1974.08.03
1974.08.08
1974.10.24
1975.01.25
1975.05.30
1975.07.25
1976.08.25
1976.08.28
2000.10.22
2000.10.20
1961.07.21
1961.07.28
1966.08.06
1966.08.08
1967.07.22
1971.07.25
1971.07.28
1972.08.26
2000.10.20
1966 08.05
1966.08.05
1966.08.05
1971.07.25
1972.08.29
1974.08.04
1974.10.26
1975.01.24
1976.08.26
1974.08.04
1962.07.25
1967.07.20
1967.07.21
1972.08.27
1973.08.26
1974.08.06
1974.10.25
1975.01.24
2000.10.22
1966.08.06
1966.08.06
1966.08.06
1974.08.10
1974.08.10
1966.08.08
1966.08.08
52.8
54.7
51.5
51.3
47.0
52.0
57.7
54.5
54.3
52.5
51.5
55.6
55.8
55.8
55.7
55.2
55.2
55.5
50.4
50.5
53.6
53.6
52.0
52.4
50.5
49.9
55.5
53.0
53.0
50.5
53.2
74.0
68.0
70.1
68.8
67.0
70.5
72.0
70.4
67.5
61.0
50.0
55.4
54.5
45.0
49.5
38.5
49.9
43.5
55.7
46.3
48.0
46.3
55.0
49.0
29.0
28.0
1.7
1.7
1.7
1.8
1.8
1.8
1.6
1.8
1.8
1.6
1.7
1.6
1.6
1.6
1.6
1.6
1.7
1.7
1.8
1.8
1.7
1.7
1.7
1.7
1.8
1.8
1.6
1.8
1.8
1.6
1.7
1.5
1.5
1.6
1.4
1.5
1.3
1.3
1.4
1.3
2.7
6.3
6.9
7.2
6.5
6.2
6.5
6.4
6.1
6.2
4.4
4.6
4.8
5.8
5.9
6.2
7.1
Cl-
Br-
SO42-
HCO3-
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
19.0
26.5
13.5
17.0
7.5
7.0
16.0
18.7
20.0
23.0
23.5
37.4
37.2
38.0
29.8
28.5
19.6
19.4
15.3
11.8
46.8
46.3
18.0
18.5
8.5
6.5
14.0
17.8
17.8
21.0
46.1
12.0
19.5
11.0
17
28.5
28.8
0.40
1.2
1.0
0.58
0.48
1.0
1.0
1.0
2.3
1.4
1,390
1,200
804
800
744
727
1,360
937
937
950
957
1,820
1,800
1,790
1,690
1,560
1,160
1,160
723
730
1,530
1,540
1,120
1,150
662
673
1,270
866
866
917
1,540
720
3,250
1,730
4,,630
2,870
4,910
4,980
5,620
5,350
13,700
5,330
6,080
4,770
6,010
5,780
13,600
6,010
6,000
6,400
8,860
7,350
8,860
18,600
19,100
18,400
18,800
2.5
2.1
2.2
2.2
-
5,890
6,160
5,230
5,280
4,770
4,840
6,530
4,240
4,150
4,290
4,210
6,630
6,950
6,930
6,560
6,220
5,080
5,000
2,420
2,430
4,500
4,480
5,910
5,980
4,990
4,830
6,540
3,880
3,880
4,090
4,320
14,300
12,100
8,840
10,090
5,740
13,100
13,510
12,800
11,330
2,760
863
955
785
932
937
1,940
932
922
1,050
2,150
2,010
1,070
2,520
2,540
2,580
2,630
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
52.8
54.3
152
60.3
3.5
3.8
98.0
135
146
12.2
12.4
4.3
4.5
2.6
2.7
4.3
20.3
-
F/Cl
原子比
x100
2.56
4.13
3.14
3.97
1.9
1.8
2.20
3.73
3.99
4.53
4.59
3.84
3.86
3.97
3.30
3.42
3.16
3.13
3.96
3.02
5.72
5.62
3.01
3.01
2.4
1.8
2.06
3.84
3.84
4.28
5.60
3.12
1.12
1.19
1.11
1.09
1.01
0.014
0.037
0.039
0.019
0.014
0.021
0.025
0.021
0.023
0.014
Cl/S
モル比
x10
6.40
5.28
4.17
4.11
4.23
4.07
5.64
5.99
6.12
6.00
6.16
7.44
7.02
7.00
6.98
6.80
6.19
6.29
8.10
8.14
9.21
9.32
5.14
5.21
3.60
3.78
5.26
6.05
6.05
6.08
9.66
1.36
7.28
5.30
12.4
13.6
10.2
10.0
11.9
12.8
135
167
173
165
175
167
190
175
176
165
112
99.1
224
200
204
193
194
pH:水素イオン濃度指数,T-F:総フッ素,Cl-:塩化物イオン,Br-:臭化物イオン,SO42-:硫酸イオン,HCO3-:炭酸水素イオン.
298
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
表 2–2.薩摩硫黄島温泉等の陽イオン成分などの濃度と原子比.
整理
試料
番号
Na+
K+
Mg2+
Ca2+
Al3+
T-Mn
T-Fe
T-B
SiO2
Na/K
Mg/Ca
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
原子比
原子比
A-1
A-2
A-3
A-4
A-5
A-6
A-7
A-8
A-9
A-10
A-11
A-12
A-13
A-14
A-15
A-16
A-17
A-18
A-19
A-20
A-21
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
東温泉 No.5
455
487
320
330
296
294
360
295
287
271
268
393
401
395
390
358
300
295
286
287
321
148
156
97.0
99.0
117
100
192
130
125
127
127
217
218
217
205
193
155
153
150
152
126
68.4
64.7
58.9
70.8
70.5
55.9
56.9
26.2
25.5
26.0
27.5
34.0
32.0
34.8
33.4
31.2
28.3
28.1
27.5
27.1
50.1
241
185
168
178
136
128
147
149
132
140
140
186
186
184
176
170
156
155
152
150
201
806
777
788
856
618
663
963
613
586
640
600
937
934
892
920
922
744
735
715
705
410*
8.3
7.0
7.6
6.3
5.9
5.2
5.1
5.0
4.9
6.0
47.6
58.6
33.0
26.7
89.9
91.0
170
99.5
100
100
99.0
217
212
213
218
187
143
143
140
138
125
2.7
2.8
1.9
2.0
2.2
98.6
119
109
112
228
230
225
227
235
227
221
221
222
222
220
5.23
5.31
5.61
5.67
4.30
5.00
3.19
3.86
3.90
3.63
3.59
3.08
3.13
3.09
3.23
3.15
3.29
3.28
3.24
3.21
4.33
0.47
0.58
0.58
0.66
0.86
0.72
0.64
0.29
0.32
0.31
0.32
0.30
0.28
0.31
0.31
0.30
0.30
0.30
0.30
0.30
0.41
A-22
A-23
A-24
A-25
A-26
A-27
A-28
A-29
A-30
A-31
A-32
A-33
A-34
A-35
A-36
A-37
A-38
A-39
A-40
A-41
A-42
A-43
A-44
A-45
A-46
A-47
A-48
A-49
A-50
A-51
A-52
A-53
A-54
A-55
A-56
A-57
東温泉 No.5
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
東温泉 No.9
314
450
448
305
305
345
275
275
256
345
674
800
406
730
1,520
1,700
6,500
2,920
3,360
2,580
4,690
2,850
6,500
2,800
2,790
3,290
4,790
3,850
4,790
5,350
9,750
10,100
125
152
149
104
105
198
121
121
119
122
216
296
215
300
470
520
427
129
198
198
300
218
398
218
223
165
600
499
670
730
1,200
1,290
49.5
66.0
74.5
65.2
58.4
56.0
25.3
25.8
31.8
53.1
602
161
123
120
227
233
916
401
404
299
227
370
880
389
201
351
257
233
568
588
710
715
196
229
217
141
141
157
130
132
157
198
229
249
208
280
380
340
195
232
217
197
227
148
298
200
99.0
202
355
312
400
420
218
220
406*
872
846
615
671
931
548
548
604
392*
1,160
1,550
1,190
1,470
1,460
1,630
1,740
0.97
-
5.9
8.3
9.1
7.4
5.7
8.5
12.6
14.0
15.8
0.02
0.18
0.05
1.2
0.2
0.1
126
23.7
42.4
92.0
87.8
160
87.5
87.5
93.0
119
525
435
320
323
322
412
433
388
46.5
0.06
0.02
0.03
0.02
0..02
0.03
0.02
0.02
0.02
62.0
76.0
62.0
25.1
25.2
0.30
0.14
2.0
2.6
2.7
1.7
1.7
2.0
4.8
3.4
3.6
3.1
1.9
2.0
2.2
1.7
2.9
4.6
-
216
90.5
111
225
217
217
218
211
255
262
268
265
253
178
74.0
101
144
93.0
152
77.7
113
133
1.2
-
4.27
5.03
5.11
4.99
4.94
2.96
3.86
3.86
3.66
4.81
5.30
4.59
3.21
4.14
5.50
5.56
25.9
38.5
28.8
22.2
26.6
22.2
27.8
21.8
21.3
33.9
13.6
13.1
12.2
12.5
13.8
13.3
0.42
0.48
0.57
0.76
0.68
0.59
0.32
0.32
0.33
0.44
4.34
1.07
0.98
0.71
0.99
1.13
7.75
2.85
3.07
2.50
1.65
4.13
4.87
3.21
3.35
2.87
1.2
1.2
2.34
2.31
5.37
5.36
北平温泉
北平下海岸温泉 No,1
北平下海岸温泉 No.2
北平下海岸温泉
北平下海岸温泉
北平下海岸温泉 No.1
北平下海岸温泉 No.2
北平下海岸温泉 No.1
北平下海岸温泉 No.2
穴之浜海岸温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
坂本温泉
長浜海岸温泉 No.1
長浜海岸温泉 No.2
赤湯海岸温泉
昭和硫黄島 No.1
昭和硫黄島 No.2
東温泉近くの海水
東温泉西の砂浜
Na+:ナトリウムイオン,K+:カリウムイオン,Mg2+:マグネシウムイオン,Ca2+:カルシウムイオン,
Al3+:アルミニウムイオン,T-Mn:総マンガン,T-Fe:総鉄,T-B:総ホウ素,SiO2:比色ケイ酸,*:ICP-MS による.
299
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
東温泉近くの海水の硫酸イオン濃度の幾何平均値
165–190(幾何平均値 172),長浜海岸温泉 99.1–
は 2,610 mg/l で,海水中の硫酸イオン濃度に近似
112(幾何平均値 105),赤湯海岸温泉 224,昭和
している.
硫黄島温泉 200–204(幾何平均値 202),東温泉近
-
炭酸水素イオン(HCO3 )濃度 表 2-1 の炭酸
-
くの海水 193–194(幾何平均値 193)である.坂
水素イオン(HCO3 )濃度は東温泉,北平温泉,
本温泉と昭和硫黄島温泉の Cl/S×10(モル比)の
北平下海岸温泉の pH がすべて 1.8 以下であり,
値(幾何平均値)は東温泉近くの海水の値に近い
炭酸水素イオンの形では存在することができな
ことから海水の影響を受けた温泉である.一方,
い.一方,坂本温泉,長浜海岸温泉,赤湯海岸温
東温泉,北平温泉や北平下海岸温泉は硫黄岳の噴
泉や昭和硫黄島温泉は pH が 4.3 以上であり炭酸
気ガスや岩体の影響を強く受けた温泉と考えられ
水素イオンの形で存在している.
る.硫黄岳火口から火山灰の放出があった 2000
F/Cl×100(原子比) 温泉中の各種成分濃度の
年 10 月 20–22 日の東温泉の Cl/S×10 の値(幾何
動き(挙動)を調べるのに原子比(原子間の割合)
平均値 9.4)は約 40 年間の幾何平均値 6.0 よりも
またはモル比(分子間の割合)を求めると濃度だ
大きいことを示している.
けでは分からない現象を捉えることができる.本
硫黄岳火口から火山灰の放出があった 2000 年
報告では F/Cl(原子比)
,Cl/S(モル比)につい
10 月 20–22 日の東温泉の Cl/S×10 の値(幾何平
て記す.
表 2-1 の F/Cl×100(原子比)の値は東温泉 1.8–
5.72(幾何平均値 3.37),北平下海岸温泉 1.01–1.19
均値 9.4)は約 40 年間の幾何平均値 6.0 よりも大
きいことから硫黄岳の火山活動との関連性が示唆
される.
+
(幾何平均値 1.10),坂本温泉 0.014–0.039(幾何
ナトリウムイオン(Na )濃度 表 2-2 のナト
平均値 0.022),長浜海岸温泉 0.021–0.025(幾何
リウムイオン濃度は東温泉 256–487(幾何平均値
平均値 0.023),赤湯海岸温泉 0.021,東温泉そば
330)mg/l である.北平下海岸温泉 406–1,700(幾
海水 0.014–0.023(幾何平均値 0.018)である.坂
何平均値 907)mg/l である.北平温泉は硫黄岳の
本温泉,長浜海岸温泉,赤湯海岸温泉の F/Cl×100
噴気孔に近い山腹から湧出している温泉でありナ
(原子比)の値(幾何平均値)は東温泉近くの海
トリウムイオン濃度は 674 mg/l である.坂本温
水の値に近いことから海水の影響を強く受けた温
泉は海岸に湧出する温泉でナトリウムイオン濃度
泉であると考えられる.一方,東温泉,北平温泉
は 2,580–6,500(幾何平均値 3,370)mg/l である.
や北平下海岸温泉は硫黄岳の噴気孔ガス並びに岩
また,穴之浜海岸温泉,長浜海岸温泉,昭和硫黄
体の影響を強く受けた温泉と考えられる.硫黄岳
島温泉.東温泉近くの海水のナトリウムイオン濃
火 口 か ら 火 山 灰 の 放 出 が あ っ た 2000 年 10 月
度 の 幾 何 平 均 値 は そ れ ぞ れ 6,500, 4,290, 5,060,
20–22 日の東温泉の F/Cl×100 の値(幾何平均値
9,920 mg/l である.
5.6)は約 40 年間の幾何平均値 3.37 よりも大きい
ことを示している.
+
カリウムイオン(K )濃度 表 2-2 のカリウム
イオン濃度は東温泉 97.0–218(幾何平均値 141)
硫黄岳火口から火山灰の放出があった 2000 年
mg/l である.北平下海岸温泉 215–520(幾何平均
10 月 20–22 日の東温泉の F/Cl×100 の値(幾何平
値 342)mg/l である.北平温泉は硫黄岳の噴気孔
均値 5.6)は約 40 年間の幾何平均値 3.37 よりも
に近い山腹から湧出している温泉でありカリウム
大きいことから硫黄岳の火山活動との関連性が示
イオン濃度は 216 mg/l である.坂本温泉は海岸
唆される.
に湧出する温泉でカリウムイオン濃度は 129–398
Cl/S×10(モル比) 表 2-1 の Cl/S×10(モル比)
(幾何平均値 217)mg/l である.また,穴之浜海
の 幾 何 平 均 値 は 東 温 泉 3.60–9.66( 幾 何 平 均 値
岸温泉,長浜海岸温泉,昭和硫黄島温泉,東温泉
5.98),北平温泉 1.36,北平下海岸温泉 5.30–13.6(幾
近くの海水のカリウムイオン濃度の幾何平均値は
何平均値 10.0)
,穴之浜海岸温泉 135,坂本温泉
それぞれ 427, 547, 699, 1,240 mg/l である.
300
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
2+
マグネシウムイオン(Mg )濃度 表 2-2 のマ
から湧出している北平温泉の総ホウ素濃度が最も
グネシウムイオン濃度は東温泉 25.3–70.8(幾何
高い.この理由として噴気孔ガス中のホウ素の寄
平均値 41.4)mg/l である.北平下海岸温泉のマ
与があると考えられる(岩崎ほか,1968).一方,
グネシウムイオン濃度は 120–233(幾何平均値
坂本温泉の総ホウ素濃度は 1.7–2.2(幾何平均値
166)mg/l である.北平温泉は硫黄岳の噴気孔に
1.9)mg/l と高く,海水中に含まれるホウ素(4.55
近い山腹から湧出している温泉でありマグネシウ
mg/l)濃度の影響によると考えられる.
ムイオン濃度は 602 mg/l である.また,坂本温
ケイ酸(SiO2)濃度は東温泉 90.5–235(幾何平
泉は海岸に湧出する温泉でマグネシウムイオン濃
均値 183)mg/l である.北平下海岸温泉のケイ酸
度は 201–880(幾何平均値 359)mg/l である.また,
濃度は 253–268(幾何平均値 261)mg/l である.
穴之浜海岸温泉,長浜海岸温泉,昭和硫黄島温泉,
また,坂本温泉のケイ酸濃度は 74.0–152(幾何平
東温泉近くの海水のマグネシウムイオン濃度の幾
均値 103)mg/l であり,海水中にケイ酸濃度が低
何平均値はそれぞれ 916, 245, 578, 712 mg/l であ
い(SiO2 として 0.33 mg/l)ことから岩体からの
る.
溶出が考えられる.
2+
カルシウムイオン(Ca )濃度 表 2-2 のカル
Na/K(原子比) 表 2-2 の Na/K(原子比)の
シウムイオン濃度は東温泉 128–241(幾何平均値
値は東温泉 2.96–5.67(幾何平均値 3.97),北平温
164)mg/l である.北平下海岸温泉のカルシウム
泉 5.30,北平下海岸温泉 3.21–5.56(幾何平均値
イオン濃度は 208–380(幾何平均値 285)mg/l で
4.51),坂本温泉 21.3–38.5(幾何平均値 26.5),長
ある.北平温泉は硫黄岳の噴気孔に近い山腹から
浜海岸温泉 13.1–13.6(幾何平均値 13.3),昭和硫
湧出している温泉でありカルシウムイオン濃度は
黄島温泉 12.2–12.5(幾何平均値 12.3),東温泉近
229 mg/l である.また,坂本温泉は海岸に湧出す
く の 海 水 13.3–13.8( 幾 何 平 均 値 13.6) で あ る.
る温泉でカルシウムイオン濃度は 99.0–298(幾何
長浜温泉と昭和硫黄島温泉の Na/K(原子比)の
平均値 194)mg/l である.また,穴之浜海岸温泉,
値(幾何平均値)は東温泉近くの値に近いことか
長浜海岸温泉,昭和硫黄島温泉,東温泉近くの海
ら海水の影響を直接受けた温泉である.一方,東
水のカルシウムイオン濃度の幾何平均値はそれぞ
温泉,北平温泉や北平下海岸温泉は硫黄岳の噴気
れ 195, 333, 410, 219 mg/l である.
孔ガス並びに岩体との相互作用を強く受けた温泉
3+
アルミニウムイオン(Al ),総マンガン(TMn),総鉄(T-Fe),総ホウ素(T-B)並びにケイ
酸(Si を SiO2 の形に換算した値で示す)濃度 3+
と考えられる.
Mg/Ca( 原 子 比 )
表 2-2 の Mg/Ca( 原 子 比 )
の値は東温泉 0.28–0.86(幾何平均値 0.42),北平
表 2-2 のアルミニウムイオン(Al ),総マンガン
温泉 4.34,北平下海岸温泉 0.71–1.13(幾何平均
(T-Mn),総鉄(T-Fe)濃度は東温泉,北平温泉
値 0.96),坂本温泉 1.65–4.87(幾何平均値 3.04),
や北平下海岸温泉のような酸性泉(pH1.8 以下)
長浜海岸温泉 1.2(幾何平均値 1.2),昭和硫黄島
に多く含まれていることを示している.特に,温
2.31–2.34(幾何平均値 2.33),東温泉近くの海水
泉水中に溶存したマンガン・鉄は温泉水が地上に
5.36–5.37(幾何平均値 5.37)である.坂本温泉,
湧出する前は還元的な雰囲気にある.温泉水を採
長浜海岸温泉,昭和硫黄島温泉の Mg/Ca(原子比)
取後,空気中の酸素に触れ酸化的な雰囲気に曝さ
は東温泉や北平下海岸温泉とは異なっている.
れる.したがって,酸化状態を調べる時以外はそ
れらの総量を求めた.
総ホウ素(T-B)濃度は東温泉 1.7–2.8(幾何平
2陰イオン(Cl , SO4 , HCO3 )の重量組成(%)
-
の三角座標グラフ 表 2-1 の主要な陰イオン(Cl ,
SO42-, HCO3-)濃度の温泉湧出地ごとの成分濃度
均値 2.0)mg/l である.北平温泉の総ホウ素濃度
の幾何平均の合計で 3 成分濃度の重量組成(%)
は 4.8 mg/l,北平下海岸温泉は 3.1–3.6(幾何平均
で表し,それらの値を三角座標グラフにプロット
値 3.4)mg/l である.硫黄岳の噴気孔に近い山腹
した.その図は図 3-1 に示す.この図には pH 1.8
301
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH ARTICLES
図 3–1.主要な陰イオン重量組成(%)の三角座標グラフ.
以下の東温泉,北平温泉,北平下海岸温泉は炭酸
-
図 3–2.主要な陽イオン重量組成(%)の三角座標グラフ.
などの微量成分元素濃度とそれらの原子比 ×100
水素イオン(HCO3 )の形では存在しない.した
(Cu/Zn, Cd/Zn, Pb/Zn)の値を示す.銅濃度は東
がって,東温泉,北平温泉,北平下海岸温泉は三
温泉 0.45–3.9(幾何平均値 1.9)μg/l である(μg/l
角座標グラフの一辺上に硫酸イオンを減らし,塩
は mg/l の千分の 1 小さい単位である).北平下海
化物イオンが増加している.一方,長浜海岸温泉,
岸温泉の銅濃度は 2.6–3.6(幾何平均値 3.2)μg/l
穴之浜海岸温泉,坂本温泉,赤湯海岸温泉,昭和
である.穴之浜温泉の銅濃度は 1.5–29.7 μg/l と広
硫黄島温泉は東温泉近くの海水(図 3-1 の●印)
いが,試料数が 2 検体であり,その原因は特定で
-
2-
-
の陰イオン(Cl , SO4 , HCO3 )の組成に近いこと
きていない.
を示している.
一方,坂本温泉の銅濃度は 0.19–1.00(幾何平
+
+
2+
2+
陽イオン(Na + K , Mg , Ca )の組成(%)
均値 0.34)μg/l である.東温泉・北平下海岸温泉・
+
穴之浜温泉の pH が 1.8 以下であり,坂本温泉は
+ K , Mg , Ca )濃度の温泉湧出地ごとの成分濃
カルデラ縁の外の海岸に湧出する中性の温泉であ
度の幾何平均の合計で各成分濃度の重量組成(%)
ることが銅濃度の大小に関係していると考えられ
で表し,それらの値を三角座標グラフにプロット
る.
した.その図は図 3-2 に示す.この図は東温泉,
亜鉛濃度は東温泉 395–690(幾何平均値 500)
北平温泉と北平下海岸温泉はカルシウムイオン
μg/l である.北平下海岸温泉の亜鉛濃度は 920–
の三角座標グラフ 表 2-2 の主要な陽イオン(Na
+
2+
2+
2+
(Ca )濃度はほぼ一定値を示している.一方,
+
+
1,230(幾何平均値 1,080)μg/l である.穴之浜海
ナトリウムイオン(Na )+カリウムイオン(K )
岸温泉の亜鉛濃度は 130–1,270 μg/l と広いが,試
濃度の割合は変動している.また,長浜海岸温泉,
料数が 2 検体であり,銅と同様にその原因は特定
穴之浜海岸温泉,坂本温泉,昭和硫黄島温泉の
できていない.
Na/K 比は東温泉近くの海水(図 3-2 の●印)の
一方,坂本温泉の亜鉛濃度は 4.2–50.0(幾何平
+
+
2+
2+
陽イオン(Na + K , Mg , Ca )の組成に近いこ
均値 15.3)μg/l である.東温泉・北平下海岸温泉・
とを示している.
穴之浜温泉の pH が 1.8 以下であり,坂本温泉は
Cu(銅),Zn(亜鉛),Cd(カドミウム),Pb(鉛)
カルデラ縁の外の海岸に湧出する中性の温泉であ
等の濃度 表 3 は Cu(銅),Zn(亜鉛),Cd(カ
ることが関係していると考えられる.一般の岩石
ドミウム),Pb(鉛),As(ヒ素),Sb(アンチモン)
の銅・亜鉛は銅に比べて亜鉛が溶出しやすいこと
302
RESEARCH ARTICLES
が知られている.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
れているので沈殿物について調べる必要がある.
カドミウム濃度は東温泉 2.1–7.2(幾何平均値
4.3)μg/l である.北平下海岸温泉のカドミウム
東温泉の湧出量とヒ素の放出量 東温泉は温
濃度は 2.1–2.6(幾何平均値 2.4)μg/l である.穴
泉の湧出孔が多数あり,最も湧出量の多い No. 5
之浜海岸温泉のカドミウム濃度は 0.2–1.9(幾何
源泉(海岸の上部にある)と干潮時に採取可能な
平均値 0.62)μg/l と広いが,試料数が 2 検体であ
湧出孔(No. 9)の温泉の分析を行った.その周
り,その原因は特定できていない.
辺にも温泉の湧出孔があり,それらを合わせた東
一方,坂本温泉のカドミウム濃度は 0.01–0.10
温泉の総湧出量は 500–2,000 ℓ/min(リットル / 分)
(幾何平均値 0.04)μg/l である.東温泉・北平下
の間を推移している(鎌田ほか,1974).仮に,
海岸温泉・穴之浜海岸温泉の pH が 1.8 以下であり,
東温泉の湧出量を 1,000 ℓ/min とすればヒ素濃度
坂本温泉はカルデラ縁の外の海岸に湧出する中性
(幾何平均値 361)μg/l からヒ素が 361 mg/min 放
の温泉であることが関係していると考えられる.
出されることになる.同様な計算を他の化学成分
その他の温泉のカドミウム濃度は東温泉などの酸
ついて行えば東温泉から海水へ放出される負荷量
性泉に比べて低い.
を算定できる.
鉛濃度は東温泉 13.0–90.0(幾何平均値 32.5)
μg/l である.北平下海岸温泉の鉛濃度は 61.0–110
(幾何平均値 95.6)μg/l とその濃度範囲は広い.
穴之浜海岸温泉の鉛濃度は 2.0–3.8(幾何平均値
2.8)μg/l である.
一方,坂本温泉の鉛濃度は 0.01–0.26(幾何平
まとめ
硫黄島温泉の分布と化学成分について以下に
要約する.
温泉の型 A:硫黄岳の周辺に湧出する温泉 pH が 2 以 下 で ア ル ミ ニ ウ ム(Al3+), マ ン ガ ン
均値 0.11)μg/l である.東温泉・北平下海岸温泉・
2+
2+
3+
(Mn ,他),鉄(Fe , Fe )が多い.硫酸イオン
穴之浜海岸温泉の pH が 1.8 以下であり,坂本温
(SO4 ),塩化物イオン(Cl ),フッ素(F)を多
泉はカルデラ縁の外の海岸に湧出する中性の温泉
量に含む温泉(東温泉,北平温泉.北平下海岸温
であることが関係していると考えられる.その他
泉,穴之浜海岸温泉)である.温泉に多量に含ま
の温泉の鉛濃度は東温泉などの酸性泉に比べて低
れるアルミニウム,鉄などは海水中の成分と化学
い.
反応を起こし,無定形含水ケイ酸アルミニウム等
総水銀濃度は東温泉 0.010–0.100(幾何平均値
の沈殿を生成する(Nogami et al., 1993).これら
0.023)μg/l である.北平下海岸温泉の総水銀濃
の温泉の化学成分(組成)には硫黄岳の火山噴気
度は 0.015–0.050(幾何平均値 0.027)μg/l である.
活動,岩体と降水量が影響する.
-
2-
坂本温泉の総水銀濃度は 0.008–0.020(幾何平均
温泉の型 B:稲村岳の周辺に湧出する温泉 稲
値 0.016)μg/l である.その他の温泉の総水銀濃
村岳には噴気活動が見られない.pH が~ 4 程度
度は低く,硫黄島の酸性泉・中性泉による総水銀
2+
3+
で鉄(Fe , Fe )が多い.また,塩化物イオン
濃度の泉質による差異はない.
-
2-
(Cl ),硫酸イオン(SO4 )を多量に含み,炭酸
-
ヒ素とアンチモン濃度は限られた試料にしか分
水素イオン(HCO3 )を含んでいる.温泉は海岸
析を行っていない.東温泉のヒ素濃度は 310–435
線に湧出するが,湧出する場所(泉源)の特定は
( 幾 何 平 均 値 361)μg/l で, ア ン チ モ ン 濃 度 は
難しい.これらの温泉は鉄を多く含み海水中の化
1.2–1.9(幾何平均値 1.6)μg/l である.赤湯海岸
学成分と反応し,赤色の鉄質沈殿物を生成する.
温泉や坂本温泉のヒ素,アンチモン濃度は分析し
温泉の型 C:カルデラの外側に湧出する温泉 た試料が 1 検体で決定的なことは言えないが,東
pH が 6–7 でアルミニウム(Al3+),鉄(Fe2+, Fe3+)
温泉のような酸性泉に比べてその濃度は低い.し
が少ない.一方,海の干満の影響を受けるのでナ
かし,ヒ素は鉄質沈殿物に濃縮されることが知ら
トリウムイオン(Na ),塩化物イオン(Cl ),硫
+
-
303
表 3.薩摩硫黄島温泉等の微量重金属元素などの濃度と原子比.
pH
Cu
Zn
Cd
Pb
T-Hg
As
Sb
整理
温度
試料
採水年月日
μg/l
μg/l
μg/l
μg/l
μg/l
μg/l
μg/l
番号
℃
B-1 東温泉 No.5
1972 08.26
52.5
1.6
3.9
493
2.3
23.0
0.040
B-2 東温泉 No.5
1973.08.21
51.5
1.7
2.8
410
3.2
29.0
0.050
B-3 東温泉 No.5
1974.07.26
55.6
1.6
2.4
690
7.2
130
0.100
B-4 東温泉 No.5
1974.08.03
55.8
1.6
2.5
660
7.1
110
0.060
B-5 東温泉 No.5
1974.08.08
55.8
1.6
2.2
690
6.8
120
0.070
B-6 東温泉 No.5
1974.10.24
55.7
1.6
1.8
680
6.8
100
0.060
B-7 東温泉 No.5
1975.01.25
55.2
1.6
1.7
640
6.6
90.0
0.040
B-8 東温泉 No.5
1975.05.30
55.2
1.7
2.4
550
5.5
35.0
0.012
B-9 東温泉 No.5
1975.07.25
55.5
1.7
2.0
523
4.9
33.0
0.016
B-10 東温泉 No.5
1977.10.27
55.8
1.6
1.3
420
3.9
20.3
0.011
B-11 東温泉 No.5
1977.10.29
55.5
1.6
1.4
431
4.2
25.5
0.014
B-12 東温泉 No.5
1977.12.09
53.5
1.6
1.2
431
4.4
27.9
0.018
B-13 東温泉 No.5
1979.10.09
54.8
1.6
1.3
455
3.8
22.5
0.010
B-14 東温泉 No.5
1980.10.31
49.5
1.6
2.4
610
5.2
29.5
0.011
B-15 東温泉 No.5
1990.10.18
55.1
1.7
0.45
395
2.7
21.8
0.013
425
1.8
B-16 東温泉 No.5
1990.10.24
54.5
1.7
0.83
407
2.9
26.8
0.012
435
1.8
B-17 東温泉 No.5
2000.10.20
53.6
1.7
3.2
465
3.8
16.9
0.012
320
1.3
B-18 東温泉 No.5
2000.10.22
54.8
1.6
2.5
437
3.6
15.6
0.015
332
1.9
B-19 東温泉 No.9
1972.08.26
50.5
1.6
3.8
415
2.1
26.0
0.040
B-20 東温泉 No.9
1974.08.03
54.2
1.6
2.6
660
6.9
13.0
0.040
B-21 東温泉 No.9
1977.10.29
54.3
1.6
1.5
423
4.1
25.1
0.012
B-22 東温泉 No.9
1977.12.09
53.1
1.6
1.3
428
4.3
26.3
0.018
B-23 東温泉 No.9
2000.10.20
53.2
1.7
2.5
435
3.5
15.2
0.014
310
1.2
B-24 北平下海岸温泉
1972.08.29
67.0
1.4
2.6
920
2.1
61.0
0.030
B-25 北平下海岸温泉
1974.08.04
70.5
1.3
3.3
1,230
2.6
110
0.050
B-26 北平下海岸温泉
1974.10.26
72.0
1.3
3.1
1,150
2.6
106
0.030
B-27 北平下海岸温泉
1974.01.24
70.4
1.4
3.6
1,070
2.4
106
0.015
B-28 北平下海岸温泉
1975.07.24
70.4
1.4
3.6
1,070
2.4
106
0.020
B-29 穴之浜海岸温泉
1974.08.04
61.0
2.7
1.5
130
0.20
2.00
0.030
B-30 穴之浜海岸温泉
1990.10.21
70.5
2.5
29.7
1,270
1.9
3.80
0.013
335
1.8
B-31 赤湯海岸温泉
1977.12.09
28.6
4.1
0.45
59.3
0.02
0.16
0.013
B-32 赤湯海岸温泉
1990.10.20
28.5
4.2
0.70
91.0
0.20
0.03
0.010
4.5
0.1
B-33 坂本温泉
1972.05.27
45.0
6.3
0.19
4.2
0.01
0.10
B-34 坂本温泉
1974.08.06
38.5
6.5
0.20
50.0
0.10
0.20
0.020
B-35 坂本温泉
1974.10.25
49.9
6.4
1.00
23.0
0.09
0.26
0.020
B-36 坂本温泉
1975.01.24
43.5
6.1
0.39
15.0
0.05
0.20
0.020
B-37 坂本温泉
1977.12.09
42.8
6.3
0.33
14.5
0.03
0.13
0.016
B-38 坂本温泉
2000.10.22
55.7
6.2
0.29
12.0
0.03
0.01
0.008
19.4
0.3
B-39 長浜海岸温泉
1977.10.29
45.8
3.6
0.68
31.7
0.03
0.27
0.009
B-40 長浜海岸温泉
1977.12.10
43.6
3.9
0.60
23.0
0.02
0.17
0.007
B-41 東温泉海岸
1977.10.29
28.5
7.6
0.60
13.3
0.03
0.73
0.012
B-42 長浜港内
1977.10.29
29.8
6.8
0.65
10.7
0.02
0.13
0.019
pH:水素イオン濃度指数,Cu:銅,Zn:亜鉛,Cd:カドミウム,Pb:鉛,T-Hg:総水銀,As:ヒ素 ( Ⅲ+Ⅴ ),Sb:アンチモン ( Ⅲ+Ⅴ ).
Cu/Zn
原子比 x100
0.81
0.70
0.36
0.39
0.33
0.27
0.27
0.45
0.39
0.32
0.33
0.29
0.29
0.41
0.12
0.21
0.71
0.59
0.94
0.41
0.37
0.31
0.59
0.29
0.28
0.28
0.35
0.35
1.19
2.41
0.78
0.79
4.66
0.41
4.48
2.68
2.34
2.49
2.21
2.69
4.65
6.26
Cd/Zn
原子比 x100
0.27
0.45
0.61
0.63
0.57
0.58
0.60
0.58
0.55
0.54
0.57
0.59
0.49
0.50
0.40
0.41
0.48
0.48
0.29
0.61
0.56
0.58
0.47
0.13
0.12
0.13
0.13
0.13
0.09
0.09
0.02
0.13
0.14
0.12
0.23
0.19
0.12
0.15
0.06
0.05
0.13
0.11
Pb/Zn
原子比 x100
1.47
2.24
5.95
5.27
5.50
4.65
4.44
2.01
1.99
1.53
1.87
2.05
1.56
1.53
1.74
2.08
1.15
1.13
1.98
0.62
1.88
1.94
1.10
2.10
2.83
2.91
3.13
3.13
0.49
0.09
0.09
0.01
0.75
0.13
0.36
0.42
0.28
0.03
0.27
0.23
1.73
0.38
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
304
RESEARCH ARTICLES
RESEARCH ARTICLES
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
2-
酸イオン(SO4 )が多い.湧出する温泉は海水
硫黄島長浜地区の井戸水(水道水)の化学組
中の化学成分と合っても沈殿は生成することはな
成について 海上に出現した活火山島の硫黄島岳
い.
は現在も活発な火山活動を継続している.硫黄岳
温泉の型 D:昭和硫黄島温泉 pH が 6–7 で海
の噴気孔ガス中のハロゲン化水素(HF, HCl 等)
水が岩体と化学反応し,海水の影響を強く受けて
や二酸化硫黄(SO2)等の影響を受けて山麓を除
生成される温泉である.
くと緑の森林(草木)が乏しい.したがって,島
表 4–1.薩摩硫黄島の井戸水(水道水)の主要な陰イオン等の濃度と原子比(モル比).
整理
番号
水温
試料
採水年月日
℃
pH
Fmg/l
Clmg/l
SO42-
HCO3-
F/Cl
Cl/S
mg/l
原子比
x100
モル比
x10
mg/l
C-1 井戸水(徳田)
1961.07.30
28.3
5.2
156
C-2 井戸水(安永)
1961.07.30
27.3
4.8
179
C-3 井戸水(森)
1961.07.30
24.9
4.5
193
C-4 井戸水(三幸丸船長)
1961.07.30
22.5
4.6
165
C-5 井戸水(長浜静男)
1961.07.30
22.9
5.4
139
C-6 井戸水(日高)
1961.07.30
30.4
5.5
142
C-7 井戸水(佐藤)
1961.07.30
29.0
4.8
161
C-8 井戸水(田中)
1961.07.30
24.5
4.6
155
C-9 井戸水(上村)
1962.07.23
24.1
6.8
29.0
C-10 井戸水(共同)
1962.07.23
24.0
6.5
36.0
C-11 水道水
1966.08.06
29.4
6.5
0.43
91
33.7
41.1
0.88
C-12 水道水 ( 鉱業所)
1967.07.27
27.0
6.6
0.42
94
22.0
43.5
0.84
C-13 鉱業所水道水
1970.07.27
30.0
6.5
0.41
230
42.4
0.33
C-14 水道水(リクレーションセンター) 1971.07.28
29.0
6.6
0.45
128
32.5
40.8
0.66
C-15 水道水(リクレーションセンター) 1974.07.27
29.0
6.3
0.48
346
131
0.26
C-16 鉱業所水道水
1974.08.07
30.5
6.7
0.58
330
129
43.8
0.33
C-17 水道水
1975.05.30
35.0
6.0
0.60
629
251
0.18
C-18 水道水 ( 水源)
1975.09.27
28.5
6.5
0.63
499
132
41.5
0.24
C-19 水道水 ( 水源)
1983.02.24
28.0
7.4
0.65
534
145
45.8
0.23
pH:水素イオン濃度指数,F -:フッ化物イオン,Cl-:塩化物イオン,SO42-:硫酸イオン,HCO3-:炭酸水素イオン.
表 4–2.薩摩硫黄島の井戸水(水道水)の主要な陽イオン等の濃度と原子比.
K+
Mg2+
Ca2+
T-Fe
Na+
整理
試料
番号
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
mg/l
T-B
SiO2
As
Sb
Na/K
73.2
116
147
107
71.6
69.3
67.9
102
99.8
Mg/Ca
原子比 原子比
C-1 井戸水(徳田)
C-2 井戸水(安永)
C-3 井戸水(森)
C-4 井戸水(三幸丸船長)
C-5 井戸水(長浜静男)
C-6 井戸水(日高)
C-7 井戸水(佐藤)
C-8 井戸水(田中)
C-9 井戸水(上村)
70.0
12.1
9.83
C-10 井戸水(共同)
44.2
C-11 水道水
56.5
12.0
9.0
21.6
0.04
78.5
8.00
0.69
C-12 水道水 ( 鉱業所)
56.5
12.0
9.2
21.7
0.02
0.06
82.5
8.00
0.70
C-13 鉱業所水道水
0.02
0.08
C-14 水道水(リクレーションセンター) 66.0
17.4
9.1
20.5
0.03
0.08
86.0
6.45
0.73
C-15 水道水(リクレーションセンター) 148
28.4
26.0
32.6
0.02
1.2
8.86
1.32
C-16 鉱業所水道水
147
27.0
26.5
32.8
0.03
1.5
9.26
1.33
C-17 水道水
278
41.4
53.0
65.2
0.02
1.1
11.4
1.34
C-18 水道水 ( 水源)
315
43.5
56.2
68.7
0.03
1.0
<0.10 12.3
1.35
C-19 水道水 ( 水源)
324
47.6
57.8
69.2
0.02
1.0
<0.10 11.6
1.38
Na+:ナトリウムイオン,K+:カリウムイオン,Mg2+:マグネシウムイオン,Ca2+:カルシウムイオン,T-Fe:総鉄,
T-B:総ホウ素,SiO2:比色ケイ酸,As:ヒ素 ( Ⅲ + Ⅴ ),Sb:アンチモン ( Ⅲ + Ⅴ ).
mg/l
mg/l
μg/l
μg/l
305
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
の宿命として大きな河川がなく,良質の地下水に
も恵まれていない.硫黄岳噴気孔ガス(火山ガス)
や海岸線などに湧出する温泉調査の際に採取した
長浜地区の井戸水(水道水)の分析結果は表 4-1,
表 4-2 に示す.
表 4-1 の調査期間(約 20 年)における塩化物
イオン濃度の経年変化からは井戸水(水道水)の
塩水化が進行している.また,表 4-2 のナトリウ
ムイオン濃度などの経年変化についてもほぼ同様
の傾向が認められる.このことは電気を使う電化
製品の普及に伴う水の使用量の増加や水を使う事
業等の進出の影響が考えられる.ちなみに日本の
水道水質基準は塩化物イオン 200 mg/l 以下,ナ
トリウム及びその化合物 200 mg/l 以下となって
いる.したがって,1983 年には現在の水道水の
基準値を超えていたことになる.
今後,硫黄島で新しい事業展開する場合はど
の程度の井戸水(水道水)が使用できるかを検討
する必要がある.
あとがき
硫黄島火山硫黄岳は活発な火山活動を継続し
ている.同火山の噴気孔ガスの多様性,温泉活動
との共存などから硫黄島火山は火山性温泉の典型
的な例である.本報告は硫黄島周辺に湧出する温
泉を採取し,化学成分(組成)の経年変化に注目
した研究データの整理を行った.約 40 年間に渡
る温泉の化学成分(組成)について知見を得るこ
とができた.硫黄島の温泉の生成機構には噴気孔
ガス,岩体,降水(地下水),海水の寄与の他に
地下深部からの “ 食塩泉 ”,との混合を考える必
要がある.また,水素,酸素や硫黄など同位体地
球化学的なデータと合わせた考察が求められる.
今後,硫黄島の火山活動が長期化すれば,火
山ガスや温泉から放出される化学成分元素などが
大気や水環境に入り,局所的な生態系に何らかの
影響を及ぼすことも考えられる.火山活動は消長
があり,継続した調査研究が望まれる.
306
RESEARCH ARTICLES
謝辞
本研究を行うに当たり,鹿児島大学の(故)鎌
田政明博士・大西富雄博士,東京工業大学の(故)
小坂丈予博士・(故)小沢竹二郎博士・吉田 稔
博士には終始ご教示をいただいた.現地調査にあ
たっては小野田セメント株式会社,南東硫黄株式
会社,末野研究所のご支援に感謝の意を表する.
宿泊等では長浜豊彦氏,山下秀夫氏,大山英雄氏
をはじめ,長浜集落の方々には多大なお世話に
なった.心より深謝する.また,温泉の採取,分
析等では鹿児島大学理学部化学科の伊藤桃恵・緒
方真生・吉村(新入)恵子・財津(冨田)久美子
学士,同大学理工学研究科の満窪文彦・江口(石
山)裕美・梶原祐介修士には,多大なご協力を得
た.ここに記して,お礼を申し上げる.
引用文献
岩崎岩次・鎌田政明・大西富雄・坂元隼雄.1968.天然水
中のおけるテトラフルオロホウ酸イオンの存在.日本
化学雑誌,89 (3), 324–325.
鎌田政明.1964.鹿児島県硫黄島の火山と地熱.地熱,3,
1–23.
鎌田政明.1988.薩摩硫黄島の火山と温泉.化学と工業,
41 (10), 927–929.
鎌田政明・大西富雄・坂元隼雄.1974.硫黄島火山(鹿児
島県)の地球化学的研究.温泉工学会誌,9 (3), 117–
124.
Kamada, M. and Sakamoto, H. 1979. Determination of cadmium,
copper, lead, zinc and mercury in fresh water, sea water,
sediment and vegetable. Spec. Pro. Res. Det. Con. Environ.
Poll., 1, 156–160.
Nogami, K., Yoshida, M. and Osaka, J. 1993. Chemical
composition of discolored seawater around Satsuma-Iwojima,
Kagoshima, Japan, Bull. Volcanol. Soc. Japan, 38, 71–77.
Sakamoto, H., Fujita, S., Tomiyasu, T. and Anazawa, K. 2003.
Mercury concentrations in fumarolic gas condensates and
mercury chemical forms in fumarolic gases. Bull. Volcanol.
Soc. Japan, 48, 27–33.
坂元隼雄・鎌田政明.1975.火山発散物中の重金属の分布.
日本火山学会 1975 年度秋季大会講演要旨,火山,第 2 集,
20 (3), 188–189.
Sakamoto, H., Kamada, M. and Yonehara, N. 1988. The contents
and distributions of arsenic, antimony, and mercury in
geothermal waters. Bull. Chem. Soc. Jpn., 61, 3471–3477.
吉田 稔・小沢竹二郎.1981.薩摩硫黄島火山から放出さ
れる化学成分の量とその供給源に関する量的考察.火
山,第 2 集,26 (1), 25–34.
RESEARCH REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
ヘビギンポ科クロマスク属 Helcogramma ishigakiensis (Aoyagi, 1954)
に適用すべき標準和名
1
田代郷国 ・本村浩之
1
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(大学院連合農学研究科)
2
〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
Tashiro and Motomura (2014) は, こ れ ま で
Helcogramma inclinata (Fowler, 1946) の新参異名と
されていた Lepidoblennius marmoratus ishigakiensis
がヘビギンポ科クロマスク属の有効種
(Helcogramma ishigakiensis; Fig. 1A–B)であるこ
とを明らかにし,ホロタイプ(YCM-P 31283,標
準体長 46.7 mm)と奄美大島以南の琉球列島から
得られた本種と同定される標本 41 個体(標準体
長 26.1–53.3 mm) に 基 づ き 再 記 載 を 行 っ た.
Helcogramma ishigakiensis は 第 2 背 鰭 棘 数 が
13–15(最頻値 14),有孔側線鱗数が 28–39 (35),
下顎の感覚孔配置が 4–5 + 1 + 4–6,前鼻孔の皮弁
が不分枝,眼上皮弁が単尖頭,第 1 背鰭前方に被
鱗域がない,および婚姻色を呈した雄の背鰭基底
付近と尾鰭が赤色であるなどの特徴から同属他種
と識別される(Tashiro and Motomura, 2014).また,
彼らは H. ishigakiensis に適用すべき標準和名を
「ベニモンヘビギンポ」とした.本種は長らく正
体不明であったことから,適用すべき標準和名に
混乱が見られた.本稿では H. ishigakiensis に対す
るベニモンヘビギンポの適用に関する経緯につい
て 述べる.本稿で言及した機関略号 KAUM と
YCM の標本はそれぞれ鹿児島大学総合研究博物
Tashiro, S. and H. Motomura. 2015. Assessment of standard
Japanese name for Helcogramma ishigakiensis (Perciformes: Tripterygiidae). Nature of Kagoshima 41: 307–
309.
ST: the United Graduate School of Agricultural Sciences,
Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890–
0065, Japan (e-mail: k0587888@kadai.jp).
館と横須賀市自然・人文博物館に保管されている.
標準和名ベニモンヘビギンポの適用
青柳(1954)は Lepidoblennius marmoratus ishigakiensis
を石垣島から採集された 1 個体に基づき新亜種と
して記載したが,本種に和名を付記しなかった.
そ の 後, 松 原(1955) は Lepidoblennius marmoratus
ishigakiensis を有効種として認め,本種に対し新和
名アヤヘビギンポを提唱した.益田ほか(1975)
は石垣島から得られた Helcogramma sp. 2 に対し
仮称ベニモンヘビギンポを提唱した.吉野(1984)
は L. m. ishigakiensis と 益 田 ほ か(1975) の
Helcogramma sp. 2 を同種と考え,「アヤヘビギン
ポ(ベニモンヘビギンポ)」として報告した.
一 方,Hayashi (1995) は L. m. ishigakiensis と 林
(1993)のカスリヘビギンポ Helcogramma sp. を
同 種 と し て 扱 っ た. そ の 後,Fricke (1997) や 林
(2000)は下顎が突出する特徴をもつ林(1993)
の カ ス リ ヘ ビ ギ ン ポ Helcogramma sp. を Ucla
xenogrammus Holleman, 1993 と同定した.なお,
H.
ishigakiensis はカスリヘビギンポ U. xenogrammus
と比較し,下顎が突出しない(U. xenogrammus
では顕著に突出する)ことから容易に識別可能で
ある(Fricke, 1997; Tashiro and Motomura, 2014).
Fricke (1997) はタイプ標本を含めた検討を行わ
ずに L. m. ishigakiensis を H. inclinata の新参異名
とし,下顎中央の感覚管開孔数が 5–10 個である H.
inclinata の日本名をアヤヘビギンポとした.一方,
林(2000)と Hayashi (2002) はアヤヘビギンポの
学名を H. ellioti とした.しかし,これはアヤヘ
ビギンポが H. inclinata であると報告した Fricke
307
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH REPORTS
Fig. 1. Fresh specimen of Helcogramma ishigakiensis from type locality of this nominal species A–B, KAUM–I. 62836, male, 37.7 mm SL,
Ishigaki-jima island, Ryukyu Islands, Japan. Both photographs were taken soon after the fish was captured, A and B images against black
and white backgrounds respectively.
(1997) や下條・林(2000)より前に出版された林
対して用いられていること(Fricke, 1997; 下條・
(1993)をそのまま踏襲してしまったために生じ
林,2000),および標準和名の起点は原則として「日
た誤りである(本村ほか,2005).林(2000)と
本産魚類検索 全種の同定,第二版」[ヘビギン
Hayashi (2002) が報告したアヤヘビギンポは下顎
ポ科は林(2000)による]とすることなどの理由
中央の感覚管開孔数が 5–10 個(H. ellioti では 3–5
から,和名変更に伴う混乱を避けるため標準和名
個;Holleman, 2007) で あ る. ま た, 従 来 H.
アヤヘビギンポは H. inclinata に対して適用する
ellioti はインド・西太平洋に広く分布する(Hansen,
ことが妥当であると判断した.その後,林(2013)
1986)とされていたが,現在ではインドとスリラ
と Tashiro and Motomura (2014) もその措置に従っ
ン カ の 固 有 種 と さ れ て い る(Fricke, 1997;
た.Helcogramma ishigakiensis は H. inclinata と比
Holleman, 2007). 以 上 の こ と か ら 林(2000) と
較し,下顎中央の感覚管開孔数が 1(H. inclinata
Hayashi (2002) のアヤヘビギンポは H. inclinata で
では 5–10)であることや,第 1 背鰭前方は無鱗(1–2
あると考えるのが妥当である.
鱗列をもつ)であることから容易に識別される
本村ほか(2005)はこれらを踏まえた上で,本
(Tashiro and Motomura, 2014).
来アヤヘビギンポの和名が与えられている L. m.
Helcogramma ishigakiensis の分類学的位置付け
ishigakiensis の分類学的位置付けが不明であるこ
が明らかになった現在,これまでの経緯から本種
と,和名アヤヘビギンポがすでに H. inclinata に
に再びアヤヘビギンポを当てはめることは標準和
308
RESEARCH REPORTS
名の安定性を考慮すると不適切である.一方で,
益 田 ほ か(1975) が ベ ニ モ ン ヘ ビ ギ ン ポ
Helcogramma sp. 2 として掲載したカラー写真は,
背鰭基底付近と尾鰭が赤色であることから明らか
に H. ishigakiensis の婚姻色を呈した雄の個体であ
る(Tashiro and Motomura, 2014: figs. 2A–D, 3A, C–
D; Fig. 1A–B).したがって,H. ishigakiensis の標
準和名にはベニモンヘビギンポを適用するのが妥
当 で あ る と 判 断 さ れ た(Tashiro and Motomura,
2014).
謝辞
本稿をまとめるにあたり,吉田朋弘氏をはじ
めとする鹿児島大学魚類分類学研究室のみなさま
には適切な助言をいただいた.深く感謝の意を表
する.本報告の元となった研究は JSPS 科研費
(19770067,23580259,24370041, 26241027,
26450265),総合地球環境学研究所「東南アジア
沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プ
ロジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様
性ホットスポットの構造に関する研究プロジェク
ト」,文部科学省特別経費-地域貢献機能の充実
-「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教
育研究拠点形成」,および鹿児島大学重点領域研
究環境(生物多様性プロジェクト)学長裁量経費
「奄美群島における生態系保全研究の推進」の援
助を受けた.
引用文献
青柳兵司.1954.琉球列島産ギンポ科魚類の新・珍種追記.
動物学雑誌,63: 239–242.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Fricke, R. 1997. Tripterygiid fishes of the western and central
Pacific (Teleostei). Koeltz Scientific Books, Koenigstein, ix +
607 pp.
林 公義.1993.ヘビギンポ科.Pp. 944–948, 1351.中坊徹
次(編)
,日本産魚類検索 全種の同定.初版.東海大
学出版会,東京.
Hayashi, M. 1995. Catalogue of fishes of Yokosuka City Museum
(III)—Dr. Aoyagi (Ikeda)’s fish collection. Miscellaneous
Report of the Yokosuka City Museum, 20: 1–70.
林 公義.2000.ヘビギンポ科.Pp. 1077–1086, 1600–1601.
中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定.第二版.
東海大学出版会,東京.
Hayashi, M. 2002. Tripterygiidae. Pp 565–595, 1519–1522. In
Nakabo, T. (ed), Fishes of Japan with pictorial keys to the
species. English edition. Tokai University Press, Tokyo.
林 公義.2013.ヘビギンポ科.Pp. 1280–1290, 2097–2099.
中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定.第三版.
東海大学出版会,秦野.
Holleman, W. 2007. Fishes of the genus Helcogramma (Blennioidei: Tripterygiidae) in the western Indian Ocean, including
Sri Lanka, with descriptions of four new species. Smithiana
Bulletin, 7: 51–81.
益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本
の沿岸魚.東海大学出版会,東京.465 pp.
松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.I.初版.石崎書店,
東京.xi + 789 pp.
本村浩之・原崎 森・瀬能 宏.2005.ヘビギンポ科クロ
マスク属 2 種 Helcogramma inclinata と H. nesion の標準
和名と学名,および前者の北限記録の更新と標徴に関
する新知見.魚類学雑誌,53 (1): 106–108.
下條敦夫・林 公義.2000.日本産ヘビギンポ科魚類の 7
未記録種.横須賀市博物館研究報告(自然科学),47:
39–58.
Tashiro, S. and Motomura, H. 2014. The validity of Helcogramma
ishigakiensis (Aoyagi, 1954) and a synopsis of species of
Helcogramma from the Ryukyu Islands, southern Japan (Perciformes: Tripterygiidae). Species Diversity, 19: 97–110.
吉野哲夫.1984.アヤヘビギンポ(ベニモンヘビギンポ).P.
456, pl. 376D.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝
彌・吉野哲夫(編),日本産魚類大図鑑.東海大学出版
会,東京.
309
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
310
RESEARCH REPORTS
RESEARCH REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島湾で初めて記録された造礁サンゴ類 4 種の産卵
出羽尚子・土田洋之・西田和記・山田守彦・広瀬 純・
八巻鮎太・築地新光子・東峯万葉
〒 891–0132 鹿児島市本港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館
はじめに
造礁サンゴは夏期の満月前後に産卵すること
がよく知られ,サンゴ礁域では産卵に関する多く
の研究や観察が行われている.特に初夏のミドリ
イシ類の一斉産卵については,高い精度で産卵予
測が可能なほどの観察実績があり,奄美大島や沖
縄県などでも一般の方を対象とした観察会が行わ
れている.
非サンゴ礁域である高緯度海域に分布する造
礁サンゴ群集においても,和歌山県串本(御崎,
1989–1990, 1994–2001, 2003–2006)や熊本県天草
(Nozawa et al., 2006)を含む各海域で多くの研究
が行われている.特に高知県大月町では長期に渡
る観察で得られたイシサンゴ類の産卵パターンや
産 卵 時 刻 に つ い て の 詳 細 な 報 告( 目 崎 ほ か,
2007)がある.
一方,鹿児島県本土周辺海域においては,こ
れまで産卵に関する研究はほとんど行われておら
ず,かごしま水族館に隣接するイルカ水路に移植
したエンタクミドリイシの卵の成熟についての報
2014 年 7–8 月に 12 日間の夜間潜水を行い,その
内 6 日間で 4 種の産卵を記録した.本記録は鹿児
島湾での造礁サンゴの産卵としては初めてのもの
である.
調査結果
調査は,かごしま水族館から約 5 km 南に位置
する鴨池漁港の東側防波堤(写真 1)周辺,水深
1–5 m の捨石や消波ブロックに付着する造礁サン
ゴ類を対象におこなった.観察開始時刻は日没か
ら概ね 1 時間後の 20 時を目安とし,スキューバ
ダイビングにより防波堤(約 70 m)を約 1 時間
かけて往復しながら,産卵の有無を観察した.ま
た,エンタクミドリイシについては水中で断面の
観察を行ったほか,群体の一部を採取して水族館
へ持ち帰り,顕微鏡下で卵の成熟具合を確認した.
8 月 11 日(大潮)20 時 45 分,浮遊するバンド
ルとコモンサンゴに付着するバンドルを確認し
た.産卵する瞬間の確認はできなかったものの,
以降の観察からトゲキクメイシ属の一種の産卵と
告(田畑,2013)があるのみである.
かごしま水族館では,鹿児島湾における造礁
サンゴ類の産卵を確認することを目的として,
Dewa, N., H. Tsuchida, K. Nishida, M. Yamada, J. Hirose, A.
Yamaki, M. Chikuchisin and M. Higashimine. 2015.
First records of spawning of four scleractinian corals in
Kagoshima Bay, southern Japan. Nature of Kagoshima
41: 311–313.
ND: the Kagoshima City Aquarium, 3–1 Honkoshinmachi, Kagoshima 891–0132, Japan (e-mail: n-dewa@
ioworld.jp).
写真 1.鴨池漁港.丸はサンゴの産卵が確認された場所.
311
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH REPORTS
写真 2.産卵中のトゲキクメイシ属の一種.橙色のバンドル
をもち,同じ群体が異なる日に産卵するのが確認された.
写真は 2014 年 8 月 12 日,20:25 に撮影.
写真 5.産卵中のエンタクミドリイシ.20:00 ころにポリ
プにバンドルがセットされたことが確認されたが、バン
ドルが放出されたのはその 1 時間以上後だった.写真は
2014 年 8 月 19 日,21:22 に撮影.
思われた.翌 12 日(大潮)20 時 21 分,トゲキ
写真 3.産卵中のコモンサンゴ.本種の卵は褐虫藻をもつ
ため薄い褐色に見える.写真は 2014 年 8 月 18 日,20:24
に撮影.
クメイシ属の一種の産卵を確認,撮影に成功した
(写真 2).14 日(中潮)20 時 35 分には,12 日に
産卵を確認したトゲキクメイシ属の一種と同じ群
体が再び産卵をおこなった.
高知県などイシサンゴ類の産卵研究において,
下弦の月の前後には多くの種の産卵が集中する事
が確認されている.2015 年 7 月の下弦の月であ
る 17 日(小潮)には,今回の観察においても複
数種のイシサンゴの産卵が観察された.20 時 17
分にはトゲキクメイシ属の一種,20 時 43 分には
コモンサンゴ(写真 3),20 時 47 分にはパリカメ
ノコキクメイシ(写真 4)と合計で 3 種の産卵を
確認し,翌 18 日には,20 時 22 分にコモンサンゴ,
21 時 00 分にパリカメノコキクメイシと 2 種の産
写真 4.産卵中のパリカメノコキクメイシ.産卵が近づく
と濃い桃色のバンドルがポリプの中に透けて見える.写
真は 2014 年 8 月 17 日,20:47 に撮影.
312
卵を確認した.さらに,19 日の 21 時 22 分には,
エンタクミドリイシの複数群体の一斉産卵を確認
した(写真 5).結果は表 1 のとおり.
○
今回得られた産卵時期や産卵時刻に関する知
見は,高知県大月町での報告とよく一致した.今
○
○
21:50
おわりに
21:30
19:30
20:00
後,さらに観察を続けて多くの産卵記録を蓄積し,
○
○
○
21:10
御崎 洋,1990.串本で観察されたイシサンゴの産卵につ
いて(1990 年).マリンパビリオン,19 (10): 58–59.
○
御崎 洋,1994.黒島におけるイシサンゴ類の産卵状況.
マリンパビリオン,23(7): 40–41.
御崎 洋,1995a.イシサンゴの産卵と幼サンゴの定着状
況- 1994 年の観察より-.マリンパビリオン,24 (5):
26–27.
御崎 洋,1995b.イシサンゴの産卵と幼サンゴの定着状況
- 1995 年の観察より-.マリンパビリオン,24 (11):
62–63.
○
21:00
21:00
21:20
御崎 洋,1989.串本で観察されたイシサンゴの産卵につ
いて.マリンパビリオン,18 (10): 58–59.
御崎 洋,1996.イシサンゴの産卵と幼サンゴの定着状況
- 1996 年の観察より-.マリンパビリオン,25 (12):
80.
△
21:30
21:20
たい.
引用文献
21:10
御崎 洋,1997.イシサンゴの産卵と幼サンゴの定着状況
- 1997 年の観察より-.マリンパビリオン,26 (11):
62–63.
21:30
御崎 洋,1998.イシサンゴの産卵と幼サンゴの定着状況
- 1998 年の観察より-.マリンパビリオン,27 (12):
68.
御崎 洋,2000.イシサンゴの産卵について- 2000 年の観
察結果-.マリンパビリオン,29 (12): 68.
御崎 洋,2001.イシサンゴの産卵について- 2001 年の観
察結果-.マリンパビリオン,30(12): 68–69.
御崎 洋,2003.イシサンゴの産卵について- 2002 年の観
察結果-.マリンパビリオン,32(4): 26–27.
Cyphastrea sp.
Goniastrea aspera
トゲキクメイシ属の一種
パリカメノコキクメイシ
○=産卵が確認された;△=産卵の可能性が高い.
Montipora venosa
コモンサンゴ
御崎 洋,2004.イシサンゴの産卵について- 2003 年の観
察結果-.マリンパビリオン,33(1): 2–3.
エンタクミドリイシ
21:10
観察終了時刻
種名
観察開始時刻
21:00
御崎 洋,1999.イシサンゴの産卵について- 1999 年の観
察結果-.マリンパビリオン,28 (11): 64–65.
Acropora solitaryensis
19:50
20:00
19:50
19:50
20:00
下弦
満月
20:20
20:20
20:00
20:00
20:00
8月7日
7 月 31 日
表 1.鴨池漁港のサンゴの産卵記録.
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
鹿児島湾の造礁サンゴ類の産卵傾向の分析を行い
8月6日
8 月 10 日 8 月 11 日 8 月 12 日 8 月 14 日 8 月 15 日 8 月 16 日 8 月 17 日 8 月 18 日 8 月 19 日
RESEARCH REPORTS
御崎 洋,2005.イシサンゴの産卵について- 2004 年の観
察結果-.マリンパビリオン,34(3): 18–19.
御崎 洋,2006a.イシサンゴの産卵について- 2005 年の
観察結果-.マリンパビリオン,35(1): 2–3.
御崎 洋,2006b.イシサンゴの産卵について- 2006 年の
観察結果-.マリンパビリオン,35(6): 42–43.
Nozawa Y., M. Tokeshi and S. Nojima. 2006. Reproduction and
recruitment of scleractinian corals in a high-latitude coral
community, Amakusa, southwestern Japan. Mar. Biol., 149:
1047–1058.
目崎拓真・林 徹・岩瀬文人・中地シュウ・野澤洋耕・宮
本麻衣・富永基之,2007.高知県大月町西泊における
イ シ サ ン ゴ 類 の 産 卵 パ タ ー ン.Kuroshio Biosphere, 3:
33–47.
田畑道広,2013.低塩分はサンゴの産卵を妨げるか? み
どりいし,24: 34–35.
313
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
314
RESEARCH REPORTS
RESEARCH REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
み ぞ の く ちどうけつ
県指定天然記念物「溝ノ口洞穴」の地質学的特徴
1
大木公彦 ・前田利久
1
2
2
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
〒 897–0221 南九州市川辺町田部田 4150 鹿児島県立川辺高等学校
はじめに
曽於市財部町大塚原にある「溝ノ口洞穴」は,
昭和 30 年 1 月 14 日に鹿児島県の文化財天然記念
物に指定されている.指定にあたり,県文化財保
護審議委員の門田重行氏が調査報告書を作成して
いる.平成 26 年 6 月に「溝ノ口洞穴」の指定地
内において,無許可でスギ林の伐採が行われた.
伐採が行われた地域の一部と搬出のために敷設さ
れた道路が「溝ノ口洞穴」の真上にあたり,天然
記念物の保存に影響を及ぼす可能性のあることか
ら,平成 26 年 7 月 4 日に現地調査を行った.本
論文では,文化財保護の視点から「溝ノ口洞穴」
の地形地質学的考察を行ったので報告する.
なお,「溝ノ口洞穴」指定地内のスギ林の伐採
は曽於市のご尽力によって解決し,市が私有地の
一部を購入して「溝ノ口洞穴」周辺の整備が進め
られている.
作っている(鹿児島県地質図編集委員会,1990).
都城盆地を流れる庄内川は,鹿児島県との県境の
関之尾町において甌穴で有名な関之尾滝をつくっ
ている.この関之尾滝より西方では支流が発達し,
北から千足川(せたらしがわ),大塚川,溝ノ口川,
倉掛川が西から東へ流れている.千足川と溝ノ口
川はさらに枝分かれして複数の支流を持つ.ほぼ
東西方向に流れる溝ノ口川は,上流の大川原峡(お
おかわらきょう)より西方で複数の支流に分かれ
ている.
この地域の基盤は,中生代白亜紀の四万十累
層群であるが,「溝ノ口洞穴」のある曽於市東部
の丘陵地では,後述の入戸火砕流堆積物に覆われ
てほとんど露出しない(鹿児島県地質図編集委員
会,1990). 溝 ノ 口 川 の 源 流 地 域 に 分 布 す る
四万十累層群の地質は,おもに砂岩,頁岩および
その互層からなるが,塩基性岩類を含む海底地す
べり堆積物,塩基性岩類も厚く分布して複雑であ
「溝ノ口洞穴」周辺地域の地形・地質の概説
「溝ノ口洞穴」は鹿児島県北東部,宮崎県との
県境近くにあり,この地域から北西の方向に霧島
連山を望むことができる.曽於市と霧島市の境界
付近は四万十累層群が形作る山地がほぼ南北に連
なり,その谷部と低地を埋めるように入戸火砕流
堆積物が広く分布し,いわゆるシラス台地を形
Oki, K. and T. Maeda. 2015. Geological characteristics of the
Prefectural natural treasure “Mizonokuchi Cave” in Soh
City, Kagoshima. Nature of Kagoshima 41: 315–318.
KO: The Kagoshima University Museum, 1–21–30
Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: okiki@vel.
bbiq.jp).
図 1.「溝ノ口洞穴」付近の地形(国土地理院標準地図,
25000 分の 1).
315
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
RESEARCH REPORTS
図 2.「溝ノ口洞穴」入口(洞穴部:非溶結;天井:溶結).
図 3.ローム層(下部)・入戸火砕流の降下軽石層(中部の
苔むした部分)と非溶結部(上部).
る.本層群には褶曲が発達し,複雑な地塊断層で
西 — 東南東の方向から北西 — 南東へ屈曲するあ
限られている.
たりの左岸(北方)の地下に位置すると考えられ,
溝ノ口川の中流から下流域には,火砕流堆積
この付近の地表にはほぼ南北の短い沢が存在す
物が広く分布している.沢村(1956)は関之尾か
る.「溝ノ口洞穴」を穿った水は,この短い沢あ
ら上流の溝ノ口川の河床は入戸火砕流の溶結凝灰
たりから浸透する地下水がもっとも関与している
岩の浸食面と報告したが,鹿児島県地質図編集委
と考えられる.
員会(1990)の地質図では加久藤火砕流の溶結凝
「溝ノ口洞穴」は,西へ 23° 前後傾斜した入戸
灰岩とされている.その後,井村ほか(2010)は
火砕流堆積物の溶結部より下位の非溶結部が浸食
関之尾滝周辺地域の火砕流堆積物を調査し,関之
され,形成されている(図 2).洞穴入口の東斜
尾滝の溶結凝灰岩,曽於市の大川原峡,桐原の滝,
面には西へ約 30° 傾斜した浸食面を持つ風化した
三連轟をつくる溶結凝灰岩は加久藤火砕流,「溝
火山砕屑物(ローム層)が露出している(図 3).
ノ口洞穴」をつくる弱溶結の火砕流堆積物は入戸
このローム層は風化が著しく,粘土質で肌色から
火砕流であることを報告した.しかし,溝ノ口川
褐色を呈し,堆積当時の層相は失われている.こ
の河床の一部が加久藤火砕流の溶結凝灰岩でない
のローム層を不整合に入戸火砕流堆積物が覆って
可能性もあり,今後の調査が待たれる.
いる.洞穴入口における計測から,入戸火砕流堆
「溝ノ口洞穴」の地質とその特徴
積物は下位から層厚が約 1 m の降下軽石層(大隅
降下軽石),約 6 m の非溶結部,約 3.5 m の溶結
「溝ノ口洞穴」は,財部町溝ノ口からほぼ北西
部からなる(図 2;ポールの長さは 2 m).溶結部
へ遡る,溝ノ口川の枝沢の奥部にある(図 1).
は西側の低い部分ほど溶結度が高く,東側の高い
鹿児島県教育委員会(2002)は門田(1955)の文
部分へ向かって溶結度は弱くなる.ちなみに洞穴
化財調査報告書をほぼ踏襲し,「溝ノ口洞穴」は
入口の床から天井までの高さは約 3 m である.一
入口の広さ 13.8 m,高さ 8.6 m,全長 224 m の大
般に,入戸火砕流堆積物には,堆積直後にガスや
規模な洞穴で,入口から 60 m 付近までは北 40°
水蒸気が堆積物中を上方へ抜けた「吹き抜けパイ
西方向,そこから 120 m 付近までは北方向,さら
プ」が多く認められる.「溝ノ口洞穴」は,天井
に 170 m 付近までは西方向,その後北 40° 西方向
が溶結凝灰岩であるため,この「吹き抜けパイプ」
に延びると報告している.この記述から洞穴は溝
の横断面が数多く保存され,観察することができ
ノ口の枝沢にほぼ平行して,左岸側の地下に存在
る.
していることが地形図から推測される.また,全
長 224 m の洞穴の最奥部は,枝沢が上流側の西北
316
火砕流堆積物の堆積様式は大木・早坂(1973)
に詳しく述べられている.彼らは鹿児島県下の火
RESEARCH REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
図 5.夏井海岸で見られる入戸火砕流の溶結凝灰岩の下位
にある降下軽石層が波で浸食されて形作られた海蝕洞.
図 4.火砕流の堆積様式と地形の関係模式図(大木・早坂,
1973).
古い谷の表面は上述のローム層の浸食面に相当す
る.この谷を境にして,入戸火砕流堆積物はほぼ
対称の岩相を示し,古い谷の左岸(東)側では西
傾斜,右岸(西)側では東傾斜である.「溝ノ口
砕流堆積物について地質調査,ボーリングコア等
洞穴」が形作られたのはこの谷の左岸(東)側で
を調べ,火砕流堆積物が堆積する前の谷部におい
あるため,地層は西へ傾斜している.つまり,約
て層厚が大きく,熱がこもって溶結するケースが
29,000 年前に入戸火砕流がこの古い谷を埋めた直
多いこと,溶結作用によって層厚が減少するため
後には,(大隅)降下軽石層が古い谷の斜面をほ
に旧谷部の位置において火砕流堆積物の表面が周
ぼ同じ厚さで覆い,その後,入戸火砕流堆積物本
辺に比べて著しく下がり,雨水が集まって火砕流
体が谷部を埋めたと考えられ,その上面はほぼ平
堆積物を浸食するため,同じ位置に再び谷が発達
坦であったはずである.上述のように,火砕流堆
することを報告した.言い換えれば,火砕流堆積
積物は谷部で厚いため,谷部の部分の熱が下がら
物の堆積前の谷とほぼ同じ位置に,堆積後も谷が
ずに溶結し,古い谷に直交する断面でみると V
できることになる(図 4).規模は小さいが「溝
字形の溶結凝灰岩が形成される.「溝ノ口洞穴」
ノ口洞穴」と同様な洞穴は志布志市夏井の海岸で
の天井を形作る溶結凝灰岩が右上(V 字形の東翼)
観ることができる.しかし夏井海岸では溶結凝灰
では非溶結になっていることからわかるように,
岩と降下軽石層の間の非溶結部は極めて薄く,溶
古い谷部から離れるほど火砕流堆積物の厚さは減
結凝灰岩直下の(大隅)降下軽石層がおもに波で
少し,溶結度は低くなる.約 29,000 年前に火砕
浸食され,洞穴が穿たれている(図 5).一般に
流が堆積した直後は,溶結部の上には厚く非溶結
平坦な旧地形に火砕流堆積物が堆積した場合,下
部が重なり,その上面は,現在の北方の台地面(海
部は基盤岩(層)へ熱を奪われ,上部は大気中へ
抜高度約 290 m)に近く,その後の浸食によって
熱が放出されて非溶結になり,中部のみが熱がこ
現在のような溝ノ口川の枝沢が形成されたと考え
もって溶結する場合が多い.いわゆるサンドイッ
られる.ちなみに,「溝ノ口洞穴」の海抜高度が
チ構造を示す.
約 230 m,北方の台地面の海抜高度が約 290 m で
大木・早坂(1973)の示した火砕流堆積物の
あることから,溶結凝灰岩より上位の非溶結部が
堆積様式や現在の地形等を考え合わせると,「溝
浸食される前の厚さは,「溝ノ口洞穴」地点で 60
ノ口洞穴」の西側にある枝沢の地下に,入戸火砕
m になるが,谷部の溶結作用による圧密を考慮す
流が堆積する前の谷が存在することになる.この
れば 60 m より薄かったはずである.
317
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
「溝ノ口洞穴」の文化財的価値
鹿児島県では入戸火砕流堆積物の最下部に発
達する洞穴(パイピング)を良く見るが,その多
くは湧水(地下水)によるもので,その小さなパ
イプ状の水路が集中豪雨によって 1 m をこえる洞
穴へ成長することがある(大木,1994;下川ほか,
1995).これらの洞穴は非溶結の入戸火砕流堆積
物(いわゆるシラス)が穿たれているため,洞穴
の天井が崩落して洞穴の奥は埋もれて見えないこ
とが多い.大木(1994)は,鹿児島市を襲った
1993 年の集中豪雨によって入口の高さが約 3 m,
中が畳 10 畳ほどの広さを持つ洞穴や入口の高さ
が 10 m をこえる洞穴を報告している.下川ほか
(1995)も,同年の集中豪雨によって鹿児島市東
佐多町(旧鹿児島郡吉田町)において湧水孔を確
認し,大きいもので 3 m をこえると報告している.
このように湧水によって非溶結の入戸火砕流堆積
物に穿たれた自然洞窟には,鹿屋市高隈の「観音
淵」,日置市吹上町の「黒川洞穴」がある.しかし,
穿たれた洞穴の天井部分が溶結凝灰岩である例は
極めて少ない.規模の大きい溶結凝灰岩の天井を
持つ洞穴の例として,前述の志布志市夏井海岸が
挙げられる.夏井海岸では海に向かって傾斜した
旧地形に沿って降下軽石層(大隅)が堆積し,そ
れを覆う入戸火砕流堆積物の最下部の溶結凝灰岩
が海側へ傾斜している.溶結度は,高度の低い海
側で高く,高度が高くなる陸側へ向かって低く
なっている.この堆積様式は「溝ノ口洞穴」と同
じであるが,ここでは波によって溶結凝灰岩より
下位の降下軽石層が浸食され,高さ数メートルの
トンネル状の洞穴が穿たれている.ちなみに,こ
の洞穴のある夏井海岸は,平成 24 年に「夏井海
岸の火砕流堆積物」として国の天然記念物に指定
された.
「溝ノ口洞穴」は旧谷部を埋める入戸火砕流堆
積物の中部(サンドイッチ構造の真ん中)にあた
318
RESEARCH REPORTS
る溶結凝灰岩が天井を形成し,下位の非溶結部が
浸食されて規模の大きい洞穴を残している.この
ため,広い面積を持つ溶結凝灰岩の天井には,堆
積直後の「吹き抜けパイプ」が数多く保存され,
観察することができる.このような例は他になく,
極めて重要である.さらに,旧地形と入戸火砕流
堆積物の溶結作用の関係,堆積後の浸食作用によ
る枝沢の発達過程等を理解することのできる貴重
な地質学的教材である.また,縄文時代の生活跡,
洞穴と洞穴の入口に鎮座する岩穴観音へ奉納され
る奴踊りや棒踊りも含めて,文化財としての価値
は高い.
謝辞
曽於市教育委員会社会教育課文化財係主幹兼
文化財係長の清水周作氏,文化財専門員主事の橋
口拓也氏には現地調査の折に貴重なご意見を賜っ
た.深く感謝の意を表する.
引用文献
井村隆介・赤崎広志・松田清孝,2010.宮崎県都城市関之
尾付近に分布する火砕流堆積物について.宮崎県総合
博物館研究紀要,30, 83–87.
鹿児島県教育委員会,2002.かごしま文化財事典.渕上印
刷株式会社,312 pp.
鹿児島県地質図編集委員会,1990.鹿児島県の地質.徳田
屋書店,117 pp.
門 田 重 行,1955. 溝 ノ 口 洞 穴. 鹿 児 島 県 文 化 財 報 告 書,
20–30.
大木公彦・早坂祥三,1973.鹿児島県下における火砕流堆
積物の堆積様式の一考察.鹿児島大学理学部紀要(地学,
生物学),(5–6),7–17.
大木公彦,1994.8・6 豪雨災害と鹿児島市の地質.1993 年
豪雨災害鹿児島大学調査研究会「1993 年鹿児島豪雨災
害の総合的調査研究」報告書,61–73.
沢村孝之助,1956.5 万分の 1 地質図幅「国分」および同説
明書.地質調査所,19 pp.
下川悦郎・地頭薗隆・加藤昭一・岩元賢司,1995.しらす
谷における鉄砲水発生の地質・地形的背景.1993 年豪
雨災害鹿児島大学調査研究会「1993 年鹿児島豪雨災害
の総合的調査研究」報告書第 2 集,81–87.
PHOTOGRAPHY
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
▲オビトカゲモドキ Goniurosaurus splendens
撮影場所:鹿児島県大島郡徳之島町三京
撮影者 :藤田宏之
撮影日 :2014 年 10 月 23 日
解説 :本種はクロイワトカゲモドキの亜種でしたが昨年独立種となり、徳之島固有種となりました.
▲キアシシギ Tringa brevipes
撮影場所:鹿児島県大島郡和泊町
撮影者 :中村麻理子
撮影日 :2009 年 4 月 28 日
解説 :沖永良部島の海岸で休息する渡り鳥のキアシシギ.
319
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
Nature of Kagoshima 41: 320–323
鹿児島県昆虫同好会
INFORMATION
(3)千貫平でオオウラギンヒョウモン採集
2014 年 7 月 18 日に鹿児島市千貫平にて浜田孝
子さんが採集したオオウラギンヒョウモンは,千
2014 年,日本鱗翅学会大会が鹿児島大学で開
貫平での採集記録が残る 1956 年から一度も採集
催され,本会も中心となって運営にあたりました.
されていないものであった.以前は身近にたくさ
全国からの客人を
ん見られた本種が全国的にも絶滅危惧種として取
迎 え て「 鹿 児 島 ら し
り扱われる中,このような場所で発見できるとい
さ」をアピールしな
うことは,今後の分布調査にも大きく影響を与え
がら交流を深めると
るものであった.
い う テ ー マ の も と,
(4)ハヤシミドリシジミ,アイノミドリシジミの
ポスターによる一般
鹿児島の記録再確認
講演など独特の運営
各種図鑑において,鹿児島県産は南限記録とし
を 行 い, 大 成 功 を 収
て不確実とされることの多かった両種だが,九州
めることができまし
大学の標本を確認し,あるいは過去の採集者から
た. 今 後 も 鹿 児 島 か
直接話を聞くなどして確かに分布していたことが
ら全国を見据えた活動ができると,会員の意識も
再確認された.なぜいなくなったのか,それとも
高まると考えています.
本当にもういないのか,など夢が膨らむ調査対象
以下,鹿昆の 2014 年を振り返りながらまとめ
ます.
となるであろう.
(5)口之島でニシキリギリス確認
屋久島・奄美大島で記録されているニシキリギ
1.鹿昆 10 大ニュース
リスだが,その他の島嶼では沖縄島まで記録がな
鹿児島の虫の状況を概観するために例年まとめ
かった.2014 年 8 月 23 日,守山泰司氏は県立博
ている 10 大ニュースは,以下の通りでした.
物館の協力調査中に口之島南西部の牧場脇道路に
(1)鱗翅学会鹿児島大会開催
て複数のニシキリギリスを確認し,1 ペアを採集
日本鱗翅学会鹿児島大会が 2014 年 10 月 25 日
された.今後の島嶼における本種の分布調査に,
~ 26 日に行われた.県内外から約 150 人もの参
大きな影響を与える発見であった.
加があり,特に大会前後に鹿児島のフィールドを
堪能された参加者も多く,大成功に終わった.
(2)シータテハ成虫採集
(6)ゲンゴロウ採れなかった
レッドリスト改定,レッドデータブック改定に
向けて県内を精力的に調査したが,発見できな
2014 年 3 月 15 日,伊佐市大口奥十曾にて松元
かったようだ.
環大君が採集したシータテハはこの地の初記録,
(7)栗野岳のウスイロオナガシジミが採れなかった
並びに県内成虫の記録としても,1963 年高千穂
2010 年 7 月 9 日に 1 頭目撃されて以来,発見
河原以来であった.今後の県内での分布調査が望
できない本種だが,2014 年も複数回行った調査
まれる.
会で発見できなかった.
(8)オキナワスジボタルが鹿児島市南部にも侵入
した
南 西 諸 島 に 生 息 し,1995 年 頃 か ら 指 宿 市,
2010 年頃から鹿屋市,鹿児島市谷山南部で発生
が確認されている本種だが,2014 年には一般の
シータテハ.
オオウラギンヒョウモン.
方から谷山の別の地域でも発生しているとの情報
が寄せられた.至急分布調査を必要としている.
320
INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
マスコミなども問題にするほどであった.数年に
一度このような大発生が見られるが,冬季の越冬
個体の増減など複雑な要因が絡んでいるらしい.
・ヒメボタルのメスが発見できなかった
成虫の多く飛ぶ地域でオスを追いかけたが,メ
オキナワスジボタル(左:成虫,右:幼虫).
スを発見できなかった.探し方,探索場所など検
討を加え,2015 年には発見したい.
・今年の迷蝶
(9)クロボシセセリが伊敷ニュータウンで発生
○ クロマダラソテツシジミが増えなかった.新芽
2013 年に伊敷ニュータウン:山下秋厚氏の自
が飛来時期に少なかった.
宅にて成虫の飛来が確認されたが,2014 年は庭
○ メスアカムラサキが多かった.近年少なかった
のカンノンチクにて幼虫が発生していることが確
ので,特に多く感じられた.
認された.
○ ルリウラナミシジミが今年も発生.南薩のみな
(10)キオビエダシャクが減少した
らず鹿児島市皇徳寺,城山への飛来も確認された.
2013 年夏の乾燥以来すっかり姿を見なかった
○ タッパンルリシジミが九州内で多かった.
キオビエダシャクは,2014 年春に目撃した情報
○ カバマダラが少なかった.2013 年,3 年ぶりに
が得られなかった.県本土での 2 度目の消滅かと
県本土での発生が確認されたカバマダラだが,
思われたが,夏頃から目撃記録が寄せられ,南薩・
2014 年は各地で成虫の記録も少なく,わずかに
北薩・大隅と広い範囲で 2014 年にも,少ないな
卵や幼虫が見られる程度であった.
がらも記録された.
○ ウスキシロチョウが少なかった.
○ ホシボシキチョウが今年も来た.
(番外)
・クマゼミの発生が後ろにずれた.
出始めも遅く,終わりも遅い(10 月 29 日:山
下秋厚氏終鳴記録)
・アサギマダラの秋の集結地が多く発見された.
佐多岬大泊林道や鷲尾岳南麓などに 10 月下旬
アサギマダラが多く見られると,鱗翅学会に参加
メスアカムラサキ(撮影:
木佐貫彰氏).
ルリウラナミシジミ(撮影:
熊谷信晴氏).
された方々から情報が寄せられた.
・キョウチクトウスズメが来ない
2.大会
例年いつの間にか飛来し,街路樹のキョウチク
2014 年 11 月 22 日に,武田上公民館にて大会
トウを食害している本種だが,2014 年は未発表
を行いました.参加者数 44 人.鹿児島県のハン
記録 1 例しか確認できていない.
ミョウ科の記録をとりまとめた功績で,鹿昆大賞
・日照不足で採集に行けなかった
を受賞された榎戸良裕氏(神奈川県在住)も参加
雨 が 少 な く 乾 燥 著 し か っ た 2013 年 に 比 べ,
され,身近な記録を取ることの大切さを皆で再認
2014 年の夏は梅雨のように雨が多く,採集に行
識することができた大会でもあり,大盛況でした.
くことができない日が多かった.また昆虫も発生
講演は全 10 題,国分高校サイエンス部昆虫班
がまとまらず,不調な結果であった.
による大隅諸島のノコギリクワガタに関する研究
・カメムシ類(特にツヤアオカメムシ)が多かっ
や,中峯浩司氏による「柏原海岸におけるイカリ
た.
モンハンミョウの個体群胴体とその生態」,福田
2014 年秋には街灯にカメムシが大量飛来し,
晴夫氏による「鹿児島県のクロシジミ」などがあ
321
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
INFORMATION
り,多彩な話題と発表者に盛会でした.
3.例会
月例会は 8 回行われました.
昆虫採集・調査の普及活動について(中峯敦子)
5.メーリングリスト(鹿昆 ML)
会員により投稿され,登録者全員に配信され
や,鹿児島市城山でのヤスデ駆除剤の影響(金井
ています.ここでは会務連絡の他,身近な昆虫の
賢一)などの話題提供がありました.例会での話
話題を共有しています.例年懸案だった ML に投
題提供者が,近年少なくなっている傾向があり,
稿したことで満足していまい,記録として執筆し,
今後の問題です.会誌 SATSUMA の発行と共に,
SATSUMA に投稿することを忘れてしまいがちで
例会は鹿昆の活動を進めていく両輪の 1 つでもあ
あるという欠点も,2014 年はいくらか改善され
ります.例会に参加して「へぇ~」という発見や,
てきました.しかし,今後もこれは課題です.
仲間の活動を聞いて自分の活動をさらに進めるヒ
ントをもらうなど,会員個人個人の活動をより良
6.HP
いものにしていくためにも,例会の質と内容は大
鹿昆では HP を作成しています.下記のアドレ
きな意味を持っていますので,今後も充実させて
スか,検索サイトで「鹿児島昆虫同好会」をキー
いく必要があります.
ワードに検索してください.
http://www.synapse.ne.jp/~viola-kk/
4.会誌・連絡誌発行
会員外の方も例会に参加して頂けるように,案
会誌 SATSUMA は年 2 回発行しました.151 号
内などを掲載しております.現在過去の「高等学
は 130 ページ,152 号は 102 ページと,コンスタ
校生物部部誌」を pdf 化し,掲載することを計画
ントに原稿を集めて発行できています.内容も本
しております.1980 年代まで盛んだった県内に
会のモットーである「身近な昆虫の記録を残して
見られた高等学校の生物部部誌は,ほとんどが現
いく」に基づき,クロマダラソテツシジミの発生,
在入手することができません.しかし,地域に根
少なくなったキオビエダシャクの状況,2013 年
ざした貴重な記録が眠っていることもあり,これ
に大量飛来したギンヤンマの状況とりまとめ,
を公開していくことは鹿児島県全体にとっても意
2013 年に鹿児島県に侵入したトガリアメンボの
味があることだと思います.
分布状況など,多彩な内容を記録することができ
ました.
会誌は会員外にも 1 冊 1,500 円で販売しており
7.調査会・採集会
アサギマダラマーキング会(千貫平)
,ウスイ
ます.購入は庶務幹事の金井まで申し込まれるか,
ロオナガシジミの調査会(湧水町),灯火採集会(紫
ウェブで昆虫書籍を扱う「六本脚」「南陽堂」を
尾山山頂)など実施しました.昆虫採集・調査は
検索し,注文してください.
個人的に少数で行うのが通常ですが,会員の親睦
連絡誌アルボは,年 4 回発行されました.会
を深めたり,分布一斉調査や植樹など大きな活動
務連絡の他,随想や行事案内など,会員間での情
をしたりする際には,このような調査会の果たす
報交換・情報共有に使用されています.
役割が大きくなります.何より,多くの会員が「楽
322
INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
しい」と感じることができる行事は,会の活動を
Nature of Kagoshima 41: 323–325
活発にしていくためにも必要不可欠です.
鹿児島大学総合研究博物館
8.2015 年の活動計画
総合研究博物館では,鹿児島大学内の貴重な
会誌 SATSUMA は例年に比較して 1 回多く出
学術資料を一元的に整理・登録・管理し,研究や
版します.これは鹿児島市の「鹿児島市生物多様
教育に効果的に利用するとともに,展示を通して
性地域戦略」に基づく「平成 26 年度鹿児島市生
広く一般社会へ情報を発信しています.
物多様性地域戦略推進事業」に採用されたもので,
現在,常設展示室では鹿児島大学の歴史にか
鹿児島市の過去から現在までのチョウ・トンボの
かわる考古学資料・教育研究史,鹿児島の自然史
記録をとりまとめたものです.これにより鹿児島
にかかわる化石・鉱石資料を中心に展示を行って
市で何が変わってきたのか,現在はどうなのか,
おり,観覧は学内外に関係なく自由に利用できる
ということを俯瞰することができ,今後の研究計
生涯施設としての役割も担っております.
画 を 明 確 化 す る こ と も で き ま す. こ の
SATSUMA153 号は 2015 年 3 月 26 日発行しまし
2014 年の活動報告
た.他に 7 月,11 月にそれぞれ発行します.
■ 第 19 回研究交流会
大会は 2015 年 11 月 21 日(土)に行い,例会
鹿児島県内でみられる地震の痕跡 − 火山噴火と
も年 8 回計画しております.例会や大会は会員外
連動して発生した大地震 − 5 月 24 日 寒川 旭(産
もお気軽に参加できますので,場所や時間など詳
業技術総合研究所)・成尾英仁(鹿児島県立武岡
細は庶務幹事:金井までお問い合わせ頂くか,
台高等学校)
HP にてご確認ください.
遺跡に刻まれた地震の痕跡を研究する「地震考
本会には小学生から教師,主婦,学者さんな
古学」の立場から地震活動の歴史を学び,近い将
ど多様な会員が集まり,和やかに参加しています.
来、鹿児島県内にも大きな影響を与えられると言
会員の楽しみ方はそれぞれです.採集して標本に
われている南海トラフから発生する巨大地震の周
することを楽しむ会員もいれば,写真に残すこと
を目的とする会員,そして実験観察や調査により
新しい知見を得る会員,それを記録として発表す
ることに充実感を得る会員もいます.どの会員も
その価値を認め合い,情報を共有しあうことで高
めあっています.これらを通して,共通の目標:
鹿児島の昆虫を知ろうと活動を重ねています.こ
れらは生物多様性の維持や保全,レッドデータ
ブック改訂に向けての情報蓄積など,広く貢献す
るでしょう.しかし一番大切なことは,個人の持
つ好奇心を満足させる探求心です.調査の精度は
個人差がありますが,多方面から調べて充実した
情報へと育てていくこと,それが最終的に「鹿児
島の自然を解明していくこと」につながると思い
ます.
(金井賢一 〒 892–0853 鹿児島市城山町 1–1
鹿 児 島 県 立 博 物 館 E-mail: viola-kk@po.synapse.
ne.jp)
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
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期活動について講話を聞きました.
■ 第 26 回市民講座
■ 第 14 回公開講座
ダイオウイカ、奇跡の遭遇 − トワイライトゾー
端縫い − 境界を接ぐ − 6 月 7 日 佐治ゆかり(郡
ンの海 − 7 月 5 日 窪寺恒己 ( 国立科学博物館 )
山市立美術館館長)
「世界初撮影!深海の巨大イカ」とマスコミで放
少し前まで,日本人の暮らしの中に見られてい
映されたダイオウイカの調査と撮影に参加した研
た小裂を継いだり,継ぎ合わせた衣服や袋物な
究者にこのプロジェクトの実態について紹介して
どにうかがえる日本人の世界観や日本文化におけ
いただきました.
る布の存在と心意についてともに考えました.
■ 第 14 回特別展
現代によみがえる生き物たち − 種子島にゾウが
いた頃 —(巡回展)
8 月 25 日 − 8 月 30 日鹿児島大学中央図書館,9
月 4 日 − 9 月 15 鹿児島県立博物館,9 月 16 日 −
10 月 25 日種子島総合開発センタ −「鉄砲館」
種子島西之表市住吉,形之山から産出したゾウ
やイシカワガエル,魚類,植物など極めて保存の
良い化石を多数展示し,更新世の種子島と周辺海
域の現代とは異なる古環境を再現しました.形之
山の化石群が本土で公開されるのはこれが初めて
です.
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INFORMATION
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
■ 第 14 回自然体験ツアー 火の前兆がわかるのかどうか,巨大噴火に先駆け
火砕流堆積物観察会 巨大噴火の謎を解く 12 月
て噴火した噴出物を観察して参加者とともにに考
21 日 鹿野和彦・内村公大(鹿児島大学総合研究
えました.
博物館)
約 3 万年前に起こった巨大噴火とその証拠とな
( 福 元 し げ 子 〒 890–0065 鹿 児 島 市 郡 元
る湾の周囲に堆積したシラス.ツアーでは,大き
1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館 Tel: 099–
なシラス採掘場を訪ねてシラスの内部と広がりを
285–7257; fax: 099–285–7267)
観察しました.また,今話題になっている巨大噴
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
BUSINESS REPORTS
Nature of Kagoshima 41: 326–328
■会費の納入方法
鹿児島県自然環境保全協会 2014 年度会記
同封のゆうちょ銀行振込用紙通信欄に必要事項
を記入の上,会費を納入して下さい.また,下記
■会誌「Nature of Kagoshima」
の口座に直接入金されても結構です.
1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会(現 個人会員―会費 1,000 円.会誌 1 冊を受け取れ
鹿児島県自然環境保全協会)は,1975 年から年
ます.また,会誌に投稿することができます.
会誌「自然愛護」を発行してきました.2007 年 3
団体会員 ― 会費 4,000 円.会誌 4 冊を受け取
月に発行された「自然愛護 33」が最終号となり,
れます.また,会誌に活動記録や宣伝を投稿する
2007 年度から「自然愛護」を引き継ぐかたちで
ことができます.
「Nature of Kagoshima( 別 名: カ ゴ シ マ ネ イ
賛 助 会 員 ― 会 費 10,000 円( 個 人 ),50,000–
チャー)」を発行しています.
100,000 円(団体・企業等).本協会の活動趣旨に
「Nature of Kagoshima」は,「自然愛護」と同様
賛同する個人および団体.会誌に論文や活動報告
に白黒印刷で冊子体が発行されます.しかし前者
を投稿することができます.団体・企業の会員は
ではフルカラーのオンラインバージョン(PDF)
さらに,会誌に 1 頁(100,000 円)あるいは半頁
も同時に発行しています.本協会のホームページ
(50,000 円)の宣伝を掲載することもできます.
から会誌を閲覧あるいはダウンロードすることが
さらに,それぞれ 50 冊と 25 冊の会誌を受け取れ
できます.
ます.
協会 HP:http://www.kagoshima-nature.org/
ゆうちょ銀行振替口座:01750–1–127639
加入者名:鹿児島県自然環境保全協会
■会誌バックナンバーの購入
会誌「自然愛護」のバックナンバーは,鹿児島
ゆうちょ銀行以外の全国の銀行から振り込む場合
市都通り電停近くの「あづさ書店西駅店」にて販
ゆうちょ銀行 179 店(当座)
:口座番号 0127639
売しております.各号 520–730 円.21 号以前は
加入者名:カゴシマケンシゼンカンキョウホゼ
品切れのため,複写となります.これまでのタイ
ンキョウカイ
トルは下記の「あづさ書店西駅店」HP(http://
www4.synapse.ne.jp/nishiekiten/) に 掲 載 さ れ て い
会費は前納制です.本誌に同封されている振込
ます.
み用紙に記載されている金額をご入金下さい.当
会誌「Nature of Kagoshima」のバックナンバー
協会の運営は皆様の会費により成り立っておりま
は,鹿児島大学郡元キャンパス生協と事務局にて
す.会費の納入をよろしくお願い致します.
販売しております.最新号は 1,000 円,バックナ
ンバーは 500 円で購入可能です.
■入会案内
当協会に入会を希望する方は,協会ホームペー
■電子メールアドレス登録のお願い
ジ(http://www.kagoshima-nature.org/)で入会登録
当協会からの助成金や原稿募集,その他自然に
を行って下さい.インターネットにアクセスでき
関する情報の案内は,通常電子メールで行います.
ない方は,以下の情報を記入したハガキあるいは
会員のみなさまは電子メールアドレスの登録をお
ファックスを事務局にお送り下さい.
願いします.事務局に「氏名」を書いたメールを
送って下されば登録致します.
事務局 E-mail: funakoshi@int.iuk.ac.jp
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①氏名
②住所
③所属
④電話番号
⑤ファックス番号 ⑥会員区分(個人・団体・賛助)
BUSINESS REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
⑦専門または関心のある分野
理事:大木公彦(組織担当)
※① , ② , ④ , ⑥は必修記入事項
理事:船越公威(行事担当)
事務局:〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30
理事:本村浩之(編集担当)
鹿児島大学総合研究博物館内
理事:原崎 森(web 担当)
鹿児島県自然環境保全協会事務局
理事:黒江修一(会計担当)
理事:藤枝 繁(事務局長)
■会員(2015 年 3 月 31 日現在)
監査:内村公大・東 政能
個人会員(167 名)
2014 年度の新規会員 10 名:安藤ゆきの・稲葉
■原稿募集のお知らせ
智樹・大澤洋太・金出侑佳・小枝圭太・田中 章・
「Nature of Kagoshima, vol. 42」の原稿を募集い
中江雅典・橋口昭彦・日比野友亮・吉浦 藍(敬
たします.下記の投稿規定にしたがって原稿を作
称略).
成し,編集部にメールか CD でお送り下さい.締
2014 年度の退会会員 4 名:西井上剛資・東 良幸・
切りは 2016 年 3 月 1 日(必着)です.団体会員
前田拓哉・水久保孝英(敬称略).
のみなさまも 2015 年度の活動報告などを積極的
継続個人会員の名簿は「Nature of Kagoshima,
にご投稿下さい.
vols. 35–40」に掲載されています.
■表紙写真の募集
団体会員(20 団体)
Nature of Kagoshima は,毎年会誌の表紙写真が
大隅照葉樹原生林の会,カエルプロジェクト,鹿
替わります.鹿児島の自然や生物の写真で,表紙
児島県環境技術協会,鹿児島昆虫同好会,鹿児島
を飾るにふさわしいカラー写真を募集致します.
植物同好会,鹿児島県地学会,鹿児島県天文研究
表紙用の写真は,JPEG か TIF 形式で保存した高
会,鹿児島県野生動物研究会,鹿児島大学総合研
解像度のデジタル写真に,400 字程度の解説を付
究博物館,環境省屋久島自然保護官事務所,環境
けて,2016 年 3 月 31 日までに事務局にお送り下
教育 NPO 法人くすの木自然館,クリーンアップ
さい.複数の応募があった場合,事務局で掲載の
かごしま事務局,公益財団法人鹿児島市水族館公
可否を決定致します.
社,斯文堂㈱,ダイビングサービス海案内,つぎ
はぎの詩,南方新社,NPO 水といのちの鹿児島,
■投稿規定
屋久島ダイビングサービス「もりとうみ」
(五十
鹿児島県の生物や自然に関することを,以下の
音順)
カテゴリーに投稿することができます.
1.研究論文(Research Articles):研究成果を論
賛助団体会員(7 団体)
文として投稿できます.英文の Abstract を加える
㈱いであ
ことも可能です.
㈱ NTC コンサルタンツ
2.研究報告(Research Reports):感想や体験談
㈱九州開発エンジニアリング
を交えた研究や調査の成果を報告文として投稿で
㈱建設環境研究所
きます.
㈱新和技術コンサルタント
3.エッセイ(Essays):旅行記や体験記,自然に
㈱内外エンジニアリング
関する思想や政策など,研究成果以外の記事を投
㈱丸建技術 (五十音順)
稿できます.
4.Wildlife & Nature Photographs(Photography)
:
■鹿児島県自然環境保全協会 2014 年度役員
年度内に撮影された写真とその解説文(400 字以
会長:鮫島正道
内)を投稿できます.無料でカラー印刷されます.
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Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
本文や引用文献の体裁は自由ですが,Nature of
Kagoshima の最新巻を参考に,以下の点に留意し
て原稿の作成・投稿を行って下さい.
BUSINESS REPORTS
ください.
⑨各論文の PDF はフルカラーですが,印刷は
原則白黒です.しかし,著者負担でカラー印刷も
できますので,投稿時にカラー印刷を希望する図
①数字や英語はすべて半角で入力して下さい.
や写真をご指示下さい.カラー印刷 1 ページで 3
②カッコは原則全角 ”()” を使用して下さい.
万円,隣接する 2 ページで 5 万円です.3 ページ
カッコの前(あるいは後ろ)とカッコの中が半角
以上をカラー印刷希望の著者は編集部にご連絡下
英数の場合のみ半角のカッコ ”()” を使用して下さ
さい.現在,カラー印刷費の半額を協会が援助し
い.例:本村(2013),Motomura (2013).
ています.
③数字で範囲を示す場合はハイフン(-)では
なく n-dash(–)を使用して下さい.引用文献の
■別刷り
頁 範 囲 な ど も n-dash で す. 例: ○ 2 月 2–4 日;
研究論文や総説を投稿した個人会員には,各論
× 2 月 2-4 日;× 2 月 2 ~ 4 日.
文の PDF 別刷り(カラー)を無料でお送りします.
④文章は MS Word あるいは一太郎で作成し,
紙に印刷された別刷り(白黒印刷・カラー印刷)
表は別ファイルで上記ソフトか MS Excel を使用
は論文の頁数に関わらず,50 部単位で以下の金
して作製して下さい.
額で購入することが可能です.印刷別刷りは 1 部
⑤図や写真は高解像度の JPEG か TIF(最低で
毎に論文タイトルと著者名が印刷された表紙が付
も 300 dpi,幅 10 cm 程度)で保存し,文章ファ
きます.購入希望者は,原稿の投稿時に編集部へ
イルには組み込まずに,個別に送付して下さい.
ご連絡下さい.なお,会誌出版後の別刷りの注文
⑥本文は原則日本語です.著者の氏名,住所・
(追加注文を含む)はできません.
所属,論文タイトルは,日本語と英語の両方を記
別刷りは,私費,公費のどちらでも購入が可能
入して下さい.英語のタイトルは,依頼により編
です.別刷りは,会誌出版後に印刷会社より直接
集 部 で 作 成 し ま す. エ ッ セ イ(Essays) と
著者に郵送されます.支払い方法の案内(例えば,
Wildlife & Nature Photographs に投稿する場合は英
公費で注文した場合は,見積り・請求・納品書)
文が不要です.
が同封されていますので,案内にしたがって,入
⑦原稿,図,表はすべてデジタルで投稿願い
金をお願い致します.
ます.スキャンする必要がある図については,編
集部でデジタル化を代行しますので,ご連絡下さ
印刷別刷り金額表
い.
050 部 5000 円
⑧団体会員による投稿の場合は,1 頁が無料で
100 部 6000 円
す.個人投稿の場合,1 論文あたり印刷で 4 頁ま
150 部 7000 円
でが無料で,5 頁目から 20 頁目までは 1 頁ごと
200 部 8000 円
に 3000 円の超過頁掲載料が必要です(会員 2 名
(200 部以上も 50 部追加ごとに 1000 円追加)
が共著で論文を発表する場合でも 5 頁目から超過
頁掲載料が掛かります).印刷で 20 頁を超えそう
な論文を投稿予定の会員は事前に事務局にお尋ね
328
(本村浩之)
BUSINESS REPORTS
Nature of Kagoshima Vol. 41, Mar. 2015
編集後記
2014 年 5 月に開催された鹿児島県自然愛護協会の総会で,本協会の新たな名称が「鹿児島県自然
環境保全協会」と決まりました.「自然愛護」という言葉が今日のメディアを賑わせている “ 過激な
愛護団体 ” を連想させるという多くの意見があったためです.「生物や環境を含めた鹿児島県の自然
に関する研究成果や地域活動を記録し,情報発信すること」という本協会の活動趣旨とはかけ離れ
たイメージを払拭するための改称でしたが,もちろん,長い歴史を誇る協会名を変えることには大
きな決断が必要でした.Nature of Kagoshima Vol. 41 は新しい協会の船出となる会誌です.今後も引き
続き鹿児島県の豊かな自然をより深く理解するための基礎的なデータや情報の蓄積を進めていきた
いと思います.来年度も会員のみなさまの自然に関する貴重な調査結果やご意見,写真の投稿をお
待ちしております.
(編集担当理事 本村浩之)
1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会は,2014 年に鹿児島県自然環境保全協会に名称が変わり
ました.改めて長い歴史をもつ協会であると感じました.会誌が発行された 1975 年から,鹿児島県
の自然に関する研究成果がこれまで発信されてきた本会誌の編集作業の一部に携わることができ,
大変光栄に思います.版組作業に携わるなかで,鹿児島県には多様で豊かな自然や環境があると改
めて感じました.この会誌を通して鹿児島県の自然に対する関心が一層深まり,豊かな自然を後世
に伝えられたらと願っています.
(編集委員 中村麻理子)
Nature of Kagoshima Vol. 41
カゴシマネイチャー 41 巻
2015 年(平成 27 年)5 月 27 日 発行
編集者 本村浩之(鹿児島大学総合研究博物館)
DTP 中村麻理子(鹿児島大学総合研究博物館)
発行者 鹿児島県自然環境保全協会
〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30
鹿児島大学総合研究博物館内
鹿児島県自然環境保全協会事務局
TEL: 099–261–3211 FAX: 099–261–3299
印刷所 斯文堂株式会社
〒 892–0838 鹿児島市南栄 2–12–6
TEL: 099–268–8211 FAX: 099–269–5198
© 鹿児島県自然環境保全協会 2015 ISSN 1882–7551
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目 次
目 次(表紙 2 からの続き)
Research Articles
鹿児島県北部とその周辺域におけるヤマネ Glirulus japonicus の生息確認と分布
船越公威・小野明日香・港 眞美
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策
鮫島正道・宅間友則・角 成生・今吉 努・下沖洋人・東郷純一・中村麻理子
鹿児島県薩摩半島沖から得られたウツボ科ミナミミゾレウツボの記録
松沼瑞樹・伊東正英・本村浩之
宇治群島宇治島と奄美群島喜界島から得られたウミヘビ科魚類モヨウモンガラドオシ Myrichthys maculosus
畑 晴陵・日比野友亮・伊東正英・本村浩之
鹿児島県内之浦湾から得られたユキフリソデウオ Zu cristatus
小枝圭太・畑 晴陵・本村浩之
屋久島から得られたヨウジウオ科魚類ヒメトゲウミヤッコ Halicampus spinirostris の記録
田代郷国・本村浩之
屋久島から得られたウスメバル Sebastes thompsoni の南限記録
岩坪洸樹・山口 実・畑 晴陵・本村浩之
種子島とトカラ列島から得られたハナハタ Cephalopholis aurantia の北限記録
小枝圭太・本村浩之
徳之島および沖縄島から得られたハタ科魚類ジャノメヌノサラシ Grammistops ocellatus Schultz, 1953
吉田朋弘・本村浩之
屋久島で採集された 3 種のテンジクダイ科魚類
吉田朋弘・本村浩之
奄美大島から得られたシロヘリテンジクダイ Jaydia albomarginatus
吉田朋弘・萩原清司・本村浩之
奄美群島与論島から得られたテンジクダイ科魚類 2 種
吉田朋弘・本村浩之
トカラ列島から得られたアジ科魚類カッポレ Caranx lugubris
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
標本に基づく鹿児島県のシマガツオ科魚類相
畑 晴陵・伊東正英・山田守彦・高山真由美・本村浩之
トカラ列島から得られたフエダイ科魚類オオクチハマダイ Etelis radiosus
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
フエダイ科魚類キビレフエダイ Lipocheilus carnolabrum の標本に基づく鹿児島県島嶼域からの記録
ジョン ビョル・Rangsiwut Keawsang・本村浩之
チカメタカサゴ Pinjalo pinjalo の日本における成魚 2 個体目の記録
小枝圭太・本村浩之
奄美大島から得られたシマチビキ Pristipomoides zonatus
小枝圭太・前川隆則・本村浩之
鹿児島県本土初記録のイサキ科魚類ホシミゾイサキ Pomadasys argenteus
畑 晴陵・伊東正英・本村浩之
鹿児島県北部から得られたタイ科魚類タイワンダイ Argyrops bleekeri の記録
畑 晴陵・伊東正英・高山真由美・本村浩之
奄美大島から得られたフエフキダイ科魚類ミンサーフエフキ Lethrinus ravus
畑 晴陵・小枝圭太・本村浩之
鹿児島県初記録のヒメジ科魚類ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatus およびホウライヒメジ Parupeneus ciliatus との形態学的比較
田代郷国・本村浩之
鹿児島県本土と薩南諸島 3 島から得られたリュウキュウハタンポ Pempheris adusta の記録と生物学的知見
小枝圭太・本村浩之
スダレダイ科ユウダチスダレダイ Drepane punctata の日本からの確かな記録
上城拓也・伊東正英・本村浩之
琉球列島から得られたニザダイ科魚類シノビテングハギ Naso tergus の記録
松沼瑞樹・桜井 雄・本村浩之
標本に基づくマカジキ科魚類フウライカジキ Tetrapturus angustirostris の琉球列島からの記録
畑 晴陵・本村浩之
鹿児島湾から得られたタチウオ科魚類ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatum
畑 晴陵・原口百合子・本村浩之
鹿児島県北部から得られたサバ科魚類グルクマ Rastrelliger kanagurta の記録
畑 晴陵・伊東正英・鏑木絋一・本村浩之
サバ科魚類ヒラサワラ Scomberomorus koreanus の日本沿岸からの 2 番目の記録
畑 晴陵・岩坪洸樹・本村浩之
薩南諸島広域から得られたヒシダイ科魚類ヒシダイ Antigonia capros
畑 晴陵・高山真由美・本村浩之
鹿児島県黒島沖の大陸斜面域から得られた底生魚類およびギンザメ科アカギンザメ Hydrolagus mitsukurii の記録
福井美乃・松沼瑞樹・本村浩之
シモフリシオマネキの奄美大島における初記録
鈴木廣志・勝 廣光・常田 守
テナガエビ科スジエビの奄美大島における初記録
鈴木廣志・大元一樹・光木愛理
奄美群島請島のアリ
福元しげ子・山根正気
奄美群島のアリ
原田 豊・榎本茉莉亜・西牟田佳那・水俣日菜子
加計呂麻島の海岸湿地に生息する甲殻類と貝類の記録
三浦知之・三浦 要
鹿児島県北薩地方における陸産貝類の分布
今村隼人・坂井礼子・竹平志穂・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
鹿児島市街地域における陸産貝類の分布
鮒田理人・今村隼人・竹平志穂・中山弘章・坂井礼子・冨山清升
鹿児島県薩摩半島南部における陸産貝類の分布
竹平志穂・今村隼人・坂井礼子・中山弘章・鮒田理人・冨山清升
奄美大島に分布する陸産貝類の生息現況に関する予備調査
坂井礼子・重田弘雄・竹平志穂・今村隼人・鮒田理人・中山弘幸・冨山清升
鹿児島湾喜入干潟での防災道路整備事業における巻貝類の生態回復
前川菜々・春田拓志・冨山清升
奄美大島と九州南部の干潟底生生物群集
上野綾子・緒方沙帆・佐藤正典・山本智子
薩摩硫黄島温泉の化学成分の研究
坂元隼雄
(表紙 3 に続く)
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Research Reports
ヘビギンポ科クロマスク属 Helcogramma ishigakiensis (Aoyagi, 1954) に適用すべき標準和名
田代郷国・本村浩之
鹿児島湾で初めて記録された造礁サンゴ類 4 種の産卵
出羽尚子・土田洋之・西田和記・山田守彦・広瀬 純・八巻鮎太・築地新光子・東峯万葉
県指定天然記念物「溝ノ口洞穴」の地質学的特徴
大木公彦・前田利久
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311
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Photography
藤田宏之・中村麻理子
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Information
鹿児島昆虫同好会(金井賢一)
鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子)
Business Reports
鹿児島県自然環境保全協会 2014 年度会記(本村浩之)
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【表紙写真】
ミカドウミウシ Hexabranchus sanguineus と共生するウミウシカクレエビ Periclimenes imperator(2012 年 4 月 24 日,鹿児島県熊
毛郡屋久島町一湊)
テナガエビ科ホンカクレエビ属のウミウシカクレエビは,和名からも分かるようにウミウシ類と共生するエビなのだが,屋久
島ではどちらかというとバイカナマコやジャノメナマコなどナマコ類に着いている事のほうが圧倒的に多く,ウミウシに着くこ
とは本当に稀だ.ダイビングのガイド中,ゲストにウミウシカクレエビを紹介する際にも高い確率でこのエビが着いているバイ
カナマコを「これはウミウシではなくナマコですが・・・」とわざわざ補足説明しなければならない事もしばしば.そんな中で
もたまに見かける大型のウミウシ,ミカドウミウシにはかなりの確率で着いているのを見かける.このウミウシは「スパニッシュ
ダンサー」などと呼ばれクネクネ,ヒラヒラと中層を泳ぐウミウシとしても有名なのだが,激しく泳いでいる最中もこのウミウ
シカクレエビは振り落とされまいと必死でしがみつく.きっと彼らはほとんど動きのないナマコ類に共生すれば良かった・・・
と後悔しているに違いない.
(写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「もりとうみ」代表)
【裏表紙写真】
Nature of Kagoshima Vol. 41 で報告された生き物たち
シマチビキ
(奄美大島)
クダリボウズギスモドキ
(屋久島)
オオクチハマダイ
(トカラ列島)
シモフリシオマネキ
(奄美大島)
ウスメバル
(屋久島)
トゲキクメイシ属の一種
(鹿児島市)
ヤミテンジクダイ
(屋久島)
チカメエチオピア
(喜界島)
アナグマ
(薩摩川内市)
フウセンキンメ
(黒島)
グルクマ
(種子島)
キビレフエダイ
(奄美大島)
ミンサーフエフキ
(奄美大島)
ウスジマイシモチ
(屋久島)
シロヘリテンジクダイ
(奄美大島)
チカメタカサゴ
(指宿市)
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【背表紙写真】
ヒシダイ Antigonia capros(トカラ列島産)
ユメカサゴ
(黒島)
ジャノメヌノサラシ
(徳之島)
ヒラサワラ
(日置市)
シノビテングハギ
(琉球列島)
タイワンダイ
(種子島)
ユキフリソデウオ
(肝付町)
ザラガレイ
(黒島)
ホシミゾイサキ
(南さつま市)
コモンサンゴ
(鹿児島市)
ヤミテンジクダイ
(与論島)
カッポレ
(トカラ列島)
ヒメトゲウミヤッコ
(屋久島)
ミナミミゾレウツボ
(南さつま)
スジエビ
(奄美大島)
フウライカジキ
(奄美大島)
パリカメノコキクメイシ
(鹿児島市)
Nature of Kagoshima
VOL. 41 2015