トピックス演題 - 第70回日本栄養・食糧学会大会

公益社団法人
日本栄養・食糧学会
第70回大会
一般講演トピックス集
会期:平成28年5月13日(金)・14日(土)・15日(日)
会場:武庫川女子大学
会頭:中野 長久
URL:http://jsnfs70.umin.jp/
第 70 回日本栄養・食糧学会大会一般講演トピックス集
目
次
(トピックス番号、演題番号、タイトル、発表者、所属、ページ)
1. 2E-15p 重症心身障害者を対象としたビタミン K 介入試験
―ビタミン K 栄養状態および骨代謝の変化-
桑原
(大阪樟蔭女子大・健康栄養学・健康栄養学科) ………………
晶子 他
1
2. 2N-05p 清酒酵母による睡眠の質の向上作用-ヒト二重盲検試験-
物井
則幸 他
(ライオン(株)・研究開発本部)
…………………………
3
3. 2H-01a 高齢者の生命予後に対する食事形態、栄養状態からみたリスクファクター
村松
宰 他
(日本医療大学・保健医療学部)
…………………………
5
4. 2H-02a 沖縄県の農村地域に居住する健常な高齢者のフレイル予防と関連する
要因の構造
児玉
小百合
他
(和洋女子大学・健康栄養学類)
…………………………
7
5. 3H-08p 男性勤労者ならびに女子大学生のポリフェノール摂取量と日間変動の検討
田口
(お茶大・寄附研究部門「食と健康」) …………………………
千恵 他
9
6. 2M-04a 妊娠初期空腹時血糖値および HbA1c 値と妊娠糖尿病発症との関連の検討
(TWC Study)
谷内
(千葉県立保医大・健康科学部・栄養) …………………………
洋子 他
11
7. 3C-10p 紫外線照射したヒト皮膚 3 次元モデルにおけるアロエステロールの影響
三澤
江里子
他
(森永乳業・素材研)
…………………………
13
…………………………
15
8. 2Q-06a 様々な年代の日本食に含まれる成分の一斉比較
坂本
9.
有宇 他
(東北大院・農)
3R-01a 虫害被害を受けた大豆(枝豆)のプロテオーム・アレルゲノーム解析
花房
佳世 他
(近畿大学院・農・応生化)
…………………………
17
10. 2I-08p 食事性リンが炎症性腸疾患の病態および腸管バリア機能に及ぼす影響
杉原
康平 他
(徳島大院・医歯薬学研究部・臨床食管理) ………………………
21
11. 3F-09p ストレプトゾトシン誘発性膵β細胞死に対するコーヒーの阻止作用の検討
小林
美里 他
(名古屋大院・生命農・応用生命)
…………………………
23
12. 2Q-02a フィトールおよびその代謝産物の PPARα活性化能が肝臓および
脂肪組織における脂質代謝に及ぼす影響
眞田
康平 他
(京大院農・食品生物)
…………………………
25
13. 3O-05a カルコンを高含有するアシタバ抽出物の肥満予防効果
芦田
均 他
(神戸大院・農・生機化)
…………………………
27
14. 3O-09p ガーリックオイルの肥満改善効果とそのメカニズムの解明
岡本
篤 他
(日本大院・生資科・応生科)
…………………………
29
15. 2I-02p 男性ホルモン機能低下に起因した肥満発症における腸内細菌の影響
花田
一貴 他
(大阪府大・生命環境)
………………………
31
16. 2E-02p 骨格筋特異的な日周発現遺伝子 Slc25a25 は飢餓時の熱産生を制御する
中尾
(産総研・バイオメディカル・生物時計) ………………………
玲子 他
33
17. 2P-02a カカオポリフェノール抽出物の投与タイミングと時計遺伝子の発現量
および血糖調節作用の関係
光橋
雄史 他
(神戸大院農・生機科・応生化)
…………………………
35
18. 3N-07p マウス母乳中 CCL25 は新生仔の成長及び免疫機能の発達を促進する
茶山
和敏 他
(静岡大・学術院・農学専攻)
…………………………
37
19. 3M-13p 長鎖モノエン脂肪酸を含む魚油による抗動脈硬化作用
板東
正浩 他
(徳島大学院・代謝栄養学)
…………………………
41
20. 2N-04p 側坐核に投射するドーパミン作動性神経による運動に対する動機の調節
井本
優衣 他
(京大院・食生科・栄養化学)
…………………………
43
21. 3F-05a Ca2+とチアミン二リン酸による分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素キナーゼの
不活性化を介した分岐鎖アミノ酸代謝の新たな調節機構
伊藤
里奈 他
(名古屋大学大学院・生命農学研究)
…………………………
45
22. 2L-08a 母獣が摂取する飽和脂肪酸および n-3 系脂肪酸油脂が及ぼす仔の肝臓に
おける遺伝子発現への影響
高橋
真由美
他
(大阪女短大・生活)
…………………………
47
23. 3L-02p ChREBPβの発現を制御する新規転写因子の同定
吉満
和 他
(東大院・農生科・応生化)
…………………………
49
24. 3O-02a 新規肝臓内エネルギー・センサーの糖・脂質代謝制御機序の解明
和田
亘弘 他
(東大・医・糖尿病代謝内)
…………………………
51
25. 3H-01a 昆布だしの食品因子センシング遺伝子発現調節作用
後藤
萌 他
(九大院農院・生機科)
…………………………
本冊子は、各トピックス演題につき、最初に「講演要旨(講演要旨集に掲載さ
れているものと同じ)
」を、その次に講演の「解説」を掲載いたしました。解説
は、特にこのトピックス集のために執筆していただいたものです。個々の講演
内容についてのお問い合わせは、解説欄にある発表者(電話番号、メールアド
レスを併記)宛に、直接お願いいたします。
講演番号は、例えば 2L-08a は、L 会場での 2 日目(5 月 14 日)の午前(a)
8 番目の講演を示しています。
大会全般や日程に関してのお問い合わせは、以下にお願いします。
大会事務局
〒599-8531 大阪府堺市中区学園町 1-1
大阪府立大学 生物資源開発センター内
Tel/Fax: 072-254-9937、TEL: 072-950-2840
E-mail: inui@biochem.osakafu-u.ac.jp
53
2E-15p
重症心身障害者を対象としたビタミン K 介入試験―ビタミン K 栄養状態および骨代謝
の変化-
○桑原 晶子 1)、永江 彰子 2)、北川 真理 2)、戸沢 邦彦 3)、口分田政夫 2)、田中 清 4)
1)大阪樟蔭女子大
健康栄養学
健康栄養学科、2)びわこ学園医療福祉センター草
津、3)エーディア株式会社、4)京都女子大 家政学
食物栄養学科
【目的】重症心身障害者 (SMID) では、出血傾向や骨折などのビタミン K 欠乏に関与
した症状が見られることが報告されているが、SMID 患者に対するビタミン K 介入の
報告は限られている。そこで、SMID 患者にビタミン K1 または K2 の介入を行い、ビタ
ミン K 関連指標および骨代謝指標の変化について検討した。
【方法】SMID 患者のうち、経管栄養 (EN) 群 (n=24) には総ビタミン K1 注入量が
200μg/日程度なるように高ビタミン K1 含有栄養剤を投与した (追加ビタミン K1 量中
央値 175 μg/日)。経口栄養 (OI) 群 (n=17) にはビタミン K2 製剤 15mg/日の介入を行
った。介入は 3 カ月間行い、
肝臓および骨でのビタミン K 不足の指標に、血清 PIVKA-II
(protein induced by vitaminK absence) お よ び ucOC (undercarboxylated
osteocalcin) 値を用い、骨代謝指標には血清 intact osteocalcin (iOC)、骨型アルカリホ
スファターゼ (BAP)、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ (TRACP-5b) 値を用いた。
【結果】介入1カ月後の血清 PIVKA-II、ucOC、ucOC/iOC 値 (中央値) は、EN 群で
80→47 mAU/mL、7.58→5.51 ng/mL、2.03→1.12 と PIVKAII、ucOC/iOC で有意に
低下し、ビタミン K1 投与変化量と ucOC、ucOC/iOC 変化量は有意に負相関を示した。
一方、OI 群で 43→23 mAU/mL、4.11→2.60 ng/mL、1.43→0.44 といずれも有意に低
下した。血清 BAP は両群共に有意に上昇し、TRACP-5b は EN 群で有意に上昇、OI
群で有意に低下した。なお、骨代謝指標の臨床的有意変化に対しては、ビタミン K2 製
剤が有意に寄与した。
【考察】ビタミン K 不足状態の改善に対しては、ビタミン K1、K2 共に有用であるが、
骨代謝の改善をも目指すには、ビタミン K2 介入が有用であることが示唆された。
1
2E-15p
重症心身障害者を対象としたビタミン K 介入試験―ビタミン K 栄養状態および骨代
謝の変化―
桑原
晶子(大阪樟蔭女子大学
健康栄養学部 健康栄養学科)
(Tel: 06-6723-8181、E-mail: kuwabara.akiko@osaka-shoin.ac.jp)
ビタミン K は古くから、肝臓での血液凝固の活性化を助ける働きを持つこと
が知られており、その欠乏症に出血傾向が挙げられる。近年では骨の形成にも
関係することが示され、慢性的な不足状態は骨粗鬆症や骨折を引き起こすこと
も報告されている。天然に存在するビタミン K は、緑色野菜・海藻類・植物油
などに多く含まれるフィロキノン (ビタミン K1) と腸内細菌によっても産生さ
れるメナキノン類 (ビタミン K2) がある。ビタミン K2 には 11 種類の類似の化合
物があり、栄養上重要なのは、動物性食品に広く分布するメナキノン-4 と納豆
菌が産生するメナキノン-7 である。なお、メナキノン-4(MK-4)は、骨粗鬆症の
治療薬として用いられている。ビタミン K は、通常の食事をしている限り不足
しないが、ビタミン K の摂取不足、長期間の抗生物質投与による腸内細菌から
の産生低下等により、そのリスクが高まる。
一方、脳性麻痺等の重症心身障害者は、感染症にかかりやすいため、抗生物
質が長期的に投与されることが多い。また、この患者では、嚥下障害を有する
者も多く、経管栄養法を用いることで、ビタミン K 投与量が通常の食事よりも
少なくなりやすい。実際に、我々の以前の調査において、この対象者では、肝
臓と骨の双方で、ビタミン K 不足状態を示す者が高頻度に存在することが明ら
かとなった(e-SPEN Journal 8:e31–e36, 2012)。さらに、重症心身障害者では、
低骨密度や骨折リスクが高いとの報告もあるため、今回、ビタミン K 栄養状態
の改善、また骨の健康に対して、ビタミン K1、K2 (MK-4) のどちらが有効なの
かを、3 ヵ月間の介入研究にて検討した。その結果、ビタミン K の栄養状態に対
しては、ビタミン K1、K2 共に一定の有効性を示したが、骨の健康(骨代謝の臨
床的有意な変化)に対しては、ビタミン K2 のみ効果を示した。この結果より、
ビタミン K 不足状態の改善のみならず、骨の健康の改善をも目指すには、ビタ
ミン K2 介入が有用であることが示唆された。
2
2N-05p
清酒酵母による睡眠の質の向上作用-ヒト二重盲検試験-
○物井
1)
、杉山
則幸 1)、永盛
圭吉
1,3)
友樹 1)、松野あゆみ 1)、佐野
4)
、西野 輔翼 、裏出
良博
朋美 1)、中村
好孝 1,2)、内山
章
2)
1)ライオン(株)
・研究開発本部、2)筑波大・WPI-IIIS、3)立命館大、4)京都
府立医大
【目的】
本邦において成人の 5 人に 1 人が睡眠不満を訴えており、その社会的経済損失も大きい。
我々は、睡眠不満の解決に向け、睡眠の質と関連する「アデノシン A2A 受容体」を活性化
する素材を探索し、これまでに 80 種の天然素材の中から清酒酵母を見出している。本
研究では、1)in vitro 実験系により、清酒酵母の A2A 受容体活性能を確認すると共に、
2)ヒト試験により、清酒酵母の睡眠の質改善作用を検証した。
【方法】
1)ヒト・アデノシン A2A 受容体を遺伝子導入した HEK 細胞に清酒酵母を作用させ、
細胞内の cAMP 濃度を FRET 法にて測定した。また、A2A 受容体の選択的アンタゴニ
スト(ZM241385)による阻害作用も調べた。
2)ヒト臨床試験は、二重盲検クロスオーバー法にて行った。睡眠に不満のある健康な
成人 68 名に清酒酵母含有タブレット(清酒酵母粉末量;500 mg/日)およびプラセボ
を各 4 日間摂取させ、睡眠中の脳波測定により深睡眠の指標であるデルタパワー値を求
めた。同時に、起床時の尿中成長ホルモン量の測定、および OSA 睡眠調査票を用いた
主観評価を実施した。
【結果】
1)清酒酵母は濃度依存的に A2A 受容体高発現 HEK 細胞の cAMP 濃度を上昇させ、そ
の作用は A2A 受容体の選択的アンタゴニスト(ZM241385)によって完全に抑制され
た。
2)ヒト試験において、清酒酵母摂取時にプラセボ摂取時と比較して、深睡眠を示すデ
ルタパワー値が有意に上昇した。また、清酒酵母摂取時に、身体の機能維持に役立つ成
長ホルモン量が有意に高まり、主観評価において起床時の眠気が有意に改善した。
【結論】
1)in vitro 評価により、清酒酵母がアデノシン A2A 受容体を活性化することが確認さ
れた。
2)清酒酵母は、ヒトにおける客観的および主観的評価において、睡眠の質を向上させ
た。
3
2N-05p
清酒酵母による睡眠の質の向上作用-ヒト二重盲検試験-
物井則幸(ライオン㈱研究開発本部)
(Tel: 0465-48-3211、E-mail: monoi1@lion.co.jp)
睡眠は、生活の約 3 分の 1 を占め、脳の休息、心身の修復・回復、翌日の活
動に備えた体内環境の整備など、生活の質を維持・向上させるために必要不可
欠なものである。成人の半数以上に睡眠不満があることが報告されており、本
邦の睡眠問題による経済損失は年3.5兆円と試算されている。睡眠問題を解
決することは社会経済学的な意義も大きい。そこで、我々は睡眠改善、具体的
には深い睡眠を促す素材の探索に着手した。京都大学の早石修先生(故人)や
現・筑波大学の裏出良博教授らの研究により、脳内のアデノシン A2A 受容体を
活性化させると、深い睡眠を誘発できることが明らかになってきた為、我々は
A2A 受容体に着目し、同受容体を活性化する作用を持つ食品素材を探索した。
約 80 種類の素材を評価した結果、ほとんどの素材では活性化作用が見られなか
ったが、日本酒を造るもととなる「清酒酵母」がアデノシン A2A 受容体を活性
化することを発見した。
続いて、ヒトでの検証試験を行った。試験では、アンケート調査に加えて、
眠っているときの脳の電気信号である脳波などを測定して、客観的な数値とし
て清酒酵母の睡眠への影響を評価した。その結果、清酒酵母は、
「起床時の眠気」
を低減させ、
「睡眠を深くする」と共に、深睡眠時に分泌量が高まる成長ホルモ
ン量も増加させた。
さらに、ヒトでの安全性を確認する目的で、清酒酵母を長期に摂取するヒト
試験および過剰量を継続的に摂取するヒト試験を行い、安全性に問題がないこ
とを確認した。
このように「清酒酵母」は、睡眠の質の向上(深くしっかりと眠れ、成長ホ
ルモンの増加をもたらすこと)に役立ち、眠気を感じることなくすっきり目覚
めさせることができる。清酒酵母を用いた食品等の摂取により、睡眠不満の改
善、ひいては生活の質の向上が期待される。
4
2H-01a
高齢者の生命予後に対する食事形態、栄養状態からみたリスクファクター
○村松
宰 1)、遠藤 眞美 2)、久保田有香 3)、柿木
保明 3)
1)日本医療大学・保健医療学部、2)日大・松戸歯学部・特殊歯科、3)九州歯大・
高齢者歯科
【目的】高齢者、特に超高齢者の生命予後に関して栄養状態や栄養摂取方法は重要とさ
れているがその報告は少ない。3 年間の縦断調査により高齢者における生命予後につい
て,栄養状態、口腔環境、既往歴等の影響について検討した.【方法】1)対象:全国
7 大学関連の 12 介護施設に入所している要介護高齢者 487 名,予後に関連する重篤な
現症を持っている人は除いた。2)調査項目:(1)口腔に関する調査:歯・咬合状態、
歯周組織、粘膜の保湿状態、口腔機能(2)特性値:性別、身長、体重、血清アルブミ
ン値など(3)食生活要因(摂食手段、食形態、MNA栄養評価表、1 日の飲水量、食
事量を控える、飲食物を楽に飲み込めないなどのGOHAI指数(4)既往症、服薬状
況など3)統計解析:
(1)ロジスティック(ロと略す)単回帰分析…平成 24 年調査時
における対象者の生存状況「生存=0」
「死亡=1」を従属変数、年齢および性別を調整
要因、その他の調査項目を独立変数としたロ回帰分析を実施した。
(2)ロ単回帰分析の
結果、有意であった変数のうち臨床的にリスク因子と考えられる変数や潜在的な交絡因
子であると考えられる変数を説明変数として多重ロ回帰分析(前進法)を行った【結果】
1)対象者のエントリー時の主な特性値:男性 23.6%、女性 76.4%、年齢 84.8±7.3、
体重 45.7±8.9(kg)、血清アルブミン値(g/dl)3.6±0.4、認知症有り 76.8%、呼吸器疾
患の既往有り 22.6%、夜間睡眠時間(時)8.4±1.9、口呼吸 25.9%、服薬数 7.3±4.0
で認知症が多い超高齢者の集団である。オッズ比では血清アルブミン値が高い(0.37
倍)、睡眠時間が長い、脳梗塞の後遺症有り(2.57)、食事が全介助(3.35)、現存歯数が
5 本以上(.043)
、服薬数が 7 剤以上(3.10)、MNA評価が低い(3.10)、食事量を控
える(2.54)などが有意に高いリスク比であった。予後延長には経口摂取の QOL 向上
と十分な食事摂取や蛋白栄養が重要であると考えられた。
5
2H-01a
高齢者の生命予後に対する食事形態、栄養状態からみたリスクファクター
村松
宰(日本医療大学保健医療学部)
(Tel: 011-885-7711、E-mail:t_muramatsu@nihoniryo-c.ac.jp)
わが国は少子超高齢化が加速度的に進んでいるが後期高齢者(75 歳以上)以
降の高齢者を対象にした保健、栄養に関する疫学的な研究報告は少ない。それ
は、高齢者特有の問題、例えば有病率の増加、認知機能障害、フレイル、低栄
養、身体機能障害、老年性疾患の合併症が多いなど1人1人の特性の相違が大
きく一つの均一的な集団として扱えないのと、追跡調査中に早期に死亡に至る
ケースが多いためである。今回の対象者も平均年齢 85 歳、3 年間の調査期間中
に約半数が亡くなっている。85 歳時の厚労省発表の直近での平均余命は男性で
6 年、女性で 8.15 年であり、それよりもかなり早い時期に死亡していることに
なる。平均余命まで至らずに死亡した要因は何であろうか。これを検討するた
めには死亡したグループと生存しているグループ別に身体状況や既往症、食事
形態、栄養状態、口腔環境などをそれぞれ単独に比較するのは正しくない。そ
れは年齢、性、身体状況、疾病の罹患状態などはそれぞれに相互に影響を及ぼ
し合うので、例えば年齢の影響を除去した、あるいは認知症の存在を除去する
などリスク要因の交絡を調整する多変量解析によって分析しなければならない。
今回は多重ロジスティック回帰分析によって解析した。生存状態(0:生存,1:
死亡)を目的変数とし年齢、性を調整変数として栄養摂取方法、栄養状態、血
清アルブミン値、MNA スコア(ネッスル)、ゴーハイスコア、口腔乾燥症などの
口腔環境、その他の生活条件をリスク要因として相対リスクを計算すると男性、
年齢の他に血清アルブミン値低値、BMI(やせ)、脳梗塞後遺症、認知症、現
存歯数が 5 本未満、服薬数が 7 剤以上、非経口摂取、食事摂取量が少ない、食
事は介助であるなどがあげられ、高齢者の生命予後改善のためには自分で経口
で良く食べて栄養(特にたんぱく質)を十分に摂取することが大切で、その状
態を満たすためには口腔のヘルスケアが重要であることが示唆された。
6
2H-02a
沖縄県の農村地域に居住する健常な高齢者のフレイル予防と関連する要因の構造
○児玉
小百合 1)、栗盛須 雅子 2)、星 旦二 3)、平良
彦 6)、小川
一彦 4)、浦崎
猛 5)、尾尻 義
寿美子 7)、石川 清和 8)
1)和洋女子大学
健康栄養学類、2)聖徳大学 看護学部、3)首都大学東京院
都
市環境科学研究科、4)名桜大学総合研究所、5)沖縄県立芸術大学、6)琉球大学 医
学部保健学科、7)名桜大学 人間健康学部、8)今帰仁診療所
高齢者のフレイル(Frailty:虚弱)と,低栄養や筋力低下などの身体的要因との関連
は多く報告されているが,精神・情緒的要因,社会的つながり,経済的状況など,高齢
者を取り巻く多様な要因との相互関連を検討した報告は少ない。そこで本研究は,沖縄
県 A 自治体に居住する 65 歳以上の要支援・要介護認定者ではない健常な高齢者 1,525
人について,フレイルに関連する要因の直接的・間接的な関連を明確にすることを目的
とした。フレイルに関連する身体的健康は,自立度,外出控え,連続歩行,転倒・骨折,
体重変化を用いた。10 種類の週当たりの食品群摂取頻度と 5 種類の食行動に関連する
項目は,各々の主成分分析において 2 因子が抽出され,第 1 因子を「食の多様性」
,
「望
ましい食行動」と命名した。経済的満足感,主観的健康感,生活満足感,主観的幸福感,
地域活動,外出頻度,友人・近所付合いを含めた 12 項目と 2 種の主成分得点を用いた
因子分析の結果,6 因子が抽出され,
「食の質」
「フレイル予防」
「体重変化」
「精神・情
緒的健康」
「社会的健康」
「経済的満足感」と命名した。6 因子の得点を用いたパス解析
の結果,フレイル予防に直接影響を与えていたのは,社会的健康であった(パス係数:
0.408~0.621)
。経済的満足感の食の質への影響は前期高齢者が大きく(男性 0.224,
女性 0.331)
,精神・情緒的健康の食の質への影響は後期高齢者が大きかった(0.136,
0.112)。経済的満足感のフレイル予防への影響は,男性(0.289)と比較し女性(0.410)
が大きく,前期高齢者は直接的な影響が比較的大きく(0.192,0.229),後期高齢者は
精神・情緒的健康,食の質,社会的健康を介する間接的な影響が大きかった(0.187,
0.242)
。経済的満足感を高められる支援を基盤とした精神・情緒的健康への支援は,食
の質と社会的健康を向上させ,女性の後期高齢者のフレイル予防に寄与する可能性が示
唆された。
7
2H-02a
沖縄県の農村地域に居住する健常な高齢者のフレイル予防と関連する要因の構造
児玉小百合(相模女子大学短期大学部食物栄養学科)
(042-742-1411,kodama_sayuri@isc.sagami-wu.ac.jp),
栗盛須雅子(聖徳大学),星 旦二(首都大学東京大学院),
平良一彦(名桜大学)、浦崎
猛(沖縄県立芸術大学),尾尻義彦(琉球大学),
小川寿美子(名桜大学),石川清和(今帰仁診療所)
2025 年には第一次ベビーブームの世代が 75 歳以上になり、いわゆる後期高齢
者は著しく増加する。良好な栄養状態、医療の進歩、社会環境の整備によって
健康長寿社会となり、高齢者は健康で楽しくいきいきと自立して生活できるよ
う、介護予防への関心は高まっている。高齢になると身体機能が低下し、転倒
などで骨折し、寝たきりになることもある。また、大きな病気はなくても疲れ
やすく、外出がおっくうになる。このような「筋力や心身の活力が低下した状
態」は「フレイル」と呼ばれ、健常な高齢者の 1~2 割程度にみられるという。
これまで体重減少・筋力低下・歩行速度など、主に身体面のフレイルを評価
した研究が行われてきた。本研究は沖縄県の農村地域に居住する健常な高齢者
1,525 人に協力を得て、フレイル予防と関連する要因の構造を検討した。まず、
仮説モデルを作り(図 1)、矢印が出発する四角形は関連を与える要因、矢印が
刺さる四角形は関連を受ける要因とした。分析過程で関連の小さい矢印を除き、
最も適合度の高いモデルのうち女性の後期高齢者モデルを(図 2)に示した。
経済的に不安がないだけでなく、生活に満足し幸福を感じる精神・情緒面の
健康が、食の質を高めるとともに、外出や友人・近所付合いの社会性を維持し、
フレイルを予防する構造が示された。本研究の意義は、後期高齢者の介護予防
が、経済的満足を基盤とする食の豊かさや、WHO が示した健康の定義に支えられ
る関連構造が数量的に示された点である。
図1
分析前の仮説モデル
図2
8
女性の後期高齢者モデル
3H-08p
男性勤労者ならびに女子大学生のポリフェノール摂取量と日間変動の検討
○田口
田中
千恵 1)、岸本 良美 1)、福島 洋一 2)、才田
恵美 1)、鈴木 規恵 3)、
未央里 3)、高橋 仁也 4)、近藤 和雄 1,5)
1)お茶大
寄附研究部門「食と健康」、2)ネスレ日本、3)お茶大院
ライフサイ
エンス、4)TES ホールディングス、5)東洋大 ライフイノベーション研究所
【目的】我々は日本人のポリフェノール摂取量ならびに摂取源について報告してきたが、
その日間変動の程度については検討されていない。そこで、これまでに報告がない対象
者特性をもつ集団でのポリフェノール摂取量を推定するとともに、日間変動を検討し、
ポリフェノール摂取量調査における基礎資料を得ることを目的とした。
【方法】1.男性勤労者 34 名、2.管理栄養士養成課程の女子大学生 14 名を対象に、連続
した 7 日間の食事調査を行い、食材の摂取重量とポリフェノール含有量を掛け合わせる
ことでポリフェノール摂取量を算出した。長期にわたる個人の平均的摂取量の推定に必
要な食事調査の日数は個人内変動係数から算出した。
【結果】1.男性(42.5±9.3 歳)のポリフェノール摂取量は 946±414 mg/日、その摂取源
を食品群別にみると、嗜好飲料(80%)、野菜類(6%)、調味料・香辛料(4%)、穀類(4%)、
豆類(2%)の順であった。2.女子学生(19.6±1.2 歳)のポリフェノール摂取量は 510±200
mg/日、摂取源は、嗜好飲料(65%)、野菜類(9%)、穀類(7%)、調味料・香辛料(5%)、豆
類(5%)の順であった。1 と 2 の集団間で嗜好飲料以外からのポリフェノール摂取量に差
はみられず(男性:192±13 mg/日、女性:179±15 mg/日)、嗜好飲料から摂取してい
る量に差がみられた。各個人のポリフェノール摂取量は調査日によって大きく異なり、
1.男性の個人内変動係数は 41.6%、摂取量の推定に必要な調査日数は 20%誤差範囲で
17 日であった。2.女子学生の個人内変動係数は 54.6%、同様に必要な調査日数は 29 日
であった。
【考察】ポリフェノール摂取量をより正確に推定するためには、飲料の摂取量を詳細に
調査することが必要であり、本研究の対象者では、長期にわたる個人の平均的なポリフ
ェノール摂取量を推定するには 20%の誤差範囲でも約 1 ヶ月の食事調査を要すること
が明らかとなった。対象者の人数と代表性などに限界があるため、さらに検討を行う必
要がある。
9
3H-08p
男性勤労者ならびに女子大学生のポリフェノール摂取量と日間変動の検 討
田口千恵(お茶の水女子大学寄附研究部門「食と健康」)
(Tel: 03-5978-5810、E-mail: taguchi.chie@ocha.ac.jp)
ポリフェノールが生体機能に及ぼす影響や作用機構の解明は日々進んでおり、
諸外国では疾病や死亡率との関連も報告されている。しかし日本においてポリ
フェノール摂取量を報告した論文は数少なく、その日間変動などポリフェノー
ル摂取の実態は未知の部分が多い。我々はこれまでに主婦や高齢者のポリフェ
ノール摂取量を調査し、日本人は主に飲料からポリフェノールを摂取している
ことを見出してきた。本研究では、これまでに報告のない対象者特性をもつ集
団での摂取量を推定するとともに、日間変動を検討し、ポリフェノール摂取量
調査における基礎資料を得ることを目的とした。
男性勤労者と女子大学生のポリフェノール摂取量を算出したところ、集団間
で嗜好飲料からのポリフェノール摂取量に差がみられたことより、ポリフェノ
ール摂取量をより正確に推定するためには、飲料摂取量を詳細に調査する必要
があることがわかった。また、各個人のポリフェノール摂取量は調査日によっ
て大きく異なり、本研究の対象者では、長期にわたる個人の平均的なポリフェ
ノール摂取量を推定するには 20%の誤差範囲でも約 1 ヶ月の食事調査を要する
ことが明らかとなった。
世界の最長寿国である日本人は伝統的にポリフェノールを豊富に含む緑茶や
大豆、野菜などを中心とした食生活を送っているが、今後さらに研究が進み、
日本人のポリフェノール摂取の実態や摂取量調査の最適な方法が明らかになる
ことで、日本においても疫学研究などでポリフェノール摂取と疾病などとの関
連を見ることができる可能性も期待される。
10
2M-04a
妊娠初期空腹時血糖値および HbA1c 値と妊娠糖尿病発症との関連の検討(TWC Study)
○谷内
児玉
洋子 1,2)、田中
暁 2)、曽根
康弘 3)、西端
泉 4)、菅原
歩美 5)、藤原
和哉 2)、
博仁 2)
1)千葉県立保医大
健康科学部・栄養、2)新潟大院
医歯学総研科・血内代、3)
田中ウィメンズクリニック、4)川崎市立看短大、5)聖学院大
人間福祉学部・児童
【背景】HbA1c は、血糖状態を把握する指標として世界的に繁用されている指標のひ
とつだが、妊娠中においては胎児の鉄需要増加に伴う鉄欠乏性貧血の影響を受けること
から、血糖状態を判定するうえで必ずしも有用ではないことが知られている。しかし貧
血の影響が少ない妊娠初期 HbA1c 値と妊娠糖尿病(GDM)発症との関連についてのエ
ビデンスは十分ではない。
【目的】健常妊婦を対象に妊娠初期 HbA1c 値と GDM 発症との関連を検討した。
【方法】都内産科クリニックを妊娠 12 週までに初診した血圧正常かつ糖尿病既往がな
い妊婦 612 名(年齢 33.4±3.8 歳)を対象に、初診時(7.9±2.0 週)に空腹時採血を実施した。
また妊娠中期(27.9±1.2 週)には 50g 糖負荷試験(GCT)を実施、負荷 1 時間後の血糖
値が 140mg/dl 以上の場合を GCT 陽性とした。GCT 陽性妊婦には 75g 糖負荷試験を実
施、国際糖尿病・妊娠学会の基準により GDM の有無を診断した。初診時 HbA1c 値と
GDM 発症との関連をロジスティック回帰分析により検討した。
【結果】26 名の妊婦が GDM を発症した。GDM 発症を目的変数とし、年齢、経産歴、
初診時 BMI、初診時空腹時血糖値(FPG)、ヘモグロビン値を説明変数としたロジステ
ィック回帰分析の結果、初診時 HbA1c 値 0.1%上昇毎のオッズ比 1.29 倍と初診時 FPG
とは独立した有意な関連を認めた。また初診時 HbA1c 値が 5.3%以上かつ初診時 FPG
が 79mg/dl 以上であった妊婦は、その他(HbA1c<5.3%または FPG<79mg/dl)の妊
婦と比較しオッズ比は 8.26 倍に増大した。
【考察】HbA1c 値は、過去 1~2 か月の血糖状態を反映することから、本研究における
対象の初診時 HbA1c は妊娠前の血糖状態を反映していると考えられた。妊娠初期 FPG
値および HbA1c 値の上昇がそれぞれ単独ならびに相乗的にも GDM 発症を予測する指
標である可能性が示唆された。
11
2M-04a
妊娠初期空腹時血糖値および HbA1c 値と妊娠糖尿病発症との関連の検討
(Tanaka Women’s Clinic Study)
谷内
洋子(千葉県立保健医療大学 健康科学部)
(Tel: 043-272-2768、E-mail: yoko.yachi@cpuhs.ac.jp)
妊娠糖尿病(以下 GDM)は、母体の将来の糖尿病への進展のみならず、児
の将来の肥満や糖尿病など生活習慣病の発症リスクを上昇させることから、早
期にハイリスク予備軍を発見し、GDM 発症予防対策を講じることは、次世代を
見据えた生活習慣病予防の観点からも重要課題である。HbA1c は、血糖状態を
把握する指標として世界的に繁用されている指標のひとつだが、妊娠中におい
ては胎児の鉄需要増加に伴う鉄欠乏性貧血の影響を受けることから、血糖状態
を判定するうえで必ずしも有用ではないことが知られている。しかし貧血の影
響が少ない妊娠初期 HbA1c 値と GDM 発症との関連についてのエビデンスは十
分ではない。また、2 型糖尿病発症予測においては、空腹時血糖値(以下 FPG)
と HbA1c 値を組み合わせることは有用であると報告されているが、GDM 発症
予測においてはこれらの 2 検査同時併用の有用性は明らかでない。そこで本研
究では、健常妊婦を対象に妊娠初期 HbA1c 値と GDM 発症との関連について、
前向きに検討するとともに、GDM 発症予測において、FPG と HbA1c の 2 検査
同時併用が有用かどうかを検討した。
妊娠 13 週までに初診した健常妊婦 620 名を対象に初診時(中央値:57 日)
に空腹時採血を実施した。また妊娠中期(妊娠週数 27.9±1.2 週)には 50g 糖
負荷試験(以下 GCT)を実施、糖負荷1時間後の血糖値が 140mg/dl 以上の場
合を GCT 陽性とし、GCT 陽性妊婦に対しては 75g 糖負荷試験を実施、国際糖
尿病・妊娠学会の基準により GDM の有無を診断した。初診時 HbA1c 値および
FPG と GDM 発症との関係をロジスティック回帰分析、ROC 解析により検討し
た。その結果、初診時 HbA1c 値 0.1%上昇毎の GDM 発症リスクは約 1.3 倍と
初診時 FPG とは独立した有意な関連を認め、さらに HbA1c 値が 5.3%未満の
者と比べて、5.3%以上の者では、約 3.7 倍 GDM 発症リスクが上昇した。また
初診時 FPG が 79mg 未満の者と比べて、79mg 以上の者では、GDM 発症リス
クが約 2.8 倍となり、この関連は、母体の年齢や、出産歴、初診時 Hb 値、BMI
とも独立していた。さらに初診時 HbA1c と FPG の両者の値が高めであった、
初診時 HbA1c5.3%以上かつ FPG79mg/dl 以上であった妊婦では、その他
(HbA1c<5.3%または FPG<79mg/dl)の妊婦と比較し GDM 発症リスクは約 9
倍に増大した。
以上のことから、妊娠初期 HbA1c 値および FPG の正常値範囲内における
12
上昇が、それぞれ単独ならびに相乗的にも GDM 発症を予測する指標である可
能性が示唆された。HbA1c 値は、過去 1~2 か月の血糖状態を反映することか
ら、本研究における対象の初診時 HbA1c は妊娠前の血糖状態を反映していると
考えられる。それぞれの指標における、GDM 発症予測能のトレードオフを考慮
する必要があるが、妊娠初期 HbA1c と FPG 両者の同時測定は、どちらか単独
でスクリーニングするよりも、GDM 発症予測能を高められる可能性が示唆され
た。妊娠時特有の生理的変化を考慮した、妊娠中(初期)における HbA1c 正常
範囲の検討が必要と考えられる。
13
14
3C-10p
紫外線照射したヒト皮膚 3 次元モデルにおけるアロエステロールの影響
○三澤江里子 1)、田中 美順 1)、齊藤万里江 1)、鍋島かずみ 1)、姚
山内
瑞卿 2)、
恒治 1)、阿部 文明 1)
1)森永乳業
素材研、2)森永乳業
基礎研
【目的】我々はこれまでに、紫外線を照射したヘアレスマウスにアロエステロール含有
アロエベラゲルパウダー(AVGP)を経口摂取させることにより、皮膚光老化が予防さ
れることを明らかにしてきた。紫外線は、皮膚において酸化ストレスや炎症性サイトカ
イン、さらにコラーゲン分解酵素である MMP (matrix metalloproteinase)を増加さ
せることにより、皮膚の障害や老化を引き起こすことが知られている。そこで今回、紫
外線照射した皮膚 3 次元モデルを用いて、アロエステロール添加による効果について検
討した。
【方法】ヒト皮膚由来の線維芽細胞と角化細胞から成る皮膚 3 次元モデル(EFT-400;
MatTek 社製)に、紫外線(UVA)を 15 J/cm2、4 日間照射した。アロエステロール(シ
クロアルタノールまたはロフェノール)は、400ng/mL の濃度で、照射を開始する 3 日
前から培養液中に添加し、照射の 24 時間後に培養液を回収して、IL-6(interleukin-6)
と MMP-1 の濃度を測定した。また、最終照射の 24 時間後に、組織標本を作製して、
HE 染色と細胞老化の指標となる SA-β-gal(senescence-associated betagalactosidase)
染色を行った。
【結果・考察】UVA 照射により、培養液中の IL-6 と MMP-1 の濃度は顕著に上昇する
が、アロエステロールの添加により抑制が認められた。また、UVA 照射により角化細
胞層に SA-β-gal 陽性細胞が出現したが、アロエステロール添加による低減が観察され
た。以上のことから、皮膚 3 次元モデルにおいても、アロエステロールは、紫外線照射
による炎症性サイトカインとコラーゲン分解酵素の産生亢進を抑制することが確認さ
れた。アロエステロールは、皮膚において紫外線に起因する障害を防ぐ効果を有してい
ると考えられた。
15
3C-10p
紫外線照射したヒト皮膚 3 次元モデルにおけるアロエステロールの影響
三澤江里子(森永乳業株式会社 素材応用研究所)
(Tel: 046-252-3070、E-mail: e_misawa@morinagamilk.co.jp)
皮膚は、加齢に加えて、外部環境、特に紫外線の影響を受けて老化が進むと
考えられている。紫外線を浴びた皮膚では、水分が失われて乾燥し、弾力が低
下して、シワが形成されるといった老化症状が現れることが知られている。
アロエは、古くから外用による傷や火傷の治療などに使われ、多糖類による
創傷治癒効果が報告されている。一方、我々がアロエベラの葉肉から見出した、
機能性成分であるアロエステロールは、皮膚の線維芽細胞に働き、コラーゲン
やヒアルロン酸の産生を高める作用が明らかになっている。また、これまでに、
ヒトへの効果を検証したところ、アロエステロール摂取による、皮膚の水分量
や弾力性を改善する効果を確認している。
本研究では、ヒトの皮膚から取り出した線維芽細胞と角化細胞から、膜上で
皮膚構造を再構築させた 3 次元皮膚モデルを用いて、アロエステロールの作用
を調べた。皮膚モデルに紫外線を照射すると、炎症に関わるインターロイキン 6
とコラーゲンを分解するマトリクスメタロプロテアーゼ 1 の量が増えるが、ア
ロエステロール添加により、低下することを確認した。さらに、皮膚モデルの
組織を調べ、紫外線によるダメージが低減されている様子が観察された。
アロエステロールによる、皮膚での紫外線の影響を防ぐ効果が明らかになっ
たことから、体の内側から健やかな肌を守る食品としての有用性が期待される。
UVA
角化細胞
MMP1↑ IL-6↑
線維芽細胞
ダメージ低減
アロエステロール
16
2Q-06a
様々な年代の日本食に含まれる成分の一斉比較
○坂本
有宇 1)、菅原 達也 2)、木村 和彦 3)、都築
毅 1)
1)東北大院・農、2)京大院・農、3)宮城大・食産業
【背景・目的】日本が長寿国になった要因の一つとして、日本食の影響が考えられてい
る。これまでに、特徴的な成分については数多く研究されてきたが、日本食まるごとが
健康状態に及ぼす影響について、科学的に検討した研究はほとんどなかった。また、日
本食はここ 50 年で欧米の影響を受けてその内容が大きく変化してきており、どの年代
の日本食が健康維持に有益か分からなかった。そこで我々は、1960 年、1975 年、1990
年、2005 年の日本食の健康有益性を比較するために、各年代の食事を凍結乾燥・粉末
化しマウスに与えたところ、1975 年の日本食が最も内臓脂肪蓄積を抑制し、この効果
が PFC バランスのみに依存しないことを明らかとした。しかし、日本食まるごとに含
まれるどの成分が内臓脂肪蓄積を抑制しているのかわからなかった。そこで、本研究で
は、各年代の日本食を様々な質量分析器で一斉分析し、1975 年の日本食で見られた効
果の要因となる成分の探索を行った。
【方法・結果】各年代の日本食について CE-TOFMS を用いたイオン性代謝物の分析で
は、測定可能な約 900 個のうち 261 個の成分が、LC-TOFMS を用いた脂溶性代謝物の
分析では、測定可能な約 300 個のうち 66 個の成分が、ICP-MS を用いたミネラルの分
析では、測定可能な約 70 元素のうち 34 個の成分が検出できた。得られた 3 つの結果
を統合し、主成分分析を行ったところ、各年代の日本食は成分的に大きな差異を有して
いた。第 1 主成分では年を追うごとに高値または低値を示している成分が抽出され、第
2 主成分では 1975 年の食事を中心に高値または低値を示す成分が抽出された。1975 年
の食事を中心に健康有益性が高いことが示されているので、この第 2 主成分として抽出
された成分に健康有益性を示す要因が含まれていることが示唆され、これらの成分は、
魚類、大豆食品、野菜、鰹節、果物、緑茶等に多く含まれることが分かった。
17
2Q-06a
様々な年代の日本食に含まれる成分の一斉比較
坂本
有宇(東北大学大学院農学研究科)
(連絡先:都築
毅 Tel: 022-717-8803 E-mail: tsudukit@m.tohoku.ac.jp)
日本は長寿国として知られ、その要因として日本食(日本人が日常摂取して
きた食事)の影響が考えられています。私たちは以前、食の欧米化などの食生
活の変化が健康へ与える影響を明らかにするため、現代と過去の日本食を比
較・検討しました。1960 年から 15 年刻みの日本食をマウスに与えたところ、
1975 年の日本食で最も内臓脂肪蓄積が抑制され、1975 年の食事が最も健康有
益であることを明らかとしました。しかし、1975 年の食事日本食の何が良かっ
たかは、明らかになっていません。そこで本研究では、各年代の日本食の測定
可能な成分をすべて分析し、1975 年の日本食で特徴的な成分の探索を行いまし
た。様々な年代の日本食(1960 年、1975 年、1990 年、2005 年)を 3 種類の
質量分析装置(LC-TOFMS、CE-TOFMS、ICP-MS)を用いて分析し、得られ
た結果を統計解析しました。その結果、各食事は成分的に大きな違いが認めら
れました。1975 年の日本食を中心に高い健康有益性が示されているので、1975
年で最も多く含まれる成分をピックアップしたところ、魚類、大豆食品、野菜、
鰹節、果物等に多く含まれる成分でした。
本研究より、1975 年の日本食の持つ効果の要因となりうる食材を見つけるこ
とができました。これらの食材の重要性を社会に発信することにより、健康有
益な食事をより明確にでき、さらに現在の食生活を見直す一助となると期待で
きます。今後は、理想的な食事の提示や、本研究で見出した種々の成分を健康
食のバイオマーカーとして提示できるようさらに研究を進めていきたい。
18
3R-01a
虫害被害を受けた大豆(枝豆)のプロテオーム・アレルゲノーム解析
○花房
佳世、矢野えりか、末森
佑輔、財満 信宏、森山
達哉
近畿大学・院・農、応生化
[目的] 私たちは食物アレルギーのリスク変動を明らかにするための一環として、種々
の農作物の品種、栽培法、収穫後処理や加工、調理などによるアレルゲンの変動解析を
行っている。植物がストレスを受けた際に発現が増大する感染特異的タンパク質
(PR-Ps)の多くがアレルゲンとして知られていることから、本研究では虫害の被害を
受けた大豆(枝豆)におけるタンパク質プロファイルの網羅的変動解析(プロテオーム
解析)と、アレルゲンの網羅的変動解析(アレルゲノーム解析)を行った。
[方法] シロイチモジマダラメイガ(Etiella zinckenella)による虫害被害を受けた枝豆
と被害を受けていない同枝の枝豆を複数採取し、それぞれ十分に洗浄後、破砕し抽出液
を得た。プロテオーム解析に関しては 1D または 2D-PAGE にて変動するタンパク質
を探索し、エドマン分析または Protein Mass Figerprinting (PMS)にて同定を試みた。
アレルゲノーム解析に関しては、大豆の主要なアレルゲンに対する抗体や大豆アレルギ
ー患者血清を用いたウエスタンブロッティング(WB)または ELISA にて変動を解析
した。
[結果と考察] 虫害被害を受けた枝豆と被害を受けていない枝豆では、重量当たりの抽
出タンパク質濃度に大きな差異はなかった。しかし、プロテオーム解析の結果、いくつ
かのタンパク質のパターンが異なっていた。現在、変動タンパク質を同定中である。ア
レルゲノーム解析の結果では、花粉症関連抗原である Gly m4、Gly m3 が虫害被害で
有意に増加したが、オレオシンは分解・減少した。Gly mBd30K、トリプシンインヒビ
ター、Gly m5、Gly m6 などのクラス1抗原には有意な変化は見られなかった。このよ
うに虫害被害によって、枝豆中の特定のタンパク質やアレルゲンの存在パターンや存在
レベルが多様に変動することが判明し、虫害被害によって枝豆のアレルゲンリスクが変
化することが明らかとなった。
19
3R-01a
虫害被害を受けた大豆(枝豆)のプロテオーム・アレルゲノーム解析
花房佳世(近畿大学大学院・農学研究科
大学院生):発表者
森山達哉(近畿大学大学院・農学研究科
教授):指導教員(問合せ先)
(Tel: 0742-43-8070(直通)、E-mail: tmoriyama@nara.kindai.ac.jp :森山)
大豆は栄養価や機能性に優れた食品素材であるが、主要なアレルゲン食品の
一つでもある。大豆アレルギーには多様性がある。例えば乳幼児に多く、蕁麻
疹や消化器症状などの症状が表れる一般的な「クラス1食物アレルギー」や、
成人に多いある種の花粉症患者が発症し、口腔内アレルギー症候群(OAS)と
いわれる、口腔内や喉の痒み、気道狭窄等の症状が誘発される「クラス2食物
アレルギー」などがある。
大豆などの農作物のアレルゲンの多くは、
「感染特異的タンパク質:(PR-Ps)」
と呼ばれる、ストレスを受けた際に増加する生体防御タンパク質であるので、
ストレスによってアレルゲンリスクは変動すると考えられる。そこで本研究で
は、実際に虫害被害によるストレスを受けた枝豆においてどのようなタンパク
質やアレルゲンの変動が見られるのか網羅的に検討を行った。その結果、大豆
のクラス 2 食物アレルゲンであり PR-Ps でもある「Gly m 4」、や、細胞の骨組
みに関わり、クラス 2 食物アレルゲンである、「Gly m 3」が有意に増加してい
た。一方、クラス1食物アレルゲンでは変化がないか、反対に一部分解してい
るものもあった。これらのことから、虫害被害を受けた大豆(枝豆)では、花
粉症に関連するクラス2食物アレルギーのリスクが有意に増加することが示さ
れた。
大豆
(枝豆)
虫害
被害
Gly m4, Gly m3 増加
(クラス2食物アレルゲン)
クラス2食物アレルギー
(成人での花粉症関連
食物アレルギー)リスク増大
クラス1食物アレルゲン類
変化なし、(一部分解)
クラス1食物アレルギー
(乳幼児での一般的な
食物アレルギー)リスク変化なし
20
2I-08p
食事性リンが炎症性腸疾患の病態および腸管バリア機能に及ぼす影響
○杉原
石田
康平 1)、増田 真志 1)、中尾 真理 1)、Abuduli Maerjianghan1)、
陽子 1)、山本 浩範 2)、武田
英二 1)、竹谷
豊 1)
1)徳島大院・医歯薬学研究部・臨床食管理、2)仁愛大・健康栄養学科
【目的】潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患は、根治療法がなく再燃と寛
解を繰り返す難治性の疾患である。詳細な発症機構については不明な点が多いが、その
一つとして、タイトジャンクション(TJ)をはじめとした腸管バリア機能の異常が報
告されている。また近年、ファストフードや加工食品などの摂取によるリン過剰摂取が
問題視されている。本研究では、リン過剰摂取が炎症性腸疾患の病態および腸管バリア
機能に及ぼす影響を検討した。
【方法】SD 系雄性ラットに 2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲水投与す
ることにより大腸炎モデルラットを作成し、異なるリン含量の食事を与えて、高リン食
摂取が大腸炎に及ぼす影響を検討した。大腸炎の重症度は、体重変化・便の性状・出血
を指標とした疾患活動係数と結腸の病理組織スコアで評価した。また、腸管上皮細胞株
である Caco-2 細胞を用いて、高リン負荷が腸管バリア機能に及ぼす影響を in vitro で
検討した。
【結果】DSS 投与により疾患活動係数および病理組織スコアともに有意な上昇がみら
れたが、特に高リン食を摂取した群で大腸炎の悪化が確認された。また、好中球浸潤の
マーカーである MPO 活性もリン摂取量依存的に有意に高値を示した。TJ タンパクの
Occludin および ZO-1 の mRNA 発現は、DSS 投与により有意に低下したが、リン摂取
量による差はみられなかった。また、Caco-2 細胞を用いた in vitro の解析で、高リン
負荷が TJ に及ぼす影響を免疫蛍光染色で検討した結果、高リン負荷により ZO-1 の局
在が変化することが示された。
【考察・結論】高リン食摂取が DSS 誘発性大腸炎を悪化させ、その要因として TJ の
機能異常が関与することが考えられた。以上より、炎症性腸疾患患者の寛解維持のため
に、加工食品などの利用によるリン過剰摂取に注意する必要があることが示唆された。
21
2I-08p
食事性リンが炎症性腸疾患の病態および腸管バリア機能に及ぼす影響
発表者:杉原康平(徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床食管理学分野)
(Tel: 088-633-9595、E-mail: kou_abc_123@yahoo.co.jp)
指導教員:竹谷豊(徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床食管理学分野)
(Tel: 088-633-9597、E-mail: taketani@tokushima-u.ac.jp)
潰瘍性大腸炎やクローン病をはじめとする炎症性腸疾患は、再燃と寛解を
繰り返す難治性の疾患であり、近年患者数が増加傾向にある。炎症性腸疾患で
は食事がその病態に大きく影響し、特に動物性食品や加工食品、ファストフー
ドなどの利用による脂質の過剰摂取が病態を悪化させることが報告されている。
しかしながら、このような食品には脂質に加えて“リン”も多く含まれている。
リンは生体にとって必須のミネラルの一つであるが、リン酸塩が食品添加
物として加工食品に広く用いられていることから、近年リンの過剰摂取が問題
視されている。リンの過剰摂取は慢性腎臓病や心血管疾患などの進展に関わる
ことが報告されているが、炎症性腸疾患の病態に及ぼす影響は明らかでない。
本研究では、実験的大腸炎モデル動物と腸管上皮細胞を用いて、リン過剰摂取
が炎症性腸疾患の病態に及ぼす影響を検討した。
まず、炎症性腸疾患モデル動物として使用されるデキストラン硫酸ナトリ
ウム誘導性大腸炎ラットを用いて検討を行なった。その結果、リン摂取量が増
加するにつれて体重減少や下痢といった臨床症状や病理組織の悪化がみられ、
リン過剰摂取が大腸炎を悪化させることが示された。また、その機序を解明す
るために腸管上皮細胞を用いて検討した結果、リンの負荷が腸管バリア機能異
常を引き起こすことが示された。
現在は炎症性腸疾患患者におけるリンの摂取は制限されていないが、今後
は加工食品などの利用によるリン過剰摂取に注意するよう栄養指導を行う必要
があることが示唆された。
22
3F-09
ストレプトゾトシン誘発性膵 β 細胞死に対するコーヒーの阻止作用の検討
○小林
美里、倉田
貴生、村井
篤嗣、堀尾 文彦
名古屋大院・生命農・応用生命
【背景】我々はこれまでに自然発症 2 型糖尿病モデルマウスを用いて、コーヒー摂取が
インスリン抵抗性を改善することで、糖尿病発症抑制効果を示すことを明らかにしてき
た。また、インスリン分泌を担う膵 β 細胞を特異的に破壊するストレプトゾトシン(STZ)
の投与による STZ 誘導性糖尿病モデルにおいても、STZ 投与前からのコーヒーの継続
摂取が高血糖発症を抑制することを見出した。そこで本研究では、STZ 誘発性膵 β 細
胞死に対するコーヒーの作用について in vivo および in vitro で検討することとした。
【方法および結果】実験1:C57BL/6J マウス(7 週齢、雄)に、水(water 群)ある
いはコーヒー2.5 倍希釈液(coffee 群)を飲水にて自由摂取させ、4 週間後に STZ を腹
腔内投与(165 mg/ kg BW)した。投与 6 時間後に膵臓を摘出し、組織切片にてインス
リン陽性細胞に占める TUNEL 陽性細胞の割合を算出した。実験 2:マウス膵 β 細胞株
(MIN6 細胞)の培地に STZ に加えてコーヒーを添加して培養した後、細胞生存率を
測定した。実験 3:C57BL/6J マウス(8 週齢、雄)に STZ を腹腔内投与後、6 日目に
血糖値を測定して糖尿病発症個体を選抜し、water 群と coffee 群の 2 群に分けて飲水摂
取させて 25 日目まで経時的に血糖値を測定した。
【結果・考察】実験 1,2:マウスと MIN6 細胞のいずれにおいても、STZ 誘発性膵 β 細
胞死に対するコーヒーの阻止効果は見られなかった。実験 3:STZ 誘発性糖尿病モデル
マウスにおいては、STZ 投与後のコーヒー摂取が血糖値の上昇を抑制した。このこと
から、コーヒーは STZ 投与後の高血糖の進展の抑制に作用していることが考えられた。
23
3F-09p
ストレプトゾトシン誘発性膵β細胞死に対するコーヒーの阻止作用の検討
小林美里、倉田貴生、村井篤嗣、堀尾文彦(名古屋大学大学院生命農学研究科)
(Tel: 052-789-4076、E-mail: misatok@agr.nagoya-u.ac.jp)
2 型糖尿病の発症にはインスリン作用の低下とインスリン分泌能の低下の両者が
関与している。各個人が持つ異なる遺伝的な背景に、食事や運動などの生活習慣の影響
が加わることで 2 型糖尿病の発症に個人差が生まれる。そこで、遺伝的な背景を固定し
て、生活習慣の中でも食事内容の影響を評価するために、我々は、遺伝的に均一な 2 型
糖尿病モデルマウスを用いている。今回は、食品因子の一つとしてコーヒーに注目した。
ヒトにおいてコーヒー摂取は 2 型糖尿病の発症リスクを低下させることが報告されて
いるが、そのメカニズムは分かっていない。今までに我々は、モデルマウスを用いた実
験から、コーヒーはインスリン作用を改善することで、糖尿病発症抑制効果を示すこと
を明らかにした。また、インスリン分泌を担う膵β細胞を特異的に破壊するストレプト
ゾトシン(STZ)の投与による STZ 誘発性糖尿病モデルにおいても、コーヒーの継続
摂取が高血糖発症を抑制することを見出している。そこで本研究では、STZ 誘発性膵
β細胞死に対するコーヒーの作用について検討した。C57BL/6J マウスに水あるいはコ
ーヒーを自由摂取させて 4 週間後に STZ を腹腔内投与した。STZ 投与 6 時間後の膵β
細胞のアポトーシス細胞の割合にコーヒーの効果は見られなかったが、血中インスリン
値の結果からコーヒーによる膵β細胞死の阻止効果が推察できた。また、STZ 誘発性
糖尿病を発症したマウスにコーヒーを摂取させたところ、血糖値の上昇抑制効果が見ら
れた。
コーヒー摂取が糖尿病発症リスクを下げる、すなわち予防効果は知られていたが、本
研究によりコーヒーは STZ 投与後(糖尿病発症後)の高血糖の進展の抑制に作用して
いることがわかった。また、コーヒーが STZ による細胞死を阻止している可能性も考
えられた。これらのことは、コーヒーが糖尿病発症後においても膵β細胞機能を維持で
きる可能性を示しており、今後の研究を進めることで 2 型糖尿病の治療に対する貢献が
期待できる。
24
2Q-02a
フィトールおよびその代謝産物の PPARα 活性化能が肝臓および脂肪組織における脂質
代謝に及ぼす影響
○眞田
康平 1)、安
芝英 1)、後藤 剛 1,2)、高橋
中田理恵子 3)、井上 裕康 3)、高橋
春弥 1)、永井
信之 1,2)、河田
宏幸 1)、金 英一 1)、
照雄 1,2)
1)京大院農・食品生物、2)京大・生理化学研究ユニット、3)奈良女子大・食物栄
養
【目的】植物中に豊富に存在するクロロフィルの分解産物であるフィトールは、体内で
フィタン酸へと代謝される。フィトールおよびフィタン酸はともに核内受容体型転写因
子 peroxisome proliferator-activated receptor alpha (PPARα)のリガンドとなり活性化
することが報告されている。PPARα は脂肪酸酸化を制御し、その合成リガンドは高中
性脂肪血症の改善作用を有する。本研究では、フィトールの摂取で肥満および肥満に伴
う代謝異常症に与える影響について検討した。
【方法】肥満・糖尿病モデルマウス KK-Ay に 0.5% フィトール含有高脂肪食(60 kcal%
fat)を摂食させ、糖負荷試験、インスリン負荷試験、病理切片解析をおこない、各組織
での mRNA、タンパク質発現量を検討した。また GC/MS を用いて臓器中のフィトー
ルおよび代謝産物を定量した。野生型と PPARα 欠損マウスから得た初代培養細胞にフ
ィタン酸を添加し、遺伝子発現変化を検討した。
【結果】フィトール摂食により肥満に伴う耐糖能異常、インスリン抵抗性が改善し、白
色脂肪細胞の小型化が確認された。フィトール摂食群の肝臓において脂肪酸酸化関連遺
伝子の発現上昇が認められ、褐色脂肪組織では熱産生の責任分子 uncoupling protein 1
(UCP1)発現が亢進することが明らかとなった。GC/MS を用いた分析の結果、肝臓およ
び脂肪組織中でフィトールよりフィタン酸が多く存在することが示された。フィタン酸
を添加した肝臓初代培養細胞では脂肪酸酸化関連遺伝子の発現が増加し、褐色脂肪初代
培養細胞では UCP1 発現増加が示された。PPARα 欠損マウス由来の細胞ではそれらの
変動は認められなかった。
【結論】フィトール摂取は肥満に伴う代謝異常症の改善をもたらし、この作用の一因に
はフィタン酸による肝臓・褐色脂肪組織における脂質代謝亢進が関与しているものと推
察された。
25
2Q-02a
フィトールおよびその代謝産物の PPAR活性化能が肝臓および
脂肪組織における脂質代謝に及ぼす影響
眞田康平
(京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻食品分子機能学分野)
(Tel: 0774-38-3759, E-mail: ksanada@kais.kyoto-u.ac.jp)
【研究背景】
食生活の変化に伴い糖尿病や脂質代謝異常症等の生活習慣病患者が増加しているが、そ
の発症基盤となっているのが肥満である。医療や経済の両面において、肥満を予防・改
善することは社会的意義が大きく、肥満抑制の方法としてエネルギー摂取量の減少やエ
ネルギー消費の亢進が考えられる。すなわち日々の食事において脂質代謝を亢進し、エ
ネルギー消費量を増大させることは肥満や生活習慣病対策として有効である。そこで本
研究では、植物中の成分が脂質代謝および肥満病態に及ぼす影響について検討をおこな
うこととした。本研究において着目したフィトールは植物中のクロロフィルの分解産物
であり、フィトールと代謝物のフィタン酸は共に核内受容体型転写因子 peroxisome
proliferator-activated receptor alpha (PPAR)のリガンドとなることが明らかとなっ
ている。そこで、病態モデルとして肥満・糖尿病モデルマウス KK-Ay を用いた摂食実
験をおこなった。肝臓・脂肪組織の解析をおこなうことで PPAR活性化能を持つ食品成
分が肥満及び肥満に伴う代謝異常症に与える影響について検討した。
【結果及び意義】
肥満に伴う代謝異常はフィトール摂食により一部改善し、肝臓および褐色脂肪組織での
脂質代謝亢進が認められた。フィトールを摂食させたマウスの肝臓および脂肪組織中に
おいて、フィトールよりフィタン酸が多く存在することが示された。フィタン酸の
PPAR活性化作用はフィトールのそれより強いことと合わせて考えると、フィトール
摂食による脂質代謝亢進作用はフィタン酸の寄与が
大きいと考えられた。また、PPAR欠損マウス由来
の肝細胞・褐色脂肪細胞を用いた検討から、肝臓での
脂肪酸酸化亢進、褐色脂肪組織での熱産生亢進はフィ
タン酸による PPARの活性化と関連していることが
示された。
本研究結果から、フィトール摂取は肥満に伴う代謝異
常症の改善をもたらし、この作用の一因にはフィタン
酸による肝臓・褐色脂肪組織における脂質代謝亢進が
関与しているものと推察された。
26
3O-05a
カルコンを高含有するアシタバ抽出物の肥満予防効果
○芦田
均 1)、張
天順 1)、山下
陽子 1)、山本 憲朗 2)
1)神戸大院農・生機化、2)ハウスウェルネスフーズ・食科研セ
【背景・目的】われわれは、アシタバ由来のカルコンである 4-hydroxyderricin (4HD) と
xanthoangelol (XAG) が、培養細胞試験により脂肪細胞の分化や脂肪肝の抑制を介し
て肥満予防・改善効果を発揮する可能性を得ている 1, 2)。そこで本研究は、4HD と XAG
が多く含まれているアシタバ抽出物の脂質代謝改善効果を動物実験で検証することを
目的とした。
【方法】アシタバ抽出物を、30%ラードからなる高脂肪食と対照食に 0.01 あるいは
0.1%で混餌した飼料をマウスに 16 週間摂取させ、食餌誘導性の肥満やインスリン抵抗
性に対する抽出物の効果を確認するとともに作用機構も検討した 3)。
【結果】アシタバ抽出物の摂取は、脂肪組織と肝臓のいずれにおいても AMPK の活性
化を促進することを見出した。白色脂肪組織においては、AMPK の活性化が高脂肪食
により誘導された脂肪分化を調節する転写因子である PPARγ と C/EBPα の発現抑制と
その下流にある脂肪合成に関わる SREBP-1 の発現抑制を介して脂肪蓄積を低下させる
ことが判った。一方で、肝臓における AMPK の活性化は、高脂肪食により誘導される
SREBP-1 と fatty acid synthase の発現を抑制し、逆に、脂肪酸分解に関わる carnitine
palmitoyltransferase-1A、acyl-CoA oxidase、ならびに PPARα の発現を促進させるこ
とで、高脂肪食が惹起した肝脂質量の増加を抑制することが判った。さらに、アシタバ
抽出物は、高脂肪食による血漿グルコース量およびインスリン量の増加を抑制し、アデ
ィポネクチン量の低下を改善することも判った。
【考察】得られた結果から、アシタバ抽出物は、AMPK の活性化促進を介して、高脂
肪食摂取による脂肪蓄積と分解に関わる因子の機能異常を改善させ、肥満やインスリン
抵抗性発症の予防に有効な食品素材となる可能性が高いと考えた。
1)
Mol.Nutr. Food Res., 57, 1729–1740, 2013.
2)
Food Funct., 5, 1134–1141, 2014.
3)
Food Funct., 6, 135–145, 2015.
27
3O-05a
カルコンを高含有するアシタバ抽出物の肥満予防効果
芦田
均(神戸大学大学院 農学研究科)
(Tel: 078-803-5878、E-mail: ashida@kobe-u.ac.jp)
肥満はメタボリックシンドローム発症のリスクファクターとして知られてお
り、肥満の予防・改善に有効な食品成分の検索とその作用機構解明は、人々、
特にメタボリックシンドローム予備軍である未病の健常人からの期待が高く、
特定保健用食品や機能性表示食品などの開発に繋がることと、それを介した医
療費削減に寄与できることから社会的意義は高い。
アシタバ(Angelica keiskei)はセリ科の日本原産植物であり、野菜として茎
葉部を食することができる。アシタバには特徴的な成分として
4-hydroxyderricin と xanthoangelol というカルコンが多く含まれている。私た
ちは、培養細胞試験でアシタバカルコンが脂肪細胞分化や脂肪肝の抑制を介し
て肥満予防・改善効果を示す可能性を得ている。そこで本研究は、カルコンを
多く含むアシタバ抽出物の脂質代謝改善効果を動物実験で検証することを目的
として研究を実施した。
アシタバ抽出物をマウスに摂取させたところ、脂肪組織と肝臓のいずれにお
いても、エネルギー代謝の鍵分子である AMP キナーゼ(AMPK)の活性化が促進
されることを見出した。白色脂肪組織においては、AMPK の活性化が脂肪細胞
の分化と脂質合成系の抑制を介して、高脂肪食により誘導される脂肪蓄積を低
下させることを明らかにした。一方で、肝臓における AMPK の活性化は、高脂
肪食により誘導される脂肪酸合成系を抑制し、逆に、脂肪酸分解系を促進させ
ることで、肝脂質量の増加を抑制することが判かった。さらに、アシタバ抽出
物は、高脂肪食による高血糖とインスリン抵抗性を抑制することも判かった。
このように、アシタバカルコンは、複数の組織において、脂肪蓄積抑制と分
解促進を促す魅力的な食品成分であることから、アシタバカルコン高含有食品
素材やサプリメントの開発、野菜としてのアシタバ消費量の拡大が期待される。
28
3O-09p
ガーリックオイルの肥満改善効果とそのメカニズムの解明
○岡本
日本大院
篤、小島 貴之、細野 崇、関
泰一郎
生資科・応生科
[目的]近年,肥満に関連した生活習慣病が増加している。肥満は,がんや脂肪性肝炎な
どの様々な疾病の発症リスクを増加させる。したがって肥満予防効果や脂質代謝改善作
用を有する機能性食品が注目されている。ガーリックは,血中脂質低下作用,抗血栓作
用,抗がん作用,抗菌作用など様々な機能性を有する。本研究では,ガーリックのホモ
ジネートを水蒸気蒸留して得られるガーリックオイル(GO)の抗肥満作用について検討
した。
[方法] C57BL/6J マウス(6 週齢, オス)に標準食 CRF1 を 4 週間自由摂取させ予備飼
育した後、カロリー比 60%の脂質を含む High fat diet(HF;D12492, リサーチダイエ
ット社)を給餌し,平均体重が 45 g になるまで飼育した。その後平均体重が等しくな
るように HF 群,HF+Garlic Oil (GO)群の 2 群に群分けした。HF 群にはメチルセルロ
ースのみ,GO 群にはメチルセルロースに溶解した GO(150 mg/kg b.w.)を 2 日に 1
回経口投与した。経口投与開始 8 週間後、これらのマウスについて Oxymax 等流量シ
ステム(Columbus Instruments)を用いて呼気ガス分析を実施した。また、投与開始 10
週後に血液、各種臓器を回収し、各種分子細胞生物学的解析を行った。
[結果と考察]試験期間中 HF 群と GO 群間で摂餌量に差はなかったが,体重,各種白色
脂肪組織重量は HF 群に比べ GO 群で有意に減少した。血漿中性脂肪濃度,総コレステ
ロール濃度も HF 群と比較して GO 群で有意に低下した。呼気ガス分析の結果,O2 消
費量,CO2 産生量は GO 群で有意に増加した。一方,呼吸交換比は GO 投与により減
少した。また、エネルギー消費は GO 群ではタンパク質、糖質の消費量に変化はなかっ
たが脂質消費量は有意に増加し,総エネルギー消費量も有意に増加した。このことから
GO は脂質代謝を亢進させ肥満を改善することが示唆された。
29
3O-09p
ガーリックオイルの肥満改善効果とそのメカニズムの 解明
関 泰一郎(日本大学生物資源科学部生命化学科栄養生理化学研究室)
(Tel&Fax: 0466-84-3949,e-mail: tseki@brs.nihon-u.ac.jp)
近年、わが国では食の多様化、ライフスタイルの変化により、摂取カロリーが減少し
ているにもかかわらず、肥満が増加している。肥満は、いわゆるメタボリックシンドロー
ムの基盤をなし、糖尿病や動脈硬化性疾患、さらには心筋梗塞、脳梗塞などの命を落
とす病気へと発展する。
我々はこれまでにガーリックオイル(ニンニク油=ニンニクの磨砕物を水蒸気蒸留
して得られる精油)が肥満を抑制することを明らかにしてきた。本研究では、高脂
肪食を与えて肥満を誘導したマウスにガーリックオイルを与え、肥満改善効果とそのメ
カニズムについて研究を行った。呼気ガス分析と呼ばれる特殊な実験により、呼気中
の酸素と二酸化炭素を測定して、体内で燃焼している栄養素を推定したところ、ガーリ
ックオイルを投与したマウスでは、脂肪がより多く燃焼している可能性がはじめて明ら
かになった。また、肝臓での脂質合成も抑制されており、脂肪肝の改善も明らかになっ
た。 我々はガーリックオイルには、強力な抗血栓作用を示す物質が含まれることも明ら
か にしている。ガーリックの摂取は、肥満やメタボリックシンドロームを改善し、心筋梗
塞 や脳梗塞などの生活習慣病の予防に役立つ可能性が明らかになった。
高脂肪食を与えた肥満モデルマウスに
ガーリックオイルを 投与し 呼気ガス分
析などを実施
ガーリックオイル
ジアリルトリスルフィド
(DATS)などのガーリッ
ク特有の匂い成分を含む
精油。DATS は強力な抗血
栓作用を有する。
脂質燃焼
エネルギー消費
体重, 脂肪重量
30
2I-02p
男性ホルモン機能低下に起因した肥満発症における腸内細菌の影響
○花田
一貴 1)、原田 直樹 1)、花岡
諒 1)、中野
長久 2)、乾
博 3)、山地
亮一 1)
1)大阪府大・生命環境、2)大阪府大・地域連携、3)大阪府大・栄養
【背景・目的】肥満型の腸内細菌叢は、食餌あたりのエネルギー摂取量を増加させるこ
とが注目されている。肥満モデルマウスの腸内細菌ではファーミキューテス門/バクテ
ロイデス門の比が増加することが特徴である。我々は、高脂肪食(HFD)を摂取させ
たマウスで、去勢によって肥満が誘導され、食餌量あたりの乾燥糞重量が減少すること
を見出した。そこで本研究では、去勢による肥満誘導への腸内細菌の関与について検討
した。
【方法・結果】C57BL/6J 雄性マウス(8 週齢)に去勢または疑似手術を行い、さらに
4 種類の抗生物質を給水摂取させ、HFD を与えて 13 週齢または 27 週齢まで飼育した。
抗生物質を与えずに飼育したときに観察された対照群に比べて去勢群での体重増加、食
餌効率(体重増加量/摂取カロリー)の増加、食餌量当たりの糞重量の減少、内臓脂肪
の増加、大腿筋重量の増加、空腹時血糖値の増加、肝臓トリグリセリド量の増加は抗生
物質を与えると全て消失した。一方、去勢による鼠蹊部皮下脂肪の増加は抗生物質の影
響を受けなかった。去勢による食餌効率の上昇が顕著であった 13 週齢時の盲腸内容物
量は抗生物質により顕著に増加し、対照群に比べ去勢群では抗生物質投与の有無にかか
わらず、有意な減少が観察された。また、盲腸内 pH に去勢による影響はみられなかっ
た。13 週齢のマウスの糞から DNA 抽出を行い、リアルタイム PCR により腸内細菌叢
の解析を行った結果、去勢によってファーミキューテス門/バクテロイデス門比の増加
が観察された。ファーミキューテス門の中ではラクトバシラス属が去勢により有意に増
加した。これらの結果から、高脂肪食摂取時の去勢による肥満の発症は腸内細菌叢の変
化が関与することが示唆された。
31
21-02p
男性ホルモン機能低下に起因した肥満発症における腸内細菌の影響
花田一貴(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)
(Tel: 072-254-9454、E-mail: harada@biochem.osakafu-u.ac.jp)
肥満症は、脳卒中や心筋梗塞といった動脈硬化症のリスクを上昇させるた
め、社会的に大きな関心を持たれている。一方、男性では加齢などによって男
性ホルモン(テストステロン)レベルが低下するが、男性ホルモンの低下は、
肥満症を誘発して動脈硬化症のリスクを上昇させることが注目されている。し
かし、この理由についてはよく分かっていなかった。本研究では、マウスを去
勢することで男性ホルモンレベルを低下させると、摂食量が減少するにも関わ
らず、肥満症が誘発されることを見出した。男性ホルモン低下による肥満発症
には、高脂肪食の摂取、摂食量当たりの糞重量の低下が鍵となることが判明し
た。そこで、これらに関連する因子として腸内細菌叢の変化を調べたところ、
男性ホルモンの低下によって、腸内細菌叢は典型的な肥満型へと変化していた。
また、抗生物質を用いて腸内細菌叢を撹乱した際には、男性ホルモン低下によ
る肥満は発症しなかった。本研究により、男性ホルモン低下は腸内環境に影響
して、肥満症を誘発することが考えられたため、腸内環境を改善することで、
男性ホルモン低下に起因した肥満を抑制することが期待される。
(Harada et al., Sci. Rep. 6, 23001, 2016)
32
2E-02p
骨格筋特異的な日周発現遺伝子 Slc25a25 は飢餓時の熱産生を制御する
○中尾
玲子 1)、山崎 春香 2)、野呂知加子 2)、榛葉
1)産総研
バイオメディカル
日本大
健康衛生学、4)東理大院
薬
繁紀 3)、大石 勝隆 1,4,5)
生物時計、2)日本大
生産工 応用分子化学、3)
理工 応用生物、5)東大院
新領域 メデ
ィカル情報生命
マウスは飢餓状態においてエネルギー消費を抑制するために体温を低下させることが
知られている。我々はこれまで、飢餓を模倣するケトン体食(高脂肪低炭水化物食)を
摂取したマウスでは 1 日の平均体温が普通食の場合に比べて有意に低下し、特に 1 日の
中でも活動期(暗期)後半から休息期(明期)前半に体温が低下する日内休眠が観察さ
れることから、飢餓時における時刻依存的な体温維持メカニズムが存在し、体内時計が
関与する可能性を示してきた。我々は骨格筋の熱産生機能に着目し、その役割について
検討を行った。坐骨神経切除によって筋萎縮を誘発したマウスにケトン体食を摂取させ
たところ(筋萎縮+ケトン体食群)、対照マウス(ケトン体食群)と比較して有意に体
温が低下したことから、飢餓時における体温維持には骨格筋における熱産生が重要であ
ると考えられた。我々は DNA マイクロアレイにより、筋萎縮によって影響を受けるエ
ネルギー代謝関連分子を探索し、骨格筋における熱産生分子 Slc25a25 を見出した。
Slc25a25 遺伝子は暗期の始めをピークとする顕著な日周発現を示し、ケトン体食負荷
によって発現が誘導されたが、筋萎縮によって発現量が顕著に減少し、発現リズムも減
衰した。熱産生を担う臓器として褐色脂肪組織(BAT)が重要であるとこれまで報告さ
れてきたが、BAT における Slc25a25 遺伝子、Ucp1 遺伝子の発現量には筋萎縮+ケト
ン体食群、ケトン体食群の間で差が見られなかった。また、Slc25a25 遺伝子の発現リ
ズムは時計遺伝子 Clock 変異マウス、Bmal1 欠損マウスの骨格筋において減衰してお
り、体内時計の制御を受けることが示唆された。これらの結果から、飢餓時の体温維持
には骨格筋による熱産生が重要であり、筋萎縮や体内時計の乱れに伴って発現量が低下
する骨格筋特異的日周発現遺伝子 Slc25a25 がその責任分子である可能性が示された。
33
2E-02p
骨格筋特異的な日周発現遺伝子 Slc25a25 は飢餓時の熱産生を制御する
中尾玲子(国立研究開発法人産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 生物
時計研究グループ)
(Tel: 029-861-6053、E-mail: nakao-reiko@aist.go.jp)
マウスはカロリー制限や絶食・飢餓の状態においてエネルギー消費を抑制
するために体温を低下させることが知られている。我々はこれまで、飢餓状態
を誘導するケトン体食(高脂肪低炭水化物食)を摂取したマウスでは 1 日の平
均体温が普通食の場合に比べて有意に低下し、特に活動期(暗期)後半から非
活動期(明期)前半に体温が低下する一方で、活動開始時刻である暗期前半に
は普通食の場合と同程度にまで体温が上昇することを示し、飢餓時における時
刻依存的な体温維持メカニズムの存在と体内時計の関与について報告してきた。
今回我々は、筋肉を萎縮させたマウスでは、普通食摂取時の体温には影響が
ないものの、ケトン体食誘導性の低体温がより顕著になることを見出した。DNA
マイクロアレイの結果から、我々は筋萎縮によって発現が抑制される骨格筋熱
産生分子 Slc25a25 を同定した。Slc25a25 遺伝子は暗期前半をピークとした日
周発現を示すが、筋萎縮により発現量が著しく減少し、発現リズムも減衰した。
一方、BAT における熱産生分子 Ucp1 は筋萎縮の影響を受けなかった。これら
の結果から、飢餓時の体温維持には骨格筋による熱産生が重要であり、筋萎縮
に伴って発現量が低下する骨格筋特異的日周発現遺伝子 Slc25a25 がその責任分
子である可能性が示された。
超高齢社会を迎える我が国では、加齢に伴う筋萎縮(サルコペニア)が大き
な問題となっている。高齢者における低栄養は低体温症の一因となっており、
筋萎縮が Slc25a25 遺伝子の発現を抑制することにより、体温の維持機能を低下
させているのかもしれない。
34
2P-02a
カカオポリフェノール抽出物の投与タイミングと時計遺伝子の発現量および血糖調節
作用の関係
○光橋
雄史、山下
陽子、芦田
均
神戸大院農・生機科・応生化
目的: ポリフェノールなどの非栄養素は、第三次機能を持つ食品成分として注目されて
いるが、その作用発揮と投与タイミングの関わりはまだほとんど報告がない。本研究で
は、肥満や高血糖の抑制効果が報告されているカカオポリフェノール抽出物(CLPr)を
用い、実験動物への投与タイミングの違いが、時計遺伝子とそれらに関わるエネルギー
代謝関連遺伝子におよぼす影響を調、ならびに血糖調節に与える影響を調べた。方法:[時
計遺伝子関連実験] CLPr あるいは水を 150 mg/kg body weight の濃度で、雄性
C57BL/6 マウスに胃ゾンデにて強制経口投与した。投与するタイミングは、ZT3
(Zeitgeber Time)、ZT9、ZT15、ならびに ZT21 に設定し、投与 3 時間後に摘出した組
織における時計遺伝子、およびエネルギー代謝関連遺伝子発現の変化を測定した。[糖
負荷試験] CLPr あるいは水を 50 または 150 mg/kg body weight の濃度で、雄性 ICR
マウスに ZT1 または ZT9 に胃ゾンデにて経口投与し、その 1 時間後にグルコースを 1
g/kg body weight で経口投与した。グルコース投与後 0、0.25、0.5、1、ならびに 2 時
間後の血液を尾静脈から経時的に採血し、血漿中のグルコース濃度を測定した。結果:
CLPr を ZT3 に投与した場合、肝臓において、Per1、Per2、Per3、Dbp、ならびに Ppar
alpha の発現量は水群と比較して有意に増加し、Cry2 と Pgc1 alpha も増加傾向を示し
た。一方で、Bmal1 の発現量は有意に減少した。ZT3 以外のタイミングで CLPr を投
与しても、このような発現量の有意な変化は認められなかった。また、糖負荷試験にお
ける CLPr の血糖上昇抑制効果は、ZT1 投与で認められたが、ZT9 投与では効果がな
かった。この差異については、今のところ時計遺伝子の関与は認められていない。考察:
CLPr は、その投与タイミングにより、肝臓の時計遺伝子の発現量と血糖上昇抑制効果
を変化することが判った。特に、ZT1~3 投与において CLPr の効果が強かった。
35
2P-02a
カカオポリフェノール抽出物の投与タイミングと時計遺伝子の発現量および血糖調
節作用の関係
光橋雄史(神戸大学大学院 農学研究科)
(Tel: 078-803-6615、E-mail: 1176431a@gmail.com)
ほぼ全ての生物において、時計遺伝子(体内時計)が約 24 時間の日内リズム
を刻み、代謝をはじめ、さまざまな生理活動を制御している。近年の健康志向
の高まりから、ポリフェノールなどの機能性食品成分が持つ生理作用が注目さ
れているが、これらの機能性食品成分をいつ、どのタイミングで摂取すれば効
率良く効果が発揮されるか、また、時計遺伝子との関わりについては未解明な
点が多い。そこで、これらを明らかにすることを本研究の目的とした。
本研究では、機能性食品成分として、肥満や高血糖の抑制効果を報告してい
るカカオポリフェノール抽出物(CLPr)を用いて、その作用発揮と投与タイミン
グの関わりについて検討した。CLPr をマウスに 5: 00、11: 00、17: 00、あるい
は 23: 00 に投与したそれぞれ 3 時間後の肝臓における遺伝子の発現量を測定し
たところ、CLPr を 11: 00 に投与した場合のみ、水投与群と比較して時計遺伝
子の Per1、Per2、Per3、Dbp の発現量が有意に増加し、一方で Bmal1 の発現
量は有意に減少した。また、エネルギー代謝に関わる遺伝子の Pparα の発現量
も有意に増加した。 その他のタイミングでは、水投与群との間に差がなかった。
次に、CLPr をマウスに 9: 00 または 17: 00 に投与し、その 1 時間後に糖負荷試
験を行ったところ、9:00 に CLPr を投与すると血糖上昇抑制効果が認められた
が、17: 00 に投与した際には水投与群と差がなかった。
以上の結果から、CLPr の生体機能調節効果は、その投与タイミングにより異
なることがわかった。このように、機能性食品成分における、投与タイミング
と時計遺伝子との関係や生体機能調節効果を明らかにすることで、より安全で
効率的に摂取するタイミングを設定することができる。
36
3N-07p
マウス母乳中 CCL25 は新生仔の成長及び免疫機能の発達を促進する
○茶山
和敏 1)、ユウシュウゲツ 2)、玉城梨々子 3)
1)静岡大
学術院・農学専攻、2)静岡大 院・農学研究科、3)静岡大
BACKGROUND
農学部
We detected CCL25, one of chemokines which involved in the
homing of lymphocytes to thymus and small intestine, in mouse milk. However, the
physiological role is still uncertain. Therefore, newborn mice were nursed
artificially by infant formula for mice supplemented with CCL25 and evaluated the
physiological effects.
MATERIALS AND METHODS
Neonatal ddY mice at 3 days-old were nursed
using artificial milk with or without CCL25 until 10 days old. After the nursing
period, the weights of body, intestines, spleen and thymus, and number of IgA
producing cells and number and size of peyer’s patch in small intestine were
measured. Moreover, mRNA level of CCL25 and CCR9 in small intestine were
analyzed.
RESULTS AND DISCUSSION
Surprisingly, the weights of body, spleen and
thymus in CCL25 fed infants was significantly larger than them in the control.
Moreover, the weight of small intestine and the peyer’s patch also increased by
CCL25 administration with formula. Moreover, the mRNA level of CCR9 in small
intestine increased and IgA-positive cells were also detected only in small intestine
from infants fed CCL25-containing milk.
These results indicate that the growth and development of immune organs and the
function in mouse infants were strongly promoted by CCL25 with formula.
Moreover, it suggests that attraction of IgA positive lymphocytes to the intestinal
epithelium and lamina propria by CCL25 in milk may occur with up-regulation of
intestinal immunity such as formation of Peyer’s patch and attraction of
lymphocyte to the intestine.
37
3N-07p
マウス母乳中 CCL25 は新生仔の成長及び免疫機能の発達を促進する
茶山和敏(静岡大学学術院農学専攻)
(Tel: 054-238-4865、E-mail: acksaya@ipc.shizuoka.ac.jp)
母乳中にケモカイン CCL25 を発見し、その機能性を解明
―母乳哺育の重要性の再認識と新しい人工乳開発への足掛かりに―
研究のポイントと新規性・重要性
★ヒトとマウスの母乳中にケモカイン CCL25 を世界で初めて発見した。
★新生児に対する母乳中 CCL25 の機能性を検討することを目的として、CCL25 を添加し
た人工乳を用いて、マウス新生仔を生後2日目から8日間人工哺育した。その結果、マ
ウス新生仔の体重は非添加群(コントロール群)と比べて顕著かつ有意に増加した。ま
た、免疫器官である脾臓、胸腺と小腸が有意に発達していた。さらに、CCL25 投与によ
って小腸中の IgA 産生細胞やパイエル板の数が顕著に増加していた。
★一般に市販されている人工乳(粉ミルク)には CCL25 がまったく含まれておらず、ま
たその他のサイトカイン・ケモカイン類も含まれていないことから、本研究の成果は、
母乳哺育の重要性を再認識させる画期的かつ新規性の高い成果である。さらに、母乳中
のその他のサイトカイン類の新生児に対する生理学的機能を検討する必要性を提起し
ている。
★本研究の成果から、成長や免疫機能の向上を目的とした CCL25 を添加した新たな一般
用人工乳(人工乳への添加剤)
、さらには、未熟児のための CCL25 による成長及び免疫
機能促進剤、が開発できる可能性が考えられる。
★CCL25 添加人工乳の開発は、発展途上国の下痢などの経口感染症の予防やそれに伴う
死亡率の低下にも寄与する可能性を有する有意義な研究成果である。
<研究の背景と経緯>
母乳は、哺乳動物の乳児の栄養供給源として乳児の成長に必要不可欠であります。ま
た、乳児は免疫機能が未熟なことから、病原体の感染に弱いことが知られおり、そのた
め、母乳には母親の免疫タンパク質である免疫グロブリンやラクトフェリンなどの免疫
たんぱく質が多く含まれています。乳児は母乳に含まれるそれらの免疫たんぱく質を飲
むことで、下痢やその他の感染症に罹ることが抑えられています。そして、これらの免
疫タンパク質以外にも、非常に微量ではありますが、サイトカインやケモカインといっ
た免疫の情報伝達を担う免疫タンパク質も含まれていることがわかっています。しかし
ながら、それらの微量免疫タンパク質の乳児に対する機能性に関してはほとんど研究が
38
行われていませんでした。
我々は、微量免疫タンパク質のケモカインの一つである CCL25 がマウスの母乳中に存
在していることを世界で初めて発見しました。
CCL25 は、
ケモカイン CC モチーフ・リガンド25、
別名 TECK(Thymus Expressed Chemokine
胸腺発現ケモカイン)で、主に胸腺や腸管内で産生・分泌され、それらの産生器官への
種々の免疫細胞の誘引やホーミング(滞留)に関与していることが判明しています。
これらの機能から、免疫機能が未熟な乳児の免疫器官やそれらの免疫機能の発達に母乳
中の CCL25 が関与しているのではないかと考えました。
<研究内容>
母乳中 CCL25 の新生児に対する機能性を検討することを目的として、マウスの新生仔
を、生後2日目から 10 日目まで、CCL25 を含有した人工乳を用いて人工哺育して、そ
の成長と人工乳の摂取量を調べました。そして、人工哺育終了後に剖検して、各種免疫
器官および腸の重量を測定しました。その結果、マウス新生仔の体重は非投与群(コン
トロール群)と比べて顕著かつ有意に増加し、人工乳の摂取量も有意に増加することが
わかりました。また、免疫器官である脾臓、胸腺と小腸、大腸の重量を計測した結果、
体重当たりに換算しても CCL25 投与群のほうがコントロール群と比較して有意に発達
していることが判明しました。
さらに、小腸の病原体感染の予防に関与している免疫細胞である IgA 産生細胞(B 細
胞、プラズマ細胞)の数を調べたところ、コントロール群ではほとんど見られなかった
のに対して、CCL25 投与群では有意に多く、また母乳哺育群とほぼ同じ数が存在してい
ることを明らかにしました。また、小腸の免疫器官であるパイエル板の数も多い傾向を
示しました。
これらの結果を受けて、ヒトの母乳にも CCL25 が含まれているかどうかを検討するた
めに、静岡済生会病院の田村圭浩産婦人科科長と共同研究を行い、産婦人科に入院して
出産した母親に協力をお願いして、母乳を採取して CCL25 の分析を行いました。その結
果、ヒトの母乳にも CCL25 が含まれていることが判明しました。
<本研究の意義と今後の展望>
一般的に市販されている人工乳(粉ミルク)には CCL25 も含めたケモカインやサイト
カイン類などの微量免疫たんぱく質はまったくと言っていいほど含まれていません。そ
のため CCL25 や他の微量タンパク質が含まれている母乳による哺育が重要であること
が本研究によって明らかになりました。これは母乳哺育の重要性を再認識させる非常に
有意義な研究成果であると考えています。また、本研究の結果から、CCL25 を添加した
新たな一般用人工乳(人工乳への添加剤)や未熟児のための成長及び免疫機能促進剤の
開発が可能であると考えています。さらに、もし CCL25 添加人工乳の開発が実現した場
合、発展途上国の新生児がかかりやすい下痢などの経口感染症の予防やそれに伴う死亡
39
率の低下に寄与する可能性も有すると考えられます。
今後は、CCL25 の成長促進及び免疫器官とその免疫機能の発達促進作用のメカニズム
を解明する予定です。さらに、母乳中にはその機能性がまったくわかっていない多くの
微量免疫タンパク質が含まれていることから、それらの含有量とその機能性を検討して
いく予定です。
40
3M-13p
長鎖モノエン脂肪酸を含む魚油による抗動脈硬化作用
正浩 1)、竹尾 仁良 2)、福田 大受 3)、宮原
○板東
裕子 2)、楊
志宏 2)、
西本
幸子 1)、植田 知瑶 1)、齋藤沙緒理 1)、川上真智子 1)、佐野 周平 1)、
佐田
政隆 3)、阪上
浩 1)
1)徳島大学院 代謝栄養学、2)日水中研健康基盤研、3)徳島大学院 循環器内科
学
糖尿病などの生活習慣病は、その合併症の重症化予防が最も重要な課題の一つである。
合併症の一つである動脈硬化に対しては多くの研究者が参集し、主にイワシから抽出さ
れる脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)など
を利用した新たな予防法が既に確立されている。我々は EPA や DHA とは異なるコレ
ステロール低下作用などの代謝改善作用を有する長鎖モノエン脂肪酸をサンマ油から
濃縮した。今回この脂肪酸の動脈硬化に対する効果を検討することを目的とした。動脈
硬化モデルマウスである Apolipoprotein E 欠損マウスに高脂肪食とともにサンマから
抽出した長鎖モノエン脂肪酸の濃縮油(サンマ濃縮油)を投与し、動脈硬化巣病変及び
炎症性遺伝子発現を検討した。さらに RAW264.7 細胞およびマウス由来の腹腔内マク
ロファージを使用し、サンマ濃縮油の抗炎症作用について検討した。サンマ濃縮油投与
群において、血漿中 コレステロール値は対照群と比べ有意に低下した。大動脈の動脈
硬化病変面積率は対照群に比べ約 70%抑制された(p<0.001)。大動脈弁周囲動脈硬化巣
の脂肪沈着も同様で、約 50%に抑制された(p<0.05)。大動脈においては TNF-α、MCP-1、
F4/80 発現量が有意に低下した。サンマ濃縮油の培地への添加により、RAW264.7 細胞
および腹腔内マクロファージで動脈硬化促進性サイトカインである IL-6 遺伝子発現量
が低下した。サンマ濃縮油には抗動脈硬化作用を有する脂肪酸が含まれることが示唆さ
れた。この作用には 血中コレステロールの低下と炎症性遺伝子発現量の変化が見られ
ることから、脂質代謝制御機構への作用や慢性炎症機構への作用が関与していると考え
られる。
41
3M-13p
長鎖モノエン脂肪酸を含む魚油による抗動脈硬化作用
板東正浩(徳島大学大学院・医歯薬学研究部・代謝栄養学分野)
(Tel: 088-633-9249、E-mail: c201431003@tokushima-u.ac.jp)
青魚に含まれている多価不飽和脂肪酸の EPA(エイコサペンタエン酸)は動
脈硬化抑制作用を有する。EPA の研究は、血液中の EPA 濃度が高いグリーンラ
ンドのイヌイットはデンマーク在住の白人に比べて虚血性心疾患の発症頻度が
低いという疫学調査から始まり、これまでに多くの研究報告がされている。今
回我々は、
イヌイットは EPA だけではく一価不飽和脂肪酸である LC-MUFA
(長
鎖モノエン脂肪酸)も多く摂取していた調査報告に注目した。
LC-MUFA はサンマやスケトウタラに多く含有されており、肥満モデルマウ
スに LC-MUFA を与えると、血糖値や血中コレステロール値が低下する研究報
告がある。本研究においては、サンマから抽出・濃縮した LC-MUFA 濃縮油を
用い、遺伝的に動脈硬化病変ができやすいマウスに、「ラード」と「ラード+
LC-MUFA 濃縮油」を 3 か月間摂取させ、LC-MUFA 摂取群において動脈硬化
病変巣の形成が抑制されるという結果を得た。
現在、我が国では生活習慣病の増加抑制や、その合併症の重症化予防が重要
な研究課題であるが、LC-MUFA の抗動脈硬化作用が示唆されたことで、合併
症の一つである動脈硬化の新しい予防法の確立が期待される。
長鎖モノエン脂肪酸
(LC-MUFA)
動脈硬化病変巣の抑制
42
2N-04p
側坐核に投射するドーパミン作動性神経による運動に対する動機の調節
○井本
優衣、井上
和生、横山小夜香、石井 仁、高谷
京大院
食生科 栄養化学
亮典
中脳腹側被蓋野(VTA)のドーパミン(DA)作動性神経は大脳基底核の一つである
側坐核(NAc)に投射している。この神経路は中脳辺縁系と呼ばれ、脳内報酬系として
報酬を得たいという欲求を生み出す。VTA の DA 作動性神経は報酬効果を持つ刺激(食
物や異性など)より活性化するが、近年持久運動によっても NAc での DA 遊離量が増
加することが報告されている。一方で報酬系は、価値のある行動を行う動機付けにも深
く関与していると考えられている。
持久運動時の NAc での DA 遊離量の上昇に関して、
その生理的意義は明らかになっていないが、持久運動に対する動機付けに関与している
可能性がある。そこで本研究は、持久運動に対する動機付けに NAc の DA 受容体が関
与しているかを検証するため SD ラットを用いて以下の実験を行った。
DA 受容体は 5 つのサブタイプに分類されるが、主に報酬系に関与しているのはドー
パミン D1 受容体(D1R)とドーパミン D2 受容体(D2R)である。D1R、D2R それぞ
れに特異的な受容体アンタゴニストを NAc に微量投与し、トレッドミル走行を課した。
走行時は電気刺激による運動の強制は行わず、アンタゴニスト投与により自発的な走行
の有無やその時間がどのように変化するかを検討した。D1R アンタゴニスト、D2R ア
ンタゴニスト投与いずれによっても走行時間は減少した。これより、NAc における D1R、
D2R いずれも持久運動に対する動機付けに関与していることが示唆された。
また、脳内報酬系は VTA に投射する GABA 作動性神経によっても調節されている。
この GABA 作動性神経に μ オピオイドが結合すると GABA 作動性神経による抑制が解
除され、NAc に投射する DA 作動性神経は活性化される。μ オピオイドのアゴニストと
アンタゴニストをそれぞれ VTA に微量投与しトレッドミル走行を行わせたところ、そ
れぞれ走行時間が増加、減少した。このことからも脳内報酬系が持久運動に対する動機
付けに関与していることが示唆された。
43
2N-04p
側坐核に投射するドーパミン作動性神経による運動に対する動機の調節
井本優衣、井上和生(京都大学大学院農学研究科)
(Tel: 075-753-6263、E-mail: yukrykyt@gmail.com)
運動はエネルギー消費を増大し、適切な強度で行えば体脂肪燃焼を促進する。
運動を習慣化することができれば、肥満を回避して生活習慣病の予防に役立つ
ことは広く認識されている。しかし国民栄養・健康調査(2013 年)において、運
動習慣があると回答したのは男女ともに 30%前後であり、多くの人が運動不足
であると言える。運動不足の原因は様々であるが、すぐに疲れてやめたくなる、
そもそも運動を始めることが億劫である、といった生理的・心理的要因も挙げ
られる。では逆に運動を始める/継続する理由はいかなるものだろうか。運動を
行う意思や意欲、即ち動機はどのような機構により調節されているのか。
動機とは行動決定の要因であり、動機があるために動物は行動する。動物は
行動に伴うコストとそのメリットを計算し、価値があると判断した場合に行動
する。この評価に深く関わる脳部位に中脳辺縁系があり、これは報酬系と呼ば
れる。報酬系は様々な行動で快い感覚を発生する部位であり、中脳腹側被蓋野
(VTA)を起始核として、側坐核へ投射するドーパミン(DA)作動性神経が大
きな役割を果たすことが知られている。報酬価値を持つ刺激に応答してこの神
経系が DA を放出することで得られる快感が行動する動機の大きな要因である
と考えられている。
近年、ラットにおいて持久運動時にも報酬系での DA 放出量が増加すること
が報告され、この部位が運動に対する動機付けにも関与している可能性が示さ
れた。本研究では、報酬系の信号伝達のうち、側坐核で DA を受け取る DA 受
容体に着目した。ラット側坐核受容体で DA の結合を阻害し、信号伝達を遮断
してトレッドミル走行を行わせたところ、途中で走行をやめてしまう個体の割
合が統計的に有意に増大した。同様の現象は VTA でμオピオイド受容体を遮断
しても観察されたことを既に報告している。これらの処置では筋肉などでのエ
ネルギー供給などに変化は起きないことから、いわゆる燃料切れで運動が止ま
ったわけではない。このため脳報酬系の活動は、運動する動機の生成やその維
持そのものに影響を及ぼすと考えられた。
44
3F-05a
Ca2+とチアミン二リン酸による分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素キナーゼの不活性化を介し
た分岐鎖アミノ酸代謝の新たな調節機構
○伊藤
下村
里奈 1)、近藤 雄介 1)、辻
愛 2)、柴田 克己 2)、北浦 靖之 1)、
吉治 1)
1)名古屋大学大学院
生命農学研究、2)滋賀県立大学大学院 人間文化学研究科
背景・目的
分岐鎖アミノ酸 (BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン) 代謝は、その代謝系の
第 2 ステップに存在する分岐鎖 α-ケト酸脱水素酵素 (BCKDH) により調節される。そ
の活性は、酵素のリン酸化-脱リン酸化反応により調節されており、特異的キナーゼ
(BDK) によるリン酸化で不活性化され、反対に BCKDH ホスファターゼによる脱リン
酸化で活性化される。BDK には活性を持つ BCKDH 結合型と活性を持たない遊離型が
存在し、結合型の量が BCKDH の活性に影響する。我々は、ミトコンドリア中に Ca2+
依存的に BDK を不活性化する因子の存在を見出し、LC-MS による解析からこの因子
は TDP である可能性が示唆された。ミトコンドリア抽出液に存在する TDP 濃度を定
量し、同レベルの TDP 濃度における Ca2+依存的 BDK の不活性化を解析した。
方法
雄性 Sparague-Dawley 系ラットの肝臓から調製したミトコンドリアを出発物質とし、
超遠心分離法によって BCKDH-BDK 複合体画分と BDK 不活性化因子画分に分離した。
後者の画分を HPLC により分析し、TDP を定量した。さらに TDP と Ca2+による BDK
阻害の作用機構を解明するため、BCKDH-BDK 複合体画分を標準品の TDP と Ca2+で
処理し、BDK 不活性化機構を検討した。BCKDH-BDK 複合体からの BDK の遊離は、
免疫沈降法とウェスタンブロット法により解析した。
結果・考察
BDK 不活性化因子画分に含まれる TDP を HPLC により分析した結果、この画分に
は約 1.4 pmol/mg protein の TDP が含まれていた。この濃度と同レベルの標準品 TDP
により Ca2+依存的 BDK の不活性化が認められた。免疫沈降法による分析により、TDP
と Ca2+は BCKDH-BDK 複合体から BDK を遊離させることが証明された。よって、細
胞内においてミトコンドリアに Ca2+が取り込まれると、TDP の作用により BDK が遊
離 (不活性化) されることが示唆された。これらの結果より、ミトコンドリアでの Ca2+
と TDP を介した新たな BCAA 代謝調節機構が示唆された。
45
3F-05a
Ca2+とチアミン二リン酸による分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素キナーゼの不活性化を介し
た分岐鎖アミノ酸代謝の新たな調節機構
伊藤
里奈 (名古屋大学大学院
(Tel: 052-789-5513
生命農学研究科 応用分子生命科学専攻)
E-mail: ito.rina@a.mbox.nagoya-u.ac.jp)
分岐鎖アミノ酸 (BCAA) はその残基に分枝構造を持つ 3 つのアミノ酸(バリン、ロイシ
ン、イソロイシン)の総称で、ヒトを含む哺乳動物の必須アミノ酸である。BCAA は食物
タンパク質の必須アミノ酸の約 50%、筋タンパク質中の必須アミノ酸の約 35%を占め、肉
や魚、乳製品、卵などに多く含まれている。BCAA はアミノ酸としてタンパク質合成の材
料となるだけではなく、タンパク質の合成を促進する。また、運動時などで筋肉に代謝さ
れ、エネルギー源となることが知られており、サプリメントとしても利用されている。
我々は、ミトコンドリア抽出液にカルシウムイオン (Ca2+) を加えると BCAA の代謝が
促進されることを見いだしたが、そのミトコンドリア中に存在する物質は何か不明であっ
た。この物質を探索したところ、この物質はチアミン二リン酸であり、Ca2+を加えること
で BCAA 代謝を抑制する酵素(分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素キナーゼ)を強力に不活性化
することを発見した。チアミン二リン酸は、ビタミン B1 として知られているチアミンがリ
ン酸化された物質であり、体内に摂取されると主にこのチアミン二リン酸の形で存在し、
糖質をエネルギーに変える補酵素として知られている。また、実際に生体内に存在するチ
アミン二リン酸の濃度で Ca2+を作用させると、BCAA 代謝が促進することも明らかにした。
細胞内の Ca2+濃度はかなり低く抑えられており、Ca2+の増加は様々な生理作用を引き起
こすが、筋収縮もその一つである。本研究結果から、BCAA が運動時に筋肉で代謝され、
エネルギー源となる時に、この Ca2+とチアミン二リン酸が作用する新たな BCAA の調節機
構が担っていることが考えられる。
チアミン(ビタミンB1)
BCAA
? = チアミン二リン酸
+
Ca2+
Ca2+濃度上昇
エネルギー
産生
筋収縮
46
2L-08a
母獣が摂取する飽和脂肪酸および n-3 系脂肪酸油脂が及ぼす仔の肝臓における遺伝子
発現への影響
○高橋真由美 1)、袁 勲梅 2)、橋本
1)大阪女短大
生活、2)東京医科歯科大院
3)東京医科歯科大院
総研
貢士 3)、小川
医歯学総研
佳宏 4)
医歯学総研
臓器代謝ネットワーク、
メタボ先制医療、4)東京医科歯科大院
医歯学
分子内分泌代謝
【背景と目的】近年、動物性食品や加工食品そして外食により飽和脂肪酸の摂取量が増
加している一方で、魚離れによる n-3 系脂肪酸の摂取量は減少しており、この傾向は子
育て世代において著しい。胎内環境が成人期の健康状態に影響を及ぼすことが示唆され
ており、妊娠期から授乳期に母親が摂取する油脂由来の脂肪酸が成人期の疾患発症に関
与する可能性がある。我々は新生児期マウスの肝臓で核内受容体 PPARα 依存的に脂肪
酸 β 酸化遺伝子の DNA は脱メチル化され発現が亢進することを明らかにし、母乳中の
脂質によりエピゲノム状態が変化する可能性を報告した(Diabetes 2015)。本研究では
マウスを用いて、母親が摂取する油脂の量や種類が新生児の肝臓の遺伝子発現に影響を
及ぼすか否かを検討した。
【方法】妊娠 16 日目より授乳期にわたり C57BL/6J 雌マウスをコントロール食
(10kcal%脂肪)、飽和脂肪酸に富む高脂肪ラード食または n-3 系脂肪酸に富む高脂肪魚
油食(45kcal%脂肪)で飼育した。各食事群における母獣の産仔の雄について、出生後 13
日目に解剖し肝臓、胃を採取し重量を測定した。遺伝子発現量はリアルタイム PCR 法
により解析した。
【結果および考察】各群の母獣の食餌摂取量に有意差はなかった。出生後 13 日目の各
群の産仔の体重と肝臓重量にも有意差は認められなかった。肝臓の遺伝子発現は、高脂
肪魚油食群がコントロール食群や高脂肪ラード食群と比較し CPT1 と ACOX 遺伝子の
発現が著しく増加しており、脂肪酸 β 酸化の亢進が示唆された。カタラーゼや MnSOD
などの抗酸化酵素遺伝子は、いずれの高脂肪食群においてもコントロール食群と比較し
発現の増加傾向が認められた。以上より、妊娠期から授乳期に母獣が摂取する油脂の量
や種類により、新生仔の肝臓における遺伝子発現は変化することが明らかになった。今
後、肝臓における DNA メチル化の網羅的解析を予定している。
47
2L-08a
母獣が摂取する飽和脂肪酸および n-3 系不飽和脂肪酸油脂が及ぼす
仔の肝臓における遺伝子発現への影響
高橋真由美(大阪女子短期大学
生活科学科)
(Tel: 075-952-7516、E-mail: m-takahashi@osakajyosi.ac.jp)
橋本貢士(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 メタボ先制医療講座)
小川佳宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子内分泌代謝学分野)
妊娠期の母親が低栄養や過栄養の場合、生まれた子供は成人期に生活習慣病を発症す
る危険性が高まることが知られている。これは母親の胎内環境が子供のからだに記憶さ
れて成人期の健康状態に影響を及ぼすためと想定され、記憶される仕組みのひとつとし
て遺伝子配列を変えることなく遺伝子の発現を変化させるエピジェネティクス修飾が
関与していると考えられている。新生児期マウスの肝臓においては、母乳中の脂質がエ
ピジェネティクス修飾によって脂肪燃焼に関与する遺伝子を調節する可能性を我々は
示しており (Diabetes 2015)、妊娠期や授乳期において母親が摂取する栄養素は、その
子供の将来における健康状態に影響を及ぼすと考えられる。現代の食生活は脂質摂取量
の増加に加えて、調理が容易な肉類と加工食品や外食に多く含まれている飽和脂肪酸の
摂取量が増加している一方で、魚離れは止まることなく EPA や DHA で代表される n-3 系
脂肪酸の摂取量は減少しており、この傾向は子育て世代を含む若い世代において著しい。
これらの背景より妊娠期から授乳期に母親が摂取する油脂由来の脂肪酸が、次世代にお
ける生活習慣病の発症に影響を及ぼす可能性があり、その仕組みを明らかにすることは
生活習慣病の予防の観点から重要である。
本研究では母獣マウスを妊娠中から授乳期にわたり普通食、飽和脂肪酸に富む高脂肪
ラード食または n-3 系脂肪酸に富む高脂肪魚油食で飼育し、各食餌群における離乳前の
仔マウスの肝臓での遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、母獣マウスの食餌によ
り仔マウスの脂肪燃焼に関与する遺伝子の発現量が大きく異なっていた。これは妊娠期
から授乳期に母獣マウスが摂取する油脂由来の脂肪酸が、仔マウスの肝臓での遺伝子発
現を制御していることを示唆している。今後、仔マウスの遺伝子発現の変化が、エピジ
ェネティクス修飾により制御されているかを検討し、母親の栄養管理や乳児用調整粉乳
の組成を介して、子供の将来における生活習慣病を予防することにつなげていく。
48
3L-02p
ChREBPβ の発現を制御する新規転写因子の同定
○吉満
和、清水 誠、井上 順、佐藤隆一郎
東大院
農生科・応生化
ChREBP(Carbohydrate Responsive Element-Binding Protein)は、糖の刺激に応
答して糖・脂質代謝関連遺伝子の発現を制御する転写因子である。近年、新規アイソフ
ォームである ChREBPβ が白色脂肪組織において発見された。ChREBPβ は、
ChREBPα
より短い N 末端を持ち、高い転写活性を有する。しかし、肝臓での ChREBPβ の機能
については報告がなされていなかった。そこで、我々は肝臓における ChREBPβ の機
能について研究を進めてきた。これまでに、マウス肝臓での ChREBPβ 過剰発現によ
り肝臓 TG が顕著に増加することや、フルクトースを長期ことを明らかにしてきた。
このように、ChREBPβ は肝臓の糖・脂質代謝制御において重要な役割を果たすと考
えられる。しかし、ChREBPβ の発現制御機構は、ChREBP により転写が制御される
こと以外ほとんど不明である。我々は、ChREBPβ の発現制御機構の解明を目指し、ル
シフェラーゼアッセイを用いて ChREBPβ プロモーター活性を変動させる転写因子の
探索を行った。その結果、プロモーター活性を上昇させる転写因子のひとつとして
HNF4α(Hepatocyte Nuclear Factor 4 alpha)を同定した。マウス肝実質細胞で HNF4α
をノックダウンしたところ、ChREBPβ の発現が抑制された。また、プロモーター領域
の解析により、ChREBPβ プロモーター上に HNF4α 応答配列である DR-1(Direct
repeat-1)が見つかった。 さらに ChIP assay を行ったところ、DR1 付近に HNF4α
が結合しており、HNF4α ノックダウンによりその結合量が低下した。以上より、HNF4α
はプロモーターに結合することで ChREBPβ の発現を制御することが明らかになった。
以上のように、我々は HNF4α が ChREBPβ の新規制御因子の一つであることを明ら
かにした。
49
3L-02p
ChREBPβの発現を制御する新規転写因子の同定
発表者:吉満
和(東京大学大学院農学生命科学研究科・応用生命化学)
責任者:佐藤隆一郎(同上・教授)
(Tel: 03-5841-5136
E-mail:aroysato@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp)
炭水化物の過剰摂取が脂肪蓄積をもたらす事は広く知られています。この際に重
要な役割を演じる因子として ChREBP(Carbohydrate response element-binding
protein)が明らかにされています。
ChREBP は糖質代謝、脂肪酸合成に関わる複数の遺伝子の発現を促進する働きを
持つ転写因子です。ChREBP は核内において、これら遺伝子の発現をスイッチオン
する役割を演じています。炭水化物摂取が過剰となり細胞内グルース濃度が上昇す
ると、それまで細胞質に局在していた ChREBP が核内へと移動して、そこで脂肪酸
合成を促進する方向へと遺伝子発現を制御する事が知られています。つまり、この
機構を介して炭水化物過剰摂取を生体は感知し、積極的に脂肪合成を活発化させ、
エネルギー源としての脂肪を体内へと蓄積しています。ところが、近年の研究で
ChREBP には旧来から知られているα型の他に、β型の存在が明らかにされました。
ChREBPαが上記の機構により活性化されると、ChREBPβの発現を上昇させ、よ
り強力な転写因子活性を持つβ型が猛然と脂肪合成を促進する機構が提唱されてい
ます。複数の臓器においてα型とβ型の発現様式を調べると、脂質代謝の中心的臓
器である肝臓において、α型の活性化に伴いβ型の上昇が確認され、他の臓器では
必ずしも同様の応答が生じない事が確認されました。本研究ではその様な肝臓特異
的 な ChREBP β の 発 現 制 御 機 構 を 解 析 し 、 肝 臓 特 異 的 に 発 現 す る
HNF4(Hepatocyte nuclear factor-4)が重要な役割を演じている事を分子レベルで
明らかにすることに成功しました。
それでは、次に何が必要でしょうか?炭水化物摂取に伴い ChREBPβが上昇する
事を未然に抑制する事が望まれます。我々はすでに HNF4 活性を抑制する食品成分
を見出しています。その他にも複数の経路で ChREBPβ活性を負に抑制する食品成
分の探索が可能となるでしょう。食品成分の新たな機能性を見出す基礎知見として、
本研究成果が活用される事が期待されます。
50
3O-02a
新規肝臓内エネルギー・センサーの糖・脂質代謝制御機序の解明
亘弘 1,2)、泉田
○和田
沢田
義一 2,3)、武内
賢英 2,3)、村山
朴
1)東大
医
欣彦 1,2)、矢作
直也 2,3)、升田
紫 1,2)、李
恩旭 1,2)、
謙憲 2,3)、會田 雄一 2,3)、西 真貴子 2,3)、志鎌
友樹 2,3)、戸谷 直樹 2,3)、島野
糖尿病代謝内、2)筑波大 医・医療
チグループ、3)筑波大
明人 2,3)、
仁 3)、門脇 孝 1)
ニュートリノゲノミクスリサー
医 内分泌・糖尿病内
生体は飢餓時において炭水化物を初期に利用し、のちに脂質をエネルギーとして恒常性
を維持する。肝臓内には重合多糖-グリコーゲンの貯蔵量レベルを感知する未知のエネ
ルギーセンサーが存在し、生体のおかれたエネルギーデマンドに応じてダイナミックに
臓器レベルで 神経回路”Liver-brain-adipose neural axis” により糖質と脂質のエネ
ルギー供給選択がなされることを我々は明らかにしてきた。(Nature Commun. 2013)
我々はこのグリコーゲン・センシングメカニズムの機序探求のため、1)グリコーゲ
ン合成阻害系モデルとして Glycogen synthase 2 RNA 干渉 (Gys2-i) アデノウイルス
ベクター2)グリコーゲン分解抑制系モデルとして Glycogen phospholyrase RNA 干
渉(Pygl-i)アデノウイルスベクターを、それぞれ脂肪分解を正負に制御するモデルと
して肝臓の Microarray 解析を行った。その結果、
グリコーゲン量に正に相関する Gys2-i
で発現低下する 513 遺伝子、また Pygl-i で発現上昇する 538 遺伝子を抽出した。その
後、Gene-annotation enrichment analysis の後、肝臓内グリコーゲン・センシングの
シグナル伝達制御に寄与すると考えられる候補遺伝子を同定した。この候補遺伝子を
RNAi screening で解析すると、予想通り精巣上体脂肪残存量は有意に減少し、脂肪分
解が促進することが見出された。一方、肝迷走神経切除にて、神経回路を遮断したのち
飢餓状態におくと、これらの脂肪分解が抑制されることから、本分子の遺伝子発現と脂
肪分解が負に制御され、
”Liver-brain-adipose neural axis”を介して、脂肪酸系エネル
ギー利用を制御していることが推測された。
51
30-02a
新規肝臓内エネルギー・センサーの糖・脂質代謝制御機序の解明
和田亘弘, 泉田欣彦, 門脇孝(東京大学大学院糖尿病・代謝内科)
(Tel: 03-3815-5411、E-mail: yoshiiz-tky@umin.ac.jp)
肥満、糖尿病患者のエネルギー代謝は脂質代謝において同化亢進、異化低下が起
こり、糖/脂質バランスの乱れ–Carbohydrate-lipid imbalance-が生じることが知られ
ています。このことから生体内では臓器間における糖/脂質調節機構が重要な役割を担
っているものと推測されます。我々研究
Izumida Y et al.,
Nature Commun . 2013
グループは、生理的な飢餓状態において
肝臓を発露とした “飢餓シグナル”が肝
-脳-脂肪神経回路”Liver-brain-adipose
neural axis”を介して脂肪酸遊離を促す
ことを新たに明らかにしました。
さら
に、肝臓内にグリコーゲンの消費量その
ものを感知する未知のセンサー分子の存
在が可能性として示されました。
これ
は従来のインスリンやカテコラミンと言ったホルモン説とは異なる新たな代謝制御系
として見出されました。(Izumida Y. Nature Commun. 2013) 次に我々はこの未知の
エネルギー・センシングの鍵分子探求のため、脂肪分解をそれぞれ正負に制御するモデ
ルとして1)グリコーゲン合成阻害系 (Gys2-i) 2)グリコーゲン分解抑制系(Pygl-i)
の 2 種の RNA 干渉(RNAi)アデノウイルスベクターを用いて、肝臓の transcriptome 解
析、さらに Gene-annotation enrichment analysis を行った結果、本シグナル伝達制御
を担う新たな候補分子同定に至りました。 機能解析として、飢餓時に本遺伝子発現を
RNAi にて抑制すると、予想通り精巣上体脂肪残存量は有意に減少し、脂肪分解が促進
することが確認され、制御経路として肝迷走神経切除にて、神経回路を遮断すると、脂
肪分解が抑制されることから、本分子が”Liver-brain-adipose neural axis”
を介
して、脂肪酸系エネルギー利用を促す鍵分子候補であることが明らかになってきました。
本研究結果をもとに、肥満、糖尿病といった脂肪過多を基調とする病態解明や治療応用
につながるものと期待されます。
52
3H-01a
昆布だしの食品因子センシング遺伝子発現調節作用
○後藤
萌、北村
稜、中山
魁、両角
麻衣、吉本
孝憲、山下
修矢、村田
希、
平島亜沙美、山口 るみ、立花 宏文
九大院農院・生機科
【背景及び目的】
昆布は我が国で古くから食べられてきた食材であり、ミネラルや食物繊維を豊富に含む
ことから健康食品としても利用されている。近年、「和食」はユネスコ無形文化遺産に
登録され注目を集めているが、昆布からとっただし汁は一汁三菜を特色とする和食にお
いて欠かせない存在である。しかしながら、昆布だし摂取が生体に与える影響について
は不明な点が多い。一方、食品因子の生体調節作用の発現において、生体が食品因子を
感知すること、すなわち食品因子センシングが重要であることが示唆されている。これ
までに食品因子を感知する生体分子は数多く同定されており、その発現量は食品因子セ
ンシングにおいて重要な要素であると考えられる。そこで本研究では、昆布だしの摂取
がマウスの食品因子センシング遺伝子発現量に及ぼす影響について検討した。
【方法】
北海道道南産の乾燥昆布水に浸漬後、布でこし、昆布だしサンプルとした。12 週齢の
C57BL/6J 雄マウスを 1 週間予備飼育後、昆布だしを 4 週間自由摂取させた(昆布だし
群)。対照としては水を自由摂取させた(コントロール群)。餌は AIN-93G 準拠食を自
由摂食させた。摂取期間終了後、麻酔下でマウスを屠殺して大腿四頭筋を摘出した。大
腿四頭筋より抽出した RNA から antisense RNA を合成し、食品因子センシング遺伝
子のプローブを搭載した DNA チップ(食品感受性評価チップ)を用いて食品因子セン
シング遺伝子発現量を測定した。
【結果・考察】
マウスの大腿四頭筋において、66 種類の食品因子センシング遺伝子を検出した。コン
トロール群と比較して昆布だし群では 49 種類の遺伝子発現量が有意に高値を示し、2
種類の遺伝子発現量が有意に低値を示した。従って、昆布だしはマウスの大腿四頭筋に
おいて食品因子センシング遺伝子の発現を調節することが示された。
53
3H-01a
昆布だしの食品因子センシング遺伝子発現調節作用
後藤萌、○立花宏文(九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門)
(Tel:092-642-3008、E-mail:tatibana@agr.kyushu-u.ac.jp)
【背景】
近年、「和食」はユネスコ無形文化遺産に登録され注目を集めています。伝統的な日
本食は機能的な面からもわが国が世界に誇る健康寿命に貢献してきたと考えられます。
一方、健康維持や疾病予防のために食品因子(カテキン、ビタミン類など)の利用が注
目されています。食品因子が体の中で機能を発揮するためには生体側が食品因子を感知
することが重要であり、様々な遺伝子(食品因子センシング遺伝子)が重要な働きをし
ています。昆布だしは一汁三菜を特色とする日本食において欠かせない存在ですが、そ
の保健作用は不明です。そこで、本研究では、昆布だしの摂取が食品因子センシング遺
伝子発現に及ぼす影響について、マウスを用いて検討しました。
【トピックス性】
昆布だしを摂取させたマウスにおいて、食品因子センシングを担う数多くの遺伝子の
発現量が増加していることを見出しました。したがって、昆布だしは食品因子を感知す
る力を調節することで、さまざまな食品因子の保健効果を高めることが期待されます。
昆布だし
食品因子
食品因子センシング
遺伝子
食品因子センシング
遺伝子の発現量が増加
54
食品因子の保健作用が
効果的に発揮されること
が期待される
公益社団法人日本栄養・食糧学会第70回大会一般講演トピックス集
平成28年4月25日発行
製作・編集:公益社団法人日本栄養・食糧学会
〒611-0011
京都府宇治市五ヶ庄
京都大学大学院農学研究科
食品生物科学専攻食品生理機能学分野内
Tel.: 0774-38-3725, Fax: 0774-38-3774
発行:公益社団法人日本栄養・食糧学会
〒171-0014 東京都豊島区池袋 3-60-5
フェイヴァーフィールド池袋 203 号
TEL:03-6902-0072
FAX:03-6902-0073
55
広報委員会