平成 20 年度 日本大学文理学部個人研究費研究実績報告書 総合文化・教授・椎名 研 究 課 題 中原中也のフランス詩翻訳について 研究目的 および 研究概要 報 告 研 究 の の 概 結 果 正博 中原中也はフランスの詩人、とりわけランボー、ヴェルレーヌなどの象徴主義詩人の作品か ら強い影響をうけたと言われている。東京外語のフランス語科に籍をおいてフランス語の 勉強をしたのもこうした詩人たちの作品を自分の力で読むためであった。かれは、自らの 詩作のかたわら、かなりの数のフランス詩翻訳を残している。本研究では、それらの訳詞 と原詩を丁寧に比較対照しながら、中原のフランス語力、翻訳の特徴などについて考察し、 さらには詩を翻訳するとはどういうことなのかにも論及したい。 具体的には、テクストの比較対照から始め、詩の場合に最も重要な音の比較対照も朗読の CDなどを使って実際の音声でしてみたい。さらに、翻訳論に言及するために、各種の詩論、 言語理論、翻訳論などの理論的側面にも目配りをするつもりである。 ランボーとヴェルレーヌの数編の詩について、中原中也訳と小林秀雄をはじめとする翻訳者の訳を 比較してみると、確かに中原訳には致命的な誤訳もあるものの、何よりも原詩が持っているフランスの 俗謡の軽やかなリズム感を日本語に移し替えようとした結果、独特のリズムと語彙の使用が生まれた ことがわかる。近年の発見で中原の訳として知られる『季節(とき)が流れる/城塞(おしろ)が見える』 が実は小林秀雄のものであることがわかったが、これも子細に検討してみると、やはり小林訳にはな い語彙や言語感覚が中原訳にはあり、翻訳として一方の(もう一方は語学的な正確さをもっぱら追い 求めた翻訳)到達点であることは間違いない。詩人による詩の翻訳が優れたものになる一つの証左 であることが判明した。 要 研 究 の 考 察 ・ 反 省 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌名 巻・号 発行年月日 発行所・者 個々の事例に関する研究に時間の大半をとられてしまい、当初予定していた翻訳の理論的考察にま では手が回らなかったのが実情である。今後、機会を捉えてこの方面に関する知見のまとめに取り組 んでみたいと考えている。 東アジア日本語教育・日本文化研究学会 「中原中也のフランス詩翻訳について」 平成 20 年 10 月 26 日/日本大学法学部
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