2013年12月8日(日曜日)@ウエルネス柏 認知行動療法サポーター養成講座 ゲートキーパー(事例検討編) 「リスク・マネジメント」 千葉大学大学院医学研究院 NPO法人認知行動療法推進協会 清水栄司 認知行動療法サポーターになる ための基礎知識 (1)理念、倫理、法律について理解している (2)傾聴・受容・共感=支持的精神療法ができる (3)アセスメント(評価)ができ、心理教育ができ る (4)ガイドブックでの認知行動療法やコンピュー ターの認知行動療法に習熟している (5)問題解決法ができる (6)リスク・マネッジメントができる 英国IAPTにおける認知行動療法 セラピスト養成システム うつ病・不安障害に特化した認知行動療法の理論 と実践訓練を1年間で行う。 低強度のセラピーを担当するセラピスト(ケース ワーカーなど修士卒レベル)は、週に1日を訓練 機関で認知行動療法を学び、週に4日をサービ ス提供機関で働く。 高強度のセラピーを担当するセラピスト(Clinical Psychologistなど博士卒レベル)は、週に2日を訓 練機関で認知行動療法を学び、週に3日をサー ビス提供機関で働く。 人 35,000 30,000 25,000 21,125 20,000 12,939 15,000 10,000 8,186 5,000 0 1 2 総数 全国自殺者数の推移 人口動態統計より 32,109 男 31,755 女 29,921 22,138 23,494 21,419 23,396 15,901 8,713 8,317 7,593 7,285 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 年 (厚生労働省、人口動態統計月報年計(概数) 表7;死因順位)平成20年度 直接的 自殺リスク因子(MINIの項目C) 1か月で 1. 死んだほうがよい(1点) 2. 自分を傷つけたい(2点) 3. 自殺について考え(6点) 4. 自殺の計画(10点) 5. 自殺を試みた(10点) 今までで 6.自殺を試みた(4点) 低度 1から5点 中等度 6から9点 高度 10点 自殺リスク因子 SAD PERSONS •Sex (male)男性 •Age younger than 19 or older than 45 years of age19歳未満、45歳以上 •Depression (severe enough to be considered clinically significant)うつ病 •Previous suicide attempt or received mental-health services of any kind 自殺企図の既往、精神科受診歴 •Excessive alcohol or drug use過剰なアルコール、薬物使用 •Rational thinking lost理性的な考え方が失われている(過労) •Separated, divorced, or widowed (or other ending of significant relationship)孤独、離婚、死別(あるいは重大な関係の終わり) •Organized suicide plan or serious attempt(自殺の計画をたてている) •No or little social support(社会的サポートが少ない)助けを求めない •Sickness or chronic medical illness(病気がち、慢性疾患を抱えている) ライフイベント:生活上のストレスの程度 配偶者の死 離婚 配偶者との別れ 100 73 65 経済上の変化 親密な友人の死 仕事・職業上の方針の変化 38 37 36 拘禁 密接な家族メンバーの死 怪我や病気 結婚 失職 家族の健康上の変化 性的な障害 職業上の再適応 63 63 53 50 47 44 39 39 配偶者とのトラブル 借金が100万円以上に及ぶ 仕事上の責任の変化 息子や娘が家を離れる 法律上のトラブル 妻が働き始めるか仕事を辞める 上役とのトラブル 住居の変化 35 31 29 29 29 26 23 20 Homes & Rahe, J Psychosom Res 1967 英国のPaul Salkovskis教授の研究 • 最低1時間で5セッション(自殺企図直後、3日 後、1週後、2週後、1か月後) • 問題解決法 • community psychiatric nurse (CPN) 全例スーパービジョン 英国のPaul Salkovskis教授による 自殺企図患者への 認知行動療法介入研究 2回以上の自殺企図の患者 の同意取得後、無作為割付 Salkovskis et al., 1990 「通常の治療Treatment as usual; TAU」 • 退院時に精神科医がかかりつけ医あての紹介状を患 者に持たせる 認知行動療法介入 • 1時間で5セッション(自殺企図直後、3日後、1週後、2週 後、1か月後) • 救急部で、あるいは、自宅で • 問題解決法 • community psychiatric nurse (CPN) • 全例スーパービジョン 問題解決法 • 問題を自分で解決できるようになることは、うつ や不安の問題を抱える方にとっては、大きな自 信につながります。セラピスト(サポーター)は、 問題解決法を使って、そのプロセスを援助する だけでよいのです。 • うつや不安の問題を抱える方は、考え方の幅が 狭くなりがちですが、問題解決法を身につけるこ とによって、落ち着いて、考え方の幅を広げて、 柔軟に対応できるようになります。 問題解決法:RIBEYE 1、リラックスして、Relax 2、問題を同定して、Identify 3、ブレインストーム(何でもリストアップ)して、 Brainstorm 4、点数評価して、Evaluate 5、一つ選んで、Yes to one 6、実行するのみ Encourage 認知行動療法介入群と 「通常の治療 Treatment as usual; TAU」コントロール群の背景と 自殺念慮尺度、うつ尺度の低下(1年追跡) Salkovskis et al., 1990 TAU CBT TAU CBT Psychosocial interventions following self-harm Systematic review of their efficacy in preventing suicide (Crawford et al., 2007) 平成20年度厚生労働科学研究 自殺未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究より引用 自殺に傾いた人を支えるために -相談担当者のための指針- • 相談担当者は、死にたい気持ちを打ち明けら れて、動揺したり不安に感じることがある • かもしれない。また、自らの人生経験や価値 観から、無意識のうちに自殺に傾く人に批 • 判的な思いを抱く事があるかもしれない。そ のような自分の気持ちや考え方をまず自覚 • したうえで、これを制御し、相談者への理解や 共感に務める事が大切である。 自殺に傾いた人を支えるために -相談担当者のための指針-(続き) [対応の手順] 傾聴に努め、まず状況を把握する。 問題となっていることがらを整理する。大抵の場合、問題は複合的な場合 が多い。 自殺の生じる危険性のアセスメント (評価)をする(いま死にたい気持ちがど うなのか、危険因子があるか、身近に支援をしてくれる人がいるのか、キー パーソンはだれなのかなど→アセスメント (評価)についてはさらに後述)。 自殺の危険性が高い場合には、医療機関での対応、身近な人や警察官へ の要請などを通じて安全を確保する。 自殺を防いできた、あるいは自殺を予防する方向に作用する要因を見定め 、これを強化する(→これらの要因については後述)。 自殺をしてしまうこと以外の解決法があることを伝え、その方法を話し合う。 キーパーソンを見定め、ともに支援にあたることを要請する。 支援・ケアと社会資源の導入を検討する。 自殺をしない約束を交わす。 自殺に傾いた人を支えるために -相談担当者のための指針-(続き) 高度 ・持続的な自殺念慮が ある自殺念慮の有無にかか わらず複数の危険因子が存 在する、支援を拒絶する、具 体的な計画がある • 傾聴 • 問題の確認、危険因子の 確認 • 支援体制を整える • 危機時の対応を想定し、準 備をしておく など 重度 ・自殺の危険が差し迫っ ている、自殺が切迫している • 安全の確保 • 自殺手段の除去 • 通報あるいは入院 メンタルヘルス・ファーストエイド メンタルヘルスの問題をもつ人に対して、適切な初期 支援を行うための5つのステップからなる行動計画で 、オーストラリアのメルボルン大学オリゲン研究センタ ーの研究者であるベティ・キッチナー氏とアンソニー・ ジョーム氏により開発された。「りはあさる」と覚える。 政府広報オンラインより「あなたもゲートキーパーに」 • • • • • 「り」 「は」 「あ」 「さ」 「る」 リスク評価 はんだん・批評せずに聴く あんしん・情報を与える サポートを得るように勧める セルフヘルプ 「り」 リスク評価 • 自殺の方法について計画を練っているか、実 行する手段を有しているか、過去に自殺未遂 をしたことがあるか、を評価しましょう。 • 「消えてしまいたいと思っていますか?」「死 にたいと思っていますか?」とはっきりと尋ね てみることが大切です。 「は」 はんだん・批評せずに聴く • どんな気持ちなのか話してもらうようにしま しょう。責めたり、弱い人だと決めつけたりせ ずに聴きましょう。この問題は、弱さや怠惰か らくるのではないことを理解しましょう。 「あ」 あんしん・情報を与える • 現在の問題は、弱さや性格の問題ではなく、 医療の必要な状態であること、決して珍しい 病気ではないことを伝えましょう。適切な治療 で良くなる可能性があることも伝えましょう。 「さ」 サポートを得るように勧める • 心療内科や精神科を受診するように勧めて みましょう。「心の問題が体に関係することも あるので、専門家に心のことも相談してみま しょう」といった言い方が、受診への抵抗感を 減ずるかもしれません。 • 家族などの身近な人に相談をすることや、自 助グループへの参加を勧めてみたりするのも よいかもしれません。 「る」 セルフヘルプ • アルコールをやめる、軽い運動をする、リラク ゼーション法(ゆっくりと呼吸する、力を抜く等 )などを行うことによって、メンタルヘルスの問 題による症状が緩和されることがあります。 • セルフヘルプ認知行動療法、中でも、「問題 解決法」などが有用です。 「り」 リスク評価のロールプレイ (Aさん役とBさん役の二人組で) 困って相談に来たAさん(クライアント役)「何か ら、話しいていいのやら、問題がいっぱいありす ぎて、もう生きているのが嫌になってしまうくらい なんです」 Bさん(ゲートキーパー、サポーター役) 「り」リスク評価 1か月で 1. 死んだほうがよい(1点) 2. 自分を傷つけたい(2点) 3. 自殺について考え(6点) 4. 自殺の計画(10点) 5. 自殺を試みた(10点) 今までで 6.自殺を試みた(4点) 低度 1から5点 中等度 6から9点 高度 10点 6月9日の復習(認知行動療法のケースフォーミュレーション) Y男さん:何かにつけ 落ち込む 40歳代会社員。最近、何かにつけ落ち込んでしまうのです。 例えば、上司がたまたま私ではなく同僚に頼みごとをした時。 また、同僚にささいなミスを指摘されるだけで、自分はなんてダ メなんだ、会社にいない方がいいのでは、と考えてしまいます。 先日、旅行で一緒になった人たちの中に、自分より若い医師 の方がいて、お母様と一緒でした。その姿を見て、何て立派な んだろう、それなのに自分は何の苦もなく生きている、と自己嫌 悪に陥りました。 仕事が忙しいと、こういった考えは忘れているのですが、 ちょっと余裕が生まれると思い出して、ため息ばかり。自分が 病気や事故で死んでも悲しむ人もいません。それも仕方ないか なと思います。気の持ちようをご助言下さい。(千葉・Y男) (2008年4月22日 読売新聞) 28 り・は・あ・さ・る 「は」 はんだん・批評せずに聴く →認知行動療法のケースフォーミュレーションを いっしょに書いてみる 「あ」 あんしん・情報を与える →認知行動療法という治療法があることを伝える 「さ」 サポートを得るように勧める →認知行動療法を受けるように勧める 「る」 セルフヘルプ →認知行動療法のセルフモニタリングや問題解 決法をやってみることを勧める 認知行動モデル ストレスとなる出来事 認知(考え) 感情 行動 Y男さんの認知行動療法の個別モデル その1 ストレスとなる出来事:上司 がたまたま私ではなく同僚 に頼みごとをした時 考え(認知):自分はなんてダメな んだ、会社にいない方がいいの では、 感情 悲しい、憂うつ 行動:(具合が悪 いといって、早 退) 31 Y男さんの認知行動療法の個別モデル その2 ストレスとなる出来事:旅行で一緒になっ た人たちの中に、自分より若い医師の方 がいて、お母様と一緒の姿を見た 考え(認知):何て立派なんだ ろう、それなのに自分は何の 苦もなく生きている、 感情 自己嫌悪 行動: (旅行中、美しい 景色も見ないで、うつむ いて考え事にふける) 32 認知行動療法のホームワークの例 セルフモニタリング 日付 出来事 考え 感情 行動 33 リスク・マネッジメント スーパーバイザーに連絡 個人情報保護を乗り超える緊急条項を適応し、家族に連絡 個人情報保護を乗り超える緊急条項を適応し、上司に連絡 個人情報保護を乗り超える緊急条項を適応し、警察に連絡 面接回数を密にして経過を観察する メンタルヘルスの専門家へつなげる 医療機関(精神科、心療内科)の受診をすすめる (入院加療を含めて) スーパーバイザーと定期連絡 毎週あるいは2週に1回 スーパーバイザーと直接会う、あるいは、ネット( Skypeのようなテレビ会議)で 認知行動療法サポーター講座に ついてのお問い合わせ先 NPO法人認知行動療法推進協会 http://cbtnet-hp.web.infoseek.co.jp/ 千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学 子どものこころの発達研究センター 清水栄司 phone: 043-226-2027(受付) FAX; 043-226-2028 e-mail: eiji@faculty.chiba-u.jp 関連サイト 千葉CBTドットコム http://www.chibacbt.com/ ここれん http://www.chibacbt.com/kokoren/index.html 「ここれん(心の練習5分間)」とは、7つの質問 を自分に行うことで、悩みやストレスをとらえ なおし、心の健康づくりを目指すものです。 5分間でできますので、毎日気軽にできます。
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