第 32 回 内分泌代謝学サマーセミナー プログラム・抄録集 32nd JES Summer Seminar on Endocrinology & Metabolism 会期 会場 平成 26 年 7 月 10 日 木 ~12 日 土 山梨県 河口湖 富士レークホテル 主催 一般社団法人 日本内分泌学会 第32回内分泌代謝学サマーセミナー 32nd JES Summer Seminar on Endocrinology & Metabolism プログラム・抄録集 会期 : 平成 26 年 7 月 10 日(木)~ 12 日(土) 会場 : 富士レークホテル 「富士」 会長 : 有田 順 山梨大学大学院 医学工学総合研究部 生理学講座 主催:一般社団法人 日本内分泌学会 教授 (表紙写真撮影:三井 哲雄) ご挨拶 内分泌代謝学サマーセミナーの源である河口湖カンファランスは、「Laurentian Hormone Conference(このプロシーディングが Recent Progress in Hormone Research として発刊) に範をとり、従来の学会やシンポジウムでは求め得ないものを追求して1969年に出発した。形 式ばらないリラックスした雰囲気のなかで、充実した時間をもち、フリーディスカッションや情 報、アイディアを交換し、より深められた知識の交流をめざして回を重ねてきた。その論議は白 熱し、文字通り連日深夜にまで及んだ。」(医歯薬出版『河口湖カンファランスシリーズ』の序 文より抜粋)。当時の中心的メンバーであった、井村裕夫、尾形悦郎、西塚泰美先生といった内 分泌学会の中興の祖のお姿が目に浮かびます。この河口湖カンファランスは名前を変え、富士ホ ルモンカンファランスに、さらに内分泌代謝学サマーセミナーに繋がっています。現在の内分泌 代謝学サマーセミナーは、日本内分泌学会の生涯教育活動の一環として開催されており、内分泌 学および代謝学の分野の若手・中堅研究者の研究マインド育成とキャリア形成に貢献することを 目的としていますが、今も「リラックスした雰囲気のなかで議論を尽くす」という、昔からの伝 統を引き継いでいるのではないでしょうか。 この由縁ある河口湖において第32回内分泌代謝学サマーセミナーを開催することができるこ とを嬉しく思います。今回の内分泌代謝学サマーセミナーは「内分泌代謝学の地平を超えて」と いうテーマのもとに企画されました。革新的な方法を駆使して新たな概念を築くのは次代の研究 指導者であり、このサマーセミナーに参加される若手研究者に、これまでの内分泌代謝学の殻を 破るようなブレイクスルーを今後に期待するからです。センチュリーレクチャーでは、筑波大学 の柳沢正史先生にエンドセリンやオレキシンの発見研究において経験された研究の難しさ、苦し さ、そして楽しさを語っていただきます。バイオテクノロジーアップデートでは、京都大学の中 川誠人先生に iPS 細胞、山梨大学の川原敦雄先生に DNA 編集技術に関する最近の進歩と医学医 療への応用を展望していただきます。「ステロイド研究のフロントランナー」、「内分泌・代謝 の中枢性調節」、「生活習慣病を解く」というシンポジウムにおいてそれぞれの分野で活躍され ておられる先生方に講演をお願いしています。さらに、キャリアアップ授業では宮崎大学のマイ ケル・ゲスト先生に英語プレゼンテーションへの対策術を教えて戴きます。その他にも、Young Endocrinologist Conference (YEC) では内分泌学会関連で受賞された気鋭の若手研究者の口演 発表があり、内容が盛り沢山のサマーセミナーになっています。 昨年世界文化遺産に登録された富士山の麓、河口湖湖畔において開催されます第32回内分泌 代謝学サマーセミナーに多くの方々が参加して戴けますよう、心よりお願い申し上げます。 第32回内分泌代謝学サマーセミナー 会長 有 田 順 山梨大学大学院 医学工学総合研究部 生理学講座 教授 ― 3 ― 参加者へのご案内 1. 会場 富士レークホテル 3F 「富士」 〒401-0301 山梨県南都留郡富士河口湖町船津 1 番地 TEL: 0555-72-2209(代) FAX: 0555-73-2700 HP: www.fujilake.co.jp 2. 受付時間・発表時間 受付時間 発表時間 平成 26 年 7 月 10 日(木) 11:00~18:30 13:00~16:30 7 月 11 日(金) 8:30~19:00 8:50~18:45 7 月 12 日(土) 8:00~12:00 8:30~13:10 3. 参加費(当日、会場受付にて現金でお支払い下さい。) 一般 学生 会員 10,000 円 非会員 10,800 円 会員 5,000 円 非会員 5,400 円 4. 日本内分泌学会 専門医単位取得について 内分泌代謝科専門医資格をお持ちの方は、「第32回内分泌代謝学サマーセミナー」の会期中、 受付にて「認定更新研修単位登録票」(5単位)を発行いたします。登録票は必ず会期中の上記の 受付時間にご提出ください。なお、代理の方による提出や、会期後の提出は、一切受付けいたし ませんのでご注意ください。 5. インターネット 館内ほぼ全域で、FREESPOT による公衆無線 LAN サービスがご利用いただけます。 SSID: FujiLakeHotel-○○○○ (○○○○は、館内の場所によって異なります。) ― 4 ― 口演のご案内 1. 口演会場について 口演会場 : 富士レークホテル 3F「富士」 2. 座長の先生方へ 担当されるセッション開始前には座長席へお越しください。 3. 演者受付について ・口演当日は、該当セッションの開始時刻 30 分前までに、会場入口「PC 受付」にて受付をお済 ませください。 ・口演発表者は必ず「PC 受付」にてテストプロジェクターから正しく出力できることを確認して ください。出力を確認いただいた後に、会場前方の PC 係まで PC をお持ちください。 ・口演開始時刻の 15 分前には会場の次演者席にてお待ちください。 4. 発表方法について ・PC を用いた発表に限らせていただきます。スライド映写機、OHP、等は用意いたしません。 ・各自ノート PC をご持参ください。原則として、ご自身の PC を用いて発表していただきます。 ・発表の順番になりましたら、PC を持って演台にお進みください。プロジェクターへの接続は係 の者が行います。 ・発表中の PC 操作は演者ご自身でお願いいたします。 ・音声の利用はできません。 ・スクリーンセーバーや省電力設定は事前に解除しておいてください。 ・発表中のバッテリー切れを避けるため、AC 電源アダプターを必ずご持参ください。 ・機器のトラブルに備え、発表用データのコピーを CD-R、USB メモリ、SD カード等に保存して お持ちください。 5. データ作成時の注意 解像度 XGA(1024×768 ドット)の液晶プロジェクターを用意いたします。発表データは、画面 の解像度を XGA(1024×768 ドット)に合わせて、レイアウトの確認をしてください。 6. プロジェクターへの接続に関して ミニ D-Sub15 ピン(下図参照)のアナログ RGB 映像出力端子(別名、VGA 端子)に対応した接 続ケーブルのみ用意いたします。同映像出力端子のない PC を発表に用いられる方は、変換コネク タ、変換ケーブル(VGA アダプター)等を必ずご持参下さい。とくに、Apple 社製 PC、HDMI 端 子のみを有する PC 等を用いられる方はご留意下さい。 ミニ D-Sub15 ピン(PC 側) ― 5 ― ポスター発表のご案内 1. ポスター掲示について 会 場:富士レークホテル 3F「富士」 貼付日時:平成 26 年 7 月 10 日(木)12:00 ~ 7 月 11 日(金)14:40 掲示期間:平成 26 年 7 月 11 日(金)14:40 ~ 19:00 発表時間:平成 26 年 7 月 11 日(金) (奇数番号)17:45 ~ 18:15 (偶数番号)18:15 ~ 18:45 撤去日時:平成 26 年 7 月 11 日(金)19:00 ~ 7 月 12 日(土)12:00 ※ 撤去時間を過ぎても掲示されているポスターにつきましては、事務局にて処分さ せていただきます。 注意事項:ポスター会場は、口演会場と同じホールとなっております。このため、ポスターの 貼付および撤去は休憩時間等に行って下さい。ご協力よろしくお願いいたします。 2. ポスター発表形式 ・受付にて、ポスター発表者用のリボンをお渡しします。発表時間中は、リボンの着用をお願 いいたします。 ・座長は設けておりませんので、ポスター発表者はポスターの前に立ち、自由に示説・討論し て下さい。 ・ポスター発表の示説・討論の時間帯は、ポスター番号によって異なります。ご自身の番号が 奇数か偶数かを確認し、上記発表時間にご発表ください。 3. ベストポスター賞 ・サマーセミナー参加者の投票により、ベストポスター賞(1演題)を選考いたします。 ・詳細につきましては、ベストポスター賞選考要項をご覧ください。 ― 6 ― 4. ポスター作成要項 ・縦 210 cm×横 90 cm のポスターボードを用意いたします。 ・ポスターは上から 180 cm 以内で使用してください。 ・最上段左側に演題番号札(20 cm×20 cm)が入りますので、この部分は空けてください。 ・演題名、著者氏名(発表者の前に○印)、所属機関名を上部に記載してください。 ・演題番号札および貼付に必要な押しピンは事務局で用意いたします。糊・テープなどは使用 しないでください。 20cm 90cm 20cm 70cm 演題番号 演題名 氏名 所属機関名 180cm 210cm ― 7 ― 会場へのアクセス ● 交通アクセス JR中央本線・特急 70分 中央自動車道 大月駅 一宮御坂I.C. R137 25分 新宿駅 富士急行線 60分 徒歩12分 富士レークホテル 高速バス (新宿~富士五湖線) 105分 JR中央線・快速 15分 河口湖駅 送迎バス R139 80分 高速バス (東京・市が尾~河口湖線) 180分 7分 新富士I.C. 河口湖I.C. 東京駅 新東名高速道路 東富士五湖有料道路 中央自動車道 新幹線 ◎「新宿駅西口 新宿高速バスターミナル」へご到着の方 「新宿~富士五湖線」に乗車、105分後に「河口湖駅」に到着 ◎「東京駅八重洲南口 JR高速バスのりば」へご到着の方 「東京・市が尾~河口湖線」に乗車、180分後に「河口湖駅」に到着 ◎「JR新宿駅」へご到着の方 「JR中央本線特急」(註)に乗車、70分後に「大月駅」に到着 「富士急行線」に乗り換えて60分後に「河口湖駅」に到着 (註)すべての特急が大月駅に停車するのでありませんのでご注意ください。 ●送迎バスのご用命は富士レークホテル(TEL: 0555-72-2209)まで ●河口湖駅・富士レークホテル周辺図 至 河口湖大橋 大池 公園 宝石 博物館 乳ヶ崎北 710 至 御坂・ 甲府方面 河口湖 ▶ 河口湖駅から 徒歩 約12分 (1.0 km) 河口湖 交番前 137 遊覧船 乗り場 富士レークホテル 707 ファミリー マート カチカチ山 ロープーウェイ ローソン 乳ヶ崎南 高田屋 井出醸造店 ガスト セブンイレブン 三本杉 船津三差路 714 船津小学校 農協前 七軒町 郵便局 707 ファミリー マート 河口湖駅前 セブン イレブン バス停 山梨中銀 上の段 河口湖駅 セブンイレブン 137 707 富士山 100 m 至 河口湖 I.C. 富士スバルライン ― 8 ― 至 富士山駅 会場案内図 ● 館内案内図 富士レークホテル 東館7階 芙蓉 西館客室 EV 7階 二次会会場 ● ● 朝食会場(11日、12日) YEC会合(11日) ● 6階 ● 夕食・懇親会会場(11日) ● ポスター会場 ● 講演会場 5階 富士 4階 明星 受付 EV EV 3階 ロビー階(2階) フロント リフレッシュコーナー ● 3階 EV 玄関 EV ラウンジ 3階 ロビー階(2階) プール ● ネットコーナー ● 喫煙コーナー 「受付」は3階にあります。ホテル玄関からフロント前を過ぎ、長い廊下の突き当たりに エレベーター(ロビー階が2階)があります。このエレベーターで3階まで上がり、出たら 右手の奥に受付があります。 ● 講演・ポスター会場(3F「富士」) P42 P43 P44 P45 P46 P40 P39 P38 P37 P36 P35 P29 P30 P31 P32 P33 P34 P28 P27 P26 P25 P24 P23 P17 P18 P19 P20 P21 P22 P16 P15 P14 P13 P12 P11 座長 次 座 長 ポスター会場 P41 演者 P06 P07 P08 P09 P10 P05 P04 P03 P02 P01 次 演 者 参加者 出入口 スタッフ 出入口 ― 9 ― 日程表 7月10日(木) 8:00 7月11日(金) 7月12日(土) 朝 食(7:00~8:30) 朝 食(7:00~8:30) 第10回内分泌学若手研究者発表(4) ① 大塚 文男 9:00 シンポジウム(2) 「生活習慣病を解く」 10:00 ② 井上 啓 (座長:橋本 貢士) 休 憩 ① 梅崎 昌裕 (座長:河田 照雄) バイオテクノロジーアップデート(2) ② 箕越 靖彦 (座長:小島 至) 川原 敦雄 (座長:宮澤 恵二) ③ 植木 浩二郎 (座長:松本 俊夫) 休 憩 シンポジウム(3) 「ステロイド研究のフロントランナー」 11:00 休 憩 第10回内分泌学若手研究者発表(2) ① 山本 昌弘 ② 長谷川 一宏 (座長:栗原 勲、山内 敏正) 12:00 休 憩 ランチョンセミナー(1) 13:00 高野 幸路 (座長:高橋 裕) 開会の辞 14:00 ② 木野 智重 (座長:岩崎 泰正) 休 憩 ランチョンセミナー(2) 吉村 弘 (座長:森 昌朋) 次回サマーセミナーご案内 閉会の辞 休 憩(※) 第10回内分泌学若手研究者発表(1) ① 松坂 賢 ① 諸橋 憲一郎 (座長:宮本 薫) 第10回内分泌学若手研究者発表(3) ② 堀口 和彦 ① 園山 拓洋 ③ 田中 都 ④ 海老原 健 (座長:岡村 将史、田中 知明) ② 脇 裕典 (座長:田中 智洋、土居 雅夫) 休 憩 15:00 休 憩 シンポジウム(1) 「内分泌・代謝の中枢性調節」 16:00 ① 束村 博子 (座長:西原 真杉) ② 竹田 秀 (座長:児島 将康) バイオテクノロジーアップデート(1) 中川 誠人 (座長:若山 照彦) キャリアアップ授業 Michael Guest (座長:束村 博子) 休 憩 センチュリーレクチャー 17:00 柳沢 正史 (座長:寒川 賢治) 休 憩 18:00 ポスター発表 奇数番号:17:45~18:15 偶数番号:18:15~18:45 19:00 夕 食(18:30~21:00) 夕食(懇親会) (19:00~21:00) ※ この間、Young Endocrinologist Conference が開催されます(該当される先生方のみ)。会場:「明星」、時間:13:10~13:40 ― 10 ― プログラム 著者は筆頭著者(演者)のみ記載しています。 7月10日(木)(1日目) 13:00~13:10 開会の辞 有田 13:10~14:50 順 (山梨大学大学院医学工学総合研究部) 第10回内分泌学若手研究者発表(1) 座長: 岡村 将史 田中 知明 (東北大学病院) (千葉大学大学院医学研究院) YEC1-1 「脂肪酸伸長酵素Elovl6による脂肪酸組成制御と生活習慣病」 松坂 賢 (筑波大学医学医療系) YEC1-2 「多発性内分泌腫瘍症1型並びに類縁疾患の新たな知見」 堀口 和彦 (群馬大学大学院医学系研究科) YEC1-3 「脂肪組織線維化の分子機構と異所性脂肪蓄積」 田中 都 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科) YEC1-4 「脂肪細胞由来ホルモン、レプチンのトランスレーショナルリサーチ」 海老原 健 (京都大学医学部附属病院) 14:50~15:10 休 15:10~16:30 シンポジウム(1):内分泌・代謝の中枢性調節 S1-1 憩 座長: 西原 真杉 (東京大学大学院農学生命科学研究科) 「ほ乳類の生殖を制御するキスペプチンニューロン」 束村 博子 (名古屋大学大学院生命農学研究科) S1-2 座長: 児島 将康 (久留米大学分子生命科学研究所) 「臓器連関による新たな骨代謝調節機構」 竹田 秀 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科) 18:30~21:00 夕 食 ― 11 ― 7月11日(金)(2日目) 8:50~10:50 S2-1 シンポジウム(2):生活習慣病を解く 座長: 河田 照雄 (京都大学大学院農学研究科) 「低タンパク食地域における腸内細菌の栄養機能の解明」 梅崎 昌裕 (東京大学大学院医学系研究科) S2-2 座長: 小島 至 (群馬大学生体調節研究所) 「視床下部室傍核AMPKによる摂食調節機構」 箕越 靖彦 (生理学研究所) S2-3 座長: 松本 俊夫 (徳島大学藤井節郎記念医科学センター) 「肥満と老化に抗して生活習慣病に克つ」 植木 浩二郎 (東京大学大学院医学系研究科) 10:50~11:10 休 憩 11:10~12:00 第10回内分泌学若手研究者発表(2) 座長: 栗原 勲 山内 敏正 (慶應義塾大学医学部) (東京大学大学院医学系研究科) YEC2-1 「糖尿病と骨代謝異常:臨床的アプローチによる病態解明」 山本 昌弘 (島根大学医学部) YEC2-2 「尿細管-糸球体連関:近位尿細管特異的Sirt1遺伝子改変マウス・ヒト腎生検 による糖尿病性腎症の発症メカニズムの解析」 長谷川 一宏 (慶應義塾大学医学部) 12:00~12:15 休 憩 12:15~13:05 ランチョンセミナー(1) 座長: 高橋 裕 共催:帝人ファーマ株式会社 (神戸大学大学院医学研究科) 「電気生理学と可視化解析による神経内分泌細胞の分泌現象の解明」 高野 幸路 (北里大学医学部) 13:05~13:45 休 憩 (13:10~13:40: Young Endocrinologist Conference、会場「明星」) ― 12 ― 13:45~14:35 第10回内分泌学若手研究者発表(3) 座長: 田中 智洋 土居 雅夫 (京都大学大学院医学研究科) (京都大学大学院薬学研究科) YEC3-1 「高脂肪食負荷による食欲制御機構破綻のメカニズム解明の試み ~トランスクリプトーム解析を中心として~」 園山 拓洋 (京都大学大学院医学研究科) YEC3-2 「白色・褐色脂肪細胞におけるクロマチン構造変化とエピゲノム制御の役割」 脇 裕典 (東京大学大学院医学系研究科) 14:35~14:50 休 憩 14:50~15:30 バイオテクノロジーアップデート(1) 座長: 若山 照彦 (山梨大学生命環境学部) 「iPS細胞研究の今」 中川 誠人 (京都大学iPS細胞研究所) 15:30~16:10 キャリアアップ授業(英語プレゼン対策術) 座長: 束村 博子 (名古屋大学大学院生命農学研究科) 「Japanese Doctors and English Presentations: A Pathology, Diagnosis, and Suggested Treatments」 Michael Guest(宮崎大学医学部) 16:10~16:30 休 憩 16:30~17:30 センチュリーレクチャー 座長: 寒川 賢治 (国立循環器病研究センター) 「睡眠・覚醒の謎に挑む」 柳沢 正史 (筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構) 17:30~17:45 休 憩 17:45~18:45 ポスター発表 奇数番号:17:45 ~ 18:15 偶数番号:18:15 ~ 18:45 19:00~21:00 夕食(懇親会) ― 13 ― 7月12日(土)(3日目) 8:30~ 9:20 第10回内分泌学若手研究者発表(4) 座長: 橋本 貢士 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科) YEC4-1 「生殖内分泌H-P-O系の調節メカニズムの検討 ― BMPとリズム因子に着目して ―」 大塚 文男 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科) YEC4-2 「中枢神経を介した肝糖産生制御」 井上 啓 (金沢大学医薬保健研究域) 9:20~ 9:35 休 憩 9:35~10:15 バイオテクノロジーアップデート(2) 座長: 宮澤 恵二 (山梨大学大学院医学工学総合研究部) 「ゲノム編集技術を活用した生命科学研究」 川原 敦雄 (山梨大学大学院医学工学総合研究部) 10:15~10:25 休 10:25~11:45 シンポジウム(3):ステロイド研究のフロントランナー S3-1 憩 座長: 宮本 薫 (福井大学医学部) 「核内受容体レギュロンによるエネルギー代謝調節」 諸橋 憲一郎 (九州大学大学院医学研究院) S3-2 座長: 岩崎 泰正 (高知大学臨床医学部門) 「グルココルチコイド受容体転写活性に対するマルチレベル調節ネットワーク: 三次元分子構造からnon-coding RNA、そしてenhancerなどintergenic area からの調節についての研究の現況と将来の展望」 木野 智重 (Program in Reproductive and Adult Endocrinology, NICHD, NIH) 11:45~12:00 休 憩 12:00~12:50 ランチョンセミナー(2) 座長: 森 昌朋 「妊娠と甲状腺」 吉村 弘 12:50~13:00 共催:あすか製薬株式会社 (北関東肥満代謝研究所) (伊藤病院) 「第33回内分泌代謝学サマーセミナー」のご案内 諸橋 憲一郎 (九州大学大学院医学研究院) 13:00~13:10 閉会の辞 有田 順 (山梨大学大学院医学工学総合研究部) ― 14 ― ポスター演題 発表日時:平成 26 年 7 月 11 日(金) (奇数番号) 17:45 ~ 18:15 (偶数番号) 18:15 ~ 18:45 著者は筆頭著者のみ記載しています。 P-01 脂肪細胞における遠位エンハンサーを介したPPARγによるC/EBPα 青 山 倫 久 (東京大学) 遺伝子の転写制御機構の解析 P-02 アディポネクチン受容体アゴニストの抗糖尿病作用と寿命延長効果 岩 部 真 人 (東京大学) P-03 Protein Tyrosine Phosphatase 1B (PTP1B)遺伝子多型は日本人の 浅 原 哲 子 (京都医療センター) 肥満発症及び減量治療抵抗性に関連する P-04 頸動脈プラークのM1/M2マクロファージ浸潤と炎症性サイトカイン 田 中 将 志 (京都医療センター) 産生に対する肥満・糖尿病の影響 P-05 RAMP2は、急性および慢性脳虚血に対して脳保護的に働く 五十嵐 恭子 (信州大学) P-06 アドレノメデュリン-RAMP2システムは、血管恒常性を維持し、癌転移 田中 愛 (信州大学) 前土壌の形成を抑制する P-07 脂肪肝での肝再生障害におけるeIF2αリン酸化制御の重要性 稲 葉 有 香 (金沢大学) P-08 食餌誘導性肥満の発症におけるリノール酸の効果 井 上 雅 文 (京都大学) コレステロール合成とトリグリセライド合成のトレードオフ ― 田 中 智 洋 (先端医療センター) P-09 コレステロールクリアランスの亢進モデル、βklothoノックアウト マウスの解析 P-10 新規視床下部分泌性小タンパク質の前駆体遺伝子発現はレプチンの 岩 越 - 浮 穴 (広島大学) 制御を受けているのか? 栄子 P-11 新規視床下部分泌性小タンパク質の成長と脂肪蓄積へ及ぼす影響 鹿野 健史朗 (広島大学) P-12 新規視床下部分泌性小タンパク質の褐色脂肪組織への影響 別 所 裕 紀 (広島大学) P-13 甲状腺の正常、過形成、腫瘍における核膜蛋白の発現 汪 P-14 小児若年甲状腺癌におけるBRAFV600EおよびTERT promoter mutation 大 石 直 輝 (山梨大学) 洁 英 (山梨大学) の解析 P-15 ヒト病態をin vitro/in vivoで再現した新規子宮内膜症モデルの構築 梶谷 P-16 ヒト子宮内膜症モデル細胞におけるAd4BP/SF-1の新たな役割 高 尾 知 佳 (京都大学) ― 15 ― 宇 (京都大学) P-17 グレリン脂肪酸転移酵素(GOAT)の構造活性相関と大量発現の試み 児 島 将 康 (久留米大学) P-18 グレリンの作用経路における迷走神経の役割について 佐 藤 貴 弘 (久留米大学) P-19 p53下流遺伝子FDXRのミトコンドリア代謝調節作用と生活習慣病に 佐久間 一基 (千葉大学) おける脂肪・肝臓での役割 P-20 ヒト多能性幹細胞におけるp53下流遺伝子GLS2のミトコンドリア機能 鈴木 佐和子 (千葉大学) 制御を介した幹細胞制御機構の解明 P-21 脂肪細胞の機能調節におけるp53下流遺伝子DPYSL4の役割 永 野 秀 和 (千葉大学) P-22 癌幹細胞制御を目指した転写因子p53とGATA3の機能的役割と乳癌に 中 山 哲 俊 (千葉大学) おける予後・悪性度との関わり P-23 動脈硬化性病変におけるChk2-p53経路を介したDNA損傷応答機構の 滝 口 朋 子 (千葉大学) 解析 P-24 POMCニューロン特異的核内滞留型FoxO1・Sirt1ダブルノックイン 佐 々 木 努 (群馬大学) マウスの解析 P-25 O-GlcNAc修飾を介したグルココルチコイドレセプター(GR)の機能 沢 津 橋 俊 (徳島大学) 制御メカニズムの解析 P-26 胎仔型ライディッヒ細胞の細胞運命の解析 嶋 雄 一 (九州大学) P-27 Ad4BP/SF-1レギュロンによる統括的な細胞内代謝制御 馬場 P-28 メタボローム解析を用いたPPARα活性化時の血中変動代謝物の同定 高 橋 春 弥 (京都大学) 崇 (九州大学) 及び機能解析 P-29 マクロファージ特異的HIF-1α欠損は高脂肪食負荷マウスの糖代謝を 瀧 川 章 子 (富山大学) 改善する P-30 原発性アルドステロン症の病態鑑別を可能にするヒト3β-HSD酵素サブ 土 居 雅 夫 (京都大学) タイプ選択的モノクローナル抗体の樹立 P-31 核内オーファン受容体NGFIBの新規合成を介したAngiotensinⅡによる 鑓 水 大 介 (京都大学) 副腎球状層特異的3β-HSDアイソザイムの発現誘導メカニズム P-32 RNAスプライシング因子PSFの白色脂肪細胞分化における役割 土 岐 明 子 (群馬大学) P-33 オス型性行動の形成におけるキスペプチンの役割 中村 P-34 動脈狭窄の新規治療開発に向けた新しい細胞モデル系の開発 西尾 美和子 (国立国際医療 翔 (東京大学) 研究センター) ― 16 ― P-35 維持透析患者における、皮膚自家蛍光を用いた皮下AGEの定量化と 原井 望 (山梨大学) 心血管病変発症の関連の検討 P-36 膵島内に存在する腺房細胞様細胞群 (ATLANTIS) はREG 1αを強く 西 田 頼 子 (山梨大学) 発現し、劇症1型糖尿病において膵島内分泌細胞増殖に関与する P-37 食物の性状の違いがエネルギーバランスおよびインスリン抵抗性に 長谷川 和哉 (宮崎大学) 及ぼす影響 P-38 ラクチゾールは膵β細胞に発現するグルコース感知受容体T1R3を抑制 濱野 邦久 (群馬大学) する P-39 エストロゲンの細胞膜エストロゲン受容体GPERを介した摂食調節機構 に関する研究 福島 篤 (聖マリアンナ 医科大学) P-40 GRK2のニトロシル化によるβアドレナリン受容体の脱感作抑制 槙 田 紀 子 (東京大学) P-41 慢性関節炎モデルラットにおけるオキシトシンの発現動態ならびに 松 浦 孝 紀 (産業医科大学) その役割について P-42 Involvement of succinate secretion in the SDH-deficient 三 上 貴 浩 (東京大学) pheochromocytoma P-43 C/EBPβによるCYP11A1の新たな転写調節機構 水 谷 哲 也 (福井大学) P-44 ミトコンドリア電子伝達系活性化物質を用いたサルコペニア治療の 宮 下 和 季 (慶應義塾大学) 試み P-45 原発性アルドステロン症における遺伝子発現とDNAメチル化の統合 村 上 正 憲 (東京医科歯科大学) 解析 P-46 ライディッヒ細胞におけるCox-2の発現調節とプロスタグランジン 産生 ― 17 ― 矢 澤 隆 志 (旭川医科大学) ― 18 ― 特別講演 (センチュリーレクチャー) 特別講演(センチュリーレクチャー) 睡眠・覚醒の謎に挑む 柳沢 正史 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 睡眠覚醒の制御メカニズムや眠気(睡眠圧)の神経科学的本態は、いまだ謎に包まれてい る。これを因果論的に解く突破口として、ショウジョウバエにおける睡眠覚醒の順遺伝学が、近 年盛んに研究されている。しかし、ハエでの睡眠測定は、その全てを自発行動の有無に頼っ ており、ハエでのいわゆる「睡眠」が、哺乳動物のそれと真に相同であるか否かは不明である。 そこで我々は、哺乳動物での睡眠覚醒の正統的測定法であるポリソムノグラフィー(脳波・ 筋電図同時記録)に基づいて、マウスにおける本格的な順遺伝学的解析に着手した。これま でに、ランダムに点突然変異を導入したヘテロ接合体 7,000 匹以上をスクリーニングし、特異 的な遺伝性睡眠覚醒異常を呈する家系を 10 以上樹立した。近交系での連鎖解析と全エクソ ーム次世代シークエンシングを組み合わせ、ノンレム睡眠時間の顕著な延長を呈する家系 (Sleepy)とレム睡眠の減少と不安定化を呈する家系(Dreamless)とにおいて、原因となる遺 伝子変異をそれぞれ同定し、現在それらの機能解析を続行している。これらの家系はいずれ も強い睡眠覚醒フェノタイプを呈していることから、その原因遺伝子は睡眠制御メカニズムの 中核を担っているものと期待される。 ― 21 ― ― 22 ― バイオテクノロジー アップデート バイオテクノロジー アップデート(1) iPS 細胞研究の今 中川 誠人 京都大学 iPS 細胞研究所 初期化機構研究部門 再生医療に用いられる材料として多能性幹細胞は有用なものと考えられてきた。実際に最 近ではそういった幹細胞を用いた再生医療のニュースを耳にする機会が増えてきている。 胚性幹細胞(ES 細胞)は我々の体のほぼすべての細胞に分化できる能力とほぼ無限に増 殖できる能力を有しているが、医療に用いる際には倫理面の問題や移植後の拒絶反応の問 題などがある。これらの問題を解決するために体細胞から人工多能性幹細胞(iPS 細胞)が樹 立された。iPS 細胞には ES 細胞のような倫理面や拒絶反応の問題はないと考えられ、再生 医療への次世代の材料として期待されている。 現在、京都大学・iPS 細胞研究所では臨床応用に用いることのできる iPS 細胞の作製(製 造)を進めている。この時に一番問題なのは iPS 細胞の安全性である。以前より iPS 細胞樹 立の際に癌に関わる初期化因子を用いていたため腫瘍化リスクが考えられてきた。この点は 因子の変更により概ね解決できたと考えている。次の問題は iPS 細胞の培養環境である。培 養には主に培地と基材(細胞が接着する場)が重要であり、真に臨床応用可能な培養技術を 開発する必要がある。 ヒト iPS 細胞は一般的にフィーダー細胞上で樹立・維持培養されてきた。従来からマウスの フィーダー細胞を用いることが多く、これらの細胞はウシ胎児血清(FBS)を含んだ培養液で培 養されている。医療応用の段階では、血清や動物由来成分を出来る限り減らすか使わないよ うにするべきとガイドライン等にあることからフィーダー細胞を用いず、培養液に異種由来成分 を含まない条件で作製した iPS 細胞を用いることが望ましいと考えられる。そこで我々はこれ らの条件を満たすような培養条件の開発を進めてきた。様々な検討から、組み換え蛋白質の ラミニンフラグメントを基質とし、異種由来成分を含まない培地を開発して、それらを用いること でヒト iPS 細胞の樹立・維持培養に成功した。このフィーダーフリーiPS 細胞はこれまで解析 されてきたフィーダー細胞を用いて樹立された iPS 細胞と同様に様々な体細胞に分化誘導 できることが分かった。 ― 25 ― バイオテクノロジー アップデート(2) ゲノム編集技術を活用した生命科学研究 川原 敦雄 山梨大学医学教育センター 発生生物学 モデル脊椎動物であるゼブラフィッシュは、我々哺乳類と形態形成過程が非常に良く保 存されていることが明らかとなっています。また、ゼブラフィッシュのゲノムにランダムな変異を 導入する手法が確立されており、ヒト疾患と類似した表現型を示す変異体も同定されてきてい ます。我々は、心臓発生に異常を示すゼブラフィッシュ変異体を作製し、その原因遺伝子を調 べた結果、新規の膜分子である Spns2 が、脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸 (S1P)の輸送体として機能していることを明らかとしました。この Spns2 の分子機能は哺乳類 でも保存されており、リンパ球の再循環を制御していることが明らかとなっています。 S1P の生理機能は、標的細胞膜に存在する S1P 受容体(S1PR1-S1PR5)を介して発揮 されますが、その全体像は良く分かっておりません。我々は、S1P 関連分子の網羅的な遺伝 子破壊ゼブラフィッシュの作製およびそれらの解析を行いたいと考え、ゲノム編集技術の開発 に取り組みました。マウスでは、ES 細胞を基盤とした遺伝子改変マウスの作製法が確立され ていますが、他のモデル生物では ES 細胞が樹立できておらず、ゲノム改変が困難な状況で した。最近、爆発的な技術革新が進んでいます TALEN と CRISPR/Cas9 システムは、受精 卵や培養細胞において直接ゲノムを編集できますので、生命科学研究において大変注目さ れています。 我々は、TALEN と CRISPR/Cas9 によるゲノム改変効率の測定法を開発することにより、 効率良く遺伝子改変ゼブラフィッシュを作製することができるようになりました。iPS 細胞を用い た再生医学の分野でも活用が期待されているゲノム編集技術は、21世紀の生命科学におい て極めて重要な解析ツールになると考えられていますので、最新のゲノム編集技術の開発状 況を紹介させていただきます。 ― 26 ― キャリアアップ授 業 (英語プレゼン対策術) キャリアアップ授業 (英語プレゼン対策術) Japanese Doctors and English Presentations: A Pathology, Diagnosis, and Suggested Treatments Michael Guest (ゲスト マイケル) 宮崎大学医学部 This presentation will be made in English. Many, if not most, Japanese doctors are anxious about making presentations in English, particularly at international conferences. Having some anxiety regarding performing in front of your peers in a language that is not your mother tongue is quite natural. But how can Japanese doctors best manage this anxiety? What should Japanese doctors focus on in advance to make their presentations more effective and thus, well-received by an international audience? The presenter has examined the presentation performances of over 140 Japanese doctors and 52 non-native English Asia-based doctors at five recent international medical conferences. By analyzing the structures and communication techniques used by effective presenters and comparing these with ineffective presenters he has been able to uncover a number of common features that mark effective presentations. Among these are the ability to utilize strategic competence in question and answer sessions, giving greater consideration to the role and function of transitional phrases, and employing alternate opening and closing strategies. Moreover, it was noted that minor grammatical ‘errors’ and so-called Japanese pronunciation were not negative factors in marking performance. In fact, an argument to move away from an Anglo-American ‘native’ model of performance correctness will be made. Authentic samples, both positive and negative, taken from actual conference speakers will be examined and advice regarding where future presenters may wish to place their preparation emphasis will be offered. The goal of this presentation is to provide Japanese doctors with practical guidelines and a sharpened, constructive focus that should increase confidence when they are required to present in English at international medical conferences in the future. ― 29 ― ― 30 ― シンポジウム S1-1 ほ乳類の生殖を制御するキスペプチンニューロン 束村 博子 名古屋大学大学院生命農学研究科 生殖科学研究分野 キスペプチンは、ヒトをふくめたほ乳類の生殖機能制御に中心的な役割をはたすペプチドと して注目される。キスペプチンは、GPR54 の内因性リガンドとして、2001 年に発見されたペプ チドであり、腫瘍転移(metastasis)抑制遺伝子として知られる Kiss1 遺伝子によってコードさ れていることから、発見当初はメタスチンと命名された。その後、GPR54 遺伝子の変異をもつ ヒトが性成熟に達しないこと、さらに GPR 54KO マウスが性成熟に達しないことが報告された ため、このペプチドが性成熟に不可欠なペプチドであると考えられた。また、げっ歯類を用い た研究を中心に、キスペプチンが強力な性腺刺激ホルモン放出因子であることや、性腺刺激 ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロンに GPR54 の発現が確認され、キスペプチンは GnRH ニューロンの上位から直接 GnRH ニューロンを支配し、その放出を介して性腺刺激ホ ルモン分泌を刺激することが示された。このように、キスペプチン-GPR54 系は性成熟のみな らず、成熟個体における生殖機能維持にも中心的な役割をもつことが明らかとなり、現在、生 殖科学分野で大きな注目を集めている。 我々は、これまでラットやマウスをはじめ、ブタやヤギなどの家畜、交尾排卵動物のスンクス においてもキスペプチン-GPR54 系が卵胞発育や排卵を制御することを示してきた。キスペプ チンニューロン細胞体は、ほ乳類の脳において、2つの神経核、すなわち視床下部弓状核 (ARC)、および前腹側室周囲核(AVPV)/視索前野(POA)領域に局在する。ARC に局在す るキスペプチンニューロンは GnRH/黄体形成ホルモン(LH)パルスの制御を介して卵胞発育 やステロイド合成を制御すると考えられ、またエストロジェンの GnRH/LH に対する負のフィー ドバックのターゲットであると考えられる。一方、AVPV/POA の同ニューロンはエストロジェンの 正のフィードバックのターゲットとして GnRH/LH サージを制御し、ひいては排卵を制御すると 考えられる。本発表では、エストロジェンによる Kiss1 遺伝子発現のエピジェネティックな制御 メカニズムについての知見や、キスペプチン-GPR54 を介したヒト・家畜における生殖機能制 御の応用の可能性も含めて議論を深めたい。 ― 33 ― S1-2 臓器連関による新たな骨代謝調節機構 竹田 秀 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 細胞生理学分野 近年、臓器同士が互いの代謝の調節に関わり、さらにこの臓器間の連係(臓器間クロストー ク)が個体全体での恒常性の維持においても重要であることが次々と明らかにされた。骨にお いても、骨と他の臓器とのネットワークが注目されている。 これまで我々は、神経系や神経ペプチドの遺伝子改変マウスにおける解析を通じて、神経 系や神経ペプチドの骨代謝における意義を分子レベルで明らかにしてきた。なかでも、レプチ ンは中枢に作用し、食欲を抑制すると同時に交感神経系を活性化し、骨形成を抑制、骨吸収 を促進することを見出した。 グレリンはレプチンと拮抗し、食欲増進作用を有するホルモンであるが、個体レベルにおけ るグレリンの骨代謝への機能は不明である。そこで、我々はグレリン受容体欠損マウスとグレリ ン受容体組織特異的活性化マウスを用いて、グレリンの骨代謝における生理作用を明らかに した。グレリン受容体欠損マウスは骨形成の低下による骨量の減少を示した。また、グレリン受 容体欠損マウスの骨芽細胞特異的にグレリン受容体の発現を回復させると骨形成、骨量の低 下が改善した。一方、グレリン受容体欠損マウスの中枢神経特異的にグレリン受容体の発現を 回復させても、骨形成、骨量の低下に変化は見られなかった。これらの結果から、個体レベル において、グレリンは骨芽細胞に作用して骨形成を促進することが明らかとなった。 また、我々は、神経再生において注目されているセマフォリン 3A に注目し、その骨代謝に おける意義を解明した。神経特異的にセマフォリン 3A を欠損したマウスの骨組織では、骨の 細胞自体には大きな異常がないにもかかわらず、感覚神経の骨への投射が低下したことによ り、骨量が低下していた。また、骨への感覚神経の侵入が低下したマウスでは、骨の障害に対 する再生能力が有意に低下していた。こうして、感覚神経系が骨に投射することが、正常な骨 の発達や、損傷後の骨の再生、治癒に重要であることが明らかになった。 この講演では、我々の得た最近の知見を中心に、骨と臓器間のネットワークによる骨代謝調 節機構について議論したい。 ― 34 ― S2-1 低タンパク食地域における腸内細菌の栄養機能の解明 梅崎 昌裕 東京大学大学院医学系研究科 人類生態学分野 パプアニューギニア高地にはエネルギー摂取量の 60%以上をサツマイモに依存する人々 が生存してきた。彼らのタンパク摂取量は現代栄養学の定める基準を下回るにもかかわらず、 タンパク欠乏に由来する臨床症状はほとんど報告されず、成人男性は巨大な筋肉を発達させ ている。この理由を解明するために 1950 年代より多数の栄養学研究が実施されてきた。いく つかの研究は、パプアニューギニア高地人の窒素出納が負であることを報告し、その理由とし て、腸内細菌が窒素固定により食物以外のタンパク源をホストに供給していることが示唆され た。1980 年代に実施された研究では、パプアニューギニア高地人の不可避窒素損失量がほ かの集団で報告された値よりも低いこと、彼らが、摂取したタンパクを体内に効率的に貯蔵す る傾向があること、腸管中に排出された尿素の再利用が盛んなことなどが報告されている。し かしながら、結局のところ、パプアニューギニア高地人がサツマイモを食べて筋肉質になるの はなぜかという問いに対する決定的な答えはでていない。 21 世紀になって、腸内細菌がホストの栄養にかかわっていることを示す証拠が次々と報告 されるようになった。たとえば、肥満の人の糞便をネズミの腸内に移植するとそのネズミは肥満 になりやすくなること、クワシオコルとよばれる成長障害の症状にある子どもの糞便をネズミの 腸内に移植するとそのネズミもクワシオコルの症状を示すようになることなど、肥満やクワシオコ ルなどの発症機序にも腸内細菌がかかわっていることが示唆された。 演者は、腸内細菌の機能に着目することによりパプアニューギニア高地人の低タンパク適 応のメカニズムを解明することを目的として、2010 年より学際的なプロジェクトを組織し、調査・ 研究をおこなってきた。パプアニューギニアの 4 集団を対象に、糞便サンプル、尿サンプル、 毛髪サンプルを収集するとともに、食物摂取頻度調査票を用いた個人レベルのタンパク摂取 量の評価、生体計測調査を実施した。収集した糞便サンプルについては腸内細菌叢の評価 したほか、腸内細菌の代謝物の栄養機能を細胞実験系で解明する試みも行っている。発表で は、本プロジェクトの現在までの成果を紹介したい。 ― 35 ― S2-2 視床下部室傍核 AMPK による摂食調節機構 箕越 靖彦1,2)、岡本 士毅1,2) 1) 2) 生理学研究所 発達生理学研究系 生殖・内分泌系発達機構 総合研究大学院大学生命科学研究科 生理科学専攻 AMP キナーゼ(AMP-activated protein kinase、AMPK)は、細胞内エネルギーレベル の低下あるいは AMPKK によるリン酸化によって活性化し、代謝、イオンチャネル活性、遺伝 子発現を変化させて ATP レベルを回復させる。 このことから AMPK は、 “metabolic sensor”あるいは“fuel gauge”と呼ばれている。私共は、レプチン、並びにアディポネクチンが、 骨格筋の AMPK を活性化することによって筋肉内での脂肪酸酸化を促進し、その結果、骨 格筋における lipotoxicity を防ぐことを報告してきた(Nature 2002, Nat Med 2002)。また、 視床下部 AMPK が摂食を調節することを明らかにした(Nature 2004)。 最近、私どもは、視床下部室傍核の AMPK が、摂取カロリー量だけでなく、炭水化物食 と脂肪食の食物選択行動に関与することを見出した。炭水化物食と脂肪食を自由に選択させ ると、C57BL/6J マウスは脂肪食を好んで摂取する。しかし、マウスを一日絶食後、再摂食さ せると炭水化物食の摂取が増加し、反対に脂肪食の摂取が低下する。同様の現象は摂食促 進ペプチドである NPY を視床下部室傍核に投与することによっても起こる。絶食後の炭水化 物食選択行動は、脳を含む全身の代謝を速やかに正常化する効果があると考えられる。興味 深いことに、炭水化物食と脂肪食を別々に与えた場合には、例え絶食後であってもマウスは 炭水化物食だけでなく脂肪食も摂食する。私共は、このような炭水化物食と脂肪食の食物選 択行動が、視床下部室傍核ニューロンの AMPK によって制御されることを、視床下部室傍核 ニューロンの AMPK 活性を選択的に変化させたマウスを用いて明らかにした。本講演では、 食物選択行動における室傍核 AMPK の調節作用について、私共の最近の研究成果を報告 する。 ― 36 ― S2-3 肥満と老化に抗して生活習慣病に克つ 植木 浩二郎 東京大学大学院医学系研究科 分子糖尿病科学講座 現在、糖尿病をはじめとする生活習慣病が増加している原因として肥満の増加があるとされ ている。これまで様々な肥満モデルマウスの解析から肥満で変化するいくつかのアディポカイ ンがインスリン抵抗性・糖尿病の促進因子として示唆されてきた。しかしながら、特に日本人で は欧米人やモデル動物で見られるような高度肥満を呈することは少なく、日本人検体解析か らのアプローチが必要と考えられる。我々は、正常体重から軽度肥満の非糖尿病患者の皮下 脂肪組織・内臓脂肪組織の解析から、肥満のごく初期から変化のあるアディポカインをいくつ か同定した。その中で TGFβ superfamily 蛋白の阻害因子である FSTL3 の発現が増加す ること、FSTL3 がインスリン感受性やインスリン分泌を阻害することを見いだしている。また、 FSTL3 が阻害する TGFβ superfamily 蛋白の肥満マウスへの投与により糖代謝が著明に 改善することを見いだしており、新たな糖尿病治療への応用を目指している。また、我が国で は急速な高齢化が進行しており、この場合にインスリン感受性に大きな影響を与える可能性が あるのは、骨格筋の質的・量的減少(サルコペニア)と考えられる。我々は、骨格筋のインスリン 作用の低下がサルコペニアを促進し、サルコペニアがさらにインスリン作用の低下をもたらすと いう悪循環をきたしているという仮説のもとに、骨格筋特異的な Akt1/2 のノックアウトマウスを 作成した。このマウスでは、サルコペニアの進行が促進し耐糖能が悪化するのみならず、骨量 の低下や寿命の短縮など、老化の加速が認められる。このことから、骨格筋のインスリン作用 は、骨格筋を中心とする臓器間ネットワークの恒常性を保つことにより、健康寿命を維持する 役割を担っていることが示唆され、これをターゲットとする健康長寿法の開発を目指したいと考 えている。 ― 37 ― S3-1 核内受容体レギュロンによるエネルギー代謝調節 諸橋 憲一郎、馬場 崇 九州大学大学院医学研究院 核内受容体型転写因子 Ad4BP/SF-1 はステロイドホルモン産生に関わる遺伝子の転写を 調節する因子として同定された。一方、本因子の遺伝子破壊マウスからは副腎と生殖腺が消 失することから、本因子はこれらの組織の形成に必須であると考えられてきた。しかしながら、 どのような遺伝子の制御を通じ副腎や生殖腺の分化ならびに生存を制御しているかについて は不明であった。 本研究では Ad4BP/SF-1 の標的遺伝子を全ゲノムレベルで同定することで、これらの問題 に対する解答を得たいと考えた。そこで Y-1 細胞を用い、ノックダウン実験ならびに ChIP-seq 解析により標的遺伝子を同定したところ、興味深いことに Ad4BP/SF-1 はほぼ全ての解糖系 遺伝子の上流やイントロン領域に結合し、その転写を直接制御することが示唆された。レポー ター遺伝子解析と siRNA による Ad4BP/SF-1 の発現阻害は上記の仮説を支持した。従って これらの結果は、Ad4BP/SF-1 が解糖系遺伝子の制御を通じ、細胞のエネルギー状態を制 御していることを示唆するものであった。実際に、メタボローム解析の結果からも、Ad4BP/SF1 の発現抑制はグルコース消費の低下(解糖系の活性低下)や細胞内 ATP 量を低下させる。 興味深いことに、NADPH の産生に関与する遺伝子発現が低下しており、期待通りに細胞内 NADPH 量も低下していた。また、Ad4BP/SF-1 の発現抑制は細胞分裂の低下を招き、細胞 数が減少する。 以上の結果は、Ad4BP/SF-1 が細胞の生存に必須のバイオロジカルプロセスの制御を通 じ、副腎や生殖腺が存在する上で必須の機能を発揮することを示すものである。 ― 38 ― S3-2 グルココルチコイド受容体転写活性に対するマルチレベル調節 ネットワーク:三次元分子構造から non-coding RNA、そして enhancer など intergenic area からの調節についての研究 の現況と将来の展望 木野 智重 生殖内分泌プログラム、国立小児発達研究所、米国国立衛生研究所 グルココルチコイド受容体(GR)は、およそ 30 年前に脊椎動物において初めてクローニング された核内受容体である。GR は N-terminal domain (NTD), DNA-binding domain (DBD), ligand-binding domain (LBD)という3つの独立した分子ドメインを持ち、それらの 相互作用によりグルココルチコイド依存性の転写因子として働く。GR はリガンド結合後核内へ 移行し、DNA に存在する特異認識配列への結合や他の転写因子との蛋白-蛋白作用を介し て、直接あるいは間接的にグルココルチコイド反応性遺伝子の転写活性を調節する。GR は ほぼすべての臓器、組織に分布し、中枢神経系、循環器、骨-骨格筋、免疫機構や肝臓、脂 肪組織でのエネルギー代謝等のホメオスターシス維持に強力に作用するなど、あらゆる生体 活動に関与している。中枢神経系で統合された内外の環境情報(ストレスシグナル)は、特徴 的な日内変動を呈する血中コルチゾール分泌に集約され、身体各所に伝搬される。一方、受 容側の臓器や組織では、他のシグナル伝達系を介する外的因子やクロマチンなどを通した組 織特異的内在因子の働きにより、GR 転写活性(あるいはグルココルチコイド感受性)をそれぞ れの置かれた状況に沿うべくマルチレベルで調節している。従ってこの局所調節ネットワーク の破綻(過剰、過小、奇異反応)は、精神障害、免疫不全、高血圧、糖脂質代謝異常及びそ の結果としての心血管疾患といったホルモン作用過剰や不足に関わる病態を惹起する。この レクチャーでは、GR 分子からクロマチンに至るまでの GR 転写調節ネットワークを概括し、将 来の展望を述べる。具体的には GR 遺伝子異常症で見られる GR 分子の変異、リン酸化やア セチル化といった GR 分子の化学修飾、近年報告が急増している long non-coding (lnc) RNAs、更には今後の検討を待つエンハンサーなどの intergenic area からの調節機構につ いての私見および他の研究者からの報告を中心に紹介したい。 ― 39 ― ― 40 ― ランチョンセミナー ランチョンセミナー(1) 電気生理学と可視化解析による 神経内分泌細胞の分泌現象の解明 高野 幸路 北里大学医学部 内分泌代謝内科学 下垂体前葉細胞や膵消化管神経内分泌細胞は dense core granule 内に蓄積したペプ チドホルモンやアミンを調節性分泌制御で分泌し、体全体の恒常性の維持や成長発達に関 わっている。神経内分泌細胞はその多くが興奮性細胞であり、その機能調節は活動電位の発 火や、細胞内カルシウム動態の調節によって行われている。本講演では、下垂体前葉細胞と 膵内分泌細胞のうちインスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞の分泌調節機構を、電気生理 学的方法と2光子励起法による可視化解析でどのように明らかにできるかを説明する。上位の 中枢からの刺激因子や抑制因子によって調節を受ける下垂体前葉細胞と、血糖調節を共同 して行っているインスリン細胞、グルカゴン細胞はその電気的興奮性の調節機構が大きく異な っており、そのために備えているチャネルも異なっている。下垂体前葉細胞や副腎髄質細胞 などの内分泌細胞と膵・消化管神経内分泌細胞の相違を明らかにしたい。ソマトスタチンアナ ログや GLP-1 作動薬などの内分泌疾患や糖尿病の治療薬がこれらの機構をどのように制御 して作用しているかも報告したい。併せて、これらの細胞を起源とする下垂体前葉の機能性腺 腫がどのような仕組みでホルモン過剰症状を起こしているかを報告する。また、機能性下垂体 腺腫、神経内分泌腫瘍がどのような遺伝子異常でこのような形質を獲得しているかについても 報告したい。 ― 43 ― ランチョンセミナー(2) 妊娠と甲状腺 吉村 弘 伊藤病院 甲状腺ホルモンは妊娠、出産及び胎児の発育に非常に重要な働きをする。妊娠すると母 体の甲状腺は胎盤で産生される HCG により刺激され、妊娠初期は FT3, FT4 が上昇する。 その後 FT3, FT4 は低下し非妊娠時の基準値を下回ることもある。それゆえに妊娠中の甲状 腺機能のコントロールには妊娠時期毎の基準値が必要である。胎児は妊娠 12 週頃から甲状 腺ホルモンを産生し始め、18 週頃に胎児の甲状腺は完成する。それ以前では、母体由来の FT3, FT4 が胎児の成長を促進させる。脳神経系において FT4 は astrocyte で FT3 に変 換されてから neuron に運ばれ neuron の分化増殖を促す。Astrocyte において FT4 の FT3 への変換は type 2 iodothyronine deiodinase(DIO2)が担っている。どの時期にどの 部位の astrocyte の DIO2 が発現するか決まっており、母体の甲状腺機能低下症による FT4 の低下は胎児 Neuron 内の FT3 の低下をもたらし脳神経系の非可逆的発育障害を引 き起こす。この事は母体の妊娠初期のみでの甲状腺機能低下症でも脳神経系の非可逆的発 育障害を引き起こす可能性があることを示している。以上のことより、妊娠を希望する女性は甲 状腺機能検査を受けるべきと考えられる。では、妊婦の甲状腺機能をどのように管理すればよ いのであろうか?海外から TPOAb 陽性の女性が、流産しやすいという報告がされている。こ れに対して、TPOAb が原因ではなく軽い甲状腺機能低下症が原因であるという意見もある。 最近発表された、国際ガイドラインでは妊娠初期は TSH <2.5 μIU/ml, それ以後は TSH <3.0 μIU/ml にコントロールした方がよいとされている。健常人の TSH の基準値が 0.2~4.5 μIU/ml くらいであるので、普通に臨床をされている医師は TSH が少し低めと感じるかもしれ ない。当院では妊娠時期で TSH の基準値を作成しているが 1st trimester: <3.21, 2nd: <3.49, 3rd: 2.87 であり、やはり非妊娠患者を対象に作成した基準値より低くなっている。国 際ガイドラインでの推奨値には、根拠となるデータが添付されておらず、また、本邦には妊娠 初期の TSH 値と流産の関係を検討した仕事は少なく、早急に本邦でのデータを用いた検討 が望まれる。 ― 44 ― 第10回 内分泌学若手研究者発表 YEC1-1 脂肪酸伸長酵素 Elovl6 による脂肪酸組成制御と生活習慣病 松坂 賢、 島野 仁 筑波大学 医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科 生活習慣病の原因の一つとして、組織における過剰な脂質蓄積が引き起こす脂肪毒性が 考えられている。また最近、組織・細胞内に蓄積する脂質の「量」のみならず、脂質の種類や 構成脂肪酸分子種などの脂質の「質」が様々な生理機能や疾患の発症・進展に重要であるこ とが明らかになってきた。Elovl6 は炭素数 12-16 の飽和・一価不飽和脂肪酸を基質とし、炭 素数 18 以上の長鎖脂肪酸の合成を司る脂肪酸伸長酵素である(J Lipid Res. 2002.)。本 酵素の生体内での機能を解明するために Elovl6 欠損マウスを解析したところ、それまで予想 されていなかった脂肪酸の質と病態との関連が明らかになってきた。Elovl6 欠損マウスの各 組織では、炭素数 18 以上の脂肪酸の減少、炭素数 16 以下の脂肪酸の増加など様々な脂 肪酸組成の変化を認めた。Elovl6 欠損マウスに高脂肪食負荷や肥満モデル ob/ob マウスと の交配を行うと、野生型マウスと同様に肥満と脂肪肝を呈するが、野生型マウスに比べて良好 なインスリン感受性を示した(Nat Med. 2007.)。また、マクロファージにおける Elovl6 の欠損 は動脈硬化を抑制すること(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011.)、Elovl6 欠損マウスで は非アルコール性脂 肪性肝炎 の発症が 抑制される ことが明 らかとなった( Hepatology. 2012.)。さらに、肺線維症の発症に Elovl6 が関与すること( Nat Commun. 2013.)や、 Elovl6 欠損マウスでは脳機能や食嗜好性の変化が生じることを見出している。このように、 Elovl6 を介した脂肪酸の質の変化は、エネルギー代謝、インスリン感受性、炎症、高次脳機 能など様々な生理・病態において重要であると考えられ、その分子機序の解明が生活習慣病 の新しい予防法、治療法の開発につながると期待される。 ― 47 ― YEC1-2 多発性内分泌腫瘍症 1 型並びに類縁疾患の新たな知見 堀口 和彦1)、山田 正信1)、Stephen Marx 1) 2) 2) 群馬大学大学院医学系研究科 病態制御内科学 National Institutes of Health, NIDDK 多発性内分泌腫瘍症 (MEN)1 型およびその類縁疾患である家族性副甲状腺機能亢進 症(FIHP)は、内分泌腺に腫瘍を発症する家族性腫瘍症候群である。MEN1 型において最 も高率に認める原因遺伝子は MEN1 遺伝子で家族性の 90 %程度、散発例の 50 %程度で 変異を認めるが、その他の症例では家族歴が明らかな症例でも原因遺伝子が明らかとなって いない。FIHP では RET、CASR、MEN1、HRPT2 遺伝子の変異が報告されているが、そ の頻度は低く 70−80 %の症例では原因遺伝子が明らかとなっていない。 近年、MEN1 遺伝子の翻訳産物 Menin がヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を持つ Mixed Lineage Leukemia (MLL) と核内蛋白質複合体を形成し、サイクリン依存性キナー ゼ阻害因子(CDKI)である p27Kip1 の発現を制御していることが明らかとなり、MEN1 型の1 家系において p27Kip1 遺伝子変異が発見された。さらに、我々は一部の散発性下垂体腫瘍に おいても Menin/MLL- p27Kip1 経路に異常があり、サンドスタチンアナログにより本経路が回 復することを報告した。そこで今回、CDKI と並び重要な細胞周期制御因子であるサイクリン 依存性キナーゼ(CDK)に注目し、既知の遺伝子変異を認めない MEN1 型ならびに類縁疾 患における CDK 遺伝子変異を検討した。 その結果、興味深いことに CDK2 遺伝子に 1 種類、CDK3 遺伝子に4種類、これまでに 報告のない新規 DNA バリアントを発見した。その後の臨床データなどを用いた解析から、 CDK2 遺伝子の 1 種類の DNA バリアント、CDK3 遺伝子の2種類の DNA バリアントが新た な遺伝子変異候補として挙げられた。マウスインスリノーマ細胞株である MIN-6 細胞株を用 いてこれらの安定発現細胞株を作成し、細胞周期に与える影響について検討したところ、少な くとも CDK3 遺伝子の 1 種類の DNA バリアントの安定発現細胞株において、G0/G1 期細 胞数の減少と G2/M 期細胞の増加を認め、さらに細胞増殖能の増加を認めた。以上より、 CDK3 遺伝子は MEN1 型の新たな原因遺伝子となりうることが示唆された。 本講演では、その他、Menin の Akt 経路への影響など最近の知見についてもお話したい。 ― 48 ― YEC1-3 脂肪組織線維化の分子機構と異所性脂肪蓄積 田中 都1)、菅波 孝祥2,3)、池田 賢司1)、小宮 力1)、 白川 伊吹2)、越智 梢1)、小川 佳宏1) 1) 2) 3) 東京医科歯科大学 分子内分泌代謝学分野 東京医科歯科大学 臓器代謝ネットワーク講座 科学技術振興機構 さきがけ 内臓脂肪型肥満を背景とするメタボリックシンドロームの基盤病態として,肥満の脂肪組織 そのものが炎症性変化をきたすことが知られている。脂肪組織の炎症性変化には,脂肪細胞 の肥大化とケモカインの発現上昇,それに伴う免疫担当細胞の浸潤が大きく関与しており, 我々は,これまでに脂肪細胞とマクロファージの相互作用による脂肪組織炎症の悪循環形成 のメカニズムを明らかにしてきた。その過程において,肥満の脂肪組織における新たな炎症関 連遺伝子を探索し,マクロファージに特異的な遺伝子として,macrophage-inducible Ctype lectin(Mincle)を同定した。Mincle は,真菌や結核菌に対する感染防御に重要な受 容体であり,結核菌構成成分の糖脂質をリガンドとする一方,死細胞が放出する核内蛋白質 を認識することも知られており,内因性リガンドの存在が示唆されている。肥満の脂肪組織で は,死に陥った脂肪細胞をマクロファージが取り囲む crown-like structure(CLS)が認めら れるが,我々は Mincle が CLS を形成するマクロファージに局在することを見出した。即ち, Mincle が死細胞に由来する danger signal を認識して,肥満脂肪組織炎症を促進する可 能性が考えられた。実際,Mincle 欠損マウスと野生型マウスに対して高脂肪食負荷を行うと, 体重差は認められないが,野生型マウスに比較して Mincle 欠損マウスでは脂肪重量が増加, 肝重量が軽減し,耐糖能異常の改善が認められる。また,組織学的検討より,Mincle 欠損マ ウスの脂肪組織では,間質の線維化の減弱や CLS 数の減少が認められ,肝臓においては, 脂肪肝の抑制が認められた。既知の外来性 Mincle リガンドを用いて腹腔内マクロファージの Mincle を活性化すると、炎症関連遺伝子のみならず,線維化関連遺伝子の発現上昇が認め られた。即ち,Mincle は肥満に伴う脂肪組織の慢性炎症や脂肪組織線維化に促進的に作用 し,異所性脂肪蓄積に関与することが示唆された。 ― 49 ― YEC1-4 脂肪細胞由来ホルモン、レプチンのトランスレーショナルリサーチ 海老原 健 京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター レプチンは脂肪細胞より分泌され、主に視床下部に作用することにより食欲抑制とエネルギ ー消費亢進をもたらす抗肥満ホルモンとして知られている。我々はレプチンの発見以来、臨床 応用を目指したレプチン研究を行ってきた。レプチン過剰発現トランスジェニックマウスを作製 し、その解析を通してレプチンのインスリン感受性亢進作用(Diabetes 1999)、脂質代謝亢進 作用(Am J Physiol Endocrinol Metab 2001)、血圧調節作用(J Clin Invest 2000)、性 腺機能調節作用(J Clin Invest 2000)を明らかにした。レプチンは末梢のエネルギー状態を 中枢に伝えるセンサーとして体重調節作用以外にも多彩な生理作用を有することが明らかと なっている。 我々は、レプチンの最初の臨床応用の対象疾患として脂肪萎縮症に着目した。脂肪萎縮 症では脂肪組織の減少・消失とともに強いインスリン抵抗性を特徴とする糖尿病や高中性脂 肪血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常を発症する。脂肪組織の減少・消失により糖脂質代謝 異常がもたらされるメカニズムについては不明であったが、我々は脂肪萎縮症モデルマウスを 用いて、レプチンの作用不足が脂肪萎縮症における糖脂質代謝異常の主な原因であり、レプ チン治療により脂肪萎縮症の糖脂質代謝異常が正常化することを明らかにした( Diabetes 2001)。この基礎研究の成果を踏まえて 2002 年より脂肪萎縮症患者を対象に不足したレプ チンを補うレプチン補充療法の臨床研究を開始し、12 例の脂肪萎縮症患者にレプチン補充 治療を行い、糖尿病、高中性脂肪血症、脂肪肝に対する劇的改善効果を証明した。また糖尿 病性腎症などの合併症に対する著しい改善効果も証明した(N Engl J Med 2004、J Clin Endocrinol Metab 2007)。そこで我々は脂肪萎縮症に対するレプチン治療の薬事承認を 目指して医師主導治験を実施し、この成績をもとに 2013 年 3 月に薬事承認を取得し、同年 7 月にレプチン製剤の市販が開始された。 現在我々は、糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝などの生活習慣病領域におけるレプチン 系を標的とした臨床応用拡大のための研究を行っている。 ― 50 ― YEC2-1 糖尿病と骨代謝異常:臨床的アプローチによる病態解明 山本 昌弘 島根大学医学部 内科学講座内科学第一 メタ解析を含む複数の臨床研究により、糖尿病患者では1型および2型の糖尿病病型によ らず対照群より骨折リスクが高いことが示された。いずれの糖尿病型でも骨密度から予測され る以上に骨折リスクが高く、骨密度による骨折リスク評価が困難であることから、骨質劣化により 骨脆弱性が亢進していると考えられる。我々は椎体骨折との関連から、糖化による骨コラーゲ ンの過剰架橋と関連する終末糖化物質(AGEs)であるペントシジンの血液中の増加や、AGEs を認識する受容体(RAGE)への結合を阻害する内因性分泌型受容体(esRAGE)量の低下、 低 PTH 分泌を伴った骨形成低下状態、骨芽細胞の分化障害、骨成長因子のひとつである IGF-1 量の低下、および骨形成抑制因子であるスクレロスチンの増加が、2型糖尿病患者に おける骨密度と独立した骨質低下の病態形成に関与していることを見いだした。近年では高 解像度の末梢骨定量的 CT による解析により、2型糖尿病患者の長幹骨は外径が細く、皮質 骨が薄く多孔化していることが報告され、骨の形態的素因による骨質低下型の骨脆弱性の存 在が明らかにされている。本講演では糖尿病患者に合併するこれらの骨異代謝異常の臨床 知見について紹介する。 ― 51 ― YEC2-2 尿細管-糸球体連関:近位尿細管特異的 Sirt1 遺伝子改変マウス・ ヒト腎生検による糖尿病性腎症の発症メカニズムの解析 長谷川 一宏、脇野 修、林 晃一、伊藤 裕 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 ① 尿細管における“早期”糖尿病性腎症における変化 図1 “早期”糖尿病性腎症では、 尿細管の Sirt1, iNampt, NMN の低下が生じる NAD 依存性脱アセチル化酵素 Sirt1(サーチュイン)は、カロリー制限で発現が上昇し、長寿や臓器保護に 重要な役割を果たす。我々は、腎臓では近位尿細管 Sirt1 が重要であり、In Vitro の系で細胞保護作用を 報告し(長谷川ら BBRC 2008)、続いて生体意義を解明する為、近位尿細管特異的 Sirt1 過剰発現マウス (Transgenic: Tg)(長谷川ら JBC 2010)・欠損マウス(Condtional Knockout; CKO)を作製した。我々は、 高血圧・腎炎・糖尿病等の病態の異なる腎障害をマウスに惹起し、Sirt1 発現変化が最も顕著であった糖尿 病性腎症に着目した。Sirt1 は、通常は近位尿細管と足細胞(ポドサイト、糸球体の構成細胞)の双方に発現 するが、糖尿病では、まず近位尿細管 Sirt1 が低下し、その結果 iNampt(Sirt1 と連携し NMN を産生する 酵素)の発現低下と Sirt1 と iNampt 由来の代謝産物である Nicotinamaide Mono Nucleitide(NMN)の 分泌が減少した(図1)。 ② 糖尿病性腎症の新規の発症メカニズム“尿細管-糸球体連関” 図2 我々が本研究で提唱したメカニズム 長谷川ら Nat Med 2013 Oct 尿細管由来 NMN の減少で足細胞 Sirt1 も低下し、Epigenetic 制御で本来足細胞に発現していない tight junction の構成分子の Claudin1 の発現が上昇し、足細胞の癒合を引き起こし、蛋白尿が出現す る事を報告した(長谷川ら Nature Medicine 2013)。この研究で、尿細管から糸球体への尿流と逆行す る情報伝達経路(尿細管・糸球体連関と名付けた)を発見した。更に“細胞間連関のメディエーター”とし て「炎症関連分子」がこれまで注目されてきたが、細胞内ニコチン酸代謝の変化に基づく「細胞代謝産 物」(当研究では NMN)をメディエーターとして同定することに成功した。更に、Epigenetic 制御による糸 球体バリア機能の変化を示し、腎細胞へのストレス刺激の反復(当研究では高糖負荷)により、エピジェネ テイックスの変化で障害が固着する「病変の不可逆性」を腎障害や糖尿病性腎症で初めて解明した。 ― 52 ― YEC3-1 高脂肪食負荷による食欲制御機構破綻のメカニズム解明の試み ~トランスクリプトーム解析を中心として~ 園山 拓洋、田中 智洋、沢田 啓、井上 雅文、河野 裕翔、中尾 一和 京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター 視床下部は摂食制御をはじめとする体内のエネルギーバランス制御に重要な役割を果たし ている。特に、弓状核(Arc)にはレプチン、インスリンなどの末梢シグナルを感知する一次ニュ ーロンが存在し、摂食制御に中心的な役割を果たしている。一方、室傍核(PVN)は Arc のニ ューロンの投射先として重要であり、また、外側野(LH)は古典的な空腹中枢として知られてい る。これらの神経核はそれぞれに神経細胞間でのネットワークを形成しながら摂食制御を行っ ているが、高脂肪食負荷状態ではこの制御機構に破綻が見られる。 今回我々は、高脂肪食を負荷したマウスの Arc、PVN、LH のトランスクリプトーム解析によ り、高脂肪食が摂食中枢の遺伝子発現に与える影響を解析した。 8 週齢 C57BL/6N 雄マウスに高脂肪食(HFD)または低脂肪食(LFD)を負荷し、負荷開始 後 3 日、2 週間、6 週間、16 週間の時点で上記神経核を実体顕微鏡下で採取、3 個体分の RNA をプールして 1 サンプルとし、各負荷期間の HFD、LFD 各々3 サンプルについて library を作成し RNA sequencing を行った。各負荷期間での比較で、HFD 負荷での遺伝 子発現量が LFD に比較して 1.5 倍以上又は 2/3 以下、かつ t 検定で有意差が見られた遺 伝子を変動遺伝子とした。 Arc における負荷 3 日の変動遺伝子は 259 個、2 週では 237 個に対し、6 週では 423 個、 16 週では 386 個であった。Arc における全変動遺伝子をクラスター解析により分類したところ、 HFD で上昇する遺伝子はそれぞれの負荷期間で重なりが少なく、HFD 負荷状態の Arc に は、それぞれに独立した「病期」が存在する可能性が示唆された。これらの知見に加え、さらに、 ①PVN と LH での変動遺伝子の動きと Arc における変動遺伝子の動きの比較、②各々の神 経核における変動クラスターごとの Gene Ontology 解析、パスウェイ解析による意義付け、に 関して報告を行い、高脂肪食負荷により変動する遺伝子群の時間的/空間的変遷に関して統 合的に理解することを目指す。 ― 53 ― YEC3-2 白色・褐色脂肪細胞における クロマチン構造変化とエピゲノム制御の役割 脇 裕典1,2)、平池 勇雄1)、于 静1,3)、中村 正裕1)、青山 倫久1,3)、 孫 威1)、鈴木 顕1)、若林 賢一7)、井上 剛8)、武 和巳1)、冨岡 恵1)、 三宅 加奈1)、廣田 雄輔1)、岩部 真人1,4)、岩部 美紀1,5)、杉山 拓也1,2)、 和田 洋一郎8)、植木 浩二郎1,6)、堤 修一7)、油谷 浩幸7)、山内 敏正1)、 門脇 孝1) 東京大学大学院医学系研究科 1) 糖尿病・代謝内科、2) 脂肪細胞機能制御学、 3) システム疾患生命科学による先端医療技術開発(TSBMI)、4) 統合的分子代謝 疾患科学、5) 分子創薬・代謝制御科学、6) 分子糖尿病科学講座、 東京大学先端科学技術研究センター 7) ゲノムサイエンス、8) システム生物医学 次世代シークエンサーを用いたクロマチン免疫沈降 ChIP や FAIRE によるゲノムワイドな オープンクロマチン構造・エピゲノム解析により、既知因子の新たな制御領域や新たな制御因 子の同定が可能である。脂肪細胞で、ChIP-seq と FAIRE-seq を施行したところ、分化の制 御因子である C/EBPα遺伝子の数十 kb 下流に、マスターレギュレーターPPARγが結合す る遠位エンハンサーが存在した。Chromosome Conformation Capture(3C)法による検討 では、これらの遠位エンハンサーと遺伝子のプロモーター間の分化依存的なルーピング構造 を呈することが示唆された。エネルギーを熱として消費する褐色脂肪組織における FAIREseq 解析では、ゲノム上の褐色脂肪特異的なオープンクロマチン領域をマッピングした。 UCP1、CIDEA などの褐色脂肪特異的な遺伝子の近傍では複数の褐色脂肪特異的オープ ンクロマチン領域が認められた。ゲノムワイド解析でも、褐色特異的オープンクロマチン領域が 近傍にある遺伝子は、褐色特異的な発現制御を受けていた。褐色脂肪特異的オープンクロマ チン領域に対するモチーフ解析では、転写因子 NFI の結合配列が有意に濃縮していた。組 織や培養株における検討から、4つのアイソフォームのうち NFIA は褐色脂肪細胞の分化依 存的に発現し、褐色脂肪細胞と系譜を同一とする骨格筋では発現が低かった。NFIA を C2C12 骨格筋細胞に導入すると褐色脂肪特異的遺伝子発現パターンを有する脂肪細胞へ 分化した。PPARγとの共発現では、NFIA により褐色脂肪細胞に特異的な UCP1、CIDEA の発現は増加し、白色脂肪選択的な Resistin、Serpina 3k の発現は抑制された。NFIA 欠 損マウスの褐色脂肪組織では、組織重量は保たれるが、UCP1 など褐色特異的遺伝子の発 現が減少しており、NFIA が褐色脂肪特異的遺伝子転写の生理的な制御因子であることが示 唆された。 ― 54 ― YEC4-1 生殖内分泌 H-P-O 系の調節メカニズムの検討 — BMP とリズム因子に着目して — 大塚 文男 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 総合内科学 卵胞発育や卵胞におけるステロイド合成は、視床下部 GnRH、下垂体ゴナドトロピンおよび 卵巣局所因子によって調節されている。我々はこれまで、卵胞に発現する骨形成蛋白(Bone Morphogenetic Protein: BMP) に 着 目 し て 研 究 を 進 め 、 卵 胞 BMP シ ス テ ム が autocrine/paracrine 作用により卵胞発育に重要な役割を果たすことを示してきた。生殖内 分泌における BMP の作用を、H(視床下部)—P(下垂体)—O(卵巣)の各視点で捉えるため in vitro で検討を進めた。視床下部における GnRH の分泌調節では、Estrogen による GnRH のフィードバック制御に対して BMP-2, -4 が抑制的に作用すること、また下垂体ゴナ ドトロープでの FSH 分泌には GnRH と相加的に BMP-6 が作用することを明らかにした。ま た GnRH の分泌調節において、Estrogen が GPR54 の発現を増強して Kisspeptin による GnRH 発現を増幅すること、そして BMP-4 は Kisspeptin による GnRH 分泌を抑制するこ とが GT1-7 細胞において示された。GnRH 分泌におけるリズムの存在に着目したところ、 GnRH と Bmal/Cry 発現レベルの間に正の相関が認められ、Estrogen による時計遺伝子 の発現誘導が BMP-4 および概日リズムや睡眠調節に寄与する Melatonin の存在下で減弱 することが明らかとなった。Melatonin は中枢でのリズム調節に加えて、末梢では卵成熟や黄 体化にも直接影響する。卵胞顆粒膜細胞における検討では、Melatonin が BMP-6 による Progesterone 産生抑制に拮抗する新たな作用も認められた。このように、H-P-O の機能に 広く関与する BMP 作用とリズム因子との関連について、我々の最近の知見を述べたい。 ― 55 ― YEC4-2 中枢神経を介した肝糖産生制御 井上 啓 金沢大学医薬保健研究域附属脳・肝インターフェースメディシン研究センター 個体糖代謝の恒常性維持に、肝糖産生の調節機構が重要な役割を果たしている。肝糖産 生は、膵臓など様々な臓器とクロストークをすることにより制御されるが、近年では、中枢神経 による制御を受けることが指摘されている。実際に、脳室内インスリン投与などの検討から、中 枢神経がインスリンなどの栄養状態の変化を感知し、迷走神経を介して、肝臓における糖産 生系酵素の発現を減少させ、肝糖産生を抑制することが明らかにされている。 中枢神経インスリン作用による遺伝子発現抑制に肝臓での転写因子 STAT3 が重要な役 割を果たしている。脳室内インスリン投与によって肝臓 STAT3 が活性化されるが、この肝臓 STAT3 の活性化は、肝臓局所的な IL-6 作用増強に依存している。リポソーム封入クロドロネ ート投与によるクッパー細胞除去に伴い、肝臓 STAT3 活性化が減弱する。これは、脳インスリ ン作用による肝臓IL-6 作用増強がクッパー細胞依存的であることを示唆している。脳インスリ ン作用は、迷走神経を介して、肝糖産生を制御することが明らかにされている。迷走神経肝枝 を切除すると、脳室内インスリン投与による脳インスリン作用によって肝糖産生抑制が減弱する ことが報告されているが、中枢神経インスリン作用による STAT3 活性化も、迷走神経肝枝切 除により消失する。 食事摂取に伴い、インスリンなどとともに血中アミノ酸レベルも変化するが、最近我々は、必 須アミノ酸である血中ヒスチジンレベルの増加が、中枢神経を介して、肝糖産生抑制作用を発 揮することを見出した。マウス個体へのヒスチジン投与は、耐糖能を改善し、肝糖産生を抑制 する。このようなヒスチジンによる肝糖産生抑制作用は、中枢神経ヒスタミン作用・迷走神経肝 枝を介したメカニズムであることを明らかにしている。中枢神経作用による肝糖代謝調節のメカ ニズムには、依然として未解明なメカニズムも多く、今後の一層の検討が期待される。 ― 56 ― 一般演題 (ポスター発 表 ) P-01 脂肪細胞における遠位エンハンサーを介した PPARγによる C/EBPα遺伝子の転写制御機構の解析 青山 倫久1,2)、脇 裕典1,3)、山内 敏正1)、若林 賢一7)、井上 剛8)、中村 正裕1)、于 静1,2)、 武 和巳1)、冨岡 恵1)、岩部 真人1,4)、岩部 美紀1,5)、植木 浩二郎1,6)、和田 洋一郎8)、 堤 修一7)、児玉 龍彦8)、酒井 寿郎9)、油谷 浩幸7)、門脇 孝1) 1) 東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科、2) 東京大学 システム疾患生命科学による先端医療技術 開発(TSBMI)、3) 東京大学大学院医学系研究科 脂肪細胞機能制御学、4) 東京大学大学院医学系研究科 統 合的分子代謝疾患科学、5) 東京大学大学院医学系研究科 分子創薬・代謝制御科学、6) 東京大学大学院医学 系研究科 分子糖尿病科学講座、7) 東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス、8) 東京大学先端科 学技術研究センター システム生物医学、9) 東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学 【背景】脂肪細胞の分化では PPARγ と C/EBPα の相互の転写活性化が重要であるが、PPARγ による C/EBPα の転写制御機構は明らかでない。【結果】PPARγ の ChIP-seq 解析から C/EBPα 遺伝子下流の遠位領域に複数の PPARγ 結合部位(+3,+19,+22,+24,+50,+ 53kb)を同定した。同部位にはゲルシフト解析で PPARγ/RXRα ヘテロダイマーと結合し、レポ ーター解析で転写活性化能を有する PPAR 応答配列が存在した。分化に伴い同部位及びプ ロモーター領域はヒストンアセチル化の増強や開いたクロマチン構造を認めた。更に 3C 法で は同部位とプロモーター領域間に分化に伴い増強するクロマチン相互作用を認めた。【総括】 PPARγ による C/EBPα 遺伝子の転写制御は、遠位エンハンサーやプロモーターのヒストン修飾 やクロマチン構造、同領域間のクロマチンループのダイナミックな変化を介することが示唆された。 P-02 アディポネクチン受容体アゴニストの抗糖尿病作用と寿命延長効果 岩部 真人、山内 敏正、岩部 美紀、門脇 孝 東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 【目的】肥満の病態においては、アディポネクチン(Ad)作用の低下が、生活習慣病の原因の 一部になっていることより、Ad/アディポネクチン受容体(AdipoR)シグナルの活性化がこれらの 根本的な治療法になりうることが期待され、Ad/AdipoR シグナル活性化低分子化合物の取得 を目指した。【結果】得られた化合物 AdipoRon は、in vitro において、AMPK 活性化、PGC1α の発現量増加及び活性化、ミトコンドリア含有量・機能を上昇させた。in vivo においては、 マウスへの経口投与により、AdipoR を介して、インスリン抵抗性、耐糖能障害を改善した。ま た、高脂肪食による肥満・2 型糖尿病マウスの筋の持久力低下を回復させた。さらに肥満で短 くなった寿命が回復した。【考察】肥満に伴う Ad の低下が、メタボリックシンドロームや 2 型糖 尿病、心血管疾患、癌等の肥満でリスクが高まる生活習慣病の主要な原因となっていることが 明らかとなってきており、本化合物はこれらに対する根本的な治療法となり、健康長寿の実現 に貢献することが出来ると期待される。 ― 59 ― P-03 Protein Tyrosine Phosphatase 1B (PTP1B) 遺伝子多型は 日本人の肥満発症及び減量治療抵抗性に関連する 浅原 哲子 京都医療センター 臨床研究センター 糖尿病研究部 【目的】日本人の肥満発症や減量効果に関連する遺伝素因の探索を目的に症例対照研究を 行った。【方法】一般住民より無作為抽出の 1880 例を対象に、肥満・糖脂質代謝関連の 272 遺伝子 712SNPs につき TaqMan 法を用いて遺伝子型タイピングを実施し、肥満と SNPs と の関連性を解析した(1 次スクリーニング)。次に、統計的に有意な 143 遺伝子の 217SNPs につき、当院肥満外来の肥満症例 344 例と一般集団 393 例でタイピングを実施し比較した (2 次スクリーニング)。【成績】有意な候補多型が 5 遺伝子 5SNPs 抽出された。この候補のう ち PTP1B 遺伝子 SNP(rs3787348)は、各症例の過去最大 BMI との関連が有意であり、肥 満症例の 3、6、12 ヶ月間の減量治療においても、G/G 多型では G/T や T/T 多型より有意に BMI が低下していた。【結論】PTP1B 遺伝子多型は日本人の肥満発症や減量治療抵抗性 に関連することが示唆された。 P-04 頸動脈プラークの M1/M2 マクロファージ浸潤と 炎症性サイトカイン産生に対する肥満・糖尿病の影響 田中 将志1)、松尾 禎之1)、佐々木 洋介1)、山陰 一1)、 村中 和哉1)、塚原 徹也2)、島津 章1)、浅原 哲子1) 1) 京都医療センター 臨床研究センター 糖尿病研究部 2) 京都医療センター 脳神経外科 【背景・目的】糖尿病や肥満は脳梗塞の高リスク群であり、頸動脈硬化症は脳梗塞の原因とな る。今回、頸動脈硬化症のプラークの質に対する肥満・糖尿病の影響を検討した。【方法・成 績】頸動脈内膜剥離術施行例において、末梢血単球と摘出プラークにおける炎症性 M1 マ ーカー(IL-6・TNFα)、抗炎症性 M2 マーカー(IL-10)や接着因子(ICAM-1・VCAM-1)の 発現を検討した。肥満群は非肥満群より、プラーク内の VCAM-1 の有意な発現上昇を認め、 糖尿病群は非糖尿病群より、単球中の有意な TNFαと ICAM-1 の発現上昇及び IL-10 の 発現低下とプラーク内の IL-6 と TNFαの発現上昇を認めた。プラークの免疫染色では、糖 尿病群にて有意な IL-6 と TNFαの発現上昇と IL-10 の発現低下を認めた。【結論】糖尿病 や肥満では、プラークへの Mφ浸潤増加と末梢血単球・プラーク内 Mφの M1 上昇/M2 低 下が頸動脈硬化症を進展させる可能性が示唆された。 ― 60 ― P-05 RAMP2 は、急性および慢性脳虚血に対して脳保護的に働く 五十嵐 恭子、桜井 敬之、神吉 昭子、新藤 優佳、河手 久香、山内 啓弘、鳥山 佑一、 田中 愛、劉 甜、羨 鮮、今井 章、大和 慎治、翟 留玉、新藤 隆行 信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座 虚血性脳血管障害は急性期の運動感覚障害に加え、慢性期には血管性認知症の原因に もなる。アドレノメデュリン(AM)は、血管拡張作用をはじめ多彩な生理活性を有するペプチド 因子であり、臨床応用も期待されている。一方で AM は血中半減期が短く、慢性疾患への応 用には制限もある。我々は AM 受容体結合タンパクの1つである RAMP2 が、AM の血管に おける機能の鍵となる分子であることを報告してきた。本研究では RAMP2 ノックアウトマウス (RAMP2KO)を用いて、急性および慢性脳虚血モデルを作成し、RAMP2 の病態生理学的 意義を検討した。 RAMP2KO では、中大脳動脈閉塞による虚血再灌流術(MCAO)後の脳血流回復遅延、 TNFα, IL1βなどの炎症性サイトカイン発現亢進、神経細胞の変性の増悪を認めた。一方、 両側総頚動脈慢性狭窄術(BCAS)4週後、RAMP2KO では神経細胞脱落の増悪と共に、作 業記憶、参照記憶の低下と作業遅延が認められた。 RAMP2 は急性および慢性脳虚血において、脳血流の維持や炎症の制御により脳保護的 に働いていることから、虚血性脳血管障害の新たな治療標的として期待される。 P-06 アドレノメデュリン-RAMP2 システムは、血管恒常性を維持し、 癌転移前土壌の形成を抑制する 田中 愛1)、桜井 敬之1)、神吉 昭子1)、小山 晃英1)、河手 久香1)、 新藤 優佳1)、山内 啓弘1)、五十嵐 恭子1)、鳥山 佑一1)、劉 甜1)、 羨 鮮1)、今井 章1)、谷口 俊一郎2)、新藤 隆行1) 1) 信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座 2) 信州大学大学院医学系研究科 分子腫瘍学講座 アドレノメデュリン(AM)は、多彩な活性を有する内分泌因子である。我々は AM と、AM 受 容体結合蛋白 RAMP2 のノックアウトマウスが、血管の異常により胎生致死となることから、 AM-RAMP2 系の血管新生作用を明らかとした。一方、AM は様々な癌でも発現を認める。 我々は成体の血管で RAMP2 欠損を誘導できるマウス (DIE-RAMP2-/-)を作成し、癌の増 殖と転移における AM-RAMP2 系の意義を検討した。 DIE-RAMP2-/- で は 、 移 植 癌 の 血 管 新 生 は 減 弱 し た が 、 肺 転 移 は 亢 進 し た 。 DIERAMP2-/-では、遺伝子欠損誘導後、肺血管の形態異常が生じ、炎症細胞浸潤、サイトカイン や腫瘍遊走因子 S100A8/9 の発現亢進を認めた。 以上から、RAMP2欠損が血管障害と慢性炎症を惹起し、転移前の土壌になると考えられ た。AM-RAMP2系への介入による血管恒常性の制御は、転移抑制に繋がる事が期待される。 ― 61 ― P-07 脂肪肝での肝再生障害における eIF2αリン酸化制御の重要性 稲葉 有香1)、芳賀 早苗2)、尾崎 倫孝2)、春日 雅人3)、井上 啓1) 1) 金沢大学 脳・肝インターフェースメディシン研究センター 2) 北海道大学大学院保健科学研究院 健康イノベーションセンター 生体分子・機能イメージング部門 3) 国立国際医療研究センター マウス肝臓は、70%切除後1週間程で、元の重量へと回復することが知られている。脂肪肝 ではこのような肝再生が障害され、術後合併症を引き起こす誘因となっている。今回、我々は、 高脂肪食(HF)負荷70%肝切除マウスを用いた検討から、脂肪肝での肝再生障害に eIF2α リン酸化(p-eIF2α)が重要な役割を果たすことを明らかにした。 Gadd34は、eIF2αの脱リン酸化を制御することが知られている。そこで、Gadd34の機能 阻害または過剰発現モデルを用い、脂肪肝での肝再生障害における eIF2αの役割を検討し た。機能阻害により、肝再生過程での p-eIF2α増強・肝壊死巣出現・ALT 値上昇を示した。 一方、過剰発現では、p-eIF2αの減弱・肝臓重量の増加・ALT 値軽減を呈した。より高度な 脂肪肝を有するレプチン受容体欠損 db/db マウスへの、アデノ随伴ウィルスによる Gadd34の 遺伝子導入により、70%肝切除後の肝臓重量増加、ALT 値減少を示した。これらの結果から、 eIF2α/Gadd34が、脂肪肝に伴う切除後肝再生障害の発症に重要な役割を果たすことを明 らかにした。 P-08 食餌誘導性肥満の発症におけるリノール酸の効果 井上 雅文、田中 智洋、園山 拓洋、中尾 一和 京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター 【背景】げっ歯類における食事誘導性肥満モデルとして、一般的に高脂肪食が用いられる。報 告の多い高脂肪食レジメンには、多くの場合高い含有率のリノール酸が含まれている。また欧 米において近年、リノール酸摂取量の増加の報告があり、肥満の有病率の増加との関連性が 示唆されている。 【目的・方法】本研究では食餌中のリノール酸摂取が肥満の発症に及ぼす影響を評価するた めに、リノール酸含有率が異なる2種類の高脂肪食(45%kcal fat、リノール酸含量は1% (LLA)ないし18%(HLA)kcal)を開発し、6週齢雄性 C57BL6/N マウスに16週間給餌した。 【結果・考察】HLA を与えたマウスでは LLA 群と比較して有意な体重増加と脂肪組織重量の 増加を認めた。一方、摂取カロリーには有意な変化は認められなかった。これらの結果より、食 餌中のリノール酸には摂取カロリーに因らない肥満誘導効果が示唆された。 ― 62 ― P-09 コレステロール合成とトリグリセライド合成のトレードオフ - コレステロールクリアランスの亢進モデル、 βklotho ノックアウトマウスの解析 田中 智洋1,2)、小林 加奈子1)、鷲田 美和1)、鍋島 陽一1) 1) 公益財団法人先端医療振興財団 先端医療センター 2) 京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター βKlotho は肝臓において回腸由来ホルモン FGF15の共受容体として働き、コレステロー ル(CHOL)を基質とする胆汁酸の合成を抑制する。胆汁酸合成は哺乳類における唯一の CHOL 排泄経路であるが、胆汁酸の糞便中排泄量が亢進した βklotho ノックアウトマウス (KO)の血清脂質に関する報告はない。そこで KO の血清脂質を測定したところ、低脂肪食 下において KO の血清トリグリセライド(TG)濃度は対照と比べ約45%の低下を示した。一方、 血清 CHOL 濃度に有意差は無く、また TG の低下は高脂肪食下で消失した。肝臓の遺伝子 発現解析、in vivo トレーサー実験により、KO でのクリアランス亢進による CHOL 欠乏は CHOL の de novo 合成の促進により代償されるのに対し、同じアセチル CoA を基質とする TG 合成の代償は不充分でありその結果、低 TG 血症を生じたことが示された。脂質不足の 環境では TG を犠牲として CHOL 恒常性が維持されることが示唆される。 P-10 新規視床下部分泌性小タンパク質の前駆体遺伝子発現は レプチンの制御を受けているのか? 岩越-浮穴 栄子、佐藤 瑠奈、前嶋 翔、浮穴 和義 広島大学大学院 総合科学研究科 我々は視床下部特異的に発現している新規の分泌性小タンパク質をコードする前駆体遺 伝子 NPGL とそのパラログ遺伝子である NPGM を発見している。絶食や糖尿病状態、イン スリン投与などの様々なエネルギー状態においたラットにおけるこれら遺伝子の mRNA 発現 解析を行ったところ、発現変動がみられた。そこで、これら遺伝子がどのような発現調節を受け ているのかを調べるために、末梢由来の摂食調節因子であるレプチンに着目して解析を行っ た。NPGL および NPGM 遺伝子は、レプチン産生異常により肥満を呈する ob/ob マウスに おいて、野生型と比較して有意に発現が減少しており、ob/ob マウスにレプチンを補充すること で正常レベルまで回復することがわかった。次に、正常ラットの脳室内にレプチンを投与し、レ プチン受容体シグナルの指標となるリン酸化 STAT3の発現を解析した。その結果、NPGM 産生細胞ではリン酸化 STAT3発現は誘導されなかった。以上のことから、NPGL および NPGM 遺伝子は、レプチンによる直接的な発現制御は受けていないことが示唆された。 ― 63 ― P-11 新規視床下部分泌性小タンパク質の 成長と脂肪蓄積へ及ぼす影響 鹿野 健史朗、谷内 秀輔、近藤 邦裕、別所 裕紀、岩越-浮穴 栄子、 前嶋 翔、益田 恵子、古満 芽久美、浮穴 和義 広島大学大学院 総合科学研究科 我々は鳥類及び哺乳類の視床下部から分泌性小タンパク質をコードする新規遺伝子 NPGL を発見している。形態学的解析や絶食時に新規遺伝子の mRNA 発現量が変化する ことから、新規遺伝子はエネルギー代謝に関与すると推測している。 本研究では新規遺伝子の生理機能の解明を目的とし、ラットに対してアデノ随伴ウイルスベ クターを用いた NPGL の過剰発現実験を行った。その結果、摂食量へは影響を及ぼさず、 体サイズ(体長及び体重)の増加が抑制された。また解剖時に組織重量を測定すると、白色脂 肪組織の重量が増加し、肝臓や筋肉の重量が低下していた。これらの結果から NPGL により 成長ホルモン(GH)の機能が抑制されていると推測し、GH とその標的ホルモンであるインスリ ン様成長因子(IGF-1)への影響を解析した。しかし、下垂体における GH mRNA 発現量や 血中 GH 及び IGF-1濃度等に変化は認められなかった。以上の結果から、NPGL の主な生 理作用は脂肪蓄積であり、成長の遅延はその二次的な作用により生じることが示唆された。 P-12 新規視床下部分泌性小タンパク質の褐色脂肪組織への影響 別所 裕紀、鹿野 健史朗、近藤 邦裕、岩越-浮穴 栄子、 古満 芽久美、谷内 秀輔、益田 恵子、前嶋 翔、浮穴 和義 広島大学大学院 総合科学研究科 我々は視床下部において新規の分泌性小タンパク質をコードする前駆体遺伝子 NPGL を 発見している。ラットにおいて、NPGL の過剰発現及び翻訳産物である NPGL の慢性投与 により、脂肪蓄積効果が見出されている。本研究では、新規遺伝子の脂肪蓄積の作用メカニ ズムを明らかにするため、過剰発現及び慢性投与後の白色脂肪組織、褐色脂肪組織、肝臓 における脂質代謝について解析した。まず、各組織における脂質代謝関連因子の mRNA 発 現を調べたところ、脂肪酸合成及びトリグリセリド合成に関与する因子の mRNA 発現は上昇 傾向を示し、特に褐色脂肪組織においては顕著に上昇していることが分かった。また、褐色脂 肪組織中の UCP-1発現とノルアドレナリン量が減少しており、さらに褐色脂肪組織が形態学 的に白色化していることが明らかとなった。以上のことから、NPGL は交感神経活動の低下を 介して褐色脂肪組織の機能低下を引き起こし、脂肪蓄積を促進することが示唆された。 ― 64 ― P-13 甲状腺の正常、過形成、腫瘍における核膜蛋白の発現 汪 洁英、近藤 哲夫、大石 直輝、井上 朋大、河西 一成、 田原 一平、望月 邦夫、中澤 匡男、加藤 良平 山梨大学医学部 人体病理学講座 【目的】 核膜蛋白の発現変化と甲状腺濾胞機能及び腫瘍における意義について解析を行っ た。【材料・方法】 正常、過形成(腺腫様甲状腺腫、バセドウ病甲状腺) 、甲状腺腫瘍(濾胞 腺腫、濾胞癌、乳頭癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌)のホルマリン固定パラフィン切片を用 い酵素抗体法および蛍光抗体法によって Emerin 発現を検討した。新鮮凍結組織から mRNA を抽出し、RT-PCR によって Emerin 遺伝子の発現を分析した。【結果】 免疫組織 化学では正常、過形成組織では、小型濾胞を形成する立方状濾胞上皮の核膜に強い Emerin 発現を認め、大型濾胞の扁平濾胞上皮の核には弱く染色された。腫瘍では髄様癌 や未分化癌の核は弱く染色されたが、乳頭癌の核には強発現となった。RT-PCR では正常甲 状腺と乳頭癌の間に遺伝子発現の差はなかった。【まとめ】 Emerin 蛋白発現は濾胞構造や 機能と関連し、また腫瘍では組織型により発現の違いを認めた。核膜蛋白の染色は通常の HE 染色に比し、核形態がより明瞭に観察されるため、組織細胞診断に有用と考えられる。 P-14 小児若年甲状腺癌における BRAFV600E および TERT promoter mutation の解析 大石 直輝1)、近藤 哲夫1)、中澤 匡男1)、望月 邦夫1)、 河西 一成1)、井上 朋大1)、廣川 満良2)、加藤 良平1) 1) 山梨大学大学院医学工学総合研究部 人体病理学講座 2) 医療法人神甲会 隈病院 病理診断科 【はじめに】小児若年甲状腺癌は独自の臨床病理学的特徴を有するが、その分子病理学的 背景には不明な点も多い。本研究では BRAFV600E 変異、TERT プロモーター変異に注目し、 小児若年甲状腺癌の解析を行った。【対象と方法】山梨大学病院、隈病院で切除された甲状 腺癌のうち、手術時年齢 20 歳以下の症例を小児若年群(n=92)として検討した。また、成人 対照群として 21 歳以上の症例(n=87)を無作為抽出し比較した。BRAFV600E、TERT プロモ ーター変異をそれぞれアリル特異的 PCR、ダイレクトシークエンスで解析した。【結果】乳頭癌 において BRAFV600E の頻度は成人群の 72.1%に対し、小児若年群では 38.1%と有意に低 かった。組織亜型として、通常型では BRAFV600E が 50%にみられたのに対し、充実濾胞状亜 型、びまん性硬化亜型など他の亜型ではすべて陰性で、形態との相関がみられた。【結論】小 児若年甲状腺癌は成人とは異なった遺伝子背景を有する。 ― 65 ― ヒト病態を in vitro/in vivo で再現した 新規子宮内膜症モデルの構築 P-15 梶谷 宇、髙尾 知佳 京都大学医学研究科 AK プロジェクト 本研究は、子宮内膜症の病態、特に病巣局所や腹腔内での炎症状態および副腎アンドロ ゲンからのエストロゲン(E2)産生能を忠実に再現したモデルを構築することを目的とした。ヒト 間葉系幹細胞より、子宮内膜マーカー群や内膜症病巣局所で発現上昇が認められる炎症関 連因子群、および子宮内膜症組織での発現上昇が認められている E2 産生経路構成酵素群 が高発現する細胞を誘導した。この細胞からは、これまで報告されてきた子宮内膜症細胞培 養系と同様に、子宮内膜症患者腹水内での増加が報告されている各種炎症性因子の分泌が 亢進しており、また培養液中への A-dione や DHEA 添加によって E2 産生が著明に増大し た。この細胞を免疫不全へ移植すると子宮内膜症病巣に類似の組織が構築され、免疫染色 によりヒト細胞特異的 Vimentin ならびにヒト子宮内膜症組織にも発現する ERα/β, PR の発 現も確認された。今回構築した新規 in vitro/in vivo モデルはヒト子宮内膜症病態を再現し 発症・進展機序を解析するのに有用と考えられる。 P-16 ヒト子宮内膜症モデル細胞における Ad4BP/SF-1 の新たな役割 高尾 知佳, 梶谷 宇 京都大学医学研究科 次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 AK プロジェクト Ad4BP/SF-1 はステロイド合成酵素群の発現制御を通じて、子宮内膜症の病態形成に積 極的に関与すると考えられているが、今回、全く異なる新たな役割についての知見が得られた ので報告する。 間葉系幹細胞より誘導した子宮内膜症モデル細胞へ SF-1 を導入した結果、子宮内膜症 病巣で特異的に発現するステロイド合成酵素発現に変化は認められなかった。また、StAR を 除いて、副腎・性腺で発現しているステロイド合成関連因子の発現誘導は認められなかった。 一方、ヒト子宮内膜症で強く発現している炎症関連因子である COX2 や IL-6 の発現は SF-1 導入細胞では抑制され、炎症性サイトカイン群の分泌量も減少した。さらに SF-1 の導入によ り、増殖・浸潤・血管新生能が抑制され、免疫不全マウスへ移植した in vivo 子宮内膜症モデ ルではコントロール細胞に比べて周辺臓器との癒着強度が弱い事がわかった。 以上より、子宮内膜症モデル細胞において SF-1 は、子宮内膜症発症から癒着形成までの 各過程で抑制的に働く可能性が示唆された。 ― 66 ― グレリン脂肪酸転移酵素(GOAT)の 構造活性相関と大量発現の試み P-17 児島 将康1)、椎村 祐樹1,2) 1) 久留米大学分子生命科学研究所、2) 京都大学大学院医学研究科 分子細胞情報学 グレリンは私たちが発見した摂食亢進および成長ホルモン分泌促進作用を有するペプチ ド・ホルモンで、胃から分泌され、グレリン受容体に結合して生理作用を発揮する。グレリンは N 末端から 3 番目のセリン残基が脂肪酸のオクタン酸によって修飾されており、しかもこの脂 肪酸修飾がホルモンの活性に必要である。 このグレリンの活性に必要な脂肪酸修飾については、グレリン特異的な脂肪酸転移酵素(グ レリン脂肪酸転移酵素: ghrelin O-acyltransferase 略して GOAT)が存在する。しかし一般 に膜蛋白質は結晶化が難しいように、複数回の膜貫通ドメインで細胞膜に埋もれている GOAT の立体構造はまだ解明されておらず、分子レベルでの反応機構は不明である。 私たちはグレリンの活性化を制御する GOAT の立体構造を解析し、グレリンの脂肪酸修飾 による活性化の仕組みを分子レベルで解明する研究を開始した。この GOAT の立体構造を 解明することで、これまでに知られていないペプチドホルモンの脂肪酸修飾の分子機構が明 らかになると考える。 P-18 グレリンの作用経路における迷走神経の役割について 佐藤 貴弘、大石 佳苗、児島 将康 久留米大学分子生命科学研究所 胃から分泌されるホルモンのグレリンは、迷走神経を介してそのシグナルを中枢に伝え、多 彩な生理作用を発揮することが知られている。一方で、グレリン受容体は広範に分布している ため、迷走神経を介さないグレリンの作用経路の存在も否定できない。そこで本研究では、迷 走神経切除術後に、グレリンの体温低下作用と消化管運動の亢進作用がどのように変化する のかについて検討した。グレリンの腹腔内投与によって、体温は低下し、消化管運動は亢進 することを確認した。次に、迷走神経切除後にグレリンを腹腔内投与すると、グレリンによる体 温低下作用は見られなくなったが、グレリンによる消化管運動の亢進作用に変化は認められ なかった。以上の結果から、グレリンによる体温の低下作用には迷走神経を必要とするが、グ レリンによる消化管運動の亢進作用には必ずしも迷走神経が必要でない可能性が示唆された。 ― 67 ― P-19 p53 下流遺伝子 FDXR のミトコンドリア代謝調節作用と 生活習慣病における脂肪・肝臓での役割 佐久間 一基1)、永野 秀和1)、鈴木 佐和子1)、小出 尚史1)、中山 哲俊1)、 橋本 直子1)、鈴木 穣2)、菅野 純夫2)、田中 知明1)、横手 幸太郎1) 1) 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学、2) 東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 【緒言】生活習慣病とがんをつなぐ病態として p53 と鉄代謝はそれぞれ注目されているが、そ れらがどのように関わるのかは、まだ十分に明らかにされていない。そこで、生活習慣病にお ける p53 の鉄代謝を介した機能を明らかにする目的で p53 下流鉄代謝調節分子 FDXR に ついて発現解析を行った。【結果】HCT116FDXR+/-/-細胞において、電子伝達系 complex Ⅱの鉄硫黄クラスター蛋白である SDHB の発現の低下と単位タンパク当りのヘム量減少を認 めた。FDXR と電子伝達系の各 complex の二重免疫染色を行い、FDXR は、complexⅠⅡ ⅢⅤとそれぞれ共染色を認めた。ヒト前駆脂肪細胞における分化モデルでの発現解析で、分 化誘導後に p53・FDXR の発現上昇を認めた。高脂肪食負荷肥満マウスの脂肪組織や肝臓 における発現解析で、肥大した脂肪組織や脂肪肝で、p53 の活性化とそれに伴い FDXR の 発現上昇を認めた。【考察】生活習慣病において、脂肪組織や肝臓において、p53-FDXR が 活性化し、脂肪細胞分化におけるエネルギー制御や、鉄代謝制御を介して NAFLD/NASH の病態に関与する可能性が示唆された。 ヒト多能性幹細胞における p53 下流遺伝子 GLS2 の ミトコンドリア機能制御を介した幹細胞制御機構の解明 P-20 鈴木 佐和子1)、池田 和博2)、井上 聡2,3)、田中 知明1)、横手 幸太郎1) 1) 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学、2) 埼玉医科大学 ゲノム医学研究センター 3) 東京大学大学院医学系研究科 抗加齢医学講座 多能性幹細胞は、特異的代謝動態を示し、未分化能や自己複製能の維持に寄与している ことが明らかとされつつある。よって多能性幹細胞におけるエネルギー代謝動態およびその制 御分子メカニズムの理解は、再生医療や癌治療の観点からも重要である。我々は ES/iPS 細 胞を用いて RNA-seq とメタボローム解析を行った。そして、過去の報告と一致して、ES/iPS 細胞はヒト線維芽細胞に比較して、ミトコンドリアは核周辺にのみ存在しており、ミトコンドリア遺 伝子が低下、ミトコンドリア膜電位も低かった。そのため、細胞内の活性酸素が低く抑えられ、 酸化的リン酸化も低く、ATP 産生は解糖系に依存していた。加えてグルタミン代謝のマスター レギュレーターである GLS2 遺伝子が著明に増加しており、グルタミン酸、αケトグルタル酸の 産生を介してミトコンドリアにおける好気的エネルギー産生やアミノ酸合成に寄与していること が明らかとなった。GLS2 は p53 下流遺伝子であり主にミトコンドリアに存在しグルタミンをグ ルタミン酸に変換する細胞内代謝酵素である(Suzuki et al. PNAS. 2010)。GLS2 はグルタ ミン酸を介してグルタチオンの基質となり抗酸化作用も発揮するため、好気的エネルギー産生 とともに、産生される活性酸素に対しても拮抗的に作用し、結果として幹細胞機能維持を示す ことが明らかとなった。 ― 68 ― 脂肪細胞の機能調節における p53 下流遺伝子 DPYSL4 の役割 P-21 永野 秀和、田中 知明、横手 幸太郎 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学 肥満とがんを結ぶ共通の分子機構に、インスリンシグナルや AMPK 経路が注目される一 方、p53 の代謝調節機能ががんや生活習慣病に重要であることが報告されている。また、エ ネルギー恒常性調節に重要な AMPK は最近、脂肪細胞での多面的役割が注目されている。 そこで、ヒト脂肪細胞および組織を用いて、p53 のエネルギー代謝調節機構の解明を試みた。 ヒト前駆脂肪細胞において AMPK は発現し、酸化ストレスによって H2O2 濃度依存的に AMPK リン酸化フォームが増加した。それに伴い、p53 の増加と DPYSL4 の発現誘導を認 めた。ヒト肥満患者病態の脂肪組織においても、肥満者で AMPK のリン酸化亢進と p53 発 現増加、DPYSL4 の有意な発現誘導が確認され、さらに糖代謝異常合併でよりその発現が 増加した。また、炎症シグナルである INFγと DPYSL4 の発現は正の相関を認めた。以上よ り、脂肪組織では、炎症や高血糖ストレスが、AMPK-p53 シグナル活性と、DPSYL4 誘導を もたらし、肥満や糖尿病の病態形成に影響を与える可能性が示された。 癌幹細胞制御を目指した転写因子 p53 と GATA3 の機能的役割と 乳癌における予後・悪性度との関わり P-22 中山 哲俊1)、鈴木 佐和子1,2)、橋本 直子1,2)、永野 秀和1,2)、 松本 雅記3)、田中 知明1,2)、横手 幸太郎1,2) 1) 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学、2) 千葉大学医学部附属病院 糖尿病代謝内分泌内科、 3) 九州大学・生体防御医学研究所 トランスオミクス医学研究センター プロテオミクス分野 乳癌における癌幹細胞の存在は、増殖、再発、転移、そして治療抵抗性と密接に関与する。 近年では、p53 による癌幹細胞制御機構が注目を集めており、また、2 大癌抑制経路である Rb や、その上流遺伝子 GATA3 も progenitor 細胞の増殖や悪性化を抑制することが明ら かとされつつある。そこで今回、癌幹細胞制御に重要な役割を果たす p53 と GATA3 に焦点 をあて、Sphere 形成、GATA3 結合タンパクの探索的解析、乳がん組織における悪性度・予 後への影響を検討した。その結果、p53 経路が乳がんにおける癌幹細胞様の悪性形質転換 に重要な役割を果たしていることが示唆され、p53 や GATA3 の癌抑制作用のひとつとして、 癌幹細胞性の悪性形質抑制のメカニズムが示された。また、Mass Spectrometry(MS)を用 いた GATA3 結合分子の同定により、クロマチン複合体関連分子である RuvBL2 を同定した。 RuvBL2 は GATA3 の抑制機能を負に阻害することで癌促進的に働く可能性が示され、実 際に、ヒト乳がん患者の予後悪化に関与していることが示唆された。 ― 69 ― P-23 動脈硬化性病変における Chk2-p53 経路を介した DNA 損傷応答機構の解析 滝口 朋子1,2)、橋本 直子1,2)、田中 知明1,2)、横手 幸太郎1,2) 1) 千葉大学医学部附属病院 糖尿病代謝内分泌内科 2) 千葉大学医学部大学院医学系研究院 細胞治療内科学 【緒言】DNA 損傷応答経路は動脈硬化巣の形成・進展にも重要な役割を果たす。DNA 損傷 応答経路の key factor である Chk2-p53 シグナルに着目し、ヒト大動脈血管内皮細胞 (HAEC)やヒトの脂肪組織を用いて、DDR に対する Chk2 のリン酸化や p53 活性化機構に ついて検討を行った。【方法・結果】LC-MS/MS や phos-tag 解析より、Chk2 には複数のリ ン酸化部位があることを確認し、DNA 損傷に応じて増加を認めた。HAEC に糖負荷を与える と、p53 の発現増加と Chk2 のリン酸化が出現し、p21 の増加を認めた。さらに IL-6 などの炎 症性サイトカインや ICAM-1, MCP-1 といった細胞接着分子の発現も増加した。さらにヒトの 脂肪組織でも Chk2-p53 経路が活性化した。【結語】Chk2-p53 シグナル経路はメタボリック ストレスによって、癌細胞、HAEC、脂肪組織で活性化することが判明し、代謝性疾患におけ る動脈硬化性病変の形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 P-24 POMC ニューロン特異的核内滞留型 FoxO1・Sirt1 ダブルノックインマウスの解析 佐々木 努、ヴィナヤンティ スサンティ、橋本 博美、小林 雅樹、北村 忠弘 群馬大学生体調節研究所 代謝シグナル解析分野 インスリンシグナル抵抗性の核内滞留型(CN)FoxO1 を POMC ニューロンで過剰発現マウ スは、過食とエネルギー消費低下による体重増加を示す。他方、POMC ニューロンでの Sirt1 過剰発現マウスはエネルギー消費亢進により加齢に伴う体重増加が抑制される。 FoxO1 は Sirt1 の基質だが、FoxO1 の脱アセチル化は、そのタンパク安定性と細胞内局在 に影響を与える。そこで、POMC ニューロン特異的に CN-FoxO1 と Sirt1 を過剰発現するダ ブルノックインマウス(DKI)を作成し、エネルギーバランスへの影響を検討した。その結果、 DKI マウスでは体重増加が抑制され、エネルギー消費の低下傾向と POMC ニューロン数の 減少の回復が認められた。また、細胞培養では Sirt1 過剰発現は CN-FoxO1 の細胞内局在 に影響を与えずに、アセチル化とタンパク量を減少させた。 ゆえに、POMC ニューロンでの Sirt1 の過剰発現は、CN-FoxO1 の脱アセチル化による タンパク量の減少により核内での FoxO1 活性を正常化して、体重増加を抑制する。 ― 70 ― P-25 O-GlcNAc 修飾を介したグルココルチコイドレセプター(GR)の 機能制御メカニズムの解析 沢津橋 俊、松本 俊夫 徳島大学藤井節郎記念医科学センター グルココルチコイド(GC)は抗炎症薬として有用である一方、その副作用の問題は未解決で ある。これはグルココルチコイドレセプター(GR)を介した GC の作用において感受性や組織 特異性を制御する分子メカニズムが明らかになっていないことが一因である。我々は GR の転 写機能が細胞外の栄養状態に応答することを見出し、この栄養状態を反映する翻訳後修飾と して O-結合型 N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)修飾を組織特異的転写活性を有する Activation function-1(AF-1)領域内に同定した。また O-GlcNAc 転移酵素(OGT)は GR 転写活性を負に制御し、高グルコース条件下で転写活性を低下させた。驚くべきことにこの機 能はアセチル化修飾-O-GlcNAc 修飾の 2 段階で制御されていることが示唆された。この結 果は GC 作用がホルモン濃度のみによらず、末梢組織の栄養状況に応じた GR 機能の増 強・減弱が翻訳後修飾により規定される可能性を示している。 P-26 胎仔型ライディッヒ細胞の細胞運命の解析 嶋 雄一、宮林 香奈子、井上 実紀、諸橋 憲一郎 九州大学大学院医学研究院 分子生命科学系部門 性差生物学講座 哺乳類のオス個体においては、胎仔期の男性ホルモンの作用により、出生前に脳や外生 殖器のオス化が生じる。これまで、胎仔期の男性ホルモン産生を担う胎仔型ライディッヒ細胞 は、出生後には消失すると考えられてきた。 我々は核内受容体をコードする Ad4BP/SF-1 遺伝子の上流に、胎仔型ライディッヒ細胞特 異的エンハンサーを同定した。このエンハンサーを用いて細胞特異的 CreERT2 発現マウス を作出し、出生後の胎仔型ライディッヒ細胞の細胞運命を詳細に解析した。その結果、胎仔型 ライディッヒ細胞は出生後にも存在し続けていたが、その中には、遺伝子発現パターンの異な る少なくとも 2 種類の細胞が存在した。一方、胎仔型ライディッヒ細胞の一部は扁平な細胞へ 変化し、精細管周囲に局在していた。また、これらの扁平な細胞においては、ライディッヒ細胞 のマーカー遺伝子の発現が消失していた。以上の結果は、胎仔型ライディッヒ細胞が出生後 に大きく性質を変え、様々な細胞集団へ寄与することを示唆した。 ― 71 ― Ad4BP/SF-1 レギュロンによる統括的な細胞内代謝制御 P-27 馬場 崇1)、大竹 博之1)、佐藤 哲也2)、宮林 香奈子1)、宍戸 祐里菜1)、Chia-Yih Wang3)、 嶋 雄一1)、木村 宏4)、八木 美佳子5)、石原 康宏6)、日野 信次郎7)、小川 英知4)、中尾 光善7)、 山崎 岳6)、康 東天5)、大川 恭行8)、須山 幹太2)、Bon-Chu Chung3)、諸橋 憲一郎1) 1) 九州大学大学院医学研究院分子生命科学系部門 性差生物学講座、2) 九州大学生体防御医学研究所、 3) Academia Sinica, IMB、4) 大阪大学大学院生命機能研究科、5) 九州大学大学院医学研究院 臨床検査 医学分野、6) 広島大学大学院総合科学研究科、7) 熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野、8) 九州大学医学 研究院 エピジェネティクス分野 核内受容体型転写因子 Ad4BP/SF-1 は、生殖腺および副腎皮質のステロイドホルモン産生細 胞に特異的な発現を示す転写因子である。これまでの研究から、Ad4BP/SF-1 はステロイドホルモ ン産生に関与する酵素遺伝子群の転写調節を通じて、ステロイドホルモン産生に重要な役割を果 たすことが明らかにされている。一方 Ad4BP/SF-1 KO マウスでは、精巣、卵巣、副腎などの発現 組織が消失することから、Ad4BP/SF-1 は細胞の生存・増殖に必須の機能を有すると考えられて いるが、その詳細な機構は不明である。そこで本研究では、Ad4BP/SF-1 の細胞の生存・増殖へ の関与、およびその分子機構を明らかにすることを目的とする。 トランスクリプトームおよび ChIP-seq 解析により、Ad4BP/SF-1 が直接発現制御を行う遺伝子 のゲノムワイドな同定を行った。その結果、解糖系を構築する一連の遺伝子群がユニットとして Ad4BP/SF-1 により制御されること、すなわち「Ad4BP/SF-1 レギュロン」であることが分かった。そ して、Ad4BP/SF-1 は解糖系を含むグルコース代謝の制御を介して生体高エネルギー分子(ATP, NADPH)の産生を調節することにより、細胞の生存・増殖制御に関与していることが分かった。ま た、1. ステロイドホルモンの原材料となるコレステロールは細胞内で解糖系の産物であるアセチル -CoA から合成されること、2. この過程には ATP および NADPH が必要であること、3. コレステ ロールからステロイドホルモンへの代謝過程に NADPH が必要であることを考え合わせると、 Ad4BP/SF-1 による細胞内代謝の統括的な制御機構の存在が強く示唆された。 メタボローム解析を用いた PPARα活性化時の 血中変動代謝物の同定及び機能解析 P-28 高橋 春弥1)、後藤 剛1,3)、山崎 陽太1)、鎌苅 浩介1)、 鈴木 秀幸2)、柴田 大輔2)、高橋 信之1,3)、河田 照雄1,3) 1) 京都大学大学院農学研究科 食品分子機能学分野、2) 公益財団法人かずさ DNA 研究所 3) 京都大学学際融合教育研究推進センター 生理化学研究ユニット 【目的】ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 (PPAR) α活性化は、脂肪酸酸化を促すことが 知られているため、PPARα活性化は脂質代謝異常が主因である生活習慣病の予防・改善につな がると期待されている。しかし、PPARαが標的遺伝子発現を制御した後に生じる代謝変動の全体 像は不明確な部分が多い。我々は PPARα活性化によって引き起こされる血中代謝変動をメタボ ローム解析により把握し、変動代謝物が有する機能について解析を行うことを目的とした。 【方法と結果】PPARα合成リガンドである bezafibrate を投与したマウス血中のメタボローム解析 を行った結果、PPARα活性化により 1-palmitoyl lysophosphatidylcholine (LPC(16:0)) が増 加することを見出した。また、各組織中 LPC(16:0) を定量した結果、LPC(16:0) の供給源として 肝臓が推定された。マウス肝臓初代培養細胞系での検討の結果、bezafibrate 添加濃度依存的 に LPC(16:0) 分泌量が増大し、PPARαアンタゴニスト共添加、または phospholipase の一種で ある Pla2g7 の発現量を siRNA を用いて抑制することで、この効果が消失することを見出した。さ らに、インスリン抵抗性が生じた培養脂肪細胞において LPC(16:0) が糖取込能の一部を回復さ せることを見出した。以上の知見より、PPARα活性化により肝臓から分泌された LPC(16:0) は脂 肪細胞において糖取込を促進させることが示唆された。 ― 72 ― マクロファージ特異的 HIF-1α欠損は 高脂肪食負荷マウスの糖代謝を改善する P-29 瀧川 章子、Arshad Mahmood、薄井 勲、戸邉 一之 富山大学大学院医学薬学研究部 内科学1講座 肥満時の脂肪組織では、マクロファージ(mϕ)を中心とした慢性炎症がインスリン抵抗性の 基盤となる。また脂肪組織の低酸素とインスリン抵抗性の関与も報告されている。そこで低酸 素によって活性化される転写因子である HIF-1αに着目し、mϕ における HIF-1αの役割を検 討した。 マクロファージ特異的 HIF-1α欠損マウス(KO)に 16 週間の高脂肪食負荷を行ったところ、 野生型マウス(WT)と比べインスリン抵抗性が改善した。KO の精巣上体脂肪ではマクロファ ージマーカーおよび炎症関連遺伝子の発現が低下し、CLS が減少していた。また KO の精 巣上体脂肪は、VEGFa の遺伝子発現が低下したにもかかわらず WT に比して血管数が多 かった。KO の肝臓、骨格筋では代謝関連の遺伝子発現が改善していた。 mϕ の HIF-1α欠損により肥満マウスにおける脂肪組織の炎症が軽減し、全身のインスリン 抵抗性が改善したと考えられる。 P-30 原発性アルドステロン症の病態鑑別を可能にする ヒト 3β-HSD 酵素サブタイプ選択的モノクローナル抗体の樹立 土居 雅夫1)、中村 保宏2)、佐藤 文俊3)、笹野 公伸2)、岡村 均1) 1) 京都大学大学院薬学研究科 医薬創成情報科学講座 システムバイオロジー分野 2) 東北大学大学院医学系研究科 病理診断学 3) 東北大学大学院医学系研究科 腎高血圧内分泌分野 3β水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)はステロイド合成において必須の酵素であり、ヒ トでは構造の非常によく似た 2 種のサブタイプ(HSD3B1 と HSD3B2)が存在する。重要なこ とに、当該酵素の発現はヒトの原発性アルドステロン症の病変域にも認められていたが、酵素 間にみられる極度の構造的類似性が解析の障害となっていた。我々は今回、GANP マウスを 用いた高親和性抗体作製技術を用い、酵素サブタイプ特異的なモノクローナル抗体を開発し た。我々が得た抗体は HSD3B1 と HSD3B2 の間のたった 1 つのアミノ酸残基の違いを正 確に区別することのできる抗体であった。この抗体を用い、原発性アルドステロン症の 2 大病 変である腫瘍性(APA)と特発性(IHA)を調べた結果、IHA 症の病巣部では HSD3B1 が強 く発現するのに対し、APA の腫瘍部では HSD3B1 は発現せず、代わりに HSD3B2 が主体 的に発現することがわかった。つまり、APA と IHA では使われる 3β-HSD の酵素サブタイプ が異なることが判明し、その両者の違いを用いることによって原発性アルドステロン症の新たな 病態鑑別が可能となることがわかった。 ― 73 ― P-31 核内オーファン受容体 NGFIB の新規合成を介した AngiotensinⅡに よる副腎球状層特異的 3β-HSD アイソザイムの発現誘導メカニズム 鑓水 大介、土居 雅夫、太田 拓巳、岡村 均 京都大学大学院薬学研究科 医薬創成情報科学専攻 システムバイオロジー分野 3β-水酸化ステロイド脱水素酵素 (3β-HSD) はステロイド合成において必須の酵素である。 ヒトには 2 種の 3β-HSD アイソフォームが存在し、副腎では主に HSD3B2 が働くとされてき たが、副腎のアルドステロン産生を担う球状層細胞においては HSD3B2 の他に HSD3B1 も 強く発現することが示された。アルドステロン産生は AngiotensinⅡ (AngⅡ) により制御され る。今回我々は、この球状層に特異的な 3β-HSD サブタイプがヒトおよびマウスにおいて AngⅡの刺激により急速に誘導されることを見出した。興味深いことに、AngⅡに対する応答 は HSD3B1 にのみ見られ、HSD3B2 には認められなかった。さらに我々は核内オーファン 受容体ファミリーの NGFIB が HSD3B1 の誘導に必須であることを明らかにした。すなわち、 HSD3B1 の誘導には新規の蛋白質合成が必要であること、HSD3B1 のプロモーターには NGFIB の応答配列があり、AngⅡによって誘導された NGFIB 蛋白質がその配列に結合す ること、さらに、HSD3B1 の AngⅡに対する応答性が dominant-nagative 型の NGFIB の 存在下で消失することを明らかにした。以上の結果から、AngⅡ-NGFIB 経路が球状層にお ける HSD3B1 の発現を制御することが分かった。 P-32 RNA スプライシング因子 PSF の白色脂肪細胞分化における役割 土岐 明子1)、佐藤 哲郎1)、登丸 琢也1)、吉野 聡1)、錦戸 彩加1)、渡邊 琢也1)、 岡村 孝志1)、松本 俊一1)、堀口 和彦1)、中島 康代1)、石井 角保1)、小澤 厚志1)、 渋沢 信行1)、橋本 貢士1)、森 昌朋2)、山田 正信1) 1) 群馬大学大学院医学系研究科 病態制御内科学、2) 北関東肥満代謝研究所 近年、私達は核内受容体 PPARγの転写活性型共役因子として DNA/RNA helicase family に属する HELZ2 を単離した。他のグループの報告において HELZ2 がリン酸化修 飾を受けることが判明しており、チロシン脱リン酸化酵素阻害剤の存在下で免疫沈降を行い、 HELZ2 に結合する蛋白として PSF (polypyrimidine tract binding protein-associating splicing factor)を新たに同定した。分化誘導前の 3T3-L1 細胞に PSF に対する siRNA を 導入後分化誘導を行ったところ、脂肪滴の沈着が阻害され、Pparg、Cebpa、および aP2 遺 伝子発現も抑制された。更に、分化早期に重要な働きをする Krox20、Cebpd、Cebpb、およ び Klf5 といった転写因子群の発現も有意に減弱していた。興味あることに、PSF ノックダウン により分化早期に Cepbd の発現を増強する上流遺伝子 precursor mRNA の選択的スプラ イシングパターンが変化していた。以上の成績より、PSF は選択的スプライシングを制御して 3T3-L1 細胞分化を制御する可能性が示唆された。 ― 74 ― オス型性行動の形成におけるキスペプチンの役割 P-33 中村 翔1)、上野山 賀久2)、池上 花奈2)、田村 千尋3)、 三宝 誠3)、平林 真澄3)、束村 博子2)、前多 敬一郎1) 1) 東京大学大学院農学生命科学研究科、2) 名古屋大学大学院生命農学研究科、3) 生理学研究所 キスペプチン遺伝子(Kiss1)ノックアウト(KO)ラットでは、性腺刺激ホルモン分泌が欠如し、 性腺は萎縮する。本研究では、キスペプチンの性行動の形成における役割に着目し、オスの KO ラットの性行動を観察した。KO ラットはテストステロン(T)を負荷したにもかかわらずマウ ント、挿入、射精といった一連のオス型の性行動を示さなかった。キスペプチンが周生期の性 行動中枢のオス化に必要かどうか、胎生 18 日および出生日の血漿中 T 濃度を測定したとこ ろ、KO ラットは野生型のオスと同様の血漿中 T 濃度を示した。また、出生日キスペプチン投 与によっても、成熟後のオス型性行動は回復しなかった。成熟過程の T 分泌がオス型性行動 に必要であるか検討するため、32 日齢から T を連続投与したところ、KO ラットは成熟後にマ ウントおよび挿入を示した。以上の結果から、キスペプチンは性成熟期の T 分泌を促進するこ とによって、オス型性行動の形成に関与することが示唆された。 P-34 動脈狭窄の新規治療開発に向けた新しい細胞モデル系の開発 西尾 美和子、中原 正子、湯尾 明、佐伯 久美子 (独)国立国際医療研究センター研究所 疾患制御研究部 虚血性疾患は近年増加傾向にあり世界の死因の上位となっている。血管狭窄の病理は血 管内皮細胞の変性/脱落と血管平滑筋細胞の過剰増殖であるが、内皮細胞が平滑筋細胞の 増殖に与える影響については論争がある。 我々は正常な内皮細胞は平滑筋増殖を抑制することを見いだし、この作用を endotheliamediated smooth muscle growth inhibition (EMSI)と命名した。一方、ヒト初代内皮細胞 (市販)は EMSI を喪失しており創薬研究への使用は困難である。 この課題を克服するため我々はヒト多能性幹細胞(ES/iPS 細胞)から作製した内皮細胞を 用いて解析を行い、EMSI の負の調節因子として regulator of G-protein signaling 5 (RGS5) を同定した。さらに RGS5 が酸化ストレスで誘導されること、血管狭窄を示すヒト検体 では RGS5 蛋白が高発現していることを見いだした。また血管傷害モデルにおいてヒト iPS 由来内皮細胞の移植が血管狭窄の発症を阻止することも明らかにした。 我々の開発した系は虚血性疾患を標的とした新規創薬研究ツールとして極めて有用である。 ― 75 ― 維持透析患者における、皮膚自家蛍光を用いた 皮下 AGE の定量化と心血管病変発症の関連の検討 P-35 原井 望1)、古屋 文彦1)、志村 浩己2)、原口 和貴3)、會田 薫1) 1) 山梨大学医学部 第三内科、2) 福島県立医科大学 臨床検査学、3) 原口内科・腎クリニック 【背景】糖尿病性腎症を基礎疾患とする患者では心血管障害 (CVD) の発症は日常生活の 活動性の低下や生命予後規定因子になりうる。Advanced Glycation End-products (AGE) は糖尿病の高血糖や脂質異常症、酸化/カルボニルストレスの亢進を誘因として皮下に蓄積 する。皮膚自家蛍光(AF)値は、皮下に蓄積した AGE と相関することが知られている。 【目的】維持血液透析患者の AF を AGEreader を用いて測定・定量化し、新規の心血管病 変発症との関連につき前向きに検討する。 【対象】透析歴 1 年以上の安定した外来通院中の維持透析患者 64 名 【方法】エントリーにあたり 64 名の AF を測定・定量化、ABI、CAVI 等の生理検査、CRP, BNP, HbA1c 等の血液検査を行う。経過観察中の新規の CVD 発症と、AF 値などの検査値 との関連について前向きに検討する。 【結果】3年の観察期間に64名のうち11名の新規のCVD発症がみられた。CVD発症に関連す る因子を同定するために行った多重ロジスティクス解析では、年齢、CAVI、AF値が新規の CVD 発 症 の 有 意 な 独 立 し た 危 険 因 子 で あ っ た 。 ま た Receiver Operating Characteristic(ROC)解析においてAF値はCVD発症の独立した予測因子として選択された。 【結語】維持透析患者の新規の CVD 発症の予測因子として AF 値の有効性が示唆された。 膵島内に存在する腺房細胞様細胞群 (ATLANTIS) は REG 1αを強く発現し、劇症1型糖尿病において 膵島内分泌細胞増殖に関与する P-36 西田 頼子1)、会田 薫1)、齋藤 成2)、横田 貞記3)、大野 伸一2)、 Xiayang Mao4)、秋山 大一郎1)、 高沢 伸5)、小林 哲郎6) 1) 山梨大学医学部 第3内科、2) 山梨大学医学部 解剖分子組織学、3) 長崎国際大学薬学部 機能形態学 4) 山梨大学工学部コンピューター理工学科、5) 奈良県立医科大学 生化学、6) 冲中記念成人病研究所 膵島を囲む基底膜・細胞外基質や隣接細胞には不明な点が多い。我々は膵島周囲の構 造を免疫組織・電顕観察にて検討し、新たな腺房細胞様細胞群(Acinar-like cell cluster Touching Langerhans’ islets with Thin Interstitial Surrounding; ATLANTIS)を同 定した。ATLANTIS は膵島内分泌細胞に直接接し、両者共通の基底膜・細胞外基質によっ て取り囲まれている。また、amylase 顆粒を含み、β細胞再生に関与するとされる Reg-1αを 強く発現する。劇症1型糖尿病(FT1D)膵では、Ki67 陽性β細胞の割合、Ki67 陽性 non-β 細胞を含む膵島の割合が非糖尿病例に比し有意に高く、ATLANTIS の Reg-1α発現が増強 していた。また、FT1D 発症早期の血清 REG-1α値は非糖尿病例に比し有意に高かった。 FT1D においては、ATLANTIS が膵島細胞の再生維持に関与していることが示唆された。 ― 76 ― 食物の性状の違いがエネルギーバランス およびインスリン抵抗性に及ぼす影響 P-37 長谷川 和哉、秋枝 さやか、川﨑 友里恵、伊達 紫 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 2 型糖尿病の基盤である肥満の発症には、エネルギーの過剰摂取だけではなく、食習慣や 食物の性状も重要な因子であると考えられている。そこで本研究では、食物の性状に着目し、 通常食に水を加えて軟らかくした軟食、または通常食をラットに 14 週間給餌し、両群のエネ ルギーバランス、耐糖能、インスリンシグナリングおよび脂質代謝を比較検討した。エネルギー 摂取量と体重は、両群の間に有意な差は認められなかったが、軟食群ではインスリン抵抗性 や耐糖能障害とともに、膵ラ氏島の過形成が認められた。また、軟食群の肝臓では IRS-2 の 発現が低下しており、インスリンによる Akt リン酸化も誘導されず、脂質合成経路の亢進およ び中性脂肪含量が増加していた。以上より、軟らかい食物の摂取は、過食や肥満を伴わない 耐糖能障害およびインスリン抵抗性を引き起こし、de novo lipogenesis を惹起することが明ら かとなった。これらの知見から、食物の性状は 2 型糖尿病の発症要因として重要である可能 性が示唆された。 P-38 ラクチゾールは膵β細胞に発現する グルコース感知受容体 T1R3 を抑制する 濱野 邦久1,2)、中川 祐子1)、大津 義晃1,3)、李 龍飛1)、田中 祐司2)、小島 至1) 1) 群馬大学生体調節研究所、2) 防衛医科大学校 総合臨床部、3) 群馬大学大学院医学系研究科 小児科学 膵β細胞には、甘味受容体のサブユニット T1R3 が発現している。T1R3 はグルコース(G) を感知し、その活性化により細胞内の G 代謝が活性化される。G は従来考えられていたよう に、単に細胞内で代謝されて ATP を産生するだけでなく、同時に細胞表面の G 感知受容体 T1R3 に作用して自身の代謝を促進するという二面的な作用をもつ。T1R3 の機能や生理学 的意義を明らかにする上で特異的な抑制剤があればきわめて有用である。ラクチゾールはヒト T1R3 に結合してその作用を抑制することが知られているが、味覚研究の領域では、ヒト T1R3 には有効であるが、げっ歯類 T1R3 には無効とされてきた。我々はラクチゾールが果た して膵β細胞におけるマウス T1R3 にも有効であるかを検討した。MIN6 細胞やマウス膵島 を用いた検討の結果、ラクチゾールは T1R3 のアゴニストであるスクラロース・アセスルファム K による細胞内 Ca2+増加、ATP 増加、インスリン分泌増加作用を濃度依存性に抑制したが、 高濃度 KCl の作用には影響しなかった。ラクチゾールは G 感知受容体の拮抗剤として有用 であると考えられる。 ― 77 ― P-39 エストロゲンの細胞膜エストロゲン受容体 GPER を介した 摂食調節機構に関する研究 福島 篤、舩橋 利也、長谷 都、藤岡 仁美、小倉 裕司、明間 立雄 聖マリアンナ医科大学 生理学教室 エストロゲンが結合するエストロゲン受容体には核内受容体である ERα、ERβの他に G タ ン パ ク質 共 役受 容体 の一 種であ る G-protein-coupled estrogen receptor 1 (GPER, GPR30) がある。GPER の発現異常が高血圧、糖尿病などに関連すると報告されているがそ のメカニズムは不明な点が多い。そこで我々は、まず、GPER を介したエストロゲン様の作用 に注目し、実験を行った。卵巣摘除ラットに、C 群(対照)にはごま油を充填したシリコンチュー ブを、E 群には 17β-Estradiol チューブを G1 群には GPR30 の選択的アゴニスト G1 を皮 下に留置した。その結果、G1 群には、E 群に認められたエストロゲン受容体αを介する作用 (生殖機能・体重および摂食量など) は一切認められなかった。これらのことから中枢神経系 に対する作用は認められないと考えられた。しかし、その発現は視床下部に強く、その一部は NPY ニューロンと共発現していることが明らかとなった。そこでグルコース負荷試験を行ったと ころ、耐糖能が有意に低下していることが明らかとなった。しかし、基礎代謝および24時間の 酸素消費量に変化は認められなかった。これまで報告されている NPY による室傍核を介した 耐糖能への影響を考え、我々は、エストロゲンの GPER を介した作用は、インスリン抵抗性を 来すと推測している。 P-40 GRK2 のニトロシル化によるβアドレナリン受容体の脱感作抑制 槙田 紀子1)、佐藤 潤一郎1)、橋本 真紀子1)、間中 勝則1)、大石 篤郎1)、 矢嶋 由紀1)、三谷 康二1)、南学 正臣1)、大和田 智彦2)、飯利 太朗1) 1) 東京大学医学部 腎臓・内分泌内科、2) 東京大学薬学部 G タンパク質共役受容体には、過剰なアゴニスト刺激から生体を守るために脱感作機構が 内在している。脱感作の主役を担うのが GRK2 で、βアドレナリン受容体の場合、アドレナリ ンで活性化された受容体は GRK2 によってリン酸化され、βアレスチンを介する受容体の内 在化に至る。この脱感作機構は本来適応反応であるが、過剰で長期にわたると心不全の原因 となる。一方、GRK2 はニトロシル化によって抑制される可能性が報告されているが、ニトロシ ル化をもたらす薬物(S-nitrosoglutathione: GSNO)は同時に心保護的に作用する NO も 産生するため、いずれの効果なのかが判然としない問題点があった。 我々は、GRK2 のニトロシル化の意義を確定する目的で、NO を産生せずニトロシル化を 特 異 的 に 生 じ る 親 水 性 の N-nitrosamine (WNNO7) を 合 成 し そ の 効 果 を 検 討 し た 。 WNNO7 は、βAR を発現させた HEK293 細胞、ラット胎児心筋細胞においてアゴニスト刺 激に伴うβAR の脱感作ステップであるβAR のリン酸化、細胞内移行を抑制した。また、 GRK2 をニトロシル化することでその活性を抑制すると推定された。 以上から、GRK2 のニトロシル化はβAR の脱感作を抑制すると考えられた。ニトロシル化 を特異的に起こす親水性薬剤の開発は、心不全などの GPCR 脱感作に基づく疾患・病態の 治療戦略に有用である可能性がある。 ― 78 ― P-41 慢性関節炎モデルラットにおける オキシトシンの発現動態ならびにその役割について 松浦 孝紀1,2)、吉村 充弘1)、大久保 淳一1)、元嶋 尉士1,2)、丸山 崇1)、橋本 弘史1)、 石倉 透2)、鈴木 仁士2)、川崎 展2)、大西 英生2)、酒井 昭典2)、上田 陽一1) 1) 産業医科大学医学部 第 1 生理学、2) 産業医科大学医学部 整形外科学 【目的】本研究の目的は、オキシトシン(OXT)-monomeric red fluorescent protein 1 (mRFP1) トランスジェニックラットを用いて、視床下部神経核・脊髄・下垂体後葉(PP)におけ る OXT-mRFP1 融合遺伝子発現を指標に可視化・定量化し、慢性関節炎モデルであるアジ ュバンド関節炎(AA)における OXT の発現動態とその役割を明らかにすることである。 【方法】成熟雄性 OXT−mRFP1 トランスジェニックラットを用いて、結核死菌の経尾投与によ り AA を誘発させ、経時的に脳・脊髄・PP を摘出した。室傍核(PVN)・視索上核(SON)・脊 髄後角・PP における mRFP1 赤色蛍光輝度および PVN・SON の mRFP1 mRNA を in situ ハイブリダイゼーション法にて定量評価した。また OXT 受容体(OTR)アンタゴニストを 末梢投与し、AA における OXT の役割について評価した。【結果】AA において、mRFP1 赤 色蛍光が SON、PVN、脊髄後角ならびに PP において有意な増加を認め、SON および PVN においては OXT ならびに mRFP1 mRNA レベルでも有意な増加を認めた。抗原接 種 15・22 日目後の AA では OTR アンタゴニストの末梢投与によって、Arthritis Index・体 重・食事摂取量については変化なかったが、温覚閾値の低下が認められた。【結論】AA モデ ルにおいて視床下部 PVN および SON における OXT 合成、PP および脊髄後角における 軸索終末での OXT が増加していることを明らかにした。AA モデルにおける OXT 増加が温 覚の閾値調節に関与していることが示唆された。 P-42 Involvement of succinate secretion in the SDH-deficient pheochromocytoma 三上 貴浩1)、弘田 幸子2)、稲岡 ダニエル 健2)、北 潔2)、栗原 裕基1) 1) 東京大学大学院医学系研究科 代謝生理化学教室、 2) 東京大学大学院医学系研究科 生物医化学教室 The genes for the succinate dehydrogenase A, B, C, and D (SDHA, SDHB, SDHC, and SDHD, respectively) encode each subunits of the mitochondrial complex II, which forms part of the electron-transport chain. Heterozygous germline mutations of SDHB, SDHC, and SDHD lead to the familial pheochromocytomaparaganglioma syndrome which is characterized by tumours of adrenal glands and paraganglia. The mechanism of this carcinogenetic process is not clear, yet understanding of it is of importance for innovative therapies for the syndrome. Recent studies suggest that SDH-deficient pheochromocytomas accumulate succinate, leading to genome-wide DNA methylation alterations which then inhibit differentiation of the cells. Here, we have investigated whether DNA methylation is involved in cellular proliferation triggered by succinate accumulation. In DLD-1 cells, growth stimulatory effect induced by succinate under hypoxic condition was reversed by decitabine, a hypomethylating agent, suggesting the possibility that succinate promotes cellular growth through DNA methylation. ― 79 ― P-43 C/EBPβによる CYP11A1 の新たな転写調節機構 水谷 哲也、今道 力敬、河邉 真也、石兼 真、宮本 薫 福井大学医学部 分子生体情報学領域,福井大学 ライフサイエンス機構 私共は性腺や副腎のマスター制御因子である SF-1 の核内複合体構成タンパク質を同定 している。その 1 つ転写因子 C/EBPβは、卵巣において LH サージによって発現誘導され、 これが排卵・黄体化に必須であることが明らかになっている。 しかしながら、 この過程で C/EBPβによる転写制御機構はほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、コレステ ロールからプレグネノロンへの代謝を司る P450SCC(CYP11A1 遺伝子)に着目し、その発現 に対する影響を検討した。ヒト卵巣顆粒膜細胞由来 KGN 細胞を用いて C/EBPβノックダウン の影響を検討したところ、cAMP 刺激時の CYP11A1 の遺伝子発現が顕著に減少した。次に CYP11A1 プロモーター活性に対する C/EBPβの影響をルシフェラーゼアッセイにより検討し たところ、転写開始点上流約 1.6 kb 付近の領域が重要であることが示された。この領域には C/EBPβ結合領域が存在しないことから、C/EBPβによる CYP11A1 の転写の活性化には他 の転写因子との相互作用を介していると考えられた。 P-44 ミトコンドリア電子伝達系活性化物質を用いた サルコペニア治療の試み 宮下 和季、藤井 千華子、藤井 健太郎、井上 博之、萩原 あいか、 河合 俊英、三石 正憲、村木 絢子、田蒔 昌憲、伊藤 裕 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 日本では医学の発展とともに高齢化が急速に進み、2014 年には 65 歳以上の高齢者の割 合が 25%を突破すると予想されている。介護を必要とせず自立して生活できる期間を WHO は”健康寿命”と定義し、健康寿命の延長を、高齢化に応じた医学の新しい目標として提唱し ている。要介護となる原因として転倒・骨折の占める割合は大きく、サルコペニアすなわち筋肉 量の減少が、健康寿命の短縮ならびに社会の介護負担の増大に大きく寄与している。 これまでのサルコペニア治療は筋肉量増加に主眼がおかれ、高蛋白食を用いた食事療法 と運動療法、ホルモンを用いた薬物療法が試みられてきた。これらの治療による筋量と筋力の 回復が報告されているものの、持久力の改善は困難である。そこで我々は持久力と密接に関 連し、また加齢による機能低下が顕著である細胞内小器官であるミトコンドリアに着目し、ミトコ ンドリア活性化に主眼をおいたサルコペニア治療の試みを続けてきた。 今回我々は、ミトコンドリア電子伝達系活性化物質を用いて、マウスモデルで検討した、サ ルコペニア治療の試みに関して報告する。 ― 80 ― 原発性アルドステロン症における遺伝子発現と DNA メチル化の統合解析 P-45 村上 正憲1)、吉本 貴宣1)、土屋 恭一郎1)、南 勲1)、坊内 良太郎1)、 泉山 肇1,2)、橋本 貢士1,3)、菅波 孝祥1,4)、藤井 靖久5)、安部 晃生6)、 中林 一彦6)、秦 健一郎6)、木原 和徳5)、小川 佳宏1) 1) 東京医科歯科大学 分子内分泌代謝学分野 (糖尿病・内分泌・代謝内科)、2) 同 医療連携支援センター、 3) 同 メタボ先制医療講座、4) 同 臓器代謝ネットワーク講座 科学技術振興機構 さきがけ、 5) 同 腎泌尿器外科学教室、6) 国立成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部 原発性アルドステロン症は高血圧症の 10%を占めるとされる二次性高血圧症である。近年、 網羅的遺伝子発現解析によりアルドステロン産生腺腫(APA)と隣接する付随副腎組織 (AAG)において発現量の異なる遺伝子が多数報告されているが、これらの遺伝子発現の変 化とアルドステロンの自律性分泌や腫瘍化の関連には不明な点が多い。一方、APA における DNA メチル化修飾に関する報告は少ない。本研究では APA 発症の分子機構を明らかにす るために、同一症例の APA と AAG の網羅的遺伝子発現解析とゲノムワイド DNA メチル化 解析を同時に行った。患者より同意を得た手術時に採取した APA と AAG の 7 症例 14 検体 を用い、 遺伝子発現と DNA メチル化の変化を、SurePrint G3 Human GE 8x60K Microarray と Infinium HumanMethylation450 BeadChip Array により網羅的に解析 した。遺伝子発現解析では、HOX 遺伝子の発現上昇が明らかとなった。DNA メチル化解析 では、転写開始点(TSS)1500/200 領域においてメチル化が低下する遺伝子を対象とした Gene ontology 解析により、”cytokine-cytokine receptor interaction pathway”が抽出さ れた。遺伝子発現と DNA メチル化修飾の統合解析により、36 遺伝子に遺伝子発現と DNA メチル化の変化に逆方向性の関係が認められ、APA の発症に DNA 脱メチル化による遺伝 子発現制御が関与する可能性が示された。 ライディッヒ細胞における Cox-2 の発現調節と プロスタグランジン産生 P-46 矢澤 隆志1)、宮本 薫2)、梅澤 明弘3)、谷口 隆信1) 1) 旭川医科大学医学部、2) 福井大学医学部、3) 国立成育医療センター研究所 私達は、過去の研究で間葉系幹細胞に転写因子の SF-1 を導入し、培地に cAMP を添加 することにより、ステロイドホルモン産生細胞に分化誘導する系を確立している。マウス骨髄由 来間葉系幹細胞株・KUM9 は、この系により精巣のライディッヒ細胞様の細胞に分化する。こ の細胞の characterization のために、分化前後の細胞で、DNA マイクロアレイ解析を行っ た。 すると、ステロイドホルモン合成酵素に加えて、Cox-2 を含むプロスタグランジン合成系の遺 伝子が SF-1 導入後の cAMP 処理によって誘導されることが分かった。これは、ライディッヒ細 胞腫由来の MA10 細胞でも再現でき、in vivo では hCG により、プロスタグランジン合成系 の遺伝子の発現が誘導された。ライディッヒ細胞における hCG~cAMP 系による Cox-2 の転 写誘導メカニズムをレポーターアッセイで調べたところ、転写開始点上流 -150bp 付近に存在 する CAAT ボックスが重要であることが分かった。 ― 81 ― ― 82 ― 協 賛 リスト (五十音順) 助成金 公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 公益財団法人サントリー生命科学財団 公益財団法人成長科学協会 公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 共催セミナー あすか製薬株式会社 帝人ファーマ株式会社 プログラム・抄録集広告 アステラス製薬株式会社 エーザイ株式会社 小野薬品工業株式会社 第一三共株式会社 武田薬品工業株式会社 田辺三菱製薬株式会社 中外製薬株式会社 日本イーライリリー株式会社 ノバルティスファーマ株式会社 ノボノルディスクファーマ株式会社 ファイザー株式会社 豊前医化株式会社 持田製薬株式会社 上記のご協賛いただきました各団体および企業に心よりお礼申し上げます。 第 32 回内分泌代謝学サマーセミナー 会長 ― 83 ― 有田 順 第 32 回内分泌代謝学サマーセミナー 事務局 山梨大学大学院医学工学総合研究部 生理学講座 〒409-3898 山梨県中央市下河東 1110 Tel & Fax: 055-273-6730 e-mail: summerseminar@yamanashi.ac.jp
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