厚生労働省研究班会議ガイドライン (2007 年 5 月) CD40L 欠損症(XHIGM)に対する造血幹細胞移植ガイドライン 1. 背景 CD40L 欠損症は、アメリカでの報告ではその予後が比較的良好だが(79 例中 8 例、10.1% 死亡)1、ヨーロッパでの報告では 56 例中 13 例が亡くなっており 20 年間の長期生存率は 20%である 2。日本国内では現在までに 40 例の患者が登録されているが、15 例(37.5%) が死亡しており、その長期生存率はヨーロッパと同様 21%であり、予後不良である。特に 死亡年齢は、1 歳未満 3 例、1ー10 歳 4 例、11 歳以上 8 例(53.3%, 11-37 才, 中央値 16.5 才)であった。 このガイドラインは、ヨーロッパ、アメリカの造血幹細胞移植に関する文献的報告例 46 例、 および日本での 11 例の経験を参考にし、2004 年版の EBMT/ESID のガイドラインをもと に、厚生労働省研究班会議ワーキンググループでの検討により作られた。EBMT/ESID ガイ ドラインにおいても、これはあくまで「ガイドライン」であり、「プロトコール」とするに は、ガイドラインの定期的な見直し作業が必要であり、また、ガイドラインの使用の際にも 患者の状態による微調整が必要である事、経験ある施設で行なう事が望ましい事が明記され ている。 日本においても、前方視的観察研究を行なうため、このガイドラインに基づいた移植を行な う場合には、下記連絡先へ一報入れていただきたい。 厚生労働省研究班会議 HIGM-SCT ワーキンググループ 野々山恵章 (防衛医科大学校小児科) Tel: 04-2995-1621, Fax: 04-2996-5204, Email : nonoyama@ndmc.ac.jp 2. 適応とドナーの選択 ・CD40L 欠損症は予後不良の複合免疫不全症であり、造血幹細胞移植の適応疾患である。 ・診断が確定し、次のドナーが得られる場合、できるだけ早期に造血幹細胞移植を行なう。 1. HLA 一致同胞ドナー 2. HLA 一致非血縁骨髄ドナー が得られる場合は、診断確定後早期に造血幹細胞移植を行なうことが望ましい 特に、カリニ肺炎の合併例は移植の絶対適応であると考えられる。 3. 非血縁臍帯血ドナー(HLA 一致、1 座不一致を含む) 非血縁臍帯血ドナーの海外での経験例は文献上 1 例であるが 3、国内経験例は 2 例あり、い ずれも成功している。HLA 一致骨髄ドナーが得られない場合、十分な細胞数がある(体重 が小さい、年齢が若い)場合には考慮の対象となる。 4. ミスマッチ家族内ドナー 現時点では移植適応はないが、臓器障害が進行性であり、他にドナーが得られない場合、考 慮対象とする。 ・ 既診断の年長例においても、以下の合併症の既往があり、感染症のコントロールがある 程度されている際に移植を考慮する。 ・肝障害(組織学的、機能的) ・肺障害(早期の気管支拡張症) ・腸炎/慢性下痢(enteropathy) -1- ・クリプトスポリジウム持続感染(便から持続的に検出される) ・トキソプラズマ感染症 ・その他の難治性感染症 3. 方法 A. 新規診断症例に対する感染予防法 ・カリニ肺炎に対する予防:ST合剤(バクタ)予防量 0.05-0.1g/kg/日 ・経静脈的ガンマグロブリン補充(IVIG):IgG トラフ値が 500-700mg/dl となるように 2-4 週間間隔で投与する。 ・クリプトスポリジウム感染予防: ・煮沸した水あるいは 0.1um 以下のフィルターを通した滅菌水を飲用すること (注意:市販のミネラルウォーターは必ずしも滅菌水ではない。特にヨーロッパの「ナチュ ラル」ミネラルウォーターは非滅菌のことが多い) ・ 抗生剤予防投与:クラリスロマイシン 10mg/kg/day, po (アジスロマイシンも可能だが、保険審査で問題になる可能性あり) ・好中球減少症に対する G-CSF 投与 B. ドナー検索:同胞、骨髄バンク、臍帯血バンク、両親 C. 臓器障害のモニタリング ・AST,ALT,gammaGTP(,ALP,NH3)の測定 ・肝/胆道系エコー:1 回/年 ・診断時および下痢症罹患時のクリプトスポリジウムの検査(ショ糖遠心法、PCR の施行:金沢 大学寄生虫学 所正治先生に依頼 para@med.kanazawa-u.ac.jp) ・上記検査で異常が出た場合、確認のため、MRCP 施行、肝生検考慮(ERCP は危険回避のため行 なわない) D. 前処置 #臓器障害がない場合: BU+CY 1. Busulphan ブスルフェクス点滴静注:0.8~1.2mg/kg/2 時間点滴 x4/日x4 日間(投与量は体重 により異なる:<9kg 1.0mg/kg, 9~16kg 1.2mg/kg, 16~23kg 1.1mg/kg, 23-34kg 0.95mg/kg, >34kg 0.8mg/kg) またはマブリン内服:4mg/kg/day/分 4x4 日間(血中濃度を測定し(千葉大?)、至 適濃度になるよう投与量を増減することが望ましい) 2. Cyclophosphamide エンドキサン点滴静注:50mg/kg/2 時間点滴x4 日間 #臓器障害(特に肝障害、肺障害)がある場合:Reduced intensity conditioning Fludarabine+L-PAM+TBI 2~3Gy 1. フルダラ 25~30mg/m2/d, 30 分~1 時間点滴静注 x 5 日間 (移植前処置として、保険審査で) 2. メルファラン 140mg/m2/d または 70mg/m2/d x2 日間 Pre-Melphalan hydration: 4% dextrose/ 0.18% saline + 20 mmol/l of KCl at 200 ml/m2/hr for 3 hrs Post-Melphalan hydration: 0.45% saline / 2.5% dextrose + 40 mmol/m2/24 hrs of KCl at 3 l/m2 for 24 hrs 3. 全身放射線照射 2Gy/1回または 1.5Gy/回x2 -2- E. 移植中のクリプトスポリジウム(CsP)感染予防 ・煮沸/フィルターを通した滅菌水を飲用水として用いる。 ・CsP 感染歴なし、PCR 陰性例:予防投薬なし、またはクラリス予防投薬 クラリスロマイシン(クラリス)内服:10mg/kg/2x ・CsP 感染歴ありだが、現在症状(下痢、肝障害、硬化性胆管炎)なし CsP PCR 陰性または陽性 :AZM 予防投薬:アジスロマイシン(ジスロマック)内服:10mg/kg/1x ・CsP 症状あり、PCR 陽性例:アジスロマイシン+パロモマイシン+ニタゾキサニド 熱帯病治療薬研究班:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/didai/orphan/index.html に問いあわせし入手すること パロモマイシン(Humatin)内服: 30 mg/kg/3x(小児)、15~25 mg/kg/3x(成人) 聴力障害に注意 ニタゾキサニド(Alinia)内服 200mg/2x(1~3 才)、400mg/2x (4~11 才)、1g~2g/2x (成人) AST, ALT の上昇に注意 参考文献: 1.Winkelstein JA, Marino MC, Ochs H, et al. The X-linked hyper-IgM syndrome: clinical and immunologic features of 79 patients. Medicine (Baltimore). 2003;82:373-384. 2. Levy J, Espanol-Boren T, Thomas C, et al. Clinical spectrum of X-linked hyper-IgM syndrome. J Pediatr. 1997;131:47-54. 3.Ziegner UH, Ochs HD, Schanen C, et al. Unrelated umbilical cord stem cell transplantation for X-linked immunodeficiencies. J Pediatr. 2001;138:570-573. -3-
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