The Federal - Morgan Lewis

2011 年 1 月
連邦巡回控訴裁、パルミコートのジェネリック薬を市場導入禁止としたニュージャージー州連邦地裁
の仮差し止めを維持
AstraZeneca LP v. Apotex, Inc.事件, No. 2009-1381(2010年11月1日連邦巡回控訴裁)に関する最
近の判決において、連邦巡回控訴裁は、Apotex社によるAstraZeneca社のパルミコート®のジェネリッ
ク薬の市場導入を阻止したニュージャージー州連邦地裁による差し止め命令を維持した。
パルミコートは、喘息治療用のブデソニド吸入用懸濁液で、AstraZeneca社が開発し、その特許を有す
る。そして、Apotex社は、パルミコートのジェネリック薬を製造・販売するためのFDA承認を得るべく、
簡易新薬承認申請(ANDA)を行った。これを受け、AstraZeneca社は、確認判決を求めて提訴し、
Apotex社によるジェネリック薬の市場導入に対する禁止命令の申し立てを行った。地裁は、Apotex社
がトライアルにおいて、AstraZeneca社のクレームの無効性を立証できる見込みは低いとする一方で、
AstraZeneca社は、トライアルにおいてApotex社による侵害教唆の立証に成功するであろうとし、
AstraZeneca社の仮差し止め請求を認めたものである。
当事者は、次の4つの要件を満たすことができれば、その仮差し止め請求を認められる。この4つの
要件とは、(1) 実体的事項において勝訴すると合理的に見込まれ、(2) 差し止め命令なくしては、回
復不能の損害を被り、(3)不利益の比較衡量が、請求を行う当事者に有利に傾いており、(4)差し
止め命令が公益にかなう、ことである。一般的に言って、“実体的事項において勝訴する見込み”の
立証は、特許権者が、(1)係争中のクレームのうち少なくとも一つのクレームについて侵害を立証で
きる見込みと(2) 係争中のクレームのうち少なくとも一つのクレームが、その有効性に対する異議に
耐えることができる見込みの両方を立証することにより可能である。そして、被告 Apotex 社は、この
実体的事項において勝訴する見込み、すなわち、争われているクレームの有効性と侵害を争点に、特
許権者である AstraZeneca 社の仮差し止め請求の申し立てに対して異議を唱えていた。
まず、Apotex社による無効性の立証の成功の見込みについては、連邦巡回控訴裁は、「トライアルに
おいて、Apotex社が、明確かつ説得力のある証拠をもって」、 AstraZeneca社により主張される特許
化された方法クレームが無効であると「立証できる見込みは低い」とした地裁の決定を維持した。
Apotex社は、AstraZeneca社の方法クレームは、リポソーム内でのブデソニド投与に関する先行技術の
特許により予期されると強く主張していた。しかし、地裁は、AstraZeneca社の主張する方法クレーム
における“ブデソニド組成物”という用語については、液剤や懸濁液に関するものでありながらもリ
ポソームに関するものではないと解釈し、この結果、リポソームに関する引例は、主張される方法ク
レームを予期するものではないとした。連邦巡回控訴裁は、地裁のクレーム解釈を維持し、よって
1
「主張される方法クレームは、‘528[先行技術]特許に基づく[Apotex社の]有効性への異議に耐えると
見込まれる」とした地裁の結論が正しいものであると認定した。
同様に、連邦巡回控訴裁は、Apotex社が、トライアルにおいて、AstraZeneca社の広告により同社の主
張する方法クレームが予期されることを立証できる見込みは低いとした地裁の認定に賛同した。
AstraZeneca社により主張されている方法クレームは、クレームされた治療方法を“1日1回を上限とす
る頻度”の投薬に制限するものである。問題となった広告には、初期の推奨 投与回数は1日2回であり、
その後の維持量として”患者に症状が現れない状態を維持できる最少量であるべき“と記載されてい
た。この記述が、投薬の頻度を1日1回までに減らす可能性を示唆しているかのように見えるかもしれ
ないものの、AstraZeneca社の専門家は、この広告の時点では、1日2回の投薬頻度が適切であると考え
られていたとの証言を行っていた。そして、連邦巡回控訴裁は、先行技術として申し立てられている
広告は、当業者が、同広告の記載通り、1日2回を意味していると理解できることから、1日1回の投与
に言及していないとする地裁の認定に賛同した。
侵害に関しては、連邦巡回控訴裁は、AstraZeneca社が、米国特許法のセクション271(b)に基づく侵害
教唆の立証に成功することが見込まれるとする地裁の判断と同意見であった。連邦巡回控訴裁は、教
唆が認められるためには、被疑侵害者が、故意に侵害を教唆し、他者による侵害を促す特定の意思を
有していたことを要件とすることを強調した。地裁は、Apotex社のラベル案は、使用者に、投薬開始
時は頻繁に投与し、その後必要最小投与量まで“漸減する”としており、これはジェネリック薬を1日
1回投与するよう黙示的に指示するものであり、この結果、消費者に方法クレームを侵害するよう教唆
していると認定した。従って、ヒアリングにて示された証拠に基づき地裁は、Apotex社が、「自社の
ラベル案では、侵害の可能性という問題が存在することを認識しており、明らかにこれに対する懸念
を抱いていながらも」、同ラベルのままで事を進めるという決断を下したと認定した。
連邦巡回控訴裁は、特定の意思についての地裁の認定に賛同した。まず、連邦巡回控訴裁は、Apotex
社による「製品に実質的な非侵害の用途が存在する場合、侵害を教唆する意思については、たとえ[被
疑侵害者が]、その製品の使用者の一部が特許を侵害しているかもしれないという実際の知識を有して
いたとしても、成立しない」 Warner-Lambert Co. v. Apotex Corp事件., 316 F.3d 1348, 1365
(2003年連邦巡回控訴裁)との主張は正しいことを指摘した。しかしながら、今回の事件においては、
実質的な非侵害の用途が存在するか否かが、証拠からは明確ではないとした。
意思に関して地裁は、Apotex社が、そのラベル案に、少なくとも何人かの使用者に主張された方法ク
レームを侵害させる指示を含んだことから、Apotex社には侵害教唆の要件である特定の意思があった
と認定した。また地裁は、ラベル案による侵害の問題を認識していながらも、Apotex社はこれにもか
かわらず当該ジェネリック薬を市場導入する計画を進めたと認定した。連邦巡回控訴裁は、「特定の
意思ということに関しては、使用者の中には、ラベル案に記載された警告事項を無視する者がいるか
もしれないということは無関係である。問題となるのは、提案されているラベルが、使用者に対して、
特許された方法を実施するよう指示しているか否かである。そうであるならば、ラベル案は、Apotex
社の侵害を教唆する積極的な意思を示す証拠となり得る」とした。
さらに地裁は、Apotex社は、1日1回以上の頻度で、患者が投与することのできるより少ない投与量の
ブデソニドに対する承認を求めることができたにもかかわらず、Apotex社がこのような行動は取らな
かったことを指摘した。地裁による特定の意思の認定が、ラベル案のみではなく、「ラベルによって
もたらされる侵害関連の問題を認識していながらも薬品の市場導入計画を進めるというApotex社の判
断」も根拠としていることを指摘した上で、連邦巡回控訴裁は、Apotex社は、侵害を教唆する可能性
があることを認識しており、侵害を回避するために他の選択肢があったにもかかわらずこれらを選択
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することをしなかったとして、AstraZeneca社が侵害については勝訴すると見込まれるとした地裁の認
定に誤りはないことを確認した。
この意見のコピーは、http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-13811424.pdf. で入手可能です。
連邦巡回控訴裁、102(g)(2)条の米国内発明要件を明確化
連邦巡回控訴裁は、2010年10月13日に下された判決において、海外において着想され実施化された発
明は、米国特許法の35 U.S.C. § 102(g)(2)に基づき、発明とはみされないと判示した。これは、
Solvay S.A. v. Honeywell International, Inc.事件, No. 2009-1161 (2010年10月13日連邦巡回控訴
裁)において下された判決である。
セクション 102(g)(2)は、“特許出願人の発明よりも先に、米国内において他の発明者によりその発明
がなされており、その者がそれを放棄、秘匿、隠蔽していない”場合においては、特許を受けること
ができないと規定している。
Solvay 社は、Honeywell 社が、米国特許 6,730,817(‘817 特許)を侵害しているとして提訴。‘817 特
許とは、Honeywell 社が自社のルイジアナ州ガイスマーに所在するプラントで使用していた HFC-245fa
を製造するための化学プロセスに関する特許である。これを受け Honeywell 社は、
セクション 102(g)(2)に基づき Honeywell 社がクレームされた発明を先に発明していたとして、‘817
特許のクレーム 1, 5, 7, 10 および 11 の無効性について略式判決を求める申し立てを行った。
1994 年初頭、Honeywell 社は、Russian Scientific Center for Applied Chemistry (RSCAC)と研究契
約を締結した。RSCAC のエンジニアが着想・実施化し、1994 年に Honeywell 社に対して報告を行った
プロセスが、Solvay 社の‘817 特許にクレームされている発明と一致しており、RSCAC のエンジニアが
ロシアにてこの発明を着想し、実施化したことについては、疑問の余地がなかった。加えて、Solvay
社の優先権主張日である 1995 年 10 月 23 日以前に、Honeywell 社が、米国においてこのプロセスを既
に使用していたことも明白であった。Honeywell 社のガイスマーのプラントは、1996 年の 2 月には順
調に安定運転をしており、その直後である 1996 年 3 月に、Honeywell 社は、HFC-245fa の製造に関す
る改良プロセスについての特許出願案の作成に着手した。そして、1996 年 7 月 3 日に出願が行われ、
最終的には米国特許 5,763,706(‘706 特許)として付与された。
地裁は、クレーム 1, 5, 7, 10 および 11 の無効性ついて、Honeywell 社の略式判決を求める申し立て
を認め、無効ではないとする略式判決を求めた Solvay 社の申し立てを退けた。地裁は、Honeywell 社
が、‘817 特許の優先権主張日以前の 1995 年 8 月に‘817 特許の発明を行っていたと判示し、その結
果、主張されたクレームは、Honeywell 社がセクション 102(g)(2)に基づく先発明者であることから無
効であるとした。
そして、地裁は、Honeywell 社が、セクション 102(g)(2)に基づく”発明者“ではないとする Solvay
社の主張を退けた。Solvay 社は、争われている発明は、RSCAC のエンジニアにより海外で“着想され
た”ものであり、Honeywell 社が海外での発明を米国内で“単に複製”したことは、Honeywell 社を発
明者とするものではないと主張。しかし地裁は、Honeywell 社が、“当初の発明者”である RSCAC から
本発明を得たというだけで、セクション 102(g)(2)において Honeywell 社が“発明者”となることを阻
止する“権限は存在しない”とした。地裁の結論は、
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Honeywell 社が、RSCAC からの指示を受領した時点で、Honeywell 社は、完全かつ実施可能な発明に対
する明確な不変のアイデアを有していたものであり、これにより同時点で、Honeywell 社は本発明を米
国内で着想したとするものであった。
この結果、地裁は、‘817 特許にクレームされた対象物の先発明者は Honeywell 社であると判示し、
Honeywell 社がその発明を放棄、秘匿、隠蔽していない限りは、‘817 特許は無効とされるべきである
とした。地裁は、Honeywell 社が公表に向けて動いていたと認定し、Solvay 社は、Honeywell 社が発明
の公表を差し控えようとしていたことを立証することができなかったとした。また、地裁は、
Honeywell 社が、‘706 特許に記載された発明を意図的に放棄、秘匿、または隠蔽していないとの結論
に達した。
控訴審において Solvay 社は再び Honeywell 社がクレームされた対象物の先発明者ではないと主張した。
Solvay 社は特に、Honeywell 社が HFC-245fa の製造のためのクレームされたプロセスを発明したので
はなく、RSCAC のエンジニアがロシアで発明を行ったものを RSCAC より得たことは議論の余地がないた
め、Honeywell 社がセクション 102(g)(2)の規定する“他の発明者”にはなりえないと主張した。これ
に対し、Honeywell 社は、同社が 1995 年 10 月の Solvay 社の優先権主張日以前に米国内においてクレ
ームされた発明を実施化していたため、Honeywell 社は、セクション 102(g)(2)に基づき“他の発明
者”であると主張した。
連邦巡回控訴裁は、Honeywell 社は、‘817 特許にクレームされたプロセスを、米国内で発明しておら
ず、セクション 102(g)(2)の要件を満たしていないとして地裁の判決を棄却した。同法によれば、“特
許出願人の発明よりも先に、米国内において他の発明者によりその発明がなされており、その者がそ
れを放棄、秘匿、隠蔽していない”場合においては、特許を受けることができない。35 U.S.C. §
102(g)(2) 連邦巡回控訴裁は、“米国内において発明がなされた”という同法の文言は、米国内で発
明を行うという行為に言及していると判示。発明は、着想と実施化をその要件とする。従って、連邦
巡回控訴裁で問われる問題は、Honeywell 社がセクション 102(g)(2)に基づき、‘817 特許にクレーム
されたプロセスの“他の発明者”とみなされるべく、係争中の発明を米国内で着想・実施化したか否
かという点にあるとした。
連邦巡回控訴裁は、「着想とは、‘完全かつ実施可能な発明に対する明確な不変のアイデアが、発明
者の頭脳の中に形成されることであり、これは後に実際に実施される時点で適用されるものでなくて
はならない’。」(Burroughs Wellcome Co. v. Barr Labs., Inc 事件., 40 F.3d 1223, 1228 (1994
年連邦巡回控訴裁)より引用)連邦巡回控訴裁は、Honeywell 社は、ロシアの RSCAC により以前に着
想・実施化された発明を単に複製しただけであるため、セクション 102(g)(2)に基づく“他の発明者”
ではないと判示した。「今回の場合、Honeywell 社は、実施化が可能な自身の明確な不変のアイデアを
有しておらず、またこれを形成していない。Honeywell 社が行ったことは、ロシアの RSCAC により以前
に着想・実施化されたアイデアを複製したことである。」そして、連邦巡回控訴裁は、このような
“複製”を“着想”とみなすことはできないということを明確に示した。もし、このような複製を着
想とみなせば、「単に、他の発明者の指示に従い、その発明者が以前に着想した発明を複製した者ま
でもが、‘発明者’とみなされることになる」とした。従って、Honeywell 社が、セクション
102(g)(2)下における「他の発明者」としてみなされなかったことにより、連邦巡回控訴裁は、Solvay
社の‘817 特許のクレーム 1, 5, 7, 10 および 11 を、先発明者を根拠に無効とした地裁の判決が誤り
であると認定した。
この意見のコピーは、http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-1161.pdf.
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