125 オックスファム報告書 民間営利事業 拡大論の死角 貧困国における 民間保健医療の神話を 検証する 貧困国に住む何百万という人々の健康への権利を実現するカギとなるの は、保健医療サービスへの普遍的かつ衡平なアクセス達成に向けた、同 サービスの大幅拡大です。この目標達成への道筋として、民間部門によ る保健医療サービス供給の拡大を推進する先進国ドナーが増えています。 民間部門に保健医療の分野で果たすべき役割があることはたしかです。 しかし、この報告書は、貧困国での民間部門による保健医療供給の拡大 を支持するこの主張を緊急に再検証する必要があると訴えます。過去の 事例を見る限り、このアプローチを優先的に採用しても、貧しい人々に保 健医療サービスを提供できる可能性は非常に低いことがわかります。途 上国政府と援助国は、世界中で何百万の人命を救うことができることが既 に実証されている方法として、国家による規制能力の強化と、保健医療サ ービスの公的無償供給の急拡大にこそ注力すべきです。 概要 世界が抱える様々な危機の中でも、保健問題以上に重要なものはありません。初 歩的な医療の不足が原因で、毎分 1 人の女性が妊娠あるいは出産のために死 亡し、毎時 300 人がエイズ関連の疾病で死亡し、さらに毎日 5,000 人の児童が 肺炎で死亡しています。世界は、国際的に合意された保健に関するミレニアム開 発目標(MDGs)の達成に向かう軌道から、完全に外れてしまっています。普遍的 かつ衡平な保健医療を達成するためには、保健医療サービスの大幅拡大が不可 欠です。この作業に失敗すれば、何億人という人々が疾病に悩まされ、早世する 運命に放置されることになります。ここで最も重要な問題は、必要なサービス拡大 をどのように達成できるのかということです。 20 年以上にわたり、世界銀行(世銀)は民間保健医療部門への投資と、その成 長を基礎とした解決策を提唱してきました。世銀は、貧困国における公的保健医 療サービスの失敗を非難していますが、そもそもこの失敗は、世銀自身が各国政 府に対し、公共部門への支出削減と大規模な構造改革を強要したことが大きな要 因でもありました。それにもかかわらず、世銀は、民間部門の方がより良い結果を 出せると結論付けています。近年は世銀も、政府に保健医療における基幹的な 役割があることを認めていますが、そこで想定されるのは主に規制当局あるいは 「管財人」としての役割であり、サービス事業者としてではありません。 民間部門主導の解決策の業績が低いにも関わらず、民間部門による保健医療の 拡大を奨励し、それに資金投入しようとする先進国ドナーや影響力のある機構の 動きが、過去数ヵ月間、目立って活発化しています。彼らの主張の根底には、「支 払い能力のある人は民間から保健医療サービスを買うべきであり、支払い能力の ない人々のためのサービスについては、政府が民間事業者にサービスを委託す るべきである」という考えがあります。このアプローチが、一向に改善しない保健 医療を改善の軌道に乗せ、貧しい人々の命を救うために不可欠かつ「常識的な」 アプローチとして推進されています。 この報告書では、万人のための保健医療サービスを達成するための規模拡大の 手段として、民間営利部門による保健医療サービス供給の拡大を提唱する議論 を検証し、その論拠が薄弱であることを示します。逆に、民間部門によるサービス 供給には本質的で重大な欠陥があり、これの拡大を推進することには高いリスク とコストを伴うことを示す重要な証拠が次々と明らかになっています。現在の議論 では、これらのリスクがあまりにも考慮されずにいます。 同時に、数多くの国際的調査研究では、公的資金で賄われる政府事業としての 保健医療サービスは、多くの国々で重大な問題を抱えつつも、民間主導サービス よりも高い業績とより衡平な保健システムの主流であり続けていることが再確認さ れています。アジアの低・中所得の国々の中で、税を主たる財源とする公的供給 に、全面的に、あるいは大部分を頼ることなく、普遍的(あるいはほぼ普遍的)保 健医療サービスを確立できた例はありません。公的なサービス供給の拡大は、国 の所得が低い状況においても、大きな進歩に結実しています。例えばスリランカ の所得はドイツの約 10 分の 1 ですが、スリランカの女性の平均寿命はドイツの それとほぼ横並びになりました。またスリランカの女性が出産する場合、スキルを 持った保健医療従事者のケアを受けられる確率は 96%にまで上ります。 民間による保健医療サービス供給の拡大を支持する議論は主に六つあり、この 報告書はそれぞれの妥当性を検証します。 2 Oxfam Briefing Paper, February 2009 第一の支持論は、最貧国では既に民間部門が保健医療サービスの重要な事業 主体となっており、いかなる拡大戦略においても、その中心とならざるを得ないと いうものです。世銀の民間投資部門である国際金融公社(IFC)の最近の報告書 は、アフリカにおける保健医療事業の半分以上が民間事業であるとしています。 しかしオックスファムが IFC のデータを分析したところ、実際には、IFC が「民間事 業」としたもののうち、品質も不明な医薬品を販売する小さな商店が実に 40%弱 を占めていました。このような商店をデータから除外し、多くの人が「保健医療サ ービス」という言葉から想定するような、訓練された保健医療従事者が勤務するク リニックのみを考慮すると、民間事業のシェアは、特に貧しい人々向けの保健医 療では、劇的に低くなります。サハラ以南のアフリカ 15 カ国の比較可能なデータ を見ると、人口中の最も貧しい 5 分の 1 のうち、病気になったときに民間の医者 の診療を受けたのは僅か 3%であったことがわかります。 また、民間部門が一部のサービスにおいて重要な供給者であったとしても、それ が保健医療の格差を是正しているということにはなりません。インドでは外来医療 の 82%が民間部門の提供するサービスで、最高級の民間病院の数も急増してい ます。しかし一方で、同じシステムの下で出産する妊産婦の半数が、出産時に何 らの医療サービスも受けられない現実があります。貧困国では、国民の大半が何 らの医療も受けられないというのが現実です。アフリカの最も貧しい子ども達は、 その半数以上が、病気になっても医療を受けられずにいます。 民間部門が時には主要な役割を果たしていながら、全体としては失敗と言わざる を得ない保健医療の現状を見て、その形態のままサービスを拡大しようとするの は、論理的ではありません。これを喩えて言うなら、治安に失敗した国で、武器を 携帯する民間のボディガードが急増していることを根拠に、民間部門が国家の警 察機構に取って代わるべきと結論するようなものです。民間部門によるサービス 供給の拡大を唱えるのであれば、公的部門によるサービス供給と比較した場合 のメリットに基づいた議論を行うべきで、単に、現在一部の貧困国で民間部門が 見方によっては重要なサービス事業体となっているからというだけでは不十分で す。 第二の支持論は、民間部門は資金不足に悩む公的保健システムに、新たな資金 を調達できるというものです。しかし、民間の保健医療事業者を低所得・高リスク の市場に引き寄せるには、多額の公的助成を必要とします。南アフリカでは、民 間医療制度の加入者の大半が、政府から免税の形で助成金を受けていますが、 これによる政府の一人当たり支出額は、公的保健医療サービスに依存する人々 への一人当たり医療費支出額を上回っています。また、民間の保健医療事業者 は、多くの貧困国で、数少ない訓練された保健医療従事者をめぐって、公的保健 システムと競合する関係にあります。 第三のよく言われる支持論は、民間部門の方がよりよい成果をより低コストで達 成できるというものです。実際には、民間部門が保健医療に参画すると、コストは 低くなるどころか高くなる傾向があります。レバノンは、途上国の中でも保健医療 の民営化が最も進んだ国の一つですが、その保健医療支出はスリランカの 2 倍 以上で、乳児死亡率はスリランカの 2.5 倍、妊産婦死亡率はスリランカの 3 倍で す。民間事業者は、医学的ニーズから求められる治療よりも、利益性の高い治療 にインセンティブを見出すため、費用が増大します。チリの保健医療システムには 民間部門が大々的に参画していますが、その結果、費用が高く不必要な場合も 多い帝王切開による分娩率が、世界でも最高のレベルになっています。保健医療 の商業化により、中国では、利益性の低い予防医療が低迷しています。保健医療 改革から 5 年間で、予防接種率は半減してしまいました。結核、麻疹(はしか)、 ポリオの有病率は上昇傾向にあり、国民に不要な病苦をもたらすのみならず、生 Oxfam Briefing Paper, February 2009 3 産性のロスと不要な医療費支出で、国家経済に何百万ドルもの損失を生む可能 性があります。 民間の事業者を管理・規制することはもともと困難な作業ですが、特に政府の力 が弱く、また価格競争をもたらすに足る数の民間事業者が存在しない場合、民間 事業の拡大は非効率をもたらします。カンボジアでは、国内最大規模の保健医療 制度の民間委託が行われましたが、技術的に合格基準を満たす入札者が少なか ったため、多くの場合、委託契約は無競争で落札され、プログラム全体の規模を 40%も縮小する結果になりました。民間事業者が運用コストを下げたのは、デー タのあるもので、委託契約プログラムの僅か 20%でした。この場合も、民間事業 者の管理に伴って政府にかかる取引費用は計算に入っておらず、この種の費用 は、政府の保健医療予算の 20%を占めることもあるのです。 第四の論点は、民間の保健医療事業はより高い質のサービスを提供できるという 主張を支持する証拠がないことです。世銀は、技術的な質の点で民間部門は公 的部門に比べ、一般的に業績が悪いと報告しています。レソトでは、委託を受け ている民間事業者の 37%しか性感染症を正しく治療できていないのに対して、公 的保健医療施設では、大規模施設で 57%、小規模施設で 96%が正しい処置を しています。規制の行き届かない大半の民間事業者による低質医療が、日々、 人々の命を危険にさらしているのです。 第五の点は、民間事業者は、当然、支払い能力のある人々にサービスをすること を好むので、貧困層の健康改善よりも、保健医療アクセスにおける格差拡大とい う結果をもたらす可能性が高いということです。低・中所得の 44 カ国のデータは、 一次医療への民間部門の参加度が高まるほど、治療や看護からの貧困層排除 が進むことを示しています。そこでは、女性と女児が最大の犠牲者になります。 IFC は、貧困層に保健医療を提供しながら投資リターンを得る方法として、一人の 医師が一日 100 人の患者(4 分に 1 人のペース)を診ることを推奨しています。 一方で、支払い能力がある人々は、より高いレベルのケアを受けることができる のです。 最後の点は、民間の保健医療事業者が公的事業者と比較して、より対応力があ るとか、汚職をしないなどとという証拠がないということです。豊かな国でさえ、民 間事業者を規制するのは非常に困難です。米国の保健医療システムでは、詐欺 のために毎年 120∼230 億ドルの損失があると推定されます。 民間部門は、貧困国の公的保健システムが抱える問題の回避策を提供するもの ではありません。これらの諸問題にはむしろ真正面から立ち向かうべきなのです。 なぜなら、公的保健医療サービスを良く機能させることが、普遍的かつ衡平な保 健医療を実現するための唯一実証された道であることを、証拠が示しているから です。ボツワナ、モーリシャス、スリランカ、韓国、マレーシア、バルバドス、コスタリ カ、キューバ、及びインドのケララ州では、保健医療サービスを組織、提供するた めに政府が行った献身的な活動により、乳幼児の死亡件数を僅か 10 年の間に 40∼70%も低減することができました。より最近の例では、ウガンダや東ティモー ルなどの国々が、先進国ドナーからの調整された資金供給を公的サービスの大 幅な拡大のために支出しました。その結果ウガンダでは、僅か 5 年間で、クリニッ クから 5 キロ圏内に居住する国民の割合が 49%から 72%に改善しました。東テ ィモール政府は、技術を持つ助産師が介助する出産の割合を、僅か 3 年間で 26%から 41%に改善しました。 公的サービスによる供給は多くの国で不足しているか、脆弱な状態ですが、これ は解決不可能な問題ではありません。保健医療の公的供給は、一部で言われて 4 Oxfam Briefing Paper, February 2009 いるように必ず失敗する運命にあるわけではありません。しかし、公的保健医療 を成功させるには、決意を伴った政治のリーダーシップと、十分な投資、証拠に基 づく政策、さらに国民の支持が必要です。これらの条件が整えば、公的保健シス テムは、規模の経済、規制管理及び質向上のための標準化されたシステム、そし て最も重要なことですが、資源を再分配し不平等を是正するための正統性と能力 を活用できるのです。スリランカ、マレーシア、香港における保健医療への普遍的 アクセスを保証する政策は、富める人よりも貧しい人に、より多くの便益をもたら すものです。インドでは、公的保健医療サービスへの投資額が大きい州ほど、都 市部と農村部の医療格差がより是正されています。実際、国際通貨基金(IMF)が 検証した途上国における 30 の調査で、政府の保健医療支出の全体的な便益が 格差を是正したという所見が出ています。 市民社会組織(CSO)は、民間営利事業体とははっきりと区別されたものとして認 識する必要があります。CSO は、実行可能で説明責任を伴った公的保健医療サ ービスの強化・拡大を支援する上で、主要な役割を担います。保健医療の事業者 として CSO は、多くの国々で、特に社会から周縁化され、排除されている何百万 人という人々の生命線となっています。CSO は営利目的ではないので、営利事 業者にあり得るいくつかの負のインセンティブから自由に活動できます。しかし、 CSO にもその能力と規模の点で限界があり、HIV、結核、マラリア感染者を含め、 治療や看護のニーズを持つすべての人にサービスを提供することは不可能です。 CSO はあくまでも国家機能を補完するものであり、国家機能を肩代わりすること はできません。ウガンダでは、宣教組織の病院と政府が連携することで成功した 例が見られますが、CSO は、このように公的システムと連携したときに最も効果 を発揮します。CSO はまた、政府や国際社会の説明責任を求めるという不可欠 な役割を果たすことで、政府が万人に無償の保健医療を提供するための行動をと るよう、政治的な圧力を生みだすことができます。 既存の民間事業者は、可能な限り公的保健システムに統合されるべきであり、そ の役割を一部拡大すべき場合もあるでしょう。しかし、保健医療への普遍的アクセ ス達成に必要な大規模な拡大の主要なアクターとしての役割を民間部門に期待 することは、このアプローチが持つ重大で証明されたリスクと、途上国での成功事 例の教訓を無視することになります。特に、ほとんどの低所得国では、高級で高 価なフォーマル民間事業は、大多数の国民にとって全く関わりのないものです。そ のような部門の成長は、公的保健システムの負担増に直接つながり、医療を最も 必要とする人々に医療を届ける能力を阻害します。このような部門を税金あるい は国際援助資金を用いて助成することは正当化できません。 同時に、政府は訓練や国民の啓発などの方法を通じて、膨大な数に上るインフォ ーマルな民間保健医療事業者の水準を改善する努力もしなければなりません。し かしこれは大変困難な作業であり、成功国の事例をみるかぎり、無償の公的サー ビス供給拡大に投資することで、競争を通じて民間サービスの質向上を促すこと が、民間部門の規制に最も有効な方法であるようです。インドのケララ州では、公 立病院の質は完璧というには程遠いものですが、民間部門が提供する保健医療 サービスの質に、事実上の「最低線」を設定する機能を果たしているようです。従 って、各種のインフォーマル事業者の質を向上しようとする直接的な試みは、まず 公的保健システムを主な保健医療事業者として拡大・強化するための、より長期 的で持続可能な戦略を行ったうえで、追加措置として取り組むべきです。 一方で、成功例が存在するからといって、公的保健システムが大きな課題に直面 しているという事実はいささかも変わりません。また、ここに挙げた証拠は、民間 部門には果たすべき役割がないということを示すものでもありません。民間部門 は多様な形態で今後も存続するでしょう。それに伴う費用を撤廃もしくは管理する Oxfam Briefing Paper, February 2009 5 と同時に、その潜在的便益についてもより良く理解し、活用する必要があります。 しかし、保健医療への普遍的かつ衡平なアクセスを実現するには、公的部門をそ の主たる供給事業者として機能させる努力なしに成功はありえないということは、 すでに歴史が証明しています。途上国政府と先進国ドナーは、今こそ本当の変革 を起こし、万人のための無償の公的保健医療の急速拡大を最優先事項とすべき です。 提言 先進国ドナーへの提言 • 低所得諸国における無償の公的保健医療の普遍的供給を拡大するための 資金拠出を、「国際保健パートナーシップ(IHP)」を通じた拠出金も含め、急 速に増額する。援助はドナー間で調整し、予測可能な形で、かつ長期にわた って行い、可能な場合は保健セクター向けの財政支援、もしくは一般財政支 援として提供する。 • 公的サービス供給拡大の成功事例研究を支援し、教訓を途上国政府と共有 する。 • 市場原理に基づいた公的保健システム改革と、民間による供給拡大を基調 とした、十分に検証されていない高リスクな政策を奨励したり援助資金を投入 するのではなく、このような方策に関連する証拠とリスクを熟慮する。 • 開発途上国政府が、既存の民間保健医療事業者を規制するために必要な能 力を強化するための支援を行う。 途上国政府への提言 • 市場原理に基づいた公的保健システム改革と民間部門による保健医療の供 給拡大という、十分に検証されておらず機能し得ない政策方針の実施を求め るような先進国ドナーからの圧力を拒否する。 • 政府予算の最低 15%を保健医療に支出し利用者負担を廃止することを含め、 一次医療・二次医療サービスの公的供給拡大という証拠に基づく戦略に資源 と専門知識を投入する。 • 計画策定、予算プロセス、および公的保健医療サービス供給の監視への市 民の参画と監督を確保する。 • 公的保健医療サービスへのアクセスとその質を最大化するために、市民社会 と連携する。 • 営利目的の民間保健医療サービス事業者による公衆衛生へのプラスの貢献 を確保し、またリスクを最小化するように、民間事業者の規制に尽力する。 • 世界貿易機関(WTO)における「サービスの貿易に関する一般協定 (GATS)」を含む、二国間・域内・国際的な貿易・投資協定から保健医療サー ビスを除外する。 市民社会への提言 • 6 政策策定への関与、医療費支出とサービス供給の監視、汚職の暴露など、 政府の説明責任を追及するための行動を協調して行う。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 • 事業を商業化する圧力を排し、援助国や政府に、普遍的公的保健医療サー ビスを強化するように求める。 • 「保健システム強化のための NGO 行動規範(NGO Code of Conduct for Health Systems Strengthening)」への署名を含め、CSO が提供する保健 医療サービスが、確実に公的保健システムを補完し、その拡大に資するよう にする。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 7 1. はじめに 世界が抱える様々な危機の中でも、保健問題以上に重要なものはありま せん。初歩的な医療の不足が原因で、毎分 1 人の女性が妊娠あるいは出 産のために死亡し、毎時 300 人がエイズ関連の疾病で死亡し、毎日 5,000 人の児童が肺炎で死亡しています。ミレニアム開発目標 (MDGs)が設定された 8 年前に比べて、予防接種を受ける児童の数が 減少し、死亡する妊婦の数が増加したという事実は、スキャンダル以外 の何物でもありません。このような後退現象を反転させるには、貧困国 における保健医療を大幅に拡大するしかないという点は、広く合意が得 られています。しかしその手段については、意見が分かれています。 20 年以上にわたり、世界銀行(世銀)やその他の国際機関は、途上国 の公的保健医療サービスが国民に保健医療を届けるという使命遂行に失 敗していることを非難し、民間の保健医療事業こそ信頼に足るより好ま しい代替手段であるとして、その役割の拡大を奨励してきました。貧困 国への融資の条件として世銀は、利用者負担導入を含む保健システムの 大変革を要求し、利用者負担制度は今日まで、ほとんどの貧困国に依然 として残っています。『世界開発報告書 2004 貧困層向けにサービス を機能させる』に、基本的なアプローチが説明されています。それは、 政府は、自己負担できる層に対しては民間保健医療事業者によるサービ ス供給を奨励し、自己負担できない層へのサービス提供については、民 間営利組織及び非営利組織が政府に代わって遂行するように、事業を委 託すべきである、というものです1。 多くの OECD 諸国でも注目を集めているこのアプローチは、「新公共 経営(New Public Management: NPM)」と呼ばれ、公共サービスに民 間市場に類似した行動様式を導入しようとするものです。政府の役割を 再定義し、サービス供給事業自体からは手を引き、事業規制と購入に専 念すべきとする考え方です2。保健医療は、対価を払って購入する商品 であり、理想的には国民自身がその支払いを負担し、市場にサービスの 合理化を委ねるという考えです。そこでは、政府の委託契約受注をめぐ る事業者間の競争と、顧客を引き付けて利益を得ようとする動機が、効 率、質、そして全体的アクセスを高める、とされています。 世銀のほか、今日では、保健医療政策に民間部門の関与の必要性を謳う 先進国ドナーが増えています。米国際開発局(USAID)、英国国際開発 省(DFID)、及びアジア開発銀行は、この方向への歩みさらに一歩進 め、世銀の例に倣って、アフガニスタン、バングラデシュ、カンボジア などの諸国で民間部門へ保健医療事業を委託する、大規模な委託契約プ ログラムに多額の援助資金を拠出しました。 過去 18 ヶ月間、先進国ドナーが貧困国で保健医療への民間部門の関与 を支援する動きが目立って増えています。2007 年には、世銀の民間投 資部門である国際金融公社(IFC)は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が スポンサーとなりマッキンゼー・アンド・カンパニーが調査した報告書 を発表しました。『アフリカにおける保健ビジネス:国民生活向上のた めの官民連携(The Business of Health in Africa: Partnering with the 8 Oxfam Briefing Paper, February 2009 Private Sector to Improve People’s Lives )3』と題されたこの報告書は、 IFC が、サハラ以南アフリカの保健医療への民間部門参画拡大資金とし て、10 億ドルの株式投資と融資を調達するという発表とともに公表さ れました。 世銀の「2007 年保健・栄養・人口(HNP)戦略」は、保健医療におけ る官民提携のための政策環境を整えるために、IFC と「密接な連携」を 取ると確約しています4。より最近では、世銀とその他の先進国ドナー が民間事業者を助成することにより、マラリア治療薬を配布しようとす る世界的な「マラリア治療薬購入促進機関(Affordable Medicines Facility for malaria: AMFm)」を提案しました(囲み記事 5)。英国政 府は、この制度への 4000 万ポンドの出資を既に誓約しています。 このように世銀は、民間部門主導の解決策支援に著しい努力を行ってい ますが、これに比べ、保健医療の政府供給拡大を支援するために、世銀 の専門性と能力を強化するとしたコミットメントの方は、今日に至るま で具体化されていません。この状況は、保健医療事業者が公的か私的か に関してはこだわらないとする世銀の主張に疑念を抱かせます。歴史的 には政府が直接保健医療サービス供給を担ってきたという事実があるに もかかわらず、世銀は、『世界開発報告書 2004』の中で、政府供給に 対し、保健医療サービス供給の六つのモデル選択肢の一つとしての位置 づけしか与えていません。しかも、この報告書では、民間の受託事業に 比べた政府事業の比較優位を一切認めず、この選択肢を明らかに未開発 のまま放置しています5。 同じ時期に、強力な医療関連企業6 が、国際的・国家的な保健医療の政 策策定への関与を強め(例えば、「世界エイズ・結核 ・マラリア対策 基金」や、「ワクチン予防接種世界同盟(GAVI)」などにおいて)、 構造的な利害相反をもたらしています。しかし大半の公的開発機関は、 この利害相反については黙認を決め込んでいるようです7。先進諸国も 「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」交渉と、その他数々の 二国間貿易協定8 において、保健医療サービスの商業化と民営化を推進 しています。これらの協定は、営利目的の民間部門が政府の保健医療サ ービスを不当競争として提訴することも可能な状態を、不可逆的にもた らす危険性を秘めています9。 このような動向がある以上、貧困国の保健システムへの民間部門の関与 を支持する議論とその証拠について早急に検証し、これらが普遍的かつ 衡平なアクセスという重要な目標達成に与える影響を調べる必要があり ます。オックスファムは最近、他の開発支援団体と共同で、医療保険に 関する報告書を発表し、医療費の個人負担に関連する証拠を検証しまし た10。それに対してこの報告書は、保健医療サービス供給における民間 部門の役割に焦点を当てています。 この報告書は、貧困国における民間保健医療サービスの供給拡大を支持 する主張の是非を検証しています。主に、営利目的のインフォーマル及 びフォーマルな民間事業で、政府から独立し、かつ政府からの委託によ り運営されている事業に焦点を当てています。また、市民社会組織によ る保健医療事業の実績に関しても、入手できた証拠について若干の検証 をしています。次にこの報告書は、普遍的かつ衡平なアクセスを達成す るために公的保健医療供給を拡大する機会を検証しています。そして、 Oxfam Briefing Paper, February 2009 9 万人のための保健医療を達成することが目的ならば、先進国ドナーは、 民間部門主導の解決策支持を再検証し、公的部門を機能させることに軸 足を移すべきであると結論付けます。 囲み記事 1: 民間保健サービス部門の構成要素 貧困国における民間の保健医療部門には、営利/非営利、フォーマル/インフ ォーマルの事業者があり、多様で細分化されています。民間部門の構成は、政 治的、歴史的、経済的要因に大きく左右されるため、国によって異なります。 フォーマル営利事業者には、海外・国内企業の他、有資格の個人が経営する大 小様々な保健医療施設と薬店が含まれ、営利目的で活動しています。これらの 事業者は法的に登録され、政府も認定しています。 インフォーマル営利事業者は、営業許可を取っておらず、行政の規制が届いて いません。概して、小規模経営で、伝統医療による治療師、産婆、「注射屋」、薬 店、薬のスタンドなど、多様な個人営業と企業営業の形態があります。多くの低 所得国では、近代的医療への需要の高まりに応じて、保健医療の専門職を騙る 無資格の個人が急増しています。 非営利事業者は、宗教・信仰団体、慈善団体、社会的企業、その他の非政府組 織(NGO)を含み、多種多様な保健医療サービスを提供しています。その活動に はフォーマルである場合とインフォーマルである場合があり、また行政の規制を 受けている場合とそうでない場合があります。これらの組織は、営利目的ではあ りませんが、多くの組織は提供したサービスの経費を回収しようとします。この報 告書では、この種の事業者を市民社会事業者と呼びます。 民間及び市民社会事業者は、公的保健システムの外で事業展開していますが、 国家の代わりにサービスを提供することを国家から直接委託されるケースが増 えています。この動きは保健医療サービスに市場原理を導入し、政府の役割を 公的保健システムの直接の供給者ではなく、その購入者、規制当局、管財人と いう役割に移行させようという大きな流れの一環として起こっています。 10 Oxfam Briefing Paper, February 2009 2. 保健医療の民間供給拡大推進論を検証 する 低所得国の保健医療供給を民間部門に委ねることの利点を 20 年以上も 提唱してきた世銀やその他の先進国ドナーですが、この方針の方向性を 支持するような経験的証拠は、驚くほど僅かしか提示していません。最 近の IFC 報告書は、アフリカにおける保健医療サービス供給の範囲、規 模、質、効率を向上するのに、民間部門は顕著な貢献をすることができ ると主張していますが、同時に、この主張の根拠が薄弱であり、試験的 に実践したアイデアを体系的に評価したり、より大規模に展開したりし たことはほとんどないということも認めています11。 保健医療の民間供給の支持論は、以下のように六つに大別されます。 1. 多くの国で、民間部門が現実に主たる供給主体である以上、保 健サービス拡大の中心を担うべきである。 2. 民間事業の拡大は政府を補完し、公的保健医療サービスの負担 を軽減できる。 3. 民間事業の方が、効率が良い。 4. 民間事業の方がより効果的で良質である。 5. 民間事業は最貧層に保健医療を届けることができる。 6. 民間部門は、競争を通じて、説明責任を向上できる。 支持論 1:「民間部門がすでに多くの国で主たる供 給主体となっている以上、保健サービス拡大の中 心を担うべきである」 「今日、アフリカの貧しい女性は、子どもが病気になると、公立病院と 同じくらいの確率で、私立病院やクリニックを利用しています。」 (IFC エグゼクティブ・バイスプレジデント兼 CEO) 「無償のサービスが不在な場合、貧しい人々は、民間のクリニックには 行かず、まず藪に入って薬草を探します。」(マラウイ保健大臣、上級 公務員) 貧困国における民間部門による保健医療の供給拡大を提唱する人々が最 もよく用いる議論の一つは、「民間部門は既に保健サービス供給の主役 になっており貧困層も利用している」というものです。最近の IFC 報告 書は、「アフリカにおける医療費支出のほぼ 3 分の 2 と、保健医療サー ビスの約半数を、民間部門が占める12」としています。この議論では、 民間部門が既に保健医療における中心的役割を果たしている以上、貧し い人々のニーズを満たすために、これの更なる拡大を奨励するのは「常 識」だということになります。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 11 しかし、オックスファムが IFC のデータを分析したところ、「アフリカ における『民間供給』」とされたものの約 40%が、品質も不明な医薬 品を販売する小さな商店で占められていました13。マラウイなどの国々 では、このような商店が民間事業者の 70%以上を占めます(図 1)。イ ンドの統計も、情報と医薬品を求めて無資格の店員を利用するのは主に 貧困女性であることを示しています14。富裕国では、母親が病気の子ど もを道角の商店に連れて行って診断と治療を頼むという光景は考えられ ませんが、「民間医療の提供」と言うとき、これが大半の貧困層が経験 する医療なのです。このような商店をデータから除外し、多くの人が 「保健医療サービス」という言葉で想定するような、訓練された保健医 療従事者が勤務するクリニックのみを考慮すると、民間事業のシェアは、 劇的に低くなります。サハラ以南アフリカ 15 カ国の、比較可能なデー タを見ると、人口中最も貧しい 5 分の 1 のうち、病気になったときに民 間の医者の診療を受けたのは僅か 3%であったことがわかります15。 図1:マラウイの総人口の最貧5分の1がかかる民間保健医療事業者の内訳 民間の薬店 0% 民間保健医療 施設 11% 民間の医師 1% 伝統 医療の 治療 師 15% 商店 73% 出典:『マラウイ人口統計・保健調査(2000年)』データからオックスファムが作 16 成した図 いかなる拡大戦略も、妊産婦の救命医療を中核に据えるべきという認識 は広く共有されていますが、そのためには、店員のアドバイス程度では 不十分であり、訓練された助産婦あるいは医師の介入が必要です17。実 際、世銀自身が行った、女性の出産場所に関する分析によると、女性の 貧富を問わず、概して政府サービスが民間サービスよりも遥かに良い成 績を上げています18。インドでは、産前医療を必要とする女性の 74%が、 慢性的な資金不足に悩む公的保健システムを頼っています19。 エイズ治療薬にアクセスできない一千万人にリーチし、世界の死因の 60%を占めるようになった糖尿病、ガン、心血管系疾病など増え続ける 慢性病患者に応えるためには、薬店のサービスを遥かに超えるものが必 要です。効果的で安価な治療薬、有資格人材、病状を監視・処置し患者 12 Oxfam Briefing Paper, February 2009 を継続的に看護する能力を備えた機能的な保健サービス施設を、複数回 利用できるようにする必要があるのです。 さらに、現在提供されている医療において民間部門がどの程度の割合を 占めているかを調べたところで、健康に対する権利が保証されているか どうかとは何の関係もありません。例えば IFC は、インドの保健医療シ ステムは民間部門に支えられていると主張します20 。実際同国では、民 間部門は外来医療の 82%を提供しており21、最高級の私立病院の数も急 増、「ヘルスツーリズム(健康をテーマとする観光旅行)」も 2012 年 までに 10 億ドル産業に発展するだろうと言われています22。しかしこの 同じ保健システムの下で、5 割の女性が、出産時に何らの医療措置も受 けられないという状況も存在しているのです。 汎米州保健機関(Pan American Health Organisation)は、ラテンアメ リカの人口の 47%が、必要な保健医療サービスから排除されていると 推定しています23。図 2 は、サハラ以南アフリカ 26 カ国のデータですが、 最も貧しい子ども達の半数以上が、病気になっても何の医療も受けられ ずにいることを示しています。 図2:サハラ以南のアフリカで、最貧5分の1の子どもが病気になったときに利 用する保健医療事業者 その他 2% 公的事業者 25% 無診療 51% 民間事業者 (商店含む) 22% 出典:サハラ以南のアフリカ 26 カ国の『人口統計・保健調査(1999∼2001 年)』 のデータからオックスファムが作成した図24 保健医療事業の大幅な拡大が必要とされていますが、その中で民間部門 が占める割合が、今と同等あるいはそれ以上であるべき先験的な理由は 存在しません。民間部門が時には主要な役割を果たしていても、状況全 体としては失敗と言わざるを得ない現状を見て、この形態のままサービ ス拡大を行うべきとするのは、論理的ではありません。これを喩えて言 うなら、治安に失敗した国で、武器を携帯する民間ボディガードが急増 していることを根拠に、民間部門が国家の警察機構に取って代わるべき と結論するようなものです。民間部門によるサービス供給の拡大を唱え るのであれば、公的部門によるサービス提供と比較した場合のメリット Oxfam Briefing Paper, February 2009 13 に基づいた議論を行うべきであり、単に、現在一部の貧困国で民間部門 が見方によっては重要なサービス事業体となっているからというだけで は不十分です。 支持論 2:「民間の保健医療事業拡大は政府を補 完し、その負担を軽減できる」 民間の保健医療サービス供給拡大を推進する、もう一つのよく聞かれる 主張は、低所得の国々がぜひとも必要とする追加的な資本と収容力を、 民間部門がもたらせるというものです。世銀と IFC による最近のプレゼ ンテーション25は、政府支出と外部からの援助の増額が予想されるとし ても、サハラ以南アフリカは今後何年間も基本的な保健医療の資金を調 達できないというという前提に立っています。この議論は、公的部門を 補完し、その負担を軽減するには、民間部門に頼る以外に方法がないと 結論付けます。 最初の論点は、保健医療分野の資源にまつわる現状を不可変のものとし て受け入れるべきではないということです。保健医療への資金拠出は近 年増大しており、大きな違いをもたらしています。しかし、先進国ドナ ーと途上国政府には、ミレニアム開発目標を達成し、国民の健康に対す る権利を保証するように、より強い圧力をかけることが求められます。 また、公的資金が増えなかったとしても、民間部門が実際に追加的な資 源(カネとヒト)をもたらし、公的システムを補完し、貧しい人々に保 健医療を届ける一助となるのかという疑問が残ります。 カネはどこから? 民間部門であっても、資金はどこかから調達する必要があります。民間 営利事業者が投資するのは、お金を得るためです。包括的な保健医療サ ービスを貧困層に提供する民間事業というのは、概して利益性がないた め、公的資金による大型助成を必要とするのが普通です。これを IFC は 奨励しています。これは即ち、政府も先進国ドナーに対して、民間の保 健医療企業の助成に充てる公的資金及び援助資金の割合を高めることを 奨励していることになります26。世銀も、先進国ドナーに対し、民間部 門を助成することによって貧困国におけるマラリア治療薬の価格を下げ るために、10 億ドルの援助金拠出を要請しました(囲み記事 5)。しか し、援助の総額を増やさずに民間部門への資源配賦の割合を高めれば、 当然、公的部門への資源配賦は減ることになります。 途上国政府はしばしば、そのハイリスク・ローリターンの保健医療市場 に民間事業者を誘致するために、助成金支給や免税措置を行うよう奨励 されています27。このための国庫への負担はかなりの額になります。南 アフリカでは、民間医療制度の加入者の大半が、政府から免税措置を受 けていますが、この一人当たりの政府支出額は、公的保健医療サービス に依存する人々への一人当たり医療費支出額を上回っています28 29。民 間による保健医療事業を推進する、もう一つのよくある戦略は、富裕層 に対し、政府システムの外で医療を購入するよう奨励、時には強制する やり方です。しかし、富裕層が公的保健システムから脱退して民間サー 14 Oxfam Briefing Paper, February 2009 ビスを利用すると、政府の保健医療向け支出に対する富裕層の支持が減 る可能性が高くなります。その結果政府は、縮小する資金を元に、より コストがかかるような層や、健康問題のしわ寄せをより強く受ける層へ のサービス供給に取り組まなければならなくなります。チリでは、脱退 オプションを導入したことで、保健医療システム全体の効率性と衡平性 が失われてしまいました30。 ヒトはどこから? 「電気代、水道料金、食費を引いたらもう何も残りません。自分の給料 では生活できません。リロングウェの私立病院で不定期のシフト勤務を していますが、これは良い状況ではありません。私達が生き延びるため にやっていることが、システム全体を壊しつつあるのです。」マラウイ、 ドーワ地域病院、マティアス・ジョシュア医師 民間部門が公的部門と奪い合うことになるのは、カネだけではありませ ん。保健医療システムは、保健医療サービスの管理・組織・提供に必要 なスキルを持ち、訓練を受けた専門職の人材によって作られるものです。 これらの専門職の人材は、既に深刻な不足に直面しています。世界保健 機関(WHO)の『世界保健報告 2006』31は、57 カ国で合計 425 万人の 医師、看護師、その他サポート職員が不足していると試算しています。 サハラ以南のアフリカは、この影響を最も強く受けている地域です。 国全体の保健医療サービス供給能力を民間部門が増大できるという主張 がされるとき、往往にして、民間部門は通常、追加人材をもたらすわけ ではないという事実が無視されています。IFC 自身が説明しているよう に、民間部門の急成長は、有資格の保健医療従事者をより報酬の良い営 利事業に引き寄せてしまい、人材不足を益々悪化させる可能性がありま す32。例えば、タイでは、保健医療従事者の分布の格差を是正するため の政府の努力により、1980 年代の僅か 6 年間で、農村部の医師の数が 300 人から 1162 人まで伸びるという驚異的な成果を上げました33。しか し、私立病院への投資を支持する改革が、都市部の私立病院への人材移 動を招き、せっかく得られた成果も劇的に後退してしまいました。今で は、農村部の公立クリニックは最小限のスタッフしか配置されないまま、 最悪の健康問題を抱える最貧の最も立場の弱い国民の治療に当たってい ます。タイ公衆衛生省の統計がこの点を如実に物語っています。政府に 雇われている医師の純離職率は 1994 年に 8%だったものが、1997 年に は 30%に増えています。 このような限りあるカネとヒトを巡る獲得競争は、民間部門の成長が公 的部門の負担を軽減するどころか、貧困層に保健医療サービスを提供す るために必要な貴重な公的資源を奪うことにつながりかねないことを示 しています。 囲み記事 2: 保健医療事業における市場原理の欠陥 世銀は、購入者と提供者の役割分離により保健システムに競争原理を導入する ことさえできれば、サービスを提供する主体自体は誰でもよい、としています34。 しかし、公共サービスに市場原理を導入することのメリットに関するコンセンサス は存在しておらず、逆に先進国でも途上国でも、このようなメリットに対する強い 異論が出ています。そして、市場原理に基づく保健医療事業には、市場原理そ Oxfam Briefing Paper, February 2009 15 のものに起因する欠陥があり、それらをすべて解消しないことにはうまく機能しな いであろうという点は、一般的に認識されています35。 第一に、営利目的であるということは、民間事業者には、支払い能力のない 人々にサービスを提供するインセンティブがないことを意味します。 第二に、患者は自らのニーズを熟知しておらず、サービスの質を多方面から判 断することができず、診断や治療法の選択も事業者に任せがちです。これは「情 報の非対称性」と呼ばれる現象で、政府と受託事業者の間にも様々な形でこの 非対称性が存在します。その結果、特に有償サービスの場合、過剰請求、過剰 治療、過少治療、及び質の低下によって高収益を得られるという歪んだインセン ティブ制度になります36。この損害は甚大で、米国政府は、病院外医療を含む有 償サービスへのメディケアの不適正支出が、年間 120∼230 億ドル、全医療費 支出の 7∼14%に上ると推定しています37。 第三に、国民の健康を守ることは、個々人の健康状態を良くするだけでなく、国 民全員への便益です。結核のような感染症の治療は、その個人だけではなく、 その個人から感染したかもしれないすべての人々、つまり社会全体にとって有 益です。市場原理はこのような付加価値を考慮せず、個人への価値しか考慮し ないため、特に国民の大半が支払い能力を欠くような貧困国に蔓延する疾病な どの分野が、低投資に苦しむ可能性があります。 最後に、貧困国の国民と政府には、保健医療事業者に関して選択肢がない場 合が多いということです。多くの場合、事業者がいるだけでも幸運という状況で す。このため、市場を通じた効率性改善の前提となる競争が存在し得ません。 歴史を振り返れば、先進国政府が例外なく保健医療サービスに介入することに なった背景には、これらの市場原理の欠陥という要因がありました。世銀等の機 関は、市場原理にこのような欠陥があること自体は否定していませんが、慎重に 規制さえすれば、これらの欠陥は解消できると考えているようです。しかし、それ は、最富裕国でさえ、なかなか実現できない作業であることを忘れるべきではあ りません。 支持論 3:「民間部門の方が効率が良い」 「幸いなことに、我が国には世界最高の保健医療システムがあります。 この状態は守らなければなりません。守るためには、民間市場こそ強化 すべきなのであり、昨今ワシントンDCで聞かれる、連邦政府に保健医 療を運営させるべきだという議論には対抗する必要があります。我々は この考えは間違っていると考えます。私は賛成できません。私は、最良 の保健医療システムは、民間市場から生まれるシステムだと信じてい る」ジョージ・W・ブッシュ大統領、2004年1月28日 「4600 万人のアメリカ人が何らの保健医療も受けられないという現実は 間違っています。地球上の他のどの国よりも高額の医療費を支出してい る国において、これは間違っているとしか言いようがありません」バラ ック・オバマ米国上院議員、2007 年 1 月 17 日、「ファミリーズ USA」 会議での「国民皆保険制度の時代が来た」と題したスピーチ 公的保健医療サービスは、その階層的構造や官僚主義的なシステム・プ ロセスのために、長年、非効率なシステムと批判されてきました。対し て、民間事業者はより効率的な代替手段としてもてはやされています。 16 Oxfam Briefing Paper, February 2009 しかし、公益のために民間部門を働かせる試みは、本当に政府が直接サ ービス提供するよりも少ないコストで実現できるのでしょうか? 事実を見ると、保健医療部門への民間の参画拡大は、多くの国々で、高 コスト・低効率と関連付けられています。1980 年代からの中国におけ る民間保健医療施設の急増は、生産性の顕著な低下、価格高騰、利用率 低下をもたらしました38。レバノンは途上国の中でも保健医療民営化が 特に進んだ国の一つですが、その保健医療支出はスリランカの 2 倍以上 であるにもかかわらず、乳児死亡率はスリランカの 2.5 倍、妊産婦死亡 率はスリランカの 3 倍です39。米国の商業化された保健システムは GDP の 15.2%の支出を記録していますが、隣国カナダでは、国家の保健シス テムが GDP の僅か 9.7%の支出で賄われています40 41。にもかかわらず、 カナダの乳幼児死亡率は米国よりも低く、カナダ人の平均寿命は米国人 より 2 年長くなっています42。 市場原理に基づく保健医療システムでは、本質的に、医学的ニーズより も高収益の治療を追求することにインセンティブがあるということが、 価格高騰の大きな一因です43。途上国の中でも先駆けて保健医療システ ムへの民間部門の参画を徹底的に実施したチリでは、帝王切開による分 娩率が世界でも最高レベルになっています44。手術と病床の高利用率か らより多くの収益が得られるため、帝王切開による分娩を選択する率は、 民間施設で公的施設の 4 倍となる例もあります45。その一方で、予防医 療の社会全体への経済効果――不要な治療と生産性ロスの回避により節 約される数百万ドル――は事業者の収益に転換されないため、民間事業 者が予防医療に従事する可能性は低くなります。中国では公的保健シス テムに市場原理によるインセンティブを導入して以来、保健医療施設が 予防医療サービスから収益の高いサービスに資源の配分を変更する現象 が見られます46。この現象と同時期に、麻疹(はしか)、ポリオ、結核 の有病率が著しく上昇しています47。 民間部門拡大の提唱者は、民間事業者に公式に委託することにより、政 府は民間市場の欠陥を管理しつつ、民間部門の競争原理を利用してコス トを下げることができると主張します。この仮説は、以下のような複数 の仮定に依拠しています。 1. 競争を生むに足る数の、能力のある民間事業者が存在する、 2. 民間事業者が同じサービスをより低いコストで提供することが 実際に可能である、 3. 購入者と提供者の役割を分離し委託契約関係を導入することの 利点は、そのような導入に関わる取引コストを上回る、 4. そして最後に、政府は民間部門との正式な委託契約関係を管理 し、そこから便益を得る能力を備えている48 。 しかし、これらの四つの仮定は根拠を欠いています49 50。 第一に、必要な範囲と規模の保健医療サービスを提供できる民間事業者 がほとんど存在しない低・中所得の国々では、真の競争状態を作ること は困難です。カンボジアでは、過去最大規模の保健医療制度の民間委託 の試みが行われましたが、技術的に合格基準を満たす入札者が少なく、 多くの場合、委託契約は無競争のまま落札され、パイロット・プログラ Oxfam Briefing Paper, February 2009 17 ムの全体的規模を 40%も縮小する結果になりました51。アフガニスタン では、国中で委託契約を実施されていますが、遠隔地では、やはり競争 原理が有効に働いていません52。WHO は、委託契約の効率性に関する 膨大な量の文献を精査した結果、「大半の低・中所得の国々の大半の地 域では、概して、競争、あるいは単に意義申し立てための必要な条件が 整っていない53」と結論しています。 第二に、保健医療の委託契約に関する最新の検証では、公的事業者と民 間事業者の運営コストの比較を試みた研究は 5 件しか見当たりませんで したが、そのうち、2 件(バングラデシュとカンボジア)では、民間事 業者は公的事業者と比べてより効率が悪いか、よりコストが高いことが 判明し54、別の 2 件では、どちらとも言えないという結論になりました。 残りの 1 件のみ(コスタリカ)で、効率の点では民間委託契約のプラス 効果が観察されたとしていますが、ここでも保健の改善効果は観察され ませんでした55。 囲み記事 3: 「政策に基づく証拠策定?56」保健医療サービスの民間委託契約 に関する世銀審査 過去 10 年間に途上国で行われてきた、保健医療サービスの民間契約委託によ る効果を証拠に基づいて検証しようとする試みは、いくつか行われています57。 その結果にはばらつきがあり、データの質も悪いことから、執筆者の大半が、結 論を導くことを控えるか、あるいは非常に注意深い結論を導いており、全員が、 更なる調査研究が必要であるとしています。これに対して世銀は、より楽観的な 評価を下しています。世銀は、10 の委託契約プロジェクト例を検証し、委託契約 は「同じサービスを政府が提供するよりも良い成果を出すことになり」、民間への 委託を「効果が実証されていない措置であるとか、いわゆる『信念による論旨の 飛躍』とすることはもはやできない」ことを、現在の証拠が示していると結論して います。そして、「保健医療サービス供給の委託契約を拡大するべきである」と いう提言が続きます58。 執筆者達自身が認める方法論上の欠陥59と、そこで提示された結論を覆す最近 の証拠60を考慮すれば、委託契約こそがより良い成果の原因であるとするの は、単純すぎる論法と言わざるを得ません。 カンボジアの事例がこの問題をよく表しています。同国では、委託契約を請け負 った INGO(国際非政府組織)が、政府によるサービスが従前どおりに継続され た統制群地区と比較して、保健医療へのアクセス、その衡平性及び質の向上に 成功しました。この評価結果は、委託契約の調査研究の中でも最も厳密な手法 で行われたものとされており、世銀や他の機関は、他の国・地域でも委託契約化 を推進する根拠として、多用しています。しかしここでは、委託契約がこのような プラス効果の原因であったことは自明のものとされており、これよりも遥かに重 要性が高い可能性のある別の要因(例えば、政府の 5∼8 倍という給与設定、 個人開業を禁止する合意を含むスタッフ管理の改善、政府サービス地区に対し て約 2.5 倍の資金投入に支えられた利用者負担の大幅削減または全廃など) については過小評価されています。 第三に、委託契約事業者の調整と規制には追加の調達、管理、規制費用 がかかりますが、これらが費用比較研究時に考慮されることはめったに ありません。この種の費用も高額に上る場合があります。セネガルとマ ダガスカルにおける栄養サービスの委託契約管理・監視費用は、全予算 の 13∼17%と推定されます61。チリとアルゼンチンでは、公立病院の管 18 Oxfam Briefing Paper, February 2009 理を民間に委託したことにより、管理費用が医療費支出の 19∼20%ま で増大しました62。英国では、「国民保健サービス(NHS)」を市場原 理により改革したところ、管理費用が倍増しました63。 最後に、購入者と提供者の役割を分離する保健医療モデルでは常に取引 費用が発生しますが、政府の力が弱く経験が乏しい場合、民間の営利事 業者との契約関係から効率化を達成する可能性は益々低くなります。途 上国における民間の保健医療事業を徹底的に検証したところ、政府が契 約リスクを恐れて、委託事業者に「効率化を求める圧力をかけられな い」状態になっていることがわかりました64。世銀によるアフリカの事 例の検証では、政府が不利になるようなリスク分配契約を民間事業者と 締結している事例が数例見られました65。比較的強力な国家である南ア フリカでさえ、サービス供給にかかる実際の費用と競争の程度に関する 政府の知識不足から、効率化のメリットは、政府ではなく民間会社が、 高収益という形で全面的に吸収してしまっています66。 これらを考慮すれば、民間事業者を通じた保健医療サービス供給の、公 的供給に対するコスト面での優劣は、途上国政府と先進国ドナー双方に とって、根本的な懸念事項であるべきです。そして現在入手可能な証拠 では、民間事業の方が、大幅なコスト増につながりかねないことを示唆 しているのです。 支持論 4:「民間部門は、保健医療サービスの質と 効果を高める一助となる」 保健医療における質の好悪は、生死を左右します。肺炎の子どもにマラ リアの治療をしたら、その子どもは死亡するかもしれません。質の好悪 を運に任せるわけにはいきません。 質を下げることにより利益を上げるという市場原理のインセンティブの 最悪の例が、インフォーマルな民間事業者が行う保健医療事業に見られ ます。貧困国の大多数の人々は、支払能力がなく教育レベルも低いため に、無資格の薬品販売業者や偽医者など、健康に対する重大な脅威とな りかねない事業者に依存しています。IFC も「サハラ以南アフリカで、 民間保健医療の欠陥により最も甚大な被害を受けているのは、低所得か つまたは農村部の人々である」ことを認めています67。 ベトナムの農村部における公的事業と主にインフォーマルな民間事業を 比較した大規模研究では、両者ともに国の基準を大きく下回りましたが、 民間部門の質は公的部門に比べて著しく低質であることもわかりました。 また、子どもの呼吸器系感染症と下痢を伴う感染症に対する治療不全は、 特に同国の公的保健システムでの勤務経験がない民間の保健医療従事者 で顕著でした68。 囲み記事 4: 偽医療の落とし穴に落ちる人々 「デリーのスラム。裸足の労働者、痩せ細った主婦、半裸で鼻汁を垂らした子ど も達が『ベンガル人の医者』に診てもらおうと、鉄板とベニヤ板をつなぎ合わせた 小屋の外に並ぶ。中で待つ、こざっぱりとした服装の 30 代の男、ヌール・ムハメ ッドは、たしかにベンガル人だが、医者ではないことは本人も悪びれずに認めて Oxfam Briefing Paper, February 2009 19 いる。にもかかわらず、彼が患者の体温と血圧を検診し、何らかの錠剤――そ の多くは抗生剤である――を手渡すと、患者たちは尊敬のまなざしで頷き、代金 を支払う。 デリー医学審議会(Delhi Medical Council)の偽医療防止委員会議長を務める K. K. コーリ氏によれば、インドでは偽医者の数が本物の医者の数を上回る。デ リーだけで、偽医者の数は 40,000 人に上る。 コーリ氏は、『偽医者は急性患者を受け入れても、慢性疾患患者にしてしまう』と 言う。偽医者達は、診断を誤り、患者の気分を良くするためにステロイド剤を処 方し、あるいは勝手に混ぜ合わせた治療薬を作り、期限の切れた抗生剤を安価 に入手して使っていると言う。偽医者が最もよく犯す間違いは、不必要な抗生剤 の処方と販売だ。デリーの全インド医学研究所(All India Institute of Medical Sciences: AIIMS)のサンディープ・グレリア教授は、インドにおける薬剤耐性菌 の高い分離率の一因は、偽医者にあると言う。 10 年前、デリー政府は『偽医療防止法案(Anti-Quackery Bill)』の草案を作成し たが、以後、何の進展もない。しかし本当の問題は、偽医者そのものではなく、 偽医者を増長させる、正規の保健医療の不在だ。公的保健システムは最低限 のレベルにとどまっている。(中略)スラムで病める貧しい人々が偽医者に行くの は、政府運営のクリニックが遠すぎ、診察を待つ行列が長すぎるからである。農 村部では、クリニックが一つもないところも多い。 もちろん、偽医者にも非常に責任感の強い人はいる。先のヌール氏もその一人 で、『重症例』は必ず政府の病院に紹介していると誓う。しかし、どのようにして 重症と診断できているのかは、定かではない。」 出典:エコノミスト社(2008 年) Quackdown: the high cost of medicines bought of the cheap , エコノミスト誌、2008 年 2 月 21 日版 WHO による数多くの調査研究で、民間事業者が販売する治療薬の品質 に関する重大な懸念が指摘されています。中国では、民間商店が販売す る治療薬の 3 分の 1 が偽物で、これらの商店が高い利ザヤを稼ぐことを 可能にしています69。利益を追求するという動機から、治療薬の非合理 的または過剰処方も発生しており、HIV、結核、マラリアを含む致死性 の疾病の薬剤耐性が強まっています。提案されている「マラリア治療薬 購入促進機関(AMFm)」では、商店から医薬品を購入する人々が多い という理由から、民間事業者が販売するマラリア治療薬への助成を支持 する議論が行われています(囲み記事 5 参照)。しかし、サハラ以南の アフリカ 7 カ国を対象としたある研究では、民間施設が使用するマラリ ア治療薬の大多数が品質試験を全く通過できないことが判明しています 70。 民間委託がより良い品質を保証するかどうかは、全く実証されていませ ん。南アフリカでのある比較研究では、民間の受託病院における技術の 質は公立病院に比べ著しく劣等であることがわかりました。事業収益を 最大化するために、受託事業者は、基幹的な人材、設備機材、備品など のインプットを質量ともに最低限に抑えようとするため、この評価報告 書で公的保健医療事業の現実的水準とされた水準を満たさないレベルま で落ちているのです。対照的に、受託事業者は、病院の建物とアメニテ ィの維持管理については政府系よりも高い成績を上げています71。レソ トでは、受託事業者でも公立事業者でも、全体的な質はほぼ同列でした。 20 Oxfam Briefing Paper, February 2009 しかし、民間受託事業者では僅か 37%しか、性感染症を正しく治療し ておらず、対して公的保健医療施設では、大規模施設で 57%、小規模 施設で 96%が正しい処置をしていました72。 世銀自体が、技術的な質については民間部門が公的部門よりも成績が悪 いと報告しています73。例えばウガンダからのデータによると、民間保 健医療施設の僅か 19%しか単純性マラリアを正しく治療しておらず、 非出血性の単純性下痢を正しく治療していたのも僅か 6%、肺炎に関し ては 36%でした74。過去 12 ヶ月間だけを見ても、ナイジェリアの首都 では 184 以上の民間病院、クリニック、試験所が、衛生上及び要員訓練 上の基本的水準を満たさないという理由で閉鎖されています75。ネパー ルの民間の結核関連サービスは、患者保持率と治癒率がともに低く、こ のことが多剤耐性菌株の増加に関連しています。このことから、WHO のある研究は、ネパールにおける民間保健医療の今以上の拡大は、不可 逆的な被害を生じ得ると結論しています76。 囲み記事 5: マラリア助成: 商店が保健医療事業を担うべきか? 2007 年後半に世銀は、マラリアの新治療薬を頒布するためとして、民間部門に 多額の投資をする提案を行いました。この仕組みは、「マラリア治療薬購入促進 機関(AMFm)」と呼ばれ、民間事業者に助成金を出し、より安価に治療薬を販 売できるようにしようというものです。世界基金が融資元となり、先進国ドナーに 制度支援のための 10 億ドル以上の出資を要請しています77。 世界基金や UNITAID、その他の主要な機関が現在購入しているマラリア治療 の大半は、公的部門及び CSO を通じて患者に提供されているため、提案の助 成制度は、現在の一般的な慣行から大きく離れる方向性を示すものです。オック スファムは、多くの国々における公的部門による治療供給が様々な問題を抱え ていることを認めつつ、この提案には重大な懸念を表明しています。この助成制 度では、民間事業者が治療薬を頒布する際の安全性をどのように確保するのか が説明されていません。このような民間事業者の助成制度では、現在の過剰処 方、過少処方の問題を継続させる危険があります78。このような現象は、クロロ キーネ、ファンシダールなど、過去の治療薬のケースでも見られたもので、病原 虫の薬剤耐性を強め、この 2 剤の有効性が失われることになった一因となりま した。また、薬剤販売が助成されようとされまいと、多くの患者はそもそも支払能 力がないことから、最貧層、特に子ども達への便益は考えにくいという点につい て、この助成制度案は、何らの対応も示していません79。最も重要なことは、薬 剤の公的無償頒布の急速拡大強化という選択肢を十分に検討していないという 点です。マラリア助成制度が民間部門のみに適用された場合、公的部門の問題 に対応することから国際先進国ドナーの注意をさらに逸らすことの有害な先例と なる危険があります。その結果、公的部門による保健医療提供の失敗は「自己 成就的予言」となってしまいます。 世銀と英国政府は助成制度を支持していますが、米国やカナダなど他の国の政 府は支持していません。後者の国々はオックスファムと同様、この提案の実現可 能性と、この案により本当に最貧層に治療薬を届けることができるのかという点 について、懸念を表明しています。 もちろん、民間部門の質の悪さを示す証拠があるからといって、途上国 における公的保健医療システムの問題を過少視できるわけではありませ ん。公的システムの問題は現実の問題であり、3 章で考察するように、 これらの問題に対応するには、資源および有能なリーダーシップが必要 Oxfam Briefing Paper, February 2009 21 です。上述の証拠が明示しているのは、民間部門は市場原理に内在する 重大な欠陥を持ち込まざるを得ず、そのような欠陥が、特に貧困層のた めの保健サービスの質と効果を改善する際に、重大な追加障壁となると いうことです。効率の観点だけから見ても、資源の乏しい途上国政府の 大半が、市場原理の欠陥を補うのに必要な能力と技術的専門性を持って いるという証拠は一つもありません。 支持論 5:「民間部門は保健医療の格差を是正し、 貧困層に保健医療を届けることができる」 「(前略)保健医療機関が最も立場の弱い人々をどの程度受診拒否する か、または冷遇するかが、その社会そのものの性質を表すことは、広く 知られている。社会の一部を排除する保健医療サービスを構築すること は、即ち、より広範な社会的排除を正当化するということである。」マ ッキントッシュ教授、2003 年80 保健における衡平とは、保健医療サービスが支払い能力ではなくニーズ に応じて受けられる状態を意味します。これを実践面に落とし込むと、 貧困層により多くの投資をすることになります。なぜなら、通常、貧困 層の方がより高い保健医療ニーズを持っているからです。 民間による保健医療事業拡大の提唱者は、公的事業が多くの国々で不衡 平であるという、それ自体は正しい指摘をします。そして、市場原理の 導入と政府による適切な規制により、民間部門は公的部門よりも貧困層 に保健医療を届けることができると主張します。世銀は、「価格設定を 通じて、事業者に顧客への説明責任を負わせれば、顧客の力が強化され、 より良い結果に結びつく」と主張しています81。そして、政府の失敗が 時にはあまりにもひどいので、「市場原理による解決策の方が貧困層の 利益になる可能性がたしかにある」としています82。 現在入手可能な証拠を見ても、過去の経験を見ても、民間部門の参画拡 大と保健医療事業のより広範な商業化は、アクセスと成果の両面で、不 平等の劇的な拡大をもたらすことが予想されます。実際、ほとんどの先 進国で公的部門の役割が拡大されたのは、主にこのような不平等こそが 原因でした83。 中・低諸国 44 カ国のデータを見ると、一次医療における民間部門の参 画度が高いほど、治療や看護からの排除度合いが全体的に高くなってい ます84。この相関関係では、民間部門の参画そのものが排除を引き起こ すという明確な因果関係はわかりませんが、少なくとも、民間部門が排 除を緩和するわけではないことを示しています。 中国(囲み記事 6 参照)およびベトナムで行われた、市場原理に基づく 公的保健システムの改革は、病気になっても何の保健医療サービスも受 けない農村部の人々の大幅増加と時期を同じくしています85。費用が高 くなれば支払い能力のない人は排除されます。現在、ベトナムの最貧層 の間では、自己治療が、最も安価で最も一般的な保健医療の形となって しまっています86。 囲み記事 6: 中国における保健医療の民営化:失敗に終わった実験 22 Oxfam Briefing Paper, February 2009 1952∼1982 年、中国では、政府が所有・資金拠出・運営する保健医療システ ムで、国民の健康は大きく改善されました。乳児死亡率は、1,000 出生当たり 200 から 34 に減少し、平均寿命はほぼ倍加しました。しかし、1980 年代からの 政府の保健医療費削減と広範な民営化により、人々の生活には壊滅的な不平 等が生じています。以前は無料だったサービスも、今では営利目的の病院で有 料サービスの対象となっています。医療費を保障する保険が導入されましたが、 農村部に住む貧困層の 80%が加入していません。農村部の保健医療施設の 数及びその要員数と質は不十分で、保健医療の成果には大きな格差が生じて います。乳児死亡率は農村部で都市部の 3 倍になりました。また疾病罹患が農 村部における貧困の最大要因となりました87。 2003 年の SARS の疫病発生のショックで、政府はようやく、著しく細分化され た、不衡平で営利目的の保健医療システムでは、国家の公衆衛生ニーズに対 応できないことに気付きました。政府が裏書きした報告書は、計画経済期の中 国の保健システムの成功は、政府が主導的な役割を果たしたことによってもたら されたと結論しました。市場原理による改革は、医療サービスの公平性と保健医 療部門への投資の効率性を共に低下させました88。より最近では、保健医療の 利用者負担増が、中国の国内消費の低下の原因であるとされました。これは、 世界的な金融危機から国家経済を保護するために国内需要を急伸させようとし ている中国政府が、緊急に注力する課題となっています89。過去 20 年間の市場 原理による改革から反転し、政府の保健医療における役割を強化する新たな改 革が発表されました。 出典:エコノミスト社 Health care in China: losing patients 』エコノミスト誌 2008 年 2 月 21 日版及び Blumenthal と Hsiao(2005 年)から抜粋編集90 公的保健医療サービスの供給を削減し、民間部門への依存度を高め ることは、ジェンダー間の不平等の悪化にもつながっています。多くの 国々で、この種の改革は、介助を伴わない在宅出産の増加と、女性や子 どもが高額医療費を理由に受診を延期する事態と関連づけられています 91。 保健医療受診に伴って支払いが発生する場合、また保健医療サービス供 給が不均等、選択的、不衡平である場合、疾病と看護のしわ寄せは特に 女性と女児に重くのしかかります。女性と女児は医療を受けることがで きなくなり、また、家庭での無報酬のケアの担い手となるのです。この ような負担の不平等が、雇用におけるジェンダー不平等をさらに助長し、 女性と女児の健康状態のさらなる悪化という危険を伴います。無報酬の 家庭ケアの負担により、多くの女性がより低賃金で危険な、不安定な仕 事に就くことを余儀なくされています。なぜなら、この種の職業は就業 時間設定がより柔軟で、家庭内でも就労できる場合が多いからです92。 スキルの低いフォーマルな保健医療従事者の大半もまた女性であり、作 業負担増、賃金低下、雇用の不安定化といった形で、民間部門のコスト 削減施策の影響を最も強く受けています93。 収益を上げることと貧困層へのサービス供給という二つの目標の両立は、 税金による大幅な助成、かつまたはサービスの水準低下なしには、不可 能なようです。世銀は助成制度を支持する姿勢を変えていませんが、こ こでも、民間部門が収益を上げることを保証するためにどれだけの税金 が必要なのかという、コストの問題が再度問われます。オックスファム のグルジアにおける調査研究では、政府の保健医療民営化に関与した大 Oxfam Briefing Paper, February 2009 23 企業の一つが、その後プログラムからの撤退を決定したことが判明しま した。貧困層に保健医療を届けながら収益を上げるに足る助成金が提供 されないということがその理由でした94。 もう一つの方法――貧困層向けサービスの質を下げることによって収益 を確保する――を IFC は支持しています。IFC は 2 層化モデルを奨励し ています。即ち、高級で良質の設備の整った中・高所得者対象のクリニ ックと、低コストで「顧客回転率が非常に高く」サービス内容を限定し た貧困層のための病院を設立することを、営利目的の事業者に勧告して いるのです95。ここに明らかに表れているのは、貧困層には基本的で短 時間の医療しか必要ではないという想定です(医師は、1 日に 100 人の 患者を、即ち 4 分に 1 人の割合で、診るように勧告しています)。 支持論 6:「民間部門は説明責任を強化できる」 世銀の『世界開発報告書 2004』は、保健医療供給事業者の説明責任に 関する本質的な課題に焦点を当てています。この報告書は、政府契約を めぐる民間事業者間の競争を促進することにより、事業者の説明責任の 強化が可能としています。同時に、この報告書は、貧困層が複数の事業 者から一つを選択することができるようにすれば、事業者は対応を改善 し、説明責任も向上するようになる、なぜならば、そうしなければ顧客、 つまり貧困層を他の事業者に取られてしまうからであると論じます。例 えば、「女性の医師に診てもらう方が安心という女性の患者は、女性の 医師のところへ行く96」と言うのです。 しかし、保健システムというのは本質的に複雑なシステムであり、説明 責任の欠如や汚職は、民間事業にも公的事業にも起こり得る問題です97。 世銀の、民間事業者は公立よりも良い対応をするという仮説は、証拠の 裏付けがありません。第一に、前述のとおり、多くの低所得国では、資 格のある民間保健医療事業者間の競争が存在しません。消費者の嗜好に より事業者の説明責任の強化へという仕組みは、このような状況では機 能しません。例えばマラウイでは、1300 万の人口に対してマラウイ人 の女性医師は 40 人しか居らず、世銀が述べているような、利用者の自 由選択は、ほぼ、あり得ません。 同時に、事業者への委託のプロセスについては、委託契約の入札の過程、 そして保健医療サービスの供給過程の両方において、相当な汚職の可能 性を秘めています。契約落札の過程が公正だったとしても、先進国にお いてさえ、公益のために民間事業者を規制することは困難を極めていま す。米国では、保健医療事業者の詐欺行為が大問題となっており、毎年、 何十億ドルという損失を記録しています98。政府の力が弱く、権限も有 資格人材も欠いている状況では、規制は一層困難になります。インド政 府が発注したある調査では、貧しい患者に無償の治療を提供する事業を 委託され、そのための政府助成を受けている複数の病院が、この事業を 全くやっていない、と報告しています99。 最後に、民間部門が国家に代わって保健医療サービスを供給すると、国 民が国家に説明責任を問うことが一層困難になります。政治家は、「政 策は正しかったが民間企業がやり方を間違った」と言い逃れができるか らです。 24 Oxfam Briefing Paper, February 2009 囲み記事 7: 市民社会組織という事業者は完全か? 市民社会組織が保健医療サービスの事業者である場合、営利目的の事業者と 共に「民間部門」の分類に入れられていることがよくあります。これは、本質的な 相違点を看過するもので、不適切な分類です。市民社会組織という事業者に は、営利目的の民間企業とは異なる内因的な利点があります。それは、公的事 業者と同じく、収益を動機としていない、という点です。 宣教組織、慈善団体、非政府組織(NGO)が、世界の至る所で、多くの人々の生 命線となっており、一部のアフリカ諸国では、既存の保健医療サービスに占める 割合も相当に高くなっています。このことは、市民社会組織という事業者が政府 事業を肩代わりするほどの規模になり得る、あるいはなるべきであるということを 意味するわけではありません100。善行へのコミットメントは必ずしも高い能力と成 績を保証するものではありません。慈善団体や宣教組織の経営する病院も、政 府事業と比べて、その事業範囲やサービス提供の衡平性の点で有効性には大 差がないという報告も幾つか上がっています101 102。そして、CSO も、営利組織 が呈する問題――重複と細分化103、サービスの有償化104、説明責任、保健医 療従事者をめぐる公的システムとの競合105 ――を生じる場合があります。 大半の CSO は、自らが公的保健システムを代替するのではなく、それを補完す ることによってこそ、CSO の比較優位を最大限に活かして効果を発揮できると いう主張に賛成するでしょう。 誰が供給するかは重要な論点 保健医療への普遍的かつ衡平なアクセスが目標ならば、証拠は明白です。 世銀の現在の主張とは異なり、誰が保健医療の事業者であるかは重要な 点なのです。多くの事例で、民間部門は、拡大支持者が主張する利点を 提供することに失敗しているだけでなく、民間部門の拡大が、保健医療 サービスの効率、質、衡平性、説明責任を犠牲にすることもあり得るの です。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 25 3. 成功から学ぶ:万人のための保健医療の 成功要因 サービスを拡大し、最も貧しい社会的弱者に必要な保健医療を届けるに は、途上国政府はこれに成功した国々から学ぶべきです。このような学 びの基礎となるデータを提供するために、強力な国際的研究が盛んにな っています。高名な政策決定者、学者、元国家元首、元保健大臣で構成 され、3 年間にわたって行われた国際調査「健康の社会的決定要因に関 する委員会(CSDH)」は、入手可能な証拠を評価しました。そして最 近、公的資金により運営され供給されるサービスが、世界中で、より良 い成績を上げ、よりよく富を再分配する保健医療システムの主流であり 続けていると結論しました106。Equitap(アジアとヨーロッパの 15 の研 究チームのネットワーク)による、アジアの国別保健データを比較した 研究はさらに一歩踏み込み、低・中所得の国々で、税を財源とする公的 サービス供給に全面的に、あるいは大部分を頼ることなく、普遍的保健 医療サービスを完全確立、もしくはほぼ確立できた例はないと結論付け ています107。 途上国では、政府の保健医療への支出は、国民一人当たり所得と同じく らいに、乳幼児や妊産婦の死亡率を左右する重要な要因です108。より豊 かな国々でも、国家全体の医療費支出における政府支出が高いほど、健 康に生きられる余命が長くなり、5 歳以下の乳幼児死亡率は低くなりま す109。 ボツワナ、モーリシャス、スリランカ、韓国、マレーシア、バルバドス、 コスタリカ、キューバ、インドのケララ州110 は、各々の「ブレークス ルー」期に 10 年間で乳幼児の死亡数を 40∼70%引き下げることに成功 しました111。各国のアプローチに相違こそあれ、これらの国々の成功の 最も重要な要因は、国民の大多数のための保健医療サービスを組織し供 給する活動に、政府が徹底的に取り組んだ点であることを、各種の研究 が示しています。 ボツワナとモーリシャスは共に、独立時に病院による小規模な保健サー ビスを植民地時代からの遺産として受け継ぎ、1980 年代には、国民の 少なくとも 80%が、公立保健医療施設から 15 キロ圏内に居住していま した112。1980 年代前半にニカラグアは、大々的な公共投資プログラム の一環として、保健医療へのアクセスを国民の 25%から 70%に向上し ました113。スリランカでは、出産する女性が資格を持った助産師による 介助を受けられる確率は 96%になっており114、有資格の看護師が配置 された徒歩圏内の公立クリニックで無償の医療措置を受けられます。一 時は最も甚大なマラリア被害に苦しんでいたスリランカは、現在ではマ ラリア根絶に最も近い国の一つになっています115。 公的システムの失敗の現実 保健に関するミレニアム開発目標(MDGs)達成への進捗が遅く散発的 であることは、多くの貧困国の政府がその責任を全うできていないこと 26 Oxfam Briefing Paper, February 2009 を示しています。国民が公的保健医療サービスを利用できなかったり、 その要員が不足していたり、あるいは手が届かないほど高価であったり する場合が多すぎます。低い賃金、弱い経営管理力、汚職などはすべて、 この問題に含まれます。労働条件が悪ければ要員の生産性が下がります。 医薬品の不足は資金の不足によっても、調達・流通システムの脆弱性に よっても起こります。貧困層、女性、その他周縁化された集団に所属す る人々は、費用、物理的距離、情報不足、知識不足、彼らを代表する声 の不足、そして、対応する気のない事業者など、保健医療へのアクセス の高い障壁に直面し続けています。サービスの質が許容範囲を下回る場 合もよくあります。例えばチュニジアでは、肺炎の症例の僅か 20%し か適切に管理されておらず、62%では抗生剤の不適切な処方があったと いう研究報告があります。 一部の国々の政府は、政府支出を増やすという自らの約束を守っていま せん。インド政府は保健医療支出の 2 倍の額を軍事費に支出しています。 インドの乳幼児死亡数低下の歩みは停滞し、低所得の隣国バングラデシ ュに追い越されてしまいました。アフリカでは、政府支出の 15%を保 健医療に仕向けるというアブジャ誓約を守っているのは僅か 5 カ国です。 この間、医療費支出の 5 割とも推定される患者負担は、アフリカ全土で 貧困の悪化を招き、貧困層を必要な保健医療サービスから排除してきま した。 不適切なレベルの資源投入は、ガバナンスの劣化にもつながります。ア フリカ、東アジア、東欧諸国では、給与が非常に低いことから、公的保 健医療従事者による患者への非正規料金の要求や無断欠勤が常態化して います。訓練や職能開発の資源が不足しているため、公的保健医療サー ビスは能力の高い指導者や管理者が不足し、非効率、汚職、ニーズに応 えない官僚主義的な手順などの問題に対応できずにいます。 先進国ドナー、世銀、IMF: 公的システム失敗の一因 世銀と IMF 及び一部の先進国ドナーは、その援助と政策助言を通して、 政府による万人のための保健医療の提供能力を著しく阻害してきました。 1980 年代と 1990 年代の経済危機の最中、世銀と IFM の構造調整政策が、 保健医療の擁護策をほぼ欠いたまま公的支出を大幅に削減することを要 求したということは、現在では文書記録により明らかになっています。 サハラ以南のアフリカと多くのラテンアメリカ諸国では、政府の保健医 療費予算は、この期間に最大 5 割も削減されました。また、世銀は保健 医療サービスの利用者負担導入を融資条件としたため、壊滅的な結果を もたらしました。このとき導入された利用者負担制度は未だにほとんど の貧困国に残っています。 世銀と IMF は、以来、最貧層の保健を擁護することなく支出削減を行 ったのは間違いであったことを認めています。この過失の自認は大変結 構なことですが、このような支出削減と政策の失敗こそが、ここ数十年 間の政府事業の失敗の重要な原因であったことも認めるべきです。 WHO の「健康の社会的決定要因に関する委員会(CSDH)」もこの見 方を支持しています。同委員会は、公的保健システムに市場原理を導入 し、民間部門の役割を強化するという国際機関主導の改革が、政府の業 績と不衡平是正能力をさらに阻害してきたと結論しました。しかし、先 Oxfam Briefing Paper, February 2009 27 進国ドナーは、歴史認識を伴った分析を滅多にしません。ほとんどの場 合、政府事業の失敗は、政府自体の欠陥による不可避のものだと主張す るのです。 またほとんどの先進国ドナーの援助方法も、事態を好転させる支援にな っていません。1978 年には既に、多くの先進国ドナー、時にユニセフ と世銀が、アルマ・アタ宣言に盛り込まれた包括的一次医療のアプロー チを野心的過ぎるとしていました。その代りとして、先進国ドナーの支 援は、より現実的な「暫定的」解決策とされた「選択的一次医療」へと 集中し、医療措置の一部のみに重点を置くことになりました。しかしい つのまにか、この「暫定的」対策が標準的なアプローチになってしまい ました。過去 10 年間、保健医療向けの援助は急増しましたが、そのほ とんどは少数の特定疾病に関する新たな世界的保健イニシアティブの急 増という形を取りました。同じ 10 年間に、一次医療サービスに割り当 てられる援助はほぼ半減しました。先進国ドナーは、このような新たな 援助チャンネルが、しばしば政府の保健計画や優先事項とは別ルートへ 流れ、保健システムを適切に強化することに失敗していることを認めて います。 最後に、一方では援助を提供しつつ、多くの先進国は貧困国からかなり の数の保健医療従事者を引き抜いて雇用し、既に問題となっている人材 不足をさらに悪化させています。 過去 30 年にわたる、無償の普遍的公的保健システムへの公共支出と支 援の構造的枯渇の歴史に鑑みれば、公的部門による解決策は失敗が証明 されていると決めつけるのは、サッカー選手に両足の靴紐をつないで試 合をさせ、試合に負けたのは選手のせいだと言うようなものです。 しかしながら、世銀を含む多くの先進国ドナーは、政府の失敗と国民の 不満を、民間部門の役割拡大を含む大々的な構造改革推進への青信号と 捉え、その長期的影響を分析していません。その一方で、政府に責任を 全うさせ、公的事業を改善・拡大させる機会は、与えられずにいるので す。 公的部門の利点とはなにか 民間部門による解決策の提唱者達は、政府の利点を研究するよりも、政 府事業の失敗の調査研究に注力してきました。統合された公的保健医療 サービスは、効率、質、衡平性の点で、その成功可能性の根拠となる幾 つもの本質的な利点を持っています。そして、民間部門によるサービス は、現在のところ同様の利点を持ち得ないことも、既に証明されていま す。 規模の経済 効率の点で、公的部門は規模の経済を大いに活用できます。これには医 薬品や設備機器の大量一括注文によって交渉可能となる低価格調達と、 利用者へのアトラクションよりも、患者の健康改善のための技術やイノ ベーションを重視した支出などがあります。管理、要員配置、訓練を国 家レベルあるいは地区レベルで体系的に行うことにより、複数の民間事 業者の乱立よりも管理費用を削減できます。事業規模が大きくなれば、 28 Oxfam Briefing Paper, February 2009 専門化も可能になります。個々の事業者が別々に事業を提供する場合に 比べ、すべての事業種・サービス種を安価に提供できます。従って、公 的保健システムは、費用抑制により適しているのです116。キューバの公 的保健システムへの国民一人当たり支出は米国の 27 分の 1 ですが、米 国よりも低い乳児死亡率と長い平均寿命を達成しています117。規模の経 済に関しては、細分化を特徴とする民間部門は不利であることを、IFC も認めています。この問題への対策として、IFC は、民間事業者が協働 的なネットワークなりフランチャイズ組織なりを築き、それを中央機関 が調整し、一般管理費を分担拠出し、提供するサービス種別を拡大する ように勧告しています118。しかし、この提案による協働的なネットワー クが、コスト削減のための事業者間の競争原理というシステムの中で、 果たして機能しうるのかについては、大きな疑問があります。このよう なアプローチはむしろ、大手民間企業の独占状態を形成する危険があり ます。 質と説明責任 質の向上の点では、公的事業者の規制は困難ではありますが、民間事業 者を規制するよりは容易でしょう。標準化された制度と説明責任の所在 を明らかにする正式な仕組みが存在するなら、サービスの質の監視と悪 質なサービスの責任追及もやり易くなります。最近開発されたマラリア 治療薬のような新薬の導入や、旧治療薬の使用禁止の徹底も、統一され たシステムの方が実施し易くなります。 多くの公的保健システムで汚職は確かに問題になっており、根絶される べきです。この問題への簡単な解決策はありませんが、公的資金を民間 部門に流せば改善するというのは甘い考えです。反対に、政府が直接保 健医療サービスを提供することにより、説明責任の所在をより明確にで きます。政府職員、保健医療従事者、公務員は地方政府に対して説明責 任を負うのみならず、議会の精査を受ける場合も多いため、地方政府、 議会機関並びに市民社会の監視組織に投資することで、汚職の摘発と抑 止が可能になります119。例えば、マラウイでは、オックスファムのパー トナーである Health Equity Network(HEN)が政府事業の国民満足度 調査を定期的に実施し、結果を発表しています120。国民の要求が、性と 生殖に関する権利に関する状況を監視し、女性保健医療従事者の差別を 解消することにより、ジェンダー間の衡平の改善に貢献してきました121。 HEN による精査で、政府の治療薬供給システムに重要な欠陥があるこ とが判明し、HEN は現在、政府に変革を働きかけています。 健康権、及び公共政策、予算策定、事業者の説明責任追及に国民が参加 するための、情報への権利の法制化により、スリランカ、タイ、メキシ コ市では、公的保健システムの透明性と対応姿勢が大幅に向上しました 122。このような法制は、国民への説明責任のための仕組みを設けること により、現実のニーズと体験に対応する姿勢を強化し、民間企業の利益 目的のロビイングに対する政治的対抗力を構築することができます。万 人が同レベルの公的サービスにアクセスできる状況においては、高所得 層の国民も自らの政治的影響力を行使して、質とアクセスの改善を政府 に要求する可能性が高くなります。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 29 公的なサービス供給に投資すれば、保健医療サービスの利用者だけでは なく、供給者も責任の所在を知ることができるようになります。途上国 の公的部門の労働組合は、公的サービスの提供方法について、政府の責 任を監視・追及できる特有の立場にあります。労働組合の構造を利用し て、政府、要員の一部、あるいは個人の無責任な決定や行動に関する集 団的懸念に取り組むことができます。よりよい労働条件を要求すること により、利用者へのサービスの質を向上させ、汚職に取り組むこともで きます。カンボジアとチェコでは、保健医療従事者への付加給与と倫理 規定順守の誓約を組み合わせたところ、非公式な賄賂要求が減り、保健 医療サービスへの貧困層のアクセスが改善しました123。 最も貧しい人々にサービスを届け健康の不衡平を是正する 民間部門の利点を提唱する人々は常に、公的保健システムは富裕層に不 相応な便益をもたらすと批判します。多くの国々に実際に問題が見られ ますが、これらの問題は解決不可能ではなく、前章が示唆する通り、民 間によるサービス供給を拡大した場合に、不衡平の問題は遥かに深刻に なります。 政治的意志があれば、国全体で不衡平を是正し、保健サービスへの全国 民の平等なアクセスを徹底するための好位置にあるのは、当然のことな がら、民間ではなく政府です。国家は社会のより富裕な層から集めた資 源をより貧しい層へのサービス提供に活用することにより、富を再分配 する能力を持っています。公的システムを通した富の再分配は地域間、 都市部と農村部の間、そして最も重要な女性と男性の間の不衡平の是正 も可能にします。地方クリニックのネットワークによる公的な一次医療 サービスは、より貧しい層により多く見られる疾病の治療をすることが でき、最も効果的です124。 タイでは、農村部の保健医療サービスの質向上を目指した中心的な施策 として、医師と看護師の農村部への異動が行われました125。インドでは、 公的保健サービスへの投資額が高い州ほど、保健医療へのアクセスにお ける都市部と農村部の不平等を是正できています126。スリランカ、マレ ーシア、香港の普遍的アクセス政策は、富裕層よりも貧困層により多く の便益をもたらしています。標本抽出されたアジア 12 カ国中 11 カ国で、 政府による保健医療支出は「不平等是正効果」があることがわかりまし た127。不衡平が激しいラテンアメリカでも、公的資金の保健医療への支 出は、貧困層に多くの便益をもたらす傾向がありました128。 対照的に、ラテンアメリカ、南部アフリカ、及びアジアでは、保健医療 サービス供給における政府の役割を縮小した場合、保健医療サービスの 供給が最もニーズのある層から最も支払い能力のある層へ移行してしま ったことも明らかになっています129。 不衡平な公的保健システムでさえ、不平等是正の鍵を握るツールとなり 得ます130。なぜなら、多くの国々で富裕層が不相応な便益を得ていると しても、彼らはより多くの税金を払っているからです。IMF が検証した 途上国における 30 の調査研究において、富裕層からの税収を考慮する と、保健医療費支出は全体的に、「累進的である」ことがわかっていま す131。これは、保健サービスの公的供給の目標設定がお粗末である場合 30 Oxfam Briefing Paper, February 2009 においても、階層間の生活水準の差を縮める効果があることを意味しま す。 公務員の気風 「看護師の不足は本当に深刻です。どんなに疲れていても働き続けなけ ればなりません。午後4時から翌朝7時半まで勤務しています。これは16 時間のシフトです。小児科には看護師が5人しかおらず、患者は常に200 から300人います。人が足りない時には、日勤も代わりにやります。本 当に重労働で、毎日汗を流しています。他にどうしようもないでしょ う?」マラウイ、リロングウェ病院の助産師 公的部門では、要員が患者に対してより強い責任感を持つことが多いも のです。それは、自分が国に貢献している公務員であるという自覚から です。スリランカにおける研究では、高い生産性の一因が、市民への奉 仕に献身する保健医療従事者の文化にあることがわかりました132。世界 各地で、公務員である保健医療従事者の大多数が、病める人を助けたい という思いから、最低限の金銭的報酬にもかかわらず、長時間労働をし ています。極端に資金が不足している公的サービス部門に就職するため に、何年もの訓練を受けることを厭わない男女の姿が、公務員の気風の 重要性を如実に物語っています。これを商業化し、民間部門の利益を容 認し、物質的報酬に重点を移す政策的圧力は、逆の効果を及ぼし、要員 が患者から利益を稼ぐことに注力したり、貧困層の要請を踏みにじった りする状況を招きます133。このような政策方針は、一部の保健システム で、倫理に反する患者の冷遇を常態化する方向に働いてきました134。 政府の正統性を確立する 保健医療サービスなどの公的供給は、国家建設にも重要な役割を果たし ます。公的サービスは国民と国家の間の信頼関係構築と政府機関の正統 性の確立に中心的役割を果たします135。特に遠隔地においては、保健医 療サービスは、国民と国家の間の唯一の直接交流の場であることも珍し くありません136。 多くの途上国において、保健医療の基盤とサービスの急拡大、そして国 民の健康状態の顕著な向上が独立の象徴でした137。東ティモールやネパ ールのように、最近紛争を解決した国々でも、保健医療が民主主義体制 と国家の正統性を確立するための重要な役割を担っています138。反対に、 保健医療サービスが政府以外によって供給される場合、これがマイナス の影響を及ぼすことがあります。例えばアフガニスタンでは、米国の NGO や民間企業が保健医療サービスを提供するよりも、現在の新政府 がする方が、国民が新政府の正統性を認知する可能性は高まるしょう。 保健医療における国の役割の縮小は、政情不安を招く可能性があります。 例えば中国では、民営化による保健医療の格差が一部の農村地区におけ る政府への国民の怒りの重要な一因とされ、地方での暴動や騒乱の頻発 につながっています139。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 31 過去の教訓を活かす:公的部門の最新成功事例 最近の各国の状況を見ても、公的保健医療サービスの過去の成功例を単 なる歴史的例外としては退けられないことがわかります。反対に、先進 国ドナーが政治的意志のある政府のために支援を調整すれば、素晴らし い成果が得られるのです。 ウガンダでは 2000 年から 2005 年の間に、政府が保健医療部門の統一計 画を策定し、先進国ドナーが資金をプールしてこれを支援しました。そ の結果、公的保健医療サービスの供給が著しく拡大し、400 軒の新しい クリニックが建造され、2,900 人の保健医療従事者が新たに訓練を受け て配置され、クリニックから 5 キロ圏内に居住する国民の割合が 49% から 72%に改善しました。最下級の看護師の給与も倍増されました140。 2001 年には、利用者負担が廃止され、サービス需要の莫大な増加につ ながり、時には 2 倍以上に増えたケースもありました。ウガンダでは乳 児死亡率、妊産婦死亡率ともに低下しています。 東ティモールでは、インドネシアからの独立に至った 1999 年の紛争中 に、保健医療施設の 75%以上が著しく損壊されました。独立時に国内 に残っていた医師はわずか 20 人でした。ウガンダと同様、全部門に亘 る援助金のプール制により、公的保健システムの再建と無償の普遍的保 健医療制度の実施が急速に進みました。わずか 3 年間で、予防接種率は 26%から 73%に改善しました。能力のある専門職者が介助する出産の 率も 26%から 41%に改善しました141。 マラリアなどの急性疾患を治療するために、途上国では民間のインフォ ーマル事業者が広範に利用されており、これがこのインフォーマル事業 部門への助成を正当化する根拠とされています(囲み記事 5)。しかし、 アフリカ 4 カ国で最近行われた政府によるマラリア予防・治療への投資 は、急性疾患に対して公的保健システムが迅速に対応し、サービスを拡 大し、劇的な成果を上げられることを示しました。公的部門による長期 残効型殺虫剤含有蚊帳(LLIN)の大量配布とアルテミシニン混合治療 薬の全国配布で、ルワンダとエチオピアでは、マラリアの入院症例数及 び死者数の 5 割減を実現しました。ザンビアでは、5 才未満の乳幼児の 死亡件数が 33%減少し、ガーナでは死亡件数が 34%減少しました142。 成功のための行動 失敗する運命にある公的保健システムなど存在しません。しかし、成功 させるには政治的意志とリーダーシップ、投資、優良な政策、そして国 民の支持が必要です。これらの要素が揃ったケースでは、貧困国政府も、 時には低コストで、驚くべき成果を挙げています。 民間部門は、多くの公的保健システムが直面する重大な問題に逃げ道を 与えるものではありません。途上国政府と先進国ドナーは、これらの問 題に正面から立ち向かう努力をするべきなのです。保健システムの成功 事例の教訓は驚くほど一貫しています143。政策も戦略も、保健医療への 普遍的アクセスを達成することに専念すべきなのです。保健医療サービ スは、最遠の農村部においても、無償で万人が利用できるものでなけれ ばなりません144。政府は十分な数の保健医療従事者を訓練・雇用し、指 32 Oxfam Briefing Paper, February 2009 導者と経営陣に投資するべきです。政府は一次医療強化のアプローチを 採用しながら、農村部の病院を含む二次医療にも投資し、これらの不可 欠なサービスを受けるために貧困層がより高いコストを負担することが ないようにしなければなりません145。成否は予防的処置、健康促進的処 置、根治的処置、緩和的処置の間に適切なバランスを取れるかにかかっ ています146。 各国政府は健康権と市民の情報への権利を法制化するべきです。また、 その政策決定、予算決定の透明性を確約するべきです。そして、次章で 考察するように、医療費支出の監視に向けた市民のエンパワメントと、 地元の公的保健医療施設及び職員の職務慣行の改善に向けた影響力行使 の面で重要な役割を果たす CSO を支援するべきです。先進国は、途上 国が保健システムを構築し、公的保健医療に雇用される専門職員の訓練、 採用、雇用維持を確保するために、長期的かつ予測可能性の高い形で援 助資金を提供するべきです。 一部の公的保健システムの成功事例は、問題や課題が存在しないことを 意味するわけではなく、変革と前進が可能であることを証明しています。 「健康の社会的決定要因に関する委員会(CSDH)」が論じているよう に、貧困国が現在抱える問題を前に、私たちには、公的部門を放棄する のではなく、保健医療への公的資金投入と公的事業展開を強化拡大する ために、緊急かつ献身的行動こそが求められています147。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 33 4. 民間による保健医療事業のコストとリス クを管理する 既に出ている証拠を見る限り、民間による保健医療事業の成長を奨励す ることは、便益よりもむしろ問題をもたらす可能性が高いことがわかり ます。しかしこれは、既存の民間部門を無視すべきということではあり ません。民間部門の事業は継続するため、そこで発生するコストは管理 し、研究やイノベーションなどの分野にもたらし得る便益については、 より良く理解して活用すべきです。 最初の一歩は、イデオロギーによる仮説を捨て、民間部門の構造、特性、 そして(プラス、マイナス双方の)影響を正直に包括的に評価すること です。どの市場でどのような民間事業者が事業を展開しているか。彼ら はどのような市場行動をとり、その理由は何か。それは小規模事業者、 あるいは大規模事業者か。公的保健システムにどのような影響を及ぼし ているか。どのようなサービス種別を提供しているか。どのような顧客 にどのような方法でサービスを届けているか。そこから排除されている のはどのような集団か。このような基本的な点について、多くの貧困国 で「証拠の不在が目立つ」状況です148。 第二に、実証されていない、イデオロギーに基づいた戦略を採用するよ りも、途上国政府や先進国ドナーが取るべきより常識的なアプローチは、 保健医療へのアクセス拡大に成功した国々の事例を見ることでしょう。 そのような国々では民間部門はどんな様相を呈しているか。どのように 管理・規制されてきたか、などです。ここでも、情報は希少ですが、現 在入手できる情報からも、幾つかの指針を得ることができます。 高級なフォーマル民間事業 大半の低所得国、特にサハラ以南のアフリカ諸国では、高級で高価なフ ォーマル民間事業は未開発で、そのサービスの費用を負担できない大多 数の国民にとっては関わりのないものです。この部門に税金や援助資金 を助成金として投入するのは公的資金の浪費です。富裕層の公的システ ム利用を抑制するために、脱退オプションによる改革を行ったメキシコ やアルゼンチンのような中所得の国々でさえ、大規模でしばしば勢力の 強い民間の保健医療事業者を規制するための政府能力が不足しています。 その結果、公的システムの富の再分配機能が阻害されています149。 当面の間、既存の民間事業者と、国際金融機関からの融資を申請する民 間事業者には、公的保健システムへのコストと損害を最小化するための 行動規範に署名することを要件づけるべきです。行動規範は、保健医療 従事者の雇用に関する責任を含むものとし、監視と説明責任を強化する ために、公開するのも良いでしょう。同時に民間の保健医療事業者は、 規制費用を負担し公的保健システムに貢献するために納税するべきです。 途上国は、保健に関する政策策定の権限を維持すべきで、そのためには、 保健政策課題を WTO の GATS 交渉を含む、二国間、域内、国際貿易・ 34 Oxfam Briefing Paper, February 2009 投資協定から除外し、民間部門の役割に関して過去の決定を覆す国家の 権限も留保する必要があります。先進国はこれまで、公的部門と民間部 門の試行錯誤を重ねて現在の保健システムを構築しました。その政策的 選択肢を、途上国政府から奪うべきではありません。 低所得者向けのフォーマル/インフォーマル民間 事業 低所得の国々で民間保健医療事業者の大多数を占めている、規制の手が 届かずに無許可営業をする多種多様な商店、開業医、調剤薬店について は、何をすべきでしょうか。貧困層や周縁化された人々が、特に緊急の 保健医療ニーズがある時に、これらの事業者を広く一般に利用している ため、危険な診療行為を最小限に抑え、水準を上げるための緊急行動が 求められます。 細分化され、移動性も高い民間事業者の特性を考えると、規制を通じた 質の管理はほぼ不可能に思われます。資源が乏しく、時には汚職が絡む 官僚主義的な政府の弱点も加味すると、この課題は大変困難です。事業 者に営業停止を命じても、角を曲がった所に移動して営業を再開すると いうことがよくあります150。各国の経験からは、交渉的な措置の方が効 果を上げる可能性が高いことがわかっています151。そのような措置には、 店頭治療について医薬品販売者や保健医療従事者を訓練し、これを、安 全な保健医療の要求を促す公共教育で支えるなどの対策があります152。 しかしこのような措置には、いくつかの理由から常に限界があり、費用 対効果にも疑問が残ります153。まず、常に新しい事業者が市場に参入し てくるため、持続性がありません。過去に行われた介入は非常に資源集 約的でした154。大半の事業者の教育レベルとスキルのレベルが低いこと から、彼らが安全に提供できるサービスは限定されます。更に最も重要 な点は、万人がアクセスできる保健医療の最低基準を保証する仕組みが ないところでは、低所得で教育レベルが低い患者を引き寄せるための競 争から、民間事業者は常に最低水準の価格と質を目指して競争すること になるのです155。 ここで、特にアジア諸国の成功事例の教訓をよく理解し、他地域にも応 用するべきです。例えばスリランカでは、能力の高い、誰もがアクセス できる無償の公的保健医療システムが、民間部門に対する事実上の規制 役として機能し、インフォーマルで規制されない民間事業者を締め出す 効果を発揮しているようです156。富裕層の顧客を獲得するために、スリ ランカのフォーマルな民間事業者は質の面で公的保健システムに追いつ くことを余儀なくされ157、サービスのスピードと対応のよさを、公的シ ステムと競っています158。 インドの多くの州では、公的保健医療サービスの質が許容限度を下回る ほど低く、そのことが、民間事業者の劣悪なサービスの放置につながっ ています。対照的に、同国のケララ州では、公立病院の質は完璧には程 遠いものですが、民間部門が提供する保健医療サービスの質の、事実上 の「最低線」を設定する機能を果たしているようです159。民間部門が必 要とする競争を公的保健システムがもたらしている例は、アフリカにも Oxfam Briefing Paper, February 2009 35 あります。ウガンダでは、公的サービスの利用者負担が廃止された後、 民間部門も利用料を引き下げました160。 低所得国で民間保健医療事業者に対する「有益な競合」を成立させるた めに、普遍的な公的無償保健医療サービスへの投資を重点化することは、 水準改善のために民間事業者に直接介入することを放棄するものではあ りません161。これが意味するのは、民間への直接規制が機能する前提と して、公的保健システムを主たる供給主体とするために強化・拡大する ことを目的とした長期的かつ持続的な戦略への、同等以上の投資が必要 であるということです。この解決策の実施をこれ以上保留し続けること はできません。 市民社会の役割 政府の責任を追及する 先進国でも途上国でも、市民社会は、政府の説明責任を追及し、国民の 健康権を実現するために、政府にあらゆる手段を講じるように働きかけ るという基幹的な役割を担っています。多くの CSO が既に政策策定に 影響を及ぼし、透明性を促進し、政府の業績を監視しています。国家レ ベルでも世界レベルでも、CSO は、特に HIV/エイズと共に生きる人々 の権利、医薬品価格と治療、患者の権利、喫煙の管理、母乳育児推進運 動、粉ミルクの管理統制、及び一次医療の各方面で、大幅な政策変更を 実現しています162。世界各地で、オックスファムは、先進国ドナーと途 上国政府の説明責任を追及する CSO を支援しています。たとえばアル メニアにおいてオックスファムは、他の組織と連携し、国民全員が医療 を利用できるように一時医療の無料化を求め、政府を説得することに成 功しました。CSO は、アフリカのアブジャ「15%」誓約、世界エイ ズ・結核 ・マラリア対策基金の設立など、世界的に認知された、数多 くの保健医療支出の目標設定にも貢献しました。世界基金は、これまで に 136 カ国における 107 億ドルの支出を確約し、180 万人の命を救って います。 CSO は、医療費支出を監視し、地元の公的保健医療施設とその職員の 職務慣行に影響を及ぼすために、市民をエンパワーするという重要な役 割も果たすことができます。例えば、ネパールのダイレク郡ラカンドラ という貧しい遠隔地のコミュニティでは、「安全な母性プロジェクト (Safe Motherhood Project)」が、社会的に排除された人々のための妊 産婦及び新生児期医療の需要を喚起し、アクセスを改善するために活動 しています。アクセスの障壁を明確にし、情報を一般公開することによ り、このプロジェクトは周産期医療クリニックの開催回数を毎月 1 回か ら 4 回に増やし、地元の保健医療管理委員会に、周縁化されたグループ 代表の議席を確保することに成功しました。 保健医療事業を運営する市民社会 成功国では、強力な公的システムの代替手段ではなく、補完的手段とし て、CSO による保健医療事業の比較優位を活用してきました。前述の ように、市民社会組織は営利目的ではないので、営利目的事業者のよう に市場原理の欠陥にさらされることはありません。CSO は先進国市民 36 Oxfam Briefing Paper, February 2009 の寄付金に支えられていることが多く、保健システムにぜひとも必要な 追加的な資金をもたらしています。また、イノベーションなどの面でも 有利であり、最も貧しく、社会的に周縁化された層にサービスを届ける 工夫についても経験を積んでいます。政府は CSO の経験から学び、そ れを公的事業慣行に取り入れることができます。また、CSO を規制す る必要から、保健システム全体の規制と質の標準化に尽力するインセン ティブを政府に与えることにもなります。 CSO である保健医療事業者は、営利民間部門からの競争圧力に屈して 自らの活動を商業化させることなく、CSO の比較優位を堅持すべきで す。CSO と政府は、連帯と衡平の原則を共有した上で、できるかぎり 連携的行動をとるべきです。アフリカの数カ国で、そのような連携が保 健医療への国民のアクセスを拡大する効果を上げています(囲み記事 8)163。 囲み記事 8: 協働作業:宣教組織の病院とウガンダ政府 ウガンダでは、公的保健システムのサービスが行き届いていない地域で稼働し ている病院の 42%が、キリスト教会によって経営されています。宣教組織の病 院は 1990 年代後半に資金的危機に陥り、ウガンダ政府がその経営に助成を 始めました。助成内容には、病院に配属される政府雇用の医師の給与支出と、 国家がプールしている医療基金へのアクセスが含まれました。 この動きから、より体系的な連携が生まれ、政策策定、計画・調整、健康管理の ための人材、コミュニティ・エンパワメントなど、多様な分野での広範な協働活動 が促進されました。政府施設とは異なり、宣教組織の病院はまだ利用者負担制 度を廃止していませんが、政府の助成金のおかげで値下げされました。これに より、最も貧しく最も脆弱な立場に置かれた人々、特に女性と女児による利用が 増加しています。 ウガンダにおけるセクター・ワイド・アプローチでは、経常経費を賄うために先進 国ドナーが保健医療用資金をプールしており、政府はこの資金を使って宣教組 織の病院に直接定期的に資金供給ができるようになりました。これにより、競争 入札による委託契約ではなく、信頼と交渉に基づく官民の効果的連携を構築す る一助となりました。 出典:Lochoro 他、2006 年、 Public-private partnerships in health: working together toimprove health sector performance in Uganda より抜粋編集164 国家が主たる事業者として枠組みを設定したうえで行われる、CSO と 政府の間の連携は、国際 NGO の人道援助活動が公的保健システムの能 力と水準の長期的向上に確実に貢献するためにも必要です165。 例えば、東ティモールでは、何十年にもわたる紛争の結果、公的保健 システムはほぼ壊滅状態になってしまいましたが、暫定政府は NGO に 対し、公的保健システムの収容力を強化する間、地域の保健医療サー ビスの管理提供という暫定的役割を果たすことを要請しました。すべ ての保健医療施設に看護師と助産師が配置され、NGO と協働し、 NGO から学びました。独立の 3 年後には、新たに設立された国家保健 局(National Health Authority)が、事業の統制権を引き継ぎました。 政府は、CSO のサービスが、良質で説明責任を伴った公的保健システ ムを代替してしまうのではなく、その補完・推進を助けるように、CSO Oxfam Briefing Paper, February 2009 37 に対して「保健システムの強化のための NGO 行動規範」に署名するこ とを要件づけることも検討すべきです。この行動規範は、CSO の活動 が国家の限られた資源を奪うことがないように指導し、市民が政府の説 明責任を追及できるようエンパワーすることの重要性を強調する内容と なっています166 167。 38 Oxfam Briefing Paper, February 2009 5. 結論 保健に関するミレニアム開発目標は達成軌道をひどく外れています。貧 困国では、何百万という女性、男性、子ども達が病気になっても、全く 保健医療を受けられません。緊急に保健医療サービスを拡大強化する必 要性は、いつにも増して高まっています。各国政府と先進国には、この 拡大を達成するために実証された方針に投資する責任があります。 何年にも及ぶ議論と、民間部門による解決策への相当額の投資にも関わ らず、貴重な援助資金及び税金の流れを政府事業から民間の保健医療事 業へと全体的に振り向けることを正当化するための根拠は現れていませ ん。実際、多くの国々の事例は、民間部門の拡大は公的保健医療システ ムと、このシステムが最も医療を必要としている人々にサービスを届け る能力を阻害する可能性が高いことを示しています。最近の国際的・地 域的比較研究は、公的資金に賄われ公的事業として運営されるサービス の方が、より成績が良く、よりよく富を再分配できる保健医療システム の主役であり続けていることを確認しました。 民間部門は、たしかに何百万の人々を貧困から脱却させる可能性を秘め ています。新しい雇用と機会を創出し、より多くのモノやサービスの購 買力となる賃金を支給し、新しいスキルを教えることができます。その 意味で、民間部門なしに開発は不可能です。しかし、保健医療供給事業 に関しては、民間部門が生み出す便益よりも、そのコストの方が大きい という明らかなリスクがあるのです。 現在出ている証拠は、すべての国で政府の保健医療事業が機能している などという主張を裏付けるものではありません。多くの貧困国で、乗り 越えなければならない深刻な課題があります。また、民間部門が果たす べき役割が何もないということを示すものでもありません。民間部門の 事業は今後も継続するため、国民が民主的統制権を行使できる、公的部 門主導の、よく規制されたシステムの中で、民間部門事業で発生するコ ストを管理し、民間部門事業が研究やイノベーションなどの分野にもた らし得る便益については、より良く理解し活用すべきです。 しかし、良質な保健医療への普遍的かつ衡平なアクセスを実現するには、 公的部門をその主な事業者として機能させる以外に道はないという点に ついては、証拠は議論の余地を与えません。近道も別の道もありません。 途上国政府と先進国ドナーは、今こそ本当の変革を起こし、万人のため の無償の公的保健医療を急速に拡大させることを最優先すべきです。同 時に、多くの努力の上に得られた成功を転覆させないためにも、効果が 実証されていない、民間部門拡大推進という高リスクの政策の追求は停 止するべきです。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 39 提言 先進国ドナーへの提言 • 低所得諸国における無償の公的保健医療の普遍的供給を拡大するた めの資金拠出を、「国際保健パートナーシップ(IHP)」を通じた 拠出金も含め、急速に増額する。援助はドナー間で調整し、予測可 能な形で、かつ長期にわたって行い、可能な場合は保健セクター向 けの財政支援、もしくは一般財政支援として提供する。 • 公的サービス供給拡大の成功事例研究を支援し、教訓を途上国政府 と共有する。 • 市場原理に基づいた公的保健システム改革と、民間による供給拡大 を基調とした、十分に検証されていない高リスクな政策を奨励した り援助資金を投入するのではなく、このような方策に関連する証拠 とリスクを熟慮する。 • 開発途上国政府が、既存の民間保健医療事業者を規制するために必 要な能力を強化するための支援を行う。 途上国政府への提言 • 市場原理に基づいた公的保健システム改革と民間部門による保健医 療の供給拡大という、十分に検証されておらず機能し得ない政策方 針の実施を求めるような先進国ドナーからの圧力を拒否する。 • 政府予算の最低 15%を保健医療に支出し利用者負担を廃止すること を含め、一次医療・二次医療サービスの公的供給拡大という証拠に 基づく戦略に資源と専門知識を投入する。 • 計画策定、予算プロセス、および公的保健医療サービス供給の監視 への市民の参画と監督を確保する。 • 公的保健医療サービスへのアクセスとその質を最大化するために、 市民社会と連携する。 • 営利目的の民間保健医療サービス事業者による公衆衛生へのプラス の貢献を確保し、またリスクを最小化するように、民間事業者の規 制に尽力する。 • 世界貿易機関(WTO)における「サービスの貿易に関する一般協定 (GATS)」を含む、二国間・域内・国際的な貿易・投資協定から 保健医療サービスを除外する。 市民社会への提言 • 政策策定への関与、医療費支出とサービス供給の監視、汚職の暴露 など、政府の説明責任を追及するための行動を協調して行う。 • 事業を商業化する圧力を排し、援助国や政府に、普遍的公的保健医 療サービスを強化するように求める。 40 Oxfam Briefing Paper, February 2009 • 「保健システム強化のための NGO 行動規範(NGO Code of Conduct for Health Systems Strengthening)」への署名を含め、 CSO が提供する保健医療サービスが、確実に公的保健システムを補 完し、その拡大に資するようにする。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 41 脚注 1 World Bank (2004), ‘World Development Report: Making Services Work for Poor People’, Washington DC: World Bank 2 Bennett,S., McPake, B. and Mills, A (eds.) (1997) Private Health Providers in Developing Countries. Serving the Public Interest? London: Zed Books 3 International Finance Corporation (IFC) (2007) ‘The business of health in Africa: partnering with the private sector to improve people’s lives’, Washington DC: IFC 4 World Bank (2007) ‘Healthy Development: The World Bank Strategy for Health, Nutrition, and Population Results’, Washington DC: World Bank 5 World Bank 2004, op.cit., page 155 6 貧困国で保健医療事業への関与を拡大している多国籍大企業は多数ある。 Afrox Healthcare Limited は、南アフリカ、ボツワナ、及びジンバブエで総病床 数 7,300 床を運営している。医療保険会社も民間の保健医療事業者への保険 提供あるいは同事業者との提携関係を含める方向にその事業内容を拡張して いる。British United Provident Association (BUPA)は、国際的な保健医療の 専門企業で、世界 180 カ国に加入者を持ち、保険サービスと医療サービスを約 400 万人に提供している。2001 年には BUPA は、マレーシア、香港、シンガポ ールにおける一次医療事業者の買収を完了し、最近は、インドにおける大手医 療保険・医療事業者との合弁事業に乗り出した。 7 Ollila, E. (2005) ‘Restructuring global health policy-making: the role of global public-private partnerships’ in Mackintosh,M. and Koivulsalo, M. (eds.) Commercialization of Health Care: Global and Local Dynamics and Policy Responses, New York: UNRISD 8 EU とカリブ諸国の間で提案されている経済協力協定(EPA)は、保健医療サー ビスも含む。EPA は、外国事業者の市場参入が国家の開発目標達成を支援す るものではなかったり、最も貧しく最も立場の弱い国民の保健医療アクセスを意 図せずに阻害するような内容になっている場合でも、国家が外国事業者の事業 条件を変更することを著しく困難にする条項を含んでいる。 9 一例として、米国の 200 人の個人投資家が、カナダの保健システムへの投資と そこからの収益獲得機会へのアクセスをカナダ政府が阻害し続けるならば、カ ナダ政府を相手取り、北米自由貿易協定(NAFTA)を根拠として提訴することを 計画している。出典:Russell, F. (2008) ‘Suit seeks to open Canadian health care to privatizers’, Winnipeg Free Press, September. http://www.winnipegfreepress.com/historic/33080179.html(2009 年 1 月閲 覧) 10 Oxfam, Action for Global Health, Médecins du Monde, Save the Children, Plan, Global Health Advocates, and Act Up Paris (2008) ‘Health insurance in low-income countries: Where is the evidence that it works?’ Oxford: Oxfam International. 11 IFC report 2007, op.cit., page18. 12 ibid. 42 Oxfam Briefing Paper, February 2009 13 比較対象となり得るデータカテゴリの見出せるサハラ以南のアフリカ 15 カ国の 「人口統計・保健調査(DHS)」から民間事業者に関するデータをオックスファム が分析したもの。データの出典: T.Marek, C. O’Farrell, C. Yamamoto and Zable, I. (2005) ‘Trends and Opportunities in Public-private Partnerships to Improve Health Service Delivery’, Africa Region Human Development Series, Washington DC: World Bank 14 Lyer,A., Sen,G., and George,A. (2007) ‘The dynamics of gender and class in access to health care: evidence from rural Karnataka, India’, International Journal of Health Services 37(3) 15 Ibid. 16 入手可能な最新データ。データの出典:Marek et al 2005, op.cit.. 17 McCoy,D., Ashwood-Smith,H., Ratsma,E., and Kemp, J. (2005) ‘Going from bad to worse: Malawi’s maternal mortality’, South Africa: Health Systems Trust 18 World Bank 2004, op.cit., page 138. 19 World Bank 2004, op.cit., page 137. 20 IFC 2007, op.cit., page 15. 21 Sengupta, A. and Nundy, S. (2005) ‘The private health sector in India is burgeoning but at the cost of public health care’ British Medical Journal 331: 1157-1158 22 Economic Times (2004):‘Medical tourism, the next big wave’, Economic Times, 8 April. 23 Pan American Health Organization and Swedish International Development Agency (2003). ‘Exclusion in health in Latin America and the Caribbean’, Pan American Health Organization, Extension of Social Protection in Health Series No. 1. Washington DC 24 データの出典:Marek et al 2005, op.cit.. 25 Presentation by Julian Schweitzer, Director: Health,Nutrition, and Population, Human Development Network, World Bank. Oxfam debate ‘In the public interest? What role for the private sector in delivering health care for all?’ at the World Health Assembly, Geneva, May 2008. IFC and World Bank roundtable discussion ‘Health in Africa’ at the World Bank Offices, Brussels, 26 February 2008 26 IFC 2007, op.cit., page 28. 27 Bayliss, K. and Kessler, T. (2006) ‘Can privatisation and commercialisation of public services help achieve the MDGs? An assessment’, United Nations Development Programme, Working Paper number 22, New York: UN 28 南アフリカでは、医療保険制度への保険料拠出は所得から控除され、政府の 税収が大幅に減少する。この助成制度で、2001 年には、10 億ドルの税収入の ロスを記録した。出典:McLeod, H. (2005) ‘Mutuality and solidarity in healthcare in South Africa’. South African Actuarial Journal 5: 135-67 29 McIntyre, D., Gilson, L. and Mutyambizi, V. (2005) ‘Promoting equitable health care financing in the African context: Current challenges and future Oxfam Briefing Paper, February 2009 43 prospects’, EQUINET Discussion paper number 27. www.equinetafrica.org/bibl/docs/DIS27fin.pdf(2008 年 10 月 15 日閲覧) 30 Baeza and Munoz (1999) in Mills, A. (2007) ‘Strategies to achieve universal coverage: are there lessons from middle-income countries?’ Background paper for the Commission on Social Determinants of Health, Geneva: WHO 31 WHO (2006) ‘World Health Report’, Geneva: WHO 32 IFC 2007, op.cit., page 3. 33 Wibulpolprasert, S. and Pengpaibon, P. (2003) ‘Integrated strategies to tackle the inequitable distribution of doctors in Thailand: four decades of experience’, Human Resources for Health 1(12). 34 この点は、世界銀行の現保健部長(Director of Health)が何度も繰り返し表明 しており、直近では、2008 年にジュネーブで開催された世界保健総会における オックスファムの「公共の利益のために?万人のための保健医療提供に民間部 門が果たしうる役割とは?」と題した討論でも、同様の主張を行った。 35 文献の例:Hsaio, W. (1995) ‘Abnormal economics in the health sector’ Health Policy 32:125-39. 36 Mackintosh, M. (2007) ‘Planning and market regulation: strengths, weaknesses and interactions in the provison of less inequitable and better quality care’, Background paper for the Commission for the Social Determinants of Health, Geneva: WHO 37 Transparency International (2006) ‘Global Corruption Report 2006’, London: Transparency International 38 Blumenthal, D. and Hsiao,W. (2005) ‘Privatization and Its Discontents – The Evolving Chinese Health Care System’, The New England Journal of Medicine 353:1165-1170. 39 WHO statistics, http://www.who.int/whosis/en/(2008 年 10 月 7 日閲覧) 40 Ibid. 41 WHO Commission on the Social Determinants of Health (2008) ‘Closing the gap in a generation: health equity through action on the social determinants of health’, Commission on the Social Determinants of Health, Geneva: WHO. 米国では、2000 年以来、企業が提供する健康保険制度への 従業員の保険料平均負担額が 143%以上伸びている。同時期に、控除対象費 用の利用者平均負担額、治療薬の利用者平均負担額、及び医師・病院訪問の 共同保険の利用者平均拠出額も 115%伸びている。 42 World Bank (2008) ‘World Development Indicators 2008’, Washington DC: The World Bank, page 118. 43 Kuttner, K. (2008) ‘Market-based failure – a second opinion on U.S. health care costs’ The New England Journal of Medicine, 358:549-51. 44 1997 年の帝王切開分娩率は 40%だった。Murray, S.F. (2000) ‘Relations between private health insurance and high rates of Caesarean section in Chile: a quantitative and qualitative study’, British Medical Journal, 321(7275):1501-5. 44 Oxfam Briefing Paper, February 2009 45 Angeja, A. and Washington,A. et al. ‘Chilean women's preferences regarding mode of delivery: which do they prefer and why?’ An International Journal of Obstetrics & Gynaecology, 113(11):1253–58. 46 Huong,D., Phuong, N. et al.,(2007) ‘Rural health care in Vietnam and China: conflict between market reforms and social need’, International Journal of Health Services 37(3) 47 Liu, X. and Mills, A. (2002), ‘Financing reforms of public health services in China: lessons for other nations’ Social Science and Medicine 54:1691-98 48 Palmer, N. (2000) ‘The use of private-sector contracts for primary health care: theory, evidence and lessons for low-income and middle-income countries’ Bulletin of the World Health Organization 78(6). 49 Waelkens and Greindl (2001) in Bayliss and Kesler (2006) op.cit. page 19 50 委託契約に関する証拠の大半は、パイロット・プロジェクトと非営利の民間事業 者によるプログラムから得られたもの。これは多くの場合、営利事業者を除外し たからではなく、営利事業者が競争力のある、あるいは技術的に許容範囲内に 入る入札を提出できなかったことによる。従ってこの章では、民間部門の関与の モデルとしての委託契約の効率性に関する主張を検証するために、一部非営 利活動の事例を使用している。 51 Bloom,E., Bhushan, I. et al. (2007) ‘Contracting for health: evidence from Cambodia’ Washington DC: Brookings Institute www.cfr.org/publication/11356/brookings_institution.html(2008 年 10 月 20 日閲覧) 52 Palmer,N., Strong, L. et al (2006) ‘Contracting out health services in fragile states’ British Medical Journal 332:718-721 53 WHO (1998) ‘Experiences of contracting: an overview of the literature.’ Macroeconomics, Health and Development Series, Number 33. 54 これにはカンボジアの事例が含まれている。この事例では、2003 年、委託事業 地区における一人当たりの公的資金支出の伸びが、その他の地域の平均 1.59 ドルを遥かに上回る 2.93 ドルだった。出典:Bloom et al. (2006) op.cit. 55 Liu,X, Hotchkiss, D., and Bose, S. (2008) ‘The effectiveness of contracting-out primary health care services in developing countries: a review of the evidence’ Health Policy and Planning 23:1-13. 56 通常求められる、「証拠に基づく政策策定」と対照を成した皮肉表現。 57 文献の例:Mills, A. and Broomberg, J. (1998) ‘Experiences of contracting: an overview of the literature’ Geneva: WHO; Macroeconomics, Health and Development Series, 33; England, R. (2004) ‘Experiences of contracting with the private sector: a selective review’ London, DFID Health Systems Resource Centre; Loevinsohn,B. and Harding,A. (2005) ‘Buying results? Contracting for health service delivery in developing countries’, The Lancet, 366: 676-8; Liu, X. et al, 1998, op.cit.. 58 Loevinsohn and Harding 2005, op.cit.. 59 検証の方法論的な欠陥を執筆者が以下のように挙げている。(1)検証された事 例の半数が正統性が疑わしい報告書に基づくもので、査読を受けていない文献 も含まれる。(2)複数の研究間で、方法や成果の測定方法がかなり異なる。(3) 実験デザインと結果に開きがあることから、正式なメタ分析は不可能である。 Oxfam Briefing Paper, February 2009 45 (4)執筆者達が特定できなかった他の委託契約事例が存在する可能性があり、 それらのプラス効果はより低かった可能性もある。(5)考慮した事例にはパイロ ット試験のバイアスがかかっている可能性がある。出典:Loevinsohn and Harding 2005, op.cit.. 60 Liu, Hotchkiss and Bose 2008, op.cit.――バングラデシュにおける最大の民 間委託プログラムの評価については、激しい議論があることに留意。この議論 は、統制群が僅少であること、統制群の選定基準が過少であること、統制群の クロス汚染、交絡因子の統制不足、指標の選択の問題など、内部妥当性を脅か す数多くの要素に関する懸念から生じた。これがデータの再分析につながり、そ の結果、Loevinsohn and Harding (2005, op.cit.)による文献検証の結論より も、より控えめな結論に至っている。 61 Marek,T., Diallo,I., Ndiaye, B., and Rakotosalama, J. (1999) ‘Successful contracting of preventative services: fighting malnutrition in Senegal and Madagascar’, Health Policy and Planning 14: 382-9. 62 UNDP (2003) ‘Human Development Report 2003: Millennium Development Goals: A Compact Among Nations to End Human Poverty’, New York: UNDP, page 114 63 Health Policy Network of the NHS Consultants' Association, NHS Support Federation (1995) ‘In practice: The NHS market in the United Kingdom’, Public Health Policy 16:452-91 64 Mills and Broomberg 1998, op.cit.. 65 Marek et al 2005, op.cit., page 36. 66 Ibid. 67 IFC 2007 op.cit., page 8. 68 Tuan,T.,Dung, V., Neu,I., and Dibley,M. (2005) ‘Comparative quality of private and public health services in rural Vietnam’ Health Policy and Planning 20: 319-27. 69 Hsiao, W.C. (2004) ‘Disparity in health: the underbelly of China's economic development.’ Harvard China Review 5:64-70. 70 IFC (2007) op.cit., citing WHO (2003) ‘Effective medicines regulation: ensuring safety, efficacy, and quality.’ Geneva: WHO 71 Broomberg, J. and Mills, A. (2004) ‘Quality of care in contracted-out and directly provided public hospital services in South Africa: evaluation of structural aspects’, HEFP Working Paper 02/04, London School of Hygiene and Tropical Medicine 72 Patouillard,E., Goodman, C., Hanson, K. and Mills, A. (2007), ‘Can working with the private for profit sector improve utilization of quality health services by the poor? A systematic review of the literature.’ International Journal for Equity in Health, 6(17). 73 World Bank 2004, op.cit.. 74 Omaswa op.cit.. 75 IRIN(2008) ‘NIGERIA: Shoddy private health centres closed down’, IRIN 29 April 2008 www.irinnews.org/report.aspx?ReportID=77981(2008 年 10 月 28 日閲覧) 46 Oxfam Briefing Paper, February 2009 76 Newell,J., Pande,S., et al. (2004) ‘Control of tuberculosis in an urban setting in Nepal: public–private partnership’ Bulletin of the World Health Organization 82:92-98. 77 世界基金は、2008 年 11 月の役員会議で AMFm を支持するかどうか決定す る。 78 過少処方は、患者が必要な日数分の治療薬の料金を負担できない場合によく 起こる。 79 「国境なき医師団(Médicins Sans Frontières: MSF)」は、アフリカの 3 カ国で マラリア治療のパイロットプロジェクトとプログラムを実施し、マラリアの診断・治 療を受ける人の数は、医療サービスが無償になった場合にのみ増加するという 観察結果に到達した。出典: MSF (2008) ‘Full Prescription: Better Malaria Treatment for More People, MSF’s Experience: Brussels. 80 Mackintosh, M. (2003) ‘Health care commercialisation and the embedding of inequality’ RUIG/UNRISD Health Project Synthesis Paper 81 World Bank (2004), op.cit., page 15. 82 Ibid. 83 Hall, D. (2003) ‘Public Services Work!: Information, insights and ideas for our future’, Public Services International: Geneva 84 Koivusalo and Mackintosh 2004, op.cit.. 85 Huong, Phuong et al.2007 op.cit.. 86 ベトナムの公的保健システムは資源が乏しく管理も行き届いていないが、1980 年代後半までは基礎的サービスへの普遍的アクセスをほぼ達成していた。その 結果、僅か 40 年の間に、乳児死亡件数は 90%減少し、平均寿命はほぼ 2 倍 に伸びた。しかし、その後導入された市場原理による改革と民間部門の大幅な 成長により、貧困層の費用負担が不相応に上昇している。2003 年には、一回 の入院治療費用は、非貧困層の平均月収 8 カ月分に対して、貧困層は 42 カ月 分だった。このような富裕層と貧困層の同じ医療に関する負担の格差は、1993 年当時と比べ 2 倍の開きとなった。出典: From Huong, Phuong, et al, op.cit. 87 Rannan-Eliya, R. and Somantnan, A. (2005) ‘Access of the Very Poor to Health Services in Asia: Evidence on the role of health systems from Equitap’. UK: DFID Health Systems Resource Centre 88 Huong, Phuong et al.(2007) op.cit.. 89 Financial Times: ‘China facing health system funding crisis’ The Financial Times, 21 October 2008 90 Blumenthal and Hsiao 2005, op.cit.. 91 Standing, H. (2002) ‘Framework for understanding health sector reform’ in Sen,G., George, A., and Ostlin, P. (eds) Engendering international health: the challenge of equity Cambridge: MIT Press 92 Unifem (2005), Progress of the World’s Women 2005, New York; F.Lund, and A.Marriott (2005). ‘Occupational Health and Safety for the Poorest’. London: Report for DFID. 93 Östlin, P. (2005) ‘What evidence is there about the effects of health care reforms on gender equity, particularly in health?’ Copenhagen: WHO Oxfam Briefing Paper, February 2009 47 Regional Office for Europe, Health Evidence Network Report; http://www.euro.who.int/Document/E87674.pdf(2008 年 2 月 20 日閲覧) 94 Oxfam International(未発表――今後発表予定) ‘Georgia For All Country Case Study’ 95 IFC 2007, op.cit., pages 40-41. 96 World Bank 2004, op.cit., page 9. 97 Transparency International 2006, op.cit.. 98 Ibid. 99 クレシ判事が行った調査研究は、インドの企業系病院は「金の生る木」である と結論しました。出典: Qureshi, A.S. (2001) ‘High Level Committee for Hospitals in Delhi’, New Delhi: Unpublished Report of the Government of Delhi 100 公立の保健システムで提供可能なサービスの規模と範囲を、CSO が達成で きるという証拠はほとんどない。DFID の資金でアジアで行われた調査研究で は、インド、バングラデシュ、中国などの国々で何百という NGO プロジェクトや イニシアティブが取り組まれているにも関わらず、これらの国々の貧困層の全 体的な経験に違いが出るほどのプラス影響を与えることはできなかったことが 判明した。数百万人が NGO の活動の対象となっているバングラデシュでさえ、 現実には、数千万人の貧しい国民が保健医療サービスに事実上アクセスでき ない状態が続いている。出典:Rannan-Eliya and Somanathan 2005, op.cit.. 101 Loewenson, R. (2003a) ’Civil society – state interactions in national health systems’, Annotated Bibliography on Civil Society and Health, Zimbabwe: WHO and Training and Research Support Centre 102 例えばネパールでは、大多数の CSO は政府施設が既に存在する都市部に あり、中所得世帯に保健サービスを提供している。出典:World Bank (2004) ‘Social assessment of the Nepal Health Sector Reform’, Washington DC: World Bank 103 例えば、モザンビークでは、外部資金による CSO の急成長が最もニーズの 高い地域への資源の効率的な配賦を直接的に阻害し、サービス提供のばら つきと不平等の悪化を生んだ。出典:J.Pfeiffer (2003) ‘International NGOs and primary health care in Mozambique: the need for a new model of collaboration.’ Social Science & Medicine 56(4): 725-38. 104 宣教組織の病院は、大半のアフリカ諸国で利用料を課しており、このことが最 貧層、特に女性と女児の排除につながっている。マラウイにおけるオックスファ ムの調査研究では、宣教組織の施設の利用料が貧困層にとっての大きな障 壁となっており、彼らは、公的施設まで長距離を歩くか、医療を全く受けないこ とを選択している。無償の医療サービスを提供するには、長期的で持続的な 資金調達が必要だが、これは大多数の CSO にとって困難を伴う。 105 CSO は資金不足に悩む政府よりも高い賃金と良い労働条件を提供すること があり、保健医療従事者を公的部門から引き抜くことがある。最近のエチオピ アにおける調査研究は、専門医なら、米国の援助機関に雇用されれば、エチ オピア保健省に雇用される場合の 3 倍の給与を得られることを示した。この研 究は、専門医が保健省に雇用された場合の月額基本給が 354∼513 ドルで あるのに対して、米国系の二国間協力機関に雇用された場合は 950∼1200 48 Oxfam Briefing Paper, February 2009 ドルであると報告した。出典: Davey,G., Fekade,D., and Parry, E. (2006) ‘Must aid hinder attempts to reach the Millennium Development Goals?’ The Lancet 367: 629–31. 106 WHO Commission on the Social Determinants of Health (2007) ‘Challenging Inequity through Health Systems’, Geneva: WHO 107 アジアで成績の良い国々には、スリランカ、マレーシア、香港、タイが含まれる。 Rannan-Eliya and Somantnan 2005, op.cit.. 108 Bokhari et al. 2005 cited in Mackintosh 2007, op.cit.. 109 Koivusalo,M. and Mackintosh, M. (2004), ‘Health Systems and Commercialisation: In Search of Good Sense’. Paper prepared for the UNRISD International Conference on Commercialization of Health Care: Global and Local Dynamics and Policy Responses www.unrisd.org (2008 年 10 月 28 日閲覧) 110 平均を上回る健康改善効果を急速に達成した地域を選択したもの。 Mehrotra, S. and Jolly, R. (eds.) (1997) Development With A Human Face — Experiences in Social Achievement and Economic Growth, Oxford: Oxford University Press、国々の選択の基準の詳細は 2 章を参照。 111 5 歳以下の乳幼児死亡率激減の「ブレークスルー」期は国によって、1940 年 代から 1990 年代の幅がある。 ibid., page 66. 112 Oxfam (2006) ‘In the Public Interest’, Oxford: Oxfam International. 113 Ibid. 114 Oxfam International and WaterAid (2006) 'In the Public Interest: Health, Education, and Water and Sanitation for All’, Oxford: Oxfam International 115 IRIN(2008) ‘SRI LANKA: On track to eliminate malaria’, IRIN, 24 April 2008. www.irinnews.org/Report.aspx?ReportId=77899 (2008 年 10 月 28 日閲覧) 116 Kuttner 2008, op.cit.. 117 UNDP (2006) ‘Human Development Report 2006’, New York: UNDP 118 IFC 2007, op.cit., page 60 119 例えば世銀の報告書によると、キューバでは、地方政府レベルでの定期総会 が具体的な保健医療のニーズとサービスに関する消費者フィードバックの場 になっている。World Bank 2004, op.cit. 120 Malawi Health Equity Network www.mejn.mw/mhen.html (2008 年 10 月 28 日閲覧) 121 WHO 2008, op.cit. 122 Tibandebage, P. and Mackintosh, M. (2005) ‘The market shaping of charges, trust and abuse: health care transactions in Tanzania’ Social Science and Medicine 61:1385-95. 123 Transparency International 2006, op.cit., page 65 124 WHO Commission on the Social Determinants of Health 2007, op.cit. 125 Oxfam (2007) ‘Paying for people’ Oxford: Oxfam International Oxfam Briefing Paper, February 2009 49 126 Sen,G., Lyer,A. and George, A. (2002) ‘Class, gender, and health equity: lessons from liberalizing India’ in Sen,G. et al. 2002, op.cit. 127 Rannan-Eliya and Somantnan 2005, op.cit.. 128 Gwatkin, D. (2001) ‘Poverty and inequalities in health within developing countries: filling the information gap’ in D.Leon and G.Walt (eds.) Poverty, Inequality and Health, Oxford: Oxford University Press 129 Loewenson 2003a, op.cit.. 130 Chu,K., Davooodi, H., and Gupta, S. (2000) ‘Income Distribution and Tax and Government Social Spending Policies in Developing Countries’. IMF Working Paper WP/00/62. 政府による公共サービスの提供は、累進課税制 度と共に、社会の不平等を是正する主要な手段となる。実際、IMF も認めてい るように、特に「大規模な無償の公教育と公的保健医療サービスを提供する 国において」所得格差に与える影響が大きくなり得る。 131 Ibid. 132 WHO Commission on the Social Determinants of Health 2007, op.cit. 133 Mackintosh 2007, op.cit. 134 Owusu (2005), Van Leberghe et al. (2002) cited in WHO Commission on the Social Determinants of Health 2007, op.cit.. 135 Ghani,A., Lockhart, C., and Carnahan, M. (2005) ‘Closing the Sovereignty Gap: an Approach to State-Building’ ODI Working Paper 253 136 World Bank (2000) ‘Voices of the Poor: Can anyone hear us?’ New York: Oxford University Press 137 Hall, D. (2003) ‘Public Services Work!’ Geneva: Public Services International 138 Alonso, A. and Brugha, R. (2006) ‘Rehabilitating the health system after conflict in East Timor: a shift from NGO to government leadership’ Health Policy and Planning 21(3):206-216. 139 Blumenthal and Hsiao 2005, op.cit.. 140 WHO (2006) ‘World Health Report’, Geneva: WHO, page 77. 141 World Bank (nd) ‘IDA at work: Rebuilding Timor-Leste’s Health System’ Project summary www.worldbank.org(2008 年 10 月 28 日閲覧) 142 WHO (2008), ‘Impact of long-lasting insecticidal-treated nets and artemisinin-based combination therapies measured using surveillance data, in four African countries’. Preliminary report,Global Malaria Program, Geneva. 143 WHO Commission on the Social Determinants of Health 2007, op.cit. 144 Rannan-Eliya and Somantnan 2005, op.cit. 145 Ibid. 146 WHO Commission on the Social Determinants of Health 2008, op.cit. 147 WHO Commission on the Social Determinants of Health 2007, op.cit. 148 Mackintosh 2007, op.cit. 50 Oxfam Briefing Paper, February 2009 149 メキシコとアルゼンチンは、民間企業と先進国ドナーからの圧力を受けて社会 保障制度を改革し、社会の成員が保健医療事業者を自己選択できるようにし た二つの例。資料の一例として: Iriat, C. (2005) and Jasso-Aguilar, R. et al. (2005) in Mackintosh 2007 op.cit.. 150 Tibandebage and Mackintosh 2005, op.cit. 151 Hongoro, C. and Berman,P. (1998). ‘Do they work? Regulating for-profit providers in Zimbabwe’ Health Policy and Planning 15(4): 368-77. A.Mills R.Brugha, J.Gabsibm and B.McPake (2003) ‘What can be done about the private health sector in low income countries? Bulletin of the World Health Organisation 80(4):325-30. 152 Mackintosh 2007, op.cit.. 153 Mills, Brugha, et al 2003 op.cit.. 154 Mills, Brugha, et al 2003 op.cit.. 155 Mackintosh 2007, op.cit.. 156 Mackintosh 2007, op.cit.. 157 Rannan-Eliya, R. et al. (2003) in Yazbeck, A. and Peters, D. (eds) ‘Health Policy Research in South Asia: Building Capacity for Reform’, Washington DC: World Bank ――スリランカの民間事業者が提供する医療 の質の詳細調査で、適正な質であることが判明した。 158 O’Donnell,O., Van Doorslaer, E. et al.(2005) ‘Who benefits from public spending on health care in Asia? Equitap Project working paper No 3. www.equitap.org(2008 年 9 月 15 日閲覧) 159 Narayana,K. (2007) ‘The Role of the State in the privatisation and corporatisation of medical care in Andra Pradesh, India’ in Sen, K. (ed.) Restructuring Health Services: Changing Contexts and Comparative Perspectives, London: Zed Books 160 James,C., Hanson,K. et al. (2006) ‘To retain or remove user fees?: reflections on the current debate in low- and middle-income countries’, Applied Health Economics and Health Policy 5(3):137-53 161 「有益な競合」という表現の出典:Mackintosh and Koivulsalo 2005, op.cit. 162 Loewenson, R. (2003b) ‘Civil Society Influence on Global Health Policy’ Annotated Bibliography on Civil Society and Health, Zimbabwe: WHO and Training and Research Support Centre, www.tarsc.org/WHOCSI/pdf/WHOTARSC4.pdf(2008 年 7 月閲覧) 163 Loewenson, R. 2003a, op.cit.. 164 Lochoro, P. et al. (2006) ‘Public-private partnerships in health: working together to improve health sector performance in Uganda’ in Kirunga,C. Tashobya, Ssengooba, F., and Oliveira Cruz, V (eds.) Health Systems Reforms in Uganda: Processes and Outputs, London: Health Systems Development Programme, London School of Hygiene & Tropical Medicine 165 Alonso and Brugha 2006, op.cit.. 166 The NGO Code of Conduct for Health Systems Strengthening http://ngocodeofconduct.org/category/signatories/(2008 年 10 月 28 日閲 覧) Oxfam Briefing Paper, February 2009 51 167 オックスファムは現在、行動規範への署名手続きを進行中。 © Oxfam International February 2009 This paper was written by Anna Marriott. Oxfam acknowledges the assistance of Max Lawson, Tom Noel, Elizabeth Stuart, Mark Fried, Esmé Berkhout, Rohit Malpani, Patrick Carroll, Nancy Holden, Mohga Kamal-Yanni, Emma Seery, Rob Doble, Katie Allan, Duncan Green, Allessia Bertelli, Rene Loewenson, Di McIntyre, Maureen Mackintosh, Jane Lethbridge, David Hall, Polly Jones, Tom Ellman, David McCoy, and Chris Whitty in its production. It is part of a series of papers written to inform public debate on development and humanitarian policy issues. The text may be used free of charge for the purposes of advocacy, campaigning, education, and research, provided that the source is acknowledged in full. The copyright holder requests that all such use be registered with them for impact assessment purposes. For copying in any other circumstances, or for re-use in other publications, or for translation or adaptation, permission must be secured and a fee may be charged. E-mail publish@oxfam.org.uk. For further information on the issues raised in this paper please e-mail advocacy@oxfaminternational.org. 翻訳: 大貫葉子、山田太雲 52 Oxfam Briefing Paper, February 2009 Oxfam International is a confederation of thirteen organizations working together in more than 100 countries to find lasting solutions to poverty and injustice: Oxfam America, Oxfam Australia, Oxfam-in-Belgium, Oxfam Canada, Oxfam France - Agir ici, Oxfam Germany, Oxfam GB, Oxfam Hong Kong, Intermón Oxfam (Spain), Oxfam Ireland, Oxfam New Zealand, Oxfam Novib (Netherlands), and Oxfam Québec. Please call or write to any of the agencies for further information, or visit www.oxfam.org. Oxfam America 226 Causeway Street, 5th Floor Boston, MA 02114-2206, USA +1 617 482 1211 (Toll-free 1 800 77 OXFAM) E-mail: info@oxfamamerica.org Www.oxfamamerica.org Oxfam Australia 132 Leicester Street, Carlton, Victoria 3053, Australia Tel: +61 3 9289 9444 E-mail: enquire@oxfam.org.au Www.oxfam.org.au Oxfam-in-Belgium Rue des Quatre Vents 60, 1080 Brussels, Belgium Tel: +32 2 501 6700 E-mail: oxfamsol@oxfamsol.be Www.oxfamsol.be Oxfam Canada 250 City Centre Ave, Suite 400, Ottawa, Ontario, K1R 6K7, Canada Tel: +1 613 237 5236 E-mail: info@oxfam.ca Www.oxfam.ca Oxfam France - Agir ici 104 rue Oberkampf, 75011 Paris, France Tel: + 33 1 56 98 24 40. 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E-mail: info@oxfamint.org.in Web site: www.oxfamint.org.in エラー! スタイルが定義されていません。, Oxfam Briefing Paper, Month Year 53 Oxfam observer member. The following organization is currently an observer member of Oxfam International, working towards possible full affiliation: Fundación Rostros y Voces (México) Alabama 105, Colonia Napoles, Delegacion Benito Juarez, C.P. 03810 Mexico, D.F. Tel: + 52 5687 3002 / 5687 3203 Fax: +52 5687 3002 ext. 103 E-mail: comunicación@rostrosyvoces.org Web site: www.rostrosyvoces.org 54 Oxfam Briefing Paper, February 2009
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