平成 28 年度 日本小動物獣医学会(近畿)プログラム C 会場(B3 棟 117 号室) ① 開会の辞(近畿地区副学会長挨拶) 9:20 〜 9:30 安田 和雄 ② 一般講演(午前の部) 9:30 〜 11:30 C1 〜 C12 ③ ランチョンセミナー 1 12:00 〜 12:40 ④ 一般講演(午後の部) 13:00 〜 14:00 ⑤ 日本小動物獣医学会学会長・副学会長挨拶 14:00 〜 14:30 C13 〜 C18 D 会場(B3 棟 118 号室) ① 開会の辞(近畿地区学会長挨拶) 9:20 〜 9:30 大橋 文人 ② 一般講演(午前の部) 9:30 〜 11:30 D1 〜 D13 ③ ランチョンセミナー 2 12:00 〜 12:40 ④ 一般講演(午後の部) 13:00 〜 14:00 ⑤ 日本小動物獣医学会学会長・副学会長挨拶(C 会場 B3 棟 117 号室) 14:00 〜 14:30 D14 〜 D19 O 会場(学術交流会館 多目的ホール) ⑥ 近畿地区連合獣医師大会 15:00 〜 17:00 ⑦ 閉会の辞(褒賞演題公表・講評) 17:00 〜 17:20 談話会会場(P 会場・学術交流会館 サロン) ⑧ 談話会 17:30 〜 19:00 審 査 委 員 ○:会場審査会委員長 C 会 場 D 会 場 ○ 長谷川 哲 也(兵庫県) 川 合 朗(三重県) 近 棟 稔 哉(滋賀県) 島 村 俊 介(大阪府大) 助 川 剛(京都府) 宮 豊(兵庫県) 織 純 一(大阪府) ○ 宇 根 智(大阪市) 田 中 宏(奈良県) 井 本 昌 司(神戸市) 矢 倉 守巳男(和歌山県) 岩 田 法 親(京都市) 1.小動物獣医学会(近畿)審査委員会 8:50 〜9:10 会場:B3 棟 2 階 209 号室(審査委員兼幹事会議室) 2.小動物獣医学会(近畿)幹事会会議 12:00 〜 12:30 会場:B3 棟 2 階 209 号室(審査委員兼幹事会議室) 昼食を用意しております。 3.獣医学術近畿地区学会合同幹事会会議 12:30 〜 12:50 会場:B3 棟 2 階 205 号室 4.審査委員会 B3 棟 2 階 209 号室(審査委員兼幹事会議室) 14:10(一般講演終了直後)〜 日本小動物獣医学会(近畿) 一般講演プログラム C 会場(B3 棟 117 号室) —午前の部— (演題番号 C1 ~ C12) 9:20 ~ 9:30 近畿地区副学会長挨拶 開会の辞 9:30 ~ 10:00 座長 作野幸孝(奈良県) C1 CT 検査所見による犬の消化管リンパ腫と腺癌の鑑別 田中利幸(大阪府) C2 ペースメーカ植込みを実施した第3度房室ブロックの犬の1例 北中千昭(京都市) C3 外科的に治療した脊椎後弯症のイヌの1例 王寺 隆(大阪市) 10:00 ~ 10:30 座長 田中樹竹(大阪府) C4 帯状角膜変性症に対し角膜ー結膜移動術を行った2症例 小山博美(大阪市) C5 マイクロサージャリーによる尿管結石の治療を行った猫3例 清水誠司(京都府) C6 線溶亢進型 DIC が疑われた犬の1例 福岡 玲(兵庫県) 10:30 ~ 11:00 座長 山下 拡(京都市) C7 脾臓腫瘤の犬6例における血漿 TAT 濃度の評価 C8 ハンセン II 型椎間板ヘルニアに対する部分側方椎体切除術・片側椎弓切除術の 澤木和貴(大阪市) 治療予後 C9 ウサギ下顎骨の骨肉腫に対する下顎吻側切除術の有用性に関する検討 11:00 ~ 11:30 中田美央(兵庫県) 清水茉梨香(神戸市) 座長 本田善久(大阪市) C10 ウサギの腹腔内膿瘍の診断に関する検討 岡本佳菜子(神戸市) C11 前頭葉に対する脳外科手術によって退形成性希突起膠細胞腫と 病理組織学的に診断された6頭の犬における回顧的検討 中本裕也(京都府) C12 エールリヒア症だった、バリ島から来た犬の1例 今西貴久(三重県) ― 49 ― 12:00 ~ 12:40 座長 藤本由香(大阪府大) ランチョンセミナー 「犬・猫用ワクチンを見直す〜日本には日本の流行がある〜」 矢口和彦(一般社団法人京都微生物研究所) 協賛:株式会社微生物化学研究所 —午後の部— (演題番号 C13 ~ C18) 13:00 ~ 13:30 座長 石田龍一(滋賀県) C13 経時的に血漿 TAT 濃度を測定した急性膵炎の犬の2例 築澤寿栄(兵庫県) C14 子宮断端に発生した子宮多形細胞肉腫により、排便困難を呈した猫の1例 山田昭彦(京都市) C15 免疫介在性多発性関節炎と診断したジャーマンシェパードの2例 洞田知嗣(三重県) 13:30 ~ 14:00 座長 濱崎さやか(兵庫県) C16 胆嚢の拡張を呈した犬の1例の考察 人見 誠(京都市) C17 原発性腎腫瘍に対して腎臓摘出術を実施した犬の9例 杉本夕佳(滋賀県) C18 胸腰部椎間板ヘルニアと仮診断した症例に対して 好中球エラスターゼ阻害薬を用いた45例 今本成樹(奈良県) 14:00 ~ 14:30 日本小動物獣医学会学会長・副学会長挨拶 「日本獣医師会の活動状況と獣医学術地区学会の連携について(仮題)」 大橋文人 副編集委員長 15:00 ~ 17:00 近畿地区連合獣医師大会 (学術交流会館 多目的ホール) 各学会長 17:00 ~ 17:20 褒賞発表および閉会の辞 (学術交流会館 多目的ホール) ― 50 ― 各学会長 演題番号:C1 CT 検査所見による犬の消化管リンパ腫と腺癌の鑑別 ○田中利幸 1)2),山城徳之 1),長田雅昭 3),進藤 允 1),森 拓也 1),嶋崎 等 2) 1) 近畿動物医療研修センター,2)大阪府大,3)神戸ピア動物病院,近畿動物医療研修センター 1.はじめに:犬の消化管腫瘍で腺癌が最も多いとされてお り、リンパ腫の発生は稀で、発生率は消化管腫瘍のうち 5-7% とされている。治療は外科適応であれば、外科手術が第一選 択となる。また、リンパ腫では化学療法が有用であると報告 されているものの、腺癌では化学療法の有用性は確立されて いない。そのため腺癌とリンパ腫を鑑別することは治療方針 の決定に重要であると考えられる。超音波検査は消化管腫瘍 の診断に有用な検査であるが、リンパ腫と腺癌の鑑別は困難 であると報告されている。そこで今回、我々はリンパ腫と腺 癌の犬 9 症例について、CT 検査所見から造影増強効果、リ ンパ節の拡大の有無および造影の均一性と各腫瘍との関連に ついて検討した。 2.材料および方法:2015 年〜 2016 年に近畿動物医療研修セ ンターを受診し、胃および腸管腫瘍を疑い、CT 検査を実施 し、外科手術または生検により確定診断した犬 9 症例(リン パ腫 4 例、腺癌 5 例)を対象に検討を行った。CT 所見をもと にリンパ腫、腺癌および正常消化管の造影各相の CT 値の違 いを kruskal-wallis 検定を用い比較した。post-hoc 検定として マンホイットニーの U 検定を用いた(p<0.05) 。また、各腫瘍 における CT 所見(リンパ節の拡大の有無、造影の均一性) の関連についてフィッシャーの正確確率検定を用い検討した (p<0.05)。各腫瘍におけるリンパ節の大きさをマンホイット ニーの U 検定を用いて比較した(p<0.05) 。 3.結 果:リンパ腫の CT 値は腺癌と比較して、動静脈相お よび平衡相で優位な低値を示した(p<0.05) 。リンパ腫と腺癌 では、リンパ節の拡大の有無に優位な差を認めなかったもの の、リンパ腫は腺癌と比較してリンパ節の大きさが優位に拡 大していた(p<0.05) 。 4.考察および結語:CT 検査は胃および腸管におけるリンパ 腫および腺癌の鑑別に有用であった。腫瘍の CT 値だけでは なく、リンパ節の拡大の程度を併せて判断することで腫瘍鑑 別の診断精度が向上すると考えられる。今後、症例を蓄積し 他の消化管腫瘍との鑑別も含め、詳細に検討する必要がある と考えられる。 演題番号:C2 ペースメーカ植込みを実施した第3度房室ブロックの犬の1例 ○北中千昭 1),亀山佳奈 1),山本雄大 1),三橋憲人 1),大谷 豪 1),日浅真美 1),賀山千尋 1), 柴崎美佳 2),柴崎 哲 2) 1) セナ動物病院,2)関西動物ハートセンター 1.はじめに:徐脈性不整脈には洞徐脈、洞停止、洞房ブロッ ク、房室ブロックがあり、一般的に症状がみられるものとし ては第 3 度(完全)房室ブロック、高度房室ブロック、洞不全 症候群が挙げられる。これらの不整脈は突然死の危険性が高 いことが知られており、治療としてはシロスタゾールやイソ プロテレノール等を用いる内科的治療やペースメーカ植込み (以下 PMI)がある。今回我々は、第 2 度房室ブロックより第 3 度房室ブロックに悪化した犬の PMI を実施したのでその治 療効果を検討した。 2.材料および方法:11 歳 4ヵ月齢、去勢雄のミニチュア・ ダックスフント、歯石除去処置のための術前検査を実施した。 3.結 果:一般身体検査:心音・呼吸音正常。心エコー 検査、胸部 X 線検査:著変を認めず。心電図検査:心拍数 68 bpm、P 波 2 回に 1 回のペースで QRS 波が消失する不整脈 を認め、臨床症状を伴わない第 2 度房室ブロック(Mobitz Ⅱ 型)と診断した。予定していた歯石除去処置は延期し、臨床 症状が無いため無処置にて毎月の心電図検査を実施したとこ ろ、心拍数 68 bpm(第 12 病日)が 45 bpm(第 195 病日)に減 少、P 波と QRS 波に関連がない第 3 度(完全)房室ブロック(第 195 病日)へ進行した。そこで、第 197 病日に関西動物ハート センターを紹介、第 208 病日にペースメーカ植込み(PMI)を 実施した。ペースメーカのジェネレータは左側腹壁に留置、 リードを心尖部の左心室側に設置する心外膜ペーシングを選 択した。ペーシングレートは平常時 80 bpm、安静時 50 bpm、 運動時 100 bpm、ペーシング方式は VVIR とした。PMI 実施 後心拍数は 80 bpm と安定しており 1 年 10ヵ月が経過してい るが患犬の一般状態は良好である。 4.考察および結語:明らかな臨床症状が認められず日常生 活が営めている徐脈性不整脈の症例には、一般的に PMI は推 奨されない。しかし、QRS 波数の低下、房室ブロックの程度 上昇などの経時的な病態進行が認められた今回の症例は、将 来的に突然死のリスクが高いと予測され、PMI 適応であると 判断した。日常の診療で見逃しかねない無徴候の不整脈疾患 を診断し、経時的な心電図検査により進行性の病態を把握す ることで、重度徐脈性不整脈に対する予防的かつ積極的な治 療を行うことができた症例と考えられた。 ― 51 ― 演題番号:C3 外科的に治療した脊椎後弯症のイヌの1例 ○王寺 隆,宇根 智,川田 睦 ネオベッツ VR センター 1.はじめに:脊椎後弯症は菱形脊椎・二分脊椎症などに起 因する奇形性疾患であり、重度な症例では脊柱管狭窄や椎体 不安定症に起因した脊髄障害が観察される。今回我々は、若 齢犬に発生した脊椎後弯症に対して、背側椎弓切除・椎弓形 成術および椎体固定術を行い良好な結果が得られたので、そ の概要を報告する。 2.材料および方法:症例はフレンチ・ブルドッグ メス、7 カ月齢 体重 8.5 ㎏である。生後 4 カ月齢時より後肢のふらつ きが観察され、進行性の悪化から後肢麻痺を呈し当院へ紹介 受診された。診断はレントゲン検査、MRI 検査、CT 検査に て実施され、脊椎後弯症および脊柱管狭窄症と診断した。手 術は第 4 から第 6 胸椎の背側椎弓切除術にて脊髄を減圧後、 椎弓欠損部に対して 0.5 mm 厚チタンメッシュプレートにて椎 弓形成術を行った。また、椎体固定術は第 4 から第 8 胸椎に 対して行い、インプラントには計 10 本のチタン製皮質骨スク リューおよび PMMA(ポリメチルメタクリレート)を使用し た。手術後 CT/MRI 検査を実施し、脊柱管の拡大と脊髄減圧 を確認した。 3.結 果:画像診断では胸腰部レントゲン検査にて菱形脊 椎の第 6 胸椎を頂椎とした脊椎後弯症が観察され、第 5・第 7 胸椎の形成する後弯症のコブ角は 52 度であった。MRI 検査 では、第 5-6 胸椎間での脊柱管狭窄と同部位の脊髄実質に T2 強調画像での軽度高信号所見が観察された。手術では、減圧 部の脊髄に赤褐色への変色が確認された。術後の画像診断で は、コブ角の変化は観察されないものの、約 46 %の脊柱管 腔の拡大が確認された。症例は術後約 4 週目より自力での起 立・歩行が可能な状態に回復し、現在まで約 26 カ月間の経過 であるが臨床症状の再発は認めず良好に経過している。 4.考察および結語:本例は菱形脊椎に起因する脊椎後弯症 と診断した。画像診断より、脊髄障害は骨成長とともに発現 した脊柱管狭窄症によるものと推測された。脊髄減圧として 連続する 3 椎体での背側椎弓切除術を実施し、弯曲部での脊 髄保護と脊柱管腔の維持を目的にチタンメッシュを使用した 椎弓形成術を併用した。また成長期に臨床症状を発現する症 例では、術後の骨成長に伴う脊椎弯曲の悪化を防止すると共 に、奇形性脊椎に起因する椎体不安定症を回避する目的から 椎体固定術の併用は有効であるものと思われた。 演題番号:C4 帯状角膜変性症に対し角膜ー結膜移動術を行った2症例 ○小山博美,宇根 智,川田 睦 ネオベッツ VR センター 1.はじめに:帯状角膜変性症の治療には EDTA によるキレー トや角膜表層切除術が行われるが、点眼薬の効果に時間がか かること、治療中に角膜の菲薄化により深い角膜実質欠損を 生じることがある。今回帯状角膜変性症と診断した症例で、 内科治療だけでは治療が困難であった症例に対し角膜-結膜 移動術を用いて治療することを検討した。 2.材料および方法:2009 年 9 月~2016 年 6 月までの間に帯 状角膜変性症と診断した症例のうち、初診時にデスメ膜瘤と 診断した症例(症例 1:ウェスト・ハイランド・ホワイト・テ リア、避妊メス、14 歳 4 カ月齢)と、EDTA 点眼薬を使用し てカルシウム沈着は一部消失したが角膜菲薄化が進行した症 例(症例 2:ミニチュア・ダックスフンド、メス、15 歳 1 カ 月齢)に対し角膜表層切除術と角膜-結膜移動術により角膜 菲薄部を修復した。 3.結 果:症例 1 では術後 2 週間目には移植角膜片に血管 侵入が認められ、一時的に角膜混濁が進行したが、2 カ月目 には透明性が回復した。術後 3 カ月目には角膜のカルシウム 沈着が再発したため EDTA 点眼薬を開始し、改善が認められ た。症例 2 では最初に EDTA 点眼薬による治療を始めたとこ ろ、2 カ月後には中心部分のカルシウム沈着は消失したが、 角膜実質の菲薄化が進行した。残存するカルシウム沈着は表 層角膜切除術にて除去し、菲薄化した角膜実質の修復のため に角膜-結膜移動術を行った。術後 2 週目には角膜への血管 侵入が認められ、2 カ月目には肉芽組織が退縮した。EDTA 点眼は術後も併用し、術後 5 カ月目には再発もなく、角膜の 透明性も回復した。 4.考察および結語:帯状角膜変性症では、治療の有無にか かわらず角膜の菲薄化が進行する場合がある。そのような場 合、沈着物の除去のために角膜表層切除を行うとさらに広範 囲の角膜実質が失われる結果にもなり、角膜の修復が必須と なる。帯状角膜変性症では角膜中心部に病変ができるが、周 辺角膜は比較的正常性が高く、その周辺角膜を利用する角膜 -結膜移動術は角膜菲薄化の治療のみならず、病変部である 角膜中心部の透明性を回復できることから結膜弁形成術より も良いと思われる。 ― 52 ― 演題番号:C5 マイクロサージャリーによる尿管結石の治療を行った猫3例 ○清水誠司,清水弘司 清水ペットクリニック 1.はじめに:尿管結石による水腎症と診断される猫は、近年 増加傾向にある。また猫の尿管内腔は 1 mm に満たないため、 これまで外科的な介入は難しいとされてきた。しかし治療が 遅れると腎障害の進行が懸念されるため、迅速な改善が必要 である。マイクロサージャリーは、手術顕微鏡下で 1 mm 以 下の微小血管吻合を行うことが可能であり、人医領域では広 く普及している。それゆえ猫の尿管結石にマイクロサージャ リーの技術を応用することで、尿管閉塞を迅速に解除できない だろうか。本研究では、猫の尿管結石に対してマイクロサー ジャリーによる外科的治療法が、有用な選択肢の一つである という仮説を提唱し、その検証を行った。 2.材料および方法:2015 年 7 月から 2016 年 3 月までに来院 し、尿管結石による水腎症と診断した猫3例を対象とした。全 例において高窒素血症を呈していた。使用機器は Leica M220 F12、マイクロ鑷子 No.3, 4, 5、マイクロ剪刀を主に使用した。 顕微鏡下での操作は、十分に練習を行った。術式は腹部正中 切開をしたのち、尿管閉塞部を剥離して周囲を縦走する血管 は可及的に温存した。尿管を No.11 のメスにて結石直上で縦 切開し、尿管結石を摘出した。尿管腔内をフラッシュ洗浄し たのち、9-0 または 10-0 吸収性縫合糸を尿管外膜から粘膜面 まで刺入し、単純結紮縫合による尿管縫合を施行した。術後 経過は、臨床徴候、水腎症の有無、高窒素血症の改善を基に 評価した。 3.結 果:術後 3 例中 2 例は、速やかに臨床徴候が改善した。 うち 1 例は、術後 11 日目に水腎症が消失しており、24 日目 に高窒素血症も改善した。その後 1 年以上合併症もなく、現 在も良好な経過が得られている。長期間にわたり水腎症を呈 していた 3 例中 1 例は、腎機能が回復せず術後 46 日目に死 亡した。 4.考察および結語:以上のことから、猫の尿管結石に対し てマイクロサージャリーによる治療は、第一選択として十分 有用であると結論した。本研究では、腎盂内圧の上昇が長期 に及ぶ症例ほど、術後の経過は良くなかった。また尿管結石 の持続的な停滞あるいは移動は、術後の尿管狭窄を助長する 要因ではないかと推測する。これらより猫の尿管結石に起因 する不可逆的な腎障害は、今後憂慮すべき課題であり、迅速 かつ適切な治療法の選択が肝要ではないだろうか。 演題番号:C6 線溶亢進型 DIC が疑われた犬の1例 ○ 福岡 玲 1),中田美央 1),築澤寿栄 1),秋吉秀保 2),大橋文人 2),安田和雄 1) 1) 安田動物病院,2)大阪府大 1.はじめに:播種性血管内凝固症候群(DIC)の本態は全身 性の血液凝固活性の亢進状態であるが、同時に生じている線 溶系活性の程度に応じて臨床症状が異なることが知られてい る。人医学領域では線溶系亢進の程度によって DIC を線溶抑 制型、線溶均衡型、線溶亢進型に分類し、その病型に応じた治 療が必要とされている。線溶亢進型 DIC では、FDP の著増と D ダイマーの軽度増加が認められるために FDP/D ダイマー比 は高値を示すことが知られており、凝固亢進マーカーである トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇と FDP/ D ダイマー比によってある程度の DIC 病型分類が可能とされ ている。獣医学領域における DIC は、その多くが線溶抑制型 DIC であるとされ、積極的な DIC の病型分類は実施されてい ないのが現状である。今回我々は FDP/D ダイマー比が高値 を示し、線溶亢進型 DIC が疑われた犬の1症例を経験し、そ の経過について検討を加えた。 2.材料および方法:症例は 10 歳齢、ジャックラッセルの去 勢雄で、約 1 年前 IBD による蛋白喪失性腸症と診断した。免 疫抑制剤による低蛋白血症のコントロールを行っていたが、 急性膵炎の併発により一般状態が悪化し、低蛋白血症のコン トロールが困難となった。 3.結 果:HES 製剤、免疫抑制剤の投与、輸血を行ったが、 低蛋白血症は改善せず、急性膵炎発症後 11 日目には血小板数 10,000 /μl、PT 9.4 秒、FDP110 μg/dl、D ダイマーは 36.2 μg/ dlとなり、DICと診断した。低分子ヘパリンの持続投与と再度 の輸血を行ったが、翌日肺出血に起因すると考えられる喀血 を起こし死亡した。TATは 1.44ng/ml と高値を示し、FDP/D ダイマー比は3.04であった。DIC と診断された他症例の FDP/ D ダイマー比の平均値は 2.14(n=5)であり、本症例の FDP/D ダイマー比は他の DIC 症例と比較して高値を示した。 4.考察および結語:線溶亢進型 DIC の場合、DIC の一般的 な治療法である低分子ヘパリンの投与や輸血等に加え、蛋白 分解酵素阻害薬が有効であるとされている。本症例は線溶亢 進型 DIC と推察され、蛋白分解酵素阻害薬を用いた治療が適 応であったと考えられた。今後、獣医学領域においても DIC と診断された症例に対しては慎重にその病型分類を行う必要 があると考えられた。 ― 53 ― 演題番号:C7 脾臓腫瘤の犬6例における血漿 TAT 濃度の評価 ○中田美央 1),福岡 玲 1),築澤寿栄 1),豊福祥生 2),安田和雄 1) 1) 安田動物病院,2)兵庫みなと動物病院 1.はじめに:トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT) は凝固活性化を示す分子マーカーのひとつであり、人医学領 域においては DIC や血栓症の診断に用いられている。近年、 獣医学領域においても血漿 TAT 濃度の評価が犬の凝固活性 化状態の診断に有用であることが報告されている。一方、悪 性腫瘍罹患犬では凝固活性化が起こることが知られており、 特に血管肉腫においては顕著に TAT 濃度が上昇することが報 告されている。今回我々は、脾臓に腫瘤を認め、脾臓摘出を 実施した犬 6 症例について TAT 濃度を測定し、検討を加え た。 2.材料および方法:6 症例の病理組織診断は症例1:結節性 過形成、症例 2:結節性過形成および血腫、症例 3:脾臓肉 腫、症例 4、5、6:血管肉腫で、いずれも術前に腹腔内出血 は認められなかった。全ての症例で術前に TAT 測定を行い、 術前の TAT 濃度が高値(基準値:0.1 ng/ml)であった症例に ついては、術後 10 〜 14 日目に再度 TAT 濃度を評価した。 3.結 果:症例 1、2 では術前 TAT 濃度がそれぞれ 0.037 ng/ ml、0.071 ng/ml と基準値以下であった。症例 3 では、術前 0.841 ng/ml と高値を示したが、術後 10 日目には 0.096 ng/ml と正常化した。症例 4、5、6 では術前 TAT 濃度がそれぞれ 0.737 ng/ml、3.54 ng/ml、1.67 ng/ml といずれも高値を示し た。術後 10 〜 14 日後には 0.12 ng/ml、0.166 ng/ml、0.15 ng/ ml まで低下した。 4.考察および結語:2 例の良性腫瘍症例においては TAT 濃 度の上昇が見られなかったのに対し、悪性腫瘍症例では、全 症例でTAT 濃度が高値を示した。特に血管肉腫では過去の報 告と同様に、高頻度で TAT 濃度の上昇が認められることが示 唆された。また、悪性腫瘍でみられた TAT 濃度の上昇は脾臓 摘出後に基準値上限付近まで低下したことから、術前の上昇 は悪性腫瘍に起因するものと考えられた。脾臓腫瘤では、針 生検が実施されないことも多く、悪性腫瘍か良性腫瘍かを術 前に判定 / 予測できる機会は少ない。術前の TAT 測定は悪性 腫瘍を予測する一助となりうることが今回の結果から示され た。また DIC を誘発する凝固活性化に対しても術前からの対 応が可能になると考えられた。 演題番号:C8 ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアに対する部分側方椎体切除術・片側椎弓切除術の治療予後 ○澤木和貴,王寺 隆,宇根 智,川田 睦 ネオベッツ VR センター 1.はじめに:ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアはⅠ型と異なる 病態であり、術式の 1 つである片側椎弓切除術では術後悪化 や十分な治療効果が得られない事がある。今回、同疾患に部 分側方椎体切除術(PLC) ・片側椎弓切除術を各々実施、治療 予後を比較検討した。 2.材料および方法:3 週間以上の症状経過および MRI でⅠ 型と異なる脊髄圧迫様式をⅡ型と定義、同条件の犬 72 症例 を PLC 群(C 群;n=55)・片側椎弓切除群(H 群;n=17)に分 類した。術前神経学的グレード(G) 、術後 7・14・30・180 日 経過を、症状消失・改善・著変認めず・悪化の 4 段階評価し た。次に重症度の影響を最小限にする為、診断時最も多い G2 (55/72;76%)各症例術前 G から術後 G を減算した数値(G2 変 化スコア)を用いて比較検討した。統計はマン・ホイットニー の U 検定、カイ二乗検定を用いた。 3.結 果:診断時神経学的 G(症例数)は、C 群:G1(4) ・G2 ・G3(9)、H 群:G2(13)・G3(4)だった。術後経過は、 (42) 術後 7 日(順に症状消失・改善・著変認めず・悪化)C 群(26・ 7・21・1) 、H 群(0・0・13・4)だった。同期間悪化発生率は C 群:1.8%、H 群:23.5% で、有意差を認めた(P < 0.01) 。術 後 14 日 C 群(34・8・13・0) 、H 群(0・0・17・0) 、 術 後 30 日 C 群(47・3・5・0) 、H 群(3・3・11・0) 、術後 180 日 C 群 (n=52) (47・1・4・0) 、H 群(3・4・10・0)で、各 2 群間で 有意差を認めた(p < 0.01) 。G2 変化スコア(順に 2・1・0・ -1)は、術後 7 日 C 群(22・0・19・1) 、H 群(0・0・9・4)、 術後 14 日 C 群(30・0・12・0) 、H 群(0・0・13・0) 、術後 30 日 C 群(37・0・5・0) 、H 群(3・0・10・0) 、術後 180 日 C 群 (n=40) (36・0・4・0) 、H 群(3・0・10・0)で、各 2 群間で有 意差を認めた(p < 0.01) 。 4.考察および結語:PLC は片側椎弓切除術と比較し、術後 悪化発生率、機能回復時期、機能回復率で優位性が示唆され た。本結果は手術コンセプトの相違から、最少脊髄操作での 脊髄腹核減圧を反映した結果と考えられる。PLC の 90% 症状 消失、96% 改善率は、ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアに対する 有効な外科治療選択肢と思われる。 ― 54 ― 演題番号:C9 ウサギ下顎骨の骨肉腫に対する下顎吻側切除術の有用性に関する検討 ○清水茉梨香 1),藤田大介 1),瀬戸絵衣子 1),泉 有希 1),今井勇太郎 1),佐々井浩志 1), 仁科嘉修 2),井澤武史 2),桑村 充 2),山手丈至 2) 1) 北須磨動物病院,2)大阪府大 1.はじめに:骨肉腫は多くの動物種で発生する原発性悪性骨 腫瘍であり、ウサギでは下顎骨での発生が多いとの報告があ る。その一方で本疾患の外科的治療に関する報告は少なく、 常生歯を有するウサギに対する外科的介入が及ぼす影響に関 しては十分に検討されていない。今回、下顎骨に骨肉腫を形 成して摂食困難に陥った症例に対して下顎骨吻側部分切除を 実施し、その有用性と問題点を検討した。 2.材料および方法:症例は臼歯の不正咬合に対して定期的に 歯科治療が行われていたウサギ、雑種、8 歳、雄、体重 1.8 ㎏。 食欲不振を主訴に来院したが臼歯に問題は無く、触診にて下 顎骨右側の腫大、口腔内検査で下顎右側から口腔内へ拡大す る粘膜下の腫瘤形成が確認され、X 線検査では骨様の陰影度 を有する石灰化腫瘤が確認され、これによる口腔内狭窄に伴 う摂食障害と診断された。抗生剤、鎮痛剤等の暫定内科治療 に反応せず、5 日後には自力摂食が著しく困難となったため 再上診した。CT 検査の結果、腫瘤は 21 x 22 x 26 mm の限界 明瞭な病変で右切歯を含み、下顎右側第二臼歯部の吻側から 発生して下顎左吻側を包含していたことから片側切除は困難 と判断した。腹側アプローチにて切開し、左右顎体部を切断 して腫瘤を下顎骨吻側と共に切除した後、口粘膜、舌などの 軟部組織と口唇を縫合して口唇を再建した。 3.結 果:病理組織検査により腫瘤は骨産生性骨芽細胞性 骨肉腫と診断された。術後は抗生剤、輸液、流動食給餌を実 施した。口唇で口腔内に運ぶことが可能な流動状あるいは軟 性の食材であれば手術当夜から自力摂餌が可能であった。退 院後は飼い主の元で飼育管理され、全身状態は改善して継続 観察中である。 4.考察および結語:口腔内を狭窄した腫瘍の切除により摂 餌機能が回復して生存可能となったことにより、ウサギにお いても下顎骨に発生した骨腫瘍に対する治療法として本法は 選択可能な一つの手段であると考えられた。一方で、流涎に よる下顎から前肢域の被毛汚れの発生、上顎切歯の伸長およ び臼歯の過長とそれに対する定期的な切削処置、飼い主によ る食餌管理の必要性などウサギ特有の複数の問題の発生が予 測されること、そして将来的には遠隔転移の可能性が否定で きないことから、その実施においては充分なインフォームド コンセントの必要性が示唆された。 演題番号:C10 ウサギの腹腔内膿瘍の診断に関する検討 ○岡本佳菜子,藤田大介,瀬戸絵衣子,泉 有希,今井勇太郎,清水茉梨香,山森幸恵,上田憲吾, 川口太平,佐々井浩志 北須磨動物病院 1.はじめに:ウサギの膿瘍は皮膚や皮下に発生することで広 く知られるが、まれに体腔内に形成されることがある。しか しながら腹腔内に発生した膿瘍は無症状のままに進行して触 診や X 線検査で検出される場合が多いものの、その確定診断 には苦慮することが多い。今回我々は腹腔内膿瘍を形成した 2 例において、各種画像診断の有用性に関する検討を行った。 2.材料および方法:症例 1(以下①)は 4 歳齢・ネザーラン ド・去勢オス。食欲不振・歯ぎしり・軟便などを主訴として 来院した。症例 2(以下②)は、7 歳齢・雑種・避妊メス。他 院にて腹腔内腫瘤を示唆され紹介来院した。確定診断のため に身体一般、口腔内、血液、X 線、超音波、CT および血管造 影 CT、細菌培養同定等の各種検査を行った。開腹手術は全 身麻酔下で実施した。 3.結 果:血液検査では 2 例とも著変が認められなかった。 身体一般検査では、①②共に腹部触診にて可動性ある複数の 腫瘤を触知し X 線、超音波にて腹腔内腫瘤を確認した。①で は X 線検査から石灰沈着が確認された。②は血管造影 CT 検 査を実施したところ、腫瘤は周囲の消化管を圧排する様に存 在していた。複数腫瘤の CT 値はいずれも内部が−150~−50 と低値を示し、腫瘤内部へ造影剤浸潤は認められなかった一 方で、腫瘤壁では +50~ +300 と高値を示して血管造影による 増強効果が確認された。上記結果より膿瘍が疑れたため試験 開腹手術を実施した。①は小腸~盲腸に膿瘍が 2 カ所、腸間 膜に小結節が複数カ所確認された。②は小腸から結腸域に大 小複数の膿瘍が確認された。2 例とも消化管への広範囲にわ たる癒着が強く、完全摘出は困難であった。細菌培養同定検 査から①では Bacteroides.sp および Fusobacteriumu.sp が同 定されたが、②では検出されなかった。術後は抗生剤、鎮痛 剤、点滴等を施したが食欲不振が持続し、①は術後 46 日で、 ②は術後 19 日で斃死した。 4.考察および結語:ウサギにおける食欲不振を示す腹腔内腫 瘤の類症鑑別リストの一つとして膿瘍は重要な疾患と考えら れ、診断における CT 血管造影検査の有用性が示唆された。 早期の外科的介入では完全摘出も可能と考えられる一方で、 広範囲かつ消化管癒着を伴う場合は摘出困難であったことか ら、早期診断が有効と考えられる。今後さらに症例を重ね診 断方法の確立と治療方針法の確立につなげたい。 ― 55 ― 演題番号:C11 前頭葉に対する脳外科手術によって退形成性希突起膠細胞腫と病理組織学的に診断された6頭の犬における回顧的検討 ○中本裕也 1)2)5),内田和幸 3),長谷川大輔 4),弥吉直子 4),松永 悟 5),二瓶和美 5),加藤大司 6), 南 毅生 6),小澤 剛 1)7) 1) ㈱ KyotoAR 獣医神経病センター,2)京大再生医科学研究所,3)東大,4)日獣大,5)㈱日本動物高度医療センター,6)南動物病院, 7) おざわ動物病院 1.はじめに:神経膠腫は、犬において 2 番目に多い頭蓋内腫 瘍である。頭蓋内腫瘍に対する治療には、外科的治療(ST) 、 放射線治療(RT) 、化学療法(Chemo)などが挙げられる。頭 蓋内腫瘍への ST に関する報告は認められるが、髄膜腫を除い て特定の腫瘍をまとめた報告は認められない。この理由とし て、ST を実施した頭蓋内腫瘍の症例数が限定的であり、単独 施設では特定の頭蓋内腫瘍症例の集積が困難であることが考 えられる。また、神経膠腫に対する治療報告は RT や Chemo を実施した治療報告のみである。今回、頭蓋内腫瘍に対して ST を実施し、同一領域において同一の神経膠腫と病理組織学 的に診断された症例を複数施設に渡って集積して回顧的検討 を行った。 2.材料および方法:国内の複数施設を対象とし、前頭葉領域 に発生した頭蓋内腫瘍に対するSTによって病理組織学的に退 形成性希突起膠細胞腫と診断された犬を集積した。症例群に 対して、犬種・発症年齢・初発症状・ST 後の併用治療・ST 後の生存期間・死亡原因を調査した。 3.結 果:本研究に適合した症例は6頭(フレンチ・ブルドッ グが 4 頭、ラブラドールおよびゴールデン・レトリーバーが 各 1 頭)だった。性別は、去勢オスが 4 頭、避妊メスが 2 頭 だった。発症年齢は 8.3 齢齢だった。初発症状は、5 頭でてん かん発作、1 頭で片側前後肢の歩行障害だった。治療は、ST 単独が 4 頭、ST + RT の併用が 1 頭、ST + RT + Chemo の 併用が 1 頭だった。ST 単独での平均生存期間は 76 日、ST + RT の併用での生存期間は 657 日、ST + RT + Chemo の併用 での生存期間は 605 日だった。5 頭で群発発作あるいは発作 重積を呈し、安楽死を含めて死亡した。1 頭は、脳幹症状を 呈して死亡した。 4.考察および結語:発症犬種や発症年齢の傾向は、過去の神 経膠腫の報告と同様だった。多くでてんかん発作が初発症状 だったが、これは前頭葉の病変だったためと考えられた。治 療後の生存期間から、ST に RT や Chemo を併用することで、 生存期間の延長が期待できると考えられた。多くの症例で死 亡時に群発あるいは重積を呈していたため、治療時にご家族 へ提示しておくことが重要と考えられた。本研究は、神経膠 腫に分類される退形成性希突起膠細胞腫に対して ST および その他の治療を併用した症例を集積し、その予後を検討した 初めての報告である。 演題番号:C12 エールリヒア症だった、 バリ島から来た犬の1例 ○今西貴久,今西奈穂子 菜の花動物病院 1.はじめに:エールリヒア症はマダニ媒介性のリケッチア 感染症で、特にクリイロコイタマダニよる Ehrlichia canis が 世界各国の犬で最も普通に認められている。臨床徴候には急 性期と慢性期があり、発熱、食欲不振、血小板減少、非再生 性貧血、単球・リンパ球増加、高γグロブリン血症などを認め る。今回、バリ島から来た犬において、エールリヒア症と診 断し治療を行ったので、その概要を検討した。 2.材料および方法:バリ犬,雄,10 歳,体重 16.3kg。2 日 前に日本に入国、健康診断を希望し来院した。血液検査では、 リンパ球数および Glob の増加を認めた。血清蛋白分画では、 単クローン性高γグロブリン血症を認めた。鑑別診断として、 多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、エールリヒア症を疑っ た。X 線検査では骨の異常を認めず、ベンスジョーンズ蛋白 も陰性だったが、PCR 検査にて E. canis 陽性と判明した。 よって、本症例を E. canis によるエールリヒア症の慢性期と 診断し、第 36 病日よりドキシサイクリン(以下 DOXY)を開 始した。 3.結 果:第 68 病日には、Glob は低下し、リンパ球数は正 常となり、PCR 検査で陰性を確認した。その後は良好であっ たが、第124病日に食欲不振で来院し、リンパ球数は正常だっ たが総白血球数の低下、肝酵素・Glob の増加を認めた。そこ で DOXY を再開したところ、第 176 病日には良化したので休 薬とした。しかし第 235 病日、再度 Glob が増加し、総白血球 数低値となった。その後加療するも、数値は一進一退を繰り 返し、体重減少や黄疸が現れるようになり、第 607 病日自宅 にて死亡した。 4.考察および結語:エールリヒア症の臨床病理所見は多発性 骨髄腫や慢性リンパ性白血病に類似するため、診断には PCR 検査などの病原体の検出が必要である。治療においては、 DOXY の投与が基本となり、これにより急性期の予後は良好 であるが、慢性期は重症化することもあるとされる。本症例 では、治療開始 30 日後には良化し PCR 検査でも陰性となっ た。ところが休薬したところ Glob 値が再度上昇し、白血球 数の低下も見られ再燃が疑われた。その後、数値は一進一退 を繰り返したが、これが慢性期の特徴なのかと思われた。今 後、海外渡航歴など疑わしい症例があった場合は、鑑別診断 リストに本感染症を入れる必要があると思われる。 ― 56 ― 演題番号:C13 経時的に血漿 TAT 濃度を測定した急性膵炎の犬の2例 ○築澤寿栄,福岡 玲,中田美央,安田和雄 安田動物病院 1.はじめに:急性膵炎の重症例では血液凝固異常を伴うこ とが知られており、特に播種性血管内凝固症候群(DIC)を合 併した場合、多臓器不全や出血傾向を引き起こし予後不良で ある。人では、重症急性膵炎において、凝固活性化マーカー であるトロンビン - アンチトロンビン複合体(TAT)が重症度 や予後予測のマーカーとして有用であることが報告されてい る。今回、重篤な急性膵炎の犬 2 例において経時的に TAT を 測定し、その他の臨床検査結果との比較を行い、治療効果や 予後との関連について検討を加えた。 2.材料および方法:症例 1 はワイヤー・フォックス・テリ ア、11 歳齢の去勢雄、症例 2 はマルチーズ、9 歳齢の去勢雄 で、いずれも嘔吐や下痢、食欲廃絶を主訴に来院し、血液検 査および腹部超音波検査で急性膵炎と診断した。静脈輸液、 制吐剤、鎮痛剤、抗菌薬、食餌療法などの治療を実施し、 TAT、v-LIP®、CRP、血小板数を経時的に測定した。なお、 TATの測定は、LSI メディエンス社製のパスファースト ® を 用い、基準値を 0.1 ng/ml 未満とした。 3.結 果:症例 1 は、TAT が第 1 病日に 2.05 ng/ml と最高 値を示した後、漸減し第 5 病日にはほぼ正常化した。一方、 v-LIP、CRP は当初上昇傾向を示し、v-LIP は第 3 病日に最 高値を呈し、CRP は第 5 病日まで測定限界以上の高値が持続 し、いずれもその後ようやく低下を示し始めた。症例 2 は、 TAT が第 1 病日の 3.24 ng/ml から第 4 病日の 0.528 ng/ml ま では低下傾向を示したものの、そのまま第 7 病日まで同様の 高値が持続した。CRP は第 5 病日に一旦低下傾向を示したが 第 7 病日に再び上昇し、当初正常値であった血小板数は第 7 病日に 6.3 × 104/ml まで低下した。第 7 病日から抗凝固治療 を加えたところ、TAT、CRP、血小板数は改善した。 4.考察および結語:症例 1 では TAT の正常化が v-LIP や CRP より早期に膵炎の改善傾向を捉えており、症例 2 では TAT の高値の持続が血小板数減少より早く DIC の徴候を捉 えていると考えられた。2 症例とも TAT はその後の経過を 予測するように他の検査項目より早い段階で変動を示してい ることから、TAT は他の検査項目と比較して早期に膵炎に 対する治療効果を反映し、予後を予測するマーカーとなる可 能性が示唆された。 演題番号:C14 子宮断端に発生した子宮多形細胞肉腫により、排便困難を呈した猫の1例 ○山田昭彦,辻 英里子,藤田唯香,小原有加里 西京極どうぶつ病院 1.はじめに:猫の子宮の悪性腫瘍の発生は稀で、子宮腺癌 や平滑筋肉腫の報告のみで、多形細胞肉腫の報告はみられな い。今回、1 年前に子宮水腫で卵巣子宮摘出手術を実施した 猫の子宮断端に発生した多形細胞肉腫の診断・治療法につい て検討した。 2.材料および方法:雑種猫、避妊雌、13 歳、体重 3.60kg、 既往歴:子宮腔水腫、卵胞嚢胞、アポクリン導管腺腫(背部 皮膚)、予防歴:なし、主訴:食欲不振と嘔吐、排便困難 3.結 果:身体検査で便貯留とともに下腹部に硬固な腫瘤を 触知。血液検査で白血球数と総蛋白が上昇、X 線検査で結腸 と膀胱との間に直径 4 cm 大の不透過性腫瘤状陰影を認め、腫 瘤で結腸が背側に圧迫されて便貯留。バリウム造影検査で通 過障害なし。超音波検査で腫瘤はモザイク模様のある充実性 で、膀胱や結腸への明らかな浸潤像もなく周囲との境界は比 較的明瞭。腸骨下リンパ節の腫大なし。治療は、まず対症療 法やグリセリン浣腸で強制排便処置し、ラクツロース、モサ プリド、ファモチジンを処方したが、症状の改善がないため 手術を実施。子宮断端部から発生して膀胱背側に癒着した比 較的硬固な腫瘤がみられ、マージンは不十分だった。病理組 織検査結果は子宮多形細胞肉腫。術後経過は良好で、術後 2 日目から自力で排便もできて食欲も改善したので翌日退院。 術後の化学療法は希望されなかった。術後 39 日も元気・食 欲・排便も良好だが、超音波検査で腹水貯留と腫瘤の局所再 発(直径 1.2 cm 大)を認めた。第 66 病日(術後 53 日)自宅に て斃死。排便はできていたが、食欲は徐々に低下していた。 4.考察および結語:猫の子宮腫瘍は非常に稀で腫瘍全体の 0.2~1.5% と報告され、中年齢以上に多く、子宮腺癌が大半で、 平滑筋腫、平滑筋肉腫、線維腫、線維肉腫、リンパ腫、脂肪 腫などの報告があるものの、多形細胞肉腫の報告はない。ま た、避妊手術後に子宮腫瘍が発生した報告も非常に少ない。 手術後、排便困難の再発はなく QOL の改善はできたが、術後 53 日で死亡した事を考えると十分な延命効果は得られなかっ た。形態的な特徴や免疫染色(Vimentin:陽性、αSMA:陰 性、Desmin:陰性)の結果から多形細胞肉腫と診断された。 多形細胞肉腫はワクチン誘発性肉腫の形態のひとつとして稀 にみられるが、本例は 1 年前の避妊手術時の縫合糸(PDS Ⅱ) の刺激など関連も考えられた。 ― 57 ― 演題番号:C15 免疫介在性多発性関節炎と診断したジャーマンシェパードの2例 ○洞田知嗣,海津直美,水谷 到 森動物病院 1.はじめに:免疫介在多発性関節炎(IMPA)は、特発性、 SLE、細菌や真菌感染、腫瘍、薬剤や混合ワクチン(Vac)へ の反応等が原因での発症が報告されている。今回、消化器症 状を主訴としたジャーマンシェパード(JS)の 2 症例に遭遇し たので概要を報告すると共に関連症状及び診断治療について 調査検討した。 2.材料および方法:症例① JS 未避妊雌 8 歳。主訴は食 欲廃絶、頻回嘔吐。皮膚に膿皮症様病変。実施検査は、血液 検査、尿検査、胸部レントゲン、腹部エコー、内視鏡、CT 検査、関節液検査。血液検査にて CRP 上昇。消化器疾患を疑 い、内視鏡及び CT を依頼したが異常がなかったため、関節液 を検査し IMPA と診断。尿蛋白陽性も認め、SLE 様疾患と仮 診断し治療開始。症例② JS 未去勢雄 3ヶ月齢。2 週間前に Vac 接種。主訴は食欲廃絶、起立不能、下痢。2日前に左後肢 跛行。実施検査は、血液検査、尿検査、腹部エコー、レント ゲン検査、関節液検査、感染因子検査(関節液培養、IDEXX ベクターパネル) 、抗核抗体(ANA) 。血液検査にて、白血球 増加、貧血、CRP 上昇。関節液検査で好中球増加。感染因子 検査陰性。ANA 陰性。Vac 歴より Vac反応 IMPAと診断。 3.結 果:症例①プレドニゾロン及びシクロスポリンに良 好に反応。嘔吐消失、一般状態改善、CRP 正常化。症例②プ レドニゾロンに反応し、一般状態、下痢良化。血液検査所見 改善。良好に管理。 4.考察および結語:2 例とも消化器症状を主訴とし、直ちに IMPAを疑う病態ではない。結果的に診断に至ったが、円滑 な診断だったとは言い難い。SLE 症例で IMPAは約 8 割で認 め、その他の症状は、腎障害、皮膚症状等がある。SLE 診断 には幾つかガイドラインが存在し、2 つ以上の自己免疫症状、 ANA 陽性というものが一般的である。臨床的には 2 つの自己 免疫症状、ANA 陰性の場合に SLE 様疾患と仮診断する場合 も少なくない。比較的頻度は少ないが、溶血性貧血、血小板 減少症、筋炎、中枢神経症状、胸膜炎、消化器症状等も診断 基準に含まれる。IMPA が二次的に発症していれば原疾患に より症状は多岐にわたることもあり、一般状態の悪化等を伴 う場合には常に疑診すべきである。特に SLE 好発犬種では非 典型的症状であっても初期診断に積極的に関節穿刺等を組み 込み、除外診断を進める必要性を痛感した。 演題番号:C16 胆嚢の拡張を呈した犬の1例の考察 ○人見 誠 1),鳥巣至道 2),橋爪勇人 1),竹林賢作 1),廣瀬早希奈 1),木内みなみ 1) 1) ひとみ動物病院,2)宮崎大 1.はじめに:ヒトでの胆嚢の拡張は、胃の小弯切除時に自 律神経を切断する事で胆嚢弛緩が発生するため同時に胆嚢切 除を行なうが,何らかの自律神経異常により発生した場合に は胆嚢摘出は慎重または禁忌とされている.獣医療では診断 基準も定かでなく過去の報告もみつからない.我々は胆嚢拡 張の症例に遭遇し胆嚢摘出を行い手術の是非および術後管理 について検討した. 2.材料および方法:チワワ,12 歳 4ヵ月齢.避妊雌.3.1 kg .7 年前の検診で胆嚢内に胆泥を認めウルソデオキ (BCS 3/5) シコール酸の投与で経過観察中,5 年前より胆嚢の拡張が始 まり徐々に拡大し微量エリスロマイシンの効果もなく超音波 検査にて胆嚢径が 4.06 cm,胆嚢内に線状の胆泥の浮遊物を認 めた.7 年前に胆泥の確認後,一度も臨床症状および血液検 査には異常を認めなかった.胆嚢拡張に加え粘液状の物質の 確認ができたため今後の胆嚢破裂の可能性を考慮して胆嚢摘 出術を行った. 3.結 果:摘出した胆嚢の病理検査結果では嚢胞状粘膜過形 成(胆嚢粘液嚢腫と一致する)と診断され,胆汁の培養検査で は細菌は分離されなかった.術後,黄疸を伴わない肝酵素の 上昇および白血球数の上昇を伴い治療に苦慮し入院期間が延 長された.退院までABPC 20 mg/kg iv bid,CS/IPM 10 mg/ kg CRI tid ,コスパノン2 mg/kg bid またはスパカール1 mg/ kg bid を投与した. 4.考察および結語:本例は微量エリスロマイシンの投与およ び食後の胆嚢の超音波検査においても胆嚢径の縮小は確認で きず胆嚢収縮不全と考えられる.胆泥の所見のみであれば経 過観察が妥当かもしれない.しかし粘液を示唆する超音波検 査所見、胆嚢粘液腫と一致する病理組織所見が示されている ことから、将来胆管閉塞や胆嚢破裂の危険性もあると判断さ れ、外科的処置は適切であったと考えられる.本例は胆嚢の 拡張している状態で胆汁分泌のバランスがとれていたため, 胆嚢摘出を行った事により一時的な胆汁鬱滞による肝酵素の 上昇が起こったと考えられる.この事は事前に十分な説明を 加える必要があると思われた.また白血球の上昇は術後使用 した oddi 括約筋を弛緩させる薬剤を使用したことで十二指腸 内の腸内細菌の感染が起こった可能性が考えられる.これは 本疾患の外科処置後の薬剤使用には注意が必要と考えられる. ― 58 ― 演題番号:C17 原発性腎腫瘍に対して腎臓摘出術を実施した犬の9例 ○杉本夕佳 1),南 信子 1),中野友子 1),中野康弘 2),中川恭子 2),村上善彦 2),南 毅生 2) 1) 甲南動物病院,2)南動物病院 1.はじめに:犬における原発性腎腫瘍はまれであり、犬の 全腫瘍の 2 %以下とされる。原発性腎腫瘍では通常腎臓摘出 術の適応となるが、治療の転帰に関する報告は少ない。腫瘍 タイプによる予後および臨床徴候の違いを検討した過去の報 告では、上皮系、間葉系ならびに腎芽細胞腫の 3 タイプによ る違いは認められなかった。今回、比較的長期間生存した症 例とそうでなかった症例の臨床徴候やヒストリーに違いが認 められるかを検討した。 2.材料および方法:2005.5~2014.11 に腎臓摘出術を実施し た腎腫瘍の犬(9 例)を用いて回顧的検討を行った。いずれも 化学療法は行われなかった。 3.結 果:調査対象となった 9 例のうち、6 例が上皮系、 3 例が間葉系であった。全ての症例が臨床徴候を示して来院 しており、食欲不振、嘔吐、元気消失、血尿、頻尿、腹囲膨 満、腰部痛などが認められた。腎腫瘍の確定診断は CT および 病理検査により行ったが、術前の超音波検査においても腎腫 瘍や由来不明の腫瘍が疑われた症例が多かった。高窒素血症 となっていた症例はなく、数例で貧血や白血球上昇、ALP 上 昇などが認められた。手術日からの MST は全体で 117 日(範 囲 7~904 日)であった。上皮系で 98.5 日(7~904 日) 、間葉 系で 411 日(62~886 日)となったが有意差はなかった。手術 時に転移がなかった 4 例(転移なし群)および手術時に転移が 認められた 5 例(転移群)の MST はそれぞれ、765 日(411~ 904 日) 、62 日(7~117 日)であった。年齢、初期臨床徴候に おいて、両者に違いは認められなかった。臨床徴候を示して から手術までの期間は、転移群でより長い傾向にあった。転 移なし群のうち、腎腫瘍の転移による死亡が疑われたのは、 手術時の組織検査にてリンパ管浸潤が認められていた 1 例の みであった(644 日)。転移なし群のうち 1 例は生存中である (411 日) 。転移群のうち 3 例は重複癌であった。 4.考察および結語:腎腫瘍の犬では手術時に転移が認めら れない場合、腎臓摘出術の実施により、良好な予後が得られ ると考えられた。今回の回顧的検討では、手術時の転移の有 無による臨床徴候の違いは認められなかった。しかし、脊髄 症状を示した 1 例を除いて、術前の超音波検査において腎腫 瘍が疑われたことから、非浸襲的な検査を活用した、より早 期の発見を期待できるかもしれないと考えられた。今回は、 上皮系と間葉系を区別して調査できなかったが、症例数が得 られれば、それぞれに対する調査も行いたい。 演題番号:C18 胸腰部椎間板ヘルニアと仮診断した症例に対して好中球エラスターゼ阻害薬を用いた45例 ○今本成樹 1),増田国充 2),今本三香子 1),田中大介 3) 1) 新庄動物病院,2)ますだ動物クリニック,3)牛久保東ペットクリニック 1.はじめに:日常の診療において、犬の椎間板ヘルニアと 仮診断する症例は多いが、その確定診断には、MRI 検査や脊 髄造影検査が必要となることが多い。確定診断前の治療法と しては、ステロイド投与をはじめとした様々な治療が実施さ れているが、最終的には外科的に脊髄を圧迫している変性椎 間板の除去が推奨される。しかし、外科療法を実施しなくて も、安静と内科的な治療により症状の改善が認められること もある。今回、好中球エラスターゼ阻害薬を用いた内科的治 療について、その治療成績を検討した。 2.材料および方法:稟告や身体検査所見などから、治療開 始前の状態をグレードⅠからⅤに分類した。その後、好中球 エラスターゼ阻害薬の投与を含む内科治療を実施し、治療開 始 2 週間における歩行回復や再発について調査した。 3.結 果:椎間板ヘルニアを疑わせる症状の発症から来院 までは 0 日から 19 日であり、来院時のグレードは、グレード Ⅰ:7 頭、グレードⅡ:14 頭、グレードⅢ:9 頭、グレード Ⅳ:13 頭、グレードⅤ:2 頭であった。治療方法は、好中球 エラスターゼ阻害薬単独の治療、併用された治療としてはス テロイド療法、漢方療法、鍼灸治療、オゾン療法であった。 発症から来院まで 3 日以内の症例は 40 頭で、32 頭が 2 週間 以内に歩行可能となった。発症から来院まで 3 日以上経過し ている症例では、治療開始後二週間で歩行可能になったのは 5 頭のうち 1 頭であった。2 週間後に歩行が回復しなかった のは、合計 12 頭であり、平均グレード 3.7、来院までの平均 日数は 4.0 日であった。再発は 4 頭であり、再発時には、グ レードは初回発症時よりも高かった。 4.考察および結語:Aikawa らのデータによれば、犬胸腰 椎椎間板ヘルニアにおける外科手術実施2週間後での歩行回 復率は、Grade Ⅰ:86.7 %、Grade Ⅱ:81.8 % であった。今回 の我々の結果では、発症から 3 日以内に治療開始すれば 2 週 間における歩行回復率は 80.0 % と外科治療と同等の回復率で あった。しかし、椎間板ヘルニアの再発率は、外科手術実施 後の 2.3 % と比較すると、内科療法は 4.1% と高かった。した がって再発時には、病変確認のための MRI 検査と外科治療を 検討する必要がある。今後、犬椎間板ヘルニアに対しての外 科治療以外の治療成績についても更なる検討が行われること を期待したい。 ― 59 ― 平成 28 年度日本小動物医学会(近畿) ランチョンセミナー 1 C 会場(B3 棟 117 号室) 時間(12:00 ~12:40) 講 演 犬・猫用ワクチンを見直す 〜日本には日本の流行がある〜 一般社団法人京都微生物研究所 矢口和彦 座 長 大阪府立大学大学院 特殊診断治療学教室 藤本由香 協賛:株式会社微生物化学研究所 当セミナーには、 弁当がつきます(先着 100 名) 犬・猫用ワクチンを見直す ~日本には日本の流行がある~ 一般社団法人京都微生物研究所 矢口和彦 犬・猫の感染症の病原体の中で、流行タイプの地域差が大きいものとして犬レプトスピラ、猫カリシウイ ルスが知られている。現在日本では複数のメーカーから上記病原体をワクチン抗原とする犬・猫用ワクチン が販売されている(表 1 及び表 2、平成 28 年 7 月現在) 。これらの中で、ひとつのワクチン中に複数の株を含 有するもの(犬レプトスピラ、猫カリシウイルス)について、その特長を検討した。 表 1 日本で製造販売承認されている犬レプトスピラ含有ワクチン メーカー名 (略称) 京都微研 ワクチン 品⽬数 抗原 混合※ 1 混合※ 2 ゾエティス・ ジャパン インターベット アジュバント ワクチンに含有されるレプトスピラの⾎清型 Icterohaemorrhagiae (Copenhageni) Canicola Hebdomadis Autamu nalis Australis Grippotyphosa Pomona 1 − ○ ○ ○ ○ ○ − − 1 − ○ ○ ○ − − − − ○ ○ ○ ○ ○ 1 1 ○ ○ ○ − − − ○ ○ 2 ○ ○ ○ − − − − − 単味 1 ○ ○ ○ − − − ○ ○ 混合 1 − ○ ○ − − − − − 混合 単味 1 − ○ ○ − − − − − ビルバック ジャパン 混合 1 − ○ ○ − − − − − メリアル・ ジャパン 混合 1 − ○ ○ − − − − − ※ 1 ウイルスワクチンとの混合ワクチン ※ 2 レプトスピラの単味ワクチン 過去に承認は得ているが現在流通が確認できない品目は除いた。 表 2 日本で製造販売承認されている猫カリシウイルス含有ワクチン メーカー名 (略称) 品⽬数 アジュバント 種別(カリシウイルス株数) − 京都微研 4 ○ ○ 不活化(3) ○ ゾエティス・ ジャパン 4 ワクチンに含有されるカリシウイルスの株名 FC-7 FC-28 FC-64 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 255 PM F-9 ○ 不活化(1) ○ ○ 不活化(1) ○ − ⽣ (1) − ⽣ (1) ○ G1 431 ○ インターベット 1 − ⽣ (1) ○ ビルバック ジャパン 1 − ⽣ (1) ○ メリアル・ ジャパン − 不活化 (2) ○ ○ 3 − 不活化 (2) ○ ○ − 不活化 (2) ○ ○ ― 63 ― 【レプトスピラ及び犬レプトスピラ症】 レプトスピラはスピロヘータ目(Spirochaetales)、レプトスピラ科(Leptospiraceae)、レプトスピラ属 (Leptosrira)に分類されるグラム陰性のらせん状菌であり、免疫学的に 250 以上の血清型(serotype)及び免 疫学的に交差性が認められる複数の血清型から成る 30 以上の血清群(serogroup)に分類される。これらのう ち獣医臨床上重要と考えられる血清群及び血清型を表 3 に示した。 表 3 獣医臨床上重要なレプトスピラ血清群と代表的な血清型 ⾎清群 各⾎清群に属する⾎清型 Canicola canicola bafani ※ broomi jonsis bindjel Icterohaemo- icterohaemo- copenhageni lai rrhagiae rrhagiae zimbabwe dakota Hebdomadis hebdomadis jules kremastos bratislava lora ※ worsfoldi Australis australis ※ jalna Autumnalis muenchen ※ forbragg weerasinghe rachmati autumnalis bim canalzonae ratnapura mozdok kennewicki poi coxi pyrogenes zanoni myocastoris abramis hamptoni sejroe saxkoebing Grippotyphosa grippotyphosa Pomona pomona ※ ※ monjakov Javanica javanica sofa Pyrogenes Sejroe hardjo ※ ※家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されている⾎清型(⽜、⽔⽜、豚、いのしし、シカ、⽝) 望月雅美 : 小動物の感染症ノート 10 犬のレプトスピラ症 , JVM, 64, 845-848 (2011) の表 1 に文献調査成績を加筆、表題を変更 日本における犬レプトスピラ症(届出対象となる血清型)の発生状況は、2004 年1月~2012 年 11 月の間で 295 件(458 頭)が届け出られており、北海道から沖縄まで 36 都道府県と日本に広く浸潤している事が明ら かにされている。レプトスピラ症は主に齧歯類の間で維持されており、感染齧歯類の尿の直接的、間接的接 触感染によりヒトをはじめ犬、牛、豚等多種類の動物に被害をもたらす人獣共通感染症である。症状として は、急性熱性疾患のみから多臓器不全(主に肝臓、腎臓)を伴う重症例まで多様である。 血清群別では 1960 年代までは Icterohaemorrhagiae 及び Canicola が多く認められていたが、日本では Hebdomadis、Australis、Autumnalis 等に対する抗体陽性例あるいはこれらの分離例が増加している。一方、 欧米では Australis、Autumnalis、Grippotyphosa 、Pomona 等が流行傾向にある。 2007 年 8 月~2011 年 3 月にかけて実施された感染研の小泉博士らの調査報告では、レプトスピラ症が疑わ れた国内の犬 271 頭の血液から Icterohaemorrhagiae、Canicola、Hebdomadis、Autumnalis及び Australisが 分離された(表 4)。 表 4 臨床異常を認めた犬の血液から分離されたレプトスピラの血清群別頭数 頭数 ( 割合) 合計 Hebdomadis Australis 21(7.7%) 16(5.9%) Autumnalis Icterohaemorrhagiae Canicola 6(2.2%) 1(0.4% 1(0.4% 45(16.6%) Koizumi et al., J. Med. Microbiol., 62, また当社の抗体調査成績からも上記 5 つのレプトスピラは現在日本で流行していることが示唆された。 ― 64 ― 【猫カリシウイルス感染症】 カリシウイルスはカリシウイルス科のベシウイルス属に分類される。猫カリシウイルスは単一血清型とされ ているが、抗原性は多様であり地域差が大きい。また、カプシドタンパク質をコードする可変領域の DNA 塩 基配列も多様である(図)。 本ウイルスは経鼻あるいは経口的に侵入し、舌、口蓋、外鼻腔から肺胞に至る気道粘膜上皮と結膜で増殖す る。症状は発熱、鼻炎、気管炎、肺炎、口腔、舌上皮の水疱、潰瘍形成等を認める。 20 10 F9/1958/America 43 CFI/68/1960/America Urbana/1960s/America 他社ワクチン株 255/1970/America 22 KS20/1994/Germany 33 26 80 2280/1982/Canada F4/1971/Japan FC− 7/1983/Japan 82857-91/1991/Canada 33 74 66 0.05 FC− 28/1998/Japan FC− 64/1999/Japan FCV-B/1993/Japan ND35/Unknown/Japan 97 61 LLK/1982/Canada ML1/1996/Japan 80 H1/1998/Japan ML6/1997/Japan Genogroup 1 世界流行株 (日本を含む) 当社ワクチン株 Genogroup 2 近年日本固有 変異株 Masubuchi,K:J.Vet.Med.Sci.72(9):1184-1194,2010 当社において各メーカーのカリシウイルスワクチン株を用いて猫免疫血清を作製し、日本における野外分 離 58 株との間で中和抗体価を測定し有効性を評価したところ、当社ワクチン株は 50 株に対して有効であり (86.2%) 、最も優れていた。 【まとめ】 上記の情報・成績より犬レプトスピラ症及び猫カリシウイルス感染症の予防には、それぞれの国、地域の 流行を踏まえてワクチンを選択することが重要である。 ― 65 ― 日本小動物獣医学会(近畿) 一般講演プログラム D 会場(B3 棟 118 号室) —午前の部— (演題番号 D1 ~ D13) 9:20 ~ 9:30 近畿地区学会長挨拶 開会の辞 9:30 ~ 10:00 座長 鳩谷晋吾(大阪府) D1 リーシュマニアの犬の1例 森本真一郎(京都市) D2 外科的切除を行った腸リンパ管拡張症の犬の1例 大東勇介(大阪府) D3 抗てんかん薬による治療を実施したミオクローヌスの犬の一例 松永大道(京都府) 10:00 ~ 10:30 座長 村田章佳(三重県) D4 先天性乏毛症を疑う柴犬の一例 平田勝也(京都府) D5 オクラシチニブで治療を行った慢性再発性の掻痒性皮膚疾患の犬16例 池 順子(奈良県) D6 特発性乳び胸手術における心膜切除の有効性の機序に対する考察 金井浩雄(兵庫県) 10:30 ~ 11:00 座長 福田茂幸(神戸市) D7 ミルリノンとカルペリチドの併用療法を実施した重度肺高血圧症の犬の1例 平野隆爾(京都市) D8 シトシンアラビノシドを用いて治療を行った起源不明髄膜脳脊髄炎の犬9頭 武藤陽信(三重県) D9 退形成性髄膜腫と診断され治療を行った犬2例 井尻篤木(滋賀県) 11:00 ~ 11:40 座長 嶋田照雅(大阪府) D10 薬液溶出ビーズを用いて肝動脈化学塞栓療法を実施した犬の1例 坪居穏佳(滋賀県) D11 肝臓原発性神経内分泌腫瘍(カルチノイド)の犬の1例 石堂真司(京都市) D12 トイ犬種の橈尺骨骨折に対するフロートプレート法の治療成績 米地謙介(奈良県) D13 重度僧帽弁閉鎖不全症に体外循環下僧帽弁形成術を実施した犬5例 進 学之(大阪市) ― 67 ― 12:00 ~ 12:40 座長 田島朋子(大阪府大) ランチョンセミナー 2 「狂犬病の犬による予防」 山崎憲一(一般財団法人化学及血清療法研究所) 協賛:一般財団法人化学及血清療法研究所 —午後の部— (演題番号 D14 ~ D19) 13:00 ~ 13:30 座長 小澤 剛(京都府) D14 ウサギの子宮疾患211症例の回顧的検討 泉 有希(神戸市) D15 寡飲症と中枢性尿崩症を合併した猫の1例 宮 豊(兵庫県) D16 イヌ肝臓腫瘤57例の造影 CT 検査(実質相)での定量的評価 田戸雅樹(大阪市) 13:30 ~ 14:00 座長 沖見朝代(和歌山県) D17 甲状舌管嚢胞との併発が疑われた前縦隔腫瘤の犬の1例 望月俊輔(大阪市) D18 トイプードルの胸腰部椎間板ヘルニアの臨床的特徴 小山田希充(兵庫県) D19 アフォキソラネル製剤による犬に寄生するニキビダニの駆除 中村有加里(京都府) 14:00 ~ 14:30 日本小動物獣医学会学会長・副学会長挨拶(B3棟 117号室) 「日本獣医師会の活動状況と獣医学術地区学会の連携について(仮題)」 大橋文人 副編集委員長 15:00 ~ 17:00 近畿地区連合獣医師大会 (学術交流会館 多目的ホール) 17:00 ~ 17:20 褒賞発表および閉会の辞 (学術交流会館 多目的ホール) ― 68 ― 各学会長 演題番号:D1 リーシュマニアの犬の1例 ○森本真一郎 ゆう動物病院 1.はじめに:リーシュマニアは人畜共通感染症である。日 本では過去に 2 例が報告されているが、いずれも治療薬や 長期の経過の情報には乏しい。今回、京都在住の犬において Leishmania infantum 感染を確認し、日本で容易に手に入る 「メトロニダゾール・イトラコナゾール・アロプリノール」の 3 剤併用により治療を開始し、早期に改善し減薬しつつ 1 年 6ヵ月維持した症例を検討する。 2.材料および方法:犬・雑種・未去勢雄・11 歳 10 ヵ月齢・ 7kg、痩躯。犬アトピー性皮膚炎様の症状があり、肘・踵が 肥厚し痂皮が付着、体表リンパ節が腫大していた。再生性貧 血・高蛋白高グロブリン血症で BUN49.4・GPT187・c-CRP7 以 上。血尿と血便を繰り返していた。リンパ節の FNA から原虫 を確認、またLeishmania infantum 抗体検査が陽性であった。 3.結 果:関係者に滲出物に触れない様に厳重に伝え、 「メ トロニダゾール・イトラコナゾール・アロプリノール」の 3 剤 併用療法を開始した。1ヵ月程度で全身状態が改善、2ヵ月程度 で皮膚も殆ど正常になった。リンパ節から原虫は消失後した が、5ヵ月間投薬後も抗体検査は陽性であった。投薬の継続を 促したが、希望により段階的に投薬を減じ、最終的にメトロ ニダゾール単独で約 1 年 6ヵ月改善を維持した。しかし完全に 投薬をしなくなり再発し約 1ヵ月で死亡した。 4.考察および結語:L. infantum は人間にも滲出物で感染す る可能性があり、診察側も要注意である。皮膚症状は多発す るが様々で鑑別困難である。全身症状も多彩で鑑別困難であ るが、症例は若い頃から血尿や血便も繰り返しており、この点 からもこの病気を鑑別に入れる必要があった。日本では流行 が無くとも渡航歴も確認し、鑑別をする重要性を痛感した。 基本的に国内発生は考え難い病気だが、今後日本の環境の変 化で爆発的な発生の可能性もあり得る。治療薬は多数が発表 されているが、どの薬も完治は困難で日本で使える薬も限ら れている。今回用いた 3 剤併用療法は早期に治療に反応し 1 年以上良好に維持できた為に、非常に有効な方法であると考 える。完治は困難だが、公衆衛生上の観点からも投薬の維持 をより強く促すべきだったと悔やまれる。また海外では最近 ドンペリドンによる維持療法が提唱されており、この薬剤の 使用も検討すべきで有ったと考える。 演題番号:D2 外科的切除を行った腸リンパ管拡張症の犬の1例 ○大東勇介 おおひがし動物病院 1.はじめに:腸リンパ管拡張症は犬においてのみ発生する 疾患であり、解剖学的もしくは生理学的なリンパ管の閉塞に より乳び管が破裂し、蛋白や脂質が管腔内に放出される。脂 肪肉芽腫を伴うものの報告は比較的少ない。今回、脂肪肉芽 腫を伴う腸リンパ管拡張症の犬に遭遇したのでその経過およ び治療について検討した。 2.材料および方法:症例は 5 歳、去勢雄のトイプードル。 下痢が 2 週間続くという主訴で来院した。一般状態は良好で あった。血液検査において低アルブミン血症(2.1 g/dl)、低 蛋白血症(4.9 g/dl)が認められた。腹部超音波検査において 腸の層構造が消失した粘膜肥厚部が認められた。針吸引生検 を行ったが診断に至らなかった。消化管造影検査において腸 内腔の拡張や腫瘤病変は認められなかった。試験開腹を行っ たところ、回盲部において漿膜面に白色の結節を伴った腸壁 の肥厚が認められた。回盲部と一部結腸を切除し端々吻合を 行い閉腹した。 3.結 果:切除した病変部の粘膜面は肉眼的に重度の肥厚 が認められた。病理組織検査において脂肪肉芽腫を伴ったリ ンパ管拡張症と診断された。術後の回復は順調であった。抜 糸時には血中アルブミン、総蛋白ともに基準値内に復してい た。ステロイド、シクロスポリンを用いて免疫抑制療法を行っ ていたが、蛋白濃度は安定していたためともに休薬したが、 消化器症状や低蛋白血症の再発は認められていない。 4.考察および結語:犬のリンパ管拡張症の典型的な超音波 所見は腸壁の五層構造の保持、腸粘膜の高エコー性縞状陰影 の出現と腸壁の肥厚である。本症例においては明瞭な縞状陰 影は認められず五層構造も消失していた。腫瘍性疾患を思わ せるような超音波所見でもリンパ管拡張症を鑑別診断から除 外すべきではないと思われた。リンパ管拡張症の臨床症状の 重篤度は病変部の範囲の大きさに依存するとされているが、 今回の病変部は限局性であったにも関わらず明確な蛋白漏出 性腸症の症状があった。本症例の組織像において重篤なリン パ管拡張症が認められたことより、病変部の範囲だけでなく リンパ管拡張の重篤度も症状に反映されると思われた。 ― 69 ― 演題番号:D3 抗てんかん薬による治療を実施したミオクローヌスの犬の一例 ○松永大道 1)2),中本裕也 2),植村隆司 2),新家早紀 4),野口亜季 1),駒井園子 4),平田勝也 1), 長谷川裕基 2),小澤 剛 1)2),奥野征一 3) 1) おざわ動物病院,2) (株)KyotoAR 獣医神経病センター,3)アニマルクリニックこばやし 1.はじめに:ミオクローヌスは様々な異なる病態で生じる。 人医領域では病因学的(生理的・本態性・てんかん性・症候 性など)および生理学的(皮質性・脳幹性・脊髄性・末梢性) に分類されて診断され、その診断に則して治療が行われる。 一方、獣医領域では犬ジステンパーウイルス感染症(末梢性 との報告あり)やラフォラ病を除いてミオクローヌスの原因 が診断されることは少なく、前述した分類も十分にはなされ ていない。今回、頸部のミオクローヌスを主徴とした症例に 実施した脳波検査(EEG)から大脳皮質起源のミオクローヌス (皮質性ミオクローヌス:CM)と診断し、それに基づく治療 を行う機会を得た。その概要の報告と、獣医領域におけるミ オクローヌス症例の診断および治療について検討した。 2.材料および方法:キャバリア・キング・チャールズ・ス パニエル、雄、12 歳 6ヶ月齢。半年以上前から毎日認められ るふらつきの悪化を主訴に来院した。動画では、歩行中に突 然頭頸部がビクビクと動く様子が認められ、ミオクローヌス が疑われた。ホルター心電図・MRI 検査・EEG を含む各種検 査を実施した。EEG 以外の検査では、原因と考えられる異常 は認めなかった。EEG ではミオクローヌスに先行する棘波が 認められ、CM と診断した。ゾニサミド(ZNS) 、臭化カリウ ム(KBr) 、レベチラセタム(LEV)を用いた治療を実施した。 3.結 果:ZNS 単剤では改善は認められず KBr を追加した。 しかし、明らかな改善は認められず、KBr による副作用も発 現したため、KBr は断薬した。一方で LEV を追加すると、症 状の頻度および強度の減少が認められた。 4.考察および結語:人医領域におけるミオクローヌスの薬物 治療の有効性は、病態生理と密接に関連するため電気生理学 的な検査は極めて重要である。CM の治療はバルプロ酸、ク ロナゼパム、ZNS、LEV、ピラセタムなどの抗てんかん薬が 用いられ、単剤でのコントロールは困難とされる。獣医領域 においても電気生理学的検査を含めた各種検査を実施してミ オクローヌスの分類がなされることが、診断および治療にお いて重要であると考えられる。本例では人医領域で CM に対 する有効性が示されている LEV を追加することで症状の改善 を認めた。犬においても CM の治療に LEV が有効である可能 性が示唆され、適切な診断に基づく治療が重要と考えられた。 演題番号:D4 先天性乏毛症を疑う柴犬の一例 ○平田勝也,松永大道,新家早紀,野口亜季,駒井園子,小澤 剛 おざわ動物病院 1.はじめに:先天性乏毛症は犬と猫の非常に稀な疾患であ り、我々が調べる限り柴犬での発生報告はない。生誕時また は生後すぐに存在する両側対称性の貧毛が特徴であり、診断 には他の両側対称性の脱毛を認める疾患との鑑別と、病理組 織学的検査が必要である。今回我々は柴犬の先天性乏毛症を 強く疑う症例を診断する機会を得たので、その診断について 検討した。 2.材料および方法:柴犬、雄、2ヶ月齢。購入時より触毛の 歪みを認め、全身の毛が乏しく、尾は完全に脱毛していた。 その後、成長に伴い掻痒や紅斑を伴わない左右対称性脱毛が 臀部、体幹部へ拡大した。3ヵ月齢時に、痂皮を認めた頸部で ニキビダニを検出した。5 週間のドラメクチン投与後、ニキ ビダニは陰性となったが脱毛は改善しなかった。8ヶ月齢時 に、精巣摘出術と同時に血液検査、尿検査、皮膚生検、尿中 コルチゾール / クレアチニン比(UCC)の測定、各種ホルモン 検査、シルマーティアテスト(STT)を実施した。9ヶ月齢時 に、低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST)、性ホルモン の再測定、エコー下で副腎の確認を行った。 3.結 果:血液検査、尿検査、甲状腺ホルモン、STT、17α ヒドロキシプロゲステロンに異常は認めなかった。プロゲステ ロン、テストステロンは初回の測定で正常値を超える値であっ たが、再測定では正常値であった。エコー検査では右副腎の 軽度腫大を認め、エストラジオール、LDDST、UCC は正常値 をやや上回る結果であった。病理組織学的検査では貧毛部で 一次毛包が減少しているが、明らかな形態的変化は認めなかっ た。11 ヶ月齢現在、側頭部、頸部、体幹部および臀部など広 範囲に左右対称性の脱毛を認めるが一般状態は良好である。 4.考察および結語:各検査結果では内分泌疾患は完全には 否定できないが、脱毛部位、発症時期、触毛の歪みがあるこ と、多飲多尿や腹囲膨満などの内分泌疾患を疑う臨床症状が ないこと、内分泌疾患で特徴的な毛周期の異常を認めないこ とを踏まえると、本症例は先天性乏毛症が強く疑われる。本 疾患は自然発生の遺伝子変異が原因と考えられているが、そ のメカニズムの解明や診断法の確立はなされていない。本症 例は確定診断には至らなかったが、そこには除外診断以外の 診断方法がないという難しさが存在した。今後、先天性乏毛 症に対する遺伝子診断などの診断法が確立されることを期待 する。 ― 70 ― 演題番号:D5 オクラシチニブで治療を行った慢性再発性の掻痒性皮膚疾患の犬16例 ○池 順子 1),横内博文 2),多田裕治 2),高村淳也 2),杉田くみこ2),吉政 甫 2),作野幸孝 2),吉田恭治 1), 岩崎利郎 3) 1) 吉田動物病院,2)奈良動物医療センター,3)VetDermOsaka 1.はじめに:オクラシチニブはアレルギーに関与するサイ トカインのシグナルを伝達するヤヌスキナーゼ経路を選択的 に阻害し、痒みを早期に緩和する事が知られている。今回慢 性再発性の掻痒性皮膚疾患の犬 16 例にオクラシチニブを投与 し、その有効性と治療効果について検討を行った。 2.材料および方法:症例は感染症による痒みを除外した慢性 再発性の掻痒がみられる犬 16 例。犬種は柴犬 4 例、シーズー 3 例、ビーグル 2 例、ウエルシュコーギー、チワワ、マルチー ズ、ミニチュアダックスフント、トイプードル、ホワイトテ リア、雑種犬各 1 例、性別は雄 8 頭、雌 8 頭、平均年齢は 9 歳(5~15 歳) 。これらの症例にオクラシチニブ 0.4~0.6 mg/ kg を 7 日~14 日間、1 日 2 回経口投与し、痒みスコアによる 有効性の評価を行った。改善が見られた症例に対しては 1 日 1 回の投与に減量し、痒みスコアと治療効果の評価を行った。 3.結 果:オクラシチニブを 1 日 2 回で投与した際に痒みス コアが減少したものは 16 例中 14 例で、多くは 4 時間以内に 痒みが減少した。有効と判断した 14 例中 10 例は 1 日 1 回の 投与に減量した後に痒みの悪化を認め、そのうち 1 例は 1 日 2 回の投与が必要となった。56 日間以上治療を継続したとこ ろ 3 例は 2 日に 1 回の投与で維持が可能となった。また有効 と判断した 14 例中オクラシチニブ投与開始前にステロイドが 投与されていたものは 11 例でこのうち 7 例でステロイドの休 薬が可能となり、シクロスポリンが投与されていた 3 例は全 症例でシクロスポリンの休薬が可能となった。治療期間中膿 皮症やマラセチア皮膚炎による痒みの悪化はみられなかった が、ステロイドが併用されていた 2 例において一過性の嘔吐 と下痢を認めた。 4.考察および結語:オクラシチニブは高い有効性があり 1 日 2 回の投与で痒みスコアが早期に減少するため飼い主の満足 度が非常に高いと感じた。1 日 1 回の投与に減量するとおよ そ 70 %の症例で痒みの悪化がみられたが、治療を継続するこ とで多くの症例では日常生活に問題のない程度まで痒みが低 下したため、悪化に対してすぐにオクラシチニブの増量を行 う必要はないと考えられる。しかしながらステロイドが休薬 できない症例に対してはより良い生活の質を保つため、痒み の悪化時にオクラシチニブの投与回数を 1 日 2 回に増量する ことを検討すべきであったと思われる。 演題番号:D6 特発性乳び胸手術における心膜切除の有効性の機序に対する考察 ○金井浩雄,藤居彩子,林 武士,山口千尋 かない動物病院 1.はじめに:特発性乳び胸は難治性疾患であり、胸管結紮・ 心膜切除・乳び槽破壊などを組み合わせて治療されることが 多い。しかし、これらの術式が乳びの発生を抑制する機序の 詳細は明らかではない。今回我々は、特発性乳び胸の犬 9 例 に対し、術前・術後の CT 胸管造影を行って胸管の走行を評 価したところ、病態解明に有用な知見を得たため報告する。 2.材料および方法:2012 〜 2016 年に、特発性乳び胸と診断 され胸腔鏡下胸管結紮・心膜切除を行った犬 13 例のうち、術 前・術後に胸管 CT 造影を行った 9 例について検討した。内訳 は、柴犬 4 例、ラブラドール・レトリバー2 例、ミニチュア・ ダックスフント 2 例、トイ・プードル 1 例、平均年齢 4.8 歳 (2 〜 8 歳)、平均体重 11.5 kg(5.3 〜 27.0 kg)であった。これ らの症例に対し術前に CT 胸管造影を行い胸管の走行を確認 したのち、胸腔鏡下にて心膜切除、および胸管結紮術を行っ た。そして、手術約 1 週間目に再び CT 造影を行い術後の胸 管走行を確認した。 3.結 果:術前 CT 造影にて胸管が左側に存在したものは 9 例中 7 例と大半を占めたが、左右に 1 本ずつ走行していたし たものが 1 例、右側に走行していたものも 1 例存在した。9 例中 8 例は、術後に胸水の消失または減少が認められ、臨床 的に治癒した。1 例では胸水の減少が見られなかったため、 反対側の胸管結紮を行い、その後良好に経過した。しかし、 9ヶ月後に再発したため、再び胸管結紮を行った。術後 3ヶ月 目の現在、乳びの発生は観察されていない。9 例の術後 CT 造 影では、7 例において、結紮部位から頭側に胸管の側枝が見 られた。 4.考察および結語:特発性乳び胸において、胸管結紮のみ では 50 %の治癒率であるが、心膜切除の併用により治癒率が 上昇することが報告されている。しかしながら、心膜切除併 用の有効性の機序は明らかにされていなかった。今回我々が 行った CT 検査では、多くの症例で、術前に造影されていな い胸管の側枝が術後に確認された。これらの胸管側枝は、手 術によって太い胸管が閉鎖された後に一部が開通するものと 考えられる。胸管の再疎通が起こっても臨床的に治癒するこ とは、心膜切除によりリンパ管内圧の上昇が防止され、一定 以上の漏出が起こらないためと推察された。これらのことか ら、確実な心膜切除は、乳び胸の治癒機構に重要な役割を果 たすことが示唆された。 ― 71 ― 演題番号:D7 ミルリノンとカルペリチドの併用療法を実施した重度肺高血圧症の犬の1例 ○平野隆爾,廣畑圭人,百石安友子 右京動物病院 1.はじめに:肺高血圧症(PH)は何らかの原因により肺動脈 圧が上昇し、右心不全症状を示す疾患である。近年診断の機 会は増加しているが、小動物領域において治療指針は確立さ れていない。今回、重度 PH の急性憎悪症例に対してミルリ ノン(Mil)とカルペリチド(Car)の併用療法を実施し経過を 検討した。 2.材料および方法:ミニチュアシュナウザー、11 歳齢、避 妊雌、体重 9.7 kg。元気消失と呼吸速迫、乳腺のしこりを主 訴として来院した。初診時に単純 X 線検査で呼吸器疾患を疑 い治療するも第 13 病日に臨床兆候が悪化し、心エコー検査に て重度 PH と診断した。ICU 管理下にて Mil と Car を併用した 急性期治療を実施した。 3.結 果:第 13 病日の心エコー検査にて TR: 5.62 m/s を認 め、重度 PH と診断した。ICU 管理下にてフロセミドによる前 負荷軽減を目的とした治療を開始し、翌第 14 病日午前よりシ ルデナフィル、ベナゼプリル、ベラプロストナトリウム、ピ モベンダンの経口投与による PH に対する治療を実施した。同 日午後に虚脱状態となり血圧低下(収縮期:80 mmHg)を認め たため、ピモベンダンによる強心作用の悪影響を考え経口薬を 休薬し、低用量 Mil(0.3 μg/kg/min)と Car(0.05 μ/kg/min) の併用持続点滴を開始した。第 15 病日に TR: 2.88 m/s へと低 下し臨床症状の改善が見られたため、上記ピモベンダンを除 く経口薬を再開し、第 16 病日に点滴治療を休止、通院治療へ と切り替えた。良好な経過を辿っていたが、第 32 病日に呼 吸困難および乳腺全域の腫張を認め再入院。炎症性乳癌およ び PH の悪化(TR: 5.60 m/s)と診断し、疼痛緩和治療、Mil と Car の併用持続点滴を再開した。第 33 病日には TR: 3.59 m/s と PH の改善を認めたが、癌性胸膜炎を呈し同日に死亡した。 4.考察および結語:今回の症例は肺疾患ないし炎症性乳癌 から続発した PH と考えられるがその病態特定には至ってい ない。しかし今回のような肺動脈性 PH の病態では強心薬に より症状が悪化する可能性があり、今後は病態ごとに治療を 考える必要があると思われる。また過去の報告からも低用量 の Mil 療法は強心作用を抑えて血管拡張作用を期待すること ができ、Car との併用により PH の急性期治療に対し有効であ ると考えられた。 演題番号:D8 シトシンアラビノシドを用いて治療を行った起源不明髄膜脳脊髄炎の犬9頭 ○武藤陽信,中野康弘,加藤太司,村上善彦,中川恭子,田上陽子,南 毅生 南動物病院 1.はじめに:犬の起源不明髄膜脳脊髄炎(meningoencephalitis of unknown origin:MUO)は中枢神経系における一般的 な炎症性疾患であり、自己免疫性疾患であると考えられてい る。MUO の診断は、患者プロフィール、臨床症状、磁気共 鳴画像(MRI)検査、脳脊髄液(CSF)検査により診断すること が一般的である。MUO の治療は免疫抑制量のステロイド剤 の使用が第 1 選択肢となるが、長期間の服用が必要となるこ とから副作用の懸念が拭えない。今回、MUO の患畜にシト シンアラビノシド(Ara-C)を併用した 9 症例の追跡調査を実 施した。 2.材料および方法:2011 年 5 月から 2014 年 12 月までの間 に、当院において MUO と診断し、Ara-C を用いて治療を行っ た犬 9 症例を対象とした。発症平均年齢は 4 歳(1 歳 9ヶ月~6 歳 3ヶ月)であった。9 頭すべてにおいて MRI 検査を実施し、 6 頭で CSF 検査を実施した。 3.結 果:9 頭中 3 頭で壊死性白質脳炎、3 頭で壊死性髄膜 脳炎、2 頭で肉芽腫性髄膜脳脊髄炎が疑われ、1 頭が分類不 可能であった。CSF 検査では 6 頭中 5 頭において細胞数と蛋 白定量の増加が認められた。また、5 頭中 2 頭において抗ア ストロサイト自己抗体が陽性であった。すべての症例におい て、初期治療として免疫抑制量のステロイド剤を用いて治療 を実施した。ステロイド剤は 3 頭で断薬が可能であり、6 頭 で漸減が可能であった。Ara-C の使用開始時期は各症例にお いて異なっていた(17 日~742 日 : 平均 273 日)。現在までに 9 頭中 4 頭が生存中であり、中央生存期間は 677 日(259 日~ 1788 日 : 平均 892 日)であった。なお、1 頭は MUO とは関連 性のない死亡であった。 4.考察および結語:ステロイド剤と Ara-C の併用による治療 成績は、現在までに報告されているもの(シクロスポリン、 Ara-C)と大きな差は認められず、他の免疫抑制剤と同様に有 用性が認められた。ステロイド剤の断薬が可能な症例も存在 したことから、有効な治療方法であると考えられる。また、 Ara-C が原因と思われる副作用を認めた症例はおらず、ステロ イド剤との併用において安全性が示唆された。しかしながら いくつかの症例において反応性が乏しいことがあり、今後、 Ara-C の使用開始時期や投与経路等に関して検討が必要と考 えられる。 ― 72 ― 演題番号:D9 退形成性髄膜腫と診断され治療を行った犬2例 ○井尻篤木,坪居穏佳,杉山慶樹,寺田康平,井上克徳,瀬戸剛至 アツキ動物医療センター 1.はじめに:退形成性髄膜腫は高分化、不規則な増殖など の形体的特徴および周りの組織へ強い浸潤の有無により診断 される。治療は困難で、過去に外科手術のみで行ったことが あったが、症状の改善が乏しく予後不良であった。今回は、 これらを改善するよう退形成性髄膜腫と診断された犬 2 例に 対し、以前に行ったことのないマージンを多くとった手法で の手術または手術だけでなく放射線治療を併用した治療を行 い、過去の治療成績と比較し、有効性を比較検討した。 2.材料および方法:症例 1、ミニチュアダックス 12 歳齢、 雄、てんかん発作、後肢のふらつきで来院。MRI 検査では Gd 造影 T1 強調画像で前頭葉、大脳鎌部に大脳鎌を挟んだ状 態で左右の大脳半球に腫瘤像が認められた。腫瘍の増強効果 は強く、不整形の MASS 像として認められた。摘出手術は、 経前頭洞開頭術でアプローチした。摘出は腫瘍の頭側、尾側 先端部に位置する背側矢状静脈洞を結紮切断し、そのまま大 脳鎌ごと腫瘍を切除した。症例2はパグ9歳齢、雌、であった。 脳神経症状はてんかん発作、異常行動が認められた。MRI 検査においては、Gd 造影 T1 強調画像でトルコ鞍周辺から尾 側部にかけて外側に高信号 MASS 像が認められた。手術は 経側頭骨開頭術を行い、腫瘍を摘出した。 3.結 果:病理組織診断では、退形成性髄膜腫であり、症 例 1 は、特に異形度が高かった。症例 2 は比較的、異形度は 低い方であったが、脳実質内への浸潤像が認められた。術後 3 か月の MRI 検査では、症例 1 は再発像無し、症例 2 は若干 の再発像が認められた。症例 2 はその後、総線量 45Gy の放 射線治療を併用し術後 1 年半が経過している。 4.考察および結語:退形成性髄膜腫は過去において手術の みで治療した症例は、犬、猫とも約 3 か月以内には再発、死 亡が確認された。今回の症例 1 は 3 か月を経過しても、再発 が認められなかった。これは腫瘍と接触している大脳鎌や硬 膜を摘出したことにあると考えられる。症例 2 はマージンを 確保することも困難であり、頭蓋底部の硬膜を切除すること が出来ないため、若干の再発が認められた。しかしその後の 放射線治療は、再発を抑えるには効果的であった。よりマー ジンを取った手術方法、また放射線治療の併用を行うことで 過去に経験した退形成性髄膜腫の治療より生存期間を延長す ることが出来た。 演題番号:D10 薬液溶出ビーズを用いて肝動脈化学塞栓療法を実施した犬の1例 ○坪居穏佳 1),寺田康平 1),杉山慶樹 1),井上克徳 1),井尻篤木 1),新田哲久 2) 1) アツキ動物医療センター,2)滋賀医科大 1.はじめに:肝臓腫瘍を含む孤立性腫瘤は外科的切除が第一 選択となるが、技術的に困難な場合があり、特に臨床症状を 呈していない症例では侵襲の少ない治療が望まれる場合があ る。今回、内側左葉に発生した肝腫瘤に対して薬液溶出ビー ズ(ディーシービーズ)を用いて肝動脈化学塞栓療法(TACE) を行った犬の 1 例を経験したため、その有効性を検討した。 2.材料および方法:症例は柴犬、避妊済み雌、8 歳齢。他院 にて腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され、セカンドオピニオン として当院を受診した。明らかな臨床症状は認められず、初診 時の血液検査では肝酵素の上昇(ALP 1163 U/L、ALT 169 U/ L)が認められた。CT 検査で肝門部内側左葉に直径 5 cm 弱の 腫瘤を認めた。飼い主は外科手術を希望されなかったため、 試験的治療となることを説明した上で TACE を提示したとこ ろ、同意を得た。TACE は右大腿動脈にシースを設置後、4F カテーテルを腹腔動脈まで進め、1.7 F マイクロカテーテルを 用いて目的とする腫瘤の動脈まで選択的に挿入した。ディー シービーズは 100-300 μ粒を用い、予めドキソルビシンに含浸 した。術中 CT にて目的の腫瘍領域が造影されることを確認 した後、Digital Subtraction Angiography で確認しながら、 ビーズをゆっくりと注入した。また、TACE 実施前に CT ガ イド下でコア生検を行った。2 回目の TACEも同様の手順で 行った。 3.結 果:病理検査は肝細胞腺腫を疑うという結果だった。 術後の一般状態は良好であり、術後 1 カ月の CT で腫瘍は縮 小し、4 カ月後の CT ではほぼ消失したが、外側右葉に転移を 疑う腫瘤を認めた。腫瘤は増大傾向を示したため、飼い主と 相談したところ、2 回目の TACEを希望されたため、初回の TACEより 343 日後に 2 回目の TACEを実施した。2 回目の TACE 後の一般状態も良好であり、経過観察中である。 4.考察および結語:孤立性肝臓腫瘤の治療の第一選択は外 科的摘出である。しかし、獣医療における肝腫瘤の摘出手術 のリスクから無症状の症例では QOL 維持を目的とした低侵襲 な代替治療に対する需要は高い。肝臓腫瘤に対してビーズを 用いた TACE が低侵襲かつ有効な治療の選択肢の 1 つとなる ためには今後も検討が必要である。 ― 73 ― 演題番号:D11 肝臓原発性神経内分泌腫瘍 (カルチノイド)の犬の1例 ○石堂真司 石堂動物病院 1.はじめに:犬の神経内分泌腫瘍は神経外胚葉細胞を起源 とする犬においては稀な腫瘍で,過去にはカルチノイドと呼 ばれていた.犬に関しては国内において腸管,肝臓,胆管系 などの発生報告がわずかにある程度である.今回,肝臓実質 内に超音波検査で巨大嚢胞を認め,その他の検査結果から巨 大肝嚢胞と仮診断した症例が,病理組織学検査において肝臓 原発性の神経内分泌腫瘍と診断された症例を経験したのでそ の概要を報告する. 2.材料および方法:症例はウェルシュ・コーギー,避妊済み 雌,12 歳 2ヵ月,体重 14.6 kg. 「お腹が張ってきた気がする」 という主訴で来院.腹部圧迫による腹痛所見なし,右上腹部 領域にややしこり感あり,下腹部領域に Mass 様物は触知せ ず.血液検査では,CRP 上昇(14 mg/dl)以外,CBC,血液化 学,電解質検査で異常なし.X 線検査では肝臓後方に Mass 様 陰影が見られた.超音波検査で肝臓実質内に低エコー性を示 す巨大嚢胞が存在し,嚢胞内には隔壁様の構造物が認められ た.その他の内臓臓器には腫瘍を思わせるような Mass 様物 は認められなかった.超音波所見が猫や過去に報告された犬 の肝嚢胞の所見に類似していることなどから,巨大肝嚢胞と 仮診断し経過観察とした.第 49 病日に超音波検査で腹水の貯 留と肝臓内嚢胞の破裂を疑う所見が認められたので,翌日に 開腹手術を実施した. 3.結 果:腫瘤は外側左葉から発生し,その他の肝葉にも結 節性病巣が散在していた.外側左葉に近い腫瘤内部には血様 貯留液が存在,遠位の腫瘤内には液体貯留は認められなかっ た.腹壁にも嚢胞様病巣が存在.播種性転移病変が存在する ので遠位腫瘤のみを切除する減容積手術に変更したが,術中 に突然心停止を起こし死亡した.病理組織学検査では,免疫 染色で上皮マーカーならびに内分泌系マーカーに陽性を示し, また細胞形態などから神経内分泌系腫瘍の可能性が高いと診 断された. 4.考察および結語:肝臓の神経内分泌腫瘍の報告は少なく, 超音波検査における特異的な所見も示されていない.本症例 のように巨大肝嚢胞に類似した所見を示すものもあることを 含めて,肝臓腫瘍の鑑別リストには神経内分泌腫瘍も加えて 精査する必要があると考える.今後,肝臓原発性神経内分泌 腫瘍の報告が蓄積され,臨床症状,臨床経過,診断アプロー チに関してより多くの情報が得られる事を期待する. 演題番号:D12 トイ犬種の橈尺骨骨折に対するフロートプレート法の治療成績 ○米地謙介,米地若菜,町田由佳 奈良動物二次診療クリニック 1.はじめに:トイ犬種の橈尺骨骨折をプレート法で治療し た場合、生物学的な癒合を得ることは難しく血行障害や骨密 度の低下を起こすことが多かった。創外固定法は生物学的に 優れた方法であるが固定強度を確保しづらく、また術後管理 が煩雑であった。演者らはロッキングプレートシステムを利 用してプレート法と創外固定法の利点を組み合わせた手術方 法を考案し実施したところこれまでにない良好な生物学的癒 合を得ることができた。我々はこの術式をフロートプレート 法と呼んでいる。 2.材料および方法:橈尺骨骨折の治療を目的に奈良動物二 次診療クリニックへ紹介来院した骨折後 7 日以内の 8 症例。 年齢は 1 歳以下が 5 症例、一歳以上が 3 例。インプラントは シンセス社製のロッキングプレートシステムで、骨幹端およ び遠位 1/5 骨折までの症例にはコンデュラープレート、それ 以外にはストレートタイプを選択しロッキングスクリューを 4 本から 5 本用いて設置した。手術においてはプレートを橈 骨前面から 1-1.5 mm 程度浮かせる形で設置し、いったん橈骨 から剥離した筋肉をプレートと橈骨の隙間を埋めるように縫 合した。定期的に行った X 線写真において骨癒合が確認され たのちに全例でインプラントを除去した。 3.結 果:全例で良好な骨癒合を得た。プレート除去まで の期間は 1 歳齢以下の 5 症例で平均 66.8 日、1 歳以上の 3 症 例ではそれぞれ 80 日、116 日、361 日であった。プレート除 去時には全例で骨折部位が正常な橈骨幅よりも太くなってお り、プレート下骨のレントゲン透過性亢進は認められなかっ た。プレートにスクリューを設置していない空ホールの数と プレート除去時の橈骨の幅(正常な皮質骨ラインから算出) は、空ホール 2 つの症例群が平均 111 %、空ホール 3 つの症 例群が平均 138 %、空ホール 4 つの症例群が 134 %であった。 4.考察および結語:フロープレート法を実施した症例では ロッキングシステムを含む従来のプレート法で治療した症 例よりも良好な生物学的癒合を得ることができたように感じ た。骨癒合の様はプレート法よりも創外固定法に近い印象で ある。プレートと橈骨との間に筋肉を挟んだことにより骨膜 血行が温存されたこと、プレートを橈骨から浮かせたため橈 骨に適切なマイクロモーションが骨折端にもたらされたこと によると推測している。 ― 74 ― 演題番号:D13 重度僧帽弁閉鎖不全症に体外循環下僧帽弁形成術を実施した犬5例 ○進 学之 1)4),古越真耶 1)4),四井田英樹 2),長濱正太郎 3),平田翔吾 4),船山麻理菜 4),伊藤大輝 4), 橋本夏彦 4) 1) しん動物病院,2)国立循環器病研究センター臨床工学部,3)VAS 小動物麻酔鎮痛サポート,4)関西どうぶつの心臓病研究会 1.はじめに:体外循環下開心術(CPB)は、僧帽弁閉鎖不全 症(MR)に代表される後天性心疾患の根治治療として期待で きる有効な心臓外科治療法である。今回我々は、重度僧帽弁 閉鎖不全症に罹患した犬 5 症例において CPB による僧帽弁形 成術(MVP)を実施した治療概要と術後 6ヵ月までの予後に関 して報告する。 2.材料および方法:症例は、2015 年 10 月~2016 年 3 月ま でに主治医病院にて僧帽弁閉鎖不全症と診断・治療を実施 し、MVP を希望して紹介来院した犬 5 例。各症例の概要は、 犬種がチワワ 3 例、トイプードル 1 例、キャバリア・キング チャールズ・スパニエル 1 例。年齢は 8~10 歳齢、体重は 3.0 ~5.8 kg、性別は雄 4 例、雌 1 例であった。症例の ACVIM 分 類では、Stage B2(1 例)、Stage C(4 例)であった。 3.結 果:僧帽弁形成術は、頚動静脈より送血・脱血管を挿 入して補助循環装置による体外循環を実施した。また左第 5 肋間開胸にて心臓にアプローチし、大動脈遮断および心筋保 護液の注入にて心停止を確認後、左房切開にて僧帽弁に到達 して弁輪縫縮術および腱索再建術を実施した。全 5 症例にて 心臓の再鼓動および閉胸・抜管が可能であった。術直後の合 併症としては、血小板減少症(1 例)、腎機能障害、血栓症、 肺炎の合併症は認められなかった。術後 7 日目には、全例で 退院が可能であった。術後 1ヵ月目までの経過観察では、1 例 のみ血小板減少症が認められ、新鮮血の輸血が必要であった が、その後順調に回復した。その他 4 例は術後経過も順調で あり、臨床症状が優位に改善していた。術後 3ヵ月目までは全 例でクロピドグレルによる抗血栓治療を継続し、その後は心 臓病薬を含むすべての投薬を終了することが可能であった。 術後 6ヵ月目での経過観察において、4 例で経過良好であった が、1 例で僧帽弁逆流の中等度残存および発咳の再発が確認 されたため、現在内科治療を再開しながら経過を観察してい る。 4.考察および結語:獣医療における MVP は、近年 MR にお ける最良な治療選択肢となりつつある。一方で、手術費用や 合併症などの要因やポンプ機材や輸血準備の問題など改良す べき点も多い。我々は関西圏において、MR に罹患した患者 とその家族にとって、本手術を最良の選択肢として提案でき るように、当施設での MVP 治療を確立していきたいと考え ている。 演題番号:D14 ウサギの子宮疾患211症例の回顧的検討 ○泉 有希 1),藤田大介 1),瀬戸絵衣子 1),今井勇太郎 1),佐々井浩志 1),仁科嘉修 2),井澤武史 2), 桑村 充 2),山手丈至 2) 1) 北須磨動物病院,2)大阪府大 1.はじめに:ウサギは世界的に伴侶動物として広く社会に認 知されている小型草食哺乳類で屋内飼育に適しており、飼育 相談や疾病相談も増えている。しかしながら多くの疾患にお いて未解明な点が多く、子宮疾患は他の伴侶動物と異なる点 があることから、その臨床徴候や発症年齢、発生する疾患、 治療成果について検討した。 2.材料および方法:2008 年~2016 年の間に当院に来院し、 陰部出血や食欲不振などの臨床兆候を示して子宮卵巣疾患と 診断した不妊雌ウサギ 211 症例、年齢は 1 〜 12 歳。診断は一 般身体検査および尿、血液、X 線、エコー、CT 検査および摘 出した臓器の病理組織学検査によって確定した。治療選択は 病状と飼い主との相談に基づいて実施した。 3.結 果:臨床兆候は、血尿が最多で、食欲不振、元気消 失が続いた。発生年齢は 1 〜 12 歳齢に分布し、平均発症年 齢は 5.3 歳齢、種差は認められなかった。42.7 %に血液検査を 実施し、13.3 %に貧血、10.9 %に腎機能異常が確認された。 手術前に輸血を実施した症例は 2.26 %であった。外科治療は 64.0 %に適応され、生存率は 79.1 %(周術期死亡率は 14.9 %) であった。摘出組織の病理学的分類は、腺癌 46.7 %、平滑筋 肉腫 6.7 %、腺癌と平滑筋肉腫の併発 13.3 %、内膜嚢胞性過 形成 14.1 %であった。内科的治療に終始した症例は 16.6 %で 10.4 %が予後不良(安楽死含む)と判断された。遠隔転移は肺 8.1 %、骨 4.7 %で認められた。 4.考察および結語:本調査によってウサギ子宮疾患は、関 与する疾患が年齢によって異なり、若年齢では良性病変によ る失血性の症状、そして中高齢では子宮腺癌などの腫瘍性変 化に起因した病態が存在するなど様々な事実が明らかになっ た。病状によっては致命的な結果も招いていることから適切 な対応の必要性が強く示唆された。 ― 75 ― 演題番号:D15 寡飲症と中枢性尿崩症を合併した猫の1例 ○宮 豊,合田麻衣 みや動物病院 1.はじめに:視床下部には、血液の浸透圧上昇を感知し飲水 を発現する口渇中枢と呼ばれる浸透圧受容器と、下垂体後葉 に抗利尿ホルモンであるバソプレシンを分泌する室傍核が存 在する。寡飲症(PH)は、口渇中枢の障害により血液の浸透 圧上昇に関わらず口渇感が欠如するため、飲水行動が起こら ず高ナトリウム血症となる。一方で、中枢性尿崩症(CDI)は バソプレシンの産生・放出障害により、腎尿細管における水 の再吸収が低下あるいは消失し、多量の低比重尿を排泄する ため多渇感を示す疾患である。人の医療では視床下部に器質 的な障害が発生し、両疾患が同時に発生することで複雑な病 態を呈することが知られているが、猫での報告はない。CDI に PH を合併した猫の病態および治療に関して検討を行った。 2.材料および方法:種類:日本猫 年齢:10ヶ月齢 性別: 雌 体重:2.0 kg 稟告:腎不全の治療を受けているが悪化 しており、水も飲まない。飼育開始以前に交通事故による頭 部外傷歴があり、腎不全の治療中も飲水量は少なかった。身 体検査:被毛粗剛で重度の脱水を呈し、起立困難であった。 血液および尿検査:重度の高ナトリウムおよび高クロール血 症、血液浸透圧の上昇、中程度の高カリウム血症と腎機能の 低下が認められ、尿比重は 1.018 であった。 3.結 果:静脈点滴を開始したところ尿比重が 1.004 まで低 下し、デスモプレシン酢酸塩(DDAVP)の点眼後、尿比重が 1.020 に上昇したことから CDI と診断した。DDAVP の経口投 与で尿比重は上昇したが、自由飲水では高ナトリウム血症が 持続し、PH の併発例と診断した。フードに水分を添加し給餌 したところ、血中ナトリウム濃度は正常値まで低下した。 4.考察および結語:人の医療における PH の治療は飲水量を 確保することであり、猫ではフードに水を加えて給餌して治 療に成功した報告がある。CDI は十分な飲水量が確保できれ ば必ずしも治療の必要はないが、多渇多尿で生活に支障をき たす場合は、DDAVPを投与し尿比重と飲水量を調整する。本 症例のような併発例の報告はないが、CDI に対しては DDAVP で尿比重を上昇させ水分要求量を減らし、PH に対してはフー ドへの水分添加を行うことで飲水を促し、血中ナトリウム濃 度を基準値に維持することが可能であった。 演題番号:D16 イヌ肝臓腫瘤57例の造影 CT 検査(実質相)での定量的評価 ○田戸雅樹,宇根 智,川田 睦 ネオベッツ VR センター 1.はじめに:イヌの原発性肝臓腫瘤は、生検前に腫瘍・非 腫瘍の鑑別や腫瘍の組織型の推測が容易ではないために様々 な検討が行われている。今回我々は実質相の造影 CT 画像か ら、腫瘤の大きさ、腫瘤と実質の CT 値の差を数値化し、定 量的な指標によって腫瘤を鑑別出来るのかを検討したので報 告する。 2.材料および方法:2010 年 1 月 1 日から 2015 年 12 月 31 日 まで当院の医療記録から、造影 CT 検査が行われており、病 理診断が得られた原発性肝臓腫瘤(結節性過形成:NH、肝細 胞腺腫:HA、肝細胞癌:HCC、肝胆管癌:CC)を抽出し、 回顧的研究を行った。症例数は 57 例(NH 26 例、HA 14 例、 HCC 28 例、CC 4 例)。門脈と肝静脈が同時に描出されてい るアキシャル像での腫瘤最大断面で腫瘤境界をトレースし腫 瘤平均 CT 値と肝実質 CT 値のコントラストを比較、また腫 瘤断面積と腹腔断面積を測定し比を算出した。計測には東芝 RapideyeCore を使用した。 3.結 果:腫瘤 CT 値-肝実質 CT 値は NH で-6.15±21.51、 HA で- 25.99 ± 27.05、HCC で- 45.73 ± 37.93、CC は- 64.50 ± 10.88 であった。多重比較検定で NH-HCC、NH-CC 間で有 意差が得られたが(P<0.01) 、NH-HA、HA-HCC、HA-CC、 HCC-CC 間では有意差は得られなかった。腫瘤腹腔断面積比 は NH で 0.12 ± 0.10、HA で 0.30 ± 0.15、HCC で 0.40 ± 0.16、 CC で 0.42 ± 0.25 であった。NH-HA、NH-HCC、NH-CC 間で 有意差が得られたが(P<0.01) 、HA-HCC、HA-CC、HCC-CC 間では有意差は得られなかった。 4.考察および結語:イヌの原発性肝臓腫瘤では、腫瘍と良 性疾患である結節性過形成の鑑別には苦慮することが多い が、本方法により結節性過形成と腫瘍を鑑別できる可能性が 示唆された。今回は、手術および病理検査が実施された症例 における評価ではあるが、この方法は客観的で測定が簡便で あり、イヌでよく見られる大型の肝臓腫瘤を切除前に結節性 過形成、悪性腫瘍もしくは腫瘍と予測する基準として有用と 思われる。 ― 76 ― 演題番号:D17 甲状舌管嚢胞との併発が疑われた前縦隔腫瘤の犬の1例 ○望月俊輔,宇根 智,川田 睦 ネオベッツ VR センター 1.はじめに:犬の前縦隔に発生する腫瘍として、発生頻度の 高いものでは胸腺腫やリンパ腫が、稀なものでは異所性甲状 腺癌や非クロム親和性傍神経節細胞腫などが挙げられる。リ ンパ腫などを除く多くの腫瘍では手術による摘出が第一選択 であるが、腫瘍が周囲血管や胸腔内臓器に浸潤している場合 には外科治療の適応が困難である場合も存在する。今回我々 は外科治療が困難と判断した前縦隔腫瘤に対し術前放射線治 療を計画し、放射線治療による腫瘤の縮小後に摘出を行った ところ、胎生期の遺残構造物である甲状舌管嚢胞と診断され た症例を経験したため、その概要を報告する。 2.材料および方法:症例は 11 歳の柴犬、避妊雌であり、発 咳を主訴に近医を受診し、胸部 X 線検査にて前縦隔に腫瘤が 認められたため当施設に紹介来院した。CT 検査では前縦隔に 6.7 × 4.0 × 5.1 cm の腫瘤性病変が認められ、左腕頭静脈が腫 瘤内にて消失し、左内胸動脈も腫瘤内を走行していた。以上 の所見より即時の腫瘤摘出手術は不適応と判断、かつ体表か らの生検は症例の状態及び出血リスクを考慮して選択せず、 胸腺腫との仮診断のもと、まずは放射線治療による腫瘤の縮 小を図った。4 Gy × 14 回照射後の CT 検査では、腫瘤は 4.4 × 1.2 × 1.0 cm にまで顕著に縮小し、主要血管の温存が可能 と判断されたため、第 78 病日に手術を実施した。腫瘤は軟性 の組織であり周囲組織との境界は不明瞭であった。超音波メ スを用いて周囲組織や血管との癒着を慎重に剥離し腫瘤の摘 出を行った。 3.結 果:病理組織学的検査において、腫瘤内部には嚢胞 が形成されており、内腔には液体の貯留が認められた。摘出 した組織内には腫瘍性病変は認められず、嚢胞内腔を内張す る上皮の形態から甲状舌骨管嚢胞と診断された。第 175 病日 及び第 266 病日に術後検診として実施した CT 検査では、腫 瘤の再発は認められず経過は良好であった。 4.考察および結語:甲状舌管嚢胞は甲状腺の発生過程にお いて、本来であれば消退する甲状舌管が遺残し嚢胞を形成し たものであり、犬での発生は稀である。初診時に認められた 前縦隔腫瘤は、CT 検査所見と放射線治療に対する反応性か ら胸腺腫の可能性が推察された。本症例は胸腺腫が放射線治 療によって消失した後に、併発していた甲状舌管嚢胞が残存 し腫瘤様に観察された稀な例と考えられた。 演題番号:D18 トイプードルの胸腰部椎間板ヘルニアの臨床的特徴 ○小山田希充,杉山祐一郎,木村太一,尾形真佑,中川恵里香,亀井隆太郎,長谷川哲也 加古川動物病院 1.はじめに:胸腰部椎間板ヘルニア(以下胸腰部 IVDD)はミ ニチュアダックス(以下 M ダックス)で多く認められ、近年飼 育が増加しているトイプードルでも認められる疾患である。 しかし、その臨床的特徴に相違を認める可能性があり、本研 究ではトイプードルと M ダックスの臨床的特徴を比較検討し た。 2.材料および方法:2005 年から 2016 年までに CT 及び MRI 検査によって胸腰部 IVDDを初めて診断されたトイプードルと M ダックスの内科記録を対象とし、シグナルメントや神経検 査所見、罹患部位、神経グレード、予後などを抽出した。神 経グレードは改良フランケル分類で評価し、罹患部位は胸腰 部(T9-L2) 、中腰部(L2-L5) 、尾側腰部(L5-S1)に分類した。 短期予後は術後 4~6 週間目、長期予後は術後 3ヵ月目の神経 グレードの改善の有無で評価した。 3.結 果:対象となったトイプードルは 32 症例だった。ハ ンセンⅠ型が 28 症例、ハンセンⅡ型が 4 症例で M ダックス と有意な差はなかった。発症年齢はトイプードルの方が有意 に若齢だった(P=0.004)。罹患部位は胸腰部(T9-L2)が最も 多く 24 症例、神経グレードの中央値は 3 でいずれも M ダッ クスとの有意な差を認めなかった。診断時、多発性に胸腰部 IVDD を認めた症例はトイプードルの方が少ない傾向であっ たが(P=0.059) 、術後の入院期間や歩行できるまでに要した 期間、短期予後はいずれも有意な差を認めなかった。長期予 後にも有意な差は認めなかったが、術後に神経症状が消失し た症例はトイプードルの方が有意に多かった(P=0.014)。 4.考察および結語:神経症状が消失したトイプードルが多 かったのは、多発性に胸腰部 IVDDを認めた症例が少ない傾向 にあることが関与していると考えられた。多発性に IVDD を 認めた症例では責任病変を確定出来ていない可能性や軽微な 症状が検出されず慢性症状で推移した可能性が考えられる。 トイプードルは M ダックスよりも初発の IVDD が検出される 傾向にあり、発症年齢に差を生じたと考えられた。今回の研 究から、トイプードルの胸腰部 IVDD は M ダックスと同等以 上の予後が期待できることが判明した。また、予後を向上さ せるためには軽微な胸腰部 IVDD の早期検出や責任病変の検 出精度の向上が必要であると考えられた。 ― 77 ― 演題番号:D19 アフォキソラネル製剤による犬に寄生するニキビダニの駆除 ○中村有加里 1),深瀬 徹 2) 1) イオン動物病院イオンモール KYOTO,2)葛城生命科学研究所 1.はじめに:犬に寄生するノミとマダニの駆除薬として、 最近、イソオキサゾリン系薬物を有効成分とする 2 種の経口 投与製剤、すなわちアフォキソラネル製剤とフルララネル製 剤が上市された。このうち、フルララネル製剤は、効能外で あるが、ニキビダニに対して高い駆除効果を示すことが知ら れている。一方、アフォキソラネル製剤に関しても、アフォ キソラネルとフルララネルが同系統の薬物であることから、 ニキビダニの駆除に用いることができると推察される。ただ し、犬に寄生するニキビダニに対するアフォキソラネルの駆 除効果については、いまだ十分な検討が行われていない。そ こで、このたびニキビダニの寄生が認められた犬に対してア フォキソラネル製剤の投与を試み、その駆除効果を検討した。 2.材料および方法:症例は、チワワ、雌(避妊手術実施済 み) 、8 か月齢、体重 1.8 kg で、脱毛に対してフラジオマイシ ン硫酸塩とメチルプレドニゾロンの合剤の軟膏剤の塗布を受 けていたが、症状が悪化傾向を示していたものである。左頭 部および右側腹部に脱毛が認められ、皮膚掻爬検査によりニ キビダニが検出された。ただし、瘙痒は示していなかった。 この犬に対して、アフォキソラネル製剤をノミおよびマダニ 駆除のための本製剤の推奨基準投与量である 2.5 mg/kg の 2 倍量にあたる 5 mg/kg を基準として 1 回の経口投与を行うこ ととした。 3.結 果:投薬に際しては、5 mg/kg にもっとも近くなる容 量の製剤、すなわち 11.3 mg 容量の製剤 1 個を用いた。その ため、実際の有効成分投与量は 6.3 mg/kg となっている。投 薬 19 日後の再診時にニキビダニは検出されず、現在、62 日 後に至るもダニは消失している。また、脱毛部位には徐々に 発毛が認められた。なお、投薬に起因すると考えられる異常 は観察されなかった。 4.考察および結語:犬に寄生するニキビダニに対してフルラ ラネルが良好な駆除効果を示すことはすでに周知であるが、ア フォキソラネルも、投与量によっては、同様の効果を示すこ とができると考えた。また、薬物の構造活性相関という観点 からは、他のイソオキサゾリン系の薬物、たとえば sarolaner もニキビダニに有効である可能性が高いと思われる。多種の 外部寄生虫に対するイソオキサゾリン系薬物の適用が期待さ れる。 ― 78 ― 平成 28 年度日本小動物医学会(近畿) ランチョンセミナー 2 D 会場(B3 棟 118 号室) 時間(12:00 ~12:40) 講 演 狂犬病の犬による予防 一般財団法人化学及血清療法研究所 山崎 憲一 座 長 大阪府立大学大学院 獣医微生物学教室 田島朋子 協賛:一般財団法人化学及血清療法研究所 当セミナーには、 弁当がつきます(先着 50 名) 狂犬病の犬による予防 一般財団法人化学及血清療法研究所 山崎憲一 狂犬病は世界のほとんどの国と地域で依然として人類の大きな脅威となっている感染症の一つである。 農水省が狂犬病の発生がないと認めている国と地域は、日本を含めてわずか 7 つだけである。WHO によ ると本病の犠牲者は年間 5 万 5 千人にのぼっている。この犠牲者数は、2015 年の世界全体の武力紛争による 死者 16 万7千人(英国国際戦略研究所の調査報告)の 1/3 に匹敵する。 狂犬病は狂犬病ウイルスの感染によって惹き起こされる人獣共通感染症で、発症に至った場合の致死率は 100%とされ、長い潜伏期と多様な脳炎症状が特徴である。野外環境において、本ウイルスは限定された宿主 の同一種内で維持されているが、すべての哺乳類に感染するため撲滅は極めて困難である。 ヒト狂犬病の原因は 95%が犬の咬傷による。わが国では 1957 年以降 59 年間狂犬病の発生がない清浄国で あるが、戦後の復興期に清浄化に成功したのは 1950 年に制定された「狂犬病予防法」による犬の登録、予防 注射および野犬等の抑留を徹底したことによる。グローバル化が急速に進展しヒトとモノが短時間で世界を 移動する現代では、狂犬病の侵入リスクを水際で完全にゼロにすることは難しく、国内侵入後の感染拡大防 止のために犬の集団免疫率が重要になる。 今回のランチョンセミナーでは、狂犬病の発生状況や動物用狂犬病ワクチン等について紹介する。 ― 81 ―
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