Earth, Planets and Space 誌の今後について 欧文誌担当理事 堀川晴央 はじめに スとして,皆さんの研究成果を即座に世界中の誰もが無 Earth, Planets and Space 誌(以下,EPS 誌)は,日本 料で読めるようにします.このことで,より広く世界中の 地震学会のほか,地球電磁気・地球惑星圏学会,日本 研究者に届くようになり,EPS 誌に掲載された研究成果 測地学会,日本火山学会,日本惑星科学会が共同で がより多くの論文で引用されるようになることを期待して 刊行している国際誌です.地震学会会員の皆さんには, います. 被害地震の発生後,適宜特集号を組んで刊行している この変化を,出版に関するお金の流れという視点で見 雑誌として知られているかもしれません.現在,この EPS ると,学術雑誌の刊行費用を読者側(図書館を含む)か 誌は非常に大きな曲がり角を迎えています.未だ流動 ら一切徴収しないことを意味します.つまり,論文の出 的な面がありますが.現在検討されている EPS 誌の将 版費用は,基本的に全て書き手側の負担となります. 来像をお知らせいたします. 当然,投稿費用の額が気になると思います.現在,財 この文章では,まず,EPS 誌の大きく変わる点と移行ス 政シミュレーションを行いつつ検討しており,確定した額 ケジュールを示した後に,大きな変更点の意味するとこ をお知らせすることができないのですが,学会員の ろを記します.次に,なぜそのように変えようとしている letter 論文の場合,新雑誌への衣替え直後は 2-3 万円 のかを説明します.いつどう変わるかだけを知りたい場 程度に抑えることを目指しています.但し,後述するよう 合は,次節の冒頭部分のみをお読みいただければ十 に,学術誌として自立することを考えるならば,論文掲 分と思います.少し踏み込んだことも知りたい方は更に 載料を段階的に増やして行かざるを得ない可能性があ 読み進めていただければと思います.今回の変更が, ります.その場合でも,会員価格および学生会員価格を 学術雑誌をめぐる世界的な情勢と無関係でないことをご 設け,非会員との差別化をはかり,学会員であることを 理解いただけるとありがたく思います. 享受してもらえるようにしたいと考えています.また,現 在の EPS 誌は特集号で支えられている面があることを考 新しい EPS 誌の性格 慮して,特集号をより魅力的なものとなるようにするため, 現在,新しい EPS 誌は 特集号では投稿料を下げることも計画しています. ・全論文を即座にオープンアクセス化(要するに,オー 基本的に冊子体は刊行しない方向です.これは,誰 プンアクセスの学術誌になる) でも無料で論文が読める以上,冊子体の販売はほとん ・letter に比重を置く ど意味がなさなくなることによります.但し,特集号のよう ・インパクトファクターが 2 を目指していく に冊子としての需要がある程度見込める場合には,オ という性格を持つ雑誌とすることを計画しています. ンデマンド印刷の形で刊行される可能性はあります. この新しい EPS 誌は 2014 年 1 月刊行を目指していま これまでの EPS 誌は,full paper と letter の両方を掲載 す.新雑誌の原稿受付開始は 2013 年 4-6 月頃です. してきました.今後は,letter 論文に重点を置いて刊行 連動して,これまでのスタイルの EPS 誌は 2013 年 12 月 して行くことを計画しています.但し,これは full paper を で刊行を終了し,原稿の受付は 2013 年 3-5 月頃に終 一切受け付けないという意味では決してありません. 了することを計画しています.切り替え時期は非常に重 AGU の雑誌でも,GRL が JGR よりもインパクトファク 要ですので,確定次第早めにお知らせいたします. ターが高いことに見られるように,現在は学問の進展の 以下,これらの特徴の意味するところを記します. 速度が早く,letter のようなサーキュレーションの早い媒 学術論文におけるオープンアクセスとは,出版された 体での発表が好まれる傾向があると思います.そこで, 論文が誰でも無料でオンラインで読めることを指します. letter の比重を増やし,EPS 誌の露出度を上げることを 現在の EPS 誌では,刊行から 1 年経過した論文をオー 企図しています. プンアクセスの論文として出版社のサイトで公開してき 魅力ある雑誌であると研究者の目に映らない限り,そ ました.また,東北地方太平洋沖地震に関する特集号 の雑誌の将来は明るくはないと思われます.その魅力 のように特に重要と思われるものに関しては,出版社の の有無をはかる大きな尺度はインパクトファクターで,こ 尽力もあり,刊行直後からオープンアクセスにしてきまし の値が学術雑誌の「偏差値」のような役割を果たしてい た.今後は,全ての論文を刊行直後からオープンアクセ る点は否めません.これは,雑誌のプロモーション活動 1 の際に,雑誌の性格として訊ねられるキーワードの 1 つ 民に広く公開されるべきというところにまで拡大していま がインパクトファクターであるという報告にも如実に現れ す.国によっては,税金をもとにした研究の成果は, ています. オープンアクセス誌上での公表を義務づけている場合 したがって,ある程度のインパクトファクターを有する すらあるそうです. 雑誌であることが,雑誌として存続して行く上では必要と このような潮流は,出版助成の科研費にも大きな変化 判断せざるを得ません.そこで,現在の値(2012 年は をもたらしました.EPS 誌の出版がこれまでもらってきた 0.795)を勘案しながら,四捨五入で 2 に届く(つまり 1.5 科研費は,印刷媒体である学術誌の刊行に対する補助 以上)インパクトファクターを目指すことにしました.この という性格でしたが,来年度からは大きく変わり,学術情 数値は BSSA(2012 年の値で 1.70)や Pure and Applied 報を国際的に発信する取り組み強化に関する科研費と Geophysics(2012 年の値で 1.75)と同程度です. なりました.その中で,オープンアクセス刊行支援という やや細かい(でも,人によっては大きいかもしれない) 項目が特別に設けられていることに示されるように,世 変更点を以下に記します.まず,e-letter は,オープン 界の潮流に合わせる形でオープンアクセスへ移行する アクセスの letter に吸収される形で無くなる予定です.こ ことが求められています.但し,この科研費は,オープン のほか,full paper の項目分けの導入が提案されていま アクセスに衣替えすることだけを求めているのではなく, す.但し,地震学,測地学といった学問分野による分類 科研費の名称のとおり,情報発信強化の取り組みこそ ではなく,(a) Frontier: 分野の先端的研究・分野融合 が求められています.しかも,最終的にはビジネスとして 的研究,(b) Asian Research: アジア発あるいはアジアを 独立する(科研費無しで刊行し続けられる)ことが求めら 対象とした研究,(c) Instruments & Methods: 装置開 れていることは,既に述べたとおりです. 発・技法・解析手法等に関する研究,という分類が提案 されています. おわりに この文章では,論文を投稿したり,読んだりする立場 改革の狙いと背景 から EPS 誌の今後をまとめつつ,変わることの狙いやそ このように大きく変えるのは,これまでの EPS 誌よりも投 の背景を記しました.最後に申し上げたいのは,「器」を 稿する際の魅力を増すことで,学術雑誌としての自立 色々変えたとしても,雑誌の魅力を最終的に決めるの (ビジネスとして成り立つこと)を目指すことにあります.こ は,その「器」に盛られる論文であるということです.つま れまでの EPS 誌は,収入の約 4 割を科研費に依存して り,皆さんによい論文を投稿していただいて,EPS 誌を いました.しかし,この科研費の枠組みが来年度から大 盛り上げていただかない限り,結局行き詰まり,休刊や 幅に変わり,最終的にはビジネスとして学術誌が自立す 廃刊に至りかねません. ることが求められています.つまり,現在我々が取り組ま もちろん,「器」の良し悪しが投稿してもらえるどうかに なければならないのは,EPS 誌が自力で立ち行くように 大いに関係しますので,課されている「拘束条件」下で, 変えることであり,自立のためには,雑誌の魅力を増や よりよい「器」とするべく,上記の改革を考えています.よ す策を考えて実行し,投稿数を増やして収入を確保す りよい「器」とするための知恵を拝借できると大変ありが るという,真っ当な方法が望ましいと思うのです. たいです.このほか,ご質問,ご意見も歓迎します.何 学術雑誌をビジネスとして自立させるのは困難な道の かありましたら,ssjeps2012@googlegroups.com 宛にお りですが,学術雑誌を巡る環境を考えると,自分たちの 寄せ下さい.ただ,科研費の応募〆切が 11 月中旬と ためと言えます.学術雑誌が年々値上がり,大学や研 迫っており,残された時間は多くないことを大変申し訳 究機関の図書館が購読料を払えなくなってきつつある なく思います.また,お知らせ自体がこのように時間が という問題を耳にした方もいらっしゃると思います.ある それほど残されていない頃になってしまった点もお詫び いは,皆さんの所属組織自体がこの問題で悩み,毎年, いたします. どの雑誌の購読を取り止めるかが議論されているのかも 最後になってしまいましたが,今後とも EPS 誌へのご しれません.このような状況を考えると,学会自体がオー 協力をよろしくお願い申し上げます. プンアクセスとして学術誌を刊行し,私たちの研究成果 が世界中の誰にでも届く環境を整備することには,むし (2012 年 10 月 15 日) ろ積極的な意義が見出されるのではないでしょうか. 現在,このようなオープンアクセスの動きは勢いを増し つつあり,税金を使ってなされた研究は納税者である国 2
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