コミュニケーションメディアの変遷からみる次世代の - SUBMIT

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
コミュニケーションメディアの変遷からみる次世代のメディア
山本吉伸
独立行政法人 産業技術総合研究所 サービス工学研究センター
〒135-0064 東京都江東区青海 2-3-26-408
E-mail: yoshinov.yamamoto@aist.go.jp
あらまし コミュニケーションメディアは移り変わっている.データのサイズという観点からその変遷をみると,
小さなパケットのメディアのほうがより多くのユーザを獲得していることがわかる.本稿ではその理由について議
論し,コミュニケーションメディアの将来像について述べる.
キーワード コミュニケーションメディア,パケットサイズ,インスタントメッセージ,ツイッター
Next-generation communications media, considering the evolution
Yoshinobu Yamamoto
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
Center for Service Research, 2-3-26 Aomi, Koto-ku TOKYO 135-0064 Japan
E-mail:
yoshinov.yamamoto@aist.go.jp
Abstract Communication media is changing with the times. Small packets media has won more users. In this paper, I will
discuss about reasons of these phenomena and describe what the future of communication media is.
Keyword communication, media, packet size, instant message, twitter
1. は じ め に
コミュニケーションメディアは,テクノロジの進展
に 直 接・間 接 の 影 響 を 受 け な が ら 次 々 と 進 化 し て い る .
通 信 回 線 は 10 年 前 に は 考 え ら れ な い ほ ど 高 速 大 容 量
化し,テレビ電話の環境は 携帯電話ですら現在では全
く珍しいものではなくなっている.しかしユーザの選
択は必ずしも技術の高度化や通信の高速大容量化には
沿っていない.むしろその逆なのである.
2. メ デ ィ ア の変 遷
2.1. 音 声 電 話から電 子メールの時代
図は,コミュニケーションメディアの変遷を表現し
たものである.縦軸は 一日のうちにそのメディアが稼
働する時間 ,横軸は年代である.
1876 年 に 電 話 が 発 明 さ れ て 以 来 ,免 許 不 要 の 電 子 的
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 と し て は 電 話 と FAX が 主 役
で あ っ た .1970 年 代 に は い っ て よ う や く 電 子 メ ー ル が
登場した.しかし当時は電話と並ぶようなメディアと
は 認 識 さ れ て お ら ず ,「 マ ニ ア の 遊 び 」と 捉 え る 見 解 が
主流であった.現在は インターネット 上で交換される
情 報 量 は 電 話 で の そ れ を 上 回 っ て お り 1 ,電 子 メ ー ル な
しのビジネスの方が例外的である .
2.2. IM・Twitter の時 代
2000 年 前 後 か ら Mirabilis 社 (後 に AOL 社 が 買 収 )が
ICQ を ,Microsoft 社 は Instant Message を ,Yahoo 社 は
Yahoo Messenger を リ リ ー ス し ,「 イ ン ス タ ン ト メ ッ セ
ー ジ 」が ユ ー ザ を 爆 発 的 に 獲 得 す る 時 代 が 始 ま っ た [3].
短いテキストだけでは 到底コミュニケーションのニー
ズに対応できないと考える人は多かったが ,実際には
Web の ユ ー ザ の 伸 び 率 よ り も 遙 か に 急 峻 に ユ ー ザ を 獲
得 し て い き ,ビ ジ ネ ス シ ー ン で の 利 用 も 活 発 化 し た [4].
1
情報流通量の計測は論者により多少異なる.たとえ
ば [1][2]が 参 考 に な る .
近 時 の 最 大 の 話 題 は Twitter で あ ろ う [5]. Twitter と
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は Web ペ ー ジ ま た は 専 用 ソ フ ト ウ エ ア か ら 「 ツ イ ー
4. コ ン テ ン ツな き コ ミュ ニ ケー シ ョ ン欲
ト 」と 呼 ば れ る つ ぶ や き (他 者 の 反 応 を 前 提 と し な い 発
4.1. 端 緒を作 りだす技術
言 )を 投 稿 す る メ デ ィ ア で あ る .メ ッ セ ン ジ ャ ー が 最 小
我々一般ユーザが次のコミュニケーションメディ
で も 全 角 250 文 字 程 度 の テ キ ス ト を 送 付 で き た の に 対
アに求めるものはなにか.それはコミュニケーション
し ,Twitter は 全 角 140 文 字 を 上 限 と し て い る .つ ぶ や
それ自体を作ってくれるメディアである.
きの投稿ではまともな ニーズに対応できないと考える
そもそも,なんらかの用件があれば電話をかけるこ
人も多かったが,ユーザ数の爆発的増加とともにビジ
とになんら倫理的な問題は生じない.だがしかし,ほ
ネス利用も活発化している .現在では 放送各社や新聞
とんどの場合我々は相手に対するメッセージ・コンテ
社ですら利用している .
ンツを持っていない. たとえば高校時代の友人のこと
2.3. メディアの変 遷が示すもの
を懐かしく思い出す日があったとしても,電話をかけ
このように並べて気づくのは,時代が進むにつれて
る こ と に は つ な が ら な い .話 す 内 容 が な い か ら で あ る .
ユーザを獲得しているコミュニケーションメディアと
田舎に住む 祖父母と都会に住む孫 の会話も常に 話題豊
は,一回の通信のサイズがより小さなものに進んでい
富とはいかない.ではコミュニケーションしたくない
る,ということである.
かというとそうではない.コミュニケーション自体は
この傾向を前提とすれば,ユーザをもっとも多く獲
したいのである.旧来のメディアはメッセージがなけ
得する次のメディアは,テレビ電話のようなリッチな
れば相手とのチャネルが開かれない.それゆえ 女子高
動画をやりとりするメディアではない ことは確実であ
生 た ち は「 ど う ? 」「 ひ ま ? 」な ど の メ ッ セ ー ジ を 作 り
る.情報ハイウエイ構想がもたらしたブレークスルー
だす必要があった のである.
とは,リッチな映像が高速にダウンロードできるよう
こ の 意 味 か ら , IM や Twitter は 新 し い メ デ ィ ア を 指
になったことではなく,少ないパケットがそれにふさ
向するものである.相手に対する 用件といったものな
わしい価格(すなわち無料)で交換できるようになっ
しにコミュニケーションの可能性 を開こうとするから
たことにあると理解すべきである.
で あ る . そ の 将 来 は , よ り 簡 単 に (低 コ ス ト に )つ ぶ や
きを投稿するシステムであろう.たとえば座っただけ
3. 小 さ な サ イズ の 理 由
で そ れ が Web 上 に 反 映 す る ,と い っ た メ デ ィ ア で あ る .
3.1. 倫 理 的 価 値観の変 遷
4.2. behavioral threshold(行 動 閾 値 )を超える技術
では,なぜこのような少ないパケットのメディアが
端的に共通の話題を見つけ出すあるいは作りだす
好まれるのか.一つには,自分の時間を最大限尊重す
技術も想定可能である.あらかじめプレゼンス情報や
ると同時に相手の時間も最大限尊重するという価値観
人 間 関 係 (親 し い 友 人 同 士 で あ る と か 近 い 親 族 で あ る
が広がっていることである .重大な用件もなしに割り
と か )が わ か っ て い れ ば ,ゲ ー ム や ク イ ズ を 提 供 す る と
込みをかけることは倫理的には好ましくない.可能な
いう方法も有望であろう. 話題がない人の間に コミュ
限り割り込みを避けようとすれば,ささいな用件で電
ニケーションを生じさせる ための刺激としてなにを与
話 を か け る こ と を 避 け る こ と に な る .IM 以 前 の コ ミ ュ
えればよいか,その刺激をどのようにどの くらい与え
ニケーションメディアは,原則として相手に割り込み
ると行動閾値を超えてコミュニケーション行動に至る
を か け る メ デ ィ ア と 言 え る . 一 方 IM 以 後 の メ デ ィ ア
のか,ほとんど体系的には取り組まれていない .今後
は原則として相手に割り込みをかけないメディアであ
の進展に期待したい.
る.同時に ,相手から無視されたと感じて傷つく必要
もないという点も注目すべき特徴である.
3.2. 多 忙な日 常 でのメディア
IM や Twitter の よ う な 少 な い パ ケ ッ ト の メ デ ィ ア が
好まれる理由の一つに バックグラウンドで動作するこ
と が あ る . 現 代 人 は と に か く 忙 し い . IM や Twitter
といったメディアは本人の活動を止めずに利用 できる
という点で旧来のメディアとは異なる 特徴を有すると
い え る .PC 起 動 時 に 自 動 的 に 起 動 し ,メ ッ セ ー ジ の 発
信のときですらほとんど自分の時間を割かないでもよ
いのである.
(本稿の補足:
http://www.submit -asap.org/home/yoshinov/2010/proje
cts/hci/index.html も 参 照 さ れ た い .)
文
献
[1] 情 報 流 通 イ ン デ ッ ク ス 研 究 会 , 我 が 国 の 情 報 流 通
量の指標体系と計量手法に関する報告書, 総務省
情 報 通 信 政 策 研 究 所 , 2009
[2] http://www2.sims.berkeley.edu/research/projects/ho
w-much-info-2003/
[3] た と え ば Media Metrix. 2000 年 度 調 査 報 告
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/USNEWS/2000
1117/3/
[4] http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/IT Pro/USNEWS/2001
0803/4/
[5] 目 黒 譲 二 , Twitter な ど ミ ニ ブ ロ グ の PC サ イ ト ,
2009 年 の 訪 問 者 数 は 約 1230 万 人 , CNET Japan
/01/28 記 事 , 2010