社会主義 会報 第 63 号

社会主義
理論学会
会報
第 63 号(2009.1.11)
事務局 :〒175-0093
東京都板橋区赤塚新町 3-4-8
田上方
℡ 03-5998-7682 郵便口座番号 00140-6-483911
E-mail:tagamimp@kk.iij4u.or.jp
社会主義理論学会第 51 回研究会
金融危機の実体と意味
瀬戸岡紘(駒澤大学教授)
参考文献:瀬戸岡紘「三重の悪乗りと三層の行き過ぎ──現下の金融危機を歴史のなかに
位置づける──」(
『もうひとつの世界へ』第 18 号、2008 年 12 月刊、所収)。
1
2009 年 2 月 8 日(日)午後 2 時~5 時
明治大学アカデミーコモン 310C
住所:千代田区神田駿河台 1-1 電話:03-3296-4545
以下に 2008 年 4 月 29 日に開かれた社会主義理論学会 2008 年度総会報告を掲載する。
社会主義理論学会 2008 年度総会報告
一
社会主義理論学会 2007 年度活動総括
1)研究集会・研究会について
2007 年度の研究集会・研究会は、2007 年 4 月 29 日の第 18 回研究集会には
じまり、7 月 29 日(第 47 回)、12 月 22 日(第 48 回)、2008 年 2 月 2 日(第
49 回)の計 4 回開催された。更に今年度は、上記の定例の研究集会に加えて、
合評会とシンポジウムへの協賛、学術交流会が行われた。
社会主義理論学会第 18 回研究集会は、2007 年 4 月 29 日豊島区民センター
にて開催された。「中国は社会主義か──中国の現状」の統一テーマの下、
上原一慶「中国経済の現状が問うもの」と荒井利明「中国『政治改革』の現
状とそのゆくえ」という報告が行われた。
社会主義理論学会第47回研究会は、2007年7月29日に文京シビックセンター
にて開催された。報告者と報告テーマは以下の通り。
碓井敏正「グローバリゼーションの正義と権利」
社会主義理論学会第48回研究会は、2007年12月22日に文京区民センターに
て開催された。報告者と報告テーマは以下の通り。
王京濱「毛沢東時代の地方重工業の 21 世紀的意義について――鉄鋼業と化
学肥料産業を中心に――」
鄭治文「東風汽車グループにおける外資提携関係とその課題」
社会主義理論学会第49回研究会は、2008年2月2日に文京シビックセンター
にて開催された。報告者と報告テーマは以下の通り。
瀬戸宏「日本型社会民主主義について」
今年度は上記定例会に加えて、2007 年 9 月 29 日に文京区民センターにて黒
木朋興氏を評者に迎えて、社会主義理論学会論集『グローバリゼーション時
代と社会主義』の合評会を開催した。次いで 2007 年 11 月 10 日 11 日の両日
に、明治大学にて開催された「明日の世界を求めて──ロシア革命 90 年シン
ポジウム」に協賛した。社会主義理論学会の責任で、田上孝一事務局長司会
2
の下「レーニンの相対化」という自主企画を行い、千石好郎氏が「レーニン
の相対化から決別へ」、村岡到会員が「レーニンの相対化」を報告した。ま
た、瀬戸宏会員による「中国でのロシア革命シンポジウムに参加して」とい
う特別報告も行われた。更に、2008 年 3 月 4 日には文京区民センターにて呉
恩遠中国社会科学院マルクス主義研究院副院長・党委書記を迎え、日中学術
交流会を開催することができた。
ここ数年来、年一回の研究集会と年二回の研究会を開催するという活動ペ
ースであったが、今年度は研究会を三回開き、特別企画も三回行った。非常
に充実した一年であったと言えよう。
2)論集の発行について
社会主義理論学会三冊目の論集『グローバリゼーション時代と社会主義』
を予定通り 2007 年 7 月にロゴス社より刊行することができた。
3)会報の発行について
今年度は 2007 年 7 月 15 日に第 61 号、2008 年 4 月 12 日に第 62 号を発行す
ることができた。会員への研究会の通知も葉書等により滞りなく行えた。
4)社会主義理論学会ホームページの強化について
http://www.kk.iij4u.or.jp/~tagamimp/syakaisyugi.index.htm にて運営
しているが、不十分なものに留まっている。本会の活動を広く社会に知らせ
るという点において、ホームページが果たす役割は大きい。
現状を改善し、ホームページを充実させる必要がある。
5)事務局体制について
事実上田上会員一人がほぼ全ての事務を担当せざるを得ない状況にある。
事務局員を補充し、事務局活動を正常化させる必要がある。
6)会計について
会計と会計監査については別紙参照。
二 2008 年度活動方針
3
1)研究集会、研究会について
研究集会と研究会は、2007 年度もその前年度と同じく定例化され、報告者
と参加者とのあいだのかなり熱心な論議もあるという点で意義があったと思
われる。
2008 年度も引き続き研究集会と研究会を定期的に開くことが望まれる。
2)内外の団体との研究交流
国内外の他団体が主催する研究集会などを本会として共催団体あるいは協
賛団体として共に活動することを目指す。
3)会報の発行について
できる限り会報の発行回数を増やすように努める。
4)事務局活動の縮小
事務局担当者が事実上田上会員だけであり、新たに事務局員が補充される
までは、事務局活動を会員への連絡事務を中心としたものに縮小せざるを得
ない。
5)会員の拡充
会の活動自体は活発化しているにもかかわらず、退会会員が頻出している。
会の存続のために新たな会員の確保が望まれる。
6)ホームページについて
ホームページを国立情報学研究所サーバー・学協会情報発信センターサイ
ト(無料)に移転する。瀬戸宏委員が新HP管理者になる。
2008 年度社会主義理論学会委員
岡本磐男(東洋大学名誉教授、経済学:共同代表)
、上島
武(大阪経済大学
名誉教授、経済学:共同代表)、斉藤日出治(大阪産業大学、経済学)、佐藤
和之(佼成学園、経済学)、瀬戸
宏(摂南大学、中国現代文学演劇)
、田上
孝一(立正大学、哲学:事務局長)、村岡到(『もうひとつの世界へ』編集長)、
山根
献(『葦牙』編集者)、渡辺一衛(
『思想の科学』会員)
4
社会主義理論学会第 19 回研究・討論集会
報告
2008 年 4 月 29 日に小石川後楽園涵徳亭にて社会主義理論学会第 19 回研
究・討論集会が開かれた。
「社会主義像の探求」の統一テーマの下、小松善雄
「協議社会主義の原像」と粕谷信次「連帯経済の可能性」が報告された。
以下に粕谷氏の報告要旨を掲載する。なお小松氏からは報告要旨が提出さ
れなかった。
粕谷 信次
「連帯経済」の可能性
〔Ⅰ〕「連帯経済」とはなにか
いま,新自由主義的グローバリゼーションが世界中に跋扈し,一方で,
「社
会解体作用」を強め,他方で,
「自然・生態系との共生の破壊」進めている。
このとき,公的な資源,市場的な資源のみならず,営利企業や公的組織の
活用できない資源,すなわち,社会的関係資源(人と人との助け合い,連帯など人と
人との直接的な社会的繋がりが生産や活動に積極的に貢献することを資源と捉えた概念 )
を動員し
て,人々がつくる「新しい公共性」(=「市民的公共性」)をもって,一方で,市
場経済に参入しつつ市場経済のありようを,他方で,国家・政府セクターに
参加しつつこれを変革しようと,さまざまなネーミングで台頭しているのが,
「連帯経済」である。
〔Ⅱ〕台頭する「連帯経済」-世界のパノラマ-(
〔Ⅱ〕は,吾郷他編著『現
代経済学』岩波書店,近刊,10 章の紹介なので,項目を挙げるにとどめる)
(1)アメリカ生まれの NPO
(2)フランス生まれ,EU育ちの「社会的経済」
そのなかでも,組織革
新のフロンティアとして「社会的企業」の登場が注目される。
1
複数目的(Multi-Goals):コミュニティのためという社会的目的,事業
を継続的に可能にする経済的目的,そして社会制度の変革という目的。
2
複数の資源(Multi-Resources):会費や出資金,寄付やボランティア,
政府・自治体の補助金や財政支出,民間からの対価収入などの獲得。
3
複数の利害関係者(Multi-Stake-Holders):これらのマルチ目的を調整
し,マルチ資源を獲得するためには,出資者や雇用者,ボランティア,寄付
者はもとより,サービス利用者,政府・自治体,市民組織などコミュニティ
のさまざまなステイクホルダー(Multi-Stake-Holders)がさまざまな形態で
参加する必要がある。
「バザーリア合同労働者」社会協同組合(B 型)―例示:ラディカル・デモ
5
クラシーのイメージを得るためにー
「健康のためには病院を出て,町で暮らすこと」という精神病院解体運動
を受け継ぐ。現在,組合員は約 280 人,うち障害者は 110 人。仕事の内容は,
ビル掃除,配食サービス,荷物運搬,建築修繕,衣服クリーニング。年間総
事業高は,8 億 4 千万円。労働奨励訓練生は 30 人(一定期間後,就労可能となれば,
組合員になって働くことができる )
。賃金は「社会的協同組合従業員全国団体労働協
約」による同一労働,同一賃金が適用される。社会保険料免除,州・地方レ
ベルの優遇策や補助,直接契約に基づく公共事業請負を享受し,理事は組合
員による選挙で選ばれる(2003 年には,障害当事者理事 2 名)。
(3)南の「連帯経済」
新自由主義的グローバリゼーションの荒波による打撃は,ラテン・アメリ
カでは,欧州のそれを格段に上回り,人びとの,
「コモンズ」あるいは,社会
そのものの存立の危機にまで及んだ。かくて,新自由主義的グローバリゼー
ションに抵抗し,コミュニティに埋め込まれた経済を自発的に建設(Build)
せざるを得なくなった。新自由主義的グローバリゼーションがまさにグロー
バルである故に,
“抵抗と建設”は,グローバル化し,
「世界社会フォーラム」
(2001)へ。
(4)東-「市場経済への移行社会」
東欧諸国においても,共産党政権の圧政への抵抗の過程は,各種アソシエ
ーションが再生する過程であった。各種アソシエーションの再生の意義は測
り知れない。
(5)岐路に立つ日本の「社会的・連帯経済」:危機をチャンスにできるか
〔Ⅲ〕「連帯経済」の可能性についていくつかの論点の掘り下げ
(1)
「連帯経済」の社会理論上の特徴づけ―ハーバーマス理論の批判的読解
なぜ,ハーバーマスか。私が近代思想(ヘーゲル,マルクスをも貫く)から
脱却する過程で出会った巨人であり,その批判的読解こそ,連帯経済-市民
的公共性の理論的構想の軸芯をなすものだからである。
ハーバーマスの positive な点を纏めると,下の囲みのア~エの 4 点になる
(H)。それに対する私の批判的読解は(ゴシックK)。
すなわち,<リベラル・デモクラシー vs. ラディカル・デモクラシー>と
いう政治体制論
(民主主義理論)
の対抗軸を参照して言えば,ハーバーマスは,
独我論的形而上学を破り相互主観の立場に立ち,「理想的に開かれた」「熟議」
による「理性」の相対化を提起し,さらに,
「新しい社会運動」にも理解を示
6
すようになったということを強調すれば,ラディカル・デモクラシーに傾斜し
ていると見ることもできる。しかし,Bのラディカル・デモクラシーに対置
すると,Aのリベラル・デモクラシーの一変種としか理解できなくなる。
さらに,労働を,目的、手段という道具的な行為とみるフランクフルト学
派第一世代を受け継ぎ,言語論的転回で,相互主観的世界をつくったことが
問題になると思われる。労働,身体論を入れたコミュニケーション的行為の
次元で,言語論的展開をやり直せば,ハーバーマスは面白くなる。
理想的に開かれた議論といっても、開かれきれないものがある。だからそ
れはヘゲモニーを争う政治の場となるし、現実に立法・行政過程でそれが問
題になってくる。ハーバーマスはカントに近づくように思えてならない。
ア
独我論(大きな主体,主客二分論)克服→(H)相互主観論(言語論的転回)
/法制化 (K)労働(活動)/身体次元でのコミュニケーション的行為は?/
身体/生命/生態系
イ 「道具的理性」克服→(H)「討議理性」
(「理想的に開かれた」根拠に基づ
く議論:コンセンサス→真理)
「理想的に開かれた」討議?
(ウ)であ
っても,(*)Aへの傾斜を否めない。(K)・論点アの(K)・
「理想的に開かれ
た」討議を(*)Bの太字へ傾斜して理解する(但し,論点エ参照)
ウ 「新しい社会運動」へ意義→(H)無理解から一定の理解へ,しかし不十
分。
(K)理解,
「ポストモダン」を踏まえたヘゲモニー獲得((*)Bの太字)
エ
生活世界の現象学的理解からの脱却→(H)システムと「生活世界」の複
眼的視点:「生活世界の植民地化」論
(K)複眼的視点は評価。ただし,シス
テムと「生活世界」の二分法については批判:「あいだ」パラダイム
(*)リベラル・デモクラシー vs. ラディカル・デモクラシーの対抗図
A
リベラル・デモクラシー(カント,ロールズ):<普遍,西欧近代,啓蒙,白
人,男性,
(手続き的)正義>
B
vs.
ラディカル・デモクラシー(ムフ,ラクラウ,バトラー):ポスト「ポスト
モダン」のヘゲモニー,『政治的なるもの』
ラディカル・フェミニズム(ヤング):「もう一つの『政治的なるもの』」,「内
在的排除」の包摂,多文化共生
ラディカル・フェミニズム(ギリガン,キッティ):「ケアの倫理」,自立的個
人概念批判。「自由で,平等で,独立した」諸個人の合意にもとづく契約主義的な
社会像批判。
7
(2)
「連帯経済」の世界像――そのミクロ的次元からグローカル次元への展
開
ハーバーマス読解の成果を空間的に確認したい。これが「連帯経済」の
世界像となる。
親密圏⇔アソシエーション/コミュニティ⇔公共性(市民的公共性⇔国
家公共性⇔グローバル・レジーム)という社会空間は,多元/多重であり,<
公共性ベクトル:
(*)B→A>と<親密性・アソシエーション性ベクトル:
(*)
A→B>の,逆方向の二つのベクトルが交錯する(
(*)A,B は上の囲み参照)
。
すなわち,親密圏(家族)が外に向かってアソシエーションに開かれ,そこ
でのコンセンサスによって公共性が生まれる(その延長上に<A:自由/平等
/正義の倫理>がくる)
。しかし,それは,より外に開かれたアソシエーション
や公共性から見れば,なお特殊な親密性をもつコミュニティと見える。親密性
ベクトルは差異の包摂の度量を大きくする方向を持つ(その延長上に<B:
差異/empower/ケアの倫理>がくる)。AとBは以下のようにも表現され得る。
<A:市民的公共→国家的公共性・行政的公共・機会平等の手続き>と<B:フ
ェミニズム,介護/育児,サバルタン>
こうして,親密圏やシャドーに埋もれる「声なきもの」をケア・包摂/エ
ンパワーしつつ,グローバルレジームの市民的公共性に重層的に繋ぐ。それ
は蔭の中の蔭ともいえる,グローバルなサバルタンの家父長的な家族の中に
グローバルな公共性の光をあて,引き裂かれた世界をグローバル・コミュニ
ティとして再建する。
それを担う連帯経済のミクロからマクロへの展開を示せば次のようになろ
う。
① 生産者協同組合/ワーカーズ・コレクティブ(出資,労働,経営)→産消
混合協同組合(+消費者→Prosumer)
生産者協同組合/ワーカーズ・コレクティブの労働はシャドーワークに日
を当てる媒介として有効。
② 社会的企業(とくに社会的協同組合 B 型)
③ コミュニティにおける市民的公共性の創出→コミュニティの立法・行政へ
の参加,コミュニティの自立(律)経済の創出
④
うえの③を広域行政圏(サブ・ナショナル・リージョン)へ,そして,
ネーション・ステイトへ。さらに,スーパー・ナショナル・リージョンから
グローバル・コミュニティへ。
8
(3)社会変革論としての特徴――最もフィージブルで根源的な変革の可能
性をもつのでは?
(ⅰ)ひとびとの,well-being, well-doing (活き活きとした生)への
capability(潜在能力)の empower (増進)を企図する(声を出せない「サバ
ルタン」とともに)――社会的企業 B 型を想起されたい。
正義の倫理とケアの倫理の相乗,政治的なるものを忘れない,オープン・
エンドの社会的,経済的(活動的),政治的協同と連帯
(ⅱ)ポスト・
「ポストモダン」
「レーニンを繰り返す」
(ジジェック)ではなく,
(1)の基本的企図を(2)
の多元・重層性において追求する。ここの,あそこの,いたるところから生
起する「連帯経済」
。それらのあだの調整,相互承認によるネットワークの創
出。言葉だけでない・行為をも含むネットワークの創出。それによる暴走す
るシステムの社会の中への埋め込み(システムの廃棄ではなく,H の複眼視点
を評価。ただし二分法にせず,
「あいだ」を重視する)。
(ⅲ)いま,ここから,あそこから,いたるところで。
(常に―すでに),
(い
まだーない)。
ネグリ・ハート(2004)『マルチチュード』は,「左翼をいかに再生する
か」で,次のようにいうとき共感を覚える。
「政治的スローガンの形で『マルチチュードを形成せよ!』と提起するので
はなく,すでに進行している事態に名前を与え,現に存する社会的・政治的
傾向を理解するための方法として提起する。マルチチュードは二つの異なる
時間を生きるー[常にーすでに]と「いまだーない」という二重時間性を。こ
れは,まさに,「連帯経済」が担いつつあるのではないだろうか。
拙著『社会的企業が拓く市民的公共性の新次元』(時潮社,2006 年 11
参考
月刊)
社会主義理論学会第 50 回研究会
報告
2008 年 7 月 21 日文京区民センターにて社会主義理論学会第 50 回研究会が
開かれた。報告者の河合恒夫氏から当日の報告要旨を頂いているので、以下
に掲載する。
研究会「ベネスエラと 21 世紀の社会主義」
9
報告要旨
河合恒生
1. ベネスエラのチャベス政権
1998 年 12 月 6 日にチャベスがベネスエラの大統領に当選した。ただちに
ボリーバル 2000 計画を実施し、国民の圧倒的支持を背景に、憲法制定議会の
招集、新憲法の承認を経て、2000 年 7 月 30 日、総選挙を実施、チャベス派
が圧勝して 2000 年 8 月、第二期チャベス政権が発足し、新自由主義政策を放
棄する改革を積極的に展開しはじめた。それに反発した勢力は、2002 年 4 月
4 日の反チャベスのクーデターをはじめ、石油産業破壊の大規模サボタージ
ュ、チャベス大統領のリコール運動を展開したが、ことごとく失敗した。
チャベス大統領は、2005 年 1 月 30 日、ブラジルのポルトアレグレで開催
された世界社会フォーラムの会場で、ベネスエラは 21 世紀の社会主義をめざ
すと演説した。
2006 年 12 月 3 日に再選を果たしたチャベス大統領は、ベネスエラ社会主
義統一党 PSUV 結成を呼びかけた。2008 年 2 月 29 日、PSUV 創立大会(~3
月 2 日)が代表 1671 名を結集して開かれ、全国指導部を選出した。党員は 570
万人といわれる。こうしてベネスエラでは 21 世紀の社会主義へむけて運動が
展開されはじめた。21 世紀の社会主義を考える上で、社会主義を現在の段階
でどのように考えたらいいか、最初に考察してみたい。
2. 社会主義論
2-1 小松善雄によるマルクス社会主義論の整理
小松善雄はマルクスの社会主義論を詳細に考察し、興味のある結論を導き
出している。それによるとマルクスの社会主義論の根幹は次のようになる。
①個人的交換の否定。マルクスは、社会主義のカギは「個人的交換の否定」
にあると断言した。個人的交換を残存させている限り、価値法則に支配され、
等価値交換にならざるをえず、資本制的取得の法則が貫徹することになる。
②等量の労働時による交換③マルクスは「社会の全構成員が直接労働者であ
ると仮定すれば、等量の労働時の交換なるものは、物質的生産のために使用
されるべき労働時の数があらかじめ協定されているという条件のもとでのみ、
可能である。
」といっている。これは「もし労働の資本にたいする関係が除去
されるならば、生産諸力の総和の現存欲望の総和にたいする関係に基礎をお
く一つの協定の所為となる」とし、これは「個人的交換の廃棄宣言だ」とも
いっている。社会主義は、生産諸力の総和を把握できること、さらに人間達
の現存欲望の総和を把握できること、そして両者を考慮に入れた生産、分配、
10
消費の計画化により可能になる。逆に、このような計画化がないから、市場
は商品市場になる。④行動主体は、
「アソシエーション=協同組合、広くは協
同組合的共同体」に組織された労働者階級である
さらに協同組合・協同組合運動について、マルクスは 1851 年に三つの論説
を書いた。第 1 論説「協同組合原則の擁護者たち、および協同組合諸協会の
構成員たちへの手紙」第 2 論説「チャーチスト運動綱領についての書簡 第
Ⅲ書簡」第 3 論説「協同組合 それは何であり何をなすべきか」
この三つの論説で、マルクスは、
「協同組合社会主義」について、さらに明
確に青写真を描いている。小松の整理によると、マルクスは「アソシエーシ
ョン社会主義」について、運動の二つの移行過程を考えていた。⑤第一段階。
資本主義のもとで労働者生産協同組合・協同組合アソシエーションに向けて
『民衆の力と民衆の富の国民的集中』をはかる。協同組合運動は、
「個々の労
働者の時おりの努力という狭い範囲」を脱却する必要がある。しかし、これ
らの努力に対し、総資本家側にたつ国家権力による労働者生産協同組合・協
同組合アソシエーションの拡大再生産による国民的規模への発展に対する抑
止、妨害の動きが必ず生じる。そこで第二段階、民主主義政府の樹立が必要
になる。土地の国有化は不可欠。協同組合アソシエーションの国民的連合を
完成する。以上が小松によって整理されたマルクスの社会主義論である。
2-2 河合の社会主義論
以上を参考にして、村岡の社会主義論も考慮しながら、社会主義に不可欠
の条件を考えてみよう。まず①不動の民主共和制。②個人的利益の原理に代
わる統一と連帯、相互の協働の原理(アソシエーションの原理)の一般化。③社
会の構成員による広範囲な協定、つまり人間社会の計画的再建。これには宇
宙も含めた地球環境の科学的認識の上に立った人間の理性にもとづき、人類
としての真の統一と連帯、相互協働を土台にして、人間たちの欲望の制御を
必要とする。それには生産手段の社会的所有も同時に不可欠である。④自主
的、自立的人々による、利潤追求ではない、連帯と助け合いを原理とする協
同組合、地域共同体(コミューニティ)、非営利団体等々の組織の拡大と協同組
織の形成。世界的規模での連帯を形成しつつ、可能なところから、すべての
人間の尊厳ある生活の確立をめざし、安全な食糧の確保、飲める水の確保、
住居、衣服の確保、医療、教育の保障のために協働する。⑤搾取関係から離
脱することをめざして、公正な取引関係をこの連帯の中に形成できるところ
から形成していく。商品取引市場とは異なる一種の「局地的連帯圏」、さらに
11
局地的連帯圏の連合による地域的連帯圏の形成。そのためには、協働と連帯
にもとづく公正取引はどのようにして可能なのかという問題を協働する人々
の間で解明する議論を活発化し、利潤追求を原則とする社会とは異なる原則
の実践、宣伝、教育が不可欠になるであろう。利潤が生じた場合のその利用
の仕方も、私的企業とはことなる、公開と民主的討議により、決定する。こ
れには地域通貨の運動や公正貿易の運動、その他の運動を参考にし、発展さ
せる。すでに 19 世紀にニュー・ラナークでロバート・オウエンが実践した協
働地域社会の建設は、いまではさらに有利な条件のもとで広範囲に組織する
ことが可能になっていることは間違いない。モンドラゴンの協同組合やその
他の協同組合の実践も参考にすべきであろう。
2-3 ⑤との関連で、度量基準としの労働時間の問題
ここではポール・コクショットとオーリン・コトレルの主張している新しい
社会主義論を紹介する。社会主義の実現に労働時間を基準にした度量基準の
設定が不可欠である。等価交換を実現し、搾取をなくすために、労働時間に
より、労働と生産物の評価をし、労働時間を基準にしてすべての交換を組織
化する。社会の構成員による民主的協定として、マクロ経済的、戦略的、個
別的生産計画の三段階の計画化が不可欠であり、その計画化も労働時間を基
準にして建てられる。それには真の意味の情報公開が必要になる。このよう
な計画経済の中に消費物資について独特の市場が残る。しかしそれは商品取
引市場とは異なり、消費物資の生産量と消費量を均衡させることを目的とし
ている。この労働時間による計画化は、労働者の個人的能力の差や熟練度の
差なども合理的に解決できる。これらの計画経済にはコンピューターによる
情報処理が不可欠である。
2-4 ベネスエラの社会主義
以上の新しい社会主義論を念頭に置きながら、ベネスエラで現在進行して
いる運動を評価してみよう。まず、ベネスエラでは、民主共和制は 60 年代か
ら維持されている。チャベスは大統領選に、圧倒的多数で当選して以降、選
挙によって多数を獲得しながら旧国家機構の解体を進めている。2006 年の大
統領選挙では、21 世紀の社会主義建設を掲げて当選した。社会運動の理念と
して、チャベス政権は、連帯と協働のアソシエーション社会の建設を掲げ、
そのためにさまざまな政策がとられている。全国経済社会発展計画
2007-2013 が建てられ、内発的発展の核計画が進行している。協同組合運動
が積極的に推進されている。社会主義を掲げた企業の創出が進められている。
12
ミシオン・チェ・ゲバラへの受け入れ登録が 2007 年 8 月 1 日から始められ
ている。これは倫理、イデオロギー、政治、生産技術などの面で、社会主義
的価値をつくりあげることをめざし、資本主義の社会経済システムを社会主
義的共同モデルに転換する運動である。さらに政府が指導して、商品取引と
は異なる物資の交換のために社会通貨による交換の試みも行われている。
チャベス大統領は、ベネスエラの社会主義はキューバや中国、ベトナムと
も異なるし、旧社会主義ソ連とも異なる新しい社会主義だと主張している。
先に概観した新しい社会主義論から考えてみて、ベネスエラで試みられてい
る社会主義への運動は、新しい動きとしてもっと注目してもいいのではない
か。しかし、最近の社会主義への否定的状況に影響されて、ベネスエラの新
しい動向に注目する人が少ない。
日中社会主義フォーラムの報告
2008 年 9 月 27 日に文京区民センターにて社会主義理論学会が協賛して日
中社会主義フォーラムが行われた。以下に当日のプログラムを掲載する。
日中社会主義フォーラム
(中国語表題:日中社会主義論壇 2008.9.27東京)
・期日
2008年9月27日(土)午前10時~午後5時
・場所
東京都文京区・文京区民センター3C会議室
・テーマ マルクスと東方社会(馬克思与東方社会)
・主催
日中社会主義フォーラム実行委員会
・協賛
社会主義理論学会
・資料代 1000円(報告要旨ほか)
通訳付き
■プログラム
*報告要旨(日本語訳、中文原文)は学会HPに掲載しています。
*当日の実際の進行は必ずしもこの通りではありません。
午前の部
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司会
紅林進(ジャーナリスト)
開会あいさつ 10:00-10:10
瀬戸宏(摂南大学)
第一報告
10:10-10:40
兪良早(南京師範大学)マルクス主義東方学構築について
(関于構建馬克思主義東方学)
第二報告
10:40-11:10
宋倹(武漢大学)マルクス主義中国化の思想背景
(馬克思主義中国化的思想背景)
第三報告
11:10-11:40
葉啓績(中山大学)マルクスの“中国の社会主義”思考について
(関于馬克思的“中国的社会主義”思考)
コメント
11:40-11:50
岡本磐男(東洋大学名誉教授)
討論
昼食休憩
11:50-12:10
12:10-13:10
午後の部
司会
山根献(『葦牙』編集者)
第四報告
13:10-13:40
李輝(中山大学)マルクス人間学思想の東方社会への影響
(馬克思人学思想対東方社会的影響)
第五報告
13:40-14:10
鍾明華(中山大学)中国特色社会主義の価値定位
(中国特色社会主義的価値定位)
第六報告
14:10-14:40
王永貴(南京師範大学)
グローバル化の視角からの中国特色社会主義の道と理論体系の読解
(从全球化視角読解中国特色社会主義道路和理論体系)
第七報告
14:40-15:10
佘双好(武漢大学) マルクス主義と中国人の人生発展
(馬克思主義与中国人的人生発展)
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15:10-15:20
休憩
15:20-15:30
コメント
田上孝一(立正大学)
15:30-16:00
討論
総括討論提起 16:00-16:10
村岡到(『もうひとつの世界へ』編集長)
16:10-16:50
総括討論
16:50-17:00 兪良早
閉会あいさつ
17:30-19:30
歓迎宴会
*会費5000円(中国側報告者招待分を含む)
通訳
王戈(お茶の水女子大学大学院生)
郭一娜(埼玉大学大学院生)
■参加者紹介
●中国側(報告順)
兪良早
YU Liangzao ゆ・りょうそう
生年月日
職業
1951 年 7 月 20 日
57 歳
南京師範大学全球化与東方社会主義研究所所長、教授
連絡先
中国南京市寧海路122号
南京師範大学全球化与東方社会主
義研究所
宋倹 SONG Jian
生年月日
職業
そう・けん
1963 年 1 月 10 日
45 歳
武漢大学政治与公共管理学院副院長,教授
連絡先
中国武漢市珞珈山,武漢大学政治与公共管理学院
葉啓績 YE Qiji
生年月日
職業
よう・けいせき
1949 年 8 月 27 日 59 歳
中山大学教育学院副院長,教授
連絡先
李輝
中国広州市新港西路 135 号中山大学教育学院
LI Hui
生年月日
職業
り・き
1966 年 10 月 7 日 43 歳
中山大学教育学院教授
連絡先
中国広州市新港西路 135 号中山大学教育学院
鍾明華
ZHONG Minghua
しょう・めいか
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生年月日
職業
1956 年 9 月 18 日 52 歳
中山大学教育学院院長,教授
連絡先
中国広州市新港西路 135 号中山大学教育学院
王永貴
WANG Yonggui
生年月日
職業
おう・えいき
1964 年 12 月 12 日
43 歳
南京師範大学全球化与東方社会主義研究所教授
連絡先
中国南京市寧海路122号
南京師範大学全球化与東方社会主
義研究所
佘双好
SHE Shuanghao
生年月日
職業
しゃ・そうこう
1964 年 11 月 11 日
43 歳
武漢大学政治与公共管理学院院長,教授
連絡先 中国武漢市珞珈山,武漢大学政治与公共管理学院
●日本側(発言順)
紅林進
KUREBAYASHI Susumu
ジャーナリスト、社会主義理論学会会員
瀬戸宏
SETO
Hiroshi
摂南大学外国語学部教授、中国現代文学演劇専攻、社会主義理論学会委員
岡本磐男
OKAMOTO Iwao
東洋大学名誉教授、経済学専攻、社会主義理論学会共同代表
山根献
YAMANE
Ken
文芸誌『葦牙』編集者、日本文藝家協会会員、社会主義理論学会委員
田上孝一
TAGAMI
Kouichi
立正大学講師、哲学専攻、社会主義理論学会事務局長
村岡到
MURAOKA
Itaru
『もうひとつの世界へ』編集長、社会主義理論学会委員
●通訳(筆画順)
王戈
郭一娜
WANG Ge
GUO Yina
おう・か
かく・いな
お茶の水女子大学大学院生
埼玉大学大学院生
書評『スターリンと日本』
瀬戸宏
会報編集部から『スターリンと日本』書評執筆の依頼を受けた。私はソ連研究の専門家
ではなく、適任か不安を感じる。しかし、専門家ではない者が本書にどのような読後感を
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持ったか記すことも、まったく無意味ではないかもしれない。そう考え、執筆依頼を受諾
することにした。
本書は、ロイ・メドヴェージェフ(敬称略)が二〇〇五年に執筆した「スターリンと日
本」全訳とそれに佐々木洋氏がつけた評注を第一部とし、メドヴェージェフと佐々木氏が
第一部の内容をめぐって二〇〇六年におこなった対談およびそれへの佐々木氏の補注を第
二部としている。メドヴェージェフについては、会報読者には改めて紹介する必要はある
まい。序文によれば、メドヴェージェフは二〇〇三年に読売新聞から「スターリンと日本」
で原稿依頼を受け執筆したが、なぜか掲載されなかった。しかしこのテーマに興味を感じ
たメドヴェージェフは資料を集め、第一部の原稿を書き上げた。ロシアではロ日関係史に
関心が集まり、○二年から○五年の三年間に限っても五〇冊以上の関連書籍が出版された
という。
ロシア革命以前、スターリンの日本に関する言及は皆無という。スターリンが日本につ
いて語り出すのは、ソ連の国家指導者になってからである。それも、彼自身が日本に関心
を持ったというよりも、国家指導者として国際情勢に対応するためという側面が強い。メ
ドヴェージェフ自身「彼(スターリン)は日本のことをあまり知ら」ないと第二部で述べ
ている。メドヴェージェフはまた、第一部は「スターリンがどのように考え、どのように
決定を下していたかの事実だけを挙げています」とも述べている。従って第一部の主要内
容は、実際には二〇世紀二十年代から彼の死までのソ連・ロシア側からみた日ソ関係史の
概説となっている。一九三七年から一九四五年までの八年間、すなわち第二次世界大戦時
期の記述が第一部の約三分の二を占める。
スターリンはソ連という国家の指導者であると当時に、
ソ連共産党の指導者でもあった。
日本の共産主義運動の重要文書、日本共産党の二七年テーゼ、三二年テーゼ、五一年綱領
(日本共産党は現在は五一年文書と呼ぶ)はスターリンが作成に直接関与したか極めて近
いところにいた。これに代表されるように、ソ連共産党ないしコミンテルンと日本共産党
は直接の強い影響関係にあった。しかし、メドヴェージェフ執筆の第一部「スターリンと
日本」には、この方面に関する記述はほぼ皆無である。第二部でその理由を問われたメド
ヴェージェフは、知識がない、資料がない、と答え、その理由として「旧ソ連や今のロシ
アでは誰も研究しなかった」ことを挙げている。
私には、第一部の記述が既成研究の整理なのか、メドヴェージェフによって掘り起こさ
れた新事実や新見解が含まれているのか、判断できない。しかし、第一部「スターリンと
日本」が、手際の良い概説になっていることは確かであろう。佐々木氏は「率直に言って、
かなりロシアの伝統的な見方に囚われているのではないか」と第二部で指摘しているが、
むしろそうであるからこそ、私のようなロシア・ソ連の知識の乏しい者にとって有益な書
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物になったといえる。スターリン時代の日ソ関係史に関するロシア知識人の平均的な考え
方を知ることができるからである。この時期のスターリンの決定は現在もなお日ロ間に未
解決の問題を残し、それを巡って日ロ間で大きな見解の対立がある。このような事象に一
定の判断を下すには、対立している側の主張も視野に入れる複眼的な視点が必要になる。
この視点を得るうえで意義があるのが、第二部である。著者との対談はとかく著者に迎
合したものになりがちだが、ここでのメドヴェージェフと佐々木氏との対談は率直な意見
交換がおこなわれている。佐々木氏は「討論は激論となり、時に礼を失した忌憚のない意
見とコメントを差し上げた」とあとがきで述べているが、それは文字化された対談からも
伺える。特に意見が対立しているのは、一九四五年のソ連対日開戦の正当性と第二次大戦
の結果生じた諸問題特にいわゆる北方領土問題である。その具体的内容は直接本書にあた
っていただきたいが、本書は第二部があることによって日本人にとって優れた価値のある
内容になったといってよい。
最後に、
本書で日本の左翼運動が扱われていないことについての感慨を記しておきたい。
日本の左翼運動は、ソ連から決定的ともいえる影響を受けてきた。しかし、メドヴェー
ジェフは「誰も研究しなかった」と述べる。メドヴェージェフが、禁止されていた、と述
べているのではないことに注意したい。ソ連にとって、日本左翼の“ソ連派”は自己の代
弁、代理をしてくれる政治的に便利な存在以上ではなく、知的関心を引くものではなかっ
たのである。私の知る限りでは、中国共産党と日本左翼との関係にも似たところがある。
日本で社会主義研究に関心を寄せる者にとって、これも直視しなければならない事実であ
ろう。
ロイ・メドヴェージェフ著、佐々木洋対談・訳注、海野幸男訳『スターリンと日本』現代
思潮新社
二〇〇七年十二月二十五日初版第一刷発行
二千四百円
ISBN978-4-329-00457-4
(せと・ひろし 摂南大学 中国現代文学演劇)
書評
戸坂
潤著
林淑美校訂『増補
世界の一環としての日本』(全2巻、平凡
社、2006)
木村
英亮
本書の初版は71年前の出版であるが、2年前2006年に増補版が出された。
著者 戸坂 潤は1900年生まれで、1932年に「唯物論研究会」を創立、38年に解散を命
じられた。1944年9月に下獄、敗戦直前の45年8月9日に獄死する。校訂者 林淑美(りんし
ゅくみ)は、1949年生まれ、『中野重治 連続する転向』(八木書店、1993)、『昭和イデオ
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ロギー』(平凡社、2005)などの著書がある。
戸坂は1937年12月に執筆禁止となったので、本書初版は最後の著作である。収録論文は1
935~37年のものであるが、本書はそれに1937年中に雑誌などに発表された18篇を校訂者が
選び増補したものである。
まず序で、日本は「世界的な角度から」「民衆の立場から」見なくてはならないが、こ
こに言う民衆とは、「支配者が考えるあの民衆のことではなくて、自主的に自分の生活を
防衛して行かうとする民主的な大衆のことだ」と書く。
本論は、3部に分類された初版30篇の論文と18篇の増補からなる。第1部 日本の社会現
象は、日本の官僚、警察、ファシズム、人民戦線、民衆論など、第2部は日本の文化現象と
して、文化の危機、自然科学者と生活意識、和辻博士の風土、ヒューマニズムと唯物論な
どが取り上げられる。ここまでが上巻掲載で、下巻には、第3部 日本の報道現象として、
ジャーナリズム、「自粛」、朝日新聞、ラジオなどが、増補では、「輿論」、平和論、「際
物」論、日本文化の特殊性などが論じられる。
驚くことであるが、これらの項目は、いまの日本を論ずるばあいにも重要なテーマであ
る。ということは、戦争を経た70年後の今日においても、日本の社会に古い現象が根強く
残っていることを示している。であるからこそ、増補出版がなされたのであろう。1937年
は日本が中国侵略とファッショ化に向かい始めた「危機」の年であり、2008年は日本ばか
りでなく世界が「破局」に面し、民衆が決断を迫られている年である。これが本書を取り
上げた理由である。
今日において大きく変化した条件もある。すなわち、戸坂が指摘している問題点が一方
であるが、他方ではたとえば、ラジオに代わったテレビ、携帯電話、パソコンなどの情報
手段が民衆の新しい武器として使える面もある。グローバリゼーションのなか環境や資源
の問題など70年前には想像できなかった問題の解決のため、規制や計画の必要性が生じて
いる。ここにおいても、民衆は困難とともに、新しい可能性をもちえていると言えよう。
温暖化、石油不足、金融危機などは、世界の緊急の問題となっており、その解決は、国
内の格差とともに南北の格差を縮めるなかでしかできない。それは国においても、個人に
対しても、とくに持てるものの立場の考え直しを迫っているように思われる。
ひとつ付け加えたいことがある。1930年代日本の政治は軍部に引きずられたが、今日は
アメリカ政府に左右されている。沖縄では米軍用機の訓練が住民の生活に優先している。
安保条約は、日本ばかりでなく世界に、アメリカにとってさえ非現実的となっている。ま
さに「百害あって一利なし」。
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中日社会主義フォーラム参加者募集
社会主義理論学会事務局
昨年9月の日中社会主義フォーラムを受け、本年9月に南京師範大学で中
日社会主義フォーラムが開かれることになり、社会主義理論学会に協力依頼
が届きました。下記の内容で参加者を公募いたします。
●日時 2009年9月(具体的日時は現段階では未定、開催期間は一、二日
の予定)
●場所 中国南京市・南京師範大学
●テーマ レーニンと東方社会
●募集人員
国際旅費自己負担、滞在費中国側負担 4~6名
●条件
原則として社会主義理論学会会員であること
テーマに沿った報告ができること(日本語で可)
●募集締切と宛先
09年2月6日
田上孝一社会主義理論学会事務局長までメールで。
事務局からのお知らせ
・ 会費を納入して下さい。同封の振込用紙をお使い下さい。年会費は3000
円です。
・ 宛名シールの会費納入年度は、2009年1月11日時点での情報を反映してお
ります。
・ 会員の著書を紹介します。書評掲載希望等ございましたら事務局にご一報
下さい。
社会主義理論学会委員会
議題:第51回研究会について
次回研究集会について
中日社会主義フォーラムについて
日時:2009年2月8日1時~2時 場所:明治大学アカデミーコモン
310C
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