情景の妥当性が記憶結合エラーに与える影響 The effect of scene

情景の妥当性が記憶結合エラーに与える影響
The effect of scene plausibility on the memory conjunction error
田中孝治†,森本卓也‡,加藤隆‡
Koji Tanaka, Takuya Morimoto, Takashi Kato
†
†
‡
関西大学大学院総合情報学研究科, 関西大学総合情報学部
Graduate School of Informatics, Kansai University, ‡Faculty of Informatics, Kansai University
tkato@res.kutc.kansai-u.ac.jp
Abstract
い写真を構成する風景と人物を別々に使用した組
Using pictures of person-background scenes this
study examined if scene plausibility might affect the
occurrence of memory conjunction errors. False
alarms were shown to significantly increase when
novel scenes were composed of parts of
previously-presented scenes than when they were
composed of never-presented parts. The results also
indicated that false alarms were more likely to be
made to novel scenes of high than low plausibility and
when scene plausibility was matched than mismatched
between study and test.
Keywords - False Memory, Memory Conjunction
Error, Plausibility
み合わせの妥当性が低い写真(例,浜辺-舞妓:
TL-a,京風景-水着の子供:TL-b)を用いた。こ
れら三つの新奇項目に対する学習時の提示刺激と
して,新奇項目を構成する風景と人物を別々に使
用した組み合わせの妥当性が高い写真(例,京風
景-外国人観光客:SH-1,京町家-舞妓:SH-2)
と低い写真(例,京風景-ピエロ:SL-1,パソコ
ン室-舞妓:SL-2)を用いた。これら 15 種類の
提示刺激を一つのグループとし,こうしたグルー
プを 8 種類作成した。
1.
はじめに
実験で用いた虚再認条件は,再認テストで提示
記憶結合エラーとは,過去に経験したそれぞれ
される写真の構成要素である人物と風景を学習時
別の出来事の構成要素が新たに結合した出来事に
に一度も提示されない条件(NS 条件)
,妥当性の
触れると,それ自身は新規の出来事であるにもか
高い別々の写真で提示される条件(SH 条件)
,妥
かわらず,過去に経験した出来事であると虚再認
当性の低い別々の写真で提示される条件
(SL 条件)
される現象のことである(Reinitz & Demb, 1994 ;
の三つの学習条件と,テスト時に,妥当性の高い
Reinitz, Lammers, & Cochran, 1992) 。例えば,学習
写真で提示される条件(TH 条件)と妥当性の低
時に“toothpaste”と“heartache”が提示された
い写真で提示される条件(TL 条件)の二つのテ
場合,それらが提示されない場合に比べて,テス
スト条件を組み合わせた 6 条件を用いた。
さらに,
ト時に新奇項目である“toothache”を学習時に提
学習時に提示されたものと同じ妥当性の高い写真
示されたと虚再認する割合が高くなる。本研究で
が再提示される条件(PH-TH 条件)と妥当性の
は,出来事の妥当性が記憶結合エラーに影響を与
低い写真が再提示される条件(PL-TL 条件)を正
えるかについて検証を加えた。実験では,人物と
再認条件として用いた。
風景からなる情景写真を提示刺激として使用し,
学習リストは,8 種類のグループから 3 種類の
人物と風景の組み合わせによって情景の妥当性を
新奇項目のいずれか一つに対する学習項目を各 2
操作した。
枚ずつ(SH-1,SH-2 または SL-1,SL-2)の計
2.
実験方法
実験参加者
大学生 64 名を実験参加者とした。
実験デザイン 再認テストにおける新奇項目と
16 枚から構成した。すべての新奇項目に対する学
習項目が均等に使用されるように,学習リストを
16 種類用意した。一つの学習リストでは,同じ風
して,風景と人物の組み合わせの妥当性が高い写
景や人物が 1 度しか提示されなかった。さらに,
真(例,京風景-舞妓:TH)と,その妥当性の高
これらの学習リストに対応した再認テストを 16
種類 作成した。再認 テストは,正 再認条件 の
に,偽りの既知感が高まることを示すものであり,
PH-TH 条件と PL-TL 条件が各 4 問,虚再認条件
記憶結合エラーの生成を示すものといえる。
の SH-TH 条件,SH-TL 条件,SL-TH 条件,SL-TL
NS 条件を除く虚再認条件の評定値について,2
条件が各 1 問,さらに正再認条件と虚再認条件の
(学習条件)×2(新奇項目の妥当性)の二元配
出題数を合わせるために,虚再認条件の NS-TH
置の分散分析を適用したところ,学習条件の主効
条件と NS-TL 条件を各 2 問加えた計 16 問で構成
果は有意ではなかった(F < 1)が,新奇項目の妥
した。一つの再認テストでは,同じ風景や人物が
当性の主効果(F (1, 63) = 13.23, p < .01)及び交
1 度しか提示されなかった。
互作用(F (1, 63) = 6.67, p < .05)が有意であっ
実験手続き 実験参加者は 16 種類の学習リス
た。交互作用が有意であったことから単純主効果
トからいずれか一つを無作為に与えられた。写真
の検定を行ったところ, SH 条件では,新奇項目
は 1 枚につき 4 秒間提示された。実験参加者は続
の妥当性の効果が有意(t (63) = 4.97, p < .01)で
いて提示される評価画面において,その写真に対
あり,TH 条件(2.55)の方が TL 条件(1.08)よ
して日常生活で見かける度合いを 7 段階で評価す
りも既知感が高かった。SL 条件においては, TH
るように求められた。評価課題終了 5 分後に実施
条件(2.02)と TL 条件(1.81)の差は有意では
されたテスト課題では,写真が 3 秒間提示され,
なかった(t < 1)
。一方,TL 条件では,学習条件
続いて提示される判断画面において,その写真が
の効果が有意(t (63) = 3.09, p < .01)であり,SL
先ほど見た写真と同じものであるかについて既知
条件(1.81)の方が SH 条件(1.08)よりも既知
感を 7 段階で判断するように求められた。
感が高かった。また,TH 条件では,学習条件の
3.
結果と考察
各学習条件における新奇項目の妥当性別の評定
値を Figure 1 に示す。
効果が有意ではなかった(t (63) = 1.36, p = .18)
ものの,SH 条件(2.55)の方が SL 条件(2.02)
よりも比較的高い評定値を示した。これらの結果
虚再認条件の評定値について,学習条件を実験
は,再認テスト時に提示される新奇項目の妥当性
参加者内要因とする一元配置の分散分析を適用し
の高さが偽りの既知感を高めることを示唆すると
たところ,学習条件の効果が有意(F (2, 126) =
共に,学習時に提示される写真の妥当性が文脈と
11.11, p < .01)であった。そこで,Tukey HSD
して働き,風景と人物の組み合わせの妥当性が学
検定を行ったところ,NS 条件(1.11)に比べ, SL
習時とテスト時で共に高いあるいは低い場合に,
条件(1.91)および SH 条件(1.81)の方が既知
偽りの既知感がより高められることを示唆するも
感が高いことが示された。この結果は,学習時に
のと考えられる。
新奇項目の構成要素が一度も提示されない場合に
謝辞
比べて,構成要素が別々の写真で提示された場合
本研究の一部は文部科学省私立大学戦略的研究基
盤支援事業「セキュアライフ創出のための安全知
循環ネットワークに関する研究」の助成を受けた。
参考文献
Reinitz, M. T., & Demb, J. (1994). Implicit and
explicit memory for compound words. Memory
and Cognition, 22(6), 687-694.
Reinitz, M. T., Lammers, W. J., & Cochran, B. P., (1992).
Memory-conjunction errors: Miscombination of stored
Figure 1. Mean rating as a function of
study and test conditions.
stimulus features can produce illusions of memory.
Memory & Cognition, 20 (1), 1-11.