9 -発表・展示- ソーラーカーチーム プロミネンス 助成事業名称: 鉄道より「エコ」な次世代パーソナルモビリティの実証 (平成 21 年度助成) ソーラーカーチームプロミネンス 宮村智也 ホームページ 宇都宮研究所 miyamura@team-prominence.org http://www.team-prominence.org/ 【プロフィール】 ソーラーカーチーム プロミネンスは、競技用ソーラーカー等の製作と、各種大会への参加 をとおし、サスティナブルモビリティの実践と研究開発結果の社会還元を目的として 1995 年より活動している有志の会です。これまで、 「うまい・はやい・やすい」をコンセプトに秋 田・鈴鹿両大会向けソーラーカー、浜松大会向けソーラーバイク、四国大会向け競技用電気 自動車等をゼロから製作して競技会に参加し、サスティナブルモビリティの実践と普及啓発 活動へのお手伝いをしてまいりました。 下表にプロミネンスの活動経過と主な戦績を示します。 年度 車両 主な戦績/活動内容 1995 ソーラーカーチーム プロミネンス発足。 ワールドソーラーカーラリー・イン・秋田へ初参戦。 1997 ワールドソーラーカーラリー・イン・秋田で クラス6位入賞。 ソーラーカーレース in 栃木クラス3位入賞。 1999 ワールドソーラーカーラリー・イン・秋田で クラス6位入賞。 ソーラーカーレース in 栃木クラス準優勝。 2003 ソーラーカーレース鈴鹿、エンジョイクラスで 14 位/42台 2006 原付ミニカー規格EVを製作し、ナンバー取得。 四国EVラリーでクラス優勝。 - 24 - 2007 ワールドソーラーカーラリー、クラス準優勝 2008 ソーラーバイクレース in 浜松、総合優勝。 2009 ソーラーバイクレース in 浜松、 2年連続総合優勝。 「鉄道よりエコなパーソナルモビリティ」、 電気学会平成22年産業応用部門大会で、 国内大手メーカー製EVとならんで実車展示。 2010 ■ 助成事業報告 Well to Wheel での温室効果ガス排出原単位(WTW-GHG 原単位)が国内旅客鉄道以下とな る道路運送車両を試作した。WTW-GHG 原単位を国内旅客鉄道と以下とするため,車両の構成 はエネルギ変換効率の高さから電気推進を採用し,走行時のエネルギ消費を抑制するために空気抵 抗の最小化と軽量化を図った。この結果,試作車両は市街地~郊外の一般道実用走行で直流端電力 消費率 17.8Wh/km,交流端電力消費率 29.9Wh/km を確認,これから算出される WTW-GHG 原単位は 16.6g-CO2/人キロと,国内旅客鉄道の GHG 原単位(19g-CO2/人キロ)を下回るこ とを確認した。 1.はじめに 現在の自動車社会が抱える喫緊の課題は,温 室効果ガス排出量の削減と,燃料となっている 石油に代わるエネルギへの対応である。2005 年のわが国運輸部門における温室効果ガス発 生源の約半数は自家用乗用車が占めており,旅 客部門に限ると実に8割以上が自家用乗用車 起源となっている。これは自家用乗用車のエネ ルギ効率が他の交通手段に比べ低く,普及台数 が大量なことおよび燃料がほぼ石油に限られ ているためである。以上認識より,現状最も温 室効果ガス排出量が少ないとされる鉄道を開 発目標として取り上げ,「WTW-GHG原単 位が鉄道以下」となりうる,個人がいつでも自 由に移動可能な次世代型モビリティ 「 Prominence Commuting Device 」 (PCD)を試作し,その環境性能を検証した。 2.開発方針 わが国では国内旅客鉄道のGHG原単位が 交通機関中最も低いとされており,その位置付 けは自家用乗用車の約 1/8 である。また,道 路運送車両として鉄道を凌ぐ低炭素化を実現 するには,既存の道路運送車両を電動化するだ - 25 - けでは達成が困難である(図 1)。 図1 乗用の道路運送車両 WTW-GHG原単位例 1) このため,道路運送車両として国内旅客鉄道 を上回る環境性能を実現するため,PCD の開 発に際しては電動化に加え走行抵抗を極小化 して走行時のエネルギ消費を最小化すること を開発方針とした。 ここで、車両が定常走行する際の所要エネル ギEは,車輪の転がり抵抗係数をμr,車両重 量を Wt,重力加速度を g,空気の密度をρ, 抗力係数を Cd,前面投影面積を A,車速をV としたとき次式で表される。 E=μr Wt g V +ρ/2 Cd A V 3 (1) (1)式右辺第1項は車輪が転がることによっ て必要となるエネルギ,第2項は空気抵抗に抗 うために必要となるエネルギである。したがっ て所要エネルギを低減するには ・ 車両重量の低減(軽量化) ・ 抗力係数を下げるための車体形状検討 ・ 前面投影面積の縮小 が有効である。このため、PCDの仕様検討に あたっては,空力性能の追求と軽量化を最重要 項目に掲げた。また,性能に影響する基幹部品 には市販品を用いることとし,第三者による試 作再現性が確保されることにも留意した。 3.PCDの構成 PCD の主要諸元を表 1 に, 外観を図2に示す。 表 1 主要諸元 項 目 車体寸法 車両重量 仕 様 L×W×H =2490×720×1100[mm] 124kg 備 考 Cd=0.12 GFRP製ゲルコート仕上げ Wt=15kg Cr-Mo鋼管製バックボーンフレーム Wt=19kg F:ワイヤ駆動機械式ディスク ブレーキ R:カンチ式Vブレーキ+KERS F:マクファーソンストラット サスペンション R:トレーリングアーム ステアリング アッカーマンジオメトリ・サイドスティック式 F:16×1.5 低μr品 タイヤサイズ R:20×1.75 原動機種類 永久磁石式同期電動機 ハブ内蔵・ダイレクトドライブ 定格出力 0.5kW 1時間定格 バッテリ種類 制御弁式鉛酸蓄電池 Wt=48kg バッテリ容量 1.6kWh 航続距離 90km以上 市街地~郊外実用 最高速度 75km/h WTW-GHG原単位 16.6g-CO2/km・人 市街地~郊外実用 ボディ シャシ 図2 車両外観 車体には豪州で開催されている人力車レー ス向けに市販される FRP 製フェアリングを, シャシには自転車の一種であるリカンベント トライクの市販品を採用し,軽量化と空気抵抗 の低減を図った。また,原動機にはカナダで市販 されている電動自転車用ハブモータを採用した。 4.車両の試作 基本的には市販部品の組み合わせであるが, 組み立てキットではないため,各部品のレイア ウトには工夫を要した。しかし,今回の試作に は新規に専用設計した部品は使用しておらず, 全てごく普通にある電動工具および手工具で 製作した。また,基幹部品以外の材料・部品も ホームセンター等で入手した。したがって,最 低限の道具と場所さえあれば誰でもPCDが 製作できるものといえる。 PCD製作メンバーはサラリーマンが殆ど であり,本格的な車両製作は週末にほぼ限られ ている。このような状況で,2010 年 1 月中 旬に車体が納入され車両製作が本格スタート, 5 月連休には番号標交付,8 月には電気学会産 業応用部門大会で実車展示できるまでに至った。 以上より今回採った方針を採用すれば,比較 的短期間で同種車両が製作できるといえる。 5.性能の確認 番号標の交付を受け,製作拠点である長野市 内において実用走行における消費電力量の計 測と,走行で消耗したバッテリを走行前と同じ 状態まで充電するのに要する電力量を計測し, 走行時のエネルギ消費率および WTW-GHG 原単位を求めた。試験条件を表2に示す。 表2 試験条件 項 目 コース 運転者 車載計測器 交流電力量計 - 26 - 内 容 長野研~長野市卸売団地間往復 長野研 Cycle Analyst CA-HC-LS ワットチェッカー2000MS1 備 考 距離:10.0km Wt=66kg Grin Technologies 製 ㈱計測技術研究所製 試験コースは,2005 年四国 EV ラリー出場 前に試走したコース(図3)とした。 図3 試験コース 2005 年実績では,図3で示すルートの試走 結果より推定した航続距離が実際の競技走行 (徳島県内一般道走行)における実航続距離と ±3%の精度で一致していたことから今回もエ ネルギ消費率試験コースとして選択した。 試験走行は,公道を一般車に混じって走行す る都合から他車の流れを乱さないごく普通の 走行を行った。試験結果を表3に示す。 表3 試験結果 項 目 平均速度 最高速度 エネルギ消費率(直流端) 〃 (交流端) WTW-GHG排出量 (環境省電力原単位ベース) 結 果 36.4km/h 74.9km/h 17.8Wh/km 29.9Wh/km 16.6g-CO2/人km 備考 実測値 実測値 電力原単位 555g-CO2/kWh 表3において,エネルギ消費率(直流端)は バッテリ端で計測した直流電力量実測値と走 行距離から求めた値,同交流端は試験走行によ り消耗したバッテリを試験前と同じ状態まで 充電したときの充電器入力端における交流電 力量実測値および走行距離より求めた値である。 直流端のエネルギ消費率は車両そのものの エネルギ消費率を示す値として見ることがで き,その位置づけは,体重 60kg のライダーが 自転車で時速 20km/h で巡航した際のカロ リー消費率(25kcal/km=29Wh/km)2)を下 回る。これは道路運送車両としては成人が漕ぐ 自転車より少ないエネルギで走行したことを 示しており、PCD が自転車を含めた道路運送 車両中で最高レベルのエネルギ効率を持つモ ビリティであることを示している。また,この 値から推定される一充電あたり航続距離は 90km である。 WTW-GHG 原単位は,交流端のエネルギ消 費率から算出でき,日本における電源構成から 環 境 省 が 指 定 す る 原 単 位 (555g-CO2/kWh)3) を 用 い れ ば PCD の WTW-GHG 原単位は 16.6g-CO2/人キロと なり,国内旅客鉄道の原単位(19g-CO2/人 キロ)4)を下回る。 ここで,試験走行時に PCD の直後を伴走し たトヨタプリウス(NHW20 型)の区間平均 燃費が 28.9km/L であったことから,10-15 モードや JC08 モードに対する本試験走行の 位置づけがおよそ把握できるものといえる。 以上より,当初目標として掲げた「鉄道より 低炭素な道路運送車両」が実現できたといえる。 なお,動力性能については筆者所有の 50cc 原付バイク同等の加速性が認められ,市街地走 行において特段の不満は感じられず,日常の移 動用途に必要充分な動力性能を持つといえる。 6.まとめ 本活動により下記事項を実証した。 (1) 基幹部品に市販品を使用することで,第 三者による再現性が高い電動車両が短 期間で製作可能である。 (2) 市販部品を吟味して採用すれば,エネル ギ効率は自転車以上,GHG 排出量は鉄 道以下となるパーソナルモビリティが アマチュアレベルでも実現可能である。 7.文献 1) 水素・燃料電池実証プロジェクト総合効 率検討特別委員会:JHFC総合効率検 討結果 2) 厚生労働省:健康づくりのための運動基 準 2006 3) 環境省:温室効果ガス排出量の算定方法 4) 国土交通省:運輸部門における二酸化炭 素排出量 - 27 -
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