505 解 説 J. Jpn. Soc. Colour Mater., 85〔12〕,505 – 512(2012) フルカラー電子ペーパー用機能性電子インクの精密合成 武 田 力 *・小 長 谷 龍 **・平 井 文 乃 ***・榎 本 航 之 ***・鳴 海 敦 ***・川 口 正 剛 ***,† * 山形スリーエム㈱グラフィックス製品製造部 山形県東根市大字若木 5500 番地(〒 999-3737) ** クラレノリタケデンタル㈱ 新潟県胎内市倉敷町 2-28(〒 959-2653) *** 山形大学大学院理工学研究科機能高分子工学専攻 山形県米沢市城南 4-3-16(〒 992-8510) †Corresponding Author, E-mail: skawagu@yz.yamagata-u.ac.jp (2012 年 11 月 26 日受付; 2012 年 12 月 3 日受理) 要 旨 「電子ペーパー」はデジタルまたはリライタブルペーパーとも呼ばれ,紙がもつ手軽さ,柔軟性,薄さ,高視認性,そしてメモリー 性などの機能を有する低消費電力の反射型ディスプレイである。さまざまな表示方式が開発されている中,高精細化という点で電気 泳動方式が優れている。事実,この方式のモノクロ表示の電子ペーパーは既販されており,米国はもとより日本においても広く普及さ れつつある。さらなる市場の拡大のためには電子ペーパーのフルカラー化は欠かせない急務の課題である。本稿では,その表示を担う 微粒子の高性能化に焦点を当て,ホワイト,イエロー,マゼンタ,シアン色を有する単分散かつ高性能なカラー電子インクの精密設 計・合成について筆者らの研究成果および今後の課題について解説する。 キーワード:カラー微粒子,フルカラー電子ペーパー,分散重合,帯電制御,重合性染料 な特徴をもつ反射型電子ペーパーの開発に多くの関心が向けら 1.はじめに れている。 昨今のエレクトロニクス分野の発展による,よりいっそうの これまでさまざまな表示方式の電子ペーパーが提案され,そ 情報化社会に向けて,情報を表示・閲覧するための多様なニー れぞれ独自に発展してきている 1-4)。現在開発されている電子ペ ズが潜在している。そのようなニーズに対応するために,従来 ーパーを方式別に分類したものを表-1 に示す。電気泳動方式, のディスプレイのように書き換えが可能で,薄型軽量,柔軟 液晶方式,エレクトロクロミック方式,MEMS 方式,エレクト 性,低消費電力および高コントラストなどの特徴をもちながら, ロウェッティング方式,サーマルリライタブル方式などがある。 電源を切っても表示が記憶(メモリー性)される「紙」のよう これらの方式にはそれぞれ利点と解決すべき技術的な課題が残 〔氏名〕 たけだ ちから 〔現職〕 山形スリーエム㈱グラフィックス製品製造 部製造技術グループ製造技術 〔経歴〕 2009 年山形大学工学部機能高分子工学科卒 業。2011 年同大学院理工学研究科機能高分 子工学専攻修士課程修了。2011 年山形スリ ーエム㈱入社,コマーシャルグラフィック ス製品である Scotchcal film や UV-ink の製造 技術を担当,専門は高分子微粒子合成。 〔氏名〕 えのもと かずし 〔現職〕 山形大学工学部機能高分子工学科 〔経歴〕 2009 年山形大学工学部機能高分子工学科入 学,現在に至る。専門は機能性ハイブリッ ド高分子材料の合成。 〔氏名〕 こはせ りゅう 〔現職〕 クラレノリタケデンタル㈱ 〔経歴〕 2006 年山形大学工学部機能高分子工学科卒 業。2008 年同大学院理工学研究科機能高分 子工学専攻修士課程修了。2008 年㈱クラレ 入社,2011 年クラレメディカル㈱異動,専 門は高分子合成。 〔氏名〕 なるみ あつし 〔現職〕 山形大学大学院理工学研究科 准教授 〔経歴〕 2002 年北海道大学大学院工学研究科分子化 学専攻博士課程修了,同年学振特別研究員 PD,2007 年山形大学大学院理工学研究科助 教,2010 年同准教授,現在に至る。2004 年 ∼ 2005 年米国ポリテクニック大学 Prof. R. A. Gross 研究室研究員,2008 年∼ 2009 独国 ハレ大学 Prof. W. H. Binder 研究室研究員。 専門は機能性高分子合成。 〔氏名〕 ひらい あやの 〔現職〕 山形大学大学院理工学研究科機能高分子工 学専攻 修士 〔経歴〕 2011 年山形大学工学部機能高分子工学科卒 業。2011 年同大学院理工学研究科機能高分 子工学専攻修士課程入学,現在に至る。専 門は高分子微粒子合成。 〔氏名〕 かわぐち せいごう 〔現職〕 山形大学大学院理工学研究科 教授 〔経歴〕 1988 年豊橋技術科学大学大学院工学研究科 材料システム工学専攻博士課程中退,同年 同大学教務職員,1991 年助手,2000 年山形 大学工学部助教授,2006 年同教授,2007 年 同大学院理工学研究科教授,現在に至る。 1993 年∼ 1994 年カナダ国トロント大学 Porf. M.A. Winnik 研究室研究員。専門は高分子合 成,高分子溶液物性,高分子微粒子合成。 − 23 −
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