IEA HP 実施協定(ヒートポンプセンター)ニューズレター 国内版 第 17 号(平成 20 年 7 月発行) NEW PUBLICATIONS 1.IEA HPC NEWSLETTER Volume 26 2008/1 号の発行 本号は、“空気熱源ヒートポンプ”(Air source heat pumps)特集として、下記の4件の特集記事が掲載されていま す。 (IEA HPC Newsletter を添付ファイルとして配布していま したが、容量オーバーによるトラブルの発生が多いため とりやめました。ご面倒ですが、IEAヒートポンプセンタ ーのホームページ http://www.heatpumpcentre.orgより 各自直接ダウンロードして頂きますようお願いいたしま す。) (特集記事) (1) 欧州空気熱源ヒートポンプ市場の動向(Roger Hitchin and Christine Pout, BRE/イギリス) (2) 空気-空気ヒートポンプの既存のシーズナルパフォーマンス指標(Philippe Riviere, L. Grignon-Masse, Center of Energy and Processes, Mines Paristech/フランス) (3) 省エネルギーエアコン―東芝“大清快 TM BDR“シリーズについて(Jun Ueshige, Nobuyuki Takeya, Madoka Odashima, Shoichiro Kitaichi, Tomoaki Toshi/日本) (4) 既 築 建 物 で の 改 造 の た め の 空 気 熱 源 ヒ ー ト ポ ン プ ( Peter Wagener, Director, BDH, Harderwijk, Onno Kleefkens, Senior Advisor, SenterNovem, Utrecht/オランダ) 1 2. Annual Report 2007 の発行 昨年度のヒートポンプ実施協定Annual Report 2007 が発行さ れました。ご関心のある方は事務局までご連絡下さい。若干の 部数があります(http://www.heatpumpcentre.orgからもダウ ンロードできます)。 ON GOING ANNEXES 1.ANNEX 29「土壌(地中)熱源ヒートポンプ-市場と技術の障壁の克服」(Ground Source Heat Pumps / Overcoming Market and Technical Barriers) (OA:オーストリア、分科会主査:北 海道大学、長野教授) 2004 年 9 月にスタート、地中熱源ヒートポンプシステムの普及阻害の要因となっている市場 の障壁や技術的な問題点について討議し、それらを克服するための解決策について検討してい ます。当財団の「地下熱利用とヒートポンプシステム研究会」の中に「IEA ANNEX 29 分科会」 を設置して活動しています。現在、ファイナルレポートを作成中です。 第1回専門家会議は 2004 年 9 月 13 日~15 日、ウィーン(オーストリア)にて開催されました。 また、2005 年 5 月 30 日にはラスベガス(米国)にて Annex29 ワークショップが開催されまし た(第 8 回 IEA ヒートポンプ国際会議と併催)。さらに、第2回専門家会議及びワークショップ は 2006 年 5 月リンツ(オーストリア)にて、第3回専門家会議及びワークショップは 2007 年 1 月札幌・登別(日本)にて、それぞれ開催されました。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒート ポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。ワー クショップの出席報告については、本号のスペシャルレポートとして掲載されている。 2. ANNEX 30「建築物へのヒートポンプのレトロフィット」(Retrofit Heat Pumps for Buildings)(OA:ドイツ、日本は参加していません) 2006 年 4 月にスタート、欧州の市場で注目されている既築住宅へのヒートポンプのレトロフ ィットを中心テーマとしたものです。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に 併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 3. ANNEX 31「スーパーマーケットシステムにおけるエネルギー消費のモデリングと解析ツール」 (Advanced Modeling and Tools for Analysis of Energy Use in Supermarket Systems) (OA:スウェーデン、日本は参加していません) 2 2006 年 1 月にスタート、スーパーマーケットにおける冷凍・空調システムについて、シス テム全体のエネルギー性能を明らかにする解析ツールを開発し、最適運転のための制御方法や エネルギー効率を表す指標について検討するものです。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒート ポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 4. ANNEX 32「ローエネルギー住宅の経済的な冷暖房システム」(Economical Heating and Cooling Systems for Low Energy Houses)(OA:スイス、分科会主査:北海道大学、長野教授) 2006 年 1 月にスタート、ローエネルギー住宅に適した、冷・暖房、給湯、換気、除湿などが 可能な多機能・複合ヒートポンプシステムに関する調査やエネルギー消費・コストなどのシス テム評価を通して、最適なシステム構成に関する検討や設計手法(ガイドライン)の確立を行 うものです。 第1回専門家会議(キックオフミーティング)は 2006 年の 4 月にムーテンツ(スイス)で、 第 2 回専門家会議は 2006 年 11 月にアルクマール(オランダ)で、第 3 回専門家会議は 2007 年 5 月にアーリントン(米国)で、第 4 回専門家会議及びワークショップは 2007 年 12 月 5-7 日、 京都(日本)にて開催されました。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に併 せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。国内体制として IEA Annex 32 分科会を設置して活動しています。 5. ANNEX 33「ヒートポンプ用コンパクト熱交換器」( Compact Heat Exchangers in Heat Pumping Equipment)(正 OA:イギリス、副 OA:スウェーデン、分科会主査:九州大学、小山教授) ヒートポンプで使用される各種の熱交換器(蒸発器、凝縮器など)について、マイクロチャ ネル熱交換器などの高性能化・コンパクト化の可能性について検討しています。 2006 年 7 月にロンドン(イギリス)で立ち上げのための準備会合が開催され、イギリスの Brunel 大学が OA(幹事国)、スウエーデンの王立工科大学が副 OA に決まりました。活動期間 は 3 年間とし、2006 年 11 月にスタートしました。第 1 回の専門家会議・ワークショップは 2007 年 5 月にストックホルム(スウエーデン)にて開催されました。2008 年 5 月 21 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 国内体制として IEA Annex 33 分科会を設置して活動しています。 6. ANNEX 34「冷暖房ための熱駆動ヒートポンプ」(Thermally Driven Heat Pumps for Heating and Cooling)(OA:ドイツ、日本は参加していません) 2007 年 10 月にスタート、IEA ヒートポンプ実施協定 Annex 24(吸収・吸着ヒートポンプ の将来展開)の後続研究であり、IEA 太陽エネルギー冷暖房実施協定の Annex 38(太陽熱 空調と冷凍)との共同研究である。このアネックスは熱駆動ヒートポンプシステムの経済 性、環境性およびエネルギー性能の定量の検討を加え、最も大きい環境効果、最も有利な 経済性および最大の市場潜在力を明らかにするものです。 2008 年 5 月 20 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にて ワークショップ(キックオフミーティング)が開催されました。 3 NEW ANNEXES 1.提案・検討中のアネックステーマ 現在下記の5件のテーマ(アイデア)が各国から提案され、検討されています。参加したい テーマなどのご意見をお待ちしています。詳細については事務局までお問い合わせ下さい。そ の他、新しいテーマのご提案などにつきましても、事務局までご連絡下さい。 (1) Common calculation method for SPF, annual energy savings and “carbon foot prints”(SPF と年間省エネルギー、“カーボン・フットプリント”の計算方法の確立) (2) Real-time performance database “heat pump systems”(「ヒートポンプシステム」にお けるリアルタイム性能のデータベース) (3) Hot water domestic heat pumps (住宅用給湯ヒートポンプ) (4) Heat pumping technologies and the industrial sector(ヒートポンプ技術と産業分野) (5) Future potential and needs for heat pump systems(ヒートポンプシステムの将来ポテン シャルとニーズ) IEA HPC NEWSLETTER 1. 原稿募集 2008 年中に発刊予定の IEA HPC ニューズレター記事(Article)およびニュース(News)への寄 稿を募集しています(随時)。下記のトピックス(特集)記事以外の記事(Article)も歓迎いた します。投稿に関するお問い合わせは事務局までお願いします。 (1) March/2008: Air source heat pumps (空気熱源ヒートポンプ)(済) (2) June/2008: Heat pumps for low energy buildings (ローエネルギー建物におけるヒー トポンプ) (済) (3) September/2008: 9th IEA heat pump conference (第9回IEAヒートポンプ国際会議特集) (4) December/2008: Natural working fluids(自然作動媒体)(募集中) 4 SPECIAL REPORT:第 9 回 IEA ヒートポンプ会議 参加報告 金田一清香(東京大学大学院工学系研究科) 2008 年 5 月 20 日から 22 日の 3 日間、スイス チューリッヒにおいて第 9 回 IEA ヒートポンプ会 議が開催された。トータルで 36 カ国 447 人の参加があり盛況であった(参考:アメリカ ラスベ ガスで行われた前回会議では 20 カ国 222 名)1)。 開会および閉会時の Session1(オープニングセッション)と Session10(クロージングセッショ ン)は 1 部屋で、その他は 2 部屋に分かれ、2 セッションずつ行われた。全発表件数は 221 件で、 口頭発表は 71 件、残りはポスターによるディスカッション形式となった。 以下に主な講演の概要を示す。 Session 1:オープニングセッション(全体) はじめに、スイス連邦エネルギー省の Steinmann 長官より、スイスの環境政策について最新情 報が提供された。スイスでは本年から化石燃料に対して CO2 税の課税が始まり、他方で積極的な 再生可能エネルギー利用への転換が図られている。現在、全エネルギー消費に占める再生可能エ ネルギーの割合は 16%であるが、本年 2 月の議会で 2020 年までにこれを 24%まで引き上げる目標 案を決定した。スイスは空気熱や地中熱、河川水熱などを熱源とするヒートポンプシステムを再 生可能エネルギーの利用と位置付けており、欧州の中でもヒートポンプの普及には特に熱心な国 のひとつである。日本と同様にエネルギー資源に恵まれているとはいえないスイスにおいて、着 実に化石燃料からの脱却、再生可能エネルギーへの転換が進められている様子は興味深いもので あった。 元々、スイスの冷凍・ヒートポンプ技術の歴史は古く、同じセッションの Zogg 氏の発表で詳 しく述べられていた。特に、チューリッヒの市議会などを行うシティーホールには、現在稼働中 のものでは世界で最も古いヒートポンプが設置されていることは有名である。これは、「ロタス コ」と呼ばれるエッシャーワイス社製のロータリー圧縮機を搭載した河川水熱源ヒートポンプで、 1938 年に設置された。ちょうど会議期間中のテクニカルツアーにおいてこの施設を見学すること ができたが、担当者の話によると、実際には 2001 年に新しい熱源に切り替わっており、現在は 週に 1 時間のみ運転しているとのこと。メンテナンスや修理に要するコストや手間は膨大である ものの、行政からの要請により保存に努めているとのことであった。 その他、このセッションでは、IEA、ヒートポンプ・蓄熱センターはもとより、ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating, and Air-Conditioning Engineers: 米国暖房冷凍空調学 会)、IIR(International Institute of Refrigeration: 国際冷凍協会)、EHPA(European Heat Pump Association: 欧州ヒートポンプ協会)といったヒートポンプの研究や実務、または啓蒙を 行う機関の代表から各国(地域)の動向が報告された。近年の急速な変化という点ではやはり中 国を初めとするアジア地域が注目される。特に、「グリーンオリンピック」を唱える北京オリン ピックに向けて、中国政府では 7 億元(1 元=15.3 円として 107 億円)の補助金をつぎ込み、各 種ヒートポンプシステムの導入促進を支援している。 5 Session 2:持続可能社会に向けたヒートポンプ このセッションでは、各国または各地域や IEA におけるエネルギー政策と、その中で再生可能 エネルギー利用として期待されるヒートポンプの普及促進策について講演された。特にキーワー ドとしてあげられるのがエネルギー効率(Energy Efficiency、EE)である。EE の改善には、日 本でいうトップランナー制度のようなスタンダード化や省エネ性能のラベリングなどを通して の、国家レベルでの強力なインセンティブが必須であることを実感した。世界的にも建築分野に おける EE の向上はまだまだ大きなポテンシャルを持っており、その中でヒートポンプの果たす 役割に注目されていることがわかった。 今回の会議で日本の参加者にとって印象的だったことのひとつに、欧米での地中熱ヒートポン プ(GSHP)の普及があったかもしれない。このセッションでは、2.7 と 2.9 の2つが GSHP に関連 したものであり、それぞれ EHPA とカナダ地熱連合からの参加者により講演された。日本におい ても将来市場規模が拡大すれば、このような何らかの組織により、設計者や実務者へのトレーニ ングを行うとともに、資格や認定制度を整備する必要が生じるであろう。いずれにせよ、両講演 は今後の日本の取り組みにおいて参考になる点が多くあったのではと思う。 Session 3:最新技術-1 ここでは、ヒートポンプの機器効率の向上に着目した最新の技術動向が発表された。講演 3.2 では、CO2 サイクルに二相エジェクタを設け膨張動力を回収することにより、約 24%の COP 向上 が示された。ヒートポンプには未だ飛躍的な効率向上の余地が残されているのか?可能性を拝見 した講演であった。講演 3.5 は、相変化材料(PCM)への蓄熱を利用して空冷ヒートポンプのデ フロスト時の運転性能を改善しようとするものであった。実用上、運用には工夫が必要になりそ うだが、水など顕熱により蓄熱する場合と比べて容量低減の可能性もあり、特に寒冷地用の空冷 ヒートポンプには期待できる技術と思う。続いて講演 3.6 は、標準的なプレート型熱交換器の表 面にナノ-マイクロ径の多孔構造を持たせ、蒸発器の性能向上を図ったもので、ある条件では表 面熱移動係数が 100%上昇するとの結果が示された。いずれの講演からも、各種ヒートポンプのコ ンポーネントの細部に至るまで、技術開発が進んでいる様子が伺えた。 Session 4:地中熱源または水熱源ヒートポンプシステム 上述のとおり、欧米各国では日本に比べ、地中熱ヒートポンプ(GSHP)が広く浸透しているこ とが示されたセッションであった。講演4.1では、アメリカのオクラホマ州立大学に母体を置く IGSHPA (International Ground Source Heat Pump Association: 国際地中熱ヒートポンプ協会) の活動について紹介された。IGSHPAは特に充実したトレーニングプログラムを提供しており、中 国、韓国では既にIGSHPA-CHINA、IGSHPA-KOREAを設立し、設計や運用に役立てている点は驚きで あった。講演4.2では、ヨーロッパ各国におけるGSHPシステムのガイドラインや基準、認可など が詳細にまとめられており、参考になる情報が盛りだくさんであった。ヨーロッパ全体での統一 化が必要と述べていたものの、各国の活動は充実しており、世界を一歩リードしていることに変 わりない。講演4.4は、数値シミュレーションによるGSHPシステムと他システムとの性能や環境 性に関する比較であった。カナダの6都市を対象とし、標準的な住宅とオフィスについて結果は 6 表に一覧で示された。GSHPが空気熱源ヒートポンプと大きく異なるのは、地域や地盤特性により 熱源側の温度レベルが違うこと、さらにどのように運用し、どれだけ地盤から採熱(放熱)する かにより熱源温度の変化も違ってくることであろう。したがって、年間のシステム特性は何らか のシミュレーションを行わないと得られにくい。しかし、この講演にもあるように、例えばある 標準システムについて、どういった地域、またはどういった運用方法においてGSHPが有利なのか、 日本でも視覚的にわかる形で明らかにする必要があるように感じた。 Session 5:応用技術 比較的大規模なシステムに関する報告が多かった。講演 5.2 では、北欧におけるいくつかの実 施例を基に、ヒートポンプによる地域冷暖房(DHC)システムにおいて排熱回収の重要性が述べ られた。DHC に関しては講演 5.6 においても言及があった。これは、北京オリンピックの選手村 に採用された河川水利用のヒートポンプシステムに関する講演であり、システムシミュレーショ ンによる性能予測を行ったものであった。熱源水を 3 km 離れたところから搬送するため、途中 3 回のポンプ加圧を行うとのことで、システム性能に及ぼす影響が危惧された。と同時に、そのダ イナミックなシステム設計には驚くばかりである。 Session 6:マーケットと応用技術 日本のエコキュートに対する注目度の高さが現れたセッションであった。講演 6.1 では日本の 電気事業者の取り組みが述べられた。特にヒートポンプの普及には、国、研究者、メーカー、消 費者、電力各社の相互の協力や団結力が不可欠であるという一節は、エコキュートの普及を以て 説得力があるものであった。また、講演 6.5 ではエコキュートに関する最新情報が提供された。 2008 年 4 月からカタログの性能値が COP から APF に変更され、より実際の使用状況に応じた標記 となるよう改良されている。全てのヒートポンプ機器について言えることだが、普及が進むにつ れ、施工者やユーザーにより良い(高性能で省エネな)使用方法が認知されることがますます重 要となりそうだ。 その他、講演6.4ではドイツにおける住宅用ヒートポンプシステムの年間性能実測について紹 介された。国からの補助金を得ている他、ヒートポンプメーカー各社がスポンサーとなっている 点は興味深かった。全78件のうち56件でGSHPシステムが採用されていることや91%以上が床暖房 である点もドイツの現状を反映した形となっていた。日本の暖房、給湯の使用状況とは異なるた め必ずしも参考にはならないが、平均SPFはGSHPシステムで3.7程度となり、搬送系や補助ヒータ ーに要するエネルギーはさほど大きくなく比較的良好な結果であったと思われる。 Session 7:ローエネルギー住宅への適用 ローエネルギー住宅におけるヒートポンプシステムを表すキーワードとして“Integrated ヒ ートポンプ”がよく用いられる。確かな定義はないように思うが、暖(冷)房・給湯と必要であ れば除湿までをひとつのユニットで行うシステムを指している。 アメリカでは Net Zero Energy Home と呼ばれるローエネルギー住宅の普及を目指しており、 それに適合したヒートポンプシステムの開発が進められている。アメリカは夏季に高湿度になる ところが多く、比較的日本に類似しており参考になる点が多い。講演 7.5 では、空気または地中 7 熱を熱源とした Integrated ヒートポンプが検討された。シミュレーションの結果、特に地中熱 を熱源とする場合にはどの場所においても年間エネルギー消費を 50%削減できると予測された。 また、講演 7.1 では、デシカント材を用いた除湿の有用性が述べられたが、他方で凝縮器の排熱 で再生するのは難しいのではとの表現があった。これは日本では既に市販されている技術であり、 今回海外に紹介する機会があればよかったかと思った。 スイスでは MINERGIE と呼ばれるローエネルギー建物の認定制度を設けている 2)。これは暖冷房・ 給湯・換気に要した熱負荷(計算値)をエネルギー源別の換算係数で重み付けして基準化したも ので、例えば MINERGIE-P 基準では 30 kWh/m2/年以下とされている。講演 7.3 では、この MINERGIE-P 基準をクリアするスイスの集合住宅における実測結果が発表された。初年度の運転結果とのこと で性能は決して高くはなかったが、地中熱を利用したフリークーリングや夜間換気により躯体を 冷やすなど、夏季に少ない動力で冷房負荷除去を図る方法が示されており、これらは日本でも冷 涼で比較的湿度の低いエリアには有用な技術と思われる。 Session 8:最新技術-2 このセッションでは主に、非住宅向けヒートポンプシステム、特に自然冷媒を用いたシステム に関する講演が行われた。CO2 冷媒について比較的古くから研究を行ってきたノルウェーからは 2 題の発表があった(講演 8.1、8.7)。今回は CO2 とアンモニアに関するものであったが、近年 はプロパンについてもプロトタイプを制作し、実証試験も行っているようである。 またセッション 6 と同様に業務用に関しても、日本の CO2 ヒートポンプの技術に対する注目度が 高いのを感じた。講演 8.5 では、加熱能力 75kW のヒートポンプを公衆浴場に適用した場合の試 験結果について発表された。準寒冷地でも平均 COP は 2.73 となり(ただし、2 月~7 月の結果、 平均気温:約 10℃、入水温度:約 20℃、出湯温度:約 90℃)、ボイラー方式に対して優位性が現 れる結果となった。温浴施設ではコンスタントに大量の給湯負荷が生じることから CO2 ヒートポ ンプ適用のポテンシャルは大きいと思った。 Session 9:カントリーレポート このセッションでは、 (No.順に)スイス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、韓国、アメリ カ、カナダ、日本、中国の各国の状況が発表された。ここでは、近年の変化が著しいアジアの 2 国の動向をまとめたい。 韓国でヒートポンプが普及し始めたのは 1990 年代後半のことであった。現在のヒートポンプ 市場はルームエアコンとパッケージエアコンで約 86%を占めており、この他ビルマルチシステム やガスエンジンヒートポンプが増加傾向にあるという。また、特徴的なのは、2005 年 2 月から公 共建物、ホテル、オフィス等の 3000m2 以上の新築建物には少なくとも建設費用の総額に対し 5% を再生可能エネルギー設備に充てるよう義務づけられたことである。これにより、非住宅の中~ 大規模建物を中心に GSHP の採用が飛躍的に伸びており、2007 年までの累積容量は 13000RT 弱ま で成長している。韓国は今年 1 月に IEA HPP(ヒートポンププログラム)に正式加盟したことも あり、今後の情報更新が待たれる。 他方中国に関しては、今回の会議を通して数々の場面で充分にその勢いを示したといえる。ま ずは参加者数。講演数はそれほど多い気はしなかったが、人数は前回に比べて大幅に増加したの 8 ではないだろうか。また、中国政府や各地方政府も各種法令の整備を進め、特に建築分野におい てはヒートポンプシステムの採用が奨励されているとのことである。補助金制度も充実しており、 そのためかプロジェクトの規模も圧巻であった。ある GSHP システムではボアホールを 1000 本以 上用いる例も見られた。海水利用ヒートポンプのモデル都市に選ばれた北東部の大連では、トー タルで 5 百万 m2 以上のエリアに熱供給を行っているとのこと。また、瀋陽は GSHP のモデル都市 として、2007 年に新築されたほとんど全ての建物に GSHP を採用しており、トータル面積は 2 千 万 m2 に達するとのことである。いずれにせよ、オリンピックを経て中国のヒートポンプマーケッ トがどう変わりゆくのか、今後も注目したいと思う。 Session 10:クロージングセッション(全体) 今回から導入された“ベストポスター賞”が発表され、全ポスター150 件の中から 2 件の受賞 があった。大変光栄なことに、そのうちの 1 件にローエネルギー住宅のセッションで発表した著 者らのポスター(共著者:北海道大学 長野克則教授、堀 彰吾氏、(株)藤原環境科学研究所 葛 隆 生氏、(株)日伸テクノ 柴田和夫社長)を選んでいただいた。関係各位にはこの場をお借りし心 より感謝申し上げたい。 最後に IOC から本会議の総括が行われ、閉会となった。 参考文献 1) IEA HP2008 ホームページ:http://www.hpc2008.org/, 2008.6 2) MINERGIE ホームページ:http://www.minergie.ch/, 2008.6 9 オープニングセッション(1) オープニングセッション(2) 実行委員長 Dr.Aarlien と チューリッヒ シティホール外観 展示会場(1) 展示会場(2) 10 ポスター会場にて(1) ポスター会場にて(2) ポスター会場にて(3) ポスター会場にて(4) ディナー会場にて(1) ディナー会場にて(2) 11 OTHERS このニューズレターの効果的な活用のために、今後、改善を図っていきたいと考えていますの で、忌憚のないご意見、ご要望など下記事務局までお寄せ下さい。 (事務局連絡先)(財)ヒートポンプ・蓄熱センター 技術研究部 IEA ヒートポンプ実施協定(IEA HPP Net Japan)事務局 (TEL: 03-5643-2404/ FAX: 03-5641-4501/ e-mail: li@hptcj.or.jp) 12
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