3 vol.611 2011 since 1960 ■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部 大阪市中央区久太郎町 4-1-3 ■ TEL:06-6241-2027 ■ FAX:06-6241-2008 ■ URL:http://www.itochu-tex.net 毎月1回発行 本紙に関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。osaxp-ad@itochu.co.jp Vol.611 CONTENTS Special Feature / ─ ITOCHU Mission ─ Committed to the global good 豊 か さ を 担 う 責 任 “ 製・販 激変 ”中国の“ いま” 1-3面 Topics / マーケットリポート/ニュース・クリッピング 4面 World Report / アジアのアパレル生産事情 ③ 5面 Fashion Report / 二極化するハナコジュニア消費、アプローチのカギは高感度層と共感にあり 6面 中国繊維グループ幹部に聞く “製・販 激変”中国の“いま” S pecial Feature 出席者 飛躍的な経済成長を遂げ、2010年には世界第 2位の経済大国に躍進した中国。しかし、その産業構造はいま大きく変化しています。賃金の 上昇など諸コスト高で生産をめぐる状況が様変わりを遂げつつある一方、所得の向上によって、今後ますます成長する中国消費市場への期待が 高まってます。今月号は中国繊維グループ長(兼)ITOCHU Textile Prominent(Asia)Ltd. CEOの中西英雄、伊藤忠繊維貿易(中国) 有限公司董事長の林史郎の両氏に、中国の“いま”を語っていただきました。 中国繊維グループ長(兼)ITOCHU Textile Prominent(Asia)Ltd. CEO 中西 英雄 伊藤忠繊維貿易(中国)有限公司 董事長 林 史郎 生産事情 大転換期を迎えた中国 大月 中国はいま大きく変わってきています。 マーケットとして中国が注目されながらも、実際 どのように取り組めばいいのか迷っておられる 企業も数多いことと思います。また、中国の繊 維企業が今後どのような方向に向かうのか、 これも関心のあるところです。昨年に顕在化し た生産をめぐる問題がさらに深刻になっていく 気配もありますので、まず中国の生産問題に ついて、林さんから実情を紹介ください。 林 衣料品の生産拠点として中国は昨年、 大きな転換期を迎えました。2008年のリーマン・ ショックから2009年は世界的な、深刻な不況 局面を迎えましたが、2010年は前半スローな がらも後半は欧米を中心に経済が急回復しま した。その中で中国は、世界経済をけん引す る役割を果たしました。政府の財政出動もあっ て中国の内需は世界経済にとって欠かせない ものとなりました。この市場としての成長が今 後も注目の的になっていくと思います。 2010年の中国新車販売台数は、購入補 助政策などによる駆け込み需要もあり、前年 比32.4% 増の1806 万台超と大幅増を記録し、 2年連続世界一となりました。また、中国商 務部のまとめによると、2月の春節(旧正月) 期間中のセールが前年同期比 19%増の4045 億元(約 5 兆円)という驚異的な数字に膨 れ上がりました。これらが象徴的と言えます。 その一方で、昨年来、衣料品生産におい て混乱が生じ、より深刻さを増してきました。 エネルギー価格の高騰、CO₂削減を目的とし た政府の電力制限などによる工場稼働率の大 幅低下。さらに労働力不足、華南地区から全 中国に広がる賃金上昇に伴う全般的なコスト 高、そして綿花高に代表される原材料の高騰 で、労働集約型産業である繊維産業はまさに 四面楚歌といえる状況に追い込まれています。 輸出主導の衣料品生産は沿海地区から始 まり、それら地域での賃金の上昇、コスト高 を嫌って南から北へ、そして内陸部へと向 かった歴史があります。例えば上海市、江 蘇省、浙江省で生産していたメーカーは安 徽省や湖北省といった地域からさらに四川省 などの内陸部への移動を進めてきました。 ただ、これにも問題があります。現在、政 府主導による高速道路網の整備などで地方 の発展は目を見張るものがあります。地方で もウォルマートやカルフールといった大型商業 施設やマクドナルドなどの飲食チェーンが進出 し、第三次産業が急速に発展してきました。 そうしたサービス型の産業に労働力を奪われ つつある現実があります。 大手繊維メーカー幹部によれば、これら第 三次産業が従業員の大量募集をかけると、 転職する従業員が増えるようです。つまり地 方が発展すればするほど、内陸部への産地 移動がこれまでのように単純に進まなくなると いうことです。その意味でも繊維・衣料生産 にとって大転換期を迎えているのは間違いあ りません。 大月 そうした状況に対する欧米企業の 対応はどうなのでしょうか。 司会進行 伊藤忠商事 繊維カンパニー 中国戦略ディレクター 大月 秀夫 種・少量・短サイクル対応では、欧米勢ど ころか中国勢にも後れを取りかねません。優 良な縫製スペースはまさに取り合いといった 有り様で、この傾向はますます強まると思い ます。中国は、綿糸布輸出国から輸入国に 変わりましたが、今後は縫製品も輸入国に 転じる可能性さえあります。 大月 華南地区は中国縫製の拠点であっ た時期がありました。香港から見て、この中 国の衣料品生産をめぐる問題はどのように 映っていますか。 中西 今後、香港で繊維のビジネスがこ れまでの形では成立しなくなるのではないかと 危惧しています。わたしは1990 年代前半に 初めて香港に駐在し、その後 2005年に2回 目、2010 年から3回目の駐在となりましたが、 怖いのは繊維産業に携わる人々がその度に 減少していることです。 かつて香港の繊維人は華南地区に工場を 持ち、輸出ビジネスを手がけていました。華 南地区のコストが高くなると、華東、華北へ と最適生産地を求めて移動していきましたが、 今の彼らのモチベーションは「製造業よりサー ビス業」というものです。中国内販や東南ア ジアへ小売業で進出したほうが儲かる、とい うふうに投資マインドが大きく変化しています。 これは何も製造業に限ったことではなく、商社 などでも同様で、モノ作りが分かる人材の確 保が年々難しくなっています。 大月 “チャイナ・プラスワン” を求め、ベ トナムやバングラデシュ詣でが盛んです。 中西 アパレルや小売店関係の出張者も 増えていますね。ただ、両国とも素材背景な ど底が浅く、優良な工場はすでに生産スペー スが満杯です。生産拠点を設けるなら新規 に投資して一から作らざるを得ません。プラス ワンの候補ではありますが、絶対的なスペー ス不足の解消は難しいと思います。 従来型発注方式に限界 林 生産発注時期を早める傾向にありま す。素材手当て・製品発注ともに仕掛けが 早く、日本企業は後手に回っている印象があ りますね。 しかし、意外に日本では見落とされがちな のが、中国国内アパレルの急成長です。彼 らは量的にはもちろん、品質的にも先進国ア パレルを凌駕する勢いで急成長を遂げてい ます。生産スペースの確保にも戦略的に取 り組んでおり、すでに来シーズン物のダウンウ エアなどの発注が進んでいると聞いていま す。従来型の日本の発注方式、つまり多品 写真左から、中西 英雄、大月 秀夫、林 史郎 2 2011年3月号 “製・販 激変”中国の“いま” 中国繊維グループ長(兼)ITOCHU Textile Prominent(Asia)Ltd. CEO 中西 英雄 大月 中国の繊維業界の人もチャイナ・プ ラスワンと言い出していますが、昨年発効した 中国・アセアンFTAなどによる影響でしょうか。 林 関税メリットがあるから、という話はほ とんど聞きません。それよりも、昨年中国生産 で痛手を負ったから、安定感を得るためにア ジア生産を、という人が多いようです。 中西 やはり中国生産が不安でアジアを訪 問する人が多いですね。ただ、香港の人た ちはかつて華南プラスワンで上海周辺や山東 省に出かけていったわけですが、もう北に行 くのも南アジアに行くのもやめた、といった感 じです。それだけ生産に対する興味を失って いるように見えます。 大月 工場労働者の確保に苦労するより はまだサービス産業で頑張ったほうがいい、 ということでしょうね。 中西 中国のマーケットがそれだけ大きく なったということでしょう。 した。居住アパートの階下にある大きなショッ ピングモールでは、連日10時の開店前に多く の人が行列し、モール内は終日満員で歩け ない状況でした。その多くが大陸からやって きた人たちです。3年前なら香港で買い物を する中国人は一部の金持ちなど “特別な人” でした。ところが、買い物した大量の荷物を 道端で詰め替えている彼らを見ると、中国か ら来た “普通の人々 ” なんだと痛感しました。 香港に買い物か観光旅行かでやってきて、 たくさんの物を買って帰る中国の中産階級が 育ってきたのだと……。 人々の所得の向上とともに、中国が生産地 から消費地へ変貌していくのは間違いありま せん。しかし、衣料品の生産拠点として、そ の地位は大きく変わらないと思います。チャイ ナ・プラスワンを考慮し、 いくらかは東南アジア、 南西アジアへ注文が流れるでしょう。しかし、 先ほども申し上げたように東南アジアの生産 キャパシティーは小さく、中国の代替は不可 能です。とくに川上・川中の素材は装置産業 であるため、もっと難しい。 中国は賃金も上昇し、諸コスト高で生産に 関わる経費はどんどん膨らむのは確実です が、川上・川中の設備は簡単には移せない。 “安くて速い生産国” ではなくなる中国でどの ような生産体制を敷くか、それがいま問われ ています。 大月 欧米勢が生産スペース確保に走っ ているとのことですが、もう少し詳しくその動き を見るといかがですか。 “普通の人々 ” が香港で買い物 中西 春節の期間、香港で過ごしていま 欧州企業、東欧生産に傾斜 林 もともと彼らは中国でも生産し、バング ラデシュやベトナム、インドネシアでも拠点を設 けて一極集中しないようバランスを取っていま す。最近、欧州へ出張しましたが、中国で の生産スペースをめぐる競争激化から、欧州 企業の間で再び東欧生産ブームが起きてい るようです。 中国での縫製産業従事者の月給が1500元 とするとドル換算で約250ドル。それが東欧な ら250 ∼ 350ドルで、地理的な近さ、安定感 を考えると割安となるようです。中国における 生産コストが間違いなく上がっていくなかで、 彼らもその対策に頭を痛めています。 中西 中国内陸部へ移転するといっても 候補地は多くありますが、即戦力の生産地 としてインフラが整っている地区は多くありま せん。 林 しかも若い労働者のマインドの変化も 見逃せません。一昔前なら給料が増えるの で喜んで残業をしていましたが、それを嫌が る若者が増えてきました。「残業は嫌だ、早く 帰りたい」と平気で言う。これには工場も困っ ています。 大月 所得の向上とともに若年層のマイン ドも変化しているようですね。地方もマーケット として注目されるとのことですが、物を作る場 所と売る場所は近い方がいいわけですから、 やはり地方への生産拠点の移転が進むと考 えられますが。 モノ作りへの関心薄まる 林 もちろんそうした動きはあります。大手 繊維メーカーには「言葉や宗教に壁があるか らアジアの他の国への移転には消極的」とい う雰囲気もあります。ただ、「投資はモノ作り よりも川下型」 、さらには「脱繊維」といった 傾向の方が強いですね。繊維関連で投資す るなら生産設備よりもブランドやネットビジネスに 関心を示す人が多い。 大月 第二、第三のヤンガー、杉杉を目 指し、繊維ビジネスに挑戦する人はいません か(苦笑) 。 林 そうですね。第二のZARAを目指す 人は多いでしょうが(苦笑)、少なくとも生産 に関する関心度合いが低くなりました。当社 への相談も以前ならモノ作りに関する支援や 欧米市場での販売の手助けを求めるものが 多くありました。ところが最近は、お金はあり、 人も育ち、望まれるものが変わってきました。 中西 生産設備は持ちたくない、と考える 経営者が増えてきました。その分、商社とし てまだまだ組める余地があるということです。 ブランドや販売システムに商品調達力を絡め た総合的な力が必要になっています。 中国内販 欧米勢交え大激戦 大月 市場として大きい中国内販に取り組 む日本企業が多くなってきました。現状をどの ようにご覧ですか。 林 少し厳しい表現になりますが、日本の 多くのアパレル企業は苦戦されているのでは、 と思います。20年前の中国市場であれば極 論すればアルファベットを単に並べただけの欧 米ブランドでも売れたかもしれません。しかし、 今は世界の名だたるブランドすべてが中国で しのぎを削っているわけで、生半可な取り組 みでは弾き飛ばされるというのが現実でしょう。 中国でブランドやアパレルの紹介に行けば、 相手側から「パリコレには出ていないの?」 「銀 座にショップは?」などと聞かれる。日本で成 功したから中国でも成功するという幻想をもっ てやると大失敗に終わりかねない。日本のや り方そのままでは通用しません。 中国 国内消費推移 億元 60000 その他 自動車 50000 石油製品 40000 家電製品 30000 医薬品 20000 飲食品 タバコ 日用品 10000 衣料品 繊維製品 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 年 出所:中国国家統計局(国有企業および年間売上高500万元以上非国有企業のみを対象) 中国テレビ通販に挑戦 伊藤忠商事は2010年8月、韓国ロッテグループと共同で、中国テレビ通販大手企業の ラッキーパイ社(本社 上海市)に出資しました。中国のテレビ通販市場は2009年時点 で234億 元(約3000億 円)の 実 績、2010年 は304億 元(約3950億 円)の 見 込 みと 30%の成長が見込まれていますが、全小売市場のわずか0.5%未満のシェアにとどまり、 今後、大きな成長が見込まれています。同事業を統括するブランドマーケティング第二部 の福嶋義弘部長に、中国テレビ通販事情と今後の事業展開についてお聞きしました。 ─ ラッキーパイ社の現状は。 ラッキーパイ社は2007年の設立以来着 実な成長を続け、現在まで6つの地域(山 東省、河南省、雲南省、黒竜江省、上海市、 重慶市)でテレビ通販事業を展開していま す。また、中国で9放送局しかない全国放 福 嶋 義 弘 に聞く ブランドマーケティング第二部長 送のライセンスを持つ重慶テレビと合弁会 社を設立し、中国全国のネットワークへの 強固な基盤も保有しています。 当社は韓国ロッテグループと特別目的会 社を設立し、ラッキーパイ社に出資しました。 ロッテグループのテレビ通販のノウハウや小 売業における強みと、当社の持つ中国で の商品調達力や物流などのネットワークな どを生かし、ラッキーパイ社の一段の成長 を目指しています。2009年に5億2300万元 (約68億円)だったラッキーパイ社の売り 上げは、2011年には11億元(約143億元) の計画と著しい成長ぶりです。 ─ 中国のテレビ通販の事情は。 健康器具やサプリメントでおなじみのビデ オを繰り返し放映する「インフォマーシャル 型」と、司会者がショー形式で商品を紹 介していく「ライブ型」の2つがありますが、 信頼性の高さから中国でも徐々に後者のウ エートが高まっています。ラッキーパイ社は ライブ型を得意としています。 中国で特徴的なのが返品率の高さで す。十数%にも上ると言われていますが、 そのほとんどが「思っていた商品ではなかっ た」という理由です。中国では、例えば 代引きで注文した商品が届いてもすぐにお 金は支払わず、 ドライバーを待たせ、段ボー ル箱をあけて、電化製品なら動くのを確認 してからようやく支払う、というスタイルが一 般的です。このため自社トラックや個別配 達など、物流面でもきめ細かく対応していく 必要があります。 ─ 今後の展開はどのようなものに。 カンパニー横断の全社案件として取り組 みを進めており、当社が取り扱うブランド、 生産拠点とネットワーク、物流サービスを活 用し、その調達力・配送力で貢献してい きます。商品供給は3月頃を予定し、衣料 品・服飾雑貨のほかコメ、電化製品、家 庭日用品なども対象にしています。ファッショ ン製品では、たとえ中国生産であっても日 本企画を重視し、高級・高付加価値のイ メージで訴えたい。 衣 料 品 は 現 状、数 枚 セットで299元、 399元、499元といった価格帯が多いので すが、もっと高い価格帯の商品にもチャレ ンジします。ネットを含め通販そのものがま だ粗悪品やニセモノが多いというイメージ が強い。だからこそテレビ通販大手のロッ テ、総合商社の伊藤忠の信用力でそうし たイメージを払拭したいと考えています。 “製・販 激変”中国の“いま” まず上海で1店舗、様子を見て南京、杭 州へ、といった展開をすると、高い上海の店 舗リース料に音を上げ、多くが退散します。1 店舗程度の売り上げでは大赤字になる可能 性が高い。それにまず耐えられるか、です。 郷に入れば郷に従え 中西 おっかなびっくりで「とりあえず1店 舗」的な出店では成功はおぼつきません。 例えば地方で勝負するのも手です。家賃の 安い2級、3級都市に絞って出店戦略を練り、 いい売り場を確保して成功しているところもあ ります。大都市には世界のトップブランドが集 結しているだけに、生半可では成功しないで すね。 林 郷に入れば郷に従え、と言います。 欧米系ブランドや韓国系ブランドは “中国仕 様” で成功を収めているところが多い。進出 した1990年代は泣かず飛ばずだったものの、 2000年代に入って飛躍的な成長を遂げた企 業が多い。いろいろ理由はあるのでしょうが、 企画・デザインを中国人スタッフに任せたのが 伊藤忠商事 繊維カンパニー 中国戦略ディレクター 大月 秀夫 大きかったと聞きました。日本のアパレルの場 合、日本向けの輸出商品を充当する、いわ ゆるドロップシップメントが多い。そこに無理が あるように思います。中国で本気で売るなら 中国仕様を考えるべきです。 中西 販売面でも自分でやるのか、パート ナーと組むのか、しっかりと考えねばなりませ ん。ただ、中国の百貨店の場合、現地のア パレル企業がいい売り場を押さえ、外資はな かなか入り込めない事例が多くあります。中 国でモノを売る場合、日本で成功したんだと いう自負を捨て、謙虚に臨むべきでしょう。中 国企業とがっちり組むことも重要です。 伸びる無店舗販売 大月 店舗販売もさることながらインター ネットやテレビ通販などの無店舗販売が注目さ れています。当社も中国でのテレビ通販事業 に進出しましたが、課題を挙げるとすれば。 林 日米と比べて、中国のネット販売がど ういうものか自身で試してみようと先日挑戦しま した。中国生産の海外ブランドの靴を購入し ようと検索していると、B2CというよりC2Cの感 覚なんですね。その商品を取り扱う店舗がそ れこそ無数に出てくる。中国人スタッフに手 伝ってもらうと、そのうちの一つの店にアクセ スし、サイズや色の在庫を確認した後、すぐ さま画面にあるチャットを通じて問い合わせを 始めます。すると間髪を入れず返事が来る。 それを数回続ける。買う側が商品を疑ってい るため、本物かどうかを繰り返し確認するの です。そして当然のように値下げを要求する。 例えば2足購入するから値下げせよ、送料も 無料に、といったふうに。そのやりとりに、中 国におけるネット販売の実態を垣間見た気が しました。 実際、粘った末に商品代も値切り、送料も 無料になりました。その商品をスタッフに見せ ると、 「よくできているけどきっとニセモノですよ」 と(苦笑)。ネットで販売される商品は “ニセ モノ” “粗悪品” と買い手側が決めつけている フシがあります。「ネットで本物を売っているは ずがない」と。 テレビ通販にしても現状は大半が単価300 杉杉集団に見る成長戦略 ─ 杉杉の事業概要は。 杉杉集団は紳士服の生産・小売りから スタートしましたが、事業領域を新技術分 野、食品関連、鉱物資源開発、不動産 開発、太陽光パネル事業などへ拡大し、 グループ従業員が1万5000人を超える中国 でも有数の複合企業体となりました。一方、 上場会社である寧波杉杉は繊維、リチウ ムイオン電池関連材料、投資を3つの柱と しています。繊維では総合ブランディングカ ンパニーを目指し、国際ブランドの拡充、 小売り分野の強化を進めています。 ─ 注力する事業は。 商業施設開発や小売業です。例えば、 三井不動産との合弁事業である寧波アウト レットは、今までの中国にない本当の意味 でのアウトレットを目指し、2011年6月末に オープン予定です。14の世界著名ブランド の導入が決定し、最終的には200を超える ブランドが集積する計画です。杉杉集団 は今後5年以内にあと5∼6店の本格的アウ トレット開設を目指しています。また、中国 が世界に誇れる商業施設を作るため、省 レベルで開発を含めた話を進めており、とく に河南省とは包括的な取り組み方針を打ち 出しています。その他、化粧品販売店の 中国全土チェーン展開や世界の大型小売 店誘致にも取り組む予定です。 ─ 提携の成果は。 当社との提携から2年弱の間に、杉杉の 重点施策分野で2つの大型案件が成立し ました。まず寧波市が市庁舎の移転も含 め開発を実施する「東部新城」という開 発区の一画における大型複合施設の開発 3 元以下の商品です。しかも5点購入すると2 点がただになるといった割引でお得感を訴え るようなものが多い。インターネットと同様、消 費者は「ニセモノではないか」と疑ってかかっ ています。当社は昨年、テレビ通販のラッキー パイ社に出資しましたが、中国の市場が先進 国並みに高度化する中で、我々はこうした無 店舗市場の持つ負のイメージを払拭する任 務を負っています。 大月 中国の内販市場は今後どんどん大 きくなります。少子化が進み、成熟した日本 市場に成長が期待できないだけに、中国を中 心としたアジア市場でいかに取り組むかが日 本企業の大きな課題です。おふたりは4月1日 付で帰任されますが、それぞれの任地での 課題を。 即断即決、スピード対応を 林 現状、中国の変化の速さに我々を含 め日本企業はついて行けていないように感じ ます。即断即決、スピード対応が重要です。 先ほども申し上げたように中国企業はお金に は不自由していません。欧米系や中国ファン ドは資本効率と市場での成長性のみにフォー カスし、考えられるリスクにフォーカスするよう なことは少ない。日系企業に求められるのは、 モノ作りにおける先進技術なり販売システム、 ブランドなどのソフトの部分ですが、その内容 も多様化し、変化している。 そのためにもアンテナを張り巡らせ、柔軟な 頭脳で市場に対応していくことが不可欠で す。これが今後の中国でのビジネス活動で重 要な要素になります。 ITSの内販は実売上高の60%、内販によ る利益も、海外店からの手数料を含めた総 収入の50%に高まってきました。上海の営業 10部のすべてで内販に取り組んでいます。 与信先も2009年には日系と中国系が2対1の 比率だったのが、2010年は1対2に逆転しま した。さらに中国市場で根を張った活動に取 り組んでいく考えです。 中西 香港において、IPAは立ち位置が 難しくなってきました。しかし、香港にはビジ ネスノウハウが詰まっていますし、税制、金 伊藤忠繊維貿易(中国)有限公司 董事長 林 史郎 融などのメリットも健在です。東南アジアのゲー トウエーの位置は変わりません。アジア・極 東地域でEPAやFTAが結ばれ国の垣根が 低くなるなか、原材料の供給ソースや加工能 力をこのエリアの中でどのようにグリップし、つ なげていくかが商売の成否を左右するように なってきました。中国・極東・アジアの中間 に位置する香港で、IPAが中国内販を含む 中国、東南アジア、欧米、日本の架け橋とし てどう機能するか、そこを考えていけばプレ ゼンスが高まると思います。有力企業への出 資、提携強化などで変化にすばやく対応し つつ、素材から製品、ブランドまでを有機的 につなげビジネスを拡大したい。 大月 伊藤忠商事は4月1日付でアジア市 場の地域割りを東アジアとアセアン・南西アジ アの2つに分け、それぞれ統括責任者を置く 体制に変化させました。東アジアでは中国と 韓国、台湾などの国・地域を一体的に攻め ていく体制です。この地域は成長が楽しみな 地域です。中国での豊富な経験をもとに業界 各企業のお役に立てればと思います。 ブランドマーケティング第二部門長補佐 ( 前 杉杉集団有限公司副総裁兼寧波杉杉股份有限公司総経理) 2009年2月伊藤忠商事は中国の大手企業グループ杉杉集団に出資しました。同年4月 より集団の副総裁(兼)寧波杉杉の総経理に就任し、約2年間の駐在を終えて今年2月 に帰任した中分孝一ブランドマーケティング第二部門長補佐に、杉杉集団を通して見た成 長戦略などについてうかがいました。 2011年3月号 案件。2つ目は、杉杉の持つリチウムイオン 電池用正極材メーカーに日本の高度な技 術を導入する合弁事業です。 繊維では原宿系ブランドのイオリを買収、 中国店舗数を買収当時の17店舗から約1年 間で51店舗に増やしました。 また「ELLE(エ ル) 」では、杉杉がライセンサーとして中国 の優良企業にサブライセンシーを与えるビジ ネスモデルも構築。さらに高感度な子供服 セレクトショップも立ち上げました。これらは 杉杉のポートフォリオを拡充し、従来なかっ たビジネスモデルとして評価を受けています。 ─ 駐在期間を振り返って。 昨年、生産地としての中国は一変しまし た。最低賃金の上昇、確保が困難な労 働力に加え、CO₂ガス排出規制による電力 制限……。各工場は限られた生産キャパ シティーの中で顧客を絞り、まさに売り手市 場になりつつあります。杉杉は現在スーツ3 社、ドレスシャツ1社、カットソー一貫3社の 工場を保有していますが、世界の優良客 先からの膨大なオーダーに対応するため、 中分 孝一 内陸部、カンボジアなど生産拠点強化へ の投資計画もあります。 一方、消費地としての中国の発展は著 しく、全土で都市化が進み高額所得層が 増加してきました。上海、北京のような第 一級都市には世界の著名ブランドが乱立、 その他多数のブランドは発展を続ける地方 都市への出店を加速させています。販売 業態の変化も大きく、中国人のネット利用 者は4億2000万人、オンラインショップ利用 者も1億4000万人を超えました。今後、こ れらの変化に対応する新たなビジネスモデ ルを構築していく計画です。 4 マーケットリポート/ニュース・クリッピング 2011年3月号 「スクレ・ラデュレ」生活雑貨アイテム ライセンス契約 M arket Report 伊藤忠商事はフランス高級カフェ・パティス リーを展開するラデュレ・ボーテ(LADURÉE BEAUTE SA 本社:スイス)と、日本市場に おける「スクレ・ラデュレ」 (LES SECRETS DE LADURÉE)ブランドのキッチン・ダイニ ングなどの生活雑貨アイテムに関するライセン ス契約を結び、2011年春夏からタオル、バ スローブ、エプロンなどの展開を開始します。 ラデュレは1862年にフランス南西部で創業 し、1900年代初頭にはカフェとパティスリーと いう2つの異なるジャンルを融合し、パリで初 めてとなるサロン・ド・テを誕生させました。 1997年9月には現在の旗艦店となるシャンゼリ ゼ大通り75番地にラデュレ・シャンゼリゼ店が オープンし、以降、 ロンドン、 モナコ、 ジュネーブ、 ローザンヌなどにも出店。2009年には日本初 となるサロン・ド・テを銀座三越に開設、現 在までに銀座、日本橋の2店を展開し、伝統 と格式を誇る美しいサロンとして人気を博して います。 スクレ・ラデュレは、ラデュレのサロン・ド・ テで供されるパティスリーに調和したキッチン・ ダイニングなどの生活雑貨アイテムのブランド です。伊藤忠は今後、スクレ・ラデュレブラ ンドの開発について、ラデュレ・ボーテ社と連 〈主力商品価格帯(税込み)〉 バスタオル: 3,150 ∼ 3,650円 フェイスタオル: 1,050 ∼ 1,260円 マカロンタオルハンカチ: 525円 タオルギフトセット: 1,575 ∼ 5,250円 マカロンポーチ: 2,100円 トートバッグ: 3,675円 バスローブ: 12,600円 エプロン: 4,200 ∼ 5,775円 エプロンギフトセット: トートバッグ 5,250円 など 本件に関するお問い合わせ先 伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第三部 ブランドマーケティング第二課 課長:天野 英介、担当:渡邊 勝 エプロンギフトセット 電話:03-3497-2505 「レスポートサック」×「ジョイリッチ」 コラボレーション実現 N ews Clipping 伊藤忠商事が全世界の商標・販売権を 持つカジュアルバッグブランド「LeSportsac(レ スポートサック)」と米国ロサンゼルスで話題 沸騰中の、ハリウッドセレブに愛されるアパレ ルブランド「JOYRICH(ジョイリッチ)」との コラボレーションが実現しました。3月16日より 表参道店ほかで発売します。 ジョイリッチは1980年代、 90年代のスペイシー なカラーリングとミックスカルチャーを融合し、自 分達の近未来像を表現したカジュアルなブラン ド。メルローズでのストア開設以来、ハリウッド 女優やミュージシャンを中心に大きな支持を集 めています。2010年には日本でもラフォーレ原 宿にショップをオープン。米国のみならずグロー バルに展開を続ける注目のブランドです。 今回のコラボレーションでは、機能性にす ぐれたレスポートサックのバッグに、ジョイリッチ のエッジーでいてユニークなテイストを取り入 れ、ラグジュアリー感のあるコレクションに仕上 げています。3月8日本拠地LAを皮切りに、3 月11日には東京・表参道店でタレントも参加 する盛大なLaunch Partyを開催、その後、 ハワイ、韓国、台湾、シンガポール、フィリピ 為替(円/US$) Data 携を深めながら、“ラデュレのエスプリ、パリ のエスプリ” を表現するシリーズを、ラデュレ の愛好家たちに向けて発信していきます。 まずはタオル・バスローブアイテムで小原 株式会社、エプロン、キッチン小物アイテム で株式会社サロンジェとサブライセンス契約を 結び、2011年春夏シーズンから、全国の百 貨店を中心に販売を開始しいたします。その 後、キッチン・ダイニングなどの生活関連アイ テムを拡充し、売上高は3年後で小売価格 15億円を計画しています。 ンなど各国でのイベントを予定しています。 このコラボレーションを記念して、特別付録 トートバッグ付き記念ブック「LeSportsac ファ ンブック第三弾 2011 Spring & Summer(3 月10日発売 宝島社 ¥1,300) 」も発売します。 また、2011年春のトピックとして、2010年春に 発売し大きな話題となった「BARBIE(バー 本件に関するお問い合わせ先 伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第十二課 課長:小谷 建夫、担当:天野 義朗、阿部 英子 電話:06-6241-2982 百貨店衣料品売上高の推移(億円) 80.00 ビー) 」とのコラボレーション第二弾の発売が 決定しました。今春はブラックをベースに様々 なポーズをとるホワイトシルエットのバービーが 登場。キュートなフューシャピンクがアクセントと なっています。3月31日に店頭展開予定です。 チェーン店衣料品売上高の推移(億円) 3,000 3,000 2,000 2,000 1,000 1,000 85.00 90.00 11/19 12/17 1/7 1/28 2011.2/18 0 2009.1 2010.1 2011.1 出所:日本百貨店協会 0 2009.1 2010.1 2011.1 出所:日本チェーンストア協会 日本国債格下げ発表を受けてドル/円は82円台前半から83円台前半まで円安が進展した 全体として3カ月連続のマイナスの前年同月比1.1%減だが、減少率は小 気温が全国的に低かったため、鍋物関連の食料品、冬物衣料、寝具関連 が、予想比弱めの米経済指標やエジプト政情不安等を背景にドルはすぐに81円台前半まで反 幅でほぼ前年並みに推移した。消費マインドの改善を背景に、年初からス 商品の動きが良かったことから善戦し、総販売額は1兆865億円、前年同月比 落。 しかし2月4日に発表された米雇用統計では失業率が9.0%まで回復したことが着目されドル タートした冬のクリアランスセールが好調だった。東京や横浜など好天に恵ま 0.1%のマイナスとなった。衣料品は1.2%減の1280億円。気温の低下から機 買いが優勢となり、16日には83円98銭まで上昇した。その後は欧州の利上げ観測への思惑か れた地域では、冬物重衣料をはじめとしたファッション商材を中心に活発な動 能性肌着、防寒衣料の動きは良かった。紳士衣料はコート・ジャケット、 スーツ、 らユーロ買い・ ドル売りの展開となり、 ドルは対円でも値を下げ83円台前半まで下落した。米経 きがみられた。衣料品全体では2334億円で同2.0%減の3カ月連続のマイナ ジャンパーが好調だがシャツは不調。婦人衣料はジャケット、 セーター、パンツが 済回復期待からドルが買い戻されやすい一方、2∼3月は本邦企業決算を控え配当など資金の ス。婦人服・洋品が1546億円で1.6%、子供服・洋品が161億円で6.1%それ 好調もシャツが不調。その他衣料・洋品は機能性肌着、パジャマ、 ソックスが好 本国回帰による円買いフローが出やすいこともあり、引き続きもみ合う展開を予想する。 (2/21) ぞれ前 年 同月を下 回り、紳 士 服・洋 品は4 7 6 億 円で同 横ばいだった。 調だった半面、子供衣料は不調だった。靴、手袋、 マフラーの動きは良かった。 海外報告 orld RW eport バングラデシュ バングラデシュ、急増するニット製品 ミャンマー、輸出生産スペース埋まる ① 人口:1億6400万人(IMF) ② 一人当たりの名目GDP:US$640(IMF) ③ 最低賃金:US$39。2010年11月から適用(BEPZA) バングラデシュの人口ピラミッド 50 は、バングラデシュで衣料品の調達を増やし ている。日本向けは1億7300万ドル(1.4%) とまだまだ少ないが、ここに来て中国からの オーダーシフトの波が寄せてきた。スペース確 保がキーワードとなるが、欧米向けの大量計 画生産に慣れている工場にとり、日本向けの 小ロット、オーダーミニマムの問題をどのように 解決していくかが課題となる。 生産商品の特徴 1971年の独立後、1974 年にフランス向けドレスシャツから輸出が始 まった。以来ドレスシャツが最も得意なアイテ ムとなる。シャツで利益を得た工場オーナー 達がデニム、ボトム、カジュアル、カットソー、 セーターとアイテムを多角化させてきた。2004 年の構成比率は布帛65%、ニット35%だった 2005年 男性 75 2050年 女性 25 0 25 50 75 男性 10万人 ■ 人口規模 2007年:1億6,400万人(世界第7位) ■ 豊富な労働者 2005年:59.1% (全人口に占める15∼59歳の割合) 75 50 女性 25 0 25 50 75 2050年:2億5,400万人(世界第8位) 2050年:62.2% 出所: 「Bangladesh Population by five-year age group and sex (thousands) Medium variant 2005-2050」 ミャンマー 5 アジアのアパレル生産事情 ③ バングラデシュ、ミャンマーレポート アパレル輸出の近況 2008/09年度(2008 年7月∼2009年6月)の輸出総 額は162億ド ルで、そのうちニット製品は65億ドル(40%)、 布帛製品は60億ドル(37%)と実に衣料品 輸出が約8割を占めている。まさに繊維産業 がこの国の経済のけん引車の役割を担ってい る。仕向け地は北米39億ドル(31%)、ドイ ツ22億ドル(18%)、英国15億ドル(12%)、 フランス10億ドル(8%)。欧州が約60%、カ ナダが4.4%なので欧米向けが全体の95%を 占める。 欧米のアパレル市場が必ずしも活況でない なか、バングラデシュが生産する低廉な生活 衣料品には一定の需要がある。ウォルマート、 H&M、ZARAなど欧米の大手小売チェーン 100+ 95∼99 90∼94 85∼89 80∼84 75∼79 70∼74 65∼69 60∼64 55∼59 50∼54 45∼49 40∼44 35∼39 30∼34 25∼29 20∼24 15∼19 10∼14 5∼9 0∼4 2011年3月号 ダッカ事務所長 久 がニットへの投資が進み、2007年に逆転しニッ ト53%、布帛47%となった。 ここ4年間、ニットが伸びてきた背景は欧州 向け特恵関税(GSP)が2工程であり、編 み立て、染色、縫製の一貫生産の強みが 生かされてきたためだ。本年1月に欧州向け GSPがニットも布帛も2工程から1工程になっ たため、再び布帛が伸びを示すと思われる。 当地の強みは布帛3000社、セーター 600社、 カットソー 1500社と縫製工場の多さに加え、 縫い糸、芯地、ボタンなどの付属品が現地 調達可能な点である。他方、重衣料は弱く、 スーツ工場は1社のみしかない。 原材料調達の動向 綿花は100%輸入(ト ルクメニスタン60%、 ウズベキスタン10%、北米、 インド各9%) 、川上の紡績はリング800万錘、 OE13万 錘と十 分な設 備 がある。紡 績 は 2005年500万錘から実に6年で新鋭機300万 錘が加わり、純増となっている。川中は民族 衣装用のハンドルームが主流で、革新織機を 有する生地メーカーが10社ほどしかなく、布 帛製品の80%が輸入生地に頼っている。織 布、染色分野への投資意欲は強く、日本の 織機メーカーも頻繁に販売に訪れているが、 発電用の天然ガスが不足しており進捗状況 は芳しくない。本年1月に欧州向けGSPが従 来の2工程から1工程(縫製のみ)となり、 輸入生地依存型はしばらく続くとみられる。 他方、ニットは豊富な国内生産綿糸を活用し、 丸編み⇒染色⇒縫製と一貫生産のカットソー ① 人口:5737万人(在ミャンマー日本国大使館資料) ② 一人当たりの名目GDP:US$571(2009年IMF推定) ③ 最低賃金:法規で定められた最低賃金はない アパレル輸出の近況 2009年のアパレル 輸出は、ドイツ、スペイン、英国向けが合計 1億5000万ドルで、日本向けの1億4900万ド ルとほぼ同額だった。2010年は欧州向けが 大幅に減少し、日本、韓国向けは大幅増加 となったもようだ。とくに2010年8月以降、中 国の価格上昇に加えアパレル生産離れが加 速し、中国プラスワンとして、ベトナム等と同 様に中国からの産地移設を検討する来訪者 であふれた。この結果、限られた輸出生産 スペースが瞬く間に埋め尽くされ、日本向け は前年比2倍、韓国向けは4倍の発注量に なったとみられている。 一方、安価な労働賃金を見込んで流れて きた需要に水を差すかのように、2010年は現 地通貨チャットの高騰が続いた。年初から年 末には20%以上の高騰を記録し、公務員の 給与改定などと共に工場労働者の給与上昇 も招いた。インフラが整備されていないため 輸送コストが割高となる当地にとって、ベトナ ムとの価格競争力に後塵を拝す感もなきにし もあらずの状況だ。新規投資が相次ぐ中、 長い目でコストメリットを模索せざるを得ないと いうのが現状である。 生産商品の特徴 当地では従来から、圧 倒的にユニフォーム、スーツ、シャツ等、計画 的に生産することが可能な品目が主流だった。 しかし昨年、日本・韓国向けへの増産対応 によって多くのカジュアル品目が目に付くように なった。とはいえ、当地には中国のような柔軟 関係会社T Iガーメントの伊藤忠専用ライン。日本人技術者が常駐している 性がないため、品番は変わっても同じ品目を 継続して生産することでしか生産性が高めら れない。そのため、リードタイムを長く取る、 生産スペースを長期間利用することをコミットす る、といった対応が必須となっている。発注 側の周到な計画やきめ細かい配慮なく生産管 理を行うと、大きな問題が多発する事態となる。 また、素材・付属等がほとんど生産できな い当地では、委託加工貿易が主流だ。日本 向けは、布帛製品の場合、素材の原産地に 関わらずミャンマーで生産すれば特恵関税の 恩恵を受けられるが、ニット製品に関してはま だアセアン域内で手当てした素材しか恩恵を 受けられず、必然的に布帛製品の生産に集 中することになる。 原材料調達の動向 当地ではカートンボッ クスくらいしか調達できるものがないので、素 材・付属は原則すべて海外からの持ち込み となる。 物流など貿易環境の整備 海外との輸送 は、ヤンゴン港からシンガポールかマレーシア 経由の船便で、日本・ミャンマー間の輸送期 間は約3週間。タイ経由の陸路輸送もあるが、 トラック便の不定期運行、片道しか荷物がな いことによるコスト高、保険付保ができないリ スク等により実用的ではない。通関は輸出入 とも各品目でライセンス取得が必須だが、この ライセンスが首都ネピドしか取得できないため 予め準備をしておく必要がある。例えば、輸 入ライセンスなしで日本から付属等をクーリエ 林 融 写真中央が筆者 工場が多い。 物流など貿易環境の整備 世界最大のデ ルタ地帯という地理的要因でチッタゴン港が 水深8.5mしかないためにコンテナ船が寄港で きず、フィーダー船(20フィートコンテナ200本 搭載可能)でシンガポールでトランジットする 必要がある。ダッカ―チッタゴン間は産業道 路があって毎年整備され、2004年の大洪水 以降、洪水による道路遮断はなくなった。ま た産業道路に並走してハイウエー建設が予 定されている。2008年 チッタゴン港にコン ピュータ制度が導入され輸出通関が早くなり、 現在港に到着後1.5∼2日で船積み可能だ。 ◇ バングラデシュは人口の多さが強みの一つ である。現在の1億6400万人が2050年には 2億5400万人となり安定的に豊富な労働力が 確保できる(グラフ参照)。繊維産業がけん 引車となりこの国の経済を引っ張っていく図式 は当分続くと思われる。 ヤンゴン事務所長 広 江 透 で送った場合、最悪、没収ということにもなり かねないので注意が必要。ただ、正規の手 続きを踏めば通関で大きな問題が発生するこ とはなく、通関も1日、あるいは2日もあれば完 了する。工場は現在ヤンゴン地区のみなので、 国内輸送での問題は少ないが、刺繍や洗い など外注先への搬送ではトラック手配等で問 題が多い。 ◇ 2010年に既存生産スペースがほぼ埋まっ た。今後、新規で工場を設営するか、現地 パートナーを見つけ、自前の生産スペースを 構築することでしか増産の可能性が低い。 ただ、2011年1月に、経済特区法が公示 され、中国の経済特区をモデルにした工業 団地が設営される可能性が高まっている。ま た、2015年までの実現をめざすアセアン経済 共同体に向けた動きもある。今後ミャンマーは、 生産地としてますます存在感を増していくと思 われる。 6 ファッションリポート 2011年3月号 F ashion Report No.567 二極化するハナコジュニア消費、アプローチのカギは高感度層と共感にあり 伊藤忠ファッションシステム㈱ 社長室 ファッションアスペクトビジネスユニット 消費意欲の低い若者、という20代に対する形容もすっかり定着した感があるが、その内実は 決して一様ではない。今回は、昨年FAクラブで実施したハナコジュニア世代調査の結果をもと に、現在20歳前後の若者の消費意識や態度、そして彼らへのアプローチのポイントをまとめる。 20代の消費はさらに堅実化、 強い安定志向が背景に 不安要素を排除し、満足度の高い買い物を するために培われてきた知恵だといえる。 バブル期に青春を謳歌したプレバブル世代 に比べ、消費に対する温度が低いといわれ ているポストバブル世代※1 。とくに、歳が若 くなればなるほど手堅い姿勢が強まる傾向に ある。昨年、弊社が運営する会員制マーケ ティング組織「ファッションアスペクトクラブ(通 称:FAクラブ) 」で実施したハナコジュニア 世代調査※2 では、20歳前後の若者の、より マスと高感度層の二極化が進む、 家庭環境が分かれ目に 堅実化した消費の実態が明らかになった。 ハナコジュニアの消費は、パッとみて欲し いと思ったから買うという、インスピレーション 消費が特徴であった上の世代※3 とは大きく 異なっている。自分の「身の丈」に適うもの を品定めし、さらに本当に必要かどうかを測っ たうえで購入にいたる、という2重のスクリー ニングのプロセスを踏むのが特徴だ。さらに、 その判断には自らの主体的な意思決定だけ ではない、親や親しい友人の意見や口コミな ど、第三者の意見による納得感が必要とされ ている。また、上の世代でフックとなっていた ブランドやトレンドという要素に対しても、その 価値は認めるものの、もはや当たり前のものと してモノ選びの基準としての意識は希薄にな る傾向だ。 こうした消費の特徴の背景には、情報の選 択肢が多様化し、経済的にも不安定な社会 で生きぬくための術として、強い安定志向が 刷り込まれていることが指摘できる。彼らの行 動には、不安定な状況を生じさせないための 現状最適化機能がセットされており、不確実 な目標を追求するのではなく、現状でできるこ とを見極めることが基本になっている。 したがっ て、彼らの消費の仕方は、失敗や損といった しかし、その堅実さは決して世代で一様 ではないことに注意が必要だ。ハナコジュニ アの消費に対する意識や態度は、モノコト選 びに対して自分なりのこだわりがある消費意 欲の高い層と、手間をかけず身近で手に入 る物ですませる意欲の低い層に二極化する 傾向にある。ファッションは、そうした意識・ 感度の二極化傾向が顕著な領域の一つと なっている。 図1・図2はハナコジュニアのファッションに ついて男女ごとにタイプ別に整理したマップで あるが、マスのグループ(男子:ジャニ男ト レンドカジュアル、女子:フェミニンカジュアル とナチュカワレイヤード)と、それ以外のグルー プの構成人数の割合はおおよそ8:2。マス への一極集中と、際立ったテイストのグルー プが周辺化する傾向が表れている。男女共 に感度が底上げされ、世代全体として見た目 はおしゃれになっているものの、マスのマイン ドを精査すると、モノ選びの場所も行きやす い便利なところ、スタイルも一緒に行動する人 を基準にする、といったように保守化が進ん でいる。そうした「ぬるい」主流派に対して、 意識が高い少数のエッジ層は苛立ちを感じて おり、自らシーンを切り開くような行動を起こそ うと画策している人もいる。 この二極化現象は、価値観形成の影響要 因としての親の存在感が、上世代よりも増し ていることによって引き起こされていると考えら れる。ハナコジュニアの場合、従来のような ハナコジュニアの消費特徴 ● 基本は受身。パッケージ化された情報のほうが楽チン ● 自分と地続きのもの、「身の丈」にあったものに共感 ● ゼロから何かを作り上げるよりは、既存の物を編集する力に長けている ファッションタイプポジショニングマップ 女性 Cancam 女の子要素てんこ盛り! ハナコジュニアならでは の“ぶりっ子スタイル”。 フェミニンカジュアルに 吸収傾向。かろうじて 残るコンサバスタイル。 jelly ギャル フェミニン&コスプレ感アッ プ。直球ギャルスタイル。 Fudge Papier spoon ボーイズ ミックス Mini ナルミヤブームの経験を背景に ハナコジュニアで勢力拡 大。 ボーイズアイテムを派 手カワ コーディネイトしたスタイル。 カジュアル ※1:プレバブル世代は、バブル崩壊前に社会人となり、バブル景 気下で消費の自由裁量権を獲得した世代。対するポストバブ ル世代は、バブル崩壊後に社会人となり、不況の只中で消 費の自由裁量権を獲得した世代を指す。 ※2:ハナコジュニア世代(1987∼1992年生まれ)の中でも、昨 年新社会人となった現在23∼24歳10名(男女各5名)を対 象に2回の座談会調査、1回の親子デプスヒアリングを実施。 ※3:弊社世代区分のプリ上世代:現在29∼33歳・プリ下世代: 現在28∼24歳。 ※4:FA流行誌 vol.71『ハナコJr.の実態−現状直視する安定志 向世代』P.52 ※5:同掲載 P.56 ※6: 「おしゃP(おしゃぴー) 」 とは、 「おしゃれプロデューサーズ」の略。 アパレルブランドのデザイナー、 プレス、 ディレクター、 プロデュー サーを職とする女子で、カリスマ店員や読者モデルを経験して いる人も多い。 KERA 個性派 ストリート サブカルと結びつい たコスプレマインド いっぱいのスタイル。 軸の説明: Gainer RUDO ●タテ軸:エレガンス⇔カジュアル。上 に位置するほど、社会目意識が強くなり、 周囲からの好感度・愛され度重視のスタ イルになる。カジュアルはその逆、意識す る視線の仲間・個人など範囲が狭くなる。 オフのスタイルとしては極 少数派。ハナコジュニア のオンのスタイル。 ギャル男 カジュアル メンズのマス層。流 行の 服をダイレクトに取り入れ、 分かりやすくおしゃれ感を 演出したスタイル。 スポーツ ストリート Men’ s egg ホスト系から脱却し、ナチュラ ル系にシフト、おしゃれに目覚 めたギャル男の最新スタイル。 Cool trans olie カジュアル ※色つきのグループはマスのグループ Smart Sense Men’ s fudge Men’ s no-no Men’ s joker CHOKi:CHOKi ホスト ワイルドビジュアル系 ●ヨコ軸:セクシー⇔ナチュラル。右に 行くほど、“男らしさ”の打ち出しが強くな る。ナチュラルはその逆、スタイルはユニ セックスになり “草食度” が高くなる。 レイヤード カジュアル ジャニ男 トレンドカジュアル 攻め込み感強いスタイル は減少、ロックをベース にしたお兄系スタイル。 zipper PS 上世代に増して堅実な消費者であるハナコ ジュニア。その堅実さの内実を把握し、一見 つかみどころのない若者の共感を創出していく ことが、彼らの消費意欲を醸成し、市場を開 拓する足がかりとなるのではないだろうか。 コレクショントレンドやデザ イナー物を着こなすおしゃ れ上級者のスタイル。 レイヤード カジュアル トレンドをさりげなくキャッ チ、ナチュラル・リラック ス感ある重ね着スタイル。 アウトドア・スケートブ ランドの服を着こなすス トリート系のスタイル。 ナチュラル blenda エグザイル系 セクシーモード セクシー 大人になったギャルが支持。 男アイテムをグラマラスに着 こなす肉食系スタイル。 mina コレクショントレンドを カジュアルダウンし たミックススタイル。 Spring そうしたアイコン戦略の好例といえるだろう。 きれいめ トラッドカジュアル エグザイル人 気で増 加。 HIPHOP系ダンサーのお しゃれをエレガント&ゴー ジャスにこなしたスタイル。 マスキュリン フェミニン ナチュラル・リラックス 感ある可愛さ重視。肌 見せはNG、トレンド感 ある重ね着スタイル。 てもらうこと。そして、 “自分ごと化”する手 法のポイントは、世界観を代表する“アイコン” である。 世代の基本特性として安定・安心志向が 強いだけに、消費に対しても確実さを求めて おり、感度が高い層においても情報収集や モノ選びの基本姿勢は受け身である。進ん で必要な情報を集めにいくというよりは、あら かじめ集約されパッケージ化された情報のほ うが、彼らにとって受け入れやすい。また、 うんちくで物の良し悪しを判断するよりは、見 た目の可愛らしさなど感覚に響くかどうかで判 断する傾向が強まっているため、ブランドが 伝えたいメッセージや世界感、商品の情報な どを視覚的にアイコンに集約して語らせること で、 「∼のようになりたい」 「∼がプロデュース しているから欲しい」といったように、彼らの 共感を呼び起こすことが可能になる。 したがって、同世代をけん引する潜在能力 のある人をアイコンに仕立てていくことも、今 後のアプローチ方法として有効だといえる。 10代∼20代前半の若者の人気を集めている WEBメディア『DROP TOKYO』を運営する 横田大介氏も、若い読者を集めるための窓口 として、今後、DROP自体でファッションアイコ ンを育成していくことが必須だと指摘する※5。 また、昨今注目を集めている「おしゃP」※6 も エレガンス モード レイヤード ナチュカワ レイヤード Sweet グラマラス カジュアル 今後、若い世代の攻略方法として、消費 をめぐる格差の実態を把握し、狙うべき層と あえて狙わない層を見極めることが重要だ。 マスは、もの選びの基準を他者に依存し“な んとなく”消費をしているため、つかみどころ がなく、狙いをつけることは難しい。第一のター ゲットとす べきはやはり高 感 度 層であろう。 ファッションの場合、全体の2割ほどしかいな い少数派ではあるが、行動力に優れ、ツイッ ター、SNS、ブログなどインターネットのコミュ ニケーションツールを駆使した情報の受発信 力に長けており、すでに上世代の有力者へ のコネクションも持つケースもある。クリエイター など、将来的に同世代をけん引する人に育 つ可能性も高く、彼らを要としたマスへの波 及効果も期待できる。 いかに感度の高い層にアプローチしていく かが課題になるが、基本的に自分とつながり のない領域に関心を持ったり情報を進んで取 りに行ったりすることはないため、送り手の側 から彼らのアンテナに引っかかるように接触を 図ることが必須となる。その際のポイントとな るのが、“分に適う=自分ごと”として共感し ※色つきのグループはマスのグループ ボディコンや肌見せもOK。 トレンドをダイレクトに取り 入れた「可愛い」スタイル。 ViVi 有望ターゲットは高感度層、 共感を呼び起こす仕掛けが必須 ●ヨコ軸:フェミニン⇔マスキュリン。右 に行くほど、“女の子っぽさ”の打ち出し が強くなる。マスキュリンはその逆、スタイ ルはユニセックスに。 フェミニン カジュアル Ray 世代よりも親からの影響を色濃く受けて価値 観が形成されてきた分、 “育ち”による消費 態度の差が明確になっているといえるだろう。 ●タテ軸:エレガンス⇔カジュアル。上 に位置するほど、社会目意識が強くなり、 周囲からの好感度・愛され度重視のスタ イルになる。カジュアルはその逆、意識す る視線の仲間・個人など範囲が狭くなる。 トレンド エレガンス 姫カワ フェミニン 社会的な役割としての親子関係ではなく、近 い距離感で親と子が互いに自立した個人とし てリスペクトする関係が築かれており、人生 の手本とするケースも多い。 いかなる消費の感性が養われてきたかは、 ひとえに親が子にどんなモノコトを与えて育て てきたかによるところが大きい。ゆとり世代(現 在15∼24歳)の消費の特徴について調査を 実施している日経産業地域研究所の白井徹 氏は、 「親世代はバブル景気全盛期に20代 を過ごしているが、その時代は経済格差とい うよりも文化格差が大きかった。アイドルブー ムに乗っかる王道派とサブカルチャーに深く入 り込むマニアック派の二派に大きく分かれてい た時代でもある。その親が作っている家庭環 境には差も生まれているのではないか」と指 摘する※4。とくにハナコジュニアの場合、上 info.press@ifs.co.jp ファッションタイプポジショニングマップ 男性 軸の説明: エレガンス 中村 ゆい
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