画像データからの構造発見 新島 耕一 九州大学大学院システム情報科学研究科 情報理学専攻 Tel: 092-583-7631 1 E-mail: niijima@i.kyushu-u.ac.jp はじめに つぎの2つの画像を見ていただきたい. Zelda Zelda (?) 図1.同じに見える画像 これらの画像は一見全く同じに見えるが,実は右の画像にある人物が隠されている.隠された人 物を特定できるだろうか.2つの画像の違いを見付ける最も素朴な方法は差分画像を計算するこ とである.次の図は,右の画像から左の画像を差し引いて得られたものである. 図2.差画像 この図から,なにやら人物らしきものが浮き出ていることはわかるが特定はできない.次節以降 に,2つの画像から隠された画像を発見する方法について述べる. 1 2 ウェーブレット分解 最初に与えた2つの画像のそれぞれに対して,ウェーブレット分解をほどこしたものがつぎ の図である. 図3. Zelda のウェーブレット分解 (左) Zelda(?) のウェーブレット分解 (右) それぞれの画像は,一つの低周波画像 (左上) と3つの高周波画像からなる.高周波画像にはそ れぞれ方向があり,右上が y 方向,左下が x 方向,右下が斜め方向の高周波成分を表す.高周 波成分は,画素値に変化があるところに現れ,変化の度合に応じて強弱をもつ.変化がほとんど ないところはほとんど 0 の値をもつ.したがって,高周波成分は原画像の特徴の一つを表してい るといえる. 3 ブラインドセパレーション 最近,画像を分離する方法として,ブラインドセパレーションという手法が注目を集めてい る.これはいくつかの混合画像から,もとの画像を分離抽出する方法で.現在は色々なブライン ドセパレーション法が開発されている.そのうちの一つを紹介しよう. いま,画像をラスタースキャンして1次元配列とし,それを時系列データとみなして x(t) の ように書く.未知の2つの画像を s1 (t), s2 (t) で表し,既知の2つの画像を x(t), x2 (t) で表す. x(t), x2 (t) は,たとえば,図1の画像に相当する.つぎの2つの仮定をおく. (i) (ii) xi (t) = ai1 s1 (t) + ai2 s2 (t), i = 1; 2. s1 (t); s2 (t) を確率変数とみなしたとき,互いに独立である. もちろん, aij は未知である. このとき,リカレントネットワーク yi (t) = xi (t) 0 Xw y k =i ik k (t); i = 1; 2 6 の結合荷重 wik を,出力変数 y1 (t); y2 (t) が独立になるように学習させれば,次第に yi (t) は si(t) だけに比例するようになることがわかっている.実際の学習では,新しく確率変数 Yi(t) = yi(t) < yi (t) >(< > は平均を表す) と2つの非線形関数 f; g を導入し,最急降下法 0 1 new wik = new wik 0 < f (Yi(t))g(Yk (t)) > jwil=wilold によって < f (Yi (t))g (Yk (t)) > を最小にする方法が採用される. 2 4 シミュレーション 図3の低周波画像をそれぞれ x1 (t), x2 (t) と考え,ブラインドセパレーションを行なって得 られた結果がつぎの図である. 図4. 低周波画像のブラインドセパレーション 右側に隠されていた画像がかすかに現れている。しかしながら、左の図をみるとセパレーション が不完全であることがわかる。 こんどは,図3の y 方向の高周波成分画像を,それぞれ, x1 (t), x2 (t) と考え,ブラインド セパレーションを行なった結果がつぎの図である. 図5. 高周波画像のブラインドセパレーション つぎに,このブラインドセパレーションの際に得られた wik を結合荷重にもつレカレントネット ワークに,ふたたび低周波画像を x1 (t), x2 (t) として入力すると,つぎの画像が得られる. 図6. 高周波画像の分離で得られた結合荷重をもつネットワークに 低周波画像を入力して得られた画像 3 この図から,図1の右側の画像に隠されていた画像はレナ夫人であることがわかった. 高周波画像のブラインドセパレーションで分離がうまくいったのは,高周波成分画像のヒス トグラムにあると思われる.つぎの図は図3の y 方向高周波成分画像のヒストグラムを表す. 図7. 高周波画像のヒストグラム この図からわかるように,いずれも 0 にピークをもつ一般化ガウス分布にしたがっている.しか しながら,低周波成分画像のヒストグラムは, 図8. 低周波画像のヒストグラム となり,一般化ガウス分布にしたがっていない. 5 結論 ここで採用した分離法では,既知の画像が未知の画像の1次結合で表されているという強い 仮定がある.画像の微妙な構造変化を発見するためにはこのような仮定を取り払う必要がある. つまり,このような仮定なしに分離できる方法を開発する必要がある.また,2つの画像は独立 であるとは限らない. シミュレーションでは, Haar ウェーブレットを用いてウェーブレット分解を行なった. Haar ウェーブレットのほかに様々なウェーブレットが知られており,それぞれのウェーブレットによっ て高周波成分の出方が異なる.これらの高周波成分に対してブラインドセパレーションを行なう 必要がある. これからは,以上に述べた問題点を解決すべく,研究を進めていくつもりである. 4
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