無床診療所を対象とした施設内指針 (V. 1.1)

無床診療所を対象とした施設内指針
(V. 1.1)
( 2008年8月 愛知医科大学病院 ICT )
A.感染制御に関する方針
・患者及び全職員を感染から防御することを目的とし、標準的な感染予防策及び経路別の
感染予防策を実施する。
B.組織
・施設管理者は、院内感染対策など医療安全の確保に関して責任をもつ。
・施設管理者が必要と認めた場合、院内感染対策に関する会議を持つ。
・院内感染対策に関する会議の構成員は、事務長、看護師長、○○とする。
C.マニュアルについて
・標準的な感染防止を実施するためのマニュアルを作成し、1 回/年見直しをする。
・感染防止のために必要と思われる場合には、適宜マニュアルを作成追加する。
D.研修について
・施設管理者は、感染制御に関する研修を職員に積極的に紹介、参加を奨励する。
・研修会などに参加した職員が、学んだことを他の職員へ還元するための勉強会を持つ。
注) 指針に関しては 7 項目あるが、無床診療所の場合はそれらの項目をある程度マニュアルの中
に組み込んでも良いと考える。
組織に関しては、具体的に役職名などを挙げ、自施設に合ったものとする。また、会議を持つ
ことを指針に入れた場合は、議事録を作成しておく必要があるだろう。
Ⅰ.感染制御に関する基本的考え方及び方針を明確にする。
Ⅱ.当該施設の指揮命令系統を明確にする。
Ⅲ.手順書(マニュアル)の定期的見直しを明確にする。
Ⅳ.感染制御のために従業者に対して行う研修に対する具体的方針。
Ⅴ.感染症の発生状況の把握、分析、報告に関する基本方針。
Ⅵ.感染症の異常発生時(アウトブレイク)の対応に関する基本方針。
Ⅶ.その他、感染制御推進に必要な基本的方針。
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【マニュアル】
Ⅰ.標準的な感染予防策
1. 手指衛生
手指衛生は感染制御の基本であるため、手洗い環境の整備と実践の場での手洗いの遵
守に努める。
1-1. 個々の患者のケア前後に、石鹸と流水による手洗い、またはアルコール製剤によ
る擦式消毒をおこなう。
1-2. 使い捨て手袋を着用してケアをした場合も、手袋着用前と手袋を外した後に石鹸
と流水による手洗いかアルコール製剤による擦式消毒をおこなう。
1-3. 手に目で見える汚れが付着している場合は、必ず石鹸と流水による手洗いをおこ
なう。
1-4. 手洗いには液体石鹸を使用する。また、石鹸液のつぎ足しを行わない。
1-5. 手拭タオルはディスポーザブルのペーパータオルを使用する。
注) 洗面器を使用した手指消毒(ベイスン法)は不確実な方法であり、推奨されない。
石鹸と流水による洗浄だけでなく、
アルコール含有の擦式手指消毒剤の使用が強く推奨される。
また、手拭きタオルについては、ペーパータオルを使用することを推奨する。三重のセラチア
菌感染事例では、手拭きタオルからセラチアが検出されており、改善事項にもペーパータオル
の使用が入っているため、ペーパータオル使用が標準と考えるべきであろう。
2. 手袋
2-1. 血液・体液(汗を除く)・分泌物・排泄物・汚染した物品に触れる可能性の高い作
業をおこなう場合には、使い捨て(ディスポーザブル)手袋を着用する。
2-2. 汚染した手袋は、処置が済んだらすぐに外す。汚染した手袋でベッド、ドアノブ
などに触れ環境を汚染しないように注意する。
2-3. 使い捨て手袋は再使用せず、患者(処置)ごとの交換を原則とする。
注) 標準的な感染予防策および職業感染予防の両面から、手袋の導入は必要である。器材の洗浄
などは厚手の洗浄用手袋の使用が安全上望まれるが、
通常の処置には使い捨てのディスポーザ
ブルの手袋を常備すべきであろう。
ディスポーザブル手袋は通常使い捨てであるが、
どうしても繰り返し使用しなければならない
場合は、目に見える汚れが手袋に付いていなければ、手袋を装着したままアルコール含有の擦
式手指消毒剤を用いる。もし、このような使用をする場合には、具体的にどのような場面で使
用可能であるかをマニュアルに記載すべきである。
(ただし、アルコールにより手袋が劣化す
ると言われている。
)
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3. 個人的防護具 personal protective equipments(PPE)
1. 血液・体液・分泌物の飛沫の発生する可能性のある処置やケアを行う場合は、必要に
応じ PPE(ガウンまたはエプロン、マスク、ゴーグルまたはフェースシールド、手袋)
を着用する。
注) 自分の施設に導入した PPE の種類を明記し、自施設にないものは記載しない。また、導入し
た PPE の使用場面を具体化した方が、より実践的なマニュアルとなる。職員の入れ替わりが多
いところでは、PPE の正しい着脱の方法をマニュアルに入れた方が、より実用的であろう。
4. 医用器具・器材
4-1.
4-2.
4-3.
4-4.
滅菌物の保管は汚染しないように扉の付いた棚に保管する。
滅菌物に汚染が認められたときは、廃棄、あるいは再滅菌する。
滅菌物は、安全保存期間(有効期限)を厳守する。
汚染した器材は、十分な洗浄を行ってから消毒や滅菌を行う。(洗浄前に消毒
薬処理を行うことは洗浄の障害となるので実施しない。)
4-5. 洗浄時には、適切な防護具を着用する。
4-6. 使用後の鋭利器材は直ちに専用廃棄容器に廃棄する。
注) 洗浄場所・洗浄方法・消毒薬など手順を明確にマニュアル化した方が、実用的である。
(例) 1.汚染された器材洗浄場所は、○○とする。
2.洗浄する場合はマスク・ビニールエプロン・ゴーグル・洗浄用手袋を付ける。
3.器材は、洗浄剤を使って汚れを落とし、十分すすぐ。
4.洗浄後、次亜塩素酸 Na0.05%に浸漬する。
注) 消毒に関しては、熱水消毒が推奨されている。小型のディスインフェクターは洗浄から熱消
毒までおこなうことができ推奨されている。
5. リネン類
5-1. リネンは、使用後のリネンとは区別して保管する。
5-2. 共用するリネン類(シーツ、ベッドパッド、タオルなど)は熱水消毒
(80℃、10 分)を経て再使用する。
5-3. 熱水消毒が利用できない場合には,次亜塩素酸ナトリウムで洗濯前処理する
{250ppm(5%次亜塩素酸ナトリウムなら 200 倍希釈)以上、30℃、5 分以上}
。
注) 自施設洗濯及びリネンの取り扱い方法、リネンの保管場所を具体的に記載する。
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6. 注射
6-1. 薬剤混合を行う場合は、専用スペースで行う。
6-2. 作業面は混注作業前に消毒用エタノールで消毒する。
6-3. 薬剤混合作業を行う時には、マスクを着用し、手指衛生を行った後に清潔な手
袋(未滅菌で良い)を使用する。
6-4. 混合を必要とする薬剤は、使用時に調製する。混合薬剤の保管が必要な場合に
は、冷蔵庫を用いる。
6-5. 一度作ったアルコール綿は、使い切るまで綿花やアルコールを追加しない。
6-6. アルコール綿は、一日の業務が終了したら全て廃棄する。
注) 薬剤混注スペースがどこであるかを明確に記載し、清潔な区域として扱う。
三重のセラチア菌感染事例では、調査班は東京都の輸液療法に関する手技(18 項目)を使用
し調査評価されているため、これに従うのが良いだろう。今、注目されている混注後の保管
時間については、下記 8.に記載されている。
《東京都輸液療法に関する手技》
1.点滴の調整は、清潔な区域で行われているか
2.処置台は、作成前にアルコールガーゼなど
の適切な消毒薬で拭き、清潔にしているか
(3.輸液製剤の中央調剤を行っているか)
4.
点滴剤・輸液セット・注射器等は、清潔な場所に保管されているか
5.調剤前に石鹸と流水下
での手洗いをしているか
6.手洗い後の手指は乾燥させているか(ペーパータオル・温風など
を使用、共用タオルは不可)
7.手洗い後不潔な物品には触れていないか
8.調整後の点滴
は 30 分以内に使用しているか
9.使用するまでの間、清潔な環境で保管されているか
10.
注射器と針は滅菌のディスポを使用しているか
11.混合薬を清潔操作で注射器に吸えている
か
12.アンプルカット前は、アルコール綿で拭き、カットしているか
13.アルコール綿の
つぼに入れる手指は汚染されていないか
14.点滴ボトル注入前は、
ゴム栓をアルコール綿で拭
いているか
15.その際、アルコール綿は、アンプルカット時に使用したものと異なっているか
16.輸液セット接続前に、輸液ボトルのゴム栓をアルコール綿で消毒しているか
17.輸液ラ
インの先端は密封(キャップにて保護)され、清潔が保たれているか
業工程を最小限にしているか
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18.回路の接続などの作
Ⅱ.感染経路別予防策
一般的な感染予防策だけでは感染を予防することができない感染性の強い、または疫学的に
重要な病原体による感染を防止するために、感染経路別予防策(空気感染予防策、飛沫感染
予防策、接触感染予防策)を実施する。
1. トリアージ
咳や発疹など感染症が疑われる患者は、他の患者へ感染しないよう早期に発見し、隔
離やマスクの装着などの感染対策を実施する。
注) 誰が、どの時点で、どのような方法でチェックをするか、自施設に合わせた具体的なトリア
ージの方法を記載すべきである。感染症と判断した場合に他の患者と隔離するための方法も
記載すべきである。
2. 空気感染、飛沫感染予防策
2-1. 空気感染(麻疹、水痘、結核)
、飛沫感染(流行性耳下炎、インフルエンザなど)
をする感染症では,患者にサージカルマスクを着用してもらう。
2-2. 隔離の必要がある場合には、速やかに適切な施設に紹介移送する。
2-3. 空気感染する感染症患者を移送する場合には、移送関係者は感染防止策(N95 微
粒子用マスク着用など)を実践する。
注) N95 マスクなどは常備していなければ記載しない。
3. 接触感染予防策
接触感染とは、感染源となる患者をケアしたあとの医療従事者の汚染した手により、
他の患者へ媒介・伝播するため、手洗いや手指消毒が最も重要である。
3-1. 接触感染する病原体を保菌または感染している患者には、接触感染予防策を実施
する。
3-2. 手袋、エプロンなど適切な防護具を使用する。
3-3. 手袋を外した後は手洗い、またはアルコール製剤で手指消毒を行う。
3-4. 接触感染の疑いのある患者が触れた場所は、消毒薬で清拭する。
3-5. 接触感染する感染症で、入院を必要とする場合は、感染局所を安全な方法で被覆
して適切な施設に紹介移送する。
3-6. 消化管感染症対策(糞便-経口)
3-6-1. 糞便や吐物の処理を行う場合は適切な防護具を着用する。
3-6-2. 糞便や吐物で汚染された箇所の消毒を行う。
3-6-3. 床面等に嘔吐した場合は、手袋、マスクを着用して、重ねたティッシュで拭
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き取り、ビニール袋に密閉する。汚染箇所の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムを
用い、平滑な表面であれば、5%溶液の 50 倍希釈液(1,000ppm)を、カーペッ
ト等は 10 倍希釈液(5,000ppm)を用い、10 分間接触させる。
注) 消毒薬の濃度など、実際に使用するものを具体的に記載する。
Ⅲ. 感染症発生時の対応
1.
2.
個々の感染症例は、専門医に相談しつつ治療する
アウトブレイク(集団発生)あるいは異常発生が考えられるときは、地域保健所
と連絡を密にして対応する。
Ⅳ.職業感染防止
1.
2.
3.
血液や体液に暴露される可能性のある職員はB型肝炎ワクチンを接種する。
職員は、麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎に対する抗体保有の有無を確認して
おく。
麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎に対する抗体のない職員は、ワクチン接種を
実施する。
注) 麻疹の大流行など世間的にもワクチン接種の必要性が叫ばれている中、抗体の有無を知り、
抗体獲得のためのワクチン接種を実施していることは、医療従事者としての責務である。施設
管理者は、職員の抗体保有の有無を把握し、職員から患者への感染を起こさないようにする努
力する必要があると考える。
受診患者が老人に限られている診療所では、風疹や耳下腺炎は除くというように、流行性ウイ
ルス疾患に関しては、各施設の対象患者に合わせた疾患に絞ることも可能と考える。
結核感染の既往を、ツベルクリン反応、クオンティフェロン(QFT)、胸部レントゲン検査など
で確認する場合もある。
Ⅴ.医薬品の微生物汚染防止
1. 血液製剤(ヒトエリスロポエチンも含む)や脂肪乳剤(プロポフォールも含む)の
分割使用は行わない。
2. 生理食塩液や 5%ブドウ糖液などの注射剤の分割使用は、原則としておこなわない。
もし分割使用するのであれば、冷所保存で○○時間までの使用にとどめる
注) 分割された薬液については冷所保存が原則であるが、それぞれの環境により条件が異なる
ため、何時間と断言することはできない。各施設で保存時間は決めるべきであろう。
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Ⅵ.医療施設の環境整備
1. 日常清掃は清掃マニュアルに従う。
2. 手が頻繁に触れる部位は、1 日 1 回以上の水拭き清拭または消毒薬(界面活性剤、
第四級アンモニウム塩、アルコールなど)による清拭消毒を実施する。
注) 環境消毒のための消毒薬の噴霧、散布、燻蒸および紫外線照射、オゾン殺菌は、作業者や患
者に対して有害であり実施しない。
診察室、待合室、トイレなど清掃手順を記載する。モップの取り扱い方法も記載しておくほう
が良い。
小児科など子供のおもちゃを置いている場合は、
それらの取り扱いに関してもマニュアルに記
載する。基本的にぬいぐるみは置かない。
Ⅶ.医療廃棄物
感染性廃棄物と非感染性廃棄物の分別を行い、それぞれの廃棄容器には感染性(バイオ
ハザードマーク)や非感染性であることを明記した表示を行う。
注) 医療行為等によって生じた廃棄物の処理に関しては、施設管理者に責任がある。
※ 定期的にマニュアルは見直し、必要時に改定を行わなければならないが、その際は、策定および
改定日を記載しなければならない。
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