マルコフ連鎖モンテカルロ法 - 数理システム論分野

統計的システム論
マルコフ連鎖モンテカルロ法
林 和則
京都大学大学院情報学研究科
E-mail: kazunori@i.kyoto-u.ac.jp
講義資料: http://www.msys.sys.i.kyoto-u.ac.jp/~kazunori/sst.html
1
2
AGENDA
! 次元の呪い
! メトロポリス法とギブス・サンプラー
! マルコフ連鎖と定常分布
! 既約性と非周期性
! 定常分布への収束
! 詳細釣り合い条件
! メトロポリス・ヘイスティングス法
! 参考文献
3
次元の呪い
- 2次元の場合:
円の面積
正方形の面積
- N次元の場合:
N次元球の体積
N次元立方体の体積
Nが大きくなると,N次元立方体の中の一様分布から乱数を発生させ
たときにN次元球の中にヒットする確率は非常に小さくなる
4
マルコフ連鎖モンテカルロ法
マルコフ連鎖の不変分布=(興味のある)事後分布
そのマルコフ連鎖のからのサンプル=(興味のある)事後
分布からのサンプル
マルコフ連鎖モンテカルロ法
(Markov Chain Monte-Carlo: MCMC)
1950年代に統計物理の分野で誕生(計算機ができてすぐ)
1990年代に統計的情報処理の世界で広く利用
-離散,連続を問わず様々な分布に適用可能
-非常に多変量の場合にも適用可能
5
モンテカルロ法
モンテカルロ法
マルコフ連鎖モンテカルロ法
(動的モンテカルロ)
ポピュレーション型
のモンテカルロ
メトロポリス・ヘイスティングス法
ギブス・
サンプラー
(熱浴法)
メトロポリス法
独立サンプラー
逐次モンテカルロ
6
メトロポリス法の適用(離散変数の場合)
3つの離散確率変数:
分布
からのサンプルを生成したい
7
離散変数のメトロポリス法
の任意の初期状態からはじめて,以下を繰り返す
1.  変数を一つを選択 (順番は一定でもランダムでも可) 2. の値を で置き換え,他はそのままにした状態を次の「候補」
3. 「候補」の状態の確率と現在の状態の確率の比 を計算
を選択:
4.
の一様乱数を生成
5.
ならば「候補」を次の状態に(受理, accept), そうでなければ
現在の状態を次の状態に(棄却, reject)
8
離散変数のメトロポリス法:注意点
-  (「候補」の確率が大きい)ならば,「候補」は必ず採用
-  であっても,確率 で「候補」を採用
- この確率的ルールがマルコフ連鎖を定め,サンプル列が生成される
- マルコフ連鎖の「定常分布」=所望の同時分布
- 初期状態から十分長く経った出力列から,十分に間隔をあけてとった
サンプルは,所望の分布からの独立なサンプル(混合時間)
- サンプル列の最初を用いても正しい期待値が得られるが,実際は捨
てたほうがよい(burn-in)
9
メトロポリス法の適用(連続変数の場合)
2変数正規分布の場合:
[2変数正規分布に対するメトロポリス法]
の任意の初期状態からはじめて,以下を繰り返す
1. を原点対称の確率密度 から発生
2. 「候補」
3. 「候補」と現在の状態の確率の比:
4.
の一様乱数を生成し, ならば ,
そうでなければ何もしない
10
連続変数のメトロポリス法:注意点
- 密度 は対称性 を満たせばほぼなんでもよい
例) を適当なステップ幅として
- 分散 平均 の正規分布から を独立に選択
- 区間 上の一様分布から を独立に選択
-同時に を変える代わりに,以下の(i)(ii)を交互に行ってもよい
(i)  とした候補を受理するか判定
(ii) 逆に だけを動かした候補を受理するか判定
11
2変数分布に対するギブス・サンプラー
の任意の初期状態からはじめて,以下を繰り返す
1. の新しい値を で選ぶ 2. の新しい値を で選ぶ -  変数の場合
からサンプリング
- 連続変数のメトロポリス法は効率がステップ幅 の影響を受けるが,
ギブス・サンプラーはステップ幅を決める必要がない
- 条件付分布からのサンプリングが容易 ⇒ ギブス・サンプラーの実装
が容易
12
マルコフ連鎖とMCMCにおける要請
マルコフ連鎖: 次の状態 を取る確率が,直前の状態 にのみ依存する
ルールで動くシステム
遷移確率: 状態 から に移る確率
ステップtの分布 はステップt+1では次のように変換
要請:
どんな初期分布 から初期状態 を選んでも
で は分布 に収束
13
定常分布(不変分布)
が に収束するためには, は,任意の について
は遷移確率 で決まるマルコフ連鎖の定常分布(不変分布)
14
既約性と非周期性
ある初期状態 からたどり着けない状態 で ならアウト
マルコフ連鎖の遷移グラフが強連結であることが必要(既約性)
A. 任意の について,ある があって,遷移確率 による遷移を
ちょうど 回繰り返して, から に有限の確率で到達できる
B. ある があって,任意の について,遷移確率 による遷移を
ちょうど 回繰り返して, から に有限の確率で到達できる
条件A(既約性)
条件B(既約性+非周期性)
15
定常分布への収束の証明
で定まる遷移を 回繰り返したものを改めて とおく
条件Bの を1に→条件B*
定常分布 の存在を仮定して,任意の初期分布 から
への収束を証明
証明のポイント: 任意の分布 から出発し,遷移を一回したあと
の分布が次のように書ける
(*)
は によらない定数
は に依存してもよいが,
16
定常分布への収束の証明(続)
17
(*)の証明
(*)
は によらない定数
は に依存してもよいが,
条件B*より,任意の について 18
(*)の証明
は の値に依存するが, のとる値は有限個しかない
とすると によらない について ( を小さくしてもこの不等式は成立するので の場合は とする)
任意の について と定義
, より
両辺 について和をとる
から
以上より,(*)および付随する条件が示された
19
詳細釣り合い条件
「 が定常分布になる」という条件は非常に緩い
(逆にこれを満たすマルコフ連鎖の設計が難しい)
詳細釣り合い(detailed balance)条件:
任意の について
詳細釣り合い条件は,
定常分布であることの
十分条件
が成り立つ
詳細釣り合い条件を...
満足できる
満足できない
メトロポリス法とメトロポリス・ヘイスティ
ングス法
状態 にいるときに, が候補として選ばれる確率:
(しばらく対称性 を仮定)
-
ならば を必ず受理
-
ならば を確率 で受理
メトロポリス法の遷移確率:
と がともに0でない任意の異なる2状態 について
の場合:
20
メトロポリス法とメトロポリス・ヘイスティ
ングス法(続)
メトロポリス法における詳細つりあい条件の確認:
と がともに0でない任意の異なる2状態 について
の場合
の場合:
の定義を から
メトロポリス・ヘイス
ティングス(MH)法
に変更すればよい
21
22
ギブス・サンプラー(熱浴法)
変数が と書けるとき,各成分 毎に 以外の変数 を
固定した条件付分布
からのサンプル で の値を置き換える操作を繰り返す
: からのサンプル(状態)
: 条件付分布に従って成分 を取り直した状態
取り直した後の と の同時分布:
は定常分布
23
ギブス・サンプラー(熱浴法)(続)
ギブス・サンプラーの各ステップは詳細釣り合い条件を満たす
(ギブス・サンプラーはMH法の特殊な場合)
-
と
が一つの成分 以外は同じとき:
- それ以外:
(
: が選ばれる確率)
全ての候補が採用され,ギブス・サンプラーが再現される
24
参考文献
1. 
C. M. Bishop, Pattern Recognition and Machine Leaning, Springer, 2006
2. 
伊庭幸人, 講座物理の世界 ベイズ統計と統計物理, 岩波書店, 2003.
3. 
伊庭幸人ほか, 統計科学のフロンティア12 計算統計II, 岩波書店, 2005.
4. 
小西貞則ほか, 計算統計学の方法 -ブートスラップ・EMアルゴリズム・MCMC-, 朝倉書店,
2008.
5. 
豊田秀樹, マルコフ連鎖モンテカルロ法, 朝倉書店, 2008.
6. 
中妻照雄, 入門ベイズ統計学, 朝倉書店, 2007.
7. 
樋口知之, “粒子フィルタ,” 電子情報通信学会誌, vol. 88, no. 12, pp. 989-994, Dec.
2005.