Tomoyuki Oku 奥 智之 ワシントン駐在員事務所 所長 (202)463-0477, toku@us.mufg.jp 2007 年 11 月 16 日 ワシントン情報 (2007 / No. 45) 米国の輸入品安全性対策と、中国製品リコール問題 米国内では中国からの輸入品の安全性問題が未だ収まる気配を見せず、ワシントン情報 8 月 3 日号(2007/No.34)での報告以降も、危険な製品の発覚とリコールが続いている。Bush 大 統領が 7 月に任命した作業グループ(Interagency Working Group on Import Safety)は、9 月 10 日に輸入品の安全性対策の枠組みを、11 月 6 日に具体的な対策案を発表。米政府はようやく 輸入品の安全性確保に向けた対策の実行に乗り出す動きを見せている。 作業グループ議長の Michael Leavitt 保健福祉長官は、報告書の対象は中国製品に限定されず、 あくまで米国への輸入品全般を対象とすると主張しているが、実際にリコールが続出した米 国内販売の玩具の 80%が中国製品であることを考慮すれば、中国製品が主な対象であること は否定できない。 <終わりの見えない中国製品リコール> ワシントン情報 8 月 3 日号掲載の中国製品リコール事例以降もなお、米国内における中国製 品リコールは続いている。8 月以降も 100 件以上の中国製品のリコールが米国保健福祉省に て報告されている。 図表 1:米国内における中国製品のリコール事例 発生時期 8・9・10 月 8月 品目 玩具 回収個数 約 1,022 千個 ブラインド 約 140 千個 8月 玩具 約 9,328 千個 8・9 月 玩具 約 928 千個 8月 文房具 約 250 千個 8月 ランプ 約 138 千個 8月 小型ナイフ 約 154 千個 リコール概要 Fisher-Price 社(Mattel の子会社)の中国製人形(セサミストリート 他)の塗料から過度の鉛が検出されたため回収。 米大手ホームセンターLowe’ s で販売されたブラインドの紐により、 幼児の首が絞まる事故の起こる危険性が発見されたため回収。 Mattel 社の中国製玩具(バットマン他)から小型磁石が外れる恐れ があるため回収。 Mattel 社の中国製玩具の塗料から過度の鉛が検出されたため、回 収。 Martin Designs 社の中国製ノートの塗料から過度の鉛が検出されたた め回収。 米大型量販店 Sam’ s Club で販売されていた中国製ランプが使用中に 部品の外れる事故が起こり回収。 Gerber Legendary Blades 社の中国製小型ナイフの刃部分が外れ、裂 傷する事故が起こり回収。 Washington D.C. Representative Office 1 8月 電気暖房機 約 281 千個 Aloha Housewares 社の中国製電気暖房機が発火する事故が起こった ため回収。 9月 玩具 約 200 千個 RC2 Corp 社の中国製玩具(トーマス機関車他)の塗料から過度の鉛 が検出されたため回収。 8・10 月 PC 部品・周 約 143 千個 東芝のパソコン内の中国製電池および AC アダプターに発火の恐れ 辺機器 があるため回収。 10 月 食器 約 250 千個 スターバックス社の中国製プラスチックカップの破片により怪我の 恐れがあるため回収。 10 月 玩具 約 43 千個 Amscan 社のハローウィーン仮装用の歯(Ugly Teeth)の塗料から過 度の鉛が検出されたため回収。 11 月 玩具 約 4,000 千個 Spin Master 社の中国製玩具(Aqua Dots)から有毒化学物質が検出さ れ、幼児が飲み込む事故が起きたため回収。 出典:米国保健福祉省ホームページより当駐作成 クリスマス商戦を控えた最近は特に、中国製玩具から過度の鉛が検出される事例が相次いで いる。鉛を過剰に体内に摂取すると知的障害や行動異常を引き起こす可能性があるため、子 供の健康を守る点で重大視されている。9 月 11 日付 New York Times 紙1によれば、鉛を使用 するのはコストを下げるためで、鉛を多量に含んだ塗料は、少量しか含まない塗料の 3 分の 1 の値段だという。興味深い点は、米国の塗布材の鉛規制値 600 mg/kg( 0.06 重量%)に対し て、中国は 90mg/kg(0.009 重量%)と、中国の方が厳しい規制を設けていることである。 しかし実際は、中国当局の監視が行き届かず、中国メーカーは規制を守っていない。 Cincinnati 大学の Clark 教授は「旧ソ連も高い基準を掲げていたが、それを実行できていなか ったのと同じ」と述べる。10 月に回収された玩具 Ugly Teeth の事例では、許容レベルより 100 倍も高い鉛が検出されたという。同教授の現地調査によると、中国製塗料の 26%が、中 国・米国いずれの規制値も満たしていなかった。中国国内の製造業者は、「西側企業からの コスト削減要請が厳しく、鉛含有量が高いがコスト安の塗料を使うしかない」と不満をこぼ している(NY Times 紙記事)。 <輸入品安全性に関する対応策報告書> 止まる気配のない中国製品のリコール問題に、ようやく米政府が対策実施に動きだした。11 月 6 日、米政府は 7 月に設立した作業グループが提出した「輸入品の安全性に関する対策案 (Action Plan for Import Safety)」を発表2。同案の主な内容は以下の通り。 証明書の発行:米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、以下 FDA)が特定国の 危険性の高い食品の生産者に対し、FDA の基準への整合を示す証明書提出を求めること ができるよう FDA の権限を強化。証明書発行により、輸入食品の安全性を確保するだけ でなく、輸入品への監視プロセスを効率化。 1 New York Times. “ Why Lead in Toy Paint? It’ s Cheaper.”September 11, 2007. http://www.nytimes.com/2007/09/11/business/worldbusiness/11lead.html?_r=1&oref=slogin 2 Import Working Group on Import Safety. “ Action Plan for Import Safety.”November 2007. http://www.importsafety.gov/report/actionplan.pdf Washington D.C. Representative Office 2 透明度の向上:証明書の与えられた生産者およびその輸入業者のリストを公開すること により、消費者や販売業者が製品の安全性に関する情報を得やすくする。 輸入品に関する管轄機関間での情報交換の促進:輸入業者、米国税関国境警備局および 他の連邦政府機関が、リアルタイムに米国へ輸入される製品の内容やコンプライアンス に関する情報を交換することにより、手続きを円滑化。 海外における米国のプレゼンス強化:外国の検査機関へのトレーニングを強化すること により、外国政府が米国への輸出品の安全性を確保できるようにする。さらに海外での 米国の存在感を高め、外国の政府や製造業者と協力することにより、米国の安全基準遵 守度を高める。 安全基準の高度化:議会は輸入品の安全性および検査にかかわる機関に対し、必要であ れば、基準を高める権限を付与。 罰則の強化:外国および国内の業者が責任をもって安全な製品を扱うよう促すため、連 邦政府は米国法違反者への罰則を強化。 同報告書は、①危険性の伴う輸入品を米国の瀬戸際で止めるのではなく、サプライチェーン の初段階で製品の安全性を確保すること、及び②輸入品の安全性を管轄する機関の権限強化 を目的としている。11 月 6 日に FDA が発表した、米国の消費者にとっての食品安全性の確 保を目指した「食品保護計画(Food Protection Plan)3」と併せて実施される予定である。 米政府が輸入品の安全性対策を実施するに際し、議会との緊密な連携は不可欠である。すで に議会でも FDA や米国消費者製品安全委員会(Consumer Protect Safety Commission)の権限 強化に関する複数の法案(HR1699、HR2474、HR1721、HR814、HR3610、S1847)が提出さ れている。政権と議会は管轄機関の権限強化については意見が一致しているが、具体的な強 化内容についてどこまで合意できるかが鍵である。Schumer 上院議員(民 New York)は政権 の対策案について、「連邦機関の管理をごた混ぜにしたものであり、消費者が必要としてい る包括的な製品安全情報を提供できるものではない」と批判した。 <中国製品リコールに関する米国内での反響> 8 月に発表された Zogby International 社の調査4では、82%もの米国消費者が中国製品の購入に 懸念を示しており、中国製品に対してマイナスのイメージを持ち始めていることがわかった。 調査結果は以下の通り。 食品以外の中国製品に関しては 69%の消費者が安全性を信じるとしたが、食品に関して は 30%しかいなかった。 89%が米国政府は中国や他の外国へ製品の安全性基準を高めるよう圧力を強めるべきだ と考えている。 45%が中国当局は最近の中国製品リコール問題に真摯に対処していると感じ、46%が疑 問を抱いている。 49%が今後も中国製品を購入すると回答し、43%が購入を止めると回答した。 3 FDA. “ Food Protection Plan.”November 7, 2007. http://www.fda.gov/oc/initiatives/advance/food.html Zogby International. “ Zogby Poll: 82% concerned about buying goods from China.”August 7, 2007. http://www.zogby.com/news/ReadNews.dbm?ID=1344 4 Washington D.C. Representative Office 3 8 月 23 日付 Financial Times 紙5によれば、製品回収による中国側の損害総額は現在のところ 7 億ドル程度であり、2006 年の中国輸出総額の 0.1%足らずに過ぎない。今年はさらに輸出総 額が拡大する見込みであるから、損害の規模はさらに小さいといえる。回収の主な対象とな った玩具は中国からの輸出製品の 1~2%しか占めていないためだ。また米国で販売される玩 具の 80%が中国製のため、中国製玩具を米国市場から完全に排除することは不可能である。 しかし、今後中国製品に対するイメージが悪化し続ければ、中国側の損害が拡大する恐れも あると警告している。 これまでの中国当局の対応は、製造自体の改善よりも、工場の閉鎖や責任者の逮捕など見せ しめ的な罰則を課すことに力を入れているように見受けられる。その結果 Mattel 社の玩具を 製造していた工場責任者が自殺するという事件まで起きた。厳罰は中国としての対応速度を アピールするためであろうが、それだけで中国製品の質が向上するとは考えにくい。 長期的な効果を求めるならば、米国の製品安全基準に見合うように製造レベルを引き上げる ための地道な努力は欠かせない。そのためには、中国の製造業者が米国の安全性基準を徹底 して遵守するようなシステムを、米政府と中国製品を輸入する米国企業が構築する必要があ る。さらには、中国製品は安くて当然という米国消費者の意識を改める必要もあるかもしれ ない。 11 月 15 日に行われた民主党の大統領選挙候補者討論会において、中国製品の安全性が話題 となった。オバマ上院議員が「日本は検査官を中国に派遣して検査・指導を行い、日本が輸 入する食品の安全性確保を図っている」のに対し、米国はそこまでしていないと Bush 政権を 批判した。大統領選挙まで1年を切った米国で大衆受けしやすいのは、中国製品の安全性問 題と、増える一方の対中貿易赤字である。人民元、軍事、外交、イラン・ミヤンマー・スー ダン・北朝鮮・台湾などの国名に絡む話題でも“China”は米国で毎時間、目と耳にする国名 になっている。 (担当:龍野裕香) (e-mail address:ytatsuno@us.mufg.jp) 以下の当行ホームページで過去20件のレポートがご覧になれます。 https://reports.us.bk.mufg.jp/portal/site/menuitem.a896743d8f3a013a2afaaee493ca16a0/ 本レポートは信頼できると思われる情報に基づいて作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではあり ません。また特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。意見、判断の記述は現時点における当駐在員事務所長 の見解に基づくものです。本レポートの提供する情報の利用に関しては、利用者の責任においてご判断願います。また、 当資料は著作物であり、著作権法により保護されております。全文または一部を転載する場合は、出所をご明記くださ い。 本レポートのE-mailによる直接の配信ご希望の場合は、当駐在員事務所長、あるいは担当者にご連絡ください。 5 Financial Times. “ Chinese recalls.”August 23, 2007. http://search.ft.com/ftArticle?queryText=Chinese+recalls&aje=true&id=070823005402&ct=0 Washington D.C. Representative Office 4
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