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MS&AD インシュアランス グループがご提供するリスクマネジメント情報誌
レジリエンス 深めるリスクソリューション
年間シリーズ
∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
∼SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の取り組み∼
仙台防災枠組2015-2030
∼持続可能な社会に向けての第一歩∼
グローバル 広がるリスクソリューション
年間シリーズ
∼海外で羽ばたくためのインフラを求めて∼
中国における自然災害リスク
∼地震リスク・台風リスクの実態と対策の留意点∼
会社法改正を受けたグループリスクマネジメントのあり方
〈シリーズ
(全4回)
〉ニューリスク
第1回 水素社会への期待と課題
太陽光発電システムの事故事例
介護ロボットの導入とリスクマネジメント
緊急時における情報共有の取り組みについて
リスクマネジメント協会
(RIMS)
2015 年次総会報告
Vol.
54
2015
summer
Vol.
54
※執筆者の所属等は執筆当時のものです。
2015
summer
レジリエンス 深めるリスクソリューション
年間シリーズ
∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼
01
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
∼SIP
(戦略的イノベーション創造プログラム)
の取り組み∼
レジリエンス 深めるリスクソリューション
年間シリーズ
∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼
09
仙台防災枠組2015-2030
∼持続可能な社会に向けての第一歩∼
グローバル 広がるリスクソリューション
年間シリーズ
∼海外で羽ばたくためのインフラを求めて∼
14
中国における自然災害リスク
∼地震リスク・台風リスクの実態と対策の留意点∼
グループリスクマネジメント
〈ニューリスク〉水素社会
会社法改正を受けた
グループリスクマネジメントのあり方
〈シリーズ
(全4回)
〉
ニューリスク
第1回 水素社会への期待と課題
20
24
太陽光発電
太陽光発電システムの事故事例
28
介護ロボット
介護ロボットの導入とリスクマネジメント
33
緊急時情報共有
緊急時における情報共有の取り組みについて
39
RIMS年次総会
リスクマネジメント協会
(RIMS)
2015
年次総会報告
43
災害・事故情報〈対象期間:2015年3月∼5月〉
47
インターリスク総研からのお知らせ
49
内容紹介
ム
(SIP)
」
の一つである
「レジリエントな防災・減災機能の強化の取り組み」
についてお話をうかがった。
第1回目は第3回国連防災世界会議開催までの流れと当該会議で採択された「仙台防災枠組」について解説する。
台風リスクに焦点を当て、その実態を明らかにするとともに対策を講じる上での留意点についても解説する。
会社法の施行後、はじめて行われる本格的な改正である。改正法を受けて特に「グループリスクマネジメント」に関して企業に求めら
れる対応について、実務経験や見通しも交えつつ考察する。
本格的な普及に関しては経済性や安全性の確保など、まだいくつかの課題を抱えている。水素社会の基本概念、その利点と課題に
ついて改めて整理し、今後の発展の可能性を探り、その中で課題解決に向けた産学官の取り組みについても紹介する。
風荷重を契機とする事故など、重大事故の現象面を俯瞰(ふかん)していただいた。
途上にある。介護ロボットに関する動向を紹介した上で、介護ロボット導入時のリスクマネジメントについて考察する。
に使用できなくなる可能性が高い。緊急時における拠点間の情報共有の取り組みとして移動通信ツールに着目し、これらの特徴と
有効に機能させるための運用方法について解説する。
況についても言及する。
RIMS 年次総会
米国ニューオーリンズで開催された2015年のリスクマネジメント協会(RIMS)年次総会について、基調講演の内容、開催セッション
の概要、交通リスクに関する特定セッションの具体的内容とそこから得られた知見などを報告する。ドローン、薬物関連の米国の状
緊急時情報共有
地震などの大規模災害が発生すると、停電や各通信会社の規制による輻輳(ふくそう)等により通常使用している通信ツールが十分
介護ロボット
介護ロボットの市場は今後、急拡大することが想定されるが、市場規模の拡大に伴い、機器利用に伴う事故等の発生が懸念され
る。生活支援ロボットの国際安全規格が発行される一方、福祉施設等介護ロボット導入の現場におけるリスクマネジメントはいまだ
太陽光発電
太陽光発電設備は歴史が浅く、事故・災害対策の面において解決されるべき課題が多い。太陽光発電設備に関する各種事故の現象
および事故発生の物理機構に関心を寄せ調査と研究を行ってこられた吉富電気の技術・代表取締役吉富政宣氏に火災や雪荷重/
〈ニューリスク〉
水素社会
水素社会実現に向けて、水素が電気や熱エネルギーを保存する機能があるなど、水素固有の利点がある一方で、水素エネルギーの
グループリスク
マネジメント
2015年5月施行の会社法改正は、コーポレート・ガバナンスの強化および親子会社に関する規律等の整備を図ることを目的として、
中国における自然災害リスク
日本と同様に中国も自然災害大国であり、中国での事業展開にあたり中国の自然災害リスクは「チャイナリスク」と同等あるいは
それ以上に考慮に入れるべき視点である。中国における自然災害リスクのうち、大規模な損害をもたらしやすい地震リスクおよび
仙台防災枠組 2015-2030
2015年は「防災・減災」
「持続可能な開発」、そして「気候変動」という国際的な政策枠組みが同時に更新される重要な年である。
本シリーズでは三つの政策枠組みの概要を紹介するとともに、それらがどう持続可能な社会の実現に結びつくかを紹介していく。
レジリエントな防災・
減災機能の強化に向けて
本年度は、
「レジリエンス ∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼」
と題して有識者から寄稿いただき巻頭の特集を組む。
第1回目は京都大学防災研究所の中島正愛教授に、同教授がプログラムディレクターを務める
「戦略的イノベーション創造プログラ
∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
∼SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の取り組み∼
【お話をうかがった方】
京都大学
防災研究所 教授
【聞き手】
株式会社インターリスク総研
総合企画部 市場創生チーム
中島 正 愛 氏
上席コンサルタント 長 谷川 泰
1.はじめに
て、災害を起こす事象の予測と究明、予防のための技術開発、
危機管理、災害後の対応や復旧等、
「災害学理の追求と防災に
我が国は豊かな自然に恵まれている反面、地震・津波、台風、
関する総合的・実践的な研究の推進」をミッションとして、総
噴火、洪水などに代表される自然災害が多発する国でもありま
合的に研究と教育を展開しています。地震・津波、火山噴火、
す。2011年東日本大震災は、我が国の社会経済に甚大な被害
台風、豪雨や土砂崩れ・地滑りなどに代表される様々な自然災
をもたらし、現在でもその影響は様々な形で爪痕を残していま
害を対象とし、理学、工学、社会科学、情報学等の幅広い分野
す。地震以外でも頻発する集中豪雨や台風の影響による洪水や
の専門家や研究員が在籍しています。京都大学では伝統的に
土砂災害、局地的な突風被害や噴火による被害などに対して、
フィールド科学を重視しており、防災研究所も、現地で自然の
いかにして個人や企業・地域社会の被害を防止し、あるいは致
中に身を置いて「科学する」という伝統を引き継ぎながら、観
命的なものにせず迅速に回復させるかが重要な課題となって
測や実験等に力を入れています。ですから地震の揺れを再現す
います。
る振動台にしても、台風等に関わる風洞実験にしても、大学の
本年度は、
「レジリエンス∼強さとしなやかさ、持続可能な社
研究機関にしては、比較的大がかりな実験設備を保有すると
会をめざして∼」と題して、各界の有識者から寄稿いただき巻
ともに、北は新潟から南は鹿児島まで全国15箇所に実験所・観
頭の特集を組みます。
測所を展開しています。また、防災研究は日本に限らずグロー
シリーズ第1回の本稿では、京都大学防災研究所の中島正愛
バルな課題ですから、海外からも多くの研究者や留学生を受け
教授に、同研究所の紹介のほか、同教授がプログラムディレク
入れており、外国籍の教員も複数在籍しています。さらに、海
ターを務める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の
外の多数の大学等と研究交流協定を結び、共同研究や研究集
プロジェクトの一つである「レジリエントな防災・減災機能の強
会などを通して、防災に関する国際的な研究教育拠点としての
化」の取り組みについてお話をうかがいました。
役割を果たしています。
防災研究所における研究の対象領域は大きく四つに分かれ
ており、①地震や火山災害メカニズムの解明と関連防災技術を
2.
京都大学防災研究所について 研究する
「地震・火山研究グループ」、②大気・水に関わる災害
の防止と軽減や、水環境の保全を研究する
「大気・水研究グルー
プ」、③地表変動による地盤災害の予測と軽減を研究する
「地
Q.京都大学の防災研究所はどのような機関ですか。
盤研究グループ」、④さらにこれらの災害事象を横串にして、災
害に強い社会の実現に資する科学と技術の総合化を目指す
防災研究所は、1951年に西日本を襲ったジェーン台風による
被害を契機にして、1952年に創設された研究機関です。約100
名の常勤研究者を筆頭に、多数の研究者と大学院生が集まっ
1 RMFOCUS Vol.54
「総合防災研究グループ」、
があります。
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
3.
SIP
1)
(戦略的イノベーション創造プログラム)
とって真に重要な社会的課題や日本経済再生に寄与できる課題
(計10課題)
(図1)に取り組みます。各課題において、プログラ
ムディレクターを中心に産学官連携を図り、基礎研究から実用
化・事業化、出口戦略までを一気通貫で推進するものです。
てください。
これまでの国の防災・減災研究開発に関連する施策は、関連
省庁がおのおの管轄する分野について個別に予算を獲得して執
行し、それらを内閣府が総合的に調整するという流れでした。
SIPは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔
そのような事後的に調整するやり方では、あるべき防災・減災
の機能を発揮する、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメン
の実現に向けた予算配分が難しいという現実を踏まえ、SIPで
トによる、科学技術イノベーション実現のために創設された国
は、同会議が自ら司令塔として、予算要求の段階から一括して
家プロジェクトです。日本の経済再生と持続的経済成長を実現
全体最適化を図りつつ施策をコントロールするという方法を採
するには、科学技術イノベーションが不可欠であり、同会議で
ることにしたわけです。これが従来とは異なる新機軸であり、府
は、内閣総理大臣や科学技術政策担当大臣のリーダーシップ
省連携の実効性を確保する仕組みとして機能するものです。
の下で、国全体の科学技術を俯瞰(ふかん)する立場から総合
SIPには、総合科学技術・イノベーション会議のメンバーと、
的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案や総合
諮問される有識者で構成されるガバニングボードという組織
調整を進めています。会議の司令塔機能を強化する目的で打
があります(図2)。SIPの着実な推進を図るために、各課題の
ち出された新機軸の施策の一つがSIPです。SIPでは、国民に
研究開発計画、予算配分、フォローアップ等について審議・検
対象課題
研究開発計画の基本的事項
革新的燃焼技術
若手エンジン研究者が激減する中、研究を再興し、最大熱効率50%の革新的燃焼技術
(現在は40%程度)
を実現し、
省エネ、CO2 削減に寄与。日本の自動車産業の競争力を維持・強化。
次世代パワーエレクトロニクス
現状比で損失1/2、体積1/4 の画期的なパワーエレクトロニクスを実現し、省エネ、再生可能エネルギーの導入拡大に
寄与。併せて、大規模市場を創出、世界シェアを拡大。
革新的構造材料
軽量で耐熱・耐環境性等に優れた画期的な材料の開発及び航空機等への実機適用を加速し、省エネ、CO2削減に寄
与。併せて、
日本の部素材産業の競争力を維持・強化。
エネルギーキャリア
再生可能エネルギー等を起源とする電気・水素等により、
クリーンかつ経済的でセキュリティーレベルも高い社会を構築
し、世界に向けて発信。
次世代海洋資源調査技術
銅、亜鉛、
レアメタル等を含む、海底熱水鉱床、
コバルトリッチクラスト等の海洋資源を高効率に調査する技術を世界に
先駆けて確立し、海洋資源調査産業を創出。
自動走行システム
自動走行
(自動運転)
も含む新たな交通システムを実現。事故や渋滞を抜本的に削減、移動の利便性を飛躍的に向上。
インフラ維持管理・更新・
マネジメント技術
インフラ高齢化による重大事故リスクの顕在化・維持費用の不足が懸念される中、予防保全による維持管理水準の向
上を低コストで実現。併せて、継続的な維持管理市場を創造するとともに、海外展開を推進。
レジリエントな防災・減災機能の
強化
大地震・津波、豪雨・竜巻等の自然災害に備え、官民挙げて災害情報をリアルタイムで共有する仕組みを構築、予防力
の向上と対応力の強化を実現。
次世代農林水産業創造技術
農政改革と一体的に、革新的生産システム、新たな育種・植物保護、新機能開拓を実現し、新規就農者、農業・農村の所
得の増大に寄与。併せて、生活の質の向上、関連産業の拡大、世界的食料問題に貢献。
革新的設計生産技術
地域の企業や個人のアイデアやノウハウを活かし、時間的・地理的制約を打破する新たなものづくりスタイルを確立。
企業・個人ユーザニーズに迅速に応える高付加価値な製品設計・製造を可能とし、産業・地域の競争力を強化。
【図1】SIPが対象とする10の課題の概要
(出典:内閣府HP 戦略的イノベーション創造プログラム
(S
I
P)
の概要/平成26 年度S
I
P
(戦略的イノベーション創造プログラム)
の実施方針 資料を基に
(最終アクセス2015年5月29日)
)
インターリスク総研作成<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sipjisshihoushin.pdf>
【図2】SIP実施体制の概要
(出典:
『レジリエントな防災・減災機能の強化』推進委員会
(第1回)資料1-1「SIP概要」
<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/iinkai/bousai_1/1_bousai_shiryou_1-1.pdf>
(最終アクセス2015年5月29日)
)
RMFOCUS Vol.54 2
レジリエントな防災・
減災機能の強化に向けて
Q.SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)について教え
討を行うための運営組織です。SIPの研究活動は、毎年評価や
重要なことは、想定を超える災害は起こりうるということと、
助言をガバニングボードから受けています。SIPの各課題の進
災害が起きた場合、無傷ではいられないということを、専門家
捗は毎年度末にガバニングボードに報告され、その評価の結
だけが納得しているのではなく、広く社会に伝えなければなら
果が次年度のSIPの実施方針等に反映されます。そのようにし
ないということです。例えば「堤防の高さは6メートルの津波を
てSIPの各課題の進捗が管理されることになります。
想定してつくります、しかし、その想定を超える津波が500年に1
度程度の割合で襲来します」ということをしっかりと伝えること
Q.実際にSIPが始まってから1年間活動されて進捗はいかが
ですか。
が大切です。もう一つ忘れてはならないのが、そうした災害が起
きた場合、無傷ではいられないけれど、その傷をどれだけ浅く
とどめるか、さらに負った傷からどれだけ早く立ち直るか、を考
府省連携を強く意識し、また研究の成果が社会へ還元され
えた対策を講じる必要性です。
「想定外にも備える」という言
ずに単なる開発にとどまることのないよう、社会実装までを視
葉には、このような意味が込められています。そこに従来の防
野に入れ具体的な出口戦略を描いて研究に取り組んでいます。
災概念からのパラダイムシフトがあります。
3年後、5年後のゴールを明確に設定し、成果物を具体的に要求
「レジリエンス」はそのような考え方に立って使われるように
する点で、他の一般的な研究開発プロジェクトとはかなり性質
なった言葉です。第2回国連防災世界会議(2005年1月)で採択さ
が異なります。内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司
れた「兵庫行動枠組」の正式名称(英文)にレジリエンスという
令塔機能を発揮しつつ、研究活動が着実に進捗していると感じ
言葉が使われています2)。それが示すところは、前述のように想
ています。
定外に事象が起きると、完全に無傷にとどめることはできない、
だから傷をある程度受けるということは覚悟する、そして傷を受
Q.「レジリエントな防災・減災機能の強化」について教えてく
ださい。
けるのであればその傷をできるだけ浅くする、という発想です。
また、現代の企業活動で考えるならば、避けられない被害に対
して、例えば製造工程等のダウンタイムをどれだけ短くするかを
SIPが対象とする10の課題の中の一つで、巨大災害に負けな
考える、というものです。
「被害は防げばいい、だから被害を受け
い「レジリエント(強靭)な社会」の構築を目指すプロジェクト
た場合のことは知らない」という考え方を改め、被災後速やかに
です。様々な自然災害を経験する中で、防災・減災機能を強化
回復させることにも思いを馳せること、がレジリエンスという言
することが、我が国にとって、喫緊かつ重要な中核課題である
葉に込められています。
ことはいうまでもありません。
「レジリエントな防災・減災機能
防災・減災を考えるときに、新しい変化がもう一つあります。
の強化」は、大地震・津波、豪雨・竜巻等の自然災害に備えて、
それは、特に先進国における経済社会情勢の変化、価値観の
最新の科学技術を最大限に活用して災害情報のリアルタイム予
変化によるもので、生活の質、つまりQOL(Quality of Life)
測を実現するとともに、官民あげてその情報をリアルタイムで
の追求、そして企業活動における事業継続性の重視です。個人
共有する仕組みをICTにより構築すること、また国民一人ひとり
の生活について見れば、災害を生き延びたからといって、一世
の防災力や予防力の向上と対応力の強化を目指します。
代前のように「死ななかったからよかった」、では済まない状
東日本大震災では、想定を超える規模の災害という意味で
況です。被災直後にも生活の質(QOL)をいかにして維持でき
「想定外」という言葉がよく使われました。この「想定外」とい
るか、が問われる時代になりました。また企業の活動では、製
うキーワードには、二つの意味があります。一つは文字どおり
造・物流のグローバル化に伴うサプライチェーンの高度化など
本当の想定外です。そのようなことが起こるとは誰一人として
を背景に、企業が災害に対してレジリエントであること、被災後
思わなかった場合です。第二の想定外は、工学が入ってきた時
も事業を中断せずに継続すること、あるいは中断したとしても
に起こる想定外です。理学的にはこのような大きな災害が起こ
迅速に事業を再開することが、国内だけでなくグローバルなレ
りうるとした場合でも、工学的にはそれはどれくらいの頻度で
ベルでの要求事項になりました。個人の生活にしても企業の活
起こるかと考えます。その答えが1万年に1回であれば、起こる
動にしても、継続性(Continuity)をいかに確保していくか、が
確率は極めて低いと考えます。1万年に1回の災害に備えるため
問われているのです。SIPの10の課題(プロジェクト)の一つと
には堤防の高さを数十メートルにする必要があると聞けば、そ
して、このようなテーマに取り組む「レジリエントな防災・減災
もそも堤防の寿命は100年程度なのだから、費用対効果を考
機能の強化」が採択されたわけです。
えなければならないと主張し、その結果、現実感のある堤防
の高さを算定します。このように費用対効果を考えて決めた限
Q.府省連携と社会実装について説明してください。
界を超える場合の「想定外」があるわけです。東日本大震災
ではその意味での想定外の事象が現実に起こりました。こち
科学技術の研究開発はもとより、その帰結として、いかにし
らの想定外については、東日本大震災の教訓として、それを座
てレジリエントな社会を構築するか、最先端の科学技術を駆
視してはいけないということがよく分かりました。
使しつつその応用を通じてどう社会実装につなげていくかが
3 RMFOCUS Vol.54
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
レジリエントな防災・
減災機能の強化に向けて
【図3】研究開発のシナリオ:三つの基本テーマ
(出典:内閣府HPより
「レジリエントな防災・減災機能の強化 リアルタイムな災害情報の共有と利活用」
(平成26年12月4日
内閣府プログラムディレクター中島正愛)
SIP
(戦略的イノベーション創造プログラム)
より抜粋
<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sympo1412/pdf/sip08-1.pdf>
(最終アクセス2015年5月29日)
)
重要な課題であり、それを解決することを目的としています。災
害を
「予測する」
「 予防する」
「 対応する」
( 図3)
という三つの基
Q.プロジェクトの三つの基本テーマ「予測」
「予防」
「対応」
について、具体的な技術分野を教えてください。
本テーマを軸として、
それぞれに最新技術を応用して、
これまで
と比べれば格段に防災・減災能力が向上することを可能にする
3)
「リアルタイム予測」 の実現を考えています。災害の発生を予
測する仕組みについては、まず府省連携で災害関連情報を共
災害について、予測する、予防する、対応する、この三つの
テーマに最新の科学技術をうまく応用して、産業や地域の防災
能力が向上するような仕組みを考えています。
有する、そして個々の情報をつなげたものをさらに共有し、それ
「予測」では津波予測技術や豪雨・竜巻予測技術を中心に、
ができたら次に地域の自治体等の防災・減災に役立つ「予測シ
「予防」では液状化対策技術を中心に進めます。
「対応」では、
ステム」
としてそれを全国展開する、
という流れになります。防災
まず府省連携で情報を共有できるようにネットワークをつない
には多くの課題・テーマがありますが、後述するように、幾つか
で、その情報網の中にすぐに役立つ被害推定システムなどを実
の限られた課題だけを本プロジェクトで取り上げていますが、
装することとし、それを中央省庁だけでなく地方の自治体や地
その背景には、府省連携による社会的課題の解決という目標が
域・企業に展開することによって、巨大災害に対する「対応力を
あります。
つまり、省庁が単独で従来の枠組みの中でできること
強化すること」を最終的に目指します(次頁図4)。
をSIPは基本的に対象としていません。例えば建物の耐震強化
という取り組みは防災上極めて重要ですが、
より実務に近いレ
Q.出口戦略について教えてください。
ベルで、すでに社会実装への適用が進んでいる分野ですから、
SIPの対象には入らないということです。省庁が単独では取り組
今回のプロジェクトが通常の研究開発と違うのは、社会実装
めない施策、省庁横断でこそ実が上がる施策を優先して取り組
と出口戦略を強く訴えている点です。研究開発の結果を具体
むのがSIPの特徴です。省だけをみても総務省、国土交通省、文
的にどのような防災・減災の実践につなげるかを重視していま
部科学省、農林水産省、厚生労働省の五つが本プロジェクトに
す。研究開始から3年後にどのようなプロダクト
(成果物)を出
参加しており、その下部組織も含めると、連携する省庁の数で
せるか、5年後にはさらにどのような形で社会実装にまでこぎつ
は他のSIPには例をみない規模です。
けるか、
という社会実装レベルでの具体的目標を設定していま
各省庁は管轄する分野が異なりますし、それを扱う組織・文
す。
プロジェクトへの投資効果を最大限に引き出すために、開
化も独自の特徴と強みを持っています。府省がうまく連携でき
発した成果物を本プロジェクトの終了後も実際に使ってもらい
れば、共通する課題の解決に向けてそれぞれの機能を効果的
続けるための仕組みを、出口戦略として今から整えることにも
に発揮できることになります。SIPは予算配分の開始段階から
注力します。
プロジェクトで扱う科学技術が応用につながらず、
総合科学技術・イノベーション会議が司令塔としての機能を発
研究が終わったらそこで消えてしまうのでは意味がありませ
揮して、府省連携で取り組む国家プロジェクトです。
ん。実際に施策を実行する官庁に具体的な成果物(応用技術)
を移転して、使ってもらうことが重要です。例えば気象庁の「豪
RMFOCUS Vol.54 4
【図4】対象分野と研究開発項目
(出典:内閣府HPより
「レジリエントな防災・減災機能の強化 リアルタイムな災害情報の共有と利活用」
(平成26年12月4日、
内閣府プログラムディレクター中島正愛)
SIP
(戦略的イノベーション創造プログラム)
より抜粋
<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sympo1412/pdf/sip08-1.pdf>
(最終アクセス2015年5月29日)
)
雨予測」に、本プロジェクトで開発した最新技術を使ってもら
する、そのような局面においても、今回のプロジェクトの成果物
う等です。
を災害対応の第一線を担う省庁や内閣府(防災)が活用するこ
とを期待しています。被害推定に関わる情報発信は、災害直後
Q.リアルタイムな災害情報の共有について教えてください。
などの緊急時に、企業や個人が間違いのない判断と行動を選
択する材料として重要な意味を持ちます。
災害が起こったときの迅速な「対応」
を可能にするのが、
リア
ルタイムな災害予測と被害推定情報の共有です。道路啓開
4)
そのほかに、情報の内容によっては、被災自治体にも有用な
情報が提供できますし、企業や企業が属する地域の災害対応
(国土交通省)や緊急時医療(厚生労働省)など、いざというと
に有効な情報を提供したいと思っています。発生した災害にど
きに最前線で対応することが求められる国の行政機関に、本
のように迅速に対応すべきか、緊急対応が求められる状況で
プロジェクトの成果物(応用技術)を、災害に備えてあらかじ
周囲の被害情報を各企業が独自に収集するのは困難でしょう。
め「埋め込んでおく」、それにより災害の性質や被害想定等の
「(現在推定される)被害状況はこれです」
という情報を、本プ
情報をリアルタイム(即時/同時)に提供する仕組みを作るこ
ロジェクトが作る仕組みによって示すことができれば、そこから
とです。各省庁がそのミッションに応じて災害に
「対応する」場
各企業が独自のBCP(Business Continuity Plan:事業継
合、その災害がいかなるものであるかを発災時に正確かつ迅
続計画)に基づいて対応活動を始めることができます。判断と
速に把握することが不可欠です。
この「把握する」
ための情報を
行動のよりどころとなる災害のインプット情報を、最先端の科
各省庁が個別に収集しなければならないとしたら、それこそ重
学技術を応用してリアルタイムで発信することがポイントです。
複で非効率極まりありません。共有できる質の高い情報をすば
これも出口戦略の一環であるととらえています。
やく受け取る、そこから先が各省庁の本来のミッションです。新
しい技術が次世代の情報提供の主流になることを認識した上
で、関連する機関にそれを活用してもらうこと、
これも出口戦略
Q.委員会に気象庁や他の省庁の方が出席していますが、省
庁からはどのようなインプットの要望がありますか。
の一つです。繰り返しになりますが、その際の情報収集と提供
プロセスの重複を避ける意味でも府省連携は重要です。
省庁の方々は本プロジェクト内の各チームに参加して、かな
さらに重要な点として、政府は、災害発生直後に迅速に被害
り密接な議論を交わしています。例えば、現在の津波警報は、
を推定し、短い時間で重要な決断を下さなければなりません
海岸線で何分後に何メートルの高さの津波が到来するかを教
が、情報過多では早くて正確な意思決定はできないことが挙げ
えてくれます。ところが実際の避難行動にはそれだけの情報で
られます。情報を取捨選択し大きな意味で間違いのない判断を
は十分ではない場合があります。そこで本プロジェクトのある
5 RMFOCUS Vol.54
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
ラ豪雨や竜巻などを観測する「マルチパラメータ(MP)フェー
ことを目指しています。ただ逃げればいいといっても、若くてい
ズドアレイレーダ」5)など、世界最先端といえる技術が幾つも
くらでも走れる人はよいとしても、そうでない人達にとっては、
あります。積乱雲の発達過程を30秒毎にとらえて、豪雨を1時
津波で浸水する場所、しない場所を具体的に知ることができる
間前に予測できるとすれば、それは画期的なことです。本プロ
かどうかで避難行動が違います。また、緊急時対応における限
ジェクトが開発する諸技術を、経済発展が著しい一方で多種
られた資源配置もかなり異なってきます。このように、津波警
多様な災害に見まわれるアジア圏諸国に移転することを考え
報の高度化には大きな期待が寄せられています。
ています。また災害情報共有システムは、災害情報に関する技
Q.社会実装の地方への展開について教えてください。
術の基盤であり、この基盤を活用することによって、建設産業
や情報産業等が開発する災害関連情報を共有し配信する技術
の国際展開が飛躍的に促進されます。
出口戦略の重要なポイントとして、これまで述べてきた最新
それを可能にするのは、やはりハードです。一方、それだけ
の科学技術による災害情報の共有と利活用を、地方自治体をは
で国際展開(輸出)が進むわけではなく、当然仕組みとしての
じめ全国の地域に浸透させることがあります。リアルタイムな
ソフトも大切です。また海外展開の場合、忘れてはならないの
災害情報を駆使して地域の災害直後対応力の強化につなげる
は、ソフトは相手国の事情に左右されるということです。同じ
技術を、全国の地方自治体や企業に展開するのです。その際、
ハードでも、そのデータを使ってどう防災に応用するかは地域性
地域によって災害や防災の前提となる諸条件が異なるため、地
(ローカリティ)に依存します。どのような価格帯や性能レベル
域性(ローカリティ)を踏まえて対策を講じなければいけませ
で販売するかも考えつつ、ソフトとセットで輸出しないと、製品
ん。津波の規模が同じでも、地域によって被害は異なります。
の性能や良さが生かされない可能性があります。また、日本の
国の行政における役割は重要ですが、そうかといって中央集権
企業が、これまでの取り引きの中で、どれだけ当該国に深く入
だけではうまくいきません。国が一律の国家マニュアルを作っ
り込んでいるのか、どれだけ活動の基盤を築いているかもまた
ても、各地域の対策に生かされない恐れがあります。そのため
重要です。ソフトとセットで輸出する場合には、ソフトを使用す
地域が自らの特性に合わせて活動計画を策定することが重要
る現地の人々と、どのように親密な関係(コネクション)を事前
であり、各地域で防災・減災を考える拠点(「地域災害連携研
に築けているかが重要です。繰り返しになりますが、まず輸出
究センター」)を設置することで、活動がうまく展開できるので
する製品(ハード)が重要で、合わせてソフトも充実しないと製
はないかと考えます。
品は売れません。本プロジェクトとしては、知的財産の保護や
それには地域の大学が拠点になることが有効です。多くの大
学(すでに70大学以上)
では、東日本大震災以降に災害防災セ
ンター等の組織が学内に設置されました。一義的には大学内
の防災を目的としていますが、地域防災にも貢献する機能を備
えていることが少なくありません。
このように地方の大学が各
国際標準化にも配慮した上で、様々な機会を通じて積極的に日
本の防災技術をアピールしていきます。
Q.海外展開を考えたとき、諸外国の水の災害についてどのよ
うにお考えですか。
地域で頼られる存在になって、大学内に作られつつある災害防
災センター等の組織を有機的に活用することで、地域性(ロー
我が国は地震国ですから、地震防災のノウハウについては多
カリティ)に応じたきめ細かな防災・減災対策の取り組みが進
くの蓄積があります。それに対して、諸外国の多くにとって、地
展するだけでなく、地元の企業にとっても、
この組織が重要な
震は発生すれば被害は甚大だけれども頻度は決して高くない、
情報提供の場になると考えています。国は地域を対象にして情
いわゆる低頻度大災害であり、そのような災害への対処は国に
報を提供し、それをどう活用するかは地域性(ローカリティ)に
経済的な余裕がなければ難しい側面があります。一方で、豪雨
したがって地域が考える、そのような展開を期待しており、その
や土砂災害は世界のいたるところで発生する、頻度の高い災害
機運を盛り上げることもまた出口戦略の一つです。
です。世界的にみれば、豪雨災害関連の技術展開への優先度
は高いと考えています。
4.
海外展開
Q.海外展開について教えてください。
防災に関して海外展開のコアになるのは、やはり関連設備
装置などのハード面だと思います。防災の仕組みというソフト
だけで展開していくのは難しいです。我が国には、例えばゲリ
RMFOCUS Vol.54 6
レジリエントな防災・
減災機能の強化に向けて
チームは、陸地のどこまで浸水するかという情報まで提供する
5.
国連防災会議について
防災技術の世界展開を考える場合、まず肝に銘ずべきは、同
じ機能をそのままでは使ってもらえないことを踏まえた上で、
ではどうすれば活用してもらえるのか、そこまで丁寧に考えてい
Q.第3回国連防災会議(2015年3月)を踏まえて、グローバル
くことの必要性です。
な視点からの防災についてコメントいただけますか。
仙台で3月に開催された第3回国連防災会議では、課題や
6.
開発ロードマップについて
テーマが多岐にわたる中で、関係各機関が防災・減災のために
積極的に投資しなくてはならない、また相互協力(コラボレー
ション)しなくてはならない、という重要なメッセージを発信で
Q.研究開発ロードマップについて教えてください。
きた点で有意義だったと考えます。防災・減災は世界の共通課
題であるということが再認識されました。
5年間のプロジェクト
(2014年∼2018年)の1年目が終了した
しかし、防災の取り組みについて国際レベルで相互協力する
ところです。あと4年残っています。初年度(2014年)から3年後
ことを具体的に考える場合、自然現象は同一であっても、社会
(2016年)にどのような技術が実現しているか、また開発技術
システムの違いによって災害の影響やそれへの対応も異なって
の社会実装としてどのようなプロトタイプを描けているか、
とい
くるという問題があります。例えば、ネパールにおける地震の事
う評価が入ります。そして5年目終了時(2018年)には、その集
例をみると、レンガ造りの建物が中心の国であることから、日
大成として、初期に描いた成果物がどれだけ実現したかに対す
本における対応とは当然異なります。耐震強化が必要なことは
る評価を受けることになります。
このようなスケジュールでガバ
いうまでもありませんが、どのように対策を現実的に実施して
ニングボードが厳しくチェックします。評価にあたっては、数値
いくかは、国の事情によって違います。
が重視されます。
したがって成果は計量化可能なものでなけれ
米国に目を移しますと、防災対策は大いに進んでいますが、
ばいけません。津波であれば、
「 数分以内に」
どこが浸水したか
地震に限ればここ20年間は大きな地震を経験していないことも
がわかるシステムを作る、豪雨であれば、当該地域に対して、
「1
あって、技術的な進展はそれほどみられません。台風について
時間前に」
どのような被害に遭うかを知りうる技術を開発す
は、サンディなど大規模な災害を経験しているので、ノウハウの
る、地震なら、発災後、
「 30秒後に」
この地震によって街の被害
蓄積があります。特に超大規模災害発生時における人的資源
はどれくらいになるかがわかる技術を作る、等です。
これらは非
の投入に関するノウハウは特筆すべきで、具体的な対応局面で
常にチャレンジングかつ実現へのハードルが高いミッションで
大いに参考になるでしょう。ただ、ネパールの地震における教
すが、皆で力をあわせてなんとか達成にこぎ着けたいと思って
訓にもあるように、社会システムが違うと防災技術の直輸入は
います
(図5)。
難しいでしょう。
【図5】5年後の成果の例
(豪雨予測)
(出典:内閣府HPより 中島正愛「災害大国を生き抜き、
未来へと繋ぐ社会を目指して」SIPシンポジウム2014講演資料
<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sympo1412/pdf/sip08-2.pdf>
(最終アクセス2015年5月29日)
)
7 RMFOCUS Vol.54
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
レジリエントな防災・減災機能の強化に向けて
7.
産学官の連携・企業に求められること
枚」であっても情報がつながるシステムが重要です。皆さんご
承知のように、情報がつながらないことが緊急時対応において
最も致命的です。通信システムをどうやって確保するか、モバイ
Q.企業はどのように対応することが求められますか。
ル端末を持ってバイクであるいはヘリコプターで現地に入るな
最新鋭の技術をもって防災・減災能力を高めることを目的
としていますので、大きなレーダー、広範に配備するセンサー
等どれをとっても、ハードの開発のために産業界の協力が不
関連の技術も、本プロジェクトのテーマにしています。
以上のように、企業にはたいへん多くの役割を期待していま
す。ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
可欠です。液状化対策技術について見れば、いろいろな地域
に数多くの石油コンビナート等の重要施設が現存しており、
巨大地震によって液状化が発生するときわめて危険な地域が
貴重なお話をおうかがいすることができました。本日はあり
少なくありません。一方、補強の方法は山ほどありますが、そ
がとうございます。
の多くでは長期間にわたって施設の操業を停止しなければな
(このインタビューは2015年5月8日に行われたものです。)
らず、それができない施設については、操業を続けながら補
強する方法を探らなければいけません。そのためには、地盤
以上
改良や液状化防止策について事業を止めずに継続しながら補
強工事を行う方法を、建設系の科学技術を駆使して開発する
必要があります。技術開発は産業界が主体的に実施するもの
であって、国だけでは到底実現できません。科学技術の研究
開発における局面では、産学官連携の本プロジェクトに貢献
できる科学技術を産業界から提供して欲しい、ついては積極
的に本プロジェクトに参画していただきたい、という期待があ
ります。
さらにそれらの技術開発を受けて、自らの産業を災害から
守って欲しいという期待もあります。本プロジェクトの成果物
を、産業界の持続的発展のために積極的に利活用していただ
きたいと思います。そのためには、成果物を使う側として、被
災時における全体像を具体的に考えてみてください。発災時に
注)
は、何が起こっているかがすぐにわかるように、本プロジェクト
1)
SIP:
Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
の成果物である様々な災害関連情報をリアルタイムで配信しま
す。それを受けて企業が自らのBCPに基づいて、どう行動すべ
きか、自社の事業をどう守るのか、さらに個人レベルでは「私
の人生はその時どうなるのか」を考えて欲しいということです。
企業にとって、事業を継続することはもちろんのことですが、そ
の大前提として従業員の命を守ること、発災後に従業員の安
否を確認することも大切です。有事の情報収集においても、リ
アルタイム情報発信の新技術は役に立ちます。もちろん、従業
員や企業の存続の基盤である地域と協働して災害に対処する
ことの大切さはいうまでもありません。
活用する立場から、様々な点において改善に向けたフィード
バックや要望を出してもらうことも大事です。そのような具体的
な活動は、国レベルで行うよりも、むしろ地域連携センター等
の組織への参画など、地域内連携によって推進することが望ま
しいと考えます。
また、通信関係の技術についても産業界に大いに期待してい
ます。平常時は問題がなくても、有事の際には普段使えるメディ
アが途絶えます。最も被害が甚大な地域にマイクロバスで乗り
2)
レジリエンス:
第2回国連防災世界会議のプログラム成果文書の邦訳は
「災害に強い国・コ
ミュニティの構築:兵庫行動枠組2005−2015」
。英文の正式名称は"Hyogo
Framework for Action 2005-2015:building the resilience of
nations and communities to disasters"であり、
レジリエンスという言
葉が使われている
3)リアルタイム予測:
政府資料では、当該研究計画の概要の中で、
「
(最新科学技術の最大限活用
という)新機軸によって、
『早い察知(予測)』、
『予防力限界の事前把握(予
防)』、
『 先手必勝
(対応)』、要するに
『リアルタイム予測』
を実現する」
としてい
る
(内閣府政策統括官
(科学技術・イノベーション担当)
「SIP
(戦略的イノベー
ション創造プログラム)
レジリエントな防災・減災機能の強化
(リアルタイムな
災害情報の共有と利活用)
研究開発計画」
2014年11月13日、
<http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/8_bousai.pdf>
(最終アクセス 2015年6月4日)
)
4)
道路啓開:
大規模災害では、応急の復旧を実施する前に救援ルートを確保することが必
要であり、緊急車両等の通行のため、1車線でも通れるように早急に最低限
の瓦礫
(がれき)
処理を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開くこと
5)
マルチパラメータ
(MP)
フェーズドアレイレーダ:
様々な偏波パラメータから降水等に関する詳細な情報を測るレーダーで、多
数のアンテナ素子で構成されている。小型のアンテナを多数配置し同時に電
波を異なった方向に発射することで、瞬時に3次元的なデータを得ることがで
きる
入れて、そこでアンテナを立てて基地にするなど、いわば
「皮一
RMFOCUS Vol.54 8
レジリエントな防災・
減災機能の強化に向けて
ど、どのような形でも構いませんが、何とかつなげるという通信
∼強さとしなやかさ、持続可能な社会をめざして∼
仙台防災枠組 2015-2030
∼持続可能な社会に向けての第一歩∼
株式会社インターリスク総研
総合企画部
市場創生チーム
特別研究員 本田 茂樹
み指針である「兵庫行動枠組2005-2015」
(以下「兵庫行動枠
1.はじめに
組」)の後継枠組みとして、
「仙台防災枠組2015-2030」
(以下
2015年は地球規模で自然災害リスクへの対応を考える上で
「仙台防災枠組」)が採択された。
非常に重要な年である。それは防災・減災、持続可能な開発、
そして気候変動という三つの国際的な政策枠組みが同時に更
新される年にあたるからである(図1)。
②持続可能な開発
次に、国際社会が開発分野において達成すべき共通目標と
して策定された「ミレニアム開発目標」
(MDGs:Millennium
Development Goals)も2015年に達成期限を迎えること
①防災・減災
まず2015年3月に仙台で第3回国連防災世界会議が開催さ
から、その後継枠組みとなる「ポスト2015年開発アジェンダ」
れ、2005年から2015年までの国際的な防災に関する取り組
(Post-2015 Development Agenda)が2015年9月の国連
2015 年∼更新される三つの国際的な政策取り組み
2015
【図1】2015年に更新される三つの国際的な政策取り組み
(出典:
「仙台レポート:災害に強い社会の構築のための防災」
(世界銀行および防災グローバルファシリティ)
を基にインターリスク総研作成)
9 RMFOCUS Vol.54
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
仙台防災枠組 2015-2030
総会で採択される予定である。また、それに先立って、2012
【表1】
「より安全な世界に向けての横浜戦略」の概要
年6月に開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」
において、MDGsを補完するものとして持続可能な開発目標
(SDGs:Sustainable Development Goals)を設定する
こと、そしてそれを「ポスト2015年開発アジェンダ」に統合する
ことが既に決定されている。
③ 気候変動
さらに、近年世界各地における異常気象の増加と気候変
動の関連性が指摘される中で、2015年12月にパリで開催さ
Framework Convention on Climate Change)の「第21
回締約国会議(COP21)」では、2020年以降の世界の温暖化
対策の大枠も合意される予定である。
①持続可能な経済成長は、災害に強い社会の構築と事前の準備
による被害軽減なくしては達成できない
②人命、財産を守り自然災害による被害を軽減するために地球
規模の防災体制確立に向けた事業に着手する
【行動計画】
①防災への取り組みの重要性を政治レベルから一般市民レベル
まで浸透させる。このための国際、地域、国家レベルでの取り
組みの推進
②社会の脆弱性を増大させないためのリスクアセスメント手法の
開発。開発計画、経済発展計画等と防災との連携
③防災に関するメディア、科学技術、企業、NGO等他分野との協
力の推進
④災害の監視と早期の警報の伝達。防災情報の共有
⑤地域レベルでの防災協力の推進。そのための地域センターの
本シリーズでは、これら三つの国際的な政策枠組みの概
要を紹介するとともに、それらがどう持続可能な社会の実現
設立
⑥後発発展途上国、小島嶼国(※)における重点的な防災の推進
に結びつくかについて紹介していく。シリーズ第1回の本稿で
は、2015年3月の第3回国連防災世界会議開催までの流れと、
※しょうとうしょこく
:小さな島々から構成され、大陸から距離が離れているた
め、
開発上困難を有する発展途上国
当該会議で採択された「仙台防災枠組」について解説する。
2.
防災・減災をめぐる国際的な動向
(出典:
「国連防災世界会議に向けた議論の流れ」
内閣府防災情報のページ>国際協力>国連防災世界会議と世界防災への
取組み>国連防災世界会議>国連防災世界会議に向けた議論の流れ
<http://www.bousai.go.jp/kokusai/wcdr/flow/index.html>
(最終アク
セス2015年5月21日)
)
国連防災世界会議は、国連が主催する国際的な防災戦略
について議論する会議である。第3回国連防災世界会議が仙
⑶国連国際防災戦略
台で開催されたことにより、過去の国連防災世界会議はすべ
て日本で開催されたことになるが、ここに至るまでの防災・減
災をめぐる国際的な動向を振り返る。
「国連防災の10年」の活動成果として、各国において防災
体制の強化や防災計画の充実など様々な取り組みが強化さ
れた。具体的な成果としては、アジア防災センターの設立や
⑴「国連防災の10年」
国連災害評価調整(UNDAC:United Nations Disaster
Assessment and Coordination)の設立などがあった。
1987年12月に開催された国連総会において、1990年代を
しかし、
「国連防災の10年」の最終年である1999年までの
「国連防災の10年」
(IDNDR:International Decade for
過去30年間の統計では、災害による死者は減少しているも
Natural Disaster Reduction)と決め、自然災害による人的
のの、災害の発生件数、被災者、経済損失は増加しており、
損失、物的損害、社会的・経済的混乱について、国際的協調行
社会の災害に対する脆弱性は高まっていることが示されて
動を通じて軽減することを目的とした活動が始まった。
いた。
そこで、
「国連防災の10年」というプログラムを継承する組
⑵第1回国連防災世界会議
織として「国連国際防災戦略(UNISDR:United Nations
for International Strategy for Disaster Reduction)」
国連防災の10年の中間年にあたる1994年にその達成状況を
確認するべく、第1回国連防災世界会議が横浜市で開催され
た。
この会議では、
「より安全な世界に向けての横浜戦略」
の設立が提案され、1999年12月の国連総会でその活動の開始
が採択された。
「国連国際防災戦略」の活動方針は次頁表2のとおりで
ある。
(Yokohama Strategy and Plan of Action for a Safer
World、以下「横浜戦略」)が採択されており、その概略は
表1のとおりである。
RMFOCUS Vol.54 10
仙台防災枠組 2015-2030
れる国連気候変動枠組条約(UNFCCC:United Nations
【基本認識】
【表2】
「国連国際防災戦略」の活動方針
【目的】
①現代社会における災害対応力の強いコミュニティの形成
3.
「仙台防災枠組」
⑴第3回国連防災世界会議
②災害後の対応中心から災害の予防・管理への進化
【活動の骨格】
①現代社会における災害リスクについての普及・啓発
①「兵庫行動枠組」の後継枠組み
「兵庫行動枠組」は、2005年から2015年までの国際的な
②災害防止に対する公的機関の主体的参画の促進
防災に関する取り組み指針であるが、その採択後もハリケー
③災害に強いコミュニティの形成に向けた地域住民の参画の
ン・カトリーナ(2005年)、四川大地震(2008年)、ハイチ地震
促進
④社会経済的損失の減少に向けた取り組みの強化 など
(2010年)、そして東日本大震災(2011年)など、世界的に大
規模な自然災害が多く発生した。
それに伴う人的被害、そして経済的被害も甚大なもので
(出典:
「国連防災戦略の推進」
内閣府防災情報のページ>国際協力>国際防災戦略の推進
<http://www.bousai.go.jp/kokusai/global.html>
(最終アクセス2015年5
月21日)
)
あったため、大規模自然災害への対応は世界的な課題とされ
た。そこで第3回国連防災世界会議では、
「兵庫行動枠組」の
下での取り組みや新たな環境変化も踏まえた形での後継枠
組みの策定が求められていた。
⑷第2回国連防災世界会議
②第3回国連防災世界会議
この後継枠組みについて議論する場として、第3回国連防災
2001年の国連総会において、新しい防災戦略の策定に向け
て「横浜戦略」の見直しが決定され、2005年1月に第2回国連
防災世界会議が神戸市で開催された。
世界会議が2015年3月14日から18日まで仙台で開催された。
本体会議には、187の国連加盟国が参加し、元首7カ国、首
相5カ国を含め、6,500人以上が参加、また関連事業を含める
この会議では2001年以降、それまで行われてきた「横浜戦
と国内外から延べ15万人以上が参加するなど、日本で開催さ
略」の見直しを完結させるとともに、
「兵庫行動枠組」が採択
れた史上最大級の国連関係の国際会議となった(参加国数で
され、今後10年間にとるべき三つの戦略目標と五つの優先行
は過去最大)。
動が示されるなど、より実践的な合意がなされた(表3)。
その結果、多くの議論を経るとともに防災に関する国際社
会の政治的なコミットメントを得て「仙台防災枠組」が採択さ
れ、持続可能な社会の実現という観点から大きな成果となっ
【表3】
「兵庫行動枠組 ∼災害に強い国・地域の構築∼」
た。
【3つの戦略目標】
①持続可能な開発の取組みに減災の観点をより効果的に取り入
⑵「仙台防災枠組」
れる
②全てのレベル、特にコミュニティレベルで防災体制を整備し、能
力を向上する
③緊急対応や復旧・復興段階においてリスク軽減の手法を体系
的に取り入れる
【2005年∼2015年に取るべき5つの優先行動】
①防災を国、地方の優先課題に位置づけ、実行のための強力な
制度基盤を確保する
②災害リスクを特定、評価、観測し、早期警報を向上する
③全てのレベルで防災文化を構築するため、知識、技術革新、教
育を活用する
④潜在的なリスク要因を軽減する
⑤効果的な応急対応のための事前準備を全てのレベルで強化
する
(出典:第3回国連防災世界会議に係る国内準備会合
(第一回)
:
「資料3」
内閣府防災情報のページ>会議・報告>第3回国連防災世界会議に係る国
内準備会合
<http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/sekaikaigi/01/pdf/
(最終アクセス2015年5月20日)
)
siryo_3.pdf>
11 RMFOCUS Vol.54
「仙台防災枠組」は、2015年以降の持続可能な社会の実現
に向けて大きな役割を果たす新しい枠組みとなるが、その方
向性は七つの指標と四つの優先行動で示されている。
①前文
「兵庫行動枠組」の果たした役割を評価するとともに、それ
を実践することを通して得られた経験と教訓、またそこで確
認された課題などを踏まえて「仙台防災枠組」が採択された
としている。前文にうたわれた主なメッセージは次のとおりで
あるが、特に中段の「より良い復興(Build Back Better)」と
「広範かつ人間中心の予防的アプローチ」は、日本政府が主
に主張した点である。
「兵庫行動枠組」が採択された2005年から10年の間に、世
界的に防災の取り組みは進んだが、その一方で、人的被害
はもちろん、経済、社会、健康、文化、環境面での被害は増
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
仙台防災枠組 2015-2030
大しており、持続可能な開発の観点から大きな懸念材料と
f)2030年までに発展途上国への国際協力を強化・拡大する
なっている
g)2030年までにマルチハザードの早期警戒システムや情報に
災害リスクを減らすためには、あらゆるレベルでの災害へ
アクセスできる人を増やす
の備えの強化と、国際協力に支えられた「より良い復興
(Build Back Better)」が必要であり、また広範かつ人間
中心の予防的アプローチが求められている
③優先行動
「兵庫行動枠組」から得た教訓として、後継枠組みは行動に
「兵庫行動枠組」は防災にとって重要な指針を提供し、
「ミ
重点を置くべきという指摘があがっていたが、それも踏まえて
レニアム開発目標」の進捗に大きく貢献したが、多くの課題
<四つの優先行動>(下記)が示されている。
も明らかになっており、今後は行動に重点を置いた枠組み
が必要である
a)災害リスクに対する理解
②期待される成果と目標
今後15年間(2015-2030)に期待される成果として、
「人命・
暮らし・健康と、個人・企業・コミュニティ・国の経済的、物理
c)レジリエンスの実現を目指した防災投資
d)効果的な応急対応に向けた準備の強化と「より良い復興
(Build Back Better)」
的、社会的、文化的、環境的資産に対する災害リスクおよび損
失の大幅な削減」を目指すとしている。
さらにそれを実現するにあたっての目安として<七つの指
標>(下記)を設定しているが、数値目標を決めるには至らな
国や国際機関などは、これらの優先行動に合致する具体的
な施策をそれぞれの法制度などを踏まえて実行していくこと
が求められている。
かった。
④企業に求められていること
a)2030年までに災害による死者数を減らす(2020-2030年の
平均と2005-2015年の平均を比較する)
b)2030年までに災害の影響を受ける人を減らす(上述と同じ
ベースでの比較)
「仙台防災枠組」においては、多様なステークホルダーが防
災・減災を目指す中で責任を共有するべきであるとしている
が、特に、企業を中心とする民間セクター(Private Sector)
の果たすべき役割が強調されている。
c)2030年までに経済的損失(対GDP比)を減らす
d)2030年までに重要インフラや基礎的サービス(病院・学校
など)への損害を減らす
e)2020年までに防災戦略を策定した国の数を増やす(この指
標は2020年まで)
a)
「優先行動3.レジリエンスの実現を目指した防災投資」で求
められていること
官民が防災・減災のための投資を行うことで、経済的、社
会的、健康的、
そして文化的レジリエンスを高めることがで
RMFOCUS Vol.54 12
仙台防災枠組 2015-2030
b)災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化
RM Style レジリエンス ………… 年間シリーズ❶
仙台防災枠組 2015-2030
きるとともに、
それが革新、
成長、
雇用の創造に結びつく
投資を行う場合には、保険を含めてリスクの処理を適切
に行う
重要な施設については、構造的、非構造的そして機能的
な防災・減災投資を強化する
新しい製品やサービスを開発することで災害リスクを減
らす など
b)
「 優 先行動4.効果的な応急対応に向けた準備の強化と
『より良い復興(Build Back Better)』」で求められて
いること
従業員に対し災害時に適切な対応ができるよう訓練を
行う
被災後にも事業の継続が確保できるように計画し、社会
的、経済的回復を実現する
水道、交通、通信など重要インフラ分野、教育機関、医療
機関などのレジリエンスを高める など
「兵庫行動枠組」の後継枠組みである「仙台防災枠組」は、
2015年に更新を迎える三つの国際的な政策枠組みの先陣を
切って採択されたことになるが、これが持続可能な社会の実現
にどれだけ貢献できるかは、その遂行状況にかかっている。
以上、本稿では、第3回国連防災世界会議で採択された「仙
台防災枠組」について解説した。次回以降は、
「仙台防災枠
組」に続いて新たな枠組みが示される「ポスト2015年開発ア
ジェンダ」、そして国連気候変動枠組条約の動向などをお伝え
していく。
以上
13 RMFOCUS Vol.54
参考資料
1)
「第 3 回 国 連 防 災 世界会 議に係 る国 内 準 備 会 合( 第1回 ∼第 4
回)」における配布資料
2)外務省>会見・発表・広報>広報・パンフレット・刊行物>わか
る!国際情勢>Vol.124: 第3回国連防災世界会議・防災の主流化
に向けて
<http://w w w.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/
topics/vol124/index.html>(最終アクセス2015年5月20日)
3)外務省>外交政策>ODAと地球規模の課題>防災>第3回国
連防災世界会議の開催
<http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/gic/page22_001734.
html>(最終アクセス2015年5月20日)
4)国際連合広報センター>ニュース・プレス>お知らせ>プレスリ
リース>第3回国連世界防災会議、歴史的合意を採択して閉幕
(2015年3月18日、仙台)
<http://www.unic.or.jp/news_press/info/13083/>(最終
アクセス2015年5月20日)
5)
「ポスト2015年開発アジェンダと人間の安全保障」
(外務省国際
協力局、2014年3月31日)
6)U N I S D R>W H AT W E D O>W E I N FO R M>U N I S D R
PUBLICATIONS>Global assessment report on disaster
risk reduction 2015
<ht tp: //w w w.preventionweb.net /english / hyogo/
gar/2015/en/gar-pdf/GAR2015_EN.pdf>(最終アクセス
2015年5月20日)
7)外務省>外交政策>ODAと地球規模の課題>ODA(政府開発
援助)>ポスト2015年開発アジェンダ
<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/
mdgs/p_mdgs/index.html>(最終アクセス2015年5月20日)
中国における自然災害リスク
∼地震リスク・台風リスクの実態と対策の留意点∼
インターリスク上海
董事 総経理 伊 納
一時期の急成長が鈍化し、近時は「新常態(ニューノーマ
ル)」とも呼ばれる、質の向上に重点を置いた経済構造改革
2.
中国国土概観
まずは中国国土の概要について、日本との比較で把握して
おきたい。
にカジを切った中国であるが、潜在する巨大な内需を抱え、
表1から容易に分かるとおり、中国と日本とでは国土のス
また日中関係も徐々に改善に向かいつつあるなか、多くの日
ケールが異なる。例えば中国内の最上位行政区分の一つで
系企業にとって中国のマーケットは今もって大きな魅力があ
ある「省」は、日本人の感覚からすると「都道府県」と同じイ
ることは疑いなく、今後も日系企業の進出は続くものと考え
メージを持つと思われる。しかしながら、上海市の隣の浙江省
られる。
(せっこうしょう:日本語読み)は面積が10.2万平方キロメー
日系企業が中国への進出や事業拡大を考える時、リスク面
トルあり、面積としては「省」の中では最小(中国総面積の1%
で真っ先に思い浮かぶキーワードは「チャイナリスク」であろ
程度)であるものの、それでも日本の国土面積の4分の1強の
う。この言葉自体には確たる定義はないが、GDP世界第2位の
規模を有する。
経済大国であるにもかかわらず、商慣習や社会制度の内容・
このように中国は文字どおり「大国」であり、一口に「中国」
運用が日本を含む先進諸国とは大きく異なり、理解不能かつ
といっても言語や風習なども含め、地域によって事情が千差
予測困難なことが多い点を一種の驚きをもって表現している
ものといえる。この認識自体はあながち間違いではないが、
実は日本と同様に中国も自然災害大国であることを知らない
【表1】中国と日本の国土比較
日本人は意外と多い。筆者自身は、中国の自然災害リスクは
「チャイナリスク」と同等あるいはそれ以上のリスクであり、
中国
国土面積
中国での事業展開にあたり当然考慮に入れるべき視点である
と考えている。
37.8万平方キロメートル
(日本の約25.5倍)
人口
そこで本稿では中国における自然災害リスクのうち、大規
模な損害をもたらしやすい地震リスクおよび台風リスクに焦点
963.4万平方キロメートル
日本
13.68億人
1.27億人
(日本の約10.7倍)
人口密度
142人/平方キロメートル
336人/平方キロメートル
を当て、その実態を明らかにするとともに対策を講じる上での
留意点についても触れてみたい。
国土概要
世界第4位の国土面積を有
四方を海で囲まれ、国土の
し、地域によって気候や風
大半が温帯に属し四季が
土が大きく異なる。国土は
明確。夏は高温多湿で冬
西側の山岳地域、中央部
は日本海側を中心に雪が
の高地・盆地、東側の平野
多い。国土の約7割が山岳
部に大きく分けられる。人
地帯で、人口の大半は本
口の多くは東側から南側
州の太平洋側平野部に集
にかけての沿海に集まって
中している。
いる。
RMFOCUS Vol.54 14
中国における自然災害リスク
1.はじめに
正宏
万別であり、この点は自然災害についても当てはまる。本稿の
前提として、まずはこの点を理解して欲しい。
なお中国では現在、23の省(台湾を含む。中国では台湾は
「省」となる)、五つの自治区、四つの直轄市、二つの特別行
に体感した地震の揺れを、当地では全く感じることがなく、
「中国では地震は問題ない」と思いこんでしまいそうになるこ
とがあった。中国に駐在・定住している多くの日本人も同様の
感覚を持っているものと思われる。
政区の計34の最上位行政区分(国家1級行政区と呼ばれる)
では、中国では地震リスクはあまり意識しなくてもよいので
が存在するが(図1)、一般には表2のとおり六つのエリアに
あろうか。答えは「No」であり、実は中国は世界でも有数の地
分かれる。特に断りのない場合、本稿では表2のエリア名称
震大国の一つであることを、まずは理解する必要がある。
を用いて説明する。
⑵中国における地震被害の概況
統計によれば、中国の過去の地震発生状況は、20世紀の
100年間で、マグニチュード(M)8.0以上の地震が7回、7.9∼
7.0の地震が67回、6.9∼6.0の地震が382回発生している。
被害面をみても、20世紀の地震による総死者数120万人のう
ち、中国での死者数は半分の60万人を占めている。
被害統計が比較的正確な、中国建国年である1949年以降の
主な大規模地震の発生状況を、被害の大きさの順で並べたの
が表3である。国土面積、建物の耐震性、国による防災政策な
どの相違もあり一概に比較はできないが、地震発生の頻度や
規模にかんがみれば、中国は日本に劣らない地震大国である
ことが、各種のデータから容易に理解できる。
【表3】中国における主な大規模地震の発生状況
(1949年以降)
【図1】中国全土地図
(出典:城市 原 )
【表2】中国のエリア区分
エリア名称
行政区分
東北
遼寧省、吉林省、黒竜江省
華北
北京市、天津市、河北省、山西省、内蒙古自治区
華東
上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、福建省、江西省、山東省
中南
河南省、湖北省、湖南省、広東省、広西チワン族自治区、
海南省
(※香港、
マカオ、台湾)
西北
西省、甘粛省、青海省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル
自治区
西南
重慶市、四川省、貴州省、雲南省、
チベット自治区
※香港、
マカオ、台湾については、厳密には
「港澳台」
と呼ばれる別のエリア名
称で区分されるが、便宜上ここでは中南エリアに含めることとする
発生時期
発生場所
(エリア)
震級
(※) 死者・行方不明者数
1976年7月
河北省唐山
(華北)
7.8
24万2千人
2008年5月
四川省ブンセン
(西南)
8.1
8万7千人
1970年1月
雲南省通海
(西南)
7.5
1万6千人
1966年3月
河北省寧晋
(華北)
7.2
8千人
2010年4月
青海省
(西北)
7.1
3千人
※中国における地震の規模を表す呼称。マグニチュードとほぼ同義
⑶中国における地震の特徴
①直下型地震が多い
次頁図2は中国における地震発生分布図、次頁図3は地震
帯の分布図である。これらの図から西北、西南、華北、台湾の
4エリアが地震の巣となっていることが分かる。
地勢面から中国をみると、①国土の大半がユーラシアプ
3.
地震リスク
レートの上に載っている、②北上するインドプレートがヒマラ
ヤ・チベット近辺でユーラシアプレートの下にもぐり込んでい
⑴中国は地震多発国
る、という特徴がある。つまり、日本では最も警戒されている
プレート型地震は、中国では内陸部の西南エリアが中心であ
中国での地震といえば、死者・行方不明者約8.7万人の大惨
事となった2008年の四川大地震が記憶に新しいものの、多く
の日本人は中国での地震リスクはそれほどでもないと認識し
ているのではなかろうか。筆者自身も日本にいたころは頻繁
15 RMFOCUS Vol.54
り、それ以外の地震はもっぱら震源の浅い直下型の地殻内地
震であるという点が特徴の一つとして挙げられる。
RM Style グローバル ………… 年間シリーズ❷
中国における自然災害リスク
めて少ないと一般に考えられている。実際に数千年を数える
中国の歴史記録においても津波が中国に到達した記録は朝
鮮半島を含め15例しか存在しない(日本の歴史記録では過去
1200年で約70件)とする研究結果もある。その一方で、日本の
内閣府が2012年3月に発表した南海トラフ巨大地震の津波想
定では、
「マグニチュード9クラスの地震が発生すれば、数時
間あるいは10数時間後に津波が上海市、江蘇省(こうそしょ
う:日本語読み)、浙江省の沿海を襲撃する恐れがある」とし
ているのに対し、中国当局は「東シナ海は比較的浅く、津波
が伝播(でんぱ)しにくいので波の高さは急速に小さくなる」
として、壊滅的な被害を受ける可能性は少ないと反論している
ことが注目される。現時点ではこの点に関する予測、判断は難
【図2】中国における地震発生分布図 (出典:中国自然災害統計地図)
しく、さらなる科学的な調査研究の進展が待たれるが、華東
エリアの海沿いに拠点を構える企業としては、高台への速や
かな避難方法の検討など、津波に対する最低限の対策を、念
のため講じておいた方がよい。
日本では地震対策に官民を挙げて取り組んでいることか
ら、当地においても地震発生に備えた対策を講じている日系
企業は少なくないものの、中国であるがゆえの視点や工夫も
必要である。以下に留意すべきポイントをいくつか述べる。
①備蓄対策
【図3】中国における地震帯分布図 (出典:紫風網)
日本の場合、行政機能やライフラインの回復想定を踏ま
え、備蓄品の量はおおむね1人3日程度を基準としているとこ
ろが多いが、中国の場合はさらに時間を要すると見積もってお
②被害が甚大となりやすい
くことが必要である。コスト増の問題や保管スペースの問題も
当局の統計によれば、中国での地震発生数からみた割合
あるがプラス1∼2日分増やす、あるいは従業員に対し、自宅に
は、1位が国土の西側エリア(西北、西南エリア)で約7割超、
おいて自身でも水や簡易食料などの備蓄を呼びかけるなどの
次いで華北エリアが約15%となっている。また当局の別の統
措置を講じることが望ましい。
計によれば、そもそも中国全土の4割、都市部の5割、人口100
万人以上の大都市の7割が烈度7以上(日本の震度4以上のイ
②建物の耐震性の確認
メージ。中国の震度は12級制となっている)の地震が発生す
中国の建物耐震基準は、1998年制定の「中華人民共和国防
る可能性のある地域に位置しており、一旦大規模な地震が発
震減震法」および同法の関連規定である「建築工程抗震設防
生すると、どの地域であれ被害が甚大なものとなりやすい。
分類標準」で定められている。日本の耐震設計基準に比して
とりわけ1976年の唐山大地震(とうざんだいじしん:日本語読
要求水準が低いとの指摘もあるが、現在自社が使用している
み)が発生した華北エリアは、北京、天津などの国の中枢大
建物が1998年以降の施工なのかどうかが、中国における耐震
都市を抱えており、万が一、直下型の大地震に見舞われた場
性判断の一つの目安と考えられる。ちなみに同年以前の施工
合、当該エリアのみならず中国全土が混乱に陥ることが危惧
建物については、耐震性を調査の上、必要な耐震補強を行う
される。
ことが同法では義務付けられているが、不明な場合は一度確
認することをお勧めする。
③津波リスクは未知数
日本では大きな脅威とされている津波リスクについてみる
③地震発生を想定した教育・訓練
と、海洋プレート境界の位置や距離などの地理的条件にか
当地では日系企業・中国企業にかかわらず、多くの企業で
んがみれば中国では巨大津波の被害が発生する可能性は極
火災発生を想定した訓練は実施されているが、地震発生を想
RMFOCUS Vol.54 16
中国における自然災害リスク
⑷地震対策の留意点
定した訓練はあまり実施されていない。このため中国人従業
員の中には、火災と同様に地震発生時も直ちに屋外へ避難す
べきと考えている人が少なくない。建物の耐震性などの問題
で屋外避難が必要な場合もありうるが、安全性が確認されて
いる建物の場合であれば「まずはその場で身の安全確保に努
める」など、日本では当たり前となっている地震発生直後の
教育・訓練を火災訓練とは別に実施することが必要と考えら
れる。
④意識啓発
上記①③とも関連するが、地震の恐ろしさを従業員にどう
伝え、理解してもらうかの工夫も必要となる。ポイントの一つ
は「可視化」である。一般に言葉で説明するだけでなく視覚
【図4】台風最大風速分布図 (出典:中国自然災害統計地図)
にも訴えた方が理解が早い。地震の怖さを理解してもらう際
には、社内教育の場面で様々な映像を多用するなどの手法
が有効である。もう一つのポイントは「メモリアルデー」の活
⑵中国における台風リスクの特徴
用である。ちなみに中国では四川大地震の発生した5月12日
を「防災減災の日」
と定めている。日本でいえば、1月17日(阪
①強い勢力を保ったまま上陸する
神淡路大震災)、3月11日
(東日本大震災)、9月1日
(関東大震
図5は中国付近における台風の主な進入経路であるが、台
災)に相当するが、一般に中国人は「メモリアルデー」を重視
風の発生源から上陸までの距離が短いことから、台風が強い
する傾向があるため、
こうしたタイミングで地震に関する教
勢力を保ったままの状態で上陸するケースが少なくない。ち
育・訓練を取り入れることで、理解度の向上につながるとい
なみに表4は1949年から2013年までの超大型台風上陸の一
えよう。
4.
台風リスク
⑴台風上陸頻度は日本の2倍以上
日本では9月の声をきくと台風の発生や予想進路がたびた
び気象ニュースで報じられる。当たり前のことだが、日本の気
象ニュースなので、日本への影響が中心の報道となり、甚大な
被害が出ない限り諸外国の台風被害にはあまり言及がなされ
ないが、実は中国においても台風は頻繁に上陸し、毎年大き
な被害を出している。統計によれば日本では毎年平均3個の
台風が上陸しているのに対し、中国では毎年平均7個の台風が
上陸しており、国土面積の違いはあるものの上陸頻度は日本
の2倍以上である。
【図5】台風の主な進入経路 (出典:億庫教育網)
【表4】超大型台風上陸一覧
(1949年∼2013年)
図4は台風の最大風速に関する分布図であるが、上海∼福
州∼広州∼海南島にかけての華東エリア・中南エリアの沿海
部が台風被害の影響を受けやすいことがみてとれる。時期的
には7月∼9月が中心であるが、中南エリアは7月∼8月、華東エ
リアは8月∼9月に台風来襲が多い傾向にある。
(出典:新浪天気)
17 RMFOCUS Vol.54
RM Style グローバル ………… 年間シリーズ❷
中国における自然災害リスク
覧であるが、最近でも上陸時の最大風速が60m/秒、中心気
圧が920hpという想像を絶する規模の台風が現に上陸してお
り、実際に大きな人的・物的被害をもたらしている。
②水災による被害を受けやすい
近年の主な台風被害を表5でまとめたが、台風による中
国全土での死亡者数は毎年平均で約400人余り、経済的損
失は毎年平均約26 0 億 元(約5,0 0 0 億円、1元=19.3円で換
算)にものぼるといわれており、例年深刻な被害をもたらし
ている。
台風被害のメインとなるエリアが、中国経済の中心地であり
人口密集地帯でもある華東エリアおよび中南エリアであるこ
【図6】中国における洪水リスク
(参考)
(出典:中国自然災害統計地図)
とがその主因である。これらのエリアは中国内では開発の進
んだエリアであるものの、水災対策が後手に回っているのが
一般的である。例えば上海市は比較的早い時期から排水シス
⑶台風対策の留意点
テムが整備されてきたものの、近年の急激な経済成長に対し
地震と同様に、多くの日系企業では日本における台風対策の
すら十分な排水能力が備わっていないため、市内のあちこち
ノウハウを活用しているが、前述した中国における台風リスク
でたびたび浸水被害が発生している。中国では風災もさるこ
の特徴を踏まえつつ、対策の留意点を以下のとおり整理する。
とながら、台風による人口密集地でのこうした水災の発生が
人的・物的被害を甚大なものにしているといえる。
①平時から台風に備える
既述のとおり、中国の台風シーズンは例年7月∼9月がピーク
であるが、近年の台風は大型化・早期化の傾向がみられるた
【表5】近年の主な台風被害
台風番号
発生時期
被害状況
め、遅くとも5月中には台風シーズンに備えた事前対策の総点
莫拉克
2009年
死者・行方不明者700人超、経済損失150億元超
検(建物の補修、設備・在庫のかさ上げ、防災用品の準備、台
0608
2006年
死者458人、経済損失155億元
0604
2006年
死者672人、経済損失273億元
0414
2004年
死者・行方不明者188人、経済損失183億元
0102
2001年
死者122人
※被災地域はいずれも台湾および華東エリアが中心
風来襲に備えた訓練など)を完了させておきたい。とりわけ中
国では建物自体が脆弱な構造であったり、老朽化が進んで防
水機能(屋上の防水アスファルト、窓サッシの防水性能など)
が劣化しているケースも多いため、建物の補修・改善について
は時間に余裕をもって対処しておくことが望ましい。なお、中
国の各地方政府の気象局では、早いところでは3月23日の世界
気象デーに合わせる形で自省に関する当年度の台風予測情報
前述した内容を踏まえれば、台風リスクについては、東北・
を発表するので、必要に応じて参考にするとよい。
華北・西北・西南の各エリアではさほど影響がないといって
よい。ただ華北エリアのうち北京市・天津市を含む黄河河口
付近の一帯は、①7月∼8月に大雨が降りやすい(年間降水量
の7割を7月∼8月が占める)、②長年にわたって岩・土・砂水
はけが悪く地盤が軟弱である(かつて黄河の河口が今の天
津市に存在したこともある)、③上海市と同様に、北京市・天
津市の大都市では都市開発が早かった分、排水システムが老
朽化しつつある、などの要因により、台風によらずとも洪水リ
スクそのものが大きいエリアといえるため、留意が必要である
(図6)。
②台風情報を早期にキャッチする
これも既述のとおりであるが、中国では台風の発生から上
陸までの時間的な猶予が日本よりも短い。このためまずは、
台風情報の早期キャッチが重要となる。日本人駐在員の中に
は中国内のニュースメディアをこまめに視聴しない人も多いと
思われるが、台風シーズンの際は天気予報番組だけでも意識
して視聴するようにしたい。なお中国では、各地の気象局に
おいて突発的な気象災害に関する警報を4段階の色分け(青、
黄、オレンジ、赤)で発することとされており、台風に関しては
次頁表6の警報マークが用いられる(デザインや定義の細部
は各気象局ごとに異なる)。日本人にはあまりなじみのない
マークであるが、それぞれの警報マークが意味する内容を適
切に理解しておくことが必要である。
RMFOCUS Vol.54 18
中国における自然災害リスク
て排水システムの拡張やメンテが追いついておらず、中心部で
RM Style グローバル ………… 年間シリーズ❷
中国における自然災害リスク
【表6】台風警報の一例
色区分
定義
24時間以内に平均風力6級
(風速10.8m/秒)
以上の台風の影響を受ける可能性あり
推奨対策:
①暴風に備えた準備、高所・港・海上での作業人員への情報連絡
②暴風の影響を受けやすい屋外物品の撤収
24時間以内に平均風力8級
(風速17.2m/秒)
以上の台風の影響を受ける可能性あり
推奨対策:
①託児所・幼稚園・小中学校の授業中止、責任者による幼児・児童の安全確保策の実施
②高所・水上等での作業の中止、船舶の安全な場所への避難
③危険個所にいる人員の撤収、屋外活動の中止
④政府内各部門の連携による台風上陸に備えた準備
12時間以内に平均風力10級
(風速24.5m/秒)
以上の台風の影響を受ける可能性あり
推奨対策:
①一般市民は室内にとどまるか、屋外にいる場合は安全な場所へ避難
②港湾施設の防護措置、船舶の固定措置の実施
6時間以内に平均風力12級
(風速32.7m/秒)
以上の台風の影響を受ける可能性あり
推奨対策:
①医療救急等の生活に必要な特殊業務を除き、行政業務はすべて停止
②政府内各部門の連携による事故発生に備えた準備
※風力の等級は最大で16級
(風速51m/秒)
まである
③迅速かつ的確に対応態勢を整える
国なりの事情や理屈が存在するわけであり、知ってしまえば
台風上陸の可能性が高い場合は、あらかじめ決めておいた
ある程度納得できることも多い。その意味では中国の自然災
役割分担に従い、台風襲来に備えた対策を短時間で終えるよ
害リスクについても実情を知らないうちは「チャイナリスク」の
うにすることが必要となる。日本とは異なり、台風の進路を見
ままであろう。
極めながら腰を据えて準備をする余裕はなく、時間との戦い
いずれにせよ中国への進出や事業拡大の検討に際しては、
といってよい。また台風に限らないが、災害の発生時は、ある
マーケット規模、コスト効果、業務効率性、法規制などの検討
緊急対策班の準備が完璧であっても別の緊急対策班の準備
と合わせ、進出候補地の自然災害リスクについても、主要な
が不完全であれば、トータルでみた対策の効果は薄くなってし
評価項目に加えることをお勧めする。また進出決定の後は自
まうため、すべての緊急対策班が連携をとり同じタイミングで
社の拠点が保有するリスクの大きさに見合った対策を継続的
あらゆる準備を完了させることが望まれる。
に講じる仕組みも是非整えてもらいたい。
これを可能にするためには、台風襲来を想定した日ごろか
らの訓練が重要だが、訓練の効果を上げるためには、①訓練
本稿が読者の皆さまに対し、中国の自然災害リスクに関す
る何らかの気付きの一助となれば幸いである。
に先立ち各緊急対策班ごとに準備完了レベルと目標完了時間
を決めておく、②各班同士で準備の出来具合とタイムを競わせ
る、③目標をクリアできた班は表彰する、④次回の訓練では
目標を少し上げて同じように実施する、などのゲーム感覚を取
り入れることも、一考に値する。
5.
おわりに
本稿でご紹介した地震・台風以外にも、中国では高潮・雹
(ひょう)・大雪・落雷など様々な自然災害リスクが存在す
る。紙幅の都合上本稿では触れなかったが、機会を見つけて
またご紹介したい。
冒頭で「チャイナリスク」について若干触れたが、このよう
な言葉が出現する背景には発言者自身の情報不足や認識不足
によるところが大きいともいえる。中国側からしてみれば、自
19 RMFOCUS Vol.54
以上
グループリスクマネジメント
会社法改正を受けた
グループリスクマネジメント
のあり方
株式会社インターリスク総研
事業リスクマネジメント部
統合リスクマネジメントグループ
主任コンサルタント 釜 瀬
1
はじめに
幸 一郎
企業集団における内部統制システムの構築
自社のみならずグループ全体でのリスクマネジメント、
コンプラ
2015年5月1日、
「 会社法の一部を改正する法律」
( 平成26年法
イアンスを含む内部統制システム構築の基本方針の決定を取
律第90号。以下「改正法」)が施行された。今回の改正は、
コーポ
締役会の専決事項とする。大会社においては、同方針の決定を
レート・ガバナンスの強化および親子会社に関する規律等の整備
義務付け
を図ることを目的として、会社法の施行後はじめて行われる本格
内部統制に関する決議内容の概要および
その運用状況について事業報告義務化
的な改正である。
取締役会の監督機能の強化(社外取締役の要件等)や新たな
3月末決算の企業の場合、2016年度3月期に係る事業報告より、
の制度)などその改正点は多岐にわたるが、本稿においては、改正
2015年5月1日
(施行日)
以後の運用状況の概要についての記載
法を受けて、特に
「グループリスクマネジメント」に関して企業に求
が必要
められる対応について、筆者の実務経験や見通しも交えつつ考察
多重代表訴訟の導入
することとする。
グループにおいて重要な位置付けにある子会社
(本体総資産の
1/5超の子会社)
においては、一定の要件のもと本体株主からの
2
グループリスクマネジメントに
関係する主要な改正点
責任追及が法的に可能
【図1】
グループリスクマネジメントに関係する主要な改正点
(インターリスク総研作成)
グループリスクマネジメントに関係する主要な改正点は、図1の
とおりである。特に企業集団における内部統制システムの構築に
ついては実質的な変更点はないものと理解されているが、従来、
会社法施行規則に規定されていた事項が、改正法により法律に格
3
グループリスクマネジメントとは
ことは、グループ経営における
上げされて規定された(次頁図2)
実務の実態を踏まえてグループリスクマネジメントの重要性が一
層高まっていることの表れといえる。
本題に入る前にグループリスクマネジメントとは何かについて
触れておく必要がある。本来、
「グループリスクマネジメント」
として
検討すべき対象として、
グループ本体によるグループガバナンスの
一環としてグループ全体を網羅する取り組み、
およびそれを受けて
のグループ本体・グループ各社における個社の取り組みがあるが、
本稿では紙面の制約もあり、前者に的を絞って考察を進めること
とする
(次頁図3)。
RMFOCUS Vol.54 20
グループリスク
マネジメント
企業統治の形態(会社機関設計)
の創設(監査等委員会設置会社
改正会社法362条4項
取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一∼五、七
(略)
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の
適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
同条5項
大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。
改正会社法施行規則第100条1項
法第三百六十二条第四項第六号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
(リスクマネジメント体制)
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
(コンプライアンス体制)
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
(グループ内部統制)
イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者
(ハ及びニにおいて
「取締役等」
という。)
の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
(子会社リスクマネジメント体制)
ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
(子会社コンプライアンス体制)
改正会社法施行規則118条
事業報告は、次に掲げる事項をその内容としなければならない。
一、三∼五
(略)
二 法第三百四十八条第三項第四号、第三百六十二条第四項第六号、第三百九十九条の十三第一項第一号ロ及びハ並びに第四百十六条第一項第一号ロ及びホに
規定する体制
(内部統制システム)
の整備についての決定又は決議があるときは、
その決定又は決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
【図2】
グループリスクマネジメントに関する会社法および会社法施行規則の該当条文 (赤字はインターリスク総研にて注記)
肯定する判決(平成26年1月30日 第一小法廷判決)が確定した。
また、改正法では多重代表訴訟制度が導入され、一定の要件のも
とで子会社の取締役が親会社(※)等の株主から直接、責任を追及
される可能性も出てきたことなどは、グループリスクマネジメント
の必要性を裏打ちするものといえる。
※厳密には最終完全親会社(完全親子会社関係が多層にわた
る場合の最上位の株式会社)
5
改正点を踏まえた
グループリスクマネジメントのあり方
【図3】本稿の対象とするグループリスクマネジメント (インターリスク総研作成)
改正法では「グループ本体においてグループ各社における内部
統制システムを構築せよ」
という義務までは課されていない。
しか
し、グループリスクマネジメントが十分に整備されていなかったと
4
グループリスクマネジメントの必要性
して、グループ本体の取締役が善管注意義務違反を問われる可
能性がある。
他方で、
グループ本体でグループすべてのリスクを管理すること
今回の改正法では、前述のとおり実質的な変更点はないもの
は現実的には様々な困難が伴う。そこで、グループ本体としては、
と理解されているが、企業を取り巻く環境は会社法が制定された
グループ全体としてのリスクマネジメント方針を示し、グループリ
2005年当時とは大きく変化している。特に国内外のグループ各社
スクマネジメント体制を構築した上で、
グループ全体を取り巻くリ
の不祥事や事故によってグループ全体としての企業価値を毀損し
スクの軽重に応じて、
グループ各社の適切なリスクマネジメント体
たケースなどは枚挙にいとまがない。企業経営の実務的側面から
制の整備および運用を確立する
(またはその支援を行う)
ことが重
グループリスクマネジメントの必要性は年々増しているといえる。
要なポイントとなる。
加えて、子会社におけるリスクの顕在化を契機として親会社の
リスクマネジメント方針については経営層の決定に委ねるべき
取締役の責任が追及される可能性も高まっている。例えば、水
事項であるため、以下ではグループリスクマネジメント体制の整備
産物卸売業者「株式会社F」に関する株主代表訴訟事件では、
および運用の確立に向けて、
グループ本体が対応すべき事項をみ
従来親会社取締役による子会社の監督責任は原則としてない
ていくこととする。
という見解もあったものの、親会社取締役の子会社監督責任を
21 RMFOCUS Vol.54
グループリスクマネジメント
⑴グループ各社におけるリスクとリスクマネジメント
の現状把握
企業集団を構成するグループ各社におけるリスクおよびリスク
マネジメントは、そのグループ各社の事業特性、規模、人員構成、
など、
グループ各社での推進を適切に遂行できる役職者を選出す
ることが望ましい。
②グループ全体におけるリスクの把握
グループ本体・各社において事業展開する領域が異なるため、
取引先などその会社がおかれている環境によって、その内容や取
当然抱えているリスクも同一ではない。例えば、製造販売業を営む
り組みに差異があるのが通常である。
グループにおいて、
グループ本体で製造を行い、
グループ各社で販
一般的には、
グループ本体における体制を移植する形でグルー
売、物流、研究開発等を担っているケースなどがその例である。
プ各社の体制が整備されることが多い。
しかし上記のとおり、各社
グループ本体がグループリスクマネジメントを推進するにあたっ
の環境の違いにより最適な体制が同じとは限らない。本体との整
ては、
グループ本体・各社における事業特性等を踏まえて、
グループ
合性を確保しつつ、各社の実情に合わせた体制とするためには、
全体で抱えているリスクを把握しておくべきことはいうまでもない。
まず各社で整備・運用されているリスクとリスクマネジメントの現
把握の方法については、基本的には各社で洗い出したリスクを
状を把握することが第一歩といえる。図4の視点などからグループ
集約することになろうが、
グループ各社でそのような取り組みを実
会社に求めるリスクマネジメント体制の要件を明確化した上で、
施していない場合にはリスクの洗い出しから支援する必要がある。
各社の現状を把握することが有効であろう。
①で述べた、各社のリスクマネジメント推進を担う役職者への研修
現状把握を踏まえて、
リスクの軽重に応じて個別にリスクマネ
などにより、
リスク感性を向上させていくことも有効である。
ジメント体制が整備されそのプロセスが運用されているかを評価
し、取り組みが十分でない場合にはその強化を支援していくこと
③リスクの分析・評価
中核であるグループ本体の規模が他のグループ各社に比べて大
が求められる。
きいため、相対的にグループ各社の抱えているリスクが過小に評価
⑵グループリスクマネジメント体制の構築・運用
されることがある。
しかし、
グループ各社のみが抱えているリスクで
あっても、
グループ全体に影響を及ぼすケースなども想定される。
ためには、以下の点について検討しておくことが必要となる。
例えば、
グループ会社の一社がグループ全体で排出される産業廃
棄物を一括処理しているようなケースにおいて、
そのグループ会社
が法令違反で廃棄物処理業の許可を取り消された場合などを想
①グループリスクマネジメントの推進組織・推進役の構築
起されたい。
したがって、
グループ各社のリスクを評価するにあたっ
グループリスクマネジメントに取り組むためには、その旗振り役
となる組織を創設し、一定の権限を付与することが必要となる。例
ては、
グループ各社単体への影響のみではなく、
グループ全体への
影響も考慮してリスク評価することが必要となる。
えば、グループ本体の経営会議体直下にグループリスクマネジメ
ント機能を担う組織を設け、
グループ本体・各社からそれぞれ人員
④リスク対応
を選出した上で、
グループ管理規程などその権限の根拠文書を制
グループ全体を取り巻くリスクについては、地震リスクや感染症
定することなどがそれにあたる。
なお、人員の選出にあたっては、
グ
リスクのようにグループ全体に共通するリスクもあれば、
グループ
ループ各社の事業特性を十分把握し一定の人脈や発言力がある
本体・各社において固有に抱えるリスクも存在する。
グループ全体
※リスクオーナーとは、
リスク対策の責任者
(リスク主管部署等)
のことをいう
【図4】
グループリスクマネジメントの現状把握の視点
(例)
(インターリスク総研作成)
RMFOCUS Vol.54 22
グループリスク
マネジメント
グループリスクマネジメント体制を構築し、適切に運用していく
グループリスクマネジメント
に共通するリスクについては、
グループ本体の主導の下でリスク対
応を検討、推進していくケースが一般的であるといえる。他方、固
(法務省見解では、内部統制委員会の開催状況などの例示が列
挙されている)。
有のリスクについては、
グループ各社において対応することが基本
であるが、
グループ全体に影響が及ぶリスクも存在する。
このようにグループ各社のみが固有に抱えるリスクであるもの
⑷グループにおける危機管理体制の整備と検証・
改善
の顕在化した場合にはグループ全体に影響が及ぶリスクについ
ては、グループ本社・各社とが連携してリスク対策を検討してお
これまでグループリスクマネジメントを中心に企業に求められる
く必要がある。例えば、製造会社には顧客情報の取り扱いがほと
対応について考察を続けてきたが、
グループにおける危機管理(※)
んどないものの、販売会社や物流会社などにおいては顧客情報
体制の整備およびその検証・改善も忘れてはならない。
の取り扱いが頻繁にあり、情報漏洩リスクが大きいなどのケース
を想起されたい。
グループ内でどのような危機事象が発生した場合にグループ本
体への報告が必要となるか、報告基準と報告事項を定めておくこ
とが必要である。特に、
グループ全体に影響が及ぶようなケースや
⑤モニタリング、改善
リスクおよびその対策状況のモニタリングについては基本的に
は当該リスクを抱えるグループ各社がそれぞれ実施すべきもので
ある。
もっとも、グループ全体に影響が及ぶリスクということであれ
ば、
そのリスクの内容や対策状況についてグループ本体も把握・検
証する必要がある。
そのため、
グループ全体に影響が及ぶリスクについては、
グルー
危機管理広報活動が必要となるようなケースにおいては、
グルー
プ本体が前面に立って対応していく必要がある。
また、危機管理の実効性確保のためにもシミュレーション訓練
や模擬記者会見などの定期的な実施を通じて、
グループ危機管理
についての検証・改善にも取り組まなければならない。
※リスクマネジメントはリスクの顕在化を未然に防止する取り
組みであるのに対し、危機管理はリスクが顕在化した場合に
おける対応およびその取り決めのことを指す
プ本体としてモニタリングを実施した上で、是正に向けた指導・支
援を行う必要がある。
⑶グループリスクマネジメントの浸透・定着
6
①グループリスクマネジメントの浸透・定着策
実質的な変更点がないにもかかわらず今回の法改正が注目を
おわりに
グループ各社では、
リスクマネジメントを担う人員が十分割けな
浴びている背景には、実務における急激なビジネス環境の変化に
いケースやリスクマネジメントに関する専門的なスキルが十分で
伴い、
グループリスクマネジメントの実務的必要性が増してきてい
ないケースもある。
そのため、
グループ各社でリスクマネジメントを
ることが挙げられる。
展開しようとしても十分な取り組みができずに、
グループ本体の要
求水準を満たさないケースが存在する。
この点については、グループ本体において、グループ各社のリス
クマネジメント要員を育成することが必要となる。
グループ各社の
本稿では、グループリスクマネジメントを構築し、適切に運用す
るにあたって基本となるポイントを中心に触れてきた。既に導入済
みのグループ企業においてもグループリスクマネジメントの高度化
を検討する上で本稿がお役に立てば幸いである。
リスクマネジメント担当者向けの研修会やe-Learningなどによる
教育のほか、
グループ内のリスクマネジメント資格制度の創設、
グ
以上
ループ会社連絡会での事例共有などを通じて、
リスクマネジメント
担当者のレベルアップを図っていくことが望ましい。
②運用状況の報告
改正法の施行に伴う会社法施行規則第118条第2号によれば、
リスクマネジメントを含む内部統制についての決定または決議が
あるときは、その決定または決議の内容および当該体制の運用
状況の概要について事業報告書に掲載しなければならないとさ
れている。運用状況の概要についてどのような報告とすべきかに
ついては今後の事業報告の運用を待つほかないが、
どのような体
制を構築し、
どのようなプロセスでリスクマネジメントのサイクル
を運用しているのかということは最低限報告すべき要素であろう
23 RMFOCUS Vol.54
参考文献
1)相澤哲編著『別冊商事法務 No300「立法担当者による会社法関係
法務省令の解説」』商事法務、2006年
2)郡谷大輔監修『会社法関係法務省令逐条実務詳解』清文社、2006
年
3)坂本三郎他「平成二十六年改正会社法の解説[Ⅰ]∼[ⅠⅩ]」『旬刊
商事法務』No2040、No2042~No2049、2014年
4)岩原紳作他「改正会社法の意義と今後の課題[上][下]」
『旬刊商事
法務』No2040、No2042、2014年
5)奥村健志『森・濱田松本法律事務所シリーズ改正会社法「Q&Aグ
ループガバナンスの実務」』商事法務、2015年
〈ニューリスク〉水素社会
〈シリーズ
(全4回)
〉ニューリスク
第1回 水素社会への期待と課題
株式会社インターリスク総研
事業リスクマネジメント部
環境グループ
上席コンサルタント 寺 田
1
はじめに
祐
興戦略 -JAPAN is BACK-」を発表し、家庭用燃料電池と燃料電池
自動車の普及促進を明確に示しており、経済産業省は2014年4月に
策定された新たな「エネルギー基本計画」において水素を将来の2
近年、水素エネルギーの可能性が改めて注目されている。2009年
次エネルギーの中核として位置付けた1)。さらに、同省は産学官によ
に市場投入された家庭用燃料電池に続き、2014年には燃料電池自
る「水素・燃料電池戦略協議会」を組織し、2014年6月に「水素・燃
動車の発売が開始されるなど、従来工業用などにのみ使用されて
料電池戦略ロードマップ」
(図2)を公表するなど、国家戦略として
いた水素が、日常的に活用される動きが拡大しつつある(図1)。ま
水素社会の実現に向けた取り組みが進んでいる。
た、安倍政権は2013年6月にアベノミクス3本目の矢として「日本再
これら政策の中で、水素が普遍的かつ豊富に存在すること、電気
〈ニューリスク〉
水素社会
【図1】水素利活用技術の適用可能性
(出典:資源エネルギー庁 燃料電池推進室資料「水素・燃料電池について」2013年10月<http://www.enecho.meti.
(最終アクセス2015年5月27日)
)
go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/008/pdf/008_008.pdf>
【図2】水素・燃料電池戦略ロードマップの概要
(出典:経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会『水素・燃料電池戦略ロードマップ』2014年6月23日<http://www.meti.go.jp/press/2014/
06/20140624004/20140624004-2.pdf>
(最終アクセス2015年5月27日)
)
RMFOCUS Vol.54 24
から生み出すことができ、電気への転換も可能なこと、クリーンなエ
を結果からみれば、
「エネルギーが水素という媒体に形を変えた」
ネルギーであることなど、水素固有の利点が強調されている。一方
こと、つまり「水素がエネルギーを貯蔵している」ことになる。さらに
で、水素エネルギーの本格的な普及に関しては、経済性や安全性の
は、余剰電力を水素に変換して貯蔵し、有効活用することも可能で
確保など、まだいくつかの課題を抱えている。
ある。
本稿では、水素社会の基本概念、その利点と課題について改めて
また、この貯蔵機能の技術向上が進めば、エネルギー(水素)の
整理し、今後の発展の可能性を探る。またその中で、課題解決に向
車両などでの輸送が容易になり、エネルギーの供給形態の多様化
けた産学官の取り組みについても紹介する。
につながる。従来、電気は送電線で、都市ガスはパイプラインで送
るしかなかったものが、水素に形を変えて貯蔵と運搬が可能となる
ことにより、タンクトレーラーや個別配送の手段で運ぶことができ
2
水素社会とは
るようになる。
【表1】水素の基本的な特徴
⑴水素の特性
表1に示す特性をもつ水素について、水素社会の実現における根
幹となるのは、電気や熱エネルギーを貯蔵する機能である。厳密に
いえば、水素自体がエネルギーを貯蔵するわけではない。水素が、
燃料電池などの水素と酸素と反応させる仕組みを通して、容易にエ
ネルギーに転じる媒体であることを、説明を簡単にするため、
「水素
水素(H)は自然界で最も軽い元素
水素が燃焼する際の燃えカスは水のみ(CO2を排出しない)
無色、無臭の気体
地球上に主に水、メタン、アンモニア、石油などの水素原子を分子中に含
む化合物として広く存在
点火しやすいが、拡散するため燃え広がりにくい
(市川勝『水素エネルギーが分かる本−水素社会と水素ビジネス』
オーム社、2010
年、
を基にインターリスク総研作成)
がエネルギーを貯蔵する機能がある」という。もう少し説明を加え
ると以下となる。
⑵水素社会のコンセプト
水素は化石燃料などの1次エネルギーや水の電気分解から生み出
される。また水素は、酸素と反応させることで電気と水を生み出す
水素社会とは、既存の電気グリッド(送電網)に加え、水素を媒介
2次エネルギーである。1次エネルギーから製造される電気や熱エネ
としたエネルギーの貯蔵・輸送を通じて新たに水素グリッドを構築
ルギーは、それらを使って生み出した水素を媒体として貯蔵するこ
して「水素を日常生活や産業活動で利活用する社会」2)を指すもの
とを通して、燃料電池などにより必要なときに水素から電気に高効
である(図3)。
率で変換できる。ここでの燃料電池は、乾電池などの1次電池や充
例えば、国内外で製造された水素を事業者が購入し、工場で使用
電してくり返し使用する2次電池のように、蓄えられた電気を取り出
する、または、水素ステーションに配給する。一方、家庭では、電力
す「電池」とは異なり、水素と酸素の電気化学的な反応により発生
を燃料電池で補い、水素ステーションで水素補給しつつ燃料自動車
した電気を継続的に取り出すことができる「発電装置」である。これ
で移動する。また、将来的には再生可能エネルギーから水素を製造
【図3】水素社会のコンセプト
(出典:
トヨタ自動車株式会社HP
「CSR・環境・社会貢献>特集2014>特集01:もっといいクルマお客様の期待を超える
「もっ
といいクルマ」づくり>電気と水素を活用し、多様なエネルギーから成り立つ社会の概念」<http://www.toyota.co.jp/jpn/
)
sustainability/features/car/>(最終アクセス2015年5月27日)
25 RMFOCUS Vol.54
〈ニューリスク〉水素社会
したり、水素発電を通じて水素から電気を生み出したりと、様々な側
電気を使用した水素を製造すれば、将来的には、真にクリーンなエ
面で水素がエネルギーの媒介を果たすと思われる。
ネルギーとなることが期待される。
⑸再生可能エネルギーの普及促進
3
水素社会の利点
太陽光や風力発電にて発電した余剰電力を水素として貯蔵するこ
とができれば、燃料電池という仕組み等を通して電力の有効利用が
それでは改めて、水素社会を実現する意義について、経済産業
でき、これらの経済性がさらに高まる。結果として、再生可能エネル
省や独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下
ギー事業の拡大につながれば、産業が育成されるとともに、水素が
「NEDO」)、業界団体などの主張を基に、主なポイントを確認し
クリーンなエネルギーとして製造され、再生可能エネルギーと水素
たい。
の利活用が相互補完的に広まっていくと予想される。
⑴エネルギー・セキュリティの向上
このように、水素社会の利点は単にクリーン・エネルギーとしての
可能性のみでなく、エネルギー・セキュリティの向上や経済的な波
化石燃料は世界に遍在しており、いずれは枯渇する運命にある。
及効果に及んでいるが、具体的な効果を発現するにはいくつかの課
日本は資源を持たない国として、戦後のエネルギー政策を原子力に
題を抱えている。特に、本格的な市場拡大には、水素関連商品・設
依存していたが、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故を引
備に関する①経済性の向上、②規制緩和、③安全性の確保、が必要
きがねに、原子力発電所が停止し、再び化石燃料への依存度が増加
不可欠である。以下では、これら課題と課題解決への取り組みにつ
している。
いて概説する。
水素も主に化石燃料から製造されるとはいえ、太陽光や風力発電
など再生可能エネルギーにより発電した電気を用いて製造すること
や、褐炭などの未利用エネルギーから製造することも可能であり、これ
らの利用が拡大すれば、エネルギー源の多様化につながる。この結
4
水素社会の実現に向けた課題
果、原油価格の高騰などの地政学的なリスクの軽減に貢献できる。
⑴経済性の向上
⑵新規産業の育成・振興
水素関連商品の一般家庭や事業者への普及には導入コストのさ
らなる低減が必要である。例えば、水素を活用し家庭内の省エネを
促進する家庭用燃料電池は、2009年の導入時は約5,000台、約300
日本は燃料電池に関して世界最多の特許を有しており、第2位の欧
万円で販売されていたが、2014年度(12月まで)は6倍の約30,000台
米の5倍以上と、技術力で大きな強みを有している。日本はこれらの
を販売し、価格は約150万円と半減した。経済産業省は2015年の販
技術を強みに水素産業の海外市場への展開を目指し、水素エネル
売価格の目標値を70∼80万円としているが、いまだ到達の見通しは
ギーの波が本格的に海外に及んだ時、水素市場において大きなシェ
明るくない(価格は電池容量により異なるがここでは比較のため単
アを占めることが期待される。
純化した)。また、2014年に販売が開始された燃料電池自動車の販
売価格は約700万円、産業界が2015年に100カ所の設置を目指す水
⑶緊急時のレジリエンス向上
素ステーションは中規模ステーション1カ所に約4.6億円の建設コス
ト(ガソリンスタンドの建設コストは約8,000万円)を要する。これに
大規模な自然災害などで電気やガソリンなどの大型インフラが機
対し、国は積極的な税制優遇や補助金の支援を行っており、燃料電
能しない緊急事態においても、各家庭や団体は、燃料電池などにより、
池自動車には約200万円を優遇している。水素ステーションは東京
貯蔵しておいた水素を分散型の電源として活用することができる。
都であれば、国と都あわせて1カ所につき約4億円の補助を受けるこ
とが可能となっている。
⑷地球温暖化の軽減
しかし、これらの支援措置は一時的なものであり、将来的に日本
だけで2030年に1兆円、2050年に8兆円規模との推測もある水素市
水素は酸素と化学反応して電気を生み出す際、水が発生するだ
場の拡大が実現するには、技術革新や海外市場の拡大による水素
けでCO 2を排出しない。このため、水素はクリーン・エネルギーと
の原料コストや水素関連製品・施設のコストの削減が必要である。
呼ばれる。しかしながら、現状は水素の製造の多くは化石燃料から
規制緩和もコスト削減の要因となる。このためには産学官が連携し
行われており、その過程でCO 2 が発生する。その解決策として、現
てこれらの施策を推進することが不可欠である。
在、褐炭から水素を製造した際に発生するCO2を地中に埋める技術
海外市場への展開に向けた動きとして、2020年開催の東京オリン
(Carbon Capture and Storage: CCS)が開発されている。ま
ピックが大きな契機となる。経済産業省は新たなエネルギー基本計
た、再生可能エネルギーのさらなる普及により、これらから製造した
画で、同オリンピックに際して日本の燃料電池自動車を現すことによ
RMFOCUS Vol.54 26
〈ニューリスク〉
水素社会
水素グリッドは業界横断的な広がりを見せており、水素産業の育
成には幅広い分野で技術革新や経済波及効果が期待される。現在
〈ニューリスク〉水素社会
り、世界に新たなエネルギー源としての水素の可能性を示すことを
⑶安全性の確保
期待している。また東京都は「水素社会の実現に向けた東京戦略会
議」を設置し、水素エネルギーの普及に向けた戦略の共有および気
水素は、気体の中でも燃焼速度は速いが、拡散が速く、密閉され
運醸成を図っている。2014年11月の同会議の中間とりまとめでは、
た空間で一定の濃度になるなどの条件下でなければ大きな爆発は
数値目標の提示や、燃料電池バスや水素ステーションへの集中財
生じない。適切な安全対策を行えば、都市ガスやガソリンなどと同
源投入、これら車両の駐車料金の割引などによるインセンティブな
様に安全に利用することができる(表3)。
ど、具体的な取り組みを示しており、これら施策の具体的な実現が
【表3】必要な安全対策
今後期待される(表2)。
【表2】東京都における水素社会の普及に向けた課題と2020年までの目標
課題
2020年までの目標
課題1
35ヶ所(水素ステーションへの到達時間15分(*))
水素ステーショ *都内を平均的な速度で走ったときに到達できる時間
ンの整備
課題2
燃料電池自動
車・バスの普及
燃料電池自動車:
6千台
燃料電池バス:
計画的に100台以上の導入を目指す(都バスに先導
的に導入)
課題3
家庭用燃料電池
や業務・産業用
燃料電池の普及
家庭用燃料電池:
15万台(最大出力10万kWに相当)
新築集合住宅、既存戸建て住宅を中心とした普及拡大
業務・産業用燃料電池:
2017年高効率モデルの市場投入、2020年以降本格普及
課題4
安定的な燃料供
給
燃料電池自動車・バス向け:
ハイブリッド車の燃料代と同等以下の水素価格によ
る水素エネルギーの普及
水素発電向け:
海外からの水素価格(プラント引き渡し価格)の30
円/Nm3(ニュートン・立方メートル)を実現
課題5
社会的受容性の
向上
水素の安全性やリスクに関する情報を提供する環境
の整備
水素エネルギーの認知度の向上
(出典:水素社会の実現に向けた東京戦略会議「水素社会の実現に向けた東京
戦略会議
(2014年度)
とりまとめ」
を基にインターリスク総研作成)
<http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/energy/tochi_energy_suishin/
attachement/26torimatome.pdf>
(最終アクセス2015年5月27日)
①水素を漏らさない
②漏れた場合は早期に検知し、拡大を防ぐ
③漏れた場合にためない
④漏れた水素に火がつくことを防ぐ
⑤火災が生じた場合、火の拡大を最小限に止める
(出典:岩谷産業株式会社、水素エネルギー協会「水素エネルギー読本」)
水素エネルギーの普及にあたっては、水素の利点を国民が理解す
ると同時に、安全性の理解が進むこととそのための安全措置が向上
することが必要不可欠である。
現在、国や業界団体を中心に安全策の検討が進められており、
NEDOは水素ステーションにおける緊急時対応ガイドラインの整備を
行っている。
これらのルールの整備と、
国民に対する啓発活動の拡大
が、
さらなる安全対策の向上や規制緩和につながるよう期待している。
5
おわりに
水素社会は多くの可能性を秘めているが、その実現には課題も多
い。まだ先進的な技術分野でもあり、政府が描いたロードマップを
踏んでいく過程では、さらなる課題が出現する可能性も否定できな
い。また、革新的な技術が登場しない限り、短期間で広範に普及す
ることを期待できるものでもない。さらに、水素が今後クリーン・エ
ネルギーとしての価値を確立するには、再生可能エネルギーやCCS
技術を伴う褐炭からの製造の本格化なども必要となる。
⑵規制緩和
当面は、2020年の東京オリンピックまでの工程において、これら
課題への取り組みが加速し、水素エネルギーの国内外の認知度が
水素には、高圧ガス保安法をはじめとする各種規制が適用され
る。水素関連製品の材料、施設立地、輸送条件など多くの項目にお
向上するかどうかが、今後の水素社会の到来を占う上で一つのポイ
ントとなると思われる。
以上
いて、従来は厳格な規制が適用されていた。2013年5月、安倍内閣
は「規制改革実施計画」により、燃料電池自動車の水素タンクや水
素スタンドに対する25項目の規制見直しに着手した。その成果とし
て、40Mpaから80Mpaへの圧力上限の拡大、ガソリンスタンドや天
参考資料
然ガススタンドとの併設が可能となるなど、規制緩和が進んでいる
(1Mpa(メガパスカル)=1000,000N(ニュートン)/m 2=1N/mm 2=約
9.869気圧)。
民間レベルの燃料電池推進協議会は、運営コスト削減につながる
水素スタンドのセルフ充填や、材料コスト削減につながる新型水素
タンクの導入など、18項目の規制緩和を要望しており、コスト削減と
水素エネルギーの普及に向けてさらなる規制緩和が予想される3)。
27 RMFOCUS Vol.54
1)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構『水素エネ
ルギー白書 2014』2014年7月
2)水素・燃料電池戦略協議会『水素・燃料電池戦略ロードマップ
∼水素社会の実現に向けた取組の加速∼』2014年6月23日
<http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140624004/
20140624004-2.pdf>(最終アクセス2015年5月27日)
3)経 済 産 業 省 資 料「新たな 時 代 の 要 請 に 対応した 規 制 見 直し
の状 況について」2 015 年 3月12日<http://www.meti.go.jp/
committee/sankoushin/hoan/koatsu_gas/pdf/007_05_01.
pdf>(最終アクセス2015年5月27日)
太陽光発電
太陽光発電システムの
事故事例
有限会社吉富電気
技術・代表取締役
吉富 政宣 氏
1
はじめに
計不良が主因である)が近接可燃物を徐々に炭化させ、それが
やがて火災に発展する場合もある。
また、モジュール出火は、モ
ジュールそのものの設計不良に由来する場合と、接続箱やパ
太陽光発電設備(以下「PVS」)は商業化後からの歴史が浅
く、事故・災害対策の面において解決されるべき課題が多い。
特に直流電気火災、消火活動時の消防隊員の感電、雪や風
ワーコンディショナー(PCS)
といった周辺機器(BOS)
との組
み合わせ不良に由来する場合とがあり、機器単体が原因とは限
らない。
を契機とする架台崩壊といった、原理的・構造的要因から生じ
る事故には留意を要する。
このような観点から筆者らはこれまでPVSに関する各種事
故の現象および事故発生の物理機構に関心を寄せ、調査と研
究を行ってきた。その結果、事故は設計エラーによるものが少
なくないことが判明してきている。
したがって、PVSの事故の回
避、低減には物理学的側面だけでなく、その背後にある習慣や
ルールなどの社会科学的側面にも目を向ける必要がある。
ただし、本稿では誌面制約の都合からこれら社会科学的側
面については言及せず、重大事故の現象面を俯瞰(ふかん)
する
太陽光発電
ことにする。
2
火災リスクと火災予防に向けた取り組み
【図1】地絡を契機とする米国Bakersfieldにおける火災1)、2)
太陽電池モジュール(以下「モジュール」)は陽が当たる限り
発電を止めることがない。したがって、ひとたび太陽電池アレ
イ
(数枚のモジュールと架台から成るひとまとまりを指す。以下
「アレイ」)のどこかに電気的故障を生じ、その部分が焼損する
と、隣接機器、建築材料が連鎖的に焼損して火災に発展するこ
とがある。
PVSの火災はいつでもただ一つの原因から決まった過程を
経て発生するわけではない。
図1のように不意の地絡がアークに遷移して一気に広がる
【図2】保護部品の故障を契機とするセルの焼損3)
場合や、図2のような機器の焼損(この場合はモジュールの設
RMFOCUS Vol.54 28
最大の問題は、鎮火作業にあたる消防隊員が放水や道具を
の現地調査では、多くの設備に設計エラーや法令違反が見ら
通じて感電する場合がある、
という人的被害のことである。火
れ、電気部分のみならず構造部分にも問題が多いことが判明し
災を終息させるためには、事故電流の遮断を目指して活線(通
ている。重大な設計エラーの場合、出力性能以前に安全性能に
電している電線)ケーブルを切断することになるが、活線切断時
影響を及ぼすこともありうる。設計上の問題は性能劣化ではな
には作業者は感電しやすく、また切断しても再点弧(アークが
く事故に直結する可能性が高い。事故を防ぐには点検による性
再び発生すること)
する場合がある。
すでに、残火処理をする消
能回復を前提とするのではなく、新規設備の品質を一定水準
防隊員がモジュール裏面を手で押しはがす際に他方の手が建
以上に引き上げることが大前提である
(図4)。
物鉄骨に接触していたことによる直接的感電や消火道具を通
じた間接的感電が報告されている。
なお、設計や施工が適切に行われた場合でも、保安点検が不
要になるものではない。適切な設計・施工がなされた後におい
火災は可能な限り未然に防止されるべきである。そこで筆者
ても残されるリスク
(残留リスク)については、それが現実の危
らは、2006年からのフィールド調査に基づいて回路理論的解明
害に発展しないように図るのは当然である。残留リスク対策の
を進め、問題提起や対策技術の開発を行い、技術講座を開催し
一つに、直流、交流回路における電圧や電流などの物理量を計
てきた。
測・蓄積し、生じた変化を定期的に分析するといった方法があ
さらに経済産業省は、対策技術の評価および技術者教育の
ために平成24年度からの3年間「太陽光発電システムの直流電
る。
しかし、
システム設計時に、回路理論的な検証を行うことが
より重要である。
気安全性に関する基盤整備」のプロジェクトを設け、直流電気
の安全に関するリスク評価および対策技術の研究を行った。
こ
れらは消防ガイドラインおよび設計ガイドラインとしてまとめら
れる予定である。
しかしながら、原理的に火災を完全に防止することは不可能
である。
したがって、万が一火災を生じても延焼による拡大損
害を生じないようにしたい。そのための計画と設計をダメージ
コントロールという。ダメージコントロールの一つに、接続箱や
PCSなどの電気筺体(でんききょうたい、電気機器を収納する
箱)に樹脂製を用いず、金属製を用いるといった方法がある。樹
脂製の筺体(きょうたい)であれば筺体の燃焼によって火災が
拡大しやすいが、金属製筺体では不燃性であるため、火災の被
【図3】設備所有者や点検業者の現状誤認
害が出火部分にとどまることが多くなっている。
小さな努力の積み重ねが、事故を限りなくゼロに近づける。
あわせて、総務省消防庁や東京消防庁から提供されている資
料、筆者の論文を設計の参考にしてもらいたい。
3
点検への過剰依存
昨今、事故防止に向けた保安点検の適切な実施が課題とさ
れている。
所有者や点検者の多くはPVSについて図3のような認識を
抱いており、環境要因によって生じる問題は保安点検によって
取り除くことができ、導入当初の性能を維持できると信じてい
る。
しかしながら、保安点検以前の課題として、導入当初の設計
に問題のあるPVSが多い。
筆者らと産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
29 RMFOCUS Vol.54
【図4】筆者の現状認識とこれに基づく対策提案
太陽光発電
4
自然力と耐力の見積もりの難しさ
材料力学上の困難もある。梁と柱の接続部(これを接合部と
いう)の設計は簡単な計算式に乗らないため、個々の物件につ
いて開発と実証研究を必要とする。
⑴積雪荷重
対策の原則は、冠雪と堆雪が一体化しないように初めから発
電面を高い位置に据えることである。
火災と同様に構造の事故もまた、経年変化といった事後的
要因ではなく、原設計の異常によって生じている。図5の事故
は、モジュールに加わる積雪荷重とモジュール側耐力の関係
を見落としたことによって生じたものである。法令やモジュー
ルの国際規格であるIEC61215は、発電面に垂直に加わる荷重
(cos荷重)のみを評価対象としている。そのため、cos荷重か
らのみモジュールの耐力が評価されることが多くなっているの
であるが、事故につながるのはむしろモジュール枠を押し出す
方向に働く荷重(sin荷重)である。計画・設計者は、sin荷重を
評価しなければ事故を防ぐことができないことを知っておく必
要がある。
その時々の重量、経時による圧密といった雪の単独的性状は、
戦前からよく研究されてきている。他方、滑動や密度変化を通じ
て雪が物体に及ぼす影響(積雪の荷重効果)
は、系統的な調査・
研究が行われておらず定量的指針を欠いたままの状態にある。
【図6】側圧による後方へのアレイ転倒
太陽光発電
【図5】
モジュール枠の発電面の脱落
そのことが荷重効果の見落としにつながり、架台全体の変形
や倒壊をもたらすことがある。
発電面に降り積もる冠雪(かんせつ)はやがて滑動して地上
に落下して堆雪(たいせつ)
となる。堆雪が高さを増してやがて
冠雪と堆雪が一体化すると、
アレイには堆雪からの側圧と沈降
圧が加わり始める。
側圧への配慮を欠いたままに柱脚基礎部や梁(はり)同士の
接合部を構成すると図6のようにアレイが後方へとなぎ倒され
てしまう4)ことがある。また沈降圧を忘れると収縮する軒先の
雪塊(せっかい)に引っ張られて図7のようにアレイ軒先が折れ
【図7】沈降圧による軒先の折損
てしまうことがある。
RMFOCUS Vol.54 30
⑵風荷重
建物と架台をつなぐ部分(定着部)の設計が、転倒防止の要
である。よく知られた定着方法に、屋根材とアレイを接続する
風荷重を契機とする事故も雪荷重を契機とする事故と同様
機械的固定金具、接着剤、磁石、重量基礎を用いた方法があ
に、外力(工学では外力と呼ばれる。法学では自然力と呼ばれる
る。ただし、接着剤と磁石による定着は、火災時に定着強度が
ことが多い)の見落としと耐力の見積もりの間違いから始まっ
低下しアレイが脱落しやすいため望ましくない。落下したアレ
ている。
イが、消火活動に携わる消防隊員に激突しうるからである。
ただし、風荷重については、積雪荷重よりも自然科学的観点
重量基礎は不可能ではないが、技術的に難しい。図8上は、
からの研究とその成果の法律への反映が進んでいる。
したがっ
図8下の屋根空白部に設置されていた2段4列のアレイが、突風
て、法律が遵守されていれば、事故の重大化は大抵の場合、回
を受けて前方の畑へと落下したものである。
ここでは重量基礎
避可能である。あらかじめ考慮しておくべき主な風害リスクは
が用いられていたが、その基礎重量は20kg/個ほどであった。
以下である。
転倒による落下を防止するためには、少なくとも200kg/個を要
転倒・飛散
これらは幸いにも自損
する。図9は筆者の近所での類例である。
屋根の被害
事故にとどまっているが、モジュールやアレイが道路に落下す
被害の連鎖
ると交通事故につながる。筆者が知る限り、自動車への激突は
5例ある。
架台と屋根との位置関係、屋根葺きの構法、建物構造によっ
ては、
アレイを設置することで、屋根材が単独で存在する時より
アレイではなく屋根の
も大きな負圧 5)が屋根支承部に作用し、
側が損壊することもある。アレイが屋根ごと引きはがされて国
道に落下し、それが通行中のトラックのフロントガラスを破損し
た事例もある。
屋根支承部の強度に不安が残る折板屋根(せっぱんやね)に
PVSを後付けする場合には、一旦屋根をはがして屋根小梁(こ
ばり)や大梁(おおばり)を追加することでアレイ∼屋根材∼主
要構造部までの荷重伝達経路を確立し、それらが荷重に耐え
うるようにする必要がある。
風害の特徴の一つに連鎖被害というものがある。図10のよう
に、強風下で発生した飛散物は建物に激突する。飛散物の激
突を受けた建物はその開口部から風が吹き込んで内圧が上昇
するため、その建物の屋根や窓ガラスが新たな飛散物を生み出
【図8】
アレイの転倒、
建物からの落下1
す。
これが風下に向かって繰り返されてゆくのが連鎖被害であ
る。既に、飛散したモジュールが近隣建物外壁にめり込む事例
が起こっており、
このようなモジュールの飛散がやがて連鎖被
害を発生させることが懸念される。
【図10】飛散物と連鎖被害6)
【図9】
アレイの転倒、
建物からの落下2
31 RMFOCUS Vol.54
太陽光発電
自損ながら、脱落したモジュールが近接アレイに激突し、そ
のモジュールを連鎖的に脱落させた事例もある。予防のため
することが可能であり、なかには技術法令の遵守だけで防ぐこ
とができるものもある。
には、モジュール固定ボルトの増数、モジュールのフランジとモ
読者には、①PVSの安全は所与ではないこと、②PVSの安全
ジュールを押さえるための固定プレートとを嵌合(かんごう、寸
は不断の努力によってしか得られないこと、
という2点をつかみ
法を調節しはめ合うこと)
させるなど、施工の不確実さを、ハー
とっていただければ幸甚である。
ドウェアによってカバーする工夫が求められる。
なお、風荷重は他の外力よりも一足早く研究が進められてお
以上
り、事故の未然防止の道筋がつけられようとしている。いま日
本風工学会は、2014年4月∼2016年3月の活動期間で太陽光発
電システム風荷重評価研究会を設置し、
アレイへの風の性状を
把握するための風洞実験研究、技術者向けガイドラインの策定
を目指している。
つまり、風荷重のテクニカルな面に限っていえ
ば、解決策が提供される見通しは暗くない。
ただし、科学としての風荷重研究が進展しても、
それが技術と
参考文献・資料等
して現場に適用されないと事故を防ぐことはできない。風荷重
による事故は、無関係な他者に被害を与える蓋然性が高いた
め、他のどのような設計要素よりも優先して検討される必要が
1)Bill Brooks、"The Ground-Fault Protection BLIND SPOT:
A Safety Concern for Larger Photovoltaic Systems in the
United States"、A Solar ABCs White Paper 、Jan. 2012
2)吉富政宣「太陽光発電システム特有の火災発生特性ならびに消火
活動時の感電危険-太陽光発電システム(PVS)の安全保護 その
1」
『太陽エネルギー』216号、日本太陽エネルギー学会、2013年
ある。
3)吉富政宣「太陽電池セルの焼損メカニズム-逆電圧象限動作-太陽
光発電システム(PVS)の安全保護 その2」『太陽エネルギー』
217号、日本太陽エネルギー学会、2013年
5
おわりに
本稿では、直流電気の事故による火災および雪・風によるア
レイの崩壊や飛散という、被害規模が大きな事故例を紹介し
4)浅川初男「浅川太陽光発電所」<http://www.mt8.ne.jp/ sun/
news/20140303.html>(最終アクセス2015年5月29日)
5)谷池義人、谷口徹郎、染川大輔「太陽電池パネルを設置した折板屋
根の風荷重(その1)パネルと屋根の風圧係数」『日本建築学会大
会学術講演梗概集(北海道)』2013年
6)田村幸雄「あなたのお家、地震と風、どっちが怖い?」
『日本風工学
会出張講義』2000年、の図版を基に筆者改変
た。
これらは自然法則を適切に適用することによって未然防止
太陽光発電
RMFOCUS Vol.54 32
介護ロボット
介護ロボットの導入と
リスクマネジメント
株式会社インターリスク総研
事業リスクマネジメント部
事業継続マネジメントグループ
主任コンサルタント
1
齋 藤 顕 是
しては、2014年2月1日に生活支援ロボットの国際安全規格で
はじめに
あるISO13482が日本主導で発行された。一方で、福祉施設等
介護ロボット導入の現場におけるリスクマネジメントはいまだ
2010年から2025年までの15年間で、日本の高齢者は約700万
途上にある。そこで、本稿では介護ロボットに関する動向を紹
人増加することが見込まれており、特に認知症を有する高齢
介した上で、介護ロボット導入時のリスクマネジメントについ
者が増えていくと考えられている。それに伴い介護職員も2012
て考察したい。
年の約150万人から、2025年には約250万人が必要になると推
計されている。一方で、腰痛などを有する介護職員は約7割に
上り、業務における身体的負担が重いだけでなく、介護職員
の高齢化、離職率の高止まりなど課題は山積している状況に
2
介護ロボット開発・導入における動向
ある。それらの課題を解決する一つの手段として、見守りやパ
ワーアシストを行う介護ロボットが挙げられる。介護ロボット
本章では、まず介護ロボットに関する政府の施策動向を紹
は現状、市場規模としてはまだまだ小さい状況にあるが、国立
介した上で、インターリスク総研が事務局業務の一部を担当し
研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の予測1)
た、経済産業省「ロボット介護推進プロジェクト」を詳しく紹
によると、今後は市場が急拡大することが想定される(図1)。
介し、そこから得られた介護ロボット導入における知見を紹介
市場規模の拡大に伴い、懸念されるのは機器利用に伴う事故
していきたい。
等の発生である。機器そのものの安全性評価に関する手法と
⑴介護ロボットに関する政府の施策動向
(億円)
8000
経済産業省では、
「ロボット介護機器開発・導入促進事業」
7,281億円
■見守り・コミュニケーション
ロボット介護機器の開発・導入を促進するため、①企業等によ
■移動支援
(個人用)
る、介護現場等のニーズを踏まえて特定された「ロボット技術
6000
■介護・介助支援
■自立支援
の介護利用における重点分野」のロボット介護機器の開発補
助事業、②ロボット介護機器の実用化に不可欠となる、安全・
3,910億円
4000
として、高齢者の自立支援、介護実施者の負担軽減に資する
性能・倫理の基準の作成等、介護現場への導入に向けた環境
整備を行う基準策定・評価事業を実施している。
一方、厚生労働省では「福祉用具・介護ロボット実用化支援
2000
事業」として、介護現場のニーズに適した実用性の高い介護ロ
1,052億円
ボットの開発が促進されるよう、開発の早い段階から現場の
191億円
ニーズや試作機器について介護現場での実証等を行い、介護
0
2015年
2020年
2025年
2035年
ロボットの実用化を促す環境を整備するため、①相談窓口の
設置、②実証の場の整備、③モニター調査の実施、④普及・啓
【図1】介護ロボット関連の市場予測
(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「2035年に向けた
ロボット産業の将来市場予測」1)を基にインターリスク総研作成)
33 RMFOCUS Vol.54
発などの取り組みを行っている。
介護ロボット
移乗介助
(1)
ロボット技術を用いて介助者のパワーアシスト
を行う装着型の機器
排泄支援
排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位
置の調節可能なトイレ
移乗介助
(2)
ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動
作のパワーアシストを行う非装着型の機器
認知症の方の見守り
(1)
介護施設において使用する、センサーや外部
通信機能を備えたロボット技術を用いた機器
のプラットフォーム
移動支援
(1)
高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に
運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器
認知症の方の見守り
(2)
在宅介護において使用する、転倒検知セン
サーや外部通信機能を備えたロボット技術を
用いた機器のプラットフォーム
移動支援
(2)
高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、
特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を
支援するロボット技術を用いた歩行支援機器
入浴支援
ロボット技術を用いて浴槽に出入りする際の
一連の動作を支援する機器
【図2】
ロボット技術の介護利用における重点分野 (出典:経済産業省HP2))
上記の取り組みの中、経 済産業省と厚生労 働 省は連名で
⑵ロボット介護推進プロジェクト
2012年11月に4分野5項目の「ロボット技術の介護利用におけ
る重点分野」を策定し、2014年2月には、5分野8項目に改訂し
ロボット介護推進プロジェクトは、経済産業省が実施するロ
た(図2)。重点項目は、①装着型の移乗介助、②非装着型の
ボット介護機器導入実証事業の一環として行われた補助事業
移乗介助、③屋外用移動支援、④屋内用移動支援、⑤排泄(は
である(平成25年度補正予算。事業規模約19億円)。ロボット
いせつ)支援、⑥介護施設における認知症の方の見守り、⑦在
介護機器の量産化への道筋をつけることを目的として、介護ロ
宅介護における認知症の方の見守り、⑧入浴支援の8項目であ
ボットを製造する製造事業者と介護施設、そしてその両者の橋
り、介護職員の腰痛負担軽減や認知症を有する高齢者への対
渡しとなる仲介者の3者がチームを組み、ロボット介護機器を
応等、介護ロボット利用に関するニーズが特に高い分野が選
実際に介護現場で活用しながら、大規模な効果検証等を行っ
定されている。
た(次頁図3)。事業期間としては、2014年4月に機器の募集
これらの取り組みを踏まえ、2013年6月14日に発表された日
を開始し、2015年1月末ごろまで導入効果検証を行った。採択
本再興戦略の中にも、介護ロボットに関する記載がなされて
された機器は27機種であったが、半数を見守り支援機器が占
いる。2014年6月19日には安倍総理が介護施設を訪問し、介護
めていた。見守り支援機器は、工業機械等におけるセンシング
ロボットの体験および介護職員との意見交換も行っており、国
技術等、他分野で活用されている技術を転用しやすい状況に
家として介護ロボットの開発・普及推進を進めていることがう
あると推察される。移乗介助、移動支援、排泄支援機器は、採
かがえる。
択数が少ないながらもそれぞれ独自の技術要素を有した機器
○ロボット介護機器開発5カ年計画の実施等
インターリスク総研は、ロボット介護推進プロジェクトの事
務局業務の一部を、公益財団法人テクノエイド協会から受託
急速な普及拡大に向けて、移乗介助、見守り支援等、安
して実施した。介護ロボットの導入現場における生の声を多く
価で利便性の高いロボット介護機器の開発をコンテス
聞いた中で、今後の導入に役立つ知見が得られた。主なポイン
ト方式で進めること等を内容とする「ロボット介護機器
トとしては、①介護ロボットの設計時には、性能が安定して得
開発5カ計画」を今年度より開始する。
られることを重視すべきであること、②介護施設として意思統
また、研究開発に先立ち、開発された機器の実用化を
一を図った上で介護ロボットを導入する必要があること、③介
確実にするため、安全基準及びそれに基づく認証制度
護ロボット導入後には製造事業者と介護施設が連携し、機器
を今後1年以内に整備する。
の改善を繰り返していくことが重要であること、④結果として
ロボット技術を利用した機器が、障害者の自立や生活支
得られる付随的な効果が多いことである。以下に具体的に説
援に活かされるよう、企業が行う開発を更に促進するた
明する。
めのシーズ・ニーズマッチング等を行う。
RMFOCUS Vol.54 34
介護ロボット
であった(36頁表1、図4)。
※日本再興戦略(2013年6月14日)における記載
【図3】
ロボット介護推進プロジェクトの概要 (出典:公益財団法人テクノエイド協会HP「ロボット介護推進プロジェクトの概要」3))
35 RMFOCUS Vol.54
介護ロボット
①設計時:性能が安定して得られることを重視すべき
他社との差別化を図るためにも製造事業者が機能の高い製
品を追求する傾向は否めない。一方で、現場の反応を見ている
ぎて設定に時間を費やすようであれば、忙しい介護の現場で
は見向きもされなくなる。
「いつでも、安定した性能が得られ
る」という安心感の方が重要である。
限りは、求められているのは高機能ではなく、
「性能が安定し
て得られること」である。例えば見守り支援機器の場合、通信
②導入時:介護施設としての意思統一の必要性
トラブル等でセンサーが稼働する時と稼働しない時があるよ
介護ロボットを、施設の経営トップの考え一つで突然導入し
うでは、いくら高機能であったとしても職員は通信トラブルが
た場合、現場職員の負担軽減につながるものであったとして
発生することが不安で、機器の活用が進まない。機能が多す
も、現場からの反発は想像に難くない。介護ロボットの導入の
【表1】
ロボット介護推進プロジェクト採択機器一覧
NO
重点分野
01
移乗介助(装着型)
企業名
機器名称
イノフィス
介護用マッスルスーツ
自立支援型移乗介助ロボット「愛移乗くん」
02
移乗介助(非装着)
アートプラン
03
移乗介助(非装着)
パナソニックプロダクションエンジニアリング
離床アシストベッド「リショーネ」
04
移乗介助(非装着)
安川電機
移乗アシスト装置
移乗介助用サポートロボット
05
移乗介助(非装着)
富士機械製造
06
移乗介助(非装着)
マッスル
ロボヘルパーSASUKE
07
移乗介助(非装着)
今仙技術研究所
i-PAL(アイ・パル)
08
移動支援
RT.ワークス
歩行アシストカート
09
移動支援
カワムラサイクル
安全・安心に外出をサポートするアシスト機能付き歩行車
10
排泄支援
アム
水洗式ポータブルトイレ 流せるポータくん2号
11
排泄支援
アム
水洗式ポータブルトイレ 流せるポータくん3号
12
排泄支援
TOTO 九州販売
ベッドサイド水洗トイレ
13
排泄支援
TOTO エムテック
ベッドサイド水洗トイレ
14
見守り支援
NKワークス
3次元電子マット式見守りシステム
15
見守り支援
バイオシルバー
bio sync sensor "aams"(あんしん あんぜん みまもり システム)
16
見守り支援
富士ソフト
高齢者福祉施設向け 見守りベッドセンサーシステム
17
見守り支援
イトデンエンジニアリング
エンジェル・アイ
18
見守り支援
キング通信工業
シルエット見守りセンサ
19
見守り支援
ソルクシーズ
いまイルモ
20
見守り支援
テクノスジャパン
見守り介護ロボット「ケアロボ」
21
見守り支援
アートデータ
体動(呼吸)検知マットによる見守り通報装置
22
見守り支援
構造計画研究所
バイタルセンサを用いた施設型見守りシステム
23
見守り支援
ラムロック
ラムロックシステムmini
見守り支援
スーパーリージョナル
楽チン見守り「ラクミ∼マ」
見守り支援
イデアクエスト
認知症患者用非接触ベッド見守りシステム OWLSIGHTⓇ(アウルサイト)
26
見守り支援
パラマウントベッド
眠りSCANⅡ(仮)
(起きあがり検知搭載機種)
27
見守り支援
日本アレフ
ルナナース
(公益財団法人テクノエイド協会HP「補助対象ロボット介護機器一覧」4)を基にインターリスク総研作成)
※採択された機器の例
4)
【図4】
ロボット介護推進プロジェクトで採択された機器の例 (出典:公益財団法人テクノエイド協会HP 「補助対象ロボット介護機器一覧」
)
RMFOCUS Vol.54 36
介護ロボット
24
25
前に、介護ロボットの導入の意義やメリット・デメリットを整理
ざ患者さんに使っていただくと急に停止したり、速く移動し過ぎ
し、管理者層だけでなく現場職員も含めて介護ロボット導入に
たりするなど、予想外の動きがありました。開発者が実験して
関する意思統一ができていることによってはじめて、効果的な
いるときは、開発者側が、自然に本機器がどのように動くかを
介護ロボットの導入が可能である。
予測して紐を引っ張っていたのです。予備知識のない一般の患
者さんが使うための安全対策の重要性を再認識しました(「在
③導入後:製造事業者と介護施設が連携して機器の改善を
宅酸素療法患者に自動(制御紐使用)で追従して酸素機器を
介護ロボットの製造事業者は、一定の高齢者像をイメージし
運ぶロボット」モニター調査より、原文のまま)」とあるように、
て介護ロボットの機能設計をすることが多い。しかしながら、
製造事業者の立場からの目線と、現場・利用者の立場からの
いざ現場に導入してみると、高齢者といっても筋力や認知能力
目線では、差異がある場合が多い。介護ロボットを使用するの
は様々であったり、脊柱が側方に湾曲しているため座位が保て
は、製造事業者ほどロボット等に触れる機会が多くはない介
ないなど、設計時には想定していなかった事象が数多く発生
護スタッフや利用者などである。製造事業者は機器そのものの
する。ある製造事業者では、追加の固定バンドを配置したり、
安全性を確保した上で製品化していることが一般的であるが、
体重がある利用者向けに広さを変更するといった対応を即座
介護の現場でしか気づけないリスクもあることを意識して導入
に行っていた。現場の意見を広く聞き、改善するサイクルを何
を検討することが望ましい。
度も繰り返すことにより、ロボットの導入・利用に対して利用
者だけでなく施設の反応も大きく違ってくる。
②導入前:介護現場でのリスクの洗い出し
④導入結果:介護ロボット導入による付随効果は多い
クも複数存在する。介護施設内の設備配置や手順、職員の状
上記のとおり、介護の現場でしか気づくことができないリス
設計時に想定していた介護ロボットそのものの効果だけで
況も施設によって違うため、介護ロボットの導入前には介護
なく、介護ロボットの導入に付随して得られる効果も明らかに
現場でそれぞれリスクの洗い出しをすることが望ましい。以下
なった。例えば、見守り支援機器を使うことによって、夜間に
に、二つの観点からリスクの洗い出しの手法をご紹介する。
おける利用者の行動を一定把握することができるようになっ
たため、サービスレベルの向上につながった例があった。ま
介護ロボット導入による「変化」に基づくリスクの洗い出し
た、職員が訪室することを嫌がる利用者に対し、見守り支援機
介護ロボットを導入することにより、機器を使用している瞬
器を通じて訪室せずに確認することにより、利用者が落ち着い
間だけでなく、その他の業務の流れや行動、感覚・意識などに
て生活することができたといった事例もある。移動支援機器
様々な「変化」が生じる。現状の手順などと比較して、介護ロ
を用いて歩行距離が伸びたことによって利用者の生活圏が拡
ボットを導入することによりどのような「変化」が起こるかを議
大し、多くの人とコミュニケーションが取れるようになり、利用
論・確認することによりリスクを洗い出すことが重要である。
者の認知機能や社会性の向上に寄与する可能性もある。事例
報告会では、寝たきりの利用者が介護ロボットを利用すること
※介護ロボット導入による「変化」の例
により、自身の誕生会を広間で行うことができたといった感動
排泄支援機器を導入することにより、利用者の居室に入
的な報告もあった。このように、介護ロボットの導入によって
室する必要がなくなったため、訪室の頻度が減った。そ
予期せぬ効果が得られることも多い。
れに伴い、利用者がベッドから転落していることに気づ
けなくなった。
見守り機器のタブレット端末を腰のベルトに付けて常時
3
介護ロボット導入におけるリスクマネジメント
携帯するようになった。それにより、移乗の際にタブレッ
ト端末が利用者にぶつかり、利用者にケガをさせた。
移乗介助機器を導入したため、ステーションから機器を
前章では、介護ロボット導入に役立つ知見を紹介したが、本
利用者の居室に移動する手順が増えた。それに伴い、今
章では、介護ロボットの①導入検討時、②導入前、③導入時、
まで訪室の際に持っていった物品を運ぶことができなく
④導入後の四つの時点でそれぞれ介護施設に求められるリス
なった。
クマネジメントを、ポイントを絞って解説したい。
①導入検討時:介護ロボット導入時におけるリスクの洗い出し
厚生労働省「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業におけ
5)
関係者を想定したリスクの洗い出し
福祉の現場に関わる関係者は、施設職員と利用者だけでは
る介護機器等モニター調査事業報告書 」には、
「実験室で試
ない。利用者の家族や管理者、行政等も含めて多くの関係者
験しているときには上手く追従できているように見えても、い
が存在している。ロボットを使用している状況だけを想定した
37 RMFOCUS Vol.54
介護ロボット
リスクの洗い出しだけではなく、様々な関係者とその関わり方
けられる。まずはヒヤリハットを職員間で共有し、ヒヤリハット
を意識したリスクの洗い出しを行うことが望ましい。
事象を全員が認識することが必要である。特に、使い始めて間
もない介護ロボット利用に関するヒヤリハットの共有は効果が
※関係者を想定したリスクの洗い出しの例
高い。
ロボットを導入することを家族に周知、理解を図ってい
事故防止の取り組みとしては、介護ロボット利用時以外の
なかったために、何らかのヒヤリハットが発生した場合
ヒヤリハットでも「見守りを頻繁に行う」などと記載したヒヤリ
に、
「ロボットを使用するなんて聞いていない」とクレー
ハット報告書が多い。個人の意識や努力に頼る取り組みでは
ムにつながった。
無く、組織としてどのような対応を行えばa)事故が発生する
介護ロボット導入時の責任関係が明確になっておらず、
前に気づくことができるか、b)事故の影響(ケガの度合い等)
本導入前の試用(トライアル)中に発生した事故による
を小さくできるか、c)事故発生後の対応を適切に行うことが
損害に関して施設と製造事業者でトラブルになった。
できるかを、検討して、事故防止策・拡大抑制策を立案するこ
とが望ましい。
③導入時:施設職員に対する教育
導入される介護ロボットが有する機能を、職員が容易には
想像できない場合も多い。職員によっては、
「ロボットなのだ
4
おわりに
から何でもできるのでは」と過剰な期待を持って機器に接す
る場合もある。そのような場合、職員内での試用の段階で、思
ロボット介護推進プロジェクトの事務局として担当した経験
わぬ事故が発生することも想定される。機器に触れる段階で、
から、介護ロボットを導入する際に求められるリスクマネジメ
機器ができること、できないことを職員が理解している必要が
ントについて考察した。今後の少子高齢化や職員の負担増加
あるため、事前の研修を実施することが望ましい。特に、
「機
等の状況にかんがみて、介護ロボットの導入は今後加速してい
器ができないこと」や「機器の設計・製造において、想定して
くことが想定される。本稿が、介護ロボットを導入する福祉現
いないこと」、
「機器操作上、避けるべきこと」に関しては十分
場において、リスクマネジメントを推進していく上での一助と
な説明が必要である。
なれば幸甚である。
さらに、機器を利用者に対して使用する前に、実際の機器を
用いた教育も行う必要がある。例えば車椅子であれば慣れ親
しんだ福祉用具の一つであるため、動かし方や何かあった時
以上
の対応も即座にできる職員が多い。一方でほとんど利用したこ
とのない介護ロボットの場合、通常の使用方法は理解してい
たとしても、いざという時の対応ができない場合もある。その
ため、一定のレベルまで使い方の理解が達した段階ですぐに
現場に投入するのではなく、十分な試用期間を踏まえた上で
参考文献・資料等
本格的に利用していくことが望ましい。
一方、福祉の現場は24時間稼働であるため、業務を一旦停
ることは不可能である。実際の機器を用いた研修の方法とし
ては、a)複数回の研修機会を確保する、b)常設の機器体験
ブースを一定期間設置する、c)機器利用方法について習熟し
た職員を育成しその職員が中心となって全職員に周知する、
といった方法等が考えられる。施設や職員の勤務特性等を踏
まえた効率的な教育を検討することが重要である。
④導入後:ヒヤリハットの共有と事故防止
これは介護ロボット導入時に限らず通常業務においても同
様であるが、ヒヤリハットを施設内で共有して、事故防止につ
なげていくことが望ましい。施設によっては、ヒヤリハットを記
2)経済産業省HP[ロボット技術の介護利用における重点分野」を改
訂しました]
<http://www.meti.go.jp/press/2013/02/20140203003/
20140203003.html>最終アクセス2015年5月20日)
3)公益財団法人テクノエイド協会HP 「ロボット介護推進プロジェク
トの概要」
<http://www.techno-aids.or.jp/robocare/#part5>(最終ア
クセス2015年5月20日)
4)公益財団法人テクノエイド協会HP 「ロボット介護推進プロジェク
ト補助対象機器一覧 平成26年7月29日現在」
<http://www.techno-aids.or.jp/robocare/catalog.pdf>(最
終アクセス2015年5月20日)
5)厚生労働省 「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業における介
護機器等モニター調査事業報告書」
<http://www.techno-aids.or.jp/research/jireishu_130606.
pdf >(最終アクセス2015年5月20日)
入しても「書いて終わり」になっているケースも少なからず見受
RMFOCUS Vol.54 38
介護ロボット
止することはできない。従って、一回の研修で全職員に周知す
1)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「2035年
に向けたロボット産業の将来市場予測」
<http://www.nedo.go.jp/content/100080673.pdf >(最終ア
クセス2015年5月20日)
緊急時情報共有
緊急時における情報共有の
取り組みについて
株式会社インターリスク総研
大阪支店
災害・事業RMグループ
主任コンサルタント
1
はじめに
笹 平 康 太 郎
みとして移動通信ツールに着目し、
これらの特徴と有効に機能
させるための運用方法について解説する。
地震などの大規模災害が発生すると、停電や各通信会社の
規制による輻輳(ふくそう)等により、通常使用している通信ツー
ル(ここでは、固定電話、携帯電話、スマートフォン、メールのこ
2
緊急時の通信ツールについて
とをいう)が十分に使用できなくなる可能性が高い。実際に東
日本大震災では、固定電話は停電や通信網の損傷等により、約
緊急時の通信ツールとしては、特に東日本大震災以降、様々
190万回線の通信回線が不通となったことに加えて、通信事業
なものが各通信会社やシステム会社から提供されているが、今
者が最大80∼90%の通信規制を実施したことにより輻輳が発
回は多くの会社で緊急時用の通信ツールとして導入されている
生した。一方、携帯電話およびスマートフォン
(以下、携帯電話と
(1)衛星携帯電話、
( 2)MCA無線、
( 3)PHS、
( 4)情報共有シ
略記)は約2万9,000局の基地局が停止、携帯電話各社が音声
ステムの四つに着目し、
それぞれの特徴について解説する。
通信について最大70∼95%の規制を実施したことにより輻輳が
発生した(ただし、メールなどのパケット通信は0∼30%と音声
⑴衛星携帯電話
通信に比べ規制の割合が低く、
すぐに規制が解除された)。1)
被災した地域に自社、または重要な取引先の拠点がある場
①概要
合、早期に現地の状況を把握するとともに必要な支援および資
衛星携帯電話は、本来、通信インフラが整っていない地域や
源を投入し、早期に復旧することは事業継続対応上、重要なポ
海上で通信するためのツールである。衛星携帯電話から通信
イントである。
しかしながら、冒頭で述べたとおり、大規模災害
衛星に直接電波を送信し通信を行う仕組みである。衛星携帯
発生時には通常使用している通信ツールが十分に使用できず、
電話同士であれば、通信衛星のみで地上の基地局等を経由せ
迅速かつ的確に情報共有を行うためにどのような対策を行え
ずに通信ができる。また、一般の電話(固定電話・携帯電話)
と
ばよいのか悩んでいる担当者は少なくない。
そこで本稿では、緊急時における拠点間の情報共有の取り組
も通信ができ、その場合は、衛星携帯電話から通信衛星に送信
した電波をさらに地上にある専用の基地局に送信し、そこから
一般の通信網を経由する事になる(一般の電話から衛星携帯
電話へは逆の経路になる)。
②緊急時における利点
衛星携帯電話が受発信する電波は地上の基地局を経由しな
いため、被災地周辺の通信インフラが停止した環境でも使用す
ることができる。また、衛星電話同士であれば、通信会社の規
制、
それに伴う輻輳の影響も受けない。
③留意点
室内や山・高層ビルなどの遮蔽物に囲まれた場所では、端末
39 RMFOCUS Vol.54
緊急時情報共有
から通信衛星に接続できず、使用できない場合がある。そのた
⑶PHS
め、導入する際は事前に使用したい場所で十分に通信可能で
あるかを確認することが必須である。また、通話は基本的には
国際電話扱いになるため、衛星携帯電話から一般の電話に電
話をかける場合、
または衛星携帯電話に電話をかける場合は、
①概要
PHSは、機能・使い方が携帯電話とほぼ同様である。携帯電
話と大きく異なる点として、通信方式の違いがあげられる。携帯
国際電話アクセス番号(通信会社によって異なる)
および国番号
電話の通信方式は
「マクロセル方式」
と呼ばれ、一つの基地局が
(日本であれば81)を入力して相手の電話番号をダイヤルする
広範囲の電波を送受信している。一方、PHSの通信方式は
「マイ
必要がある。
上述のとおり、衛星携帯電話の操作は、一般の電話とは異な
クロセル方式」
と呼ばれ、携帯電話の基地局よりも送受信でき
る範囲が狭く、携帯電話よりも多くの基地局が設置されている。
るため、担当者は操作方法を事前に確認、習熟しておくことが
必要である。
②緊急時における利点
④費用(目安)
を備えているため、停電時でも基地局に損害がなければ一定
PHSの基地局の多くは、MCA無線と同様に非常用発電装置
機種によって様々であるが、本体価格は約3∼10万円である。
期間使用できる。さらに携帯電話よりも基地局が多いため、い
月々の費用は、基本通話料5,000円前後と、実際に通話した時
くつかの基地局が停止しても周囲に稼働している基地局があ
間分の通話料が10秒につき20円程度かかる。
れば、送受信をカバーすることができる。
また、PHSのマイクロ
セル方式は、携帯電話のマクロセル方式と比較し、多くのユー
⑵MCA無線
ザーが同時に利用しても一つの基地局への電波の集中が多く
ないため、輻輳が発生しにくい。操作方法については携帯電話
①概要
MCA無線は、一斉通信が可能な通信ツールであり、主にバ
と同様であるため、衛星携帯電話やMCA無線と比較すると簡
単に使用することができる。
ス、タクシー、貨物自動車などの陸上交通事業者が使用してい
るツールである。全国に設置された基地局を経由して通信を行
うため、全国規模で使用できる。
③留意点
東日本大震災では、携帯電話各社が通信規制を行い輻輳
が発生している中で、PHSは規制せず輻輳が発生しなかった
②緊急時における利点
のは、通信方式の違いに加えて、携帯電話に比して契約者数
一般の電話の通信網とは異なる通信網であること、1回の通
(ユーザー数)が少なかったことにより、電波が集中しなかった
信が1∼5分と制限されていることから、輻輳が起こりにくい仕
ためともいわれている。しかしながら、PHSの契約者数(ユー
組みになっている。また、多くの基地局が非常用発電装置を備
ザー数)の変化や事業の縮小によっては、今後の大規模災害発
えているため、停電時でも基地局に損害がなければ一定期間
生時でも同様に輻輳が発生しないとは言い切れないため、注
使用できる。
さらに、一斉通信が可能であるため、一度に多くの
意が必要である。
拠点に情報を発信し、共有することができる。
④費用(目安)
③留意点
無線であるため、送信ボタンを押している間のみ音声を送信
できる方式(プッシュ・トゥ・トーク方式)であり、双方で同時に
本体価格の費用は機種によって異なるが、約1万円以内で購
入できる。月々の費用は一般の携帯電話よりも安く、基本料金
と通話料合わせて1,500円程度の定額制で利用できる。
話すことができない。そのため、
どちらが先に話す
(発信する)か
⑷情報共有システム
を事前に確認、習熟しておくことが必要である。
また、衛星携帯
電話は一般の電話と通信が可能であるが、MCA無線は同一無
線同士の通信に限定される。
①概要
情報共有システムは通信会社やシステム会社が提供してい
るデータ通信を使用した通信ツールである。
( 1)∼(3)の通信
ツールとは異なり、データ通信により、音声だけでなく文字や
④費用(目安)
機種によって様々であるが、本体価格は約15∼25万円であ
写真なども送受信することができ、情報の内容を視覚的に把握
することができる。
る。
月々の費用は基本料金と通話料を合わせて2,000∼3,000円
の定額制になっているのが一般的である。
RMFOCUS Vol.54 40
緊急時情報共有
ルールを事前に決めておくことが重要である。操作方法も一般
の電話とは異なるため、衛星電話と同様に、担当者は操作方法
②緊急時における利点
考える各通信ツールに適した導入条件を提案する。下記内容
音声通信ではなく、パケット通信を使用しているため、電話
を参考に自社に合った通信ツールを導入していただきたい。
よりも輻輳が発生しにくい。また、情報共有システムは利用者
各社のニーズに沿ってカスタマイズすることも可能である。事
a)衛星携帯電話:
前に収集すべき情報を洗い出し、入力フォームを準備しておけ
地上の通信設備に依存しないことが最大のメリットであるた
ば、報告する者は情報共有システム上のフォームに情報を入力
め、通信インフラに大きな影響を与える津波等のリスクが高
することで漏れがなく、かつ効率よく報告・共有することができ
い地域では、衛星携帯電話の導入をお勧めする。衛星携帯電
る。
さらに情報共有システムを利用している者全員に一斉に情
話であれば、
たとえ津波で他の通信ツールの基地局や回線が
報を発信でき、情報の共有を迅速に行うことができる。
流出、損害を受けている場合でも使用することができる。
b)MCA無線:
③留意点
一斉通知が可能であるため、全国各地に複数の拠点がある
情報共有システムは、運用しているサーバーが停電や損壊によ
り停止してしまうと、
すべての拠点で利用できなくなる。
また、情
会社は、各拠点にMCA無線の導入をお勧めする。被災した
拠点は被害状況等を取りまとめ、他拠点に報告するとともに、
報共有システムの利用者全員が情報を送受信できるため、発信
復旧にあたり拠点間の連携が必要な場合は、一斉通知を利
ルールをきちんと決めておかないと、情報共有システム上の情報
用することで各拠点の対応を同時に把握することができる。
量が膨大になり、必要な情報が埋もれてしまう可能性がある。
c)PHS:
操作が簡単で携帯しやすいことから、各拠点の責任者に携帯
させる場合にPHSの導入をお勧めする。緊急時に責任者に報
④費用(目安)
情報共有システムは、運用方法やカスタマイズの程度によっ
て費用が大きく異なる。一般的に、自社で運用する場合であ
告、
判断を仰ぎたい場合、
すぐに連絡を取ることができる。
d)情報共有システム:
れば初期費用は高いものの、保守、メンテナンスは基本的に自
拠点が全国に点在している会社や、従業員が1箇所にとどま
社で行うため、ランニングコストを抑えることができる。一方
らず、あらゆる場所で業務を行っている会社(例:不動産業、
で、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ:Application
建設業など)
で、各所の被害情報を会社全体で把握しておく
Service Provider)
やクラウドサービス等を利用する場合、初
必要がある場合は、情報共有システムの導入をお勧めする。
期費用は抑えられるが、
月々のランニングコストが高くなる。
各人が各所の被害を本部に報告することで本部はそれらを
効率よく集約し、特に被害の大きい場所や優先的に復旧す
上述のとおり、各通信ツールの特徴(表1)はそれぞれ異なる
べき場所を選定することができる。
ため、
自社の利用・配備方法によって、導入する通信ツールを適
切に選択する必要がある。そこで、本章のまとめとして、筆者の
【表1】各通信ツールの違い
衛星携帯電話
MCA無線
PHS
情報共有システム
緊急時の利用
(つながりやすさ)
△
停電時でも利用できるが屋内
では使用できない場合がある
◎
停電時でも利用でき輻輳が発
生しにくい
◎
停電時でも利用でき輻輳が発
生しにくい(発生する可能性あ
り)
○
データ通信であるため、
音声より輻輳が発生しに
くい
操作性
(使いやすさ)
△
国際電話の扱いになるため、事
前に操作に慣れておく必要があ
る
△
無線のため、事前に操作に慣れ
ておく必要がある
◎
携帯電話と同様の操作で対応
できる
○
操作に慣れておく必要が
あるが、視覚的に使いや
すい
一 般の電 話( 固 定 電
話、携帯電話)
との互
換性
○
一般の電話とも受発信できる
費用
(目安)
本体価格
3∼10万円
本体価格
15∼25万円
本体価格
1万円以内
月々の費用
5,000円+通話料
月々の費用
2,000∼3,000円
(通話料含む)
月々の費用
1,500円
(通話料含む)
41 RMFOCUS Vol.54
△
○
MCA無線同士のみ
一般の電話とも受発信できる
(一般の電話には発信できない)
△
(一般の電話とは受発信
できない)
サービスや利用形態など
により大きく異なる
緊急時情報共有
3
情報共有のツールの運用方法
手に連絡をしないよう、本社から各拠点に被災拠点の状況につ
いて、適宜、情報を伝達することも全社の災害対策本部の重要
な役割である。
これまで紹介した通信ツールを参考に自社に合ったものを
導入しただけでは、緊急時に迅速かつ円滑に情報共有ができ
るとは限らない。通信ツールの整備と並行して、運用方法につ
いても整備しておくことが重要である。運用のポイントとしては
4
おわりに
(1)複数の通信ツールの確保、
( 2)通信ツールの習熟度の向上
(訓練の実施)、
( 3)情報の伝達ルートの整理があげられる。
大規模災害発生時に、被災した拠点の被害状況を早期に確
認することは、適切な支援および資源を投入して、事業の復旧・
⑴複数の通信ツールの確保
継続を行うための重要な対応の一つである。
また、大規模災害
発生直後、被災拠点では周囲の状況が的確に把握できないた
各通信ツールの特徴で解説したように、各通信ツールにはそ
め、本社等の連絡窓口から被災拠点に対して周辺の情報を提
れぞれメリット、デメリットがあり、緊急時の情報共有に万能な
供することは、外部とのつながりが持てたという安心感を与え
通信ツールはない。そのため、通常使用している通信ツールも
ることにもつながる。
このような理由から緊急時に他拠点と連
含め、相手に連絡の取れるツールを複数用意しておくことが重
絡を取るためのツールや運用方法を整備しておくことは重要で
要である。また、通信ツールにバッテリーが搭載されていても、
ある。本稿で解説した内容が、皆様の組織における緊急時の情
停電すると充電できなくなるため、通信ツールの確保と合わせ
報共有の取り組みの一助となれば幸いである。
て、電源を確保することも推奨する。通信ツールの充電であれ
なお、インターリスク総研では、緊急時における情報共有の
ば、大型の非常用発電機を導入する必要はなく、ガスボンベで
取り組みについて、主に「3.情報共有のツールの運用方法」に
発電できるポータブル発電機や電気自動車の蓄電池から電力
記載されているルール作りや訓練を支援しているので、ぜひ活
を供給する方法などがある。
用いただきたい。
以上
⑵通信ツールの習熟度の向上(訓練の実施)
緊急時に迅速かつ円滑に情報共有を行うためには、定期的
に訓練を行うことが重要である。特に衛星携帯電話やMCA無
線などは操作方法が一般の電話とは異なる上に通常使用する
機会が少なく、緊急時という混乱した状況の中でいきなり使用
することは難しい。定期的に訓練を行い、連絡担当者はもちろ
ん、
より多くの従業員に操作方法を習熟させておくことが重要
となる。通信ツールのメンテナンスも含め、月に1回程度、他拠
点と実際に通信を行う訓練を実施することを推奨する。
⑶情報の伝達ルートの整理
複数の通信ツールを確保し、それぞれの操作方法の習熟に
緊急時情報共有
加えて情報の伝達ルートを決めておくことが重要である。東日
本大震災では、被災地の工場に本社や他の拠点から数多くの
同じような問い合わせが殺到し、担当者が初動対応、事業継続
対応に集中できないという事態が発生した事例もある。
このよ
うな事態を避けるためにも、被災拠点の窓口を一本化し、他の
拠点・部署から被災拠点にむやみに連絡をしないというルール
が重要である。基本的に被災拠点の情報は、本社(全社の災害
対策本部)
で取りまとめることが望ましく、他拠点との連携が必
要な場合も本社からの指示、
了承を受けたうえで他拠点から被
参考資料
1)
総務省『平成23年版 情報通信白書』
災拠点に連絡を行うようにする。
また、他拠点が被災拠点に勝
RMFOCUS Vol.54 42
RIMS年次総会
リスクマネジメント協会
(RIMS)
2015
年次総会報告
株式会社インターリスク総研
交通リスクマネジメント部
交通リスク第一グループ
主任コンサルタント 大 嶋
智也
ネットワークを作る場となっている。開催にあたって今年は以下の三つ
1
はじめに
のテーマが設定された。
①New Innovation
(新しい技術の発見)
②New Encounter
(新しいパートナーの発見)
2015年のリスクマネジメント協会(RIMS: Risk and Insurance
Management Society,Inc.)年次総会が4月26日∼30日、
アメリカ・ル
イジアナ州ニューオーリンズにて開催された。
③New Knowledge
(新しい知識の発見)
これらのテーマは開催地であるニューオーリンズ
(New Orleans)
の
ニューオーリンズはアメリカ南東部のメキシコ湾に面し、
ミシシッピ
「New」にかけて設けられたものでもあるが、時代の進展とともに新し
川の河口に位置する重要な港湾都市で、元来は穀物・綿花等、
ミシシッ
いリスクが現れ、それに伴い新たなソリューションと新たな連携、協力
ピ川流域の農産物の輸出港として発展し、後には工業都市・観光都市
関係が必要となってきたことも反映している。
また、近年、
ビジネスの多
としても発展した街である。
また、
ジャズ発祥の地であり、
ルイ・アームス
様化や国際化に伴いリスクマネジメントの対象は複数の分野にまたが
トロングなど有名な音楽家を多く輩出した街でもある。
り、
さらに単一国だけのものではなく複数の国家にまたがることが多く
主催者からは、
「今回ニューオーリンズでの開催の運びとなった理由
の一つは、多大な損害をもたらし、
自然災害に対するリスクマネジメント
なってきている。今年は上記の三つのテーマを掘り下げ、様々な
「ネット
ワーク」
を構築することを大きな目的として開催された。
の考え方や手法にも大きな影響を及ぼした
『ハリケーン・カトリーナ』
の
こういった背景が影響しているのか、今年の年次総会も北米、
中南米
上陸から10年が経過し、被災前の状態に復興したということである」
と
諸国だけでなく、世界各地の60カ国以上から参加者が集まった。特にア
アナウンスされていた。
ジア・太平洋地域からの参加者が増加しており、同地域においてリスク
年次総会が開かれたアーネスト N.
モーリアル コンベンションセン
ターは、
ニューオーリンズ初の黒人市長となったアーネスト ネイサン
マネジメントが注目を浴びていることを実感した。
モーリアルの功績をたたえて建てられたものである
(図1)。
RIMS年次総会は、企業のリスクマネジャーやリスクマネジメントを
専門とするコンサルタント、保険会社や保険ブローカーの社員、
リスク
マネジメントや保険、金融について学ぶ学生と幅広い業種の来場者が
2
オープニング基調講演
集まり、
リスクマネジメントに関する最新かつ幅広いテーマを議論し、
開催にあたって、
オープニングイベントと基調講演が実施された。
オー
プニングイベントは朝食会も兼ねており、多くの参加者がリスクマネジメ
ントの話に興じていた
(次頁図2)。筆者のテーブルでは、
アメリカだけで
なくイギリスやインド、
フィリピン、
バルバドスといった様々な国からの参
加者が着席したため、
自分が専門としている分野やリスクマネジメント
の取り組みの話だけでなく、各国の治安状況や生活の話など多種多様
な話題で盛り上がった。
朝食会の後は基調講演が行われた。講演者は、グラフィックアー
ティストであり、アントレプレナーであり、ベストセラー作家でもある
Erik Wahl氏であった。Wahl氏からは、講演中、音楽に合わせて世界
的なロックバンドであるU2のBono氏、
アップル社の故Steve Jobs
氏、物理学者のAlbert Einstein氏のポートレイトを描くというグラ
フィックアーティストらしいパフォーマンスがあった。余談であるが、後
日参加者のインタビューの際、
「 最も印象に残った講演であった」
と多
【図1】会場となったアーネスト N.
モーリアル コンベンションセンター
43 RMFOCUS Vol.54
RIMS年次総会
強調していた。
また、人間関係を幅広く創ることの重要性についても
「人
間関係を幅広く創ることは、働くことの意味と関連している。顧客に対し
て
『何を与えることができるのか』
を突き詰めていくと、独力では限りが
あり必ず他人の力が必要となってくる。
そのため
『ビジネス上の関係者
とだけでなく、異業種の人や他人種や他の国籍の人と幅広く人間関係
を構築することが重要』
」
と締めくくっていた。
二つの講演を聞いて感じたところは、我々リスクコンサルタントも新
たなソリューションを生み出すには創造性が必要であり、
その創造性を
醸成するには幅広い知識が求められるという点である。
日本においても
「他力本願」
という言葉があるが、幅広く人間関係を構築し、
ときに他
【図2】基調講演前の朝食会の様子
者の知恵を借りながら物事の解決を図っていくことの重要性を改めて
認識した。
くの参加者が回答するくらい印象的なものであった。Wahl氏は「ビジ
ネスにおいて現状を打破するためには、個々が持つイマジネーション
3
を呼び起こすことが重要である。
イェール大学の研究によれば、
アメリ
カ人の成人が挙げる思い出深い匂いのトップ20にアメリカのクレヨン
セッション
が挙げられていることからもわかるように、
アメリカ人は幼少の頃から
今年は、昨年とほぼ同数となる160のセッションが同時並行で進めら
クレヨンで自由に絵を描いたり、落書きをしたりして創造性が自然と
れた
(表1)。各セッションはそれぞれ60∼120分程度で構成され、講演
育まれており、今も個々の人々それぞれに必ず豊かな創造性がある。
Einstein氏の有名な言葉に
『イマジネーションは知識よりも重要』
と
者と受講者がインタラクティブにコミュニケーションを行う形で進めら
あるように、物事や社会の固定概念に縛られるのではなく、
ひらめきや
れていた
(図3)
。
アイデアを大切にしていくことが新たなものを作り出すことにつなが
昨年同様、各セッションは分野ごとに細分化されていた。昨年のセッ
る」
という点を強調していた。Wahl氏が講演中に描いた3名は、既存の
ションの傾向としては、戦略的リスク
(Strategic Risk Manage-
固定概念を打ち破り新たな世界を作り出した先駆者であるという点
ment)や人財関連リスク
(Career DevelopmentおよびTalent
で共通している。内容もさることながら、
コンテンツの組み立てや演出
Risk)が注目されていたが、冒頭にも触れたように、今年はここ2、3
に感嘆させられる印象深い講演であった。
年のビジネスの多様化や国際化を反映して、クレーム処理(Claims
昼食の時間帯にはRIMSの各賞の授賞式と二つ目の基調講演が行
Management)やグローバルリスク
(Global Risk)、
リスクコント
われた。講演者はホテルのフロントデスク係からディズニーリゾートの
ロール(Risk Control)、戦略的リスクといった分野の関心が高かっ
セールスダイレクターに転じ、現在はモチベーショナルコーチの要職に
た。地震や風水害といった自然災害や火災のように損失のみが生じる
就きながら作家活動をしているSimon T.Bailey氏であった。Bailey氏
リスクだけでなく、株価や為替といった損失も利益も生じうるリスク、
は自らが今までの仕事を通じて得た体験を交えながら、
「働くことの意
テロや紛争といった地政学リスクも今年の年次総会ではテーマとして
味」
と
「人間関係を幅広く創ること」
の重要性について語った。Bailey氏
取り上げられており、刻一刻と変化するビジネス環境に対応するため
は、
「我々は働くことの意味という点において
『自分が仕事を通じて何を
のリスクマネジメントの重要性を感じることができた。
得るのか』
ということを考えがちであるが、
『仕事上の顧客に対して自分
は何を与えることができるのか』
を考えることが重要である」
という点を
【表1】RIMS2015にて開催されたセッション数
(カテゴリー別)
初級
全般
中級
上級
2015 年 2014 年
合計 (昨年)
1
4
4
3
12
17
Career Development
3
6
0
1
10
10
Claims Management
5
11
7
2
25
18
Enterprise Risk Management
4
4
2
3
13
12
Global Risk Management
1
8
2
2
13
10
21
1
22
23
Industry
Insurance and Contract Management
5
8
2
15
22
Legal and Regulatory
2
5
3
10
10
Risk Control
4
7
4
15
11
Risk Finance
3
2
3
8
11
Strategic Risk Management
3
11
Talent Risk
合計
52
3
5
2
13
2
1
1
4
7
61
33
14
160
162
RIMS 年次総会
At the Forefront
【図3】
セッションの様子
RMFOCUS Vol.54 44
4
各セッションを通じた新たな知見
⑵商業ドライバーに対する安全取り組みについて
アメリカにおける商業ドライバーに対する安全取り組みについては、
筆者は交通リスクを専門としていることから、主に交通リスクに関す
るセッション、展示ブースへ参加、
見学を行った。
以下では、筆者が出席したセッションや展示ブースで受けた説明から
ほぼドライバー任せになっているのが実態で、
日本の運輸安全マネジメ
ント制度のような、組織内に安全マネジメントシステムを構築する取り
組みの義務というのは存在していない。
ドライバー向けの教育メニュー
得られた新たな知見を紹介する。
を提供している複数のリスクコンサルティング会社にヒアリングした結
⑴ウーバー
(Uber)
社を取り巻く状況
たいわゆる
「e-Learning」
によって行われている。
それは、
日本の損害保
果、商業ドライバーに対する教育のほとんどはインターネットを活用し
険会社やリスクコンサルティング会社が提供しているドライバー向け教
最近、
日本のタクシー業界への参入を検討中のアメリカのウーバー
育は現状として対面方式が主となっているが、
アメリカでは、対面式の
社が提供するタクシーサービスが注目されている。
ウーバー社は現在、
方が教育効果が高いことは認識されているものの、国土の広さやコスト
世界中で56カ国303都市においてサービスを提供している。
ウーバー社
面、効率性の観点から
「e-Learning」
による実施が大半を占めているた
が提供するサービスは次の三つである。
めである。
あるリスクコンサルティング会社のメニューは、1コンテンツ15
①リムジンサービス
∼20分で構成されており、
テーマは事業種類別(バス、
タクシー、
トラッ
②通常のタクシーサービス
ク、営業車等)、交通場面ごとに細分化されている。
アメリカではドライ
③ライドシェアサービス
バーの違反歴や事故歴の情報が公開されており、
これらの教育コンテ
ンツの提供にあたっては、
その違反歴・事故歴の情報を元に点数化を図
①、②については既存のタクシードライバー(Traditional Taxi
り、
それぞれのドライバーに最適なテーマを例示している。
Driver)
が提供するサービスであるが、③は一般ドライバーが個人所有
の車両を用いて提供するサービス、
日本でいうところの
「白タク」
に該当
⑶ドローンの活用について
するものであり、
ウーバー社の事業の拡大を支えている。
ウーバー社のタクシーサービスの利用方法は、専用のスマートフォ
アメリカにおけるドローンの利用状況や法制度についての現状報告
ンアプリを利用し、配車予約を行うというものである。
その際、
スマート
があった。
アメリカにおいてドローンを活用したビジネスは急速に多様
フォンのGPS機能を利用し、最も近い場所にいる車両を確認できるた
化しており、それに伴い販売台数も2015年では約40,000台である
(推
め、車両が来るまで安全な場所で待機することができる点がメリットと
計値)が、来年度はほぼ倍の70,000台、5年後には3倍以上の125,000
して挙げられていた。
また、車両ごとにドライバーの顔、氏名やそのドラ
台と予想されている
(次頁図4)。実際に石油関係ではパイプラインの
イバーの利用者からの評価が確認することができるため、
サービス水準
損傷個所の調査や海上油田のプラットフォームの調査、
自然災害関係
の高いドライバーを選択することも利用者側のメリットとして挙げられ
では森林火災における延焼状況の確認やハリケーンによる被害状況
ていた。
といった場面で活用されている。
それ以外にも工場建物や一般家屋の
乗車後に行先を伝え、到着した際にクレジットカードで支払うととも
資産評価、
ソーラーパネルの検査や都市部における交通渋滞状況の
に、利用者はスマートフォンのアプリで利用したドライバーの評価を行
確認といった場面でも活用されている
(次頁図5)。
また、通販最大手
う、
といった流れである。
その間、
ウーバー社のエリアごとの本部ですべ
のアマゾン社が今後商品配達の手段として、
ドローンの運用について
ての車両の位置をGPSで追跡しており、事故やトラブルが発生した際に
実際にテストを行っているほか、USポスタルやスイスポスタルも、配達
はすぐに対応できる体制となっている。
手段としての運用を予定しており、
スイスポスタルについては、今年の
また乗車中の事故について、
自動車保険等の支払限度額は身体障害
夏から小口荷物の配達実験を開始することが紹介された。そういった
賠償および財物損壊賠償共通で1事故あたり100万ドルに設定されて
中で、現在のアメリカの連邦航空局が定める規則において、商業目的
いる。
この額は、今年の3月にアメリカの主要な保険会社や保険組合と
のためにドローンを使用する企業は、法律に則してドローンを使用す
ウーバー社やそのほかのライドシェアサービスを提供している企業間
るためには特認(原則禁止だが、個別申請し許可を得る)が必要とな
で締結した新たな保険約款(TNC Insurance Compromise Model
り、一方無許可など法律に違反してドローンを使用するとほとんどの
Bill)
に基づくものである。全米での人口上位10都市のタクシーの身体
場合、保険が免責(保険が適用されない)
となる。
このように商業目的
障害賠償および財物損壊賠償共通の1事故あたり支払限度額は最も額
のためのドローン利用で保険が適用されるケースは限定されており、
の高いダラスでも50万ドルとなっており、100万ドルの限度設定により万
ドローン利用に対する保険手当てについてはいまだ検討段階であるこ
が一事故が起きた際の補償も確保されているといえる。
とが報告された。
ドローンに関するリスクマネジメント手法について、
新規にドライバーとして登録する際、過去の違反歴について連邦法
や州法等に照らし合わせて事前にチェックをする。
さらにドラッグやア
技術の急激な進歩に対応するため急ピッチで整備がされている状況
であり、喫緊の課題であると認識した。
ルコール、
セクハラに関する犯罪歴についても事前にチェックを行うこ
とでドライバーの技量と品行を確保する。登録後は利用者の評価を受
⑷マリファナや合成薬物使用に対するリスクマネジメント
けることでドライバーのサービス品質(接客や運転技量)を確保する
仕組みとなっており、サービス品質が悪ければドライバーも淘汰され
日本においても近年覚せい剤や大麻に代わって、危険ドラックの使用
ていくので安全性については問題ない、
と強調していたのが印象的で
による犯罪が増加傾向にある。
アメリカにおいてもマリファナや大麻と
あった。
いった既存の薬物(Traditional Drag)
に代わって化学物質から合成
される麻薬、LSDやMDMAといった合成薬物(Compound)
による犯
45 RMFOCUS Vol.54
RIMS年次総会
【図4】商業利用を目的としたドローンの予測台数
【図5】
ドローンの活用分野
(出典:Associate for Unmanned Vehicles Systems International)
(出典:Your House Counsel セッション配布資料より)
罪の割合が増加している状況が紹介された。
アメリカでは一部の州にお
ンターネット上で記事を見かけることが多くなった話題の新聞社である。
いて、
マリファナの利用が傷病治療が目的であれば使用を認められてい
Huffington女史の講演では、
自らの体験を元に
「睡眠」
を十分に取
るが、企業のリスクマネジャーにとって、一部合法薬物を含む雇用者の
ることの重要性が指摘された。女史は約2年前に過労で意識を失い、机
薬物の過剰な利用や合成薬物の使用を防ぐための取り組みとして、以
に頭を打って頬骨を骨折し、右目の上を5針縫うという経験をした。
この
下の三つの段階があることが紹介された。
経験から
「睡眠」
の重要性を認識し、最近は8時間は必ず睡眠を取り、
ス
マートフォンやタブレットは寝室に持ち込まず、脳が十分休息できるよ
①従業員の勤務態度や業務効率について変化がないかを確認する
うに心掛けているとのことである。特に印象に残ったのは
「世界のエグ
②薬物やアルコールの利用と人体に与える影響について、
マネジャー層
ゼクティブの中には、睡眠を十分に取れていないことを、
自慢げに話す
と現場層とが定期的に議論を行うなどしてコミュニケーションを図
方もいるが、会社の重要な決定を下すにあたって、睡眠不足の状態で果
り、理解を深める
たして正しく判断できるのか」
と疑問を投げかけていたことである。
また、
③社内規定に薬物利用に関する罰則を設け、雇用契約の際に事業者雇
用者間で薬物を利用した際の罰則について取り決めを交わす
「今回ご出席のリスクマネジャーの方も、
リスクを低減、予防するという
極めて重要な立場にありながら、睡眠不足の状態で適切な判断や新た
な対策を創出できるのか。私は睡眠不足のリスクマネジャーに大切な
セッションにおいて重要性が強調されていたのは「早期に薬物利用
の有無を発見することであり、顕著に表れるのは、勤務態度や他の従業
員との人間関係(人との関わりを避けるようになる、暴力的・反抗的にな
会社を任せたくはない」
という話も出たが、睡眠時間の確保の重要性や
適切なワークライフバランスについて再認識させる提言であった。
る)
といった部分である。
また、薬物やアルコールの人体に与える影響に
ついての情報を定期的に従業員に提供し、
マネジャー層もこういった話
題について積極的にコミュニケーションを取り、薬物に手を出さないた
めに、何ができるのか、
ということを議論していく」
ことであった。
日本の
6
おわりに
運輸業においては、
出勤時、退勤時に点呼を行うが、
そういった場面で
乗務員・ドライバーの様子や態度を日々運行管理者が確実に観察する
RIMS年次総会では、最新のリスクマネジメント手法だけでなくその
ことや、社内の安全教育においても、薬物やアルコールに関するテーマ
応用事例の紹介、
それらを踏まえた議論がなされている。
また、保険会
を組み込むことの重要性を改めて認識した。
社やリスクコンサルティング会社が実際に使用している調査機材等の
紹介もあり、各国のリスクマネジャーやコンサルタントが一堂に会する、
リスクマネジメントに関する世界最先端のナレッジセンターということ
ができる。2016年のRIMS年次総会は、4月10日∼13日の日程で、
アメリ
クロージング基調講演
の1年間で我々が想定しなかった事象の発生や新たに技術が進歩する
ことによって、様々なリスクが出現すると想定される。年次総会はリスク
最終日の午後にクロージング講演として、
Huffington Post社の
共同設立者兼主筆のArianna Huffington女史の講演が行われた。
マネジメントに対する新たな考えや手法が集まり、披露される舞台であ
ることを考えると、来年の開催が非常に楽しみである。
Huffington Post社は2005年にアメリカで設立されたリベラル系イン
ターネット新聞であり、
日本にもHuffington Post Japanが設立され、
イ
以上
RMFOCUS Vol.54 46
RIMS 年次総会
5
カ・カリフォルニア州サンディエゴにて開催される予定である。
これから
Disasters & Accidents information
災害・事故 情報
対象期間:2015年3月∼5月
株式会社インターリスク総研
RMFOCUS 編集部
本情報はマスメディアでの報道等をベースに編集しています。
火災・爆発
湖だったため全域に湖底堆積物および河川堆積物が平均数百mの厚
さ
(深さ)で堆積しており、きわめて地盤が軟弱な土地である上、
プレー
●川崎、簡易宿泊所で火災、2棟全焼、10人死亡
5月17日午前2時10分ごろ、川崎市川崎区日進町の簡易宿泊所Aから
出火し隣接する宿泊所Bに延焼、木造3階建ての2棟延べ計約1,000㎡
ト境界断層の上部地盤側に存在している。
これらなどより被害が拡大し
たらしい。
東京大地震研究所は4月27日、地震を起こした断層面は最大4.3m
を全焼した。死者は計10人となった。犠牲者や不明者は出火元Aの2、
ずれたと推定されると発表した。断層面は東西に約165km、南北に
3階に集中しているおり、火勢が強く、逃げられなかった可能性が高い。
105kmと広範囲で、直上に首都カトマンズが位置していた。筑波大も詳
Aの2、3階部分は廊下が吹き抜けだったため、火の回りを早めたとみ
細な分析を行い、断層面は東西約150km、南北120km、最大のずれは
られる。またAの玄関が激しく燃え、火元とみられるが、玄関付近には
4.1mと推定した。地震のあった地域は、ユーラシアプレート
(岩板)の下
火の気がないため、捜査当局では放火と失火の両面で慎重に出火原
にインド・オーストラリアプレートが沈み込む構造。南から北に向かう
因を調べている。全焼した二つの簡易宿泊所はスプリンクラーの設置
インド・オーストラリアプレートとユーラシアプレートの間に押す力が
義務がない小規模な建物で、設置もされていなかった。
2棟の宿泊者名簿にはAが44人、Bが30人の計74人が載り、宿泊者
働き、断層面を境に壊れた。
この結果、北側の地盤が南側に乗り上げた
とみられる。
のうちAの38人、Bの30人が生活保護受給者で、大半が60歳以上だっ
た。A、Bも含め簡易宿泊所には身寄りのない高齢の宿泊者が多いた
め身元の特定が難航し、24日時点で犠牲者10人のうち3人の身元しか
自動車・鉄道・船舶・航空機等事故
判明していない。
川崎市市建築指導課によると、2棟は建築基準法上、木造2階建てと
●独旅客機、仏で墜落、乗客乗員150人死亡
申請していたのに、事実上3階建てで、虚偽申請したり増築の届け出を
スペインのバルセロナからドイツのデュッセルドルフに向かう独航
怠ったりした疑いがある。出火元のAは建築基準法で義務付けられた
空会社A社の旅客機が3月24日(現地時間)、フランス南東部に墜落し
「耐火建築物」に改めることを怠り木造のまま増築した疑いがある。
た。
日本人2人を含む乗客144人、乗務員6人が乗っていたが、生存者は
延焼した隣のBも2階建てと申請しながら、登記簿では木造3階建てに
いなかった。A社は格安航空会社(LCC)で、航空大手の独B社の子会
なっており
「当初から3階建てと強く推認される」
としている。
社。現場はアルプス山脈に近い仏南東部バルスロネットの近郊。機体
の残骸は標高2,000m付近の山中で見つかった。急に高度を下げて墜
落するまでの時間は8分だった。
地震・噴火・津波
26日には、回収された音声記録から27歳の男性副操縦士Cが故意
に墜落させた疑いが浮上した。事故直前、急降下前に機長がトイレの
●ネパール中部で地震、M7.8、死者8,500人超
ネパール中部で4月25日午前11時56分(現地時間)
ごろ、M7.8の強い
ため操縦室外に出て戻ろうとすると、Cは反応せずに扉を開けるのを
拒否したという。音声記録にはドア施錠後から墜落に至るまで会話や
地震があった。米地質調査所によると、震源はカトマンズ北西約80km
発声が一切なかった。フランス当局は、Cは最後まで正常な意識があ
のラムジュン地区。震源の深さは15kmとしている。現地調査した北海
る状態であり、飛行機を破壊したいと考えていた可能性が高いとした。
道大学は5月11日、首都カトマンズを中心とした地域の震度が少なく
これを受けてCの母国であるドイツの検察当局は、殺人容疑を視野に
とも5弱∼6弱だったとの試算結果を明らかにした。5月15日、ネパー
容疑者宅を捜索し、Cの精神疾患の病歴や思想面などについて親族
ル内務省は地震による死者が8,460人、負傷者2万人以上になったこと
や知人にも事情聴取した。
また今回の事故を受けて海外の一部航空会
を発表した。インドや中国のチベット自治区、バングラデシュなど周辺
社は再発防止策として、操縦室には常に2名以上を配置することなどを
の国々でも計100人以上が死亡するなど大きな被害が発生した。標高
発表した。27日のドイツ検察の発表によると、Cは医師の診察を受け
5,000m付近のエベレスト登山ベースキャンプ付近で大規模な雪崩が
て「乗務禁止」を幾度も診断されながらもこれを隠していたことが明ら
複数回発生し、周辺で登山していた50歳代の日本人男性1人を含み登
かになり、それが明記された事故当日の診断書も見つかった。
またドイ
山客ら20人以上が死亡した。
ツ現地紙は28日、Cの元交際相手がインタビューで「Cは皆が自分の
ネパールの首都カトマンズでは地割れが発生するなどして多くの建
名を記憶することになるだろうと述べていた。Cは精神不安定な面が
物が倒壊。カトマンズのダルバール広場、スワヤンブナート、ダラハラ
あり、そのために機長への夢を絶たれることを悲観したのではないか」
塔、マナカマナなど歴史的な建造物や世界遺産の寺院などの多くが修
と告白したことを報じた。またドイツ紙によると、網膜剥離の視力低下
復不可能な損傷を受けた。米国情報調査会社IHSは4月28日、地震によ
により治療していたことも判明し、
これも職務続行困難の要因となり、
るネパールの経済損失を50億ドル(約6,000億円)
と推定した。
これは
犯行動機となった可能性がある。B社は31日、Cがうつ病だったことを
ネパールの2014年におけるGDP193.5億ドルの約4分の1の額に相当
会社側に伝えていたと発表した。会社側がCの病歴を把握しながら乗
する。
務をさせていたことになり、病気を隠したC個人の問題としてきたB社
ネパールやインド北部は元来地震が多い地域であるのに建物はレ
ンガ積みの耐震性のない脆弱な構造のものが多く、山岳地帯では地
すべりも発生しやすい。特に人口が集中しているカトマンズ盆地は昔、
47 RMFOCUS Vol.54
およびA社の管理体制面の不備が問われるのは必至とみられる。
製品安全、施設・設備安全
テロ・暴力行為
●免震ゴムで認定データ改ざん、基準不適合154棟
●チュニジアでテロ、博物館襲撃で21人死亡
国土交通省(以下「国交省」)は3月13日、大手タイヤ・自動車部品等
北アフリカ・チュニジアの首都チュニスで3月18日午後0時半(現地時
メーカーA社が国土交通大臣(以下「国交相」)の認定を受けて販売し
間)ごろ、自動小銃で武装した集団が当時約100人の観光客がいた国
ていた地震の揺れを抑える免震ゴムに、国の基準を満たしていない製
立バルドー博物館を襲撃し、外国人観光客ら20人とチュニジア人警官
品があったと発表した。製品開発の担当者が基準に適合するように一
の計21人が死亡した。死亡者のうち日本人は3人(60歳台の女性、40歳
部の試験データを改ざんし、認定を受けていた。国交省は同日、不正の
台と20歳台の母娘)で、ほかに日本人 3人が負傷した。武装集団は銃を
発覚を受けて3製品の認定を取り消した。製品は「高減衰ゴム系積層ゴ
乱射し、観光客を人質に立てこもった。治安部隊は実行犯2人を現場で
ム支承」
(免震ゴム)で、建築物の基礎部分に免震材料として使われて
射殺した。ほかにも実行犯がおり、逃走中という。
いる。地震時のエネルギーを吸収して建物の揺れを少なくする機能が
現場は古代遺跡の出土物などを展示する北アフリカ有数の博物館で
あり、品質確保のため、建築基準法は全製品について国交相の認定を
多くの観光客が訪れる。博物館に隣接する国会では反テロ法案の審議
受けることを義務付けている。国交省は認定の要件として、建築物1棟
中だった。博物館やカルタゴ遺跡などの世界遺産を目当てに、チュニジ
ごとに免震性能を計算し、基準値を1割以上下回ることがないよう求め
アには地中海などを周遊するクルーズ船が頻繁に寄港する。事件当日
ている。A社によると、免震ゴムのデータを改ざんしたのは、10年以上
も3,000人以上の乗客を乗せたイタリアのクルーズ船がチュニス港に
にわたり、A社と子会社で製品の性能検査に携わっていた社員ら。
A社は当初、全国の病院やマンション、自治体庁舎など55棟で国の
停泊していた。そのタイミングで同博物館を襲うことにより、外貨収入
源である観光業に打撃を与える狙いもあったとみられる。
性能基準を満たさない免震ゴムが使われたと公表。その後、性能不足
19日、チュニジア政府は犯行組織をイスラム過激派「アンサール・
やデータ欠損のため性能が判定できない免震ゴムが99棟で使われて
シャリア」
と断定し、容疑者9人を逮捕したことを明らかにした。過激派
いたことが新たに判明した。A社は5月20日、対象の建物154棟すべて
「イスラム国」
とみられる組織が同日、襲撃テロの犯行を認める音声声
について、震度6強から7程度の地震が発生しても倒壊の恐れはないと
明をインターネット上で公開した。ただ声明の信ぴょう性や同組織とア
発表した。国交省も同日、A社の調査結果を検証して倒壊の恐れがない
ンサール・シャリアとの関係は不明。
ことを確認したと発表した。A社は154棟に設置した計約3千基の免震
ゴムを2年以内にすべて取り換えるとしている。
column
コ・ラ・ム
「失敗・事故のさらなる活用を考える」
少し前、某全国紙のコラムに、新帝王といわれた米プロゴルファー
「トム・ワトソン」の連載が始まりました。出だしは当時59歳の彼が迎
えた全英オープンゴルフ選手権の最終日・最終ホール、1打差首位で
最後のドライバーショットをうまく運んだ場面。絶好調の彼が142年ぶ
りの大会最年長優勝、ツアーおよびメジャー最年長優勝記録を更新し
ようとしていました。
これを読みながら筆者は「彼の最大にして最後の
栄光の場面か。大したものだが最初から手柄話ではつまらないな」
と
感じていました。エッセイの類で自慢話が始まると、途端に話が面白く
なくなるのはよくあるところです。
ところが彼は負けてしまいます。実は
失敗談からのスタートでした。筆者がこの連載にのめり込んでいくの
はいうまでもありません。
「失敗」は、
どんな成功にも負けないほど強
烈なインパクトがあり、興趣に富んでいます。
一方、
「失敗」から偶然生まれた「成功」には枚挙にいとまがありま
せん。2014年冬に赤崎勇氏らがノーベル物理学賞を受けた「青色発
光ダイオード(LED)」において、それを実現する物質・窒化ガリウム
は、その高い品質の半導体結晶の作成が困難を極めました。ある日電
気炉が不調で、通常は1,200度まで上がる温度が900度にしか上がり
ません。
この器具の調整失敗の結果、品質のよい結晶ができました。
2002年に田中耕一氏がノーベル化学賞をうけた「質量分析技術」で
は、別々の実験で使うつもりだったグリセリンとコバルトの微粉末を
まぜるという失敗から得られた試料が成功への最大鍵となりました。
このように有用なる「失敗」、その究極にある「事故」を最大限に活
用するにはどうしたらよいでしょうか。偶然にばかり任せることはでき
ません。最もシンプルで効果のあるのが「事例を蓄積する」
ことでしょ
う。まずは記録することです。対策や詳細な原因まで欲張らず、状況、
事実だけで十分です。記録をただ眺めるだけでも解決へと向かいま
す。日本のロケット開発の父と呼ばれる故・糸川英夫博士は、半世紀
以上前、打ち上げ時の発射台の上で機体が爆発しながら行方も定ま
らずに飛び去るという大事故の際、スタッフが火災の後片付けに追
われ、地域住民からのクレームにあたふたする中、ロケットの破片
のありかを記録に取り、目撃者の証言をテープに録音しました。失敗
データの蓄積が重要であり、成功への最大の糧であったことは、その
後の実績が証明するとおりです。ダイエットでも「毎日同じ時間帯に
体重を記録するだけで、体重が減っていく」
というのは筆者の経験か
ら真実です。
記録をシステム的に集大成したものがデータベース(以下「DB」)
です。筆者が事故・災害情報のDBを構築した際、事故の様々な切り
口からデータを検索できるよう、複数の項目に分けて入力するように
しました。
それぞれの項目には、
「事故日」
「損害額」などの数値の項目、
「事故の形態」
「事故の原因」
「業種」などの内容を体系化したコード
を入れる項目、
「事故概要」
「事故詳細」などの文字列の項目がありま
す。数値項目は範囲指定、コード項目はコードの指定、文字列項目は
部分一致(ANDやOR)
で検索でき、それらを組み合わせても検索でき
ます。
ところがDBを設計する際に、
どんな検索が必要か、前もってす
べてを想定することは不可能です。そこで、
コード項目のコードを文字
列に置き代えるなどして
(例えば「2」→「爆発」等)、すべての項目を文
字列化した上で結び付け、
「事例全体通しの全文検索」
(どんな言葉で
も検索)ができるようにしました。
どの項目に入っているかわからない
言葉による検索、何かしら引っかかってくれればよい検索、DBのコー
ド体系の知識が何もない人による検索など、
「全文検索」は意図せざ
る検索に重宝しています。
ちょっとした工夫が、失敗・事故事例のさら
なる活用に予期せぬ効果を発揮しました。 (Y.T.)
RMFOCUS Vol.54 48
Information
「新版 経営分析辞典」出版
著者62名で経営分析の領域を幅広く網羅した事典です。収益性の分析、安全性の分析などの伝統的経営分析に
加えて、
レピュテーションへの対処、
リスク管理など最新のテーマも網羅しました。
インターリスク総研の事業リスク
マネジメント部マネジャー上席コンサルタント本間基照が第12章Ⅳ
「リスクと経営分析」
を執筆しました。
内容
(目次) 第
第
第
第
第
第
第
1
2
3
4
5
6
7
章 伝統的経営分析体系の展開傾向
章 財務分析から経営分析へ
章 利益の質と経営分析
章 粉飾と監査
章 IFRSと経営分析
章 社会と経営分析
章 情報技術の進展と経営分析
第 8 章 ファイナンス理論と経営分析(企業評価)-市場との関係
第 9 章 与信管理と倒産予測
第10章 M&Aの経営分析
第11章 政府と非営利組織の経営分析
第12章 経営分析の新領域
第13章 企業の総合評価とその実務
発 行 所:税務経理協会
著 者 (編者):日本経営分析学会編
価 格:本体4,400円+税
出 版 年 月 日:2015年3月20日
購入(入手)方法:最寄りの書店でご購入ください
I S B N 番 号:978-4-419-06157-9
マイナンバーセミナー「民間企業におけるマイナンバー対策」開催
2016年1月より、
マイナンバー制度が開始されます。
マイナンバーは
社会保障・税・災害の三つの分野で利用されますが、万が一情報漏
プログラム
●第1部
「マイナンバー制度の概要」
講演者:牛島総合法律事務所 弁護士 影島 広泰氏
●第2部
「企業に求められるマイナンバーのセキュリティ対策」
講演者:株式会社インターリスク総研 主任コンサルタント 頼永 忍
洩が発生すれば、本人への影響は甚大なものとなります。
このため、
住所・氏名等従来の個人情報よりも厳重な管理が求められます。従
業員等のマイナンバーを取り扱うことになる民間企業にとっても、本
制度の理解のみならず、様々な対策をとっていかなければならない
(※)講演内容は予告なく変更する場合があります
などの負担が多く、
どこから手をつければいいのかわからないという
声がよく聞かれます。
本セミナーでは、
マイナンバー制度で著名な弁護士による制度の
解説を踏まえ、民間企業におけるマイナンバー対策について解説を
行いますので、
ぜひご参加ください。
日 時 7月21日(火)14:00∼17:00
(受付開始13:30)
会 場 損保会館 大会議室
(住所:東京都千代田区神田淡路町2-9)
主 催 三井住友海上火災保険
インターリスク総研
定 員 200名
(申し込み先着順)
参 加 費 無料
申し込み方法 Web上の申し込み画面より手続き
(下記URLよりお申し込みください
http://www.irric.co.jp/event/index.html)
49 RMFOCUS Vol.54
お問い合わせ
インターリスク総研
事業リスクマネジメント部 統合リスクマネジメントグループ
セミナー事務局
(大和田、
太田、西村)
TEL:03-5296-8914
セミナー・書籍・その他
水災対策セミナー2015「気候変動に備えた企業の水災対策」開催
我が国は、厳しい気象条件と急峻な国土条件から、例年、台風や
豪雨による水害、土砂災害、高潮災害等に悩まされてきました。
ま
プログラム
た、将来的には気候変動に伴い、短時間強雨の発生回数が増加し、
●基調講演 「気候変動による洪水氾濫の被害額推定と適応策」
講演者:東北大学 教授 風間 聡氏
台風の最大強度が増大するという予測もされています。
●第1部
「建設気象、
工場気象への取り組み
∼気象情報アラートサービスについて∼」
講演者:株式会社ウェザーニューズ 原田 健成氏
●第2部
「企業の水災リスクとその対策」
講演者:インターリスク総研 江
企業は、今後避けられない気候変動に適応していくため、
災害リス
クを低減する対策を取ることが求められています。
本セミナーでは、基調講演に東北大学の風間教授を招き、気候変
動に伴う水災リスクについて講演いただきます。
また、気象情報の入
隼輝
手・活用方法、企業の水災対策について有益な情報を案内しますの
で、
ぜひご参加ください。
お問い合わせ
日 時 7月29日(水)13:30∼16:30
(受付開始13:00)
会 場 三井住友海上 駿河台新館3階 TKPガーデンシティ御茶ノ水
(住所:東京都千代田区神田駿河台3-11-1)
主 催 三井住友海上火災保険
インターリスク総研
定 員 120名(申し込み先着順)
参 加 費 無料
申し込み方法 Web上の申し込み画面より手続き
(下記URLよりお申し込みください
http://www.irric.co.jp/event/index.html#20150601)
インターリスク総研
災害リスクマネジメント部 災害リスクグループ
セミナー事務局
(守田、
長谷川)
TEL:03-5296-8917
企業リスクマネジメントセミナー2015 「会社法改正と企業グループ全体におけるリスクマネジメント」開催
2015年5月1日より、改正会社法が施行され、
グループ会社を傘下
に持つ企業では、
自社のみならずグループ全体でのリスクマネジメン
プログラム
●第1部
「会社法改正に伴う内部統制システムの見直し」
講演者:森・濱田松本法律事務所 弁護士 奥山 健志氏
●第2部
「企業グループにおけるリスクマネジメントの取り組み事例」
講演者:インターリスク総研取引先企業
●第3部
「会社法改正と企業グループのリスクマネジメント取り組み」
講演者:株式会社インターリスク総研 上席コンサルタント 細井 彰敏
ト態勢の構築・運用が今まで以上に重要となっています。
しかしなが
ら、
これを受けたリスクマネジメント態勢の見直しに関する具体的な
内容や方法については、悩んでいる企業が多いのが現状です。
本セミナーでは、弁護士による改正会社法の解説と企業の具体的
な取り組み事例を踏まえ、企業グループのリスクマネジメント態勢に
ついて解説を行います。
日 時 8月18日(火)午後
会 場 損保会館 大会議室
(住所:東京都千代田区神田淡路町2-9)
主 催 三井住友海上火災保険
インターリスク総研
定 員 200名
(申し込み先着順)
参 加 費 無料
申し込み方法 Web上の申し込み画面より手続き
(下記URLよりお申し込みください
http://www.irric.co.jp/event/index.html)
(※)講演内容は予告なく変更する場合があります
お問い合わせ
インターリスク総研
事業リスクマネジメント部 統合リスクマネジメントグループ
セミナー事務局
(釜瀬、
太田、西村)
TEL:03-5296-8914
RMFOCUS Vol.54 50
Information
セミナー・書籍・その他
「道路交通安全セミナー」開催
最新の先進安全自動車
(ASV)
の説明と、
最新機器を使った取り組み事例や、事故防止取り組みのポイント等を紹介します。
日 時 8月20日
(木)
午後
会 場 損保会館 大会議室
(住所:東京都千代田区神田淡路町2-9)
主 催 インターリスク総研
三井住友海上火災保険株式会社
定 員 150名
参 加 費 無料
申し込み方法 Web上の申し込み画面より手続き
(下記URLよりお申し込みください
http://www.irric.co.jp/event/index.html)
51 RMFOCUS Vol.54
お問い合わせ
インターリスク総研
交通リスクマネジメント部 交通リスク第一グループ
セミナー事務局
(木村、
谷山)
TEL:03-5296-8916
FAX:03-5296-8942
Email: yoshinari.kimura@ms-ad-hd.com
s-taniyama@ms-ad-hd.com
〈本号でお話をうかがった方
(敬称略)〉
RMFOCUS
中島 正愛
(なかしま まさよし)
京都大学防災研究所 教授
(学歴・職歴)
1975年
1977年
1981年
1981∼1988年
1988∼1992年
1992∼2000年
2000年∼現在
2001年∼現在
2004∼2011年
2011∼2013年
2012年∼現在
2014年∼現在
(主な受賞)
1997年
2000年
2008年
2010年
2013年
2013年
2014年
京都大学工学部建築学科卒業
同大学修士課程修了
米国ペンシルバニア州リーハイ大学大学院土木工学専攻
博士課程修了
(Ph.D.)
建設省建築研究所 研究員・主任研究員
神戸大学工学部 助教授
京都大学防災研究所 助教授
京都大学防災研究所 教授
イタリア共和国パビア大学 客員教授
(独)
防災科学技術研究所
兵庫耐震工学研究センター センター長
(兼務)
京都大学防災研究所 所長
中国清華大学土木工学科 講席教授
中国東南大学土木工学科 客員教授
Vol.
54
2015
summer
編集後記
本誌今号の原稿締め切りが過ぎてちょうど1週間、
編集作業も佳境を迎
えた、
5月29日9時59分、
鹿児島県口永良部島の新岳で爆発的噴火が発
日本建築学会賞
(論文)
The Moisseiff Award,
American Society of Civil Engineers (ASCE)
日経BP技術賞
(建設部門)
兵庫県功労者表彰
(防災・消防功労)
防災功労者防災担当大臣表彰
Ernest E. Howard Award,
American Society of Civil Engineers (ASCE)
George W. Housner Medal,
Earthquake Engineering Research Institute (EERI)
(主な学会活動)
日本建築学会副会長
(2007∼2009)
米国地震工学会理事
(2008∼2011)
日本地震工学会副会長
(2009∼2011)
日本学術会議連携会員
(2011∼現在)
国際地震工学会筆頭副会長
(2012∼現在)
米国工学アカデミー外国人会員
(2015∼現在)
日本建築学会会長
(2015∼現在)
生しました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
気象庁は口永良部島に噴火警報を発令、
噴火警戒レベルを入山規制
が実施される 3 から、
居住地域から避難が求められる 5 に引き上げまし
た。
これを受けて、
屋久島町は同日10時15分に口永良部島の住民に避難
勧告を出し、
10時20分には避難勧告を島外への避難指示に切り替えまし
た。噴火警戒レベル5が発表されたのは、
2007年12月に噴火警戒レベルが
運用開始されて以来初めてのことです。
今回の噴火について、
島外への避難が非常に迅速であったことが様々
なメディアで報道されています。新岳は1931年から1980年の間、
数年から20
年おきに噴火しており、
自治体は火口から離れた場所への避難所の整備
や、
避難計画の策定を進めていました。
また、
島民の皆様も繰り返し避難訓
練を実施してきました。今回、
大規模な噴火が発生したにもかかわらず、
観
光客を含めた137名全員が迅速に避難できた背景には、
このような事前対
策の徹底があったといえます。
日本を取り巻く自然災害リスクは多種多様です。地震に対する事前対
策を講じられている企業は多いかと思われますが、
いま一度、
風水災、
火山
噴火、
雪害なども含めて、
どのような自然災害が自社拠点の周囲で発生しう
〈本号に寄稿していただいた方
(敬称略)〉
るのか再検討し、
必要に応じて各災害に対する事前対策を講じておくこと
が重要といえます。
また、
消防訓練や避難訓練といった基本的な訓練も、
吉富政宣
(よしどみ まさのぶ)
徹底して実施することで災害対応力を高める非常に有効な手段となりま
有限会社吉富電気 技術・代表取締役
日本太陽エネルギー学会会員
日本風工学会太陽光発電システム風荷重評価研究会委員
日本建築学会建築外装と太陽光発電の融合研究小委員会委員
国立研究開発法人産業技術総合研究所客員研究員
す。先日、
インターリスク総研事務所が入居しているテナントビルで合同防
早稲田大学卒業。
1992年から独立型太陽光発電設備の設計・施工・運用に従事。1997年から現
在まで公共物件の建設支援、太陽光発電システムの事故分析、安全保護体
系の研究開発を行いながら業として製造各社へのアドバイザリーや設計施工業
者への技 術 教 育を実 施 。P V T E C( 太 陽 光 発 電 技 術 研 究 組 合 )高 信 頼
PC/BOS分科会委員、経済産業省直流電気安全基準策定委員会、
日本風工
学会太陽光発電システム風荷重評価研究会委員等を歴任。
PVシステムの不具合、
事故調査を行う PVRessQ!(PVレスキュー)
を主宰。
災訓練が実施されましたが、
避難の様子を見ていると、
参加者の意識はま
ちまちであったように思います。
「いかに真剣に訓練に取り組んでもらうか」
が非常に大きな課題であることをあらためて痛感いたしました。
最後になりましたが、
一日も早く、
島民の皆様が口永良部島でいつもどお
りの生活に戻れますようお祈り申し上げます。
(A.
T.
)
RMFOCUS
(第54号)
/2015年7月1日発行
【照会先】TEL:03-5296-8911
(代表)
/FAX:03-5296-8940
http://www.irric.co.jp/
(無断転載はお断りいたします)
RMFOCUS Vol.54 52
01417 9,000 2015.7(新)
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