SOLE報告 The International Society of Logistics SOLE日本支部フォーラムの報告 SOLE日本支部では毎月「フォーラム」を開催し、ロジスティクス 技術、ロジスティクスマネジメントに関する活発な意見交換、議論を 行い、会員相互の啓発に努めている。シリーズ第6回として開催した4 月14日のフォーラムでは、航空機のロジスティクス施設見学として 「富士重工業・航空宇宙カンパニー」を訪ねた。今回はその概要を紹 介する。 1. 見学会の趣旨 航空機の開発・製造∼運用では、以前からLSA(Logistics Support Analysis)による後方支援活動が具現化されている。その内容を理解 するには航空機という複雑なシステム製品が、どのように製造され、維 持活動がいかに行われているかを実際に見る必要がある。そう考えて、 航空機の製造現場である富士重工業の宇都宮製作所を見学した。 2. 会社概要 1953年に創立された富士重工業は、自動車の「SUBARU」の会社 といった方が馴染みがあるかもしれない。同社は①自動車部門、②航 空宇宙カンパニー、③産業機器カンパニー、④エコテクノロジーカン パニー、という4つの事業部門からなる。 航空宇宙カンパニーは中島飛行機(1917年創設)を前身としている。 戦後の日本で航空機開発が再開されると、国産初のジェット練習機T1や民間のスポーツ機FA-200エアロスバルの開発など、防衛庁向けの 中型ヘリコプター・初等練習機を生産。国内外において航空機の共同 開発や分担生産を手掛けてきた。 現在では、次期戦闘ヘリコプターAH64Dのライセンス生産や、高度 な複合材翼製造能力を活かした次期固定翼輸送機・哨戒機・ボーイン グ777/787・エアバスA380といった国内・国際での共同開発や、無 人機システムの独自開発などを行っている。 3. 現場見学 見学会では、今年度の活動テーマ「パーツ・ロジスティクス」に基 づいて3つの現場を見た。①部品製造(NC加工)現場:コンピュータ 支援による部品製造、②部品組立現場:国内外航空機メーカーとの共 同プロジェクトにおける分担製造、③定期修理現場:ライフサイクル に渡って航空機を維持、である。以下、それぞれの模様を説明する。 ①部品製造(NC加工)の現場 航空機の部品製造では、強くて軽く、巨大かつ複雑な形のものを高 い精度で少数生産することが要求される。このため通常の手段である プレスや鋳造、部材の組み上げなどによる部品加工より、無垢の金属 材料から削りだす方法が採用されている。この方が最適な強度・重 量・形状の部品を、適正コストで短期間に多種類、製作できるからだ。 それを可能にするNC工作機械(Numerically Controlled Machine Tool)が導入されている。数値制御装置を備えたこの工作機械は、加 工条件や工具経路といった生産情報からなるNCデータに基づいて作 動する。6軸方向に動く切削部を有し、無垢の材料から3次元設計され た形状の部品を作り出す。概ね20m四方の台座上で2.2トン・長さ14m のアルミのインゴットから複雑な形状の航空機部品(長さ14mでわず か44kg)が無人で切削される様子には、正直なところ驚かされた。 この工程で発生する多量の削り屑はアルミ精錬所へ送られ、電気分 解により再びインゴットになる。まさに“航空機は電気で作る”とい う感想を抱いた。切削スピードは決して速いとは思えなかったが、巨 大かつ複雑な形状の部品を無人で加工し、コンピュータの支援を受け ることで最小人数での生産管理が成り立っていることに感心した。生 産情報データのやり取りは、従来は紙テープで行われていたが、現在 は社内LANを活用している。生産技術部門とも直結しているためタイ ムラグの無い、高効率かつ柔軟な部品製造であることがわかった。 71 JUNE 2006 ②部品組立の現場 航空機の開発・製造は、いまや航空機メーカー1社だけで行うことは まれであり、世界的規模での共同開発や分担製造が行われている。富士 重工業も、ボーイング社の航空機をはじめ複数のプロジェクトに参加し ている。今回見学した現場では、NC加工などで製造された部品を、ビ ジネスジェット機の主翼本体、大型旅客機の動翼、中央翼構成部品(左 右の主翼と胴体を繋ぐ重要部分)などへ組み立てていた。航空機の機体 の一部を構成するもので、部品といっても数メートルの構造物。これら が数メートルの台車に乗せられ、天井からクレーンで順次移動させられ ながら人によって丁寧に組み立てられていた。 これらの組立部品は最終組立を行うメーカーに送られ、寸分違わず航 空機本体へと組み上げられる。同社は愛知県半田市の臨海工業地帯にも、 より大型の機体部位の組立機能を有する工場を構えて、海外メーカーへ の輸送や、中部地区に集中する国内他メーカーへの輸送の効率化を図っ ている。ボーイング777の中央翼の構成部品は宇都宮で組み立てた後、半 田工場に輸送。ここで巨大な中央翼の完成品に仕立ててからボーイング 社へと発送している。 ③航空機の定期修理現場 航空機は、長いものだと製造から数十年にわたって使用され、大小さ まざまな整備を繰り返しながら使い続ける。その中で最も大規模なもの が定期修理(一般的にデポ整備と呼ばれるもの)である。これは航空機 そのものの全体を対象とするもので、通常の整備ではやらない範囲の検 査を実施して、次の定期修理までの信頼性を確保するために必要な修理 を施す。定期修理を施す航空機が自力で飛来できるように、修理現場に は飛行場が隣接されている。 修理中の航空機がずらりと並ぶ修理現場では、最も航空機工場らしい 風景を見ることができる。塗装を全て剥がされた機体や、エンジンをは じめほとんどの機器が取り外されたもの、胴体が分割されたものなどが あり、新規に製造しているようにも見える。 この定期修理では非常に多くの部品が交換される。それらの部品は、 修理の開始前に実施される検査結果と、前回の修理情報を基に準備され る。検査や修理の結果や作業日程などはシステムで管理している。ただ し、例外的な処置に柔軟に対応できるよう、伝票など紙による処理も残 して、より確実で効率的な管理を心掛けているのだという。 部品組立の現場見学では、航空機という最新テクノロジーの製品が意 外と手作りであることを感じた。一方、部品製造現場では、CALSで修 得された技術・プロセスが完全にLSAに根付いている。約10年前、ボー イング777が国際共同開発された頃に見学したときは、現場のあちこち に“CALS、その遂行体制”の話があったが、今回は歴史的に解説され ていただけであった。前の晩にシアトルで作成された設計・生産情報デ ータが、目の前のNC工作機械のアルミイゴットを削るダイスの先端まで 流れている。 “Create data once, Use many times” 。ここには、まさに CALSが描いた世界があった。 富士重工業の実力は、ボーイング社の「サプライヤー・オブ・ザ・イ ヤー」主構造部門賞を2002年に受賞したことでも証明されている。無人 機技術・高速飛行実証機の完全自動離着陸飛行実験成功など独創的な 技術を基に、いずれは自社ブランド機を持つ航空機メーカーとなるため に、着々と歩んでいることを実感できた。 次回フォーラムのお知らせ 2006年6月度のフォーラムは6月14日に、「ロジスティクス施設の見学」 として海上自衛隊の航空補給処(木更津)を見学する。 このフォーラムは年間計画に基づいて運営しているが、単月のみの参 加も可能。1回の参加費は6,000円。ご希望の方は事務局までお問い合わ せください。 (事務局:sole-j-office@cpost.plala.or.jpまで) 。
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