科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 特定胚及びヒト ES 細胞等

科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会
特定胚及びヒト ES 細胞等研究専門委員会(第 80 回)
議事録
1. 日時
平成 24 年 1 月 25 日(水曜日)10 時 00 分~11 時 49 分
2. 場所
文部科学省 16 階 特別会議室
3. 出席者
(委 員)須田主査、高坂主査代理、赤林委員、石原委員、小倉委員
門脇委員、斎藤委員、髙山委員、辰井委員、谷口委員、知野委員
(事務局)田中総括審議官、森本審議官、板倉課長、渡辺安全対策官
岩田室長補佐、美留町専門官
(説明者)阿久津室長
4. 議事
(1) 多能性細胞の樹立を目的とした新たなヒト胚作成技術に係る対応について
(2) ヒト ES 細胞等から作成した生殖細胞からの胚の作成について
(3) ヒト ES 細胞の樹立計画の変更申請について
(4) ヒト ES 細胞の設置計画の変更申請について
(5) ヒト ES 細胞の使用計画の変更等の届出について
(6) その他
5. 閉会
配付資料
資料80-1-1
多能性細胞の樹立を目的とした新たなヒト胚作成技術に係る対応につい
て
資料80-1-2
新たなヒト胚作成技術について
~SCNT法による3倍体ES細胞論文の背景~
(国立成育医療研究センター研究所 阿久津英憲室長)
資料80-1-3
多能性細胞の樹立を目的とする新たなヒト胚作成技術に係る当面の対応
について(案)
資料80-2-1
ヒトES細胞等から作成した生殖細胞からの胚の作成について
資料80-2-2
多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:現状と展望
(京都大学 斎藤通紀教授)
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資料80-3
ヒトES細胞の樹立計画の変更申請について
資料80-4
ヒトES細胞の設置計画の変更申請について
資料 80-5
ヒト ES 細胞の使用計画等の届出について
参考資料 1
「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」解説資料
参考資料 2
ヒト胚に関する議論の経緯
参考資料 3
第 6 期科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 特定胚及びヒト ES 細
胞等研究専門委員会名簿
6. 議事
【須田主査】
おはようございます。定刻となりましたので、ただいまから「第80回特定
胚及びヒトES細胞等研究専門委員会」を開催いたします。
本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
それでは、議事を始めるに当たりまして、まず事務局から、配付資料の確認と事務局の
人事異動についてのご説明をお願いいたします。
【岩田室長補佐】
それでは、
本年1月に事務局におきまして人事異動がございましたので、
ご紹介をさせていただきます。
まず、本日、所用により欠席しておりますが、研究振興局長に吉田が着任してございま
す。
続きまして、大臣官房の総括審議官に田中が着任してございます。
【田中総括審議官】
【岩田室長補佐】
田中でございます。よろしくお願い申し上げます。
続きまして、研究振興局の担当審議官として森本が着任してございま
す。
【森本審議官】
森本でございます。どうぞよろしくお願いします。
【岩田室長補佐】
【板倉課長】
続きまして、ライフサイエンス課長に板倉が着任してございます。
板倉でございます。よろしくお願いいたします。
【岩田室長補佐】
以上、人事異動に関することでございました。
引き続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。お手元の資料、議事次第の裏
面をごらんいただきながら、ご確認をいただければと存じます。
本日配付しております資料といたしまして、右側の番号で80-1-1、80-1-2、80-1
-3、80-2-1、80-2-2、80-3、80-4、80-5、参考資料といたしまして、参考資料1、
参考資料2、参考資料3でございます。また、メーンテーブルのみでございますが、紙ファ
-2-
イルに入れて、指針等の資料をお配りしてございます。過不足等ございましたら、お申し
つけくださいませ。
以上でございます。
【須田主査】
問題ありませんでしょうか。
なお、前回の議事録に関しましては、あらかじめご確認をいただき、既にホームページ
にて公開しております。
それでは、本日の議題に入りたいと思います。議事(1)は、多能性細胞の樹立を目的と
した新たなヒト胚作成技術に係る対応についてであります。
本件は、昨年10月、アメリカにおいて、除核していない卵子にヒトの体細胞の核を導入
してヒト胚を作成し、その胚から多能性を有する細胞を樹立することに成功したとの発表
がありました。このような技術は、これまで想定されておらず、生命倫理上の観点などか
ら、今後どのように扱うべきかについて検討を行うことが必要と考えております。
内閣府の懇談会において既に17日に検討が開始されておりますが、本委員会におきまし
ても、これらの検討状況や研究の進捗状況を踏まえつつ、議論していくことが必要である
と考えております。
本日は、国立成育医療研究センターの阿久津先生にお越しいただいております。阿久津
先生は、本日の課題である研究を実際に行っている研究者とお知り合いであり、先日も意
見を交換されたとのことであります。科学的な性質なども含め、後ほど紹介していただき
たいと思います。
その前にまず、事務局から、当該研究と我が国の法令等との関係などについて、説明を
お願いいたします。
渡辺さん、お願いします。
【渡辺安全対策官】
それでは、資料80-1-1をごらんいただけますでしょうか。先ほど
主査より紹介ございましたように、昨年10月に、米国の研究者が、新たな技術を用いてヒ
トの卵子(除核していないもの)に別の成人の皮膚細胞の核を入れてヒト胚を作成して、
多能性細胞をつくることに成功したという報告がございました。
我が国のいわゆるクローン法におきましては、ヒトの体細胞であって核を有するものが
ヒト除核卵と融合することにより生ずる胚というものを人クローン胚と定義し、人または
動物の胎内への移植を禁止してございます。
さらに、
「特定胚の取扱いに関する指針」におきましては、難病等に関する再生医療に関
-3-
する基礎研究のうちES細胞を作成して行う研究に限って人クローン胚の作成を認めており、
さらに、
「ES細胞の樹立・分配に関する指針」におきまして、人クローン胚を用いたヒトES
細胞の樹立の要件について規定しているというところでございます。
2ページ目の図をごらんいただけますでしょうか。まず、上にございます、これまでの人
クローン胚につきましてでございますが、絵にございますように、未受精卵等の核を取り
除いたものにヒト体細胞の核を移植し、それが人クローン胚となったものにつきまして、
まずクローン法におきまして法律で胎内に戻すことを禁止してございます。特定胚指針、
ES指針によりまして、再生医療等の要件に限定してヒトES細胞をつくり、そこから研究に
利用するということが可能とされているところでございます。ただ、下にございますが、
人クローン胚から作成したES細胞というのは、ヒト体細胞の提供者と同じ遺伝情報を持つ
ということから免疫拒絶の少ない再生医療に応用が期待されるということで、作成が認め
られたという経緯がございます。
今回の技術によるヒト胚につきましては、下の絵にございますように、ヒトの卵子――
これは未受精卵の核を残してございます。
それにヒト体細胞の核を移植して胚をつくって、
そこから胚盤胞まで育てたものから多能性細胞を作成したという報告でございます。まさ
に、今回のヒト胚というのは卵子の核を残して作成ということで、クローン法における人
クローン胚とは異なるものであると考えられるところでございます。さらに、今回の技術
で作成された多能性細胞は、ヒト体細胞の提供者と同じ遺伝情報を持つというものではな
い。すなわち、ヒトの卵子とヒト体細胞の遺伝情報がまざったものであると。さらに、後
ほど科学的には説明ございますが、
通常の細胞と異なり染色体が3倍体の胚であるというこ
となどから、再生医療への応用は困難ではないかというふうに思われるというところでご
ざいます。
1ページ目にお戻りいただきまして、中ほどにございますが、そもそもヒト胚の作成につ
きましては、平成16年の総合科学技術会議の「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」に
おきまして、研究目的のため新たに「人の生命の萌芽」であるヒト胚を作成することは原
則認めないとされております。その例外として、1つが生殖補助医療研究のためのヒト受精
胚の作成、
もう1つが再生医療研究のための人クローン胚の作成のみに限定して容認し得る
ということで、それぞれ法令やガイドラインに基づいてその規制がなされているところで
ございます。
今回のヒト胚の作成につきましては、総合科学技術会議において容認された研究目的の
-4-
ヒト胚作成の範囲を超えることになろうというところでございます。さらに、今回の技術
につきましては、研究目的のために、人為的にヒト胚を作成し、そこからさらにヒト胚を
滅失してES細胞に類似する多能性細胞を作成するということで、生命倫理上の課題がある
と考えられるとともに、なお科学的に不明な点も多いということでございます。
このような状況をかんがみまして、内閣府におきましては、本年1月17日に生命倫理懇談
会というものを開催いたしまして、本件に係る検討を開始したところでございます。
なお、
1月17日にその生命倫理懇談会で委員から出された主なコメントといたしましては、
今回の技術で作成されるヒト胚というのは未受精卵と体細胞の染色体をそれぞれ受け継い
でいると。それで体細胞の提供者と同じ遺伝情報を持たないということで、これまでの体
細胞の提供者と同じ遺伝情報を持つ人クローン胚とは科学的には異なるんじゃないか。さ
らに、通常、ヒト胚の染色体は2倍体であるが、今回の方法では除核していない未受精卵に
ヒトの体細胞の核を導入しているということから、染色体が3倍体の胚となっていると。当
該胚から作成された多能性細胞についても3倍体の染色体を有していることから、
将来的な
医療への応用は困難と思われる。さらに、通常、3倍体のヒト胚の多くは流産することが多
いが、3倍体でもヒト個体に成長した事例もあることから、当該胚からの個体産生の可能性
は否定できないということで、今回の胚はヒト胚であると考えられ、慎重な取り扱いが必
要と考えられる、といったコメントが出されたところでございます。
以上でございます。
【須田主査】
ありがとうございました。
それでは、阿久津先生、お願いいたします。
【説明者(阿久津室長)
】
国立成育医療研究センターの阿久津です。よろしくお願いいた
します。
それでは、早速始めさせていただきます。昨年、これに関する論文が報告されて、その
翌日の新聞では「第三の万能細胞」ということで一部報道機関で報道されましたのでご存
じかもしれませんが、その論文の内容、第三の万能細胞と言われるゆえんと、その作成の
方法については、今ほどご説明がありましたように、体細胞クローン、体細胞核移植の技
術を主軸としておりますので、それについてご説明いたします。
その前に、こちらが新しい論文なんですけれども、ヒトの卵子、卵母細胞が体細胞を初
期化するという内容ですが、そのちょっと前に同じ主任研究者が受精卵クローンというの
を報告しております。これは研究の流れとしては同じ目的で進んだ流れですので、まず、
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体細胞クローン、これまで体細胞核移植の方法が幾つか報告されておりますので、今回を
機にもう一度見直してみようというのが1番目。2番目として、今回の新たなヒト胚作成方
法について、ちょっと詳しくご説明いたします。3番目としては、この方法が人クローン胚
研究とどのような関連性があるか。そういう流れで進めさせていただきます。
まず、体細胞核移植法(SCNT)の比較ですけれども、これまで、1940年代にカエルのク
ローン研究で始まった流れとして、オリジナルのオーソドックスな方法とは、未受精卵を
用いて、その核を取り出して、除核という操作ですけれども、体細胞を移植・注入する。
今回、例としてヒトの染色体数を2n=46というふうに書いております。
もう1つは、受精卵、今度は未受精卵と受精卵を用いて行う方法。2番目の方法は、2007
年に先ほどのグループが報告したんですけれども、これはヒトでは成功しておりません。
マウスです。未受精卵と受精卵はどう違うの? というところは、少し詳しい説明になっ
てしまうので今回は省かせていただきますが、
受精卵を使ってDNAを取り出して除核をして
体細胞クローンに用いるという方法です。ここに※がついているのは、厳密に言うと、核
ですと核膜がほんとうはあるんですけれども、これは核膜がない染色体の状態で取り出す
ので、科学的には核と言えないので、※をつけました。
3番目として、
今回の新しい新規体細胞核移植法ですけれども、
これは未受精卵があって、
そこに、核を取り出さないで、そのまま体細胞を入れて、新しい胚を作成するという方法
になります。今回の新しい体細胞核移植法ですけれども、大きな違いはまず、核を抜かな
いというところが1つ。できる胚の染色体数が3倍体というところが、これまでの方法でで
きた新しい胚とはちょっと違うということになります。
今回、
「Nature」誌に報告された論文ですけれども、ここに行き着くまでの背景として、
このグループは、ヒトの体細胞核移植、韓国の研究者が非常に不適切な方法で行ったがた
めにかなりさまざまな問題を提起しましたが、その後、適切な手続で人クローン研究を行
っているのは唯一、世界中でこのグループだけだと思われます。当然ながらヒト未受精卵
を使って核を除いて体細胞核移植を行っているんですけれども、それではすべて、ES細胞
のもとになるような胚盤胞までの発生は認められておりません。どうしてヒトではそれが
達成できないのかというのを詳細に検討しておりまして、その大きな理由は、精子と卵子
が受精しますと精子と卵子がまざり合った核から転写因子が活性化されるんですが、それ
がほとんど全くと言っていいほど行われないという、活性化のふぐあいが認められており
ます。今回、このグループは、単為発生胚、精子を受精してない胚や、紡錘体という未受
-6-
精卵の核を抜いてまた入れるという研究もしておりまして、それでは最終的にES細胞を作
成しております。
今回のテーマではないんですけれども、研究自体はかなり進んだ状態であるということ
をお示ししたくて、このスライドを示しました。まず、彼らは、ヒトの受精の3日目の胚、
これは8細胞期ですが、その割球を取り出して、未受精卵の核を抜いて、技術的には体細胞
核移植法なんですけれども、それで胚盤胞まで発生させております。最終的には、ここか
らES細胞もできております。紡錘体、未受精卵の核を抜いて、また戻して、それで発生を
させまして、単為発生胚ですけれども、最終的にES細胞を作成しております。この操作自
体は機械的な操作が胚に影響を与えないということの一つの証明のために彼らは行ってい
るんですけれども、最終的にそれからも、染色体があったので、正常なES細胞が作成でき
ているというのが、新しい方法に行くまでの前段階の実験の成果です。
今回は未受精卵の核を抜かないで体細胞をそのまま入れて胚を発生させているわけです
けれども、クローン研究を行っている研究者ならだれしもがちょっと驚くんですが、胚盤
胞へ行く――胚盤胞というのは、子宮に着床して発生する、着床直前の胚になるんですけ
れども、それが20%と、非常に高い率で行っております。そこから、万能細胞、多能性幹
細胞を樹立しているんですが、これは普通の受精卵から作成されましたES細胞と性質的に
は見分けがつかない、唯一、3倍体という胚になっております。遺伝子発現等々、細かく見
ているんですけれども、
要するにiPS細胞やほかの受精卵由来のES細胞とほとんど見分けが
つかないということになっています。
これは科学的というよりは医学的・生命倫理的な観点ですけれども、そもそもこれは、
有償ドナー、不妊治療の過程で得られた胚ではなくて、新鮮な未受精卵を利用しておりま
す。このグループはコロンビア大学の産婦人科のグループと共同で研究を行っているんで
すが、有償で1人8,000ドルです。そもそもコロンビア大学の産婦人科では不妊治療のため
のエッグドナープログラムがありまして、そこで、候補者の方はこの治療プログラムから
外れた人が今回の対象で、インフォームド・コンセントを新たに取るというステップにな
っております。研究者に確認したんですが、昨年7月から12月まで6人の方がこのプログラ
ムに入っていまして、月平均1人。現在も続いております。
今回の方法がクローンに入るかというところですけれども、まず、体細胞クローンです
と、ドナー、もとの細胞とできた細胞のDNAが一緒というのが基本的なんですが、今回は、
もとの細胞とできた細胞、3倍体ですので、そもそもドナーのDNAの型は一致しないという
-7-
ことがあります。ただし、卵子(卵母細胞)を使って体細胞核を移植するという操作自体
はクローン胚の作成技術と何ら変わらない、体細胞核移植法ということになります。もう1
つは、卵子(卵母細胞)
、卵細胞を取り扱うというところが、非常に大きな点です。
今回の新しい胚についてですけれども、有用性ですと、でき上がる胚は、万能細胞とは
言いつつも、3倍体の胚ということになっております。ですので、これ自体が細胞治療など
の再生医療に直接有用性があるかというと、それは応用しがたいというふうに考えられま
す。有用性といえば、初期胚発生の理解のための研究として使用される可能性はあります
けれども、再生医療応用というのは非常に考えがたい。
想定される問題点としては、
除核法を行わないために、
体細胞クローンの技術としては、
通常のオーソドックスな体細胞クローンに比べて、手技的には非常に簡便です。特にヒト
の卵母細胞ですと、実験動物と異なりまして、紡錘体が非常に確認しづらいんです。です
ので、除核という操作を行うとすれば非常に困難な方法なんですけれども、これは除核を
行いませんので、方法としては非常に簡便です。もう1つは、できた胚が想定以上に――想
定というのは私自身の想定なんですけれども、発生率が非常にいい。胚盤胞まで20%も、
非常に高い率で発生する。
それがどういう問題かですと、今回、この論文では、当然ながらそれを子宮に移植した
りということは行ってないんですが、胚盤胞まで効率よく発生するということに関してで
す。実際、クローン法とは別に、ヒトの自然の妊娠経過として、3倍体胚というのが子宮の
中で発生するのかどうかというのを、ちょっと調べてみました。自然の受精の過程で約3%
が3倍体になるんですけれども、3倍体になる理由というか、原因というか、メカニズムは、
大きく3つ挙げられます。まず1つが、多精子受精です。2つの精子が受精してしまうという
ケースと、もう1つは、精子も精子細胞ができるまでに減数分裂を行って半数になるんです
が、どういうわけか2倍体の精子というものがありまして、それが受精するケース。ですの
で、最終的に3倍体になる。もう1つは、受精もきちんとするんですけれども、卵子ではそ
の直後、染色体を半数、極体という形で放出するんですが、その極体の放出が行われない。
そういうことで3倍体になる。その3つが今現在考えられるんですが、それは大体3%。ただ
し、その多くは流産してしまいます。しかしながら、調べてみますと、世界中で3倍体、こ
れはモザイクではなくて体全体が3倍体の染色体を持つということですが、
それが生まれて
から164日生存したという、ギリシャからの報告があります。日本でも、これは1999年の慶
応大学の小児科の先生方が報告された論文なんですけれども、46日間生存したという報告
-8-
がされております。ですので、3倍体の胚でも、着床して子宮の中で生存し、さらに胎外ま
で行くということが言われています。
今回の方法としては、新しい方法、厳密な意味ではゲノムが異なるとは言いつつも、卵
母細胞を利用して体細胞核移植の方法を使ってできる胚は、非常に効率よく胚盤胞まで発
生して、さらに着床して、この3倍体は自然の中での3倍体ですけれども、ただ、発生する
という報告がございます。ですので、その点に関しては非常に慎重な議論が必要かなとい
うふうに考えております。
以上です。
【須田主査】
阿久津先生、ありがとうございました。
それでは、ただいまのご説明について、ご意見、ご質問はございますでしょうか。少し
議論をしたいと思います。
どうぞ。
【髙山委員】
質問なんですけれども、コロンビア大学の卵子ドナープログラムで生殖補
助医療のためのドナーから漏れた方が今回の研究のドナーになっておられるということで
したが、その選別はどのように行われているのか、もし知っておられましたら、教えてく
ださい。
【説明者(阿久津室長)
】
その辺もちょっと聞いたんですけれども、マッチングできなか
った患者さんがいて、改めて研究に関する説明をしてインフォームド・コンセントを取る
ということなので、最初からこの研究ありきで候補者の方を選んでいるというわけではな
さそうです。細かな手続に関しましては、詳細はちょっとわからないので説明できないん
ですけれども、申しわけございません。
【髙山委員】
ありがとうございました。
【須田主査】
どうぞ。
【知野委員】
質問なんですけれども、なぜこういうやり方をしたのか、目的みたいなと
ころを1つと、それから、これが報じられたことも含めて、日本国内でも同じような研究を
しようというグループなどはあるんでしょうか。
【説明者(阿久津室長)
】
まず1つ、なぜこのような研究をするかというと、この研究グ
ループ自体は、コロンビア大学の糖尿病の研究者のグループと共同研究で行っておりまし
て、疾患のモデルの万能細胞をつくるということになります。iPSが現在あるんですが、iPS
の方法ではなくてESの方法、初期胚を使って万能細胞をつくりたいということなんですけ
-9-
れども、そもそもこの3倍体の胚自体は、究極の目的はやはり、未受精卵の核を抜いて、そ
こに患者さん由来の細胞を入れて万能細胞をつくるというところなんですが、ちらっとお
示ししましたように、その方法では全く発生しない、ヒトの胚では、3日目、4日目ぐらい
の発生でストップしてしまうんですが、そうすると、これまで基礎研究で行ってきた卵子
の細胞はどのような体細胞も初期化(リプログラミング)するという報告があったんです
けれども、ヒトはそれが当てはまらないということになってしまうんですが、それをまず
証明するために核は抜いていない今回の新しい方法を使ったということになります。です
ので、彼らはここが最終目的ではなくて、ヒトの卵母細胞も初期化する能力がほかのこれ
までの基礎研究の実験モデル動物と同じようにあるんですよというのが、
一つの目的です。
日本でこのような研究を行っている人がいるかというと、私の知る限りでは、同じよう
な方法で行っているという方は知りません。
【須田主査】
谷口先生。
【谷口委員】
同じような質問ですけど、
「Nature」に出ました論文の学術的価値といいま
すか、私の理解は、すぐに移植医療とか、そういうことを目指しているわけではなくて、
例えば卵子の中に存在するリプログラミング因子とか、そういうものをうまく見出せるき
っかけをつくれば、従来不可能であった技術が例えば倫理的な問題もなく医療に役立つの
ではないかと、そういう基礎的な点が評価されたという、そういう理解でよろしいのでし
ょうか。
【説明者(阿久津室長)
】
まさしくご指摘のとおりでございます。今回、データとしては
紹介しなかったんですけれども、実はその辺も、卵子に注入した体細胞の遺伝子発現がき
れいになるかどうか、どの程度リプログラミングされるかというのを詳細に検討しており
まして、彼らの結論としては、きれいにリプログラミングされたという報告が最終的な結
論になっております。
【須田主査】
今の質問に関連するんですが、そうすると、除核してない卵子の核を何か
因子に置きかえていく方向も目指しているんでしょうか。
【説明者(阿久津室長)
】
その点が一つ重要な点でして、彼らの研究のテーマは、今、そ
こも大きなテーマになって、その因子を見出そうという研究もしております。
【須田主査】
どうぞ、赤林先生。
【赤林委員】
核移植から胚盤胞に至るまでのどこかの過程で2倍体に戻すようなことは、
技術的には可能なんでしょうか。
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【説明者(阿久津室長)
】
それは非常に難しいと、まず技術的には不可能だろうと、断言
できると思います。彼らはそういう方法もとっているかということは、彼らは1つを抜き出
すという研究は行っていないということです。
【須田主査】
たしかこれに、コメントがついて、倫理のほうからのは、こういう卵は生
命かモノかというタイトルだったと思うんですけれども、アメリカのほうでは、実験のた
めに有償で未受精卵を提供するということに関しては、どのくらいのコンセンサスが得ら
れているんでしょうか。
【説明者(阿久津室長)
】
非常に難しい点なんですが、そもそもこの研究自体、州の議会
で議論されて承認されて、もちろん機関内の倫理委員会もそうですが、州レベルでも議論
されております。ニューヨーク州で行う以前にマサチューセッツ州でハーバード大学が行
っていたんですけれども、
それは有償が認められませんで、
純粋なボランティアベースと。
私が聞いたのは、結果的に4年間でお一人だけと。研究自体が遂行困難で、ニューヨーク州
では有償も認めますと。そもそもコロンビア大学のエッグドナープログラムが非常に活発
に行われておりましたので、そこで、コロンビア大学というか、主体はニューヨーク幹細
胞研究財団なんですけれども、そこが行うということです。議論がないわけでは絶対ない
と思いますが、手続としては、正当な手続をとって行われているということになります。
【須田主査】
たしか、1個や2個ではなく、数十個でしたっけ? 全部で幾つぐらい集め
ているんですか。
【説明者(阿久津室長)
】
これも直接聞いたんですけれども、プログラムのドナーの方か
らは、平均1人15個と言っておりました。
【須田主査】
どうぞ、小倉先生。
【小倉委員】
事務局の方にもお聞きしたいのですけれども、これはおそらく、生物学的
にはあまり意味がないとしても、
人クローン胚をほんとうにつくる場合の前実験としては、
技術的にはかなり必要になってくる実験だと思います。もし人クローン胚の作成が申請さ
れて許可された場合、前実験として、その範疇として、これは許可される実験になるので
しょうか。
【渡辺安全対策官】
おそらく、クローン法に基づき、特定胚指針に基づき、今、人クロ
ーン胚からES細胞をつくるという研究が届出申請されたときに、そのようなことが認めら
れるかどうかということかというふうに思いますが、特定胚指針で胚の作成として認めら
れているものは、先ほどご説明したクローン法に定義する人クローン胚、すなわち体細胞
-11-
であって核を有するものが除核卵と融合することにより生じる胚ということになっており
ますので、その研究を行うこととして認めるということだと思いますから、基本的には認
められないのではないか。ただ、人クローン胚の作成研究につきまして、今まで届出が上
がってきたことはございませんので、具体的にそう判断した事例はございません。
【小倉委員】
おそらくこれは、阿久津先生も了解されると思いますけど、ほんとうに除
核してクローン胚をつくる前にはやはり、いろんな条件設定のためにはどうしても必要に
なってくる実験だと思うのですね。そういう意味では、人クローン胚をつくるという範囲
の中では、できればつくってもいいという範疇になればいいのではないかと思うのです。
実用的なものとして。私の意見ですけど。
【須田主査】
今の小倉先生の意見は貴重なんですけど、結局、日本のクローン法だと、
クローン胚とはどういうものかということが定義されていて、
今、
先生が言われたように、
この研究はクローン胚の前段階のものだからクローン胚に準じて議論するということがな
かなか難しいんですね。特定胚も特定されていますけれども、1つずつの議論になっていく
ので、これをクローン胚と言うかというと、それは難しいですね。
どうぞ。
【辰井委員】
ちょっと法律と指針の解釈について整理をしておきたいと思うのですが、
まず法律に関しては、クローン胚だけというか、クローン胚が特に挙げられて検証の対象
となっておりますのは、特定の人と同じ遺伝子のものができ上がる、そういう個体ができ
る可能性があるというところが非常に注目されて、
その点をとらえた規制です。
それから、
ヒトと動物の種を危うくするようなことについても、それは人間の尊厳に反するというこ
とで、その2点をとらえた法律が基本的にはクローン法です。ですので、クローン法に基づ
いて特定胚指針がその後できましたが、法律家から見ますと特定胚指針は若干クローン法
の委任の範囲を超えているところがありまして、クローン法自体は、胚の作成そのものが
問題だとは考えていない法律です。そのことに関しては別のところで議論をしてください
ということが、クローン法の附則か何かに書いてあったと思います。それを受けて議論が
なされた結果、特定胚指針がつくられたわけですが、特定胚指針のほうは、胚をつくるこ
とそのものが非常に問題であるという考え方でつくられています。ただ、率直に申しまし
て、その部分はクローン法の委任の範囲は超えていますので、それは、法律に基づくとい
うよりは、指針独自の規制であると理解してよろしいかと思います。
それはさておきまして、そういたしますと、今回のこの話というのは、もちろんクロー
-12-
ン胚とは違う。それは間違いありません。そこで、どの観点から問題にし得るかというと、
やはりヒト胚の作成に当たるということですから、現行の規制の考え方ですと、その例外
としての生殖補助医療研究のためのヒト受精胚の作成として非常に意味のあるものである
かどうかということによって、許容されるか、されないかが決まるのではないかというの
が、私の理解です。
【須田主査】
結局、今ここで議論していることも、当面こういう研究を禁止するのか、
それとも基礎研究としても重要だから別の解釈が成り立つのか、そういう点は法的にはど
ういうふうになるんでしょうか。
【辰井委員】
もちろん、ヒト胚の作成ということですので、それぞれの方によってご意
見がかなり違うだろうと思いますが、今の規制のあり方から見ますと、今のお話を伺った
範囲では、これは生殖補助医療のための基礎研究として非常に有意義であるということで
あれば、その点をとらえて許容するという考え方はあり得るだろうと思います。
【須田主査】
今、委員からこういう意見が出ましたけど、ほかにご意見ありますでしょ
うか。この手法をどう解釈するかというところがあると思うんですけど。
阿久津先生ご自身はいかがでしょうか。こういう研究は当面とめるという方向でいいの
か、それとも、やはり基礎研究として重要なので続け得るものであるというのか。
【説明者(阿久津室長)
】
もしやっていいですよという事態であってもかなり躊躇はする
んですが、彼らしかこの研究を行ってないわけで、おそらく得られた成果からもっと詳し
い事象がわかっていると思うんですが、そういうのをまずはよく吟味したいというのが率
直な意見でして、じゃあこれを私自身が行いますかというと、科学的にだったり、いろい
ろなことをちょっと考えてしまうんですけれども、躊躇はします。
【須田主査】
どうぞ。
【渡辺安全対策官】
事務局から補足させていただきますと、総合科学技術会議において
ヒト胚の作成が認められるものの1つとして生殖補助医療研究目的でのヒト受精胚の作成
というのが認められたという経緯がございますが、
ここでヒト受精胚ということを明確に、
いわゆるヒトの卵子とヒトの精子からヒト受精胚をつくるということに限定してございま
すので、今回のような体細胞と除核してない卵との融合というところはこの受精胚の作成
というところでは読めないんじゃないかなというふうに思っておりまして、
いずれにしろ、
こういったことをどうするかということは、総合科学技術会議において検討が必要なんじ
ゃないかというふうに理解しております。
-13-
【須田主査】
門脇先生。
【門脇委員】
除核したものをクローンというふうに定義しているわけですから、これは
クローン法のいわゆる人クローン胚には相当しないということで、しかしながら、これは
先ほどから話がありましたように特定胚指針のほうに関連して、今お話がありましたよう
に、
そこで言うヒト胚についてはこのような除核をしない卵細胞と体細胞の3倍体のような
ものからつくられる胚は想定をしていないということであれば、現状はこれを積極的に容
認するようなことはできないのではないかというふうに思います。ただ、先ほどありまし
たように、少なくともこの論文の目的はリプログラミング因子などを見つけるような基礎
研究ということであれば、それは有用な研究である可能性があると思います。しかし、こ
れからヒトの個体などを作成するといった方向に万が一にでも行くことになると、これは
基本的に許されない問題を引き起こすということになりますので、そういうことが絶対に
起こらないような規制をかけるということがまず大事で、そういう規制がきちんとかかっ
た上で、基礎研究、あるいはもしかしたら何らかの臨床的な有用な価値がある研究に発展
する可能性もあるわけですので、当面は、基礎研究とか、そういうことに限ったような形
でこれを認めるかどうか議論をするということが適切ではないかなと思います。
【須田主査】
お願いします。
【髙山委員】
先ほど最初に質問させていただいた点と関係あるんですけれども、コロン
ビアと同じ形での研究は、日本では現行法上はできないと考えます。なぜならば、臓器移
植法は臓器売買を禁止しておりますので、人間の細胞をお金でやりとりするということは
現行法上は基本的にはできない、ここに抵触する可能性はあるだろうと思います。
しかし、有用な研究なので将来認めるかどうかということについては、3倍体の研究だけ
に限らず、卵の提供についてどのように法的に扱うのかということについて、もう少し詰
めた議論が必要なのではないかと思います。今までもある程度の議論はなされていると思
いますが、
まだ必ずしも詰められてはいないのではないかというのが、
印象でございます。
【須田主査】
どうぞ。
【石原委員】
卵子とか、精子とか、生殖細胞の提供については生殖医療研究のときに大
分議論されたと思うんですけれども、今回のこの話の問題は、今までだれもこのようなこ
とをしようとしなかった、それから阿久津先生がご存じの範囲でほかに同じことをやって
いるところがないというところからすると、その必要性とか有用性について多くの先生が
高く認めていったという種類の研究ではないんじゃないかという気がいたします。現時点
-14-
で何らかの今後の研究に役立つものが出てくる可能性があるというのは小倉先生がおっし
ゃるとおりだと思いますが、そういう意味では、現時点で、これは非常に危険性のポテン
シャルが高いから直ちに全面的にやめろとか、あるいは、これは全く問題がないので好き
にしていいという、その両端は多分ないと思いますので、どういう形で暫定的な方法を考
えるかという議論をするほうがよろしいんじゃないかなというのが、私の考えです。
【須田主査】
斎藤先生。
【斎藤委員】
純粋に科学的な僕の感想なんですが、例えば②の「他に治療法のない難病
等に関する再生医療研究のための人クローン胚の作成のみ」ということで、現状の技術で
はこの実験というのは成功しないということですね、人クローン胚というのがつくれない
ので。もし人クローン胚の作成が役に立つ研究になるのであれば、それが今の段階ではで
きないという事実があって、この人たちは多分、何らかのコントロールとして卵そのもの
のゲノムを除かない方法をやったら、アンエクスペクテッドにそっちのほうが発生したと
いうような結果のように見受けられるんですね。そうすると、純粋な人クローン胚の作成
というのを、クローン胚というか、成功に導くためには、その前段階として、小倉先生も
おっしゃられましたように、純粋な研究だけの観点から言いますと、これがないとできな
いという可能性があって、そうするとこの②の意味がないということになってくるような
気もするんですけど。
【須田主査】
そうですね。本研究をクローン胚を効率よくつくっていくための一つの前
段階の研究と位置づけることもできると思うんですが、もう一方で当面の措置ということ
もあるんですね。それで、ちょっと議論を進めまして、今、本件については、冒頭に事務
局から説明がありましたとおり、法令などで定められている人クローン胚とは違うと。こ
れはコンセンサスを得られると思うんです。また、総合科学技術会議が示した研究目的で
のヒト胚作成の範囲を超えているというのも、事実だと思います。研究目的でヒト胚を作
成し、滅失するという生命倫理上の課題等も考えられます。そのため、本件については、
総合科学技術会議等における検討を踏まえつつ、引き続き検討をしていく。先ほど申しま
したように、これがクローン胚の技術開発をしていく上で基礎研究として重要だと位置づ
けられるかどうか、そういうことも含めて引き続き検討をしていくとともに、その結論が
得られるまでは、当面の措置を講ずる必要があるんじゃないかと考えられます。事務局と
も相談しまして当面の対応案を考えておりますので、それを事務局のほうから説明してい
ただけますでしょうか。
-15-
【渡辺安全対策官】
資料80-1-3をごらんいただけますでしょうか。
「多能性細胞の樹立
を目的とする新たなヒト胚作成技術に係る当面の対応について(案)
」ということでござい
ます。
1番の現状認識につきましては、先ほど私のほうから説明させていただきました、これま
での経緯や法令上の扱いを整理してございます。裏に進みまして、今後、総合科学技術会
議におきましても、今回の技術の対応について検討が進められていく見込みであるという
ところでございます。
当面の対応といたしましては、「除核していないヒトの未受精卵にヒトの体細胞の核を
導入してヒト胚を作成すること及びこのヒト胚から多能性細胞を樹立することについては、
『人の生命の萌芽』
であるヒト胚を研究目的のために新たに作成し、
滅失することとなり、
生命倫理上の課題を有している。
これまで、
ヒト胚の作成及び滅失を伴う研究については、
総合科学技術会議や科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会におきまして、科学的合理
性や社会的妥当性といった観点から、幅広い分野の有識者から意見を聴いて、慎重な検討
が行われてきた。したがって、今後の総合科学技術会議における基本的な考え方について
の検討を踏まえつつ、生命倫理・安全部会においても、幅広い分野の有識者から意見を聴
いて、多様な観点から検討を行い、その結果に基づき最終的な結論を出すこととするが、
それまでの間は、除核していないヒトの未受精卵に、ヒトの体細胞の核を導入してヒト胚
を作成すること及び当該ヒト胚から多能性細胞を樹立することについては、当面、行わな
いこととすることが適切である。また、特定胚指針において人クローン胚等の特定胚の輸
入は行わないこととしていることから、上記の技術を用いて外国で作成されたヒト胚につ
いても、その基本的な方針について最終的な結論が出るまでの間は、当面、輸入・使用を
行わないこととすることが適切である」ということで、案を整理しております。
以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
それでは、この措置について、もう一度ご意見いただけますでしょうか。先ほど来出て
いますが、当面の措置と、こういう議論を継続していくことと、ちょっと区別しなきゃい
けないのかもしれませんが。
高坂先生。
【高坂主査代理】
私も基本的にはこの当面の対応については妥当性があるだろうと思う
んですが、一つ、今後検討をしていく上で最も重要なのは、先ほど何人かの先生がおっし
-16-
ゃったように、ヒトの卵を使っているということが多分一番問題になるだろうと思うんで
すね。この方法を使って、阿久津先生のお話であれば、再生医療応用等には全く向いてい
ないということもあるでしょうし、一方においては、リプログラミングのメカニズム、あ
るいはクローン胚での作成の前段階としての技術の確立のために、有用性もあるわけです
ね。今後、最も大事な有用性がヒト胚を滅失するという倫理的な観点よりもアドバンテー
ジが高いということがあればいずれ認められていくんだろうと思うんですが、その有用性
というものを我々が検定する上で、だれが一体どこでやるんだという話で、我々はこれを
今後も検討するということはもちろん大事なんだけれども、どこでだれが何を検討してい
くかということが、少なくとも国内ではこの措置においてできなくなってしまうというこ
とですね。ということは海外での情報を待つしかないということになるので、私、そこだ
けはちょっと心配しているんですね。
【須田主査】
そうですね。大事なご意見だと思うんですね。この有用性というのは、そ
んなに予測できることじゃないですよね。今回のこの研究だってかなり、今は意外性に富
んでいますよね。だから、そういう意味では、試行錯誤の中で生まれてくる可能性もある
と思うんですね。
【高坂主査代理】
だから、想像の域を脱しないのかもしれないけれども、こういったこ
とが予測されるということが議論の中で出てくれば、いずれこれを解禁するという方向性
はあるんでしょうけれども、早急に検討してということでなくて、いつごろまでという時
期的なことが非常に不透明になっているのは事実だと思います。
【須田主査】
谷口先生。
【谷口委員】
本件は、各論的と言ったら失礼ですが、この特殊例にどう対応するかとい
う、こういう議論を今進めておりまして、それは非常に重要なことだと思っております。
一方で、科学者コミュニティーがこういうものをどう受け取るか、あるいはどう対応して
きたのか、これからどう対応すべきかということも、結構重要なのではないかと思うんで
すね。文科省の安全委員会で我々研究に携わっている人たちが参加をして適切な指針なり
助言を行うということは非常に重要なことだと思いますが、科学者コミュニティーが一体
どう対応しているか、
あるいはしていくべきか、
という視点も重要ではないかと思います。
本委員会で何もかにも一緒にして議論をするつもりはないんですが、科学技術不信の時代
とも言われている昨今、社会の理解や支援を得ながら的確な科学の推進を図ることがより
大切ではないかと思います。従って、科学者コミュニティーからの発信というのは非常に
-17-
重要になってくるのではないかと思います。極論をいたしますと、この場での先生方は皆
さんが本研究関連に理解のある先生方ですけれども、一方では憲法で与えられた学問の自
由というのは一体何なんだという人もいるでしょうし、あるいは脳死判定というのはけし
からんという人もいるでしょうし、社会にはいろんな人たちがいるわけです。そういう状
況であるからこそ、先ほど高坂先生がおっしゃったように、科学というのは不連続のプロ
セスをたどるわけですから、思わぬ発見が生まれたといったような局面がたくさんあろう
かと思いますから、そういう場合に備えた科学者コミュニティーからの発信力が非常に重
要かなと思います。
あまり本件にかかわりない、全体的なことで、失礼いたしました。
【須田主査】
非常に大事なご意見だと思うんですね。その上でも、この専門委員会は専
門委員が集まっているわけですので、ある程度議論を詰めていく必要はあると思います。
これでこの審議をしないというわけではないんですが、今のところ、本日いただいたご意
見を反映しながら、事務局のほうでつくりましたこの案を一部修正しながらも、特に日本
ですぐさまこれが行われるという可能性も低いということを見込んでいるんですけれども、
当面の対応としては禁止をする。この議論は続けていく。どういうふうにして有用性を判
定するのかとか、この研究をとめてしまいますと、それこそアメリカからの情報を待つし
かないという状況になるのか、それとも、ほかのアプローチも多様にあって、これに頼ら
なくてもいいのかというような議論も、
詰めていかなきゃいけないというふうに思います。
それでは、修正などについては主査に一任していただくということでよろしいでしょう
か。当面の措置についてだけです。
【高坂主査代理】
【須田主査】
結構です。
どうもありがとうございました。
本件につきましては、本専門委員会の親部会であります生命倫理・安全部会に報告させ
ていただき、同部会において当面の措置を含めて審議いただきたいと思います。ここでの
議論も伝えたいというふうに思っております。
それでは、本件につきましては、ここまでとさせていただきます。阿久津先生、どうも
ありがとうございました。
ちょっと、1分間だけ休憩しましょう。
( 休憩 )
【須田主査】
それでは、議題(2)に入りたいと思います。これも非常に重い課題なんで
-18-
すが、ヒトES細胞等から作成した生殖細胞からの胚の作成について、議論をしたいと思い
ます。
ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成研究については平成22年に指針の整備を行ったとこ
ろですが、その際、作成した生殖細胞を用いて胚を作成するということは当面行わないこ
とにしています。今後、生殖細胞作成研究の動向を踏まえつつ、検討していくこととして
おります。
一方、昨年、本専門委員会委員でもあります京都大学の斎藤先生らが、マウスのES細胞
から生殖細胞を作成し、それを用いて個体の作出に成功しております。この成果は、将来、
ヒトの生殖細胞作成研究にも参考となるものと考えております。本日は、斎藤先生から、
当該研究の概要について、ご紹介いただきたいと思います。
その前に、まず事務局のほうから、これまでのいきさつなどについて、説明をお願いい
たします。
【渡辺安全対策官】
それでは、資料80-2-1をごらんいただけますでしょうか。ヒトES
細胞等からの生殖細胞の作成についての経緯をまず説明いたしますと、ヒトES細胞等から
の生殖細胞の作成につきましては、平成13年にいわゆるES指針を制定した当時におきまし
ては、受精などを通じて個体が産生された場合の生命倫理上の問題を考慮して、禁止をさ
れていたというところでございます。
一方、ヒトES細胞などからの生殖細胞の作成につきましては、その分化の過程を研究す
ることによりまして、生殖細胞に起因する不妊症などの原因解明に有用であるということ
でその作成を認めることといたしまして、
平成22年5月に関係指針の整備を行ったところで
ございます。
その際、生殖細胞の作成を通じた個体産生の懸念に対しましては、ヒト胚の作成段階等
における規制によって防止可能であると整理いたしまして、この時点におきましては、作
成された生殖細胞を用いたヒト胚の作成は当面行わないことといたしました。その理由と
いたしましては、1つは、この時点ではヒトES細胞などから胚の作成が可能な生殖細胞を得
るというのは技術的に現実的ではなかったということで、今後、基礎的な研究の蓄積が必
要ということ。もう1点は、先ほどの議論の中でも出ましたが、平成16年の総合科学技術会
議の「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」ということで、研究目的のために作成を認
められているものは、生殖補助医療研究のためのヒト受精胚の作成、それから再生医療研
究のための人クローン胚の作成のみに限定していたということを踏まえたものでございま
-19-
す。
2ページ目をごらんいただけますでしょうか。その後の状況でございますが、現在、ヒト
ES細胞などからの生殖細胞の作成を行う研究につきましては、慶応大学及び京都大学から
届出がなされ、研究が進められているところでございます。現時点におきましては、ヒト
ES細胞等からの生殖細胞の作成には至ってございません。ほかの国でも、完全なヒトES細
胞などからの生殖細胞の作成ができたという報告は、まだないところでございます。
また、これまでの検討におきまして、ヒトES細胞などから生殖細胞が作成された場合に
は、その生殖細胞の機能性を確認するためにはヒト胚を作成することが必要ではないか、
さらに、その生殖細胞を用いてヒト胚を作成することによって、やはり不妊症などに関す
る研究に有用ではないか、といった意見もございました。
一方、マウスを用いた研究につきましては、これからご説明いただきますが、京都大学
におきまして昨年8月に、マウスのES細胞・iPS細胞から生殖細胞を作成し、それをもとに
個体の産生に成功したという発表がなされました。
こういった研究の進展状況を踏まえまして、総合科学技術会議におきましては、昨年9
月に生命倫理専門調査会を開催いたしまして、本件に係る検討を開始したところでござい
ます。
以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
では、引き続きまして、斎藤先生からご説明いただきます。
【斎藤委員】
それでは、多能性幹細胞、ES細胞もしくはiPS細胞などからの生殖細胞作成
研究に関します、私の知る限りの現状と展望に関して、お話しさせていただきたいと思い
ます。本内容は実は、この会に先立つ、昨年9月に内閣府のほうの生命倫理委員会で話させ
ていただいた内容と同じであります。
簡単に説明させていただきますと、生殖細胞研究の意義としてさまざまなことがあるん
ですが、生殖細胞は、多細胞生物を構成する細胞群の中で、その遺伝情報もしくはエピジ
ェネティックな情報を次世代に伝えまして、また、新しい個体を形成し得る唯一の細胞で
あります。生命の根幹を支える細胞でありますので、その発生メカニズムの解明というの
は生命科学研究において非常に重要な一つの領域と考えられます。例えば、細胞の多能性
制御機構でありますとか、細胞形質のエピジェネティックな制御機構、ゲノムの安定性制
御機構でありますとか、雌雄決定機構、減数分裂の機構、細胞の全能性獲得機構でありま
-20-
すとか、ヒト以外の動物におきましては、発生や生殖工学技術、例えばマウスにおけるジ
ーンノックアウトなんかはその最たる例でありますが、そうした研究の基盤になる領域で
あると考えられます。
さらに、生殖細胞研究の意義としまして、例えば、2010年のノーベル医学・生理学賞で
ありますと、Robert G. Edwards博士が体外受精技術の開発によって受賞されました。現在
では、先進国において2~3%の新生児が体外受精によると考えられております。このヒト
の体外受精の研究は1960年代ぐらいに行われた研究でありますが、その当時は社会的に非
常に大きな議論を巻き起こしまして、ノーベル賞が受賞された現在でも、カトリック教会
なんかはまだ反対しているというふうに聞いております。
多能性幹細胞から生殖細胞を作成する研究は、潜在的に大量の生殖細胞作成を可能とし
まして、生殖細胞の基礎研究を大きく促進して、他の領域にも波及効果を及ぼし得るだろ
うと。ヒト多能性幹細胞からの生殖細胞の作成が実現しますと、不妊や、ある特定の遺伝
病、生殖細胞の老化、生殖細胞がんを含む発がんなどに対して、その予防医療や、非常に
成功裏に行った場合は治療法を開発するということのバックグラウンドにもなるというふ
うに考えられます。
生殖細胞というのはどういう細胞かということを簡単に説明したのがこのスライドであ
りますが、生殖細胞は生命情報を継承するということでありまして、発生の途上でエピブ
ラストという多能性の幹細胞から形成されるんですが、体細胞がつくられるより若干先立
ちまして、次の世代の生殖細胞、始原生殖細胞という細胞がリクルートされます。生殖細
胞というのは、少し象徴的なというか、大げさな言い方をしますと、その発生を通して、
ゲノム情報の若返りでありますとか、多様性の獲得でありますとか、もっと言いますと、
種の維持ということですが、不滅性を保証する、そういった細胞系譜であるというふうに
考えることができます。
マウス多能性幹細胞からの生殖細胞作成研究の現状と展望ということでありますが、ま
ずこの場でお伝えしておきたいことといたしましては、生殖細胞の発生と一言で言いまし
ても、実は非常に複雑であるということであります。受精に始まりましてマウスの発生が
始まるんですが、先ほどの次の世代の生殖細胞があらわれてくるのは、マウスにおきまし
ては発生7日目ぐらいであります。
胚体外中胚葉というところに数十個の始原生殖細胞とい
う細胞としてあらわれてきますが、これが卵子及び精子のもとになる細胞であります。そ
れが1つずつマイグレート(移動)していきまして将来の生殖原器にたどり着いて、そこで
-21-
雌雄の分化を行う。
例えば、これは精子のほうの発生でありますが、このあたりで生殖巣に移入されるんで
すが、この後も非常に複雑な発生経路をたどって、最終的に精子にまでなる。その中で行
われる生命科学的な現象としましては、例えば、細胞の潜在的多能性の再獲得であります
とか、ヒストン修飾の再編成、ゲノムインプリントの消去、ゲノムワイドなDNAの脱メチル
化、さらに、ゲノムインプリントの再確立でありますとか、非常に複雑なイベントが起こ
って、そのようやくの果てに精子というものができてまいります。
卵子でも同じでありまして、
精子と同じようなことが雌特異的に起こるんですけれども、
その後の発生は違っておりますが、発生能を持つ卵子ができるという過程でありまして、
ここも非常に複雑なレギュレーションがありまして、基礎生命科学的にも解明されていな
い点が非常に多いということであります。
多能性幹細胞から生殖細胞を作成する方法といたしまして、これは、既に3年半ぐらい前
になると思うんですが、本会議におきまして小倉先生が作成したスライドを使わせていた
だいておりますが、まず、ES細胞・iPS細胞から精子や卵子のもとになる始原生殖細胞とい
うのを誘導する必要があるだろうと。その次に、雄の始原生殖細胞、XYの染色体を持つも
のでありますと精子、XXを持つものでありますと卵子というふうに誘導する必要がある。
したがって、ES/iPS細胞から生殖細胞を作成する研究は、大きく始原生殖細胞の前後、1
と2に分けて整理できるということを提案されておられます。
これまでさまざまなことが試されてきたんですが、これまで報告されてきた多く、すべ
てと言っていいんですが、その方法の問題点としまして、ES細胞をランダムに分化させま
して、その中で比較的後期の始原生殖細胞を発現するマーカーを試験管内誘導始原生殖細
胞として、それらをさらにランダムに分化させて、幾つかのマーカーを発現する細胞を精
子様細胞もしくは卵子様細胞と呼んできました。その結果といたしまして、作成の効率が
低い、作成の再現性が著しく乏しい、中間産物である始原生殖細胞の品質評価が行われて
いない、最終産物は全く機能しない、という状況でありました。こうした状況を解決する
考えられる方法としまして、生体内での生殖細胞発生機構に基づいて、選択的にキープロ
セスを再現させ、機能的な始原生殖細胞、第一段階目の細胞でありますが、それを作成す
ることが研究の第一歩であると考えられます。その場合は生体における始原生殖細胞発生
機構の理解が不可欠であろうというふうに考えられました。
これは、我々の研究になってしまいまして、やや手前みそであるんですが、我々といた
-22-
しましてはこれまで、マウス生殖系列の起源の同定でありますとか、生殖細胞誘導のシグ
ナルの解明、形成に必須な転写因子の解明などを行ってまいりました。こうした研究に基
づきまして、多能性幹細胞を用いた生殖細胞形成過程の試験管内再構成ということに昨年
成功いたしました。
それを簡単に説明いたしますと、その研究に先立ちまして、実はES細胞よりも前に、生
体内にエピブラストという細胞があるんですが、それがこの細胞です。これはマウスの発
生の途中の胚なんですが、それから不必要なコンポーネントを除いていきまして、あらゆ
る体細胞と生殖細胞のもとになるエピブラストというものを単離してまいります。そのエ
ピブラストに、これも非常に単純であるんですが、こうした増殖因子と血清を欠く基本培
地のもとで培養しますと、生殖細胞のマーカーを発現する始原生殖細胞様細胞が非常に効
率よく誘導されてくることがわかりました。この始原生殖様細胞を、精子を持たない、生
殖細胞を持たない新生仔マウスの精巣に移植しますと、これは移植した精巣内で始原生殖
細胞が機能的な精子になったということであります。
この成果を受けまして、先ほどの1のところをもう少し分解しますと、ES細胞・iPS細胞
から、エピブラストと呼ばれる、先ほどの生体内の多能性幹細胞より一歩進んだ、始原生
殖細胞もしくはあらゆる体細胞のもとになるエピブラストというものを誘導する。そうす
ると、そこから始原生殖細胞が誘導できるのではないかということであります。これは、2
年半ぐらい前にこの生命倫理委員会にて発表させていただきました。
実際にその後、ここも比較的単純な条件なのでありますが、ES細胞を用いてエピブラス
ト様の細胞に誘導することができるということがわかりました。そのエピブラスト様の細
胞を用いまして、先ほどの実際に生体内のエピブラストを始原生殖細胞に誘導したときと
全く同じ条件を用いて誘導してやりますと、このBlimp1というマーカーとStellaという始
原生殖細胞のマーカー及びアルカリフォスタテーゼというマーカーを発現しまして、エピ
ブラストから誘導したときの固まりと非常に近い固まりが誘導されることがわかりました。
こうして誘導した始原生殖細胞様細胞というのは、これはその際におけるゲノムワイドな
遺伝子発現パターンというのを見たものなんですが、生体内のエピブラストから始原生殖
細胞というのができるパターンと酷似したパターンを試験管内で再現しているということ
がわかりました。
そこで、この始原生殖細胞様細胞といいますのを新生仔の生殖細胞を持たない精巣に移
植してやりますと、非常にロバストにといいますか、精子形成を起こしまして、精細管の
-23-
中にはアバンダントに精子が作成されていたと。で、これから顕微受精によりまして初期
胚の発生がうまくいきまして健常なマウスが作成されてきまして、それらのマウスは妊孕
性を有しておりました。さらに、全く同様なことをiPS細胞を用いてやりましたところ、1
つのiPS細胞のラインできれいに精子形成が誘導されて精子ができてきまして、
さらに子供
もできたということであります。
したがって、この成果のポイントなんですが、まず、ES細胞・iPS細胞などからエピブラ
スト様細胞というものの誘導に成功いたしました。次に、エピブラスト様細胞から始原生
殖細胞様細胞というのを誘導するのに成功した。始原生殖細胞様細胞というのは移植によ
って健常な精子及び子孫形成に貢献した。これはiPS細胞のところなんですが、表面抗原と
いうものを選択することにより、
iPS細胞由来始原生殖細胞様細胞というのから精子及び子
孫を得ることに成功したということであります。
今後の展望といたしましては、我々基礎研究者としては、今、例えば生殖細胞形成機構
のさらに詳細な解明というのに非常に力を入れて研究を進めているんですが、例えば、今
のは精子の話だったんですが、ES細胞から始原生殖細胞様細胞を介して卵子を誘導する系
の確立。さらには、この系を発展させる系としまして、ES細胞から始原生殖細胞様細胞と
いうのを誘導しまして、本研究ではこれを生体内に移植しましたが、そこから例えば精子
幹細胞というのを試験管内で誘導する系が確立できないだろうかというような研究も考え
られます。さらに、マウス以外の哺乳類を用いた生殖細胞形成機構の研究というのが、今
後の展望になると思われます。
先ほどの研究を1枚のスライドでまとめてしまいますと、こういうことであります。一番
最初に生殖細胞の発生というのは非常に複雑であると申し上げたんですが、先ほどの研究
で再現されました研究というのは多能性幹細胞からの始原生殖細胞作成なんでありますが、
それというのは試験管内で配偶子作成に至る過程のほんの一部で、発生の過程で言います
と、この部分にすぎないわけであります。この後、非常に長い過程が実際の配偶子形成に
は必要とされるというところであります。
引き続きまして、ヒト多能性幹細胞からの生殖細胞作成研究というのは実際どのような
現状であるのかというのと展望でありますが、これは全くの私見であります。また、私自
身、
この研究は現在のところ始めておりませんので、
見聞きする限りでの私見であります。
ヒトES/iPS細胞からの生殖細胞作成研究の現状というところでありますが、
生体内での
生殖細胞発生過程を自由に研究できるマウスにおいてさえ、
ようやくES/iPS細胞から始原
-24-
生殖細胞をある程度論理的に誘導できるようになった段階であって、ヒト細胞を用いた研
究はさらに未熟な段階にあると考えられます。すなわち、マウスにおいて既述いたしまし
たとおり、これまで報告されてきたほとんどの方法では、ES細胞をランダムに分化させま
して、その中で比較的後期の始原生殖細胞マーカーを発現する細胞を始原生殖細胞と呼び
まして、さらにそれらをランダムに分化させて、精子様細胞、卵子様細胞などを作成して
おります。その結果といたしまして、先ほどと全く同じでありますが、作成効率が低い、
再現性が乏しい。これはヒト細胞なのである程度仕方がないかと思いますが、品質評価と
いうものが全く行われていません。したがって、最終産物の品質は著しく脆弱に見えると
いうのが、現状であります。
課題といたしまして、さまざまあると思うんですが、ヒト多能性幹細胞の場合には、マ
ウスと違いまして、ヒト多能性幹細胞そのものの至適培養条件というものがまず未確立な
のではないかと考えられます。マウス・ラット以外の哺乳類では、現在のところ、十分な
キメラ形成能を持つ多能性幹細胞が報告されておりません。これは非常にホットな研究分
野ですので、どんどん研究が新しく進展されておりますが、少なくとも現在においてはそ
ういう報告はないと。そうした事実からも、ヒト多能性幹細胞がヒト胚のどのステージの
細胞に相当するのか、もしくは試験管内のちょっとアベラントな産物であるのかというこ
とに関しまして、正確な知見が現在のところありません。マウス・ラット以外のよりヒト
に近い動物種(霊長類等)での研究の必要性や、多能性幹細胞培養条件の至適化などが必
要になってくるのではないかというふうに考えられます。
生体内での過程を研究できないヒトにおいては、試験管内でES細胞などから生殖細胞様
細胞を誘導する際の道筋が非常に乏しい。したがって、マウス・ラット以外のよりヒトに
近い動物種におきまして生殖細胞がどのように発生してくるのかという研究も必要になっ
てくると考えられます。
さらに、移植により機能を評価することができないヒトにおいては、作成された細胞の
本質的な評価ができない。霊長類なんかをモデルとして、遺伝子発現、エピジェネティッ
クプロファイルなんかを徹底的に検証するというのが、解決法の一つかというふうには考
えられます。
こうした現状を受けまして、ヒトES/iPS細胞からの生殖細胞作成に関する私の私見は、
現在、文科省から発表されております「ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用につい
て」の内容が非常に妥当であるというふうに考えております。現時点において、人体への
-25-
適用を伴わない基礎的研究について、まずはヒトES細胞などからの生殖細胞の作成まで
を容認するとともに、当該生殖細胞からのヒト胚の作成は当面行わないと。なお、生殖細
胞の作成を容認するに当たっては、その適切な管理の観点から、作成された細胞の取扱い
の際の要件などについて定める必要があって、これは指針が作成されています。
一方、当該生殖細胞を用いたヒト胚の作成については、さらに慎重な検討を要するもの
であり、これは受精ということでありますが、その是非については、今後の研究及び社会
の動向等を十分勘案しつつ、必要に応じてあらためて検討すべき課題であるということで
ありまして、まとめますと、マウスにおいて精子に分化し得る始原生殖細胞を試験管内で
作成するという段階には至っているんでありますが、ヒトにおいてはまだまだ研究が未熟
な段階でありまして、現状の指針で十分なのではないかというのが、私が現在考えている
ところであります。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
それでは、今のご発表に対して、ご意見、あるいはご質問ありましたら、お願いいたし
ます。
どうぞ。
【谷口委員】
大変興味深いお話を伺いまして、ほんとうにエキサイティングだと思いま
すが、例えばドイツなんかでは、マウスの実験、個体実験そのものが非常にやりにくい状
況になっていると聞いたことがあります。先ほど私がちょっと申し上げたこととも関係す
るんですが、科学の推進のあり方に対して社会から非常に厳しい目が向けられておって、
マウスを使った実験さえも許されないのではないかといったような状況と伺っております。
難病に苦しむ方々や、その治療といった観点から、こういう研究を進めるのは非常に重要
だと、私は基本的にはそう思うんですけれども、一方でそういう時代の流れにいかに対応
していくかということも非常に重要だと思うんですが、
先生の今のような分野におかれて、
そういう欧米などでの政治的・社会的な動向と、この研究の将来のあり方について、可能
な範囲でご説明いただければと思うんですが。日本でもそういう時代がやってくるかもし
れないとすると、非常に重要な課題を生み出すのではないかと思う次第です。
【斎藤委員】
ドイツに関しては、よく知らないです。アメリカとかイギリスなんかは逆
に規制がないほうなんじゃないかなというような気がしておりまして、特にイギリスなん
かは動物実験にはものすごい規制があって実験そのものが難しいんですが、アメリカはど
うかわからないですけれども、生殖細胞ということで特別に扱っていない感じがします。
-26-
イギリスなんかは、動物を用いて例えば神経発生の研究や、ほかの研究をするのも同じよ
うに厳しく規制がされていて、僕の印象では、特に生殖細胞だからどうのこうのというよ
うな規制は逆に少ないんじゃないかなと。だから、動物を用いた実験、今回の生殖細胞の
課題と若干外れるような気がするんですが、例えば霊長類を用いた実験でありますとか、
そうしたこと一般に対する社会的な規制というのは非常に、特にイギリスなんかでは強い
ような気がします。ただ、それは生殖細胞という特殊な系列に限られたことではなくて、
生命科学という全体を進めるに当たって例えば大型動物に研究を発展させていくのは社会
的にどうかというようなことは、全体的にたまに耳に入ってくる話であります。
ですので、谷口先生がおっしゃられた問題というのは、私の個人的な知り得る知識です
と、生殖細胞というものに関することというよりも、これ以上、例えば大型動物を使って
いろんな研究をして、ほんとうにそれはヒトもしくは人類社会においてメリットがどれぐ
らいあるのかという、そういうより高次な議論に関しては非常に行われているような気は
いたします。
【須田主査】
ほかに。門脇先生。
【門脇委員】
今のお話、大変興味深く聞かせていただきました。当面、生殖細胞を用い
たヒト胚の作成は行わないということで、それはヒトにおける評価系で実際にいろいろ難
しい問題があるという、そういうことをご指摘いただいたと思うんですけれども、最終的
には、ヒトのさまざまな、不妊も含めた疾患の診断あるいは治療に応用するということを
将来は念頭に置いているわけですが、その過程で、当面行わないというのは私も賛成なん
ですけれども、今後、生殖細胞からのヒト胚の作成を認められるという状況は、それはど
ういう状況になったら認められるのか、そのあたりの工程表というか、道筋はどういうこ
とになりますでしょう。
【斎藤委員】
私の理解ですと、まず、ヒトにおいてマウスでできたような始原生殖細胞
様細胞というのがあまりできていないと。
そこから精子や卵子をつくるというのはかなり、
まだまだ難しい課題だと思うんですね。ただ、研究というのはいろんな発展の仕方をしま
すので、ある時点で例えば、どこから見てもこれは正しい精子っぽいなと、どこから見て
もこれは正しい卵子っぽいなというのができてくる、
そういう時代が来ると思うんですね。
そうすると、それらの機能を評価するという意味において受精というのがより真剣に議論
される時代は来ると思います。ただ、その前に、これも以前この会でおそらく出た議論だ
と思うんですが、例えば受精というものを介して細胞の正常性というのを議論するという
-27-
方法以外に、現代でありますと、例えば徹底的にシーケンスを読むでありますとか、そう
いう技術が格段に進展していますので、そうした技術によって、若干間接的ではあるんで
すけれども、評価するという可能性がありますので、そうしたことを経た後に、さらにど
うしても必要であればということになってくると思います。
【門脇委員】
ということで、ヒトにおいて原理的に評価できないということではおそら
くなくて、原理的にすべきでない評価法は使うべきではないので今後も使わないというこ
とになるわけですけれども、倫理的に容認されるような評価法が今後もし創出された場合
には、そういうものと結びつけて生殖細胞からヒト胚をつくるということも、今それを目
指すという必要はないのですけれども、将来の目標としては目指すという可能性を今の段
階で完全に閉じるべきではないと思います。
【斎藤委員】
そうでいいと思います。実際に、例えばイギリスやアメリカではおそらく、
胚盤胞までは規制されていないと思いますので、着床させるということが問題であって、
それは日本も同じでいいんじゃないかなと。
【石原委員】
この専門委員会のタスクというのは、安全性と倫理的な問題ということを
十分に検討した上で生殖医療に貢献できるような研究をプロモートしていく、そのために
どういう枠組みをつくるかというところが、究極の目的だと思うんですね。以前から議論
がございましたように、とりあえず今後の研究の進展や社会の動向などを勘案して、当面
はとめておくけれども、
いずれ再検討すべきであるというような話をしているわけですが、
先生のお考えでは、再検討する段階というのはまだ来ていないと、もう少し先でいいとい
うことと理解してよろしいんですか。
【斎藤委員】
そうですね。実際、そういう細胞ができたという報告は、少なくとも私個
人的にはあまり知らないですし、例えば、きょう、それこそこの議題の前に議論されたこ
ともそうですよね。突然こんな技術ができてきたから検討しようみたいな流れだったと思
うんですが、現時点ではそこまで行くのにはまだまだ時間がかかるんじゃないかなあとい
うのが私個人的な考えでありまして、そうしたことを考えると、現在の指針というのを今
の時点で改正するという絶対の必要性というのはあまり、個人的には感じないかなあとい
うふうに思います。
【石原委員】
あともう一つは、そういう指針の改正というのは、今回前段で出てきたよ
うな研究、思いがけないような研究が出てきてから検討すべきものなのか、それとも、そ
ういうものが出る前にある程度議論を始めておくべきものなのか、ということはいかがで
-28-
しょうか。
【斎藤委員】
議論は常にやっていいと思いますし、実際には、日本ではこういう現状に
なっているんですが、ほかの国では、受精、胚盤胞までというのは初期発生の研究という
意味で容認されているということでありますので、その辺に関しましては、日本で容認さ
れても大きな社会的問題というのを起こすところまでは行かないんじゃないかという気は
しています。
【須田主査】
どうぞ。
【知野委員】
すみません、大変基本的なことで恐縮なんですけれども、そうすると、総
合科学技術会議生命倫理専門調査会が昨年9月から検討を始めたというのは、
どういうとこ
ろからなんでしょうか。どういう必然性からなんでしょうか。
【斎藤委員】
それは、どういう検討がなされているか、ちょっと私は……。
【知野委員】
つまり、検討のきっかけなんですけれども、情勢の変化ということでいろ
いろ書いていらっしゃいますが、先駆けてこういう検討を始めたというのは、何が引き金
なんでしょう。
【斎藤委員】
おそらく、このマウスの研究があって、それに基づいてヒトの多能性幹細
胞を用いて精子や卵子ができるということが一気に加速したんじゃないかというようなこ
とを思われて、それにおいて検討が始まったということだと思うんですが、その場で、今
お話し申し上げましたのと全く同じ話を私個人的にはいたしまして、ヒトに関しましても
まだ現状でよいんじゃないかという意見を申し上げたのが私の申し上げたところでありま
して、その後、総合科学技術会議のほうでどういう会議がなされたかに関しては、私個人
的にはまだちょっと知らないという。
【知野委員】
じゃあ、先生のご見解とはちょっと違うということですね。
【渡辺安全対策官】
補足させていただきます。後ろのほうに参考資料2というのがござい
ますが、ヒト胚に関する議論の経緯というものを図で示させていただいてございます。こ
ちらの図に示させていただいてございますように、
そもそも平成9年にクローン羊ドリーと
いうものが誕生したということを踏まえて、当時でございますけれども、科学技術会議に
生命倫理委員会というのが設置されて、こういった生命倫理やライフサイエンス関係の進
展に対応して、国全体で検討していく仕組みをつくったと。それを踏まえて、科学技術会
議のほうで「クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」をまとめたと。
それを受けて、文部科学省のほうでも、その結論を踏まえて議論した結果、案の検討をさ
-29-
せていただいたと。さらに、この法律の制定を踏まえて、当時まだ解決していなかったさ
まざまな課題について継続的に検討を行いまして、平成16年7月に、先ほど来申し上げてご
ざいますようなヒト胚――これには、ヒト受精胚もございますし、人クローン胚もござい
ます。そのほか、いわゆる特定胚と今申し上げてございますけれども、例えば動物の胚に
ヒトの細胞を入れたような胚なども含めて、さまざま検討を行いまして、この時点で「ヒ
ト胚の取扱いに関する基本的考え方」をまとめたということでございます。ですから、こ
の基本的な考え方を踏まえて、その後、文部科学省、厚生労働省などで関係の指針などを
整備してきたというところでございます。ただ、平成16年の基本的考え方から科学の状況
が非常に進展してきていると、そういったことを踏まえて総合科学技術会議におきまして
も、今議題になってございますように、ES細胞などからの生殖細胞からの胚作成のことだ
けではなくて、例えば、この間の生命倫理懇談会で話題になったことといたしましては、
動物性集合胚の作成につきまして、今は14日までというような制限がついていることにつ
いて、もう少し制限を緩和すべきではないかと、そういうような議論も始まってございま
すように、平成16年の「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の見直しに、今、着手を
始めたというような状況であると思っています。
したがいまして、今後、総合科学技術会議の中でこの基本的考え方というのをもう一度
検討していただいて、それが見直しされた暁には、それを踏まえて文部科学省におきまし
て関係の法令や指針というのを整備していくと、そういう流れになっていくのではないか
と思っています。
以上でございます。
【須田主査】
さらに追加させていただくと、斎藤先生のこの論文が「Cell」に出て、あ
るいは横浜市大の小川さんが器官培養で精子を作出したという仕事が「Nature」に出まし
て、急速に生殖細胞の誘導という研究が進んでいるように思うんですね。それで、当面は
受精ということは禁止されていますけれども、これをどういうふうに今後検討していくか
という問題はあると思います。
私個人の意見ですが、例えば不妊治療に対して非常にこれは大きな光明を与えるものだ
とは思いますけれども、これだけ関心が強いのは、何も生殖医療というだけではなくて、
おそらくは、さらにもっと拡大して、いい子孫を得たいとか、そういうところまで話が及
ぶ可能性があるんですね。そうなると、これは逆に非常にリスクの高い研究になると。例
えば、ドイツがこういうことに関して非常にネガティブなのは優生学的な反動が来ている
-30-
のかもしれませんけれども、結局、皮膚の細胞やら血液の細胞から精子やら卵子ができる
ようになれば、それはかなり、今の家族を含めての人間の生態系が変わるというふうに考
えてもいいわけですね。デメリットと言えるかどうかわかりませんが、そういうことも考
えないと、単に不妊治療のために貢献するというだけでいいのかどうか。というのは、今
後議論したいと思います。
、きょう議題(1)でも議論されましたように、受精卵の売買な
どがされているわけですね。そういう現実の中でこれがすべて解禁になっていったらどう
いう世の中になるかということは、
科学者がある程度責任を負わなきゃいけない。
しかし、
もしそれが可能になったときは科学者はとめられないんじゃないかなという感覚を私自身
は持っていますけど、そのことに関しましても、せっかく生命倫理やらメディアの方がい
らっしゃるので、
もう少し踏み込んだ議論をしていきたいなというふうに思っております。
まだまだご意見あると思いますけれども、きょうはここまでにしたいというふうに思い
ます。よろしいでしょうか。また意見を寄せていただければありがたいですし、先ほども
議論ありましたけれども、クローン胚の定義から入っていって、こういう想定外の研究が
出てきたときに、これはそれに対応しないという、そういう法的処置でいいのか、もう少
しクローン法自体を見直していくとか、あるいは研究が進展したものをちゃんと含み得る
法になっているのかというのは、法学の専門のほうから、できれば髙山先生や辰井先生な
どに一度まとめをしていただくとありがたいなというふうに思っております。
【谷口委員】
ちょっと補足の質問ですが、よろしいですか。
【須田主査】
はい。
【谷口委員】
きょうもたびたび出てきました総合科学技術会議ですが、今、機能してな
いんじゃないですかね。こんなことでは困るって、私が言ってもしようがないんですが、
ちょっと状況だけでも教えていただくとありがたいんですが。
【渡辺安全対策官】
総合科学技術会議の事務局の方もきょう傍聴に来ていただいてござ
いますけれども、総合科学技術会議の事務局から聞いておりますところ、法律で定められ
た総合科学技術会議の議員の定数の要件が国会の同意人事との関係で法律の要件を満たす
状況になっていないということで、当面、活動を差し控えざるを得ないという状況と聞い
てございます。さはさりながら、こういった生命倫理などに関する非常に重要な課題もあ
るので、そういった検討をとめてはならないということで、内閣府として生命倫理懇談会
という懇談会を設けまして、そこで議論は進めていくと。その議論の結果というのを、総
合科学技術会議が再開された暁には、それを継続して検討を進めていくというふうに伺っ
-31-
てございます。ですから、総合科学技術会議の事務局のほうにも、きょうこういった議論
があったということをしっかりお伝えさせていただきまして、今後の検討を進めていただ
ければというふうに思っています。
【谷口委員】
ありがとうございました。
【須田主査】
総合科学技術会議も大事なんですけど、一方では、先生が言われる科学者
コミュニティーの場が、できれば学会、あるいは学術会議などでもこの問題を取り上げ、
さらにはメディアの方にも協力していただいてというところはあるんですが、まずはこう
いう専門委員会でもある程度コンセンサスみたいのを用意して、もう少しここでしっかり
と議論したいというふうに思っております。
それじゃあ、斎藤先生、どうもありがとうございました。
議題(3)に入ります。次は、ヒトES細胞の樹立計画(変更)の申請であります。事務局
から説明をお願いいたします。
【岩田室長補佐】
それでは、資料80-3でございますが、ヒトES細胞の樹立計画(変更)
の申請の件について、ご説明させていただきます。
申請者は国立成育医療研究センター研究所でございます。
ちょっと誤植がございまして、
申しわけございません。1.の(5)申請書の受理日でございますが、これは当初の受理日が
記載されておりまして、本申請書に係る受理日につきましては、平成24年1月6日付で受理
してございます。申請は昨年末にございました。
変更の概要でございますけれども、今回、この樹立計画でございますが、さらにヒトES
細胞の樹立を行うために、
平成24年3月4日までの期間を5年間延長するという変更でござい
ます。内容については、特に変更ございませんでした。
本件につきましては、あらかじめ委員の皆様方には書面審査をしていただきまして、3.
の結果にございますとおり、書面審査にて承認する結果となってございます。
なお、最後の行に書いてございますが、大臣確認申請の事務手続は現在実施中でござい
ます。
以上でございます。
【須田主査】
ありがとうございました。
今のご説明に、何かご質問ありますでしょうか。もしなければ、書面審査で承認もされ
ておりますし、よろしいでしょうか。
次に、議題(4)に移ります。議題(4)は、ヒトES細胞の設置計画(変更)の申請につ
-32-
いてです。事務局から説明をお願いいたします。
【美留町専門官】
それでは、資料80-4につきまして、お願いいたします。ヒトES細胞の
設置計画(変更)の申請についてでございます。こちらは分配機関である、独立行政法人
理化学研究所筑波研究所からの申請でございまして、変更の概要ですが、ヒトES細胞の分
配を行う施設としまして細胞研究リソース棟を追加する、
そして研究者2名を追加するとい
う内容でございました。こちらもあらかじめ先生方に書面審査をお願いしておりまして、
その結果3.に示しますように、条件なしで承認するというお答えをいただいております。
なお、関係者でございます小倉委員、辰井委員は、審査に参加されておりませんという
ことを申し添えます。
大臣確認につきましては、平成23年6月29日に事務手続を終えてございます。
以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
ご質問、ご討議、ありますでしょうか。もしなければ、認めていただいたということに
したいと思います。
次に、議題(5)ですが、ヒトES細胞の使用計画等の届出についてです。事務局から説明
をお願いいたします。
【美留町専門官】
それでは、資料80-5でございます。ヒトES細胞の使用計画等の届出で
ございまして、前回の専門委員会(平成23年4月20日)以後に届出がございました、ES細胞
の使用計画等でございます。
1.としまして、使用計画の新規のものが6件、そして、おめくりいただきまして、3ペー
ジ、2.の使用計画の変更が103件、届けられてございます。内容は資料を別途ご確認いただ
ければと存じますが、最後の1枚目、11ページをおめくりいただきますと、3.といたしまし
て、樹立報告が提出されてございます。国立成育医療研究センター研究所の名取先生から
ESの新たな4番目の株、
、
SEES4が昨年12月に樹立されたということの報告をいただいてござ
います。
以上でございます。
【須田主査】
ありがとうございました。
使用計画、新規のものと変更、そして最後に、国立成育医療研究センターからのヒトES
細胞の樹立報告ですね。この件に関しまして、特に問題ないでしょうか。
それじゃあ、認めていただいたということにいたします。
-33-
議題(6)
、その他ですが、最後に事務局のほうから連絡事項をお願いいたします。
【岩田室長補佐】
事務局からでございますが、次回の専門委員会につきましては、別途
ご連絡して調整をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
【高坂主査代理】
最後になって恐縮なんですけれども、先ほどのES細胞の樹立計画(変
更)の申請についてというところなんですが、この変更自身は全く問題ないと思うんです
けれども、今後のことを考えて、特に阿久津先生がそこにいらっしゃるのであれなんです
が、実は、再生医療の実現化ハイウェイというのがスタートして、5年以内、あるいは10
年間の間にES細胞をヒトの臨床研究に応用するというのが承認されて走っているわけです
ね。もちろんこれは文科省のあれなので基礎研究に限るということはよく承知しているん
ですが、例えば、連結可能の問題であるとか、臨床研究にも使う可能性があるという程度
の同意を今から取るとか、そういった修正を今からかけておかないと、このESの樹立とい
うのはものすごく大変なことで、また新たに、例えばヒト幹の指針が完成した後にこれを
またやるとかっていう話になってくると、非常に時間のロスが大きいと思うんですね。事
実、ハイウェイのほうの成育の実験計画にも差しさわりが出てくる可能性もあるので、や
はりこの委員会でも少し前倒しでヒト幹の指針の改正とともに議論をしておかないとまず
いのかなという気がしますので、ぜひよろしくお願いします。
【須田主査】
どうも、貴重なご意見、ありがとうございました。ヒト幹指針などを含み
得る形で樹立を考えなきゃいけないということです。
あと、先ほども申しましたように、次々と新しいサイエンスが出てきて、以前規定した
クローン胚、あるいは特定胚というものが対応しなくなっているところもありますので、
次回、あるいはその後でも結構ですが、できれば髙山先生あるいは辰井先生に、クローン
法をどういうふうに読めばいいのか、あるいはこれじゃあ改定していかなきゃいけないの
かというようなことを踏まえて議論をしていただくとありがたいなというふうに思います。
また、谷口委員からも出ていましたけれども、生命倫理にかかわることの科学者会議と
いうのは非常に重要だと思いますが、一方で一般の人がどういうふうにこれをとらえるか
という問題は大きいので、できれば、知野さんが入っていただいていますので、何かそう
いう、社会にどういうインパクトを与えるのか、どういう誤解を生むのかというようなこ
とを議論する場ができればなと。それは次回というわけではないんですけれども、考えて
いただくとありがたいなというふうに思います。
-34-
きょうは非常に専門性の高い話でしたけれども、阿久津先生、斎藤先生には、わかりや
すい説明をしていただきまして、どうもありがとうございました。
これで閉会といたします。
―― 了 ――
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