GAP商品に見る設計品質とその背景 Design quality and the background to analyze from a product of "GAP" (キーワード:SPA,ファストファッション,マーケティング,設計製造) (KEYWORDS: SPA, fast fashion, marketing, design production) ○柳田佳子(文化学園大学) 1.目的 3.サンプリング商品から見る設計品質(一例) 「ファストファッションのビジネススキームとそれを支え サンプリング商品の中で、商品名、タグ表記製造国、素材、 る技術的背景の一端を探る試み」という補助金採択研究の経過 外観デザインが同一の、いわゆる同一商品の日本購入品(図1 報告として、昨年度(2011年度日本感性工学会第13回年次大会) のNO.1パンツ)とニューヨーク購入品(図1のNO.3パンツ)を は「GAPの製造と設計過程」というテーマで、主にGAPの概要に 比較した結果の一部を報告する。尚、カラーはサイズ等の条件 ついて、従来から行われているSPA研究からの論考も引用しな をそろえるために、若干異なるカラーとなったが、商品デザイ がら触れた。さらに、その経過報告として2012年3月の研究会 ンは同一のものである(図2)。 では日本国内のGAP店舗リサーチを前提に、GAPニューヨーク店 の店舗リサーチと商品サンプリング、さらにニューヨークでの ヒアリング調査を通して見えてきたGAP商品の特徴について報 告を行った。 本報告では、サンプリング商品の、より具体的な商品特性の 把握を目的に、「設計品質」という視点からアプローチする中 で捉えられことが出来るパターンや縫製、製造ラインや素材等 を含めた実態の一部を報告する。 2.サンプリング商品の概要 GAPの服は、多人種多文化国家であるアメリカにおいて、ど 図2.サンプリング商品例 のような人々にも受け入れられる、いわば最大公約数的な服と 製造国表記、素材、商品名、タグもすべて同一商品であったが、 してマーチャンダイジングされてきたものであると。そのため、 裏面の縫製仕様等には違いが見られた。主な箇所は、①前立て H&MやZARAのように流行の先端を行く様なデザインではなく、 端の始末が、日本購入品(図3左)は前立ての端がパイピング 人種、階級の垣根を越えて着られるベーシックなタイプの服が で始末してあったのに対して、ニューヨーク購入品(図3右) 多いことが特徴である。 はロックミシン始末である。②ヒップに両玉縁ポケット(ボタ そこで本調査では、GAPのIconic Productsといわれているい ン付き)のあるデザインであるが、日本購入品は実際に使用可 くつかのアイテムの中から、最も定番とされるカーキのチノパ 能な作りとなっているのに対して、ニューヨーク購入品は、い ンツを商品分析資料としてサンプリングを行った。また、GAP わゆる見せかけで製作されている。③股下は日本購入品が片返 の基本戦略は、低価格ラインのOLD NAVYをボトムに、値段が手 しでロックミシン始末なのに対して、ニューヨーク購入品は、 頃でファッション性を加味したプライベートブランドのGAP、 縫い代は割ってロックミシン始末となっている。 カジュアル・ラグジュアリーをコンセプトとしたアッパーライ ンのBANANA REPUBLIC (以下、BRと略記)の三層構造であるこ 特に①の前立て端の始末については、一般的にはパイピング 始末の方がロックミシン始末よりもコスト的にかかる仕様で とから、GAPの商品分析の比較対象としてBRのカーキパンツも 同時にサンプリングした。尚、サンプリングは日本およびニュ ーヨークで行った(図1)。 NO. 1 2 3 4 5 6 購入 場所 価格 商品名 組成 生産国 ¥ PERFECT TROUSER COTTON100% インドネシア 8,900 日本 COTTON97% GAP LEFT KHAKI 中国 7,900 SPANDEX3% GAP PERFECT TROUSER COTTON100% インドネシア 4,912 COTTON97% GAP PERFECT KHAKI スリランカ 4,536 SPANDEX3% COTTON56% NY BANANA REPUBLIC MARTIN FIT LYOCELL41% フィリピン 6,563 SPANDEX3% COTTON98% バングラディッシュ 4,912 BANANA REPUBLIC WEEKEND CHINO LYCRA2% $1=¥82.55で換算 ブランド GAP 図1.サンプリング商品概要 図3.前立て端の始末の違い 連絡先(〒151-8523, 東京都渋谷区代々木 3-22-1, 03-3299-2351,03-3299-2352, yanagida@bunka.ac.jp あるといわれており、これに当てはめてみると日本製品の方が えば、世界同一設計の他のファストファッションブランド製品 価格的にも、また一般論的品質基準から見ても縫製仕様にパイ よりも圧倒的に日本人へのフィット性は良いと言われており、 ピング始末を用いることは想像に難くない。しかし日本購入品 1つの「設計品質」の生み出す要因と考えられる。 のNO.2のパンツやニューヨーク購入品のNO.3の前立て端の始 また、日本のGAPはオリジナル商品の割合が多く、さらには 末がロックミシン始末であったのに対して、今回のサンプリン 上代設定も高く設定できるために、同一商品さらには同一カテ グ商品の中で最も安価なニューヨーク購入品のパンツ(図1の ゴリーとみられる商品についても、その価格やデザイン製品、 NO.4パンツ)の前立て端の始末がパイピング始末であったなど、 品質を合わせて「製品価格」と考えるならば、本来のGAPが提 上記理論に当てはめにくい仕様箇所が見られた。このことにつ 案しているカテゴリーよりも高くポジショニングできる商品 いて、アメリカのOEM/ODM生産マネジメントを行っているK社 が設計されているといえる。しかし、BRとは、あくまでもブラ 代表、さらにはロサンジェルスでファッションビジネスに携わ ンドコンセプトやデザイン構成、店舗設計コンセプトは異なっ っているR氏に聞き取りを行った。その結果、両者いずれもこ ているために、日本のGAPのブランドステージ自体が上がった のことについては同一見解であった。曰く、「比較対象のパン ということではないが、あくまでも「製品価格」に見るポジシ ツは同一商品名であることから、恐らくGAP本社からのテクニ ョニングで言えば、このローカライズ戦略が日本におけるGAP カルシートの内容は同一であると考えられる(勿論、パターン の「設計品質」を決める要因の1つであることは確かである。 はサイズチャートがそもそも日本とアメリカでは異なるため、 4.まとめ 日本向けに修正されているが)。しかし外観に影響に及ばない 業績が右肩下がりといわれているGAPであるが、市場環境要 範囲で、且つ数十箇所以上にのぼるGAPの委託工場の設備規模 因の変化やSPA既存モデルによる成長の鈍化などに、大規模ビ および従業員の資質や人数などによる生産能力等のコストパ ジネス企業であるGAPがどのように対応してきたのか否かは、 フォーマンスの微差は、GAPの委託工場の生産管理担当者の裁 ファストファッション市場の現状と今後を考える上で有効な 量でテクニカルシート内容と異なっても問題ないと判断され 事例研究である。その1つのアプローチとして「商品価値」を る。カーキパンツのように、ビジネス規模でみれば生地で数百 「設計品質」から判断するための因子の1つである縫製仕様に 万m、製品で数百万本分、生地コストで数億円規模の場合、原 ついて、その事例の一部を取り上げ、ヒアリングなどからの裏 料構成比の価格変動分と合わせても縫製仕様の差は全商品で 付けを取りながら、分析を行っている。今後もその分析を継続 均して相殺される程度の問題であろう。最もコストに影響する していく。 のは生地であるため、上代価格に素材のコスト分をのせた企画 本調査は、平成23-25年度科学研究費補助金(基盤研究A) が通れば、縫製については(あくまでもパンツの場合は、とい 23240100「国際市場を前提としたファッションのマーケティン う前提つきであるが)委託工場のどこで作っても問題はないと グ・設計・製造過程と工学的体系化」の一環として行っている 判断される。」ということである。しかし「カーキパンツの場 ものである。 合、ジャケットなどのように芯地や肩パッド、テープ類などの 服資材の影響が外観や仕上がりに大きく影響するというよう なアイテムではないため、このような考え方が通用するのであ り、デザイン性の強いジャケットやドレス類等の場合は、この 縫製仕様が外観に与える影響を考えると明らかに「設計品質」 に問題を投げかける事象といえるのではないか」とも述べてい る。これについては、他の縫製箇所の使用の差と合わせて詳細 な分析を必要とする。 日本のレディース市場の場合、その市場の特異性から日本で MDを組み、日本仕様の割合を増やし、日本のトレンドにあわせ た細かなデザイン構成を組み立てる必要があり、そのために GAPグループ全体のローカライズ戦略を明確にする必要があっ た。しかし、このローカライズ戦略が「トレンド追従性の高さ とビジネス規模の大きさがもたらすコスト競争力と商品供給 のスピードと頻度をグローバルな世界統一展開で行う」という 視点で他の企業とのコスト・スピード展開競争に水を開けられ たとも言える。しかしGAPのビジネス規模は明らかに多店舗・ 多種製品・大量製造などの他のファストファッション企業と同 様の戦略で論議する対象でもあり、その意味においてGAPのロ ーカライズ戦略は、例えば日本人体型へのフィット性などで言 連絡先(〒151-8523, 東京都渋谷区代々木 3-22-1, 03-3299-2351,03-3299-2352, yanagida@bunka.ac.jp
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