AsiaFlux NewsletterNo.4

2002年12月号
通巻 No.4
AsiaFlux Newsletter
目
次
●「フラックスデータ解析と測定誤差診断の標準化」に関する第二回AmeriFluxワークショッ
プ参加報告
●APEIS北京ミーテイング
●平成14年度・森林総合研究所研究成果発表会
−森林総合研究所の研究と京都議定書−
●国際会議「モンスーンアジア集水域生態系の地球環境変化に対する応答」参加報告
●Circum‑Pacific Workshop 参加報告
●中国陸地生態系フラックス観測研究ネットワーク概略
●第8回AsiaFlux運営委員会報告
●AsiaFlux観測サイト情報
「フラックスデータ解析と測定誤差診断の標準化」に関する
第二回AmeriFluxワークショップ 参加報告
延世大学 (韓国)
Prof. Dennis Baldocchiの招待でUC-Berkeley を訪
金 俊 (Joon KIM)
Scott Miller); ⑥時系列の解析(講演者:Gaby Katul、
れていた期間中の2002年8月27〜30日に、米国エネ
討論者:Larry Mahrt); ⑦生データの品質管理(講演
ル ギ ー 省 後 援 の も と Corvallis の Oregon State
者:Thomas Foken、討論者:Brian Amiro とBill
Universityで開催された第2回AmeriFluxワークショ
Munger); および⑧移流効果とモデル化 (講演者:
ップに参加する機会を得た。本ワークショップの
John Finnigan、討論者:Bernard HeineschとHaPe
主題は、渦相関法の解析と補正手法の概要と改良
Schmid)。各話題は1時間の講演で紹介した後、1時
法について討議することである 。主なテ−マは、
間にわたって議論を行った。さらに、特別なセッ
1)異なるデータの加工手法とQA/QC加工後の結果
ションとして、渦相関法で観測したフラックスデ
から得られる隣接サイトのフラックスデータ比較
ータの処理・解析ソフトウェアのデモンストレー
と誤差の最小化、2)観測されたフラックスに対す
ション及び指針のとりまとめを行った。以下の概
る夜間安定時、移流時や複雑地形の影響について
要は、このワークショップを主催したBill Massman
の検討であった。
博士の原稿に基づいてとりまとめた。講演ノート
本ワークショップは 8つの話題について議論し
を含むワークショップの詳しい情報は、AmeriFlux
た : ① 平 均 化 と ト レ ン ド 除 去 ( 講 演 者 :J o h n
のwebサイト(http://cdiac.esd.ornl.gov/programs/ameri
Moncrieff、討論者:Tilden Meyers); ②座標変換(講
flux/workshops/workshops.html)から検索が出来る。
演者:Xuhui、 Lee、討論者:Kyaw Tha Paw U); ③
低周波成分の補正(講演者:Yadvinder Mahli、討論
以下はこのワークショップにおける指針と議論
者:Dennis Baldocchi); ④高周波成分の補正(講演
を抜粋したものである。AmeriFluxネットワークは、
者:Bill Massman、討論者:Rob Clement); ⑤水蒸
公表に向けてフラックス観測データを計算する際、
気の影響の除去(講演者:Ray Leuning 、討論者:
これらの指針に従うことを強く要望している。
AsiaFlux Newsletter No.4
1. フラックスはブロック平均で計算されるべきで
方向の運動量フラックスを得ることが可能である。
ある。フラックス計算の際、直線トレンド除去 、
この平均鉛直風と横風方向の運動量フラックスは、
もしくは曲線トレンド除去の統計方法を薦めない。
そのサイトでの熱循環に関する情報や、地形の不
議論:ハイパスフィルター機能を持つブロック平
均一さに関する情報を提供することも可能である。
均は、直線トレンド除去と曲線トレンド除去の統
スペクトルとコスペクトルの調査において、乱流
計方法より正確な周波特性を提供する(直線・曲線
時系列は平面フィット座標系に回転するべきである。
トレンド除去はフラックスに寄与する低周波成分
の減衰をまねく)。しかしながら、大気が非定常の
3. 高周波のスペクトル成分損失を避けることはで
間(例えば、急速な大気境界層の発達・減衰、前線
きないが、慎重なデザインによって最小にするこ
及び雲の通過など)には特別な注意(例えば、曲線
とが出来る。(1)すべてのセンサ間距離、時定数、
トレンド除去を使うか)が必要である。エネルギー
システムセンサーの特性、及び測定高度を記録し、
収支のインバランスと呼ばれる問題(CO2フラック
保存すべきである;(2)そのような情報が高周波の
スの過小評価)の原因の一つは、渦相関法観測シス
スペクトル成分の損失を見積もるのに使用される
テムが低周波を完全に測ることが出来ないことで
べきである。
あると思われる(例えば、周期1〜4時間の大気の変
議論:すべてのサイトではMoore (1986: Boundary-
動)。しかしながら、フラックスの平均化時間を延
Layer Meteorology )、 Massman (2000, 2001:
ばすに伴って、非定常の状態に陥る危険は増加す
Agricultural and Forest Meteorology)、Massman &
る。これらの問題についての議論から、以下が勧
Lee(2002: Agricultural and Forest Meteorology)の方
められた:①フラックスの平均化時間は30分から
法を利用して、スペクトル損失を見積もるべきで
60分までが適当とされている。推奨する平均化時
ある。超音波温度計のスペクトル損失を見積もる
間は以前と同じ30分である。②累積度数分布図を
ことにより、どんなスカラのフラックスにも関連
用いて低周波フラックス成分を得るのに必要な時
しているスペクトル損失の下限が提供される。こ
間の長さを診断するべきである。③全ての生デー
の簡単なチェック方法はスカラのフラックスに関
タ記録が得られて、収録されるべきである。④エ
連している補正が合理的であるかどうか決めるの
ネルギー収支が閉じるようにフラックスをスケー
を助ける。クローズドパスセンサーに関連してい
リングすることは勧められない。
る時定数は経験的に決定するべきであり、また時
定数の頻繁なチェックは重要である。スペクトル
2. 「平面フィット座標系」は好ましい座標系である。
損失の補正方法はクローズドパスとオープンパス
議論:従来の座標回転(例えば、平均鉛直風速w = 0)
によって異なっている。すべてのサイトではアン
は非線形のハイパスフィルターとして機能し、フ
サンブルスペクトルとコスペクトルを決定するべ
ラックスの低周波成分の一部を除去する。その結
きである、また、サイト間の結果を比較する時に
果、この方法はエネルギ−収支のインバランスを
は一つの計算式を使用すべきである。解析を行う
生む原因となる。平面フィット座標系でこの低周
とき、スペクトル補正は座標変換の後に適用され
波成分を復旧するには、垂直平均風速成分を含む
るべきである。
項を必要とする。いくつかの研究が、自然座標シ
ステムより平面フィット座標系から推定されたフ
4. 密度変動補正(WPL)は測定装置に関する補正で
ラックス値は 5〜10%程度高いことを示唆してい
はない;それは表面の加熱と蒸散に関連している
る。平面フィット座標系は長期タイムスケール(数
質量輸送から生じる。
カ月も)というデータにより定義されるので、新し
議論:CO 2分析計は赤外線ビームの経路の中にあ
い座標システムでフラックスを再計算するために、
るCO 2分子の数を検出し、既知の体積をもつサン
過去に記録されたデータを再処理すべきである 。
プルに含まれるCO 2 分子の密度を間接的に測定す
平面フィット座標系により、平均鉛直風速と横風
る。WPLはCO2密度を"補正する"ために必要なので
2
2002年 12月号
はなく、フラックスを求めるために適用される。
定常な時間を検出することの役に立つ。渦相関フ
オープンパスセンサーに関しては、まず生のコバ
ラックスの不十分な拡散に関連付けられる夜間の
リアンスにスペクトル補正を行うことが必要であ
摩擦速度(u*)の閾値はサイトごとに決定するべき
り、最終的に微量気体のフラックスを見積もるた
である。u*の閾値は定常な乱流の期間に確立され
めにWPL項が必要である。一方、クローズドパス
るべきである。u*は座標系に依存するので、平面
型の赤外線分析計を用いる場合には、オープンパ
フィット座標系を使うのはu*の閾値の再確立を必
ス型に比べて気温変動による補正項が小さく、ま
要とするかもしれない。ギャップフィリングをユ
たチューブを通過する時間に気温変動の減衰があ
ーザではなく、研究者が行うことが必要である 。
ることから、WPL法の中の熱フラックス補正は必
ギャップフィリングの戦略は目標による。異なっ
要なくなる。クローズドパスシステムについて、
たギャップフィリング方法はシステムバイアスを
WPL補正を適切に組み込むには、サンプリングの
生じる可能性があるため、統一したギャップフィ
特性とそのスペクトル補正について慎重に考慮す
リング方法をお勧めする。サイト間の比較などは、
ることが必要である。
異なるギャップフィリング方法を使って行うべき
である。
5. フラックスを公表するとき、すべてのQA/QCが
詳細に報告されるべきである。
6. 新しい課題の認識は重要である。
議論:データの品質管理やテストの最低基準は確
議論:フラックス観測結果に関して、いくつかの
立していない。特に、水平地形との比較が重要な
新しい問題が認識された。これらの問題は観測さ
複雑地形では、診断テストは多い方が良い。
れたフラックスに対する移流もしくは複雑地形の
QA/QCについて議論する三つの論文は以下のとお
影響と関連する傾向がある。
りである。Foken & Wichura (1996: Agricultural and
①タワーフラックス測定高度以下の地表面に近い
Forest Meteorology 78, 83-105)、 Vickers & Mahrt
空気のCO 2 が斜面流により流出していると予測さ
(1997: Journal of Atmospheric and Oceanic
れる。このプロセスのよりよい理解と定量化が必
Technology 14, 512-526)、 及びFinkelstein & Sims
要である。
(2001: Journal of Geophysical Research 106, 3505-
②林内の風向の変形はキャノピー上とキャノピー
3509)。はじめの二つの論文は定常性のテストにつ
下のフラックス測定値の比較を難しくする。従っ
いて議論し、三番目の論文はフラックスのサンプ
て、キャノピーの上とキャノピー下のフラックス
リング誤差について議論した。現在、非定常状態
のフットプリントは必ずしも一致しない。
はバイアス誤差ではなく、ランダム誤差を生じる
③データ選別のためのu*の閾値はフルード数、も
ことが示唆される。また、スパイク検出(と内挿)
しくはストルーハル数、またはバルクリチャード
のサブルーチンを、時系列の中のスパイクを調べ
ソン数に基づく基準に置き換えるべきである。
る た め に 使 用 す る べ き で あ る (Hojstrup 1993:
④緩やかな丘陵であっても丘陵上部に存在する植
Measurement Science and Technology 4, 153-157;
生キャノピーによって風の流れが分離する場所が
Brock 1986: Journal of Atmospheric and Oceanic
できる。これは観測されたフラックスデータの解
Technology 3, 51-58)。また、すべての標準的な微
読を難しくし、顕著なバイアスも起こさせる。
気象変数の標準偏差を記録するのもお勧めできる。
⑤安定な状態や夜間には、フラックスに様々な影
純放射や日射の標準偏差は雲の通過に関連する非
響を与えうるいろいろな動きが起こる。弱安定の
状態では、いわゆる Ramp状の乱れが卓越し、これ
が微量気体の鉛直混合を担う。非常に安定で強く
成層した状態では、重力波(通常、キャノピーのす
ぐ上の領域にある)が支配的である。これらの状態
では乱流は存在せず、また重力波は通常あまり大
3
AsiaFlux Newsletter No.4
きな垂直混合を起こさない。しかしながら、その
態をあわせ持つ特徴を示す。これらの問題を究明
存在はフラックス測定値にバイアスを与えるかも
するためにさまざまなサイトで乱流時系列をよく
しれない。夜間の大気状態は、これら二つの極端
調べることが必要である。間欠性と非定常性は、
な状態の間で変動することができ、この二つの状
夜間に広く見られる性質である。
APEIS北京ミーテイング
中国科学院地理科学・資源研究所 (中国)
于 貴瑞 (Guirui YU)
2002年9月20〜21日に中国北京において、日本の
今回のワークショップでは、日本の国立環境研
国立環境研究所(NIES)と中国科学院地理科学・資
究所のMasataka WATANABEがAPEISの活動概況
源研究所(IGSRR)の共催で、APEIS(Asia-Pacific
を、また中国科学院地理科学・資源研究所のJiyuan
Environmental Innovation Strategy)プロジェクトのワ
LIUがMODISデータ受信ステーションを紹介した。
ークショップが開催された。会議には、東南アジ
加えて、日本の国立環境研究所のQingxue WANG
アと太平洋諸国から多くの参加者を得た。このプ
がAPEIS観測サイトとその初期の観測データを、
ロジェクトの目的は、MODIS観測と地上観測とを
中国生態系ネットワークのGuirui YUがChinaFluxの
統合して、東南アジア−太平洋地域における環境
観測サイトやその観測設備、及び観測項目、観測
変動のモニタリング体制の整備を推進しようとす
データなどについて報告した。なお、韓国の研究
るものである。現在、APEISは中国にMODISデー
者やAPEIS観測サイトの中国研究者も関連報告を
タ受信ステーションと幾つかの観測サイトを設置
行い、フラックス観測の結果を議論した。
している。
平成14年度・森林総合研究所研究成果発表会
−森林総合研究所の研究と京都議定書−
森林総合研究所
天野 正博
COP3以降、京都議定書吸収源の運用方法につい
(2)京都議定書3条4項
て様々な議論がなされ、2001年のCOP7で京都議定
の森林管理による追
書が吸収源として認める森林の取り扱い方法と
加的な炭素吸収量を
UNFCCCへの報告様式が、ほぼ明らかになった 。
評価するためのモデ
しかし、要求されている森林の炭素吸収量の計測
ルの概要と改善すべ
や評価には従来の行政データでは対応できない部
き点。
分が多く、新たな科学的知見が要求されている 。
(3)森林バイオマス中
そこで、森林総合研究所では吸収源をめぐる国際
の炭素の約4倍あると
研究成果発表会にて
交渉の動きを考慮しつつ、研究分野に求められて
いわれている森林土
いる様々な問題に対応してきており、その概要に
壌中に貯えられている炭素の動態を正確に計測す
ついて一般に紹介するためのワークショップを開
る手法。
催し、以下の5つの研究が報告された。
(4)吸収源CDMとして大規模植林を実施した場合
(1)タワーによる森林−大気間のCO2フラックス観
の、地域社会に与える影響評価。
測データを用いた、代表的な森林生態系での炭素
(5)京都議定書に即して森林の炭素吸収量を計測、
収支の解明。
報告するために解決すべき問題点。
4
2002年 12月号
国際会議「モンスーンアジア集水域生態系の地球環境変化に対する応答」
参加報告
名古屋大学
「モンスーンアジア集水域生態系の地球環境変
檜山 哲哉
<Session 5: Human Activity Discharge into Watershed
化に対する応答」と題した国際会議が、総合地球
Systems>
環境学研究所(RIHN)、日本学術会議、文部科学省、
<Session 6: Synthesis and Future Direction>
IGBP-GCTE研究グル−プの主催で2002年11月24日
〜26日に京都国際会館で行われた。
TEMAプロジェクトリーダーの和田教授(総合地
この国際会議の目的は、1997年から2002年にか
球環境学研究所)からTEMAプロジェクトの概要と
けて国内IGBP第二期の研究課題として採択された
本 国 際 会 議 の 趣 旨 説 明 が あ っ た 後、P i t e l k a 氏
「モンスーンアジア陸域生態系の地球環境変化に対
(University of Maryland, USA) から、"GCTE-past
する応答(TEMA)」を国際的な有識者の参加の下
and future"と題した講演があった。加えて Ojima氏
で総括することである。TEMA本来の研究目的は、
(Colorado State University, USA) は生物地球化学と
個葉から樹木、森林生態系、集水域生態系へのス
大気―陸面相互作用に関する研究のレビューと今
ケールアップの手法や概念を、主に生物地球化学
後に関して講演を行った。
過程に基づいて提示することである。一方TEMA
セッション1では、個葉から樹木へのスケールア
プロジェクトでは、東アジアを中心に緯度帯別に
ップの手法や生理生態学的研究に関する講演があ
数カ所の研究対象森林サイトを設け、CO2フラック
った。Leadley氏(Universite Paris-Sud XI, France) は
ス観測や森林生態系における炭素収支に関する研
生物多様性と生態系における炭素収支に関して講
究を行ってきた。東シベリアから北海道(苫小牧)、
演し、Abaimov氏(V.N.Sukachev Institute of Forest,
琵琶湖周水域、東南アジアにかけての異なる気候
Russia)は、シベリア永久凍土帯上に生育するカラ
帯での炭素収支研究からは、欧米ではみられない
マツ地帯の森林火災の現状とその後の生態学的更
生態系システムに関するユニ−クな研究成果が得
新 に つ い て 報 告 し た 。日 浦 氏 ( 北 海 道 大 学) は
られた。TEMAプロジェクトで設置されたフラッ
TEMAの重要な対象森林である北海道大学苫小牧
クス観測サイトは、AsiaFluxサイトにも登録され、
研究林での炭素収支について、個葉の光合成速度
数年間の炭素収支が各サイトで得られた。本国際
の実測を基に、積み上げ法から求めたNEPと、渦
会議では、IGBPプロジェクトの後継のプロジェク
相関法によるNEPとを比較し、季節毎に不一致が
トにつなげるための問題提起と研究者間での共有
生じることを示した。夜間の渦相関法によるCO 2
も行われた。
フラックスの補正についてコメントがあり、今後
会議は、ポスターセッションも含めて合計7つの
補正を必要とすることが明らかとなった。久保氏
セッションが設けられた。口頭発表のセッション
(北海道大学)は、シュート構造の変化から樹木の
名は、下記の通りである。
生 長 を 群 落 レ ベ ル で 推 定 す る3 次 元" P i p e T r e e
<Session 1: Integration of Eco-physiological Processes
model"の概要について発表した。どのようにモデ
to Stand Dynamics>
ルを検証するかが今後の課題として取り上げられ
<Session 2: Latitudinal/Altitudinal Transect of East
た。そして最後にRustad氏(USDA Forest Service,
Asia>
USA)は、CO2 が増加した場合の今後の生態系の応
<Session 3: Monitoring and Modeling Atmosphere-
答について、定常性か否かの問題提起を行った。
セッション2では、東アジアの様々な陸域生態系
Forest-Soil Processes>
<Session 4: Forest-Lake Interface in Watershed
を比較してその特徴を導出した。Kassim氏(Forest
Systems>
Research Institute Malaysia, Malaysia)とMarod氏
5
AsiaFlux Newsletter No.4
(Kasetsart University, Thailand) はマレー半島の熱帯
て の 発 表 が あ っ た。 Shin氏 (Forestry Research
季節林とタイ西部の熱帯林の群落構造とその動態
Institute, Republic of Korea)は、韓国における長期
について、それぞれ発表した 。相場氏 (鹿児島大
の生態学的研究とデータ収集について紹介した。
学)はキナバル山の異なる標高毎に成立する生態系
その後、TEMAグループから3件の発表があった。
において、主に土壌中の炭素動態をその他の親生
大手氏(京都大学)は桐生試験地における炭素流出
物元素の動態とともに明らかにした。また武生氏
について、水文学的に考察した。木平氏(名古屋大
(森林総合研究所)は東アジアの森林生態系の生物
学)は琵琶湖集水域内森林源流域のDOCとNO 3-の流
多様性や、群落構造変化について講演した。
出から、土壌における炭素と窒素の動態について
セッション3はAsiaFlux活動と同様の趣旨の講演
考察を行った。村瀬氏(名古屋大学)は琵琶湖湖底
があり、特に土壌―植生―大気系の炭素収支のモ
のメタン代謝を、起源と湖沼生態系に与える影響
ニタリングとモデル化についての講演が続いた 。
を加味して講演した 。その後Cole 氏(Institute of
Kim氏(University of California, USA)は世界におけ
Ecosystem Studies, USA)は集水域生態系と河川流出
る FLUXNET の活動
にともなう世界的な炭
を 紹 介 し、 KoFlux
素流出について一気に
(Korean contribution to
レビューを行った。
FLUXNET) の活動を
セッション5 は集水
開始した旨、発表が
域における人間活動の
あった。檜山(名古屋
影響をモデル化 ( マニ
大学・筆者)は名古屋
ュアル作成)し、どの
大学構内の二次林に
ようにコンセンサスの
おいて、CO2の施肥を
作成につなげていくか
被る都市林での炭素
についての方法論につ
収 支 を 、フラックス
いて講演があった。田
観測と同位体計測の
二つの手法から論じ
た 。フラックス関連
で は、夜間のフラッ
中氏(総合地球環境学
国際会議「モンスーンアジア集水域生態系の地球環境変化
に対する応答」の発表風景(京都国際会館・ホールにて)
(写真提供:総合地球環境学研究所・吉岡崇仁氏)
研究所)が欠席したた
め、谷内氏(総合地球
環境学研究所) と原氏
クスの補正によって、NEEが40%減少することを
(パシフィックコンサルタンツ)の二人が講演した。
示し、また同位体計測からは、放射性炭素を併用
4つの道具(indicator, factor diagram, model, and GIS)
することで、人為起源のCO 2と土壌呼吸起源のCO2、
の活用例が紹介された。
バックグラウンドCO 2 に分離する試みを話した。
ポスターセッションは11月26日の午前に行われ
Lai氏(University of Utah, USA)は草地生態系におい
たが、一方でコアメンバーによりIGBP II の方向性
てC3植物とC4植物がNEEに寄与する割合を炭素安
について、ミーティングも同時に行われた。
定同位体比(d C )から論じた 。柴田氏( 北海道大
本会議の最後のセッション6では、総括と今後の
学)は苫小牧研究林において、大気―植生―土壌―
IGBP研究の方向性に関する議論が行われた。甲山
渓流の炭素収支を推定し、他の森林生態系と比較
氏(北海道大学)はTEMAグループの研究を総括し、
し た 。最 後 に Barrett 氏( CSIRO Plant Industry,
IGBP II への研究の課題を取り上げた。Pitelka氏
Australia)は分散型のデータセットを用い、いかに
(University of Maryland, USA)が再び登場し、IGBP
してグローバルな炭素収支の推定に役立てるかに
II 研究の方向性について講演した。最後に若手研
ついて講演した。
究者のCanadell氏(Pye Laboratory, Australia)がIGBP-
13
本会議の目玉でもあるセッション4は、森林―湖
IHDP-WCRP の連携の基で行われるglobal carbon
沼インターフェースにおける炭素収支研究につい
project(GCP)の紹介を行った。
6
2002年 12月号
議論においては、日本のTEMA研究グループに
いたため、今後扱われるべき研究テーマと思われ
よって得られた多数の成果に対して、海外からの
た。また、IGBP-LUCCとの関連から"Land"プロジ
研究者が非常に絶賛していた。特に、土壌中の炭
ェクトを見据え、土地利用変化に伴う炭素収支や
素貯留や熱帯林での炭素以外の親生物元素を含め
窒素施肥との関係もクローズアップされていた 。
た土壌有機物動態、炭素の同位体をフラックス観
Canadell氏が紹介していた GCP( Global Carbon
測と併用した研究は注目を浴びていた。これらは
Project)は気候変化・土地利用変化と炭素収支研究
今後のIGBP II プロジェクトにおいても重要視され
の特にスケールアップ(integration schemes の模索)
る研究対象と思われた。一方、都市生態系、生物
について焦点を当てるプロジェクトとなる。GCP
多様性と食料生産、温室効果ガスと生態系の"質"
のホームページは、http//:GlobalCarbonProject.orgで
の関係についても、多数の講演で取り上げられて
あるので、そちらも参照されたい。
Circum‑Pacific Workshop 参加報告
延世大学 (韓国)
金 元植 (Wonsik KIM)
環太平洋炭素収支における大気-海洋システムの
が本会議の目的であった。今回は、招待された
総合作用(Interaction of the Pacific Atmosphere-Ocean
各々の研究者の研究発表とともに、今後これらの
System on Circum-Pacific Carbon Balance)の課題で、
研究を中心とした研究の方向について意見が交換
2002年10月15日から17日までアメリカ合衆国・ハ
された。合計21人の参加者中、AsiaFlux関係者と
ワイ・ホノルルのEast-West Centerにおいて、San
して、本会議の主催者でもある井上元博士(国立環
Diego州立大学のWalter Oechel博士の主催で標記
境研究所)と、AsiaFluxを代表して発表を行った山
Circum-Pacificワークショップが開かれた。二酸化
本晋博士(産業技術総合研究所)を含め、計5人が参
炭素やメタンなどのフラックス観測、気象と海洋
加した。フラックス観測に関するセッションでは、
循環の実時間モニタリング、高解像度のメソスケ
AsiaFluxを中心とし、OzFluxやAlaskaFluxに関する
ールシミュレーション、およびMODES GPPや
研 究 発 表 も あ っ た 。他 の セ ッ シ ョ ン と し て 、
Biome BGC等を利用した陸上生態系の炭素フラッ
Measurement Strategies to Monitor Carbon Flux for the
クスの定期的モニタリング等を研究テーマとして、
Pacific RimとOcean Systems and Fluxes、が開かれた。
陸上-大気-海洋間の炭素収支を明らかにすること
7
AsiaFlux Newsletter No.4
中国陸地生態系フラックス観測研究ネットワーク概略
中国科学院地理科学・資源研究所 (中国)
于 貴瑞
中国陸地生態系フラックス観測研究ネットワー
1)。6 カ所の渦相関法観測サイトについては、4つ
ク(ChinaFlux)は「中国陸地/近海生態系の炭素収支
の森林生態系サイト(長白山、千煙洲、鼎湖山と西
に関する研究」プロジェクトの一環として、中国
版納)、1つの高原草原サイト(海北)と1つの農地生
科学院の中国生態系研究ネットワーク(CERN)の
態系(禹城)を含んでいる。また、16 カ所のチャン
観測研究サイトを利用して、2002年度にフラック
バー/GC法観測サイトは殆ど中国の異なるタイプ
ス観測測器を取り付け完成したものである。
の農地、草地、湿地、森林と湖生態系をカバーし
ChinaFluxは渦相関法及びチャンバー/GC法を観測
ており、生態系のCO 2、CH4とN 2Oのフラックスな
手段とし、生態系と大気間におけるCO 2、H2O及び
どを観測している。更に、ChinaFluxは来年度に内
エネルギー収支等を長期間的に連続観測するネッ
モンゴル草原やチベット高原の草地生態系に観測
トワークである。現在、ChinaFluxは6カ所の渦相関
サイトを新設し、外国研究機関により中国国内に
法観測サイトと16 カ所のチャンバー/GC法の観測サ
設置された観測サイトとの共同研究やデータと情
イトを持ち、フラックス観測を行うと同時に、生
報交換などを行い、更に完全なChinaFluxの体制を
態系の炭素循環と水循環のプロセスを解明し、地
作り上げることを計画している。
域的な植生、土壌と気象データを収集している(図
FLUX OBSERVATION SITE OF HAIBEI
TECHNICAL TRAINING OF
HIGHLAND FRIGID MEAD OW
ChinaFLUX OBSERVATION
FLUX OBSERVATION SITE OF
YUCHENG WARMER TEMPE RATE
DRY FARMING CROPLAND
FLUX OBSERVATION SITE OF
CHANGBAISHAN TEMPERATE
DECIDUOUS BROAD-LEAFED AND
CONIFEROUS MIXED FOREST
Flux Observation Site of Chinese
Terrestrial Ecosystem
The Synthetic Center of Chinese Ecosystem
Research Network, Environmental dynamic
data Observation of CERN
Users
FLUX OBSERVATION SITE OF
XISHUANGBANNA TROPIC
SEASON FOREST
ChinaFLUX Data Sharing System
FLUX OBSERVATION SITE OF DINGHUSHAN
SOUTHERN S UB-TROPIC TYPICAL TROPICAL
EVERGREEN BROAD-LEAFED FOREST
図1
FLUX OBSERVATION SITE OF
QIANYANZHOU MAN-PLANTED
FOREST ON RED SOIL HILL REGION
中国陸地生態系フラックス観測研究ネットワーク
8
2002年 12月号
第8回AsiaFlux運営委員会報告
AsiaFlux 事務局
正式に申し入れたい。
2002年11月26日、第8回AsiaFlux運営委員会を国
立京都国際会館にて開催した。出席者は、運営委
また予算面では、現在AsiaFlux独自の予算枠は
員10名(韓国2名、日本8名)、オブザーバー1名(中
なく、各参加機関の資金提供と国立環境研究所地
国)と事務局員(1名)であった。会議の概要は以下
球環境研究センター(CGER/NIES)の費用で会議開
のとおりである。
催や出版が行われている。今後は、持続的な運営
のために独自の予算を獲得することが必要である
1. マニュアル
と考えられ、APNへの申請も視野に入れて検討す
フラックス観測において、観測手法及び解析手
る。なお、当面の予算(データベース作成や出版
法の向上と標準化が不可欠である。それらはまだ
等)については、CGER/NIES による支援が可能で
研究発展段階であ
ある。
り、研究者間で異な
る手法を用いている
3. フラックス観測の
場合が多い 。このた
維持体制
め、フラックス測定
NEEの平均値やそ
マニュアルを作成す
の経年変化を評価す
ることは重要である
るために長期観測を
と考えている。また、
継続することが重要
この分野ではアジア
である。しかし、予
地域は後進であるた
算削減などによる資
め、先進地域である
欧米の専門家による
金不足や人員不足な
運営委員会の討議の様子
どの問題を抱えてい
校閲が必要である。このため、日本語版と英語版
る研究グループもあり、韓国にも閉鎖したサイト
両方の出版が求められており、同時に技術の進歩
がある。これについては、フラックス観測が研究
に伴う改訂も必要である。
段階にあるか、またはモニタリング段階にあるか
(12月26日に開催された第10回AsiaFlux幹事会に
で対応が異なる。もし研究段階であれば、競争的
おいて、現在編集中の出版物はガイドブックとし
資金からの予算獲得が可能である。また、モニタ
て日本語版のみを出版し、マニュアルの編集につ
リング段階であれば競争的資金の獲得は難しく 、
いては継続して検討することとなった。)
他の方法で予算獲得をする必要がある 。同時に 、
観測精度の向上やデータの使用方法に関する研究
活動も継続すべきである 。いずれにしても今後 、
2. Asiafluxの位置付け
AsiaFluxは EuroFluxや AmeriFluxと同様に、
フラックス観測はデータ管理や分析を含んだモニ
FLUXNETの枠組みの中で行動している 。また、
タリング段階に入り、研究者は正確なデータ提供
AsiaFluxの枠組みの中では、JapanFlux及びKoFlux
が求められる。この予算源としては、WMO、FAO、
が組織している。現在、中国においてフラックス
GCOS、GTOS、GCO等の国際機関が考えられる。
観 測 が 開 始 さ れ つ つ あ り、 そ の 中 国 組 織 が
いずれにしても今後の予算獲得は深刻な共通課題
ChinaFlux(仮称)としてAsiaFluxに参加すれば、ア
であり、国の枠にとらわれずAsiaFlux全体として
ジア地域を取りまとめるAsiaFluxの確立が可能と
検討していく。
なる。したがって、AsiaFluxとして中国に参加を
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AsiaFlux Newsletter No.4
4.データベースの公開
的に求められている信頼性の高いデータを提供す
アジアで得られたフラックスデータの提供は 、
るためには、AsiaFluxが手法の比較や統一を行い、
国際的に強く求められており、データを提供する
精度保証をした上でデータ提供を行う必要がある。
義務があると思われる。デ ー タ の 提 供 方 法 は、
この場合、前者の方法が適しているが、データを
AsiaFluxがデータを取りまとめてデータ提供・公
取得・解析した研究者のPriorityを考慮し、共同執
開を行うか、あるいはフラックス観測を行ってい
筆者として公表することなどを義務づけるべきで
る研究者が個々に行うかの2通りある。後者の場合、
ある。まずは、手法の比較やマニュアル等によっ
AsiaFluxの意義が不明確であると同時に、データ
てデータの信頼性を高め、データベースを作成す
の精度保証をすることができない。しかし、国際
る。
AsiaFlux 観測サイト情報
産業技術総合研究所、蒲生らによる観測サイト(タイ・ナコ
ンラチャシマ県・サケラート)と北大北方生物圏フィールド
科学センター、高木らによる観測サイト(北海道天塩郡幌延
町) の情報がAsiaFlux のwebsite(http://www-cger/~moni/
Carbon Cycle and Larch Growth
Experiment
flux/asia_flux/indexJ.html)に掲載されています。
Since 2001
天塩観測サイト
No.4編集担当
明けましておめでとうござ
います 。フラックス
観測を行う皆様に
と っ て、引 き 続 き
良い年になります
よう 、心 よ り お 祈
り申し上げます 。
今年も頑張って良い成
果を出していきましょう。
サケラート観測サイト
檜山哲哉(名古屋大学)
AsiaFlux Newsletter
編集・発行
AsiaFlux Newsletter No.5 の編集担当
は小杉緑子(京都大学)です。
通巻No.4
2003年1月発行
AsiaFlux事務局
井上 元(事務局長)
藤沼 康実・犬飼 孔・有原 陽子
〒305‑8506 茨城県つくば市小野川16‑2
国立環境研究所 地球環境研究センター内
TEL: 029-850-2348, FAX: 029-858-2645
E-mail: asiaflux@nies.go.jp
Website: http://www-cger.nies.go.jp/~moni/flux/asia_flux/indexJ.html
AsiaFlux Newsletterは電子媒体でのみ提供しています。
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