龍大社研ニュース

ISSN 0919-5912
龍大社研ニュース №
﹃研究所創設
47
周年﹄
40
龍大社研ニュース
№ 47
『研究所創設 40 周年』
龍谷大学社会科学研究所
1969-2009
Ryukoku University
Research Institute for Social Sciences
龍谷大学社会科学研究所
温故知新と先端研究
―社会科学研究所創設 40 周年に際して―
川 端 正 久(社会科学研究所長・法学部教授)
龍谷大学社会科学研究所が設置されたのは 40 年前、1969 年 4 月です。研究所は主とし
て経済学部、経営学部、法学部の 3 学部に基盤を置く研究機関となっています。研究所の目
的は社会科学における各分野の枠にとらわれず、
さまざまな分野の研究者(学外研究者を含む)
との共同研究を推進することによって、社会科学の新たな創造と発展に寄与することにあります。
この 40 年間に、研究所は多大の成果を挙げてきました。研究成果刊行物として高い定評を
いただいている『社会科学研究所叢書』は 84 巻を出版することができました。研究雑誌として
『社会科学研究年報』を刊行しています。研究は指定研究、共同研究、個人研究からなり、
毎年、10 件以上の研究が進行しています。それぞれの共同研究は調査と研究会を実施してい
ます。また研究内容を公開するために、研究所として月例研究会を開催しています。
社会科学研究にとって文献・資料の整備・所蔵が重要です。研究所は調査・研究のために
必要な文献・資料を収集・整理し、閲覧に供しています。教員・研究者の研究・調査にとって
必要な資料・文献、統計・調査資料、和雑誌・洋雑誌の所蔵は充実しています。
研究所の新しい制度として、2009 年度から、社会科学研究所の下に付属研究センターを設
置することができるようになりました。現在、アフリカ研究センターと民際学研究センターが活動を
展開しています。
今後、大学全体の発展の方向に合わせて、また社会からの要請を受けて、研究所の新たな
展開について検討を加える必要があります。大学も研究所も地域社会との交流を促進しなけれ
ばなりません。そのためには、一般市民や学生を対象とした公開講座、講演会、シンポジウム
などを積極的に開催していくことが重要です。社会科学分野では、国内でも国外でも多くの大
学や研究機関が存在しています。内外の大学や研究所との関係を促進し、龍谷大学社会科
学研究所の研究成果を世界に発信していかねばなりません。多彩な人材、豊富な資料、充実
した研究環境がありますので、それを有効に活用することが求められています。学外からの依
頼による研究・調査活動を拡大していくことが望まれます。
創設 40 周年を記念するに当たり、研究所を生み育てられてきた多くの先輩研究者の皆様に、
心からの敬意を表する次第です。研究対象となる日本と世界の政治経済社会の情勢が大きく変
動し、大学をめぐる環境も変化していますので、長年にわたる地道な研究を尊重しながらも、社
会が求める新たな先端分野の研究を開拓することが必要です。研究所の新たな発展の方向性
を明確にしていきたいと考えています。皆様のご協力を心よりお願い申し上げます。
2009 年 10 月
1
「龍大社研ニュース NO.47: 研究所創設 40 周年」
凡例
1 龍谷大学社会科学研究所叢書第 37 巻(2000 年 3 月)
から第 84 巻(2009
年 3 月)までを紹介。
・第 1 巻から第 24 巻は、『龍大社研ニュース NO.22 : 研究活動 25 年の
歩み(1994 年 11 月)』に掲載。
・第 25 巻から第 36 巻は、『龍大社研ニュース NO.33 : 研究所創設 30 周
年(1999 年 11 月)』に掲載。
2 第 37 巻(2000 年 3 月)から第 45 巻(2001 年 3 月)は、
『 龍大社研ニュー
ス NO.35(2000 年 7 月)から NO.38(2002 年 3 月)』の紹介内容を
再掲載。
3 第 46 巻(2002 年 3 月)から第 84 巻(2009 年 3 月)の内容紹介者の
職名は、2009 年 5 月現在である。
4 各巻目次の編著者・執筆者紹介の氏名および職名は、叢書の発行年に
もとづいた。
2
目 次
CONTENTS
社会科学研究所創設 40 周年に際して
川端 正久 ………
1
……………………
2
第 37 巻『フィールドワークの新技法』
中村 尚司 ………
6
第 38 巻『生命・環境と現代社会』
平野 武 ………
8
第 39 巻『新農基法と 21 世紀の農地・農村』
鈴木 龍也 ……… 10
第 40 巻『中国経済改革と自動車産業』
河村 能夫 ……… 12
第 41 巻『規制緩和と労働者・労働法制』
萬井 隆令 ……… 14
第 42 巻『企業法務の実態と課題:京都・大阪・神戸調査』
武久 征治 ……… 16
第 43 巻『地域経済のダイナミズム:京都の市民と企業』
井口 富夫 ……… 18
第 44 巻『中国のコンピュータ産業』
本田 英夫 ……… 20
第 45 巻『交錯する国家・民族・宗教:移民の社会適応』
戸上 宗賢 ……… 22
第 46 巻『参加型開発:貧しい人々が主役となる開発へ向けて』
斎藤 文彦 ……… 24
第 47 巻『現代社会における医療・生命・環境』
平野 武 ……… 26
第 48 巻『リスク管理と企業法務:実務と理論からのアプローチ』
武久 征治 ……… 28
第 49 巻『京都の地域金融:理論・歴史・実証』
谷 直樹 ……… 30
第 50 巻『社会科学リテラシーの確立に向けて』
西堀 文隆 ……… 32
凡例
社会科学研究所叢書(2000 年∼ 2009 年刊行)
第 51 巻『アフリカの挑戦:
NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)』
第 52 巻『遺伝子工学時代における生命倫理と法』
大林 稔 ……… 34
石塚 伸一 ……… 36
第 53 巻『現代「市民法」論と新しい市民運動:
21 世紀の「市民像」を求めて』
石塚 伸一 ……… 38
第 54 巻『ヨーロッパ私法の動向と課題
= Tendencies and problems of european private law』
中田 邦博 ……… 40
第 55 巻『企業家精神と地域経済:
京都市と周辺地域を対象とした事例研究』
井口 富夫 ……… 42
第 56 巻『地域開発と企業成長:技術・人材・行政』
松岡 憲司 ……… 44
第 57 巻『借地借家法の新展開』
牛尾 洋也 ……… 46
第 58 巻『日本の裁判所:司法行政の歴史的研究』
萩屋 昌志 ……… 48
第 59 巻『分権社会の到来と新フレームワーク』
白石 克孝 ……… 50
第 60 巻『中国の環境と環境紛争:
環境法・環境行政・環境政策・環境紛争の日中比較』
北川 秀樹 ……… 52
第 61 巻『刑事司法と心理学:法と心理学の新たな地平線を求めて』 村井 敏邦 ……… 54
3
第 62 巻『環境問題の理論と政策』
寺田 宏洲 ……… 56
第 63 巻『地球温暖化防止の課題と展望』
田中 則夫 ……… 58
第 64 巻『戦時期日本の企業経営』
西川 浩司 ……… 60
第 65 巻『アフリカ国家を再考する』
川端 正久 ……… 62
第 66 巻『21 世紀の企業経営:
IT 革命とグローバリゼーションの時代』
夏目 啓二 ……… 64
第 67 巻『持続的変革をめざして:
経営品質向上プログラムのすすめ』
大西 謙 ……… 66
第 68 巻『コモンズ論再考』
鈴木 龍也 ……… 68
第 69 巻『近代日本における社会変動と法』
牛尾 洋也 ……… 70
第 70 巻『自動車産業と生産システム』
伊達 浩憲 ……… 72
第 71 巻『ネットワーク・イノベーションとマーケティング』
佐藤 研司 ……… 74
第 72 巻『地域産業とイノベーション:
京都府丹後地域の伝統・現状・展望』
松岡 憲司 ……… 76
第 73 巻『知的財産契約の理論と実務』
辻本 勲男 ……… 78
第 74 巻『法医鑑定と検死制度』
福島 至 ……… 80
第 75 巻『介護・家事労働者の国際移動:
エスニシティ・ジェンダー・ケア労働の交差』
久場 嬉子 ……… 82
第 76 巻『京都の門前町と地域自立』
河村 能夫 ……… 84
第 77 巻『宗教法と民事法の交錯』
鈴木 龍也 ……… 86
第 78 巻『ヨーロッパ私法の展開と課題』
中田 邦博 ……… 88
第 79 巻『中国の環境問題と法・政策:
東アジアの持続可能な発展に向けて』
北川 秀樹 ……… 90
第 80 巻『若者の雇用・社会保障:主体形成と制度・政策の課題』
脇田 滋 ……… 92
第 81 巻『非営利放送とは何か:市民が創るメディア』
松浦さと子 ……… 94
第 82 巻『都市のにぎわいと生活の安全:
京都市とその周辺地域を対象とした事例研究』
井口 富夫 ……… 96
第 83 巻『アフリカにおける貧困者と援助:
アフリカ政策市民白書 2008』
第 84 巻『市場化する大学と教養教育の危機』
共同研究会参加者(2009 ∼ 2000 年度)
4
大林 稔 ……… 98
上垣 豊 ……… 100
…………………… 102
叢
書
紹
介
5
37
『フィールドワークの新技法』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 37 巻
中村尚司・広岡博之 編(日本評論社)
2000 年 3 月刊
164 頁
ISBN: 4-535-58272-6
中 村 尚 司 (経済学部教授)
本書は、1997 年から 99 年にかけて龍谷大学社会
とのイメージの重要性、調査者と被調査者との関係性
科学研究所が組織した共同研究「フィールド調査方法
などが論じられている。第 3 章では、フィールド体験の
論確立に関する研究会」の成果である。ここで主題的
意義とその重要性が検討されている。第 4 章では、文
に論じられているフィールドワークは、分野は異なるもの
化人類学と農村社会学におけるフィールド調査が多角
の教育と研究の両面において、将来の大学のあり方に
的に吟味されている。第 5 章では、ライフヒストリー調
再検討を促す学問の方法である。
査の歴史と技法がわかりやすく紹介されている。第 6
フィールド調査は、社会科学の分野でこれまで文化
章では、本書を位置づける概論も兼ねながら、フィール
人類学や社会学を中心に行なわれてきた。近年では経
ド調査を広く視野に入れた学問論を展開している。第
済学や政治学でも採用されるようになっている。自然科
7 章では、民際学の立場からフィールドワークの再検討
学の分野では、野外の研究方法として生態学や農学を
がなされている。
中心に古くから行なわれてきた。しかし、フィールド調査
第 8 章以降は、フィールド調査でえられたデータの量
の方法は、個々の専門分野や研究者個人によって千
的な分析手法とコンピュータ利用法が吟味されている。
差万別である。本書の目的は、このような多様なフィー
第 8 章では、フィールド調査におけるアンケート調査デー
ルド調査の方法論的な側面に着目し、どのようなフィール
タのコンピュータにおける統計分析の方法が示されてい
ド調査を行ない、得られたデータをどのようにまとめるか
る。第 9 章では、コンピュータにおける統計分析に必
に関する視点を示すことである。
要なデータ加工の実務的な過程が、具体的に述べられ
執筆者の多くが、龍谷大学で講義経験を持ち、学
ている。最後の第 10 章は、
フィールド調査のためのリモー
生諸君とともにフィールドワークの進め方に苦労してきた。
トセンシングや地域情報システムの利用、およびシステ
学習や研究の重要な方法として、フィールドワークをより
ムダイナミックスによる地域分析法が示されている。
身近なものにしようと、工夫を重ねてきた。この研究会
今からフィールドワークを始める若い人びとが、本書
では、各自のフィールド調査の経験を述べるにとどまら
を積極的に活用してくれることを期待したい。
ず、それぞれの方法論について議論し、相互理解の
上でおたがいの方法論の利点と欠点とを詳しく考察して
きた。その結果、
不十分ではあるが従来のフィールドワー
クの枠組みを乗り越える新しい方法上の視点を得ること
ができた。その意味で本書の特徴は、民際学の方法
やコンピュータの利用法など、従来とは違った技法につ
いて論じることができた点である。
本書はすべてで 10 章からなる。第 1 章では、民際
学の方法を提示するとともに、三段階におけるフィールド
ワークの実施の仕方とその報告書のまとめ方を述べて
いる。第 2 章では、学際的な調査の問題点、地域ご
6
※『龍大社研ニュース № 35(2000 年 7 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
はしがき
第 1 章:フィールドの大地へ出よう
1 フィールドの全体性
1
2 フィールド調査とその報告
5
3 何よりも大切な問題意識:
6
何を明らかにしようとするのか
4 主要な調査項目
9
5 報告書の目次を作成:
11
起承転結の論理的な構成になっているか
6 報告論文執筆上の留意事項:
14
簡潔で明快な表現力が身についているか
第 2 章:フィールド調査のアプローチ
17
はじめに
1 タイ東北部の一農村・ドンデーン村調査から
18
2 タイ国ヤソトン県多数村落調査から
24
3 地元守山市の調査から
27
29
結びにかえて
第 3 章:フィールド調査とフィールド体験
31
はじめに
1 モンゴル・遊牧研究における
32
フィールドワークの必要性
2 フィールド調査
34
3 フィールド体験
38
第 4 章:文化人類学と農村社会学におけるフィールドワー
クの方法
1 文化人類学と農村社会学
41
2 言語による相違
42
3 現地滞在の方法について
45
4 モノグラフとエスノグラフィー
49
5 日本におけるフィールドワークとモノグラフ
52
第 5 章:ライフヒストリー調査
57
はじめに
1 ライフヒストリー研究はどのように生まれたのか
58
2 ライフヒストリー―聞き手と語り手の共同作業
61
3 実践編―ライフヒストリーの採集と資料整理
65
4 個人史の代表性・信憑性
71
73
おわりに
第 6 章:フィールド調査の新展開
77
はじめに
1 フィールド科学とは
78
2 フィールド調査とは
80
3 フィールド調査の科学性
80
4 民際学のアプローチ
83
5 システム科学とフィールド調査
84
6 フィールド調査の新しい視点
86
第 7 章:民際学におけるフィールド
1 従来のフィールド観に対する疑問
89
2 既存の学問観
91
3 物質系と人間系の要素のちがい
92
4 従来の学問の体系化の方法とその問題点
94
5 民際学のモデル化の方法
99
6 民際学におけるフィールド
102
7 民際学の展開事例
104
第 8 章:フィールド調査における統計学の利用
109
はじめに
1 なぜ統計処理は必要か
110
2 必要なサンプル数
112
3 クロス集計表の分析法
114
4 統計分析ソフトウェア
120
第 9 章:コンピュータを利用したフィールド調査法
1 フィールド調査でのコンピュータ利用
123
2 データの変数化
124
3 データの整理―Excel の利用法(1)
126
4 データの集約―Excel の利用法(2)
130
5 データ分析の準備―Excel から SPSS へ
135
6 データ分析の概要―SPSS を使う
138
7 プログラムを組んでみる
142
―シンタックスウィンドウの利用
第 10 章:フィールドワークのための空間情報と地域分析
ツール
145
はじめに
1 フィールドワークにおける空間情報の利用
146
2 システム・ダイナミックスにもとづく地域の分析
154
161
索 引
執筆者紹介(執筆順)
編者
中村 尚司(なかむら ひさし)
龍谷大学経済学部教授
広岡 博之(ひろおか ひろゆき)
龍谷大学経済学部助教授
執筆者
舟橋 和夫(ふなはし かずお)
龍谷大学社会学部教授
山崎 正史(やまざき まさし)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、日本学
術振興会特別研究員
末原 達郎(すえはら たつろう)
龍谷大学国際文化学部教授
中川ユリ子(なかがわ ゆりこ)
龍谷大学非常勤講師
森住 明弘(もりずみ あきひろ)
大阪大学基礎工学研究科助手
丸岡 律子(まるおか りつこ)
立命館大学国際関係学部助教授
小林慎太郎(こばやし しんたろう)
京都大学農学研究科教授
7
38
『生命・環境と現代社会』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 38 巻
平野 武 編(晃洋書房)
2000 年 3 月刊
196 頁
ISBN:4771011648
平 野 武 (法学部教授)
本書は、社会科学研究所でここ数年行われてきた生
が認めるであろう。氏が京都教育大学の学長を努めら
命倫理・環境倫理をめぐる共同研究会の成果であり、
れたことも周知のところであろう。
すでに公刊されている『生命をめぐる法、倫理、政策』
第 2 章以下は、各論にあたる部分であるが、第 2
(1998 年、晃洋書房)の続編ともいいうるものである。
章では、末期医療の現場を踏まえて事例の検討と看護
本書もやはり学際的な研究というスタイルをとっており、
活動の課題が提示されている。看護の立場の問題提
執筆者の専攻は、哲学・倫理学、社会学、経済学、
起として真剣に受けとめられなければならないであろう。
法学、医学、自然科学の分野にわたっている。執筆は
第 2 章の執筆者である星氏は、龍谷大学のスタッフで
主として学内のスタッフであるが、学外からも2 名の方
ないが、本学大学院法学研究科修士課程を修了され
に執筆していただいている。
ている縁で研究グループの会員になっていただき、執筆
内容は、第 1 章「社会哲学の構想」(加茂直樹・
までお願いした次第である。
京都教育大学名誉教授)
、第 2 章「末期医療におけ
第 3 章以下の内容については、紙幅の関係上、コ
る看護活動の法的検討」(星和美・大阪府立看護大
メントをすることができないが、第 5 章、6 章、7 章の
学医療技術短期大学)
、第 3 章「医療情報の公開と
新田、田村、増田の三氏には、深草学舎における龍
開示」
(平野武)
、
第 4 章「『介護保険』
と社会保障」
(宮
谷講座での講演をお願いした経緯があることだけは触
と
『脳
永昌男)
、
第 5 章「生と死と宗教─『水子供養』
れておきたい。そこでの話の内容、経験がそれぞれの
死問題』」(新田光子)
、第 6 章「ピルから見える自己
立場で論文に反映されているはずである。研究代表者
決定権の問題─性関係の倫理学をもとめて」(田村
もまた、REC 講座「生と死」(大宮学舎)での講演を
公江)
、
第 7 章「生きものとしてのエルニーニョ現象」
(増
分担した。本書の刊行は、社会科学研究所の研究活
田啓子)
、第 8 章「生命と環境─自然環境をめぐる
動の成果であり、そのような形で研究を確かなものにし
問題」(谷本光男)からなる。
ていくことの重要性、それが教育に還元されることの意
生命倫理をめぐる問題については、我が国でも多く
味についてはあらためていうまでもない。しかし、今回
の議論がなされるようになっている。環境問題について
の共同研究では、研究成果が大学のエクステンション
も同様である。これらの問題について、多様な角度か
の場にも還元されたこと、また、その場での経験が研
ら検討することの重要性はいうまでもない。しかし、これ
究活動を活性化することにつながったことを指摘してお
らを統合して考える視座もまた必要・不可欠であり、今
くべきであろう。今回の我々の研究活動での経験は決
日そのことがとくに強調されるべき段階にあるのかもしれ
して一般化はできないであろうが、今後の研究活動の
ない。第 1 章の「社会哲学の構想」はそのような視
ありかたを考える際のひとつのモデル、あるいは大学で
座の設定の試みであり、いわば本書の総論的な地位を
の研究、教育、エクステンションの関係を考えるための
占めるものである。第 1 章の執筆者である加茂氏は、
素材になれば幸いである。
研究グループのメンバーではないが、生命倫理、環境
倫理の分野で指導的な仕事をされてきたことからも総論
的な部分を執筆するのに最適の人であることは多くの人
8
※『龍大社研ニュース № 35(2000 年 7 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
はしがき
第 1 章:社会哲学の構想
1 本稿の目的
1
2 法による道徳の強制をめぐって
2
2
1)英米における論争
3
2)問題の背景
5
3)さまざまな課題
3 医療をめぐって
6
6
1)状況の変化
7
2)生命倫理の成立
8
3)脳死と臓器移植について
10
4)その他の医療技術について
4 環境をめぐって
11
11
1)環境倫理において何が問われるか
12
2)システム作りの必要性
13
3)経済との関わり
13
4)国家の役割
5 社会哲学の可能性と必要性
14
14
1)社会の重要な課題に取り組む学
15
2)科学との関係
16
3)社会哲学の役割
17
4)おわりに
第 2 章:末期医療における看護活動の法的検討
1 はじめに
19
2 末期医療の概観
20
20
1)末期医療とターミナルケア
22
2)末期医療における医師と患者の選択
3 末期医療と看護活動
24
24
1)末期医療における看護婦の役割
25
2)看護活動と医師の指示
28
4 末期医療の現場から―事例の検討―
28
1)事例における法律問題
31
2)患者の自己決定権と医師の裁量権
34
3)DNRとセデーション:安楽死の許容要件
36
4)医師の指示と看護婦の判断
39
5)欺罔:説明されていない患者への対応
41
6)抑制:安全と尊厳の接点
42
7)事例検討のまとめ
5 末期医療における看護活動の課題
43
43
1)法律問題の認識と倫理的判断
44
2)患者の擁護者としての看護
6 おわりに
46
第 3 章:医療情報の公開と開示
1 はじめに
51
2 情報公開・開示の根拠
53
3 医療情報開示の手段
57
57
1)開示の法的手段
60
2)判例の動向
4 医療情報の公開・開示とプライバシー保護
64
―脳死者からの臓器移植をめぐって
第 4 章:「介護保険」と社会保障
1 はじめに
75
2 社会保障制度の歴史と介護保険制度導入の経緯 77
3 介護保険制度の概要
79
80
1)保険者
81
2)被保険者の範囲
82
3)保険給付の内容
83
4)利用者負担
84
5)事業者および施設
84
6)保険料
84
7)公費負担
86
8)市町村への支援
4 介護保険制度の問題点
86
86
1)制度的諸問題
2)介護保険のキー・パーソン、ケア・マネジャー 88
90
3)民間介護サービス事業者の参入
5 おわりに
92
第 5 章 生と死と宗教― 「水子供養」と「脳死問題」
1 はじめに
95
2 「生成の世界」と「定着の世界」
95
3 「水子供養」と「脳死問題」
97
4 「定着の世界」における死と宗教
104
5 「いのち」の尊厳ということ
106
第 6 章:ピルから見える自己決定の問題―性関係の倫理学をもとめて
109
序 問題提起
1 自己決定原理とは何だったのか
110
110
1)本来の文脈
2)自己決定原理に封じ込められている哲学的難問 112
113
3)自己決定原理が限界を見せる事例
2 社会的問題としてのピル
115
115
1)ジャパン・ミステリーに見る男性原理
118
2)男性原理への女性運動の態度
119
3)「正論」において見落とされていること
3 私的関係におけるピル問題
121
121
1)自律モデル
122
2)エロスの場での力学(心理的満足の仕組み)
123
3)愛の贈り物
124
4)贈り物の方程式
4 まとめ
125
第 7 章:生きものとしてのエルニーニョ現象
1 はじめに
129
2 エルニーニョ現象とは
130
3 1997 / 98 年エルニーニョとは
132
4 エルニーニョ現象による影響
135
136
1)1997 年
137
2)1998 年
5 ラニーニャ現象による影響
144
144
1)1999 年
6 エルニーニョ・ラニーニャ現象がもたらす世界の異常気象 148
7 異常気象と地球温暖化の関係
150
8 これからのエルニーニョ・ラニーニャ現象
151
9 おわりに
152
第 8 章:生命と環境――自然環境をめぐる問題
1 はじめに
155
2 現代の環境問題
160
160
1)日常生活と地球環境問題との乖離
165
2)自動車から環境問題を考える
167
3)「共有地の悲劇」
3 環境問題と科学技術文明への批判
169
170
1)環境問題の技術的解決
172
2)技術と倫理
175
3)自然主義
4 ディープ・エコロジーの思想的基盤
178
179
1)ディープ・エコロジーの思想
183
2)生命の神聖さ
3)道具的価値と主観的価値、および内在的価値 186
189
4)人類のサバイバルと繁栄
190
5)生物種の保存
191
6)生命の神聖さの程度の差と選択
193
7)生命の神聖さの源泉
5 結びにかえて
195
執筆者紹介
編者
平野 武(ひらの たけし)
龍谷大学法学部教授
執筆者
加茂 直樹(かも なおき)
京都教育大学名誉教授
星 和美(ほし かずみ)
大阪府立看護大学医療技術短期大学部助教授
宮永 昌男(みやなが まさお)
龍谷大学名誉教授
新田 光子(にった みつこ)
龍谷大学社会学部助教授
田村 公江(たむら きみえ)
龍谷大学社会学部助教授
増田 啓子(ますだ けいこ)
龍谷大学経済学部助教授
谷本 光男(たにもと みつお)
龍谷大学短期大学部教授
9
39
『新農基法と 21 世紀の農地・農村』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 39 巻
甲斐道太郎・見上崇洋 編(法律文化社)
2000 年 3 月刊
307 頁
鈴 木 龍 也 (法学部助教授)
本書は、「旧農基法下において日本農業がたどった
う点から見て重大な問題を抱えている。
錯雑な軌跡の上に、今後の日本農業がたどるであろう
このような状況の中、1999 年 7 月に「新農基法」
行く末を、主体・客体・政策等の各方面から描き出し
が制定された。同法には時代を反映してか格調高い前
て見よう」との意図のもとに 3 年にわたり行われた研究
文はないものの、「食料安定的供給の確保」「(農業
会の成果である。ちょうど本書執筆過程の 1999 年 7 月
生産活動による)多面的機能の発揮」「農業の持続
に、この間続けられてきた日本農政の転換に伴う制度
的な発展」
「農村の振興」
という4 つの理念が掲げられ、
改革が、「農業基本法」の改正法としての、「食料・
日本における農政の方向転換が基本法という形で明示
農業・農村基本法」(いわゆる「新農基法」)の制定
された。しかし、「新農基法」は一方で、価格政策と
という形で一つの区切りをつけ、20 世紀末における農
関税政策の面での自由化と農地利用・取引についての
政転換の意味を、「旧農基法」から「新農基法」 へ
規制緩和の推進を農業政策の基本として受け入れるこ
の転換として、見通しをもって分析することができるよう
とを既定の前提として取り込んでいる。そして、この間
になった。
の現実の農政は、理念以前の前提として自由化と規制
1961 年に成立した「農業基本法」の前文は、「民
緩和を貫徹させる、これをレベル・アップして徹底する、
主的で文化的な国家の建設」にとっての農業および農
との方向を明瞭に示している。
業者の使命を高らかに謳いあげ、農業の近代化と合理
本書の課題は、このような「旧農基法」 から「新
化をすすめて農業従事者が他産業従事者と同等の生
農基法」への転換の意味を戦後農業・農政の歴史的
活を営むことができるようにすることは「公共の福祉を念
変遷の中に明らかにし、21 世紀の農地・農村問題へ
願するわれら国民の責務に属するものである」と宣言し
の展望を示すことである。課題の大きさからすると、な
ている。そしてこの目標を実現するため、農業経営規
しえたことはあまりにもわずかではあるが、グローバル化
模の拡大による自立経営の育成が主要な政策課題とさ
や農地問題という視角からの戦後農政の経済的分析、
れた。
農地や林地の法規制に関する法的・政策的視角から
しかし、その後約 40 年、経営規模の拡大は思うよう
の検討、中山間地や農業の担い手についての実態分
に進まず、逆に、耕作放棄地の増大や食料自給率の
析とそれに基づく課題・対策の提示、さらには農村空
低下など、わが国の農業生産基盤は現在崩壊の危機
間形成という新しい問題視角の提示などにより、「日本
に瀕している。そして、これは林業の長期にわたる不
農業のかかえる諸問題を多方面から考察する」という
振とあいまって、中山間地における地域社会の存続自
本研究会の特徴は十分反映させることができたのでは
体をも危うくしている。また、手入れされない人工林や
ないかと自負している。さらに、農業法分野の第一人
耕作放棄地の増加が防災や環境保全に与える影響に
者である原田純孝氏を招いての座談会は、本書本論
ついても、
最近ではよく知られるようになってきた。さらに、
部分の欠を補うとともに、現在の日本農業の姿と21 世
たとえ経営的には成功している場合にも、現代の農業
紀へ向けての展望について、単なる概観にとどまらない
経営は、多量の農薬使用や抗生物質漬けの家畜飼育、
多くの示唆を与えてくれる。
遺伝子操作による多様性の縮減など、環境や安全とい
10
※『龍大社研ニュース № 36(2001 年 2 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
しがき
は
第 1 章:グローバル化のなかの日本資本主義と地域・農業
3
Ⅰ グローバル化のなかの日本資本主義
3
1)グローバル化と市場原理主義
4
2)グローバル化の推進力=多国籍企業
6
3)経済統合と国家間競争
8
4)ウルグアイ・ラウンドから WTO へ
9
5)WTO 農業関連協定の意味するもの
10
6)グローバル化のなかの日本資本主義
12
Ⅱ 長期不況下の地域と農業
12
1)日本資本主義の構造転換
13
2)1980 年代バブル経済の深層
15
3)不良債権問題と土地・不動産市場の再編
17
4)地域間「制度切り下げ競争」の組織化
17
5)新農業基本法と新中小企業基本法
19
Ⅲ 「経済再生」戦略における都市と農村
19
1)国土政策における都市と農村
20
2)経済計画における都市と農村
21
3)地域再生をめぐる対抗
第 2 章:2 つの基本法と土地・農地問題
25
Ⅰ 農業基本法下の土地問題
1)前提―都市土地改革の挫折と農地改革の成功 25
29
2)都市化農地問題の発展
32
3)自作農的土地所有の変質
Ⅱ 新農基法の成立と土地問題―農地法の桎梏化とその意味 33
34
1)農地転用問題における高度成長の継続
2)土地の金融商品化と土地・農地問題の新展開 36
第 3 章:現段階の中山間地域農業問題と対策
42
Ⅰ はじめに
43
Ⅱ 中山間地域農業問題の現状と背景
43
1)担い手の脆弱化
48
2)耕境後退の激化と農地流動化の停滞
52
Ⅲ 中山間地域農業の生産条件
52
1)中山間地域農業の条件不利性
57
2)条件不利地域における地代形成力の喪失
58
Ⅳ 中山間地域農業対策の検討
58
1)これまでの中山間地域農業対策
61
2)中山間地域等への直接支払い制度
65
Ⅴ むすび
第 4 章:地域農業の変化と担い手構造の新局面
―京都府の実態を基礎にして―
68
Ⅰ はじめに――課題と限定
69
Ⅱ 検討対象を京都に限定することの妥当性とその意義
69
1)担い手をめぐる全国の状況と京都の位置
72
2)府内の地帯区分と検討対象地域の抽出
73
Ⅲ 地域農業における担い手の存在状況
73
1)1960 年以降の担い手構造の変化
77
2)今日における担い手の存在状況
82
Ⅳ 担い手をめぐる新しい変化の局面とその特徴
1)センサスでみる担い手の新しい変化の局面とその特徴 82
89
2)センサスには現れない新しい変化
93
Ⅴ 担い手構造の現局面の要約と農地制度上の課題
93
1)担い手の構造変動の現局面
95
2)担い手の再構成と農地制度の課題
第 5 章:農地法・農振法による農地転用制度の課題
99
Ⅰ はじめに
Ⅱ 農地法による農地転用規制と農振法による
100
利用転換規制の問題点
100
1)農地法による農地転用規制の問題点
101
2)農振法による利用転換規制の問題点
102
Ⅲ 98・99 年農地法・農振法改正の概要と特徴
1)98・99 年農地法改正の概要と特徴・問題点 102
107
2)99 年農振法改正の概要と特徴・問題点
Ⅳ 98・99 年改正によって改善された事項と改善されなかった事項 113
1)98・99 年改正で何が改善され、残された課題は何か 113
115
2)98・99 年改正によって生まれた新たな問題
116
Ⅴ おわりに
第 6 章:農地賃貸借に関する法制度的検討
――許可と契約をめぐる判例分析を中心に――
122
Ⅰ はじめに
122
1)問題の所在
123
2)方 法
124
Ⅱ 農地賃貸借に関する判例分析
124
1)農地法における賃貸借規定
125
2)許可基準
3)許可前賃貸借の効力と3 条賃貸借設定の許可の性質 126
130
4)賃貸借解除に関する 20 条解約許可
135
5)その他の農地賃貸借の解約
138
6)小 括
139
Ⅲ むすびに代えて
第 7 章:農業生産法人制度改革と「耕作者主義」
145
Ⅰ はじめに
147
Ⅱ 農地法体制の変遷と「耕作者主義」
149
1)1952 年農地法と「自作農主義」
153
2)1962 年農地法改正と「耕作者主義」
155
3)1970 年農地法改正と「耕作者主義」
4)1975 年農振法改正・1980 年「農地三法」と「耕作者主義」 158
160
Ⅲ WTO 体制下における株式会社参入問題
1)「新政策」関連二法における農業生産法人制度改革 160
2)ウルグアイ・ラウンド農業合意成立後の農業生産法人論議 166
3)「新農基法」体制下の農業生産法人制度改革 168
172
Ⅳ むすび―21 世紀の「耕作者主義」を求めて
第 8 章:森林保全と森林法の論理
―1951 年森林法における森林計画制度に関する覚書―
176
Ⅰ 問題の所在―森林保全とその法制度の課題
180
Ⅱ 旧森林法における森林保全制度とその問題点
185
Ⅲ 1951 年森林法における森林保全制度の再編成
185
1)GHQ ステートメントと森林法改正の課題
188
2)GHQ 勧告における森林保全の論理
191
3)森林計画と土地利用規制
195
4)林地所有権の制限と森林法の理念
Ⅳ むすびに代えて―1951 年森林法の今日的意義と射程 197
第 9 章:農村空間形成の現状と法的課題
―土地利用規制と地域づくりとの関連で―
204
Ⅰ はじめに
205
Ⅱ 構造立法の変容と農業・農地
205
1)分権化計画・地方自治法改正
208
2)答申と新農基法
209
3)省庁再編・国土交通省との関連で
210
Ⅲ 農村社会像形成の法制度について
211
1)農地法に関連して
214
2)農地空間と土地利用規制
215
3)とくに土地利用計画について
4)農村整備―土地改良法・圃場整備事業等を中心に 218
220
5)農村社会と住民―「地域」との関連で
222
Ⅳ まとめに代えて―空間形成と法律学の課題
228
座談会: 新農基法と農地・農業・農村問題のゆくえ
[出席者]甲斐道太郎/原田純孝/牛尾洋也/大泉
英次/豊田洋一/藤井洋一/見上宗洋
269
資 料: 食料/農業/農村基本計画
編者・執筆者紹介
編者
甲斐道太郎(かい みちたろう)
大阪市立大学名誉教授
見上 崇洋(みかみ たかひろ)
龍谷大学法学部教授
執筆者
大泉 英次(おおいずみ えいじ)
和歌山大学経済学部教授
山田 良治(やまだ よしはる)
和歌山大学経済学部教授
溝手 芳計(みぞて よしかず)
山口県立大学社会福祉学部教授
藤井 洋一(ふじい よういち)
関西土地問題研究会主査
豊田 洋一(とよだ よういち)
京都府農業会議総務課長補佐
牛尾 洋也(うしお ひろや)
龍谷大学法学部助教授
鈴木 龍也(すずき たつや)
龍谷大学法学部助教授
吉岡 祥充(よしおか よしみつ)
奈良産業大学法学部教授
原田 純孝(はらだ すみたか)
東京大学社会科学研究所教授
11
40
『中国経済改革と自動車産業』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 40 巻
河村能夫 編(昭和堂)
2001 年 1 月刊
260 頁
ISBN:4812200229
河 村 能 夫 (経済学部教授)
本書は、1996 年 4 月から 1999 年 3 月までの 3 年間
………………… 木南利莉(龍大・国際文化)
にわたって実施された、龍谷大学社会科学研究所指
第 3 章 日本の対中 ODAと日中関係
定プロジェクト「東アジアの経済発展と日本の役割」の
…………………… 金煕徳(中国社会科学院)
成果としてまとめられたものである。本プロジェクトの目
第 4 章 中国の経済発展と対中直接投資の役割
的は、東アジアの中でもとくに、改革・開放政策の採
……………………… 亀井正義(龍大・経営)
用以降、世界・日本にとって無視し得ない存在となりつ
第 5 章 中国の対外開放度にみる地域間格差:対
つある中国の経済発展と日本との関係を考察することに
外貿易の規模・成長・構造に関する因子分析
あった。従って、本プロジェクトは、中国社会科学院と
…………………… 李
の学術交流協定を軸とした日中共同研究として実施さ
第 6 章 中国における産業構造の変化と支柱産業
れ、日本側からは龍谷大学を中心に 10 名、中国側か
…………………………… 肖威(関西国際大)
らは中国社会科学院の 2 名の研究者が正規のスタッフ
第 7 章 中国経済改革と企業経営の課題
として参加した。
………………………… 井上宏(龍大・経営)
本プロジェクトでは、中国での実態調査に基づいた、
第 2 部 中国自動車産業の現状
異なる専門分野の研究者による多面的な実証研究を目
第 8 章 中国自動車産業における技術移転と企業
指した。実施した調査は、1997 年 3 月にメンバー全
屏(龍大学院・経済)
間分業:上海大衆汽車のケース
員が参加した中国自動車産業に焦点を当てた現地調
……………………… 伊達浩憲(龍大・経済)
査、1997 ∼ 1998 年の間に数度にわたって実施された
第 9 章 中国自動車産業における部品メーカーの経
メンバー個人の研究テーマに焦点を当てた現地調査、
営実態
1998 年末に中国社会科学院工業経済研究所との共同
……………………… 河村能夫(龍大・経済)
で実施された中国の自動車部品メーカーに対するアン
特記できる本プロジェクトの大きな成果の一つは、プ
ケート調査である。
ロジェクトメンバーである亀井正義教授を指導教授とす
この成果としてまとめられたのが、2 部構成の本書で
る当時の龍谷大学大学院経営学研究科博士後期課
ある。趙英氏(中国社会科学院)による第 1 章「21
程の学生であった肖威氏が、本プロジェクトへの参加に
世紀初期における中国経済の成長」の後、
以下の通り、
基づいて博士論文をまとめ上げ、2000 年 2 月に文部
第 1 部「経済改革と産業構造の変化」では、
グローバル・
省の研究成果公開促進費により著書『中国自動車産
マクロ・ミクロの各視点から中国経済改革の分析・評価
業の経営構造分析』(晃洋書房)を出版しえたことで
を行い、第 2 部「中国自動車産業の現状」では、中
ある。このような大学院教育と連動した研究プロジェクト
国の自動車産業に焦点を当てた実態調査に基づいて
は、龍谷大学の人文・社会科学分野における今後の
分析を行っている。
研究のあり方に示唆を与えるモデルになったと確信して
第 1 部 経済改革と産業構造の変化
いる。
第 2 章 東アジアにおける国際分業の構造:産業内・
企業内貿易の実証分析
12
※『龍大社研ニュース № 37(2001 年 10 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
えがき
ま
第 1 章: 21 世紀初期における中国経済の成長
1 21 世紀初期における中国の経済発展の目標と前提
2 21 世紀初期における中国の経済発展の課題
3 21 世紀初期における中国の経済成長の目標を
達成するための戦略
3
4
8
218
232
251
10
第 1 部:経済改革と産業構造の変化
第 2 章: 東アジアにおける国際分業の構造:
19
産業内・企業内貿易の実証分析
19
はじめに
1 国際貿易の類型
20
2 東アジア域内貿易の特性
23
3 産業内貿易、企業内貿易と海外直接投資
27
4 結語
34
37
第 3 章: 日本の対中 ODAと日中関係
1 中国の円借款導入へのプロセス
38
2 日本の対中 ODA の実績
44
3 冷戦後の日中関係と日本の ODA
52
59
第 4 章: 中国の経済発展と対中直接投資の役割
59
はじめに
1 中国経済改革の進展過程
60
2 対外政策の変遷と対中直接投資の活動状況
71
3 経済発展における最重要課題
80
4 外資側視点からの問題点
89
第 5 章: 中国の対外開放度にみる地域間格差:
対外貿易の規模・成長・構造に関する因子分析 97
1 本研究の背景と課題
97
2 本研究の意義と方法
98
3 対外貿易の規模・成長・構造に関する因子分析 103
4 各指標における地域間格差の実態検証
110
5 各指標間の相関関係
122
6 結び
128
133
第 6 章: 中国における産業構造の変化と支柱産業
1 産業構造の変化
133
2 中国の支柱産業
142
163
まとめ
165
第 7 章: 中国経済改革と企業経営の課題
165
はじめに
1 中国改革開放政策の展開と経済発展
166
2 中国社会と産業の現状と特質
171
3 中国の自動車産業政策と現状
175
4 現代中国企業の経営的特徴
179
5 経済改革の展望と課題
185
第 2 部:中国自動車産業の現状
第 8 章: 中国自動車産業における技術移転と
企業間分業:上海大衆汽車のケース
1 問題の所在
2 中国自動車産業の問題点
3 上海 VW における技術移転
4 上海 VW における国産化の問題点
5 まとめ
第 9 章: 中国自動車産業における部品メーカーの経営実態
1 課題と方法
2 自動車部品メーカーの立地環境と総体的形態
3 自動車部品メーカーの経営構造
4 自動車部品メーカーの総体的形態と
経営構造の関係構図
索 引
執筆者紹介
編者
河村 能夫(かわむら よしお)
谷大学副学長、同大学経済学部教授
龍
執筆者
趙 英(チャオ ユン)
中国社会科学院・工業経済研究所工業発展室副主任、国家
経済発展、経済リスク研究センター副主任
木南 莉莉(きみなみ りり)
龍谷大学国際文化学部助教授
金 煕徳(ジン イデウ)
中国社会科学院・日本研究所主任研究員、日本対外関係研
究室室長
亀井 正義(かめい まさよし)
龍谷大学経営学部教授
李 屏(リ フピン)
龍谷大学経済学研究科博士課程
肖 威(シャオ ウィ)
関西国際大学経営学部専任講師
井上 宏(いのうえ ひろし)
龍谷大学教授
伊達 浩憲(だて ひろのり)
龍谷大学経済学部助教授
193
193
194
201
205
210
215
215
13
41
『規制緩和と労働者・労働法制』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 41 巻
萬井隆令・脇田 滋・伍賀一道 編(旬報社)
2001 年 2 月刊
331 頁
ISBN:4845106779
萬 井 隆 令 (法学部教授)
沈滞している経済の活性化のために、という理由を
を継続・強化しようとしている。労働市場における個人
つけて、「規制緩和」という呪文さえ唱えれば何事も許
の自立性や選択の自由を認め、個性を重視した上での
されるかのような風潮がある。政府は多くの分野にわた
サポートシステムを構築するといった類のものも含めて、
る具体的な規制緩和項目を閣議決定し、その内容を次
そのような事態をリードしている理念・理論や、これまで
から次へと法制化、あるいは既存の法規制を撤廃して
の規制緩和の内容、労働者に対する影響を総合的に
いる。財界はそれを一層督励する提言や要望を次々提
厳密に分析し、必要であれば、立法論的課題の提起
起している。それと連携する形で規制緩和を提唱・推奨・
を行なう必要がある。
督励する論調が、社会や学界の一部でも声高になって
本書は、以上のような考えのもとに、大学と専門分野
いるように見られる。労働者保護法や雇用保障法にか
の枠を超えて集った 雇用の流動化と労働法制の『規
かわる分野も例外ではない。
制緩和』 研究グループのまとめである。
もとより産業構造や生産物・生産方法の変化、それ
第一章では、規制緩和にかかわる総括的な問題指
に対応した労働態様などの変化に照応して、労働分野
摘を行なった。第二章では、規制の緩和・弾力化、
でも、従来の規制方法や内容が変化すべきことは一般
雇用の流動化にかかわる国際的動向を概観・分析し、
的にはあり得ることだが、問題はその内容である。
国内における現状と労働者の状態・動向を統計の分析
労働分野で現実に進行している規制緩和は、内容
と現場の実態調査の双方からリアルに把握しようとした。
的にはほとんど例外なく、経営者団体の要望に対応す
第三章では、この問題にかかわるイデオロギーに焦点
るものとなっている。本来は、そのような改革にあたって
を当て、国際的動向を紹介し、また国内において展開
は、まず従来のどのような規制がいかなる意味で問題
されている規制緩和を推奨する理論を批判的に分析し
を生んでいるのか、について規制状況と労働現場の現
た。そして最後の第四章では、主要な問題点について、
状を調査・分析し、それに対していかなる理念でどの
規制緩和の具体的現われとその労働法上の理論的、
方向に法改正すべきか、その改革を行なった場合、ど
現実的問題点を法社会学・法政策学的な観点をもまじ
のような労働態様の変化とそれによる労働者の労働条
えながら分析し、若干の立法論的提起も行なった。
件の変化や生活への影響が予測されるか、が十分慎
規制緩和問題は労働のあり方を変革し、労働者とそ
重に検討されなければならない。しかし現実には、十
の家族の生活のあり方にも関わらざるを得ないすぐれて
分な調査・現状分析や検討は行われないまま、既に幾
実際的な問題である。したがってそれは、当然、労働
種類もの変形制導入による労働時間規制の緩和やそ
組合と労働運動にとっても重大な問題を提起している。
の時間規制すらを行わない裁量労働制の採用、労働
規制緩和問題については今後もなお、ホットな論争が
者供給事業や職業紹介事業の規制解除(労働者派
継続されるであろう。本書が、その論争に一つの方向
遣事業の原則自由化)が行われた。
を示し得ていれば幸甚である。
現在の法制改革は、規制緩和だけでなく規制強化
の面を含む規制の再編成である、という見解もあり、政
府は、名を 規制改革 と改めつつ、さらに規制緩和
14
※『龍大社研ニュース № 37(2001 年 10 月)』の再掲載
目次
はしがき
CONTENTS
3
第 1 章: 規制緩和政策と社会的人権ならびに労働法の課題 11
1「経済のグローバル化」
・規制緩和の展開と
12
労働法の改編
2「規制緩和」から「社会的規制の補強」へ 15
17
3 対応の原則的立場と具体的方策
22
4 労働法の現代的意議と「守るべき価値」
31
第 2 章: 雇用の弾力化・規制緩和の展開と労働者
第 1 節:雇用の弾力化、規制緩和の展開と現状
32
―欧米先進国の動向、日本の特徴
1 構造調整政策から雇用の弾力化、規制
32
緩和政策へ
35
2 雇用の弾力化、規制緩和の意味するもの
39
3 雇用の弾力化、規制緩和はどのように
すすんだか
4 日本における雇用の弾力化と規制緩和の展開 49
58
第 2 節:規制緩和・弾力化の展開と人事労務管理
1 規制緩和の推進と人事労務管理の再編を
58
めぐる動向
2 雇用関係の規制緩和と非正規労働者の
62
利用の拡大
70
3 職業紹介事業の規制緩和と雇用管理
72
4 解雇規制の現況と人員削減の進行
5 労働時間の弾力化・規制緩和と労働時間管理 75
6 賃金・労働費用における規制緩和・弾力化と
82
賃金管理
88
7 規制緩和と労働行政、労使関係
97
第 3 節:雇用の弾力化と労働者・労使関係の現状
1 リストラ・雇用の弾力化のなかの労働実態
98
―事例調査からみる
109
2 深まる雇用不安・働き過ぎ・賃金引き下げ
114
3 雇用の弾力化と労働組合、労使関係
第 3 章: 雇用の流動化・規制緩和をめぐる理論の諸相 119
第 1 節:経済のグローバリゼーションとILO および
120
EU の動向
120
1 現状をどうみるか
2 労働権保障をめぐる ILO および EU の立法動向 123
134
3 ILO および EU の立法動向と今後の課題
第 2 節:雇用・労働分野における規制緩和
139
推進論とその検討
139
1 雇用・労働分野における規制緩和論
146
2 市場原理主義と労働市場法論
153
3 労働市場法論の検討
175
第 4 章: 労働者保護法制と規制緩和:現状と課題
176
第 1 節:労働者保護法制の原則と規制緩和
179
1 労働者保護法制の性格と労使自治論
183
2 現行の労働者保護法制の評価
192
第 2 節:労働契約法制と規制緩和
193
1 労働契約の締結
197
2 期間の定めのある契約
3 営業譲渡など企業組織の変動と労働契約の承継 203
218
第 3 節:派遣・職業紹介法と雇用保障法制の緩和
218
1 規制緩和の対象としての職業安定法
221
2 労働者派遣法改正をめぐる動き
3 有料職業紹介事業と職業安定法の改正
第 4 節:解雇法制と規制緩和
1 解雇権濫用法理の内容と構造
2 解雇規制緩和論の特徴と問題点
3 解雇の本質と規制のあり方
第 5 節:労働時間法制と規制緩和
1 労働時間制度の意義
2 労働時間法制の変遷/現状と問題点
3 立法の向かうべき方向と課題
4 労働行政上の問題点
第 6 節:女性労働法制と規制緩和
1 女性保護規定の廃止をめぐる経緯と議論
2 労基法改正等による新たな共通規制
3 男女雇用平等の促進と均等法
4 女性労働法制の今後の展望
235
247
248
251
259
273
275
277
292
301
308
309
315
319
325
著者紹介
編者
萬井 隆令(よろい たかよし)
龍谷大学法学部教授
脇田 滋(わきた しげる)
龍谷大学法学部教授
伍賀 一道(ごか かずみち)
金沢大学経済学部教授
著者
片岡 曻(かたおか のぼる)
京都大学名誉教授
浪江 巌(なみえ いわお)
立命館大学経営学部教授
中島 正雄(なかじま まさお)
京都府立大学福祉社会学部教授
松尾 邦之(まつお くにゆき)
香川大学法学部助教授
吉田美喜夫(よしだ みきお)
立命館大学法学部教授
奥田 香子(おくだ かおこ)
京都府立大学福祉社会学部助教授
15
42
『企業法務の実態と課題:京都・大阪・神戸調査』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 42 巻
武久征治・西尾幸夫 編(法律文化社)
2001 年 3 月刊
228 頁
武 久 征 治 (法学部教授)
龍谷大学で 1997 年に発足した「企業法務研究会」
声を間接ながら聞くことにあった。
は、商工会議所に登録されている資本金 3,000 万円以
もちろん、法的問題の現れ方は、企業毎に千差万
上の企業を対象に、1997 年 7 月に京都市、1998 年 12
別であり、容易には一般化できない。したがって、我々
月に大阪市、さらに 2000 年 2 月に神戸市において、企
の調査にも限界のあることは明らかである。ただ、大学
業経営における法意識を中心としたアンケート調査を行っ
という社会的責任の一端を担う私たちも、リーガルマイ
た。本書は、それら三市のアンケート調査の目的・内容、
ンドをもった人材の育成だけでなく、企業における法務
その集計結果および分析結果をまとめたものである。
社員の育成にも具体的な提言や助言を行うことが望ま
調査の目的は、主として、中小企業における法務の
れる。私たちの調査はその一歩にすぎない。これから
実態を探ることにあった。大企業の法務については、た
も継続することの必要性を痛感している。
とえば経営法友会が数年ごとにその実態調査を行い、
なお、我々の研究会は以下のメンバーからなる。
(アイウエオ順)
詳細な報告書を公表している。これらの調査は、上場
企業を中心とし、会社内部の課または部として「法務」
石井 幸三(龍谷大学法学部教授)
を設置している企業に対して、そこで取り扱われる法
今木 隆生(堀場製作所知財部チームリーダー・弁
律問題、法務の構成や会社における位置づけを対象と
理士・龍谷大学法学部大学院講師)
している。ところが、これらの大企業をのぞく中小企業
國友 順市(大阪経済大学教授)
の法務の実態については、ほとんど取り上げられてこな
小柿 徳武(龍谷大学法学部助教授)
かった。さまざまな法律制定(改正)に際しては、各
高野 光泰(元松下電器産業㈱法務部長・龍谷大
経済団体を通して、その実態が立法に反映されるとい
学法学部大学院講師)
うメカニズムは存在するが、それらは特定問題に限定さ
武久 征治(龍谷大学法学部教授)
れ、そこからは必ずしも企業、とりわけ中小企業の意向
辻本 勲男(元オムロン㈱法務・知的財産権本部長・
や傾向を推し量ることはできない。
昨今の変動の激しい経済状況の下で、どのような企
業も債権回収に対する不安を抱え、不当な値引き・抱
現龍谷大学法学部教授)
土屋 隆生(元三洋電機㈱法務部参事・龍谷大学
法学部大学院講師)
き合わせ販売等を経験しながら、商標・特許権の積極
永良 系二(龍谷大学法学部教授)
的行使の必要性などを身にもって感じていることが、調
西尾 幸夫(関西学院大学法学部教授)
査から伺える。いわゆる市場構造の大きな変化や価格
板東 正男(ミノルタ㈱営業部長・元法務室長・弁理士・
破壊の下では、大企業もこれらの現象には敏感になら
龍谷大学法学部客員教授)
ざるを得なくなっているが、中小企業も集団的・個別的
にそれらに対処すべきだと痛感している。折しも、司法
アンケート項目の設定・調査分析は、研究会メンバー
改革が議論され、その一つとして、法務の一端を担う
においてこの 3 年間にわたりほぼ毎月の研究会で検討
弁護士のあり方、司法書士・弁理士・税理士の職務
を重ねた結果であり、本書の文章もその検討結果に負っ
権限の見直し、裁判所による解決だけではなくADR の
ている。京都と大阪の調査結果については、すでに龍
解決方法等々が取り上げられている。そこでは、「声な
谷法学 31 巻 2 号 173 頁以下、33 巻 1 号 84 頁以下
き声」をいかに汲み上げ、法的な権利・義務にまで高
に掲載したが、本書は、これらに神戸調査を加え、さ
めていくかが問われている。私たちの調査は、これらの
らに検討を重ねたものである。
16
※『龍大社研ニュース № 37(2001 年 10 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
はしがき
1
第 1 章: アンケート調査の目的と質問項目
1
1 アンケート調査の目的
3
2 アンケートの質問項目
5
第 2 章: アンケートの発送と回答企業の分類
5
1 アンケートの発送と回答数
5
2 回答企業の分類
10
第 3 章: 各回答項目の概要(大阪調査を中心として)
10
1 法の意識と法に対する印象
20
2 法的紛争とその対策
41
3 知的財産権について
4 知的財産権の神戸調査と大阪調査・
55
京都調査の比較
5 新規事業および海外事業への対応(問 30 ∼問 36) 57
66
6 専門スタッフの活用(問 37 ∼問 47)
第 4 章: 企業規模に基づく類型としての法務実態と諸課題 82
94
おわりに
資 料
編者
武久 征治(たけひさ せいじ)
龍谷大学法学部教授
西尾 幸夫(にしお ゆきお)
龍谷大学法学部教授
17
43
『地域経済のダイナミズム:京都の市民と企業』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 43 巻
井口富夫 編(日本経済評論社)
2000 年 8 月刊
203 頁
ISBN: 4-8188-1306-0
井 口 富 夫 (経済学部教授)
1 地域研究を実施
を強調しながら、京都の変化が企業活動・住民生活
本書は、1997 年 4 月に発足した「京都市とその周
に与える影響について検討を加えた。
辺地域に関する経済学的研究」と題する研究会(通
「第 2 部 創造性の発揮」においては、
現代の社会・
称、京都南部研究会)の報告書である。京都南部と
経済を取巻く激しい動きの中で、京都の産業・企業が、
は、京都府の南半分を指し、京都市と周辺地域を意味
従来とは基本的に異なった、いかなる新しい試みを展
している。京都南部研究会が、最初に発足したのは、
開しているか、その結果、地域の市民生活はどのよう
1986 年 8 月であった。発足以来の本研究会の成果と
な影響を受けているかを考えた。
しては、本書が 3 冊目に当たる。
執筆者は、井口富夫、中村尚司、山田順一郎、守
本研究会のメンバーは、龍谷大学経済・経営両学
屋晴雄(以上、龍谷大学)
、M. L. シュレスタ(甲南
部と京都経済研究所に所属し、地域経済研究に関心
大学)
、明石芳彦(大阪市立大学)
、花田真理子(立
をもつ研究者が中心になり、さらに教育・研究両面で
命館大学)
、
長谷川修三(京都銀行)である。(執筆順)
龍谷大学に係わりの深い研究者の応援を得て構成され
ている。
4 多難な地域研究の継続
本研究会のメンバーが所属する京都経済研究所の
2 京都の経済と生活を考える
親会社である京都みやこ信用金庫が、経営破綻に陥っ
本書の目的は、全国的な動き、世界的な変化に加え
た。多くの破綻事例をみると、無能な経営者による経
て、地域独自の変化を総合的に把握しこれらの諸変化
営の失敗が破綻の原因であった。近所で、このような
が、産業・企業の活動に如何なる影響を及ぼしてきたか、
事例が発生すると、
コーポレート
・ガバナンスとリーダーシッ
さらに産業・企業活動への影響を通じて、地域の住民
プのあり方が、改めて問われているように切実に感じら
生活の経済的利益にいかなる変化が生じたか、等々に
れる。大学の破綻も、決して他人事ではないのかも知
ついて検討することであった。このような議論は、地域
れない。
住民の今後のより一層の生活向上のためには、どのよう
龍谷大学社会科学研究所は、1969 年の創設以来
な地域経済のあり方が望ましいのかを探る必要があると
一貫して、大学が立地する地元経済を対象に、地域
考えたからであった。
経済研究を継続してきた。本研究会も、4 冊目の成果
「歴史都市」
として抱える固有の問題点(ないし制約)
を目指して既に歩み始めているが、研究会を取り巻く環
を前提にしながら、各章において京都市とその周辺を
境は徐々に劣悪になりつつある。
研究対象として、ケース・スタディを行なった。
3 本書の構成
本書は、2 部 8 章からなっている。「第 1 部 伝統
の中の革新」では、従来からの伝統の上に立って、新
しい試みが芽生えてきた、ないし芽生えつつある側面
18
※『龍大社研ニュース № 36(2001 年 2 月)』の再掲載
目次
序章:
1
2
3
CONTENTS
京都の経済活動と市民生活
変化する京都の経済と生活
伝統と新しさの共存
地域の経済と生活:本書の概要
1
1
6
8
第 1 部:伝統の中の革新
第 1 章:伝統産業と知的財産
―デジタルアーカイブ事業の可能性を考える―
1 「歴史都市」京都とデジタルアーカイブ事業
2 「デジタルアーカイブ」とは
3 京都デジタルアーカイブ推進機構
4 ニュービジネスに向けて
5 転換する「京の伝統」
第 2 章: 皮革産業から自動車解体業へ
1 静脈産業と部落差別
2 皮革産業の衰退
3 崇仁地区の皮革産業
4 自動車解体業とリサイクル
第 3 章:地域の拠点としての郵便局ネットワーク
1 注目される郵政 3 事業のあり方
2 郵政省の業務と郵便局ネットワーク
3 郵便局ネットワークとは
4 京都市における郵便局ネットワーク
5 地域の拠点としての郵便局
6 IT 革命と郵便局ネットワーク
7 郵便局ネットワークの今後
補論: 郵政 3 事業の民営化問題
第 4 章: 創造と革新に挑戦する地域商業
1 ダイナミックに構造的に変化する小売業
2 京都商業のダイナミズム
3 商業政策の転換
4 街づくりの創造
5 創造と革新に向かって
第 2 部:創造性の発揮
第 5 章:地域と大学をつなぐリサーチパーク
1 京都リサーチパーク
2 産学連携の結節点としてのリサーチパーク
3 リサーチパークと地域との結びつき:
結びに代えて
第 6 章:環境政策の潮流とエコ・ビジネスの動向
1 環境政策の潮流
2 エコ・ビジネスの現状と動向
3 京都におけるエコ・ビジネス
4 京都のエコ・ビジネスの展望
第 7 章:高齢化社会における福祉用具と地域
1 本章の意図と構成
2 地域概念の考え方
3 福祉用具の概念と特質
4 福祉用具と市場
5 京都の実情
6 本章の確認
第 8 章:金融システム改革と農業協同組合
1 ビッグバンの進行と農業協同組合
2 農協の業務と組合数の推移
17
18
21
24
26
31
34
37
43
53
54
56
58
64
66
70
71
79
82
84
88
93
3
4
5
6
7
8
範囲の経済性とは
金融機関における範囲の経済性:
これまでの実証研究
測定方法とモデルの定式化
実証分析
ビッグバンと農協経営
研究対象としての有望な農協
185
地域研究の継続:あとがき
201
187
190
192
195
197
執筆者一覧
編者
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学
執筆者
マノジュ.L.シュレスタ
甲南大学
中村 尚司(なかむら ひさし)
龍谷大学
山田順一郎(やまだ じゅんいちろう)
龍谷大学
明石 芳彦(あかし よしひこ)
大阪市立大学
花田眞理子(はなだ まりこ)
立命館大学
守屋 晴雄(もりや はるお)
龍谷大学
長谷川修三(はせがわ しゅうぞう)
京都銀行
101
107
115
121
129
136
151
157
158
159
163
167
174
179
181
19
44
『中国のコンピュータ産業』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 44 巻
本田英夫 編(晃洋書房)
2001 年 3 月刊
260 頁
本 田 英 夫 (経営学部教授)
『中国のコンピュータ産業』(晃洋書房)は、1997 年
から 4 年間の龍谷大学社会科学研究所指定研究「中
な経済発展には IT・コンピュータ産業の活用がなけれ
国における企業経営の情報化と情報産業」の研究成
タ産業の研究を中国研究者 3 人を加えた 9 人で行った。
果である。
以下は各章のあらましである。
第 1 章の「中国のコンピュータ産業政策」は、政
中国経済は 1978 年末の改革・開放政策の転換以
降、その経済発展はすさまじく、90 年代の半ばに入っ
ても7%以上の GDP をあげる状態であった。当然この
間に中国の産業構造は大きく変わり、国営企業中心で
ば不可能な時代を迎えていた。我々は中国のコンピュー
府のコンピュータ産業政策の基本的特長を明らかにし、
税制等の優遇政策、ソフトウェア産業育成政策などの
分析を行い、第 2 章の「中国計画経済体制における
競争を否定し生産・流通を国の管理のもとで実施する
企業の情報利用」は計画経済体制期の情報化および
体制(中央集権的産業体制)から、企業の自主性を
認めるとともに競争原理を導入し外資との提携をみとめ
企業情報システムの発展の歩みを情報化と工業化が同
時に進展した中国特有の状況のもとで分析し、第 3 章
るいわば「準資本主義体制」へと変化した。このよう
の「中国企業情報化の現状と課題」は 1990 年代の
な経済構造の変化は「静かな革命」と呼ばれても良
企業情報化の現状を技術環境変化などの角度から分
析し、第 4 章の「中国の産業構造とコンピュータ産業」
いほどのものであり、これは鄧小平氏の最大最高の功
績といわれている。もちろんこうした変化は 1978 年末
は中国の産業構造の特徴、産業構造における電子工
の改革・開放政策の転換によりすぐに形成されたわけ
業、コンピュータ産業の位置と特徴さらにはコンピュータ
ではないし、むしろいくたの経済矛盾と激しい論争・対
立(第 1、2 の天安門事件など)を経て「社会主義
産業の歴史と現状を分析し、第 5 章の「外国企業直
接投資の中国コンピュータ産業に対する影響」は外国
的市場経済システム」が構築されたのである。
企業の直接投資の現状と中国コンピュータ産業に対す
我々の研究は劇的に変化した中国経済の中で、コン
る影響について多面的に分析し、第 6 章の「中国主
ピュータ産業がどのように発展し、また現在如何なる問
要コンピュータ企業と企業家」はコンピュータ産業の構
題点を抱えているのかを追求したものである。中国経済
成、コンピュータ製品別ランキングなどを通してコンピュー
を研究対象とした時に労働問題、国有企業の経営問
タメーカの現状を明らかにし、聯想、長城、北大方正
などの経営戦略を分析し、第 7 章の「中国における半
題、産業構造問題、さらには金融・銀行問題など多岐
にわたる問題を考えたが、しかし最終的には最もグロー
バルな産業として急速に発展をしている IT・コンピュー
導体の需給」は情報化のためのツールとしての情報機
タ産業を取り上げる事にした。コンピュータ産業は中国
らその需給状況の現状と歴史を分析し、第 8 章の「台
においては軍事的な目的によりスーパー・コンピュータが
非常に発展していたが、他方 1980 年代後半期以降に
品生産額において台湾の情報産業の現状と発展要因
器に組み込まれる半導体について飛び地概念の視角か
湾における情報産業の現状と展望」はコンピュータ製
的産業としての地位を獲得した。
を分析し、台湾と中国の関係、アジアの中での台湾の
位置について明らかにし、第 9 章の「中国におけるイ
コンピュータ産業のこうした急速な発展の背景には、
ンターネットの現状」は中国におけるインターネットの導
パソコンの開発が進み、1990 年代に入るとそれは中心
政府による自由経済地域の創設、税制面の優遇、銀
入期、成長期の状況を明らかにし、インターネット環境
行などの融資体制、外国資本の導入と提携など政府
変化、ポータルサイト環境変化、電子商取引などの分
の手厚い保護が存在していた。と同時に国内のコン
析を行った。
ピュータ需要が一気に高まったことも重要な点であった。
全体的に中国の WTO 加盟後の変化を念頭におい
各産業がコンピュータを積極的に導入し、今や継続的
て執筆されている。
20
※『龍大社研ニュース № 38(2002 年 3 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
第 1 章 中国のコンピュータ産業政策
1 中国の経済改革・開放と産業政策
1
2 中国のコンピュータ産業政策
7
第 2 章 中国計画経済体制における企業の情報利用
1 中国の計画経済体制と企業経営
42
2 計画経済体制における企業情報利用の一般情況
45
3 科学技術情報中心の企業情報利用
50
4 改革開放による科学技術情報システムの発展
55
5 現代企業情報システムの芽生え(1)
57
6 現代企業情報システムの芽生え(2)
64
7 中国の企業情報システム発展の課題
69
第 3 章 中国企業情報化の現状と課題
1 中国企業情報化の簡単な歴史的回顧
71
2 中国企業情報化の技術環境変化
75
3 IT 企業の急速な成長
78
4 国有企業の情報化
82
5 ERP の導入と急速な発展
85
6 企業情報化の実態調査について
94
7 電子商取引時代の到来
98
8 中国企業情報化の今後の発展
107
第 4 章 中国の産業構造とコンピュータ産業
1 はじめに
115
2 産業構造におけるコンピュータ産業の位置づけ 116
3 コンピュータ産業の歴史
125
4 コンピュータ産業の現状分析
132
5 おわりに
135
第 5 章 外国企業直接投資の中国コンピュータ産業に
対する影響
1 中国コンピュータ産業における直接投資
137
受け入れの概況
2 外国企業直接投資が中国コンピュータ工業
141
発展に与えた促進効果
3 外国企業直接投資が中国民族電子工業に
147
もたらした衝撃
4 結論
148
第 6 章 中国主要コンピュータ企業と企業家
151
1 中国コンピュータ産業の概況と主要企業の特徴
2 主要 PC メーカーの概略と戦略
157
3 主要ソフトウエア企業の概略と戦略
174
4 企業家の世代交代と経営スタイル
183
第 7 章 中国における半導体の需給
1 本章の課題と構成
187
2 半導体の基礎的知見
189
3 中国における半導体の需給
192
4 NEC 合弁企業の実例をめぐって
201
5 飛び地 概念の視角から
206
6 本章の合意
213
第 8 章 台湾における情報産業の現状
1 はじめに
219
2 東アジア地域の経済
220
3 アジアにおける通信インフラ構築の競争と協力 223
4 台湾経済
223
5 台湾の情報産業
227
6 むすび
242
第 9 章 中国におけるインターネットの現状
1 はじめに
245
2 インターネットの導入期(1998 年末頃まで)
245
3 インターネット成長期の状況(1999 年から今まで) 248
4 成長期における環境(1999 年以降)
250
5 今後の発展に向けて
258
執筆者紹介
編者
本田 英夫(ほんだ ひでお)
龍谷大学経営学部教授
執筆者
胡 榮安(コ エイアン)
西安電子科技大学経済管理学院副教授
李 東(リ トウ)
北京大学光華管理学院副教授
大西 謙(おおにし けん)
龍谷大学経営学部教授
謝 暁霞(シャ ギョウカ)
中国社会科学院工業経済研究所副研究員
中川 涼司(なかがわ りょうじ)
立命館大学国際関係学部教授
守屋 晴雄(もりや はるお)
龍谷大学経営学部教授
和多田淳三(わただ じゅんぞう)
大阪工業大学工学部教授
辛 在卿(シン ジェギョン)
京都創成大学経営情報学部助教授
21
45
『交錯する国家・民族・宗教:移民の社会適応』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 45 巻
戸上宗賢 編著(不二出版)
2001 年 3 月刊
285 頁
ISBN4835003063
戸 上 宗 賢 (経営学部教授)
本書は 1997 年 4 月から 2000 年 3 月末日までを所定
の研究期間とする共同研究『日本近・現代における移
民事象の動向と国際関係─学際的共同研究─』の成
果刊行物である。研究資金は「龍谷大学:人間・科学・
宗教研究助成積立金」によるものであり、収められた
各論文は学内外 8 名の共同研究参加者により分担執
筆されたものである。
この共同研究の主たる目的は、近・現代において自
国から他国へと移住をした人々を対象に、その理由や
動機を尋ね、あるいはまたそれらの人たちが移り住んだ
現地社会において自らの民族性や文化、宗教と現地の
それらとの間に、さらには国家観念やその枠組み、あ
るいは国籍などについても自らが携えてきたものと現地
社会のそれらとの間に、どのような緊張や葛藤の関係、
あるいは状況があったのかを可能な限り探求してみよう
と考えたのである。さらに、現地社会の文化の諸相に
対して移民がいかに適応しようとしたか、あるいはでき
なかったとしたらそれはどういう点についてであったの
か、なぜ、といった事柄を考察することであった。
『交錯する国家・民族・宗教─移民の社会適応
─』というタイトルの由来もまた概ねそうした研究目的
にかかわっているのである。次に、日本近代における
歴史的かつ重要な事実として移民事象が存在すること
が強く意識され、一般的にも注目されるようになって来た
のはまだそれほど古いことではない。せいぜい 10 年余
か多くても 20 年位を数えるのみであろう。むろん、移
民研究を専門領域とし、アメリカ研究やその他の地域
研究に携わって来られた研究者、特に移民事象を中心
課題として業績を残されていることに全く無関心であっ
たのではない。むしろそうした知的蓄積の存在が今日
の移民研究の貴重な基礎となっており、またそれらの先
行研究を措いてはこの領域の今後はないに等しい。
また日本近・現代とは言うが端的に言ってそれは 20 世
紀という時代を指している。その大半はふたつの大きな
戦争とそして束の間の平和を享受できた戦間期、さらに
は第 2 次大戦後の約半世紀にまたがる時期を暗黙の裡
に意識している。その 20 世紀のそれぞれの時期に海外
の日本人や日系人はそれぞれの場所でさまざまな経験と
辛酸を味わってきた。他方、現在の「在日」の人々や
その先祖にあたる人たちもまた、いわれなき偏見と差別の
なかに身をおかざるを得なかった。一方が他方を強圧的
に支配したり、二国間双方の関係が対立や葛藤状態か
22
らさらに複雑かつ波乱を含むようになって、やがて最悪の
戦闘状態に入った場合には相手国出身の移住者とその
家族や子孫がもっとも大きな犠牲者となったのである。
今日の国際情勢はそうした過去に起きたさまざまな、
しかも生々しい人間的・社会的な出来事を時として忘れ
させるような変化の中にあるかに見える。しかし、その
中には容易に解決の糸口の見えない問題がいくつも横
たわっている。民族と宗教の相容れない対立もそのひと
つであろう。それ自体は直接「移民」事象とは関係が
ないかもしれない。しかし、異なる民族や宗教や文化
が交錯する状況を呈しているなかで生起するという点で
は共通する問題をはらんでいる。この共同研究は「移
民事象」が主対象であるから現在の国際情勢のなか
にある民族や宗教の対立にまでは言及していない。し
かし、正直申してそうした現代という時代が抱えるある
種の深刻な問題状況を研究期間中はもちろん、いまな
お絶えず研究関心の範疇に入れている。
ところで、本書の内容を簡潔に示しておく。第 1 部
は移民をめぐっていつの場合にもかなり熱のこもった議
論が交わされる問題をとりあげた。すなわち、移民の
民族性、
いわゆるエスニシテイと彼らにまつわる国家(そ
こには出自国と移住先のそれとの二重性がある)の
問題である。各章それぞれの執筆担当者は自己の研
究歴に基づいた視点を用いて意欲的な取り組みをおこ
なっている。第 2 部はこの研究のファンドが
『人間・科学・
宗教』研究助成であることから、その趣旨に多少とも
合致するようなタイトルの論稿によってなりたっている。む
ろん、それは結果であって最初から必ずしも予定したり
意図したわけではなかった。宗教、教育、それらの文
化的変容の過程が「移民」 事象の歴史的・社会的
現実のなかでどのような様相を呈してくるのかを具体例
を挙げながら明らかにしようとしている。
本書の序文、そして「あとがき」にも繰り返しのべた
ことであるが、共同研究の成果として本当のことを言え
ば今ひとつ不十分であった。研究代表として、また編
著者として深く反省している。それは出移民地域の送
出要因の分析がほとんど本書に収録できなかったこと、
昨今の日系外国人の受け入れに関する取り扱いが全く
できなかったこと、などをはじめとしていくつかの問題点
を残している。もし機会を得ることができれば、成る可
く速やかにそれらについて再論するなり公にして大方の
批判に応えねばならないと考えている。
※『龍大社研ニュース № 37(2001 年 10 月)』の再掲載
目次
CONTENTS
7 序論
第 1 部 国家/民族性(エスニシティ)と「移民」
第 1 章 帰化行政に見られる日本政府の韓国・朝鮮人
処遇対策
17
はじめに
1 在日韓国・朝鮮人の根源
19
2 潜在的犯罪者集団としてのレッテル
24
3 「特別永住者」の誕生
27
4 帰化行政
28
5 帰化申請で経験する心の葛藤
33
6 帰化に踏み切る理由
35
7 戦後補償裁判における進展
38
8 在日韓国・朝鮮人の将来
39
第 2 章 在米日本人移民の帰化訴訟にみるエスニシティの創出
―文化同化の多重性と可変性―
45
はじめに
1 帰化法の整備
48
2 小沢孝雄帰化訴訟事件
51
66
おわりに
第 3 章 植民地下新義州在住日本人の異文化接触
73
はじめに
1 新義州の建設と在住日本人の動向
74
2 新義州における異文化接触
83
3 引揚げ後の異文化接触
91
4 おわりに
95
第 4 章 シカゴの日系人社会と意識構造
99
はじめに
1 シカゴにおけるエスニックの分布状況
101
2 シカゴの日系人・日本人組織の成立過程
107
3 日系人のエスニシティ
114
4 日系人に対する差別
118
5 日系人コミュニティの将来
120
6 日系人の人権活動
122
124
7 シカゴにおける日系企業と日系アメリカ人との関係
8 日系アメリカ人の宗教意識
126
131
まとめにかえて
第 7 章 トロント仏教会(TBC)と日系人
―再定住期を中心に―
はじめに
1 背景
2 再定住
3 トロント仏教会(TBC)
4 仏教徒としての意識
おわりに
第 8 章 ウラジオストクにおける日本人の教育と宗教
―浦潮斯徳日本小学校と本願寺―
1 ウラジオストクへの日本人移民と
浄土真宗本願寺派開教
2 浦潮斯徳日本小学校の動向と特徴
213
215
220
225
229
236
243
247
執筆者紹介
編者
戸上 宗賢(とがみ むねよし)
龍谷大学経営学部教授 同社会科学研究所長
執筆者
李 洙任(リー スーイム)
龍谷大学経営学部助教授
粂井 輝子(くめい てるこ)
白百合女子大学文学部教授
木村 健二(きむら けんじ)
下関市立大学経済学部教授
横山 勝英(よこやま かつひで)
龍谷大学経営学部教授
島田 法子(しまだ のりこ)
日本女子大学文学部教授
飯野 正子(いいの まさこ)
津田塾大学学芸学部教授
小島 勝(こじま まさる)
龍谷大学文学部教授
第 2 部 宗教・文化・教育と「移民」 の社会適応
第 5 章 アメリカの宗教風土と東洋宗教
―仏教のアメリカ化について―
1 異境の地に異教が伝播して
145
2 アメリカへの仏教東漸
152
3 日系アメリカ人と仏教
160
4 日本仏教のアメリカ化
167
5 未完の仏教のアメリカ化
170
第 6 章 20 世紀初頭のハワイにおける仏教開教と文化変容:
―『同胞』に見られるアイデンティティの変化を中心に
179
はじめに
1 仏教の布教開始―キリスト教との競合
181
2 仏教とナショナル・アイデンティティ
183
3 仏教とグローバル・アイデンティティ
188
4 プランテーションにおける仏教受容
192
5 仏教とエスニック・アイデンティティ
197
202
おわりに
23
46
『参加型開発:
貧しい人々が主役となる開発へ向けて』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 46 巻
斎藤文彦 編(日本評論社)
2002 年 3 月刊
248 頁
ISBN: 4-535-55252-5
斎 藤 文 彦 (国際文化学部教授)
先進諸国から途上諸国にたいして実施される国際
与えた。本書は参加型開発についての日本語における
協力を、より効果のあるものとするためにはどうすれば
最初の書籍となり、翌年には佐藤寛編『参加型開発
よいであろうか。この課題は、本書のもととなった共同
の再検討』(アジア経済研究所)が刊行された。そし
研究の発足時である 1998 年においても、また 21 世紀
て、同年 11 月には日本国際開発学会の 1 つの分科
となった今日においても、極めて重要な問いかけであ
会において、斎藤と佐藤との意見交換がなされ、参加
る。本書は 1998 年度から 2000 年度にかけて、龍谷
者からは大きな反響をえた。また 2006 年 3 月には「農
大学・社会科学研究所の研究助成をうけて実施された
家参加型アプローチの現状と展望」と題した日本熱帯
共同研究が基盤となっており、2002 年 3 月に刊行され
農業学会の公開シンポジウムにて斎藤が講演し、本書
た。1990 年代において主要な潮流となった参加型開
の提起する課題の関する討論が繰り広げられた。加え
発とは、それ以前のように援助する側が主導する開発
て本書は政府開発援助(ODA)にかかわる関係者や
に代わって、援助を受け取る途上国の貧しい人々自身
NGO 職員にも広く読まれ、重版を刊行以降も重ねてい
が主体的に取り組む開発のありかたを追求しようとした。
る。
参加型開発とはその意味で非常に大きな考え方の転換
最後に、本書刊行以降の参加型開発の意味合いに
を意味したが、しかし途上諸国の厳しい現実の前では、
関して若干述べる。開発過程における参加は、人々の
その実現は容易ではない。実際には理想と現実の乖離
主体性の回復を重視するという指摘であるため、近年
も決して少なくはない。
では、参加という用語に代わり生計アプローチと呼ばれ
本書は、大きく分けて 2 部構成となっている。第 1
る考え方が開発研究では盛んに議論されている。さら
部では、第 1 章は開発観の変遷と「参加」の登場を、
に、参加は当然のことながら社会や国家との関係でお
第 2 章は参加型開発の今日的意味合いを、
第 3 章では、
こるために、
市民権(シティズンシップ)もキーワードとなっ
各種の農村開発査定方法を中心とする方法の模索に
ている。これは開発研究が、主体性の確保を権利と義
ついて、それぞれ考察している。第 2 部では、さまざ
務の総体としてとらえようとしていることを意味している。
まな事例研究をとりあげている。第 4 章は、西アフリカ
このような変遷が世界的研究動向であるが、他方日本
のニジェールとブルキナファソの NGO の取り組みからみ
の開発研究においては生計アプローチや市民権の議論
る開発ワーカーの関与のあり方を、5 章では小規模金
はまだ始まったばかりである。その意味においても、参
融による住民の主体的地域開発の可能性と限界を、6
加というテーマを再度考察することは重要であり、今日
章はガーナの女性活動からみる共感を呼びおこすコミュ
においても本書は依然として一定程度の重要性を持っ
ニケーションのありかたを、7 章ではウガンダにおける地
ているということもできるであろう。
方分権政策が住民参加を促進するかどうかを、8 章で
はインドの県民皆識字運動を例にした市民と政府の協
働を、さらに最終の 9 章ではスリランカでの大学の社会
貢献活動を、おのおの検討している。
本書は刊行以降幾つかの社会的・学術的影響力を
24
目次
CONTENTS
第 1 部 参加型開発の意義
第 1 章 開発と参加
―開発観の変遷と「参加」の登場
1 はじめに
3
2 参加概念の登場
4
3 開発をめぐる議論の変遷
5
4 原則や理念としての参加
12
5 弱者の日常的抵抗
14
6 参加の利点を認めた指導者達
15
7 参加の実践
15
8 今後の方向性と問題点
18
9 結びに代えて
21
第 2 章 参加型開発の展開
―今日的意味合いの考察
1 はじめに
27
2 貧困概念の再検討
28
3 貧困克服のための能力の類型
31
4 地方分権化の試み
34
5 NGOと市民社会
37
6 市場経済システム
42
7 政治・経済・共同体の相互関連性
44
8 結び:バッド・ガバナンスからグッド・ガバナンスへ 47
第 3 章 住民参加型農村開発のための計画立案諸方法
―参加の過程を促進する方法の模索
1 はじめに
57
2 集中型農村開発査定(RRA)
59
3 住民参加型農村開発査定(PRA)
61
4 目的指向型農村開発計画(ZOPP / PCM) 70
5 住民参加型農村開発の支援マニュアルの位置付け 74
第 2 部 事例研究
第 4 章 西アフリカでの開発ワーカーの実践
―論理実証モードから物語モードへ
1 はじめに
81
2 二つの対立するパラダイムと参加型開発
82
3 参加型開発の実践現場から
90
4 参加型アプローチを推し進めるために
97
5 おわりに
101
第 5 章 小口金融活動から住民参加による地域開発へ
―ジンバブエにみる可能性と限界
1 はじめに
107
2 マイクロファイナンスの成果と限界
108
3 MFと参加型開発
113
4 ジンバブエにおける貯蓄クラブの活動
117
5 まとめ
129
第 6 章 共感を呼びおこすコミュニケーション・ストラテジー
―ガーナにおける女性活動から
1 はじめに
135
2 コミュニケーションの視点からみる参加
136
3 アメリカ国際開発庁(USAID)主導のプロジェクト140
4 ガーナ NCWD タマレ支部の活動
145
5 アクションエイドの活動
149
6 「同情」と「共感」
:
154
異なるコミュニケーション・ストラテジー
7 おわりに
158
第 7 章 地方分権化政策の再構築
―ウガンダからの教訓
1 はじめに
2 ウガンダにおける地方分権化政策の変容
3 貧困・エンパワーメントと地方評議会
4 恵まれない人々の代表性
5 財政の地方分権化
6 地方分権化と基礎教育
7 地方分権化と保健サービス
8 結論
第 8 章 市民と政府の協働
―インドの県民皆識字運動の成果と限界
1 はじめに
2 県民皆識字運動とは何か
3 ビハール州における県民皆識字運動
4 有効性と限界性
5 むすびにかえて
第 9 章 当事者性の探求と参加型開発
―スリランカにみる大学の社会貢献活動
1 環境問題・自立・当事者性の科学
2 参加型の学問による参加型開発
3 参加型農村開発の事例研究
あとがき
索引
161
164
167
169
172
174
176
178
187
192
200
206
211
215
225
227
237
243
執筆者紹介
編著者
斎藤 文彦(さいとう ふみひこ)
龍谷大学国際文化学部助教授
執筆者
河村 能夫(かわむら よしお)
龍谷大学副学長 経済学部教授
久保田賢一(くぼた けんいち)
関西大学総合情報学部教授
粟野 晴子(あわの はるこ)
(株)アイシーネット
久保田真弓(くぼた まゆみ)
関西大学総合情報学部助教授
斎藤 千宏(さいとう ちひろ)
日本福祉大学経済学部教授
中村 尚司(なかむら ひさし)
龍谷大学経済学部教授
25
47
『現代社会における医療・生命・環境』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 47 巻
平野 武 編著(晃洋書房)
2002 年 3 月刊
264 頁
平 野 武 (法学部教授)
本書は、多様な論攷からなっている。本書は、龍谷
観や生命観を超えて新しい宗教と医療の関係を求める
大学社会科学研究所での「生命・環境の諸問題」と
という視点から書かれたものである。第 6 章は「脳死・
いう共同研究(1999 年度、2000 年度)の成果をまと
臓器移植問題と宗教団体」というタイトルから分かるよ
めたものであり、『生命をめぐる法、倫理、政策』(社
うに、今日のいくつかの宗教団体(教団)の脳死と臓
会科学研究所叢書第 32 卷)
、
『生命・環境と現代社会』
器移植対する見解・態度を調査してまとめたものであ
(社会科学研究所叢書第 38 卷)の続編をなしている。
る。第 7 章は、現代における生命観の変化と生命操
また、系譜的には高島學司編『医療とバイオエシックス
作の問題を考察したものである。第 8 章は、畜産にお
の展開』(社会科学研究所叢書第 21 卷)を受け継い
ける技術進歩と生命倫理の問題を扱う。第 9 章、第
でいるといってもよい(執筆者も一部重なっている)。本
10 章、第 11 章は、エコロジーの問題を扱う論攷である。
書の基礎になった研究会は、上記の成果を生み出した
第 9 章は「縁起とエコロジー」と題するが「共生の原
研究会を引き継ぐ形で行われ、龍谷大学だけでなく学
意趣」を副題としてもつ。「共生」という本学の建学の
外からも参加していただいた。社会科学研究所での共
精神にかかわる観点から論じたものであることはいうまで
同研究の学際的な性格を反映して、社会科学だけでな
もない。第 10 章は「温暖化影響検出―植物季節
く、いわゆる自然科学や人文科学の分野からも執筆い
2001 年(春・秋)―」であり、
ソメイヨシノ、ヤマハギ、
ただいている。それらは、やや詳しくいうと哲学・倫理
ススキの開花期の変化等をデータとして検討している。
学、宗教学、仏教学、社会学、法学、工学、生物学、
第 11 章は、ドイツと日本の環境対策を比較したものであ
畜産学、医学・看護学からの考察である。また、内容
り、ドイツでの実体験に基づいている。
的にも理論的なものから現場の経験を踏まえた実践的な
以上のように本書のテーマは医療倫理・生命倫理の
ものまで様々なレベルのものがある。
問題から環境問題にまで及んでいる。これらは一見関
本書は 11 章からなるが、の第 1 章から第 8 章まで
係がないように見えるかも知れないが、ともに生命につ
は医療倫理、生命倫理に関する論攷である。以下、
ながる問題(バイオエシックスという言葉の元来の意味
その内容について簡潔に紹介すると、第 1 章は、医
につながる)を扱うという点で共通点をもっている。本
療における信頼という医療の基礎にある概念について
書の統一されたテーマはそこにあるといえよう。
の哲学的考察である。第 2 章は、医学、医療に関す
る情報公開、開示とプライバシーの権利との関係につ
いての法律学的な検討である。第 3 章は、性同一性
障害と性別の自己決定権を扱っているが、性転換手術
の歴史、現状や法律改正問題も取り上げている。第 4
章は「看護事故の法律問題と看護教育の課題」と題
しているが、看護の現場の問題を教育にどう生かすか
という実践的な研究である。第 5 章は、宗教と医療の
関係を論じたものであるが、近代以降の西洋的な人間
26
目次
CONTENTS
第 1 章 医療における信頼
1 はじめに
1
2 信頼が不在の人間関係
2
3 医療への不信
5
4 信頼の概念
10
5 インフォームド・コンセントに対する一つの意見
13
6 医師と患者の関係
16
第 2 章 医学研究とプライバシー権
1 はじめに―問題状況
21
2 医学、医療におけるプライバシー権
26
3 遺伝子解析研究とプライバシー権
32
第 3 章 性同一性障害と性別の自己決定
―性転換をめぐる問題を中心に―
1 はじめに
49
2 性同一性障害について
51
3 性同一性障害者と戸籍上の取扱の現状
57
4 性転換手術の歴史と現状
60
5 性転換と自己決定
64
6 むすび
78
第 4 章 看護事故の法律問題と看護教育の課題
1 はじめに
90
2 看護事故における法律問題
91
3 看護事故に対する看護教育の課題
101
4 おわりに
116
第 5 章 宗教と医療
―新しい宗教と医療の関係を求めて―
1 はじめに
122
2 宗教と医療
123
3 中世以降のヨーロッパにおける医療の発達
129
4 仏教と医療
133
5 おわりに―宗教と医療の新しい関係を求めて 138
第 6 章 脳死・臓器移植問題と宗教教団
1 はじめに
143
2 資料 1:宗教教団の脳死・臓器移植問題に
143
たいする対応
3 資料 2:脳死・臓器移植問題に関する
145
宗教教団の見解・立場
4 むすび
157
第 7 章 生命観の変化と生命操作
1 はじめに
158
2 生命観の変化
159
3 生物学と生命操作
167
4 生命操作と社会
176
5 おわりに
186
第 8 章 畜産における技術進歩と生命倫理
―特にクローン家畜と遺伝子導入家畜について―
1 はじめに
191
2 科学と生命倫理
191
3 畜産における生命倫理の基本的考え方
193
4 クローン家畜とは
195
5 家畜分野におけるクローン技術の必要性
196
6 畜産分野におけるクローン技術の倫理問題
199
7 クローン技術の経済性と倫理問題の関係
200
8 遺伝子導入動物とは
202
9 家畜における遺伝子導入技術の応用例
203
10 遺伝子導入家畜に関する生命倫理的問題
11 遺伝子導入技術の経済性と倫理問題の関係
12 おわりに
第 9 章 縁起とエコロジー
―共生の原意趣―
1 はじめに―仏教の目的
2 人類の地球環境問題への取り組み
3 共生の原意趣
4 まとめ
第 10 章 温暖化影響検出
―植物季節 2001 年(春-秋)―
1 はじめに
2 2001 年の植物季節現象
3 おわりに
第 11 章 ドイツの環境対策と日本の環境対策
1 はじめに
2 廃棄物
3 埋立地
4 包装容器
5 電 池
6 自動車
204
206
209
212
213
219
225
232
236
250
251
253
259
261
262
263
執筆者紹介
編者
平野 武(ひらの たけし)
龍谷大学法学部教授
執筆者
谷本 光男(たにもと みつお)
龍谷大学文学部教授
加藤 雅子(かとう まさこ)
大阪府立看護大学医療技術短期大学部助手
星 和美(ほし かずみ)
大阪府立看護大学医療技術短期大学部教授
嵩 満也(だけ みつや)
龍谷大学国際文化学部助教授
新田 光子(にった みつこ)
龍谷大学社会学部助教授
池上 順子(いけがみ じゅんこ)
龍谷大学・立命館大学非常勤講師
広岡 博之(ひろおか ひろゆき)
京都大学大学院農学研究科教授
鍋島 直樹(なべしま なおき)
龍谷大学法学部助教授
増田 啓子(ますだ けいこ)
龍谷大学経済学部助教授
竺 文彦(じく ふみひこ)
龍谷大学理工学部教授
27
48
『リスク管理と企業法務 :
実務と理論からのアプロ-チ』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 48 巻
武久征治・辻本勲男 編著(法律文化社)
2002 年 3 月刊
209 頁
ISBN:4589025655
武 久 征 治 (法学部教授)
1.1990 年代初頭、日本経済は、バブル崩壊による混
法務社員と企業外の弁護士の協働によって実現する方
乱を経験した。そしてその後ほぼ 20 年を経た 2008 年
策を示す。第 3 論文「リスク管理におけるコーポレート
半ば、再び、アメリカのサブ・プライムローンに端を発す
ガバナンスと企業法務」(辻本論文)は、多発する企
る世界同時不況に遭遇し、現在、経済・社会の全面
業不祥事がグローバル経済における過激な市場競争・
的な混乱期に突入している。
利益至上主義を背景とすることに着目し、不祥事を回
本書は、90 年代バブル経済とその崩壊について企
避し公正で安定した企業経営のためのコンーポレートガ
業のリスク管理の側面に焦点を当てた企業法務のあり
バナンスと企業法務のあり方を提唱する。第 4 論文「知
方を実務家と研究者の協働によって検討することを目的
的財産法務のリスク管理のあり方」(板東・今木論文)
2002 年に刊行されたものである。その「はしがき」
として、
は、知的財産権の確保・防御(予防法務と治療法務)
には、次のように記されている。
について詳述する。
「ゴーイング・コンサーンとしての企業が自己を維持・
次に第 2 編の第 5 論文「企業の社会的責任と企業
発展させていくためには、公正かつ安定した利益の
法務の役割」(石井論文)は、企業の社会的責任を
予見可能性を担保する業務遂行体制を確立しなけ
広く社会的貢献行為としてとらえ、これを企業法務への
ればならず、そのための重要な要素として、企業は、
期待として描く。第 6 論文「コンプライアンス・プログラ
『企業法務』に支えられた『リスク管理』を必要と
ムの位置づけと監査・監督」(小柿論文)は、コンプ
する。本書は、このような視点から、現代の企業に
ライアンスのあり方を日本および諸外国の実際について
おけるリスク管理の態様やその具体的な予防・解決
検討する。第 7 論文「企業再編における企業法務の
策、そして、新たなリスクを惹起している現代企業の
あり方」(武久論文)は独禁法 9 条改正後の完全親
構造や取引形態の激変について、企業法務の現場
子会社創設、会社分割制度創設に伴う企業再編と企
に身をおく者と研究に携わる者とが協働して検討した
業法務の課題を検討する。第 8 論文「海外取引とリス
ものである。」
ク管理」(國友論文)は、海外取引に伴うリスクヘッジ
につき、輸出手形保険、ファクタリング、フォーフェイティ
2. 本書では、第 1 編を「現場からみた企業法務」とし
ングの手法を検討する。第 9 論文「グローバル化と法」
て 4 本の論文を、第 2 編を「企業法務の新たな課題」 (西尾論文)は、グローバル経済下の企業法務の課
として 5 本の論文を掲載している。内容は次のようであ
題を指摘する。
る。
まず第 1 編の第 1 論文「ビジネスリスクと企業法務」
3. 本書(2002 年出版)
で取り上げた「企業のリスク管理」
(高野論文)は、企業の業務遂行が経済論理優先・
と「企業法務のあり方」の各論点を現在(2009 年)
法律業務劣後のもとでなされることを直視し、法律知識・
の世界的な経済・社会の混乱の中で見るとき、それらは、
法令遵守の必要性と有用性を強調する。第 2 論文「企
尚一層、重要性を増していると自負している。
業法務における法務社員と弁護士のあり方」(土屋論
文)は、企業のコンプライアンスの重要性を企業内の
28
目次
CONTENTS
第 1 編 現場からみた企業法務
1 ビジネスリスクと企業法務
―予防策と企業法務の役割―
1 はじめに
2 ビジネスリスクとその要因
3 ビジネスリスク要因―その問題点の背景
4 ビジネスリスクの予防策と極小策
5 企業法務の役割
6 おわりに
2 企業法務における法務社員と弁護士のあり方
1 はじめに
2 リスクと法務社員・弁護士
3 企業における法務社員のあり方
4 企業法務にとっての弁護士
5 おわりに
補論・ある薬品会社の薬害事例の研究
3 リスク管理におけるコーポレートガバナンスと企業法務
1 はじめに
2 リスク管理
3 コーポレートガバナンスとリスク管理
4 企業法務とリスク管理
5 コーポレートガバナンスと企業法務の連動
4 知的財産法務のリスク管理のあり方
1 はじめに
2 知的財産部門・組織のあり方
3 知的財産権の確保によるリスク管理
―予防法務―
4 知的財産権の防御によるリスク管理
―治療法務―
5 知的財産権の積極的活用によるリスク管理
―戦略法務―
6 従業員に関する知的財産権のリスク管理
7 おわりに
3
5
12
17
30
36
40
40
46
57
61
62
69
72
76
85
87
94
101
第 2 編 企業法務の新たな課題
5 企業の社会的責任と企業法務の役割
1 はじめに
2 企業の社会的責任
3 企業法務の役割
4 結び
6 コンプライアンス・プログラムの位置づけと監査・監督
1 はじめに
2 コンプライアンス・プログラムの現状
3 コンプライアンス・プログラムの運営上の問題点
4 諸外国におけるコンプライアンス・プログラムの現状
5 検討
6 おわりに
7 企業再編における企業法務のあり方
1 企業再編法制と企業法務の視点
2 簡易合併制度
3 純粋特株会社の解禁と株式交換・移転制度
4 会社分割
5 おわりに
8 海外取引とリスク管理
1 はじめに
107
110
113
118
121
2 輸出手形保険
178
3 ファクタリング
182
4 フォーフェイティング
186
5 結びにかえて
193
9 グローバル化と法
―「グローバル・スタンダード」から何をイメージするか―
1 はじめに
195
2 グローバル化を巡る 3 つの議論
196
3 まとめにかえて
208
執筆者紹介
編者
辻本 勲男(つじもと いさお)
龍谷大学法学部教授
武久 征治(たけひさ せいじ)
龍谷大学法学部教授
執筆者
髙野 光泰(たかの みつやす)
元松下電器産業(株)法務部長 龍谷大学大学院法学研究
科講師 立命館大学大学院法学研究科講師
土屋 隆生(つちや たかお)
元三洋電機(株)法務部参事 龍谷大学大学院法学研究科
客員教授
板東 正男(ばんどう まさお)
ミノルタ(株)執行役員プリンタ事業部長元法務室長 弁理士 龍谷大学法学部客員教授
今木 隆雄(いまき たかを)
(株)堀場製作所知的所有権部マネージャー 弁理士 龍谷大学大学院法学研究科講師
石井 幸三(いしい こうぞう)
龍谷大学法学部教授
小柿 徳武(こがき のりたけ)
龍谷大学法学部助教授
國友 順市(くにとも じゅんいち)
大阪経済大学経済学部教授
127
127
134
137
西尾 幸夫(にしお ゆきお)
関西学院大学法学部教授
143
144
148
153
157
159
162
164
166
172
176
178
29
49
『京都の地域金融:理論・歴史・実証』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 49 巻
湯野 勉 編(日本評論社 2003)
2003 年 3 月刊
190 頁
ISBN: 4-535-55338-6
谷 直 樹 ( 社会科学研究所専任研究員・経済学部准教授)
1999 年度から2001 年度までの 3 年間に渡っ
本書は、
規制改革・民間開放推進会議第三次答申によって、
た社会科学研究所共同研究「地域金融の課題―
協同組織形態の地域金融機関の意義を再検討する方
京都における事例研究」の成果をまとめたものである。
向性が打ち出された。これに対し、全国信用金庫協会
我々の研究は、金融研究の一つの切り口としての地域
は翌年 2 月の総会において、「地域の中小企業に対し
を対象とし、地域における効率的資金配分によって地
て安定的な金融機能を果たすためには「協同組織によ
域経済の成長に貢献するという視点での貸出市場の分
る信用金庫制度を堅持する」ことが不可欠であり、全
析にとどまらず、地域における貯蓄のモビリゼーションの
国の信用金庫が「一致団結」して対処すること」を
ための市場構造やその効率性、規制等公的関与のあ
確認、同年 6 月の全国信用金庫大会では、協会長が、
り方、地域開発金融を含む、総合的な地域金融研究
来賓の安部首相、山本金融担当大臣等を前に「現行
を指向した。学内外から集まった共同研究メンバーは、
の信用金庫制度の堅持」を訴えた。「構造改革路線」
故・湯野教授のリーダーシップの下、京都における地
と呼ばれた動きに対する現場からの一つの反応である。
域金融を理論・歴史・実証的視点から分析すべく、デー
しかし、護送船団行政が崩壊し、不良債権問題が峠
タ・資料の収集に努め、地域の金融機関を訪ねては
を越した段階で、グローバル化時代における地域とい
現場の声を聞き、日銀京都支店でもヒヤリングを行った。
う問題が、金融という側面でも、学問・実務・政策的
また、関連分野の研究者を招いての研究会で活発な
課題を我々に対して突きつけていたことは間違いない。
討議を重ねた。
2008 年 3 月からは、金融審議会第二部会・協同組織
本書の構成は以下の通りである。第 1 章では地域
金融機関のあり方に関するワーキング・グループにおい
金融の概念と京都の金融構造が概観される。第 2 章
て、1990 年の金融制度調査会以来、実に 18 年ぶり
は信用が地域化されることが果たして地域の活性化に
に、信用金庫・信用組合の将来的な方向性の検討が
つながるのか、日米の政策の違いを参照しつつ、モデ
始まった。そこでは、本書の成果も言及されていた(社
ルに基づいた分析が展開され、政策提言がなされる。
9月15日、
研共同研究の意義は小さくない)。そうした中、
第 3 章では、京都の地域金融の歴史的背景の一端を
リーマン・ブラザーズの破綻が襲ったのである。その後
掘り下げる。第 4 章から 6 章は、統計的・計量的手法
の世界的な金融市場の混乱の中で、審議会における
に基づく京都の金融の実証分析である。第 4 章は、
「信
検討も平時モードから非常時モードに切り替わってしまっ
金王国」 京都は信金の効率性によってもたらされたの
た。地域金融の方向性は、既存の制度を前提としない
かどうかを明らかにし、その効率性の推移を検討する。
学問的議論よりも、怒濤のような現実に引っ張られること
第 5 章は、地域金融機関と非上場企業との取引関係
になるのだろうか。
を実証分析し、京都におけるメインバンク関係を析出し
た。第 6 章では、業種別実効貸出金利を用いて「京
都金利」の実態把握を行った。第 7 章では、
ベンチャー
金融の地域性を京都の事例に則して検証した。
本書上梓の後、2006 年 12 月には、安部政権下の
30
目次
CONTENTS
目次
はしがき
第 1 章 京都の地域金融・序論
1
Ⅰ はじめに
3
Ⅱ 地域金融をめぐる諸概念
10
Ⅲ 京都の金融構造
16
Ⅳ むすびにかえて
第 2 章 信用の地域化は地域を活性化するか?
23
Ⅰ はじめに―本章の目的
Ⅱ 信用の地域化は何をもたらすか
25
―理論的一考察
Ⅲ 地域金融と情報の非対称性
35
―米国のケース
Ⅳ 地域の金融仲介活性化のために
40
―その他の諸政策
43
Ⅴ まとめ
第 3 章 戦前期の京都における本店銀行
47
Ⅰ はじめに
48
Ⅱ 国立銀行の設立(1870 年代末)
48
Ⅲ 私立銀行の設立(1880 年代前半)
50
Ⅳ 本店銀行設立の本格化
53
Ⅴ 1920 年代半ば以降の本店銀行
59
Ⅵ むすびにかえて
62
系譜図
第 4 章 なぜ京都は 「信金王国」 なのか?
efficiency structure 仮説の視点による分析
71
Ⅰ はじめに
73
Ⅱ 経費率の分析
76
Ⅲ 非効率性の推定
83
Ⅳ 結果の頑健性
89
Ⅴ 全国の信金データを用いた分析のまとめ
Ⅵ 効率性の推移
89
―京都府内金融機関のパネルデータ分析
99
Ⅶ efficiency structure 仮説の検証
100
Ⅷ 合併と効率性
Ⅸ 京都府下金融機関のパネルデータによる
105
分析のまとめ
第 5 章 京都のメインバンク関係 1980 - 2000 年
109
Ⅰ はじめに
111
Ⅱ メインバンクの固定率と変更の状況
126
Ⅲ 非上場企業におけるメインバンク変更の要因
Ⅳ 非上場企業におけるメインバンク・システム
131
(R システム)の機能
136
Ⅴ むすびにかえて
第 6 章 業種別実効貸出金利にみる「京都金利」 の実態
141
Ⅰ はじめに
143
Ⅱ 表面金利による貸出金利の地域間格差
143
Ⅲ 実効貸出金利による地域間格差の概観
145
Ⅳ 京都における業種別実効貸出金利の推移
153
Ⅴ 京都金利が存在した要因
165
Ⅵ むすびにかえて
第 7 章 ベンチャー金融の地域性と京都
169
Ⅰ はじめに
170
Ⅱ ベンチャー金融
174
Ⅲ アメリカ
Ⅳ 日本
Ⅴ 京都
Ⅵ むすびにかえて
178
181
187
執筆者紹介
編者
湯野 勉(ゆの つとむ)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
谷 直樹(たに なおき)
龍谷大学経済学部助教授
佐々木 淳(ささき じゅん)
龍谷大学経済学部助教授
佐竹 光彦(さたけ みつひこ)
龍谷大学経済学部教授
筒井 義郎(つつい よしろう)
大阪大学大学院経済学研究科教授
加納 正二(かのう まさじ)
摂南大学経営情報学部助教授
31
50
『社会科学リテラシーの確立に向けて』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 50 巻
西堀文隆 編(日本評論社)
2003 年 3 月刊
193 頁
ISBN: 4-535-55352-1
西 堀 文 隆 (経済学部教授)
いま、「リテラシー」という言葉がよく使われている。
会科学の対象、問題提起・プロブレマティクといえるで
参考までに、
「メディア・
リテラシー」の定義を引用すれば、
あろうか。
「メディア・リテラシーとは、市民がメディアを社会的文
①に関してはグランド・セオリーといったものがもはや
脈でクリティカルに分析し、評価し、メディアにアクセスし、
成り立たなくなってしまったのか、あるいは、いまは過渡
多様な形態でコミニュケーションを創りだす力をさす。ま
期で新しい世紀のなかで新しいグランド・セオリーがまだ
た、そのような力の獲得をめざす取り組みもメディア・リ
見えず、つまりいまは醸成されつつある段階なのか、と
テラシーという。」
いった大問題提起にかかわるものから、時代的文脈か
この定義に触発されて、「社会科学リテラシー」とい
ら「教養」といわれる知のモデルが変化するものなの
うことも、この時代には必要ではないかと、考えたので
か、つまり時代を超えて「普遍性」そのものが成立し
ある。後にみる、ウォーラースティン+グルベンキアン委
えないのかどうかといった問題もある。こういった問題に
員会の訳者あとがきにも次のような文章がある。「ウォー
は私たちのグループ内で共通の認識に到達できなかっ
ラーステインのいうひらかれた社会科学とは、おそらく同
た。
時に、専門家による独占から解放された社会科学、ふ
②に関しては、アンティグロバリゼーションにかかわっ
つうの市民が日常の問題を解決していくのに生きるよう
て、知識人の行動を通じての社会科学の 主観性 と
な、そんな社会科学でなければならない」とおもってい
客観性 という切り口での問題提起、現在日本でも問
る。
題になっている社会経済を扱った第 3 セクター論の理
論的考察と経済的、法的、制度的な現状分析という
この本の出発点になったのは 1998 年度∼ 2000 年
問題提起が扱われている。
度の龍谷大学社会科学研究所共同研究グループ(「社
(2)教育をめぐっては、情報化と社会科学専門教育、
会科学リテラシーの確立に向けて」グループ)の研究
PC を使った教育実践、社会科学リテラシーとユビキタス・
の成果の一端である。そもそも「社会科学リテラシー」
コンピューティングやウエアラブルコンピュータとの関連な
というような訳のわからない用語を冠した研究会に 14 名
どが扱われている。
もの人が集まって出発し、案の定、最後まで研究会と
して「社会科学リテラシー」の定義づけも、その意味
のコンセンサスを得ることもできなかったが、それはそれ
で止むを得ないと考えている。
「社会科学リテラシー」ということについては、大きく
いえば研究と教育に大別できるであろう。もちろん、両
者は相互関連をもちながらではあるが・・・・。
(1)研究については、① 20 世紀における社会科学方
法論および「社会科学」そのものの見直し、あるいは
21 世紀の社会科学とはという問題に及ぶ。②新しい社
32
目次
CONTENTS
目次
Ⅰ 21 世紀の社会科学へ
第 1 章 社会科学リテラシーの確立に向けて
Ⅰ はじめに
Ⅱ 時空の設定
Ⅲ 社会科学リテラシー確立へのメモランダム
Ⅳ 市場と国家
Ⅴ 国家と経済の関係 1―青木理論について
Ⅵ 国家と経済の関係 2―バリバールの理論について
Ⅶ 小結
第 2 章 社会科学の前提―グローバリズムと国家―
Ⅰ はじめに
――情報、国家、グローバリズムと社会科学
Ⅱ 国家間関係:普遍性の意味
―国家モデルの想定
Ⅲ 国家の問題 1―本質論と関係論の拮抗
Ⅳ 国家の問題 2―消滅論
Ⅴ 国家の問題 3―帝国
Ⅵ 国家の問題 4―身体論、学問の前提
Ⅶ 国家の問題 5―学問論
Ⅷ おわりに
3
4
7
16
21
22
25
29
151
Ⅰ 「インターネットと宗教」をめぐって
Ⅱ 「インターネットで学ぶ宗教」
―インターネットを利用しての授業、その可能性
153
と限界
Ⅲ 「インターネット」を通して「宗教」の問題が
162
どのように考察可能か?
第 8 章 社会科学のためのソフトコンピューティング技法
167
Ⅰ はじめに
169
Ⅱ 社会科学技法としてのファジィモデル
180
Ⅲ 社会科学技法としてのニューラルネットワーク
188
Ⅳ 結び
あとがき
執筆者一覧
31
32
35
37
39
41
43
執筆者一覧
編著者
西堀 文隆(にしぼり ふみたか)
Ⅱ 新しい問題提起
第 3 章 社会科学における 客観性 と 主観性
―グローバリゼーションに関する持論への自注として―
ガタリ、ネグリ、ブルデュー
51
―反グローバリゼーションをめぐって―
杉村 昌昭(すぎむら まさあき)
第 4 章 社会的経済から経済社会学へ
Ⅰ 社会的経済の提唱者・先駆者たち
Ⅱ 専門分野としての社会的経済から社会的経済
セクターへ
Ⅲ 社会的経済から経済社会学へ、そして新しい
経済学へ
第 5 章 フランスにおける市民セクター
Ⅰ はじめに
Ⅱ 社会的経済の復活
Ⅲ 社会的経済の定義
Ⅳ アメリカの NPO 論と社会的経済
―非営利性をめぐって
Ⅴ 協同組合と非営利組織
Ⅵ 新しい法人格の整備
Ⅶ 連帯経済
Ⅷ 結びにかえて
191
194
龍谷大学教授
執筆者
松岡 利通(まつおか としみち)
龍谷大学教授
龍谷大学教授
Eric Bidet(エリック ビデ)
弘益大学(韓国)教授
北島 健一(きたじま けんいち)
69
73
83
99
100
101
松山大学教授
岡村 茂(おかむら しげる)
愛媛大学教授
高田 信良(たかだ しんりょう)
龍谷大学教授
和多田淳三(わただ じゅんぞう)
早稲田大学教授
103
105
106
108
109
Ⅲ 情報化と社会科学
第 6 章 情報化と社会科学の方法論をめぐって
―大学教育の現場から―
Ⅰ 社会科学研究と情報化のメモワール:二筋の道 113
Ⅱ 情報通信技術の革新は「社会」を変えるのか 118
Ⅲ 社会科学系教育の情報化と革新:
127
コラボレーション教育システム
139
Ⅳ 結び:大学改革と地域の活性化のために
第 7 章 「インターネットと宗教」に関する一考察
―教育媒体としての PC、「宗教学」授業の場合―
33
51
『アフリカの挑戦:NEPAD(アフリカ開発の
ための新パートナーシップ)』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 51 巻
大林 稔 編(昭和堂)
2003 年 3 月刊
338 頁
ISBN: 4-8122-0311-2
大 林 稔 (経済学部教授)
NEPAD は 2001 年 7 月のアフリカ統一機構で採択さ
るのかについて分析した。しかし、民主主義や市民社
れたアフリカの包括的な開発文書である。21 世紀のス
会の言説は、女性や障害者の発展を必ずしも内包して
タートを飾るにふさわしく、これまでのアフリカ開発イニシ
いない。そのため、特に女性に対する NEPAD のイン
アティブとはさまざまな面で一線を画したものであった。
プリケーションについて論じた。またアフリカにおける民
とりわけアフリカのリーダーたちによって主体的に立案、
主主義発展の原動力の一つとなっている南アフリカ共
形成されたこと、民主主義とガバナンスを政治的価値
和国とNFPAD の関係にいても分析した。
基準としたこと、グローバリゼーションへの参加を目指し
NEPAD はまた、アフリカの地域協力の成果であり、
たことの三点が注目されるべきであろう。
将来の地域協力に大きな影響を与える可能性がある。
しかし、NEPAD の採択は、その目標の実現を約束
第三部では、まずアフリカ統一機構から発展したアフリ
するものではない。過去のいくつかのアフリカ開発イニシ
カ連合とNEPAD の関係、また東部・南部など各地域
アティブは、残念ながら「看板倒れ」に終わってきた。
の協力機構との結びつきを取り上げた。また地域協力
NEPAD もその轍を踏むとの懐疑的見方は根強い。し
の重要な側面である地域安全保障との関係を分析し
かし、NEPAD の行く末は客観的に予見できるものでは
た。
なく、アフリカ内外のアクター間の協調と対立、力関係
最後に第四部として、日本のアフリカ政策の集約する
によって定まっていくであろう。そして日本も、主として
国際会議、
東京アフリカ開発会議(TICAD)
を分析した。
援助を介して、NEPAD の正否を左右するアクターの一
TICAD は過去二回開催されているが、その成果を分
つなのである。
析し、日本がアフリカの発展に寄与するうえで、2003 年
本書は NEPAD をアフリカの政治・経済および国際
に予定される第三回会議の課題を明らかにした。
社会との関係の発展の中で分析し、21 世紀のアフリカ
がどこに向かうのか、また日本に求められていることは
何かを考察した集団的な研究成果である。
概説で NEPAD の意義と内容、歴史的経緯と特徴
を分析したのち、第一部では、NEPAD がアフリカの経
済開発にとってどのような課題に答えようとしているのか、
またグローバリゼーションの中でアフリカの経済発展政策
にいかなるインパクトを持ちうるのか、さらにアフリカの経
済発展に大きな影響力を持つ援助にどのような変化をも
たらす可能性があるのかを論じた。
第二部では、新しいアクターとして育ちつつあるアフリ
カ市民社会が果たしうる役割を扱った。NEPAD が志
向する民主主義は、市民社会の発展を前提とする。そ
こでアフリカの市民社会とはなにか、また発展しつつあ
34
目次
CONTENTS
謝辞
略語表
概説
A NEPAD はアフリカの未来をひらけるか
1 アフリカの開発課題と開発戦略の現状
2 NEPAD の特徴と問題
3 NEPAD の実行可能性
4 既存の地域機構との関係
5 アフリカの主体的挑戦となりうるか
B NEPAD の沿革および現状とTICADとの連携
―国際社会の動向を踏まえて―
1 NEPAD の沿革・現状
2 NEPAD を巡る最近の国際社会の動き
3 TICAD の沿革および NEPADとそれに
対応する国際社会への影響
2
3
9
13
17
18
21
21
26
29
1 アフリカの経済開発の課題
第 1 章 アフリカ開発の難題に立ち向かう
1 はじめに
34
2 アフリカ開発における重要な課題
38
3 より高い成長と貧困削減のための課題に立ち向かうこと 41
4 アフリカ開発のためのパートナーシップの創出
52
5 日本のアフリカ支援の課題
57
第 2 章 NEPAD の経済的意義
―グローバリゼーション時代のアフリカを鑑みながら―
1 はじめに―サブサハラアフリカ経済の現状
63
2 サブサハラアフリカ諸国の経済発展戦略
67
3 グランド整備としての経済発展政策
―インフラと中小企業の育成・融資制度の整備― 76
4 おわりに
81
第 3 章 援助依存を超えて
―アフリカにおける貧困削減パートナーシップとNEPAD―
1 はじめに
91
2 アフリカと20 世紀―国家の破綻と開発主義の敗北 93
3 NEPADと援助パートナーシップの新しい潮流
97
4 新たな援助レジームの出現―貧困削減と援助強調 102
5 貧困削減レジームの問題点と日本の役割
108
6 おわりに
113
2 民主主義・市民社会・女性と NEPAD
第 4 章 NEPAD におけるアフリカの民主主義とガバナンス
1 はじめに
120
2 独立後のアフリカ諸国における民主主義とガバナンス121
3 NEPAD について
123
4 NEPAD の展開と民主主義・ガバナンスの発展 126
5 おわりに
131
第 5 章 アフリカにおける市民社会の発展
1 はじめに
138
2 アフリカ市民社会の発展
140
3 最新のアフリカ開発イニシアティブにおける
152
市民社会の役割
第 6 章 NEPAD をめぐるリーダーシップとパートナーシップ
1 はじめに
168
2 南アフリカとNEPAD
169
3 南アフリカのリーダーシップとアフリカ諸国
173
4 市民社会の NEPAD 評価
177
5 おわりに
183
第 7 章 21 世紀のアフリカと女性
―NEPAD は草の根の女性を救えるか?―
1 はじめに
187
2 女性に対する開発政策の変遷
189
3 ジェンダーの視点からみた NEPAD
191
4 女性差別撤廃条約の実施状況
194
5 草の根の女性が望む開発
196
6 おわりに
198
3 NEPAD とアフリカの地域協力の発展
第 8 章 アフリカ連合の成立とNEPAD
1 アフリカ統一機構からアフリカ連合へ
2 アフリカ連合の成立
3
4
5
第9章
1
2
3
4
5
6
第 10 章
1
2
3
4
216
アフリカ連合の課題
221
アフリカ開発新パートナーシップの実施
224
アフリカ連合の現状と評価
アフリカの地域協力体制
230
はじめに
231
アフリカにおける地域主義
233
「統合」に向かう地域協力機構
241
機能的な地域協力機構
245
新しい地域協力の試み
249
おわりに
アフリカにおける地域安全保障イニシアティブの諸潮流
254
はじめに
255
大陸レベルのイニシアティブ
264
地域経済共同体レベルのイニシアティブ
結びにかえて―欧州の不戦、アフリカの紛争対応 274
4 アフリカに向き合う日本
第 11 章 アフリカと日本の新しい関係に向けて
―第 3 回東京アフリカ開発会議(TICAD Ⅲ)―
1 はじめに
280
2 アフリカ政策はなにを目指してきたか
280
3 官僚の独占と援助効率への無関心
285
4 TICADⅠ、Ⅱの成果と限界
287
5 TICAD Ⅲに求めるもの
296
6 おわりに
300
Appendix
1 アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)308
2 アフリカ連合制定法
318
3 アフリカの主要経済指標
329
4 アフリカにおける主要地域機関の相関図
334
335
執筆者一覧
執筆者一覧
編者
大林 稔(おおばやし みのる)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
友田 恭子(ともだ きょうこ)
外務省中東アフリカ局アフリカ第一課課長補佐
ベノ・J・ンドゥル
世界銀行タンザニア事務所所長代行 世銀本部マクロ経済局
セクター・リード・エコノミスト兼任
遠藤 衛(えんどう まもる)
在タンザニア日本国大使館援助協調担当専門調査員
正木 響(まさき とよむ)
釧路公立大学経済学部助教授
高橋 基樹(たかはし もとき)
神戸大学大学院国際協力研究科教授
岩田 拓夫(いわた たくお)
和歌山赤十字看護専門学校非常勤講師
ゲイ・カマル
財団法人・地球環境戦略研究機関研究員
佐藤 誠(さとう まこと)
立命館大学国際関係学部教授
戸田真紀子(とだ まきこ)
天理大学国際文化学部助教授
川端 正久(かわばた まさひさ)
龍谷大学法学部教授
藤本 義彦(ふじもと よしひこ)
広島経済大学経済学部助教授
落合 雄彦(おちあい たけひこ)
龍谷大学法学部助教授
齋藤 雅志(さいとう まさし)
204
210
神戸新聞社記者
松本 祥志(まつもと しょうじ)
札幌学院大学教授
35
52
『遺伝子工学時代における生命倫理と法』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 52 巻
龍谷大学「遺伝子工学と生命倫理と法」研究会編(代表・石塚伸一 )(日本評論社)
2003 年 8 月刊
581 頁
ISBN:4-535-51394-5
石 塚 伸 一 (法科大学院教授)
本書は、2002 年 9 月 13 日から 15 日にかけて、龍
生的および治療的クローン」
(ヘニング・ローゼナウ〔ゲッ
谷大学深草学舎において開催された国際シンポジウ
ティンゲン大学〕
、石塚伸一〔龍谷大学〕
、ハンス・リー
ム「遺伝子工学の時代における法と倫理(Recht und
リエ〔ハレ大学〕)
、第 7 テーマは「生靖医療の法的
Ethik im Zeitalter der Gentechnik)」をまとめたものであ
諸問題∼インビトロ受精、異父受精、代理母、母性の
る。この日独共同シンポジウムは、龍谷大学「遺伝子
分離∼」
(ハンス=ルートヴィッヒ・シュライバー〔ゲッティ
工学と生命倫理と法」研究会とドイツ・ゲッティンゲン大
ンゲン大学〕
、高嶌英弘〔京都産業大学〕)
、第 8 テー
学医事法研究所との共同研究の成果である。
マは「着床前後の遺伝子診断(PGD)」
(ズザンネ・シュ
上記の研究会は、2000 年度から、本学の人間・科学・
ナイダー〔ゲッティンゲン大学〕
、金尚均〔龍谷大学/
宗教研究助成の支援を受け「遺伝子工学的時代精神
ボン大学〕)
、第 9 テーマは「特許と遺伝子工学」(ア
における法と倫理」をテーマに生命工学と生命倫理に
ンドレアス・フックス〔コンスタンツ大学〕
、中田邦博〔龍
関する日独の比較法研究を行ってきた。シンポジウムに
谷大学〕)であった。最後に、シュライバー教授と村井
ついては、ゲッティンゲン側はハンス=ルートヴィッヒ・シュ
敏邦教授(龍谷大学矯正・保護研究センター・センター
ライバー教授(同大学元学長)とヘニング・ローゼナ
長)が、全体のまとめをして閉会した。
ウ助手(現在はアウグスブルク大学教授)が、龍谷側
シンポジウムでは、法律学のみならず、医学、哲学、
は金尚均教授と石塚伸一教授が、運営の責任者となっ
宗教学などさまざまな視点から問題提起がなされ、白熱
た。シンポジウムの開催については、龍谷大学の矯正・
した議論になった。参加者は 105 名で、台湾、韓国
保護研究センター(AFC)および人間・科学・宗教オー
からもご参加があった。
プン・リサーチ・センター(ORC)の支援を得た。
なお、本書のドイツ語版は、Hans-Ludwig, Schreiber =
第 1 テーマは「遺伝子医療の限界としての法」(ガ
Henning, Rosenau = Shinichi, Ishizuka=Sangyun, Kim (Hrsg.),
プリエレ・ヴォルフスラスト〔ギーセン大学〕
、
浅田和茂〔大
Recht und Ethik im Zeitalter der Gentechnik: Deutsche
阪市立大学、現在は立命館大学〕)
、第 2 テーマは「遺
und japanische Beiträge zu Biorecht und Bioethik, とし て、
伝子テストと法∼特に雇用と保険について∼」(デニー
Vandenhoeck & Ruprecht (Göttingen) から 2004 年に出版
ゼ・ベンダー〔ゲッティンゲン大学〕
、只木誠〔中央大
されている。
学〕
)
、第 3 テーマは「積極的臨死介助の法的可能性」
(ハンス=ルートヴィッヒ・シュライバー〔ゲッティンゲン大
学〕
、上田健二〔同志社大学〕)
、第 4 テーマは「遺
伝子医療の倫理的限界」
(ルトガー・ホーネフェルダー
〔ボ
ン大学〕
、鍋島 直樹〔龍谷大学〕
、青井秀夫〔東北
大学〕)
、第 5 テーマは「遺伝子による医療の拡大と胚
子の地位∼研究目的の胚子の製造と利用∼」
(ヨッヘン・
タウピッツ〔マンハイム大学〕
、伏木信次〔京都府立医
、第 6 テーマは「人クローンの禁止―再
科大学〕)
36
目次
CONTENTS
1 はじめに
[第 1 セッション]遺伝子医療の限界としての法
遺伝子医療の限界としての法
遺伝子医療の限界としての法
第 1 セッション討論(要約)
19
38
52
[第 2 セッション]遺伝子テストと法
―特に雇用と保険について
遺伝子テスト―特に労働法と保険法について 77
予測的な遺伝子テストと法
97
―とりわけ雇用と保険について
115
第 2 セッション討論(要約)
[第 3 セッション]積極的臨死介助の法的可能性
オランダおよびベルギーを模範とした臨死介助の
131
新たな規定が置かれるべきか
消極的臨死介助と積極的臨死介助との法的区別
144
に対する生命倫理上の評価
187
第 3 セッション討論(要約)
[第 4 セッション]遺伝子医療の倫理的限界
ゲノム研究と遺伝子工学による人間の倫理的な挑戦
遺伝子医療をめぐる法と倫理
ヒト遺伝子研究に関する仏教からの視座
―縁起のバイオエシックス
第 4 セッション討論(要約)
241
262
[第 9 セッション]特許と遺伝子工学
特許法と遺伝子工学
日本における遺伝子工学と特許法
第 9 セッション討論(要約)
まとめ
執筆者一覧
翻訳者一覧
遺伝子工学関連用語集
―独英日対照(付録:日独対照表)
文献リスト
執筆者
Gabriele Wolfslast(ガプリエレ ヴォルフスラスト)
ギーセン大学法学部教授
浅田 和茂(あさだ かずしげ)
大阪市立大学大学院法学研究科教授
Denise Bender(デニーゼ ベンダー)
カッセル裁判所司法修習生
只木 誠(ただき まこと)
中央大学法学部教授
Hans-Ludwig Schreiber(ハンス=ルートヴィッヒ・シュライバー)
ゲッティンゲン大学法学部教授
上田 健二(うえだ けんじ)
同志社大学法学部教授
Ludger Honnefelder(ルトガー ホーネフェルダー)
鍋島 直樹(なべしま なおき)
龍谷大学法学部教授
青井 秀夫(あおい ひでお)
東北大学大学院法学研究科教授
Jochen Taupitz(ヨッヘン タウピッツ)
マンハイム大学法学部教授
伏木 信次(ふしき しんじ)
京都府立医科大学大学院医学研究科分子病態病理学教授
Hans Lilie(ハンス リーリエ)
ハレ=ヴィッテンベルグ大学法学部教授
Henning Rosenau(ヘニング ローゼナウ)
ゲッティンゲン大学法学部助手
高嶌 英弘(たかしま ひでひろ)
317
326
360
377
[第 7 セッション]生殖医療の法的諸問題
―インビトロ受精、異父受精、代理母、母性の分離など
391
生殖医療の法的諸問題
日本における生殖補助医療の現状と法的対応 404
436
第 7 セッション討論(要約)
[第 8 セッション]着床前後の遺伝子診断(PGD)
着床前診断と出生前診断
日本における着床前診断
第 8 セッション討論(要約)
龍谷大学法学部教授
ボン大学神学部教授
199
214
[第 5 セッション]遺伝子による医療の拡大と胚子の地位
―研究目的の胚子の製造と利用
胚の地位―特に研究のための胚生成とその利用 277
ヒト遺伝子研究の成果にもとづく医学の新しい展開 293
304
第 5 セッション討論(要約)
[第 6 セッション]人クローンの禁止
―再生的および治療的クローン
人間生命のクローンの禁止、再生的クローンと
治療的クローン―国連による国際的解決策
人クローンの禁止―再生的および治療的クローン
人クローンの禁止―再生的および治療的クローン
第 6 セッション討論(要約)
執筆者一覧
編者
石塚 伸一(いしづか しんいち)
449
468
478
京都産業大学法学部教授
Susanne Schneider(ズザンネ シュナイダー)
ハンブルク裁判所司法修習生
金 尚均(キム サンギュン)
龍谷大学法学部助教授
Andreas Fuchs(アンドレアス フックス)
コンスタンツ大学法学部教授
中田 邦博(なかた くにひろ)
龍谷大学法学部教授
村井 敏邦(むらい としくに)
龍谷大学法学部教授
翻訳者一覧
滝本シゲ子(たきもと しげこ)
龍谷大学矯正・保護研究センター博士研究員
細谷 越史(ほそたに えつし)
493
518
531
545
551
555
556
562
大阪経済法科大学法学部講師
徳尾 貫護(とくお かんご)
谷大学大学院文学研究科哲学専攻博士後期課程
龍
辻川 義之(つじかわ よしゆき)
阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程
大
森 征樹(もり まさき)
大阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程
福本 知行(ふくもと ともゆき)
金沢大学法学部助教授
37
53
『現代「市民法」論と新しい市民運動:
21 世紀の「市民像」を求めて』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 53 巻
石塚伸一 編(現代人文社)
2003 年 3 月刊
267 頁
ISBN:4-87798-163-2
石 塚 伸 一 (法科大学院教授)
本書は、「現代『市民法』論の系譜を検討し、近
なった。 NGOとの関係では、アメリカの犯罪者の社会
代法の発展過程の中にこれを位置づけるとともに、これ
復帰のための自助グループ「アミティ」の関西セミナー
らの理論と新たな市民運動の展開との関係を検討し、
を共催した。また、薬物依存症からの回復のための自
21 世紀の新たな『市民像』を構築する」ことを目的と
助グループ「ダルク(DARC)」との連携を深めた。司
して、1999 年 4 月に発足した現代市民法研究会の研
法制度改革については地方公聴会への参加などによっ
究成果をまとめたものである。
て情報収集を重ねた。
理論編と実践編の 2 部構成になっており、前者は、
2001 年 2・3 月、第 2 次イギリス調査を実施し、さま
現代「市民法」論の展開を考察する「市民運動とそ
ざまな社会問題を抱えながら、市民が自らの力によって、
の人間像」(石井幸三)、「官僚法の市民法への転
積極的に問題に取り組んでいるイギリス社会の実践をつ
轍をめざして」(馬場健一)、「刑法における近代の
ぶさに体験することができた。イギリスの市民運動の隆
弁証法」(本田稔)、
「刑事法における市民的公共性」
盛は、21 世紀の日本社会の在り方を考える上で示唆的
(葛野尋之)および「二つの刑事政策」(石塚伸一)
である。自己責任を強調する社会への変容の中で、カ
の 5 本の論説からなる。後者は、新しい市民運動を求
ウンターパワーを活性化するためには、社会のコアの部
める実践の成果を収録した「少年法『改正』におけ
分を市民自身の力で再編することが不可欠となる。
る危機の創出とプライバタイゼーション」(佐々木光明)
、
2001 年度には、これらの成果を踏まえ、イギリスの
「薬物依存からの回復と市民的支援」
(石塚伸一)
、
「ア
調査でお世話になったロッド・モーガン教授(英国保護
ミティが市民運動に与えたインパクト」(南口芙美=石
観察局首席査察官)を招聘し、「ブレア政権下におけ
塚伸一)
、「ドイツの薬物政策」(金尚均)および「刑
る刑事政策の変容」についての研究会を開催した。
事拘禁とNGO(市民)活動」(福島至)の 6 本の論
本書は、内外の市民運動にかかわりをもつ人たちの
稿からなる。
実践的理論研究の成果である。ともすれば、「神々の
研究会は、1999 年から 2001 年にかけて、龍谷大
論争」になりがちの基礎理論を、個別社会問題での
学社会科学研究所の共同研究助成を受け、定期的に
実践の中で再構築し、検証している。本研究会の活動
研究会を開催するとともに、海外調査を実施し、公開
と本書の発行自体が、現代「市民社会」 へのひとつ
講演会などを開催した。2002 年度には、これらの成果
の挑戦である。
を継承し、より発展させるために、龍谷大学矯正・保
護研究センターのコミュニティー・プリズン・プロジェクト
(刑
事政策における NGO の役割、社会的援助のあり方、
地域社会との連携などについて研究することを目的とす
る。)として再編成された(研究活動の詳細については、
巻末の「研究活動記録」参照)。
2000 年 3 月の第 1 次イギリス調 査では、 現 地の
NGO を中心にインタヴュー調査と関連文献の収集を行
38
目次
CONTENTS
1 はしがき
第1部 理論編~現代 「市民法」 論の展開~
11
市民運動とその人間像
1 はじめに
2 用語をめぐる論点
3 結び
33
官僚法の市民法への転轍をめざして
ある情報公開最高裁判決の呪縛を素材に
1 はじめに
2 本最高裁判決とそこにおける部分公開に関わ
る法理
3 本最高裁判決の問題性
4 ある関連地裁判決における本最高裁判決の
受容と展開
5 市民法への転轍を目指して
65
刑法における近代の弁証法
1 序言
2 古典刑法の特徴
3 近代刑法の弁証法
4 ドイツ刑法史の矛盾構造
5 結語
85
刑事法における市民的公共性
刑事人権と市民の権利
1 問題設定
2 少年の本人特定報道の禁止と市民の権利
3 少年司法への市民参加
4 結語
125
二つの刑事政策
∼大きな刑事司法か?小さな刑事司法か?∼
はじめに
1 犯罪は増えているか?∼認知件数の増加と検
挙率の低下∼
2 犯罪者の増加?∼刑事施設の過剰収容∼
3 二つの刑事政策
4 「市民的刑事政策」構想
むすび
∼治安重視の大きな刑事司法か? 個人本位の
小さな刑事司法か?∼
第2部 実践編~新しい市民運動を求めて~
少年法「改正」における危機の創出とプライバタイゼーション 149
もとめられる市民的協同の構想
はじめに∼「子ども期」への攻撃
1 改正立法審議に求められた視点∼審議の傍聴から∼
2 改正立法審議で採られた手法
3 危機の創出と個人への帰責化
4 「威嚇」が生み出す社会的関係の構図
5 「威嚇」の液状化
6 市民による社会的協同と実践の尊重
むすびに代えて
167
薬物依存からの回復と市民的支援
北九州にダルクを呼ぶ会
はじめに
1 北九州にダルクを呼ぼう
!
2 さようなら
! 北九州
3 ダルクとはなにか
4 司法モデル∼国家による介入の正統性∼
5 医療モデル∼「衛生」から「治療」 へ、そ
して「福祉」∼
6 福祉モデル∼第 3 のモデルの可能性∼
むすびに代えて
∼自己決定を基礎とした社会復帰と3 つのテーゼ∼
187
アミティが市民運動に与えたインパクト
京都での取り組み
はじめに
1 アミティとは何か?
2 来日講演から、アミティ研究会・京都へ
3 再来日へ向けて
4 来日中止
5 再来日実現
おわりに
199
ナヤ・アービター講演
アメリカの刑務所におけるアミティの実践
∼暴力の連鎖を断つために∼
219
ドイツの薬物政策
1 ドイツにおける薬物犯罪対策の現状
2 ドイツの各地での取り組み
3 フランクフルト市の薬物問題に関する研究報告
4 小括
239
刑事拘禁とNGO(市民)活動
ジュリエット・ライオン氏に聞く
1 はじめに
2 刑事拘禁とNGO 活動の役割・意義
3 ジュリエット・ライオン氏に聞く
4 むすびにかえて
研究活動記録
おわりに∼ 21 世紀の「市民像」を求めて∼
執筆者紹介
編著者
石塚 伸一(いしづか しんいち)
龍谷大学法学部教授
執筆者
石井 幸三(いしい こうぞう)
龍谷大学法学部教授
金 尚均(キム サンギュン)
龍谷大学法学部助教授
葛野 尋之(くずの ひろゆき)
立命館大学法学部教授
坂上 香(さかがみ かおり)
アミティを学ぶ会
佐々木光明(ささき みつあき)
三重短期大学法経科教授
Naya Arbiter(ナヤ アービター)
アミティ
馬場 健一(ばば けんいち)
神戸大学大学院法学研究科教授
福島 至(ふくしま いたる)
龍谷大学法学部教授
本田 稔(ほんだ みのる)
立命館大学法学部教授
南口 芙美(みなみぐち ふみ)
谷大学大学院法学研究科修士課程
龍
39
54
『ヨーロッパ私法の動向と課題
= Tendencies and problems of european private law』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 54 巻
川角由和・中田邦博・潮見佳男・松岡久和 編(日本評論社)
2003 年 10 月刊
523 頁
ISBN:4-535-51348-1
中 田 邦 博 (法科大学院教授)
Ⅰ 本書は、平成 11 年度から平成 13 年度にかけて、
る。さらに、同教授の講演としてハイン・ケッツ「ブツェ
「ヨーロッパ私法の統一と EU 各国契約法の対応」と
リウス・ロースクール」がある。ブツェリウス・ロースクー
題する研究テーマのもとで行われた共同研究の成果の
ルは、ドイツで初めての私立のロースクールであり、当
一部である。 時も今もヨーロッパ私法統一の戦略としての―もちろん
ヨーロッパ私法は、EU の市場統合の影響を受け、ま
それにとどまらないが―法曹教育の実践についての
た、それへの対応という観点から大きな変化を遂げつ
大胆な試みとして関心を集めている。同スクールは、ド
つある。その重要な源泉となっているのは、いうまでも
イツの法教育の地域的限界の克服のための新たな方向
なくEU 指令であり、それが国内法化されたところの各
を示している。ドイツでもっとも注目される法曹養成機関
国法である。本書には、これらの動向を総合的に捉え、
として、その地位を固めつつあることも付言しておこう。
とりわけ EU 各国契約法を中心に、ヨーロッパ私法がど
第 2 部は、「ヨーロッパ私法の諸動向」と題し、研
のような変容を遂げようとしているのかを考察した論稿を
究会のメンバーによる、あるいは、各国からの招聘研
収めている。こうした研究作業は、日本私法の世界的
究者による各国契約法や不法行為法の新たな動向が
レベルでの位置づけを明らかにし、その方向性を見出
紹介されている。こうした論稿は、ヨーロッパ私法の動
すことにも資するものとなる。
きを各国法において確認する作業となると共に、EU法
Ⅱ 本書『ヨーロッパ私法の動向と課題』は 2003 年に
レベルでの課題を示すものとなる。
刊行されたものであるが、全 523 頁の大部のものとなっ
さらに、第 3 部は、「資料」としてヨーロッパ契約法
てしまったが、
それにもかかわらず、
私たちが組織するヨー
原則の条文の翻訳を掲載した。当時、この作業は条
ロッパ契約法研究会の研究作業の中間的なまとめにす
文のみを明らかにしたにすぎないものであったが、その
ぎず、そのすべての成果が収められているわけではない
後の進展を受けて、その全体像は、潮見=中田=松岡
ことも述べておきたい(本書に続く叢書 78 巻『ヨーロッ
監訳『ヨーロッパ契約法原則Ⅰ・Ⅱ』(2006 年)および
パ私法の展開と課題』も参照されたい)
。以下では、本
同『ヨーロッパ契約法原則Ⅲ』(2008 年、いずれも法
書の内容を簡単に紹介しておこう。
律文化社)において示されている。同書の刊行は、本
第1部は、「ヨーロッパ私法の形成と方法論」と題し、
研究会の作業がなければ実現しえなかったであろう。こ
ケッツ教授の比較私法方法論や、そのヨーロッパ私法
の点は、また契約法に関する民法改正を視野に入れて
統一への戦略をめぐっての検討が中心となっている。
ケッ
動きを見せている日本の学会に対する本研究会の大き
ツ教授が来日されて龍谷大学でおこなわれた講演は、
な貢献として特筆しておきたい。
ハイン・ケッツ「ヨーロッパ共通私法をいかにして達成す
Ⅲ 最後に、
本書の書評として、
岡孝教授
(学習院大学)
るか」として収録されており、本研究作業及び本書の
の書評・比較法研究 66 号
(有斐閣・2004 年 282-288 頁)
出発点を形成する。このテーマをめぐっての比較法の
がある。このような形で共同研究の成果に対して外部か
大家と私たち研究会メンバーや参加者との学問的討議
らの評価を受けることができたのは、本研究への大いな
の記録も、中田邦博「ケッツ教授によるヨーロッパ契約
る励ましとなった。私たちにとってうれしい出来事であっ
法連続セミナーでの質疑応答 (1)」として収録されてい
た。この場を借りて、お礼申し上げることにしたい。
40
目次
CONTENTS
はしがき
第 1 部 ヨーロッパ私法の形成と方法論
15
ハイン・ケッツ『ヨーロッパ契約法 I』について
57
書評『ヨーロッパ契約法 I』
73
ヨーロッパ共通私法をいかにして達成するか
「ヨーロッパ共通私法をいかにして達成するか」を
91
めぐっての質疑応答
ブツェリウス・ロースクール
―ドイツにおける初めての私立法科大学院の試み 105
「ブツェリウス・ロースクール」をめぐっての質疑応答 122
第 2 部 ヨーロッパ私法の諸動向
不貞関係の相手方に対する無償処分の効力
―フランス破毀院 1999 年 2 月 3 日判決を
133
手がかりに
フランスからみたヨーロッパ契約法の一断面
159
―クリストフ・ジャマンの所説の紹介
契約危殆状態における法的救済に関する一考察
―ウィーン国連売買条約・
ユニドロワ国際商事契約原則・
179
ヨーロッパ契約法原則を手がかりに
ドイツ債務法の現代化と「契約締結上の過失」211
307
大陸法と英米法における契約上の救済
「大陸法と英米法における契約上の救済」を
331
めぐっての質疑応答
343
現在ドイツ損害法における法政策と法解釈学
363
ヨーロッパにおける損害賠償と損害概念
EUとドイツにおける支払遅滞制度の変革
―EU 支払遅滞指令とドイツ民法典の
395
2002 年改正
電子商取引(インターネット取引)に関する
EC 指令について
425
包括的担保における不確実性は解決したか?
―過剰担保における解放請求権をめぐる
449
諸問題について
第 3 部 資料編
ヨーロッパ契約法原則(PECL)
初出一覧
執筆者・翻訳者一覧
執筆者・翻訳者一覧(執筆・翻訳順)
松岡 久和(まつおか ひさかず)
京都大学教授
池田 清治(いけだ せいじ)
北海道大学教授
ハイン・ケッツ
ブツェリウス・ロースクール学長
中田 邦博(なかた くにひろ)
龍谷大学教授
森山 浩江(もりやま ひろえ)
龍谷大学助教授
馬場 圭太(ばば けいた)
同志社女子大学助教授
松井 和彦(まつい かずひこ)
金沢大学助教授
川角 由和(かわすみ よしかず)
龍谷大学教授
ゴットフリート・シーマン
チュービンゲン大学法学部教授
高嶌 英弘(たかしま ひでひろ)
京都産業大学教授
ペーター・シュレヒトリーム
フライブルク大学教授
若林 三奈(わかばやし みな)
龍谷大学助教授
潮見 佳男(しおみ よしお)
京都大学教授
ハンス・ユルゲン・アーレンス
オスナブリュック大学教授 ツェレ地方上級裁判所判事
インゴ・ゼンガー
ミュンスター大学教授 ハム高等裁判所判事
野田 和裕(のだ かずひろ)
広島大学助教授
藤井 徳展(ふじい なるのぶ)
京都大学大学院博士後期課程院生
益澤 彩(ますざわ あや)
京都大学大学院博士後期課程院生
483
524
525
41
55
『企業家精神と地域経済:
京都市と周辺地域を対象とした事例研究』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 55 巻
井口富夫 編著(日本評論社)
2004 年 1 月刊
251 頁
ISBN:4 − 535-55361-0
井 口 富 夫 (経済学部教授)
本書は、平成 12 年 (2000 年)4 月に発足した 「京
いし制約)を前提にしながら、京都市とその周辺地域
都市とその周辺地域に関する経済学的研究」 と題する
を具体的な研究対象にして、ケース・スタディを行なう。
研究会の約 3 年間にわたる研究成果をまとめた報告書
対象は京都市と周辺地域であっても、問題意識は全国
である。研究会は、通称、京都南部研究会と呼ばれ
的な観点から考える。
ている。京都南部とは、京都府の南半分を指し、具体
本書では、経済学の分析手法を用いて問題点に接
的には京都市とその周辺地域を意味している。京都南
近する。記述的方法だけでなく、出来る限り統計数値
部研究会が、最初に発足したのは、昭和 61 年(1986
を用いて、客観的に分析する。地域の利益とは、市
年)8 月であった。発足以来の本研究会の成果は、こ
民ないし市民生活の利益である、といった観点から整
れまでに 3 冊公刊されており、本書が 4 冊目に当たる。
理する。
地域研究といっても、従来のような地元の利益(ある
本書は、全部で 2 部 9 章と「おわりに」からなって
いは、地元の一部の人たちの利益)のみを優先した研
いる。「第 1 部 伝統産業の中の企業家精神」 では、
究ではなく、地域の視点からグローバルな問題に積極
従来からの伝統の上に立って、新しい試みが芽生えて
的に対応し、他地域との共存共栄を目指す地域学の発
きた、ないし芽生えつつある側面を強調しながら、企
展が求められている。その際のキーワードが、企業家
業活動のダイナミックな変化が京都経済に与える影響に
精神である。中小企業庁編『平成 10 年版、中小企
ついて検討を加えている。「第 2 部 地域の発展と企業
1998 年)は、
業白書』
(大蔵省印刷局発行、
副題が「変
家精神」では、企業家精神の発揮が地元経済の発展
革を迫られる中小企業と企業家精神の発揮」となって
に、どのように貢献しているかが検討される。
いる。中小企業は、自ら企業家精神を発揮して、創業
最後に、本書の「あとがき」である「企業家精神を
や企業の成長を図ることが重要であると提言している。
発揮した地域の創造を」では、今後に残された課題を
今後は、京都南部地域においても、企業家精神を発
整理している。
揮することによって、地域の発展が可能になるための具
体的方策を考え出すことが重要である。これが、本書
の根底にある考え方である。
本書の目的は、京都市とその周辺地域を分析対象と
して、企業家精神に富んだ企業や組織、個人にスポッ
トを当てることによって、地域経済における今後の発展
の可能性を追求することである。このような議論は、地
域住民の今後のより一層の生活向上のためには、どの
ような地域経済のあり方が望ましいのかを探る手がかり
になる。現状紹介に終わらず、政策的インプリケーショ
ンを提示する。
本書では、
「歴史都市」
として抱える固有の問題点(な
42
目次
CONTENTS
目次
第 1 章 歴史都市、京都と企業家精神
1 伝統の中の革新
2 歴史都市と企業家精神
3 地元頁献として地域研究―本書の概要
1
4
6
第 1 部 伝統産業と企業家精神
第 2 章 宇治茶のブランド性
1 本章の意図と構成
17
2 茶の概念と基礎知識
18
3 宇治茶の概念
23
4 宇治茶の特質
28
5 宇治茶企業の経営哲学
38
第 3 章 京都の伝統産業の直面する課題と経営革新
1 伝統産業の現状
49
2 伝統産業とは
53
3 伝統産業と先端産業
54
4 生産および流通構造
55
5 揺らぐ伝統性
58
6 構造・機能の改革の方向
61
7 経営革新の企業事例
64
8 伝統を活かす産地戦略
69
第 4 章 『環境』をジャンピングボードに進化する老舗の経営戦略
―京都の企業にみる第 2 の創業者精神―
1 老舗の経営における『環境』戦略
75
2 京都企業の特質
76
3 環境を軸にした第 2 の創業
84
4 老舗経営における環境軸の重要性
111
第 5 章 京仏壇・仏具業の実態調査
―本願寺門前町を中心としたアンケート調査に基
づく因子分析―
1 調査背景
115
2 京仏壇・仏具業にかんする先行研究
116
3 調査の目的・対象・方法および調査票の回収状況 117
4 調査結果
119
5 調査で得たおもな結論
143
第 2 部 地域の発展と企業家精神
第 6 章 京都市における「高度集積地区」の課題と企業家
の役割
1 高度集積地区とは
147
2 高度集積地区の歴史
149
3 土地利用問題
155
4 交通アクセス問題
159
5 中核施設問題
163
6 伏見の市街地との連携問題
167
7 都市再生緊急整備地域の指定
168
8 高度集積地区の機能的課題
169
9 集積形成の主体としての企業家
171
第 7 章 京都南部地域・伏見の都市創造
―城下町の形成から高度集積地へ―
1 城下町の誕生以前〔古代∼中世〕
175
2 城下町の誕生と変遷〔桃山∼江戸時代〕
183
3 激動と再興・近代への出発〔明治∼昭和〕
192
4 高度集積地の形成〔都市の展望〕
第 8 章 地域の発展と交通アクセスの整備
1 伏見区の現状
2 伏見区の地理的特徴と交通事情
3 産業として交通業
4 まちづくりと交通問題
5 コミュニティバス事業と「企業家精神」
―伏見区での取組み
6 地域の発展と交通問題―今後の課題
第 9 章 地域通貨による地域問題解決の試み
1 <よそ者>と地域の問題
2 崇仁地区の今昔
3 崇仁地区における地域通貨
4 「仁」の実験概要
5 <よそ者>によるアプローチの分析
おわりに 企業家精神を発揮した地域の創造を
執筆者一覧
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242
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249
251
執筆者一覧
編著者
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
守屋 晴雄(もりや はるお)
龍谷大学経営学部教授
山田順一郎(やまだ じゅんいちろう)
龍谷大学経済学部講師
花田眞理子(はなだ まりこ)
大阪産業大学人間環境学部助教授
李 屏(リ フピン)
龍谷大学社会学部講師
川端 基夫(かわばた もとお)
龍谷大学経営学部教授
小谷 浩之(こたに ひろゆき)
龍谷大学経済学部講師
春山 文枝(はるやま ふみえ)
京都精華大学人文学部講師
43
56
『地域開発と企業成長:技術・人材・行政』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 56 巻
松岡憲司 編著(日本評論社)
2004 年 5 月刊
286 頁
ISBN:4-535-55384-X
松 岡 憲 司 (経済学部教授)
1995 年の中小企業創造革新法によって、日本の中
紹介している。
小企業政策は新たな方向へ転換し、1999 年の中小企
第 2 部は、目を海外に転じて、アメリカ、ヨーロッパ、
業基本法の改正によって中小企業には革新の担い手と
アジアにおける地域振興政策について論じている。第
いう役割が期待されることとなった。地域政策の面でも
5 章では、アメリカを取り上げ、イノベーションが集中的
1992 年に集積活性化法(特定中小企業集積の活性
に発生しているイノベーションクラスターとよばれる地域
化に関する臨時措置法)が制定され、そして 1997 年
の特徴について説明している。第 6 章は、ヨーロッパ
には地域産業集積活性化法(特定中小企業集積の活
の中からイギリスを取り上げ、今イギリスで開業率を高
性化に関する臨時措置法)が制定され、
金型、
鋳鍛造、
めるためにとられている、小企業を対象とした金融政
メッキなどの基盤的技術産業集積を支援し、モノづくり
策について、説明している。第 7 章では、アジアに焦
の基盤をあらためて育成することを目指すようになった。
点をあてている。一口にアジアといっても多様であるが、
このようにして、現在では中小企業政策の中で、地
この章ではインドネシアをとりあげ、人材開発との関連で、
域の主体性を重視し、地域の中小企業の振興こそが、
インドネシア経済における技術の問題について論じてい
地域経済の発展につながるものと考えられるようになって
る。
きた。
第 3 部は、丹後地域に焦点を絞って分析している。
本書の目的は、地域経済の開発を、技術、人材、
まず第 8 章では「事業所統計」と「工業統計表」を
行政などのさまざまな側面から分析し、地域企業の成
用いて、丹後地域の産業構造の特性を示している。
長がいかにもたらされ、それが地域経済にどのような効
第 9 章では、丹後を代表する産物である縮緬を中心と
果をもたらすのかを検討しようと言うものである。本書の
する、繊維・衣料品産業について、その盛衰とそれに
構成は以下のようになっている。全体は大きく三部に分
伴うさまざまな対応策を紹介して、繊維・衣料品産業
かれている。第一部では、地域における公共政策と
の盛衰が地元経済に与えた影響を検討している。第
産地との関連について論じている。第 1 章では我々の
10 章では、丹後の金属・機械産業の基盤を形成す
共同研究の中で、現地調査やアンケートを行った、京
る上で重要な役割を果たした 2 つの会社、日本計算
都府の丹後地域の機械・金属産業の集積を事例とし
器(株)と(株)日進製作所の成長プロセスを辿り、こ
て、地域行政と産地形成との関連について考察してい
れら 2 社が今日の丹後機械・金属産業にどのような影
る。第 2 章では、
地域開発と地域経済の成長のために、
響を及ぼしてきたのかを考察した。最後の第 11 章で
財政がどのような役割を果たすことができるのかという問
は、われわれが丹後で実施したアンケート調査にもとづ
題について、主として理論モデルによって分析している。
いて、丹後の機械・金属産業の現状と、技術能力の
第 3 章は、産地の企業成長にとってもっとも重要な問題
形成要因について分析している。
である資金調達について、その現状や問題点を考察し
京都に住んでいらっしゃる方にもあまり知られていない
ている。第 4 章では、地方自治体が地域経済におけ
丹後の機械・金属産業の発展過程、現状について詳
る技術振興政策について、第 3 セクターを利用した形
しく分析した点が、本書の特徴であると考えている。
での地域振興政策を中心として、多くの事例を交えて
44
目次
CONTENTS
序 地域開発と中小企業の成長
1 部
第
第1章
1
2
3
4
5
6
第2章
1
2
3
4
第3章
1
2
3
第4章
1
2
3
地域政策と産地
産地企業と地域行政
産地形成の経緯と現況
産地化形成の原動力
国の法整備と地方自治体の支援体制
産地企業の経営の課題と改善方向
産地の発展方向
海外生産問題と産官学の提携の必要性
地域開発と財政
日本の地域格差
地域開発政策の最適戦略
地方分権、人口・住民移動と地域開発
公共投資、公的金融と地域開発
地域中小企業と金融
中小企業金融の特徴
中小企業金融の現状
産地企業と金融
地域経済と技術振興
地域経済と公的技術振興支援
第 3 セクターによる技術振興支援
京都における第 3 セクターによる
技術振興支援の展開と課題
3
3
7
11
16
18
22
27
27
30
38
54
63
63
70
76
87
87
89
90
第 2 部 諸外国における地域開発の事例
121
第 5 章 アメリカのイノベーション・クラスター
122
1 イノベーションの地理的分布
126
2 イノベーション活動の川上段階での状況
128
3 イノベーション・クラスターと製造のクラスター
131
4 シリコンバレーの産業展開
5 リサーチ・トライアングルとテキサス・オースチン 134
6 イノベーション・クラスター形成と「地域産業政策」 137
145
第 6 章 イギリスの小企業とファイナンス
145
1 開業率と小企業
147
2 イギリスの小企業の概観
3 イギリスの小企業のファイナンス:
153
初期段階と拡張段階の問題
160
4 小企業とベンチャー企業:結びに代えて
第 7 章 技術移転と労働条件
163
―インドネシアの事例から―
163
1 インドネシアにおける輸出志向工業化
166
2 アジアにおける技術移転の諸相
168
3 労働現場における技術移転の現状
176
4 経済危機の影響
181
5 おわりに
第 3 部 丹後の地域経済と産業集積
第 8 章 丹後地域の産業構造
1 「事業所統計」による産業構造の特性
2 「工業統計表」による製造業における
産業構造の特性
3 まとめ
第 9 章 繊維・衣料品産業と地域経済
1 「縮緬」から「ちりめん」へ
2 丹後のちりめん産業
3 繊維・衣料品産業の構造変化
4 丹後と西陣、室町の関係
5 地域経済への影響
6 新しい試み
第 10 章 丹後機械・金属産業の歴史
1 日本計算器
2 日進製作所
3 産業発展と地域の伝統
第 11 章 丹後機械・金属産業の現状と課題
1 丹後地域の金属機械産業と技術能力
2 アンケートによる調査
3 技術能力形成の諸要因
4 結びに代えて
執筆者一覧
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284
286
執筆者紹介
編者
松岡 憲司(まつおか けんじ)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
山田順一郎(やまだ じゅんいちろう)
龍谷大学経済学部非常勤講師
西垣 泰幸(にしがき やすゆき)
龍谷大学経済学部教授
荒井 一久(あらい かずひさ)
信金中央金庫 関東営業第 2 部 部長
金田 修(かなだ おさむ)
(財)京都産業 21 けいはんな支所 所長
明石 芳彦(あかし よしひこ)
大阪市立大学大学院創造都市研究科教授
野方 宏(のがた ひろし)
静岡大学人文学部教授
嶋田 ミカ(しまだ みか)
龍谷大学非常勤講師
佐竹 光彦(さたけ みつひこ)
龍谷大学経済学部教授
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学経済学部教授
187
188
195
212
215
215
45
57
『借地借家法の新展開』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 57 巻
松井宏興・岡本詔治・牛尾洋也 編著(信山社)
2004 年 8 月刊
314 頁
ISBN4-7972-3134-3
牛 尾 洋 也 (法学部教授)
1992 年施行の新借地借家法は、更新拒絶におけ
ドイツの借家法改正の検討に及んだ。
る「正当事由」 の拡大、定期借地権の新設などを
本書は、7 つの論文から成っている。第 1 論文は、
含む賃貸借の存続保障のあり方の変更、地代・家賃
居住利益が格別の保護を享受できる理由につき、市民
の増減請求の調停前置主義制度の導入などを柱とし、
法レベルの根拠と憲法の人権秩序との整合性を図る必
1999 年の改正では定期借家権が新設された。こうした
要を指摘する。第 2 論文は、法制度上、敷金の担保
借地借家をめぐる新たな動向に対して、一定の評価な
的機能が発達した理由として、動産先取特権の未成
いし判断をすべき時期にある。ところで、たとえば民事
熟と非典型的な約定担保の簡便性が高まったことを指
法領域における登記法の改正、消費者契約法の制定
摘した。第 3 論文は、建物の保護やその買受人保護
や担保法制の改正、公法領域における都市再開発に
のために存する法定地上権の法的問題を克服するべ
かかる一連の都市法制の改正など、借地借家法制度
く、自己借地権を理論的、実際的な観点から提示する。
に大きな関わりを持つ他の法制度においても様々な法改
第 4 論文は、旧建物保護法の規定を受けた借地借家
正が行われ、その相互の関連も特徴的である。たとえ
法 10 条所定の「登記」 情報が、借地借家法と本来
ば、金融担保法改正の趣旨である執行手続きの省力
の建物保護法との原理的差異と調和を考えて解釈すべ
化・簡素化による担保価値の保全の目的追求は、他方
きとする。第 5 論文は、ドイツにおける定期借家制度を
で、短期賃貸借制度の廃止など、借地借家法制度が
中心とする賃貸借法の改正動向を検討し、むしろ解約
担ってきた賃貸借の存続保障を通じた借地借家関係の
告知保護や社会的住居賃貸借法が維持されていること
保全や、利用権の健全な運用に規定される所有権の
を指摘した。第 6 論文は、ローマ法上の actio negatoria
収益権能を脅かしており、担保・執行法制度と借地借
(役権否認訴権)の形成史をたどり、それと所有権と
家法制度との法制度間の対抗関係が存在する。また、
の関係およびその社会・経済的背景をふまえてあるべ
例えば、敷金問題では、抵当権の物上代位や相殺、
き解釈方向を示す。第 7 論文は、虚偽表示が無効と
消費者契約法の適用が問題となる。また、借地借家
なる根拠としての意思欠缺を分析し、表示上の効果意
法制度は、家族関係の変化(二世帯住宅など)に伴
思の存否とその内容は、異なる判断であることを指摘し
う家族法制度の動向や、少子高齢化時代を迎えた社
その具体化を図ろうとする。
会保障・福祉法制の動向、さらには、住宅環境の向
収録された論文は、借地借家法の近時の動向に対
上や地球規模の環境保全により要請される新たな借家
する一定の問題意識あるいは日本の現代的法状況に
規制の提唱(フランス、ドイツ)も行われている。
触発され、新たな知見を世に問うものであり、基礎的
このような問題状況に対して、一定の解決指針を示し、
かつ地道な研究でありながらも今後の民事法学の発展
あるいはその理論的研究を目指して共同研究が行われ
に大きな寄与を与えるものである。
た。本書は、社会科学研究所の指定研究「借地借
家法の総合研究」(2000 年 ~2002 年)におけるその
成果の一つである。研究会は約 20 回を数え、
イギリス、
フランス、ドイツの各借地借家法制の調査研究および、
46
目次
CONTENTS
1「居住権」 の再構築
1 問題の所在と限定
1 問題状況
2 社会法的居住権論の意義と限界
2 居住権の法的構成
1 居住権の成立
2 居住権の効力
3 居住権の権利性
3 居住権論の具体化
1 「家庭の住居」論
2 裁判例にみる居住権限
4 まとめと課題
1 居住利益の保護
2 借家権と居住利益
3 いわゆる「住まいへの権利」
2 敷金の制度史的素描
―民法制定以前の債務履行確保制度との関係で―
1 はじめに
2 民法制定前の賃借人の債務の履行確保制度の概観
1 賃貸人と賃借人の契約関係
2 家請人制度
3 敷金慣行
4 小 活
3 民法制定過程における賃借人の債務の履行確保の制度構想
1 賃借人の立保証義務
2 契約上の管理人
3 敷金制度
4 賃貸人の先取特権制度
4 むすび
1
1
2
5
5
7
8
10
10
11
20
20
21
22
37
39
40
44
46
48
49
49
58
62
67
83
3 自己借地権制度導入の視点
99
はじめに
100
1 法定地上権制度の問題点と立法提案
100
1 法定地上権制度の問題点
2 法定地上権制度の抱える問題に対する立法的解決方法 103
106
2 借地借家法改正作業と自己借地権制度導入論
106
1 1966 年借地・借家法改正作業
113
2 1991 年借地借家法改正作業
3 2003 年担保・執行法制改正と一括競売制度の拡充 119
123
4 まとめ
124
3 自己借地権制度導入の立法提案について
124
1 一括競売制度義務化論について
126
2 担保法改正委員会案について
129
3 槇理論から自己借地権制度導入へ
131
4 自己借地権制度創設後の課題
137
おわりに
4 不動産登記情報と法
―人的情報と物的情報の齟齬とその法律問題―
1 問題の所在
147
2 人的登記情報の齟齬と借地権の対抗力
149
(旧建物保護法一条の判例にみる)
1 人的登記情報の齟齬と借地権の対抗力が問題となった裁判例 149
2 物的登記情報の齟齬と借地権・その他の権利の対抗力 153
160
3 判例の検討
160
1 人的登記情報の齟齬判例
162
2 物的情報齟齬に関する学説
168
4 旧建物保護法の問題点
168
1 宅地賃借権の登記と旧建物保護法一条
171
2 民法 177 条登記との異同
5 旧建物保護法一条にいう「登記」に関する諸問題 174
174
1 「推知」の意味
175
2 表示の登記による対抗力
3 「登記したる建物」―旧建物保護法立法理由 176
177
4 旧建物保護法一条とその登記
6 現行借地借家法と旧建物保護法の比較と検討ならびに検討 178
178
1 現行借地借家法と旧建物保護法の比較
178
2 規定の評価
178
3 おわりに
5 ドイツにおける定期賃貸借 Zeitmiete 制度の展開
1 はじめに
187
2 定期賃貸借制度の変遷
188
188
1 1982 年の定期賃貸借の導入
199
2 1993 年の定期賃貸借規定の改正
204
3 2001 年改正の準備作業
204
1 住宅政策専門家委員会の提案
2 賃貸借法の新たな構成と簡素化に関する報告 209
213
4 2001 年の改正草案の変遷
213
1 2000 年 12 月の政府草案
217
2 法務委員会の修正
219
5 2001 年の新規定
219
1 新 575 条
220
2 解約告知権排除特約
222
3 延長条項つき定期賃貸借契約
222
4 黙示の延長
223
6 むすび
6 ローマ法における所有権保護訴権の 「形成」とその意義
―ctio negatoria を中心にした 「覚書」 的考察―
1 序 論
231
⑴「法制度」に被規定的な所産としての物権的請求権 231
232
⑵ 物権的請求権の歴史的被規定性
232
⑶「ローマ法」考察の方法的視点
233
⑷ 本稿の課題意識とその限定
2 「古代」ローマ法における「私」的所有権の
234
形成過程とactio negatoria の未形成
234
⑴ 三つの時期区分
234
⑵ 本稿「考察視点」の確認
⑶「古代」ローマ法における「私」的所有権の
235
形成過程とactio negatoria の未形成
3 「古典期」ローマ法における役権訴権としての
238
actio negatoria の形成とその歴史的意義
⑴「古典期」ローマ法における
個人的所有権観念成立の社会・経済的背景 238
⑵「古典期」ローマ法における
239
個人的所有権観念の法的意義
⑶「古典的」ローマ法における
241
「役権訴権」としての actio negatoria の形成
250
⑷ 小 括
4 「後」古典期における actio negatoria の法的機能 251
254
5 結 語
7 虚偽表示の構造と意思欠缺
はじめに
1 虚偽表示無効の根拠とその要件について
1 93 条本文と「表示に対する相手方の信頼」
2 意思表示の構成要素と成立要件・効力要件
3 心裡留保無効・虚偽表示無効の要件
2 94 条 2 項の法理と類推適用について
1 94 条 2 項を支える法理
2 94 条 2 項の類推適用の構造
―嚆矢となった裁判例が示すこと
3 94 条 2 項の拡張適用と類推適用
4 法 類 推
3 いわゆる「意思無能力」について
1 起草者の「意思欠缺」による基礎づけ
2 意思表示の時点における「意思無能力」
3 意思表示の時点における「意思欠缺ノ事実」の位置
まとめにかえて
281
283
283
285
288
291
291
294
297
300
302
302
303
304
306
編集・執筆者紹介
編者
松井 宏興(まつい ひろおき)
関西学院大学法科大学院教授
岡本 詔治(おかもと しょうじ)
龍谷大学法学部教授
編集
牛尾 洋也(うしお ひろや)
龍谷大学法学部教授
執筆者
大河 純夫(おおかわ すみお)
立命館大学法科大学院教授
川角 由和(かわすみ よしかず)
龍谷大学法学部教授
瀧川あおい(たきがわ あおい)
大阪司法書士会 京都学園大学法学部 大阪産業大学大学院
非常勤講師
橋本 恭宏(はしもと やすひろ)
中京大学法科大学院教授
藤井 俊二(ふじい しゅんじ)
創価大学法科大学院教授
47
58
『日本の裁判所:司法行政の歴史的研究』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 58 巻
萩屋昌志 編著(晃洋書房)
2004 年 3 月刊
332 頁
ISBN4-7710-1602-X
萩 屋 昌 志 (法科大学院教授)
本書は、明治期以降、今日に至るまで日本の裁判所
な構造を認めることができる(第Ⅱ部第 5 章)。1960 年
が行ってきた司法行政を、判事採用・研修・昇任・異
代から開催されてきた裁判官合同・協議会も、最高裁
動などの人事政策を中心にして概観することにより、そ
判所事務総局が裁判実務を事実上コントロールする機
の特徴や問題点を検討するものである。明治期から昭
能を果たしてきたひとつの重要な舞台であったといわれ
和初期までを第Ⅰ部(近代日本における司法制度改革
ている(第Ⅱ部第 2 章)。もっとも、他方において、戦
論議と司法省)
、戦後を第Ⅱ部(最高裁判所の司法行
後は、全国裁判官懇話会が発足し(第Ⅱ部第 3 章)
、
政・人事政策)として、第Ⅰ部は三阪佳弘(現在大阪
日本裁判官ネットワークが結成されるなど(第Ⅱ部第 6
大学大学院高等司法研究科教授)が、第Ⅱ部は萩屋
章)
、裁判官の自主的な活動もみられる点が注目される。
昌志(龍谷大学法務研究科教授)が、それぞれ執筆
2001 年 6 月に司法制度改革審議会意見書が小泉
を担当した。
首相(当時)に提出され、日本の司法制度が大きな変
日本の裁判所の司法行政については、明治期から
革を求められてきている。今年 5 月から実施される裁判
終戦までは司法省がその権限を有していたのに対して、
員制度も、これら一連の司法制度改革のひとつに位置
戦後は、
日本国憲法のもとでの三権分立の確立とともに、
付けられる。司法制度改革においては、国民にとって、
最高裁判所がその権限をもつことになったというように、
司法が、より利用しやすく分かりやすいものとなることが
司法行政の権限の担い手の点では大きな変遷があった
要請されているとともに、このような要請に十分に応える
といえる。しかし、その内容を具体的にみると、一貫し
ことができるだけの法曹の質の多様化や高度化が要求
て中央集権的な観点からの人事政策を行おうとしてきた
されている。しかし、司法制度改革審議会での審議の
ことが、本書から読み取ることができるように思われる。
場面にかぎっていえば、最高裁判所の対応は必ずしも
このことを戦前と戦後に分けてすこし具体的にみるな
積極的であったとはいえない(第Ⅱ部第 7 章)。
らば、つぎのようになる。明治末∼大正期の法曹資格
このような動きのなかで、今後、最高裁判所を頂点と
制度の改革において、法曹資格の付与・任用が一元
する日本の裁判所が、司法行政の局面において、司
化されたことにともなって、司法官試補の任用とその後
法制度改革にどのように対応するのか―これまで通
の修習課程が、法務省に一元的に掌握されるようになっ
り、中央集権的な政策を貫徹させようとするのかどうか
た(第Ⅰ部第 1 章)。さらに、昭和初期の裁判所構成
―が注目される。本書の編著者は、このような問題
法改正作業を通じて、司法裁判事務についての大審
関心から、本書の続編を構想しているところである。
院長の権限拡大が押し進められようとした(第Ⅰ部第 2
章)。戦後においては、裁判官会議が形骸化し(第Ⅱ
部第 1 章)
、新任判事補研修制度が拡充されるなどし
て(第Ⅱ部第 3 章、第 4 章)
、司法行政の中央集権
化は一層進められてきた。裁判実務改善の局面におい
ても、最高裁判所やその意を受けた東京地方裁判所
などが、全国の裁判所をリードするといった中央集権的
48
目次
CONTENTS
第Ⅰ部 近代日本における司法制度改革論議と司法省
第 1 章 明治末∼大正期の法曹資格・任用制度の展開
―改革をめぐる議論とその帰結としての集権化―
3
はじめに
1 1890 年代における法曹資格・任用制度の原型の成立 5
2 1900 ∼ 10 年代の法曹資格・任用制度改革論議 15
35
おわりに
第 2 章 昭和初期の裁判所構成法改正の試み
―大審院長の権限拡大をめぐる議論とその帰結―
53
はじめに
1 1927 ∼ 28(昭和 2 ∼ 3)年裁判所構成法
54
改正委員会における改正作業
2 1927 ∼ 28(昭和 2 ∼ 3)年裁判所構成法
改正委員会における大審院長の権限拡大を
62
めぐる議論
70
おわりに
司法制度改革審議会での審議と最高裁判所の対応 249
279
司法制度改革審議会意見書
司法制度改革審議会意見書への最高裁判所の対応 288
323
323
裁判所外との関係―司法権の独立
裁判所内での関係
324
―人事統制・中央集権的な司法行政
3 福岡事件
326
2
3
4
おわりに
1
2
編著者
萩屋 昌志(はぎや まさし)
龍谷大学法学部教授
著者
三阪 佳弘(みさか よしひろ)
大阪大学大学院高等司法研究科教授
第Ⅱ部 最高裁判所の司法行政・人事政策
85
はじめに
1 問題関心と分析方法
85
2 司法行政の責任者・担い手
87
3 キャリアシステム・法曹一元について
88
第 1 章 1950 年代
1 法廷闘争と法廷秩序維持
94
2 裁判批判への敏感な反応
95
3 裁判官に対する勤務評定
98
4 裁判官会議の形骸化
100
第 2 章 1960 年代
1 臨時司法制度調査会意見書による
113
法曹一元制度導入の見送り
2 裁判官会同・協議会の開催
116
3 司法の危機―偏向裁判批判・平賀書簡事件 120
第 3 章 1970 年代
1 司法の危機
―青年法律家協会脱会勧告、新任・再任拒否 132
2 公正らしさ論
139
3 全国裁判官懇話会の発足
142
4 新任判事補研さん制度・未特例判事補
143
研さん制度(参与判事補制度)の導入
5 判検人事交流
149
6 各種の報告制度の導入―訴訟の迅速処理 153
第 4 章 1980 年代
1 裁判官の不祥事と研修制度の拡充
166
2 矢口最高裁判所長官による諸改革
172
186
第 5 章 1990 年代その 1:実務改善
1 民事判決書の改善
186
2 民事訴訟実務改善
189
3 裁判所書記官の新しい職務
194
―訴訟進行管理事務
4 裁判所と弁護士会との協調
200
第 6 章 1990 年代その 2:裁判官の市民的自由
1 社会的活動を理由にした人事統制
210
2 日本裁判官ネットワークの設立
233
第 7 章 2000 年代初頭:司法制度改革と最高裁判所の対応
1 司法制度改革審議会設置までの経緯
247
49
59
『分権社会の到来と新フレームワーク』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 59 巻
白石克孝 編著(日本評論社)
2004 年 3 月刊
283 頁
ISBN4-535-58392-7
白 石 克 孝 (法学部教授)
20 世紀の最後の 10 数年間は、行政に対して既存
対立だけでなく協調の要素も多く含んでいるものとして
のフレームワークの転換を迫るような、様々な課題を突き
考えている。こうした視点は本書の各章で扱うそれぞれ
つけた時期だったといえよう。課題は様々であったとして
の領域において共通している。
も、その解決の方向性にはある共通項を見いだすこと
官と民の関係における前者から後者への権限のシフ
ができる。それは国によって名称も法人格も異なるけれ
トという意味での分権については、いわゆる NPO の台
ども、非営利非政府の組織が主体として、新たなそし
頭が公共経営革命をもたらしつつあると評価し、我々は
て大きな役割を期待されていることである。
地方行政再生の可能性をそこに見いだしている。政府
我々が採用している用語でいえば「アソシエーション
セクターと非営利セクターとの協働というのは、公共性
革命」と呼ぶことができるような状況が、公共性の問い
の意味の問い直しをともなう過程であり、これはある種
直し議論と市民社会論の再興をともないながら、行政
の社会経済システムの転換でもあるとして積極的に評価
に対して新しいフレームワークを提示し始めている。この
している。
ような前提的認識をもって指定共同研究「分権社会の
それでは、社会経済システムの転換を包含するよう
到来と非営利セクター」は始められた。最終的な研究
な分権社会に対応できる行政とはいかなるものか。我々
成果である本書のタイトルから非営利セクターを落とした
は福祉国家の再編と地域開発の転換という2 つのフィー
のは、非営利セクターとは何かといった定義的な議論に
ルドに絞って、理論と事例とを合わせた分析を提示した。
紙幅をさかなくてもいいようにと配慮したからである。
そしてこれらに加えて、協働がもつ法的あるいは実際
我々はこうした「アソシエーション革命」によってもた
的な課題についても地方自治体の視点から探っている。
らされる新しい社会を分権社会としてとらえている。分
たとえば、協働によって「共」の領域が形成されると
権社会という場合の分権には 2 つの意味が込められて
考えるならば、そこでの行政責任のあり方はどういった
いる。1 つは政府間関係における中央から地方への分
ものかについて法的な課題などについて議論している。
権であり、もう1 つは官と民あるいは公と私の関係にお
本書は各著者それぞれの関心にひきつけながら、分
ける前者から後者への権限のシフトである。そして本書
権社会がもつ意味について、新しいフレームワークを現
に共通して流れているテーマ意識は、これからの行政
実のものとするための行政と市民の課題について、そ
のあり方を見据えたとき、この 2 つの分権が分かちがた
れぞれの論を展開する形で編まれている。各著者に通
く結びついているということにある。我々はこれを「新フ
底する「新フレームワーク」への希求について、本書
レームワーク」の基底にすえて本書を編んだ。
を読みほどいていただければ理解していただけるので
本書では非営利非政府組織について、それぞれの
はないかというのが編者としての思いである。
歴史的特徴に留意しながらも、可能な限り広義の定義
で理解するようにしている。また本書では非営利非政
府組織の役割を小さな政府の実現と結び付けて考えて
はいない。政府セクターの優位か非営利セクターの優
位かといった二者択一の見方を否定し、両者の関係は
50
目次
CONTENTS
まえがき
第 1 章 国際社会と日本の市民セクター
1
はじめに
1 世界構造の転換と持続可能な社会開発
3
10
2 日本の構造改革と市民セクター
3 地方分権改革と市民セクター
16
4 分権時代における「参加」から「関与」へのひろがり 22
第 2 章 イタリアの地方自治制度改革とヨーロッパ統合
1 はじめに
25
2 戦後イタリアの地方自治制度
26
3 普通州制度の発足
―70・80 年代における行政的分権と財政的集権 27
4 90 年代の地方分権改革
31
5 構造資金、結束資金、EC 統合の深化と分権化 33
6 おわりに――分権化を実現する 2001 年憲法改正 35
第 3 章 公共経営革命と NPO の台頭
いくつかの実験事例を中心に
1 はじめに
43
2 グローバルな公共経営革命の展開
44
46
3 グローバルなアソシエーション革命
4 日本における「革命」の兆し
48
5 住民参画型の行政評価―東海市のまちづくり指標 54
6 住民による公務の実施―志木市の地方自立計画 57
7 自律性とアカウンタビリティ
59
―NPOと行政の事業委託関係
8 おわりに
65
第 4 章 大都市を支える NPO
ニューヨークの NPO を素材として
1 はじめに
69
70
2 ニューヨークの NPO の概要
3 ニューヨークの NPO を支える社会的基盤
75
4 ニューヨークの CDCとコミュニティの再生
78
5 むすび
83
第 5 章 福祉社会と非営利セクター:国際比較の中の日本
87
1 はじめに
2 福祉社会における国家セクターと非営利セクター 89
3 福祉レジーム論と非営利セクター研究
96
4 日本型福祉社会と福祉をめぐる公私関係
101
5 1990 年代以降における公私関係の変容
108
113
6 おわりに
第 6 章 社会的包摂と非営利組織:ヨーロッパの経験から
1 社会的包摂の浮上
117
2 非営利組織と社会的企業
120
124
3 雇用政策の展開と社会的包摂
4 媒介的労働市場アプローチ
127
131
5 多様な社会的包摂
6 むすびにかえて
135
第 7 章 地域開発のパラダイム転換:持続可能な発展論の意義
1 外来型開発とフォーディズム的地域開発モデル 139
2 グローバリゼーションと分工場経済型地域開発モデル 144
3 オルタナティブ戦略としての内発的発展の提起 149
4 経済資源としての地域社会の浮上
152
5 持続可能な発展の提起とEU の取り組み
157
6 サステイナビリティと社会関係資本
160
7 地域開発のパラダイム転換
164
第 8 章 スポーツと地域開発、 地域づくり:
大規模投資・開発から内発的発展、 環境重視へ
1 大阪市の 08 年オリンピック招致レース惨敗の意味 171
2 長野大会に見る大規模投資・開発型地域開発 173
3 大規模投資・開発の特徴とそれに伴う諸問題 175
4 批判的世論と転換の必要性
178
5 問われる「環境の世紀」への対応
6 「環境保全型」の実際と可能性
7 地域づくりにおけるスポーツの役割
181
184
187
第 9 章 地 方分権化における参加型農村開発と地方行政
システムの事例研究:JICA 貧困対策インドネシ
アプロジェクト・タカラールモデル
191
1 はじめに
2 プロジェクト形成の背景
192
3 プロジェクトの概要
196
4 参加型開発のための概念的枠組み
202
5 プロジェクト経緯
208
6 プロジェクト成果と教訓
220
第 10 章 「参加」と「協働」 の時間
合意形成過程の時間と質を考える
1 「参加」と「協働」の流行
231
2 先駆事例の形成過程とその時間
235
3 参加型条例の「質」をどう測るか
247
4 「協働」の形成と蓄積
251
第 11 章 まちづくり論における協議システムの法的課題
国立マンション事件によせて
259
1 はじめに
2 協議型まちづくり
261
3 協議型まちづくりの計画過程と私人の関与手法 266
4 国立マンション事件にみる地域共通意識の形成と法 269
5 おわりに
―地域的対応の必要性と非営利セクター― 280
283
あとがき
執筆者紹介
編者
白石 克孝(しらいし かつたか)
龍谷大学教授
執筆者
富野暉一郎(とみの きいちろう)
龍谷大学教授
高橋 進(たかはし すすむ)
龍谷大学教授
後 房雄(うしろ ふさお)
名古屋大学教授
日詰 一幸(ひずめ かずゆき)
静岡大学教授
石田 徹(いしだ とおる)
龍谷大学教授
宮本 太郎(みやもと たろう)
北海道大学教授
等々力賢治(とどりき けんじ)
龍谷大学教授
河村 能夫(かわむら よしお)
龍谷大学教授
赤松 志朗(あかまつ しろう)
JICA 国際協力専門員
土山希美枝(つちやま きみえ)
龍谷大学助教授
見上 崇洋(みかみ たかひろ)
立命館大学教授
51
60
『中国の環境と環境紛争:環境法・環境行政・
環境政策・環境紛争の日中比較』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 60 巻
平野 孝 編著(日本評論社)
2005 年 3 月刊
431 頁
ISBN 4-535-51467-4
北 川 秀 樹 (法学部教授)
本書は、私学振興共済事業団・龍谷大学の助成に
かにしている。また、第 3 部の北京市の大気汚染、自動
よるミレニアムプロジェクトのサブプロジェクト「アジアに
車公害の現状と対策に関する論文は、北京オリンピック
おける環境の世紀の創造―西部開発と中国の環境 ( 日
を控え天然ガスの導入や粒子状物質の抑制、排出ガス
本との比較研究 )」の調査・研究の成果報告書であり、
規制における高い目標の設定など、懸命に取り組む環境
大きく二つの内容からなる。
保護部門の姿を明らかにしている。さらに、1999 年から
一つは、改革開放政策への転換以降、急速な経済
中国政府が取り組む内陸部の開発・西部開発は、沿海
発展を続ける中国において、日本が経験したような深刻
部と内陸部の格差を是正することを目的として開始された
な公害がすでに起こっており、その解決に資するため、
ものであるが、開発投資による環境汚染や破壊をいかに
日本の経験を伝えようとするものである。編者自身が第
して克服し、環境と経済の両立を図るかが問われている。
1 編「日本」の冒頭に執筆した「現代日本の環境法・
第 4 部は、その現状と対策および日本からの植樹協力に
環境政策と環境紛争の出発点 ―水質汚濁防止法
ついての論文を収める。最後に、第 5 部は公害健康被
前史―」は、その後のイタイイタイ病、水俣病など
害および訴訟の現状と限界を紹介する論文を収める。特
の悲惨な公害を産むこととなった戦後のわが国の政府・
に、前述の王燦発教授は、自ら NGO を作って被害者
財界の認識のレベル ( 経済優先と環境軽視 )と限界を
救済に乗り出している。彼の指摘する立法の不備、民間
如実に描き出している。また、同編には日本の環境法・
組織の役割の重要性は説得力を持って我々に迫る。
政策の沿革や先進的地方自治体の地球温暖化政策の
本書で述べられているように、中国は外国の先進事
到達点に関する論文を収める。
例を積極的に吸収し、中国独自の環境法政策体系を
もう一つは、中国の環境問題の現状を紹介するととも
構築している。しかしながら、立法の不備、法執行の
に、中国環境法政策、西部開発と環境、環境訴訟など
弱さ、縦割り行政の弊害など問題点も数多い。本書が
の現状と課題を、できるだけ詳細、かつ的確に論じようと
公刊された 2005 年以降も、中国は胡錦涛政権のもとで
するものであり、第 2 編「中国」は 4 部 11 章からなる。 「科学的発展観」と「和諧社会」を標榜し環境問題
同編に収められた論文は主として中国の研究者により執
解決に努力しており、その成果は原因者への挙証責任
筆されている。このなかには、元国家環境保護局・副
の転換を規定した水汚染防治法の改正(2008 年)な
局長の金鑑明氏、公害健康被害者救済の第一線で活
どにも表れている。
躍する中国政法大学教授・弁護士の王燦発氏(2008
本書の意義は、21 世紀初頭において、中国の環境
年 日経アジア賞受賞)なども含まれている。中国政府も
法政策の到達点を、第一線で活躍する、錚々たる執
1980 年代から環境問題の深刻さを認識しており、多くの
筆者を揃え詳細に論じたことにある。その後の本学の
環境法政策を制定し、また新たな事業の展開に努めて
環境法政策研究の分野において、この中国側研究者
いる。同編の第 1 部では、最新の環境調和型の生産・
とのネットワークは確実に継承され、発展しつつある。
消費モデル、リオ・サミット後の中国の環境法と環境行政、
最後に、編者の平野孝教授が 2009 年 3 月 25 日に
環境影響評価法の制定について論じており、これに続く
急逝された。今後の研究の深化が期待されるなか、誠
第 2 部の論文は、それらの到達点と残された課題を明ら
に哀惜の念に堪えない。
52
目次
CONTENTS
はしがき
黄 建軍(ファン ジェンジュン)
1 編 日本
第
第 1 部 現代日本の環境法・環境政策と環境紛争の
出発点 水質汚濁防止法前史
第 2 部 現代日本における環境法・環境政策の発展と
最近の動向
第 3 部 地方自治体における地球温暖化対策の動向と
今後の役割
宋 進喜(ソン ジンシ)
第 2 編 中国
第 1 部 21 世紀中国の高度経済成長と環境保護
調和型の開発モデル
第 2 部 中国の環境法と環境行政
第 1 章 中国の中央環境行政管理機関
第 2 章 リオ・サミット後 10 年間の中国の環境法と
環境行政
第 3 章 中国における環境影響評価法の制定と意義
第 3 部 北京市の環境と環境行政
第 1 章 北京市の大気汚染と防止対策
第 2 章 北京市の自動車公害の現状と規制対策
第 4 部 西部開発と環境
第 1 章 西部開発の環境法と環境政策
第 2 章 西部地区の生態環境と水質源
第 3 章 中国の森林の保全と再生
―日本から植樹協力・東アジアの
持続可能な発展を目指して―
第 5 部 中国の環境汚染と環境紛争
第 1 章 中国における環境汚染と紛争処理
第 2 章 中国の環境紛争処理と公害被害者に対する
法律支援
西北大学環境科学研究中心教授
西北大学環境科学研究中心教授
3
申 紅花(シュン ホンファ)
龍谷大学大学院法学研究科研究生
63
王 燦發(ワン ツァンファー)
81
中国政法大学教授・環境資源法研究所所長
117
129
139
189
223
263
297
309
323
349
405
編者
平野 孝(ひらの たかし)
龍谷大学法学部教授
執筆者
加藤 久和(かとう ひさかず)
名古屋大学大学院法学研究科教授
北川 秀樹(きたがわ ひでき)
龍谷大学法学部助教授
金 鑑明(ジン ジェンミン)
院士・元中国国家環境保護局副局長
金 冬霞(ジン ドンシャ)
中国国家環境保護総局環境監査弁公室副研究員
王 曦(ワン シー)
上海交通大学教授・法学院副院長・環境資源法研究所所長
秦 天宝(チン ティエンバオ)
武漢大学法学院講師
彭 応登(ボン インドン)
北京市環境保護科学研究院大気汚染規制研究所所長
蔡 守秋(ツァイ ショウチュウ)
武漢大学法学院教授・環境資源法研究所所長
馬 乃喜(マ ナイシ)
西北大学環境科学研究中心教授
53
61
『刑事司法と心理学:
法と心理学の新たな地平線を求めて』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 61 巻
村井敏邦 編(日本評論社)
2005 年 3 月刊
279 頁
ISBN4-535-51468-2
村 井 敏 邦 (法科大学院教授)
本書は、龍谷大学社会科学研究所共同研究「刑
接触」は、法と心理学会での報告に手を加えたもので
事司法における心理学の活用について」
(研究代表者 :
ある。
村井敏邦)の研究成果に基くものである。上記共同研
法学者と心理学者が協力しながらの学際的共同研
究は、2001 年度から 2003 年度までの 3 年間、社会
究の在り方には、三方向がある。一つは、法律学に
科学研究所から研究費を支給されて遂行された。共同
おける心理学的手法を用いた研究、いわば心理学的
研究では、龍谷大学所属の研究者を中心としながら、
法学であり、第 2 は、法学と心理学の対等関係におけ
北海道大学、大阪市立大学、奈良女子大学など、多
る研究であり、第 3 は、法現象に関する心理学研究、
様な大学の法学と心理学の研究者が定期的に研究会
いわば法心理学的研究である。本書では、第 2 の方
を開き、また、全国的な調査を行った。本書の執筆陣
向性を考えつつ、以上三つの方向のそれぞれの可能
は、龍谷大学が第 1 回創立大会の開催校となった法と
性を模索した。
心理学会で中核的活動を担っている刑事法と心理学の
研究者・実務家である。
本書は、大きく2 部構成になっている。第 1 部は、
刑事司法における心理学の活用可能性についての総
論的研究であり、村井「刑事司法における心理学の
活用可能性について」浅田和茂「刑事鑑定と心理学」
浜田寿美男「事実認定は心理学過程である」の 3 論
文を内容としている。第 2 部は、刑事司法にかかわる
人たちの意識と行動の分析を中心とした各論的研究で
ある。仲真紀子ほか「誤起訴・誤判の原因に関する
意識調査」は、社会科学研究所共同研究の統一テー
マとして行われた研究の成果である。心理学的分析は
仲が担当している。豊崎七絵「状況証拠による事実
認定と事実観」中川孝博「自白調書の信用性評価に
関する試論」徳永光「刑事裁判における再現実験の
在り方」の 3 論文は、仲ほかの研究と関連して、主と
して無罪事例についての誤判原因を分析しようという意
図をもった研究論文である。従来の法学的研究におい
ても、判例は重要な素材であったが、これらの論文で
は、法学と心理学との懸け橋を志向した新たな判例分
析の方法が模索されている。
山崎優子「裁判員の心理」
と村井「公務執行妨害事例における警察官と市民の
54
目次
CONTENTS
はしがき
第 1 部 刑事司法における心理学の活用-総論
第 1 章 刑事司法における心理学の活用可能性について
3
1 法律学と心理学の共同研究に向けて
3
1 − 1 法と心理学会設立の経緯
2 共同研究
「刑事司法における心理学の活用について」の内容 6
6
2 − 1 共同研究の進行状況
9
2 − 2 主な研究報告
9
3 法と心理学の共同研究の意義と課題
9
3 − 1 法と心理学の共同研究の意義
11
3 − 2 法と心理学の共同研究の課題
第 2 章 刑事鑑定と心理学
15
はじめに
16
1 東京高判平 10・7・16(判時 1679 号 167 頁)
18
2 ドイツ連邦裁判所の新判例
20
3 原鑑定およびシャーデ意見書
25
4 フィードラー鑑定書・シュテラー鑑定書
33
おわりに
第 3 章 事実認定は心理学的過程である
仙台北陵クリニック事件地裁判決を例に
37
0 はじめに
39
1 仙台北陵クリニック筋弛緩剤事件とは
41
2 自白を聴取した捜査官の法廷証言
44
3 被告人の法廷供述には信用性がないとした判断の基準
44
3 − 1 自白者の心理と矛盾する言動
46
3 − 2 被告人の法廷供述の不自然、不合理
50
3 − 3 被告人が自白に落ちた理由
53
3 − 4 被告人の自白の信用性について
3 − 5 「事実の認定は証拠によるが、その証拠は
事実の認定による」という循環を断つために 56
第 2 部 刑事司法にかかわる人たちの意識と行動
第 1 章 誤起訴・誤判の原因に関する意識調査
弁護士と学生、および個別事例にもとづく判断と一般的
判断の比較
61
1 はじめに
65
2 方法
65
2 − 1 1 次調査票の作成
66
2 − 2 1 次調査
67
2 − 3 2 次調査票の作成
68
2 − 4 2 次調査
68
3 結果と考察
69
3 − 1 分析Ⅰ:全体の反応
74
3 − 2 分析Ⅱ:因子分析
78
3 − 3 分析Ⅲ:個別の分析
91
4 まとめ
第 2 章 無罪事例に見る冤罪原因分析
105
1 状況証拠による事実認定と事実観
105
はじめに
106
1 − 1 問題意識と分析視角
108
1 − 2 総合評価に委ねられた事実認定の手法
1 − 3 「論理」としての二項対立的事実観
―裁判官経験者の言説を手掛かりとして 122
128
1 − 4 事実観の転換
138
結びに代えて
147
2 自白調書の信用性評価に関する試論
147
2 − 1 はじめに
148
2 − 2 事実認定の適正化と注意則研究
149
2 − 3 注意則研究に対する訴訟関与者の不満
2 − 4 従来の注意則研究に内在する 3 つの問題 151
155
2 − 5 注意則研究の目指すべき方向
157
2 − 6 自白の信用性に関する近年の無罪事例
166
2 − 7 むすびにかえて
資料 1 司法研修所編『自白の信用性』に示されている
171
注意則一覧
183
資料 2 事例マトリックス
3 刑事裁判における再現実験の在り方
219
第3章
1
2
3
4
5
6
第4章
1
2
3
4
5
3 − 1 はじめに
219
3 − 2 実験結果に関する裁判例
222
3 − 3 検 討
235
3 − 4 おわりに
237
裁判員の心理
241
はじめに
242
陪審員の判断過程についてのモデル
2 − 1 ストーリーモデル
242
2 − 2 ストーリーモデルの根拠
244
2 − 3 確信更新モデル
245
2 − 4 裁判員の判断過程は、どのモデルにもとづくか? 245
246
不採用証拠が陪審員の判断に与える影響
3 − 1 証拠以外の情報が陪審員の判断に及ぼす
246
影響についての主要な研究領域
3 − 2 不採用証拠の種類
247
3 − 3 裁判員の教示の効果
247
3 − 4 Kassin and Sukel(1997)の研究
248
249
模擬裁判員の判断傾向
4 − 1 実験の概要
250
4 − 2 結果の概要
252
4 − 3 今後の課題
257
259
評議の効果
5 − 1 評議がストーリー構築に及ぼす影響
259
5 − 2 評議後、不採用証拠の存在が判断に
260
及ぼす影響は弱まるか?
5 − 3 評議後、公判内容についての記憶は正確になるか 261
262
おわりに
公務執行妨害事例における警察官と市民との接触
267
本研究の目的
1 − 1 本研究の位置づけ
267
1 − 2 本研究の意義
268
1 − 3 本研究の目的
268
269
方法と対象事例
2 − 1 方法
269
2 − 2 対象事例
269
270
公務員に対する暴行事例のパターン分け
3 − 1 トッホの分類
270
3 − 2 東京の対象事例におけるパターン(N=86) 272
276
考 察
4 − 1 警察官と市民との感覚の違い
276
4 − 2 公務執行妨害事例における行為者プロファイル 276
4 − 3 暴行を触発した警察官の言動
278
278
今後の研究のために
執筆者
編者
村井 敏邦(むらい としくに)
龍谷大学教授
執筆者
浅田 和茂(あさだ かずしげ)
大阪市立大学教授
浜田寿美男(はまた すみお)
奈良女子大学教授
仲 真紀子(なか まきこ)
北海道大学教授
一瀬敬一郎(いちのせ けいいちろう)
弁護士
豊崎 七絵(とよさき ななえ)
龍谷大学助教授
中川 孝博(なかがわ たかひろ)
龍谷大学助教授
徳永 光(とくなが ひかる)
甲南大学助教授
山崎 優子(やまざき ゆうこ)
谷大学矯正・保護センター補助研究員
龍
55
62
『環境問題の理論と政策』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 62 巻
寺田宏洲 編著(晃洋書房)
2005 年 3 月刊
219 頁
ISBN 4771016070
寺 田 宏 洲 (経済学部教授)
われわれは、2001 年 4 月から 2004 年 3 月に至る 3
論文が本書となった。第 1 章から第 5 章までが〔数学・
年間、私学振興・共済事業団から龍谷大学社会科学
統計グループ〕であり、第 6 章から第 8 章までが〔経
研究所を通じてわれわれがアプライした「21 世紀の地
済・計量グループ〕であり、第 9 章と第 10 章が〔生態・
球環境とサスティナブル・ディベロップメント」という研究
循環グループ〕である。
テーマに対して学術研究の指定を受けた。
この大きな研究テーマをわれわれは、「地球温暖化
にかかわる社会経済及び国際関係上の諸問題」(A プ
ロジェクト)
、「環境問題と環境・成長政策に関する理
論的かつ実証的分析」(B プロジェクト)
、「アジア、特
に中国における環境の世紀の創造」(C プロジェクト)
の 3 つに大別して対応した。この内、われわれの研究
グループは、B プロジェクトであり、その研究成果が本
書である。
「環境問題と環境・成長政策に関する理論的かつ実
証的分析」は、更に 3 つのサブグループに担われるこ
とになった。すなわち、
〔数学・統計グループ〕と〔経済・
計量グループ〕および〔生態・循環グループ〕の 3 つ
である。
〔数学・統計グループ〕は、環境問題という動学現
象を従来の線形微分方程式中心の分析手法から非線
形微分方程式へ、更には「複雑性」や「ファジイ」、
および「実数モデルから複素数モデルへの拡張」など
へと、理論の高度化・多様化が積極的に図られている。
〔経済・計量グループ〕は、環境と経済の両立の問
題を内生的経済成長モデルを駆使して明解に説明し、
かつ、有効な政策提言を行っている。更には、京都議
定書との関連で排出量取引やその経済効果や、経済の
「非メカニカルモデル」などが議論されている。
〔生態・循環グループ〕は、生態と循環という立場か
ら「牛肉生産に関する環境問題」および「一般廃棄
物の減量政策とその効果」が議論されている。
以上の研究活動を踏まえて、新たに各人が執筆した
56
目次
CONTENTS
目次
はじめに
第 1 章 ファン・デル・ポール微分方程式とリミットサイク
ルおよび同期現象
1
はじめに
1 ファン・デル・ポール微分方程式
2
2 半径 r の円と,ファン・デル・ポール微分方程式
3
系の解の横断性
3 ファン・デル・ポール微分方程式とリミットサイクル 6
4 パラメータεの値とリミットサイクルの形状
10
12
結びに代えて―外生振動と同期現象―
第 2 章 複素ロジスティック方程式の環境分析への応用
― 気温変動の関数を作る ―
19
はじめに
1 複素ロジスティック方程式の解の複雑性
19
2 気温変動を関数で描く
25
26
おわりに
第 3 章 ファジィ回帰モデルとファジィ相関 AR モデルの構築
1 ファジィ多変量解析
30
2 ファジィ理論
31
3 ファジィ回帰モデル
34
4 ファジィ自己相関モデル
37
44
おわりに
第 4 章 Lorenz 方程式とカオス
はじめに
1 Lorenz 方程式の誕生
2 Lorenz 方程式の基本的な性質
3 Guckenheimer-Williams の Geometric Lorenz Attractor
4 Lorenz 写像の性質
5 Lorenz 方程式の分岐
6 What'New-W.Tucker によるコンピュータを用いた
Lorenz アトラクタの存在証明
第 5 章 複素微分方程式
はじめに
1 複素数
2 曲線に沿っての積分(線積分)
3 対数関数 logez
4 複素 2 次元空間 C2 上の自然な内積と
3
実 3 次元球面 S (1) の接空間
2
5 C 上の複素微分方程式
6 C2 上の線形ベクトル場
の
解の構造
7 正則ベクトル場に対する Poincaré-Bendixson 型定理
49
49
52
54
57
59
60
63
64
68
76
80
82
88
92
第 6 章 環境資本ストック,サステイナビリティと経済成長
―内生的経済成長モデルによる分析―
99
はじめに
1 環境ストック,環境対策と経済成長
101
2 環境政策と動学的コスト=ベネフィット分析
105
3 持続可能な経済発展における環境資本ストックと
109
社会的割引率
4 技術進歩と環境資本ストック,および内生的経済成長 111
第 7 章 経済活動が環境に与える影響に関する実証研究
121
はじめに
1 クロスセクション・データ(1975 年)による分析 121
2 パネル・データによる分析
129
133
おわりに
135
〈補論〉
第 8 章 風力発電導入の環境と経済における有効性
はじめに
1 風力発電導入の背景と現状
2 風力発電導入の実態
3 風力発電における CO2 削減効果と経済性
4 風力発電建設による地域経済効果の分析
おわりに
149
150
154
157
164
176
第 9 章 環境問題と家畜生産
―ウシを取り巻く状況を中心として―
はじめに
1 牛乳および牛肉生産
2 現代畜産の問題点
3 家畜からの環境負荷物質の排出
4 環境保全型畜産をめざして
おわりに
181
182
183
186
193
197
第 10 章 一般廃棄物排出量に関するパネルデータ分析
201
はじめに
1 予備的考察
202
2 生活系ごみ原単位の発生要因の計量分析
207
212
おわりに
217
索引
執筆者紹介
編著者
寺田 宏洲(てらだ ひろくに)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
伊藤 敏和(いとう としかず)
龍谷大学経済学部教授
新井 潤(あらい じゅん)
龍谷大学経済学部講師
和多田淳三(わただ じゅんぞう)
早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授
岡 宏枝(おか ひろえ)
龍谷大学理工学部教授
西垣 泰幸(にしがき やすゆき)
龍谷大学経済学部教授
佐竹 光彦(さたけ みつひこ)
龍谷大学経済学部教授
藪内 賢之(やぶうち よしゆき)
下関市立大学経済学部助教授
朝日 幸代(あさひ さちよ)
四日市大学環境情報学部助教授
広岡 博之(ひろおか ひろゆき)
京都大学大学院農学研究科教授
仙田 徹志(せんだ てつじ)
香川大学農学部助手
57
63
『地球温暖化防止の課題と展望』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 63 巻
田中則夫・増田啓子 編者(法律文化社)
2005 年 3 月刊
312 頁
ISBN 4-589-02848-4
田 中 則 夫 (法科大学院教授)
本書は、2001 年度より3 年間にわたり日本私立学校
受けた。
振興・共済事業団の学術研究資金を受けて行われた
地球温暖化の防止は、21 世紀に生きる私たちに突
共同研究=龍谷大学ミレニアムプロジェクト「21 世紀の
きつけられた、最重要課題の一つである。地球温暖化
地球環境とサステナブル・ディベロップメント」にもとづく
を防ぐためには、いうまでもなく、国際社会が結束して
研究成果の一部である。本プロジェクトの下で、3 つの
協力体制を構築しなければならない。かかる体制を構
研究グループが設けられ、私たちは、その中の一つ、
「地
築するために、1992 年には気候変動枠組条約が採択
球温暖化にかかわる社会経済・国際関係的諸問題」
され、つづいて 97 年には京都議定書が採択された。
グループをつくり、共同の討議を重ねてきた。3 カ年計
京都議定書は、先進 38 カ国に対して、温室効果ガス
画の最終年度であった 2003 年度の秋には、本プロジェ
を 1990 年比で、2008 年から 2012 年の間に 5% 削減
クトとして国際シンポジウムを開催し、3 つの研究グルー
することを義務づけている。京都議定書は、アメリカの
プがそれぞれに開催した分科会で、私たちは、3 名の
反対にあってその効力発生が危ぶまれていたが、ロシ
ゲストを招き、京都議定書をめぐる問題に焦点を絞った
アの批准によって発効要件が整い、2005 年 2 月に効
検討を行った。ロシアからはアレクセイ・ココーリン氏(世
力を発生した。現在は、2013 年以降の地球温暖化防
界自然基金(WWF)気候変動プログラム・ロシア側コー
止制度の構築が焦眉の課題となっている。この課題を
ディネーター)
、スウェーデンからはレナ・ジッパート氏(イ
達成するためには、各国の政府レベルの努力に加えて、
エテボリ大学上級講師)
、そして日本からは浅岡美恵氏
科学研究機関や環境 NGO を含む様々な組織・団体、
(弁護士・
「気候ネットワーク」 代表)であった。3 名
各国の地方自治体、企業、そして家族・個人にいたる
のゲスト報告は、「龍谷大学社会科学研究年報」 第
すべての人と関係機関が、それぞれにとるべき行動とな
34 号に掲載されている。
し得る努力を遂行しなければならない。地球温暖化防
私たちの研究グループが結成されるようになったの
止の制度をより良い仕組みへと発展させていくためにも、
は、本書の執筆者の一人である田中雄三先生(当時、
人類の英知を結集することが求められている。関連す
龍谷大学経済学部教授、現在、同名誉教授)が、自
る諸科学の協力と協働を欠かすことができない。本書
ら研究グループのメンバー一人ひとりに誘いの声をかけ
は、以上のような課題意識を共有する研究グループに
られたことによる。本書の執筆者の専攻分野は、国際
よって生み出された、学際研究の貴重な成果ということ
法、エネルギー・環境政策学、環境経済学、社会主
ができる。
義経済論、哲学、環境気象学などの分野にまたがって
おり、互いに初対面のものも少なくなかった。このような
メンバーによる共同討議の機会を得ることができたのも、
研究グループの設置に努力された田中雄三先生のおか
げである。田中雄三先生は研究期間の途中で龍谷大
学を退職された。その関係で、私たちが研究グループ
の代表を引き継ぎ、本書の刊行の実務的な作業を引き
58
目次
CONTENTS
目次
はしがき
2
第 1 章 地球温暖化防止問題に対する基本的視座
1 国際環境法と地球温暖化防止制度
3
3
はじめに
4
Ⅰ―国際環境法における地球環境保護の課題
11
Ⅱ―地球温暖化防止制度の設立
27
おわりに
2 環境問題と正義
31
31
はじめに―本稿のねらい
31
Ⅰ―地球環境に対する責任をどう解釈するか
43
Ⅱ―環境的正義の本来の領分
3 気候変動枠組みにおける途上国の参加問題
49
―中国を事例として
49
はじめに
50
Ⅰ―地球温暖化問題の基本構図
Ⅱ―なぜ中国か―中国の経済成長と環境負荷 52
Ⅲ―気候変動枠組みにおける途上国の参加問題 57
63
Ⅳ―中国参加のタイムテーブル
Ⅴ―途上国の参加問題とCDM
64
(Clean Development Mechanism)
70
おわりに
第 2 章 地球温暖化防止に関する国際制度的諸問題
1 2013 年以降の地球温暖化防止のための国際
制度設計とその課題―国際法学の視角から
はじめに
Ⅰ―地球温暖化問題のしくみと構造
Ⅱ―国連気候変動枠組条約と京都議定書の
構造と評価
Ⅲ―温暖化防止のための国際制度に関する
諸提案の分析
むすびにかえて
―温暖化防止の国際制度設計と国際法学の
課題
2 気候変動資金メカニズムの課題
―発展途上国における緩和と適応に向けて
はじめに
Ⅰ―気候変動分野における発展途上国支援の
制度的基盤
Ⅱ―気候変動資金メカニズムの運用と発展
むすびにかえて
3 長期気候目標をめぐる国際合意とその代替策
はじめに
Ⅰ―長期気候目標とその設定形態
Ⅱ―ブッシュ政権の気候変動政策
Ⅲ―長期気候目標をめぐる国際的合意への代替策
第 3 章
1
地球温暖化防止に関する社会経済的諸問題
地球温暖化の社会的費用と衡平性
はじめに
Ⅰ―地球温暖化による社会的費用
Ⅱ―社会的費用と衡平性
むすびにかえて
77
77
78
85
95
環境政策決定における圧力団体の影響分析
―日米英 3ヵ国の温暖化対策を例として
はじめに
Ⅰ―温暖化政策をめぐる動向
Ⅱ―温暖化対策への温度差の背景
Ⅲ―環境政策決定における圧力団体の影響分析
おわりに
第 4 章
1
地球温暖化防止政策の国際比較
EU における地球温暖化防止政策
はじめに
Ⅰ―EU の排出の現状と国際的な位置づけ
Ⅱ―欧州気候変動プログラム
(European Climate Change Program)
Ⅲ―EU 域内の排出量取引制度
Ⅳ―EU における再生エネルギー普及政策
Ⅴ―気候変動に関する自主協定
むすびにかえて
2 地球温暖化対策
―CO2 排出量の実態と今後の見通し
はじめに
Ⅰ―世界の CO2 排出量の実績と見通し
Ⅱ―日本の温室効果ガスの排出量の実態
Ⅲ―日本の地球温暖化対策推進大綱の目標、
実績および見通し
Ⅳ―今後の日本の姿勢
おわりに
206
206
208
215
230
246
257
257
259
263
268
271
276
282
286
286
289
297
305
309
311
執筆者紹介
編者
田中 則夫(たなか のりお)
龍谷大学法科大学院教授
増田 啓子(ますだ けいこ)
龍谷大学経済学部教授
112
126
126
127
137
147
153
153
154
161
169
執筆者
碓井 敏正(うすい としまさ)
京都橘大学文化政策学部教授
周 瑋生(シュウ イセイ)
立命館大学政策科学部教授
髙村ゆかり(たかむら ゆかり)
龍谷大学法学部助教授
船尾 章子(ふなお あきこ)
神戸市外国語大学外国語学部助教授
田中 雄三(たなか ゆうぞう)
龍谷大学名誉教授
羅 星仁(ナ ソンイン)
広島修道大学人間環境学部助教授
林 宰司(はやし ただし)
187
187
188
199
203
高崎経済大学経済学部助教授
李 態妍(イ テーヨン)
龍谷大学経済学部助教授
Gustavo Bardas(グスタボ バルダス)
大阪経済法科大学経済学部助教授
59
64
『戦時期日本の企業経営』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 64 巻
龍谷大学社会科学研究所 編(文眞堂)
2003 年 3 月刊
177 頁
ISBN4-8309-4514-1
西 川 浩 司 (経営学部准教授)
戦時期日本における企業経営の実態を、戦前および
その図式が今日もなお通用するパラダイムであり続けて
戦後の企業経営を視野に入れつつ解明すること、これ
いることから、戦後という広大な時間枠の中で原因や
が本書の目指したところである。
起源を求めることには異論ない。しかし戦時や戦前を
「戦時」という言葉は、「平時」の対語である。そ
捨象して、戦後という枠の中に限定することに問題はな
れゆえ戦時を解明するためには、平時との相違を意識
いのか。戦時と戦後のつながりが大きければ大きいほど、
しなければならない。これまでの戦時期日本の経済史・
戦後という枠組みが色褪せてくるのではないか。このよ
経営史研究の多くもまた、平時の日本経済との違いを
うな点から、本書は、戦後に現れるビジネスの諸現象
意識し、その結果として統制経済というキーワードを中
の起源を、戦時に求めることができないのか、という課
心に据えた研究、主として統制経済の成立や強化の
題にも取り組んだ。
過程解明や、統制の成否解明に力を注いできた。そし
各章の具体的な内容は以下の通りである。第一章
てこのような先駆的研究は、統制経済が必ずしも政府・
は、戦時における石油精製技術の発展を、航空機用
軍部の意図通りに進まなかったことを実証した。このこと
燃料の石炭液化技術を蓄積してきた海軍燃料廠と、自
は同時に、従来の戦時の企業像、すなわち政府や軍
動車用燃料の石油精製技術を蓄積してきた民間石油
の統制下に入り、言われるまま活動を続けていた企業
会社の相互作用という視点から明らかにした。第二章
像が明らかに誤解であることを示した。
は、戦時における工作機械の生産動向や、工作機械
このようななかから、企業活動(の自主性)を捨象し
工業にかかわる統制メカニズムの構築とその機能不全
て戦時日本経済を語ることはできない、したがって戦時
化の過程を整理した上で、企業経営の各側面におけ
期における企業活動の詳細を解明しなければならないと
る戦時合理化・効率化の試みを、その阻害要因と絡
いう動きが起こってきた。本書もまた、その一端を担うも
めながら、明らかにした。第三章は、自動車統制会の
のである。
下に設置された日本自動車配給株式会社と、メーカー
戦時を扱うとき、もう一つ意識しなければならないこと
系列ディーラーの総合体として設けられた自動車配給
がある。それは戦時と、戦前あるいは戦後の何が連続
株式会社を一元化しようとする動きが、企業家の抵抗
し、何が断絶しているのかという問題意識である。そし
によって頓挫していく過程を描き出した。第四章は、戦
てこの問題意識を持つことが、戦時研究と現在をつな
時における民間研究開発機関の拡充を数量的に示し
ぐ。
た上で、その拡充が、様々な人の様々な期待・論理の
様々な事象の原因・起源は過去にある。それゆえ過
交錯の上にあったことを、化学工業の分析を通して明ら
去に遡って原因・起源を探る。しかし、どこまで遡れば
かにした。
いいのかという問題に直面する。そのとき、妥当と思わ
れる時代の枠が設けられる。
今日の日本経済の諸現象を解明する場合、「戦後」
という枠が妥当な枠として設けられることが多い。高度
成長期を通して日本 = 先進国という図式が形作られ、
60
目次
CONTENTS
目次
はしがき
第 1 章 海軍燃料廠の技術開発と石油精製事業
―石油精製業に対する影響と関連性―
1
はじめに
2
Ⅰ 徳山海軍燃料廠における研究開発活動
2
1 人造石油製造技術の導入と研究開発
2 満鉄撫順オイル・シェール工場の建設と石炭液化 11
19
Ⅱ 石油精製会社の技術導入と燃料廠
19
1 日本の石油各社における技術競争
2 海軍燃料廠における石油精製技術の研究開発 26
34
おわりに
第 2 章 太平洋戦争期の工作機械工業
はじめに
Ⅰ 戦時生産の動向:計画と実績
1 計画と実績
2 軍需品・航空機部品生産への転換状況
Ⅱ 戦時統制の展開
1 精密機械統制会の成立とその活動
2 統制会機能の空洞化と陸海軍工業会の活動
3 重点主義の進展
Ⅲ 企業経営の諸側面
1 技術者の増強
2 設計・生産管理の進展と研究開発活動の活発化
3 原価計算・部門別経理の普及状況
4 労務管理の実態
5 下請状況
6 経営・生産管理の阻害要因
おわりに
41
42
42
49
53
53
54
58
63
63
70
76
77
86
91
99
142
とりあげる意味
2 戦時期における企業の研究開発活動を見る目 143
3 研究開発体制の変容を観察するための道具 145
147
Ⅰ 戦前における研究開発機関への期待
147
1 研究開発活動という概念の周知
149
2 研究開発活動の企業内部化の先駆
150
3 「学」,
「官」の論理と「産」の論理
Ⅱ 戦時における民間研究開発機関の数量的概観 153
153
1 幾つかのデータ群について
155
2 研究開発機関内の勢力分布
159
3 民間研究開発機関の規模
162
4 化学関係民間研究開発機関の名称
Ⅲ 研究開発機関内におけるさまざまな論理の交錯 164
165
1 経営と科学的・技術的知識の連結
167
2 研究開発機関への経済統制の影響
169
3 研究開発機関への軍部の影響
173
おわりに
執筆者紹介(執筆順)
編者
龍谷大学社会科学研究所
執筆者
野田 富男(のだ とみお)
九州情報大学経営情報学部教授
澤井 実(さわい みのる)
大阪大学大学院経済学研究科教授
四宮 正親(しのみや まさちか)
関東学院大学経済学部教授
西川 浩司(にしかわ ひろし)
龍谷大学経営学部助教授
第 3 章 戦時経済と自動車流通
―日配・自配一元化案をめぐって―
109
はじめに
110
Ⅰ 戦時統制と自動車流通
110
1 販売から配給へ
110
2 日配と自配の誕生
113
Ⅱ 配給統制機関再編成の波紋
113
1 日配と自配の一元化案
2 「自動車配給機構整備に関する意見書」
114
(1943 年 11 月)
3 都道府県自動車配給株式会社の配給機構に
118
占める役割
4 自配側提案による自動車整備配給機構改革案 122
125
Ⅲ 配給機構一元化案の背景
127
Ⅳ 配給機構一元化案の頓挫
128
1 自動車交通事業法の成立と改正
134
2 配給機構一元化案頓挫の含意
136
おわりに
第 4 章 戦時期における企業の研究開発体制
―化学工業を中心として―
はじめに
1 研究開発活動史において戦時期を
142
61
65
『アフリカ国家を再考する』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 65 巻
川端正久・落合雄彦 編(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
389 頁
ISBN4-7710-1730-1
川 端 正 久 (法学部教授)
本書は龍谷大学社会科学研究所共同研究プロジェク
(第 15 章)は南アフリカにおける核開発政策の歴史と
ト
「アフリカン・イニシアティブとその展望」
(2002-2004 年)
現状を分析している。
の研究成果刊行物である。本書の編集は共同研究が
幸いにも、アフリカ国家論についての日本で最初の研
進行するなかで企画された。収録論文は主として共同
究書になっていること、そして、収録論文が高度の内
研究会で発表され議論された報告に基づいた研究論
容を示していることにおいて、本書はアフリカ研究者の
文であり、また共同研究の趣旨に賛同していただいた
間で高く評価されている。アフリカに関する唯一の一般
研究者(外国人を含む)からの寄稿論文も入れている。
誌である『アフリカ』
(2006 年 5 号)は本書が「近年、
内容は以下の通りである。川端正久論文(第 1 章)
アフリカ研究をリードしている」龍谷大学社会科学研究
はアフリカ国家論争の全体像を概観している。加茂省
所の成果刊行物である、と紹介している。アジア経済
三論文(第 2 章)はフランス(語圏)におけるアフリカ
研究所の研究誌『アフリカレポート』(2006 年 43 号)
国家論の動向を紹介している。高橋基樹論文(第 3 章)
は「ここまで本格的なアフリカ国家論集は日本初といっ
はアフリカ国家の変容と再構築について議論している。
てよい。アフリカ国家をめぐる問題を真剣に考えようとす
遠藤貢論文(第 4 章)は崩壊国家の事例研究として
る者にとって、本書は必読文献といえる」と、評価して
ソマリランド問題を検討している。ニッキ・ファンケとフセ
いる。日本アフリカ学会の研究誌『アフリカ研究』
(2007
イン・ソロモン論文(第 5 章)は影の国家と国家崩壊
年 7 号)は「本書はまさしく現在の日本における「アフ
の関係について説明している。岩田拓夫論文(第 6 章)
リカ政治」 学の到達点を示すものである」と評言して
は「下からの政治」 論との関連で民主化過程を分析
いる。
している。峯陽一論文(第 7 章)はルイスの多元的
アフリカ国家論において、ペシミズムとオプティミズム
統治モデル論の意義を再確認している。エゴーサ・オ
の対立と相克が鮮明になったのが 1990 年代中頃であっ
サガエ論文(第 8 章)はネガティブ・エスニシティに対
た。そうした状況を把握・認識しながら、アフリカ国家
してポジティブ・エスニシティの議論を提起している。戸
論を研究成果として刊行することができた点において、
田真紀子論文(第 9 章)はコンソーシエーション論の
本書の意義は高かったと自負している。現在、龍谷大
立場からナイジェリア国内紛争を分析している。望月克
学社会科学研究所指定研究「アフリカと世界」が進行
哉論文(第 10 章)
はナイジェリアにおける連邦制度とシャ
している。新たな問題提起を含む創造的研究を目指し
リーア問題を考察している。斎藤文彦論文(第 11 章)
たいと考えている。
はアジアとアフリカにおける地方分権化を比較している。
ダニエル・バック論文(第 12 章)はアフリカにおける
地域機構の建設と崩壊国家の再建について指摘してい
る。牧野久美子論文(第 13 章)は南アフリカにおけ
るエイズ政策と市民運動の関係について分析している。
ブリジ・マハラジ論文(第 14 章)は南アフリカにおける
地方政府の再編について考察している。藤本義彦論文
62
目次
CONTENTS
目次
まえがき
第 1 章 アフリカ国家論争を俯瞰する
1
はじめに
7
1 国家の形成と危機
20
2 国家と政治
28
3 国家と社会
32
4 国家と経済
42
5 国別分析
44
おわりに
第 2 章 アフリカ国家論:フランス語圏からのアプローチ
82
はじめに
83
1 アフリカ政治学と「第 3 の波」
85
2 「第 3 の波」におけるアフリカ国家論
91
3 「第 3 の波」国家論を再考する
99
おわりに
第 3 章 アフリカ国家の変容と「新しい帝国」 の時代
104
はじめに
106
1 国家論の危機の時代
109
2 悲観主義的国家論のかなた
117
3 歴史は終わらず:国家再構築と「新しい帝国」
125
おわりに
第 4 章 崩壊国家と国際社会:ソマリアと「ソマリランド」
132
はじめに
133
1 「崩壊国家」の概念
136
2 ソマリアの形成と崩壊
139
3 「ソマリランド」の「独立」と「民主化」
143
4 「ソマリランド」と国際社会
147
おわりに
第 5 章 アフリカの 「影の国家」:国家主義から市民社会へ
155
はじめに
157
1 「影の国家」の支配者と外部アクター
159
2 「影の国家」における国家崩壊
3 民主主義への移行期における市民社会の役割 163
168
おわりに
第 6 章 「下からの政治」とアフリカにおける国家
171
はじめに
173
1 「下からの政治」とアフリカ国家
176
2 「下からの政治」の転換点としての国民会議
178
3 「下からの政治」と民主化プロセス
188
おわりに
第 7 章 ルイスの多元的統治モデルと現代アフリカ国家
195
はじめに
196
1 ルイスの多元的アフリカ国家モデル
202
2 ルイスの統治モデルの歴史的理論的背景
206
3 ルイス・モデルの受容と展開
211
おわりに
第 8 章 アフリカにおけるエスニシティと国家の再構築
216
はじめに
221
1 アフリカにおけるエスニシティと国家建設
226
2 政治的変動、エスニシティおよび国家再構築
229
3 アフリカ国家を再考する
231
4 エスニシティと国家再構築
232
おわりに
第 9 章 国家がつくる紛争:国民を守らないのはなぜか
238
はじめに
239
1 国民を守らない国家
243
2 民族の共存のための処方箋
245
3 ナイジェリアの国内紛争
255
おわりに
第 10 章シャリーア問題とナイジェリア国家の連邦制度
260
はじめに
262
1 シャリーア問題の背景と展開
265
2 シャリーア問題の噴出
270
3 シャリーア問題をめぐる混乱と連邦政府
274
おわりに
第 11 章アフリカ国家の分権化とパートナーシップ
283
はじめに
284
1 地方分権化
287
2 分権化はどのような変化をもたらすか?
295
3 分権化とパートナーシップ
300
おわりに
第 12 章アフリカにおける地域統合と国家再建
305
はじめに
306
1 遺産としての地域統合
2 「壮大な志」としての地域統治
3 地域建設の前提としての国家再建
おわりに
第 13 章エイズ政策にみる南アフリカの国家と市民社会
はじめに
1 民主化後の国家と市民社会の関係
2 治療行動キャンペーン
おわりに
第 14 章南アフリカにおける国家と都市統治
はじめに
1 トップ・ダウン計画の終焉
2 都市開発戦略
3 開発志向の地方政府
4 大都市圏政府
5 新自由主義への降伏か
おわりに
第 15 章南アフリカにおける核開発政策と国家の民主化
はじめに
1 南アフリカの外交政策
2 南アフリカの核開発政策
3 国民の安全保障と国家の政策
おわりに
308
312
317
あとがき
人名索引
事項索引
375
377
382
319
321
324
330
336
338
340
341
344
345
348
354
355
360
366
369
執筆者紹介
編者
川端 正久(かわばた まさひさ)
龍谷大学法学部教授
落合 雄彦(おちあい たけひこ)
龍谷大学法学部助教授
執筆者
加茂 省三(かも しょうぞう)
名城大学人間学部講師
高橋 基樹(たかはし もとき)
神戸大学大学院国際協力研究科教授
遠藤 貢(えんどう みつぎ)
東京大学大学院総合文化研究科助教授
ニッキ・ファンケ(Nikki Funke)
プレトリア大学国際政治研究センター(南アフリカ)上級研究員
フセイン・ソロモン(Hussein Solomon)
プレトリア大学(南アフリカ)政治学部助教授
藤本 義彦(ふじもと よしひこ)
広島経済大学経済学部助教授
岩田 拓夫(いわた たくお)
筑波大学大学院人文社会科学研究科専任講師
峯 陽一(みね よういち)
中部大学国際関係学部教授
エゴーサ・E・オサガエ(Eghosa E Osaghae)
イグビネディオン大学(ナイジェリア)副学長
杉木 明子(すぎき あきこ)
神戸学院大学法学部助教授
戸田真紀子(どだ まきこ)
天理大学国際文化学部助教授
望月 克哉(もちづき かつや)
アジア経済研究所主任研究員
斎藤 文彦(さいとう ふみひこ)
龍谷大学国際文化学部助教授
ダニエル・バッグ(Daniel Bach)
フランス国立科学研究センター(CNRS)研究主任・ボルドー政治学院教授
鍋島 孝子(なべしま たかこ)
清泉女子大学文学部・法政大学法学部非常勤講師
牧野久美子(まきの くみこ)
アジア経済研究所研究員
ブリジ・マハラジ(Brij Maharaj)
クワズールー・ナタール大学(南アフリカ)地理学部教授
西浦 昭雄(にしうら あきお)
創価大学通信教育部助教授
63
66
『21 世紀の企業経営:
IT 革命とグローバリゼーションの時代』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 66 巻
夏目啓二 編(日本評論社)
2006 年 3 月
271 頁
ISBN4-535-55494-3
夏 目 啓 二 (経営学部教授)
21 世紀の資本主義世界は、IT 革命とグローバリゼー
革命と企業経営の変貌」では、IT 革命が現代の企業
ションのなかで幕を開けた。先進工業国に暮らす人々
経営に及ぼした影響を分析している。第 1 章は、通信
も、開発途上の国々で暮らす人々も、誰もがこの大きな
産業の事業展開とネットワークの形成 ( 齋藤敦 ) を解明
歴史的うねりのなかで政治、経済、文化、社会の生活
し、第 2 章は、インターネット関連企業のブランド化戦
を送っている。もちろん、国と地域によってその程度の
略 ( 林尚毅 ) を解明している。第 3 章は、IT 革命の
差はあるものの、また、日本のように少子高齢化という
進展とコーポレート・ガバナンスの変容 ( 芳澤輝泰 ) を
事情をかかえている国があるものの、世界は IT 革命と
解明し、第 4 章は、関係性の IT 化と経営の公共性(重
グローバリゼーションの影響を受けている。しかし、この
本直利)を解明している。
IT 革命とグローバリゼーションは、世界に異なる二つの
第二部「グローバリゼーションと企業経営の変貌」
影響をもたらしている。
では、グローバリゼーションが現代の企業経営にどのよ
ますます豊かになる先進工業国と一部のひとびと。豊
うな影響を及ぼしているのかを解明する。第 5 章は、
かさから取り残された開発途上国と多くのひとびと。IT
巨大小売多国籍企業と社会の関係をウォルマートがもた
革命とグローバリゼーションは、世界に豊かさと平和をも
らす影響を中心に解明する ( 中道 眞 )。第 6 章は、中
たらす一方で、貧困と暴力を拡大し、社会不安を助長
国の天津市における外資の役割 ( 羽渕貴司 )を解明し、
した。しかし、そのなかから IT 革命とグローバリゼー
第 7 章は、韓国 IT 産業の労働市場の特質 ( 宋娘沃 )
ションのあり方を変える動きもあらわれた。反グローバリ
を解明している。第三部「21 世紀の企業経営と社会」
ズムの運動も一つの試みである。21 世紀の企業経営
では、21 世紀の企業経営と社会の相互作用 ( 双方向 )
は、こうした時代にそのあり方が問われている。本書
の関係を解明する。第 8 章は、社会が企業を変えるア
は、21 世紀という時代を読み解くキーワードを、IT 革命、
メリカ合衆国の経験 ( 仲野 ( 菊地 ) 組子 ) を考察する。
グローバリゼーション、反グローバリズムに見いだし、企
第 9 章は、医薬品産業におけるグローバル・ガバナンス
業経営のあり方を社会との関係の中で考察している。
(細川孝)を解明し、第 10 章は、国際 NGOとグロー
本書は、三部の構成から成る。第一部では、インター
バル・ガバナンス(藤原隆信)の関係を解明するので
ネットを基礎にした IT が、経済や社会のあり方を大きく
ある。
変革するプロセスを IT 革命というが、その技術の本質
上、IT 革命は、グローバルであったことを多面的に解
明している。第二部では、
経済のグローバリゼーションは、
旧社会主義諸国、発展途上国、アメリカはじめ先進諸
国の経済の相互依存の深化であり、一体化のプロセス
として解明している。第三部では、反グローバリズムの
運動の考え方は、国連の提唱するグローバル・ガバナ
ンスという考え方に共通する点を解明している。
それぞれの各部を簡潔に紹介すると、第一部「IT
64
目次
CONTENTS
目次
はしがき
序章
はじめに
1 グローバリゼーションとIT 革命の時代
2 21 世紀の企業経営と社会の相互関係
3 本書の構成
第Ⅰ部 IT 革命と企業経営の変貌
第 1 章 通信産業の事業展開とネットワークの形成
はじめに
1 情報通信産業の状況
2 IT 産業における技術発展
3 日本の電気通信市場での競争状況
4 日本における通信機器メーカーと携帯電話製造
メーカーの状況
5 ネットワークの形成
おわりに
第 2 章 インターネット関連企業のブランド化戦略
1 グローバリゼーションとIT 革命
2 伝統的なブランドとその展開
3 インターネット関連企業とブランド
4 インターネット関連企業のブランドの特徴とその
問題点
第 3 章 IT の進展とコーポレート・ガバナンスの変容
はじめに
1 企業内の IT 導入状況とガバナンスの変化
2 IT の進展と企業・ステークホルダー間の関係
―新たな経営参加・経営監視システム
おわりに
第 4 章 関係性の IT 化と経営の公共性
はじめに―IT 化と「成果主義」
1 関係性の転換と「成果主義」
2 関係性の新たな展開
3 関係性の IT 化と現代企業経営を捉える方法
4 経営の公共性と「企業の経済的責任」論
おわりに―IT 化と公共性
第Ⅱ部 グローバリゼーションと企業経営の変貌
第 5 章 巨大小売多国籍企業と社会
ウォルマートがもたらす影響を中心に
はじめに
1 ウォルマートの経営戦略と事業展開
2 ウォルマートを巡る社会からの批判
3 ウォルマートの基本原則とその影響
おわりに
第 6 章 中国・天津市における外資の特徴
はじめに
1 天津市における外資の特徴
2 天津市における外資の戦略
3 近年の動向
おわりに
第 7 章 韓国 IT 産業の労働市場
はじめに
1 韓国労働市場の特質
1
1
1
7
15
25
25
29
38
39
40
47
51
54
57
64
69
70
75
89
95
96
101
106
110
113
2 韓国 IT 産業の労働市場
3 韓国 IT 産業の雇用と賃金
おわりに
163
173
179
第Ⅲ部 21 世紀の社会と企業経営
第 8 章 社会が企業を変えるアメリカ合衆国の経験
ミルウォーキー・メトロポリタン地域のハイロード戦略
187
はじめに
1 雇用破壊と地域のスプロール化
188
2 ウィスコンシン州―COWS の基本方針と活動
199
3 WRTP(Wisconsin Regional Training Partnership)201
の確立
4 ウィスコンシン州のハイロード戦略についての
213
ディビッド・レイノルズの評価
215
おわりに
第 9 章 医薬品産業におけるグローバル・ガバナンス
現代医薬品企業とNGO、知的財産権と人権をめぐって
221
はじめに
1 医薬品産業におけるグローバル・ガバナンスの構図 222
2 医薬品産業におけるグローバル・ガバナンスとNGO 229
235
おわりに
第 10 章 国際 NGOとグローバル・ガバナンス
241
はじめに
1 現代の情報化とグローバル化がもたらす経済構造 243
2 国際 NGO による企業活動の直接的規制
251
3 国際 NGOとグローバル・ガバナンス
259
267
おわりに
著者一覧
編著者
夏目 啓二(なつめ けいじ)
龍谷大学経営学部教授
著者
齋藤 敦(さいとう あつし)
徳島文理大学総合政策学部専任講師
林 尚毅(はやし なおき)
高知短期大学助教授
芳澤 輝泰(よしざわ てるやす)
東京農業大学生物産業学部講師
117
118
123
129
130
137
139
144
151
152
157
158
重本 直利(しげもと なおとし)
龍谷大学経営学部教授
中道 眞(なかみち まこと)
龍谷大学社会学部助手
羽渕 貴司(はぶち たかし)
天津商学院経済貿易学院副教授
宋 娘沃(ソン ナンオク)
中国短期大学情報ビジネス学科助教授
仲野(菊池)組子(なかの(きくち) くみこ)
同志社大学非常勤講師
細川 孝(ほそかわ たかし)
龍谷大学経営学部助教授
藤原 隆信(ふじわら たかのぶ)
京都経済短期大学助教授
65
67
『持続的変革をめざして:
経営品質向上プログラムのすすめ』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 67 巻
大西 謙 編(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
248 頁
ISBN4-7710-1733-6
大 西 謙 (経営学部教授)
本書は、2002 年度から 2004 年度までの 3 年間にお
在する様々な経営事象をあるべき姿から認識し最善の
ける、「経営品質の理論的・実証的研究―新しいマネ
意思決定を行おうとする「価値前提」の経営を重視し
ジメント理論の構築を目指して」をテーマとした共同研
ている。
究会の成果である。
現在、多くの企業が、経営品質向上プログラムを用
1999 年 4 月、
共同研究会に至る経緯に少しふれると、
いて持続的変革を成しとげつつある。我々は、共同研
「経営品質」を学問的な立場から研究していこうとい
究会において企業を見学する機会を得た。2002 年度
うねらいで、経営学部の教員有志による龍谷大学経営
は新潟県、2003 年度は千葉県、そして 2004 年度は
学会研究部会「経営品質研究会」が結成された。そ
会津若松市へ行き、厳しい経済環境の中経営品質向
して、2001 年、関西地区で経営品質活動を指導して
上プログラムを用いて懸命に経営革新を続ける多くの
いる日本経営品質賞のアセッサーのメンバーが研究会
企業の生の姿を見ることができた。我々の地元の関西、
に合流し、ここに「経営品質」を理論的、実践的に
2001 年 5 月に「関西経営品質協議会」
京都においても、
学ぶ場が生まれ、それが社会科学研究所の共同研究
が創設され、2004 年 4 月には「関西経営品質賞」が
会へとつながっていった。
創設された。また、2005 年 9 月には、京都において京
昨今の世界的金融・経済危機に見られるように、日
都経営品質協議会が発足した。経営品質向上を目指
本企業は、今後ますます厳しくなるであろう環境変化に
す動きは、日本だけのものではなく、世界中で見られる
対して経営革新を続けていかなければ生き残っていくこ
動きとなっている。
とはできない。「持続的に変革しつつ生き残り続けられ
我々は経営品質向上プログラムの考え方に立ち、そ
る企業の条件は何なのか ?」これは日本の企業にとって
れが経営の実践に役立つためのヒントを提供できないか
問い続けなければならない極めて重要な問いである。
と考えた。とくに経営革新を目指す中小企業の経営者
この問いに対する一つの答えが経営品質向上プログ
への役立ちを目指した。すなわち、「経営品質向上プ
ラムであるといえよう。
ログラムの根底をなしている考え方をどのように有効に
経営品質向上プログラムは、1987 年に創設されたア
使えば企業の持続的成長に結びつくのだろうか ?」とい
メリカのマルコム・ボルドリッジ国家品質賞を土台にして、
うことをねらいに 2 部構成で検討した。 (財)社会経済生産性本部が中心となって 1995 年に
第Ⅰ部は、経営品質向上プログラムとは何で、その根
創設された日本経営品質賞における一連のプログラム
底をなしている基本的考え方はどのようなもので、それ
である。
がどのようにして生まれてきたかを検討した。
それは、「卓越した経営」、すなわち、「組織の理想
第Ⅱ部は、経営品質向上プログラムの有効性につい
とする姿を目指した経営革新の実践と学習を重ねること
て読者が考える際のヒントを提供するため、各執筆者
で、世界に通用する独自の経営手法を創造し続け、そ
が読者の課題、疑問点に答える気持ちで書いた。
れによって世界でトップレベルの顧客価値、社員価値、
財務価値の成果を生み続ける経営」を目指している。
組織のあるべき姿や望ましさを明確にし、事実として存
66
目次
CONTENTS
目次
序
第Ⅰ部 経営品質向上プログラムの考え方
第 1 章 経営品質向上プログラムのめざすもの
3
1 経営革新とは
4
2 経営革新と経営品質向上プログラム
5
3 経営品質向上プログラム成立の経緯
6
4 経営品質向上プログラムの基本的考え方
9
5 組織プロフィール
15
6 組織活動を見る 8 つの視点
17
7 アセスメントと組織の成熟度
19
8 変革力を高めるダブルループアセスメント
20
9 経営品質向上プログラムへの誘い
第 2 章 品質管理の発展と「経営品質賞」の制定
22
はじめに
22
1 品質管理の発展
24
2 MB 賞基準の開発とTQM
29
3 MB 賞基準と経営品質
31
おわりに
第 3 章 経営品質賞の国際的広がり
35
はじめに―世界の経営品質賞―
37
1 各賞の概要
40
2 審査基準における中心的考え方
45
3 各賞審査基準の特徴
49
おわりに
第 4 章 経営品質と商品品質
はじめに―経営品質の理解の一助のために― 50
51
1 経営品質概念、商品品質概念
2 質概念から経営品質概念へ
54
―商品品質概念を介在させて―
62
おわりに
第 5 章 組織の成熟度
64
はじめに
64
1 クロスビーの品質マネジメント成熟度
69
2 MB 賞における評価システム
3 経営品質向上プログラムにおける評価システム 74
82
4 組織目的と組織の自己変革能力
86
おわりに
第 6 章 経営品質向上プログラムと未然防止
89
はじめに
90
1 「経営品質向上プログラム」と「未然防止」
91
2 経営革新と問題発生の未然防止
3 クロスビーの成熟度と米国 MB 賞における「未然防止」94
96
4 「再発防止」と「未然防止」
99
5 未然防止の必要条件は「プロセス管理」
102
6 予防の発想とリスク分析
104
7 経営の要諦は機会損失の未然防止
107
おわりに
第Ⅱ部 経営品質向上プログラムによる自己変革
第 7 章 自立的変革に向けたリーダーシップ
はじめに―持続的成長を牽引するリーダーシップ―
1 企業の価値観の共有
2 価値実現に向けた改革・改善
3 自主性を育む組織風土づくり
4 ビジョン実現に向けてのレビュー
おわりに
第 8 章 中小企業における社会的責任
はじめに―社会的責任とは―
1 CSR の基本的考え方
2 CSR の内容
3 中小企業に求められる社会的責任活動
4 経営品質向上プログラムにおける社会的責任活動
おわりに
第 9 章 経営品質と顧客満足
はじめに―顧客満足における経営品質の重要性―
1 顧客と商品
152
2 顧客満足における質と量
158
3 経営品質と顧客満足
163
おわりに
第 10 章 好業績につながる顧客満足と社員満足
166
はじめに―CS や ES をやると儲かるのか?―
167
1 顧客満足とは?
179
2 ビジネスに何故 CS が必要となったのか?
180
3 CSと儲け続けることの両立
183
4 CSとES を相互に高める工夫
184
5 3 つの CSとカスタマー・サクセス
185
おわりに
第 11 章 社員満足と学習環境の整備
187
はじめに
187
1 『基準書』カテゴリー 5 の内容
191
2 顧客志向の人事戦略
195
3 社員満足と学習環境の整備
200
4 事例に学ぶ―サウスウエスト航空―
201
おわりに
第 12 章 顧客価値と中小小売業活性化
はじめに
―顧客満足から顧客価値の理解と適用へ― 206
207
1 顧客価値に対する理解
2 中小小売業活性化と顧客価値視点からの検証 215
223
おわりに
第 13 章 経営品質向上活動と「カイゼン」活動
226
はじめに
1 「カイゼン」活動の他企業への導入プロセスの現状 227
2 経営品質向上活動と「カイゼン」活動とに
230
共通する発想―「すべてを疑え」―
3 経営品質向上活動による「カイゼン」活動の導入・
234
浸透プロセスの再構築
4 経営品質向上活動が日本企業に広く導入・
236
浸透するための条件
おわりに
238
―専門領域での自己変革能力の生成の条件―
241
あとがき
245
索 引
執筆者紹介
編著者
大西 謙(おおにし けん)
龍谷大学経営学部教授
執筆者
森山 祐輔(もりやま ゆうすけ)
(株)ふわふわスペース研究所代表取締役社長
安倍 泰生(あべ やすお)
安倍マネジメントサポート代表者
由井 浩(ゆい ひろし)
龍谷大学経営学部教授
111
111
119
122
124
125
守屋 晴雄(もりや はるお)
127
127
130
134
135
144
田村 満(たむら みつる)
146
147
龍谷大学経営学部教授
中山 眞(なかやま まこと)
松下電器産業(株)経営企画グループ
津田 一郎(つだ いちろう)
大阪ガス(株)監査部
リコーテクノシステムズ(株)四国事業部事業部長
西川 清之(にしかわ きよゆき)
龍谷大学経営学部教授
寺島 和夫(てらしま かずお)
龍谷大学経営学部教授
佐武 弘章(さたけ ひろあき)
福井県立大学名誉教授
67
68
『コモンズ論再考』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 68 巻
鈴木龍也・富野暉一郎 編著(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
269 頁
ISBN4-7710-1609-7
鈴 木 龍 也 ( 社会科学研究所専任研究員・法学部教授)
近年、地域の環境や自治の在り方などに興味を持つ
いる。また、コモンズ論から見た景観の意味について、
人々の間でコモンズという概念が広く使われ出し、脚光
本書執筆当時注目を集めていた国立マンション訴訟を取
を浴びるようになった。様々なコモンズ理解があるが、
り上げて、様々な観点から検討していることも特徴のひ
一般的には、コモンズは「地域の自然資源などについ
とつとなっている。コモンズを「地域的な土地や資源の
ての地域住民による共同管理制度、および地域住民に
利用全体に対する『共』的なコントロールの問題」と
より共同管理されている自然資源など」を意味するもの
広く捉えれば、景観についての地域住民によるコントロー
とされている。
ルの問題はまさにコモンズの現代的な展開そのものだか
本書は、主に土地問題を研究してきた共同研究のな
らである。
かで生まれたコモンズ論であり、コモンズ論批判である。
日本におけるコモンズ論は、大きな方向性での一致
われわれは地域コミュニティによる土地利用コントロール
は見られるものの、ひとたび理論の内容に踏み込めば、
の在り方を検討してきた。そして、この問題を研究す
理論的基礎も主張する内容も様々である。社会の在り
るにあたっては─「共」という独自の領域の存在を
方への斬新な問題提起を含む一方、これまでの社会
認めるべきかどうかは別にして─今日「公・共・私」
科学的な議論への十分な応答を欠き、理論的な体系
の枠組みの変容として議論されるにいたっている諸問題
性や整合性を読み取ることが困難な議論も多い。たと
に着目する必要があるとの共通の理解に立っている。こ
えば、コモンズ論は本来的には所有論そのものである
のことを反映して、それぞれ執筆者により立場が異なる
にもかかわらず、多くのコモンズ論はこの点についてこ
とはいえ、コモンズを里山などの限定された場所、限
れまでの社会科学的な理論の蓄積を踏まえた自覚的な
定された地域資源の管理の問題として狭く捉えるのでは
理論展開を欠いている。また、「公・共・私」という新
なく、地域的な土地や資源の利用全体に対する「共」
しい枠組みの提示は大きな理論的功績だと思われるが、
的なコントロールの問題、あるいは少なくともそのような
「共」の存在証明や位置づけの議論はいまだ十分と
問題と連続性をもって議論されるべき問題として捉えて
はいえない。特に、「公共性」や「住民の共通利益」
いる。また、本書のいずれの章においても「公・共・私」
等との関係についての踏み込んだ議論が必要とされる
の関係、特に「共」について、「共」という領域の存
はずである。本書ではこのような問題について、執筆
在自体の吟味も含め、それが担う共通利益や公共性を
者それぞれの立場から論じている。コモンズ論の可能
どのように考えるべきかが繰り返し繰り返し問われてい
性に向けて。
る。
本書は、これまでコモンズ論を主に展開してきた環境
社会学や環境経済学などとは異なる多様な分野の研
究者によるコモンズ論であるところに特色がある。これま
でのコモンズ論に対して、様々な観点からの批判的検
討を行うとともに、日本における狭義コモンズの実在的
な形態とされる入会について理論的な再検討を行って
68
目次
CONTENTS
目次
はしがき
第Ⅰ部 所有論としてのコモンズ論
第 1 章 「コモンズ」論と所有論
―近年の社会学的「コモンズ」論に関する覚書―
1 本章の目的と課題
3
2 井上真らの社会学的政策論的「コモンズ」論の
5
主張と論理構造
3 環境社会学会を舞台とする「所有」論争
18
補論 鳥越皓之の「所有論」的視角からの「コモンズ」
36
論評価について
4 社会学的「コモンズ」論における脱所有論
38
ないし所有論の問題点
5 結びに代えて
48
第 2 章 土地所有権論再考
―都市景観訴訟を契機として―
1 課 題
59
2 土地所有権論の民事法学的位相
61
3 土地所有権論の再考
77
第Ⅱ部 公共性の再構築と「公・共・私」
第 3 章 公共性の再構成
―「官・民」型社会から「公・共・私」型社会へ―
93
はじめに
1 2000 年分権と地方自治体
94
2 「官民型社会」から「公・共・私型社会」へ 96
3 行政事務事業の公共分離
102
4 「公・共・私型」の地域社会像
106
第 4 章 コモンズと都市の公共性論
はじめに
111
―コモンズと都市をめぐる論点―
1 コモンズと「総有」の再生
112
2 コモンズ・都市と「社会的共通資本」
114
3 都市の公共性論
116
おわりに
122
―コモンズと都市を結ぶ論理―
第Ⅲ部 まちづくりから見たコモンズ
第 5 章 まちづくりにおける住民の共通利益
1 問題の所在
127
2 都市空間に係る「住民」の利益について
127
3 都市空間にかかる個別的利益
130
4 当該地域の共通利益の内容
132
5 協議手続・公私協働と共通利益
135
6 国立マンション事件宮岡判決
136
7 協議型まちづくりと都市空間における共通利益 137
第 6 章 不文律の約束事として守られてきた美しい街景観
―東京・国立のマンション訴訟で争われた「景観
利益」をめぐって―
141
はじめに
1 国立マンション訴訟
144
2 「景観利益」を「入会(コモンズ)」の視点から
150
考える
3 「景観利益」を「均質空間論」の視点から考える 153
158
おわりに
第 7 章 計画的なまちづくりの推進と住宅用借地の共同管理
―京都府網野町浜詰地域におけるコモンズが果
たす今日的意義―
161
はじめに
1 浜詰地域の概要と土地所有・利用の枠組み
162
2 区有地を活かしたまちづくりと区有地の整備
167
3 公平を原則とした区有借地の利用・管理
172
4 区による共同的土地利用コントロールがはたす
180
今日的意義
第Ⅳ部 入会理論の再検討
第 8 章 法学的入会権論の「源流」
―中田総有論ノート―
はじめに
1 「近代的」土地法の形成と入会林野
2 近世における私的土地所有権と入会総有論
3 地租改正・町村制の展開と村持林野
おわりに
―中田における団体と私的所有権の性格―
第 9 章 コモンズとしての入会
はじめに
1 自然資源管理制度としてのコモンズ
2 実定法的制度としての入会とコモンズ
3 コモンズとしての入会の可能性
―結びにかえて―
参考文献
人名索引
事項索引
191
193
196
210
217
221
222
235
247
253
265
266
執筆者紹介
編者
富野暉一郎(とみの きいちろう)
龍谷大学法学部教授
鈴木 龍也(すずき たつや)
龍谷大学法学部教授
執筆者
池田 恒男(いけだ つねお)
龍谷大学法学部教授
牛尾 洋也(うしお ひろや)
龍谷大学法学部教授
大泉 英次(おおいずみ えいじ)
和歌山大学経済学部教授
見上 崇洋(みかみ たかひろ)
立命館大学政策科学部教授
矢作 弘(やはぎ ひろし)
大阪市立大学大学院創造都市研究科教授
藤井 洋一(ふじい よういち)
関西土地問題研究会主査
吉岡 祥充(よしおか よしみつ)
香川大学法学部教授
69
69
『近代日本における社会変動と法』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 69 巻
牛尾洋也・居石正和・橋本誠一・三阪佳弘・矢野達雄 編著(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
268 頁(資料 47 頁)
ISBN4-7710-1764-6
牛 尾 洋 也 (法学部教授)
これまでの判例研究は、主として実定法解釈の目的
利用するに当たっての方法と課題の整理を行う。各論
をもって実定法学者により行われてきた。しかし、近時、
は、下記のそれぞれの問題に関する大審院判例の分
保存期間 50 年を経過した地方裁判所・高等裁判所
析を行うものである。第 1 章は、担保としての法的性
段階の判決原本について、国立公文書館別館への図
質付けの難しい「買戻し」について、近世的法観念
書館への移管とデジタルアーカイブ化が進められ、判例
が大審院判例のなかでいかに反映していたのかを解明
研究の機運が高まってきている。また、1875(明治 8)
する。第 2 章は、地租改正・官民有区分等の法的性
年以来の歴史を有する大審院判例は、それ自体が膨
質をめぐる従来の見解を批判的に検討する。第 3 章
大な歴史資料の集積であり、かつ判例法的には多数
は、地代増額請求権が認められるに至った法的、社
の峰を有する巨大な「山脈」にも比喩しうる重要性を
会経済的背景を検討し、そこにおける原理の探求を行
有しており、大審院聯合部判決を一つの「幹」として、
う。第 4 章は、民事訴訟と行政訴訟をめぐる司法裁判
そこから様々な「枝葉」が繁るという形で法が発展し
所の管轄問題を検討する。第 5 章は、大正期から昭
てきている。
和期にかけて頻発した土地収用をめぐる法的紛争を検
ところで、司法改革が進むなか、法制史研究の新た
討する。第 6 章は、明治民法の隠居制度と民事訴訟
な課題を模索するにあたり、法制史研究の領域に新た
制度の相克を論じる。
に判例研究という分野を確立し、歴史資料としての大
本書は、法制史の分野において大審院判例の分析
審院判例に対し総合的な分析を加えることは、近代日
を中心的な研究方法とした点できわめて画期的なもの
本の社会の変動と法の動向を探る上できわめて重要な
であり、近代日本の社会変動と法のあり方に関する研
方法であるばかりでなく、判例研究を飛躍的に発展さ
究において、重要な貢献をするものである。
せ、今後の法曹教育や法学教育の世界にも大きな教
育資源を提供することにもつながる。そこで、本研究は、
大審院聯合部判決を網羅的に整理・分析し、大審院
判例の「幹」に当たる部分を法的かつ歴史社会学的
に分析し、さらに枝葉の大審院判例を荷まで分析を広
げることで、戦前の大審院判例の「鳥瞰図」を描くこ
とを目指した。
本書は、社会科学研究所の共同研究「近代日本の
社会変動と法の動態分析―大審院判例から見た社会、
そして法律家の役割―」(2002 年∼ 2004 年)におけ
るこうした研究成果のなかで、民事聯合部判決を素材
とした研究をまとめたものである。
本書は、序論の総論と 6 つの各論からなる。序章
は、本書の総論として、大審院判決を歴史資料として
70
目次
CONTENTS
はしがき
序文
凡例
序章:裁判例を利用した法史学的研究の目的と方法
はじめに
第一節 判例の研究方法をめぐる理論史
第二節 法史学における判例研究の意義と方法
第三節 大審院判決研究の目的と方法
第 1 章 土地の 「買戻し」 に関する大審院判決
―近代日本における土地担保法の転回―
はじめに
第一節 検討判決の抽出と検討
第二節 『 明治前期大審院民事判決録』収録の買戻し・
質地事件件数の変化
第三節 質地と買戻しに関する法制史
―近世から近代へ―
第四節 「買戻し」関係大審院判決の内容面の検討
第五節 明治 20 年以後の判決例
おわりに
第 2 章 地租改正と土地所有権
はじめに ―問題の所在―
第一節 地租改正以前における土地支配権の法的性格
第二節 地租改正・官民有区分の法的性格
第三節 国有土地森林原野下戻法の法的性格
第四節 行政処分論
おわりに ―大審院刑事聯合部判決の位置づけ―
1
1
17
22
第 6 章 隠居と訴訟手続きの中断をめぐる大審院聯合部
判決
237
はじめに
第一節 隠居による当事者の交代に対する
民事訴訟法の対応
240
―訴訟の中断・受継・承継―
第二節 隠居と訴訟の中断をめぐる大審院判例の展開と
243
大正民事訴訟法の制定
261
おわりに
資料 大審院民事聯合部判決一覧
33
34
40
47
53
65
69
執筆者紹介
牛尾 洋也(うしお ひろや)
龍谷大学法学部教授
居石 正和(おりいし まさかず)
島根大学法文学部教授
橋本 誠一(はしもと せいいち)
静岡大学人文学部教授
三阪 佳弘(みさか よしひろ)
大阪大学大学院高等司法研究科教授
矢野 達雄(やの たつお)
77
80
81
84
86
88
愛媛大学法文学部教授
第 3 章 地代増額請求権をめぐる大審院明治 24 年聯合
民事部判決
101
第一節 問題の所在
104
第二節 大審院明治 24 年聯合民事部判決
第三節 大審院明治 24 年聯合民事部判決の意義
―地代増額請求に関するその後の判決との
137
関係で―
第 4 章 司法裁判所の管轄
―民事訴訟と行政訴訟をめぐって―
はじめに ―課題の設定―
第一節 大審院判例の動向
第二節 先例変更後の大審院判例
―聯合部判決までの道程―
おわりに ―今後の課題―
155
165
176
181
第 5 章 都市化の波と土地収用
―
1930(昭和 5)年 1 月 29 日大審院民事
聯合部判決(土地収用補償金請求事件)―
191
はじめに
193
第一節 阪神国道改築工事
200
第二節 民事聯合部判決
209
第三節 土地収用をめぐる美濃部達吉の理論
217
おわりに
71
70
『自動車産業と生産システム』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 70 巻
伊達浩憲・佐武弘章・松岡憲司 編著(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
199 頁
ISBN4-7710-1748-4
伊 達 浩 憲 (経済学部教授)
2005 年、日本の自動車メーカーの海外生産台数は、
第 2 章「トヨタ生産方式はゴットル生産方式発展の 6
初めて 1000 万台を突破し、国内生産台数の水準とほ
段階モデルのどの段階に位置づけられるか?」(佐武弘
ぼ並んだ。日本の自動車産業は、グローバル競争下で
章)は、ゴットルの提唱した「生産方式発展 6 段階モ
の本格的な海外生産の段階に突入したといえよう。自
デル」にもとづけば、トヨタ生産方式は、「加速的な遂
動車メーカー各社は、
「世界最適立地」
「世界最適調達」
行の原理(高速経営)」の段階に位置づけられ、「物
「世界同一品質」の観点から、企業の価値連鎖のプ
財の機能を最大化する生産方式」と特徴つけけられる
ロセス全体を再構築している。
と論じている。
また、日本の自動車産業は、非典型雇用の増大、も
第 3 章「トヨタ生産方式における非典型雇用の役割」
の造り技能の継承、部品のモジュール化によるサプライ
(伊達浩憲)は、養成工と並んで、臨時工や期間工
ヤー・システムの再編成など、新たな課題に直面してい
などの非典型雇用がトヨタ生産方式において不可欠の
る。
存在であることを分析している。
従来、日本の自動車産業の競争優位は、トヨタ生産
第 4 章「米国自動車産業における先任権ルールと
方式をはじめとする効率的な生産システムに求められて
作業組織編制」(伊達浩憲)は、General Motors 社
きたが、上記のような環境条件の激変にたいして、日
の事例をもとに、UAW(全米自動車労働組合)に組
本の自動車産業はどのように適応していくのであろうか。
織された米国自動車メーカーにおいては、先任権ルー
本書は、日本をはじめとする自動車産業の生産システム
ルにもとづく作業組織編制が根強く残っていることを明ら
の変容を明らかにしようとするものである。
かにしている。
本書は、トヨタ生産方式を、「市場変動に対応して、
第 5 章「中国自動車産業における企業間分業と産
標準作業を不断に改善し流れ生産の構築(整流化)
業集積」(伊達浩憲)は、日本の自動車メーカー・部
をめざす運動」ととらえている。現代の製品市場のグ
品メーカーの中国・広州への進出動向を分析し、アライ
ローバル化と労働市場の構造変化の中で、トヨタ生産
アンスのあり方が企業間分業や産業集積に及ぼす影響
方式が、今後とも、標準作業の不断の改善や流れ生
について論じている。
産の構築をなし遂げることができるかいなかについては、
第 6 章「中国上場企業の経営分析」(肖 威)は、
いまだ結論を下すことはできないが、この問題を考える
中国株式市場に上場している中国自動車メーカーの経
上で本書が一助となれば幸いである。
営パフォーマンスについて、長安汽車と上海汽車とを比
本書は、以下の 7 章から構成されている。
較分析している。
第 1 章「トヨタ生産方式はなぜ他の企業に浸透しに
第 7 章「イギリスの自動車産業と産業政策」(松岡
くいのか」(佐武弘章)は、トヨタ生産方式が戦後高
憲司)は、産業政策との関連で、イギリス自動車産業
度成長期の「不足の時代」のもとで開発され、低成
の衰退過程を分析している。規模の経済性をめざした
長期の「飽和の時代」では、「流れ生産(整流)の
合併の歴史から学ぶものは多い。
構築」の観点から見直されなければならないことを論じ
ている。
72
目次
CONTENTS
目 次
はしがき
第 1 章 トヨタ生産方式はなぜ他の企業に浸透しにくいのか?
1 トヨタ生産方式は低成長期(製品飽和市場)に
1
開発されたのではない
2 トヨタ生産方式は高度成長期の製品不足市場を
3
前提にして開発された
3 資材制約の後補充方式と製品制約の後補充方式
6
とは同じ手法で管理できるか?
4 製品飽和市場に直面したトヨタ生産調査室の対応 8
5 製品飽和市場での見直しの問題点
12
―どこを、どのように見直すのか?
6 資材制約および製品制約のトヨタ生産方式に
15
共通する独自の性格
7 「整流」生産方式の提唱
18
8 見直しはどこまで進んでいるか?
―トヨタ生産方式の他の企業への浸透のために 21
第2章
トヨタ生産方式はゴットル生産方式発展の 6 段階モ
デルのどの段階に位置づけられるか?
29
はじめに
1 アメリカ型大量生産方式の行き詰まりと次世代の
31
生産方式をめぐる議論
2 「流れ生産」(コンベア労働)の批判
32
3 ゴットルの生産方式発展の 6 段階説
34
4 マルクス『資本の生産過程論』のメインテーマ 35
5 マルクスの生産方式発展段階説
37
6 ゴットルの生産方式発展 6 段階モデルの検討
39
7 6 段階モデル後半の検討
41
8 加速的遂行の原理(高速経営)
43
9 トヨタ生産方式の独自な性格=「物財(構造)の
46
もつ機能の最大化」
10 トヨタ生産方式の労働観
48
11 生産方式発展の第 5 段階・加速的生産方式と
50
トヨタ生産方式
12 加速的生産方式のいくつかの特徴
52
おわりに
54
―トヨタ生産方式の高機能マネジメント―
4
小 活
106
第 5 章 中国自動車産業における企業間分業と産業集積
―日系自動車メーカーの広州進出の事例―
1 問題の所在
113
2 中国自動車産業の産業集積とマルチ・アライアンス 117
3 日系メーカーの広州進出と産業集積の形成
121
4 東風日産のサプライ・チェーンとモジュール供給 129
133
おわりに
第 6 章 中国上場企業の経営分析
―長安汽車と上海汽車の比較―
はじめに
1 中国自動車産業の成長
2 ROE で見る自動車上場企業の経営業績
3 長安汽車
4 上海汽車
5 両社の財務分析
6 総合評価
145
146
148
153
159
163
170
第 7 章 イギリスの自動車産業と産業政策
はじめに
1 イギリスの自動車産業の出発
2 第二次世界大戦後
3 サッチャー政権以降
おわりに
175
176
183
190
191
索 引
197
執筆者紹介
佐武 弘章(さたけ ひろあき)
福井県立大学名誉教授
伊達 浩憲(だて ひろのり)
龍谷大学経済学部助教授
肖 威(しょう い)
関西国際大学経営学部助教授
松岡 憲司(まつおか けんじ)
龍谷大学経済学部教授
第 3 章 トヨタ生産方式における非典型雇用の役割
―1950 − 60 年代のトヨタ自動車における臨時工
を中心に―
1 問題の所在
61
63
2 トヨタ生産方式の生成と職人的熟練の解体
3 臨時工に依存した量産体制の確立
64
4 自動車産業における臨時工の比率と配置
69
5 若年労働力不足と臨時工制度の変容
73
76
おわりに
第 4 章 米国自動車産業における先任権ルールと作業組織編成
―General Motors 社 A 工場の事例―
1 問題の所在
83
2 先任権ルールをめぐる論点
85
3 先任権ルールとチーム方式の事例分析
91
73
71
『ネットワーク・イノベーションとマーケティング』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 71 巻
佐藤研司 編著(晃洋書房)
2006 年 3 月刊
164 頁
ISBN4-7710-1766-2
佐 藤 研 司 (経営学部教授)
情報通信技術の革新は画期的なものであり、ますま
客情報の収集や分析にネットワーク化は欠かせないツー
す高度化し高性能化している。こうした情報通信技術
ルとなっている。CRMという枠組みの中での研究が進
に支えられてビジネスの仕組みも大きく変わっている。情
み、マーケティングの役割や機能に対しての再構築が
報を共有化することで企業間のネットワークが有機的に
必要になっている。さらに、情報ネットワーク化はダイレク
つながることになり、競争から共同への転換が図られる
トマーケティングという形で、消費行動そのものを変えよ
素地ができた。
多面的、
多重的に張り巡らされた情報ネッ
うとしている。ネット上に開設された「店舗」では品揃
トワーク社会に求められるマーケティングの戦略体系が
えや在庫という概念が大きく異なっており、顧客の求め
どのように変化しているのか、競争という概念がどう変
に応じての仕入れ販売ということも可能になっている。こ
わっていくのかを探るというのが本書のテーマである。
うしたバーチャルな販売システムが実店舗を核としたこ
情報収集の巧拙が企業の戦略策定に大きく影響する
れまでの販売システムとの間でどのような棲み分けがな
だけでなく、市場における競争優位を確保すると言う意
されるのかも興味のあるところである。
味においても重要なポイントとなっている。インターネット
最後に、これからの IT 技術のさらなる発展がもたら
に代表される Web 上での情報環境の変化は、他社に
す可能性についても言及しているが、この分野の革新
先駆けて情報を入手するということから情報をどのように
のスピードは想像すらできないものがある。その変革が
使いこなすのかということに関心が移っている。同じ意
企業と顧客の関係性に関して大きな影響力を持ち、マー
味で、情報を排他的に独占するよりもいかに共有環境
ケティングの基本である顧客志向がより強固なものに
を整えるのか、異質な情報の組み合わせによって新し
なっていくことは間違いのないところである。いかにして、
い情報価値を生み出すのかが重要視されている。情
自社の既存経営資源と情報技術に関する革新とをマッ
報化・ネットワーク化という流れは、これまで日本的企業
チングさせるのか、その判断には革新の本質を見抜く
システムの特徴とされた系列化にも影響を与えている。
経営者としての見識が求められる。
グローバリゼーションやサプライチェーン・マネジメントと
いった流れの中、資本や業務分担をベースとした分業
的系列システムの経済的合理性が薄らいでいる。情報
ネットワークを前提としたアライアンスの構築や、アパレル
業界に見られる SPA、ウォルマートのリテール・リンクな
ど、より競争優位を創り出す仕組みとしての活用が見ら
れる。
顧客とのリレーション(関係性)の構築も情報化によ
りなし得たものである。マス・マーケティングの時代が
終わり、顧客をいかにセグメントするのか、既存顧客の
囲い込みをどう進めるのかといった課題に対して、的確
な情報分析が不可欠となっている。不特定多数の顧
74
目次
CONTENTS
執筆者紹介
編者
佐藤 研司(さとう けんじ)
目次
はじめに
龍谷大学経営学部教授
1 章 事業環境としての情報ネットワーク社会
1 供給過多という市場環境
2 IT 革新とネットワーク社会
3 情報過多時代の情報活用
4 FSP(Frequent Shoppers Program)
5 情報の活用と共有
6 小売業とメーカーの連携
7 異質の情報の接点で新しい情報が生まれる
1
3
5
6
9
10
12
2 章 日本における企業間ネットワークの形成と特徴
はじめに
1 企業集団の形成と機能:ヨコの企業間ネットワーク
2 企業系列の形成と展開
3 流通における企業間ネットワークの形成と展開
4 結びにかえて
15
16
22
27
33
執筆者
藤田 誠久(ふじた のぶひさ)
龍谷大学経営学部教授
藤岡 章子(ふじおか あきこ)
龍谷大学経営学部助教授
熊沢 孝(くまざわ たかし)
大東文化大学経営学部教授
3 章 戦略アライアンスとサプライチェーン・マネジメント
1 注目されるサプライチェーン・マネジメント
39
2 サプライチェーン・マネジメントの展開
49
3 サプライチェーン・マネジメントの諸問題
59
4 戦略的アライアンス
61
4 章 ネットワーク型マーケティングの枠組み
1 ネットワーク型マーケティングの構築に向けて
2 ネットワーク型マーケティングの実践
3 課題解決型提案営業にみる戦略的アライアンス
67
74
85
5 章 顧客のネットワーク化
はじめに
1 新たな消費者像
2 関係性のマネジメント
3 顧客ネットワーク化の試み
95
95
102
108
6 章 インターネットと消費者の世界
はじめに
1 実態と仮想
2 サイトの場所性
3 モールからサブカルチャーへの旅へ
4 検索の先
5 感覚の尖端
6 移ろいの感性
7 おびただしい掌編小説
8 世界の認識
結び―自己の発見
123
124
128
130
132
134
136
137
139
140
7 章 さらなる IT の発展とマーケティング
1 現代経営革新の特徴
2 予測しうるいくつかの変化
3 サプライチェーン・マネジメントの課題
145
152
162
75
72
『地域産業とイノベーション:
京都府丹後地域の伝統・現状・展望』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 72 巻
松岡憲司 編著(日本評論社)
2007 年 3 月刊
247 頁
I SBN978-4-535-55525-9
松 岡 憲 司 (経済学部教授)
本書は、京都府北部の丹後地域における産業につ
金属産業について述べている。第 4 章では丹後の機
いて、歴史的な伝統産業、今日の丹後を支える産業、
械・金属産業のルーツとして、織機と日本計算器、そし
明日へ向かっての展望という三つの視点から迫ってみた
て日進製作所について述べた後、丹後の機械・金属
ものである。と同時に地域経済にとってもイノベーション
企業の特徴について述べている。第 5 章では、工業
が重要であることを考えている。
統計表など公的な統計データにもとづいて、丹後の機
ときの流れを縦軸とすると、横軸にイノベーションとい
械・金属産業の現状と推移を展望している。丹後の機
う視点を取り入れている。地域産業の発展におけるイノ
械・金属産業の発展過程において重要な役割を果たし
ベーションの重要性は江戸時代から変わっていないので
てきたのが、丹後機械工業協同組合である。第 6 章
ある。
では工業を含む事業協同組合制度を概観するとともに、
本書の構成は以下のようになっている。全体は 3 部
丹後機械工業協同組合が果たしてきた役割について
に分かれており、第 1 部は丹後に昔からある伝統的な
考察している。丹後の機械・金属産業を代表する企業
産業について論じている。もっともよく知られた丹後の産
が㈱日進製作所である。自動車のエンジン部品を製造
物といえば、丹後縮緬である。江戸時代以来の長い
している日進製作所は、自動車メーカーのグローバル化
歴史をもつ丹後縮緬は最近では和装の低迷もあって、
の影響を避けて通ることができない。第 7 章では、「製
最盛期の 10 分の 1 の生産量になっている。第 1 章で
品のアーキテクチャー」という製品の設計思想という視
は丹後縮緬の歴史について論じている。前著(松岡
点から、日進製作所の海外移転の特徴について論じて
[2004])では、近年の丹後縮緬について論じている。
いる。
本書と前著をあわせてお読みいただければ、丹後縮緬
第 3 部は、主に行政の支援政策との関連で、丹後
の移り変わりについて展望することができる。第 2 章で
の地域産業が今後展開していく方向について考察して
は、日本の伝統産業のひとつである和紙について論じ
いる。第 8 章は、産地の類型化の中で丹後の特徴を
ている。ここでは特に衰退していく産業でも最後までの
明らかにするとともに、新しい企業間関係としての「新
事業を続けることの利益である「残存者利益」と、後
連携」に着目し、産地としての丹後の発展方向につい
から参入することの利益である「後発効果の利益」と
て論じている。第 9 章では、新しい地域産業概念であ
いう2 つの視点から、和紙産業について考察している。
る産業クラスターという視点から、地域産業政策の課題
丹後という地名を聞き、縮緬とともに多くの人が思い浮
について、丹後を京都府南部の関西学研都市と比較
かべるのは日本三景のひとつである天橋立であろう。昔
しながら検討している。
から天橋立は全国的な観光地として名高い。近年では、
また本文の中に入れることができなかったが、興味深
丹後といえば夏の海水浴と冬のカニ料理が観光の目玉
いと思われるトピックをいくつか拾い上げ、コラムとして
となっている。第 3 章では、丹後の観光について、現
入れている。
状を展望しながら観光振興のための課題について論じ
ている。
第 2 部では今日の丹後の地域産業を代表する機械・
76
目次
CONTENTS
目次
はじめに
第 1 部 丹後産業の伝統
第 1 章 縮緬業の歴史にみる丹後の地域力
―発展の内的要因
1 現状と課題
2 縮緬業の導入―奈良時代∼江戸時代
3 混乱の時代―幕末(開国)∼明治前期
4 地域間競争の時代―明治後期
5 協同の時代へ―大正∼昭和
6 地域力の源―戦後から現在へ
第 2 章 手すき紙と工芸品
1 伝統産業としての和紙製造業
2 日本の和紙製造業
3 和紙産地としての京都府
4 事例研究(1)―衰退と残存者利益
5 事例研究(2)―後発効果の利益
6 縮緬と和紙―今後の研究課題
第 3 章 丹後の観光と地域振興
1 わが国の観光の現状
2 ヒアリング調査からみた丹後の観光
3 丹後の地域振興―観光の果たす役割
1
3
6
9
12
18
25
31
34
36
40
46
52
56
58
67
第 2 部 今日の丹後産業―機械・金属産業
第 4 章 丹後の機械・金属産業
1 織物機械
76
2 日本計算器
84
3 日進製作所
94
4 丹後の機械・金属企業の特徴
97
5 地域産業活性化とイノベーション
105
第 5 章 丹後ハイテクゾーンにおける地域産業の現状と推移
―機械・金属産業を中心として
1 丹後ハイテクゾーン(丹機地域)
107
2 機械・金属産業を中心とした地域産業の推移 110
3 今後の課題
128
第 6 章 事業協同組合と地域経済
―丹後機械工業協同組合の場合
1 中小企業協同組合の変遷と現況
139
2 丹後機械工業協同組合の果たした役割
151
第 7 章 グローバル分業と製品アーキテクチャの階層構造
―日進製作所の中国進出戦略
1 はじめに
167
2 先行研究サーベイと問題意識
168
3 事例研究―日進製作所
171
4 階層的分業のグローバル化と製品
175
アーキテクチャの階層構造
5 まとめと今後の課題
182
第 3 部 丹後の産業の未来
第 8 章 産業振興と支援策
1 産地の実態
2 ものづくりの支援策
3 産地の発展方向
第 9 章 産業クラスターと地域マネジメント
2
3
4
5
―丹後地域と京都府関西学研都市地域との産業
政策課題比較
丹後地域および京都府関西学研都市地域産業
215
政策課題検討の意義
21 世紀社会と地域産業政策
217
220
地域産業政策と産業クラスター
丹後地域産業政策の課題
223
―産業集積から産業クラスターへ
京都府関西学研都市地域の産業政策の課題
228
―知的クラスターから産業クラスターへ
コラム① 京都府織物・機械金属振興センター 27
コラム② 紙屋紙(かんやかみ)
43
―800 年ぶりの再現
コラム③ 芸妓文化―少し変わった観光資源 65
103
コラム④ 積 進
109
コラム⑤ 北近畿タンゴ鉄道(KTR)
コラム⑥ 中国の地域経済活性化と浙江省の
183
自動車部品の一村一品生産運動
213
コラム⑦ 風力発電:生田産機
245
おわりに
247
執筆者紹介
執筆者紹介
編者
松岡 憲司(まつおか けんじ)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
北野 裕子(きたの ゆうこ)
種智院大学・大阪樟蔭女子大学非常勤講師
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学経済学部教授
野方 宏(のがた ひろし)
静岡大学人文学部教授
村西 一男(むらにし かずお)
龍谷大学大学院経済学研究科特別専攻生
寺田 昭夫(てらだ あきお)
丹後機械工業協同組合常務理事
朴 泰勲(パク テフン)
大阪市立大学大学院創造都市研究科助教授
山田順一郎(やまだ じゅんいちろう)
龍谷大学経済学部非常勤講師
金田 修(かなだ おさむ)
中小企業診断士
191
200
205
77
73
『知的財産契約の理論と実務』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 73 巻
辻本勲男・武久征治 編著(日本評論社)
2007 年 3 月刊
594 頁
ISBN978-4-535-51549-9
辻 本 勲 男 (法学部教授)
1 出版の狙いと背景状況
2 執筆者等と内容紹介
本書は、排他的・独占的権利である知的財産(権)
本書は、龍谷大学知的財産研究会(代表 : 武久征
の活用や創出に際して締結される種々の契約(本書で
治、期間:2003 年度∼ 2005 年度)の共同研究の成
は「知的財産契約」という)を、
知的財産法と契約法、
果報告でもある。同研究会は、学者をはじめ、弁護士、
知的財産実務と契約実務をそれぞれ両面から総合的
弁理士、企業の知財部門関係者、法務部門関係者な
に検討したものである。
ど多分野にわたる専門家約 20 名をメンバーとする。本
我が国では、米国より10 年程遅れて 1995 年頃か
書の各テーマは、主としてこれらの共同研究者が分担
ら立法・行政・司法の各分野にわたって、プロパテント
して執筆し、研究会での検討を経たものである。
(知的財産重視)の施策がとられるようになり、この間、
本書は、第 1 編を理論編とし第 2 編を実務編とした
知的財産に関する文献出版もおびただしい数にのぼっ
が、理論と実務を厳密に区分することは難しいため、
ている。しかし、種々の知的財産契約について契約法
編別にかかわらず、第 1 章から第 4 章までを通した構
を含むあらゆる関係法を総合的に捉えた文献は数少な
成としている。
い。そのため、知的財産契約について全体を一冊の
第 1 章では、まず、「知的財産」と「契約」につい
書物で基礎から知ろうとする者にとっては、不都合が感
てそれぞれの概説を行い、
つぎに、
それらを統合して「知
じられた。このような状況の中で本書は、知的財産契
的財産契約」を概説した。
約を対象としつつ、知的財産法はもちろん、独占禁止
第 2 章では、まず、特許法など個別の知的財産法
法等の知的財産関連法、さらには契約法について基
において知的財産契約がどのように規定されているか
礎的解説を行い、その上で、種々の知的財産契約に
を検討し、つぎに、独占禁止法などの知的財産と関連
ついて個別に解説をするという方法を試みることにより、
の深い諸法において知的財産契約がどのように位置づ
読者層のニーズに応えようとするものである。
けられているかを検討した。そしてさらに、それら双方
知的財産取引における最近の急激な拡大発展には
に関連して外国法ではどのように取り扱われているかを
目を見張るものがある。最近のプロパテント政策に後押
概観した。
しされた産学間の知的財産取引の拡充、グローバル化
第 3 章では、個々の知的財産契約を理解する上で
の進展の中で行われる知的財産国際取引の増大、知
必要な一般的な契約実務について、国内契約実務と
的財産を情報財として認識しこれを担保資産あるいは
国際契約実務に分けて検討した。
金融資産として活用しようとする動き、情報化とくにイン
第 4 章では、まず知的財産契約の締結と管理の実
ターネットの進展に伴う著作権等に係わる取引の急増、
務について概説した上で、知的財産契約を各種の契
最近の企業買収・再編や企業間の技術提携・共同開
約形態別に実務的視点から検討した。
発等に伴って行われる知的財産の移転・許諾等々、知
的財産取引の拡大・発展の現象を数え上げればきりが
ないほどある。本書出版の背景には、このような知的
財産取引・契約の社会・経済的拡大という状況がある。
78
目次
CONTENTS
目次
はしがき
凡例
第Ⅰ編 知的財産契約の理論
第 1 章 知的財産と契約の理論
第 1 節 知的財産概説
1 知的財産の意義
3
2 知的財産の分類
4
3 知的財産権と所有権
4
4 知的財産概説
6
第 2 節 契約概説
1 契約と法律
21
2 契約の成立と有効要件
28
3 契約の当事者
31
第 3 節 アメリカ契約法概説
1 序説
40
2 契約の成立
41
3 契約違反(breach of contract)に対する救済方法 45
4 契約の解釈と錯誤
48
第 4 節 知的財産契約概説
1 知的財産契約の概観
53
2 知的財産契約と契約法および関連規制法等 60
3 知的財産契約と知的財産法
69
4 知的財産契約における権利の特定と当事者の義務 84
第 2 章 知的財産法等における契約
第 1 節 知的財産法における契約各説
第 1 款 特許・実用新案法
1 発明の創作前の段階
99
2 発明の創作段階
101
3 特許を受ける権利を経済的に活用する段階 106
4 特許の出願段階
110
5 特許権の成立段階
110
6 特許権の経済的活用をする段階
111
7 実用新案法特有の事項
116
第 2 款 意匠法
1 概説
119
2 意匠の特性
119
3 意匠権の特性
121
4 意匠特有の契約
125
第 3 款 商標法
1 概説
127
2 商標の機能
127
3 商標権の効力
128
4 商標法上の商標に関する契約
129
第 4 款 不正競争防止法
1 概説
142
2 周知表示に係る混同惹起行為(不正競争 2 条 1 項 1 号)143
3 著名表示冒用行為(不正競争 2 条 1 項 2 号)145
4 新商品形態模倣行為(不正競争 2 条 1 項 3 号)148
5 営業秘密に係る不正競争行為
151
(不正競争 2 条 1 項 4 号乃至 9 号)
6 ドメイン名に係る不正競争行為(不正競争 2 条 1 項 12 号)154
第 5 款 著作権法
1 著作権関連契約の特徴
157
2 著作物の利用と許諾∼著作形態による区分∼ 161
3 権利処理が不要な場合
169
4 著作物の種類と契約
∼著作物の種類による契約の特色と留意点∼ 171
5 権利の集中管理機構
179
第 6 款 回路配置利用法
1 制度趣旨
185
2 保護対象
185
3 登録要件
185
4 職務上創作された回路配置
186
5 登録手続
186
6 登録の効果等
186
7 権利の制限
187
8 共有
188
9 経済的利用
188
10 権利侵害
189
11 回路配置利用法に関する実務の状況 189
12 契約に関連する事項
189
第 7 款 種苗法
1 種苗法
190
2 育成者権のライセンス契約
192
第 8 款 商法、会社法(商号関係)
1 知的財産としての商号の特徴と契約
196
2 商号に関する一般的事項
198
3 商号の機能
199
4 商号の保護
200
5 契約書の例
204
第 2 節 知的財産関係法における契約各説
第 1 款 独占禁止法
1 「特許・ノウハウライセンス契約に関する
208
独占禁止法上の指針」の作成経緯
2 知的財産をめぐる知的財産関連法と
209
独占禁止法との関係
3 契約の各段階での独占禁止法との関係
214
で注意すべき事項
第 2 款 税法
1 税法の解釈適用に関する留意点
222
2 特許権等の取得価格と減価償却
223
3 特許権等の譲渡およびライセンス契約 225
4 国際課税の留意点
226
第 3 款 信託法
1 信託制度の概要
234
2 知的財産権信託の概要
236
3 知的財産権信託の実務
237
4 知的財産権信託の今後の展望
239
第 4 款 民事訴訟法
1 民事訴訟法規の性質
241
2 裁判管轄
242
3 仲裁合意(仲裁契約)
251
4 不起訴合意
252
5 訴え取下げ合意
253
第 5 款 デジタルコンテンツ関連法
1 デジタルコンテンツ
254
2 デジタルコンテンツと契約
258
3 インターネットによるライセンス契約の締結 261
4 デジタルコンテンツ契約の際に考慮すべき問題 263
第 3 節 外国法(知的財産関係法を含む)
第 1 款 各国の知的財産法(米・中・独・英)
1 米国
269
2 中国(中華人民共和国)
283
3 ドイツ
295
4 イギリス
299
第 2 款 国際条約
1 国際制度
303
2 パリ条約
303
3 ヨーロッパ特許条約
304
4 国際特許出願:
PCT(Patent Cooperation Treaty 特許協力条約)307
5 ベネルクス統一意匠法
308
6 欧州共同体意匠
308
7 マドリッド・プロトコル(商標)
309
8 欧州共同体商標(CTM)
309
9 ベネルクス商標
309
10 著作権条約
309
第 3 款 裁判管轄
1 裁判管轄が争われる場合
311
2 裁判管轄に関する米国法
312
3 裁判管轄に関する日本法
314
4 合意管轄
315
5 送達の問題
316
6 判決の執行の問題
318
7 仲裁(arbitration)
320
第Ⅱ編 知的財産契約の実務
第 3 章 一般契約の実務
第 1 節 契約の締結と管理
1 事業契約の特性と考え方
325
2 契約の交渉
331
3 契約書の作成・調印・保管
337
4 契約の履行と不履行
350
5 契約の変更と終了
360
第 2 節 国際契約の締結と管理
1 契約書の意義
370
2 契約書の作成
373
3 有利な契約の締結技術
376
4 弁護士の利用
377
5 契約の履行管理
380
6 契約書の例
381
第 4 章 知的財産契約の実務
第 1 節 知的財産戦略と契約の締結
1 知財戦略に関する全般的状況
387
2 企業における知財戦略と契約
393
第 2 節 知的財産契約の管理
1 管理の対象
399
2 維持管理・監視等体制
400
3 契約類型別の留意点
400
4 知的財産契約の締結後の問題点
402
第 3 節 契約形態別実務
第 1 款 権利譲渡契約
1 概要
403
2 契約の特徴
404
3 主たる条項と留意点
405
4 特有の条項と留意点
408
5 契約書の例
412
第 2 款 ライセンス契約
1 はじめに
416
2 ライセンス契約の定義
416
3 ライセンス契約の種類
416
4 ライセンス契約締結の目的
417
5 ライセンス契約の主体・客体
419
6 実施行為の範囲
421
7 ライセンス契約の期間
421
8 実施料の算定方式
421
9 損害賠償額の算定
424
10 実施料の支払方式
425
11 実施料の対象価格
427
12 実施料の対象数量
428
13 実施料の対象製品
428
14 実施料報告書
429
15 独占禁止法との関係
429
16 その他の契約事項
430
17 おわりに
430
第 3 款 ノウハウ契約
1 契約の概要
433
2 契約の特徴と知的財産戦略
436
3 知的財産に関わる主たる条項と留意点 437
4 知的財産に関わる課題と最近の動向 440
5 契約書の例
441
第 4 款 ソフトウェア取引契約
1 ソフトウェア開発委託契約
2 ソフトウェアライセンス契約
第 5 款 秘密保持契約
1 秘密保持契約の概要
2 秘密保持契約書
3 契約当事者以外の秘密保持義務
4 秘密保持義務の違反
5 秘密保持契約の限界
6 契約書の例
第 6 款 製造委託契約・OEM 契約
1 契約の概要
2 契約の特徴と知的財産戦略
3 知的財産に関わる主たる条項と留意点
4 知的財産に関わる課題と最近の動向
5 契約書の例
第 7 款 研究開発契約
1 概要
2 契約の特徴
3 主たる条項と留意点
4 特有の条項と留意点
5 研究開発委託契約特有の条項と留意点
6 共同出願契約特有の条項と留意点
7 契約書の例
第 8 款 技術提携契約
1 はじめに
2 提携の目的
3 提携の形態
4 提携時の知的財産契約
第 9 款 企業再編契約
1 ライセンス契約と企業再編
2 権利・実施権の移転
3 ライセンス契約と特定承継
4 企業再編行為と権利・実施権の移転
5 ライセンシー保護の必要性
第 10 款 知的財産担保契約
1 契約の概要
2 契約の特徴と知的財産戦略
3 知的財産に関わる主たる条項と留意点
4 知的財産に関わる課題と最近の動向
5 契約書の例
第 11 款 知的財産の紛争処理と和解契約
1 和解契約
2 訴訟上の和解、即決和解、調停
3 民法上の和解契約の効力
4 知的財産権紛争と和解
第 12 款 職務創作の権利譲渡契約
1 概要
2 契約の特徴と実情
3 主たる条項と留意点
4 契約書の例
第 13 款 知的財産関係の国際契約
1 契約の特徴
2 国際ライセンス契約
444
452
465
467
472
474
474
476
479
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577
578
執筆者一覧
市位 謙太*(いちい けんた)
龍谷大学大学院法学研究科博士後期課程
伊原 友己*(いはら ともみ)
三木・伊原法律特許事務所 弁護士 弁理士
今木 隆雄*(いまき たかお)
岩
ニアス国際特許事務所弁理士
ユ
惠一*(いわさき けいいち)
滋賀大学経済学部教授
岡本 清秀*(おかもと きよひで)
オムロン(株)知的財産担当顧問
川瀬 幹夫*(かわせ みきお)
三協国際特許事務所 弁理士
島 純子*(しま じゅんこ)
大日本スクリーン製造(株)知的財産部
鈴木 龍也*(すずき たつや)
龍谷大学法学部教授
武久 征治*(たけひさ せいじ)
龍谷大学法学部教授
玉置 秀司*(たまき しゅうじ)
オムロン(株)法務総務部担当課長
辻本 勲男*(つじもと いさお)
龍谷大学法学部教授
津田 裕子*(つだ ゆうこ)
ソニー(株)知的財産センター
土屋 隆生*(つちや たかお)
龍谷大学法学部客員教授
豊山 おぎ*(とおやま おぎ)
志賀国際特許事務所 弁理士
野田 容朗*(のだ よしあき)
(株)堀場製作所法務部マネジャー
板東 正男*(ばんとう まさお)
板東知的財産法律事務所 代表弁理士
藤川 義人*(ふじかわ よしひと)
弁護士法人淀屋橋・山上合同弁護士・弁理士
藤田 吉彦(ふじた よしひこ)
フジタ税務会計事務所代表税理士
松本 好史(まつもと よしふみ)
弁護士法人三宅法律事務所 弁護士 弁理士
(注)*は龍谷大学知的財産研究会メンバー
79
74
『法医鑑定と検死制度』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 74 巻
福島 至 編著(日本評論社)
2007 年 3 月刊
382 頁
ISBN978-4-535-51551-2
福 島 至 (法科大学院教授)
法医学研究者や刑事法学研究者、法律実務家(弁
書では、検死制度が私たちの健康と安全にとって重要
護士)が、学際的かつ有機的に共同研究を行った成
であることを訴えている。パロマ工業社製のガス湯沸か
果を公刊した書である。この研究では、異なる専門分
し器の不良が原因で、20 年以上にわたり一酸化中毒
野、様々なバックグラウンドを有した者たちが共同で作
死事件が多発した事件があった。もし初期段階で原因
業や意見交換を行い、相互にいい刺激を受けることが
究明がされていたら、これほどの犠牲者は出現しなかっ
できた。
た。検死制度が重要であることを示す一つの事例であ
21 世紀におけるあるべき検死(死
共同研究の目的は、
る。日本では、死因情報を悲劇の再発防止につなげる
因究明)制度を模索、提言することにあった。共同研
社会システムは不備である。
究への参加にあたって、会員各々の動機は多種多様
本書の内容である。第 1 部は、法医学専門家と刑
であった。ある者は、名古屋刑務所受刑者死亡事件
事法学専門家との座談会記録である。法医鑑定に関
を契機に、被拘禁者の死亡原因究明のあり方へ疑問
する研究会の問題意識を総括し、理論的および実践
を有するようになった。またある者は、刑事事件を担当
的な問題視角、解決の方向性などを示している。第 2
した経験から、司法解剖(法医鑑定)の証拠としての
部は、法医鑑定について、専門家の経験から実例を
適正化を考えるようになった。さらに他の者は、法医学
紹介し、理論的な考察をするとともに、実務や教育との
実務家として死体解剖に取り組む中で、警察との関係
関係を論じている。第 3 部は検死制度に関するもので
の危うさや貧困な予算などに危機感を抱いていたので
ある。日本の制度を概観した後、特に被拘禁者の死亡
ある。
原因究明問題について、法医学と法律学の二つの立
本書においては、死体鑑定を中心にした法医鑑定と
場から考察している。
さらに、
諸外国の制度比較を行い、
検死制度全般について、問題の所在を明らかにし、将
イギリスやアメリカ、オーストラリア、ドイツ、フランスなど
来のあるべき方向性を提言している。法医鑑定と検死
重要と思われる国の制度を概観している。第 4 部は事
制度を並置しているが、双方は重なりあう一方で、位
例研究である。法医鑑定や検死制度を考察する際の
相を異にしている。法医鑑定とは、法医学ないしは裁判
重要な素材を提供していると考えられる事件について、
(司法)医学の専門家による鑑定をさすが、死体解剖
研究会における議論も含めて紹介し、検討を加えてい
に関する鑑定のみならず、毒薬物鑑定なども含む。他
る。終章は本書を総括するものであり、将来のあるべき
方、検死制度は人の死一般について、その死亡の原
制度について方向性を示している。
因ならびにその種類を究明、確定する社会制度のこと
を指す。
法医鑑定の適正化を計るべきだという課題は、以前
から法律家の間で議論されてきたが、検死制度の問題
についてはほとんど顧慮されてこなかった。検死制度は
死者に対するものでありながら、生きている者の基本的
人権を守る基礎となる重要な社会的機能を有する。本
80
目次
CONTENTS
執筆者プロフィール
福島 至(ふくしま いたる)
はしがき
凡例
執筆者プロフィール
序
総論―研究の視角について
龍谷大学大学院法務研究科教授
反町 吉秀(そりまち よしひで)
1
安達 光治(あだち こうじ)
第 1 部 座
談会 司法解剖と法医学鑑定
―法医学と刑事法学との対話
立命館大学法学部助教授
石塚 伸一(いしづか しんいち)
第 2 部 法
医鑑定について
―司法解剖・鑑定(法医学)と法律学
65
第 1 章 司法解剖の実際
85
第 2 章 理論編① 鑑定試料の保存と証拠能力
117
第 3 章 理論編② 法医鑑定と刑事事実認定
141
第 4 章 実務編① 法医鑑定と刑事弁護
第 5 章 実務編② 法学部・法科大学院で求められる
151
法医学教育
第 3 部 検死制度について―死因究明のあり方について
163
第 1 章 検死制度の現状
第 2 章 被拘禁者の死亡原因究明
179
第 1 節 法医学の立場から
198
第 2 節 法律学の立場から
第 3 章 諸外国の検死制度
211
第 1 節 イギリス
229
第 2 節 オーストラリア
242
第 3 節 アメリカ
255
第 4 節 ドイツ
267
第 5 節 フランス
278
第 6 節 イタリア
284
第 7 節 スウェーデン
294
コラム 「公衆衛生」と「public health or safety」
第 4 部 事例研究
第 1 章 横浜市営住宅変死事件
第 2 章 医療刑務所看護士暴行事件
第 3 章 草加事件
第 4 章 松戸市会社員殺人事件
第 5 章 菊池事件
終 章 総括―21 世紀のあるべき制度に向けて
青森県東地方保健所保健医長(兼)青森県健康福祉政策課・
医療薬務課副参事
龍谷大学大学院法務研究科教授
勝又 義直(かつまた よしなお)
科学警察研究所長
神山 啓史(かみやま ひろし)
弁護士・龍谷大学大学院法務研究科教授
白取 祐司(しらとり ゆうじ)
北海道大学大学院法学研究科教授
徳田 靖之(とくだ やすゆき)
弁護士
徳永 光(とくなが ひかる)
甲南大学法学部助教授
豊崎 七絵(とよさき ななえ)
九州大学大学院法学研究院助教授
村井 敏邦(むらい としくに)
龍谷大学大学院法務研究科教授
山本 啓一(やまもと けいいち)
山本医学鑑定研究所主宰;龍谷大学大学院法務研究科、法
学部非常勤講師
297
313
333
347
359
373
81
75
『介護・家事労働者の国際移動:
エスニシティ・ジェンダー・ケア労働の交差』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 75 巻
久場嬉子 編著(日本評論社)
2007 年 3 月刊
250 頁
ISBN978-4-535-55530-3
久 場 嬉 子 (元経済学部教授)
1 本書の背景
と介護の二つの仕事を行う労働者をも含んでいる。国
本書は、龍谷大学経済学部の民際学研究者が中心
によりフォーマル、インフォーマルと著しく異なった就労形
となって取り組んだ龍谷大学社会科学研究所の共同研
態をとっており、この多様性を明らかにすることに研究
究プロジェクト「在日外国人高齢者と介護問題―ジェ
の焦点をあてている。
ンダー・エスニシティ・ケア」(研究代表者 : 久場嬉子、
二つに、一般に理解されているような、介護・家事
2004 年度)と、科学研究費補助金基盤研究・海外学
労働者として働く目的をもって海外から新たに移動してき
術(B)
、「家事・介護労働者の国際移動―エスニ
た労働者だけではなく、多様な背景のもとですでに国内
シティ・ジェンダー・ケア労働の交差」(研究代表 : 久
に住み、暮らし、家事・介護労働者となって従事し始
場嬉子、2004~2005 年度、課題番号 16402004)をも
めた人たちをも調査対象としている。前者のみが関心を
とにしている。世界の地域研究に携わる民際学研究者
よび、後者の人たちの抱えている問題が軽視され、脱
だけでなく、現代資本主義論やジェンダーと女性労働
落されることの多いなかで、本書のこの問題設定は大き
論の研究者等による、学際的、かつ多角的な共同研
な特徴と意味をもっている。
究の成果である。
三つに、多くの章は、外国人介護・家事労働者の
受け入れ国と送り出し国における事例調査・研究にあ
2 本書の課題
てられている。とともに、一章を、今日の外国人介護・
外国人看護・介護労働者問題は、日本では、昨今
家事労働者の増加が資本主義的商品経済をめぐる変
のインドネシアの看護師・介護福祉士の受け入れにみら
化、すなわち、生産過程だけでなく人間の生活過程と
れるように急速に現実課題となってきた。しかし、本書
労働力の再生産過程における新しい変化と結びついて
の対象とする現代の「介護・家事労働者の国際移動」
いるという、現代史的意義をめぐる重要な考察にあてて
は、経済のグローバル化、ポスト工業化(サービス経
いる。
済化)
、さらに労働力の女性化や先進工業国で顕著な
四つに、代表的な介護・家事労働者の送り出し国の
人口構造の高齢化などにより、すでに数十年以上にわ
事例としてスリランカとインドネシア(8 章、9 章)を扱っ
たり世界的な現象となって大きく広がってきた。本書は、
ているが、移動のパターン、移動が送り出し国に及ぼ
このような外国人介護・家事労働者をめぐり、国際的
す影響、さらに文化的な諸要因という、介護・家事労
な移動の局面そのものについてよりも、国際的に移動す
働を規定している先進国とは異なった複雑多岐な要因
る介護・家事労働者の就労の実態を把握することに焦
を浮き彫りにするものとなっている。
点をあて、未だほとんどが明らかにされていない現状の
調査・研究を中心的課題としている。本書の内容は次
のような特徴をもっている。
一つに、研究対象は、専門職としての看護・介護
労働者というより、そのほとんどを女性が占め、多様な
施設だけでなく、個人の家庭でインフォーマルに、家事
82
目次
CONTENTS
目次
まえがき
第 1 章 移住労働者と資本主義的再生産
――移住の論理は変わったのか
はじめに
1 移住労働者問題への接近の二つの方法
2 二つの方法と再生産問題
―移住労働者と労働力再生産
3 資本主義的蓄積様式の変遷とそれが提起する
問題
4 資本主義のグローバル化とケア労働の実態から
みえてくるもの
おわりに
―ケア労働と資本主義のグローバル化に
かかわる諸問題
1
3
6
10
16
18
第 2 章 日比経済連携協定と外国人看護師・介護労働者
の受け入れ
27
はじめに
1 少子高齢社会における経済戦略とEPA の位置付け 28
2 日比 EPA 交渉の経緯
32
3 受け入れ枠組みの概要
37
4 日比 EPA に関するフィリピンの反応
39
5 いくつかの具体的な問題―諸外国の事例から 42
44
まとめ
第 3 章 日本の社会保障・学校教育と国籍
―コリア系介護事業所の背景となっていること
1 在日コリアンの形成と帝国日本
51
2 未完の占領改革と「日本国籍」喪失がもたらした
53
もの
3 「原状回復」義務と在日朝鮮人の民族教育
56
4 文部次官通達の「思想」と自治体の「認識」 59
5 外国人の「学校教育および社会保障」と
65
国際人権法
72
むすび
第 4 章 多文化共生に向かうケアサービス
―コリア系介護事業所の設立
はじめに
1 多文化社会の進行と外国籍住民の高齢化
2 外国籍高齢者とケアサービス
3 コリア系介護事業所の利用者と労働者
4 多文化共生に向かうケアサービス
第 5 章 介護労働市場とエスニシティ
―アメリカ・カリフォルニア州の事例から
1 本章の目的
2 介護労働者の需要と不足
―賃金の問題とジェンダー、エスニシティ
3 在宅支援サービス(IHSS)と運用上の問題点
4 施設介護
まとめ
第 6 章 スウェーデンの高齢者ケア労働市場におけるジェ
ンダーとエスニシティ
141
はじめに
1 高齢者ケア労働市場とジェンダー
― 女性職 化とケアワークの 準専門職 化144
2 高齢者ケアワークとエスニシティ
151
―ストックホルム市の事例から
3 ジェンダーとエスニシティの交差
159
――当面する課題
第 7 章 スウェーデンの介護労働者育成と外国人労働者
1 高齢者介護における問題
168
2 介護教育(訓練)の実状
172
3 小括
179
第 8 章 介護・家事労働者の送り出し国がかかえる問題
1 労働力移動の歴史的な流れ
189
2 スリランカの介護・家事労働者
191
3 インドネシア経済と女性労働力
195
4 統計にみる出稼ぎ状況
197
5 海外出稼ぎに関する政策
202
206
むすび
第 9 章 湾岸諸国における出稼ぎ女性をめぐる諸問題
―スリランカとインドネシアの事例
はじめに
1 送り出し国における出稼ぎの背景
2 出稼ぎ先での就労状況――UAEとクウェート
おわりに
索 引
209
210
223
243
247
執筆者紹介
編者
久場 嬉子(くば よしこ)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
松岡 利道(まつおか としみち)
龍谷大学経済学部教授
75
76
79
86
93
安里 和晃(あさと わこう)
(株)リクルート・ワークス研究所客員研究員
田中 宏(たなか ひろし)
龍谷大学経済学部教授
河本 尚枝(かわもと なおえ)
島大学大学院総合科学研究科講師
広
牧田 幸文(まきた ゆきふみ)
龍谷大学経済学研究科特別専攻生
99
103
118
123
133
新井美佐子(あらい みさこ)
名古屋大学国際言語文化研究科助教授
中村 尚司(なかむら ひさし)
龍谷大学経済学部教授
嶋田 ミカ(しまだ みか)
龍谷大学非常勤講師
83
76
『京都の門前町と地域自立』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 76 巻
河村能夫 編著(晃洋晃房)
2007 年 3 月刊
309 頁(参考文献等 17 頁)
ISBN978-4-7710-1850-1
河 村 能 夫 (経済学部教授)
本書は、2003 年度から 3 年間にわたる社会科学研
的にも荒らされていない地域社会として、東西両本願
究所指定研究「京都の伝統産業と東西本願寺門前町
寺門前町をまず手がかりにしたいということであった。と
に関する総合的調査研究」の成果である。東西本願
ころが予算措置ができないので、両本願寺の系列大学
寺周辺地域は、全国で一番規模の大きい門前町であ
である龍谷大学と大谷大学の研究者を中心に手弁当
る。当地域の歴史に培われた文化と技術は世界的に
で研究グループを組織化できないかとの要請であった。
みても最高水準にあるが、その伝統産業は衰退の一
この要請を受けて、龍谷・大谷・仏教・同志社など
途をたどっている。本研究では、経済 ・ 社会 ・ 文化の
六大学の研究者によって研究チームを形成し、2001 年
諸側面から総合調査を行い、当地域の産業と住民生
の春に、各メンバーが設定したそれぞれのテーマに従っ
活の関連性を明らかにしようとした。
て、門前町の調査に乗り出した。このようにして形成さ
本研究は、経済学、社会学、文化人類学などの専
れた任意の研究グループは、その後、大学コンソーシ
門家を中心に構成されたが、同時に、大学コンソーシ
アム京都の研究プロジェクトの一環として位置づけられ
アム京都の学術コンソーシアムにおける「京都学」 分
た。本研究が原則的に大学コンソーシアム京都の研究
野の「東西本願寺門前町総合調査」プロジェクトとの
プロジェクトとの合同研究会として展開してきた背景に
合同研究会として展開されてきた。その結果、歴史学、
は、このような事情があった。
仏教学、文学などの研究者との共同研究として展開さ
本書は 3 部構成から成り立っている。第Ⅰ部「門前
れ、非常に幅の広い学際的な刺激を受ける活動となっ
町の歴史と文化」では、寺内町の成立、寺内町から
た。しかも、この共同研究の狙いは、研究者のみなら
門前町への変遷過程、門前町の形成特徴、その文化
ず地元住民を巻き込んで、地域活性化の文化的プラッ
的特徴を最も顕著に現す書肆の変遷など歴史的側面
トフォームづくりに寄与することにあった。本書出版の社
から門前町が記述されている。第Ⅱ部「人びととコミュ
会的狙いも、そこにある。
ニティ形成」では、門前町の人々が日々の生活の中で
研究と地域社会との結びつきに注目したのには、本
繰り広げる地域社会の特徴を、人々の日常生活での五
研究形成の歴史が関係している。この研究活動の発
感を通して表現すると共に、歴史的景観、商圏と宗教
端は、2001 年 2 月に京都市文化市民局文化財保護
的ネットワーク、銭湯と地域社会、祭りにみる地域ネット
課の訪問であった。この訪問の目的は、当時京都市が
ワークの側面から記述されている。Ⅲ部「地域経済と
構想していたフィールドミュージアム型の歴史博物館に
商人」では、街づくりと旅館業、詰所と宗教的機能、
ついての相談であった。京都市内の特徴的な地域を
仏壇 ・ 仏具業、門前町の近年の変遷など現代的側面
選び、時間を掛けて、そこで繰り広げられている日常
から門前町が記述されている。
生活の構造を調べ、日本文化の上層に位置する芸術
に近い京都文化とは違う、京都のまちを底から支えてき
た「暮らしのシステム」を説明・展示するような仕組み
を作りたいとの思いがあった。そのフィールドとして、最
も立地がよく(京都駅前)
、核があり(本願寺)
、景観
84
目次
CONTENTS
目次
はしがき
Ⅰ部 門前町の歴史と文化
第
第 1 章 本願寺門前町の成立
はじめに
1 山科本願寺の寺内町
2 大坂から天満本願寺へ
3 京都本願寺寺内町
おわりに
第 2 章 京都東西本願寺門前町の形成過程と変容
―近世寺内町から近代門前町へ―
はじめに
1 京都本願寺寺内町の構造
2 門前町への展開
3 本願寺門前町における旅館・詰所の分布
4 本願寺門前町の構造変化
おわりに
第 3 章 東西本願寺門前町の書肆の成立と展開
はじめに
1 東西両本願寺門前町における書肆の成立
2 門前町書肆の事業展開と東本願寺「学寮」
3 門前町書肆の出版活動と書林仲間
4 近代東西本願寺門前町の書肆について
おわりに
3
4
10
15
21
22
24
34
39
53
56
58
59
63
70
75
79
第Ⅱ部 人びととコミュニティ形成
第 4 章 本願寺門前町の息吹―五感の地域学の試み―
83
はじめに
1 五感の地域学
84
85
2 西本願寺門前町
3 門前町の道路
88
4 西本願寺と門前町
97
102
おわりに
第 5 章 東本願寺寺内の景観
―東西両本願寺門前町の景観の歴史的前提として―
104
はじめに
1 境内・寺内と門前
105
2 江戸時代中期の東本願寺寺内の構成
107
3 江戸時代中期の東本願寺寺内の景観
122
126
おわりに
第 6 章 東本願寺門前町の商いと宗教的ネットワーク
129
はじめに
1 中村萬助商店の商い
131
2 真宗大谷派保信会
144
156
おわりに
第 7 章 銭湯にみる地域外出身者と地域社会の変遷
159
はじめに
1 銭湯の歴史と現状
161
2 最盛期における銭湯
167
3 現在の銭湯
174
181
おわりに
第 8 章 本願寺門前町と稲荷祭
184
はじめに
1 稲荷祭山車「天狗榊」懸裝品について
185
2 稲荷祭とお迎え提灯山車
189
3 稲荷社と東西両本願寺寺内
196
4 稲荷祭山車再興
199
第Ⅲ部 地域経済と商人
第 9 章 門前町の町づくりと旅館・ホテル業
1 生業としての旅館・ホテル業
2 京都市と下京区における旅館・ホテル業
3 門前町の旅館・ホテル業
4 アンケート調査の実施
5 旅館・ホテル業の将来展望:回帰分析の結果からの推定
6 町づくりと旅館・ホテル業
第 10 章 詰所とその宗教的機能
はじめに
1 詰所の構造と盛哀
2 詰所の宿泊者と本山の行事
3 講と詰所
4 宿泊所としての詰所
おわりに
第 11 章 京仏壇・仏具業の現状と将来
はじめに
1 伝統産業としての京仏壇・仏具業
2 京仏壇・仏具業の経営実態と課題
3 変革する京仏壇・仏具業
おわりに
第 12 章 統計にみる東西本願寺門前町の現代史
はじめに
1 「元学区」の概念と変遷
2 『京都市元学区統計要覧』のデータ
3 30 年間の人口変動にみる下京区
4 30 年間の産業構造の変化にみる下京区
5 下京区における人口変動と産業変化の相関図
おわりに
207
208
210
217
220
223
228
229
240
243
247
249
254
256
259
268
273
277
277
280
281
289
301
307
参考文献
索引
執筆者紹介
編著者
河村 能夫(かわむら よしお)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
岡村 喜史(おかむら よしじ)
龍谷大学文学部助教授
渡邊 秀一(わたなべ ひでかず)
仏教大学文学部助教授
杉本 理(すぎもと おさむ)
大谷大学・大阪電気通信大学非常勤講師
舟橋 和夫(ふなはし かずお)
龍谷大学社会学部教授
堅田 理(かただ さだむ)
大谷大学・華頂短期大学非常勤講師
奥田 以在(おくだ いあり)
志社大学大学院経済学研究科博士課程後期課程在籍
同
柴田 恵介(しばた けいすけ)
龍谷大学大学院社会学研究科博士課程在籍
村上 忠喜(むらかみ ただよし)
京都市文化財保護課技師(民俗担当)
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学経済学部教授
李 屏(リ フピン)
龍谷大学社会学部助教授
長命 洋佑(ちょうめい ようすけ)
龍谷大学非常勤講師
85
77
『宗教法と民事法の交錯』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 77 巻
鈴木龍也 編著(晃洋書房)
2008 年 3 月刊
328 頁
ISBN978-4-7710-2009-2
鈴 木 龍 也 ( 社会科学研究所専任研究員・法学部教授)
宗教的秩序と世俗的秩序の関係は時代により場所に
内私有説の形成と深化を軸に跡づけ、近代的土地所
より様々に異なる。場合によっては両者が一体化し、宗
有権確立過程の再吟味、およびそこにおける中田土地
教的秩序が優位するなかでその関係性という問題自体
所有権論の意味についての再検討を行う。第 3 章は、
が成立しないことさえあるが、現代の日本においては、
一向一揆について聖と俗という観点からの検討を加え
逆に、内面的生活と区別される社会的な生活をするう
る。永正期から天文期を中心に、加賀一向一揆にお
えで宗教的秩序を直接に意識する機会は一般的には
ける暴力とその規制について検証し、この時期の本願
それほど多くはないかもしれない。しかしながら、何ら
寺による世俗法的な規制の展開の中に宗教的論理、
かの宗教的な信条をもって生きる場合はもちろん、特定
宗教的枠組みの基本構造が維持されていることを描き
の宗教に帰依せず、あるいは宗教的信仰一般を全く拒
出す。
絶して生きる場合でさえ、社会生活を送るうえで我々は
第Ⅱ部「現代における宗教法と民事法の交錯」の
宗教的秩序との接触を断つことは出来ない。宗教は団
各章は、民法解釈の現代的課題にかかわる諸問題に
体として社会に存在し、慣行や習俗として人々の行動
ついて検討する。第 4 章は、1947 年に改正された現
を強く規制する。宗教法と民事法の交錯が生じる所以
行民法の祭祀条項に関する裁判例の検討により、祭
である。
祀財産承継の実態と法的運用の実際を明らかにし、旧
これまで、法における宗教の扱いに関する議論の中
「家」 的遺制の影響を受けた現行民法の祭祀条項を
心は信教の自由や政教分離など憲法的テーマをめぐる
支える社会的基盤が失われてきていることを示すととも
ものであった。しかし、宗教的思想や慣習は家族や共
に、近代市民社会原理に基づく死者葬送・祭祀の在
同体など社会の基礎的関係に浸透しており、民事法と
り方を展望する。第 5 章は、墓地使用権について形
いう場面においても検討すべき多くの課題が存在する。
成されている、墓地使用の固定性・永続性を強く保護
本書は社会と法という視角から、家族や共同体、土地
する法理の内実を具体的に検討するとともに、これを一
所有の在り方などに着目しつつ、市民法あるいは世俗
般的な法的枠組みのもとに包摂する解釈論の提示を試
法というニュアンスをも含んだ広い意味での民事法とい
みる。第 6 章は、宗教法人たる寺院の住職として土地
う領域の問題として現象する、法という社会秩序と宗
建物などの所持を開始した者が、後に僧籍剥奪の処分
教的秩序の関係を明らかにしようとする試みである。
を受け、宗教法人によりその土地建物の所持を奪われ
第Ⅰ部「歴史にみる宗教と法の交錯」のうち、第 1
たため、その宗教法人に対して占有回収の訴えを提起
章と第 2 章は明治期の法制を扱う。第 1 章は、明治
した事件の最高裁判決について検討し、法人代表者
期における寺社の財産管理に関する法令や判例を宗
の占有権の扱いについて相対的占有機関説の立場か
教団体の財産管理における「公益性」という問題に
らこれを批判する。
焦点を当てつつ詳細に検討し、宗教団体法に至る時
期における寺社に対する国家的関与のあり方の変遷を
描き出す。第 2 章は、明治期の近代的土地所有権確
立過程における境内所有論争の展開を、中田薫・境
86
目次
CONTENTS
目 次
はしがき
第Ⅰ部 歴史にみる宗教と法の交錯
第 1 章 明治期の社寺の財産管理における「公益性」の
3
形成過程
3
はじめに
9
一 明治期の宗教および土地政策と財産管理問題
42
二 明治期の判例の検討
55
三 結 び
第 2 章 明治期における社寺境内下戻問題と境内私有説の論理
―中田薫・土地所有権史論への序論的
71
考察―
71
はじめに―問題の所在
一 社寺境内下戻問題の法的構図
73
―官有原則の形成と境内山林下戻問題
二 境内所有論争と中田・社寺境内私有説の形成
85
―政治の優位から私法の論理へ
むすびに代えて
112
―境内私有説から土地所有権史論へ
第 3 章 加賀一向一揆における暴力とその規制について 121
121
はじめに
123
一 大永期までの加賀一向一揆と本願寺
133
二 天文期の加賀一向一揆と本願寺
144
おわりに
執筆者一覧
編著者
鈴木 龍也(すずき たつや)
龍谷大学法学部教授
執筆者
池田 恒男(いけだ つねお)
龍谷大学法学部教授
牛尾 洋也(うしお ひろや)
龍谷大学法学部教授
畠山 亮(はたけやま りょう)
龍谷大学法学部准教授
吉岡 祥充(よしおか よしみつ)
香川大学法学部教授
吉村 顕真(よしむら けんしん)
大阪医科大学医学部・龍谷大学法学部非常勤講師
第Ⅱ部 現代における宗教法と民事法の交錯
第 4 章 葬送・死者祭祀及び祭祀財産の承継と相続法体系
―祭祀主宰権・祭祀財産承継権・屍体所有権と
153
相続権との交錯と反発―
一 問題の所在
―死者祭祀と祭祀財産承継のあり方についての
153
問題状況
二 祭祀財産承継者の指定をめぐる問題
―特に民法 897 条一項本文の「慣習」との関連で 165
196
三 葬儀費用負担者問題
四 遺体・遺骨の帰属ないし支配処分権の所在及び
211
法構成
240
五 その他の若干の関連問題
246
六 小括と展望
275
第 5 章 墓地利用関係の特殊性と墓地使用権
275
はじめに
276
一 墓地の類型と墓地使用権
二 墓地利用の特殊性と墓地使用権の固定性・永続性 278
293
三 墓地使用権論の焦点
第 6 章 宗教法人の「代表者」による占有訴権の一考察
―最高裁平成 10 年 3 月 10 日判決の
311
批判的検討―
311
はじめに
313
一 最高裁平成 10 年 3 月 10 日判決
318
二 法人代表者に関する三つの法律構成
321
三 本判決の検討
323
おわりに
87
78
『ヨーロッパ私法の展開と課題』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 78 巻
川角由和・中田邦博・潮見佳男・松岡久和 編著(日本評論社)
2008 年 3 月刊
696 頁
ISBN978-4-535-51623-6
中 田 邦 博 (法科大学院教授)
Ⅰ 本書は、
ヨーロッパ契約法研究会(代表=川角由和)
ゼドー教授の講演「ヨーロッパ私法の漸進的生成」と、
が龍谷大学社会科学研究所の助成を受け「ヨーロッパ
その記録である中田邦博・益澤彩「バーゼドー講演会
私法の総合的研究」(2004 年度∼ 2006 年度指定研
(ヨーロッパ私法の漸進的生成)の質疑応答」を収録
究)と題するテーマのもとで遂行した研究の成果を中心
している。ここでは、ヨーロッパ私法・民法典のあり方
にとりまとめたものである。また本書は、すでに 2003 年
が、バーゼドー教授によってきわめて広い視角と展望の
に社会科学研究所の共同研究の成果として刊行した
もとにおいて提示されている。
叢書 54 巻川角由和・中田邦博・潮見佳男・松岡久
第 2 部「ヨーロッパ契約法と各国法」には、本研究会
和編『ヨーロッパ私法の動向と課題』(日本評論社)の
のグループ(報告者は、潮見佳男教授、西谷祐子教授、
続編でもある。本書は、本研究会の作業の広がりと深化
中田邦博、馬場圭太教授)が比較法学会で、2006 年に
を受けて、前掲書(523 頁)よりもさらに頁が増えて 696
「『ヨーロッパ契約法原則』の比較法的意義」と題して
頁となっている。
行ったミニ・シンポジウムでの報告を基礎として展開され
Ⅱ 本書は、①上記の研究会の研究成果の多くを取り
た論文が収められている。同シンポジウムは、「ヨーロッ
まとめ、その研究活動の全体像を示すものであり、また、
パ契約法原則」の意義を多面的かつ包括的に検討した
②ヨーロッパ私法に関する内外の研究作業がどのように
わが国で最初のものであった(このシンポについての紹
進展しているかを確認するものでもある。
介としては森田修「
〈民法典〉という問題の性格―債
本研究会は、すでに 10 年以上前から、「ヨーロッパ
務法改正作業の『文脈化』のために」ジュリスト1319
私法・契約法」という新たな研究領域の重要性を意
号がある)
。それは、債権法の改正作業への関心がヨー
識し、その生成と展開の過程を様々な角度から捉えて
ロッパ契約法原則にも及んでいることの証左であろう。
きた(前掲・
『ヨーロッパ私法の動向と課題』「はしが
第 3 部「各国法の現状と対応」では、ドイツ法、フ
き」 参照)。もっとも、「ヨーロッパ私法」という研究対
ランス法の対応などの動きを総論的に、また個別領域
象は単純に一括りにできるものではなく、また、「ヨーロッ
で分析・検討した論稿が収められている。
パ私法」は、EU 法や各国法の発展に密接にリンクし
Ⅴ 最後に、本書について、北居功教授(慶応大学)か
て展開しており、まさにダイナミックな形成の途上にある。
ら非常に好意的な書評(法律時報 81 巻 5 号 158 頁以
こうした状況に鑑みて、本研究会は、ヨーロッパから発
下)を頂戴したことを付言しておきたい。この場を借りて、
信された新たな動きをできるかぎり正確に把握することに
お礼申し上げることにしたい。そこでも指摘されているよう
努め、また批判的な分析を加えてきた。
に、今後も、新たなヨーロッパの大きな動きを分析すること
Ⅲ 以下では、本書の内容と構成についてごく簡単に
が本研究会の課題となる。このような反応からもみてとれ
紹介しておくことにしたい(詳細については、本書のは
るように、
本研究会の研究作業を通じて「ヨーロッパ私法」
しがきを参照されたい)。
という研究分野への関心がますます高まっていることは
第 1 部では「ヨーロッパ私法の形成と方法論」として、
喜ばしい限りである。これも龍谷大学社会科学研究所の
ヨーロッパ随一の比較法研究の機関であるマックスプラン
研究助成のおかげであり、研究会を代表して、心から感
ク外国私法・国際法研究所の所長である ユルゲン・バー
謝するとともに、さらなる支援をお願いする次第である。
88
目次
目 次
1
CONTENTS
はじめに
第 1 部 ヨーロッパ私法の形成と国際統一売買法の展開
Ⅰ ヨーロッパ私法の形成と方法論
21
ヨーロッパ私法の漸進的生成
「ヨーロッパ私法の漸進的生成」をめぐっての
質疑応答
―ユルゲン・バーゼドー教授による講演を受けて 45
マックス・プランク研究所の役割
67
―実務、法政策、私法学の間で
「ヨーロッパ不法行為法グループ」による
85
「ヨーロッパ不法行為法原則」
141
我々はヨーロッパ民法典へと向かうべきか
Ⅱ 国際統一売買法の展開
統一法条約と国際商事契約に関するユニドロワ原則 177
国際売買をめぐる諸問題
―国際取引における CISG 適用のメリットと
CISG 適用事案における相殺の問題
193
221
コメント
227
コメント
分割履行契約の不履行と一部解除
―国連国際動産売買条約、ヨーロッパ契約
法原則、ユニドロワ国際商事契約原則および
233
ドイツ法の分析を中心に
第 2 部 ヨーロッパ契約法と各国法
Ⅰ 「ヨーロッパ契約法原則」の比較法的意義
「ヨーロッパ契約法原則」の比較法的意義の
検討―序論
ヨーロッパ法統一の中でのヨーロッパ契約法
原則の意義と問題点
ヨーロッパ契約法原則とドイツ法
ヨーロッパ契約法原則とフランス法
ヨーロッパ契約法とわが国における民法の現代化
PECL・日本民法対照表
Ⅱ PECL の翻訳作業における問題点
索引作成作業からみたヨーロッパ契約法原則
人間の身体に由来する物質の利用に関する
民事上の諸問題
IT 法における責任
法解釈学と法史学
初出一覧
619
643
667
695
執筆者・翻訳者一覧(執筆・翻訳順)
ユルゲン・バーゼドー
マックス・プランク外国私法・国際私法研究所所長
中田 邦博(なかた くにひろ)
龍谷大学教授
益澤 彩(ますざわ あや)
甲南大学講師
ヘルムート・コツィオル
元ウィーン大学教授、不法行為法保険法ヨーロッパセンター
所長
若林 三奈(わかばやし みな)
龍谷大学准教授
イヴ・ルケット
パリ第2大学教授 馬場 圭太(ばば けいた)
甲南大学教授
西谷 祐子(にしたに ゆうこ)
ケルン大学特別研究員
インゴ・ンガー
ミュンスター大学教授
野田 和裕(のだ かずひろ)
広島大学教授
271
松岡 久和(まつおか ひさかず)
273
303
325
339
353
潮見 佳男(しおみ よしお)
369
川角 由和(かわすみ よしかず)
京都大学教授
第 3 部 各国法の現状と対応
債務法改正、差別禁止(平等化)法と私的自治
381
―ドイツにおける民法の変還
EU 指令とフランス民法典
―消費動産売買指令の国内法化をめぐる動向 405
フランス債権法改正準備草案における錯誤及び
詐欺の検討
451
―日本民法改正への示唆をもとめて
ドイツにおける新契約解除法の位置づけ
493
―不当利得法との関係を重視しつつ
契約の危殆化とドイツ新債務法における
519
「不安の抗弁権」規定
543
複合的契約結合法の新展開
577
電子商取引における消費者保護
オーストリアにおける消費者保護法
599
―いくつかの重要な事項を取り上げて
京都大学教授
エドゥアルト・ピッカー
チュービンゲン大学教授
山岡 真治(やまおか しんじ)
帝塚山大学准教授
龍谷大学教授
松井 和彦(まつい かずひこ)
大阪大学准教授
マティーアス・ローエ
エアランゲン・ニュルンベルク大学法学部教授
田中 宏治(たなか こうじ)
大阪大学准教授
ハインリッヒ・デルナー
ミュンスター大学教授
シュテファン・ヴルブカ
九州大学准教授
ヨッヘン・タウピッツ
マンハイム大学法学部教授
高嶌 英弘(たかしま ひでひろ)
京都産業大学教授
ジェラルト・シュピンドラー
ゲッティンゲン大学教授
89
79
『中国の環境問題と法・政策:
東アジアの持続可能な発展に向けて』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 79 巻
北川秀樹 編著(法律文化社)
2008 年 3 月刊
438 頁
ISBN978-4-589-03080-1
北 川 秀 樹 (法学部教授)
中華人民共和国建国後、中国は大躍進運動や文化
れた社会)の構築に力点を置くこととしており、従来の
大革命の混乱を経て、1978 年 12 月に開催された共産
経済最優先の政策からの姿勢の転換がみられる。すで
党第 11 期中央委員会第 3 回全体会議で改革開放政
に中国では基本的な環境法の体系は整いつつある。ま
策に転換して以降、社会主義体制を維持しながら市場
た、具体的な政策として、監督取締りの強化、汚染者
経済体制を導入しめざましい経済発展を遂げてきた。
負担の原則や経済メカニズムを取り込んだ政策、公衆
特に 1990 年代以降は年率 10% 前後の高い経済成長
参加の促進など中央政府の環境保護部門を中心に積
率を維持し、GDP の規模も日本に迫るものとなっている。
極的な新規政策が打ち出されている。今後は、各地
一方で、13 億人を超える人口、沿海と内陸の所得格
方で地方保護主義を克服し、経済との両立の視点から
差、工場からの汚染物の大量の排出、増加する自動車
いかに効果的に執行していくか、政府、企業、国民の
の排気ガス汚染など、社会矛盾や環境への負荷は全
意識の向上と環境ガバナンスの改善が求められている。
国土にわたって高まっている。とりわけ環境問題につい
本書は、このような転換期にある中国の環境問題の
ては、水質、大気の汚染に伴う公害病や住民暴動の発
現状と法・政策について、その背景を踏まえながら分析、
生すら伝えられており社会不安が高まっている。これに
考察したものである。執筆者はいずれも中国の環境研
加え、過耕作や過放牧を主原因とする砂漠化の進行、
究の第一線で活躍する日中双方の中堅、若手の研究
水不足、黄砂現象の頻発のほか、大量の化石燃料消
者である。本書の構成は、序論・環境問題と法・制度、
費に伴う硫黄酸化物、二酸化炭素の排出は酸性雨な
第 1 部・環境汚染と紛争、第 2 部・生態環境保全、
どの越境汚染や地球温暖化を促進させ、隣国日本の
第 3 部・公衆参加、第 4 部・地球温暖化問題と環境
みならず東アジア、さらには全地球規模における持続
協力の 4 部からなり、全部で 19 章から構成されている。
可能な発展にとって大きな脅威となっている。
序論は環境法・政策の沿革と最近の動向について紹介
近年、中央政府もこの事態を深刻に受け止め、環
し、第 1 部は水質、自動車排ガスの現状と対策、公害
境政策の面でも大きな転換を図っている。2006 年 3 月
訴訟制度と環境公益訴訟についての現状と課題を論述
の全国人民代表大会を通過した第 11 次 5ヵ年規劃綱
している。第 2 部は、西部大開発、砂漠化と黄砂現象、
要では、資源節約型・環境にやさしい社会の建設を急
自然保護区、生態移民政策、動物保護政策など生態
ぎ、経済発展と人口、資源、環境との調和を謳ってい
環境問題に関するテーマをとりあげた。また、第 3 部は
る。このなかで掲げられた拘束力のある指標は、2006
環境問題の解決にとって重要な公衆参加の問題をとりあ
年から 2010 年までの 5 年間で、全国の GDP 単位当
げ、立法、環境政策および環境影響評価制度におけ
たりのエネルギー消費量を 20% 削減するとともに、主
る公衆参加、環境 NGO についての最新の状況と課題
要汚染物 ( 二酸化硫黄・SOX と化学的酸素要求量・
を論述している。最後の第 4 部は、中国が置かれてい
COD) の排出量を10% 削減することとしている。 また、
る地球温暖化防止の国際的枠組における途上国の現
2006 年 10 月に開催された中国共産党大会では、胡
状と展望、京都議定書のクリーン開発メカニズムの実施、
錦濤総書記の提唱した「科学的発展観」が党規約に
エネルギー問題における環境協力と対中環境協力につ
盛り込まれ、環境と経済の両立、和諧社会(調和のと
いてそれぞれ質の高い論述を行っている。
90
目次
CONTENTS
目 次
はしがき
凡 例
序 論 環境問題と法・制度
第1章
環境に関する法・政策の沿革と現行法
Ⅰ―沿革
Ⅱ―現行法
Ⅲ―法執行
第2章
環境法の最近の進展と直面する課題
Ⅰ―政権党の環境保護理念の新たな飛躍
Ⅱ―環境立法の新たな進展
Ⅲ―環境保護政策の新たな進展
Ⅳ―環境保護制度の新たな進展
まとめ
3
19
22
26
28
29
30
48
第 1 部 環境汚染と紛争
第3章
水質汚染の現状と規制対策
53
Ⅰ―水環境汚染の現状
58
Ⅱ―中国の都市汚水処理対策の現状と技術的課題
61
Ⅲ―面源汚染の規制と技術的課題
65
Ⅳ―水質汚染規制の主な政策と対策
第4章
自動車排出ガス汚染と規制対策
68
Ⅰ―自動車排出ガス汚染と規制の現状
74
Ⅱ―汚染防止対策
第5章
環境公害訴訟の事例研究
―福建省寧徳市屏南県のケース
84
はじめに
85
Ⅰ―現地の状況と事実関係
91
Ⅱ―判決に至るまでの経緯
97
Ⅲ―判決の検討
103
Ⅳ―判決後の状況
105
まとめ
第6章
環境公益訴訟の現状と課題
107
Ⅰ―問題点の整理
109
Ⅱ―中国環境公益訴訟理論研究の到達点
Ⅲ―中国環境公益訴訟制度の体制上および法律上の障害 117
123
Ⅳ―結語:中国の環境公益訴訟制度の課題
第 2 部 生態環境保全
第7章
西部大開発の現状と課題
―均衡ある、持続可能な発展に向けて
129
Ⅰ―中国の西部大開発の現状
136
Ⅱ―中国西部大開発にみられる主な課題
145
Ⅲ―西部大開発のさらなる推進のための対策
第8章
中国の砂漠化面積の拡大と近年のわが国への黄砂の飛来状況
158
はじめに
159
Ⅰ―黄砂および黄砂観測
161
Ⅱ―黄砂の発生源地と飛散する条件
163
Ⅲ―黄砂の成分とその影響
165
Ⅳ―日本における近年の黄砂現象
Ⅴ―中国の生態面積(耕地面積、草地面積および森林面積)の変化 170
178
まとめ
第9章
自然保護区の現状と直面する課題
180
Ⅰ―自然保護区事業の発展
182
Ⅱ―自然保護区の科学的管理
186
Ⅲ―自然保護区:持続可能な発展モデル
188
Ⅳ―持続可能な発展を実現するための条件
第 10 章 生態移民政策と課題
194
はじめに
195
Ⅰ―生態移民の定義
197
Ⅱ―生態移民の必要性
199
Ⅲ―政策の実施による改善効果
201
Ⅳ―生態移民の問題点
203
Ⅴ―生態移民の改善策
206
むすびにかえて
第 11 章 動物保護政策の歴史と法・政策の課題
210
Ⅰ―歴代の野生動物保護政策
215
Ⅱ―現代の野生動物保護政策
222
Ⅲ―保護政策の成果
225
Ⅳ―現代野生動物保護における司法実務
第 3 部 公衆参加
第 12 章 環境保護公衆参加立法の現状と展望
239
はじめに
241
Ⅰ―中国の公衆参加と環境保護立法の沿革と現状
Ⅱ―中国の環境保護における公衆参加立法に存在する
246
主要問題とその原因分析
Ⅲ―中国の環境保護における公衆参加立法の整備と改善の道筋 250
Ⅳ―中国の環境保護における公衆参加法律制度の構築 252
第 13 章 中国の環境政策における公衆参加の促進
―上からの「宣伝と動員」と新たな動向
259
はじめに
260
Ⅰ―環境政策における公衆参加の展開
Ⅱ―地方環境政策に対する監督検査活動
―上からの宣伝と動員
Ⅲ―情報公開と公衆参加に関する事例
むすび
第 14 章 環境影響評価制度と公衆参加
はじめに
Ⅰ―中国の公衆参加の沿革
Ⅱ―環境影響評価制度における公衆参加
Ⅲ―公衆参加の事例
Ⅳ―公衆参加の課題
むすびにかえて
15
第
章 中国の環境 NGO
はじめに
Ⅰ―中国で活躍する環境 NGO についての概観
Ⅱ―中国「草の根環境 NGO」の「草の根」化とネットワーク化
むすび
265
272
278
282
283
289
292
309
312
315
316
323
341
第 4 部 地球環境問題と環境協力
第 16 章 2013 年以降の地球温暖化防止の国際的枠組交渉の現状と途上国の「参加」問題
347
はじめに
348
Ⅰ―地球温暖化問題の仕組みと影響
349
Ⅱ―地球温暖化交渉の到達点と課題
Ⅲ―「2013 年以降(Post-2012)」をめぐる温暖化交渉の現状 357
Ⅳ―「2013 年以降」をめぐる国際交渉における途上国問題 365
372
むすびにかえて
第 17 章 「京都議定書」のクリーン開発メカニズムの中国における実施
376
はじめに
Ⅰ―「議定書」の中の CDMと中国における CDM プロジェクトの進展 377
Ⅱ―中国政府は行政立法によって CDM プロジェクトを管理する 381
386
Ⅲ―収益分配条項に対する評価
Ⅳ―結論
第 18 章 エネルギー問題と国際協力
396
はじめに
Ⅰ―高度経済成長の陰に潜むエネルギー問題と環境問題 397
403
Ⅱ―経済社会とエネルギー需給の未来像
407
Ⅲ―総合エネルギー対策の動向、特徴と課題
413
Ⅳ―日中中心の国際協力について
第 19 章 日本の対中環境協力
420
はじめに
421
Ⅰ―日本が中国に対して国際環境援助を行う動機
430
Ⅱ―環境 ODA に対する両国政府の誘因の低下
435
Ⅲ―代替的アジェンダの設定の試み
437
おわりに
執筆者紹介
編著者
北川 秀樹(きたがわ ひでき)
龍谷大学法学部教授
執筆者
櫻井 次郎(さくらい じろう)
名古屋大学大学院国際開発研究科助教
増田 啓子(ますだ けいこ)
龍谷大学経済学部教授
大塚 健司(おおつか けんじ)
日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
相川 泰(あいかわ やすし)
鳥取環境大学環境政策学科准教授
髙村ゆかり(たかむら ゆかり)
龍谷大学法学部教授
李 志東(リ ジィドン)
長岡技術科学大学経営情報系教授
森 晶寿(もり あきひさ)
京都大学大学院地球環境学堂准教授
王 曦(ワン シー)
上海交通大学法学院環境資源法研究所所長・教授
王 凱軍(ワン カイジュン)
北京市環境保護科学研究院研究員
彭 応登(ボン インドン)
北京市環境保護科学研究院高級工程師
汪 勁(ワン ジン)
北京大学法学院教授
蔡 守秋(ツァイ ショウチュウ)
武漢大学環境法研究所教授
馬 乃喜(マ ナイシ)
西北大学環境科学研究中心教授
劉 楚光(リュウ チュウガン)
陝西省動物研究所研究員
王 燦発(ワン ツァンファー)
中国政法大学環境資源法研究所所長・教授
張 新軍(ジャン シンジュン)
清華大学法学院副教授
91
80
『若者の雇用・社会保障:
主体形成と制度・政策の課題』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 80 巻
脇田 滋・井上英夫・木下秀雄 編者(日本評論社)
2008 年 3 月刊
266 頁
ISBN978-4-535-51615-1
脇 田 滋 (法学部教授)
1990 年代以降、若者の雇用、就労をめぐる状況が大
3 年間の研究会での議論を通して、「若者の自立を
きく変わってきた。男性を含む若者の多くが「非正規雇
妨げているものは何か」、
「雇用の破壊・崩壊と、貧困、
用」形態による不安定かつ過酷な就労に追いやられて
社会保障を関連させて考える」、「若者を励まし、若者と
いる。その特徴は、①労働条件が低劣なために、生活
ともに問題を解決する」といった論点・課題の重要性を
保護基準程度の収入しか得られず、親からの自立が難
確認してきた。近年、類似のテーマでの出版が増えてい
しいこと、②複数の仕事を掛け持ちしたり、長時間労働
るが、本書の特徴は、執筆メンバーの多くが、生活保
などにより心身の状況が悪化していること、③有期契約、
護、貧困、非正規雇用、社会保障などで、単に理論だ
派遣・偽装請負などの間接雇用のために雇用が不安定
けでなく、社会的実践に主体的に深くかかわってきたこと
で労働者としての基本的な権利行使も難しいことである。
から、
これまでのネットワークを活用して知見を広め、
また、
調査を行った点で類書とは大きな違いがあると思う。
本人の怠惰や責任ではない社会的事情が原因であ
るのに、新自由主義的風潮のなかで「自己責任」 論
本書出版(2008 年 3月)
の前後から、
ネットカフェ難民、
に囚われる若者が少なくない。長い職業人生の出発点
日雇い派遣、ワーキングプアやセーフティネットなどの言
とも言えるかけがえのない時期に、職業能力を形成す
葉がマスコミで大きな注目を浴びた。とくに、2008 年秋
る十分な機会を得られない状況が広がっている。安定
雇用の存在を前提にしてきた日本社会の基盤が崩れか
ねない深刻な事態である。
の世界金融危機とその後の「派遣切り」の広がりは、
「若者の雇用・社会保障」をめぐる課題が緊急のもの
であることを誰もが共通して理解するに至っている。とく
に 2008 年 10 月、日本弁護士連合会が人権擁護大会
本書は、こうした状況の広がりに触発されて法律、
のテーマの一つとして「労働と貧困」を取り上げ、本
社会政策分野の研究者を中心に若者の雇用・社会保
書のテーマと密接に関連した提言と決議をした。また、
障に関連してきた共同研究の成果である。とくに、2004
本書第 1 章の執筆者である湯浅誠氏は、2008 年末か
年から 3 年間にわたって社会科学研究所の共同研究と
ら 2009 年初めに世界的注目を浴びた「年越し派遣村」
して「学生・若年層をめぐる社会状況の変化と社会保
の村長としても活躍した。
障法・雇用保障法の課題」をテーマに理論研究や実
態調査を中心にした研究活動を行った。
「派遣切り」問題は、若者を中心とした派遣労働者
が、雇用を失うと同時に生活の基盤である住居も失うと
定期の研究会以外に、宮本みち子、柳貞順、ロナルド・
いう悲惨な現実を示すものであった。まさに、本書が提
ドーア、菅原良子、湯浅誠、海老一郎の各氏をはじめ、
起する問題が社会的にも熱く議論されることになり、本
多くの専門的知見を有する方から、貴重な話を聞く機会
書は関連したテーマでの数少ない研究書として予想以
を得ることができた。とくに、大規模ではなかったが、東
上の注目を浴びることになった。今後、本書を出発点と
京、大阪、神戸、金沢で、貧困状態に陥っている方や、
して、若者の雇用・社会保障に関して比較研究を含む、
非正規雇用での就労を長く続けてきた方などから直接に
より広い視点から法・政策的課題を持続的に考察して
その生活状況について聞き取り調査を行うことができた。
いく必要があると思われる。
92
目次
CONTENTS
はじめに
第 1 部 現状の把握と分析
第 1 章 若者貧困と対抗運動
Ⅰ 親に頼れない若者たち
Ⅱ 「親に頼れるはず」という神話
Ⅲ 塹壕の中の生
Ⅳ 企業福祉からの排除と家族福祉からの排除
Ⅴ 丸裸の若者たち
Ⅵ 三層のセーフティネット
Ⅶ 五重の排除
Ⅷ がんばる条件
Ⅸ 修繕屋
Ⅹ エム・クルーユニオン
Ⅺ 企業組合法人あうん
Ⅻ 反貧困たすけあいネットワーク
ⅩⅢ もやい
ⅩⅣ 生活保護問題対策全国会議
各地の生活保護支援ネットワーク
ⅩⅤ 反貧困ネットワーク
ⅩⅥ おわりに
3
5
7
8
9
10
12
14
15
16
19
20
22
24
26
29
第 2 部 若者の雇用・社会保障をめぐる背景
第 1 章 若者をめぐる社会保障政策の現状と課題
―格差社会の何が問題か
35
はじめに
36
Ⅰ 格差社会と貧困・不平等
37
Ⅱ 貧困・不平等社会の実態
44
Ⅲ 「格差」=貧困・不平等社会の要因
47
Ⅳ 若者と社会保障
51
Ⅴ 人権としての社会保障とセーフティネットの構築
55
おわりに
第 2 章 若者をめぐる雇用・労働政策の変遷と課題
―「若者」と教育、職業訓練・雇用保障を中心に
Ⅰ 1990 年代後半からの若者の雇用をめぐる新たな状況 57
62
Ⅱ 若者の「自立」を阻む状況の広がり
66
Ⅲ 若者が「自立」を求める権利と課題
第 3 章 若者をめぐる議論の現状と課題
75
Ⅰ はじめに
75
Ⅱ 若者の現状
77
Ⅲ 若者を論じる視点
81
Ⅳ おわりに―可能性としての若者への期待
第 3 部 若者をめぐる法・政策と課題
第 1 章 若者の就業支援策の批判的検討
―トライアル雇用と紹介予定派遣の法構造について
87
Ⅰ 若者の就業状況と就業支援政策
89
Ⅱ トライアル雇用
97
Ⅲ 紹介予定派遣
102
Ⅳ まとめ
第 2 章 被用者保険(医療、年金)の適用の拡大
はじめに
109
Ⅰ 社会保険における若者の現状
112
Ⅱ 家族・世帯主からの独立
Ⅲ 被用者保険法の適用基準と被保険者概念の拡大 116
おわりに
第 3 章 若者をめぐる家族・福祉政策
―「困難の内部化」からの脱却をめざして
126
Ⅰ はじめに
127
Ⅱ 統計からみる『若者』と家族の状況
131
Ⅲ 社会保障制にみる『若者』と家族の把握
139
Ⅳ 若者視点を重視した社会福祉制度の構築
142
Ⅴ おわりに
第 4 章 若者と生活保護
146
Ⅰ はじめに
147
Ⅱ 生活保護をめぐる論点
161
Ⅲ おわりに
第 4 部 若者をめぐる外国の取り組み
第 1 章 ドイツにおける若者支援の制度化と半公的化
―職業(教育)訓練・就労支援・生活保護の交錯と展開
167
はじめに
168
Ⅰ 若者に対する社会保障
175
Ⅱ 若者への就労支援
181
Ⅲ 若者と職業教育・職業訓練
185
結びに代えて
第 2 章 韓国の若者の雇用と社会保障をめぐる状況
189
Ⅰ はじめに
191
Ⅱ 若者を取り巻く雇用や社会保障の現状
199
Ⅲ 廬武鉉政権下の社会政策の変化
208
Ⅳ むすびに―李明博政権の課題
第 3 章 国際連合における青年政策
―青年政策の全体像と青年雇用制度政策の動向
212
はじめに
213
Ⅰ 国際連合システムにおける青年政策の概要
215
Ⅱ 青年の平和、相互尊重及び理解の理念の
推進に関する宣言(1965 年)
217
Ⅲ 国際青年年(1985 年)
218
Ⅳ 青年に関する世界行動計画(1995 年)
Ⅴ リスボン宣言(1998 年)とダカール戦略(2001 年)222
227
Ⅵ ワールド・ユース・レポート
229
Ⅶ 青年の雇用に関する政策の動向
232
おわりに
第 5 部 若者と主体形成
新たな主体形成の方向と課題
Ⅰ 若者の現状と運動
Ⅱ 若者支援と権利闘争・裁判運動
Ⅲ 若者運動の課題と展望
237
246
251
資料 聞き取り調査報告
259
Ⅰ 聞き取り調査実施について
Ⅱ 若年者の雇用と社会保障に関する・実態調査について(報告) 260
執筆者紹介
編者
脇田 滋(わきた しげる)
龍谷大学教授
井上 英夫(いのうえ ひでお)
金沢大学教授
木下 秀雄(きのした ひでお)
大阪市立大学大学院教授
著者
湯浅 誠(ゆあさ まこと)
NPO 法人自立生活サポートセンターもやい事務局長
萬井 隆令(よろい たかよし)
龍谷大学教授
上田 真理(うえだ まり)
福島大学准教授
金川めぐみ(かながわ めぐみ)
和歌山大学准教授
嶋田 佳広(しまだ よしひろ)
札幌学院大学専任講師
金 榮泌(キム ヨンピル)
韓半島戦略研究院責任研究員
柳 貞順(リュー ジョンスン)
韓国貧困問題研究所所長
棟居 徳子(むねすえ とくこ)
立命館大学人間科学研究所ポストドクトラルフェロー研究員
濵畑 芳和(はまばた よしかず)
龍谷大学非常勤講師
93
81
『非営利放送とは何か:市民が創るメディア』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 81 巻
松浦さと子・小山帥人 編著(ミネルヴァ書房)
2008 年 9 月刊
280 頁
ISBN978-4-623-05232-5
松 浦 さ と 子 (経済学部准教授)
地域社会のコミュニケーションインフラを誰が所有し誰
の制度や現状を参考に検討を行った。
が支えるのか、本書は人々の連帯や互助を育む地域メ
世界的にはコミュニティラジオが民主化や市民社会、
ディア、とくに放送の在り方を問い、放送通信に関する
人権、多様性、少数者の声のために非営利運営され、
コミュニケーションの新しい制度構築に資する公共性に
それらに公共放送の受信料や広告収入の一部を再配
ついての論考を行ったものである。
分する国々がある。一方、住民の持ち寄る米や、リ
日本の地域非営利放送はラジオを中心に着実に拡大
サイクル活動で稼ぎ出した糧で運営する放送局もある。
している。1992 年に制度化されたコミュニティFM 放
すなわち公共財源を用いる公共性が確立しているのだ
送は、2009 年 6 月には 230 局を超えており、地域の活
が、日本では自主財源を模索することに努めなければな
性化、市民参加、地域情報の共有を目的に、設立は
らない。コミュニティビジネスの振興など商業性を否定
さらに進んでいる。
せず自立しているケースもあるが、地域格差が著しく、
なかでも 2003 年に日本で初めて京都で設立された
職員が疲弊して持続可能性に期待が持てないケースも
特定非営利活動法人(NPO)
による開局と免許交付は、
見られる。そもそもインターネットの普及と並行してラジオ
「市民立」の象徴的なあり方として各地に同様の活動
が注目されるのは、震災や豪雨など災害時に有効だと
を喚起し、2009 年 6 月現在 NPO 局は全国に 14 局を
考えられることによるが、実際に地域に認知され聞かれ
数えた。とくに企業が少なく、自治体に余力の少ない地
ていなければ目的を果たさない。にも関わらず、公共性
方都市に複数誕生し、鹿児島県では大隅半島や奄美
を持ち出すことに困難なほどに認知もまだまだ進まない。
大島に 4 局が設立され、
自立の方途を探っている。また、
そのような日本の状況を踏まえた上で、各地の地域の
アイヌなど少数民族や在住外国人の声、さまざまな活
メディアに期待されている公共性を、放送インフラを構
動を拠点に発せられる声のインフラとして地域の非営利
築する人々、番組を制作し地域に発信する人々、放送
放送の必要性や認識は定着したかに見える。しかし聴
を受信し地域の活動で共有し活かす人々にヒアリングを
取や制作への参加市民の拡大は進まず、財政は安定
行い、またそれらの活動の当事者が執筆を務めた。
せず、廃局する地域も現れている。
マスメディアからの無料の情報提供に慣れ、その刺
本書は、NPO のコミュニティラジオに代表される市民
激的で大衆に受け入れられる表現手法に大きく影響を
の自発的な活動として立ち上げられた非営利放送など
受け続けた人々が少なくない。地域独自の文化や表現、
のメディア活動が、こうした状況のなかでどのように充実
政治参加への主体的なコミュニケーションを構築するた
した地域のコミュニケーションインフラとして定着できるか
めに、自発的に地域で放送インフラを立ち上げようとす
を、作品内容、担い手、運営体制、支援制度、公的
る人々が各地に出現し続けていることも事実である。今、
財源などに着目し、議論し論考した成果である。行き過
何らかの持続可能なシステムを提示しなければならな
ぎた商業性や権力性を地域放送から排除する仕組み
い。その必要性やかけがえのなさをいかに制度に落と
や財源を確立し、市民参加や共通の記憶を豊かに紡
し込むかを問いかけた一冊である。
ぎ出す環境整備のために、どのような制度構築が必要
かを、国内研究と併せ、フランス、ドイツ、韓国、台湾
94
目次
CONTENTS
目 次
はじめに
序章 非営利放送とは何か
―地域のメディアを考える論点と課題―
1 地域放送の非営利性を論じる意義
2 少数者、社会運動との連帯の可能性
3 非営利民間放送のあり方
―企業や政府には担えない役割
4 参加の回路をひらく
―足元からつながりを創るための課題
5 非営利放送がコミュニティにもたらす公益
―放送内容の観点から
第Ⅰ部
第1章
1
2
3
4
5
第2章
1
2
3
4
5
第3章
1
2
3
4
5
6
非営利放送研究の背景
非営利放送とマスメディア
人と人との対話求めて
非営利市民ラジオの 5 年
読者、視聴者との回路を求めて
されどメディアはゆく
メディアのこれからを考える
放送の多様性から見る営利/非営利問題
放送の多様性と営利/非営利
地域からの多様な放送の出現
―戦前日本の放送と営利/非営利
国家と地域をめぐる多様な放送の存在
―戦後日本の放送と営利/非営利
常呂町ラジオ共同聴取に見る地域放送
多様性がつなぐ時間を超えた営利/非営利議論
コミュニティ放送経営と公共財源
コミュニティ放送と公共性
放送経営の法人形態
営利性の何が問題なのか
コミュニティ放送経営の矛盾
公共財源へのアクセスの可能性
公的助成を求める取り組み
1
5
8
12
17
27
30
35
38
44
49
51
55
58
61
69
71
75
77
84
85
第Ⅱ部 非営利放送の当事者から
第 4 章 マイノリティの非営利放送と市民社会の成熟
―地域のメディアを考える論点と課題―
1 先住民コミュニティラジオ、メキシコと日本の差
91
2 マイノリティの表現の場「株式会社エフエムわいわい」 95
第 5 章 アイヌ語を伝える FM ピパウシ
―先住民族の立場から―
1 FM ピパウシ開局の経緯
103
2 FM ピパウシ開局による影響
109
3 地域おこしとミニ FM 局との関わり
110
4 FM ピパウシの課題
111
第Ⅲ部 サポートシステムとネットワークの現状
第 6 章 人々と映像メディアをつなぐ「メディアセンター」
―多様な市民による、多様な表現を実現するために―
1 パブリック・アクセスとメディアセンター
115
2 アメリカ最大のメディアセンター DCTV
116
3 韓国のメディアセンター MediACT
118
4 OurPlanet-TVとメディアセンター
121
5 日本におけるメディアセンターの可能性
123
第 7 章 非営利ラジオ放送の世界的ネットワーク
1 AMARC(世界コミュニティラジオ放送連盟)
129
2 コミュニティラジオの諸形態
130
3 AMARC の組織形態と活動
137
第Ⅳ部 海外における非営利放送
第 8 章 フランス―アソシアシオンのラジオを支える仕組み―
1 フランスの文化と制度
147
2 非営利放送の歴史
149
3 非営利ラジオを支える放送制度
154
4 個性豊かな非営利メディア
158
5 非営利メディアの課題
166
第 9 章 ドイツ―オープン・チャンネルを越えて―
1 市民放送とは何か
171
174
オープン・チャンネルの制度化
176
自由ラジオ運動
178
モデルの多様化
180
危機と再編成
182
市民放送の現在
台湾―なぜ非営利放送が求められるか―
191
閉塞感に満ちた戒厳令解除前のメディア環境
196
激動する台湾の放送環境
200
非営利テレビ局の萌芽
209
多様な主観性/客観性
―台湾社会が求める非営利放送
第 11 章 韓国―非営利コミュニティラジオ導入における公的財源の発想―
1 市民メディアとしてのコミュニティラジオ
213
2 海外のコミュニティラジオの財源と運営実態
214
3 韓国のコミュニティラジオにおける資金調達
220
4 コミュニティラジオ運営の新たな展開
223
5 公的支援が支える運営の安定化
227
2
3
4
5
6
第 10 章
1
2
3
4
第Ⅴ部
第 12 章
1
2
3
4
第 13 章
1
2
3
4
5
おわりに
索 引
非営利放送の展望と課題
グローバル化時代の電子ネットワークと市民放送局
デジタル・メディアの可能性と課題
市民の自由な情報発信の取り組み
グローバル・ガバナンスと放送メディア
日本における通信と放送の融合
小さな物語の公開、そして共有
放送のひろがりと住民の映像表現
言論・表現の自由のために
―北欧のオープン・チャンネル
自らの物語を語れ
―イギリス BBC のデジタル・ストーリー実践
住民による「取材」
―日本における住民取材型番組の隆盛
住民制作映像の位相
233
236
239
245
253
254
258
262
266
273
275
執筆者紹介
編著者
松浦さと子(まつうら さとこ)
龍谷大学経済学部准教授
小山 帥人(こやま おさひと)
自由ジャーナリストクラブ世話人
執筆者
隅井 孝雄(すみい たかお)
京都ノートルダム女子大学客員教授
坂田 謙司(さかた けんじ)
立命館大学産業社会学部教授
重本 直利(しげもと なおとし)
龍谷大学経営学部教授
日比野純一(ひびの じゅんいち)
(株)エフエムわいわい代表取締役
萱野 志朗(かやの しろう)
萱野茂二風谷アイヌ資料館館長
白石 草(しらいし はじめ)
特定非営利活動法人 OurPlanet-TV 代表理事
松浦 哲郎(まつうら てつお)
龍谷大学社会学部コミュニティマネジメント学科講師
川島 隆(かわしま たかし)
京都大学文学部非常勤講師
林 怡蓉(リン イヨウ)
大阪滋慶学園滋慶医療経営研究センター主席研究員
金 京煥(キム キョンハン)
韓国尚志大学言論広告学部専任講師
浜田 忠久(はまだ ただひさ)
特定非営利活動法人市民コンピュータコミュニケーション研究会代表
小川 明子(おがわ あきこ)
愛知淑徳大学現代社会学部准教授
95
82
『都市のにぎわいと生活の安全:
京都市とその周辺地域を対象とした事例研究』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 82 巻
井口富夫 編者(日本評論社)
2009 年 3 月刊
313 頁
ISBN978-4-535-55603-4
井 口 富 夫 (経済学部教授)
様々な安全に係わる最近の不祥事は、どの地域・都
ドにして、「歴史都市」京都の住民の生活実態と事業
市にとっても等しく重要であり、生活の安全を根本から
者の経済活動にスポットを当てて地域研究を行なう。こ
揺るがす事件ないし問題である。京都市とその周辺地
の視点は、従来の京都研究には見られない本書の独
域を対象にした研究・調査においては、これら安全に
創的な点であり、まったく新たな地域経済論が発展す
関連した出来事は、地域の人々が安心して日々の生活
る可能性を探ることが出来る。
を送るのに必要不可欠な要素にとどまらない。寺院など
「歴史都市」に暮らす人々の日常生活において、
「に
の歴史的建造物が観光の最大の施設であり、町家が
ぎわい」とは何か、「生活の安全」とは何を意味する
京都らしさを醸し出す重要な要素である。京野菜・京
のかを、経済学の観点からの分析を中心として総合的
料理は、歴史・宗教と並んで、京都のセールスポイント
に研究する。本研究を実施するに際して、地元自治体、
でもある。建造物の安全や食の安全が確保されなけれ
地元企業・団体、地元住民と積極的に交流することに
ば、京都の観光は成り立たない。つまり、観光が重要
よって、地元に埋もれた貴重な情報を収集し地域の人
な産業である歴史都市・京都にとっては、安全は都市
材養成に貢献するとともに、「歴史都市」 京都の具体
のにぎわいを根底から支える基本的なエッセンスである。
的な将来像を提言する。
京都市とその周辺地域を対象にして研究・調査を場合、
本書は、全部で 4 部 13 章と「あとがき」からなって
にぎわいと安全の両者は決して切り離して個別に扱う問
いる。「第 1 部 にぎわいと安全」 では、歴史都市・京
題ではないという認識から出発することが必要不可欠で
都にとっては、都市のにぎわいと生活の安全が相互に
ある。この視点が、本書全体をとうして貫かれている。
関連しながら、地域の発展にどのように結びついている
本書は、平成 17 年(2005 年)4 月に発足した 「都
のかについて検討を加えている。「第 2 部 にぎわいを
市のにぎわいと生活の安全に関する経済学的研究―
支える京都産業」では、京都の主要産業である観光、
京都市とその周辺地域を対象とした事例研究―」 と
大学、伝統産業を例に挙げながら、京都が「単なる
題する研究会の約 3 年間にわたる研究成果をまとめた
地方都市」にならなかった要素について分析している。
報告書である。研究会は、通称、京都南部研究会と
「第 3 部 にぎわいと京都産業の系譜」では、平安
呼ばれている。京都南部とは、京都府の南半分を指
遷都と第 2 次世界大戦の 2 つの時期を例にとりながら、
し、具体的には京都市とその周辺地域を意味している。
京都の伝統産業ないしモノ作りの系譜を分析している。
京都南部研究会が、最初に発足したのは、昭和 61 年
「第 4 部 にぎわいの将来予測」では、京都観光とサッ
(1986 年)8 月であった。本書は、京都南部研究会
カー Jリーグ「京都パープルサンガ」の需要予測を行なっ
の 5 冊目の成果である。
これまでの「歴史都市」 京都に関する研究の多くは、
美術・芸術ないし、文化人類学的な観点から実施され
てきた。その結果、現実に京都で生活を送る人々の日
常活動が、
十分に把握されることがなかった。本書では、
「都市のにぎわい」と「生活の安全」の 2 つをキーワー
96
ている。
目次
CONTENTS
目 次
第1章
1
2
6
歴史都市・京都の伝統と発展
京都のにぎわいと安全
地元貢献として地域研究―本書の概要―
1
2
第 1 部 にぎわいと安全
第 2 章 京都の地域安全と商品
1 本書の狙いと構成
13
2 安全概念、安心概念
14
3 地域の概念
17
4 生活の安全と地域の安全
19
5 地域の安全と商品
22
6 商品に着目して
32
7 本章の含意
38
第 3 章 地域環境力を育むまちづくり
1 はじめに
43
2 地域力とソーシャル ・ キャピタル
45
3 まちづくりにおける地域環境力の視点
50
4 伏見における地域環境資源とまちづくり
53
5 まちづくりによる地域環境力の向上
67
6 地域環境力を育むためには―おわりに
82
第 4 章 四条河原町界隈の京町家とファイアマーク
1 はじめに
85
2 現存するファイアマーク
86
3 三条通と京の町家
90
4 結びにかえて
93
第 5 章 地域の特性を活かした経済活動と京都ブランド商品
1 地域と商品・ブランドのかかわり
97
2 京都とは
97
3 「京都ブランド」をめぐる動き
101
4 「京都ブランド」と製品差別化
104
5 「京都」のこれからと「京都ブランド」商品
108
第 6 章 西本願寺門前町の町づくりとソーシャル・キャピタル
1 西本願寺門前町と400 年をこえる老舗
117
2 西本願寺門前町の現状
118
3 西本願寺門前町の変化と原因
122
4 西本願寺門前町の特徴
125
5 西本願寺門前町の町づくり
129
132
補論 門前町研究の動向
第 2 部
第7章
1
2
3
4
5
6
第8章
1
2
3
4
第9章
1
2
3
4
5
にぎわいを支える京都産業
京都のにぎわいを支えるもの
139
はじめに
140
観光
148
大学
152
京都創生の取組み
157
都市のにぎわいを支える基盤―経済活動
163
京都の潜在力への期待―結びに当たって
地域の発展と大学の社会貢献
167
老舗としての大学
173
海外の大学
176
大学の社会貢献(龍谷大学の事例)
179
大学行政の規制緩和とこれからの大学
進展する国際化に経営革新を迫られる京扇子・
京団扇
181
産地の実態と課題
182
産地の歴史
184
産地の構造
184
産地の規模
186
産地の業態
今後の方向と提言
187
第 3 部 にぎわいと京都産業の系譜
195
第 10 章 京都のモノ作り技術の系譜
―「平安の都」から商工業都市「京都」へ
195
はじめに
1 山背国における渡来人系氏族と殖産技術集団 196
2 官営工房の平安京への移植
204
3 古代都市「平安京」から商工業都市「京都」へ 211
216
おわりに
第 11 章 戦時経済統制下における「室町と西陣」
219
序
1 戦時体制と経済統制
220
2 室町織物問屋の企業整備
224
3 西陣機業地の企業整備―その 1
235
4 西陣企業の企業整備―その 2
242
256
結語
第 4 部 にぎわいの将来予測
第 12 章 ニューラルネットモデルによる京都への観光需要の予測
1 京都の観光産業の概要
263
2 先行研究
265
3 ニューラルネットモデルとは
266
4 観光客数の予測モデル
276
5 結論
283
第 13 章 京都パープルサンガ主催試合の観戦に対する需要
の予測
1 はじめに
289
2 先行研究
291
3 モデル構築 : 神経回路網モデル
293
4 パラメータ推定 : 遺伝アルゴリズム
298
5 推定結果
303
6 結論
306
あとがき―観光、にぎわい、安全
執筆者紹介(執筆順)
編著者
井口 富夫(いぐち とみお)
龍谷大学経済学部教授
執筆者
守屋 晴雄(もりや はるお)
龍谷大学経営学部教授
花田眞理子(はなだ まりこ)
大阪産業大学人間環境学部教授
稲葉 浩幸(いなば ひろゆき)
近畿大学経営学部教授
白須 正(しらす ただし)
㈶京都高度技術研究所専務理事
増田 省三(ますだ しょうぞう)
龍谷大学校友会事務局長
山田順一郎(やまだ じゅんいちろう)
龍谷大学経済学部講師
小谷 浩之(こたに ひろゆき)
龍谷大学経済学部講師
鈴木 智也(すずき ともや)
関西大学経済学部准教授
97
83
『アフリカにおける貧困者と援助:
アフリカ政策市民白書2008』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 83 巻
大林 稔・石田洋子 編著(晃洋書房)
2009 年 3 月刊
297 頁
ISBN978-4-7710-2085-6
大 林 稔 (経済学部教授)
本書は 2005 年度から 3 年間にわたって行われた共
市 民 白 書 2007 年 版は、 第 四 回アフリカ開 発 会 議
同研究「日本の対アフリカ協力政策の参加型評価のこ
(TICADIV)と洞爺湖サミットの開催を間近に控えて
ころみ」の成果である。この共同研究は、日本のアフ
出版された。TICADIV に働きかける市民活動と連動
リカ政策をサハラ以南アフリカ(以下アフリカという)の
し、2007 年版はテーマを「アフリカ開発会議(TICAD)
貧困者の視点から評価することを試みたものである。そ
への戦略的提言」して、過去の TICAD をレビューし
の最大の特徴は、実践活動との密接な結びつきであ
た上で、これまでの研究と実践の成果を踏まえて市民
り、NGO や政府関係機関等の開発実務者、アフリカ
からの提言を取りまとめた。
の NGOと研究者が一体となって進められてきた。そし
白書 2008 年版にあたる本書では、TICAD Ⅳに「ア
て毎年の成果も社会的な実践と連動して発表を続けて
フリカの人々の声は届いたか」をテーマとした。まず、
きた。具体的には、研究成果を市民による政策アドボ
第一部では、共同研究会の成果に基づいて、当初
カシーに生かすため、各年度末に、「アフリカ政策市
に掲げた手法(貧困者の視点からの評価、現地市
民白書」を日本のアドボカシー NGO「TICAD 市民社
民社会の重視等)の有効性の再評価を試みた。また
会フォーラム」と連携して、晃洋書房より公刊してきた。
TICADIV がアフリカの人々に役立ちうるものだったのか、
本書は共同研究の三年間の成果を集大成するとともに、
また民衆の声を反映することができたか、そして市民の
この市民白書の第四号をなすものでもある。
アドボカシーは効果があったのかをレビューした。第二
市民白書創刊号(2005 年)は、「貧困と不平等を
部は、これまでの研究と実践から見えてきた今後の課
超えて」をテーマとし、アフリカ開発に対する国際社会
題についての論考を収録した。具体的には、貧困者
の潮流と、日本の対アフリカ政策の評価を試みた。評
支援の新しい潮流(貧困者への資金貸し付け・移転、
価に当たっては、アフリカの NGO の協力をえて、現地
BOP)
、援助潮流(ガバナンス支援、援助協調)
、貿
住民の参加型評価を取り入れた。その結果に基づいて
易と投資の動向、日本の農業支援などである。また昨
「アフリカ開発においては、貧困削減と不平等の解消
年末の大統領選挙直後に発生し、アフリカ研究者・開
は、切り離して考えることのできない重要な課題であり、
発実務者に大きな衝撃を与えたケニアの暴力事件の現
貧困者に届く支援の実現へ向けて、日本の対アフリカ
地報告を収録した。
政策を改善すべきである。そのためにアフリカと日本の
市民社会の参加をより推進する必要がある」というメッ
セージを発信した。
市民白書 2006 年版は、2005 年版に続いてアフリカ
NGO の協力を得て作成された。テーマを「アフリカ開
発と市民社会」とし、アフリカや日本の市民社会とは何
を指し、アフリカ開発の中で、市民社会はどのような役
割を担い、またどのような問題に直面しているかを明ら
かにすることを試みた。
98
目次
CONTENTS
目次
はじめに
略語表
第Ⅰ部
第1章
1
2
3
4
第2章
1
2
3
4
5
6
第3章
1
2
3
4
第4章
1
2
3
4
5
6
第5章
4
アフリカ政策市民白書 2008
――アフリカの人々の声は届いたか――
アフリカの貧困者の声と地域コミュニティ・国家
アフリカのさまざまな貧困者の声
アフリカの貧困者の声と地域コミュニティ
アフリカの貧困者の声とアフリカの国家
アフリカ貧困者の声に応えるために誰が何をすべきか
アフリカ貧困者の声とアフリカ市民社会
市民社会とは
アフリカ市民社会に期待される役割
貧困者の声の代表性と代弁性
サービス提供に関するアフリカ市民社会組織の現状と課題
社会運動に関するアフリカ市民社会の現状と課題
アフリカ市民社会組織の成果と課題
アフリカ貧困者の声と国際社会
貧困削減をめぐる国際機関と二国間援助機関の動向
国際社会の役割
国際社会によるアフリカ援助の動向
国際社会の課題
アフリカ貧困者の声は TICAD IV に届いたか
TICAD IV の概要
外務省による TICAD IV 評価
TNnet による TICAD IV 成果文書に対する評価
参加したアフリカ市民社会組織からのコメント
アフリカ貧困者の声を TICAD IV に伝えることができたか
日本の NGO によるアドボカシー活動の役割と課題
貧困者に役立つ支援のために
第Ⅱ部 貧困者に役立つ援助を求めて
第 6 章 現金移転は貧困者に役立つのか
はじめに
1 現金移転とはなにか
2 アフリカでの現金移転についてわかっていること
3 ザンビアの社会的安全網プロジェクト(Social Safety Net Project)について
結論
第 7 章 マイクロファイナンス
1 アフリカにおけるマイクロファイナンスの現状と政策
2 アフリカ MF へのドナーの支援動向
3 日本の ODA による支援実績
4 提 言―人間の安全保障・貧困削減のための MF 拡大に向けて
第 8 章 市場志向の貧困者支援
はじめに
1 ODA の役割とBOP をめぐる民間セクターの動き
2 民間セクターの役割
3 市場志向の ODAとは
4 人間中心(human-centred)の BOP アプローチへ
第 9 章 ガバナンス支援
1 国家の基本的な機能
2 ドナー側の支援の留意点
3 支援のあり方
第 10 章 援助協調 1 援助協調とは
2 援助協調の起源とその展開
3 パリ宣言プロセスにおける援助協調議論の問題と課題
4 市民社会と援助効果の議論
5 貧困者の目線からみた今後の展望
結びにかえて
第 11 章 インフラストラクチャー分野の開発 はじめに
1 アフリカのインフラ建設の歴史とインフラ指標からみた整備の度合い
2 円借款案件からみた対サブサハラ・インフラ支援
3 円借款インフラ事業の事例紹介(運輸案件)
4 2000 年代に入ってからのインフラ型円借款供与動向
5 アフリカのインフラ整備のあり方と援助
6 日本の対サブサハラ援助のあり方
―インフラ援助との関連も勘案して
第 12 章 貿易・投資
はじめに
1 投 資
2 貿 易
結びにかえて―チャドでの試みの挫折と新たな動き
第 13 章 アフリカ米倍増 10 年計画と虹色の革命
はじめに
1 アフリカ農業開発の問題点
2 アジア緑の革命の教訓
3 アフリカ米倍増 10 年計画
アフリカ「虹色の革命」への展望と提案
257
現地ルポ ケニア大統領選挙
参考文献
3
9
16
23
25
27
29
34
36
39
42
44
48
61
68
70
72
75
84
90
261
281
執筆者・編集協力者紹介
【編著者】
大林 稔(おおばやし みのる)
龍谷大学経済学部教授[第 6 章]
石田 洋子(いしだ ようこ)
(財)国際開発センター 評価事業部長[第Ⅰ部]
【執筆者】(50 音順)
粟野 晴子(あわの はるこ)
アイ・シー・ネット(株)[第 7 章]
飯島 聰(いいじま さとる)
九州大学国際交流推進室特任教授[第 11 章]
上江洲佐代子(うえす さよこ)
政策研究大学院大学政策研究科助手[第Ⅰ部]
内野 香美(うちの こうみ)
NGO 地球風[第Ⅰ部]
遠藤 衛(えんどう まもる)
神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程[第 10 章]
橘田 正造(きった しょうぞう)
筑波大学教授/国際部長[第 12 章]
君島 崇(きみじま たかし)
(株)レックス・インターナショナル[第Ⅰ部]
國枝 美佳(くにえだ みか)
開発コンサルタント[第Ⅰ部]
阪本公美子(さかもと くみこ)
宇都宮大学国際学部准教授[第Ⅰ部]
笹岡 雄一(ささおか ゆういち)
国際協力機構(JICA)研究所上席研究員[第 9 章]
99
100
104
109
115
島津 英世(しまず ひでよ)
118
131
133
137
舩田 クラーセン さやか(ふなだ クラーセン さやか)
146
147
149
152
156
162
165
170
175
177
179
189
190
191
196
197
199
201
211
213
環境と開発コンサルタント[第Ⅰ部]
高瀬 国雄(たかせ くにお)
(財)国際開発センター顧問[第 13 章]
南村亜矢子(なむら あやこ)
(株)インターワークス コンサルタント[第Ⅰ部]
東京外国語大学総合国際学研究院准教授[第Ⅰ部]
増古 剛久(ますこ たけひさ)
NGOアフリカ平和再建委員会/一橋大学大学院法学研究科博士後期課程[現地ルポ]
横山 仁美(よこやま ひとみ)
国際協力機構(JICA)/アイ・シー・ネット(株)[第 8 章]
渡辺 淳一(わたなべ じゅんいち)
(財)国際開発センター主任研究員[第Ⅰ部]
【編集協力者】(50 音順)
池田 悦子(いけだ えつこ)
龍谷大学大学院経済学研究科特別専攻生
下村 京子(しもむら きょうこ)
フリーライター
白鳥 清志(しらとり きよし)
JICA 専門家/アフリカ理解プロジェクト副代表
神宮司真奈(じんぐうじ まな)
青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程
杉木 明子(すぎき あきこ)
神戸学院大学法学部准教授
竹越久美子(たけごし くみこ)
JICA 専門家
本田 朋子(ほんだ ともこ)
ウェールズ大学開発学センター
三浦 圭織(みうら かおり)
東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士前期課程
山田真理子(やまだ まりこ)
(株)レックス・インターナショナル
216
吉田 昌夫(よしだ まさお)
220
221
228
236
吉田 美樹(よしだ みき)
241
242
249
254
日本福祉大学大学院国際開発研究科教授
日仏翻訳家
渡瀬のり子(わたせ のりこ)
(特活)ハンガー・フリー・ワールド理事
Remy Mukendi Nkongolo(レミ ムケンディ ンコンゴロ)
フランス語講師
【協力団体】
TICAD 市民社会フォーラム(TCSF)URL: http://www.ticad-csf.net
99
84
『市場化する大学と教養教育の危機』
龍谷大学 社会科学研究所叢書 第 84 巻
上垣 豊 編者(洛北出版)
2009 年 3 月刊
176、95 頁
ISBN978-4-903127-09-5 C3037
上 垣 豊 (法学部教授)
新自由主義に基づくグローバリゼーションによって、世
先入観、偏見からの解放や多様性の理解の観点から
界の大学は深刻な変容を経験し、厳しい試練にさらさ
把握されている。
れている。アメリカでの高等教育への企業文化の浸透、
新自由主義やポストモダニズムの影響を受けた「知
大学の商業化がもたらす弊害、危険性については、す
識社会」論の新しさは知識と社会の関係を変え、知識
でに様々な形で紹介されている 。本書は、龍谷大学
と経済の境界を曖昧にし、大学と社会の関係の根本的
社会科学研究所での三年にわたる共同研究「教養教
な変更を求めることにある。長い間、大学は専門的知
育の国際比較」(二〇〇五年度∼二〇〇七年度)の
識と高度な教育研究の領域で独占的あるいは支配的
成果である。大学の市場化と企業文化の浸透が大学
地位を保持していたが、企業の研究所、メディアに登
教育、教養教育にどのような影響を与えているのか、
場する大学外の多様なアナリストや専門家、種々の教
教養教育の本来の理念、精神を模索しながら論じたも
育産業の登場によって、その地位は大きく揺らいでいる。
のである。
だが、「知識社会」の到来や生涯教育の需要の高
本書の執筆者は、社会学、フランス文学・現代思想、
まりは、一方では教養教育の必要性を高めている。急
英文学、英語・仏教思想、科学史、経済学、歴史学と、
速に変貌する経済社会のなかで専門的知識は陳腐化
その専門分野はいずれもリベラル・アーツであり、教養
の速度を速め、
企業は「コミュニケーション能力」や「問
教育に何らかの形で関わっていることに特徴がある。近
題解決能力」を求めるようになっている。たしかに、こ
年公表されている高等教育関係の文献の大半は教育
れは伝統的な教養教育とは異質な文脈から出たもので
学者、とくに教育社会学者によるものであり、リベラル・
あり、手放しで喜ぶわけにはいかないだろう。これを本
アーツの側からの発信はきわめて乏しい。教育社会学
来の教養教育の精神に引き寄せ、市民教育として意味
は現状分析に優れているのに対して、本書は、日本で
あるものにできるかどうかは、今後の各大学での取り組
は十分な検討がされていない教養教育の歴史や伝統、
みにかかかっているのである。そのためにも、日本の大
理念を、それぞれのディシプリンの立場から論じている
学教員にはあまり知られていない、教養教育の歴史と
のが特徴である。
伝統から学び、大学教育を原点から考え直す必要が
現在の大学の危機の直接の根源は、新自由主義的
あるだろう。
グローバリゼーションにあるといってよい。新自由主義的
イデオロギーにもとづく市場原理主義の影響は高等教
育に広範囲に及んでいるが、本書は、カリキュラムや
ディシプリンへの影響と、大学教育、とくに教養教育の
理念の変質、衰退について論じている。教養を知識量
やコミュニケーション能力などの特定の能力としてではな
く、教養教育の思想性を問題にし、教養を文化的主
観的側面、内面的な葛藤を伴う発達の観点からとらえ
ているのが共通した特徴である。たとえば「自己形成」、
100
目次
CONTENTS
はじめに
グローバリゼーションと教養教育の変容
はじめに
グローバリゼーションの進展と産業構造の変容
グローバリゼーションと教育
創造的教養教育へ向かって
14
36
38
45
51
執筆者
編著者
上垣 豊(うえがき ゆたか)
龍谷大学法学部教員
執筆者
小長谷大介(こながや だいすけ)
龍谷大学経営学部教員
解放のためのリベラル・エデュケーション――生涯の教訓
62
はじめに
西洋およびアジアの伝統の中におけるリベラル・
63
エデュケーションの歴史概観
79
「生涯の教訓」教育と学習のあり方
近藤 久雄(こんどう ひさお)
大学教育と「ネオリベラル・アーツ」
―社会病理との関連から
ネオリベラル・アーツの時代
大学における教養教育の変遷
統制管理と国民教育の復活
―競争と統制のあいだで
社会病理との関連―学生の抱える問題から
村澤真保呂(むらさわ まほろ)
ディシプリンと教養教育―日仏の大学史の比較から
大綱化とFD の導入
フランス高等教育の伝統と改革
戦後日本の大学における人文学と社会科学の
関係をめぐって
―龍谷大学の歴史に引き寄せて
ディシプリンのアリーナを超えて
龍谷大学法学部教員
マノジュ.L.シュレスタ
甲南大学経営学部教員
杉村 昌昭(すぎむら まさあき)
龍谷大学経営学部教員
龍谷大学社会学部教員
100
103
トム・ライト
龍谷大学経営学部教員
112
120
134
139
155
173
ことばと教養教育
〔 8〕はじめに
〔12〕ことばの力
〔22〕ことばの教育
〔32〕外国語の教育
〔39〕結論
科学系教養教育の質的変化に関する科学史的考察
〔44〕はじめに
〔45〕PISA の「科学的リテラシー」定義における科学とテ
クノロジー
〔48〕19 世紀の科学活動現場の変容
〔55〕19 ∼ 20 世紀転換の量子論・相対論の誕生過程に
おける機器依存
〔60〕20 世紀における科学の機器化
〔64〕現代科学の「モノ」化と科学系教養教育の質的変
化
高等教育の再考―スタンフォード大学の 「挑戦」
〔72〕日本の大学教育の現状
〔77〕スタンフォード大学の挑戦―「Stanford Challenge」
〔92〕「Stanford Challenge」からの示唆
101
共同研究会参加者
(2009 ∼ 2000 年度)
*印は指定研究
凡例
研 究 課 題→ 歴史都市・京都の都市政策と京都らしさに関する総合研究(2009 ∼ 2011 年度)*
研究代表者→ 井口 富夫
学内研究者→
酒井泰弘・西倉一喜・李 屏・山岸義和・川端基夫
学外研究者→ (小谷浩之・清水宏一・花田眞理子・M.L. シュレスタ・白須正・村尾俊道・久保英也・武村正義)
共同研究会参加者(学内研究者・学外研究者)の表記は、研究期間内に移籍(転入・転出)された方は学内研究者とした。
共同研究会参加者には、龍谷大学社会科学研究所叢書として刊行された「龍谷大学人間・科学・宗教研究助成積立金」および「日本私
立学校振興・共済事業団学術研究振興資金」に係る対象研究(共同研究 :2 件)も掲載
歴史都市・京都の都市政策と京都らしさに関する総合研究(2009 ∼ 2011 年度)*
井口 富夫
酒井泰弘・西倉一喜・李 屏・山岸義和・川端基夫
(小谷浩之・清水宏一・花田眞理子・M.L. シュレスタ・白須正・村尾俊道・久保英也・武村正義)
デモクラシーの機能不全と市民力の再生 : 担い手と政治空間の変容の欧米比較(2009 ∼ 2011 年度)
高橋 進
石田徹
(坪郷實・畑山敏夫・神谷章夫・藤井篤・中谷毅・小堀眞裕・野田昌吾・馬場優・野田葉)
事業承継と地域産業の発展 : 京都の場合(2009 ∼ 2011 年度)
松岡 憲司
井口富夫・佐々木淳・辻田素子・木下信
(野方宏・朴泰勲・北野裕子・山田順一郎・金田修・村西一男)
シエラレオネにおける紛争と平和構築に関する複合科学的な研究(2009 年度)
落合 雄彦
(澤良世・岡野英之・金田知子)
アフリカと世界(2008 ∼ 2010 年度)*
川端 正久
大林稔・斎藤文彦・落合雄彦
(北川勝彦・佐藤誠・高橋基樹・望月克哉・遠藤貢・戸田真紀子・峯陽一・正木響・西浦昭雄・杉木明子・岩田拓夫・加茂省三・佐藤千鶴子)
グローバル下の日本民法典(2008 ∼ 2010 年度)
池田 恒男
兒玉寛・川角由和・鈴木龍也・牛尾洋也・森山浩江
(髙橋眞・田中教雄・高橋智也・赤松秀岳・遠藤歩・杉本好央・高橋良彰・神戸秀彦・住田守道)
102
民際学研究の体系的発展を目指して(2008 ∼ 2010 年度)
松島 泰勝
大林稔・金城清子・嶋田ミカ
(中村尚司・廣岡博之・平竹耕三・上村英明・原尻淳一・森住明弘・田中宏・竹峰誠一郎・三田剛史・三田貴・上田假奈代・
櫻田和也・牧田幸文)
リスク社会における刑事制裁の機能(2008 ∼ 2010 年度)
金 尚均
玄守道・赤池一将・石塚伸一・本多滝夫・黒川雅代子
(嘉門優・本庄武)
ヨーロッパ私法の展開と日本民法典の現代化(2007 ∼ 2009 年度)*
川角 由和
岡本詔治・兒玉寛・中田邦博・牛尾洋也・森山浩江・藤原弘道・若林三奈・名津井吉裕
(松岡久和・潮見佳男・高嶌英弘・松井和彦・馬場圭太)
矯正施設における宗教意識・活動に関する研究(2007 ∼ 2009 年度)
石塚 伸一
赤池一将・村井敏邦
(鴨下守孝・坂東知之)
ヨーロッパにおける消費者法・広告規制法の比較法的検討(2007 ∼ 2009 年度)
中田 邦博
萩屋昌志・名津井吉裕・若林三奈
(高嶌英弘・角田美穂子)
社会経営学方法論の確立のための経営学説研究(2007 ∼ 2009 年度)
重本 直利
細川孝・中道眞
(藤原隆信・山西万三・塩見博喜・馬頭忠治・眞島正臣・三宅正伸・岡崎昭彦・今井邦光・國島弘行・中村共一・篠原三郎・杉村樹可)
京都府北部地域の産業集積と地域間ネットワーク(2006 ∼ 2008 年度)*
松岡 憲司
井口富夫・マリア レイナルース デスィデリオ カルロス・佐々木淳
(野方宏・朴泰勲・藤川清史・北野裕子・山田順一郎・金田修・村西一男)
IT 人材の国際移動が中国の産業発展に及ぼす影響の日米比較研究(2006 ∼ 2008 年度)*
夏目 啓二
細川孝
(M.L. シュレスタ・宋娘沃・林尚毅・齋藤敦・陸雲江・中原裕美子・羽渕貴司・王薇・中川涼司・石上悦朗)
103
近代から現代における女性の社会参加(2006 ∼ 2007 年度、2010 年度〔予定〕)
N.Wellhaeusser
松浦さと子・嶋田ミカ・大前眞・久場嬉子
(牧田幸文・アムスタッツ ゲイレン・嶋川まき子)
グローバル化とヨーロッパ化の競合下での市民社会強化戦略(2006 ∼ 2008 年度)
高橋 進
石田徹
(坪郷実・畑山敏夫・神谷章生・藤井篤・中谷毅・小堀眞裕・野田昌吾・馬場優)
都市のにぎわいと生活の安全に関する経済学的研究 : 京都市とその周辺地域を対象とした事例研究(2005 ∼ 2007 年度)*
井口 富夫
伊達浩憲・守屋晴雄・李 屏
(M.L. シュレスタ・花田真理子・久保英也・山田順一郎・小谷浩之・白須正・吉田しおり・湯野勉)
地方のコミュニティメディアにおける非営利放送に関する研究(2005 ∼ 2007 年度)
松浦さと子
重本直利
(津田正夫・小山帥人・川島隆・白石草・松浦哲郎・林怡蓉・酒井亨・鳥海希代子・福井文雄・日比野純一・萱野志朗・浜田忠久)
教養教育の国際比較(2005 ∼ 2007 年度)
上垣 豊
杉村昌昭・近藤久雄・T.Wright・小長谷大介
日本の対アフリカ協力政策の参加型評価のこころみ(2005 ∼ 2007 年度)
大林 稔
落合雄彦・川端正久
(石田洋子・岩井雪乃・遠藤貢・勝俣誠・橘田正造・児玉谷史郎・笹岡雄一・武内進一・田中清文・西川芳昭・牧野久美子・
舩田クラーセンさやか・Gueye Kamal・Barbara Kalima・Bonaventura Paulo・Buene・Me Sadikou Ayo Abo・楠田一千代・小峯茂嗣・
白鳥清志)
ヨーロッパ私法に関する総合的研究(2004 年∼ 2006 年度)*
川角 由和
鈴木龍也・中田邦博・牛尾洋也・森山浩江・藤原弘道・名津井吉裕・若林三奈
(松岡久和・潮見佳男・高嶌英弘・松井和彦・馬場圭太)
中国の持続可能な発展と環境:環境法・環境政策・環境紛争に関する日中共同研究(2004 ∼ 2006 年度)
北川 秀樹
富野暉一郎・平野孝・水野武夫・増田啓子
(加藤久和・金鑑明・金冬霞・王曦・彭応登・蔡守秋・馬乃喜・王
104
発・劉楚光・櫻井次郎・大塚健司)
学生・若年者をめぐる社会状況の変化と社会保障法・雇用保障法の課題(2004 ∼ 2006 年度)
脇田 滋
萬井隆令・田中明彦・田村和之
(井上英夫・木下秀雄・瀧澤仁唱・山本忠・布川日佐史・金川めぐみ)
在日外国人高齢者と介護問題:ジェンダー・エスニシティ・ケア(2004 年度)
久場 嬉子
田中宏
(新井美佐子・安里和晃・河本尚枝・牧田幸文)
京都の伝統産業と東西本願寺門前町に関する総合的調査研究(2003 ∼ 2005 年度)*
河村 能夫
井口富夫・舟橋和夫・李 屏
(西村卓・峯野芳郎・M.L. シュレスタ・大川葉子・村上忠喜)
イノベーションと企業規模の関連に関する実証的研究:京都企業について(2003 ∼ 2005 年度)
松岡 憲司
井口富夫・西垣泰幸
(野方宏・山田順一郎・金田修・朴泰勲・村西一男・北野裕子)
知的財産権取引における契約の研究(2003 ∼ 2005 年度)
武久 征治
辻本勲男・鈴木龍也
(伊原知巳・藤川義人・川瀬幹夫・滝本智之・今木隆雄・高野光泰・土屋隆生・板東正男・岩崎恵一・あべ松淳・松吉要造・
中西貴輝・島純子・岡本清秀・野田容朗・西尾幸夫・玉置秀司・津田裕子・市位謙太・豊山おぎ)
宗教民事紛争の研究(2003 ∼ 2005 年度)
鈴木 龍也
牛尾洋也・武久征治・鍋島直樹・三阪佳弘・池田恒男
(吉岡祥充)
経営品質の理論的・実証的研究 : 新しいマネジメント理論の構築を目指して(2002 ∼ 2004 年度)*
大西 謙
寺島和夫・西川清之・守屋晴雄・由井浩
(佐武弘章・高載乾・岩尾清・田村満・辻本健二・津田一郎・中山眞・森山祐輔・安倍泰生)
IT 革命と 21 世紀企業(2002 ∼ 2004 年度)
夏目 啓二
重本直利・細川孝・亀井正義・中道眞
(林尚毅・井上秀次郎・藤原隆信・仲野組子・斎藤敦・芳澤輝泰・羽渕貴司・宋娘沃) 105
21 世紀の検死制度(2002 ∼ 2004 年度)
福島 至
石塚伸一・金尚均・村井敏邦・平野哲郎・豊崎七絵
(反町吉秀・徳永光・白取祐司・徳田靖之・松宮孝明・牧野容子・安達光治・神山啓史・弘中惇一郎・後藤貞人・勝又義直)
近代日本の社会変動と法の動態分析 : 大審院判例から見た社会、そして法律家の役割(2002 ∼ 2004 年度)
牛尾 洋也・三阪 佳弘
石井幸三
(矢野達雄・橋本誠一・居石正和)
アフリカン・イニシアティブとその展望(2002 ∼ 2004 年度)
川端 正久
大林稔・斉藤文彦・落合雄彦
(高橋基樹・佐藤誠・戸田真紀子・栗本英世・小川了・藤本義彦・林正樹・岩田拓夫・正木響・加茂省三・ゲイ ムスタファ カマル・
土居陽子)
土地利用・空間形成コントロールの総合的研究 :「公」「共」「私」の新しい関係をもとめて(2001 ∼ 2003 年度)*
広原 盛明・富野暉一郎
牛尾洋也・鈴木龍也 (甲斐道太郎・山田良治・大泉英次・池田恒男・松本一実・豊田洋一・吉岡祥充・見上宗洋・溝手芳計・矢作弘)
刑事司法における心理学研究の活用について(2001 ∼ 2003 年度)
村井 敏邦
福島至・石塚伸一・金尚均
(後藤昭・三島聡・浜田寿美男・厳島行雄・仲真紀子・伊東裕司・岡田悦典・中川孝博・徳永光・菅原郁夫・一瀬敬一郎・
桑山亜也・浅田和茂)
21 世紀の生産システム : フォード・システムとトヨタ生産方式を越えて(2001 ∼ 2003 年度)
伊達 浩憲
松岡利通・松岡憲司
(宗像正幸・佐武弘章・松尾隆・坂本清・渋井康弘)
IT を基盤としたマーケティング・ビジネス・ネットワークの研究(2001 ∼ 2003 年度)
佐藤 研司
藤田誠久・藤岡章子・多田実
(熊沢孝・吉田康男・伊部泰弘・稲田賢次)
106
21 世紀の地球環境とサスティナブルディベロップメント: 環境の理論、地球温暖化、中国の環境に関する国際的・学際的研究(2001 ∼ 2003 年度)
〔日本私立学校振興・共済事業団学術研究振興資金対象研究〕
平野 孝
寺田宏州・田中則夫・増田啓子
田中雄三・船尾章子・大林稔・中村尚司・石田徹・丸山徳次・李態妍・伊達浩憲・広原盛明・西垣泰幸・河村能夫・高田美徳・
伊藤敏和・国府(岡)宏枝・佐竹光彦・水野武夫・平野武・富野暉一郎・北川秀樹・
(浅岡美恵・碓井敏正・深尾正之・林宰司・羅星仁・周瑋生・高村ゆかり・廣岡博之・朝日幸代・仙田徹志・石川真澄・加藤久和・
金鑑明・馬乃喜・松葉謙三・王曦・彭応登・金冬霞・王燦發・蔡守秋・王凱軍
借地借家法の総合研究(2000 ∼ 2002 年度)*
牛尾 洋也
鈴木龍也・藤原弘道・萩屋昌志
(松井宏興・岡本詔治・松野友芳・吉岡祥充・上谷均・藤本亮・滝川あおい・橋本恭宏・甲斐道太郎・石田秀博・藤井俊二)
転換期における日本の司法(2000 ∼ 2002 年度)
萩屋 昌志
三阪佳弘
(本間靖規・林真貴子・渡辺千原)
企業のイノベーションと資金調達の関連についての理論的・実証的研究(2000 ∼ 2002 年度)
松岡 憲司
井口富夫・西垣泰幸・佐竹光彦・廣岡博之
(野方宏・森田雅憲・山田順一郎)
京都市とその周辺地域を対象とした経済学的研究(2000 ∼ 2002 年度)
井口 富夫
中村尚司・守屋晴雄・川端基夫
(宮永昌男・山田順一郎・M.L. シュレスタ・明石芳彦・羽田昇史・花田真理子・白須正・川瀬博之・折井功・長谷川修三・
小谷浩之)
遺伝子工学的時代精神における法と倫理 : 生命工学と生命医倫理に関する日独の比較法的研究(2000 ∼ 2002 年度)
〔龍谷大学 人間・科学・宗教研究助成積立金対象研究〕
石塚 伸一
石井幸三・中田邦博・福島至・村井敏邦・金尚均
(上田健二・高嶌英弘・只木誠・浅田和茂・山中敬一・山田源・ハンス = ルートヴィッヒシュライバー・ヘニングローゼナウ・ガブリエラ・
ヴォルフスラスト)
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龍大社研ニュース No.47
『研究所創設40周年』
2009 年 11 月 1 日発行
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龍大社研ニュース №
﹃研究所創設
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周年﹄
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龍大社研ニュース
№ 47
『研究所創設 40 周年』
龍谷大学社会科学研究所
1969-2009
Ryukoku University
Research Institute for Social Sciences
龍谷大学社会科学研究所