財務管理[12] 資金調達の方法 企業の資金調達手段は、負債(他人資本)と株主資本(自己資本)に大きく 分けられる。 12.1 負債による資金調達 (1)負債の特徴 (a)前もって約束した利子を定期的に支払う。 (b)満期がくれば、元本を返済する。 (2)負債のタイプ (a)特定の相手からの負債(相対取引) 銀行などの金融機関からの借入(日本企業では大きなウェイトを占めてい る) (b)不特定多数の投資家からの負債(市場取引) 社債(普通社債、転換社債、ワラント債)、コマーシャル・ペーパーなど ・普通社債:銀行借入より満期が長い。長期資金の調達手段としても用い られる。 ・コマーシャル・ペーパー(CP) :短期資金の調達手段(企業が発行する無 担保の約束手形) (3)金利体系の原則 (a)期間が長い取引の金利は、期間が短い取引の金利より高い(イールドカー ブは右上がり) 理由: ・ 短期金利は換金されやすい(流動性の高い)資産の利回りである。 ・ 長期資金を短期資金で借りつなぐ形で資金調達すると、借り換えるたび にコストがかかる。 ・ 将来が不確実で見通しがはっきりしないため、資金を借り入れる側は長 期で貸したいのに対し、資金を貸し出す側は短期で貸したいため。 (b)信用度の高い金融資産ほど金利は低い。 (c)金融機関の資金調達と資金運用の間には一定の利ざやがある。 12.2 株主資本による資金調達 (1)株主資本の特徴 新たに株式を発行して資金を調達する。新たに会社を設立したり、既存の会 12-1 社が投資資金を調達するために増資したりすること。株主から提供された資本 を株主資本(自己資本)という。株式には、負債のように確定した利子を支払 う必要はないが、残余請求権がある。 (2)株主の役割 企業の業績は、経済環境によって大きく左右される。借入や社債といった業 績と関係なく一定の確定利子を支払わなくてはならない資金調達手段しかない と、企業はスムーズに資金を調達できず、うまく経営していけなくなってしま う。 そこでリスクを負担して資金を提供する投資家=株主が必要となる。企業は、 株主に対して、リスクを負担してもらう見返りに、将来的に高い配当や株価の 上昇をもたらすような経営努力をおこなわなければならない。 (3)株主の利益 株主には、 ・ 企業の獲得する利潤の分配(配当)を受ける権利 ・ 企業の経営権(株主総会での議決権) ・ 企業の保有する資産に対する所有権 がある。 企業が財・サービスの販売から得た金額から、その生産のために使われたさ まざまな生産要素(原材料、雇用、負債の支払利子など)に対して支払われる 対価を差し引いた残余金額は、株主の利益となる。 この利益は、前もって確定した額ではなく、結果的に、高い利益を得られる こともあれば、非常に低い利益しか得られない事態が発生する危険性もある。 したがって、株主には確定した利益ではなく、不確定な残余利益に対する請求 権があるにすぎない。この意味で、株主は残余利益に対するリスクの負担者と いう役割を担っている。 (4)株主の法的理解 株主は企業の実質的共同所有者である。その所有権には、 ・ 支配権能:企業の支配・管理運営→共益権(支配的権利) ・ 収益権能:企業が獲得した利益の分配請求→自益権(財産的権利) がある。 (a)共益権の内容 ・議決権 ・代表訴訟提起権 12-2 ・取締役・監査役の選出・解任権 ・株主提案権 ・会計帳簿閲覧権 (b)自益権の内容 ・利益配当請求権 ・残余財産分配請求権 ・株主名簿書換請求権 12-3
© Copyright 2024 Paperzz