Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 稲作からのバイオエタノール生産システムの エネルギー収支分析 Net Energy Analysis of Bioethanol Production System from Rice Cropping 佐 賀 清 崇 *・ 横 山 伸 也 Kiyotaka Saga ** ・ 芋 生 憲 司 Shinya Yokoyama *** Kenji Imou (原稿受付日 2007 年 5 月 15 日,受理日 2007 年 8 月 21 日) As rice cropping is traditional and sustainable agricultural system in Asia, utilization of whole rice crop has great potential for constructing biorefinery system. In order to produce bioethanol from rice cropping, it is a prerequisite condition that the energy balance of the system is positive. This study analyzes the energy balance of bioethanol production system from high yield rice in Japan. Two systems are considered and rice is converted to ethanol in both systems; one where cellulose feedstocks, straw and husk, are used for cogeneration (S-1) and the other where they are converted to ethanol and byproduct lignin is used for cogeneration(S-2). Energy input in agricultural process is estimated to be 4.8GJ/10a by I/O table. The heating values of produced rice and cellulose feedstocks are 12.0GJ/10a and 16.2GJ/10a, respectively. The energy balance of S-1 is 12.9GJ/10a, which produces 358L/10a of ethanol and 942kWh/10a of external electricity. The energy balance of S-2 is 1.2GJ/10a, which produces 707L/10a of ethanol. Both energy balances are positive and the energy balance of S-1 is much higher than that of S-2. However the energy balance of S-2 can be improved by utilization of other industry waste heat and/or development of energy saving technology. 1.はじめに 避できる稲を資源作物として持続的に栽培することがで きれば,玄米,稲わら,籾殻を含めた稲の総合利用を基 バイオマスからの液体燃料生産は地球温暖化防止及 盤とするバイオマス利用システムが構築可能である 4)-6). び石油資源枯渇への対策の一つとして重要である.バイ 一方,人口減少,米消費量の低下,反収増加などの理由 オ燃料の中でも,バイオエタノールはガソリンの代替燃 から今後 38 万 ha に上る不耕作地はさらに増加する恐れ 料として利用でき,その汎用性から今後基幹的な民生エ がある ネルギーとなる可能性を有している.また,エタノール ス利用システムの構築が望まれる. 開発も進んでおり,輸送用燃料だけでなく工業原料とし これまでに水田稲作におけるエネルギー収支に関する てもエタノールは利用可能である. 研究は数多く報告されているが 燃料としてバイオエタノールを導入する場合,まずエ 8)-11) ,バイオマス変換プ ロセスまで含めたエネルギー収支に関する知見はまだ少 タノール生産システムのエネルギー収支が健全でなけれ ない.そこで本研究では,2 種類の稲わら・籾殻のエネ ばならない.ブラジルのサトウキビを原料としたエタノ ルギー変換方法を考慮し,稲作からのバイオエタノール ール生産において,エネルギー収支は大きくプラスとな 生産システムのエネルギー収支を明らかにした. っている.これは副生されるバガスをコジェネレーショ ン施設の燃料とし,エタノール生産プラントで必要な電 2.稲作からのバイオエタノール生産システム 力及び熱エネルギーを供給しているためである 1). 近年米国のトウモロコシを原料としたバイオエタノー ル生産のエネルギー収支は向上しているが .中長期的な視野において,このような耕作放 棄地を水田として持続的に利用する稲作からのバイオマ から汎用プラスチックの原料を高効率で合成する技術の 2) 7) 本研究で検討する稲作からの バイオエタノール生産 ,土壌浸食 システムは大きく農業生産とバイオマス変換の 2 つのプ .資源作物からエネルギ ロセスから構成される(図 1).農業生産プロセスには収 ーを生産する条件として,従来から議論されている経済 集運搬作業が含まれる.バイオマス変換プロセスでは稲 性及びエネルギー面の生産性向上に加えて,持続的な栽 わら・籾殻の利用方法に着目して,2 種類のエネルギー 培体系であることが挙げられる.イネはアジアで伝統的 変換シナリオを設定した. などの問題が現れ始めている 3) に栽培されてきた作物であり,連作障害や土壌浸食を回 1 つは,稲わら・籾殻をガス化発電させ,玄米からエ タノールを生産するために必要な電力及び蒸気を賄い, * 東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻博士課程 ** 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 *** 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 E-mail: saga@bme.en.a.u-tokyo.ac.jp 〒113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1 余剰電力を系統に供給するエタノール・電力併産シナリ オである. もう 1 つは,稲わら・籾殻を加水分解によっ て糖化させ,その糖化工程で副生されるリグニンをガス 化発電させてエタノール変換に必要なエネルギーを補う 30 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 エタノール エタノール バイオマス変換 農業生産 (収集運搬) 玄米 エタノール 生産 エタノール 生産 電力 蒸気 コジェネ レーション 稲わら・籾殻 農業生産 (収集運搬) 玄米 稲わら 籾殻 リグニン コジェネ レーション バイオマス変換 電力 (1)エタノール・電力併産シナリオ 図1 電力 蒸気 (2)エタノール優先シナリオ 稲作からのバイオエタノール生産システムのプロセスフロー バイオエタノール優先シナリオである. 設定した 2 つの あると同定し,産業連関表による金額あたりのエネルギ シナリオにおいて,バイオエタノール生産システムから ー原単位(32.5kJ/円) 生産されるエネルギーと投入されるエネルギーを算出し, 産における直接エネルギーは 1,326MJ/10a となる. それぞれのエネルギー収支を分析する. 14) を適用した.これにより,農業生 次に,間接エネルギーの算出方法を示す.間接投入エ ネルギーとは生産資材として利用する肥料,農薬,被覆 3.プロセスの基本データ 資材,農機具,建物機材などに投入されたエネルギーで ある.まず,間接エネルギーを算出するために「米及び 3.1 農業生産プロセス 麦類の生産費」の費目を産業連関表部門分類に対応付け (1) 農業生産に必要なエネルギー て整理した.産業連関表における金額あたりのエネルギ 農業生産に投入されるエネルギーは「米及び麦類の生 産費」12)と各種統計資料 13)14) ー原単位は南齋 ら(2006)の産業連関表から作成されたデ から推計されたエネルギー ータを用いた 消費原単位から求められる. 「米及び麦類の生産費」は単 者価格のエネルギー原単位をそのまま生産費調査の支出 た金額をその費目別に整理したものである.本研究では 額に乗ずると,生産者価格と購入者価格の差額分にかか 農林水産省統計部が公表している 2006 年の米の生産費 る投入エネルギーを過大評価することになる.しかし今 データを用いた. 回の分析では差額分を流通にかかるエネルギー投入とみ 農業生産における投入エネルギーは直接エネルギーと なし,生産者価格のエネルギー原単位をそのまま適用す 間接エネルギーに分けられる.直接エネルギーとは米生 る. 産の段階で農業機械などに使用される石油系燃料及び電 以下に,間接エネルギーの算出方法を列挙し,費目ご 力で,「米及び麦類の生産費」の光熱動力費に相当する. とに推計した間接エネルギーのエネルギー原単位を表 2 光熱動力費には,灯油,軽油,ガソリンなどの石油製品 に示す. と電力料金及び水道料金が含まれている.直接投入エネ ① ルギーは支出額を購入単価で除して消費量を求め,エネ ② これらのエネルギー原単位 13)は各々がもつエネルギー量 て,支出額比で加重平均した値(84.11kJ/円)を用いた. わせた値である.生産費費目の中の「その他」は水道で 軽油 灯油 ガソリン 潤滑油 1,068 エネルギー原単位 12.3 L 43.1 MJ/L 7.3 L 39.9 MJ/L 885 177 7.2 L 0.4 L 43.3 MJ/L 41.3 MJ/L 159 その他 54 3,455 625 1.0 L 12.0 kWh - 43.3 MJ/L 13) 13) 13) 13) 13) 13) 10.9 MJ/kWh 14) 32.5 kJ/ 円 - 農業薬剤費:産業連関表の「農薬」(69.93kJ/円)部門 のエネルギー原単位を適用した. ④ 投入エネルギー (MJ/10a) 487 混合油 電力 合計 ③ 農業生産における直接投入エネルギー(MJ/10a) 消費量 肥料費:産業連関表の「有機質肥料」(35.13kJ/円)「化 学肥料」(104.43kJ/円)部門のエネルギー原単位を用い に,生産するために消費された一次エネルギーを足し合 支出額 (円/10a) 種苗費:産業連関表の「種苗」(16.45kJ/円)部門のエ ネルギー原単位を適用した. ルギー原単位を掛け合わせて投入エネルギーを算出した. 光熱動力費 .産業連関表は生産者価格であるのに 対し,米の生産費統計は購入者価格である.従って生産 位面積あたり及び単位重量あたりの作物生産に支出され 表1 14)15) その他諸材料費:この費目にはビニールシート,ポ リエチレン,結束ひも,育苗用土,木材など少量で 530 291 多種類の品目が含まれる.産業連関表の「熱可塑性 312 17 樹脂」(142.02kJ/円), 「有機質肥料」(35.13kJ/円), 「製 43 材」(21.05kJ/円)部門のエネルギー原単位を用いて, 131 支出額比で加重平均した値(41.81kJ/円)を用いた. 2 1,326 ⑤ 31 土地改良及び水利費:この費目は土地改良区費,水 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 表2 つの飼料イネ品種が育成されている.本研究では東北農 農業生産における投入エネルギー(MJ/10a) 業研究センターで移植栽培された「ふくひびき」の三ヵ エネルギー原単位 (kJ/ 円) 米生産費 (円 /10a) 投入エネルギー (MJ/10a) 383.66 3,455 1,326 種苗 肥料 16.45 3,704 61 84.11 7,802 656 農業薬剤 69.93 41.81 7,016 2,050 491 86 土地改良及び水利 賃借料及び料金 43.87 5,821 255 45.92 13,655 627 りの資源作物としての稲から玄米 12,070MJ,稲わら・籾 建物 38.36 39.69 4,845 3,140 186 125 殻 16,231MJ のバイオマスが生産される. 44.00 22,385 985 12.43 292 4 - - 3,475 4,800 生産費費目 年の平均玄米収量 825kg /10a の値を用いた 16).稲わらと 直接エネルギー 光熱動力 籾殻の発生量は玄米に対する乾物重基準の副産物比(1.2, 間接エネルギー その他の諸材料 自動車 農機具 生産管理 小計 合計 0.22)から算出した 17).玄米,稲わら・籾殻の含水率は 15%, 30%とし,それぞれの発熱量は玄米 14.63MJ/kg18),稲わ ら・籾殻 11.41MJ/kg19)とした.以上の仮定より,10a あた (3)収集運搬に必要なエネルギー 籾の収穫に必要な投入エネルギーは農業生産プロセス の直接投入エネルギーに含まれているが,稲わらは通常 利組合費などが含まれる.そこで,産業連関表の「農 コンバインによる収穫時に破砕され農地に放置されてい 業サービス」(45.92kJ/円),「上水道・簡易水道」 る.かさ比重が低い稲わらは,輸送の効率を上げるため (32.50kJ/円)部門のエネルギー原単位を用いて,支出 に,ベール化し圧縮することでエネルギー密度を高める 額比で加重平均した値(43.87kJ/円)を用いた. ⑥ 必要がある.そこで,圃場に放置される稲わらを自走ロ 貸借料及び料金:この費目には,薬剤共同散布割, ールベーラにより収集する方式を想定した.作業能率 農機具借料,ライスセンター費,カントリーエレベ 7.4hr/ha,軽油消費量 1.5L/hr より ーター費などが含まれる.そこで,産業連関表の「農 圃場での収穫物である籾及び稲わらはトラックでバイ 用いた. オマス変換プラントに運搬される.トラック積載量 4t, 建物費:この費目は排水暗渠,コンクリートけい畔, 燃費 5.5km/L,収集距離(片道)50km,収穫量 2.2t/10a,軽 作業道,客土工事などの構造物の減価償却費及び維 油発熱量 43.1MJ/L とすると,原料輸送で投入されるエネ 持修繕費である.そこで,産業連関表の「農林関係 ルギーは 431MJ/10a となる.以上より,収集運搬プロセ 公共事業」(38.36kJ/円)部門のエネルギー原単位を用 スに必要なエネルギーは 479MJ/10a となる. いた. ⑧ 自動車費:産業連関表の「乗用車」(39.69kJ/円)部門 3.2 バイオマス変換プロセス のエネルギー原単位を用いた. ⑨ (1) エタノール生産に必要なエネルギー 農機具費:産業連関表の「農業用機械」(44.00kJ/円) 玄米からエタノール 1L を生産するための投入エネル 部門のエネルギー原単位を用いた. ⑩ ,稲わら収集に必要 なエネルギーは 48MJ/10a となる. 業サービス」(45.92kJ/円)部門のエネルギー原単位を ⑦ 20) ギーを表 3 に示す.米国のトウモロコシ由来のエタノー 生産管理費:この費目には,事務用品,消耗品,パ ル生産に関する文献は数多く出されている.玄米はトウ ソコン,複写機,ファクシミリ,電話代などの生産 モロコシと同じくデンプン質原料であることから,これ 管理労働に伴う諸材料費及び償却費が含まれる.そ らの既往文献 2)21)を基に表 3 を作成した. こで,産業連関表の「情報サービス」(12.43kJ/円)部 表3 門のエネルギー原単位を用いた. 以上より,10a あたりに農業生産で投入されるエネル エタノール生産における投入エネルギー(MJ/L) 項目 ギーは,直接エネルギーが 1,326MJ,間接エネルギーが 玄米 電力 3,475MJ であり,合計 4,800MJ となる. 水蒸気 (2) バイオマス生産量 工業用水 合計 2006 年の全国の平均玄米収量は 534kg/10a と報告され 投入量2)21)22) 0.392 kWh 4.2 kg 40 kg エネルギー原単位 10.9 MJ/kWh 2.53619 MJ/kg 13) 0.00225 MJ/kg 23) 23) 投入エネルギー (MJ/L) 4.27 10.65 0.09 15.01 稲わら・籾殻 ている 12).資源作物として稲を栽培する場合,現在広く 電力 水蒸気 栽培されているコシヒカリなどの食味の良い品種ではな く,バイオマス生産量の多い飼料イネの利用が考えられ 工業用水 る.1999 年から農林水産省のプロジェクト研究で飼料イ 生石灰 合計 硫酸 ネの品種育成が進められ,2002 年から 2005 年までに9 32 0.529 kWh 10.9 MJ/kWh 13) 5.77 6.5 kg 2.53619 MJ/kg 23) 16.49 125 kg 94 g 0.00225 MJ/kg 0.70200 MJ/kg 23) 0.28 0.07 36 g 7.97600 MJ/kg 23) 23) 0.29 22.89 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 農業生産:5,226 工業用水 :32 (収集運搬 を含む) エタノール :7,916 農業生産 :5,226 (収集運搬を含む) 農業生産 (収集運搬 ) 玄 米: 12,070 エタノール 生産 コジェネ レーション エタノール:15,634 農業生産 (収集運搬 ) 電力:1,531 蒸気:3,816 稲わら・籾 殻 :16,231 電力:1,106 蒸気:7,879 その他:253 エタノール 生産 玄米,稲わら ,籾殻 :28,301 コジェネ レーション リグニン :3,355 電力:10,264 (1)エタノール・電力併産シナリオ 図2 電力:2,438 蒸気:1,694 (2)エタノール優先シナリオ バイオエタノール生産システムのエネルギーフロー(MJ/10a) 次に,稲わら・籾殻からエタノール 1L を生産するた グニンが副生される. めの投入エネルギーを表 3 に示す.稲わら・籾殻とスイ (3) ガス化発電によるコジェネレーション ッチグラスはセルロース系バイオマスの中でも草本系バ バイオマスから発電する技術として,直接燃焼,ガス イオマスに分類され,原料の組成が近い.このことから, 化,ガス化複合発電などが存在するが,本研究ではガス スイッチグラスのエタノール生産に関する文献 2)21)22) を 化発電を想定した.直接燃焼による発電技術は既に実用 基に整理した.セルロース原料の糖化技術には酸加水分 レベルにあるが,1MW 以下では発電効率が著しく低下す 解法や酵素分解法などがあるが,本研究では濃硫酸を用 る.一方,現在多くのメーカーで実証試験が進められて いた酸加水分解法を想定した.デンプン質原料と比較し いるガス化発電は,数 10 から数 100kW の小規模出力で て,セルロース原料のほうが電力及び蒸気の消費量が大 も高効率で発電可能である.また,ガス化発電による排 きい.これは,原料粉砕にかかる機械動力や硫酸回収工 熱は高温であることからコジェネレーションに適してい 程で蒸気を利用することに起因する. る.発電効率を 30%,送電端効率を 24%,熱回収効率を 50%27)として,本システムに適用した. 表 3 に併せてエタノール生産で用いられる資源・エネ ルギーの製造の際に消費されるエネルギー原単位 23)を示 す. 4.結果と考察 (2) エタノール生産量 既往文献の考察結果 24)25) 4.1 エネルギーフロー から以下の仮定を設定し,エ 図 2 に 10a あたりのエタノール・電力併産シナリオ(1) タノール生産量を算出した.玄米を原料とする場合,デ とエタノール優先シナリオ(2)のエネルギーフローを示 ンプン価 87%(乾物基準),糖化効率 95%,発酵効率 90%, す.このフロー図は投入・産出エネルギーを一次エネル 精製効率 95%と仮定した.これにより,玄米 1,000kg か ギー換算しているため収支が合わない.農業生産プロセ ら 434L のエタノールが生産される.乾物基準の稲わら ス(収集運搬作業 を含む) の投入エ ネ ル ギ ーは共通で の原料組成をセルロース 43%,ヘミセルロース 25%,リ グニン 12%,籾殻はセルロース 35%,ヘミセルロース 25%, エタノール 農業生産 純エネルギー生産量 (GJ/10a) リグニン 20%とした 26).ホロセルロースがすべてグルコ 電力 バイオマス変換 20 ースに変化するものとし,糖化効率 85%,発酵効率 90%, 精製効率 95%と仮定した. 15 上記の条件により,稲わら 1,000kg から 250L のエタノ ール,籾殻 1,000kgから 220L のエタノールが生産される. 10 エタノールの発熱量は 22.1MJ/L とした.稲わら・籾殻の 原料組成 からリグニン発生量を推定し,稲わら・籾殻 5 1,000kgから糖化工程で含水率 50%のリグニン 186kgが発 生するものとした.リグニン発熱量 26.7MJ/kg から水分 0 産出 蒸発に要する熱量 2.5MJ/kgを差し引くことで回収される 投入 シナリオ(1) 収支 産出 投入 収支 シナリオ (2) エネルギーを算出した.稲わら・籾殻を原料として 1L 図3 のエタノールを生産する過程で 9.6M J の発熱量をもつリ 33 バイオエタノール生産システムのエネルギー収支 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 5,226MJ で あ る . シ ナ リ オ (1) で は 10a あ た り 5.結論 358L(7,916MJ)のエタノールが生産される.エタノール生 産に必要な電力(140kWh)及び蒸気エネルギー(3,816MJ) 本研究では,稲わら・籾殻をガス化発電させ,玄米から は稲わら・籾殻のガス化発電によって賄うことができ, エタノールを生産するために必要な電力及び蒸気を賄う 942kWh(10,264MJ)の余剰電力を系外に供給できる.エタ シナリオ(1)と,稲わら・籾殻もエタノール化し,糖化工 ノール生産における投入エネルギーは工業用水の 32MJ 程で副生されるリグニンでエタノール変換に必要なエネ の み と な る . 一 方 , シ ナ リ オ (2) で は 10a あ た り ルギーを補うシナリオ(2)を設定し,稲作からのバイオエ 707L(15,634MJ)のエタノールが生産される.エタノール タノール生産システムのエネルギー収支を明らかにした. 生産に必要な電力及び蒸気はそれぞれ 325kWh(3,544MJ), バイオマス生産量が多い多収米を適用することでシナリ 9,573MJ である.副生するリグニンのガス化発電により オ(1)及び(2)のエネルギー収支はプラスとなった.シナリ 224kWh(2,438MJ)の電力,1,694MJ の蒸気エネルギーを補 オ(1)のエネルギー収支はシナリオ(2)よりも大きいが,他 うことが可能である.エタノール生産における投入エネ 産業からの排熱利用やエタノール生産プロセスの省エネ ルギーは電力 102kWh(1,106MJ),蒸気 7,879MJ,その他 ルギー化が進むにつれシナリオ(2)のエネルギー 収支は 253MJ となり合計 9,239MJ となる. 向上する.今後,稲作からのバイオエタノール生産シス テムの可能性を検討するために,資源作物としての稲の 4.2 エネルギー収支 作業体系オプション,エタノール生産技術オプションの 図 3 にエネルギーフローから導出されるシナリオ(1)と 評価を行い,適正規模を考慮したエネルギー収支及び経 (2)のエネルギー収支を示す.エネルギー収支とはエタノ 済性の評価が必要である. ール生産量と余剰電力を合計した産出エネルギーから農 業生産及びバイオマス変換プロセスでの投入エネルギー 参考文献 を差し引いた値である.シナリオ(1)と(2)のエネルギー収 1) 支はともにプラスとなり,エネルギー生産性の観点から Macedo, I. et al; Assessment of Greenhouse Gas Emissions in the Production and Use of Fuel Ethanol in Brazil, the Government of の多収米を適用した稲作からのバイオエタノール生産シ the State of São Paulo, 2004 ステムの可能性は十分にある.シナリオ(1)のエネルギー 2) 収支は 12,922MJ/10a となり,シナリオ(2)の 1,169MJ/10a Alexander E. Farrell et all; Ethanol Can Contribute to Energy and Environment Goals, Science, 311(2006) よりも大きな値となった.これはシナリオ(2)ではシナリ 3) オ(1)の約 2 倍のエタノールが生産されるが,エタノール David Pimentel; Ethanol Fuels: Energy Balance, Economics, and Environmental Impacts are Negative, Natural Resources Research, 生産に必要な電力及び蒸気のエネルギーも多くなるため 12-2 (2003), 127-134. である.不足する蒸気エネルギーを他産業の排熱で賄え る,あるいはエタノール生産技術の省エネルギー化が進 むことでシナリオ(2)のエネルギー収支は向上する.現在 4) 本田幸雄;水田ハ地球ヲ救ウ,(1982), 家の光協会. 5) 角田重三郎;新みずほの国構想-日欧米緑のトリオをつくる -,(1991), 農文協. ゼオライト膜によるエタノール濃縮脱水プロセスや希硫 6) 酸糖化などの技術が研究開発されており,今後エタノー NEDO;食料等のバイオマスのエネルギー利用に関する調 査,(1998) ル生産プロセスでの投入エネルギーは大幅に削減される 可能性がある. 4.3 耕作放棄地を利用したバイオエタノール生産量 7) 農林水産省;農業センサス,(2005) 8) 久守藤男;現代農業資源利用論,(1984),明文書房 9) 農政調査委員会; 「食料・エネルギー・労働力」,(1981), 東 洋経済新報社 エタノール優先シナリオ(2)からは 10a あたり 707L の 10) 井上喬二郎;農業におけるエネルギー利用の現状と展望, エタノールが生産される.全国の耕作放棄地 は 38 万 農林水産技術研究ジャーナル,21-10 (1998), 13-21 ha(2006 年)に上っていることから,シナリオ(2)によって 11) 金谷豊;水稲生産システムとLCA,農林水産技術研究ジャ 生産されるエタノールの純生産量は 266 万 kL と推定さ ーナル,22-10 (1999), 15-19 れる.現在我が国のガソリン消費量は約 6000 万 kL であ 12) 農林水産省;米及び麦類の生産費? 農業経営統計調査報告, り,耕作放棄地を利用して稲作からのバイオエタノール (2006), 農林統計協会. 生産を行うと,E3 用のエタノールを全量供給できる可能 13) 日本建築学会LCA 指針小委員会;建築学会 LCA データベ 性がある. 34 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 1 ースver.1.4, (2003) Switchgrass, and Wood; Biodiesel Production Using Soybean and 14) 国立環境研究所地球環境センター;産業連関表による環境 Sunflower, Natural Resources Research, 14-1 (2005) 負荷原単位データブック(3EID), (2000) 22) May Wu, Ye Wu, Michael Wang; Enegy and Emission Benefits of 15) 南齋規介,森口祐一; 産業連関分析に用いる部門別環境負 Agriculture Transportation Liquid Fuels Derived from 荷量の算定のための実践的アプローチ, 日本LCA学会誌, Switchgrass: A fuel Life Cycle Assessment, Biotechnology 2-1 (2006), 22-41 Progress, 22 (2006) 16) 吉永悟志, 長田健二, 福田あかり;東北地域の飼料イネ向け 23) 産業環境管理協会 LCA 日本フォーラム;LCA データベー 品種・系統の直播適性および乾物生産性, 東北農業研究セ ス ンター研究報告, 105 (2006), 63-71. 24) N.A.S.; Alcohol fuels; options for developing countries, (1983), 17) 小川和夫, 竹内豊, 片山雅弘;北海度の耕草地におけるバイ National Academy Press オマス生産量及び作物による無機成分吸収量, 北海道農試 25) 大聖泰弘;バイオエタノール最前線, (2004), 工業調査会 研報149 (1988), 57-91. 26) Workshop on Organic Residues in Rural Communities; The Use 18) 細谷憲政監修;最新食品標準成分表,(2003) of Organic Residues in Rural Communities , (1983), United 19) 日本エネルギー学会;新エネルギー等導入促進基礎調査 Nations University Press (バイオマスエネルギーの利用・普及政策に関する調査) , 27) 薬師堂謙一,坂井正康;小型可搬式・低コスト高効率の新 しい熱・電エネルギー供給システム「農林バイオマス3 号 (2002) 20) JA 全農生産資材部;機械化計画のたて方,(2002) 機」の開発,農林水産技術研究ジャーナル,28-3 (2005) 21) David Pimentel, Tad W. 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