巻頭言 榊原 秀也 - 神奈川県産科婦人科医会

平成27年9月(2015)
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巻頭言
横浜市立大学市民総合医療センター 婦人科 榊原 秀也
2017年度から専門医制度が改定され、今年度から初期研修を開始した医師が入局する2年後から大きく制度が変わりま
す。日本産科婦人科学会でも、それにともなう新たな専門医制度の構築が勧められています。新制度の柱となるのは、
研修プログラム、指導医制度、施設基準です。現在、大学病院をはじめとする専攻医指導施設を基幹施設として、他の
病院を連携施設とするプログラム作りが進んでいます。まず、分娩や手術の経験症例数が増え、腹腔鏡手術の経験も必
須となります。また、新たに生殖補助医療や女性のヘルスケア領域の症例の経験も追加される見込みです。具体的には、
体外受精の見学を含む不妊治療やピルの処方を含む避妊指導などが追加されます。さらに、一人の指導医が指導できる
専攻医の数の上限(3∼4人)が規定されることになり、各病院とも募集する専攻医の数に見合った指導医数を確保する
必要があります。また、指導医の基準も明確化され、従来の産婦人科専門医の取得と経験年数に加えて、学会で開催さ
れる指導医講習会の受講(一部は e-learning での受講可 )と専攻医を指導した論文または自分が筆頭の論文の発表が義務
付けられます。したがって、指導医を継続していくためには、5年間で2編以上の論文を自分で書くか専攻医の論文指導
を行うことが必要となるので、留意しておく必要があります。
これまでの専攻医の教育は大学などの基幹施設を中心に各々に行ってきました。新たな制度では、基幹施設と連携施
設による病院群で一つのプログラムを形成して専攻医の教育を行うことになります。また、各プログラム間の連携も、
各基幹施設がお互いの連携施設になることが可能となり、プログラム間の人事交流も容易になります。神奈川県では以
前から産科婦人科医会がまとめ役となって、4大学 FD や箱根のサマーセミナーなどを施設間の垣根を越えた連携により
開催してきました。今後は、それらが新たな専門医制度の中で具体的なプログラムとして組み入れられていくことにな
ります。したがって、神奈川県全体で専攻医を育成するというコンセプトを実現していくために、今後は各基幹施設を
中心とした専門医プログラム間の連携体制を整えていくことが、魅力ある研修体制を構築するために必要となります。
これは、産婦人科にとって現状での最重要課題の一つであるリクルートにも大きく影響することとなるでしょう。
これらの改革に伴って、すでに専門医を取得されている先生方の専門医更新の基準も変更されます。講習は従来のシ
ール制ではなく、安全管理や医療倫理などの指定された区分の講習を受けることが義務づけられます。したがって、今
までは単に学会に参加すればよかったのですが、今後は学術集会における指導医講習会や生涯研修プログラムなど指定
されたプログラムを受けることが必要になります。講習会は連合地方部会や各県の地方部会や地域の医師会が主催する
ものも含まれる予定です。また、日本産科婦人科学会も専門医研修の証明をシールから e 学会カードによる認証に徐々
に移行する予定で、すでに4月の学術講演会から導入されています。
最後に、私事ですが本年4月から横浜市立大学附属病院から市民総合医療センター婦人科へ異動しました。市民総合医
療センター婦人科では、従来から行ってきた腹腔鏡をはじめとする低侵襲手術を中心とした診療を継続すると共に、前
任の附属病院時代から続けてきた「女性のヘルスケア」の診療を発展させていくつもりです。市民総合医療センターで
は、婦人科医以外に産婦人科医が配属されている母子医療センターおよび生殖医療センターと協働して、思春期から更
年期、老年期までのすべてのライフステージの女性の QOL の向上を目指した「女性のトータルヘルスケア」を提供でき
る施設を目指してしていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
妊娠後期に発症し高用量プレドニゾロン投与を要した妊娠性疱疹の1例
A case of Herpes Gestationis required to high dose prednisolone therapy in third trimester of pregnancy
小田原市立病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Odawara Municipal
Hospital
小林奈津子 Natsuko KOBAYASHI
佐治 晴哉 Haruya SAJI
堀田裕一朗 Yuichiro HOTTA
田吹 梢 Kozue TABUKI
板井 俊幸 Toshiyuki ITAI
佐々木麻帆 Maho SASAKI
石寺 由美 Yumi ISHIDERA
服部 信 Shin HATTORI
平吹 知雄 Tomoo HIRABUKI
白須 和裕 Kazuhiro SHIRASU
概 要
妊娠性疱疹は妊娠中、産褥期に生じる稀な自己免疫性
水疱症である。今回我々は妊娠後期に発症し、中用量プ
レドニゾロン(以下 PSL)療法開始後も増悪を認め、一
時的に高用量 PSL 療法を要し治療した症例を経験したの
で報告する。症例は 28 歳、0 経妊 0 経産。妊娠 27 週頃よ
り皮膚掻痒感が出現し、妊娠 28 週に四肢に水疱を伴う丘
疹を認めた。近医皮膚科で処方されたステロイド外用薬
で改善せず、皮疹が全身へと拡大したため妊娠 29 週に当
院皮膚科へ受診した。血液検査所見で本疾患に特徴的な
抗 BP 180抗体が高値を示し、妊娠性疱疹の診断で PSL 30
mg/dayの内服を開始した。PSL 内服後も皮疹の改善はみ
られず、妊娠30週に入院管理下で PSL 60 mg/dayへ増量
し加療を行った。入院時に施行した皮膚生検で、表皮下
水疱と表皮から真皮に浸潤する好酸球を認め、妊娠性疱
疹と診断した。PSL 増量後、皮疹の改善と抗 BP 180 抗体
の低下を認め妊娠 31 週より PSL を漸減し、妊娠 37 週 1 日
骨盤位のため帝王切開分娩で男児を出産したが、周術期
に高侵襲レベルとみなしたステロイドカバーを要した。
分娩後 2 ヵ月で PSL 5 mg /day まで減量し、現在分娩 5 ヵ
月まで経過したが皮疹の再燃はない。重症化した妊娠性
疱疹の治療として妊娠中の高用量 PSL 投与を行う場合は、
副作用に対する適切な情報提供と共に母児への影響を念
頭においた慎重な産科管理を行う事が肝要である。
Key words : Herpes gestationis, Bullous pemphigoid, PSL
(prednisolone), Anti-BP180 antibody, Perioperative steroid
cover
緒 言
妊娠性疱疹(Herpes Gestationis、以下 HG)は、妊娠中
から産褥期にかけて生じる自己免疫性表皮下水疱症であ
り、妊娠 1 ∼ 5 万例に 1 例と非常に稀な疾患である。これ
までの研究から、水疱性類天疱瘡(Bullous pemphigoid、
以下 BP)と同じ表皮基底膜部のヘミデスモゾームに対す
る自己抗体である抗 BP 180 抗体が原因抗体であることが
判明しており、現在では妊娠及び産褥期に発症した BP と
位置づけられている。今回我々は、本疾患の治療として
妊娠中の安全域を超えた高用量のプレドニゾロン(以下
PSL)投与を要し、周産期管理を行った症例を経験したの
で、文献的考察も含めて報告する。
症 例
症例:28歳、0 経妊 0 経産
既往歴: 25 歳時に帯状疱疹、その他の皮膚疾患の既往
なし
家族歴:特記事項なし
現病歴:自然妊娠し、初期より当院で妊婦健診を受け
ていたが、妊娠経過に異常を認めなかった。妊娠 27 週頃
より皮膚掻痒感を自覚し、妊娠 28 週時には四肢に水疱を
伴う丘疹が出現したため、近医皮膚科を受診した。ステ
ロイド外用薬を処方されたが症状は軽快せず、全身への
皮疹の拡大を認めたため、妊娠 29 週に精査目的に当院皮
膚科を受診した。
外来時身体所見:身長 148 cm、体重 56.2 kg(非妊時 50
kg)
、BP 120/71 mmHg、HR 93/min、BT 37.3℃、SpO2
98 %、四肢及び体幹に掻痒を伴う小水疱と浮腫性紅斑を
多数認めた(図1)
。
血液検査所見:WBC 12460/
μl(Eosino 5%)
、Hb 11.8
4
g/dl、Plt 26.6×10 /μl、CRP 0.24 mg/l、AST 14 IU/ l、
ALT 10 IU/l、LDH 187 IU/l、BUN 5.4 mg /dl、Cr 0.38
mg/dl、抗 BP 180抗体 48(正常値<9)
産科所見:骨盤位、
胎児超音波検査:推定児体重 1510 g、
AFI 14.1 cm、明らかな異常所見なし。内診上子宮口閉鎖、
頸管長 4.6 cm。CTG:reassuring fetal status、子宮収縮なし。
平成27年9月(2015)
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治療経過(図2):皮膚科初診(妊娠29週)時、左前腕
より皮膚生検を施行し、病理組織検査(図3)で表皮下の
水疱形成と、水疱辺縁の表皮から真皮にかけて浸潤した
好酸球を認めた。また、血液検査で抗 BP 180 抗体が高値
を示したことから HG と診断した。PSL 30 mg/day の内服
加療が開始されたが、妊娠 30 週には皮疹は増悪し、四肢
及び体幹に遠心性環状紅斑、中心部に緊満性水疱ないし
小水疱を形成したため(図 4)、妊娠 30 週 1 日に入院管理
とし PSL 60 mg/day(1.1 mg/kg)へ増量し加療を行った。
妊娠31週には皮疹に色素沈着を認め、抗 BP 180抗体も低
下傾向を示したことから改善傾向があると判断し、徐々
に PSLを漸減し、症状の増悪なく分娩時には PSL 30 mg/
day(0.5 mg /kg)で維持可能であった。血液検査所見で
は、CRP 値は一貫してほぼ陰性であったが抗 BP 180抗体、
白血球数、好酸球数は病勢に比例して低下した。
一方、胎児発育は良好で、明らかな周産期合併症を認
めなかったが、骨盤位のためハイドロコルチゾン 100 mg
の静脈内投与によるステロイドカバーを術当日に施行し
た上で妊娠 37 週 1 日に選択的帝王切開分娩を行った。児
は 2556 gの男児で、Apgar score 1分後9点、5分後9点、臍
帯動脈血 pH 7.33であった。母体への長期 PSL 投与による
副腎機能不全等の影響を考慮し児は一時 NICU 管理とし
たが、明らかな異常なく分娩8日後には母児共に軽快退院
した。児に新生児皮疹の出現等の皮膚症状の異常は現在
分娩 5 ヵ月まで認めていない。一方、母体への PSL 投与
は分娩後14日目より1週毎に PSL 5 mg ずつ漸減し、分娩
後1ヵ月目からは2週毎に PSL 1 mg ずつ漸減を続け、分娩
後 5 ヵ月で PSL から離脱可能となったが、母体に皮疹の
再燃は認めていない。
考 察
妊娠性疱疹(HG)は1872年に Milton によって命名され
た妊娠を契機に発症する自己免疫性水疱症である 1)2)。そ
の頻度は妊娠1∼5万例に1例と非常に稀であるとされてお
り、原田らは本邦で79例の報告例があるとしている 3)が、
その大半は軽症例であるため、HG の診断に至らず単なる
妊娠中の一過性発疹と診断されている可能性から、実際の
発症例は報告例よりも多いと推測されている 4)。皮膚科領
域からの報告例が大半を占める一方、産科領域では周産期
領域の皮膚疾患として認知度は低い。
欧米では妊娠性類天疱瘡(pemphogoid gestationis)と称さ
れることが多く、SLE などの自己免疫疾患と同様に流早産
のリスクが高く子宮内胎児発育遅延や低出生体重児が多い
ことが報告されている 2)。更に合併症として胞状奇胎 5)や
絨毛性上皮腫などの腫瘍性疾患の報告 6)もみられる。近年
HG は、高齢者に好発する水疱性類天疱瘡(BP)と同じ表
皮基底膜部のヘミデスモゾームを構成する BP 180を標的蛋
白としている 2)3)ことから、妊娠によって発症した BP と
いう位置づけで捉えられている。妊婦に BP 180蛋白に対す
る自己抗体が出現する発症機構は明らかにされていない
が、胎児・胎盤への免疫寛容の破綻が要因ではないかと推
測されている 3)。
(3)
発症好発時期は主に妊娠中期から後期であることが多く
2)7)8)、大半は分娩後 1 ヵ月程度で軽快または寛解する 2)
が、産褥期に発症した報告例 9)や、難治性で数年にわたり
症状が遷延した報告例 10)11)も散見される。典型的な臨床
症状は腹部を初発とし、強い掻痒を伴う浮腫性紅斑と水疱
を発症する。加えて小水疱が癒合・拡大して全身に緊満性
水疱を形成し、環状紅斑の周囲に小水疱が環状に配列、多
型紅斑の中央部に小水疱が集簇するが、一般的な類天疱瘡
と比較すると、口腔や眼、外陰部などの粘膜が侵されるこ
とは少ない。
HG の診断基準に関して安江ら 11)は、①妊娠または胞状
奇胎や悪性絨毛上皮腫など妊娠関連疾患に伴って出現す
る、②臨床的診断項目:水疱性多形滲出性紅斑様の皮疹を
呈する、③病理組織学的診断項目:表皮下水疱と好酸球浸
潤を認める、④免疫学的診断項目: 1)患者血清中に HG
因子(抗 BP 180抗体)が存在する、2)蛍光抗体直接法で
皮疹部の表皮基底膜部に C 3の沈着を認めるという5項目
を示しているが、その診断は臨床像、病理組織検査、自己
抗体の検出によって総合的になされている。鑑別疾患には、
妊娠後期に生じる掻痒性皮膚疾患としてアトピー性皮膚
炎、多型滲出性紅斑型薬疹、後天性表皮水疱症、妊娠性痒
疹、PUPPP(Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy)
、
線状 IgA 水疱症、Duhring 疱疹状皮膚炎などが挙げられる 2)
が、皮膚所見として水疱を形成しない初期の HG の皮疹で
は臨床所見が酷似している PUPPP との鑑別が特に問題と
なる 3)10)12)。
ここで HG と PUPPP の比較及び鑑別点について表1に示
す。PUPPP は妊娠240例に1例の発症とされる比較的頻度
が高い疾患であるが、母体や胎児・新生児に異常をきたす
ことはなく再発率も低い。一方、HG は一過性ではあるが
新生児に水疱をきたすことがあり、次回妊娠での再発率は
高く、妊娠を重ねると症状も重症化する場合が多い 7)。両
者の鑑別診断には病理組織検査で表皮下水疱の存在を証明
することや、蛍光抗体直接法、ELISA 法による抗 BP 180抗
体の検出が診断の決め手となることが多い 7)。特に、患者
血清中の自己抗体は ELISA 法により検出可能であり、その
検出感度は特異度、敏感度とも96%と高率であり鑑別に有
用な検査といえる 3)。
本症例では、まず妊娠後期に四肢を初発として浮腫性紅
斑と小水疱を形成(図1)した。そして四肢及び腹部の紅
斑は遠心性に拡大しながら、遠心性環状紅斑を呈し、中心
部に緊満性水疱または小水疱を形成(図4)し、全身への
拡大を認めたことが診断の端緒となっており、HG として
は典型的な臨床像であった。更に典型的な臨床皮膚所見に
加え、図3に示すような HG に典型的な病理組織学的所見
が確認され、更に ELISA 法により血清抗 BP 180抗体を検
出したことから比較的容易に HG と診断することができ
た。
HG の治療には、副腎皮質ステロイド外用薬が第一選択
であり、必要に応じて抗ヒスタミン薬内服の併用を行う場
合もある 2)。しかし重症例では、本症例のように副腎皮質
ステロイド内服による治療が必要となる 2)4)7)8)11)12)。
4
(4)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
a
図2 経過
b
c
図1 妊娠29週初診時の皮膚所見
a:上肢 b:腹部 c:下肢
四肢及び腹部の浮腫性紅斑、小水疱を認めた。
a
b
図3 病理組織検査所見 a:HE×200
b:HE×400
表皮下の水疱形成と、水疱辺縁の表皮から真皮にかけて浸潤した
好酸球を認めた。
妊娠時ステロイド剤の母体投与による胎盤移行性は PSL で
約10%、betamethasone で約33%、dexamethasone ではほぼ
100%である 2)3)7)ことを踏まえ、胎盤移行性の最も低い
PSL を我々は選択した。PSL は 30 mg/day以下の母体投与量
では児への影響を及ぼさない安全域と報告されており 2)13)、
一般的には PSL 0.5 mg/kg/dayで投与を開始し、皮疹の改
善傾向をみながら増減させ症状コントロールを図っていく
3)
。報告の大半は PSL 30-40 mg/day で病勢コントロールが
可能とされているため、本症例でも 30 mg/day から開始し
たが、皮膚症状や抗 BP 180 抗体の増悪を認めたため PSL
の増量が必要と判断した。安全域を超えた PSL の母体投与
を行う場合、妊娠初期では口唇・口蓋裂などの催奇形性、
中期以降でも胎児発育障害や新生児の副腎機能不全などの
報告もある 13)ため、内服治療の意義とリスクを患者に充
分なインフォームドコンセントを行う必要がある。本症例
では患者及び家族に PSL の安全域を超えた投与量であるも
のの、病勢コントロールを目的とした有益投与であること
を説明した上で使用した。児は外表上も含めて明らかな異
常は認めておらず、高用量 PSL による児への影響はなく、
発育良好な経過を辿っている。
皮疹の所見と抗 BP 180抗体価の推移が病勢とよく相関す
る 3)7)ため、本症例ではこれらを用いて治療効果判定を行
った。PSL 高用量投与を要した報告は、流産後 PSL に加え
免疫抑制剤や血漿交換療法などが試みられた例 10)、分娩後
増悪例 8)、産褥期発症例 14)が散見されるのみで、本症例の
ように妊娠中より高用量 PSL 投与を要したが病勢がコント
ロールされた報告はこれが初めてである。分娩後5ヵ月で
PSL 内服を中止し、現在経過観察しているが、次回妊娠時
の再発リスクが高いことを患者側へ説明することも重要で
ある。
平成27年9月(2015)
5
(5)
表1 HGとPUPPPの比較及び鑑別点
a
b
c
図4 妊娠30週1日入院時の皮膚所見(増悪時)
a:上肢 b:腹部 c:下肢
四肢及び腹部の紅斑は遠心性に拡大、遠心性環状
紅斑となり、中心部に緊満性水疱または小水疱を
形成した。
本疾患には HLA-DR 3, DR 4が高頻度にみられることから
特定の免疫遺伝学的機序が想定されている 1)11)15)が、今
後も妊娠を契機に生じ皮膚症状を特徴とした自己免疫疾患
として産科医の中でも周知されるべき疾患である。妊娠中
の治療を行う際には、皮膚科医や小児科医との連携を行っ
た周産期管理を心掛けることが肝要である。
文 献
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2) 新山奈々子, 天羽康之, 浜田祐子, 白井京美, 齊藤典充,
勝岡憲生. 妊娠と関連する皮膚病<臨床例>−⑦妊娠性
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3) 原田和俊, 島田眞路. 周産期の皮膚疾患・形成外科疾患
アトラス−妊娠性疱疹. 周産期医学. 2011;41(6)724-9.
4) 須戸龍男, 松本治朗, 高橋良樹, 山本晶子, 石黒達也, 吉
田吉信, 宮内東光, 望月隆, 林進. 妊娠性疱疹の(Herpes
gestationis)の1症例. 産科と婦人科1987;54(6)1189-92.
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遷延した難治性妊娠性疱疹の 1 例. 西日本皮膚科.
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11)安江厚子, 三田哲郎, 山田有紀. 妊娠性疱疹の 1 例.臨床
皮膚科.1991;45(3):221-3.
12)花輪書絵, 安藤典子, 原田和俊, 川村龍吉, 柴垣直孝, 島
田眞路. 水疱形成に乏しい妊娠性疱疹の 1 例. 臨床皮膚
科. 2011;65(1) 8-11.
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の影響.日本周産期・新生児医学会雑誌2004;40(4)682-6
14)安芸実扶子, 中村晃一郎, 倉持朗, 橋本隆, 土屋哲也. 妊
娠性疱疹の1例. 皮膚臨床. 2008;50(10)1278-9.
15)Semkova K, Black M. Pemphigoid gestationis :current
insights into pathogenesis and treatment. Eur J Obstet
Gynecol Reprod Biol. 2009;145(2):138-44.
(H26.11.4受付)
6
(6)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
SLE治療中に発症した若年外陰癌の1例
A Case of vulvar cancer with SLE in a young woman
東海大学医学部専門診療学系産婦人科
Tokai University School of Medicine Department of Obstetrics and
Gynecology
平野 結希 Yuki HIRANO
池田 仁惠 Masae IKEDA
楢山 知明 Tomoaki NARAYAMA
天津 慎子 Shizuko AMATSU
信田 政子 Masako SHIDA
平澤 猛 Takeshi HIRASAWA
石本 人士 Hitoshi ISHIMOTO
和泉俊一郎 Shun-ichiro IZUMI
三上 幹男 Mikio MIKAMI
概 要
高齢者に多いとされる外陰癌は、女性生殖器悪性腫瘍
の3∼5%と稀な疾患である。近年若年女性における外陰
上皮内病変の増加傾向がみられており、human
papillomavirus(HPV)感染との関連が示唆されている。今
回われわれは、systemic lupus erythematosus(SLE)の治療
中に発症した若年外陰癌の一例を経験したので、文献的
考察を加えて報告する。
症例は 28 歳、0 経妊 0 経産、未婚、身長 151 cm、体重
79 kg(BMI 35)
。17歳時より SLE の既往があり、免疫抑
制剤とステロイドの内服をしていた。初診時、左外陰部
に5×4 cm大の腫瘤を認め、両側鼠径リンパ節は触知しな
かった。組織診で扁平上皮癌と診断され、HPV-DNA タイ
ピング検査で16型、52型、58型が陽性であった。また画
像検査ではリンパ節転移及び遠隔転移は認められず、臨
床進行期ⅠB期と診断した。
術式はステロイド内服による糖尿病、肥満などを考慮
し、根治的外陰部分切除術を施行した。病理組織学的所
見は扁平上皮癌で、切除断端は深部断端陰性、側方断端
上皮内陽性で、脈管侵襲を認めた。また免疫組織化学染
色では HPV-high 陽性、HPV-low 陰性であった。術後創部
離解を認め皮弁形成術施行、術後化学療法としてパクリ
タキセルとシスプラチンを施行した。しかしながら、本
症例は治療に奏功せず増悪傾向を示した。
Key words : vulvar cancer, systemic lupus erythematosus
human papillomavirus infection
緒 言
外陰癌は、婦人科悪性腫瘍において比較的稀な疾患で
ある。近年若年女性における外陰上皮内病変の増加傾向
がみられ、human papillomavirus(HPV)感染との関連が示
唆され、外陰扁平上皮癌においても HPV 感染が40∼50%
に認められるとの報告がある1)。
今回われわれは、systemic lupus erythematosus(SLE)の
治療中に発症した若年外陰癌の一例を経験したので、文
献的考察を加え報告する。
症 例
患者:28歳、未婚、月経周期整、身長 151 cm、体重 79
kg、BMI 35
妊娠歴:0 経妊 0 経産、性交経験あり
既往歴:17歳より SLE にて、ステロイド(メドロール
8mg/日)、免疫抑制剤(アザチオプリン 50 mg/日)を
内服中。
ステロイド性糖尿病にてインスリン自己注射、メトホ
ルミン(メデット 500 mg/日)を内服中。
現病歴: 5 ヵ月前より外陰部腫瘤を自覚。2 ヵ月前より
外陰部腫瘤の増大傾向を認め、疼痛と出血を繰り返し、
当科初診となった。
初診時所見:左外陰部に3×3 cm大の腫瘤を認め、硬結、
膿瘍、圧痛及び出血を認めた(図 1)。診察上、腟壁・肛
門・尿道に明らかな進展はなく、両側鼠径リンパ節も触
知しなかった。
初診検査所見:細胞診は、外陰部 class Ⅲ、腟部 ASC-H、
内膜は陰性で、外陰部組織診は扁平上皮癌であった。
HPV-DNA タイピング検査(セキスイメディカルクリニチ
ップ HPV)では16型、52型、58型が陽性であった。また
CT 及び MRI 検査にてリンパ節転移、遠隔転移はなく、臨
床進行期ⅠB 期と診断した。血液検査では、SCC は 2.3
ng/ml(正常値 < 1.5 ng/ml)と上昇していた。ヘモグロ
ビン9.8 g/dlと軽度貧血を認め、空腹時血糖は 176 mg/dl、
HbA1c 6.4%と軽度高値を示し、その他肝機能、腎機能に
異常はなかった。
治療経過:患者は 28 歳と若年かつ未婚、肥満であり、
SLEとステロイド性糖尿病という内科的リスクを有してい
平成27年9月(2015)
7
図1 初診時外陰部肉眼所見
(7)
図2 初診時より10日目の増大傾向を示す外陰癌
図3 術中所見と摘出標本
たため、外科的治療にあたっては、患者の QOL を十分に
考慮した慎重な術式の選択が必要とされた。加えて、外
陰部腫瘍は初診時より10日後に3×3 cmから3×5 cmへ急
速に増大傾向を認めた(図2)
。
術式はステロイド性糖尿病、肥満などの合併症から術
後創部感染や離解のリスクが高いと予想され、また画像
検査にて両側鼠径リンパ節の腫大を認めなかったことか
ら、根治的外陰部分切除術を施行した。腫瘍辺縁より外
側(外陰側)は 15 mm のマージンを確保し切除可能であ
ったが、内側(腟側)は 10 mm のマージンで切除した
(図3)
。
最終病理所見は低分化型扁平上皮癌であり(図 4)、上
皮内伸展 50 mm、病変の厚さは約 7 mmであった。深部断
端は陰性であったが、側方断端上皮内(内側)は陽性で
あり、脈管侵襲が認められた(図 5)。また免疫組織化学
染色では HPV- high、34βE 12、CK 5/6、p 16、P 63で陽
性を示し、HPV - low、S -100、GCDFP -15は陰性であった。
術後経過: 術後第 5 病日に創部離解を認めたため、壊
死組織を切除し、第 22 病日に皮弁形成術を施行した。こ
の際切除した創縁部の病理診断は granulation tissue であっ
た。第41病日に皮弁離解部瘢痕切除術を施行した。
また組織が低分化型であること、側方断端上皮内(内
側)が陽性であることから、高率な局所再発とリンパ節
転移の可能性が示唆されたため、評価目的に第 50 病日に
PET-CT 検査を施行した。その結果、左鼠径部と外陰部に
集積を認め、局所再発及び左鼠径リンパ節転移が疑われ
た。また第 59 病日には左外陰部に 5 × 3 cm 大の硬結が出
現し、外陰細胞診で扁平上皮癌であった。第 62 病日より
TP 療法(パクリタキセル240 mg/body、シスプラチン70
mg /body、3 週間毎)を開始したが、ステロイド及び免
疫抑制剤の投与や化学療法による骨髄抑制から持続的な
弛緩熱と CRP 高値をきたし、また肝機能悪化やループス
腎炎の増悪など治療に難渋した。局所再発部位に対して
は放射線療法を検討したが、本人の同意が得られなかっ
た。化学療法施行中、新たな病変の出現や遠隔転移は認
められなかったが、4サイクル施行後 SCC は25 ng/mlと
上昇し、外陰部の再発病変はさらに増大傾向を示した。
これに対してレジメンの変更と再度放射線治療の併用を
提案したが、これ以上の積極的治療は望まれず緩和治療
目的に転院となった。
考 案
外陰癌は、全女性生殖器悪性腫瘍の3∼5%を占める比
較的稀な疾患であり、その 85 %が扁平上皮癌である。60
歳以上の高齢者に多いが、近年若年女性における外陰上皮
内病変の増加傾向がみられ、human papillomavirus(HPV)
感染に関連した若年外陰癌の増加が報告されている 2)。
また SLE は、若年女性に発症する慢性・多臓器性・自
己免疫性病因の高い炎症性疾患である。このような免疫抑
制状態を有する SLE 患者では、長期間の経過観察中に
HPV 関連腫瘍やその他、EBV、HBV、HCV などのウイル
スによって誘発される悪性腫瘍のリスクが増加するといわ
れている。Dreyer らは、一般集団と比較して、SLE 患者の
全体的な癌の標準化罹患比は1.6倍で、HPV が関連した悪
性及び前癌病変の標準化罹患比は2.3倍、そのうち腟/外
陰癌の標準化罹患比は9.1倍であると報告している 3)。
8
(8)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図4 病理所見 低分化型扁平上皮癌
図5 病理所見 脈管侵襲陽性
免疫抑制療法下では HPV 感染病変を有する SLE 患者は、
それを持たない SLE 患者や未治療の SLE 患者、健常女性
に比較して、Bリンパ球及び NK 細胞のレベルが有意に低
い。逆に HPV 感染病変のない SLE 患者のBリンパ球及び
NK 細胞のレベルは、健常女性と同等であるとの報告があ
る 4)。
おそらくハイリスク HPV 感染を有する SLE 患者は、疾
患関連あるいは治療誘導性に免疫不全状態を生じ、HPV の
排除に障害をきたすと推察される。その結果として HPV
感染は持続し、前癌病変や上皮内癌のリスク因子となる。
前癌病変や悪性腫瘍と SLE の因果関係は明確には解明され
てはいないが、自己抗体による免疫システムの活性化と治
療に用いる免疫抑制剤の両方の関与が重要な因子であり、
くわえて、HPV 感染は SLE 患者に性器悪性疾患を発症さ
せうる誘導因子のひとつである可能性があると考えられ
る。したがって SLE 患者においては、HPV 感染の有無と
その進行程度に厳重な注意が必要である。
次に外陰癌の治療方針についてであるが、主たる治療法
は手術療法である。鼠径リンパ節転移の有無は極めて重要
な予後因子であることから、1 cm 以上の十分なマージンを
確保した原発巣の摘出とともに、鼠径リンパ節郭清が重要
である。2008年に FIGO 進行期分類が改訂され、腫瘍径よ
りもリンパ節転移の個数や大きさを重要視している。また
QOL を考慮した切除範囲及びリンパ節郭清範囲の縮小手術
への取り組みもみられ、病期により原病巣の摘出と鼠径リ
ンパ節郭清をどのように組み合わせるかが問題となる 5)。
本症例は術前検査において、リンパ節転移陰性と考えら
れたⅠB期症例であったが、術後早期に PET-CT 検査で左
鼡径リンパ節転移が疑われたことから、後方視的に検討す
れば、根治的外陰部分切除と鼠径リンパ節郭清を施行し、
病理学的にリンパ節転移の有無を確認すべきであったと考
えられる。しかしながら、術前の画像検査で明らかなリン
パ節転移が認められなかったこと、ステロイド性糖尿病の
合併や肥満から術後創傷治癒過程の遅延が予期されたこ
と、未婚の若年女性であったことから、術式を根治的外陰
部分切除のみにとどめざるをえなかった。
また SLE 患者では術後補助化学療法を施行する際にも、
糖尿病や腎障害などの合併症が治療の弊害となることが多
く、化学療法中はより厳重な基礎疾患のコントロールが必
須となる。そのために入院期間の延長や内服増量によって、
患者の QOL 低下につながる。本症例においても、ステロ
イド及び免疫抑制剤の投与や化学療法による骨髄抑制から
弛緩熱と CRP 上昇きたし、また肝機能悪化やループス腎
炎の増悪など治療に難渋した。
本症例を経験し、長期にステロイドや免疫抑制剤を投与
されている SLE 患者では、ハイリスクHPV 感染を念頭に
おき、健常女性に比して厳重な HPV 感染の定期的なスク
リーニング検査を行う必要があると考えられた。外陰癌は
婦人科悪性腫瘍の中でも稀な疾患であり、国内に確立され
たガイドラインは存在しないのが現状であるが、今後さら
に症例を集積し QOL に配慮した治療の個別化を図ること
が大切であると考えられる。
本論文の要旨は第124回関東連合産科婦人科学会で発表
した。
本論文に関わる著者の利益相反:なし
文 献
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(H26.12.3受付)
10 (10)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
自然単胎妊娠の後期にHyperreactio Luteinalisと診断した1例
A case of hyperreactio luteinalis diagnosed at the third trimester in a spontaneously conceived singleton pregnancy
新横浜母と子の病院 産婦人科
Shinyokohama Women's and Children's Hospital
大沼 一也 Kazuya ONUMA
石原 楷輔 Kaisuke ISHIHARA
稲坂 淳 Jun INASAKA
島田 洋一 Youichi SHIMADA
崎山 武文 Takefumi SAKIYAMA
塩原 和夫 Kazuo SHIOHARA
概 要
Hyperreactio Luteinalis(HL)は hCG(human chorionic
gonadotropin)の刺激に対しての卵胞の過剰反応である。
通常、両側性の多嚢胞性卵巣腫瘤と hCG 高値を主徴とし、
妊娠何れの時期にも発症する。我々は妊娠後期に無症候
性両側卵巣腫瘤を認め、HL と診断し、分娩後に正常状態
に帰結した症例を経験したので報告する。
症例は 32 歳、2 経妊 0 経産(2 回人工流産)。無月経を
主訴に当院を受診、妊娠8週と診断。その際、両側卵巣は
正常大であった。妊娠経過は順調であったが妊娠 36 週に
超音波検査で子宮体部両側に約13×10 cm大の多嚢胞性腫
瘤を検出した。超音波及び MRI 画像は良性卵巣腫瘤の所
見であり、血液内分泌検査で hCG、テストステロンが異
常高値を示した。CA 125 が高値であったため悪性腫瘍の
疑念を残したが、hCG 高値と両側多嚢胞性腫瘤という特
徴的所見から HL と判断し、経腟分娩を遂行し無事出産と
なった。産褥経過は順調で、産褥30日に hCG、CA 125は
基準値に、産褥 45 日には両側卵巣は正常大に、テストス
テロン値も正常に復した。
本症例は自然単胎妊娠 36 週に検出された両側卵巣腫瘤
であったが、hCG の異常高値と両側多嚢胞性腫瘤という
特徴的所見から HL と判断し待機的管理のもと無事経腟分
娩に至った。分娩後 45 日までにすべての検査所見は正常
に復し、HL を確認した。
多嚢胞性腫瘤が検出されたが、hCG が異常高値であるこ
とから HL と判断し経腟分娩を遂行し、産褥時にはすべて
の所見が正常状態に帰結した症例を経験しので、若干の
文献的考察を加え報告する。
症 例
33歳、既婚。既往歴・家族歴:特記すべき事項なし。
妊娠・分娩歴: 2 経妊(2 回自然妊娠;いずれも人工流
産)
、0 経産。月経歴:周期40日型、整順。現病歴:最終
月経から無月経を主訴に来院。経腟超音波検査で CRL
13.7 mm、胎児心拍も認め、妊娠 8 週 4 日と診断した。同
時に観察した両側卵巣に異常所見は検出されなかった
(図1)
。妊娠11週の健診で胎児発育は順調、この時も骨盤
内に卵巣腫瘤など異常所見は認めなかった。以後、妊娠
は順調に経過し、特記すべき症状の訴えはなかった。妊
娠 36 週の定期健診で、母体の体重増加と両下肢の軽度浮
腫を認めたが生理的範囲であり、また血圧(116 /73
mmHg)及び尿定性検査に異常はなかった(蛋白・糖とも
陰性)。胎児発育は順調で、Non stress test は、reactive
pattern を示し reassuring fetal status であった。しかし、腹部
触診時に子宮体上部の両側に弾性軟で無痛性の腫瘤を触
知したため超音波検査を施行した。腫瘤は両側とも大小
多数の嚢胞(2 × 2 ∼ 4 × 6 cm)から構築され、大きさは
それぞれ約 130 mm×100 mm の多嚢胞性であった(図2)
。
各嚢胞壁は薄く平滑で、突出する充実性結節や血流所見
Key words : 1. 黄体化過剰反応、2. 両側多嚢胞性卵巣腫瘤、 は検出されず、腹水所見も認めなかった。超音波学的に
3. hCG 異常高値、4. 自然単胎妊娠
は両側とも良性の多嚢胞性卵巣腫瘤の所見であった。3日
後に施行した MRI 検査も超音波検査と同様の良性卵巣嚢
緒 言
腫の診断であった(図3)
。血液検査所見(表1)では hCG
Hyperreactio Luteinalis(黄体化過剰反応 以下 HL)は高
(123704.0 mIU/ml)
、エストラジオール(67830 pg/dl)
、
hCG(human chorionic gonadotropin)の状態または hCG に
テストステロン(572.3 ng /dl)が異常高値を示し、LH
対する高感受性により、両側卵巣が多嚢胞性に腫大する
(0.1 mIU/ml)
、FSH(0.2 mIU/ml)
、TSH(0.765μIU/ml)
反応性変化である。腫瘤の大きさは様々で何れの妊娠時
は基準値にあった。腹部膨満感、疼痛、呼吸困難などの
期にも認められ、自然妊娠では比較的まれである。妊娠
随伴症状はなく、また、心電図や胸部 X-P に異常を認め
中期以降に検出される症例は多房性卵巣腫瘍との鑑別が
なかった。
必要とされ、内分泌検査や画像検査による検討が有効で
一方、腫瘍マーカー CA 125は、232 U/mlと妊娠後期と
ある。今回我々は、自然単胎妊娠 36 週に子宮体部両側に
しては異常高値を示した。CA 125 の妊娠時の評価には注
平成27年9月(2015)
11 (11)
図1 初診時超音波所見 両側卵巣は正常大
図2 妊娠36週時腹部超音波所見 両側卵巣多嚢胞性腫瘤を認める
図3 MRI検査所見 大小多数の嚢胞から構築された、約13 cm大の多嚢胞性腫瘤を両側に認める
図4 産褥45日時超音波所見 正常大に復した両側卵巣
12 (12)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
表2 産褥期1カ月時血液検査所見
表1 妊娠37週時 血液検査所見
*各基準値は、妊娠末期での値を示す。但しFSH, LHについては、妊娠中の基
準値は不明
意を要するが、多房性卵巣腫瘤という観点から多房性粘
液性卵巣腫瘍の可能性の疑念はあった。しかし超音波・
MRI 画像所見と特徴的な内分泌所見(hCG 及びテストス
テロンの異常高値)から HL が最も考えられた。
患者には、腫瘤が悪性である可能性は低いが今後十分
な管理が必要であること、随伴症状がなければ経腟分娩
は可能なこと、しかし腫瘤の急激な発育や茎捻転など急
性腹症などの症状が出現すれば緊急開腹手術になること、
など説明しインフォームドコンセントを得て自然経腟分
娩の方針とした。
妊娠 36 週以降、腫瘤の大きさに変化なく、また腹痛な
ど随伴症状もなく順調に経過した。妊娠 38 週 4 日に自然
陣痛が発来、経腟分娩は順調に進行し無事出産を終了し
た。児は健常男児、体重 3118 g、Apgar score は1分9点、5
分9点であった。テストステロン高値による母体のしわが
れ声、多毛、陰核肥大など、また、男児の性器異常(精
巣腫大)や多毛などの男化徴候は認めなかった。分娩後、
急激な子宮縮小に伴う腫瘤の茎捻転が心配されたが発症
しなかった。両側腫瘤は産褥経過に伴い急激に縮小し、
産褥30日に約1/2となり、産褥45日には正常大になった
(図4)
。hCG 及びエストロゲンは産褥30日に、テストステ
ロンは産褥45日に、それぞれ基準値に復した。CA 125も
産褥 30 日には、21 U/ml と基準値に復し、同時に測定し
たCA 19-9は6.6 U/mlと基準値内であった(表2)
。
本症例は、妊娠後半期に検出された両側多嚢胞性腫瘤
であったが、特徴的な画像所見及び内分泌所見から HL が
最も考えられた。産褥 45 日にすべての検査所見が正常に
復し、HL であったことが確認された。
考 察
Hyperreactio luteinalis(黄体化過剰反応、HL)の明確な
etiology は不明である。臨床的には hCG の異常高値の状態
または hCG の高感受性に由来する反応性の変化で両側卵
巣が多房性に腫大する病態である 1)2)。
以前は妊娠初期の絨毛性疾患、多胎妊娠、排卵誘発剤
使用後など、急激に上昇した hCG の異常高値が誘因と考
えられていたが、近年 hCG が基準値にある自然妊娠の
HLの報告が散見され、要因の一つとして hCG の高感受性
が指摘されている 2)3)。これに関し、HL を繰り返す症例
を検討し、FSH 受容体変異が hCG の高感受性に関与する
とし、FSH 受容体変異が注目されている 4)5)。
自然単胎妊娠における HL はまれとされるが、何れの妊
娠時期でも発症する。報告されている HL の発症時期は妊
娠初期(first trimester)が16%、妊娠中期(second trimester)
が 14 %、妊娠後期(third trimester)が 54 %、産褥期が
16 %であり、third trimester に多い 6)7)。HL は随伴症状が
少ないこともあり妊娠中期以降に超音波検査で気付くこ
とが多く、また分娩後や帝王切開時に偶然判明する症例
もある 6)。本症例も自然単胎妊娠 36 週に超音波検査で初
めて両側の多嚢胞性腫瘤に気付いたが、正確には何時頃
から発生していたか不明である。妊娠経過が順調である
ことが多いこともあり、突然発覚する腫瘤に困惑するが、
両側の多嚢胞性卵巣腫大と hCG 異常高値という特徴的所
見が確認された場合には HL と判断される 2)。本症例でも、
内分泌検査で hCG やテストステロンの異常高値を確認し
た。しかし、HL の中には hCGが基準値にある症例や片側
卵巣に多嚢胞性腫瘤が発生する HL もあり、診断には慎重
な判断を要する 7)。
腫瘤全体の大きさは 3 ∼ 37 cm と様々である 6)。本例は
両側とも 13 cm × 10 cm の大きさで随伴症状は全くなかっ
た。通常、随伴症状が少ないとされるが、腹腔内を満た
す巨大な HL、腫瘤の茎捻転、嚢胞内出血などから重篤な
病態に陥り開腹手術を余儀なくされる症例もある。C Van
Holsbeke ら 7)は妊娠18週に、田中ら 8)は流産後に、それ
ぞれ肝臓にまで達する巨大な腫瘤を認め、全身状態の悪
化から開腹手術をせざるを得なかった。テストステロン
高値の症例には、25 ∼ 30 %に男性化徴候(しわがれ声、
尋常性ざ瘡、多毛)がみられ、HL の特徴的な所見の一つ
として診断の助けになる 6)9)。本症例ではテストステロン
が異常高値を示したがが、男性化徴候は認めなかった。
平成27年9月(2015)
HL 腫瘤の検出に超音波検査は有用である。腫瘤の画像
は大小さまざまな嚢胞から構築され、各嚢胞壁は薄く平
滑で、嚢胞内部は無エコ−である。この所見は腫瘤が大
きくなるに従い顕著になる。腫瘤壁から突出する凹凸不
正で充実性部や嚢胞壁の血流所見は認めない 10)。腫瘤中
央における断層像は、多数の嚢胞が腫瘤壁に向かって放
射状に配列される如き形態から「spoke wheel appearance」
と表現され、特徴的所見の一つとされる 7)。一方、HL の
画像所見が粘液性多房性腫瘍、とくに境界型の粘液性多
房性腫瘍に類似するとし、拙速に外科的手術に至る症例
があるとされる。妊娠に合併した両側性多房性腫瘤を認
めた場合は、画像所見の他、hCG、テストステロンなど
の内分泌的所見や臨床症状などを検討し、できるだけ不
要な手術は避けることが重要であろう 11)。一般に、粘液
性多房性腫瘍の嚢胞内部は、粘液を反映し、やや高輝度
の点状または顆粒状エコ−が検出される。また悪性腫瘍
であれば腫瘤壁から突出・隆起あるいは凹凸不正の高輝
度領域を認め血流が観察される。良・悪判定の参考には
日本超音波医学会の卵巣腫瘤のエコーパターン分類 12)や
カラー・パルスドプラ法の血流所見が有用であろう。
MRI 検査は超音波検査同様に重要である。HaimorKochman et al 9)は MRI 検査と超音波検査の有用性を比較
検討し、MRI は超音波検査以上の所見が得られなかった
とした。しかし、MRI は、超音波検査以上に客観的で精
密な画像が取得でき HL の診断には欠かせないと考える。
本例の MRI 検査でも、腫瘤は良性所見で両側性卵巣腫瘤
とされた。両者の画像所見からもHLが最も推測され、よ
り確実な診断に有用であった。
腫瘍マーカーである CA 125は、エストロゲンの影響を
受け、また脱落膜からの産生もあるために妊娠時には上
昇し、非妊娠時と異なり、その卵巣腫瘤の良悪性診断に
対する評価には注意を要する 13)14)。 C Van Holsbeke 7)ら
は妊娠 18 週の巨大 HL の症例に、田中ら 8)は流産後の巨
大 HL の症例に、CA 125がそれぞれ442 U/mld、395 U/
ml の異常高値を示したことを報告している。本症例も、
画像所見、血液検査所見から HL がも最も考えられたもの
の、CA 125 が232 U/mlと異常高値を示し、悪性腫瘍性病
変の疑念は残存した。
HLの管理は注意深い経過観察による待機的管理が基本
であり、随伴症状がなければ分娩様式は自然経腟分娩が
選択される 15)16)。分娩による急激な位置変化は茎捻転を
惹起する可能性があり監視を怠らない。腫瘤の消失まで
の期間は分娩後 2 − 3 ヵ月、長くても 6 ヵ月以内には縮
小・正常化する。もし長期間持続するか、巨大化する場
合には悪性腫瘍を疑う 9)。僅かでも悪性腫瘍の疑念があれ
ば、HL の確認のためにも、分娩終了後も腫瘍マーカー、
hCG 値、画像所見を継時的に検討すべきだ。最終的にす
べての所見が正常状態へ帰結する確認が大切であろう。
本症例は自然単胎妊娠の後期に発症した HL であった。
経腟分娩後も継時的に諸検査を施行した。産褥 30 日に
hCG, CA 125 は基準値に復し、同時に計測した CEA, CA
19-9 も基準値にあった。卵巣腫瘤は次第に縮小し産褥 45
13 (13)
日に正常大に復し HL を確認した。
今回の症例は、hCG の異常高値による黄体化過剰反応
の病態と推測された。
文 献
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神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
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18)Dashe JS, Casey BM, Wells CE, McIntire DD, Byrd EW,
Leveno KJ, Cunningham GC. Thyroid-stimulating Hormone in
singleton and twin pregnancy: Importance of gestational agespecific reference ranges. Obstet Gynecol. 2005;106:753-757.
19)Takahashi K, Yamane Y, Yoshino K, Shibukawa T,
Matsunaga I, Kitao M. Studies on serum CA125 levels in
pregnant women. Acta Obst Gynaec Jpn 1985;37:1931-1934.
(H26.12.7受付)
平成27年9月(2015)
15 (15)
腹腔鏡下腫瘍摘出術後に診断された境界悪性あるいは悪性卵巣腫瘍症例の検討
Laparoscopic management of unexpected borderline and malignant ovarian tumors
けいゆう病院産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Keiyu Hospital
持丸 佳之 Yoshiyuki MOCHIMARU
大谷 利光 Toshimitsu OHTANI
岩佐 尚美 Naomi IWASA
櫻井 由美 Mayumi SAKURAI
倉c 昭子 Akiko KURASAKI
松村 聡子 Satoko MATSUMURA
永井 宣久 Nobuhisa NAGAI
荒瀬 透 Toru ARASE
大石 曜 Akira OHISHI
中野眞佐男 Masao NAKANO
概 要
術前の画像診断等により良性卵巣腫瘍と診断された症
例に対する摘出手術は、低侵襲性、短い入院期間、審美
的な利点などから腹腔鏡下手術が近年普及しており、腫
瘍のみを卵巣から剥離摘出することも多い。一方で、そ
の中には術後病理診断で境界悪性腫瘍あるいは悪性腫瘍
と診断される症例が存在することも諸家の報告するとこ
ろである。本報告では当院において腹腔鏡下手術を施行
した卵巣腫瘍症例のうち、術後に境界悪性あるいは悪性
の診断となった症例について検討した。2011年1月∼2013
年9月に良性卵巣腫瘍の術前診断で腹腔鏡下手術を施行し
た症例は329例で、そのうち術後病理診断で境界悪性腫瘍
は5例、悪性腫瘍は2例認められた(329例中7例で1.9%)
。
境界悪性腫瘍の内訳は漿液性腫瘍が 1 例、粘液性腫瘍が 3
例、明細胞腫瘍が1例で、悪性腫瘍はともに成熟嚢胞性奇
形腫の悪性転化であった。良性腫瘍群と境界悪性・悪性
腫瘍群とのあいだでは腫瘍径で有意差が認められ(P <
0.01)、術前に明らかな所見のない卵巣腫瘍に対しても腫
瘍径に応じて術中迅速病理検査を検討することは有用で
あると考えられた。
Key words : laparoscopic surgery, borderline ovarian tumor,
ovarian cancer
緒 言
近年、腹腔鏡下手術の普及は目覚ましく良性卵巣腫瘍
に対しては一般的な手技になりつつあるといえる 1)。また
生殖年齢の女性に対しては挙児希望がない場合を除き、
卵巣の温存手術が選択される。画像検査の精度向上も相
まって、不要な開腹手術や切除範囲の拡大が避けられる
ようになったことは大きな進歩であろう。
一方で術前の画像検査や腫瘍マーカーによる診断には
限界があり、ときに術後病理検査において予期せぬ境界
悪性腫瘍や悪性腫瘍を認めることがある。この場合、術
中被膜破綻があれば upstaging していることになる。また
開腹手術と比べ腹腔鏡下手術で術中被膜破綻や不完全な
病期診断は有意に増加するとの報告もある 2)。良性卵巣腫
瘍との術前診断であっても、注意して対応することが望
ましい症例の傾向と、術中の手技を含めた対策を模索し
ていく必要があろう。
本報告では2011年1月より2013年9月に当院で腹腔鏡下
に摘出術を行った、術前診断が良性の卵巣腫瘍症例329例
に関して、そのうち術後病理検査結果が境界悪性あるい
は悪性腫瘍であった7例とその他の症例の違いや傾向を検
討した。
方 法
2011年1月から2013年9月に当院で腹腔鏡下に摘出した
卵巣腫瘍症例329例の後方視的な検討を行った。当院では
術前画像評価で卵巣悪性腫瘍が強く疑われる場合には基
本的に開腹手術としており、今回検討した症例において
も術前にエコー及び MRI で悪性を強く疑う所見(嚢胞・
充実性部分の混在、被膜・隔壁の肥厚や壁在結節の有無、
強い造影効果、拡散強調像での拡散能低下、著明な腹水
貯留など)を認めず、腫瘍マーカーも補足的に用いた上
ですべて良性腫瘍との術前診断であった。このうち術後
病理検査結果で境界悪性あるいは悪性腫瘍であった例と
そうではなかった例とのあいだで、年齢及び腫瘍の最大
径との関係性に有意差があるかどうかを Mann-Whitney 検
定を用いて調べた。また境界悪性あるいは悪性腫瘍であ
った7例に関しては、異常値を示した腫瘍マーカーを含め
た経過を提示する。なお、上記329例には子宮筋腫等への
手術適応で腹腔鏡下手術を施行した際に併せて卵巣腫瘍
を摘出した 52 例が含まれている。また上記の通り悪性卵
巣腫瘍を疑う場合は基本的に開腹手術としており、良性
と考えられた場合は当院では術中迅速病理検査を行って
16 (16)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
表1 境界悪性/悪性腫瘍例の一覧
図1 当院で腹腔鏡下に摘出した卵巣腫瘍の組織型
同一症例に複数の種類の卵巣腫瘍を認めた場合はそれ
も計上している
LMP:境界悪性腫瘍、MCT:成熟嚢胞性奇形腫、*:腫瘍マー
カーが基準値(閉経後CA 125は20 U/ml 以下)を超えるもの
いないため、結果的に卵巣腫瘍への腹腔鏡下手術の際に
当院では迅速病理検査をほとんど行っていない。
成 績
腹腔鏡下に摘出された卵巣腫瘍の組織型を図1にまとめ
た。同一症例に複数の種類の卵巣腫瘍を認めた場合は重
複して数えているが、成熟嚢胞性奇形腫が最も多く
43.1%を占め、それに内膜症性嚢胞が続き28.6%であった。
このうち境界悪性あるいは悪性腫瘍症例は 7 例(329 例中
1.9%)で、内訳は境界悪性腫瘍5例(漿液性腫瘍1例、粘
液性腫瘍3例、明細胞腫瘍1例)
、悪性腫瘍2例(ともに悪
性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫)であった。良性腫瘍症
例の群と境界悪性あるいは悪性腫瘍症例の群とのあいだ
で平均年齢は 39.2 歳(15 ∼ 84 歳)と 42.7 歳(31 ∼ 55 歳)
であり有意差を認めなかったが、腫瘍最大径の平均値は
6.6 cm(2.0∼17.0 cm)と 9.8 cm(5.7∼17.4 cm)であり有
意差が認められた(P <0.01)
。
境界悪性あるいは悪性腫瘍を認めた7症例の臨床経過は
以下の通りである。なお、術前後のマーカー値を表1にま
とめた。
1 例目は 55 歳(閉経 53 歳)、2 経妊 2 経産。術前検査で
は CA 125 の上昇(89.6 U/ml)を認めたが骨盤腔 MRI で
は明らかな悪性所見なく、径 10.2 cmの左卵巣漿液性腫瘍
が疑われたため、腹腔鏡下左付属器摘出術を施行した。
術中腹腔洗浄細胞診は陰性であったが卵巣は脆弱で術中
被膜破綻あり、病理検査結果は境界悪性漿液性腫瘍であ
った。なお、骨盤内に明らかな腹膜病変を認めなかった。
追加手術と腹腔内検索を推奨するが拒否され、以後は2-4
ヵ月おきの内診・エコー・腫瘍マーカー採血、そして半
年おきの胸腹部 CT 検査でフォローアップを行い、術後3
年の時点では再発を認めていない。
2 例目は 31 歳、0 経妊(性交歴なし)。2 年前に骨盤腔
MRI で径 5.6 cm の内膜症性嚢胞を疑う所見を認めていた。
徐々に増大傾向(術前で径 7.4 cm)あるが強く悪性を疑
う所見ないことから腹腔鏡下左卵巣腫瘍摘出術を施行し
た。術中被膜破綻あり、病理検査結果は境界悪性粘液性
腫瘍であった。なお、骨盤内に明らかな腹膜病変を認め
なかった。追加手術と腹腔内検索を推奨するが拒否され、
以後は半年おきの腫瘍マーカー採血及び胸腹部 CT 検査で
フォローアップを行い、術後2年8ヵ月の時点では再発を
認めていない。
3例目は36歳、3経妊 0経産、不妊治療中。術前検査で
腫瘍マーカーの上昇はなく、骨盤腔 MRI にて径 5.7 cmの
左卵巣内膜症性嚢胞が疑われ、腹腔鏡下左卵巣腫瘍摘出
術を施行した。腹腔洗浄細胞診は陰性、術中被膜破綻な
し。骨盤内に明らかな腹膜病変を認めなかった。病理検
査結果は境界悪性粘液性腫瘍であった。追加手術と腹腔
内検索を推奨するが拒否され、以後は 2-4 ヵ月おきの内
診・エコー・腫瘍マーカー採血、そして半年おきの胸腹
部 CT 検査でフォローアップを行い、術後2年9ヵ月の時
点では再発を認めていない。
4 例目は 50 歳、2 経妊 2 経産。術前検査で腫瘍マーカー
の上昇はなく、骨盤腔 MRI にて骨盤腔を占拠する径 17.4
cm の嚢胞性病変を認めたが明らかな悪性所見は認めなか
った。腹腔内で内容吸引を行ったのち、腹腔鏡下左付属
器摘出術を施行した。術中腹腔洗浄細胞診は陰性であっ
たが腫瘍内容の腹腔内への漏出あり、病理検査結果は境
界悪性粘液性腫瘍であった。なお、骨盤内に明らかな腹
膜病変を認めなかった。追加手術と腹腔内検索を推奨す
るが拒否され、以後は2-3ヵ月おきの内診・エコー・腫瘍
マーカー採血、そして半年おきの胸腹部 CT 検査でフォロ
ーアップを行い、術後2年3ヵ月の時点では再発を認めて
いない。
5 例目は 44 歳、2 経妊 1 経産。術前検査で腫瘍マーカー
の上昇はなし。骨盤腔 MRI にて径 9.6 cmの左卵巣腫瘍が
認められ、一部に造影効果のある充実成分(拡散強調像
にて信号上昇なし)があるため出血性嚢胞を伴う線維腫
や Brenner 腫瘍を疑い、腹腔鏡下左付属器摘出術を施行し
た。腹腔洗浄細胞診は陰性だったが術中被膜破綻あり、
病理検査結果は境界悪性明細胞腫瘍であった。なお、骨
平成27年9月(2015)
17 (17)
盤内に明らかな腹膜病変を認めなかった。追加手術と腹
腔内検索を推奨するが拒否され、以後は 2 ヵ月おきの内
診・エコー・腫瘍マーカー採血、そして半年おきの胸腹
部 CT 検査でフォローアップを行い、術後1年11ヵ月の時
点では再発を認めていない。
6 例目は 43 歳、0 経妊。術前検査では CA 19-9 1110U/
ml、SCC 5.4 ng/mlと腫瘍マーカーの上昇あるが、骨盤腔
MRI にて径 9.8 cm の右卵巣成熟嚢胞性奇形腫とその軽度
の茎捻転が疑われ、悪性所見は明らかではなかったため
腹腔鏡下右卵巣腫瘍摘出術を施行した。腹腔洗浄細胞診
は陰性だったが術中被膜破綻あり、病理検査結果は悪性
転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫(扁平上皮癌)であった。
初回手術後1ヵ月で開腹下に再手術とし、腹式単純子宮全
摘、両側付属器摘出、骨盤及び傍大動脈リンパ節郭清、
大網切除まで行った。右卵巣にわずかな残存病変が認め
られた他は腹腔洗浄細胞診も陰性であり、術後 TC 療法
(パクリタキセル 180 mg/m2、カルボプラチン AUC 6)を
6周期行った。初回術後から腫瘍マーカーは正常化し、再
手術後3年間再発を認めていない。
7例目は40歳、0経妊。術前検査では腫瘍マーカーの上
昇はなく、骨盤腔 MRI にて径 8 cmの右卵巣成熟嚢胞性奇
形腫と径 3.5 cm の左卵巣内膜症性嚢胞が疑われ、腹腔鏡
下両側卵巣腫瘍摘出術を施行した。腹腔洗浄細胞診は陰
性だったが術中被膜破綻あり、右卵巣腫瘍の病理検査結
果は悪性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫(汗管癌)であっ
た。悪性転化を認めるのが腫瘍のごく一部であり、妊孕
能温存を強く希望したため、初回手術後1.5ヵ月で開腹下
に再手術とし、右付属器摘出、大網切除、腹腔内の洗浄
細胞診及び複数の部位での擦過細胞診、骨盤及び傍大動
脈リンパ節の触診によるリンパ節腫大の否定を行った。
細胞診も含めて残存病変を疑う所見はなく、挙児希望あ
るため不妊治療を開始している。2ヵ月おきの内診・エコ
ー・腫瘍マーカー採血、そして半年おきの胸腹部 CT 検査
でフォローアップを行い、再手術後2年4ヵ月の時点では
再発を認めていない。
考 察
良性卵巣腫瘍への治療方法としては確立された感のあ
る腹腔鏡下手術も、境界悪性あるいは悪性腫瘍に対して
はいまだ議論の対象であり推奨されてはいない 1)3)。その
ような中で、良性卵巣腫瘍の診断で手術を行う際には予
期せぬ境界悪性あるいは悪性腫瘍が認められる率は0.4%
∼ 4.2 %とされ 4)、当院で良性卵巣腫瘍の術前診断で手術
を行い境界悪性あるいは悪性腫瘍であった症例が1.9%で
あったことはおおむね諸家の報告する通りであるが、そ
のリスクを減らす工夫がさらに必要であると考えられた。
特に卵巣境界悪性腫瘍の3分の1は40歳より若年で発生す
るとされ、卵巣を温存する腹腔鏡下腫瘍摘出術の対象と
なる可能性がある 5)。そのため卵巣腫瘍には悪性を示唆す
る明らかな所見がない場合であっても慎重な対応が望ま
しいと考えられる。
巨大卵巣腫瘍への腹腔鏡下摘出術に際して Hong ら 6)は
図2 腫瘍径により卵巣境界悪性・悪性腫瘍を良性腫瘍と
判別をする際のROC 曲線
▲が腫瘍径 8 cm とした場合で、近似曲線のAUC は0.808
となる
術中被膜破綻に伴う悪性腫瘍の upstaging や再発リスク増
加を避けるために次のようなことを提唱している。回収
バッグを利用すること、腹腔内で内容吸引をする場合も
可能な限りバッグ内で行うこと、内容物を吸引した器具
を再利用しないこと、トロッカーの術中抜去・再挿入を
避けること、そして術中迅速病理検査を行うことなどで
ある。当院では回収バッグとして EZ パース (八光商事)
を用いており、前述のようなバッグ内での操作を行うに
は腫瘍径 5 ∼ 6 cm を超えると困難と考えている。そのた
め、さらに巨大な腫瘍に対しては下腹部を小切開しラッ
プディスクミニ (八光商事)を用いて、直視下に卵巣表
面へ医療用接着剤でビニール袋を接着し内容吸引を行う
手技 7)も採用している。ポート部を含めた術創内への再
発を避ける意味合いでも回収バッグあるいはウーンドリ
トラクターの使用は有用であるかもしれない。
また、Pados ら 4)は術中迅速病理検査等の慎重な対応を
するべき術前超音波検査所見として、腫瘍径> 8 cm、中
隔肥厚> 3 mm、嚢胞壁肥厚≧ 3 mm、乳頭状隆起> 3 mm、
充実成分の存在、腹腔内液体貯留などを挙げている。腫
瘍径のみにより卵巣境界悪性・悪性腫瘍を良性腫瘍と判
別すると仮定したときの ROC 曲線を当院での結果から作
成し図 2 に示す。腫瘍径 8 cm 以上を基準に術中迅速病理
検査を行うことにしていたとすると、感度 71.4 %、特異
度 76.4 %で境界悪性・悪性腫瘍を迅速病理検査に回すこ
とができていたこととなる。術中迅速病理検査について
は卵巣腫瘍全例に行う方針の施設もあるようだが、施設
によっては現場の人員などの理由でそれが難しい場合も
あることから、術前画像所見から迅速病理検査を行うこ
のような基準を設けることは正確な診断、治療を行う上
で有益と考えられた。
腹腔鏡下に卵巣腫瘍の手術を行うにあたり、術中被膜
破綻のリスクが開腹手術と比べて有意に増加するとされ
る 1)2)一方で、卵巣腫瘍が大きければ腫瘍そのものの重
量で剥離層が判別しやすくなり腹腔鏡下の腫瘍摘出は容
易になるという意見もある 6)。また卵巣境界悪性腫瘍に対
18 (18)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
する腹腔鏡下手術では開腹手術と比べて不完全な病期診
断や再発率が有意に増加するが、標準的な治療を行ってい
く上では生存率に差はないとされている 1)2)。境界悪性卵
巣腫瘍に対し腫瘍摘出術のみで終わった場合の再発率が12
∼ 58 %、片側付属器摘出術に対側卵巣の腫瘍摘出あるい
は生検とした場合でも再発率0∼20%とされており 8)、境
界悪性卵巣腫瘍の術後再発は 3 年以上(中央値 4.7 年)経
過してから起こることが多いとの報告 9)もある。今回の
検討においては標準的な治療を完遂できていない症例が
多く、将来的な再発に対し長期にわたる慎重なフォロー
が必要となる。今後は改めて標準的な治療を行うことを
前提とした上で、画像検査で悪性が強く示唆されない卵
巣腫瘍の摘出手術は積極的に腹腔鏡下で行うことはその
ままに、その他の所見がなくとも腫瘍径 8 cm を超えるよ
うな大きな腫瘍であれば術中迅速病理検査を行って追加
手術の適否を検討するようにしていきたい。
文 献
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(H27.1.26受付)
平成27年9月(2015)
19 (19)
当院における純粋型子宮体部漿液性腺癌13例の治療成績
Retrospective study of 13 patients with uterine serous adenocarcinoma treated at our Hospital
北里大学産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Kitasato University
School of Medicine
古川 正義 Seigi FURUKAWA
岩瀬 春子 Haruko IWASE
小野 重満 Shigemitsu ONO
高田 恭臣 Toshio TAKADA
新井 努 Tsutomu ARAI
新井 正秀 Masahide ARAI
恩田 貴志 Takashi ONDA
概 要
【目的】子宮体部漿液性腺癌の臨床病理学的検討を行
い、診断、治療上の問題点を明らかにすること。
【方法】2008 年∼ 2012 年に、手術を含む治療を行い、
純粋型漿液性腺癌と診断された子宮体癌症例 13 例を後方
視的に検討した。生存率には Kaplan-Meier 法を用い、Logrank 法で検定を行った。
【結果】年齢の中央値は 63 歳(44 ∼ 73 歳)、進行期は
Ⅰ期6例(46%)
、Ⅱ期1例(8%)
、Ⅲ期4例(31%)
、Ⅳ
期 2 例(15 %)で主訴は 11 例(85 %)が閉経後の不正出
血であった。内膜細胞診は陽性・疑陽性が 12 例(92 %)
で、組織診と併せて9例(69%)で治療前に子宮体部漿液
性腺癌を診断し得た。CA 125 陽性は 5 例のみで、原発巣
の MRI 所見はⅠ/Ⅱ期7例中5例で内膜は菲薄化していた。
内性器全摘に加え、骨盤節郭清、傍大動脈節郭清、大網
切除は11例、7例、4例で施行され、12例で術後補助化学
療法が行われた。全症例の5年生存率と5年無増悪生存率
は、73.8%、61.5%であったが、Ⅰ/Ⅱ期症例では100%、
83.3%と良好であった。
【考察】早期の子宮体部漿液性腺癌の予後は良好で、
早期診断の重要性が示唆された。早期症例では画像や腫
瘍マーカーの異常所見に乏しいが、細胞診・組織診での
検出率は高く、閉経後の不正出血に対しては本疾患を念
頭におき、病理学的検索を行うことが重要と考えられた。
Key words : uterine cancer, serous adenocarcinoma, cytology,
magnetic resonance imaging, prognosis
現在、漿液性腺癌の治療は類内膜腺癌に準じて行われ
ているが、画像や摘出子宮で肉眼的に早期と考えられる
症例でも子宮外進展している率が高いため、早期と考え
られる症例に対しても子宮全摘・両側付属器切除に加え
骨盤、傍大動脈リンパ節郭清や大網切除を行うことが推
奨されている 6)。また、漿液性腺癌であること自体が再発
のリスク因子とされるため、早期症例であっても術後補
助療法を行うことが推奨されている 7)。ただし、このよう
な拡大手術や術後補助療法が実際にどの程度、子宮体部
漿液性腺癌の再発率の低下や予後の改善に寄与している
かは明らかでない。そこで、当院で初回治療を行った子
宮体部漿液性腺癌の臨床病理学的特徴や治療内容と予後
を後方視的に検討することにより、診断上、治療上の問
題点を明らかにすることを目的とした。
方 法
2008 − 2012 年の 5 年間に当科で初回治療として少なく
とも子宮全摘術を行った子宮体癌症例のうち、病理組織
学的に純粋型漿液性腺癌と診断された13例を対象とした。
検討項目としては、年齢、閉経の有無、受診時の主訴、
進行期(2008年新 FIGO 分類)
、治療前の子宮内膜細胞診、
組織診、腫瘍マーカー(CA 125)、原発巣の MRI 所見、
初回治療の内容、術後病理診断、術後治療の内容、再発
の有無、再発までの期間、再発部位、再発治療、予後に
ついてカルテ調査を行い、治療前診断の可否、初回治療
と再発との関連、再発治療の効果などについて後方視的
に検討した。生存期間や生存率は Kaplan-Meier 法を用い、
統計学的有意差は Log-rank 法を用い解析を行った。
緒 言
子宮体部漿液性腺癌は子宮体癌全体の5%と稀な腫瘍 1)
である。臨床病理学的には早期から脈管侵襲、筋層浸潤
を認め、また筋層浸潤を認めない症例でも子宮外進展の
頻度が37−63%と高い 2)∼4)。再発率も高く、全症例の予
後は類内膜腺癌 G 1の5年全生存率95%と比べ36%と不良
である 5)。
成 績
1.対象症例の内訳
表 1 に症例の内訳を示す。年齢の中央値は 63 歳(44 −
73歳)で、13例中12例(92%)が診断時には閉経してい
た。また、13 例中 11 例(85 %)は不正性器出血、2 例
(15 %)は無症状での癌検診異常(症例 2 :子宮体癌検診
20 (20)
表1 症例の内訳
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
表2 治療開始前の検査所見
異常、症例 11 :子宮頸癌検診異常)が受診のきっかけで
あった。進行期はⅠA 期6例、Ⅱ期1例、Ⅲ期4例(ⅢB期
1 例、Ⅲ C 1 期 2 例、Ⅲ C 2 期 1 例)、ⅣB 期 2 例であった。
そのうち1例は術前化学療法施行例であったが、診断時に
Virchow 転移を認め、臨床的にⅣB 期と診断した。
2.治療前検査
治療開始前に施行した内膜細胞診、組織診、CA 125値、
原発巣の画像所見の一覧を表 2 に示す。内膜細胞診は陽
性・疑陽性が 12 例(92 %)で、うち 4 例は細胞診で漿液
性腺癌を強く推定した。残りの8症例も、同時にあるいは
引き続き行った内膜組織診で 5 例が漿液性腺癌と診断で
き、結果として 13 例中 9 例(69 %)が治療開始前に子宮
体部漿液性腺癌を推定し得た。なお、内膜細胞診で癌が
検出されず、内膜組織診未施行の1例(症例8)は、腟壁
腫瘍の生検で腺癌を検出し内膜生検は不可能であったが、
画像上子宮内腫瘍を認めたことより臨床的に子宮体癌と
診断し手術を行った。
治療前の CA 125 値は 5 ∼ 924 U/ml(中央値 18 U/ml)
で、正常上限を超えた症例は 5 例にとどまった。ⅣB 期 2
例が599 U/ml、924 U/mlと異常高値を示したものの、そ
れ以外の症例では進行期とCA 125値に特定の傾向はみら
れなかった。
さらに、MRI での原発巣の画像所見をまとめると、類
内膜腺癌症例では早期でも著明な内膜肥厚を認めること
が多いが、漿液性腺癌ではⅠ、Ⅱ期7例のうち5例では内
膜が菲薄化しており、残りの2例も年齢不相応な軽度の内
膜肥厚を認めるのみであった。一方、Ⅲ、Ⅳ期症例では
全例で内膜肥厚というより腫瘤を形成しており6例中3例
では筋層浸潤も伴っていた。
3.初回治療内容と手術標本病理所見
次に全症例の初回治療の内容と摘出標本の病理所見に
ついて表3に示す。漿液性腺癌の場合、当科では、原則と
して内性器全摘に加え後腹膜リンパ節郭清や大網切除を
行うが、年齢、合併症の有無、腹腔内所見、PS 等を考慮
し術者が縮小手術にとどめる場合もある。その結果、全
例に子宮・両側付属器の摘出を行っており、骨盤リンパ
節郭清、傍大動脈リンパ節郭清、大網部分切除を同時に
施行したのはそれぞれ、11例(85%)
、7例(54%)
、4例
(31%)であった。陽性数及び13例中の陽性率はそれぞれ
3 例(23 %)、1 例(8 %)、1 例(8 %)であった。術後補
助療法は、組織型自体が高リスク群であるため、当科で
は進行期に関わらず術後化学療法の追加を基本方針とし
ており、患者希望により施行しなかった 1 例を除く 12 例
中 11 例(92 %)で 6 サイクルの全身化学療法を施行した。
化学療法レジメンは原則として TC(Paclitaxel + Carboplatin)
療法であったが、臨床試験に登録した2例についてはラン
ダ ム 化 に よ り 割 り 付 け ら れ た 治 療 と し て 、1 例 が A P
(Doxorubicin+Cisplatin)療法、1例が DP(Docetaxel+Cisplatin)
療法を行った。手術による病理所見では、腹水細胞診陽
性が3例あり、うち2例は筋層浸潤も浅く、新分類ではⅠA
期に相当する症例であった。また脈管侵襲陽性は7例で認
め、そのうち 2 例はⅠA 期症例であった。Ⅱ期以上の 6 例
ではすべて1/2以上の筋層浸潤を認めた。
平成27年9月(2015)
表3 初回治療内容と手術標本病理所見
21 (21)
ⅣB 期2例であったが、ⅠA 期の2例はど
ちらも腹水細胞診陽性例であり、旧進行
期分類ではⅢ a 期に相当する症例であっ
た。症例1は初回治療開始から63ヵ月後
の再発であったが、再発診断時には病変
が全身に広がっており、緩和治療のみで
2 ヵ月後に原病死となった。症例 4 と症
例 11 はそれぞれ、傍大動脈リンパ節、
腟壁のみの限局性再発であり、再発病変
の切除と化学療法 6 サイクルの追加によ
り完全寛解に至り、現在も無病生存中で
ある。症例 12 は胸水細胞診陽性で、鼠
径リンパ節転移も認めた。化学療法が奏
効したものの、再発後 39 ヵ月で原病死
した。症例 13 は、NAC 後手術を行い、
術後化学療法6サイクル終了時点で PETCT で増悪を認めたため、レジメンを変
更し 6 サイクル施行した。しかし、化学
療法無効で再び増悪を認めたため緩和治
療の方針となり、増悪後 17 ヵ月で原病
死した。
考 察
表4 再発、再燃症例の経過一覧
4.治療成績
全症例の観察期間の中央値 47 ヵ月(36 ∼ 70 カ月)で、
5年生存率は73.8%、5年無増悪生存率は61.5%であった。
全13症例で、手術で完全摘出できており、NAC を施行し
た症例 13 は術後化学療法中に増悪を認めたが、症例 2 は
化学療法を追加せず、他の 11 例では術後化学療法を追加
し、無増悪状態で初回治療を完了した。Ⅰ、Ⅱ期症例7例
とⅢ、Ⅳ期症例6例の生存曲線を図1に示す。症例数が少
ないため、有意差はみられないものの、Ⅰ、Ⅱ期の5年全
生存率は100%であり、Ⅲ、Ⅳ期の41.7%に比べ良好であ
った。(p = 0.458)また、5 年無増悪生存率はⅠ、Ⅱ期で
は 85.7 %と、Ⅲ、Ⅳ期の 33.3 %に比べ有意に良好であっ
た。
(p =0.034)
調査時までに再発、再燃を認めた6症例についての経過
詳細を表4に示す。進行期の内訳はⅠA 期2例、ⅢC 期2例、
子宮体癌の全進行期における 5 年生存
率は、類内膜腺癌 G 1、G 2 の 95 %、
86%に比べ、漿液性腺癌は36%と 1)、予
後不良である。しかし、Slomovitz らは、
自施設での子宮体部漿液性腺癌 129 症例
の検討で、Ⅲ/Ⅳ期 72 例の生存期間中
央値28.8ヵ月と比べ、Ⅰ/Ⅱ期57例では
91.9ヵ月と有意に予後良好であったと報
告している(p <0.01)3)。また Desai ら
の報告でもⅠ/Ⅱ期77例の5年生存率は
9 1 % と 良 好 で あ っ た 8 )。 さ ら に 、
Jhingran らの32例の検討でも早期例と進
行例では5年生存率で94%と67%との結
果であり 9)、漿液性腺癌でも早期症例で
は予後は良好であるという報告は多い。当院の症例も、
13例全体の5年生存率は73.8%にとどまるも、Ⅰ/Ⅱ期症
例では100%と極めて良好であった。従って、漿液性腺癌
の予後改善のためには早期発見が重要であることが示唆
される。
一般的に子宮体癌は、画像上子宮内膜肥厚が認められ
る場合に内膜細胞診・組織診を行い診断されることが多
い。特に本邦における内膜細胞診の精度は高く、子宮体
癌881例を対象とした検討では、内膜細胞診での検出率は
95.7 %と報告されている 10)。この報告では、漿液性腺癌
の細胞診での陽性率も 20 例中 20 例(100 %)と極めて良
好であった。我々の検討でも、13例中11例が細胞診陽性、
1例が疑陽性であり、組織診と組み合わせることにより13
例中9例(69%)の症例で漿液性腺癌の推定まで可能であ
り、子宮体癌が疑われた場合には、病理学的検査を行え
22 (22)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図1 進行期別の生存曲線
ば少なくとも子宮体癌の診断は比較的容易であると考え
られる。ただし、術前生検では他組織型との混合型が疑
われる症例もあり、漿液性腺癌の術前確定診断は必ずし
も容易ではないと考えられる。しかし、当院の早期症例
で示した通り、漿液性腺癌では、類内膜腺癌に見られる
ような著明な内膜肥厚を認める症例はなく腫瘍マーカー
陽性率も低いため画像診断や血液検査所見のみで漿液性
腺癌を推定するのは困難であった。Wang らは、子宮体癌
52 症例に対し、術前経腟超音波検査所見の検討を行った
結果、Ⅱ型体癌では内膜が 4 mm以下であった症例が17%
存在したと報告している 11)。当院では13例中11例が閉経
後の性器出血で受診しており、閉経後に不正出血を認め
る場合には画像・血液検査上明らかな異常所見がなくて
もⅡ型子宮体癌を念頭におき細胞診を積極的に行うこと
が重要と考えられた。
漿液性腺癌は早期と考えられた症例でも子宮外進展し
ている率が高く、筋層浸潤の無い症例でも 38 %が子宮外
進展しているとの報告もある 3)。従って、拡大手術を行い
子宮外病巣の有無を確認することは、正確な進行期の診
断とその後の追加治療を選択する上でも重要であるが、
治療的意義に関しては、コンセンサスは得られていない。
当院の 13 例でも、再発低リスク群の類内膜腺癌ⅠA 期が
推定された1例と化学療法先行した1例を除く11例で、後
腹膜リンパ節郭清が行われていた。一方、大網切除を行
った症例は4例にとどまったが、いずれも大網転移は認め
ず、切除を行わなかった症例でも大網や腹膜播種で再発
した症例は認めなかった。これらの拡大手術の治療的意
義については議論があるものの、現状では正確な進行期
診断のためには必要であると思われる。
術後補助療法については、子宮体癌治療ガイドライン
では、漿液性腺癌であることが再発の中・高リスク群と
みなされ、中・高リスク症例に対しては、術後補助療法
が推奨されている。本邦では近年、再発の中・高リスク
群に対し、補助療法としてプラチナ併用化学療法を行う
ことが一般的である。一方、欧米では術後補助療法に放
射線治療を行うことが多いが、Randall らは残存腫瘍 2 cm
以下の術後子宮体癌422例に対し放射線治療と化学療法の
生存率、無増悪生存率を比較し、進行期で調整しても、
HR 0.68(95%CI:0.52-0.89)とHR 0.71(95%CI:0.55-0.91)
と、化学療法の有効性を報告している 12)。さらに、Huang
らは子宮体部漿液性腺癌119例の予後を、術後治療を放射
線群、化学療法群、放射線と化学療法併用群で分けて比
較している。放射線群と化学療法群の比較では、それぞ
れの無増悪生存期間と全生存期間の中央値は 7.5 ヵ月と
12.2ヵ月 vs 11.7ヵ月と18.3ヵ月で化学療法の有用性(p <
0.001、p < 0.001)を示し、その化学療法群と比較し放射
線と化学療法併用群の無増悪生存期間と全生存期間の中
央値は 20.3 ヵ月と 29.9 ヵ月(p = 0.01、p = 0.04)と更に
予後を改善すると報告している 13)。レジメンについては
漿液性腺癌のみを対象とした第Ⅲ相試験は実施されてお
らず、現在、漿液性腺癌の標準的レジメンは明らかでな
い。従って、当院では原則として子宮体癌で有効なレジ
メンのうち、国内で汎用されている TC 療法を第一選択と
して治療を行った。その他、AP 療法や DP 療法を行った
症例が各1例あったものの化学療法を行った症例はレジメ
ンにかかわらず全例で化学療法を 6 サイクル完遂できた。
これらの症例では腹膜播種再発をきたした症例はなく、
初回治療開始後から再発、再燃までの期間の中央値は20.5
ヵ月であった。また切除不能な再発例で、化学療法のみ
施行し、再発後 30 ヵ月以上生存した症例もあり、子宮体
部漿液性腺癌に対し、化学療法が奏効する可能性が示唆
された。ただし、単施設・少数例での検討のため化学療
法の有効性については結論を出すことは難しい。至適レ
ジメンも含め、子宮体部漿液性腺癌の化学療法に関して
今後も検討が必要であろう。
結 論
子宮体部漿液性腺癌は早期であれば予後が比較的良好
であるため、早期診断が重要である。そのため、閉経後
の不正出血で来院した患者に対し、内膜肥厚などの所見
がなくても、本疾患を念頭におき細胞診を含めた病理学
的検索を行うことが重要である。拡大手術の治療的意義
や術後化学療法の有用性については、多施設での臨床試
験などでのさらなる検討が必要と考えられる。
平成27年9月(2015)
23 (23)
文 献
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management on the prognosis of pure uterine papillary serous
cancer-A Taiwanese Gynecologic Oncology Group(TGOG)
study. Gynecol Oncol. 2014; 133: 221-8.
(H27.1.29受付)
24 (24)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
胎盤ポリープの診断・治療における3D-CTAの有用性
Usefulness of 3D-CT angiography for diagnosis and treatment of retained placenta
北里大学医学部 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Kitasato University,
School of Medicine
下田 隆仁 Takahito SHIMODA
川内 博人 Hirohito KAWAUCHI
板倉 彰子 Akiko ITAKURA
荻野弓希子 Yukiko OGINO
恩田 貴志 Takashi ONDA
海野 信也 Nobuya UNNO
概 要
産褥期の性器出血の原因として遺残胎盤、胎盤ポリー
プがあり、これらに対する盲目的な子宮内操作は制御不
能な大量出血をきたす可能性がある。妊孕性温存を希望
する胎盤ポリープの症例に対する治療方法として
Methotrexate(MTX)投与や子宮動脈塞栓術(Transcatheter
arterial embolization:TAE)、子宮鏡下切除(Transcervical
resection:TCR)などによる子宮温存療法の成功例があるが、
診断及び治療のガイドラインは確立されていない。今回
我々は産褥期、及び流産手術後に生じた胎盤ポリープの
症例で子宮温存が可能であった2例を経験した。いずれの
症 例 に お い て も 、 適 切 な 治 療 法 の 選 択 に 3D - C T
angiography(3D-CTA)が有用だった。3D-CTA は MR
angiography(MRA)より微小な血管も同定できるとされ、
栄養血管の正確な位置関係を把握し、その結果を踏まえ
た適切な治療法の選択に有用と考えられたので報告する。
Key words : retained placenta, computed tomography
angiography, transcervical resection
緒 言
胎盤ポリープは自然流産後、人工妊娠中絶術後、分娩
後などに、子宮内に遺残した絨毛組織や胎盤が増殖また
は残存し、ポリープ状に増大した病変である 1)。組織学的
にはフィブリン沈着や器質化、炎症性変化が認められ、
硝子化した絨毛・血管組織が子宮内膜や筋層に嵌入する
所見を呈することもある。産褥期異常出血、子宮復古不
全、産褥子宮内感染の原因となり、時に大量出血をきた
し、子宮全摘を余儀なくされることもある 2)。分娩後早期
に症状を呈するものが多いが、数年を経て診断される場
合もある 3)。発生頻度は Mitchell らによると全単胎分娩の
2-3 %、産褥出血の原因の 5-10 %と報告されている 4)。リ
スク因子としては、分娩時の胎盤用手剥離、癒着胎盤、
不完全な子宮内容除去術(Dilatation & Curettage: D & C)
などがある 5)。これに対し盲目的な子宮内掻爬や TCR を
行うことで、制御不能な大量出血をきたす可能性があり、
診断及び治療方針の決定は慎重に行う必要がある。胎盤
ポリープに対する治療方法としては妊孕性温存の希望の
ない例では子宮全摘術が行われることもあるが、子宮温
存の希望のある例に対しては、MTX 投与 6) や TAE 2)、
TCR5)などによる成功例が報告されている。今回我々は
3D-CTAにより得られた所見が診断及び治療法の選択に有
用だったと考えられた胎盤ポリープの2例を経験したので
報告する。
症 例
【症例1】 32歳 1経妊 1経産 既往歴:特記すべきことなし 主訴:産褥期出血
現病歴:前医で妊娠38週0日、2790 gの女児を正常経腟
分娩した。胎盤は速やかに娩出した。前医の分娩記録で
は胎盤や卵膜の欠損等の所見の記載はなく、分娩時出血
は 305 g だった。産褥経過に異常はなく 5 日目に退院、悪
露は順調に減少していた。産褥 27 日目より出血の増加を
認めたが、産褥 32 日目の 1 ヵ月検診で前医を受診した。
経腟超音波検査で子宮内に3×3 cm 大の high echoic area を
認め、胎盤遺残を疑い、内膜細胞診用の吸引チューブで
組織の一部を採取したところ、病理学的診断は placental
rest だった。出血は少量であり、自然排出を待機する方針
とされていた。産褥 49 日目に前医を再診、超音波検査で
腫瘤は前回同様に観察された。同日 D&C を試みたが、腫
瘤は子宮壁に固着しており摘出不能であったため、産褥
51日目に当科を紹介された。
初診時所見:内診上子宮は鶏卵大、少量の性器出血あ
り。超音波検査で子宮腔内に径 22 mm 大の high echoic area
を認め(図 1)、カラードップラーで腫瘤に流入する血流
が確認された。血中 hCG は < 1 IU / L だった。病変部の
血流状態の確認のため、造影 MRI を施行したところ内腔
に T 1 強調画像で高信号、T 2 強調画像で低信号を呈する
内部不均一な辺縁不整な腫瘤を認め、出血を伴った遺残
胎盤と診断された。また、子宮底部右側の筋層は菲薄化
しており、筋層への浸潤の可能性が示唆された(図 2)。
そこで、更に3D-CTA を行ったところ両側子宮動脈から腫
瘤へ流入する豊富な栄養血管(動脈相で高度に濃染、平
平成27年9月(2015)
図1 初診時経腟超音波
径 22 mm 大の high echoic area を子宮腔内に認める
25 (25)
図5 病理組織学的所見(HE染色,
×100)
筋層組織内に嵌入する硝子化した絨毛が確認された
図6 初診時経腟超音波
径18×14mm大のhigh echoic areaを子宮腔内に認める
図2 MRI T 2強調画像
辺縁不整な内部に出血を伴った子宮内腫瘤を認める
図3 3 D-CTA 画像
両側子宮動脈から腫瘤へ流入する豊富な栄養血管を確認した
図4 TAE 後92日目、子宮鏡検査
子宮底部右寄りから右卵管口付近に茎を有する
約5×20 mm の器質化した腫瘤を認める
図7 MRI T2強調画像
腫瘤の筋層浸潤の可能性が示唆された
図8 3D-CTA画像
両側子宮動脈からの栄養血管の増生を
確認、動脈相で濃染される
26 (26)
図9 病理組織所見(HE染色,×100)
変性、硝子化した絨毛組織が散在性に確認できる
衡相でwash out)が確認された(図3)
。これらの所見から、
TCR は術中の出血コントロールが困難となる危険性が高
いと判断し、TAE の方針とした。産褥54日目にTAEを施
行し、両側子宮動脈をゼラチンスポンジ(ゼルフォーム R )
で塞栓し、腫瘤に流入する血流の途絶を確認した。TAE
後35日目の経腟超音波では子宮腔内の腫瘤は2.1×1.2 cm
大と縮小傾向であった。同日子宮鏡検査を行い、右子宮
角部から後壁に付着する径 2 cm 大の白色腫瘤を確認し
た。92 日目に再度子宮鏡検査を施行し、子宮底部右寄り
から右卵管口付近に茎を有する約20×5 mm の器質化した
腫瘤を認めた(図4)
。139日目の超音波で子宮腔内に12×
9 mm 大の残存が認められ、縮小傾向を認めるものの、待
機による完全排出は困難であると判断し、176日目に TCR
を施行した。
手術所見:右卵管角周囲に器質化した白色の隆起性病
変を認め、TCR により腫瘤を切除した。腫瘤の茎は筋層
内に深く侵入しており、腫瘤の完全切除のためには子宮
筋層を一部切削することが不可避であった。
病理組織学的所見:子宮筋層組織及び石灰沈着を伴う
線維組織が認められた。また筋層組織内に placental polyp
に認められる硝子化した絨毛が確認された(図 5)。TCR
後120日目に子宮鏡検査を施行、右卵管角部は閉鎖してお
り卵管口は確認できなかった。
【症例2】 34歳 1経妊 1経産 既往歴:特記すべきことなし 主訴:子宮内容除去術後の持続する出血
現病歴:前医で妊娠9週、稽留流産の診断で D&C を施
行した。術後も少量の出血及び組織片排出が持続したた
め、術後 38 日目に同院を受診した。経腟超音波検査で子
宮腔内に 31 × 22 mm 大の腫瘤が確認されたが、経過観察
の方針とされていた。同日の血中 hCG 値は135 IU/Lだっ
た。D&C 後52日目の血中 hCG 値は53 IU/Lと低下傾向を
認めたが、超音波検査で腫瘤は残存しており、腫瘤の自
然排出は困難であると考えられたため、59 日目に当科を
紹介され受診した。
初診時所見:内診上子宮は鶏卵大、両側付属器正常、
少量の性器出血を認めた。経腟超音波検査で子宮腔内に
18×14 mm 大の high echoic area を認め(図6)
、カラード
ップラー検査で同部に血流が確認されたため、造影 MRI
及び 3 D-CTA を行った。血中 hCG 値は 36 IU/L だった。
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図10 TAE後60日目、子宮鏡検査
子宮内腔の左側後壁に少量の遺残を認めた
MRI では腫瘤と筋層との境界が不明瞭で筋層浸潤の可能
性が示唆された(図 7)。3D - CTA でも左側筋層から子宮
体部内腔にかけて、両側子宮動脈からの栄養血管の増生
が確認された(図 8)。両側子宮動脈は拡張、増生、蛇行
し、動脈相で強く造影される領域(腫瘤)と連続してお
り、血流豊富な胎盤ポリープと診断、69日目に TAE を施
行した。両側子宮動脈をゼラチンスポンジで塞栓し、腫
瘤に流入する血流の途絶を確認した。TAE 後15日目の超
音波検査で、腫瘤径は 19 × 15 mm 大と変化はなかった。
53 日目に残存腫瘤の大部分と思われる組織塊が自然排出
した。持参した組織は肉眼的に胎盤様であった。
病理組織学的所見:好中球を主体とした炎症性細胞浸
潤を伴う、変性した絨毛組織が散在性に認められ、硝子
化した絨毛に相当する所見が確認された(図 9)。組織排
出後2日目の血中 hCG は<1 IU/Lだった。排出後5日目に
子宮鏡検査を施行したところ、子宮内腔の左側後壁に少
量の遺残を認めたため(図10)
、内膜掻爬により摘出、術
後出血は少量のみで、良好に経過している。
考 察
胎盤遺残と胎盤ポリープは本邦では区別し呼称されて
いるが、欧米では一括して retained placenta として扱われ
ており、Williams Obstetrics で、遺残した胎盤片(retained
placenta)はフィブリンの沈着を伴った壊死をきたし、最
終的にはいわゆる胎盤ポリープ(placental polyp)と言わ
れる状態を形成するとされている 7)。盲目的な D&C や、
TCR を行うことで、制御不能な大量出血をきたし、子宮
摘出を余儀なくされることがあり、子宮温存を希望する
症例に対する治療法として、MTX 投与 6)やTAE 2)、TCR5)
などによる温存成功例が報告されているが、診断及び治
療のガイドラインは確立されていない。これまでの報告
例では MRA や子宮鏡検査で腫瘤の血流や位置を判断し前
述の治療法を選択しているが、著者らは今回の2症例を経
験し、3 D-CTA 0を用いることで診断精度が向上し、適切
な治療法の選択が可能であったと考えている。近年コン
ピューターグラフィック技術の進歩に伴い、三次元画像
処理が可能になり、立体的に可視化された CT 画像を得る
ことができるようになった 8)。3 D-CTA は連続した CT 画
像を三次元処理することにより、血管の走向を可視化す
平成27年9月(2015)
27 (27)
るものであり、脳動脈瘤の精査 9)や、腎血管領域の血管
構築の診断における有用性が報告されている 8)。また構築
した画像を回転させることにより自在な方向から血管走
向を観察することができ、病変部の近接臓器との位置関
係も描出し易く、手術の際の正確な構造情報の把握に有
用である 9)。一方で動静脈の完全分離が困難な場合がある
ことや画像のみでは血流方向の情報が得られないこと、撮
影後の画像処理に時間を要するといった問題点もある 9)。
今回の 2 症例は TAE 施行前に 3 D-CTA を行ったが、いず
れの症例でも良好な画像構築が得られており、腫瘤への
血管の流入状態を正確に把握できたため、切除を選択せ
ず、さらに TAE に際しても速やかに手技を終えることが
できた。これまでの報告では造影 CT や造影 MRI による
評価後に治療法を選択している場合が多いが 2)6)、3DCTA は TAE 前の情報として有用であり、MRA よりもさ
らに微小な血管も同定可能である 9)。骨盤内の複雑な血管
走行を把握し、かつ病変部への血流状況を正確に確認す
ることにより、適切な治療法の選択に有用性が高いと考
えられた。
結 語
今回我々は3D-CT angiography が診断及び治療法の選択
に有用であった胎盤ポリープの 2 例を経験した。CTA を
用いることで栄養血管の正確な位置関係を把握し、TAE
を選択したことで、手技の円滑化、処置後の副作用の注
意等を行うことが可能であった。危急的出血を避け、子
宮を温存するための選択肢としての意義があると考えら
れた。
文 献
1) Rovert W.Swan,J.Donald Woodruff : Retained products of
conception.Histologic viability of placental polyps. Obstet
Gynecol.1969;34(4):p.506-514.
2) 三村朋子, 関野和, 石原佳代, 西川忠暁, 岡田朋美, 辰本
幸子, 小松玲奈, 早田桂, 依光正枝, 舛本明生, 小坂由紀
子, 石田理, 野間純, 吉田信隆 : 血流豊富な遺残胎盤に対
して子宮動脈塞術施行後に子宮鏡下手術を行い出血な
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遺残, 胎盤ポリープ. 産科と婦人科. 2012 ; 79(9).p.11021108.
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木全亮二, 近藤幸尋 : 腎血管病変における 3 DCT の有
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野哲夫 : 脳動脈瘤に対する脳外科治療戦略のためのヘ
リ カ ル CT の 役 割 と 最 近 の 進 歩 . 脳 外 誌 .2000 ;
9(7).p.491-496.
(H27.2.1受付)
28 (28)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
妊娠35週で発症した卵巣腫瘍茎捻転に対し腹腔鏡手術を施行した1例
Laparoscopic management of a torsion of ovarian tumor at 35 weeks of gestation: Case report
大和市立病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yamato Municipal
Hospital
古郡 恵 Megumi FURUGORI
齋藤 圭介 Keisuke SAITO
佐々木麻帆 Maho SASAKI
端本 裕子 Yuko HASHIMOTO
長谷川哲哉 Tetsuya HASEGAWA
永田 智子 Tomoko NAGATA
荒田与志子 Yoshiko ARATA
石川 雅彦 Masahiko ISHIKAWA
要 約
妊娠 35 週 5 日に卵巣腫瘍茎捻転を発症し腹腔鏡手術を
施行した1例を経験した。妊娠後期は腹腔鏡手術を施行す
るにあたり、増大した妊娠子宮により術野の確保が困難
となるが、麻酔、体位、トロッカーの位置、使用するカ
メラなど妊娠後期の物理的・生理的変化に応じた配慮や
工夫をすることで腹腔鏡下手術を完遂できた。妊娠後期
における卵巣腫瘍茎捻転に対する腹腔鏡下手術は選択肢
となり得る。
緒 言
近年、妊娠女性に対する腹腔鏡下手術は安全性が確立
しつつあり、適応症例が拡大している。妊娠後期での腹
腔鏡下手術は増大した妊娠子宮により術野の展開が困難
であり、また妊娠に伴う生理的な変化として循環血漿量
の増加・換気量の減少・周囲組織の血管増生・妊娠子宮
による下大静脈の圧迫などに留意する必要がある。
今回我々は妊娠 35 週 5 日に卵巣腫瘍茎捻転を発症し腹
腔鏡下手術を施行した一例を経験したので報告する。
Key words : pregnancy, laparoscopic surgery, torsion of
ovarian tumor
症 例
28歳 4回経妊 4回経産(すべて正常経腟分娩)
【身体所見】身長 146 cm、体重 46.7 kg
【月経歴】初経12歳、月経28日型、順
【既往歴及び家族歴】特記すべきことなし
【現病歴】自然妊娠。妊娠初期には卵巣腫瘍は指摘さ
れていなかった。妊娠 35 週 1 日より左下腹部∼背部にか
けての持続痛が出現し前医を受診した。左腎盂腎炎の診
断で抗菌薬の投与が開始され、頻回の子宮収縮も認めた
ためにリトドリン塩酸塩の持続投与(165 μg /min)を開
始した。しかし左下腹部痛は徐々に増悪し、頻回の子宮
収縮も改善しなかった。妊娠 35 週 5 日腹部エコーで左下
腹部に5×3 cm大の腫瘤が確認され、同部位に一致する強
い圧痛を認めたため卵巣腫瘍茎捻転の疑いとなり当院へ
搬送となった。
【初診時検査所見】
血圧107/60 mmHg、脈拍58回/分、体温37.0℃
内診所見:子宮口 3 cm開大、展退40%、st-3 cm
腹部所見:左上前腸骨棘よりやや上方・内側に自発痛、
圧痛あり。腹膜刺激症状なし。子宮底長 33 cm。
腹部超音波所見:胎児推定体重 2803 g(AFD)、頭位。
左下腹部に圧痛部位に一致して辺縁平滑、低輝度で内部
に点状エコーを有する単房性腫瘤(5×3 cm大)あり。
MRI(図1):子宮左側に5×3 cm大の単房性腫瘤あり。
T 1・T 2強調画像で高信号、脂肪抑制 T 1強調画像では信
号の低下あり。
血液検査所見: WBC 6000 /μl、Neut 82.1 %、Hb 11.0
g/dl、Plt 13.9×104/μl、CRP 5.62 mg/dl
【治療経過】
左卵巣類皮嚢腫茎捻転(妊娠 35 週 5 日)を疑い、左下
腹部痛が増強しているため緊急手術の適応と判断した。
産婦人科医・麻酔科医が腹腔鏡下手術、全身麻酔の妊娠
への影響についてそれぞれに十分に説明を行い開腹術、
腹腔鏡下手術の選択肢を提示した。患者及び家族は腹腔
鏡下手術を選択し同日緊急腹腔鏡下手術を施行した。
術中所見:麻酔導入は、フェンタニルクエン酸塩、プ
ロポフォール、ロクロニウム臭化物を、麻酔維持にはレ
ミフェンタニル塩酸塩、 プロポフォールを使用した。妊
娠子宮による下大静脈の圧排を避けるため患者をやや左
に傾斜した仰臥位とし、Trendelenburg 体位については軽
度にとどめた。子宮底は臍上にまで達していたが、子宮
前壁の湾曲の頂点は臍にほぼ一致しており、カメラポー
トは臍部位(図 2-①)が最適と考えた。子宮への穿刺を
避けるため open 法にて12 mmバルーン付トロッカーを挿
入した。増大した子宮の湾曲を考慮して5 mmフレキシブ
平成27年9月(2015)
29 (29)
図1 MRI 画像
(左:軸位断(T 1強調画像)
、右:冠状断(T 2強調画像)
)
図2 トロッカー位置
ルカメラを選択し、気腹圧は8 mmHgとした。腹腔内は妊
娠子宮で占拠されており、視野の確保が困難であったが、
フレキシブルカメラを腹壁に沿うように進め、左側・上
前腸骨棘やや上方に暗赤色に変色した左卵巣腫瘍を視認
した。卵巣腫瘍の存在部位と鉗子の操作性を考慮し、図2
の②③の位置を操作鉗子の挿入部位と定めた。それぞれ
12 mm、5 mm のバルーン付きトロッカーを妊娠子宮を避
けながら慎重に挿入し、3ポートで手術を開始した(図3a)。左卵巣腫瘍の中枢側に正常卵巣を認め、腫瘍と正常
卵巣との間で反時計回りに3回転(1080度)捻転していた
(図3 - b)
。卵管は捻転していなかった。卵巣腫瘍周囲の卵
管や間膜には炎症性のフィルム状の癒着を認めた。卵巣
腫瘍を挙上する過程で腫瘍壁が一部破綻し、淡黄色の脂
肪成分を含む内容液が流出した。捻転部位をベッセルシ
ーリングシステム(リガシュア TM、コヴィディエン社)
を用いて切離後、左卵巣腫瘍を組織回収バッグに収納し
(図3- c)
、左下腹部創部(図2-②)を通して体外へ摘出し
た。卵巣腫瘍の残存はないと判断した。切除断端より出
血を認め(図 3- d)、バイポーラでの止血を試みたが術野
の展開が困難であっために図 2 の④の位置に 5 mm のポー
トを1本追加することで術野を確保し、止血操作を行った。
手術時間は1時間9分、気腹時間は57分、出血量は少量で
あった。術中、徐脈や血圧低下などの麻酔管理上の問題
図3 手術所見
は生じなかった。
術後経過:術後当日は子宮収縮が頻回にみられたため
リトドリン塩酸塩を200μg/minにまで増量した。胎児は
BPS(biophysical profile scoring)10点であることを確認し
た。以後術後経過は良好で、子宮収縮も徐々に減少した
ためリトドリン塩酸塩は漸減後中止し、術後5日目に退院
した。病理結果は mature cystic teratoma であった。その後
30 (30)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
表1 妊娠後期での卵巣腫瘍(傍卵巣腫瘍含む)に対する腹
腔鏡下手術の報告症例
表2 当院における妊娠合併卵巣腫瘍に対する手術(16例)
の妊娠経過も良好で妊娠39週3日正常経腟分娩に至った。
児は 3745 g(Heavy for dates)
、男児、Apgar score 8/9、臍
帯動脈血 pH 7.400 であった。児は 1 歳 0 ヵ月で膀胱尿管逆
流症を指摘されているが、発育は良好である。
考 察
妊娠中の腹腔鏡下手術は現時点でランダム化比較試験
は存在しないものの、安全性を示す報告は散見され、産
婦人科内視鏡手術ガイドライン 2013 年度版(日本産科婦
人科内視鏡学会)1)では妊娠中に発見された卵巣腫瘍に
対して腹腔鏡下手術は可能であると記されている。
SAGES(Society for American Gastrointestinal and Endoscopic
Surgeons)のガイドライン 2)では妊娠期間によらず腹腔鏡
下手術は可能であると記しているが、妊娠後期の腹腔鏡
下手術に関しては卵巣腫瘍に対する手術ではなく胆嚢摘
出術や虫垂切除術の報告例に基づいている。実際に妊娠
後期に卵巣腫瘍(傍卵巣嚢腫含む)に対し腹腔鏡下手術
が施行された報告は稀であり、表 1 に示す 4 例 3)∼ 6)が検
索できた。その中で卵巣茎捻転における腹腔鏡下手術の
報告は shalowitz らの妊娠 29 週 5 日に腹腔鏡下付属器切除
術を施行した 1 例に限られる。4 例ともに手術は特に合併
表3 当院における妊娠合併卵巣腫瘍に対する手術の
分娩予後
症なく終了し術後経過も母児ともに良好であった。
妊娠後期において、第一トロッカーの留置は妊娠子宮
への穿刺を避けるために open 法や optiview 法が安全とさ
れる 7)。留置位置は妊娠子宮の大きさによって臍や臍上部
が選択されるが、明確な推奨部位は確立されていない 8)。
本症例では妊娠子宮の湾曲と卵巣腫瘍の存在部位を考慮
した結果、臍上ではなく臍からの穿刺(open 法)を選択
し、良好な視野を得ることができた。その他のトロッカ
ーの位置は、鉗子の操作性を考慮し腫瘍近辺での穿刺と
した。これらは腹腔鏡下での手術が困難な場合での小開
腹手術への切り替えも念頭に置いて選択している。
婦人科腹腔鏡下手術の手術体位は腸管を挙上させ良好な
術野を得るために Trendelenburg 体位をとるが、横隔膜挙
上により機能的残気量は減少する。妊婦は妊娠子宮により
既に横隔膜は挙上しており、機能的残気量の減少はより顕
著となる。本症例では増大した妊娠子宮により腸管は上方
に圧迫されており、過度の Trendelenburg 体位は必要では
なかった。また患者を左側に傾斜させることで妊娠子宮に
よる下大静脈の圧排を避け循環不全の予防とした。気腹圧
に関しては SAGES は10∼15 mmHg であれば妊娠中の腹腔
鏡手術を安全に施行できると報告している 2)。当院では気
腹圧は原則 8 mmHg としており、肥満症例ではなかった
ことも関連していると思われるが本症例もこの気腹圧で
十分な術野を得ることができた。軽度の Trendelenburg 体
位・左側への傾斜・過度の気腹圧を避けることは胎児ア
シードスを避けるうえで有効と考えられる。
Yen ら 9)は妊娠初期に診断された卵巣腫瘍(174例)に
ついて、妊娠中に 14 %の頻度で茎捻転を発症したと報告
している。捻転を発症した症例は腫瘍径が 6 cm 以上であ
り、中でも 6 cm∼8 cmのものは有意に捻転のリスクが高
い。また捻転した週数は妊娠 17 週までが多いが、妊娠後
期にも 17.8 %認めている。これらの頻度と妊娠後期の腹
腔鏡下手術が技術的に難しくなることを考えると、産婦
人科診療ガイドライン産科編201410)では妊娠初期に確認
された卵巣腫瘍が 10 cm を超える場合は手術を考慮する
としているが、6∼10 cm の卵巣腫瘍の場合にも器官形成
期を過ぎたのちの早期の予定手術を検討することも必要
ではないかと考える。
当院では妊娠合併卵巣腫瘍の手術については以下の手
順を踏んでいる。(1)産婦人科医が手術の必要性を判断
し、手術操作における流産・早産のリスクなどの合併症
を含め十分な説明を行い、開腹手術または腹腔鏡手術を
提示する(2)麻酔科医により、胎児に対しての、医薬品
の胎児危険度分類(オーストラリア医薬品評価委員会)11)
平成27年9月(2015)
31 (31)
に基づく麻酔薬の影響と、SAGES ガイドラインに基づく
気腹の影響を説明する。(3)異なる立場で説明した後、
開腹手術か腹腔鏡手術かは患者自身の選択とする。表2に
当院における妊娠合併卵巣腫瘍に対する手術症例 16 例
(2010年4月∼2013年12月)を示す。16例のうち6例は緊
急手術、10 例は予定手術であった。予定手術は妊娠 12 週
から妊娠 16 週までに施行している。術式は気腹時間や操
作性を考慮し基本的には腹腔鏡補助下卵巣腫瘍摘出術
(LAC)としている。症例①は患者が全身麻酔回避を希望
し開腹手術を選択した。症例⑦⑬は画像や腫瘍マーカー
などから悪性の可能性を考慮し開腹手術を選択した。症
例⑥は妊娠 37 週 1 日に捻転の診断に至ったが、妊娠中は
抗生剤・鎮痛剤投与で待機し妊娠 38 週 2 日に正常経腟分
娩となった。産褥6日目に子宮復古を待って腹腔鏡下手術
を行い、傍卵管嚢腫捻転の診断となり傍卵管嚢腫及び壊
死した卵管の切除を施行した 12)。病理結果は mature cystic
teratoma が 12 例(75.0 %)、simple cyst が 3 例(18.8 %)、
paraovarian cyst が1例(6.2%)であった。表3に分娩予後
を示す。帝王切開は4例(25.0%)あり分娩時の NRFS の
ための緊急帝王切開術が2例、辺縁前置胎盤、双胎のため
の選択的帝王切開術が各々1例であった。早産は2例(妊
娠35週、36週)
(12.5%)に認めた。児の予後については
1ヵ月健診まで13例が追跡可能であり、明らかな異常は指
摘されていない。
結 語
妊娠後期における妊娠合併卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下
手術は選択肢となり得るが、麻酔、体位、トロッカーの
位置、使用するカメラなど妊娠後期の物理的・生理的変
化に応じた配慮や工夫が必要である。
妊娠合併卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下手術は現時点では
それぞれの施設毎に手術適応や手術方法を決定する必要
がある。今後症例の蓄積を行い、妊娠合併卵巣腫瘍に対
する腹腔鏡下手術についてその有効性及び安全性を分娩
予後、児の長期予後 13)も含め検討するべきである。
文 献
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婦人科内視鏡学会 : 金原出版 ; 2013.p.26-31.
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advanced pregnancy.J Minim Invasive Gynecol.2005;21:3778.
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中尾美木, 西田晴香, 根井朝美, 星野寛美, 香川秀之. 妊
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雅彦. 妊娠 37 週時に発症し産褥 6 日目に腹腔鏡下手術
を施行した傍卵巣嚢胞による右卵管捻転の一例. 日産
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(H27.2.8受付)
32 (32)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
胎動減少・胎児機能不全を契機に発見された臍帯出血の1症例
Non-reassuring fetal status and Antenatal hemorrhage from the umbilical cord cyst; A case Report
横浜市立大学附属市民総合医療センター
Yokohama City University Medical Center
榎本紀美子 Kimiko ENOMOTO
青木 茂 Shigeru AOKI
長谷川良実 Yoshimi HASEGAWA
葛西 路 Michi KASAI
笠井 絢子 Junko KASAI
倉澤健太郎 Kentaro KURASAWA
高橋 恒男 Tsuneo TAKAHASHI
横浜市立大学附属病院
Yokohama City University Hospital
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
概 要
症 例
子宮内の臍帯出血は、胎児血の流出であり、原因は前
置血管・胎児消化管閉鎖に伴う臍帯潰瘍がほとんどであ
る。今回、前置血管や臍帯潰瘍を伴わない臍帯出血を経
験した。症例は 40 歳経産婦で、妊娠 36 週 5 日に胎動減少
と性器出血を主訴に当院を受診した。胎動は消失してお
り、経腹超音波で臍帯胎盤付着部位に不整形 mass を認め
た。胎児心拍モニターでは規則的な子宮収縮と繰り返す
遅発一過性除脈があり、胎児機能不全の診断で緊急帝王
切開を実施した。羊水は血性で、臍帯に凝血塊が付着し、
臍帯胎盤付着部位には内腔に出血を伴う嚢胞状変化があ
った。児は 3178 gの女児、Apgar 1分値8,5分値9、臍帯動
脈 pH 7.208、Base Excess‐7.6 mEq/L、臍帯動脈 hemoglobin
19.0 g/dLであり外表奇形はなかった。胎盤・臍帯病理で
は、臍帯は辺縁付着で、臍帯胎盤付着部位の破綻像と臍
帯の嚢胞状変化と内腔の出血が認められた。臍帯嚢胞か
らの出血及び子宮収縮による臍帯嚢胞部の圧迫によって、
胎児心拍低下を生じたと推測した。臍帯出血の原因の1つ
として臍帯嚢胞の破綻があり、臍帯周囲の不整形 mass は
臍帯周囲の血腫の可能性を鑑別診断の1つとして考慮すべ
きであることが示唆された。
症例は40歳の2回経妊 2回経産婦で、第1児は39週で子
宮内胎児死亡、(臍帯の頸部巻絡 3 回を認め、臍帯因子が
原因と言われた)第2児は骨盤位のため帝王切開分娩であ
った。今回は自然妊娠で、妊娠初期から当院で妊婦健診
をうけており、妊娠経過は順調であった。妊娠36週5日、
早朝に少量の出血と胎動減少を自覚したため、外来を受
診した。来院時の母体の全身状態は安定しており、腹壁
は軟で、経腹超音波検査では、常位胎盤早期剥離を疑う
胎盤後血腫は認めなかった。臍帯胎盤付着部位に不整形
な mass を認めたが、mass の由来が胎児か臍帯か胎盤かは
不明瞭であり、腹壁破裂、臍帯ヘルニアの破裂、胎盤病
変などの可能性を考えたが、娩出後に検索することとし
た(図 1)。超音波上、胎動は確認できず、胎児心拍モニ
タリングでは、基線細変動の減少、及び 5 − 10 分間隔の
子 宮 収 縮 に 伴 う 遅 発 一 過 性 除 脈 を 認 め た ( 図 2 )。
Biological profile score は 2 / 10 点(羊水量のみ)であり、
胎児機能不全の診断で緊急帝王切開の方針とした。術中
所見では羊水は血性であり、臍帯の胎盤付着部近傍に凝
血塊の付着を認めた(図3)
。児は 3178 g(Heavy For Date)
女児で、Apgar1 分値8点、5分値9点、臍帯動脈 pH 7.208、
BaseExcess‐7.6 mEq/L、臍帯動脈 hemogrobin 19.0 g/dL
であり、外表奇形や消化管閉鎖は認めなかった。胎盤は
重量 567 g(+0.8 SD)
、欠損なく、常位胎盤早期剥離を疑
う凝血塊の付着は認めなかった。臍帯は 42 cm、2 artery 1
vein で胎盤の辺縁に付着しており、胎盤付着部近傍に、
一部破綻した単層の上皮細胞で覆われた嚢胞があり、そ
の周囲に臍帯表面直下を中心に新鮮な膠質様内出血を認
め(図 4)、臍帯嚢胞の破綻による出血が血性羊水の原因
であると診断した。出生後の経過は順調であり母児同室
後日齢5で退院した。
緒 言
子宮内の臍帯血管の出血は、胎児血の流出であり、原
因は前置血管・胎児消化管閉鎖に伴う臍帯潰瘍がほとん
どである 1)2)。今回、我々は臍帯嚢胞の破綻による臍帯出
血の1例を経験したので報告する。
Key words : Umbilical cord cyst, umbilical cord mass, nonreassuring fetal status
平成27年9月(2015)
33 (33)
①
②
③
④
図1 胎児エコー画像:臍帯周囲(右図はDopplerエコーで
血流を描出している)に不整形のmassがある。
図4 ①胎盤・臍帯:胎盤付着部近傍に、一部破綻した単
層の上皮細胞で覆われた嚢胞があり、②臍帯の付着
部位周辺の嚢胞壁は菲薄化していた。③その周囲に
臍帯表面直下を中心に新鮮な膠質様内出血を認め、
④壁の一部には重層扁平上皮化成を認めた。
図2 胎児心拍モニタリング:基線細変動の減少、及び510分間隔の子宮収縮に伴う遅発一過性除脈を認めた。
①
②
図3 術中所見:①血性羊水、②臍帯の胎盤付着部近傍の
凝血塊。
考 案
本症例には、以下2つの臨床的意義がある。臍帯出血の
原因の1つとして臍帯嚢胞の破綻がありうること、及び臍
帯周囲の不整形 mass は臍帯周囲の血腫を疑う所見の 1 つ
になりうることである。
第1に、臍帯嚢胞の破綻は、臍帯出血の原因の1つにな
りうる。臍帯嚢胞の原因としては、感染、臍帯形態異常、
先天性の臍帯血管壁変化(局所的菲薄・瘤状変化)
、巻絡、
短い臍帯の牽引による胎内での臍帯壁の損傷、臍帯血管
の圧迫(膜付着、辺縁付着に伴う)
、胎児の腹壁異常(臍
腸管遺残・尿膜管遺残)等が報告されている 3)4)。臍帯嚢
胞の破綻による出血の機序は不明であるが、臍帯嚢胞の
破綻による出血は、5505例に1例の頻度で、死亡率50%、
生存出生は 11000 例に 1 例と報告されている 5)6)。本症例
では、臍帯は辺縁付着で 42 cm とやや短く Wharton's jelly
は一部欠損しており、臍帯の付着部位周辺の嚢胞壁は菲
薄化し、壁の一部には重層扁平上皮化成を認めていた。
組織学的に卵黄腸管や尿膜管を疑う組織学的異常は確認
されなかった。常位胎盤早期剥離や児の消化管閉鎖は認
めなかった。以上から、臍帯嚢胞内腔への出血により嚢
胞内圧が高くなったため、嚢胞が破綻し臍帯出血をきた
したと推測した。
第 2 に超音波検査における臍帯周囲の不整形 mass の所
見は臍帯周囲の血腫を疑う所見の1つになりうる。臍帯周
囲の mass の鑑別診断として、臍帯腫瘍、臍帯浮腫、
vanishing twin、胎盤近位の場合は胎盤腫瘍、胎児側の場合
は腹壁破裂・臍帯ヘルニアがある 7)。本症例では、術前に、
腹壁破裂、臍帯ヘルニアの破裂、胎盤病変などの可能性
を考えたが、臍帯周囲の不整形の mass の鑑別診断 1 つと
して臍帯周囲の血腫も念頭に置く必要があるといえる。
本症例は、胎動減少、胎児機能不全を契機として帝王
切開を施行し臍帯嚢胞破綻による臍帯出血と診断された
が、臍帯動脈の hemoglobin 値は 19.0 g/dLと、胎児貧血の
所見は認めておらず、また出生児の全身状態も良好であ
った。このことから胎児機能不全の主原因は、臍帯出血
による貧血や児の循環血液量の低下によるものではなく、
子宮収縮による臍帯嚢胞部への頻回な強い圧迫によって
生じたものではないかと推測した 6)。本症例では、幸いに
も生児をえることができたが、臍帯嚢胞の破綻による出
血は死亡率が 50 %ときわめて高く、胎児突然死の原因に
なりうることから我々産婦人科医は頻度こそ稀ではある
が、その危険性を十分に認識し臍帯出血に関する正しい
知識と理解を身につけておく必要がある 8)9)。
結 論
胎動減少、胎児機能不全を契機として発見された臍帯
嚢胞の破綻による臍帯出血の一例を経験した。本症例か
ら臍帯出血の原因の1つとして臍帯嚢胞の破綻があり、臍
帯周囲の不整形 mass は臍帯周囲の血腫を疑う所見になり
うることが分かった。
34 (34)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
文 献
1) 古田繁行, 佐藤英章, 正木宏, 鈴木真波, 横田伸司, 丸山
和哉, 北川博昭. 臍帯潰瘍を合併した消化管閉鎖症 3 例
の治療経験. 日本未熟児新生児学会雑誌 2014 ; 26:89-92.
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(H27.2.9受付)
平成27年9月(2015)
35 (35)
卵巣腫瘍との鑑別を要し、腹腔鏡下に摘出した腹腔内ガーゼ遺残の1例
Retained Surgical Sponge Treated by Laparoscopic Surgery : Case Report
横浜市立大学附属市民総合医療センター婦人科
Department of Gynecology, Yokohama City University Medical
Center, Yokohama
吉田 瑞穂 Mizuho YOSHIDA
吉田 浩 Hiroshi YOSHIDA
下向 麻由 Mayu SHIMOMUKAI
平田 豪 Go HIRATA
北川 雅一 Masakazu KITAGAWA
古野 敦子 Atsuko FURUNO
岡田有紀子 Yukiko OKADA
横浜市立大学附属病院産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City
University School of Medicine, Yokohama
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
概 要
症例は 2 経妊 2 経産、15 年前の帝王切開後より 4 cm の
右卵巣腫瘍を指摘されていた。前医を受診した際にも同
様の腫瘍を認め、精査加療目的に当科紹介となった。初
診時は腫瘍マーカーの上昇はなく、経腟超音波でダグラ
ス窩に 4 cmの充実性腫瘍を認めた。MRI では子宮背側に
境界明瞭な右付属器に接した腫瘍を認め、T 2強調で辺縁
は強い低信号、内部は主に低信号で一部線状の高信号で
あった。CT でも内部に線状の高吸収域を認めた。以上よ
りガーゼ遺残を疑い、摘出術を行った。腫瘍はダグラス
窩に存在し周囲組織と癒着していたが、鈍的、鋭的剥離
を行い、腹腔鏡下に摘出することができた。直腸前面の
漿膜損傷を認めたため、腹腔鏡下に縫合した。腫瘍内部
にはガーゼと思われる繊維、異物を交える壊死性物質を
認め、異物性肉芽腫の診断であった。
ガーゼ遺残による異物性肉芽腫は周囲との癒着により、
腸閉塞、臓器の穿孔、感染など重篤な合併症を起こした
り、手術手技が困難となる可能性がある。本症例は超音
波、MRI、CT ともに特徴的な所見を示していたため診断
に至り、腹腔鏡下に摘出術を行った。異物性肉芽腫の画
像所見は多様であるが、特徴的な画像所見もあるため、
その所見を見逃さず、適切に診断、評価をしたうえで治
療につなげることが重要である。
緒 言
手術の際に遺残したガーゼが腫瘤を形成(異物性肉芽
腫)し、腫瘍や膿瘍との鑑別を要することがある。これ
らは医原性疾患であるうえに、重篤な合併症を引き起こ
すことがあるため、適切に診断、治療することが求めら
れる 1)。中でも無症候性の症例報告は少ないが、今回我々
は 15 年間卵巣腫瘍としてフォローされていた腫瘤を、異
物性肉芽腫として腹腔鏡下に摘出した症例を経験したの
で報告する。
Key words : Gossypiboma, Retained surgical sponges
laparoscopic surgery
症 例
【症例】52歳、女性
【主訴】症状なし
【現病歴】15年前の帝王切開後より 4 cm大の卵巣腫瘍
を指摘され、同院で経過観察されていた。その間、急性
腹症や腫瘍の増大はなかった。転居に伴い病院を変えた
ところ、閉経後患者の充実性卵巣腫瘍のため、悪性疾患
の鑑別も含めて精査をすすめられたため、当科受診とな
った。
【月経歴】50歳閉経
【妊娠・出産歴】2回経妊 2回経産(いずれも帝王切開
分娩)
【既往歴】虫垂炎
【手術歴】8歳 虫垂切除術
35歳 選択的帝王切開術(外陰ヘルペスの診断)
37歳 緊急帝王切開術(切迫子宮破裂の診断)
【アレルギー】造影剤
【現症】身長:164 cm、体重:64 kg
腹部:平坦、軟、下腹部正中に帝王切開の瘢痕あり
腟鏡診:子宮腟部異常なし
内診:子宮正常大、ダグラス窩に弾性硬の腫瘤を触知
し可動性不良であった。
経腟超音波:子宮正常大、ダグラス窩に 46 × 30 mm の
36 (36)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図1 経腟超音波画像
図2 腹部単純CT
図3 MRI T2 強調画像
図4 周囲組織と癒着した腫瘍
充実性腫瘍を認めた。
腫瘤の境界は明瞭で周囲は低エコー域で囲まれていた。
内部血流は乏しく、一部高エコー域から音響陰影を引いて
いる部位があった。両側付属器は描出困難であった。
(図1)
【臨床検査所見】
腫瘍マーカー:CA 125 6U/ml、CA 19-9 4 U/ml、CEA
1.7 ng/ml
子宮頸部細胞診:NILM
【画像検査所見】
腹部単純レントゲン:特記事項なし
腹部単純 CT:右付属器に連続して 5 cm大の腫瘤性病変
を認めた。内部には線状の高吸収域を含んでいた。
(図2)
MRI :子宮背側に 55 × 34 mm の境界明瞭な腫瘤を認め
た。腫瘤は右付属器と接しているように描出された。T 2
強調画像で辺縁は低信号域、内部は主に低信号域であっ
たが一部に線状の高信号域を認めた。左付属器領域に腫
瘍性病変は認めなかった。明らかな周囲組織への浸潤は
認めなかった。
(図3)
【術前診断】右卵巣腫瘍または腹腔内異物(ガーゼ遺
残)
【手術所見】腹腔鏡下腫瘍摘出の方針とした。Open 法
で腹腔内に至った。上腹部は癒着なく、腹水はなかった。
下腹部で大網が一部腹壁と癒着していたため剥離、子宮
底部には小腸がフィルム状に癒着していたため剥離した。
さらに腸管をかきわけて観察すると、ダグラス窩に腫瘤
を認めた。腫瘤は直腸、子宮、右付属器、広間膜と比較
的強く癒着していた。(図 4)それぞれの癒着を鈍的、鋭
的に剥離し、ダグラス窩腫瘍を摘出したが、子宮後面、
直腸との癒着は強固であり鋭的剥離を要した。(図 5)両
側付属器は視診上正常であったが、術前からの患者の希
望で両側とも摘出した。腫瘍と両側付属器は回収バック
に入れ、ダグラス窩を 2.5 cm 程度切開して経腟的に摘出
した。直腸前面に漿膜欠損を認めたため数針単縫合し、
リークテストで明らかな瘻孔がないことを確認した。子
宮後面も癒着剥離による出血を認めたため縫合止血した。
手術時間:1時間34分、出血量:少量
検体:ダグラス窩腫瘍、両側付属器
【病理組織診断】骨盤内腫瘍:検体は 28.7 g で 55 ×
35 × 24 mm であった。割面を観察すると、腫瘤は比較的
厚い被膜で覆われ、内部にガーゼと思われる線維や壊死
性物質を認めた。異物性肉芽腫の診断であった。
(図6.7)
両側付属器:悪性所見はなかった。
【術後診断】腹腔内異物性肉芽腫(ガーゼ遺残)
【術後経過】直腸漿膜面を縫合していたため、術後2日
平成27年9月(2015)
37 (37)
図5 直腸、子宮と癒着した腫瘍
図7 病理検体
に排ガスを確認してから食事を開始した。術後6日目に常
食とし、経過良好であったため術後8日目に退院した。
大きな術後合併症はなく、現在は外来で術後の経過観
察中である。
考 察
手術による腹腔内遺残のなかで最も頻度が高いのがガ
ーゼやタオルであり、報告によりさまざまであるが国外
の文献では5000件の手術に1例程度とされている 2)。国内
では毎年 20 ∼ 30 件のガーゼ遺残が報告されている 3)が、
報告されていない症例もあると考えると現在でも決して
まれな疾患ではない。
遺残ガーゼは滲出性の変化が起こり嚢胞性腫瘤となる
ものと、増殖性の変化が起こり肉芽腫を形成するものの2
種類に分けられる。前者は比較的術後早期から認められ、
感染などを起こし症状が出現し発見されることも多い。
また腫瘤が腸管内に入り込むことも報告されており、結
果として腸閉塞や腸穿孔など大きな合併症を発症したと
する報告や、まれではあるが自然に肛門から排出された
という報告もある。後者は異物反応により周囲に肉芽が
形成されカプセル化されていくもので、比較的長期の経
過で無症状に経過する 4∼7)。
初発症状は腹痛、腰痛などの腸炎、腸閉塞、腹膜炎症
図6 病理検体
状であり、症状なく偶発的に発見される症例は数%にす
ぎない 8)。
診断については、遺残ガーゼは先述した経過の違いや
遺残部位によりさまざまな画像所見を呈し得るが、いく
つかの特徴的所見も報告されている。腹部レントゲンで
はまれに繊維間のガスが描出されることがあるが、本症
例では観察されなかった。超音波検査では、急性期には
表面が高エコーでそこから強く鮮明な音響陰影を引くこ
とが特徴とされる。慢性期は嚢胞性または充実性に経過
が分かれるが、内部にはガーゼ本体や空気を反映した強
い音響陰影を引く高エコー部分を認める 9)。本症例は繊維
化の強いタイプであったため、境界明瞭な低エコー域の
壁をもつ腫瘤として描出された。内部は主に充実性であ
り、一部の高エコー域から強い音響陰影を引いていた。
CT 検査では、線維に空気が捕捉される spongiform pattern
with gas bubbles や、腫瘍内部のガーゼ本体を反映した線状
の高吸収域が特徴とされる 10)∼ 12)。本症例では腫瘍内部
に線状の高吸収域を認めたが、腫瘍が右卵巣と連続して
いるように描出されたため卵巣腫瘍との鑑別が困難であ
った。MRI では、境界明瞭な腫瘤として描出され、内部
は T 1 強調画像で低信号、T 2 強調画像では腫瘍内容によ
り低信号を示すものと高信号を示すものが報告されてい
る。T 2強調画像での低信号は繊維成分やガーゼ本体を反
映、高信号は嚢胞性病変の内部を反映する 13)14)。本症例
は、壁は繊維化のためT 2強調画像で低信号、内部は繊維
化やガーゼ本体と思われる低信号域や石灰化を示す高信
号域を認めた。
遺残ガーゼの治療は外科的摘出である。遺残ガーゼは
周囲組織との癒着により腸閉塞を起こしたり 5)15)、消化
管や膀胱などの腹腔内臓器への圧迫壊死や穿通を起こし
たりするという報告もあるため 3)14)、長期間無症状で経過
した症例も治療適応となる。また手術に関しては、周囲
組織との癒着が強く腫瘍摘出の際に臓器合併切除が必要
であったという報告や 16)、腫瘍が巨大膿瘍化して全摘出
はできずドレナージのみ行ったという報告 17)のように、
手術操作が困難な可能性がある。腫瘍の癒着や臓器への
浸潤の程度を評価するために、術前に内視鏡検査や膀胱
38 (38)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
鏡検査を行ったという症例もあり、十分な術前検査や患
者への説明が求められる。
本症例は 15 年前の帝王切開後、卵巣腫瘍として遺残ガ
ーゼをフォローされていた。超音波検査では充実性卵巣
腫瘍としても矛盾しない所見であったが、CT、MRI とも
に遺残ガーゼに特徴的な所見を認め、振り返ってみると
超音波でも特徴的な所見を呈していた。腫瘍は周囲組織
との比較的強い癒着を認めたものの、穿通はなく、腹腔
鏡下に腫瘍摘出術、直腸漿膜面の縫合術を行った。異物
性肉芽腫の報告の多くは症状を有したものであるが、本
症例のような無症候性の症例も早期に診断し治療につな
げることが重要である。
結 語
ガーゼ遺残による異物性肉芽腫の症例を経験した。ガ
ーゼ遺残は医原性疾患であるうえに、合併症を起こした
り摘出手術に難渋するリスクがある。多様な画像所見の
なかにも特徴的所見を見逃さず、適切な画像評価や治療
が求められると考えた。
文 献
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small bowel obstruction: gossypiboma- case report. BMC
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安田秀光, 上西紀夫, 小林有香, 元井紀子. 腹腔内異物性
肉芽腫の1切除例の経験と画像診断の検討. 日本消化器
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15)五十嵐章, 小里俊幸, 斉藤孝晶. 腹腔内異物(ガーゼ)
による癒着性イレウスの 1 例. 日本腹部救急医学会雑
誌. 2005; 25: 87~89.
16)若山彩, 竹原啓, 濱野恵美, 加藤雄一郎, 千田裕美子, 望
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た一例. 日産婦内視鏡学会. 2013; 29: 121-125.
17)柴田孝弥, 全並秀司, 伊藤由加志, 遠藤友美, 黒野格久,
田中宏紀. US, MRIの特徴的所見により術前診断した腹
腔内ガーゼ遺残の1例. 日臨外会誌. 2010; 71: 2716-2721.
(H27.2.25受付)
平成27年9月(2015)
39 (39)
メイグス症候群と子宮内膜癌を併発した良性卵巣ブレンナー腫瘍の1例
A Case of Synchronous Benign Brenner Tumor of the Ovary Accompanied with Meigs Syndrome and Primary
Endometrial Adenocarcinoma of the Uterus, in a Postmenopausal Woman
横浜市立大学附属病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City
University Hospital
大和田 望 Nozomi OWADA
佐藤美紀子 Mikiko ASAI-SATO
長谷川哲哉 Tetsuya HASEGAWA
横田 奈朋 Naho YOKOTA
中村 朋美 Tomomi NAKAMURA
沼崎 令子 Reiko NUMAZAKI
宮城 悦子 Etsuko MIYAGI
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
横浜市立大学医学部分子病理学講座
Department of Molecular Pathology, Yokohama City University
School of Medicine
古屋 充子 Mitsuko FURUYA
概 要
卵巣ブレンナー腫瘍は表層上皮性・間質性腫瘍に分類
され、全卵巣腫瘍の2-3%を占める稀な疾患である 1)。
本論文では、早期子宮体部類内膜腺癌を併発したこと
に加え、メイグス症候群と考えられる胸腹水貯留を合併
したエストロゲン産生性の良性卵巣ブレンナー腫瘍の1例
を経験したので報告する。
症例は 85 歳、腹部膨満と咳嗽を主訴に発見された胸腹
水を伴う11 cm 大の充実性骨盤内腫瘍に対し、卵巣癌の術
前診断で両側卵巣と子宮摘出を行った。病理学的に、摘
出した卵巣腫瘍は黄体化間質細胞を伴う良性ブレンナー
腫瘍であり、子宮には内膜に限局した高分化型類内膜腺
癌が認められた。術前の血中エストラジオール値が上昇
していたが腫瘍摘出後に低下したこと(28.4→5未満 pg/
ml)
、病理学的に黄体化間質細胞が認められ、さらに免疫
組織化学法でエストロゲン合成過程に関与する変換酵素
の存在が確認されたことから、本症例の良性ブレンナー
腫瘍はエストロゲン産生性であり、子宮内膜癌の原因に
なったと考えられた。胸腹水は腫瘍摘出後急激に消失し、
メイグス症候群であると考えられた。
緒 言
ブレンナー腫瘍は、卵巣腫瘍の臨床病理学的分類にお
ける表層上皮性・間質性腫瘍の1つである。本腫瘍は全卵
巣腫瘍の 2-3 %を占めるにすぎない稀な疾患である 1)。ブ
レンナー腫瘍は、多くの場合ホルモン産生性は認められ
ないが、稀にエストロゲン産生性を示唆する症例が報告
されている。一方、メイグス症候群は卵巣腫瘍や子宮腫
瘍に伴い胸腹水を呈す病態で、腫瘍摘出により速やかに
胸腹水が消失することが特徴である。われわれは早期子
宮体部類内膜腺癌とメイグス症候群を併発した、エスト
ロゲン産生を伴う閉経後の良性卵巣ブレンナー腫瘍の1例
を経験したので報告する。
Key words : Brenner tumor, endometrial adenocarcinoma, Meigs
syndrome, estrogen effect.
症 例
85歳 0経妊 0経産
【主訴】腹部膨満感、咳嗽
【既往歴】76歳に胃癌StageⅠA, 低分化腺癌で胃全摘術
【月経歴】初経15歳 閉経53歳 ピルやホルモン補充
療法施行歴なし
【現病歴】腫瘍発見1ヵ月前より腹部膨満感や軽度の咳
嗽に気付いていた。胃癌術後の経過観察のため1年毎に受
けていた腹部超音波検査で 10 cm超大の骨盤内腫瘍が発見
されたため、卵巣腫瘍の疑いで当科に紹介受診した。
【身体所見】身長 151 cm 体重 35.5 kg BMI 15.6 下腹部
は腫瘤により硬く膨隆していた。内診で骨盤内に可動性
良好な弾性硬の小児頭大の腫瘍を触知した。
【画像所見】経腟超音波、胸部レントゲン、単純/造
影 CT、MRI 検査、上下消化管内視鏡検査を施行した。
CTと MRI では骨盤内に一部石灰化を伴う直径 11 cm大の
類円形の境界明瞭で辺縁平滑の充実性腫瘍を認めた(図
1)。子宮との連続性はなく、正常卵巣が同定できなかっ
たため卵巣腫瘍が最も考えられた。造影 CT での造影効果
40 (40)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図1 MRI T2強調像 低信号
の卵巣腫瘍で、内部に
高信号領域を認める。
子宮内膜に肥厚を認め
る。
(矢印)
図2 造影 CT 右側優位に両
側に胸水貯留を認める。
図3 摘出した左卵巣腫瘍(良性ブレン
ナー腫瘍)
A. 割面肉眼所見:黄白色の充実性腫瘍
で中央粘液変性、辺縁に石灰化(囲
み)を認める
B. HE 染色 200 倍:密な間質に辺縁明
瞭な巣状の腫瘍細胞増殖を認める
C. HE 染色 400 倍:細胞質が膨化した
淡明な機能性間質を認める(囲み)
移行上皮類似の円柱型上皮が増生し、一部にコーヒー豆様の核溝を認める(矢印)
D. 17β-HSD染色 400倍:黄体化間質細胞の一部が陽性
E. 3β-HSD染色 400倍:腫瘍細胞が弱陽性
は認めなかった。MRI T 2強調像で腫瘍は豊富な線維成分
を示唆する低信号を呈し、内部には浮腫や嚢胞変性を疑
う高信号域が広範に見られた(図1)
。これらの所見より、
画像上は充実性卵巣腫瘍で、組織型としては Krukenberg
腫瘍や莢膜細胞腫や線維腫などが推定された。
子宮は年齢相応に萎縮しているが子宮内膜が 13 mm に
肥厚しており、留血腫や子宮体癌が疑われた(図1矢印)
。
胸部 CT では両側胸水及び少量の腹水を認めた。胸水は
左側(深度2 cm)に比べ右側優位に貯留していた(図2)
。
頸部∼骨盤の造影 CT では、明らかな転移・播種性病変・
リンパ節腫大は認めなかった。上下消化管内視鏡で明ら
かな腫瘍性病変は指摘されなかった。
【血液検査所見】CEA:1.8 ng/ml(基準値<6.2)
、AFP:3
ng/ml(基準値1.0∼6.2)
、CA 125:225 U/ml(基準値<35)
、
CA 19-9:13 U/ml(基準値<37 U/ml)
、SCC:1.6 ng/m(基
準値<1.5 ng/ml)
。
充実性卵巣腫瘍であり、性索間質性腫瘍の可能性があ
ったためホルモン値を測定した。エストラジオール:28.4
pg/ml(基準値<10 pg/ml)
、テストステロン:0.632 ng/
ml(基準値 0.1-0.6 pg /ml)とエストロゲン、テストステ
ロンの上昇を認めた。その他末梢血検査、生化学検査に
異常を認めなかった。
【術前病理学的検査】子宮頸部細胞診:NILM。細胞成
熟度指数は年齢に比して著明な表層細胞型右方移動を認
めた。子宮内膜細胞診及び組織診:子宮頸管の萎縮狭窄
のため検体採取が不可能であった。胸水:検査目的に右
胸部より 7 ml を採取した。黄色透明であり、細胞診で異
型細胞を認めなかった。
【治療経過】ホルモン産生性の充実性卵巣腫瘍である
ことから顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫などの性索間質性腫瘍
も考えられたが、CA 125 上昇と胸腹水を伴っており、ホ
ルモン産生性の上皮性悪性卵巣腫瘍や胃がんの既往から転
平成27年9月(2015)
41 (41)
図5 エストロゲン合成経路
(Simard ら200512、一部改訂)
図4 摘出した子宮 HE 染色 100 倍:複雑型異型内膜増
殖症を背景とした高分化型類内膜腺癌
移性悪性腫瘍などの可能性も想定した。骨盤腫瘤は可動性
良好で摘出可能であると判断し、開腹術を施行した。子宮
に関しては、子宮内膜病変が否定できないものの生検が不
可能であったため患者・家族と相談し卵巣が良性であって
も腹式単純子宮全摘術を追加する方針とした。
開腹すると、腹腔内には淡血性の腹水約 30 mlを認めた。
腫瘍は左卵巣由来で、子宮及び右卵巣は年齢相応に萎縮
していた。腹膜に浸潤・播種病変は認められなかった。
左卵巣腫瘍の術中迅速病理診で良性ブレンナー腫瘍と診
断されたため、予定通り両側付属器切除術及び単純子宮
全摘術を施行した。
【病理所見】肉眼的に左卵巣腫瘍は大きさ12.8×11×9
cmで重量 549 gの固い腫瘤であった。肉眼的には表面平滑
で結節状の凹凸を呈しており、割面は黄白色で一部に粘
液性嚢胞部分と直径 3 cm 大の石灰化領域を認めた(図3A
丸印)。組織学的には、ヘマトキシリン・エオジン染色
(HE 染色)で浮腫や石灰化を伴う豊富な間質内に大小不
同の島状に尿路上皮様の移行上皮の充実性の細胞胞巣が
認められた(図3 B、3 C)
。腫瘍細胞は淡明な細胞質と溝
のあるコーヒー豆状の核(図3 C)を呈していた。細胞異
型、核分裂像はみられず、良性ブレンナー腫瘍と診断し
た。腫瘍間質には緻密紡錘形細胞が増生していたが(図3
B)、腫瘍胞巣周囲には細胞質が膨化した大型好酸性細胞
が 散 在 し て お り ( 図 3 C 囲 み )、 免 疫 組 織 化 学 染 色 で
Vimentin 強陽性、α-inhibin 弱陽性であったため黄体化し
た機能性間質と考えられた。胞巣周囲の間質細胞の一部
にエストロゲン合成過程に関与するステロイド変換酵素
である 17β- HSD(図 3 D)が、腫瘍細胞に 3β- HSD が陽
性であり(図 3 E)、本腫瘍では腫瘍細胞及びその間質で
エストロゲンが産生されている可能性が示唆された。
同時に摘出された子宮は萎縮性で、後壁及び左側壁よ
り発育するそれぞれ長径 1 cm 及び 2 cm 大の内膜隆起性病
変を認め、組織学的には複雑型異型内膜増殖症を基盤と
した高分化型類内膜腺癌であった(図 4)。腫瘍は外向性
に発育しており、筋層浸潤は認められなかった。術中腹
水細胞診は陽性(腺癌)であった。以上より、本症例を
左卵巣原発のホルモン産生性良性ブレンナー腫瘍及び子
宮体癌ⅠA期,類内膜腺癌グレード1, pT 1 aN 0 M 0と診断
した。
【術後経過】卵巣腫瘍摘出後、腹部膨満感や咳嗽、胸
水・腹水は速やかに改善した。血液検査でも、エストラ
ジオール:手術 1 ヵ月前 28.4 pg/ml から術後 1 ヵ月で 5 未
満 pg/ml、テストステロン:手術1ヵ月前0.632 ng/mlか
ら術後1ヵ月0.118 ng/ml、CA125:手術1ヵ月前225 U/ml
から術後1ヵ月で38 U/ml、術後5ヵ月には19 U/mlと全
て基準範囲内に低下した。子宮内膜癌に対しては再発低
リスク群であり、後療法の施行は必要ないと判断した。
現在術後2年が経過し子宮内膜癌の再発兆候はなく良好に
経過している。
考 案
ブレンナー腫瘍は、全卵巣腫瘍の2∼3%と稀な腫瘍で
あり、その約 9 割以上は良性腫瘍である。腫瘍径 2 cm 以
下の小さい腫瘍であることが多いが、本症例のように 10
cm を超えるものもある。線維腫、莢膜腫に類似した充実
性腫瘍の中に小嚢胞や石灰化を伴っていることが多いと
されており 1)、本症例も後方視的に見れば術前の画像診断
でブレンナー腫瘍を推定することは可能であったと考え
られる。
表層上皮性・間質性腫瘍に分類され、一般的にはホル
モン非産生腫瘍であるが、本症例同様に、ブレンナー腫
瘍摘出によって改善する高エストロゲン血症が存在し、
腫瘍によるエストロゲン産生が示唆されている 2)3)。エス
トロゲン産生機序の詳細は未だ明確になっていないもの
の、エストロゲン産生性ブレンナー腫瘍の間質に形態的
に黄体化を示唆する大型の好酸性細胞が存在し 2)∼ 5)、免
疫組織化学でその黄体化間質細胞エストロゲン合成経路
に関与するさまざまなステロイド変換酵素の存在 2)∼6)が
検出されており、腫瘍間質がエストロゲン産生の主座で
あるとする報告が多い。
本症例では、エストロゲン合成に関与する17β- HSD が
腫瘍間質細胞で陽性を(図 3 E)、3β- HSD は腫瘍細胞で
陽性を示していた(図 3 F)。腫瘍上皮及び間質が共にエ
ストロゲン合成に関わる機能を有しており、しかも腫瘍
上皮と間質が異なる機序で、あるいは相互が協調してエ
ストロゲン合成に関与していることが示唆され、ブレン
42 (42)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
ナー腫瘍におけるエストロゲン産生の機序解明において
興味深い所見と考えられる(図5)
。
エストロゲン産生腫瘍における子宮体癌の合併につい
て、van Merus HS らはエストロゲン産生腫瘍として主要
である顆粒膜細胞腫を 1031 例検討し、31.4 %に子宮体癌
を含む子宮内膜過形成が認められたと報告している 7)。本
症例は子宮体がん検診受診歴や不正性器出血のエピソー
ドがないため、子宮内膜癌を発症した時期は不明である
が、エストロゲン依存性である異型内膜増殖症を背景と
した高分化型類内膜腺癌の存在は腫瘍由来の高エストロ
ゲン環境が子宮内膜病変を誘起した可能性を想起させる。
メイグス症候群は、①胸腹水を伴う卵巣腫瘍(線維腫、
莢膜細胞腫、顆粒膜細腫、ブレンナー腫瘍など)があり
②腫瘍摘出後に胸腹水が速やかに消失する病態である 8)。
胸腹水貯留の作用機序は明らかではないが、腹水は腫瘍
の腹膜刺激による浸出液とする説 8)や、腫瘍の直接圧排
やホルモン刺激、化学メディエーターによる毛細管の透
過性亢進による浸出液とする説がある 9)。胸水は、腹腔内
の浸出液の胸腔内への移動と考えられ、横隔膜の小孔や
リンパ小孔を介する説があるが 10)、本症例に類似して腹
水貯留は軽度であるにもかかわらず画像上明らかな胸水
貯留を認めた症例も報告されており 11)、単純に腹水が胸
腔に移動したとは考えにくく胸水貯留には複合的な機序
が存在しているのかもしれない。臨床的に胸水貯留は
70 %が右側、15 %が左側、15 %が両側との報告があり、
右側に多く貯留する傾向がある 10)。本症例は卵巣ブレン
ナー腫瘍の摘出後、急速に胸腹水が消失していることか
らメイグス症候群の診断基準を満たしており、胸水貯留
が右側優位であったことからも典型的な病状であったと
考えられる。元来メイグス症候群は莢膜細胞腫や顆粒膜
細腫などのホルモン産生腫瘍に合併することが多いが、
腫瘍から産生されたエストロゲンが胸腹水の産生に影響
をあたえているか否かに関しては解明されておらず、今
後検討すべき興味深い課題であると考えられる。
文 献
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(H27.2.25受付)
平成27年9月(2015)
43 (43)
妊娠24週で外科的治療を要した非典型的なhyperreactio luteinalisの1例
A case of atypical hyperreactio luteinalis requiring surgerical procedure at 24 weeks of gestation
横浜南共済病院産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama Minami
Kyosai Hospital
志村 茉衣 Mai SHIMURA
中西沙由理 Sayuri NAKANISHI
平原 裕也 Yuya HIRAHARA
長嶋 亜巳 Ami NAGASHIMA
中島 泉 Izumi NAKASHIMA
齊藤 真 Shin SAITO
和泉 春奈 Haruna IZUMI
須郷 慶信 Yoshinobu SUGO
長瀬 寛美 Hiromi NAGASE
飛鳥井邦雄 Kunio ASUKAI
概 要
症 例
hyperreactio luteinalis(黄体過剰反応、以下 HL)は絨毛
性疾患や妊娠等に伴い、両側卵巣が多房性に腫大する反
応性の変化である。今回我々は非典型的な HL であったた
め術前診断に苦慮し、外科的治療を要した HL の1例を経
験したので報告する。症例は34歳、0経妊0経産。自然妊
娠にて近医受診した。妊娠 11 週に両側卵巣の腫大を指摘
され、妊娠 17 週に右卵巣腫瘤径が 14 cm に増大し、妊娠
23週に腹部膨満感を主訴に当院を紹介受診した。初診時、
経腹超音波断層にて長径17 cmの多房性の右卵巣の腫瘤性
病変と径 6 cm の単房性の左卵巣の腫瘤性病変を認めた。
男性化徴候は認めなかった。血中 hCG は 13275 IU/ml と
妊娠週数相当であり、血中テストステロンは 1.31 ng /ml
と軽度高値を認めた。画像検査と腫瘍マーカー値から悪
性所見はなく、卵巣粘液嚢胞腺腫を疑い、腹部膨満感が
強かったため、妊娠24週に右卵巣部分切除術を実施した。
最終病理診断は HL であり、術後経過、妊娠経過に問題な
く、妊娠 38 週に経腟分娩に至った。妊娠に伴う卵巣腫瘤
性病変を認める場合の鑑別診断の一つとして HL を考慮す
る必要がある。
患者:34歳 0経妊 0経産
主訴:腹部膨満感
既往歴・家族歴:特記すべき事項なし
月経歴:周期28日 順
現病歴:自然妊娠し、近医にて最終月経より予定日を
決定した。妊娠 11 週の妊婦健診で両側卵巣の腫大(詳細
不明)を指摘され、以降3週間ごとに経過観察されていた。
妊娠 17 週には右卵巣腫瘤径が 14 cm となり、妊娠 23 週に
は 17 cmと増大し、腹部膨満感も増強したため妊娠23週2
日に当院紹介受診となった。
初診時現症:身長 148 cm 体重 50.6 kg 血圧 127/73
mmHg
腹囲 80 cm 子宮底 25 cm 男性化徴候なし
臍上 10 cmに及ぶ弾性軟、可動性良好の腫瘤を認めた。
超音波検査所見と内診所見:経腹超音波検査にて、長径
17 cmの多房性の右卵巣腫瘤性病変と径 6 cmの単房性の左
卵巣腫瘤性病変を認めた(図1 a、1 b)
。推定児体重は 626
gであった。子宮口は閉鎖し、頸管長は 38 mmであった。
腹部∼骨盤単純 MRI 所見:長径 17 cm の右卵巣多房性
嚢胞性腫瘤性病変と径 6 cm 大の左卵巣単房性嚢胞性腫瘤
性病変を認めた。右卵巣腫瘤性病変の各嚢胞の大きさは
大小不同であり、隔壁は薄く、充実成分は認めなかった。
また、内部信号はともに、T 1 強調画像と T 2 強調画像で
低信号であり、両側卵巣粘液嚢胞腺腫を疑った(図2a、2
b、2 c)
。
血液検査所見: CA 19-9 2.6 U/ml、CEA 0.6 ng /ml、
CA125 58.6 U/ml、hCG 13275.72 IU/ml、エストラジオー
ル 7070 pg/ml、テストステロン 1.31 ng/ml、LH 0.1
mIU/ml、FSH < 0.05 mIU/ml、PRL 121.7ng/ml
末梢血一般検査、生化学検査、凝固系検査はすべて正
常であった。
緒 言
hyperreactio luteinalis(黄体過剰反応、以下 HL)とは絨
毛性疾患や妊娠等に伴い、両側卵巣が多房性に腫大する
反応性の変化である 1)。今回我々は、非典型的な HL であ
ったため術前診断に苦慮し、妊娠 24 週に外科的治療を要
した HL の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報
告する。
Key words : hyperreactio luteinalis, ultrasonography, ovarian
tumor
44 (44)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図1a 経腹超音波 長径17 cmの右卵巣多房性腫瘍
図2 a 骨盤単純MRI T 2強調冠状断像
長径 17 cmの右卵巣多房性嚢胞性腫瘍
図1b 経腹超音波 径6 cm大の左卵巣単房性腫瘍
図2 b 骨盤単純MRI T 2強調冠状断像
径 6 cm大の単房性嚢胞性腫瘍
経過:以上より、両側卵巣粘液嚢胞腺腫を疑い、腹部膨
満感が強く、診断目的も含め開腹による摘出術の方針とし
た。左卵巣腫瘤性病変に関しては悪性を疑う所見はなく、
子宮の背側に位置し手術操作が困難であることが予想され
たため摘出術を行わない方針とした。
手術所見(妊娠24週4日):臍上正中縦切開( 4 cm)に
て開腹したところ、4房性の右卵巣嚢胞を認めた。淡黄色、
漿液性の嚢胞の内容液 1900 mlを吸引し、右卵巣部分切除
術を実施した(図 3)。術中迅速病理診断はルテイン嚢胞
であった。手術時間は50分、術中出血量は少量だった。
病理所見:複数の黄体化卵胞嚢胞を認め、嚢胞壁には
黄体化した莢膜細胞が並んでいた。また、浮腫状の間質
の中に散在した莢膜細胞を認めた。以上よりHLと診断し
た(図4a、4b、4c)
。
術後経過:不規則な子宮収縮を認め、術後 11 日目まで
子宮収縮抑制剤の点滴投与を行った。その後の経過は順
調で術後 12 日目に退院となった。妊婦健診を施行し、左
卵巣腫瘤性病変は妊娠 29 週までは経腹超音波で描出出来
たが、それ以降は描出出来なかった。妊娠 38 週 0 日、自
然陣痛発来し経腟分娩に至った。児は女児、体重 2972 g、
身長 50.3 cm、アプガースコア 1 分値 8 点、5 分値 9 点であ
った。分娩後5日目、分娩後1ヵ月後の経腟超音波にて両
側卵巣は正常大であり嚢胞は認めなかった。
図2 c 骨盤単純MRI T 2強調矢状断像
右卵巣多房性腫瘍は季肋部にまで及んだ
図3 開腹所見
右卵巣腫大は長径 20 cm大で4房性に分かれ、嚢胞
壁はうすく、充実成分を認めなかった
考 案
HL とは、絨毛性疾患や妊娠等に伴い、両側卵巣が多房
性に腫大する反応性の変化である。卵巣腫大が両側性であ
ること、腫大した卵巣がアンドロゲンを過剰に生成すると
いう特徴がある 1)。稀な疾患で、海外を含めても現在100
例程度の報告しかない 1)。典型的なHLを示すために、妊
娠中の類腫瘍であるルテイン嚢胞と比較した(表 1)。ル
テイン嚢胞は妊娠初期に指摘され、片側、単房性、5 cm
平成27年9月(2015)
45 (45)
図4 a 病理組織学的所見 HE 染色10倍 図4 b 病理組織学的所見 HE染色40倍 図4 c 病理組織学的所見 HE染色100倍 複数の黄体化卵胞嚢胞を認めた
嚢胞壁には黄体化した莢膜細胞を認めた 浮腫状の間質の中に散在した莢膜細胞
を認めた
表1 文献1、2より筆者作成
未満であることが多く、妊娠 14 週ごろには消失する 3)4)。
一方、HL は妊娠中のどの時期にも起こり、妊娠初期に
16%、妊娠中期に14%、妊娠後期に54%、産褥期に16%
という報告 5) があり、産褥 3 ヵ月にはほぼ消失する 1)。
90%以上が両側性であり、多房性であることが多く 1)、多
数の卵胞が同時に発育するため、個々の嚢胞の大きさが
比較的同じであり、超音波画像の特徴として spoke wheel
と称される 6)。25 ∼ 30 %に男性化徴候を認め 1)甲状腺機
能亢進症や妊娠高血圧症候群を合併するという報告 7)8)
もある。病理所見としては、ルテイン嚢胞は黄体化した
顆粒膜細胞と莢膜細胞の二相性で構成されるが、HL は黄
体化した莢膜細胞が主であり、顆粒膜細胞の関与は軽微
と言われている 9)。明確な診断基準がないため、OHSS
(ovarian hyperstimulation syndrome)を HL に含めるとする
報告 10)と、排卵誘発の有無、発症時期、胸腹水の有無に
より、HL と OHSS を区別するという報告 11)がある。
発症機序は正確には解明されていないが、卵巣の莢膜
細胞が hCG に刺激され、黄体化した複数の卵胞嚢胞を形
成し、その黄体化卵胞嚢胞がアンドロゲンを生成すると
言われている 12)。絨毛性疾患や多胎妊娠では hCG が高値
となるため起こりやすいと考えられるが、hCG が正常範
囲内の単胎妊娠の報告例も増加している 12)。これらは、
hCG に対する高感受性との関連が示唆され、近年、FSH
receptor の遺伝子変異の指摘が報告されている 13)14)。HL
を繰り返す報告 11)もあることから、HL の既往歴がある
場合は、次回の妊娠で HL の発症に注意する必要がある。
治療は、保存的治療が基本である。しかし、HL が茎捻
転や破裂し急性腹症を起こした場合、腹部圧迫症状が強
い場合、また悪性腫瘍が否定出来ない場合は手術が必要
となる 1)。手術を要する場合は、嚢胞の一部を術中迅速診
断に提出し、HL と診断出来れば、嚢胞内容液の穿刺・吸
引などで可能な限り卵巣組織を温存することが望まれる
5)
。我々が、検索しえた本邦での妊娠に伴うHL の報告は
13 例あった(抄録を含む)。そのうち、3 例は双胎妊娠、
10 例は単胎妊娠、径は 7 cm ∼ 33 cm だった。手術を要し
た症例は 3 例あり、そのうち、1 例は茎捻転のため、1 例
は腹部膨満感の緩和のため、1例は診断目的だった。経過
観察した10例の妊娠転帰は、5例が経腟分娩、5例が帝王
切開術だった。経腟分娩した症例の HL の最大径は25 cm
だった。帝王切開術を実施した 5 例の適応は、3 例は胎児
要因、2例はHLによる分娩停止のためだった。
今回、われわれは術前診断では卵巣粘液嚢胞腺腫と考
えた。卵巣粘液嚢胞腺腫とは通常、片側性の多房性嚢胞
であり、各嚢胞の大きさは大小不同を呈する 15)。一方、
HL は両側の卵巣が多房性に腫大し、各嚢胞の大きさが均
一という特徴を持つ。本症例を振り返ると、左卵巣は単
房性嚢胞であり、右卵巣は多房性嚢胞であるものの各嚢
胞の大きさは大小不同であり、画像所見からは HL と卵巣
46 (46)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
粘液嚢胞腺腫との鑑別は困難であった。また、hCG の値
は妊娠週数と比較して有意な上昇はなく、テストステロ
ンも軽度上昇のみであり、特異的な内分泌環境を認めな
かったため、HL と術前診断することができなかった。腹
部膨満感が強かったことから外科的治療は避けられなか
ったが、妊娠中に合併する卵巣腫瘤性病変であり、HL を
鑑別診断にあげることができれば、術式は生検と嚢胞内
容の吸引のみでより卵巣を温存出来た可能性はある。
HL は頻度が低く、本症例のように特異的な内分泌環境
や画像所見を伴わないこともある。しかし、絨毛性疾患
や妊娠中に合併する卵巣腫瘤性病変を認める場合には鑑
別診断の一つとして考慮する必要がある。
文 献
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13)Smits G, Olatunbosun O, Delbaere A, Pierson R, Vassart G,
Costagliola S.Ovarian hyperstimulation syndrome due to a
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Med.2003;349:760-6.
14)Daelemans C, Smits G, Maertelaer V, Costagliola S, Englert
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by follicle-stimulating hormone receptor Ser680 Asn
polymorphism. J Clin Endocrinol Metab.2004;89:6310-5.
15)今岡いずみ, 田中優美子. 婦人科 MRI アトラス. 第 1 版.
東京:秀潤社;2004.6. 女性骨盤内腫瘤の鑑別診断 粘液
性腫瘍−良性−;p.164-5.
(H27.2.28受付)
平成27年9月(2015)
47 (47)
1児に脳瘤を認めた一絨毛膜一羊膜双胎の1例
A case report of monochorionic monoamniotic twin pregnancy with encephalocele of one twin
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, St. Marianna
University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital
b橋 由妃 Yuki TAKAHASHI
吉岡 範人 Norihito YOSHIOKA
西島 千絵 Chie NISHIJIMA
飯田 智博 Tomohiro IIDA
田村みどり Midori TAMURA
聖マリアンナ医科大学病院産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, St. Marianna School of
Medicine
鈴木季美枝 Kimie SUZUKI
鈴木 直 Nao SUZUKI
概 要
32歳、0回経妊 0回経産。既往歴、家族歴共に特記事項
無し。前医にて自然妊娠成立を確認。妊娠 10 週 3 日に絨
毛膜一羊膜性双胎(以下 MM 双胎)の診断にて当院へ紹
介受診となった。特に問題なく経過していたが、妊娠 18
週 6 日経腹超音波にてⅠ児の後頭部に 2 cm 大の腫瘤性病
変を認められた。2週間後の健診では後頭部病変の変化は
認められなかったが、水頭症の併発が疑われたことから、
妊娠 23 週 4 日に双胎管理目的及び頭蓋病変、水頭症精査
目的にて入院となった。1 日 2 回の胎児心拍モニタリング
と tocolysis を施行し経過観察した。入院後2回の頭部 MRI
による評価にて、Ⅰ児の後頭部に脳瘤と水頭症が疑われ
た。妊娠 33 週 5 日選択的帝王切開を施行し、Ⅰ児の後頭
部に脳瘤が認められたが、皮膚欠損は認めなかった。日
齢1に明らかな水頭症の増悪を認め、日齢3に脳室リザー
バー留置を施行した。日齢 57 に脳瘤切除術を施行した。
その後リザーバーからの髄液吸引量を漸減したところ眼
球突出、脳室拡大を認めたため日齢 85 に脳室腹腔内シャ
ント留置術を施行した。術後経過は良好であり、日齢108
に退院となった。
緒 言
脳瘤とは神経管閉鎖不全により頭蓋内構造物の一部が
頭蓋外に脱出し瘤を形成した先天奇形の一つであり、発
生頻度は10000人に0.8∼3人と言われている 1)∼3)。また、
MM 双胎は一絨毛膜双胎の中では約2%を占める稀な双胎
であり、周産期死亡、先天異常のリスクが非常に高い事
が知られている 4)。MM 双胎の管理方法や娩出のタイミン
グについては一定の見解が得られておらず、厳重な妊娠
管理のもと、症例ごとに検討することとなる。今回我々
は、MM 双胎の1児に脳瘤の出生前診断をし、良好な周産
期経過をたどった1例を経験したので報告する。
Key words : encephalocele, ,monochorionic monoamniotic twin
症 例
症例 32歳、0回経妊 0回経産。
既往歴/家族歴 記事項無し。
現病歴 前医にて自然妊娠成立を確認。妊娠 10 週 3 日
に MM 双胎の診断にて当院へ紹介受診となった。その後、
外来にて特に問題なく経過していたが、妊娠 18 週 6 日経
腹超音波にて Ⅰ 児の後頭部に 2 cm大の腫瘤性病変を認め
られた。2週間後の健診では後頭部病変の変化は認められ
なかったが、水頭症の併発が疑われたことから、妊娠 23
週4日に双胎管理目的及び頭蓋病変、水頭症精査目的にて
入院となった。
入院時経腹超音波検査 Ⅰ児の後頭部に 16 × 18 mm の
脳瘤を認めた(図1)
。側脳室後角は 8.1 mmと正常範囲内
であった(図2)
。
入院後経過 1 日 2 回の胎児心拍モニタリングと塩酸リ
トドリンによる tocolysis を施行し経過観察した。妊娠週
数が進むにつれ腹部緊満は増し、tocolysis を強化した。胎
児心拍モニタリングでは腹部緊満時にⅠ児に variable
decerelation が散見され、経腹超音波検査上著明な臍帯巻
絡が原因であると考えられ、胎児心拍の回復は速やかで
あるため経過観察とした。妊娠25週0日、妊娠31週3日に
胎児 MRI 検査を施行し評価した(図 3 A、B)。画像所見
上Ⅰ児の後頭部の脳瘤は内部に明らかな脳実質は認めず、
髄膜瘤との鑑別は困難であった。また脳瘤破裂の有無は
判断できず、皮膚欠損の可能性も考えられた。妊娠 30 週
頃から腹部緊満は著明となり、tocolysisを塩酸リトドリン
200γ+硫酸マグネシウム 18 mL /h(血中 Mg 濃度 6.2
48 (48)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図2 入院時経腹超音波所見。
側脳室後角(⇔)は 8.1 mm と明らかな水頭症は認めなかった。
図1 入院時経腹超音波所見。
後頭部に 2 cm 大の脳瘤(⇔)を認める。
図3(A、B):胎児 MRI 画像T 2 強調 矢状断
妊娠25週0日(A)と妊娠31週3日(B)
。それぞれ後頭部の脳瘤(▲、△)
は共に 2 cm 大であり明らかな経時的増大傾向は認めなかった。
mg/dL)と強化した。その後最大羊水深度 9 cmと羊水過
多を認め子宮収縮は頻回となり tocolysis は限界と判断、
妊娠 33 週 5 日選択的帝王切開を施行した。手術操作とし
て、脳瘤保護目的に子宮筋層を U 字切開することで良好
視野を確保した。
分娩経過 Ⅰ児娩出 頭位 1710 g 女児 Apgar score 1分8点/5分9点
Ⅱ児娩出 頭位 1926 g 女児 Apgar score 1分9点/5分9点
出血量: 847 ml(羊水は含めず)
、手術時間:27分 両児の臍帯間に高度の巻絡を認めたが手術手技には影
響しなかった。
出生後経過 Ⅰ児の後頭部に皮膚で完全に覆われた 2
cm 大の脳瘤と、他に左橈側列形成異常の併発を認めた。
出生直後は良好な啼泣をみとめたが、徐々に陥没呼吸が
出現し、人工呼吸管理となった。その後呼吸状態は改善
し日齢8に抜管となった。日齢1に明らかな水頭症増悪を
認めたため、日齢 3 に脳室リザーバー留置術を施行した。
児の体重が 2000 g を越えるのを待ち、日齢 57 に脳瘤切除
術を施行した(図 4)。病理検査結果では、グリア細胞、
神経細胞を認め、脳瘤の診断に矛盾しなかった(図5、6)
。
図4 摘出検体マクロ所見。
脳瘤は皮膚に包まれていた。
アセタゾラミド 38 mg /day の内服を併用しながら水頭症
の管理を行ったが髄液排液量は徐々に増加し、日齢 19 に
リザーバー留置部位の縫合離開、髄液漏出を認め、離開
部再縫合術を施行した。日齢 71 より髄液の吸引量を漸減
したところ眼球突出と水頭症の増悪を認め、日齢 85 に脳
室腹腔内シャント留置術を施行した。術後経過は良好で
あり、日齢108に退院となった。Ⅱ児は明らかな奇形は認
めず日齢58に退院となった。
考 案
脳瘤は頭蓋の欠損部から脳または髄膜組織が脱出した先
天奇形である。二分脊椎の約 1 / 7 ∼ 1 /10、出生 3000 ∼
10000に対して一例の頻度で発生する。合併奇形として水
頭症、キアリⅡ/Ⅲ型奇形、全前脳胞症、その他多くの神
経奇形を認める場合があり、手術適応や予後を考慮する際
には頭蓋内構造の十分な検討が必要である。脳瘤は一般的
に長期予後が不良であると言われている。栗原らは脳瘤に
おける知能予後関連因子として、頭瘤の大きさ・てんかん
の有無・水頭症の有無・細胞移動障害・脳梁形成異常の合
併の5因子を報告している 5)。本症例の予後については修
平成27年9月(2015)
49 (49)
図5 脳瘤ミクロ所見(10×2 倍)
脳組織を認め、脳瘤の診断に至った。
(△:脳組織、▲:皮膚組織)
図6 脳瘤ミクロ所見(HE 染色 10×10 倍)
。
脳組織:▲を認め、脳瘤の診断に至った。
正月齢6ヵ月現在で定頸を認めているが、今後は慎重な経
過観察を継続する必要があると思われる。
出生時に脳瘤の皮膚欠損を認める場合は、脳外科医によ
る緊急手術が必要となるため出生前から脳外科医と綿密な
連携をとり、分娩時の脳外科医の立ち会いが望ましい。本
症例では、妊娠25週0日、妊娠31週3日に胎児 MRI 検査を
施行し評価しているが、脳瘤の皮膚欠損の有無についての
確定診断は困難であった。そのため帝王切開施行時には脳
外科医立ち会いとし、児娩出後速やかに診察を行い、迅速
な方針決定ができるようにした。MM 双胎は一絨毛膜双胎
の中では約2%を占める稀な双胎であり、受精卵が8∼12
日に分割する事で生じる 6)。MD、DD 双胎に比べ周産期予
後は不良である。胎児異常の頻度は MD 双胎が6%である
のに対し、MM 双胎では28%であり心奇形が4%、中枢神
経異常が5%であったとの報告がある 7)∼9)。原因として形
成期の血管吻合を介する血流不均衡や二次的な神経堤細胞
への影響が推測されている 7)。我が国で MM 双胎の1児の
みに先天奇形を合併した報告は、向井ら 10)の総排泄腔外
反症の一例と伊藤ら 11)の無脾症候群の一例、深谷ら 12)の
無脳児の1例などまだ少数にとどまる。本症例では奇形を
認めなかった児への影響は認めなかった。中枢神経系奇形
の頻度については、現段階では症例数が少ないため明らか
ではなく、今後の報告の積み重ねが期待される。
今回、妊娠30週頃より最大羊水深度 9 cm と羊水過多を
認めたため双胎間輸血症候群(以下 TTTS)の可能性につ
いても検討した。TTTS は MD 双胎において一児の多尿に
よる羊水過多(胎児膀胱が大きく、最大羊水深度8cm以上)
と他児の乏尿による羊水過少(胎児膀胱が見えず、最大羊
水深度 2 cm 未満)を同時に満たすものと定義し診断され
る。双胎の中でも稀な MM 双胎では両児間の隔膜が存在
しないため前述の診断は困難であり、羊水過多(最大羊水
深度 8 cm 以上)を認め、一児の膀胱が大きくかつ他児の
膀胱が見えないときに TTTS と診断してよいとされる。本
症例では超音波検査上両児共に膀胱を確認でき、また血流
異常も認めず、双胎間輸血症候群は否定的であると判断し、
慎重に経過観察を継続した。
Cordero らは、15年間36組の MM 双胎のうち42%に臍帯
巻絡を認め、先天異常7%(5例)
、死亡0.8%(6例)を認
めたと報告している 6)。また、山田らは8組の MM 双胎の
うち50%(4組)に臍帯巻絡を認め、13%(1組)が死亡
を認めたと述べており、MM 双胎ではどの週数であっても
臍帯巻絡による臍帯循環障害が起こる可能性があり、厳重
な入院管理の上、胎児心拍モニタリング、超音波検査での
厳重な胎児評価と子宮収縮抑制療法を継続し、未熟性に伴
50 (50)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
う新生児予後が良好となる妊娠 34 週ころでの帝王切開術
施行を考慮すべきであるとしている 13)。
本症例でも高度な臍帯巻絡を認め、胎児心拍モニタリン
グでも変動一過性徐脈が散見されていた。24時間の胎児心
拍モニタリング監視は非現実的であり、一日2回の監視の
みとしたが、突然の IUFD は予測困難であった。突然の腹
緊増加により tocolysis は困難と判断し33週5日に帝王切開
術の施行に至り、児の予後は良好であった。MM 双胎の娩
出時期については一定の見解がまとまっていないが、本症
例の経験から、臍帯巻絡が疑われる場合などは正期産にこ
だわらず、山田らが述べているように胎児の成熟がある程
度期待できる 34 週ころでの分娩が望ましい可能性が示唆
された。
本論文の要旨は第406回 神奈川産科婦人科学会 学術講
演会で発表した。
本論文に関する著者の利益相反:なし
文 献
1) Bhagwati SN,Mahapatra AK:Encephalocele and anomalies of
the scalp.in Choux M,Dirocco C,Hockley A,MalkerM(eds):
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Press,1999,pp101-119.
2) Jimenez D,Baraone CM:Encephaloceles,meningoceles,and
dermal sinuses.in Albright AL,Pollack IF,Adelson
PD(eds):Principles and Plactice of Pediatric Neurosurgery.
New York,Thime Press,1999,pp189-208.
3) Partington MD,Petronio JA:Malformations of the cerebral
hemispheres.in McLone DG(ed):perdiatric Neurosurgery.
Philaderphia,W.B.Saunders Company Press,2001,pp201-213.
4) Bianchi DW,Crombleholme TM, D'Alton ME:Monoamniotic
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the fetal patient,USA:Mcgraw-Hill,2000:913-918.
5) 栗原 淳. 二分頭蓋における知能予後関連因子の検討.
小児の脳神経脳神経. 2004;29:28-32.
6) Cordero,L.Monochorionic monoamniotic twins:neonatal
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monitoring.Am J Obset Gynecol 2005;192:96.
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9) Baxi LV,Walsh CA.Monoamniotic twins in contemporary
practice:a single-center study of perinatal outcomes.J Matern
Fetal Neonatal Med 2010;23:506.
10)向井百合香, 上田克憲, 占部武. 一児に総排泄腔外反症
を認めた一絨毛膜一羊膜性双胎の一例.周産期新生児
誌. 2010;46:1316-20.
11)伊藤直樹, 左合治彦, 林聡ら. 無脾症候群を1児に合併し
た 1 絨毛膜 1 羊膜性双胎の一例. 周産期新生児誌.
2005;41:864-8.
12)深谷暁, 木下俊彦, 川島秀明ら. 無脾症候群を1児に合併
した 1 絨毛膜 1 羊膜性双胎の一例.周産期新生児誌.
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13)一絨毛膜一羊膜双胎の管理.日産婦関東誌.2011;48:6366.
(H27.3.4受付)
平成27年9月(2015)
51 (51)
前回分娩時の胎盤病理でのCAMの有無が予防的頸管縫縮術の妊娠分娩転帰に及ぼす影響
Does pathologically confirmed CAM in the previous pregnancy affect
pregnancy outcomes of patients receiving preventive cerclages?
横浜市立大学附属市民総合医療センター
総合周産期母子医療センター
Perinatal Center for Maternity and Neonate, Yokohama City
University Medical Center, Yokohama
大森 春 Haru OHMORI
青木 茂 Shigeru AOKI
山本ゆり子 Yuriko YAMAMOTO
長谷川良実 Yoshimi HASEGAWA
榎本紀美子 Mikiko ENOMOTO
葛西 路 Michi KASAI
笠井 絢子 Junko KASAI
倉澤健太郎 Kentaro KURASAWA
高橋 恒男 Tsuneo TAKAHASHI
横浜市立大学医学部 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City
University Hospital, Yokohama
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
要 旨
前回の妊娠分娩歴から頸管無力症が疑われ予防的頸管
縫縮術を施行した患者を対象に、前回分娩時の胎盤病理
所見における絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis, CAM)の有
無が予防的頸管縫縮術後の妊娠分娩転帰に及ぼす影響に
ついて検討した。
当院で予防的頸管縫縮術を施行した 24 例を対象に、前
回分娩時の病理所見から CAM あり群15例と CAM なし群
9 例の 2 群に分類し、患者背景を今回妊娠時の年齢、妊娠
前 Body Mass Index(BMI)
、縫縮術施行週数、Shirodkar 頸
縫縮術施行率、前回妊娠時の分娩週数、主要結果を今回
妊娠時の分娩週数、早産率、Neonatal Intensive Care Unit
(NICU)入院率、出生体重、臍帯動脈血液ガス所見とし
て両群を比較検討した。
両群間の母体背景に差は認めなかった。また分娩週数
は CAM あり群37.7週 CAM なし群では35.7週で、早産率
は CAM あり群33.3% CAMなし群55.6%(p = 0.38)と有
意差は認めなかった。NICU 入院率は CAM あり群47.1%、
CAM なし群 33.3 %、児の出生体重は CAM あり群 2867g、
CAM なし群 2176 g、臍帯動脈血液ガス所見は CAM あり
群 7.308、CAM なし群 7.314、でいずれも有意差を認めな
かった。
前回の胎盤病理所見の結果は次の予防的縫縮術の妊娠
分娩転帰に影響はなく、前回分娩時の胎盤病理所見で
CAM が存在していたことを予防的頸管縫縮術の除外基準
にする必要はないことが示唆された。
Key Words : cervical incompetency, cervical cerclage,
chorioamnionitis (CAM)
緒 言
頸管無力症は、2 nd trimester に外出血や子宮収縮などの
切迫流早産徴候を自覚しないにもかかわらず、子宮口が
開大し胎胞が形成されてくる状態と定義されており 1)、妊
娠28週未満の早産の20%は頸管無力症が原因であると報
告されている 2)。本邦の産科ガイドラインでは、既往妊娠
が頸管無力症であったと疑った場合には 1. 頸管の短
縮・開大に注意しながらの経過観察 2. 予防的頸管縫縮
術を診療指針としてあげている 3)。つまり、きまった診療
指針がないのが現状である 4)∼ 5)。これは絨毛膜羊膜炎
(CAM)が先行して子宮収縮が生じ頸管の開大をきたした
のか、あるいは頸管の開大が先行して、その結果として
子宮収縮が生じたのか判断が困難であることに起因して
いる。内子宮口の開大が経時的に観察され頸管無力症と
診断されたケースでなければ、頸管無力症と断定しえな
いが、頸管無力症既往妊婦のみを対象としたランダム化
比較対象試験(RCT)を行ってエビデンスレベルの高い
治療指針を示すこともまた困難である 6)∼8)。
早産歴のある妊婦に予防的頸管縫縮術を施行するかど
うかに関しては、前回妊娠時の病歴を参考にするしかな
いが、先に述べたように頸管無力症の診断は困難であり、
もし前回の早産の原因が CAM によるものであれば、次回
の頸管縫縮術は無効であるばかりか有害になる可能性も
ある 9)。そのため前回の早産の原因が CAM によるものか
52 (52)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
頸管無力症によるものかを鑑別する一助として、前回分
娩時の胎盤病理所見を参考にすることも多い 10)∼ 11)。本
研究では、前回の妊娠分娩歴から頸管無力症が疑われ予
防的頸管縫縮術を施行した患者を対象に、前回分娩時の
胎盤病理所見における CAM の有無が予防的頸管縫縮術後
の妊娠分娩転帰に及ぼす影響について検討することを目
的とした。
方 法
2000 年 1 月から 2012 年 12 月までに横浜市立大学附属市
民総合医療センターで、既往妊娠分娩歴より頸管無力症
が疑われ予防的頸管縫縮術を施行した 104 例 102(人)の
うち、前回分娩時の胎盤病理結果がわかっている 24 例に
ついて診療録を用いて後方視的に検討した。
予防的頸管縫縮術は、2 nd trimester での早産歴をもつ妊
婦へ詳細な妊娠分娩歴を聴取した結果、臨床的 CAM を疑
わせる臨床経過がなく、かつ無痛性の頸管開大の既往が
あると判断した場合に施行した。頸管縫縮術の方法は、
原則 Shirodkar 頸管縫縮術を第 1 選択とし、その施行が技
術的に困難と判断した場合に限り McDonald 頸管縫縮術を
施行した。頸管縫縮術は妊娠12-14週で施行し、妊娠36週
まで妊娠が継続できたケースでは妊娠36週時に抜糸した。
予防的頸管縫縮術を施行した 24 例を、前回分娩時の胎
盤病理所見から前回分娩時に Blanc 分類 12)で1度以上の絨
毛膜羊膜炎を認めた15例(CAMあり群)と絨毛膜羊膜炎
を認めなかった9例(CAMなし群)の2群に分類し、患者
背景を今回妊娠時における年齢、妊娠前 Body Mass Index
(BMI)
、縫縮術施行週数、Shirodkar 頸管縫縮術施行率、前
回妊娠時の分娩週数及び今回分娩までの妊娠間隔とし、
主要結果を今回妊娠時における分娩週数、早産率、超早
産率(妊娠28週未満での分娩)
、Neonatal Intensive Care Unit
(NICU)入院率、頸管縫縮術合併症、出生体重、臍帯動脈
血液ガス所見として両群を比較検討した。妊娠間隔は、
前回分娩から今回の分娩までの期間と定義した。頸管縫
縮術合併症は縫縮術後8週間以内での破水と定義した。
データは、中央値(範囲)もしくは頻度(%)で記載
表1 前回分娩時 CAM あり群と前回分娩時
CAM なし群における母体背景の比較
した。統計的解析には Mann-Whitney U-test, Fisher exact test
を使用し、p<0.05を統計的有意差ありとした。
成 績
表1に予防的頸管縫縮術を行った前回分娩時 CAM あり
群 15 例と CAM なし群 9 例の患者背景を示す。母体年齢、
妊娠前 BMI は両群間で差を認めなかった。縫縮術施行時
週数は、両群ともに 13週であり、術式に関しても両群間
で差はなかった。前回の分娩週数は CAM あり群で24.6週、
CAM なし群で27.9週と CAM あり群でやや早く、妊娠間隔
は CAM あり群26週、 CAM なし群36.5週であり CAM あ
り群で短い傾向にあったがともに有意差は認めなかった。
主要結果を表2に示す。分娩週数は、両群間で差を認め
なかったが、CAM あり群では早産率は33.3%、28週未満
の早産である超早産は5.9%にみられた。一方 CAM なし群
では早産率は55.6%であり、超早産例はなかった。NICU
入院率は CAM あり群47.1%、CAM なし群33.3%、児の出
生体重は CAM あり群2867 g、CAM なし群2176 g、臍帯動
脈血液ガス所見は CAM あり群 7.308で、CAM なし群7.314
といずれも有意差は認めなかった。縫縮術後8週間以内の
破水発生率は両群で認めなかった。
考 案
前回分娩時の胎盤病理所見における CAM の存在は、次
回妊娠時における予防的縫縮術の妊娠分娩転帰に影響し
なかった。
予防的頸管縫縮術は、前回妊娠時に無痛性の頸管開大
の既往を有する頸管無力症の妊婦が対象であり、そのた
めには前回妊娠時の病歴の聴取が重要となる。しかしな
がら、頸管の開大が進行すると子宮収縮を伴うことが多
く、子宮収縮によって頸管が開大したのか、あるいは頸
管の開大が先行したのか、時に判別が困難なことがある。
このため前回の早産の原因が CAM によるものだったの
か、あるいは頸管無力症によるものだったのか鑑別する
ため、前回分娩時の胎盤病理所見における CAM の存在を
参考とするが、病歴から頸管無力症が疑われた妊婦にお
表2 前回分娩時 CAM あり群と前回分娩時
CAM なし群の妊娠分娩転帰の比較
平成27年9月(2015)
53 (53)
いては、前回分娩時の胎盤病理所見における CAM の有無
は、予防的頸管縫縮術後の妊娠分娩転帰に影響しなかっ
た。
入院時に頸管の開大のみられた症例を、緊急頸管縫縮
術施行を施行した縫縮群、待機的に管理した bed rest 群、
治療抵抗性の子宮収縮を認めた分娩不可避群の 3群に分類
した我々の先行研究では、縫縮群 53.3 %(8 / 15)、bed
rest 群70.0%(14/20)
、分娩不可避群60.7%(17/28)
に Blanc の分類で、CAM 1度以上の所見を認め、これら3
群間における有意差はみられなかった 13)。Jonathan ら 14)
も頸管無力症により胎胞が形成された時点で不顕性の絨
毛膜羊膜炎が高率に存在していると報告しており、本研
究対象者は、胎盤病理所見上、CAM を認めていても前回
早産の主たる原因は頸管無力症によるものであり、この
ことが本研究で前回分娩時の胎盤病理所見における CAM
の有無が、次回妊娠時における予防的頸管縫縮術の妊娠
分娩転帰に影響しなかった理由と推測される。
しかしながら本研究における予防的頸管縫縮術の対象
者は、その病歴から胎胞が形成され頸管無力症が強く疑
われた妊婦であり、CAM が先行して早産に至ったと推測
されたケースは除外されていること、CAM の有無につい
て重症度の評価も行っていないことから、本研究結果を
もって予防的頸管縫縮術を行うのに際して前回分娩時の
胎盤病理所見が参考にならないとまでは言えない。
頸管無力症による早産である事が疑われた場合は、予
防的頸管縫縮術を考慮するが、その際に最も重要なのは
詳細な病歴聴取であり、前回分娩時の胎盤病理所見で
CAM が存在していたことを予防的頸管縫縮術の除外基準
にする必要はないことが示唆された。
文 献
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(H27.3.4受付)
54 (54)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
アンチトロンビン欠損症に伴う深部静脈血栓症合併妊娠の1例
A case of antithrombin deficiency with deep vein thrombosis during pregnancy
横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子
医療センター
Yokohama City University Medical Center, Perinatal Center for
Maternity and Neonate
三宅 優美 Yumi MIYAKE
青木 茂 Shigeru AOKI
山本ゆり子 Yuriko YAMAMOTO
長谷川良実 Yoshimi HASEGAWA
榎本紀美子 Kimiko ENOMOTO
葛西 路 Michi KASAI
笠井 絢子 Junko KASAI
倉澤健太郎 Kentaro KURASAWA
高橋 恒男 Tsuneo TAKAHASHI
横浜市立大学医学部附属病院 産婦人科
Yokohama City University Hospital, Obsterics and Gynecology
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
概 要
アンチトロンビン欠損症は常染色体優性遺伝であり、
静脈血栓塞栓症のハイリスクである。妊娠・分娩時は血
栓を形成しやすいため、適切な抗凝固療法が必要となる
が確立した治療法はない。今回我々は、妊娠 18 週に深部
静脈血栓症を発症し、未分画ヘパリン皮下注射+アンチト
ロンビン製剤補充による治療と分娩時の下大静脈フィル
ター留置により母児の良好な予後を得ることができたア
ンチトロンビン欠損症合併妊娠を経験したので報告する。
症例は37歳、2回経妊 2回経産、第1子妊娠時に深部静脈
血栓症を発症し、アンチトロンビン欠損症と診断された。
妊娠5週で当科を受診し、下肢静脈超音波検査で左下肢の
器質化血栓を認めた。予防的抗凝固療法を強く勧めたが、
本人の同意が得られず無治療で経過観察とした。妊娠 18
週で下肢の腫脹があり、新規血栓を認めたため未分画ヘ
パリン皮下注射とアンチトロンビン製剤の補充を開始し
た。活性化部分トロンボプラスチン時間、アンチトロン
ビンのコントロールに難渋したが、以後は新鮮血栓の発
症は認めなかった。分娩は下大静脈フィルターを挿入し
た上で計画分娩とし、合併症なく経腟分娩に至った。ア
ンチトロンビン欠損症合併妊娠は予防的抗凝固療法が推
奨され、適切な管理によって良好な妊娠分娩転帰を得る
ことができる。
緒 言
アンチトロンビン欠損症合併妊娠は、静脈血栓塞栓症
(VTE, venous thromboembolism)のハイリスクであり、妊
娠中に 60 %が血栓を発症すると報告されている 1)。また
流早産、胎児発育遅延、子宮内胎児死亡、妊娠高血圧腎
症、HELLP 症候群などを発症しやすく母児ともに慎重な
管理を要する 2)。しかし症例の蓄積が少なく、治療法が確
立されていない。今回我々は、妊娠 18 週に深部静脈血栓
症(DVT, deep vein thrombosis)を発症し、未分画ヘパリン
皮下注射+アンチトロンビン(AT, antithrombin )製剤補充
による治療と分娩時の下大静脈フィルター留置により母
児の良好な予後を得ることができたアンチトロンビン欠
損症合併妊娠を経験したので報告する。
Key words : アンチトロンビン欠損症、ヘパリン、アンチ
トロンビン製剤、下大静脈フィルター
症 例
37歳 、2回経妊 2回経産
【家族歴】父 アンチトロンビン欠損症 姉 第1子妊娠中に脳出血で死亡
【既往妊娠分娩歴】
第1子:26 歳、妊娠中に左下肢 DVT を発症し、アンチ
トロンビン欠損症と診断されたが治療を拒否し
たため無治療で、妊娠40週、2702 g 男児を経腟
分娩した。
第2子:30歳、妊娠36週より未分画ヘパリン+ AT 製剤
補充療法を行い妊娠39週、2492 g 男児を経腟分
娩した。
【現病歴】
自然妊娠により、妊娠5週0日に当院を受診した。初診
時に施行した下肢静脈超音波検査で左総腸骨静脈から総
平成27年9月(2015)
表1 妊娠中の APTT、AT の推移 治療開始後も、APTTは 35-55 秒、ATは 30-55 %で経過し、
目標値に達さずコントロールに難渋した
55 (55)
よりワーファリン 4 mg 内服治療を開始し、産褥 6 日目に
母児ともに経過問題なく退院した。現在産後2ヵ月でワー
ファリン内服治療を継続しており、下肢静脈超音波検査
では器質化血栓は退縮せず残存している。
考 案
大腿静脈の器質化血栓を認め、血液検査では D-dimer 1.2
μg/ml、AT 活性 45%を示した。VTE 既往及び血栓性素
因を有するため、予防的抗凝固療法の必要性について説
明したが、ご本人が治療を拒否したため、外来で下肢腫
脹などの DVT を疑う臨床症状の有無について注意すると
ともに D-dimer、AT の測定及び下肢静脈超音波検査を適
宜行い、厳重に経過観察した。妊娠 18 週の妊婦健診で左
下肢の浮腫を認め、下肢静脈超音波検査を施行したとこ
ろ、浅大腿静脈に新鮮血栓を認めた。入院管理による未
分画ヘパリン持続静注を勧めたが同意が得られなかった
ため、外来管理下で、妊娠 21 週よりヘパリンカルシウム
(皮下注射)とAT 製剤(点滴静注)の投与の方針とした。
ヘパリンカルシウム10,000単位/日+ AT 製剤1,500単位/
日×週2回で開始したが、活性化部分トロンボプラスチン
時間(APTT, activated partial thromboplastin time)の延長が
得られなかったためヘパリンカルシウム 20,000 単位/日
+AT 製剤 3,000 単位/日×週 2 回へ増量した。しかしなが
らその後も AT 活性は依然として低値であり、AT 製剤補
充を週 3 回にすることを本人に提案したが拒否されたた
め、同量で分娩まで治療を継続した。そのためか APTT
は 50-70 秒、AT は 70 %以上を目標としていたが、前者は
35-55秒、後者は30-55%とコントロールに難渋した(表1)
。
治療開始以降は新鮮血栓を生じず、D-dimer は 2.0μg/ml
以下で経過し、下肢静脈超音波検査では器質化血栓のみ
残存している状態であった。
分娩は新鮮血栓を認めていないものの血栓性素因を有
し、肺塞栓のリスクが高いため分娩直前に下大静脈フィ
ルターを留置し計画分娩の方針とした。妊娠 38 週 6 日、
一時留置型下大静脈フィルターを留置し、妊娠 39 週 0 日
にオキシトシン点滴による分娩誘発を開始した。分娩は
順調に進行し同日、経腟分娩に至った。児は 2688 g 女児、
Light for date、Apgar score 1分値8点、5分値9点であった。
胎盤病理所見では一部の絨毛内の血管に新鮮血栓を認め
た。分娩2時間後に下大静脈フィルターを抜去した。フィ
ルター内には肉眼的に明らかな血栓を認めた。産褥1日目
今回我々は、妊娠中に DVT を発症し、未分画ヘパリン
皮下注射+ AT 製剤補充で治療し、APTT と AT のコント
ロールに難渋したものの、分娩時に下大静脈フィルター
を挿入して肺塞栓を予防し得たアンチトロンビン欠損症
合併妊娠の1例を経験した。
アンチトロンビン欠損症合併妊娠は VTE のハイリスク
であり、本症例においても妊娠18週に DVT を発症した。
アンチトロンビン欠損症は常染色体優性遺伝であり、有
病率はおよそ 600-5000 人に 1 人で、無治療では妊娠中に
60%、産褥期には33%が VTE を発症すると報告されてい
る 1)。本症例では妊娠初期に予防的抗凝固療法の必要性を
説明したが,本人の同意が得られなかったため経過観察し
ていたが結局は DVT を発症しており、改めて予防的抗凝
固療法の必要性が示唆された。
アンチトロンビン欠損症は妊娠・分娩時は無症状でも抗
凝固療法が推奨されているが、治療方針は確立していない。
本症例では未分画ヘパリン皮下注射+ AT 製剤補充療法を
行った。ヘパリンは AT 活性が低下した状態では無効なた
め、アンチトロンビン欠損症ではヘパリン単独ではなく
AT 製剤補充を併用しての治療が必要になる 3)。しかしな
がら AT 製剤は、その投与量や投与間隔は定まっておらず、
本症例においても AT 製剤1,500単位/日×週2回から開始
し、3,000単位/日×週2回へ増量したが APTT、AT 値が
安定せず、そのコントロールに難渋した。AT 製剤の半減
期は約2.8日であり、週3回程度の投与が必要だったかもし
れないが、患者の時間的、金銭的負担が大きく問題点は多
い。また、未分画ヘパリン皮下注射の投与量に関して、本
症例は10,000単位/日から開始しているがこれは予防的抗
凝固療法の維持量であり 4)、新規血栓の治療目的に使用す
る際は、20,000から30,000単位/日とされており、開始量
が不十分であったことも原因の一つと考えられる。
その他の治療法として、未分画ヘパリンの代替療法で低
分子ヘパリンを使用した報告がある 2)5)。低分子ヘパリン
は未分画ヘパリンに比して抗凝固作用は劣るが、出血、ヘ
パ リ ン 起 因 性 血 小 板 減 少 症 ( HIT, heparin-induced
thrombocytopenia)
、アレルギー反応、骨粗鬆症などの副作
用が少なく、また AT を消費しないという利点がある 4)6)。
Rogenhofer ら 2)は、低分子ヘパリン単独で治療した2例
中1例は DVT を発症したが、低分子ヘパリン+ AT 製剤補
充で治療した 4 例は VTE の発症例はなく、低分子ヘパリ
ン + AT 製剤補充での治療が最も良好な妊娠分娩転帰が得
られたと報告している。残念ながら低分子ヘパリンの血栓
予防に対する本邦の保険適応は手術後に限られているが、
未分画ヘパリンによる有害事象のために例外的に妊娠中に
用いられる場合もある 4)。また、ヘパリン + AT 製剤補充
に加え補助的に新鮮凍結血漿の補充療法を行った報告もあ
56 (56)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
るが、その機序、有用性は明らかではない 5)7)。
本症例では、分娩の前日に下大静脈フィルターを挿入し
てオキシトシンによる誘発分娩を行った。分娩時は出血の
リスク回避のため一時的に抗凝固療法を中止しなければな
らず、胎児娩出後の下大静脈圧排解除に伴う肺塞栓のリス
クがあることから分娩時の一時的フィルター留置の報告例
は多い 8)9)。本症例では分娩時に新鮮血栓は認めていない
ものの血栓性素因を有し、肺塞栓のリスクが高いため予防
的に一時留置型下大静脈フィルターを留置した。下大静脈
フィルターの抜去のタイミングに関しては、規定はないが、
新鮮血栓を認めて下大静脈フィルター挿入した症例では、
抗凝固療法で血栓の退縮や縮小を認めてから抜去している
報告が多い 8)10)12)。一方で新鮮血栓は明らかではないが
予防的に下大静脈フィルターを挿入した症例では分娩翌日
から2日後に抜去している報告が多い 11)13)。本症例では下
大静脈フィルター留置自体の血栓形成の合併症を回避すべ
く、産後出血が落ち着いた分娩後2時間で下大静脈フィル
ターを抜去し、ヘパリンを再開した。
アンチトロンビン欠損症は母児ともにハイリスク症例で
あり、現在でも治療法は確立していない。本症例ではヘパ
リン皮下注射、AT 製剤補充、下大静脈フィルター留置に
より、合併症なく良好な妊娠分娩転帰を得られたが、治療
法の確立のためにも症例の蓄積が望まれる。
文 献
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(H27.3.8受付)
平成27年9月(2015)
57 (57)
分娩後大量出血2症例に対するBakri バルーンの使用経験
The use of Bakri balloon in treatment for two cases of postpartum hemorrhage
北里大学病院周産母子成育医療センター
Center for Perinatal Care, Child Health and Development, Kitasato
University Hospital
遠藤 真一 Shinichi ENDO
望月 純子 Junko MOCHIZUKI
河野 照子 Shoko KAWANO
島岡 享生 Takao SHIMAOKA
松澤 晃代 Akiyo MATSUZAWA
石川 隆三 Ryuzo ISHIKAWA
大西 庸子 Yoko ONISHI
金井 雄二 Yuji KANAI
海野 信也 Nobuya UNNO
概 要
経腟分娩後大量出血 2 症例に Bakri バルーンを使用し、
止血成功例(症例 1)と播種性血管内凝固症候群(以下、
DIC)に進行した不成功例(症例 2)を経験した。いずれ
も子宮弛緩症であり、児体重(症例1、2:3676 g、3428 g)
やバルーン挿入までの出血量(2630 g、2812 g)
、挿入時の
母体血液検査所見に著明な差はなかった。症例1は挿入に
要した時間が10分で手技中の出血量は209 gであったのに
対し、症例 2 ではバルーンの滑脱を繰り返して挿入に 30
分を要し、手技中の出血量が 1200 g に達して輸血が必要
であった。いずれも Interventional Radiology(IVR)を施行
することなく子宮温存が可能であったが、症例2はバルー
ン留置困難例で IVR への移行が遅れたために出血量が増
加したと考えられた。
分娩後大量出血に対して Bakri バルーンは有効な手段と
考えられるが、留置困難な場合には、IVR への移行を速
やかに判断するべきである。
Key words : balloon tamponade, postpartum hemorrhage, atonic
uterus,
緒 言
分娩後大量出血(postpartum hemorrhage、以下PPH)は
母体死亡をきたし得る合併症であり、子宮収縮薬の投与
や子宮輪状マッサージ等の初期治療で出血がコントロー
ルできない場合には、Interventional Radiology(IVR)や開
腹による止血術、子宮摘出術が選択される。子宮温存が
可能な IVR は神経障害や血栓症の合併が報告され、IVR
後の妊娠例では再度分娩時大量出血をきたした報告があ
る 1)2)。また、IVR は設備や関連する他科の協力が不可欠
であり、分娩一次施設では母体搬送を余儀なくされる。
近年、低侵襲かつ簡便な止血法として Bakri バルーン 3)が
本邦でも普及しつつある。日本産婦人科医会妊産婦死亡
症例検討評価委員会による「母体安全への提言 2013」4)
でも、産科危機的出血の対応プロトコールで、子宮腔内
バルーンタンポナーデ試験を推奨している。しかし、実
際の使用法を詳細に記述した解説や不成功例の原因分析
をした報告は少なく、試行錯誤で施術しているのが現状
である。Bakri バルーン挿入に時間を要し、播種性血管内
凝固症候群(DIC)へ進展した1例を含む経腟分娩後弛緩
出血2症例の使用経験を報告する。
症 例
【症例1】
症例:32歳、2経妊 0経産。凍結胚移植で妊娠成立。
既往歴:反復流産
合併症:妊娠糖尿病
現病歴:反復流産に対して、妊娠16週から28週まで他
の医療機関で処方されたアスピリン80 mg/日を内服して
いた。妊娠糖尿病に対しては食事療法を施行し妊娠 34 週
より持効型インスリン 4 単位/日の皮下注射を導入した。
妊娠 40 週 3 日に陣痛発来後、脊髄くも膜下硬膜外併用鎮
痛法を行い、オキシトシンを用いて分娩促進し 3676 g の
男児を経腟分娩した。アプガースコア1分後9点/5分後9
点、 臍帯動脈血 pH:7.25であった。児娩出直後よりオキ
シトシンの点滴速度を 33 mIU /分に増量し 4 分後にブラ
ントアンドリュース法で胎盤を娩出、その直後より出血
が増加し、弛緩出血と判断した。そこで、オキシトシン
10 単位/ 500 ml 酢酸リンゲル液の急速静脈内投与とメチ
ルエルゴメトリン 0.2 mg 静脈内投与、双手圧迫を行った
が児娩出 35 分後の出血量は 2630 g に達した(表 1)。血中
アンチトロンビンⅢが 61 %であったためアンチトロンビ
ン製剤1500単位を静脈内投与したが出血が持続したため、
児娩出40分後、超音波ガイド下にBakri バルーンを挿入し
生理食塩水 300 ml を注入し留置した(図 1)。この時点の
血圧:91/55 mmHg、心拍数:70/分、Shock Index(以
58 (58)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
下S.I.):0.8であった。バルーン滑脱防止のため腟内にヨ
ードホルムガーゼを挿入し尿道カテーテルを留置した。
バルーン留置に要した時間は 10 分、操作中の出血量は少
量であった。留置後8時間の総出血量はドレナージポート
から100 g、腟内ガーゼ23 gと著明に減少し、留置後12時
間の出血量は209 gであった。 6時間毎に抗菌薬セフォチ
アム1 gを投与し、留置から18時間後、生食150 ml を除去、
留置 24 時間後に再度 150 ml を除去してバルーンを抜去し
た。輸血は行わずその後の経過良好で産褥7日に退院した。
【症例2】
症例:33歳、0経妊0経産。自然妊娠。
既往歴:なし
合併症:切迫早産(頸管長短縮)
現病歴:妊娠25週より塩酸リトドリンを内服していた。
妊娠 38 週 3 日に陣痛発来し、前医で 3428 g の男児を経腟
分娩した。アプガースコア 1 分後 9 点/ 5 分後 10 点、臍帯
動脈血 pH : 7.35 であった。胎盤娩出直後の出血は 415 g
で、腟内ガーゼパッキング、オキシトシンとメチルエル
ゴメトリンの静脈内投与、氷嚢で下腹部を冷却し子宮マ
ッサージを試みたが持続し、児娩出 2 時間後の出血量が
1117 gに達したため、児娩出3時間35分後に当センターへ
搬送された。収容時の血圧は 117 / 72 mmHg、心拍数:
表1 2 症例の比較
161 /分、S.I.: 1.4、腟鏡診と超音波検査で分娩時裂傷や
胎盤遺残、子宮内反の所見を認めず子宮弛緩症と診断し
た。膠質液の静脈内投与を開始し輸血と IVR の準備を進
めながらオキシトシンの投与と双手圧迫をおこなったが
出血は減少せず、児娩出 4 時間後、Bakri バルーンを留置
する方針とした。処置時、痛みによる体動があり処置が
困難であったため、プロポフォール50 mgとフェンタニル
100μgの静脈内投与で鎮静した。その後、超音波ガイド下
にBakri バルーンを留置した。生理食塩水300 ml を注入す
る予定であったが、目標量注入前に数回滑脱・再留置を
繰り返した。そこで Bakri バルーンのカテーテルを腟内に
挿入し生理食塩水をバルーンに注入する前に、ヨードホ
ルムガーゼを腟内に挿入しバルーンを固定後、生理食塩
水 150 ml を注入し留置した。バルーン留置に要した時間
は 30 分、留置前の出血量は前医を含め 2812 g、操作中の
出血量は 1200 g であった(表 1)。当センター収容時の血
液検査所見はヘモグロビン:8.2 g/dL、血小板:15.7万/
μL、プロトロンビン時間:12.9秒、アンチトロンビンⅢ:
77 %であったため操作中は輸血を開始しなかった。バル
ーン留置後出血は徐々に減少したが1時間後のヘモグロビ
ン 3.3 g /dL、血小板 9.6 万/μL、産科 DIC への進展が疑
われて総計赤血球濃厚液 10 単位、新鮮凍結血漿 15 単位、
アンチトロンビン製剤 1500 単位を静脈内投与した。留置
後 9 時間の総出血量はドレナージポートから 306 g、腟内
ガーゼ594 g、留置後12時間の総出血量は997 gであった。
6 時間毎に抗菌薬セフォチアム 1 g を投与し、留置から 22
時間後、生食150 ml を除去してバルーンを抜去し、産褥6
日に退院した。表1に2症例の比較を示す。
考 察
Bakri バルーンはドレナージ構造を持つ子宮内タンポナ
ーデ用の機器で本邦では 2013 年より使用可能になってい
る。その止血機序は、出血部への直接圧迫や、子宮への
動静脈を圧迫することによって血流を途絶させることに
よる。注入方法は、まず100∼150 ml を注入し、止血効果
をみた後、約50 ml ずつ分割注入し、止血が得られる最少
量で維持するのが一般的である。ドレナージポートを有
することによって、ガーゼタンポナーゼと異なり出血
量・止血効果をモニターできる他、子宮内に血腫を形成
S.I.: ショックインデックス
FFP: 新鮮凍結血漿 RCC: 赤血球濃厚液
A 経腹超音波断層像
B シェーマ
図1 Bakri バルーン挿入時の経腹超音波断層像(症例1)
平成27年9月(2015)
しバルーンが押し出されるリスクを軽減している。Laas
ら 5)や Gronvall ら 6)の報告によると止血成功率は86 %で、
導入によって輸血やIVR、子宮摘出術などの侵襲的治療の
頻度が減少したとしている 5)∼ 7)。しかし、不成功例の原
因分析をした報告は少ない 7)。
今回、経腟分娩後大量出血2症例に Bakri バルーンを使
用し、止血成功例と DIC に進行した不成功例を経験した。
症例1と2では児娩出からバルーン挿入までの時間、バル
ーン挿入時の S.I.と鎮痛法、挿入に要した時間、注入量に
差があり、止血の成否に影響したと考える(表1)
。症例2
は児娩出後バルーン挿入までに4時間が経過し子宮頸部の
収縮が著しく不良な留置困難例であったこと、滑脱を繰
り返したにもかかわらず IVR に切り替えなかったことが
出血の増大した要因である。滑脱により症例1と同量の生
理食塩水が注入できなかったことも出血量の増加に関与
したと思われる。
PPH に対してバルーンタンポナーデをおこなう場合、
拡張した頸管からバルーンが滑脱して有効な止血ができ
ない頻度は6∼16%と報告されている 7)。滑脱防止策とし
て腟内ガーゼパッキングが行われるが、症例によっては
有効ではなく 3)8)9)、Jainらは挿入時に頸管縫縮術を施行
し留置に成功している 8)。Kawamura らは頸管把持用のリ
ング鉗子で子宮頸管の前唇と後唇を 2 か所でクランプし、
滑脱を防止している 9)。症例2では、一度滑脱した時点で
ガーゼパッキングによるバルーンの固定を試み、不成功
ならば頸管クランプの施行が有効であったかもしれない。
子宮弛緩の状態は症例によって様々であり留置法を変更
する必要があると考えられる。
症例2では鎮静を目的としてプロポフォールの静脈内投
与をおこなったが、この薬剤には子宮筋弛緩作用が報告
されており 10)出血量増加に関与した可能性がある。Bakri
バルーン挿入時に鎮静を要したとする報告はなく 7)、使用
は避けるべきであったと考える。
Bakri バルーン留置に成功しない場合、より侵襲的な止
血法に切り替える必要があるがそのタイミングに苦慮す
る。症例2では IVR に移行できる準備を進めていたがバル
ーン留置に固執してタイミングを逸し、結果的に DIC に
進行した。この症例を経験した時点では未発表であった
が「母体安全の提言 2013」4)ではバルーンタンポナーデ
を試験と位置づけ、15 分後に止血が十分得られなければ
次の手段を考慮するよう明言している。搬送受入時の S.I.
が1.4であった本症例では、Bakri バルーンの挿入を試みな
がら新鮮凍結血漿や濃厚赤血球液の輸血を開始し、15 分
後挿入を断念して IVR に切り替えれば出血量が軽減でき
た可能性がある。
Bakri バルーンは 簡便かつ低侵襲であるが挿入の合併症
も報告されている。Leparco らは事前に子宮破裂と診断で
きていなかった症例にバルーンを留置し、子宮壁から広
間膜に Bakri バルーンが迷入したと疑われる症例を報告し
ている 11)。バルーン留置を検討する場合には、腟鏡診や
超音波断層法を用いた PPH の原因検索が重要である。子
59 (59)
宮破裂、産道裂傷、胎盤遺残等では無効なことが多く、
出血量増加のリスクもある。また、Laas らは子宮内膜炎
の合併を報告しており 5)、予防的に抗菌薬を使用する施設
が多い 7)。
Bakri バルーンは PPH に対する第一選択の治療法となる
可能性が示唆された。しかし、バルーンタンポナーデ試
験無効と判断した場合には速やかに IVR への移行すべき
であり、一次施設では高次施設移送前の処置として、三
次施設では IVR 施行前の治療法として有効な手段と考え
る。また、いかなる症例が不成功であったか症例の集積
と分析が必要であると思われた。
文 献
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(H27.3.22受付)
60 (60)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
化学療法が奏功するも腫瘍塞栓で死に至った再発子宮頸癌の1例
Effective chemotherapy caused massive tumor embolism for recurrent cervical cancer : A case of report
平塚市民病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Hiratsuka City Hospital
上之薗美耶 Miya KAMINOSONO
吉政 佑之 Yushi YOSHIMASA
簡野 康平 Yasuhira KANNO
藤本 喜展 Yoshinobu FUJIMOTO
笠井 健児 Kenji KASAI
概 要
症例は 61 歳女性。不正出血を主訴に受診し、精査の結
果、子宮頸癌Ⅱ B 期の診断となった。初回治療として広
汎子宮全摘出術及び両側付属器摘出術、術後補助療法と
して全骨盤照射を施行した。その後、腟断端や肺に転移
を認め、放射線療法や手術療法を施行した。初回手術後
50 ヵ月目で腫瘍マーカー(SCC 抗原)の再上昇と左胸壁
転移・左肺門部再々転移を確認し、同時化学放射線療法
(concurrent chemoradiotherapy;CCRT)と化学療法を施行
し た 。 CCRT 療 法 と 1st line 化 学 療 法 に 効 果 は な く
Progressive Disease(PD)であったが、2 nd line 化学療法で
SCC抗原の著明な低下を認めた。しかし、2 nd line 化学療
法施行から 25 日目に、突然右下肢痛が出現し、造影 CT
にて総腸骨動脈分岐部付近と右大腿動脈に血栓を認め、
急性動脈閉塞症(AAO)と診断し緊急動脈内血栓除去術
を施行した。病理組織検査で腫瘍塞栓であることが判明
した。血栓除去術から6日目に AAO 再発し死亡した。死
因は動脈血栓が脳血管系までに及んだためと考えられた。
腫瘍塞栓による AAO は極めて稀であるが、肺腫瘍が主な
原因とされている。機序として、肺静脈や左房に浸潤す
ることで塞栓子が体循環を経由し発症すると考えられて
いる。肺門部(特に肺静脈や左房)への転移・浸潤が疑
われる症例では AAO を発症する可能性を考慮する必要が
ある。
Key word : 子宮頸癌、動脈塞栓、腫瘍塞栓、急性動脈閉塞症
緒 言
悪性腫瘍の腫瘍塞栓による AAO は極めて稀である。本
症例では、2 nd line 化学療法前の造影 CT で認めなかった
動脈血栓が2 nd line 化学療法後の造影 CT で多数認められ
た。2 nd line 化学療法後に SCC 抗原が著明に低下し、除去
血栓の病理組織検査で腫瘍塞栓が判明したこと、2 nd line
化学療法後に左心房に近接していた肺門部の転移巣の一
部崩壊を認めたことから、肺静脈に浸潤していた腫瘍が
崩壊し腫瘍塞栓を形成し死に至ったと考えられた。今回
われわれは化学療法が奏功するも腫瘍塞栓で死に至った
再発子宮頸癌の一例を経験したので、文献的考察を加え
て報告する。
症 例
患者:61歳、女性
主訴:突然の右下肢痛
身長・体重:155 cm、42.3 kg、BMI 17.7
妊娠分娩歴:2経妊 2経産
治療歴(表1):
子宮頸癌Ⅱ B 期の診断で、初回治療として広汎子宮全
摘出術及び両側付属器摘出術を行った。病理組織検査で
は pT 2 bN 0 M 0、扁平上皮癌の組織型であった。脈管浸
潤陽性、子宮傍結合織浸潤陽性のため、2007 年版子宮頸
癌治療ガイドラインに則り、術後補助療法として全骨盤
照射(45 Gy)を施行した。初回手術後(以下、術後)17
ヵ月目で腟断端に再発を認め、内外照射(内照射20 Gy/
外照射 30 Gy)を施行し Complete Response(CR)であっ
た。術後 33 ヵ月目で左肺転移を認め、胸腔鏡下で左下葉
切除術を施行した。摘出組織は腫瘍断端陰性であり、画
像上も残存腫瘍を疑わせる所見はなかった。術後 42 ヵ月
目で左肺門部と左腹壁に転移を認め、外照射(左肺門部
60 Gy/左腹壁50 Gy)施行しNo Change(NC)であった。
術後48ヵ月目より SCC 抗原の上昇傾向となり、術後50ヵ
月目で左胸壁転移と左肺門部の再々転移を認め、CCRT
(シスプラチン40 mg/㎡)を行うも PD であった。骨転移
(Th 8-9)も認め、術後52ヵ月目から1st line化学療法とし
てCPT-11+CDDP 療法(トポテシン60 mg/㎡、シスプラ
チン 60 mg /㎡)を 2 サイクル行うも PD であった。術後
55ヵ月目から2 nd line化学療法として DC 療法(ドセタキ
セル 75 mg /㎡、カルボプラチン AUC 5)を行い、1 サイ
クル後16.5 ng/dlであったSCC抗原値は5.6 ng/dlに低下
した。
SCC 抗原値の推移(図1)
現病歴:術後 56 ヵ月目(DC 療法 1 サイクル目の 25 日
目)
、早朝離床直後に右下肢痛出現し、時間外受診した。
来院後経過:来院時意識は清明で、右下肢の感覚障害
と運動障害を認めたが、時間経過とともに消失した。右
下肢痛は、オキシコドンと NSAIDs により改善を認めた。
血液検査では Hb 9.8 g / dl、血小板数 7.8 万個/μl と軽度
平成27年9月(2015)
61 (61)
表1 治療歴
子宮頸癌の治療歴を示した。表中の略語:RH(Radical
Hysterectomy)
、BSO(Bilateral Salpingo-Oophorectomy)
図1 SCC 抗原値の推移
縦軸は SCC 抗原値(ng/ml)
、横軸は初回治療後から何ヵ
月目かを示す。
図2 造影 CT 所見(発症直後)
総腸骨動脈分岐部付近(a)
、右大腿動脈(b)に血栓を認めた。
図3 術中血管造影所見及び摘出血栓
左内・外腸骨動脈、及び右内腸骨動脈の途絶を認めた(a)
。
実際に摘出された血栓の位置を示した(b)
。
減少しており、CRP 0.77 と軽度上昇を認めた。血液凝固
系は PT-INR 1.61、APTT > 300秒と延長しており、D-dimer
23.55μg / ml と上昇を認めた。造影 CT(図 2 a ・図 2 b)
にて総腸骨動脈分岐部付近と右大腿動脈に血栓を確認し
たため、放射線科と心臓血管外科にコンサルトし AAO の
診断で緊急入院・緊急動脈内血栓除去術施行となった。
入院後経過:
術中血管造影にて、大動脈終末部から左優位に総腸骨
動脈にまたがる血栓と両側の内・外腸骨動脈の血栓を確
認し、透視下に血栓除去・再開通を確認した(図3 a・図
3 b)
。周術期に血栓形成予防でヘパリンナトリウムを投与
されていたが、創部からの出血が持続したこと、心房細
動からの動脈血栓形成ではなかったこと、血栓を全除去
できたことから、定期的な抗凝固薬の方針とならなかっ
た。除去した血栓の病理組織所見では、器質化を伴うフ
ィブリン血栓の中に腫大核を有する大型異型細胞の集塊
を認めた。扁平上皮癌として矛盾しない所見であった
(図 4 a ・図 4 b)。以上より、扁平上皮癌による腫瘍塞栓、
つまり再発子宮頸癌による腫瘍塞栓が原因で AAO に至っ
たと判断した。血栓除去後より、右下肢痛の自覚症状は
消失した。しかし除去後4日目の評価の造影 CT で、新た
に腕頭動脈起始部・左内頸動脈に動脈血栓を認めた(図5
a・5 b)
。腕頭動脈・頸動脈内の血栓除去は侵襲が大きく
極めて危険な処置であること、今後も動脈血栓の再発を
繰り返す可能性が高いが治療手段がないこと、短期的に
塞栓による広範囲な脳梗塞に陥る可能性が高いこと、発
症した場合救命は困難であることを説明した。その上で、
ご家族が残された時間を自宅で家族と過ごすことを望ま
れたので、自宅退院となった。除去後6日目、激しい腰痛
と両下肢痛を主訴に救急搬送された。造影 CT で動脈血栓
の拡大を認め、下肢の疼痛改善目的で再度血栓除去術の
方針となった。意識清明であったが、疼痛コントロール
不可のため術前に挿管し鎮静した。搬送から約7時間後に
執刀を開始したが、加刀直後に突然徐脈となり、心停止、
死亡に至った。ご家族の同意が得られず剖検は施行でき
なかった。
62 (62)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図4 病理所見(a:弱拡大、b:強拡大)
器質化を伴うフィブリン血栓(a)
。腫大核を有する大型異型細胞の集塊(扁平上皮癌)
(b)を認める。
図5 造影 CT 所見(血栓除去4日後)
左内頸動脈(a)
、腕頭動脈起始部(b)に血栓を認めた。
図6 造影 CT 所見(血栓除去6日後)
肺門部の肺静脈に浸潤した転移巣を認めた。
考 察
本症例は子宮頸癌Ⅱ B 期術後放射線療法後の照射野内
再発であったため、治療法が限定された。まずは、照射
可能範囲内での左胸壁転移巣への放射線外照射と化学療
法(CDDP 40 mg)の CCRT 療法を施行した。次に CPT11 /CDDP の 2 剤併用療法を施行したが奏功せず、DC 療
法を施行した。DC 療法1サイクル施行後に、SCC 抗原値
は著明に低下した。病勢を反映する SCC 抗原値が著明に
低下したこと、1サイクル後の造影 CT で肺門部の転移巣
の一部縮小を認めたことから、化学療法が奏功していた
可能性が高いと思われた。残念ながら1サイクルのみの投
与しかできなかったが、ガイドラインや JCOG 0505 にも
あるように 1)2)、タキサン系とプラチナ製剤の組み合わせ
は、再発子宮頸癌に対して有効性が期待される(レベル
Ⅲ)
。
婦人科悪性腫瘍と血栓症、特に静脈塞栓との関連は多
く報告されているが、動脈塞栓に関しての報告は極めて
稀である 3)∼5)。
AAO は、主に塞栓症や血栓症により突然主幹動脈が閉
塞し急速に血行障害が発症する病態である。治療として
Interventional Radiology(IVR)や外科的血行再建術・二次
血栓予防の抗凝固療法などがある。塞栓症の原因の 90 %
は、弁膜症や心房細動など心疾患に由来するものであり
6)∼ 8)、動脈硬化や動脈瘤によるプラークが原因となる場
合もある 6)。腫瘍塞栓を原因とする例は稀で0.6%(877例
中5例)程度と報告されている 9)。腫瘍塞栓の原因は左房
粘液腫が最多であり、悪性腫瘍によるものは極めて稀と
されている 6)10)∼12)。Xiromeritis らの悪性腫瘍の腫瘍塞栓
による AAO の症例104例を集計した報告によると、原因
疾患は、原発性肺癌 44%、転移性肺癌 32%、大動脈原発
腫瘍 13 %、腫瘍の大動脈浸潤 3 %とされている 13)。本邦
での報告も同様で、山下らをはじめ、腫瘍塞栓の原因の
多くが肺腫瘍であるという報告が多い 6)14)∼22)。腫瘍塞栓
の病理組織像は、低分化の癌組織(未分化癌、大細胞癌、
平成27年9月(2015)
63 (63)
低分化扁平上皮癌など)に多い傾向にある 7)17)23)。腫瘍
塞栓の発症機序は、腫瘍が肺静脈や左房に浸潤し塞栓子
が体循環を経由するためと考えられている 6)11)12)14)16)18)。
治療の主体となる血栓塞栓除去術は、発症後 12 時間以内
に行うことで虚血部位の壊死を回避できるとされている。
透視下でのカテーテル的直接血栓溶解療法や経皮的機械
的血栓除去術・経皮的吸引血栓除去術などの IVR、もし
くは Forgarty カテーテルによる観血的血栓除去術といった
外科的血行再建術がある。合併症としてカテーテル挿入
部位からの出血・血腫形成、穿孔、血行再建術後症候群
や、術中に砕けた血栓が末梢の動脈を多発性に塞栓させ
てしまう shower emboli などがある。
本症例では、透視下で Forgarty カテーテルを用いて観血
的血栓除去術を施行した。両側の総大腿動脈からカテー
テル挿入し、血栓部位から挿入部より遠方でバルーンを
拡張し血栓除去を行った。1回目の血栓除去術前の血液検
査で PT-INR と APTT の延長を認めていたが、血栓を全除
去できたことで凝固因子の消費が改善されたためか、術
後の血液検査で PT-INR 1.20、APTT 34.8秒と正常化を認め
た。病理組織検査より動脈血栓から扁平上皮癌が検出さ
れ、扁平上皮癌が血栓の核となっていたと考えられる。
また、2 nd line 化学療法後に病勢を反映する SCC 抗原値が
著明に低下し、造影 CTから左心房に近接していた肺門部
の転移巣の一部崩壊し左房内や肺静脈に血栓像を認めた
ことから、化学療法が契機となり、肺門部の左房内や肺
静脈に浸潤した転移巣(図 6)が塞栓子の供給源となり、
腫瘍塞栓を次々に形成したものと考える。末梢動脈閉塞
に対しては血栓除去術で対処できたが、中枢の頸部大血
管系に対しては対応策がなく、動脈血栓が体循環を経由
したことで最終的に広範囲の脳梗塞を発症し死亡に至っ
たと考えられる。
婦人科悪性腫瘍では病状の進行とともに肺転移を来た
す症例が少なくない。肺門部、特に肺静脈や左房に浸潤
が疑われる肺転移症例では、化学療法の奏効や病状の進
展に伴い腫瘍塞栓を来たし、致死的 AAO を発症する可能
性を考慮する必要がある。
結 語
化学療法が奏効するも腫瘍塞栓で死に至った再発子宮
頸癌の一例を経験した。肺転移のある症例で肺静脈や左
房への浸潤の可能性がある場合、AAO を発症する可能性
を考慮する必要がある。
文 献
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65 (65)
重症妊娠悪阻を契機に発症した Wernicke 脳症の1例
A case of Wernicke's encephalopathy induced by hyperemesis gravidarum
平塚市民病院 産婦人科
Department of obstetrics and gynecology, Hiratsuka City Hospital
吉政 佑之 Yushi YOSHIMASA
上之薗美耶 Miya KAMINOSONO
簡野 康平 Yasuhira KANNO
藤本 喜展 Yoshinobu FUJIMOTO
笠井 健児 Kenji KASAI
概 要
症 例
Wernicke 脳症とは、意識障害・小脳失調・眼球運動障
害を三主徴とする脳疾患で、ビタミン B 1欠乏が原因と考
えられている。記銘力障害・逆行性健忘・作話などを特
徴とする Korsakoff 症候群を認めた場合、治療抵抗性で不
可逆的で神経学的予後は非常に不良となる。今回、我々
は重症妊娠悪阻を契機に発症した Wernicke 脳症の一例を
経験したため、報告する。患者は29歳、0経妊 0経産。前
医にてタイミング法で妊娠成立後、妊娠4週より悪阻が出
現した。尿ケトン定性で3+が持続していたが、健診日の
み細胞外液型の補液がされていた。妊娠 14 週に短期記憶
障害と見当識障害、歩行困難を認め、Wernicke-Korsakoff
症候群を疑われ、当院へ転院搬送となった。体重は妊娠
前から 8 kg 減少しており、来院時には眼球運動障害も認
め、三主徴を全て満たしていることから、Wernicke 脳症
と診断した。直ちに大量ビタミン補充及び補液療法を開
始した。妊娠 20 週の退院時は、歩行障害や眼球運動障害
は消失したが、短期記憶・見当識・記銘力の障害は残存
し、日常生活の見守りが必要であった。Wernicke 脳症は
神経学的・社会的に非常に予後不良な疾患である。妊娠
悪阻が契機となり得るため、ビタミン補充による予防が
肝要である。また、重症妊娠悪阻に一徴を認めた時点で
Wernicke脳症を鑑別とし、早急な治療を必要とする。
患者:29歳 0経妊 0経産
既往歴、飲酒、喫煙:なし
現病歴:タイミング法で妊娠成立後、妊娠4週より悪阻
が出現した。尿ケトン定性で3+が持続していたが、本人
の意向もあり入院や連日通院での点滴は施行されず、健
診日のみ細胞外液型の補液がされていた。妊娠 13 週より
健忘が出現したが家族の判断で受診せず、妊娠 14 週 3 日
に両下肢浮腫を主訴に前医救急外来を受診となった。短
期記憶障害と見当識障害を認めるも、検査データに異常
なく、経口摂取可能であったため、そのまま帰宅となっ
た。妊娠14週6日の再診時に Wernicke-Korsakoff 症候群を
疑われ、総合ビタミン剤投与の後に当院へ転院搬送とな
った。
入院時身体所見:身長 152 cm、体重 52 kg(妊娠前よ
り− 8 kg)、SpO 2 98 %、心拍数 88 回/分、血圧 110 /58
mmHg、体温37.1℃、両下肢浮腫著明、左右差なし
入院時神経学的所見:JCSⅠ-2(時間・場所ともに答え
られない)
、短期記憶障害、歩行困難、立位可、眼球運動
障害(上下注視低下、右向き注視性眼振)、姿勢時振
戦±/±、指鼻指試験正常、構音障害なし、深部腱反射
異常なし
入院時採血所見:血算 異常なし、生化学 BNP 34.6 pg/
ml, Vit.B1 392.0 ng/ml, Vit.B 12>1500 pg/ml, Vit.B2 70.5
pg/ml, 凝固能 d-dimer 1.71μg/ml
尿検査:ケトン1+
頭部 MRI 検査:FLAIR 画像で鞍上槽のわずかな高信号
を示したが、典型像は認めなかった。
(図1)
胎児超音波検査:形態学的異常はなく、週数相当の成
長を認めた。
下肢静脈超音波検査:静脈血栓症は認めなかった。
心臓超音波検査:心機能に異常はなかった。
胸部レントゲン検査:心拡大は認めなかった。
髄液検査:異常なし。
入院後経過:神経学的異常所見として認めた意識障
害・小脳失調・眼球運動障害については、Wernicke 脳症
の三徴であり、臨床経過や諸検査がそれに矛盾しないこ
Key words : Wernicke's encephalopathy, hyperemesis
gravidarum, vitamin B1
緒 言
Wernicke 脳症とは、意識障害・小脳失調・眼球運動障
害を三主徴とする脳疾患で、ビタミン B 1欠乏が原因と考
えられている。記銘力障害・逆行性健忘・作話などを特
徴とする Korsakoff 症候群を認めた場合、治療抵抗性で神
経学的予後は非常に不良となる。今回、我々は重症妊娠
悪阻を契機に発症した Wernicke 脳症の一例を経験したた
め、報告する。
66 (66)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図2 糖代謝経路においてビタミンB 1は補酵素として働く
図1 頭部MRI FLAIR画像
鞍上槽の高信号域(矢印)を認めた
表1 諸症状に対する鑑別疾患及び検査、評価
なった。眼球運動障害は入院 16 日目に消失した。記憶障
害に関しては短期記憶障害や見当識障害、記銘力障害は
残存した。改定長谷川式簡易知能評価スケールでは入院
時が30点中20点、退院時は25点までは改善したが、依然
として日常生活の見守りが必要であった。両下肢浮腫は
栄養状態の改善に伴い軽快された。実家付近の病院への
転院及び分娩の希望があったため、入院 39 日目(妊娠 20
週2日)に転院となった。
考 案
とから、Wernicke-Korsakoff 症候群と診断した。鑑別とし
て、脳卒中、脳腫瘍、脳炎・髄膜炎、せん妄、肝性脳症
などを挙げたが、いずれも否定された(表1)
。
直ちに大量ビタミン補充及び補液療法を開始した。細
胞外液及び維持液に加えて総合ビタミン剤及びビタミンB
1製剤にて、計ビタミンB 1を120 mg/日、ビタミンB 6を
100 mg /日、ビタミン B 12 を 1 mg 連日静脈内投与した。
また、低マグネシウム血症でビタミンB 1の効果発現が遅
延するため、硫酸マグネシウム 2 g /日を連日投与した。
さらに入院2日目からはビタミンB 1を200 mg/日、ビタ
ミン B 6 を 100 mg /日、ビタミン B 12 を 1 mg 連日追加経
口投与した。補液療法は 29 日間継続し、内服は退院後ま
で継続した。肝酵素値は軽度上昇を認めたが、栄養状態
の改善とともに軽快した。
入院 10 日目からリハビリを開始すると徐々に自立歩行
できるようになり、入院 25 日目には階段の昇降が可能と
Wernicke 脳症とは、意識障害・小脳失調・眼球運動障
害を三主徴とする脳疾患で、ビタミンB 1欠乏が原因と考
えられている。さらに不良な経過を辿った場合の後遺症
として Korsakoff 症候群が重要である。Korsakoff 症候群は、
記銘力障害・逆行性健忘・作話を特徴とし、治療抵抗性
であり不可逆的で神経学的予後は非常に不良となる。
本邦における妊娠悪阻による当疾患の疫学は、発症年
齢は平均 28.6 歳、分娩歴は初産 16 例に対し経産 28 例
(42 %は妊娠既往での治療を要する重症妊娠悪阻既往例)
と後者の方が多かった 1)。非妊時から発症までの体重減少
は平均13.6 kg(8∼20 kg)であった 1)。経口摂取不能の時
点(治療開始)から本症発症までの期間は、平均 5.2 週
(4 ∼ 7 週最多)、発症時期は平均 13.9 週で通常妊娠悪阻の
軽減の時期に及ぶ報告が多かった 1)。
Wernicke 脳症の診断において、必ずしも三徴を全て満
たすとは限らない 2)。Caine らは、アルコール依存患者に
対して、Wernicke 脳症のリスクを前方視的に評価するた
めに4項目の予測因子を呈示した 3)。具体的には、三徴で
ある①意識障害か軽度記憶障害、②小脳失調、③眼球運
動障害に④栄養失調を加えた 4 項目のうち、2 つを満たす
ことで診断される。妊娠中の Wernicke 脳症はアルコール
平成27年9月(2015)
非依存性ではあるが、早期発見・治療のため Caine の基準
を流用して評価すると、妊娠悪阻が発症例の全例にみら
れており 2)、そのため Wernicke 脳症の三徴のうち一つで
も認めた時点で Wernicke 脳症であるリスクが高いと言え
る。血液検査所見では、血中ビタミン B 1値の低下や赤血
球中ビタミン B 1トランスケトラーゼ値の低下などが重要
である。ビタミン補充開始前に測定することが肝要だが、
必ずしも全例に低下を認める訳ではないこと 2)、治療開始
後は速やかに正常化すること 4)から、血液検査所見はあ
くまでも補助診断と考えるべきである。画像所見は、
MRI にて病理組織学的所見を反映して中脳水道や第三脳
室、視床、乳頭体に T 2 高信号、T 1 低信号、DWI の異常
を認められるが 5)、50%程度しか典型像は示さないという
報告もあり 6)、画像所見もやはり補助診断に過ぎない。病
理組織学的所見では、急性期には血管の増集やマイクロ
グリアの増加及び点状出血、慢性期には脱髄やグリオー
シス及び神経網の障害が認められ、神経細胞は比較的保
たれているという特徴がある 7)。病変部位は MRI の異常
信号の部位とほぼ同じく第三脳室、中脳水道、第四脳室
周囲の灰白質・視床及び乳頭体で顕著である。Wernicke
脳症の合併症には、甲状腺機能亢進症が約 10 %に認めら
れるものの、初発症状に頻脈を認めるものは 15 %程度で
あり、検索はされていないが妊娠甲状腺中毒症の状態に
あった症例はさらに多数に上る可能性もある 2)。そのため
重症妊娠悪阻では甲状腺機能の検索が必要との報告もあ
る 2)。
Wernicke 脳症の治療は、発症例の殆どが発症前のビタ
ミン B 1投与を欠く症例であることから 1)、まずは一刻も
早いビタミン B1 の投与である。具体的には、初期には
100 mg ∼ 500 mg /日を非経口的に投与するものが一般的
である 2)。また、その他のビタミンも低下している可能性
が高いことから、総合ビタミン剤の補充も必要である。
低マグネシウム血症ではビタミン B 1の効果発現が遅延す
ることが知られており、血中ナトリウム値の異常も脳組
織の破綻につながるため、電解質補正も不可欠である 2)。
ビタミン B 1は、糖代謝経路においてトランスケトラー
ゼやピルビン酸デヒドロゲナーゼなどの補酵素として働
いており(図2)
、またビタミン B 1が欠乏することにより
細胞膜に発現する受容体が侵害され活性酸素を誘引する
などの機序をもって、神経毒性を発現すると考えられて
いる 2)8)。
本邦の報告をまとめたものでは、妊婦の死亡例は4.6%
(2/43例)
、神経学的後遺症を認めるものは93.0%(40/
43 例)であった。後遺症のないものは 3 例のみに留まり、
その特徴は本症発症時に顕著な意識障害を伴わない症例
であった 1)。ひとたび Wernicke 脳症を発症すると高率に
神経学的後遺症を残すという事実は、生殖年齢であり今
後分娩を控える患者にとって、QOL の低下だけでなく育
児において重大なハンディキャップへとつながり、本人
及びその家族への多大な負担となることが予想される。
一方で胎児の予後は、ビタミン B 1と発育不全や胎児奇形
との明らかな因果関係はないとされるが、ラットによる
67 (67)
動物実験では子宮内胎児発育遅延が起こる可能性も報告
されている 9)∼11)。本邦における妊娠の転機は、人工中絶
を選択したものが約50%(19/36例)であり、母体の症
状回復が悪く生命予後が悪化する恐れがあると判断し人
工妊娠中絶を選択した症例が多いようである 2)。人工妊娠
中絶が選択されず妊娠を継続した例においては、正常分
娩に至ったものはそのうち約半数であり、残りの半数は
自然流産や子宮内胎児死亡であった 1)。生児を得た報告の
中では低出生体重児の報告も僅かに散見されたが、やは
りそこに明らかな因果関係は認めていない 1)3)10)。また、
長期的な精神・神経学的予後の報告はなかった。
本症例では、Wernicke 脳症の三徴を全て満たしていた。
小西らの報告によると、初発症状は、意識障害が最多の
79.5 %、歩行障害が 59.0 %、眼振が 56.8 %となっており、
必ずしも三徴を全て満たすとは限らないとされている 2)
が、本症例でもやはり最初に認められた症状は意識障害
であった。さらに本症例では作話は認めなかったものの、
記銘力障害や逆行性健忘が出現しており、Korsakoff 症候
群への進展と考えられ、神経学的後遺症を残す結果とな
った。経口摂取不能の時点から 10 週間近く経過してから
診断確定されており、発症時期及び発症年齢などは本邦
の疫学的平均とほぼ同等であったが、体重減少は疫学的
平均よりは少なかった。当院の採血は、前医での総合ビ
タミン製剤投与後であったため血中ビタミン B 1及び B 12
はともに高値となっていた。また典型的な画像所見は得
られなかった。しかし、Caine の基準より、Wernicke 脳症
の三徴のうち一症状が出現した時点で鑑別を念頭に置き、
治療の開始が望ましかったと考える。通常、ビタミン B 1
の体内貯蔵量は25∼30 mg、その必要量は1 mg/日程度で、
妊娠中は1.5 mg/日程度へと上昇し、摂取されなければ約
18 日間で枯渇するといわれる。またグルコースの投与に
よりその消費は増大する。12)13)本症例で体重減少は顕著
であり尿ケトンも陽性であったことから、Wernicke 脳症
予防目的に、妊娠初期から継続したビタミン補充は必須
であった。これまでに本疾患を発症したほとんどの症例
と同じく本症例においても、発症前にビタミン投与は施
行されておらず、さらにブドウ糖のみの補液によってビ
タミン B 1は更に消費され増悪の一助となったことも推察
される。当院の本症例の治療は、これまでに報告されて
いる一般的な治療と同等にした。
最後に、本症例では診断が確定される1週間以上前であ
る妊娠 13 週の時点で短期記憶障害は出現しており、家族
も認識しているにも関わらず来院されなかった。患者へ
の情報提供として、重症妊娠悪阻を契機とした Wernicke
脳症について、症状を含めて指導しても良かったと考え
られた。
Wernicke 脳症は神経学的・社会的に非常に予後不良な
疾患である。妊娠悪阻が契機となり得るため、ビタミン
補充による予防が肝要である。また、重症妊娠悪阻に一
徴を認めた時点で Wernicke 脳症を鑑別とし、早急な治療
が必要であると考える。
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神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
文 献
1) 兼子和彦, 竹内正人. 妊娠悪阻に伴うWernicke-Korsakoff
症候群. 平成8年厚生省心身障害研究報告書 1997;199200.
2) 小西秀樹, 中塚幹也, 多田克彦, 井上奈々子, 中田高公,
鎌田泰彦, 木村吉宏, 工藤尚文.妊娠中のWernicke脳症.
産婦人科治療 1998;76(3):362-366.
3) Caine D, Halliday GM, Kril JJ, Harper CG. Operational
criteria for the classification of chronic alcoholics:
identification of Wernicke's encephalopathy. J Neurol
Neurosurg Psychiatry 1997;62(1):51-60.
4) 和田麻美子, 小川恵吾, 内田雄三, 深田幸仁, 平田修司,
星和彦. 重症妊娠悪阻からWernicke脳症を発症した1症
例. 日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報
2002;39(4);375-380.
5) 城倉健, 小宮山純, 高橋竜哉, 長谷川修, 黒岩義之. 妊娠
悪阻に続発した Wernicke 脳症の急性期 MRI 所見(図
説).神経内科1993;39(2):212-214.
6) Antunez E, Estruch R, Cardenal C, Nicolas JM, FernandezSola J, Urbano-Marquez A. Usefulness of CT and MR
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AJR Am J Roentgenol 1998;171:1131.
7) Torvik A. Two types of brain lesions in Wernicke's
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8) Martin PR, Singleton CK, Hiller-Sturmhöel S. The role of
thiamine deficiency in alcoholic brain disease. Alcohol Res
Health. 2003;27(2):134.
9) Baker H, Thind IS, Frank O, DeAngelis B, Caterini H, Louria
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their mothers. Am J Obstet Gynecol. 1977;129(5): 521-524.
10)Roecklein B, Levin SW, Comly M, Mukherjee AB.
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deficiency and pyrithiamine during pregnancy in the rat. Am J
Obstet Gynecol. 1985;151(4):455-60.
11)伊藤雄二, 荒木保博, 室雅巳, 内山章, 庄野真由美, 庄野
秀明, 杉森甫, 河野勝一, 越田繁樹, 福田清一. 重症妊娠
悪阻から Wernicke 脳症を発症し,胎児に先天性横隔膜
ヘルニアをきたした一例. 産婦人科治療 1999;79(1):114117.
12)東野桂子, 木下弾, 別宮史朗, 猪野博保. 重症妊娠悪阻に
よるWernicke脳症の1例. 日本産科婦人科学会中国四国
合同地方部会雑誌 2006;54(2):177-182.
13)泉章夫, 佐藤郁夫. 重症妊娠悪阻にともなうWernicke脳
症. 産婦人科の実際 1996;45:207-212.
(H27.5.20受付)
平成27年9月(2015)
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全腹腔鏡下子宮全摘術後に判明した卵巣静脈血栓症の1例
A case of Ovarian Vein Thrombosis after total laparoscopic hysterectomy
小田原市立病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Odawara Municipal
Hospital
佐治 晴哉 Haruya SAJI
紙谷菜津子 Natsuko KAMIYA
横澤 智美 Tomomi YOKOZAWA
大和田 望 Nozomi OWADA
上西園幸子 Sachiko KAMINISHIZONO
新井 夕果 Yuka ARAI
小畑聡一朗 Soichiro OBATA
瀬川 恵子 Keiko SEGAWA
服部 信 Shin HATTORI
平吹 知雄 Tomoo HIRABUKI
白須 和裕 Kazuhiro SHIRASU
概 要
緒 言
卵巣静脈血栓症は、周産期、特に産褥期に発症の多い
深部血栓症の一型として知られているが、良性婦人科腫
瘍に伴う報告は少ない。今回我々は、子宮筋腫にて全腹
腔鏡下子宮全摘術を施行後に判明し治療した卵巣静脈血
栓症の1例を経験したので報告する。
症例は46歳、2妊 2産。過多月経を6ヵ月前より自覚し、
月経量の増大と貧血症状を主訴に当院救急外来を受診。
径 5 cm 大の筋層内から粘膜下に子宮筋腫を認め、過多月
経の原因と考えられた。貧血改善と筋腫縮小を図るため、
GnRH agonist を2回投与したが断続的な性器出血を続くた
め手術療法の方針とした。気腹式にて全腹腔鏡下子宮全
摘術を施行し、術中合併症なく術後 3 日目に退院したが、
退院後 2 日目に 38.4 ℃の発熱を認め、原因検索の過程で
CT 検査にて左卵巣静脈血栓症が判明した。直ちに経口抗
凝固薬(FXa 阻害剤)を開始したところ腟断端部より出
血を来したため同剤投与を中止し、以降厳重経過観察と
した。その間、臨床症状は認めず術後6ヵ月後の CT 検査
では血栓は自然消失した。
気腹式腹腔鏡下手術は血栓症のリスク因子と考えられ
ているが、長時間の手術を要する場合には、低侵襲とい
えども手術体位、疾患の特異性、物理的圧迫に加え、前
治療として汎用される GnRH agonist などが血液濃縮を来
たし易い状態を励起し周術期の血栓形成の誘因となり得
ると認識することが重要である。
卵巣静脈血栓症は、周産期、特に産褥期に発症の多い
深部血栓症の一型として知られており、分娩の 0.05 ∼
0.18 %と報告されている 1)が、良性婦人科腫瘍に伴う報
告は少ない。産褥期以外にも骨盤内炎症、悪性腫瘍、骨
盤内手術などがリスク因子として知られている 2)が、初
発症状は多岐にわたり所見に乏しい場面も少なくない。
今回我々は、子宮筋腫にて全腹腔鏡下子宮全摘術を施行
後に判明し治療した卵巣静脈血栓症の1例を経験したので
報告する。
Key word : Ovarian Vein Thrombosis, Total laparoscopic
hysterectomy, Laparoscopic CO2 gas delivery, Anticoagulant
therapy , GnRH agonist,
症 例
症例:46歳、2経妊2経産
既往歴・家族歴:血栓症既往なし、遺伝的背景に特記
事項なし
現病歴:過多月経を6ヵ月前より自覚していたが、月経
量の増大と貧血症状(眩暈、動悸)を主訴に当院救急外
来を受診。径 5 cm 大の筋層内から粘膜下にわたる筋腫様
腫瘤を認めたため、当科紹介初診となった。
外来時身体所見:身長163 cm、体重54 kg(BMI 20.3)
、
BP 87/44 mmHg、 HR 81/min
血液検査所見:WBC 3320/μl、Hb 7.8 g/dl、Ht 25.0%、
Plt 32.2×104 /μl、CRP 0.1 mg/l、PT 12.5秒、APTT 31.8
秒、LDH 207 IU/l、D-dimer 0.4μg/ml 単純骨盤 MRI 所
見(T 2 強調画像、図1):径5 cm大の内膜に突出する筋
腫様腫瘤を認める。悪性を示唆する所見なし。
経過:子宮頸部細胞診 NILM、体内膜細胞診で陰性であ
ることを確認の上、低色素性貧血は、筋層内から粘膜下
にわたる子宮筋腫を原因とする過多月経によるものと診
断した。輸血せず鉄剤投与を行いつつ GnRH agonist を術
前に投与した上で腹腔鏡下において子宮摘出を行う方針
70 (70)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図2 A 造影骨盤CT所見
図1 単純骨盤 MRI 所見(T 2 強調画像)
径 5 cm大の内膜に突出する筋腫様腫瘤を認める
とした。術前 GnRH agonist を2回施行後には Hb 10.8 g/dl、
Ht 35.1%まで回復し、初診より約3ヵ月後に気腹式にて全
腹腔鏡下子宮全摘術(Total laparoscopic hysterectomy : 以下
TLH)を施行した。術中は弾性ストッキング着用及び間
欠的空気圧迫法を施行、手術時間3時間4分、出血量 100 g
であった。術中両側卵巣固有靭帯はバイポーラによる止
血及び超音波凝固装置にて無結紮凝固切断を行った。術
中明らかな異常所見はみられず、術後経過良好にて術後3
日目に退院となった。
術後 20 日目(退院後 17 日目)に 38.4 ℃の発熱があり来
院、内診や腹部触診にて圧痛点なし。血液・尿検査及び
経腟超音波検査を施行したが D-dimer 2.2μg/dlと軽度上
昇していることを除けば明らかな感染を示唆する所見は
みられず、術後水腎症など腎尿路系の精査も行ったが異
常所見は認められなかった。術後 21 日目に原因検索目的
にて胸部から骨盤にかけて造影 CT 検査を施行したとこ
ろ、左卵巣静脈内に内部が造影効果に乏しい血栓像を認
めた(図2 A)ため左卵巣静脈血栓症と診断した。循環器
内科にコンサルトし、経口抗凝固薬である第 Xa 因子阻害
剤(アピキサバン)による血栓治療が開始されたが、投
与4日目から腟断端より断続的出血が認められたため投与
を中止し、厳重経過観察を行った。発熱は一過性にとど
まり、アピキサバン投与開始翌日には解熱しその後再び
発熱を認めることはなかった。その後 D-dimer は下降傾向
となったため抗凝固薬の再開は行わずフォローし、術後
72日目に施行した CT 検査(図2 B)では血栓様無造影部
位が縮小を認め、更に術後 172 日目に施行した CT 検査
(図2 C)では血栓の器質化及び消失と診断され、D-dimer
は 0.7μg/dlと正常化した。現在まで血栓再発は認めず循
環器外来にて経過観察中である。
図2 B
図2 C
A : 術後21日目(血栓判明時)
左卵巣静脈内に内部が造影効果に乏しい血栓像を認める
B : 術後72日目
無造影血栓像は縮小している
C : 術後172日目
血管内の無造影血栓像はほぼ消失
平成27年9月(2015)
71 (71)
考 察
卵巣静脈血栓症は、分娩後に発症する静脈血栓症とし
て1956年 Austin らによって産褥期卵巣静脈血栓症として
報告され、現在では深部静脈血栓症の一型として位置づ
けられている。主に産褥期に起こりやすい機序として、
妊娠時に卵巣静脈径が約3倍まで増大することや分娩後の
血流低下による血栓形成、妊娠に伴う凝固能亢進などが
挙げられている 1)。一方、悪性腫瘍症例や骨盤内手術、炎
症の持続など血栓形成のハイリスク症例における深部静
脈血栓症や予防対策への認識が浸透されつつあるものの、
下肢や下大静脈、総腸骨静脈に生じる血栓症と比べると
血栓臨床症状は軽微にとどまったり、無症状の場合も多
いため、婦人科周術期にまつわる本疾患の認知度は決し
て高くない。
初発症状は罹患側腹部痛 3)、発熱、悪寒、悪心、嘔吐な
ど多岐にわたるとされている。本症例では術後 20 日経過
後に突然生じた発熱が端緒となり、血中 D-dimer 値の軽度
上昇から診断されたが、発熱は本疾患を特定できる特異
的症状とはいえず、当初腟断端縫合部における感染、血
腫や腎尿路系由来などの骨盤内感染症を疑った。血液及
び尿検査にて感染徴侯はみられず造影 CT 検査にて本疾患
が診断されたが、発熱はわずか2日で解熱している。その
間第 Xa 因子阻害剤の投与は開始されていたが因果関係を
立証することは難しく、発熱のみられない本疾患の報告
も少なからず存在することから、本疾患の発熱は偶発的
に生じた可能性は否定できない。そして本疾患の診断は、
内診や超音波検査で腫大したロープ状の卵巣静脈血栓と
して診断できることもあるとした報告 4)もあるが、本症
例のように臨床症状に乏しく、比較的報告の多い罹患側
腹部痛があっても本疾患が鑑別診断として念頭にない場
合正しい診断に辿りつくまで時間を要することが多い 5)。
このような場合には造影 CT 検査が診断するためには有用
である。本症例の治療前 CT でもみられた卵巣静脈のリン
グ状高吸収域と内部の低吸収域像を典型的な所見とする
が、下大静脈径との比較により卵巣静脈の拡張を疑った
り、腎静脈レベルで消失する傍結腸溝のソーセージ様構
造が有意な所見として挙げられる場合は、比較的血栓が
大きい場合が多く、合併症として敗血症や血栓による臓
器血流障害、更には肺血栓塞栓症への進展を考慮の上、
可及的速やかに治療開始を検討する必要があろう。いず
れにしても婦人科手術後に炎症所見のみられない発熱や
血中 D-dimer 値が上昇している場合は軽微であっても見逃
さず、CT 検査など画像診断に繋げる姿勢が重要であると
考えられた。
血栓症に対する治療の第一選択はヘパリン投与をはじ
めとした抗凝固療法であるが、肺血栓塞栓症防止のため
に下大静脈フィルター留置が行われたり 6)、保存的治療が
奏功せず側腹部痛のコントロールが困難な場合には直接
血栓を除去する手術療法を選択する場合もあるが、保存
的治療で軽快した報告 7)が多く、自然経過観察で吸収さ
れた報告も散見される。大部分の報告が産科領域による
ものであり、産褥期に微細な血栓として生じたものの、
子宮による静脈への物理的圧排や血流低下が非妊娠状態
に向かう中で解除され、凝固能が正常化する中で更なる
治療を要しないと判断されたものと考えられるが、治療
の有無や開始時期については病状の重症度には大きな開
きがあるため、一定の見解を得るには至っていない。本
症例では CT 検査で左卵巣静脈血栓症を認めたものの有意
な臨床症状に乏しく、全身状態の悪化も認めなかったた
め、入院点滴治療を要するヘパリン投与でなく、内服で
の投与可能な第 Xa 因子阻害剤を開始した。しかし、投与
後4日目に腟断端より断続的な出血が認められたため、中
止し以降再開することなく自然経過をみることとなった。
中止後に出血はみられなくなったため、抗凝固療法に起
因した出血であった可能性が高いが、腹腔鏡下による子
宮全摘後の腟断端離開は開腹時と比べやや多い 8)とされ
ており、術後早期における治療としての抗凝固療法につ
いては断端粘膜面生着前の出血のリスクを評価した上で、
病状に応じて検討されるべきと考えられた。本症例では
抗凝固療法をその後再開するか否か循環器内科と議論が
なされたが、発熱が自然改善し、側腹部痛などの臨床症
状が一貫して認められないこと、血中 D-dimer が抗凝固療
法中止後も正常域に向かい下降傾向にあったこと、更に
CT 所見の推移から血栓の改善傾向がみられたことから
我々は自然経過観察を行うことを選択した。本疾患が深
部静脈血栓症の一型と捉えれば、治療継続が望ましい症
例ではあったのかもしれないが、有意な臨床所見がみら
れない場合、産褥期と異なり婦人科周術期では影響を受
けにくい血中 D-dimer の推移を参考に、自然吸収を待機す
る方法も有効である可能性はある。
最後に、本疾患が生じた背景について考察する。 本症
例は既往歴や家族歴からも血栓症の素因となる背景はな
く、内科的に血栓傾向を示す基礎疾患を疑わせる臨床症
状も認められなかった。 産婦人科領域では習慣流産や凝
固異常をきたす周産期合併症の精査の中で抗リン脂質抗
体症候群の存在が稀ではあるが判明することが知られて
いるが、婦人科周術期における血栓素因を検索する場合、
鑑別診断として膠原病類縁疾患をはじめとする内科的検
索を考慮してもよいかもしれない。次に基礎疾患として
の子宮筋腫と血栓形成について考察する。本症例は物理
的圧迫という観点からは血栓形成を疑うサイズや形状の
子宮筋腫ではない。しかし筋腫の発生部位や性状、子宮
の偏移などにより手術というイベントをきっかけとした
血栓症を引き起こす可能性は常に考慮すべきと考える。
岩崎ら 9)は子宮筋腫のみならず静脈系を圧迫する大きさ
でなくても子宮腺筋症が深部静脈血栓症のリスクファク
ターであることを念頭におくべきであると述べており、
そこに術前 GnRH agonist を使用したことは低用量ピルを
用いる場合に比べて血栓発症のリスクを上げるものでは
ないと推測される。実際に腹腔鏡下手術を施行する際に
術前の筋腫縮小を目指す目的で投与される GnRH agonist
の有効性は広く知られているが、貧血の改善が図れる反
面、急激な血液濃縮を来たす可能性もあるだけに、周術
期における血栓形成傾向に修飾した可能性は否定できな
72 (72)
い。抗ゴナドトロピン作用により低エストロゲン状態を
励起する Danazol はその血栓形成傾向が比較的広く認識さ
れているが、GnRH agonist にも血栓誘因のリスクが内在し
ていることを改めて認識し、術前から血栓のrule outを行
い管理に役立てる必要性を再認識した。また、術式の観
点から考察すると、気腹式腹腔鏡下手術の導入と適用拡
大に伴う手術の長時間化も血栓形成の素因として見逃せ
ない 10)。更に本症例の TLH をはじめ砕石位で施行するこ
との多い腹腔鏡下手術の場合は、一般的に低侵襲手術で
はあるものの静脈血栓・塞栓症のリスク因子として認識
すべきであろう。更に TLH は通常両付属器温存するため、
動静脈を含む卵巣固有靭帯を止血・凝固・切離するが、
本術式により卵巣静脈内の血流が低下し血栓形成に繋が
る可能性も否定できない。本症例では術前の血中 D-dimer
は正常値内にとどまり術前から血栓が形成していた可能
性は極めて低いと判断したが、より長時間化し得る砕石
位を伴う気腹式腹腔鏡下手術には血栓形成に修飾する因
子が加わりやすいことを認識する必要がある。そして、
周術期管理を行う際には弾性ストッキング装着や間欠的
空気圧迫法の実施、積極的な離床運動を励行すると共に、
良性疾患であっても巨大筋腫や卵巣腫瘍手術や骨盤内高
度癒着症例においては積極的に予防的抗凝固薬の投与を
検討してもよいかもしれない。そして本疾患を念頭にお
き、術前からの血中 D-dimer 測定と経時的変化に注目する
べきであろう。
下肢深部静脈や下大静脈、総腸骨静脈に比べると、卵
巣静脈における血栓臨床症状はごく軽微にとどまること
が多く、偶発的に判明することも珍しくない。卵巣静脈
血栓症は深部静脈血栓症の一型として治療対象となり得
る反面、自然消失例も報告されていることから、術後投
与の時期や必要性に関して更なる検討が必要である。気
腹式腹腔鏡下における長時間の手術を要する場合には、
低侵襲といえども手術体位、術中所見や疾患の特異性、
物理的圧迫に加え、前治療として汎用される GnRH agonist
などが血液濃縮を来たし易い状態を励起し周術期の血栓
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
形成の誘因となり得ると認識することが重要である。
(本論文の要旨は第 409 回神奈川産科婦人科学会学術講演
会にて発表した)
文 献
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(H27.5.23受付)
平成27年9月(2015)
73 (73)
既往子宮破裂後妊娠症例の帝王切開時に不全子宮破裂を認めた1例
A case of uterine rerupture during cesarean section
済生会横浜市東部病院 産婦人科
Department of Obsterics and Gynecology, Saiseikai Yokohamashi
Tobu Hospital, Yokohama
c山 明香 Asuka SAKIYAMA
伊藤めぐむ Megumu ITO
宮内 里沙 Risa MIYAUCHI
松下 瑞帆 Mizuho MATSUSHITA
岩c 真一 Shinichi IWASAKI
御子柴尚郎 Takao MIKOSHIBA
長谷川明俊 Akitoshi HASEGAWA
秋葉 靖雄 Yasuo AKIBA
渡邉 豊治 Toyoharu WATANABE
小西 康博 Yasuhiro KONISHI
緒 言
子宮破裂は妊娠・分娩中に生じ、母児ともに重篤な状
態になりうる疾患である。頻度としては全分娩の 0.02 ∼
0.1 %と稀であるが、子宮手術既往がある場合には危険性
が増す 1)。特に子宮破裂既往妊婦の再破裂率は数%との報
告から30%以上との高率の報告もある 2)3)。今回、我々は
腹腔鏡下子宮筋腫核出術かつ子宮破裂既往妊婦の帝王切
開術時に子宮断裂を認めた一例を経験したので文献的考
察を含めて報告する。
Key words : uterine rupture; caesarean section; ultrasound; uterine
scar dehiscence
症 例
症例:40歳
妊娠分娩歴:
1回経妊1回経産(妊娠23週子宮破裂で死産)
既往歴:
31歳 腹腔鏡下子宮筋腫核出術(他院A:詳細不明)
38歳 妊娠23週に子宮破裂(他院B)
開腹時、子宮底部から後壁にかけて縦に 7 cm ほど子宮
筋層が完全に断裂していた(図1)
。
断裂部位より卵膜かつ死児・胎盤が露出していた。
単結紮縫合で2層縫合し修復術施行。
現病歴:子宮破裂術後から 1 年後に自然妊娠し、妊娠 6
週時に管理目的に当院へ紹介となった。子宮筋腫核出術
後かつ子宮破裂後であり再破裂のリスクが非常に高いこ
とを説明した上で妊娠管理を行うこととした。妊娠 18 週
頃より下腹部の違和感が出現した。子宮口は閉鎖し、子
宮頸管長は 40 mm であったが、子宮破裂既往があるため
入院管理とし、安静かつ塩酸リトドリンの点滴(66μg/
min)投与を開始した。入院期間中は前回子宮破裂部位の
子宮筋層の評価のために超音波検査と MRI 検査を施行し
た。経腹超音波検査では後壁筋層の厚さは2-4 mm であっ
たが、経時的に菲薄化する所見は認めなかった(図 2)。
MRI 検査では、妊娠22週と27週に単純 MRI 検査を施行し
たが、胎盤が前回子宮破裂部位と同じ後壁付着であった
ために、正確な筋層の評価や癒着胎盤の評価は困難であ
った(図3)
。
妊娠 25 週頃より NST にて確認可能な子宮収縮が出現
し、収縮の増強とともに塩酸リトドリン投薬量を増量し
た。最終的に塩酸リトドリンを93μg/minまで増量した。
切迫子宮破裂の状態と判断し、新生児科とも協議を重ね
娩出時期を妊娠 30 週とした。子宮破裂時の母児へのリス
クや帝王切開施行時に子宮摘出術を要する可能性を説明
し、妊娠 29 週時に胎児の肺成熟を促す目的でベタメタゾ
ン 12 mg を母体へ2回投与した上で、妊娠30週5日に脊髄
くも膜下硬膜外併用麻酔下に選択的帝王切開術を施行し
た。
手術所見:下腹部正中切開にて開腹し、開腹時には腹
腔内に明らかな異常は認めなかった。子宮下部横切開に
て児かつ胎盤を幸帽児で娩出した後、子宮を確認したと
ころ子宮後壁筋層が10 cm に渡り縦に断裂していた。前回
子宮破裂した子宮底部は漿膜のみが保たれ筋層は欠損し
ている状態であった(図 4)。断裂部位の筋層は脆弱であ
り、単結紮縫合にて2層に縫合した(図5)
。手術時間は1
時間30分であり、出血量は羊水込みで 1,230 ml であった。
児は男児、出生体重は 1376 g、Apgar score は1分値6点
5 分値 8 点であり、早産・極低出生体重児のため NICU に
入院となった。胎盤病理結果は、臍帯・胎盤構成成分に
は組織学的異常はなく、絨毛膜羊膜炎や癒着胎盤の所見
も認めなかった。
術後経過:術後経過は良好であり、術後6日目退院とな
った。児は日齢72に退院し、生後1年6ヵ月時点では明ら
74 (74)
図1 妊娠23 週:初回破裂時の写真
子宮底部が縦に7 cm ほど完全に断裂した状態であった。
図2 経腹超音波所見
妊娠25 週時:筋層の厚さを測定 胎盤付着部位が後壁にある。
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図4 帝王切開時の所見
子宮後壁が10 cm ほど断裂している状態であり、前回破裂部
位の子宮底部は筋層が欠損し漿膜のみで保たれていた。
図5 子宮筋層を2 層縫合で閉創とした。
かな後遺障害は指摘されていない。
考 案
図3 骨盤単純 MRI(T 2強調矢状断像)所見
妊娠27週時 胎盤が後壁付着であり、後壁の子宮筋層が
はっきりと同定できず。
子宮破裂には、子宮手術既往のない妊婦に発生する自
然子宮破裂と、子宮手術既往のある妊婦に発生する瘢痕
性子宮破裂の 2 種類がある。自然子宮破裂の頻度は、
0.007%(15,000分娩に1件)と非常に稀であるが、既往子
宮手術後妊娠の場合のそのリスクは上昇する 1)。子宮破裂
は妊娠中や分娩中に子宮が破裂し、母児ともに重篤な状
態となる可能性があるため、既往子宮手術後妊娠の場合、
最も重要視するべき合併症である。一般的に、既往帝王
切開術後妊婦の子宮破裂の頻度は、子宮下部横切開では
0.2∼1.5%、体部縦切開では1∼7%、逆T字切開や古典的
帝王切開では 4 ∼ 9 %と言われている 1)。近年では、晩婚
化、高齢妊娠、内視鏡手術の普及などにより子宮筋腫核
出既往や腺筋症核出術後など、帝王切開以外の子宮手術
既往のある妊婦の分娩に遭遇する機会も増加している。
帝王切開とは異なり、核出部位や核出数、縫合方法も症
例により異なるため、子宮筋の強度への影響は様々であ
る。子宮筋腫核出術後妊娠での子宮破裂率を 0.26 ∼ 3.7 %
と述べている報告もある 4)5)。子宮破裂のリスク因子とし
てはバイポーラーなどのパワーソースの使用や子宮筋層
の一層縫合が報告されている。5)6)
平成27年9月(2015)
子宮破裂既往患者の妊娠においては、子宮筋層の断裂
部は通常の切開縫合部と異なり組織の挫滅が高度な場合が
多く脆弱であり縫合不全を生じやすいため再破裂の頻度は
より高くなる 7)8)。Usta らの報告では、37人の子宮破裂既
往患者を後方視的に振り返っており、そのうち 23 人
(62.2%)が既往子宮術後妊娠であった。37人中、22人に
子宮修復術が施行され子宮温存が可能であり、その22人の
うち 12 人が再度妊娠したが、5 人に再子宮破裂を認めた。
再破裂の頻度としては、41.7%という結果であり、破裂の
時期に関しては、24週∼40週であった。また、再破裂した
症例は破裂後より平均2年以内での妊娠例が多かった 2)3)。
本症例も、初回の子宮破裂前に子宮筋腫核出術の既往
があった。子宮筋腫核出術の詳細は不明であったが、結
果的に妊娠 23 週で子宮破裂を生じている。子宮破裂修復
術を含め2度の子宮手術既往があり、かつ前回の破裂から
2年以内に妊娠しているため、より一層子宮再破裂のリス
クが高い事が予測された。しかし、妊娠管理や妊娠終了
の時期を定める報告は無く、厳重な経過観察と子宮収縮
抑制剤を使用し管理を行った。
既往子宮手術後妊婦における子宮破裂のリスクを評価
する方法として超音波検査の有用性が報告されている。
帝王切開既往妊婦の経腟分娩(Trial of labor after cesarean
delivery: TOLAC)時の、子宮破裂のリスクを予測するた
め、前回帝王切開時の瘢痕部である子宮下部(Lower
uterine segment ; LUS)の厚さを測定し、子宮破裂との関連
についての報告がいくつかある 9)∼ 14)。Asakura らの報告
では LUS 1.6 mm、Bujold らの報告では 2.3 mm 以下が
TOLAC 時に子宮破裂発症率を高める指標としている
9)13)
。しかしこれらの計測値は妊娠後期の値であり、また
計測方法が経腟超音波によるものや経腹超音波によるも
のなど報告によって異なるため、この数値のみでは本症
例のリスクを判断することは困難であった。本症例は、
瘢痕部位が子宮底部から後壁であったため、経腹超音波
で筋層の厚さの測定を試みたが、胎盤が同部位に位置し
ていたこともあり菲薄化の評価は困難であった。計測可
能な範囲で 2-4 mmと測定したが、経時的に菲薄化する所
見は認めなかった。超音波検査にて他の部位と比して明
らかに菲薄化を認めている場合は注意を要するが、本症
例の計測部位は LUS と異なり周囲の筋層との連続性の評
価は困難であった。超音波検査では、体表に近い部位の
評価は行いやすいが本症例のような後壁の場合には適し
ているとはいえない。
その他の子宮破裂の予測の指標となる画像検査として
MRI 検査が有用であるとの報告もある 15)16)。MRI は癒着
胎盤の評価や帝王切開術後の創部離解の診断のために使
用されている。本症例も MRI 検査にて瘢痕部の評価を妊
娠22週と27週に施行したが、胎盤付着部位が同部位であ
ったために、胎盤と筋層の境界が不明瞭であり正確な子
宮筋層の厚さの測定はできなかった。要因として胎盤付
着部位が瘢痕部と同部位であったため評価が困難であっ
た可能性、かつ菲薄化が顕著であったために評価が困難
であった可能性が考えられた。なお、癒着胎盤に関して
75 (75)
は、帝王切開時に児かつ胎盤を幸帽児で娩出でき、病理
検査でも胎盤に子宮筋層は含まれておらず、癒着胎盤の
所見は認めなかった。このように画像検査による子宮破
裂の予測は難しく、超音波検査や MRI 検査が有用な場合
もあるが、現時点では妊娠終了時期を決定する確実な指
標とはいえない。
また、子宮再破裂の時期に関しても一定していない。
36 週以降や分娩中に生じるという報告が多いが、筋腫核
出術後や子宮奇形に対する形成術後、子宮破裂に対する
修復術後などの非定型的な子宮の瘢痕部を持つ患者の場
合は、多くは陣痛開始前に発生しているという報告もあ
る 17)∼19)。Rithchie の報告では、子宮破裂後妊娠で再破裂
した20症例を報告しているが、そのうち17人が、36週以
降に破裂、残りは16週、22週、33週で破裂をしている 17)。
つまり、再破裂のリスク評価をする時期としては、妊娠
後期では遅く妊娠前中期での評価法が必要である。妊娠
週数や陣痛の有無に関わらず生じる可能性があり、妊娠
全期間において慎重な管理が必要である。
以上より現在のところは明確な管理指針がないため、
子宮破裂の再発を回避するためには、前回の術式につい
て十分な情報を収集し、再破裂のリスクについて検討し、
児の成熟評価を行いながら計画的に帝王切開術を行う必
要がある。本人や家族への十分なインフォームドコンセ
ントと、破裂時に緊急で対応できる設備も重要である。
さらに、手術室や麻酔科医、新生児科と連携を取りなが
ら、分娩時期を検討していくことが肝要である。
文 献
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(H27.5.25受付)
平成27年9月(2015)
77 (77)
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈の妊娠分娩転帰
Outcomes of fetuses with a single umbilical artery in the absence of congenital
anomalies and chromosomal abnormalities
横浜市立大学附属市民総合医療センター
総合周産期母子医療センター
Perinatal Center for Maternity and Neonate, Yokohama City
University Medical Center, Yokohama
北澤 千恵 Chie KITAZAWA
笠井 絢子 Junko KASAI
山本ゆり子 Yuriko YAMAMOTO
長谷川良実 Yoshimi HASEGAWA
榎本紀美子 Mikiko ENOMOTO
葛西 路 Michi KASAI
青木 茂 Shigeru AOKI
高橋 恒男 Tsuneo TAKAHASHI
横浜市立大学医学部 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City
University Hospital, Yokohama
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
要 旨
緒 言
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈は、早
産や出生体重 10 パーセンタイル未満(SGA:small
gestational age)が増えるという報告がある。本研究では、
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈の妊娠分
娩転帰について検討した。
当センターで単胎、生産で分娩となり、分娩後に単一
臍帯動脈を確認し、妊娠中または分娩後に先天奇形・染
色体異常を認めなかった 20 例について後方視的に検討し
た。在胎週数、緊急帝王切開率、SGA、Umbilical artery pH
(UApH)、Apgar score、NICU 入院率について検討した。
上記期間に先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動
脈の分娩件数は 20 例であった。先天奇形・染色体異常を
伴わない単一臍帯動脈では、在胎週数の中央値は38.1週、
早産が 5 例、緊急帝王切開が 5 例で、鉗子分娩が 1 例であ
った。出生体重の中央値は 2,533 g、SGA は 7 例、UApH
の中央値は 7.29、Apgar 1 分値 7 点未満は 1 例、NICU 入院
となったのは6例であった。
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈の単胎
症例では SGA、早産が、一般的な頻度に比して高頻度で
認められた。単一臍帯動脈は、先天奇形や染色体異常を
伴わない場合であっても、早産や SGA の頻度が高いこと
からハイリスク妊娠として取り扱うべきである事が示唆
された。
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈は全出生
数の0.12-0.45%の頻度で認められると報告されており 1)2)、
早産、SGA、non-reassuring fatal states(NRFS)による帝王
切開が増え 3)、周産期死亡率が高いと言う報告がある 2)。
一方で、SGA や早産率は 2 臍帯動脈 1 臍帯静脈(2 A 1V)
と比較しても変わらないという報告もある 4)。今回我々は、
当院で分娩となった先天奇形・染色体異常を伴わない単
一臍帯動脈の 20 例について妊娠分娩転帰を検討したので
報告する。
Key words : single umbilical artery, small gestational age (SGA),
premature delivery
方 法
対象は横浜市立大学附属市民総合医療センターで 2000
年 3 月から 2014 年 4 月の 15 年間に妊娠 22 週以降に分娩と
なった 13,895 例のうち、単胎、生産で分娩となり妊娠中
または分娩後に先天奇形・染色体異常を認めなかった単
一臍帯動脈 20 例を対象とした。分娩週数、緊急帝王切開
率、SGA、臍帯動脈 pH(UApH)
、Apgar score 1分値、5分
値、NICU 入院率について診療録をもとに後方視的に検討
した。
SGA は出生体重10パーセンタイル未満と定義した。デ
ータは中央値(範囲)もしくは頻度で示した。
成 績
上記期間に当院で出生した単胎、生産で分娩となった
単一臍帯動脈の分娩件数は 28 例と 13,895 例の分娩件数全
体の 0.20 %であった。そのうち先天奇形・染色体異常を
伴わない単一臍帯動脈の分娩件数は 20 例と全分娩件数の
78 (78)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
表1 奇形・染色体異常を認めない単一臍帯動脈症例
0.14%であった。
表1に奇形・染色体異常を認めない単一臍帯動脈症例の
結果を示す。
分娩週数は 38.1 週(28.1-41.1)、早産が 5 例(25 %)で
あった。症例1、症例4は切迫早産からの自然早産であり、
症例 2、3、5 はそれぞれ胎児発育不全(FGR:fetal growth
restriction)に伴う NRFS、常位胎盤早期剥離、IgA 腎症に
よる母体腎機能悪化による人工早産であった。
出生体重の中央値は 2,533 g(624-4,002 g)で、7 例
(35%)が SGA であった。
分娩様式は緊急帝王切開率が 25%(5/20例)で、鉗子
分娩が 1 例であった。緊急帝王切開となった症例のうち 1
例(症例5)は母体にIgA 腎症を認め、腎機能が悪化した
ため帝王切開を行った。症例1は骨盤位の分娩不可避、症
例 2 ・ 19 は NRFS、症例 3 は常位胎盤早期剥離で帝王切開
を行った。症例14は NRFS の診断で鉗子遂娩術を行った。
Apgar 1 分値 7 点未満は 1 例(5 %)、UApH の中央値は
7.29(7.158-7.362)
、NICU 入院率は30%(6/20例)であ
った。入院した 6 例のうち 3 例は早産によるものであり、
症例2は出生後 PDA(patent ductus arteriosus)開存症のた
め日齢7日目に PDA 開存に対する手術中に死亡した。3例
は正期産であったが、症例6が PDA 開存、症例14が高ビ
リルビン血症、症例19が低血糖による入院であった。
考 案
単一臍帯動脈は0.44-2%で認められる臍帯異常であり5)6)、
心臓、腎泌尿器の先天奇形や 18 トリソミー、13 トリソミ
ーなどの染色体異常を合併する頻度が高く 7)、SGAや周産
期死亡率が高いことが知られている。また、単一臍帯動
脈の約 65 %は先天奇形・染色体異常を伴わず 8)、SGA 、
早産率、周産期死亡率が高いことが報告されているが 9)、
変わらないという報告もある 4)。今回の検討では、先天奇
形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈は、SGA や早産
が多いという結果が得られた。
SGA は10パーセンタイル未満と定義しているが、本症
例では単一臍帯動脈20例中7例(35%)に SGA を認めて
いるので、高率である。先天奇形・染色体異常を伴わな
い単一臍帯動脈では SGA が多いことは以前より知られて
おり、Khalil1)によれば159人中22.6%で SGA を認めたと
報告している。単一臍帯動脈において SGA の頻度が高い
原因について、Bugatto 9)は、臍帯動脈・臍帯静脈径の比
と子宮動脈血管抵抗の変化について指摘しており、胎盤
機能不全ではなく、母体と胎盤の循環動態の変化が SGA
の原因となっている可能性があると述べている。
分娩週数の中央値は 38.1 週であったが 20 例中 5 例
(25 %)に早産を認めた。本邦では早産率は 5.7 %と報告
されており 10)、一般的な頻度よりも高率に早産を認めた。
また、一般的には全早産分娩における自然早産率が 7080%、医療的介入による人工早産が20-30%と報告されて
いるが 11)、本検討では5例中3例が人工早産によるもので
あった。Burshtein2)によれば、先天奇形や染色体異常を認
めない単一臍帯動脈の分娩時週数(38.3 ± 3.0 週)は正常
臍帯の分娩(39.3 ± 2.1 週)と比較して平均 1 週間早いと
報告している。また、37 週未満の分娩も 34 週未満の分娩
の頻度も高いという報告もある 6)。一方で、その原因につ
いて詳細な検討している報告は少ない 11)。本研究結果か
ら、FGR などによる人工早産が多いことが、早産率が高
い一因となっていることが示唆された。
先天奇形・染色体異常を伴わない単一臍帯動脈の周産
期死亡率について、胎児死亡率が 2.59 %、新生児死亡率
が 0.78 %といずれも 2 A 1 V に比べて周産期死亡率が高い
と報告されている 6)。その原因として常位胎盤早期剥離や
前置胎盤などの胎盤異常が多い事が関与している可能性
があると述べているが、早産率が高いことにも関与して
平成27年9月(2015)
79 (79)
いるのではないかと推測される。
本研究は、対象症例が 20 例と少なく比較検討を行って
いないため、今後も症例数を積み重ね、さらに検討して
いく必要があるが、先天奇形・染色体異常を伴わない単
一臍帯動脈では早産・ SGA の頻度が高い傾向がある事が
改めて確認された。
単一臍帯動脈は、先天奇形や染色体異常が多いため、
妊娠中に診断する事が重要であるが、先天奇形や染色体
異常を伴わない場合であっても、早産や SGA の頻度が高
いことからハイリスク妊娠として取り扱うべきである事
が示唆された。
文 献
1) Khalil MI, Sagr ER, Elrifaei RM, Abdelbasit OB, Halouly
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Casey, Sheffield. Williams Obstetrics 24th Edition: Mc Graw
Hill Education. Section11, Preterm labor; p.836-840.
(H27.5.28受付)
80 (80)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
腹腔鏡下付属器摘出術における腸管保管用バッグを加工した自家製バッグ使用の経験
The experience of using isolation bag for laparoscopic adnexectomy for large ovarian tumor
横浜市立大学附属市民総合医療センター 婦人科
Department of Gynecology, Yokohama City University Medical
Center
祐森明日菜 Asuna YUMORI
下向 麻由 Mayu SHIMOMUKAI
吉田 瑞穂 Mizuho YOSHIDA
平田 豪 Go HIRATA
古野 敦子 Atsuko FURUNO
北川 雅一 Masakazu KITAGAWA
片山 佳代 Kayo KATAYAMA
大島 綾 Aya OSHIMA
岡田有紀子 Yukiko OKADA
吉田 浩 Hiroshi YOSHIDA
横浜市立大学附属病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City
University Hospital
平原 史樹 Fumiki HIRAHARA
概 要
近年、卵巣腫瘍に対し腹腔鏡下手術が行われる機会が
増加している。術前から腫瘍の良悪性を正確に鑑別する
ことは困難であり、腹腔鏡下手術に際しても境界悪性・
悪性の可能性を考慮し人為的な腫瘍破綻を回避する努力
が望まれる。しかしながら、10 cm以上の卵巣腫瘍に対す
る腹腔鏡下手術では、腹腔内での鉗子操作が難しくなる
こと、大きな卵巣腫瘍を回収可能な市販のバッグがない
ことが破綻を防ぐ上で問題となる。そのため大きな卵巣
腫瘍では回収時に腫瘍減量を図る等の工夫がされている
が、少なからず腫瘍内容の漏出が危惧される。当院では
市販のバッグで回収できない 10 cm以上の卵巣腫瘍に対す
る腹腔鏡下付属器摘出術(Laparoscopic adnexectomy、以下
LA)において、腸管保管用バッグを加工した自家製バッ
グを用いて腫瘍内容を腹腔内に漏らさない回収法を行っ
ている。術前に腸管保管用バッグを加工した袋を作成し
腹腔内で系統的に付属器を摘出した後、およそ定まった
手順で鉗子操作を行い腫瘍をバッグに収納し回収する。
10 cm 以上の卵巣腫瘍に対する LA 21 例中 11 例(52.4 %)
で本方法により腫瘍を回収した。11例中9例(81.8%)で
腫瘍破綻なく回収が可能だったが、2例で手術操作に伴う
破綻を認めた。その他の本操作に伴う有害事象は認めな
かった。自家製バッグを使用し毎回定型的な手順で鉗子
操作を行うことで、10 cm以上の大きな腫瘍も回収するこ
とが可能であった。一方、腫瘍破綻した例も認めており
術前の腫瘍評価と十分な説明の重要性を再認識すると共
に、本方法の安全性・有用性について今後更なる検討も
必要と考えられた。
Key words : laparoscopic adnexectomy, large ovarian tumor,
isolation bag
緒 言
腹腔鏡下手術は良性卵巣腫瘍に対して標準的治療となり
つつあるが、現時点では悪性腫瘍に対しては適応外とされ
ている。しかし、実際には卵巣腫瘍は術前に良性か境界悪
性・悪性かの判断に迷う場合も多く、腹腔鏡下手術後の最
終病理診断で境界悪性・悪性の診断に至ることもある。 術
後に悪性腫瘍と判明した場合のことを考慮し、腹腔鏡下卵
巣腫瘍手術ではできる限り腫瘍内容液を腹腔内に漏出させ
ないことが重要である。また比較的径の大きい卵巣腫瘍は、
その腹腔内での取扱いが困難となることや回収する袋が市
販のバッグでは不十分な大きさであることも問題である。
当院では、10 cm以上の卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下付属器
摘出術において開腹手術で用いる腸管保管用バッグを加工
した自家製バッグを使用することで破綻なく腫瘍を回収す
る努力をしており、その手技及び手術成績について報告す
る。
方 法
当院での腹腔鏡下手術は原則として全例全身麻酔下で
CO2 気腹とし、臍部に直径 12 mm、下腹部に 3 箇所 5 mm
のトロッカーを挿入するダイヤモンド 4 孔式で行ってい
る。執刀医が患者の左側、第1助手が右側にそれぞれ位置
し、右側に位置した助手がカメラ操作を行っている。
当院では 10 cm以上の卵巣腫瘍でも、画像上単房性で明
らかな充実部分・壁肥厚や腹水がなく、腫瘍マーカーな
平成27年9月(2015)
図1
図2
81 (81)
図4
図5
図3
図6
図1
図2
図3,4
図5
図6
加工前のアイソレーションバッグ
アイソレーションバッグの角を腫瘍径に合わせて円錐状に切除。
円錐の弧部分を絹糸でかがる。
完成した自家製バッグ。
骨盤MRI検査(T 2強調画像, 矢状断):20 cm大の単房性の腫瘤を認める。
82 (82)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
写真1
写真4
写真2
写真5
写真3
写真6
写真1
写真2
写真3
写真4,5
写真6
臍部ポートより腹腔内に回収用バッグを挿入する。
バッグを骨盤底に置き開口部を子宮背側・直腸表面に付着させバッグを展開する。
上腹部より腫瘍を牽引し開口部に腫瘍を移動させる。
腫瘍を押さえながらバッグの端を牽引し徐々に腫瘍をバッグ内に収納する。
バッグの絹糸を牽引し、開口部を閉じる。
平成27年9月(2015)
83 (83)
表1 腫瘍回収時に自家製バッグを使用した11例の内訳
表2 腫瘍回収時に自家製バッグ使用を予定したが、使用に至らなかった10例の内訳
どの臨床検査所見を総合的に判断して悪性腫瘍が積極的
に疑われない場合には腹腔鏡下手術を選択している。当
院では2012年4月以降、10 cm以上の卵巣腫瘍の腹腔鏡下
付属器摘出術を予定する場合はその全例に対し、術前に
腸管保管用バッグ(3M Steri-Drape Isolation BagR、50 cm×
50 cm、プラスチック製、定価1930円)を加工した自家製
の腫瘍回収用バッグ(以下、自家製バッグ)を準備して
行った。手術開始前に、清潔野で腸管保管用バッグの角
を腫瘍が収納できるような大きさになるよう円錐状に切
り取り、円錐の弧の部分を絹糸でかがり巾着状とする
(図1-5)
。付属器摘出の操作は、腫瘍破綻のないよう注意
深く骨盤漏斗靭帯・卵巣固有靭帯及び卵管・卵管間膜を
順に切除し型通り行う。腫瘍が大きいため摘出後の付属
器は一時的に左上腹部に置き、その後、臍部ポートより
腹腔内に自家製バッグを挿入する(写真 1)。バッグの底
部をダグラス窩に置き開口部を反転させ子宮背側、直腸
表面に付着させるようにバッグを展開する(写真 2)。展
開したバッグは左側の執刀医が折り返らないように鉗子
で押さえ、右側の第1助手が腫瘍を把持しバッグの開口部
に上腹部から重力を用いて落とし込むようにして移動さ
せる(写真 3)。その後、徐々に腫瘍をバッグ内部に収納
していくが、この際腫瘍が大きく1度の操作では腫瘍をバ
ッグ内に収納するのが困難であること、両術者の鉗子操
作とカメラ操作との連携が困難であることから、左側の
執刀医が腫瘍を押さえ右側の第1助手がカメラを操作しな
がらバッグの端を腫瘍の背側・腹側の順に徐々に手繰る
84 (84)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
ように牽引(写真 4、5)していく。また、腫瘍の重さを
活用し、適宜骨盤高位・低位の体位変換を併用しながら
行うことで腫瘍のバッグへの収納が比較的容易となる。
腫瘍を収納後は、バッグ開口部の絹糸を牽引して開口部
を閉じ(写真 6)、既存の袋製品使用の場合と同様に臍部
あるいは切開した後腟円蓋部より腫瘍を回収する。
成 績
2012年4月∼2014年3月において、当院で施行した腹腔
鏡下卵巣腫瘍手術例は全194例であり、その内訳は付属器
摘出術94例、卵巣腫瘍摘出術88例、片側付属器摘出及び
対側卵巣腫瘍摘出術 12 例であった。腹腔鏡下付属器摘出
例全94例の腫瘍径は7.8±2.8 cm(mean±SD)であった。
94例中、腫瘍径が10 cm以上で術前より自家製バッグ使用
を予定した症例は 21 例で、実際に自家製バッグを使用し
た症例は11例、使用に至らなかった症例は10例であった。
自家製バッグを使用した 11 例及び使用に至らなかった 10
例の内訳をそれぞれ表 1、表 2 に示す。自家製バッグを使
用した 11 例の腫瘍の最大径は 20 cm であり(図 6)、11 例
の病理組織学的診断は、粘液性腺腫4例、漿液性腺腫3例、
成熟奇形腫 1 例、内膜症性嚢胞 2 例、莢膜細胞腫 1 例であ
った。自家製バッグ使用を予定したが使用に至らなかっ
た 10 例の理由は、腫瘍破綻は無かったが既存の袋状製品
で回収可能であった例が7例、術後や内膜症に伴う腹腔内
癒着のため意図的に腫瘍の減量を図り既存の袋状製品で
回収した例が 3 例(内膜症性嚢胞 2 例、漿液性腺腫 1 例)
であった。自家製バッグを使用した 11 例では 9 例で腫瘍
の破綻なく腫瘍を摘出・回収できていたが、2例で腫瘍回
収時の自家製バッグへの収納操作の際に破綻を認めてい
た。2例の組織型はそれぞれ成熟嚢胞性奇形腫・漿液性腺
腫であった。自家製バッグの使用による、バッグの破損
や腹腔内への遺残などの有害事象の発生は認めなかった。
考 察
腹腔鏡下手術は、手術侵襲や術後の合併症が少ないこ
と、整容性に優れるなどの観点から良性卵巣腫瘍を中心
に汎用されている術式でありその適応は徐々に拡大して
いる 1)2)。近年、悪性卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下手術の導
入の報告も散見されているが 3)4)、未だコンセンサスの得
られた治療法とは言い難く術前の卵巣腫瘍の評価は非常
に重要である。だが、実際には術前の診察所見や超音波
検査・骨盤 MRI 検査を始めとした画像所見、腫瘍マーカ
ーなどの血液検査所見を組み合わせても良悪性の鑑別を
最終診断と相違なく行うことは困難であり、腹腔鏡下手
術後に境界悪性・悪性の診断に至った例の報告も少なく
ない 6)。腹腔鏡下手術後に境界悪性・悪性の診断に至った
場合には、腫瘍の被膜破綻による up-stage や port site
metastasis が問題となり 7)∼ 11)、特に悪性腫瘍では腫瘍破
綻の有無が無病生存率における重要な予後因子とされる
報告 12)もある。従って、卵巣腫瘍に対して腹腔鏡下手術
を行う際には術前の評価を十分に行うと共に、術後に境
界悪性・悪性の診断に至る可能性を念頭に入れ術中操作
による腫瘍破綻の無いように配慮・工夫をした手術を行
うことが望ましい。
腹腔鏡下手術の普及と技術向上に伴い卵巣腫瘍に対す
る腹腔鏡下手術の適応が拡大しており、10 cmを超える比
較的大きな卵巣腫瘍に対しても腹腔鏡下手術が選択され
ることが増加している。当院でも、前述したように比較
的大きな腫瘍であっても超音波や MRI で腫瘍内に明らか
な充実部分や腹水を認めず、腫瘍マーカーなどの所見を
総合的に判断し積極的に悪性を疑わない卵巣腫瘍につい
ては、可能な限り腹腔鏡下手術を選択している。腹腔鏡下
手術における卵巣腫瘍の回収にはエンドキャッチ R
(covidien 社、13 cm×23 cm)
、エンドパウチ R(Johnson&
Johnson 社、10 cm × 15.5 cm)、EZ パース R(八光商事、
16×18 cm)などの市販のバッグを使用し腫瘍を収納する
ことで破綻なく腫瘍を回収するのが一般的であるが、市
販のバッグには回収可能な腫瘍のサイズに限界があり約
10 cm までである。そのため、10 cm 以上の卵巣腫瘍に対
して腹腔鏡下手術を行う場合には、腹腔内操作の難しさ
を克服すると共に前述した腫瘍破綻の無いように配慮す
るために様々な手術手技の工夫が行われている。代表的
なものとして、腹腔内で SAND バルーン R (八光商事)
を使用したり、小開腹を置き医療用接着剤で袋状製品を
腫瘍と接着した上で内容を穿刺吸引するなどして腫瘍の
減量を図った後に回収する方法が挙がる 13)14)。これらは
腫瘍内容の減量を図る際に内容液の漏出を最小限に抑え
ることを目的とした手技だが、腫瘍を穿刺吸引すること
から内容漏出を完全に防ぐことは困難である。一方、当
院では10 cm未満の卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下手術の経験
上、付属器摘出術においては腫瘍破綻率が低い。実際、
当院で施行した10 cm未満の卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下付
属器摘出例での破綻率は27%(73例中20例)であったが、
全例が内膜症の癒着剥離によるものであり、内膜症性嚢
胞を除いた場合の腫瘍破綻率は0%(49例中0例)であっ
た。従って腫瘍が10 cm以上となっても、内膜症性嚢胞以
外の卵巣腫瘍に対する付属器摘出術では初めから腫瘍の
減量を図るのではなく、10 cm 未満の場合と同様に系統的
に付属器摘出を行った上で回収方法を工夫すれば、腫瘍
破綻のない手術が可能になると考えた。一方、市販のバ
ッグでは回収可能な腫瘍の大きさに限界があることから、
当院では回収方法の工夫として10 cm 以上の卵巣腫瘍も回
収可能なバッグを作成することとした。バッグの大きさ
を腫瘍の大きさに合わせて自由自在に調節できること・
材質が柔らかく腹腔内でのバッグの操作が容易であるこ
と・安価に使用できることから腸管保管用バッグ(3 M
Steri-Drape Isolation BagR)を選択した。手術操作に際して
は、
〈方法〉で示したように左右の術者が協調しおよそ定
まった手順で鉗子・カメラ操作を行うことで自家製バッ
グに腫瘍を回収した。その結果、11例中9例で破綻なく、
再現性をもって腫瘍回収が可能であった。一方、2例で腹
腔内での腫瘍破綻を認めており、いずれも付属器摘出後
腫瘍を自家製バッグに回収する際に生じていた。自家製
バッグに収納する際に腫瘍を挙上しようと無理に腫瘍を
平成27年9月(2015)
85 (85)
牽引したことが原因であった。これらの経験から、当院
では自家製バッグを使用し破綻なく腫瘍を回収するため
に、術前評価で内膜症や術後による腹腔内癒着がなく可
動性良好で、トロッカー留置の観点から臍部までか臍部
をやや超える程度の大きさの腫瘍に対して本方法を選択
することとした。更に技術的には、付属器摘出の操作を
愛護的・定型的に行うこと、腫瘍回収時には無理に牽引
せず腫瘍の重さと体位変換を十分に活用し腫瘍をバッグ
内に落とし込むようにすることに最大限留意している。
これらの点に配慮すれば再現性をもって破綻のない腫瘍
回収が可能であった経験から、自家製バッグの使用は 10
cm 以上の卵巣腫瘍に対する付属器摘出術の腫瘍回収にお
いて有効な方法と思われた。一方で、腹腔内癒着や腫瘍
の大きさから術前評価で本方法が不適と考えられる場合
には、小開腹・体腔外法など別の方法を検討する必要が
ある。また 11 例中 2 例で腫瘍の破綻を認めており、これ
までと同様に術前の腫瘍の評価を慎重に行うと共に破綻
のリスクについて十分に説明した上で行うべきと考えら
れた。
結 語
今回我々は既製の腸管保管用バッグを加工した自家製
バッグを使用することで、比較的大きな卵巣腫瘍に対し
ても安全に腹腔鏡下付属器摘出術を行い回収する方法を
紹介した。悪性腫瘍を積極的に疑わない10 cm以上の卵巣
腫瘍でも一般的に腹腔鏡下手術の適応とされることが多
い。特に内膜症性嚢胞を除く嚢胞性腫瘤では、腫瘍を破
綻させずに回収するには助手との協調した丁寧な手技と
収納できるバッグの存在にかかっている。今後更に症例
数を重ね、普及の一助となるようその安全性と有用性に
ついて検討していきたい。
文 献
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(H27.6.21受付)
86 (86)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
子宮頸部嚢胞性病変の2症例
Two Cases of glandular lesions of the uterine cervix
平塚市民病院 産婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology,Hiratsuka City
Hospital
簡野 康平 Yasuhira KANNO
上之薗美耶 Miya KAMINOSONO
吉政 佑之 Yushi YOSHIMASA
藤本 喜展 Yosinobu FUJIMOTO
笠井 健児 Kenji KASAI
概 要
子宮頸部嚢胞性病変を示す疾患はほとんどが良性疾患
であるが、時に子宮頸部悪性腺腫との鑑別が困難である
場合がある。今回、術前に悪性腺腫の可能性も示唆され
た子宮頸部嚢胞性病変の2症例を経験したので報告する。
症例 1 : 53 歳、5 経妊 3 経産。健診の超音波検査で子宮
頸部嚢胞性病変を指摘され受診。腟鏡診で水様性帯下あ
り、経腟超音波で子宮頸部に大小不同の嚢胞多数あり。
子宮頸部細胞診は NILM、頸管キュレット施行するも組織
採取できず。MRI のT 2強調画像で高信号の大小不同の嚢
胞が頸部に存在し、鑑別に悪性腺腫(adenoma malignum :
AM あるいは minimal deviation adenocarcinoma : MDA)
、分
葉 状 頸 管 腺 過 形 成 ( Lobular endocervical glandular
hyperplasia: LEGH)
、ナボット嚢胞が考えられた。診断目
的に円錐切除を施行、病理結果はナボット嚢胞であった。
追加で腹式単純子宮全摘術(以下単純子宮全摘)+左付属
器切除を施行。病理診断はナボット嚢胞であった。
症例 2 : 52 歳、1 経妊 1 経産。子宮頸がん検診で AGCNOS を指摘、また経腟超音波で大小不同の嚢胞多数を指
摘され受診。腟鏡診で水様性・粘液性帯下認めず。MRI
の T 2 強調画像で高信号の大小不同の嚢胞が頸部に多数、
最大4 cm大の嚢胞も認めた。鑑別に MDA、LEGH、ナボ
ット嚢胞が考えられた。診断目的に円錐切除を施行、病
理結果は分 LEGH であった。追加で単純子宮全摘 + 両側
付属器切除を施行。病理診断は LEGH であり MDA を示
唆する所見は認めなかった。
LEGH、MDA ともに稀な疾患であり、診断基準、治療
方針の確立において今後、更なる症例の集積が必要であ
る。
Key word : Lobular endocervical glandular hyperplasia (LEGH),
minimal deviation adenocarcinoma (MDA), adenoma
malignum(AM),Nabothian cyst(NC)
緒 言
子宮頸部嚢胞性病変を示す疾患はほとんどが良性疾患で
あるが、中には MDA のような悪性疾患も存在する。MDA
は頸部腺癌全体の1∼3%を占める超高分化型の粘液性腺
癌である。MDA は非常にまれな疾患であること、細胞異
型に乏しく細胞診や組織診による術前診断が困難であると
考えられている。また MDA の類似疾患として予後良好と
される LEGH との鑑別も困難である。近年 MDA や腺癌と
共存する LEGH が報告されており、治療方針を決定する際
により慎重な対応が必要である。
今回、術前に MDA の可能性も示唆された子宮頸部嚢胞
性病変の2症例を経験したので報告する。
症 例
【症例1】
患者:53歳 女性 5経妊 3経産 主訴:水様性帯下
既往歴: 50 歳:乳癌 52 歳:胃癌(胃癌手術時に右付
属器摘出しているが悪性所見なし)
家族歴:特記すべき事項なし
現病歴:以前より水様性帯下の症状あり(いつ頃から
症状があったかは不明)
、健診の超音波検査で子宮頸部嚢
胞性病変を指摘され当院に受診となった。
身体所見:身長162 cm 体重45 kg
腟鏡診:水様性帯下あり
内診所見:子宮鶏卵大 可動性良好 両側付属器触知
せず
経腟超音波:子宮頸部に大小不同の嚢胞を多数認めた
子宮腟部頸管細胞診:NILM
子宮頸部組織診:頸管掻爬施行するも組織採取できず
血液検査所見:末梢血、生化学検査、凝固系検査で異
常認めず。腫瘍マーカも CA 125:9.9 U/ml、CA19-9:8.68
U/mlと正常範囲であった。
MRI 所見(図 1): T 2 強調画像で子宮頸部に高信号を
示す大小不同の嚢胞が多数認められた。鑑別診断として
MDA、LEGH、ナボット嚢胞が考えられた。
経過:診断目的に円錐切除を施行、病理結果はナボッ
トの嚢胞であったが、子宮頸部嚢胞性病変をすべて摘出
しきれていないこと、患者の強い希望もあり追加で単純
子宮全摘、左付属器摘出術を施行した。
平成27年9月(2015)
87 (87)
図2 症例1 病理所見 HE 染色 ×40
拡張した腺管を認めたが、頸管腺同様の上皮細胞であり、
異型も乏しい。
図1 症例1 MRI T 2 強調画像
子宮頸部に多数の大小不同の嚢胞が認められる。
図3 症例2 MRI T 2 強調画像
子宮頸部に大小不同の嚢胞。最大径 4 cm 大の嚢胞とその内部に小型嚢胞や充実性
の高信号部位あり。コスモスサイン+
病理所見(図2):子宮頸部に拡張した腺管を認めたが、
頸管腺同様の上皮細胞であり、異型も乏しく診断はナボ
ット嚢胞であった。
【症例2】
患者:52歳 女性 1経妊 1経産 主訴:特になし
既往歴:34歳 網膜剥離
家族歴:特記すべき事項なし
現病歴:子宮頸癌健診で AGC-NOS を指摘、前医受診
し超音波検査で子宮頸部嚢胞性病変を指摘され当院に紹
介受診となった。
身体所見:身長155 cm 体重54 kg
腟鏡診:水様性・粘液性帯下なし 子宮頸部腫大あり
内診所見:子宮鶏卵大 可動性良好 両側付属器触知せず
経腟超音波:子宮頸部に大小不同の嚢胞を多数認めた。
子宮腟部頸管細胞診:AGC-NOS
血液検査所見:末梢血、生化学検査、凝固系検査で異
常認めず。腫瘍マーカも CA 125:12 U/ml、CA 72-4:3.5
U/mlと正常範囲であった。
MRI 所見(図3):T 2強調画像で子宮頸部に高信号を
示す最大 4 cm 大の嚢胞を含む大小不同の嚢胞が多数認め
られた。鑑別診断として MDA、LEGH、ナボット嚢胞が
考えられた。
経過:診断目的に円錐切除を施行、病理結果は LEGH
であった。悪性腺腫の前駆病変の可能性や AIS との合併
の報告例もあり、追加で単純子宮全摘、両側付属器摘出
術を施行した。
病理所見(図4):子宮頸管に内腔の拡張した頸管腺の
88 (88)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図4 症例2 病理所見
左上HE 染色×4
左下HE 染色×40
右下AB-PAS 染色×40
頸管腺の増生、核は低在に位置し細胞内
粘液著明。AB-PAS 染色で赤紫に染色。
細胞異型と間質浸潤は認めず。
表1 LEGH と悪性腺腫の鑑別
増生を認め、核は低在に位置し細胞内粘液は著明であり、
中性ムチンを染色するAlcian blue/periodic acid Schiff : ABPAS 染色で拡張腺管の被覆上皮は赤紫に強く染色され胃
型粘液の存在を示唆した。細胞異型と間質浸潤を認めな
いことから、診断は LEGH であった。
考 察
図5 子宮頸部嚢胞性病変への対応のフローチャート(試案)
子宮頸部嚢胞性病変の鑑別疾患として良性疾患ではナ
ボット嚢胞、一度過形成をきたした腺管の退縮性変化で
ある限局性頸管腺増生を示すトンネルクラスター、LEGH
が、また悪性疾患として MDA と頸部腺癌が挙げられる。
子宮頸部嚢胞性病変のなかでも LEGH と MDA の鑑別
はMR I検査、病理検査(細胞診、組織診)においても難
しく、両者の鑑別方法、診断基準、治療法は明確にされ
ていない。
LEGH は 1999 年に Nucci らによって提唱された子宮頸
部嚢胞性病変で、MDA と鑑別すべき良性疾患として発表
された 1)。LEGH は基本的に良性の経過をたどる病変とさ
れていたが、近年 MDA や腺癌を合併した症例が報告さ
れている 2)∼4)。過形成病変である LEGH が MDA の前駆
病変である可能性も考えられ、両者の中間的病変として
atypical LEGH の存在も指摘されている 3)。しかしその存
在を明確にするためには症例が少なく、今後予後調査を
含めた症例の蓄積が必要である。
MRI 検査において塩沢らは LEGH が頸部の比較的子宮
体部寄りに位置し、周辺に比較的大型の嚢胞が存在し、
内部に小型の嚢胞から充実性の高信号部位が存在するこ
とが大きな特徴とし、花にたとえてコスモスサインと提
唱している 4)∼6)。子宮頸部嚢胞性病変の MRI 画像の読影
平成27年9月(2015)
の正診率は約8割であり、かなりの病変が推定できると考
えられる 4)。しかし、コスモスサインを呈し LEGH と読
影された 44 例中、39 例が LEGH であったが、5 例には一
部に MDA あるいは腺癌が存在し、under-diagnosis となっ
たと報告しており、コスモスパターンを呈しても約1割に
悪性部位が合併する可能性があることを念頭に置く必要
がある 4)。
病理検査における LEGH の組織学的特徴として、Nucci
は腺管の分葉状増生、腺上皮の細胞質には HE 染色で淡い
エオジン好染性を示す粘液が豊富に存在すること、円形
の核が基底部に存在し脱分化傾向は示さないこと、また
間質浸潤の明確な所見がないことを挙げて悪性腺腫と区
別をしている 1)。塩沢は LEGH の組織学的特徴として、
頸管腺様細胞が小腺腔を形成し、その小腺腔が葡萄の房
のように集簇し小葉構造を形成しているが、細胞異型は
ほとんど認められないこと、間質浸潤像を認めないこと
が MDA との鑑別上重要であるとし、また病巣近傍に不規
則で細長い導管様の腺構造を伴う点も特徴としている 4)。
一方、MDA は 1870 年に Gusserow によって子宮頸部腺
癌の特殊型であり悪性腺腫(adenoma malignum : AM)と
して報告された 7)。その後 1975 年に Silverberg と Hurt は
AM を最小偏倚腺癌(minimal deviation adenocarcinoma :
MDA)と名称を提唱し同義語として腺癌の一亜型として
取り扱われている 8)。本論では MDA に統一して記述した。
MRI 検査において MDA はナボット嚢胞が集蔟したも
のや、
上述した LEGH との鑑別が困難であることが多い 9)。
MDA が LEGH に合併する場合はLEGH様の嚢胞性病変を
伴う 4)。MDA の MRI 所見は基本的に腺癌と類似しており、
典型的な粘液性腺癌は嚢胞の形成はあまり著明でなく、境
界不明瞭な充実性の高信号を呈することが特徴であり 6)、
MDA も同様に境界不明瞭な充実性腫瘤の所見をとること
が多い 4)5)。MDA を強く疑う所見として、嚢胞間に存在
する充実成分の存在 10)や LEGH と比較して頸部間質との
境界が不明瞭であることが報告されている 11)。
病理検査における MDA の組織学的特徴として、規則性
を有する分葉状構造を欠き、腺管の形態に構造異型を伴
い、核異型も認められる。また間質反応や浸潤像を認め
る 12)。塩沢は MDA の腫瘍細胞は正常の頸管腺細胞によ
く類似しているが、軽度ながら核の大小不同などの異型
を認め、また核が基底膜から剥離したような異型を呈す
る事もあると報告している 4)。多彩な構造異型を呈する腺
が浸潤性に増殖することが必要条件であるが、正常頸管
腺と類似しており、細胞診や生検による組織診でも診断
が困難な場合がある 4)。
1997 年に MDA における胃型粘液産生の発現が報告さ
れ 13)、1998 年に胃幽門腺粘液を認識する抗体である HIK
1083が MDA で陽性、正常頸管腺で陰性であることが報告
され 14)、MDA の診断として期待されたが、その後 LEGH
でも陽性となることが判明したため鑑別には有用ではな
いとされた 9)。Tsuda らは MDA の組織像として高度に分
化した内頸部腺型の粘液性腺癌で、明らかな浸潤性腺癌
を伴うものとし、LEGH は明らかな浸潤癌成分を含まな
89 (89)
い病変と定義した 15)。しかし組織学的に類似した両者を
術前組織診断で明確に鑑別するのは困難である。
今回当院で経験した子宮頸部嚢胞性病変の2症例は術前
の MRI 検査で LEGH の特徴であるコスモスサインは症例
2で認めた。しかし2症例ともMRI 画像で MDA を否定で
きず、確定診断のために円錐切除を行った。円錐切除の
病理検査では症例 1 ではナボット嚢胞、症例 2 では LEGH
であったが、円錐切除で頸部嚢胞性病変を摘出しきれて
いないこと、また LEGH が MDA の前駆病変である可能
性、腺癌との合併した症例も報告されており 3)4)、追加で
単純子宮全摘を施行した。
LEGH と MDA の特徴を表1に挙げた。臨床症状として
共に水様性帯下を特徴とすることがある 16)。頸部細胞診
や染色法においても両者を鑑別するのは困難であり、パ
パニコロウ染色で通常ピンク色に染色される頸管腺細胞
が黄色色調を示し 17)18)、胃の幽門腺粘液を染色する免疫
染色 HIK 1083、中性ムチンを染色する AB-PAS 染色でも
共に陽性を示す 9)14)19)。鑑別のポイントとしては細胞異
型の有無、間質浸潤の有無とされている 20)。しかし近年
LEGH でも一部に軽度の核異型を呈する atypical LEGH の
存在が指摘されており 3)、MDA の前駆病変の可能性、
MDA や腺癌を合併した症例も報告されている 3)4)。塩沢
は子宮頸部嚢胞性病変への対応のフローチャートを試案
として図 5 のように報告しているが 4)5)、子宮頸部嚢胞性
病変に関して LEGH、MDA ともに稀な疾患であり、診断
基準、治療方針の確立において今後、更なる症例の集積
が必要である。
文 献
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clinicopathologic analysis of thirteen cases of a distinctive
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20)森谷卓也. 子宮頸がん診療における最新の話題. 子宮頸
部の病理:最新の話題. 京府医大誌. 2014;123(5):325331.
(H27.7.10受付)
平成27年9月(2015)
91 (91)
術後病理診断により粘液変性をきたした低悪性度子宮内膜間質肉腫と診断した1例
A case report of endometrial stromal sarcoma-low grade- with myxoid change diagnosed by postoperative pathology
公益社団法人地域医療振興協会
横須賀市立うわまち病院 産科婦人科
Department of Obstetrics and Gynecology, Yokosuka General
Hospital Uwamachi, Japan Association for Development of
Community Medicine
河野 明子 Akiko KAWANO
森崎 篤 Atushi MORIZAKI
伊藤 雄二 Yuji ITO
平林 大輔 Daisuke HIRABAYASHI
山本みのり Minori YAMAMOTO
小山 秀樹 Hideki KOYAMA
概 要
症 例
「子宮肉腫疑い」の診断で開腹術を施行し、術中迅速
病理検査で類粘液平滑筋腫であったが、術後の病理検査
によって低悪性度子宮内膜間質肉腫と診断した一例を経
験した。症例は64歳、3経妊 3経産。数年前から近医で子
宮筋腫として経過観察中であった。MRI 検査で粘液変性
を伴う腫瘤を認めており、腫瘍マーカーの上昇は認めな
かったが、臨床的に「子宮肉腫疑い」と診断し、速やか
に手術を施行した。術中迅速病理診断では類粘液平滑筋
腫であったが、永久標本では粘液変性を来した平滑筋腫
を背景に中等度の細胞異型を伴った、αSMA陰性、CD 10
陽性の間質細胞様細胞に核分裂像を認め、低悪性度子宮
内膜間質肉腫と診断した。追加治療は行わず、19 ヵ月後
の現在、無病生存中である。低悪性度子宮内膜間質肉腫
は子宮筋腫の診断で手術が行われることが多い。術中迅
速病理診断でも確定診断を得られないこともあるため、
術前の鑑別診断をより正確に行い、変性を伴う腫瘤に対
しては慎重に精査し確定診断を得る必要がある。
患者:64歳、3回経妊 3回経産、56歳閉経
主訴:増大傾向にある子宮腫瘤の精査加療希望
既往歴:59歳時に下肢静脈瘤
家族歴:特記事項なし
現病歴:数年来、近医にて子宮筋腫として経過観察中
であった。超音波検査にて子宮腫瘤の増大と浮腫状変性
所見の増強を指摘され、精査加療を希望して当科を紹介
受診した。
腹痛、不正性器出血、発熱、体重減少、その他の自覚
症状、他覚症状は認めなかった。
診察所見:腹部は平坦。腟鏡診で子宮腟部にびらんな
し、腟壁に異常なし。骨盤双合診で子宮は前傾前屈、全
体で超手拳大に腫大し弾性硬。子宮前壁に鵞卵大の腫瘤
を触知した。腫瘤に圧痛なし。両側子宮付属器、ダグラ
ス窩に異常所見なし。
経腟超音波検査:子宮内膜は約 10 mm に肥厚し不整。
子宮前壁筋層内に 70 × 60 mm 大の腫瘤を認めた(図 1)。
腫瘤内部は不均一であり出血もしくは変性が疑われた。
両側子宮付属器に異常はなく、腹水は認めなかった。
骨盤部 MRI 検査:子宮体部に75×64 mm大の腫瘤を認
めた。T 2 強調画像で腫瘤は全体に高信号を示していた。
内部に隔壁を認め(図 2)、子宮筋腫の粘液変性もしくは
嚢胞化が疑われた。T 1強調画像では一部に出血を疑わせ
る高信号域を認め(図 3)子宮肉腫の可能性も示された。
拡散強調画像では高信号を示していた。病変の正常筋層
への浸潤は明らかではなかった。内膜は4 mmと明らかな
肥厚を認めなかった。
血液検査:LDH は201 U/lで上昇をみとめない。この
他に異常値なし。
腫瘍マーカー: AFP 2.5 ng /ml、CEA 2.9 ng /ml、
CA19-9 26.8 U /ml、CA 72-4 4.2 U /ml、TPA 29 U / l、
CA125 6.7 U/mlとすべて上昇なし。
内膜細胞診:classⅠ、陰性
Key words : Endometrial stromal sarcoma, myxoid change, MRI,
Immunostaining
緒 言
子宮体部悪性腫瘍のうち子宮肉腫の占める割合は約8%
であり、そのうち子宮内膜間質肉腫は約 13 %(全体の約
1%)とごくわずかである。このうち低悪性度子宮内膜間
質肉腫は臨床症状に乏しく、また比較的進行が緩やかであ
り、術後の病理所見により診断されることが多い。今回
我々は増大傾向にある子宮筋腫として紹介を受け、臨床所
見と画像所見より子宮肉腫を疑い、速やかに手術を施行し、
低悪性度子宮内膜間質肉腫と診断した一例を経験したので
報告する。
92 (92)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
図1 経腟超音波
子宮前壁筋層内に7×6 cm大の腫瘤を認めた。
図3 MRI T 1 強調画像
T 1 強調画像では腫瘤の一部(→)に高信号域を認め、
出血が疑われた。
図2 MRI T 2 強調画像
T 2 強調画像では子宮体部腫瘤は全体に高信号をしめし、
内部に隔壁(→)をみとめた。
以上より、閉経後に増大傾向を示す子宮腫瘤で、内部
に変性及び出血を疑う所見をみとめたため、子宮肉腫を
疑い開腹手術を行った。
【手術所見】
子宮は新生児頭大に腫大し、子宮底部右側筋層内に弾
性硬の腫瘤を触知した。漿液性腹水を少量認めた。両側
子宮付属器、ダグラス窩、大網、骨盤内リンパ節、その
他触知可能な範囲の腹腔内に異常を認めなかった。肉腫
の可能性があったため、筋層外に子宮から十分に距離を
とり、子宮を全摘出した。術中迅速病理診断では類粘液
平滑筋腫であり、悪性所見はみとめないとの診断であっ
た。腹水細胞診も陰性であったため、術式を単純子宮全
摘術及び両側子宮付属器摘出術とし、手術を終了した。
【病理検査所見】
肉眼所見:周囲を平滑筋腫様組織に囲まれた黄色調の
腫瘤をみとめた(図4)
。
図4 肉眼所見
周囲を平滑筋腫様組織に囲まれた黄色調の腫瘤(→)が
存在
子宮内膜にはあきらかな腫瘍性病変をみとめなかった。
病理所見:術後永久標本にて病理学的検索を行ったと
ころ、平滑筋細胞に囲まれた粘液変性を認めた(図 5)。
同部は粘液染色(アルシアンブルー染色)で濃染した
(図 6)。この粘液変性部分に平滑筋腫の錯綜構造はなく、
全体に中等度の細胞異型を伴った腫瘍細胞を認め、1-2/
10 HPF 程度の核分裂像(図7)を認めた。免疫染色では、
粘液を背景に存在する異型細胞はαSMA陰性(図8)
、CD
10陽性(図9)であった。また MIB-1は5%未満であった。
明確な境界を伴い、腫瘤外への浸潤は認めなかった。
子宮内膜及び両側子宮付属器には明らかな腫瘍性病変
を認めなかった。
以上より本腫瘍は低悪性度子宮内膜間質肉腫、stage 1B
と診断した。追加治療は行わず、経過観察の方針とし、
術後 19 ヵ月経過した時点で、明らかな再発徴候は認めて
いない。
平成27年9月(2015)
93 (93)
図5 HE 染色(×40)
図右側は図4の→で示した黄色調の部位に一致する。
子宮筋腫様組織とは異なる病理像を示している。
図6 粘液染色(×40, Al-B 染色)
図右側は図5と同様の部位である。平滑筋腫部分と比べ、
粘液染色に濃染した。平滑筋腫部との境界は明瞭であり
浸潤はみとめなかった。
図7 核分裂像(→)
(HE 染色, ×400)
核分裂像は1-2/10 HPF とごくわずかであった。
考 察
低悪性度子宮内膜間質肉腫は30歳から60歳代に好発し
閉経前の 40 歳前後にピークをもつ腫瘍 1)で、多くがエス
トロゲン依存性である。治療の原則は子宮全摘術及び両
側子宮付属器摘出術とされ、確立された術後補助療法は
なく、手術により完全に摘出できれば追加治療は不要と
されている 2)。子宮に限局した子宮内膜間質肉腫 91 例の
図8 免疫染色(×40,αSMA)
平滑筋腫部は濃染したが腫瘍部分は陰性であった。
図9 免疫染色(×40, CD 10)
平滑筋腫部は染色されず、腫瘍部分は濃染した。
うち、37例(41%)が10年以内に再発したとの報告 3)や、
同様に子宮に限局した 20 例のうち 5 例(25 %)が平均 36
ヵ月で再発したとの報告 4)があり、また再発時 high grade
に変化した症例も報告されているが 5)、進行は比較的緩徐
であり10年生存率は90%以上と予後良好な腫瘍である 1)。
報告された症例の多くは子宮筋腫の診断で手術が施行さ
れ、術後病理診断により確定診断を得ている。
浮腫、粘液性変性、嚢胞状変性をきたした子宮筋腫は
本症例のように MRI T 2強調画像で高信号を示す。一方で
MRI T 1強調画像で高信号を示す所見があれば、壊死や出
血を疑い、悪性を疑う根拠となる 6)。術前の MRI にて肉
腫を疑い手術を行った症例のうち平滑筋肉腫もしくは子
宮内膜間質肉腫であった症例は約 13 %であったとの報告
があるが、画像により子宮筋腫、子宮肉腫、子宮内膜間
質肉腫を鑑別することは困難である 7)∼9)。
本症例ではMRI T 2強調画像で高信号を示す腫瘤であっ
たが、T 1強調像では内部に高信号領域を認めたため悪性
を疑って手術を施行した。正常筋層への浸潤傾向は明ら
かではなく、術前の肉腫と変性筋腫の鑑別は困難であっ
た。超音波画像では内膜肥厚が疑われたが、MRI では明
らかな肥厚はなかった。子宮体部に腫瘤が存在すること
で内膜が変形し、経腟超音波では内膜肥厚像ととらえた
94 (94)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
ものと考えられる。
病理学的所見では、本腫瘍では細胞異型は軽度から中
等度で、核分裂像はわずかに認めるのみである 10)。その
ため子宮内膜または頸部の細胞診及び組織診では発見さ
れにくく 11)、術前に子宮頸部細胞診陽性であった症例は8
例中 1 例(13 %)、子宮内膜細胞診陽性であった症例は 7
例中 2 例(29 %)であったとの報告がある 12)。これには
本腫瘍が上皮性腫瘍ではないことも影響していると考え
られる。免疫染色により平滑筋肉腫はαSMA 陽性、CD 10
陰性を示す。一方で低悪性度子宮内膜間質肉腫ではα
SMA は陰性もしくは部分的に陽性となることもある 1)10)
が、CD 10 は高率に陽性となる 1)13)。本症例ではαSMA
陰性であったことから平滑筋由来の腫瘍は否定的で、ま
たCD 10陽性であったことから低悪性度子宮内膜間質肉腫
と診断した。
本症例では当初、術中迅速病理診断により類粘液平滑
筋腫と診断したが、筋腫に囲まれる領域にαSMA 陰性、
CD 10陽性となる箇所を認めたこと、高度ではなかったが
細胞異型をみとめたこと、粘液染色が陽性であったこと
から、粘液変性をきたした低悪性度子宮内膜間質肉腫で
あると考えた。
子宮内膜間質肉腫は子宮筋腫として手術施行され術後
の病理診断で診断されることが多い 5)。本症例では臨床経
過及び画像所見から、悪性を疑って手術を施行した。術
中迅速病理診断では良性の診断であったが、さらに病理
学的検索を行い、確定診断に至った。
本症例のように低悪性度子宮内膜間質肉腫は術中迅速
病理診断では確定診断を得ることは困難と考えられる。
比較的予後は良好であるが再発の可能性もあるため、摘
出子宮の十分な精査により本腫瘍を見逃さないことが重
要であると考える。
この論文の要旨は第404回神奈川県産科婦人科学会学術
講演会にて発表した。
参考文献
1) 石倉浩, 本山悌一, 森谷卓也, 手島伸一. 子宮腫瘍病理ア
トラス. 第1版. 文光堂;2007.258-269.
2) 日本婦人科腫瘍学会編. 子宮体がん治療ガイドライン
2009.156-158,171-175.
3) Bohr L,Thomsen CF.Low-grade stromal sarcoma:a benign
appearing malignant uterine tumor;a review of current
literature.Differential diagnostic problems illustrated by four
cases, Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol.1991 Mar 21;39:639.
4) Gadducci A,Sartori E, Landoni F, Maggino T, Urgesi A,
Lissoni A, Losa G, Fanucchi A.Endometrial stromal
sarcoma:analysis of treatment failures and survival.Gynecol
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5) 安藤直子, 小川公一, 岡田裕美子, 秋野亮介, 中里佐保子,
宮上哲, 真井博史, 三村貴志, 荒川香, 折坂勝, 佐々木康,
高橋諄. Low grade から High grade に変化した ESS
(Endometrial stromal sarcoma)の一例, 日産婦神奈川会
誌.2014;50:118-122.
6) 濱名伸也. 子宮腫瘤の MRI 診断. 日産婦誌. 2007;59:325329.
7) Ugur T, Esref P, M.Alp Karademir, Mutlu G.Sonographic,
CT, and MRI Findings of Endometri- al Stromal Sarcoma
Located in the Myometrium and Ass- ociated with Peritoneal
Inclusion Cyst.Am J Roentgen- ol.2004;182:1531-1533.
8) 鈴木彩子, 刈谷方俊, 福原健, 門間千佳, 志馬裕明, 金森
崇修, 八木治彦, 小西光長,馬場長, 万代昌紀, 高倉賢二,
藤井信吾. 子宮筋腫の MRI 画像の臨床的グレーゾーン
の設定とその解析から子宮肉腫の診断に重要な画像所
見の抽出.日産婦誌.2004;56:331.
9) 富樫かおり, 藤井信吾. 子宮肉腫の臨床診断の進め方
子宮肉腫のMRI 所見. 産と婦. 1999;66:173-181.
10)Robert J.Kurman RJ. Blaustein's PATHOLOGY of the
FEMALE GENITAL TRACT. 5 th ed. 2002;586-593.
11)森谷卓也, 柳井広之. 子宮体癌 腫瘍病理鑑別診断アト
ラス. 文光堂;2014.72-73.
12)永田裕子, 倉林工, 鈴木美奈, 今井勤, 常木郁之輔, 加勢宏
明, 倉田仁, 児玉省二, 田中憲一, 田中耕平, 藤盛亮寿,関
根正幸, 徳永昭輝, 源川雄介, 藤田和之, 斉藤憲康.子宮内
膜間質肉腫10症例の臨床的検討.日産婦誌.1998;50:776780.
13)日本産婦人科学会・日本病理学会・日本医学放射線学
会・日本放射線腫瘍学会編.子宮体癌取扱い規約.第 3
版.2012.54-56.
(H27.7.10受付)
平成27年9月(2015)
95 (95)
「研究会報告」
第3回 神奈川県婦人科臨床病理研究会開催報告
横浜市立大学産婦人科 佐藤 美紀子
有志の協力を得て婦人科病理の基本から難解な症例ま
で、若手医師を中心に気軽にディスカッションできる場
を提供する事を目的に、一昨年から県内の病理医・婦人
科医合同の研究会を開催している。
2015年1月24日(土) 横浜市立大学附属病院10階会議室
演題
1. 「子宮内膜低分化腺癌と卵管類内膜腺癌の併存症例」
国立横浜医療センター 鈴木理絵ら
2. 「円形細胞成分を伴った子宮癌肉腫の1例」
神奈川県立がんセンター 横瀬智之ら
3. 「形質細胞腫瘍癌が疑われた腹膜原発癌の1例」
横須賀共済病院 宮腰藍衣ら
4. 「卵巣腫瘍と鑑別が困難であった平滑筋肉腫の1例」
聖マリアンナ医科大学 山下有美ら
ミニレクチャー
「広汎子宮全摘術の変遷」
聖マリアンナ医科大学産婦人科 戸澤 晃子先生
3 回目となる今回の研究会には、日産婦・医会会員 18
名を含む34人が参加した。本研究会は病理医と婦人科医
が合同で症例検討することを特徴としており、病理医が
発表する演題では同じ施設の婦人科医(=主治医)が座
長を務め臨床的なコメントを追加し、婦人科医が発表す
る演題では病理医が座長を務める企画としている。今年
は 1 年の間に主治医や診断医が「どこか腑に落ちない」
と感じた症例が多く提示され、産婦人科医からは「その
病理診断であれば、こういう臨床経過が推測されるので
はないか」などという臨床的視点に立った意見、病理医
からは「そうした症例であれば、追加でこのような検査
を施行すればヒントになるのでは」などの意見が出され
る等、エキサイティングなやり取りあった。終了後、主
治医の「なんか、すっきりしました」という笑顔は幹事
への最高の贈り物だった。ミニレクチャーでは聖マリア
ンナ医科大学産婦人科の戸澤晃子先生が広汎子宮全摘術
の歴史的変遷について講演してくださったが、基盤にな
っているのは解剖学と外科学双方からのアプローチであ
ることを強調されていて興味深かった。
当会はスポンサーなく手弁当で運営している。昨年同
様、戸澤先生にはボランティアのご講演を引き受けてく
ださった。同じく、企画・資料作成や会場設営に尽力さ
れた古屋充子先生をはじめとする横浜市立大学病理学教
室の皆さんにも心より感謝を申し上げたい。次回も平成
27 年度末に、横浜市立大学附属病院にて開催する予定な
ので、多くの皆さんの参加をお待ちしている。
96 (96)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
「研究会報告」
第16回横浜 ART 研究会
平成26年8月30日(日)
横浜ART研究会 代表世話人 東條 龍太郎
平成26年8月30日、第16回横浜ART研究会が開催され
ました。
今回の代表世話人は、横浜市大・村瀬真理子先生とソ
フィアレディスクリニック・佐藤芳昭先生が担当されま
した。今回は会員発表から基調講演にレベルの高い発表
があり、また招請講演では福岡の古賀文敏先生が、御自
身の不妊クリニック開業にかかわるコンセプトとフィロ
ソフイーを語られました。特別講演では不妊の子宮内膜
症合併にかかわる取扱いを東大平田哲也先生が解説され
ました。
医師ならびに、検査技師・胚培養士100余名の出席があ
り、実りある講演会が開催できたと考えています。
<会員発表(17:20∼17:35)>
座 長:横浜市立大学附属市民総合医療センター
生殖医療センター 講師 村瀬真理子先生
演題①『高齢不妊症 ― 分子レベルからの解明』
済生会横浜市東部病院産婦人科 医長 伊藤めぐむ先生
会員発表(17:35∼17:50)
演題②『当院の成績から見た胚盤胞の至適凍結/融解時
期』
神奈川レディースクリニック
胚培養士 長谷川久隆先生 <基調講演(17:50∼18:00)>
演題①『細胞核移植の生殖生物学・医学への利用の一面』
日本大学生物資源科学部
名誉教授 佐藤嘉兵先生 (18:00∼18:20)
演題②『核移植技術の進展と生殖医療への利用』
木場公園クリニック リサーチ部 小林 護先生
∼コーヒーブレイク(10分)∼
<招請講演(18:30∼19:10)>
座長:医療法人ソフィア ソフィアレディスクリニック
院長 佐藤芳昭先生
演題:『私の不妊治療』
古賀文敏ウィメンズクリニック
院長 古賀文敏先生
<特別講演(19:10∼19:50)>
座長:医療法人社団 銀座ウィメンズクリニック
名誉院長 鈴木秋悦先生
演題:『妊孕能温存を目指した子宮内膜症の取り扱い 』
東京大学医学部付属病院 女性外科
講師 平田哲也先生
平成27年9月(2015)
97 (97)
「研究会報告」
神奈川乳房画像研究会・神奈川乳房超音波画像研究会 平成26年度活動報告
代表世話人 加藤 善廣
第50回神奈川乳房画像研究会・第27回神奈川乳房超音波
画像研究会 特別記念講演会
開催日時 平成26年7月19(土)14:00∼18:00
会場 横浜情報文化センター6階ホール
来場者数 名
講演1 「神奈川県下におけるマンモグラフィシステムの
現状∼神奈川乳房画像研究会 施設アンケ−ト
調査報告∼」
神奈川乳房画像研究会世話人 小川 衣美先生
講演2「新たなステージに入ったわが国の乳がん検診」
聖マリアンナ医科大学附属研究所
ブレスト&イメ−ジング先端医療センター
附属クリニック院長
福田 護先生
講演3「乳癌の診断と治療 過去・現在・そして未来へ」
医療法人湘和会 湘南記念病院
乳がんセンター
土井 卓子先生
第51回神奈川乳房画像研究会・第28回神奈川乳房超音波
画像研究会
開催日時 平成26年11年15日(土)14:00∼18:00
会場 一般財団法人 神奈川県警友会けいゆう病院 13階会議室
来場者数 名
講演1「横浜市MMG 2次判定会モニター読影導入」
株式会社ネットカムシステムズ メディカル事
業部 セールス&マーケティンググループ 岡田 晋一 氏
講演2「乳房トモシンセシスの臨床経験について」
独立行政法人国立病院機構 高崎医療総合セン
ター放射線診断科
藤田 克也先生 講演3「乳癌検診におけるMMGとUSの総合判定」
医療法人慶友会 守谷慶友病院 鶴岡 雅彦先生 講演4 臨床画像評価 神奈川乳房画像研究会 世話人
神奈川県医師会主催 MMG 技術講習会開催
(マンモグラフィ
認定試験を含む)
於 横浜市民病院 がん検診センター 平成27年3月28∼29日
平成27年3月28日(土)
講義1「乳がん検診へのマンモグラフィ導入の背景と精
度管理の概念」
聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イ
メ−ジング先端医療センター
附属クリニック院長
福田 護先生
講義2「マンモグラフィの基礎」
社会保険群馬中央総合病院
新井 敏子先生
講義3「乳がんの臨床」
湘南記念病院かまくら乳がんセンタ−長
土井 卓子先生
講義4「マンモグラフィの所見解説とカテゴリー分類」
横浜栄共済病院
俵矢 香苗先生
グループ講習(読影実習講師:土井卓子先生、
俵矢香苗先生)
ポジショニング講師:研究会世話人
読影試験及び読影試験解説(NPO法人日本乳が
ん検診精度管理中央機構 技術委員)
臨床画像評価:講師:研究会世話人
平成27年3月29日(日)
グループ実習(画像管理、デジタル管理、現像管理、
機器管理、線量・線質)
講 師:NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構
技術委員、研究会世話人
筆記試験:NPO 法人日本乳がん検診精度管理中央機構
技術委員
閉 講 式 挨拶 神奈川県医師会公衆衛生担当理事 亀谷 雄一郎先生
修了証書授与
横浜市乳癌検診二次読影会毎週3回(火、水、木曜日)
の二次読影会に協力 (横浜市内のMMG検診機関技術標準化の目的)
世話人会開催
平成26年 4 月28日 19:00∼21:00
平成26年 6 月 3 日 19:00∼21:00
平成26年 7 月 1 日 19:00∼21:00
平成26年10月 3 日 19:00∼21:00
平成27年 1 月19日 19:00∼21:00
平成27年 3 月16日 19:00∼21:00
於:神奈川県予防医学協会
(事務局:見本喜久子)
98 (98)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
「研究会報告」
第35回・36回 神奈川産婦人科内視鏡研究会
代表世話人 小西 康博(済生会横浜市東部病院)
平成 26 年 10 月 8 日に第 35 回神奈川産婦人科内視鏡研究
会がけいゆう病院を会場として、平成27年3月4日に第36
回神奈川産婦人科内視鏡研究会が新しい会場設定の新百
合ヶ丘総合病院で開催されました。
第 35 回神奈川産婦人科内視鏡研究会は当番世話人・座
長を東海大学医学部産婦人科准教授 鈴木隆弘先生にお願
いして、全 12 演題の発表と質疑応答が活発に行われまし
た。特別講演は東海大学医学部産婦人科教授 三上幹男先
生に座長をお願いして、富山県立中央病院産婦人科部長
舟本寛先生に「婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術の
今後の展望」という内容でご講演頂きました。
第 36 回神奈川産婦人科内視鏡研究会は当番世話人を新
百合ヶ丘総合病院産婦人科部長 浅田弘法先生にお願いし
ました。まず座長を新百合ヶ丘総合病院産婦人科科長
田島博人先生にお願いして、全3演題の発表と質疑応答が
活発に行われました。特別講演は新百合ヶ丘総合病院産
婦人科部長 浅田弘法先生に座長をお願いして、がん研
究会有明病院婦人科医長 金尾裕之先生の「胎生解剖学に
基づいた腹腔鏡下子宮頚癌根治術」というご講演と東海
大学医学部産婦人科教授 三上幹男先生の「頚がんへの開
腹広汎全摘出術は今後どうなるのか?」というご講演を
頂きました。
何れの研究会も盛況に終わりましたが、第 36 回からは
当番世話人の所属病院を会場にして頂くという新しい試
みを始めました。
当研究会は1997年以来、毎年3月と10月に年2回開催し
ており、会場はけいゆう病院と横浜市民総合医療センタ
ーで交互に開催しておりましたが、これからはいろいろ
な病院にも会場をご提供頂いて、より多くの先生方にご
参加頂けるように工夫して参りたいと考えております。
多くの先生方に世話人をお願いして運営を進めながら
神奈川県全体の産婦人科内視鏡手術のレベルアップと日
本産科婦人科内視鏡学会技術認定医取得に役立つ研究会
を目指しておりますので、何卒よろしくお願い申し上げ
ます。
平成27年9月(2015)
99 (99)
第35回 神奈川産婦人科内視鏡研究会
日 時:平成26年10月8日(水)18:40∼21:50
場 所:けいゆう病院 13階『会議室』
7.
Ⅰ. 一般演題 1.
急性腹症を伴わない卵巣茎捻転の2症例
初級者から初心者に伝えるドライボックス
トレーニングでの「縫合結紮のTips」
昭和大 藤が丘病院
竹中 慎 田内麻衣子 中林 誠
けいゆう病院
持丸 佳之 清水 拓哉 眞木 順子 松浦 玲 青木 弘子 中山 健
渡部 桂子 櫻井真由美 倉c 昭子
市原 三義 本間 進 佐々木 康
秋好 順子 永井 宣久 荒瀬 透
小川 公一
中野眞佐男
8.
2.
ファーストトロカール挿入による大腸損傷
を疑った1例
入職後4か月間の TLH 技術獲得と自己研鑽
の歩み∼悪性腫瘍を意識して∼
横浜総合病院
芥川 秀之 木林潤一郎 苅部 瑞穂
東海大 専門診療学系 産婦人科
美濃部奈美子 吉田 典夫
楢山 知紗 浅井 哲 天津 慎子
柏木 寛史 池田 仁惠 信田 政子
平澤 猛 石本 人士 和泉俊一郎
三上 幹男
9.
腹腔鏡下手術にて成熟嚢胞性奇形腫内に生
じたカルチノイドの診断に至った1例
川崎市立川崎病院
3.
内外同時妊娠の保存的治療後に卵管膿瘍を
発症し、腹腔鏡下卵管切除を施行したが子
宮内胎児死亡に至った1例
竹田 貴 染谷 健一 大河 内緑
横浜市立市民病院
林 保良
鈴木 毅 福竹麻里絵 金 善惠
樋口 隆幸 上野 和典 岩田 壮吉
大井 由佳 片山 佳代 中村 裕子
清水麻衣子 関口 太 永井 康一
松崎結花里 石寺 由美 安藤 紀子
茂田 博行
10. 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍術後に発症した膀胱
腟 、尿管腟 の2例
横浜市大学 総合医療センター 婦人科
平田 豪 吉田 浩 下向 麻由
4.
機能性非交通性副角子宮に対し腹腔鏡下副
角子宮摘出術を施行した1例
横浜市大
古郡 恵 斉藤 圭介 松永 竜也
榊原 秀也 平原 史樹
吉田 瑞穂 古野 敦子 北川 雅一 大島 綾 岡田有紀子 横浜市立市民病院 婦人科内視鏡手術センター
片山 佳代 松崎結花里 茂田 博行
横浜市立大学医学部 産婦人科
5.
腹腔鏡下に手術し得た膀胱子宮内膜症の1
例
新百合ヶ丘総合病院
佐柄 祐介 田中 幸子 大久保はる奈
高橋 寿子 奥野さつき 井浦 文香
平原 史樹
11. 子宮体癌へのロボット支援下手術を4例経
験して
湘南鎌倉総合病院
永井 崇 竹本 周二 田島 博人
福田 貴則 井上 裕美 木幡 豊
浅田 弘法 吉村 泰典
日下 剛 門間 美佳 鵜澤 芳枝
市田 知之 外山 唯奈 渡辺 零美
6.
当院における腹腔鏡下仙骨膣固定術の経験
大和徳洲会病院
長島 稔 野口 有生 石川 哲也
100 (100)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
12. 当院におけるロボット支援腹腔鏡下広汎子
宮全摘術、骨盤リンパ節廓清術の実際
Ⅱ. 共催特別講演 長谷川明俊 宮内 里沙 c山 明香
婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術の今
後の展望
松下 瑞帆 岩c 真一 御子柴尚郎 富山県立中央病院 産婦人科 部長
済生会横浜市東部病院
舟本 寛 先生
伊藤めぐむ 秋葉 靖雄 渡邉 豊治
小西 康博
第36回 神奈川産婦人科内視鏡研究会
日 時:平成27年3月4日(水)18:50∼21:50
場 所:新百合ヶ丘総合病院 『研修室3階』
Ⅰ. 一般演題 1.
Ⅱ. 共催特別講演
腹腔鏡下子宮筋腫核出術における新型モル
セレーターの使用経験
1.
横浜総合病院
胎生解剖学に基づいた腹腔鏡下子宮頸癌根
治術
がん研究会有明病院 婦人科 医長
芥川 秀之 木林潤一郎 苅部 瑞穂
金尾 裕之 先生
美濃部奈美子 吉田 典夫
2.
腹腔鏡手術で治療した卵管間質部妊娠の 1
例
昭和大 藤が丘病院
市原 三義 田内麻依子 中林 誠
竹中 慎 松浦 玲 中山 健
青木 弘子 横川 香 本間 進
佐々木 康 小川 公一
3.
Wunderlich 症候群と診断し腹腔鏡補助下に
腟開窓術を施行した1例
関東労災病院
藤川 朋奈 袖本 武男 北 麻里子
西田 晴香 松村 慶子 根井 朝美
星野 寛美 香川 秀之
2.
頸がんへの開腹広汎全摘出術は今後どうな
るのか? ―ある婦人科腫瘍医の嘆き― 東海大 産婦人科 教授
三上 幹男 先生
平成27年9月(2015)
101 (101)
抄録
第35回 神奈川産婦人科内視鏡研究会
とを確認した上で婦人科的手術を遂行した。尚、術前に手術歴
があることから、腹部超音波で癒着の程度を把握した上で臨ん
急性腹症を伴わない卵巣茎捻転の2症例
だ。
開腹歴のある症例、とくに大網切除を施行している症例では、
けいゆう病院
持 丸 佳 之 清 水 拓 哉 眞 木 順 子
婦人科腹腔鏡手術を施行する際に臓器損傷の可能性を考慮して
術前評価をすべきであると考えた。
渡 部 桂 子 櫻 井 真由美 倉 c 昭 子
秋 好 順 子 永 井 宣 久 荒 瀬 透
中 野 眞佐男
【抄録】
内外同時妊娠の保存的治療後に卵管膿瘍を発症
し、腹腔鏡下卵管切除を施行したが子宮内胎児死
亡に至った1例
卵巣茎捻転は一般的に急性腹症を伴う婦人科疾患の一つとし
て知られる。ときに卵巣機能の廃絶につながるため緊急手術を
横浜市立市民病院
要することもしばしばである。今回われわれは明らかな急性腹
大 井 由 佳 片 山 佳 代 中 村 裕 子
症を伴わず、卵巣腫瘍への手術の際に偶発的に認めた卵巣茎捻
清 水 麻衣子 関 口 太 永 井 康 一
転の2症例を経験したので報告する。1例目は37歳、1経産。2年
松 崎 結花里 石 寺 由 美 安 藤 紀 子
前より指摘されている径 4-5 cm の左卵巣腫瘍の摘出希望あり、
茂 田 博 行
ガイドラインに沿って説明するが強く希望され腹腔鏡下に摘出
とした。術中所見では左付属器は捻転して索状となり、卵巣腫
【抄録】
瘍はダグラス窩に癒着していた。2例目は41歳、1経産。卵巣腫
内外同時妊娠はまれであり、確立した治療方針はない。今回
瘍を複数認め腹腔鏡下に摘出を行った。術中所見では左卵巣に
我々は、内外同時妊娠を疑ったが経過観察し、後日右卵管膿瘍
径8 cmまでの腫瘤を3つ認めるが右付属器は明らかでなく、右卵
から絨毛羊膜炎を来たし、腹腔鏡下右卵管切除を施行するも子
管角からダグラス窩に繋がる索状物の先に径 3 cm の腫瘤を認め
宮内胎児死亡となった一例を経験したので報告する。症例は 30
た。両症例とも摘出した腫瘤は成熟嚢胞性奇形腫であった。卵
歳、0 経妊 0 経産。排卵誘発剤とタイミング法で妊娠、妊娠 6 週
巣腫瘍に対しては症状に関わらず茎捻転の可能性を念頭に置い
に子宮内に胎嚢一つ、胎児心拍が確認された。また、右付属器
て診療にあたるのが望ましいと考えられた。
の 3 cm の高エコー領域と腹腔内出血を認めた。卵巣出血または
内外同時妊娠(右卵管妊娠の流産)と判断し経過観察したとこ
ろ、腹腔内出血は自然消失した。右付属器周囲の高エコー領域
ファーストトロカール挿入による大腸損傷を疑っ
た1例
は残っていたが、右卵管妊娠流産後の血腫と判断し経過観察し
た。子宮内の児の発育は週数相当であった。妊娠 11 週に発熱、
膿性の帯下、右付属器領域の圧痛を認め、右卵管の感染が疑わ
東海大 専門診療学系 産婦人科
れた。抗生剤で炎症所見改善なく、全身麻酔下で腹腔鏡下右卵
楢 山 知 紗 浅 井 哲 天 津 慎 子
管切除術を施行した。切除した卵管には絨毛と膿瘍を認めた。
柏 木 寛 史 池 田 仁 惠 信 田 政 子
術後炎症所見や症状は改善したが、羊水が著明に減少し、絨毛
平 澤 猛 石 本 人 士 和 泉 俊一郎
膜羊膜炎と判断した。妊娠 16 週 2 日、子宮内胎児死亡となり後
三 上 幹 男
日誘発にて分娩に至った。胎盤は羊膜絨毛膜炎の診断を裏付け
る所見であった。内外同時妊娠において子宮内に胎児心拍が確
【抄録】
開腹手術後は腹壁への臓器癒着の可能性が存在する。ファー
認され、かつ子宮外に心拍が確認されない場合は、外科治療に
踏み切る必要はないと考えた。しかし、本症例では残存してい
ストトロカール挿入部として臍を利用する際に開腹歴のある症
た絨毛や血腫に感染をおこし、絨毛膜羊膜炎から流産に至った。
例では臓器損傷に注意をすべきである。
妊娠初期に卵管切除を行っていれば、流産を防げた可能性があ
今回、胃癌の手術歴がある患者の傍卵巣嚢腫茎捻転に対し、
る。内外同時妊娠において、異所性の着床部位が腫瘤を呈して
腹腔鏡手術を施行した際、ファーストトロカール挿入時に腹腔
いる場合は、外科的治療に踏み切ることも選択肢であると考え
内へ到達できず、術後の大網の腹壁癒着の可能性を考慮した。
る。
ある程度腹腔内への気腹が可能であったために、下腹部よりト
ロカールを刺入し、臍部周囲の観察を行ったところ、横行結腸
が癒着しており、損傷を否定できなかったため、消化器外科医
師同席のもとで、我々で癒着を剥離し、漿膜損傷のみであるこ
102 (102)
機能性非交通性副角子宮に対し腹腔鏡下副角子宮
摘出術を施行した1例
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
当院における腹腔鏡下仙骨膣固定術の経験
大和徳洲会病院
横浜市大
長 島 稔 野 口 有 生 石 川 哲 也
古 郡 恵 斉 藤 圭 介 松 永 竜 也
榊 原 秀 也 平 原 史 樹
【抄録】
当院では本年 5 月より腹腔鏡下仙骨腟固定術を開始している。
【抄録】
8月末日現在まで6例に施行したのでその経験を報告する。平均
機能性非交通性副角子宮は月経困難を生じることや月経血の
年齢69.5歳。6例中5例は子宮が存在する症例、1例は子宮摘出後
逆流により内膜症の発症が危惧されることから早期摘出の適応
の症例である。トレンデレンブルグ体位(20度程度)をとり、S
となる。機能性非交通性副角子宮に対し腹腔鏡下患側子宮摘出
状結腸を腹壁に吊り上げて、岬角を露出する。その後子宮の存
術を施行したので報告する。
在する症例では膣上部切断術を全例施行した。子宮頸部を吊り
14 歳。初経 11 歳、月経困難症あり、慢性的な腹痛もあった。
上げ、腹膜切開後、直腸腟間隙を展開し、恥骨直腸筋を露出し
精査にて機能性非交通性右副角子宮、右腎欠損の診断に至り、
メッシュを固定した。その後、膀胱と前腟壁の間を剥離し前膣
右副角子宮内には留血腫を認めた。腹痛を認めることや今後の
壁とメッシュを固定した。前後のメッシュは子宮頸部と仙骨子
内膜症の可能性を考慮し、腹腔鏡手術を行った。左子宮、卵巣、
宮靭帯に縫合し、岬角にメッシュを固定した。最後に腹膜を縫
卵管は正常所見。右子宮は体部のみを認め、子宮下部は左子宮
合しメッシュを後腹膜内に埋め込んで手術終了とした。術中、
頸部に索状物で結合していた。右子宮及び周囲の間膜に内膜症
術後に大きな合併症を起こした症例はないが、1例で術後初回排
性病変(赤色斑)を認め、右卵巣は右卵管周囲の癒着により埋
便が6日かかった。また1例で術後腹圧性尿失禁が出現した。今
伏されていた。右卵管を切離、右円靭帯、周囲腹膜、左子宮と
後長期的な成績の検討やより侵襲の少なく合併症の少ない術式
の間の索状物、右子宮動脈をそれぞれ切除し患側子宮を摘出し
の検討が必要だと思われる。
た。子宮は細切し腹壁を通し摘出した。
内診や MRI のみでは診断に限りがあり腹腔鏡手術は診断にも
有用であった。
初級者から初心者に伝えるドライボックストレー
ニングでの「縫合結紮のTips」
腹腔鏡下に手術し得た膀胱子宮内膜症の1例
昭和大 藤が丘病院
竹 中 慎 田 内 麻衣子 中 林 誠
新百合ヶ丘総合病院
松 浦 玲 青 木 弘 子 中 山 健
佐 柄 祐 介 田 中 幸 子 大久保 はる奈
市 原 三 義 本 間 進 佐々木 康
高 橋 寿 子 奥 野 さつき 井 浦 文 香
小 川 公 一
永 井 崇 竹 本 周 二 田 島 博 人
浅 田 弘 法 吉 村 泰 典
【抄録】
ドライボックストレーニングは腹腔鏡初心者にとって非常に重
【抄録】
要なトレーニングである。特に「持針、運針、スクエアノット+
腹腔鏡下に手術し得た膀胱子宮内膜症の一例を経験したので
オーバーラップ、切断」は内視鏡手術における最も基本的な縫合
報告する。37歳、1経妊0経産。既往歴:30歳子宮内膜症・子宮
手技である。この一連の流れの中で気づいたコツを、初心者なら
筋腫にて腹腔鏡手術、33 歳異所性妊娠にて腹腔鏡手術。現病
ではの視点で「縫合結紮の Tips」としてビデオを交えて紹介する。
歴:月経発来時の排尿痛にて泌尿器科受診するも原因不明にて
1.持針時
経過観察とされていた。月経痛にて近医婦人科受診時に子宮内
膜症性嚢胞を指摘され、今回手術目的に当院初診となった。
MRI 検査において子宮筋腫,右子宮内膜症性嚢胞および膀胱子宮
内膜症の存在が疑われた。膀胱子宮内膜症の精査目的で当院泌
尿器科へ紹介。膀胱鏡検査にて膀胱後三角部に子宮内膜症を疑
わせる直径3 cm 程度の隆起性病変を確認。泌尿器科とも相談し
●針を把持する補助鉗子は下向きだと針を回しやすい
2.ループ作製時
●ショートテールの長さをロングテールのループより短くす
ると結紮後にショートテールを掴みやすい
●補助鉗子でループを把持するとき、垂直かつできる限り先
端で把持すると糸を持針器に絡めやすい
た上で、腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術(膀胱部分切除を含む)
●補助鉗子を結紮点に近づけておくと、糸が立ちやすい
を予定した。尿路の子宮内膜症は全子宮内膜症の1∼2%程度と
●持針器とループを水平にしておくと、糸を持針器に絡めや
報告されており、その 80 %程度が膀胱子宮内膜症であるといわ
れている。膀胱子宮内膜症につき文献的考察を加え報告する。
すい
3.結紮時
●補助鉗子と持針器をピストン運動させると、持針器に糸が
引っかからない
●地面に水平に牽引して結紮すると、糸が緩まない
平成27年9月(2015)
103 (103)
入職後 4 か月間の TLH 技術獲得と自己研鑽の歩み
∼悪性腫瘍を意識して∼
腹腔鏡下子宮悪性腫瘍術後に発症した膀胱腟瘻、
尿管腟瘻の2例
横浜総合病院 横浜市大 市民総合医療センター 婦人科
芥 川 秀 之 木 林 潤一郎 苅 部 瑞 穂
平 田 豪 吉 田 浩 下 向 麻 由
美濃部 奈美子 吉 田 典 夫
吉 田 瑞 穂 古 野 敦 子 北 川 雅 一
大 島 綾 岡 田 有紀子
【抄録】
横浜市立市民病院 婦人科内視鏡手術センター
片 山 佳 代 松 崎 結花里 茂 田 博 行
当院における昨年の手術総数は413件であり、そのうち婦人科
手術は 305 件、鏡視下手術は 270 件であった(腹腔鏡下手術 223
横浜市大 産婦人科
平 原 史 樹
件、子宮鏡下手術47件)
。
その中で TLH は120件であり、今年7月までの TLH 症例は65
件である。良性疾患はほぼ全例を腹腔鏡下手術で対応している。
筆者は、今年 4 月に当院に入職し、本格的に TLH の技術獲得
を開始したが、今までの経験にはない習熟した環境下で自己研
鑽を積めば、短期間での TLH 技術習得は可能であると考えられ
【抄録】
腹腔鏡下子宮悪性腫瘍術後に発症した尿管腟
、膀胱腟
の
2例を経験したので呈示する。
【症例1】
た。また、日頃から悪性腫瘍手術を意識して TLH を実施するこ
46 歳、1 経妊 1 経産、子宮頸癌Ⅱ B 期に対し、腹腔鏡下広汎子
とで、今後の悪性腫瘍手術への技術向上につながると思われた
宮全摘術施行。手術時間 287 分、出血量 200 ml 。術後 18 日目、
ので報告する。
腟断端の右半分が開放され、尿臭を伴う透明帯下あり、インジ
ゴカルミンを膀胱内に注入し腟断端より漏出を確認、膀胱腟
の診断。術後病理でpT 2 bpN 1 M0、扁平上皮癌、前方で子宮壁
腹腔鏡下手術にて成熟嚢胞性奇形腫内に生じたカ
ルチノイドの診断に至った1例
全層に渡って浸潤が認められた。現在尿道バルーンを留置し経
過観察中。
【症例2】
川崎市立川崎病院 55歳2経妊2経産、子宮体癌。腹腔鏡下準広汎子宮全摘、両側
竹 田 貴 染 谷 健 一 大河内 緑
付属器切除、骨盤リンパ節廓清術施行。手術時間 3 時間 29 分、
鈴 木 毅 福 竹 麻里絵 金 善 惠
出血量452 ml。術後9日目腟断端より黄色帯下あり、インジゴカ
樋 口 隆 幸 上 野 和 典 岩 田 壮 吉
ルミン静注し腟内ガーゼの変色あり、膀胱鏡で異常なく、尿管
林 保 良
腟
の診断。術後16日目に尿管ステント挿入し、水溶性帯下は
改善。術後病理は類内膜腺癌grade1, pT1apN0M0。泌尿器科と今
【抄録】
後の方針を検討中。
カルチノイドは元々全身臓器に分布する末梢性内分泌細胞由
【結語】
来の腫瘍である。卵巣カルチノイドは全カルチノイドの約1.5%
尿管腟
程度であり、全卵巣腫瘍の0.1%以下と非常に稀な境界悪性卵巣
より安全な腹腔鏡下悪性腫瘍手術への工夫が必要と思われた。
、膀胱腟 は発症すると治療に難渋する合併症であり、
腫瘍である。今回成熟嚢胞性奇形腫の術前診断で腹腔鏡下付属
器摘出術を施行し、奇形腫内に生じたカルチノイドの1例を経験
したので報告する。症例は、48歳女性、前医にて5 cm 大の卵巣
子宮体癌へのロボット支援下手術を4例経験して
腫瘍を指摘され、当院に紹介。精査にて左成熟嚢胞性奇形腫の
診断に至り、腹腔鏡下付属器摘出術を施行。病理組織診断は、
湘南鎌倉総合病院 産婦人科
carcinoid tumor in mature cystic teratoma,ly 0, v 0, 免疫染色にて
福 田 貴 則 井 上 裕 美 木 幡 豊
chromograninA, synaptophysin, CD 56が陽性であった。以上より術
日 下 剛 門 間 美 佳 鵜 澤 芳 枝
後診断は卵巣カルチノイド stage Ⅰ a、卵巣境界悪性腫瘍の診断
市 田 知 之 外 山 唯 奈 渡 辺 零 美
にて追加治療として子宮全摘、右側付属器摘出を施行し、転移
所見などないことを確認した。現在、再発所見なく経過してい
【抄録】
る。6 cm 大未満の成熟嚢胞性奇形腫においても、年齢、悪性腫
当院では 2014 年 3 月より子宮悪性腫瘍に対してロボット支援
瘍の混在の可能性を十分に考慮し、手術を検討する必要がある
下手術を開始し、これまでに4例行ったのでその経験、反省と今
と考えられた。
後の対処について発表する。手術は25-30度の骨盤高位でペイシ
ェントカートを患者の左側にパラレルドックングして行った。
平均年齢は56歳(52-59)
、平均手術時間は354分(316-412)
、コ
ンソール時間は283分(265-325)
、平均出血量は65 ml(30-100)
、
平均入院期間は5.5日(4-7)であった。
104 (104)
【症例1】
術中出血100 mlで終了。翌日、ドレーンより700 mlの血性の排
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
べるとかなりの遅れをとっていた。しかし、社会的なニーズも
あり、2008年8月に「腹腔鏡下子宮体がん根治手術」が先進医療
液あり、Hb 5.4と貧血を認めた。バイタルは著変なく、尿量保た
として承認され、本年4月ようやく「腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術
れており、超音波検査で明らかな腹腔内出血を認めなかったた
(子宮体がんに限る)」の手術名で保険収載された。しかし、Ⅰa
め、経過観察とした。2日目より排液量は減少した。ドレーン刺
期の体癌に限定されており、しかも所属リンパ節である傍大動
入部周囲に紫斑が出現し、ポート跡からの出血が原因として考
脈リンパ節郭清術を実施した場合は算定できないという条件つ
えられた。
きである。これは腹腔鏡下に傍大動脈リンパ節を摘出するのは
【症例2】
技術的にかなり難しく、出血などの合併症を懸念するためであ
腫瘍にて腫大したと思われた子宮体癌の手術をしたが、腟か
ろうか?さらに子宮頸癌に対しては腹腔鏡下手術は先進医療に
らの回収に時間を要した。回収時に膀胱側の膣壁を裂傷し、縫
もなっておらず、ロボット手術も含め、今後どのように展開し
合した。血尿を認めたため、膀胱鏡検査した。膀胱粘膜までの
ていくのか興味がもたれる。本講演では婦人科悪性腫瘍の腹腔
明らかな損傷は認めなかったが1週間フォーリーカテーテルを留
鏡下手術手技についてビデオで供覧したいと思う。
置した。子宮のサイズのオペ適応の検討が必要と思われた。
当院におけるロボット支援腹腔鏡下広汎子宮全摘
術、骨盤リンパ節廓清術の実際
済生会横浜市東部病院
第36回 神奈川産婦人科内視鏡研究会
腹腔鏡下子宮筋腫核出術における新型モルセレー
ターの使用経験
長谷川 明 俊 宮 内 里 沙 c 山 明 香
松 下 瑞 帆 岩 c 真 一 御子柴 尚 郎
伊 藤 めぐむ 秋 葉 靖 雄 渡 邉 豊 治
小 西 康 博
横浜総合病院 芥 川 秀 之 木 林 潤一郎 苅 部 瑞 穂
美濃部 奈美子 吉 田 典 夫
【抄録】
【抄録】
平成 26 年 4 月 17 日、腹腔鏡下子宮摘出術および子宮筋腫核出
当院では2013年3月から院内の倫理審査委員会、手術ロボット
術に用いる腹腔鏡用電動式モルセレーターを用いた細切除去術
運用プロジェクトの承認、患者の同意を得てロボット支援腹腔
に関して、米国食品医薬品局(FDA)から安全性についての勧
鏡下手術を開始した。まずは良性疾患から導入し、適応を悪性
告があった。
疾患へと徐々に拡大している。
我が国においても多くの施設でその対応に苦慮している現状
今年から子宮体がんⅠ A 期に対してのみ腹腔鏡手術が保険適
がある。当院においては、日本産科婦人科学会からの通知を遵
応となり、当該手術は当院でも腹腔鏡手術を施している。しか
守し、症例を適切にスクリーニングしており、モルセレーター
し、子宮頸がんに対しては未だに腹腔鏡手術の保険適応はなく、
を使用する可能性がある場合は、使用によるリスク(診断不可
残念ながら先進医療になる見通しも立っていない。
能な悪性病変のリスク、および悪性組織の腹腔内播種のリスク)
手術支援ロボットは従来の腹腔鏡手術では困難な手術を容易
にすることができるすばらしい手術器具で、ラーニングカーブ
についてインフォームドコンセントを得ることで慎重に対応し
ている。
も早いと諸家が報告している。ロボット手術はコスト面で問題
FDA の勧告により、当院で使用してきた Johnson&Johnson 製
があるが、他の面では従来の開腹手術、腹腔鏡手術と比べ優れ
モルセレーター(GYNECAREラパロ用モルセレーター R)の販
ている面が多い。
売が中止となったが、今回、KARL STORZ 社製の新型モルセレ
今回、当院におけるロボット支援腹腔鏡下広汎子宮全摘術、
骨盤リンパ節廓清術の実際について報告します。
【共催特別講演】
婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術の今後の展
望
ーター(SAWALHEⅡスーパーカットモルセレーター R)が発売
され、使用したのでその経験について発表を行う。
腹腔鏡手術で治療した卵管間質部妊娠の1例
昭和大 藤が丘病院
市 原 三 義 田 内 麻依子 中 林 誠
竹 中 慎 松 浦 玲 中 山 健 富山県立中央病院 産婦人科 部長 舟本 寛 先生
青 木 弘 子 横 川 香 本 間 進
佐々木 康 小 川 公 一
【抄録】
婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術はこれまでは保険適応
もなく、一部の限られた施設のみで行われ、他科や諸外国と比
【抄録】
【はじめに】
卵管間質部妊娠は、稀な疾患であり、死亡率は2.5%と他の異
平成27年9月(2015)
所性妊娠と比較して高い。今回、卵管間質部妊娠を腹腔鏡下で
治療した症例を経験したので報告する。
【症例】
29歳、1回妊娠、骨盤位で選択的帝王切開術を受けている。主
訴:最終月経後無月経。現病歴:前医に無月経を主訴に妊娠6週
に受診した。妊娠10週1日に、超音波検査で胎嚢像が子宮右側に
描出された。MRI 検査で間質部に 5 cm 大の胎嚢像を認め、当院
に同日紹介となった。内診で、子宮底部右に腫瘤の触知あり、
性器出血はなかった。経腟および経腹超音波検査では、右卵管
間質部に胎嚢像あり、CRL 1.46 mm(8 週 2 日相当)で胎児心拍
は認めなかった。血中 hCG 30534 mIU /ml であった。右卵管間
質部妊娠の診断で腹腔鏡手術の治療方針とした。腹腔鏡所見で
は、腹腔内出血なし、附属器周囲に軽度癒着を認めた。右卵管
間質部は著明に膨隆し菲薄化あり、同部位を Cornual resection
(卵管角切除)とした。術後経過は順調で退院となっている。
【結語】
卵管間質部妊娠を術前診断することができ腹腔鏡下に治療が
可能であった。
Wunderlich 症候群と診断し腹腔鏡補助下に腟開窓
術を施行した1例
関東労災病院 藤 川 朋 奈 袖 本 武 男 北 麻 里 子
西 田 晴 香 松 村 慶 子 根 井 朝 美
星 野 寛 美 香 川 秀 之
【抄録】
Wunderlich症候群は重複子宮・片側子宮腟部の閉鎖・同側腎無
形成を伴う症候群である。腟部閉鎖側の子宮の妊孕性は比較的
保たれているとされ、診断的腹腔鏡及び腟開窓術が最適な治療
と考えられている。今回術前に Wunderlich 症候群と診断し腹腔
鏡補助下に腟開窓術を施行した1例を経験したので報告する。
患者は 23 歳未経妊。22 歳時月経痛を主訴に前医を受診し、子
宮奇形と診断されたが経過観察となっていた。月経痛増悪のた
め当院救急を受診した。CT で右腎無形成、右子宮と左子宮の交
通性なく右子宮は盲端に終わっており、Wunderlich 症候群と診断
された。経腟的子宮留血症ドレナージ術を施行後に LEP ・鎮痛
剤による疼痛管理を試みたが、コントロール不良であった。こ
のため初診から2ヵ月目に腹腔鏡を併用した手術を行う方針とし
た。手術所見では右腟腔及び子宮腟部の同定が出来ず、腟壁の
開放は腟式操作のみでは困難であったため、腹腔鏡下に子宮に
切開を加えて腟式操作をガイドした。開放した腟腔の閉鎖を防
ぐ目的に術後2週目までカテーテルを留置した。術後経過に異常
は認めなかった。その後の月経時に軽度の子宮内留血腫は認め
るものの、月経痛は軽快した。術後8ヵ月目の現在も外来管理可
能な状態である。
105 (105)
106 (106)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
「研究会報告」
PWG(神奈川総合周産期センター連絡会)開催報告
神奈川県立こども医療センター産婦人科 石川 浩史
PWG とは、神奈川県内の周産期施設に勤務する産科医
師・新生児科医師・助産師・看護師などによる周産期の
症例検討・懇話会である。2014 年度末でこれまでの開催
が 75 回を数えた。通常は年 3 回(5 月頃、9 月頃、1 月頃)
開催している。
2009 年度まではこども医療センター、横浜市大、北里
大の3施設による semi-closed な会であったが、周産期情勢
の変化に伴い 2010 年度からは県内の総合周産期母子医療
センター5施設(上記3施設および東海大、聖マリアンナ
医大)による共同研究会という位置づけとし、名称も
PWG(Perinatal Working Group)は維持しつつも副名称を
「神奈川総合周産期センター連絡会」とした。実際には上
記5施設の医療従事者以外にも、その他の大学病院・一般
病院・看護教育機関の各職種や福祉行政職などが参加し
て行われている。産科医師、産科助産師・看護師、新生
児科医師・新生児科看護師が、立場の違いを超えて対等
に議論をするのが、この会の特徴である。
2014年度は右記の3回が開催された。
・第 73 回(担当:横浜市大)2014 年 5 月 31 日 神奈川県
総合医療会館
「満期の臨床的絨毛膜羊膜炎(分娩時の発熱)に対す
る対応」と題して症例呈示とディスカッションが行わ
れた。
・第 74 回(担当:北里大)2014 年 9 月 27 日 神奈川県総
合医療会館
「最近気になった墜落産症例∼搬送方法の問題点∼」
と題して症例呈示とディスカッションが行われた。
・第 75 回(担当:こども医療センター)2015 年 1 月 17 日
神奈川県総合医療会館
「高乳酸アシドーシスで診断・治療に難渋した一例」
と題して症例呈示とディスカッションが行われた。
2015年度は5月30日、9月19日、2016年1月23日(いず
れも15:30より神奈川県総合医療会館)に開催予定であ
る。詳細は事務局(こども医療センター産婦人科)まで
お問い合わせください。
平成27年9月(2015)
107 (107)
第407回 神奈川産科婦人科学会 学術講演会
日 時:平成26年9月13日(土)14:00∼
場 所:川崎日航ホテル
Ⅰ. 一般演題Ⅰ
済生会横浜市東部病院
宮内 里沙 長谷川明俊 崎山 明香
1.
当院におけるロボット支援腹腔鏡下広汎子
宮全摘術、骨盤リンパ節廓清術の導入
岩崎 真一 御子柴尚郎 伊藤めぐむ
秋葉 靖雄 渡邉 豊治 小西 康博
済生会横浜市東部病院
松下 瑞帆 岩c 真一 御子柴尚郎 AT Ⅲ欠損症に伴う深部静脈血栓合併妊娠
の1例
伊藤めぐむ 秋葉 靖雄 渡邉 豊治 横浜市大 市民総合医療センター
小西 康博
総合周産期母子医療センター
長谷川明俊 宮内 里沙 c山 明香 6.
三宅 優美 青木 茂 大森 春
2.
卵巣未熟奇形腫に peritoneal gliomatosis お
よびnodal gliomatosisを合併した1例
北澤 千恵 額賀沙季子 竹重 諒子
東海大
楢山 知紗 天津 慎子 柏木 寛史
長谷川良実 榎本紀美子 葛西 路
浅井 哲 池田 仁恵 信田 政子
笠井 絢子 倉澤健太郎 高橋 恒男
小林奈津子 進藤 亮輔 山本ゆり子
横浜市大
平津 猛 石本 人士 和泉俊一郎
平原 史樹
三上 幹男
7.
3.
サーベイランス中に卵巣腫大を認めた
BRCA2 遺伝子変異陽性 HBOC の1例
妊娠24週で外科的治療を要したHyperreactio
luteinalisの1例
横浜南共済病院
志村 茉衣 中西沙由理 平原 裕也
川崎市立井田病院
長嶋 亜巳 中島 泉 齊藤 真
中田さくら 植木 有紗
和泉 春奈 須郷 慶信 長瀬 寛美
4.
処女膜閉鎖症術後に卵管留膿症をきたし、
腹腔鏡下手術を施行した1例
飛鳥井邦雄
鈴木 毅 金 善惠 大河内 緑
帝王切開時に判明し、2期的に手術した癒
着胎盤の1例
竹田 貴 福武麻里絵 樋口 隆幸
湘南鎌倉総合病院
川崎市立川崎病院
8.
上野 和典 染谷 健一 岩田 壮吉
久保 唯奈 渡邉 零美 市田 知之
林 保良
鵜澤 芳枝 門間 美佳 福田 貴則
日下 剛 木幡 豊 井上 裕美
Ⅱ. 教育セミナー
Ⅳ. 一般演題Ⅲ
1.
社会医学的ハイリスク妊娠とその対策
講師: 水主川 純
(聖マリアンナ医科大学 産婦人科 講師)
9.
子宮体部Adenomatoid tumorの1例
川崎市立多摩病院
中澤 悠 大熊 克彰 朱 丞華
2.
精神疾患合併妊娠の管理方針と精神科紹介
のタイミング
上里 忠英 杉下 陽堂
聖医大
鈴木 直
講師: 丸田 智子
(聖マリアンナ医科大学 精神神経科 講師)
Ⅲ. 一般演題Ⅱ
10. 胎動減少・胎児機能不全を契機に発見され
た臍帯出血の1症例
横浜市大 市民総合医療センター
総合周産期母子医療センター
5.
加重型妊娠高血圧腎症帝王切開後に褐色細
胞腫と診断した1例
榎本紀美子 青木 茂 大森 春
北澤 千恵 額賀沙季子 竹重 諒子
108 (108)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
小林奈津子 三宅 優美 進藤 亮輔
Ⅴ. 初期臨床研修医発表
山本ゆり子 長谷川良実 葛西 路
笠井 絢子 倉澤健太郎 高橋 恒男
横浜市大
13. 妊娠35週で球麻痺を呈した1例
平原 史樹
北里大 周産母子成育医療センター
澤田 彩(研修医)
11. 肝動注が有効であった再発卵巣明細胞腺癌
の1例
聖医大
河野 照子 石川 隆三 島岡 享生 大西 庸子 金井 雄二 望月 純子 竹内 淳 戸澤 晃子 今西 博治
黄 志芳 波多野美穂 吉田 彩子
近藤 亜未 三浦 彩子 細沼 信示 松澤 晃代 恩田 貴志 海野 信也
14. 妊娠中期に診断した胎児腋窩リンパ管腫合
併妊娠の1例
大原 樹 津田 千春 近藤 春裕 日医大 武蔵小杉病院 女性診療科・産科
鈴木 直
小谷野麻耶(研修医)
深見 武彦
伊藤 友希 飯田 朝子 針金 幸代
12. 重症妊娠悪阻を契機に発症したWernicke脳
症の1例
川端 英恵 柿栖 睦実 山口 道子
間瀬 有里 輿石 太郎 川端伊久乃
平塚市民病院
松島 隆 土居 大祐 朝倉 啓文
吉政 佑之 上之薗美耶 簡野 康平
藤本 喜展 笠井 健児
第408回 神奈川産科婦人科学会 学術講演会
日 時:平成26年11月16日(日)13:00∼
場 所:平塚プレジール
Ⅰ. 一般演題Ⅰ
1.
4.
稀少部位の異所性妊娠に対する腹腔鏡手術
腹腔鏡下子宮筋腫核出術における新型モル
セレーターの使用経験
横浜総合病院
横浜市立市民病院
芥川 秀之 木林潤一郎 苅部 瑞穂
大井 由佳 片山 佳代 中村 祐子
美濃部奈美子 吉田 典生
清水麻衣子 関口 太 永井 康一
松崎結花里 石寺 由美 安藤 紀子
5.
茂田 博行 吉田 浩
抗がん剤治療に伴う血小板減少に対して加
味帰脾湯が有効だった1例
東海大
2.
分娩直後に呼吸不全を呈し甲状腺クリーゼ
と判明した1例
横浜市大 総合医療センター 総合周産期母子医療センター
宮武 典子 塚田ひとみ 西村 修
中沢 和美
Ⅱ. 初期臨床研修医発表
北澤 千恵 青木 茂 大森 春
三宅 優美 進藤 亮輔 山本ゆり子
原発病変と同側の卵巣に転移した悪性黒色
腫の1例
長谷川良実 榎本紀美子 葛西 路
けいゆう病院
竹重 諒子 額賀沙季子 小林奈津子
横浜市大
6.
笠井 絢子 高橋 恒男
森 祐介(研修医)
平原 史樹
清水 拓哉 眞木 順子 渡部 桂子
荒瀬 透
櫻井真由美 倉崎 昭子 秋好 順子
3.
異時性4重複癌として発見された子宮体癌の
1例
永井 宣久 持丸 佳之 中野眞佐男
清水 拓哉 荒瀬 透 眞木 順子
7.
MRI 所見により術前診断し得た腹腔内ガー
ゼ遺残の1例
渡部 桂子 櫻井真由美 倉崎 昭子
横浜市大 市民総合医療センター 婦人科
けいゆう病院
秋好 順子 永井 宣久 持丸 佳之
三澤 菜穂(研修医)
中野眞佐男
下向 麻由 平田 豪 古野 敦子 吉田 瑞穂 北川 雅一 岡田有紀子 吉田 浩
横浜市大
平原 史樹
平成27年9月(2015)
8.
109 (109)
急速遂娩術後の異常出血管理におけるピッ
トフォール
昭和大 藤が丘病院
沖野 尚秀(研修医)
中山 健
田内麻依子 中林 誠 竹中 慎
Ⅳ. 一般演題Ⅲ
15. 術前に軟性鏡にて膀胱内を観察した前置癒
着胎盤の2症例
聖医大
川原 泰 近藤 春裕 名古 崇史
松浦 玲 青木 弘子 市原 三義
秦 ひろか 鈴木季美枝 新橋成直子
横川 香 本間 進 佐々木 康
吉岡 伸人 高江 正道 五十嵐 豪
小川 公一
水主川 純 中村 真 河村 和弘
鈴木 直
9.
先天性骨形成不全症での未産婦子宮脱の1例
16. 脊髄損傷合併妊娠の1例
東海大 専門診療学系 産婦人科
村田奈緒子(研修医)
成田 篤哉
日医大 武蔵小杉病院 女性診療科・産科
中嶋 理恵 天津 慎子 篠田 真理
伊藤 友希 山口 道子 柿栖 睦実
西島 義博 鈴木 隆弘 石本 人士
飯田 朝子 佐藤 杏月 針金 幸代
和泉俊一郎 三上 幹男
川端 英恵 深見 武彦 川端伊久乃
松島 陸 土居 大祐 朝倉 啓文
Ⅲ. 一般演題Ⅱ
10. 子宮頸部嚢胞性病変の2例
横浜市大
平塚市民病院
堀田裕一朗 最上 多恵 川野 藍子
簡野 康平 上之薗美那 吉政 佑之
丸山 康世 松永 竜也 佐藤美紀子
藤本 喜展 笠井健児
榊原 秀也 宮城 悦子 平原 史樹
11. 分娩直後にけいれん発作を起こした1例
川崎市立多摩病院
黄 志芳 大熊 克彰 佐藤 佑
聖医大
17. 鼠径に生じた稀少部位子宮内膜症が原発と
考えられた腺癌の1例
18. 腹腔鏡手術で治療した卵管間質部妊娠の1
例
昭和大学 藤が丘病院
朱 丞華 杉下 陽堂
市原 三義 田内麻依子 中林 誠
鈴木 直
竹中 慎 松浦 玲 中山 健
青木 弘子 横川 香 本間 進
12. 妊娠 34 週に診断された筋強直性ジストロ
フィ一合併妊娠の1例
横浜南共済病院
佐々木 康 小川 公一
Ⅴ. 部会報告
中西沙由理 長瀬 寛美 平原 裕也
志村 茉衣 長嶋 亜巳 中島 泉
齊藤 真 和泉 春奈 須郷 慶喜
日本産婦人科学会委員会報告
三上 幹男(神奈川県産科婦人科医会)
飛鳥井邦雄
Ⅵ. 教育セミナー
13. 当院における早発卵巣不全症例に対する試み
聖医大
吉岡 伸人 岩端 秀之 高江 正道
洞下 由記 河村 和弘 鈴木 直
「精子・卵子提供と匿名性∼出自を知る権
利とはどういうものか」
久慈 直昭
14. 帝王切開術後レントゲンにて腹腔内異物と
の鑑別が困難であった1例
秦野赤十字病院
岡田 義之 竹中 慎 加藤 明澄
小田 力
病理検査 諸星 利男
(東京医大 産科・婦人科学教授)
110 (110)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
抄録
第407回 神奈川産科婦人科学会 学術講演会
こり、女性では乳癌、卵巣癌、腹膜癌のリスクを、男性では前
立腺癌、男性乳癌のリスクを増加させることが知られている。
当院におけるロボット支援腹腔鏡下広汎子宮全摘
術、骨盤リンパ節廓清術の導入
HBOC は全乳癌の3∼5%、全卵巣癌の10∼15%を占めると推測
されている。今回我々は HBOC と診断され、婦人科での定期的
な経過観察中に卵巣腫大を認めた症例を経験したので報告する。
済生会横浜市東部病院
症例は41歳、38歳で左乳癌、
(triple negative type)の既往があ
長谷川 明 俊 宮 内 里 沙 c 山 明 香
り、40 歳で対側乳癌を診断された。若年の両側乳癌、祖母に乳
松 下 瑞 帆 岩 c 真 一 御子柴 尚 郎
癌の家族歴があったため、HBOC が疑われ、主治医より当院家
伊 藤 めぐむ 秋 葉 靖 雄 渡 邉 豊 治
族性腫瘍相談外来(開設準備中)にカウンセリング依頼があっ
小 西 康 博
た。遺伝専門医によるカウンセリングが行われ、遺伝子検査を
施行した。検査結果は BRCA 2遺伝子に病的変異を認め、HBOC
【抄録】
ここ1∼2年の間に急速に日本でもロボット手術が行われるよ
と診断された。乳癌治療後、婦人科では半年ごとの経過観察を
行っていた。数年のうちにリスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)
うになってきている。ロボット手術の画像は3次元画像であたか
も考慮していた。経過中突然の性器出血を認め、近医にて60 mm
も腹腔内をじかに覗いて手術をしているかの様である。骨盤の深
の卵巣腫大を指摘され、当院受診した。精査では積極的に悪性
くは開腹手術では視野が悪いが、ロボット手術では鮮明な画像で
を疑う所見は認められなかったが、4ヵ月前の検査では腫大を認
拡大視することができ、細かな血管や神経の確認がしやすい。ま
めなかったこと、患者の強い希望もあり、悪性の鑑別目的に
た、自由に動く3本の鉗子で、手振れすることなく、繊細な内視
ATH+BSO を施行した。術後詳細な病理検討を行ったが、悪性
鏡手術が可能である。また、ラーニングカーブが早いといわれて
所見は認められなかった。
いる。現在、全世界で施されている手術件数は婦人科疾患が最も
多いことからも、婦人科手術に適しているのは明らかである。
NCCN のガイドラインによると BRCA 1、2遺伝子変異陽性女
性の健康管理として、計画的ながん検診、ホルモン剤などを用
2013年3月より当院の倫理委員会、手術ロボット運用プロジェ
いた化学予防、リスク低減手術が挙げられている。特に卵巣癌
クトの承認を得たうえで、患者さんにインフォームドコンセント
に対しては30歳から半年ごとの超音波検査と CA 125測定を勧め
をして、理解が得られた場合にロボット支援腹腔鏡下手術を施し
ているが、卵巣癌を早期発見できるというデータはないため、
ている。まず婦人科良性疾患でロボット手術の基本手技を習得し
RRSO が推奨されている。今回半年ごとの検査でも卵巣腫大を見
てから婦人科悪性腫瘍手術を導入している。現在の適応症例は子
つけることが困難であった症例を経験し、より慎重な経過観察
宮頸癌で進行期がⅠA∼ⅠB1、ⅡA1で神経温存が可能な症例や、
が必要であると思われた。
従来の腹腔鏡手術では困難と思われる子宮体癌のⅠ A 期の G1、
G2 症例に対してである。開腹手術と比べて視野が異なるが、基
本的な手術手順はあまり変わりなく可能である。開腹手術と比べ
手術時間がかかるが、入院期間はかなり短く、回復が早い。
加重型妊娠高血圧腎症帝王切開後に褐色細胞腫と診
断した1例
今後は、子宮頸癌手術は高い割合でロボット手術が可能であ
ると思われ、進行例ではCCRTを行えば、子宮頸癌の開腹手術が
済生会横浜市東部病院
だいぶ減少する可能性がある。また、傍大動脈リンパ節郭清に
宮 内 里 沙 長谷川 明 俊 崎 山 明 香
も取り組む予定である。
岩 崎 真 一 御子柴 尚 郎 伊 藤 めぐむ
秋 葉 靖 雄 渡 邉 豊 治 小 西 康 博
ロボットは現行内視鏡手術では技術的に困難な手技を可能に
する道具であり、内視鏡手術のスキルがあまりなくても、ロボ
ット支援にてスペシャリストしかできない内視鏡手術が可能と
なれば、医療の均霑化を推進する可能性がある。
【緒言】
褐色細胞腫は日本ではおよそ 3000 人と推計されている希少疾
患であり、妊娠に合併することは非常にまれである。今回我々
は加重型妊娠高血圧腎症に対し 32 週で帝王切開を施行、その後
サーベイランス中に卵巣腫大を認めた BRCA2 遺
伝子変異陽性HBOCの1例
の精査にて褐色細胞腫と診断した症例を経験したので報告する。
【症例】
35 歳、0 経産 0 経妊、妊娠 9 週で血圧 158 /85mmHg であった。
川崎市立井田病院 中 田 さくら 植 木 有 紗
自宅血圧は120-140/70-90 mmHg のため、投薬なく2週間に1度
の外来通院となっていた。30週の健診時、血圧255/130 mmHg、
尿蛋白1+出現認め、当院紹介初診となった。昇圧傾向を認め32
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)は DNA 損傷修復に関わる
週 3 日に入院とした。入院時の血圧は 181 /114 mmHg、脈拍
BRCA 1 あるいは BRCA 2 遺伝子の生殖細胞系列変異が原因でお
110/分、1日尿蛋白4.69 g/日、発汗著明、下腿浮腫著明であっ
平成27年9月(2015)
111 (111)
た。EFBW 1914 g(32週4日相当)AP 3 cmであった。加重型妊
過観察を要するため患者に対する精神的サポートを必要とし、
娠高血圧腎症として32週4日に帝王切開とした。児は1842 g、Ap
ある程度の治療見込みを提示できることが重要となる。
8/9、NICU 入院し酸素投与のみで良好に経過した。本人も術後
経過良好にて、降圧剤処方の上退院した。退院 1 週間後も高血
圧・頻脈持続するため、内分泌疾患の可能性を強く疑い内科依
肝動注が有効であった再発卵巣明細胞腺癌の1例
頼とした。尿中NA 2941.2μg/日と高値、CT にて左副腎に腫瘍
性病変・ 131 I-MIBG シンチグラフィで腫瘍に取り込みあり、褐色
細胞腫と診断し腫瘍摘出術施行した。
【結論】
聖医大
竹 内 淳 戸 澤 晃 子 今 西 博 治
黄 志 芳 吉 田 彩 子 波多野 美 穂
褐色細胞腫は母児ともに予後不良な経過をたどる症例が多く
近 藤 亜 未 三 浦 彩 子 細 沼 信 示 報告されている。稀な疾患ではあるが、変動する極端な高血圧
大 原 樹 津 田 千 春 近 藤 春 裕 や発汗など特徴的な臨床症状を示し、妊娠早期での診断も可能
鈴 木 直
である。高血圧合併妊娠では褐色細胞腫を含めた2次性高血圧を
念頭におく必要がある。
【緒言】
卵巣明細胞腺癌の再発症例は抗癌剤耐性で、予後不良である。
また、婦人科癌の肝転移は肝機能障害や疼痛の原因となり、全
帝王切開時に判明し、2期的に手術した癒着胎盤の1例
身状態の悪化につながることから転移性肝腫瘍の制御が望まれ
る。今回、卵巣明細胞腺癌の肝再発症例に対し、肝動注化学療
湘南鎌倉総合病院
久 保 唯 奈 渡 邉 零 美 市 田 知 之
鵜 澤 芳 枝 門 間 美 佳 福 田 貴 則
日 下 剛 木 幡 豊 井 上 裕 美
法(肝動注)を繰り返し施行することで長期生存が可能となっ
ている症例を経験した。
【症例】
64歳の女性、2回経妊1回経産。40歳時に子宮筋腫と右卵巣嚢
腫のため腹式単純子宮全摘術と右付属器切除術を施行の既往が
【緒言】
あった。腹部膨満感、下血を主訴に前医受診。WBC 17000 /μl、
癒着胎盤の発生率は前置癒着胎盤1/2500、常位癒着胎盤1/
CRP 40 mg/dlと炎症高値であり骨盤内腹膜炎の疑いで当院へ紹
22000と言われるが、近年の帝王切開率の増加に伴い増加傾向で
介受診となった。腹部造影 CT で巨大な骨盤内膿瘍を認め、緊急
あると考えられている。その臨床像は多彩であり管理法は統一
に左付属器切除術と S 状結腸切除術を施行した。病理結果から
されていない。今回帝王切開時に常位癒着胎盤を認め、子宮内
は卵巣癌Ⅰc(b)期(明細胞癌)pT1c(b)NxM0 となった。術後 1
に全て残したまま閉創し二期的に子宮摘出に至った症例を経験
年 7 ヵ月に CA 19-9 の上昇と共にみられた肝再発に対し肝動注
したので報告する。
【症例】
37歳、2経妊0経産、2回人工妊娠中絶。前医で妊娠経過観察中、
38週頃より血圧上昇、蛋白尿を認め39週3日で当院紹介受診。妊
娠高血圧腎症として翌日より分娩誘発開始したが、39週5日で分
(one shot法)を2回施行し、腫瘍縮小を認めたため、右総大腿動
脈にリザーバーを留置した。その後定期的に 23 回の肝動注(リ
ザーバー法)を施行し、肝再発の制御をし得た。現在術後 3 年 6
ヵ月が経過している。
【考察】
娩進行停止にて帝王切開となった。児娩出までは問題なかったが、
大腸癌再発に対し、全身化学療法とのランダム化比較試験で
胎盤を娩出しようと牽引した際抵抗あり体部後壁広範囲の癒着所
は、腫瘍縮小効果で明らかに有効であった報告がある。また、
見認めたため剥離を断念。出血をほとんど認めなかったため胎盤
乳癌・膵癌・婦人科癌の肝転移に対して肝動注が予後改善の報
を子宮内に全て残したまま閉腹した。術後、治療の選択肢として
告例が散在されている。卵巣明細胞腺癌の肝転移は予後不良で
経過観察、子宮動脈塞栓術(以下 UAE)
、メソトレキセート投与
あり、確立した治療がない。肝動注は局所療法の1つであり、転
(以下 MTX)
、子宮摘出術を提示したが、待機的子宮摘出を希望
移性肝腫瘍の腫瘍縮小に有用であると考えられた。転移性肝腫
したため1ヵ月後の手術予定とし、外来通院とした。抗生物質は
瘍の局所療法として肝動注の有効性・長期生存の可能性が示唆
第2世代セフェムを1週間内服した。術後20日目に微熱、倦怠感、
された。今後更に症例を集積し、肝動注の有効性や安全性につ
悪臭悪露の訴えあり、採血上は炎症反応の上昇認めなかったが予
いての検討が必要である。
定を早めて腹式単純子宮全摘出術施行した。遺残胎盤は鵞卵大ほ
どに萎縮していたが癒着の状態は変化なかった。病理所見は胎盤
絨毛が子宮筋層に直接癒着し、筋層への侵入はなかった。胎盤の
重症妊娠悪阻を契機に発症したWernicke脳症の1例
大部分に変性、壊死、炎症細胞浸潤を認めた。
【考察】
UAE や MTX などによる保存的治療で後に生児を得た症例が
報告されている。残した癒着胎盤の血流が遺残量や止血法に関
平塚市民病院
吉 政 佑 之 上之薗 美 耶 簡 野 康 平
藤 本 喜 展 笠 井 健 児
わらず約2ヵ月で消失するという報告もある。保存的治療を選択
する場合には出血・感染対策が必要であると共に、長期間の経
Wernicke脳症とは、意識障害・小脳失調・眼球運動障害を三主
112 (112)
徴とする脳疾患で、Vit. B1 欠乏が原因と考えられている。記銘
力障害・逆行性健忘・作話などを特徴とする Korsakoff 症候群を
認めた場合、治療抵抗性で神経学的予後は非常に不良となる。
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
なり、徐々に改善へ向かっている。
【考察】
球麻痺による呼吸困難が初発症状であった抗 NMDA 受容体脳
今回、我々は重症妊娠悪阻を契機に発症した Wernicke 脳症の一
炎の一例を経験した。極めて稀な疾患で、症状が非典型的であ
例を経験したため、報告する。症例は29歳、0経妊0経産。前医
ったため診断に苦慮した。妊娠中に呼吸困難をきたす疾患は呼
にて、タイミング法で妊娠成立。妊娠4週から悪阻出現。その後
吸循環器疾患を第一に考えるが、今回のような神経疾患も念頭
も尿ケトン3+は持続していたが、健診日のみにビタミン付加な
におく必要があると思われる。
く細胞外液のみを補液されていた。妊娠 14 週に短期記憶障害と
見当識障害、歩行困難、両下肢浮腫を主訴に前医受診。
Wernicke-Korsakoff 症候群を疑われ、当院へ転院搬送となった。
体重は妊娠前から 8 kg 減少しており、来院時には眼球運動障害
妊娠中期に診断した胎児腋窩リンパ管腫合併妊娠の
1例
も認め三主徴を全て満たしていることから、Wernicke 脳症と診
断した。直ちに大量ビタミン補充及び補液療法を開始した。妊
日医大 武蔵小杉病院 女性診療科・産科
娠 20 週の退院時は、歩行は可能となり、眼球運動障害も消失し
小谷野麻耶(研修医)
深 見 武 彦 たが、見当識障害や記銘力障害はほとんど回復を認めなかった。
伊 藤 友 希 飯 田 朝 子 針 金 幸 代
今後も日常生活の見守りが必要であり、育児は全面的に家族の
川 端 英 恵 柿 栖 睦 実 山 口 道 子
サポートが不可欠と考えられ、実家近くの病院へ転院し分娩予
間 瀬 有 里 輿 石 太 郎 川 端 伊久乃
定である。なお、胎児は超音波上では明らかな異常を認めなか
松 島 隆 土 居 大 祐 朝 倉 啓 文
った。Wernicke 脳症は神経学的・社会的に非常に予後不良な疾
患である。妊娠悪阻が契機となり得るため、ビタミン補充によ
る予防が肝要である。また、重症妊娠悪阻に一徴を認めた時点
でWernicke 脳症を鑑別とし、早急な治療を必要とする。
【緒言】
リンパ管腫は先天的なリンパ管形成異常により、拡張したリ
ンパ管が大小の嚢胞性病変を呈する良性の腫瘤である。リンパ
管腫の75%は頸部に発生し、頸部以外のリンパ管腫の20%は腋
窩に、残りの5%はその他の部位に派生する。腋窩リンパ管腫は
妊娠35週で球麻痺を呈した1例
分娩の障害となることもあり注意を要する。今回我々は妊娠中
期に診断した胎児腋窩リンパ管腫合併妊娠の 1 例を経験したの
北里大 周産母子成育医療センター
澤 田 彩 松 澤 晃 代 河 野 照 子
石 川 隆 三 島 岡 享 生 大 西 庸 子
で、若干の文献的考察を含め報告する。
【症例】
37歳1経妊1経産(35歳、妊娠39週にて正常分娩)
。家族歴・
金 井 雄 二 望 月 純 子 恩 田 貴 志 既往歴に特記すべき異常なし。現病歴:患者は顕微授精により妊
海 野 信 也
娠成立後当院に紹介され、妊娠7週0日から当科で妊娠経過をフ
ォローアップされた。妊娠 21 週の胎児エコースクリーニングで
【症例】
異常は見られなかった。妊娠 26 週の妊婦健診時に、胎児右腋窩
37 歳、8 経妊 5 経産。25 週に 40 度の発熱を認めた。妊娠 33 週
から側腹部にかけての体表に8.5×5.5×3.5 cm多嚢胞性の腫瘤が
より右上肢のしびれ、顔面の感覚低下を自覚していた。妊娠 34
認められた。カラードプラでは嚢胞内の血流は検出されず、胎児
週6日呼吸困難、食事・水分摂取不良にて精査入院となった。各
リンパ管腫と診断した。その他に合併奇形は認められなかった。
種検査で有意な所見は認められなかった。妊娠35週2日(入院3
その後は胎児発育、羊水量、CTG 所見も異常なく経過した。妊
日目)呼吸困難が持続し食事が摂取できず、会話は筆談、歩行
娠 35 週に MRI を施行し腫瘤内容・部位・大きさを再評価した。
も不可能になった。顔面筋の左右差から神経疾患が疑われたた
胎児の発育とともにリンパ管腫も徐々に増大し、最終的な腫瘍径
め当院神経内科を受診したところ、球麻痺・顔面神経麻痺・呼
は11×6.5×5.5 cmに至った。分娩様式は、腫瘤による胎児躯幹
吸筋麻痺が認められた。ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、
の娩出困難(肩甲難産)や娩出時の圧迫による腫瘤破綻の危険を
脳幹脳炎を疑い、母体加療のため termination の方針とし、35週2
考慮し、妊娠38週5日に帝王切開を予定した。しかし、妊娠38週
日(入院3日目)に全身麻酔下で緊急帝王切開術を施行、2954 g、
3日に前期破水にて入院し、その後急速に分娩進行し入院後1時
Apgar Score 8点(1分)/9点(5分)の女児を娩出した。臍帯動脈
間内で経腟分娩に至った。児頭娩出後の肩甲・躯幹の娩出もスム
血 pH は7.27で、両側卵巣は肉眼的に正常であった。術後は抜管
ーズであった。児は体重3,494 g、男児、アプガースコア8/9(1
せずに ICU に入室した。ICU 入室後も呼吸状態は改善しないた
分値/5分値)
、臍帯動脈血 pH 7.313であった。児は出生1ヵ月後
め気管切開した。ICU 入室後から急に笑い出すなどの感情失禁
や腸蠕動運動低下、徐脈などの自律神経症状がみられた。精査
として各種抗体検査、神経伝導速度検査、頭部 MRI を施行した
にOK 432による硬化療法が行われ、現在経過観察中である。
【考察】
文献によると10 cm以上の胎児腋窩リンパ管腫では分娩時のト
ところ、術後17日目に抗 NMDA 受容体陽性であることが判明し、
ラブル(肩甲難産や子宮破裂)の報告が見られ、8 cm 以上の症
抗 NMDA 受容体脳炎と確定診断した。確定診断後、エンドキサ
例では帝王切開が行われることが多い。胎児腋窩リンパ管腫を
ンパルス900 mg/日を施行し、現在術後約2ヵ月で独歩も可能と
妊娠中に診断することは、分娩様式を考慮する一因となりうる。
平成27年9月(2015)
113 (113)
第408回 神奈川産科婦人科学会 学術講演会
【緒言】
妊娠中の急性呼吸不全は0.1%と稀であり、その原因として肺
稀少部位の異所性妊娠に対する腹腔鏡手術
水腫、市中肺炎、誤嚥性肺炎、肺塞栓症、喘息、羊水塞栓、静
脈空気塞栓などが報告されている。甲状腺クリーゼが原因で分
横浜市立市民病院
娩直後から呼吸不全をおこした報告はほとんどない。今回、甲
大 井 由 佳 片 山 佳 代 中 村 祐 子
状腺クリーゼが原因で急性呼吸不全をきたした症例を経験した
清 水 麻衣子 関 口 太 永 井 康 一
ので報告する。
松 崎 結花里 石 寺 由 美 安 藤 紀 子
茂 田 博 行 吉 田 浩
【症例】
41歳、1経妊1経産。甲状腺機能亢進症に関する既往歴はなし。
妊娠 12 週頃より、血圧が 140-150 / 80-90 mmHg であり、動悸、
異所性妊娠の部位は、卵管膨大部が 90 %、卵管采や卵管峡部
倦怠感の自覚があった。自然経過で妊娠23週には115/68 mmHg
は 2-3 %、卵管間質部や卵巣は 1-2 %、その他の腹膜や子宮筋層
に改善したが、妊娠28週より血圧140-150/80-90 mmHgで経過し
内、帝王切開瘢痕部、頸管はそれぞれ1%以下とされる。今回は、
た。妊娠中の尿蛋白は陰性であった。また、妊娠 23 週までに 8
希少部位妊娠の腹腔鏡手術の手技について報告する。
kg 体重が減少し、妊娠23週-36週に7 kg の体重増加を認めた。妊
卵管間質部妊娠の症例は、術前の超音波で間質部妊娠の診断が
娠 36 週 5 日に破水のため入院し、妊娠 36 週 6 日に 1994 g の男児、
ついており卵管間質部楔状切開術を施行した。バソプレッシンの
Apgar score 8(1分)
、9(5分)を経腟分娩した。陣痛開始から分娩
子宮筋層への局所注射、子宮筋層の0号PDS糸による縫合が重要
までの血圧は 140 /70-90 mmHg、脈拍は 90-110 /min であった。
である。卵巣妊娠の症例は術前に卵管妊娠と診断していたが術中
分娩直後より急性呼吸不全が出現し、酸素投与を開始し、分娩9
所見で卵巣妊娠と診断した。バソプレッシン注射が可能であれば
分後に収縮期血圧が80 mmHg、SpO2 50%、意識障害が出現した
出血コントロールに有用である。絨毛の残存がないように十分に
ため、肺塞栓症が疑われ当院へ救急搬送された.来院時、意識
胎嚢を切除し、バイポーラで切除部位を凝固止血した。ダグラス
障害を認め、血圧129/90 mmHg、脈拍170/min、O2 10 L投与
窩腹膜妊娠の症例も、術前は卵管妊娠と診断していたが術中両側
下で SpO2 93%であった。胸部 CT 検査で両側肺野に浸潤陰の像
卵管に異常は認めず、腹腔内血腫を認めたのみであった。血腫内
を認め急性肺水腫による呼吸不全と診断した。ICU入室後、体温
には肉眼的に絨毛を認めなかったが、血腫の一部がダグラス窩腹
38.1℃、脈拍数120-140/min、BNP 128.7 pg/ml、心エコーで心駆
膜に癒着していたことからそこに胎嚢が存在したと判断した。十
出率48%、壁全体的に軽度収縮能低下を示した。TRAb 7.3IU/L、
分な腹腔内の観察が、卵管切除を行わずに腹腔内血腫を吸引する
TSH<0.005μIU/ml、FT 3 5.57 pg/ml、FT4 2.59 ng/dlと甲状腺
に留めるという判断に重要であった。また、当院では横行結腸の
機能亢進症、左眼球の突出、頸部エコー検査で甲状腺の両葉の
頭側に着床した大網妊娠を診断し、中直腸動脈から剥離し胎嚢切
腫大を認めた。甲状腺クリーゼによる呼吸不全と診断した。ヨ
除術を施行した経験がある。安易に大網部分切除を行う前に、着
ウ化カリウム(50 mg /日)、ハイドロコートン(500 mg /日)、
床部位を注意深く確認することが重要である。
hANP(0.01 μg /kg /min)、プロプラノロール(30 mg /日)、プ
帝王切開瘢痕部妊娠に対する腹腔鏡手術は当院では未経験だ
が、腹腔鏡下で瘢痕部を切除した報告も認める。妊孕性温存を
望む場合には考慮する方法である。
異所性妊娠の多くが卵管妊娠であり、腹腔鏡下卵管切除術は
ロピオチルウラシル(300 mg/日)を投与した。全身状態は改善
し、甲状腺機能は正常化したため分娩後18日目に退院した。
【考察】
分娩直後に生じる呼吸不全として、肺塞栓症、羊水塞栓症など
比較的容易な手術であることから一般的な手技となっているが、
が最も考慮されるが、鑑別診断の一つとして甲状腺クリーゼを考
術前に卵管妊娠と診断していても着床部位が卵管以外であるこ
慮する必要がある。妊娠中は末梢血管抵抗の低下、心拍出量の増
とは時々経験する。異所性妊娠の手術は夜間休日に行われるこ
加することから心不全を引き起しやすい。また、分娩直後は静脈
とも多く、着床部位が卵管でなかった場合の対応方法を十分に
還流量の増加により心負荷が増大するため、甲状腺中毒状態の妊
理解しておく必要がある。
婦にとって分娩は甲状腺クリーゼの高リスク因子である。
分娩直後に呼吸不全を呈し甲状腺クリーゼと判明し
た1例
異時性4重複癌として発見された子宮体癌の1例
けいゆう病院
横浜市大 総合医療センター
周産期母子医療センター
清 水 拓 哉 荒 瀬 透 眞 木 順 子
北 澤 千 恵 青 木 茂 大 森 春
渡 部 桂 子 櫻 井 真由美 倉 崎 昭 子
竹 重 諒 子 額 賀 沙季子 小 林 奈津子
秋 好 順 子 永 井 宣 久 持 丸 佳 之
三 宅 優 美 進 藤 亮 輔 山 本 ゆり子
中 野 眞佐男
榎 本 紀美子 長谷川 良 実 葛 西 路
笠 井 絢 子 高 橋 恒 男
横浜市大
平 原 史 樹
【緒言】
近年、癌に対する画像診断及び治療方法の向上や社会の高齢
化に伴い、重複癌の報告が増加している。今回、5年という短期
114 (114)
間に4重複癌を発症した症例を経験したので報告する。
【症例】
55 歳、2 経妊 2 経産。家系内に癌の発症例は認めず。5 年前に
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
い②手術終盤における術者の疲労・ストレスが軽減される③リ
ユース製品でエコである④外筒が 2 種類(12 mm、15 mm)から
選択できる、などが考えられた。
上行結腸癌を発症し、当院外科にて加療した。外来管理中に肺
また、FDA 勧告以降は当院においてもモルセレーターを使用
癌、直腸癌を発症したため当院外科にて加療している。術後の
しない方法(小開腹・臍・腟など)を第一に考えるが、それら
フォローアップの CT 検査で内膜肥厚を指摘されたため、当科へ
においても課題(組織飛散のリスクを含む)・適応限界がある
紹介受診となった。検査の結果、腫瘍マーカーは陰性であり、
のが現状である。
子宮内膜組織診にて Grade 1相当の類内膜腺癌であった。MRI 検
【結語】
査にて子宮体癌(筋層浸潤1/2以下、頸管浸潤なし)を指摘さ
器具自体の問題点や飛散リスクへの対応の課題は残されては
れた。以上より、拡大単純子宮全摘術、両側付属器摘出術、骨
いるが、今後も子宮筋腫核出・回収の手段の選択肢の一つとな
盤リンパ節郭清を施行した。病理検査では類内膜腺癌(筋層浸
りうるのではないかと考える。
潤1/2以下)
、Grade 1であった。Stage IAであることから外来で
経過観察の方針とした。
【考察】
重複癌の発生機序には遺伝的要因、環境因子、体質、免疫能
抗がん剤治療に伴う血小板減少に対して加味帰脾湯
が有効だった1例
の低下、放射線療法、化学療法などが関与していると報告され
ている。全悪性癌における重複癌の頻度は近年、10 %を超して
東海大 婦人科
いるものの、4重複癌の頻度は 0.037 %と極めて稀である。本症
宮 武 典 子 塚 田 ひとみ 西 村 修
例では家族性に癌は認めていないが、Lynch 症候群の1次スクリ
中 沢 和 美
ーニング検査である改訂ベセズダ基準を満たしており、Lynch症
候群も考慮すべきと思われる。今後は、患者や家族の希望があ
れば、遺伝子検査も検討していきたい。
【緒言】
抗がん剤投与による骨髄抑制は重大な副作用であり、血小板
減少に対する有効な治療薬はない。今回、卵巣癌初回化学療法
TC(PTX+CBDCA)療法の際には血小板減少をきたしたが、再
腹腔鏡下子宮筋腫核出術における新型モルセレータ
ーの使用経験
発卵巣癌化学療法の際には、加味帰脾湯を投与し血小板数の改
善を認めた症例を経験したので報告する。
【症例】
横浜総合病院
46歳、0経妊0経産卵巣癌(粘液性腺癌+明細胞腺癌)
、stageⅡc、
芥 川 秀 之 木 林 潤一郎 苅 部 瑞 穂
pT 2 cN0M0。術後 IP(CDDP100 mg/m2)+ TC 療法を6クール施
美濃部 奈美子 吉 田 典 生
行した際、化学療法に伴う血小板減少が著明(最低血小板数5.4
万個/μL)で抗がん剤投与量の減量や投与の延期を要した。術後
【緒言】
3年2ヵ月後、CT にて腟断端に2.5 cm大の腫瘍再発を認め腫瘍切
平成 26 年 4 月、米国食品医薬品局(FDA)より電動モルセレ
除術を施行した。病理結果はMETASTATIC ADENOCARCINOMA
ーターを用いた細切除去術の安全性に関する勧告があった。こ
であり、再発に対して加味帰脾湯内服(7.5 g、分 3)併用で TC
れを受けて、ETHICON 製モルセレーターの販売は中止となった
療法を 6 クール施行した。6 クール施行の間、抗がん剤投与量の
が、今回 KARL STORZ 社製モルセレーター(SAWALHEⅡスー
減量や投与の延期を必要とする血小板減少はなかった。抗癌剤
パーカットモルセレーター R)が発売され使用経験を得たので手
投与直前の血小板数及び投与後の最低血小板数を比較して減少
術動画を供覧し報告する。
【症例1】
44 歳 0 経妊 0 経産未婚。最大径 84 mm 大の多発子宮筋腫。3 ポ
ートで手術施行し、筋腫計4個(検体重量485 g)を核出。
【症例2】
35 歳 0 経妊 0 経産未婚。MRI 画像上(GnRHa 3 回投与前)は、
臍を超える最大径10 cm弱の多発子宮筋腫。4ポートで手術施行、
筋腫計17個(検体重量350 g)を核出。
【考察】
今回の使用経験による印象として、①外筒の庇(ピーリング
エフェクト機能)が長めで、腹腔内挿入時に腹膜に引っかかり
やすい②カッティングチューブの出し入れやロック操作が円滑
でないことがある③組織の牽引力が強いとモーターが停止し、
トルクが伝わりにくい、などがあった。一方、利点としては、
①多発や巨大子宮筋腫では、他の回収方法よりも時間効率が良
率を算出したが、加味帰脾湯内服後で減少率も改善していた。
【考察】
化学療法に伴う血小板減少に対して治療薬がない現状におい
て、加味帰脾湯は血小板数の改善が期待できる薬剤である。ま
た血小板数の改善により、化学療法の投与量・投与間隔に変更
なく遂行できる可能性がある。さらなる症例の集積により、有
意差等を検討する必要がある。
【結語】
加味帰脾湯は血小板数の改善だけでなく、抗がん剤に伴う嘔
気・不眠等の症状が軽減でき、化学療法を施行する上で有益な
漢方であると考えられた。
平成27年9月(2015)
115 (115)
原発病変と同側の卵巣に転移した悪性黒色腫の1例
MRI 所見により術前診断し得た腹腔内ガーゼ遺残の
1例
けいゆう病院
森 祐 介(研修医)
荒 瀬 透
横浜市大 市民総合医療センター 婦人科
清 水 拓 哉 眞 木 順 子 渡 部 桂 子
三 澤 菜 穂(研修医)
吉 田 瑞 穂 櫻 井 真由美 倉 c 昭 子 秋 好 順 子
下 向 麻 由 平 田 豪 古 野 敦 子
永 井 宣 久 持 丸 佳 之 中 野 眞佐男
北 川 雅 一 岡 田 有紀子 吉 田 浩
横浜市大
平 原 史 樹
【緒言】
悪性黒色腫は皮膚や口腔粘膜などに見られるメラノサイト由
来の予後不良な悪性腫瘍であり、婦人科領域では稀に外陰部や
腹腔内に遺残したガーゼは無菌性の膿瘍や肉芽腫を形成し、
腟に発生する。今回左鼻腔粘膜を初発病変とし、重粒子線及び
腫瘤(ガーゼオーマ)となることがある。今回我々は画像検査
抗癌剤による治療後に左卵巣転移をきたした悪性黒色腫の一例
にて術前診断し得たガーゼオーマの一例を経験したので報告す
を報告する。
る。
【症例】
症例は52歳2経妊2経産で18年前に選択的帝王切開術、15年前
65歳、0経妊0経産婦。子宮筋腫のため48歳時に子宮全摘の既
に子宮破裂の診断で緊急帝王切開術の既往があった。15 年前の
往がある。63 歳時に鼻出血を主訴に当院耳鼻咽喉科を受診。病
術後、4 cm 大の卵巣腫瘍を指摘されフォローされていた。前医
理検査で悪性黒色腫の診断となり、重粒子線治療及び化学療法
を受診した際も同様の腫瘍を認め、精査加療目的に当院紹介受
(DAV療法)を5コース施行し経過観察していた。初回治療から
1年半後、腹部 CT 検査を施行したところ、大量の血性腹水及び
骨盤内腫瘍を認めたため当科診療依頼となった。
診となった。
来院時、腫瘍マーカーは高値を認めなかった。内診所見でダ
グラス窩に可動性不良の硬い腫瘤を触知し、経腟エコーでダグ
骨盤腔 MRI 検査や PET-CT 検査にて左卵巣に限局した悪性腫
ラス窩に 4 cm 大の充実性腫瘍を認めた。MRI では子宮背側に 5
瘍を疑う所見を認め、ダグラス窩穿刺による腹水細胞診ではメ
cm 大の境界明瞭な右付属器に接した腫瘤性病変が認められ、T 2
ラノサイトを貪食したマクフロファージを認めた。腫瘍の同定
強調像で辺縁は強い低信号、内部は主に低信号で一部線状に高
及び QOL の改善を目的とし、両側付属器切除術及び大網切除術
信号であった。以上より右卵巣腫瘍またはガーゼオーマの疑い
を施行した。腫瘍は免疫組織化学染色で S-100、HMB 45 といっ
で、腹腔鏡下腫瘍摘出術の方針となった。摘出した腫瘍は、内
た悪性黒色腫のマーカーが陽性であり、また成熟嚢胞奇形腫な
部にガーゼと思われる線維と異物を交える壊死性物質がみられ
ど卵巣原発を示唆する所見が認められないことから、転移性悪
た。異物性肉芽腫(ガーゼオーマ)の診断となった。
性黒色腫の診断となった。右卵巣は正常所見であった。術後は
ガーゼオーマは、周囲組織との癒着により腸閉塞、消化管や
ダカルバジン単剤療法を4コース施行したが、左骨盤内に再発所
膀胱などの腹腔内臓器に圧迫壊死穿通を起こすこともある。そ
見を認めたため治療終了。その後近医にて経過観察中に下血症
のため、腫瘤性病変の鑑別としてガーゼオーマを疑い、治療へ
状を認め、当科初診から11ヵ月後に死亡となった。
つなげることが大切である。特徴的な画像所見は、超音波では
【考察】
強い高エコー部分を含み、鮮明な音響陰影をひく。また、CT で
悪性腫瘍では同側の遠隔転移は確率的にも偶然と判断される
は線状の高濃度物質が特徴であり、膿瘍内部の不整な高濃度構
ことが多いが、本症例では左卵巣腫瘍の直腸漿膜への浸潤は正
造が、嚢胞や他の原因で生じた膿瘍との鑑別点となる。MRI で
中から左側に限局しており、さらに再発腫瘍も左側に限局して
は T 1 強調像で低信号を示し、T 2 強調像では線維成分やガーゼ
いたことから、左右の極性を有している印象を強く受けた。個
自体を反映して低信号となる。または、蛋白成分の多い液体の
体発生の分野のように悪性腫瘍でも左右極性を規定する分子が
貯留により高信号となる。本症例でも各画像を振り返ってみる
解明されれば、診断・治療戦略にも大いに寄与できることから、
とガーゼオーマに特徴的な所見を示していた。
示唆に富んだ症例であった。
ガーゼオーマは医原性疾患であり、重篤な合併症を来たすこ
ともある。多様ではあるが、特徴的な画像所見があるため、そ
の所見を見逃さず適切に診断することが必要と考えた。
116 (116)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
子宮頸部嚢胞性病変の2例
胞発育はどの程度の症例に認められ採卵に至るのか、②その際に
平塚市民病院 るのかについて当院の POI 症例を対象とし検討した。798例の POI
採取できた卵子による胚の妊娠率は、卵巣機能低下に伴い低下す
簡 野 康 平 上之薗 美 那 吉 政 佑 之
症例に当院独自のプロトコールで過排卵刺激を行い、25.1%で卵
藤 本 喜 展 笠 井 健 児
胞発育し採卵に至った。次に得られた分割胚の胚移植のおける妊
娠率を検討した。分割期胚をホルモン補充下に行った POI 群45周
【緒言】
期、その他群248周期の妊娠率は、それぞれ約20%であり、各群間
子宮頸部嚢胞性病変を示す疾患はほとんどが良性疾患である
に有意差は認めなかった。年齢別に比較しても同様の結果が得ら
が、時に子宮頸部悪性腺腫との鑑別が困難である場合がある。
れた。
以上より、
POI 症例においても不妊治療を諦める必要はなく、
今回、術前に悪性腺腫の可能性も示唆された子宮頸部嚢胞性病
患者の希望により積極的な治療を検討するべきであると考える。
変の2症例を経験したので報告する。
【症例】
症例 1 : 53 歳、5 経妊 3 経産。既往歴に乳癌、胃癌。胃癌手術
時に右付属器摘出したが悪性所見なし。健診の超音波検査で子
帝王切開術後レントゲンにて腹腔内異物との鑑別が
困難であった1例
宮頸部嚢胞性病変を指摘され受診。腟鏡診で水様性・粘液性帯
下あり、経腟超音波で子宮頸部に大小不同の嚢胞多数あり。子
秦野赤十字病院
宮頸部細胞診はNILM、頸管キュレット施行するも組織採取でき
岡 田 義 之 竹 中 慎 加 藤 明 澄
ず。MRI では T 2強調画像で高信号の大小不同の嚢胞が頸部に存
小 田 力
在し、鑑別に悪性腺腫(adenoma malignum あるいは minimal
病理検査 諸 星 利 男
deviation adenocarcinoma: MDA)、分葉状頸管腺過形成(Lobular
endocervical glandular hyperplasia: LEGH)
、ナボット嚢胞が考えら
【緒言】
れた。診断目的に円錐切除を施行、病理結果はナボット嚢胞で
帝王切開等腹部手術後には、腹腔内にガーゼ等の異物遺残が
あった。追加で腹式単純子宮全摘術+左付属器切除を施行。最終
ないかの最終確認として腹部レントゲンを撮影することがよく
病理結果もナボット嚢胞であった。
ある。その際に小さな結節影を認め、判断に苦慮することがあ
症例 2 : 52 歳、1 経妊 1 経産。既往歴なし。子宮頸がん検診で
AGC-NOSを指摘、また経腟超音波で大小不同の嚢胞多数を指摘
され受診。腟鏡診で水様性・粘液性帯下認めず。MRIでは T 2強
る。今回、帝王切開術後レントゲンにて異物かの判断に苦慮し、
再開腹し、異物をスムーズに摘出した1例を報告する。
【症例】
調画像で高信号の大小不同の嚢胞が頸部に多数あり最大 4 cm 大
35歳1回経妊0回経産。既往として、32歳で虫垂粘液腫、子宮
の嚢胞も認めた。鑑別に MDA、LEGH、ナボット嚢胞が考えら
内膜症に対し、腹腔鏡下虫垂切除術、内膜症剥離術施行してお
れた。診断目的に円錐切除を施行、病理結果は分 LEGH であっ
り、内膜症術後の 2 年後に子宮卵管造影を行い、明らかな狭窄、
た。追加で腹式単純子宮全摘術+両側付属器切除を施行。最終病
異常は認めなかった。その後自然妊娠にて、妊娠 37 週 5 日に低
理結果は LEGH であり MDA を示唆する所見は認めなかった。
置胎盤の診断で、選択的帝王切開術を施行した。術中は特に特
【考察】
子宮頸部嚢胞性病変の鑑別としてナボット嚢胞、LEGH、
MDAが挙げられる。
記すべき点はなく、子宮・付属器、ダグラス窩の癒着なく終了
した。しかし、術後の腹部レントゲンにて左骨盤内に 6 mm × 5
mm大の結節像を認めた。腹部単純 CT では骨盤内、子宮左側に
LEGH は良性病変と考えられているが、MDA と非常に形態学
アーチファクトを伴った異物を認め、その CT 値は3071 HUと異
的に類似しており、近年 MDA の前駆病変である可能性、子宮頸
常高値であり、異物だと判断して再開腹することとした。X 線
部腺癌との合併例も報告されている。LEGH が疑われた場合は
透視撮影装置を用いながら透視下で異物を探した。ダグラス窩
MDA との鑑別に円錐切除を行うなど慎重な対応が必要である。
に透視下に連動して動く脂肪のような固まりを発見し、それを
摘出した。術後腹部レントゲンでは、先ほどの結節像は消失し
た。摘出した異物の病理診断は、腹膜下に発生した脈管の増殖
当院における早発卵巣不全症例に対する試み
を伴った偽肉芽腫反応であった。異物としては経過から子宮卵
管造影で使用した造影剤が最も疑われた。
聖医大
【考察】
吉 岡 伸 人 岩 端 秀 之 高 江 正 道
子宮卵管造影での使用薬剤は油性造影剤であった。体外への
洞 下 由 記 河 村 和 弘 鈴 木 直
排泄時間は 30-60 日とされている。判断の根拠とした CT 値は、
3071HUと金属より高値であった。たとえ造影剤でも長期間反応
聖マリアンナ医科大学では 2006 年より早発卵巣不全(primary
性に被膜化された場合は上記のように異常値となり、CT 値での
ovarian insufficiency :POI)専門外来を開設し、POI に対する不妊治療
鑑別は困難であるとわかった。術中腹腔内異物を疑う際、X 線
の意義を検討してきた。POI は40歳未満で卵巣性無月経となった
透視撮影装置を用いての探索が有用であった。再度同様な症例
状態を指し、非常に難治性の不妊症を呈する。POI に対して不妊
を防ぐため、子宮卵管造影既往後の腹部手術の術前検査として、
治療はする意義があるのかについて検討はこれまでになく、①卵
現在当院では腹部レントゲンを追加している。
平成27年9月(2015)
術前に軟性鏡にて膀胱内を観察した前置癒着胎盤の
2症例
117 (117)
腹腔鏡手術で治療した卵管間質部妊娠の1例
昭和大 藤が丘病院
市 原 三 義 田 内 麻依子 中 林 誠
聖医大
川 原 泰 近 藤 春 裕 名 古 崇 史
竹 中 慎 松 浦 玲 中 山 健
岩 端 秀 之 秦 ひろか 鈴 木 季美枝
青 木 弘 子 横 川 香 本 間 進
吉 岡 伸 人 高 江 正 道 五十嵐 豪
佐々木 康 小 川 公 一
水主川 純 中 村 真 河 村 和 弘
鈴 木 直
【はじめに】
卵管間質部妊娠は、稀な疾患であり、死亡率は2.5%と他の異
【はじめに】
子前置癒着胎盤の周産期管理においては適切な診断と術中出
血を減らす工夫が重要であり、診断には超音波断層法や MRI が
主に用いられる。今回、当院において妊娠中に軟性鏡にて膀胱
内を観察した前置癒着胎盤2症例について報告する。
【症例1】
33歳、2経妊2経産(帝王切開2回)
。自然妊娠。妊娠初期の経
所性妊娠と比較して高い。今回、卵管間質部妊娠を腹腔鏡下で
治療した症例を経験したので報告する。
【症例】
29歳。1回妊娠、骨盤位で選択的帝王切開術を受けている。主
訴:最終月経後無月経。現病歴:前医に無月経を主訴に妊娠6週
に受診した。妊娠 10 週 1 日に、超音波検査で胎嚢像が子宮右側
に描出された。MRI 検査で間質部に5 cm 大の胎嚢像を認め、当
腟超音波断層法にて前回の子宮切開創部近傍に着床部位を認め
院に同日紹介とされた。内診で、子宮底部右に腫瘤の触知あり、
た。妊娠34週の MRI では胎盤付着部位の子宮筋層に欠損像を認
性器出血はなかった。経腟及び経腹超音波検査では、右卵管間
め、癒着胎盤が疑われた。軟性鏡による膀胱内の観察では、膀
質部に胎嚢像あり、CRL 1.46 mm(8 週 2 日相当)で胎児心拍は
胱後面に胎盤に由来すると考えられる血管が透見された。妊娠
認めなかった。血中 hCG 30534 mIU /ml であった。右卵管間質
35週5日、子宮底部横切開にて帝王切開施行し、胎盤を全て残存
部妊娠の診断で腹腔鏡手術の治療方針とした。腹腔鏡所見では、
したまま閉創した術中出血量 2080 ml。翌日、両側子宮動脈塞栓
腹腔内出血なし、附属器周囲に軽度癒着を認めた。右卵管間質
術施行。術後5ヵ月の MRI 画像では胎盤の遺残が確認されたが、
部は著明に膨隆し菲薄化あり、同部位を卵管角切除とした。こ
術後7ヵ月、超音波断層にて胎盤消失を確認した。
の卵管間質部の腫瘤に右卵管も接していたため、右卵管切除も
【症例2】
39歳、3経妊2経産(帝王切開2回)
。自然妊娠。経腟超音波断
行った。術後経過は順調で、術後 4 日目に退院となっている。
【考察】
層法にて子宮前壁に付着留守胎盤から膀胱内に突出する豊富な
卵管間質部妊娠の手術法として、卵管切開法と卵管角切除が
血流を認め、MRI と併せ前置癒着胎盤が疑われた。軟性鏡によ
ある。卵管切開法は、間質部を卵管に沿って線状に切開し、絨
る膀胱内の観察では膀胱後面に太い血管が透見された。妊娠 36
毛組織を摘出する方法であり、術後の存続絨毛症や間質部妊娠
週4日、帝王切開施行。胎盤を全て残存したまま閉創後、両側子
再発のリスクはあるが子宮筋層への影響が少ない。卵管角切除
宮動脈塞栓施行。術中出血740ml。現在外来経過観察中。
は、胎嚢を含む間質部と卵管角の子宮筋層も含め摘出する方法
【考察】
嵌入胎盤や穿通胎盤において膀胱鏡の有用性が報告されてい
る。軟性鏡による膀胱内の観察においても、膀胱と胎盤の癒着
の程度が推定でき、本法が前置癒着胎盤症例の周産期管理にお
いて有用である可能性が示唆された。
【結語】
今後、前置癒着胎盤症例における軟性鏡による膀胱内所見に
ついて症例を集積し、更なる検討を行いたい。
であり、筋層を切除しているため、将来、子宮破裂が懸念され
る。腫瘤径が 4 cm より大きい場合は卵管角切除が推奨されてい
る。
【結語】
卵管間質部妊娠を腹腔鏡下に治療が可能であった。腫瘤径は4
cm以上であったため卵管角切除術を選択した。卵管切開法及び
卵管角切除のいずれでも、妊娠した場合、子宮破裂が懸念され
るがその頻度は不明であり、今後の課題である。
118 (118)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
編集後記
産婦人科専門医取得の条件に学術論文が追加され、多くの先生達がデビュー作を地方部会誌に投稿してくれます。忙
しい診療の中での論文作成は大仕事だったはずです。今号が手元に届き、自分の作品が製本された姿を見て感涙してい
るのではないでしょうか。
ところで、あなたの書いたその論文が社会に及ぼす影響について、考えたことがありますか?症例報告、患者さんの
経過を書く所までは良いとして、考察なんてどう書いたら良いか?とりあえず似た論文を探し、めぼしい記述を見つけ、
「∼らはこう言っている」と記載し、参考文献に載せる。たしかに、多くの研究者がこのパターンで論文を書きます。と
言う事は、あなたの論文も、誰かに引用されるかもしれない。その時あなたは、自分の記載に責任を持てますか?
ここ数年、幻の万能細胞データねつ造問題などがマスコミを騒がせ、医学研究倫理が社会的注目を集めました。不正
研究に関わった研究者達は、厳しい社会的制裁を受けます。自ら命を絶った研究者もおられました。論文を書く事は、
それに対する社会的責任を負うということでもあるのです。
残念ながら、一部の研究者は医学研究倫理を十分理解しておらず、他の論文のコピペ(盗作)
、データ使い回し(二重
投稿)
、研究の分散(サラミ)などを罪悪感なく投稿して来ます。このような不正行為を行なった研究者は投稿禁止など
のペナルティーが与えられ、ブラックリストに乗ります。ブラックリスト登録者が多い国は「あそこの研究は信用なら
ない」というレッテルを貼られます。どうぞみなさんは、医学研究倫理を十分理解し、マナーを守って投稿してくださ
い。一生懸命執筆して投稿したにも関わらず査読者から細かいダメ出し。それは、地方部会誌は医学研究発表の登竜門
だから、皆さんを誰にも恥じない臨床医学研究者に育てるため先輩たちが自分の時間を削ってしてくれたことなのです。
活字になった論文を眺め苦しかった時を思い出しながらこの点にも思いを馳せてくださればと思います。
横浜市立大学附属病院 佐 藤 美紀子
平成27年9月(2015)
119 (119)
神奈川産科婦人科学会会則
第1章 総 則
第1条 本会は名称を神奈川産科婦人科学会と称し、事務所を神奈川
県横浜市中区富士見町3丁目1番地神奈川県総合医療会館4階
に置く。
第4章 会 議
第15条 本会は総会と理事会の会議を開く
第16条 本会の総会は代議員制により行う。代議員制による議員の名
称は代議員とし、総会は代議員をもって構成される。代議員以
第2条 本会は、公益社団法人日本産科婦人科学会定款第6条に規定
された神奈川県内の会員をもって当てる。
第3条 本会は、産科学および婦人科学の進歩発展に貢献し、併せて
会員相互の親睦を図ることを目的とする。
第4条 本会は、前条の目的を達するために次の事業を行う。
外の会員は総会に出席し議長の了解を得て意見を述べることが
できる。ただし表決に参加することはできない。
第17条 通常総会は年1回学会長が招集し、事業計画の決定、予算の
審議、決算および監査事項の承認、その他重要事項の協議決定
を行う。
学術集会の開催、機関紙および図書などの刊行、公益社団法
2.臨時総会は、理事会が特に必要と認めた場合、または会員現
人日本産科婦人科学会および関東連合産科婦人科学会との業務
在数の3分の1以上から会議に付議すべき事項を示して、総会
委託契約内容、その他本会の目的を達成するために必要な事業。
の招集を請求されたときは、その請求のあった日から30日以
内に招集しなければならない。
第2章 入会・退会・除名
3.総会の議長及び副議長は、出席代議員の互選で定める。総会
の開催は代議員定数の過半数以上の者の出席を必要とする。
第5条 本会に入会を希望する者は、別に定めるところによりその旨
4.代議員が出席できない場合は予備代議員を充てることができ
を申し出て学会長の承認を得なければならない。承認後、公益
る。総会の議事は、出席者の過半数をもって決し、可否同数の
社団法人日本産科婦人科学会への入会に際して、学会長の推薦
を得ることができる。
第6条 会員は別に定める入会金及び会費を納入しなければならな
ときは議長の決するところによる。
第18条 理事会は、学会長が招集し、学会長及び理事をもって構成す
る。会議は原則、毎月1回開催される。ただし、学会長が認め
い。なお会費は別に定めるところにより免除することができる。
たとき又は理事の2分の1以上から理事会開催の請求があった
また、既納の入会金及び会費はいかなる事由があっても返還し
ときは臨時理事会を30日以内に招集しなければならない。理
ない。
事会は、その過半数が出席しなければ会議を開くことはできな
第7条 会員は次の事由によりその資格を喪失する。
退会したとき、死亡したとき、除名されたとき、学会長が認
めたとき。
い。
第19条 監事、議長、副議長、公益社団法人日本産科婦人科学会役員
並びに代議員、および学会長が必要と認め理事会で承認された
ものは理事会に出席して意見を述べることができる。但し、表
第3章 役員および代議員
決に加わることはできない。
第5章 委 員 会
第8条 本会に、次の役員を置く。
a 学会長(1名)
、理 事(約11名)
s 監 事(2名)
第9条 学会長、理事及び監事は、別に定めるところにより総会で選
任する。なお、学会長は一般社団法人神奈川県産科婦人科医会
の副会長を兼ねる。
第10条 学会長は本会の職務を総理し、本会を代表し、公益社団法人
日本産科婦人科学会に設置されている地方連絡委員会の委員を
務める。理事は、学会長を補佐し、理事会の議決に基づき、日
常の会務に従事し、総会の議決した事項を処理する。
第11条 理事は、理事会を組織して、この会則に定めるもののほか、
本会の総会の権限に属せしめられた事項以外の事項を議決し、
執行する。
(委員会)
第20条 理事会は、本会の事業を推進するために必要あるときは、委
員会を設置することができる。
2.委員会の委員は、理事会が選任する。
3.委員会の任務、構成、並びに運営に関し必要な事項は理事会
の決議により、別に定める。
(地方専門医制度委員会)
第21条 公益社団法人日本産科婦人科学会の委託を受け地方専門医制
度委員会を運営する。
2.公益社団法人日本産科婦人科学会の専門医制度の研修を受け
るものは、学会長の推薦が必要である。
第12条 監事は、本会の業務及び財産を監査し、その結果を総会にお
第6章 会 計
いて報告するものとする。
第13条 本会の役員の任期は2年とする。重任を妨げない。
第14条 本会は、会則の定める職務を遂行するために、別に定めると
第22条 本会の会員は所定の会費を負担しなければならない。ただし
ころにより、会員中より選任された代議員を置く。代議員は、
別に定める会員は、会費を免除される。本会の会計は会員の会
この会則に定める事項を審議し、又は本会の目的について学会
費等をもって当てる。総会において会計報告をしなければなら
長に意見を述べることができる。
ない。本会の会計年度は4月1日に始まり、翌年3月31日に
終わる。
120 (120)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
第7章 会則の変更
附 則
会則の変更
1.本会則は平成14年4月1日より施行する。
第23条 本会の会則の変更は、理事会及び総会において、おのおのそ
1.本会則は平成23年4月1日より施行する。
の構成員の3分の2以上の議決を経なければならない。
1.本会則は平成26年6月14日より施行する。
第8章 補 則
細 則
第24条 この会則の施行についての細則は、理事会および総会の議決
を経て、別に定める。
神奈川産科婦人科学会における役員及び
公益社団法人 日本産科婦人科学会代議員選出に関する細則
第1章 総 則
3.選挙管理委員は、候補者および推薦者以外の会員若干名を
当て、選挙に関する一切の業務を管理する。
第1条 本細則は、公益社団法人日本産科婦人科学会定款(以下定
款)
、および公益社団法人日本産科婦人科学会役員および代議
4.選挙管理委員長は、委員の互選による。委員会は選挙終了
後解散する。
員選任規定(以下選任規定)に基づき、本会における役員及
第5章 選挙の方法
び公益社団法人日本産科婦人科学会代議員候補者を選出する
ための方法を定めたものである。
2.役員とは学会長、理事、監事とする。
第2条 本会は、公益社団法人日本産科婦人科学会の求めた数の代
議員候補者を、神奈川産科婦人科学会所属の会員の直接選挙
によって選出するものとする。
第6条 学会長は代議員選挙の期日の20日前までに会員に公示しな
ければならない。
第7条 役員及び代議員候補者、またはこれを推薦するものは選挙
の期日10日前までの公示された日時に、選挙管理委員会に文
書で届けなければならない。
第2章 役員及び代議員の任期
第8条 届出文書には、立候補者の役職名、氏名、住所、生年月日
を記載しなければならない。推薦届出文書には、前記記載の
第3条 本細則で選出された役員及び代議員の任期は、2年とする。
ほか、推薦届出者2名の氏名、年令を記載しなければならな
い。
第3章 選挙権・被選挙権
第9条 選挙管理委員長は、役員及び代議員候補一覧表を作成し、
役員候補については一般社団法人神奈川県産科婦人科医会代
第4条 役員及び代議員候補者は、会員中より選出される。会員と
は、本学会ならびに公益社団法人日本産科婦人科学会の会員
議員に、代議員候補については全会員に速やかに通知しなけ
ればならない。
であることを要する。
2.選挙権者及び被選挙権者は、原則として前年の10月31日に
第6章 役員選挙管理業務
本会に在籍する会員とする。
3.前年の10月31日に会費未納の者は、選挙権を有しない。
第10条 投票は、選挙管理委員会の定めた方法にて無記名投票とする。
4.被選挙権者は、前年の3月31日において5年以上在籍した
第11条 役員の選挙は、有効投票の最多数の投票数を得た者、又は
本会会員とする。
5.前年の10月31日に会費未納の者は、被選挙権を有しない。
6.被選挙権者は、原則として前年の12月31日に65歳未満であ
ることが望ましい。
得票数の多い順を以て当選人とする。同数の場合は該当候補
者による決選投票とする。再度同数のときは抽選とする。
第12条 投票用紙の様式は、選挙管理委員長がこれを定める。
2.投票は、選挙する役職の定数に応じ、単記又は、連記とする。
3.正規の用紙でない票、候補者以外の氏名を記載した票、候
第4章 選 挙 管 理
補者の氏名が判読できない票、定められた数に満たないか、
超えた票は無効とする。
第5条 役員及び代議員選挙を行なうために、選挙管理委員会を設
ける。
第13条 候補者の数が定数を超えないときは、出席代議員の議決に
より、投票を行なわないで候補者を当選とすることができる。
2.公益社団法人日本産科婦人科学会から代議員選出の依頼を
第14条 議長は、代議員の中から選挙立会人3名を指名し、投票お
受けた場合、速やかに選挙管理委員会を組織し、選出作業を
よび開票に立ち会わせなければならない。また選挙管理委員
開始しなければならない。
長は、選挙立会人立ち会いの上、開票し、結果をただちに議
平成27年9月(2015)
121 (121)
長に報告しなければならない。
超えた票、投票期日までに到着しない票は無効とする。
第 15 条 役員が選出されたとき、議長は速やかに当選人の氏名およ
び得票数を一般社団法人神奈川県産科婦人科医会会長に報告し
なければならない。同医会長は速やかに当選人に当選の旨を通
知し、かつ、当選人の氏名を会員に告知しなければいけない。
第19条 候補者の数が定数を超えないときは、投票を行わないで候
補者を当選とすることができる。
第20条 選挙管理委員長は開票後、結果を速やかに議長に報告しな
ければならない。
第21条 代議員が選出されたとき、議長は速やかに当選人の氏名お
第7章 公益社団法人日本産科婦人科学会
代議員選挙管理業務
よび得票数を一般社団法人神奈川県産科婦人科医会会長に報
告しなければならない。同医会長は速やかに当選人に当選の
旨を通知し、かつ、当選人の氏名を会員に告知しなければい
第16条 投票は、選挙管理委員会の定めた方法にて無記名投票とす
る。
けない。神奈川産科婦人科学会長は結果を速やかに公益社団
法人日本産科婦人科学会に報告するものとする。
第17条 代議員の選挙は、有効投票の得票数の多い順を以て当選人
附 則
とする。同数の場合は年長者順とする。選出された代議員が、
何らかの理由で代議員でなくなった場合、次点を順次繰り上
1.本細則は平成14年4月1日より施行する。
げる。但し、その有効期限は前任者の残任期間とする。
1.本細則は平成20年11月6日より施行する。
第18条 投票は郵便によって行い、投票用紙の様式は、選挙管理委
1.本細則は平成23年4月1日より施行する。
員長がこれを定める。
1.本細則は平成26年6月14日より施行する。
2.投票は、5名連記とする。
1.本細則は平成27年1月10日より施行する。
3.正規の用紙でない票、候補者以外の氏名を記載した票、候
補者の氏名が判読できない票、定められた数に満たないか、
日本産婦人科医会神奈川県支部会則
第1章 総 則
選任する。なお、支部長は一般社団法人神奈川県産科婦人科
医会の副会長を兼ねる。
第1条 本会は名称を日本産婦人科医会神奈川県支部と称し、事務
所を神奈川県横浜市中区富士見町3丁目1番地 神奈川県総合
医療会館4階に置く。
第2条 本会は、公益社団法人日本産婦人科医会定款第4条に規定
された神奈川県内の会員をもって当たる。
第3条 本会は公益社団法人日本産婦人科医会定款細則に規定する
各都道府県産婦人科医会に相当し、公益社団法人日本産婦人
科医会で規定された事業を行なうことを目的とする。
第9条 支部長は本会の職務を総理し、本会を代表する。理事は、
支部長を補佐し、理事会の議決に基づき、日常の会務に従事
し、総会の議決した事項を処理する。
第10条 理事は、理事会を組織して、この会則に定めるもののほか、
本会の総会の権限に属せしめられた事項以外の事項を議決し、
執行する。
第11条 監事は、本会の業務及び財産を監査し、その結果を総会に
おいて報告するものとする。
第12条 本会の役員の任期は2年とする。ただし重任を妨げない。
第2章 入会・退会・除名
第13条 本会は、会則の定める職務を遂行するために、別に定める
ところにより、会員中より選任された代議員を置く。代議員
第4条 本会に入会を希望する者は、別に定めるところによりその
旨を申し出て支部長の承認を得なければならない。
第5条 会員は別に定める入会金及び会費を納入しなければならな
い。なお会費は別に定めるところにより免除することができ
は、この会則に定める事項を審議し、又は本会の目的につい
て支部長に意見を述べることができる。代議員は支部正会員
の中から選出し、その任期は2年とする。ただし重任を妨げ
ない。
る。また、既納の入会金及び会費はいかなる事由があっても
第4章 会 議
返還しない。
第6条 会員は次の事由によりその資格を喪失する。退会したとき、
死亡したとき、除名されたとき、支部長が認めたとき。
第14条 本会は総会と理事会の会議を開く。
第15条 本会の総会は代議員制により行う。代議員制による議員の
第3章 役員および代議員
名称は代議員とし、総会は代議員をもって構成される。代議
員以外の会員は、総会に出席し議長の了解を得て意見を述べ
第7条 本会に、次の役員を置く。
a 支部長(1名)
、理事(約11名)
s 監 事(2名)
d 公益社団法人日本産婦人科医会定款第 51 条に規定された
神奈川県地域代表には支部長を推薦する。
第8条 支部長、理事及び監事は、別に定めるところにより総会で
ることができる。ただし表決に参加することはできない。
第16条 総会は年1回支部長が招集し、事業計画の決定、予算の審
議、決算および監査事項の承認、その他重要事項の協議決定
を行う。
2.臨時総会は、支部長が特に必要と認めた場合、または会員
122 (122)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
第6章 会則の変更
現在数の3分の1以上から会議に付議すべき事項を示して、
総会の招集を請求されたときは、その請求のあった日から 30
日以内に招集しなければならない。
3.総会の開催は代議員定数の過半数以上の者の出席を必要と
第20条 本会の会則は、理事会及び総会において、おのおのその構
成員の3分の2以上の議決を経なければならない。
する。
第7章 補 則
4.代議員が出席できない場合予備代議員を充てることができ
る。総会の議事は、出席者の過半数をもって決し、可否同数
のときは議長の決するところによる。
第 17 条 理事会は、支部長が招集し、原則毎月1回開催される。た
第21条 この会則の施行についての細則は、理事会および総会の議
決を経て、別に定める。
だし、支部長が認めたとき又は理事の2分の1以上から理事会
附 則
開催の請求があったときは臨時理事会を30日以内に招集しな
ければならない。理事会は支部長、及び理事をもって構成し、
理事の過半数が出席しなければ会議を開くことはできない。
1.本会則は平成14年4月1日より施行する。
第18条 監事、議長、副議長、公益社団法人日本産婦人科医会役員
1.本会則は平成23年4月1日より施行する。
並びに代議員、および支部長が必要と認め、理事会で承認さ
1.本会則は平成26年6月14日より施行する。
れたものは理事会に出席して意見を述べることができる。但
し、表決に加わることはできない。
第5章 会 計
第19条 本会の会員は所定の会費を負担しなければならない。ただ
し別に定める会員は、会費を免除される。本会の会計は会員
の会費等をもって当てる。総会において会計報告をしなけれ
ばならない。本会の会計年度は4月1日に始まり、翌年3月
31日に終わる。
日本産婦人科医会神奈川県支部における役員および
公益社団法人 日本産婦人科医会代議員選出に関する細則
第1章 総 則
4.代議員被選挙権者は、前年の3月31日において母体保護法
第14条に規定する指定医師または5年以上在籍した公益社団
第1条 本細則は、公益社団法人日本産婦人科医会定款、および公
益社団法人日本産婦人科医会代議員選任規定に基づき、本会
における役員及び公益社団法人日本産婦人科医会代議員(以
法人日本産婦人科医会会員とする。
5.前年の10月31日に公益社団法人日本産婦人科医会会費未納
の者は、代議員被選挙権を有しない。
下代議員)を選出するための方法をさだめたものである。
第4章 選 挙 管 理
2.役員とは神奈川県支部長、理事、監事とする。
第2条 本会は、公益社団法人日本産婦人科医会の求めた数の代議
員を、所属の会員の直接選挙によって選出するものとする。
第5条 役員及び代議員選挙を行なうために、選挙管理委員会を設
ける。
第2章 役員及び代議員の任期
2.公益社団法人日本産婦人科医会から代議員選出の依頼を受
けた場合、速やかに選挙管理委員会を組織し、選出作業を開
第3条 本細則で選出された役員及び代議員の任期は、2年とする。
但し重任を妨げない。
始しなければならない。
3.選挙管理委員長は、候補者および推薦者以外の会員若干名
を当て、選挙に関する一切の業務を管理する。
第3章 選挙権・被選挙権
4.選挙管理委員長は、委員の互選による。委員会は選挙終了
後解散する。
第4条 役員及び代議員は、会員中より選出される。
2.代議員の選挙権者及び被選挙権者は、原則として前年の 10
第5章 選挙の方法
月31日に公益社団法人日本産婦人科医会に在籍する会員とす
る。
3.代議員選挙権を有する者は、前年の10月31日現在、公益社
団法人日本産婦人科医会会費完納(減免会員を含む)正会員
とする。
第6条 支部長は代議員選挙の期日の20日前までに会員に公示しな
ければならない。
第7条 役員及び代議員候補者は、またはこれを推薦するものは選
挙の期日10日前までの公示された日時に、選挙管理委員会に
平成27年9月(2015)
文書で届けなければならない。
第8条 届出文書には、立候補の役職名、氏名、住所、生年月日を
123 (123)
第7章 公益社団法人日本産婦人科医会
代議員選挙管理業務
記載しなければならない。
推薦届出文書には、前記記載のほか、推薦届出者2名の氏
名、年令を記載しなければならない。
第9条 選挙管理委員長は、役員及び代議員候補一覧表を作成し、
役員候補については一般社団法人神奈川県産科婦人科医会代
議員に、代議員候補については全会員に速やかに通知しなけ
ればならない。
第16条 投票は、選挙管理委員会の定めた方法にて無記名投票とする。
第17条 代議員の選挙は、有効投票の得票数の多い順を以て当選人
とする。同数の場合は年長者順とする。選出された代議員が、
何らかの理由で代議員でなくなった場合、次点を順次繰り上
げる。但し、その有効期限は前任者の残任期間とする。
第18条 投票は郵便によって行い、投票用紙の様式は、選挙管理委
員長がこれを定める。
第6章 役員選挙管理業務
2.投票は、単記とする。
3.正規の用紙でない票、候補者以外の氏名を記載した票、候
第10条 投票は、選挙管理委員会の定めた方法にて無記名投票とす
る。
第11条 有効投票数の最多数の投票数を得た者又は得票数の多い順
を以て当選人とする。同数の場合は該当候補者による決選投
票とする。再度同数のときは抽選とする。
第12条 投票用紙の様式は、選挙管理委員長がこれを定める。
2.投票は、選挙する役職の定数に応じ、単記又は、連記とする。
3.正規の用紙でない票、候補者以外の氏名を記載した票、候
補者の氏名が判読できない票、投票期日までに到着しない票
は無効とする。
第19条 候補者の数が定数を超えないときは、投票を行わないで候
補者を当選とすることができる。
第20条 選挙管理委員長は開票後、結果を速やかに議長に報告しな
ければならない。
第21条 代議員が選出されたとき、議長は速やかに当選人の氏名お
よび得票数を一般社団法人神奈川県産科婦人科医会会長に報
補者の氏名が判読できない票、定められた数に満たないか、
告しなければならない。同医会長は速やかに当選人に当選の
超えた票は無効とする。
旨を通知し、かつ、当選人の氏名を会員に告知しなければい
第13条 候補者の数が定数を超えないときは出席代議員の議決によ
り、投票を行なわないで候補者を当選とすることができる。
けない。日本産婦人科医会神奈川県支部長は結果を速やかに
公益社団法人日本産婦人科医会に報告するものとする。
第14条 議長は、代議員の中から選挙立会人3名を指名し、投票お
よび開票に立ち会わせなければならない。また選挙管理委員
附 則
長は、選挙立会人立ち会いの上、開票し、結果をただちに議
長に報告しなければならない。
1.本細則は平成14年4月1日より施行する。
第15条 役員が選出されたとき、議長は速やかに当選人の氏名およ
1.本細則は平成23年4月1日より施行する。
び得票数を一般社団法人神奈川県産科婦人科医会会長に報告
1.本細則は平成26年6月14日より施行する。
しなければならない。同医会長は速やかに当選人に当選の旨
1.本細則は平成27年1月10日より施行する。
を通知し、かつ、当選人の氏名を会員に告知しなければいけ
ない。
124 (124)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
一般社団法人
神奈川県産科婦人科医会定款
l 異常分娩先天異常対策部
(前 文)
本会は神奈川産科婦人科学会と日本産婦人科医会神奈川県支部を
¡0 悪性腫瘍対策部
二本の主柱として構成・組織され、神奈川県下における産婦人科の
¡1 周産期医療対策部
学術・教育・医療を統括し、その進歩と発展を図る。また、公益社
¡2 その他、会長が発議し、理事会が必要と認める事業部
団法人日本産科婦人科学会ならびに公益社団法人日本産婦人科医会
の神奈川県における活動を分担する。
(事業年度)
第7条 本会の事業年度は毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に
終わる。
第1章 総 則
(名 称)
第4章 会 員
第1条 本会は、一般社団法人神奈川県産科婦人科医会と称し、英文
ではKANAGAWA MEDICAL ASSOCIATION OF OBSTETRICS
AND GYNECOLOGYと表示する。
(事務所)
第2条
(法人の構成員)
第8条 本会の会員は次の2種とする。
a 正会員 正会員1名以上の推薦を受けた公益社団法人日
本産科婦人科学会又は公益社団法人日本産婦人科医会の会
本会は、主たる事務所を横浜市に置く。
2.本会は、理事会の決議により、従たる事務所を必要な場所
に設置することができる。これを変更又は廃止する場合も同
様とする。
員であって、神奈川県内に在住又は勤務し、本会の目的に
賛同して入会した者
s 準会員 正会員1名以上の推薦を受け、本会の目的に賛
同して入会した正会員資格外の者
第2章 組 織
(組 織)
(入 会)
第9条 本会に入会しようとする者は、理事会において別に定める
様式による入会申込書に必要事項を記入の上、正会員1名以
第3条 本会は、第9条の規定により、本会の会員となった者をも
って組織する。
第3章 目的及び事業
(目 的)
第4条 本会は、会員の学術向上を図り、併せて会員相互の親睦を
期し、地域の産科婦人科医療の向上をもって社会に貢献する
ことを目的とする。
(事 業)
第5条 本会は、前条の目的を達成するために次の事業を行う。
a 学術集会、講演会及び研修会に関する事項
s 研究、調査に関する事項
d 公益社団法人日本産科婦人科学会専門医及び母体保護法
指定医の研修等に関する事項
f 医療保険に関する事項
g 母子保健に関する事項
h 会員福祉に関する事項
j 会誌、広報に関する事項
k その他本会の目的を達成するために必要な事項
(事業部)
第6条 本会は、理事会の決議により、前条の事業を遂行するため、
次の各部を置くことができる。これを廃止又は変更する場合
も同様とする。
a 総務部
s 経理部
上の推薦を得て本会に提出し、理事会の承認を得なければな
らない。
2.届出事項に変更を生じたときも同様とする。
(任意退会)
第10条 本会を退会しようとする者は、別に定める退会届出書を本
会に提出しなければならない。
(会費及び負担金)
第11条 会員は、会費及び負担金を納めなければならない。
2.会費及び負担金の金額並びに徴収方法は、総会の決議によ
りこれを定める。
3.必要ある場合には、総会の決議を経て、臨時会費を徴収す
ることができる。
4.退会し、又は除名された会員が既に納入した会費及び負担
金は返還しない。
(会員の義務)
第12条 会員は、本定款及び本会の諸規則を守り、本会の秩序を維
持し、本会の発展に寄与するよう努めなければならない。
2.正会員は、特段の事情がない限り、公益社団法人日本産科
婦人科学会及び公益社団法人日本産婦人科医会の両方に入会
するよう努めなければならない。
(会員の権利)
第13条 正会員は、役員に立候補することができる。
2.会員は、本会の事業に関し、本会に意見を述べることがで
きる。
(会員の戒告及び除名)
d 学術部
第14条 会員が次のいずれかに該当するに至ったときは、総会の決
f 編集部
議によって当該会員を戒告又は除名することができる。
g 医療保険部
a この定款その他の規則に定める会員の義務を正当な理由
h 母子保健部
なく怠ったとき
j 医療対策部
s 本会の名誉を傷つけたとき
k 広報部
d その他、戒告又は除名すべき正当な事由があるとき
平成27年9月(2015)
(会員資格の喪失)
125 (125)
(役員の補欠選任)
第15条 第10条及び前条の場合のほか、会員は、次のいずれかに該
当するに至ったときは、その資格を喪失する。
a 第11条第1項の支払義務を、
2年以上履行しなかったとき。
s 当該会員が死亡したとき。
d 総会において全ての代議員が同意したとき。
2.前項第1号により会員資格を喪失した者が、未納の会費及
び負担金の全額を支払った場合には、支払のときから会員資
格を復活させる。ただし、資格を喪失していた期間の権利は
第21条 役員に欠員が生じたときは、原則として1年以内に補欠の
役員を選任する。
(役員の任期)
第22条 理事の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち
最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。
2.監事の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち
最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。
3.補欠として選任された理事又は監事の任期は、前任者の任
期の満了する時までとする。
復活しない。
4.理事又は監事は、第17条に定める定数に足りなくなるとき
(名誉会員)
第 16 条 会長は、理事会の承認を得て、本会に功労のあった者に、
名誉会員の称号を与えることができる。この場合には、会長
は、次の総会において名誉会員の称号を授与したことを報告
しなければならない。
2.名誉会員の称号は終身とする。
は、任期の満了又は辞任により退任した後も、新たに選任さ
れた者が就任するまで、なお理事又は監事としての権利義務
を有する。
(役員の責任免除)
第 23 条 本会は、法人法第 111 条第1項に規定する役員の賠償責任
3.前項の規定にかかわらず、名誉会員が本会の名誉を傷つけ
について、法令に定める要件に該当する場合には、法人法第
た場合その他正当な事由がある場合には、会長は、理事会の
114条第1項の規定により、賠償責任を法令の限度において理
承認を得て、名誉会員の称号を剥奪することができる。
事会の決議によって免除することができる。
(顧 問)
第5章 役員及び顧問
(役 員)
第17条 本会に次の役員を置く。
第24条 本会に顧問を置くことができる。
2.顧問は、会長が指名し、総会の承認を得て、これを委嘱す
る。その任期は委嘱した会長の任期終了までとする。
a 理事 14名
3.顧問は、会長の諮問に応え、本会の各種の会議に出席して
s 監事 2名
意見を述べることができる。ただし、議決に加わることはで
2.理事のうち1名を会長とする。会長以外の理事のうち2名
きない。
を副会長とする。
第6章 理 事 会
3.前項の会長をもって一般社団法人及び一般財団法人に関す
る法律(以下「法人法」という)上の代表理事とする。
(理事の職務)
第18条 会長は本会を代表し、業務を執行する。
2.副会長は会長を補佐し、会長が職務の執行に支障があり又
はこれに堪えないときにはその職務を代行する。その順位は
あらかじめ理事会の議決によりこれを決める。
3.会長以外の理事は、会長の旨を受け、分担して業務を執行
する。
(監事の職務)
第19条 監事は、理事の職務の執行を監査し、法令で定めるところ
により、監査報告を作成しなければならない。
2.監事は、いつでも、理事及び使用人に対して事業の報告を
(理事会)
第25条 本会に、理事会を置く。
2.理事会は、全ての理事をもって構成する。
3.理事会は、会長が招集してその議長となる。
(理事会の職務)
第26条 理事会は、次の職務を行う。
a 本会の業務執行の決定
s 理事の職務の執行の監督
2.理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定
を、理事に委任することができない。
a 重要な財産の処分及び譲受け
s 多額の借財
求め、又は本会の業務及び財産の状況の調査をすることがで
d 重要な使用人の選任及び解任
きる。
f 従たる事務所その他重要な組織の設置、変更及び廃止
3.監事は、理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をする
g 理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保
おそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反す
するための体制その他本会の業務の適正を確保するために
る事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅
必要なものとして法令で定める体制の整備
滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない。
4.監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意
見を述べなければならない。
(役員の選任)
第20条 会長その他役員は、総会において、総代議員の議決権の3
分の1以上を有する代議員が出席し、その議決権の過半数の
決議によって選任する。
h 法人法第114条第1項の規定による定款の定めに基づく同
法第111条第1項の責任の免除
j 会長が総会を招集する場合において、総会招集の決定及
び理事が総会に提出しようとする議案、書類及び電磁的記
録その他の資料の決定
(理事会の決議)
第27条 理事会の決議は、決議について特別の利害関係を有する理
事を除く理事の過半数が出席し、その過半数をもって行う。
126 (126)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
2.前項の規定にかかわらず、理事が理事会の決議の目的であ
る事項について提案をした場合において、当該提案につき理
(代議員の補欠の選出)
第33条 代議員に欠員が生じたときは、別に定める規定により、後
事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。
)
任の代議員を選出する。予備代議員についても同様とする。
の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたと
2.前項の規定により選出された代議員又は予備代議員の任期
き(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、
は、前任の代議員又は予備代議員の任期が満了する時までと
理事会の決議があったものとみなす。
する。
(議事録等)
第8章 総 会
第28条 理事会の議事については、法令で定めるところにより、議
事録を作成する。
2.理事会において選出された議事録署名理事及び理事会に出
席した監事は、前項の議事録に署名又は記名押印する。
(構 成)
第34条 総会は、全ての代議員をもって構成する。
2.前項の総会をもって法人法上の社員総会とする。
3.第1項の議事録又は前条第2項の意思表示を記載し、若し
3.代議員以外の会員は、総会に出席し、総会の議長の許可の
くは記録した書面若しくは電磁的記録を、理事会の日(前条
もとに意見を述べることができるが、議決に加わることはで
第2項により理事会の決議があったものとみなされた日を含
む。)から 10 年間、本会の主たる事務所に備え置かなければ
ならない。
(理事会への出席、発言)
第29条 次の者は、理事会の承認を受けて、理事会に出席して意見
を述べることができる。ただし、議決に加わることはできな
きない。
(開 催)
第35条 本会の総会は、定時総会と臨時総会とする。
2.定時総会は、毎年1回、毎事業年度終了後3ヵ月以内に開
催する。
3.臨時総会は、次に掲げる場合に開催する。
い。
a 理事会が必要と認めたとき
a 総会の議長及び副議長
s 全ての代議員の議決権の5分の1以上を有する代議員か
s 公益社団法人日本産科婦人科学会の役員及び代議員
d 公益社団法人日本産婦人科医会の役員及び代議員
f その他会長が必要と認めた者
(委員会)
ら、総会の目的である事項及び招集の理由を示した書面に
より開催の請求があったとき
d 3分の1以上の正会員から、総会の目的である事項及び
招集の理由を示した書面により開催の請求があったとき
第30条 会長は、必要と認めたときは、理事会の決議を経て、委員
会を置くことができる。
(招 集)
第36条 総会は、法令に別段の定めのある場合を除き、理事会の決
議に基づき、会長が招集する。
第7章 代議員及び予備代議員
(代議員及び予備代議員)
第31条 本会に、代議員及び予備代議員を置く。
2.前項の代議員をもって法人法上の社員とする。
3.代議員及び予備代議員の選出は正会員の互選による。
4.代議員及び予備代議員の選出のために必要な規則は別に定
める。
5.代議員及び予備代議員は、本会の役員を兼ねることはでき
ない。
6.代議員に事故があるときは、当該代議員は、総会ごとに代
2.総会の招集は、会日の1週間前までに、代議員に対してそ
の通知を発しなければならない。ただし、総会に出席しない
代議員が書面又は電磁的方法によって議決権を行使すること
ができることとする場合においては、会日の2週間前までに
その通知を発しなければならない。
(任 務)
第37条 総会は、次に掲げる事項を決議する。
a 定款の変更
s 本定款に必要な細則及び規程等本会の諸規則の制定、変
更又は廃止
理権を授与された予備代議員に議決権を行使させることがで
d 事業報告の承認
きる。
f 収支決算の承認
(代議員及び予備代議員の任期)
第32条 前条第3項の代議員及び予備代議員選出のための互選(以
下「代議員等選挙」という。
)は2年に1度実施することとし、
代議員及び予備代議員の任期は選任後次に実施する代議員等
選挙終了の時までとする。ただし、代議員が総会決議取消し
の訴え、解散の訴え、責任追及の訴え及び役員の解任の訴え
(法人法第266条第1項、第268条、第278条、第284条)を提
起している場合(法人法第 278 条第1項に規定する訴えの提
起の請求をしている場合を含む。
)には、当該訴訟が終結する
までの間、当該代議員は社員たる地位を失わない(当該代議
員は、役員の選任及び解任(法人法第63条及び第70条)並び
に定款変更(法人法第 146 条)についての議決権を有しない
こととする)
。
g 事業計画及び負担金の承認
h 会費及び負担金の賦課並びにその金額及び徴収方法
j 会長の選任及び解任
k 副会長の選任及び解任
l 会長及び副会長以外の理事並びに監事の選任及び解任
¡0
理事及び監事の報酬、賞与その他の職務執行の対価とし
て本会から受ける財産上の利益(以下「報酬等」という。)
等の額又は報酬等の額の具体的な算定方法
¡1
理事会において総会に付議した事項
¡2
会員の戒告及び除名
¡3
解散
¡4
前各号に定めるもののほか、社員総会で決議するものと
して法令又はこの定款で定められた事項
平成27年9月(2015)
(総会の議長及び副議長の選挙並びに職務)
第38条 総会に議長及び副議長各1名を置く。
127 (127)
3.第1項の書類及び監査報告を定時総会の日の2週間前から
5年間、主たる事務所に備え置かなければならない。
2.総会の議長及び副議長は、代議員の中から総会で選出する。
第10章 雑 則
3.総会の議長及び副議長の任期は、選任後次に実施する代議
員等選挙終了の時までとする。
4.総会の議長は、当該総会の秩序を維持し、議事を整理する。
5.総会の議長は、その命令に従わない者その他当該総会の秩
序を乱す者を退場させることができる。
6.総会の副議長は、総会の議長に事故あるときはその職務を
(公告の方法)
第44条 本会の公告は、電子公告の方法により行う。
2.事故その他やむを得ない事由によって前項の電子公告をす
ることができない場合は、官報に掲載する方法による。
(細則及び規程)
第45条 本定款に必要な細則及び規程は、別に定める。
代行する。
(法令の準拠)
(決 議)
第39条 総会の決議は、法令又はこの定款に別段の定めがある場合
を除き、出席した当該代議員の議決権の過半数をもって行う。
2.前項の規定にかかわらず、次の決議は、総代議員の半数以
上であって総代議員の議決権の3分の2以上に当たる多数を
第46条 本定款に定めのない事項は、すべて法人法その他の法令に
従う。
(設立時役員)
第47条
本会の設立時役員は、次のとおりである。
もって行われなければならない。
設立時理事 a
東 條 龍太郎
a 会員の除名
設立時理事 s
平 原 史 樹
s 監事の解任
設立時理事 d
b 橋 恒 男
d 定款の変更
設立時理事 f
中 野 眞佐男
f 解散
設立時理事 g
今 井 一 夫
g その他法令に定められた事項
設立時理事 h
三 上 幹 男
設立時理事 j
鈴 木 直
設立時理事 k
白 須 和 裕
設立時理事 l
岩 田 壮 吉
設立時理事 ¡0
田 島 敏 久
設立時理事 ¡1
中 山 昌 樹
設立時理事 ¡2
小 西 康 博
設立時理事 ¡3
加 藤 久 盛
設立時理事 ¡4
海 野 信 也
(議事録)
第40条 総会の議事については、法令で定めるところにより、議事
録を作成する。
2.議長及び総会において選出された議事録署名人2人以上が
署名又は記名押印する。
(総会への役員の出席発言)
第41条 本会の役員は、総会に出席し、意見を述べることができる
が、議決に加わることはできない。
設立時代表理事 東 條 龍太郎
第9章 会 計
(資産の構成)
第42条 本会の資産は次に掲げるものをもって構成する。
a 設立当初の財産目録に記載された財産
s 会費及び負担金
d 寄付金品
f その他の収入
(事業報告及び決算)
第 43 条 本会の事業報告及び決算については、毎事業年度終了後、
会長が次の書類を作成し、監事の監査を受けた上で、理事会
の承認を受けなければならない。
a 事業報告
s 事業報告の付属明細書
d 貸借対照表
f 損益計算書(正味財産増減計算書)
g 貸借対照表及び損益計算書(正味財産増減計算書)の付
属明細書
h 財産目録
2.前項の承認を受けた書類のうち、第1号、第3号、第4号
及び第6号の書類については、定時総会に提出し、第1号の
書類についてはその内容を報告し、その他の書類については
承認を受けなければならない。
設立時監事 a
明 石 敏 男
設立時監事 s
國 立 實 夫
(設立時役員の任期)
第 48 条 設立時理事の任期は、第 22 条第1項の規定にかかわらず、
選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関す
る定時総会の終結の時までとする。
2.設立時監事の任期は、第 22 条第2項の規定にかかわらず、
選任後3年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関す
る定時総会の終結の時までとする。
(最初の事業年度)
第49条 本会の最初の事業年度は、第7条の規定にかかわらず、当
法人成立の日から平成27年3月31日までとする。
(設立時社員の氏名及び住所)
第50条 設立時社員の氏名及び住所は、次のとおりである。
設立時社員 a 住所 横浜市港南区丸山台三丁目16番17号
氏名 東 條 龍太郎
設立時社員 s 住所 神奈川県小田原市本町一丁目3番12号
氏名 平 原 史 樹
設立時社員 d 住所 横浜市泉区西が岡二丁目26番地の7
氏名 b 橋 恒 男
128 (128)
以上、一般社団法人神奈川県産科婦人科医会設立のためこ
の定款を作成し、設立時社員が次に記名押印する。
平成26年4月1日
設立時社員 東 條 龍太郎
設立時社員 平 原 史 樹
設立時社員 b 橋 恒 男
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
平成27年9月(2015)
129 (129)
神奈川県産科婦人科医会役員
会 長
副 会 長
高 橋 恒 男
白 須 和 裕
海 野 信 也
岩 田 壮 吉
田 島 敏 久
(神奈川産科婦人科学会長)
和 泉 俊一郎
中 野 眞佐男
小 西 康 博
(日本産婦人科医会神奈川県支部長)
理 事
中 山 昌 樹
加 藤 久 盛
今 井 一 夫
平 原 史 樹
監 事
三 上 幹 男
東 條 龍太郎
八十島 唯 一
鈴 木 直
公益社団法人 日本産科婦人科学会代議員
青 木 茂
明 石 敏 男
石 川 浩 史
石 川 雅 彦
石 本 人 士
和 泉 俊一郎
海 野 信 也
小 川 公 一
奥 田 美 加
笠 井 健 児
加 藤 久 盛
小 西 康 博
榊 原 秀 也
杉 浦 賢
鈴 木 直
田 村 みどり
中 田 さくら
長 塚 正 晃
中 野 眞佐男
西 井 修
平 原 史 樹
平 吹 知 雄
松 島 隆
宮 城 悦 子
脇 田 哲 矢
公益社団法人 日本産婦人科医会代議員
明 石 敏 男
鈴 木 真
田 島 敏 久
田 中 信 孝
神奈川県産科婦人科医会名誉会員
安 達 健 二
雨 宮 章
和 泉 元 志
岩 本 直
植 村 次 雄
遠 藤 哲 広
片 桐 信 之
國 立 實 夫
黒 澤 恒 平
小 松 英 夫
後 藤 忠 雄
坂 田 壽 衛
佐 藤 和 雄
佐 藤 啓 治
代 田 治 彦
菅 原 章 一
鈴 木 健 治
平 健 一
武 谷 雄 二
出 口 奎 示
戸賀崎 義 洽
堀 健 一
前 原 大 作
持 丸 文 雄
桃 井 俊 美
矢内原 巧
八十島 唯 一
渡 辺 英 夫
日本産科婦人科学会名誉会員
雨 宮 章
佐 藤 和 雄
牧 野 恒 久
矢内原 巧
130 (130)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
日本産科婦人科学会功労会員
朝 倉 啓 文
安 達 健 二
天 野 完
石 原 楷 輔
植 田 國 昭
植 村 次 雄
長 田 久 文
片 桐 信 之
甘 彰 華
蔵 本 博 行
斎 藤 馨
齋 藤 裕
坂 田 壽 衛
佐 藤 啓 治
篠 塚 孝 男
白 須 和 裕
代 田 治 彦
鈴 木 健 治
関 賢 一
高 橋 諄
出 口 奎 示
東 條 龍太郎
戸賀崎 義 洽
根 岸 達 郎
野 嶽 幸 正
前 原 大 作
宮 本 尚 彦
持 丸 文 雄
桃 井 俊 美
八十島 唯 一
神奈川県産科婦人科医会事業部
総 務 部
中 山 昌 樹
今 井 一 夫
秋
葉
靖
雄
石
川
雅
彦
大河原
鈴
木
隆
弘
戸賀崎
義
明
戸
望
月
純
子
脇
哲
矢
経 理 部 田
澤
晃
聡
奥
田
美
加
笠
井
健
児
子
中
田
さくら
根
本
明
彦
c
一 正
茂 田 博 行
今 井 一 夫
中 山 昌 樹
岡 田 恭 芳
小清水 勉
後 藤 誠
塩
代 田 琢 彦
濱 野 聡
堀 裕 雅
丸 山 浩 之
学 術 部
三 上 幹 男
鈴 木 直
明 石 敏 男
新 井 正 秀
新 井 努
五十嵐 豪
石 本 人 士
伊 藤 めぐむ
小 川 公 一
小 山 秀 樹
榊 原 秀 也
染 谷 健 一
角 田 新 平
中 沢 和 美
長 塚 正 晃
西 井 修
平 吹 知 雄
松 島 隆
持 丸 佳 之
編 集 部
鈴 木 直
平 原 史 樹
荒 瀬 透
安 藤 直 子
岩 瀬 春 子
上 野 和 典
遠 藤 方 哉
大 島 綾
大 原 樹
小 川 幸
小野瀬 亮
河 村 和 弘
小 山 秀 樹
斎 藤 圭 介
佐 治 晴 哉
佐 藤 美紀子
上 坊 敏 子
信 田 政 子
鈴 木 隆 弘
田 村 みどり
戸 澤 晃 子
沼 崎 令 子
野 村 可 之
松 島 隆
村 瀬 真理子
望 月 純 子
吉 田 浩
岡 宮 保 彦
医療保険部
白 須 和 裕
岩 田 壮 吉
飛鳥井 邦 雄
安 達 英 夫
内 田 伸 弘
大 塚 尚 之
河 村 栄 一
櫻 井 明 弘
中 原 優 人
前 田 太 郎
岩 田 壮 吉
田 島 敏 久
飛鳥井 邦 雄
池 川 明
内 田 伸 弘
蛯 原 照 男
水主川 純
窪 田 与 志
釼 持 稔
近 藤 雅 子
鈴 木 真
中 村 朋 美
西 田 直 子
古 橋 進 一
増 田 恵 一(顧問)
田 島 敏 久
白 須 和 裕
坂 田 壽 衛(顧問)
母子保健部
医療対策部
磯 c
太 一
大 石 曜
岡 井 良 至
小 関 聡
関 本 僚 平
東 郷 敦 子
服 部 響 子
塗 山 百 寛
並 木 俊 始
西 川 立 人
福 田 俊 子
光 永 忍
脇 田 哲 矢
和 泉 俊一郎
加 藤 久 盛
秋 好 順 子
伊 東 均
入 江 宏
松 永 竜 也
宮 本 尚 彦
森 崎 篤
柳 澤 隆
広 報 部
平成27年9月(2015)
異常分娩先天異常対策部
131 (131)
小 西 康 博
和 泉 俊一郎
阿久津 正
安 藤 紀 子
五十嵐 豪
小 川 公 一
葛 西 路
河 野 照 子
河 村 寿 宏
後 藤 誠
東 郷 敦 子
深 見 武 彦
町 田 稔 文
丸 山 浩 之
御子柴 尚 郎
三 原 卓 志
加 藤 久 盛
三 上 幹 男
新 井 努
市 原 三 義
木 挽 貢 慈
小 山 秀 樹
近 藤 春 裕
佐々木 康
茂 田 博 行
杉 浦 賢
仲 沢 経 夫
沼 崎 令 子
林 康 子
平 澤 猛
宮 城 悦 子
村 上 優
米 山 剛 一
平 原 史 樹
小 西 康 博
青 木 茂
青 木 弘 子
石 川 浩 史
石 本 人 士
五十嵐 豪
市 塚 清 健
井 上 裕 美
小 川 博 康
奥 田 美 加
倉 c
小 松 英 夫
島 岡 享 生
代 田 琢 彦
田 村 みどり
野 田 芳 人
樋 口 隆 幸
平 吹 知 雄
深 見 武 彦
藤 本 喜 展
堀 裕 雅
悪性腫瘍対策部
渡 邉 豊 治
周産期医療対策部
昭 子
三 原 卓 志
神奈川県産科婦人科医会委員会
勤務医委員会
茂 田 博 行
秋 葉 靖 雄
池 田 仁 恵
葛 西 路
金 井 雄 二
杉 浦 賢
高 江 正 道
永 井 康 一
深 見 武 彦
奥 田 美 加
平 原 史 樹
星 野 眞也子
小清水 勉
斉 藤 圭 介
塗 山 百 寛
高 橋 恒 男
中 野 眞佐男
中 山 昌 樹
中 野 眞佐男
中 山 昌 樹
IT 委員会
市 原 三 義
親睦委員会
福 田 俊 子
内 田 伸 弘
関 本 英 也
石 川 雅 彦
伊 東 亨
堀 裕 雅
持 丸 文 雄
学校医委員会
有 澤 正 義
医療安全・紛争対策委員会
海 野 信 也
齋 藤 剛 一
植 田 啓
田 中 信 孝
早乙女 智 子
田 島 恵
石 川 浩 史
佐 藤 啓 治
萩 庭 一 元
妊婦健診委託事業運営委員会
今 井 一 夫
災害対策委員会
海 野 信 也
学術問題諮問委員会
高 橋 恒 男
岩 田 壮 吉
中 野 眞佐男
高 橋 恒 男
中 山 昌 樹
恩 田 貴 志
和 泉 俊一郎
海 野 信 也
河 村 和 弘
榊 原 秀 也
鈴 木 直
高 橋 恒 男
土 居 大 祐
長 塚 正 晃
中 野 眞佐男
西 井 修
平 原 史 樹
三 上 幹 男
132 (132)
神奈川産科婦人科学会誌 第52巻 第1号
一般社団法人神奈川県産科婦人科医会代議員及び予備代議員
平成 27 年6月∼平成 28 年6月
議 長 伊 東 亨
副議長 鈴 木 真
番号
地区
代議員
予備代議員
番号
地区
代議員
予備代議員
1
青葉
辻井 孝
梅内 正勝
32
横須賀
根本 明彦
大塚 尚之
2
〃
王 正貫
渡邊潤一郎
33
〃
杉浦 賢
野村 可之
3
旭
小関 聡
柳澤 隆
34
鎌倉
渡辺 紅
横井 夏子
4
泉
石井 淳
和泉 元志
35
平塚
松山 明美
牧野 英博
5
磯子
中田 裕信
香西 洋介
36
小田原
小杉 一弘
桑田 ●
6
神奈川
和泉 玲子
大石 和彦
37
茅ヶ崎
木島 武俊
二河田雅信
7
金沢
関本 英也
泉福 明子
38
座間・綾瀬
代田 琢彦
本部 正樹
8
市大
榊原 秀也
佐藤美紀子
39
海老名
増田 恵一
近藤 芳仁
9
〃
宮城 悦子
中村 朋美
40
藤沢
宮川 智幸
林田 英樹
10
〃
吉田 浩
青木 茂
41
〃
関 隆
苅谷 卓昭
11
港南
桃井 俊美
佐藤 浩一
42
秦伊中
鈴木 隆弘
平澤 猛
12
港北
爲近 慎司
石田 徳人
43
〃
石本 人士
信田 政子
13
〃
桜井 祐二
小林 勇
44
〃
飯塚 義浩
平井 規之
14
栄
柳澤 和孝
45
足柄上
柴田 光夫
−
15
瀬谷
堀 裕雅
安達 敬一
46
厚木
田中 信孝
松島 弘充
16
都筑
塚原 睦亮
本間 寿彦
47
逗葉
土田 正祐
丸山 浩之
17
鶴見
天野 善美
星野眞也子
48
相模原
恩田 貴志
新井 正秀
18
戸塚
伊東 亨
田林 正夫
49
〃
上坊 敏子
田所 義晃
19
中
戸賀崎義明
町澤 一郎
50
〃
岡井 良至
近藤 正樹
20
〃
多田 聖郎
和知 敏樹
51
〃
大河原 聡
飯田 盛祐
21
西
木村 知夫
濱野 聡
52
大和
岡田 恭芳
石川 雅彦
22
保土ヶ谷
磯 和男
茂田 博行
53
三浦
塩c
橘田 嘉徳
23
緑
斎藤 洋子
近藤 雅子
24
南
菊地紫津子
中山 隆幸
25
川崎
鈴木 真
諏訪 八大
26
〃
中原 優人
光永 忍
27
〃
渡部 秀哉
熊澤 哲哉
28
〃
松島 隆
深見 武彦
29
〃
林 保良
上野 和典
30
〃
西井 修
土谷 聡
31
〃
漆畑 博信
高田 博行
一正
平成27年9月(2015)
133 (133)
神奈川産科婦人科学会誌 投稿規定
a 本誌に投稿する者は、共著者も含め原則として本会の会員に限る。なお、初期臨床研修医などでは指導医の証明があればこの限りでは
ない。
s 論文の種類は総説、原著、症例報告などとし、未発表のものに限る。
d 前向き症例研究やガイドラインに記載されていないコンセンサスの得られていない診療方針を含む症例報告、研究においては、患者等
の匿名性を十分守ったうえで、論文中にインフォームド・コンセントを得たこと、所属施設・機関等の倫理委員会等の承認を得た旨を
記載すること。
f 投稿方法は電子投稿に限る。http://mc.manuscriptcentral.com/ktjog にアクセスし必須事項を入力の上、表示される指示に従って投稿する
こと。
g 原稿の採否は編集委員会より委嘱された査読者の意見を参考にして、編集委員会において決定する。また原稿は編集方針に従って加筆、
削除、修正などを求めることがある。その場合には、著者は 4 週間以内に原稿を修正し再投稿すること。
h 採用された原稿は順次掲載される。
j 原稿は原則として、A4 版横書き 30 字 30 行とし Web で指定されたソフトを用いて 12 ポイントで作成する。常用漢字と平仮名を使用して、
学術用語は本学会及び日本医学会の所定に従い、英語のつづりは米国式とする(例: center, estrogen, gynecology)。また頁番号を原稿
の下中央に挿入する。
k 原著論文の記述の順序は、原則として次のようにする。1 頁目は表題、所属、著者名(それぞれ英文も併記、姓名は Taro YAMAKAWA
のように記述する)、Key words、著者ならびに校正責任者の連絡先(住所、電話、FAX 番号、メールアドレスなど)、2 頁目は概要
(600 字以内)とし、以下緒言、方法、成績、考案、文献,図・表の説明の順に記載し、規定の形式にて添付する。また症例報告では、
緒言、症例、考案,文献,図・表の説明の順に記載し、規定の形式にて添付する。論文中には図、表の引用箇所を明示する。文献の引
用は論文に直接関係あるものにとどめ、本文中の引用部位の右肩に文献番号 1)、2)を付け、本文の終わりに本文に現れた順にならべる。
l 投稿論文を内容により次のカテゴリーに分類する。カテゴリー A ;生殖・内分泌、B ;婦人科腫瘍、C ;周産期、D ;女性のヘルスケア。
投稿者はこれらのカテゴリーの中から 1 つを選択する。
¡0 論文の長さは文献、図・表も含めて 8,000 字以内(刷り上り 6 頁以内)とする。なお、図・表は 1 頁に 6 個挿入した場合、1 個が 300 字に
相当する。図・表は、それぞれに 1 枚ずつに分けて順番をつけ、縮小製版された場合にも明瞭であるように留意する。投稿の際、図・
表は、別途規定のファイルにして添付する。
¡1 単位、記号は、m、cm、mm、μ m、g、mg、μ g、l、ml、℃、pH、N、M、Ci、mCi、μ Ci などとする。本文中の数字は算用数字を用
いる。
¡2 Key wordsは5語以内とする。ただし英語とし、Medical Subject Headings(MeSH, Index Medicus)http://www.nlm.nih.gov/mesh/MBrowser.html
を参照する。
¡3 文献は著者名全員と論文の表題を入れ、次のように記載する。和文誌の雑誌名は医学中央雑誌の略誌名に、欧文誌の雑誌名は Index
Medicus による。
例1【欧文雑誌】著者名. 論文名. 雑誌名. 発刊年;巻数:頁数.
Shiozawa T, Shih HC, Miyamoto T, Feng YZ, Uchikawa J, Itoh K, Konishi I. Cyclic changes in the expression of steroid receptor coactivators
and corepressors in the normal human endometrium. J Clin Endocrinol Metab. 2003;88:871-8.
例2【欧文書籍(一般)】著者名. 書名. [版数.] 発行地: 発行元; 発刊年. [章数,] [章題名;] p.頁数.
Gardner RJM, Sutherland GR. Chromosomal abnormalities and genetic counseling. 3nd ed. Oxford: Oxford University Press; c2004. Chapter
6,Robertsonian translocations; p.122-37.
例3【欧文書籍(分担執筆)】著者名. 担当題名. In: 監修(編集)者名. [シリーズ名.] 書名. [版数.] 発行地: 発行元; 発刊年. p.頁数.
Hilpert PL, Pretorius DH. The thorax. In: Nyberg DA, Mahony BS, Pretorius DH, eds. Diagnostic and ultrasound of fetal anomalies: text and
atlas. St.Louis: Mosby Year Book, inc; c1990. p.262-99.
例4【和文雑誌】著者名. 論文名. 雑誌名. 発刊年;巻数:頁数.
尾崎江都子, 長田久夫, 鶴岡信栄, 田中宏一, 尾本暁子, 生水真紀夫. 産科手術における新しい血管内バルーン閉鎖術の試み─大量出血が
予想された前置胎盤症例に対する Intra-aortic balloon occlusion (IABO)の使用経験─. 関東産婦誌 2009;46:393-8.
例5【和文書籍(一般)】著者名. 書名. [版数.] 発行地: 発行元; 発刊年. [章数,] [章題名;] p.頁数.
永田一郎. イラストで見る産婦人科手術の実際. 第 2 版. 大阪: 永井書店; 2010. 第 10 章, 子宮脱根治術(2)-TMV 法-; p.205-28.
例6【和文書籍(分担執筆)】著者名. 担当題名. 監修(編集)者名. [シリーズ名.] 書名. [版数.] 発行地: 発行元; 発刊年. p.頁数.
石塚文平. 卵 巣性排卵障害.日本生殖医学会編.生殖医療ガイドブック 2010. 東京: 金原出版; 2010. p.57-8.
例7【インターネットホームページ】
放射性物質による健康影響に関する国立がん研究センターからの見解と提案. 東京: 国立がん研究センター, 2011: http://www.ncc.go.jp/jp/.
※ [ ]は該当する時のみ表記する.
¡4 印刷の初校は著者が行う。ただし、組版面積に影響を与える改変や組み替えは認めない。
¡5 論文の掲載のための所定の費用(カラー写真など)は、著者負担とする。
¡6 別刷の実費は著者負担とし、著者校正のときに 50 部単位で希望部数を申込む(但し 50 部 6 頁以内は無料)。
¡7 論文投稿に関して連絡先等変更があった場合には神奈川県産科婦人科医会内 神奈川産科婦人科学会誌編集事務局(メールアドレス;
jinsanhuikai_26@kaog.jp, 電話番号; 045 − 242 − 4867 ファックス: 045 ‐ 261 − 3830)に連絡する。
¡8 投稿にあたり個人情報の取扱いは個人情報保護法を遵守すること。とくに症例報告においては患者のプライバシー保護の面から個人が
特定されないよう、氏名、生年月日、来院日、手術日等を明記せず臨床経過がわかるように記述して投稿するものとする。また、対象
となる個人からは同意を得ておくことが望ましい。
¡9 論文について開示すべき利益相反状態があるときは、投稿時にその内容を明記する。利益相反状態の有無の基準は、日本産科婦人科学
会の「利益相反に関する指針」運用細則による。
™0 投稿論文の著作権は神奈川産科婦人科学会に委譲するものとする。
改訂1990.9.19
1992.3. 3 2001.2.15
2003.9.11
2004.9. 9
2005.
12. 1
2007.1.25
2012.8. 1
2014.8. 1
編 集 長
吉田 浩
査 読 者
明石敏男、天野 完、新井正秀、荒瀬 透、安藤直子、五十嵐豪、石川浩史、
石川雅彦、石本人士、和泉俊一郎、井上裕美、今井一夫、岩瀬春子、岩田壮吉、
海野信也、遠藤方哉、大島 綾、小川公一、小川 幸、小野瀬亮、加藤久盛、
河村和弘、小西康博、小山秀樹、斎藤圭介、榊原秀也、佐治晴哉、佐藤美紀子、
茂田博行、上坊敏子、鈴木隆弘、鈴木 直、田島敏久、田村みどり、土居大祐、
戸澤晃子、中沢和美、長塚正晃、中野眞佐男、西井 修、沼崎令子、樋口隆幸、
平原史樹、平吹知雄、松島 隆、三上幹男、宮城悦子、村瀬真理子、望月純子、
持丸佳之
編集担当理事
鈴木 直、三上幹男(副担当)
編 集 部
荒瀬 透、安藤直子、石本人士、岩瀬春子、遠藤方哉、大島 綾、小川 幸、
小野瀬亮、河村和弘、小山秀樹、斎藤圭介、佐治晴哉、佐藤美紀子、上坊敏子、
鈴木隆弘、田村みどり、戸澤晃子、沼崎令子、樋口隆幸、松島 隆、村瀬真理子、
望月純子、吉田 浩
「神奈川産科婦人科学会誌」
第52巻1号(年2回発行)
平成27年9月24日印刷・平成27年9月28日発行
発 行 所
〒231-0037 横浜市中区富士見町3−1(神奈川県総合医療会館内)
神奈川産科婦人科学会
電 話 045(242)4867 http://www.kaog.jp/
編集兼発行人
神奈川産科婦人科学会
印 刷 所 〒220-0042 横浜市西区戸部町1─13 電話 045(231)2434
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