日米ソーシャルファイナンス・フォーラム 2007

日米ソーシャルファイナンス・フォーラム 2007
報告レポート
社会を変える新しいお金の流れをデザインする
個人が共感するものにお金を入れることで、社会は変わるのか?
Newsweek誌で「世界を変える社会起業家100人」という特集が組まれるなど、社会起業家(ソーシャルアン
トレプレナー)に関する潮流は世界でも、大きな動きとなりつつあります。この動きを確かなものにする
には、新たな資金や投資の流れが必要です。また、社会起業にコミットすることで、社会を遠いものとし
て捉えるのではなく、私たち自身が新しい変化の起点となれないでしょうか?
今回は、メインスピーカーとして米国Social Venture Partners (SVP) の経営メンバー、Mary Brightさん
と、日本社会でも同様の動きが存在したことを象徴する渋沢栄一さんのご子孫、渋澤健さんをお招きし、
「ソーシャルファイナンス」(社会分野の資金調達)や、今後の社会起業への投資のあり方をお話しまし
た。後半のパネルでは、日本でそれぞれのビジネスの現場で動き出している方々をお招きし、会場のみな
さんとディスカッションしました。
ビジネスと社会セクターの出会いから、何が生まれるのか?
この場所から、小さくて大きな一歩が踏み出されることを我々は願っています。
概要
日時: 2007年10月27日(土) 13:30∼17:00
場所: 慶応義塾大学 三田キャンパス
グローバル・セキュリティ研究所6F G-Sec Lab
主催: 慶応義塾大学 井上英之研究室
目次:
共催: ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京
協力: Cleveland Social Venture Partners
参加人数
井上研究室
一般参加者
SVPパートナー
ゲスト
通訳
合計
6名
84名
31名
3名
2名
126名
イントロダクション
1
概要
1
参加人数
1
レポート(第一部)
2
レポート(第二部)
3
参加者の声
4
団体紹介
4
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第一部:日本のソーシャルファイナンスと、新しい潮流
ご挨拶(井上英之)
当フォーラムはすぐに定員になり、反
応の良さに驚いている。今は2つの流れ
があり、1つは社会を変えるインパクトを
持つ人を発掘するアショカ、シュワブ、
ス コ ール など。も う 1つ は ベン チャー・
キャピタルの手法を応用したベン
チャー・フィランソロピーで、SVPは後者
の1つ。お金を出すことと運営を支援す
る こ と、2 つ の 組 み 合 わ せ で 成 果 を 出
す。社会をつくっていく新しいお金の循
環を、このフロアにいる人と一緒にディ
スカッションしていきたい。
日本のソーシャル・ファイナンスと、新
しい潮流(渋澤健)
米国の市民社会では、寄付金集めが行
われたりPrivate Foundationがあったり
と、制度的に for profitと non-profitと の
間でお金が回っている。日本のNPOは目
先の財務が厳しくて維持が精一杯だが、
今の10倍の寄付があったときにきちんと
アカウンタビリティを果たせるのか。そ
れを社会起業家に求めたい。
私には日本とアメリカがそんなに違う
とは思えない。何かをできないかという
思いからSEED Cap(社会起業家育成支
援プログラム)を立ち上げた。今年で4回
目になるが、幸いうまくいってお金が回っ
ている実感がある。正しい道理の富でなけ
ればその富は永続することができない。論
語と算盤という懸け離れたものを一致させ
る事が今日のきわめて大切な務めである。
当初経済同友会では、NPOはいいことを
やっているが、運営や財務に問題を抱えて
いると考えられていた。しかし最近ではそ
れはビジネス側の傲慢かもしれないと思っ
ている。整頓されていない中で方向性を示
せるNPOの世界での力が、ビジネスでも大
切なのではないか、ネット社会の中で生き
ていく力になるのではないのだろうか。
と。利益だけでなく、社会的な利益が価値
あるものとして認められることが重要だ。
論語と算盤という懸け離れたものを一致
SVP東京の挑戦(伊藤健)
目的は2つ、1つは革新的なSVの自
立で、2つ目はパートナーの自己実現、
学びあいの場として。ベンチャーフィラ
ンソロピーは、財団モデルへの反省から
生まれた。つまり、資金だけでなく運営
ノウハウも提供する。単年度ではなく、
中長期的に見る。プロジェクト助成が中
心だが、組織インフラへの投資もする。
最小の投資で、最大の効果をあげるとい
うのはベンチャーキャピタルの発想であ
る。社会的なリターンを最大化するため
に、投資をするというもの。
SVP東京はまだ投資回収の例はないが、
毎年投資サイクルを実施している。選考
基準は、社会的なインパクト、革新的で持
続可能なビジネスモデル、共感性、SVP東
京のリソースとマッチングするか、など。
具体的な支援としては、パブリシティ、
ファンドレイジング、財務、戦略、会計な
どですが、泥臭いこともかなりやります
よ。興味があればお問い合わせ下さい。
させる事が、今日の大切な務めである。
アメリカの Social Venture Partners と
日本での試み( Mary Bright)
伝統的にはビジネスの世界とnon-profit
の世界は分かたれており、相互に不信感を
持っ ていた。しか しnon-profitはお金 と基
盤が不足していて、一方で寄付者はお金以
外にスキルも使いたいと考えていた。そこ
で、お互いにできることがであるのではな
いかと。ベンチャー・フィランソロピーで
は長期的なnon-profitのキャパシティビル
ディングを目指しているが、同時に投資家
に対しても教育を行っている。
SVPでは、パートナーたちには人間的な
成 長 も も た ら さ れ て い る。私 は 忍 耐 強 く
なったし、人に教えることで自分も学びを
得ている。2001年まで法律家として働いて
いたが、911で衝撃を受けた。自分の命が
短いとしたら、何をすべきか?そこでSVP
クリーブランドに出会い、多くの年齢層と
専門性、コミュニティをどう変えるべきか
を話せる人と出会った。
世の中のソーシャルな動きを加速させる
には、人々がお金以上のものを評価するこ
SVP 東京の目的は、革新的なSVの自立
と、パートナーの自己実現、学びあい。
スピーカー紹介
井上英之 ソーシャルベンチャーパートナーズ東京代表/慶応義塾大学総合政策学部専任講師
ワシントンDC市政府、アンダーセン・コンサルティングを経て、ETIC.ソーシャルベンチャーセンターを設立。2003年より
「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」を設立。現在代表。
渋澤健 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
テキサス大学 BS Chemical Engineering 卒業後、財団法人日本国際交流センター入社。 1987年、UCLA大学MBA経営大学院卒
業。ファースト・ボストン証券会社(NY)入社、JPモルガン銀行(東京)、ゴールドマン・サックス証券会社(東京)入社、
ムーア・キャピタル・マネジメント(NY)を経て、2001年、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。社会起業むけ
ファンドSEED Capを立ち上げる。
Mary Bright Social Venture Partners International理事/Cleveland SVP代表/米国弁護士
1976年ジョージタウン大学卒業。20年近くを企業弁護士として勤務後、非営利組織の法務を3年にわたり担当。2001年からは
Clevelandの代表、さらに全米各地のSVPをつなげるSVPIの理事を務める他、Dialysis Care、New Life Communityの理事。2003
年にホームレスの就業支援を行うビジネス「BrightPath」を自ら立ち上げた。
伊藤健 GEキャピタルリーシング/SVP東京 ディレクター/慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
日系メーカー勤務を経て、米国MBAを取得。帰国後、GE Internationalに入社。2005年よりソーシャルベンチャー・パートナー
ズ東京へパートナーとして参加。2006年よりディレクター。
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第二部:社会を変える投資:世界の潮流と、日本のビジネスパーソン
水谷衣里
日本の非営利活動は、領域が以前にまして
広がって、境界があいまいになっている。NPO
統計では法人数は3万を超え、事業規模5百万
円以下が51%。全体の15%を占める3千万円以
上の団体のうち、2割がようやく年収3百万円
程度の常勤スタッフを抱えている。行政との
関係性の強弱、対価性の高低でマッピングす
ると、行政施策と連動した資金支援は多い。し
かし社会性が高くかつチャレンジ度の高い分
野をどう支えるかが課題。その時団体側には
ミッションステートメント、理解・協力・共感、
安心感が求められる。
影山知明
マッキンゼーでは何が好きかではなく、何を
するのが正しいのかを求められる。評価の仕組
みがあまりにきちんとしていて、つきつめると
サイボーグになってしまうと思ったから辞め
た。既存のフレームワークから出たことで、自
分の興味あることを探し始めた。日本で初めて
のソーシャルベンチャー・キャピタリストにな
りたい。まだ途上だが、株式公開するソーシャ
ル・エンタプライズに投資したい。
今は主観の時代。あらゆるシステムには力
学が内在しており、その中でいかに合理的な答
えを出すかという方向に引っ張られ、その結果
みんなが望んでいない方向にいってしまう。ス
キームやシステムは価値のあることだが、やっ
ているうちにシステムはついてくるし人も
あつまる。自分はマッキンゼーを辞めたこと
で、自分の道を歩み始めた。
大きなことをしなければいけない、とは
考えない。小さなことから始め、人に会
い、何をやればいいかということを話
し、そして一緒にやっていく。
高槻大輔
小学生の時にタイに行って、貧困を解決し
たいと思った。卒業後は国際協力銀行に入
り、途中スタンフォードへ。ビジネスはお金
がサポートするということを知って、金融に
興味を持った。それからカーライルに入り、
投資先に深く関わって働く。
ウォーレン・バフェットは、資産の85%を
ビル&メリンダ財団へ寄付した。ビル・ゲイ
ツはただ寄付しているわけではなく、組織を
つくって大きくしていく。バフェットは、稼
ぐのは得意だが、使うのはうまくないから、
うまい人に寄付します、と言った。この二人
のコンビネーションに衝撃を受けた。
大学を出たときは一生単線だと思ってい
た。しかし今は、複線でもいいのではないか、
もう一つの時間の使い方、というのもあるだ
ろうと考えている。それがSVP東京であり、フ
ローレンスの支援。セクターは分かれている
のではなく重なっていて、それをつなげるボ
ンドは我々ひとりひとりである。
Q:企業という役割でレバレッジできないか。
高槻:ファンド自身が社会的な存在で、何かする
べしという例はまだないが、成功例が積みあがれ
ば変ってくる。その成功例を作りたい。
Q:お金は必要だが公共性を担保するために、株
式公開をしたくないのですが。
影山:組織としてやる限りはこえられない。2つ
の可能性は、ファミリービジネスと個人の起業家
で成功した人。後進を育てず、個人で意思決定で
き、好き嫌いでお金を使える人。
高槻:利益の7割を寄付しても公開はできる。大
きなインパクトがでないとか、成長しないのであ
れば難しい、というだけ。
Q:複線では誰もリスクをとらず人材が流れない
のではないか。
水谷:役割分担を考える。大企業とベンチャー、
ソーシャルと資本市場、それぞれでできること。
そのクロスポイントをどう作れるか。
影山:キャピタリストであって欲しい。当事者と
同じ目線でやる。もう一歩近い位置に立つ、とい
うことならできる人がいるのでは。
高槻:デュアルトラックを考えてみてはどうか。
そうするとソーシャル・ベンチャーは思った以上
に近いところにあることに気づくはず。
Mary:大きなことをしなければいけない、とは考
えない。小さなことから始め、人に会い、何をや
ればいいかということを話し、そして一緒にやっ
ていく。
会場とのディスカッション
Q:大組織の中でできることも大事では?
影山:マッキンゼーでなら学べるんじゃな
いかと前は考えていたが、今ならどう使え
るか、と考える。会社と自 分、どちら が主
従かでインパクトの出し方が変わってくる
のではないか。
パネリスト紹介
水谷衣里
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社研究員、アリスセンター理事
都留文科大学社会学科在学中、地域活動を始める。卒業後、東京都立大学社会科学研究科へ進学。主に中間支援組織を中心とした首
都圏のNPO/市民活動に関わる。特定非営利活動法人まちづくり情報センターかながわ(アリスセンター)客員研究員を経て、現在理
事。著作に「市民活動団体に対する資金支援制度の多様化と団体に求められる戦略性」(ボランティア白書)、「特集NPOの資金調達
を考える」(まちづくり情報センターかながわ発行)など。
高槻大輔 カーライル・グループヴァイス・プレジデント、㈱ウィルコム社外監査役、SVP東京
東京大学卒業後、海外経済協力基金にてベトナムやカンボジア向けODAを担当。その後スタンフォード大学経営大学院にてMBAと同時
にCertificate in Social Entrepreneurshipを取得。現在は世界的なプライベート・エクイティ投資会社であるカーライル・グルー
プにて、ウィルコム、インテリジェンス(旧学生援護会)、コバレント・マテリアル(旧東芝セラミックス)等への投資を担当、社
外取締役・監査役として経営に関与。SVP東京では、フローレンスに対して、財務および経営面でのアドバイスを中心に活動。現
在3児のパパで、娘が可愛すぎるのが悩み。
影山知明 ウィルキャピタルマネジメント株式会社ヴァイス・プレジデント、SVP東京
大学卒業後、戦略系コンサルティング会社、McKinsey&Companyに入社。「影山知明として仕事がしたい」この思いを胸に3年間の勤務
を経て、ウィルキャピタルマネジメント株式会社を社長と共に創業。総額30億円のインキュベーションファンドを立ち上げ、投資先
とリスク/リターンを共有した事業開発に従事。SVP東京創設メンバーでもある。
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参加者の声(フィードバックシートより)
参加理由
・個人的な思いと会社の部署の共通項が見つかりそうな気がしたので
(30代女性)
・SVの現状、実際に実行している人の感覚を知りたかったので。(20代
女性)
・途上国向けに活動している人向けのモデル・スキームを作りたい(20
代男性)
・将来的に地域でのソーシャル・ファイナンスを目指している。(50代
男性)
・企業としてビジネスを通じてどのような形で貧困や教育、環境問題
等、地球規模の課題に貢献していくことができるか、ヒントが得られれ
ばと思いました。(20代女性)
・スピーカーと極貧でNPO/NGOを運営して日々悩んでいる人とのバック
グラウ ンド・もてる 資金・能力にも のすごい GAPを感じた。(30代女
性)
・それぞれのスピーカーの想いが一番良かったです。(50代男性)
・主観的に志を持ち、actionを起こす個人、企業、それを支える制度、
金融のしくみ、の今後についてとても考えさせられました。(20代女
性)
・渋澤栄一の社会における事業の役割の理念は素晴らしいと思った。
(30代男性)
・全体に「客観的」な話でスマートすぎた。もっと問題意識を熱く語る
「青くささ」や現場の「泥くささ」があってもよかったと思う。(30代
男性)
・今できることから小さく始めることが重要であると感じた。(20代男
性)
・日本にも米国とは違えどソーシャル・ファイナンスに火種になりうる
文化がすでにあると知って、日本をあきらめたり残念がったりするので
なく、日本に自信を持ったし、これからの日本が楽しみになりました。
(20代女性)
・ノンプロフィットの団体数も増えて総額の事業規模も大きくなってい
るのに、有給スタッフで3百万円/年以上の人はほんのわずか、有給ス
タッフも減っている、というのはかなり衝撃でした。それじゃあ新卒の
就職先として不人気でもしょうがないなあと思いました。(20代女性)
感想
・多忙な職場ですがその中でスキルを蓄積し、SVP等もう1つのトラッ
クにフィードバックすることが目標となりました。(20代男性)
・少しづつでも自分も複線人生を歩めればと思います。(20代男性)
・日本にこういう動きができつつあることに感銘を受けました。これ
をきっかけにもう少し具体的なところも知りたいと思います。(20代
男性)
・日本のソーシャルベンチャーやNPOもロビー活動をするなりして、制
度自体を変えていく必要もあるのではないかと感じました。行政や政
治を巻き込むとガラッと変わりそう。(30代女性)
・企業が納得するレベルの資本の受け皿は人材だと思うので、PRも含
め、うまくやる必要を感じました(30代男性)
・ビジネスとソーシャルの間で、問題にも直面されながら活躍されて
いる皆さんに刺激を受けました。(30代男性)
・渋澤さんの「寄付はインベストメントである」という話や、ファン
ド資本主義の限界の話が興味深かったです。(40代男性)
・社会性と利益の追求が両立できるのか、あるいは相反するものなの
か、古くて新しい問題ですがどこかに最適解がありそうな気がしま
す。(40代男性)
・NPO/NGOか企業側になりがちなセミナーが多い中、バランスが取れて
いた。(30代女性)
合同会社ソーシャルベンチャー・
パートナーズ東京
2008/1/20 発行
〒150-0041
東京都渋谷区神南1-5-7 Apple Ohmi ビル4F ETIC.内
お問い合わせ:info@sv-tokyo.org
Special Thanks:
城田さち(通訳)・堀久美子(通訳)
吉野博文・齊藤恵利子
青木三紀・東嗣了・荒島由也・有村未生・
池永紗知子・池畑浩三朗・池畑慧・今井和
子・大辻健太郎・奥田有紀・加藤丈晴・金
井匡彦・北爪公士・木村倫子・久野浩子・
国保祥子・越陽二郎・小山達郎・坂崎あゆ
み・坂本忠弘・佐久間祐司・佐々木耕一・
柴田亮・砂田薫・砂田真喜子・田幸大輔・
田中孔一・内藤徹・中山真理子・長谷川知
広・羽 鳥 圭・肥 後 尚 之・広 瀬 恵 美・深 谷
緑・松尾沢子・吉井千織・渡辺真理子