10 こちら広沢 3 丁目放射線研究所

〈第 28 回
10
1
山﨑賞〉
こちら広沢 3 丁目放射線研究所
動機
2011 年3月 11 日の東日本大震災により、福島第一原子力発電所で事故が発生し、放射性物質が
大気中に放出された。放射線は色も匂いもない。音を発することもしない。だから、私たちは放射
線を見ることも、触ることも、感じることもできない。そういうことが、放射線に対する恐怖心を
より大きくしていると思う。また、放射線量・放射能の単位は今まで聞いたこともない単位のため、
どのくらい心配なのかもよくわからない。そこで、放射線とはどういうものなのか調べてみること
にした。
2
放射線防護の3原則
放射線について調べるうちに、放射線防護の三原則を知った。放射線防護の三原則とは、放射線
から身を守るためのもので①距離をとる
②放射線を浴びる時間を短くする
③遮蔽する、だった。
そこで、距離と放射線の関係、遮蔽物と放射線の関係を、放射線源と測定器を使って実験してみた。
(1)距離と放射線の関係
〈目
的〉
放射線の強さは線源から離れるほど弱くなり、距離の二乗に反比例するといわれている。ラ
ンタンのマントルを用いて、線源からの距離との放射線線量の関係を、α線、β線、γ線につ
いて調べる。
〈準備物〉①γ線測定器(ALOKA
TCS-171)
②α線、β線測定器(ALOKA
③マントル(L)(S)(CAPTAINSTAG No.M-7909、M-7911)
α線、β線測定器
(ALOKA TCS-352)
〈方
γ線測定器(ALOKA
TCS-171)
法〉
①バックグラウンド(実験室の自然放射線量)を測
定する。②実験室は自宅 1 階の和室(浜松市中区広
沢3丁目)。③座卓の上に置いたマントルからの放射
線線量を測定器を遠ざけながら測っていく。④α線、
β線、γ線でそれぞれ行う。
〈結
果〉
右図は距離とγ線量の関係。図の縦軸はγ線量、
横軸は放射線源からの距離(cm)
〈考
察〉
- 107 -
④メジャー
TCS-352)
α線、β線、γ線、いずれの実験においても、放射線線量は距離が遠ざかるにつれて、線
量が下がっている。静岡大学工学部の藤間先生にγ線での実験結果を分析していただいたが、
距離の 2 乗に比例していることが確認された。つまり、放射性物質からの距離が 2 倍になる
と放射線の量は 4 分の1になることがわかった。
(2)遮蔽物で放射線を防御する
ア
いろいろな物質による遮蔽
〈目
的〉
放射線の防御の 3 原則のうちの「遮蔽」について検討する。本にはα線は紙 1 枚で遮蔽で
き、β線はアルミニウムなどの薄い金属で遮蔽できるとなっている。γ線は鉛や厚い鉄など
で遮蔽が可能とされている。放射性物質と測定器の間にいろいろなものを入れて、どのくら
い遮蔽することができるかを調べてみる
〈準備物〉①α 線・β線測定器、γ線測定器
②遮蔽物:新聞紙、アルミホイル、アルミ板、
ステンレス版、鉄板、銅板、鉛板、アルミ板(0.5mm)、ステンレス板(0.5mm)、銅板(0.5mm)、
鉄板(0.36)、鉛板(0.88 ㎜)
〈方
③背面鉛防護付 X 線フィルム
④X 線防護エプロン
法〉
①バックグラウンドの放射線量を測定する。②線源(マントル)と測定器の距離は 2 ㎝と
した。③マントルと測定器の間にいろいろな物をいれ、α線、β線、γ線、それぞれに遮
蔽効果調べる。④遮蔽物がないときの放射線量に比べて遮蔽物でどのくらい遮蔽されたか
を計算する。
遮蔽率={(遮蔽しないときの線量)―(遮蔽したときの線量)}÷(遮蔽しない時の線量)
〈結
果〉
右図参照(縦軸は遮蔽率)
〈考
察〉
α線は容易に遮蔽できるがγ線は
遮蔽が難しい。β線はその中間である。
β線の遮蔽実験で新聞紙が思ったよ
りよく遮蔽できたけれども、アルミホ
イルは意外と遮蔽できなかった。γ線
は厚い鉛でも完全には遮蔽できなか
った。X 線撮影の時に撮影部以外の被
ばくを防ぐ防護エプロンではほとん
どγ線は遮蔽できなかった。γ線と X
線はほとんど同じものと聞いていたが遮蔽については違うようだ。
イ
新聞紙の枚数と放射線量
〈目
的〉新聞紙は枚数をかえて放射線
量を測ることで、厚さと放射線量の関
係を調べることができる。
〈準備物〉
①新聞紙、②放射線源マントル)
③放射線測定器
〈方
法〉
マントルと測定器の間に新聞紙を
置く。1 枚の新聞紙でα線とβ線がど
のくらい遮蔽できるかを見る。新聞紙の枚数を増やしていく。(最高 128 枚)
- 108 -
〈結
果〉
図参照。縦軸の単位は cpm(カウントパーミニッツ)、横軸は新聞紙の枚数
〈考
察〉
β線は新聞紙を厚くするにしたがって放射線量は減っていく。α線でも同様の結果でもっ
と少ない枚数で遮蔽できた。遮蔽物の厚さの二乗に反比例するようだ。
3
室内のラドンを集めて放射線を測定して半減期について調べる
〈目
的〉
アクトシティで開催されたイベント「かがく特捜隊」のブースで、空気中にはどこにでも
放射性のラドンがあり、掃除機で集めることが可能であることを教えていただいた。またラ
ドンは半減期が 3.8 日なので、連日測れば放射線の半減期を観測できるだろうとのことだっ
た。
〈準備物〉①掃除機 Miele S344i SILVERSTAR
GP-M100F)③食品用ラップ
〈方
②掃除機用パックフィルター(HITACH
株式会社シジシージャパン
④α・β線測定器
法〉①掃除機用のパックフィルターをハサミで切る。②自宅の中で掃除機の吸引筒の先
端にとりつけて、15 分間部屋の空気を吸引する。 ③フィルターを外してラップで覆い、α
線、β線、γ線を測定する。はじめの 1 時間は 5 分から 10 分ごとに測定し、そのあとは測
定の間隔をあけながら5日間測定した。
〈結
果〉右図
〈考
察〉
フィルターの放射
線を測定したが、γ線
の量は掃除機で吸引す
る前と変化はなかった。
α線とβ線の線量は吸
引前に比べて明らかに
増加していて、室内の
放射性物質を集めるこ
とができた。ラドンは
半減期が約 3.8 日とい
われている。しかし、グラフを見るともっと短い時間で半減している。最初の 6 時間のみのグ
ラフを作成し直してみると、α線もβ線も約 1 時間で半減していた。掃除機のフィルターから
の放射線はラドン以外の放射性物質を測定しているのではないかと考えた。
ラドン 222 はα線をだしてポロニウム 218 に変化し、さらにα線を出して鉛となる。このよ
うに放射線を出して変化したのちにも放射線を出して他の物質に変化していくものを「壊変系
列」という。ラドン 222 はウラン 238 から始まる壊変系列の途中の物質である。ウランは大地
に含まれていて固体である。しかしラドンは常温で気体のため、壊変系列の物質がラドンに変
化したときに気体となって部屋の中などへ浮遊してくる。半減期が 3.8 日よりも長かったので、
今回測定したのはラドンから変化した物質からの放射線かもしれないと考えた。最初の 1 時間
ぐらいで半減しているので、壊変系列の中で半減期が 60 分ぐらいのものをさがすと、212Bi(ビ
スマス 212:半減期 60.55 分)というのが見つかった。
しかし、掃除機のフィルターからの放射性物質の半減期は本にのっているようなきれいなカ
ーブを描かなかった。まるで混合物の溶解度曲線のようであった。測定した放射線はラドンか
ら壊変した
4
212 Bi
だけではなく複数の放射性物質からの放射線だったのではないかと考えた。
いろいろな場所で放射線量を測ってみる
- 109 -
〈目
的〉
自宅内のγ線の線量は大体 0.05~0.07(μ㏜/時)だった。線量計を持っていろいろな場所
で測ってみることにした。
〈方
法〉いろいろな場所での放射線量をγ線測定器で測定する
〈結
果〉右図参照
〈考
察〉
一番高かったのはお寺のお
墓で、墓石の間だった。しかしお寺
の駐車場はそれほど高くなかった。
墓石の花崗岩の影響だと考えられる。
自宅近くの奥山線の廃線跡トンネル
の中は少し高めだった。トンネルの
中が高いのは大地の影響だと考えら
れる。浜名湖の上で一番低かったの
は湖水によって大地からの放射線が
遮蔽されるからだろう。観覧車ではゴンドラが低いときにγ線の線量が多く、高いとγ線が少なくなるよ
うだった。これも大地の影響だと考えられる。
5 まとめ
(1)実験からわかったこと
距離と放射線量の関係を調べる実験では、放射線量は線源からの距離の二乗に反比例して小
さくなることがわかった。
遮蔽物に関しては、α線はほとんどのもので容易に遮蔽でき、β線はα線ほどではないまで
も遮蔽できることがわかった。新聞紙でも厚くすればかなり遮蔽できた。しかし、γ線は予想
以上に遮蔽がむずかしいことがわかった。X 線防護エプロンでさえほとんど遮蔽できなかった。
放射線が強いところに行くときには鉛のエプロンをしていくのかと思ったが、これでは役にた
たない。そうすると他の二つの原則(距離を置く、時間を短くする)で対応する必要があると
思う。
また、いろいろな場所の放射線量の測定では、場所によって違いがあることがわかった。私
たちが生活している空間にも自然の放射線が存在する。
掃除機の実験では室内の放射性物質を集めることができ、それが減少していくことがわかっ
た。
(2)感想
「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉は明治時代の科学者寺田寅彦の言葉だそうだ。
彼は「ものを怖がらなさ過ぎたり怖がり過ぎたりするのは容易だが、正当に怖がることはなか
なか難しい」という言葉も残している。今回の原発事故が起こるまで、私は放射線のことは全
く知らなかった。そして、私以外の多くの人も、放射線の知識がないために、放射線に対する
不安がふくらんでいると思う。大きな問題に遭遇したとき、本当に自分の考えで判断し恐れる
事はとてもむずかしいと思う。しかし、この研究で放射線について知ることにより、自分なり
に福島の原発事故や放射線被害について考えることができるようになったと思う。幸い、私が
住む地域では、事故による放射線の影響はなく安心もした。
次の機会には、もう一度掃除機で空気中の放射性物質を採取し、測定したい。同じ部屋で空
気中の放射線を吸い続けると放射線は減るのかを調べてみたい。
福島県では、今でも放射線量が高く避難を続けなければいけない人たちがたくさんいる。で
きるだけ多くの被災者が早く元の生活に戻れるように願っている。
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