排出権取引制度の概要 -欧州での先進事例と日本- 平湯直子∗ 2007 年 12 月 10 日 KEO Discussion Paper No.111 概要 実効性ある温暖化対策の一つとして注目されている排出権取引制度に関して、日本で の導入にあたり、欧州の排出権取引制度を参考に現時点で得られる先進事例の概要・結果 に関する情報から一考察することを本稿の目的とする。英国・EU の制度を先進事例として 扱い、導入の背景と概要、明らかになっている結果、残された課題の整理をおこない、他 方、日本での制度導入の動きとして自主参加型国内排出量取引制度の概要をみていく。 キーワード 排出権取引、温室効果ガス、CO2、稀少性、UK-ETS、EU-ETS、 自主参加型国内排出量取引制度、京都議定書、実効性 ∗ 慶應義塾大学産業研究所研究員(旧性:竹中)、E-mail:naokotknk@yahoo.co.jp。 1 はじめに. 京都議定書の目標達成を念頭に、より実効性の高い対策導入をめざすなか、排出権取 引制度が期待されている。排出権取引制度は、市場原理を利用し、排出量に余裕がある場 合は売却、不足の場合は購入することで、コスト効果的に着実に削減目標を達成する仕組 みである。京都議定書の第 1 約束期間の開始が目前に迫った現在、方式は異なるがすでに 実施されているイギリスや EU にみられるように、迅速な制度策定・導入が世界の潮流と なりつつある。しかし、日本国内では、導入の是非をめぐる省庁間・有識者間での意見の 一致がみられず、現在、改定作業をおこなっている「目標達成計画」における国内排出権 制度の導入は見送られた。導入にあたっての議論は平行線をたどっているが、そのような 中、導入をすでに実施している他国・他地域の動向を把握し、知見として蓄積しておくこ とは今後の国内での具体的な地球温暖化対策を考えていくうえで十分、意義のあることだ と思われる。そこで、本稿では、排出権取引制度の理論面の整理をおこない、先進事例よ り、日本における国内排出権取引制度導入に関する考察をおこなうことを目的とする。設 計や結果が世界における今後の排出権取引制度の浸透を担う重要な指標となるイギリスや EU の制度を先進事例としてとりあげ、個別の導入・制度設計にいたる背景・制度の概要の 整理をおこない、残された課題から、日本での導入の検討をおこなう。本稿の構成は以下 の通りである。 第 1 章では、排出権取引制度導入の背景を稀少性の観点からみる。環境要素に関する 稀少性に変化が生じ、新しい権利配分が必要になった状況の中で、排出権取引制度導入の 重要性が高まった流れをみていく。また、排出権取引制度の概要・方式・導入の意義をみ ることで理論面の整理をおこなう。 つづく第 2 章では、イギリス・EU での先進事例をみていく。第 1 節では、世界初の包 括的な国内排出権取引制度であるイギリスでの事例をみる。自主協定である CCL との関連 で産業界を主体に制度設計がおこなわれた背景や、制度の特徴を明らかにし、排出削減の 実効可能性の観点から今後に残された問題の整理をおこなう。第 2 節では、欧州域内を横 断する大規模な国際排出権取引制度である EU での事例をみる。京都議定書に先駆けて実 施された背景や、制度導入による EU 加盟国内での国内法整備・調整作業、制度の特徴を 明らかにし、公平性・透明性の観点から制度上の問題点を整理する。 第 3 章では、前章での先進事例を受けて、日本での国内排出権取引制度導入に関して 考察をおこなう。第 1 節では、国内での制度導入の動きとして、すでに実施されている環 境省自主参加型国内排出量取引制度の概要、取引状況をまとめる。第 2 節では、世界の潮 流をうけて国内での迅速な整備・導入が待たれるなかで生じている、導入の是非をめぐる 議論、自治体による独自の政策策定の動きの整理をおこなう。また、イギリス・EU での先 進事例を受けて導入にあたって克服すべき課題をうけて、今後の日本がとるべき方策の考 察をおこなう。 2 1.排出権取引の理論-経済的側面と概要 1-1.背景-稀少性との関連1 環境要素を「資源の稀少性(scarcity)」から考えると、排出権取引制度は、稀少性の 程度に変化が生じた点に端を発し、導入の必要性が高まった制度の 1 つであるといえる。 ここでの稀少性とは、量の面でなんらかの制約があることを意味し、需要と供給のバラン スから判断され、「過剰性」の対になる表現である。一般に、財(goods)は稀少性の観点 から、 「自由財」と「経済財」の 2 種類に区分される。従来、空気・水・土壌などは「自由 財」であり、利用可能性のある資源が無尽蔵に存在し、困難なく需要に見合う分を得るこ とができた。他方、利用可能性のある資源が有限であり、得るためになんらかの犠牲が必 要となるものが「経済財」である。よって、稀少性の程度が低いものが「自由財」、高いも のが「経済財」であり、量的に限定された稀少な財である「経済財」を効率良く生産・分 配・消費する手法を考える学問が経済学であるといえる。 他方、稀少性の度合いは常に一定ではなく、さまざまな外的環境要因によって変化す るため、当初は「自由財」であったものが、量的制約を受け、利用可能性が制限される「経 済財」に転換する可能性がある。そのような中、ひとたび財に対して稀少性を感じると、 「所 有」という概念が発生し、所有「権」という権利の獲得や配分が重要な問題となるもので ある。その代表的な例が、CO2 などの大気汚染物質にみられる。従来、経済活動の帰結と して排出される CO2 は、人間及び地球全体に及ぼす影響は考慮されずに無計画に排出され てきた。よって、排出源の特定や排出量に関する詳細な情報は把握されていなかった。と ころが、自然科学だけではなく社会科学、医学をはじめとするさまざまな分野から地球規 模の温暖化問題に対する警告がきこえはじめ、自然を顧みない経済活動に非難の目が向き はじめている現在、CO2 の「捨て場所」に稀少性が生じている。稀少性が高まったという 時点で CO2 は従来の「自由財」から所有権をともなう「経済財」に変化したといえ、所有 権の規定や配分の問題が新たに生じた。その方法の一つとして導入された政策が排出権取 引制度であり、同制度は、稀少性に変化が生じる中で発生した、新しい権利の配分を決定 する制度であるといえる。 1-2.排出権取引とは2 京都議定書が発効し、第 1 約束期間を間もなく迎える削減義務を課された批准国は、 目標達成にむけて具体的な対策を実施していく段階に直面している。各批准国は、省エネ を中心とした削減努力を国内で着実に実施しているが、より実効性のある環境政策として 期待されているのが温室効果ガスを対象とする排出権取引制度である。排出権取引制度は、 排出量に余裕がある場合は売却、不足の場合は購入、つまり市場での取引を通じて、コス 1 2 本節は、細田他(2007)第 4 章を参照している。表現方法などを一部引用している。 松尾(2002)。なお、京都議定書でも「排出量取引」と訳されている。 3 ト効果的に削減目標の達成をめざす制度である。なお、英語では通常、Emission Trading と表記されるが、日本語では解釈の仕方や省庁・業界・企業によって「排出権取引」の他 に、「排出量取引」「排出枠取引」「排出取引」と多様に表記される。ただし、実際に取引さ れるものは絶対量である排出「量」そのものではなく、排出「権」であるため、 「排出権取 引」を用いるケースが多い。一方、日本政府は「温室効果ガスを排出してよい量的な「権 利」」というニュアンスが浸透するのを防ぐため、「排出量取引」という表現を利用してい る。 排出権取引制度は、取引方法で大別すると、①キャップ・アンド・トレード(Cap and Trade)、②ベースライン・アンド・クレジット(Baseline and Credit)の 2 種類がある3。 前者は、別名、排出目標設定方式と呼ばれ、あらかじめ温室効果ガスの総排出量を設定し たうえで排出枠を配分し、過不足分は市場で取引をおこない、結果として削減目標を達成 する制度である。なお、おもな配分方法として、過去の排出実績を基準に判断される「グ ランドファザリング」、公平性・透明性の維持を目的とした「オークション」の 2 通りがあ る4。後者は、別名、排出削減量計算方式と呼ばれ、排出削減の実施により排出が減少した 場合に削減分のクレジットが付与され、他に売却したり次期目標達成のためにバンキング が可能となる制度である。なお、ここでは「なにも削減対策が実施されなかった場合に排 出が予想される量=ベースライン」と比較して、削減量の認定をおこなう。以上より、両 者のおもな相違点は次の通りである。まず、排出枠の配分に関しては、前者は「各排出源 .. に事前に排出枠を配分」であるのに対し、後者はベースラインとの比較のうえ「削減を達 .. 成した各排出源に事後的に排出許可証を交付」である。また、参加の自由度に関しては、 .. 前者は「各排出源に事前に排出枠を配分」であるのに対し、後者はベースラインとの比較 .. のうえ「削減を達成した各排出源に事後的に排出許可証を交付」である。現在、先導的に 実施されている各国・各地域の排出権取引の多くはキャップ・アンド・トレード方式であ り、京都議定書で柔軟性措置として定義された「共同実施(JI)」 「クリーン開発メカニズム (CDM)」はベースライン・アンド・クレジット方式の一例といえる5。 温室効果ガスの排出抑制のアプローチとして、排出量の上限を定めたうえで削減を確 実に達成する手法が導入されている状況の中、市場メカニズムを活用して、より効率的な 削減をめざす排出権取引は非常に重要な政策であるといえる。排出権取引の意義は、市場 を通じた取引の末、国間や企業間で排出削減の限界費用が均等化する点にあり、よって、 最適な資源配分がもっとも効率的に実現することになる。従来、国や企業間において技術 水準に大きな差があるため、排出ガスを 1 単位削減するための費用が大きく異なる。たと 3 大串(2006)、細田他(2007)。 その他に、推定された標準的な基準排出量をもとに配分する「ベンチマーク」方式がある。正確な推定 は困難であるが、各排出主体の費用負担は少ない。 5 ただし、共同実施では得られた削減量はプロジェクトに関わる二国間で移転されるため、二国の総排出 枠に変化はないが、クリーン開発メカニズムでは途上国で削減した分は先進国の排出枠として加算される ため、総排出枠は増加するという点で両者には大きな違いがある。 4 4 えば、A 国の 1 単位の削減費用が B 国の 1/2 のケースの場合、A 国は 2 単位分の投資を行 ったうえで得られた削減量のうち 1 単位分を、1 単位分から 2 単位分に相当する金額以内で B 国に売却することで、B 国は当初の 1 単位分の削減費用よりも低い金額で 1 単位分の削 減が可能となる。よって、両国合計では当初の各国 1 単位分の投資金額の合計よりも低い 金額で合計 2 単位分の削減が可能となり、少ない費用で目標削減量が達成されることにな る。以上より、より効率的な技術水準を持つ A 国と技術水準が劣る B 国との間で排出量削 減費用が均等化することになり、同じ分量の削減がより少ない費用で効率的に達成された ことになる。 2.欧州の排出権取引制度-先進事例 2-1.英国の制度(UK-ETS) 英国の排出権取引制度 UK Emissions Trading Scheme(以後、UK-ETS)は、世界初 の包括的な国内排出権取引制度であり、今後の導入や制度設計を検討している地域・国が 世界に先駆けた政策実験として注目している重要な制度である。実際、温室効果ガス(Green House Gas、GHG)を対象とした欧州における国内排出権取引制度の導入は、2001 年から 実施のデンマークが先陣であるが、UK-ETS は全産業を対象とする点などから、First Economy-wide greenhouse gas emissions trading scheme と表現されている6。 2-1-1.導入の背景と概要7 イギリスは、京都議定書において 2008 年から 2012 年までの平均 GHGs 排出量を 1990 年レベルから 12.5%削減することが課せられている。これは EU バブルの適用によるもの で、EU 全体で「8%削減」を受けて、イギリスを含めた計 15 カ国に分配したものである8。 実際、国内事情を踏まえたイギリスの削減目標は高く、英国政府は 2010 年までに 90 年レ ベルから 20%以上の削減を設定し、積極的に削減対策に取り組む姿勢を広く示している9。 その姿勢は現在でも継続し、2000 年 11 月に公表された気候変動プログラム(Climate Change Program、略称 CCP)の改定を重ねたものをイギリスの地球温暖化対策の基礎と 環境・食料・田園省 Department for Environment, Food and Rural Affairs(以後、DEFRA)の HP 参 照。UK-ETS の制度管理を行っているのが DEFRA である。デンマークの排出権取引については補足 1 参 照。また、EU 未加盟国のノルウェーでも既に実施(法案成立 2004 年 12 月 17 日)されているが、本稿で は扱わない。 7 本節作成にあたり、Framework for the UK Emissions Trading Scheme、小川(2001) 、高尾(2003a) (2003b)(2006)、中西(2000)を参照した。 8 京都議定書第 4 条参照。イギリスの EU15 カ国に占めるシェアをみると、CO2 排出量は 17.4%、名目 GDP は 13%である(1990 年時点)。 9 国内では石炭から天然ガスへの着実な燃料転換、加えて、北海の天然ガス開発が進んでいることから削 減可能性が大きく、より高い目標が設定されている。 6 5 している10。CCP は、当時の英国産業連盟(Confederation of British Industry、略称、CBI) 代表である Lord Marshall が英国財務省から依頼を受けてまとめた「経済的手法と産業部 門におけるエネルギー利用(Economic Instruments and the Business Use of Energy、通 称、マーシャルレポート)(1998 年 11 月)」をベースに策定を行っている。これは、市場 原理を活用した温暖化対策を提案するもので、特に当時、政府内で検討が開始されていた 環境税の一種である「気候変動税(Climate Change Levy(略称、CCL))11」、「排出権取 引」の 2 つの枠組みの導入に関して「政府は企業と共同に作業をすべきである」とし、策 定には産業界主導のもと政府との協力関係が必要である点を提言している。マーシャルレ ポートに基づき、特に環境税への反発が大きい英国産業界では、1999 年 6 月、CBI と「企 業 と 環 境 に 関 す る 政 府 の 諮 問 委 員 会 ( Advisory Committee on Business and the Environment、略称 ACBE)」の 2 組織を中心に、制度の構築を行う「排出量取引グループ (Emission Trading Group、略称 ETG)」を設立した。設立の段階では小規模な作業グル ープであったが、主要企業や政府からの支援を受け、のちに 100 以上の企業や商業組合、 NGO を加え、複数の作業部会を擁することとなり、規模が大幅に拡大した。その後、ETG は 2000 年 3 月に排出権取引制度の詳細な最終設計案を提出し、政府は提案をもとに 2000 年 11 月、 「英国における温室効果ガス排出権取引制度に関する諮問書(A Greenhouse Gas Emissions Trading Scheme for the United Kingdom Consultation Paper) 」を作成し、一 般の意見を反映させたうえで 2001 年 8 月 14 日、 「英国における温室効果ガス排出権取引制 度の枠組み(Framework for the UK Emissions Trading Scheme)」を公表した。 UK-ETS は、GHGs 削減をコストエフェクティブに達成することを目的に、2002 年 4 月 1 日から 2006 年 12 月まで実施され、以降は 2005 年 4 月から開始されている EU の排 出権取引制度(以後、EU-ETS)へ引き継がれている。EU での制度設計に先駆けて一足早 くイギリス内で試行的に実施したという性格が強く、近い将来の EU-ETS の導入を見据え て、世界においてイギリスが排出権に関するフロンティアになること、国内の企業の早期 経験を今後の国際競争で有利に利用し、将来的にはロンドンが国際間排出権取引市場の中 枢になることを導入のねらいとしている12。 UK-ETS は、イギリス内の自主協定の 1 つである CCL に産業界が強く反発したことが 背景となり、制度設計・導入が行われたものである。CCL は、温暖化対策を目的に、税収 は代替エネルギー・省エネ技術への投資や社会保険料負担の軽減に財源として拠出するこ とを目指し、2001 年 4 月から実施されている環境税である。製造業・商業・サービス業・ 農業・公務部門における石炭・天然ガス・LPG・電気のエネルギー消費に対して課税が行 われる13。しかし、CCL 導入による重い課税に対する産業界の反発の声は強く、気候変動 10 2000 年 11 月発表の CCP では、2010 年までに GHGs 排出量を 1990 年水準の約 23%削減を達成可能 とするための計画書である。 11 後述参照。 12 英国大使館の HP を参照した。 13 課税対象はエネルギー消費部門である下流部門であり、エネルギー転換部門、自動車・運輸、家庭部門 6 協定(Climate Change Agreement(以後、CCA))において緩和措置がとられた。CCA は エネルギー多消費産業に属する企業が個別に政府との間でエネルギーの効率化や削減目標 を約束し、目標を達成すれば重い負担であった CCL の税率が 80%軽減されるものである14。 2001 年 4 月から実施され、2002 年の取引開始時点では 44 業界団体、計 5000 社の多数の 企業が政府との間に目標を締結している15。目標達成のための手段として排出権取引の活用 が認められるが、目標不遵守の場合は、次期 2 年間の減免措置が取り消される。以上のよ うな流れを受けて、産業界に課された重い税とそれに対する政府との協定による減免措置 を受けて、目標達成に活用が認められている排出権取引制度の整備が急速にイギリス国内 で進展した。UK-ETS は、導入にあたり広く意見の公募を受けていることから、産業界に 加えて一般の意向も反映した制度であるが、制度設計の際に CCL との連携を大きく考慮し ているため、結果として、ポリーシー・ミックスの要素を持つ複雑な制度となっている。 CCL での重い課税や、京都議定書の実行が産業界に与える影響を緩和するため、より多く の企業・施設を削減活動に組み込み、産業界側を主体に国際競争力を高めることを目的と している。 【図 2-1】UK-ETS のスケジュール 出所)日本エネルギー経済研究所(2005)図表 2-10 を参考に筆者作成。注)EU-ETS は 2008 年以降、5 年ごとに実施 予定(詳細は後述) 。 等は対象外である。対象となる燃料は電気 0.43・天然ガス 0.15・LPG0.07・石炭 0.15(pence/kWh)であ り、すでに課税が行われている石油は対象とされていない(高尾(2006)表 1)。 14 業界団体として締結する「アンブレラ協定」 、個別企業・施設ごとに締結する「アンダーライティング 協定」の 2 種類がある。目標は、二酸化炭素排出量をエネルギー消費量に関する「絶対目標」と生産単位 あたりの二酸化炭素排出量・エネルギー消費量に関する「相対(原単位) 目標」の 2 種がある(細田他(2007))。 15 その後、締結数は増加し、温室効果ガスを排出するイギリス国内の主要な企業・施設である約 6000 社、 13000 施設が締結している。 7 【表 2-1】UK-ETS-制度の概要 対象ガス GHG6 種16 参加の有無 全産業(除、電力・運輸) 任意(自主) 直接参加者:キャップ&トレード 対象者 方法 ※下流産業のみ 協定参加者:ベースライン&クレジット 直接参加者:奨励金受給不可、翌年目標 直接参加者、協定参加者、 参加主体 30%かさ上げ 罰則 プロジェクト参加者、その他 協定参加者:CCL 全額納付 直接参加:1 年ごと(2002~2006 年) 目標の種類 絶対・相対 遵守期間 協定参加者:2 年ごと(2001~2010 年) グランドファザリング 排出割当 調整期間 (1998 年~2000 年基準) 直接参加者:遵守期間後 3 か月 協定参加者:協定で決定 バンキング 可(2007 年まで) 実績認証 第三者機関 ボローイング 不可 第三者の市場参加 自由 バブル 可(複数事業者間) 京都メカニズム 利用可(ERU・CER) ・奨励金、・売手責任、・ROCs と互換17 取引の制限 ゲートウェイ その他 ・GHGs はすべて CO2 換算 ・2005 年から EU-ETS へ移行 出所)高尾(2003)掲載の表「イギリス温室効果ガス排出量取引制度の概要」を参照した。 UK-ETS の対象は「電力・運輸を除くすべての産業」であり、エネルギーの段階とし ては最終消費者である「下流部門」に焦点をあてている。エネルギーの生産者や輸入業者 等の「上流部門」は対象外であり、よって、排出量の多い電力部門は対象とされていない18。 また事業系のみを対象としているため家庭部門は含まれていない。 参加主体として、①直接参加者、②協定参加者、③プロジェクト実施者、④その他、 の計 4 タイプがある(【図 2-2】 【表 2-2】)。①直接参加者(Direct entry participants、略称 DPs)は、政府から奨励金(Incentive payment)を受けとるかわりに絶対量目標を自主的 に設定する企業であり、制度の中核を担う19。ただし、参加は任意(Voluntary)である。 制度の参加・目標設計の報償として政府から奨励金が支給され、1 年間ごとのタイムスケジ ュールで、暦年初めに配分された排出割当分を暦年最後に超過していないことを第三者機 16 二酸化炭素(CO2) 、メタン(CH4)、窒素酸化物(N2O) 、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パー フルオロカーボン(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)の 6 種類であり、UK-ETS では国際的に合意された変 換係数を用いてすべて CO2 換算される。 17 再生可能エネルギーの義務量を達成したエネルギー供給主体による再生可能エネルギー義務証書(グリ ーン証書 ROCs)の取引。超過削減量を CO2 相当分に換算し、UK-ETS の下で販売可能となる。 18 給熱・運輸、埋立地からのメタン排出も対象とされていない。 19 参加企業名は【補足 1】に記載。 8 【図 2-2】UK-ETS-各参加主体の構図 ①直接参加者 ②協定参加者 絶対目標 絶対目標 相対目標 ③プロジェクト実施者 ゲートウェイ ④その他参加者 (NGO、ブローカー等) 出所)高尾(2003)図-1 を参考に筆者作成。 【表 2-2】 UK-ETS-参加者と概要 直接参加者 協定参加者 絶対量目標 相対・絶対量目標 (オークションで自主的に) (CCL で決定済み) キャップ&トレード ベースライン&クレジット 排出目標 プロジェクト実施者 その他参加者 ― なし プロジェクトによる 排出権 なし 排出削減分 期間 1 年ごとの 5 年間 2 年ごと 1 年ごと 1 年ごと 割当時期 目標達成期間の開始時 削減量の検証後(事後的) 削減量の検証後 ― 口座名20 遵守口座・取引口座 遵守口座・取引口座 取引口座 取引口座 ゲートウェイ 1、 2 も実施可能 ― 奨励金 その他 新規エントリーなし 出典)Framework for the UK Emissions Trading Scheme(2001)、The UK Emissions Trading Scheme: a new way to combat climate change(2004)、小川(2001)、みずほ総合研究所(2004)p.3 を参考に筆者作成。 関の認証により証明しなければならない21。認証の結果、余剰がある場合は排出権取引制度 (キャップ・アンド・トレード方式)を通じて余剰分を市場で売却し、逆に不足の場合は 同市場で調達して補うことが可能である。目標を達成できない場合は、罰則(定額の罰金・ 奨励金の支払い停止・次期遵守期間の割当削減)が課せられる。当初の割当は過去の排出 基準(1998 年~2000 年の平均年間排出量)に基づいて算定され、無償配分(グランドファ ザリング)された。絶対量目標・奨励金支給額の決定は 2002 年 1 月開催のオークションに より、5 年間での総額 2 億 1500 万ポンドが参加企業に配分された。遵守期間は 1 年ごとの 5 年間であり、目標を達成した暦年終了時に、入札した奨励金を 5 等分したものを受け取る 20 遵守口座(compliance accounts)は、排出権が配分される口座であり、売買したい場合は目標単位ご とに保有する必要がある。取引口座(Trading accounts)は取引を行うために必要な口座で全参加者が保 有する。その他に、退役口座(retirement accounts)、取消口座(cancellation accounts)がある。 21 2002 年 1 月 1 日~12 月 31 日が第 1 次遵守期間、2003 年 1 月 1 日から 3 月 31 日が第 1 次調整期間、 2003 年 4 月 1 日に第 1 回奨励金給付、以上のようなスケジュールで次年度以降 5 年目まで繰り返された。 9 ことになる22。なお、対象ガスは CO2 のみ、あるいは GHGs6 種であり、参加主体自身で選 択が可能である。②協定参加者(Climate Change Levy Agreement Participants)は、エ ネルギー消費に対して税が課せられた CCL の軽減措置である CCA を通した参加ルートで あり、CCA において政府との間に定めた目標を、ベースライン・アンド・クレジット方式 の適用により達成する。目標には、排出量自体である絶対目標と原単位あたりでみた排出 量である相対目標の 2 通りがあり、政府との間で既に協定が締結されている23。よって、 UK-ETS に参加することで追加的な削減目標を課されることはない。2 年ごとのタイムス ケジュールであり、目標達成の場合は、超過達成分のアラウアンス(Allownace)24が交付 され、未達成の場合は調整期間中に市場から調達する必要がある25。目標を達成した場合に は、CCL の基本税率の 80%の減免措置が受けられ、未達成の場合は次期 2 年間の減免措置 が取り消される。つづいて、③プロジェクト実施者は、排出削減目標は持たないが、GHGs を削減するプロジェクトをイギリス国内で実施し、削減量に相当する排出権を取引市場に 売却することで制度に参加する主体である。暦年ごとにカウントされ、直接参加者・協定 参加者もプロジェクト実施者になりえる。プロジェクトを実施しなかった場合の排出量(ベ ースライン)と実施後の実績排出量に関して第三者機関による検証が必要となる。最後に、 ④その他は、自社内での GHGs 排出の有無に関わらず、取引市場へ参加するおもに NGO、 海外投資家、金融関係者やブローカーなどであり、政府への登録26を行えば排出権売買が可 能となる。自社が GHGs を排出しない場合は、排出権を購入・保有することで排出量の削 減に貢献できる27。 2-1-2.特徴と残された課題 イギリス政府は、UK-ETS を「温室効果ガス排出削減の手段として長期的に見て重要 な役割を果たす」との認識のもと、 「産業部門における費用効果的かつ柔軟なオプションと して他の気候変動政策を補完する」と位置づけ、国際取引への道が開け、イギリス自身が 先導することになると認識している28。 UK-ETS 開始後 5 年が経過し、結果が明らかとなった。まず、排出権取引制度の開始 に先立ち、2002 年 3 月に直接参加者への奨励金支払額・排出削減量の決定を行うオークシ ョンが実施された。政府が用意した 5 年間(2002~2006 年)の奨励金総額は 2 億 1500 万 22 オークションの参加は当初 34 社であったが、辞退がでたため 32 社となった。 相対・絶対目標が混在することからゲートウェイのメカニズムが必要となる(詳細は後述)。 24 排出権取引での単位はアラウアンス。 25 2002 年 1 月~2002 年 12 月 31 日が第 1 目標年度(3 か月前倒しが可能) 、2003 年 1 月 1 日~1 月 31 日が調整期間、以上のようなスケジュールで次年度以降も繰り返し。 26 排出権取引機関(Emissions Trading Authority、略称 ETA) 。登録簿に口座を開くことでアラウアンス の取引が可能となる。 27 みずほ総合研究所(2004) 。 28 中西(2000) 、UK Emissions Trading Group(2000)。 23 10 ポンドであり、Descending Clock 方式29により、直接参加者として 17 業種・34 社が参加 した結果、決済価格は 1t-CO2 の削減に対して 53.38£30となった。同時に、最終年(2006 年)に達成が必要となる年間排出削減量(Overall Target)396.0 万 t-CO2 が決定され、初 年度(2002 年)では落札量の 5 分の 1 に相当する 79.20 万 t-CO2 の削減が必要となった。 よって、31 社31のベースライン排出量(2002 年)は計 3053.8 万 t-CO2 であることから、 最終年(2006 年)で約 12.9%の削減が約束された(【図 2-3】)。 以上を 5 年間の累積でみると、初年度(2002 年)に達成が必要な目標削減量は先に決 定した 5 年間の年間排出削減量を 5 で割ったもの(2 割)であり、79.2 万 t-CO2(=396.0 万 t-CO2÷5)、2 年度目は 158.4 万 t-CO2(4 割)、3 年度目は 6 割の 237.6 万 t-CO2(6 割) という具合に均等に比率が増加し、最終的には 5 年間で累積 1188.0 万 t-CO2 の削減が必要 となる32。 【図 2-3】 2006 年の目標削減量(直接参加 31 社) 35000000 30000000 25000000 20000000 12.9%減 15000000 10000000 5000000 0 2002ベースライン 2006目標 出所)House of Common Committee of Public Accounts(2004)、みずほ総合研究所(2004)を参考に著者作成。 初年度の直接参加者による排出量は 2592.0 万 t-CO2 であり、結果として、オークショ ンの際に決定された初年度の削減目標である 79.20 万 t-CO2 を大幅に上回る 461.8 万 t-CO2 の削減が達成された。個別にみると、目標よりも多く排出量の削減を達成した直接参加者 は 23 社であり、そのうち 10 社では最終年度の削減目標に相当する削減量をすでに初年度 で達成している。同様に各年度をみていくと、2003 年度には 518.3 t-CO2、2004 年度には 596.8 t-CO2、2005 年度には 705.4 t-CO2、2006 年度には 722.6 t-CO2 の削減を達成し、最 29 削減量 1tあたりの入札価格を徐々に下げていく方式。 1£=185 円換算で約 9873 円/1t-CO2。各直接参加者の奨励金受取額は【補足 2】参照。 31 オークションには 17 業種 34 社が参加したが、辞退が 3 社あり、計 31 社となった。 32 例えば Motorola のケースを見ると、ベースラインが 19551t-CO2、Overall Target は 5000t-CO2 であ ることから、2002 年度の allocation は 1000t-CO2 減(=5000÷5)の 18551t-CO2、2003 年度は 2000t-CO2 減の 17551t-CO2 となり、最終年度には 5000t-CO2 減の 14551t-CO2 となる。 30 11 終年度の目標である約 350 万 t-CO2 を大きく上回る削減量を達成している33。以上より、削 減を達成した企業は超過分を排出権として取引市場で売ることが可能となったが、他方、 各年度とも目標に届かない企業があり、中には 5 年間を通して一度も達成できなかった企 業も存在し、目標に到達するための排出権の入手が必要な状況が生じた(【表 2-3】)34。 【表 2-3】 年度ごとの直接参加者の排出量削減状況 2002 年度 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 達成 23 22 18 21 18 未達成 9 10 14 12 15 ベースライン超過 5 4 5 7 8 前年排出量よりも増加 ― 10 6 8 9 目標削減量 出所)DEFRA HP 掲載の Results of the 2002-2006 commitment period をもとに作成。単位)1 社。 直接参加者の遵守(目標達成)期間は各年次ともに 12 月 31 日までであり、続く 1 月 1 日から 3 月 31 日までの 3 ヶ月間が排出権の調整期間となり、排出権の取引によって目標 を達成させることが必要となる。他方、協定参加者は 2 年ごとのスケジュールであり、最 初の年の 1 月 1 日から 12 月 31 日がマイルストーン(目標達成)期間であり35、2 月 17 日 までが排出権の調整期間となる。実際、排出権の取引は 2002 年 4 月から開始された。初年 度は、政府との間に CCA を締結し、削減目標を設定した約 5000 社36のうち、約 15%にあ 「買い手」としての参加が約 86%に たる 866 社が排出権取引に参加した37。内訳をみると、 あたる 743、 「売り手」としての参加が残り 14%の 123 であり、後者による分は協定参加者 による排出権(allocations)としてカウントされている(【表 2-5】)。初年度に割当てられ た排出権は、計 3157.8 万 t-CO2(直接参加者 3023.1 万 t-CO2、協定参加者 134.6 万 t-CO2) であり、実際に取引された排出権は 721.6 万 t-CO2 である。年間の取引数は 2000 を超える が、そのうち約 82%は 2003 年 1 月から 3 月の間で行われている(【表 2-4】)。この期間は 直接参加者・協定参加者の排出権調整期間であることから、目標達成を目指し集中して取 引が行われたことが予想される。同様に、2 年度目は、協定参加者のうち 96 社が参加し38、 そのうちネットでみて「買い手」となっているのは 79、他方、「売り手」は 34 である。2 年度目に割当てられた排出権は、計 2914.9 万 t-CO2(直接参加者 2895.8 万 t-CO2、協定参 33 ホットエアが問題となり目標が見直しされた結果、当初の削減目標が修正されている。 各直接参加者の年度ごとの排出削減量については【補足 3】に掲載している。 35 3 ヶ月前からの繰り上げが可能であり、10 月からを選択する企業もある。 36 Target unit(TU)として表記されている。1 つの達成目標を複数の施設で配分している。 37 第 1 期の目標期間では 5742 社が締結を行ったが、 達成したのが 5042、目標達成日までの脱退数が 164、 未報告が 317、未達成が 219 であり、結果として CCA 参加者のうち約 87.8%(5042)が目標を達成した (CCL HP 参照) 。 38 CCA は 2 年ごとに目標期間を設定していることから、 期限設定のない 2003 年度は参加が少なくなって いる。また初年度の協定参加者の参加は、目標達成期間である 2002 年 12 月から 2003 年 2 月のみである。 34 12 加者 191.4 万 t-CO2)であり、実際に取引された排出権は 496.4 万 t-CO2 である。年間の取 引数は初年度から大幅に減少し 322 であり、そのうち 100 が 2004 年 3 月に取引され、直 接参加者の目標達成に利用されたことが予想される。3 年度目は、初年度を上回る 885 の協 定参加者が取引を行った。内訳は、403 がネットでみた「買い手」、37 が「売り手」であり、 50.0 万 t-CO2 が排出権としてカウントされている。CCA の目標達成期間が設定されている 初年度と比べて、「売り手」数は大幅に減少しているが、より多くの排出権が生じている。 3 年度目に割当てられた排出権は 2602.7 万 t-CO2(直接参加者 2552.6 万 t-CO2、協定参加 者 50.0 万 t-CO2)であり、実際に取引されたのは 479.0 万 t-CO2 である。取引数は 2162 であり、初年度を上回ったが、約 49.1%が 2005 年 1 月に取引されている。これは CCA の 達成期間が翌 2 月中であったため協定参加者での買い取りが進んだためであると予想され る。4 年度目は、2 年度目と同様の傾向が強く、割当てられた排出権は 208.5 万 t-CO2(直 接参加者 1932.1 万 t-CO2、協定参加者 152.5 万 t-CO2)であり、そのうち 333.8 万 t-CO2 が実際に取引きされた。総取引数は 562 であるがそのうち約 47%に相当する 253 が 2006 年 3 月に実施されている。これは 2 年度目と同様に、特に、直接参加者の目標達成に利用 されたことが予想される。 【表 2-4】 直接参加者 協定参加者 計 排出権の割当数と主体数 2005 2004 2003 2002 19321629 25526915 28957357 30231415 (-) (32) (32) (30) 1525311 499765 191403 1346454 (-) (37) (34) (123) 20846940 26026680 29148760 31577869 (-) (69) (66) (153) 出所)各年版の Scheme Report and Market Analysis(Defra HP 掲載)の Table:Allocations より抜粋。注)2002 は 2003 年 3 月 31 日に割当てられた排出権数(Allocations)を意味し、他年度も同様である。2007 年 9 月現在、2006 年 度の Market Analysis は公表されていない。単位)t-CO2。 【表 2-5】協定参加者の参加数と allowance 2005 2004 2003 2002 計 ― ― 885 ― 96 ― 866 ― 買い手 ― ― 403 1540871 79 370256 743 565918 売り手 ― 1525311 37 499765 34 191403 123 1346454 出所)各年版の Scheme Report and Market Analysis(Defra HP 掲載)より抜粋。注 1)各年次とも左側が参加数、右 側は allowance を示す。なお、 「買い手」は net buyer を意味し、協定参加者によって排出権取引市場に出されたもの(「売 り手」に記載)が排出権の割当分として【表 2-4】で表記されている。注 2)2007 年 9 月時点で明らかな値のみ掲載。 13 単位)t-CO2。 【表 2-6】売買数 Total Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar April 2005-March 2006 562 98 9 42 19 9 8 11 10 26 38 39 253 April 2004-March 2005 2162 55 26 52 32 24 25 31 134 306 1062 348 67 April 2003-March 2004 322 44 49 7 7 8 14 4 9 13 39 28 100 April 2002-March 2003 2001 20 7 20 19 24 44 44 73 113 1637 出所)各年版の Scheme Report and Market Analysis(DEFRA HP 掲載) の Number of Transfers(excluding allocations, cancellations and retirements)より抜粋。注)2007 年 9 月時点で明らかな値のみ掲載。 UK-ETS は、GHG を対象とする世界初の包括的な国内排出権取引制度であり、国内に 導入された CCA との連動を図るポリシー・ミックスとしての要素を持つことで企業に GHG 削減のインセンティブを与え、イギリス全体として効率良く環境負荷削減をめざす制度で ある。しかし、制度の特徴や結果を受けて、「排出削減の実効可能性」という観点から、以 下の点で UK-ETS には残された問題があるといえる(【図 2-4】)。 【図 2-4】UK-ETS の特徴と問題点 特徴 問題点 GHGを対象とする世界初の包括的な国内排出権取引制度 他の排出権制度との互換性 他の関連政策と連動(ポリシーミックス) 制 度 の 特 徴 2種類の目標設定(相対・絶対) ゲートウェイ問題 過去の実績でベースライン決定 ホットエア問題 任意参加 リーケージ(漏れ)問題 GHGを対象(後にCO2換算) CO2が少ない、種類ごとに削減単価が異なる 下流型を対象 CO2排出の多い電力などの上流が対象外 対象企業数が多い 正確な監視・認証の問題 オークションで目標・奨励金額を決定 大規模入札の存在、リスク警戒 奨励金の支払い 排出企業でなくても参加が可能 出所)Framework for the UK Emissions Trading Scheme、高尾(2003a) (2003b)、中西(2000)を参考に筆者作成。 ■相対・絶対目標の設定によるゲートウェイ 協定参加者は政府との間で絶対目標(絶対量)あるいは相対目標(原単位)を締結(CCA) し、結果として相対・絶対目標の双方が混在しているために排出権売買の際に売却量の制 14 限をおこなうための「ゲートウェイ(Gateway)」が必要となる。これは、原単位でみた実 績が少しでも相対目標値を上回っていれば、産出量の増加とリンクして排出絶対量が増加 してしまい、結果的に総量で削減されていなくても排出権が生じ、絶対目標の排出権と自 由に交換可能となれば、排出権の信頼性に問題が生じ不具合が発生することになる39。そこ で、相対目標から絶対目標への口座間の排出移転に制限を設け、絶対目標から相対目標へ の売却量と同じ分量のみ売ることが可能となる「ゲートウェイ」の開閉操作をおこなって いる。よって、相対目標から絶対目標への排出権の移転を行う場合は、すべて一定の制限 を持つ「ゲートウェイ」を介する必要があり絶対目標から相対目標へ純流入がある場合の み移転が可能となる。また、「ゲートウェイ」が閉鎖されると、相対目標を保有する企業は 国際排出権取引制度の下で排出権を販売できなくなる40。 【図 2-5】 ゲートウェイの開閉-概念図 出所)Framework for the UK Emissions Trading Scheme, Fig.5.1.を参考に筆者作成。注)矢印は絶対・相対目標 排出量の累計量を示す。 ■ベースライン設定の緩さに起因するホットエア問題41 各直接参加者自身が必要となる排出削減量は、ベースライン排出量の設定次第で大き く変動するため、ベースラインの決定は排出権取引制度の有効性を左右する大きな問題と いえる。また、直接参加者は任意参加であるため、ベースラインを厳しく設定すると多数 の参加が見込めず、逆に、緩い設定を行うと各企業の削減意欲を向上させることができず、 いずれのケースの場合も、UK-ETS の有効性を損なうことになる。制度において、直接参 加者のベースラインは、1998 年から 2000 年までの 3 年間の平均年間排出量で決定されて いる。ただし、当該 3 年間の排出動向が一様ではなく、エネルギーの効率化を念頭とする 政府による各政策や、再生可能エネルギー導入促進制度等に対応して排出量が大幅に削減 された年度を含む場合は、設定されたベースラインよりも少ない排出量をすでに達成する ケースが想定される。このような場合、追加的な削減努力なしに削減目標を達成すること 39 Framework for the UK Emissions Trading Scheme, UK Emissions Trading Group(2000)、中西 (2000)参照。 40 京都議定書で定められている第 1 約束期間の開始と同時(2008 年 1 月 1 日)にゲートウェイは閉鎖さ れる予定である。小川(2002 参照。 41 House of Commons Committee of Public Accounts(2004) 、みずほ総合研究所(2004)参照。 15 から、法制度が定めるように、政府から奨励金と排出割当を獲得することになる。そこで、 ベースラインの緩い設定による以上のような状況を避けるため、次の注意点を個別企業に 適用したうえで、設定をおこなった。 1)3 年間の排出量の中で 2002 年 1 月以降の規制で定められた上限値を超えた年がある 場合は、その年の排出量は規制の上限値を採用して平均排出量を算出する 2)政府が 2000 年 1 月までに何らかの排出削減策を求めていた場合は、ベースラインは 2000 年の排出量とする しかし、個別の調節を行ったうえでベースラインを設定したにも関わらず、開始初年 度にすでに 5 年目の排出削減目標を達成する企業があるなど、一部の直接参加者にとって は緩い設定となっている42。例えば、いずれも奨励金の上位配分企業である43化学産業の Ineous Fluor、Invista UK、Rhodia Organique Fine や石油業界の British Petroleum、航 空業界の British Airways などの企業が実際の排出削減を伴わない偽りの削減である「ホッ トエア」に該当する。上記 5 社は、最終年までに年間 221.4 万 t-CO2 の(初年度 44.8 万 t-CO2) 削減を予定しており、達成の際には 5 社合計で 1 億 1820 万£を奨励金として付与される予 定であった。 しかし、初年度の時点ですでに最終年の削減目標を大幅に上回る 391.4 万 t-CO2 の削減を達成している。 この理由として、排出量実績に関する政府の情報不足があげられ、 各社とも上述の注意点を考慮にいれ調整をおこなったうえで設定しているが、2000 年以降 も実績排出量が減少した結果、設定されたがベースラインが 2000 年以降の実績を上回って しまっている44。よって、実質を伴わない偽りの排出削減をおこなった企業が多額の奨励金 を政府から付与されることになり、またホットエアに相当する低価格の排出権が市場に出 回ることで需給バランスを崩すことから、制度の有効性に対する大きな反響をよぶことに なった。 ■任意参加によるリーケージ問題45 UK-ETS への参加は「任意」であるがゆえに「リーケージ(漏れ)」問題が生じている。 同一業界に属する企業でも参加・不参加は個別企業の意向で決まり、参加企業の業界内で の相対的な位置づけや競争力が排出量の削減・排出権制度の有効性に大きく影響すること になる。例えば、航空業界をみると、直接取引者として参加しているのは British Airways (以下、BA)1 社のみである。BA はフラッグシップとして大きなシェアを得ているが、他 にも多数の競合他社がひしめき熾烈な価格低下・シェア獲得争いが生じている。特に EU 42 筆者計算によると、31 社の直接参加企業うち 12 社が該当する。 【補足 2】参照。 44 Ineous Fluor、Invista、Rhodia、BP の 4 社のベースライン設定に関しては House of Commons Committee of Public Accounts(2004)が詳しい。 45 高尾(2003b)参照。 43 16 による航空自由化導入後は民間格安航空会社が参入し、ネットを媒介にした格安航空券が 広く市場に出回っている。そのような中、特にイギリス内でシェアを拡大させているのが アイルランドの格安航空会社である Ryanair(ライアンエアー)である。2002 年に 101.2 万 t-CO2 の排出実績を持つ BA は、5 年目に 12.4%に相当する 12.5 万 t-CO2 の削減目標を UK-ETS において設定している。他方、2002 年 3 月決算のシェアをみると BA は前年比 10.1%減、他方、急速な拡大がみられる Ryanair は 46%増である46。Ryanair は UK-ETS の参加企業ではないことから、たとえ BA が目標通りの排出削減を達成したとしても、航空 業界全体でみた場合、Ryanair をはじめとする複数の格安航空会社のシェア増加に伴う排出 量増加に相殺され純増加になる可能性が高い。以上のような、「任意」参加に起因する UK-ETS 不参加企業が存在することによる「リーケージ」は排出量の削減に影響する大き な問題であるが、制度上、防止する方策が欠如しているため、排出量の削減を困難にする 複雑な問題となっている。 ■GHG6 種を対象ガスとすることによる問題47 京都議定書は GHG6 種48を対象とする目標設定であり、UK-ETS は、存在する各種排 出権取引制度の中でも GHG6 種を対象ガスとする世界初の国内排出権取引制度であること から、制度設計・動向が非常に注目されている制度である。UK-ETS では、各 GHG を CO2 換算49したうえで目標値・削減量の認証を行うが、実際は 6 種類の中に占める CO2 の比率 は半分以下であり、CO2 以外の GHG ガスを削減対象とする企業が多い。例えば、直接参加 企業のうち、Britoil、Shell UK、UK Coal Mining はメタン、Invista は亜酸化窒素、Rhodia UK は HFC を削減対象ガスと設定している。問題は各 GHG ガスに応じて限界削減費用が 大きく異なることにあり50、導入の時点でどの削減ガスを対象とするかに応じて削減費用が すでに異なっているため、本来 UK-ETS が求める「市場における取引制度の導入の結果、 最小費用で効率的に削減を達成する」にそぐわない事態になっているといえる。6 種類を対 象に設計を行った点で評価される UK-ETS ではあるが、種類による特性を反映・考慮した 政策設計が必要であったといえる。 ■事業系のみの下流型を対象とすることによる欠落問題 一般に、エネルギーの段階は石油・ガス・石炭などの燃料を生産・輸入・販売する事 業者である「上流型」と、燃料を燃焼する最終消費者である「下流型」の 2 タイプに区分 46 http://www.fukunet.or.jp/kokusai/docu2/fukuoka200207.html 記載の数値を利用した。なお、2002 年 3 月の売上高は、BA は 1 兆 5300 億円、Ryanair は 730 億円である。 47 高尾(2003b)参照。 48 二酸化炭素(CO2) 、メタン(CH4)、窒素酸化物(N2O) 、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パー フルオロカーボン(PFCs)、六フッ素硫黄(SF6)の 6 種類である。 49 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の変換係数を用いる。 50 特に削減単価が低いのは HFC-23 である(高尾(2003b) )。 17 される51。UK-ETS では、事業系の「下流型」のみを排出割当の対象とし、家庭系や GHG 排出の多くを占める電力は対象外とされている52。最終消費者である家庭は、別途、家庭用 エネルギーの効率化を図るプログラム(エネルギー効率化コミットメント(EEC))53が進 行中であることから、UK-ETS では対象外とされている。電力に関しては、発電・発熱と 使用による燃焼の両方が現場で行われている場合を除き、発電・発熱による直接的排出は 対象外となる。電力は自ら燃料を燃焼する一方、エネルギー転換された電気は自身以外の 主体が最終ユーザーとなることから「上流型」「下流型」の双方に該当する可能性を持つ。 よって、消費者・生産者間での排出量の二重計上など複雑な問題が生じ、また、政府によ るエネルギー政策と密接な関連性を持つことから、UK-ETS では対象外とされている54。以 上のように、UK-ETS では、事業系の「下流型」を対象とすることから、電力・家庭部門 を対象に含めない制度設計である。UK-ETS は、世界初の包括的な国内排出権取引制度と 認識されているが、GHG 排出の多い電力や家庭部門までは制度が及んでいない点で排出削 減の実効性に問題が残るといえる。 ■対象企業数が多いことによる問題 UK-ETS は、自主参加を特徴とし、排出割当の対象とされるエネルギー事業系の「下 流型」に分類されるすべての企業に広く門戸が開放された制度であり、イギリス国内の企 業 6000 社が対象となっている。対象企業数の多い国内排出権取引制度であるが、自由参加 のもと、一度参加を表明すると法制度下に置かれ、約束の遵守が必要となる。実績および 遵守状況は第 3 者機関の認証により評価されるが、参加主体数が多いことから正確・迅速 な評価という点で課題が生じている。 ■目標・奨励金額の決定のためのオークション結果にみる問題55 直接参加者の 5 年間の目標削減量と奨励金額の決定にはオークションが用いられた。 結果として、1 企業あたりの奨励金額が当初の予想を上回る過大な額となったのは、近い将 来の EU-ETS 導入56やリスク警戒の影響が強いといえる。参加の意向を示した企業数は 100 を超えたのに対し、オークション開催時に既に EU-ETS の導入年が決定していたことから、 実際にオークションに参加し目標・削減金額を設定した企業数は 34 にとどまった。奨励金 や先発で参加することの優位性と新制度の不透明性・情報不足を両天秤にかけ、さらに、 51 山本(2002)参照。 陸路および海上輸送による排出、塵埋め立て地のメタンガス排出も対象外である。 53 電気またはガス供給者に消費者にエネルギー効率化措置を講じるように奨励する義務を負わせるコミ ットメントであり、企業の義務と実績は、消費者のエネルギー節約度合から評価される(Framework for the UK Emissions Trading Scheme、Ch8.4)。 54 ただし、発電事業者は直接参加者としての参加は認められていないが、認可済プロジェクトによるもの、 新設発電所(CHP、大型火力、廃棄物家電等)から生じる排出権は供給可能となる(Framework for the UK Emissions Trading Scheme、小川(2002))。 55 高尾(2003a)参照。 56 EU-ETS については次節参照。 52 18 EU-ETS の導入により重層的な制度が発足する状況を考慮した結果、積極的に UK-ETS に 参加する企業が予想より少なくなったと考えられている57。 以上のような UK-ETS の制度的な特徴から生じる残された問題は、2005 年 1 月から開 始されている EU-ETS への完全な移行を困難にした点でもある。UK-ETS はイギリス国内 のみの適用である国内排出権取引制度であり、国際排出権取引制度である EU-ETS との完 全な互換は難しい。設計当初から、将来的な国際排出権取引制度の導入を見越し、「二国間 の取引きはできる限り継ぎ目なく処理されるよう確保に努め、UK-ETS に参加し早期に行 動をとる企業が EU 制度の規則で不利にならないことを確保する58」としているが、UK-ETS は独自性を持つために、互換にあたっては複雑な取り決めが必要となっている。中でも、 国内政策との関連で 4 タイプの参加主体の設定(直接参加者・協定参加者・プロジェクト 実施者・その他)、それにともない、2 タイプの目標(絶対・相対)が混在していることは EU-ETS との互換性を特に困難にしている。その他に、奨励金の存在、発電部門の取扱い、 排出権の法的位置づけ、会計上の扱い、制度の有効性等においても問題が残っている。両 制度の相違は大きく、イギリスは、UK-ETS をスムーズに運営する一方で、EU-ETS を定 める EU 指令を国内法に取り込む作業を行っているが、両制度を完全に統合するのは極め て困難な状況である。 2-2.EU の制度(EU-ETS) 温室効果ガスの排出枠を取引する市場を欧州内に形成し、経済成長と雇用面に与える 影響を最小限に抑える一方で、欧州での排出削減を効率良く達成することを目的に EU 加 盟 国 を 対 象 と る 世 界 初 の 国 際 間 排 出 権 取 引 制 度 で あ る EU-ETS ( European Union Emissions Trading Scheme)が策定された。背景には、2008 年から 2012 年にかけて 1990 年水準で温室効果ガス「8%削減」を定めた京都議定書が存在する。EU 各国は独自な政策 (環境税や自主協定など)をすでに積極的に展開しているが、環境負荷の削減を効率良く 達成のために EU を横断する制度が必要な状況にあった。 2-2-1.EU 法と国内法の整合 環境負荷は国境を超える特性を持つことから、欧州を横断する一律の環境法の適用が 必要といえる。EU の法体系は、拘束力をもたない「勧告」 「意見」、法的拘束力をもつ「規 則」「決定」 「指令」等から構成されている(【表 2-7】)59。EU-ETS は、「指令 Directive」 57 UK-ETS 開始時点では EU-ETS の導入は決定されていたものの、両者の接合についての詳細は決定し ていなかった。 58 Framework for the UK Emissions Trading Scheme ch.9。 59 EC 条約第 189 条に規定。その他に決議 Resolution、宣言 Declaration、覚書 Memorandom 等がある。 19 に該当し、現行国内法に置き換えられる効力を持ち、各国は、EU 官報公表後 3 年以内に、 国内法の改正・整備が必要となる60。指令の内容を反映した具体的な実施の形式・手段は各 国の国内機関の裁量に委ねられ、指定期間内に国内法規制により実行に移す必要が生じる。 EU-ETS を完全な国際排出権取引制度として成立させるためには、各国内での早急な対応 が必要な状況にある。 【表 2-7】EU の法制度 勧告 Recommendation 拘束力なし。理事会の意見表明。 意見 Opinion 拘束力なし。理事会の意見表明。 規則 Regulation 決定 Decision 全加盟国に直接適用。国内法に優先する拘束力を持つ。一般的立法。 EU 官報で公表。 対象を特定(加盟国、個人、法的私人)した義務。即時の法的効果。 EU 官報で公表。「規則」よりも限定・個別的。 国内法に置き換えられ効力を発揮(実施の際の形式・手段の権限は 指令 Directive 国内機関に委ねられる)、各国は国内法や行政規則などを改正する必 要がある。EU 官報で公表(3 年以内に対応)。 出所)ディヴィッド・エドワード他(1998)、勝田(2004)、河村他(2004)、林他(2006)を参考に筆者作成。 2-2-2.導入の背景と概要 1997 年の京都議定書において 2008 年までに国際排出権取引市場の設置が定められて いるが、EU では 2000 年に欧州委員会が「欧州連合内での排出権取引に関するグリーンペ ーパー」を提出してから具体的な制度設計が開始された。なお、「グリーンペーパー」は欧 州委員会が調査を依頼した民間シンクタンク FIELD(Foundation for International Environment Law and Development)による調査報告書をもとに作成されている。その後、 2001 年 10 月に指令案が提出され修正を経たのち、2003 年 7 月に本指令である「EU 全域 における排出枠取引に関する指令案」が通常よりも早いスケジュールで採択され、10 月に 発効となった。他方、京都メカニズムとの整合性について定めた「リンキング指令案」が 本指令採択の翌日に提出され、2004 年 9 月に採択、11 月に発効となった。本指令は域内取 引の全般に関する定めであり、 「指令 Directive」であることから、各加盟国では、制度設計 は独自に委ねられているものの、国内制度の改正が必要となった。EU-ETS は京都議定書 開始に先駆けて 30 カ国にまたがる大きな制度として先行的に実施されたという位置づけを 持つ。 EU-ETS は 2 期計画であり、第 1 期を 2005 年から 2007 年、第 2 期を 2008 年から 2012 年とし、以後は 5 年ごとのスケジュールで実施される予定である。第 2 期は京都議定書の 第 1 約束期間と一致している。対象施設の事業者は排出許可の申請を行い、加盟各国は京 60 欧州の環境法の多くは「指令」である(ディーター(2002))。 20 都議定書に基づく国別排出削減目標に従い、排出許可枠を申請事業者に供与する。各事業 者は供与された排出許可枠の制限内で排出を行う必要が生じる。余剰排出量は EUA61とし て欧州排出権取引市場に売却が可能であり、他方、実績排出量が割当量を超える場合は超 過分を同市場からの EUA 購入や京都メカニズム(CDM や JI)の活用により確保する必要 がある62(【図 2-6】)。EU-ETS における京都メカニズムの扱いは「リンキング指令案」で 定められているが、コスト削減をねらい、域内だけではなく域外のプロジェクトによる JI、 CDM から生じたクレジットの利用も認められている63。なお、実際に EUA の売買を行っ ている取引所は EEX(ドイツ)、Nord Pool(ノルウェー)、ECX(オランダ)、Powernext (フランス) 、EXAA(オーストリア)、Sendeco2(スペイン)の 6 カ国に存在し、従来、 電力取引を扱っていた市場が EU-ETS の開始にともない、EUA の売買を取り扱うようにな ったケースが多い64。 【図 2-6】EU-ETS の構造 出所)ジェトロウィーン(2006)図 3 を参考に筆者作成。注)施設 A は排出量が割当量よりも少ないケース、施設 B は排出量が割当量を上回るケースを図示している。 【表 2-8】 参加 対象ガス UK-ETS と EU-ETS の概要 UK-ETS EU-ETS 任意参加(自主) 強制参加 GHG6 種 第 1 期:CO2 61 EU-ETS において取引される排出権 EU Allowance(EUA)。なお、京都議定書において第 1 約束期間 内に許可されている温室効果ガスの排出枠を AAU(Assigned Amount Unit)、共同実施(JI)により生じ た排出削減量を ERU(Emissions Reduction Unit)、クリーン開発メカニズム(CDM)により生じた排出 削減量を CER(Certified Emission Reduction)と表記する。 62 河村他(2004) 、ジェトロウィーン(2006)、鄭(2006)参照。 63 特に、2004 年 5 月に新規加盟した東欧 10 カ国において JI が実施される可能性が高い。 64 ジェトロウィーン(2006)参照。 21 第 2 期:GHG6 種 全 IPCC 対象企業 ※20MW 以上の燃焼施設、鉄生産加工、鉱物、 全産業(除、電力・運輸) その他部門 ※下流部門 ※大規模下流部門(施設ベース) 対象企業 ※運輸、船舶、民生、家庭は対象外 ※第 1 期間:25 カ国、第 2 期間:35 カ国 直接参加:キャップ&トレード 方法 キャップ&トレード 協定参加:ベースライン&クレジット グランドファザリング グランドファザリング 目標、初期割当 ・2005~2007:無償割当 無償割当(1998~2000 基準) ・2008~2012:90%以上無償割当 直接参加:絶対目標 目標の種類 絶対目標 協定参加:相対目標&絶対目標 直接参加、協定参加、 参加方法 プロジェクト実施、その他 第 3 者の参加 可能 全 IPCC 対象企業 ― 第 1 期間:2005~2007 年 直接参加:1 年ごと 第 2 期間:2008~2012 年 遵守期間 協定参加:2 年ごと ※その後、5 年ごとに実施 京都メカニズム 利用可(ERU、CER) 利用可(ERU、CER) ※第 1 期間は森林・原子力によるクレジット不可 (リンキング) バンキング ボローイング バブル 2007 年まで可能 加盟国の裁量 不可 可能 複数事業所による形成可 可能(各国が NAP で規定) 可能(「その他」として) 可能 第 3 者機関 第 3 者機関 参加義務のない主 体の参加 実績認証 直接参加:奨励金受給不可、 ・2005~2007:40 ユーロ/t-CO2 翌年目標 30%かさあげ 罰則 ・2008~2012 年:100 ユーロ/t-CO2 協定参加:CCL 全額納付 ・奨励金 その他 ・加盟国ごとに国内割当計画作成 ・GHG はすべて CO2 換算 ・域外国の排出権取引制度とリンク可能 ・2005 年から EU-ETS へ移行 出所)UK-ETS については、高尾(2003)掲載の表「イギリス温室効果ガス排出量取引制度の概要」を参照した。注) クレジットはプロジェクトに伴う排出削減量であり、排出がどの程度削減されたか検証・認証された後に発行されるも 22 のである(松尾(2002))。 第一期 EU-ETS(2005 年~2007 年)では、CO2 のみを対象とし、20MW 以上の燃焼 施設、鉄生産加工部門(焙焼・焼結・鉄鋼)、鉱物部門(ガラス・セメント・セラミックス) 、 その他(紙・パルプ)の施設が対象となっている65。EU は域外国へのエネルギー依存が低 い(輸入割合が小さい)ことからエネルギー消費段階の下流部門を対象としている。加盟 国全体の割当総量は年間 21 億 9080 万トンであり、各国は国家割当計画(National Allocation Plan(通称、NAP)を作成し、国全体・施設ごとの割当配分や割当方法に関す る計画を定められた期日までに欧州委員会に提出・承認される必要がある。NAP は、①京 都議定書達成のために各国で策定された国内対策に基づくもの、②企業・セクター間での 差別なし、③新規参入者への言及、以上の点を考慮したうえで策定することがもとめられ ている。最終的に全加盟国の承認が終了したのは 2005 年 6 月であり、国内割当総量は 21 億 9080 万 t-CO2、対象施設数は 11428 となった。排出枠はドイツがもっとも多く、続いて イギリス、ポーランド、イタリアの順である。対象施設数は、ドイツ・フランス・ポーラ ンド・イギリスの 4 カ国は 1000 以上である。ベース年との比較で NAP 排出枠をみると、 国によって大きな差が生じており、ギリシャ・ポルトガル・スペインでは 60%以上である のに対し、ラトビア 15.9%、フランス 27.7%、スウェーデン 31.6%、イギリス 32.8%と厳 しい計画である。排出割当量を達成できなかった場合には各年 40 ユーロ/1t-CO2 罰金を支 払う必要が生じ、超過排出枠は翌年に繰り越される。なお、排出許可枠は域内市場の保護 のため、無償で施設に供与された66。 第二期 EU-ETS(2008 年~2012 年)では、対象ガスが GHG6 種に拡大される。加盟 国全体の割当量は年間 20 億 6300 万トンであり、第 1 期より 6%減少しているが、京都議 定書での目標達成を考慮した数値である。京都メカニズム以外にも、再生可能エネルギー 導入促進、コージェネレーション発電の導入推進、輸送部門の効率化等の手段も導入が検 討されている67。また、産業部門以外にも対象範囲を拡大することが検討され、民間航空機 を含める案が提出されている68。排出割当量を達成できなかった場合には第 1 期よりも高額 の各年 100 ユーロ/1t-CO2 罰金がかせられる。排出許可枠は少なくとも 90%が無償で割当 される予定である(【表 2-9】)。 65 EU Emission Trading Scheme(2003/87/EC)、日本エネルギー経済研究所(2005)図表 9-5 参照した。 第 1 期の各国の NAP を環境的有効性の観点から評価した結果を【補足 5】に掲載。 67 ジェトロウィーン(2006)参照。 68 航空機が排出する GHG は EU 総排出量の 3%に相当し、航空需要の増加によりますます不可の増加が 見込まれることから、対象に含める動きが生じている(大塚(2007))。 66 23 【表 2-9】第 1 期間 ベース年 GHG 施設数 承認済み NAP の一覧 NAP NAP/ CO2 アロ 対 EU 京都議定書 排出枠 ベース年 ーワンス シェア 削減義務 オーストリア 78.0 205 33.0 42.3 99.0 1.5% -13% ベルギー 146.8 363 62.9 42.8 188.8 2.9% -7.5% チェコ 192.1 435 97.6 50.8 292.8 4.4% -8% - 13 5.7 - 16.98 0.3% - デンマーク 69.0 378 33.5 48.5 100.5 1.5% -21% エストニア 43.5 43 19.0 43.6 56.85 0.9% -8% フィンランド 76.8 535 45.5 59.2 136.5 2.1% 0% フランス 564.7 1172 156.5 27.7 469.5 7.1% 0% ドイツ 1253.3 1849 499.0 39.8 1497.0 22.8% -21% ギリシア 107.0 141 74.4 69.5 223.2 3.4% 25% ハンガリー 113.1 261 31.3 27.6 93.8 1.4% -6% アイルランド 53.4 143 22.3 41.7 67.0 1.0% 13% イタリア 508.0 1240 232.5 45.7 697.5 10.6% -6.5% ラトビア 28.9 95 4.6 15.9 13.7 0.2% -8% リトアニア 50.9 93 12.3 24.1 36.8 0.6% -8% ルクセンブルグ 12.7 19 3.4 26.7 10.07 0.2% -28% マルタ 2.2 2 2.9 - 8.83 0.1% - オランダ 212.5 333 95.3 44.8 285.9 4.3% -6% ポーランド 565.3 1166 239.1 42.2 717.3 10.9% -6% ポルトガル 57.9 239 38.2 65.9 114.5 1.7% 27% スロバキア 72.3 209 30.5 42.1 91.5 1.4% -8% スロベニア 20.6 98 8.8 42.7 26.3 0.4% -8% スペイン 286.8 819 174.4 60.8 523.3 8.0% 15% スウェーデン 72.3 499 22.9 31.6 68.7 1.1% 4% イギリス 746.0 1078 245.3 32.8 736.0 11.2% -12.5% 25 カ国計 5334.1 11428 2190.8 - 6572.4 100% - キプロス 出所)EU(2006a)、EU(2005)、深澤(2005)より抜粋。単位)Mt-CO2。 24 【表 2-10】第 2 期間 承認済み NAP の一覧 第 2 期間キャップ 第 2 期間 第 2 期 JI,CDM 決定/申請 追加的排出 利用制限 30.7 93.6% 0.35 10 63.3 58.5 92.4% 5.0 8.4 5.1 7.12 5.48 77% n.a. 10 97.6 82.5 101.9 86.8 85.2% n.a. 10 エストニア 19 12.62 24.38 12.72 52.2% 0.31 0 フィンランド 45.5 33.1 39.6 37.6 94.8% 0.4 10 フランス 156.5 131.3 132.8 132.8 100% 5.1 13.5 ハンガリー 31.3 26.0 30.7 26.9 87.6% 1.43 10 ドイツ 499 474 482 453.1 94% 11.0 12 ギリシア 74.4 71.3 75.5 69.1 91.5% n.a. 9 アイルランド 22.3 22.4 22.6 22.3 98.6% n.a. 10 イタリア 223.1 225.5 209 195.8 93.7% n.k. 14.99 ラトビア 4.6 2.9 7.7 3.43 44.5% n.a. 10 リトアニア 12.3 6.6 16.6 8.8 53% 0.05 20 ルクセンブルグ 3.4 2.6 3.95 2.5 63% n.a. 10 マルタ 2.9 1.98 2.96 2.1 71% n.a. - オランダ 95.3 80.35 90.4 85.8 94.9% 4.0 10 ポーランド 239.1 203.1 284.6 208.5 73.3% 6.3 10 スロバキア 30.5 25.2 41.3 30.9 74.8% 1.7 7 スロベニア 8.8 8.7 8.3 8.3 100% n.a. 15.76 スペイン 174.4 182.9 152.7 152.3 99.7% 6.7 ca.20 スウェーデン 22.9 19.3 25.2 22.8 90.5% 2.0 10 UK 245.3 242.4 246.2 246.2 100% 9.5 8 23 カ国計 2109 1947.86 2101.64 1903.43 90.5% 53.84 - 第 1 期間 2005 年 キャップ 実績排出量 申請 決定 オーストリア 33.0 33.4 32.8 ベルギー 62.1 55.58 キプロス 5.7 チェコ 出所)EU(2007)、EU(2006b)より抜粋。注)2007 年 7 月 18 日時点で承認を受けた 23 カ国のみ記載。デンマーク、 ポルトガルは現時点では未承認。単位)Mt-CO2。 2-2-3.特徴と残された課題 「EU 全域における排出枠取引に関する指令」が 2003 年に採択されたのち、各国は国 への割当と国内施設の割当を明確に定めた NAP を定められた期日まで提出する必要が生じ た。環境負荷削減の遵守義務は EU 加盟各国ではなく国内施設にあり、施設配分は各国が 25 独自に決定する69。実際、加盟国の先陣をきって内容を公表したのは先行的に国内排出権取 引を実施するイギリスである。国内の約 1000 施設70に配分を行い、イギリス自身での削減 目標は、第一期 16.3%減、第 2 期 20%減であり、結果として京都議定書で定められた第一 約束期間(2008 年から 2012 年)の削減目標 12.5%を上回る目標設定となっている71。イギ リスの NAP は CCA を考慮したうえで作成されているが、NAP 提出期限が CCA 改訂年と 重なり、後日、若干の訂正をおこなったうえで公表を行ったところ、欧州委員会で認証さ れず、法定争いとなった経緯がみられる72。 政治的に環境税の導入が困難な中、環境負荷軽減へ向けて独自の政策を練る EU 各国 を横断する統一的な政策として EU-ETS が導入された。EU-ETS は、①京都議定書、②各 国各地域の排出権取引制度とのリンクを考慮したうえで策定されている点に特徴がみられ る。排出割当は施設ごとであり、国内配分は各国から提出された NAP により決定されてい る。排出割当の配分は産業界に大きな制約を課すものであり、対象施設を持つ企業は目標 を達成するために、①投資による技術改善、②排出権の調達、以上の 2 つから選択して実 行に移す必要が生じている。第 1 期間が継続中である現在、 「市場原理の利用で最小コスト での負荷削減を達成する成果がみられている」と評価され73、他方、経営者が自社の環境負 荷排出状況を常に正確に把握し、CO2 価格を意識したうえで経営を行うようになったとい われる。しかし、「公平性」「透明性」の観点で以下のような問題点が指摘されている。 □排出枠に関して 割当てられた排出枠が適度なレベル(絶対量)であるかが重要な論点となる。国及び 国内施設の排出枠は、国内政策を考慮して策定され欧州委員会で承認された各国独自の NAP に基づいているが、判断基準として、① BAU、②京都議定書の目標削減値、③最近 の排出量実績の 3 点があげられ、これらの指標に相応する値であるかが重要な問題となる。 特に、排出枠の過剰割当は価格の不安定化をもたらすことに繋がり、市場の破綻やインセ ンティブ問題をもたらし、実質的な削減効果は著しく低下する。また、国内の排出枠の配 分は独自の決定方法が採用されているが(【表 2-11】)、利害関係が絡んだ結果「透明性」の 観点から、同様に、特定部門のみに負担が集中した結果「公平性」の観点から歪みが生じ、 企業が政府を提訴するケースが続出しているのが現状である。本来の導入の目的である「費 用最小化」のためには市場価格の安定化が必要であり、原因となる過剰割当をもたらさな いためにも、政府と企業間での政治的な交渉がみられない状況下(透明性の確保)での国 69 加盟各国の NAP は、 http://ec.europa.eu/environment/climat/first_phase_ep.htm より入手可能である。 具体的には、 「発電所」 「製鉄業」 「製油業」 「セメント業」 「石灰石」 「煉瓦・窯業」 「ガラス工業」 「パル プ製紙業」「天然ガス採掘」「食料関係」「化学工業」「非鉄金属」「その他」部門に属する施設である。 71 深澤(2004a) (2004b)参照。 72 イギリスの排出枠の増加申請を認めなかったため欧州裁判所に提訴した。最終的に、EU-ETS の継続的 な存続可能性を維持するため、従来の割当量で欧州委員会の決定を受け入れることになった(環境省他 (2007))。 73 環境省他(2007) 。 70 26 別・国内の割当ルールのある程度の標準化が必要といえる。その他、新規参入企業や非対 象部門についても言及が必要であると考えられる。 【表 2-11】国内配分の方法 予測加味 交渉 イギリス ○ × BAU から期待される削減量を差し引き イタリア ○ × 2000 年実績に 2010 年までの予測成長率を導入しボトムアップ方式で決定 オランダ ○ × 部門ごとにトップダウンで算出したものをボトムアップでの予測排出量の 相和と比較し決定 スペイン × × 平均排出量(2000~2002 年) ドイツ × ○ 平均排出量(2000~2002 年)を基準に交渉で決定 ポーランド ○ × トップダウン(経済モデル)とボトムアップ(部門事業者レベル予測)の 組み合わせで決定 出所)世界自然保護基金(2006)。原典)ILEX 報告書 pp.16-21。 □国際競争力に関して 現在のところ「国際競争力への悪影響は限定的」74とされているが、EU-ETS 参加企業 は、排出量取引に要する価格を製品価格に上乗せすることが避けられないケースもあり、 特に、対域外国との国際競争力への影響が懸念される。実際、欧州委員会においても懸念 される問題であり、部門別に検証が行われている。CO2 排出をコストと捉え、電力価格の 上昇を加味し、各業界における顧客へのコスト転嫁率を分析した結果、電力・石油業界を 除く業界においてコストの上昇影響は大きく、製品への価格転嫁が困難なセメント業界で は域外移転が必要になる。EU-ETS の導入は各企業に削減リスクをもたらす一方、業界に よっては国際競争力に影響をもたらすことから、経営上のリスクも生じることになる。ま た、EU-ETS 制定段階で「適用除外」が争点となった。開始時では、部門ごとの個別の事 情を考慮し、化学やアルミニウム産業が適用除外となったが、ある国のみ特定分野を「適 用除外」に設定すると、国際競争力の維持のために他国も追従することになり、結果的に 排出権取引が妨げられる可能性がある75。 74 環境省他(2007)。 河村他(2004)p.118 参照。新たに、航空機・自動車・船舶等の交通輸送を排出規制の対象部門とし、 包括的に温暖化対策をすすめていくことが議論されている。なお、導入に際して、排出規制は国籍に依存 せず EU 域内を通行するすべての交通手段が対象となり、世界の海運会社に影響が生じることになる(日 本経済新聞 2007 年 5 月 29 日)。 75 27 【表 2-12】国際競争力への影響 電力 発電設備で直接コスト上昇、短中期的には新規設備投資を行えるだけの利益もたらす 鉄鋼 コストの回収は困難。特に高炉は域外へ生産設備移転を誘導することになる 製紙 コスト転嫁率は低い。無償に割り当てられてもコスト回収は困難 セメント 石油 コスト転換率は低い。無償に割り当てられてもコスト回収は困難。生産設備の域外移転が必要 コスト転嫁可能。無償に割当てられれば大きな影響なし 出所)European Commission(2006)、大塚(2007)。 EU-ETS は、EU 域内での国々をまたぐ国際間排出権取引制度であるが、京都メカニズ ムによる ERU、CER のリンキングが可能であることから、今後は、EU 域外において確立 された同種の制度とリンクさせることで、域外における削減機会の獲得・さらなる国際取 引の規模の拡大、つまりは、国際的な共通制度のもとでの京都議定書の目標達成が可能に なるといえる76。その中で、国による制度のばらつき・認識の相違は不明瞭性を増長させ、 見解の標準化が必要であることは明らかである。同時に、制定・導入後は、手続きの簡素 化、対象企業の選定や割当量の算出等に際しては透明性の確保が必要となる。EU-ETS の 導入は、ビジネス界には大きな制約を課すものであるが、投資による削減を選ぶのか、排 出枠の購入に依存するのか等々の配分は企業の判断に依存することになる。企業側に大き な選択肢がある制度であり、同時に、各国・各企業の強固に向き合う姿勢が求められるこ とになる。 76 中東欧諸国において適用されていることなどから、今後、特に「JI」の取扱いに関する議論が争点とな ることが予想される。 28 3.日本での排出権取引制度導入の検討 日本は京都議定書の目標達成を念頭に、より実効性の高い政策導入をめざす中で、 UK-ETS や EU-ETS の先進事例を受けた国内排出権取引制度の導入が一部で検討されてい る。同時に、将来的に既存のグローバルな排出権取引制度にスムーズにアクセスし、計画 通りに排出枠を国際間取引で円滑に調達できる市場の整備が懸念事項となっている。その ような中、温室効果ガスの費用効率的な削減と排出量取引制度に関する知見の蓄積をめざ し、各省庁・団体において個別の排出権取引制度が検討・実施されはじめている。 3-1.日本での動き-自主参加型国内排出量取引制度77 民間企業の自主的・積極的な努力を促し費用効率的な排出削減の達成をめざし、2005 年度より『環境省自主参加型国内排出量取引制度(Japan’s Volintary Emissions Trading Scheme)』が導入された78。対象を国内事業者とし、参加方法には、Ⅰ.目標保有参加者、 Ⅱ.取引参加者の 2 つがある。まず、前者で参加の事業者は、環境省との間に「自主的な 目標」を設定するもので、「一定量の排出削減を約束する」引き換えに「省エネ・石油代替 エネルギーによる排出抑制設備の導入に対する補助金(経費の 1/379)が交付される」もの である。後者は、排出枠取引を行うことを目的に登録簿に口座を設置し取引を行う参加者 であり、 「削減目標」 「補助金の交付」は行われない。目標保有参加者は、①補助金の交付、 ②国内排出量取引制度に関する知見の蓄積、③温暖化対策を講じていくための自らの基盤 形成が可能、④温暖化対策に積極的に取り組む企業としての PR が可能、等の参加に際して のメリットがある。目標保有参加者は期日までに約束削減量の達成を実行する必要が生じ るが、その際に、排出枠取引の活用も認められている80。削減対策実施期間、調整期間を経 た償却完了後に各参加者の保有口座に排出枠が残存している分は余剰排出枠であり、次年 度への繰越(バンキング)が可能である81。 ○目標保有参加者 一定量の排出削減を約束して、省エネ設備等の導入に対する補助金と排 出枠の交付を受ける参加者 ○取引参加者 排出枠等の取引を目的として、登録簿に口座を設け、取引を行う参加者。取 77 環境省 HP 参照。 その他に、経済産業省は中小企業等 CO2 排出削減制度、日本環境取引機構は民間企業を対象に「国産ク レジット取引制度」の導入・検討が行われている。 79 本工事費・付帯工事費・機械器具費・調査費・初期調整費が対象となる。ただし、1 工場・事業場あた り 2 億円を超えないこととする。他に、自己負担分は日本政策投資銀行の優遇金利による融資対象となる。 80 目標が達成出来ない(期日までに償却口座に移転した排出枠の総量が不足する)場合は、不足量に応じ て交付された補助金を返還する。 81 バンキング期間が個別にあり、次期制度に引き続き参加したうえで手続きを行う必要がある。ただし、 バンキング期間終了後に保有口座に残存している排出枠は自動的に失効となる。 78 29 引参加者には、排出枠の初期割り当てはない なお、2007 年度(第 3 期)公募より、多くの参加を促すことを目的に、実施ルールの 改訂が行われ、目標保有参加者が 3 タイプに区分された。タイプ A は前年度までの「目標 保有参加者」に該当し、排出削減を約束する引き換えに補助金の交付を受ける。各事業者 は期日までに償却口座に約束削減量分を充足する必要があり、不遵守の場合は不足分に応 じた補助金の返還が求められることになる。タイプ B、C は 2007 年度から新たに設定され た事業者区分である。タイプ B は、設備補助金を受けずに、2008 年度において少なくとも 基準年度から 1%の排出削減を自ら達成する事業者である。約束を達成できない場合は、事 業所名が公表されることになる。タイプ C は、2007 年度において 1%以上、2008 年度では 少なくとも 2%以上の削減を約束する事業者であり、タイプ B と同様に不遵守の場合は事業 所名が公表されることになる。なお、実際に補助金交付の有無によらず排出削減に取り組 む事業者を「排出削減実施事業者」と呼び、取引参加者と区別している82。 ○目標保有参加者タイプ A 一定量の排出削減を約束する代わりに、CO2 排出抑制設備の整 備に対する補助金と排出枠の交付を受ける参加者 ○目標保有参加者タイプ B 設備補助を受けることなく、基準年度排出量から少なくとも 1% の排出削減を約束する参加者 ○目標保有参加者タイプ C 設備補助を受けることなく、基準年度排出量から 2007 年度にお いて少なくとも 1%の排出削減、2008 年度において少なくとも 2%の排出削減を約束する参加者 【表 3-1】目標保有参加者の概要 2006 年度 2005 年度 前半公募 2007 年度 後半公募 タイプ A タイプ B 経費の 1/3 補助額 公募期間 2005/2/21 2006/2/21 2006/6/1 2007/2/26 2007/2/26 2007/4/19 2007/4/24 ~4/11 ~3/31 ~6/27 ~3/30 ~4/13 ~4/25 ~5/22 2007/4/1/ 削減対策 2006/4/1~ 2007/4/1~ 実施期間 2007/3/31 2008/3/31 2007/4/1~ 2008/4/1~ 2007/8/31 2009/8/31 調整期間 タイプ A ′ 経費の 1/3 なし 2006/4/1- 排出枠交付 タイプ C 2008/4/1 2008/4/1~2009/3/31 2009/4/1~2010/8/31 82 各年度の目標保有参加者・取引参加者の一覧は【補足 6】に掲載。参加企業・事業者の業種や規模は多 様であり、化学・ガラス・食品・織物・金属などの他に、大学・病院・宿泊施設・商業施設・レジャー施 設・研究所などがある。 30 2007/8/31 償却期限 2008/8/31 不遵守の措置 採択数 補助金総額 予想削減総量 2009/8/31 補助金返還 工場・事業名公表 補助金返還 34 社 38 社 23 社 47 社 3社 3社 9社 25 億 9634 万円 25 億 1133 万円 10 億 14.5 万円 24 億 3520 万円 - - 6 億 2820 万円 276,380t-CO2 183,395t-CO2 46,010t-CO2 112,586 t-CO2 905 t-CO2 544t-CO2 23,285 t-CO2 注 1)採択数は、2005 年度は 34 社のうち 2 社辞退、2006 年度は 61 社のうち 3 社辞退。2007 年度は、タイプ A のみ 4 月に追加公募を実施した。注 2)基準排出量は直近 3 年間の実績(例、2005 年:2002 年度から 2004 年度平均) 。タイ プ C の予想削減量は 2008 年度のもの(2007 年度は 272t-CO2)。出所)環境省 HP、環境省報道発表資料を参考に作成。 【表 3-2】取引参加者の概要 公募期間 取引参加期間 採択数 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2005 年 12 月 22 日 2006 年 12 月 21 日 ~2006 年 1 月 20 日 ~2007 年 1 月 22 日 2006 年 4 月 2007 年 4 月 2008 年 4 月 ~2007 年 8 月 31 日 ~2008 年 8 月 31 日 ~2009 年 8 月 31 日 8社 13 社 - 未定 出所)環境省 HP、環境省報道発表資料を参考に作成。 現在、3 年度目の公募・採択が終了し、1 年度目参加の事業者は調整期間が終了し償却 期限を迎えた段階、2 年度目参加の事業者は削減対策実施期間の渦中にある段階である。1 年度目の償却状況について結果がまとめられ、近日に詳細が公表されることになると思わ れる。現時点では、償却期限を迎えるにあたり、実際に成立した売買数は 3 件83と非常に少 なく、企業にとっては設備導入のための「単なる補助金」としての機能のみで、 「排出権取 引」自体への関心が低い点が指摘されている。 初の取引は、2006 年 10 月 18 日、2005 年度の目標保有参加者である日本電気硝子(大 津市)と、取引参加者である船井総合研究所(千代田区)の間で成立した84。日本電気硝子 は、能登川事業場(滋賀県神埼郡)のガラス溶融に使用する燃料転換(重油から LPG)す る事業で基準年度比 92,900t-CO2/年85の CO2 削減を目標としている。他方、船井総合研究 所は、排出権取引制度に関する新ビジネスモデルの構築や経験の蓄積、コンサルティング サービスに向けたナレッジ構築をめざし、結果として、超過削減が見込まれる日本電気硝 83 現時点で明らかになっている件数である。日経産業新聞 2007 年 5 月 15 日、日本経済新聞 2007 年 7 月 5 日記載の情報を参照した。なお、売買に際しての事務局は三菱総合研究所であり、排出量取引マッチン グサービス「GHG-TRADE.com」を介して売買が行われる。 84 日経産業新聞 2007 年 5 月 15 日、日本電気硝子 HP 記載の環境報告書、船井総合研究所ニュースリリ ース(2006 年 10 月 18 日付)を参照した。 85 削減量は 2005 年度採択事業の中で最大規模である。 31 子から 200 トン分の排出枠の売買に関する合意が成立した86。 続いて 2 件目の取引は 2007 年 4 月 9 日、初の排出枠入札において売買が成立した87。 目標保有参加者であるオーウェンスコーニング株式会社88は、工場内の LP ガス及び重油使 用設備の燃料転換(都市ガス)事業により基準年度比 30,757t-CO2/年の削減をめざして設 備投資をおこなった。結果として超過削減量が生じ、初の入札が実施され、国内企業間で の排出権取引<買い側:新電力、売り側:兼松>、<買い側:兼松、売り側:オーウェン スコーニング>が成立した。兼松は京都議定書の第一約束期間が到来する 2008 年を控え、 エネルギーソリューション事業拡大の一環として、今後活性化が予想される排出権制度の 参入を通じた知見・知識の獲得、新電力株式会社は、独自の NEPCO 受託システムビジネ スの一環として CO2 を減少させ、温暖化防止に貢献するため、入札に参加した。 3 件目の取引は、2007 年 6 月 26 日、東洋ガラス株式会社(千代田区)と株式会社エネ ルギーアドバンス(新宿区)の間で売買が成立した89。東洋ガラスは、川崎工場の高効率天 然ガスコージェネレーション(最新型高効率 1.25MW、2 基)による製瓶プロセルの効率向 上による CO2 削減事業により、基準年度比 2,623t-CO2/年の削減をめざしている。他方、エ ネルギーアドバンスは、東洋ガラスの共同事業者として「目標保有参加者」として名を連 ねる一方、エネルギーサービス関連の新規ビジネスモデル構築の一環として「取引参加者」 としても参加している企業であり90、超過削減量91が見込まれる東洋ガラスとの間で 1000 t-CO2 分の排出枠の売買に関する合理が成立した92。 排出権の購入をおこなった船井総合研究所やエネルギーアドバンスは、今後、「目標保 有参加者」の中で目標達成が困難な企業が生じた際に購入した排出権を転売してし支援す ることになり、排出権に関する知見の早期蓄積と同時に、ビジネスの先行投資をおこなっ たといえる。他方、売買数自体が少ないことから、自主参加型国内排出権取引制度は、本 来は「参加企業は省エネルギーを目的とした設備投資にようする補助金を受けつつ排出権 取引制度のノウハウを学べる93」絶好の機会であるにも関わらず、結果として、補助金の獲 得手段としてのみの機能で、排出権取引という新しい制度への関心は広く拡大していない といえる。以上のような結果をふまえて、2007 年度からは補助金を必要としない「目標保 86 売却額は不明。 入札事業者は 4 社で内、1 社は見送った。新電力株式会社ニュースリリース(2007 年 4 月 9 日付)、兼 松株式会社ニュースリリース(2007 年 4 月 9 日付)を参照した。 88 2005 年時点の採択企業名は「旭ファイバーグラス(株) 」。2005 年 12 月 8 日にオーウェンスコーニン グが茨城工場の買収をおこなった。 89 日本経済新聞 2007 年 7 月 5 日、東洋ガラスニュースリリース(2007 年 7 月 5 日付) 、エネルギーアド バンスニュースリリース(2007 年 7 月 5 日付)を参照した。 90 2005 年度において「目標保有参加者」 「取引参加者」の双方に登録している企業はエネルギーアドバン スのみである。 91 計画事業の他に溶融窯の補修やカレットの利用効率向上等の計画外の施策が影響し、削減実績は目標値 を 13,600 t-CO2 上回った。 92 売却額は不明。 93 日経産業新聞 2007 年 5 月 15 日。 87 32 有参加者(タイプ B、C)」の新規設定が行われた。京都議定書の第 1 約束期間の開始が目 前に迫り、余裕がない状況ではあるが、環境省による自主参加型国内排出権取引制度は開 始されたばかりの新制度であり、結果を受けて制度の再設計を行うことを通して、実績が 残る制度となるよう試行錯誤している段階にあるといえる。 【表 3-3】取引成立の一覧 売買成立日 2006 年 10 月 18 日 2007 年 4月9日 2007 年 6 月 26 日 売り側 買い側 売買量 日本電気硝子 船井総合研究所 200t-CO2 オーウェンスコ 兼松 ーニング製造 兼松 500 t-CO2 新電力 エネルギー 東洋ガラス アドバンス 1,000t-CO2 売り側の事業 能登川 ガラス溶融炉の燃料転換による CO2 削減 事業場 (92,900t-CO2) 茨城 工場内の LP ガス・重油使用設備の都市ガスへ 工場 の燃料転換による CO2 削減(30,757t-CO2) - - 川崎 コジェネシステム等の省エネ機器の導入によ 工場 る CO2 削減(2,623 t-CO2) 出所)日経産業新聞 207 年 5 月 15 日、日本経済新聞 207 年 7 月 5 日、環境省 HP より作成。注) ( )内は、2006 年 度の年間排出削減予測量。 3-2.排出権取引制度導入にあたっての議論 英国や EU の先進事例では、市場原理の活用により、経済効率性の観点から「最小コ ストで温室効果ガスの負荷削減が達成可能」と評価されているが、他方、公平性・透明性 の観点から、 ・排出権の公平な割当 ・排出量の正確な算定 が克服すべき課題として明らかになっている。特に、排出権の公平な割当に関しては、設 定が緩いと排出権をめぐる需給バランスの大幅な崩れから、ホットエア問題が生じ、想定 外の価格に落ち着き、制度の有効性自体が損なわれる可能性がある94。また、それに際し、 正確な排出量の算定が必要であり、統一した算定基準の指針が必要となる。 排出権制度の整備が着々と進展している世界の潮流を受けて、日本でも排出権取引制 度の整備・導入が待たれる状況下にある。そのような中、京都議定書の目標達成にむけた 指針である政府による「目標達成計画」の見直しを実施している環境省と経済産業省は、 両省の合同審議会において、国内排出権の導入を見送り、議定書の第一約束期間中の導入 はしない方針を示した95。従来から両省の間には排出権取引導入をめぐる温度差があり、海 94 ただし、「完全に公平な割当が可能ならば取引制度自体が不要」との意見(欧州経営者連盟)も一部で はある(日本経済新聞 2007 年 6 月 26 日)。 95 日本経済新聞 2007 年 7 月 25 日、8 月 27 日、毎日新聞 2007 年 9 月 3 日。 33 外では、豪州96、カナダ、ニュージーランド等で導入を目指す動きが増加している一方、日 本では、導入の是非をめぐって議論の一致が見られず、結果として先送りが決定された。 排出権導入の是非をめぐり、環境省と経済産業省の間に意見の食い違いがみられる。 導入推進派である環境省は、「有効な政策手段の一つ」と同制度を評価し、すでに省独自で 実施している先進事例である環境省自主排出権取引制度に関しては、 「会社の名誉をかけて 社会的責任として改善していくもので、これが通用することが日本の産業社会の良いとこ ろであり、実際に効果があがっている」としている。また、環境 NGO97らは、排出権取引 制度の大きな特徴として、①排出削減の確実性、②削減費用の最小化を挙げ、「大規模排出 者に対して利用可能な最良の削減技術の導入を促す政策」と評価し、環境省の意向を後押 ししている。一方、経済産業省は、排出枠の産業・業種・個別企業間での割り振りの困難 性を強調し、 「日本では財界による自主行動計画方式が最適」との意見のもと、導入論をけ ん制している。有識者の間では「排出権取引なので削減量が増えるわけではない」という 指摘や、費用の最小化の観点で「完全な競争があれば当てはまるが、現実には電力・鉄鋼・ セメント等の大規模排出源は各業界内で寡占状態であり、費用の最小化にはつながらない」 とし、導入に難色を示している98。他方、産業界では、排出量規制は企業活動にマイナスの イメージが先行し、反発の声が強い。そのような中、日本経団連は、 「環境省の取組みが温 暖化効果ガス削減義務を課して余剰・不足分を売買する国内排出権取引につながりかねな い」と懸念し、2007 年 4 月 17 日に正式文書として、キャップ・アンド・トレード方式の 排出権導入に対して反対姿勢を表明している。 そのような中、一部では独自政策の積極的な導入の動きがみられる。東京都では、2010 年度を目安に、独自の排出権制度導入を決定した99。従来、石原都知事が「排出権を割当て、 過不足を市場から調達する制度の策定・提案」を表明するなど、東京都としては実効性を もった対策である排出権取引の早期導入の実施について検討がおこなわれてきた。そこで、 「2020 年までに温室効果ガス 25%削減(基準年 2000 年) 」を目標に、2007 年 6 月 1 日に 「東京都温暖化対策方針」を発表し、一定規模を超えるオフィスビル・工場・駅・大学等 に CO2 削減を義務付け、排出権取引の導入を方針として公表した。詳細は、明らかにされ ていないが、 約 1300 ヶ所が対象となり、業種の区別なく一律の削減目標を設定する予定で、 都が削減の取り組み度合が高いと評価する事業所と同等以上の削減割合とする予定である 100。現在のところ、産業界の反発が強く、義務付けのない都外への移転を引き起こす等、 96 京都議定書を批准せず強く反対していたハワード首相が、遅くとも 2012 年までの国内排出権取引制度 の導入方針を明らかにした(毎日新聞 2007 年 9 月 3 日)。 97 環境 NGO 気候ネットワーク浅岡美恵代表の意見(毎日新聞 2007 年 9 月 3 日) 。 98 東京大学先端科学技術研究センター山口光恒客員教授の意見。国内の対策別削減コストを算定し、冷静 な議論の必要性を主張している(毎日新聞 2007 年 9 月 3 日)。 99 日経エコロジーリポート(http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/report/070907_tokyo/) 、日本経済新聞 2007 年 6 月 2 日、6 月 4 日、6 月 9 日、9 月 11 日、9 月 12 日。 100 温暖化対策方針は 2005 年度から導入されている地球温暖化対策計画書制度の内容を受けたもので、同 計画書の中で、約 1300 の事業所に 5 年間の削減計画を提出させ、CO2 削減の取り組み度合いをランク別 34 円滑な導入にあたって残される課題は多いが、実施されれば、都において排出増加が著し いビル等の対策強化につながり、自主削減に取り組むとともに排出権での調達という選択 肢を用いて目標の達成をめざすことが可能となる。なお、ここでも排出量・削減量の正確 な算定に関して懸念されているが、都は経済産業省が制度設計を行った中小企業向けの削 減事業の監査方法を参照して最適な算出方法を模索している状況である。また、排出権の 売買地域が都内に限られ取引市場が限定されるため、取引価格の高騰も懸念される。 EU-ETS は、既に導入されている CCL に産業界が強く反発したことが背景となり、産 業界に加えて一般の意見を広く反映させたうえで制度設計・導入が行われ、ポリシーミッ ク的要素を持つ、産業界が主体となった制度である。他方、EU-ETS は、EU 域内が一丸と なって温暖化防止を目指すにあたり、環境税の導入が困難な状況を受けて、域内を横断す る統一的な独自政策の必要性が背景となり、京都議定書との連携を一部考慮したうえで制 度設計されたものである。排出権取引制度は「最小コストで削減目標を効率良く達成でき る」という利点がある一方、先進事例から、公平な割当、正確な排出量の算出等で解決す べき課題が多い点が明らかとなっており、すでに日本の産業界からの反発は大きい。不都 合な点が複数明らかである状況下では、たとえば英国では産業界が主体となったように、 なにか特別な背景・明確な導入の必要性が存在しない限り、導入推進の声は拡大しないと 思われる。世界の先進国が早期実施により排出権に関する知見を着々と蓄積する中、日本 では平行線をたどった議論を繰り返すのみであり、まずは、環境省の独自の制度にみられ るよう、小規模の独自制度で得られた実績を知見として積み上げていくしか道はないと思 われる。 本稿は、短期的には「京都議定書の目標達成」 、そして、中・長期的には排出量の 50% 削減を経たうえでの「エネルギー脱炭素化の実現」をめざすなかで、実効性の高い政策の 一つとして注目されている排出権取引に焦点をあてた。現在、日本は制度策定・導入とい う点で欧州に遅れをとっているが、欧州での先進事例を知見として活かすために、個別の 導入背景や制度の概要の整理をおこなったうえで、日本への導入についての考察をおこな った。本稿は今後の分析の導入編としての位置づけであり、今後は、排出権取引制度の導 入による CO2 削減可能性を定量的に推計するなど幅広い分析展開をおこなっていく予定で ある。 に評価している。電気や燃料の年間使用量が原油換算 1,500kℓ以上の業務用ビルや工場が対象となる見込 み。現時点で排出量の多い施設については【補足 7】参照。他方、中小企業の省エネ投資を促す新規資金 調たう方法として「環境 CBO(社債担保証券)」の創設もおこなう。 35 補足1.デンマークの国内排出権取引制度 デンマークの排出権取引制度は、国内排出権取引制度としては、イギリスよりも先に 導入されているが、対象企業・対象ガスが限定されている点に特徴がみられる101。 導入の背景と概要 デンマークは国を挙げて環境問題に対する取り組みをいち早くおこなう環境対策先進 国であり、風力発電や炭素税が早期より導入されている。炭素税は 1992 年から導入され、 業務・家庭・運輸を含む産業部門を対象に課税がおこなわれ、税収は各種エネルギー政策 の他に失業率改善のための所得税低減財源の確保等に利用されている102。同時に、自主協 定である「二酸化炭素協定」が政府との間で結ばれ、省エネルギー達成義務を負う一方で、 炭素税率が低率に変更される。 デンマークの国内排出権取引は 2001 年 1 月に開始され、2003 年 12 月に終了し、その 後は EU-ETS に引き継がれている。UK-ETS が電力・運輸を除く全産業を対象とした包 括的な任意制度であるのに対し、デンマークの制度は、発電会社のみを対象に強制参加を 促すものであり、2003 年時点では発電にともなう CO2 排出の 90%分をカバーする 8 電力 会社が参加している。発電部門はすでに実施されている炭素税の対象とはなっていないが、 EU 域内を含めた電力市場の自由化が進展している現状を考慮し、CO2 削減にあたり、市場 を活用する排出権制度が導入されたという背景を持つ。対象ガスは、CO2 排出のみであり、 キャップ・アンド・トレード方式が採用されている。上限は、段階的に減少となり、1988 年から 1990 年の平均が 27Mt-CO2 であったものが 2003 年には 20Mt-CO2 に削減している。 罰金は 40 クローネ/t-CO2(20$/ t-CO2)であり、罰金額は排出権の上限額となる。後半の 期間が重なる UK-ETS との互換性はない。また、CHP 促進策と整合性がみられる。 【表 1】キャップの推移 1988-1990 年 27 Mt-CO2 2000 年 23 Mt-CO2 2001 年 22 Mt-CO2 2002 年 21 Mt-CO2 2003 年 20 Mt-CO2 出所)とくしま地域政策研究所(2002)より抜粋。 101 102 国内排出権取引制度としては SO2 を対象としたアメリカが最初である。 日本エネルギー経済研究所(2005)、とくしま地域政策研究所(2002)を参照した。 36 【表 2】デンマークの制度の特徴-UK-ETS との比較 デンマーク 英国 期間 2001.1~2003.12 2002~2006 参加 強制参加 自主参加 対象ガス CO2 GHG6 種 対象企業 電力会社 全産業(除、電力・運輸) 目標の種類 絶対・相対 相対&絶対 方法 キャップ&トレード キャップ&トレード ベースライン&クレジット 割当 過去 5 年間の実績 グランドファザリング バンキング 可能 可能 ボローイング 不可 不可 直接参加:奨励金受給不可、翌年目標 罰則 罰金 40 クローネ/tCO2 30%かさあげ 協定参加:CCL 全額納付 産業界の反応 強い拒否 受け入れ 双方の互換性 整合する政策 なし CHP(Consultation Document) CCL 出所)日本エネルギー経済研究所(2002) 、とくしま地域政策研究所(2002)。 37 【補足 1】UK-ETS-直接参加者一覧 Asada Stores Ltd, Barclays Bank plc, Battle McCarthy, BP(Britoil), British Airways, British Sugar plc, Budweiser Stag Brewing Company Ltd, Dalkia Utility Services, Danna Spicer Europe Ltd, First Hydro Company, Ford Motor Company, Fortum O&M(UK) Ltd, GKN(United Kingdome) Ltd, Imerys Minerals Ltd, The Indesit Company, Ineos Fluor Ltd, Invista Textiles(UK) Ltd, Kirklees Metropolitan Council, Lafarge Cement UK, Lnad Securities, Lend Lease Real Estate IS Ltd, Marks & Spencers plc, Mitsubishi Corporation(UK) plc, Motorola, Natural History Museum Trading CO, Rhodia UK Ltd, Rolls Royce, Royal Ordnance plc(BAE), Shell UK Ltd, Somerfield Stores Ltd, Tesco Stores Ltd, UKI Coal Mining Ltd 出所)Defra(2006)を参考に作成。 【補足 2】UK-ETS-5 年間の奨励金受取予定額(上位のみ) 1 Ineos Fluor 4300 20% 2 Invista UK 2670 12.4% 3 Shell UK 2340 10.88% 4 Rhodia Organique Fine 2290 10.65% 5 UK Coal Mining 2130 9.90% 6 BP 1890 8.79% 7 First Hydro Company 1520 7.06% 8 Lafarge Cement 1330 6.18% 9 British Airways 670 3.11% 10 British Sugar 530 2.46% 11 Asda Stores 430 2.00% 12 Ford Motor Company 67 0.31% ※Other 19 DPs 1333 6.2% 出所)House of Commons Committee of Public Accounts(2004)より抜粋。単位)1 万£。 38 【補足 3】 直接参加者の排出削減結果 Overall 2002 2005 2006 target 2006 Baselaine Asda Stores LTD 8000 526110 416194 486395 475133 431447 436441 Barclays Bank plc 8555 75229 64124 61936 60338 58628 71350 Battle McCarthy 9241 141894 140324 137364 135427 116780 120955 Britoil plc 224099 6757799 6198700 4218301 4004561 3772172 3581588 British Airways plc 99661 1011785 850448 838418 781254 829282 781735 British Sugar 100000 579367 486646 514835 459652 476917 439283 Budweiser Stag Brewing Company Ltd 4303 4303 321 284 62 168 473 Dalkia Energy & Techinical Services Ltd 8588 24077 23560 21622 21978 22746 21386 Dalkia Utility Services Ltd 22400 59513 50121 56376 55110 54254 54642 First Hydro Compoany 285000 1370410 1147311 1160660 1047129 1253170 1510917 Ford Motor Company Ltd 11584 250257 218444 219706 208371 195056 212350 GKN(UK) Ltd 8410 102382 82048 87935 79836 77425 70311 Imerys Minerals Ltd 5167 358124 352506 323072 316165 304947 35220 805635 1861863 645972 597378 391467 440251 383501 972 8622 8816 9737 9429 9725 8717 238125 3215657 3066635 2935499 2944551 2730942 2742829 Land Securities 738 25643 23691 16714 17262 14632 12836 Lend Lease Real Estate IS Ltd 975 8890 8644 8910 9953 9249 8847 Marks & Spencers plc 1990 13892 10902 12386 11135 11099 10865 Mitsubishi Corporation(UK) Plc 250 1134 862 858 791 771 762 Motorola 5000 19551 13686 11786 10760 9888 9737 Natural History Museum Trading Co 762 9119 10192 10005 10576 8932 8248 421679 2098275 1469118 1430004 110747 50365 14355 Rolls Royhce 11714 315203 268232 243801 228520 141361 157436 Royal Ordance plc 5599 21400 21534 20136 19746 21291 19728 389460 3805909 3915327 3476826 3426938 3136384 2895774 Somerfield Stores Ltd 3671 380367 384046 362166 360388 348707 260214 Tesco Stores Ltd 74000 271155 211983 231162 241412 244126 235744 UK Coal Mining Ltd 185493 4513722 449265 3958310 3330163 2580431 1967230 Totals 3524415 30538333 25920506 22614126 20446373 19057013 17574135 Ineous Fluor Ltd Kirklees Metropolitan Counsil Lafarge Cement UK Rhodia UK Ltd Shell UK Ltd 2002 2003 2004 Emissions 出所)Defra HP 掲載の Results of the 2002-2006 commitment period をもとに作成。単位)t-CO2。 39 【補足 4】 イギリス NAP の概要 1080 対象施設数 (3 年間)割当総量 756.1Mt-CO2 (3 年間)既存施設割当総量 699.3Mt-CO2 (3 年間)新規リザーブ量 56.8Mt-CO2 割当数量 制度のカバー率 総割当量/国の総 GHGs 排出量 38.2%(2000 年) 国家目標(1990 年比 20%減)達成を目指した数値 総排出量の考え方 1990 年比 15.2%減(2010 年時点)、対 BAU5.2%減 削減量・削減率 [電力、石油精製、海上部門]トップダウン、国家エネルギー需給予測の排出 割当方法 量、電力は 5.5Mt(3 年間)の追加削減 部門分配の考え方 [その他部門]ボトムアップ、気候変動協定の目標値又は政府との独自交渉 [電力、石油精製、海上部門]最も排出量の少ない年を除いたベースライン 施設配分の考え方 (1998 年~2003 年)の平均排出量が当該部門に占める割合 [その他部門]気候変動協定の目標値又は政府との交渉で決定 バンキング 不可 義務なし施設の参加(opt in) 割当 オプション 言及なし 義務の免除(opt out) CCA 参加者、UK-ETS 参加者のみ選択可能 50MW未満設備のみ可 プーリング 出所)EU Emissions Trading Scheme Approved National Allocation Plan 2005-2007(2005)、日本エネルギー経済研 究所(2005)図表 2-8。 【補足 5】 EU 各国の評価 キャップのレベル 経済効率性 公平性 BAU 目標との 最小コスト より下 整合性 削減 ドイツ 低 平均 低 平均 イタリア 良 低 低 オランダ 平均 平均 ポーランド 低 スペイン イギリス 透明性 明確な ステークホル 初期でのキ 方法論 ダーとの討議 ャップ設定 n/a 平均 低 平均 低 平均 低 低 低 良 低 n/a 低 良 低 良 平均 良 良 低 低 低 良 低 平均 低 良 平均 平均 平均 平均 平均 平均 低 良 平均 平均 低 国家間 部門間 出所)世界自然保護基金(2006)より抜粋。原典)ILE Energy Consulting(2005)The Environmental Effectiveness of the EU ETS: Analysis of Caps。 40 【補足 6】 自主参加型国内排出量取引制度 参加企業一覧 日本電気硝子(能登川) 、三菱ガス化学(四日市) 、旭ファイバーグラス(茨城) 、東海染工(浜松) 、帝人テクノ プロダクツ・帝人ファイバー(三原)、日本キャンパック・日立製作所・日立キャピタル(赤城) 、サカイナゴヤ・ UFJ セントラルリース(愛知) 、山崎製パン・シーエナジー・UFJ セントラルリース(名古屋) 、山崎製パン・ コージェネテクノサービス・第一リース(羽曳野) 、駿興製紙(静岡)、東洋ガラス・エネルギーアドバンス(川 崎)、河西工業・エネルギーアドバンス(寒川)、栗本鐵工所(加賀谷)、帯広松下電工・松下電工エンジニアリ 【2005 年度】 ング・三井純友銀リース(帯広)、フジシール(茨城)、伊藤忠セラテック(瀬戸)、富士フィルムテクノプロダ 目標保有参加者 クツ(竹松)、ナショナル建材(沼田)、山崎製パン(古河)、オートワークス京都・東銀リース・コージェネテ クノサービス(宇治)、日産車体・エネルギーアドバンス(平塚)、丸大食品・大阪ガス・オージック(高槻)、 愛知厚生連渥美病院・新電力・東銀リース(田原)、INAX(常滑)、ルミネ北千住(足立)、高畑精工(草笛)、 おーばん・新電力・東銀リース(村山) 、ギガスケーズデンキ・新電力・東銀リース(水戸)、日本総合研究所・ 三井住友銀行(大和)、桐原容器工業所(広島)、ナガイパン(広島)、愛知厚生連渥美病院・新電力・東銀リー ス(田原) 、クリエイトエスディー・新電力・東銀リース(富士) 、西友(赤羽) (第 1 回公募)レンゴー(利根川) 、東海染工(羽島)、西日本ダイケンプロダクツ・大建工業(岡山)、カイハ ツボード(会津若松) 、群栄化学工業(高崎) 、小松精練・小松住江テック(白山)、東日本ダイケンプロダクツ・ 大建工業(高槻) 、東陶磁機器(中津)、サントリー食品工業(城陽) 、近江織物(東近江) 、ハウス食品(佐野)、 INAX(伊賀)、明治乳業・ファーストエスコ・三井住友銀リース(伊勢崎)、兼平製麺所・きたぎんリース(盛 岡)、パラマウント硝子工業(須賀川)、川島織物・川島愛知工場・ダイヤモンドリース(愛知)、ヒロシマコー プ・協同リース(三原) 、日本ビクター(大和) 、日信工業・コージェネテクノサービス・芙蓉総合リース(東御) 、 ロザイ工業(赤穂)、群栄化学工業・滋賀ユニット(湖南)、サントリー・三井リース事業(栃木)、トステム・ 三井リース事業(名張) 、和歌山染工(和歌山) 、住友ベークライト(尼崎) 、アート金属工業(上田) 、八千代工 業・四日市製作所(四日市) 、日本製紙ケミカル(東松山市) 、エンパイアー(石狩) 、大徳食品(大和郡山) 、高 【2006 年度】 田工業・エネルギーアドバンス(横浜市)、ヤマザキナビスコ(古河)、神戸屋(海老名)、日世(滋賀)、NBC・ 目標保有参加者 関電ガス・アンド・コージェネレーション・ニッセイリース(都留)、近江鍛工(大津) 、ピーアンドジー(明石) 、 フジセラ(福井) (第 2 回公募)大日精化工業・東海製造事業所・三井リース(磐田)、カルピス(館林)、サントリー食品工業(稲 木) 、有機合成薬品工業(いわき) 、三菱製紙(長岡京)、吉田工業・吉田染工・貴志川工業(紀の川) 、千住金属 工業・ダイヤモンドリース(真岡)、明治乳業(本別)、綿久リネン・ワタキューセイモア(城陽)、兵庫医科大 学・NTT リース(西宮) 、石井食品(八千代)、米屋(成田) 、青山学院(渋谷)、コスモフーズ(児玉郡)、労働 者健康福祉機構旭労災病院・ユーエフジェイセントラルリース・大気社(尾張旭)、サンリオピューロランド・ 日本ファシリティ・ソリューション・サンリオ(多摩) 、明治乳業(旭川) 、不二家(裾野) 、ルミネ(横浜) 、ル ミネエスト(新宿)、ルミネ(新宿)、千代田(笛吹市)、住友ベークライト・日本ファシリティ・ソリューショ ン・ダイヤモンドリース(品川) 【2007 年度】 (タイプ A)東洋鋼板(下松) 、帝人ファイバー(岩国) 、カイハツボード(会津若松)、フタムラ科学・関彰商事・ 41 目標保有参加者 三菱 UFJ リース(茨城) 、サントリー・芙蓉総合リース(渋川) 、エーアンドエー茨城(筑西) 、向後スターチ(旭) 、 エプソンイメージングデバイス(鳥取)、サントリー(府中)、スミハツ(桜川)、東京製鋼・岩谷産業・芙蓉総 合リース(かすみがうら) 、セーレン(福井) 、三菱樹脂(長浜) 、ニッピ・東電工業(富士宮) 、ルネサステクノ ロジ(香南) 、日立製線(日立) 、旭有機材工業・三井リース事業(愛知) 、和光堂(栃木) 、ダイニック・オージ ー(深谷) 、マグ(筑西) 、キッコーマン(野田) 、小山化学(小山) 、独立行政法人物質・材料研究機構・東京電 力・日本ファシリティソリューション・関電工・三菱 UFJ リース(つくば)、リンテック・岩谷産業・芙蓉総合 リース(千葉)、石井表記・山武ビルシステムカンパニー(福山)、中部飼料(苫小牧)、徳島都市開発・ガスア ンドパワーインベストメント(徳島)、UCC 上島珈琲(たつの)、学校法人明治薬科大学日本ファシリティソリ ューション・三菱 UFJ リース(清瀬) 、アスタ西東京・三井住友銀リース(西東京)、日本ミルクコミュニティ -(札幌) 、住金ステンレス鋼管(古河)、独立行政法人物質材料研究機構東京電力・日本ファシリティソリュー ション・関電工・三菱 UFJ リース(つくば) 、九州 INAX・INAX(鹿島) 、オリンパスイメージング(長野) 、 松江保険生活協同組合・山武・芙蓉総合リース(松江)、徳本(丹後)、シチズンミヨタ(長野)、テイエステッ ク(鈴鹿)、川崎化成工業(川崎)、大塚化学(徳島)、日立建機(土浦)、三笠産業(熊本)、帝人デュポンフィ ルム・ファーストエスコ・三井住友銀リース(行方) 、グローバルビルディング・日本航空インターナショナル・ 三菱 UFJ リース(品川) 、社会福祉法人恩賜財団済世会支部山形県済世会高砂熱学工業・三菱 UFJ リース(山 形) 、菊池食品工業(鶴ヶ島) (タイプ B)大和ハウス工業(栃木)、大和ハウス工業(三重) 、山形メイコー(山形) (タイプ C)キューピー(茨城) 、日本ミルクコミュニティ(冨里) 、日本電気硝子(草津) (タイプ A 追加)住友ゴム工業・オリックス(白河)、TDK(日田)、栗林製作所(長野) 、古河サーキットフォ イル(日光) 、信英畜電気箔(長野) 、富士電機デバイステクノロジー(アルプス) 、苫小牧飼料(苫小牧) 、トヨ タフローリテック(青森) 、かくれの里ゆかり(浜田) 【2005 年度】 取引参加者 船井総合研究所、日本工営、ヒューネット、兼松、大和証券エスエムビーシープリンシパルインベストメンツ、 資生堂、エネルギーアドバンス、オリックス環境 (新規)シーエナジー、東海染工浜松事業所、ルミネ北千住店、新電力、オートワークス京都、日本電気硝子、 【2006 年度】 テス・エンジニアリング、東京リース 取引参加者 (継続)兼松、オリックス環境、船井総合研究所、ヒューネット、エネルギーアドバンス 注) ( )は工場・事業所の所在地名。会社名は採択時点のもの。 42 【補足 7】 1 2 3 都下水道局南部スラッジプラント (大田区) 六本木ヒルズエネルギーセンター (港区) 都下水道局砂町水再生センター (江東区) 4 ブリヂストン東京工場(小平市) 5 王子製紙江戸川工場(江戸川区) CO2 排出の多い施設<東京都> 13.8 6 13.6 7 12.8 8 11.8 9 11.6 10 エネルギーアドバンス新宿地域冷暖 房センター(新宿区) 奥多摩工業石灰化工本部氷川工場 (奥多摩町) 日野自動車羽村工場(羽村市) 日立製作所マイクロデバイス事業部 (青梅市) 都下水道局新河岸水再生センター (板橋区) 11.5 11.1 10.2 10.0 9.9 出所)日本経済新聞 2007 年 6 月 9 日。単位)万 t。 43 参考文献 Ahmed M. Hussen(2004), Principes of Environmental Economics 2nd edition, Routledge. Department for Environment Food and Rural Affairs, http://www.defra.gov.uk/. Department for Environment Food and Rural Affairs(2001), Framework for the UK Emissions Trading Scheme, http://www.defra.gov.uk/environment/uk/pdf. Department for Environment Food and Rural Affairs ( 2002 ‐ 2006 ) Results of the 2006 commitment period, http://www.defra.gov.uk/. Department for Environment Food and Rural Affairs(2005), EU Emissions Trading Scheme Approved National Allocation Plan 2005-2007, http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/trading/eu/nap/pdf/0505nap.pdf. Department of Environment, Food and Rueal Affairs(2006.12), Appraisal of Year 1-4 of the UK Emissions Trading Scheme A report by ENVIROS Consulting Limited, www.defra.gov.uk. (※UK ETS の最初の 4 年間の結果をまとめたもの) Framework for the UK Emissions Trading Scheme, http://www.defra.gov.uk/environment/climatechange/trading/pdf/trading-full.pdf. 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I treat the both of Emission Trading schemes in EU and UK as the preceded cases. I arrange the main points of the background of the introduction, the outline of both scheme, and pick up the problems those are not solved, on the other hand, I consider the outline of Japan's Voluntary Emissions Trading Scheme (J-VETS) as the preceded movement of introduction into Japan.(103 words) 47
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