両生類の新興感染症カエルツボカビの起源を探る Inference of the origin and routes of amphibian chytridiomycosis 五箇 公一 ・宇根 有美 1 1 2 2 Koichi GOKA and Yumi UNE 独立行政法人 国立環境研究所 麻布大学 獣医学部 病理学研究室 1 2 National Institute for Environmental Studies Laboratory of Veterinary Pathology, School of Veterinary Medicine, Azabu University 1 2 摘 要 近年,両生類の急速な減少が世界的に進行しており,生物多様性保全の重要課題と されている。その主要因として,両生類に特異的な感染症「カエルツボカビ症」の蔓 延が指摘されている。わが国でも 2006 年 12 月に本菌に感染し発症した両生類が発見 され,侵入感染症による国内両生類の絶滅の危機が懸念され,マスコミ報道されるほ ど大きな騒ぎとなった。本菌の侵入実態と在来両生類に対するリスクを評価するため に国立環境研究所では,麻布大学と共同で緊急にカエルツボカビの検査体制を整え た。2007 年 2 月より全国レベルで両生類の感染状況を調査した結果,本菌は野外の 在来両生類にも感染していることが明らかとなった。さらにカエルツボカビの DNA 分析の結果,日本国内の本菌には高い遺伝的多様性と固有性が存在することが示され た。これらの結果からわれわれは「カエルツボカビ・アジア起源説」を提唱した。 キーワード:アフリカツメガエル,ウシガエル,オオサンショウウオ,世界的流行,DNA Key words:Xenopus laevis, Rana catesbeiana, Andrias japonicus, Pandemic, DNA 1.はじめに:世界的な両生類の減少 現在,世界中の両生類が急速に減少していること 1) が,大きな問題となっている 。国際自然保護連合 IUCN が 2004 年に実施した世界両生類調査 Global Amphibian Assessment によれば,世界の両生類 5,700 種余りのうち,約 43%がその生息数を減らし ており,32%は絶滅の危機に瀕している。さらにそ のうち 122 種は 1980 年以降に絶滅危惧の状態に陥 ったとされる。 これほどまでに両生類の減少を招いている要因と して,生息地の破壊や農薬の影響,温暖化など,こ 1) れまで,さまざまな説明がなされているが ,全世 界で同時進行的に絶滅が起きている点についての決 定的要因については謎とされてきた。それが近年に なって,両生類特有の感染症が世界中に蔓延して, 絶滅を招いているのではないかという説が急浮上し 2) た 。それがカエルツボカビ症である。 2.両生類の新興感染症カエルツボカビの発見 カエルツボカビ症はカエルツボカビ Batrachochytrium dendrobatidis(図 1)が原因となる両生類の新 図 1 カエルツボカビ遊走子嚢の模式図および カエル体表におけるカエルツボカビ遊走 子嚢の電子顕微鏡写真. 写真の矢印部分が遊走子の放出管. 受付;2012 年 5 月 5 日,受理:2012 年 7 月 11 日 * 〒 305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2,e-mail:goka@nies.go.jp 2012 AIRIES 159 五箇・宇根:カエルツボカビの起源を探る 興感染症である。本菌は真菌の一種で,1998 年に Belger らによって中米で初めて確認された一属一 2) 種の新種である 。 カエルツボカビには遊走子と遊走子嚢の 2 つの発 育ステージがあり,遊走子がカエルなどの両生類の 皮膚にたどり着くと角質層に入り込み,遊走子嚢を 形成する。このときカエル皮膚のケラチン成分を餌 として摂取する。遊走子嚢内で遊走子が形成される と,放出管から遊走子を水中に放出する。遊走子は 3) 鞭毛で泳いで新しい宿主を捜す 。遊走子の感染と 発育には水が必須であり,逆に水自体が感染媒介の 役目を果たす。水分の多い土壌なども感染源となり 得る。 本菌に感染して発症したカエルは,皮膚硬化を起 こして,皮膚呼吸や浸透圧調整,体温調整機能など が阻害されて,さらには皮膚の生体防御機構が不全 となり,2 次感染が生じるなどして,衰弱死に至る 4) と考えられている 。本菌による野生カエルの被害 5),6) ,特にオース は,世界各地で報告されているが トラリアおよび中米での被害が著しく,パナマの El Cope という地域でのモニタリング結果によれ ば,本菌が侵入してわずか数カ月でカエルの種数が 60%以上減少し,個体数も 90%以上減少したとさ 7) れる 。また,オーストラリアではクィーンズラン ド沿岸で年間 100 km という信じがたい速度でカエ ルツボカビが分布を拡大して,被害をもたらしたこ 8) とが報告されている 。 これまでに,カエルツボカビ菌の本来の宿主はア フリカ原産のアフリカツメガエル Xenopus laevis と する「カエルツボカビ・アフリカ起源説」が有力視 されてきた。このツメガエルが実験動物として,あ るいはペットとして世界的に移送されたことに伴 9) い,本菌も世界中に拡散したと考えられている 。 その科学的根拠として,1) 一番古いカエルツボカビ 標本が,1938 年に採集されたアフリカツメガエル の固定標本から見つかった,2) アフリカツメガエル の原産地におけるカエルツボカビ保菌率が一定,3) アフリカツメガエル自体がこの菌に対して抵抗性を 示す (発症しない) ,ということが挙げられている。 3.日本国内でアジア初のカエルツボカビ発見 1990 年代後半以降,カエルツボカビが世界中で 大きな話題になる一方,本菌はアジア地域ではほと んど関心が払われず,その実態については全く不明 の状態であった。ところが,2006 年 12 月,筆者の 1人 (宇根) によって,ペットとして飼われていた南米 原産のベルツノガエル Ceratophrys ornate よりカエル 10) ツボカビ症の発症事例が発見され,報告された 。 この発見が報道されるや否や,日本の両生類が絶滅 するかもしれないと,大きな話題となった。 しかし,この日本の両生類絶滅危機論には,大き な疑問点があった。それはカエルツボカビ感染の起 源とされるアフリカツメガエルは日本には 1950 年 代から輸入されており,現在も大量に輸入・飼育さ れていること,そして 1990 年代から中南米やオー ストラリア産など,カエルツボカビ症の被害が著し い地域からもペット用に大量の両生類が輸入され続 けていたことなどから,日本ではカエルツボカビ症 のパンデミック(感染爆発)はとっくに起きていて然 るべき,ということであった。 それでも,日本にはオオサンショウウオ Andrias japonicas に代表される固有の両生類が多数生息し ており,本菌が野外に蔓延した場合,貴重な両生類 多様性が壊滅的被害を受けることも最悪の事態とし て想定する必要があった。可能な限り正確な生態リ スクを評価するためにも,カエルツボカビに関する 科学的知見を早急に収集することが要求され,国立 環境研究所では 2007 年 2 月より,麻布大学と共同 で本菌の分布実態調査を開始した。 調査方法として,日本各地よりカエルを採集し, その皮膚から付着物の DNA を抽出して(図 2),カ エルツボカビ DNA の有無を PCR によって判定す る DNA 検査を実施した。PCR とは微量な DNA を チューブ内の生化学合成反応によって増幅する手法 である。われわれはこの手法を用いてカエルツボカ ビ DNA の ITS という遺伝子領域を増幅することで 11) 検査を実施した 。 図 2 カエル体表からのカエルツボカビ採材と DNA 抽出. 160 地球環境 Vol.17 No.2 159-165 (2012) 4.カエルツボカビの遺伝的多様性 こうして得られた検査結果はわれわれの予想をさ まざまな形で覆す,驚くべきものであった。北海道 から沖縄に至る日本各地から採集された約 5,600 個 体分の皮膚サンプルからは,平均 4%~5%という 低率ではあるがカエルツボカビ DNA が検出され た。感染している両生類の種類には偏りがあり,驚 くべきことに,オオサンショウウオという日本を代 表する固有種からは 40%という高い確率で感染が 認められた。また,沖縄の固有種シリケンイモリ Cynops ensicauda に至っては,60%もの個体が本菌 に感染していた。その他,アマガエル Hyla japonica やヌマガエル Fejervarya limnocharis,ツチガエル Rana rugosa などさまざまな普通種からも本菌は検 出されたが,その感染率は 1%以下の極めて低い値 を示した。一方,野生化した外来種であるウシガエ ル R. catesbeiana やアフリカツメガエルからもカエル 11) ,12) 。 ツボカビ菌は約 20%という感染率で検出された そして次の驚くべき結果として,得られたカエル ツボカビ ITS-DNA の塩基配列情報から,わが国の カエルツボカビには全部で 40 以上ものハプロタイ プ(DNA の塩基配列パタン)が存在していることが 11),12) 。それまでに世界で報告さ 示されたのである れていたハプロタイプは A タイプと呼ばれるタイ プのみであった。 そこでわれわれは次に,カエルツボカビの被害が 著しいとされるパナマやオーストラリア,アメリカ のカエルツボカビも採集して,その DNA 塩基配列 情報を解析してみた。その結果,これらの地域で は,感染率が非常に高いにもかかわらず,得られた カエルツボカビの DNA タイプは,ほとんどが A タ イプで,その他のタイプとあわせてもわずか数種類 のタイプしか発見されなかったのである。つまり, カエルツボカビの遺伝的多様性は,日本国内の方が 圧倒的に高いことが示されたのである(Goka et al., 未発表;Tominaga et al. 未発表)。 5.新仮説「カエルツボカビのアジア起源説」の提唱 続いて,われわれはカエルツボカビの DNA 情報 に基づき,カエルツボカビの分子系統樹を構築した (図 3)。その結果,本菌の系統多様性がよりはっき りと示されると同時に,オオサンショウウオには, 図 3 カエルツボカビ ITS 遺伝子の最節約系統樹. アルファベットは ITS 遺伝子ハプロタイプのコードを示す.B,K,J 以下の枝がカエルツボカビの DNA 系統樹. オオサンショウウオに寄生する B,J,K の 3 タイプは 99%の確率で他のタイプとは独立した系統であることが示 されている. 161 五箇・宇根:カエルツボカビの起源を探る 他の系統とは遺伝的に大きく異なる独特の系統が感 染していることが示された。B,J および K タイプ と命名したこれらのタイプはオオサンショウウオ以 外の両生類からは見つかっておらず,逆にオオサン ショウウオも,この 3 系統以外のカエルツボカビを 保菌していない。このことからオオサンショウウオ とカエルツボカビの間には,進化的に長い「つきあ い」があるのではないかと推測された。 さらに室内感染実験の結果から,日本の両生類は カエルツボカビに感染しても発症せず,高い抵抗性 を有していることが示されている。これらの結果か ら,カエルツボカビは,もともと日本を含むアジア 地域に生息している真菌で,日本の両生類は,本菌 との間で共進化してきた歴史があり,したがって本 菌の感染により致死的影響を受けることがないとい うシナリオが考えられた。近年,日本以外のアジア の国々でも,カエルツボカビの調査が進められてい 13) るが ,全体に感染率は数%と低く,大量死等の被 害も生じていないことから,日本と同様に,アジア 地域の両生類には本菌に対する抵抗性が備わってい る可能性が高い。われわれはこれらの結果から「カ エルツボカビ・アジア起源説」を提唱した。 もし,日本あるいはアジアがカエルツボカビの地 域起源であるとすると,日本やアジアの両生類こそ が世界中に本菌を拡散させたベクターではないかと いう説も浮上してくる。特に,現在でも中国から食 用・ペット用に養殖されたカエルが欧米に輸出され ており,日本からもオオサンショウウオが展示用に 海外に移出されているケースがある。さらに注目す べきベクターとして,世界的な外来種である北米原 産のウシガエルがある。本種は,われわれの調査に おいても日本国内で野生化した集団は,高い感染率 を示した。ウシガエルは食用として,特に戦後,さ まざまな国や地域間で移送が繰り返されており,カ エルツボカビのブースター (増幅器) およびベクター として機能してきた可能性が高い。 現在,世界中でカエルツボカビの起源と拡散プロ セスを探るべく,さらに詳細な遺伝子分析や標本調 14),15) 。特に,最近では,カエ 査が進められている ルツボカビの病原性にも遺伝的変異があることが報 16) 告されており ,われわれが発見したカエルツボカ ビの多様な遺伝的系統についても,病原性を含めた 生理的・生態的特性を調査する必要がある。将来, これら世界各国で収集されているカエルツボカビの 遺伝情報や生態情報が統合されることで,本菌の進 化史が明らかになると期待される。 6.カエルツボカビの人為的拡散 そもそも,カエルツボカビが,アフリカツメガエ ルを自然宿主(レゼルボア)としているとしても,ア ジアの両生類を自然宿主としているとしても,どち らの場合も両生類が人為的に移送される先は実験室 内や展示施設や個人の家の中など人為的環境エリア と考えられる。では,カエルツボカビは,どのよう にして,そのような人為環境から中南米の奥地へと 侵入を果たしたのだろうか? それは,やはり「人」が運んだと考えるのが妥当 であろう。中南米では林産資源としてのみならず, エコツーリズムなど観光資源として熱帯林地域を活 用する動きが活発になっており,近年,さまざまな 国から多くの人間が訪れて,熱帯林の奥地まで足を 踏み入れている。これまで人間世界から隔絶されて ひっそりと生きてきた両生類の生息空間に人間が足 を踏み入れたことによって,下界からカエルツボカ ビが持ち込まれ,免疫のない両生類の間でこの菌は 瞬く間に広がったものと推測される。 一方,アジア地域では,水田環境も含めてもとも とカエルと人間が接触する場面が多く,この地域に 生息するカエルたちは,常に人為撹乱の脅威にさら 図 4.カエルツボカビの分布拡大プロセス・イメージ. 航空・船舶という大量物流手段に加えて,人自身がさまざまなエリアに自由に出入りすることにより カエルツボカビは急速に分布を拡大した. 162 地球環境 Vol.17 No.2 159-165 (2012) されながら生きてきたため,カエルツボカビに対し てもすでに抵抗性を獲得しており,大きな被害は生 じないのかも知れない。人間とのつきあいの浅いカ エルたちが,今,人間が持ち込んだ病原体によって 危機にさらされているというのが,カエルツボカビ 大流行のシナリオとして考えられる (図 4) 。 カエルツボカビの問題を通して得られる教訓とし て,特に,生態系を守る立場にあるわれわれ生態学 者は,国内外で自分の「生息地=居住地」以外のフ ィールドに出かけて調査する機会が多いが,生態系 を守るという目的のためにも自分の体に付着する 「目に見えない異物」に十分な注意を払う必要があ る。 7.生物多様性の崩壊と新興感染症 カエルツボカビの問題は,われわれの健康問題に 対しても重要な示唆を与えてくれている。いかなる 寄生生物にも,長きにわたる共進化を経て,共生関 係に至った自然宿主が存在し,宿主-寄生生物間の 共進化が両者の多様性を育んできた。カエルツボカ ビにもつきあいの長い自然宿主となる両生類が存在 し,カエルツボカビはその両生類の生息域でのみ生 息していたに違いない。しかし,人間がその宿主両 生類とともにこの菌を全く異なる環境に移送したこ とから,カエルツボカビはそれまで全く出会ったこ とのない,免疫のない両生類に対して重大な被害を 及ぼすに至ったと考えられる。 そして,宿主-寄生生物間の共生関係の撹乱は, 実は,われわれ人間にとって脅威となる新興感染症 の流行にも密接に結びついている。ヒト後天性免疫 不全症候群(AIDS)の原因であるヒト免疫不全ウィ ルス(HIV-1)の自然宿主は,アフリカ中西部カメル ーンに生息するチンパンジーの 1 亜種 Pan troglo17) dytes troglodytes であることが最近報告された 。重 症急性呼吸器症候群 (SARS) の原因となる SARS コロ ナウィルスは,ユーラシア大陸に広く分布するキク ガシラコウモリ Rhinolophus ferrumequinum が自然 18) 宿主とされる 。SARS が発見された当時はハクビ シン Paguma larvata が自然宿主ではないかと疑われ たことはわれわれの記憶にも新しいが,その後の調 査により,野生の終宿主であるコウモリから偶然ウ ィルスを受け取ったハクビシンが,中国のマーケッ トで食用として売買される過程で人間へウィルス伝 18) ,19) 。 播して,大流行を招いたと推測されている これらの突発出現ウィルス(Emerging virus)と呼 ばれる新興感染症病原体は,いずれも自然宿主に対 しては無害であり,自然宿主と共生関係にある。し かし,近年の人間による生態系撹乱が,ウィルス- 自然宿主間の共生関係を崩壊させ,人間自身がウィ ルスと接触する機会が増大したことで,さまざまな 新興感染症が多発しているのではないかと考えられ 。また,養鶏産業など農業の集約化が ている 鳥インフルエンザ H5N1 型ウィルスなどを増幅す る温床を生み,さらに経済のグローバリゼーション による人と物の移送の加速化が世界的流行 23) (pandemic)の危機を招いている 。 20)-22) 8.寄生生物との共生 「生物多様性科学国際協同プログラム(DIVERSI注 1) TAS)」 が毎年発行する Diversitas Annual Report の 2006 年度版〈http://www.diversitas-international. o r g / d o c s / d i v e r s i t a s / D I V E R S I TA S _ A n n u a l _ Report_2006.pdf〉において,Consortium for Con注 2) servation Medicine(CCM) の Peter Daszak 博士を 代表とする専門家委員会は,人間が熱帯林のような 生物多様性の高い地域に入り込み,そこで開発を進 めることは,生物学的「貯蔵庫」の秩序を撹乱し, 人間を新興感染症の危険にさらすことになると報告 している。生物多様性は,人間にとって食糧や医薬 品となる遺伝子資源を提供するだけでなく,さまざ まな寄生生物や病原体から人間を保護する役割も果 たしているという。 問題なのは病原体自身ではなく,その共生関係を 撹乱している人間活動にある。自然環境が破壊さ れ,宿主生物が移送されることにより,寄生生物は その生息場所を失い,宿主転換を図り,人間を含む 生態系に対して重大な被害を及ぼさざるを得なくな っている。自然共生という言葉が唱われて久しい が,寄生生物との共生をはかり,人間の安全で健康 な生活を守るためにも,寄生生物の多様性と固有性 を守るという視点が必要だと考える。その意味で, 目に見えない外来生物に対しても人為移送を防ぐた めの早急な法的規制が望まれる。と同時に,われわ れ生態学者も,寄生生物が織りなす目に見えない生 態系にもっと目を向けて,その存在意義と管理を深 く考える必要がある。 注 1) DIVERSITAS は,生物多様性の起源,構成,機能, 維持および保全に関する研究調査を進める政府間 機関および非政府組織のパートナーとして 1991 年 に創設された。DIVERSITAS の目的は,生物多様 性の状況や,地球上の生物資源の持続的利用に関 する正確な情報および予測モデルを提供し,また 世界規模での生物多様性科学を確立することであ る。〈http://www.diversitas-international.org/〉 2) Consortium for Conservation Medicine は,人為的 環境変化と人間を含むさまざまな生物種の健康, そして生物多様性の保全の関係を理解することを 目的とした国際研究プログラムである。新興感染 症の起源や感染爆発の要因解析,希少種の病気か 163 五箇・宇根:カエルツボカビの起源を探る らの予防,地球気候変動と感染症の関係などを研 Cairns, August 2000, 24. 究テーマとしており,カエルツボカビ症も本プロ 9) Rachowicz, L. J., J. M. Hero, R. A. Alford, J. W. Tay- グラムの重要課題に位置づけられている。〈http:// lor, J. A. T. Morgan, V. T. Vredenburg, J. P. Collins www.conservationmedicine.org/〉 and C. J. Briggs(2005)The novel and endemic pathogen hypothesis: competing explanations for the ori- 謝 辞 gin of emerging infectious diseases of wildlife. Conservation Biology, 19, 1441-1448. 本稿で紹介した研究は,環境省環境研究総合推進 費課題「D0801 非意図的な随伴侵入生物の生態リ スク評価と対策に関する研究」 ( 2008~2010 年度, 課題代表:五箇公一)の助成によって推進されてい る。 10)Une, Y., S. Kadekaru, K. Tamukai, K. Goka and T. Kuroki(2008)First report of spontaneous chytridiomycosis in frogs in Asia. Diseases of Aquatic Organism, 82, 157-160. 11)Goka, K., J. Yokoyama, Y. Une, T. Kuroki, K. Suzuki, M. Nakahara, A. Kobayashi, J. Yokoyama, S. Inaba, 引用文献 T. Mizutani and A. D. Hyatt(2009)Amphibian chytridiomycosis in Japan: distribution, haplotypes and 1) Stuart, S. N., J. S. Chanson, N. A. Cox, B. E. Young, A. S. L. Rodrigues, D. L. Fischman and R. W. 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Storeygard, Koichi GOKA (独)国立環境研究所 主席研究員。 1965 年富山県生まれ。1988 年京都大 学農学部卒業,1990 年京都大学大学院 昆虫学専攻修士課程修了,1990 年宇部 興産株式会社農薬研究部,1996 年京都 大学博士号(論文博士)取得(農学),1996 年国立環境研究 所,現在に至る。主な著書に『クワガタムシが語る生物多様 性』 (単著), 『リスク学事典』 (共著), 『ダニの生物学』 (共著) , 『外来種ハンドブック』 (共著),『生態学からみた野生生物の 保護と法律』 (共著), 『環境科学―人間と地球の調和をめざし て』 (共著),『生態学入門』 (共著),『いきものがたり』 (共著) など。専門はダニ学,生態学,環境毒性学。 宇根 有美 Yumi UNE 麻布大学獣医学部病理学研究室教授, 獣医師,獣医学博士,日本獣医病理学専 門医。1954 年静岡県生まれ。麻布獣医 科大学卒業後,横浜市技術吏員を経て, 1984 年より麻布大学で教鞭をとり,研 究に勤しんでいる。専門は獣医病理学,エキゾチックアニマ ル・ワイルドアニマルと感染症を研究のキーワードとして, 昆虫から象まで多種多様の動物と病原体を対象としている。 両生類の感染症研究は,2006 年 12 月アジア初のカエルツボ カビを発見して以降のことで,研究の日は浅い。 D. Balk, J. L. Gittleman and P. Daszak (2008) Global trends in emerging infectious diseases. Nature, 451, 990-993. 23)Kilpatrick, A. M., A. A. Chmura, D. W. Gibbons, R.C. Fleischer, P. P. Marra and P. Daszak(2006) Predicting the global spread of H5N1 avian influenza. Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA, 103, 19368-19373. 165
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