海洋生物の浸透圧応答におけるタウリントランスポーター の重要性

海洋生物の浸透圧応答におけるタウリントランスポーター
の重要性-1.海洋脊椎動物と無脊椎動物の発現様式の違い
○細井公富・豊原治彦・池田雅史・林
勇夫(京大院農)
キーワード:タウリントランスポーター・浸透圧・海洋脊椎動物・海洋無脊椎動物
著者連絡先:hosoi@kais.kyoto-u.ac.jp
1.研究の背景
変化では発現量の増加は認められなかったが、高浸透圧条
水棲生物の浸透圧適応機構は、浸透調節型と浸透順応型
件下では、暴露1時間後から有意な mRNA 量の増加が確
に大別できる。浸透調節型生物に属する魚類や水棲哺乳類
認された。また、淡水に馴化させたティラピア個体を海水
などの脊椎動物は、発達した上皮組織や内分泌系によって、
の70%の塩濃度に暴露したところ、分析した全ての組織
環境水の浸透圧の変化にかかわらず、体内の浸透圧をほぼ
において、タウリントランスポーター(tTAUT)の mRNA
一定に保つことにより浸透圧変化に適応する。しかし上皮
量の増加が認められた。これらの結果から、魚類細胞の高
細胞や循環系の細胞は常に多少の浸透圧変化に暴露され
浸透圧適応において、細胞内浸透圧を高めるためにタウリ
るうえ、激しい変化においては、一時的に体内浸透圧が変
ントランスポーターが重要な役割を担うことが示唆され
化する。浸透順応型生物には多くの水棲無脊椎動物が含ま
た。
れるが、これらの生物は体内の浸透圧を環境水の浸透圧と
ムラサキイガイ・マガキのタウリントランスポーター
同調させて浸透圧変化に順応する。そのため、体内の全て
(mgTAUT および oyTAUT)遺伝子についても同様の解析
の細胞は個体が経験するのとほぼ同じ浸透圧変化に暴露
を行った。その結果、外套膜・鰓・閉核筋のすべての組織
される。
において、魚類と同様に高浸透圧暴露による mRNA 量の
浸透圧変化に暴露された細胞は、細胞内に蓄積している
増加が認められた。また、低浸透圧暴露においても、
種々の低分子有機化合物(オスモライト)の濃度を調節し、
mgTAUT、oyTAUT 両遺伝子は有意な浸透圧誘導性を示し
細胞容積を保つことで浸透圧に適応する。タウリン(2−
た。タウリンを細胞内に取り込むというトランスポーター
アミノエタンスルホン酸)は、特に魚類や海洋無脊椎動物
の機能を考えると、細胞内浸透圧を減じる必要が生ずる低
において重要なオスモライトであることが知られている。
浸透圧条件下での発現誘導は予想外の結果であった。二枚
2.研究の目的
貝細胞では、海水と同じ高い体液浸透圧に適応するため、
本報では、タウリンを細胞外から細胞内に輸送するタウ
全ての細胞が多くのタウリンを細胞内に蓄積する必要が
リントランスポーターに注目し、魚類2種(コイ・ティラ
常に生ずる。また、低浸透圧条件下では、細胞内浸透圧を
ピア)
、二枚貝2種(ムラサキイガイ・マガキ)における
減じるためタウリンを細胞外に放出していると考えられ
遺伝子発現を解析することで、細胞の浸透圧適応機構にお
る。浸透順応型生物であるためタウリンをプールする手段
けるタウリントランスポーターの役割、および魚類と二枚
がない二枚貝では、浸透圧回復の際に速やかにタウリンを
貝での違いを考察することを目的とした。
細胞内に再回収することが極めて重要であり、そのために
3.結果および考察
トランスポーター遺伝子の誘導が起こるのではないかと
コイ上皮組織由来 EPC 細胞を1/2倍および2倍の浸透
圧に暴露し、コイタウリントランスポーター(cTAUT)遺
伝子の mRNA 量の変化を検討した。その結果、低浸透圧
推測される。