J. Plasma Fusion Res. Vol.92, No.2 (2016)1 10‐111 小特集 液体だけど水じゃない −次世代ブランケット・ダイバータ研究開発の現状と課題− It's Liquid but not Water Current Status and Issues of the Next Generation Blanket and Divertor R&D 1.はじめに 1. Introduction 相良明男 SAGARA Akio 核融合科学研究所ヘリカル研究部核融合システム研究系 (原稿受付:2 0 1 5年1 2月7日) 1. 1 本小特集の目的 殖機能,その時の中性子やガンマ線を炉の外に出さない遮 人類800万年,100℃を中心とした水文明の壁を越える新 蔽機能,である.これを全て一種類の作動流体で行う典型 しい高温融体の世界を切り開く試みが核融合工学でも始 が自己冷却型液体増殖ブランケットである.いずれにして まっている.なぜならば,そこには水文明では達し得ない も,その作動流体と構造材との組み合わせは何がよいか, 魅力が沢山有るからである.しかし,それを実現するには の 評 価 作 業 BCSS(Blanket Comparison and Selection 乗り越えねばならない大きな困難や課題,或いは未知の現 Study)が1984年に米国で実施され [2],溶融塩を含む9 象があるかも知れない.言い換えれば,学術的発見や異分 種類の候補から液体 Li,Li/He,PbLi,固体 Li2O の4種類 野への波及も期待できる.同時に,常識を越えた技術開発 が,今後重点的に研究を進めるべきものとして選定され への挑戦も必要である.この小特集は正にその最前線を概 た.溶融塩は安全評価は高かったがデータベース不十分が 観することが目的である. 理由で除外された.しかし1 991年に溶融塩 FLiBe(BeF2 確かに,1769年の新方式の蒸気機関がもたらした鉄工業 と LiF の混合塩)を採用した慣性核融合炉 HYLIFE-II が R. と,それによる産業革命と交通革命は,良くも悪くもその Moir らによって設計された[3].洋梨の中心を空洞にした 後の歴史を大きく変え,現在にまで至っている.核融合工 ような厚肉の液体ブランケットは,厚さ約1m の自由表面 学もその延長で考えることに不思議はない.しかし核融合 であり,パルス毎に上流から再生して循環する.これに エネルギーの魅力を十分に引き出すには,水文明では不十 よって炉寿命30年で高レベルの構造材の放射化廃棄物は出 分な可能性がある.その理由の詳細については,当該小特 さない, という意味で究極の理想設計と言える.すなわちブ 集では割愛するが,最近M. Tillackによって,核融合工学で ランケット3機能,高熱効率,交換不要の高稼働率,浅地処 の「水」について様々な観点からの詳細な評価が丁寧に述 理廃棄物,の全てを兼ね備えている.とは言え,BCSS に べられているので是非一読をお勧めしたい[1]. 沿って世界のブランケット研究の流れは固体あるいは液体 金属に移行した. 1. 2 核融合工学での高温融体研究の歴史 しかし,この流れの中で,もんじゅの液体 Na 事故の前 では本題の核融合工学での高温融体であるが,まずブラ 年,1994年に筆者らは漏出安全の観点から FLiBe 自己冷却 ンケットでの研究歴史を概観しておく(図1).尚,ブラン 型のヘリカル炉 FFHR を国際会議で発表した [4].その当 ケット機能には大きく3つあり,核融合反応でできる高速 座は冷視されたが,1999年に米国で M. Abdou 教授中心に 中性子から熱を取り出すエネルギー変換機能,並行してリ Li,PbLi,FLiBe の比較設計活動 APEX(Advanced Power チウムの中性子反応によってトリチウム燃料を生産する増 Extraction)が始まった [5].並行して,ダイバータに関し National Institute for Fusion Science, Toki, GIFU 509-5292, Japan author’s e-mail: sagara.akio@nifs.ac.jp 110 !2016 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research Special Topic Article 1. Introduction A. Sagara ても2000年から米国で R. Mattas 中心に Li,FLiBe,SnLi, 参考文献 Ga の 比 較 設 計 活 動 ALPS(Advanced Limiter-divertor [1]M.S. Tillak, P.W. Humrickhouse, S. Malang and A.F. Rowcliffe, The use of water in a fusion power core, Fusion Eng. Des. 91, 52 (2015). [2]D.L. Smith et al., Blanket Comparison and Selection Study, ANL/FPP-84-1, Argonne National Lab. (1984). [3]R.W. Moir et al., HYLIFE-II Progress Report, UCID21816, Lawrence Livermore National Lab. (1991). [4]A. Sagara et al., Blanket and Divertor Design for Force Free Helical Reactor (FFHR), Fusion Eng. Des. 29, 51 (1995). [5]M.A. Abdou and APEX Team, Exploring novel high power density concepts for attractive fusion systems, Fusion Eng. Des. 45, 1435 (1999). [6]R.F. Mattas et al., ALPS-advanced limiter-divertor plasma-facing systems, Fusion Eng. Des. 49-50, 127 (2000). [7]K. Kunugi, Y. Matsumoto, A. Sagara, A new cooling concept of free surface flow balanced with surface tension for FFHR, Fusion Eng. Des. 65, 381 (2003). [8]R.P. Schorn, E. Hintz, B. Baretzky, J. Bohdansky, W. Eckstein, J. Roth and E. Taglauer, J. Nucl. Mater. 162-164, 924 (1989). [9]H. Sugai et al., Wall conditioning with lithium evaporation, J. Nucl. Mater. 220-222, 254 (1995). [1 0]H.W. Kugel et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 1000 (2009). [1 1]P.A. Finn et al., The reactions of Li-Pb Alloys with Water, Trans. Am. Nucl. Soc. 34, 55 (1980). [1 2] 「核融合炉ブランケットの研究開発の進め方」原子力委 員会核融合会議計画推進小委員会(2 0 0 0) http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/kakuyugo /siryo/siryo137/siryo2.htm [1 3] 「核融合炉工学の再構築と体系化について」日本学術会 議核科学総合研究連絡委員会核融合専門委員会報告 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/17htm/17_37.html [1 4]K. Abe et al., Fusion Eng. Des. 83, 842 (2008). [1 5]T. Muroga et al., Fusion Sci. Technol. 60, 321 (2011). Plasma-facing System)が始まった(>50 MW/m2,エロー ジ ョ ン 律 速 の 寿 命 回 避,ダ イ バ ー タ 熱 利 用 の 熱 効 率 >40%) [6].共に自由表面(free surface)が主テーマで あった.ヘリカルダイバータについても自由液面設計が提 案された[7].他方 Li に関しては,1980年代に第1壁のス パッタエロージョンに対する自己修復機能を狙った Al-Li,Cu-Li 合金(低 Z 番号で且つイオン化し易い Li によ る被覆と磁場下でのスパッタ再付着)が注目されたが,表 面析出とのバランス維持が解決できなかった [8].しかし 菅井らは JIPP T-IIU への Li蒸着で水素リサイクリングを抑 制する PWI 研究に成果を上げた[9].その後,米国 NSTX での液体 Li 実験につながっている[10].これらは熱負荷制 御と言うより PWI 制御の観点が強い.尚,Li の活性度を抑 制する目的で,中性子増倍と放射線遮蔽に優れた Pb との 合金については,19 80年に様々な Li/Pb モル比率の中から Li:Pb=0.17:0.83(通常 Li0.17Pb0.83 と書く)が選ばれた経 緯はあまり知られていない[11]. これらを背景として,2000年に原子力委員会核融合会議 計画推進小委員会[12],及び日本学術会議核科学総合研究 連絡委員会核融合専門委員会[13]にて「液体増殖方式」あ るいは「液体金属や溶融塩などの研究」の文言が記載され た.ま た,日 米 科 学 技 術 協 力 事 業 JUPITER-II(2 001∼ 2006) [14],TITAN(2 007∼2012) [15]では FLiBe および PbLi の化学および熱流動データベースの構築が実施され た.これらは国内研究ネットワークとして現在継続してい る.したがって,これらの経緯を背景として,本小特集を お読みいただければ幸いである.その上での今後の展望は 「7.今後の展開」で述べる. 図1 液体ブランケット,その中の溶融塩,および液体ダイバータに関する世界の論文数の推移と,主な研究活動等との相関. 111
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