特集 図書館協力 ILL 統計データ分析からみた医学文献流通における私大医学図書館の役割 酒井由紀子 1 ),園原 麻里 2 ) 慶應義塾大学信濃町メディアセンター(北里記念医学図書館) Ⅰ.はじめに 研究図書館協議会(Association of Research Libraries) 調査では「Big Deal で多数のタイトルが電子ジャーナ 医学関連分野における研究,医療のための文献利用の ルでアクセス可能となったが,2001 年から 2002 年にか 対象は,その発展の速さから,最新の知見が得られる けて依頼は 7%,受付は 3.7% 増えている」1 ),米国オハ 雑誌論文がほとんどである。そのため,古くから文献 2) イオ州立大学では「受付件数は減っていない」 ,英国 複写による図書館の相互貸借が盛んである。日本にお 聖ジョージ病院医学図書館では「貸借ともに減少してい いては特定非営利活動法人日本医学図書館協会(Japan る」3),日本の国立大学からは「NACSIS-ILL 件数が減っ Medical Library Association, 以 下 JMLA) が 1927 年 4) ている」 などが報告されている。一定の傾向はまだ見 の第 1 回会合から相互利用のための共同目録作成につい えていないと言えよう。また,日本の私立大学での分析 てうちあわせを行い,早い時期から総合目録の作成,様 は未見である。 式,マニュアルの整備など医学図書館間の相互貸借業務 本調査では,医学文献流通における一私立大学医学図 に必要なツールや制度の整備を主導してきた。一方,近 書館の役割を今後の方向性とともに議論する一助とし 年国立情報学研究所(National Institute of Informatics, て,JMLA 加盟館中でもリソースが豊富で,多くの相 以下 NII)が運営する NACSIS-CAT による共同分担目 互貸借の依頼を受付けている慶應義塾大学信濃町メディ 録の開始( 1985 年)や,これによって作成された総合目 アセンター(別名,北里記念医学図書館。以下,当館) 録データベース Webcat の公開( 1998 年) ,NACSIS-ILL の最近の相互貸借統計分析から,医学文献流通の実態と, サービスの開始( 1992 年)など医学図書館以外にも環 上記のような近年の変化要因の影響を考察する。利用 境が整ってきた。特に大学の 80%が NACSIS-ILL を利 したデータは,業務用の台帳データ( 2002 ~ 2005 年 用するなど,これらのシステムを利用した相互貸借業務 度),慶應義塾大学メディアセンターの標準統計( 1994 が標準になりつつある。しかし,医学文献は医療現場で 5) ~ 2005 年度) ,JMLA 加盟館統計( 72 次[2000 年度] ある病院や医師会など関係団体や大学以外の研究機関で 6) ~ 76 次[2004 年度]) である。なお,2002 ~ 2003 年 も必要とされ,参加に一定の条件がある NACSIS-ILL 度については平成 16 ~ 18 年度科学研究費補助金「電子 に参加できない機関の相互貸借も依然として一定量を保 情報環境下における大学図書館機能の再検討」の助成を 持していると思われる。 得て,より詳細なデータを使用することができた。ひと また,相互貸借サービスに影響を与える昨今の図書 つは NII から受け取った NACSIS-ILL の処理データで 館リソースの変化に電子化がある。特に,国立大学が ある。もうひとつは同システム経由以外の受付分につい 2002 年にタスクフォースで導入した多数のタイトルを て,帳票から NACSIS-ILL と同様の項目について外注 はじめ大学図書館で充実してきた電子ジャーナルは,論 入力してもらったデータである。それぞれの統計データ 文利用が中心の医学分野において,より大きなあるいは や処理データは用途が別であるため,総数などは必ずし 早期の影響が出ることは容易に推測できる。電子ジャー も一致していない。 ナル導入の相互貸借への影響は, 医学に限定されないが, 既存の調査がいくつか欧米を中心になされている。米国 Yukiko SAKAI:〒 160-8582 東京都新宿区信濃町 35. yukiko@lib.keio.ac.jp 2) Mari SONOHARA ( 2006 年 7 月 24 日 受理) 1) 以下では,当館の概況に続き,まず相互貸借総件数の 経年変化と雑誌カレント誌数との関係について分析結果 を報告する。次に「貸」に相当する学外からの申込みに 対する「受付」の統計データから申込館の種別,申込方法, 資料の種別を,「借」に相当する学外への「依頼」につ 医学図書館 2006;53 (3) :233-238. 酒井由紀子,園原 麻里 いては申込者の所属,依頼先上位館,対象雑誌の和洋比 表 1.相互貸借件数比較 率,電子ジャーナルからの提供を含む謝絶扱いについて 複写 複写 現物 現物 複写受付 依頼 受付 依頼 受付 /依頼 阪大 3,396 40,803 335 92 12.0 倍 慶應 1,741 28,120 11 37 16.2 倍 JMLA 平均 2,979 4,884 41 84 1.6 倍 日本医学図書館協会第 76 次 (2004 年度) 加盟館統計 (2005). 分析する。なお,学内他キャンパスとの貸借は次元が異 なるため,本分析には含めないこととする。 Ⅱ.概況 当館は,医学,看護学および関連領域の専門図書館で, 義塾の 5 つある大学キャンパスのうち,大学病院がその 敷地の大部分をしめる東京都新宿区の信濃町キャンパス Ⅲ.相互貸借件数の経年変化と雑誌カレント誌数と の関係 に位置する。同キャンパスには同大学医学部の 2 年生以 図 1 は,1994 年度から 12 年にわたる相互貸借複写件 上,看護医療学部の 3 年生,両学部の大学院課程などの 数の推移である。「受付」は,いくつかの落ち込みは 学生が通学しているが,キャンパス構成員計 3,144 名の あるが,全体としては増加傾向にあり,19,449 件から 73% に相当する 1,805 名は研究 , 教育,医療に従事,あ 26,654 件と 12 年間で約 1.4 倍となっている。一方「依頼」 るいはそれを支援する教職員である(2005 年 5 月現在)。 は漸減しており,3,526 件から 1,773 件と半減に達して またそのうちの半数以上の約 950 名(2006 年 7 月現在) いる。 は看護部に所属する看護師である。当館ではキャンパス の特性に沿って,ヘルスサイエンス分野に特化した資料 㪊㪌㪇㪇㪇 ฃઃ ଐ㗬 を豊富に備え,図書および製本雑誌約 378,000 冊を所蔵 㪊㪇㪇㪇㪇 している。医学研究あるいは医療で重要となる雑誌につ 㪉㪌㪇㪇㪇 いては,2,777 誌(2006 年 3 月現在)をカレントに受け 入れている。電子ジャーナルは総合大学であるため,全 㪉㪇㪇㪇㪇 分野を合わせると約 25,000 誌にアクセス可能であるが, 㪈㪌㪇㪇㪇 当館のホームページにはライフサイエンス分野のみ約 6,000 誌(2006 年 7 月現在)を掲載している。また,各 種データベースや電子ブック,文献管理ツールなども提 㪈㪇㪇㪇㪇 㪌㪇㪇㪇 㪇 供している。 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 当 館 で は 2005 年 度 統計 で 約 28,000 件 の 相 互 貸 借 件 図 1.複写件数の推移 数をこなしており,その 94%は依頼を受付ける「貸」 の件数である。相互協力をその事業の柱のひとつと 図 2 では,印刷版の雑誌数が 1994 年の計 3,410 誌か し て い る JMLA の 加 盟 館(2006 年 6 月 現 在, 医 学 系 ら 2005 年度の 2,777 誌と減り,かわって 1998 年度に 3 大学図書館を中心に 119 機関)の中でも,複写受付件 誌から導入が開始されたライフサイエンス分野の電子 数は医学分野の外国雑誌センター館である大阪大学 ジャーナル誌数が 2003 年度のパッケージ購入に伴い印 の 40,803 件 に つ い で 28,120 件 と 第 2 位 で あ る(2004 刷版を超えて,2006 年 7 月現在約 6,000 誌と主要なリ 年度) 。表 1 の大阪大学,当館,そして JMLA 平均を ソースとなっていることを示している。雑誌の価格高騰 見ると,医学図書館では相互貸借は複写が主である もあり,印刷版と電子版の双方を維持することが困難な ことと,受付が依頼を上回る傾向が見られる。JMLA ため,電子ジャーナルへの切り替えを実施しつつあるた 平均でも依頼に対し受付が 1.6 倍と全体的に提供館と めで,電子ジャーナルでのみ提供されるタイトルが増え, なっていることがわかるが,当館は大阪大学と同様 全体として利用可能なタイトル数は大幅に増加してい に特にその傾向が顕著で,受付は依頼の 16 倍となっ る。自前でまかなえる雑誌が豊富になるにつれて,相互 ている。カレント誌数も大阪大学の 4,348 誌についで 貸借では「依頼」の減少が予測されるが,電子ジャーナ 3,394 誌と 2 番目に多いことで示されているように,リ ルタイトルの増加と比較すると,その件数の減少はそれ ソースが豊富であることがいちばんの理由であろう。 ほど急激ではない。また,電子ジャーナルによるタイト ル数増加が顕著になったのは 2003 年以降で,全体の「依 頼」減少傾向の理由が雑誌タイトル数の増加と関連して 234 医学図書館 2006;Vol. 53 No. 3 ILL 統計データ分析からみた医学文献流通における私大医学図書館の役割 いるとは言えない。 書室が設置されているところでも,小規模なため当然な 最新の 2005 年度には全体の傾向と異なり, 「受付」が がら大学でリソースを多く持つ医学図書館への相互貸借 減り( 28,120 件から 26,654 件へ) , 「依頼」が若干( 1, 依頼が多い。たとえば,雑誌受け入れタイトル数の平均 741 件から 1,773 件へ)増えている。これには図 2 のと は,2003 年度病院図書室研究会の調査に回答した 107 おり印刷雑誌の誌数が 2,944 誌から 2,777 誌に減じたこ 館の平均で 217 誌 8 ) である。同年度の JMLA 加盟館統 とが原因と考えられる。この印刷誌の減少には 2005 年 計の平均 1,049 誌と比較すれば,その規模の違いは明ら 契約で予算の逼迫のため中止した 311 誌が含まれてい かである。JMLA でも日本における医学情報流通の全体 る。ただし,このうち多くは電子ジャーナルのみへの切 を考慮して,医学図書館と病院図書室との協力体制につ り替えで,印刷誌,電子ジャーナルともに提供できなく いて 1980 年代にすでに決議がされている 9 ),10 )。JMLA なったのは 59 誌だけである。契約条件の確認作業が煩 加盟館のうち病院図書室は 2006 年 6 月現在 15 館にすぎ 雑であるために電子ジャーナルからの相互貸借への複写 ないが,医学・医療の使命を考えれば,提供館,申込館 提供はしていないので,受付の減少はこの中止タイトル とも加盟に関わらず相互貸借は実施されているはずであ の影響の可能性が高い。依頼の若干の増加と完全中止 る。また,1993 年 4 月の製薬会社の医師への文献提供 59 誌との関連性を検証するにはタイトルレベルの分析 の自主規制が,病院図書室への文献要求の増加,ひいて が必要だが,ここでは実施していない。 は相互貸借依頼の急増につながったことも報告されてい る 11 )。 なお,電子ジャーナルが一気に導入された国立大学か 㪎㪇㪇㪇 䋨ශ䋩 ᵗ䋨ශ䋩 ว⸘䋨ශ䋩 㔚ሶ䉳䊞䊷䊅䊦 㪍㪇㪇㪇 㪌㪃㪐㪐㪌 㪌㪇㪇㪇 らの受付件数の推移は別途分析予定である。 も う ひ と つ「 受 付 」 件 数 が 増 加 傾 向 に あ る の は, NACSIS-ILL の普及や,2004 年度から実施された料金 㪋㪏㪏㪌 相殺制度によって相互貸借が広く一般化し,申込館が増 㪋㪇㪇㪇 㪊㪋㪈㪇 えていることがあるためと思われる。1994 ~ 2003 年度 㪊㪏㪎㪐 㪊㪎㪍㪐 㪊㪎㪉㪈 㪊㪍㪈㪏 㪊㪌㪌㪍 㪊㪌㪇㪎 㪊㪌㪐㪌 㪊㪎㪇㪎 には料金相殺制度は NACSIS ユーザ会のメンバーに限 㪊㪉㪌㪈 㪊㪈㪏㪍 㪊㪇㪇㪇 㪉㪐㪋㪋 㪉㪃㪎㪎㪎 㪉㪋㪏㪊 㪉㪇㪇㪇 の申込が増えていることが推察される。申込館の多様化 㪈㪇㪇㪇 㪏㪌㪉 については JMLA 加盟館について後述の本章第 3 節で 㪍㪇㪍 㪇 定されていたが,2004 年度からは全面的な料金相殺制 度公開により,これまで申込みのなかった参加組織から 㪉㪇㪇㪏 㪊 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 図 2.雑誌カレント誌数の推移 も分析している。 2 .「受付」における申込方法 当館の受付件数の増加が NACSIS-ILL の普及に影響 Ⅳ. 「受付」統計分析 を受けているとすると,申込方法のうち同システム経由 1 .申込館 の割合が増えているであろうか。表 2 の複写受付分申込 当館と同様に,タイトル数の多い電子ジャーナルパッ 方法の 2002 年~ 2005 年の変化を見ると,NACSIS-ILL ケージがほかの図書館にも導入されていれば,相互貸借 利用の割合は徐々に増えてはいるが,まだ半数に達して への依存度が減り,当館の受付件数は減少するはずであ いない。かわりに FAX の申込が 2005 年度も 53% と依 るが,逆に増加傾向が続いている。これは,ひとつには 然多い。これは半数以上を占める大学以外からの申込み 申込館の多くが,電子ジャーナルの大規模購読をしてい のうち,93% が FAX を利用していることに起因してい るような大学ではないためである。 「申込館」の種別割 る。これは NACSIS-ILL 参加の 991 機関( 2006 年 6 月 合を見ると,大学は 2004 年度以降半数を切り,2005 年 現在)のうち 68%が大学で,大学以外の申込館の多数 度には 46% である。かわって半数以上の 54%は大学以 を占める病院図書室(館)は 7 館しか参加していないこ 外の機関が占めている。 研究所などの機関も含まれるが, とからも理解できる。病院が NACSIS-ILL を利用する 大多数は病院図書室(館)である。病院図書室間のネッ ためには,総合目録に登録して NII の事業に参加する必 7) トワークづくりにも努力がなされているが ,病院は図 要があり,小規模な病院図書室にとって NACSIS-ILL 医学図書館 2006;Vol. 53 No. 3 235 酒井由紀子,園原 麻里 4 .複写受付の資料種別 表 2.複写受付分申込方法 方法 FAX NACSIS-ILL 郵便 E-Mail 合計 2002 年度 2003 年度 2004 年度 2005 年度 58.2% 51.6% 55.0% 53.6% 40.5% 47.7% 44.5% 46.1% 1.2% 0.7% 0.5% 0.3% 0.1% 0.02% 0.01% 100% 100% 100% 100% 2002 年度,2003 年度の複写を受付けた利用資料の 種別では,いずれの年度も洋雑誌が 70% 弱,和雑誌が 30%前後を占めている。大学図書館における大規模電 子ジャーナル導入により洋雑誌の割合が減る傾向が予測 されるが,この 2 年間の変化だけでは確認できない。個 の利用は現実的ではないのである。 別タイトルの傾向や,利用年代,申込種別の利用傾向な どは別途分析予定である。 3 .申込館の多様化 図 3 は,1985 年度および 20 年後の 2005 年度の申込館 Ⅴ.「依頼」統計分析 の JMLA 加盟館の割合と,現物貸借も含めた受付件数 電子ジャーナルの導入によってアクセス可能なタイト を示している。かつては 70%を占めていた JMLA 加盟 ル数が急増しているにもかかわらず,緩やかな減少に留 館の割合が 31%と半分以下に減少している。申込件数 まっている「依頼」について詳細を分析した。 では,7,613 件から 8,263 件とやや増加しているが,総 件数が 10,832 件から 26,676 件と 2.5 倍になっているため 1 .申込者所属 である。以前は,JMLA が加盟館を対象として相互貸 表 3 は複写依頼の申込者の所属上位 10 部門一覧で申 借に必要な総合目録の整備や手続きの標準化を率先して 込者は 2004 年 7 位の看護医療学部学生以外は教職員で 行ったため,古くから JMLA 加盟館同士の相互貸借が ある。所属する研究者数による重み付け調整などはして 特に盛んであった。しかし,学術雑誌総合目録の整備に いない単純集計である。内科学教室,外科学教室などは, 引き続き NACSIS-CAT が 1985 年から構築され,1998 所属研究者数が多く,専門分化が進んでいることから上 年には Webcat の公開によって学術雑誌の所在が誰でも 位にランクされるのは当然であろう。また,精神・神経 調査できる環境になり,1992 年からサービスが開始さ 科学教室およびリハビリテーション医学教室はその分野 れた NACSIS-ILL の普及により,相互貸借が加盟館以 の特徴として多様なトピックを扱うことから依頼が多い 外の学術図書館や医学関連図書館にも一般的なサービス ことが推測される。そのほかの所属は入れ替わりがある になったためと見られる。 が,医学部の同窓会組織である三四会が順位を上げてい 㪊㪇㪃㪇㪇㪇 ること,看護部とあわせて看護医療学部,健康マネジメ 㪉㪌㪃㪇㪇㪇 ント科(看護医療学部の大学院部門)の看護関連部門が 㪉㪇㪃㪇㪇㪇 㪈㪏㪃㪋㪈㪊 㪈㪌㪃㪇㪇㪇 㪈㪇㪃㪇㪇㪇 㪊㪃㪉㪈㪐 㪌㪃㪇㪇㪇 㪎㪃㪍㪈㪊 㪇 䈠䈱ઁ 㪡㪤㪣㪘 㩷 㪏㪃㪉㪍㪊 㪎㪇㩼 㪈㪐㪏㪌 上位 10 位までに常駐していることに注目したい。 三四会会員は契約上利用が認められているウォークイ ンユーザなので,電子ジャーナルのプリントを来館の際 㪊㪈㩼 提供している。それでも相互貸借の「依頼」で上位ラン 㪉㪇㪇㪌 クされるということは,少なくとも当学では卒業後も出 図 3.相互貸借受付における JMLA 加盟館の割合 表 3.複写依頼申込者の所属上位 10 1位 2位 精神 ・ 2002 神経科 287 161 205 精神 ・ 2004 神経科 三四会 内科 2005 三四会 184 139 119 108 80 96 102 101 形成外科 71 93 79 53 医学図書館 2006;Vol. 53 No. 3 看護部 94 整形外科 71 91 看護部 71 65 耳鼻咽喉科 眼科 73 看護医療学 眼科 部教員 54 10 位 医療政策 看護医療学 看護部 部学生 整形外科 75 9位 整形外科 外科 小児科 内科 81 110 93 8位 三四会 小児科 リハビリ 外科 89 116 109 7位 神経内科 皮膚科 外科 リハビリ 145 127 195 6位 形成外科 リハビリ 三四会 精神 ・ 神経科 5位 リハビリ 155 197 174 4位 内科 精神 ・ 神経科 2003 内科 236 3位 外科 69 66 健康マネジ 形成外科 メント科 47 39 小児科学 38 38 ILL 統計データ分析からみた医学文献流通における私大医学図書館の役割 身大学に文献複写を依存しているという図式が確認でき 㪈㪇㪇㩼 る。 㪐㪇㩼 㪏㪇㩼 看護部所属の看護師は約 950 名の大所帯で,依頼が他 㪈㪋㪉㪋 㩿㪍㪎㪅㪌㩼㪀 㪎㪇㩼 の部門に比べて多くなってもしかるべきである。 しかし, 㪍㪇㩼 少なくとも他機関に依頼したということは,他キャンパ 㪈㪐㪋㪎 㩿㪏㪌㪅㪊㩼䋩 㪈㪋㪎㪋 㩿㪏㪈㪅㪊㩼㪀 㪈㪉㪍㪉 㩿㪎㪐㪅㪎㩼㪀 㪊㪊㪍 㩿㪈㪋㪅㪎㩼㪀 㪊㪋㪇 㩿㪈㪏㪅㪎㩼㪀 㪊㪉㪉 㩿㪉㪇㪅㪊㩼㪀 㪉㪇㪇㪉 㪉㪇㪇㪊 㪉㪇㪇㪋 㪌㪇㩼 スに専門の看護医療学部の図書室があるにもかかわら 㪋㪇㩼 ず,ここにも所蔵がない資料が相当数必要とされたこと 㪊㪇㩼 を意味している。2004 年から上位 10 位までにランクさ 㪉㪇㩼 れている看護医療学部は 2001 年に開設された新しい学 㪈㪇㩼 部である。信濃町キャンパスに学生が通い始めた 3 年目 㪇㩼 㪍㪏㪌 㩿㪊㪉㪅㪌㩼㪀 㪉㪇㪇㪌 の 2003 年頃から所属別上位に姿を現わしている。学生・ 㔀 教員の総数は約 500 名(うち教員は 48 名)で、その 1/4 ほどが,当館の主な利用者である信濃町キャンパス所属 ᵗ㔀 図 4.複写依頼における和洋雑誌比率 である。やはり看護医療学図書室があっても学内で充足 できない雑誌が多くあることを意味している。これは看 ない。2006 年 7 月現在,当館でアクセス可能な和雑誌 護研究において医学分野より多様な資料の必要性を示唆 の電子ジャーナルは約 400 誌である。 しているのではないだろうか。この仮説を検証するには タイトルレベルの詳細な分析が必要である。 4 .依頼における充足と謝絶扱いの割合 図 5 は複写申込のうち,外部機関に依頼して充足され 2 .依頼先館 たものと,謝絶扱いとしたものの割合である。前年と比 依頼先となっている図書館の上位は表 4 のとおりであ 較して 2003 年に 8% から 20%,2005 年に 19% から 36% る。レアな雑誌を多く所蔵している医学分野の外国雑誌 と謝絶扱いの割合が急に上がっている。実は謝絶扱い センター館である大阪大学,東北大学,九州大学のほか, の中には,先方から製本中など様々な理由でお断りの 横浜市立大学,東京医科大学,東京女子医科大学,東京 あったもののほか,信濃町メディアセンター所蔵資料で 慈恵会医科大学など,近隣で雑誌を多く所蔵し,相互貸 あるが遠隔書庫に在架している文献複写取寄せの数値 借受付件数が多い図書館がほとんどである。 も含まれている。2005 年に信濃町からこの遠隔書庫に 約 4 万冊の資料移転作業を行ったことが謝絶扱い件数の 表 4.複写依頼先上位 5 館 急増の一因と考えられる。そのほか謝絶扱いには当館で 1位 2位 3位 4位 5位 2002阪大 横浜 東医 九大 東北 249 154 131 126 117 2003阪大 北里 東医 BritishLibrary 福岡 199 72 69 68 62 2004阪大 東医 北里 横浜 九大 191 112 101 78 58 2005阪大 北里 横浜 東女医 九大 235 74 68 59 56 電子ジャーナルやフリーのフルテキストが見つかり外部 に依頼する必要がなくなったケースも含まれている。電 子ジャーナルやフリーのフルテキストが多くなったこと が謝絶扱い増加の要因と考えられる。よくあるパターン 㪍㪇㪇 䋨㪉㪇㩼䋩 㪉㪊㪉 䋨㪏㩼䋩 㪈㪐㪏 䋨㪍㩼䋩 㪈㪇㪇㩼 㪌㪉㪉 䋨㪈㪐㩼䋩 㪈㪃㪈㪏㪍 㩿㪊㪍㩼㪀 㪏㪇㩼 3 .和洋雑誌比率 㪍㪇㩼 図 4 で示しているのは複写依頼の対象で大部分を占め る雑誌の和洋比率である。 和雑誌の割合が着実に増加し, 2002 年の 14.7% が 2005 年度には 32.5% となっている。 洋雑誌は電子ジャーナルの導入によって利用可能なタイ トル数が増加したのに比較して,利用可能タイトルが増 㪋㪇㩼 㪉㪃㪏㪍㪇 䋨㪐㪋㩼䋩 㪉㪃㪋㪌㪉 䋨㪏㪇㩼䋩 㪉㪃㪉㪋㪎 䋨㪏㪈㩼䋩 㪉㪇㪇㪊 㪉㪇㪇㪋 㪉㪃㪈㪉㪋 㩿㪍㪋㩼㪀 㪉㪇㩼 㪇㩼 㪉㪇㪇㪈 㪉㪇㪇㪉 えていない和雑誌の割合が多くなっているのであろう。 なお,和雑誌は電子ジャーナル自体の存在が圧倒的に少 㪉㪃㪎㪏㪐 䋨㪐㪉㩼䋩 ଐ㗬ల⿷ 㪉㪇㪇㪌 ⻢⛘ᛒ䈇 図 5.複写依頼の充足と謝絶扱いの割合 医学図書館 2006;Vol. 53 No. 3 237 酒井由紀子,園原 麻里 としては,依頼申込が多い三四会会員が,キャンパス内 また、平成16 ~ 18 年度科学研究費補助金「電子情報環境 で利用可能なインターネット PC がなく電子ジャーナル 下における大学図書館機能の再検討」の助成を受けている。 を直接利用できないため,その存在に気づかず申し込む という例が増えているのかもしれない。また,PubMed 注・引用文献 Central への集積や機関リポジトリへのアーカイビング 1) Jackson M. The future of document delivery services. 国際セミナー「デジタル時代のドキュメント・デリバリー・サー ビス」 . 国立国会図書館関西館, 2004. 2) Kuehn J. We’re still here : traditional I LL after OhioLINK Patron - initiated requesting and Ejournals. 67th IFLA Council and General Conference, 2001. 3) Robertson V. The impact of electronic journals on academic libraries : the changing relationship between journals, acquisitions and inter-library loans department roles and functions. Interlending & Document Supply 2003;31(3):174 -9. 4) 加藤信哉. 電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図 書館の文献デリバリーへ及ぼす影響. カレントアウェアネス 2004:281:3 - 4. 5) 慶應義塾 大学メディアセンター発行の「MediaNet」誌に 主要な統計が毎年掲載される。No.10 (2003)以降オンライ ンで無 料 公開。MediaNet[internet] . http://www.lib.keio. ac.jp/publication/medianet/[accessed 2006 - 08 - 05] 6) 第 72 次日本医学図書館協会加盟館統計(平成 12 年 4月平成 13 年 3月)東京:日本医学図書館協会,2001. 第 73 次日本医学図書館協会加盟館統計(平成 13 年 4月-平 成 14 年 3月)東京:日本医学図書館協会,2002. 第 74 次日本医学図書館協会加盟館統計(平成 14 年 4月-平 成 15 年 3月)東京:日本医学図書館協会,2003. 第 75 次日本医学図書館協会加盟館統計(平成 15 年 4月-平 成 16 年 3月)東京:日本医学図書館協会,2004. 第 76 次日本医学図書館協会加盟館統計(平成 16 年 4月-平 成 17 年 3月)東京:日本医学図書館協会,2005. などフリーでアクセスできるフルテキストが一般に増え ているため,これらのリンク先を連絡することで謝絶扱 いとするパターンが増えているようである。 Ⅵ.おわりに 日本の医学研究,医療のための文献流通において,当 館は,大学のみならず病院・研究所などを通じ,リソー スの提供において貢献し続けていることがわかった。 Webcat や NACSIS-ILL の普及にも後押しされ,相互 貸借が一般化し,JMLA 加盟館以外からの受付増加に も対応している。病院・研究所など大学以外からの依頼 受付は半数以上の大きな割合を占めていて,FAX 申込 みが多いなど業務上一元管理が難しい事実もわかった。 電子ジャーナルの影響として,電子化が遅れていてタ イトル数は増えていない和雑誌の依頼の割合が増えてい ることと,依頼を謝絶して電子ジャーナルのプリント提 供やフルテキストページへのリンク案内で替える割合が 増えていることが確認できた。 外部への依頼申込者の所属からは,電子ジャーナルに 直接アクセスできない卒業生や,分野の広がりが推測さ れる看護関連部門の利用者が注目され,これらのグルー プの利用者サービスが業務上の課題として捉えることが できそうである。 今後,当館の電子化がますます進んでいった場合,相 互貸借の依頼に十分に応えられるかという問題もある。 少なくとも日本として最後のリゾートをどこに求めるか など,医学関連分野の図書館全体として考えなくてはい けない課題につながる。その解決の糸口をつかむために も,相互貸借統計データの分析としては, 「受付」申込 館の詳細分析,資料のタイトルレベル,年代ごとの分析 などを通じてさらに考察を深めていきたい。 本稿は「第22回医学情報サービス研究大会」で発表した 7) 野原千鶴. 病院図書室におけるネットワークとDocument Delivery. 医学図書館 1996;43(1):73 -7. 8) 病院図書 室研究会. 病院図書 室研究会平成 15(2003) 年度 第 6 回現況調査報告書. ほすぴたるらいぶらりあん 2005;30 (1):37- 50. 9) 「病院図書室を含めたネットワークの形成」について第 51 回日本医学図書館協会総会(1980 年)にて決議した旨,以下 に記載されている。日本医学図書館協会. 昭和 55 年度第 2 回理事会議事要録. JMLA会報 no.66, 1981.p.1- 4. 10) 佐藤淑子. 病院図書館群ネットワーク形成に向けて(答申 書) . 第 58 回日本医学図書館協会総会資料. 東京:日本医学 図書館協会, 1987.資料番号3.4. 11)野原千鶴, 山室真知子, 飯田育子. 製薬会社の文献情報 サービス自粛後の病院図書業務 相互貸借・文献検索・スラ イド作成機導入等の1年間の動向 アンケート調査. ほすぴた るらいぶらりあん 1994;19 (3):59 - 62. 内容に,分析項目や対象年度を追加してまとめたものである。 238 医学図書館 2006;Vol. 53 No. 3
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