小菜果の為の収穫管理用近赤外分光計測装置の開発

小菜果の為の収穫管理用近赤外分光計測装置の開発
青木宏道1、柏崎 勝2
1
株式会社デュナミスト、2宇都宮大学農学部
Development of NIR photometer for harvest control of small size fruits
Hiromichi Aoki1, Masaru Kashiwazaki2
2
DUNAMIST co ltd. And, Faculty of Agriculture, Utunomiya University, E-mail: h_aoki@dunamist.uan.jp
1.目的
本装置は収穫前のイチゴやサクランボなどの小菜果に
対して迅速かつ簡便に近赤外分光計測を行い、分光情報
に基づいた菜果の客観的な生理状態を確認し、生理的な
状態差の少ない選択的収穫を行うことを目的としている。
収穫された菜果群の生理的な状態を一様に均等化する
ことが出来れば、これに合わせて輸送及び貯留時におけ
る保持環境を最適化することが可能になり、これにより温
度制御、湿度制御、ガス制御などの効率が高まり、品質劣
化と損耗抑止の効率向上が期待できる。
2.方法
イチゴやサクランボなどの小菜果の計測では、対象物が
小さい為に良好な計測が行える計測ポイントも極め小さく、
その為より正確なプローブ配置が必要となる。また小菜果
はほとんどの場合、接触ダメージに弱く、通常果実よりも繊
細な接触制御が必要となってくる。これらの課題を解決す
る為、本検討では作業者の指先に装着する極小の計測プ
ローブを開発した。極小の計測プローブを作業者の指先
に装着し、作業者が対象菜果を摘まむ際に分光計測を行
う運用方式となっている。指先装着プローブは計測対象サ
ンプル内部の微小区間約10mmを拡散透過計測するよう
に光路設計されており、最小径20mm程度までの小粒サ
ンプルを計測することができる。プローブの接触制御を繊
細な指先の“接触感覚”に委ねることで緻密な接触制御が
可能となっており、作業者が“片手でサンプルを掴む動
作”だけでプローブの計測配置が完了することができる。
(Figure 1)
Figure 1. Spectrum collection for Strawberry on plant.
3.結果
紹介する事例データは野外でポット栽培されたイチゴ(ト
チオトメ)のもので、計測は苗株に結実した状態の果粒側
面部を経日観測したものである。観測されたスペクトルデ
ータ上において、観測時期の経過に伴ってクロロフィルの
吸収帯である670nm近傍の吸光特性が特徴的に変位し
てゆく傾向が確認できた。
これは果実の成熟に伴い果実に含まれるクロロフィルが
減少することによるもので、果実の生理的な成熟状態を示
す指標と捉えることができる。本検討ではこれらの吸光特
性の変位を参照し易くする為、これらの変位を数値化する
スケールを独自に構築し、果実の成熟度合を示す熟度指
標値とした。(Figure 2)
同プロットからは観測日時の経過に伴って各果実の熟
度指標値が増加してゆく傾向が確認できる。
また果実の成熟が一定の段階に達すると熟度指標の増
加が収束する様子が確認でき、各果実の成熟状態や固体
間の状態差などを客観的に捕捉することができた。
Figure 2. Change of Ripeness during planting.
4.結論
収穫後も生物としての生理活動が継続する果実の場合、
それらの状態を最適に保つためには保持環境が重要な要
素であり温度や湿度、ガス組成、保持状態、等について果
実の状態に応じた最適な条件を設定することが望ましい。
収穫時に客観的な選択収穫を行うことで果実熟度を均
等化することができれば保持条件の合理的な最適化が可
能になり、商材品質の維持と商材寿命の消耗抑止を効率
化することができると考える。
5.謝辞
本報告に紹介する計測装置は、農水省が主導する“新
たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業”におけ
る課題、“イチゴの光学的品質評価技術と工学的物流技
術を融合したロバスト流通システムの開発(平成21年~2
4年実施)”に参画した成果に基づくものである。同プロジ
ェクト参画者各位の協力の基これを実施することができた
ものであり、ここに記し御礼申し上げる。
参考文献
1) 青木宏道:グローブ型装置による収穫前果実の可視
近赤外分光計測、農業機械学会誌第 72 巻第 4 号、2010