オリエンテーションPDF

麻酔科研修
オリ
オリエンテーション
シ
鹿児島大学医学部・歯学部
附属病院
麻酔・蘇生科
目次
P.1
安全な麻酔
P.5
術前評価・前投薬
P.20
始業点検,麻酔チャート
P.33
麻酔薬・筋弛緩薬
P.39
気道確保
P.51
輸血
P.63
麻酔周辺薬剤
P.70
術後管理・集中治療
P.85
BLS・ACLS
P.98
感染防止対策
P.113
輸液代謝管理
P.120
モニタ及び周辺機器
P.140
硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔・神経ブロック
P.147
循環管理
P.160
体温管理
P.168
疼痛管理
P.174
呼吸管理
P.176
ペインクリニック
安全な麻酔
上村裕一
1
新入局オリエンテーション
安全な麻酔
平成 22 年 4 月 12 日
上村裕一
麻酔の基本概念:手術を中心とした侵襲と患者生体の調和をはかること
手術侵襲という大きな侵害刺激に対する種々の生体反応を調節するため麻酔薬が投与され
鎮
痛・鎮静・筋弛緩に代表される麻酔状態が得られる。
麻酔薬は麻酔状態をつくりだす薬であるが、同時に循環・呼吸を著しく抑制する劇薬である。従
って、麻酔とは、毒(麻酔薬)をもって毒(手術侵襲に対する有害な生体反応)を制した異常な
状態ともいえる。
麻酔薬の投与にあたっては、わずかの誤差でも患者生命を脅かすことになる。
麻酔薬だけでなく、全ての薬物は誤投与により患者に危険を及ぼす
一旦患者に投与された薬物は、静注・筋注・経口を問わず取戻すことはできない。
薬物投与の際には、内容・量・経路の確認を必ず行う。
(日本でのインシデントの 1/3 が誤薬である)
麻酔の大原則
1.安全第一
危険と利益(risks vs. benefits)
2.鎮痛
体の痛みと心の痛み
(Be sensitive to pain in others)
3.サービス
サービスは思いやり
(Think of others)
2
麻酔科医の仕事の分野
麻酔管理は全身管理
麻酔科医は術中の患者の代弁者
麻酔科医は術中のコントロールタワー
具体的には
1)手術患者の管理(狭義の麻酔科学、手術部医学)
麻酔管理
環境整備
2)疼痛管理
ペインクリニック
癌性疼痛管理
術後疼痛管理
3)心肺脳蘇生(急性期医学、救急医学)
4)重症患者管理(集中治療医学)
3
麻酔科医の将来
資格
麻酔標榜医(厚生労働省認定)
麻酔科認定医→麻酔科専門医→麻酔科指導医(日本麻酔科学会認定)
ペインクリニック学会認定医
集中治療学会認定医
救急認定医
救急指導医
学位
大学院(課程博士)4 年間(優秀論文は 3 年間)
論文博士
研究歴 6 年間
国内留学
臨床:NTT東京病院(ペインクリニック)、福岡こども病院、国立循環器病センター
研究:第一生理学、臨床検査医学、薬理学、名古屋市立大学薬理学
研修計画
1 年次: ~5 月
全員大学で麻酔研修
7 月~ 大学・鹿児島市内関連病院で麻酔研修
2 年次: 大学・関連病院で研修、心臓外科麻酔
標榜医申請
3 年次: 大学・関連病院で麻酔研修、心臓外科麻酔、集中治療部、ペインクリニック
4 年次:大学・関連病院で専門分野の研修
5 年次:専門医受験
4
術前評価 前投薬
術前評価・前投薬
寺師竹郎
5
術前評価と前投薬
1.術前評価
術前評価の対象
① 患者の状態
② 患者に加わる侵襲の程度(手術内容)
③ 周術期を管理する環境(麻酔、モニタ類、術後管理など)
(1) 術前診察
1) 問診・カルテの検討
a. 自己紹介と患者の確認
b. 現病歴
c. 手術歴(麻酔に関する合併症の既往歴)
覚醒遅延
悪心・嘔吐
嗄声
頭痛
d. アレルギーの有無
e. 術前合併症
中枢神経系
脳血管障害
てんかん発作
循環系
高血圧
虚血性心疾患
不整脈
呼吸器系
喘息
COPD
肺炎
上気道感染
肝臓
肝炎
肝硬変
アルコール摂取量
6
腎臓
尿量
尿の状態
血液透析
内分泌系
糖尿病
甲状腺機能障害
その他内分泌疾患
血液凝固系
出血傾向
紫斑出現傾向
遺伝性血液凝固疾患
f.
常用薬剤
抗凝固薬
降圧薬
β遮断薬
ジギタリス
利尿薬
ステロイド薬
L ドーパ
三環系抗うつ薬
モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAO)
抗生剤
g. 喫煙
禁煙とその効果
時間経過
効果
12-24 時間
CO とニコチンレベルの低下
48-72 時間
CO-Hb の正常化、気道線毛運動改善
1-2 週間
喀痰量減少
4-6 週間
肺機能検査改善
6-8 週間
免疫反応と薬物代謝正常化
8-12 週間
術後肺合併症減少
h. full stomach
最終経口摂取の時間
イレウス、妊婦
7
2)身体所見
a. 中枢神経系
意識レベル
末梢の知覚
運動障害
b. 循環器系
血圧測定
脈拍測定
心音聴診
NYHA の分類;1 度 心疾患はあるが日常の生活では無症状
2 度 心疾患はあるが安静時には無症状だが普通の身体活動
では症状あり
3 度 日常生活を軽度に制限しても症状あり
4 度 高度の運動制限をしても症状あり、安静を守らないと
症状悪化
c. 呼吸器
喀痰量
咳嗽
呼吸音聴診
呼吸パターン
H-J 分類;1 度 正常
2度
平地は大丈夫だが、坂道や階段で息切れ
3度
自分のペースでなら 1.6 キロ以上歩ける
4度
休み休みでないと 50 メートル以上歩けない
5度
話したり着物を脱ぐ程度でも息切れがする
d. 上気道
開口
歯牙の状態(義歯、ぐらつき)
頚椎の可動性
マランパティー分類
甲状腺とおとがい部の距離
e. 血液凝固
紫斑
出血斑
f. 体格
肥満(BMI35 以上は重症加算)
8
g. 手技を行う場所の状態
脊柱
四肢
皮膚
3)術前検査
a. 呼吸
肺機能検査
胸部レントゲン
血液ガス検査
b. 循環
心電図
心エコー
心筋シンチ
冠動脈造影
c. 血液・生化学検査
d. 肝機能検査
e. 腎機能検査
(2) 術前評価各論
1)挿管困難
a. 身体所見
開口制限、小顎
頚部可動域制限、短頚
高度肥満
マランパティー分類、甲状腺とおとがい部の距離
b. 病歴
気道確保困難や挿管困難の既往
c. 挿管困難症を伴う疾患群
頭頚部手術後
咽喉頭病変
RA;小顎、開口制限、後退した下顎
DOWN 症候群;巨舌
Klippel-Feil 症候群;頚部可動域制限
Pierre-Robin 症候群;小さな口、巨舌、後退した下顎
Treacher-Collins 症候群;小顎
Goldenhar 症候群;下顎の低形成、頚椎以上
9
2)呼吸器系の評価
a. 呼吸機能検査
%VC
閉塞性
正常
混合性
拘束性
80
0
70
%FEV 1.0
b. 血液ガス
PaO2=100-0.3×年齢
c. 息こらえ時間
10 秒以下;高度呼吸機能低下
10~20 秒;呼吸予備力の低下
30 秒以上;正常
d. マッチテスト
e. 喘息患者の術前管理
10
3)循環器系の評価
安静時の心機能が十分保たれているか、およびその予備力(運動負荷時の心
機能)が十分であるかについて評価する。
Goldman Cardiac Risk Index (1977)
11
REVISED CARDIAC RISK INDEX (1999)
Each risk factor is assigned one point.
1. High-risk surgical procedures
• Intraperitoneal
• Intrathoracic
• Suprainguinal vascular
2. History of ischemic heart disease
• History of myocardial infarction
• History of positive exercise test
• Current complain of chest pain considered secondary to myocardial ischemia
• Use of nitrate therapy
• ECG with pathological Q waves
3. History of congestive heart failure
• History of congestive heart failure
• Pulmonary edema
• Paroxysmal nocturnal dyspnea
• Bilateral rales or S3 gallop
• Chest radiograph showing pulmonary vascular redistribution
4. History of cerebrovascular disease
• History of transient ischemic attack or stroke
5. Preoperative treatment with insulin
6. Preoperative serum creatinine > 2.0 mg/dL
RISK OF MAJOR CARDIAC EVENT
Points
Class
0
I
0.4%
1
II
0.9%
2
III
6.6%
IV
11%
3 or more
Risk
"Major cardiac event" includes myocardial infarction, pulmonary edema,
ventricularfibrillation, primary cardiac arrest, and complete heart block
12
ACC/AHA ガイドライン 2007
活動性心疾患
臨床リスク因子
非心臓手術の心血管リスク
13
Duke Activity Status Index
MET(metabolic equivalent)
運動の強さを表す指標.安静時のエネルギー消費量(1MET)に対する倍率で
示す.1MET は約 3.5ml/kg/min.
非心臓手術患者の管理アルゴリズム
14
4)肝・胆道機能の評価
肝炎、肝機能障害、黄疸や輸血の既往の有無を確認する。慢性肝炎や肝硬変の
増悪期、急性肝炎の急性期には麻酔、手術を避けるべき。
a. タンパク合成能;血清アルブミン、ChE、PT、ヘパプラスチンテスト
b. 肝細胞障害;AST、ALT、LDH
c. ビリルビン代謝;ICG 負荷試験
d. Child-Pugh 分類
e. Child 分類
5)腎機能
クレアチニンクリアランス
尿量
電解質
HD 患者の場合は dry weigt と HD 前後のデータ
6)意識、精神状態評価
意識レベル⇒JCS、GCS などで客観的に評価
統合失調症など
7)血糖コントロール
a.
空腹時血糖 160mg/dl 以上または食後 2 時間値 220mg/dl 以上または
HbA1c8.0 以上はコントロール不良(重症加算)
b. 1 日の尿糖 10g 以下、または摂取量の 5~10%以下
c. 尿ケトン陰性
d. 低血糖、神経障害、眼症状をみとめない。
(3) 総合的なリスク評価
ASA分類
1 度 健常な患者
2 度 日常生活に支障のない軽度の全身疾患を有する患者
3 度 生活制限を要する程度の全身疾患をもっている患者
4 度 死亡の危険を伴う重度の全身疾患をもっている患者
5 度 手術を行わなければ死亡する患者
6 度 移植ドナーとして脳死を宣告された患者
E
緊急患者
ASA 分類は麻酔の危険度を示す尺度ではないが、重症度と周術期死亡率は相
関している。
15
2.前投薬
(1) 心理的前投薬
心理的前投薬とは、麻酔科医による術前診察および患者とその家族との面談によっ
て行う。麻酔の計画と周術期に予想される出来事をていねいに説明することが、非
薬理学的な不安の解消になる。
(2) 薬物的前投薬
1)薬物的前投薬の主な目的
不安除去
鎮静
鎮痛
健忘
分泌物抑制
胃液 pH 上昇
胃液量減少
交感神経反射による反応の抑制
麻酔必要量の低下
アレルギー反応の予防
2)薬物の種類と投与量を決定するのに考慮すべきこと
患者の年齢と体重
全身状態
不安の程度
中枢神経抑制薬に対する耐性
前投薬による副作用の既往歴
アレルギー
予定または緊急手術の区別
入院または外来手術の区別
3)薬物の種類
ベンゾジアゼピン
バルビツレート
オピオイド
H2 ブロッカー
抗ヒスタミン薬
抗コリン薬
α2 作動薬
16
17
18
19
始業点検 麻酔チャ ト
始業点検・麻酔チャート
白石良久
20
始業点検、麻酔チャート
麻酔器の始業点検は、「麻酔器の始業点検」(社団法人 日本麻酔科学会)に従い行う。
学会のホームページからダウンロード可能である。http://www.anesth.or.jp/safety/guideline.html
新棟には、Datex-Ohmeda Aestiva と Drager Fabius の 2 機種が配備されている。
それぞれの機種について、始業点検ができるようにしておく。
始業点検で異常が見つかった時は、必ずスーパーバイザに連絡すること。
資料:麻酔器始業点検チェックリスト(サンプル)。
麻酔器の構造
基本的には、すべての麻酔器で
①酸素を始めとする医療ガスと余剰ガスの接続の確認
②予備の酸素ボンベの装備と残量の確認
③酸素供給圧低下時の亜酸化窒素遮断機構およびアラームの確認
④流量計の確認
⑤リークテスト
⑥炭酸ガス吸収装置の点検
⑦ベンチレータの作動とアラームの確認
をする。
麻酔器で発生するトラブル
麻酔器は基本的には患者の蘇生器であり、その使用方法については充分習熟しておく必要がある。ま
た。何らかのトラブルが発生した場合にはすぐにスーパーバイザを呼び、とりあえずはベンチレータ
の使用を中止し、実際にバッグで患者を換気してみることが大切である。
21
トラブルの実例
①ベンチレータが作動しておらず、患者が換気されていない。
②切り替えスイッチがベンチレータ側になっており、手動換気ができない。
③蛇管がひび割れてしまってリークする。
④バッグが破れていてリークする。
⑤炭酸ガス吸収装置の取り付けが不十分でリークする。
⑥炭酸ガス吸収装置の効果が不十分で、術中に炭酸ガスの再呼吸を起こしている。
⑦気化器からリークする。
⑧カセット式気化器がしっかり挿入されておらず、吸入麻酔薬が投与されていない。
ポップオフバルブ = APL (Adjustable Pressure Limiting) 弁
呼気脚で二酸化炭素吸収缶の直前に位置し、余分な患者回路内ガスを外(通常は余剰麻酔ガス排出装
置に)出す弁をいう。ガスの通り道の広さを調節することにより、排出するガスの量とバックを用い
て人工呼吸をしている際の吸気圧を調節することができる。自発呼吸時には弁口を全開にして患者に
対して呼気抵抗にならないようにし、補助呼吸を行う際には弁口を閉じ気味にして陽圧換気を行う。
回路の点検
Y アダプターの先端を押さえ、酸素フラッシュバルブを開いてバックを酸素で満たしポップオフバルブ
を閉じてバッグを加圧して漏れの有無を確かめる。漏れの発生する箇所としては、①蛇管をつなぐ箇
所、②カニスターの締め、③バッグ・チューブの破損、④ポップオフバルブの破損などがある。
酸素欠乏による事故を防ぐために麻酔器に組み込まれている機構または装置
① ピンインデックス安全システム
小型医療用ガスボンベを麻酔器に連結する際、ガスの種別ごとに区別するピンと孔との組み合わせに
より連結過誤を防ぐようにしてしたものである。すなわち、ヨーク(麻酔器より隆起した口金)には
2本のピンがガスの種別ごとに違った位置に出ており、同種ガス用のボンベの口金にはピンと合う位
置にのみそれぞれ孔が設けてあるので、ピンと口金の孔が合うときにのみ装着できる仕組みになって
いる。
② 酸素供給圧不足警報装置
麻酔器への酸素供給圧が規定の半分以下になると、3m 離れた距離で少なくとも7秒間聞き分けられる
警報を内蔵している。さらに、酸素−笑気・安全装置として、酸素の供給圧が低下すると、笑気の流
入も自動的に止めて、純笑気のみによる酸欠事故を早めに防ぐようにした安全装置がある。
③ 100% 笑気ガスを供給できない流量計
過誤による低酸素症を防ぐために、笑気と酸素の流量計を連動させ酸素濃度が 20%以下に下がらないよ
うにしたものや、総流量と笑気・酸素の混合比を調節し、酸素濃度が 30%以下にならないようにした
ものがある。
④ 酸素用流量計の調節ノブの形状
酸素用流量計の調節ノブの形状が決められ、この形状のノブを他のガスのノブに転用することが禁じ
られている。更に、酸素ノブは右端に1個だけとし、その形を特定にするほか、他のノブより大きめ
に、かつ前に突出させることが勧められている。
⑤ 呼吸回路内酸素濃度計の設置
吸入麻酔中に呼吸回路内の酸素濃度を絶えずモニターして、それが一定値(例えば、18 %)以下に下
がれば、可聴(と可視)の警報を出すので、安全確保に役立つ。
⑥ 酸素の予備ボンベの装着
中央配管からの酸素の供給が途絶えても、直ちに酸素を供給できるように、麻酔器に小型酸素ボンベ
を常に装着しておく。
22
麻 酔 器 の 始 業 点 検
CHECKOUT PROCEDURES OF ANESTHESIA APPARATUS
社団法人 日本麻酔科学会
23
麻酔器の始業点検
*この始業点検の対象となる麻酔器は、セルフチェッ
ク機構を持たないものとする
1
補助ボンベ内容量および流量計
解説1
1
補助ボンベ(酸素、亜酸化窒素)を開き、圧を確認し、残量をチェックする。
2
ノブおよび浮子の動きを点検する。
3
酸素の流量が 5l/分流れることを確認する。
4
低酸素防止装置付き流量計(純亜酸化窒素供給防止装置付き流量計)が装備されている場合は、
この機構が正しく作動することを確認する。
2
補助ボンベによる酸素供給圧低下時の
亜酸化窒素遮断機構およびアラームの点検
解説2
1
酸素および亜酸化窒素の流量を 5l/分にセットする。
2
酸素ボンベを閉じて、アラームが鳴り、亜酸化窒素が遮断されることを確認する(一部の機種
ではアラームが装備されていない)。
3
酸素の流量を再び 5l/分にセットすると、亜酸化窒素の流量が 5l/分に自動的に回復することを
確認する。
4
亜酸化窒素の流量計のノブを閉じる。
5
酸素の流量計のノブを閉じる。
6
酸素および亜酸化窒素のボンベを閉じ、メーターが 0 に戻っていることを確認する。
3
1
医療ガス配管設備(中央配管)による
ガス供給
解説 3,4
ホースアセンブリ(酸素、亜酸化窒素、圧縮空気など)を接続する際、目視点検を行い、また
漏れのないことも確認する。
2
各ホースアセンブリを医療ガス設備の配管末端器(アウトレット)あるいは医療ガス配管設備
に正しく接続し、ガス供給圧を確認する。酸素供給圧: 4 ± 0.5kgf/cm2。亜酸化窒素および圧
縮空気:酸素供給圧よりも約 0.3kgf/cm2 低い。
3
ノブおよび浮子の動きを点検する。
24
1
4
低酸素防止装置付き流量計(純亜酸化窒素供給防止装置付き流量計)が装備されている場合は、
この機構が正しく作動することを確認する。
5
酸素及び亜酸化窒素を流した後、酸素のホースアセンブリを外した際に、アラームが鳴り、亜
酸化窒素の供給が遮断されることを確認する(一部の機種ではアラームが装備されていない)
。
6
医療ガス配管設備のない施設では、主ボンベについて補助ボンベと同じ要領で圧、内容量の点
検を行った後に使用する。
4
気化器
解説5
1
内容量を確認する。
2
注入栓をしっかりと閉める。
3
OFF の状態で酸素を流し、匂いのないことを確認する。
4
ダイアルが円滑に作動するか確認する。
5
接続が確実かどうか目視確認する。気化器が 2 つ以上ある場合は、同時に複数のダイアルが回
らないこと(気化器が 2 つ作動しないこと)を確認する。
5
1
電池が十分であることを確認する。
2
センサーを空気で 21 %になるように較正する。
3
センサーを回路に組み込み、酸素をフラッシュして酸素濃度が上昇することを確認する。
6
二酸化炭素吸収装置
1
吸収薬の色、量、一様につまっているかなどを目視点検する。
2
水抜き装置がある場合には、水抜きを行った後は必ず閉鎖する。
7
1
2
酸素濃度計
患者呼吸回路の組み立て
解説6
正しく、しっかりと組み立てられているかどうかを確認する。
25
8
患者呼吸回路、麻酔器内配管のリークテスト
解説 7,8
及び酸素フラッシュ機能
1
新鮮ガス流量を 0 または最小流量にする。
2
APL(ポップオフ)弁を閉め、患者呼吸回路先端(Y ピース)を閉塞する。
3
酸素を 5 ∼ 10l/分流して呼吸回路内圧を 30cmH2O に上昇させる。
4
少なくとも 10 秒間回路内圧が 30cmH2O に保たれることを確認する。
5
APL 弁を開き、回路内圧が低下することを確認する。
6
酸素フラッシュを行い、十分な流量があることを確認する。
9
患者呼吸回路のガス流
解説9
1
テスト肺をつけ換気状態を点検する。
2
呼吸バッグをふくらました後、押して、吸気弁と呼気弁の動きを確認する。
3
呼吸バッグを押したり、放すことによりテスト肺がふくらんだり、しぼんだりすることを確認
する。
4
APL(ポップオフ)弁の機能を確認する。
10
人工呼吸器とアラーム
1
人工呼吸器を使用時と同様な状態にしてスイッチを入れ、アラームも作動状態にする。
2
テスト肺の動きを確認する。
3
テスト肺をはずして、低圧ならびに高圧アラームが作動することを確認する。
11
麻酔ガス排除装置
1
回路の接続が正しいことを確認する。
2
吸引量を目視確認する。
3
呼吸回路内からガスが異常に吸引されないことを確認する。
12
1
完了
点検完了を確認する。
26
3
解 説
解説 1
補助ボンベ内容量および流量計の点検
なんらかの原因によって、医療ガス配管設備あるいは主ボンベからのガス供給が、突然途絶す
る可能性を常に考慮し、その対策を立てておくことは重要である。緊急用自己膨張式バッグ
(Ambu バッグなど)を常備し、麻酔器は酸素および亜酸化窒素、少なくとも酸素の補助ボンベ
を常時装備して直ちに使用できる状態に維持すべきである。麻酔器に補助ボンベを装備しにくい
場合(天井吊り下げ型麻酔器など)には、いつでも補助ボンベを使用できるように準備しておか
なければならない。なお亜酸化窒素ボンベは垂直に立てた状態で使用しなければならない。医療
ガス配管設備からのホースアセンブリ(酸素、亜酸化窒素など)を麻酔器に接続する前に、流量
計の点検をかねて補助ボンベ内容量(圧)の目視確認を行う。
2
①酸素の補助ボンベを全開にし、圧を確認する。酸素ボンベは充填時最高 150kgf/cm(14710kPa)
を示し、使用と共に直線的に低下する。10kgf/cm2(981kPa)以下では直ちにボンベの交換を
行う。
②酸素流量計のノブを開き、浮子を 5l/分にセットする。安定した流量が得られること、また酸
素を流してもボンベ内圧が低下しないことを目視確認する。
③酸素の流量を 5l/分に保ったまま、亜酸化窒素についても同様に圧の目視確認を行う。亜酸化
窒素の補助ボンベを全開にする。亜酸化窒素ボンベでは 20 ℃で 50kgf/cm2(4903kPa)の圧を
示す。酸素と異なり亜酸化窒素では内容量の 80 %が消費されて初めて圧力の低下が始まり、
以後急激に進行するので注意を要する。10kgf/cm2(981kPa)では直ちにボンベの交換を行う。
④亜酸化窒素流量計のノブを開き 5l/分にセットする。安定した流量が得られることを目視確認
する。また亜酸化窒素を流してもボンベの圧が低下しないことを目視確認する。
⑤低酸素防止装置付き流量計(純亜酸化窒素供給防止装置付き流量計)が装備された麻酔器では、
この機構が正しく作動することを確認する。すなわち酸素の流量を次第に絞って行くと、一定
限度の流量以下になると亜酸化窒素の流量も低下を始め、酸素流量が 0 となり亜酸化窒素流量
も 0 となることを目視確認する(通常は酸素濃度が 30 %以下になると亜酸化窒素の流量低下が
始まる)
。
解説 2
補助ボンベによる酸素供給圧低下時の
亜酸化窒素遮断機構およびアラームの点検
亜酸化窒素ガス遮断安全装置は酸素の供給圧が不良となった場合、酸素濃度の低い混合ガスの
供給を続けるよりは他のすべてのガスの供給を停止した方がより安全と考え、装備されている。
①補助ボンベの点検に引き続いて次の操作を行う。
②酸素流量を再び 5l/分にセットする。それに伴い、亜酸化窒素流量も 5l/分に回復する。
③酸素の補助ボンベの元栓を閉じて酸素の供給を遮断し、ボンベの圧低下を目視確認する。
④麻酔器により設定値が異なるが、供給圧がそのレベルより下降すると、アラームが鳴り、亜酸
化窒素の供給が遮断されることを確認する。
4
27
また酸素流量の低下とともに亜酸化窒素流量も低下し、酸素流量が 0 となると同時に亜酸化窒
素流量も 0 となることを目視確認する(一部の機種では酸素流量低下と同時に亜酸化窒素がた
だちに遮断される。ただしアラームが装備されていない古い機種もあるので注意する)。
⑤点検終了後亜酸化窒素ボンベの元栓を閉じ、圧が 0 となるのを待って酸素、亜酸化窒素の流量
計のノブを OFF の位置まで閉める(流量計のノブを開いたまま医療ガス配管設備のホースア
センブリを接続すると、流量計が壊れる可能性がある)。
解説 3
医療ガス配管設備(中央配管)によるガス供給、流量計
①医療ガス配管設備の酸素のホースアセンブリをまず接続し、酸素の供給圧が設定値(通常 4 ±
)であることを目視確認する。
0.5kgf/cm2(392 ± 49kPa)
②酸素流量計のノブを開き、安定した流量が得られることを浮子の動きで目視確認する。ついで
酸素のノブを OFF の位置まで閉める。
③亜酸化窒素流量計のノブを開いても亜酸化窒素の浮子が上昇しないことを目視確認後、ノブを
閉める。
④ついで亜酸化窒素のホースアセンブリを接続し、亜酸化窒素の供給圧が設定値(通常酸素より
0.3kgf/cm2(30kPa)程度低く設定する)であることを目視確認する(麻酔器によっては供給
圧が表示されない)。
⑤酸素流量計のノブを開き、次いで亜酸化窒素流量計のノブを開いて安定した流量が得られるこ
とを浮子の動きで目視確認後、ノブを閉める。
⑥空気の流量計を備えた麻酔器では、圧縮空気のホースアセンブリを接続し、空気の供給圧が設
定値(通常は酸素より 0.3kgf/cm2(30kPa)程度低い)であることを目視確認する(麻酔器に
よっては供給圧が表示されない)。
⑦空気流量計のノブを開き、安定した流量が得られることを浮子の動きで目視確認後、ノブを閉
める(通常、亜酸化窒素と圧縮空気は同時に使用できず、切り替えレバーなどによって選択す
る)。
注:医療配管設備のない施設では、主ボンベについて補助ボンベと同じ要領で圧と、内容量の点
検を行った後、使用する。
解説 4
医療ガス配管設備
医療ガス配管設備とは高圧ガスの供給源を別に設置し、供給源と医療の現場を配管でつないで、
医療ガスを供給するシステムを言う。高圧ガスの供給源としてはマニフォールドシステムおよび
定置式超低温液化貯槽によるガス供給装置がある。マニフォールドシステムとは高圧ガスボンベ
および可搬式超低温容器(LGC)の集合装置のことで、左右それぞれ複数のボンベ(バンクとい
う)を連結し、中央に左右のバンクの切り替え装置がつけられている。片方のバンクが空になる
と警報がなり、もう一方のバンクから自動的にガスが供給されるものもある。定置式超低温液化
貯槽によるガス供給装置及びボンベからのガスは圧力調整器を介した後、配管により目的部位へ
供給される。
末端の配管末端器(アウトレット)には、ピン方式又はシュレーダ方式が用いられ、誤接続を
28
5
防止している。配管末端器(アウトレット)と麻酔器などを接続するための管をホースアセンブ
リと言う。
解説 5
気化器の使い方
気化器内へ誤って他種の麻酔薬を注入した場合には、一般的には気化器内の薬液を抜き取り、
次いで気化器のダイアル目盛を最高にし、十分な高流量ガスを流して完全に蒸発させた後に使用
する。ただし、ハロタンを誤ってハロタン以外の気化器に注入した場合には、安定薬として添加
されているチモールが灯芯などに析出し、気化効率を変化させるため製造業者などへオーバーホ
ールを依頼する事が望ましい。
解説 6
患者呼吸回路の組み立て
接続部について
患者呼吸回路組み立てにはほとんど円錐接合が用いられており、口径は 22mm もしくは 15mm
のオス、メスである。円錐接合は接続しやすい反面、はずれ易い。患者呼吸回路におけるはずれ
や、リークの報告は大変多く、押し込みながら回転を加えるなど組み立てに当たっては十分に注
意をはらうとともに、使用中も常に注意する必要がある。今までに問題となっている点には下記
のようなものが挙げられるが、その他にも数多くの問題が起こり得る。
・プラスチックとプラスチックの接続:はずれ
・プラスチックと金属の接続:プラスチックの破損、磨耗
・金属と金属の接続:変形による接合不適合、リーク
・プラスチック、ゴムの接続部分:弾性低下、亀裂によるはずれ、リーク
解説 7
患者呼吸回路および麻酔回路内配管のリークテスト
加圧テストの実施法
患者回路のリークをチェックするには、回路に酸素ガスを流し、加圧する方法が一般的である。
A 一般的方法
患者呼吸回路先端(Y ピース)を閉塞し、APL 弁を閉じ、酸素を 5 ∼ 10l/分流し、30cmH2O の
圧まで呼吸バッグを膨らまし、次いで呼吸バッグを押し、回路内圧を 40 ∼ 50cmH2O にする。大
きなリークがある場合には圧の維持が難しく、接合がゆるい場合には接合がはずれ、接合不備を
発見できることがある。呼吸バッグより手を離し、圧を 30cmH2O に戻す。酸素を止め、ガス供
給のない状態で 30 秒間維持し、圧低下が 5cmH2O 以内であることを確認する。なお、逆流防止
弁がない麻酔器では、酸素フラッシュで呼吸バッグを膨らませても良い。
6
29
[注意]
麻酔ガス共通流出口の上流に逆流防止弁を備えた麻酔器では、A の方法では麻酔器内配管(低
圧回路系)のリークを発見できないので、次の②の方法を用いる。
B 低流量によるリークテスト
APL 弁を閉じ、酸素を 100ml/分程度流す。呼吸バッグを外し、呼吸バッグ接続口と Y ピース
を両手で閉じるか、あるいは別の蛇管等で接続する。回路内圧の目盛りが 30cmH2O 以上になる
ことを確認する。圧力が上昇し過ぎないうちに酸素流量を 0 に戻す。この試験によりニードル弁
から呼吸回路全における漏れは少なくとも 30cmH2O の圧までは 100ml/分以下であると判断でき
る(ただし呼吸バッグ自体、呼吸バッグと呼吸バッグ接続口間のリークは B の方法のみでは検出
できないので、A の方法を併用する。
)
低流量計がある麻酔器ではさらに少ない流量でテストを行うことができるが、麻酔器によって
は、最少流量が 100ml/分以上であるため、麻酔器の最少流量でテストを行う。
二酸化炭素吸収装置
リークの起こる可能性が一番大きい部分である。ネジのゆるみ、パッキングの紛失、破損、劣
化、ソーダライムの粒がはさまることを原因とする不完全な密閉など、多くの問題が発生し得る。
呼吸装置部分でのリークは上記加圧テストにより発見できる。
解説 8
酸素フラッシュの点検は次のように行う
①ボタンやレバーの紛失・破損がないか。
②自動復帰式ボタンやレバーが正しく作動するか。
③出し放しにならないか。
④酸素を正しく流す。
⑤酸素の流量が十分あるか。
酸素フラッシュが作動して 35 ∼ 75l/分の大流量の酸素が流れると、閉鎖回路に接続した 5l バ
ッグは約 5 秒間で 20cmH2O 以上の内圧で膨らむ。
解説 9
患者回路のガス流
テスト肺
麻酔器のセッティング及び作動状態をチェックする目的で、Y ピースの先端に取り付ける容量
0.5 ∼ 2l 程度の自縮性ゴム製バッグまたは、ベローズである。
呼吸抵抗の簡易点検法
①テスト肺を用いない方法
APL 弁を閉じ、Y ピースの先端を手掌で軽く叩いた時の吸気弁と呼気弁の動きを観察する。
あるいはマスク又は Y ピースに口を付けて呼吸を行った時の吸気弁と呼気弁の動きを観察する。
30
7
いずれの場合も弁が軽く円滑に動けば正常である。
②テスト肺を用いる方法
テスト肺を付け、毎分 4 ∼ 6l/分の酸素を流し、APL 弁をわずかに開けた状態でバッグによる
換気を行う。この時回路内圧は 15 ∼ 20cmH2O 程度を示し、バッグの動きとともに吸気弁と呼気
弁が円滑に動き、かつその都度テスト肺の膨らみ、しぼみを確認する。
APL 弁(adjustable pressure limiting valve)
一般には pop-off 弁と呼ばれ、呼吸回路内の麻酔ガスを適宜放出することにより回路内圧を調
節する弁で、呼吸バッグの近くに設けられている。現在の麻酔器では麻酔ガス排除装置に接続し
て使用するように作られている麻酔器が多い。構造的には、スプリングや錘の重さによって開弁
圧を調節するものと、孔の大きさ(抵抗)を変化させて調節するものがある。
点検法
呼吸回路にリークがないことを確認した後、Y ピースの先端を押さえ、毎分 4 ∼ 6l/分の酸素
を流し、回路内圧が 30cmH2O 程度に上昇したら APL 弁を全開にし、圧が急激に低下することを
確認する。次にテスト肺を付け、呼吸バッグを軽く押しながら APL 弁の開閉を繰り返し、回路
内圧が円滑に変化することを確認する。
8
31
麻 酔 器 始 業 点 検 チ ェ ッ ク リ ス ト (サンプル)
年 月 日
点検実施者名 /
麻酔器管理番号
手術室
点検箇所
電源コード
パイプライン
供給ガス圧力
ガス流量計
酸素センサー
点検項目
電源コード、耐圧管(酸素・笑気・空気)は接続されているか
ゆるみはないか
パイプライン圧は350∼500Kpaになっているか
(麻酔器正面パイプライン圧力計確認)
評 価
合 ・ 否
合 ・ 否
笑気・空気のガス選択はできるか
合 ・ 否
流量計調節ノブの操作に異常はないか(全開・全閉動作)
合 ・ 否
酸素センサーは接続されているか
合 ・ 否
校正はしているか
合 ・ 否
患者呼吸回路リークテスト しっかりと接続されているか、リークテスト及びAPL弁の作動は確認したか
合 ・ 否
及び酸素フラッシュ
酸素フラッシュの流量は十分か
合 ・ 否
二酸化炭素吸収装置
吸収剤の色・量の確認はしたか
合 ・ 否
電源スイッチはONにしたか、エラー表示はでなかったか
合 ・ 否
麻酔薬の内容量は確認したか
合 ・ 否
センサーチューブの接続にゆるみはないか、折れたり閉塞はしていないか
合 ・ 否
フローセンサーは接続されているか
合 ・ 否
人工呼吸器
プレユーステストは実行は完了しているか
合 ・ 否
とアラーム
アラームの作動は確認したか
合 ・ 否
気化装置
人工呼吸器
とフローセンサー
備 考
●正常の場合には、<合>を○で囲ってください。
もし異常がある場合には枠内に<否>を○で囲い、備考欄にその症状を記録してください。
32
麻酔薬 筋弛緩薬
麻酔薬・筋弛緩薬
下野裕生
33
神経筋接合部の構造
筋弛緩薬・麻酔薬
運動ニューロンである脊髄前角細胞からの長い有髄軸索突起は、多くの
分岐支を出して多くの骨格筋繊維に分布している。各軸索支の終末部は、
髄鞘を失って無髄となり、接合部間隙を隔てた筋繊維膜上の終板にいくつ
かの終末支を出して終わり、この部を神経筋接合部という。通常一つの筋
繊維には一つの終板が筋細胞の中央に位置する。しかし、外眼筋繊維には
多くの神経筋接合部があり脱分極性薬物により攣縮をおこす。また、神経
終末の形は筋収縮速度と関係し 敏速筋は緩徐筋より大きな神経終末を
終末の形は筋収縮速度と関係し、敏速筋は緩徐筋より大きな神経終末を
持つ。
アセチルコリンの動態
下野 裕生
Achはコリン作動性神経終末の軸索形質内で合成される。合成されたAch
のほとんどは小胞内に蓄えられる。
神経刺激により、神経終末膜にごく近接した活性帯にある小胞よりAchは
遊離する。神経終末の脱分極により小胞膜は神経終末膜と融合し開口分泌
により接合部間隙に遊離する。神経筋接合部には、大きな安全域(margin of Safety)があり、75%のAch受容体が占拠されると初めて単収縮の現象が起こり、
92%遮断で完全遮断が起こる。
アセチルコリンの分解
神経終末から遊離されたAchはAchEによりコリンと酢酸に分解される。非脱分極性
筋弛緩薬のAch受容体との結合時間は1ミリ秒以下であるが、神経筋接合部に生理
的に存在するAchの分解時間より長時間であるので非脱分極性筋弛緩薬がAch受
容体から解離する前にAchは消失する。抗ChE薬によりAchの分解が阻害されると、
Ach数の増加と分解時間の延長によって、 Achが非脱分極性筋弛緩薬にとってかわ
ってAch受容体を占拠する確立が高くなる。
1 非脱分極性筋弛緩
1.非脱分極性筋弛緩
非脱分極性筋弛緩薬は、終板のAch受容体のAch認識部位である2個のサブユニ
ット内の少なくとも1個と結合することによりイオンチャンネルの開口を来たす。 Ach
受容体に対する筋弛緩薬とAchの結合は競合的に行われる。非脱分極性筋弛緩
薬は、1個のサブユニットと結合するとイオンチャンネルの遮断を引き起こすが、
Achは2個のサブユニットと結合しないとイオンチャンネルは開口しないため、高濃度
の非脱分極性筋弛緩薬の存在下では、抗ChE薬による拮抗は困難になる。
非脱分極性筋弛緩薬としては、パンクロニウム、ベクロニウム、ロクロニウム等が挙
げられる。
34
2.脱分極性筋弛緩
生理的な神経筋接合部ではAchは終板Ach受容体とごく短時間結合して脱分極
をおこすだけで、次の神経刺激に対応するため速やかに消失して再分極をおこす。
脱分極性筋弛緩薬のサクシニルコリンはAchと異なりAchEで分解されないため神経
筋結合部に長くとどまりAch受容体の持続的な脱分極を引き起こす。
第一相遮断
脱分極性筋弛緩薬投与による最初の反応はAch受容体の脱分極に続いてAch受
容体に近接する筋繊維移行帯のNa+チャンネルの上下の2個のゲイトと不活性ゲ
イトを開口し、これによる脱分極が次々とNa
イトを開口し
これによる脱分極が次々とNa+チャンネルに伝播して筋収縮をおこ
す。サクシニルコリンはAchと異なりAchEで分解されないためAch受容体を持続的
に開口させ終板の脱分極が続く。
第二相遮断
Schを反復して大量または持続的に多量投与していくと、時間とともに次第にtachy‐
phlylaxisを示し、その後非脱分極性ブロックと同様の症状に移行する。この時終板
は復分極しているが、AchやSchを投与しても筋収縮はおこらず、あたかも脱分極
薬剤に対して脱感作されたごとくみえる。この状態を第二相ブロック、脱感作ブロッ
ク(desensitizing block)ということがある。
神経筋接合部のモニタリング
筋の反応を力の変化としてとらえる力トランスデューサー法、加速度の変化と
してとらえる加速度トランスデューサー法、などのメカノマイオグラム、誘発反応
をおこしている筋群の複合活動電位の電気的変化を捉える方式のエレクトロマ
イオグラムがある。日常臨床では尺骨神経を手関節部で刺激し、母指内転筋か、
小指外転筋の反応を見る。
1.単収縮反応
一回の電気刺激に対して応答する筋の収縮反応である。筋弛緩薬投与前の
値を対照値とし 遮断時の反応を対照に対する%で表す 単収縮反応は アセ
値を対照値とし、遮断時の反応を対照に対する%で表す。単収縮反応は、アセ
チルコリン受容体の3/4が遮断されて初めて反応の抑制が現れる。したがって
筋弛緩による神経遮断により100%回復した時点で神経筋刺激伝達が 完全に
回復したという意味でなく、なお75%のAchR が遮断されている状態を示す。
2.テタヌス刺激反応の反応高と減衰fade
連続した刺激をすると先行する刺激の後効果が残り筋収縮反応が減衰する
現象である。非脱分極性筋弛緩で見られる。
35
3.Train of four ratio(TOF ratio)
2~2.4Hz4回の刺激で4回目の収縮高(T4)と1回目の収縮高(T1)の比(T4/T1)をTOFR
とした。この比は筋弛緩薬投与前の対照値を記録しなくとも遮断の効果の判定が
可能であり、臨床的な筋弛緩状態の良い指標となることを示した。非脱分極薬作用
時、 TOFRの減少は他の刺激法に比べ鋭敏な方法とされている。単収縮反応が対照
値の20~40%に抑制された時点でT4は消失しTOFRは0となる。またTOFRはSchの単回
投与時には0.7以下になることはないが、第2相ブロックでは0.6以下となる。
TOFRは減衰fadeの程度を示す。これはpresynaptic AchRの機能を反映する。一方T1
のpercent of control heightはpostsynaptic AchRの機能を反映する。筋収縮力がコント
ロールの25,20、10%になるころにTOFの4,3,2個目の反応が見えなくなるとされてい
る。したがって一般的な開腹手術などであれば、TOFの4個目の反応が出現する前に
筋弛緩薬の投与を行えば、十分な筋弛緩を維持できる。また、TOF比が0.7~0.75以
上を筋弛緩からの回復の指標とする。
非脱分極性筋弛緩薬の消長
腎臓と胆汁からの排泄
ベクロニウムも腎からの排泄の割合が少ないが、大量の一回投与や、繰り返しの
投与により腎不全患者では作用時間の延長をきたす。0.2mg・kg‐1のベクロニウム
の投与により、アルコール性肝硬変患者では2倍の作用時間の延長が見られる。
ロクロニウムの特性
1.作用発現がベクロニウムより早いため、挿管完了時間を短縮できる。
2.ベクロニウムと同等の中間作用性
3.作用持続時間は容量依存的で、調節性に優れる
4.繰り返し投与しても一定の作用時間を維持できる
5.持続注入が可能
6.代謝物には活性がほとんど認められない
挿管容量:0.6mg/kg ~ 0.9mg/kg
追加投与:0.1mg/kg~0.2mg/kg
代謝
ベクロニウムも脱アセル化を受け主として胆汁、ついで腎臓から排泄される。
自律神経系に対する作用
自律神経系のニコチン性Ach受容体、ムスカリン性Ach受容体のいずれも
非脱分極性筋弛緩薬で遮断される。
心血管系に対する作用
ベクロニウムはフェンタニールとの併用で徐脈がおこることがある。
非脱分極性筋弛緩薬による気管内挿管
非脱分極性筋弛緩薬の3×ED95量による気管内挿管はベクロニウム
(0.3mg・kg‐1)で作用発現時間は短縮するが、持続時間は著しく延長する。
ロクロニウム0.6mg ・kg‐1(2×ED95)投与により、作用発現は平均90秒で他の
いずれの非脱分極性筋弛緩薬よりも速やかであり、副作用も少ないため、現
在ではロクロニウムが気管内挿管に一番適した非脱分極性筋弛緩薬と思わ
れる。
脱分極性筋弛緩薬の薬理
1.サクシニルコリンの消長
サクシニルコリンは2つのAchの酢酸メチル基が結合したジアセチルコリンである。
血漿ChEにより分解される。血漿ChE活性の低下や異型ChEにより延長する。
2.サクシニルコリンの心血管系に対する作用
サクシニルコリンはAchと同様に、洞房結節の交感、副交感神経節ムスカリン
受容体のすべての作用薬であるため、洞性徐脈、心室性期外収縮、心室細動
を起こすことがある。成人では2度目の投与で洞性徐脈、心停止となることがある。
3.サクシニルコリンの副作用
(ア)筋肉痛、(イ)胃内圧上昇、(ウ)眼圧と脳圧上昇、(エ)高カリウム血症
(オ)咬筋攣縮
36
悪性高熱症(MH:Malignant hyperthermia)
分類
1.劇症型(Fulminant‐MH)
2.亜型(Abotive‐MH)
3. 術後悪性高熱症~麻酔終了後に悪性高熱症を発症、体温により劇症型と
亜型分類
全身麻酔 約60,000例に1例
20代男性では11,000例に1例(若年男性に圧倒的に多く発症)
男女比 3:1
31
死亡率:18%
原因
骨格筋細胞内のカルシウムの調節異常
カルシウム放出機構(CICR)の異常亢進
CICR:Ca‐induced Ca release
(Mg2+,プロカインなどで抑制、カフェイン、吸入麻酔薬などで亢進)
遺伝子異常(骨格筋小胞体のリアノジン受容体~RYR1)
臨床診断
劇症型
A. 40℃以上の体温
B. 体温上昇が0.5 ℃/15分(2 ℃/60分)以上でかつ最高体温が38 ℃以上40℃未満
麻酔中AあるいはBに加え、①~⑧のいずれかの症状を認める。
MH症状
①筋強直:身体の一部あるいは全身の筋強直(咬筋強直を含む)
②原因不明の頻脈、血圧変動、不整脈
③低酸素血症
④重篤な呼吸性、代謝性アシドーシス
⑤ミオグロビン尿:ポートワイン様の赤褐色尿
⑥LDH, GOT, GPT, CPK, 血清Kの上昇
⑦異常な発汗
⑧新たな出血傾向
亜型
麻酔中に①~⑧いくつかのMH症状を認めるが、体温基準AもBも満たさない
筋生検
1.Whole muscleを用いたカフェイン、ハロタン拘縮試験
2.スキンドファイバーによるCICR機構の亢進、カフェイン感受性試験
治療
1.トリガーとなる薬物の中止
2.100%酸素で過換気:15L以上の流量で分時換気量を増加
3.ダントロレン投与:初期投与量1mg/kg,総投与量7mg/kg
(欧米:初期投与量2.5mg/kg,総投与量10mg/kg)
4.その他の治療
①1.5mEq/kgの炭酸水素ナトリウムの投与
②高カリウム血症があればカルシウム剤の投与
③二酸化炭素吸着剤や麻酔回路の交換(麻酔器交換は不用)
④氷などによる体表面からの冷却
⑤ダントロレンに含まれているマンニトールによる利尿が不十分ならアセタゾラミド投与
⑥さらに静脈ルートの確保
⑦MHの症状が治まってもダントロレンを継続投与
⑧48時間ICU管理
⑨MH再発の徴候があればダントロレンの急速静注
悪性症候群(MHS)
臨床症状
原因不明の発熱、筋硬直(錐体外路症状)、血清CPK値の上昇
ミオグロビン尿、頻脈、血圧変動
原因
中枢性でドパミン受容体拮抗薬やドパミン作動性薬の中断がトリガー
原因薬物
向精神病薬(ハロペリドール、レボメプロマジン)や抗パーキンソン薬の中断
吸入麻酔薬
1540年
1956年
1963年
1968年
エーテル
ハロタン
エンフルラン
セボフルラン
1772年
1959年
1965年
1963~1966年
笑気
メトキシフルラン
イソフルラン
デスフルラン
麻酔薬の特性
MAC (Minimum Alveolar Concentration):皮切時に50%に体動が起きなくなる麻酔濃度
AD95 : Anesthetic dose of 95%(MACの1.2倍程度)
MAC‐BAR(Block the adrenergic response): MACの約1.5倍
MAC awake: 0.4MAC
37
プロポフォール(1%ディプリバン注)
20~30才
MAC
MACawake
笑気
104
70
イソフルレン
1.28
0.46
セボフルレン
2.4
0.75
セボフルレン(MAC)4.3才:2.49%、 47.5才:1.71%、 71.4才:1.48%
吸入麻酔の導入・覚醒速度に影響する因子
1. 血液/ガス分配係数
2 心拍出量
2.
3. 臓器血流量
4. 組織/血液分配係数
(分配係数:2つの相の間に平衡状態が成立した場合、各相の中に
含まれる麻酔薬の濃度の比率)
分配係数
血液/ガス
脳/血液
笑気
0.47
1.1
イソフルレン
1.4
1.6
セボフルレン
0.65
1.7
科学名:2,6‐diisopropylphenol
ディプリバン1ml中にプロポフォール10mgを含有
1アンプル:20ml (200mg)
1バイアル:50ml (500mg)
作用時間:分布相半減期 2.6分
作用相半減期 51分
容量
1.導入:1.0~2.5mg/kg
2.維持:4
2
維持:4~10mg/kg/h
10mg/kg/h
( TCIの場合、BIS値参考に1.5~5μg/ml)
薬理作用
中枢神経系:GABA受容体‐Clチャンネル複合体による抑制作用の増強
特異的な受容体への結合についてはまだ不明
脳血流量・脳酸素消費量の減少(頭蓋内圧低下)
呼吸器系 :呼吸抑制、気管支拡張作用、喉頭反射の抑制
循環器系 :血圧低下(20%)、心拍出量低下、心拍数は不変
心筋虚血なし、脳血管収縮により頭蓋内圧低下
肝、腎機能 :特に影響なし
副作用
血管痛
薬物
麻薬・麻薬拮抗性鎮痛薬
(麻薬)
(麻薬拮抗性鎮痛薬)
Morphine Pentazocine (ペンタゾシン、ソセゴン)
Fentanyl
Buprenorphine(レペタン)
Butorphanol (スタドール)
オピオイド受容体
Receptor
μ
(ミユー)
Agonists
Morphine
Fentanyl
Buprenorphine(part)
Antagonist
Pentazocine
Naloxone
Major Actions
supraspinal analgesia
鎮痛・多幸感・徐脈・縮瞳
身体依存性
κ
(カッパ)
Morphine
Fentanyl
Buprenorphine
Pentazocine
Naloxone
spinal analgesia
鎮痛・縮瞳・呼吸抑制
δ
(デルタ)
Fentanyl
Butorphanol
Pentazocine
Naloxone
不快感・頻脈・高血圧・呼吸促進
幻覚/せん妄
Naloxone
不快感・頻脈・呼吸促進
σ
(シグマ)
効力比
Morphine
1
Fentanyl
80
Buprenorphine
30
Butorphanol
5
Pentazocine
0.3
レミフェンタニルの特徴
1.μ‐オピオイド受容体に選択的に作用し、鎮痛作用を発揮
2.本邦初の超短時間作用性のオピオイド鎮痛薬(麻薬性鎮痛薬)
3.鎮痛作用の発現と消失が速やか
4.血液中及び組織内の非特異的エステラーゼによって速やかに代謝され、蓄積性なし
5.侵襲刺激に応じた鎮痛のコントロールが可能
6.投与時間は麻酔からの覚醒に影響を与えない
7.主な副作用として血圧低下、徐脈、覚醒時シバーリング等が挙げられる
38
気道確保
國吉 保
39
気道確保
麻酔を構成する鎮痛、鎮静、筋弛緩、反射の抑制の各因子は重要であるが、それらを達成
するためには安定した循環管理・呼吸管理が必要である。その中で呼吸管理において最も
重要なのは気道の保持であり、換気・気道管理のトラブルは周術期に心停止を来す大きな
原因となっている。従って安全で良質な麻酔を提供するために麻酔科医は気道管理につい
て習熟するよう努力する必要がある。
上気道の解剖と機能
鼻
・吸入気の加温・加湿を行う。
・安静時呼吸では鼻の気道抵抗は気道抵抗全体の 2/3 を占める。
・鼻呼吸の気道抵抗は口呼吸の 2 倍である。
・鼻粘膜の感覚神経は三叉神経由来の前篩骨神経と鼻口蓋神経である。
前篩骨神経:鼻中隔前方と鼻腔側壁
鼻口蓋神経:鼻中隔後方
咽頭
・鼻の後方から輪状軟骨まで及ぶ。
・軟口蓋によって上咽頭と中下咽頭に分けられる。
・舌はオトガイ舌筋の緊張低下により咽頭における気道閉塞の主な原因となる。
40
喉頭
・第3頸椎から第6頸椎の高さにあり、発声と下気道の保護を担う。
・成人では声門開口部が最も狭く、小児では声門下の輪状軟骨の高さに最狭部がある。
・喉頭筋の運動と喉頭の感覚の全ては迷走神経の枝である上喉頭神経と反回神経に支
配される。
神経
上喉頭神経(内枝)
感覚
喉頭蓋・舌根部
運動
なし
声門上粘膜
甲状喉頭蓋関節
輪状甲状関節
41
上喉頭神経(外枝)
声門下粘膜の前方
輪状甲状筋(内転、緊張調節)
反回神経
声門下粘膜
甲状舌骨筋
外側・後輪状披裂筋
披裂間筋(内転)
気管
・第6頸椎の高さから始まり、第5胸椎の高さで左右の主気管支に分かれる。
・気管には複数の受容体があり、機械的刺激と科学的刺激に感受性がある。
<気道刺激>
上気道閉塞
・完全閉塞なであれば呼吸音が消失し、部分閉塞であれば1回換気量の減少、上部胸
郭の陥凹、吸気性喘鳴を伴うことがある。
・上気道の閉塞の原因として軟部組織による閉塞、腫瘍、異物、喉頭痙攣などが挙げ
られるが、最も多いのは舌と顎の弛緩により舌根と咽頭壁の間の空間が減少するこ
とである。
治療)
・頚部伸展と下顎挙上(舌骨の前方移動、喉頭蓋の挙上)。
・呼吸バッグで陽圧換気をすれば閉塞を軽減できる(15~20cmH2O 程度の
陽圧では胃膨満は見られない)。
・経口エアウェイ、経鼻エアウェイの使用。
・それでも上気道閉塞を解除できなければ上気道をバイパスするために気
管チューブの挿入を考慮する。
42
気道保護の生理
・声門閉鎖の反射:嚥下時の気道保護機能で最も重要。
喉頭痙攣はこの反射が増強された状態であり、呼吸にとっては危
険である。吸入物質、分泌物、声門上部への直接刺激、手術操作
等により誘発される。重篤な場合は筋弛緩薬が必要となることも
あるが、まずは気道閉塞に示した治療(下顎挙上、マスク換気)
を行うべきである。
・咳反射:分泌物、異物を下気道から放出するために必要なメカニズムである。重要な
のは高い気道流速を作り出すための声門閉鎖と気道内腔の狭小化(正常の
40%)である。
→
気管チューブが留置されていれば高い気流速度は得られない。
気道の評価
・既往歴)過去の全身麻酔歴や感染、外傷、腫瘍、炎症に関する情報を詳細に聞く。
病態
問題点
喉頭蓋炎
喉頭展開により閉塞増悪の可能性
膿瘍
気道のゆがみ
頸椎損傷
頚部可動性に乏しく脊髄を損傷する可能性
上顎骨骨折、下顎骨骨折
気道閉塞の可能性
喉頭浮腫
気道の非刺激性亢進、入口部の狭小化
上気道腫瘍
気道閉塞の可能性が高い
下気道腫瘍
気管挿管でも気道閉塞が解除されない可能
性がある
強直性脊椎炎
喉頭展開困難
顎関節症候群
開口障害
間接リウマチ
顎関節炎や頸椎硬直で挿管困難となる可能
性あり
甲状腺機能低下症
気道圧迫や偏位
肥満
マスク換気が困難となる
挿管困難を伴う先天性症候群
症候群
Down
解説
巨舌で口が小さい、喉頭痙攣が多い
43
Goldenhar
下顎低形成と頸椎異常のため喉頭展開困難
Klippel-Feil
頸椎癒合による頚部拘縮
Pierre Robin
下顎骨異常、巨舌、新生児では意識下挿管が
必要
Turner
挿管困難の可能性高い
Treacher Collin
喉頭展開困難
Cormack の分類
・身体所見
① 髭:観察が不十分となりチューブの固定が難しくなる場合がある
② 歯:ブリッジや義歯、動揺歯の確認。前方突出の程度は?
下切歯先端が上切歯先端に接触できるか(下顎の前方移動障害はないか)?
③ 開口:通常は 30~40mm 程度はある。麻酔後に開口が小さくなる場合もある。
Mallampati の分類
44
④ 舌骨-オトガイ間距離、甲状軟骨-オトガイ間距離:前者が 3 横指、後者が 6.5cm
以上あれば良い。それぞれ 2 横指、5cm 以下なら挿管困難(小顎症)の可能
性あり。
⑤ 腫瘤の有無、頚部の可動性は?
気管挿管に最も適した体位はスニッフィング
ポジション(sniffing position)である。スニ
ッフィングポジションでは下位頸椎(C5-7)
の前屈(30~35°)
、環椎-後頭骨関節の伸展
(15°)が理想的である。その為には
8~10cm 枕を使用する。
⑥ 下顎内腔が固く可動性に乏しいかどうか?
⑦ 頚部が太く短くはないか?
⑧ 口蓋が高く狭小化していないか?
⑨ 更なる検査
診察や検査の結果、気道管理に及ぼす影響が不明なら間接的喉頭鏡、
ファイバー喉頭鏡検査、CT 等で精査を行う。
マスク換気の手技
① 適正なマスクサイズを選択する。
② 親指と人差し指でマスクを抑え他の3指で下顎を挙上する。
③ マスクの保持は頚部の軟部組織を圧迫しないようにする。
④ 合併症としては誤嚥、圧迫による眼障害がある。
⑤ マスク換気に問題があれば経口エアウェイ、経鼻エアウェイを使用する。
経口エアウェイ:刺激が強く、咳、嘔吐、喉頭痙攣、気管支痙攣を起こし
やすい。舌を気道に押し込まないように留意する。
経鼻エアウェイ:相対的禁忌として凝固異常、頭蓋底骨折、鼻腔の感染等
がある。
ラリンジアルマスクエアウェイ
45
① 声門上エアウェイであり、喉頭入口部の気密性が十分ではない為、誤嚥のリ
スクが増す症例では禁忌である。
② 肺コンプライアンスが低下、気道抵抗が増加した状況では十分な換気量が得
られないことがある。
③ フェイスマスクよりも安全な気道確保が得られるが、気管挿管ほど確実な気
道の保護や維持はできない。
④ 誤嚥、喉頭痙攣、気道確保ができない等の問題もある。
⑤ 緊急時の代替気道確保器具である(単体、気管支ファイバーやガムエラステ
ィックブジー等と組み合わせて)。
気管挿管
気管挿管の適応
・気道保護
・開存した気道の維持
・肺胞洗浄
・陽圧換気の施行
・酸素化の維持
気管チューブ
・現在はポリ塩化ビニル製が多い。
・成人は声門部の気管径で決定されるが、小児は声門下(輪状軟骨)部の
気管径で決まる。
・カフは高容量低圧カフであり気管粘膜の障害を起こさないように工夫さ
れている。カフ圧は 20-25mmHg とする。
・小児における気管チューブのリーク圧は 15-20mmHg が良い。
挿管手技
(通常導入)
麻酔導入前酸素化(安全域を広げる、純酸素吸入を3分間以上または、
深呼吸を4回)
→
→
速効性麻酔導入薬投与
→
マスク換気の施行
筋弛緩薬の投与
(迅速導入)
:誤嚥のリスクがあり挿管が困難でないと考えられるとき
麻酔導入前酸素化(必須)
→
速効性麻酔導入薬+筋弛緩薬投与
(Sellick 法施行)
誤嚥の危険因子
46
フルストマック(8 時間以内の絶食)
腹腔内病変
腸閉塞、胃蠕動の不全麻痺(薬物、糖尿病、感染)
食道疾患(蠕動障害、胃内容逆流)
妊娠
病的肥満
摂食歴と飲水歴が不明
外傷
・最も重要な点は筋弛緩薬を投与するかどうかであり、換気困難が筋弛
緩薬の投与で改善する要因によるものかどうか、麻酔科医は常に考え
るべきである。
(挿管手順:参考)
1
ただいまから、気管挿管を実施する。
2
スニッフィングポジション
頭部を高く且つ水平に。体の軸を一直線
にすること。
3
4
クロスフィンガーにて開口(またはオト
口の右側より開口する。口腔内異物の観
ガイ下方圧迫にて開口)
察をするつもりで。
ブレードを右口角より挿入
喉頭鏡のハンドルは軽く握る。クロスフ
ィンガーの左側より入り、口腔内で右側
へ。ブレードで舌を左方に圧排しつつ
徐々に正中へ戻す。ブレードが正中に戻
るタイミングで右手は前頭部~頭頂部
へ。
5
喉頭蓋挙上。声門確認。
ブレードの先端を喉頭蓋谷に置き、挙上
する(ハンドルの長軸方向へ。手首を利
かさないこと)
6
チューブ(補助者が渡す)
チューブのやや上部を持つこと。
7
チューブ挿入
補助者が口角を上下に引っ張ると入れや
すい
8
声帯通過
9
スタイレット抜去(補助者がゆっくりと
カフの中間部が声帯を通る深さで抜く。
抜くこと)
10
更に進める。門歯より
cmで固定。
カフ近位端が声帯を 2cm すぎた深さとす
る。
11
ベンチレーター接続
47
12
カフ注入
リーク圧を確認しながら注入
13
確認
両側肺野の聴診と胸壁の動き、EtCO2 を
確認
14
チューブを固定する
15
再度確認
手順13と同様
挿管に失敗した場合
・マスク換気が容易であれば大きな心配はない。
・熟練した医師が数回喉頭展開を行い失敗したのであれば、DAM(Difficult Airway
Management)アルゴリズムに従って対応する選択肢もある。
Difficult Airway
定義:通常の訓練を受けた麻酔科医がマスク換気困難、気管挿管困難もしくはその両
方を経験する臨床的状況。
<手術前の気道評価>
<DAM におけるポータブルカートの内容 >
< DAM における種々のテクニック>
48
<DAM algorithm>
※ 各段階でどの代替手技を何回まで許容して次段階に進むのか示されて
いない
※ 重要な事は、最初に気管挿管ができない場合に、「応援を求める・自発
呼吸を出す・覚醒させる」を考え、フェイスマスク・LMA で十分な換
気ができない場合は緊急事態と判断し、「緊急の非侵襲的・侵襲的気道
確保」を含めて試みることである。
49
Difficult Airway Society(DAS) guidelines
特徴)
1.ASA の DAM algorithm には記述されていない手技許容回数と
代替方法(LMA,ILMA,ガムエラスティックブジーGEB,輪状甲状間膜切
開に限定)が具体的に示されている。
2.基本的には全身麻酔導入後に判明した difficult airway を対象としてい
る。
50
輸血
尾前 毅
51
輸血
赤血球輸血
赤血球輸血の適応
術中,術後の至適Hb値
健常成人を対象として施工した脱血と膠
質液による出血性ショックの研究
Hb 5g/dL でもDO2,VO2,乳酸値に瀉血前
との差を認めない.
(Hb 5-7g/dLでは高次機能障害起こりやすい.)
(Werskopf RB et al. JAMA 1998;279:217-21)
52
赤血球輸血の適応
赤血球輸血の適応
ABC study
3534症例の輸血に関する前向き検討
ICUでの輸血率 37%
838症例の重症患者を対象
1) Hb 7-9g/dLに維持した群
2) Hb 10-12g/dLに維持した群
10 12g/dLに維持した群
院内死亡率
22.2% vs 28.1%
死亡率 輸血群
18.5%
非輸血群 10.1%
(Vincent JL et al. JAMA 2002;288:1499-507)
(Hebert PC et al. N Engl J Med 1999;340:409-17)
赤血球輸血の適応
CRIT study
ICUにおいて患者の44%で輸血を施行
輸血時のHb 8.6±1.7
8 6±1 7 g/dL
赤血球輸血の適応


このHbでの3単位以上の輸血は30日死
亡率を増加させる.
輸血の適応
Hb < 7g/dL
輸血量に依存して死亡率が高まる
.
(Corwin HL et al. Crit Care Med 2004;32:39-52)
53
心疾患を持つ患者の輸血
心疾患を持つ患者の輸血
4470症例の追跡調査
Hb≦9.5g/dLの院内死亡率
心血管病変を持つ術後患者1958症例
院内死亡率を比較
1)心疾患を持つ患者 55%
2)心疾患がない患者 42%
1) Hb≦6g/dL
2) Hb≧12g/dL
(Hebert PC et al. Am J Respir Crit Care Med 1997;155:31618-23)
心疾患を持つ患者の輸血
2083症例を対象にした後向き解析
心血管病変を持つ患者
Hb≦8g/dLで死亡率2.5倍に高まる.
33.3%
1.3%
(Carson JL et al. Lanset 1996;348:1055-60)
心疾患を持つ患者の輸血
TRICC trial
心血管病変を持つ患者に対するRCT
1) Hb≦7g/dLで輸血を開始し7-9g/dLで管理
Hb≦7g/dLで輸血を開始し7 9g/dLで管理
2) Hb≦10g/dLで輸血を開始し10-12g/dLで管理
死亡率に有意差ないが,2)でMOFが増加
(Carson JL et al. Transfusion 2002;42:812-8)
(Hebert PC et al. Crit Care Med 2001;29:227-34)
54
心疾患を持つ患者の輸血
心血管系合併症を持つ患者
輸血による死亡率の増加の理由

輸血に伴う免疫低下
免疫修飾現象(NK細胞活性の低下)
8 g/dL ≦ Hb ≦ 10 g/dL

白血球の影響

サイトメガロウイルス感染症

抗HLA抗体産生に伴う血小板不応症

非溶血性発熱反応 (NHFTRs)
混入した白血球の影響
非溶血性発熱反応
①抗白血球抗体
②血液製剤
③血液製剤の汚染
55
非溶血性発熱反応


輸血に伴う他の問題点
発熱性炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,IL12,TNF-)が関与して起こる.

発熱性サイトカインが脳下垂体の発熱中
枢でアラキドン酸、プロスタグランディンカ
スケードに働き、体温上昇.

製剤中の2,3-diphosphoglycerateが少ない.
酸素かい離曲線が左方移動している.
赤血球の形状変化能が低下している.
微小循環における酸素運搬能の低下
保存期間が長い製剤ほど悪化する
酸素かい離曲線
酸素と
結合し易い
酸素と
結合し難い
酸素を
放出しやすい
酸素かい離曲線
酸素を
放出し難い
左方偏位の原因
右方偏位の原因
アルカローシス
アルカ
シス
低体温
低炭酸ガス血症
2,3-DPGの低下
アシドーシス
アシド
シス
高体温
高炭酸ガス血症
2,3-DPGの増加
56
輸血に伴う他の問題点


製剤中の2,3-diphosphoglycerateが少ない.
酸素かい離曲線が左方移動している.
異型輸血
赤血球の形状変化能が低下している.
微小循環における酸素運搬能の低下
保存期間が長い製剤ほど悪化する
ABO型不適合
1) 赤血球製剤
O型製剤をA,B,AB型へ.A,B型製剤をAB型へ
副作用 1%に溶血などの副作用
2) 新鮮凍結血漿
全血液型に対しAB型のみ使用
3) 濃厚血小板製剤
可能であればAB型製剤を使用
Rh型不適合
1) Rh陰性血をRh陽性患者に輸血
問題なし
2) Rh陽性血をRh陰性患者に輸血
ABO型は一致させる.女性,小児は不可
3) 抗D人免疫グロブリン
PCなどではRh陽性血による感作を予防できる.
57
新鮮凍結血漿
新鮮凍結血漿
1) 可能であればPTおよびAPTTを測定し管理
2) へパリン使用時にはAPTTがより有効.
濃厚血小板製剤
濃厚血小板製剤
1) 出血傾向の主因は血小板数,機能の低下
2) 手術には血小板6×104/l以上が必要
3) 心臓手術では15×104/l以上を目標に管理
58
アルブミン製剤
アルブミン製剤

出血により失われたタンパクの補充

非常に高価な製剤

自己血輸血
貯血式自己血輸血

貯血式自己血輸血


希釈式自己血輸血


回収式自己血輸血


RCTでは急性期のアルブミン投与の
有効性には懐疑的
術前から計画的に行う.
エリスロポエチンと鉄剤投与により大量の貯血
も可能(1200ml以上).
緊急手術には応用できない.
術後回収式自己血輸血
59
希釈式自己血輸血

麻酔導入後400-1200mlを脱血し,輸液製剤
で置換する方法.
回収式自己血輸血

手術中に出血した血液を吸引・回収し洗浄赤
血球として使用する.

循環動態が不安定化しやすい.

コストが高く,感染の危険性がある.

少量(5-8ml/kg)では効果が得られない.

凝固因子,血小板が損失する.
術後回収式自己血輸血

術後,創部に出血した血液を回収して返血す
る方法.

感染の可能性がある.

整形外科領域で使用されている.
輸血の合併症
60
輸血の合併症

大量輸血に伴う合併症

大量輸血に伴う合併症



輸血関連移植片対宿主病



輸血関連急性肺障害



血小板輸血不応状態

輸血関連移植片対宿主病(GVHD)
低カルシウム血症
高カリウム血症
低マグネシウム血症
酸塩基平衡障害
低体温
止血機能障害
免疫機能抑制
過剰輸血
輸血関連急性肺障害

死亡率100%

1/1200の発症頻度,死亡率5%,女性に多い

ド
ドナーTリンパ球によるレピシエント臓器への攻撃
パ球
ピ
臓
攻撃

輸血 時
輸血1-2時間に急性呼吸不全で発症
急性
全
症

血縁者から供血された生血の危険性が高い.

ARDSとの鑑別が難しい.

予防は製剤に対する放射線照射のみ.

治療は対症療法のみ
61
血小板輸血不応状態


免疫学的機序によることが多い.
HLA抗体による免疫学的機序による場合,HLA
適合血小板輸血の適応となる.
異型輸血

輸血療法最大の問題点

ダブ
ダブルチェックを必ず行う.
を ず う

超緊急時にはO(-)RCC-LRを使用する.
ABO型不適合輸血
症状
100ml以上の輸血で重症化
説明不能な低血圧,血色素尿,高カリウム血症
処置
輸血の中止,血液型判定のためのサンプル確保
治療
対症療法 (抗ショック療法)
62
麻酔周辺薬剤
寺師竹郎
63
麻酔周辺薬剤
1.鎮痛薬
(1) 麻薬
フェンタニル
モルヒネ
レミフェンタニル
ペチジン
(2) 麻薬拮抗性鎮痛薬
ペンタゾシン
ブプレノルフィン
(3) 麻薬拮抗薬(完全拮抗)
ナロキソン
(4) 非ステロイド性解熱鎮痛薬
インドメタシン
フルルピプロフェン(ロピオン)
2.昇圧薬
(1) ボーラス投与
エフェドリン
フェニレフリン(ネオシネジン)
メトキサミン(メキサン)
アドレナリン(ボスミン)
ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)
(2) 持続投与
ドパミン(イノバン)
ドブタミン(ドブトレックス)
アドレナリン(ボスミン)
ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)
3.強心薬
(1) β作動薬
ドブタミン(ドブトレックス)
(2) α・β作動薬
エフェドリン
アドレナリン(ボスミン)
64
(3) PDEⅢ阻害薬
ミルリノン(ミルリーラ)
オルプリノン(コアテック)
(4) 心房性利尿ペプチド
カルペリチド(ハンプ)
4.降圧薬
(1) Ca 拮抗薬
ニカルジピン(ペルジピン)
ジルチアゼム(ヘルベッサー)
(2) ニトログリセリン
ミリスロール
(3) プロスタグランディン
プロスタグランディン E1(プロスタンディン 500)
(4) βブロッカー
プロプラノロール(インデラル)
エスモロール(ブレビブロック)
ランジオロール(オノアクト)
(5) αブロッカー
レギチーン
(6) ATP
アデホス L;心臓を止めるときに(大動脈ステント挿入時)
5.冠血管拡張薬
(1) Ca 拮抗薬
ジルチアゼム(ヘルベッサー)
(2) 亜硝酸薬
ニトログリセリン(ミリスロール)
硝酸イソソルビド(ニトロール)
(3) ニコランジル
シグマート;K チャネル開口作用とニトロ様の作用
6.抗不整脈薬
(1) 徐脈性不整脈
アトロピン
イソプレナリン(プロタノール)
65
(2) 頻脈性不整脈
a.
Ca 拮抗薬
ベラパミル(ワソラン)
b.
βブロッカー
プロプラノロール(インデラル)
エスモロール(ブレビブロック)
ランジオロール(オノアクト)
(3) 上室性期外収縮
ジソピラミド(リスモダン)
(4) 心室性期外収縮
リドカイン(キシロカイン)
シンビット
アミオダロン
7.抗痙攣薬
(1) バルビツール
フェノバルビタール(フェノバール)
サイアミラール(イソゾール)
(2) ベンゾジアゼピン
ジアゼパム(ホリゾン、セルシン)
ミダゾラム(ドルミカム)
(3) ヒダントイン
フェニトイン(アレビアチン)
(4) その他
マグネシウム(マグネゾール);子癇による全身痙攣
8.利尿薬
(1) ループ利尿薬
フロセミド(ラシックス)
(2) 高浸透圧利尿薬
マンニトール
(3) 炭酸脱水酵素阻害
アセタゾラミド(ダイアモックス)
;代謝性アルカローシスの治療
(4) その他
ドパミン(イノバン)
66
9.喘息治療薬
(1) アミノフィリン
ネオフィリン
(2) β刺激薬
エフェドリン
ボスミン
イソプレナリン(プロタノール)
サルブタモール(ベネトリン);吸入
(3) ステロイド
ハイドロコルチゾン(ハイドロコートン)
メチルプレドニゾロン(プリドール)
(4) 吸入麻酔薬
10.
制吐薬
メトクロプラミド(プリンペラン)
ドロペリドール(ドロレプタン)
11.
抗アレルギー薬
(1) 強心薬
アドレナリン(ボスミン)
(2) ステロイド
ハイドロコルチゾン(ハイドロコートン)
メチルプレドニゾロン(プリドール)
デキサメタゾン(デカドロン)
ベタメサゾン(リンデロン)
(3) 抗ヒスタミン薬
ヒドロキシジン(アタラックス P)
12.
ホルモン薬
インスリン(ヒューマリン R)
13.
電解質薬
(1) K 製剤
KCl
アスパラ K
67
(2) NaCl 製剤
10%NaCl
(3) Ca 製剤
グルコンサンカルシウム(カルチコール)
(4) その他
メイロン;BE×体重(kg)×0.3=必要量(mEq)
この半分を投与する(半量補正)
14.
抗凝固薬
ヘパリン
プロタミン(拮抗薬)
15.
血栓溶解薬
ウロキナーゼ
16.
抗ショック薬
(1) ボスミン
(2) ステロイド
(3) ウリナスタチン(ミラクリッド);ライソゾームの膜安定化作用
心筋抑制因子産生の抑制
組織崩壊防御作用
DIC 治療薬
17.
メシル酸ガベキサート(FOY)
メシル産ナファモスタット(フサン)
ヘパリン
アンチトロンビンⅢ(ノイアート)
新鮮凍結血漿(FFP)
血小板(PC)
18.
止血薬
抗プラスミン剤(トランサミン)
凝固促進剤(ケイツー)
68
19.
脳圧降下薬
マンニトール
グリセオール
20.
脳保護薬
エダラボン(ラジカット);フリーラジカルスカベンジャー
21.
急性肺炎治療薬
シベレスタットナトリウム(エラスポール);好中球エラスターゼ阻害剤
69
術後管理 集中治療
術後管理・集中治療
垣花泰之
70
集中治療部(ICU)の起源
ポリオの流行(1950年)
コペンハーゲンで患者を集め
て麻酔科医と260名の看護婦
、250名の医学生により交代
で何日間も用手的陽圧人工呼
吸が行われた。
「集中治療医学」
「鉄の肺」を用いた間
「鉄
肺 を用いた間
歇的陰圧換気
鹿児島大学医学部・歯学部附属病院集中治療部
垣花泰之
E-mail:kakihana@m3.kufm.kagoshima-u.ac.jp
死亡率は87%
死亡率は40%に激減
陽圧換気式人工呼吸器の登場
重症患者を一箇所に集めて集中管理を行った
病院における集中治療部(ICU)の役割
71
Intensive Care Medicine (ICM)
集中治療医学 = 侵襲管理学・重症患者管理学
内科・外科系を問わず、呼吸・循環・代謝などの
重要臓器の急性臓器不全に対し、総合的・集中的
に治療・看護を行い、回復させるのが主題です。
あらゆる年齢層がICUの対象患者である
重症患者管理のポイント
組織酸素代謝管理
高齢者
幼児
72
ショック概念の歴史的変遷
•酸素がなぜ大切なのか?
(1) ローマ・ギリシャ時代(外傷・出血に対する観察・応急処置)
ヒポクラテス
Newton
進化からD
2002.2、
(460~380 B.C.):重症度の把握(ヒポクラテズ様顔貌)、創傷処置法
パトクレスの傷に包帯をするアキレス
30数億年前の海底
ヒポクラテス(医聖)
ミトコンドリア
(2)19世紀後半-20世紀前半(外傷性ショックに対する生理学的アプローチ)
血管拡張がショックの病態:「neurogenic theory」「traumatic toxemia」
第一次世界大戦の治療経験「traumatic toxemia」(Cannon):瀉血・切断
30数億年前に細胞の進化の過程で嫌気性細胞に
ミトコンドリアが取りこまれ共生がはじまった。
体液量変動がショックで確認された時期(Blalock)
第二次世界大戦では輸液・輸血療法で予後改善、
エネルギー産生と呼吸・循環との関係
生体機能とエネルギー(ATP)
酸素
Na-Kポンプ
乳酸
酸素
アミノ酸
乳酸
ブドウ糖
ピルビン酸
ADP
NADH
アセチル
CoA
(電子伝達系)
ADP
NAD+H
TCA
回路
ATP
(36)
(ミトコンドリア)
脂肪酸
酸素
H+
ATP
(2)
水
Na-Kポンプ
Na
Na+H2O
Na
K
K
K
Na
K
Na
Na
K
K
ATPあり
Na
Na
K
K
細胞
ATP (細胞機能の維持)
(細胞質)
ATPなし
Na
Na+H2O
Na
Na+H2O
K
K
K
K
細
胞
壊
死
※ ブドウ糖 1 分子から 38 分子の ATP が作られる
脱分極
(血管)
(細胞)
再分極
脱分極
脳波、心電図、
筋電図、神経活動
73
呼吸・循環からみた管理方針
呼吸・循環と酸素の運搬
酸素
炭酸ガス
(酸素供給量を増やす方法)
呼吸調節異常
酸素供給量(DO2)= 動脈血酸素含量(CaO2)× 心拍出量(CO)
外呼吸
心拍出量(Q)
酸素
閉塞性肺疾患、
気流抵抗の増大
動脈血
酸素含量(CaO2)
混合静脈血
酸素含量(CvO2)
動脈血酸素含量(CaO2)
拘束性肺疾患、
肺組織の減少
1.39 
Hb 
SaO2
+ 0.0031 
PaO2

心拍出量(CO)
一回心拍出量

心拍数
酸素輸送障害
酸素供給量(DO2)= 動脈血酸素含量(CaO2)× 心拍出量(Q)
重症患者の呼吸・循環管理
血液
呼吸
強心薬
CO2
輸液
酸素
酸素
内呼吸
輸血
炭酸ガス
代謝
(細胞)
循環
敗血症(Sepsis) 概念の変遷
古い敗血症の概念:
血液中に細菌あるいは細菌毒素が証明され、それによ
り全身状態が極度に悪化した重篤な病態
新しい敗血症の概念:
SIRS(全身性炎症反応症候群)を呈し、その原因が感
染である病態 (Crit Care Med 20:864-874, 1992)
74
全身性炎症反応症候群
Epidemiology of severe sepsis in the United States: Analysis of
incidence, outcome, and associated costs of care.
(SIRS: Systemic inflammatory response syndrome)
SIRSの診断基準
Angus DC, et al. Crit Care Med 2001;29:1303-10
(ACCP/SCCM)1991
1)体温 > 38℃ or < 36℃
2)脈拍数 > 90/min
3)呼吸数 > 20/min
or PaCO2 < 32torr
4)白血球数 > 12000/mm3
or < 4000/mm3
or 未熟型白血球 > 10%
感染, 敗血症, SIRS の関係
米国における敗血症患者数と年齢別死亡率
感 染
SIRS
敗血症
死亡率
亡率
以上の2項目以上を満たすもの
発生率
Sepsisの定義
感染に起因するSIRS
(Infection-induced SIRS)
(Crit Care Med 20:864-874, 1992)
年齢とともに、敗血症の発生率、死亡率は上昇する
The Pathophysiology and Treatment of Sepsis
我国の主要死因による死亡数
Richard S. Hotchkiss, et al. N Engl J Med 2003; 348:138-150
米国の2001年集計では、米国内で年間75万人が敗血
症に罹患し、そのうち21万人が死亡している.
60 (万人)
予測値
実測値
50
悪性新生物
40
米国、年間敗血症患者数
1979年
1990年
2000年
2001年
2010年
2020年
ー 16万人
ー 45万人
ー 66万人
ー 75万人
ー 93万人
ー111万人
米国、年間敗血症患者数の推移
120
30
肺炎(敗血症)
悪性新生物
100
20
心疾患
心疾患
80
60
10
肺炎(敗血症)
0
1975
20
0
1970
脳血管疾患
脳血管疾患
40
1980
1990
2000
2010
2020
2030
(年)
「2002年10月、SCCM+ESICM+ISFの合同カンファランス、Severe sepsis の死亡率を5年間で
25%低下させる」--国際的キャンペーン(Surviving Sepsis Campaign)を開始
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2025(年度)
柴田恵三他、日本臨床2004;62:2184
(1)高齢人口増加、(2)DMや悪性新生物合併による易感染性患者増加、(3)侵
襲性の高い検査、治療手技の増加、(4)耐性菌の増加
75
重症患者管理の歴史的変遷
(1) ローマ・ギリシャ時代(外傷・出血に対する観察・応急処置)
生体侵襲と生体反応
侵襲の伝達経路
手術前後の内分泌変動
ヒポクラテス(460~380 B.C.):重症度の把握(、創傷処置法
神経内分泌反応
侵襲時における生体反応として、
視床下部・下垂体・副腎系
(Hypothalamic-pituitaryadrenal axis : HPAA)と交感神
経系(Noradrenergic system)を
中心とする反応が知られてきた
(2)19世紀後半-20世紀前半(外傷性ショックに対する生理学的アプローチ)
第一次世界大戦の治療経験「traumatic toxemia」(Cannon):瀉血・切断
体液量変動がショックで確認された時期(Blalock)
第二次世界大戦では輸液・輸血療法で予後改善、
1980年代にサイトカインを主体とする免疫・炎症反応が加わる。
1990年代初頭、これら両反応に密接な連関(cross talk)が存在することが発見
侵襲に伴う全身反応とサイトカイン
侵襲後のメディエータの誘導と病態(CHAOS)
Bone RC,
Crit Care Med 1996;21:1125
(3) 20世紀後半- (ショックに対する分子生物学・細胞生物学的アプローチ)
種々のメディエータを介する過剰の生体反応が、MODSを惹起する。
生体防御反応制御の崩壊(微小循環障害、SIRSの概念とMODS)
免疫応答と炎症反応
免疫応答と炎症反応
The Dorsoventral Regulatory Gene Cassette spa ̈ tzle/Toll/cactus
Controls the Potent Antifungal Response in Drosophila Adults. Lemaitre
B, et al. Cell 86:973–983, 1996
グラム陰性桿菌
(緑膿菌)
O抗原
コアオリゴ糖
リピドA
「Toll 分子を介したシグナル系の障害によってショ
ウジョウバエがカビだらけになって死ぬ」
ヒトのホモログ Toll 様受容体(Toll-like
receptor;TLR)の発見
我々の感染防御機構は,病原体成分を直接認識
し,感染防御反応を誘導する病原体センサーを備
えている
自然免疫における病原体センサー.
細胞外の病原体は細胞表面に発現するTLRと小胞体にある
TLRによって認識される。
non-TLR 病原体センサー
Nod ファミリー分子群:細菌由来の
MDP(muramyldipeptide)、フラジェリ ンなどを認識
RIG-I(retinoic acid-inducible gene -I),
MDA5(melanoma differentiation-associated gene 5)といっ
たウイルス由来二本鎖 RNA セ ン サ ー
エンドトキシン(LPS)
リポ多糖(Lipopolysaccharide、LPS)とはグラム陰性菌細胞
壁外膜の構成成分であり 、脂質及び多糖から構成される物質
(糖脂質)である。LPSは内毒素(エンドトキシン
:Endotoxin)であり、ヒトや動物など他の生物の細胞に作用
すると、多彩な生物活性を発現する。LPSの生理作用発現は、
宿主細胞の細胞膜表面に存在するToll様受容体(Toll-like
Receptor、TLR)4を介して行われる。
76
全身性炎症反応症候群の原因疾患
重症急性膵炎
急性膵炎
大手術後
感染症
DIC
心筋梗塞
(芳賀克夫他、1995)
敗血症
骨髄性白血病
肺炎
腎不全
予定手術後のSIRSの期間と術後合併症との関係
重度外傷
SIRSの期間が長く
なると臓器障害を
起こす
80
70
60
50
全身性炎症反応症候群(SIRS)
術後感染症
40
術後合併症
30
以下の項目のうち,2つ以上を満たすものをSIRSとよぶ。
・体温
:>38℃または<36℃
・心拍数 :>90回/分
・呼吸数 :>20回/分 または PaCO2<32mmHg
・白血球数 :>12000/l、または<4000/l
または桿状球>10%含まれる場合
20
10
0
0
1-2
3-4
<5
SIRSの期間(日)
米国胸部疾患学会、Critical Care Medicine学会、1992
重症患者の病態
侵襲(出血、心筋梗塞、etc)
ショック
重症感染症、敗血症
ショック
SIRS
炎症性メディエーターの過剰反応
死亡
血管内皮細胞障害
末梢血管拡張
組織灌流圧低下
血管拡張性ショック
微小血栓形成
DIC
死亡
血管内皮
透過性亢進
微小循環障害
主要臓器の組織灌流障害
MOF
77
侵襲に対する生体反応
神経系と炎症反応
Cholinergic agonists inhibit HMGB1
release and improve survival in
experimental sepsis.
The cholinergic antiinflammatory pathway.
Kevin J. Tracey. Nature 420, 853-859,2002
Wang H, et al. Nature Medicine 10, 1216 – 1221 ,2004
免疫反応
神経系
内分泌系
LPS+AchとHMGB1
(AT:ムスカリンR拮抗薬、CT,ME:ニコチンR拮抗薬)
Achは濃度依存性にHMGB1産生量を減少させる。
炎症反応
凝固反応
ニコチンはHMGB1の濃度を下げる。また、投与
ニコチン濃度依存性に予後を改善する。
感染、侵襲による臓器不全の発生機序
感 染、侵 襲
高サイトカイン血症
SIRS
マクロファージの活性化
好中球の活性化
サイトカインの再誘導
Achは炎症反応を抑制する
呼吸・循環と酸素の運搬
MOF 症例における組織酸素代謝失調の機序
呼吸調節異常
血管自動調節機構の破綻
(maldistribution)
シャントの増大
閉塞性肺疾患、
気流抵抗の増大
拘束性肺疾患、
肺組織の減少
non-nutrient blood flow の増大
microthrombi
vasoconstriction
臓器への好中球
の集積
好中球による
臓器破壊
血管内皮細胞
障害
微小循環障害
による臓器破壊
生体防御
臓器不全
低酸素血症
(PaO2の低下)
nutrient blood flow の減少
leukocyte plugging
humoral mediators
cell swelling
低酸素症
(組織の酸素低下)
血管内皮障害
酸素摂取率の低下
細胞自体の障害
酸素供給量(DO2)= 動脈血酸素含量(CaO2)× 心拍出量(Q)
78
侵襲に対する生体の炎症反応を理解しよう!
全身性炎症反応症候群の原因疾患
重症急性膵炎
60歳男性、体重65kg,身長170cm
心臓手術が予定された。
手術は予想以上に難航し、手術時間は大幅に延長し
、総出血量も予想を遙かにこえていた。担当の麻酔
科医は、パーフェクトな管理おこない、術中・術後
の呼吸・循環動態は安定していた。
問題:
この症例の翌日の体重は、術前と比較して?
(1)減少している、(2) 変化なし(65k,g)、(3)増加している
急性膵炎
心筋梗塞
DIC
大手術後
感染症
腎不全
重度外傷
敗血症
骨髄性白血病
肺炎
全身性炎症反応症候群(SIRS)
以下の項目のうち,2つ以上を満たすものをSIRSとよぶ。
・体温
:>38℃または<36℃
・心拍数 :>90回/分
・呼吸数 :>20回/分 または PaCO2<32mmHg
・白血球数 :>12000/l、または<4000/l
または桿状球>10%含まれる場合
米国胸部疾患学会、Critical Care Medicine学会、1992
急性肺障害治療のストラテジー
ICUでの重症患者管理
1)呼吸障害
2)循環器系疾患
3)血液・体液・代謝障害
)血液 体液 代謝障害
4)感染症
5)多臓器不全
6)中枢神経障害
肺障害の原因除去、感染対策
他臓器障害の防止治療
組織酸素供給量の維持
循環管理
人工呼吸による肺保護戦略
戦
人工呼吸器使用の際に認識すべきこと!
*人工呼吸は病気を治さない。
*人工呼吸は肺を傷害する。
*人工呼吸はSIRSを惹起する。
*人工呼吸の目的は
最低限の換気と酸素化能を維持しながら、原疾患の治癒
が奏功するまでの時間を稼ぐこと。
79
まとめ
急性肺障害治療のストラテジー
肺障害の原因除去、感染対策
他臓器障害の防止治療
組織酸素供給量の維持
循環管理
重症呼吸不全の管理
人工肺
循環補助装置(ECMO)
薬物療法
1)シベレスタット
2)ステロイド
)
ド
肺保護戦略
酸素中毒防止
肺圧損傷防止
吸入酸素濃度<60%
最高気道内圧<30cmH2O
(急性期少量持続療法)
新たな治療戦略
エ ア ートラップ
O2
酸素化能改善
1)PEEP
2)NO吸入療法
3)腹臥位
4)体液管理
人工呼吸器管理
低一回換気法
1)腹部臓器指向型管理法
膜型 人口肺
a)腹部臓器血流を維持
ドブタミン、オルプリノン、PGE1
加 温器
b)経腸栄養の早期開始
補助循環管理
1) ECMOの導入
2) PCPSの導入
小児劇症型心筋炎に対し
PCPSを施行した症例の検討
O2
膜型人工肺
加温器
ロ ーラーポンプ
抗凝固剤
脱 血コントロ ーラ ー
症例2 : 4歳 男 身長106cm 体重16kg
推定循環血液量 1280ml
風邪様症状のため、近医を受診。翌日、症状の改善認められないた
め、再度近医を受診したところ、心エコーにて心機能低下がみられ
心筋炎の診断にてICUへ緊急搬送となる。
事前の血管確保を施行。入室6時間後にショックとなり小児用血液回
路にてPCPS導入。
大腿静脈よりの下大静脈脱血としたが
補助流量は1.5~1.6L/min/m2と不十分であった。
酸素需給バランスの改善目的に34℃の軽度低体温療法を
併用した。
遠心ポンプ
抗凝固剤
脱血コントローラー
腎不全の合併見られ、CHDFの併用を必要としたが
開始後45時間にてPCPSより離脱し軽快退室となった。
80
循環器系の管理
鹿児島大学病院ICU
年度別入室症例数の推移
入室患者数の年度別推移
S-Gカテによる循環動態評価、
不整脈管理(薬物、除細動、緊急ペーシング)
数)
人
(
循環補助装置(IABP、PCPS、VAD)
900
800
入室患者総数
700
600
500
400
70歳以上
エ アー トラップ
300
O2
膜型人口肺
200
9歳以下
100
加温器
ローラーポンプ
抗凝固剤
0
1990
脱 血 コン トロ ー ラー
ICU専従医+主治医+看護師カンファレンス
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
鹿児島大学ICUの年間死亡率
ICD(感染症管理医師), NST(栄養管理チーム), ME(臨床工学技士)
9.0
ICU専属医による24時間集中管理
スタッフ:3人、
5年目医師:4人
8.0
7.0
6.0
5.0
5
0
4.0
3.0
2.0
夜勤医師からの申し送り:8:00~8:20、カンファレンス:10:00~11:00
夜勤医師への申し送り:17:00~18:00
1.0
0.0
1990
日勤:8:00~18:00、遅出:10:00~20:00、夜勤:17:00~翌日11:00
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
Safer et al., Anesthesiology 1977:47:82
Harrison et al., Crit Care Med 1985: 13:349
81
ICUは決して快適な環境ではない
•集中治療にみえる陰り
手術、外傷、
気管内挿管・吸引
排液チューブ
精神的ストレス
侵害刺激
死への恐怖(窒息、四肢抑制)
騒音、明かり(昼・夜リズムがない)
言語によるコミュニケーション不足
家族との隔離
医療従事者への不信感
鎮痛・鎮静の目的
人工呼吸中の患者管理
精神庇護
1.気管挿管患者の特殊性
A. 窒息・死への不安・恐怖
B. 発声ができない(意思の疎通ができない)焦燥感
C. 異質な環境に対する不安・恐怖
D. 拘禁状態に対する不安・恐怖
“ICU症候群”とよばれる精神症状を呈することが多い
82
ICU入室患者のこころの悩み
死に対する恐怖
ICUにおける鎮痛・鎮静について
ドイツの大学病院ICU
鎮痛・鎮静の意義
精神的(死の恐怖)
身体的(呼吸循環系の負荷)
これらの侵襲から患者を護るために適切な鎮
痛・鎮静法が必要となる。
重症患者の鎮痛・鎮静法は、
呼吸・循環・体液管理などとともに重要
な全身管理の一環である。
病室から広い窓の外に美しい中世の町並みが見渡せる。
専門の精神科医を交えた精神的ケアーの充実
83
将来のICU患者管理
84
BLS ACLS
BLS・ACLS
永田悦朗
85
到達目標
AHAガイドライン2005に強調される内容を理解
して適切な心肺蘇生(特にBLS)ができる。
心肺蘇生法
一般市民に対しても、BLSについて指導できる。
永田悦朗
Science – based , evidence based guideline
ガイドライン2005
class
class Ⅰ
• 1974年に発表されたアメリカ心臓学会(AHA)による心肺蘇生
のための基準はCPRスタンダードとして、その後数度の改訂を
重ね、2000年に最新版のAHAガイドライン2000がCircuration
誌に発表された。このガイドラインは、国際的な標準化を目指
しており ヨ
しており、ヨーロッパ蘇生協議会を中心とした国際蘇生法連絡
パ蘇生協議会を中心とした国際蘇生法連絡
委員会(lnternatiol Liaison Committee on Resuscitation;ILCOR)
とAHAの協同で行われた。このガイドラインにはエビデンスに
基づいた記述を行うという基本姿勢が貫かれている。その後、
詳細な検証が進み、BLSの徹底改善のためのガイドライン変
更が2005年に行われた。エビデンスの確実性から蘇生のため
の処置や蘇生に用いられる薬物をクラス分類している。
class Ⅱa
class Ⅱb
臨床的意義
基づいた根拠
・絶対的に推奨できる
・すべての文献が有効性を支持している
・常に安全で絶対的に有用である
・文献の証拠価値は極めて高い
・積極的に施行すべき方法である
・level 1 以上の研究が 1 件以上ある
・推奨できる
・一般的に十分な証拠がある
・安全で臨床的に有用である
・ほとんどの文献が有効性を支持している
・第一選択の治療としてよい
・文献の証拠価値は高い
・推奨できる
・多くの文献が有効性を支持している
・安全で臨床的に有用である
・許容できる証拠がある
・代替治療法として用いてよい
class
indeterminate
class Ⅲ
・現時点では推奨される
・支持する文献が不十分である
・十分な証拠が集まるまで判断を保留する
・今後の研究課題である
・有害ではない
・高い level の研究が現在進行中である
・推奨できない
・有用性を示す証拠がない
・臨床的に有用とはいえない
・一部の文献が有害である可能性を示
している
・有害である可能性がある
86
BLS(Primary ABCD)
ACLS(Secondary ABCD)
• Basic Life Support (一次救命処置)
 Advanced Cardiovascular Life Support
• 心肺停止患者を治療し、安定化させ、蘇生さ
 二次(心血管)救命処置
せるのに用いられる一連の処置と手技
• AED(自動体外式除細動器)による除細動が
含まれる
 米心臓協会(AHA)による一連の救命処置法
米心臓協会(AHA)による 連の救命処置法
 心血管や脳血管障害の急性期対応も含む
 心肺蘇生法は、
BLS(一次救命処置)とACLSから構成される
心肺蘇生にける BLS と ACLS
BLS
搬送
状態の把握
救急隊への連絡
異物除去
BLSと生存退院
ACLS
BLSの
役割の拡大
BLS+心臓
モニタリング
簡単な器具を用いた
気道確保と換気(ポケッ
トマスク バ グマスク
トマスク、バッグマスク、
ラリンゲルマスク)
酸素吸入
静脈路確保
薬物療法
Variable
Adjusted Odds Ratio
Age < 75yrs
1.6
First Link-Early Access
4.4
Second Link-Bystander CPR
3.7
Third Link-Early Defib
3.4
Fourthb Link-ACLS
1.1
気管挿管
CPR(心肺蘇生)
除細動・ペーシング
AED(自動体外式
除細動器)
侵襲的モニタリング
( Stiel IG, et.al: N Engl J Med 2004; 351: 647-56)
87
意識状態の観察
BLS 手順
適度な刺激を与える
声をかける、肩をたたく、
皮膚をつねる
体動なし、または反応なし
緊急番号に通報、AED
気道確保、呼吸の確認
人工呼吸
開眼するか?
発語があるか?
10秒以内に明確な脈拍を
感じることができるか
胸骨圧迫:人工呼吸=
無ければ助けを求め、
緊急番号に連絡する
30 : 2
除細動器の到着
5サイクル
脈拍チェック
呼吸の観察と判断
① 見る
心肺蘇生法開始
気道の閉塞と気道の確保
気道閉塞
気道確保
胸が動いているかどうか
眼で見る
② 聴く
相手の鼻や口に耳を近
づけて呼吸音を聴く
③ 感じる
頬に吐く息の気流や温度
を感じる
呼吸状態の観察が先か? 気道確保が先か?
口から肺胞に至るまでの気道で最も閉塞しやすい部位は咽喉頭部
(意識がなくなると下顎、舌、首の筋力が低下し、舌根が咽頭に落ち込む
異物もひっかかりやすい)
88
気道確保の方法
下顎挙上法
頭部後屈あご先挙上法
人工呼吸の方法
口対口人工呼吸
口対口鼻人工呼吸
吹き込み量: 6~7 ml / kg
吹き込み時間: 1 秒
最も一般的な気道確保の方法
最も確実な気道確保の方法
(一般市民が行う第一選択の方法)
(頚椎損傷が疑われる場合には適応)
注意点: できるだけ胃に空気を入れない
Avoid Hyperventilation
Avoid Hyperventilation
人工呼吸を1回につき1秒かけて行う(classⅡa)。
• 過換気は死亡率を上げる。
人工呼吸を1分間に30回するグループと1分間に12回するグ
人工呼吸を1分間に30回するグル
プと1分間に12回するグ
ループで、胸腔内圧、冠還流圧、蘇生率を調べた結果、過換
気は明らかに蘇生率を下げている。
(Aufderheide, Circulation 2004)
「胸の上りがみえる」ように、十分な1回換気量を
送り込む(classⅡa)。
速い、または強い人工呼吸は行わない。
成人であればCPR中の1回換気量は6~7ml/kg
で事足りる(classⅡa)。
89
胸骨圧迫心臓マッサージの要点
胸骨圧迫心臓マッサージの拍出機序
手を置く場所 : 胸骨と乳頭を結ぶ線の交点
圧迫する強さ : 胸骨が 3.5~5 cm 下方に圧迫される強さ
(小児の場合は胸郭の厚さの 1/3 の深さ)
圧迫回数 : 1 分間に 100 回の速さ
圧迫と減圧の比率は : 1:1(圧迫 0.3 秒、減圧 0.3 秒)
姿勢 : 肩が相手の真上に来るようにして真下に押す。肘は伸ばす。
(a) 心臓ポンプ説
(b) 胸腔ポンプ説
乳児・小児の心臓マッサージ
乳児の心臓マッサージ
小児の心臓マッサージ
(1 歳以上 8 歳未満)
Push hard
適切な胸骨圧迫
胸骨が 3.5~5
3 5~5 cm 下方に圧迫される強さ
適切に行われても最大収縮期血圧は60~80mmHg
・圧迫部位は乳頭を結んだ線から
1 横指下
・圧迫部位は成人と同じ
・片手で圧迫
・2 本の指で圧迫
90
Push fast
Push fast
1)冠還流圧は胸骨圧迫により経時的に上昇
15 mmHg
2)胸骨圧迫中断により冠還流圧はゼロになる。
中断でゼロ
• 1分間に80回未満の胸骨圧迫では救命率低下。
Coronary Perfusion Pressure ( Ao diastoric – RA diastoric )
(Evy GA: Circulation 2005; 111: 2134-42)
Allow full recoil after each compression
Coronary Perfusion
pressure
25
15
Allow full recoil after each compression
Cerebral Perfusion
pressure
• 有効な胸骨圧迫
20
10
15
10
圧迫時
5
心拍出量(適切時でも正常の1/4)
5
0
0
100% 75% 100%
100% 75% 100%
胸壁の戻し
心臓への静脈還流の確保
% Decompression
脳環流圧の確保
( Yanopoulos D: Resuscitation 2005; 64: 363)
91
Minimize interruption in chest
compression
• 胸骨圧迫の中断は冠還流圧をゼロにする。
中断が10秒を超えると除細動成功の可能性が極端に落ちる
CPR
• なぜ、30:2なのか?
胸骨圧迫回数を増やす。
過換気となる可能性を低くする。
• なぜ、5サイクルなのか?
呼吸や脈の確認
人工呼吸
除細動
気管挿管
胸骨圧迫の質の低下とテンポの低下を防ぐ
BLS 手順
理想的なBLS
1)Push hard, push fast: 100/min
強く、早く!!!!
2)Allow full recoil after each compression
毎回圧迫後は完全に胸を再膨張させる
3)Minimize interruption in chest compression
心マを休まない(10秒以内で)
4)Avoid hyperventilation
過換気を避ける
体動なし、または反応なし
緊急番号に通報、AED
気道確保、呼吸の確認
人工呼吸
胸骨圧迫:人工呼吸=
10秒以内に明確な脈拍を
感じることができるか
30 : 2
除細動器の到着
5サイクル
脈拍チェック
92
脈がない
除細動の適応
・CPR の継続
・モニターによる心電図診断
• 無脈性心停止時の心電図波形
VF / pulseless VT
VF / pulseless VT 以外
除細動を試みる(1回)
Asystole か PEA
“ただちに!”
心室細動
心室頻拍
無脈性電気活動
心静止
(ventricular fibrillation, VF)
(ventricular tachycardia, VT)
(pulseless electrical activity, PEA)
(asystole)
院外発症の突然の心停止の40% で VF が認められる。
CPR を継続する
10秒以上胸骨圧迫を中断しない、5サイクルごとに循環の評価
心室細動とは?
(Zheng ZJ, Circulation.2001 )
除細動とは?
正常
心室細動
禁忌
心静止
93
VF による心停止から除細動までの時間
心室細動と経過時間
100
80
生存率
除細動処置の遅延に伴い
生存率は 1分当り約10%
生存率は、1分当り約10%
減少する。
60
(%)
40
20
0
5
10
15
20
25
除細動までの時間 (分)
VF による心停止から除細動までの時間
100
適切なCPR
80
生存率
除細動処置の遅延に伴い
生存率は、1分当り7~10%
生存率は、1分当り7
10%
3~4%
3
4%
減少する。
60
(%)
40
Defibrillation Success
院外心停止時のFirst Shock Results
VF のまま
19%
非VF に移行
881%
%
有効血流のあるリズム(perfusing rhythm)
0%
(Kern K: Circulation 2002; 105: 645-0)
20
0
除細動直後は、必ずしも血圧を生じてはいない
5
10
15
20
除細動までの時間 (分)
25
除細動後は速やかなCPRが必要
94
除細動器の電流波形
自動体外式除細動器
(AED: automated external defibrillators)
Monophasic:
40
単相短縮指数型波
1
単相減衰正弦波
2
(Monopfhasic
Dumped Sign)
30
Current (A)
20
10
0
-10
-20
40 0
5
10
15
20
25
30
35
40
25
30
35
40
25
30
35
40
Time (ms)
30
Curreent (A)
1
(Monopfhasic
Truncated)
20
10
0
-10
-20
0
5
10
15
20
Time (ms)
Biphasic:
40
Biphasic
Current
二相短縮指数型波
(Biphasic
Truncated)
30
Current (A)
Monophasic
Current
20
10
0
-10
-20
0
5
10
15
20
Time (ms)
二相性除細動器の有用性
二次 ABCD 評価を行う
・A : 器具を用いた気道確保(気管挿管など)
100
・B : 気道確保、換気、酸素化の確認、酸素投与
・C : 静脈路確保 → アドレナリン製剤の投与、
成功率 80
(%)
200~360J 単相性
60
40
58
94
67
ーエピネフリン 1mg iv、3~5 分毎に繰り返す
98
150J 二相性
20
0
抗不整脈薬、緩衝薬、ペーシングを考慮する
VF / pulseless VT 以外の場合
VF / pulseless VT の場合
ーバソプレッシン 40 単位 iv(bolus) (一回のみ)、あるいは
ーエピネフリン 1mg iv、3~5 分毎に繰り返す
除細動
1回のみ
除細動
3回以下
Schneider T. et al
1999
(バソプレッシンを投与しても効果がなかった時も同様)
・D : 鑑別診断:可逆的な治療可能な原因を検索し、治療する
95
PEAのアルゴリズム
VF/pulselessVTのアルゴリズム
• PrimaryABCDsurveyの後、VF/pulselessVTと判断された場合は、ただちに
360J(二相性では150J )で電気的除細動を1回行う。
• 除細動されない場合はSecondaryABCDSurveyへ進む
• エピネフリンは1mgを3~5分ごとに静注し、投与後1分以内に電気的除細
動を行う。
動を行う
• バノプレッシンはVF症例での自己心拍の再開や短期予後でエピネフリンと
同等に有用である(クラスⅡb)。エピネフリンよりも半減期が長く、40単位を
1回静注する。
• またアミオダロンは電気的除細動抵抗性のVF/pulselessVTでリドカインより
も有効であることがいわれている。
Asystoleのアルゴリズム
• Asysto1eが確認された患者の生存率は極めて低く、通常は1~2%にすぎ
ない。しばしば、治療可能な心電図波形というよりはむしろ死亡の確認であ
ることが多い。
• アルゴリズムの内容は、PrimaryABCDSurveyでAsystoleが確認された場合
はすぐにSecondaryABCDSurveyに進むのではなく、本当にAsystoleである
のか 電極や誘導の変更を行い VFが隠れていないかを確認することを
のか、電極や誘導の変更を行い、VFが隠れていないかを確認することを
推奨している。
• まず、蘇生を試みてはいけない(DNAR)患者でないかをしらべる。薬物投
与はPEAの治療と同じで、径皮ぺ一シングも考慮される。
• 適切な蘇生を行ってもAsystoleが持続する場合は、蘇生の中止を決断する
が、その際、BLS,ACLS(正しい気管挿管、酸素化、換気、薬物投与)が適
切に行われ、VFでなく、濁水や低体温でもないことが条件である。
• 心停止患者において、心電図がVF/pulselessVTでもAsystoleでもないその
他をPEAと分類する。
• PEAは心電図で判断するのではなく、常に脈とともに判断するものである。
PEAは心臓が動いているかどうかは問題にしていない。
• PrimaryABCDSurveyでPEAと判断されたら即座にSecondaryABCDSurvey
へと進む。PEAはAsystoleと異なり復活する可能性がある。
PEAをきたす原因疾患
Hydrogen ion(アシドーシス)
Tamponade(心タンポナーデ)
Hypovolemia.(循環血液量の減少)
Tension pneumothorax(緊張性気胸)
Hyper/Hypo K(高K、低K)
Thrombosis coronary(急性冠症候群)
Hypothermia(低体温)
Thrombosis pulmonary(肺梗塞)
Hypoxia(低酸素血症)
Tablet(薬物中毒)
ガイドライン2005
• BLSとACLSの統合が強調される。
二次気道確保、点滴確保、輸液開始
アドレナリン投与の時期については、
primaryABCD とsecondary ABCD の
境目を明確にする必要はない。
96
救急蘇生法と法的問題
救急蘇生法は、基本的には法的に義務のない第三者が他人に
対して心肺蘇生法などを実施する関係であることから、民法第 3
編第 3 章「事務管理」(第 697 条~702 条)に該当し、また特に救
急患者の身体に対する「 急迫の危害」 をのがれさせるために実施
する関係になることから、第 698 条の「緊急事務管理」に該当する
と考えられる。
と考えられる
従って、法的には故意または重過失がなければ救急蘇生法の実
施者が救急患者などから責任を問われることはないとされている。
交通事故現場における市民による応急手当促進委員会報告書
総務庁長官官房交通安全対策室
平成 6 年 3 月
97
感染防止対策
今林 徹
98
■人工呼吸器関連肺炎(VAP)防止対策
■人工呼吸器関連肺炎(Ventilator Associated Pneumonia : VAP)とは?
定義
入院時や気管挿管時に肺炎がなく、気管挿管による人工呼吸管理開始後 48~72 時間以降に発症
する肺炎。(肺炎患者が挿管になり人工呼吸器管理となった場合は含まない。)
発症時期による分類
1) 早期(early onset)VAP:気管挿管 4 日目以内
口腔・咽喉頭細菌叢が原因となる
2) 晩期(late onset )VAP:菌交代によるグラム陰性桿菌や MRSA などが原因となる
VAP 対策を怠ることは、肺炎の発生を介し、原疾患の治療を困難にするのみならず患者予後へと直
結する可能性が高く、VAP 合併患者の死亡率は 30~76%と報告されている。従って、人工呼吸器管
理時においては細心の注意が必要である。
■VAP 発生の機序
(1) 誤嚥
1) 口腔内の唾液や分泌物、鼻腔・副鼻腔の分泌物、口腔鼻腔内の細菌が気管内チューブを伝
わり気管に流入
2) 胃の内容物、細菌が胃管を伝わり気管に流入
(2) 吸入
挿管チューブから菌を直接気管に吸い込むこと。その経路としては
1) 不潔な吸引操作
2) 人工呼吸器回路(加温加湿器も含め)の汚染
3) アンビューバック、ジャクソンリース回路の汚染
(3) その他可能性のある要因
1) 血行性遠隔転移
2) 患者側の免疫力低下
院内肺炎の発生機序
宿主
因子
抗菌薬
その他の薬剤
口腔・咽頭
への定着
手術
侵襲的
器具
汚染された
呼吸の治療や
検査・麻酔機器
胃への定着
誤嚥
菌血症
汚染したエア
ロゾルの発生
吸入
肺防御機構の破綻
交叉感染
手やグローブ
不適切な
器具の
消毒滅菌
汚染され
た水・液体
トランスロ
ケーション
肺 炎
CDC Guideline for Prevention of Healthcare Associated Pneumonias 2003
■VAP 防止を主眼とする(院内)感染対策
(1) 手洗い・手指消毒の徹底
MRSA、緑膿菌を始めとした院内肺炎の原因菌はその多くが接触感染の形式をとる。従って、
99
VAP を防止する上で最も重要なことは、医療者の手洗い・手指消毒である。
(2) その他の標準予防策ならびに感染経路別予防策の遵守(本マニュアルを参照)
(3) 誤嚥の防止
1) 定期的な口腔内・咽頭の清拭を行う。
2) カフ上部の貯留物を吸引するための、側孔付きの気管内チューブを使用するのが望ましい。
3) カフ圧計を用い適正なカフ圧を保持する。虚血による障害防止には 25mmHg 以下が望まし
い。
4) ストレス潰瘍予防薬のルーチンの投与は必要としないが、ストレス潰瘍の危険が極めて高い
患者や明らかな上部消化管出血が存在する患者では H2 ブロッカーを使用する方がよい。
5) 半座位での人工呼吸管理が有効である。
6) 経管栄養中は消化管運動やチューブ先端の位置確認をし、注入時には可能であれば上体を
30-40 度挙上させる。
(4) 吸入の防止
1) 人工呼吸器回路は患者ごとに交換する。一方、1 週間以内での定期的交換は行わない。(近
年においては、回路は肉眼的または明らかに汚染されている場合に交換するのみで良いと
の報告がある)
2) 成人症例では加温加湿器に比べて肺炎の合併率が低いため人工鼻を使用する(人工鼻の説
明については後述)。小児例においては人工鼻の効果は不明なため、加温加湿器の使用が
第一となる。
3) 気管内吸引操作は清潔操作とし、必要最小限に努める。吸引チューブを消毒液に浸漬して、
複数回使用すると消毒液のコンテイナーが細菌のリザーバーとなるため、吸引チューブは一
回ごとに使い捨てにする
4) 吸引チューブの交換が不要な閉鎖式吸引システムの使用が推奨される。
5) アンビューバックやジャクソンリース回路も細菌のリザーバーとなるため、これらは患者ごと
に、しかも使用期間を決めて交換する。
6) 加温加湿器使用時においては、可能であれば水の補給は閉鎖式のシステムを用いる。
7) ネブライザーの適応となるのは気管支拡張薬だけである。喀痰融解薬や去痰薬などは有効
性が不明なだけでなく、人工呼吸器の呼気弁や呼気流量計の作動に障害を及ぼす。
8) 気管支ファイバーによる日常的な吸痰は行わない。但し、無気肺の原因となっている分泌物
の除去においては気管支ファイバーは有効である。
(5) 術後肺炎の防止策について
1) 術後は最適な除痛及び早期離床を行い、気道分泌物の喀出を助ける。
2) 術後肺炎のリスクの高い患者では術前にインセンティブスパイロメトリまたは深呼吸訓練を行
う。
2) 上体を 45°挙上した体位で人工呼吸管理を行う。
3) 経管栄養の目的以外の経鼻胃管チューブは出来るだけ早期に抜去する。
■人工鼻(Heat and Moisture Exchanger: HME)とは?
人工鼻とは人工呼吸器回路と気管内チューブの間に装着して使用する物品であり、患者の呼気に含
まれる熱と水蒸気を補足し、人工呼吸器より供給される吸気ガスを加温・加湿することにより加温加湿
器を不要とする。近年においては内部構造に細菌・ウイルスを通さない素材を用いることにより、病原
体のフィルターとしての役割も兼ねる。
■本院集中治療部における管理法:2004 年 11 月時点
100
1) 全ての操作に先立ち、十分な手洗いを施行する。
2) 人工呼吸器回路は患者ごとに滅菌済みの回路を使用し、その組み立て時にはディスポの手袋を
用いる。人工鼻使用症例では人工呼吸器回路及びアンビューバックの交換は基本的に行わない。
(人工鼻は1日1回交換)
3) 挿管が必要な場合、気管内チューブは側孔付きのものを用いる。
4) 成人例においては、バクテリアフィルター付きの人工鼻と閉鎖式吸引セットを組み合わせて用い、
気管内と外気との接触を防ぐ。
5) 小児例においては加温加湿器を第一選択とし、人工呼吸器の吸気側回路並びに呼気側回路にバ
クテリアフィルターを用い、人工呼吸器の汚染を防ぐ。吸引に先立ち十分な手洗いを施行し、短時
間で終了するよう心がける。
6) 気管支拡張薬投与時以外ネブライザーは用いない。
7) 一日 2 回以上の定期的な口腔ケアを行う。
■カテーテル関連血流感染
CRBSI (Catheter-related bloodstream infection)
中心静脈留置(CV)カテーテルに関連した血流感染対策
基本原則
病原体
診断
血液培養
治療
挿入時の注意点
刺入部皮膚管理
高カロリー輸液
使用器具
輸液ラインの管理
薬剤混合法
心内膜炎やその他の全身播種性感染を起こしうる。
■基本原則
不必要な CV カテーテル留置は決して行わない。
経過中 CV カテーテル留置の必要性を繰り返し評価し、不要ならすみやかに抜去する。
■主な病原体
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌が代表的)、黄色ブドウ球菌、カンジダ
(この 3 菌種で 70~80%を占める)
感染経路と要因
*汚染された手指
*挿入時の不潔操作
*挿入部位の不潔管理
①挿入部の汚染
*汚染された手指
*ポート・ラインの不潔操作
②接続部の汚染
③薬液の汚染
*汚染された手指
*汚染された環境
皮膚の常在菌
感染
④フィブリン
*汚染された
手指など
■診断
101
1) 発熱や全身状態の変化など、感染を疑う所見
2) カテーテル先端培養で(一定量以上の)菌を検出、もしくはカテーテル出口部の感染所見を伴い培
養で菌検出
3) 肺炎や尿路感染・術後の創部感染など、カテーテル以外の感染巣の除外
4) 血液培養で2)と同じ菌を検出
■血液培養の方法と留意点
発熱等の感染症を疑う所見を認め、CRBSI の可能性を否定できない場合
1) 末梢静脈から1セットおよび CV カテーテルから1セット(好気性・嫌気性のボトル各1本、計4本)、
乳幼児は小児用ボトルを計2本の血液培養を提出。
2) 可能な限り最適量の血液(8-10 ml、乳幼児は 1-3 ml)を採取する。
3) 培養ボトルに血液を入れる前にアルコール綿でボトルの蓋を拭く。
4) 血液培養で菌が検出されれば、カテーテルを抜去してカテーテル先端を培養に提出する。
5) CRBSI が疑われ抜去する場合は最初から「カテーテル培養」を同時に行う。
6) 血液培養の結果を待たずとも、CV カテーテルが不要だと判断された場合は、即抜去して培養に提
出し、末梢静脈カテーテルへの変更を行う。
【ピットホール】
1) 動脈血が静脈血よりも菌の検出率が優れているというデータはない。
2) CVカテーテルのみからの血液採取は菌が検出されたとしても血流感染を起こしているかの判断が
難しいため、原則として行わない。
3) 培養ボトルの表面は無菌ではない。
■CRBSI の治療
1) 「カテ抜去+全身的抗菌薬投与」が基本
2) 標準的な抗菌薬の投与期間の目安
①コアグラーゼ陰性ブドウ球菌:カテ抜去より5~7日間(第一選択薬 VCM)
②黄色ブドウ球菌:血液培養陰性化より2週間(第一選択薬 MSSA→CEZ;MRSA→VCM または
TEIC)
③カンジダ属:血液培養陰性化より2週間(第一選択薬 FLCZ または MCFG)
④グラム陰性桿菌およびその他の菌:カテ抜去より10~14日間
3) 黄色ブドウ球菌菌血症の場合は心内膜炎・腸腰筋膿瘍、カンジダ血症の場合は眼内炎の合併症
に留意し、これらの感染巣が見出された場合は抗菌薬投与の延長を考慮する。
4) 中心静脈カテーテル挿入に伴う予防的抗生物質投与は推奨されない。
102
■カテーテル挿入時の注意点
1) 施行前の手洗いは必須である。
術者および介助者は処置前に目に見える汚れがなければ擦式消毒用アルコール製剤を用いて手指
消毒を行う。目に見える汚れがある場合は、先に流水で手を洗う。
2) マキシマル・バリア・プレコーション
滅菌手袋、長い袖の滅菌ガウン、マスク、帽子と大きな清潔覆布(ドレープ)(100×120cm)を用いる。本
院においてはこれらがセットとして供給されている。標準的バリアプレコーション(滅菌手袋と小さな覆
布)のみで行うべきではない。
3) 部位の選択
感染率は鎖骨下静脈<内頸静脈<大腿静脈の順であるが、気胸などの重大な合併症防止の面から
は内頚静脈穿刺が望ましい。大腿静脈は、何らかの理由により他の部位が選択できない場合に限定
する。
4) 刺入部の消毒
① 10%ポピドンヨード(商品名 イソジン液)あるいは 0.5%グルコン酸ヘキシジンを使用する。刺入部
から外へと円を描くように2 回行う。
② 10%ポピドンヨードを使用するときは消毒効果を得るために十分に乾燥させる。消毒範囲は広めに
することを心がける。
③ 挿入前に挿入部位を清拭もしくは石鹸などで洗浄する。穿刺に先立って局所の剃毛はしない 。除
毛が必要であれば、医療用電気バリカンなどを用いる。
④ ポピドンヨードで消毒後、ハイポアルコールを用いると消毒効果が失われるので行ってはならない。
■カテーテル挿入中の刺入部皮膚管理
1) 消毒は 10%ポビドンヨード(商品名 イソジン液)を用いる。抗生物質含有軟膏・ポビドンヨードゲル
(商品名 イソジンゲル)は用いない。
2) ドレッシングは滅菌されたガーゼ型ドレッシングまたはフィルム型ドレッシングを使用する。
3) ドレッシング交換の頻度はガーゼ型の場合、週に 2~3 回程度、フィルム型の場合、週に 1 回程度、
曜日を決めて定期的に行う。
■高カロリー輸液を行う際の原則
1) 栄養管理が必要な場合には、可能な限り経腸栄養を使用する。
2) 高カロリー輸液製剤への薬剤の混合は、可能な限り薬剤部で無菌環境下に行う。
3) 高カロリー輸液を投与するにあたっては、混合する薬剤の数量を最小化し、回路の接続などの作
業工程数を最小化する。
4) 高カロリー輸液製剤は、混合後 24 時間以内に投与を終了する。調整後の製剤は室温では保存し
ない。保存する場合には必ず冷蔵庫を用いる。
■使用器具について
1) カテーテルの内腔数は必要最小限となるようにする。
2) 3カ月以上の長期留置が予想される場合には、長期用 (Broviac catheter、Hickmann catheter) を
使用すべきで、より長期間の留置が予想される場合には皮下埋め込み式カテーテルの使用を考慮
する。
3) PICC (peripherally inserted central venous catheter) は肘静脈から中心静脈へと挿入するカテーテ
ルで、挿入時の合併症が少ないことが利点とされている。感染率に関しても通常の中心静脈カテー
テルに比し上昇させないとされる。適応例では使用を考慮する。
■輸液ラインの管理
103
1) 輸液ラインを扱う前に擦式アルコール消毒剤による手指消毒を行う。
2) 輸液ラインを交換する際は、交換直前に組み立てる。可能であれば一体化型の輸液ラインを用い
る。
3) インラインフィルターを使用する。
4) 中心静脈ラインを血液製剤や薬剤投与など、多目的に使用することは極力避ける。
5) 三方活栓は手術室や ICU 以外では中心静脈の輸液ラインには組み込まない。
6) 輸液ラインとカテーテルの接続には消毒用エタノールを用いる。消毒用エタノールによる厳重な消
毒操作の後、接続する。
7) 三方活栓から測注する場合は消毒用エタノールによる厳重な消毒を行う。
8) 輸液ラインの交換は曜日を決めて週 2 回定期的に交換する。(閉鎖式輸液ラインは週 1 回で可)
9) 脂肪乳剤の投与に使用した輸液ラインは、使用後すみやかに交換する。
10) ヘパリンロックは避ける方がよい。
11) 定期的にカテーテルを入れ替える必要はない。
12) カテーテルが不要と判断された場合は直ちに抜去する。
13) ルート類、コード類は可能な限り床を這わせない。
■薬剤混合法(ミキシング)
1) 中心静脈からの輸液剤は薬剤部の管理の元にクリーンベンチ内で無菌的に調剤するのが基本で
ある。
2) 病棟で混合操作をするときは、点滴準備台をアルコールで清拭消毒し、手指衛生の後、マスク・非
滅菌手袋を着用して行う。
3) 注射針、針装着部には触れない。触れた場合は交換する。
4) 注射剤のゴム栓穿刺部には触れない。触れた場合はアルコールで消毒する。
5) 混合場所は、独立した部屋で汚染区域と交差しない場所に設置するのが望ましいが、困難な場合
は病棟内で清潔な器具や清潔操作を行う専用スペースを決め、使用後の器材や汚染した医療従
事者と交差しないように配置する。
6) ミキシングに使用した手袋を、継続して点滴ライン交換などベッドサイドで使用しない。
■参考文献
「国立大学医学部附属病院感染対策協議会 病院感染対策ガイドライン」
「感染症診療マスターブック 一山 智・編 文光堂」
「病院内感染対策マニュアル一山 智・監修 飯沼由嗣・編 文光堂」
■末梢静脈カテーテルの管理
■挿入部位の選択
上肢は下肢と比較し、静脈炎の感染リスクが低いため、上肢への挿入がのぞましい。上肢の中では、
上腕や手首より、前腕が最も感染のリスクが低い。
① 固定が不安定な部分であると、微生物の侵入が起き易いので安定して固定できる部位を選択す
る。
② 長期に繰り返し挿入が必要な患者や小児の場合は、基本的に末端から使用する。
■カテーテル挿入時の注意点
104
① 擦式消毒用アルコール製剤を用いて手指消毒を行うか、もしくは抗菌性石鹸と流水による手洗いを
する。
② 清潔な未滅菌手袋を着用する。
③ 消毒用エタノールまたは、10%ポピドンヨードで挿入部位の皮膚の消毒を行う。10%ポピドンヨード
の場合、2~3分程度乾燥するまで待つ。
④ できる限り細径のカテーテルを選択する。
⑤ カテーテル挿入は清潔操作で行う。
■カテーテルの固定方法
① 滅菌透明ドレッシング剤で刺入部が観察できるものを選択する。
② ドレッシング材を定期交換する必要はないが、剥がれたり、濡れたりしたときは交換する。
③ 刺入部を中心に密着させるように固定し、点滴ルートが可動しないように補強する。
■末梢静脈カテーテルの管理
① 輸液ラインの交換頻度
・ 輸液ラインは 72 時間から 96 時間以内に交換することが望ましいが、末梢血管が極端に出にくい患
者で、静脈炎がないことが確認できれば、7日までは留置可能である。
・ 小児の場合は、静脈炎の徴候や感染の徴候がない場合には定期交換はしなくてもよいが、静脈炎
や血管外漏出の発生を早期に発見できるように、十分観察を行う。
・ 血液製剤・脂肪製剤を輸液した場合は 24 時間以内に輸液ラインを交換する。
② 挿入部の観察
・ 静脈炎の症状(発赤・腫脹・圧痛・熱感)や・硬結・浸出液を観察する。
・ 上記の症状があれば直ちに抜去する。
カテーテル入れ換え時はルートも新し
いものに交換しましょう。
交換時期でなくても静脈炎の徴候や
点滴漏れが生じたら直ちにルートを
交換しましょう。
③ 三方活栓の取り扱い
・ 閉鎖式輸液システムを使用し、三方活栓の使用は最小限度とする。
105
・ 三方活栓使用時は、擦式消毒用アルコール製剤を用いて手指消毒を行い、非滅菌手袋を着用し清
潔操作で行う。
・ 三方活栓にルートを接続するときは、三方活栓内に残存する薬液を廃棄し、三方活栓だけでなく、
ハブの周囲も消毒用エタノールで消毒する。
・ 三方活栓の蓋は必ず単回使用とする。
④末梢静脈ルートのロックの使用
・ ヘパリンロックは原則として行わない。
・ ルートの維持は生食ロックで行う。
ヘパリンは CNS(コアグラーゼ陰性ブド
ウ球菌)の付着を増加させるので使用を
避けましょう
ロックにへパリンと生食どちらを使用し
てもルートの開存率や感染率に差はあ
りません。
■手術部位感染(SSI)対策
■はじめに
感染のリスクの高い「手術」という医療行為においては、100 %感染を防ぐ方法は現在無く、少な
からず術中・術後感染の上に加療が施行される。そのリスクを低コストで、最小限に抑えることが
重要であり、必要な周術期の手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)対策について、CDC の
Infection Control and Hospital Epidemiology Guideline for Prevention of Surgical Site Infection,
1999 をもとに指針を記す。
■術後感染症の分類
外科手術で対象とする「手術部位感染(surgical site infection)」とは切開部感染と臓器/腔感染
のことをさし、「創外感染(手術部位以外の感染)」または「遠隔臓器感染症」とは呼吸器感染、尿
路感染、カテーテル感染を含め手術補助療法によって発症してくる感染症を意味する。日本化学
療法学会「術後感染発症阻止抗菌薬の臨床評価に関するガイドライン-1997 年版-」では、これ
らすべてを含めて『術後感染症』と考えるべきであるとしている。しかし、これは日本での一般的な
考え方であり、欧米では術後感染とは「手術部位感染」のみを指し、術後感染発症阻止抗菌薬の
効果を多くは「手術部位感染のみの防止効果」として評価している。
106
表1 術後感染の分類
手術部位感染(Surgical Site Infection)
手術創感染
切開部表層
切開部深層
手術対象臓器/腔の感染
手術部位以外の感染
呼吸器感染
尿路感染
カテーテル感染
薬剤関連性腸炎など
術後耳下腺炎術後胆嚢炎
表2 手術創の分類
classⅠ/清潔:炎症がなく、気道・消化器・生殖器・未感染尿路に到達しない非感染手術創。
classⅡ/準清潔:管理された状態で気道・消化器・生殖器・尿路に達した異常な汚染のない手術
創。
classⅢ/不潔:偶発的新鮮開放創。無菌手技に重大な過失のある手術創。あるいは胃・腸管か
らの著しい腸液の漏れ、内部に非化膿性の急性炎症のある切開創。
classⅣ/汚染-感染:壊死組織が残る古い外傷、感染状態または内臓穿孔のある手術創。
■手術部位感染への危険因子と予防措置
手術部位感染を減少させる方法は術後感染発症阻止抗菌薬の使用法・選択に留まるもので
はない。患者の合併症、消毒、手術室環境、医療従事者の消毒・感染管理など、手術全体に注意
を払う必要がある。
1.
患者の特性
a. 糖尿病:手術後 48 時間以内の血糖値が 200 mg/dl 以上では SSI 発症の危険性が増大する。
周術期、持続静注インスリン投与により 110 mg/dl 以下に血糖を保つことによる生存率の改善
効果も報告されている。
b. 喫煙:喫煙は SSI の重要な危険因子である。心臓手術後の SSI に対しては、現在喫煙している
ことが独立する危険因子である。手術の 30 日前には禁煙するようにする。
c. ステロイド投与:クローン病では術前ステロイド投与患者の SSI 発症率が高いとの報告はある
が、関係なしとの報告も散見される。
d. 栄養失調:栄養状態の改善は SSI の防止手段だけでなく、術後合併症の減少効果がある。
e. 術前の黄色ブドウ球菌の鼻腔内定着: 黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌と SSI 発症との間には顕
著な関連がある。しかし、ムピロシンによる除菌の SSI 危険性の低下に対する効果については
確定していない。
f. 周術期の輸血:血液製剤を必要とする手術患者に SSI 発症減少の手段として投与を中止する
科学的根拠はない。
表3 手術部位感染発症の危険性への患者・手術の影響因子
患者
手術
年齢
手洗い時間
栄養状態
患者の皮膚の消毒
糖尿病
術前の剃毛
107
喫煙
術前の皮膚の準備
肥満
手術時間
離れた部位に同時に存在する感染
術後感染発症阻止抗菌薬の投与
微生物の定着
手術室の換気
免疫反応の変化
手術器機の非適切な滅菌
手術前入院期間
手術野の異物
ドレナージ
手術手技
2.手術上の特性:手術前の問題点
a. 手術前の除毛
手術前の除毛はいかなる方法でも SSI 発症率増加に結びつき、除毛は行わない。除毛の必要が
ある場合には術直前に専用のクリッパー(バリカン)にて行う。剃刀は使用しない。除毛の有無・方
法・時期と手術部位感染率の関係は表4のとおり。
表4:除毛の有無・方法・時期と手術部位感染率の関係
時期不定
24 時間
直前
以上前
脱毛剤使用または除
0.6%
毛しない
かみそりで剃毛
5.6%
電気クリッパー
3.1%
1.8%
7.1%
>20%
4.0%
(前夜)
b. 手術室での患者皮膚消毒
グルコン酸クロルヘキシジンもヨードホールも有効である。クロルヘキシジンの方が皮膚菌数の
減少が顕著であり、一回の使用でも持続効果が大きい。またクロルヘキシジンは血液や血清蛋白
で不活化されないが、ヨードホールは不活化される。
c. 術者の術前の手洗い消毒
適切な消毒薬(アルコール、クロルヘキシジン、ヨードホール)で肘まで手洗いする。爪を短く保
ち、付け爪はしない。
d. 感染・定着のある手術室職員の管理
排膿のある皮膚疾患を持つ外科系職員は治癒するまで業務からはずす。
e. 術後感染発症阻止抗菌薬(AMP:antimicrobial prophylaxis)投与
AMPは組織を無菌にするための物ではなく、手術中の汚染微生物を宿主の防御機能が十分機
能できる微生物の数まで減少させる目的で、投与時間を設定した補助的手段である。術後の汚
染・感染を防止するためのものではない。AMPの効果を最高にするには次の4つの原則に従う。
•
AMP は臨床試験の結果 SSI 発症防止効果が認められた手術全部、または手術後に切開
部・臓器/腔が縫合不全などにより破局的になった場合に使用する。
•
最も汚染が予測される菌に有効な AMP を選択する。
•
皮膚切開時に AMP の血中もしくは組織内濃度が殺菌濃度に達するよう、時間を計算し投与
する。
•
AMP の治療濃度を手術中および手術後数時間は維持する。
108
手術創は表2のごとく大きく4つに分類できる。外科医は術前にその手術の手術創を予測し、また
表5に示した予想される感染原因菌をふまえて AMP を選択するのである。
心臓血管外科、乳腺・甲状腺手術など(清潔手術):清潔手術にはグラム陽性菌に抗菌力の強い
第1世代セフェム系のセファゾリン(CEZ)や第 2 世代セフェム系のセファロスポリン系のセファマン
ドール(CMD)やセフォチアム(CTM)、セファマイシン系のセフメタゾール(CMZ)やセフォキシチン
(CEX)が第一選択と考えられる。
上部消化管手術:上部消化管手術において対象となるのは黄色ブドウ球菌、腸球菌、グラム陰性
桿菌などである。第一世代セフェム系セファゾリン(CEZ)や、広域ペニシリンのピペラシリン(PIPC)
などが第一選択である。嫌気性菌への抗菌力を考えて第二世代セフェム系のセファマイシン系抗
菌薬も選択肢のひとつとなる。
表5
手術と手術部位感染(SSI)推定原因菌
グラフト、人工臓器、インプラントの設置
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
心臓
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
神経外科
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
乳腺
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
眼科
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;連鎖
球菌;グラム陰性菌
整形外科
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;グラム
全関節置換術
陰性菌
閉鎖骨折(釘、プレート、内部固定具を使
用)
機能回復術(インプラント無し)
外傷
心臓以外の胸部
肺切除、その他縦隔操作
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;肺炎
球菌;グラム陰性菌
閉鎖胸腔ドレナージ
血管
黄色ブドウ球菌;コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
虫垂切除
グラム陰性菌;嫌気性菌
胆道
グラム陰性菌;嫌気性菌
大腸
グラム陰性菌;嫌気性菌
胃十二指腸
グラム陰性菌;ブドウ球菌;口腔咽頭の嫌気性菌(ペ
プトストレプトコッカスなど)
頭頚部(口腔・咽頭粘膜切開を伴うもの)
黄色ブドウ球菌;ブドウ球菌;口腔咽頭の嫌気性菌
(ペプトストレプトコッカスなど)
産婦人科
グラム陰性菌;腸球菌;B 群連鎖球菌;嫌気性菌
泌尿器
グラム陰性菌
ブドウ球菌はあらゆる種類の SSI に関与している。
下部消化管手術:大腸手術に対しては嫌気性菌にも有効なセファマイシン系のセフメタゾール
(CMZ)やセフォキシチン(CEX)が第一選択と考えられる。日本ではオキサセフェム系のフロモキ
109
セフ(FMOX)も有効な抗菌薬として上げられる。
大腸手術においては術前の腸管処置が重要であり効果が高い。手術前々日から浣腸と下剤を投
与後、非吸収性の抗菌薬を内服する。Ronald L Nichols (Clin Infect Dis 24:609-619, 1997)は次の
前処置を推奨している。術前々日は注腸準備食を取り、硫酸マグネシウム 30 ml を 10 時、14 時、
18 時に内服し夕刻に浣腸を行う。術前日には同量の硫酸マグネシウムを 10 時、16 時に内服する
か、または 9 時から 12 時までポリエチレングリコール液を1L/1時間の割合で経口投与する。翌
日 8 時手術開始の場合、術前日の 13 時・14 時・23 時に neomycin(カナマイシンを代用している)
と erythromycin(EM)を 1 g ずつ内服する。この 12 時間後血中 EM 濃度と腸管中の neomycin・EM
濃度が最高になる。日本では施設により様々な colon preparation がなされているが、代表的なも
のは、カナマイシン+メトロニダゾール、トブラマイシン+クリンダマイシン、ポリミキシン B+メトロ
ニダゾールなどの内服である。いずれにしても機械的処置(下剤や浣腸)と併用することが重要で
ある。
腹腔鏡手術:腸液・胆汁の漏れがほとんどない場合は、落下細菌や皮膚常在菌も極めて少ないと
考え、第一世代セフェム系抗菌薬の1日投与でよい。
汚染・感染手術:多くの菌種が存在し、MOF に移行させないためにも始めから強力に細菌数を押
さえなければならない。初回より広域スペクトラムを持つ第4世代セフェム系や、カルバペネム系
抗菌薬を使用すべきである。
投与開始時期:抗菌薬の投与は術野が露出した時に血中・組織中の薬剤濃度が最高になるよう
に、通常手術開始 0~30 分前に投与を開始し、3 時間を越える手術では濃度維持のために 2 回目
の投与を行う。β ラクタム系の抗菌薬の殺菌作用は時間依存性であり、追加投与による濃度維持
は特に重要である。
投与期間:原則として乳腺・甲状腺・ヘルニアなどの清潔手術においては1~2日間で十分であろ
う。上部消化管手術にしても下部消化管手術にしても、術後4日目までが初回投与薬剤継続の限
界と考える。それ以降の感染は二次的感染と考えられるし、また4日以降の検出細菌に対しては
初回投与抗菌薬はほとんど抗菌力を持たない。4日目以降感染の兆候がある場合には、抗真菌
薬を含めて抗菌薬の再考をすべきである。
3.手術上の特性:手術中の問題
a 手術室の環境
手術室内の人数制限
室内陽圧の保持・粉塵除去
手術用器機の滅菌への配慮
b 手術時服装・覆布
手術着・マスク・手袋・ガウン・覆布についての配慮
c 無菌操作及び手術手技
(1) 無菌操作
麻酔医・麻酔担当ナースを含めた無菌操作の徹底
(2) 手術手技
優れた手術手技は SSI の危険性を低下させる。
十分な止血
縫合糸、炭化組織、壊死片の残留を抑える
組織の損傷を抑える
モノフィラメントの縫合糸が感染に強い。
110
(3) ドレナージ
ドレーンは手術切開創とは別に作成し、できるだけ早期に抜去する。基本的に、閉鎖式吸引
ドレナージを使用する。
d 術中の管理
術中の低体温は SSI 発生を助長するので、体温は 36.5 度以上に保つようにする(Kurz et al:
NEJM 1996, 334:1209)。術中および、術後 2 時間の酸素投与は SSI 発生を減少させる(Grief et
al: NEJM 2000, 342:161)。
4.手術上の特性:手術後の問題
a 手術創管理
参照:創処置の方法
手術切開創に対しては、術後 48 時間以内は徹底した滅菌処置が必要。48 時間以降の創部の
管理については必ずしも消毒・被覆は必要ではない。術後創部に対する消毒剤についてはグルコ
ン酸クロルヘキシジン(ヒビテン®、マスキン®)及びヨードホール(イソジン®)を用いる。ヨードホー
ルは細胞障害が強く、術後早期には手術創面の皮下組織細胞障害の可能性があり基本的には
使用尾しない。またヨードホールは体液で不活化されることも考慮すべきである。グルコン酸クロ
ルヘキシジンには、それが粘膜などから吸収された場合、アナフィラキシーショックを起こす可能
性がある。また濃度(通常は 0.05 %以下)にも充分注意が必要である。どちらも創の内部に使用し
てはならない。
b 退院計画
今後は day surgery を含め、手術創完全治癒前退院が増加してくることが予想される。現在家庭
での切開創管理については、高温多湿な鹿児島での環境も考慮した対策を立てる必要がある。
5.手術時手洗い
流水と殺菌性石けんによる手洗いのあと、擦式消毒用アルコール製剤を用いたラビング法を基本
とする。ブラシは皮膚損傷のおそれがあるため、つめ先の汚れを除去するのに用いる程度にとど
める。
■解説
手術部位感染(surgical site infection: SSI)
SSI 定義のためのサーベイランス基準は以下のとおり。
表6 手術部位感染(SSI)の定義の規準
切開部表層の SSI
感染は手術後 30 日以内に発症して、かつ感染は切開部の皮膚または皮下組織に限定さ
れ、かつ
少なくとも下記の1項に該当するもの:
1.検査による確認の有無を問わず、切開部表層からの排膿がある。
2.切開部表層から無菌的に採取した体液または組織培養で微生物が分離される。
3.疼痛または圧痛、局所的な腫脹、発赤または発熱のうち、少なくとも1つの感染の
徴候または症状があって、しかも外科医が切開部表層を慎重に開放して、切開部の培
養が陰性でない場合。
4.外科医または介助の医師が、切開部表層の SSI であると判断した場合。
次のような状況を SSI と報告してはならない。
1.縫合部の膿瘍(炎症は僅かで、排膿は縫合個所に限られる)
111
2.会陰切開術または新生児の環状切除術部位の感染
3.感染した熱傷
4.筋膜及び筋層まで広がった切開部の SSI(切開部深層 SSI 参照)
注:会陰切開術、環状切除術部位、及び熱傷の感染の認定については特別な規準を用
いる。
切開部深層の SSI
感染はインプラントを留置しない場合は手術後 30 日以内に、留置した場合は 1 年以内に
起こり、その感染は手術によるものと考えられ、かつ感染は切開部深層の軟部組織(筋膜
及び筋層など)に及び、かつ下記の少なくとも1項に該当するもの:
1.切開部の深層からであり、手術部位の臓器/腔からではない排膿。
2.切開部の深層は自然な創の離開または外科医が慎重に切開したもので、患者に
発熱(>38 度)、局所の疼痛、圧痛の徴候や症状の少なくとも1つがあって、部位の培
養が陰性でない場合。
3.切開部深層の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際
組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。
4.外科医または介助の医師による切開部深層の SSI であるとの診断。
注:1.切開部位の表層、深層の双方に及ぶ感染は、切開部深層 SSI として報告する。
2.切開部から排膿する臓器/腔 SSI は切開部深層 SSI として報告する。
臓器/腔の SSI
感染はインプラントを留置しない場合は手術後 30 日以内に、留置した場合は 1 年以内に
起こり、その感染は手術によるものと考えられ、かつ感染は切開部位以外で手術時に開
いたかまたは触れた(臓器、腔など)部分におよび、かつ下記の少なくとも1項に該当する
もの:
1.臓器/腔に刺創を経由して設置したドレーンからの排膿がある。
2.無菌的に採取したその臓器/腔からの体液または組織の培養で、微生物が分離さ
れる。
3.その臓器/腔の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際
組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。
4.外科医または介助の医師による切開部深層の SSI であるとの診断。
注:ドレーンのために開けた創の周囲が感染した場合は SSI ではない。その深さによって
皮膚あるいは組織の感染と考えられる。
術後感染発症阻止抗菌薬
手術に関して使用される抗菌薬を、CDC では“antimicrobial propylaxis”と表現しており、直訳
すると「予防的抗菌薬」ということになるが、日本では予防投与が保険で認められなかった経緯を
ふまえ、日本化学療法学会は学会の臨床評価法制定委員会の中に『術後感染予防委員会』を設
置し、ここでは「術後感染予防薬」ではなく、「術後感染発症阻止抗菌薬」と呼び検討している。今
では「術後感染予防薬」「術後感染阻止薬」などとも呼ばれるが、ここではその術後感染予防委員
会が使用している「術後感染発症阻止抗菌薬」を用いることとした。
112
輸液代謝管理
森山孝宏
113
術中輸液の目的
輸液代謝管理
Ⅰ. 術前脱水に対する補液
Ⅱ. 維持輸液(水分
維持輸液(水分・電解質の維持)
電解質の維持)
Ⅲ. 出血に対する補液(循環血液量の補充)
Ⅳ. サードスペースへ移行分の補液
森山 孝宏
Ⅴ. その他(不感蒸泄など)
術中輸液の目的
Ⅰ. 術前脱水に対する補液
《維持輸液》
Ⅱ. 維持輸液(水分
維持輸液(水分・電解質の維持)
電解質の維持)
《維持輸液》
Ⅲ. 出血に対する補液(循環血液量の補充)
《細胞外液・膠質液》
Ⅳ. サードスペースへ移行分の補液
《細胞外液》
Ⅴ. その他(不感蒸泄、血管拡張分など)
《細胞外液》
輸液製剤
①細胞外液
ビカーボン
ヴィーンF
フィジオ140
(フィジオ70)
②維持輸液
ソルデム1(ソリタT1)
ソルデム3A
フィジオ35
③膠質液
ヘスパンダー
サリンヘス
鹿児島大学病院手術部 H.2010
114
細胞外液系輸液
【目的】
前負荷としての輸液
主にサードスペースロス、出血、不感蒸泄等
に対する循環血液量の補充
【特徴】
輸液負荷
前負荷
投与した1/4量が血管内に分布
心拍出量
3/4量が細胞間質へ移行
“出血に対しては3~4倍量を必要とする。”
細胞外液製剤比較
Na(mEq/l)
・臓器血流量維持
・末梢循環維持
酢酸リンゲル液
ビカーボン
ヴィーンF
フィジオ140
135
130
140
K(mEq/l)
4
4
4
Ca(mEq/l)
3
3
3
Cl(mEq/l)
113
109
115
Mg(mEq/l)
1
ー
2
酢酸(mEq/l)
ー
28
25
重炭酸(mEq/l)
25
ー
糖(%)
ー
ー
ー
1
細胞外液の補給、代謝性アシドーシスの補正
アルカリ化剤として、最初に乳酸リンゲル液の開発
【欠点】 肝臓のみで代謝・乳酸アシドーシスのリスク
酢酸リンゲル液の開発
115
リンゲル液(酢酸vs重炭酸)
重炭酸リンゲル液
ビカーボン
酢酸
TCA回路
カルシウムイオン、マグネシウムイオンと一剤化
※生理的な重炭酸イオンが
理想的
生体内代謝を必要としない重炭酸イオンを配合
炭酸水素イオン
より速やかなアシドーシスの補正
マグネシウムについて
・重症患者では低マグネシウム血症がみられる。
・麻酔中はマグネシウムが低下している。
サードスペース
【概念】
手術侵襲により血管透過性が亢進し、
水、Naが貯留する非機能的スペース
※ 概念は曖昧で、存在そのものがcontroversial
概念は曖昧で 存在そのものが
i l
マグネシウム投与の重要性が注目
【投与量、補正式等はcontravercial】
※術中原因不明の不整脈では
低マグネシウムの可能性もあり
手術部位によって移行量は変化し、
侵襲度によっても異なる。
周術期輸液管理を困難にする最大の要因
116
サードスペース移行量
【目安】
手術部位
移行量(ml/kg/h)
眼科、体表
0~5
耳鼻科、整形外科
0~10
0
10
脳外科
2~5
開胸手術
5~10
下腹部開腹
5~15
上腹部開腹
10~20
Na
《1号液》
90
ー
2.6
ソルデム3A
※
【4‐2‐1ルール】
体重10kgまで
10~20kg
20kg以上
4ml/kg/h
2ml/kg/h
1ml/kg/h
例) 体重60kgの場合
【30~40】
《3号液》
フィジオ35
ブドウ糖
【70~90】
ソルデム1
1号液(開始液)
2号液(脱水補給液)
3号液(維持液)
4号液(術後回復液)
維持液投与量
(%)
K
生体内の水分・電解質を維持し、
恒常性を保つ。
Ⅰ.
Ⅱ.
Ⅲ.
Ⅳ.
組成(1号液と3号液)
(mEq/L)
維持輸液
35
20
4.3
35
20
10
60=10+(20-10)+(60-20)
10×4+(20-10)×2+(60-20)=100(ml/h)
117
人工膠質液
ヒドロキシルエチルデンプン(HES)
ヒドロキシエチルデンプン①
組織残留性が高い(数時間)
【製剤名】 サリンヘス、ヘスパンダー
[適応]
適応
・ 各科領域の出血多量の場合
・ 人工心肺における血液希釈液
【メリット】
循環血液量維持に有用
【デメリット】
腎障害のリスク
出血傾向増大のリスク
※ ヘスパンダーはブドウ糖1%で、K(+)に注意
ヒドロキシエチルデンプン②
従来より、「HESは2本(1000ml)まで」と言われていた。
〈根拠〉
・欧米での合併症(腎障害、出血傾向)の報告
・添付文書に1回1000mlまでと記載
術中糖投与
《術中高血糖の病態》
手術侵襲
ストレスホルモン
しかしながら、欧米の中~高分子HESと比較して、
本邦のHESは低分子(分子量7万)である。
有効性も低いが、リスクも低い。
(実際には大量投与されている)
【surgical DM】
血糖値
インスリン
麻酔、炎症
118
糖投与の意義
ブドウ糖
飢餓、侵襲
【骨格筋】
【脂肪】
抑制
体蛋白異化
脂肪動員
ケトン体
遊離脂肪酸
119
モニタ 及び周辺機器
モニター及び周辺機器
松永 明
120
得られる情報
 心拍数
心電図
 不整脈
 心筋虚血
 ペースメーカーの機能
 電解質異常
心機能(収縮力)はわからない
3極誘導法
5極誘導法
アイントーベンの三角形
心筋虚血の検出
Ⅱ誘導:不整脈検出
V5:75%
V4:61%
Ⅱ, V5, V4:96%
121
非観血的動脈圧測定
触診法
血圧
収縮期血圧:脈拍再触知可能
拡張期血圧:測定できない
聴診法
コロトコフ(Korotkov)音
ト
(
)音
収縮期血圧:音の聞こえ始め(Swanの第1点)
拡張期血圧:音の消失(Swanの第5点)
オシロメトリック法(自動血圧計)
動脈の拍動によるカフ内圧への微小な振動
収縮期血圧:振幅が急に大きくなる点
拡張期血圧:振幅が急に小さくなる点
平均血圧 :最大振幅
オシロメトリック(oscillometric)法
非観血的動脈圧測定の注意点
最低5分間隔で測定
カフ幅の影響
狭い:高め
広い:低め
巻き方の影響
ゆるい:高め
観血的血圧測定より
収縮期血圧:低い
拡張期血圧:高い
122
観血的動脈圧測定
各部位における動脈圧波形
大動脈基部
腋窩動脈
橈骨動脈
足背動脈
末梢動脈:収縮期血圧は高い
拡張期血圧、平均血圧は低い
観血的動脈圧波形
脈圧が拡大する病態
大動脈弁閉鎖不全症
頭蓋内圧亢進時
貧血
貧
動静脈シャント
発熱・高温環境による血管拡張
1.左心室収縮力
2.一回心拍出量
3.体血管抵抗
高血圧
甲状腺機能亢進
123
脈圧が狭小する病態
動脈圧波形のDamping(減衰)
大動脈弁狭窄症
心原性ショック
循環血液量減少性ショック
末梢血管収縮
寒冷環境
Overdamping
Underdamping
圧測定回路内の気泡・血栓
接続部のゆるみ
高血圧
Overdamping様波形
動脈硬化
大動脈弁狭窄症
血管拡張薬投与
心原性ショック
敗血症
血管収縮薬使用
大動脈弁閉鎖不全
循環血液量減少による低心拍出量
124
基本構造
肺動脈カテーテル
肺動脈カテーテルによる測定項目
大動脈
肺動脈
挿入時の圧波形の変化
心拍出量,心係数(C I)
(2.5~4 L/min/m2)
肺動脈圧(PAP)
(平均:10~20 mmHg)
左房
右房圧(RAP)
(平均:0~7mmHg)
左室
肺動脈楔入圧(PAWP)
(平均:6~12mmHg)
右房
右室
混合静脈血酸素飽和度
(SvO2: 60~80%)
125
心拍出量測定
心拍出量測定
熱希釈法の原理:熱量保存則
肺動脈カテーテルによる測定
(左心系)
心拍出量測定に影響する因子
PAWP
心内または心外シャント
左室拡張
末期容量
三尖または肺動脈弁逆流
左房圧
前負荷
一回拍出量
注入冷水の温度・量
呼吸サイクル
心拍出量
心収縮力
心機能
血圧
熱希釈法
心拍数
末梢血管抵抗
後負荷
126
肺動脈カテーテルによる測定
(右心系)
Forresterの血行動態分類
(L/min/m2)
Ⅰ 循環動態ほぼ正常
利尿薬
血管拡張薬
PDEⅢ阻害薬
経過観察
右室拡張
末期容量
一回拍出量
PAP
心拍出量
肺動
脈圧
RAP
心収縮力
心拍数
肺血管抵抗
前負荷
右心
機能
心拍出量
熱希釈法
2.2
Ⅲ 低灌流
静脈へのアクセス:
動脈穿刺、気胸、空気塞栓
カテ テル操作:
カテーテル操作:
不整脈、右脚ブロック、三尖弁・肺動脈弁損傷
カテーテル留置
Ⅳ 低灌流+肺うっ血
強心薬
PDEⅢ阻害薬
血管拡張薬
補助循環
補液
18
肺動脈楔入圧
後負荷
肺動脈カテーテルの合併症
Ⅱ 肺うっ血
(mmHg)
肺動脈カテーテルの適応
手術の重症度
心臓手術
術前の状態および合併症
重症の心疾患
使用する医師の知識と技量
肺梗塞、肺動脈損傷、血栓症、感染
127
肺動脈カテーテルに関する論争
 経胸壁および経食道心エコー
心拍出量
右心系
左心系
低侵襲的モニタリング
前負荷
後負荷
混合静脈血酸素飽和度
病態把握
×
動脈圧波形から得られる心拍出量
stroke volume variation
輸液反応性
予後改善
中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)
動脈圧心拍出量測定
動脈圧心拍出量測定
((arterial pressure-based
p
cardiac output: APCO)
FloTrac/Vigileo
PiCCO
LiDCO
128
FloTrac/Vigileo system
FloTrac/Vigileo system
SV = χ×δ
χ:大動脈コンプライアンスと末梢血管抵抗
χ
χ
年齢・性別・身長・体重 大動脈圧波形解析
δ:大動脈圧の標準偏差
FloTrac/Vigileo systemの問題点
大動脈弁逆流
不整脈(心房細動)
輸液反応性の指標
大動脈弁置換術後
末梢血管抵抗の異常
耐圧チューブの延長
血管作動薬投与直後
129
動脈圧の呼吸性変動
陽圧換気の一回心拍出量への影響
吸気胸腔内圧
静脈還流量
肺毛細血管収縮
右室拡張末期容量
左室拡張
末期容量
左室壁
内外圧差
2~3心拍後
一回心拍出量
左室拡張末期容量
動脈圧
一回心拍出量
動脈圧
輸液反応性
動脈から得られる輸液の指標
動脈圧波形
Stroke vo
olume
down
pcSVV: pluse contour
stroke volume
SPV: systolic pressure
variation
variation
PPV:
pulse
pressure
動脈圧波形
variation
Frank-Starling Curve
Frank-Starling Curve
P
SV
SV
前負荷情報
P
Preload
130
Pulse pressure variationと輸液負荷
Change in CI (%)
Stroke Volume Variation (SVV)
対象:Sepsis, n=40
輸液負荷:6% Hes 500mL
Responsive: CI15%, n=16
Nonresponsive:CI15%, n=24
PPV (%)
心機能の影響
呼吸性変動から
得られる指標
PPV
従来の指標
CVP
SPV
Stroke vvolume
輸液負荷の有効性
P
SV
P
P
SV
心機能
SV
⇒
P
心機能低下
⇒
PAOP
SVV
心機能正常
SV
呼吸性変動
Preload
131
動脈圧呼吸性変動に影響する因子
呼吸性変化増大
 心機能
 胸腔内圧
 心調律
 テクニカルファクター
1回換気量増加
(エアーバブル,キンク,etc)
 動脈コンプライアンス(動脈硬化)
 鎮静下の調節呼吸
Non-invasive cardiac output:NICO
Non-invasive cardiac output:NICO
132
NICOの測定原理
NICOの精度
Fickの原理
VCO2 = CO×(CVCO2-CaCO2)
CO2再呼吸
ΔVCO2 = CO×(ΔCVCO2-ΔCaCO2)
ΔCVCO2=0と仮定
ΔVCO2
= CO×(-ΔCaCO2)
NICOの問題点
 高心拍出量では過小評価
パルスオキシメータ
 低分時間気量では過小評価
 高炭酸ガス血症:頭蓋内圧亢進、肺高血圧
 鎮静下の調節呼吸
133
Beer Lambertの法則
光と透過性
I0
C
I
D
Log (I0/I) = ECD
ヘモグロビンの吸光度
E: 吸光係数
パルスオキシメトリの原理
AC
DC
S=(AC660/DC660)/(AC940/DC940)
134
機能異常ヘモグロビン
パルスオキシメータのエラー
異常ヘモグロビン
低灌流
体動
色素
マニキュア
Masimo社製パルスオキシメータ
パルスオキシメータの
新しいパラメータ
135
PIと指先血流量
Perfusion Index
拍動成分
非拍動成分
Perfusion Index
拍動成分
非拍動成分
Pleth Variability Index
Perfusion Indexの呼吸性変動
輸液反応性の予測
Stroke Volume Variation Pulse Pressure Variation
カプノメータ
と同様に
136
カプノメータ測定原理
カプノメータの方式
メインストリ ム
メインストリ-ム
直接測定
CO2のみ
増加
速い(0.5秒)
大きく重い
カプノグラムからの診断
サイドストリ ム
サイドストリ-ム
方法
測定
死腔
応答
接続
サンプリング
CO2・麻酔ガス
小さい
遅延(2~3秒)
コネクタ小型軽量
a‐ETPCO2の増加
Ⅰ:吸気平坦相 Ⅱ:呼気上昇相
Ⅲ:呼気平坦相 Ⅳ:呼気下降相
正常:5mmHg以下(人工呼吸)
再呼吸:ソーダライム消耗
呼気弁の異常
 COPD
呼気延長:気管支攣縮 COPD
気管チューブの屈曲
 肺梗塞
呼気消失:食道挿管 無呼吸
呼吸回路の閉塞
 心拍出量減少、心停止
陥没:自発呼吸
 人工呼吸(PEEP)
137
麻酔と脳波
Bispectral index(BIS)
BIS値
BIS値に影響する因子
脳波を周波数解析および位相解析
4つのパラメーター算出(BSR、QUAZI、RBR、SFS)
筋電図
脳波および鎮静度のデータベースを多変量解析
ペースメーカーや温風加温装置のノイズ
して得られた係数をパラメーターに掛ける
低体温
1~100に点数化
不適切な鎮痛レベル
適切な麻酔レベルが40~60になるように設定
年齢
測定値ではなく、推定値
138
安全な麻酔のためのモニター指針
[前文]
麻酔中の患者の安全を維持確保するために、日本麻酔科学会
は下記の指針が採用されることを勧告する。この指針は全身麻
酔、硬膜外麻酔及び脊髄くも膜下麻酔を行うとき適用される。
[麻酔中のモニター指針]
[麻酔中のモニタ
指針]
①現場に麻酔を担当する医師が居て、絶え間なく看視すること。
②酸素化のチェックについて
皮膚、粘膜、血液の色などを看視すること。
パルスオキシメータを装着すること。
③換気のチェックについて
胸郭や呼吸バッグの動き及び呼吸音を監視すること。
全身麻酔ではカプノメータを装着すること。
換気量モニターを適宜使用することが望ましい。
④循環のチェックについて
心音、動脈の触診、動脈波形または脈波の何れか一つを監
視すること。
心電図モニターを用いること。
血圧測定を行うこと。
原則として5分間隔で測定し、必要ならば頻回に測定すること。
観血式血圧測定は必要に応じて行う。
⑤体温のチェックについて
体温測定を行うこと。
⑥筋弛緩のチェックについて
筋弛緩モニターは必要に応じて行う。
【注意】全身麻酔器使用時は日本麻酔科学会作成の始業点検指針に
従って始業点検を実施すること。
1993.4 作
139
硬膜外脊椎麻酔
脊髄くも膜下麻酔
神経ブロック
磯脇純和
140
脊髄くも膜下麻酔
硬膜外麻酔・
脊髄くも膜下麻酔・
神経ブ ック
神経ブロック
脊椎の解剖
Spinal anesthesia
局所麻酔薬をくも膜下腔に注入し、脊髄神経の興奮伝導を遮断
硬膜外麻酔 Epidural anesthesia
硬膜外腔に局所麻酔薬を注入し、脊髄神経の興奮伝導を遮断
脊髄の解剖
皮膚→皮下組織→棘上靱帯
→棘間靭帯→黄色靱帯→硬膜外腔
→硬膜→硬膜下腔→クモ膜→クモ膜下腔
141
局所麻酔薬の効果と作用経過
神経線維の形態と機能
髄 鞘
直 径
伝道速度
(μm)
(m/秒)
80~120
機能
Aα
有髄、大
15~20
運動、固有知覚
Aβ
有髄
8~15
運動、触角、圧覚
Aγ
有髄
4~8
筋紡錘 反射
筋紡錘、反射
Aδ
有髄、小
3~4
10~15
疼痛、温度覚
B
有髄、小
4
10~15
節前交感神経
C
無髄
0.3~1.3
0.7~1.3
節後交感神経
C
無髄
0.1~2.0
0.1~2.0
疼痛、温度覚、触覚
神経線維の遮断は
交感神経
→冷覚神経
→温覚神経
温覚神経
→痛覚神経
→触覚神経
→運動神経
→圧覚神経
の順でおこる。
神経遮断の回復はこの逆となる
デルマトーム
母指
小指
腋窩
乳頭
剣状突起
臍部
ソ径靭帯
膝
膝窩部
C6
C8
T3
T4
T7
T10
T12
L3
S2
脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の比較
脊髄くも膜下麻酔
硬膜外麻酔
比較的容易
少量(1-3ml)
短い(1-3分)
やや難しい
大量(10-30ml)
長い(5-15分)
使用持続時間
長い
短い
麻酔効果
完全
弱い
筋弛緩
分節麻酔
分離麻酔
良好
困難
困難
弱い
容易
容易
手技
使用薬剤量
使用発現時間
血圧低下
急激、高度
緩徐、軽度
呼吸抑制
悪心嘔吐
完全麻酔になり得る
多い
完全麻酔はない
少ない
局麻中毒
術後頭痛
ない
5-20%
起こりうる
ない
142
脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の適応
脊髄くも膜下麻酔
下腹部・会陰・下肢の短時間手術
脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の禁忌
頭蓋内圧亢進症
感染症
出血傾向
硬膜外麻酔
脊髄神経支配領域の手術
比較的長時間の手術
DIC、抗凝固療法中(術前・術直後)
神経系疾患
脱髄性疾患、脊髄腫瘍
患者の拒否
硬膜外麻酔の穿刺部位
硬膜外穿刺法
1)正中法
2)傍正中法
143
硬膜外腔確認方法
2)懸滴法
1)抵抗消失法
3)触感法
麻酔域に影響する因子
硬膜外(E)・脊髄くも膜下麻酔(S)の合併症
1) 循環抑制 S>>E
1)体位
低血圧・徐脈・心停止
2) 呼吸抑制 S>>E
3) 神経系合併症
脊髄損傷・髄膜炎・馬尾症候群・尿閉
2)生理的彎曲
4) 脊髄くも膜下麻酔後頭痛 S
T6
L3
5) 局所麻酔薬中毒
S<<E
6) 偶発的硬膜穿刺
E
144
局所麻酔薬の生化学的・薬理学的特性
一般名
化学構造
分子量
pKa
脂溶
性
効果
発現
力
価
持続
時間
236
9.1
0.02
中間
1
短
1~1.5h
エステル型
procaine
tetracaine
264
8.4
4.1
遅
8
中間
1.5~2h
アミド型
神経ブロック
上肢の神経ブロック 腕神経叢ブロック
1) 斜角筋間アプローチ
2) 鎖骨上アプローチ
3) 鎖骨下アプロ
鎖骨下アプローチ
チ
4) 腋窩部アプローチ
lidocaine
234
7.8
2.9
速
2
短
1~1.5h
mepivacaine
246
7.7
0.8
速
2
短
bupivacaine
288
8.1
27.5
遅
8
長
2~4h
1) 大腿神経ブロック
ropivacaine
272
8.1
遅
8
長
2~4h
2) 坐骨神経ブロック
斜角筋間腕神経叢ブロック
下肢の神経ブロック
鎖骨上腕神経叢ブロック
<適応>
肩、上腕近位部、鎖骨遠位部の手術
従来からKulenkampff法としてよく知られている。
しかし、気胸の危険性のために敬遠されてきた。
<副作用>
横隔神経麻痺、Horner3徴候、反回神経麻痺
血管誤穿刺、気胸(稀)
<適応>
肩から遠位の上肢手術と適応範囲が広い
<副作用>
気胸、鎖骨下動脈誤穿刺
透視下アプローチ
エコーガイド下アプローチ
145
大腿神経ブロック
手技としては比較的容易
初心者でも可能
下肢手術後早期の抗凝固療法
開始により、近年注目される
<適応>
大腿・膝部の手術の術後鎮痛
146
循環管理
尾前 毅
147
循環管理
循環管理




麻酔管理 循環



循環管理 = 酸素の需要供給バランス
- 血圧 = 心拍出量×血管抵抗
- 血圧
血 = 臓器血流 ではない
はな
自己調節能 autoregulation
- 脳循環
- 主要臓器 ( 心臓、肝臓、腎臓 )
高血圧合併患者
病態に合った管理
心機能の評価、コントロール
- モニタリング
- 薬剤 ( 強心作用、心抑制作用 )
全身血管抵抗、肺血管抵抗
- 血管作動薬 ( 収縮、拡張 )
主要臓器の灌流
- 脳、脊髄、腎、肝 等
輸液 血管確保
末梢静脈穿刺
148
体内の総水分量
輸液 血管確保


中心静脈穿刺
- 内頸静脈
- 外頸静脈
- 鎖骨下静
脈
動脈穿刺
- 橈骨動脈
- 大腿動脈
総水分量
細胞内液 (40 %)
細胞外液 (20%)


目的
- 水分補給、電解質補給
輸液の実際
- 輸液の種類
- 輸液の量
- 輸液速度
- 投与経路
腎、肝機能障害、小児
間質液 (15%)
血漿 (5%)
麻酔管理 輸液 - 1

体重の 60 %
麻酔管理 輸液 - 2

輸液の種類
ブドウ糖液
細胞外液
維持液
電解質を含まない(5%ブドウ糖液)
細胞外の組成に近い輸液(ソルラクト)
ブドウ糖液、生理食塩水を一定の割合
で配合したもの (ソリタT1、ソリタT3)
代用血漿剤
循環血液量を維持する (ヘスパンダー)
149
麻酔管理 輸液 - 3
輸液による体液分布の変化


麻酔管理 輸血 - 1


輸血は臓器移植
- 利益と危険性のバランス
目的
- 循環血液量維持
- 酸素運搬能維持
- 凝固因子補充
合併症を有する患者
- 腎不全、透析中
・ K free、電解質負荷を少なく
f
電解質負荷を少なく (ソリタT1)
・ 不感蒸泄
- 肝機能障害
・ Na 負荷を避ける
・ 耐糖能異常
小児への輸液
麻酔管理 輸血 - 2

合併症
- 感染
- アナフィラキシー
- GVHD (Graft versus host disease)
- 高K、低Ca 血症
- 異型輸血
150
輸血製剤




MAP
濃厚赤血球液 (Ht = 60%)
ヘモグロビンの 補充
FFP
新鮮凍結血漿 血液凝固因子の補充
新鮮凍結血漿、血液凝固因子の補充
循環血漿量の改善と維持
濃厚血小板
血小板減少症を伴う疾患に適応
10単位で 3万/l の増加
アルブミン製剤 アルブミンの喪失、出血性ショック
無輸血手術へむけて


周術期管理 モニタリング
無輸血手術への対策



術前貯血
- 赤血球の保存
術中血液採 (switch back)
術中血液採取
- 赤血球の保存
- 血小板、凝固因子の保存
トランサミン、トラジロールの使用
- 抗線溶作用、血小板保護作用
輸血による副作用の回避
- 感染(HCV、 HIV、マラリア、エルシニア)
- GVHD(移植片宿主反応)
- 同種免疫(抗赤血球抗体、抗血小板抗体)
- 溶血反応
- アレルギー
- 免疫能低下
血液資源の有効利用




心電図
- Ⅱ、V5 誘導
血圧
- 非観血的、観血的モニタリング
酸素飽和度
- 酸素化の程度、脈波
体温
- 中枢温 末梢温
151
不整脈
心電図





心拍数の変化
不整脈の有無
刺激伝導ブロックの
有無
心筋の虚血性変化の
有無
電解質異常の有無
不整脈
不整脈に対する治療

R on T

心房性不整脈 (Af、PAC、AF、PSVT)
薬剤投与 (リスモダンP、タンボコール)
overdrive supression
除細動
心室性不整脈 (Vf、VF、PVC)
薬剤投与 (キシロカイン、メキシチール)
除細動
152
心電図変化
冠動脈の支配領域
周術期管理 モニタリング
CVP 中心静脈圧
- 輸液、投薬路
 Swan – Ganz カテーテル
- 肺動脈圧 心拍出量 血液温
- 混合静脈血酸素飽和度
 呼気中炭酸ガス
- 気道閉塞 ガス交換能
 経食道心エコー
- 診断 評価

LAD (全下行枝) 領域
V1 ~ V4

LCX (回旋枝) 領域
V4 ~ V6 Ⅰ aVL

RCA (右冠動脈) 領域
Ⅱ Ⅲ aVF
パルスオキシメーター

非侵襲的,連続的に動脈
血酸素飽和度を測定
酸素飽和度を測定
 脈の触れが悪いとき(末梢
循環不全)時には不正確

153
尿量
中心静脈圧 (CVP)
CVP 高値
心不全
輸液過剰
 CVP 低値
大量出血
脱水

循環血液量,内臓血液量
の重要なモニター
 術中尿量 1ml/kg/hr

呼気ガスモニター
炭酸ガスの呼出
EtCO2 の上昇
気道閉塞
体温上昇
 EtCO2 の低下
気道確保不良
肺梗塞
心拍出量低下
経食道心エコー


循環血液量のモニター
循環血液量のモ
タ
心筋虚血のモニター
 手術中の合併症の診断


154
肺動脈カテーテル
いろいろな肺動脈カテーテル
心拍出量の測(4-5L/min)
 肺動脈楔入圧の測定
肺動脈楔
定
高値 左心不全
輸液過剰
低値 脱水
出血

Forrester の分類
循環の指標
左心系
右心系
前負荷
PCWP
LAP
CVP
RAP
後負荷
SVR
SBP
PVR
PVP
155
循環の目標
麻酔管理 循環 主な薬剤






昇圧剤
C.I. ≧
SvO2 ≧ 70%
PCWP ≦ 10mmHg
CVP ≦ 10mmHg
MBP≧ 60mmHg

PDE Ⅲ阻害剤
2.5L/min/m2
ドパミン
ドブタミン
アドレナリン
ノルアドレナリン
フェニレフリン
エフェドリン
オルプリノン
オ
リ
ミルリノン
ドーパミン (イノバン)
カテコラミンとPDEⅢ阻害薬
使用量によって作用が異なるユニークな薬剤




1 – 3 γ 腎血流増加 (尿量増加),腸管血流増加
3 – 5 γ β作用 (心収縮力増強,心拍数増大)
5 – 10γ α,β作用
10γ以上 α作用(血管収縮作用)
156
ドブタミン (ドブトレックス)
アドレナリン (ボスミン)

緊急蘇生薬,もっとも強い強心薬

心収縮力増強,血管収縮ともに強力

0.03 – 0.3 (緊急時には one shot でも使用)
純粋なβ作用(心収縮力増強,心拍数増大)
β
(
) の薬剤
3 – 10 γで使用
ノルアドレナリン

強い血管収縮作用を持つ (弱い心収縮力増強作
用)

心仕事量を増やさずに昇圧する

0.03 – 0.3 (g/kg/min)で使用
フェニレフリン(ネオシネジン)

純粋な血管収縮作用

反射性の徐脈を生じる

one shot の投与のみ (1 – 3 mg/回)
157
ニトログリセリン (ミリスロール)
冠血管拡張薬 主な薬剤

冠血管拡張薬

冠攣縮予防薬
ニトログリセリン
ジルチアゼム
硝酸イソソルビド
ニカルジピン
ニコランジル
ニコランジル

静脈系を選択的に拡張(CVPが低下する)

冠血管拡張作用

冠攣縮の治療に有効 (予防にはならない)

0.5 – 2(g/kg/min)で投与
ジルチアゼム (ヘルベッサー)

Ca拮抗薬

冠攣縮予防作用


ニコランジル (シグマート)

硝酸薬(GTN 様作用) と冠攣縮予防作用
を併せ持つ

心保護作用

1.0 – 1.5g/kg/minで使用
心抑制,血圧低下強い
房室block を起こしやすい
158
心拍出量と臓器血流
鹿児島大学は全国レベル!
腎血流は犠牲になりやすい
159
体温管理
森山孝宏
160
体温調節機構
体温管理
≪体温調節中枢≫
視床下部
脳血流の温度を感知
① 温熱中枢
② 寒冷中枢
森山 孝宏
麻酔と体温
麻酔薬により体温中枢機能は抑制される。
全身麻酔薬と体温
全身麻酔薬
〈抑制〉
体温を一定に維持する作用が低下
体温が上下しやすくなる。
(一般的には体温は低下しやすい)
① 視床下部
② 脊髄レベル
(体温中枢の抑制)
ⅰ 体温調節能の障害
ⅱ セットポイントの変化
161
硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔
硬麻・脊麻も体温調節を障害する。
手術中の体温変化
(初期急激低下)
(直線的低下)
【原因】
(平衡状態)
① 末梢からの温度刺激が遮断
② ブロック部位の熱の再分布
再分布性低体温
再分布性低体温
麻酔導入後に生じる0.5~1.0℃の体温低下
【機序】
体温モニタリング
全身麻酔薬による末梢血管拡張
熱の末梢への移行
核心温(中枢温)の低下
162
体温測定部位
《中枢温》
《末梢温》
食道温
直腸温
膀胱温
肺動脈血中温
その他、咽頭温、鼓膜温など
食道温
食道温
【特徴】
・ 大動脈血液温を反映する
(位置は食道の下位1/4)
・ 外気の影響を受けやすい
・ 挿管チューブ操作に影響
・ 体温変化には鋭敏性が高い
手掌温
指尖温
直腸温
膀胱温
直腸温
膀胱温
【特徴】
【特徴】
・ 腹部臓器(特に骨盤内臓器)の温度を
反映する
・ 体温変化は食道温に遅れる
・ 腹部手術で外気・洗浄液の影響を
受けやすい
・ ガス・糞便の影響を受けやすい
・ 最も一般的に使用されている
・ 下腹部臓器の温度を反映する
・ 体温変化は食道温に遅れる
(直腸温よりは早い)
・ 腹部手術で外気・洗浄液の影響を
受けやすい
・ 尿量が少ないと信頼性を欠く
163
- OPCAB(中枢温の推移) -
肺動脈血中温
肺動脈血中温
J. Anesth. 2008
T. Moriyama
肺動脈血中温(℃)
*
37
【特徴】
・ 核心温として理想的
(大動脈血中温とほぼ近似)
・ 体温変化には鋭敏性が高い
・ スワンガンツカテーテルが必要
*
*
*
36
35
アミノ酸投与群(n=12)
コントロール群(n=12)
* P<0.05
ope開始時
2hr後
4hr後
6hr後
ope終了時
原因
―全身麻酔中には低体温を生じやすい―
術中低体温
【麻酔側因子】 ・ 中枢性体温調節機構の抑制
・ 自律神経反射の抑制
・ 末梢血管拡張による熱拡散
【手術側因子】 ・ 術野からの熱放散
・ 出血時の大量輸液、輸血
【環境因子】
・ 手術室の低温環境
164
低体温による合併症
① 出血量増加
(凝固能・血小板凝集能低下による)
② 心筋虚血の頻度増加
③ 術後感染の頻度増加
(免疫能低下による)
④ 覚醒遅延
(筋弛緩薬、麻酔薬の作用遷延)
⑤ 麻酔覚醒時の不快感、シバリング
シバリングの問題点
シバリング
―生体が体温が低いと感じた時に生じる
ふるえ性熱産生
全身麻酔からの覚醒時はシ リングを
全身麻酔からの覚醒時はシバリングを
生じやすい
【原因】
・体温調節機能の不十分な回復
・シバリングいき値の低下
・疼痛、脱水等による末梢血管収縮
etc.
シバリングの治療
最大の問題点: 酸素消費量増大
酸素消費量が数倍に増加
主要臓器への酸素供給不足
① 全身の加温
② 高濃度酸素吸入
③ 薬物療法(メペリジン、マグネシウム、
ドロペリドール)
④ 麻酔薬、筋弛緩薬投与
心筋虚血、脳梗塞等の発症のリスク増大
165
術中体温保持方法
【問題点】
1.高めの室温設定
2.輸液の加温
(二重チューブ式)
3.水温式加温マット
(ブランケット)
4.温風加温装置
(ベアハッガー)
術者との関係
術中高体温
効果が不十分
使用が制限
高体温の原因
高体温の問題点
・ うつ熱: 脱水・末梢血管収縮による
中枢温の上昇
① 代謝亢進;酸素重要増大、二酸化炭素産生増加
・ 炎症反応:
症 応 感染、侵襲への生体反応
感染 侵襲
生体 応
② 呼吸性・代謝性アシドーシス
呼吸性 代謝性アシド シス
・ 薬剤性: 抗コリン薬、MAO阻害薬
③ 呼吸器、心筋仕事量増大
④ 過剰発汗、蒸散による脱水
・ 悪性高熱症
etc.
166
悪性高熱症
・吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬等がトリガーとなり発症
・頻度は低いが、急激に進行する致死性疾患
167
疼痛管理
増田美奈
168
疼痛管理
2010.4. 増田
痛みとは
組織の実質的(本当に存在する)あるいは潜在的(起ころうとする)障害に基
づいて起こる不快な感覚的・情動的体験である。また、このような表現を使って述べられ
る感覚・情動体験も含まれる。
国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain ; IASP)定義
痛みの種類
Ⅰ
侵害受容性疼痛 (nociceptive pain)
Aδ, C fiber によって伝達される
①体性痛 (somatic pain)
a. 表在痛 (superficial pain)
b. 深部痛 (deep pain)
②内臓痛 (visceral pain)
Ⅱ ニューロパシック性疼痛 (neuropathic pain)
神経伝達系のいずれかの部分の一次的損傷によって惹起される痛みか機能異常が
原因となっている痛み
Ⅲ
心因性疼痛 (Psychogenic pain)
周術期の疼痛とは
術前より存在する原疾患による痛みもしくは合併疾患による痛み
-癌性疼痛など腫瘍による内臓痛・整形外科疾患による痛み、急性腹症、外傷
麻酔に伴う痛み
-点滴ライン・観血的動脈圧ライン確保や伝達麻酔、awake intubation 時の挿管
操作に伴う痛み、導尿時の痛みなど
手術中の痛み
-手術操作に伴う痛み、特殊体位や駆血帯による圧迫の痛み
術後痛 -手術によって生じた体表創痛、内臓痛、及び術後の炎症に伴う痛み
169
適切な周術期の疼痛管理により、周術期合併症を防ぐことが出来る。
術後鎮痛の
不良
呼吸器合併症、臥
致 命的な 合 併
床期間の延長に伴
症
う血栓症 etc
170
周術期の鎮痛
術中の疼痛については麻酔自体が鎮痛を含むため、《適切な麻酔=適切な疼痛管理》とな
るがすべての麻酔が術後鎮痛までカバーできるわけではない。
(
レミフェンタニル、吸入麻酔薬は投与中止後速やかに痛みが出現する。
)
↓
術後(麻酔覚醒時も含めた)の適切な疼痛管理には術中から鎮痛法を検討・開始する必要
がある。
疼痛管理法
1.硬膜外鎮痛法 …
硬膜外カテーテルより局所麻酔薬もしくは麻薬を持続注入
2.神経ブロック法 …
手術前もしくは手術終了後に神経ブロックを施行
単回ブロック法
持続注入法
四肢手術
… 腕神経叢ブロック(腋窩・鎖骨上・斜角筋間ブロック)、
大腿神経ブロック、
腹部手術
坐骨神経ブロックなど
… 腹直筋ブロック・腹横筋ブロック
(稀にペインクリニック医による腹腔神経叢ブロック→術中施行)
胸部手術
… 肋間神経ブロック
3.非ステロイド性消炎鎮痛薬
フルビブプロフェン(ロピオン®)静注
小児例では座剤の挿肛を行うこともある
4.麻薬
a. ペンタゾシン(ペンタジン®)
合成系麻薬
κ-receptor に作用。静注で投与した場合作用持続時間は2時間程度
b. 塩酸モルヒネ(モルヒネ塩酸塩®)長時間作用性。遅発性の呼吸抑制を来すことがある
ため術後の呼吸モニターが必要。(特に高齢者)
当院では硬膜外麻酔の際に、
1~2mg を生食5~6ml で希釈して注入することが多い。
硬膜外投与の場合は静注量のおおよそ 1/5~1/10 くも膜下投与の場合は更にその 1/5
~1/10 程度となる。誤って、くも膜下腔に硬膜外相当量が注入されると覚醒遅延・呼
吸抑制・昏迷などが生ずるため、硬膜外注入の際には必ず吸引テストを行い、くも膜
下腔でないことを確認すること!
171
c. フェンタニル(フェンタニル®)
鎮痛作用はモルヒネの 100 倍と強力であり、ナロキソンにより拮抗される。鎮痛効果
発現まで約 5 分と速いため全身麻酔時の鎮痛薬として汎用されている。フェンタニル
を用いると、セボフルランやプロポフォールの使用量を約 40~50%低下させることがで
き、経済的にも有益である。副作用として、覚醒遅延と術後呼吸抑制があるがオピオ
イドの pharmacokinetics が解明され、薬の合理的な投与方法の検討によりその安全性
は向上している。麻酔薬の静脈内投与法に関する概念としては context-sensitive
half-time が重要である。
※ context-sensitive half-time
1992 年に Hughes らは、ある一定の血中濃度になるよう薬剤を
持続注入した場合、これを中止した後の半減期をその時間に
対する「context-sensitive half-time」と定義し、投薬中止後の
効果持続時間は、elimination half-time ではなく持続注入中止後
の血中濃度の半減期に影響されることを見出した。
Context-sensitive-half-time
(min)
300
フェンタニル
250
200
チオペンタール
150
100
ミダゾラム
プロポフォール
50
レミフェンタニル
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
infusion duration (hour)
図1 各種麻酔薬のcontext-sensitive half-time
図1に代表的な麻酔薬の context-sensitive half-time を示した。その中で注意を要する
のがフェンタニルの薬物動態である。すなわち、フェンタニルは、2 時間以内の投与では短
時間作用性のオピオイドであるが、持続期間が2時間を超えるとその血漿中からの消失半
172
減期が有意に延長する。この事象を利用し術後鎮痛を図ることができる。
当院では術後早期に抗凝固療法の必要があったり、解剖学的もしくは施行上の問題があり
硬膜外カテーテルの挿入が出来ない患者で充分な術後鎮痛が必要と考えられる症例ではフ
ェンタニル持続注入(PCA を含む)を行っている。術後鎮痛にフェンタニルの持続注入を
行う場合は、薬物動態ソフト(TIVA trainer)を用いて効果部位濃度を計算し、投与を行
っている。通常効果部位濃度1ng/ml 程度に設定することが多い(副作用発現を避けるため)
TIVA Trainer(Windows)
http://www.eurosiva.org/TivaTrainer/instructions_for_downloading.htm
その名の通り,TIVA の習得を目的に開発されたソフトウェアで,ヨーロッパ静脈麻酔学
会のWeb サイトからダウンロードできる.プロポフォールとオピオイドの相互作用もシミ
ュレーションできるのが特徴である.本ソフトウェアはシェアウェア(100 ユーロ)であ
るが,試用版も提供されている。当施設では専用パソコンをモニター室に準備してある。
CADD system
PCA ポンプ
術後鎮痛をより効果的且つ安全に行うために当院では TIVA Trainer で効果部位濃度をシミ
ュレーションした後に PCA(patient control analgesia)ポンプの設定を行い手術翌日まで
の疼痛管理を行っている。
173
呼吸管理
菊池 忠
174
呼 吸 管 理
鹿児島大学病院 救急部・集中治療部
菊池 忠
【目標】
1. 全身麻酔中および ICU でのいろいろな人工呼吸管理法を理解し、
状況に応じて使い分ける。
2. 人工呼吸に伴う合併症について理解し、予防することができる。
3. 特殊な呼吸管理を知っておき、いざというときに活用できる。
【内容】
<A>全身麻酔中の人工呼吸管理
1.VCV(volume control ventilation)
2.PCV(pressure control ventilation)
3.分離肺換気
4.Jet ventilation
<B>ICU での人工呼吸管理
1.SIMV(synchronized mandatory ventilation)
2.PSV(pressure support ventilation)
3.CPAP(continuous positive airway pressure)
4.ウィーニングの方法
5.NPPV(noninvasive positive pressure ventilation)
<C>人工呼吸に伴う合併症
1.人工呼吸器関連肺傷害(ventilator associated lung injury:VALI)
2.人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)
<D>特殊な呼吸管理
1.Open lung strategy, Recruitment maneuver
2.Bilevel,APRV(airway pressure release ventilation)
3.HFO(high frequency oscillatory ventilation)
4.NO 吸入療法
5.RTX(陽・陰圧体外式人工呼吸)
6.腹臥位
★詳細な講義内容は当日に配布致します。
175
ペインクリニック
大納哲也
176
①麻酔科外来での仕事
午前:外来診察(9:00~12:30)
午後:病棟・ブロック(木曜日午後は透視室、金曜日午後は手術室使用可)
②対象疾患
a 帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛
b 整形外科疾患→脊柱管狭窄症、頚椎症、椎間板ヘルニア、多数回手術後残存痛
c 術中術後痛対応依頼→肢切断、手術後遷延痛、合併症
d 血管障害性疼痛→閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓性血管炎、(頭痛)
e 神経痛→三叉神経痛、CRPS(complex regional pain syndrome)
f 腹部内臓痛→各種癌、炎症性疾患
g 緩和関係(現在、緩和ケアチームが主に行っているので実質的な関与はブロックなど限定)
h その他
③外来の流れ
Ⅰ 診察
主訴、現病歴、既往歴、痛みの評価
痛みの評価:強さ、部位、病態生理
Ⅱ 検査
画像検査(単純X線・MRI・CT・造影検査、サーモグラフィ)、
神経学的検査(運動・知覚・反射、電気生理)、血液生化学検査、心理検査
Ⅲ 治療
神経ブロック治療
外来:硬膜外ブロック、仙骨硬膜外ブロック、星状神経節ブロック、トリガーポイント、肩甲上
神経ブロック、肋間神経ブロック、腕神経叢ブロック、眼窩上神経ブロック、眼窩下神経
ブロック、頤神経ブロック、頚神経叢ブロック、正中神経ブロック、関節注射
透視:神経根ブロック、硬膜外カテーテル留置、下顎神経ブロック、ガッセル神経節ブロック、
椎間関節ブロック、硬膜外生理食塩液注入、肋間神経ブロック、腕神経叢ブロック、関
節注射(造影)
超音波:腕神経叢ブロック
内服薬治療:NSAIDs、麻薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗痙攣薬、漢方薬、その他
理学療法:レーザー(スーパーライザー):近赤外光、キセノン:キセノン光
177
痛みの評価
強さはどのくらいか?
Verbal Descriptor Scale(語句表現スケール)
mild(軽い) discomforting(不快な) distressing(つらい) horrible(ひどい) excrusiating(耐
え難い)
Numeric Rating Scale(数値評価スケール:NRS)
0は“無痛”、10は“想像できる最も強い痛み”
Visual Analog Scale(ビジュアルアナログスケール:VAS)
10cmの直線上にマーク
Face Pain Rating Scale(顔の絵による痛み評価スケール)
face pain rating scale
強さに限らない痛みの情報
McGil Pain Questionnaire(マギル疼痛質問表:MPQ)
感覚、情動、認識で 20 群に分類(1975 Dr. Melzack)
簡易型MPQ(1991 Dr. MacCaffery)
throbbing(ズキズキ) shooting(ビーン) stabbing(刃物で刺す) sharp(スパッと) cramping(しめつ
ける) gnawing(かみつかれる) hot-burning(やけるような) aching(疼くような) heavy(重ぐるし
い) tender(触られると痛い) splitting(割れるような) thring-exhausting (疲れる) sicking(気分が
悪くなる) feaful(おののくような) punishing-cruel(こりごり、むごたらしい)
どこが痛むか?
皮膚分節(dermatome):単一の脊髄神経
根に支配される皮膚領域
局在的な痛みか関連痛か?
表在性/末梢性の痛みか、内臓痛か?
関連痛の例
食道 胸骨下部、心臓 左腕・心下部、
内臓痛 分節的筋攣縮(胆のう炎 上
腹部筋肉、虫垂炎 下腹部筋肉、腎疝
痛 L2-L3分節)、横隔膜下 肩痛、
肝臓 右横隔部、腎臓 胸郭下部・背
部、尿管上部 鼠径部・精巣・卵巣、尿
管終末部 陰嚢/陰唇、前立腺 腰部、
子宮 腰部、卵巣 大腿前部、腓骨で
の腓骨神経絞扼 足背
178
痛みのタイプ
侵害受容 nociceptive:侵害受容器の活性化によって発生する痛み
神経因性 neuropathic:末梢または中枢の痛みの経路に対する損傷に
起因する痛み
求心路遮断性 deafferentation:末梢または中枢の痛みの経路に対す
る求心性入力が喪失する結果生じる慢性疼痛
知覚検査
鎮痛(analgesia)、麻酔(anesthesia)、異痛(allodynia)、知覚異
常 (dysesthesia) 、 知 覚 過 敏 (hyperesthesia) 、 知 覚 鈍 麻
(hypoesthesia)、痛覚過敏(hyperalgesia)
治療
硬膜外ブロック
1 回注入法:準備 〔5ml注射器3本 局麻・LOR・硬膜外注入用、針 薬剤吸引、局麻用、ブロック針〕
持続注入法:準備〔5ml注射器2本 局麻・LOR、針 薬剤吸引、局麻用、Tuohy針、カテーテル〕
体位:側臥位、透視を使うときは腹臥位
場所の Merkmal:後腸骨稜を結ぶ線(L4-5 間、L4
棘突起:
)、C7棘突起
(prominens:T1棘突起が突出す
ることもあり)、肩甲骨下縁(T7
棘突起:ずれは大きい)
適応:術中・術後疼痛管理、帯状疱疹痛、頚椎・腰椎椎間板ヘルニア急性期疼痛 など
合併症:硬膜外血腫、硬膜外膿瘍、硬膜穿刺
操作は丁寧に、清潔に、薬剤注入後の反応をよく観察すること。特に麻薬を入れる場合
⇒遅延性の呼吸障害。硬膜外膿瘍による膀胱直腸障害。穿刺時神経障害。
179
腕神経叢ブロック
透視下:準備〔20ml注射器 1 本 局麻・造影剤・抗炎症剤、針(23Gカテラン針) 延長チューブ〕
エコーガイド下:準備〔20ml注射器 1 本 局麻、針(神経刺激用ブロック針) 延長チューブ〕
↑紫:中斜角筋、赤:鎖骨下動脈
第一肋骨と第二肋骨の交点が指標→
神経叢が陰影となって造影
→→
適応:肩・上肢の手術時の麻酔、肩関節周囲炎、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア など
合併症:動脈穿刺、気胸、Hornel 徴候
⇒基本的に安全なブロック、手技は容易で効果抜群です。
内服薬
NSAIDs
特徴)
WHO鎮痛ラダーの第一段階
体性侵害受容性疼痛に有用(骨痛、関節炎など)
天井効果がある
鎮痛作用)
シクロオキシゲナーゼ阻害(PG産生の減少)
副作用)
消化器障害、腎機能障害、抗血小板作用
処方)ロキソニン(60 ㎎) 3T 3×
ボルタレン錠(25 ㎎)3T 3×
モービック錠(10 ㎎)1T 1×
セレコックス(100 ㎎)2T 2×
* アセトアミノフェン(カロナール)
抗炎症作用は少ない、鎮痛効果は強い
肝毒性(200 ㎎~250 ㎎/kg の使用)
180
ステロイド薬
特 徴) 抗炎症作用、膜安定化作用、骨吸収の促進、中枢神経の刺激閾値低下
適 応) 椎間板ヘルニア、顔面神経麻痺、突発性難聴、末期がん患者のQOL改善
副作用) 糖尿病、続発性副腎皮質機能不全、消化性潰瘍、骨粗しょう症、易感染性、中枢神経
障害、眼圧亢進、循環器症状(高血圧) など
処方例) ステロイドの漸減療法
プレドニゾロン(5 ㎎)6T 2×(朝4 昼2)
プレドニゾロン(5 ㎎)4T 2×(朝2 昼2)
プレドニゾロン(5 ㎎)2T 1×(朝2)
プレドニゾロン(5 ㎎)1T 1×(朝1)
(各 3~14 日で減らす)
ブロック
1%カルボカイン 2ml+リンデロン(2 ㎎・0.5ml)2A
神経根ブロック、椎間関節ブロック
1%カルボカイン 10ml+リンデロン(2 ㎎・0.5ml)2A
腕神経叢ブロック
カルバマゼピン(テグレトール)
特 徴) 電激痛に有効、Na チャネル受容体ブロッ
ク
適 応) 三叉神経痛、舌咽神経痛(保険適応)
帯状疱疹、DM 性ニューロパチー
副作用) 血中濃度は月 1 回の測定が望ましい
皮疹、骨髄抑制、アナフィラキシー、肝機
能障害、眩暈、嘔気、眠気、
長期連用で低 Na 血症
処方例) 三叉神経痛
テグレトール(100 ㎎)2T 2×より開始
* ふらつきなど副作用出易い高齢者には注意!
181
リドカイン(キシロカイン)、メキシレチン(メキシチール)
特 徴) 神経障害に伴う神経自身の自発性異所性の発射活動を Na チャネルブロックすることで
抑制
適 応) 神経因性疼痛一般⇒神経損傷後、DM 性、 中枢性、癌性、帯状疱疹、薬剤性など
副作用)
局所麻酔薬中毒症状→振戦、複視、眩暈 不眠
循環器症状→徐脈
消化器症状→嘔気、胃部不快感
処方例)
内服の場合
メキシチール(50 ㎎)3C 3×
点滴の場合
生食 100ml+2%キシロカイン静注用(5ml)1A
(30 分で Div)
メモ
201004 ono tetsuya
182