Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 CO2 ヒートポンプ式給湯・暖房機の性能評価に関する研究 Study on Performance Evaluation of Domestic Hot Water Supply and Space Heating System using CO2 Heat Pump 濱田 靖弘 * ・ 村川 三郎 ** Ya s u h i r o H a m a d a Saburo Murakawa *** **** 高橋 勇伍 Yu g o Ta k a h a s h i ・ 北山 Hiroki 広樹 ・ 高橋 功多 *** ・ 福澤 N o r i k a z u Ta k a h a s h i ・ 鍋島美奈子 Kitayama Minako ***** *** Akihiro Fukuzawa ・ 高田 Nabeshima 明大 Hiroshi 宏 ****** Ta k a t a (原稿受付日 2015 年 1 月 30 日,受理日 2015 年 6 月 25 日) This paper describes the performance of a domestic hot water (DHW) supply and space heating system using CO 2 heat pump (HP). Experiments were carried out under the same hot water demand by using the M1 standard mode. As a result of experiments, each coefficient of performance of the HP (HPCOP) was 4.91 in summer, 4.34 in the middle season and 2.75/2.82 in winter (high/low space heating load), respectively. Each system coefficient of performance (SCOP) was 3.59, 3.35 and 2.06/1.94. As a result of the comparison with the performance of HP for DHW only, it was shown that a space heating operation influenced a drop of SCOP. A rise of HP inlet temperature and increase of the heat loss from a hot water storage tank became the factor. As a result of having carried out an approximate evaluation, a value of the degradation ratio of SCOP compared with HP for DHW only was 20% in Tokyo. 実使用を考慮した貯湯式給湯機の省エネルギー性評価に必 1.はじめに 我が国の住宅におけるエネルギー消費の約 3 割は給湯エ 須の情報となる一方で,モニタ住宅によって,外界気象条 ネルギーが占めると言われている.そのため,給湯用途の 件,給湯需要量・パターンなどが異なることから,結果の 省エネルギー化は,近年の増加傾向にある民生部門の省エ 比較にあたっては留意する必要がある. ネルギー化をめざす上でも重要である.給湯設備は,熱源, 本研究は,CO2HP 式給湯機を対象とし,同一の給湯需要 配管,給湯栓から構成されるが,給湯エネルギー削減のた 条件下において,機器特性の評価を実施し,フィールド実 めに,熱源の高効率化は必要不可欠である.最近では,高 測結果の評価に援用することを目的としたものである 効率給湯機として CO2 ヒートポンプ(Heat Pump:HP)式 15) 給湯機や潜熱回収型給湯機,燃料電池・ガスエンジンを利 を M1 スタンダードモード 16)を用いて実施し,給湯専用機 用した熱電併給の普及が進んでおり,給湯エネルギーの削 の実験結果との性能比較を行うとともに,年間を通じた簡 減が期待されている.CO2HP 式給湯機の高効率化に関する 易評価を実施した. 実験 1)~3) ,解析 14), .CO2HP を暖房にも適用可能とした多機能機の性能評価 4),5) は国内外で広く行われてきているが, 実用化に関しては我が国が世界を牽引する立場にある 6) . 2.実験概要 CO2HP 式給湯機の特徴としては,気象条件,ライフスタイ 2.1 実験機器の仕様 ルによって性能に影響が生じることが知られており,それ CO2HP 式給湯機の仕様および性能を表 1,表 2 に示す. らを考慮に入れた設備設計,運転方法が重要と考えられる. ここで,機種表記はアルファベットが製造メーカー,その 最近の動向としては,CO2HP 式給湯機の基礎データの取得, 後の数値は製造年(12:2012 年),貯湯槽容量としている 効率的な運用をめざした研究が数多く報告されているのが 15) 特徴的である 7)~10). 湯槽容量は 460 L である.風呂保温および追焚は電気ヒー .機種 C12-460L は 4~7 人用のタイプとなっており,貯 筆者らは,実際に,2006 年度から全国各地域のモニタ住 タレス方式であり,貯湯槽内の高温の湯と熱交換を行い昇 宅に CO2HP 式給湯機を設置し,フィールド実測を行い,多 温している.また,機種 C12-460L は給湯負荷および暖房 様化するライフスタイルを考慮に入れた貯湯式給湯システ 負荷に対応できる多機能型の機器であり,貯湯機能として ムの基礎データを取得してきた 11)~13). これらの実測値は, 「 暖 房 」 が 設 定さ れ て い る. HP ユ ニ ッ ト の 成 績係 数 (Coefficient of Performance:COP,以下 HPCOP と称する) は,夏期,中間期でそれぞれ 5.52,4.88 であり,冬期高温 *北海道大学大学院工学研究院 〒060-8628 札幌市北区北 13 条西 8 丁目 E-mail : hamada@eng.hokudai.ac.jp **広島大学名誉教授 ***北海道大学大学院工学院 ****九州産業大学工学部住居・インテリア設計学科 *****大阪市立大学大学院工学研究科 ******広島大学大学院教育学研究科 加熱時においても 3.00 である. 第32回エネルギー・資源学会研究発表会,第30回エネル ギーシステム・経済・環境コンファレンスの内容をもとに 作成したものである. 23 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 表1 CO2HP 式給湯機の仕様 機種C12-460L 460 L 電気ヒータレス方式 (保温・追焚) 65 W 対象機種 貯湯槽容量 風呂保温・追焚方式 消費電力 風呂保温 凍結防止 ヒーター 制御用 貯湯機能 (最上段:工場出荷時 設定) 機種C10-370L 370 L 電気ヒータレス方式 80 W / 105 W 0.030 kW(冬期のみ) - 12 W (リモコン消灯時 7 W) おまかせ省エネ おまかせ 暖房 満タン 11 W (リモコン消灯時5 W) おまかせ省エネ おまかせ(多め,標準) 満タン 深夜のみ(多め,控えめ) 表2 作動 条件 夏期 作動 条件 冬期 高温 作動 条件 給湯負荷代表日(M1 スタンダードモード(4 人世帯) ) CO2HP 式給湯機の性能 機種C12-460L 機種C10-370L 対象機種 中間期 標準 図2 乾球温度/ 湿球温度 相対 湿度 沸き上げ 温度 16℃/12℃ 乾球温度/ 湿球温度 25℃/21℃ 乾球温度/ 湿球温度 7℃/6℃ 63% 相対 湿度 70% 65℃ 沸き上げ 温度 65℃ 加熱能力/ 消費電力 水温 17℃ COP 加熱能力/ 消費電力 24℃ COP 高温加熱能力/ 水温 消費電力 9℃ COP 水温 相対 沸き上げ 湿度 温度 87% 90℃ 年間給湯効率(APF)†1,†2 6.0 kW/ 1.230 kW 4.5 kW/ 0.885 kW 4.88 4.5 kW/ 0.815 kW 5.52 6.0 kW/ 2.000 kW 3.00 3.4 5.08 4.5 kW/ 0.815 kW 5.52 4.5 kW/ 1.500 kW 3.00 3.8 注 †1 年間給湯効率(APF)=1年間で使用する給湯に係る熱量/1年で必要な消費電力 †2 APF算出条件(出湯温度):夏期65℃,中間期65℃,冬期標準65℃,冬期高温90℃, 着霜期高温90℃,冬期標準給湯モード70℃,着霜期標準給湯モード75℃ T30 T33 T19 T8 (上部) T2 F2 F2' 給湯 風呂 T3 T3’F3 T31 F3' 50 L T45 T10 100 L T46 T9 T7 H1 T32 T34 T35 P T11 150 L T4 T4’ 表3 T47 T12 200 L T13 250 L 室外機 T43 H2 T44 T6 T5 貯湯槽 T14 300 L T15 350 L F4 T18 T38 T38’F5 T36 T37 P P T39 T39’ 給湯負荷モード 平均消費量 [L/日] 消費量標準偏差 [L/日] 通常浴槽 夏期 高断熱浴槽 追焚負荷 通常浴槽 中間期 [MJ/日] 高断熱浴槽 通常浴槽 冬期 高断熱浴槽 通常浴槽 夏期 高断熱浴槽 平均負荷 通常浴槽 (給湯+追焚) 中間期 高断熱浴槽 [MJ/日] 通常浴槽 冬期 高断熱浴槽 F5' 暖房往き 暖房戻り T1 F1 T16 400 L 給水 T17(下部) E2 排水 温度 図1 湿度 E1 電力 流量 図 3 給湯負荷パターン (M1 スタンダードモード(4 人世帯) ) M1 スタンダードモードと修正 M1 モードの比較 電力量 センサ設置箇所 2.2 実験条件 夏期,中間期,冬期を想定した運転データを取得するこ M1スタンダード 450 100 2.78 2.01 4.01 2.80 5.15 3.48 33.02 32.25 47.5 46.3 63.7 62.1 修正M1 450 100 - とを目的として,外気温度と給水温度については,表 2 の 2.3 計測項目および計測システム 条件とは異なるが,住宅用給湯設備システムを標準給湯負 図 1 に実験装置およびセンサ設置箇所を示す.施工要領 荷モードに従って試験し,システム熱効率を求める時に適 に基づき,恒温室内に設置した.循環配管はメーカー指定 用される(一財)建材試験センターによる JSTM V910317) 樹脂管で片道 5 m(樹脂管のみの長さで接続部銅管は含め の条件とした(夏期:25℃,20℃,中間期:15℃,14℃, ない)とした.恒温室内の温湿度(T・H),電力量(E), 冬期:5℃,8℃) .また,本規格で定められていない外気湿 各種水温(T) ・流量(F)を 2 秒間隔で収集した. 度については(一社)日本冷凍空調工業会による JRA4050 2.4 解説表 1 の 2 都市平均 18)によった(夏期:71%,中間期: 給湯負荷 本実験では,負荷モデルとして M1 スタンダードモード 63%,冬期:57%) .電力契約モードについては,電気給湯 を採用した.M1 スタンダードモードの給湯負荷は,貯湯 機等の夜間(23 時~7 時)蓄熱式機器等所有世帯に適用さ 式給湯機を主な対象とし,図 2,図 3 に示すように,6 つの れる時間帯別電灯のモードとした.貯湯機能に関しては, 工場出荷時に設定されているモード(工場出荷時モード: 代表日からなる全 31 日の複数日モードである.平日につい おまかせ省エネ)を対象に試験を実施した.夏期・中間期 て修正 M1 モード 19)では「大,小」2 日であったものに「中」 が新たに追加され,代表日の平均・変動は実測やアンケー 試験については給湯負荷のみに,冬期試験については給湯 負荷および暖房負荷に対応した試験を実施するものとした. トの結果より設定されたものである.さらに 4 人世帯をベ 本来は冬期条件で給湯負荷のみの試験についても実施する ースに 3・2・1 人世帯の給湯負荷も設定されている.また, 必要があるが,実験日程の制約により行えなかったことか 修正 M1 モードでは扱っていない追焚負荷が追加されたこ ら,今回は,夏期・中間期との相対的な比較,既報 15)によ とも特徴である.表 3 に M1 スタンダードモードと修正 M 1モードの比較を示す.いずれのモードに関しても平均値 る単機能型(表 1,表 2 の C10-370L)の実験結果との比較 および標準偏差はそれぞれ,450 L,100 L を想定している. を行い,差異の概略把握を目的としている. 24 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 表4 給湯消費行為・時間・回数(平日(中) ) 平日(中) 湯消費量 用途内訳 設定 合計 浴槽 水栓 450 180 270 [L/日] [L/日] [L/日] [L/回] [回/日] [L/日] A 2 40 80 B 20 2 40 C 5 6 30 D 40 3 120 [回/日] [L/日] [回/日] [L/日] 2 4 38 76 0 0 2 40 0 0 6 30 0 0 3 120 1 180 52 450 270 2 4 50 446 38 2 6 3 1 50 水栓行為種類 群内外 群外 群内 群内行為 時間帯 群01 洗面(朝) 群02 群03 炊事(朝) 群04 群05 食器洗(朝) 群06 炊事(昼) 群07 群08 炊事(夕1) 群09 炊事(夕2) 群10 浴槽湯はり 群11 入浴(夜1) 群12 入浴(夜1) 群13 洗顔(夜1) 群14 食器洗(夕1) 群15 食器洗(夕2) 群16 入浴(夜2) 群17 入浴(夜2) 群18 洗顔(夜2) 群19 入浴(夜3) 群20 入浴(夜3) 群21 洗顔(夜3) 群22 入浴(夜4) 群23 入浴(夜4) 群24 洗顔(夜4) 群25 群外行為 合計 合計 開始 06:30:00 [回/日] 終了 06:33:06 停止間隔 30 4 8 06:45:00 06:49:12 90 3 6 07:15:00 12:00:00 07:17:18 12:04:12 90 90 2 3 18:35:00 19:00:00 19:35:00 20:15:00 20:25:00 20:35:00 20:40:00 20:50:00 21:15:00 21:35:00 21:45:00 22:00:00 22:15:00 22:22:00 22:30:00 22:45:00 23:00:00 18:51:30 19:04:00 19:47:00 20:15:30 20:29:00 20:36:18 20:45:36 20:53:06 21:15:30 21:40:00 21:46:18 22:00:30 22:15:30 22:23:18 22:30:30 22:49:00 23:01:18 150 30 30 30 30 30 30 30 5 5 4 6 0 30 10 180 5 40 4 28 8 5 45 4 5 5 4 5 40 4 合計 開始 [回/日] 用途 群外01 9:00 群外02 洗面 16:00 群外03 洗面 群外04 群外05 群外06 群外07 群外08 群外09 群外10 群外11 群外12 群外13 群外14 群外15 ※ A:台所・洗面の短時間使用を想定 B:台所・洗面の長時間使用を想定 C:シャワーの短時間使用を想定 D:シャワーの長時間使用を想定 図4 浴槽 180 1 180 水栓A~D 30 30 1 1 1 1 2 4 4 1 1 1 1 2 1 1 30 30 2 30 30 2 1 1 2 0 0 0 0 1 1 図6 高暖房負荷(平日) 図7 高暖房負荷(休日) 図8 低暖房負荷(平日) 図9 低暖房負荷(休日) 2 0 2 2 0 0 暖房負荷代表日(M1 スタンダードモード) 栓は A~D の 4 種類に分類され,消費流量・回数が異なる. また, 「群」の定義として,ある消費行為がその前後の消費 行為の 15 分以内の場合を「群内」 ,そうでない場合を「群 外」としている. 2.5 図5 暖房負荷パターン(M1 スタンダードモード) 暖房負荷 M1 スタンダードモードの暖房負荷は高暖房負荷と低暖 房負荷に分類される.図 4,図 5 に暖房負荷の代表日およ M1スタンダードモードの追焚負荷は,季節・浴槽の断熱 びパターンを示す.ここでμ,σはそれぞれ平均と標準偏 性により 6 つの値が与えられている.M1スタンダードは 差であり,暖房負荷は平日と休日のそれぞれにおいて±σ 追焚負荷が考慮されていることから,より実態に近い負荷 のケース,平日においては+2σのケースを設けて合計 7 となっている.表 4 に代表例として平日(中)の給湯消費 通りの負荷設定を行っており,全 31 日の複数日モードであ 行為・時間・回数を示す.平日(中)では合計で 450 L 消 る.図 6~図 9 にそれぞれ,高暖房負荷(平日,休日) ,低 費され,その内訳は浴槽が 180 L,水栓が 270 L である.水 暖房負荷(平日,休日)を示す.表 5 に高暖房負荷を再現 25 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 表5 暖房往還温度条件(高暖房負荷) 6~10時 平日μ+2σ 12~14時 16~24時 6~10時 平日μ+σ 16~24時 6~10時 平日μ 16~24時 6~10時 平日μ-σ 16~24時 8~14時 休日μ+σ 16~23時 8~10時 休日μ 16~23時 8~10時 休日μ-σ 19~23時 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 ホットダッシュ 60 ℃ 40 ℃ 合計 往き温度 [℃] 戻り温度 [℃] 時間 [min] 72 35 30 60 42 114 40 34 96 240 72 35 0 60 42 84 40 34 36 120 72 35 0 60 42 167 40 34 313 480 72 35 30 60 42 162 40 34 48 240 72 35 0 60 42 119 40 34 361 480 72 35 30 60 42 114 40 34 96 240 72 35 0 60 42 47 40 34 433 480 72 35 30 60 42 90 40 34 120 240 72 35 0 60 42 30 40 34 450 480 72 35 30 60 42 30 40 34 300 360 72 35 0 60 42 29 40 34 391 420 72 35 30 60 42 30 40 34 60 120 72 35 0 60 42 29 40 34 391 420 72 35 30 60 42 30 40 34 60 120 72 35 0 60 42 30 40 34 210 240 図 10 有効 HP 入水・出湯温度(夏期) 図 11 HPCOP(夏期) する際に設定した暖房循環往還温度を示す.暖房往温度 72℃,60℃,40℃に対して暖房還温度をそれぞれ,35℃, 42℃,34℃と設定した.また,1 日を前後半に区分(平日 図 12 μ+2σのみ 3 分割)し,各日・時間帯別に暖房熱量を設定 SCOP(夏期) した.セントラルヒーティングで連続運転を行うことが多 図 10 に HP 停止時のデータを除外した有効 HP 入水・ い寒冷地とは異なる本州型の間欠暖房である.図 6,図 8 出湯温度を示す.また,同機種の単機能型(給湯専用機 を比較すると平日の主な相違は負荷量であり,その発生時 C10-370L)の実験値を示すが,単機能型試験に関しては 間に大きな差異はないことがわかる.一方,図 7,図 9 の 負荷パターンに修正 M1 モードを用い,追焚負荷は考慮 休日に関しては発生時間帯に顕著な差が見られる.また, されていない 表 5 より,暖房運転立ち上がり時の高温水供給(ホットダ に示されるように中間期標準で 0.2 の差があるが,夏 ッシュ)の条件は 72℃であり,厳しい条件での運転が求め 期・冬期高温は同値である.M1 スタンダードモードと られる. 修正 M1モードには,主に追焚の有無の相違があるが, 15) .多機能型と単機能型の仕様値は表 2 負荷の平均値および標準偏差は同様であることから参 3.実験結果と考察 考に比較を行った.有効 HP 入水・出湯温度ともに多機 3.1 夏期 能型は単機能型とほぼ同様の推移を示している. 図 11, 26 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 図 13 図 16 有効 HP 入水・出湯温度(中間期) 図 14 図 15 有効 HP 入水・出湯温度(冬期) HPCOP(中間期) 図 17 HPCOP(冬期) SCOP(中間期) 図 18 SCOP(冬期) 図 12 にそれぞれ HPCOP(図 1 の F4,T5,T6 を用いて ず表 2 と比較して HPCOP は小さい値となっているが, 得られる HP 加熱量を E2 の HP 電力量で除した値) ,シ 実際には有効 HP 入水温度が 26~28℃程度となっており, ステム成績係数(System Coefficient of Performance:SCOP, 加熱量が小さいこと等が原因であると考えられる.多機 図 1 の F1,F2,F3,F5,T1,T2,T3,T4,T38,T39 能型の SCOP は 2.95~4.10,平均値は 3.59 であった.多 を用いて得られる全体熱負荷を E1 の全電力量で除した 機能型の第一週のみ再現した給湯負荷が設定値の 8 割 値 ), お よび 単機 能 型の 実験 値 を示 す .多 機 能型 の 程度となったため SCOP の値が低くなっている.単機能 HPCOP は 4.90~5.11,平均値(8 日目~最終日)は 4.91 型の SCOP の平均値は,3.87(おまかせ省エネ),3.98 であった.単機能型の HPCOP の平均値は,5.19(おま (おまかせ)であり,多機能型の SCOP はそれらの値よ かせ省エネ) ,5.13(おまかせ)であり,多機能型の HPCOP りも 0.28,0.39 小さい結果となった.給湯負荷の日々の はそれらの値よりも 0.28,0.22 小さい結果となった.設 変動に伴う有効 HP 入水・出湯温度の変化は,ほとんど 定給水温度(20℃)が表 2(24℃)より低いにも関わら 見られなかったが,多機能型が若干何れも高めに推移し 27 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 * * * * *p<0.05 3.0 期間平均SCOP [-] 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 多機能型 (暖房)【高暖房負荷】 多機能型 (暖房)【低暖房負荷】 図 19 単機能型 (おまかせ省エネ) 単機能型 (おまかせ(標準)) SCOP(冬期)の有意差 図 22 図 20 図 23 貯湯槽垂直温度分布(給湯のみ) 貯湯槽垂直温度分布(給湯・暖房) 貯湯槽垂直温度分布(暖房のみ) 図 24 図 21 貯湯槽損失熱量 小さい結果となった.設定給水温度が 14℃であるのに対し 貯湯槽垂直温度分布(追焚のみ) て,貯湯槽下部からの HP 入水温度は何れも 20℃程度とな っていること,設定外気温度の 1℃の差等が表 2(設定給水 たこと等が影響していると考えられる. 温度 17℃)と比較して HPCOP が小さい値となっている原 3.2 中間期 図 13 に有効 HP 入水・出湯温度を示す.有効 HP 出湯温 因と考えられる.また,多機能型の SCOP は 2.93~3.74, 度に関しては,第一週は多機能型と単機能型で 10℃程度差 平均値は 3.35 であった.単機能型の SCOP の平均値は,3.45 があったものの,第三週からはほぼ同程度の値を推移して (おまかせ省エネ) ,3.46(おまかせ)であり,多機能型の いる.第一週の稼動状況はそれ以前の運転履歴が影響して SCOP はそれらの値よりも 0.10,0.11 小さい結果となった. いることから,本研究での評価には 8 日目以降の値を用い 3.3 冬期 ている.有効 HP 入水温度に関しては,期間を通してほぼ 図 16 に有効 HP 入水・出湯温度を示す.多機能型の有効 同様の推移を示している.図 14,図 15 にそれぞれ HPCOP HP 出湯温度が高暖房負荷,低暖房負荷時ともに 85℃程度 および SCOP を示す.多機能型の HPCOP は 3.97~4.46,平 であるのに比べ,単機能型の有効 HP 出湯温度は 65℃程度 均値(8 日目~最終日)は 4.34 であった.単機能型の HPCOP と大きな差が見られる.有効 HP 入水温度に関しても,期 の平均値は,4.56(おまかせ省エネ),4.41(おまかせ)で 間を通して高暖房負荷,低暖房負荷時ともに 20℃程度多機 あり,多機能型の HPCOP はそれらの値よりも 0.22,0.07 能型の方が高く推移している.図 17,図 18 にそれぞれ, 28 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 表6 機種 貯湯機能 C12-460L おまかせ省エネ おまかせ省エネ C10-370L おまかせ標準 各機種の SCOP 予測式 SCOP予測式 日平均外気温度 日給湯負荷 日暖房負荷 暖房 偏回帰 標準偏回 偏回帰 標準偏回 偏回帰 標準偏回 負荷 係数 帰係数 係数 帰係数 係数 帰係数 0.124 0.965 0.026 0.485 -0.004 -0.182 有 0.098 1.077 0.034 0.718 無 - - 0.122 1.072 0.042 0.737 無 - - 定数項 重相関 係数 -0.091 0.049 -0.722 0.777 0.856 0.832 えなかったことから,今回は,中間期との相対的な比較を 行い,差異の概略把握を目的としている.給湯のみの場合 には,貯湯槽最上部温度が 60℃程度を示し,また貯湯槽底 層部温度は給水温度に近いことがわかる.追焚のみの場合 には,他メーカーの機種では熱交換器が外付けされており, 貯湯槽下部に湯が戻る場合には,貯湯槽底層部で温度上昇 図 25 が起きる 14).しかし,本機種はそれらとは異なり,熱交換 SCOP 計算結果(東京) 器が貯湯槽内部に位置していることから温度成層の乱れが HPCOP および SCOP を示す.高暖房負荷時の多機能型の 底層部までは及んでいない.給湯と暖房の同時運転では, HPCOP は 2.62~3.08,平均値は 2.75(8 日目~最終日) ,低 貯湯槽下層部の温度上昇は見られるが,貯湯槽最底層部は 暖房負荷時は 2.59~3.59,平均値は 2.82 であり,高・低暖 給湯運転に伴う貯湯槽への給水により低く保たれている. 房負荷時ともほぼ同等の性能を示した.また,単機能型の また貯湯槽最上部温度は 80℃程度を示している.暖房のみ HPCOP の平均値は,3.78(おまかせ省エネ) ,3.51(おまか の場合には,貯湯槽底層部の温度上昇がさらに大きくなる. せ)であり,多機能型の HPCOP はそれらの値よりも 0.7~ 表 2 の性能値は沸き上げ温度を指定して求められているが, 1 程度小さく,暖房負荷の有無が影響していると考えられ ここでは貯湯機能による自動学習運転を行っているため沸 る.また,多機能型の SCOP は高暖房負荷時において 2.00 き上げ温度は負荷に応じて変動する.図 24 に各期の貯湯槽 ~2.15,平均値は 2.06,低暖房負荷時において 1.82~2.55, 損失熱量を示す.夏期,中間期,冬期(高暖房負荷) ,冬期 平均値は 1.94 であった.暖房負荷を追加した冬期において (低暖房負荷)のそれぞれ平均損失熱量は 12.9,17.2,41.1, も SCOP は 2 前後を維持した.単機能型の SCOP の平均値 35.4 MJ となった.冬期は気温の低下と暖房に対応したこと は,2.73(おまかせ省エネ),2.64(おまかせ)であり,多 により貯湯槽内部の温度が上昇したため熱損失が大きい結 機能型の SCOP はそれらの値よりも 0.6~0.8 程度小さい結 果となった.貯湯槽上部の内外温度差が,夏期・中間期は 果となった.図 19 に多機能型と単機能型の冬期の性能の有 35~45℃であるのに対して,冬期は 75℃程度になること, 意差検定結果を示す.暖房に対応した多機能型と暖房に対 暖房対応のため貯湯槽残存熱量がより長時間にわたり大き 応していない単機能型の間に有意差(p<0.05)が見られ, くなること,配管熱損失の増加等が原因である. 暖房運転が機器効率の低下に影響を与えていることが示さ 3.5 SCOP れた.HP 入水温度,HP 出湯温度が何れも 20℃程度上昇す 暖房負荷の有無による機器効率への影響を評価した.重 ることで大幅な効率低下が見られ,暖房負荷の量よりも「有 回帰分析により SCOP の予測式を得る既報 15)の手法に暖房 無」が低下要因であることが明らかになっており,暖房用 負荷を加えた.多機能型は M1 スタンダードモード,単機 の温水循環温度が,単機能型の性能に影響を与えないシス 能型は修正 M1 モードによる実験結果を用いた.表 6 に各 テム回路の改善が今後の課題と考えられる. 機種の SCOP の予測式を示す.暖房負荷有の標準偏回帰係 3.4 貯湯槽温度分布および損失熱量 数は,-0.182 であり,大きな低下要因である.図 25 に東京 図 20~図 23 にそれぞれ,給湯のみ,追焚のみ,給湯・ の標準気象データを用いて簡易的に求めた予測年間 SCOP 暖房,暖房のみの場合における貯湯槽垂直温度分布を示す. を示す.SCOP は 2.59 となり,単機能型ではおまかせ省エ 「給湯のみ」および「追焚のみ」に関しては中間期試験結 ネ,おまかせ(標準)でそれぞれ 3.22,3.16 となった.多 果(21 日目,負荷パターン:休日在宅大)を,「給湯・暖 機能型と単機能型の SCOP 計算結果を工場出荷時モード 房」および「暖房のみ」に関しては冬期試験結果(17 日目, (おまかせ省エネ)で比較すると,20%程度の低下であっ 負荷パターン(給湯:平日大 暖房:μ+2σ))を用いてい た.表 6 の多機能型の標準偏回帰係数は,外気温度に対し る.前述の通り,本来は冬期条件で給湯負荷のみの試験に て,給湯負荷,暖房負荷が,それぞれ 5 割,2 割程度の影 ついても実施する必要があるが,実験日程の制約により行 響を有していることが大きな原因となっている. 29 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 4 microchannel heat pump water heaters,International Journal of Refrigeration, 4.まとめ 34-4(Jun., 2011),870-880. CO2HP 式給湯・暖房機の性能評価を行うことを目的とし 6) て,M1 スタンダードモードを用いた実験を実施し,以下 H. Goto, M. Goto and T. Sueyoshi;Consumer choice on ecologically efficient water heaters,Energy Economics,33-2(Mar., 2011),195-208. の知見が得られた. 7) 横山良平,河野泰大,涌井 徹也,竹村和久;CO2 ヒートポンプ給湯シ (1)HPCOP は,夏期,中間期,冬期(高・低暖房)でそ ステムにおける性能日変化の推定,日本冷凍空調学会論文集, れぞれ 4.91,4.34,2.75・2.82 であった. 28-3(2011-9),181-191. (2)SCOP は,夏期,中間期,冬期(高・低暖房)でそ 8) 村上 彰,添田晴生;CO2 ヒートポンプ給湯機における COP の計測と れぞれ 3.59,3.35,2.06・1.94 であった. , 評価に関する研究,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集(2010-9) (3)給湯専用機の実験結果との性能比較を行った結果, 1823-1826. 冬期に大きな差異が見られ,暖房運転が機器効率の低下に 9) 堀 祐治,桑沢保夫;寒冷地における自然冷媒ヒートポンプの省エネ 影響することを示した.貯湯槽上部の内外温度差が,冬期 ルギー性能に関する研究,日本建築学会大会学術講演梗概集環境工学 は 75℃程度になること,暖房対応のため貯湯槽残存熱量が I(2009-7),609-610. より長時間にわたり大きくなること,配管熱損失の増加等 10) 飛原英治;ユーザの立場を重視した冷凍空調機器の性能評価法の確立 が原因である.また,HP 入水温度,HP 出湯温度が何れも に向けて,冷凍,80-935(2005-9),771-777. 20℃程度上昇することで大幅な効率低下が見られており, 11) S. Murakawa, H. Takata, H. Kitayama, Y. Hamada and M. Nabeshima; 暖房負荷の量よりも「有無」が低下要因であることが明ら Evaluation of the system efficiency of residential CO2 heat pump water かになった. heaters under the practical usage,Proceedings of the 37th International (4)年間を通じた簡易評価を実施した結果,給湯専用機 Symposium on Water Supply and Drainage for Buildings - CIB W062 に対する性能低下割合の東京における試算値は,約 20%で 2011(Sep., 2011),335-349. あった.多機能型の標準偏回帰係数は,外気温度に対して, 12) S. Murakawa, H. Takata, H. Kitayama, Y. Hamada and M. Nabeshima; 給湯負荷,暖房負荷が,それぞれ 5 割,2 割程度の影響を Experimental analysis for the evaluation of the system efficiency of residential 有していることが大きな原因となっている. CO2 heat pump water heaters in case of reheating operation of water in the HP 用途の多目的化は利便性・省スペース化・低コスト化 bathtub,Proceedings of the 38th International Symposium on Water Supply 等の観点から重要である.暖房用の温水循環温度が,単機 and Drainage for Buildings-CIB W062 2012(Aug., 2012),523-536. 能型の性能に影響を与えないシステム回路の改善が今後の 13) 村川三郎ら;住宅における CO2 ヒートポンプ式給湯機の稼働実態と性 課題と考えられる. 能評価に関する研究(第1~5報) ,空気調和・衛生工学会論文集,(2011 ~2015). 謝辞 14) 濱田靖弘,村川三郎,永廣健太郎,北山広樹,鍋島美奈子,高田 本研究は,一般財団法人ベターリビングに設置した「貯 宏; CO2 ヒートポンプ式給湯機の基本性能と除霜・追焚運転の評価に関する 湯利用における実使用実態把握及びその評価研究委員会」 研究,空気調和・衛生工学会論文集,143(2009-2),47-59. により実施したものである.関係各位に深く感謝致します. 15) 濱田靖弘,村川三郎,高橋功多,北山広樹,鍋島美奈子,高田 宏; 実使用を考慮した貯湯式給湯機の性能評価に関する研究─修正 M1 モ 参考文献 1) ードによる実験室実験とフィールド実測による CO2 ヒートポンプ式給 湯機の評価─,空気調和・衛生工学会論文集,198(2013-9),1-10. N. Femandez, Y. Hwang and R. Rademacher;Comparison of CO2 heat pump 16) 前 water heater performance with baseline cycle and two high COP cycles, 30-33. International Journal of Refrigeration,33-3(May, 2010),635-644. 2) 17) 一般財団法人建材試験センター;住宅用給湯設備システムの熱効率試 P. Neksa, H. Rekstad, G. Zakeri and P.Sciefloe;CO2 heat pump water heater, 験法 JSTM V9103-1992. International Journal of Refrigeration,21-3(May, 1998),172-179. 3) 18) 一 般 社 団 法 人 日 本 冷 凍 空 調 工 業 会 ; 家 庭 用 ヒ ー ト ポ ン プ 給 湯 機 H. Tian, Z. Yang, M. Li and Y. Ma;Research and application of CO2 refrigeration and heat pump cycle,Science in China Series E: Technological JRA4050・2007R. 19) 前 Sciences,52-6(Jun., 2009),1563-1575. 4) 5) 真之;給湯設備機器の省エネルギー性能,IBEC,193(2012-11), 真之,三浦尚志,羽原宏美,堀 祐治,桑沢保夫,秋元孝之,宇 F. Fardoun, O. Ibrahim and A. Zoughaib;Quasi-steady state modeling of an 梶正明,澤地孝男;住宅のための省エネルギー手法の実験的評価に関 air source heat pump water heater,Energy Procedia,6(Jun., 2011),325-330. する研究(その3),日本建築学会環境系論文集,659(2011-1),49-57. C. Goodman, B. Fronk and S. Garimella ; Transcritical carbon dioxide 30
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