ラグランジュ方程式で遊ぶ 村田憲治@山県高校 サークルニュース p.4617~の石川論文を読んでいて「そう言えば解析力学でラグランジュ方 程式ってのを習ったなあ」と思って,古い教科書を引っ張り出して〈お勉強〉してみました。 学生時代はラグランジアンやハミルトニアンのイメージがつかめないまま,ボアソン括弧あ たりで落ちこぼれた苦い思い出のある解析力学ですが,高校物理の初等的な問題でラグランジ ュ方程式を使ってみると結構面白いですよ。 ■ とりあえずラグランジュ方程式を作ってみよう 1 2 ラグランジアン L は,運動エネルギー K ( = mx& )と位置エネルギー U (x ) の差で, L=K-U [ 1 L= mx& 2-U (x) 2 2 ] と表されます。 ( x& は dx のことね) dt K+U なら「全エネルギー」なんだけど, K-U ってのは何なんでしょうなあ。教科書を 読んでると「 L を『値』だと思っちゃダメだ。 x& と x の『関数』だと考えろ」なんて書いてあ ります。はぁ,そういうものですか。とりあえず L を x& で偏微分してみましょうか。 ∂L =mx& ∂x& ←あれ,運動量 p になったぞ。 んじゃ今度は x で偏微分してみましょう。 ∂L ∂U =∂x ∂x ←お,これは力 F じゃんか。 これらをニュートンの運動方程式 d ∂L ∂L = dt ∂x& ∂x dp =F に代入してみましょう。そうすると, dt ←これがラグランジュ方程式。要するに運動方程式なんだ~。 実は x と x& でなくても,円筒座標の r と r& とか θ と θ& を使ってもOKなんです。これがラグラ ンジュ方程式のすごいところでしょうね。 ■ ラグランジュ方程式を使ってみよう① 「アトウッドの滑車」 初等的な問題でラグランジュ方程式を使ってみましょう。 1 2 1 2 運動エネルギー K= Mx& + mx& 2 2 , 糸の全長を l とすると 位置エネルギー U=-Mgx-mg(l-x ) ラグランジアン L は次のようになります。 1 1 L= Mx& 2+ mx& 2+Mgx+mg(l-x ) 2 2 ラグランジュ方程式 d ∂L ∂L に代入してみると = dt ∂x& ∂x &&+mx &&=Mg-mg Mx M-m &&= x g M+m ラグランジュ方程式を使うほどの問題じゃないんですけどね。(^_^;) ■ ラグランジュ方程式を使ってみよう② 「バネふりこ」 ばね定数 k のバネに質量 m のおもりをつけて振動させるとします。 1 K= mx& 2 2 1 2 , U= kx 1 2 2 ですから 1 2 ラグランジアン L= mx& - kx 2 これをラグランジュ方程式 2 d ∂L ∂L に代入してみると, = dt ∂x& ∂x &&=-kx mx ありゃ,バネ振り子の運動方程式ができちゃった。 ■ ラグランジュ方程式を使ってみよう③ 「単ふりこ」 ( ) 1 K= m lθ& 2 2 , U=mgl(1-cosθ ) なので ( ) 2 1 L= m lθ& -mgl(1-cosθ ) 2 ラグランジュ方程式 d ∂L ∂L に代入すると = dt ∂θ& ∂θ ( x& と x でなくて, θ& と θ でもいいのだ!) ml 2θ&&=-mglsinθ g l θ&&=- sinθ おお,これもおなじみの結果ですな。 ■ ラグランジュ方程式を使ってみよう④ 「中心力による運動」 極座標 (r,θ ) を使ってみましょう。 ( ) 2 v 2= rθ& +r& 2 ですから ( ) ( ) 1 K= m r 2θ& 2+r& 2 2 , U=-G Mm r 1 Mm L= m r 2θ& 2+r& 2 +G 2 r (1) d ∂L ∂L に代入してみると = dt ∂r& ∂r (2) d ∂L ∂L に代入してみると = dt ∂θ& ∂θ ( Mm m&r&=mrθ& 2-G 2 r ) d mr 2θ& =0 dt 遠心力! 角運動量保存則だ! なんだかすごいでしょ。ラグランジュ方程式,なかなかやるな~。 ■ ラグランジュ方程式を使ってみよう⑤ 「遠心力とコリオリ力」 最後にちょっと手強いやつをやってみます。 一定の角速度 ω で回転する座標系を (X,Y ) ,静止座標系を (x,y ) とします。 回転する座標系で観測される見かけの力(遠心力とコリオリ力)を導き出してみましょう。 x=Xcosωt-Ysinωt y=Xsinωt+Ycosωt の関係がありますから,この式から x& , y& を計算して運動エネルギーの式を作ります。 & cosωt-Y& sinωt-ω (Xsinωt+Ycosωt ) x& =X & sinωt+Y& cosωt+ω (Xcosωt-Ysinωt ) y& =X 運動エネルギー K は ( ) { ( ( ) m m & 2 &2 & Y-XY& K= x& 2+y& 2 = X +Y +ω 2 X 2+Y 2 -2ω X 2 2 回転座標系におけるラグランジアンは { ( ) ( )} m &2 &2 & Y-XY& -U L= X +Y +ω 2 X 2+Y 2 -2ω X 2 d ∂L ∂L & = dt ∂X ∂X に代入してやると, && -mωY& =mω 2 X+mωY& -∂U mX ∂X )} となるので && =mω 2 X+2mωY& -∂U mX ∂X 遠心力 コリオリ力 d ∂L ∂L の方も同様に計算できて, = dt ∂Y& ∂Y && =mω 2 Y-2mωX & -∂U mY ∂Y 遠心力 となります。 コリオリ力 いかがでしょうか。もしニュートン形式で運動方程式を作ろうとすると大変な手間がかかり ますが,ラグランジュ方程式なら比較的簡単に同じ微分方程式が導けるんですね。 それに,座標が長さの次元を持ってなくても同じ形式で運動方程式が書けるってのも便利で すな。これが一般化座標,一般化運動量の威力なんでしょうなあ。 murata@straycats.net http://physics.omosiro.tripod.com/
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