講演題目 金属サレン錯体の電子構造:局在・非局在性に関する支配因子

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講演題目 金属サレン錯体の電子構造:局在・非局在性に関する支配因子
○中垣雅之 青野信治 榊茂好
京大福井謙一研究センター
nakagaki@fukui.kyoto-u.ac.jp
【緒言】金属サレン錯体の配位子ラジカルの局在・非局在性
は、金属原子の種類や置換基により大きく異なる。置換基 X
と Y に t-Bu 基をもつ対称的なサレン(SCHEME 1)の場合、配
位子ラジカルが Mn 錯体では局在化、Ni 錯体では非局在化す
る 1。同じ Ni 錯体では置換基が OMe 基の場合には非局在化
のみならず局在化に由来する吸収も観測された 1。さらに、金
属原子-サレン分子間の電子移動を含めた複数の電子状態も関
与することから、金属サレン錯体の電子構造は複雑であり、
その解明には溶媒効果を考慮した詳細な理論研究が不可欠である。本研究では電子状態に対
する金属原子や配位子の効果や、配位子ラジカルの局在・非局在性の支配因子の解明及び励
起エネルギーの定量的な予測を試みた。
【計算方法】置換基 X,Y として(Me,Me), (OMe,OMe), (OMe,Cl)の組を有するサレン金属錯体
(SCHEME 1)に関して、M06 汎関数を用いた密度汎関数法による構造最適化と多配置多参照
摂動(GMCPT)法を用いた励起エネルギーの計算を行った。PCM 法(溶媒:CH2Cl2, ε=8.93)を用
いて溶媒効果を取り入れた。GMCPT 法の参照関数として active space 内の2電子励起まで
を考慮した MCSCF 法を用いた。
【結果及び考察】局在化・非局在化構造の比較のため C1 及び C2 対称で得られた構造のエネ
ルギー差を表1に示す。真空中では Mn1 錯体(X,Y=Me)のみでラジカルカチオンが片側に局在
化した C1 対称の構造が得られたが、C2 構造とのエネルギー差は 0.2 kcal/mol しかない。それ
以外の対称的な Mn, Ni 錯体では非局在化した C2 対称構造が安定であった。溶媒効果を考慮
することで Mn1, Mn2 錯体で C1 構造の安定化が顕著に起こることが示され、実験結果と同様
に局在・非局在性の金属原子による違いが見られた。Ni2 錯体(X,Y=OMe)では、真空中では
C2 構造が、溶液中では C1 構造が安定であったがエネルギー差はごく小さい。これは Ni2 錯体
で局在・非局在2つの状態が共存するという実験結果に対応している。表2に示すように Mn
錯体では Mn とカチオンラジカル側の酸素原子との結合長が、他方の酸素原子との距離に比
べ約 0.1Å短いが、Ni 錯体ではラジカルが局在化した非対称な錯体においても Ni と2つ酸
素原子との結合長に大きな差は見られなかった。Mn(III)と同じ電子配置を持つ Cr(II)では Mn
錯体と、Ni(II)と同じ電子配置を持つ Cu(III)では Ni 錯体と同様の結果が得られたことから、
局在・非局在性の違いは金属の価数ではなく d 軌道の電子数に起因すると考えられる。励起
エネルギーに関する結果に関しては当日報告する。
表1. C2 対称構造との
エネルギー差 (kcal/mol)
⊿E(C2-C1)
gas PCM
Mn1 0.2 2.2
Mn2 0.0 2.1
Ni1 0.0 0.0
Ni2 0.0 0.1
表2. 最適化構造パラメータ(Å)
r(M-O1)
Mn1 1.816
Mn2 1.817
Mn3 1.823
Ni1 1.836
Ni2 1.825
Ni3 1.816
r(M-O2)
1.922
1.910
1.908
1.836
1.857
1.855
r(C-O1)
1.321
1.321
1.318
1.285
1.295
1.291
[1] T. Kurahashi and H. Fujii J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8307
r(C-O2)
1.270
1.273
1.274
1.285
1.273
1.270