2P22 講演題目 金属サレン錯体の電子構造:局在・非局在性に関する支配因子 ○中垣雅之 青野信治 榊茂好 京大福井謙一研究センター nakagaki@fukui.kyoto-u.ac.jp 【緒言】金属サレン錯体の配位子ラジカルの局在・非局在性 は、金属原子の種類や置換基により大きく異なる。置換基 X と Y に t-Bu 基をもつ対称的なサレン(SCHEME 1)の場合、配 位子ラジカルが Mn 錯体では局在化、Ni 錯体では非局在化す る 1。同じ Ni 錯体では置換基が OMe 基の場合には非局在化 のみならず局在化に由来する吸収も観測された 1。さらに、金 属原子-サレン分子間の電子移動を含めた複数の電子状態も関 与することから、金属サレン錯体の電子構造は複雑であり、 その解明には溶媒効果を考慮した詳細な理論研究が不可欠である。本研究では電子状態に対 する金属原子や配位子の効果や、配位子ラジカルの局在・非局在性の支配因子の解明及び励 起エネルギーの定量的な予測を試みた。 【計算方法】置換基 X,Y として(Me,Me), (OMe,OMe), (OMe,Cl)の組を有するサレン金属錯体 (SCHEME 1)に関して、M06 汎関数を用いた密度汎関数法による構造最適化と多配置多参照 摂動(GMCPT)法を用いた励起エネルギーの計算を行った。PCM 法(溶媒:CH2Cl2, ε=8.93)を用 いて溶媒効果を取り入れた。GMCPT 法の参照関数として active space 内の2電子励起まで を考慮した MCSCF 法を用いた。 【結果及び考察】局在化・非局在化構造の比較のため C1 及び C2 対称で得られた構造のエネ ルギー差を表1に示す。真空中では Mn1 錯体(X,Y=Me)のみでラジカルカチオンが片側に局在 化した C1 対称の構造が得られたが、C2 構造とのエネルギー差は 0.2 kcal/mol しかない。それ 以外の対称的な Mn, Ni 錯体では非局在化した C2 対称構造が安定であった。溶媒効果を考慮 することで Mn1, Mn2 錯体で C1 構造の安定化が顕著に起こることが示され、実験結果と同様 に局在・非局在性の金属原子による違いが見られた。Ni2 錯体(X,Y=OMe)では、真空中では C2 構造が、溶液中では C1 構造が安定であったがエネルギー差はごく小さい。これは Ni2 錯体 で局在・非局在2つの状態が共存するという実験結果に対応している。表2に示すように Mn 錯体では Mn とカチオンラジカル側の酸素原子との結合長が、他方の酸素原子との距離に比 べ約 0.1Å短いが、Ni 錯体ではラジカルが局在化した非対称な錯体においても Ni と2つ酸 素原子との結合長に大きな差は見られなかった。Mn(III)と同じ電子配置を持つ Cr(II)では Mn 錯体と、Ni(II)と同じ電子配置を持つ Cu(III)では Ni 錯体と同様の結果が得られたことから、 局在・非局在性の違いは金属の価数ではなく d 軌道の電子数に起因すると考えられる。励起 エネルギーに関する結果に関しては当日報告する。 表1. C2 対称構造との エネルギー差 (kcal/mol) ⊿E(C2-C1) gas PCM Mn1 0.2 2.2 Mn2 0.0 2.1 Ni1 0.0 0.0 Ni2 0.0 0.1 表2. 最適化構造パラメータ(Å) r(M-O1) Mn1 1.816 Mn2 1.817 Mn3 1.823 Ni1 1.836 Ni2 1.825 Ni3 1.816 r(M-O2) 1.922 1.910 1.908 1.836 1.857 1.855 r(C-O1) 1.321 1.321 1.318 1.285 1.295 1.291 [1] T. Kurahashi and H. Fujii J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8307 r(C-O2) 1.270 1.273 1.274 1.285 1.273 1.270
© Copyright 2024 Paperzz