日本の自動車メーカーの戦略的提携:JasPar

日本の自動車メーカーの戦略的提携:JasPar
三井絢子
미츠이 아야코
<요지>
일본을 대표하는 자동차 메이커인 토요타, 닛산, 혼다 등은, 2004 년 10 월, 차세대
차탑재용 네트워크「플렉스레이」의 사양책정에 대해 제휴하고, 공동으로 연구개발을
진행하는 것을 결정하였다. 지금까지 협력체제를 보여준 적이 없었던, 일본의
대기업자동차 조립 메이커간의 전략적 제휴인 JasPar 는, 자동차업계의 새로운 시대의
막을 열었다고 해도 과언이 아니다.
그래서, 이 논문에서는, 먼저 일반적으로「전략적 제휴」의 특징을 정리한 후,
JasPar 가 조직된 배경에는, 자동차 전자화와 모듈화가 있음을 지적한다. 다음으로,
「모듈화」의 선구자였던 퍼스널컴퓨터 ・ 조립 메이커인 IBM 이 모듈화에 의해,
컴퓨터업계로부터 물러난 경위와 요인을 설명한다. 더욱이, 모듈화가 진행되어 각
부품을 연결하는 전자제어유닛(ECU)을 만드는 전기메이커의 발언력이 강해지고 있는
자동차업계에서도, 토요타 등의 자동차 조립 메이커가 이전의 IBM 과 같은 운명을
걸어갈 우려가 있음을 지적한다. 그리고, 이 문제의 해결책으로서 구미에서 조직된
자동차 조립 메이커들의 전략적 제휴인 AUTOSAR 와 비교하면서, 토요타, 닛산, 혼다
등에 의한 전략적 제휴 JasPar 에 대해 고찰하고, 그 의의를 명확히 한다.
주제어
:
전략적
제휴(Strategic
cooperation),
모듈(Module),
전자화
(Electronization), 전자제어유닛(ECU)
1.戦略的提携とは
1.1 戦略的提携の定義
戦略的提携という概念は、研究者のそれぞれの視点によってとらえられているた
め、現時点では統一した定義を見出すことは困難である。
たとえば、Hamel、Doz and Prahalad(1989)は、「提携企業間で提供し合う能力の
相互作用により、価値創造が行われる。それによって、提携企業の競争力が向上し、

早稲田大学大学院商学研究科、修士課程 2 年
- 61 -
また新たな事業が創造される」と述べている。また、野中(1991)は、戦略的提携は、
「異なる文化的・社会的背景を持つ、二社間に発生する「知識創造」のプロセス」
であり、戦略的提携の条件として、
「長期性、戦略的意図の共有、対等性」を挙げて
いる。
次に、小川(1995)によると、戦略的提携とは、「1.提携事業が主要事業の一つと
して優先的に企業の全体的経営計画の中に組み込まれる。2.特定の提携プロジェク
トが事業計画の中に戦略的に組み込まれる。3.トップマネジメントの役員が政策的
に関与を行い、提携の意思決定にも直接関与する。4.自社の経営資源能力と配分を
長期的な観点からみる経営計画である。5.提携が戦略的に計画され練られたもので
経営に大きく影響を与えるもの」である1。
さらに、
『経営学大事典・第 2 版』(1999)では、戦略的提携とは、「企業間でお互
いの独立性を維持しながら行う協働関係の一種であり、合併や企業合同、事業譲渡
という形をとらない緩やかな企業間協働の様式」としている。また、松行(2002)は、
戦略的提携を「異質な組織体である企業同士が信頼と協力の精神のもと、共通の目
的を実現するために、ある一定期間にわたって、同盟関係を締結する組織行動」と
述べたうえで、戦略的提携の条件として、
「1.補完性、2.対等性・自立性・互恵性に
基づく協調関係、3.緩やかな連結、4.複合連結性、5.相互学習」を挙げている。
このように、戦略的提携においては、提携事業がそれぞれの企業にとって重要な
プロジェクトであり、相手企業との間で提携することで、相互の経営資源を部分的
に共有するパートナーシップ関係をとる。パートナーシップ関係は、多くの場合、
お互いがそれぞれの分野で強みをもつ資源を出し合う提携であるため、力の強弱関
係は存在せず、両者の関係は対等である。
そして、パートナーシップ関係を結んだ企業は、提携しても元の企業が消滅する
ことなく、独立した企業として存在するため、提携事業以外では競争関係が続く。
また、提携企業間で将来のビジョンや目的が共有されており、さらに、部分的に共
有化した資源は、パートナー企業間で共有の目的を遂行するために利用する。パー
トナー関係にある企業間では、提供し合う資源が相互に刺激し合うことで、学習や
知識移転が実現する。
以上を踏まえて、本論文では、提携事業が関連企業にとって重要なプロジェクト
であること、提携企業間で目的を共有していること、提携企業はパートナー関係を
1
小川(1995)p.21 を参照。
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とるため独立性・対等性があること、提供した資源の相互作用による学習・知識移
転があること、という 4 つの性質を持ち合わせた提携を、戦略的提携と定義する。
1.2 戦略的提携の形態
戦略的提携は、販売協力、技術ライセンス、共同開発、生産委託、合弁会社とい
うように、さまざまな形態をとる2。
まず、販売協力とは、他社の有する販売資源を活用する仕組みである。販売資源
には、販売チャネルのような有形の資源と、ブランドのような無形の資源があり、
有形の資源のみを活用する場合が販売委託であり、有形の資源と無形の資源の両方
を活用する場合が OEM(original equipment manufacturing:相手先商標販売/生産)
である。
次に、技術ライセンスとは、他社の保有する知的財産の実施権を取得することで
あり、知的財産には、特許権、著作権、商標権などが含まれる。
さらに、共同開発とは、合意した目標やスケジュールに基づいて、複数の企業が、
特定の技術や製品を協力して開発する仕組みである。
また、生産委託とは、他社に対して貸与図、あるいは承認図に基づく製品の生産
を委託し、生産品の提供を受ける仕組みである。ここで、生産委託と OEM を比較す
ると、両者とも他社の生産資源を活用する点で共通しているが、生産委託の場合、
自動車産業の系列取引のように、生産物に自社独自の付加価値を付けて販売するこ
とに違いがある。
最後に、合弁会社とは、複数の企業が出資して創設する、独立した企業である。
資金の提供は、企業間のより強いコミットメントを作り出す。共同で出資すること
の利点として、資本の取得に必要な資金を複数企業が出し合うので、個々の企業の
負担が低減すること、出資を通じて企業が結びつくことで、新しい価値が創造され
ることが挙げられる。合弁会社の役割は、特化した機能の成果を、それぞれの親会
社に提供することである。
以上で挙げた販売協力、技術ライセンス、共同開発、生産委託、あるいは合弁会
社によって生じる取引コストが、自社単独で行う場合のコストを下回るとき、企業
としては、戦略的提携を選択することが有利になる。
2
本項については、安田(2006)pp.43-75、Yoshino and Rangan(1995)を参照。
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1.3 M&A との比較
複数企業が合併すると、商法上、一方の会社が消滅し、ひとつの会社となる3。こ
れに対し、企業が戦略的提携をした場合、提携企業は協働でプロジェクトを行う。
このとき、提携企業は提携後も、それぞれ独立の企業として存続する。
それから、2006 年 5 月、世界最大手のミタル・スチールが、同 2 位(当時)のアル
セロールに、また、2007 年 6 月には、スティールパートナーズがブルドックソース
に TOB を仕掛けるなど、買収では、買収企業と被買収企業を明確に区別することが
できる。しかし、戦略的提携では、提携企業が対等な関係にあるため、提携企業と
被提携企業のような区別をするのは困難である。
さらに、M&A と比較して、戦略的提携が有利である理由は、以下の 4 点である。
第1に、戦略的提携は、市場取引と階層組織の中間に位置し、市場取引と階層組
織のデメリットを取り除き、メリットのみを享受するように設計できる。例えば、
部品間のインターフェースが明確に定義付けられていない複合製品を設計する場合
には、階層組織のメリットである「調整」をすることができる。また、市場組織で
は、それぞれの企業のオーナーは、自分自身の努力によって創出されたすべての利
益を手に入れられるので、可能な限り努力し、可能な限り効率的に働こうとするイ
ンセンティブを持つ。提携企業間でも、特許制度など知的財産権を整備することに
よって、市場取引のメリットであるインセンティブを働かせることができる4。
第 2 に、企業方針や企業文化が異なる場合、買収では、従業員の人心掌握を図る
コストや、技術者や営業マンに対するインセンティブ制度を創設するコストがかか
る。一方、戦略的提携は企業の緩やかな連結であるため、買収/被買収企業間の対
立からくるコミュニケーション阻害を回避できる5。
第 3 に、必要としている経営資源を保有する企業の規模が大きく、その経営資源
が分離不可能である場合、買収すると、不要な経営資源も含めて取得することにな
り、負担が大きくなる。一方、戦略的提携ならば、必要な資源のみを取得すること
が可能であり、効率的である。
第 4 に、市場占有率が高い企業同士では、独占禁止法により、合併することが不
可能な場合がある。しかし、戦略的提携であれば、各企業は独立しているので、市
3
4
5
合併の定義については、小田切(2000)pp.246-247 を参照。
Collis and Montgomery(1998)を参照。
宮崎(2004)p.42 を参照。
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場占有率は高まらず、独禁法に抵触することはない。
それに対し、戦略的提携は「緩やかな企業間の協働」であるため、パートナー関
係が不安定であり、常にパートナーの裏切りの恐れがある、というデメリットも存
在する。言い換えると、戦略的提携を一回限りの戦略型ゲームと考えれば、パート
ナー同士が「囚人のジレンマ」に陥る可能性がある。ただし、提携期間が長期であ
る場合、トリガー戦略をとるなど裏切りの利益が小さい場合、および、割引因子が
十分に高く、協調による将来の利得が高く評価される場合には、協調を選ぶことが
有利となり、囚人のジレンマの問題は解決することができる6。
2.提携の背景:自動車のモジュール化と電子化
2.1 日本の自動車産業
全就業人口の約 7.8%を占め、495 万人もの雇用を創出する自動車産業は、日本の
基幹産業である7。2005 年において、自動車産業全体の生産額(約 45 兆円)は、製造
業全体の生産額(約 308 兆円)の約 14.7%を占める。生産規模の大きさだけにとど
まらず、自動車は生産波及力が非常に高いため、他産業の生産活動にも大きな影響
を与えている。2006 年には、日本の自動車アセンブリーメーカーを代表するトヨタ
の時価総額は 30 兆円超え、GMの時価総額 170 億ドル(約 2 兆円)を大幅に上回り、
世界最大の自動車メーカーへと上り詰めた8。
日本の自動車産業の大きな特徴は、
「ケイレツ」による「クローズドな戦略」を指
向してきたことである。自動車業界における「ケイレツ」は、他業界における「系
列」とは異なる。他業界の系列は、三菱商事や三菱重工といった旧財閥内の関係、
また、みずほコーポレート銀行と新日本製鐵というメインバンクとの関係を示すこ
とが多い。一方、自動車業界のケイレツは、株式の持ち合いといった資本関係があ
る場合もあるが、多くは段階的に結び付けられた取引関係を示す。図 1 は、自動車
業界のケイレツの仕組みを表す。
6
7
8
詳しくは、三井(2008)を参照。
社団法人自動車工業会 HP「自動車関連産業と就業人口」(2007 年 6 月 13 日)より引用。
日経産業新聞(2007 年 3 月 16 日)「米GM、06 年決算、勝利宣言なき黒字回復―トヨタの
背中遠く」p.13 を参照。
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図1
自動車業界の「ケイレツ」の仕組み
ケイレツの仕組みは、アセンブリーメーカーとサプライヤーの双方にメリットを
もたらす。段階 1 に属するサプライヤーからすると、過度の競争なく、アセンブリ
ーメーカーから安定的な仕事を受注でき、同様に、段階 2 に属するサプライヤーか
らすると、段階1に属するサプライヤーから安定的な仕事を受注でき、関係特殊的
な資産にも低リスクで投資できる、というメリットがある。また、アセンブリーメ
ーカーからすると、安定的な受注の見返りに、サプライヤーに対して、自社の製品
に特化した部品の供給を要求できるというメリットがある。アセンブリーメーカー
は、このようなケイレツのメリットを活かして、各段階から送られてきた部品を組
み合わせて、「すり合わせ」型の質の高い自動車を生産してきた。
言い換えると、自動車メーカーのこれまでの戦略は、自前主義、もしくは、グル
ープ内の資源に基づく、クローズドな差別化戦略であったと言える。また、トヨタ
生産方式のように、日本人、または、日本企業の気質を生かした生産システムを独
自に構築することで、低価格の車を供給することができた。
2.2 モジュール化と電子化
ところが、昨今、低賃金の労働力を持つ国の企業、または、低賃金の労働力を持
つ国に生産拠点をおく企業が、価格競争において力を強めてきた。例えば、タタ(イ
ンドの自動車メーカー)や、ルノー(フランス)は、2007 年に、2500 ドル(約 30 万円)
以下の自動車を発売する計画を発表した。2500 ドルという価格は、今、日本で市販
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されている最も安い小型車より、約 40%安い9。
さらに、韓国では、現代(ヒョンデ)自動車の金東晋(キム・ドンジン)副会長が、
2007 年 5 月 11 日、ソウル三成洞(サムソンドン)インターコンチネンタルホテルで
開かれた「第4回自動車の日」記念式で、「500 万ウォン(約 65 万円)前後の超低価
格車を開発している」と明らかにした。さらに、
「現在、中国合弁会社の北京現代車
と現代車南楊(ナムヤン)研究所で超低価格車を開発中」と述べ、また「(ルノー日産
の)ローガンをはじめ、外国先進企業が 5000~1 万ドルの超低価格車を開発中で、こ
れに対応しなければならない」と付け加えた10。このように、世界の自動車産業の趨
勢は、これまでにない低価格路線である。
日本の自動車メーカーは、このような世界の自動車産業の価格競争に対抗するた
め、「モジュール化」の流れを余儀なくされている。なお、モジュール化とは、「複
雑な生産物システムの設計をする際に、それを構成する部分間の依存関係を削減し
て、各部分をできるだけ独立に開発し、それらを組み合わせることによって全体の
生産物システムを事後的に構成できるようにすること」である11。
自動車をモジュール化すれば、複数の自動車において共通の部品が使用可能とな
り、
「すり合わせ」をするためのコストを削減できる。また、部品の標準化は、ケイ
レツ内のいっそうの競争を誘発し、価格を下げることができる。実際に、日産はい
ち早くコクピットモジュール12を作り、また、トヨタは、ヴィッツと小型 RV のイス
トと小型ワンボックスの bB で、共通の車台を使用している13。世界の自動車産業の
「低価格路線」が続く限り、モジュール化は今後、ますます加速していくと予想さ
れる。
このようなモジュール化の流れの中で、各部品を統制する電子制御ユニット
(ECU:Electronic Control Unit)が、車を構成する部品の中で、中枢の役割を担う
ようになってきた。と言うのも、従来の自動車部品は、
「すり合わせ」により、部品
が相互に機能しており、部品間の統制をとる必要性がなかった。しかし、モジュー
ル化が進み、ABS14やコモンレール15など、複数の部品がそれぞれ独立に機能するシ
9
Business Week(2007 年 5 月 1 日)より引用。
中央日報、経済(2007 年 5 月 13 日)より引用。
11
瀧澤(2003)より引用。
12
コクピットモジュールとは、運転席周辺のダッシュボードやカーエアコン、オーディオな
どの部品を一体化したもので、代表的なメーカーに、カルソニックカンセイがある。
13
宮本(2004) pp.74-76 を参照。
14
ABS とは、アンチロックブレーキシステムの略語。急ブレーキ等で通常タイヤがロックし
10
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ステムが開発されてからは、これらの部品を調整する電子システムが必要となり、
自動車の電子化が進行した16。
1980 年代には、エレクトロニクス関連部品が自動車の総原価に占める比率は、わ
ずか 1%未満であったが、2005 年には、小型車の 15%、高級車の 30%近く、そして
ハイブリッド車の半分近くまで、その比率が高まってきている。このことは、車載
ECU 搭載数の増大に明確に現れており、普通車では 50 個近く、高級車ともなれば 70
個を超えるようになっている17。このように、自動車はこれまでの油圧などに頼る機
械的制御から、ECU を使った電子制御へと置き換わり、今や自動車は、
「走る」、
「止
まる」、
「曲がる」という基本的な制御が電子化しているのである18。
これを機に、ECU を作ってきた電機・通信業界の各社が自動車産業に群がり、次
世代クルマづくりの覇権を握ろうと、激しい競り合いを始めている。特に、総合電
機各社が一斉に自動車事業を強化しているのは、その好例である。たとえば、日立
製作所は、1991 年に日産自動車と合弁で設立した、ザナヴィ・インフォマティクス
(車載情報システムの専門メーカー)を、2001 年に子会社化し、2002 年にはユニシア
ジェックス、2006 年にはクラリオンを買収(100 %子会社化)するなど、次々と自動
車機器メーカーを子会社化している。また、東芝は、1989 年からの日野自動車によ
る「ディーゼル-電気ハイブリッドシステム」の開発に、モーターやインバータ、コ
ンピュータ制御などの専門家として携わり、社長直轄で、自動車システム事業統括
事業部を置くなど、自動車事業に着々と進出している。
しかし、トヨタなどの自動車アセンブリーメーカーは、
「自動車の頭脳」とも言え
る ECU の開発を、電機・通信業界に任せてしまっては、単なる「組み立て屋」へと
化してしまう恐れがある。そうかと言って、自動車アセンブリーメーカーが、ECU
に関して、電機・通信を本業としてきたメーカーと単独で競争するには、負担が大
きすぎる。そこで、今まで協力体制を見せたことのなかったトヨタ・日産・ホンダ
15
16
17
18
てしまう状態でも、ABS コントロールユニットの判断により、自動的にポンピングブレー
キを行い、タイヤのロックを回避してくれるシステムのことである。
コモンレールとは、ディーゼルエンジンに使う最新の燃料噴射システムのことである。燃
料をシリンダーに噴射する前にコモンレールという筒の中にためておき、コンピューター
制御でもっとも燃焼効率が高まるタイミングで超高圧噴射する。1600 気圧以上の超高圧噴
射で微細な霧状になった燃料は、まんべんなく燃焼され、排ガスのクリーン化を実現する。
具体的には、自動車の電子化として、ボディ制御、温度調整制御、ダッシュボード制御、
各種センサー制御、モーター制御、シャシ制御など、自動車のさまざまな制御が電子的に
行われている。
柿原(2006)を参照。
徳田・田村(2007)を参照。
- 68 -
が、エンジンやブレーキ、変速機などの機能をつなぐ次世代車載ネットワーク「フレ
ックスレイ」(FlexRay)の仕様策定について提携して、共同で研究開発を進めること
を決定したのである19。
この出来事は、まさに自動車業界の新しい時代の幕開けと言っても過言ではない。
トヨタ、日産、ホンダの提携は、次世代の「フレックスレイ」と呼ばれる、エンジン
やブレーキ、変速機の機能をつなぐ車載ネットワークシステムの標準化を決めるも
のである。そして、トヨタ・日産・ホンダが、車載ネットワークシステムという一
番重要な部分の決定権を握り続けることは、今までどおり、業界の雄として君臨し
続けることを可能にする。
3.パソコンのモジュール化
ここで、
「モジュール化」の先駆けとなったパソコンのモジュール化について述べ
る20。モジュール化は、IBM が世界に先駆け 1964 年に始めた。初期のパソコンはそ
れぞれが異なる規格を持ち、ソフトや関連機器の互換性がなかった。しかし、コン
パック・コンピュータ(現在は、ヒューレット・パッカード21)の低価格戦略に対し、
IBM は、1980 年代にパソコンの仕様を公開し、規格に合ったモジュールであれば、
内部はブラックボックスでもかまわないという開発体制をとった。これにより、世
界中に無数の部品メーカーが誕生し、モジュールの性能を競ったため、パソコンの
性能は飛躍的に高まり、価格の低下も実現した。反対に、系列会社の生産した部品
による「すり合わせ」の開発体制をとった日本メーカーは、価格競争力を喪失した。
これ以降、パソコンメーカーは性能がよく安いモジュールを世界中から探し、組み
立てるというビジネスに、特化するようになる。
モジュール化が普及するにつれて、パソコン業界などでは、
「スマイル(U 字)カー
ブ」と呼ばれる現象が顕在化した22。図 2 のように、パソコンの事業プロセスは、試
作品開発→部品生産→モジュール部品生産→組み立て→販売→アフターサービスと
いう流れでとらえられ、プロセスごとに異なる企業が担当する。各社が得る利益は、
19
20
21
22
月刊 WEDGE(2007 年 4 月)pp.36-38 を参照。
パソコンのモジュール化については、藤本・武石・青島(2001)を参照。
2002 年 5 月 3 日、コンパック・コンピュータはヒューレット・パッカードと合併した。
スマイルカーブについては、青木・安藤(2002)を参照。
- 69 -
試作品開発から、モジュール部品生産までの前段階と、販売以降の後段階で高
図2
スマイルカーブ
く、中央の組み立てが最も低い。利益の高低の軌跡をたどると、中央がへこむ笑顔
のようなU字形になる。また、部品生産でも、大きな利益が生じるのは中央演算処
理装置(CPU)などの重要部品に限られる。
組み立てを担当するパソコンメーカーは、外部からモジュール部品を調達するの
で、品質ではなく価格での競争が激しくなる。そして、格安の賃金で大量生産でき
る、デルなどの新興企業が台頭した。パソコンの価格低下は、旧来のメーカーの利
益を大幅に減らし、その結果、モジュール化の先駆者であった IBM は、2004 年 12
月 7 日、同社の全パソコン事業を中国パソコン最大手のレノボ・グループ(聯想集団)
に売却すると発表し、パソコン業界から撤退した23。
4.AUTOSAR
前節で見たように、パソコン業界のモジュール化は、アセンブリーメーカーの品
質における競争力を弱めて、価格競争力を失わせた。電子化が進み、ECU メーカー
の発言力が急速に強まってきている自動車業界でも今、トヨタなどのアセンブリー
23
売却金額は 12 億 5000 万ドル。レノボはそれまで世界第 8 位だったが、これにより、デル、
ヒューレット・パッカードに次ぎ、世界第 3 位のパソコンメーカーになった。また、IBM
はパソコン事業の売却で、経営資源をサーバー、ソフト、サービスなど、業務系システム
/ソリューション事業に集中させることになった。
- 70 -
メーカーが IBM と同じ運命をたどる恐れがある。この問題に対する解決策として、
車載ネットワークシステムの標準化を目的とした自動車アセンブリーメーカー主体
のコンソーシアム、AUTOSAR と JasPar を挙げることができる。まず、本節では、
AUTOSAR について説明する24。
4.1 車載 LAN:CAN
第 2 節で述べたとおり、自動車の電子制御が進んだことで、各種制御情報をはじ
め車輌内でやりとりされるデータの量は、拡大の一途をたどっている。従来、自動
車電装ユニット間や各センサー・表示システム間の情報のやりとりは、個別に接続
したワイヤーハーネス25を介して行っていた。しかし、システムの高度化により、連
携すべきユニットやシステムが急激に増大するのに伴い、この配線に要するワイヤ
量と接続箇所数も膨大になってきている。
こうした問題の解決策として、採用の進んでいる新しい技術が車載 LAN(Local
Area Network)である。車載 LAN を敷設することにより、ワイヤーハーネスの利用を
抑えられるため、自動車の軽量化や接続端子数の削減が可能になる。現在、車載 LAN
用の標準インターフェース規格として、CAN(Controller Area Network)が最も普及
している。CAN は独ボッシュ社が開発したとして、ISO でも 1994 年に国際標準化さ
れている方式である。
しかし、CAN には、以下の 2 つの問題点がある。
第 1 に、CAN は独ボッシュによってライセンス供与されてきたが、仕様記述が抽象
的であるなど、詳細が規定されていない。そのため、各ライセンシーが独自に作り
込む部分も多く、同じ CAN 対応の ECU でも微妙な違いが発生する。その結果、自動
車のアセンブリーメーカーが、複数のサプライヤーから調達した ECU を、最終的に
CAN で接続しようとしてもスムーズにつながらず、検証・修正に多くの工程を踏む
必要がある。CAN は標準規格と言っても、完全なものではないのである。
24
25
本節の考察については、主に徳田・田村(2007)を参照。
「自動車の電気電子部品を電気的に接続させるもので、自動車における神経と血管の役割
を果たす。電気回路の 1 本 1 本の電線の集合(束)であり、…。そもそもハーネスとは、馬
車の引き具で、昔は、馬が発生させる動力を乗り手がハーネスを解して車両に伝えていた
が、今では革紐から電線に置き換わったワイヤーハーネスが、エンジンの動力を車両に伝
えて車を走らせており、とても重要な部品である。
」原田車両設計 HP(2007 年 6 月 14 日)
より引用。
- 71 -
第 2 に、図 3 に見られるように、CAN は通信速度が最大 1Mbps で、送信のタイミ
ングが早いものを優先するイベントトリガー方式である。だが、イベントトリガー
図3
CAN とフレックスレイの位置づけ
出所:NEC エレクトロニクス HP(2007 年 05 月 13 日)より引用。
方式には、通信するイベントが重なると遅延が予測不可能になりやすい、という弱
点がある。そこで、ブレーキなどの信頼性・安全性を求められる制御には向いて
いない。そのため、CAN は主に、信頼性や安全性への要求が比較的低い、ドアミラ
ー、ワイパー、パワーウィンドウなどのボディ系機器の制御する通信方式として用
いられている。
4.2 AUTOSAR とは
このような CAN の問題点を解決するために、欧州で 2003 年 7 月、AUTOSAR
(Automotive Open System Architecture)が組織された。AUTOSAR は、車載電子制御
装置用ソフトウェア・インターフェース、および、ソフトウェア・モジュールの標
準化活動を行うためのコンソーシアムであり、自動車メーカー、サプライヤーまた
エレクトロニクス、半導体およびソフトウェアを専門とする企業によって構成され
ている。
AUTOSAR のパートナーシップは、コア・パートナー、プレミアム・メンバー、ア
ソシエイツ・メンバーという、3 つの階層からなり、この他にサポート役として、
ディベロップメント・メンバーがいる。参加企業は 2006 年 10 月末時点で 107 社を
数え、コア・パートナー10 社26、プレミアム・メンバー50 社、アソシエイト・メン
26
BMWgroup、Bosch、Continental、DaimlerChrysler、Ford、Opel、PSA PeugeotCitroën、Siemens
- 72 -
バー44 社、ディベロップメント・メンバーは 3 社である。コア・パートナーである
トヨタをはじめとして、日本企業も 12 社参画している。
コア・パートナーの権利・義務は、コンソーシアムの運営・管理、仕様策定のため
の技術貢献、外部向けの情報授受(プレスリリース、ウェブ上のリリース)を担う一
方、ワーキンググループのリーダーになる資格と、ワーキンググループへの参加資
格を有する。プレミアム・メンバーは、仕様策定に向けた技術貢献のほか、ワーキ
ンググループのリーダーになる資格とワーキンググループへの参加資格および仕様
策定の進捗情報へのアクセス権がある。これに対して、アソシエイト・メンバーに
は、進捗情報へのアクセスの権利はないが、最終ドキュメントへアクセスする権利
を有し、策定された仕様を利用することができる。また、AUTOSAR の開発メンバー
シップに参加するすべての企業は、AUTOSAR 仕様を無償で利用することができる。
4.3 フレックスレイ
AUTOSAR の策定するフレックスレイは、CAN がボディ系システムであったのに対し、
走行制御系システムである。その特徴には、以下の 3 つが挙げられる27。
第 1 に、表 1 にまとめてあるように、高速性という面で見ると、最大通信速度が
CAN は 1Mbps であったが、フレックスレイでは、10Mbps にまで高められる。また、
ECU ごとのデータの送信権の割り当ても、CAN は送信のタイミングが早いものを優先
するイベントトリガーだったが、フレックスレイでは送信権を順番に割り当てるタ
イムトリガーも可能になる。タイムトリガーは、周期的に送信権が割り当てられる
ので、特定の周期で必ずデータの送信と受信が可能になる。これまでの CAN では、
ネットワークが込み合って同時に複数の ECU がデータ送信すると、データ送信が想
定時間内に完了しないというケースもあったが、フレックスレイでは、そのような
問題を解決できる。
27
VDO、トヨタ自動車(2004 年 12 月加盟)、Volkswagen の 10 社。
フレックスレイの特徴については、日経 Automotive Technology(2006 年春号)p.121 を参
照。
- 73 -
表1
CAN とフレックスレイ
CAN
フレックスレイ
通信速度
1Mbps
10Mbps
ネットワークトポロジー
バス型
バス型、スター型、混在
通信方式
イベントトリガー
タイムトリガー、イベントトリガー
第 2 に、信頼性の面では、データ通信の二重化が挙げられる。片方のネットワー
クに問題が生じた際でも、他方のネットワークを使ってデータ送信することができ
る。安全性に大きな役割を担うブレーキ系は、特にフレックスレイの必要性は高い。
第 3 に、フレックスレイは、ネットワーク構成を柔軟に設定できる。CAN は基本
的に、一本の線(パス)に複数の ECU がぶら下がるバス型で構成されている。これに
対して、フレックスレイは、複数の ECU を中心で接続するスター型とバス型の混合
も可能である。通信方式も柔軟に設定できるので、フレックスレイは、タイムトリ
ガーとイベントトリガーの両方が使える。
5.
トヨタ、日産、ホンダの戦略的提携-JasPar-
以上では、自動車のアセンブリーメーカーが主体となって、フレックスレイの仕
様を定める欧州のコンソーシアム、AUTOSAR を紹介した。この組織を参考にして、
日本でも、フレックスレイの日本仕様を定めるコンソーシアム、 JasPar(Japan
Automotive Software Platform and Architecture)が設立された。すなわち、トヨ
タ、日産、ホンダは、クルマの電子制御ユニット(ECU)のソフトウェア基盤や車載
LAN インターフェース規格(次世代の「フレックスレイ」と呼ばれる)の標準化を推進
するため、2004 年 10 月、有限責任中間法人 JasPar を設立したのである28。
メンバーは、日本の自動車メーカーや自動車エレクトロニクス関連メーカーであ
る。幹事会員には、トヨタ自動車・日産自動車・豊通エレクトロニクス ・ホンダ技
術研究所 ・デンソーがおり、他には、会員企業(カルソニック・カンセイや東海理
化など)53 社、準会員 38 社が加盟している。
図 4 のとおり、JasPar のメンバーは、車載 LAN ワーキンググループ、フレックスレ
28
トヨタ HP(2007 年 5 年 13 日)より引用。有限責任中間法人とは、コンソーシアムのことで
ある。
- 74 -
イ配索ワーキンググループ、知的財産権ワーキンググループなど、12 のワーキング
グループに分かれて活動する。たとえば、車載 LAN ワーキンググループは、AUTOSAR
の策定するフレックスレイに対して、JasPar に属する自動車企業の要求を定義し方
向性を策定すること、および、次世代車載 LAN フレックスレイの共通要件を作成し、
フレックスレイ関連の各ワーキンググループの取りまとめをすることを目的とする。
図4
出所:JASPAR
JasPar の組織構成
HP (2007 年 5 月 17 日)より引用。
また、フレックスレイ配索ワーキンググループは、2.5Mbps の「低速版」フレッ
クスレイの配索基準を検討する。 それから、知的財産ワーキンググループは、JasPar
で開発した知的財産、会員の知的財産の運営方法を検討し、知的財産に関わるビジ
ネスモデルを検討する。
これまで、日本の自動車メーカー側にも、欧州発の規格を使わせてもらうことで
良しとしていた面があり、欧州、特にドイツが中心となって進めていた自動車エレ
クトロニクス分野の標準化活動において、国内メーカーの発言力は決して強いとは
言えない状況であった。そこで、国内のメーカーが開発した技術をまとめることに
より、日本から国際標準規格を発信することを狙っている。
さらに、欧州勢は、最大 10Mbps のフルスペックで、フレックスレイを標準化しよ
うとしているのに対し、JasPar は、新たに 2.5Mbps の「低速版」フレックスレイの
開発を試みている。と言うのも、10Mbps は配線自由度が低く、従来のネットワーク
- 75 -
全体の見直しが必要となる。すると、コストが割高になり、これを価格に反映でき
るのは高級車に限られる。一方、
「低速版」フレックスレイの速度は 2.5Mbps であり、
現在の標準規格である CAN の実効速度 500kbps をはるかに上回る。さらに、配線自
由度は CAN 並みに高められるため、ネットワークの見直しを必要としない。つまり、
現在、どの自動車にも取り付けられている CAN からの移行が、比較的容易に行え、
日本の国際的な競争力は強まることになる。
ところで、第 1 節において、戦略的提携とは、提携事業が関連企業にとって重要
なプロジェクトであること、提携企業間で目的を共有していること、提携企業はパ
ートナー関係をとるため独立性・対等性があること、提供した資源の相互作用によ
る学習・知識移転があること、という 4 つの性質を持ち合わせた提携と定義した。
JasPar は、トヨタ、日産、ホンダにとって、今後も自動車業界のイニシアチブを持
ち続けるために、重要なプロジェクトである。そして、各社は、次世代「フレック
スレイ」の標準化を推進するという目的を共有する。また、提携企業は JasPar を組
織した後も、それぞれが独立に存続しており、トヨタ・日産・ホンダはそれぞれが
日本を代表する自動車アセンブリーメーカーであり、対等な関係にある。さらに、
車載 ECU 以外の部分では、競争関係が続き、知的財産制度を整備することで、学習
や知識移転が行われやすい環境が整っている。以上の特徴を有することから、JasPar
は戦略的提携の好例と言える。
6.
JasPar の意義
日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ、日産、ホンダによるコンソーシア
ム、JasPar には、次のような意義が見出せる。
第1に、トヨタ、日産、ホンダが、合併ではなく、戦略的提携を選択したことは、
独占禁止法の観点から重要な意味を持つ。独占禁止法上の合併審査要件として、シ
ェアと HHI 指数29の 2 つの指標がある。現行の「企業結合に関する独占禁止法の運用
指針」において、合併が公正取引委員会の審査を必要とするのは、合併後の企業シ
ェアが 35%以上かつ HHI 指数が 2500 以上になる場合である。JasPar においては、
29
HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス)指数とは、業界の寡占度を表すもの
で、業界の各企業のシェアを2乗した数値を足して算出する。数値が小さければ市場が競
争的であり、大きいほど寡占的と判断されている。
- 76 -
トヨタのシェアが 45.2%、日産30が 19.7%、ホンダが 13.8%となっている31。仮に、
3 社が合併したとすると、シェアは実に 78.7%を占め、また HHI 指数は 2621.57 と
なる32。ゆえに、合併基準に抵触するため、3 社が合併することは事実上不可能であ
る。戦略的提携という選択肢をとることによって、独禁法抵触という問題点を克服
することができたのである。
また、今回の自動車メーカーの提携は、トヨタ、日産、ホンダが中心をなす「水
平的提携」であり、3 社の市場占有率を合計すると、80%に近い。このような水平的
提携は、クールノーの寡占モデルから得られる、提携に関するインプリケーション
に即したものである。すなわち、一般的ケースを想定したクールノーの数量競争モ
デルによれば、市場にいる大多数の企業が水平的提携に参加して、実質的に市場の
企業数が大幅に減る場合には、1 企業あたりの利潤が増加する、ということが主張
されるからである33。
第 2 に、技術開発コストの削減である。昨今の車載システムの電子化に対応する
ため、自動車メーカーは、毎年、巨額の研究開発費を投入し、その額は増加してい
る。たとえば、図 5 のとおり、トヨタは 2006 年度に、売上高 21 兆 0360 億円の 3.86%
にあたる 8120 億円を、研究開発費として使用した34。研究開発費を公表しない企業
もあるが、単年度で 1 兆円に近い規模を投入する日本企業は、トヨタが初めてと見
られる。ただし、表 2 より、自動車工業全体の研究費対売上高比率は 4.66%、また、
トヨタの属する「売上高 100 億円以上の企業」は 4.70%であるから、トヨタの 3.86%
は、これらの平均を下回る。しかし、比率ではなく金額そのものを見ると、トヨタ
の研究費は群を抜いている。トヨタの研究費対売上高比率が低いのは、他社と比較
して、売上高が大きいことが理由である35。このように、巨額の研究費を必要とする
状況では、車載 LAN を、日本の自動車メーカー各社が協調して開発することは、技
術開発コストの削減につながる。
30
日産はルノーの連結子会社であるが、ここでは、連結外という仮定の下で計算を行う。
31
市場占有率については、
日経産業新聞編集部『市場占有率 2007』p.106 を参照。
トヨタ 45.2%、
日産 19.7%、ホンダ 13.8%、マツダ 5.8%、富士重工 3.2%、その他 12.3%である。
(45.2)2+(19.7)2+(13.8)2=2043.04+388.09+190.44=2621.57
クールノー・モデルの意味合いについては、Sonnenschein(1968)、三井(2008)を参照。
32
33
研究開発費
8120
=
= 0.0386 、3.86%(単位:億円)
売上高
210360
34
トヨタの研究費対売上高比率=
35
ちなみに、日産の 2006 年度の売上高は 9 兆 4283 億円、研究開発費は、その 5.20%にあた
る 4900 億円であった。また、ホンダの売上高は 9 兆 9079 億円、研究開発費はその 5.5%に
あたる 5450 億円であった。
- 77 -
図5
トヨタの売上高と研究開発費
出所:トヨタ自動車 HP(2007 年 5 月 13 日)より引用。
表2
産業、売上高階級別社内使用研究費
産業及び売上高階級
総売上高
(億円)
金融・保険業を除く全産業 9,203,494
1億円未満
74,800
1億円~10億円
929,112
10億円~100億円
1,388,255
100億円以上
6,811,328
自動車工業
1億円未満
1億円~10億円
10億円~100億円
100億円以上
552,032
X
X
58,229
487,182
社内使用研究費
総売上高に対する
(100万円)
社内使用研究費
比率 (%)
総
額
12,725,899
12,535,698
3.08
3.03
55,471
31,260
35.35
19.92
140,943
136,429
6.96
6.74
717,279
713,166
3.22
3.20
11,812,205
11,654,843
3.04
3.00
2,129,114
258
9,750
2,119,106
2,103,729
251
10,183
2,093,296
4.72
7.65
1.71
4.75
4.66
7.43
1.78
4.70
出所:総務省統計局 HP「平成 18 年科学技術研究調査 統計表」(2007 年 5 月 13 日)をもとに作成。
第 3 に、知的財産(知財)の取り扱いである36。一般に、標準化団体に拠出された技
術は、無償で使用を許されることが多い。だが、JasPar の場合、設立当初から「知
的財産権ワーキンググループ」で議論し、知財保護の仕組みを作り上げている。
JasPar では、
「技術的必須」
「自動車限定」などという一定条件の下で、ライセンス
保有者の知財権を認めている。と言うのも、JasPar は、技術を持ち寄って良い規格
を作り上げるのを目的としており、知財権が認められなければ、メンバーから良い
技術が出てこないからである。RAND37条件の下で、規格を成立させるのにどうしても
36
37
石田(2006)を参照。
Reasonable And Non-Discriminatory:合理的かつ非差別的。
- 78 -
必要な技術に限り、自動車利用に限定した特別なライセンス設定を保有者に求めて
いる。現行の特許法では、特許権料は1~2 年で現金で支払わられ、課税対象とさ
れないため、JasPar が作るシステムによるライセンスビジネスは、莫大な収益が見
込める。現に、トヨタは ABS システムの特許により、年間 2000 億円の純利益を得て
いる。
第 4 に、自動車のアセンブリーメーカーが、これまでどおり、自動車産業のイニ
シアチブを取り続けることが可能になることである。と言うのも、自動車産業にお
いては、モジュール化、そして電子化の流れのなか、電機メーカーが力を持ち、自
動車のアセンブリーメーカーの力は相対的に下がる恐れがある。しかし、トヨタ、
日産、ホンダが中心となって組織した JasPar が、低速フレックスレイという日本
独自の標準規格を作ることで、アセンブリーメーカーが技術における主導権を握る
ことができる。また、標準化すれば、低速フレックスレイは、技術に関しては非競
争的となる。よって、フレックスレイを作る電機メーカーの技術における競争を取
り除き、価格競争を促進させる。よって、自動車アセンブリーメーカーは、もっと
も低い価格のフレックスレイを選んで入手でき、さらに、フレックスレイを作る電
機メーカーから、ライセンス料を得ることができる。
こうして、トヨタをはじめとする日本のアセンブリーメーカーが、国際的に競争
力を持ち続けるということは、自動車産業が、日本の基幹産業として今後も君臨し、
日本経済の発展に寄与し続けることを意味する。
7.むすび
以上、自動車のモジュール化、電子化によって、自動車産業において、自動車ア
センブリーメーカーが電機メーカーに地位を奪われる可能性があることを指摘した。
そして、自動車アセンブリーメーカーが、今後も自動車産業の雄であり続けるため
の方策、AUTOSAR と JasPar について考察した。
本論文において、これまで、協力体制を見せることなかった日本の大手自動車メ
ーカー間の戦略的提携という、最新の事例を取り上げ、その意義を明らかにするこ
とができたことは、戦略的提携の研究の発展に資するものと考える。今後、ますま
す増えるであろう自動車アセンブリーメーカー間の戦略的提携の動きに注目し、ま
た事例研究だけではなく、戦略的提携が提携企業の株価や会計指標に与える影響を
- 79 -
実証的に分析してみたい。
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ー、第 30 巻、第 2 号(2005 年 2 月 1 日))
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三井絢子(Mitsui Ayako)
:早稲田大学大学院商学研究科、修士課程 2 年
住所:362-0071 埼玉県上尾市井戸木 1-10-27
TEL:090-9959-3271
E-mail:nocturn-no.2@akane.waseda.jp
접 수 일: 2007 년 12 월 27 일 / 심사개시:2008 년 1 월 8 일
심사완료: 2008 년
1 월 26 일 / 게재결정:2008 년 2 월 28 일
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