ENL治療にあたって

~ENL治療にあたって~
ENL:らい性結節性紅斑
サレド®カプセルは、2008年に多発性骨髄腫、2012年にENLの治療薬として承認を
得ました。この治療指針は、ENLの治療目的でサレド®カプセルをご使用いただくた
めに作成しています。多発性骨髄腫に関するサレド®カプセルの情報については、
サレド®カプセル添付文書をご参照ください。
監修:国立感染症研究所ハンセン病研究センター センター長 石井 則久 先生
【本資料に関するお問い合わせ先】
藤本製薬株式会社 サレドDI室
TEL:0120-425-171 FAX:072-332-5182
E-mail:thaled-di@fujimoto-pharm.co.jp
目
次
1. 適応疾患・患者の選択と医師及び医療機関の要件・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2. ハンセン病とENLの定義と分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3. ENLの診断と症状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
4. ENLにおいて推定されるサリドマイドの主な薬理作用・・・・・・・・・・・・・・・ 9
5. サレド®カプセルの用法・用量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
6. サリドマイドの投与参考例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
7. サレド®カプセルの警告・禁忌を含む使用上の注意・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
8. サレド®カプセルの副作用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
9. サレド®カプセルの併用注意・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
10. サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS ®)について・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
11. 参考資料一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
1. 適応疾患・患者の選択と医師及び医療機関の要件
【サレド ®カプセルの適応疾患・患者】
らい性結節性紅斑(ENL、2型らい反応)
※ENL:erythema nodosum leprosum
☆サレド ® カプセルをご使用いただくにあたってはサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)への登
録が必要です。
【ENLに対してサレド®カプセルをご使用いただける患者の要件】
(1)サリドマイドの催奇形性及びサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)に関する教育を受け、理
解度が確認されている。
(2)サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)の遵守に同意が得られている。
(3)原則として、薬剤管理者よりサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)の遵守に同意が得られ
ている。
ただし、薬剤管理者の都合により患者登録前の教育ができず、薬剤管理者からサリドマイド製
剤安全管理手順(TERMS®)の遵守に同意が得られない場合は、患者登録後 4 週を目処に同意
を得て選定する。
(4)妊娠する可能性のある女性患者は、本剤服用開始予定日の 4 週間前及び 2 週間前の妊娠検
査が陰性であること、又は同意日の 4 週間前から性交渉をしていないことの確認がされている。
【ENLに対してサレド®カプセルを処方できる医師、調剤できる薬剤師、医療機関の要件】
a.医師
以下の全てに該当することが必要です。
(1)サリドマイドの催奇形性及びサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)に関する情報提供を受
け、理解度が確認されている。
(2)サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)の遵守に同意が得られている。
(3)産科婦人科医師と連携を図ることに同意が得られている。
(4)研修医ではない(ただし、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医は除く)。
(5)次のいずれかに該当する。
✔日本皮膚科学会認定皮膚科専門医又は国立ハンセン病療養所に勤務する常勤医師
✔日本皮膚科学会認定皮膚科専門医又は国立ハンセン病療養所に勤務する常勤医師と連携
が可能である医師
✔過去にTERMS®に登録の上、本剤のENLに対する処方経験を有する医師
✔上記以外にあっては、TERMS委員会にて評価し、藤本製薬株式会社が登録して差し支えな
いと判断した医師
-1-
b.責任薬剤師
以下の全てに該当することが必要です。
(1)サリドマイドの催奇形性及びサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)に関する情報提供を受
け、理解度が確認されている。
(2)サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)の遵守に同意が得られている。
c.対象医療機関
以下の全てに該当することが必要です。
(1)本剤投与に関して、緊急時に十分対応できる設備を有する医療機関
(2)本剤を院内にて調剤することが可能である医療機関
【詳細はサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)をご参照ください】
-2-
2. ハンセン病とENLの定義と分類
a. ハンセン病(表1)
ハンセン病は抗酸菌の一種であるらい菌(Mycobacterium leprae)による慢性感染症です。ら
い菌の感染は幼小児期に頻回に多量のらい菌が主に呼吸器を通して体内に入ることによって
成立すると考えられています。なお皮膚と皮膚の接触感染の可能性は低いと考えられていま
す。さらに、らい菌は感染力が弱く、発症には個人の免疫力や衛生状態、栄養事情などが関係
しており、ほとんどの人は感染せず、感染しても菌は排除されます。
ハンセン病の主な症状は知覚(触・痛・温度覚)の低下を伴う皮疹、末梢神経の障害(知覚障
害、運動障害、神経肥厚)などです。知覚障害のため気づかずに外傷や火傷などがおこります。
診断は①知覚低下を伴う皮疹、②末梢神経障害、③らい菌検出(皮膚スメア検査、病理抗酸
菌染色、PCR検査)、④病理組織所見の4項目を勘案して行います。らい菌の数、皮疹の性状
や神経障害の状態、病理組織所見などには患者間に多様性がみられ、病型として分類されて
います。らい菌に対して免疫能の高い少菌型 (paucibacillary type: PB型、TT型など)と、菌数の
多い多菌型 (multibacillary type: MB型、LL型、BL型など) に分類されます。
治療はWHOの推奨するリファンピシン(RFP)、ジアフェニルスルホン(DDS)、クロファジミン
(CLF)の多剤併用療法(multidrug therapy: MDT)を基本に行います。早期診断・早期治療で後遺
症を残さず治癒します。また治療中や、その前後に急性の反応(らい反応:lepra reaction)をお
こすことがあります(後述)。
日本における年間の新規患者数は、在日外国人が4名程度です。日本人は数名で、高齢者
です。
表 1. ハンセン病の病型分類
少菌型
(paucibacillary: PB)
菌数による分類
免疫学的分類
(Ridley-Jopling分類)
多菌型
(multibacillary: MB)
B群
(I群) TT型
LL型
BT型
らい菌に対する細胞性免疫能
良好
BB型 BL型
低下/なし
皮膚スメア検査
陰性
陽性
らい菌
少数/発見しがたい
多数
皮疹の数
少数
多数
皮疹の分布
左右非対称性
左右対称性
皮疹の性状
斑(環状斑)など
紅斑(環状斑)、丘疹、結節など
皮疹の表面
乾燥性、無毛
光沢、平滑
皮疹部の知覚障害
高度(触・痛・温度覚)
軽度/正常
病理組織所見
類上皮細胞性肉芽腫
巨細胞、神経への細胞浸潤
組織球性肉芽腫
組織球の泡沫状変化
病理組織でのらい菌
陰性
陽性
主たる診断根拠
皮疹部の知覚障害
WHO/MDT/PB
(RFP, DDS)
6ヶ月間
検査でらい菌の証明
WHO/MDT/MB
(RFP, DDS, CLF)
1~3年間
治療
(multidrug therapy:MDT)
出典:皮膚抗酸菌症テキスト、一部改変
-3-
b. らい反応(lepra reaction)
らい反応は、ハンセン病の急性症状です。
らい反応には、細胞性免疫反応による1型らい反応(type 1 reaction、境界反応、リバーサル反
応)と、免疫複合体の沈着による2型らい反応(type 2 reaction、ENL)があります。
【1型らい反応と2型らい反応】
ハンセン病においては菌自体の分裂・増殖が遅いため一般には慢性的な経過をとることが
多いが、その急性反応であるらい反応は神経障害(後遺症)を伴うので、直ちに適切な対応
を要する。
1型らい反応 :境界反応とも呼ばれ、B群やLL型の一部に起こり、細胞性免疫反応の急激
な変化を原因とし、皮膚症状と末梢神経炎を主症状とする。
2型らい反応 :ENLとも呼ばれる。ENLは、ハンセン病の薬物治療開始数ヶ月後から生じる
ことが多いが、治療の有無に関わらず、治療前、治療後にも発症することが
ある。ハンセン病の多菌型(multibacillary type: MB型、LL型、BL型)の患者
に生じる。特に菌指数が高い患者に発生しやすい。らい菌抗原に対する細
胞性免疫が十分に作動しない一方で多量の抗体産生があり、抗原、抗体、
補体による免疫複合体が形成される。免疫複合体が組織や血管壁に沈着
し、多数の好中球浸潤を伴う炎症性反応が生じる。高熱、全身倦怠、関節
痛、圧痛を伴う硬結、膿疱や結節性紅斑、潰瘍の形成、神経痛、虹彩毛様
体炎、上強膜炎などの発症がみられる。ENL患者では血中TNF-α レベルが
高い。
-4-
3. ENLの診断と症状
a. ENLの臨床症状(表2、図1)
典型的なENLは、発熱を伴って発症します。39~41℃程の高熱、全身倦怠、関節痛などが生
じます。菌抗原のあるところでは、皮膚、神経、眼、リンパ節、関節、精巣など、どこでも急性炎
症を起こします。皮疹は、四肢、体幹に好発しますが、顔面にも生じます。
表2.ENLの臨床症状
症状
急性の炎症を
ともなう皮膚症状
症状の詳細
・圧痛のある皮下硬結、隆起性紅斑
・結節性紅斑に似るが、四肢、体幹、顔面など全身に出現する
・膿疱形成、膿瘍形成もある
ちゅうしんさいか
・紅斑に囲まれた紫斑、中心臍窩 をもつもの、水疱形成、自潰して潰瘍化するも
のもある
皮膚病理組織所見
・真皮~皮下組織(脂肪織隔壁)に泡沫化した組織球と多核白血球の密な浸潤
か く じ ん
・壊死性血管炎(好中球の 核 塵 )、免疫複合体の沈着がみられることもある
・好中球の浸潤程度はさまざま
神経症状
・末梢神経の腫脹、疼痛
わ し で へ んけ い
・徐々に進行する機能障害、鷲手 変形 (尺骨神経麻痺)など
しゅう め い
眼症状
・急性の虹彩毛様体炎、上強膜炎;充血、眼痛、羞 明 、視力低下
・慢性虹彩毛様体炎の急性増悪
・併発白内障、続発緑内障
・視力障害
全身症状
・高熱、間欠熱(夕刻)によるうつ状態、全身倦怠感、関節痛、食欲不振、神経
痛、感覚異常、筋力低下などの運動麻痺の兆候、手足の浮腫、関節痛
い ん の う すいしゅ
・精巣炎、陰 嚢 水腫
・リンパ節腫脹
出典:ハンセン病治療指針(第3版)、一部改変
a
b
d
b
d
図1. ENLの皮膚症状
a. 上腕の結節性の紅斑
c
(出典:皮膚抗酸菌症テキスト)
b. 胸部、上肢の結節性の紅斑:
紅斑の中心には水疱や膿疱がある
c. b.の拡大図:紅斑の中心の水疱や膿疱
(b. c. 出典:杉浦 丹先生症例)
d. 顔面、頸部の結節性の紅斑:
紅斑の中心には水疱がある
(出典:石原 重徳先生症例)
-5-
b. ENLの重症度(表3)
表 3. ENL の重症度
重症度
軽症
症
状
皮膚病変のENLが主で、潰瘍もなく、浸潤性の紅斑が多発する程度のみ
日常生活に支障をきたすことはない
重症
皮膚病変の潰瘍化や神経症状、眼症状、発熱などの全身症状
日常生活に支障をきたす
[神経痛、感覚異常、筋力低下などの運動麻痺の兆候、手足の浮腫、関節痛、発
熱、精巣炎、虹彩毛様体炎]
c. ENLの臨床検査所見
血沈の亢進や末梢血の好中球数増加、CRP値、TNF-α 値の上昇やZn値の低下がみられま
す。特にCRP値は、ENLの病勢をよく反映するものです。
d. ENLの病理組織所見(図2)
臨床的に鑑別困難な他の皮膚疾患もあるので、病理組織検査を行います。真皮上層の変化
は少ないですが、真皮乳頭部に強い浮腫が見られることがあります。真皮と皮下組織にかけて
泡沫状組織球や多核白血球が密に浸潤します。細胞浸潤は、真皮と脂肪織隔壁を中心とした
脂肪織炎の像をとります。好中球の浸潤程度は様々です。
ENL病巣のらい菌の抗酸菌染色像は顆粒状となり菌量も少なくなります。治療歴2年以上に
なると菌は更に見つけにくくなります。免疫組織化学染色では、免疫複合体の沈着が証明され
ます。
図2. ENL病理組織検査像
好中球の浸潤を皮下組織に認める(HE染色、200倍)
出典:皮膚抗酸菌症テキスト
-6-
e. 1 型らい反応と 2 型らい反応(ENL)の鑑別(表 4)
1型らい反応では、皮膚症状と末梢神経炎が主症状ですが、ENLにおいてはそれらに加えて
虹彩毛様体炎、肝、腎、精巣、筋、リンパ節など多臓器が侵される他、発熱や頭痛、関節痛、
全身倦怠など、炎症に伴う全身症状がしばしばみられます。臨床症状、臨床検査所見、病理組
織所見などを総合してENLの診断を行います。サリドマイドが有効であれば、ENLの診断の根
拠となります。
表 4.らい反応の鑑別
病型
BT, BB, BL, LL
BL, LL
起こりうるらい反応
1型らい反応(境界反応)
2型らい反応(らい性結節性紅斑,ENL)
急性の炎症を
ともなう皮膚症状
・一旦軽快しつつあった皮疹がフレアアップし
た・新たな皮疹が出現
・境界群に特徴的な環状の皮疹
・皮疹部に圧痛、疼痛、異常知覚、知覚過敏、
発汗障害が突然おこる
・圧痛のある皮下硬結、隆起性紅斑
・結節性紅斑に似るが、四肢、体幹、顔面など
全身に出現する
・膿疱形成、膿瘍形成もある
類上皮肉芽腫を形成する傾向が顕著:
・マクロファージの類上皮細胞への分化、
Langhans 細胞、異物型巨細胞形成、リンパ
球浸潤の顕著な肉芽腫病巣を形成
・既存の肉芽腫の構築が失われる
・急性期では浮腫が著明
・BL では、組織内の菌が減少~消失
・真皮~皮下組織(脂肪織隔壁)に泡沫化し
た組織球と多核白血球の密な浸潤
皮膚病理組織所見
神経炎症状
ちゅ うし ん さ い か
・紅斑に囲まれた紫斑、中心 臍窩 をもつも
の、水疱形成、自潰して潰瘍化するものもあ
る
か く じ ん
・壊死性血管炎(好中球の 核 塵 )、免疫複合
体の沈着がみられることもある
・好中球の浸潤程度はさまざま
・末梢神経の腫脹、疼痛
急激な末梢神経炎:
わしでへんけい
・末梢神経の腫脹、圧痛、神経壊死
・徐々に進行する機能障害、鷲手変形 (尺骨
・侵された神経領域の急速な知覚麻痺、運動 神経麻痺)など
と が ん
神経麻痺による機能喪失:突然の 兎眼 、口
とうこつ
角下垂(顔面神経麻痺)、垂手(橈骨 神経麻
ひ こ つ
痺)、垂足(総 腓骨 神経麻痺)、咽頭部の知
覚脱失による嚥下困難
眼症状
全身症状
と が ん
・兎眼 (顔面神経麻痺)
・角膜の知覚障害(三叉神経麻痺)による角
膜の外傷性病変
時に、
・発熱、全身倦怠感、食欲不振
・手、足、顔面の浮腫
・急性の虹彩毛様体炎、上強膜炎;充血、眼
しゅうめい
痛、羞明 、視力低下
・慢性虹彩毛様体炎の急性増悪
・併発白内障、続発緑内障
・視力障害
・高熱、間欠熱(夕刻)によるうつ状態、全身
倦怠感、関節痛、食欲不振、神経痛、感覚
異常、筋力低下などの運動麻痺の兆候、手
足の浮腫、関節痛
いん の うすいしゅ
・精巣炎、陰 嚢 水腫
重症度
軽症:皮膚症状のみ
重症:なんらかの神経症状、疼痛、神経の腫
脹、新たな感覚異常や筋力低下、浮
腫、顔面の腫脹、皮疹の潰瘍化
多菌型に重症化の危険性が高い
-7-
・軽症:皮膚症状のみ、疼痛や潰瘍化はない
・重症:神経痛、感覚異常、筋力低下などの運
動麻痺の兆候、手足の浮腫、関節痛、
発熱、精巣炎、虹彩毛様体炎
* 治療
軽症:非ステロイド性抗炎症薬
軽症:非ステロイド性抗炎症薬
重症:中等量以上のステロイド薬;プレドニゾ 重症:サリドマイドが著効; 50~100mg/日か
ロン1 mg/kg、神経症状の消褪まで十分
ら開始し、症状に応じて漸増・漸減す
量で、その後徐々に漸減、4~6週間で
る。ただし、虹彩毛様体炎には単独の
半量、さらに2~3 ヵ月かけて離脱。
効果は少なく、ステロイド薬の併用が必
神経学的所見の悪化時、反応の再燃
要
時は十分量まで増量。
ステロイド薬;プレドニゾロン0.5~1 mg/kgから
開始し漸減。
神経炎に対する安静、保温、消炎鎮痛薬、鎮 クロファジミン;緩徐に奏効。100mg/日から開
静薬による対症療法
始、50 mg/日で長期使用が可能。
場合により観血的徐圧術
神経炎に対する安静、保温、鎮静薬による対
症療法、場合により観血的徐圧術
虹彩毛様体炎で、ステロイド薬の全身投与困
難例では結膜下注射
その他必要に応じて、眼科的治療、泌尿器科
的治療など
反応誘発の危険因子
BCG 接種、妊娠、産褥、結核、HIV 感染、経
口避妊薬、外傷、精神的ストレス
反応の好発時期
抗ハンセン病薬による治療開始後、6 ヶ月頃 抗ハンセン病薬による治療開始後数ヶ月後か
ら生じることが多いが、未治療の時期でも高
BB、BT では治療開始 2 週間~6 ヶ月、
BL で 2~12 ヶ月、LL に近づくと遅く発生する 率に、治療終了後にも発生しうる
傾向
赤枠の症状は、QOLを著しく損ねるので、特に早期の対応が必要
ツベルクリン強陽性、妊娠、分娩、感染症の
併発、外傷、外科手術、精神的ストレス、肉体
的ストレス
出典:ハンセン病治療指針(第3版)、一部改変
f. ENLとその他の主な皮膚疾患の鑑別(表5)
表5.ENLとその他の主な皮膚疾患の鑑別
らい性結節性紅斑
(ENL)
結節性紅斑
多形滲出性紅斑
(Erythema nodosum: EN)
(Erythema multiforme: EM)
薬疹
(Drug eruption)
スイート病
(Sweet's disease)
ベーチェット病
(Behçet disease)
病因
らい菌
感染アレルギー、
サルコイドーシス、
ベーチェット病、
薬剤、悪性腫瘍など
感染アレルギー、
薬剤など
薬剤
不明(感染アレルギー、
悪性腫瘍など)
遺伝的因子に
外的環境因子など
皮膚症状
隆起性、
結節性の紅斑
紅斑~硬結
左右対称性の小紅斑、
遠心性に拡大
中心やや陥凹
時に水疱性
滲出性の紅斑、
紅斑など
隆起性の滲出性紅斑、
表面に水疱や膿疱、
びらん、潰瘍をみること
などもある
結節性の紅斑
皮疹の好発部位
全身
主に下肢伸側
主に上下肢伸側
全身
顔、頸、項、前腕、手
背、
時に体幹、下肢
下腿、前腕
皮疹の痛み
自発痛/圧痛を伴う
自発痛/圧痛を伴う
ほとんどない
ほとんどない
自発痛/圧痛を伴う
自発痛/圧痛を伴う
検査所見
CRP高値、
白血球増多
CRP高値、白血球増多
特異的所見なし
種々
CRP高値、白血球増多、
好中球増多
CRP高値、
白血球増多など
他の症状
高熱、関節痛など
発熱、関節痛など
軽度の頭痛や発熱、
関節痛など
発熱など
発熱、頭痛など
ぶどう膜炎、
アフタ、毛包炎、
外陰部潰瘍など
病理組織所見
真皮と皮下組織に泡 真皮下層から皮下組織 血管周囲性単核球浸潤
沫化した組織球と多 にリンパ球・好中球の
核白血球が密に浸透 浸潤
種々
真皮上層浮腫、
血管・付属器周囲に
好中球主体の細胞浸潤
皮下組織上層の
好中球および
リンパ球を主体とし
た細胞浸潤
治療
サリドマイドなど
安静、原因治療
病因による
ステロイド内服など
ステロイド内服、
ヨードカリなど
安静、消炎鎮痛剤、
ステロイド内服など
予後
数ヶ月~年余に
わたる
1~3週間で消退
再発あり
2~4週間で治癒
再発あり
風因薬の中止とステ
ロイドなどの治療に
よる
原因疾患による
年余にわたる
-8-
4. ENLにおいて推定されるサリドマイドの主な薬理作用
5. サレド®カプセルの用法・用量
【詳細は添付文書をご参照ください】
ENL
通常、本剤を1日1回就寝前に経口投与する。用量は、成人にはサリドマイドとして50~100mg
より投与を開始し、症状が緩和するまで必要に応じて漸増する。ただし、1日400mgを超えない
こと。症状の改善に伴い漸減し、より低い維持用量で症状をコントロールする。
-9-
6. サリドマイドの投与参考例(図 3, 表 6)
【ENL に対するサリドマイド診療ガイドラインを参考にして作成】
サリドマイド50~100mg/日
就寝前に内服
有 効
無 効
ENL重症の場合
サリドマイド減量
サリドマイド増量
(他の疾患も含め鑑別)
他の疾患の場合(参考:表5)
サリドマイド中止
図 3.サリドマイドの投与参考例
表 6.サリドマイドの投与参考例
薬物
服用参考例
ステロイドの内服をしている場合
通常、サリドマイドとステロイドの併用は不要である
ステロイドからサリドマイドに切り
換える場合
サリドマイドを併用しながら、ステロイド内服薬の漸減を通常の方法に準じて行う
↓
ENLはサリドマイドによりコントロールされているはずなので、ステロイド内服薬の
漸減は急激な減量による副腎皮質不全を生じないように行う
なお、ステロイドとサリドマイドの併用は、血栓症と血栓塞栓症のリスクを高める
危険性がある。また、海外において中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)が発現したと
の報告がある。
サリドマイド投与中の
抗ハンセン病薬
投与中の抗ハンセン病治療薬を継続しながら、ENLの治療も行う
サリドマイド以外の治療薬
何らかの要因により、サリドマイド治療が困難な場合、ステロイド内服薬やクロフ
ァジミンも有効である
なお、虹彩毛様体炎については、サリドマイド単独で有効であるという症例報告や
総説があるが、国内外のガイドラインや教科書上では、サリドマイドの効果は低い
ためステロイドと併用すべきであるとしており、同症状に対するサリドマイドの有効
性は不明である
その他
日本人の場合、欧米に比べて低用量で症状がコントロールされている
国内における平均投与期間:2年5ヶ月
- 10 -
7. サレド®カプセルの警告・禁忌を含む使用上の注意
【詳細は添付文書をご参照ください】
〔警告〕
1.本剤はヒトにおいて催奇形性(サリドマイド胎芽病:無肢症、海豹肢症、奇肢症等の四肢奇形、心臓疾
患、消化器系の閉塞等の内臓障害等)が確認されており、妊娠期間中の投与は重篤な胎児奇形又は
流産・死産を起こす可能性があるため、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には決して投与しな
いこと。(「禁忌」及び「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
2.本剤の胎児への曝露を避けるため、本剤の使用については、安全管理手順1)が定められているので、
関係企業、医師、薬剤師等の医療関係者、患者やその家族等の全ての関係者が本手順を遵守するこ
と。(「禁忌」の項参照)
3.妊娠する可能性のある婦人に投与する際は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認し
たうえで投与を開始すること。また、投与開始予定4週間前から投与終了4週間後まで、性交渉を行う
場合はパートナーと共に極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)させ、避
妊を遵守していることを十分に確認するとともに定期的に妊娠検査を行うこと。(「重要な基本的注意
(1)」の項参照)
本剤の投与期間中に妊娠が疑われる場合には、直ちに投与を中止し、医師等に連絡するよう患者を
指導すること。
4.本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、投与開始から投与終了4週間後まで、
性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)させ、避妊を
遵守していることを十分に確認すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと。
5.本剤の投与は、緊急時に十分対応できる医療施設において、十分な知識・経験を持つ医師のもとで、
本剤の投与が適切と判断される患者のみに行うこと。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族等
に有効性及び危険性(胎児への曝露の危険性を含む)を十分に説明し、文書で同意を得てから投与を
開始すること。
6.らい性結節性紅斑では、ハンセン病の診断及び治療に関する十分な知識を有する医師のもとで、本剤
を使用すること。
7.深部静脈血栓症及び肺塞栓症を引き起こすおそれがあるので、観察を十分に行いながら慎重に投与
すること。異常が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。
【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
2.安全管理手順を遵守できない患者
3.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 11 -
使用上の注意
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)深部静脈血栓症のリスクを有する患者[本剤により症状が発現、増悪することがある。]
(2)HIVに感染している患者[本剤によりHIVウイルスが増加することがある。]
2.重要な基本的注意
(1)本剤には催奇形性(サリドマイド胎芽病:「警告」の項参照)があるので、妊娠する可能性のある
婦人に投与する際は、少なくとも投与開始予定の4週間前、2週間前及び投与直前に妊娠検査
を実施し、検査結果が陰性であることを確認後に投与を開始すること。また、妊娠していないこ
とを定期的に確認するために、間隔が4週間を超えないよう妊娠検査を実施する。
(2)本剤の安全管理を確実に実施するため、1回の最大処方量は12週間分を超えないものとすること。
(3)本剤投与開始から投与終了4週間後までは、精子・精液の提供をさせないこと。
(4)本剤の抗血管新生作用が創傷の治癒を阻害する可能性があることから、外科手術等を実施し
た場合、適切な期間本剤の投与を中止すること。
(5)傾眠、眠気、めまい、徐脈、起立性低血圧が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自
動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。
(6)本剤のらい性結節性紅斑に対する使用にあたっては、国内のガイドラインを参照の上治療を行
うこと。
8. サレド®カプセルの副作用
【詳細は添付文書をご参照ください】
国内で実施された治療抵抗性の多発性骨髄腫患者を対象とした臨床試験において、総症例37例
中、37例に副作用が認められた。主な副作用は、眠気、便秘、口内乾燥等であった。臨床検査値の
異常変動は、35例(94.6%)に認められた。
(1)重大な副作用
1)催奇形性(サリドマイド胎芽病:「警告」の項参照)(頻度不明)
2)深部静脈血栓症、肺塞栓症(5%未満)
3)脳梗塞(5%未満)
4)末梢神経障害(頻度不明)
5)骨髄機能抑制(頻度不明)
6)感染症(5%未満)
7)間質性肺炎(5%未満)
8)消化管穿孔(5%未満)
9)虚血性心疾患(5%未満)
10)皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)(頻度不
明)
11)嗜眠状態、傾眠、鎮静(頻度不明)
12)痙攣(頻度不明)
13)起立性低血圧(頻度不明)
14)心不全、不整脈(5%未満)
15)甲状腺機能低下症(頻度不明)
*16)腫瘍崩壊症候群(頻度不明)
*17)肝機能障害(5%以上)
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(2)その他の副作用(表 7)
表 7.その他の副作用
5%以上
*
*
*
5%未満
皮膚
発疹、皮膚瘙痒感
蕁麻疹、血管浮腫
筋・骨格
関節痛
骨痛、肩痛、頸部痛、背部違和感
精神神経系
眠気、不安、しびれ、ふるえ、頭重、頭
痛、ふらつき、神経痛
不眠、こむら返り、運動障害、嗄声
眼
眼のかすみ
消化器
便秘、口内乾燥、嘔気、腹部膨満感、胸
やけ、腹痛、食欲不振、下痢
残便感、胃重感、心窩部不快感、胃痛、
軟便、消化不良、歯肉出血、嘔吐
肝臓
γ-GTP低下
総ビリルビン減少
代謝・栄養系
総コレステロール上昇、総コレステロー 総蛋白上昇、CK上昇、ALP低下、HDL-C増
ル低下、総蛋白低下、CK低下、ALP上昇、 加、クロール上昇、耐糖能異常、α 2 -グ
LDH上昇、LDH低下、カルシウム低下、ナ ロブリン異常
トリウム低下、カリウム上昇、カリウム
低下、クロール低下、α 1 -グロブリン上
昇、α 2 -グロブリン上昇、β-グロブリン
上昇、アルブミン低下、尿糖陽性
循環器
血圧上昇、血圧低下、四肢冷感、洞性徐
脈、不整脈
呼吸器
鼻出血、動悸、心室性期外収縮
咽頭炎、咽頭痛、息苦しさ、気管支炎、
咳、鼻汁、喀痰
泌尿器
尿蛋白陽性・BUN上昇・クレアチニン上昇 BUN低下
等の腎機能障害、クレアチニン低下
血液
好中球増多、好酸球増多、好酸球減少、
好塩基球増多、単球数異常、リンパ球増
多、リンパ球減少、ヘモグロビン減少、
ヘマトクリット減少、D-ダイマー上昇、
FDP上昇
好塩基球減少、MCV上昇、MCHC減少
その他
味覚異常、疲労、浮腫、体重減少、脱力
感、胸痛、熱感、倦怠感、CRP上昇
脱毛、のぼせ、眼瞼腫脹、発熱
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9. サレド®カプセルの併用注意
薬剤名等
臨床症状・措置方法
機序・危険因子
中枢神経抑制剤
バルビツール酸誘導体
バルビツール酸塩等
フェノチアジン系薬剤
クロルプロマジン等
モルヒネ誘導体
ベンゾジアゼピン系薬剤
ジアゼパム等
抗不安剤
催眠剤
アルコール
抗うつ薬
交感神経遮断薬
レセルピン等
ヒスタミンH 1 受容体遮断薬
バクロフェン
他の薬物の鎮静作用を増強する。
相互に作用を増強するおそ
れがある。
ザルシタビン
ビンクリスチン硫酸塩
ジダノシン
末梢神経障害のリスクを高める危
険性がある。
相互に作用を増強するおそ
れがある。
ドキソルビシン塩酸塩
デキサメタゾン
経口避妊薬
血栓症と血栓塞栓症のリスクを高
める危険性がある。
相互に作用を増強するおそ
れがある。
デキサメタゾン
海外において、中毒性表皮壊死症
デキサメタゾンリン酸エステル (Lyell症候群)が発現したとの報
ナトリウム
告がある。
機序は不明である。
ゾレドロン酸水和物
相互に作用を増強する。
海外において腎機能不全が発現し
たとの報告がある。
10. サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)について
サリドマイドは、過去に妊娠中の女性が服用することにより胎児に重大な障害又は死産、流産を引
き起こしました。胎児への曝露を避けるため、本剤の使用についてはサリドマイド製剤安全管理手
順(TERMS®)を遵守する必要があります。サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)を遵守していた
だけない場合には、本剤を使用することができません。
【詳細はサリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)をご参照ください】
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11. 参考資料一覧
・Moller DR, Wysocka M, Greenlee BM, Ma X, Wahl L, Flockhart DA, et al. : Inhibition of IL-12
production by thalidomide. J Immunol 159: 5157-61, 1997.
・Haslett PA, Corral LG, Albert M, Kaplan G: Thalidomide costimulates primary human T
lymphocytes, preferentially inducing proliferation, cytokine production, and cytotoxic responses in
the CD8+ subset. J Exp Med 187: 1885-92, 1998.
・熊野公子: らい反応について. 日ハンセン病会誌 71: 3-29, 2002.
・小野友道, 尾崎元昭, 石井則久(責任編集): ハンセン病アトラス. 1-70, 2006.
* ・後藤正道, 野上玲子, 岡野美子, 儀同政一, 四津里英, 石田裕ら: ハンセン病治療指針(第3版).
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・Kawakami T, Tsutsumi Y, Mizoguchi M, Ishii N, Soma Y: Clinicopathologic challenge. -Leprosy with
hepatic involvement.- Int J Dermatol 46: 348-9, 2007.
・石井則久: 皮膚抗酸菌症テキスト 1-130, 2008.
・石井則久: サリドマイドのらい性結節性紅斑に対する保険適用に向けて. 日ハンセン病会誌
79: 275-9, 2010.
・前田吉民, 石井則久: ハンセン病―発熱と浸潤性紅斑を呈した1例. Visual Dermatology 9: 1148-9,
2010.
・Lee DJ, Li H, Ochoa MT, Tanaka M, Carbone RJ, Damoiseaux R, et al.: Integrated pathways for
neutrophil recruitment and inflammation in leprosy. J Infect Dis 201: 558-69, 2010.
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+ dexamethasone and dexamethasone alone acted as co-stimulants with pokeweed and enhanced
their synthesis. Int Immunopharmacol 10: 487-92, 2010.
・大塚藤男: 皮膚科学(第9版) 1-976, 2011.
・清水 宏: あたらしい皮膚科学(第2版) 1-608, 2011.
・四津里英, 鈴木幸一, 森 修一, 石井則久: ハンセン病の診断. 日ハンセン病会誌 80: 59-70, 2011.
・石井則久, 石田 裕, 岡野美子, 尾崎元昭, 儀同政一, 熊野公子ら: らい性結節性紅斑(ENL)に対する
サリドマイド診療ガイドライン. 日ハンセン病会誌 80: 275-85, 2011.
・サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS®)
・サレド®カプセル添付文書
* ・Bennett CL, Angelotta C, Yarnold PR, Evens AM, Zonder JA, Raisch DW, et al.: Thalidomide- and
lenalidomide-associated thromboembolism among patients with cancer. JAMA 296(21): 2558-60, 2006.
* ・Palumbo A, Rajkumar SV, Dimopoulos MA, Richardson PG, San Miguel J, Barlogie B, et al.: Prevention of
thalidomide- and lenalidomide-associated thrombosis in myeloma. Leukemia 22(2): 414-23, 2008.
* ・Rajkumar SV, Gertz MA, Witzig TE: Life-threatening toxic epidermal necrolysis with thalidomide therapy
for myeloma. N Engl J Med 343(13): 972-3, 2000.
* 2014年8月改訂(第2版)
2012年6月作成(第1版)
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