成果中心の問題解決と 自信回復のカウンセリング

連載 7
21世紀生き残りへの道、
メンタリングの極意
成果中心の問題解決と
自信回復のカウンセリング
国際メンタリング&コーチングセンター
所長
石川 洋
mail:info@smartvision.co.jp
http://www.smartvision.co.jp
10 月号では、現在日本で進められている教育改革の方
向性を追いながら、自分で考え、新しく作り出す喜び
を伝え、個を生かし、独創的な発想で、自分の成功イ
メージをどう定着させるかを検討したが、今月は、成
果重視の問題解決型メンタリングモデルと自信回復に
重点を置いたカウンセリング手法を検討することで、
メンタリングの奥深さを探ることにする。
広範囲で利用可能な
メンタリング
さらに、本人のキャリアプランや成長を考え
ながら、将来の方向性、ビジョンを語ることがビ
ジネスマインドを育てることになる。
コーチングは、通常課題達成、成果をあげる目
これらにより、目標の達成を広い視野から応
的で、メンティーのスキルを高め、気づきを与え
援することが可能となる。解答を相手の中だけ
ながら進めるが、経験の少ない新入社員には十
に期待するのではなく、実際の行動のキッカケ
分な効果が期待出来ない。まだ経験の浅い人か
となるイメージづくりと気づきを提供するので
ら、何かを引き出そうとしても無理がある。
ある。このようにメンタリングでは、相手の状況
これを補う形で、メンタリングでは、相手の状
に応じて、一番効果的な対応を個別対応するこ
況をキチンと見極め、当初の見込みよりはるか
とで、最大の効果をあげることである。
に下回る成果の場合は、問題解決型メンタリン
グモデルにより、原因分析、最適手法の選択、成
果分析を再度行い、個人的な問題を抱えていれ
3次元のネットワークを
構築するメンタリング
ばカンセリングを行う。
経験の浅い新人には、役割モデルや成功事例
メンタリングは、1対1のメンタリングを基
を語り、より高い専門性を必要とする場合には、
本に、上司・部下の関係以外の支援態勢をクロス
専門家を紹介し、さらに視野を広げる道を提供
ファンクションで、構築した時に最大の効果を
する。将来の方向性のイメージが明確でない人
発揮する。線の関係から、有機的な面の関係を構
には、会社のビジョンと夢を語り、その成功の喜
築することになる。また、リーダーと一般社員、
びを分かち合う。チームワーク、協働環境の構築
マネジャーとリーダー、上級管理職と中間管理
等、広い視野からメンティーの支援を進めるこ
職と言った色々な階層でも、有機的ネットワー
とになる。
クを構築することで、3次元のネットワークを構
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燃えよリーダー
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図1 成果中心の問題解決型メンタリングモデル例
原因分析
手法分析
問題意識・危機意識の
不足
変化を妨げる要因
(しがらみ、前例尊重
の気風)
動機づけ/期待不足
情報・情報共有不足
人材不足
能力・スキル不足
協働環境作り不足
報償の不足 その他
メンタリング
コーチング
カウンセリング
ティーチング
スポンサーシップ
保護と調整
クロスファンクション
さらなる挑戦 他
成果分析
顧客の要求
会社の使命
会社の価値観
会社の目標
将来展望
現在の市場環境
及び職場環境
人材育成の
成果の期待値
理想と現
実の開き
人材育成の
成果の現状
経営手法の変更
企業文化の変更
人事評価制度の変更
改善後の
再評価
築するとさらなるシナジー効果が期待出来る。
は、講師の人気投票の色が強くなりかねず、本当
この次元に到達したメンタリングが、最大の
の業務への貢献度、成果中心の分析と、かけ離れ
効果を発揮することになる。
たものになりかねない。
重要 な視点 は 、実 際の 業務 に おいて 、メン
業績への効果を重視した
問題解決型メンタリングモデル
ティーとメンターの意識の向上がいかに認めら
れ、これが業績にどのように反映したかにある。
これを見る手法として、よく使われるのが360 °
欧米では、成果を重視した問題解決手法が非
フィードバックであり、これで職場の活性化を
常に注目されている。その中でもメンタリング
見ながら、業績への反映を分析することになる。
を中心にした問題解決型メンタリングモデル※1
を紹介しよう(図1)。
まず、人材育成の成果の期待値と、現在の従業
効果が見られるまで、
何度も進められる成果分析と評価
員の能力とスキルの現状との開きを分析するこ
とから始める。この原因としては、問題意識・危
新しい改善の試みが実施された後、その分析・
機意識の不足、過去へのしがらみ、動機づけや上
評価が、逐次行われ、成果目標と達成結果との開
司からの期待の不足、情報・情報共有の不足、能
きの原因を検証するのが特徴である。この手法
力・スキルの不足、協働環境の不足、インセン
の特徴は、
ティブの不足等があげられる。これらを改善す
①研修等の参加者の感覚的人気投票ではなく、
る手法を含めたメンタリング研修が実施され、
実質的な業務の改善を評価指標としている。
その実施結果が、再度評価される。
②メンタリングの改善努力が行われるたびに、
日本では、研修参加者からの感想という形で、
継続的な改善効果を時系列に分析することであ
その情報をとるのが普通であるが、この方法で
り、さらに効果の高い手法の選択が可能となる。
※1 出典:ASTD発行のHPI Essentials by George M. Piskurich を参考にメンタリングモデルを作成
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図2 標準的なカウンセリング手法
ラポールの形成
(Rapport )
情報の収集
(現状把握 Real)
目標の決定(見直し)
(Goal )
可能な選択肢の探求
(Option )
一般化と転移
(実行,Will)
この前提で、本人のや
る気と意気込みを阻害せ
頑張っているようだが、
調子はどうだい!
相当残業が増えているようですが、
体の方は、
大丈夫かね? 十分休んだ方が、
仕事の効率があがるのでは?
仕事も増えてきたので、
チームを組んで協働で進めることを
考えているが、
これで、
君も重要な所に力を入れて、
自分に納
得のいく、
仕事をしてほしいね。
ずに、本調子に戻し、自信
回復する支援をする。そ
のアプローチプロセス事
例を紹介しよう(図2)。
このカウンセリング
モードでは、従来の高い
ところで、
これからどの点に絞って進めていく予定かね?
君の得意な、
この点を重点的に進めてもらうのも、
一つだが!
目標を見直すことから始
それでは、
明日から、
私も必要な部分を手伝い、
君は、
得意な分
野に集中して、
実績をあげよう。
新しいチームメンバーも加わ
るので、
うまく協力してやってくれ!
定を行い、再設定された
まり、適度な目標の再設
目標を達成することで自
信回復を目指すものであ
出典:
「カウンセリング技法入門」
玉瀬耕治著、
教育出版社 1998
る 。こ れが 、難し い場 合
③改善効果が明確化されるので、次回の投資に
は、仕事を再配置して、仕切り直しも必要になろ
対する説明情報・資料が獲得出来、継続的予算化
う。なお、必要に応じて専門の産業カウンセラー
が容易となる。これらの効果を享受出来れば、会
に相談することも選択肢の一つであるが、本人
社全体の競争力強化に繋がり、急成長の基盤を
のプライドとやる気を十分配慮しながら進める
確立することも可能となる。
必要がある。
相手の状況により、適切な対応の仕方を判断
カウンセリングモードでの
改善例
問題解決・成果改善事例は、その原因が人的要
因で、その問題が軽度の場合に適用されるが、こ
する手法として有名なものに、マイクロ・カウン
セリング手法があるので紹介しよう。
マイクロ・カウンセリング技法
とは?
れが多少の改善努力では難しい場合は、次の段
階のカウンセリングモードに進むことになる。
米国の心理学者のアイビーは、既成のカウセ
通常の問題解決との大きな違いは、健康状態、
リング技法を細分化し、傾聴技法から能動的技
職場環境が影響して、大きな後退を余儀なくさ
法への14階層に分類し、それぞれを状況に対応
れているケースであり、当面は、個人の状況を理
して使いわける技法を開発した(図3)。これは、
解し、元気・勇気づけ、励ましながら、再起のため
相手の状況を良く観察しながら、それに対応す
の自信つくりへの支援をする必要がある。
ることが、より効果的カウンセリングを可能に
仕事も増えて、領域が広い範囲をカバーして
すると考えたのである。その関係は、状況対応
いる場合は、当人の仕事量を絞って、特定業務に
リーダーシップSL理論と似た考え方でもある。
集中してもらうことが必要となる。特に、当事者
動きが取れない重傷の人には、自らの判断力
が非常に重要な責務を負っている場合には、責
も意欲も失せた状況にあることから、積極技法
任を本人に集中させずに、共同責任態勢に切り
で、指示活動を中心に問題解決する。自らの解決
替え、チームワークを重点に事態の改善を進め
策を自分で出して進めることが出来ない人に
る視点も重要となる。
は、傾聴技法でその状況を確認し、積極技法を中
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図3 マイクロカウンセリング技法
て指導者から見放されてい
S3 援助があれば動け
る人
傾聴技法が中心
傾聴技法
①励まし
②繰り返し
③言い換え
④感情の反映
⑤意味の反映
S2 解決策を講じられ
ない人
傾聴技法と積極技法
S4 自発性と柔軟性の
S1 動きが取れない人
ある人
傾聴技法を多少
積極技法が中心
ないと感じさせることだ。図
3のS3に近い手法を取り、傾
聴技法を中心に、支援に力を
入れる時期である。
この時期は、欠点の矯正よ
り、出来るだけ相談に来た場
合に、細かい指導をすること
中間3技法
⑥焦点のあて方
⑦閉ざされた質問
⑧開かれた質問
⑨
情
報
・
教
示
・
助
言
⑩
自
己
開
示
⑪
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
⑫
論
理
的
帰
結
法
⑬
指
示
⑭
対
決
積
極
技
法
に留めておく。指導者として
の力量が試されるのは、6−
7年目の中堅クラスである。
6−7年たっても目が出な
い選手は、さまざまな指導を
受けながら結果に結びつか
心に指導することになる。
ず、身動きが取れなくなっている。この時期の選
手には、指導者のノウハウを積極的に叩きこむ
野球界での
マイクロ・カウンセリング手法例
ことになる。本人も自信を失い欠けており、本人
も最後の機会と考え、真剣にならざるを得ない。
これでも、目が出ないと分かった時から、2軍
野球界でマイクロカウンセリングスキルを活
となり、基本を叩き込むか、別の道を歩むかを本
用した指導例を紹介しよう。これは、落ちこぼれ
人が真剣に考える時期にさしかかる。いずれに
を出来るだけ防ぎ、軌道にのせるためのカウン
せよ、相手の状況に合わせた柔軟な対応がとれ
セリング技法として、落合コーチが実際に活用
るか否かが良いメンターとしての条件となる。
している手法※2でもある。
メンタリングでは、現実の状況把握に基づく、
1年目の選手には、
「否定」めいた言葉は、使っ
最適の手法を選択できる能力が要求される。
てはいけない。この時期は、プロとしては未熟で
メンタリングでは、5月号で紹介したビジョ
あるが、アマ時代の自信もあり、最初の1年間
ンや、役割・成功モデルの語りの他、今回の問題
は、自主性に任すことが肝心。自分の実力が、プ
解決型メンタリングモデル事例や、カウンセリ
ロとして通用するのかを試させてみる時期であ
ングモードの事例などのモデルを個別対応で使
る。上手くいったら、褒めて自信をつけさせる。
い分けることが必要になる。これらは、やる気と
相手のやる気と意欲を尊重し、図3のS4の傾
可能性を引き出すコーチングだけでは、対応が
聴技法を利用して、自主的回復を促す手法をと
難しい場合に有効で、大きな活用分野がある。
る。当然それなりの力があることが前提である。
実際の職場環境の活性化、業績への反映が特
2−3年目になっても結果のでない選手の場
に重視される場合、メンタリングの中にある多
合には、対応法を変える必要がある。やってみて
くの手法の一部が活用されることになる。
も、どうも自分の能力が出し切れない選手であ
小集団活動のリーダーである皆さんも、メン
る。本人もいろいろ打開策を考えているはずだ
タリングの幅の広さと、応用範囲の広さを感じ
から、それを尊重し、自信をつけさせることが重
ながら、いっそう効果的手法を選んで活用する
要だ。この時期は、密にコミュケーションを取っ
ことを期待しています。
※2 出典:
「コーチング、
言葉と信念の魔術」
落合博満著、
ダイヤモンド社
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