Clinical Case Study Hemolytic Anemia Following Attempted Suicide Nichole L. Korpi-Steiner1, Jonathan B. Hoyne1, James D. Hoyer1 and Amy K. Saenger1,a 1 Department of Laboratory Medicine and Pathology, Mayo Clinic, Rochester, MN. a Address correspondence to this author at: Department of Laboratory Medicine and Pathology, Mayo Clinic, 200 1st Street SW, Rochester, MN 55905. Fax 507-538-7060; e-mail saenger.amy@mayo.edu. 臨床症例研究 自殺未遂に伴う溶血性貧血 症例 高血圧、うつ病、慢性アルコール中毒症の既往歴がある 43 歳のアフリカ系アメリカ人男性が、胸部の痛みを 訴えて病院外にある救急センターに現れた。検査の結果は肝毒性で、アスパラギン酸アミノトランスフェラー ゼ(AST)114000 U / L(基準値 5 - 41 U / L)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)6400 U / L(基準値 8 45 U / L)であった。ラボでの肝機能値が悪化したためその患者は再検診され、そこで 3 日前に 1.5 ガロン(約 4 L)のウォッカと、1 瓶半の強力なアセトアミノフェンを摂取し、自殺しようとしたことを白状した。 激症型肝機能障害が懸念されたため、患者は N-アセチルシステイン(NAC)をボーラス投与され、我々の病院 に紹介されてきた。再検査の結果、アセトアミノフェン中毒症により前回同様深刻な肝毒性が認められ、AST 11000 U / L (基準値 8 - 48 U / L)、ALT 6510 U / L(基準値 7 - 55 U / L)、総ビリルビン値 395 mol / L(23.1 mg / dL)[基準範囲 2 - 17 mol / L (0.1 - 1.0 mg / dL) ]、直接ビリルビン値 207 mol / L(12.1 mg / dL)[基準範 囲 <5.0 mol / L (<0.3 mg / dL) ]であった。NAC の静脈投与が続けられ、胸部痛にはニトログリセリンが処方 された。 投与後 24 時間以内に、患者は低ヘモグロビン(Hb)性酸素飽和(89%)による呼吸困難になった。胸部レン トゲン検査では異常が見られない一方で、血液検査ではメトヘモグロブリン 4 % (基準範囲 0.6 - 1.83 %) を 伴う、ボーダーラインである低いヘモグロビン値 137 g / L [基準範囲 135 – 175 g / L (13.5 – 17.5 g / dL)]を示し た。患者は高濃度酸素治療を受けたが、低酸素性呼吸不全は直らなかった。 1 48 時間後においても、患者は依然として溶血性貧血による高ビリルビン血症と診断され続け、血液検査は、 メトヘモグロブリン 6%、低ヘモグロビン 7.5g/dL、異常な網状赤血球値 11.5%(基準範囲 0.6 - 1.83 %)、検出 不能のハプトグロブリン[1.4 mol / l (<14mg / dL); 基準範囲 3 - 20mol / L (30 – 200 mg / dL)]、平均赤血球容 積(MCV)の増加 (97.8fL; 基準範囲 81.2 - 95.1fL)、ラクテート脱水素酵素(LD)の増加 (6870 U/L; 基準範囲 122 - 222 U/L)を示した。さらに直接クームス試験では陰性であったが、末梢血塗抹標本では”バイト細胞”の 存在が認められた。従って、薬物誘導性の急性溶血性貧血に付随した酵素病が疑われた。 考察 アセトアミノフェン中毒と治療 アセトアミノフェン(パラセタモール)は最大投与量である 4g/day を超えて使用されなければ、安全な解熱 剤、鎮痛剤である。しかし、過剰摂取すると肝毒性(10 - 15g /day)によるアセトアミノフェン中毒症を引き 起こすことがあり、場合によっては致死的(20 - 25g/day)である。この患者はおよそ 15g のアセトアミノフ ェンを摂取していたため、我々は激症肝機能障害の恐れがあると考えた。 アセトアミノフェンは経口投与しても生理活性が保持され、投与後 30 - 60 分で血中濃度はピークに達する(1)。 アセトアミノフェンの治療量における代謝は肝臓では急速に起こり(半減期 2 時間)、そのほとんど(約 90 %)が投与後 24 時間以内にグルクロニドもしくは硫酸塩と結合し、尿となって排泄される(2)。残りの 10 %はシトクロム P-450 経路を介して代謝され、N-アセチル-P-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成するが、 これは強力な求電子剤であり、すぐに無毒化され還元型グルタチオンと結合して排泄される。アセトアミノフ ェン中毒症は、血中のグルクロニドと硫酸塩を飽和させるため、結果として異常に多くの NAPQI を生成する (2) (図 1)。高濃度の NAPQI は還元型グルタチオンの備蓄を枯渇させ、NAPQI の蓄積、肝臓傷害、激症型肝機 能障害を引き起こす可能性がある。慢性アルコール中毒症は、シトクロム P-450 経路とそれに続く NAPQI の生 成を誘導するか、もしくは肝臓のグルタチオン含量を減少させることにより、アセトアミノフェン誘導性の肝 毒性を増強する作用がある。逆に急性のアルコール摂取は、アセトアミノフェン過剰投与後の肝毒性には、ほ とんど影響しない(3)(4)。トランスアミナーゼの典型的な上昇が、アセトアミノフェン中毒後、48 - 72 時間後 にみられる。慢性アルコール中毒症、急性アルコール摂取、そしてアセトアミノフェン中毒症であったことか ら、この症例における患者のアセトアミナーゼ濃度が異常に増加していた (AST 11000 U/L; ALT 6510 U/L) こ とは、驚くに値しない。 2 図 1. 毒性を示す過剰濃度でのアセトアミノフェンの代謝 毒性を示す濃度のアセトアミノフェンの代謝はグルクロニドと硫酸塩の備蓄を飽和させ、シトクロム P-450 経 路による異常に高いアセトアミノフェンの代謝を引き起こし、強力な求電子剤である NAPQI を生成する。 NAPQI は還元型グルタチオンと結合することで無毒化され、尿として排泄される。しかし高濃度の NAPQI は 還元型グルタチオンの備蓄を枯渇させ、肝毒性のある代謝産物の蓄積を誘導する。 アセトアミノフェン誘発性の NAPQI 中毒症(アセトアミノフェン中毒症に続発する)に対する良く知られた 対処法に、NAC の投与がある。NAC は体内で還元型グルタチオンの合成に使用される L-システインのアセチル 化前駆体である。従って、NAC の投与は還元型グルタチオンの備蓄補充を促進し、NAPQI を無毒化するのに使 用される (4)。NAPQI の蓄積と肝細胞傷害を最小限にするために、アセトアミノフェン中毒症の発症後 8 時間 以内に、NAC を投与することが推奨されている。 溶血性貧血の診断 溶血性貧血は過度の赤血球の破壊に象徴される一般的な血液疾患で、病因は様々である(5)。後天的な溶血の 原因には、自己免疫、細小血管障害、感染が含まれる。一方遺伝性の溶血性貧血は、赤血球の酵素異常、細胞 膜異常、ヘモグロビン異常の結果生じる。従って、医学的知見とラボテストの結果を組み合わせることが、溶 血性貧血とその原因を正確に診断するのに不可欠である。 ラボテストの結果、低ヘモグロビン、網状赤血球の増加、フリーのビリルビンおよび LD の増加、ハプトグロ ブリンの減少が見つかれば、溶血性貧血が疑われる(5)。網状赤血球増加症は赤血球の喪失に対する反応とし て骨髄で生じ、通常は Hb の減少後 3 - 5 日以内に観察される。網状赤血球の MCV は、正常な赤血球よりもわ ずかに大きいため、顕著な網状赤血球症の反応として MCV が増加することがある。赤血球が破壊される結果 3 として、LD と Hb が放出される。遊離した Hb はヘムに分解され、脾臓によってフリーのビリルビンに異化さ れるか、もしくは血漿ハプトグロブリンと結合することがある。過剰に遊離した Hb は、迅速に血漿ハプトグ ロブリンを飽和させ、その複合体は網内系システムによってすぐに消化されるため、血漿ハプトグロブリン濃 度は検出できないほど低下する。症例の患者に対する最初のラボテストの結果は正常な Hb[137g/L (13.7g/dL)] を示していた一方で、総ビリルビン[395mol/L(23.1mg/dL)] と直接ビリルビン [207mol/L(12.1mg/dL)]の濃度は著しく上昇しており、アセトアミノフェンの過剰投与に次いで生じる肝 細胞傷害と一致する。投与の三日後、患者は低酸素症とともに、6%メトヘモグロブリンを伴う低 Hb[75g/L (7.5g/dL)]、顕著な網状赤血球症(11.5%)、検出不能な低ハプトグロブリン[1.4µmol/L(<14mg/dL)]、 MCV の増加 (97.8fL) 、LD の増加 (6870 U/L)によって確認される、慢性の高ビリルビン血症を示した。こ れらのラボテストの結果は、急性の溶血性貧血が生じていた証拠である。 血液検査をすることで、溶血性貧血とその病因の診断が速やかに行われる(5)。直接クームス試験が陽性であ ることは、抗体もしくは補体が赤血球の表面に存在することを示しており、自己免疫性溶血の指標となる。症 例の患者では、直接クームス試験の結果は陰性であった。しかし末梢血塗抹標本では Hb への酸化ダメージの 指標であるバイト細胞が認められた(図 2)。Hb の酸化は細胞内で Hb の変性と沈殿を引き起こし、それによる ハインツ体(損傷して凝縮した Hb から成る細胞の含有物)の形成を伴う。ハインツ体は網内系システムによ り除去され、血塗抹標本のバイト細胞として見られるような、細胞体の一部が欠失した赤血球を生じさせる (6)。この患者ではラボテストの結果に加えて、血液標本中にバイト細胞が認められることから、酸化ストレ スに対する赤血球の異常な反応によって起きた溶血性貧血であると考えられ、その原因として酵素病が示唆さ れた。 図 2. 血塗抹標本におけるバイト細胞の存在 4 ライト-ギムザ染色による血塗抹標本(倍率 1000x)は、バイト細胞(矢印)と呼ばれる異常な赤血球の存在 を示している。 グルコース-6-リン酸脱水素酵素不全 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)不全は、主に男性に影響する X 染色体連鎖疾患で、アフリカ系、ア ジア系、オセアニア民族で良く見られる。G6PD 不全は、急性溶血性貧血に付随する最も一般的な酵素病であ る。しかし急性発作(例、感染、薬理反応、ソラマメ中毒症など)が Hb の酸化ダメージを与えるまで、ほと んどの患者において溶血症であるという、医学的、臨床的な証拠は得られない(5)(7)。この点において、 還元型グルタチオン濃度を補充し、酸化ダメージを最小限に抑える上で、G6PD は重要な役割を担う。正しく は、G6PD は NADP+を電子の受取手として(NADP+は NADPH に転換する)、グルコース-6-リン酸を 6-ホスホ グルコン酸に転換することによって、解糖系のヘキソース一リン酸シャントにおいて最初のステップを触媒す る。従って、G6PD 活性は NADPH 濃度を適度に維持するのに必須である(8)。赤血球において、NADPH は酸 化型グルタチオンを還元型に転換するのに必要である。還元型グルタチオンは反応性の酸素種を、過酸化水素、 更に水へと還元する際に重要な役割を担う。それゆえに G6PD 不全になるとより、多くの酸化ダメージにさら されることになり、結果として Hb の損傷や溶血性貧血を生じることになる。 メトヘモグロブリン症に対してメチレンブルーによる治療をする際、NADPH 含量を適度に保つ上で G6PD の役 割は重要である。正確には、NADPH はメチレンブルーをロイコメチレンブルーに還元し、その後メトヘモグ ロブリンを Hb に還元するのに必須である(8)。G6PD 不全においては、メチレンブルーによる治療は行って はならない。というのもメチレンブルーは Hb の酸化剤として機能することにより、メトヘモグロブリン症を 悪化させることもあり、結果として溶血症や高ビリルビン症を引き起こすこともあるためである。この症例の 患者では、メトヘモグロブリンは 6%で、メチレンブルーによる治療前に適切な G6PD 活性の測定が行われた。 患者は異常な G6PD 活性を示した(4.1 U / g HB; 基準範囲 8.6 – 18.6 U / g Hb)が、それは成人基準値の 30 – 50 % 程である。しかし G6PD 不全と診断されるには、G6PD 活性が成人基準値の 25 % 以下でなければならない。興 味深いのは、急性溶血症では生存している赤血球のみが G6PD 活性に寄与する。というのも若く未成熟な網状 赤血球は、高い G6PD 活性を持つために溶血を免れるからである(8)。急性溶血症の患者の G6PD 不全を正確 に診断するためには、新旧すべての細胞が存在する症状発生後 2 – 3 ヶ月後において、G6PD 活性を再測定する ことが重要である(5)。退院後、症例の患者は G6PD 活性の再測定のために自宅療養を勧められた。 この患者では急性溶血性貧血は紹介された病院に来て 3 日後、つまりアセトアミノフェン投与から 6 日後にお いて観察された。感染症の疑いがなかったので、薬物誘導性の酸化ストレスは G6PD 不全による溶血性貧血の 結果であろうと我々は考えた。G6PD 不全の患者においても、治療量におけるアセトアミノフェンは安全な解 熱剤、鎮痛剤である。しかし今回の症例を含む多くの症例において、治療量を超えるアセトアミノフェンの摂 取は、G6PD 不全の患者においては溶血症を引き起こしやすいことが示唆されている (9)(10)。症例の患 者では発症したアセトアミノフェン中毒症は、溶血性貧血の消散を促進する NAC によって治療された。 覚えておくべきポイント 5 ・アセトアミノフェン中毒症は、正常な代謝分解経路(例 グルクロン酸化)を急速に飽和させ、グルタチオ ン含有量を減少させることで NAPQI の蓄積を促す。肝細胞傷害を最小限に抑えるためには、NAC による速や かな治療が必要である。プロトロンビン時間と血清ビリルビンの持続的な上昇は、治療がうまく行ってない指 標である。 ・医学的データ、ラボテストの結果(低 Hb、網状赤血球の増加、フリービリルビンやラクトース脱水素酵素 の増加、ハプトグロブリンの減少)、血液標本検査の結果(末梢血塗抹標本、ヘモグロブリン電気泳動、直接 クームス試験、赤血球酵素試験)を組み合わせることが、溶血性貧血とその病因を性格に診断するために必要 である。 ・G6PD 不全はほぼ決まって男性にみられ、とくにアフリカ系、アジア系、オセアニア民族の男性に頻繁にみ られる。G6PD 不全は、急性溶血性貧血と密接に関わるもっとも一般的な酵素病である。しかし急性の症状 (感染症、薬理反応、ソラマメ中毒など)が Hb に酸化ダメージを与えるまでは、医学的、臨床的な証拠はほ とんどの患者において得られない。 ・急性溶血症において G6PD 活性測定は、生存している赤血球と、平均よりも高い G6PD 活性を示す、溶血を 免れた若い網状赤血球のみを反映する。急性溶血症の患者において、G6PD 不全を正確に診断するためには、 すべてのステージの細胞が再び存在するであろう 2 - 3 ヶ月後に、G6PD の酵素活性を再検査しなければならな い。 ・G6PD 不全においては、メチレンブルーによる治療を行ってはいけない。というのもメチレンブルーは Hb の酸化剤として機能することで、メトヘモグロブリン症を悪化させる恐れがあり、結果として溶血症、高ビリ ルビン症を引き起こす可能性があるためである。 謝辞 Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the published article. Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: No authors declared any potential conflicts of interest. Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript. Acknowledgments: We thank Brian Netzel (Mayo Clinic, Rochester) for his help with constructing Fig. 1. 脚注 6 1 Nonstandard abbreviations: AST, aspartate aminotransferase; ALT, alanine aminotransferase; NAC, N-acetylcysteine; Hb, hemoglobin; MCV, mean corpuscular volume; LD, lactate dehydrogenase; NAPQI, N-acetyl-p-benzoquinone imine; G6PD, glucose-6-phosphate dehydrogenase. 参考文献 1. Brunton L, Lazo J, Parker K. Goodman and Gilman’s the pharmacological basis of therapeutics. 11th ed 2006:1984 p McGraw-Hill New York. 2. Lubel JS, Angus PW, Gow PJ. Accidental paracetamol poisoning. Med J Aust 2007;186:371-372. 3. Schiodt FV, Lee WM, Bondesen S, Ott P, Christensen E. Influence of acute and chronic alcohol intake on the clinical course and outcome in acetaminophen overdose. Aliment Pharmacol Ther 2002;16:707-715. 4. Kanter MZ. Comparison of oral and i.v. acetylcysteine in the treatment of acetaminophen poisoning. Am J Health Syst Pharm 2006;63:1821-1827. 5. Dhaliwal G, Cornett PA, Tierney LM, Jr. Hemolytic anemia. Am Fam Physician 2004;69:2599-2606. 6. Percy MJ, McFerran NV, Lappin TR. Disorders of oxidised haemoglobin. Blood Rev 2005;19:61-68. 7. Beutler E. G6PD deficiency. Blood 1994;84:3613-3636. 8. Janssen WJ, Dhaliwal G, Collard HR, Saint S. Clinical problem-solving: why "why" matters. N Engl J Med 2004;351:2429-2434. 9. Wright RO, Perry HE, Woolf AD, Shannon MW. Hemolysis after acetaminophen overdose in a patient with glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency. J Toxicol Clin Toxicol 1996;34:731-734. 10. Sklar GE. Hemolysis as a potential complication of acetaminophen overdose in a patient with glucose-6phosphate dehydrogenase deficiency. Pharmacotherapy 2002;22:656-658. 論説 Ernest Beutler1 1 The late author was affiliated with the Department of Molecular and Experimental Medicine, The Scripps Research Institute, La Jolla, CA. アメリカでは G6PD 不全は、アフリカ系アメリカ人において最も一般的です。アフリカ系アメリカ人の X 染色 体の内、11%に G6PD A(-)という変異が共通して存在します。その他の変異については、たいていより深刻な 変異ですが、南ヨーロッパ系、中東系、アジア系にみられます。500 万人以上のアメリカ人男性が G6PD 不全 で、これは同じ病気を持つ女性のほぼ 2 倍にあたるのですが、その多くが上記の X 染色体連鎖に起因するリス クを持っています。 7 こういった状況が、これほど広範囲に渡るのにも関わらず、どうして私たちはそれほど頻繁に薬物誘導性の溶 血性貧血を持つ患者に遭遇しないのでしょうか。答えは今日アメリカで使用されている薬のほとんどが、 G6PD 不全の患者において溶血作用を示さないからです。G6PD 不全は抗マラリア薬であるプリマキンによる溶 血性貧血を調べた結果発見されましたが、プリマキンは G6PD 不全の患者に対して、常に必ず溶血症を引き起 こすのです。その他の多くの薬(アスピリン、アセトアミノフェン、トリメトプリム/スルファメトキサゾー ルなど)も溶血症を引き起こす可能性はあります。しかしこれらの薬は Korpi-Steiner et al によって述べられて いる症例のように、少数の G6PD 不全症患者においてのみ、もしくは大過剰の薬を投与したときのみ溶血症を 引き起こします。この症例でも溶血症がアセトアミノフェンによって引き起こされたかどうかは、明確ではあ りません。赤血球と一緒に培養するとシステインは酸化ストレスを発生しますし(1)、アセトアミノフェン中 毒症に用いられる NAC も、同じ効果を持つでしょう。過剰量のアセトアミノフェンによる重度の溶血症は、 NAC を投与した別の症例においても報告されています(2)。”抗酸化”薬が、溶血症を引き起こすかもしれない というのは皮肉なものですが、アスコルビン酸を大量に投与した場合に、そうなることが報告されています (3)。赤血球など酸素が豊富な環境下では、それらの化合物は酸化還元酵素として機能することがあり、細胞 内の NADPH を枯渇させてしまう可能性があります。 この酵素不全は、多くの場合赤血球に限られており、また薬物誘導性溶血症の研究の結果、発見されたもので あるため、G6PD 不全と溶血性貧血とを関連付けようとする傾向にあります。しかしこの病気のもっとも深刻 な結果である新生児黄疸は溶血症が主要因ではなく、未発達の肝臓において抱合活性が欠落していることが主 因です。 謝辞 Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the published article. Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: No authors declared any potential conflicts of interest. Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript. 参考文献 1. Szeinberg A, Marks PA. Substances stimulating glucose catabolism by the oxidative reactions of the pentose phosphate pathway in human erythrocytes. J Clin Invest 1961;40:914-925. 2. Ruha AM, Selden B, Curry S. Hemolytic anemia after acetaminophen overdose in a patient with glucose-6phosphate dehydrogenase deficiency. Am J Med 2001;110:240-241. 3. Mehta JB, Singhal SB, Mehta BC. Ascorbic-acid-induced haemolysis in G-6-PD deficiency. Lancet 1990;336:944. 8 論説 Ian D. Watson 1 Department of Clinical Biochemistry, University Hospital Aintree, Liverpool, UK. Address correspondence to the author at: Department of Clinical Biochemistry, University Hospital Aintree, Lower Lane, Liverpool L9 7AL, UK. Fax +44-151-529 3310; e-mail ian.watson@aintree.nhs.uk. アセトアミノフェン(パラセタモール)中毒症は、残念ながらとても一般的で、臨床経過や処置についてはよ く認識されています。一見適切な処置をした後でも、稀にですが致死的な合併症が生じることを覚えておくこ とが大切です。Korpi-Steiner et al により述べられている患者の症例がそのケースです。 G6PD 遺伝子に影響する遺伝子変異は、主に 2 つあります。A(-)型はおよそ 11%のアフリカ系アメリカ人と西 アフリカ人に認められ、保持者はプリマキンに過敏になります。地中海型変異の場合ソラマメ中毒症になりや すくなります。そのどちらのタイプも薬物誘導性溶血性貧血を発症しやすくなります。これらの遺伝子変異に よる G6PD の減少によって NAPDH 不全が起こり、その結果メトヘモグロブリンの蓄積が起こります。なぜな ら NAPDH はメトヘモグロブリンを、ヘモグロブリンに転換する際に必要な補因子だからです。メトヘモグロ ブリンの蓄積は、臨床的にはリスクとなります。というのも、もちろんメトヘモグロブリン症(<20%)が認 められる際に、メチレンブルーを処方するべきではないのですが、メチレンブルーによる治療が溶血性貧血を 悪化させる可能性があるからです。 感受性のある人に溶血性貧血を引き起こすという意味では、アセトアミノフェンは唯一のものではありません。 芳香族アミンを持つ酸化剤は、フリーラジカルを生成することで酸化障害を誘導することがあります。これは ヘモグロブリンなどのタンパク質の構造を損傷させます。つまり構造に決定的なシステイン(93)を酸化す ることで、タンパク変性を引き起こすのです。 薬物誘導性溶血性貧血は、他のそれほど明らかになっていないメカニズムによっても引き起こされます。例え ば、アルシン、銅、鉛などの摂取です。ただしこれらは G6PD とは関連がありません。多くの薬によって誘導 される免疫性の溶血性貧血も、また良く認知されている現象です。感染や毒物摂取なども、その他の原因とし て覚えておくべきものです。 G6PD 不全に高い有病率を示す人種である患者の場合、中毒症状に続いて生じる溶血性貧血に関連した、血液 病理学的な変化に注意しておくことが不可欠です。それらの人の多くは遺伝的に半接合の男性であるものの、 その遺伝的環境によるとはいえ、ヘテロ接合の女性が赤血球の 80%程に G6PD 不全を示す場合もあるというこ とを覚えておくべきでしょう。 (訳者:平井 孝明) 謝辞 Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or 9 analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the published article. Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: No authors declared any potential conflicts of interest. Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript. 10
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