日本の社会保障 と社会保障の国際協力 ―持続可能な福祉社会に向けて― 千葉大学教授 広井良典 Yoshinori HIROI Professor, Chiba University hiroi@le.chiba-u.ac.jp 発表の流れ はじめに 1.社会保障を考える視点 2.日本の社会保障 3. 「持続可能な福祉社会」の構想と アジアの社会保障/社会保障の国際協力 はじめに Introduction 高齢化と少子化の進展 Aging in Japan 65歳以上の高齢者の割合 Ratio of People over 65 years old 17.4%(2000) →28.7%(2025) →35.7%(2050) 高齢化の地球的進行 Global Aging 【参考】2030年までに世界で増加する高齢者(60歳以上)の地域別割合 Increase of People over 60years old by 2030 中国 China 29% 中国以外のアジア Other Asia 29% OECD加盟国(含日本) OECD countries 14% 他の発展途上国 Other Developing Countries28% (World Bank, Averting the Old Age Crisis, 1994) 高齢化の急速な進展 Rapid Aging in Japan and International Comparison ー日本は高齢化のフロントランナーにー (%) 70 イタリア 60 ドイツ 50 日本 フランス 40 スウェーデン 30 イギリス 20 アメリカ 10 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 注: 老年従属人口指数=(老年人口/生産年齢人口)×100 資料: United Nations Population Division, World Population Prospects:The 2002 Revision (Population Database) 日本における出生数及び合計特殊出 生率の推移 Decline of Fertility rate in Japan (万人) 5 300 第1次ベビーブーム (1947年~49年) 250 200 第2次ベビーブーム (1970年~74年) 4 出生数 出 生 150 数 117万人 1.33 (2001年) 100 合 3 計 特 殊 出 2 生 率 合計特殊出生率 50 0 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 年次 資料:厚生省大臣官房統計情報部「人口動態統計」 注:棒グラフは年間出生数、折れ線グラフは合計特殊出生率を表す。 1 0 アジア諸国の合計特殊出生率の推移 Fertility Rates in Asian Countries 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 1960 1965 中国 1970 1975 シンガポール 1980 香港 1985 日本 1990 1995 韓国 2000 台湾 Source: United Nations Population Division (2000). Database on Fertility Patterns. 1.社会保障を考える視点 Frameworks for the Analysis of Welfare State and Social Security (はじめに)そもそも社会保障とは 社会保障 social security=se cura = without care =ケア(憂い、心配、不安)がないこと =リスクへの備えがなされていること (A)個人(~市場)のレベルで行われるべき、リスクへの対応 (含 民間保険) (B)家族や共同体のレベルで行われるべき、リスクへの対応 (C)政府レベル(公的部門)で行われるべき、リスクへの対応 =社会保障 (1)資本主義・社会主義・福祉国家 Capitalism, Socialism and Welfare State 「中間の道 the middle way」としての「福祉 国家welfare state」 社会主義 資本主義 生産部門:社会化 市場経済 Socialism Capitalism 福祉国家 Welfare State ・・・戦後ヨーロッパで発展 生産部門:市場経済 +社会保障による所得再分配等 福祉国家と社会主義市場経済 Welfare State and Socialist Market Economy: Similar or Different? 福祉国家 ・・・資本主義から社会主義への接近 社会主義市場経済システム ・・・社会主義から資本主義への接近 両者の共通性と相違点の比較 4つのシステムの比較 A.(純粋な) 社会主義 資源配分 公的コントロー 【生産段階】 ル(計画経済) B.社会主義市 場経済システ ム C.福祉国家 私的 (市場経済) 私的 (市場経済) D.(純粋な) 資本主義 私的 (市場経済) 〔ただし土地等 の所有をめぐる 公的関与〕 所得再分配 【消費段階】 模索中 (上記により達 =社会主義市 場経済におけ 成;失業や所得 る社会保障制 格差は存在し 度のあり方 ないとのドグ マ) ── 弱 強 =積極的な社 会保障制度(国 による多様性あ り) (2)経済発展と社会保障 Economic Development and Social Securiry 所得分配と「ジニ係数 Gini Coefficient」 経済発展と所得分配 ・・・クズネッツの逆U字カー ブ仮説 Inverted U-shaped Curve ケインズ政策と社会保障 所得の平等化と経済成長の同時達成 ケインズ主義的福祉国家 Keynesian Welfare State 経済の成熟化と「福祉国家の危機」 データ ジニ係数の国際比較 Gini Coefficient: International Comparison Brazil (98) 60.7 Russia (98) 48.7 Philippine(98) 46.2 Thailand(98) 41.4 China (98) 40.3 USA(97) 40.8 United Kingdom(97) 36.8 France(95) 32.7 Korea(93) 31.6 Germany(94) 30.0 Italy(95) 27.3 Japan(93) 24.9 →33.3 (98) Sweden(92) 25.0 Denmark(92) 24.7 source: World Development Report 2003 経済発展と所得格差: クズネッツの逆U字カーブ仮説 Economic Development and Income Inequality: Inverted U-Shaped Curve ジニ係数 Gini Coefficient ? 一人当たりGDP GDP per capita (3)社会保障の価値原理 ――「自由」と「平等」 Basic Value for Social Security 「自由」とは何か Amartya Sen の議論 潜在能力 capabilities 個人の「自由」を保障する制度としての社会 保障 Social Security for Individual Freedom (4)社会保障(福祉国家)の国際比較 International Comparison of Social Security or Welfare State 3つのモデル A. 普遍主義モデル Universalistic Model B. 社会保険モデル Social Insurance Model C. 市場型モデル Market –Oriented Model グラフ (図 )社会保障給付費(対GDP比、%)の国際 比較 (1998年) Social Security Expenditures : International Comparison (ratio of GDP(%), 1998) USA アメリカ JAPAN 日本 U.K. イギリス ドイツ GERMANY フランス FRANCE 系列1 SWEDEN スウェーデン 0 10 20 30 40 A.普遍主義モデル Universalistic Model 大きな社会保障給付(特に福祉サービスの比 重 大) 全住民対象 財源は税中心 例: 北欧、イギリス(→Cに接近) 「公助」(自立した個人プラス公共性) 政治哲学: 社会民主主義 B.社会保険モデル Social Insurance Model 拠出に応じた給付(特に年金・現金給付の比 重大) 被雇用者中心 財源は社会保険中心 例: ドイツ、フランスなど 「共助」(相互扶助。伝統的な家族・共同体) 政治哲学: 保守主義 C.市場型モデル Market-Oriented Model 最低限の公的介入 民間保険中心 自立自助やボランテイア 例: アメリカ 「自助」(自立した個人) 政治哲学: 自由主義 日本は混合型 3つのモデルの「接近convergence」と「多様化 divergence」 私見:アメリカを例外としつつ、先進諸国の社会保 障は接近 参考: 比較福祉国家論 Comparative Welfare State Research Gosta Esping-Andersen, The Three Words of Welfare Capitalism The Social Foundations of Post-Industrial Economies 2.日本の社会保障 Social Security of Japan (1)日本の社会保障の発展パターンの特徴 Basic Characteristics of Social Security Developments in Japan 1)急速な「追い上げcatch-up」型経済における社会 保障整備 ・・・大きい農業人口比率の中での社会保障整備 グラフ 2)ある段階からの急速な高齢化及びそれへの対応 ・・・特に年金制度の問題点 →いずれも欧米の先進国とは異なるパターン。 後発産業国の特徴。 (%) 第一次産業従事者の割合の年次推移 の国際比較 Ratio of People engaged in Agriculture: International Comparison 50 40 日本Japan 30 フランスFrance 20 ドイツGermany アメリカUSA 10 イギリス U.K. 0 1950 1960 1970 (注)ドイツの数字は旧西ドイツのもの。 (出所) ILO労働年鑑より筆者作成 1980 1989 1990 (年) (2)日本の社会保障の基本的特徴 Basic Characteristics of Social Security of Japan 国民皆保険・皆年金システム Universal Coverage ・・・1961年に達成 (高度経済成長の只中) 当初はドイツの社会保険をモデルとし、 被雇用者から農業・自営業者に徐々に対象を 拡大 【日本の社会保障の歴史的概観】 Historic Evolution 1)創設期 Departure――1920~40年代 医療保険 1927年 健康保険制度 ・・・被雇用者対象 1938年 国民健康保険制度 ・・・農業・自営 業対象 (市町村単位) 年金 1944年 厚生年金保険制度・・・被雇用者対象 ・・・戦時体制、「1940年体制」のある種の典型 2)確立期 Establishment ──1960年代 ←高度経済成長 High Economic Growth 医療保険: 1961年 国民皆保険達成(すべての市町村が 国民健康保険を実施) 年金 : 1961年 国民年金制度 ・・・農業・自営業者 対象 →国民皆年金達成 3)調整期 Adjutments――1980年代 ←高齢化問題の浮上 Emergence of Aging Problems 医療保険: 1982年 老人保健制度 年金 : 1985年 基礎年金制度 4)模索期 Rearrangements ――1990年代~ ←高齢化の一層の進展、少子化、経済低成長等 Super Aging, Fewer Children, Low Economic Growth 1990年 “ゴールドプラン”開始(高齢者保健福祉推 進10ヵ年戦略) 1994年 “エンゼルプラン”策定(少子化対策・子育て 支援) ~1999年 “新エンゼルプラン”策定 1997年 介護保険法 →2000年実施 2003年 次世代育成支援対策推進法 2003年 若者自立・挑戦プラン 日本の社会保障発展の概観 Overview of Social Security Evolution in Japan 医療保険がまず整備され、続いて年金が整備。や がて年金が急速に拡大 グラフ 福祉(社会福祉)サービスの整備がもっとも遅れる データ ←企業(会社)、家族が「見えない社会保障」の機能 をはたす 企業・・・終身雇用 →低い失業率 家族・・・高齢者介護や保育は家族の中で 経済の低成長、高齢化の着実な進行、雇用の流動 化、家族形態の多様化(女性の社会進出)等の中で 模索を続けているのが現在 社会保障給付費の年次推移(部門別) Trend of Social Security Expenditures in Japan (3)社会保障の個別分野の特徴 Characteristics of Individual Areas of Social Security in Japan A.医療 Health Care 【概要】 医療保険制度は大きく、 1)組合健康保険(大企業) 保険者=健康保険組合 (約1700) 2)政府管掌健康保険(中小企業) 保険者=国 3)国民健康保険(農業、自営業) 保険者=市町村 (約 3200) に分かれる。 75歳以上の高齢者は「老人保健制度」に加入。その費用は 各保険者からの拠出金によって賄う。 患者の自己負担は原則3割(2002年~)。ただし3歳未満は2 割、70歳以上は1割。 最近さらに拡大の方向が議論されて いるが、私は反対。 医療費の値段はすべて公定(診療報酬) 【特徴・評価】 1)医療財政=公的管理、医療供給=民間中心という「混合 型システム」 ヨーロッパ:財政=「公」中心 供給=「公」中心 アメリカ: 財政=「私」中心 供給=「私」中心 日本: 財政=「公」中心 供給=「私」中心 2)農村共同体をベースとした国保という「地域保険」システ ムを早い時期に導入したこと 3)プライマリケア(開業医)優位の資源配分としたこと →病院医療費の過小配分 4)政府公定の診療報酬システムが医療費のコントロール及 び配分に特に大きな影響 【参考】医療費の対GDP比(%) (2002年(日本は2001年)) Health Care Expenditures as the ratio of GDP (2002) 〔OECD data〕 アメリカ USA 14.6% ドイツ Germany 10.9% フランス France 9.7% スウェーデン Sweden 9.2% 日本 Japan 7.8% イギリス United Kingdom 7.7% 各国の健康水準及び医療システムの評価 (WHO,World Health Report 2000) (健康寿命) Disability-adjusted Life Expectancy 1 日本 Japan 74.5 2 オーストラリア Australia 73.2 3 フランス France 73.1 4 スウェーデン Sweden 73.0 5 スペイン Spain72.8 6 イタリア Italy 72.7 7 ギリシャ Greece 72.5 8 スイス Switzerland 72.5 9 モナコ Monaco 72.4 10 アンドラ Andora 72.3 24 アメリカ USA 70.0 (全般的な医療システムの目標達成度 (指標)) Overall Health System Attainment 1 日本 Japan 93.4 2 スイス Switzerland 92.2 3 ノルウェー Norway 92.2 4 スウェーデン Sweden 92.0 5 ルクセンブルク Luxemburg 92.0 6 フランス France 91.9 7 カナダ Canada 91.7 8 オランダ Netherlands 91.6 9 イギリス United Kingdom 91.6 10 オーストリア Austria 91.5 15 アメリカ USA 91.1 A.医療 【特徴・評価(続き)】 5)全体としてのパフォーマンスは比較的良 好・・・比較的低い医療費で高い健康水準を 達成。 6)ただし、低い医療費は医療制度以外の要 因による部分が大きく(食生活等)、また「医 療の質」や情報開示、患者の権利等で多くの 課題。 B.年金 Pension 【概要】 大きくは、厚生年金(被雇用者)及び国民年 金(農業、自営業)の2本立て。いずれにも共 通する基礎年金制度(1985年創設)。 厚生年金は報酬比例給付(保険料は給与 の13.58%)。国民年金は定額給付(保険料は 月額13,300円)。 (報酬比例 給付) 基 礎 年 金 【国民年金】 (定額給付) 【厚生年金】 【概要】(続き) 基礎年金の財源の3分の1は税。 今年の年金制度改正により、厚生年金保険 料は18.30%(2017年)まで引き上げられ(現行 制度のままでいくと2038年に25.9%まで上昇)、 そこで固定されることに(保険料水準固定方 式)。 財政方式は賦課方式。 【特徴・評価】 1)ドイツ型の報酬比例・社会保険のシステムとして 出発→普遍主義的方向への志向のもと、(イギリ ス・北欧型の)基礎年金の導入に至ったこと 2)経済成長と人口転換のタイミングや、高齢化のスピードの 速さ等を背景に、財政錯覚、高齢化のツケといった負の側面 が特に強く現れていること。 3)近年では、国民年金の空洞化の問題が深刻になっており (2002年度の国民年金保険料の納付率62.8%)、この点から も税方式の導入が検討されていること。 4)今後は、所得再分配機能を中心としたものにすべき(私 見)。→厚めの基礎年金(財源は税)。厚生年金の報酬比例 部分は民営化。 C.社会福祉 Social Welfare or Social Services 【概要】 主な柱は、高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉、生活保護 など。最近は特に少子化対策・子育て支援政策や若者の雇 用対策などが重要課題に。 1990年~99年の“ゴールドプラン”や介護保険(2000年実施) など、強化が図られる一方、社会福祉基礎構造改革(2000 年)により、供給主体として民間企業の参入が可能に。 介護保険は市町村が単位(保険者)。財源は保険料50%、 税50%(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)。 【特徴・評価】 1)戦後占領政策の中で英米系の制度が導入されたが、「社 会保険中心に社会保障を組み立てる」との方向づけとも相 まって、公的扶助(生活保護)を含めきわめて限定的な範囲 のものとして位置づけられたこと。 2)その結果、高齢化の進展の中、「医療が福祉を引き受け る」傾向が顕著となっていったこと ・・・“社会的入院” Social Hospitalization 3)家族や会社に依存する中で、社会保障全体の中でこの分 野が立ち遅れ、近年高齢者介護を中心に急拡大しているも のの、なお大幅な拡充が求められること。 ・・・アジア諸国に生じがちな傾向(社会サービスの遅れ) (4)日本の社会保障の全般的評価 Overall Assessment of Social Security of Japan A.プラスに評価できる点 Positive Aspects 1)経済発展の比較的早い段階で「国民皆保 険・皆年金」を実現 →経済成長にも大きく寄与 2)農業従事者への社会保障の拡大を積極的に実 施 ・・・特に医療保険における国民健康保険(国保) 3)医療政策や健康水準(健康寿命など)について の高い国際的評価 B.マイナスに評価される点Negative Aspects 1)将来の高齢化に関する財政錯覚 ・・・高度経済成長期がちょうど人口転換期にあたり、「若い」国のまま 経済成長を経験 →一種の財政錯覚が生じ、「高齢化のツケ」を後に回 してきた面があること ・・・特に年金制度 →優先すべきは医療保険制度であり、年金制度については過剰にな ることに注意すべき(私見)。 2)「会社(企業)」や「家族」に依存し、福祉(社会福祉)サービ スの整備が遅れたこと →中国等との比較が興味深い(男女の役割分担、女性の社会進出な ど) 3)ある時期(1970代前後)から「公共事業」が社会保障的な 機能を担うようになり、労働移動の阻害や環境破壊が生じる とともに、失業などに関する社会保障制度の整備が遅れたこ と ・・・“公共事業型社会保障” 4)住宅政策との分断 (←厚生省・建設省の縦割り) C.評価が分かれる点 “生産部門を通じた社会保障” ・・・制度としての(狭義の)社会保障ではないが、所得の平等化や再分配 に大きな役割を果たした政策が戦後日本では広く見られる 例)・農林水産省の農業補助金 ・通産省(現経済産業省)による中小企業対策 ・いわゆる地方交付税交付金による再分配 ・・・都市と田舎(中央と地方)の格差是正 後発産業国家において生じやすいパターン そのプラス面とマイナス面(ex.公共事業型社会保障としての固定化)の 評価 ・・・転換期(分水嶺)としての1970年代前後? 本来は「生産/成長」から「生活/定常」への転換を図るべき だったのではないか。 いずれにしても、社会保障制度だけを切り離すのではなく、総合的な政 策として考えるべき・・・「総合政策」の重要性 (5)日本の社会保障の課題と改革の方向 (私見) Reforms and Future Directions of Social Security in Japan 1)社会保障水準の引き上げ ←家族や会社、地域社会の福祉機能の 弱体化 ・ヨーロッパ並みの水準に ・消費税などの引き上げは避けられない (現在5% →ヨーロッパ並みの15%以上 へ) 2)社会保障の全体ビジョン ーー「医療・福祉重点型の社会保障」へ ・医療・福祉は公的な保障をしっかりと ・年金は基礎的なものに重点化 基礎年金制度による基礎的な所得保障 報酬比例部分は民営化(廃止または縮小) ・福祉(社会福祉)のうち、子育て支援や雇用政策は特に 強化が必要 ・・・「人生前半の社会保障」の重要性の高まり ←カイシャ・家族の流動化・多様化 リスクが高齢期のみならず人生全般に及ぶように 3)経済の成熟化・定常化に対応した社会保障の姿 ・・・「持続可能な福祉国家・福祉社会」の実現 環境政策との連携 (例:環境税の導入→社会保障財源として活用) 3.「持続可能な福祉社会」 の構想 とアジアの社会保障/ 社会保障の国際協力 (1)環境政策との統合 ~「持続可能な福祉社会」の構想 (2)アジアの社会保障 (3)社会保障の国際協力 (1)環境政策との統合 Integration with Environment Policy これまでの社会保障・福祉国家 →限りない経済成長・資源消費拡大を前提 80・90年代~:地球規模の環境・資源制約の 浮上 「持続可能な福祉社会 Sustainable Welfare Society」の構想の必要性 二つの対立軸 Two Axis of Policy Choice 成長志向 Growth-oriented ケインズ主義 Keynesian 社会民主主義 大きな政府 Social Democracy 市場主義 Market Economy 保守主義 Conservatism Big Government 持続可能な福祉社会 Sustainable Welfare Society ? 環境(定常)志向 Environment (Sustainability)-oriented 小さな政府 Small Government 「持続可能な福祉社会(福祉国家)」 Sustainable Welfare Society (Welfare State) 個人の平等や生活の豊かさが実現されつつ、それが環境・ 資源制約とも両立しながら長期にわたって存続していけるよ うな社会 ローカルレベル・ナショナルレベル・グローバルレベルの各次 元での実現 福祉政策と環境政策の統合 Integration of Welfare Policy and Environment Policy 例:社会保障財源としての環境税 Environmental Taxes as a Revenue Source for Social Security ・・・環境税を導入して環境負荷を抑制しつつ、その財源 を社会保障に活用することにより福祉の水準を維持。 環境―福祉(社会保障)-経済 の関係 Relationship of Environment, Welfare (Social Security) and Economy A.個 人 individual B.共同体 community C.自然 nature 経済/市場 market /economy コミュニティ community 環 境 environment 社会保障の問題 Issues of Social Security 環境問題 Environment Issues 環境親和型社会と高齢化社会 Environmentally Sustainable Society and Aged Society 環境親和型社会 特質 定常型社会 steady-state society 持続可能性 人口定常化 environmental sustainability 重要となる コンセプト stable population ↑ 高齢化と低出生率 aging and low birthrate ↑ 資源の有限性 finite resources 「循環」性 「人間ー自然」間 時間軸 高齢化社会 超長期 世代間 長期 (2)アジアの社会保障 1)「アジア型福祉国家(社会保障のアジア型 モデル)」はあるか? Is there an “Asian Model of Welfare State”? ・・・ヨーロッパやアメリカにないアジア独特の 社会保障のモデルはあるか ex. 家族・共同体の構造、ジェンダー関係、 宗教的・文化的・風土的特性etc. →各国の比較研究の重要性 (参考)アジア各国の社会保障の 大まかなグルーピング・前半 第1グループ= 経済発展の度合いが先進諸国に匹敵するかそれに準ずるレベ ルに達し、社会保障の面においても皆保険ないしそれに近い制度 が整備されると同時に、近年では人口高齢化への対応や制度の 効率化といった課題に直面している国家群 例)シンガポール、台湾、韓国 第2グループ= 産業化の途上にあり、被雇用者(サラリーマン)グループについ ては一定の社会保障制度が整備される半面、人口の大きな部分 を占める農業従事者等については制度が未普及にとどまり、いわ ば“皆保険前夜”とも呼ぶべき状況かそれに近い状況にある国家群 例)マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア アジア各国の社会保障の 大まかなグルーピング・後半 第3グループ= 産業化の初期段階にあり、社会保障制度は主として一部の公務 員・軍人等を対象とするものに限られ、医療保障の面では感染症 に対する公衆衛生施策がなお中心を占めるような国家群 例)ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーなど 第4グループ= いわば“超大国”として以上の分類に収まらない国家群 例)中国、インド 別の観点からの分類・・・社会主義・共産主義かそれに準ずるシス テムを採用する国家群(またはそこから市場経済への移行を図り つつある国家群) 例)中国、ベトナム、ラオス、モンゴルなど アジアの社会保障を理解するための 枠組み A)“縦軸” ・・・経済発展と社会保障 ・市場化・都市化や産業化の進展 →家族構造が3世代同居から核家族ひいては個人単位に変 化 →農村共同体や大家族が果たしていた機能を代替する形で 公的な社会保障が発展していくという流れ B)“横軸” ・・・社会的・文化的多様性 1)国民的統合の強さ(または民族的同質性/多様性) ex. インドネシアとマレーシア 2)旧宗主国の影響 3)その他(個別的特殊性、宗教的・文化的要因など) ex. タイの社会保障における仏教寺院の役割 2)国レベルを超えた社会保障 Social Security beyond the Nation-State ・これまでの社会保障→国家単位で発展 ・国境を越えた経済活動やグローバリゼーション →国レベルを超えた社会保障が必要に Ex. EUの例 ・ →アジア共同体(Asian Union)とアジア福祉ネットワーク ま たはアジア福祉環境ネットワーク Asian Welfare (and Environment) Network ・究極的にはグローバル福祉国家・グローバル定常型社会へ (21世紀後半) Ultimate Vision of Global Welfare State and Global Sustainable Society in the late 21st Century (3)社会保障の国際協力 社会保障における「日本の経験」の評価と発信 ・工業化・高齢化等において“先頭” →これまでその評価(肯定的側面・否定的側面)と発信を 十分してきていない。 協力の様々なレベル 1)マクロレベル・・・制度の基本的設計や政策立案 2)メゾレベル・・・様々な運用システムなど ex.統計整備や年金数理システムetc. 3)ミクロレベル・・・医療、福祉、介護等のサービス 提供レベル 「アジア福祉ネットワーク」 ・・・研究者・研究機関・関係諸機関レベルのネット ワークづくり (含 様々なデータベースづくり) ・千葉大学、東北財経大学など各大学 ・JICA(国際協力機構)など関係諸機関 ・様々なNPO・NGOなど ・アジア経済研究所など研究機関 人材養成の重要性 ・・・「福祉」、「経済」、「異文化~国際」など多面的 な視点や知見をもった人材の必要性 (参考)千葉大学における 21世紀COEプロジェクト 「持続可能な福祉社会に向けた公共研究」 (2004年度~2008年度) 国際シンポジウム 「中国・アジアにおける〈持続可能な福祉社会〉の構想」 日時:3月18日(金) 9:40-18:10 会場: 千葉大学大学院社会文化科学研究科棟 マルチメ ディア会議室 (JR 西千葉・京成千葉線みどり台駅より徒歩5分) http://www.shd.chiba-u.ac.jp/map_j.html 入場無料、予約不要 お問い合わせ先 千葉大学大学院社会文化科学研究科 公共研究センター tel/fax 043-290-2337 mail cpp1@shd.chiba-u.ac.jp web http://www.shd.chiba-u.ac.jp/21coe/index.htm
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