C 型肝炎に関する EASL 国際コンセンサス会議

Full Translation: Consensus Panel
Guidelines – Full Translation
C 型肝炎に関する EASL 国際コンセンサス会議
EASL International Consensus Conference on Hepatitis C
パリ,1999 年 2 月 26 ∼ 28 日
コンセンサス声明(Consensus Statement)
*
C 型肝炎と公衆衛生の関わり
ている。
C 型肝炎は,数ある疾患のなかでも我々の健康生
活に重大な影響を及ぼす主要な疾患の 1 つである。
世界各国の C 型慢性肝炎罹患率は平均 3%(0.1 ∼
5% )と推定されている。世界の慢性 HCV キャリ
アー人口は約 1.5 億人で,うち 400 万人は米国,500
C 型肝炎の自然史(natural history)と C 型
肝炎に影響を及ぼす因子
緩徐に進展する。HCV 感染者の約 15% は自然治癒
万人は西ヨーロッパに在住しているといわれている。
し, 25% はアミノトランスフェラーゼが正常なま
また,西ヨーロッパよりも東ヨーロッパの方が罹患
ま,おおむね良性の組織病変を伴い無症候である。
率が高いと思われる。先進国における急性肝炎の
すなわち,患者の約 40% は回復または良性の転帰を
20%,慢性肝炎の 70%,非代償性肝硬変の 40%,肝
細胞癌の 60% は HCV により引き起こされているこ
とに加え,肝臓移植の 30% は HCV が原因である。
新たな症候性感染の発生率は,10 万人当たり年間
1∼3 件と見積もられているが,実際の発生率はそ
示す。生化学的に慢性肝炎の徴候がみられる患者で
れよりもはるかに高いことは明らかである(症例の
者が 10 ∼ 20 年の間に肝硬変を発症し,肝移植を行
ほとんどは無症候性)
。しかし,今日では次の 2 つの
わなければ肝硬変の合併症で死亡することもある。
理由により,発生率は減少している:
(a)血液製剤
このように,C 型肝炎は二分される疾患であり,患
による伝播が減少し,ほぼゼロに近くなったこと,
者の一部は肝臓に関連した原因で死亡するが,大多
(b)ユニバーサルプレコーション[universal precau-
C 型肝炎の進展速度は様々であるが,一般的には
も,大多数は壊死炎症性病変が軽度から中等度にし
かみられず,線維形成は軽微である。このような患
者の長期的な転帰は不明であるが,肝臓疾患で死亡
することはまれである。約 20% の C 型慢性肝炎患
数は健常者同様の寿命を全うする。
tions(普遍的予防措置)]により,医療現場での伝
肝硬変の発症には以下のいくつかの補助因子が重
播が減少したこと。麻薬・覚醒剤の静脈内注射は,
要な役割を果たす:
(a)感染時の年齢(平均的には,
今日においても伝播の主経路であるが,注射針共用
高齢になって発症した患者では疾患の進行が早く,
の危険性に対する社会の意識が高まったことや,い
若い患者では進行が遅い)
,
(b)アルコール中毒(す
くつかの国で注射針交換プログラムが導入されるよ
べての研究において,アルコールは慢性肝炎の肝硬
うになったことから,この経路での伝播率は減少し
変への進展において非常に重要な補助因子であるこ
Haemophilia (1999), 5, 365–370
© Blackwell Science Ltd.
4
* この声明はコンセンサスパネルにより発表され,本報告は
Journal of Hepatology 1999; 30: 956 ∼ 961 から複製されたも
のである。
C 型肝炎に関する EASL 国際コンセンサス会議
とが示されている)
,
(c)HIV の重複感染,
(d)B 型
C 型肝炎の検査を受けるべき人
肝炎ウイルスの重複感染。
肝硬変患者における肝細胞癌の発生率は,年間 1
全患者を対象としたスクリーニングはすべきでは
∼ 4% である。このリスクに対応するため,肝硬変
ない。スクリーニングは次のリスクグループに限定
患者または肝硬変が疑われる患者に対しては超音波
して行うべきである:
(a)第二世代の ELISA 検査が
検査と†-フェトプロテインの測定による定期的なモ
開始される 1991 年以前に血液製剤の投与を受けた,
ニタリングが必要である。肝硬変を起こしていない
または受けた可能性のある患者,(b)血友病患者,
C 型慢性肝炎患者で肝細胞癌が生じることはまれで
ある。
(d)C 型肝炎の母親から産まれ
(c)血液透析患者,
た子ども,
(e)現在または過去に麻薬・覚醒剤の静
脈内注射を行った者,
(f)臓器や組織移植のドナー。
診断検査
C 型肝炎伝播の予防
ELISA 検査は使いやすく安価であることに加
え,初期スクリーニングに最適である。ELISA 検
査は, HCV が増殖していて免疫応答性の良好な
(immunocompetent)患者のほとんどに対しては信
2 つの主な感染源は,麻薬・覚醒剤の静脈内注射
と血液製剤投与である。後者による感染は 1991 年以
降,ほとんどみられなくなった。
頼できるが,血液透析患者および免疫無防備状態
性感染はまれである。 HCV 感染していて特定の
の( immunocompromised)患者では感度が低く信
パートナーをもつ同性愛者や異性愛者のパートナー
頼に欠ける。
における HCV 感染率は非常に低いが,不特定多数の
血液バンクやその他一般的なスクリーニング検査で
パートナーをもつ同性愛者や異性愛者のパートナー
採用されている低リスクセッティングの場合,ELISA
では感染率が高い。特定のパートナーをもつカップ
検査の陽性判定の約 25% は偽性(false)の可能性が
ルでのコンドームの使用は正当化されない。不特定
あり,未確認の偽陽性の告知を避けるため,ストリ
多数のパートナーをもつ患者には,コンドームの使
ップ型イムノブロット検査 (strip immunoblot assay)
用が強く求められる。
などの補足的確認検査を施行することが望ましい。
HCV 感染した女性の妊娠は禁忌ではない。定期的
な HCV スクリーニングは,妊婦には推奨されない。
HCV の母子感染はまれである。母から子への伝播
率は 6% 未満である。血中ウイルス量が多く,ウイ
ルス血症やHIVに重複感染している女性では伝播リ
HCV 抗体陽性が確認された場合は,定性的 HCV
RNA 検査を行うべきである。
患者が高リスクグループである場合や,臨床的に
C 型肝炎が疑われる場合は,定性的 HCV RNA 検査
により ELISA 陽性であることを確認すべきである。
原因不明の急性肝炎患者に対しては,まず ELISA
検査を行うべきである。A 型肝炎,B 型肝炎の検査
で陰性であれば,定性的 HCV RNA 検査を行わなけ
ればならない。
原因不明の慢性肝炎患者については,ELISA 検査
が陰性であっても,定性的 HCV RNA 検査を行うべ
きである。特に,血液透析患者や免疫無防備状態の
スクが高い。分娩様式(帝王切開か経膣か)は,母
から子へのHCV伝播率に影響しないと考えられる。
授乳は,母から子への HCV 感染とは関係がない。
C 型肝炎の両親が体外受精を行う際の垂直伝播の
危険性に関するデータは現時点では不十分であり,
現段階ではこれらの患者に体外受精は推奨できない。
ユニバーサルプレコーションの遵守により,HCV
の院内感染は効率的に予防可能である。
患者の場合は然りである。
遺伝子型の決定と定性的 HCV RNA 検査は,治療
治療すべき患者
前に施行しなければならない。
治療を施すか否かの決定には複雑な要素が絡む。
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決定に際し,次のような様々な要因を考慮しなけれ
ウイルス遺伝子型による治療の決定
ばならない:患者の年齢,健康状態,肝硬変発症リ
1 型遺伝子をもつ患者は 2 型や 3 型遺伝子をもつ
スク,治療奏効の見込み,患者の健康状態で寿命に
患者に比べ,治療効果が現れにくいことが一般に知
関わるもの,およびインターフェロンやリバビリン
られているが,遺伝子型を治療を行わない理由とし
の使用が禁忌となる条件の有無。
てはならない。
組織学的病変による治療の決定
小児の治療
治療開始前に経皮的な肝生検を行うことは適切か
小児の C 型慢性肝炎の治療に関する大規模研究
つ重要である。肝生検により壊死性炎症の程度や線
は未だ施行されていない。これまでの研究では,小
維形成の進展を評価でき,その評価は治療の決定を
児に対するインターフェロン単独療法の奏効率は成
下すために考慮すべき諸条件,すなわち疾患の持続
人とほぼ同じであることが示唆されている。
しかし,
期間や患者の臨床的状態,生化学的異常の評価に役
インターフェロンとリバビリンの併用療法に関する
立つ。また,生検はベースラインにおける各患者の
データはない。治療決定に際し,成人と同じ要因を
状態に関する情報を与えてくれる。中等度,あるい
考慮すべきである。小児に特異的な要因はいくつか
は重度の壊死性炎症または線維形成を認めた患者に
あるかもしれないが,特に,インターフェロンが小
ついては治療すべきである。
児の成長に影響を及ぼすことが懸念される。しかし
ながら,
これについてはさらなる研究が必要である。
患者の年齢による治療の決定
患者の暦年齢よりも生理学的年齢が重要である。
HIV が重複感染した患者
る潜在的リスクの有無を明らかにするために,心血
C 型慢性肝炎は HIV 感染者によくみられる。重複
感染している患者では C 型慢性肝炎の進展が加速さ
れる。治療により HIV 感染が安定化している患者で
は C 型肝炎の治療は行われ得る。このような重複感
管系の特別な評価を行う必要がある。
染患者の治療に当たっては,薬剤の相互作用の可能
高齢患者については,全般的な健康状態を評価する
のはもちろんであるが,特にリバビリンを用いた治
療が予定される場合は,ヘモグロビン濃度が低下す
性と,付加的な血液異常を考慮しなければならない。
臨床症状による治療の決定
初期段階で,肝硬変が進展していなければ,臨床
代償性肝硬変の患者
症状と組織学的病変とはほとんど無関係である。概
代償性肝硬変の患者も治療対象となり得る。肝細
して,臨床的状態は QOL に関係する治療の決定に
胞癌や代償障害の発生を抑制するなどの利点が可能
影響を与えると考えられる。これまでの研究では,
性としてはあるが,証明されておらず,今後の無作
治療によりHCV RNAの継続的消失が誘発された患
為コントロール試験で評価する必要がある。
者では,症状の軽減が示されている。
アミノトランスフェラーゼ濃度が正常なままの患者
血中ウイルス量による治療の決定
HCV RNA 陽性で,アミノトランスフェラーゼ濃
血清中にHCV RNAが検出される患者のみが治療
度が常に正常な患者では,一般的に疾患は軽度であ
対象である。血中ウイルス量が高い(1 ml 当たり 200
り,治療の奏効性は不明である。現段階ではこれら
万コピー以上)患者は比較的治療効果が出にくいこ
の患者への治療は推奨されないが,4 ∼ 6 か月ごと
とが一般に知られている。しかし,血中ウイルス量
に経過観察を行うか,臨床検査を行うべきである。
を治療を行わない理由としてはならない。
HCV に関連した肝臓外疾患のある患者
HCV 関連性肝臓外疾患(例えば,症候性クリオグ
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C 型肝炎に関する EASL 国際コンセンサス会議
ロブリン血症,糸球体腎炎,血管炎)については治
治療期間は 6 か月である。これまでのデータによる
療を考慮すべきである。しかし,寛解は持続しにく
と,1 型遺伝子をもつ患者では,血中ウイルス量が
く,インターフェロンを用いた維持療法が必要な場
低ければ(1 ml 当たり 200 万コピー未満)6 か月で
合もある。インターフェロンとリバビリン併用療法
十分であるが,血中ウイルス量が高ければ(1 ml 当
の有効性を評価すべきである。
たり 200 万コピー以上)12 か月間治療を行うことが
望まれる。
C 型急性肝炎の患者
ほとんどの専門家は,C 型急性肝炎患者の治療を
予備的なデータによると,3 か月の併用療法後に
然回復する可能性が 15% あることや,治療を施さな
HCV RNA が認められた患者の 5 ∼ 10% では,治
療 6 か月後には HCV RNA が消失し,治療終了後も
持続的な奏効がみられる可能性がある。治療開始 3
か月後に HCV RNA が検出された場合でも,治療中
いと C 型慢性肝炎のリスクが 85% あること,およ
止を勧めることにコンセンサスは得られていない。
支持している。治療の時期と期間は未だ明確には確
立されていない。患者には,治療開始に先立ち,自
び治療の副作用について告知すべきである。治療の
初めて治療を受け,かつリバビリンに対して禁忌
決定は各患者ごとに行い,理想的には,臨床試験を
を示す患者には,インターフェロンの単独療法(3
行うことが望まれる。併用療法の効果については未
だ評価されていない。
MU または 9 µg‹3/week)を 12 か月間行い,治療
開始 3 か月後に HCV RNA 検査を行うべきである。
治療の継続は HCV RNA が消失した患者に限定す
治療すべきでない患者
べきである。投与量の増量や,連日投与,用量の増
現在の C 型肝炎治療は有効性が比較的低いことに
加え,副作用を伴うため,C 型肝炎ウイルスに感染
した患者の大多数は治療対象とはならない。特に,
量,などが持続的に奏効率を上げるかどうかは証明
されていない。
インターフェロンの絶対禁忌(absolute contraindi-
アルコールはウイルス血症を増悪させ治療効果を阻
cations)は以下の通りである:精神病や重度鬱病の既
害するため,飲酒量の多い患者は治療すべきではな
往,好中球減少や血小板減少の既往,肝臓以外の臓
い。麻薬・覚醒剤の静脈内注射を習慣としている患
器移植歴,症候性心臓病の既往,非代償性肝硬変の
者は,二次感染の危険性があるため治療すべきでは
既往,コントロール不可能なけいれん発作。相対禁忌
ない。また,アルコール依存を断っていない患者や
(relative contraindications)は,以下の通りである:
薬物耽溺が続いている患者はコンプライアンスが極
コントロール不可能な糖尿病および自己免疫疾患
端に低い。非代償性肝硬変に罹患している患者に対
(特に甲状腺炎)
。
する治療は,その有効性が証明されていないことに
リバビリンの絶対禁忌は以下の通りである:末期
加え,危険を伴う可能性すらある。組織学的に軽度
の腎不全,貧血,異常ヘモグロビン症,重度心臓病,
の疾患を有する患者を治療する利点は不明であり,
妊婦。相対禁忌は以下の通りである:コントロール
特に 2 つ以上の疾患が共存している高齢者において
不可能な動脈性高血圧および高齢。
はなおさらである。
インターフェロン単独療法後,再発した患者につ
いては,次の 2 つの選択肢が考えられる(a)リバビ
最適の治療
リンに対して禁忌を示さない場合は,インターフェ
(b)高用量イ
ロンとリバビリンの 6 か月併用療法,
初めて治療を受ける患者(naive patient)では,禁
ンターフェロン(3 MU または 9 µg‹3/week 以上)
忌がなければ,インターフェロンとリバビリンの併
の 12 か月間投与。どちらの場合も,治療開始 3 か月
用療法を施行するべきである。治療期間は遺伝子型
後に HCV RNA 検査を施行し,陽性患者については
と血中ウイルス量によって異なる。2 型または 3 型
治療を中止すべきである。
遺伝子をもつ患者では,血中ウイルス量に関わらず
インターフェロン単独療法や併用療法で奏効がな
7
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かった患者に対する再治療の有効性を示す明確な
クすることが望ましい。アミノトランスフェラーゼ
データは今のところない。
濃度が正常な患者には肝生検を定期的に行う必要は
肝臓移植は,生命を脅かすような肝硬変に罹患し
ている患者や,肝硬変と肝細胞癌を併発している患
ないが,これらの患者の 20% は重大な肝臓疾患を
もつ。
者に対して行われる。合併症を引き起こし,移植を
肝硬変患者や肝硬変が疑われる患者には肝細胞癌
行わなければ寿命が 1 ∼ 2 年の肝硬変患者には移植
に対するスクリーニング(超音波検査およびα -フェ
を考慮すべきである。これらの患者には,再発性ま
トプロテイン)を施行すべきである。しかし,この
たは難治性腹水患者や,Child-Pugh スコア C の肝硬
スクリーニング計画の費用対効果は未だ確認されて
変患者,内科的手法・内視鏡的手法・TIPS 法(経頸
いない。
静脈性肝内門脈大静脈シャント)を用いた治療でコ
治療開始に先立ち,患者には肝生検と HCV 遺伝
ントロール不可能な消化管出血を有する患者,
(突
子型の決定を行うべきである。HCV RNA 量の検査
発性またはシャント後の)重度脳障害を有する患者,
は,HCV 1 型遺伝子をもつ患者の治療奏効を予想
および細菌性腹膜炎患者が含まれる。
するのに役立つのに加え,治療期間の目安を与えて
肝硬変に肝細胞癌を伴う患者では,3 cm 以上の結
くれる。全患者の甲状腺機能を検査するべきである。
節が 3 個以下で,肝臓外(門脈を含む)への進展が
高齢患者および危険因子のある患者については,治
ない場合は移植が考慮され得る。
療前に心臓の状態を評価する必要がある。リバビリ
肝移植後,HCV 再感染はほとんどのケースで起
ン治療中は催奇作用の危険性があるため,妊娠の可
こる。移植 3 年後では,50% の患者の移植片は正常
能性のある患者については,治療前に妊娠検査を行
か,または軽度の病変があり,45% の患者が慢性肝
う。
炎を発症し,5% のみが重度の病変を生じる。移植
治療中は定期的に,血小板数を含む全血球数を検
片での HCV 関連肝硬変の発生率は移植後 5 年で約
査すべきである。リバビリン治療を受けている患者
10% である。
では,ヘモグロビンが 30 ∼ 40 g/l 減少する可能性
ヨーロッパにおける肝移植患者の 5 年生存率は
があるため,血液検査は毎週,4 週間行うべきであ
70%,10 年生存率は 60% であり,他の良性肝臓疾
る。さらに,甲状腺機能を調べる定期検査(治療中
患のために移植を受けた患者と同等である。移植に
は 3 ∼ 6 か月ごと,治療後は 6 か月ごと)を行うべ
際し,事前に,HCV 再発の危険性と再発の結果起こ
きである。自殺や自殺未遂の報告例があるため,患
り得る事態について患者に告知すべきである。
者の精神状態,特に鬱状態について定期的に評価し
なければならない。生殖能のある男女は,併用療法
治療した患者,未治療患者のモニター法
中および併用療法後 6 か月間は,完全な避妊を行う
必要がある。
臨床検査は,C 型肝炎患者における肝臓疾患の進
インターフェロン単独療法の奏効は,治療開始 3
展をモニターする上では信頼に欠ける。しかしなが
か月後に HCV RNA 検査により評価し,HCV RNA
ら,6 か月ごとに血小板数を含む血球数および肝酵
陽性であれば,治療は中断すべきである。
素をチェックすることが望まれる。肝生検は線維形
併用療法の奏効は,1 型遺伝子をもつ患者(およ
成と肝硬変の進展を評価するために必要である。最
び治療前に血中ウイルス量が高い患者)では治療開
初の生検で肝臓疾患が軽度であったために治療が見
始 6 か月後に HCV RNA を再検査して評価すべきで
送られた患者については,4 ∼ 5 年おきに肝生検を
ある。HCV RNA が検出されなければ,その後 6 か
施行することが推奨される。
月治療を続ける。治療開始 3 か月後に HCV RNA の
最初の検査でアミノトランスフェラーゼ濃度が正
常であった患者については,6 か月ごとに再検査を
行い,経過観察期間中も濃度上昇がないかをチェッ
8
中間評価を行う必要性についてはコンセンサスが得
られていない。
治療(単独療法または併用療法)終了時(終了直
C 型肝炎に関する EASL 国際コンセンサス会議
前),アミノトランスフェラーゼの再検査と HCV
RNA の定性検査を施行し治療奏効を評価すべきで
ある。
は未だ使用できない。
HCV は宿主の免疫監視を避けるために変化し続
け,臨床家に非常な困難を強いている。従来型のワ
奏効の持続性については,治療終了 6 か月後にア
クチンが近い将来使えるようになる見込みは今のと
ミノトランスフェラーゼ検査とHCV RNAの定性検
ころない。HCV が効果的な防御免疫反応を誘導す
査を施行し評価する。肝生検は奏効の評価には不要
ることはまれであり,中和抗体,CD4 および CD8 T
である。奏効が持続している患者も,長期的な転帰
細胞は自然感染ではほとんど誘導されない。
が不明なため,診療所で経過観察を受ける必要があ
る。
予防ワクチンの調製を困難にしているのは,次の
点にある:
(a)ヒトとチンパンジーにしか感染せず,
よりよい動物モデルが必要であること,
(b)HCV は
主な未解決の問題:治療,ワクチン接種
C 型肝炎は将来においても我々の健康生活を脅か
し,世界各国に莫大な医療負担を強いると予想され
る。2010 年までに罹患率が下がったとしても,現在
すでに感染している多数の患者は肝硬変や肝細胞癌
へ病状を悪化させていくであろう。仮に,現在すで
(c)ウイルス
in vitro ではほとんど増殖しないこと,
エンベロープ蛋白(E1/E2)は突然変異を起こしや
すいため,これらの蛋白に対する抗体は長期的な防
御免疫を与えられないこと。
これまで述べてきたことに加え,将来への課題と
して,以下の事項が挙げられよう。
● 診断分野:線維形成の代用マーカーの確立,肝
に感染している患者をすべて治療することが可能で,
細胞癌スクリーニングの役割の明確化, HCV
重度慢性肝臓疾患への進展を遅延できたとしても,
検査の標準化。
非常に大規模な検査と治療を施行する必要があり,
膨大なコスト負担となる。
これまで,我々の HCV 感染に関する理解の進展
は,製薬業界からの多大な支援に依っていた。特に,
● 自然史分野:アミノトランスフェラーゼ濃度が
正常なままの患者の長期的な転帰,線維形成や
肝細胞癌の予測因子の開発。
● ウイルス学分野:HCV
の複製を研究し新薬の
医師の教育や大規模臨床試験に著しく依存してきた。
効果を評価するためのin vitroモデルの作成,お
しかしながら,ヨーロッパや他の国々において多数
よび新抗ウイルス薬と新ワクチンの研究のため
の患者がいる状況のなかで,併用療法にかかる費用
の動物モデルの構築。
は現状ではほとんどの患者にとって高額すぎる。
● 治療分野:特定グループ(急性肝炎患者,アミ
モニタリング治療にかかる費用は再考されるべき
ノトランスフェラーゼ濃度が正常な患者,軽症
である。PCR による HCV RNA 検出は‘基本的手
患者,肝臓外症候群患者,代償性肝硬変患者,現
’であり,これまでモニタリング
法(gold standard)
在の治療で奏効しない患者,HBV や HIV が重
に推奨されてきた。遺伝子型の決定と血中ウイルス
複感染した患者)に対する治療効果や,奏効が
量の測定は有用であるが,コスト高である。これら
なかった患者に対する維持療法の効果。
のコストをより一般的に受けられる水準まで下げな
ければならない。
現在考慮され得る薬剤併用では,インターフェロ
ンとリバビリンの組合せに勝るものはないように思
われる。HCV ゲノム 5’末端の翻訳されない部位に
あるリボゾーム結合部位に対するアンチセンスオリ
ゴヌクレオチドが研究されている。新たなリボザイ
ム特異的アプローチを導入した治療法も現在研究さ
れている。ヘリカーゼ阻害剤とプロテアーゼ阻害剤
Members of the organizing committee
Patrick Marcellin (Chairperson) (Paris, France)
Alfredo Alberti (Padova, Italy)
Geoffrey Dusheiko (London, United Kingdom)
Rafael Esteban (Barcelona, Spain)
Michael Manns (Hannover, Germany)
Daniel Shouval (Jerusalem, Israel)
9
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Ola Weiland (Huddinge, Sweden)
Roger Williams (London, United Kingdom)
Members of the consensus panel
Jean-Pierre Benhamou (Chairperson) (Paris, France)
Juan Rodes (Vice-Chairperson) (Barcelona, Spain)
Harvey Alter (Bethesda, USA)
Henri Bismuth (Paris, France)
Valeer Desmet (Leuven, Belgium)
Jaime Guardia (Barcelona, Spain)
Jenny Heathcote (Toronto, Canada)
Anna Lok (Ann Arbor, USA)
Willis C. Maddrey (Dallas, USA)
Karl-Heinz Meyer Zum Büschenfelde
(Mainz, Germany)
Luigi Pagliaro (Palermo, Italy)
Gustav Paumgartner (Munich, Germany)
Sheila Sherlock (London, United Kingdom)
List of the experts
Sergio Abrignani (Siena, Italy)
Alfredo Alberti (Padova, Italy)
Miriam Alter (Atlanta, USA)
Ferruccio Bonino (Pisa, Italy)
Flavia Bortolotti (Padova, Italy)
Christian Bréchot (Paris, France)
Miguel Carneiro de Moura (Lisbon, Portugal)
Vicente Carreño (Madrid, Spain)
Massimo Colombo (Milan, Italy)
Antonio Craxi (Palermo, Italy)
Gary Davis (Gainesville, USA)
Raffaele De Francesco (Roma, Italy)
Françoise Degos (Paris, France)
Adrian Di Bisceglie (Saint-Louis, USA)
Hans Dienes (Köln, Germany)
Geoffrey Dusheiko (London, United Kingdom)
Juan Esteban (Barcelona, Spain)
Rafael Esteban (Barcelona, Spain)
Patrizia Farci (Cagliari, Italy)
10
Carlo Ferrari (Parma, Italy)
Graham Foster (London, United Kingdom)
Stephanos Hadziyannis (Athens, Greece)
Jay Hoofnagle (Bethesda, USA)
Raymond Koff (Framingham, USA)
Daniel Lavanchy (Geneva, Switzerland)
Karen Lindsay (Los Angeles, USA)
Françoise Lunel (Angers, France)
Michael Manns (Hannover, Germany)
Patrick Marcellin (Paris, France)
Mario Mondelli (Pavia, France)
Bertrand Nalpas (Paris, France)
Nikolai Naoumov (London, United Kingdom)
Jean-Michel Pawlotsky (Créteil, France)
Stanislas Pol (Paris, France)
Patrizia Pontisso (Padova, Italy)
Thierry Poynard (Paris, France)
Jesus Prieto (Pamplona, Spain)
Mario Rizzetto (Torino, Italy)
Michael Roggendorf (Essen, Germany)
Mercedes Ruiz Moreno (Madrid, Spain)
Didier Samuel (Paris, France)
José Sanchez-Tapias (Barcelona, Spain)
Solko Schalm (Rotterdam, The Netherlands)
Daniel Shouval (Jerusalem, Israel)
Peter Simmonds (Edinburgh, United Kingdom)
Vicente Soriano (Madrid, Spain)
Nicolaos Tassopoulos (Athens, Greece)
Howard Thomas (London, United Kingdom)
Christian Trépo (Lyon, France)
Caes L. Van der Poel (Amsterdam, The Netherlands)
Wolfgand Vogel (Innsbruck, Austria)
Ola Weiland (Huddinge, Sweden)
Rune Wejstal (Göteborg, Sweden)
Roger Williams (London, United Kingdom)
Teresa Wright (San Francisco, USA)
Alessandro Zanetti (Milan, Italy)
Jean-Pierre Zarski (Grenoble, France)
Stephen Zeuzem (Frankfurt, Germany)
Fabien Zoulim (Lyon, France)