大豆と健康

大豆と健康
P h y s i c i a n s
C o m m i t t e e
f o r
R e s p o n s i b l e
M e d i c i n e
5 1 0 0
W i s c o n s i n
A v e.,
n. w., S u i t e 4 0 0
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最
近、大豆製品が注目されています。大豆製
品には、豆乳、豆腐、
テンペ、味噌、ベジタリ
アンミート、大豆ミート、大豆チーズなどが
あります。他の植物性の食品同様に、
もともとの栄養
素がそのまま保持されている、加工の程度が少ない
もののほうが健康にいいといえます。大豆製品は広
く消費されていますが、安全性について疑問を唱え
る人もいます。医学研究の結果をみてみましょう。
がんの予防と生存率
疫学研究は、大豆タンパクは、乳がん・大腸がん・
前立腺がんのリスクを減少させることを明らかにし
ています1。
ある研究では、大豆製品を日常的に摂取してい
る女性は、乳がんの発症率が低いといわれていま
す。2008年1月、南カリフォルニア大学の研究者は、
豆乳平均1カップあるいは豆腐1/2カップを1日に摂
取している女性は、大豆製品の摂取が少ないあるい
はまったく食べない女性と比べて、乳がんの発症リ
しかし、乳房の
スクが30%低いことを発見しました2。
細胞は青年期に形成されるため、効果を得るために
は、早くから大豆を摂取するべきでしょう3,4。
では、すでに乳がんと診断された女性について
はどうでしょうか?The Women’s Healthy Eating and
Living Study(女性の健康的な食事と生活研究)は、
乳がんと診断された女性がその後大豆製品を摂取
することで、その後の経過が良いことを示唆してい
ます。大豆製品を摂取する人のうち、ほとんどの人
は、がんの再発や死亡率が半分になるといわれてい
ます。同様に、米国医学誌「Journal of the American
Medical Association」
(世界の医学誌でトップ2)に掲
載された研究では、5042人の乳がんと診断された女
性を上海乳がん生存率研究に登録し、4年間追跡し
ました。その結果、豆乳、豆腐、枝豆などの大豆製品
を定期的に摂取している女性は、それよりも少ない
あるいはまったく大豆製品を摂取しない女性と比較
して、32%の再発リスクの減少、29%の死亡リスクの
カイザー
減少がみられました5。米国医療保険会社、
パーマネンテの研究でも同様のことが示唆されてい
ます。大豆製品を食べない女性は、再発や死亡リス
クの減少といった利点はみられませんでした。大豆
1
製品を摂取している人は、がんの再発リスクが減少
していました6。
2012年に行われた研究をまとめた分析では、9514
人のアメリカと中国の女性を合わせて比較した結
果、大豆製品をもっともよく摂取している群は、大豆
製品を摂取していない群と比較して、がんの再発
リスクが25%減少したと指摘しています7。Women’s
Healthy Eating and Living Studyを含む他の研究で
は、ホルモン受容体陽性または陰性かに関わらず、
大豆製品を摂取する乳がん患者の乳房組織密度に
は何の影響もみられなかったことを明らかにしまし
た8,9。
なぜ大豆製品はがんのリスクを下げることができ
るのでしょうか。大部分の研究者は、大豆にみられる
フィトエストロゲン(フィト
[Phyto]
という語は「植物」
を意味します)によるものであると述べています。一
部の研究者は、
これらの化合物がエストロゲンの作
用を阻害してくれるためであると示唆しています。
し
かしながら、大豆製品はエストロゲン受容体陰性の
がんの人にも効果があることから、
この説明ですべ
てが明らかになったとは言い難いのが現状です。
生殖能力
他にも、大豆が性と生殖に関する健康にリスクを
持っているかどうかも懸念されてきました。
しかし、
男性と女性の両方を対象にした研究では、大豆は生
殖能力を妨げないことが示されています10,11。
また、大豆の乳児用ミルクで育った大人の生殖能
力は、牛乳の乳児用ミルクで育った大人に比べて差
がないことが明らかにされています12。
男性ホルモン
大豆製品は、男性ホルモンに悪影響を及ぼさず、
男性のがんを防ぐことができるようです。米国不妊
治療専門領域でトップの学会誌「Fertility and Sterility」に掲載された50以上の治療群のメタアナリシス
の結果では、大豆製品もイソフラボンのサプリメン
トのいずれも男性のテストステロンレベルに影響を
及ぼさないことが示されています13。米国臨床栄養
学専門領域でトップの学会誌「American Journal of
Clinical Nutrition」に掲載された14つの研究の分析
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Soy and Health
では、大豆の摂取量の増加は、前立腺がんのリスク
を26%低下させることが分かりました14。
また、豆乳・
豆腐などの非発酵製品の摂取は、30%の前立腺が
んのリスク減少と関連していました。
ります。米国疫学分野でトップの学会誌「American
Journal of Epidemiology」に発表された論文では、
一日少なくとも4分の1カップの豆腐を摂取する女性
は、骨折リスクが平均30%低下すると述べています
21
。米国更年期専門分野でトップの学会誌「Meno子宮筋腫
pause」に発表された論文では、6週間から12ヶ月、大
大豆製品は、子宮筋腫と呼ばれる子宮内膜の下 豆イソフラボンのサプリメントを服用している女性
にある薄い筋肉の層で形成される筋肉組織の筋腫 は、
プラセボを服用している女性と比べて、21%ほて
のリスクを減少させるといわれています。日本人女 りの頻度を減少させることを発見しました22。
性を対象にした研究により、大豆の摂取量が多い人
の方が、子宮摘出の必要性が少ない傾向にあり、子 過剰栄養
宮筋腫が少ないことが分かりました15。
ワシントン州 大豆製品は、一般的に高タンパクです。一部のメ
の女性を対象にした研究では、大豆は有効でも有害 ーカーはこの性質を利用して、分離した大豆タンパ
でもありませんでした。おそらくアメリカ人女性は日 ク質入りのプロテインシェークにしたり、肉の代用品
しかし、大豆を含めて、高度に
本人女性と比較してほとんど大豆をとっていないか にしたりしてきました。
16
らだと考えられます 。
この研究では、
フラックスシー 濃縮されたタンパク質は避けることが賢明でしょう。
ド
(亜麻仁)や全粒穀物に含まれる植物性エストロ 牛乳は、血中のインスリン様成長因子を増加させ23、
ゲンであるリグナンが大きな影響を与えていました。 がんのリスクを高めることが指摘されてきました。い
これらの食品をもっとも多く摂取している女性は、 くつかの研究結果は、高度に濃縮された大豆タンパ
一般的にそれらの食品を食べていない女性と比較 ク質(食品ラベルでは、大豆タンパク質分離物と表
も同様なリスクがあることを示唆しています24。
シ
して、子宮筋腫のリスクが半分以下でした。
したがっ 記)
て、
この研究は大豆に由来する植物性エストロゲン ンプルな大豆製品であるテンペ、枝豆、味噌等が、お
ではありませんでしたが、植物性エストロゲンは、女 そらく最良の選択肢です。
性のもともと持っているエストロゲンの効果に対抗 まとめ
しうる効果的なものであるということが示されてい
今日までの研究結果から、大豆製品が乳がんの
ます。
発症や再発のリスクを低減することが示唆されてい
甲状腺の健康
ます。甲状腺に対して、有害な作用は示さないと考
しかし、大豆製品は、甲状腺機能低下症
臨床研究では、大豆製品は甲状腺機能低下症を えられます。
17
の治療に用いられる薬の吸収を妨げるこ
とがありま
引き起こさないことが明らかになっています 。
しか
し、大豆イソフラボンは、体が正常に甲状腺ホルモン す。大豆製品は、濃縮された大豆タンパク質ではな
を生成するために使うヨウ素を奪ってしまうことがあ く、伝統的な大豆製品を摂る方がよいでしょう。
ります18。食物繊維のサプリメントやその他の薬物で 参考文献
も同じことが起こりえます。理論的には、大豆を消費 1. Badger TM, Ronis MJ, Simmen RC, Simmen FA. Soy protein isolate and protection
cancer. J Am Coll Nutr. 2005;24:146S-149S.
する人は少量ヨウ素を食事に加えることが必要かも against
2. Wu AH, Yu MC, Tseng CC, Pike MC. Epidemiology of soy exposures and breast cancer
しれません。
(ヨウ素は、特に、海藻やヨウ素添加食塩 risk. Br J Cancer. 2008;98:9-14.
3. Korde LA, Wu AH, Fears T, et al. Childhood soy intake and breast cancer risk in Asian
などの、多くの植物性の食品に含まれています。)大 American women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009;18:1050-1059.
Shu XO, Jin F, Dai Q, et al. Soyfood intake during adolescence and subsequent risk of
豆製品は、甲状腺機能低下症の治療に用いられる 4.breast
cancer among Chinese women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2001;10:483-488.
薬の吸収を妨げることもあります。
これらの薬を治療 5. Shu XO, Zheng Y, Cai H, et al. Soy food intake and breast cancer survival. JAMA.
2009;302:2437-2443.
に用いている人は、服用量を調整する必要があるか 6. Guha N, Kwan ML, Quesenberry CP Jr, Weltzien EK, Castillo AL, Caan BJ. Soy isoflavones
and risk of cancer recurrence in a cohort of breast cancer survivors: the Life After Cancer
どうか、かかりつけの医師に相談してください。
Epidemiology study. Breast Cancer Res Treat. 2009;118:395-405
7. Nechuta SJ, Caan BJ, Chen WY, et al. Soy food intake after diagnosis of breast cancer and
survival: an in-depth analysis of combined evidence from cohort studies of US and Chinese
women. Am J Clin Nutr. 2012;96:123-132.
8. Messina MJ, Loprinzi CL. Soy for breast cancer survivors: a critical review of the literature. J Nutr. 2001;131(11 Suppl):3095S-3108S.
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2001;100:613-618.
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12. Strom BL, Schinnar R, Ziegler EE, et al. Exposure to soy-based formula in infancy and
endocrinological and reproductive outcomes in young adulthood. JAMA. 2001;286:807-814.
13. Hamilton-Reeves JM, Vazquez G, Duval SJ, Phipps WR, Kurzer MS, Messina MJ. Clinical
studies show no effects of soy protein or isoflavones on reproductive hormones in men:
他の健康効果
上海女性健康研究の参加者1005人の中年の中
国人女性を対象にした、食事と炎症との関係をみた
研究では、大豆製品を多く摂取する女性は、炎症が
おこることが少ないことが指摘されています。炎症
は、がん、2型糖尿病、循環器疾患と関連していると
いわれています19。大豆製品は、LDL(悪玉)
コレステ
20
ロールを減らすといわれています 。
また、骨粗しょ
う症関連の股関節骨折のリスクを減らす可能性もあ
2
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Soy and Health
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