大豆と健康 P h y s i c i a n s C o m m i t t e e f o r R e s p o n s i b l e M e d i c i n e 5 1 0 0 W i s c o n s i n A v e., n. w., S u i t e 4 0 0 • W a s h i n g t o n, D C 2 0 0 1 6 phone (202) 686-2210 • Fax (202) 686-2216 • pcrm@pcrm.org • www.pcrm.org 最 近、大豆製品が注目されています。大豆製 品には、豆乳、豆腐、 テンペ、味噌、ベジタリ アンミート、大豆ミート、大豆チーズなどが あります。他の植物性の食品同様に、 もともとの栄養 素がそのまま保持されている、加工の程度が少ない もののほうが健康にいいといえます。大豆製品は広 く消費されていますが、安全性について疑問を唱え る人もいます。医学研究の結果をみてみましょう。 がんの予防と生存率 疫学研究は、大豆タンパクは、乳がん・大腸がん・ 前立腺がんのリスクを減少させることを明らかにし ています1。 ある研究では、大豆製品を日常的に摂取してい る女性は、乳がんの発症率が低いといわれていま す。2008年1月、南カリフォルニア大学の研究者は、 豆乳平均1カップあるいは豆腐1/2カップを1日に摂 取している女性は、大豆製品の摂取が少ないあるい はまったく食べない女性と比べて、乳がんの発症リ しかし、乳房の スクが30%低いことを発見しました2。 細胞は青年期に形成されるため、効果を得るために は、早くから大豆を摂取するべきでしょう3,4。 では、すでに乳がんと診断された女性について はどうでしょうか?The Women’s Healthy Eating and Living Study(女性の健康的な食事と生活研究)は、 乳がんと診断された女性がその後大豆製品を摂取 することで、その後の経過が良いことを示唆してい ます。大豆製品を摂取する人のうち、ほとんどの人 は、がんの再発や死亡率が半分になるといわれてい ます。同様に、米国医学誌「Journal of the American Medical Association」 (世界の医学誌でトップ2)に掲 載された研究では、5042人の乳がんと診断された女 性を上海乳がん生存率研究に登録し、4年間追跡し ました。その結果、豆乳、豆腐、枝豆などの大豆製品 を定期的に摂取している女性は、それよりも少ない あるいはまったく大豆製品を摂取しない女性と比較 して、32%の再発リスクの減少、29%の死亡リスクの カイザー 減少がみられました5。米国医療保険会社、 パーマネンテの研究でも同様のことが示唆されてい ます。大豆製品を食べない女性は、再発や死亡リス クの減少といった利点はみられませんでした。大豆 1 製品を摂取している人は、がんの再発リスクが減少 していました6。 2012年に行われた研究をまとめた分析では、9514 人のアメリカと中国の女性を合わせて比較した結 果、大豆製品をもっともよく摂取している群は、大豆 製品を摂取していない群と比較して、がんの再発 リスクが25%減少したと指摘しています7。Women’s Healthy Eating and Living Studyを含む他の研究で は、ホルモン受容体陽性または陰性かに関わらず、 大豆製品を摂取する乳がん患者の乳房組織密度に は何の影響もみられなかったことを明らかにしまし た8,9。 なぜ大豆製品はがんのリスクを下げることができ るのでしょうか。大部分の研究者は、大豆にみられる フィトエストロゲン(フィト [Phyto] という語は「植物」 を意味します)によるものであると述べています。一 部の研究者は、 これらの化合物がエストロゲンの作 用を阻害してくれるためであると示唆しています。 し かしながら、大豆製品はエストロゲン受容体陰性の がんの人にも効果があることから、 この説明ですべ てが明らかになったとは言い難いのが現状です。 生殖能力 他にも、大豆が性と生殖に関する健康にリスクを 持っているかどうかも懸念されてきました。 しかし、 男性と女性の両方を対象にした研究では、大豆は生 殖能力を妨げないことが示されています10,11。 また、大豆の乳児用ミルクで育った大人の生殖能 力は、牛乳の乳児用ミルクで育った大人に比べて差 がないことが明らかにされています12。 男性ホルモン 大豆製品は、男性ホルモンに悪影響を及ぼさず、 男性のがんを防ぐことができるようです。米国不妊 治療専門領域でトップの学会誌「Fertility and Sterility」に掲載された50以上の治療群のメタアナリシス の結果では、大豆製品もイソフラボンのサプリメン トのいずれも男性のテストステロンレベルに影響を 及ぼさないことが示されています13。米国臨床栄養 学専門領域でトップの学会誌「American Journal of Clinical Nutrition」に掲載された14つの研究の分析 13093E-NTR • 20130531 Soy and Health では、大豆の摂取量の増加は、前立腺がんのリスク を26%低下させることが分かりました14。 また、豆乳・ 豆腐などの非発酵製品の摂取は、30%の前立腺が んのリスク減少と関連していました。 ります。米国疫学分野でトップの学会誌「American Journal of Epidemiology」に発表された論文では、 一日少なくとも4分の1カップの豆腐を摂取する女性 は、骨折リスクが平均30%低下すると述べています 21 。米国更年期専門分野でトップの学会誌「Meno子宮筋腫 pause」に発表された論文では、6週間から12ヶ月、大 大豆製品は、子宮筋腫と呼ばれる子宮内膜の下 豆イソフラボンのサプリメントを服用している女性 にある薄い筋肉の層で形成される筋肉組織の筋腫 は、 プラセボを服用している女性と比べて、21%ほて のリスクを減少させるといわれています。日本人女 りの頻度を減少させることを発見しました22。 性を対象にした研究により、大豆の摂取量が多い人 の方が、子宮摘出の必要性が少ない傾向にあり、子 過剰栄養 宮筋腫が少ないことが分かりました15。 ワシントン州 大豆製品は、一般的に高タンパクです。一部のメ の女性を対象にした研究では、大豆は有効でも有害 ーカーはこの性質を利用して、分離した大豆タンパ でもありませんでした。おそらくアメリカ人女性は日 ク質入りのプロテインシェークにしたり、肉の代用品 しかし、大豆を含めて、高度に 本人女性と比較してほとんど大豆をとっていないか にしたりしてきました。 16 らだと考えられます 。 この研究では、 フラックスシー 濃縮されたタンパク質は避けることが賢明でしょう。 ド (亜麻仁)や全粒穀物に含まれる植物性エストロ 牛乳は、血中のインスリン様成長因子を増加させ23、 ゲンであるリグナンが大きな影響を与えていました。 がんのリスクを高めることが指摘されてきました。い これらの食品をもっとも多く摂取している女性は、 くつかの研究結果は、高度に濃縮された大豆タンパ 一般的にそれらの食品を食べていない女性と比較 ク質(食品ラベルでは、大豆タンパク質分離物と表 も同様なリスクがあることを示唆しています24。 シ して、子宮筋腫のリスクが半分以下でした。 したがっ 記) て、 この研究は大豆に由来する植物性エストロゲン ンプルな大豆製品であるテンペ、枝豆、味噌等が、お ではありませんでしたが、植物性エストロゲンは、女 そらく最良の選択肢です。 性のもともと持っているエストロゲンの効果に対抗 まとめ しうる効果的なものであるということが示されてい 今日までの研究結果から、大豆製品が乳がんの ます。 発症や再発のリスクを低減することが示唆されてい 甲状腺の健康 ます。甲状腺に対して、有害な作用は示さないと考 しかし、大豆製品は、甲状腺機能低下症 臨床研究では、大豆製品は甲状腺機能低下症を えられます。 17 の治療に用いられる薬の吸収を妨げるこ とがありま 引き起こさないことが明らかになっています 。 しか し、大豆イソフラボンは、体が正常に甲状腺ホルモン す。大豆製品は、濃縮された大豆タンパク質ではな を生成するために使うヨウ素を奪ってしまうことがあ く、伝統的な大豆製品を摂る方がよいでしょう。 ります18。食物繊維のサプリメントやその他の薬物で 参考文献 も同じことが起こりえます。理論的には、大豆を消費 1. Badger TM, Ronis MJ, Simmen RC, Simmen FA. Soy protein isolate and protection cancer. J Am Coll Nutr. 2005;24:146S-149S. する人は少量ヨウ素を食事に加えることが必要かも against 2. Wu AH, Yu MC, Tseng CC, Pike MC. Epidemiology of soy exposures and breast cancer しれません。 (ヨウ素は、特に、海藻やヨウ素添加食塩 risk. Br J Cancer. 2008;98:9-14. 3. Korde LA, Wu AH, Fears T, et al. Childhood soy intake and breast cancer risk in Asian などの、多くの植物性の食品に含まれています。)大 American women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009;18:1050-1059. Shu XO, Jin F, Dai Q, et al. Soyfood intake during adolescence and subsequent risk of 豆製品は、甲状腺機能低下症の治療に用いられる 4.breast cancer among Chinese women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2001;10:483-488. 薬の吸収を妨げることもあります。 これらの薬を治療 5. Shu XO, Zheng Y, Cai H, et al. Soy food intake and breast cancer survival. JAMA. 2009;302:2437-2443. に用いている人は、服用量を調整する必要があるか 6. Guha N, Kwan ML, Quesenberry CP Jr, Weltzien EK, Castillo AL, Caan BJ. Soy isoflavones and risk of cancer recurrence in a cohort of breast cancer survivors: the Life After Cancer どうか、かかりつけの医師に相談してください。 Epidemiology study. Breast Cancer Res Treat. 2009;118:395-405 7. Nechuta SJ, Caan BJ, Chen WY, et al. Soy food intake after diagnosis of breast cancer and survival: an in-depth analysis of combined evidence from cohort studies of US and Chinese women. Am J Clin Nutr. 2012;96:123-132. 8. Messina MJ, Loprinzi CL. Soy for breast cancer survivors: a critical review of the literature. J Nutr. 2001;131(11 Suppl):3095S-3108S. 9. Caan BJ, Natarajan L, Parker BA, et al. Soy food consumption and breast cancer prognosis. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20;854–858. 10. Mitchell JH, Cawood E, Kinniburgh D, Provan A, Collins AR, Irvine DS. Effect of a phytoestrogen food supplement on reproductive health in normal males. Clin Sci (Lond). 2001;100:613-618. 11. Kurzer MS. Hormonal effects of soy in premenopausal women and men. J Nutr. 2002;132:570S-573S. 12. 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