校長室から 11月号

広見小学校校報
No482号
平成 26 年11月- 創立 141 年
〒 509-0214
可 児 市 広 見
71
番 地
1
学校の教育目標 「心豊かでたくましい子」
自ら考えを深める子・仲よく助け合う子・体をきたえる子
http://www.school.city.kani.gifu.jp/hiromi/index.html
e-mail hiromi@school.city.kani.gifu.jp
何気なくかけた言葉1つで,その子の生き方が変わる?
!
校長
柘植
英次
天才的芸術家と言われた林武(はやし たけし)画伯をご存じでしょうか?明治29
年(1896 年)∼昭和50年(1975 年)の生涯です。大正2年(1913 年),東京歯科
医学校に入学しましたが,後に文学,絵画へと志望を変え,大正9年(1920 年)に
日本美術学校へ入りデッサンなどを学ばれます。翌年,第八回二科展に『婦人像』
で初入選,昭和9年(1934 年)にヨーロッパ各地で学んだ後,翌年帰国されます。
セザンヌやフォーヴィスム,キュビズムの影響を示す独自の様式を確立されました。
大正末期から画家として活動を始め,戦後には原色を多用し絵具を盛り上げた手法
で女性や花,風景などを描き人気を得たと紹介されています。昭和27年(1952 年)
には東京芸術大学教授に就任,昭和42年に文化勲章を受章され,晩年には国語問
題審議会の会長も務めた方です。その偉大な林武画伯の小学校当時の話です。
なんの気なしに描いた図画を先生が見て,
「あなたは,絵が上手だね。とても素晴らしい。」
と,褒められました。それがきっかけとなって「絵を描くこと
が好きになって一生懸命に描いた。」
と,回想されています。
これと反対の事例もあります。少年院に入ったO君の言葉です。
「私は5歳の時,台所でごちそうを作っ
ている母のそばで,とてもおいしそうな天
ぷらを黙って,1つつまんで食べたことが
ありました。
そのとき,母はものすごく怒って,『このド
ロボーヤロー』と言って,私を叩いたのです。私は,あまりの恐ろしさに
すくんでしまい,そのとき以来,そのときの声とにらみつける母の顔が夢
にまで現れ,泣きながら目を覚ましたこともあります。
中学2年の時,デパートで万引きをしようと先輩に誘われました。
(嫌だ。)
と言いましが,現場までしつこく連れて行かれ,(いやだなあ。どうしたら
よいだろうか。)と,自分の良心と戦っていたとき,突然,今まですっかり
忘れていたと思っていた母のあの『ドロボーヤロー』という声が,私の体
を包んだような気がしたのです。
そのとき,私は,(ああだめだ。幼い頃から家庭でも,愛する母からさえ
もドロボーヤローと言われてきたのだ。)と思うと,本当に悲しくなり,急
に全身の力が抜けたような気がして,( ええ,くそー。)とやけになったと
きには,自分でも自分を抑えることができなくなって,気がついたときに
はデパートの商品を盗んでいたのです。」と初犯の動機を話したのでした。
その後,非行が積み重なって,少年院行きとなりました。
これに類似したことは,非行に走った少年からよく聞かれることです。幼児期や
小学生の時期に,強迫観念や恐怖の心を与えたことから起こった悲しい出来事です。
林武画伯の例は,全く反対です。
子どもの教育で非常に大切なことは,児童の発達段
階に応じて,才能を現し始めた方向に,その才能を伸
ばすように親はもちろん,教師や周りの者が一人一人
の児童の将来を十分に考えて接していかなければなら
ないということです。
つまり,子どもがどんなことでも,好きで取り組み
始めたり上手に何かをやったりしたときには黙って見
過ごさないで,大いに喜んでやったり励ましてやった
りすることが大切です。そのことによって,自分がや
っていることにいっそう興味を覚えて,益々そのこと
が上達することになっていきます。
そういえば,よくテレビにも出ていた魚好きで「さかなクン」の愛称で親しまれ
ていた青年は,今は東京海洋大学客員準教授として魚の専門家になっています。
テレビ番組で,コンピュータゲームプログラマーの2人のオセ
ロ対決がありました。その1人は携帯でのゲームソフトがない頃
に,父親の携帯電話でゲームを既に作って父親を楽しませていた
と紹介されていました。二人ともオセロをとことん楽しんだ方の
ようです。
携帯をいじったとき,父親が「何をやっている。」と叱っ
たら今のコンピュータゲームプログラマーにはなっていなか
ったでしょう。
「オセロばかりにのぼせておるんじゃない。」と言われて
いたら,2人とも今のコンピュータゲームプログラマーには
なっていなかったでしょう。
このように考えると,子どもがどんなことでも,好きで取り組み始めたり上手に
何かをやったりしたときには黙って見過ごさないで,大いに喜んでやったり励まし
てやったりすることが大切だと,改めて思いました。
このように教育すれば,初めは嫌であったことも好きになり,熱心になり,次第
に上達します。上達するにつれてやっていること(仕事)そのものの中にある真価
がわかり,自分の個性才能が発達した喜びを感じ,将来への夢の実現につながって
いくと思います。
このように,一人一人の児童の将来を十分に考えて接したことにより生まれる信
頼があってこそ,姿となって現れてきます。これを学校でも家庭でも,地域でもし
っかり行っていきましょう。
家庭や地域に支えられてこそ,子ども達は生き生きと学校生活を送ることができ
ます。今後も学校・家庭・地域がいっそう連携して子どもたちの能力を様々な面で育て
ていきましょう。